剣と魔法と運送業【第一部】
-3ヶ月後 王都 街道-
ブロロロ…
ナビ『♪』ルンルン
男「ご機嫌だな」
ナビ『今日めっちゃ順調やんかぁ!珍しく荷待ち無しで積めたし』ニコニコ
男「大体待たされるからな、あそこの倉庫は」クスッ
ナビ『ウチらの日頃の行いがえぇからやなー』ウンウン
男「そうだな…」
男「…。」ボーッ
ナビ『んー?どしたん??』クルッ
男「…里での一件以降も、あちこちで軍と魔族の衝突が起きてる」
男「小競り合いから一般人に被害が及ぶ規模のものまで様々だが」
ナビ『そういえば増えたな』
男「…戦争は続いていて」
男「戦闘の度に傷付くのは普通に生きてる人達だったりもして」
男「…でも、俺達の仕事や生活自体にあんまり変化はなくて」
男「…。」
男「里での出来事が心の中で風化しつつあるのを感じるんだ」フゥ
ナビ『過ぎてしまえば、自分の身に降りかからなければ』
ナビ『忘れてってまう…みんなそんなもんなんちゃう?』
男「分からんではないけど…それでいいのかなって思うんだよ」ウーム
ナビ『んー男ちゃんの言いたいことも分かんねんけどな?』
ナビ『ウチらは勇者やない、ただの一般人やから』
男「…世界の命運を憂いても仕方ない、そう言いたいのか?」
ナビ『そこまで言わんけどなぁ』
…
ナビ『やからこそ、普通の日常を大事に過ごさなアカンなーとは思うねんかぁ』
男「普通の日常か…それは確かにそうだけどな」
ナビ『ま、ウチは男ちゃんとおれればおーるおっけーやし♪』ニシシ
男「お前は気楽でいいよな…」ハァ
ブロロロ…
…
-19:00 王立倉庫事務所-
同僚「異動っすかww?」
所長「うんそう。運送屋だけに」ププッ
同僚「草枯れる」
所長「あ、でも異動はマジよ」
所長「異動ってか抜擢?やったじゃない同僚ちゃん」
所長「しかも新規事業の立ち上げメンバーだってよ??」グイッ
所長「いやー眩しいわー後光が差してるわー」
同僚「抜wwww擢wwwww」
同僚「新規www事業wwww」
所長「いよいよ時代が君に追いついてきたんじゃないのー?このこのー」ウリウリ
同僚「どうやらそのようですねwww」フッ
同僚「それで?新規事業って何やるんすかww?」
所長「え?知らない」
同僚「えっ」
所長「えっ」
…
所長「なんかねー事務局の上層部直々の辞令なんだよねー」ホジホジ
所長「外部から顧問も呼ぶー?みたいな話ー?だったけど」フーッ
所長「とりあえず女ちゃんがプロジェクトリーダーになるみたいだからさー」
所長「明日の運行後にでも女ちゃんのとこに顔出してみてくれるー?」
同僚「深まる謎wwとりあえず了解っすwww」
所長「よろしくちゃーん」スタスタ
…
同僚「なんだか上手いこと乗せられてる気がwww」
…
-同刻 物流協会事務局 女の執務室-
カリカリ…
女「先人の知恵もなんとやら、面倒がらずに古い文献も漁ってみるものね」ペラ
女「今の魔術経典からは削除されている、情報転移や位相転移の詠唱…」フムフム
女「この辺を応用すればいけそうね…」ペラッ
女「問題は動力源、か」パタン
ドサッ
[禁書指定 それいけ!転移ちゃん!]
[禁書指定 カバでも出来る位相転移]
[禁書指定 絶対殲滅!爆撃☆どかん]
コンコンッ
女「どうぞ」シマイッ
先輩「おーす、おつかれ」ヒョコ
女「あら、お疲れ様」
女「遅くまで残業か?肌に悪いぞ」コーヒーヒョイ
女「ご心配どうも。でも今日は残業じゃないのよ」スッ
先輩「あぁ、いつもの趣味か」
…
女「ライフワークと言って欲しいわね、魔術の世界がこんなにも奥深いものだったなんて」フゥ
先輩「…あんまり奥まで首突っ込んで噛みつかれても知らんぞ?」
女「深淵を覗くものはまた同時に、って奴かしら?」
女「構いやしないわ、この探究心を止める事は誰にも出来ないもの」クックッ
先輩「お前ちょっとこえーよ…」ヒキッ
先輩「だが、覗き込んでくるのは深淵だけじゃないかも知れないぞ?」
女「それこそ望むところだわ、鬼でも蛇でも出てきてみなさい」フフフ
先輩「…そんな可愛いモンだったらいいんだけどな」ボソッ
…
-鍛治職人の里 広場-
ワーワー!タンッ!タンタンッ…!
親父「おーし!今日の稽古はこれまでー!」
<ありがとーございましたー!
親父「ふぅ…ガキどもの相手もなかなかいい運動になるな」フキフキ
親父「しかし…あいつら見てっと」シュボッ!スゥ…
親父「思い出すなぁ」スパァァ…
…
-17年前-
<こいつしゃべれねーんだって!
<えーへんなの!
<おいなんかいってみろよ!
幼男「…」グスッ
幼女「こらー!またよわいものいじめしてー!」ダダッ
<わ!おんなだ!
<おとこおんながきたぞー!
<にげろー!
幼女「まったくあいつら…」プンプン
幼女「さ!男くんかえろ?」クルッ
幼男「…」コクリ
…
幼女「でねー?あいつらったらひどいのよ!」ペラペラ
親父「まーアホどもの相手してもしゃーねぇさ」ゲラゲラ
親父「なぁ男!」ガシッ
親父「焦んなくていいんだぞ?」グシグシ
親父「声なんざ出なくったってお前はお前だ、女共々俺の大事な家族だ」
幼女「おじさん…」
親父「お前達の居場所はここにある。それだけ忘れんな、いいな?」
幼男「…」コクリ
親父「よし!」ニカッ
親父「まーそのうちコイツみたいにペラペラしゃべれるようになっからよ!」ゲラゲラ
幼女「なんかむかつくー」プクー
ワイワイ…
…
親父「クリスマスかー!」
親父「お前ら何か欲しいもんあるか?あんまり高ぇもんはダメだかんな!」
親父「…って!サンタのじじいが!」
幼女「わ、わたし新しい本が欲しい!」
親父「女は本が好きだなー!分かった!ジジイに頼んどく!」
幼女「やったー!」
親父「男、お前はどうだ?」
親父「何か欲しいモンあったらこのサンタのカタログを指差してだな」ズイッ
幼女「おじさん!ゆめがこわれる!」
幼男「…お…お…」
親父・幼女「!!」
親父「…何だ?ゆっくりでいいから言ってみ?」ナデナデ
幼男「お、おと…さん、て」
幼男「よ、よんで…い?」
幼女「お、男くん…!」ウルウル
親父「…っ!」ジワッ
親父「…ったくおめぇは無欲だな!修行僧かっつーんだよ!」グシグシ
親父「当たり前だろーが!パパでも親父でも好きなように呼んでいいぜ!」
幼女「うーんでもぱぱってかんじじゃないかも」
親父「そうだな…それに親父も…俺まだ30だし」ウーム
幼男「おと…さん」
幼男「おとさん!」ニコッ
親父「おうよ!じゃ決まりだな」ニカッ
…
-王宮 国王執務室-
側近「…。」
国王「…。」
事務局高官「…。」タラッ
側近「気になるな…この、男といったか」ペラッ
側近「先日の鍛治職人の里での事故現場に居合わせた際、過去の記憶のフラッシュバックによりナビシステムがダウン」
側近「本人は平気な顔をしていたのに、なぜナビシステムだけが…」
事務局高官「アカデミー研究員の話によれば、過去のトラウマの引き金になる記憶そのものが」
事務局高官「魔法石内部のナビシステム側にそっくり移動していたのでは、とのことで」
側近「共有ではなく移動だと?」
事務局高官「はい、原因は定かではありませんが…」アセッ
側近「ふぅむ…」チラッ
国王「…。」
側近「その後はどうなっておる?」
事務局高官「はっ、男との再リンクにより人格情報と記憶情報の相互共有に成功しました後は」
事務局高官「特に問題なく運行を行っております」
側近「…ひとまず落着、と見るか」チラッ
国王「いや」ギロッ
事務局高官「っ!」ビクッ
側近「その後は問題なし、と言ったが」
側近「再リンク後、その職員とナビシステムの関係性はどうなのだ?」
事務局高官「関係性、ですか…」
…
事務局高官「目に付く事と言えば、再リンク後は運行中の燃費効率が向上していますね」ペラッ
事務局高官「同じ運行でも拘束時間の短縮が見られたり」
事務局高官「総じて業務効率が上がっています」
側近「効率が上がったという事は、両者の連携が取れているという事だな」
事務局高官「はい。事務局としては良い傾向と捉えております」ニコッ
側近「…。」チラッ
国王「うむ」
側近「この男という職員とナビシステムについては、今後も注意を怠るな」
側近「何か変化があればすぐに報告するように」
事務局高官「し、承知しました」
側近「行ってよいぞ」
事務局高官「し、失礼致します」ソソクサ
…バタンッ
…
側近「…記憶の補完が成された結果、この職員の本当の出身地が明らかになりました」
側近「北西の村の生き残りだそうです」
国王「涙の欠片、か…」
側近「可能性はあります」
国王「うむ。今はまだ可能性の段階だ」
国王「しかし備えは常にしておかねばなるまい」
側近「…あれから20年、早いものですね」
国王「…。」ギリッ
…
-日中 王都街道-
ブロロロ…
ナビ『ん?あれ同僚ちゃんのカーゴちゃう?』
男「ホントだ、ちょっと声掛けていくか」
キキッ
ナビ『同僚ちゃんやっほー♪』フリフリ
ナビ『…って、あれ?』
男「同僚の姿が見えないな、配達中か?」
同僚ナビ『あら男さん、お疲れ様です』
ナビ『どーちゃんおつかれ!』ハイタッチ
同僚ナビ『はいはいお疲れ様です…ふふ』ハイタッチ
男「同僚は配達中か?」
同僚ナビ『いえ、今日は別行動なのですわ』フルフル
ナビ『べつこーどー??』
同僚ナビ『元々私は同僚さんの記憶情報を共有しておりますので』
同僚ナビ『その気になれば私単体で運行する事も可能ですのよ』
男「そうか、あいつの頭ん中の道路についての情報を使ってって事か」
同僚ナビ『そういう事ですの』
同僚ナビ『ま、実際の積み下ろし作業は作業員の方にやって頂いてますが』
タッタッタッ…
作業員「お、お疲れ様でーす」ハァハァ
ナビ『おつかれちゃん!どーちゃんにこき使われてるんやなー?』ニヤニヤ
作業員「いやもうこのナビ…手加減ってもんを知らなくて…」ヘトヘト
同僚ナビ『情けないですわねーこの程度で』ジトッ
…
男「まぁまぁ…お手柔らかに頼むよ」
男「それで、同僚の奴は?」
同僚ナビ『事務局ですわ』
同僚ナビ『何でも新規事業の立ち上げメンバーに選ばれたとかで』
男「全然知らなかった、最近会ってなかったからなぁ」
ナビ『すごいやん!出世やん!』
同僚ナビ『…そう単純な話には思えないのですが』
男「そうなのか?」
同僚ナビ『何か気になるのです…男さんも話を聞いてみて下さいまし』
同僚ナビ『事務局に行けばいると思いますので』
男「分かったよ、お祝いの一つもしてやらなきゃだしな」
同僚ナビ『よろしくお願い致しますわ』
…
同僚ナビ『それでは私達まだ配達がございますので』
作業員「え!もう行くんすか!?」
同僚ナビ『ほら、ちゃっちゃと行きますわよ!』
作業員「うへぇ…」ゲンナリ
ブォン!ブロロロ…
男「あーぁ、大丈夫かなあの人」タラッ
ナビ『ホンマにドSやなどーちゃん…』
-物流協会事務局 大会議室-
修道女「マッピングシステム?」
同僚「噂のwww新規事業www」
女「これは、この世界のありとあらゆる場所の地図情報を網羅して」
女「転移魔法と組み合わせる事で物流コストを大幅に削減する試みなの」
同僚「でもよーww物流コスト=俺たちの給料だぜ?」
同僚「自分で自分の首締めてる気がしないでもないんだがwwww」
女「短期的に見ればそうかも知れないわ、でも情勢は常に変化しているの」
女「同僚くんには、その優れた空間把握能力を活かして」
女「マッピングシステムの元となる、全世界の詳細な地図情報を構築してもらうわ」
同僚「世界をこの手にww熱いwww」
…
女「そして、地図情報を元に荷物の転移を行うシステムを作る為に」
女「詠唱のスペシャリストである修道女さんにお越し頂いたってわけ」
修道女「す、スペシャリストだなんて私」アワアワ
女「ここに世界各地の地図を用意してあるわ」ドッサリ
同僚「おぅふww山のようwww」
女「これでも世界中を網羅するには全然足りていないの」
女「例えば人の手の及ばない高山や密林」
女「未発見の島なんかも出てくるでしょうし」
同僚「その情報いるww?そんなとこに荷物届けねぇだろwww」
女「いいから。そういった場所へは実際に行ってみて詳細な情報を集めてきてもらうわ」
修道女「で、では手元の地図情報で足りない部分へは同僚さんを転移魔法で派遣して…という事ですか?」
女「察しが良くて助かるわ」
同僚「俺に伊◯忠敬になれとwww」
女「もちろん、修道女さんの負担にならない範囲でなら」
女「一緒に行ってもらっても構わないわ」ニコッ
修道女「え、ええぇぇ!??」
女「あくまで仕事に支障の出ない範囲で、ね?」ウインク
修道女「ど、同僚さんと…二人旅…///」
同僚「お前らほんっっっとに好きねーそういうのwwww」
同僚「まぁ良く分かんないけど、せっかくコンビ組むんだしwww」
同僚「よろしく頼むぜww」ニコッ
修道女「は、はいですっ!」ニコッ
…
-深夜 王立倉庫事務所-
カタカタ…カリカリ…
配車係「王立倉庫所属の50台を超えるカーゴ…」フゥ
配車係「毎日変わる仕事内容を考慮しながら、各車への仕事の割り振りをしつつ」
配車係「各ドライバーの労働時間や各種手当のバランス配分も考えて配車組みをしなければならない…」ウーム
配車係「誰かが勤務超過になる一方で、手当が少なく割に合わない誰かが出たりする事は極力避けなければいけませんからねぇ」
配車係「それらと並行して、車両トラブルや客先トラブルの対応など…」ハァ
配車係「行ったらすぐ積める!って聞いてた場所で実は1時間待ち!とかザラですからね!?」
配車係「1時間位…と思われるでしょうが」
配車係「1時間変われば結構違ってくるんですよ…」ウーム
…
配車係「これ、文章にすると伝わりにくいですが」
配車係「なかなか骨の折れる作業なんですよ…」ハァ
配車係「なんて、独り言も増えてしまいますよね」ハハ
先輩「おはよーさん」ガチャ
配車係「あ、おはようございます」
フーッ…カチッピンポーン
配車係「今日は夜間便でしたね…と、23時30分です」
配車係「今日は特に過積載注意です」
先輩「はいよ」カキカキ
先輩「ん?そういうお前は夜勤ってわけでもないはずだが」
配車係「いやー配車組みが終わらなくて…」ハハ
…
先輩「大変そうだな…お前の仕事にこそナビシステムが必要な気もするよ」
配車係「ホントですよ!…同じ脳味噌を持ったパートナーがいたらどんなに楽か…」ハァ
配車係「あ、ナビシステムといえば男さん達はその後どうですか?」
先輩「再リンク後って事か?まぁ上手いことやってるみたいだな」
先輩「前にも増して息ピッタリ…ピッタリ過ぎる位にな」
配車係「ピッタリ過ぎる?」
先輩「あいつらな、最近会話が減ったんだと」
先輩「話さなくてもお互いの考えてる事が何となく分かるらしい」
配車係「なんだか熟年夫婦みたいですねそれ…」
…
先輩「まぁ運行が順調なら問題はないんだろうがな」
配車係「その辺はばっちりですね」ペラッ
配車係「最近の男さん、勤務時間や燃費効率が目に見えて向上してるんです」
先輩「同じ運行内容で拘束時間が短縮したり燃費が良くなったりしてるって事は」
先輩「それだけあいつらの連携が取れてるって事だもんな」
配車係「このまま安定してくれればいいんですけどねー」
…
先輩「お前にとっちゃ日々が平穏無事に過ぎる事が何より大事だもんな」
配車係「その為の配車係ですからね」ハハ
先輩「んじゃまぁ、行ってくるよ」フリフリ
配車係「はい!お気をつけてお願いします」ペコッ
配車係「と、もうひと頑張りだ」カタカタ
…
-物流協会事務局 大会議室-
バサァッ!…
同僚「とりあえず王都周辺はこんな感じかwww」
修道女「すごい…こんなに細かい道の事まで把握しているんですね」
同僚「宅配ドライバーなめんなwwwそれに王都は俺の地元だしなwww」
修道女「王国周辺に関しては協会発行の地図でほぼ事足りますね」ペラッ
同僚「まぁ協会のカーゴが毎日走り回ってるわけだからなww」
修道女「同じ理屈で隣国やその周辺までなら…問題はその向こうですか」
同僚「大陸中央部とその東、いわゆる極東地域ってとこだなwww」
同僚「ここらは独自の文化が根付いていて王国(こっち)とはあんまり交易が盛んじゃないのよwww」
修道女「独自の文化ですか」
同僚「簡単に言うとクセがすごいwww」
…
修道女「それから、極東地域から南に下った辺り…」
修道女「この辺に関しては地図情報そのものがありませんね」
同僚「南の果てねwww噂じゃ精霊が暮らす不思議アイランドがあるとかないとかwwww」
修道女「せ、精霊ですか?」
同僚「そういうリアクションになるよなwww精霊ナビシステムじゃなくてガチの精霊らしいよwww」
修道女「じ、実在するんですかね」
同僚「分からんwwwでも未だに地図が作れない位だから人智の及ばない何かがいても不思議じゃねーわなwwww」
修道女「い、行ってみたいですね…」ゴクリッ
同僚「詠唱士としては気になる所だよなwww」
…
同僚「まぁとりあえず近いとこからでいいんじゃね?例えば大陸中央部の北に謎エリアがあるしwww」トントン
修道女「そ、そうですね!何事も一歩ずつですよね!」
同僚「おっけwwwそれじゃ早速行きますかwww」ガタッ
修道女「はい!最初の目的地は大陸中央部!平原地帯の…ここです!」ビシッ
[風の息吹よ 大地の鼓動よ]パァァァァ…
同僚「なんかダー◯の旅みたいwwww wまぁ実際にぶっ飛ばされるのは俺なんだがwww」
修道女「転移します!」ビリビリ
パァァァァ…バヒューーーーーン…
…
-05:40 王立物流倉庫-
ゴゥンゴゥン…
男「と、いうわけで」
ナビ『どーゆーわけや』べしっ
男「同乗者だ」
同僚ナビ『おはようございます』
ナビ『おー!どーちゃんおはよーさん!』ハイタッチ
同僚ナビ『朝から元気ですわね』ハイタッチ
ナビ『今日はどしたん??』
同僚ナビ『同僚さんが例の新規事業にかかりきりでやる事がないのです』ハァ
同僚ナビ『今日は宅配もヒマそうでしたので、配車係さんに頼んで同乗させて頂きましたの』
男「たまには他の奴の仕事を見学するのも勉強になるんじゃないか?ってさ」
ナビ『そーゆーことね!どーちゃんなら大歓迎やで!』ニカッ
…
同僚ナビ『良かったですわ。それで今日はどちらに向かいますの?』
男「今日は西の街へ武器防具の搬入だ」
ナビ『最近多いなーこの運行』
男「軍と魔族の衝突がそれだけ増えてるって事なんだろうな」
男「それ自体は喜べる事じゃないが、軍備が整うことで傷付く人が減るのなら」
ナビ『ウチらの仕事も誰かの役に立ってるって事やもんな♪』
ナビ『うっし!ほんなら行きますかぁ』
男「あぁ、今日も頼むぞ」
ナビ『はいなぁ♪どーちゃんもよろしゅーね』ニコッ
同僚ナビ『勉強させて頂きますわ』
ブォン!ブロロロ…
…
-道中 街道-
ブロロロ…
男「…。」
ナビ『…。』
同僚ナビ『…。』
ナビ『…ん、はい』ポチッ
男「うん」
同僚ナビ『…。』
男「…。」
ナビ『…。』
同僚ナビ『…。』
男「…あ、あれ」
ナビ『はぃな』
同僚ナビ『…。』
男「…。」
ナビ『…。』
同僚ナビ『…あ、あの』
…
ナビ『んー?どしたん?』
同僚ナビ『さっきからお二人、ほとんど会話してないですわね』
男「そうかな?」
同僚ナビ『なのにお互いの意図を正確に把握出来ていて、連携も完璧…』
同僚ナビ『見ていて少し気持ち悪い位ですわ』
ナビ『ひどいなーどーちゃん!』ケラケラ
同僚ナビ『気を悪くなさらないで下さいまし…でも一体どうやって会話なしで意思疎通を図っているんですの?』
男「んー何となく、かな?」
ナビ『なー。何となく分かってしまうねん、お互いの考えとぉ事』
同僚ナビ『何となく、ですか?』
…
男「まぁ元々が同じ心を持ってるわけだしな」
ナビ『そーそー。で、この前の再リンクで更に絆が深まった的な?』ニコッ
同僚ナビ『まぁそれを言われれば…私と同僚さんとは全然違うもので驚いたのです』
ナビ『どーちゃん達はどんな感じなん?』
同僚ナビ『運行中ですか?んー同僚さんがあの調子ですからね』
同僚ナビ『カーゴの運転を含めて大まかな作業は同僚さんが行なって、私は配送時間の管理などのサポート的な役割ですわ』
男「分業制なんだな」
ナビ『なー!確かにウチらと全然違うかも』
同僚ナビ『そうですわね』
同僚ナビ『しかし配車係さんの仰るように、違う方の仕事ぶりを見るのも良い勉強になりますわ』
同僚ナビ『真似は出来そうにありませんが』クスッ
…
-大陸中央部 平原地帯-
ビュォォォォォ…
同僚「さんみぃぃぃぃぃぃぃぃwww」
同僚「おい聞いてねぇぞww王国じゃもうコートもいらねぇってのにwwww」ガクガク
同僚「とりあえず目標地点はもうちょい北の方かwww」
ザッザッ
…
同僚「ん?誰かいるぞww」
同僚「…ありゃここらで暮らしてる遊牧民じゃねぇかwwラッキーwww」
同僚「すんませーんwww」ブンブン
遊牧民「何だお前そんな薄着で、旅の者か?」
遊牧民「…ん?その紋章は…」ユビサシ
同僚「へ?あぁ協会員証(パス)かww」
遊牧民「という事は、お前さん西の王国の者か」
同僚「そーなんすよwwwいや話が早くて助かりますぅwww」ヘラヘラ
同僚「実はですねぇwww」
かくかくしかじか
…
同僚「てわけでwwその地図に載ってない場所を調べに来たんすわwww」
遊牧民「そうか。西の王国の者とあれば無碍には出来ん」
遊牧民「ついて来い、案内する」
同僚「あざーっすwwwお願いしますwww」
ザッザッ…
…
-物流協会事務局 大会議室-
カリカリ…
修道女「ふぅ、とりあえず王国周辺の地図情報の編纂はこんな所ですか」パサッ
修道女「でも…仮に世界中の地図情報を網羅出来たとして」
修道女「実際に品物を転移させるにはどうしたら良いのでしょう…?」
修道女「毎回私が転移魔法を使うわけにもいかないでしょうし」
修道女「女さんは転移システムと仰っていましたが」
修道女「そんなものを動かすのに一体どれだけ膨大な魔力が必要なのか…見当もつきません」ウーム
修道女「…それに」ペラッ
修道女「地図でいう北の果て」トントン
修道女「存在する全てが凍りつく極寒の地」
修道女「世界中を、と言うならここもその範囲に入るのでしょうか…」
修道女「こことも交易を…?まさかね」
…
-物流協会事務局 女の執務室-
女「国王陛下が?」キョトン
事務局高官「僕も驚いたよ、まさか一介のドライバーとナビの話で陛下に呼び出されるとはね」
女「同感です…それで、陛下は何と?」
事務局高官「とりあえず男くんとナビシステムの動向から目を離すな、との事だ」
事務局高官「口ぶりからすると、男くんとナビシステムの親和性…シンクロ率とでも言うか」
事務局高官「それが高まっている事を気にされているようだったな」
…
女「シンクロ率…心の距離を数値化する事は出来ませんが、そういえば」
女「再リンク以後、彼らの会話が極端に減っていると聞いています」
事務局高官「減ってる?増えてるんじゃなくて?」
女「もう言葉を交わさなくても大抵の事は理解し合えるようです」
事務局高官「それは凄いな、僕も女房とそんな風になれるといいんだが」ハハ
女「…それはさて置き、親和性が高まる事が何か問題になり得るのでしょうか?」
女「実際に男くんの業務効率は向上していますし、メリットしかない気がしますが」
…
事務局高官「さぁ、良いとも悪いとも言わなかったからねぇ」
事務局高官「ただ気にしているのは確かなんだろうけど」
女「一体何なんでしょう…」
事務局高官「今の段階では何とも。まぁ我々に出来る事はそう多くない」
事務局高官「とりあえず女くんも、彼らについて何か変化があれば教えて下さいね」
女「分かりました」
ガチャ カツカツカツ…
女「男くんとナビちゃんの親和性…」
女「さっぱり分からないわ、陛下は何を懸念しているの…?」
…
-14:40 王立物流倉庫-
ゴゥンゴゥン…
同僚ナビ『今日はありがとうございました』ペコッ
男「お疲れ様」
ナビ『どーちゃんおつかれ♪まぁウチらの仲の良さは是非とも覚えて帰ってや!』ニカッ
同僚ナビ『またあなたって人は…あ、そういえば男さん』
同僚ナビ『同僚さんの所へは行かれましたの?』
男「それがまだなんだ、何ならこれから事務局に顔を出そうと思っててさ」
同僚ナビ『あらそうなんですの?それなら私も一緒に連れて行って下さいませんか?』
ナビ『お!それならウチも行くー?』
男「おい遊びに行くんじゃないんだぞ?…でもまぁ同僚も喜ぶかもな」
ナビ『せやろ?なー連れてってー??』
男「分かったよ、運行報告上げるついでに配車係さんに声掛けて行こう」
ナビ『やったー!』キャッキャ
同僚ナビ『お手数お掛けしますわ』
男「いいって。それじゃ行こうか」ピッ
[運行データヲ記録シテイマス…]
…
-物流協会事務局 大会議室-
コンコン ガチャ
男「同僚お疲れ様…って、あれ?」
同僚ナビ『あら、あなたは』
ナビ『噂のたゆんたゆんハニー!』
修道女「み、皆さんお久しぶりです」ペコッ
…
修道女「と、いうわけなんですよ」
男「新規事業…なかなか壮大なスケールなんだな」
ナビ『同僚ちゃん大抜擢やん!』
同僚ナビ『確かに、彼の力が認められたと思えば』
同僚ナビ『私としても鼻が高いですわ』
男「修道女さんも、今回は顧問として呼ばれてるんですね」
修道女「い、今の所同僚さんの編纂作業のお手伝いしかしてませんけど」アハ
同僚ナビ『あなたには専門の分野があるのですから』
同僚ナビ『いずれ存分に力を発揮されるのでしょう』
ナビ『おねーさんカッコえぇなー!』
…
男「それで同僚は早速転移魔法で飛んでったわけかー」
修道女「はい、今ちょうど地図でいうこの辺りに」トントン
男「この辺…平原地帯か」
ナビ『こんなだだっ広いとこになんかあんのー?』
修道女「はい。大陸中央部の北のこの辺りだけ」グリグリ
修道女「地図情報がすっぽり抜け落ちているんです」
同僚ナビ『今ペンで囲った周辺はどうなんですの?』
修道女「あまり詳しくはないですが、少なくとも山や河などの情報は有ります」
男「そこだけ地図から抜け落ちてる…普通に考えれば…」ムム
ナビ『なにー?』
…
男「調査に入れないほど治安が悪い、とかか?」
修道女「」
ナビ『あー武装勢力とか?』
同僚ナビ『ア◯カイダとかイ◯ラム国みたいな感じですわね』
修道女「」
ナビ『まーでも新規事業!って言うてババーンとやってんねから』
男「そうだよな」
同僚ナビ『当然、それなりの装備でご出立したのでしょうね』
男・ナビ・どー「ねー」
修道女「あばばばば」ブクブク
男「ち、ちょっと修道女さん!」
…
-大陸中央 平原地帯-
ビュォォォォォ…
遊牧民「西の王国の軍隊には、昔に世話になったんだ」
遊牧民「今は鞍替えして運送屋なんぞやってるって話は聞いていたが」
爺「本当だったんだな」
同僚「協会員証(パス)がこんな所で役に立つとはwww」
同僚「持ってて良かったwww」
同僚「ん?しかしこんな遠い所まで王国の軍が派兵されたなんて聞いた事ないぞwww?」
遊牧民「この辺りの人間なら誰でも知ってる事さ」
遊牧民「20年前のあの時、文字通り焼け野原となったこの地に」
遊牧民「王国の軍がいち早く救援に駆けつけてくれたんだ」
遊牧民「俺達は受けた恩を忘れないのさ」
同僚「素敵wwwここ来て良かったwww」
遊牧民「それ以外も、な」ギロリッ
同僚「…へ?」
遊牧民「こんな暮らしをしている我々だが、一応国家という共同体を構えている」
遊牧民「そして我々の国家は、西の王国とは交易を結ばない事になっている」
同僚「何でよーwwwそんなに恩義を感じてくれてるのにwww」
遊牧民「…行けば分かるさ」ギリッ
…
遊牧民「ほら、見えてきたぞ」
遊牧民「あれが、お前さんの言ってた場所…」
遊牧民「勇者の落涙だ」
…
-夕刻 物流協会事務局 女の執務室-
先輩「女ー?いるかー?」コンコンッ
シーン…
先輩「あれ、出掛けてるのか」
スタスタ
先輩「あ、なぁ君」
事務局職員「は、はい?」
先輩「女君どこへ行ったか知ってるかな?」
先輩「ちょっとナビシステムの事で聞きたい事があってさー」
事務局職員「女さんですか?」
事務局職員「女さんなら港湾倉庫へ管理簿を取りに行って、そのまま直帰の予定ですが」
先輩「あ、そーなんだー!」
…
事務局職員「何か伝言を残しておきましょうか?」
先輩「うーんそうだね」
先輩「じゃ"君の瞳に乾杯"とでも伝えておいてくれ」
事務局職員「え、えぇ!?」
先輩「ちゃんと気持ちを込めて言うんだぞ?」
先輩「なんだかんだ女性はそういうのに弱いものさ」ウインク
先輩「ほいじゃ失礼、ありがとねー」ヒラヒラ
事務局職員「な、なんだったんだ…」
…
先輩「管理簿なんて運行で訪れたドライバーにでも渡せばすむ話だろ」
先輩「しかも協会の書類を持って直帰って…んな訳あるか」
先輩「あいつ…何してるんだ?」
…
-翌日夜 王都酒場街-
[BAR REQUIEM]
カランッ…
女「わけが分からないわ」クイッ
先輩「国王陛下のお出ましとは穏やかじゃないな」グイッ
女「男くんとナビちゃんとの親和性…」
女「それが向上すると何かが起こる…?」
女「ダメ…足りないピースが多過ぎる」ウーン
先輩「そもそもナビシステムって何なんだろうな」カランッ
先輩「あ、俺アードベッグおかわりね」
先輩「君は?」
女「…マティーニ、うんとドライで」
先輩「あらら…」
…
<お待たせしました
女「…ナビシステムが本格的に運用され始めたのは約15年前」クイッ
女「噂では、私達の故郷である北西の村での事故を受けて開発が始まったらしいんだけど」
先輩「20年前のあれか」
先輩「それについてなら、俺も少し調べてみたんだが」
女「何か分かったの!?」ガタッ
先輩「まぁ落ち着けって…どうやら20年前のあの時、被害を受けたのは北西の村だけじゃないらしいんだ」
先輩「公式な記録には残っていないが世界各地…とりわけ大陸中央部での被害が甚大だったらしい」
女「大陸中央部?」
…
先輩「あぁ。正確には大陸中央部から北に向かったある一部のエリアが消失したらしい」グイッ
女「消えた?破壊されたのではなくて?」
先輩「俺も昔のよしみで軍の奴に聞いただけなんだけどな」
女「協会(うち)に来る前は軍にいたんですっけね」
先輩「で、その消失した場所…今でも地図には載ってないらしいが」
先輩「地元では"勇者の落涙"と呼ばれてるらしい」
女「勇者の落涙…聞いた事もないわ」
先輩「…と、いう話を伝えに昨晩君のオフィスへ行ったんだが」
先輩「タイミングが悪かったらしい」
女「昨晩?…あぁ、事務局の高官に急に呼び出されてね」
女「男くんとナビシステムの事、くれぐれも頼むぞって念を押されちゃった」クス
先輩「…そうか」
先輩「ま、とにかく20年前その場所で何かがあった」カランッ
先輩「恐らく勇者と魔王の大規模な戦闘だとは思うが」
女「そこでの被害を受けて、魔法石を用いたナビシステムの開発が始まった」
先輩「加えて言うなら、当時の陸軍が解体されて今の物流協会に再編成されたのもその頃だ」
女「…少しずつピースが揃いつつあるけど、まだ足りないわね」グイーッ
先輩「おいおい大丈夫か?」
女「大丈夫よ…ちょっと探究心に火がついてるだけ」フフッ
先輩「…そうなると止まらないからな、君は」
女「よく分かってるじゃない」ニコッ
先輩「…。」ハァ
先輩「そんなに気になるなら当事者に聞いてみればどうだ?」
女「当事者?…あっ」
…
-大陸中央部 平原地帯-
遊牧民「この丘の向こうだ」
遊牧民「歩いてすぐだから見て来るといい。俺はここで待ってる」
同僚「なんすかwwここまで来て一緒に行かないんすかwww」
遊牧民「あそこは気が滅入る」
同僚「なんだよつれねーなwww了解っすwじゃ見てきますよっとww」
ザッザッザッ…
遊牧民「…。」ジッ
…
-勇者の落涙-
…オォォォォォオォォォ…
同僚「でけぇぇぇwww」
同僚「小高い丘を登った先がクレーターみたいになっててw」
同僚「直径は…そーねー東◯ドーム位かしらんwww?」
同僚「で?その中は…www」ノゾキー
同僚「っ!?」ゾクッ
同僚「は、はい…!?」
…
同僚「意味が分からん…」ザッザッザッ
遊牧民「戻ったか」
同僚「…暗くて見えないとかってんじゃない」
同僚「クレーターの中の空間そのものがまるで切り取られたみたいに」
同僚「存在してない…」
同僚「なんだありゃ…何が起こったらこんな事になるんだ??」ガタガタ
遊牧民「…20年前のあの日、この地で勇者と魔王の大規模な戦闘があった」
遊牧民「恐らく、先代の勇者はそこで決着をつけるつもりだったのだろう」
遊牧民「持てる力の全てを出し尽くし、しかし魔王には深手を負わせたものの倒す事は出来ず」
遊牧民「その時の勇者の攻撃の残滓が、彼の失意の涙と共にこの地を抉った…」
遊牧民「そう言われている」
同僚「伝聞かいwww」
遊牧民「空間が消し飛ぶ程のエネルギーだぞ?近くで見物なぞ出来るわけなかろう」
同僚「それもそうかwww」
…
遊牧民「俺達は家を持たないから、勇者達がこの地に訪れると分かった時点で避難を始めた」
遊牧民「だがそれでも、少なくない数の同胞が巻き込まれて土地と共に消滅した」
同僚「し、消滅…!?」ギョッ
遊牧民「…いち早く駆けつけてくれた王国軍には感謝している」
遊牧民「勇者達の事も、仕方なかったと一定の理解はしている」
遊牧民「だが、結果として我々が同胞を…家族を失った事は確かだ」
同僚「…。」
遊牧民「勇者と、彼を擁立した王国…」
遊牧民「我々が王国と交易を結ばないのはそういった理由だ」
…
同僚「すんません…なんか、俺」シュン
遊牧民「気に病むな、お前さんを責めるつもりはない」肩ポンッ
遊牧民「かつてそういった歴史があった、という話だ」
遊牧民「そして、その時の残滓…涙の欠片が」
遊牧民「ここから世界各地に飛び散ったのだ」
同僚「涙の欠片?じゃあそれが…」
爺「王国の方でも被害があったんじゃないか?」
同僚「えぇ、俺の同期の奴の故郷に」
同僚「…勇者の落涙、か」ジッ
…オォォォォォオォォォ…
…
-05:00 隣国港-
ゴゥンゴゥン…
ナビ『えらい時間にえらい場所やな』
男「今日の運行は長丁場だからなー」
ナビ『えーと今日の積み地は…水の街?』ピラッ
男「街というか島だな」
男「街中に運河が張り巡らされているんだよ」
ナビ『運河って川?そんなとこカーゴで入っていけるん??』
男「いや、島内は車両通行禁止だ」
男「陸地から橋を渡った街の入り口近くに倉庫があって、そこで積むんだよ」
ブォン!ブロロロ…
…
-11:00 隣国 街道-
ブロロロ…キキッ
ナビ『すごーい!海の上に橋が架かっとぉー!!』
男「橋の全長は約10km、さすがに街の様子は見えないな」
ナビ『海の向こうへ続く橋…ロマンチックやけどちびっと怖いかも』ブルッ
男「…帰って来れなかったらどうする?」ニヤァ
ナビ『いやぁぁやめてぇぇ!!』ブンブン
男「冗談だよ」ケラケラ
男「それじゃ行こうか」
ナビ『うぅ…今日の男ちゃんいじめっ子やぁ…発進しますぅ』ウルウル
ブォン!ブロロロ…
…
ナビ『ほぇー…』ウットリ
ナビ『海の上を…飛んでるみたいや』
男「ホントだな、走ってるというより飛んでる感じだ」
ナビ『鳥や!ウチは鳥になったんや…!』トリー
男「おーい帰ってこーい」
ブロロロ…
…
-11:15 水の街 倉庫-
ブロロロ…キキッ
ナビ『とうちゃーく!』
男「港から6時間、なかなかの距離だったな…んー」ノビーッ
ナビ『男ちゃんおつかれさま!』
男「ナビもな。お疲れ様」ポンポン
ナビ『ん。へへっ♪』ニコッ
男「さて、早速荷物を積むか」
倉庫職員「おーいこっちこっち!」テマネキ
倉庫職員「バックで入って来ておくれー!」
男「了解でーす!」
ピーッ ピーッピーッ
…
倉庫職員「長旅ご苦労さん!これが今日積んでってもらうクリスタル細工だよ」
パカッ…キラキラッ
ナビ『わぁ…すっっげー!!!』キャッキャ
男「クリスタル細工といっても色のバリエーションが豊富なんですね」
倉庫職員「豊かな色味もここらのクリスタル細工の特徴なのさ」スッ
倉庫職員「ちょっと持ってみるかい?」ズイッ
男「え、いいんですか?」
倉庫職員「どの道王国までアンタに運んでもらうんだ」
倉庫職員「どんなモンか知っておいてもらって損はない、そうだろ?」ニコッ
男「そ、それじゃ失礼して…」ソーッ
ナビ『お、男ちゃん落としたアカンで!フリやないで!!』ハラハラ
…
男「おぉ…!びっくりする程軽い…!」
倉庫職員「クリスタルを薄く仕上げるのが職人の腕の見せ所なのさ」フフン
ナビ『そっか、薄ければその分軽くなるわけやな!』
倉庫職員「まぁ混ぜる色味によっても多少変わるんだけどね」
倉庫職員「どうだ、すごいだろ」ニカッ
男「す、すごいです」コクコク
ナビ『えぇなぁ…めっっちゃ綺麗…』ウットリ
倉庫職員「なんだいお嬢ちゃん、すっかり気に入ったみたいだねぇ!」
ナビ『こんなん女の子やったら誰でも惚れてまうって!』
倉庫職員「分かるよ!アタシも歳は食ったが心は女の子だからね!」ハハッ
倉庫職員「よし!ちょいとお待ち!」ゴソゴソ
男「?」
…
倉庫職員「さすがにグラス何かはちと厳しいけど、これならいいだろ」スッ
倉庫職員「クリスタル製の鈴だよ、お土産に持っていきな」チリンッ
男「えっ!いいんですか!?」
倉庫職員「可愛いお嬢さんには優しくってのがここらのやり方なのさ」ウインク
ナビ『うぉぉーマジかぃー!職員さんありがとぉー!!!』
チリンッ…
…
男「積み込み完了!」ゴトッ
ナビ『伝票印字中ー』ジジジ ペリッ
男「じゃあ確かにお預かりしました」
倉庫職員「頼んだよ!」
倉庫職員「そういやそろそろランチタイムだね、街で食べてくんだろ?」
男「出来ればそうしたいな、と」
ナビ『ご飯っご飯♪』ウキウキ
倉庫職員「だったらすぐそこの桟橋からヴァポレットに乗って行くといいね」
倉庫職員「カーゴは倉庫の脇に停めてって構わないから」
男「色々ありがとうございます」ペコッ
ナビ『ホンマにありがとー!!』
倉庫職員「なんて事ないさ!水の街へようこそってね!」ニカッ
…
-11:30 水の街 倉庫桟橋-
男「桟橋って事は舟か」
魔法石(ナビ)『職員さんの言ってはった…ば、ばぽ…』
男「ヴァポレットだったかな」
スーッ スーッ… ザブンッ
船長「あいお待ちどうさん」ゴトッ
男「すごい…手漕ぎなのか」
魔法石(ナビ)『カーゴがそこら中走り回っとぉ時代に…軽くカルチャーショックや』
…
スーッ スーッ… ザブンッ ザブンッ
男「座って乗って大人8人位が定員かな」
男「なるほど、手漕ぎだから本当に波の音しか聞こえない」
男「それと…」
魔法石(ナビ)『♪』チリンチリンッ
男「その鈴すっかりお気に入りだな」
魔法石(ナビ)『風に揺られる度にえぇ音が…ほんで可愛いし』ニコニコ
男「良かったな」ニコッ
魔法石(ナビ)『シップとは全然違うけど、こういうお舟もえぇな!ふぜーがあって!』ウキウキ
…
-11:40 広場桟橋-
スーッ スーッ… ザブンッ
船長「はいお疲れさん」ゴトッ
男「ありがとうございました」ストッ
魔法石(ナビ)『船長さんありがとー!』チリンッ
男「さて、何を食べようかなー」
チョイチョイ
男「ん?誰か引っ張ったか?」キョロキョロ
魔法石(ナビ)『男ちゃん、下や!』
男「下?」ミオロシー
仮面娘「」チョイチョイ
男「のわっ!!」ビクビクッ
…
魔法石(ナビ)『猫の仮面を被っとぉ女の子…めっちゃちっちゃいな』
仮面娘「お前に言われたくないぞ石っころ」
魔法石(ナビ)『な、なんやと!?』ムカッ
男「まぁまぁ、迷子かも知れない」シャガミ
男「どうしたの?家族とはぐれちゃったのかな?」ニコニコ
仮面娘「お前、光を見たな?」
…
男「?」
仮面娘「」クルッ
タタンッ… クルクルッ
仮面娘「嘆きの夜に星粒降った」♪
仮面娘「星の礫が島を屠った」♪
男「…な、なにを」
仮面娘「涙の欠片は揺るがぬ力」♪
仮面娘「その身を救うか」♪
仮面娘「食われて死ぬか」♪
仮面娘「どちらに転ぶか心次第」♪
クルッ タタタタッ…
…
魔法石(ナビ)『行ってもた』ジーッ
魔法石(ナビ)『しっかしなんやあのチビっ子!ウチを石っころ呼ばわりしてからに!』ムキーッ
男「…。」ポカーン
魔法石(ナビ)『おーい男ちゃーん?』チリンチリンッ
男「光…嘆きの夜…」
男「涙の欠片…?」
…
-13:00 水の街 倉庫-
男「…って事があったんですよ」
倉庫職員「あぁ嘆きの夜ね、20年前の」
男「20年前!?それって…!」
倉庫職員「ここから遥か北の大陸で勇者と魔王の戦いがあって、流れ弾が街に落ちたんだって」
倉庫職員「幸いこの街は運河や水路が張り巡らされてるから、大きな火災にはならなかったんだけど」
倉庫職員「それでも結構な人数が死んじまったもんだから、街の向こうの小島…まぁ本当に小さな島なんだけど」
倉庫職員「そこを丸ごと墓地にして埋葬したんだよ」
魔法石(ナビ)『島を丸ごと墓地に!?』
男「そうだったんですか…ちょうど同じ頃です、俺の故郷が同じような目に会ったのも」
倉庫職員「そうかい…まぁその頃は今より魔族の数も多かったって言うしねぇ」
…
男「あと、その女の子が"涙の欠片"って言ってたんですけど…」
倉庫職員「涙の欠片?そん時降ってきた流れ弾の事かねぇ」
倉庫職員「それは聞いた事ないねぇ、すまないけど」
男「いえいえ、色々とありがとうございます」ペコッ
倉庫職員「いいんだよ!」ニカッ
倉庫職員「あ、それとね」
…
魔法石(ナビ)『?』
倉庫職員「兄ちゃんさっき女の子って言ってたけど…ありゃ80過ぎのお婆さんだよ」
男「いいっ!??」
魔法石(ナビ)『う、嘘やろ…』ガビーン
倉庫職員「20年前に嘆きの夜に体験した事を、街を訪れる人に歌って聞かせて回ってるのさ」
倉庫職員「ま、20年前でも60過ぎだからやっぱりお婆さんなんだけどねぇ」ゲラゲラ
男「信じられん…てっきり迷子か何かだと」アゼン
魔法石(ナビ)『ホンマや…不思議な街やなぁココ…』ボーゼン
…
-鍛治職人の里 親父の家-
…
親父「女!久しぶりだな!」
女「すみません、全然顔も出せずに」
親父「なぁに気にすんな!若い奴が忙しいのはいい事だ」
女「おじ様も里の皆様も、お元気そうで安心しましたわ」
親父「ハハッ。あんなもんでくたばる程落ちぶれちゃいねぇよ」
親父「俺も、里の連中もな」ガハハ
親父「しかし珍しいじゃねぇか、事務局勤めだと運行には出ないんだろ?」スッ…シュボッ!
女「えぇ基本的には。今日はおじ様や里の皆様のご様子を伺いに」
親父「…って訳じゃねぇのは顔を見りゃ分かるぜ?」スゥ…スパァァ
女「…流石ですわ」
…
親父「そりゃ分かるさ、自分の娘の事だからな」ニコッ
女「…おじ様のその言葉、どんな時も私の心の支えです」ニコッ
親父「それで、今日はどうした?彼氏でも出来たか!」ケラケラ
女「ち、違いますわ!」
女「…それはまた改めて」ボソッ
親父「お、おいマジか…」タジッ
女「コホンッ!…今日はどちらかと言うと、おじ様のお話を伺いに来ました」
親父「俺の?」
女「おじ様…もとい、先代勇者一行の一人」
女「伝説の剣士様のお話を、です」
親父「…。」スパァァ…
…
-物流協会事務局 大会議室-
修道女「…。」ウツラウツラ
…バシュゥゥ!
修道女「っ!!」ビクッ
修道女「ど、同僚さん!?」
同僚「ただいまちゃーんwww」
修道女「お、おかえりなさい!」
同僚「いやぁ転移魔法って結構酔うのねコレwww」フラッ
修道女「ご、ご無事ですか!?」アタフタ
同僚「どうにかなwww運良く地元の人に案内してもらえたからよww」
修道女「じ、地元の人…!?」ビクッ
修道女「だだだ大丈夫でしたか!?首と胴体ちゃんと繋がってますか!??」グイグイ
同僚「何を縁起でもねぇwwwちょwwいってぇぇ引っ張るんじゃねぇぇwww」ジタバタ
…
同僚「なるほどなww男の意見の方が遥かに現実的だわwww」ウンウン
同僚「…現実より、な」
修道女「?」
同僚「さてw地図ぷりーずww」
修道女「は、はい!」ババッ
修道女「今回調査して来られたのは地図上でいうここ、大陸中央部の北端ですね」ツンツン
同僚「そうそうここねwwいやーありゃ地図には表せねぇよwww」
同僚「だって存在してねぇんだもんwww予想の斜め上過ぎwww」ケラケラ
修道女「そ、存在していない…?」ポカーン
同僚「まーそういうリアクションになるよねwww分かるーwww」
同僚「とりあえず勇者泣き過ぎィ!っていう話よwwwww」
修道女「何が何だかさっぱりです…」
…
同僚「だよねwwwまぁエールでも飲みながらゆっくり聞かせるよんww」
同僚「とりあえず今日もういいべwww飲んじゃうべwww繰り出しちゃうべwww」
修道女「し、しょうがないですねー!」
修道女「なんて。ホントにお疲れ様です」ニコッ
…
-19:00 隣国港-
サァァァァァ…
男「ダメみたいだな」ガチャ
ナビ『シップ動かんてー?』
男「あぁ、出航まで3時間は掛かるみたいだ」
ナビ『さ、3時間!?』
ピピッ
男「お疲れ様です男です、えぇそうみたいです、シップの故障で」
男「分かりました、はい了解です」カチャ
…
ナビ『配車係さん何てー??』
男「どの道待つしかないってさ」
ナビ『あちゃー』
男「その代わり、明日は仕事が少ないから休みにしてもらっちゃったよ」
ナビ『そっか、ならまぁえぇか』
男「のんびり待つとしよう」フフッ
サァァァァァ…
…
男「…。」ペラッ
ナビ『…。』チョコン
ナビ『(男ちゃんは時々本を読む)』
ナビ『(ウチは大体、男ちゃんの肩に乗っかって一緒に読む)』
ナビ『(おしゃべりでけへんのは寂しいけど)』
ナビ『(一緒に読みながら、男ちゃんの横顔をじっくり見られるこの時間が)』
ナビ『(案外好きやったりする)』ニヘ
男「…。」ペラッ
ナビ『(男ちゃん睫毛なが…)あっ』
…
男「ん?」ピタッ
ナビ『あ、ごめん』
男「ううん、どした?」パタン
ナビ『や、男ちゃん睫毛長いなーって』
男「えーそうか?」
ナビ『うん長い。でな?何で今まで気付かんかってんやろーって』
ナビ『…あ、眼鏡か。って』
男「そっか、仕事中はいつも眼鏡だもんな」スチャ
ナビ『おー眼鏡掛けるといつもの男ちゃんやー』
男「ははっそんなに変わるか?」
ナビ『うん変わる。なんや眼鏡してないと…エロい』
男「ぶっ!なんだよそれ」アハハ
ナビ『いやマジやて。あれは良くない』ウーム
男「良くないって…ダメって事なのか?」
ナビ『逆や!エロくて危ないねん』
男「…わけ分かんないなー」フフッ
…
ナビ『あっ本読むの邪魔してごめんな?』
男「平気だよ」
ナビ『ってか、一緒に読んでたけど』
ナビ『せつないお話やなぁ』
男「そうか?…うん、そうかもな」
サァァァァァ…
ナビ『雨、止まんね』
男「そうだな…」
…
サァァァァァ…
ペラッ
男「…。」
ナビ『…。』ストッ
男「(ナビとの会話が減ったのは、話さなくても分かり合える事が増えたのも確かにある)」
男「(でも、多分それだけじゃない)」ペラッ
男「(ナビは間違いなく、世界中の誰よりも俺の事を理解してくれている存在だ)」
男「(だけど、俺はどうだろう?)」
男「(俺は彼女の事をどれ程理解しているのだろう?)」
…
ナビ『♪』プラプラ
男「…おい、見えちゃうぞ」
ナビ『!』ババッ
ナビ『み、見た!?』
男「いや、惜しくも」
ナビ『っ…お、惜しいんかいな』カァァッ
男「ってかそれ、その、中までちゃんと」
ナビ『あ、当たり前やろ!ノーパンで居ろっちゅうんか!?』
男「いやそうじゃなくて…くふふっまぁいいや」ケラケラ
ナビ『なんや笑ろてるし…』ジトーッ
…
男「(…考え過ぎだろうか)」
男「(彼女は…俺の事…)」
サァァァァァ…
…
-07:00 王都 街道-
ブロロロ…
男「んー今日の運行もようやく終わりかぁ…んー」ノビーッ
ナビ『今回は長旅やったなぁ…でも色んな事あって楽しかったわぁ♪』
男「そうだな、素敵なお土産も貰えたし」チリンッ
ナビ『ロリっ子みたいなおばあちゃんに会ぅたり』クスッ
男「あれには驚いたな」クスクス
ナビ『その後入ったお店で食べてたん何やったっけ?』
男「イカ墨スパゲティか、あれにも驚いたな!美味しかったけど」
ナビ『男ちゃん口の周りも中も真っ黒やねんもん!ゾンビなったか思ったわ!』ゲラゲラ
男「鏡見て自分でも思ったよ」ハハッ
…
ナビ『…なぁ男ちゃん?』チョコン
男「ん?」
ナビ『…いつまでもさ。こうしておれたらえぇな』
男「あぁ、そうだな」
ナビ『…。』ズキン
男「いつもありがとな、お前とのコンビは本当に仕事がやりやすいよ」ポンポン
ナビ『え、えへへ…せやろ?』ニコッ
男「本当にいつまでもこうしてやって行けたらいいな」
ナビ『せやな…』
ナビ『…。』
ナビ『…あんな?男ちゃん』
男「?」
ナビ『…好きやで』ボソッ
…
-深夜 王立倉庫事務所
ナビ『最近な?ズキズキすんねん。』
同僚ナビ『ズキズキ?システムに不具合でも?』
ナビ『そうなんかなー』
同僚ナビ『どんな時に症状が出ますの?それによってはまたメンテナンスして頂いた方が…』
ナビ『うんとね、男ちゃんの事を考えとぉ時。』
同僚ナビ『男さん?』
ナビ『うん、男ちゃんの事好きやなーって思っとぉ時。』
ナビ『でも、それが上手い事伝わらへんなーって時。』
ナビ『…ホンマは伝わったアカンねやろな、って思う時。』
ナビ『なんでウチ生身の女の子じゃないねやろ、な、って時、とか。』ウルッ
同僚ナビ『本当に…あなたって人は』
ナビ『人…って言うてくれんのどーちゃんだけやで。』ヘラ
ナビ『だって人間ちゃうもん。ウチら』
同僚ナビ『…よろしいですか?』フゥ
…
同僚ナビ『確かに私達は生身の人間ではありません』
同僚ナビ『しかし、例え誰かを元にした存在であっても』
同僚ナビ『私達がそれぞれ独自の"心"を持っている事は紛れも無い事実ですわ』
ナビ『こころ…』
同僚ナビ『そうです。私達はそれぞれ固有の心を持つ存在』
同僚ナビ『それがある限り、私達は少なくとも"限りなく人に近い存在"と定義されても間違いではない…』
同僚ナビ『と、私は考えていますが』
同僚ナビ『如何ですか?』
ナビ『限りなく人に近い存在かぁ…』
同僚ナビ『あなたの気持ち…恐らくは恋心と言うのでしょう』
同僚ナビ『それが本当の意味で叶うかどうか、私には分かりかねます』
同僚ナビ『ですが、少なくともそういう気持ちを抱く事それ自体は』
同僚ナビ『誰にも否定されるべきではないと思いますよ?』ニコッ
ナビ『どーちゃん…』ウルウル
ナビ『じ、じゃあ…えぇんかな?』
ナビ『ウチは男ちゃんのこと好きでいてえぇんかなぁ??』
…
同僚ナビ『そういう気持ちが芽生える事、それこそが』
同僚ナビ『私達に"心"がある何よりの証左でしょうからね』
ナビ『そ、そっかぁ…!』
ナビ『ウチ、男ちゃんのこと好きでいてえぇんや!』パァッ
同僚ナビ『…無責任な事は言えませんが』
同僚ナビ『友人として、あなたが幸福になれる未来が訪れる事を』
同僚ナビ『私は願っていますわ』ニコッ
ナビ『どーちゃぁぁん…ありがとぉ』ウルウル
…
配車係「(…思わず息を潜めちゃったけど)」
配車係「(ナビちゃん達にまで"いないもの"扱いされる僕の存在って…)」ハァ
配車係「(でも…ナビシステムの"心")」
配車係「(それが、人間のものに限りなく近づいている)」
配車係「(陛下の懸念されている事って…この事なのか?)」
-鍛治職人の里 広場-
ワーワー…ワイワイ…
親父「ここのガキ共はホントにタフだ」
親父「あんな事故があったのに、こうして元気に遊び回ってやがる」シュボッ…スゥゥ
女「子供達の笑顔を見るとホッとしますね」
親父「そうだな。同時に、何とかしてその笑顔を守ってやらなきゃと思う」
親父「…普通ってな、いいもんだ」スパァー
…
女「…。」
親父「…。」
女「勇者の落涙という場所についての噂を聞きました」
女「20年前、その場所は先代勇者と魔王の戦闘によって土地が消失したそうですね」
親父「…。」
女「加えて、先日男くんとナビシステムの関係について、国王陛下から事務局へ進言がありました」
女「一介のドライバーに対して国王陛下が直々に、です」
女「陛下は間接的ではありますが、彼らの親和性が高まっていく事を危惧されているような口ぶりでした」
女「勇者の落涙と、その直後から始まったナビシステムの開発」
女「軍の解体と再編成」
女「陛下が危惧されている、人と魔法石の接近」
女「これらは全て関連しているように私は思うのです」
女「そしてそこには、何かが隠されているように思えてならないのです」
女「…その何かは、ひいては男くんの身に起こるかも知れない何かを示唆しているのではないか、と」
…
親父「…。」グシグシ
親父「女は昔から知識欲が半端なかったよな」ニコ
女「…そうでしたか?」
親父「そうとも。他の子供が玩具やなんかを欲しがる中で」
親父「お前はいつも新しい本を欲しがった」
親父「今のお前を見てると、あん時沢山本を読ませてやれて本当に良かったと思うよ」
親父「その知識欲が今のお前を作ってるんだからな」ニカッ
女「感謝しています」ニコッ
親父「…。」シュボッ スゥ…
…
親父「やらずに後悔するよりもやって後悔しろ!なんて言葉があるが」
親父「そうとも限らねぇと俺は思う」
親父「やってしまった事、それも取り返しのつかない事を…」
親父「そういう後悔はいつまで経っても消えやしねぇんだ」
親父「女ならそれが分かるだろう?」
親父「お前はあの時、男が閉じ込められた火事場に助けに入れなかった」
女「っ…。」
親父「お前はその事を悔やんでいるようだが、もしあの時お前がそこに飛び込んでいたら」
親父「お前は死んでたかも知れない」
女「…っでも!それは!」
親父「俺はお前を連れて逃げてくれた村の奴に今でも感謝してるよ」グシグシ
女「おじ様…」
…
親父「…世の中な、知らねぇ方がいい事もあるんだ」
親父「まぁお前のことだ、俺が言わなくてもいずれ答えに辿り着いちまうんだろうが」
親父「今はまだその時じゃねぇよ」
女「おじ様!それはどういう」
親父「よく調べちゃいるが、まだピースが足りてねぇな」
親父「"もうすこしがんばりましょう"ってとこだ」ガハハ
女「…。」
親父「それにな、話の順序が違うのさ」
女「順序?」
親父「男の奴に伝えてくれ、たまには剣術の稽古に来やがれ!ってな」
親父「そろそろ、あのすっとぼけた顔に喝入れてやらなきゃならねぇ」ガハハ
…
-夜 王都 酒場街-
ワイワイ…ガヤガヤ…
<乾杯っ!カチーンッ
同僚「ぷはーwうめーwww」
修道女「ふふっ。一仕事終えた後の一杯は」
同僚「それなwww最高wwww」ニカッ
修道女「いつものREQUIEMも素敵ですけど、こういう気取らないお店もいいですねー」キョロキョロ
同僚「だろwwwここのフィッシュフライがまた美味いんだぜwww」
同僚「ちょっと待ってろwww」ガタンッ
…
同僚「おまたせちゃんwwwほら冷めないうちに食べなwww」ドンッ
修道女「わ!いただきます!」ハフハフ
修道女「んー美味しいー!スイートチリソースがまた合いますねぇ!」
同僚「分かるよその表情wwwどれw俺もいただきますwww」パクッ
同僚「エールが進むこと進むことwww」ゴクゴク
…
修道女「すごい場所だったんですね、勇者の落涙って」
同僚「すんごいわよホントww空間が無いってwwわけわかめwww」
修道女「でも、それ程の大きな爆発の渦中にいて」モグモグ
修道女「先代勇者様はどうなっちゃったんでしょうか?」
同僚「さすがに死んじまったんじゃねーのかwww?泣き疲れてwww」
修道女「またすぐ茶化すんだから…」
同僚「そもそもよwwいくら勇者とは言え空間を消し飛ばす程のエネルギーをぶちかますなんて可能なわけww?」パクッ
修道女「んーさすがに独力では不可能でしょうねー」
…
修道女「何か大きなエネルギー源…例えば巨大な魔法石とか」
修道女「そういった何かと勇者様の力が反応して、爆発を起こした…」
修道女「そう考えるのが自然ですね…ラス1もーらい」ヒョイ パクッ
同僚「あっww」
修道女「んーおいひー」もぐもぐ
同僚「ちょw慈愛の心はどこ行ったww」
修道女「美味しいものは別ですー」ニシシ
…
同僚「…ん?でもそうすると」グビ
修道女「何ですか?」ゴク
同僚「いやwその魔法石との反応が偶発的なモンだったとしたらよww?」
同僚「それって事故だよな?」
修道女「…!そうかも知れませんね」
同僚「魔王に本気と書いてマジの一撃を叩き込もうとしたらw」
同僚「偶然ビッグな魔法石と反応しちゃってドカーーンwwwて事だろww?」
同僚「先代勇者まじ不憫wwww」
修道女「今の仮説が正しいとしたら、王国はその事実を隠してるってことになりますよね?」
修道女「もしそうなら、冗談抜きで勇者様が不憫過ぎます…」
同僚「そしてその爆発に巻き込まれた奴らもな…」ギリッ
…
<ありやしたー!
ガラガラッ
同僚「ふぁーww美味かったww」
修道女「またいいお店教えてもらっちゃったー」フフッ
同僚「そういやお前さいきん飲んでもとっ散らからないのねwww」
修道女「私も少しずつ大人になってるって事ですよー!」ニコニコ
同僚「何よりですwww」
修道女「あ!ちょっと同僚さん!」ササッ
同僚「ちょw何ぞww」コソコソ
…
<やだもーウフフ
<ん…チュッ…
修道女「ま、街中でちゅっちゅしてますよー!」コソコソ
同僚「おやまぁお盛んなww」コソコソ
修道女「も、もしかして…」コソコソ
同僚「んww?」
修道女「ど、同僚さんもああいう事をその…あの…ご所望かな…なんt同僚「はい終了ww良い子は寝る時間よーっとwww」グイッ
修道女「あ!ちょっと!」
同僚「お子ちゃまには刺激が強いんじゃwww」グイグイ
修道女「そうやって子供扱いしてー!歳なんて大して変わんないじゃないですか!」ジタバタ
同僚「更に盗み見なんて趣味まで悪いwwwお天道様が見てますよwww」グイグイ
修道女「うぐ、それを言われると確かに…」
…
同僚「分かったなら良しwwんじゃ2軒目行くべwww」
同僚「とっ散らからないって約束出来るひとーww」
修道女「はーい!」シュタッ
同僚「よーしww」
修道女「れっこらごー!」ウキウキ
…
同僚「…。」フゥ
…
-西の街 第1倉庫-
ゴゥンゴゥン…
ナビ『積み込み終わったでー♪』
男「あぁ。さて次は…と、」
男「あれ、どこ行くんだっけ?」
ナビ『えー?今積んだB級品の武器防具を里の仮設工房へ持ってくんやろ?』
ナビ『もう頼むわぁ』ケラケラ
男「あーそうだった」
男「里の炉が治るまでの仮の施設を西の街の外れに作ったんだったな」
ナビ『そーゆー事!まぁここから1時間ちょっとやからすぐ着くけど』
男「了解。それなら早速行こう」
ナビ『はいなぁ♪ほな行きまっせー!』
ブォン!ブロロロ…
…
-道中-
ブロロロ…
男「ん?あれ」ゴソゴソ
ナビ『どないしたん?』
男「いや預かり伝票どうしたかなって」ゴソゴソ
ナビ『バイザーんとこは?男ちゃんいつもそこ挟むやん』
男「あ、あった」
男「わるいわるい」ハハ
ナビ『あんなぁ…』ハァ
ブロロロ…
…
-深夜 物流倉庫事務所-
配車係「男さんがボケた?」
魔法石(ナビ)『せやねん。疲れてるのかも知らんけど』ハァ
配車係「それは単に忘れっぽいとかって事じゃなくて、ですか?」
魔法石(ナビ)『んーそれもあんねん。けど、えっそれ忘れる!?みたいな事とか』
配車係「例えばどんな事でしょう?」
魔法石(ナビ)『この前なんて先輩さんの名前が出てこんくて10秒位フリーズしてもうて』
配車係「最近出番少ないですからね…」
…
魔法石(ナビ)『何わけ分からん事言うてんの…でもさーそんなん忘れる?』
配車係「そうですねー。あ、これは重要な事なのですが」
魔法石(ナビ)『なにー?』
配車係「男さんが忘れてしまっている事…例えば人の名前とか」
配車係「ナビちゃんはしっかり覚えている事なのですね?」
魔法石(ナビ)『もちろん。むしろ男ちゃんの事やのになんでウチが教えてあげなアカンねん!みたいな事もあるわ』
魔法石(ナビ)『ウチはオカンちゃうねんで!って』
配車係「母でもなければ嫁でもないぞ、と」
魔法石(ナビ)『よ、嫁かぁ…』テレテレ
配車係「おーいナビちゃーん」フリフリ
魔法石(ナビ)『!』ハッ
配車係「全く可愛いんだから…」クスクス
…
配車係「でも確かに気になりますね、ドライバーの体調管理も僕の仕事ですし」
配車係「僕の方からも少し聞いてみます」
魔法石(ナビ)『ホンマに?頼むわー!』
魔法石(ナビ)『ありがとな、配車係さんっ♪』ニコッ
配車係「(うっ…可愛い)」
配車係「(…僕もナビシステム欲しいな)」ハァ
…
-翌日 物流倉庫事務所-
先輩「男の物忘れ?」
配車係「はい。なんでも親しい人の名前まで出てこなくなるようで…先輩さんとか」
先輩「マジか」
同僚「最近出番少なかったからなwww」ケラケラ
ゴチンッ
同僚「いってぇwww脳天直撃セ◯サターンwwww」
先輩「全くお前は」ハァ
先輩「しかしそれはちょっと心配だな」
配車係「僕から本人には聞いてみようと思ってるんですが」
同僚「まぁアイツ元々ちょっと抜けてるとこあったっすけどねwww」
…
先輩「そうか?俺には割としっかりしてるように見えてたが」
同僚「だってアイツ、ナビシステムが自分の心を写し取ったモンだって事も覚えてなかったじゃないすかww
同僚「ほら酒場で話した時www」
先輩「あぁ再リンクの直前か、覚えてるぞ」
配車係「ナビシステムのインストールによる記憶障害は一時的なもので、だいたい半日もすれば回復するのが一般的なんです」
先輩「え、そうなのか?」
…
同僚「ですねwww俺もインストール直後は若干ありましたけどw次の日には治ってましたわwww」
先輩「じゃあ男の場合は元々そういう傾向があって、再リンク以降その症状が進んだって事か?」
配車係「かも知れません。ただ、ナビちゃんの方にはその記憶情報がしっかり残ってたりもしてるみたいで」
同僚「ナビちゃんにツッコまれながらもどうにかやってるわけかwww熟年夫婦かよwww」ケラケラ
先輩「むぅ….女にも話を聞いてみるか」
…
先輩「ってかお前、事務所にいるなんて珍しいじゃないか」
配車係「今日は同僚さんは内勤です」
同僚「報告書の作成wwwほらこの前新規事業のアレで飛んでった時のww」カキカキ
先輩「やっぱそういうの出さなきゃなんだな」
同僚「マジちょーめんどくせーっすwww大体地図の作成とか運送屋の仕事なんすかww?」カキカキ
先輩「抜擢された時はノリノリだったくせによく言うぜ」クスクス
…
…
配車係「物流協会(うち)は国営組織ですからねー、一応公務員みたいな扱いになるので」
先輩「単に運送業だけでなく、物流に関わるあらゆる仕事をするって訳だ」
同僚「まぁ色々やる事あんのは面白いからいいんすけどねww事務仕事は苦手だwww」
配車係「日がな一日事務所に缶詰め…日頃の僕の苦労が分かるでしょう」クックック
先輩「お前ちょっとこえーよ…」
…
-鍛治職人の里-
カンッ!カカンッ!ダダッ…!
男「うるぁっ!」ブンッッ
親父「ほい」カカンッ
親父「ほらよっ」ズバッ!
男「っく…!ぐぬぬ…」ガキンッ…ギリリッ
親父「ふっ。そんなモンかよっ」ギリリッ…バシッ!!
男「のわっ」ヨロケ
親父「そい」ビシィッ
ピタッ…シィィィン
男「…くっ。参った」タラーッ
…
親父「いやぁー俺もまだまだイケてるじゃねぇか」ガハハ
男「ガキの頃から比べれば腕も上がったと思ってたが…まだ親父には勝てないか」
親父「確かに、実戦で鍛えてる分動きは良くなってるぞ」シュボッ スゥゥ…
親父「ただ太刀筋に迷いがあるな」スパァァ
男「迷いか…」
親父「ほれ」スッ
男「ありがと」シュボッ スゥゥ
スパァァ…モクモク
…
親父「太刀筋の迷いは心の迷い」
親父「そこらのオーク位ならともかく、強い奴と対峙する時にそんなんじゃ」
親父「お前、死ぬぞ」
男「まぁ俺は運送屋だからな、そんなにヤバい魔物と遭遇する事はないだろうけど」ハハッ
親父「んなん分かるモンかよ、戦争中なんだぞ」
男「…そうだな」
親父「この前、女が来てな」
親父「お前の事えらく心配してたぞ」
男「女が?ナビとの再リンクも上手くいったし今更何を…」
親父「さぁな。お姉ちゃんはいつまで経っても弟の事が気掛かりなモンだ」ハハッ
…
親父「聞いたぞ、再リンクの事」
親父「全部思い出したんだろ?」
男「あぁ、北西の村での事からな」
親父「…そうか」
男「親父、ほんとうn親父「あーそういうのいい!パス!」
男「パスって…」クス
親父「俺はお前と女の父親だ。以上!」
男「…うん」フフッ
…
男「ちょっと聞きたいんだけど」
親父「んー?」
男「涙の欠片って知ってるか?」
親父「…どこで聞いた?」
男「この前、運行で水の街って所へ行ったんだけど」
男「そこで聞いたんだよ、先代勇者と魔王が戦った時の話に出てきて」
親父「水の街…運河の島か」
男「そうそう!その街に流れ弾が飛んで来たのもちょうど20年前だって言うから」
男「ちょっと気になってさ、大した話じゃないんだけど」
親父「…。」
…
-同刻 物流倉庫事務所-
ナビ『(男ちゃんの長い睫毛)』
ナビ『(華奢な指先…ハンドルを握っとぉ時の腕の筋肉)』
ナビ『(はねた癖っ毛…優しい声)』
ナビ『(…はぅ)』キュン
同僚ナビ『…完全にやられてますわね』
ナビ『…茶色がかった深緑色の瞳』
同僚ナビ『ついに声に出し始めましたわ』
ナビ『笑うと見える八重歯…!』
同僚ナビ『…そのうち"おぉロミオ!"とか言い出しそうな勢いですわね』
ナビ『…なんか、聞こえる』
同僚ナビ『へ?』
…
オォォォ…アァァァァ…
同僚ナビ『ほんとですわ…何ですの?この呻き声みたいな響きは』ゾクゾク
ナビ『遠くの方から…なんや苦しそうやなぁ…』
配車係「~♪」カキカキ
同僚ナビ『生身の人間には聞こえていないようですわね…』ゾクゾク
ナビ『ってか、いたんやな配車係さん』
オォォォ…アァァァァ…
同僚ナビ『気味が悪いですわ』
ナビ『うん。でもなんか可哀想…』
…
オォォォ…アァァァァ…
うぉぉぉぉぉぉ!!!!
ナビ『!』ビクッ
同僚ナビ『!』ビクビクッ
同僚ナビ『こ、今度は何ですの!?』
ナビ『さっきのとは違う…今のは…近いで』
グラ…グラグラ…
…ドカァァン!!!!
…
- 同刻 物流協会事務局 大会議室-
同僚「というわけでwwww」
修道女「早速次なる場所へ向かいましょう!」バサァッ
同僚「次は~ここwww」トントン
修道女「独自の文化を持つ極東地域…」
同僚「その中でも一際トンがった国らしいぜwwwなんでも卵を生で食うらしいwww」
修道女「げげ!マジですか!?」
同僚「更にww悪い事をした奴は自分で腹切って死ぬらしいwww」
修道女「どういう状況なんですかそれ…」
…
同僚「まぁそんなもんは序の口らしいけどなww何しろ情報があんまりないwww」
修道女「だからこそ調査が必要、って事ですもんね」
同僚「そーゆー事www今回はお前も一緒に行くぞwww」
修道女「はい!この日の為にばっちり準備してきましたから」グッ
同僚「準備?あぁ装備とか食糧とかって事ねwww」
修道女「(し、勝負パンツとか…)」
修道女「(なんて言えねーです!)」カァァッ
同僚「ほいじゃまー行きますかwww」
修道女「はい!詠唱始めます」スゥ
…
[風の息吹よ 大地の鼓動よ]パァァァァ…
[数多の空を駆け巡りし 勇壮なる汝の名において…]
グラグラ…グラ…グラグラ
同僚「ん?地震かwww?」
グラグラ…ガガァンッ!!!!
同僚「!!」ヨロッ
修道女「!!…っく」パァァァァ
同僚「おいおいなんかヤバそうだぞこれ」グラグラ…
…
ピピーッ!ピピーッ!
<緊急警報 建物内にいる職員は直ちに所定のシェルターへ避難して下さい
<繰り返します 緊急警報…
同僚「緊急警報!?な、何だってんだ!!」
ガガァン!!ドカァァン!!
同僚「うおっ!!お、おい!なんかヤバそうだぞ!!」アセアセ
修道女「…っ」フルフル
パァァァァ…
同僚「今更詠唱は止められねぇか…」
同僚「しゃーねぇ!俺も男だ!」ダキッ
修道女「!!」カァァッ
[無限に翔ける翼の力で 我らを導き給え]
修道女「て、転移します!」
同僚「いっけぇぇぇマ◯ナムぅぅぅ!!!」
バヒューーーーーン
…
-同刻 王都 市街地-
ガラガラッ…モクモク…
陸軍警備隊長「くそったれ!奴ら王都に直接攻撃を仕掛けて来やがった!!」
隊員「そこら中に攻撃の痕が…しかし、魔族の姿が見当たりませんね」キョロキョロ
隊長「逃げ足の速い奴らめ!とにかく人命最優先だ!!」
隊長「第1から第3部隊までは救援活動に当たれ!!」
隊長「第4部隊は索敵!!俺について来い!!」
隊員「了解!!ぬぁぁ魔族の野郎どもー!!」
バタンッ ブォン!…ブロロロ…
…
-同刻 物流協会事務局-
事務局長「被害の状況は!?」
事務局高官「物流倉庫への被弾が2箇所、預り荷への被害はいずれも軽微です」
事務局高官「職員達への人的被害も今の所ありません」
局長「そうか…」ホッ
女「ただ…」
局長「女くんどうした?」
女「ちょうど攻撃の最中に、同僚くんと修道女さんが転移魔法を使用しました」
局長「マッピングシステムか」
女「はい。もし仮に、魔族からの攻撃が高い魔力を用いた詠唱だった場合…」
局長「修道女さんの転移魔法と干渉し、転移の到達点にズレが生じる可能性がある…」
局長「そういう事だね?」
女「仰る通りです」コクッ
局長「マズいな…」
…
-同刻 王宮 陸軍警備部 監視室-
ウゥー!ウゥー!
警備部長「どこから攻撃されたか分からないだと!?」
職員「はっ。今調べておりますが、王国全域にある120の警備用の魔法石…」カタカタ
職員「そのどこにも魔族の出現は感知されておりません!」カタカタ
警備部長「人間のする事だ、如何に万全な警備体制を敷いた所でそれらが破られる事はある…が」
職員「残念ながら。しかし、そもそも魔族の出現すら発見できないなどという事は…」
警備部長「理論上有り得ない、か」
警備部長「どうなってやがる…まさか王国内部に…?」
…
-同刻 鍛治職人の里-
<ドォォォン…!ドカァァン…!
親父「!」
男「!」
…モクモク
親父「…あっちは王都じゃねぇか」
男「ま、まさか!王都へ魔族の攻撃が!?」ダダッ
親父「っ!おい!待て!」ガシッ
男「こうしちゃいられない!協会や王都のみんなが…!」
親父「落ち着けって言ってんだよ!!!」クワッ
男「…っく」キィィン…
親父「ここから王都までどんなに急いだって2時間は掛かる、ドライバーやってりゃ分かんだろ!」
親父「王都には陸軍の奴らが常駐してるんだ、最悪の事態なんざそうそう起こねぇよ!」
男「で、でも…!」
親父「だから落ち着けって…!行くなとは言ってねぇ」
親父「ちょっと来い」スタスタ
男「…?」スタスタ
…
-親父の家-
親父「里の炉があんなんなっちまう直前にな」ゴソゴソ
親父「ずーっと手を入れてた剣がようやく完成したんだよ…っと」ゴソゴソ
男「剣…?」
親父「あったあった」ガサッ
スチャ…キランッ
親父「持ってけ」スッ
男「親父…これって」スチャ
親父「俺が昔使ってた剣だ」
親父「お前の体格や剣技に合わせて仕立て直してある」
男「今使ってるのより少し短い…そしてすごく軽い」ブンッ
親父「お前の手に馴染むハズだぜ?何せ俺が育てたんだからよ」
親父「剣も、剣士もな」ニカッ
…
男「ん?この柄の丸い凹みは…」
親父「いいか男」ズイッ
親父「迷いに克つんだ」
親父「剣に限らず、最後は腹括った奴が生き残る」
親父「勝とうとなんざ思うな」
親父「とにかく生き残れ」
親父「人間、生きててナンボだ」ニカッ
男「親父…分かったよ」
親父「気ぃつけて行ってこい」
親父「そして必ず無事で帰って来い」
親父「お前達の居場所はここにある」
男「あぁ…ありがとな」ニコ
…
-???-
…ヒュゥゥン…バシュッ!
ドサドサッ!!
同僚「のわっ!いってぇwww」
修道女「ち、着地失敗です…あ」
ぽよーん
修道女「あ、あの同僚さん…手をどけて頂けますか…///」
同僚「む、これは失敬wwまさにこれこそラッ◯ースケベwww」サッ
修道女「もう!むしろスケベの方を伏せて下さい!」
同僚「とりあえず手の残り香をばww」クンカクンカ
修道女「へ、変態!!」バシバシ
…
シィィィン…
同僚「…どこだここww?」
修道女「真っ暗で何も見えませんね、広い空間だという事は分かりますけど」
同僚「段々目が慣れてきたなw」
同僚「ん?あのデカいまん丸いのは何ぞww?」
修道女「岩、ですかね?それにしては…ま、まさか魔法石とか!?」
同僚「いやいやいやwww魔法石にしちゃデカ過ぎでしょwwww」
同僚「ア◯ファード位あんぞwww」
修道女「ですよね、こんな巨大な魔法石なんて聞いた事が」
バババッ
…
同僚「っ!?眩しwww」
修道女「急に灯りが…」
警備兵1「おい貴様ら!そこで何をやってる!!」ガチャ
警備兵2「ここは関係者以外立ち入り禁止だぞ!!どうやって侵入した!!」ドタドタ
同僚「やべwwいっぱい来たwww」
修道女「わ、私達完全に侵入者だと思われてますよ!!」アセアセ
同僚「まぁ間違ってないわなww故意じゃねぇけどww」
警備兵3「武器を捨てろ!!」スチャ
警備兵4「両手を上げて膝を付け!!」
同僚「あのーww俺ら王国物流協会のモンでしてww」
警備兵5「む?確かにそれは協会員証…」
警備兵6「騙されるな!偽造したものに違いない!!」
警備兵7「そうだ!大体こんな所へ届け物などあるものか!!」
同僚「確かにwwウチら空荷でーすwww」パタパタ
修道女「ふ、ふざけてる場合ですか!!」
…
グイッ
同僚「おい、ここから飛べるか?」ヒソヒソ
修道女「ど、どうでしょう…こういう場所では結界が張られている事も」ヒソヒソ
同僚「ってかよく見りゃアイツら王立騎士団じゃねぇか」ヒソヒソ
修道女「っ!という事はここって王国の中…!?」ヒソヒソ
同僚「どうやらそうみたいだな…とりあえずわけわかんねー外国じゃねぇなら」ヒソヒソ
同僚「どうにかなんだろ」ニカッ
…
同僚「あー皆さんwとりあえず身分証を提示するのでご覧遊ばせww」ポイッ
同僚「ほらお前もww」
修道女「は、はいです!」ポイッ
警備兵8「んーどれどれ…同僚…王都在住…お前写真写り悪いなぁー」
同僚「やめてww気にしてるのにww」
警備兵9「こっちの娘は王立修道院の者のようです!」
同僚「実は俺達、物流協会の新規事業の担当でしてwww」ヘーコラ
かくかくしかじか
…
同僚「…ってなわけでしてww」テモミ
警備兵10「そうか、あの騒ぎで転移に失敗したと」
警備兵11「物流協会事務局と連絡が取れました!この者たちの言っている事は本当です!!」
警備兵12「と、いうわけだ。疑ってすまなかったな」武器シマイ
警備兵13「しかし不法侵入には違いないぞ?物流協会とは言え、配達でもないんだからな」
同僚「仰る通りでww」ヘヘーッ
修道女「す、すみませんでした」シュン
…
警備兵14「まぁ事情は分かったから拘束はせん。速やかに立ち去るんだな」クルッ
同僚「ありがとうございますぅwww」フカブカー
修道女「か、感謝します!」フカブカー
同僚「あw失礼ついでに何ですけどww」
警備兵15「ん?何だ?」
同僚「俺達文字通り飛んで来たもんで、帰り道が分かんねーんすわwww」
同僚「ここって王国のどの辺なんすかねww?」
警備兵16「あぁそうか。ここはな、王宮の地下にある部屋」
警備兵17「巨石の間だ」
…
-翌朝 王都市街地-
ワイワイ…ガヤガヤ…
売り子「号外!号外!!」ペラッ
[王都襲撃は王国内部からの犯行か!?]
[暗躍するテロリストの影!!]
-物流協会事務局 女の執務室-
女「災難だったわね」
同僚「まったくひでぇ目に遭ったぜww転移した先が徒歩圏内とかwww」
修道女「ご迷惑をおかけしました」フカブカ
女「顔を上げて頂戴。2人のせいじゃないわ」フルフル
同僚「しかしあのデッカい魔法石www一体何なんだww?」
修道女「警備兵さんは巨石の間と仰っていましたけど…」
女「巨石の間…巨大な魔法石」
女「そんな話聞いた事もないわ」
修道女「私達の見たものが巨大な魔法石であるなら、私の詠唱と何らかの原因で干渉して」
同僚「転移魔法が邪魔されたってかwww」
女「そうね…と言うか、引き寄せられたのかも知れないわね」
修道女「引き寄せられた…それじゃ!」
女「まだ憶測だけれど」
女「何らかの意思が働いているのかも」
同僚「石だけにってかwww」ケラケラ
女「…。」
修道女「…同僚さん、一回ぶっていいっすか」ジトッ
…
-同刻 物流倉庫事務所-
男「みんな無事か!?」バタンッ!
魔法石(ナビ)『!お、男ちゃん…』ウルウル
魔法石(ナビ)『怖かったよぉぉぉぉぉぉ』ビエーン
男「あぁ、もう大丈夫だ」ナデナデ
配車係「お、男さん!」タタッ
男「配車係さん!無事で何よりです」
配車係「事務局を含めて、協会の職員は皆さん無事のようです」
男「そっか…良かったぁ」ホッ
配車係「市街地では軽傷者が出ているようですが、それでも大した被害は無かったようで」
男「親父の言ってた通りだ、さすが王国陸軍」
配車係「まぁそれはそうなんですが…」
男「どうしたんですか?」
配車係「…人で溢れて、かつ縦横に入り組んだ王都に攻撃が加えられて」
配車係「なのに1人の死者もない、というのは…」
男「不幸中の幸いでしたね」
配車係「…本当にそうでしょうか?」ペラッ
…
男「これは?」
配車係「市街地で配られているタブロイドの号外です」
男「王国内部…テロリスト!?」
男「じ、じゃあ外から攻撃をされたんじゃなくて」
配車係「分かりません。タブロイドなんて面白おかしく書き殴ってナンボですから」
配車係「ただ王都の人達は疑心暗鬼に陥っているようで…」
魔法石(ナビ)『ヒック…ヒック』ウルウル
男「仕方ないです、みんな…」
男「怖かったんですよ、な」ナデナデ
魔法石(ナビ)『うぅ…』ウルウル
…
-夜 物流協会事務局 大会議室-
男「さて、集まったな」
女「明日から復旧作業やら何やらで忙しくなると思うから」
女「今の内に情報を付き合わせておきましょう」
同僚「知りたがりのおねーさんだな全くwww」ヒソヒソ
男「悪いな、昔からなんだ」ヒソヒソ
女「コホン!聞こえてるわよ」
女「まずは同僚くんの見てきた勇者の落涙ね」
同僚「ありゃあスゴかったwww空間が消し飛ぶって何だそりゃwww」
修道女「私は直接見たわけではありませんけど、それだけの膨大なエネルギーを放出する事は」
修道女「いかに先代勇者様であっても、独力では不可能です」
女「何らかのエネルギー源と先代勇者の力が反応して、大爆発を起こした…」
女「そういう事ね」
修道女「その可能性はあります」
…
男「北西の村で起こったような事が、水の街でもあったらしいよ」
女「水の街って、クリスタル細工で有名な?」
男「そうそう、まさにそのクリスタル細工を積みに行ったんだけど」
男「そこに流れ弾が飛んで来たのもちょうど20年前らしいんだ」
女「それじゃあ、もしかしたら勇者の落涙による被害だったのかも知れないわね」
同僚「…人が亡くなったのか?」
男「…あぁ、水の街近くの小島を丸ごと墓地にしたらしい」
同僚「…そうか」ギリッ
…
男「そこへ来て、巨大な魔法石の登場か」
女「王宮地下の巨大な魔法石…巨石が、勇者の落涙を引き起こしたものだったとしたら」
女「事故後の王国軍の派兵、その後の軍の解体と再編成」
女「この辺りの辻褄が合うわね」
修道女「当時の王国軍が勇者の落涙から巨石を運び出して、その後事実関係を隠蔽する為に組織ごと解体した…」
同僚「展開が分かりやすくてwww」
男「でもさ、そこまでして巨石の存在をひた隠しにする意図は何だ?」
修道女「"不幸な事故がありました、原因はこの魔法石でした"」
修道女「先代勇者様はお気の毒ですが、それで話の筋は通りますもんね」
…
先輩「悪いな、お待たせ」ガチャ
同僚「先輩ちーっすwww」
男「お疲れ様です、運行だったんですね」
先輩「あぁ、男の代打で西の街へな」
先輩「帰って来て驚いたぞ、なんだこの有様は」
魔法石(ナビ)『なぁなぁ、ウチもえぇかな?』ピョンピョン
…
女「ナビちゃん、何かあるの?」
魔法石(ナビ)『あんな?攻撃が始まる直前に変な声が聞こえてん』
女「変な声?」
同僚ナビ『地の底から響くような、苦しげな呻き声でしたわ』
同僚ナビ『それも、私達だけに聞こえていたようで』
男「ナビ達にだけ…?」
ナビ『でな?呻き声の方はな?遠くから聞こえとぉ感じやってんけど』
同僚ナビ『そのすぐ後、今度はもっと近い場所から』
同僚ナビ『そう、本当に耳元で叫ばれているかのような声が聞こえましたの』
ナビ『あれはビビったなぁ…でもそっちは呻き声というよりは咆哮やな?』
同僚ナビ『えぇ、勇壮ささえ感じましたわ』
…
女「呻き声と咆哮…それらを合図にして」
女「王国内部に潜伏していた魔族が一斉に攻撃を仕掛けた…?」
男「でも警備網のどこにも魔族は引っ掛からなかったんだろ?」
先輩「俺もそう聞いてるぞ」
女「そこが分からないわね、魔族の反応がどこにも感知されないなんて」
同僚「そりゃやっぱアレじゃねww王国に反発するテロリスト集団www」
先輩「人間の敵は人間ってか、それもあり得ない話じゃないが…」チラッ
男「今のところ、全てが憶測か」
女「何かがまだ欠けているわね」ギリッ
…
-同刻 王宮 国王執務室-
側近「巨石の間に侵入者?」
騎士団長「はっ。物流協会の職員と王立修道院のシスターです」
騎士団長「話によると、物流協会の新規事業の一環で極東地域への魔法転移を試みたところ」
騎士団長「王都襲撃のタイミングと重なり、転移に失敗したとのことで」
側近「偶然迷い込んだという事か」
騎士団長「そのようです。彼らの身元と証言は物流協会へ照会済みです」
側近「そうか…むぅ」チラッ
…
国王「…騎士団長」ギロッ
騎士団長「っ!はっ」ゾクッ
国王「巨石の間の存在は極秘事項だ」スクッ
国王「我々と、私の近衛騎士団である君達以外には絶対に知られてはならん」
国王「その2名から情報が漏洩するような事は何としても避けるのだ」
国王「どんな手を使ってでも、な」
国王「言っている意味が分かるか?」ギロリ
騎士団長「は、はぁっ!」
側近「へ、陛下」
国王「構わん。事ここに至り、だ」
国王「侵入した2名と、その周囲の人間を監視せよ」
国王「公には手配を掛けるな、気取られぬよう秘密裏にだ」
国王「情報の漏洩を防ぐ為、止むを得ん場合は」
国王「…構わん、殺害しろ」
…
側近「よろしかったのですか?あのような踏み込んだご発言…」
国王「事ここに至り、と申しただろう」
側近「しかし…侵入者2人はマッピングシステムの担当者」
側近「今消してしまうのは些か早計かと」
国王「大義の為ならば止むを得まい、駒はまた足せばよいのだ」
国王「…巨石の秘密は何としても守らねばならん」
国王「我らが希望、神の雷(いかずち)の為にな」
…
-数日後 王都酒場街-
[BAR REQUIEM]
カランッカランッ…
同僚「ここよく無事だったなwww」
先輩「ホントだな」
男「なんだか…話が大事になってきましたね」グイッ
同僚「ホントそれww王国の秘密だテロリストだって話がインフレし過ぎwwwジ◯バブエかwww」グビ
男「俺達ただのドライバーだってのに」ハァ
先輩「全くな。あ、そういえば男さ」
…
男「何ですか?」
先輩「配車係とは話したのか?」
男「配車係さん?」
同僚「話した事すら忘れてたりしてwwww」ケラケラ
先輩「おい止めとけよ…いや何だ、お前最近その…」
同僚「物忘れの具合はどうですかーお爺ちゃんwwww」ケラケラ
男「物忘れ?」
ゴチンッ
…
同僚「」ピクピク
先輩「…配車係の奴がさ、ナビちゃんに相談されたんだと」
先輩「あの子、心配してるみたいだぞ?」
男「あぁそういう事ですか。いやぁお恥ずかしい」タハハ
先輩「そんなにしょっちゅう色んな事を忘れちまうのか?」
男「自分ではそれ程気にしてないんですけどね…まぁでも」
男「ナビに助けられてるから気にならないだけなのかなぁ」
先輩「疲れでも溜まってるんじゃないか?それとも何か悩みでもあるのか?」
男「悩み…うーん強いて言えば」
先輩「どうした?話なら聞くぞ?」
男「…ナビの事、ですかね」フッ
先輩「ナビちゃん?何かあったのか」グイッ
先輩「あ、俺アードベッグを」カランッ
男「グレンキンチーを」
…
<お待たせしました
先輩「そうか…ナビちゃんがね」
男「初めてですよ、女の子に好きだなんて言われたの」ハハッ
先輩「それで、お前はナビちゃんの事どう思ってるんだ?」
男「…。」グイッ
男「…好き、なんだと思います」ジッ
先輩「思いますじゃねぇだろ」バシッ
男「いてて…ですよね」
男「…でも考えちゃうんですよ、色々」
先輩「…。」グイッ
…
男「生身の人間である俺と、魔法石に宿った"心"だけのあいつと…」
男「もし仮に俺達の心が同じ方を向いていたとして、その先は?とか」
男「魔法石の耐用年数は大体150年…」
男「俺が死んだ後、あいつはどうするんだ?とか」
男「そもそも俺なんかがあいつの事、本当に幸せにしてやれるのか?とか」
先輩「…そういう事か」フゥ
先輩「あのな男、まずn同僚「まずお前、ちょっと勘違いしてねぇか?」
男「あ、起きた」
…
同僚「お前ナビちゃんの旦那になったわけでもねぇのに幸せにするだ何だってのはおかしくねぇか?」
男「そうは言うけどさ、考えちゃうんだよ」
同僚「そもそもよ、さっきから聞いてりゃデモデモダッテばっかじゃねぇか」フンッ
同僚「お前本当にナビちゃんの気持ちになって考えてるか?」
男「あいつの気持ち?」
同僚「そーだよ、お前が気にしてる事なんて全部自分の都合じゃんか」
男「そ、それは違うぞ」ムッ
同僚「違わないね。お前は自分が傷付かないように言い訳してるだけだ」
同僚「実体がない?先に死ぬ?んなこと関係あるかよ!」ダンッ
男「関係あるだろ!」カチン
男「1人取り残される気持ちはお前には分かんないよ!無責任な事言うな!」ダンッ
…
先輩「おいお前ら声がデカいぞ」シーッ
男「大体何だ?さっきから聞いてればお前の言ってる事は全部ブーメランじゃやいか」
同僚「何だと?」カチン
男「修道女さんとの事、お前どう思ってるんだよ」
同僚「あいつの話は今はかn」男「関係あるね!」
男「あれだけ真っ直ぐ気持ちを向けてくれてる人に対して、お前何やってんだよ!」
同僚「あいつは聖職者だぞ!俺なんかがおいそれと手を触れるわけにいくか!」
男「それこそ言い訳じゃないか!向こうはお前が手を取ってくれるのを待ってるんだぞ!」
同僚「うるせぇ!お前に何が分かる!」
男「何だと!?」ギロッ
同僚「何だよ!?」ギロリ
…
先輩「お前らいい加減にしろ!喧嘩するなら外で…ん?」
男「…っぷ」クスクス
同僚「…www」クスクス
男「っぷははは!」ケラケラ
同僚「これには大草原不可避www」ケラケラ
先輩「な、なんだぁ…??」ポカーン
…
男「何だよ俺達、腹割って話してみれば…」クスクス
同僚「まんま同じよーな事で悩んでやんのwww」ヒーヒー
男「似た者同士だなー」ニコッ
同僚「結局それなwww」ニカッ
男・同僚「マスター!お代わり!」
先輩「…ったくコイツらは」ハァ
…
-翌日 王都市街地-
ブロロロ…
同僚「久しぶりの本業だわさwww」
同僚ナビ『やっぱり運転席にあなたが居るのはしっくりきますわね』ニコッ
同僚「だろーwww?復旧工事で通れる道が限られてるがwww」
同僚「そこは地元民の意地www私めにお任せあれwww」
同僚ナビ『流石ですわね。時間管理はお任せ下さいませ』
同僚「頼むぜwwほんじゃ行きますかwww」
ブォン!ブロロロ…
ササッ
偵察兵「…。」
…
-同刻 王都外れ 北の街道-
ブロロロ…
男「今日は北の山脈まで木材を積みに行くぞ」
ナビ『王都の復旧工事に不可欠やかんな!』
男「…襲撃の時、一緒にいてやれなくてすまなかった」
ナビ『大丈夫やで。どーちゃんも配車係さんもおったし』フルフル
男「…王都が狙われた今、確実に安全と言える場所はない」
男「配車係さんに交渉して、退勤後も魔法石(キー)を持ち帰る事にしたよ」
男「これでいつでも一緒だ」ニコッ
ナビ『え!え!!えぇ!!!?』
…
男「俺はお前を守りたい。出来る限り側にいたい」
男「勝手に決めちゃったけど、いいかな?」
ナビ『お、男ちゃん…それって…』ウルウル
男「…ダメ、だったか?」
ナビ『んなわけあるかいな!おーるおっけーやで!!!』ピョンピョン
男「良かった、それじゃよろしく頼むよ」ニコッ
ナビ『ここ、こちらこそ不束者ですが』ペコ
男「ははっ何言ってんだよ」ケラケラ
ナビ『(男ちゃんと一緒…昼も夜も』ドキドキ
ナビ『(マジか…マジなんかぁ…)』ドキ
ドキ
ナビ『えへ…えへへぇ…』ニヤニヤ
ポチ
[魔法石過給装置ヲ作動シテイマス…]ブォォォォ
ナビ『あ』
男「おいおいおいおい」
バヒューーーーーン…!!!
ササッ
偵察兵「…。」
…
-同刻 王立修道院 正門-
修道女「んー久しぶりに帰って来ましたー」ノビーッ
シスター長「おかえりなさい。お元気そうで何よりです」ニコッ
修道女「ただいま戻りました!」ペコッ
修道女「王都の襲撃で新規事業はしばらくお休み…」
修道女「その間、またみんなと一緒に神に仕えたいと思います」ニコッ
シスター長「…。」ジーッ
修道女「?」
シスター長「その事なんですが…」ハァ
修道女「へ?何ですか??」
シスター長「…お茶でも淹れましょうか」スタスタ
修道女「わ、私やりまーす!」タッタッ
…
-修道院 中庭-
シスター長「…これは私の勘なのですが」トクトク スッ
シスター長「…。」ズズッ
修道女「…。」ズズッ
シスター長「…あなた、恋をしていますね?」
修道女「…っ!げほげほっ!」
シスター長「やはりそうですか…」ハァ
修道女「…あ、あのっ」チラッ
シスター長「私はあなたの育ての親ですよ?顔を見れば分かります」
修道女「うぅ…そう、ですよね」シュン
シスター長「…ふぅ」コトッ
修道女「…。」ビクビク
…
シスター長「あなたもご存知の通り、私達王国正教会のシスターは、清貧、貞潔、服従の誓願に従い日々の生活を送っています」
シスター長「まぁ清貧に関しては、修道院でエールの製造を伝統的に行なっておりますので」
シスター長「嗜む程度、の飲酒は認められておりますが…」
修道女「た、嗜む程度…ですよね」タハハ
シスター長「オホン!自覚があるのならば、ここでクドクド申しません」
修道女「はい…すみません」シュン
シスター長「問題は貞潔。我々シスターは結婚はもちろん、男性との交際も認められておりません」
修道女「神の花嫁たる存在、ですね」
シスター長「そうです。この掟は飲酒云々ほど寛容ではありません」
シスター長「そこは承知しておいでですね?」キッ
修道女「…はい」
…パタパタ…チュン…チュンチュン…
…
シスター長「あなたがここへ来て、もう20年ですか」
シスター長「早いものですね」
シスター長「今でも思い出します…」
シスター長「あなたが小さい頃はそりゃーもう大変でした」ニコニコ
修道女「そ、その節はご迷惑を…」
シスター長「とんでもない!」フルフル
シスター長「子供のいる信者の方達に教えを乞いながら、悪戦苦闘の子育て…」
シスター長「本来子を成す事のない私達が、偶然にも授かった…」
シスター長「幸せで満ち足りた時間でした」
シスター長「あなたと過ごした時間は、私の人生における宝物です」ニコッ
修道女「し、シスター長…」ウルッ
…
シスター長「…あなたは私達と違い、自らの意志で修道の門を叩いたわけではありません」
シスター長「ですから王国正教会の掟も、あなたを縛り付けることは出来ないのです」
修道女「…っ!そ、それって!」バッ
シスター長「最後まで聞きなさい」
シスター長「…とは言え、一度は神の従者として仕えた身」
シスター長「自らの道を歩むのならば、けじめはつけなければなりません」
修道女「け、けじめって…嫌」フルフル
シスター長「ベールを脱ぐのです」
…
修道女「い、嫌です!ここは私の家です!!」ブワッ
修道女「ここには!!私を愛してくれた神と…!!あなたが…!!」ポロポロ
シスター長「…家を捨てろ、神を捨てろ、などとは言っていません」ナデナデ
シスター長「ですがけじめとして、一度ここを離れる必要はあります」
修道女「…っく…ひっく…」ポロポロ
シスター長「安心なさい」ナデナデ
シスター長「あなたがどんな道を歩もうとも、神はあなたと共にあります」
シスター長「それは私も同じです」
修道女「し、シスター長ぉ…」ポロポロ
シスター長「あなたの家はここにあります。いつでも、いつまでも」ナデナデ
シスター長「結論を急ぐ必要はありません。じっくり考えてみると良いでしょう」
修道女「…はい」グスッ
ササッ
偵察兵「…。」
…
-西の街 陸軍第1倉庫-
ゴゥンゴゥン…
兵士「ホントなんですって!」
先輩「陰謀論とか好きだなーお前も」ケラケラ
兵士「陸軍内部ではもっぱらの噂ですよ!?例の襲撃事件が!」
先輩「国王の自作自演だってか?んな事して何になるってんだ」シュボッ!スゥ
兵士「あ、ここ禁煙…」
先輩「ん?ほれ」スッ
兵士「あ、こりゃどうも…」シュボッ スゥ
…
兵士「…じゃなくって!あの攻撃は開発中の新兵器の実験だったんじゃないかって話です!」
先輩「新兵器?」スパァァ
兵士「何でも地図情報と転移魔法を組み合わせて、狙った場所にピンポイントで攻撃を仕掛けるって寸法!」
兵士「らしいです!噂ですけど!」
先輩「地図情報と転移魔法…」
兵士「ただ、分からないのが動力源なんですよねー」
兵士「今回王都内で被弾したのが約30箇所…」
兵士「それだけの場所を同時に、転移魔法も併用しての攻撃ですからねー」ペラペラ
兵士「そこいらの詠唱士や魔法石じゃーとても無理ですもん!」ペラペラ
兵士「…って聞いてます?」
先輩「…あぁ」
ササッ
偵察兵「…。」
…
-第1倉庫 裏手-
偵察兵「…。」コソコソ
先輩「偵察兵ちゃんみーっけ!ぽこぺん!」タッチ
偵察兵「!!」バッ
先輩「待てよ」ガシッ
ギリギリッ…
偵察兵「…っく」
先輩「…元軍人を舐めんじゃねーぞボンクラ」ギロリ
先輩「何を探ってやがる?言え」ギリギリッ
偵察兵「…っ!」
先輩「その制服、騎士団だな」
先輩「軍とは別組織、国王陛下お抱えの私兵の登場か…」
先輩「おいおい陰謀論も捨てたもんじゃねぇってか?」
…
先輩「なんとか言えよクソネズミ」ギリギリッ
偵察兵「…ぅ」クラクラ
先輩「あぁ首締めてたらしゃべれねーか、悪い悪い」ユルメ
偵察兵「…っかは!げほげほ!」
先輩「ほれ緩めたぞ、言え」
偵察兵「…!」ババッ ダダダッ…
先輩「あっ!…逃げられちゃった」
先輩「何だよタッチしたじゃんかー」ケラケラ
先輩「でもま、大体ざっくりふんわりとは」
先輩「見えてきたんじゃねぇの?」ギロリ
…
-???-
ナビ「ここ…どこやろ」トボトボ
ナビ「真っ白でなーんも見えへんなぁ」トボトボ
ナビ「ん…?誰かおるな…」
ナビ「…男ちゃん?」
???「…。」
ナビ「なぁー男ちゃーん!ここどこ?」タタッ
…
???「…。」ギュッ
ナビ「っ!?ちょ、ちょっと男ちゃん!」カァァッ
ナビ「いきなりどしたん?寂しくなってもうたん??」アセアセ
???「…。」
ナビ「も、もう何か言うてぇな…間が持たんやん…」テレテレ
???「…。」
ナビ「なぁ男ちゃんってば…」チラッ
ナビ「…え?」
…
ナビ「あ、アンタ、誰や」ガクガク
???「…。」ギュッ
ナビ「い、いや!離して!!」ジタバタ
ナビ「嫌や!アンタと一緒には行かれへん!!」ジタバタ
???「…。」ニヤァ
ナビ「ひっ!いや…いやぁぁぁ!」
…
-王都 男の家-
魔法石(ナビ)『!!!』ビクッ
魔法石(ナビ)『…ゆ、夢』ガクガク
男「…ん、もう朝か」パチ
魔法石(ナビ)『っ!ご、ごめん起こしてもうた』
男「平気だよ…ふわぁー」ノビーッ
魔法石(ナビ)『(せ、せやった)』
魔法石(ナビ)『(夕べから、夜も男ちゃんと一緒におれる事になって)』
魔法石(ナビ)『(今日が初めての朝…やのに)』
…
魔法石(ナビ)『もう最悪やー』コロンッ
男「どうした?怖い夢でも見たか」
魔法石(ナビ)『だいせーかい。もう…せっかくの初夜やったのに』ブー
男「初夜って…まぁ間違ってないけど」
男「おはよう、ナビ」ニコッ
魔法石(ナビ)『うん…おはようさん。男ちゃん♪』ニコッ
…
-物流倉庫 事務所-
男「監視されてる?」キョトン
先輩「そうだ。俺とお前、恐らく同僚と修道女さんもな」
男「な、何で俺達が…?例の巨石の件ですか!?」
先輩「だろうな。とにかく国王陛下お抱えのネズミが出てきた以上、これは緊急事態だ」
男「き、緊急事態って言われても仕事もあるし…」
魔法石(ナビ)『せやで。これからまた港湾倉庫まで行くんやもん』
先輩「むしろ普通に仕事してろ、連中が気にしてるのは恐らく機密の漏洩だ」
先輩「なぁに、怪しい動きをしなきゃ何にもされねぇから安心しろ」
男「安心しろって言われても…なぁ?」
魔法石(ナビ)『見張られとぉって考えるだけで陰鬱な気になるわ…』
先輩「ははっ。まぁしばらくの辛抱だな」
…
先輩「むしろその位緊張感がある方がいいんじゃないかー?」ニヤニヤ
男「それは、どういう」
先輩「仕事中にイチャイチャすんのも程々にしろって事だよ」ニカッ
男「なっ…!」カァァッ
魔法石(ナビ)『ちょっ…!』カァァッ
先輩「お前らホントに息ピッタリだなー!」ワハハ
先輩「…まぁそれは冗談として」
先輩「もはや俺達の敵は魔族だけじゃないかも知れん。それだけ忘れんな」
男「…分かりました」
…
-王都 外れ 北の街道-
ブロロロ…
先輩「地図情報、転移魔法、動力源…」
先輩「地図情報は有る」
先輩「何せ王都の中なんだ、詳細な地図情報なんぞいくらでも用意できる」
先輩「動力源も有る」
先輩「魔法石の蓄積できる魔力はその大きさに依存する、らしい」
先輩「例の巨石を使えば問題ないだろう」
先輩「となると、残るは…転移魔法」
…
先輩「いくら膨大な魔力があろうと、術者がいなけりゃ詠唱は出来ない」
先輩「…攻撃の瞬間、修道女さんは同僚と一緒にいた」
先輩「と、なると…いや」
先輩「そんなワケはない…」
ブォン!ブロロロ…
…
-王都外れ 東の街道-
ブロロロ…
…ちゃん…とこちゃん…
男「…ん…」
ナビ『男ちゃんってば!!!』クワッ
男「!!」ビクッ
ブロロロ…キキッ
…
ゴゥンゴゥン…
ナビ『大丈夫?気分悪いんか??』
男「俺…今、寝て…?」クラクラ
ナビ『うぅん。たぶん眠ってはなかった』フルフル
ナビ『なんや目ぇ開いたまんまぼーーっとしとって』
ナビ『話し掛けても何も!心ここにあらずみたいな感じやったで!』
男「心が…」
ナビ『なぁホンマに大丈夫!?体調悪いなら無理せんと休も!?』
ナビ『それか配車係さんに言うて代わりの人を…』
男「…それはダメだ、ただでさえ復旧作業でドライバーは大忙しなんだから」
男「少し休めば良くなると思う…心配掛けてゴメンな」ヘラッ
ナビ『そんなんえぇて!なら路肩寄って休憩しよ?な?』カチッカチッ
男「あぁ…」クラクラ
ササッ
偵察兵「…。」ピピッ
…
-夜 物流協会事務所-
女「運転中に意識を?」
配車係「はい。今日の運行はナビちゃんのおかげで無事に終わりましたが」
配車係「僕としても、このまま男さんに業務に就いてもらうわけには」
女「分かりました。事務局の方で手配します」
女「まずは医療機関で検査を受けてもらいましょう」
魔法石(ナビ)『お、女さん…』オロオロ
女「大丈夫よ。人間もあなた達と一緒で、時々メンテナンスが必要なの」
女「きっとすぐに良くなるわ」ニコッ
魔法石(ナビ)『そ、そっかぁ…』ホッ
…
先輩「おつかれーっす」ガチャ
配車係「先輩さん、お疲れ様です」
女「あら、お帰りなさい」
先輩「おう、事務所(こっち)にいるなんて珍しいじゃないか」ヒラヒラ
女「男くんがね、運転中に意識を失ったらしいの」
先輩「男が?大丈夫なのか!?」
女「無事に帰って来てるわ、でもこのまま運行を続けるのは無理ね」
女「とりあえず明日にでも医療機関へ連れて行くわ」
先輩「それなら俺が連れてってやるよ、ちょうど明日休みだし」
女「ほんとに?助かるわ、それなら後で連絡するわね」
…
先輩「了解。あとさ、こんな時に何だが…この後空いてるか?」
女「ホント、こんな時にね」ジトッ
先輩「まぁいいじゃないか、男の事は今あぁだこうだ言っても始まらんさ」
女「そりゃそうだけど…」
先輩「まぁ…いいからよ」ニコッ
女「…?」
…
-王都 酒場街-
ワイワイ…ガヤガヤ…
女「こういう肩肘張らない店も悪くないわね」
先輩「たまにはいいだろ?ほいおまっとさん」コトッ
<乾杯…カチンッ
…
女「…で、どうしたの?」
女「一人酒が寂しいなんてガラじゃないでしょ?」
先輩「どうしても君と2人きりになりたくて、さ」ニコッ
女「ふふっ。その割には賑やかな店をチョイスしたものね」ニコッ
先輩「こんだけ騒がしきゃー盗み聞きもされねぇだろってな」ケラケラ
女「盗み聞き?…まさか」ハッ
先輩「そのまさかだ、監視されてる」
…
女「れ、例の巨石の件で…?」
先輩「そーゆー事。しかも相手は王立騎士団」グビグビ
女「騎士団って…じゃあ陛下が直接!?」
先輩「声がでけーよ。んで、こっからは噂を元にした俺の推測だが…」
かくかくしかじか
…
女「陰謀論がまさかのって感じね…」ハァ
先輩「だろー?何だか知らないが、俺達は相当デカい話に巻き込まれてるらしい」ニヤニヤ
女「もしその仮説が正しいなら、私達は兵器開発の片棒を担がされてる事になるじゃない!」
先輩「国王陛下とそのネズミが出てきたんだ、ほぼ決まりだろ」ニヤッ
女「…なんだか楽しそうね」ジトッ
先輩「そんな事ないさ」ニヤニヤ
女「どうだか…」ハァ
先輩「まぁそれはそれとして」
…
女「まだ何かあるの?」
先輩「海はどうだった?」ニコッ
女「…え?」
先輩「君、俺が訪ねてった時に留守だった事あったろ?」
女「あ…あぁ、あの時ね」ドギマギ
先輩「実はあの時そこらの職員に聞いててな、ホントは港湾倉庫に行ってたそうじゃないか」
ズイッ
先輩「…お前、何か隠してんだろ」ギロリッ
女「…店、変えましょうか」フイッ
…
[BAR REQUIEM]
カランッ…
先輩「アードベッグ」
女「私も」
<お待たせしました
先輩「…。」グイッ
女「…あなたに嘘はつけないわね」フゥ
先輩「おかしいと思ったんだ」フンッ
先輩「同僚達はともかく、俺や男まで呼び出して情報の付き合わせ…」カランッ
先輩「そんな事する必要あるか?」
女「…。」
先輩「何を知ってる?」
先輩「そして何を隠してる?」
…
女「…知ってる事はみんなと同じよ」
女「結果的には、ね」グイッ
先輩「結果的に?」
女「マッピングシステムで実際に荷物を運ぼうと思ったら、莫大なエネルギー源が必要になるわ」
女「それを賄う方策として、巨大な魔法石が用意されてるって事までは聞いてた」
女「ただ、それがどこから来たのか」
女「なぜ極秘にされてるのか」
女「探ってみたけどサッパリだったのよ」フルフル
…
先輩「その一環で港湾倉庫か」
女「えぇ。魔法石が海外から持ち込まれたのなら」
女「何らかの記録が残ってるんじゃないかと思ったのよ」
先輩「その調査は、事務局の仕事としてか?」
女「半分はね。もう半分は私の探究心」クスッ
先輩「全く君って奴は…」ハァ
…
女「みんなが日々の運行や何かで知り得た話…噂でも何でも」
女「とにかくカードを出し尽くしてみれば何か分かるかも、と思ったのよ」
先輩「俺達を偵察隊か何かと勘違いしてないか?」クスッ
女「気を悪くしないで頂戴。知りたがりなのは性分なの」
先輩「まぁいいさ、結果的に面白そうな展開になってきやがったしな」ニヤッ
女「やっぱり楽しんでるじゃない…怖い人」クスッ
…
先輩「同僚の調査で分かったのが勇者の落涙」
先輩「つまり巨石の出所だが」
女「あとは力の制御なのよ…ん」ノビーッ
先輩「詠唱が出来れば誰でもいいってモンでもないのか?」
女「精神が保たないわ」フルフル
女「そこまでの莫大な魔力を使いこなすことは普通の人間じゃ無理なの」
女「それこそ修道女さんレベルの詠唱士が何人も必要でしょうね」
先輩「…。」フゥ
…
先輩「そこについては教えてもらってないのか?」
女「"問題ない"の一点張りよ」ハァ
先輩「問題ないって言う時は、大体何かあるもんだ」ニヤッ
女「同感ね。彼らはまだ何か隠してる」
先輩「国王陛下に騎士団…」
女「これ以上何が出てくるって言うのかしら」
…
-翌日 王立診療所-
男「何だかすみません、わざわざ送ってもらっちゃって」ペコッ
先輩「気にすんな。まぁ医者にじっくり診てもらって」
先輩「バッチリ治してバリバリ働いてくれや」ニカッ
男「分かりました、それじゃ」ニコッ
先輩「お大事にな」ヒラヒラ
…
-検査室-
医師「事情は分かりました。脳の状態を調べますのでこちらのベッドに横になって下さい」
男「んしょ、と」ゴロンッ
医師「楽にしていて下さい」スッ
男「ん?その注射は…」
医師「弱めの安定剤です」
医師「男さんの場合、カーゴの運転等で無意識のうちに緊張状態が続いていた事がストレスになっていたと思われます」
男「ストレスですか」
医師「はい。心が安定した状態で検査をする為に、ご協力下さい」チクッ
男「んっ…」
医師「そのまましばらく安静にしていて下さいね」スクッ
ガチャ バタンッ
男「…ぅ…ぁ」ウトウト
男「」zzz
…
-王宮 国王執務室-
騎士団長「監視対象者の中に、同僚の同期である男という職員がいるのですが」
側近「ふむ…どこかで聞いた名だ」チラッ
国王「涙の欠片か」
騎士団長「昨日体調を崩して、本日より王立診療所へ入院しています」
側近「何?」
騎士団長「報告によれば、運行中に一時的に意識を失った様で」
国王「…ほう」
騎士団長「念の為、催眠剤で昏倒させてあります」
騎士団長「向こう24時間は眠ったままです」
側近「仕事が早いな、流石だ」
…
騎士団長「ありがたきお言葉を賜った後で申し上げにくいのですが…」
側近「何だ?」
騎士団長「別の監視対象者…先輩という元陸軍所属の者に、偵察兵が接触されました」
側近「監視がバレた、という事か?」
騎士団長「誠に申し訳ございません」フカブカー
側近「お前らしくないな」チラッ
国王「まぁ、構わん」
…
国王「元陸軍という事は、偵察兵が騎士団の人間である事も見破ったのだろう」
騎士団長「仰る通りです」
国王「それがどういう意味を持つのか、さえな」
騎士団長「…無言の圧力、という事ですか」
側近「左様。旧陸軍からの選り抜きで組織された王立騎士団と」
側近「たかだか寄せ集めの現陸軍、ましてや退役者だ」
側近「どんな馬鹿でも喧嘩の相手は選ぶものだ」
…
国王「うむ…騎士団長」
騎士団長「はっ!」
国王「引き続き対象者の監視を続けろ」
国王「男に関してはそのまま診療所にて軟禁しろ、面会謝絶とでもしておけ」
国王「男のナビシステム、魔法石を入手しろ」
国王「時は近い、油断するな」
国王「今回の失態は不問に伏す。だが次はないぞ」ギロリ
騎士団長「は、はぁっ!」ビシッ
…
-王立診療所 受付-
魔法石(ナビ)『面会謝絶ぅ!?』
女「どういう事ですか?」
受付係「検査の結果、男さんの症状を鑑みて」
受付係「過度なストレスを避ける為、一時的に面会謝絶するようにと」
受付係「先生のご指示です」
女「じ、じゃあ…」
医師「症状自体は重いですが」ガチャ
受付係「あ、先生」
魔法石(ナビ)『せんせー!?お、男ちゃんどうなるん!??』アセアセ
医師「今すぐ命に関わるとか、そういった事はありません」
魔法石(ナビ)『そ、そっかぁ…』ホッ
…
医師「ただ、彼には休養が必要なのです。ゆっくり一人の時間を過ごさせてあげて欲しいのです」
女「そういう事ですか…分かりました」
女「それじゃ男くんを宜しくお願いします」ペコッ
魔法石(ナビ)『せんせー、お願いします!』ペコッ
医師「はい。お任せ下さい」ニコッ
魔法石(ナビ)『ほんなら女さんどーするー?』チリンッ
女「事務局へ戻る前に食事でもしていくわ」
カツカツカツ…
…
ピピッ
医師「私です。例の魔法石は女という事務局職員が所持しています」
医師「えぇ、はい。あとはお任せ致します。」
…
-王都 酒場街-
魔法石(ナビ)『昼間っからお酒かいな!』
女「ふふっ違うわよ。ここら辺のパブはランチの営業もしてるの」カランッ
<いらっしゃいませー
…
魔法石(ナビ)『やば!フィッシュフライでか!』ピョンピョンッ
女「私の掌2つ分位かしら?ここのは肉厚で美味しいのよ」モグモグ
魔法石(ナビ)『それをまぁ3つも4つも…女さんどんだけ食べんねん』アキレ
女「あらそうかしら?」ケロッ
偵察兵「…。」ジーッ
…
<ありがとうございましたー
女「ふぅ美味しかった」
魔法石(ナビ)『しかしあんだけ食べた分どこへ行ってんねや…』ジロジロ
女「あら、私こう見えて…」ニコッ
女「欲しい所にはしっかり付いてるのよ?」チラッ
魔法石(ナビ)『っ!うおー!すげー!!』キャッキャ
女「ふふっ。…なんなら挟まってみる?」スポッ
魔法石(ナビ)『わ!わ!!わ!!!』
魔法石(ナビ)『アカン…ここが理想郷(ユートピア)か…』ドキドキ
女「大袈裟ね、女の子同士じゃない」クスクス
魔法石(ナビ)『って、てか、女さんキャラ変わってへん??突然どないしたん??』ドキドキ
女「…そこでじっとしててね」ダッ
魔法石(ナビ)『わっ!な、何!?』ユラ
偵察兵「…!」ダダッ
…
-街外れ 路地裏-
女「はぁ…はぁ…」
女「ここまで来たら撒いたかしら?」フゥ
魔法石(ナビ)『(揺れる度にあっちゃこっちゃでぽよんぽよんとまぁ)』ウットリ
魔法石(ナビ)『(住みたい…ここに)』
女「さて、ここからどうしようかしら…」ガシッ!
女「!」
…
偵察兵「…。」ガシッ ギリギリッ
女「痛っ!ちょっと離しなさいよ!」
偵察兵「…。」ギリギリッ
魔法石(ナビ)『な、何!?女さんどないしたん!??』
偵察兵「…魔法石を寄越せ」
女「男くんの魔法石!?それが目的なの!??」
偵察兵「…寄越せ」ギリギリッ
女「っく!…そんなの持ってないわよ!!」ジタバタ
…
ブロロロ…
同僚ナビ『さて次の配達は、と』
同僚「この先の路地裏だなw…あ」
ガチャン!ギュルル!!
同僚ナビ『っ!ちょっと急旋回ですわよ!一体どうしたんですの!?』
同僚「…配達やーめっぴ」ガコンッ!
同僚ナビ『ちょっと何言って…っあ!あれ!!』
同僚「急な集荷依頼にも即対応ってな!!」
…
ブロロロ…キキーッ!
女「っ!同僚くん!!」
同僚「集荷依頼はこちらですかーwww?」
女「こんの…!離せってば!!」ガブリ
偵察兵「!」バッ
女「出して!!」ガチャ バタンッ
同僚「毎度ありーwww」
ブォン!ブロロロ…
偵察兵「…。」ヒリヒリ
…
-王都 街外れ-
ブロロロ…
女「助かったわ同僚くん。ありがとう」フゥ
同僚「びっくりしたわーwwwでも先輩の言ってた事マジだったのねwww」
同僚ナビ『監視されているなんてちっとも…』
女「私も偶然気が付いただけよ」
女「でも彼の言ってたのと違って、向こうから手を出してきた…」
女「状況が変わった、って事なの?」
魔法石(ナビ)『あの、女さん?』
女「あらごめんなさい、狭かったでしょう」スポンッ
同僚「んなっ!?ナビちゃんお前なんという羨ましい所からwww」
魔法石(ナビ)『控えめに言うて天国やったで』ツヤツヤ
同僚「おいちょっと残り香よこせwww」クンカクンカ
魔法石(ナビ)『にぎゃー!気持ちわるーっ!!』ジタバタ
女「もう!バカな事言わないでよ!」
同僚ナビ『全くこの人は…』ハァ
ブロロロ…
…
-物流協会事務局 正門-
ブロロロ…キキッ
同僚「到着なりーwww」
女「ありがとね」
同僚ナビ『では私達は運行に戻りますわ』
女「えぇ、お気を付けて」フリフリ
魔法石(ナビ)『いってらっしゃーい!』
カツカツカツ…
ザッ
…
女「…あなた達もしつこいわね」ハァ
騎士団長「先程は私の部下がとんだご無礼を」
女「全く。騎士団の名に恥じない紳士的な方だったわ」ハァ
騎士団長「お恥ずかしい限りです」
騎士団長「ですのでここからは、あくまで紳士的に進めさせて頂きます」ペラッ
騎士団長「女、あなたを拘束する」
魔法石(ナビ)『た、逮捕状!?』
女「…どういう事?」ギロリッ
…
騎士団長「最近のあなたの動向を調べさせて貰いました」
騎士団長「ナビシステムの私的な持ち出し、並びに機密情報の閲覧」
騎士団長「これらは犯罪行為だ」
女「こ、これは協会にきちんと許可を取った行為です!」
魔法石(ナビ)『せやで!配車係さんにお願いしたんやもん!』
騎士団長「夜な夜な飲屋街へナビシステムのデータを持ち出す事もか?」
女「そ、それは…」
騎士団長「それに機密情報の閲覧。あなたは禁書指定されている魔術文献を入手されていますね」
女「…レディの部屋に忍び込むなんて、本当に紳士の鑑ね」ギリッ
騎士団長「捜査ですので。無礼をお許し下さい」
…
騎士団長「お連れしろ、手荒な真似はするな」バッ
偵察兵「…。」スッ
女「…っく、お優しいのね」ギロリッ
騎士団長「もはやその必要がないからだ」
魔法石(ナビ)『え!お、女さん!』アワアワ
騎士団長「所持品は後程お預かりします」
騎士団長「無論、魔法石もです」
女「ナビちゃん…!ごめんなさい…」
…
-王立診療所 男の病室-
魔法石(ナビ)『へ??お、男ちゃん!?』
男「」zzzz
騎士団長「今は薬で眠っている。命に別状はないし、身体は健康そのものだ」
魔法石(ナビ)『男ちゃーん!!会いたかったよぉぉー!!』ビエーン
騎士団長「お前達にはここでしばらく生活してもらう」
魔法石(ナビ)『ぐすんっ…ぐすん…え…なにそれ?』ウルウル
騎士団長「国王陛下の御命令だ。お前達をここに閉じ込め片時も離れさせるな、と」
魔法石(ナビ)『意味わかれへんわ…男ちゃんと一緒におれるのは嬉しいけど…』グスッ
…
コンコン ガチャ
側近「ご苦労。」
騎士団長「御足労頂き恐縮です!」ビシッ
魔法石(ナビ)『おっちゃんだれー?』
騎士団長「無礼者。この方は国王陛下の側近。この王国で陛下に次ぐ高位の方だ」
魔法石(ナビ)『側近さん?へぇー偉い人なんやー』
側近「成る程。これが魔法石に宿りし人の心…」
騎士団長「では、私はこれで」
側近「うむ。引き続き頼むぞ」
騎士団長「はぁっ!」ビシッ
ガチャ バタン
…
側近「…楽にしたまえ」ストッ
魔法石(ナビ)『わ!男ちゃんの胸の上!』キャッキャ
男「」zzzz
魔法石(ナビ)『呼吸に合わせて胸が動いとぉ…可愛い…』ニコニコ
魔法石(ナビ)『鼻のあなー♪ぷぷっローアングルやとおもろいなぁ』ケラケラ
側近「…。」ジッ
魔法石(ナビ)『側近さん?あんなぁ?』クルッ
側近「何だね?」
魔法石(ナビ)『ウチてっきり、怖い人達が男ちゃんとウチを引き離そうとしとるんやと思っててんかぁ』
魔法石(ナビ)『そーじゃないん?ウチら一緒におってえぇの?』
側近「あぁ。その通りだとも」
魔法石(ナビ)『なんだぁ…安心したぁ』
ホッ
…
魔法石(ナビ)『男ちゃん…えへへ、男ちゃん…』ニコニコ コロコロ
側近「…。」スクッ
ガチャ バタンッ
ガチャリ!パァァァァ…
…
-翌日 物流倉庫事務所-
先輩「うぃっすー」ガチャ
配車係「おはようございます」
女「あら、おはよう」フリフリ
先輩「…ん?下手こいて捕まったと聞いたが、釈放されたのか?」
女「お陰様で。元々逮捕容疑なんて取るに足らないものだったし…んー」ノビーッ
先輩「あー逮捕の為の逮捕って奴か」スッ フーーッ
カチッ ピンポーン
配車係「8時28分です、今日は特にかもしれない運転を心がけて下さい」
…
先輩「あいよ。で?エロい事でもされたか??」ニカッ
女「バカ言わないで。建前上は正規の手続きに則った拘束なのよ?」
女「事情聴取の上、厳重注意で釈放。ただ…」ギリッ
先輩「ナビちゃん、か」
女「没収されたわ。あの状況じゃ突っ撥ねる事も出来ないし」ハァ
先輩「成る程。分かった」グイッ
女「ち、ちょっと、何?」
先輩「折り入って話がある。お前の部屋で構わん」
女「…?えぇ、分かったわ」
配車係「え、ちょ、運行」
ガチャ バタンッ
…
-物流協会事務局 女の執務室-
バタンッ
女「それで?話っt ガバッ
ギュゥゥッ…
先輩「…心配させやがって」
女「心配、してくれたのね?」フッ
先輩「…守れなくてすまなかった」ギュッ
女「…気にしないで、私だっていい大人なんだk グイッ
チュッ…チュ…
…
女「んっ…ちょ…ん…」チュッ
先輩「っはぁ…んく…」チュッ
女「…っぷ、もう…」
女「本当に強引なんだから」クスッ
先輩「…俺の前では強がらないでくれ」
先輩「今回は守れなかったが…あぁっくそっ…!」ギリッ
先輩「お前が居ないのは…しんどいんだ」ギュッ
女「…ん、私も、です」フフッ
ギュッ…チュッ…
…
-王宮 国王執務室-
国王「涙の欠片と魔法石が揃ったか」
側近「はい。彼らの惹かれ合う心が、共依存の状態にまで高まるのは」
側近「もはや時間の問題かと」
国王「…20年か、彼にもよく働いてもらったが」
国王「この辺りが潮時だろう」
側近「…鍛治職人の里での暴発以降、力の制御は困難になる一方でした」
側近「今回の措置は良い梃入れになるかと」
国王「全ては民の為、王国の為…」
国王「ならば私は、悪にでもなろう」
側近「…。」
…
-鍛治職人の里-
ゴゥンゴゥン…
親父「男が入院!?」
先輩「運転中に一時的に意識を失ったそうで…」
先輩「命に別状はないそうですが、今は面会謝絶の状態です」
親父「むぅ…それで、魔法石はどうした?」
先輩「魔法石?…ナビちゃんですか」
先輩「…騎士団の連中に没収されました」ギリッ
親父「騎士団!?国王の私兵か!」
親父「あの野郎…何を企んでやがる」
親父「…まさか」ハッ
先輩「っ!?何か心当たりがあるんですか!?」
親父「クソッ!」ダダッ
先輩「あ!親父さん!」ダダッ
…
-親父の家-
親父「この前女が訪ねてきた時には余裕こいてはぐらかしちまったが」ゴソゴソ
親父「クソ野郎…まさか向こうから時計の針を進めてきやがるとは」ゴソゴソ
先輩「ど、どういう事ですか?」
親父「あった…女の奴、自分が知らない事には何にでも首突っ込みたがるだろ?」
先輩「えぇそうですね、学者肌というか」クス
親父「だからはぐらかしたのさ、危なっかしくて仕方ねぇからな」
親父「それに、アイツやお前らがいくら調べた所で最後のピースは見つからない」スッ
先輩「これは…写真?」
…
親父「勇者一行出立の時のだ、ホラ左のこれが俺で」
先輩「ホントだ、ははっ親父さん変わんないっすねー」ニコッ
親父「お世辞はいいからよ、んでこの右側の男…見た事あんだろ?」
先輩「ん?この人は…陛下の側近の!?」
親父「そうだ。20年前のあの時、俺と共に勇者の落涙で全てを目撃した男」
親父「そして、ナビシステムの開発指揮を採った男」
親父「賢者だ」
…
先輩「そうだったんですか…」
先輩「それでこの真ん中に写っているのが、勇者の落涙で命を落とした先代勇者なんですね」
親父「それだよ、最後のピースは」
先輩「?」
親父「勇者はな、代替わりなんざしちゃいねぇのさ」
…
-王立診療所 男の病室-
ピッ…ピッ…ピッ…
男「」zzzz
魔法石(ナビ)『』zzzz
側近「わざわざご足労頂き恐縮です」
修道女「い、いえいえ私こそき、恐縮です」アワアワ
側近「前回の男さんと魔法石との再リンクの一件、報告を読ませてもらいました」
側近「過去に前例のない処置にも関わらず、見事にやってのけたそうで」
側近「感服致しました」
修道女「いやー大した事ないですよぉぉ」テレテレ
…
修道女「そ、それで今回は…?」
側近「現在、男さんと魔法石は深い眠りについています」
側近「男さんの抱える心の問題…過度のストレスが原因という事にしていますが」
側近「実は別の問題があるのです」
修道女「別の問題…?そ、それじゃ前回の再リンクになにか不備が!」アセッ
側近「いいえ。修道女さんの詠唱は完璧でした」
側近「前回は魔法石側の不具合でしたが、どうやら今回は男さんの方の心に原因があるようなのです」
修道女「男さんの心に…?」
…
側近「…彼は20年前、北西の村で火災に巻き込まれた際に深い心の傷を負いました」フゥ
側近「幼き頃の心の傷というのは、成長し大人になったからと言って簡単に癒えるものではないのです」
修道女「そうだったんですね…男さん」
側近「今回は男さんの心へ魔法石をリンクさせ、再度心の補完をしてもらいたいのです」
側近「彼の絶望感や孤独感を、魔法石の人格情報によって癒してあげて欲しいのです」
側近「お力を貸して頂けますか?」
修道女「も、もちろんです!」グッ
側近「ありがとうございます」ニコッ
…
-王都へ向かう街道-
ブロロロ…
親父「20年前のあの時、俺達は魔王との戦いにケリをつけようと考えていた」
親父「勇者が最大火力の詠唱を使う間、俺と賢者であいつの守りを固めてた」
親父「当時はまだあの辺にゃドラゴンなんかがゴロゴロ居たからな」ケラケラ
先輩「ど、ドラゴンですか…」
親父「…あの場所に馬鹿でかい魔法石が埋まってたのは全くの偶然だったんだ」ギリッ
…
-20年前、大陸中央 北の荒野-
ビュォォォォォ…
[天空高く聳え立つ 神をも砕く雷の王]ゴワァァァァァ…
勇者「…っく」パァァァァ
剣士「おらぁぁ!」ザシュッ
賢者「ふんっ!」バシュゥゥ
[我と汝の力を以って 全ての愚かなる者に]ギュワァァァァ…
勇者「…!!」ギリギリッ
[清浄なる一撃を与え給え]
剣士「くるか!!」バッ
賢者「これで終わりだ!!」ババッ
-ドクンッ-
…
勇者「っ!!…何だ、この感じは」グワングワン
剣士「ど、どうした勇者!!」
-ドクンッ ドクンッ-
…
勇者「何かがおかしい…こんな…こんな膨大な力…」グワングワン
賢者「…ちっ!力が暴走したか!?」
剣士「暴走だと!?」
-ドクンドクンドクンドクンドクン-
…
勇者「漲ってくる…大いなる力…」ユラユラ
ギュワァァァァ…!!
剣士「おい!あぶねーぞ!!」
賢者「ダメだ…心が力に飲まれる!」
剣士「勇者!おいしっかりしろ勇者!!」
賢者「このままじゃ道連れだ…避難するぞ!」ガシッ
剣士「見捨てて行けるかよ!仲間なんだぞ!?」
賢者「一緒に死んでしまったら元も子もないだろう!!」
…
勇者「力が…ふふ…」ニヤニヤ
勇者「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」ギュワァァァァ…!!!
カッ…
…
親父「あの馬鹿でかい魔法石…巨石の力に魅了された勇者は」
親父「あの辺り一帯の空間を消し飛ばす程の爆発を起こしながら、消えた」
親父「…巨石に取り込まれたんだ」シュボッ スゥ
先輩「と、取り込まれた!??」
親父「事故の後、王国まで巨石を持ち帰った賢者は」
親父「勇者の心を宿した巨石の力を使い」
親父「魔族に反応して自動で攻撃をぶっ放つシステムを作ったんだ」
先輩「じ、じゃあ勇者は!!」
…
親父「巨石の中で今も戦ってるのさ」スパァァ
先輩「親父さん…あなた…全部知ってて…!」
親父「なんで勇者を助けに行かねぇかって?馬鹿だなお前」
親父「…あいつはな、多分利用されてる事にも気付いてるんだ」
先輩「知ってて…あえて?」ゴクリ
親父「力に魅了されてたって勇者は勇者だ」
親父「巨石の力を利用してでも、賢者や王国に利用されてでも…」
親父「魔王を討つという使命を果たそうとしてるんだ」
先輩「そんな…人としての存在を捨ててまで…」
…
親父「漢が一度決めた事だ、途中で邪魔しちゃ野暮ってモンだろ」
先輩「野暮って…」
親父「だがな、勇者の決意は俺の息子にゃ関係ねぇ話だ」ギロリッ
親父「賢者…お前の好きにはさせねぇぜ!」クワッ
…
-王宮地下 巨石の間-
ピッ…ピッ…ピッ
男「」zzzz
魔法石(ナビ)『』zzzz
修道女「こ、ここで詠唱するんですか!?」
側近「今回の詠唱は多大な魔力を必要とします」
側近「この巨大な魔法石であれば、修道女さんの魔力に大きな助けとなるでしょう」ニコッ
修道女「そ、それはまぁ…でも」
巨石「」シーン
修道女「(あの時は気付かなかったけれど、この魔法石…)」
修道女「(膨大な魔力以外の何かを内包している…これは…)」
オォォォォォ…オォォォ
修道女「(…声!?人の心!??)」ゾクッ
…
修道女「そ、側近さん!この巨石は…!」
側近「…これだけ膨大な魔力が一箇所に凝縮すると、思念のようなものを形成する事があります」
側近「心配いりません。善なる光で満ちたあなたの心ならば」
側近「巨石の力はきっとあなたの味方をしてくれますよ」ニコッ
側近「では私はこれで。詠唱の邪魔をしてはいけませんからね」クルッ
修道女「…あっ!側近さん!」
ガチャ バタン
…
修道女「行っちゃいました…」
修道女「…仕方ありませんか」フゥ
修道女「男さん、ナビちゃん」
修道女「今助けますからね」スッ
パァァァァ…
男「」zzzz
魔法石(ナビ)『…男ちゃん』ムニャムニャ
…
-男の精神世界-
ナビ「…ん」パチ
ナビ「んぁーよぉ寝た」ノビーッ
ナビ「…ここどこ?」キョロキョロ
ナビ「え、ウチまだ寝てるん??」ホッペギュー
…
ナビ「あったかいなぁ…」
ナビ「この感じ、この匂い」
ナビ「この前とは違う…うん、きっとここは男ちゃんの心ん中や!」
…
男「」zzzz
ナビ「男ちゃんみーっけ?」ニコッ
ナビ「くすっ。夢ん中でも寝てるってどんだけ寝るねん」ケラケラ
ナビ「髪の毛…やわっこいなぁ」サワサワ
ナビ「相変わらず睫毛なが…へへ」スッ
チュッ
…
男「…ん」パチ
ナビ「んむぅ!!!」ビクッ
男「…寝ている間に唇を奪われるとは」クス
ナビ「は、はわわ////」カァァッ
男「奪っておいて赤くなるなよ」ケラケラ
ナビ「だ!だってタイミング!!」
男「…足りないな」スッ
ナビ「にぎゃっ!??」ビクッ
パタッ
…
ナビ「…押し倒された」ドキドキ
男「…押し倒した」ドキドキ
ナビ「お、男ちゃん!?ウチな!??」
男「分かってる」ニコッ
ナビ「いやいや絶対分かって…へ…」
チュッ…チュ
ナビ「ん…」
男「んくっ…ナビ…」
ギュッ チュッ チュ
…
-物流協会事務局 女の執務室-
コンコン ガチャ
親父「よう」ニカッ
女「お、おじ様!??」
親父「職場訪問!…って場合じゃねぇ」
親父「時間がない、一緒に来てくれ」
女「ど、どうしたんですか!?どこへ行くんですか!??」
親父「巨石の…勇者の所だ」
…
-物流倉庫事務所-
先輩「同僚いるか?」ガチャ
同僚「あ、おつかれっすーwww」
先輩「ちょっとツラ貸せ」クイッ
同僚「なにそれ怖いwww」
先輩「時間がない。男が危ないかも知れない」
同僚「…っ!了解っす。なら診療所へ?」
先輩「いや…巨石の間だ」
…
-王宮 国王執務室-
側近「あのシスターの詠唱が上手く運べば、時を置かず心の補完は成就するでしょう」
国王「うむ。ではその瞬間をこの目で見届けるとしよう」スクッ
国王「贄を捧げる者の責任としてな」
ガチャ バタンッ
…
-男の精神世界-
ドクン…ドクン…
-なぁ男ちゃん?-
-ウチら色んな所に行ったなぁ?-
-シップの甲板から見上げた、ダイヤモンドぶちまけたような星空…-
-キラキラ光る朝の水平線…-
-どこまでも続く隣国の田園風景…-
-水の街へ続く、海に架かる橋…-
-里が襲われた時、すぐに逃げるかどうかで喧嘩したやんか?-
-くすっ。男ちゃんと喧嘩するなんてあれが初めてやったんちゃう?-
-どれもこれも、大事な思い出…-
-ウチの宝物やで-
…
-あんなぁ?あの時…-
-昔の記憶に押し潰されそうな時-
-男ちゃん、来てくれたやんか?-
-自分だって辛いのに-
-うぅん、自分の事やからこそ辛いのに-
-…あなたは来てくれた-
-嬉しかったぁ-
-もう一人やないんやって-
-見捨てられたと思ってた過去の記憶が、ようやく天に帰ってくみたいな?-
-上手く言われへんけど…-
-でな?あん時決めてんか-
-男ちゃんが好き-
-ずっと側におりたいって-
…
-男の精神世界-
ドクン…ドクン…
-俺はずっと寂しかった-
-俺には親父がいるし、女も、協会のみんなもいる-
-でも、心の奥にずっと埋まらない空洞があって-
-そこは冷え切った場所で-
-真っ暗で誰にも触れられない場所で-
-そこは多分、一生埋まらないんだろうなって…-
-ナビの中に置き忘れた、北西の村での記憶-
-あの時の孤独感や絶望感が空洞の正体なのかも知れない-
-再リンクでそれは分かったけど、分かったからって空洞が埋まるワケじゃない-
-俺はどうしたらいいんだろう?…-
…
-ナビ、お前が俺のこと好きだって言ってくれた時-
-本当は嬉しかったんだ-
-聞こえないフリしてゴメンな?-
-俺も、お前のことが好きだよ-
-でもこの好きって、本物なのか?-
-俺はただ、無条件に俺のことを受け止めてくれるお前に-
-寄りかかりたいだけなんじゃないか?-
-そういう思いが消えなかった-
-俺はこのまま踏み出してもいいのかな?-
…
-王宮地下 巨石の間-
パァァァァ…
バタンッッ!!
親父「遅かったか!!」ダダッ
女「し、修道女さん!??」
修道女「…っく!お、女さん!?」ビリビリ
先輩「男!ナビちゃん!無事か!?」
同僚「おい!お前何やってんだ!!」
修道女「同僚さん!?な、何って…」ビリビリ
…
側近「役者が揃ったようですね」ガチャ
親父「賢者!てめぇ俺の息子を!!」チャキ
側近「久しぶりですね剣士。そうか涙の欠片は貴方の…」
側近「昔話は後にしましょう、物騒なものは仕舞って下さい」
側近「国王陛下の御前ですよ」
国王「始まったようだな」ズイッ
女「へ、陛下!」
国王「…諸君には感謝している」
国王「此度の我らが計画に際し、その力を存分に発揮してくれた諸君らは」
国王「まさに王国民の鑑である」
先輩「力を貸した覚えなんてないが?」
側近「分からんか。ここに集いし諸君ら全員が力を合わせ、この計画を実現に導いてくれたのだ」
側近「私からも礼を言うぞ」
同僚「何が何やらさっぱりwww普通に生きてるだけですがwww」
側近「普通に、か」ニヤッ
男「…」zzzz
魔法石(ナビ)『…』zzzz
-男の精神世界-
-あんなぁ?心の空洞は無理に埋めんでもえぇんちゃうかなぁ?-
-埋めなくてもいい?-
-多分な、きっとみんな同じなんちゃうかなぁ?-
-同じ?誰の心にも空洞が?-
-多かれ少なかれ、な-
-でな?例えばそれを無理に埋めようとするやん?-
-誰かで、何かで…か-
-ぅん…でもきっと上手くいかへん。一瞬忘れる事は出来るかもやけど-
-…分かるよ、俺もそうだった-
-普通の人はみんなそう、でも…-
-普通の人は?-
-ウチと男ちゃんは特別なんやで-
-特別?-
…
-同じ心を持って、同じ痛みを抱えて…-
-こんなに分かり合える存在ないよ?-
-…確かにそうかも知れない-
-やろー?ウチら最強のコンビやもん♪-
-ふふ。久しぶりに聞いたな-
-えへへ。だからな?男ちゃん…-
-ウチと一つになろ?-
…
-王宮地下 巨石の間-
パァァァァ…
側近「ここまで力が高まれば問題あるまい」
側近「修道女さん、もう結構です」スッ
パァァァァ…バシュンッ!!
修道女「…っく!は!」フラッ
同僚「ないすきゃーっちwww」ダキッ
親父「賢者、お前…」ギロリッ
親父「俺の息子を生贄にするつもりだな!?」
側近「礎、と言ってくれ」
親父「ふざけんな!何が礎だ!!」
国王「剣士よ」
国王「側近…賢者は知恵を貸してくれたに過ぎん」
国王「全ての責は国王たる私にある」
国王「恨むならば私を恨め」
…
女「陛下!!男くんを生贄にってどういう事ですか!??」
親父「勇者が巨石に取り込まれて20年…」
親父「巨石の力に勇者の心が食い尽くされちまう前に」
親父「心の補充をしようって魂胆だよ!」スチャ
側近「無礼者!剣を仕舞え!」
女「そ、そんな…酷い…!」フルフル
…
国王「恨むならば私を、と、重ねて言おう」
国王「強大なる魔王の力を前に、人々を、世界を守る為」
国王「勇者を取り込んだこの巨石の力…」
国王「"神の雷"を制御する心が必要なのだ」
修道女「か、神の雷…!?」
側近「巨石の力を制御するには、揺るぎなき心の力が必要なのだ」
側近「20年前のあの日…勇者から飛び散った、悪を憎む善なる心の残留思念」
側近「"涙の欠片"を内包した男くんの心が、まさに適任だったのだ」
側近「が、火災により深い傷を負った彼の心だけでは不十分…」
側近「その為に彼の心の片割れたる魔法石との接近…心の補完が切望された」
国王「諸君らは、人の心という複雑で繊細な代物を上手く導き」
国王「彼らの心が惹かれ合うのを後押ししてくれたというわけだ」
女「そ、そんな…」
先輩「じ、じゃあ俺達がした事が…」
同僚「あいつとナビちゃんの為を思ってした事が…!?」
修道女「酷い…人の心を何だと思ってるんですか!??」ブワッ
…
親父「…まだだ」
側近「?」
親父「…俺の息子を舐めんな」ギロリッ
側近「愚弄などしていない。涙の欠片は…」
親父「俺の息子を変な名前で呼ぶんじゃねぇ!!!」クワッ
親父「男…とっとと目を覚ましやがれ」
男「…」zzzz
魔法石(ナビ)『…』zzzz
…
-男の精神世界-
-俺達が、一つに?-
-せやでぇ。…あ、エッチな意味ちゃうで!?-
-…ま、まぁ、それもえぇねんけど…-
-あんなぁ?ウチら一つになったらな?この寂しさも消えると思うねん-
-心の空洞だって埋まるかもしれへんし!な!?-
-俺は…-
-…ウチと一つになろ?そしたらこの力も…-
-力?-
-この巨石の力もウチらのもんや-
-おいナビ、何言ってるんだ?-
-こっちへ…こっちへ…-
…
-王宮地下 巨石の間-
パァァァァ…
女「っ!巨石が光り出した…!?」
側近「いよいよ始まるか…」
先輩「男ー!!目を覚ませー!!!」
修道女「あぁ…神よ…」
親父「…。」ギロリッ
男「…っく!」zzzz
魔法石(ナビ)『…。』
…
-巨石内部-
男「…ん」パチ
ナビ「…。」
男「…お前、誰だ?」ムクッ
ナビ「…。」
男「ナビをどこへやった!?」
ナビ「…。」ニタァ
男「っ!?」ビクッ
ナビ「…もう疲れたんだよ、俺は」
グニャァァァァ…
勇者「独りで戦い続ける事に、な」パァァァァ…
…
男「あなたは…先代勇者!?」
勇者「代替わりしたって事になってんのか…酷いモンだな」ハハッ
勇者「俺はここでずっと戦ってきた。ずっとな」
男「ここって…そもそもここは…?」
勇者「巨石の中さ。俺はあの日北の荒野で、巨石の力を制御し切れずに」
勇者「この中に取り込まれたんだ」
男「取り込まれた!?じ、じゃあナビシステムと同じ…?」
勇者「ナビシステムってのは人の心を魔法石に写し取ったものなんだろ?」スッ
魔法石(ナビ)『』チリンッ
男「な、ナビ!!」
…
勇者「俺の場合は生身の人間がそのまま取り込まれちまったワケだから、順序としちゃ逆だ」
勇者「でな?この中から力を振るうには、善を望む強い心が必要なのさ」
男「誰よりも崇高な魂を持つとされる勇者だからこそ出来る芸当か…」
勇者「お褒めにあずかりどうも。だがな、俺も人間だ」ポイッ
男「ナビっ!!」パシッ
勇者「枯れる事のない膨大な力の奔流に晒され続け…」
勇者「終わりの見えない戦いに力を振るい続ける事に、もう疲れちまったんだよ」
勇者「俺の心がな」
…
男「…不憫な話だとは思うが、しかし」
勇者「同情なんざいらねーよ」フンッ
勇者「…欲しいのはお前の心だ」チャキ
男「な、剣!?」
勇者「お前の心を寄越せ」
勇者「魔法石に入ってる分とセットでな」ニヤッ
魔法石(ナビ)『…。』
…
-王宮地下 巨石の間-
パァァァァ…
国王「巨石が輝いておる…」
側近「準備が整いました、陛下」
国王「うむ…騎士団長!」
騎士団長「ここに」ズイッ
ズラズラッ…
国王「あとは任せたぞ」クルッ
騎士団長「承知しました」チャキッ
…
親父「へっ…用が済んだら証拠隠滅って訳かよ」チャキ
女「くっ…!外道め!」
同僚「これw確実に消されるパティーンwww」
修道女「ひぃっ…!」ガクガク
先輩「…はいそうですかって、簡単に消されるとでも思ったか?」ギロリッ
チャキッ…ブンンッッ!!!
同僚「ちょwww先輩そんな大剣どっからwww」
…
先輩「クソネズミ共…前々から気に入らないと思っていたが」ギリギリッ
先輩「俺の女に手ぇ上げた阿保はどいつだ!?ここで根性叩き直してやっから腹決めろ!!!」ダンッッ!!
同僚「こぇぇぇぇ」ビクビク
女「もう…どさくさに紛れて何勝手に恋人宣言してるのよ」ハァ
女「…バカね」クスッ
親父「(今俺の女って言った!?ねぇ俺の女って言った!??)」
…
親父「…久し振りの実戦が、魔族じゃなく人間相手とはな」チャキ
親父「手加減しねぇからな…子を持つ親を舐めんじゃねぇ!!」ブンッ
親父「全員散開!男達と巨石を囲むように広がるんだ!」
先輩「了解!」バッ
女「やるしかないのね」タタッ
修道女「わ、私戦いなんて…!」ビクビク
同僚「回復役なら出来んだろwwとりあえずこっち来いwww」ズイッ
…
-巨石内部-
パァァァァ…
勇者「…。」チャキッ
男「俺を殺そうって言うのか?」
勇者「この中にいる限り死にゃしねぇから安心しろ」
勇者「ま、斬られりゃ普通に痛いだろうけどな」ニヤッ
男「…っく!」ギリッ
…
魔法石(ナビ)『…ん』コロンッ
男「な、ナビ!!」
魔法石(ナビ)『…男ちゃん、どうする?』
勇者「お、パートナーのお目覚めか」
男「ど、どうするって…」
魔法石(ナビ)『…あの人本気やで』ジッ
魔法石(ナビ)『形は歪んでしまっとぉけど、使命に燃える心はまだ残っとぉ』
魔法石(ナビ)『ウチらを取り込んででも…人の血で手を汚してでも』
魔法石(ナビ)『魔王を討ち取るつもりや』
勇者「そういう事だ。お前達には悪いが」
勇者「世界の平和という大義の為…」
勇者「お前達にはその礎となってもらう」
…
男「バカな!大義の為なら普通に生きてる民の犠牲は厭わないってのか!?」
勇者「"普通"ね…」ギロリッ
魔法石(ナビ)『男ちゃん!話して分かる相手やないで!とりあえずこれ!!』
パァァァァ…ポンッ!
パシッ
男「こ、これは親父がくれた剣…!」チャキッ
勇者「ようやくやる気になったか」
勇者「ならば行くぞ…!」ダダッ
魔法石(ナビ)『男ちゃん!来るで!』
男「っ…ぬぁぁ!」
…
ブゥンッッ!!!ガキンッ!!
男「っく!!なんて剣速…!」ギリギリッ
勇者「そう言いながらきっちり反応出来てるじゃねぇか」ニヤッ
勇者「久し振りの実戦、そうでなくちゃ面白くねぇや!!!」ババッ
勇者「ぅおりゃぁー!!」ブンッ
男「っく!!!このぉお!!」ブンッ
ガキンッ!!キンッ キィンッ
…
-男の精神世界-
男「…っはぁ…はぁ…」ギュッ
勇者「お前、さっき普通がどうとか言ったな?」スッ
勇者「…お前達の"普通"を守る為に、俺達がどれだけのモンを諦めなきゃならなかったか」シマイ
勇者「お前、考えた事あるか?」
男「…っく、どういう事だ」チャキッ
…
タタッ…
勇者「っはぁ!」ドカッ!バキッ!
男「ぐはっ!!」
勇者「剣士や賢者と違い、勇者はなろうと思ってなれるもんじゃねぇ」
勇者「ある日突然、啓示が下るのさ」ドカッ!バキッ!
勇者「それまで"普通"に暮らしてた俺は、啓示によってある日突然勇者に任命された」
勇者「そんな理不尽な事ってあるか?」
男「ぐっ…はぁはぁ」
…
勇者「それまでの生活を…」ギリッ
勇者「友達と遊んだり、喧嘩したり」ゴスッ
勇者「誰かに恋をしたり」バシッ
勇者「"かったりーなー"なんて言いながら仕事したり」ドカッ
勇者「仲間と酒を飲んだり」ゲシッ
勇者「そういう"普通"を全部捨てて!」
ドカッ!バキッ!!
勇者「ただの若造が、いつ殺されるか分からない戦いの渦中に突然放り込まれて!!」
ブンッ!ドゲシッ!!
勇者「俺が諦めなきゃならなかった"普通"を謳歌するお前達の為に!!!」
ガシッ!ギリギリッ…
勇者「ずっと戦ってきたんだ!!!」
…
男「が…は…」
魔法石(ナビ)『男ちゃん!!』
勇者「…でもそれも終わりだ」ニヤッ
ブンッッ ポイッ
男「ぐはぁぁ!!」ズシャーッッ
勇者「使命は果たす。魔王はこの手で討ち取る」チャキッ
勇者「お前達も道連れだ」
…
-王宮地下 巨石の間-
ガキィィン!! キィン! キィン!!
親父「おらぁ!」ブンッ
騎士「ぐはぁ!」
親父「へっ…しかし、誰かを守りながら剣を振るうなんざ」
親父「あの日以来だな!勇者!」
先輩「お前か、それともお前か?女に手を上げやがったのは…」ギロリッ
先輩「腹は決まったのかよ!」
ブゥンッッ…ドカァン!
騎士「うわぁぁ!」
…
女「修道女さん程ではない私の魔力でも、巨石の力を利用すれば…」パァァァァ…
女「こんな事も出来るのよ!」バシュゥゥ
ドッカーンッッ!!
同僚「おいおい女ちゃんwwここ室内www」
修道女「やたらと火炎属性の詠唱を用いるのは危険です!」
女「ふふっ…まだまだ」ニヤッ
同僚「あいつwwwしっかり魅了されてねぇかwww!?」
修道女「マズいです!いくら広いとは言え、室内であんな火力の詠唱は…」
同僚「みんなも何だかんだ戦い難そうだしな…あwww」ピコーン
…
同僚「おいちょっと耳貸せwww」
修道女「な、何か思い付きましたか!?」ササッ
同僚「はい女ちゃんも集合www」
女「何よ今いいところなのに」ブツブツ
同僚「あのな…www」ゴニョゴニョ
修道女「…そ、それなら何とかなるかもです!」スッ
女「いけそうね…私も手伝うわ!」スッ
パァァァァ…
グワァァァ…
…
同僚「巨石の力をレンタルしーのww」
同僚「ミラクルブースト転移魔法でwww」
女「巨石の間にいる私達を…」ビリビリ
修道女「騎士団の皆さん諸共まとめて転移させます!!」クワッ
パァァァァ…
バシュゥゥ!!!
…
男「(啖呵切ったはいいが…さてどうする…?」チャキッ
カチャ…ポロッ
勇者「ん?なんか落ちたぞ」
魔法石(ナビ)『ホンマや、剣の部品ちゃう?』
男「どれどれ…あ、柄の丸い凹みって穴を塞ぐキャップだったのか」
男「…あ」ピコーン
…
男「親父のくれた剣…キャップを外して出てきた丸い穴」スッ
男「これは多分、こう使うんだ」スポッ
カチャ…
魔法石(ナビ)『あらまぁなんと収まりのえぇ場所』スッポリ
パァァァァ…ブァン!!
オォォォ…
男「ナビと巨石の力を反応させて、強大な魔力を纏う魔法剣…」チャキッ
勇者「な、何だと…!?」
男「勇者さん」
男「これでもう一度勝負だ」チャキッ
…
-王都市街地-
…バシュゥゥ!!!
親父「な!?外に出た…?」ポカーン
先輩「転移魔法で全員外に放り出したのか!」
先輩「助かるぜ!これで思う存分…」チャキッ
騎士団長「っく!…こ、ここは市街地!?王宮から転移してきたのか」
騎士団長「まぁ良い!貴様らを討つ事に変わりはない!!」チャキッ
騎士団長「ゆくぞ!!!」ブゥンッッ
先輩「おらぁぁ!!」ブゥンッッ
ガキィィン!!キィン!キィンキィン!!
…
同僚「かーらーのーwww」スチャッ
親父「ん?まだ何かあんのか?」
同僚「親父さんwこれ持ってって下さいwww」ポイッ パシッ
親父「これは…通信用の魔法石?」
同僚「イッツ☆ショータイムwww」
ピピッ
…
-王宮 国王執務室-
国王「さて、そろそろ頃合いか」
タッタッタッ…バタンッ!
警備兵「陛下!!」
側近「なんだ騒がしい!」
警備兵「報告します!き、巨石の間から…」
警備兵「男を除く全員が消失しました!」
側近「消失?…転移魔法か」ギリッ
国王「何だと!?しかしそんな事が可能なのか?」
側近「恐らく巨石の力を借りた超出力の転移魔法で…」
側近「巨石の間にいた者全員を一気に転移させたものかと…」
…
国王「むぅ…閉鎖された空間で戦う事を避けたか、しかし一体どこへ?」
警備兵「分かりません、しかし…」
警備兵「現在、王都市街地の複数箇所で同時に戦闘が展開されていると報告が!」
国王「な、何だと!?」ダダッ
…
ガララッ!
<キィン…ドカンッ…
国王「おい…これは…」
側近「…むぅ…」
国王「…市民を人質に取ったか…」ゴクリ
側近「あいつら…」ギリリッ
…
-巨石内部-
勇者「そんな…バカな…っく」ボロッ
男「これで分かっただろ、俺はあんたにも負けない力がある」
男「だから…もういいんだよ」
勇者「…っくふふ、ふははは!!」
男「…?」
勇者「あーっははははは!!!!」
勇者「はは…はぁ…うっ…く…」ポロポロ
勇者「あぁ…あぁぁぁ」ポロポロ
男「…。」スッ
ギュッ…
…
男「…勇者様」サスサス
男「長い間、俺達の為に」サスサス
男「…本当にありがとうございました」サスサス ギュッ
勇者「俺は…俺は…!!」ポロポロ
勇者「うぉぉぉぁぁぁぁぁ」ポロポロ
魔法剣(ナビ)『…。』ウルッ
…
勇者「すまなかった、色々と」フカブカー
男「顔を上げて下さい」フルフル
男「あなたは元々、生身の人間ですから」
男「ここから出ようと思えば出られたはずなんです」
勇者「巨石の力に魅了された俺の弱さがそれを許さなかったって事か…」
…
勇者「俺も戦士だ!正々堂々戦って負けたのだから、お前の言葉に従うよ」
男「勇者さん…」
勇者「だが、俺は諦めないぜ!」
勇者「人間として失われた時間は長いが、それでも俺は俺…」
勇者「魔王討伐に向けて!今度は俺自身の力で!」
男「俺にも出来る事があればお手伝いします」
魔法剣(ナビ)『マジか!!』
男「お前も手を貸してくれるか?」
魔法剣(ナビ)『あったりまえやん!なんたってウチら…』
男「最強のコンビだからな」ニコッ
男「ですが、その前に…」
勇者「…だな」ギリッ
…
-王都 市街地-
…ブロロロ…
女「カーゴ…こんな時間に運行なんてあったかしら」
女「っていうかあれ…同僚くんのカーゴ!?」
ブロロロ…キキッ
同僚ナビ『集荷に参りましたわ!』
同僚「よう相棒wwささ乗った乗ったwww」グイグイ
修道女「え?え??」
女「今度は何をしようってのよ?」
バタンッ
同僚「騎士団狩りだよwww」
ブォン!ブロロロ…
…
先輩「ん?無線?同僚か」ピピッ
同僚ナビ『私です!同僚さんは運転中なので私が騎士団の位置と人数をナビゲートします!』
親父「そいつは助かるぜ!なにせこいつら人数が…っとりゃ!」キィン!キィン!
同僚ナビ『王立騎士団は総勢100人の大所帯…ですが』
同僚ナビ『王都の街並みを隅々まで知り尽くした私達ならば』
同僚「どこに隠れてたって逃がさねぇよんwww」
女「更に同僚くんコンビの索敵情報を使って、私と修道女さんの詠唱を組み合わせて…」
修道女「攻撃魔法をピンポイントで転移!」
先輩「よし!これなら行けるぞ!」ブンッッ!
…
同僚ナビ『先輩さん!2ブロック北に3人!』
先輩「了解!」ダダッ
同僚ナビ『剣士様はその先3ブロックに渡って2人ずつ計6人ですわ!』
親父「おうよ!剣士様なんてこっ恥ずかしいぜ!親父で構わねぇよ!」ニカッ
…
同僚ナビ『女さん!南6ブロック先に8人固まっています!』
女「了解!行くわよ修道女さん!」パァァァァ
修道女「了解です!」パァァァァ
同僚「そして俺は、そこら辺にいる騎士団の連中を追い回して一箇所に追い込む係www」
同僚「たかまるぅwwww」ガチャン
…
先輩「親父さん!」ピピッ
親父「おう!どした!」キィン!キィン!
先輩「この戦いが終わったら俺、親父さんに話が…!」ガキィン!
親父「あー聞こえない聞こえない!妙なフラグ立てんじゃねぇよバカ!!」
女「こっちには聞こえてるわよ…ホントにもう」クスッ
ブォン!ブロロロ…
…
-王宮 国王執務室-
勇者「お久しぶりです、陛下」ペコッ
男「…。」ペコッ
国王「勇者!?本当に勇者なのか!??」ガタッ
側近「…。」ギリッ
勇者「賢者も久しぶりだな、今は側近か」
勇者「何とか言ったらどうだ」
側近「…。」フンッ
…
男「陛下。20年前の勇者の落涙での一件」
男「そして、今回の俺とナビに降り掛かった出来事…」
男「全て公表して下さい」
男「勇者の命を犠牲にして、神の雷を作り出した事」
男「そしてその力を保つ為に、今度は俺とナビを…」
男「これは人の道に外れる行為です」
…
勇者「俺が巨石の力に魅力されてしまったのは俺の不徳の致すところだ」
勇者「だが賢者、お前はそれを好機と捉え」
勇者「俺を一人の人間ではなく、兵器として利用してきた」
勇者「…俺はまだいい」
勇者「巨石の中とは言え、魔王を討つという使命の為にやってきた事は同じだからな」
勇者「だが、彼らにしようとした事は違う」
側近「…。」
…
国王「勇者よ、そして男よ」スクッ
国王「そなた達は大義を前に小さき者を蔑ろにするな、と言うが」
国王「それは理想論だ…詭弁とも言える」
国王「誰一人傷付ける事無く、全てを守り抜く…」
国王「それが出来るならば私だってそうしたい」
国王「しかし現実を見よ」
国王「魔王を前に、我々人間の力はあまりにも無力だ」
国王「民を、世界を守る為」
国王「側近…賢者の考えは次善の策であると考え、私は支持したのだ」
…
男「陛下!それは違います!」
国王「違わんな。私は王国の為、世界の為」
国王「私は悪にでもなろうと覚悟を決めたのだ」
国王「そなたにその覚悟はあるか?」ギロリッ
…
ピピッ ピピッ
側近「こんな時に何だ!?」ガチャ
騎士団長『わ、私です…』
側近「おぉ騎士団長!城下の争いはどうなった?奴らを仕留めたのだろうな!??」
騎士団長『そ、それが…あっ』
親父『おいーっす』
側近「なっ!剣士か!」
親父『騎士団だっけか?コイツら全員制圧したぜ』
側近「何だと!??」
国王「か、代われ!」バッ
…
国王「私だ!おぬしら、まさか騎士団を全員…」ワナワナ
親父『国王陛下か!安心しろよ、全員生け捕りだ』
国王「い、生け捕り…」
親父『まさか市街地で人斬りをするわけにゃいかねぇだろ』
親父『それにな、アンタ達と同じ土俵に立つつもりはねぇんだ』
国王「…どういう意味だ」ギリッ
…
親父『っつーわけで、あとは俺の息子に委ねるとするか!』
親父『おい男!こんだけ騒がしきゃーさすがに目ぇ覚めたろ!!』
親父『そいつらにガツンと言ってやんな!!』ガチャ
国王「っく…」イテテ
男「親父ホントに声がデカいな…丸聞こえだぞ」クスッ
勇者「剣士…全然変わらないなあいつは!」ケラケラ
…
男「…外の騒ぎで、王都の人々も目を覚ましたことでしょう」
男「どちらにしろ早晩、みんなに説明しなきゃいけなくなるはずです」
勇者「陛下、俺はこいつらに教えられました」
勇者「力の使い方次第では、誰かを守りながら戦う事も出来ると…」
国王「…むぅ」
…
勇者「陛下!俺にもう一度チャンスを下さい!!」バッ
勇者「今度はこの手で!俺自身の力で!!」
勇者「魔王を討ち、平和を勝ち取ってみせます!!」
勇者「お願いします!!」フカブカー
男「俺からもお願いします!!」
…
-王宮 国王執務室-
国王「…分かった」
側近「へ、陛下!!」
国王「…おぬしらの言うことは所詮理想論」
国王「だが、国を統べるものとして」
国王「初めから完全無欠の答えを諦め、次善の策に甘んじた私は間違っていたようだ」
側近「陛下!それは違います!!」
側近「王国の…世界の将来を憂い、陛下は自ら道を踏み外してでも民を守ろうとした!!」
側近「そんな陛下を誰が非難できるでしょう!??」
…
国王「…側近よ、ありがとう」
国王「だが私は悟ってしまった」
国王「目的の為、自ら悪の道を歩まんとするような考え方は」
国王「魔王と何が違う?」
側近「そ、それは…」
…
勇者「答えが出たようですね」
国王「あぁ…勇者よ」
勇者「はっ!」
国王「私の最後の頼みだ」
国王「魔王を討て」
国王「平和を勝ち取ってくれ」
勇者「承知致しました!!」ビシィッ
国王「男くん、そして魔法石に宿りし心よ」
男「はい!」
魔法剣(ナビ)『はぃな!』
国王「勇者の力になってやってくれ」
男「分かりました!」
魔法剣(ナビ)『やったんで!』
側近「…くっ」ギリギリッ
…
-数日後 王都酒場街-
ワイワイ…ガヤガヤ…
<乾杯!!!カチンッ
同僚「ぷはーうめーwwwww」グビ
修道女「今回はまた大騒ぎでしたねー」ゴクッ
女「この一件で王立騎士団は解体…騎士団長は修行の旅に出るそうよ」
先輩「いい心がけだな、女性に手を上げるなんざ、紳士の風上にもだ」
先輩「あ、ラス1もーらい」パク
女「あ!私狙ってたのに!紳士の風上にも置けないわね!」
先輩「旨いもんは別だ」ニカッ
修道女「それは同感です」ケラケラ
…
親父「勇者!お前全然変わらないなー!!」バシバシ
勇者「剣士もな!見た目は老けたが中身は全然だ!!」バシバシ
親父「それ褒めてねぇだろー!」ワハハ
…
男「昨日、陛下から将来的な王制廃止の通達が出たな」グビ
同僚「陛下の気持ちも分からんではないが…やり方がマズかったな」
男「この国はこれからどうなるんだろうなー」
先輩「議会が中心になって、民主主義の国を作っていくそうだ」
修道女「色んなものが変わっていくんですねぇ…」
同僚「シリアスな顔しちゃってwwどうせ1時間もしたらとっ散らかっちゃうんだろwww」ケラケラ
修道女「また馬鹿にしてー!!」ムキー
…
-王都 酒場街-
ワイワイ…ガヤガヤ…
親父「エールおかわりお待ち!」ドンッ
勇者「お!サンキュー!」
勇者「それじゃ、かつての同士との…」
親父「再会を祝して…」
<乾杯!カチンッ
…
勇者「…しかし剣士が父親とはな!」グビグビ
親父「自分でも不思議だよ」フフッ
勇者「でも、さすが剣士の息子だな!巨石の中で剣を交えたが、強かったぞ!」
勇者「剣の腕はお前と並び立つんじゃないか?」
親父「だろー??ガキの頃から鍛えてっからよ!」ワハハ
親父「血は繋がっていないが、女共々自慢の子供さ」ニコッ
勇者「…すっかり父親の顔だな」フフッ
…
親父「お前、これからどうすんだ?」グイッ
勇者「陛下と約束したんだ、一から修行し直して」
勇者「今度こそ、魔王を討つ!」グッ
勇者「剣士はどうする?一緒に来るか?」
親父「俺は歳食っちまったからな…身体がもたんだろうよ」
親父「鍛治の仕事もあるしな、だからすまん」
…
勇者「いいんだよ、こうしてまた剣士に会えただけでも嬉しいんだ!!」
親父「あの頃は魔王討伐に必死で、酒なんか飲んでる余裕なかったしな」ニカッ
勇者「まったくだ」ケラケラ
親父「あ、だったら代わりにあいつ連れてけよ!」
勇者「男くんか…確かに一緒に来てくれたら心強いな!」
勇者「今は物流協会だっけ?陸軍を再編成して出来たんだよな」
勇者「来てくれないかなー」ギシッ
…
親父「まぁ本人の気持ちもあるだろうしよ、直接聞いてみろや」
勇者「そうするよ!いやぁ…しかし」シミジミ
親父「何だよ」
勇者「普通って、いいもんだな」ジワッ
親父「…勇者、おかえり」ポンポン
勇者「ははっ…ただいま」ニカッ
<おーし今日は飲むぞー!!
<店中の酒樽を空にする!!
ワイワイ…ガヤガヤ…
…
[BAR REQUIEM]
先輩「アードベッグを」
女「マルガリータを」
<お待たせしました
<乾杯…カチンッ
女「…あの時はビックリしたわ」フゥ
先輩「どうしても許せなくてな。君を傷付けようとしたあいつらが」
女「それにしたって…何もおじ様の前で啖呵切らなくても」クスッ
先輩「あれは勇み足だったか…」ハァ
先輩「だが、言った言葉に嘘はない」
先輩「俺は君の事、そういう風に思ってるんだ」グイッ
先輩「…君はどうなんだ?」
女「…。」カラカラッ
…
女「あなたの気持ちは嬉しいし、私の心も同じ方を向いてると思うわ」
女「でもね…自信がないの」ハァ
女「私に人を愛する…愛される資格なんてあるのか、って」
先輩「愛の資格か…」
先輩「そんなモン必要ない!と言っちまう事も出来るが…」
先輩「強いて言うなら、とっくに持ってるんじゃないのか?」
女「私がその資格を?」
…
先輩「君は親父さんの娘として生きてる、男の姉としても」
先輩「生きてるって事は、それ自体誰かに愛されてる証なんだ」
先輩「だから君も誰かを愛する事が出来る、愛される事を知っているからだ」
女「私が…」
先輩「今すぐじゃなくてもいい」
先輩「俺との事、少し考えてみてくれ」
女「…優しいのね」
先輩「強引になれないだけさ」グイッ
先輩「…戦闘みたいにはいかん」クスッ
…
同僚「修道院特製エールでww」
修道女「私も同じので!」
<お待たせしました
<乾杯!カチンッ
同僚「今回も大活躍だったなwww」
修道女「最後まんまと利用されましたけどね…側近様め」グヌヌ
同僚「そういや側近…賢者ってどこ行ったんだww?」グビ
修道女「姿を消したそうですね」
同僚「陛下はともかくあの野郎wwやりたいだけやってトンズラかよwww」
…
修道女「それと、王都襲撃の真相も結局分からずじまいですよね?」
同僚「先輩は女ちゃんを疑ってたみたいだけどなww」
修道女「まぁ勇者様と巨石の力が暴発したという事なんでしょうけど…」ウーム
同僚「あれだろ?ナビちゃん達が聞いたっつー呻き声www」
修道女「はい…一体何だったんでしょうねー」グビ
同僚「勇者にやられた魔族の亡霊とかだったりしてなwww」ケラケラ
…
同僚「しかし、ホント飲んでも散らからなくなったよなwww」
修道女「うぅ…こうして一生いじられるのね…」シクシク
同僚「だって初登場時の衝撃が強過ぎてwwww」ケラケラ
修道女「むぅ…でも散らからなくなったのは同僚さんのお陰でもあるんですよ?」
同僚「だろーwwもっと褒め称えてくれて構わんwww」
修道女「またすぐ茶化すんだから…」クスッ
同僚「シリアスなの苦手なんだもんwww」
…
修道女「いつも…ありがとうです」ニコッ
同僚「なんだよ急にww」
修道女「何でもないでーす」プイッ
同僚「…こちらこそ、だ」グビ
修道女「え?」
同僚「だから!…いつも助けてくれてありがとな」
修道女「…。」ポスッ
同僚「な、なんだよ急にもたれ掛かってきて…眠いのか?」
修道女「そうでーす。眠くて…もう死んでもいい位」フフッ
同僚「わけ分からん…」
…
同僚「なぁ、今度の休み空いてるか?」
修道女「(あ、また草生えてない)」
修道女「空いてますけど、どうしたんですかー?」
同僚「ちょっと行きたい所あるんだわ」
同僚「付き合ってくれや」
修道女「そ、そそそれって!でででデート的な!??」ガバッ
同僚「そういうんじゃねーよバーカww」クスッ
修道女「な、なんだ…」シュン
修道女「じゃあどこへ行くんですか?」
同僚「…ちょっとな」グビ
…
[BAR REQUIEM]
カランッ
男「ブルームーンで」
ナビ『あら珍しいやん』
<お待たせしました
<乾杯!
…
ナビ『男ちゃん具合は平気?』
男「全然平気だよ。っていうか今になってみれば…」
男「意識を失ったのだって騎士団が何かしたんじゃないかっ?て気もするけど」クイッ
ナビ『そこは何とも言われへんけどな、でも…』
男「でも?」
ナビ『さすがに物忘れを無理矢理させるってのは出来ひんちゃう?』
男「そうだよな…やっぱり疲れてたのかなー」
…
ナビ『あ、そういえば男ちゃん』
男「ん?」ゴクッ
ナビ『国王はんの前で啖呵きってもうたけど、ホンマに魔王を倒しに行くん?』
男「そーれーなーーー」ギシッ
ナビ『…悩んでんねや』チョコン
男「あぁ…いくら親父に鍛えられたとは言え、俺はただの一般市民だからな」
ナビ『せやんなー。怖いよな』プラプラ
男「魔界…魔王…」
男「勇者さん達以外、誰も見た事のない世界…」ギシッ
男「…そこへ行って自分が剣を振るうってのが、想像もつかないんだ」
…
ナビ『…ウチは男ちゃんについてくで』
ナビ『今まで通り、一緒にカーゴ乗るんでもえぇ』
ナビ『戦うって言うなら一緒に行く』
ナビ『おとさんのお陰で、魔法剣として一緒に戦う事も出来るようになったしな』ニカッ
男「…それは、相棒としてか?」
ナビ『それもあるけど、ウチは男ちゃんの事好きやから。』
男「…うん」
…
ナビ『…っ。もー煮えきらんなぁ』ムッ
ナビ『何?ほんなら修道女さんみたいに啖呵きったろか??』
ナビ『ウチは!男ちゃんの事が!!』ババーン
男「いいよいいよ!照れ臭い」アセッ
ナビ『なんやつまらんなー』ケラケラ
男「…。」
ナビ『…。』
…
ナビ『男ちゃんは人を赦せる人や。』
男「赦す…?」
ナビ『せやでー。今回も勇者はんの抱えとぉ苦しみとか悲しみとか…』
ナビ『ぜーんぶ受け止めたって、最後は巨石から引っ張り出したワケやん』
ナビ『誰にでも出来る事ちゃうで』ウンウン
男「そうかな?」
ナビ『そーなの!』
…
ナビ『それはね、慈しみやと思うの』
男「慈しみ…」
ナビ『同僚ちゃんとも、他の誰とも違う…』
ナビ『男ちゃんのそういう所が、ウチは大好きなんよ。』ニコッ
男「ナビ…」スッ
ナビ『…だーっ!ちょ!タイム!』ヒラリ
男「あ、避けられた」
…
ナビ『男ちゃんそういうトコあるよな?巨石ん中でもせやったけど!』プンスカ
ナビ『大事な事ちゃんと言わんと、勢いでその、そ、そういう事を…』カァッ
男「あ、あれやっぱりお前だったんだな?」
ナビ『へ?』
…
男「ほら途中からお前の姿に化けた勇者さんが出てきたからさ」
男「俺まさか男同士で…!?って心配してたんだよー!」ハハッ
男「やっぱりお前だったんだな、いやー良かった!安心したよ」ホッ
ナビ『ホッ…ちゃうわぼけ!』シャー
…
ナビ『そうやって大事な言葉をはぐらかすんはズルいよ!』
ナビ『女の子はな!?分かってても言葉で言って欲しいねん!!』プンスカ
男「すまん、じゃあちゃんと言うよ」スチャ
ナビ『…ぁ、眼鏡』ドキッ
男「ナビ…俺はお前の事がsナビ『あーっ!た、タイムタイム!!!』アセッ
男「…今度は何だ?」ハァ
ナビ『やっぱ今日はダメ!男ちゃんお酒入っとぉもん!!』
男「こんなんで酔っ払わないぞ?」カタムケ
ナビ『いーやアカン!酔っ払っとぉ人はみんなそう言うねん!!』
男「それはまぁ確かにありがちだ」スチャ
ナビ『よし眼鏡かけたな!?もう一生かけとけ!!』
男「なんだそりゃ」ケラケラ
ナビ『全く…せやから今度シラフん時にちゃんと言うて??』
ナビ『な?な??』ジーッ
男「…その視線こそズルいよ」ハァ
…
男「分かった。勝負は次回に持ち越しだ」
ナビ『何の勝負やねん…まぁほなそういう事で!』ニシシッ
ナビ『(何でそこで眼鏡取るねん!あの眼はエロい!直視でけへん!)』カァッ
ナビ『(あーモヤモヤするぅ…男ちゃんのあほ!エロメガネ!)』ドキドキ
…
545 : ◆o/5nn0YDew - 2018/05/01 19:57:34.92 hNFIRtqbO 515/754第二部完となります
ありがとうございました
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