勇者「遊び人と大罪の勇者達」

143 : 以下、名... - 2017/08/06 13:13:09.77 ypTt4u9i0 124/829

『英雄色を好む』

性欲のことを”色欲”という言葉で表すこともあるように、性は色で表現できる。

例えば

「愛する者との性の営みは神様からのプレゼント」

ということを表現したければ、2つの色を混ぜれば良い。

1つの色ともう1つの色が混じり合うことで、新たな色が生まれる現象は、2人の男女が重なることで新しい世界が開けるのに似ている。

ヴァージンロードで花嫁が着ているのは、純白のドレスだ。

自分の色を1つの色と混ぜる覚悟の表現だ。

1人と1人が出会うことで、新しい快楽や幸福感が生まれるだけでなく、それこそ、子供が誕生する。


「不特定多数との乱れた性欲は邪(よこしま)だ」

ということを表現したいなら、多数の色を混ぜればいい。

摩擦を繰り返した性器のように色は黒く染まるだろう。

恋愛が桃色で。

愛情が薔薇色ならば。

性欲は、何色か。

一つだけ、わかることは。

どうやら英雄は、邪な色であるということだ。

【第2章:色欲の谷 『快楽を刺激する鞭』】

とある勇者は、モテたくて、強くなった。

144 : 以下、名... - 2017/08/06 13:14:20.10 ypTt4u9i0 125/829

遊び人「キャー!!!なに脱衣場に来てるのよ!!覗き!!最低!!!」

遊び人「しかも私の脱いだ服持ってるじゃない!!服泥棒!!変態!!」

勇者「ち、ちがうんだ!!さっき買ってきたバニースーツを置いただけなんだ!」

勇者「強制的にバニースーツしか着れない状況を生み出そうとしただけで、覗きでも服泥棒でも……」

つうこんのいちげき!

勇者に45のダメージ!

勇者「かはっ……」

遊び人「世界を救う勇者を名乗る者が、こんな変態で許されると思ってるの!」

勇者「英雄色を好むというだろ?これは俺の英雄である証明でもあるわけで……」

遊び人「だったら絵の具でも食べてなさい!!」

遊び人は化粧用の染料を勇者の口に突っ込んだ。

勇者「もががが……」

遊び人「そんなにバニーガールが好きなら、そういうお店でもなんでも行けばいいじゃない!!」

145 : 以下、名... - 2017/08/06 13:15:18.37 ypTt4u9i0 126/829

勇者「お、おはよう」

遊び人「…………」

勇者「街の人に聞いたら、目的の谷は近いそうだ。今日一日歩けばたどり着くって」

遊び人「…………」

勇者「き、昨日は俺もどうかしてたんだって。ちょっと夜外を歩いてたら、旅の商人がいたものだから。気になってみてみたら、それはそれは艶やかな……」

遊び人「…………」

勇者「冒険に出発しようか!!」



勇者と遊び人は途中で立ち寄った町を後にし、谷を登り始めた。

1日中無言であるき続け、日も傾いた時。

谷の中にある、歓楽名所にたどり着いた。

146 : 以下、名... - 2017/08/06 13:17:40.36 ypTt4u9i0 127/829

案内人「あおっ///あおんっ!!よ、ようこそ///」

案内人「ここは、おおん!今では///『色欲の谷』と呼ばれているほど、おませな場所だよ///おおん!!!」

案内人「ここでは他人に危害を加えない変態行為や、お互いの合意に基づくありとあらゆる性的な行為が許されているよ!!おんっ!!」

案内人「男だけのパーティや、変態的な欲求を持つ金持ちが、最近ではよく訪れるよ!!オオン!!////」

勇者「……三角木馬に座ってる案内人は初めて見た」

遊び人「ここは無関係そうね。次の街いきましょう」

勇者「いやいや。どう考えても大罪の1つ『色欲』に関係してるだろ!」

147 : 以下、名... - 2017/08/06 13:18:36.96 ypTt4u9i0 128/829

勇者「ムッチムチの肉体をひけらかすかのように歩く女武道家。透き通るような衣装を着てほほえむ踊り子」

勇者「普通の街では見かけないような大人な店がいっぱいありやがる」

勇者「股間への誘惑が凄過ぎ……。ごほん。性器への刺激が強すぎる谷だぜ」

遊び人「今何を言い直したつもりだったの?前後で発言の酷さが変わってないんだけど?」

勇者「まあ俺は全然女子なんかにキョーミねーけどな」

遊び人「うわっ、出た。童貞呪文『ジョシキョーミネーシ、ダチトイルホウガタノシーシ』」

勇者「わ、わりいかよ。それにドウなんちゃらなんて言ったことないだろ!」

遊び人「ぷぷ。そうでしたね、魔法使い様」

勇者「転職した覚えもねーよ!」

遊び人「勇者も初めて私とあった時はかわいかったなー。ろくに目も合わせてくれなかったし」

遊び人「それが今では……」

勇者「目以外も合わせる仲になるとは」サワ

遊び人「髪の毛一本触れるな変態」ドム

勇者「うごお……」

148 : 以下、名... - 2017/08/06 13:19:39.25 ypTt4u9i0 129/829

宿屋「2名ですか?」

勇者「はい。同じ部屋で」

宿屋「あいよ。今夜はお楽しみだね」

勇者「はい!!」

遊び人のこうげき!

勇者「ぐはっ!何すんだ!」

遊び人「どうせこのあと回復すんでしょ」

勇者「ドSか」

149 : 以下、名... - 2017/08/06 13:20:27.81 ypTt4u9i0 130/829

~夜~

遊び人「ぎゃあ!!」

半裸の勇者があらわれた!

遊び人「半裸で風呂から出てくるなっていっつも言ってるでしょ!!」

勇者「やべやべ、ついな。でもよく考えてみろよ。服を脱いでわざわざ裸になったってのに、お湯を浴びて出たらまた服を着るってどういうことだよ?せめて半分は裸でいさせてくれよ」

遊び人「わけのわからないことを」

勇者「気持ちいいぞ!!お前にもオススメ……ぐは!!」

遊び人「そんなに半裸でいたいなら、半裸で冒険してなさいよ」

勇者「それは……いいかもなぁ///」

遊び人「教会の神官様にお金渡したら、この人にかけられてる呪いでも落としてくれるのかしら……」

150 : 以下、名... - 2017/08/06 13:21:38.00 ypTt4u9i0 131/829

遊び人「この余りものの布のシーツで部屋仕切るから。こっから先には立入禁止ね」

勇者「毎度のことながらうるさいな」

遊び人「私は勇者様の中に巣食う魔物が覚醒しないか心配で心配で」

勇者「まぁ夜の街に繰り出すかもしんないけどな」

遊び人「勝手にすれば」

勇者「やきもちやくなって。安心しろ。俺は一人でしかしないよ」

遊び人「キモいから!なにやさしい口調で言ってんのよ!夜の街に出ていっていいから!」

遊び人「はぁ、最初の頃の勇者はかわいげがあったんだけどなぁ」

勇者「またその話かよ」

遊び人「はじめて二人で宿に泊まる時に、部屋を別々にするかどうか聞かれたときよ」

遊び人「顔を真っ赤にして、別々って言おうとしてるあんたを遮って、同じ部屋にしてくださいって言ったらきょどりまくってて」

遊び人「お金の心配のことを話したら、あんた頭下げて、外で寝るなんて言い出して」

遊び人「純朴な勇者様はいずこへ……」

勇者「あの頃と何も変わってねえよ」

遊び人「少しも大きくならないまま?」

勇者「心はな。心の話だから、下半身を見て言うな」

151 : 以下、名... - 2017/08/06 13:23:11.45 ypTt4u9i0 132/829

勇者「おはようございます」

宿屋「きのうは おあずけでしたね」

遊び人「何聞き耳立ててんのよ!!変態宿屋!!」

宿屋「ううっ///」

勇者「昨日はちょっと。仕事で疲れてるんだって言って背を向けて拒んでしまったんです」

遊び人「あんたも何いってんの?」




遊び人「今日も凄い景色ね。お店から連れ出してきた女性と手をつなぎながら、半裸で外をスキップしてる住人がたくさんいるわ」

勇者「住人じゃないんじゃないかな。きっと他の街に住んでいる人が多いよ。僧侶とか神官なんか特に、普段自分たちの街で抑えてる分ここで激しくやってるんだろう」

遊び人「失礼よ。あなたみたいな変態とは違うんです」

勇者「俺は大した変態じゃないさ。この谷のお店に入るとしても、普通のバニーガールのいるお店にしか……」

遊び人「あっ、戦士がおもてなししてくれる店があるみたいよ。男性限定で。行ってくれば?行きなさいよ。行きなさいってば」

勇者「押さないで!!押さないで!!」

152 : 以下、名... - 2017/08/06 13:24:31.19 ypTt4u9i0 133/829

遊び人「もう。何しにこの谷に来たんだか。これからどうするの」

勇者「大罪の装備について情報を集めながら、日銭を稼ごう。ほとんど手持ちもなくなっちまったからな」

遊び人「冒険者用のクエスト依頼が掲示板に張り出されているわね。どれどれ」

【指名手配犯】

・キラーパンツァー:下着どろぼう。四足歩行で人の敷地に入り、干してある下着を口に咥えて去っていくのが特徴。猫型の魔物の被り物をしている

・オナミック:宝箱の中に入り込み、下腹部を露出させた状態で自慰行為をしている。宝箱を開ける冒険者は基本的に男性なため、男色の可能性が高い。宝箱の底に穴を開けており、被ったまま高速で逃げる。

・パンチラの翼:天井の下でスカートを履いた女性に話しかけ、移動の翼を持たせるのが反抗手口。パンチラ目的と思われる。


<解決済>
ヤマタノオロチ?:近隣の街にて村娘が攫われる事案が発生。村娘が定期的に1人いなくなることから、古より伝わる伝説の竜の仕業だと村人は叫んでいる。
結果:近隣の街に済む富豪の息子の色男が女性をはべらせて囲っていただけであった。その人数は8人。八股の愚か者であった。

153 : 以下、名... - 2017/08/06 13:25:14.41 ypTt4u9i0 134/829

遊び人「性にまつわる案件ばかりじゃない!」

勇者「他人への迷惑がかかる変態行為は禁止されてるからな。度を越したプレイに手を出してしまったんだな」

遊び人「案内人なんて変な椅子に座ってたけど、あれはいいの?」

勇者「仕事だからしょうがないだろ。痴漢も覗きも関係性によって罪かどうか決まる。夫が妻の尻を揉んでも痴漢にはならない。お客が嬢のエッチな姿を見ても覗きにはならない。だが、通行人が通行人に手を出したら変態行為だ」

遊び人「いつになく真面目に語るわね」

勇者「さて、変態を成敗して、稼いだお金でキャッキャウフフなお店にでも……」

「キャー!!どろぼう!!」

勇者遊び人「!?」

154 : 以下、名... - 2017/08/06 13:26:10.45 ypTt4u9i0 135/829

「ハフハフ!ハフハフ!アオーン!!!」

勇者「全裸の男が下着を咥えて四足歩行で走ってるぞ!!」

遊び人「ギャー!あれどろぼうなの!?それ以上の何かでしょ!!」

勇者「あいつがキラーパンツァーだな!!よし、捕まえるぞ!!」




勇者「止まれ!!」

キラーパンツァー「ガルルルル……」

キラーパンツァーがあらわれた!

遊び人「うう、直視できない……」

勇者「その下着を俺に返してもらおうか!!」

遊び人「あんたのじゃないでしょ!!」

キラーパンツァー「ジュルルルル……」

遊び人「ただの中年のおっさんじゃん……なんでこんなことしてんのよ……」

155 : 以下、名... - 2017/08/06 13:26:53.59 ypTt4u9i0 136/829

キラーパンツァー「オハエラハオレノハマヲフルトイフノハ……」

遊び人「下着咥えて喋ってるから何言ってるかわかんないわよ」

勇者「お前らは俺の邪魔をするというのか」

キラーパンツァー「ウハレハハハノフハハヘイヒルノヲホヒトヘフ、オノヘホヒフヲヘイヘヘントシタハホデハフフホノイヒハア」

遊び人「勇者!!こんなわけわかんない変態さっさと倒すわよ!!」

勇者「生まれたままの姿で生きるのをよしとせず、己の恥部を平然とした顔で隠すその生き方」

キラーパンツァー「ヘオホホヒホオホフ。イハホホヒンノフハハヲホヒホホヘ。イヒハイホウヒイヒフホヒハヒハ」

遊び人「露出狂をやめて囚人服でも着るがいいわ!!」

勇者「獣にも劣る。今こそ真の姿を取り戻せ。生きたいように生きる時は来た」

遊び人「なんで下着咥え語がわかるのよ!!」

勇者「読める…読めるぞ!!」

遊び人「誰にも読めない石版を自分だけ何故か解読できるようなかっこよさはないからね!!しかも言ってる内容かなり真面目なんだけど!!」

勇者「ほひふほひはひひひょうひははふは?(こいつの下着に興味はあるか?)」

キラーパンツァー「ハァ、フヘフハハヒハハホウ(まぁ、くれるならいただこう)」

勇者キラーパンツァー「ふぁっふぁつふぁっ!」ケタケタ!

遊び人「何であんたも話してるのよ!てかこっちなんで見て笑ってんの!?なんて言ったのよ!!」

156 : 以下、名... - 2017/08/06 13:27:52.51 ypTt4u9i0 137/829

遊び人「くっ、見ながら戦いたくないという点で幻術魔法をかけられているようなものね……」

勇者「変態同士仲良くしたいが、こっちも日銭を稼ぐ運命を背負ってるんでね!」

ゆうしゃのこうげき!

すてみでたいあたりをした

しかし身をかわされた

遊び人「動きがはやいわね!」

キラーパンツァー「がるるる!!」

キラーパンツァーのこうげき

四足歩行をやめ、遊び人の前で仁王立ちをした。

遊び人「ぎゃぁっ!」

遊び人は咄嗟に目を瞑った!

遊び人「こ、殺すしかない!!殺すしかないわこいつ!!」

勇者「お、落ち着け!!てめぇ、女性の前で裸をさらけ出すなんてゆるさねえ!!」

157 : 以下、名... - 2017/08/06 13:28:24.92 ypTt4u9i0 138/829

勇者の攻撃!

勇者「れろれろれろれろくちゅくちゅくちゅ……」チュパチュパ…

勇者はキラーパンツァーのブツを直視しながら、口でいやらしい音をたてた。

キラーパンツァー「…………オェエエェエエエエエ!!!」

キラーパンツァーの口から下着がこぼれ落ちた。

キラーパンツァーのブツが縮んだ。

勇者「今だ!!」

勇者はすてみでキラーパンツァーにぶつかった!

キラーパンツァー「ぐぬぬ……!!」

キラーパンツァーは倒れた。

勇者「やっ……たぜ」

勇者「これが新技『精神的すてみ』だ……」

勇者は力尽きた。

遊び人「な、なにが起こったの!?さっきの音は何!?」

遊び人はおそるおそる目を開けた。

遊び人「なにこの惨状……」

158 : 以下、名... - 2017/08/06 13:29:38.71 ypTt4u9i0 139/829

~翌日~

遊び人「勇者、昨日はすごかったね!!谷中の女性から感謝されてたじゃない」

勇者「ふはは。くるしゅうない」

遊び人「下着なんて自分の分身みたいなものよね。それを盗まれたらたまったもんじゃないわ」

勇者「下着は分身か。いいこというなぁ……」

遊び人「そういう言葉でしみじみされても困ります」

勇者「はは、別にいいじゃねえか……!」

ピキン!

勇者「!?」

遊び人「どうしたの?」

勇者「感知した。指名手配犯が近くにいる」

遊び人「えっ?」

勇者「あの洞窟の入り口にある宝箱。人間が入ってる。オナミックってやつだ」

遊び人「凄い!!感知呪文覚えたの!?」

勇者「いや、そうじゃない。そうじゃないんだ……」

勇者は顔を物憂げに伏せ、過去を眺めるような面持ちでつぶやいた。

勇者「俺と同じ、変態のにおいがするんだ……」

遊び人「シリアスな感じで言うのやめてくれる?」

159 : 以下、名... - 2017/08/06 13:30:42.74 ypTt4u9i0 140/829

勇者「宝箱を上から抑えろ!!」

ガシ!

遊び人「どうすんの!?」

勇者「街まで引きずれ!!」

バタバタ!!

遊び人「ぎゃあー!宝箱が暴れだした!!」

勇者「地面と擦れて痛いんだろう!!だが、こんな変態なやつだ!!じきにその痛みに病みつきになるはずだ!!」

勇者と遊び人は宝箱を上からおさえながら街まで引きずり続けた。

砂利道の上を通った時の阿鼻叫喚は凄かったが、段々喘ぎ超えにかわっていった。

160 : 以下、名... - 2017/08/06 13:31:32.38 ypTt4u9i0 141/829

~さらに翌日~

「いだぁああいいい!!!」

石でできた架け橋の近くを歩いている時のことだった。

勇者「どうされました!?」

町娘「うう……頭が架け橋の天井にぶつかって……」

町娘「お財布を落とされましたよって、男性に手渡されて。よく見たら羽根みたいなもので。そしたら風が巻き起こって身体が飛んで」

町娘「架け橋の下にいたもので、天井に頭がぶつかっちゃって……いたた……」

町娘「天井にぶつかった時、狂喜している声が聞こえました。痛みを堪えながら、犯人をひと目見ようと必死に目を開けると、一瞬のうちにいなくなっていたんです」

遊び人「パンチラの翼事件よ!!被害者は全員スカートを履いた女性で、渡されるのはいつも天井の下!この人もスカートを履いてる!!」

遊び人「天井に頭をぶつけさせることでパンチラの時間を増やし、ダメージも与えてすぐに追われないようにしているんだわ!」

勇者「…………」

勇者「失礼ですが、そのスカートの中身を拝見できますか」

161 : 以下、名... - 2017/08/06 13:32:31.55 ypTt4u9i0 142/829

遊び人「何言ってんのよ!」

町娘「いいですよ」バサリ!

遊び人「ちょっと!なにして!」

勇者「やはりな。見せパンだ。少し短いスカートだと、逆に履いている。俺も何度裏切られたことか」

遊び人「はぁ?」

町娘「ええ。見られるのは恥ずかしいもので……短パンを履いています」

勇者「犯人は彼女が天井にぶつかった時点で狂喜の声をあげていた」

勇者「つまりだ。普通なら舌打ちをするような場面で、相手の目的は達成されていたってことだ」

遊び人「どういうことよ」

勇者「考えろ……そして気づけ……共感しろ……全てを見落とすな」

勇者「移動の翼……スカート……天井……見せパン……」

勇者「…………!」

ピキン!

162 : 以下、名... - 2017/08/06 13:34:24.81 ypTt4u9i0 143/829

勇者「感知した。そして、真実を捕まえた!」

勇者「そこだ!!!」

勇者は近くでSMプレイに興じていたカップルの鞭を奪い取り、架け橋に向かって叩きつけた。

オナミック「ぎゃあ!!!」

フックのようなものを使い天井に張り付いていた男が落ちてきた。

勇者「お前は、スカートの中身を見たかったんじゃない!!」

勇者「天井に激突し、痛みに悶える女の子を見たかったんだ!!特にスカートの中身が下着の女の子は、手でスカートを抑えるために頭は無防備になるからな!」

勇者「この外道が!!変態紳士の楽園から追放されろ!!」

勇者は青年のふくろから落ちた翼を大量に取り出し、移動の念を込め、青年の腕に抱えさせた。

勇者「翼をもがれた堕天使と成り果てろ!!」

青年は石橋に全身をうち、気絶した。

163 : 以下、名... - 2017/08/06 13:35:29.89 ypTt4u9i0 144/829

~さらに翌日~


勇者「…………!」ピキン!

勇者「100m先、屋根の上。張り付いている男がいる。やつの狙いはなんだろうか」

勇者「考えろ……考えるんだ。」

勇者「……今日の天気は曇り。そういうことか!!」

遊び人「今ので何がわかったの!?」

勇者「雨の中に紛れて放尿するつもりだ!!きっと好きな女が家の中にいて、家を出た時に傘にかけるつもりなんだ!!現行犯で捕まえるぞ!!」

遊び人「何バカなこと言って……」

捉えられた犯人は、勇者の予測通りの犯行動機を述べた。




勇者「…………!」ピキン!

勇者「変態を感知した。相手は……旅の商人!!」

勇者「若い女性に渡す薬草だけ、脇に挟んでから渡してるに違いない!!」



勇者「……感知した!」ピキン!

勇者「……まただ!」ピキン!

勇者「……また変態がいる!」ピキン!


勇者は今までにないほどの恐るべき観察、想像、気付き、あらゆる力を総動員して輝かしい検挙をあげた。

勇者はこの谷の、英雄となりつつあった。

164 : 以下、名... - 2017/08/06 13:36:14.09 ypTt4u9i0 145/829

勇者「…………!」ピキン!

勇者「この近くに変態がいる!!」

勇者「どこだ……どこに……。半歩分以内の距離に……」

勇者「なんだ、俺か」

勇者「わっはっは!!」

遊び人「…………」

「キャー!冒険者さまぁ!!」

「この間はありがとうございます!!」

「よかったら、今度私のお店にきてください!!無料でおもてなししますわ!!」

勇者「くるしゅうない!くるしゅうない!!ふっはは!!」

遊び人「さぞおもてのようですね。変態が許されるこの町で、変態を取り締まることで人気者になるなんて」

勇者「何日でも住んでいたい気分だ」

遊び人「ふーん……」

勇者「お金もだいぶたまったな。ちょっとした小金持ちだ」

遊び人「……何に使うの?」

勇者「そりゃあ、新しい装備買って、道具も揃えて、余った分は……」

勇者「…………」ニンマリ

遊び人「なによ今の顔!!」

勇者「ち、ちげーし!!」

遊び人「何が違うのよ!!」

勇者「じょじょじょ、女子なんてキョーミねーし!!」ドバドバドバ…

遊び人「凄い汗かいてるけど!!目が泳いでるけど!!」

165 : 以下、名... - 2017/08/06 13:36:48.92 ypTt4u9i0 146/829

~夜~

勇者「ふぅー、今日も1仕事終わった。宿に帰って飯でも……」

「勇者様よ!!」

「キャー!!素敵!!」

遊び人「…………」

「私達のお店にいらっしゃらない?」

勇者「で、でも」

「今夜はバニーガールのダンスショーもあるの。せっかくだから観に来てくださいよ!」

勇者「なっ!!?」

遊び人「…………」

遊び人「行ってくれば。私眠いから先に帰る」

勇者「遊び人?」

「ささ、行きましょ!!」

勇者「ちょ、ちょっと!!」

166 : 以下、名... - 2017/08/06 13:37:54.06 ypTt4u9i0 147/829

~宿屋~

勇者「遊び人が心配で途中で抜けてきちった。普通の病気は神官でも治せないからな」

ガチャ

勇者「遊び人、具合は大丈夫か?飯も食べなかったって宿屋のおっちゃんから聞いたけど」

勇者「おーい」

勇者「…………」

スースー…

勇者「寝息が聞こえる。もう寝てるのか。まだけっこう早い時間だけどな」

勇者「それにしても、いい夜だったなぁ。ご飯もスパイシーでうまかったし、バニーガールのダンスショーもすごかったなぁ」ポワーン

勇者「自分でも、いつからバニースーツ姿のとりこになっていたか思い出せないな。俺の故郷の連中は、みんな僧侶だの賢者だの、真面目な職業の女の子にばかりエロイ妄想ぶつけてたし」

勇者「明日もやるから来てねって言われちゃったよ。困ったな。大罪の装備も探さなくちゃいけないのに」

勇者「まあ、あしたのことはあした考えればいいか」

勇者「風呂入ってこようっと」



遊び人「…………」

遊び人「馬鹿勇者」

167 : 以下、名... - 2017/08/06 13:42:05.32 ypTt4u9i0 148/829


~数時間後~

コンコン

勇者「んっ?ノックされてる。こんな時間に誰だ?」

「宿屋の店主です。勇者様にお見えになりたいという方が来ています」

勇者「わかりました!今でます!」

イソイソ…

ハキハキ…

ガチャリ!

勇者「今下着姿だったので、ズボン履いてました!!それで時間がかかったんです!!」

宿屋「はて?それはさておき、お客様がお見えです」

勇者「お客様?」

宿屋「この谷の警護を司る方です。最近の勇者殿の活躍に、褒美を与えたいという人がおるんです」

勇者「クエスト報酬なら既に受け取ってるけど?」

宿屋「直々にとのことで……」

「まだか。あがらせてもらうぞ」

宿屋「す、すみません!勇者殿が一人で営み中だったようで……」

勇者「ほらーやっぱり!内心そう思ってたんじゃん!わざわざ予防線はったのに!!」

168 : 以下、名... - 2017/08/06 13:43:53.70 ypTt4u9i0 149/829

遊び人「んもう……なんなのよ。こんな遅くに」

「冒険者殿。ここのところの活躍ぶりは王宮にも知れ渡っている。よくぞこの街に住む変態を成敗してくれた」

遊び人「ぎゃあー!!!変態がいる!!兜と軽装の鎧身に付けてるけど絶対中身全裸の変態がいる!!裸メイルよ!!」

「変態とは失敬な。鎧を身に着けてる時点で全裸ではあるまい」

宿屋「失礼ですぞ、遊び人殿。この方は元々この国の罪人だったが、改心されて、今ではこの谷を魔物の残党から守ってくださっている」

「そういうことだ。人をみかけで判断するとは」

遊び人「……そうね、ちゃんと中身まで見なきゃ……!?」

遊び人は裸メイルの男をしっかりと見た。

遊び人「見える!!勇者、この人付いてるわ!!」

勇者「馬鹿!!何言ってんだよ!!」

遊び人「勇者にも付いてるものよ!!」

勇者「や、やめろって!!///」

宿屋「私にもついているものかな?」ニヤニヤ

遊び人「いや、あんたには付いてない」

宿屋「    」

宿屋の主は黙って部屋を去った。

勇者「おい、いくらなんでも暴言過ぎるぞ」

遊び人「何言ってんのよ。私には見えるって言ったじゃない!」

遊び人「あなた!!精霊を宿しているわね!!」

「ほほう、変わった能力の持ち主だな」

遊び人「ということは……」

色欲「ご明察の通り。元勇者だ」

色欲の勇者があらわれた。

169 : 以下、名... - 2017/08/06 13:46:44.16 ypTt4u9i0 150/829

【TIPS】

処刑の王国は、他国から嫌われている。

勇者の通報に賞金がかけられた後になっても、勇者を処刑の王国に差し出そうというものは現れなかった。

世界を救うために人生を犠牲にしていた勇者を差し出したことが知れたら、裏切り者のレッテルを貼られることになり、処刑の王国以外では生きられなくなってしまう。

富豪の家に侵入して金品を奪う盗賊も、勇者を捕まえて大量の賞金を得ようなどと、割に合わないことは考えることもなかった。

勇者は、魔王の支配無きあとも世界の役に立つ、

元々戦闘能力が高いため、警護の仕事につく。

冒険で得た人脈や知識やルートを利用し、店を開く者もいる。

処刑の王国に正体を知られぬよう、勇者は己の身分を隠しながら生きるが、周囲の者は只者ではないと薄々気づくことになるのだった。

身を隠しながら生きる勇者もいれば、勇者であることを親しい住人に認めながら生きる勇者もいる。

いかなる場所においても、勇者が勇者であると、真に正体を知る存在は1人。

教会の神官である。

170 : 以下、名... - 2017/08/06 13:48:20.85 ypTt4u9i0 151/829

暴食の勇者達を襲った男を、処刑人(仮)としばらく呼びます。

171 : 以下、名... - 2017/08/06 13:54:15.41 ypTt4u9i0 152/829

~とある町にて~

処刑人「ここに勇者は運び込まれていませんか」

神官「…………」

処刑人「僕の友人がこの付近でなくなったと聞いていて。死体を蘇らせたいのです」

神官:ようけんはなんですか。どくをちりょうしますか。のろわれたそうびをかいじょしますか。

処刑人「聞き飽きたよそのセリフは。勇者に関することを聞くと途端に目が虚ろになりやがる」

処刑人は神官の頭を掴んだ。

神官の頭は混乱した。

処刑人を仲間だと思い込んだ。

処刑人「話せ。精霊の加護で復活させたものはいるか」

神官「御霊を身体に呼び戻したものはおります。勇者と、踊り子と、魔法使いと、僧侶のパーティです」

処刑人「いつだ」

神官「4年前です」

処刑人「くそが」

神官は気絶して倒れた。

処刑人「俺はな、お前ら神官を皆殺しにしたってかまわないんだぜ」

処刑人「お前らは無知だ。神官という職業に選ばれながら、神官のことを何も知らない。精霊殺しの陣を敷かれている魔王城であろうが、神官の元で復活できる方法さえある。お前らは死んだ勇者とメンバーをを蘇らせることしか考えようとしない」

処刑人は教会を去った。

処刑人「王国の魔術師どももまるで使い物にならん。対人間用の洗脳呪文を覚えてるやつなどろくにいない。勇者に限定した感知呪文ともなると、家ひとつ分の距離しか測れないやつもいるざまだ」

処刑人「この俺様が、いつまでこんなことを続ける必要がある」

172 : 以下、名... - 2017/08/06 13:55:23.67 ypTt4u9i0 153/829

色欲「さぁ。好きなだけ食事を取ってくれ」

色欲「それとも、あっちのほうがお好きかな?」

長テーブルには、大勢の美女が座っていた。

遊び人「…………」

勇者「こ、これは一体」

色欲「君たちの活躍ぶりは有名だよ。お礼をしないといけないとみんな思っていてね。特に僕達防衛師は、谷の近くに住む危険な魔物の残党処理に手がいっぱいで、町中の治安まで守りきれないのさ。谷の魔物はめんどうくさいのが多いんだ」

色欲「僕個人も興味がある。君たちの話を聞きたい。何のために冒険していて、どうしてこの谷にたどり着いたのか」

勇者「なるほど」

遊び人「この女性の方々は?」

色欲「3人だけというのも味気ないだろう。みんな勇者様をひと目みたいと言っていた」

「勇者さまぁ!!」

「本物に会えるなんて!!」

勇者「えへ、えへへ」

遊び人「…………」ゴホン

勇者「…………」

色欲「さあ、宴のはじまりだ!!今夜は誰も寝かさないぞ!!」

裸メイルの元勇者は立ち上がり、乾杯をした。

173 : 以下、名... - 2017/08/06 13:56:03.35 ypTt4u9i0 154/829

遊び人「裸メイルやめてほしいなぁ。目のやり場に困るよ。バニーガールもきわどいかっこうしてるし」

勇者「まったくだ。命を守る装備を舐めてるのか。ムカムカして腹がタちそうだ」ムラムラ…ムクムク…

遊び人「(どうして道具袋をひざの上に置いてるのかしら)」

踊り子「勇者者さまぁ!お話を聞かせて!」

勇者「ええー!聞きたい!?」

踊り子「やーん、こっちの女の子もかわいー!」

遊び人「ど、どうも……」

色欲「女ばかりで退屈か?呼べば男もいるぞ。屈強な男、細身の男、肥えた親父。どれがお好みかな」

勇者「こいつは脂ぎった肥えた親父が好みでしてね」

遊び人「何言ってんのよ!!けっこうです!!」

174 : 以下、名... - 2017/08/06 13:56:37.29 ypTt4u9i0 155/829

バニーガール「ちょっといい?おとなり失礼しまーす!」

勇者「バ、バ、バババ!!」

勇者「バー!!!!」

勇者「バニーガールだぁああ!!!!」

バニーガールA、B、C、D、Eがあらわれた!

バニーガール「お飲み物お注ぎしますわ」

バニーガールのこうげき!

勇者は胸元に見惚れている。

勇者「すぅううーーーーー」

勇者は大きく息を吸い込んだ。

甘い香りが体内に入っていくのを感じた。

体力が15回復した!

遊び人「あ、あのやろう……」

175 : 以下、名... - 2017/08/06 13:57:26.13 ypTt4u9i0 156/829

踊り子「今夜はありがとう。またお話しましょうね」

遊び人「うん。またね」

バニーガール「おやすみ、勇者様」

勇者「にへ……にへへ……」

遊び人「こいつは」

色欲「満足いただけたようで何よりだ。僕も君たちの話が聞けて楽しかった。君たちの馴れ初めの話なんか特にね」

遊び人「馴れ初めというか!!腐れ縁のはじまりといいますか」

色欲「もう夜も遅い。君たちもここに泊まっていったらどうだい?部屋もあいてるよ」

遊び人「宿屋に大事な荷物とかもあるので。今日は帰ります」

色欲「そうか。それじゃあ、手短に。最後に本題に入ろう」

遊び人「本題?」

色欲「優秀な君たちに、頼みがあるんだ」



色欲「大罪の装備というものが盗まれた。君たちに、それを見つけて欲しい」

色欲「褒美として、その『色欲の鞭』をそのままわたそう」

176 : 以下、名... - 2017/08/06 14:00:27.34 ypTt4u9i0 157/829

遊び人「色欲の鞭、というものに選ばれたあの色欲の勇者様だったのね」

遊び人「それを信頼できる神官に預けていたけど、盗まれたとのことだった」

遊び人「こんな簡単に大罪の装備にたどり着くとはね」

勇者「ああ。でも、元勇者が見つけられないとなると、どうやって探せば良いのか」

遊び人「この谷が性欲に溢れるようになったのは、大罪の装備の影響からだと聞いたわ。元々は戒律の厳しい谷だったって」

遊び人「まだ影響が色濃く残っているということは、この谷に住む誰かがずっと所持しているのよ」

遊び人「色欲の勇者様はその鞭を神官様に預けていたというわ。でも、神官様がある日倉庫の中に入ったら、鞭はなくなっていたそう」

遊び人「鞭は高級な装備の1つだからね。大罪の装備と知らずに盗んだ住民がいるのかもしれないわ」

勇者「どうして色欲の勇者は神官に預けたんだ?暴食の勇者だって大罪の装備との出会いは餓死寸前の時だった。きっと印象深い出会いがあったであろうものを、そう簡単に他人に預けるのか」

遊び人「きっと、遠ざけたかったのよ。それも、色欲とは1番無縁そうな神官様にね。邪な心に溢れてるものは神官という職業につけないもの」

勇者「それは世界のイメージにすぎないと思うけどな」

遊び人「そうかしらね。なんにせよ、色欲の勇者が鞭を手元に置かなかったのは、装備の誘惑に駆られないようにするためだったに違いないわ」

177 : 以下、名... - 2017/08/06 14:01:03.65 ypTt4u9i0 158/829

遊び人「暴食の鎧はあらゆるものを飲み込み自分の糧とする力を備えていた。色欲の鞭は……」

勇者「色欲の鞭は?どんな効果がある?」

遊び人「なんだろう。色欲を司るくらいだから……」

遊び人「…………」

遊び人「…………」カァァ///

勇者「どうした?今何を想像した?」

遊び人「し、してないわよ!!この変態!!」

勇者「変態?腰を打ったら子宝に恵まれるんだろうなとか、そんな想像をした俺が変態?」

遊び人「あんたにしてはまともな想像を……」

勇者「君は何を想像したんだい!?色欲の鞭は何の効果をもたらすと思ったんだい!?」

遊び人「うるさいなぁ!!もう寝る!!」

178 : 以下、名... - 2017/08/06 14:06:28.70 ypTt4u9i0 159/829

勇者「それにしてもさ、今回はすぐに手に入りそうでよかった」

遊び人「そうね」

勇者「探すのに10年もかかっちゃったら、この冒険の意味がなくなってしまうからな」

遊び人「…………」

勇者「俺も世界各地の異変を自分の冒険で味わって。冒険譚を自分で書いて。故郷のやつらから尊敬の眼差しを集められる日が待ち遠しいよ」

勇者「この谷に隠れている色欲の鞭を隠し持った犯人を、明日にでも暴いてやらないとな」

遊び人「勇者……」

勇者「ということで、明日もお互い元気に張り切っていこう!おやすみ!」

遊び人「うん!おやすみ、勇者」

179 : 以下、名... - 2017/08/06 14:07:05.25 ypTt4u9i0 160/829






アン…

アンアン!


アンアンアン!

勇者「…………」

遊び人「…………」

勇者「(気まずい)」

勇者「(両隣の部屋からすごい音が……)」

勇者「(遊び人、起きてんのかな。寝てたらいいんだけど)」

遊び人「…………」

遊び人「…………」グゥ~…

遊び人「あっ…」ボソ

勇者「(なんでお腹鳴ってんだよ。絶対起きてるじゃん。お腹空いちゃってんじゃん。あっ、とか言っちゃってんじゃん!)」

遊び人「…………」

遊び人「グ、グゴ~」

勇者「(うわっ!!いびきのモノマネへたくそ!!)」

勇者「(自分が寝ていることをアピールすることと同時に、さっきの腹の音はあくまでもいびきの音だと誤魔化そうとしはじめた!!いびきの音もたいがい恥ずかしいからな!!)」

180 : 以下、名... - 2017/08/06 14:07:37.58 ypTt4u9i0 161/829

~翌朝~

宿主「きのうは おたのしみでしたね」

冒険者カップル「えへへ///」

宿主「きのうは おたのしみでしたね」

街人カップル「どうも///」

宿主「きのうも おあずけでしたね」

遊び人「…………」

勇者「…………」

181 : 以下、名... - 2017/08/06 14:09:59.84 ypTt4u9i0 162/829

勇者、遊び人、色欲、踊り子の四人は広場を歩いていた。

勇者「……だめだ」

遊び人「鞭の持ち主は見つかりそう?」

勇者「変態感知にひっかからない。いつもなら『ピキン!』っていう音が脳内に響くのに」

遊び人「持ち主はただの鞭目当てで、変態な人ではなかったりして」

色欲「そんなことはない。どんなものでもあんな鞭をそばにおいておけば性欲をコントロールされる」イチャイチャ

色欲「やたらと急速に人気が出ている店を中心に見張りを送っている。女性がSMプレイに使っているのであれば、必ず男はその女性のとりこになる。女性があくまで仕事のために使用しているのならば、勇者殿の変態感知には引っかからないかもしれない」イチャイチャ

勇者「その場合はお役にたてなさそうだ」

色欲「消去法の手がかりになるだけでも大いに助かっているよ」イチャイチャ

勇者「どういたしまして」

遊び人「…………」

色欲「今日はここまでだ。明日また捜索を手伝ってくれ」イチャイチャ

踊り子「うふふ、またね」イチャイチャ



遊び人「ずっと踊り子さんのお尻触ってたわね」

勇者「ここにいると性の倫理観がおかしくなりそうだ」

182 : 以下、名... - 2017/08/06 14:10:40.41 ypTt4u9i0 163/829

~宿屋~

勇者「提案。俺もたまには窓際で寝たい」

遊び人「そうしたら夜トイレで起きたときなんか私のスペース通るじゃん」

勇者「通って悪いかよ」

遊び人「寝顔とか寝相見られるじゃん」

勇者「俺もたまには物憂げに夜の窓の外の景色を見たりしたいよ」

遊び人「まあ、たまにはいいけど。じゃあ今日はチェンジで」

勇者「やったー!」

遊び人「子供じゃないんだから。私お風呂行ってくるわね」

183 : 以下、名... - 2017/08/06 14:11:14.70 ypTt4u9i0 164/829

遊び人「はぁー。浴槽が修理中だなんて。身体だけ洗ってはやくでてきちゃったよ」

ガチャリ

遊び人「ねえー、聞いてよ。お風呂がさ……」

勇者「……くっ」

勇者「んっ…はぁ、はぁ…」

遊び人「(えっ、えっ?)」

遊び人「(勇者、何してるの?)」

勇者「はあ!……んあ!」

勇者「くっ!!!」

勇者「はぁ……!!はぁ……!!」

勇者「ふぅ……」

バタン

勇者「ん?今ドアの音が聞こえたような。気のせいか」

勇者「最近魔物と戦ってなかったし。鞭の持ち主と戦うことになったときに体力切れはまずいからな。気持ちだけでも身体を鍛えておかないとな」

勇者「さて、俺も風呂に入ってくるか」

184 : 以下、名... - 2017/08/06 14:12:04.02 ypTt4u9i0 165/829

~翌朝~

遊び人「昨晩はお楽しみでしたね」ニヤニヤ

勇者「ん?」

遊び人「精気も養ったし出発しますか。それとも失ったのかな?」

勇者「何のはなしだ?」

遊び人「ささ、今日も張り切っていきましょ!」




~街中~

勇者「怪しいやつもいない。今日も見つからなかったな」

遊び人「怪しいやつがいすぎてわからなかったわ」

勇者「こんなに目を凝らして探してるのに」

遊び人「勇者はバニーガールのお尻ばっかり見てたじゃない」

勇者「なっ!!尻じゃねえ!!俺は網タイツをだな……」

遊び人「…………」

勇者「いや、これは男の性というか」

遊び人「本能っていう言葉で何でも許されると世の殿方はみんなお思いのようですね」

遊び人「まったく。どうして男性はこうも……」

遊び人「…………」

遊び人「…………」

勇者「ん?どうした?」

遊び人「え、いや、べつに」

勇者「今通り過ぎた書店に見入ってたよな?なんか欲しい書物でもあったのか?」トコトコ

遊び人「いや、ちょ!べつに!」

勇者「…………」

勇者「ガチムチの戦士(♂)と武道家(♂)がいちゃついてる表紙の娯楽書があるんだが」

勇者「えっ?今まで散々まともなキャラでこちらの批判をしてきてたのに?ええー、そうなんですかー」

遊び人「ち、ちがうって!!」

遊び人「な、なんだろ。ちょっと気になっただけよ!魔が差したというか!今までの街にはなかったじゃない!」

勇者「こんやはおたのしみですね」

遊び人「買わないわよ!!」

185 : 以下、名... - 2017/08/06 14:13:07.40 ypTt4u9i0 166/829

~宿屋~

遊び人「お風呂入ってさっぱりしたぁ。今日は勇者にいじられて散々だったからなぁ」

遊び人「勇者だってチラチラ大人の書物を見てたくせに。私が気を遣って黙ってあげてたっていうのに」

遊び人「バニーガールがそんなに好きなのか」

遊び人「…………」

遊び人「やっぱり勇者も男の子だし、いろいろ我慢してるのかなぁ」

遊び人「この谷にいる時くらいは、お風呂上がりに半裸でいることくらい多めに見てあげようかな」

ガチャ

遊び人「おまたせ。浴槽の修理も終わってていい湯だったわ」

勇者「えっ……」

遊び人「勇者もお風呂入ってきなよ。なんだかスースーして涼しくて気持ちいいよ」

勇者「あの……」

勇者「その姿……」ボッ///

遊び人「えっ?」

遊び人「べつに、ただの下着姿じゃない」

遊び人「…………」

遊び人「えっ!!!??」

遊び人「わたし!!なんで!!!?」

186 : 以下、名... - 2017/08/06 14:14:17.53 ypTt4u9i0 167/829

勇者「おーい。布団にくるまって、大防御のつもりか」

遊び人「……ほっといて」

勇者「混浴に入ったものだと思えばいいだろ。薄手のタオル一枚よりはよっぽど厚着だ」

遊び人「女心も知らないで!!」

勇者「だったら水着だと思えばいいだろ」

遊び人「水着でも恥ずかしいのよ!!」

勇者「じゃあバニースーツを着れば……」

遊び人「なんで慰めに乗じてバニースーツ着せようとしてんのよ!!」

勇者「まあまあ。俺の半裸姿もあとで見せてやるから」

遊び人「それでおあいこみたいな雰囲気ださないでよ!!はやくお風呂でもいってきて!!」

勇者「そう怒るなって。俺もわるかったよ。じゃあ行ってくる」

ガチャ…

勇者「…………」

勇者「俺は悪くないよな……」

勇者「…………」

勇者「あいつ、あんな下着身に付けてたのか……」



ゆうしゃは レベルアップ した!

187 : 以下、名... - 2017/08/06 14:18:00.70 ypTt4u9i0 168/829

~翌日~

勇者「今日も色欲の勇者は魔物狩りで来れないらしい」

遊び人「また?大罪の装備が盗まれてるのよ?何が起きるかわからないわよ。わたしだってこの場所の影響を色濃く受けちゃってるみたいだし……」

勇者「元からそうしたかったとかではなく?」

遊び人「…………」ギロ

勇者「なんでもないです」

2人は捜査のためにあるき出した。

勇者「大罪の装備は持ち主を選ぶんだよな」

勇者「その持ち主以外が使用したら、どうなるんだ?」

遊び人「ふさわしいと思う持ち主の場所に飛んでいくだけみたいなの。使用は誰にでもできるわ」

勇者「そうだよな。だとしたら、新しく手に入れた者こそ、持ち主としてふさわしいとも言えるのかもな」

遊び人「どういうこと?」

勇者「本当に大事なものだったら最初の持ち主は手放さないし」

勇者「それを奪うってことは、最初の持ち主よりもそれを必要としてるってことだから」

勇者「人間でいう、略奪愛みたいなもんじゃないか」

遊び人「勇者の口からそんな言葉が出る日が来るとは思わなかった」

勇者「ふさわしいものはふさわしいところへたどり着く。運命の人は最初じゃなくて最後に出会う。これが俺が、過去の恋愛経験から学んだことだ」

遊び人「なにそれ、初耳なんだけど。どんな恋愛経験したのよ」

勇者「俺だって色々あるぜ。気になってた女の子から、回復呪文をかけて貰ったり。落とした短剣を拾って貰ったり」

遊び人「あちゃー……」

勇者「そんな哀れんだ目で見るなよ!」

188 : 以下、名... - 2017/08/06 14:19:02.74 ypTt4u9i0 169/829

~宿屋~

遊び人「今日も成果なしだったね」

勇者「ああ」

勇者「そろそろ日にちが経ちすぎてるな。遊び人、俺達の他に大罪の装備を探しているやつは、この谷に近づいてるか?」

遊び人「……まだ大丈夫みたい。全然検討違いの場所を探していると思う」

勇者「そっか。よかった」

勇者「いつまでもってわけにはいかないからな。その特殊な呪いの正体もいつ相手にばれるかわからないんだろ」

遊び人「うん」

勇者「大丈夫。明日こそ、俺が探し出してやるから。今日はもう寝よう」

遊び人「勇者、ありがとう」

勇者「気にすんなって。おやすみ」

遊び人「おやすみなさい」

189 : 以下、名... - 2017/08/06 14:20:12.30 ypTt4u9i0 170/829

勇者「…………」

遊び人「…………」

勇者「あのさ、質問があるんだけど」

遊び人「私もあるんだけど」

勇者「なんで俺の布団の中に入ってんの?」

遊び人「あんたこそなんで私の布団の中にはいってんのよ!!」

勇者「俺が窓際で寝ていいってことになってたじゃん!」

遊び人「それはあんたが寝たいって言った日限定でしょ!!」

勇者「しかも!!」

遊び人「なによ!!」

勇者「お前、また下着姿なのな」

遊び人「…………えっ」カァァ///

遊び人「ギャー!!」

勇者「ふ、服着ろって!」カァァ///

遊び人「あんたに言われたくないわよ!!」

勇者「じゃあ着ないのかよ!」

遊び人「着るわよ!!てかあんたも半裸じゃない!!」

勇者「えっ?」

勇者「あっ、まじだ。でも俺はいいだろ」

遊び人「よくないわよ!!」

勇者「俺は遊び人がどうしてもと言うならそのままでもいいけど」

遊び人「よくないわよ!!!」

アンアン!!ギシギシ!!アンアン!!

勇者遊び人「(しかも今日も隣の部屋がうるさい!!)」

190 : 以下、名... - 2017/08/06 14:23:25.62 ypTt4u9i0 171/829

~隣の部屋~

色欲「ふふっ、結局勇者の皮をかぶってもただの雄じゃないか」

色欲「精霊の加護なんてものに守られて、命を永遠に感じているから異性に手を出さないだけだ」

色欲「男が死の際で考えることなんか、性のことだけだ」

色欲「なのに、普段からそうやって、性に無頓着なふりをしていると、今はの際でも自分の性欲に忠実になれない」

色欲「純情なんかを守って。純愛なんかを崇拝して。そうして、肉欲に塗れることを選ばなかった過去を後悔すればいいのさ」

色欲「かつての、僕のように」

「はぁ…色欲さまぁ……もっとご褒美を……」

「わたしもいじめてくださいませぇ……」

色欲「ああ。抱いてやるさ。とことんな」

色欲の勇者は腰を振り続けた。

191 : 以下、名... - 2017/08/06 14:25:30.83 ypTt4u9i0 172/829

遊び人「えっ!?見つかった!?」

色欲「ああ。冒険者から情報を集めた。まだ回収はしていないが、持ち主は確実に特定した」モミモミ

踊り子「ああん///」

遊び人「(また踊り子さんのお尻を……)」

勇者「(色欲の勇者さん。今は真剣な話し合いの場ですよ。謹んでください)僕も先日遊んでくれたバニーガールさんのお尻を拝借してもよろしいですか?」

遊び人「はっ?」

勇者「えっ?」

勇者に30のダメージ

192 : 以下、名... - 2017/08/06 14:26:28.29 ypTt4u9i0 173/829

遊び人「誰が持ち主だったんですか?」

色欲「それは教えられない」

勇者「俺たちに色欲の鞭をくれる約束じゃ?」

色欲「君たちが色欲の鞭にふさわしい存在ならと言ったはずだ。」

色欲「探す猶予期間を与えたのに、君たちは僕より早く見つけることができなかった」

色欲「そんな者達が、色欲の鞭の誘惑に耐えられるとは思えない」

遊び人「耐えられますよ。大罪の装備の力を封じ込める壺があるんです。それに入れれば……」

色欲「そこの勇者が、その壺を割る可能性は本当にないのか?」

勇者「俺が?なんで?」

色欲「色欲の鞭で叩かれた人間は、性の喜びに忠実となる」

色欲「現在の持ち主も随分楽しんでいるようだよ。自分に忠実な女性を増やしてね」

勇者「!?」

193 : 以下、名... - 2017/08/06 14:27:18.16 ypTt4u9i0 174/829

遊び人「い、一刻もはやくとめないと!!女性がそんな目に遭ってるのに放置できないわ!!」

色欲「大丈夫だ。相手は老人だ。女性を従えるのに夢中になっているが、直接触れたりはしていない。全く新しい形の、性欲に塗れたプラトニックラブだ」

遊び人「だからって許されるわけないでしょ!!」

勇者「そうか!!」

遊び人「何かわかったの?」

勇者「俺の感知の『ピキン!!』という感覚だが」

勇者「何が『ピキン!!』となっていたか、今わかった気がする」

勇者「その犯人の息子は、もう引退をしていたんだ!!」

勇者「だから俺の感知が反応しなかったんだ!!」

遊び人「…………」

遊び人「あんた確か街中歩いてる時に自分に対して……」

194 : 以下、名... - 2017/08/06 14:49:58.86 ypTt4u9i0 175/829

勇者「心配なのは女性だけじゃない」

勇者「大罪の装備は使用者の寿命を削る。それは持ち主ならわかってるはずだ」

色欲「寿命を……削る?」

勇者「他に使用したことがある者も言っていた。そんな感覚を覚えなかったのか?」

色欲「鞭を初めて振るった時のあの消え行く命の感覚は、そういうことだったのか……。てっきり、過去を思い出しただけかと……」

勇者「今の持ち主はそのことに気づいていないかもしれない。一刻もはやくとめないと」

色欲「…………」

色欲「俺が一人で取りに行く」

勇者「なんでだよ!!」

色欲「色欲の鞭に選ばれたのは俺だからだ」

195 : 以下、名... - 2017/08/06 14:51:05.67 ypTt4u9i0 176/829

遊び人「あなた、何が目的なのよ。やってることがいったりきたり」

色欲「質問は終わりだ。教えてほしかったら持ち主としてふさわしいことを示してくれ」

勇者「どうやって」

色欲「禁欲で勝負をするんだ」

色欲「より長い時間、射精を堪えた者が勝利とする」

遊び人「    」

勇者「なんだよそれ……」

踊り子「んふふ///」

196 : 以下、名... - 2017/08/06 14:55:13.93 ypTt4u9i0 177/829

~怪しい大人のお店~

遊び人「…………」ソワソワ…

遊び人「……ああ!!」

遊び人「落ち着かない!!なによこの馬鹿げた勝負!!」

遊び人「いやらしい格好をした女性と密室で二人きりになって、性欲を呼び起こすやくそうを飲み込むなんて!!」

遊び人「暴食の勇者といい!!色欲の勇者といい!!自分たちが大好きなものを耐える勝負をどうして持ち出そうとするのかしら!!」

遊び人「この扉に入ってから8分……中はどうなってるんだろう」

遊び人「ああ!!やっぱりこんな谷に来るんじゃなかった!!」

遊び人「勇者は暴食の勇者との断食勝負に、水も飲まないで6日間も耐えたわ。精霊の棺桶に入れられるぎりぎりまで耐えた」

遊び人「一体、この部屋で何日間耐えられるのかしら」

遊び人「こんな気分でずっと勇者が耐えるのを待ってないといけないなんて!!」

遊び人「はやくこんな勝負終わればいいのに!!」

ガチャ…

勇者「…………」

遊び人「えっ?」

勇者「世界を、救えなかった」

勇者のせいしはぜんめつした。

197 : 以下、名... - 2017/08/06 14:55:50.48 ypTt4u9i0 178/829

遊び人「…………」

勇者「ごめん……」

遊び人「別にいいよ」

勇者「本当ごめん」

遊び人「怒ってないって」

勇者「媚薬の効き目がものすごくて」

遊び人「どうでもいいってば!!!」

勇者「…………ごめん」

遊び人「だから、謝らなくてもいいって」

勇者「殺してくれ……」

遊び人「蘇らせるのにお金かかるからいいよ」

勇者「……ごめん」

198 : 以下、名... - 2017/08/06 14:57:17.01 ypTt4u9i0 179/829

色欲「情けない勇者だ。10分経たずにでケリがつくとは思わなかった」

踊り子「私の魅力が凄かったことは疑わないのかしら?」

色欲「ふふ、それは言えるかもな」

色欲「シャワーを浴びてきてくれ。あんな雑魚に君を抱かれたかと思うと嫉妬で興奮が収まりそうにない」

色欲「勝つものが抱く。これが自然界の摂理だ。さあ、今日は存分に楽しもう」

踊り子「シャワーを浴びる必要はないですよ」

色欲「なんだって」

踊り子「あの人、私に指一本触れてませんもの」

色欲「触れてない?」

踊り子「私の誘惑も、全部拒絶したんですもの。おしゃべりをして、あの人が自分で自分の性欲を部屋の隅で処理しただけよ」

踊り子「私があの勇者に迫って、生まれてから守ってきたものを奪ってあげようとしたの。そしたら言われちゃったのよ」

色欲「なんて」

踊り子「それを すてるなんて とんでもない!」

199 : 以下、名... - 2017/08/06 14:59:15.40 ypTt4u9i0 180/829

踊り子「ねえ、勇者様。性欲って悪いことじゃないわよね」

色欲「当たり前だ。楽しむためだけの性欲が認められていいに決まってる」

踊り子「そうですよね。でも、その楽しむためだけの性欲以上に。大切なことが、まさか男性の中にもあったりするみたいです」

色欲「…………」

踊り子「際で見せるのがその人の真の姿なら」

踊り子「敗北を確信した時の姿と、勝利を確信した時の姿を比べてもいいのでは?」

踊り子「性欲に勝ち負けなんてないですけどね。それでも、禁欲という勝負においては。たとえあの勇者は勝利していたとしても、そのまま私のところに戻って身体を求めようとはしなかったでしょう」

踊り子「あの勇者にね、私の仕事を否定する気かって尋ねたの。そしたら首を振ってね」

踊り子「あの子に馬鹿にされる自分のままがいい、って言ってきたの」

踊り子「穢れなき性欲に対して、罪悪感を感じてしまうその心」

踊り子「戒律の厳しかったこの谷で、私の身体を買って捕まって、パーティメンバーに泣いて詫びていた」

踊り子「かつての色欲の勇者様、そっくりじゃないですか」

200 : 以下、名... - 2017/08/06 15:01:45.50 ypTt4u9i0 181/829

(宿屋)

勇者「ムラムラして、すみません」

遊び人「…………」

勇者「バニーガールならともかく、踊り子にムラムラして、冒険の目的を見失ってしまってすみませんでした」

遊び人「…………」カチン

遊び人「もう……ほんと馬鹿」

遊び人「そりゃあ、かなりかなり思うところがあるけどさ」

遊び人「しょうがないわよね。女だからよくわからないけどさ。男の子って大変なんでしょ?」

遊び人「他に手段を考えましょう。四六時中尾行するとか、私達も聞き込みするとかしてさ」

勇者「ごめん……」


コンコン

遊び人「ん、ノック?」

ガチャ

色欲「支度を整えろ」

遊び人「何の用よ!!」

色欲「色欲の鞭が欲しいんだろ。俺が預けた神官が所有している。あの神官が乱用しはじめただけで、誰からも盗まれちゃいなかったんだ」

勇者「えっ……」

色欲「奪いにいくぞ。よりふさわしい者が持つべきものだからな」

201 : 以下、名... - 2017/08/06 15:04:08.40 ypTt4u9i0 182/829

~外~

遊び人「しまった!部屋の中にやくそう袋忘れた!!ちょっと待ってて!」

トットット…

色欲「外で交尾が許される国を俺は知らない」

勇者「二人きりになった時の第一声がそれですか」

色欲「交尾は愛し合うパートナーがいるものであれば誰もがやっている。しかも開放的な場所でやりたいことだろう」

色欲「俺も色んな国をまわってきたが、そこまで性に開放的な国はなかった。獣が外で交尾をするこの世界で、人間が太陽の下で交尾をすることが許される場所は俺は見つけられなかった」

色欲「性欲は、どうして隠されてしまうのだろう。誰もが興味あることなのにもかかわらず、公では隠されてしまうのだろう」

色欲「好きな女の子のためにしか性欲を捧げたくないという気持ちや、好きな女の子だけには性欲を押し付けたくないという男もいる」

勇者「男は四六時中女性の裸を考えているだとか、息子を穴に挿れることばかり考えて生きているとか、それは辞めて欲しいですよね」

勇者「確かにそういうことだけを考えている男は多いし。いや、たしかに全ての男はそういうことを1日中考えているんだろうけど」

勇者「そういうことを考えている男でも、1日のうちのいくらかの時間は、性を完全に拒絶するような純愛を心の中であたためていたりしますからね」

勇者「性欲さえ拒絶する男の子の魂があることを、この世界はあまりにも知らなさすぎますよ。女も知らないし、そして、知らない男もいる」

202 : 以下、名... - 2017/08/06 15:06:48.65 ypTt4u9i0 183/829

色欲「俺は、純愛を諦めたつもりになっていた。いや、諦めたふりをしようとしていた」

色欲「かつて、パーティメンバーに愛している女がいた。踊り子だった」

色欲「俺はその踊り子に性欲を向けるようなことを決してしなかった」

色欲「ある時この谷にたどり着いて、女性を買ったことがあった。踊り子という職業だ。それがばれて、仲間の踊り子がどんなに悲しそうな顔で無理して笑ってきても、俺はこれが最善の選択だと思っていた」

色欲「性欲をぶつけないことで、性欲以上の美しい感情があることを示したかった」

色欲「その女を抱きたいと、心の奥底では思っていたさ。けれど決して認めなかった。拒絶されることを恐れたからかもしれないし。今楽しく笑っていられる美しい時間を壊すことを自分で許せなかったのかもしれない」

色欲「やがてこの谷に再び戻ってきた。そして、この谷を魔物から守った。そんな俺を慕う女はたくさん現れた。食事や睡眠を毎日とるように、俺は女を抱き続けた」

色欲「自分の性欲についてさえ、俺は、よくわかっていない。ましてや、女の性欲についてなどわからない。俺が惚れていた女は、どういう性欲を抱えていたのか。性欲をどう認識していたのか。美しい純情を求めすぎていたせいで、何もわからずじまいだった」

色欲「今も答えを探し続けているが、わかりそうにない。女に直接尋ねてみても。美しき女たちと身体を重ねて、何度腰を振っても。何度喘ぎ声を聴かされても。俺は、女を理解してやれない」

勇者「俺もだ」

童貞は頷いた。

色欲「冒険に性欲は付き物だ。なのに、誰も真摯に向き合おうとはしない」

色欲「俺は答えを出せそうにない。だから、勇者。お前がお前なりの答えを出してくれ」

色欲「まずは、色欲の鞭に打ち勝て」

203 : 以下、名... - 2017/08/06 15:08:11.06 ypTt4u9i0 184/829

~教会~

色欲「神官よ!!戻っているか!!」

信徒A「あぁん///神官様ぁ///」

信徒B「強く説教してくださいまし///」

信徒C「あの鞭でもっと強くおしかりになって///」

色欲「なんだこの有様は。ここまで洗脳が強いものだったのか」

遊び人「きっと、色欲の鞭の使い方に慣れてきたのよ。取り憑かれたというべきかもしれないけど」

色欲「神官だけは信じていた。教会に立ち寄った冒険者から噂を聞きつけた時はまさかと思ったが……」

色欲「今はどこにいるんだ……」

勇者「…………」

――ピキン。

ピキピキ……

バキバキバキバキ!!!!!

勇者「!!!!??」

遊び人「どうしたの!?」

勇者「ま、まずいぞこれは!!!」

勇者「神官の神官が蘇った!!!」

204 : 以下、名... - 2017/08/06 15:17:52.08 ypTt4u9i0 185/829

遊び人「はぁ!?」

勇者「最近まで教会の秩序が最低限保たれていたのは、モノがなかったからだ。だからこそ、女性は手出しをされずに、鞭で叩かれるだけで済んでいた」

勇者「これからは本当の大罪人になりかねないぞ!!こんなブツ、今まで感じたことがない!!!」

色欲「……非常事態だな。わかった。隣街から最強の魔術師と僧侶を連れてこよう」



~隣町~

魔法使い「なによ、今更呼び出して」

僧侶「はぁ。私達を側室にでもする気でしょうか」

色欲「突然すまない。でも、命がけのことなんだ」

魔法使い「命がけねぇ。それで、死んでも精霊の加護で蘇るパーティメンバーの私達を呼んだってわけ?」

205 : 以下、名... - 2017/08/06 15:18:49.61 ypTt4u9i0 186/829

【TIPS】

『パーティメンバー』

勇者と魔王撃退の契を結んだもの。

精霊が人間から勇者を選ぶように、勇者が人間から仲間を選ぶ。

勇者は、勇者が認めたものとパーティメンバーを組むことができる。

しかし、魔王が死したという噂が流れてからは、パーティメンバーを組むことができなくなった。

勇者という職業は、魔王撃退のために存在しているようなものだった。

魔王がいなくなったと知った勇者達は、『魔王を倒すために結束する』ことができなくなった。

救いは、契約の更新は効かなくなったが、魔王が消える以前に結んだ契であれば継続することであった。

206 : 以下、名... - 2017/08/06 15:21:56.71 ypTt4u9i0 187/829

僧侶「でもそれは、私達があなたをまだ勇者と認めている場合に限りますわ」

色欲「でも君らはこうして来てくれた」

僧侶「…………」

色欲「死んでも教会で復活するという理由だけで君たちを選んだんじゃない」

色欲「今の僕の乱れぶりに君たちがどんなに失望しているかはわかっているつもりだ。それでも、君たちの力が必要なんだ」



僧侶「…………」

僧侶「私は、いけないわ」

色欲「……そうか」

僧侶「あかちゃんが、できたの。」

色欲「なっ!」

僧侶「け、結婚したのは知ってたでしょ!」

僧侶「私自身に精霊の加護があるにしても、お腹の中の子供が刺されたら……」

色欲「おめでとう!!」

僧侶「あ、ありがとう」

色欲「幸せそうで何よりだ」

魔法使い「うう……かつての仲間に嫉妬しそうだわ。私もいい年なのに……」

僧侶「かつての仲間と結婚したらどう?」

魔法使い「やりちんはパス」

色欲「あはは……」

魔法使い「まあ、ちょっくら手伝ってやるくらいならいいけどね」

色欲「魔法使い……」

魔法使い「……あの子のためにもね」ボソ…

207 : 以下、名... - 2017/08/06 15:22:43.07 ypTt4u9i0 188/829

勇者「精霊の加護で蘇るかぁ」

遊び人「何か気になるの?」

勇者「今倒そうとしている神官は、まさにこの谷の神官なんだろ?俺達が死んで蘇生したら、どこで蘇るんだ?」

遊び人「あっ……」

遊び人「うーん、運が良ければ、谷からもっとも近い場所であるこの街の教会で蘇るわね」

魔法使い「運が悪ければ?」

遊び人「変態神官の目の前で蘇る」

魔法使い「嫌よ!!」

遊び人「全滅しても蘇るのは勇者だから大丈夫よ」

遊び人「色欲の鞭に支配されていたら、オスメス見境なく何をするかはわからないけど……」

勇者「…………」ゾワッ

遊び人「迷っている時間はないわ。早く捕まえに行きましょ」

208 : 以下、名... - 2017/08/06 15:24:40.22 ypTt4u9i0 189/829

――ピキン!!ビキビキ!!

勇者「こっちだ。この道を登りきった先にいる」

魔法使い「なんでわかるの?感知呪文も使ってないのに」

勇者「無口詠唱してるのさ」

魔法使い「本当に!?感知呪文ってかなり精神力と集中力を必要とする魔術よ!それを無口詠唱だなんて、あなたすごいのね」

勇者「おだててもポロリしかないぜ」

遊び人「嘘ばっか……」

魔法使い「私はすっかりできなくなっちゃったわよ。誰かさんのせいで」

色欲「…………」

魔法使い「魔王討伐を果たせず、この地にたどり着いて。魔王より遥かに弱い魔物倒して有名になって、モテたら女囲いまくって。まぁモテたのは、あの薄気味悪い鞭のせいだとは思ってたけど」

魔法使い「あんたへの信頼が薄れてから、無口詠唱できなくなっちゃったのよ。元々呪文は得意だったけど、やはり、精霊の加護の恩恵をかなり受けていたみたい。杖無しで呪文なんてもってのほか。右手だけで火炎の玉を出せてたあの頃が懐かしいわ」

色欲「何も言えない……」

勇者「静かに。近いぞ。すぐそこにいる」

谷を登ったさきにあったひらけた地の上に、一人の老人が鞭を持ちながら立っていた。

星明りの綺麗な夜だった。

209 : 以下、名... - 2017/08/06 15:26:50.42 ypTt4u9i0 190/829


魔法使い「作戦通り、いきなり仕留めるわよ」

魔法使いは精神を集中し始めた。

魔法使い「『夜の頂きで数えられし無数の羊達よ。朝日を疎いし人間をそのまどろみの誘惑の中に再び引きずり戻し給へ』」

魔法使い「『ネムリン』」

羊の形をした淡いピンク色のシャボン玉が現れ、神官に向かって進み始めた。

神官は気付かず、頬を赤らめながら上の空のままだった。

神官の背後から、泡の羊がぶつかる直前のことだった。

210 : 以下、名... - 2017/08/06 15:27:26.47 ypTt4u9i0 191/829

バチン!!

勇者「なっ!」

突如、鞭が勝手に動き出し、泡を弾いた。

勇者「弾かれた!」

魔法使い「その程度の防御、散々経験してきたわよ!」

割れた泡は無数に分裂し、無数の小さな羊の群れとなった。

眠りの泡は四方から神官に向かって進み出した。

魔法使い「エロジジイは大人しく寝てなさい!!」

しかし、鞭は物凄い勢いで動き回り、羊の群れをすべて撫でるようにさわった。

小さな無数の泡をつなぎ合わせ、1つの大きな泡の塊をつくりだした。

キノコの形をしていた。

遊び人「ぶふっ!!」

勇者「おい、なぜ笑った」

魔法使い「なによそれ!魔法をそんなに繊細に操れる武具なんて他にないわよ!!」

神官は振り返った。

目が血走っていた。

神官「俺ト……交ワレ!!」

キノコの泡がとんできた。

211 : 以下、名... - 2017/08/06 15:28:12.67 ypTt4u9i0 192/829

魔法使い「『マハンシャ!』」

魔法使いはバリアを張った。

神官「ハァ……ハァ……フン!!」

神官の振るった鞭が魔法の鏡の表面をなぞると、震えながらへなへなと崩れ落ちた。

魔法使い「な、なに感じてんのよ!!私のバリアは!」

神官が魔法使いに鞭を叩きつけた。

魔法使い「きゃっ!!」

遊び人「大丈夫ですか!!」

魔法使い「痛い……けど、ダメージは薄いわ」

色欲「次は俺達の番だ」

勇者「ああ!」

2人は飛び出した。

勇者が右足を出した時には、色欲の勇者は神官の目の前にまで迫っていた。

212 : 以下、名... - 2017/08/06 15:29:12.87 ypTt4u9i0 193/829

色欲「気絶させる!!」

鞭を払いのけようと、色欲の勇者が凄まじい速度で剣を振るう。

神速のような攻撃を、鞭は全て弾き返した。

色欲「持ち主の寿命を喰らって好き勝手に動いているのか」

魔法使い「準備できたわ!かけるわよ!」

色欲「頼む!!」

魔法使い「『オナモミン!!』」

色欲の勇者の剣に無数の毛が生えた。

勇者「戦いの最中になんつーシモネタを……」

遊び人「敵の装備を絡め取る効果付与呪文だってば!!」

色欲の勇者が剣を振るうと、色欲の鞭が絡みついた。

213 : 以下、名... - 2017/08/06 15:32:14.71 ypTt4u9i0 194/829

色欲「このまま鞭を奪い取る!!持ち主から離れれば動けまい!!」

しかし、鞭は必死で抵抗し、持ち主を色欲の勇者の攻撃から避けさせようと抵抗した。

色欲「しつこいやつだな。エロオヤジというよりも、女王様のそれに近い」

色欲の鞭がぶるぶると身体を震わせると、くっついた魔法のトゲがばらばらと落ちだした。

色欲「魔法使い!!追加で呪文をかけてくれ!!もうひと押しだ!!」

魔法使い「…………」

魔法使い「……いや」

色欲「どうした?」

魔法使い「私、あの人攻撃できない……」

色欲「何を言ってる?」

魔法使い「恋の魔法にかかっちゃったみたい……」トロォン///

魔法使いの足には、さきほど鞭で叩かれた痣の跡が残っていた。

214 : 以下、名... - 2017/08/06 15:33:19.43 ypTt4u9i0 195/829

勇者「呪文を好きなようにあやつり、結合させたり、離したり」

勇者「鞭の攻撃をくらったものを虜にさせる」

勇者「なるほどな、”愛のムチ”ってわけか!!」

魔法使い「ねえねえ、あんたらもこっちおいでよ///」

魔法使い「『ヌメリン』」

魔法使いの杖の先から、ぬるぬるとした液体が流れ出した。

遊び人「キャー!!」

遊び人の全身と、術者の魔法使いの全身にぬめぬめとした液体がかかった。

勇者「いいぞ!もっとやれ!!」

遊び人「ぶっ飛ばすわよ!!」

勇者「はっ…!鞭の魔力に一瞬洗脳されてしまった!」

遊び人「そんくらいの煩悩いつも抱えてるくせに!」

液体は色欲の勇者のところまで飛び、足元を不安定にさせた。

色欲「くそ。魔法使い相手では分が悪い。一度退くぞ!」

遊び人「逃げるの!?」

色欲「魔法使いは俺がどうにかする!!」

色欲の勇者は神官から距離をおき、魔法使いのもとへと近づいた。

色欲「くそ、ぬめぬめしやがる……」

色欲「勇者!!移動呪文を唱えろ!!全員で谷に飛ぶぞ!!」

勇者「覚えてないけど?」

色欲「なんだと!?勇者の基本呪文だぞ!!」

勇者「移動の翼持ってるからいいだろ!!」

勇者はどうぐぶくろを取り出した。

ベチン!

勇者「いってぇ!!」

どうぐぶくろが地面に落ちた。

色欲の鞭が勇者の腕にあたった。

215 : 以下、名... - 2017/08/06 15:33:46.50 ypTt4u9i0 196/829

遊び人「勇者!!」

勇者「…………」

勇者「……あっ」

勇者「あっ、あっ、やばい。これはまずい」

勇者はだんだん前屈みになり、座り込んだ。

遊び人「何ふざけてんのよ!!はやく立ち上がって!!」

勇者「もうタってんだよ!!」

遊び人「いいからふくろを持ってこっちへ!!」

勇者「できないんだって!」

遊び人「なによ!!頭の堅いやつね!!」

勇者「硬いのは頭じゃねえんだよ!!」

216 : 以下、名... - 2017/08/06 15:37:08.21 ypTt4u9i0 197/829

勇者「確かに頭といえば頭だけどさ!!」

遊び人「何を言ってるのよ!!」

勇者「いいから俺のことは置いていけ!!3人で移動の翼を使え!!」

勇者は遊び人に道具袋を投げた。

勇者「エロジジイにドキドキする日が訪れるとはな!!」

勇者「どうせする恋なら、2人で添い遂げる恋だ!!心中しやがれ!!」

勇者はすてみで神官にとっしんした。

鞭で強烈に叩かれつつも、神官を転倒させた。

勇者「ぐはっ!」

勇者は力尽きた。

217 : 以下、名... - 2017/08/06 15:38:49.83 ypTt4u9i0 198/829

遊び人「いっつも無茶するんだから……」

遊び人「あんた蘇らせるために私は心中しないからね。あの神官が復活地点だったらまずそうだし」

魔法使い「キャー///何すんのよ///やっぱり昔から私の事そういう目で見てたのね」

色欲の勇者は魔法使いを後ろから羽交い締めにしていた。

色欲「早く飛べ!!この絵面はまずい!!」

遊び人「逃げるわよ!!!パーティ2つ分の翼よ!!」

遊び人達は道具袋から翼を取り出した。

神官「……マテ」

遊び人「えっ?」

鞭が遊び人の足首に絡まっていた。

神官「交ワレ……」

遊び人「うそでしょ!!」

遊び人「いやだ!!いやだ!!そんなの絶対イヤだ!!」

遊び人は混乱した。

遊び人はつばさをばらまいた。

色欲「落ち着け!!」

遊び人の周りにすさまじい風が起きた。

鞭はほどけた。

遊び人達は逃げ出した。

色欲の勇者と魔法使いは隣街に飛んでいった。

遊び人と勇者の棺桶は隣街に飛んでいった。

218 : 以下、名... - 2017/08/06 15:42:48.85 ypTt4u9i0 199/829

~隣町~

遊び人「うぇええん……怖かったよぉお……」ポロポロ

魔法使い「糞野郎!あのおっさんに捧げる羽目になりそうだったじゃんか!!」

魔法使い「変態どもに関わるんじゃなかったよ!!」

色欲「すまない……」

魔法使い「あとは谷の兵士にでも援軍を頼んで。命が関わるような危険はなかったし」

魔法使い「わたし、もう帰るから……」ウズウズ…

遊び人「?」

色欲「わるかった……」

魔法使い「でもまぁ」

魔法使い「最後は助けに来てくれてありがとう」

魔法使い「……じゃ」

魔法使い「さよなら、女性の目も見れなかったウブな勇者様」

ガチャン

色欲「なっ!!!!」

遊び人「えっ!?」

色欲「な、なんでもない!!今のは違う!!」

219 : 以下、名... - 2017/08/06 15:46:01.06 ypTt4u9i0 200/829

色欲「俺達も谷に戻ろう。俺の仲間を全軍要請する。こうなったら数で抑えるしか無い」

色欲「神官が動き出す前に。また他の犠牲者が出たらまずい」

遊び人「そうですね」

色欲「この谷史上、最悪の性犯罪者となりかねん。勇者の棺桶もはやく復活させてやれ」

遊び人「気になったんですけど。状態異常って死んだら全部治るものなのかな」

色欲「基本はそうだと思うが」

遊び人「でも、さっきのって状態異常っていうのかな……」

色欲「何が言いたい?」

遊び人「勇者はまだ、ムラムラしたままなのかな……」

色欲「…………」

遊び人「…………」

2人は棺桶を街の教会に残し、谷へと向かった。

220 : 以下、名... - 2017/08/06 15:46:58.66 ypTt4u9i0 201/829


カンカン!カンカン!!

ドタバタ!!

色欲「なんだ!この騒ぎは!!」

兵士「色欲殿!!大変です!!」

色欲「何があった!?」

兵士「谷中の女どもが、神官様から鞭で叩かれておかしなことに……」



バニーガール「うふふふふ///」

女戦士「あはははは///」

武道家「誰があそんでくれるのかしら///」

神官「ハハハハ!!ハハハハ!!」

神官「交ワレ!!交ワレ!!」

神官「俺は世界中の女を俺のものにする!!」

神官「男の欲望の全ては女を手に入れるためにある!!強くなるもの!!賢くなるのも!!それが目的ではない!!」

神官「良き女が欲しいからだ!!」

神官は歩きながら、すれ違う女という女に鞭をぶつけていく。

神官が歩く度に神官のとりこになる女が増えていき、巨大な軍団となった。

兵士「くそ、うかつに手をだせん!」

221 : 以下、名... - 2017/08/06 15:48:51.84 ypTt4u9i0 202/829

神官「私は、望んでいた!!若き頃の私は、性欲の魔物であった」

神官「教会に祈りに来た美しき女性と、交わることを想像した!!」

神官「私は確かに敬虔深き信徒であった!!誓って言おう!!私は私の穢れた心に常に罪の意識を感じていた!!」

神官「にも関わらず、私は女性の身体を頭の中で求め続けていた!!」

神官「すれ違う女性!初めて見る女性!!いつも見る女性!近くにいる女性!!」

神官「同じ人間として生まれ、違う性別として生まれ。女性という神秘的な存在は、一人一人に神の魂が宿っているほどに価値のあるものだった。美人はやまほどいれど、同じ美人は一人としていない。それだけで、この世界は私に苦悩をもたらすほどに魅力的なものであった」

神官「魔王を倒す喜びなど、この世で1番愛する女と結ばれた喜びには勝らないと、若き頃の私は思っていた」

神官「今思えば、貞操感など馬鹿げていた。何の抵抗もなく、女性と身体を重ねるものがいる。酒を交えながら話す盗賊の色話なんかを聞いていると、私は私が何と戦っているのかわからなくなった。戦う必要のないものと戦っているんじゃないかと」

神官「そんな馬鹿げた潔癖を求めたまま、老人になった。そして、性欲の葛藤という呪縛は解かれないまま、ただひたすら遠ざかっていった」

神官「そんな私に、この鞭は、女王様は、教えてくれた」

神官「禁欲のバカバカしさを!!この世は性であるということを!!」

神官「私は私を捨てる!!あの頃叶えられなかった欲望を今夜満たすのだ!!」

神官「さあ、全ての女よ!!!」

神官「私の身体を、求め……!!?」

遊び人「神官の様子が!」

222 : 以下、名... - 2017/08/06 15:50:05.38 ypTt4u9i0 203/829

神官「ぐっ……」

神官「うぐっ……」

神官「ううっ…………!!」

神官はうめき声をあげ、倒れた。

色欲「何が起きた?」

遊び人「選ばれしものでもないのに、鞭を多用しすぎたのよ。以前からこっそり使っていたし、今日あまりにも力を借りすぎたのね」

遊び人「寿命が尽きたのよ」

神官は力尽きた。

223 : 以下、名... - 2017/08/06 15:51:00.45 ypTt4u9i0 204/829

谷の騒動はなかなか収まらなかったものの、女性たちは時が経つに連れ段々とわれにかえり始めた。

数時間もした後には、悶々とした男たちが、また女性に酒を振る舞う歓楽地の光景がもとにもどっていた。

遊び人「1つ、お聞きしてもいいですか」

色欲「ああ」

遊び人「あの神官の叫びは、全ての男性の叫びですか」

色欲「そうだと思うか」

遊び人「わかりません」

色欲「ならば、まず、そうだと言っておこう」

遊び人「…………」

色欲「理由は細かく述べない。性へのタガを外したこの谷の人々を見ればわかるはなしだ」

色欲「そのうえで、1つ気になったことを言っていこう」

色欲「どうして神官は、あの谷の上にいたのか。女性どころか、魔物も通らぬような開けた地で。何をしていたのか」

遊び人「…………」

色欲「あそこには、神官の亡くなった妻の墓がある」

遊び人「……!?」

色欲「男が死んでもいいと思う瞬間は、美しい女を抱いている時かもしれないが」

色欲「男が生きることを思う瞬間は、好きな女と唇を重ねている時だ」

色欲「男は汚いが、男もちゃんとその汚さを克服しようとする心もあるのだと思う」

色欲「連戦連敗だがな」

224 : 以下、名... - 2017/08/06 15:51:32.18 ypTt4u9i0 205/829

~大人の個室~

踊り子「どうしたんですか!!!」

色欲「なにがだ」

踊り子「鎧の下に服を着てるじゃないですか!!裸メイルをおやめになったんですか!!」

色欲「服は脱ぐためにあると気づいたんだよ。俺は、より変態に近づいたわけさ」

色欲「お前はあの鞭に叩かれたか」

踊り子「いいえ。魅力もない男に抱かれるなんて嫌ですもの」

色欲「魅力がある相手ならいいのか」

踊り子「そうですね。だから、私には一人しかお客様がいないんですの」

色欲「それは難儀なことだ」

225 : 以下、名... - 2017/08/06 15:52:15.53 ypTt4u9i0 206/829

色欲「魅力があればよくて、なければダメか」

色欲「関係性によって、善悪はいとも簡単にかわってしまうんだろうな」

色欲の勇者は踊り子の頭をなでた。

踊り子「うふふ。どうしたんですか」

色欲「初対面の女の頭をなでたら殴られるか牢獄に送り込まれるかのどっちかだ」

色欲「しかしお前は笑ってくれる」

踊り子「笑ってあげます」

色欲「あの神官は自分の言葉を、もっと綺麗な飾ってもよかったのかもしれないな」

色欲「自分は、許される人になりたかったのだと」

226 : 以下、名... - 2017/08/06 16:04:55.65 ypTt4u9i0 207/829

踊り子「勇者様自身、許される人になりたかったですか」

色欲「ああ。でも、もう無理だ」

色欲「俺の愛していた人は死んでしまった」

踊り子「勇者様と一緒に冒険をされていたお方。職業は、私と同じ踊り子」

踊り子「この谷で、私の身体を買ったのも、あの人にぶつける性欲を逸らしたかったからですか」

色欲「……魔が差した。そうとしかいいようがなかった」

踊り子「性欲をぶつけないくらいにあの方を愛されていたんですね。それでも、勇者様の身体にも心にも惹かれてしまった私はこう思ってしまうんです」

踊り子「あなたの初めての相手が私でよかった。あなたが人生で1番愛していた人と、身体を交えていなくてよかった」

踊り子「それが性欲を超えるほどの愛情だとしても、やはり実際に身体を交えていたほうが嫉妬していたでしょう」

色欲「女もそうなのか」

踊り子「男は身体の浮気を、女は心の浮気を許さないなんて魔王が人間界を滅亡させるためについたうそっぱちです。女も、身体の浮気の方がよっぽど許せないですよ」

踊り子「絶望的な鬱になりますよ。激鬱です。私みたいな、軽いお尻の女でも。憧れの男性が持つ、他の女性との肉体の夜の思い出は」

踊り子「そろそろ、本命にしてくれないかなぁと思います。二番目でもいいので、世界一大切な二番目にしてくれませんか」

色欲「…………」

色欲「俺だけの女でいてくれるか」

踊り子「はい。あなたも、私だけの男でいてくれますか」

色欲「ああ」

谷中の女を抱いた元勇者。

しかし、この踊り子に対しては、身体をまさぐりあうことはあっても、決して鎧を脱がなかった。

この踊り子も、彼が谷から帰ってきてからというもの、一度も服を脱いだことはなかった。

二人は初めてベッドに入り込んだ。



自分で自分を許す、というのは、口にするのはたやすくとも、実際にできることではない。

それを可能にする方法を、俗世からひとつだけ挙げるとしたら。

自分が認める異性から、身体を許してもらうことだ。

色欲の勇者は、この夜、初めて自分に性欲を許した。

しあわせな一夜。

こんなにも美しい魔法があるのかと、初めて知った夜だった。

227 : 以下、名... - 2017/08/06 16:07:04.11 ypTt4u9i0 208/829

勇者「目が覚めたら、全ての問題が解決していた」

勇者「そして、教会で目覚めたときに、何故か遊び人がはるか遠くから見守っていたことがなんだかショックだった」

色欲「世話になった」

踊り子「この人を救ってくれてありがとう」

遊び人「私たちは何もしてないですよ」

色欲「君たちの持つ壺に色欲の鞭も封印された。これからこの谷は、もとの戒律の厳しい谷に戻っていくのであろう」

遊び人「嫌ですか?」

踊り子「もう関係ないしね。この人と旅に出るし」

色欲「俺は良いが、嫌がる連中のほうが多いだろうな。性欲は戦争の引き金になるほど強烈な人間の欲望だからな」

色欲「だが、戒律が厳しいからこそ守られるものもある。俺のいなくなったこの谷を魔物から守る兵士が、鼻の下をのばしているわけにもいかないだろう」

遊び人「そうかもしれないですね」

色欲「それと、言い忘れていたことがある」

色欲「俺も、お前たちを試すような真似をしてわるかった」

遊び人「私達の何を試していたんですか?」

色欲「何もしないことを試していたんだ」

遊び人「?」

228 : 以下、名... - 2017/08/06 16:18:00.89 ypTt4u9i0 209/829

勇者「色欲の鞭……」

遊び人「何ものほしそうに壺の中見てんのよ」

踊り子「勇者様、その鞭を取り出せたら何に使いたいですか?」

勇者「そりゃあ、バニースーツを意地でも着たがらない女の子に着衣の命令をするだろうなぁ」

踊り子「着せることに使うなんて、さすが勇者様ですわ……」

遊び人「あんたも壺に封印できたらいいんだけど」


別れの際まで、4人は笑いあった。


遊び人「それじゃあ、私達、もう行くわ」

踊り子「…………」モジモジ…

勇者「お前らも気をつけてな」

踊り子「……あの、こんな時にごめんなさい……」

色欲「トイレだろう。行ってこい」

踊り子「すみません。勇者様、遊び人さん。本当におせわになりました」トットット…

遊び人「さような……もう行っちゃった」

色欲「お腹を下しやすいんだ。生まれつきらしい。自分の身体を呪い、苦労もしたらしいが、そこもまた魅力的に思う。誰もが持っているような悩みで、自分しか持っていないと錯覚する類の悩みだ」

遊び人「ふふ、やさしいですね」

色欲「生理現象だし仕方ないだろう」

勇者「…………」

勇者「生理現象だから仕方ないか」

遊び人「ん?」

勇者「七つの大罪も同じじゃないのかな。生理現象だから仕方ない」

遊び人「色欲に溺れてお尻触って生理現象だから仕方ないなんて言ったら怒るよ?」

勇者「まさか」サッ

遊び人「ねえなんでいま手降ろしたの?ねえ?」

勇者「暴食、色欲、傲慢、憤怒、怠惰、強欲、嫉妬」

勇者「大食いのやつと、すけべなやつと、偉そうなやつと、怒りっぽいやつと、サボりがちなやつと、金好きなやつと、ヤキモチ焼くやつがパーティだったら楽しそうに思うけどな」

遊び人「そんな甘い欲望じゃないことは知ってるはずでしょ」

229 : 以下、名... - 2017/08/06 16:18:30.75 ypTt4u9i0 210/829

遊び人「色欲の勇者様。何度も言っておきますけど、今夜にでも出発してください。色欲の鞭の持ち主を探して、追ってが必ず来ますから。」

色欲「わかってる。お前たちも気を付けて冒険しろよ」

遊び人「目下の敵は隣にしかいませんから」

勇者「うう、バニーガールよさよなら……」

遊び人「はぁ」

暴食「…………」

暴食「ちょっといいか。男だけで、話がしたい」

勇者「俺と?」

遊び人「お好きにどうぞ。私もトイレ行ってきます」

230 : 以下、名... - 2017/08/06 16:23:59.13 ypTt4u9i0 211/829

色欲「抱きたかった女がいた」

勇者「二人きりになった時の第一声が今度はそれか」

色欲「ずっと後悔していることがある」

色欲「死に追い込まれた、あの星降る夜。幻想的な時間。命の制限時間に迫られたときに、俺は、好きだった踊り子の身体を求めることをせず、純愛を守った」

色欲「なのに、こうしてこの谷に住み着いている今。もしもあの時、生涯で1番好きになったものと肌を重ねていたらどんな感触だったのだろう毎晩考えてしまっていたのだ」

色欲「俺は俺が大嫌いだ。性欲なんて軽んじてしまおうと思った。性欲を吐き出して生きようと思った。自分に宿る力でこの谷に貢献した。魔王がいた時は元犯罪者だったのに、魔王がいなくなってからは一転英雄となった。それも、この大罪の装備の影響のおかげなのだろう」

色欲「あの夜、俺はどうすればよかった。最後の最も輝かしい時間を、腰をふるのに使うべきだったんだろうか」

色欲「お前だったら、どうしていた」

勇者「…………」

勇者「後悔すると、心底理解していながらも」

勇者「手を繋いでいたと思う」

色欲「所詮は俺と同じ綺麗事か」

勇者「なあ、どうして穢らわしい方が人間の本能だとか、本音だとか、欲望だってことになっちまうんだよ」

勇者「性欲よりも、もっと深いところに性に対する考え方っていうのが人間にはあるんじゃないのか。お前は、その本能に従ったんだ」

勇者「禁欲という本能に色欲という本能が負けたんだ。禁欲は、理性なんかじゃ抗えない、人間に与えられた欲望の1つなんだ」

勇者「どうしようもなかったんだ。お前はそういう人間に生まれついて、そういう選択を取るような環境で育ってしまった」

勇者「そんなお前だからこそ、その子とたった一部でも人生を共有することができたんだ」

231 : 以下、名... - 2017/08/06 16:29:12.11 ypTt4u9i0 212/829

遊び人が遠くから向かってくるのが見えた。

勇者「男同士の話はここまでだな。お前もこれから、愛を知っていけばいいさ」

色欲「お前は……素晴らしい勇者だ」

勇者「勇者ねぇ。そんなものにふさわしい俺ではないよ」

色欲「何を言う!勇者にふさわしくないとしたら、お前は一体……」

勇者「俺は」

勇者は青空を見つめながら言った。

勇者「通りすがりの、魔法使いさ」

232 : 以下、名... - 2017/08/06 16:32:44.07 ypTt4u9i0 213/829

【色欲の勇者の思い出】

愛情は基本的に、伝えるものであり、見せるものであるが。

時として、わざとみせないものである。



踊り子「女の子3人との冒険はいかがだった?」

満点の星空を見上げながら、踊り子と色欲の勇者は寝転んでいた。

色欲「気を遣ったよ」

踊り子「私と初めて会った時も、噛み噛みだったからね。ろくに目も合わせてくんなかったし」

色欲「女の子と接したことがろくになかった。厳しい親の元で育って、勇者の素質を持っていることがわかって、ますます厳しく育てられた」

踊り子「そのおかげで私達みたいな高度な術士と冒険に出れたじゃない。めでたしめでたし」

色欲「何がめでたしだよ」

色欲「この夜が開けると、君が死ぬというのに」




色欲「夢を司る魔王の四天王の一人」

色欲「ここは奴が過去に訪れた場所」

色欲「孤島のような場所に、風が運ぶ花の香り。広がる草原に、夜空に浮かぶ満点の星」

色欲「間違いなくここにあいつの弱点があるはずなんだ」

色欲「ヤツが目覚める前に見つけないと、君だけが夢の中から出られなくなってしまう。僕の精霊との繋がりを、断ち切られた君だけが」

色欲「一生を独りここで過ごさなくてはいけなくなる。そんな生き地獄があるか」

色欲の勇者は立ち上がろうとした。

踊り子「ダメって言ってるでしょ」

色欲「どうして!!」

踊り子「星が見れなくなるからよ」

色欲「そんなことを言って……」

踊り子「どうせ、ここで永遠の時を過ごすのならさ」

踊り子「永遠に回顧する価値のあるだけの時間を、今つくっておきたいの」

踊り子「二人きりになれる時間なんて、なかったんだもの」

色欲「…………」

踊り子「私のこと、どう思う?」

色欲の勇者は口を開いた。

色欲「愛して」

踊り子に唇を塞がれた。

233 : 以下、名... - 2017/08/06 16:33:19.90 ypTt4u9i0 214/829

色欲の勇者は教会で目覚めた。

覗き込む顔は、魔法使いと、僧侶だけで、踊り子はいなかった。

消滅したのよ、と魔法使いは言った。

あの満点の星空が広がる夢の世界の中で。

踊り子は、永遠に近い時を過ごすことになったのだ。

目覚めた勇者が手に握っていたのは。

見たこともない、妖艶な魅力を持つ鞭だけであった。

234 : 以下、名... - 2017/08/06 16:35:46.04 ypTt4u9i0 215/829

~思い出②~

巨大な球体が割れた。

かつて歯が立たなかった四天王の一人を、いとも簡単に陵辱し、倒した。

右手に持っていた鞭を投げ捨て、冒険者の積み重なった死体をまたいで歩いた。

眠れる姫をそこに見つけた。

変わらぬ姿で眠っているように見える、好きな人の亡骸を抱えた。

235 : 以下、名... - 2017/08/06 16:42:23.83 ypTt4u9i0 216/829

あと数十分で世界が閉じてしまうという極限状態の中。

あの夜、何故踊り子の身体に手を伸ばさなかったのか、正直今でもわからない。

恥じらいなんかで動けなかったわけでもない。

踊り子は、身体を受け入れてくれたかもしれない。

踊り子は、身体を求めていたのかもしれない。


世界で1番好きな人と、世界で1番したいことを、あえてしない。

それが、愛していることの証明だと思っていたのだ。


この世の半分なんていらなくていいから。

この世の全てよりも大切なたった1つのものを大切にしたかった。

今後、生きていく間、世界で1番愛した女を抱きしめておけばよかった後悔するという、最大の性的欲望に苦悩すると頭の中ではわかっていても。

俺は、星空ごときを選びとってしまったのだ。

236 : 以下、名... - 2017/08/06 16:44:25.86 ypTt4u9i0 217/829

世界一の美女と同じベッドに入るより。

そばかすのある踊り子と、夜の星空を見上げるほうがずっとしあわせだ。

たとえこれからの自分が、純愛というものを憎み、極端に性というものを軽んじるようになってしまうとしても。


あの子と生きていた時は。


世界で1番愛おしい人とセッ○スする以上の快楽が、喜びが。

この世界のここには、あると思って生きていたんだ。



色欲の勇者達 ~fin~

241 : 以下、名... - 2017/08/07 22:36:33.39 x1j5tBVa0 218/829

暴食、色欲、傲慢、憤怒、怠惰、強欲、嫉妬。

7つの大罪の中で自分が最も何に該当するかを考えた時に、傲慢、であることを思い浮かべる者は最も少ないのではないだろうか。

なぜなら、傲慢である者こそ、こう考えてしまうからだ。

「私は、謙虚な存在である!!」

傲慢であるがゆえ、傲慢であることを自覚しない。

だが、どうだろう。

「私は大した存在ではない」と思っている大多数の人間こそ、この欲望に該当しているのではないだろうか。

自分より社会的身分の低い者に丁寧に接する者はみな謙虚とは限らない。

地道に愚直に生きている人にだけ敬意の言葉をかける人は謙虚とは限らない。


“自分が手に入れたくても、手に入れられなかったモノを手にした上々の人にも謙虚でいられるか”


謙虚な人は、1番手に入れたかったものだけは手に入れた人である。

傲慢な人は、2番目までに好きなものはほとんど手にしてきた人である。

傲慢な人は、1番手に入れたかったものにかぎって、手に出来なかった人である。

虚栄心に塗れた者は何かにしがみつく。

2番目に理解できた知識を見せびらかす。

2番目に好きだったパートナーを自慢する。

嫉妬が上にいるものを引きずり落とそうとする欲望であれば。

傲慢は下にいると思っているものに自分を押し上げさせようとする欲望である。

周囲の人間は3番目以降のものしか手にしていないと決めつけかわいがる。

1番欲しかったものを手にしているものには胸を張って威嚇をする。

戦いの優勝者に表彰として盾が与えられるのは、2番目以降の者から1位の座を守るためではない。

勝者自身の満たされなかった思いを、その盾が守ってくれるからである。

【第3章 傲慢の町 『自尊心を守る盾』】

一人ぼっちの夜の部屋で傲慢は叫んだ。

誰か、あたしを認めておくれ。




242 : 以下、名... - 2017/08/07 22:38:24.90 x1j5tBVa0 219/829

案内人「この街は世界で1番凄い街さ!!」

案内人「どのくらいすごいかって?手で表現すると」

案内人「こんっっっのくらいさ!!!」バン!!

勇者「…………」

案内人「えっ?お前らがどんなにちっぽけな存在かって?」

案内人「爪先で表現すると」

案内人「こんんんんっっっっのくらいさ……」シュン…

勇者「すてみしてもいいか?」

遊び人「誰も見てないところでね」

勇者「はぁ」

遊び人「どうやら、『傲慢の街』についたみたいね」

243 : 以下、名... - 2017/08/07 22:40:19.22 x1j5tBVa0 220/829

勇者「宝石店、装飾屋、飼育用魔物売り場、変わった店が多いな」

遊び人「資格取得の店も多いね。呪文知識検定。農場経営スキル検定。かっこいいなぁー。私もなんか資格取ろうかなー。遊び人検定はないのかな」

勇者「遊び人検定8段とかになったら、もうそいつはすでに遊び人じゃないだろう」

遊び人「私はまだまだあまちゃんの遊び人だな。見た目は普通の旅人ガールだし」

勇者「そろそろバニーガールの格好をしたいという振りか!?」

遊び人「しないよ!!まだ遊び人検定4級だもん!!」

勇者「8段になってはちきれんばかりのバニースーツとうさみみをつけてくれ!」

遊び人「似合わないよ!!」

勇者「傲慢の街で謙虚になってどうする!」

遊び人「傲慢の街で色欲に塗れてどうする!」

244 : 以下、名... - 2017/08/07 22:41:02.23 x1j5tBVa0 221/829

勇者「それにしてもなんだか騒々しい街だなぁ」

遊び人「たしかにおしゃべりの声が大きいね」



主婦A「おほほ。私は子供にこの都1番の家庭教師をつけているわ」

主婦B「おほほほ。私は子供にこの都1番の家庭教師を2人もつけているわ」

主婦C「おほほほほ。私は逆にこの都で最弱と言われる家庭教師をつけていますわ」

遊び人「それ子供かわいそうでしょ!」


男A「ふはは。俺の筋肉はどうだい!この前は牛を押し倒したぜ」

男B「ふははは。俺なんか象を押し倒したぜ」

男C「ふはははは。俺なんかのれんに腕押しだぜ?」

遊び人「何も倒せて無くない?」


占い師A「ふふふ。私なんか魔王が倒される未来を予言していたわよ」

占い師B「ふふふふ。私なんか魔王が倒される未来を予言していたという今言うあなたまで予言していたわよ」

占い師C「ふふふふふ。私なんか、魔王が砂場で井戸掘ってると思ったら、黄金の仏像がでてくる夢を見たんだった……」

遊び人「なに荒唐無稽な夢の話をしてるのよ!」


ブルジョワ娘A「ほほほ。私なんかまた別荘たてちゃいましたよ」

ブルジョワ娘B「ほほほほ。私なんか犬のために家をたてちゃいましたよ」

ブルジョワ娘C「ほほほほほ。わたしなんかお城をたてちゃいましたの」

勇者「ふひひひひ。ぼくなんか君たちみておっ勃てちゃいましたよ……」

ブルジョワ娘ABC「ギャー!!!!」

遊び人「なにあんたも混じってんのよ!!」

245 : 以下、名... - 2017/08/07 22:42:02.68 x1j5tBVa0 222/829

勇者「なーにが私は俺は僕はだよ!鼻もちらないなあ!大罪の装備を2つも手に入れたこの吾輩が聞き耳をたててやってるともしらずに!」

遊び人「この高等で麗しき気高き乙女も聞き耳を立ててるとも知らずにね」

勇者「…………」

遊び人「何よその目は」

勇者「やんのかこら?」

遊び人「望むところよ」



勇者「昨日寝てないわ―!ぜんっぜん寝てないわ―!3時間しか寝てないわ―!!」

遊び人「昨日めっちゃ寝たわ―!13時間は寝たかなー?ロングスリーパーだからさー!」

遊び人「だから、まじっ、昨日ぜんっぜん勉強してないわ!!ぜんっぜんだわ!!今日のテストやばいわ!!絶対アカデミー留年するわ!!」

勇者「もう今週で5回飲み会あったわー!!武器屋と道具屋と防具屋と宿屋と酒場の店主と飲み会したわー!!」

遊び人「ふん、それがなによ!私なんてもう今週入って……」



~夕暮れ~



勇者「13体は魔王倒したわ!!もう倒しすぎて慣れちゃって、装備無しで戦ったことあるわ!!全裸で倒したこともあるわ!!放尿しながら倒したこともある!!」

遊び人「子供の頃10は人格持ってたかな!エミナ、マキナ、サラサル、チーナ……大人たちは私に巣食う10の人格に怯えてたわ!!同じ年頃の子供はままごとの延長上だと思ってたみたいだけど。ふふっ、今もまた私の中に巣食う少女の魂が……コラコラ、マキナ、落ち着いて。ここで暴れちゃだめよ……」

子供A「なにあの人達」

親A「みちゃダメ!!」

246 : 以下、名... - 2017/08/07 22:43:03.87 x1j5tBVa0 223/829

遊び人「はあ、はあ。いつの間にか暗くなってたわね。ひとまず道具屋にでもいきましょう」

勇者「色欲の谷で俺が大活躍して稼いだからな」

遊び人「はいはい。もう自慢ごっこはおしまい」

勇者「いいじゃねえか。俺だって珍しく活躍できたんだから。俺も老後はバニーガールに囲まれてあそこに住もうかな」

遊び人「大罪の装備は封印されて変態性は薄れてきているはずよ。暴食の村の食べ物も普通に戻ったって噂で流れてきたでしょ。色欲の谷でも一人だけ変態になっちゃうよ」

勇者「……………」

勇者「そうか……」

勇者「…………」

勇者「…………変態、か」

遊び人「何くだらない単語で思索にふけってるのよ」

勇者「だれが自慰にふけってるだ!!」

遊び人「……誰も言ってないけど、きっとあんただと思う」

247 : 以下、名... - 2017/08/07 22:43:42.52 x1j5tBVa0 224/829

勇者「ふと思ったんだけどさ。大罪の装備は人の心を変えてしまう装備、というわけではなかったりして」

遊び人「どういうこと?」

勇者「人の理性を外す装備なんじゃないかな」

勇者「人間には元々、罪の意識があるだろ?夜中に油の乗ったご飯を食べ終わって罪悪感に駆られたり。夜中に油汗を垂らしながら自分の分身をしごいて罪悪感にかられたり」

遊び人「そ、それはよく知らないけど……」

勇者「そういう、してはいけない、という気持ちを取り外してしまうものなんじゃないかな」

勇者「食べたい、変態したい、と思わせる装備ではなくて」

勇者「食べてはいけない、変態してはいけない、という理性の蓋を外す装備」

遊び人「外す装備、か……」

勇者「…………」

遊び人「…………」

勇者「変態、か……」

遊び人「なんでまたそのワードで感慨にふけろうとするのよ」

遊び人「でも、確かにそうかもしれないね。暴食、色欲、傲慢、憤怒、強欲、嫉妬、怠惰の気持ちは誰にでもあるものだからね」

遊び人「大罪の装備をそんな風に考えたことなかったな」

248 : 以下、名... - 2017/08/07 22:44:25.74 x1j5tBVa0 225/829

遊び人「この街の人も、傲慢を司る装備によってタガを外されているのかな」

遊び人「私は大した存在である。この街にいる人は、みんなそう思ってるのかな」

勇者「ちなみに俺はどういう存在だ?」

遊び人「大した変態である」

勇者「ふふん」

遊び人「威張ることじゃない」

勇者「えー」

遊び人「さて、夕食も兼ねて、情報収集に行きましょう。この世で最も寛大な心の持ち主の勇者様」

勇者「仕方あるまい。今宵は少し贅沢なものを食べよう」

遊び人「やったー!」

249 : 以下、名... - 2017/08/07 22:44:56.37 x1j5tBVa0 226/829

遊び人「コンテストが開かれるんですか」

酒場「ああ。エントリーの締め切りは間近だよ。試しに出てみると良いよ」

酒場「ちから、まもり、かしこさ、はやさ、あとなんだったかな。それぞれの優勝者には景品と栄誉が与えられるのさ。面白いことに、冒険者よりもこの街に住んでるものの方が入賞しやすいんだ。これのために人生注いでるやつもいるからね」

遊び人「昔からあったんですか?」

酒場「つい数年前だよ。魔王が倒される前くらいだ」

酒場「その前もコンテストをやってたみたいだが、小さなイベント程度だった。種目も主婦とか子供向きのものだった」

250 : 以下、名... - 2017/08/07 22:45:36.21 x1j5tBVa0 227/829

酒場「話はそれるが、ずっと前のことで、面白いはなしがあってね」

酒場「子供自慢コンテストが開かれたことがあったんだが。優勝者は、なんと子供を誘拐してきた女性だった」

酒場「その子のことなんてなにも知らないはずなのに。饒舌に語ってね。子供もそれを聞いて喜んで、凄くなついていたそうだ」

酒場「子供を溺愛している親に圧倒的な差をつけ、実の子供をもたないその人が優勝した」

酒場「他の街の出身者で、普段は誰とも交流を取らないらしい。なぜそんなことをしたのか、結局わからないままだった。きっと、子供と過ごす生活を夢見ていたんだろうな」

遊び人「なんだか切ないお話ですね」

酒場「空想は現実を超えることがあるみたいだ」

251 : 以下、名... - 2017/08/07 22:46:19.68 x1j5tBVa0 228/829

酒場「この街では、数年前から偉そうに自分を語りだすやつが増え始めた。俺は魔王がいなくなって、人々が恐れを失ったせいだと思うんだが。俺は良いことだと思った」

酒場「夢と傲慢の何が違うっていうのさ。夢が許されるなら傲慢も許されよう。俺も故郷の人間に散々とめられながら、この街で自分の店を持った」

酒場「俺はこのままでは終わらない。俺はこんなんじゃない。特別な存在だ。選ばれた存在だ。そんな気持ちがあったから、努力することもできた」

酒場「見てみろ、様々な商売の中心になったこの夜も光輝く街を」

酒場「虚栄心がこの街を強くしたんだ」

252 : 以下、名... - 2017/08/07 22:48:38.02 x1j5tBVa0 229/829

~食後~

勇者「数ある職業の中でさ」

遊び人「うん」

勇者「最も謙虚な職業って何だと思う?」

遊び人「賢者じゃない?」

勇者「本物の賢者ならそうかもな。でも王宮直属で働いてる賢者なんかになってみろ。傲慢にならずにはいられないと思うぞ」

遊び人「ちょっとは威張っちゃうかもね」

勇者「最も傲慢な職業はなんだと思う?」

遊び人「勇者じゃないかな」

勇者「そう。俺もそう思った」

遊び人「10年で数百人しか選ばれないと言われてるからね」

勇者「魔王を倒すのに最も近い職業から傲慢な傾向があるならさ」

勇者「遊び人こそ最も謙虚な職業なのかもしれないな」

遊び人「うふ、なによ急に」

勇者「この街に染まる前に、他人のことを誉めておこうと思ってな」

遊び人「褒められてるのかなぁ」

勇者「褒めてるよ。これからも立派に遊んでくれ」

遊び人「わーい!」ガシ

勇者「まて、財布を掴んでカジノを見るな」

253 : 以下、名... - 2017/08/07 22:49:45.55 x1j5tBVa0 230/829

勇者「コンテストにエントリーするぞ。こういう時の展開として、優勝商品が大罪の装備だって相場は決まってんだ」

遊び人「違うみたいよ。どの部門も一律賞金だもん」

勇者「なんだよ。じゃあいいよ、めんどうくさい。ちなみにいくらだよ」

遊び人「5000G。勇者の命1000個分くらい?」

勇者「よし、出よう。大罪の装備は後回しだ」




【部門一覧】

・ちから自慢コンテスト

・すばやさ自慢コンテスト。

・かしこさ自慢コンテスト。

・みのまもり自慢コンテスト。

・うんのよさ自慢コンテスト。



勇者「遊び人は運のよさ自慢コンテストにでろ」

遊び人「はい」

勇者「俺はかしこさ自慢コンテストに出る」

遊び人「いいえ」

勇者「じゃあ何に出ればいいんだよ」

遊び人「みのまもり自慢コンテストは?死ぬぎりぎりまで粘れる唯一の人じゃん。死んでも蘇るし」

勇者「なんだよその命の軽さ。それに街人の前で急に棺桶に入ったら勇者だってばれるだろ」

遊び人「5000G」

勇者「やるよ」

254 : 以下、名... - 2017/08/07 22:50:25.52 x1j5tBVa0 231/829

司会「2日目!午後の部!みのまもり自慢コンテスト!!」

司会「厳正なる検査の結果、次の4名に決まりました!!」

司会「バニーガールのムチシゴキ地獄に耐え抜いた猛者達を紹介しよう!!」

遊び人「(予選を勝ち抜いた話を何故かしたがらないと思ったら……!誰かさんにとってはご褒美じゃないの!)」


大男A「俺はあらゆる痛みに動じない!!岩が頭に落ちた時も立ち続けた時のように!!」

大男B「俺はあらゆる痛みに屈しない!!雷が俺を撃ち抜いたときに気絶しながらも立ち続けた時のように!!」

大男C「俺はあらゆる痛みに耐え抜く!!盗賊に拷問されても宝の在処を吐かなかった時のように!!」

勇者「僕は、痛みを快感と捉えます」

司会「さぁー!最強の男たちが出揃った―!!この世界最強の街で、最強の座を手にするのはだれだー!!」

255 : 以下、名... - 2017/08/07 22:53:12.90 x1j5tBVa0 232/829

司会「準決勝の競技はこちらだー!!」

準決勝

「ちょう我慢大会」

司会「さあ、下剤入りの氷を食べて下さい!!」

ザワザワ…

遊び人「な、なにが始まるというの?」


司会「全員食べ終えたようです!!」

司会「それでは、勝負開始!!」

大男A「ああ!!敗退すりゅぅうううう!!!」ブリリイビチイチ!!

司会「おっとー!?開始1秒で大男Aが脱落したぁー!!勝負本番で胃が痛くなる体質が祟ったかー!?」

大男B「くっそ……臭いやがる……」

大男C「貰い下痢してしまいそうだ……」

司会「全員顔が青いぞー!!」


~数分後~

司会「残るはあと1名!!」

勇者「…………」

遊び人「(勇者、ずっと目を瞑ってる。がんばって!!)」

大男B「……っ!?待たれよ!!」

司会「どうした大男B!?」

大男B「お前は誰だ!!!!」

大男B「私はガスです」

大男B「よろしい!!ならば通れ!!」

大男B「はい」ビチチチブリュリュリュリュ!!!

大男B「ぬぉおおおお!!!!らめぇえええ!!!!」

司会「1試合目終了!!勝ち残ったのは大男C、そして勇者だー!!」

256 : 以下、名... - 2017/08/07 22:53:46.31 x1j5tBVa0 233/829

勇者「…………」

遊び人「(なによ、表情1つ変えないじゃない。普段からへんなもの食ってるから頑丈なのかな)」

勇者「うぼろぇえええ!!」

遊び人「ええっ!?」

司会「おっと!!勇者あまりの汚物の臭いに吐いてしまった!!ポーカーフェイスは吐き気を堪えていただけだったようだ!!」

大男C「おうぇええええ!!!」

大男B「うぼろぉおおええええ!!!」

司会「おっとー!他の選手ももらいゲロだぁうぼろろろろ!!」

遊び人「汚い!!!!」

257 : 以下、名... - 2017/08/07 22:54:55.07 x1j5tBVa0 234/829

遊び人「最後の戦いはどんなものになるんだろう」

遊び人「対戦相手は大男Cね」

遊び人「勇者も、普段はふざけてるけど。こんなことあなたの前で言うと、笑われちゃうかもしれないけど」

たとえあなたが倒れても。

地面に倒れたあなたに、私が王冠を被せてあげる。



遊び人「(大男Cと勇者の頭の上に水の入ったお盆が乗せられたわ。一体何を……)」

司会「決勝戦!!『美女我慢コンテスト!!』」

バニーガール「しつれいします!」

大男C「ん?」

勇者「えっ?」

司会「ルールの説明です。これはバニーガールに背後からはがいじめにされ、甘い言葉をささやかれても頭の水をこぼさずにいられるか……」

勇者「ああでりゅううううう!!!!もうらめぇええええ!!!!」ビクンビクン!!

司会「勇者脱落!優勝、大男D!!」

遊び人「こらぁああああああ!!!!何が出たの!!?何がでたのよ!!!!!?」

258 : 以下、名... - 2017/08/07 22:55:52.65 x1j5tBVa0 235/829

遊び人「こんのっ馬鹿!!!!変態勇者!!!色欲の谷からやり直してこい!!!」

遊び人「1回戦で負けるならまだしも!!こんちくしょお!!!私は予選敗退っていいたいのかよ!!!」

勇者「いててて!!何のはなしだ!!?」

勇者「恥ずかしくて言えなかったけど、小便ずっと我慢してて……」

遊び人「そんなにバニーガールがいいのかよぉおおお!!!バニーガールでも転職しろよぉおおお!!!!」

勇者「わ、わるかった!転職するから!バニーガールに転職するから!!」

遊び人「するんじゃないわよっ!!!!」

勇者「ええっ!?」

259 : 以下、名... - 2017/08/07 22:56:56.88 x1j5tBVa0 236/829

司会「さて、みさなま。最後に、この戦いへと移りましょう」

司会「唯一予選がない部門があったことを皆様ご存知のことと思います」

遊び人「運のよさの部ね」

司会「なぜなら、この勝負は、皆様全員が決勝で戦うからです」

司会「全ての応募者のなかからくじ引きで選びました」

遊び人「そういうこと!?」

司会「優勝者は……」




司会「遊び人!!!」

遊び人「わたし!?」

司会「今宵、彼女が最も運の良い人物です!」

260 : 以下、名... - 2017/08/07 22:57:53.55 x1j5tBVa0 237/829

遊び人「うそでしょっ!?ギャンブルは負け越してるのに!!今まで使い果たした運は今日という日のためだったのね!!!」

遊び人「やったわ!!勇者!!5000Gよ!!」

勇者「まじかよ……」

遊び人「お金は後日指定の場所で受取だって。楽しみだなぁ。またこの街でもたくさんお金稼いじゃったね」

遊び人「ということでさ。勇者様」

勇者「はぁー、しょうがねえなあ」

遊び人「勇者も遊びたいくせに」

勇者「まあな。カジノにでも行くか」

遊び人「やった!!!!!!!」




「運の良さなんてくだらないわ。自分に不相応な幸せを手に入れた人間こそ、最も不幸な目に遭うというのに」

「ちから、みのまもり、すばやさ、かしこさ、全てにおいてこの街最強の座に君臨した私でさえ、甚だしい思い違いをしていたと気づかされたのよ」

「あなた達も、束の間の勘違いを楽しんでいればいいわ」

傲慢「自惚れを、この元勇者様が踏みにじってあげるから」

261 : 以下、名... - 2017/08/07 22:59:25.50 x1j5tBVa0 238/829

遊び人「うう……」

遊び人「頭が痛い。昨日カジノで遊んで、いけないと思いつつ店員の人から貰ったお酒を飲んじゃったせいかな。慣れないことをしちゃだめだな」

遊び人「それで、確か、急に具合が悪くなって、休める部屋に案内されて、そこで寝て」

遊び人「えーっと、ここはどこ?」

傲慢「不正行為をした客を、罰するための地下室よ」

遊び人「あなたは!?」

傲慢「この街を、誇るに足る街に育て上げた者よ。昨日の大会や、このカジノの経営も、私の権力が及ぶ範囲にあるの」

遊び人「責任者さんですか。あの、私、不正行為なんてしていません。その証拠に、昨日は見事な負けっぷりでしたもん。賞金がなかったらこのまま餓死してしまうほどですよ」

傲慢「あら、それは運が悪かったわね」

遊び人「ホントですよ。遊び人だというのにギャンブル運わるいんです」

傲慢「おまけに賞金も貰えないしね」

遊び人「はぁ!?」

遊び人「はぁあ!?どういうことですか!!?あなた自分が何を言ってるかわかってますか!?」

遊び人「というか、なんで私ここいいるんですか!?賞金くれるっていうのは嘘だったんですか!?勇者はどこよ!?賞金は何故貰えないの!?なんでこの街のお偉いさんと一体一になってるのよ!?賞金はどうなるのよ!?詐欺!?盛大な詐欺だったの!?賞金はどうなのよ!!」

傲慢「…………」

262 : 以下、名... - 2017/08/07 23:05:37.57 x1j5tBVa0 239/829

遊び人「はぁ…はぁ…」

遊び人「あの、手始めにひとつ」

傲慢「どうぞ」

遊び人「あなたの職業、勇者なんですね」

傲慢「……恐れ入ったわ。街のうわさでも聞いたのかしら」

遊び人「そんなところです」

遊び人「(精霊が宿ってるのが見えるだけだけど)」

遊び人「(やっぱりそう。暴食の村、色欲の谷、そして傲慢の街。大罪にまつわる場所に勇者という職業の者がいる)」

遊び人「(そしておそらく、大罪の装備の所有者として選ばれるのも……)」

傲慢「何を遠い目をしているのかしら」

遊び人「…………」

遊び人「この部屋、不正行為をした客を罰するための部屋だって言ったのに。トロフィールームじゃないですか」

遊び人「金色の盾が数多く陳列されてる。これは、あなたがこの街で権力を握った軌跡ですか?」

傲慢「……関心しちゃうわね」

遊び人「こんなの洞察のうちにも入りませんよ」

傲慢「洞察の問題じゃないの。だって、他人の栄誉に関心をもつこと自体、奇跡的なことなんだから」

263 : 以下、名... - 2017/08/07 23:06:58.62 x1j5tBVa0 240/829

傲慢「私は、私が育った街のアカデミーで、期待されていた生徒だった。先祖が勇者だと言われている家系に生まれ、実際に私は幼い頃からその頭角を表しはじめた」

傲慢「勇者特有の戦闘センスがあり、勇者にしか唱えられない呪文を覚え、他の生徒と圧倒的な実力差があった。そして、ある日精霊が私に降り注ぎ、私は完全に勇者として選ばれたことが証明された」

傲慢「アカデミーの校長先生にも何度も部屋に呼び出されたわ。元冒険家だったというその人の部屋にも、たくさんの盾や杯が飾ってあったの」

傲慢「そんな輝かしい表彰の数々を見て、私は何を思ったと思う?」

遊び人「自分はこれを超えられる?」

傲慢「ふふ。反対よ」

傲慢「何とも思わなかったの。それが、ほとんどの人間の、正常な反応だと思うわ」

傲慢「数ある盾のうち、ひとつだけ手に入れるのもすごい苦労を伴うことなのに。『ドラゴニクスレース 銅賞』と書かれている盾を見ても、普通の人なら数秒もしないうちに興味を失うでしょう。全国から選ばれし魔物使いが大勢集まって、命を懸けて目指すものにもかかわらず」

傲慢「魔物使いでもない者までが、その盾欲しさに、栄誉のために命を落とすのよ」

傲慢「自分は他人のことを見ないくせに。自分は他人に見られていると思い込む人がどれだけ多いことか」

264 : 以下、名... - 2017/08/07 23:12:23.23 x1j5tBVa0 241/829

傲慢「話が逸れたわね。私があなたに聞きたいことがあるのに」

遊び人「何をでしょうか」

傲慢「暴食の街と色欲の谷で、棺桶を引きずって歩く冒険家の目撃情報があったの」

傲慢「加えて、今その2つの場所では、最近起きていた怪奇現象がなくなっている。食物の異常な成長は止まり、性文化に対する過剰な許容は規制されつつある」

傲慢「おそらくこれは、大罪の装備がその場所から失われたことによるもの」

遊び人「(やっぱり、大罪の装備について知ってるんだ)」

傲慢「あなた達が二人の勇者を処刑の王国に突き出し、大罪の装備を奪ったからでしょうね」

遊び人「はぁ!?」

傲慢「暴食の村の勇者、色欲の谷の勇者、彼らはあの国で死んだと聞いたわ」

傲慢「そして次は、傲慢の街の私が殺される番なんでしょう?」

遊び人「し、死んだ?」

傲慢「しらばっくれてもいいわよ。これから全てを吐いてもらうから」

傲慢「昨日の試合。本当に厳正なる抽選の結果、あなたが選ばれたと思う?賞金を受け取らせるために都合よく呼び出すために仕組んだのよ。まさか、カジノで浮かれて捕まえられるとは思ってなかったけど。あなた、最高に運が悪いわね」

傲慢「暴食の村で栽培されていた真実草はもう手にはいらないけど。力づくで全てを吐かせることならできるわ」

遊び人「うぐっ…!!」

傲慢の勇者は遊び人の頭を掴んだ。

傲慢「さあ。勇者にひざまづきなさい」

遊び人「……うぐっ!!!!???」

傲慢の勇者は、白目を剥いた女を掴みながらほくそ笑む。

勇者のみに授けられる雷撃の力を、拷問・洗脳として利用した。

とても繊細な呪文で、脳の中にある情報をそのまま話せば苦痛が与えられることはない。

脳の中にある情報を秘匿しようとし続ければ地獄のような苦しみを浴びる。



それでも、遊び人は、話すことをためらい、激痛を味わい続けた。

どうして話していけないかを理性で判断することはできなったが。

どうしてかわからないものこそ、守らねばならないと本能は感じていた。

盾も持たずに、遊び人は守った。

自分の、大切な生い立ちを。

267 : 以下、名... - 2017/08/10 10:38:56.47 wqGxO5g/0 242/829

【過去の章 賢者の里】

長老「この子は、長く生きまい」

無邪気に笑いながら大岩を破壊していく少女を見て、若き長老は父親に告げた。

長老「お前の母さんと一緒だ。この子は天賦の才を授かって生まれた。身体から膨大な寿命がダダ漏れにでもなっていなければ、通常呪文でここまでの威力は出んよ」

父親「どのくらい、生きられるでしょうか」

長老「里のものはおよそ40半ばにて天寿を全うする。この子が平均以上の才能を持っていなかったらより長く、もっていたらより短くなる」

長老「悲しいことだが。これが大罪の賢者の一族の宿命じゃよ」

少女「『おくちチャーっく!』」

少女が笑いながら叫ぶと、森のなかにいた魔物は全て有口詠唱を封じられた。

長老「マフウジをこんな雑に唱えられるものが世界にどれだけいる。この子が呪文を使いたがっているのではない。呪文がこの子に使われたがっているのだ」

長老は告げた。

長老「この子は、ただ一事を成すべきためにのみ生まれて来たんじゃ」





父親「一事を成すべきために、だと」

父親「ふざけるな!!」

268 : 以下、名... - 2017/08/10 10:42:52.52 wqGxO5g/0 243/829

~遊び人の父の若かりし頃~

男は、国家所属の研究員として働いていた。

エリートとしての道を歩む前、アカデミーにいた頃は何のために生きているかわからない時期もあった。

勇者という存在を見て羨ましいと思っていた時期もあった。

何か一事を成すために人は生まれ、そのために生涯を注ぐ。

「魔王を倒す」

生まれてきた意味や目的意識を持っている存在が羨ましく思えた。

269 : 以下、名... - 2017/08/10 10:43:20.41 wqGxO5g/0 244/829

目的のできた男は若いうちから仕事で頭角を現し、ある程度の裁量権を与えられた。

男は森の調査をしていた。

魔物が人間の村に入り込めない(気づかない)のと同様、不思議な生き物によって人間に秘匿されているエリアがある。

そのエリアを探すのが彼の仕事の1つだった。

同僚「また森に行ってきたのか。エルフの生き残りでも探しているのか」

「エルフになら会ったことがあるし、もうごめんだよ。こちらがどんなにエルフに関する知識の理解を示しても、蔑まれてろくに相手にされなかった。長寿の彼らは年功序列の世界に生きてるんだ。人間の青年はエルフにとってガキにすぎない」

同僚「じゃあ何を探しているんだ。帰ってきたら魔力がいつも尽きているじゃないか」

「1日中感知呪文を使っているんだ」

同僚「感知呪文?何を感知してるんだ?」

「探し物以外を感知している」

270 : 以下、名... - 2017/08/10 10:47:15.93 wqGxO5g/0 245/829

同僚「はぁ?」

「もしもガラスの靴を置き忘れた女の子を探したい場合、どうやって探す?」

同僚「広域を対象にして、俺なら性別やサイズの指定をするな」

「そうだな。より細かく分類していくのが感知呪文の基本だ」

「だがな、拒否される場合があるだろう?魔王が人間の町村を感知できないのと同じだ。『人間以外がこの村を感知するのを防いでください』という防護呪文が人間の居住地には施されている。そして魔王城にも同様に『魔物以外がこの場所を感知するのを防いでください』という防護呪文が施されている。では何故、魔王城に侵入することができる勇者が大勢いたのか」

同僚「感知にはあまり詳しくはないが、魔物を洗脳したり尾行したりしてたんじゃないのか?」

「洗脳は出来ない。人間に洗脳された魔物は人間の思考となり、魔王城を感知できなくなると言われている。一方、尾行は可能だ。魔物と自分を鎖で結んだら、魔物が結界に入った瞬間は途端に興味を失ってしまうが、無理やり内部まで引きずって貰えれば侵入することができるだろう。まぁ、広大なエリアから魔王城に出入りする魔物を特定すること自体がかなり困難だが」

「実際に行ったのは、”引く”という発想だった。ある膨大なエリア全体を感知する。そのあと、魔王城に関わる要素以外を全て差し引く。結果、魔王城というエリアだけが感知されていない場所として浮き出る。この国のかつての研究員は、この地味な作業が得意だったんだ。そして勇者をばかすかと魔王城に送り込んでいた」

「例の森のエリアにも同じような聖域がある。他の仕事も並行しながら3年近くかかったが。もうすぐだ」

同僚「お目当ての場所が見つかりそうか」

「正確にはお目当ての場所以外の全ての場所が、だな」

同僚「いちいち会話をするのも疲れるやつだ。女性には面倒なやつだと思われないようにな」

「余計なお世話だ」

271 : 以下、名... - 2017/08/10 10:51:50.61 wqGxO5g/0 246/829

幾月が経った頃。

「ついに……」

「ついに終わった。長かった。明らかにこの空間だけ浮いている。近くを通ったことは今まで何度もあったのに」

「ここに、父さんの呪縛を解くヒントが……」

男は森の中の空間を見定め、強烈に意識をし始めた。

すると、空間の歪みのものが目に見えてきた。

「ここが、入り口……」

「触れては駄目」

「誰だ!」

「いつ諦めるのかと3年前からニヤニヤしながら見守ってきたけど。あなた、相当暇なのね」

「里の外に出る者なんて私以外に皆無だから、まだ誰も気づいていないわよ。殺されないうちに帰りなさい」

「君は……エルフか?」

「はぁー!?なによそれ!新手のナンパ!?」

女は頬を染めた。

「例のろくでもない国家の人間さんなんでしょう?さっさとお家に帰って、魔王を倒す研究の続きでもしなさいな。魔王は倒せても私たちは倒せないわ」

「やはり、ここに!」

「大罪の賢者の一族が!!」

「『ネムリン!!』」

ピンク色の泡が東洋の伝説の生き物――虎と呼ばれる獣――となり、男は10頭のそれらに囲まれた。

272 : 以下、名... - 2017/08/10 10:52:19.41 wqGxO5g/0 247/829

「……なんという魔力だ」

「獅子は眠るのが好きなの。あなたもおやすみなさい」

「させない!!」

男の身体を球体の反射鏡が覆った。魔法を跳ね返す呪文である。

「無口詠唱できるのね。私はあんまり好きじゃないんだけどなあ。呪文への感謝を感じられないんだもの。ほら、突き破っちゃって!」

1頭の虎が鏡に向かって突進した。

鏡は跳ね返そうともがいたが、溶けて消えてしまった。

「ほらね。呪文も眠りたい時があるの。気持ちを考えてあげなくちゃ」

「魔力にここまでの差が……」

「記憶は頑張って消してあげるから。また三年後においでなさい」

女が呪文に指図しようとした時、男は声を張り上げた。

「ま、待ってくれ!!大罪の賢者の一族にとってもこれは必要な話だ!!」

「魔王を倒すって話?どうでもいいわよ。たまに勇者が潜り込んできては私達に討伐を頼み込んできたって聞いたことがあるけど……」

「僕の父は、賢者の石の研究者だ!!

「君たちの寿命を延ばせるよう、協力したい!!」

女は驚いた。

虎の群れは弾けて消えてしまった。

273 : 以下、名... - 2017/08/10 11:05:47.09 wqGxO5g/0 248/829

「……凄いわ。天才よ。ここまで研究してきた人間がいたなんて」

資料の束や、謎の浮遊物がある小瓶を眺めながら女は言った。

「あなたの父親は何者なの?」

「国家の研究員だった。回復呪文を垂れ流すという賢者の石の創造に取り組んできた。死者の蘇生の研究を勝手に始めて辞めさせられてしまったけどね」

「それと、その研究資料の作成は僕も手伝ったんだぜ?」

「あなたも同じ道を辿っているってことかしら」

「まさか。死んだ者は蘇らない。似たような研究をしている変わり者は決まってこう言うんだ」

「日々の研究の成果は出ている、死者の蘇生は不可能だということの証明が日進月歩で進んでいる、ってね」

「あなたの父親はどうしてそんな研究を始めたの?」

「十年前に死んでしまった母さんを、蘇らせようとしたんだ」

274 : 以下、名... - 2017/08/10 11:07:37.57 wqGxO5g/0 249/829

「死者を復活させることはいかなる方法でもできない。勇者と呼ばれる職業でさえ、肉体が滅んだ後も精霊が魂を束縛しているだけで、死に至っているわけではないという」

「あなたは何故お父様のお手伝いを?」

「無駄にしたくないからだよ。母の死や、母の死を悼む呪われた父の研究をね。死者に対して研究は無力でも、生者に対してできることは多いからね」

「例えば、命を永らえさせることは可能だ。食料が多い国は長生きする。衛生の良い国は病死率が低い。長寿は努力によって可能にすることができる」

「死んだ母を蘇らせることは望まない。けれど、母が生きていた頃に、母の命を永らえさせることなら僕にもできたはずなんだ」

「寿命の増長の理論は構築しつつあるんだ。だけど、それを確かめるための呪力が足りない。データが足りない。そんな時に、幼い頃に母に聞かされた物語を思い出した」

「短命な寿命で生まれつく、賢者の一族がいた。彼らは己の寿命と引き換えに、強力な呪文を創造し、放ってきた」

「僕の研究には君たちの力が必要なんだ。お願いだから力を貸して欲しい!」

「……事情はわかったわ」

「なら!」

「『ネムリン!!』」

虎が女の手から飛び出し、男に直撃した。

「今日はもう疲れちゃったの。またね」

男は薄れ行く意識の中、小指に何かが触れた感触を覚えた。

そして、深い眠りに落ちた。

276 : 以下、名... - 2017/08/10 11:26:03.34 wqGxO5g/0 250/829

~小雨の降る日~

「……見つけたぞ」

「あら、ごきげんよう」

「よくもこの前は眠らせてくれたな」

「クマがひどかったんだもの。よっぽどお仕事がお忙しかったんだろうなって」

「荷物も全てなくなっていた!!研究資料も、ここにたどり着くための特殊な地図もだ!!また3年かかるところだった!!」

「今日こうして会えたじゃない」

「偶然のおかげだ!!奇跡だよ!!どうしても里に入れさせないつもりか!!」

「まあまあ、そう怒らないでよ。雨も降ってるのに熱い人ね」

「それはあんたが……」

「『かさ!』」

そういうと、大きな葉っぱが頭上に浮いた。

「……そんな呪文聞いたことがない」

「あなた達が興味を持ってないだけよ。燃やしたり、凍らせたり、惑わしたり、そういう物騒なことばかりに興味を持つ」

「まるで戦うためだけに生まれてきたみたいに見えるわよ」

277 : 以下、名... - 2017/08/10 11:27:54.36 wqGxO5g/0 251/829

「戦うためだけに生きてきた、か」

「勇者という職業はまさにそのような運命を辿るのだろう」

「哀れんでるの?」

「哀れむさ。でも、戦う宿命を背負っているのは、勇者だけではない。僕の父も、今では孤独に母の死と戦うためだけに生きている」

男は物憂げな顔をして言った。

「人は、何のために生きてるんだろう」

「…………」

「大罪の一族として生まれついた君たちこそ、こういう問をよくするんじゃないのか」

「そうね。でもこの問は、古代から人類が問い続けていたことで、今だ解の出ないこと」

「だからこそ、私達には最も不向きな問なの。考えてる間に、寿命が尽きてしまうもの」

「だから、簡単に、こう思うことにしたの」

女は言った。

「何のために生きてるかわからないから、生きることは素晴らしいのよ」

「人間には何か成すべき一事があって、それを叶えて神様に認めてもらうために生きているわけではないの」

「何のために生きるんだ?」

「しいていうなら」

「しあわせに生きるために生きるのよ」

「どうやったら幸せになれるんだ?」

「質問の多い人ね!幸せになればいいのよ!」

「そのままじゃないか!!」

「『ネムリン!!』」

男は深い眠りに落ちた。

「面倒な男ね!」

278 : 以下、名... - 2017/08/10 11:29:47.89 wqGxO5g/0 252/829

「どれだけ俺を眠らせれば気が済む」

「あら、こんな森のなかで奇遇ね」

「目の隈は取れたかしら。よく見せて。『アカリン』」

女が呪文を唱えると、手の平から輝かしい光が溢れた。

「やめろ!眩しい!!」

「うんうん。最近綺麗になってる。寝不足は健康によくないよ?」

「それに関してはこちらも聞きたいことがある」

男は目を細めながら女に言った。

「大罪の賢者の一族は呪文を使用すると寿命が削れると聞いた。そんなに気軽に使用して大丈夫なのか?」

「削れるよ。使わなくても短命だけど、使うとより短命になる」

「じゃあ使うなよ」

「あなただってよく削ってるじゃない。森の中を歩き回ってる時にスパスパやってた」

「ああ、これか」

男は葉巻を取り出した。

「確かに寿命に影響をもたらすと大方証明されてるな」

「あなたにとって、それは命より大切なものなんでしょ?」

「それとこれとは」

「同じよ。暴飲暴食や、過度な鍛錬は、人を短命にする。けれどそれはその人にとって命そのものに等しいから、やめられないのよ」

「お前が呪文を使うのはどうしてなんだ」

「どうせ、短いんだもの。だったら短いものを長くするよりも、太くすることに注ぎたいじゃない」

「さっきも言っていたな。呪文を使わなくても短命だと」

「寿命が漏れているの」

「寿命が漏れている?」

「そう。身体から常に寿命が漏れてるの。呪文の使用によっても追加でどばどば溢れちゃう」

「私たちは呪術の餌なのよ。だから代わりに、強力な呪文を使用させて貰える。だったら使わなきゃ損じゃない」

279 : 以下、名... - 2017/08/10 11:33:43.75 wqGxO5g/0 253/829

「わかったよ」

「何がよ」

「俺はスパスパをやめる。だから君も、不要な呪文を使うのをやめてくれ」

「嫌よ。ただの寿命の短い女に成り下がるだけだもの。あなた一人でやめなさいよ」

「やめるよ。代わりに今日100本だけ吸わせてくれ」



男はその日、葉巻を100本吸った。

50本を超えた頃には、嫌だ、吸いたくないと思いながらも吸った。

そしてこの日以来、手が震えるほどの禁断症状が出たが、、一度も葉巻を吸うことがなくなった。




後に、女は考えた。

この男は、私を彼の母親に重ねたんじゃないだろうか。

この賢い男は、研究のための呪力を求めて私達を探してきながら、私の寿命のために呪文の使用を辞めさせるという愚かな矛盾に気づいていない。

私達の寿命を伸ばすという話も、まだ絵空事の段階だ。

やはり、外界の人間は自分勝手な生き物だ。

その身勝手さに、私の寿命を巻き込んできた。

愚かだ、と思いながらも。

いつしか、女も男の前でだけは呪文を使わなくなっていった。

280 : 以下、名... - 2017/08/10 12:21:23.05 wqGxO5g/0 254/829

「あのさ」

「なにかしら」

「どうして俺がいるところがわかるんだ。いつも先回りされている」

「ふふ、思い上がりじゃないかしら。あなたが私をつけているんじゃなくて?感知呪文なんかを使って」

「なっ!特定の人物を感知できる芸当ができるなら3年もかからなかったさ!」

「この森にやってきて、君と話しては眠らされて。里の手がかりを失ったと絶望して森に訪れると、また君に奇跡的に再開して、そして眠らされる」

「最近体の調子はどう?」

「すこぶる良い。だが、寝てる間に虫に刺されてかゆい」

「魔物避けは張ってあげてるんだから、贅沢言わないでよ」

「……すみません」

281 : 以下、名... - 2017/08/10 14:01:48.33 wqGxO5g/0 255/829

男と女は幾日も出会いを重ねた。

地図もなしに、約束もなしに、男が森に入ると不思議と女と出会うことができた。

浅い話で笑ったり、深い話で共感したり。

男は女を研究の協力者として。女は男を森をさまよう不審者として。お互い認識していたが。

1秒も建設的な話もせずに帰った日に、男はふと思った。

「何のために会ってるんだろう」

何のために会ってるかわからない時間にこそ、男が今まで生きてきた時間の中で最も価値を感じていた。



男は女に惹かれていた。

それを悟られたくはなく、表情をなかなか崩せず、時々研究の話題で誤魔化した。

女も男に惹かれていた。

それを表情で素直に伝え、自分の話したいことを話した。

寿命が短い一族だからこそなのか、気持ちの表現に遠回りをしないようだった。

男は女の好意を感じ取り、情けなく思った。

自分が生涯を捧げる覚悟を決めた研究というものが、唯一脇に避けられてしまうことに気づいていた。

「君が好きだ」

あまりに似つかわしくないそのセリフに、女は驚いた表情をした。

里への尾行を封じるために男が深い眠りに落とされることはもうなかった。

代わりに、2人は深い恋に落ちた。

282 : 以下、名... - 2017/08/10 14:03:32.31 wqGxO5g/0 256/829

男は里の中に入ることを許された。

里の中で議論はあったものの、里随一の呪力を持つ女を信頼する者は多く、さらに寿命の延命という一族最大の目標を叶えられる可能性を持つ者として男は受け入れられた。

「やっぱり僕は異端に見えるんだろうか」

「どうして?」

「みんなが僕を見てクスクス笑っている気がする。特に女の子がだ」

「思い上がりじゃなくって?」

「手を見られている気がする。研究者のか細い腕は馬鹿にされやすいんだろうか」

「この里は呪文に頼ってばっかの頭でっかちの賢者ばかりよ。気にすることないわ」

そういう女も、クスクス笑いを堪えているようであった。



「どうして里の者達は外に出ようとしないんだ」

「色々精神的な理由が多いけど。1番の理由は、結界の外に出ると寿命がより激しく流出するからよ」

「天才研究者でさえ発見に3年もかかるほどに、この広大な里には結界が張り巡らされているのはご存知よね」

「はは、よしてくれ」

「私たちは別に、人間を含む他の生き物の侵入を恐れているわけではないの。見つかるのもめんどうだから、見つからないようにはしているけど」

「さっきも言った通り、結界の外に出ると寿命が激しく漏れ出すの。里の中にいる間はある程度流出が抑えられる。だからみんな中にいつもいるのよ」

「でも君は外に出ていたじゃないか」

「自由の制限に対する抵抗のつもりだったの」

「もうやめてくれ」

「やめてるじゃない。あなたも中に来てくれるようになったし」

「来る日も来る日も感知呪文を使い続けている人間の気配があれば、嫌でも気になって外に出てしまったわよ」

「わるい……」

283 : 以下、名... - 2017/08/10 14:09:38.02 wqGxO5g/0 257/829

男は王国の研究者として働くかたわら、里にも頻繁に訪れ研究を重ねた。

おとぎ話である大罪の一族を発見したことはそれだけで大きな偉業とも言えるべきことであるが、男はその発見を秘匿し続けた。

死者蘇生の研究を続ける故郷においてきた哀れな父や、亡くなった母を思ううち、いつの間にかこの呪われた一族の命に貢献できないかと考えるようになった。

男は初め里の者から疎まれていたが、呪文の創造などに貢献していくうちに信頼されるようになった。



男が王国で今までしてきた研究は、主に命を奪うことにつながっていた。

男が今勝手にしている研究は、命を豊かにすることに繋がっている。


呪文で全てを解決しようとしてきた一族は、植物や鉱物に関する知識が少し乏しい所があった。

男は科学の知識を提供した。

高度な治療呪文の使用機会を減らすことは、たとえ数分程度であろうと、里の者の寿命を伸ばすことを意味した。


次第に里でも男が認められ、男も里に対して第二の故郷のような愛着を持ち始めた頃。

女が珍しく、里の歴史に関する話題を自分から話し始めた。

284 : 以下、名... - 2017/08/10 14:12:47.84 wqGxO5g/0 258/829

「どうして私達が、大罪の賢者の一族と呼ばれるか知ってる?」

男は里の他の男から聞いたことがあったが、黙って話を聞いた。

「遥か昔。現代と同じように、勇者が魔王を倒すために冒険していた時代のこと。私達の祖先は、こう呼ばれていたの」

「精霊殺しの一族、と」



「智に聡く、呪術を知り尽くし、一般の人間や、魔族とも別に生きていた私達賢者の一族」

「一方、自らの人生を捧げ、報いを求めることもなく、魔王を倒すためだけに我が身を注ぐ勇者という存在。そして、彼らに自らを捧げた精霊達」

「私たちは、その精霊を殺すことが可能だった」

「私たちは特別な目を持っている。精霊を目視することができる。精霊を呪文で破壊することも、儀式の生贄に利用することもできる」

「精霊は有益な存在よ。賢者の石の材料にもなる。禁忌の儀式の材料にもなる。そんな貴重な精霊は、普段は違う世界に住んでいると言われている。この世界に現れること自体稀だし、捕縛することなんて数百年に一度可能かどうかというほどだった。そんなとき、魔王という存在が現れ、同時に勇者という存在が現れた。そして勇者に精霊が取り付くことを知った」

「私達の祖先はね、人間が魔王と対峙して苦しんでいる時に、勇者を捕縛したの。勇者に取り付いている精霊を利用するためにね。精霊だけを引き剥がす術を知らなかったし、勇者を生きて逃がすことに意味もなかった。勇者殺しの一族でもあったわけなの」

「もしも、私の寿命を伸ばすのに、精霊が必要だとわかったらどうする?」

「…………」

「勇者を殺しちゃうだろうな」

「私が断ったら?」

「断れないさ。その頃にはかわいい子供もいるんだから」

「あら、そうなの?」

「そうだと思ってる」

「あなたも大罪人ね」

「牛や豚や鳥を食べて生きているんだ。勇者と精霊を犠牲にして長生きして何が悪い」

「悪いわよ」

「悪くても生きるんだ」

「私が死ぬまで間に合うかしら」

「間に合わせるよ」

285 : 以下、名... - 2017/08/10 14:15:55.88 wqGxO5g/0 259/829

男と女は結婚した。

女の寿命の漏れは里の中でも激しいものだ。

このまま何もしなければ、二人で老後を過ごすなど、夢のまた夢だとわかっていた。

男は彼女といる時間以外は、全てを長寿命化の研究に取り組んだ。

命の研究、精霊の研究、魔族の研究、勇者の研究、長寿の手がかりになりそうなことについてはどんなことでも研究をした。

遠くの故郷では亡くなった母を蘇らせようと父が研究していて。

ここでは早く亡くなる運命の妻を長生きさせようと自分が研究している。

研究者として生き、運命や因果応報等には関心を向けず、命を個数として考えて生きてきた彼もこう思わずにはいられなかった。

「どうして価値ある命こそ、早く尽きてしまうのだろう」


研究員としての立場を利用しながら、あるいは大罪の賢者の里という貴重な研究環境にいることを利用し、彼は研究成果をあげていった。

充実した日々だった。

王国で仕事をし、移動の翼で帰宅し、妻と会話をし、生まれた子供の寝顔を見る。

この日々を守るために、日々時間を費やした。

286 : 以下、名... - 2017/08/10 14:19:51.82 wqGxO5g/0 260/829

一仕事終えた男は、王国の研究室で考え事をしていた。

「今日も無理をしないといいが」

妻は里で新呪文の開発に取り組んでいた。

呪文の開発には多くの魔力の使用を伴うが、仕方のないことだ。

膨大な魔力を使えぬ者にしか行うことのできない仕事がある。

その中でも最たる目標が、自分らの寿命を長生きさせることではあった。

そのために寿命をすり減らして研究をするのは、皮肉といってはいけないことで、やめさせることのできないことであろう。

同僚「おい、何をぼーっとしてるんだ」

「おお。ちょっと考え事をな」

同僚「それどころじゃないだろ。急げ、間に合わないぞ。闘技場に行くんだろ?」

「闘技場?下賤な見世物を見る暇はないぞ」

同僚「お前、まさか例の話を聞いてないのか!?」

「ここしばらく現地調査をしていた」

同僚「俺らの王国から勇者が誕生したんだよ!」

「なっ……!?」

287 : 以下、名... - 2017/08/10 14:20:31.28 wqGxO5g/0 261/829

異国や書物の研究に夢中で、探し求めていた人物がまさに足元に現れていたことに気づかなかったことを恥じた。

同僚「ああ。表向きでは馬鹿王子……おっと、王子様が勇者に選ばれたってことになっているんだがな」

同僚「奴隷が選ばれたんだよ。広場で労働していた奴隷に精霊の光が直撃したんだ」

同僚「これから行う実験は『精霊の加護』の特性の研究だ」

同僚「精霊の加護の専門チームがつくられる。俺も今の研究をきりあげて、近々チームに加わらせてもらうことになる」

同僚「お前も今は何故か転移呪文の研究をしているそうじゃないか。お前みたいな変人にもきっと興味がわくものが見られると思うぜ」

288 : 以下、名... - 2017/08/10 14:22:05.73 wqGxO5g/0 262/829

奴隷「…………」

魔物使い「本当に、いいんだな?」

研究員A「構わん」

魔物使い「ラック。あいつを引き裂いてくれ」

魔物使いが命じると、巨大な虹色の鳥が、爪で奴隷の首を引き裂いた。

奴隷の姿は消滅していた。

研究員A「本物だ!!」

同僚「い、今のはなんだよ!」

「伝説の通りだ。かつてこの王国も、一人で冒険していた他国の勇者を生け捕りにしたことがあったが、勇者が短剣で自分を刺し逃亡をはかったという」

同僚「意味わかんねーよ。なんでお前詳しいんだよ」

2人の会話をよそに、研究者は続々と移動を始めた。

同僚「どこ行くんだ?」

「教会だろう。闘技場の近くにある」

289 : 以下、名... - 2017/08/10 14:22:39.66 wqGxO5g/0 263/829

教会にたどり着くと、倒れた奴隷の姿があった。

研究員A「何が起こった?」

研究員B「私たちはここで待機していました。一瞬白い光が見えたような気がして。気づいたら奴隷が横たわっていました」

研究員B「神官の様子がおかしかった。無意識に蘇らせているようでした」

研究員A「おい。あんたが蘇らせたのか」

神官「蘇らす?」

研究員「そこの奴隷だよ」

神官:なにがおのぞみですか。どくをちりょうしますか。まひをなおしますか。のろわれたそうびをはずしますか。

同僚「おいおい、どうなってるんだ……」

「…………」

290 : 以下、名... - 2017/08/10 14:23:58.50 wqGxO5g/0 264/829

研究員A「次の実験に移る。仲間がいる状態での死亡ケースだ」

研究員A「かつて同じ屋敷で働いていた奴隷を用意した」

研究員A「こいつを仲間だと認めろ。さもなくば、こいつの命は失われることになる」

奴隷「…………」

奴隷B「ひ、ひぃ……」

研究員A「よし。まずはこの仲間から殺せ」

魔物使い「ラック」

鳥の鉤爪が奴隷Bの首を引き裂いた。

生首はごろごろと飛び跳ねながら転がった。

同僚「うげぇ!!」

研究員A「棺桶が出現しないぞ!」

研究員A「貴様!!奴隷同士の命には関心がないというわけか!!」

研究員B「もしかしたら、目的の共有がないからでは。勇者のパーティが結束されるのは、魔王討伐という目的のためです。そのことを意識させてみては?」

研究員A「それくらい知っている!!おい、新しい奴隷をもってこい!!」

その後も、少しずつ条件を変えながら実験は繰り返された。

しかし、奴隷は、元いた屋敷の奴隷を仲間だと認識しなかった。

転がる生首の数だけが増えていった。

291 : 以下、名... - 2017/08/10 14:26:56.89 wqGxO5g/0 265/829

研究員A「駄目だ、仲間だと認識しない。魔王討伐に関する知識を吹き込み、討伐拒否に対する恐怖を拷問で植え付けようとも、討伐成功に関する報酬を洗脳で見せつけようとも、一切変わらない」

研究員A「4人のパーティなど、ただの冒険譚の中の伝説だというのか……」



同僚「伝説なんじゃねーの。棺桶がパーティの肉体を保護する、だったっけか?」

「……なぁ。どうしてさっきから、男の奴隷ばかりが使われているんだ」

同僚「そりゃあ、あの商人の屋敷に勤めていた奴らだからだろう。力仕事のできる奴隷しかいないんだ」

同僚「なんだお前、女の生首が飛ぶところでも見たいのか?研究しすぎておかしくなったか?」

「…………」

「所詮は……」

同僚「おい、何してる!中に入るな!」

男は見学の取り巻きから離れ、闘技場内にいる研究員Aに近づいた。

研究員「何だ、お前は」

「所詮は、男という生き物だ」

「恋をさせればいい。同じ年頃の、美しい奴隷を連れてくるんだ」

「俺も、精霊の加護の研究チームに入れてくれ」

292 : 以下、名... - 2017/08/10 14:38:45.65 wqGxO5g/0 266/829

精霊→勇者を選別
目的:?

勇者→仲間を選別
目的:魔王の討伐?

「魔王の討伐を望むのは世界の望みであって、勇者の望みではないのではないか」

男は羊皮紙に書いた自分の書き込みを見て考え事をしていた。

「だとしたら、命を失わせたくないという思いだけで、パーティは結束できるはずだ」



幼い頃にアカデミーに通えなかった者達が、大人になってから通いはじめるコースが有る。

そのような環境を擬似的に作成し、男の奴隷と女の奴隷を2人の生徒に見立てた。

男奴隷はまだ自分が勇者であることどころか、勇者という存在についてさえよく知らなかった。

女奴隷は屋敷での酷い虐めから解法されながらも、新たな環境に移されたことに対する不安で一杯のようだった。



研究員は適当な嘘を並べ、試練を用意した。

魔物の討伐であったり、治療薬の合成であったり、2人で協力すれば達成できる試練であった。

奴隷が男女で喋ることなどご法度であったため、なかなか男奴隷は話そうとしなかったものの。

女奴隷から男奴隷に話しかける機会を増やさせ、2人を親密にさせる機会を多く創り出した。

いつしか。

男奴隷は、時折笑顔を見せるようになった。

小さな箱庭の中で。

293 : 以下、名... - 2017/08/10 14:40:04.48 wqGxO5g/0 267/829

数週間後のこと。

奴隷「やめろ!!貴様ら!!またこんなところに連れてきやがって!!」

研究員A「おうおう。ちょっと日がたっただけで随分威勢がよくなったねぇ」

女奴隷「……何がはじまるの?」

研究員A「まずは男からだ」

魔物使い「ラック」

鳥の魔物が男奴隷の首を撥ねた。

女奴隷「あ……あ……」

研究員「見ろ!!棺桶が出現した!!肉体の損傷を抑えるためのシステムだ!パーティが結成されている証だ!!」

研究員「肉体が粉々に砕けた場合での蘇生の限界も知りたいが、失敗すれば永遠にあいつが失われるからな、なやましいところだ」

研究員A「女も殺せ」

女奴隷「いや、うそよ、やめて!!」

鳥の魔物は女奴隷の首を撥ねた。

女奴隷の棺桶は出現せず、2人は同時に消滅した。

研究員A「理論通りだ!!教会に行くぞ!!」

研究員達は走り出した。

同僚「……おい。俺ら、禁忌に触れようとしてるんじゃないか……」

男は同僚の言葉に応えず、教会へと走った。

女奴隷の首が飛んだ瞬間に、女の笑顔があたまをよぎったが、首を振った。

294 : 以下、名... - 2017/08/10 14:41:56.69 wqGxO5g/0 268/829

奴隷「くそ……貴様ら……」

研究員A「男奴隷しか蘇っていないな」

神官:女奴隷を蘇らせますか

研究員A「はい、でいいんだよな」

神官:50G頂きます

研究員「神官のくせに人の命に値段つけやがって。ほら、やるよ」

神官:女奴隷の御霊を呼び戻し給へ!

女奴隷は蘇った。

女奴隷「うーん……あれ、私……」

研究員「お前、さっきまでの記憶はあるか」

女奴隷「鳥の魔物に襲われて、それからは何も……」

研究員「死ぬ瞬間のことは覚えてるか」

女奴隷「すぐに意識が消えたから……」

295 : 以下、名... - 2017/08/10 14:42:45.01 wqGxO5g/0 269/829

2人の奴隷はまた闘技場に連れ戻された。

同僚「いちいち移動がめんどうくさいな。教会でやったらどうなんだ」

「こんなことがばれたらまずい。世の中の奴隷が大人しく従うのは、大人しく従えば命だけは助かると思い込んでいるからだ」

「奴隷仲間がこんな実験をさせられてると、街中の奴隷が知れば反旗を翻すものが現れかねない。すでに商人の家の奴隷が急に売り飛ばされたという噂に疑いの目を向けている者も多い」

同僚「はぁー。あの馬鹿上司は何を試したいのかねぇ。あらゆるパターンを虱潰しにする気かね」

「……見つけたいものがあるならば、見つけたくないもの全てを見つけるのも感知の方法の1つだ」

同僚「ああ?」

男は上司に様々な提言をしていた。

今行っている残酷な実験に関する案も、ほとんどが男が提案したものだった。

上司はそれらの手柄を全て横取りにしていたため、上司が発案したものだと周囲のものは理解していた。

男にとってはかえって都合がよかった。

296 : 以下、名... - 2017/08/10 14:44:38.92 wqGxO5g/0 270/829

魔物使い「ふぁー。ラック」

鳥の獣が女奴隷を殺した。

奴隷「…………」

奴隷は拘束具で縛られた手に力を込めながら、鳥の魔物を睨みつけていた。

研究員A「棺桶を破壊して、中身の遺体を塵にしてくれ。どこまで肉体が損傷しても蘇るか確認したい」

奴隷「やめろ!!」

魔物使い「エグいこと考えるねぇ」

魔物使い「ラック。棺桶を破壊して、火炎を吹くんだ」

鳥の魔物が棺桶を鉤爪で破壊し、女奴隷の亡骸が現れた。

火炎を吹くために大きく息を吸い込んだ、その時だった。

奴隷「……ぐぉおおおおおおおお!!!!!」

同僚「な、なんだ!?」

「まずい!!!」

空に暗雲が立ち込めた。

びりびりと空気が震え感触がした。

「『マハンシャ!!』」

研究員達は慌てて防御呪文を唱え出した。

魔物使い「ラック!!防御呪文だ!!」

奴隷「ぐぉおおおおお!!!!!!!」

巨大な雷撃が空から降り注いだ。

雷撃は防御呪文を突き破り、魔物に直撃した。

鳥の魔物は死んでしまった。

297 : 以下、名... - 2017/08/10 14:46:42.52 wqGxO5g/0 271/829

魔物使い「ラック!!!」

研究員C「『マフウジ!!』」
「『マフウジ!!』」同僚「『マフウジ!!』」

囲んでいた研究員が勇者に呪文封じを多重にかけた。

同僚「はぁ……はぁ……。おい、あれ見てみろよ」

同僚の指差す方を見ると、研究員Aは女奴隷の亡骸を抱えていた。

棺桶を囲うように、雷撃があけた穴の塊があった。

研究員A「き、きさま……」

研究員A「こいつは呪文を知らないはずだ!!無口詠唱ですらない!!なのに何故!!」

「……直感型の逸材だ」

思ったことを口にするだけで、聞いたこともない呪文を唱える恋人を男は思い出していた。

研究員「こいつはあの上級魔物を焼き尽くすほどの呪力をすでにそなえている!!」

魔物使い「レオ!!その棺桶の女を焼き尽くすんだ!!」

研究員Aは急いで飛び退いた。

タテガミの生えた猛獣は火を吐いた。

女奴隷の体は焼き尽くされた。

魔物使い「そいつも殺せ!!」

猛獣は勇者の首を噛みちぎった。

298 : 以下、名... - 2017/08/10 14:50:09.32 wqGxO5g/0 272/829

教会に着くと、男奴隷は研究員や賢者に囲まれてい床に横たわっていた。

研究員B「ひどく暴れたので、気絶させてしまいました……」

研究員A「それでいい。おい、神官。いつものやつだ」

研究員Aはお金を神官に渡した。

神官:女奴隷の御霊を呼び戻したまえ

女奴隷は蘇った。

女奴隷「……!!」

女奴隷「ウゥー!!!ウゥーーーー!!!」

女奴隷の様子はおかしかった。

女奴隷「オゥエエエエ!!!」ビチャビチャ!!!

研究員A「やはりそうだ。棺桶は肉体の保護のためにあったのだ。身体が損傷しているほど、蘇った時の副作用も大きい」

研究員A「これを100回繰り返したらどうなるか、非常に興味がわくところだ」

「…………」

299 : 以下、名... - 2017/08/10 14:51:25.38 wqGxO5g/0 273/829

「おかえりなさい」

「……ただいま。欲しがってた王国のお菓子、買ってきたよ」

「やった!!さっそく出会った日記念日を2人で祝いましょ!!」

「ああ」

「……あのね。私実はね、あなたに内緒にしていたことがあるの。でもこの日に打ち明けようって思ってたの」

「あるおまじないに関することで、ずっと打ち明けたくなかったんだけど、いつかは言わないとって……ねえ、どうしたの?」

「え、ええ?」

「なんか嫌なことでもあったの?凄い怖い顔してたよ?」

「ああ……仕事で、理不尽な上司がいてさ。くだらないことばっか手伝わされて疲れたんだ」

「そうだったんだ。あんまり無茶しないでね。この子も心配しちゃうから」

女は自分のお腹を撫でた。

「ああ、そうだな」

男は自分の手を、お腹に添えることはしなかった。

「適当にやるさ」

男は嘘を告げた。

この幸せを守るためならば、他の幸福がどんなに壊されたってかまわない。

300 : 以下、名... - 2017/08/10 14:55:42.03 wqGxO5g/0 274/829

~王国~

神官「何をする!!」

奴隷「降り注げ!!!!」

教会で待機していた研究員の、呪文封じの呪文が遅れた。

教会の屋根を貫き、雷撃が奴隷と神官に突き刺さった。



「どういう状況だったんだ」

同僚「女奴隷が死亡し、続いて男奴隷が死亡。教会で蘇生した瞬間に男奴隷が雷撃の呪文を放ったそうだ」

同僚「しかし、呪文の威力が強すぎて、周囲の人間だけでなく男奴隷にも雷撃が直撃してしまった。すると、面白いことが起こった」

同僚「男奴隷だけがその場で蘇ったんだ。神官は焼け焦げたままだ」

同僚「男奴隷は状況が読み込めず、再び自分に雷撃を注いだ。おそらく女奴隷と心中するつもりだったんだろう。しかし、研究員が秘匿でつくっていた地下室の教会の神父の前で蘇った」

同僚「今は魔力も全て抜かれて眠らされている。実験もしばらく中止だ」

「つまり、強力な雷撃を浴び、奴隷と神官は同時に死んだ。しかし、奴隷は蘇った」

「……タイムラグがあったというわけか」

同僚「神官という職業の定めだろうな。自分の命が消え行く時でも勇者の復活を最期の瞬間まで成し遂げようとする。勇者を蘇らせていたのは、やはり精霊ではなく神官だったということだ」

同僚「何かに活かせないかとみんな考えているんだが、使い道は思い浮かばないね。思い浮かんだところで、次は神官殺しの始まりだ。こんなのは、研究者がやる域をとっくに超えてるよ」

同僚「魔物がやることだ」

301 : 以下、名... - 2017/08/10 15:42:04.71 wqGxO5g/0 275/829

深夜の王国に警報が鳴り響いた。

同僚「緊急事態だ!!またやつらが脱走を試みた!!!」

「なんだと!対策は講じていたはずじゃ……」

同僚「あの女奴隷もいつの間にか呪文を習得していた!!僧侶の特性を持っていたようだった!!男奴隷が自分に雷撃を与えて拘束具を壊し続ける間、回復呪文を浴びせていたようだ!!拘束具だけが壊されたんだ」

研究者Aが血相を変えて賭けてきた。

研究者A「神官は全員殺された!!今やこの王国に奴らはいない!!」

研究者A「おい、男!!この場合はどうなる!!この王国に最も近い街に出現するのか!?すでに賢者を派遣して……」

「無闇やたらに探さないでください!!対処マニュアルをつくっていたでしょう!!」

男は怒鳴った。

研究者A「お、おまえ……」

「あいつは輸入奴隷なんです!!この王国に来る前は北の港町に奴隷船が寄っていたんだ!!以前訪れたことのある場所に出現するという伝説が本当ならそこを探すべきだろう!!会議資料にも記載していたはずだ!!」

「逃亡の可能性を防ぐために他の街へ連れて行く実験だけはしていなかった。やつが以前訪れたことのある場所にしか出現しないはずだ!!」

「早く追うんだ!!奴はまだ移動呪文を覚えていない!!だとしたら、自分が蘇った街の神官を殺した後に立て続けに自殺をはかることで移動していると考えられる!!奴の訪れたことのある場所の教会を全て確認するんだ!!」

同僚「男……お前なんだか……」

「はやく探し出せ!!」

302 : 以下、名... - 2017/08/10 15:47:18.06 wqGxO5g/0 276/829

王国中が騒いだ夜となった。

国民は何が起こったかも知らないまま、王国の研究者や賢者が無闇に発動する感知呪文に1日中頭を痛みつけられる目に遭った。

だが、数日が経っても、結局男女の奴隷を見つけることはできなかった。



「まだ、試さなければならないことがたくさんあったんだ……」

「実際、今まで集めた”精霊の教会への転移”のデータを元に、新呪文の理論を構築できた」

「このまま研究が続けば、長寿命化の儀式も完成する見通しがついていたというのに……」

「ともに、老後を過ごすことができたはずだったのに……」

「そのためになら俺は、魔物になる覚悟さえあったんだ」

303 : 以下、名... - 2017/08/10 15:52:46.53 wqGxO5g/0 277/829

数年後。

男は出世のコースから逸らされていた。

研究者として形見の狭い思いをする傍ら、家庭で過ごす時間が増えていた。

「ただいま!あなたのかつての研究の成果がついに今日結ばれたわよ!」

「おかえり。新呪文が完成したのか」

「強制転職呪文ができたわ。転職の神殿でも大罪の賢者しか選べなかった私達が、ついに他の職業になれるようになったの!!」

「おお!!それは……凄いことなんだよな?」

「私達の願いの一部は叶えられそうってとこね。誰もまだ使用してないし、理論上でわかる部分の範囲だけど」」

女は咳払いをして説明をはじめた。

「良い面。身体からの寿命の放出の速度を遅くすることができる。里の外に出ても漏れを遅くできるわ。なんせ、大罪の賢者という職業を放棄できるのだから」

「悪い面は、代償が大きすぎること。呪文の発動に際して、発動者が極めた職業1つ分のスキルを全て捧げなければならない。そのかわり、発動者が指定した者なら誰でも強制的に転職させられるわ」

「もう1つ悪い面。寿命の漏れは多少抑えられても完全に止めることはできない。大罪の賢者の一族の呪いはそう簡単に解かせてくれないってわけよ」

「それでも新たな道は拓けたわけだ。いっそのこと、僕の研究者としてのスキルを犠牲に、君を呪文を一切使わないような職業にでも変えてしまおうかな」

「そんな職業あるのかしら。一度覚えた呪文は他の職業に転職しても使えるんだから、あなたが私を戦士に変えたって無駄よ」

「僕は女戦士よりもバニースーツのほうが……」

「はいはいうるさいうるさい!!子供も出来たってのにまだそんなこと言ってるわけ!!?ガリ勉研究者に限って過激な衣装に夢中になるんだから!!」

「ガリ勉研究者で悪かったな!!別にいいだろ!!男どもに聞いたらいつも賢者と僧侶が人気トップ2だ!!君はぼくがそんな平凡な男でいいというのか!!」

「あー!!そう!!賢者で悪うござんした!!」

「別に君はどの職業になっても一番素敵だよ!!」

「うるさいわね!!あなたもよ!!」

304 : 以下、名... - 2017/08/10 15:53:43.64 wqGxO5g/0 278/829

勇者という職業に生まれついた奴隷と、女奴隷が逃亡してから数年。

小声で激しく口論する2人の隣の部屋では、小さな女の子が眠りについていた。

精霊の手がかりをなくした男の研究は行き詰まり、長寿への手がかりは遠のいてしまった。

この穏やかであたたかい時間は、遠くない未来で失われてしまうとわかっているものだ。



男は思った。

絶望は、今まで積み上げてきたものが何もかも失われてしまった過去にあるのではない。

これから積み上げて行くはずだったものが、何もかも失われてしまう未来にあるのだ。

305 : 以下、名... - 2017/08/10 16:02:15.36 wqGxO5g/0 279/829

~数年後 小雨の降る日~

「あの子も、同じなのよね。長く生きられないのよね」

母は隣の部屋の寝室で眠っている娘を思った。

「ああ。長老もかつてそうだと言っていた」

「ノーマル(非一族)のあなたと私の子供だから、寿命も足して半分こになると思ってたんだけどな」

「片親が大罪の一族であれば子供も大罪の一族の賢者として生まれる。わかっていたことだ」

「あなたとあの子、どちらが長生きするのかしら」

「…………」

「ノーマルと結婚する人が里に極わずかしかいない理由を、最近身をもって感じるの」

「僕と出会ったことを後悔しているか?」

「そうね。こんなに素敵な人と出会わなければよかったって思ってるわよ」

女は男の肩に頭をあずけた。

306 : 以下、名... - 2017/08/10 16:05:00.03 wqGxO5g/0 280/829

「覚えてる?」

「初めて出会った頃のことか」

「人は何のために生きるのかってあなたが言ったこと」

「この年まで生きても、答えはあまり変わらなかった」

「何のために生きるのかわからないまま生きてるから、生きてることに価値があるということ」

「生きる理由があって生きてたら、当たり前すぎるんだもの。毎日おいしいものたべて、好きな人と過ごして、好きな勉強をして、周囲から尊敬されて、生きてるのが愉しいって人も極少数はいるんだろうけどさ」

「食べたいものもお財布を見て我慢して。好きな人は他の人に夢中で。何のために就いているかわからない職業で働いて。やりたくもないことをそれなりにやってガミガミ怒られて。なのに我ながらどういうわけか生きている、というのが大多数の人だと思うの」

307 : 以下、名... - 2017/08/10 16:05:39.87 wqGxO5g/0 281/829

「君と出会う前の、かつての僕はとくにそうだったね」

「それは、やはり生きることに価値があるからなのよ。苦痛にもかかわらず、苦悩にも関わらず、絶望にも関わらず、切ないにも関わらず」

「それでも生きてしまうほどに、生きることは可能性に満ちたことなのよ」

女は男と目をあわせぬまま話を続けた。

「だから、思春期の頃の私に言ってやりたいよ。馬鹿みたいに呪文の連発するなって。外に出るのは、怪しい男がうろつく気配を感じるときだけにしろって」

「あなたと過ごせる時間が、1秒でも減っちゃうんだもの」

「…………」

「だから、今の私の答えはこう」

「生きることに意味は見いだせない。でも、出会うために生きることは必要だった」

「好きな人と時間を重ねるために、人は生まれて、生き続けていくのね。だから命は、大切なのね」

「あの子と生きて」

「すきよ、あなた」



肩に、重い力がかかった。

女の身体がだらりと崩れた。

男は泣きながら抱きしめた。

女は目覚めることはなかった。

寿命が尽きたのだった。

308 : 以下、名... - 2017/08/10 16:07:14.67 wqGxO5g/0 282/829

【遊び人 14才】

少女「うるさいな!!」

賢者の少女は怒りを呪文に乗せた。

家の中にヒビが入った。

「やめなさい!!」

父親は少女に命じた。

少女「直せばいいんでしょ!」

少女が念じると、家はもとの姿におさまった!

「不用意に呪文を使うな!!」

少女「私の勝手でしょ!!」

少女は家を飛び出した。

数分もしないうちに、森から爆発音が聞こえた。

「はぁー。君とそっくりの子が生まれたよ」

父親は亡き伴侶を思い出しながらつぶやいた。

309 : 以下、名... - 2017/08/10 16:10:38.08 wqGxO5g/0 283/829

一族の人間は、自身の寿命に対して不満を抱かない。

賢者の里のに生まれた自分達を特別な存在だと思っており、普通の人間が他の生物の寿命と自分の寿命を比較することが少ないように、ノーマル(非一族。普通の人間)より自分たちの寿命が短いことは気にしなかった。

ところが、少女は特別だった。

賢者の母とノーマルの父親というハーフであるものの、里の中で桁違いの魔力をほかった。

里の中で誰よりも短い生涯を終えるのは明らかであった。

そのことを、周囲の大人や老人たちが神聖なことのように崇めているのも気に食わなかった。

少女「こんな狭い里の中で生まれて。こんな狭い里の中で早く死ぬのかなぁ私」

少女「こんなところ、絶対脱出してやるんだから。それで、物語みたいに、勇者様と冒険して、魔王を倒しにいくんだ」

少女はまた禁止事項を試みようとした。

少女「よーし、結界の外に出てやるわ!!」

少女は足を踏み出した。

少女「うっ……」

少女「やばいやばい。これはさすがにまずい感じがする」

結界の外に出た途端、自分の中からものすごい速度で時間が流れ出していくのを感じた。

少女「アカデミーでも習ったわ。里の結界から外に出ると寿命の放出が著しくなるって」

少女「でも、それは寿命という対価を多く支払い強力な呪文も使えるということよね」

少女「『孤独に生きる空よ、涙で汝の罪を拭いたまへ』」

少女「『アーメン!!』」

少女は単純な雨の呪文を使用した。

そのとたん、空から滝のような水が流れ出した。

少女「なにこれ!!!」

少女「わたし、すげー!!」

少女「…………」

少女「……果たして、今の一発で私の人生はどれだけ短くなってしまったんだろう」

少女「冒険なんて私には無理なんだな。魔王城に着く前に寿命が尽きちゃうよ」

310 : 以下、名... - 2017/08/10 17:40:15.57 wqGxO5g/0 284/829

少女は父に尋ねたことがあった。

どうして賢者の里の一族が魔王を倒しに行かないのかと。

倒す理由がないからだ、と父は答えた。

水には火をかけると良いように、暗闇は光で照らすのが良いように、魔王には勇者をさしあてるのが良い。

勇者一人の資質で魔王との勝敗は決してしまうものなのだそうだ。

火(魔王)を消すのに水(勇者)という存在がいるのに、その火を消すためにわざわざ強い風である賢者の一族がでる必要はない。

実際に一族を抜け出して冒険に出た者もいたが、音沙汰を聞かない。

それに。

魔王がいることで救われていることもあるんだと、神妙な面持ちで父は最後にぼそりとつぶやいた。

311 : 以下、名... - 2017/08/10 17:41:52.31 wqGxO5g/0 285/829

賢者「今日も来てくれてありがとうね。そこに立ってちょうだい」

やさしい口調で里の大人たちに命令される。

数多くの大人に囲まれながら、少女は魔法陣の中心に立たされる。

見守る大人の中には、私のお父さんもいる。

娘を実験台にして、やっていることといえば、新しい研究報告書のページ数を増やすだけ。

賢者「いくわよ」

賢者たちが詠唱を始めた。

痛みを伴わない実験だといいなと願った。

強力な魔力を持って生まれてしまったがために、呪文創成の溶媒として使われてしまっている。

母の才能を恨みながら、亡くなった母を恋しく思った。

今日はひときわあかりが強く輝いた。

私は気絶して倒れた。

312 : 以下、名... - 2017/08/10 22:58:04.33 wqGxO5g/0 286/829

目覚めると、自宅の布団の上で横たわっていた。

怒りをぶつけようと家の中を歩き回るが、父の姿は見つからなかった。

少女「わたし、何のために生きてるんだろう」

後日研究員の賢者に聞いたところ、私を実験台とした成果として、人間の感情を物に閉じ込める研究が少し前進したらしい。

私のこの虚しさを、壺にでも閉じ込めてくれないだろうか。

313 : 以下、名... - 2017/08/10 23:05:38.48 wqGxO5g/0 287/829

研究の呼び出しを無視して、結界の外に出た夜のことだった。

少女「みんな困っちゃえばいいよ。目の前にある生命を大切にしない人達が、長寿命化の研究だなんて馬鹿馬鹿しいよ」

結界の外に出た少女は、体から凄まじい速度で時間が流れているのを感じた。

少女「はは……。私は里で一生を過ごして、朽ちていくのかな」

少女「冒険譚みたいにさ、勇者様と出会って、旅をしてみたかったな」

少女「いつの時代も魔王と戦うのに、賢者は必要でしょ?」


楽しい空想をしながらも、自暴自棄になっていた。

母の死さえ早かった。

その母よりも早く寿命が尽きると言われてきた。

少女「呪文なんて使えなくてもいいから、ノーマルの人達みたいに長生きしたかったな」

少女「そうだ。今日は近くの街まで行ってみよう。里の人以外話したことなんて、滅多になかったからな」

314 : 以下、名... - 2017/08/10 23:10:55.97 wqGxO5g/0 288/829

少女「うう……」

少女「迷ってしまった。どうやって帰ろう……」

少女は困った。

里の特殊な結界のせいで、移動呪文を発動しようとしても具体的な場所のイメージがわかない。

自力で歩いて帰るしかなかった。

少女「月明かりはあかるいけど、やっぱり夜の森って不気味だな……」

少女「怒りにまかせてこんなことしなければよかった。大人しく里で実験台にされてればよかった」

少女「どうしよう。私の寿命、どれくらいの速度で流れてるんだろう。もしかして、一日で死んじゃうくらい流れてたりするのかな」

少女「お父さん……助けに来てよ……」

少女「うっ……うう……」

少女「……あれ、なんだろ」

少女は小屋を見つけた。

明かりはついていなかった。

少女「こんな森の中に、誰か住んでるのかな?」

315 : 以下、名... - 2017/08/10 23:15:40.37 wqGxO5g/0 289/829

少女「『マハンシャ』!!」

少女の周囲を、宝石のような輝きが覆った。

少女「いつにまして呪文が綺麗だな。寿命という餌は呪文にとってよほどおいしいんだろうな」

少女「ちょっと、侵入してみよっか」

少女は小屋の入り口に立った。

少女「東洋の冒険譚にもこういうシーンがあったな。なんだかワクワクしてきたよ」

少女「『開け~、ゴマ』!!」

通常の呪文集では決して載っていないようなセリフを唱え、少女は小屋の鍵を開けた。

少女「おじゃましまーす」

316 : 以下、名... - 2017/08/10 23:41:11.25 wqGxO5g/0 290/829

自分の存在を強調しないように、月明かりだけを頼りに少女は部屋の中を歩き回った。

少女「誰もいない。というか、本ばっか。誰かが書庫代わりに使ってるのかな」

少女「どうしてこんなところに。誰のための小屋なんだろう」

少女は書架にある本を眺めた。

少女「……なによこれ」

少女「『賢者の石のつくりかた』『新呪文創造の儀式』『生贄を必要とする呪文集』『勇者に宿る精霊の加護の効力』『呪いを転移させる術』『太古の呪文』」

少女「『側室を求めた勇者の伝説』『冒険の書の完結について』『僧侶の手記』」

少女「『死者蘇生に必要なもの』『生贄としての精霊』『魔剣を奪いし者』『魔王は死したか』『大罪の賢者の一族は実在するか』」

少女「今里で行われている実験に関するものばかり。それと、勇者に関する本も多い」

少女「誰が、何のために……」

混乱にとらわれる少女の視界に、綺麗な用紙に書かれた紙の束が見つかった。

少女は「ぐりもわーる?どういう意味の表題だろう」

少女「なになに?」

少女「これは王国研究者による、精霊の加護に関する実験結果報告書である」

少女「どういうことなの……」

317 : 以下、名... - 2017/08/11 00:32:21.02 BRUCYk3f0 291/829

紙の束の前半は、無数に分けられた実験パタ―ンと数値の羅列が多く、読むには退屈な内容だった。

少女「対象Aが使用する雷撃呪文の分析結果。コントロール可域。最低値、最大値……」

少女「パーティメンバー結成による効果。伝達速度の向上。”命令”と”洗脳”における反応差異。アイテム効力範囲の増減」

少女「神官死亡時のタイムラグから測る魂の消滅時間の推定」

少女「過激なことが書いてありそうな割には、淡々とし過ぎてて頭に入ってこないよ。表と数値ばっかりで面白くない」

少女は飽きて頁をめくると、一転、メモ書きのようなものが書き込まれた用紙がみつかった。

少女「『大罪の賢者と呪文の関係』!!」

少女「凄い!通常呪文集に載っていない内容ばかり書いてある!!呪文使用のイメージの魔法陣までついてる!!凄い呪文があったら使ってみようっと!!」

少女「どれどれ」

少女は頁をめくった。

独特の呪文が羅列されており、魔法陣を見るだけで少女は次々と呪文を習得していった。

少女「面白い……。私が知らない呪文がこの世界にはたくさん存在していたんだ」

少女「これは……」

【総魔力放出呪文】
この呪文の特性について述べられる時、威力に焦点をあてられがちだが、最大の特性は断続性がないということに尽きる。一度呪文を浴びたものは、詠唱者の魔力が尽きるまで反対呪文を唱える隙きを与えられない。
大罪の一族にこの呪文が伝承されていない理由は自明である。大罪の一族は寿命を魔力に変換して術を発動する。一度この呪文を唱えた場合、寿命が尽きるまで発動し続けると考えられる。



【赤い糸の呪文】
大罪の賢者の一族にまつわる伝説の呪文である。感知呪文の一種に分類されるが、使用に魔力は伴わない。大罪の賢者の一族にのみ使用が可能であることは、寿命の漏洩と関係がある。
身体から漏洩する寿命を特定の人物に結びつけることにより、疑似パーティを結成する。パーティメンバーにできるものは一人が限界とされ、勇者がパーティメンバーに”命令”を行えるのと同様、赤い糸の呪文はパーティメンバーに対して”移動”に関する制限を課すことができる。糸を引っ張ることで対象者を無意識に自分の元に寄せることが可能となり、また、対象者との距離感をおよそ把握することができる。
欠点として、大罪の賢者の一族はこの赤い糸を目視することができるため、非一族相手にしか使用することができない。
これには私も困らされた。


「見たのか」

私は恐る恐る振り返った。

汗だくの父が息を切らしながら立っていた。

顔は恐怖と、怒りに満ちていた。

少女「ご、ごめんなさい!!今日、抜け出して……」

「見たのか!!」

男の危惧していたことが起こった。

少女は赤い糸の呪文を覚えた。

少女は総魔力放出呪文を覚えた。

318 : 以下、名... - 2017/08/11 00:52:12.74 BRUCYk3f0 292/829

【少女 20才】

「王国から連れて参りました」

「7人の、勇者です」

特殊な魔具で身体を拘束された勇者達が、魔法陣の中心に投げ込まれた。

賢者「ついにこの時がきたわね」

「……ああ」

賢者「寿命の転移呪文を行う」

少女は広場の外側から、黙って様子を見ていた。

今まで実験材料にされていた少女は、父親達がどのような実験をしているかをだいたい把握していた。

その実験によって、犠牲になる命があることもわかっていた。

少女は何も感じなかった。他国で戦争が起きていると聞いた時のような気持ちで、今陣の中にある生命が7つ失われようが、遠い出来事のように感じるのだった。

里に束縛されて生きてきた彼女は、自分の人生に無関心にならざるを得なかった。

長寿命化どころか、自分の命にさえ関心を失いつつあった少女にとって、他人の命の心配をする気持ちを生じさせることは難しかった。

319 : 以下、名... - 2017/08/11 01:09:20.22 BRUCYk3f0 293/829

賢者B「これが精霊の輝きか。幼き頃に読んだ伝説の存在が、七体もいるのを見ると圧巻だな」

賢者「他のパーティメンバーは処分しているのよね?精霊が現れずに棺桶が出現したら第無しよ」

「抜かりはない。全て手はず通りだ」

賢者B「そりゃよかった。そうだな、儀式が成功したら、魔王は俺達が代わりに倒してやるさ」

賢者B「よし、さっさと始めるぞ」

賢者B「撃て」

七人の術士が、七人の勇者に魔法弾を打ち込んだ。



その時だった。

少女「わっ!」

少女はとっさに、グリモワールの書のメモ書きで覚えた「飛行虫の目」の呪文を唱えた。

世界がスローモーションで動き始めた。

凄まじい速度で白い輝きが勇者の中から外に飛び出した。

ガラスで出来たような羽根の生えた存在が、勇者の亡骸を抱えた時だった。

賢者「来るわ」

魔法陣は自動的に発動した。

ペリペリペリ、という音が聞こえた。

賢者「精霊が勇者から引き剥がされたわ。呪術の網に入れるわよ」

賢者たちは有口詠唱を唱えた。

無言で巨大な魔物を切り裂く呪文を唱えることのできる彼/彼女らが、声を揃えて長い詠唱を始めるのは異例なことであった。

呪文の発動には精霊の力を介在する。

精霊殺しのための呪文の発動は、賢者と言えどよほどの敬意を払う必要があった。

世界に日常的に寿命を提供している彼らでなければ、発動さえ決して許されることのない、禁忌の儀式であった。

儀式は淡々と進んだ。

少女「14歳のときに書物で見た儀式が、ついに完成を迎えたんだ」

少女「寿命の移転が,始まる」

この一族が魔王の討伐に出なかった理由が、腑に落ちた。

私達一族にとって、勇者は、人間は、実験動物となんら変わらぬ存在だったんだ。

父にとっても。

320 : 以下、名... - 2017/08/11 01:37:06.19 BRUCYk3f0 294/829

かつてないほど長い詠唱だった。

少女はただじっと耳をすまして聞いていた。

それは、あまりに突然の出来事だった。

賢者「……待って!!」

賢者「あなた、どういうつもりよ!!」

賢者の言葉で、他の術者も違和感に気づいた。

術者「…………」ブツブツ…

術者のうちの1人だけが、明らかに異質な詠唱を始めていた。

「その詠唱は……!」

「今すぐ止めろ!!」

6人の術士が、詠唱封じの呪文を放った。

しかしそれは、天から降り注ぐ雷撃によって遮られた。

「なんだ!!」

「命令させてもらったんだよ。勇者という職業は電流を操るのに長けている。その術士は僕のパーティメンバーで、洗脳に近いことをさせて貰った。よくご存知だろう?」

冒険者の衣服をまとった男が立っていた。

賢者「この男、勇者よ!!精霊を宿しているわ!!」

賢者はとっさに魔法陣の中にいる勇者を数えた。

賢者「7人いるわ……だとしたら、あなた一体……」

「君たちは王国と手を組み、そこにいる7人の勇者を提供してもらっただろう。」

「僕はその王国出身の勇者だ。そして、こう呼ばれていたこともある」

「勇者殺しの勇者、とね」

「お前は、まさか……」

奴隷「ひさしぶりだね、研究者さん」

奴隷「今度は、僕が実験する番だ」

321 : 以下、名... - 2017/08/11 01:48:21.12 BRUCYk3f0 295/829

操られた術士は、詠唱を終えた。

魔法陣の色が、強烈な紫色に変わった。

儀式は失敗し、欲望は分裂した。

『キィィイイィイイイイ!!!!』

ガラスを鋭利なものでひっかくような音が響いた。

精霊が絶叫していた。

死んだ状態で精霊を引き剥がされた勇者達は、こと切れていた。

7匹の精霊は自分が宿っていた勇者の元まで飛んでいき、中に入り込んだ。

ぼこっ、ぼこっ、という音とともに、勇者の死体がうねりだした。

7人の勇者が身に付けている装備の一部だけを残し、他の部分は青い光の中に消滅していった。

賢者「どうなっているんだ!!」

奴隷「お前らは失敗したんだよ」

奴隷「勇者の命を大罪の賢者に送り込むための儀式は、勇者の死体に大罪の賢者の命を送り込む儀式へと変わった」

奴隷「装備に飲み込まれてしまえ。精霊殺しの大罪人どもめ」

7つの装備から、青白い手が伸びだした。

322 : 以下、名... - 2017/08/11 02:01:36.39 BRUCYk3f0 296/829

賢者「えっ?」

青白い手が賢者を掴んだ。

途端、賢者は装備を中心とした青い渦の中に飲み込まれた。

賢者B「破壊しろ!!」

術士達は呪文を放った。

強烈な呪文を食らっても、手は怯まずに、大罪の賢者を次々と引きずり込み始めた。

危険を知らせる感知呪文が里中に伝達された。

男は娘のもとへ駆けた。

少女「お父さん!!これ、どうなってるの!!」

「逃げるんだ!!手の対象は、一族出身者に絞られている!!」

「俺が、間違っていたというのか。生きながらせたい命を願ったことの代償は、こんなにも……」

「あの混乱の夜から、何も変わっていない」

里にいたものは逃げ出そうとしていた。

空中浮遊呪文や、魔法反射呪文、移動の翼などあらゆる手段で逃げようとした。

しかし、青白く光る7つの手が、片端から捕らえ渦の中に引きずり込んでいった。

323 : 以下、名... - 2017/08/11 02:36:12.88 BRUCYk3f0 297/829

奴隷「無駄だ!!」

大賢者と呼ばれる者達が、己の有する最大級の呪文を放つ。

それでも青白い手は弾かれては立て直し、腕を伸ばして襲いかかった。

絶え間なく呪文を放つが、劣勢に立たされていった。

少女「持続性……」

少女「持続性のある呪文を唱えれば、足止めができる……」

焦燥に駆られた少女は頭に浮かんだ呪文を、念じかけていた。

「よせ」

父親は少女の頭に手を置いた。

「今から大事な話をするからよく聞くんだ」

父親は里の混乱をよそに、少女に説明をはじめた。

324 : 以下、名... - 2017/08/11 02:38:14.04 BRUCYk3f0 298/829

「大罪の一族が全て飲み込まれたら、あの手は引っ込むはずだ」

「そしたら、あの7つの装備を身に付けなさい。そしたら、今度こそ正規の効力を発揮する。あの装備達が飲み込んだ寿命を、大罪の賢者に送り込むことができる」

「寿命を伸ばすことができるんだ」

父親はまっすぐ娘の目を見つめていた。

「生きることは、欲望だ。命の力を、人間を構成する7つの欲望に変えて、欲望に最もふさわしい者のもとに装備は向かってゆくだろう」

「冒険に出なさい。そして、君を助けるものを見つけなさい」

「生きるんだ」

少女は、目の前の父親に強烈な怒りをぶつけたかった。

少女「愚かよ!!!」

少女「おじいちゃんと一緒よ!!お母さんの亡骸に捕らわれて、私が生まれる前に王国でろくでもない研究をして!!そして自分を認めてくれた一族を滅ぼそうとしている!!」

少女「私もあの手に掴まれて死ぬんだわ!!それに、冒険なんかできっこない!!寿命が尽きてしまうもの!!」

少女「誰も、こんなこと望んでいなかったのよ!!」

少女は、涙を流しながら罵声を浴びせた。

父親は、涙を流しながら聞いていた。

「お前の言うとおりだよ。父さんは、愚か者だった」

「これからすることも、愚かなことなのだろう」

父親は魔力を使用し、地面に即席の魔法陣をつくった」

325 : 以下、名... - 2017/08/11 02:39:00.45 BRUCYk3f0 299/829

少女「一体、何を……」

父親は詠唱を始めた。

少女「たしか、これ、あの書物にあった……」

「『我から能力を奪い給え。我の全うせし職業を奪い、この子へふさわしい職業を与え給へ』」

父親は強制転職呪文をつかった。

少女「きゃっ!!」

少女は遊び人へと転職した。

父親は今までに身に着けた研究に関する知識を全て忘れてしまった。

父親は今までに覚えた呪文を全て忘れてしまった。

「君はもう、何ものとも戦うな」

少女に向かって伸びかけていた手は空中で止まり、他の獲物へと向かっていった。

手は、少女を、恨みを晴らすべきものたちではないと感じたらしかった。

326 : 以下、名... - 2017/08/11 02:40:05.01 BRUCYk3f0 300/829

奴隷「最期まで立派なお父さんだ。自分たちの幸せだけは守りたいというわけか」

すぐそばに、混乱を引き起こした男が立っていた。

「奴隷……」

奴隷「俺は今、迷っている」

奴隷「あんたの大切な娘さんを目の前で殺すか、それとも拷問にかけるか」

父親は奴隷を睨みつけた。

奴隷「もう呪文は使えないんだろう?どうやって抗う?」

少女「あの……」

少女は座ったまま、奴隷の手を握った。

少女「助けてください……」

奴隷「……くく」

奴隷「はははは!!!!命乞いか!!!!!」

奴隷「気に入った!!痛みを与えずに今すぐ殺してやろう!!」

奴隷は手を天にかかげた。

奴隷「女が灰になる姿を、もう一度眺めればいいさ」

「やめろ!!!!」

327 : 以下、名... - 2017/08/11 02:41:30.63 BRUCYk3f0 301/829

バリィイイインン!!!!!

バリィイイインン!!!!! バリィイイインン!!!!!

ガラスが激しく割れる音が立て続けに聞こえた。

奴隷は思わず振り返った。

奴隷「精霊が破壊された時の音だ。装備が完成したんだ」

奴隷「もう飲み込み終えたということか。これで大罪の賢者は全滅だ」

絶望している父娘に、奴隷は告げた。

奴隷「あとは生き残りのノーマルを殺すだけだ」

奴隷は掲げたままの手を、振り下ろそうとした。

その時だった。

奴隷「ぐぉ!!?」

装備のうちの1つが、奴隷の首に絡まりついた。

奴隷「どういうことだ!!」

奴隷が混乱している隙きをつき、父は1枚だけ懐に入れていた移動の翼を娘にもたせた。

「生きてくれ」

328 : 以下、名... - 2017/08/11 03:42:44.57 BRUCYk3f0 302/829

広場に生き残っていたものは、奴隷と男だけであった。

奴隷「はぁ…はぁ…」

奴隷「そういうことか。俺は、選ばれたということか」

奴隷は、狂喜に満ちた表情をしていた。

奴隷「嫉妬の欲望は俺を所有者として認めた!!嫉妬の首飾りは俺を選んだのだ!!!」

奴隷「まさか大罪の装備の所有者として選ばれるとは思わなかったぞ!!!だが、今なら確信できる!!」

奴隷「俺以外に、この欲望にふさわしき者などいないとな!!!」

「……嫉妬か」

奴隷「ふん、娘を逃して父親の役目を果たしたつもりか。用が済んだなら、他のノーマルの生き残りより先に殺してやろう」

「その力を以て、何を望む?」

奴隷「大罪の装備を全て手に入れる。はなからそのつもりだった」

「自分の欲望のためになら、他の幸福を踏み台にできるか」

奴隷「当たり前さ。お前がそうしてきたようにな」

「僕は、自分の欲望のために世界を犠牲にしようとしたことを後悔してはいない」

奴隷「正当化か。くだらん」

「正しいも間違っているもない。強いていうなら、全て間違っている」

「魔王の気持ちが、今ならよくわかるよ」

「きっと生まれ変わっても。同じような選択をしてしまうほど」

「あの子に惹かれていたんだ」

奴隷は男の言葉をろくに聞かず、首を刎ねた。




奴隷「お前には、少しだけ感謝をしているんだ」

奴隷「こんな俺と、出会わせてくれたのだからな」

奴隷は広場を見渡した。

奴隷「他の大罪の装備は消えたか」

奴隷「いずれ俺が全てを手にしてやる」

奴隷「手に入れられなかったものを全て、奪ってやるのさ!!」



残り6つの大罪の装備は、世界に散らばっていった。

暴食、色欲、傲慢、憤怒、怠惰、強欲。

それぞれの欲望に、ふさわしき持ち主を求めて。




~fin(後編に続く)~



329 : 踏切交差点 ◆uw4OnhNu4k - 2017/08/11 03:43:51.97 BRUCYk3f0 303/829

ここまで読んでくださりありがとうございました。
長い文章のため、世間が連休に入るこの時期までに後編も完成させたかったのですが、間に合わずに前編だけ投稿しました。
後編の投稿は秋頃の予定です(書き溜めを全体的に見直したいのと、仕事の都合で、少し間が空きます)。
中途半端になって申し訳ございませんが、お待ち下さると幸いです。


[紹介]
・ツイッターアカウント
踏切交差点
@humikiri5310
ウェブサイト代わりに使用しています。
後編が完成したらお報せします。


・他作品はこちらです(上からオススメ順)

女「また混浴に来たんですか!!」
http://ayamevip.com/archives/49663669.html

女「人様のお墓に立ちションですか」
http://ayamevip.com/archives/49227036.html

男「仮面浪人の道」
http://ayamevip.com/archives/50003936.html


あらためて、長文にも関わらず読んでくださりありがとうございました。

素敵な夏を過ごせますよう。

330 : 以下、名... - 2017/08/11 03:44:49.18 BRUCYk3f0 304/829

その、美味しそうに食べ物を頬張る姿に。

その、美しき肉体に宿る色気のある姿に。

その、手にした栄光を自慢げに誇る姿に。

その、感情を全面に出して怒りだす姿に。

その、床に寝そべり自由にくつろぐ姿に。

その、欲を張ってひたむきにもがく姿に。

その、となりを見てやきもちをやく姿に。

僕達は、恋をした。

次回「遊び人と大罪の勇者達(後編)」

戦わないことを許してくれた人のために、勇者は戦う。



続き
勇者「遊び人と大罪の勇者達」【#3】


記事をツイートする 記事をはてブする