上条「説教がしたい……」【前編】
276 : VIPに... - 2011/06/14 05:58:45.61 Qo/Ab5420 173/348呼び方は「御坂さん」だった。酔ってる時の美鈴本人が「美鈴さん」って言ってたのを見間違えた…訂正
酔ったとこを説教しようと思ったが気づいたらこうなった 迷走? そんなの最初からすでに
色々アレだが投下しちゃいます
上条「御坂さん……まず会う事自体が難しいな」
イン「どうするのとうま? また誰かに聞いてみる?」
上条「そうだな……じゃあここはやっぱり御坂に聞いてみますか」
イン「最近、短髪に頼る事が多い気がするんだよ」
上条「確かに。まあ深くは気にするな、電話電話っと」
イン(上手く利用してるだけ……いや、短髪も嬉しそうだから言わないでおくんだよ)
上条「さーて、出るかな?」
イン「間違いなく出るから心配しなくても良いんだよ」
上条「何だそれ?」
常盤台学生寮
美琴(御坂美琴は知っている、経験則で知っている……。そろそろ電話が、アイツから電話が来るはず!)
美琴「さあ来い電波! 鳴れよ携帯!」
黒子「お、お姉様……いったい何を」
美琴「へ? いや、別に何でもないのよ?」プルル
美琴「とか言ってるうちにキター! も、もしもし!?」
上条『よう、御坂。急にすまん、今大丈夫か?』
美琴「そ、そうね。忙し……いや、ちょうど暇してたところなのよ」
上条『そうか、じゃあちょっと話があるんだが』
美琴(話? まさか……デート!? でもコイツの事だからまた誰か別の女の話を……いや、もしかしたら今度こそ!)
上条『もしもし? 御坂?』
美琴「な、何かしら? 先に言っておくけど私は今日は暇だから、その辺は心配しなくて良いわよ!」
上条『? まあいいや。それで話なんだけど』
美琴「うん……」
上条『お前の母さんに会いたいんだけど、どうすれば良いか教えてくれないか?』
美琴「……あぁ?」
上条『聞こえなかったのか? お前の母さん、御坂美鈴さんに会いたいんだ』
美琴「ふ……ふふふ……」
上条『おい、聞いてんのか? 俺はどうしても会いたいんだよ。頼む、教えてくれ!』
美琴「……そこら辺の女の子だけでは飽き足らず、ついに人妻にまで手を出しおったかコラァ!!」
上条『はあ!? 何言ってんだテメェ!?』
美琴「しかもよりにもよって私の母親なんて……! 今日という今日は許さないわよ!!」
上条『落ち着け! 俺はただ会って話したいだけなんだ! 連絡先を教えてくれればそれで……あっ』
美琴「……何よ。自分の非道な行いについに気づいたのかしら?」
上条『そういえば俺、電話番号知ってたわ』
美琴「…………えっ? 何それ!?」
上条『前に交換してたの忘れてたわ。すまん、御坂。という訳でまたなー』
美琴「ちょっと待て! 人の話を――」プツッ
黒子「お、お姉様?」
美琴「うう……私はわざわざペア契約までしたのに……あのバカ母め……!」
上条「いやーうっかりしてたよ。別に御坂に電話する必要なかったな」
イン(短髪……きっといい事あるから落ち込まないでね)
上条「では、早速電話をしてみるかね」プルル
??『もしもし?』
上条「おっ、繋がった。って、男の声?」
??『ああ、良かった……この電話の持ち主のお知り合いですか?』
上条「そうですけど……そちら様はいったいどちら様で?」
運転手『私はタクシーの運転手です。実は……』
美鈴『おーい運転手ー! なーに人の電話勝手に使ってるのよー』
上条「まさか……その女の人、酔ってます?」
運転手『ええ……まだ昼間なのに、かなり飲んでいるみたいですね』
美鈴『美鈴さんはぜーんぜん飲んでいないわよー? うっ……気持ち悪い』
上条「……不幸の予感がする」
運転手『つかぬ事をお聞きしますが、あなたは学園都市の方ですか?』
上条「へ? そうですけど……何故それを?」
運転手『本当ですか! いや、ダメ元で聞いてみたんですけど良かった良かった』
上条「何をおっしゃっているのでございましょうか……?」
運転手『今からお連れしますので後の事はお任せしますね。では住所を教えていただけますか?』
上条「いや、知り合いは知り合いですけどそれは俺には関係ないというか!」
美鈴『もうダメ……限界……』
運転手『ああ、駄目ですよ!? すいません! 一刻も早くお願いします!』
上条「……はあ、分かりました。第七学区の――――――です」
運転手『ありがとうございます! それではまた!』プツッ
イン「大変だね、とうま」
上条「……結果オーライという事にしておこう」
運転手「いやー助かりました! それでは、よろしくお願いしますね」
上条「……ご苦労様でーす」
美鈴「あれー? 上条くんだー! 久しぶり!」
上条「久しぶりですね御坂さん。……出来れば素面の時に会いたかったですが」
美鈴「だから私は酔ってないっつうのー! 何だーその目はー?」
イン「とうま……どうするの? 短髪に連絡する?」
上条「いや……それはやめておいてあげよう。それこそ親の面目丸つぶれだろうからな」
美鈴「ううっ……気持ち悪い……」
イン「もう説教しても良いんじゃない?」
上条「俺もそう思う……とりあえず今は、部屋に連れて行くしかなさそうだ」
上条の部屋
上条「はい、とりあえず水飲んでください」
美鈴「ありがとう……ふう」
イン「どう? 落ち着いた?」
美鈴「ええ、ごめんね。急に押しかけたみたいになっちゃって」
上条「いえ……御坂さんに会いたかったからむしろちょうど良かったですよ」
美鈴「あら、私に会いたいだなんて……美琴ちゃんはどうしたのよー?」
上条「えっ? まあ、アイツはアイツで楽しくやってるんじゃないですか?」
美鈴「そう? なら良いけどね」
その頃の美琴
美琴「まさか人の母親にまで……いや、さすがにアイツでもそれは……」
美琴「それでもアイツなら……アイツならやりかねない!
未亡人位ならとっくにフラグの一つでもたててそうだし……」
黒子「……何を悩んでいらっしゃいますの?」
美琴「放っておいて! 今私は家庭崩壊の危機に直面しているのよ!!」
黒子「か、家庭崩壊?」
美琴「あーもう! パパー! 早く帰ってきて―!!」
上条「ところで、何で学園都市に居るんですか?」
美鈴「この前と同じ感じで、学園都市にしかないデータが必要なのよ」
上条「それでまた飲んでこうなったと……」
美鈴「ええ……ごめんなさいね?」
上条「いや、良いんですよ。それで御坂さん、ちょっと聞きたい事があるんですが……」
美鈴「ん? 何かしら? お礼に美鈴さんに答えられる事なら何でも答えてあげるわよー。
あっ、でも美琴ちゃんのスリーサイズは本人に聞いてあげてね?」
上条「……何ですかそれ。で、話なんですけど、最近悩みとかありませんか?」
美鈴「悩み? 私の悩みを聞いてどうするの?」
上条「まあ、色々話を聞いてみようかと」
美鈴「……ふっふー。少年、いくら私が若く見えるからって人妻を口説いちゃダメよ?
そうやって悩みを聞いてあげて、コロッと落とすっていうのは常套手段だけど相手は選んでね」
上条「ちっがーう! ……ともかく悩みを教えてください」
美鈴「仕方ないわね……でも、その前に」
上条「……その前に?」
美鈴「お酒を買いに行こうー!!」
イン「とうま、この人まだ酔ってるね」
上条「……だな」
街中
上条「……第七学区に酒を買える場所なんてあるのか?」
美鈴「お酒くらいどこでもあるでしょー? そんな心配しないの……ぶはー」
上条「酒くさっ! ……何してんだろう、俺」
土御門「よーう、カミやん。キレイなお姉さんなんか連れてデートですかにゃー?」
上条「土御門か。残念だけど、デートじゃないぞ」
美鈴「おっ! 今私の事をお姉さんって言った? いい子ねー、よしよし」
土御門「うわっ、やりづらいぜよ……で、カミやん達は何してるんだ?」
上条「色々あって酒を買いに外に出たんだが……どこにあるのかと考えているところだ」
土御門「それならこの土御門さんにお任せあれだぜーい。安くて品ぞろえのいい店を教えてやるよ」
上条「おお、助かるぜ。……でも、鍋の時といい何でお前そんな店知ってるんだ?」
土御門「秘密ぜよ」
上条「ともかくありがとよ、土御門」
土御門「これくらいお安い御用だにゃー。ところで、怪我は治ったか?」
上条「……全部知ってるのか? 相変わらず色々やってるみたいだな」
土御門「それがオレの仕事だからな。……カミやん、あまり無茶はするなよ」
上条「……ああ、分かってるって」
美鈴「なーに辛気臭い顔しちゃってるのよー! ほら、早く行きましょー」
上条「先に行かないでくださいって! という訳でじゃあな、土御門」
土御門「おう、またにゃー」
土御門(御坂美鈴……現時点では心配する必要は無いし放っておくか)
戻って上条の部屋
上条「ただいまーインデックス。……しかし、重かった」
イン「おかえりとうま。ずいぶん買ってきたんだね……」
美鈴「大人の財力舐めんなよー。まっ、旦那にはそんなに渡してないけどね」
上条「はあ……そうですか。そういえば何で酒を買わなきゃいけなかったんですか?」
美鈴「私の悩みを聞きたいんでしょ? それなら飲みながらじゃないと!」
上条「まあ、話してくれるならそれで良いですけどね」
美鈴「さーて、上条くんは何飲む?」
上条「もちろん俺はジュースですよ」
美鈴「えー、一緒に飲もうよー?」
上条「未成年だから駄目でしょうが! つうか子供に進んで飲ませようとするな!」
美鈴「ふふふ……冗談よ、ノリが悪いぞー? まあいいや、かんぱーい!」
上条「……かんぱーい」
それからしばらく経って
美鈴「……でね、ウチの旦那ったら全然帰ってこなくて……私は一人で過ごしてるのよ?」
上条「はあ……そうですか」
美鈴「それに最近は美琴ちゃんも冷たいし……ちょっと上条くん、聞いてるの!?」
上条「聞いてます、ええしっかり聞いてますとも……」
イン「とうま……この人完全に酔っぱらっちゃってるね」
上条「ああ……説教するタイミングが見つからない」
美鈴「最近はお肌の調子も悪くて……君のお母さんはいったいどうなってるのよー!?」
上条「……何故ウチの母親がそこで出るんですか?」
美鈴「あの肌はおかしい! 絶対何か秘密があるはずよー!!」
イン「しいなに関しては私も同感なんだよ」
上条「息子としてもそれは気になるところだ」
美鈴「結局私はただ若いんじゃなくて『その年齢にしては』、っていうのがついて消えないのよ!」
上条「……その話、さっきも聞きましたよ」
イン「とうまー……私、何だか眠くなってきたんだよ……」
上条「気づいたらもう夜の十一時……インデックス、先に寝てろ」
美鈴「ちょろっとー、聞いてるのー?」
上条「聞いてますよー……あれ、ジュース無くなっちまった。これでも飲むかな」グイッ
美鈴「あれ? それはジュースじゃなくて……」
上条「んぐんぐ……ぷはー! 何これうめえ! もう一杯! んぐんぐ……」
美鈴「あらら……知-らないっと」
それからまたしばらく経って
上条「だから! 俺はただの男子高校生なのに命を狙うとかおかしいでしょ!?」
美鈴「は、はあ……」
上条「インデックスは噛みつくし、御坂はビリビリするし!!
ステイルのヤツは俺を盾にしやがるし、神裂もちょっと裸見たくらいで抜刀するし!」
美鈴「そ、そうなんだー……へー」
上条「何が窒息死、だよ! そんな一言で人間死んだら苦労しねえっつうの!!
『向き』変換とかで死にかけるし、土御門は俺をボコボコにするし、
石向けられてバラバラになりそうになるし、ゴーレムとか言うのも無茶苦茶強いし、
杖引っ掻いただけで殴られたみたいになるし、単語帳ビリってだけで痛いし、
十字架投げて拒絶するー! とか楽しすぎだろ!! 学園都市を揺らすとか、
動物使って襲うとか、イカサマ野郎に負けたら破滅ロード、堕天使って行き過ぎだろ!?
ムカついたら気絶とか、右手を切るーとか、挙句の果てには小麦粉ですよ!?
食べ物粗末にすんなっつうの!! こちとらもやしで頑張ってんじゃオラァああ!!!」
美鈴「……何の話をしているの?」
上条「俺には右手しかないのに無茶な敵多すぎなんだよおお!!」
美鈴(この子……ずいぶん心に溜めてたみたいね)
上条「ぐすっ……えぐっ……俺はただの無能力者なのに……」
美鈴「えーと……なんだか大変な目に遭ってたみたいね」
上条「……死にかけた事は数知れず……この前のなんて軽い方ですよ……んぐっんぐ、ぷはー!」
美鈴「ああ……あの時は助けてくれて本当にありがとうね。改めてお礼を言うわ」
上条「んぐんぐ……別にお礼が欲しくて戦ってわけじゃありませんの事よー!!」
美鈴「はあ……ところで、美琴ちゃんも……そういう危険な目に遭っていたりするの?」
上条「御坂ですかぁ? あーアイツはそうでも……いや、一回危なかったか?」
美鈴「……その話、詳しく聞かせてくれないかしら?」
上条「だーめでーす! それは俺とアイツの秘密なんでーす!!」
美鈴「そう言わずに教えて! 自分の娘の事を知りたいと思うのは当然でしょう?」
上条「ぜったいだめー! ぬひひー……んぐっんぐ」
美鈴「ずいぶん厄介な酔っぱらいね……」
イン「ううん……あなたが言っても……うん……説得力無いんだよ……むにゃ」
美鈴「ねえ、本当に美琴ちゃんは大丈夫なの?」
上条「だーいじょーうぶですってば!! ただ、一人で思い悩む事もあったんじゃないっすかねー?」
美鈴「思い悩む……?」
上条「アイツも難しい時期ですからねー。誰かに相談したくても出来ないーとかあったようなーなかったようなー」
美鈴「どっちなの!? 真面目に答えて!」
上条「上条さんはいつだって真面目なのですの事ですよー」
美鈴「お願い……自分の娘に何かあったって聞いて、黙っていられる親はいないわよ」
上条「うーん……まあ、結局は誰にも言えなかったって……んぐっ、だけですよ。
誰にも言えなくて、本当にどうしようもないって感じ、ですか?」
美鈴「誰にも……親にも言えない事なの?」
上条「あー、絶対無理ですね。つうか親なら娘が悩んでるとかそういうのは自分で気付いてやれっつうの!」
美鈴「えっ? いきなりそんな事を言われても……」
上条「何だぁ? 口答えすんのかぁ? いいだろう、上条さんがきっちりお説教してやる!!」
美鈴「お説教? 君、何を言っているの……?」
上条「お説教はお説教だろうがー! いいか御坂さん、子供っつうのはいつの間にか大人になる。
でもな、子供の時は悩む事ばっかでそれで辛い思いをする事もたくさんあるんだ!」
美鈴「それはそうだけど……」
上条「しかも学園都市は親から離れて生活してるヤツが多い。
親と会うのも難しい、寂しい思いをしてるヤツだってたくさんいるだろう。
でも子供っつうのは、親と連絡を取るのが恥ずかしかったりするんだよ。
だから尚更、親から積極的に話を聞いてあげるのが大事なんだ!」
美鈴「言葉を返すようで悪いけど、私は娘と上手くやってるつもりよ?
それに、あの子はあの子で上手くやっていると私は思ってる」
上条「ああ、確かにアイツは上手くやってるかもしれないよ。だけど俺は、んぐっ……アイツの涙も見たし、苦しみにも触れた。
その時のアイツは孤独だったよ。味方なんて存在しない、絶望した顔だった」
美鈴「……それは確かに知らなかったわ。でも、信じられない……本当にそんな事があったの?」
上条「信じなくても良いさ。でも、アイツだって悩んで悩んで、それでどうしようもなくなる事だってあるんだよ。
その時に頼れるのは……子供には親しかいないんだ。だから、もっとうざいくらいに心配してやって欲しい」
美鈴「君の言ってる事は間違ってないかもしれない。でも、人には生き方がそれぞれあるの。
娘の生き方を、親が簡単に邪魔することは出来ない……もちろん助けてあげたいけど、
自分の力で歩くべきところもあるんじゃないの?」
上条「アンタの言ってる事も分からなくは無い。でもな、子供はもっと親に頼っても良いんだ。
そしてその逆、つまり親が子に頼ってもおかしくは無い」
美鈴「親が、子に……?」
上条「ああ。アンタはあの時、娘に頼るのは親のプライドが許さない、
それをしたら二度と親として顔を合わせられないと言ったな?」
美鈴「……ええ、それがどうしたの?」
上条「俺はそれが理解できねえんだよ。そりゃ親ってのは子供の支えとなる存在だ。
出来るだけは立派な存在としている方が理想的だよ……でもな、いつでもそうあるべきって訳でもないんだ」
美鈴「弱さを見せても良い、って言いたいのかしら?」
上条「一度弱い所見たくらいでがっかりするような奴なんて居ねえよ。困ったら頼れば良い。
辛くなったら泣けば良い、そうやってお互い弱さを見せ合うのも家族なんじゃねえのか!?」
美鈴「そうね……でも、私にだって親としてのプライドがある。それは子供の君が分かるはずも無い。
分かるはずもない事を偉そうに語るのは危険な事、そして君の考えは理想論にすぎないわ」
上条「理想なんかじゃない、現実だ。俺の父さんは俺の前で不安を打ち明けた、耐えきれずに涙を流した、
自らの弱さをすべてさらけ出した。それでも、俺は父さんを少しでも軽蔑したり失望したりはしなかった。
どうしてか分かるか? そんなの簡単だ――それ位で親子の関係なんて揺るがないんだよ」
美鈴「……君のお父さんは素敵な人ね、少し羨ましいわ」
上条「別に何の変哲もないただの父親さ、命を狙われた御坂さんの時とは全然状況が違う。それに……もしかしたら、
アンタが娘に電話しなかったのは、子供を危険な目に遭わせたくないっていう親の本能かもしれないしな」
美鈴「本能……か。ずいぶん優しい言い方をしてくれるわね。でも、私に弱さを見せる事ができるのかしら……」
上条「いいぜ、御坂美鈴。アンタが自分をさらけ出せないって言うのなら――」
上条「――――まずは、そのふざけたげ……ぐう……ぶち……すう……」
美鈴「あら……酔いつぶれて寝ちゃったのね」
上条「うーん……ぶち……こわ……すぴー……」
美鈴「ふふ、ずいぶんナマイキ言ってくれたわね上条くん? まっ、子供でも色々思う所はあるわよね」
上条「……せっきょ……っきょう……たのし……ぐう」
美鈴「でも、そういう子は嫌いじゃないわよ。……美琴ちゃんも、これにやられたのかしらね」
翌朝
美鈴(……ふう。シャワー、勝手に借りちゃったけど大丈夫よね?)
美鈴(うーん……でも何だかスッキリね。色々言ったせいかしら)
美鈴「さーて、上条くんは……あら?」
イン「とうま、起きてよー。とうまー」
上条「うう……頭が痛い……ごめん、もう少し寝る……」
イン「とうまー? ……もう、仕方ないんだよ」
美鈴「おはよう、上条くんは……起きれないみたいね」
イン「うん……私が寝た後何かあったの?」
美鈴「んー? 別に大した事は無かったわよ。ただ……お説教されたくらいかしら?」
イン「……うん、とうまはいつでもとうまなんだね」
美鈴「そういえば……気になっていたんだけど、あなたって上条くんの恋人?」
イン「えっ!? わ、私は別に恋人では無くて、でもそういうのが無いという訳でもなくて……その、えっと」
美鈴「ふふ、分かったわ。つまり……美琴ちゃんのライバルね?」
イン「う、うう……ちょっと意地悪かも」
美鈴「ねえ、もう一つだけ聞いてもいい?」
イン「……答えにくい質問以外なら」
美鈴「学園都市で生活する事……あなたはどう思う? 危険だと思わない?」
イン「私は……とうまの近くにしか居られないから何とも言えないけど、この都市は決して安全ではないと思う」
美鈴「そう……やっぱりそう思うのね」
イン「でも、とうまが居るから大丈夫。きっととうまは、私だけじゃなくて他のみんなも守ってくれるから」
美鈴「美琴ちゃんもその『みんな』の中に入っているのかな?」
イン「もちろんなんだよ」
美鈴「なるほどね……ありがとう、それさえ聞ければもう安心。私はもう行くから、上条くんによろしく言っておいてね?」
イン「うん、あなたも気を付けてね」
常盤台学生寮
寮監「御坂、来客だ」
美琴「来客? 誰だろう……って!?」
美鈴「ヤッホー! 美琴ちゃん、元気にしてた?」
美琴「な、何しに来たのよ」
美鈴「えー? 何その言い方、せっかく愛しの娘に会いに来たのにー」
美琴「……気持ち悪いんだけど、何かあったの?」
美鈴「まーまー。それより、こっちに来なさい」
美琴「はあ……何する気――へっ? ……何よ、急に抱き着いたりして」
美鈴「何でもないわ、ただ……こうしたかっただけよ」
美琴「……変なの。まっ、別に良いけどね」
美鈴「あれ? 美琴ちゃん、もしかして照れてる?」
美琴「照れてなんていないわよ! ……それより、来るなら来るで連絡くらいしても」
美鈴「本当は泊まるつもりも無かったんだけど、上条くんに面倒見てもらっちゃってね」
美琴「……その話、詳しく聞かせてもらえるかしら?」
美鈴「んー? 何? 気になるのー?」
美琴「べ、別にそういう訳じゃないわよ! ただ、ウチのバカ母が迷惑かけたって事だったら謝らなきゃいけないじゃない!」
美鈴「なるほど、それを利用してデートするって訳か! なかなかの策士ね、さすがわが娘!」
美琴「……そうかその手が、ってちがーう!! ……で、本当に迷惑かけてないでしょうね?」
美鈴「一晩泊まったのと、シャワーを借りたくらいかしら? あと、なかなか熱い子よね、私も久しぶりに色々してスッキリしちゃった」
美琴「…………アイツ、やっぱり人妻狙いだったのかああああ!!!」
美鈴「お、落ち着いて。ところで美琴ちゃん、上条くんの事……気になるんでしょう?」
美琴「えっ!? いや、そんな事は……その……」
美鈴「ふふ、素直じゃないのね。でも、あの子……少しパパに似てるかも」
美琴「似てる……?」
美鈴「言葉で何かを相手に与えようとする、そういう姿が似てるかもしれないって事。
……もっとも、上条くんのは理論も何もない感情論だったけどね。まっ、あの年くらいなら仕方ないか」
美琴「で、でも……」
美鈴「それがまたカッコいい、って言いたいのかしら?」
美琴「そうそう……って違うってば! それよりいい加減に離して!」
美鈴「はいはい、もうちょっとだけねー」
美琴「……もう、何なのよ」
上条の部屋
上条「……頭がズキズキする」
イン「飲み過ぎたみたいだね……はい、お水」
上条「……サンキュー。うう、頭は痛えし説教は出来なかったし……」
イン「あれ? でもあの人、説教をありがとうって言ってたんだよ」
上条「マジかよ……全然記憶に無いんだが……痛た」
イン「……大丈夫?」
上条「ああ……でも、何だか少しスッキリしてるんだよな。何でだろう?」
上条「頭は痛いが……説教は続行するッ!」
イン「たまには休むことも必要だと思うんだよ」
上条「それでも止まらないのが上条さんなのですよ。とりあえず次のリストだ」
末尾 0 →オルソラ
末尾 1 →一方通行
末尾 2 →御坂妹
末尾 3 →御坂美琴
末尾4、5→五和
末尾6、7→芳川桔梗
末尾8、9→寮監
イン「危険度一割増ってところだね」
上条「相変わらず訳のわからない事を……」
上条「よし……末尾カモン!」
末尾 0 →オルソラ
末尾 1 →一方通行
末尾 2 →御坂妹
末尾 3 →御坂美琴
末尾4、5→五和
末尾6、7→芳川桔梗
末尾8、9→寮監
イン「そろそろ短髪を外しても良いんじゃない?」
上条「限界まで挑戦してみたいんだよ」
イン「うーん……でも、いつもお世話になってるのに説教するのは……」
上条「そんな事気にしてたら良い説教出来ないぞ?」
イン「良い説教も悪い説教も無いと思うんだよ」
上条「……誰だよ」
イン「名前ですらないね……どんな人なんだろう」
上条「そもそもどこの寮なんだ?」
イン「分からない……とうま、ここが諦め時かもしれないんだよ」
上条「いや、それでも上条さんは説教をする! まだ見ぬ人のために!」
イン「そんなにやる気を出さなくても……」
上条「それに寮の管理人さんにちょっと近いし、素敵な人かもしれないぞ!?」
イン「でも、世の中そんなに甘くないんだよ」
上条「それでも俺は期待する! 寮監さーん、今行きますよー!!」
イン(間違いなくその期待はぶち壊されるだろうね)
305 : VIPに... - 2011/06/14 06:32:19.24 Qo/Ab5420 202/348最初の勢いはもはやありませんが後数回です 色々オチに繋がる話も出来たのでまあいい…のか?
それではまた
316 : VIPに... - 2011/06/18 04:24:10.84 1VD32Kr/o 203/348美琴はいつか選ばれるだろう、とか思ってましたがそんな事はなかった
自分でやってなんですが、末尾が毎回一番難しいものに当たっています
迷走を続けるこのスレですが今回もそんな感じです もはやスレタイ詐欺な気もしますが投下します
上条「さて、その寮監さんをまずは探さなくちゃいけないな」
イン「そうだね。何となく予想はついているけど、これからどうするのとうま?」
上条「もちろん! 困ったときの美琴大センセーですよ!」
イン「……そろそろ短髪も怒ると思うんだよ」
上条「大丈夫だって。早速御坂に……ん? 電話だ、もしもし?」
御坂『もしもし!?』
上条「おお、御坂か。そっちからってのは珍しいな。ちょうどお前に電話しようと思ってたんだ」
御坂『それは嬉し……いや、奇遇ね。でも、今それどころじゃないの!』
上条「それどころじゃない? 何かあったのか?」
御坂『うん……お願い、助けて! もうアンタしか頼りになる人が居ないのよ!』
上条「……おい、何だよそれ!?」
御坂『……マズイ、来る! ともかく今すぐ寮に来て!!』プツッ
上条「御坂? もしもし!? ……切れちまった」
イン「とうま……なんだか大変な事になってるみたい」
上条「御坂の危機だ、ともかく常盤台の寮に急ごう!」
常盤台学生寮
上条「はあ……はあ……間に合ったか?」
イン「どうだろう……でも、今の状況が全然分からないんだよ」
黒子「殿方さん! 間に合いましたのね!」
上条「白井か! 御坂から電話があって急いで来たんだが……何があったんだ!?」
黒子「何も聞かず、今はこのまま寮の前で待機なさっててください! いいですわね!?」
上条「……分かった、ここで待ってるから何かあったらいつでも来てくれ」
黒子「了解ですの……では、また」ヒュンッ
イン「消えちゃった……いったい何が起きてるの?」
上条「俺にも分からないが……この学生寮で何かが起きているのは間違いない」
上条「あれから数分……御坂は大丈夫なのか?」
イン「心配だね……電話してみる?」
上条「そうだな、電話電話っと……」プルル
美琴『……もしもし』
上条「御坂か? 今、どういう状況なんだ? そっちに行かなくていいのか?」
美琴『それは大丈夫。今からアンタに届けるから……それを預かって!』
上条「はあ? 預かって?」
美琴『……ヤバい! 今から送るからよろしく!』
上条「おい! 送るって何をだ――なあっ!?」
イン「きゅ、急に荷物が現れた……しかもこれ、全部……」
上条「カエルのマスコット……確か、ゲコ太だっけ」
上条「なあ、御坂。預かって欲しいっていうのはもしかして……」
美琴『そう、ゲコ太よ! 最新作を集めるのに夢中で持ち物検査がある事すっかり忘れてたの!』
上条「それを預けるために俺をここに呼び出したのか!?」
美琴『うん、まだまだあるからお願いね! あと二人来るからその子達と上手くやっておいて!』
上条「テメェ……人を良いように使ってんじゃねえよ!!」
イン「それはとうまが言える事じゃないんだよ」
美琴『ともかくお願……来た!』
上条「おい、さっきから来た、とか来る、とかってのは誰なんだよ?」
美琴『……常盤台最強の寮監よ、ともかくよろしくね! じゃっ!』プツッ
上条「あっ、テメェ勝手に切るんじゃ……はあ、仕方ねえな」
イン「とうま、今何か気になる単語が出てきたんだけど」
上条「気になる? ……あっ」
上イン「寮監!」
上条「ここの寮監さんが今回の説教相手なのか……?」
イン「断定はできないけど、寮監である事に間違いは無いんだよ」
上条「でも、寮の数だけ寮監が居るんだ。そんな簡単に見つかる訳が……ん?」
佐天「ねえねえ初春、多分アレだよね?」
初春「大量のゲコ太グッズ……間違いありません」
上条「おっ、もしかして御坂に頼まれたって子?」
佐天「はい、そうですよー。……もしかして、あたし達と同じように預かる事になった人ですか?」
上条「ああ……非常に不本意だがそうなってしまった」
初春「ははは……あれ? どこかでお会いした事ありませんか?」
上条「えっ?」
佐天「初春……それって逆ナン?」
初春「ちっ、違いますよ佐天さん! 間違いだったら申し訳ないんですが、確かどこかで……」
上条(マズイ……このパターンは非常にマズイ。まず記憶の問題、そして……後ろからのただならぬプレッシャー)
イン「……とーうーまー? 今度はどこで知り合った子なの?」
上条「へっ? いや、あの、そのですね?」
初春「うーん……見間違え……でも確か」
上条「えーと……勘違いじゃないかな?」
佐天「こら、相手の人困ってるじゃない。ともかく自己紹介くらいしとこうよ」
初春「それもそうですね。私は――っ!?」
黒子「あべしっ!」バタン
上条「玄関から人が飛んできた……ってよく見れば、白井!?」
??「まったく……寮内での能力の使用は禁ずると、あれ程言っておいただろうが」
上条「(な、なんだこの威圧感は……)」
イン「(とうま……この人、ただものじゃないんだよ……!)」
佐天「あっ、お久しぶりでーす、寮監さん」
初春「こんにちは。……相変わらずですね」
寮監「ああ、大圄先生のところの。久しぶりだな」
上条「この人が寮監さん……」
イン「(とうま……諦めるなら今のうちなんだよ)」
上条「(……いや、退く訳には行かない。超能力者と比べればこれ位……)」
寮監「白井、反省したか?」
黒子「は、はいですの……」バタッ
上条(……めっちゃ怖えええ!!)
佐天「この様子だと……白井さん、また何かやっちゃったんですか?」
寮監「部屋に入ろうと扉を開けると、丁度何かを能力で移動させている白井を目撃してな」
初春「なるほど。白井さん、自業自得ですよ」
佐天「初春……今は優しくしてあげようよ」
寮監「ところで、そこの男子生徒と女の子」
上イン「は、はい!」
寮監「何が目的でこの寮に来た? 関係者以外は即刻離れて貰いたいところだが」
上条「えーっと……そのですね……」
イン「(とうま、とりあえずこのカエルのグッズは持って帰らないと短髪が困るんじゃない?)」
上条「(そうだな……これ持ってさっさと逃げ出すか)」
寮監「……その大量の蛙の絵が描かれたもの、御坂のだな?」
上条「げっ……何故それを!?」
寮監「その蛙の弁当箱に『みさかみこと』と平仮名で書いてあるぞ」
佐天「御坂さん……何やってるんですか」
寮監「なるほど、白井が能力で移動させたのはその大量の蛙のグッズ。
そしてそれは御坂の所有物、間違いないな?」
初春「あー……その……」
寮監「庇わなくても良い、全て理解した。……さて、御坂。後ろに居るのは分かっているぞ」
美琴「ひいっ……!」
佐天「後ろを見ずに御坂さんの気配を感じとって威圧している……!」
初春「さすが寮監さんです……!」
イン「とうま……本当にこの人を説教するの?」
上条「いや、まだこの人が説教する相手と決まった訳じゃ……」
寮監「覚悟は良いな、御坂美琴?」
美琴「た、助けてっ!!」
佐天「あちゃー……このままだと御坂さん……」
イン「ど、どうなるの?」
初春「首をこう……コキャ、っと」
上条「……それ、死んじゃうんじゃないのか?」
寮監「御坂、逃げても無駄だ。規則は絶対だからな?」
美琴「ひ、ひいいいっ!!」
黒子「と、殿方さん……どうか、お姉様を……お助けくださいま……がはっ……」バタン
初春「白井さーん!!」
イン「とうま、今こそ説教する時なんだよ!」
佐天(説教?)
上条「ええっ!? いや、多分別の寮監さんだって!」
イン「……へえ、怖いんだね? とうまはあの人に説教するのが怖いんだね?」
上条「……別に怖い訳じゃ」
イン「私はとうまが腰抜けって知ってショックなんだよ」
上条「……おい、今何って言った? 腰抜けって言ったか!?」
初春「今のままだと、そう言われても仕方ないかもしれないですね」
上条「……腰抜けじゃねえ! 誰にもそんな事言わせねえ!!」
佐天(単純だなー)
上条「よし……行くぞ!」
イン「頑張れとうま!」
上条「お、おい! 寮監さん、ちょっと待った!」
佐天「大丈夫なのかなー……?」
初春「……多分ダメだと思います。まあ、仕方ないですよ」
佐天「酷っ! ……あーあ、寮監さんのオーラヤバいよー?」
寮監「何か、用かな?」ゴゴゴゴ
上条「ひいっ!?」
寮監「私は御坂に罰を与えるから、邪魔をしないでもらいたい」
上条「そ、それは俺が許さない! いいじゃねえか、カエルの一つや二つ位!」
寮監「二つどころでは済まないように見えるが?」
イン「確かに……この数は五十種類くらいはありそうなんだよ」
佐天「どんだけ買ってるんですか御坂さん……」
美琴「……つい、ね?」
上条「いや、それでもこれ位は許してやってくれよ! 別に御坂の成績とか態度が悪くなるわけじゃねえんだから!」
寮監「だが不必要な物を所有しているのを見逃すわけにはいかない。
そして一番の問題は、白井が能力を使って御坂に協力したという事だ。
これは寮の規則に反しているから罰する必要がある。こればかりは言い逃れは出来ないだろう」
上条「……確かにそうだ。だけど、罰を与えるとかそこまでの問題でもないだろう!?」
美琴「……良いのよ、どう考えても私が悪かった。だから、もういいの……」
寮監「覚悟は出来たか、では……」
そう言うと寮監は美琴の頭と顎にそれぞれ手を伸ばした。そして――
上条「させるかあああ!!」
寮監「ほう、いい瞬発力だ。だが――甘い」
上条は寮監を止めようと足を動かしそのまま彼女に飛びついた。
しかし、寮監の右手が上条の腕を掴み、そのまま力任せに上条を振り回す。
上条は抵抗することもできず、何回か回転させられた後、壁に叩き付けられた。
上条「ぐうっ……」バタン
イン「とうま!!」
美琴「アイツが手も足も出ないなんて……」
寮監「度胸は認めよう。しかし、それは無謀というものだ」
美琴と黒子の部屋
上条「……っ! あれ、俺は……」
イン「とうま、大丈夫?」
美琴「気が付いたみたいね……良かった」
上条「俺は……あの人に立ち向かって、それで……」
黒子「寮監に手を掴まれて空中を大回転、そして壁にポイっですの」
上条「あの人は何者なんだ……?」
佐天「あたしが聞いた話だと、武装した男を三人相手にしても余裕勝ち。
寮監さん相手では超能力者も勝てないとか」
初春「私もその話、聞いた事があります。ネットの書き込みでも見ました!」
美琴「……超能力者がどうとか言うのは本当かもね」
上条「……化け物かよ」
寮監「化け物、とは失礼だな」
上条「ひいっ!? い、いつの間に……」
寮監「少し本気を出してしまった、すまなかったな」
上条「いえ……先に仕掛けたのはこちらですから」
寮監「まあいい、良くなったらすぐに出て行くように。御坂、それに白井。
お前達は庭掃除という事を忘れるなよ」
美黒「はーい……(ですの)」
寮監「君達も用が済んだら帰りなさい、では私は失礼する」
初天「はーい」
帰り道
上条「……結局、説教どころじゃなかった」
イン「あの人は今までで一番大変かもね」
上条「そうだな……本当に説教出来るのかな」
イン「毎回言ってるけど、今回は本気で諦めた方が良いかも」
上条「……お前の言う通りだよ。確かに無謀だ、諦めた方が良さそうだ」
イン「うん、私としても応援したいけど今回は仕方が――」
上条「でもな、説教ってのはその相手が難しければ難しいほどやりがいを感じるものなんだ。
俺の中では今諦めようとする思いと、燃え上っている思い、二つの感情がせめぎ合っている」
イン「えっ?」
上条「そして今は、燃える思いの方が強い!」
イン「それってつまり……」
上条「ああ、俺は寮監さんを必ず説教してみせる!!」
イン「……やっぱりそうなるんだね」
上条「よーし、また明日再挑戦だ!!」
イン(今回は諦めてくれると思ったけど、そんな事は無かったんだよ)
次の日 常盤台学生寮
上条「頼もーう!」
イン「お、おじゃまします……」
寮監「君達か。どうした、何か忘れ物か?」
黒子「あら殿方さん。二日続けてここに来るなんて、どうされましたの?」
上条「……寮監さん、俺はアンタに会いに来たんだ!!」
寮監「……はあ?」
上条「単刀直入に言おう! 俺はアンタを説教したい!」
寮監「白井、この男子生徒は何を言っているんだ?」
黒子「ええと、何と言いましょうか……強いて言うなら、どうしようもない病気のような……」
上条「そんな事はどうだって良いんだ! 頼む、説教させてくれ!!」
寮監「私は君に説教される覚えはない。大人しくここから立ち去れ」
上条「……どうしても説教される気が無いんだな。だったら……力づくでも聞いてもらうぜ!」
イン「とうま!? 力づくってまさか……」
上条「昨日は不覚を取ったが、今日はそうはいかねえ! 行くぞ!!」
寮監「……何が言いたいのかさっぱり分からないが、どうやら相手をするしかなさそうだな」
黒子「寮監に自ら立ち向かうとは……身の程知らずにも程がありますの」
イン「ねえ、とうまを止めてくれない?」
黒子「わたくしも自分の命は大事にしたいので」
上条「……うおおおおお!!」
寮監「遅い」
上条(……っ! 手を取られたら昨日みたいになっちまう……なら、身を翻す!)
寮監「ほう、右手を躱したか」
上条「今だぁぁぁぁ!!」
寮監「だが、まだ甘いな。……ふんっ!」
上条「足払い!? これ位耐えて――ぐうっ!?」
黒子「ただの足払いに見えても、そこら辺の格闘家のローキックよりは威力がありますの」
上条「い、痛え……」
寮監「さて、覚悟は良いな?」
上条「ひいっ!?」
寮監「ゆっくり休め」グキッ
上条「……うっ……」バタン
イン「とうまー!!」
黒子「ご愁傷様ですの」
イン「とうま……大丈夫?」
上条「ああ……何とか生きてる。……今日も駄目だったな」
イン「……さすがに懲りたよね?」
上条「いや、これ位では諦められない! 明日も行くぞ!」
イン(……何とかは死んでも治らないって言うけど、本当かも)
翌日
上条「頼もーう!!」
寮監「またか……」
上条「うおおおお!!」
寮監「ふんっ!」ボキッ
上条「ぐはっ……」
イン「とうまー!!」
翌々日
上条「頼もーう!!」
寮監「ふんっ、せいっ!」グキャッ
上条「がふっ……」
イン「とうまー!!」
翌々々日
上条「た、頼も 寮監「……」グキッ
上条「うごっ……」
イン「とうまー!!」
黒子「三秒、記録更新ですの」
美琴「……アイツ、何であんなに頑張ってるんだろう」
黒子(説教するために命を張るなんて……どうかしてますの)
数日後 またまたま(ry 常盤台学生寮
上条「た……たの……も、う」
黒子「戦う前から満身創痍……もうやめた方が良いのでは?」
イン「止めても聞かないんだよ……」
美琴「私達は、見守る事しか出来ないの……?」
イン「うん……とうまの無事を祈ってあげて欲しいんだよ」
美琴「そうね……アイツが無事に生きていられるように……」
黒子「いや、そこは止めてあげるべきかと……」
寮監「君も懲りないな……私としても心苦しいものがある、諦めてはどうだ?」
上条「無謀かもしれない……それでも……それでも俺はアンタから逃げたくないんだ!」
寮監「……良いだろう、来い」
上条「うおおおおおお!!!」
イン「とうま……」
美琴「頑張って……!」
黒子「えーっと……止めませんの? って誰も聞いていませんわね」
寮監「……行くぞ!」
上条(見える……! 右手、その後は左足の足払い。そして左手で首を取る……と見せかけての右ハイキック!)
上条「見切ったぁ!!」
美琴「あの寮監の攻撃を全部避けた!?」
イン「とうま……もう私の手の届かないところに行っちゃったんだね」
黒子「何を言ってますの?」
美琴「黒子! ちょっと黙ってて!」
イン「今良い所だから邪魔しないでほしいんだよ!」
黒子「えっ? 何でわたくしが怒られてますの……?」
寮監「なるほど、伊達に毎日負けている訳では無いな」
上条「今日こそは……アンタに説教だぁぁぁぁあああ!!!」
寮監「だが、やはり甘いな」スッ
上条「……っ! 消えた!? どこだ!!」
イン「とうま! 後ろ!」
上条「後ろ……なっ!?」
寮監「終わりだ」
イン「瞬時に相手の後ろへ回り込む……人間業ではないんだよ」
美琴「前から思ってたけど……何であんなに強いのかしら」
黒子「お姉様、虎は何故強いと思われます?」
美琴「へっ? 何それ?」
寮監「しっかりと受け身を取れ、良いな?」
上条「な、何をする気――うおっ!?」
イン「後ろから相手の体に腕を回してそのまま力任せに後方に投げつけるあの技は……ジャーマンスープッレクス!!」
寮監「ふんっ!」ドンッ
上条「ぐぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!」
寮監「カウント!」
イン「は、はい! ワン! ツー! スリー!!」
上条「……負け、た」バタン
黒子「虎がなぜ強いのか、それは元々強いからですの」
美琴「何が言いたいのかは分からないけど……とんでもなく強いって事か」
上条「結局……勝てなかったか」
イン「とうま……力づくではやっぱり駄目かも」
上条「じゃあ、どうしろって言うんだよ……」
寮監「仕方ない……確認するが、君は私に話を聞いて欲しいのか?」
上条「ああ……アンタにどうしても俺の話を聞いて欲しい」
寮監「分かった、なら君の言う通りにしてあげよう」
イン「ほ、本当!? やったねとうま!」
寮監「ただし、見返りなしで、という訳にはいかない」
上条「見返り……上条さんの財布には三百円しかありませんが」
黒子「三百円って……それで生きていけますの?」
美琴(お金がない→ご飯が食べられない→私「し、仕方ないわね。私が作ってあげるわよ」
→アイツ「ありがとう御坂! ……いや、美琴」→私大勝利!?)
美琴「……うへへ」
イン「短髪が怪しいんだよ……」
黒子「お姉様……」
寮監「何を勘違いしているかは知らないが、君には私と一緒に明日、ある場所へ行ってもらう」
上条「ある場所……? それはいったい」
寮監「今は言わないでおく。そこに行かなければこの話は無かったことにするが、どうかな?」
上条「……分かった、その条件でいこう」
寮監「では、明日この番号に連絡しろ。これ以上話す事は無い、私は失礼する」
イン「……行っちゃった。どうする、とうま?」
上条「せっかくのチャンスだ、行くしかないだろ。……何があるかは分からないけどな」
美琴「えっと、そんなに心配しなくても良いと思うけど」
上条「本当か……? 地下で強制労働とかじゃないよな?」
イン「それは失礼なんだよ。あの人、何だかんだでとうまの相手をしてくれてるしきっといい人なんだよ」
黒子「ええ、いくら恐れられていると言っても立派な人物、という事には間違いありません」
上条「うーん……イマイチ信用できないが、明日になったら分かるだろう」
翌日
上条「……もしもし?」
寮監『逃げずに電話をしてきたか、偉いぞ。早速だが、第七学区の駅前の洋菓子店に来てもらいたい』
上条「洋菓子店? 分かりました」
寮監『では、また後で』プツッ
上条「……何をするのかさっぱり分からないな。とりあえず、出るか」
イン「うん、待たせたら悪いから急ごうよとうま」
上条「それもそうだな。遅れて首をコキャってやられても困るし……」
第一三学区
上条(あれからケーキを大量に買って、何故か電車に乗って一三学区まで来たけど……)
イン「ねえ、このケーキはどうするの?」
寮監「ああ、これは……すぐに分かる」
イン「私も貰っても良い?」
寮監「たくさん買ったからな、今から会う人達と一緒に食べなさい」
上条(インデックスは寮監さんとすっかり打ち解けたようで……今が何も起きてない分、不安だ)
寮監「さあ、着いたぞ」
イン「ここが……目的地?」
上条「あすなろ園? ここでいったい何を……」
寮監「入れば分かる……ほら、来た」
子供「あー、おばちゃんだー。それ何ー?」
寮監「おばちゃんじゃないって言っただろ? お姉さん、って言わないとケーキをあげないゾ?」
上イン「なっ……!?」
寮監「ん? どうした、呆気にとられたような顔をして」
上イン(キャラが違いすぎる……)
子供「ねー、お兄ちゃんとお姉ちゃんも遊びにきたのー?」
上条「へっ? ええっと……」
寮監「ああ、そうだぞ。この二人と一緒に遊んでやってくれないか?」
子供「わかったー! ねーねー、鬼ごっこしようよー」
イン「と、とうま? どうすれば良いの?」
上条「分からねえ……とりあえず、今は流されてみるしかなさそうだ」
子供A「わーい、逃げろー!」
イン「ふっふっふ、早く逃げないと捕まえちゃうんだよー!」
子供B「きゃー!」
子供C「一緒にお山を作ろうよー」
上条「ん? いいぞ、でっけえのを作るか!」
園長「あら、本当にいつもすいません。今日はケーキも買って来ていただいたみたいで……」
寮監「いえ、好きでやっている事ですから……」
園長「今日はあの男の子と女の子にも、子供達の相手をしてもらえるんですか?」
寮監「ええ、特にあの男の子の方は力仕事でもなんでもさせてやってください」
子供D「出たー! 怪人ウニ男だー! みんなでやっつけろー!」
子供E「それー! えいっ、えいっ!」
上条「痛い! 普通に痛いって!」
上条「ふう……疲れた」
寮監「子供にずいぶん遊ばれたみたいだな」
上条「寮監さん……ここはいったい何なんですか?」
寮監「『置き去り』、という言葉は聞いた事があるだろう?
その子供達をここでは面倒を見ているという訳だ」
上条「『置き去り』、か……で、寮監さんはここで何を?」
寮監「私は……まあ、たまの休みここに遊びに来ているというだけだ」
園長「ふふ、隠さなくても良いのに。この方はいつもボランティアに来てくださっているんですよ」
上条「ボランティア? ……ケーキを買って、遊んであげて」
上条(って普通に良い人じゃねえか!)
寮監「どうした? 私には似合わないと思ったか?」
上条「いや、そんな事は……(正直思いました、すいません)」
イン「あの、子供達はみんな寝ちゃったんだけど……毛布が足りないんだよ」
園長「あら、そうでしたか……今すぐ用意しないと」
寮監「子供を全員寝かしつけたのか?」
イン「うん、子守唄を歌ってあげたらみんなすぐに寝ちゃったんだよ」
園長「それはそれは……あなたは子供の面倒を見る才能があるかもしれませんね」
イン「そうかな? それよりも早く毛布を掛けてあげて欲しいかも」
園長「そうですね、急がないと……あなた達はゆっくり休んでいてくださいね」
イン「私も手伝うんだよ。……とうま、今がチャンスかも」
上条「えっ? あ、ああ……そうだな」
寮監「ここまで来て、よく子供たちの面倒を見てくれたな。感謝しよう」
上条「いや、そんな感謝されるような事は……」
寮監「さて……確か、話を聞いて欲しいと言っていたな。
十分頑張ってくれたお礼だ、今なら何でも聞くぞ?」
上条「ええっとですね……」
上条(……こんな良い人に説教なんて出来る訳ねえだろうが!? ……困った)
寮監「……ああ、思い出した。君は私に説教をすると言っていたな。
何か思う所があるのだろう? さあ、遠慮なく言っていいぞ」
上条(どうする、どうすればいい上条当麻!? ……落ち着け、落ち着くんだ。
ここは今まで通り、悩みを聞くところから始めれば良い)
上条「あの……その前に、何か悩んでいる事とか無いですか?」
寮監「悩み、か……強いて言うなら、この歳になっても相手が居ないという事だろうか」
上条「相手? 恋人とか、結婚相手って事ですか?」
寮監「……まあ、そういう事だ」
寮監「こんな仕事をしているからか出会いも無く、気づいたらもう三十手前。
寮の学生にも『行けず後家』と言われる始末……仕方がないと言えば仕方がないがな」
上条「仕方ないって……どういう事ですか?」
寮監「性格や見た目の問題もある、歳もそれなりに上になってしまった……。
仕事をしていても学生たちには恐れられている。これでは相手が居ないのも仕方がない、という事だ」
上条「……まだ知り合って日は浅いけど、俺は寮監さんは素敵な人だと思います」
寮監「いや、お世辞は良いんだ。自分の欠点は自分が一番よく分かるからな……」
上条(眼鏡を外した……って何この美人!? どっから現れた!?)
寮監「結局は自分に魅力がないだけだ。君もそう思うだろう?」
上条「……そんな事は、そんな事はねえよ!!」
寮監「ど、どうした? 急に大声を出したりして」
上条「寮監さん……待たせたな、説教の時間だ!!」
イン「とうま……ついに説教を始めるんだね」
美琴「……ねえ、説教ってどういう事?」
イン「わっ!? ……短髪? どうしてここに?」
美琴「心配になったから後を追ってきたのよ」
イン「えっ……どこから追って来てたの?」
美琴「……寮監が朝出かけて、ケーキ屋でアンタ達と合流したところから」
イン「つまり、最初から見てたって事?」
美琴「そ、そうよ! 悪い!?」
イン(短髪……可哀想な子……)
美琴「ええい、憐みの目を向けるな! ……で、説教ってのはどういう事なの?」
イン「えっと……簡単に言うと、とうまは説教に飢えているんだよ」
美琴「はあ? 何それ?」
イン「私にもよくは分からないんだけどストレスが溜まっていて、説教をしないととうまはおかしくなっちゃうみたい」
美琴「……説教依存症?」
イン「それに近いかも」
上条「アンタは自分に魅力が無いから相手が出来ない、そう言ったな?」
寮監「その通りだ。自分で言うのだから間違いはないだろう」
上条「寮監さん……今から言う事はお世辞でもなんでもない、俺の素直な思いだ」
寮監「何を言っても構わないが、手短に頼むぞ」
上条「さっきも言ったように、俺は寮監さんと会い、そして話してまだ一週間位だ。
それでも、俺にはアンタがどんな人か分かった気がする」
寮監「そうか……君の中では私はどんな人物なんだ?」
上条「一言でいえば……すごく素敵な人だ」
寮監「……なっ」
上条「会った時は少しルールを破っただけで罰を与えるなんて、厳しい人だと思った。
でも、それは子供を預かる立場からしたら当然だ。厳しくなんてない、むしろ優しく暖かい人だと思う」
寮監「そ、そんな事はない……優しくなんて」
上条「優しくない人は休みの日に誰かのためにボランティアなんてしないさ。
それに、子供たちと遊んでる時の寮監さんの笑顔……大人の女性なのに無邪気な顔をしてた。
眼鏡を外した素顔も良いけど、その時の顔も忘れられないんだよ! ぶっちゃけドキッとしたと言ってもいい!」
寮監「……君はいったい何を言っているんだ? 説教をするのではなかったのか?」
上条「アンタは自分に自信が無いと言った。だったら俺は!
寮監さんの素晴らしさを直接アンタ自身に教えてやろうって思ったんだよ!」
美琴「……ねえ、アレは説教なの?」
イン「……何とも言えないけど、この流れはマズイかも」
寮監「……ずいぶん恥ずかしい事を言っているというのには気づいているか?」
上条「恥ずかしいとかそんな事はどうでも良いんだよ! 寮監さんに自分がどれだけ素敵な人か分かって貰いたいだけなんだ!」
寮監「その……褒めてくれるのは嬉しいが、それは過大評価というものだ。私はそこまでの人物ではない」
上条「まだ分かんねえのかよ! アンタの事を理解できる人が現れたら、きっとすぐに幸せになれる!
今がどうとかじゃねえ! 絶対、いつかそんな時が来ると断言できる!」
寮監「ば、馬鹿な事を……第一、二十九にもなって相手が居ない。……それこそが結果だろう」
上条「いいぜ、寮監さん。アンタがまだ自分の魅力に気づいていないって言うのなら――」
上条「――――まずは、その相手に俺が立候補す
イン琴「それは説教じゃなくて口説いてるだけだろうがぁぁ!!!(なんだよぉぉ!!!)」ガシッボカッビリッガブッ
上条「ぐはっ……!? がふっ……」バタン
美琴「はあ……はあ……まったくコイツには油断も隙もあったもんじゃないわね!」
イン「本当なんだよ! とうま! そうやってまた女の人と仲良くしようとしたら私が許さないかも!」
上条「な、なんだよ……それ……ぐふっ……」
寮監「……いったい、何だったんだ? それに御坂、なぜここに居る?」
御坂「あっ……えっとですね……。ともかく! すぐに素敵な相手が見つかるから心配するな!
ってコイツは言いたかったんですよ」
イン「そうなんだよ、だから焦らなくても大丈夫! それと、年下の人はやめておいた方が良いかも」
寮監「……良くは分からないが、気には留めておこう」
園長「あら、そんな事はありませんよ。年下の人というのも……なかなか良いものだと私は思いますが」
美琴「そ、そういえば確か……いや、それはともかく、今日はもう時間も遅いですから帰りましょう!」
イン「短髪の言う通りかも! 早く帰った方が良いと思うんだよ!」
寮監「そうだな。では、あとは御坂達に任せて私は先に行くとする。
それと……そこの少年には、ありがとうと一応伝えておいてくれ」
イン「分かったんだよ。気を付けて帰ってね」
寮監「御坂、お前は門限に遅れるなよ? 遅れたら……分かっているよな?」
美琴「ひいっ!? は、はい!」
子供達「ばいばーい! また遊んでねー!」
イン「うん! 必ずまた行くから待ってて欲しいんだよー!」
上条「痛た……何だよお前達、急に殴ったりビリったりガブったり……」
美琴「アンタが悪いのよ、自業自得ってやつね」
上条「さっぱり意味が分からん……寮監さんは帰っちまうし、大事な事は言いそびれるし……はあ」
イン「と、とうま……言いかけていたのは本気だったの?」
上条「うーん……どのみち俺なんか相手にされないし、そこは考えなくても良いだろ」
美琴「そ、そういう訳にはいかないのよ! はっきり答えなさい!」
上条「嫌でございますの事よー。……ほら、日が暮れる前にさっさと帰ろうぜ!」
イン「あっ! 先に行かないでよとうまー!」
美琴「待ちなさいってば!」
何度目かの常盤台学生寮
生徒「す、すいません……門限に遅れてしまって……」
寮監「三分の遅れか……まあいい、早く部屋に戻れ」
生徒「えっ? いいんですか……?」
寮監「私は部屋に戻れと言ったつもりだが……それとも、罰を受けたいのか?」
生徒「い、いえ! 失礼します!」
黒子「……何も罰を与えずに終わるとは。何か良い事でもあったのでしょうか?」
寮監「別に何があったという訳でもない。……ただ」
黒子「ただ?」
寮監「褒められて喜ばない人間は居ない、というだけだ」
黒子「……もしや、男ですの?」
寮監「白井、刈られたいのか?」
黒子「し、失礼しますの!」
寮監「まったく……。上条当麻、か……」
黒子「恋ですの?」
寮監「薙ぎ払われたいようだな、白井」
上条「説教までにずいぶん時間を使ってしまったが、寮監さんも可愛かったし悔いは無い!」
イン「とうま、早く次の説教相手を決めるんだよ」
上条「えっ? 何だよそれ、もうちょっと思い出に浸らせてくれよ」
イン「いいから早く! さっさとリストを出すんだよ!!」
上条「何か怖いぞ……とりあえず、こんな感じになっております」
末尾 0 →オルソラ
末尾 1 →一方通行
末尾 2 →御坂妹
末尾 3 →御坂美琴
末尾4、5→五和
末尾6、7→芳川桔梗
末尾 8 →ステイル
末尾 9 →姫神秋沙
イン「また女の子が増えてるけどどういう事なの!?」
上条「お、落ち着け! 今日はどうしたんだ!? なんか変だぞ!?」
イン「とうまー!!」ガブッ
上条「みぎゃあああああああ!!!」
上条「うう……頭は痛むが、末尾カモン!」
末尾 0 →オルソラ
末尾 1 →一方通行
末尾 2 →御坂妹
末尾 3 →御坂美琴
末尾4、5→五和
末尾6、7→芳川桔梗
末尾 8 →ステイル
末尾 9 →姫神秋沙
イン「1か8ならセーフ……。それか6か7……いや、それもまた新たな関係が……」
上条「何言ってんの?」
イン「とうまは黙ってて! 私は真剣に考えているんだよ!」
上条「は、はあ……」
上条「ステイル……だと……?」
イン「……大丈夫なの?」
上条「あいつには色々言いたい事もあるが……それ以上に命がヤバそうだ」
イン「危ない事はやめて欲しいんだよ……」
上条「いや、それでも上条さんは説教を続ける! こんな事ではへこたれないぞ!」
イン(何だろう……顔は凛々しいけど言ってる事はすごくマヌケなんだよ)
上条「よっしゃー! 行くぞインデックス! やけどなおしのじゅんびはいいかー!」
イン「何それ?」
上条「…………何でもない。ともかく待ってろよ、ステイル!」
358 : VIPに... - 2011/06/18 05:16:21.49 1VD32Kr/o 244/348こんな感じで色々無駄にしながら迷走を続けたこのスレも後二回で終わりです
結果的に最後まで美琴はスルーかもしれません それではまた
上条「ステイルか……どうやって会うのかをまず考えるか」
イン「今回は短髪に頼るのはさすがに無理なんだよ」
上条「分かってるって。でもな……俺が呼んでもあいつは絶対来ないだろうし」
イン「どうするの、とうま?」
上条「うーん……とりあえずメシでも食いに行くか。じっくり考えよう」
イン「今回はずいぶん慎重だね」
上条「炭にはなりたくないからな」
街中
上条「さて、どこで食べようか」
イン「おなかいっぱい食べられればどこでも良いかも」
上条「相変わらずだな……とりあえず、適当にファミレスで済ませようぜ」
イン「分かったんだよ」
??「こらーっ! 待つのですよー!」
??「どうしようと僕の勝手だから放っておいてください!」
上条「ん? 今何か聞き覚えがある声が二つ……」
イン「ねえ、とうま……あれって」
上条「ああ……赤い大男とピンクの小人の追いかけっこ。間違いないな」
小萌「またそうやって煙草を堂々と吸って……先生の言う事が聞けないんですかー!?」
ステイル「だから貴女には関係ありません!」
上条「ステイル……お前何やってんだよ」
ステイル「……君達か。丁度良い、この人を何とかしてくれ!」
小萌「上条ちゃん! その人を止めてください!」
イン「どうする、とうま?」
上条「面白いからもうちょっと見てようか」
イン「それも良いね」
小萌「待ちなさーい!」
ステイル「いい加減に諦めてください!」
小萌「教師として見過ごすわけにはいかないのですよー!」
小萌「うう……逃げられてしまいました……」
上条「うまく逃げられちゃったみたいですね」
イン「こもえ、大丈夫? はい、お水」
小萌「ありがとうございます……んぐっんぐっ……ふう」
上条「先生、何があったんですか?」
小萌「街を歩いていたら煙草を吸っていた大きな男の人が居たので、もしやと思って見てみたら……」
上条「ステイルだったって訳ですね。それで注意しようとしたら逃げられたと」
小萌「その通りです。まったく……先生は心配だから注意しているのに聞く耳を持たないんですよー」
イン「とうま、これはチャンスかも」
上条「そうだな、これを逃す手は無い! 先生、その説教……俺が請け負った!」
小萌「へ? どういう事なのですか?」
イン「見てれば分かるから、こもえも一緒に行こうよ」
小萌「んー……よく分かりませんが、とりあえず先生もついていきますよー」
その頃の美琴
美琴(最近はアイツから電話が来ることが多い……だから今日もきっと!)
黒子「お姉様……電話とにらめっこして何が楽しいんですの?」
美琴「えっ? 別にそんなつもりは……変な事言わないでよ」
黒子「三時間もそうやってじーっ、と見つめていたら心配にもなりますの」
美琴「なっ……何でもないから放っておいて!」
ステイル(はあ……何とか逃げ切れたようだね。まったく、あの人は何であんなに僕の心配を……)
上条「おっ、見つけたぞステイル!」
ステイル「……何だ、君か。何か用かな?」
上条「お前と話をしようと思って」
ステイル「話? あいにくだけど、僕は忙しいんだ。暇な君とは違ってね」
上条「……相変わらずムカつくヤツだ。まあ、そう言わずに少し時間をくれよ」
ステイル「断る。誰が君なんかと好き好んで話をすると思っているんだ?」
上条「良いのか、ステイル? お前と話をしたいと思っているのは俺だけじゃないんだぜ」
ステイル「ん? どういう事かな?」
上条「おーい、出てきていいぞインデックス」
イン「久しぶりだね」
ステイル「なっ……だからと言って僕が君と話なんてする訳が……」
イン「ねえ、少しで良いから……とうまとお話ししてあげてくれない?」
上条「どうするステイル?」
ステイル「……仕方ない。まあ、少しだったら良いだろう」
上条(……ちょろいな)
イン「じゃあ、私はあっちに行ってるから頑張ってねとうま」
上条「おう! 任せとけって!」
ステイル「…………チッ」
ステイル「……で、話というのは何かな? なるべく手短に頼むよ」シュボッ
上条「その前に確認なんだけど、お前……十四歳だよな」
ステイル「それを聞いて何の意味があるか分からないけど、間違いないよ」
上条「……十四歳で、それをずいぶん慣れた手つきで扱っているのはどうなんだ?」
ステイル「君まで注意に来たというのかい? まったく、あの教師といい……どうしようと僕の勝手だろうが」
上条「そう言いながらさりげなく煙草を吸おうとするな」
ステイル「僕に指図するな。……まったく、……ふう」
上条「煙っ! ……お前さあ、小萌先生にあれだけ注意されてんだから少しは何とかしようと思わねえのか?」
ステイル「だから言っているだろう? 君達には関係ない、僕の体がどうなろうとそれは僕の問題だ」
上条「……強情なヤツだな。これは説教のし甲斐がありそうだ」
ステイル「……説教? 何の事かな?」
小萌「上条ちゃんに任せて大丈夫なのでしょうか……やっぱり先生が注意を」
イン「こもえが行っても逃げちゃうだけなんだよ。心配なのは私も一緒だけど、今は信じるしかないかも」
小萌「むう……ところでシスターちゃん。上条ちゃんは風邪でもひいているのですかー?」
イン「えっ? そんな事は無いと思うけど……どうして?」
小萌「何だか顔色が悪いような気がしたのですよー」
イン「……言われてみればそう見えるかも」
小萌「先生の思い過ごしだったら良いのですが……」
上条「ステイル、お前はまだ十四だ。その年齢のヤツが煙草を吸ってもいい事なんて一つもねえんだぞ」
ステイル「……結局はその話か。何度も言うが君に心配なんてされたくはない」
上条「そう言うなって。それに、その年から吸ったら成長に悪影響を及ぼすってのは知ってるだろ?」
ステイル「……逆に聞くけど、僕が成長していないように見えるかい? まずは僕と君の身長差を考えてみろ」
上条「……身長の話はするな! そうじゃなくて、骨とか肉とかも今はまだ作っている段階なんだ。
後々そのツケが体に来る、それに肺はもちろん内臓にダメージを与える。それでも良いのか?」
ステイル「君は僕の親にでもなったつもりか? 誰が何をしてどうなろうとその当人の問題さ。
……特に、上条当麻。君なんかに僕の心配をされても不快なだけだ」
上条「なっ……! テメェ……人がせっかく心配してやってるっていうのに!」
ステイル「そう、君はそうやって僕には乱暴に接していれば良い。
それが上条当麻とステイル=マグヌスの正しい関係というものだよ」
上条「少しは丸くなったと思ってたが……テメェは何も変わってなかったのかよ!?」
ステイル「変わる? 何を勘違いしているんだ、僕と君は何も変わってなんかいない。出会ってからここまで、何もね」
上条「……我慢しろ、我慢するんだ上条当麻。ここでキレては説教が出来ない……我慢だ」
ステイル「もう良いかい? ふう……君を見下ろしていたら首が疲れてきたよ」
上条「うん、我慢とか無理だった。――テメェもう一回言ってみろやコラァ!!」
小萌「な、何だか険悪な雰囲気なのです……」
イン「うん……このままだとマズイかも」
小萌「さすがに見過ごすわけにはいきません! 先生が今行くのですよー!」
イン「私も行くんだよ! ケンカしないうちに二人を止めないと!」
上条「この野郎……! 黙って聞いてりゃ好き放題言いやがって!」
ステイル「君は黙っていなかっただろうが。……まったく、説教というからまたあの長ったらしくて、
かつ忌々しいアレを聞く事になるかと思っていたが……そうならなくて良かったよ」
上条「……はあ? 何だそれ?」
ステイル「……あの時の事といい、僕に関する記憶を君は意図的に忘れているのかい?」
上条(うっ……このパターンはマズイ。何とかごまかさねえと)
ステイル「何か言ったらどうかな? それとも……無理やり思い出させてやろうか?」
上条「お、おい! 魔術とか炎は使っちゃマズイだろうが!?」
ステイル「なに、この都市なら炎を使う能力者と思われるだけさ」
上条「落ち着け! 俺はそんな事をしたいんじゃ……」
小萌「そこまでなのですよー! ケンカはいけません!」
イン「そうなんだよ! 二人とも、落ち着いて!」
ステイル「チッ……命拾いしたね」
上条「先生にインデックス……どうしたんだよ、まだ話の途中だったんだぞ?」
小萌「話どころかケンカしそうな雰囲気だったじゃないですか! 先生はそんな事をするようには言ってないのですー!」
イン「こんな所で暴れちゃダメなんだよ! 分かった!?」
ステイル「……何で僕が怒られなくちゃいけないんだ」
上条「お前のせいだろうが。きちんと反省しろって」
小萌「上条ちゃんも悪いのですよ! 二人とも反省してください!」
上条「そ、そんな……」
ステイル「いい気味だね」
上条「何おう!?」
小イン「上条ちゃん(とうま)!?」
上条「うっ……すいません」
ステイル「まったく……こんな事をしている暇はない。そろそろ失礼させてもらうよ」
上条「ちょっと待てよ! まだ話は終わってないだろうが!」
ステイル「時間は十分に割いたつもりだ。もういいだろう?」
上条「俺達はお前の事を思って注意してるんだぞ!?」
ステイル「それが迷惑なんだ、同じ事を何度も言わせないでくれるかな?」
小萌「先生達はみんなあなたの事が心配なのですよー……。
姫神ちゃんを助けてくれたりと、先生はあなたが良い人だという事を知っているのです。
だから、あなたはきっと先生が言っている事も分かってくれるはずなのです!」
ステイル「そ、それは……あれが僕の本当の姿だと思われては困る! 第一、僕は――」
イン「ねえねえ、とうま。あいさを助けたってどういう事?」
上条「ん? ああ……ステイルが血だらけの姫神を魔術で何とか救ったんだよ」
イン「じゃあ、見よう見まねの危ない治癒魔術を使ったイギリス清教の魔術師っていうのは……」
上条「間違いなくステイルの事だな」
ステイル「……君! そういう事は黙っておかないか!」
上条「何だよお前、照れてんのか? 隠すな隠すな、もっといい人アピールしとけって!」
ステイル「だから僕はそんな人間では……!」
イン「……ちょっとイメージが変わったかも」
小萌「先生は感謝してもしきれないのですよ! 改めてそのお礼もしないといけないのですー」
ステイル「人の話を聞けぇぇぇ!!」
小萌「ですから、先生はあなたの事を放っておくなんて出来ません!
感謝しているからこそ、あなたには正しい道を歩んでほしいのですよー!」
上条「小萌先生もこう言ってるんだ、聞いてやれよ。煙草を我慢するくらい簡単だろ?」
ステイル「……君には分からないだろうが、僕にとっては煙草の無い世界なんて地獄だ」
上条「……立派な依存症だな。我慢する事も必要なんだぞ?」
イン(説教依存症のとうまが言っても説得力が無いかも……というのは言わずに飲み込むんだよ)
ステイル「……ともかく! 僕の生き方にあれこれケチを付けないでくれ! 僕からはそれだけだ!」
上条「頑固なヤツめ……インデックスも何とか言ってやれよ」
イン「私? ……うん、分かったんだよ」
ステイル「なっ……」
イン「えーっと……吸い過ぎもよくないし、我慢することも大切なんだよ。
大変かもしれないけど、とうまもこもえも、あなたが心配で言ってるから……聞いてあげてくれない?」
ステイル「…………」
上条「どうしたステイル? 何か言ってやれよ」
ステイル「……悪いが、失礼するよ。僕にはやるべき事がまだたくさん残っているんだ」
上条「お、おい、待てよ。なんか変だぞ? 急に機嫌が悪くなったというか――」
ステイル「黙れ!!」
上イン小「っ!?」
ステイル「……驚かせてすまない。では――」
上条「あっ……待てってば、おい!」
イン「……行っちゃった。私、何か悪い事でも言ったのかな……」
小萌「そんな事は無いと思いますが……なんだか様子が変でしたねー」
上条(アイツの表情……どこかで見た覚えが…………そうだ、『三沢塾』の時……同じような表情してたな。
そして『御使堕し』の時の神裂もそれと同じ……悲しそうな、後悔しているような……何か)
イン「とうま、どうする? 走って行ったから簡単には追いつかないだろうし、諦める?」
上条「……いや、ここで諦めちゃいけないと思う。確信は持てないけど、大事な何かがあるような気がするんだ」
小萌「上条ちゃん……」
上条「俺はステイルに説教するって決めた。そこは曲げないし、諦めるつもりも無い」
イン「でも、今から探すのは大変なんだよ……」
上条「大丈夫だ、きっと見つかる。アイツ一人見つけるくらい楽勝だって」
イン「……分かったよ、私も協力する。何か術を使われても、私なら逆に見つけられるからね」
小萌「先生も協力するのですよー!」
上条「よし……追跡開始だ!」
ステイル「はあ……はあ……思わず走ってしまったけど……はあ……我ながら体力が無いな……」シュボッ
ステイル(まったく……何をやっているんだステイル=マグヌス。そんな事で動揺してどうする?)
ステイル(少し昔を思い出したくらいで……何を惑う必要があるんだ)
ステイル(落ち着け……ともかく気持ちを落ち着かせろ)
ステイル「……ふう、何が悪いというんだ。こうやって煙草を吸うだけなのに、なぜあんなにしつこく……」
上条「俺はこっちを探すから、先生はそっち、インデックスはあっちを頼んだ!」
小イン「了解なのです(なんだよ)!」
上条「……さて、ただ闇雲に探すだけじゃ見つからないだろうし……何か良い手は」
御坂妹「おや、こんな所で会うとは奇遇ですね、とミサカはあなたとの運命的な再会に胸の高鳴りを感じます」
上条「ん? 御坂妹か、久しぶりだな」
御坂妹「運命的とかはスルーですか、とミサカは相変わらずのスルーっぷりに若干肩を落とします」
上条「……何言ってんだ? 悪いけど今ちょっと忙しいんだ、また今度な」
御坂妹「待ちなさい、とミサカはあなたの襟首を掴んで引き止めます」
上条「ぐえっ!? く、苦しい……がはあっ、……何するんだよ!?」
御坂妹「二度のスルーは許しません、さあ何があったのか話しなさい、とミサカはじりじりと詰め寄ります」
上条「分かったから無表情で近寄ってくるな! 実は――――」
御坂妹「なるほど、要はその赤い髪の大男を見つければ良いのですね、とミサカは確認を取ります」
上条「そういう事だ。という訳で時間ももったいないので、上条さんはもう行く――ぐえっ!?」
御坂妹「だから待ちなさい、とミサカは再びの襟首キャッチで引き止めます」
上条「何だよ! もう話したからそれで良いだろう!?」
御坂妹「その男を探すのにミサカも協力します、とミサカはあなたに告げます」
上条「へっ? 協力?」
御坂妹「人員は一人でも増えた方が良いでしょう、とミサカは答えます」
上条「それはありがたいけど……良いのか?」
御坂妹「他でもないあなたのためですから、とミサカはさりげなく尽くす女的発言でアピールします」
上条「……分かった、お前も探すのを手伝ってくれ」
御坂妹「ええ、どうせスルーされるのは分かっていましたよ、とミサカは再び肩を落とします」
上条「? よく分かんねえけど頼んだぞ! 何かあったら連絡してくれ、じゃあな!」
御坂妹「……行ってしまいましたか。さて、聞きましたね? とミサカ一〇〇三二号は――――」
MNW
御坂妹『――――とミサカ一〇〇三二号は確認を取ります』
10039『ええ、全て理解しました、とミサカ一〇〇三九号は答えます』
13577『つまり、その大男とやらを見つければあの人の好感度アップという事ですね、とミサカ一三五七七号は発言します』
19090『その通りです。そしてあの人の事ですから、何かお礼をしていただけるに違いありません! とミサカ一九〇九〇号は自らの欲望を露わにします』
御坂妹『ミサカ達は命を救われたので恩返しをする事は当然としても、お礼を要求するのはどうなのでしょうか、とミサカ一〇〇三二号は注進します』
10039『騙されませんよ、そうやってネックレスで開いた差を埋めさせない気ですね、とミサカ一〇〇三九号は指摘します』
御坂妹『ちっ……とミサカ一〇〇三二号は露骨に舌打ちをします』
13577『では、その大男を見つけた者があの人に何でもしてもらえる、と解釈しても相違はないですね? とミサカ一三五七七号は確認します』
御坂妹『こうなったらヤケです、そんな感じでいきましょう、とミサカ一〇〇三二号は適当に話を進めます』
12481『なにそれずるい、とミサカ一二四八一号はスロベニアから異議を申し立てます』
15327『こっちが色々大変なのに何羨ましい事やってんだ、とミサカ一五三二七号も憤りを隠せません』
御坂妹『……聞かれていましたか、とミサカ一〇〇三二号はしまったという表情を浮かべます』
御坂妹『それはそれ、これはこれです、とミサカ一〇〇三二号は軽くかわします』
他の妹達『なんだそれは! ミサカ格差ですか!? とミサカ達は一斉蜂起も辞さないという態度を――』
打ち止め『ケンカはダメだよーってミサカはミサカは止めてみたり』
御坂妹『上位個体ですか……とミサカ一〇〇三二号は嫌な予感がしてなりません』
打ち止め『じゃあ一方通行にも探すように言ってみるから、あの人がその大男さんを見つけたらその権利は
学園都市以外の全ミサカから抽選でプレゼント! ってミサカはミサカは公平に裁いてみる』
10039『一方通行が!? とミサカ一〇〇三九号は驚きを隠せません』
他の妹達『グッジョブ! とミサカは上位個体に惜しみない賞賛を贈ります』
他の妹達『一方通行に頼るのはアレですが背に腹は代えられません! とミサカはその提案に賛成します』
打ち止め『じゃあ決定! ってミサカはミサカは宣言してみる。それと学園都市のミサカ達は標的を発見次第ミサカに連絡してね。
そうしたらミサカがあの人に伝えるから、ってミサカはミサカは仕切ってみる』
御坂妹『ん? 上位個体、それはあの人の電話番号を知っているという事ですか!? とミサカ一〇〇三二号は驚愕します』
19090『上位個体! それについて詳しく! 詳しく!! とミサカ一九〇九〇号は魂の叫びを――』
打ち止め『ふっふっふー、とミサカはミサカは不敵な笑みを浮かべてみたり。ではミサカ諸君、励むのだー! ってミサカはミサカは激励してみる!』
御坂妹「という訳で他のミサカを出し抜くためにもここは踏ん張りどころです、とミサカは決意を改めながらダッシュします」
美琴(はあ……結局電話来なかったなー……って、ん? あれは……)
美琴「ちょっとアンタ、そんなに急いで何やってんの?」
御坂妹「げえっ、お姉様! とミサカは露骨に嫌そうな顔をしてさっさとこの場を離れようと――」
美琴「待ちなさい! ……その反応、何かあったわね?」
御坂妹「いえ、何もありませんよ。それより今日はいい天気ですね、とミサカは完璧なはぐらかしテクニックを披露します」
美琴「バレバレだっつうの! で、何があったの?」
御坂妹「だから何もありませんってば、とミサカはドキドキイベントをお姉様に知られないよう隠します」
美琴「ドキドキイベント……? まさか、アイツに関わる事じゃないでしょうね!?」
御坂妹「うわー鋭いよこのお姉様、とミサカは動揺を隠せません」
美琴「ねえ、きちんと話してもらえるかしら……?」ビリビリバチバチ
御坂妹「……これが能力差か、とミサカは絶望します。仕方ないですね、とミサカは説明を始めます。実は――――」
美琴「なるほど……赤い大男を見つけたらアイツが言う事を聞いてくれる、と。ずいぶん面白そうな事してるじゃない」
御坂妹「ええ、ですがお姉様には関係な――」
美琴「私も参加するわよ! アイツには色々やってもらいたい事もあるし……!」
御坂妹「やっぱりそうなりますよねー、とミサカは逃れられない展開を諦観します」
美琴「そうと決まればさっさと探しに行かなくちゃ! じゃあね、負けないから!」
御坂妹「はいはい、とミサカも負けじとダッシュします」
美琴「さて……その大男とやらはいったいどこに……」
??「結局、退院祝いにはサバ缶が一番って訳よ」
??「それ……超センスないですよ。映画のDVDとかなら間違いありません、これで決定です」
??「お前のセンスも負けないくらいずれてるけどな。どうせB級だかC級だかの映画なんだろ?」
??「はいはい、とりあえず滝壺の退院祝いについてはゆっくり考えましょう……って」
美琴「げっ……」
麦野「久しぶりだね……忌々しい第三位様よォォォ!?」
美琴「うう……今はそれどころじゃないのに……」
フレンダ「あっ……『超電磁砲』……偶然というかタイミングが悪いというか」
絹旗「超ヤバいです……何がヤバいって麦野の顔がそれはもう般若のようになってます……」
麦野「相変わらずムカつくツラしやがって……今日こそその顔を穴だらけにしてやるよ!!」
浜面「む、麦野……街中ではそういう事はやめよう? な?」
麦野「うるせえ浜面! ×××を穴だらけにしてやるから覚悟しやがれクソガキがァ!!」
美琴「ええい! 今はアンタと戦ってる場合じゃないのよ! こっちにも色々あるんだから!」
フレンダ「……急いでいるみたいだけど、何かあったって訳?」
美琴「ちょっとね。アイツ……アンタ達にはツンツン頭の無能力者って言った方が良いかしら」
麦野「……何?」
絹旗「麦野の怒りが超ちょっとだけおさまりました! どうやらその男に何らかの興味があるみたいですね」
浜面「あの無能力者に関係してる事が何か起きてるのか?」
美琴「ええ、アイツの探している男を見つけ出せばアイツが何でも言う事を聞いて……って別にこんな話をしなくても良いわよね」
麦野「その話、本当か?」
美琴「な、何よ……別にアンタには関係ないでしょう?」
麦野「――絹旗、フレンダ、ついでに浜面。『アイテム』は今からその大男を探し出すのを任務とするわ」
絹フレ浜「は、はああ!?」
麦野「見つけたらあの無能力者に私の言う事を聞かせるのよ。……それはもう悲惨な目に遭わせてやる」
浜面「む、麦野……冗談、だよな?」
麦野「文句あるのか浜面ァァァ!!」
絹旗「何を言っても無駄ですね……麦野は超本気みたいです」
フレンダ「結局……従うしかないって訳よ」
麦野「さて、その男の情報……教えてもらおうかしら。ねえ、『超電磁砲』?」
美琴「嫌だ、って言ったら?」
麦野「選択肢なんかないわ。言うか……死ぬか、どっちが良い?」
美琴「……今はそんな時間もないし、仕方ないわね。特徴は赤い髪の大男って事だけ」
麦野「それさえ分かれば十分……浜面! アシ用意してきな!」
浜面「はあ……少しは丸くなったと思ったんだけどな」
麦野「何か言った?」
浜面「何でもねえよ、ちくしょう……」
一方通行「……で、何で俺がその赤い髪の大男を探す事になるンだよクソガキ!」ビシッ
打ち止め「痛い! 痛いよ! ってミサカはミサカは暴力に屈しそうになりそうだけど我慢してみたり……」
一方通行「ともかく……俺はそンなコトしねェからな」
打ち止め「でも、でも……ミサカ達はあなたに期待してるんだよ? ってミサカはミサカは上目遣いで見上げてみたり……」
一方通行(……くだらねェコトしてる場合か? だが……あァ、考えるのも面倒だ。仕方ねェ……)
一方通行「その大男を見つけて、あの日オマエを助けた電話相手に伝えればいいンだろ?」
打ち止め「えっ? もしかして……やってくれるの? ってミサカはミサカは期待しながらも確認を取ってみる」
一方通行「そうやっていつまでも引っ付かれるのが嫌なだけだ。……ったく、面倒くせェ……外出てさっさと見つけるぞ、クソガキ」
打ち止め「……うん! ってミサカはミサカはあなたの優しさにちょっぴり感動してみたり!」
一方通行「黙ってろって言ってンだろォが!」ビシッ
上条(何だか騒がしいな……それに見られている気がする)
上条「しかし、ステイルのヤツいったいどこに行ったんだよ? 説教するだけでそんな時間は……うっ……?」グラッ
上条「はあ……はあ……何、だ……この息、っ……苦しさ……」
上条「説教が……説教……してえ……」
上条(駄目だ……落ち着くまで少し、休もう……)
ステイル「……さて、息も整って大分落ち着いてきたしそろそろ行くとす……ん?」
美琴「赤い髪の大男……どこに居るの!?」
絹旗「まったく……超早く見つけてさっさと帰りたいですね」
フレンダ「それには同感って訳よ」
ステイル(なっ……赤い髪の大男って……僕の事じゃないか?) ※ステイルは電柱の陰に隠れています
麦野「出てきやがれ赤い髪の大男ォ! 出てこねえと……穴だらけにしてやる……!」
浜面「む、麦野……落ち着けって」
御坂妹「……あの二人ももしや? とミサカは思ったより大事になっている事に驚きを隠せません」
ステイル(……おかしい、なぜ僕を探す必要がある)
一方通行「さァて……その赤い髪の大男とやらはどこに居るンだ」
打ち止め「そういえば二人で出かけるのは久しぶりだね! ってミサカはミサカはちょっとワクワクしてみたり」
一方通行「うるせェ! ……ったく、一発くらい殴ってやっても別に良いよなァ?」
小萌「どこに居るのですかー?」
ステイル(ど、どうなっているんだ!?)
土御門「あらら、何だか大変な事になってるにゃー」
ステイル「……土御門か。いったい、これはどういう事なんだ?」
土御門「簡単に言うと、ステイルを見つけたらカミやんが何でも言う事を聞いてくれるらしいぜい」
ステイル「なっ……! 何だそれは!?」
土御門「オレにも分からないが……とりあえず、カミやんの所に早く行った方が良いと思うぜよ」
ステイル「誰がそんな事を……それに僕は馴れ合うつもりは無い。まったく……さっさとここから」
土御門「おいおい、お前の思ってる以上に事態はややこしくなっているぞ?」
ステイル「……何?」
青ピ「赤い髪の大男……なんやおもろそうやしボクも探してみますよー!」
小萌「ありがとうなのですよー!」
吹寄「噂では上条当麻が何でも言う事を聞くそうだけど……本当かしら?」
姫神「これはチャンス。この機を逃しては。当分出番はない……!」
初春「赤い髪の大男……いったいどんな人なんでしょうか?」
佐天「ともかく探してみないとね。見つけたら願いが何でも叶うらしいし!」
黒子「本当なのでしょうか……? まあ、学園都市中が今その話題で持ちきりですから、
混乱を防ぐためにも風紀委員として見過ごすわけにはいきませんの」
ステイル「…………」
土御門「赤い髪の大男とウニ頭の男を集めた者は、何でも願いが叶うって噂が広まってるみたいだぜい?」
ステイル「……学園都市というのは暇人の集まりなのか!? くだらない噂なんかに振り回されるなんて……」
土御門「さて、どうするよステイル?」
ステイル「……魔術師の僕がこの都市で大事を起こしては問題だ。仕方ない、こちらから電話をしてみる」
土御門「賢明な判断ですにゃー。まっ、カミやんと話すのもたまには良いんじゃないか?」
ステイル「誰があんなヤツと話したいと思うんだい? ……まったく」プルル
上条「ふう……少しは落ち着いたけど、いったい何が――って電話? ……非通知? もしもし」
ステイル『僕だ。……不本意ではあるが、事態が事態なだけにこちらから連絡をさせてもらったよ』
上条「はあ? 何だよそれ?」
ステイル『……今は君に怒りをぶつけている時間も無い。ともかく、どこかで落ち合おう』
上条「お前……俺の話を聞いてくれる気になったのか!?」
ステイル『嬉しそうな声を出すな! ……人目のつかない場所で手短に済ませたい』
上条「人目のつかない場所ねえ……あっ、だったら――――」
とある高校の男子寮 上条の部屋の前
上条「おっ、来たか」
ステイル「……確かに誰も来ないだろうが、よりにもよってここを指定するとはね」
上条「何かまずかったか? とりあえず部屋に入れよ」
ステイル「いや、中には入らずにここで話そう」
上条「へっ? 別にわざわざ立って話さなくても」
ステイル「言わせるな、君の部屋なんかに入りたくは無い」
上条(どこまでもムカつくヤツだな……いや、ここは我慢だ)
ステイル「さて……説教だか何だか知らないけど、さっさと終わらせようか」
上条「ああ……でもその前に、聞きたい事がある」
ステイル「聞きたい事?」
上条「さっきインデックスに注意された時、お前の態度は明らかに変わっていただろ? それが気になってたんだ」
ステイル「……そんな事か。別に何でもない、君の考え過ぎだろう」
上条「いや、俺はあの時のお前の顔を見た覚えがある。……そして心当たりもあるんだ」
ステイル「……不愉快な思いをさせるために君は僕を呼び出したのか!? 悪いけど、この話はここで終わりだ」
上条「ステイル……俺は」
ステイル「終わりだと言ったんだ!! 君に話す事など一つも無い、そして勝手に勘ぐるのもやめろ!」
上条「……勝手に人の心配して、無責任な事を言って迷惑だってのも分かってる」
ステイル「分かっているならもういいだろう? 今後その話をしたら――」
上条「それでも、お前の力になりたいって思ったから……俺はお前と話がしたい。煙草がどうとかはもういいんだ。
ただ、お前のあの時の表情が神裂が前にしていたそれと似ていた。……あの時は何も言えなかったが」
ステイル「……大きなお世話だよ。神裂も僕も思う事は一緒だろうが、それを君に何とかして貰おうなんて少しも思っていない。
踏み込んではいけない領域がある、今君が入ろうとしているのもその一つだ。……理解しろ、上条当麻。君には関係ない」
上条「悪いなステイル、俺は一度でも信頼したヤツは放っておけないんだ。それに……ここで終わらせたらもう二度とお前と
こんな話をする事なんて無い気がする。多分、一度きりの機会だ……今日くらい良いだろう?」
ステイル「……はあ、君は相当諦めの悪い人物だったという事を忘れていたよ。最初会った時も、あの時も……
そして現在も一向にそれは変わっていないようだね。……僕からしたら厄介だという事にも変わりは無くて残念だ」
上条「……何を言いたいのかは分かんねえけど、少しは話してくれる気になったのか?」
ステイル「君の求めているものかは分からないけど、今から『らしくない事』をする。……それは自分の情けない部分を自覚するため、
そして自分への戒めのためだ。だから君は聞いても何も言わなくていい、ただそこに立っていろ」
ステイル「……君も知っている通り、あの子は一年周期で記憶を消去されていた。それのは僕も関わっていたというのは変わりようのない事実だ。
だからこそ、あの子と僕は昔の様に会話する事なんてもう無い。……そんな資格は無い、と言った方が良いかな」
上条「……そんな事は」
ステイル「黙って聞けと言ったはずだ、大人しくしていろ。……それでも、実際に彼女と会話したり協力したりする機会は存在する。
それが仕事上の関係だったら僕だって割り切れる。しかし……さっきの様な時は、心が乱されるというのも否定はできない」
上条「さっきの様な時……何か問題でもあったのか?」
ステイル「僕が煙草を吸う度に、彼女はいつも止めるために叱りつけてくれた。それはもう大声で、しつこいくらいにね。
……まさか、またあの子が僕に注意する事があるなんて思いもしなかった。まったく……やり辛いにも程がある」
上条「でも、インデックスはお前の事を思って注意したんだ。それをやり辛いなんて思うのはちょっと違うんじゃないか?」
ステイル「……何も言うなと言ったけど、無駄だったみたいだね」
上条「あっ……悪い」
ステイル「まあいい、やり辛いと思うのはそこだ。僕の事を思って注意した。……それを僕は素直に受ける事が出来ない。
あの子が僕を心配する事なんてもう無いと思っていたが……実際にこうなると何とも言えないものがある」
上条「……そんなに気にしなくても良いんじゃないか? インデックスはただお前の事が心配ってだけで」
ステイル「さっきも言ったが、僕はあの子に心配される資格なんて無いんだ。過去に僕が彼女にしてしまった事は決して許される事では無い。
自分の意志やその場の状況がどうであろうと、僕が彼女の記憶を奪ったという事実は消えないし……僕自身もそれを背負い続けるつもりだ」
上条「ステイル……お前」
ステイル「……何も言うな。さて……質問には答えたつもりだけど、まだ何かあるのかな? 僕にとっては、
君と同じ時間を過ごすなんて耐え難い苦痛なんだ。一秒でも早くここから立ち去りたい、何かあるならさっさと終わらせてくれ」
上条「分かった、でももう一つだけ聞かせてくれ。……お前、本当にそれで良いのか?」
ステイル「……何?」
上条「お前はインデックスのために命を懸けて戦い続けると言っていた。でも、お前はインデックスと向き合う資格が無いとも言っている。
……それってすごく悲しい事じゃねえか? 今は確かに割り切れないかもしれないけど、いつか許される日が来てもいいはずだ」
ステイル「……君のそういう甘い部分が僕は嫌いなんだ。いいかい、記憶というものはその人にとって何物にも代えがたい大切なものだ。
生まれてからその時点までに見たり感じたもの、二度と得る事が出来ないものもあっただろう。
……それを僕はあの子から奪ったんだ! こんな事が許されると思うか!? いくら時間が経とうが、償おうと努力しようが全て無駄なんだよ!」
上条「……ステイル」
ステイル「それに、あの子の隣には……君が居る。僕という存在はもう不必要なのさ。だからこそ、僕は自分にできる事をするまでだ。
あの子に何も危害が及ばないように、あの子が二度と悲しい思いをしないように……僕は、全てを燃やし尽くす」
上条「その考えは……変わらないのか?」
ステイル「馬鹿な事を聞くな。これは僕の信念だ、一生これを守り続けると誓ったんだよ。……この考えを否定する者は、誰であろうと許さない」
上条「でも、それじゃあお前が――」
ステイル「炎よ――巨人に苦痛の贈り物を」
上条の言葉を聞き終える前にステイルは灼熱の炎剣を生み出し、そのまま上条へ叩き付けた。
上条は予想外の事態に対応が遅れてしまったが、何とか右手を炎剣にぶつけこれを打ち消す。
上条「なっ……! 何しやがるんだテメェ!?」
ステイル「言ったはずだ。この考えを否定する者は誰であろうと許さない、と」
上条「だ、だけど……」
ステイル「上条当麻、君が今やろうとしている事をもう一度考えてみろ」
上条「俺がやろうとしている事……?」
ステイル「君は自分の中にある知識や観念だけで人の行動を判断し、それが正しいかどうかを決める。相手の信念などロクに考えようともせずにね。
それは果たして正しいのか? 自分が間違ってるとは思わないのか?」
上条「…………」
ステイル「仮に、現在まで君がしてきた事は正しかったとしよう。だが、それがいつまでも続くと思うのか?
そう思っているのなら、それは君の考えは危険なものだという事だ。ここで自らの考えを改めた方がいい」
上条「そんな事は無い……俺だって間違っている事をたくさんしている。それが何……とは絶対に言えないけどな」
ステイル「へえ、君にもそう思える事があるとは驚いたよ。だったら話は早い、この場はもうお終いだ」
上条「それでも……それでも、お前の考えは悲しすぎるよ。もっと甘えてもいい、インデックスだってきっと分かってくれる」
ステイル「……そうだね。確かに君の言う通り、あの子は誰にでも優しいから僕の事を許してくれるかもしれない。
でも、僕はそこに甘えてはいけないんだよ。一生この事実を背負い続ける、それがステイル=マグヌスの生き方だ」
上条「ステイル……」
ステイル「……少し話し過ぎたようだ。今日の事は忘れてくれ、今度こそ僕は失礼するよ」
上条「……待てよ! テメェの言う事も間違ってはいねえ……でも、そのまま生き続けるなんてやっぱり間違ってるだろ!?」
ステイル「もういい、君と話す事はこれ以上は無い」
上条「そんな悲観的になるなよ! テメェ自身が許されなくても周りのヤツが許してくれる、その周りにはインデックスだってきっと含まれるはずだ!」
ステイル「……そこをどけ」
上条「いや、どかねえよ。ステイル……これだけは言わせてくれ! 現在のお前を縛る過……っ!?」
上条(何だこれ……口が、動かねえ……? それに、またこの感じ……息……苦しい)
ステイル「……? どうした、何も無いならそこをどいてくれ」
上条(ここでステイルを行かせるわけにはいかねえ……でも、口が動いてくれない……)
ステイル「どうしてもどかないつもりなら……強制的に移動してもらうよ」
上条(……こいつ、魔術を使う気か。マズイ、右手を動かさねえと……)
ステイル「灰は灰に――」
上条(立っている事すらままならねえ……意味分かんねえ……)
ステイル「――塵は塵に――」
上条(駄目だ……ともかく右手を……前に……!)
ステイル「――――吸血殺しの紅十字!」
上条(動け……右手……!)
上条は息も絶え絶えながらも何とか右手を前に突き出し、その二本の炎剣を無効化した。
しかし、そのまま上条は床に力なく倒れ、ただ黙って苦しそうに呼吸をするだけであった。
ステイル(……魔術が効いた? いや、おかしい……あの右手は確かに僕の炎剣を打ち消した。
では何故倒れる、しかもあんなに苦しそうに……何か、あったのか?)
上条「はあ……はあ……っ……ぐっ……」
上条(何なんだよ……動けねえ……ただ一言、言おうとしただけじゃねえか)
(――そ――――――って――――か?)
上条(……!? 何だよ、この声……)
(――がそ――――言――――――場―――?)
上条(頭の中に……響くこの声は……)
(お前が――な事を――るような――――か?)
上条(……段々と聞こえてきた。お前が……何だ?)
(お前がそんな事を言えるような立場なのか?)
上条(お前がそんな事を言えるような立場なのか……ああ、そういう事か)
上条(確かに、俺がステイルに言おうとした事は俺自身にも当てはまる事だ……)
(それでも、お前は言うのか? 自分自身を否定するのか?)
上条(……今言わないでいたら、もう二度とこんな時間は訪れねえ。だったら、やる事は決まってんだろ?)
(後悔しないか、上条当麻?)
上条(後悔なんかしねえよ……だから、邪魔すんな……!)
ステイル「……おい、大丈夫か?」
上条「うっ……ステイルか……」
ステイル「しばらく会わないうちに能力を失ったのか? 君を殺してしまったら僕の立場も危うくなる、しっかりして貰いたいものだね」
上条「うるせえよ……はあ……っ……」
ステイル「立っているのもやっとじゃないか。無理するな、そのまま寝ていればいい」
上条「……おい、どこに行くんだよ」
ステイル「とりあえず君の生死を確認できたから、もうここに居る必要は無いからね。帰らせてもらうよ」
上条「待て、さっき言えなかった事を言わせてくれ……」
ステイル「断る。ここでお別れだ、上条当」
上条「過去にばっか縛られてんじゃねえ!」
ステイル「……何?」
上条「今までテメェがどんな思いで生きてきたなんて俺が理解できる訳ねえよ。でもな、そんな生き方を俺はテメェに続けて欲しくねえんだ!」
ステイル「倒れていたと思ったら、今度は大声で何を言っているんだ君は」
上条「どう思われても良いさ、何とでも言え。ただ……もっと自分を大事にしろよ、ステイル=マグヌス」
ステイル「……自分を大事にする必要なんて無い。いいかい、これが全てだ。これ以上否定するつもりなら――いや、言わないでおこう」
上条「……どうしても、そのまま生き続けるつもりなのか?」
ステイル「言わなくても分かるだろ?」
上条「そうか……お前がどれだけ覚悟して生きているか、少しわかった気がするよ」
ステイル「……君に理解してもらう必要は無いけどね」
上条「最後に一つだけだ、お前が少しでも自分に甘くなったら……一番喜ぶのは、インデックスだと思うんだ」
ステイル「そんな事……ある訳がないだろう?」
上条「……気になるなら、試してみろよ。そうすれば、きっと……ぐうっ、……っ」バタン
ステイル「お、おい、本当にどうしたんだ?」
イン「とうま……いったいどこに行っちゃったんだろう。……あれ、電話?」
イン「とうまからだ! もしもし、とうま!?」
ステイル『……すまないが、上条当麻ではない。ステイル=マグヌスだ』
イン「えっ……? どうしてあなたがとうまの電話を使ってるの?」
ステイル『色々あってね、今はそれを話す事は避けさせてもらうよ。それと、上条当麻が倒れた』
イン「倒れた……とうま、とうまは無事なの!?」
ステイル『ああ、命に別状はないだろう。……彼は何か病気にでも罹っているのかい?
様子がおかしくてこちらまで調子が狂ってしまったよ。とりあえず、病院に運び込むよう手配はしておいたけどね』
イン「うん……詳しくは言えないんだけど、病気みたいなものなんだよ」
ステイル『まったく、禁書目録の保護をする立場としてあるまじき失態だね。
……だいたい、命を張るような目に遭いすぎているんだ、無理もない』
イン「ねえ、もしかして……とうまの事を、心配しているの?」
ステイル『馬鹿な事は言わないで欲しいね、僕はただ利害が一致しているから彼と協力しているだけだ。
価値が無いと判断した時はそれなりの対応を取らせてもらうよ』
イン「……あなたは、とうまの味方なの? それとも……」
ステイル『協力者、それ以上でも以下でも無い。だから、仲間だなんて思わないでもらいたい』
イン「…………」
ステイル『心配はしなくても大丈夫だ、現時点では彼と敵対する予定は無い』
イン「うん……わかった」
ステイル『……言い方を変えよう、君には心配しないで欲しい。それだけだ』
イン「……それ、どういう意味?」
ステイル『深く考える必要は無いさ。それでは、また――』プツッ
イン「……とりあえず病院に行かないと」
ステイル(心配しないで欲しい、ね……何を言っているんだろうか、僕は)
ステイル「さて、さっさと用事を済ませないと……ん?」
ドドドドドドドドドド
麦野「見つけたぞ! 赤い髪の大男ォ!」
美琴「あの男を捕まえればアイツと……よっしゃあ!」
一方通行「気は乗らねェけど、やるからには負けられねェな……!」
御坂妹「超能力者なんかに負けません! とミサカは恋する乙女として意地を見せる所存です!」
小萌「今度こそ先生の言う事を聞いてもらうのですよー!」
ステイル「なっ……何だこれは!?」
麦野「大人しく……捕まりやがれ!」バシュウン
美琴「ちょっと痺れてもらうわよ!」ビリビリ
一方通行「さァて……少し痛むかもしれねェが、コンクリートの下敷きになってもらうぜェ!」ドゴン
御坂妹「こうなったらミサカも携帯している銃器で対抗します、とミサカはマシンガンを撃ちまくります」ババババ
ステイル「無茶苦茶だ! クソッ……これが噂の不幸ってやつなのか!?」
病院
冥土帰し「無傷で運ばれてくるとは……君もいよいよ危なくなってきたのかもね?」
上条「……何かおかしいんですかね、俺」
イン「とうまはやっぱり少し休むべきだと思うんだよ」
上条「でも、説教が……」
イン「もう十分なんだよ。諦めた方が良いかも」
上条「いや、ステイルへの説教は失敗しちまったんだ……不満足っていう訳じゃねえんだけど」
イン「仕方ないね……じゃあ、あと一回だけ許してあげる」
上条「本当か!? ありがとう、インデックス!」
冥土帰し(説教は許可を取らないと出来ないのかな……?)
イン「そのかわり、とんでもない事になりそうな人はやめて欲しいかも」
上条「ああ、分かったよ」
イン「あまり深刻な事にならないような人達にしてね」
上条「分かった……こんな感じでどうだろう?」
末尾0、1→一方通行
末尾2、3→御坂美琴
末尾4~6→五和
末尾7~9→芳川桔梗
イン(……二分の一で短髪かいつわ、納得はいかないけど……確かに危険は無さそうなんだよ)
上条「ど、どうだ、インデックス……?」
イン「…………」
上条「…………」ドキドキ
イン「――いいよ、この中から決めよう」
上条「あ……ありがとうございます!」
冥土帰し(……どういう事なんだろうね?)
上条「よし……末尾カモン!」
末尾0、1→一方通行
末尾2、3→御坂美琴
末尾4~6→五和
末尾7~9→芳川桔梗
冥土帰し「(……いつもこんな事をしていたのかい?)」ヒソヒソ
イン「(……うん、やっぱりおかしいよね?)」
冥土帰し「(一度頭を開いて悪いものを探して見た方がいいかもね?)」
イン「(そう言わずに見守ってあげて欲しいんだよ)」
上条「だーれかな、だーれかなー」
上条「芳川……桔梗……ねえ」
イン(短髪でもいつわでも無い……! 私の祈りが届いたのかも)
冥土帰し「うん? 彼女に用があるのかな?」
上条「そうですが……もしかして、知り合いとか?」
冥土帰し「色々あってね、彼女とはそれなりに親しくさせてもらっている、とでも言えるね?」
上条「なんと! じゃあ、芳川さんって人の連絡先とか教えてもらってもいいですか?」
冥土帰し「うーん……個人の情報を簡単に教えるのは気が引けるかもね?」
上条「……やっぱり、駄目ですよね」
冥土帰し「だが、僕は患者に必要なモノは何でも揃えるつもりだ。今の君に必要なものは彼女の連絡先でいいのかな?」
上条「えっ? って事は……」
冥土帰し「ああ、芳川桔梗の連絡先を教えよう」
上条「あ、ありがとうございます! いよっしゃああ!」
イン「良かったね、とうま」
イン(そして短髪、次回も出番無しなんだよ。ごめんね)
上条「さて……インデックス! 出陣といこうかぁぁ!!」
イン(……出陣、って意味分かんないんだよ……なんて言っちゃダメ、我慢我慢)
冥土帰し「出陣って……ちょっと君のセンスを疑うレベ イン「ストップ、そこまでなんだよ」
上条「よし、連絡先も聞いたし早速電話をしてみるか」
イン「いったいどんな人なんだろうね」
上条「どうやら研究者みたいだから頭も良いし立派な人なんじゃねえの?」
イン「そんな人にとうまは説教するの?」
上条「今更それは言うなって。さて、芳川桔梗さんの電話番号は……」ピポパ
芳川『……もしもし?』
上条「あっ、どうも。芳川桔梗さん、で間違いないですか?」
芳川『ええ、わたしが芳川だけど……キミは誰かしら? その声に聴き覚えは無いわね』
上条「俺は上条当麻って言います、多分会った事は無いですね」
芳川『……その会った事も無いようなキミが何故、わたしの連絡先を知っているの?』
上条「カエルみたいな顔したお医者さんから聞いたんですよ。知り合いだから特別に連絡先を教えてもらいまして」
芳川『冥土帰しの事ね……まあ、彼が関わっているのなら心配は無いか。それで、わたしに何か用でも?』
上条「ええと……とりあえず、直接会ってお話ししたいんですけど」
芳川『……そんなに大事な用事なのかしら?』
上条「少なくとも、俺にとっては大事な用事です」
芳川『そう、分かったわ。わたしもネトゲには少し飽きてきたところだからちょうど良かったかもしれないわね』
上条「ね、ネトゲ……?」
芳川『ええ、今から位置情報を送るからそこまで来てもらえるかしら?』
上条「別に公園とか喫茶店でも構わないんですけど」
芳川『外に出るのが億劫なのよ。では、また来るときになったら連絡してちょうだいね』プツッ
上条「切れちまった……っつうか億劫って」
黄泉川宅
芳川(……上条当麻、ええっと確か)カタカタ
芳川(やっぱり、一方通行を倒した無能力者の少年……でも、何故今更わたしの所に?)
打ち止め「ねーねーヨシカワ、今日もお家の中に居て大丈夫なの? ってミサカはミサカは外に出ないヨシカワを心配してみたり」
芳川「ええ、大丈夫よ。何も心配しないで」
打ち止め「でも……それに、ヨシカワは自分のお家に帰らなくていいの? ってミサカはミサカは素朴な疑問を投げかけてみる」
芳川「そうね……もうちょっとだけ居させてもらうつもりよ」
黄泉川「……そういって居座り続けてんのはどこのどいつじゃん?」
芳川「あら、愛穂。良いじゃない、友人なんだからそんな野暮な事は言わないものよ」
黄泉川「遠回しに帰れって言ってるつもりなんだけど」
芳川「もうちょっとだけ、ね?」
黄泉川「……本当にもうちょっとで済むか怪しい所じゃん」
打ち止め「ところでヨシカワは誰に電話してたの? ってミサカはミサカは気になってみたり」
芳川「上条当麻、って言って分かるかしら?」
黄泉川「上条? それ、ウチの学校の生徒じゃん。なんでソイツと電話を?」
芳川「さあ? まっ、ここに来るよう指示したからその時はよろしくね」
黄泉川「外に出ろ! そして職を探せ!」
芳川「嫌よ、わたしは自分に甘い女なの」
打ち止め「ものすごく情けないことを言ってるようにしか聞こえないね、ってミサカはミサカはちょっとがっかりしてみたり」
イン「ねーねーとうま。どんな人だったの?」
上条「うーん……久しぶりに説教らしい説教が出来るかもしれない」
イン「どういう事?」
上条「……相手はものすごいダメ人間の様だ」
イン「ダメ人間?」
上条「一日外に出ず、何もしてないような人の事だ」
イン「うっ……それ、私にもちょっと当てはまるかも」
上条「大丈夫だって、そんな事ないから安心しろよ」
イン「本当に? 私、ダメ人間なんかじゃない?」
上条「少なくとも、この場においてはな」
イン「???」
上条「深くは考えるな。よし、行くぞ!」
イン「う、うん」
再び黄泉川宅
上条「ここがそのマンションなんだけど……指定された部屋の番号は、黄泉川……ねえ」
イン「芳川ではないね……合ってるのかな?」
上条「どうなんだろうな……それに黄泉川って、まさか……」
イン「? 黄泉川って人も知り合いなの?」
上条「確か、大覇星祭の時にお前も会った事があるはずだ。ほら、通行止めで食い物を買えなかった事があっただろ?」
イン「あっ……あの髪の長い女の人?」
上条「そうそう。俺の学校の先生なんだけど、どういう繋がりなんだろうか……」
イン「とりあえず、今は訪ねてみるしかないと思うんだよ」
上条「それもそうだな……では、部屋の番号を入力……そしてボタンを押せば」ピンポーン
ピンポーン
黄泉川「ん? 誰じゃん?」
上条『すいませーん、芳川桔梗さんに会いに来たんですけどー』
黄泉川「おっ、月詠センせとこの悪ガキじゃん。本当に来るとはね」
上条『あれ? やっぱり黄泉川先生のお家だったんですね。……嘘つかれたのかな』
黄泉川「いいや、桔梗ならここに居るじゃん」
上条『はあ……同居人ってやつですか?』
黄泉川「寄生人って言った方が相応しいかもね。まっ、立ち話もなんだし中に入るじゃん」
上条『分かりましたー』
黄泉川「今鍵を開けるからねー」
打ち止め「ヨミカワ、誰か来たの? ってミサカはミサカは聞いてみる」
芳川「もしかして、彼が着いたのかしら?」
黄泉川「そういう事じゃん。ほら、桔梗。さっさとゲーム終わって身だしなみを整えな」
芳川「ちょっと待って……まだ狩りの途中なのよ」
黄泉打ち(ダメだコイツ……早く何とかしないと)ッテミサカハミサカハボウゼントシテミタリ
上条「ごめんくださーい」
打ち止め「いらっしゃいませー! ってミサカはミサカは笑顔でお出迎えをしてみたり」
イン「あれ? この子は確か……」
上条「打ち止め!? どうしてここに?」
打ち止め「ミサカはヨミカワのお家でお世話になってるんだよ、ってミサカはミサカは答えてみる」
黄泉川「そういう事じゃん。いらっしゃい、お二人さん」
上条「あっ。黄泉川先生、お邪魔します」
黄泉川「まさか自分の家で生徒と会う事になるとは思わなかったじゃん」
上条「俺もですよ……で、肝心の芳川さんはどちらに?」
打ち止め「あそこでゲームをしてるのがヨシカワだよ、ってミサカはミサカは指をさしてみる」
芳川「…………」
イン「……ゲームをしてるみたいだけど、話しかけて大丈夫なの?」
黄泉川「遠慮しなくていいよ。むしろ話しかけてゲームから離れさせてやってほしいくらいじゃん」
上条「はあ……分かりました。すいませーん、上条でーす」
芳川「…………」
イン「……完全無視能力が発動しているんだよ」
上条「こんにちはー! 芳川さーん!?」
芳川「…………」
打ち止め「……反射しているのかな、ってミサカはミサカは本気で心配してみたり」
黄泉川「桔梗! お客さんが来てるじゃん! さっさとゲーム終わるじゃん!」
上条「もしもーし!? 芳川さー 芳川「だあああ!! うるさいわね! 聞こえてるわよ!」
上イン「!?」
打ち止め「聞こえてるのに反応しないなんて……ってミサカはミサカは呆れてみたり」
芳川「はあ……キミが上条当麻君?」
上条「は、はい……お忙しい所お邪魔してすいません」
芳川「初対面で大声を出してしまってごめんなさいね。わたしが芳川桔梗、よろしく」
上条「あっ、よろしくお願いします」
芳川「さて、わたしに話があるという事だけど……どのような話かしら? こんな女に時間を割くなんて意味も無いでしょうに」
上条「えーっと……じゃあ、早速本題に入ります。最近、何か悩んでる事とかありませんか?」
芳川「……どういう事かしら?」
上条「まあまあ、とりあえず教えてくださいよ」
芳川「わたしの悩みなんて聞いても何もならないでしょうに。何が目的なの?」
上条「説きょ……いや、俺からも大事な話があるんです。その前に色々聞いておかなくてはいけないんですよ」
芳川(この少年の大事な話……わたしに用があるという時点である程度『キレイ』な話ではないと予想はしていたけど……。
情報が少なすぎて安全か危険か、有益か不利益かの判別すらつかないわね。ここは乗っておくしかないかしら)
上条「あれ……俺、なんか変な事言いました?」
芳川「いえ、何でもないわ。愛穂、席を外してもらえるかしら? ちょっと二人で話したいのよ」
黄泉川「分かったじゃん。打ち止め、それとそこの女の子、あっちの部屋に行くから私についてくるじゃん」
イン打ち「はーい(ってミサカはミサカは立ち上がってみる)」
芳川「さて、これで心置きなく話せるでしょう。もういいわよ? キミの聞きたい事を素直に言ってくれればわたしはそれに答えるから」
上条「ありがとうございます。でも素直にっていうかもうさっき聞いた質問がそれなんですけどね」
芳川「わたしの悩み……ねえ。キミの意図がさっぱり分からないけど、状況が状況……答えるしかなさそうね」
上条「へっ? どういう事ですか?」
芳川「とぼけなくとも良いのよ。とりあえず、わたしの悩みだけど……」
上条「……はい」
芳川「……職が決まらない事ね」
上条「……はい?」
芳川「知っての通り、わたしは研究員を生業としていたのだけど色々な事情があって、もうその道に二度と戻る事は出来なくなってしまった。
今まで研究しかしてこなかった人間が別の職を探すというのもなかなか大変なのよ。それが悩みかしら」
上条(知っての通り……って、俺は何も知らないんだけど……まあいっか)
上条「じゃあ、今は無職って事ですか?」
芳川「……そうはっきりと言われると少し気分が悪いわね」
上条「あっ、すいません……」
芳川「まぁいいわ、それが悩みね。どう、満足かしら?」
上条「えっと、職探しは今どんな感じなんですか?」
芳川「……今は、してないわ」
上条「えっ?」
芳川「思ったより全然上手くいかなくてね、もう嫌になったのよ。だからこうしてゲームで時間を過ごしてるって訳」
上条「あの……それって、……ニートってやつじゃ」
芳川「…………そうとも言うわね」
上条「……そのニートの芳川さんが何で黄泉川先生の家に」
芳川「わたしと愛穂は友人なの。それでこうしてお邪魔しているのよ」
上条「いや、そのくたびれたパジャマを見る限りではここに住み着いてる感がひしひしと伝わってくるのでございますが」
芳川「……頼れる人の近くで過ごすのは楽なのよ……って何、その顔は? 何か言いたそうね」
上条「つまり……アンタただのダメ人間じゃねえか!」
芳川「キミ、女性にそんな事をはっきりといってはダメよ」
上条「女性とかどうこうの問題じゃねえだろが! 仕事もせず探しもせずモン○ンとネトゲ三昧とか終わってんだろうが!?」
芳川「…………少し耳が痛いわ」
上条「耳が痛いわ、じゃねえよ! もっと頑張れよ! 人として、大人としてさ!」
芳川「そうね……キミの言ってる事は間違いない、でも」
上条「……でも?」
芳川「やる気が出ないのよ」
上条「やる気って……そういう話じゃねえと思うんだが」
芳川「さっきも言ったけど、わたしは研究員として日々を生きていた。それがある日突然頓挫し、そして無になってしまう。
味わったものは喪失感、無力感、虚無感に近いかもしれないわね。まぁ、どの道間違っていた事なのだから仕方ないと言えば仕方ないかしら」
上条「……間違っていた事?」
芳川「キミも良く知っているでしょう? 『絶対能力者進化計画』、それを中止に追い込んだ原因の一つ。無能力者の上条当麻君」
上条「……っ!」
芳川「そんなに驚く事でもないでしょう? キミに感謝するのも良いかもしれないけど、わたしの職を奪ったのもキミである訳」
上条「……奪ったとかそういう問題じゃねえだろうが! あの実験は許されるもんじゃなかった、それは間違いない!」
芳川「そうね、言い方が悪かった。まぁ、研究者になれなくなってしまったのはわたし自身のせいでもあるのだけれどね」
上条「自分のせい……何をしたんだよ」
芳川「色々要因が重なってこのような状況になってしまったのよ。強いて挙げるなら、実験が中止になってしまうようなイレギュラーを見過ごしたり、
妹達の制御の鍵である最終信号を手元から解放したり、そういうのも原因の一つかもしれないわね」
上条「実験が中止になっちまうようなイレギュラーって……俺の事か?」
芳川「ええ、そうなるわね。八月二十一日、キミは一方通行を倒したけどあれはキミ一人の手柄ではない。一方通行の攻撃の邪魔をした妹達のおかげでもある。
つまり、実験の参加者が実験のイレギュラーを排除せずむしろ加担してしまい、そしてそれをわたしは見逃した。止める事が出来たのにもかかわらずね」
上条「……アンタは実験を止めたかったのか? だから見逃したのか?」
芳川「それは違うわ、わたしは実験中の妹達に干渉して問題が起きるのを恐れただけ。それが要因で実験が完全に中止になる事を回避するためにね」
上条「実験が中止になる事を恐れて実験の邪魔をしようとした妹達を見逃したって……それ、矛盾してるだろ」
芳川「確かに矛盾しているかもしれない。でもね、考えれば簡単な事なのよ。結局は『わたし』自身が直接実験を止める事に関与しなければそれで良い。
つまりは自分を甘やかしただけ、分かるかしら? わたし自分に『甘い』女なの、だからただ見守ったのよ」
上条「自分に害が無ければそれで良いって事かよ……妹達が死んでいく事は何にも思わなかったのか!?」
芳川「それは……今はもう分からないし考えるだけ無駄な事ね。その時の自分が何を考えていたかなんて、もう今のわたしには分かるはずもないのだから」
上条「…………」
芳川「さて、これで満足かしら? キミが求めていそうな内容の話をしたつもりだけど」
上条「俺が求めていそうな?」
芳川「ええ、わたしがあの実験の関係者だという事を知って今日ここに来たのでしょう? それとも、まだ他に聞きたい事があるのかしら?
具体的な数値やデータに関しては何も言えないし、八月二十一日以降の出来事についてはわたしが話すわけにはいかないとだけは言っておくわね」
上条「えーと……確かに今までの話も知りたいと思うのは当然なんだが、今日は別にそれが目的じゃねえ」
芳川「……えっ?」
上条「そもそも、アンタが実験の関係者だなんて知らなかったからな。むしろこっちが驚いてるくらいだ」
芳川「…………」
上条「…………」
芳川「……紛らわしい事をしないでくれるかしら!?」
上条「いや、そう言われましても……」
芳川「……で、結局話というのは何なの?」
上条「だから悩みを聞いてそこから説きょ……もといお話をしようと思った訳で。
……まあ、職が見つからないってのと、やる気が出ないって事が悩みってのは分かりましたよ」
芳川「……じゃあ、もう良いかしら? わたしにもやる事があるのよ」
上条「どうせネトゲとモン○ンだろうが」
芳川「……わたしは自分に『甘い』女なのよ」
上条「意味が分からねえっつうの。……そういえばアンタ、外に出るのが億劫って言ってたな」
芳川「ええ、それがどうかしたの?」
上条「どのくらい外に出てないんだ?」
芳川「……二週間、ってとこかしら」
上条「なっ……二週間も外に出ずに家の中に居るのか!? しかもゲームしかしてねえのかよ!」
芳川「……わたしは自分に『甘い』女なのよ」
上条「それ言えば何でも許されると思ってんじゃねえぞコラァ!」
芳川「ちえっ」
上条(やりづれえ……今までの人達は迷ってどうするかって感じだったけど、この人はやる気が無いんだものなあ。
やる気が無いのは……やりたい事が無いから、って事だろ? 研究者にはもうなれない……夢とか無いか聞いてみるか?)
上条「なあ、アンタの夢って研究者として成果を残す事だったりしたのか?」
芳川「どうして急にわたしの夢の話になるのかしら?」
上条「いや、やる気が起きないってのは目標が無かったり夢が無かったりするって事でもあるだろ?
だったら、そこからまた考え直せばと思ってさ。……でも、研究者としてとかだったら確かに厳しいかもしれねえな」
芳川「……今更こんな質問をするのも変な話なのだけれど、キミは何故わたしの事について真剣に考えようとしているの?」
上条「それは……言えねえよ(説教のためなんだけどな)」
芳川「言えないって……もしかしてキミ、わたしに気でもあるのかしら?」
上条「どこがどうしてそうなった? んな訳ねえだろうが」
芳川「なんだ、残念ね。もしそうなら養ってくれるかもって期待したのに」
上条「黙れダメ人間。……それより夢だよ、夢。何か無かったんですか?」
芳川「そうね……強いて言うなら、――教師になりたかった」
上条「へっ? 教師?」
芳川「あら、そんなに意外だったかしら?」
上条「てっきり研究関係の事だとばかり……でも良いじゃねえか、夢としては十分だと思うぜ」
芳川「まぁ、自分で断念したからもう過去の話なのだけれどね」
上条「過去って……何で諦めちまったんだ? 今からでも遅くないと思うんだが」
芳川「こんな甘いだけの優しくない人間が何かを教える立場に立ってはいけない、だからわたしは諦めたのよ」
上条「そんな事で諦めちまったのか?」
芳川「ええ、どれだけ時間が過ぎてもわたしは変わらない。キミと初めて会った時も、わたしは打算的な考えを自然にしていたわ。
それこそが何よりの証拠、何もいつまでも変わらないという事のね。だから、やはりわたしは教師になんてなれない」
上条「…………」
芳川「……初対面のキミに色々話してしまった事は謝るわ。でも、そちらから聞いてきたのだから許してもらえると助かるわね。
さて、今度こそ話す事も無くなった。もう良いでしょう? さあ、愛穂達にも話しが終わったと伝えな……まだ何か言いたいみたいね」
上条「……アンタ、そのまま自分に甘い人間で終わって良いのか?」
芳川「……ええ、それが悪いかしら?」
上条「確かにアンタの考えは甘いよ。優しさとは違うかもしれねえ、実験の事も自分可愛さに判断した事だったりするのかもしれない。
でもな、一番甘いのは夢を諦めてしまった事――その場に留まろうとしようとしてしまった事だ」
芳川「言いたい事がよく分からないわね」
上条「アンタは自分が甘い性格だから教師になってはいけないと言ったな。でも、そんな事は無い。誰もそんなルール決めて無い」
芳川「わたし自身がそう思った、だからそれで良いのよ。それに、いつまでも変わらない人間が何かを教える立場になるなんておこがましい事だとも思うわ」
上条「そこだよ、アンタの甘い所は。自分を変えようとしない、そのために努力しない、それが芳川桔梗の『甘さ』だ」
芳川「……そうね、そういう言い方もできるかもしれない。でも、だからこそわたしは教師になんてなれない。その甘さがわたしから離れる事は無いから」
上条「だからそれが甘いって言ってんだよ! 自分を不完全な人間みたいな言い方するな、そんな『甘さ』……誰でも持ってるだろうが!」
芳川「……誰でも持っている?」
上条「誰だって自分が可愛いさ、自分を大事にしたい、自分を甘やかしたい、自分に害が及ばないように生きたいって思うのは自然な事だ!
アンタはそれを人一倍気にし過ぎちまっただけだ、そんなの誰でも思う事なんだよ。それを言い訳にしてるのがアンタ特有の甘さなのかもしれない」
芳川「でも、キミは違うでしょう? 命を懸けて一方通行という学園都市最強の超能力者に身一つで立ち向かった。
そこに甘さは無い、あるのは優しさだけ。妹達の命を自分と同じくらい大切だと思う事が出来たあなたの『強さ』、それをわたしは持っていない」
上条「……そんな立派な人間じゃない。ただ、目の前に誰かを助ける機会があった。それを掴んだだけだ」
芳川「それを掴もうとする事自体が『強さ』なのよ。わたしはキミと真逆の場所に居た、見殺しにしてしまったという最悪の立場にね」
上条「……自分が最低だと思ってんのか?」
芳川「ええ、その通りでしょう?」
上条「だったらアンタはまだまだやり直せる、そこから変わる事が出来る、甘さを捨てるチャンスがあるんだ。
もう留まるのはやめて動き出そうぜ、誰にもその機会はある。アンタ一人がそれを放棄するなんてもったいねえだろ?」
芳川「……人殺しのわたしに、子供たちに何かを教える資格があるのかしら? 無いでしょう? わたしには資格すらないのよ」
上条「だったら、誰かの命を奪う事はいけない事だって自分の言葉で生徒に伝えれば良い。重みのある言葉で、薄っぺらくなんてない本当の言葉で。
この学園都市をアンタの言葉で変えてみろよ、誰かが死んで誰かが喜んじまうような『甘い』事は絶対するなって、子供達に教えてやれ」
芳川「……ずいぶん無茶な事を言うのね。学園都市を変えろ、ですって?」
上条「先生になるくらいならそれ位の意気がねえと駄目だろ。この都市に汚れた場所なんて、
それこそ数えきれない位あるかもしれない。だったら……一人でも味方は多い方が良いじゃねえか」
芳川「味方? キミはいったい何をするつもりなのかしら?」
上条「決まってんだろ? ――この学園都市の全てに説教してやるんだよ」
芳川「……えっ?」
上条「どうしようもねえヤツらがこの学園都市にはまだまだ馬鹿みてえに沢山居るんだ。ソイツらを見過ごす事なんて出来る訳ねえだろ?」
芳川「でも……説教って、どういう事なの?」
上条「説教は説教だろうが! 言葉で駄目なら最終手段があるけど、なるべくは言葉で解決ってのが上条さんとしてはベストだな」
芳川「……はあ」
芳川「まぁ、キミがどこに行こうとしているのかは分からないけど……夢を追うってのも良いかもしれないわね」
上条「そう思えるならいつかアンタは『甘さ』を捨てられるさ。さあ、行くぞ!」
芳川「えっ? 行くってどこへ?」
上条「外に決まってんだろうが。二週間も閉じこもってた分、外に出ないと駄目だろう?」
芳川「いや、別にそんな必要は……って、そんなに強く引っ張らなくても!」
上条「そんなに抵抗すると手を取って無理やり連れて行ってしまうのでございますよ」グッ
芳川「離しな……っ!?」
芳川(彼の手の冷たさ……これは異常じゃないのかしら……?)
上条「まーまー、ほら! 立てって!」
芳川「わ、分かったから! その前にせめて着替えさせてもらえるかしら!?」
上条「あー、それもそうだな。じゃあ待ってるから早く着替えてくれよ?」
芳川「はあ……どうしてこうなったのかしら」
黄泉川「あれ、桔梗。話は終わったじゃん?」
芳川「ええ……まぁ、色々あって今から外に出る事になったわ」
打ち止め「本当に? じゃあミサカと一緒にお買い物行こうよー!
ってミサカはミサカはヨシカワとの久しぶりの外出に高揚する身持ちを抑えられなかったり!」
黄泉川「あれだけ家でうじうじしてた桔梗が自ら外に出るなんて……何があったじゃん?」
芳川「そうね……一言でいえば、説教されたってとこかしら」
黄泉川「……説教?」
芳川「ええ、理不尽で直情的で穴だらけでも、『強く』て『優しい』言葉でね」
イン(とうま……成功したんだね、良かった)
上条「着替えは終わったか?」
芳川「ええ、お待たせ。……外に出るのも久しぶりね」
上条「何だよ、怖いのか?」
芳川「そんな事は……いや、もしかしたらそうなのかもしれないわ」
上条「だったら、俺に任せろよ!」
芳川「任せろって、何をっ……!? だからそうやって急に引っ張らないでと!」
上条「いいぜ、芳川桔梗。アンタが外に出る事に対してまだ躊躇いが残っているのなら――」
黄泉川「……あの二人は何をやっているじゃん?」
イン「私にもよく分からないけど、温かい心で見守ってあげて欲しいんだよ」
打ち止め「でも何だか楽しそう! ってミサカはミサカはあの二人みたいにヨミカワの手を取ってみる!」
上条「――――まずは、その玄関のドアをぶち開ける……ッ!」ガチャ
芳川「うっ……日差しが、眩しいわね」
上条「ああ、こんな事も忘れてちゃ教師になんてなれないぞ?」
芳川「それもそうね。でも、無理やり引っ張るのは生徒に嫌がられそうだからやめておくわ」
打ち止め「……あのドアの開け方はカッコいいのかな、ってミサカはミサカはちょっと首を傾げてみる」
イン「そんなことは無いんだよ」
イン「またねー」
打ち止め「バイバーイ! ってミサカはミサカは手を大きく振ってお別れの挨拶をしてみる!」
黄泉川「あの二人、行っちゃったけど良かったじゃんか?」
芳川「ええ、もう十分にあの少年とは話をしたわ」
黄泉川「そっか、なら良いけど……気になる事があるじゃん」
芳川「あら、どうかしたの?」
黄泉川「上条の顔色……あんなに悪かったか、って心配になったじゃんよ」
芳川「そういえば……手を掴まれた時、彼の手が冷たくて驚いてしまったのだけれど」
黄泉川「……余計な心配だったら良いんだけど」
芳川「一応、彼を知る医者に連絡しておくわ。……まぁ、彼の事だしそんな深刻な事では無いでしょうね」
上条(ふう……良い説教が出来たか、……っ!?)
上条(まただ……また、体が震えて、……何も出来なく……クソッ……何だよ、これ……)
イン「とうま、お疲れ様……とうま?」
上条「はあ……はあ……ぐうっ……っ……!」グラッ
イン「とうま! 大丈夫!?」
上条「大丈夫だ……でも、説教が足りねえ、足りねえんだ」
イン「駄目だよとうま! 病院に行って休まないと!」
上条「頼む、説教させてくれ……インデックス、頼む……」
イン「駄目! こればかりは許せないよ、とうま……」
上条「お願いだ……説教を、説教を……」
イン「とうま……もうやめて、休んでよ、とうま……」
上条「……嫌だ、説教……す、る。末……尾、カモン……!」
末尾0~9→????
イン「……これはいったい? とうま、……とうま!?」
上条「…………っ……」バタッ
イン「とうま、しっかりして! とうま!? とうまー!!」
病院
上条「………………………………」
冥土帰し「……やっぱりこうなってしまたみたいだね?」
イン「やっぱりって……こうなる事が分かっていたの?」
冥土帰し「ああ。だが、僕ではどうしようもない問題だったから静観してしまったんだけど……それも間違いだったかな?」
イン「とうまは……とうまは大丈夫だよね? ちゃんと目を覚ますよね?」
冥土帰し「……はっきり言おう。今のままでは、彼が目を覚ます可能性は低い」
イン「……そんな。とうまは今、どうなってるの!? どこが悪いの!?」
冥土帰し「僕に治せるのであればとっくに目を覚ましているさ。しかし、見える部分の問題ではないみたいでね?」
イン「じゃあ……とうまはどうして眠ったままなの?」
冥土帰し「彼が目を覚まさない理由、それは――――恐怖だ」
イン「恐怖……とうまが何かを怖がっているって事?」
冥土帰し「その通り。ただ、その何かというものは人間なら誰しもが持っているものでね?」
イン「教えて! とうまは何を怖がっているの!?」
冥土帰し「彼が怖がっているもの、それは……死だよ」
イン「……死? 死ぬのを怖がるなんて、そんなの当たり前じゃ……」
冥土帰し「それは人間として自然な事だね? でも、彼はそれが他の人よりも現実に近いのが問題なんだ」
イン「……?」
冥土帰し「過去の事を蒸し返すようで僕としても良い気分はしないが、彼の今までを考えてみてくれるかな?」
イン「今までのとうま……」
冥土帰し「そして、この病院に来てしまった回数、さらには何故そのような事態になってしまったのか。
彼が受けた傷、流した血、そのすべてが一つ間違えれば死に直結するようなものだと僕は思ったがどうだろう?」
イン「……とうまは今まで色んな騒動に巻き込まれたり、自分から飛び込んで行ったりしてた。
でも、私も全部知っている訳では無いんだよ……とうまは何も言ってくれないから」
冥土帰し「なるほど……では、今まで死んでしまうかもしれないような事件に関わっていたというのは間違っていないんだね?」
イン「うん……そうだと思う」
冥土帰し「それこそが今回彼が倒れてしまった原因だ。いくら傷付いてもまたどこかで傷を受け、血を流し、そしてここに来る。
普通の人間ではそんな非日常的体験はしない。しかし彼はそれをこの数か月間で何度も体験し、そして何度も繰り返してしまった」
冥土帰し「死と隣り合わせの日々、そして蓄積されていく死への恐怖、体の傷を治しても再び傷だらけになるサイクル、
体を治す事が次の傷を受ける場への準備となっている矛盾、そこから逃れられない自分の立場……あくまでも推測の域を出ないが」
イン「……でも、とうまはそんな事で潰れたりはしないんだよ!
自分の意志で立ち向かっていく勇気を持っている強い人なんだから!」
冥土帰し「それは僕も否定しないし、事情を知らない僕はその点については述べる事は出来ない。
ただ、医者である僕はもう一人の彼に関してなら君以上に知識があるつもりだ」
イン「もう一人のとうま……」
冥土帰し「その本人の意思とは別に存在するもの――生きたい、自分の身を守りたいという生存本能。
人格ではない何か。それが今、彼を支配している。だから彼は目を覚まさない、立ち上がろうとしない」
イン「……とうま自身が目を覚ましたくない、と思っている」
冥土帰し「その本能を彼の一部と認めてしまえばそういう事になる。だからこそ、何も出来ないという事にもなるね?」
イン「……私は、何も出来ないの? とうまが目を覚ますために少しでも何か出来る事は無いの?」
冥土帰し「……僕は医者だ。その立場から考えれば何も無い、と言う事しか出来ない。ただ――」
イン「……ただ?」
冥土帰し「僕にも出来る事は無い。それならば、もしかしたら君の方が出来る事が多いのかもしれないね」
イン「私の方が出来る事が多い……教えて、私に何が出来るか全部教えて!」
冥土帰し「……がっかりしないで欲しいが、単純な事だ。君には祈る事が出来る、そして側に居る事が出来る。
非科学的で僕としても割り切れないものがあるが、今はこれが最大限の出来る事と言えるね」
、
イン「……それでとうまが助かるの? それならいつまでも、とうまが目を覚ますまで側に居る!」
冥土帰し「そうしてあげれば彼も喜ぶはずだ。……これは敗北宣言ではない、僕は僕に出来る事を探す。
ただ、今は肉体的に無理やり起こしても逆効果でもある。だから君が今、彼を救うのに最も近い存在なのは事実だ」
イン「そんな悲しそうな顔をしなくても大丈夫なんだよ。とうまは目を覚ましてくれる、絶対に戻って来てくれる」
冥土帰し「君がそう思えるのなら間違いは無いだろう。この部屋は好きに使ってもらって構わない、彼の側に居てあげてくれるかな?」
イン「うん、ありがとう。私は私に出来る事をする……とうまのために」
数日後 上条の病室前
美琴「――で、ああやって何日も側に居て祈ってるって訳ですか」
冥土帰し「そういう事になるね? 純粋に彼のために祈り続けているよ」
美琴「……そんな事で目を覚ましたら苦労しないわよ。何かショックを与えて目を覚まさせるとかは駄目なんですか?」
冥土帰し「今、身体に衝撃を与える事は逆効果でしかないかもしれない、それも判断が難しい所と言えるかな?」
美琴「体に異変が無くても眠り続けているなんて……」
冥土帰し「むしろ僕としては異常があった方がありがたいくらいなんだがね。それならまだ医者として戦う事は出来る」
美琴「……精神的なもの、って考えて良いんですよね?」
冥土帰し「そう思いたいが、それを知っているのは彼だけだ。その彼は何も教えてくれ無さそうなのが辛い所でね?」
美琴「あの、……えっと、精神的なストレスって……その、何って言えば良いかは分からないんですけど」
冥土帰し「……もし、彼が何か特別な事情がありそれを隠し続けているのなら、それも要因の一つとなる可能性はある。
その事が人間にとってどれ程深刻なものか、そして隠す事がどれだけ辛いか……というのはありきたりな考えかもしれないが」
美琴「それは、もしかして」
冥土帰し「いや、これ以上この話を続けるのはやめた方が良いと思うけどね? 他でもない彼のために」
美琴「……そうですね」
冥土帰し「良かったら君も部屋に入ると良い。彼も二人の女の子に泣かれては流石に目を覚ますかもしれないからね?」
美琴「わ、私は別に……」
冥土帰し「好きにしてもらえれば良い、では僕はここで失礼するよ?」
上条の病室
美琴(……別にそんなんじゃない、でもやっぱり心配は……ええい! 考えるのも面倒、入っちゃえ!)ガラッ
イン「……誰? って、短髪?」
美琴「だから短髪じゃなくて……まあ、今は良いわ。コイツ、目を覚ましそうなの?」
イン「……ううん、眠り続けたままなんだよ」
美琴「そっか……私もここに居ても良いかしら?」
イン「うん、ちょっと待ってね。今イスを出すから」
美琴「別にそれ位自分でやるわよ、……よいしょっと」
美琴「……本当に寝てるわね。鼻つまんだら起きたりしないかな」
イン「そんなので起きたら苦労しないかも」
美琴「そうよね……まったく、そんなにツライ思いしてるんだったらさっさと言えば……あ」
イン「…………」
美琴「えっと、いや別にアンタは悪くないわよ? 悪いのは勝手に暴走して騒動に巻き込まれて帰ってくるコイツが悪いんだから」
イン「……でも、短髪もそれで救われた事もあったんでしょ?」
美琴「……それは、そうだけど。でも、こんな事になるくらいなら……もっと言ってくれれば」
イン「それを言わずにどっかに行っちゃって、病院で目を覚ますのがとうまなんだよ」
美琴「本当、分かってないわよねコイツ。それで傷と一緒に新しく女の人の知り合いを作ってきたりして」
イン「……鋭いね、短髪」
美琴「……そう考えると、なんかムカついてくるわね」
イン「うん、目を覚ましたらお説教なんだよ」
美琴「良い考えね、正座させてみっちりお説教してやろうかしら」
イン「……早く、目を覚ましてくれないかな」
美琴「……眠りながら何を考えているのか知りたいわね」
イン「夢でも見てたりするのかも」
美琴「……夢なんかより楽しい事なんて、いっぱいあるのに」
そこには何も無い空間が広がっていた。
辺りは暗く、音も風も何も無い、そこに上条当麻は一人存在していた。ただ、自分が浮かんでいるという感覚だけはある。
浮かんでいる、と言ったが空に浮いているのではない。上条当麻は水の中に浮かんでいた。
光が無いせいで水かどうかも正確には分からないが、液体の中に入っているのは間違いない。
上条(……ここは、どこだ?)
自分の居る場所を確認しようとするが、やはりそれも不可能であった。
次に上条は自分の現在の状況を確認する。
上条(確か俺は、芳川桔梗さんに説教した後……ああ、また倒れちまったのか。
おかしいな、こんな体弱かったわけじゃねえんだけど……病気か何かか?)
何故倒れたかを上条は考えようとするが答えは出ない。
その答えは彼の横で冥土帰しと呼ばれる医者が説明したのだが、黙した上条にはそれは届いていなかった。
しかし、その答えを伝える別の何者かが上条に語りかける。
『何言ってんだよ、お前は病気になんてなってないさ』
上条(……誰だ?)
『聞き覚えないか? つい数日前に話したばかりだろうが』
上条(……数日前、もしかしてステイルの時に話しかけてきたヤツか?)
『ああ、テメェの頭でもそれ位は覚えてられるんだな』
上条(うるせえっつうの。……で、今度は何の用だ?)
『ん? ああ、テメェがついにこんな状態になっちまったから話をしに来たんだよ』
上条(話? 何の話だ?)
『どう言えば良いか分かんねえな……まあ、簡単に言えば――このまま眠り続けてろって言いに来たんだ』
上条(……はぁ?)
『マヌケな顔すんなよ。言ってる事は分かるだろ?』
上条(いや、意味分かんねえよ。まず眠り続けてろってのがおかしいだろうが)
『その時点でもうテメェは限界なんだ、ここがどこだか分かんねえんだろ?』
上条(……アンタはこの場所を知ってるのか?)
『ああ、ここはテメェの意識の中だ。ありきたりな言葉を使うならな』
上条(俺の、意識の中……?)
上条(それは、夢って事じゃないのか? 夢なら別におかしくも無いだろ)
『いや、これは夢じゃねえ。俺とテメェしか存在しない空間、それが上条当麻の意識の中』
上条(アンタと俺しか居ない空間……じゃあ、アンタはどうやってここに来たんだ?)
『そんな無駄な事を話す必要は無い。話ってのはな、テメェに宣告に来たんだよ』
上条(……宣告?)
『ああ、さっきも言った通り上条当麻は限界なんだ、だからここで眠り続けているしかない、と宣告に来た』
上条(俺が限界? 何言ってんだ、俺は何も変わらず生活してたじゃねえか。眠り続ける必要なんて無いだろ?)
『自分の事は自分が一番良く分からないもんだ、そして自分の事は自分が一番良く分かっている』
上条(何だそれ? 思いっきり正反対の事を言って矛盾してるじゃねか)
『そうだな、でもそれが真実だ。テメェが自分の状況を理解できていない限り、これは矛盾しない』
上条(言ってる意味がさっぱり分かんねえぞ、そもそもアンタは誰だ? 偉そうに眠り続けろとか言いやがって)
『それもどうでも良いんだよ。ともかくテメェは限界なんだ』
上条(だからそれが意味分かんねえんだよ! 限界って何だ、俺に何か問題でもあるのか?)
『……仕方ねえな。感謝しろよ、今からテメェの大好きな説教をしてやる。ありがたく聞け』
上条(……説教?)
『テメェは今まで多くの人間を助けてきた、確かにそれは称賛されるべき行為だ』
上条(何だよいきなり……それに、俺は褒められたくてやった訳じゃねえ)
『そんな謙虚な態度とかは要らねえんだよ。俺が言いたいのは、その人救いの代償の話だ』
上条(はあ? 代償って何だよ?)
『考えてもみろ、テメェはこの数か月で何回倒れた? どれ程の血を流した? 何度入院した?』
上条(……体に受けたダメージが代償って言いたいのか? それなら俺の体は完璧に治療されているだろうが)
『ああ、体の方はあの医者のせいで間違いなく完璧に治療されているよ。でもな、治せないものもあるだろ?』
上条(治せないもの……)
『今までテメェが受けた傷の記憶だよ。それが蓄積され過ぎて、上条当麻はもう限界なんだ』
上条(そんなもん蓄積されても何にも変わんねえ、俺は今まで通りだ。俺が言ってんだから間違いない)
『おい、記憶がどれだけ重要なものかはテメェが一番良く知ってるだろ? 失って気づくなんて実体験したくなかっただろうけどな』
上条(……それでも、そんなもの意味は無い)
『傷の記憶の蓄積、それが何を意味するか分かってんのか? 教えてやるよ、テメェは死ぬ事に恐怖しちまってんだ』
上条(……急に現れて勝手な事ばっか言ってんじゃねえよ。俺がいつ死ぬのを怖がったんだ?)
『自分でも最近様子がおかしかったのは気付いてたんじゃねえのか? 急に苦しくなり、そして倒れる』
上条(それは……でも、それが何の関係があるんだよ!?)
『簡単に言えば、起きていたくないって身体の意思表示だ。テメェは騒動に巻き込まれ、戦い、そして傷つく。
このサイクルをテメェは何度も繰り返してきた。そして、もうそれを受けるのを身体は拒んでいるんだよ』
上条(……身体が限界だって言うのか? でも、それは治療してもらって)
『そう、身体もそのおかげで我慢出来たんだ。でもな、テメェの周りはどんどん大事になっていくし、
その分相手も強くなってきた。ついこの前、「後方のアックア」には殺されかけてたじゃねえか』
上条(…………)
『それが限界だったんだよ。上条当麻の身体は認識した、もしこれ以上の相手が現れたら死んでしまう、とな』
上条(……だから、俺は今眠り続けてるって事なのか)
『ああ。テメェの意志に関係なく身体が目覚める事を拒否し、これ以上戦いを続ける事だけはさせないという意思の表れさ』
上条(……それでも、まだこの状況は収まっていない。だから俺は眠り続ける訳にはいかないんだよ)
『テメェならそう言うと思ったよ。だから俺が来た、テメェを説教するために』
『テメェは死ぬ事なんて怖くない、とか誰かのために立ち上がらなければいけない、なんて思ってるかもしれねえ。
が、それがそもそも間違いなんだよ。死ぬのは誰だって怖い、それにテメェ以外にもこの状況を変えられるヤツは居るんだ』
上条(俺が命を顧みずに立ち向かっていたって言いたいみたいだな。でもそれは違う、俺だって自分の命は大切だ)
『そう口では言ってても、傷だらけで立ち向かい誰かを救ってきたのが上条当麻だ。そこは変わらない』
上条(俺はそんな立派な人間なんかじゃねえよ。でも、仮にそうだとしてもそれが悪いのか?)
『テメェは人のためとか思ってるだろうが、それは大きな間違いだ。上条当麻ってのは自分勝手な人間なんだよ』
上条(俺が……自分勝手……)
『上条当麻っつうのは意外と多くの人間から心配されていたり、思われていたりする。
それでもテメェはその思いを無視しながら戦い続け、そして不安を与えてきた』
上条(不安を与えていたなんて……そんな事が、)
『インデックスに御坂、両親もそうだ。他にもテメェを心配している人間は居る。
それでもテメェはその声に耳を貸さずまたどこかへ行ってしまう』
上条(……それが自分勝手だって言いたいのか)
『他にもあるさ。今まで戦ったヤツの思いをテメェは否定し続けた。幼少期のトラウマ、
生きる目標、悩み、葛藤……そこから生まれた言葉をテメェは否定し続けた。何の力も無い薄っぺらい言葉で』
上条(……いや、それは違うってはっきり言える。シェリーもオリアナも悩んでいただけで答えを見失っていただけだ。
ヴェントやテッラだってきっとまだやり直せるはずだと思った、だから俺は「止めた」かったんだ)
『それは結果的に事が上手い方向に働いたからそう思えるんだよ。テメェの考えは危険すぎる。
そのままだといつか正しい事を否定して、右腕が弱者をぶち壊す最悪の結果を生み出すぞ』
上条(……俺が、俺のせいで誰かが悲しむ?)
『ローマ正教は世界の三分の一を覆う勢力だ、それをお前は相手にしている。
その大勢力とテメェ、さらには学園都市やイギリス清教が関わる大規模な争いに発展したらどうなる?』
上条(…………それは)
『立場によって争いへの関与のレベルは様々だろうが、何の罪も無い者が傷ついてしまうかもしれない。
これはあくまでも推論だが、そんな状況を作り上げた要因の一つがお前なんだよ、上条当麻』
上条(誰かが傷つく、俺のせいで)
『テメェの正義を押し付けたせいでこんな状況になっちまった。だから、もう上条当麻は戦いの場に出るべきではない。
それでもこの現状は「幻想殺し」を求める、危険な考えの持ち主である「上条当麻」という男を求め続ける』
上条(……俺は、間違っていたのか?)
『それはテメェで考えろ。ただ、俺はテメェが戦わない事を望んでいる。そして提案してるんだ、二度と目を覚ますなってよ』
上条(危険な存在である「上条当麻」、二度と戦いになんて出ない方が良い。それでも、
今の周りの動きは俺を巻き込もうとしている……そして傷つく人が、出るかもしれない……)
『さあ、どうする上条当麻? ここで目覚めて誰かをその右腕で傷つけるか、それとも――』
上条(それならいっそ……ここで眠り続けていた方が――――)
美琴「……最初はすぐ起きるものだと思ったけど、こうやって見ると心配になってくるわね」
イン「このまま目を覚まさない、なんて無いよね……?」
美琴「当たり前よ、もしこのままだったら……タダじゃおかないんだから」
イン「とうま……辛かったなら言って欲しかったんだよ」
美琴「……そうね。それにしても、どうして説教なんかで和らげようとしたのかしら?」
イン「とうまは説教する事で何かを解消しようとしてたけど……その何かって何だろう」
美琴「うーん……それは、今まで受けた色々で溜まったストレスじゃないの?」
イン「でも、限界まできていたのに説教なんかで良くなったりするとは思えないんだよ」
美琴「……説教、ねえ。ただ単に説教好きってだけだったのかな」
冥土帰し「――そうとも限らないと思うけどね?」
イン「あれ、どうしたの? もしかして……何か分かった?」
冥土帰し「残念ながらそういう訳では無くてね? 少し彼の様子を見に来ただけさ」
美琴「そうですか……。ところで、そうとも限らないってのはどういう意味ですか?」
冥土帰し「推測の域を出ないが、その説教とやらはもしかしたら彼からのSOSだった……と考える事も出来る」
イン「……どういう事?」
冥土帰し「人間は危険な状態に陥ると無意識に身体が様々な動きをみせる、というのは良くある事だね?
例えば体温調節のために汗を出したり、菌を殺すために熱を出したりと実に器用に動く」
美琴「それが何か関係でも?」
冥土帰し「話を聞く限りでは彼の説教に対する執念は異常だった、不自然とも言える。そこから何か見えるんじゃないかな?」
イン「確かにとうまはおかしかったけど……」
冥土帰し「要は、説教というものを通して何かを伝えたかったのではないか、と僕は思うだけどね?」
美琴「説教を通して、ですか……」
冥土帰し「僕は実際に彼のその言葉を聞いた訳では無いから確かな事は言えない。
でも、理由なしの行動とは僕には思えないのだけどどうだろう?」
イン「自分の苦しみを伝えるために……でも、それならどうしてとうまは私に説教しなかったの?
私はとうまの近くに居た……だから、私に言えば何か分かってあげられたかもしれない……」
冥土帰し「……それは僕が答えられる事では無い。ただ、彼には彼なりの事情があるんじゃないかな?」
美琴(……もしかしたら、この子は記憶喪失の事を知らない? アイツの言い方からすると、ほとんどの人は知らずに……)
イン「何を考えていたのかは分からない、それでも……私には言って欲しかったかも」
美琴「……頼られたかった、って思ってるのはアンタだけじゃないけどね」
イン「……そうだね。早く目を覚ましてよ、とうま――――」
『そうだ、このまま目を覚まさずに眠り続けちまえよ。もう十分だ、ゆっくり休め。
テメェは何もしなかった訳じゃねえんだ、誰もテメェを責める事なんてしねえよ』
上条(……そうだな、俺が戦う事で誰かが悲しむんだ。だったら、こんな右手も要らない。
「上条当麻」も必要ない、ここで俺は消えて後は誰かに任せた方が良いよな……)
『……どうやら、分かってくれたみたいだな。嬉しいよ、上条当麻。俺もこんな事をした甲斐があった』
上条(……でも、俺は何もしなくて良いのか? それで本当に上手くいくのか?)
『安心しろ、全て上手くいく。だからゆっくり眠り続けろ、戦いが終わるまではな』
上条(そうか……だったら良いや。何もせずに眠り続けるなんて考えた事も無かったからどうすれば良いのか悩むな)
『そんな事気にするな、時が経つのを待つだけなんだから。休む事だけを考えろ、それだけで良い』
上条(……分かった。それにしても、アンタも俺と一緒で説教臭い事を言うもんだな)
『……結果的にテメェを正しい方に導いたんだからそれで良いだろ?』
上条(それもそうだな。正しい方へ導く……説教、か)
『どうした、何を考えてんだ?』
上条(いや、今まで俺がやってきた事を自分がされてみると……不思議なもんだな)
上条(俺は自分が正しいって思い続けた事を相手に伝えた。でも、それは相手を否定する事でもあった)
『ああ、そうやってテメェは否定し続けた。相手の事を深く考えず直感的に、そして衝動的に思いついた言葉でな』
上条(知らなかった……自分のしてきた事を否定されるのが、自分が間違っていたと思い知らせれるのが……
こんなにも辛くて苦しい事だとは思わなかった。今まで会ったヤツらには……悪い事、しちまったな)
『それを後悔する時間にしても良いんだ、テメェには時間があるんだから』
上条(後悔……自分が間違った事をし続けた事を悔やむ時間、反省して罪だという事を理解し……罪?)
(……なあ、一つ聞いても良いか?)
『何だ? 何か問題でもあったか?』
上条(……本当に俺は、間違った事しかしてなかったのか?)
『……何が言いたいんだ?』
上条(確かに俺は自分勝手だったのかもしれない。でも、だからこそ助ける事が出来た人もいた。
その人達を助けたのは間違いだったのか? ただ黙って何もせず、見過ごすべきだったのか?)
『……考える必要は無い、助けたられたのもそれが問題にならなかったのも全て結果の話だ。
それに、テメェがやらなくとも誰かが代わりにやったはずだ……テメェは必要ないんだよ』
上条(それこそ結果論じゃねえのか? 誰かが代わりになんて、そんなの後からならいくらでも言える。
姫神や御坂や御坂妹、風斬やオルソラやアニェーゼ達を助けたのは本当に間違いだったのかよ?)
『……それは、』
上条(シェリーやオリアナ、ヴェントやテッラを「止める」ために戦ったのもそうだったのか?)
『…………』
上条(……答えろよ、俺は本当に間違った事しかしてこなかったのか?)
『……誰かを救い喜ぶ者が居る一方で悲しむ者も居るんだ。そうやって自己を正当化しようとするな』
上条(それは質問の答えになっていないだろ? 俺は間違っているとアンタは言った。
確かにその通りかもしれねえが、今までやってきた事を否定するならそれも間違いって事になる)
『何度も言わせるな。テメェは自分勝手な考えで動き、そしてそれは結果として世界を巻き込む可能性のある問題となった』
上条(それはアンタの言う通りかもしれない。だが、今まで助けたヤツらに対して何もせず、
見過ごした方が良かったってのはやっぱり納得できねえよ。アンタはアイツらが死んでも良かったって言いたいのか?)
『……結果的に助かったというだけだ、そこは重要じゃねえ』
上条(何言ってんだよ、それが一番大事だろ? 見過ごす事が出来なかったから俺は戦った、それは間違いねえんだよ)
『これ以上余計な事を考えるな、テメェは今は休んでいれば良い。こんな問答は無駄なだけだ』
上条(そうやって逃げようとするんじゃねえよ! そもそもアンタは誰なんだ?
いきなり現れて勝手な事ばっか言いやがって……俺の何を知ってるって言うんだ?)
『……俺が誰だか知りたいのか?』
上条(ああ、俺はアンタを知らない。反対にアンタは俺について詳しいみたいだ。
何故俺の事を知っている? そして俺を止めようとする理由は何だ?)
『……理由なんてねえよ』
上条(……理由も無いのにこんな事をするとは思えねえよ。隠そうとするな、全て話してくれ)
『本当に理由なんてねえんだよ! ……ただ単純に、「上条当麻」に生き続けて欲しいってだけだ』
上条(……俺の心配を?)
『悪いか? 俺がテメェの命を守ろうするのは悪い事なのか!?』
上条(……そうまで必死になる理由も俺には分からない。教えてくれ、アンタは誰だ?)
『それは言えない、俺はテメェに気付いて欲しいんだよ。ここで苦しんでるヤツが居る、
テメェに助けを求めている。それなのに、テメェは気付かずにまた行っちまうんだ』
上条(……助けを、求めている?)
冥土帰し「――そもそも、話を聞く限りでは彼は説教をしていたとは僕には思えないけどね?」
美琴「……でも、本人が説教をしたいって」
冥土帰し「しかし、彼のは説教ではなく……そうだな、強いて言うなら『対話』ではないのかな?」
イン「『対話』……話し合いの結果が説教みたいになってたって事?」
冥土帰し「そうとも言えるね? この少年は心から争いを求めている人物には見えない。今までは戦い、
そして傷つく事には結果的になっていたがそれは望まざるものだったのでは?」
美琴「確かに、アイツは私ともマジメに戦おうとしなかったわね……」
冥土帰し「戦わずして事を終わらせたい、しかし相手はそれに応じようとはしない。
それでも彼は戦いたくはなかった、だからこその『言葉』だったのかもしれないね?」
イン「でも、今回は戦いとかそういうのは関係なく自分から話をしに行ったんだよ」
冥土帰し「それはさっきも言ったように、現在の状況が特殊だったからと考えられる。無意識の自らの欲求、
『助け』を混ぜ込みそれを言葉にした。それが今回の騒動の原因、と考えるのはどうかな?」
美琴「……説教がSOS、か。でも、そんな事本当に考えてたのかしら?」
冥土帰し「ここまで話してきたが、それは誰も知る事は出来ない問題さ。……医者という立場の人間がこんな話をするのも問題かもしれないね?」
イン「それなら最初から助けて欲しい、って言って欲しかったのに……」
冥土帰し「悩みやストレスというのは誰にも言えないからこそ悪化するものだ。誰にも言えないからこそ、
誰でも良いから苦しんでいた事に気付いて欲しかった。出来れば……彼の望まない者以外に」
美琴(望まない者、それって……この子の事なのかな)
上条(助けを求めてるって事は……アンタは、苦しんでたのか? 何があったんだ?)
『…………』
上条(黙ってんじゃねえよ! 教えてくれ、アンタは何故苦しんでいて、どうすれば助かるんだ!?)
『……そうだよ、それが原因だよ』
上条(何言ってんだ……? 答えになってねえだろうが)
『いや、今テメェが言ったのが全てだ。テメェは目の前に苦しんでいるヤツがいたら何も考えず助けようとする。
理由は必要ない、ただ誰かが助けを求めているという事実さえあれば「上条当麻」は動き出しちまう』
上条(……それがどうしてアンタを困らせる事になるんだよ)
『それで助かる者は確かにいるかもしれない。しかし、傷つくのは誰だ? 血を流すのは誰だ?』
上条(……戦う相手の事を言いたいのか?)
『違う、もっと大切で身近な存在だ。傷つき、血を流し死を間近に感じながら生き続けた者がいた』
上条(……教えてくれよ、俺が知らないその「誰か」を)
『それを知ってどうするんだ? ソイツのために戦うのか?』
上条(悪いか? それがアンタの望みなんだろ?)
『先に言っておくよ、テメェはソイツを救う事は出来ない。何もしてやれる事は無い』
上条(どうしてそう言い切れるんだ! 助けを求めてるんじゃねえのかよ!?)
『……そうやって、また「上条当麻」は蘇るんだな。さっきまで落ち込んでたくせに、すぐに立ち上がる』
上条(それが誰かのためになるなら良いだろうが!)
『駄目だ、もうテメェは誰も救う事は出来ない。もう一度言うぞ、何も考えずここで休んでくれ』
上条(……何が言いたいのか全然分かんねえよ)
『そうだろうな、でもそれが理解できない限りテメェは間違ったまま進み続けちまう。そしてその最後は――』
上条の存在していた空間に変化が訪れた。周りの液体は消え上条は今、自らの足でその場に立っている。
暗闇で何も見えなかったはずだったが、今は目の前に何かがある――誰かが存在しているのが分かる。
それは、体中傷だらけで血を流しながらも立ち続けている「上条当麻」だった。
上条「…………アンタが、今まで俺に話しかけてきていたのか」
「ああ、驚いたか? まさかこんな事になるなんて思わなかっただろ?」
上条「……『上条当麻』」
「やっと気付いてくれたか……嬉しいよ、上条当麻」
上条「アンタは……記憶を失う前の――」
「それは違う、その『上条当麻』は今は関係していない……多分だけどな」
上条「それならアンタは誰だ? 姿を似せただけなのか?」
「生きたい、傷付きたくないという欲求が人間にはある。今まで軽視出来ない程の傷を受けた『上条当麻』が無意識に、
その生存本能に従って創り上げた存在、決して表には出ない存在、それが今テメェの目の前にいる男だ」
上条「……どうして俺の前に出てきたんだ」
「何度も言ってるだろ? テメェは身体も精神も限界を迎えた、だから俺がその本能の代弁者として現れたんだよ」
上条「テメェの言いたい事は分かった……それでも、俺はここに居続ける訳にはいかない」
「……これ以上戦い続けても、ただ失うだけじゃねえか」
上条「失う? 何を失うって言うんだよ?」
「今までの時間、記憶を失い、平穏な生活も遠のいた。このままだと『上条当麻』は……命を失う」
上条「そんな事……それに、ただ黙ってここで休み続けるなんてやっぱり俺には出来ない。悪いが――」
「それだけは許さねえ……俺は生きたいんだ! 誰にも邪魔されずに、ただ何事もなく生きていたいんだよ!
もう傷つくのは嫌だ、血を流すのも嫌だ……死ぬのだけは絶対に……頼む、もう……やめてくれ」
上条「……でも、」
「死にたくないんだ……もう、駄目なんだ……これ以上辛い思いなんてしたくない、不幸な目になんて遭いたくない……。
どう思ってもらっても構わない、情けねえヤツだと思ってもらっても何も言わない。ただ一つだけだ、上条当麻……俺を助けてくれ」
上条「……お前を助けるには、戦わずにここに居続ければ良いのか?」
「そうだ……もう誰も救わなくて良い、『自分』を救ってくれ。他でもない自分の――上条当麻のために」
上条「黙って誰かの不幸を見過ごして、自分の命を守るために逃げる……それがお前の望みか」
「他のヤツなんてどうでも良いんだ! ただでさえ不幸な俺を……これ以上苦しめないでくれ……。
誰かを助けるために戦い、傷付き、また戦い、傷付く……こんな不幸な目に遭うなら誰も救って欲しくなかった!
自分の事を大切にしない男が居るのも不幸だ……周りの人間、『自分』、全てが不幸、不幸……頼むよ、俺を……救ってくれ」
イン「……とうまは、ずっと苦しんでいたのかな」
美琴「さあね……でも、コイツの事だからそれにも気付かずにいたって所じゃないかしら」
イン「だったら……それは私のせいなのかもしれない」
美琴「ど、どうしたのよ急に……別にアンタが悪い訳じゃ」
イン「私が……とうまを『不幸』にさせて――」
美琴「えいっ」ビシッ
イン「痛っ……! ううっ……何するの短髪!」
美琴「馬鹿な事言ってんじゃないわよ……アンタがそんな事考えてるって、コイツが知ったらどう思うか」
イン「それは……」
美琴「……悲しませちゃダメでしょ、ね?」
イン「……うん」
冥土帰し「しかし、この少年はよく『不幸だ、不幸だ』と言っているが……君達を見ているとそうは思えないけどね?」
イン「……どういう事?」
冥土帰し「自分の事を想っていてくれる女の子が二人もいるなんて、男としては幸せと言えるんじゃないかな?」
美琴「そ、そんなんじゃないです! 別に、私は……」
イン「素直じゃないね、短髪」
美琴「うるさいっつうの! そういうアンタはどうなのよ!?」
イン「えっ……私は、その……」
冥土帰し「まあまあ、そこまでにしておこうか? そうだ、良かったらナース服を着て看病してあげるのはどうかな?
男としてこれ程幸せな事は無い、きっと彼も喜んでくれると思うけどどうだろう?」
イン「いらないんだよ!」 美琴「いりません!」
イン「……とうま、早く起きないかな」
美琴「……眠り続けてもうどれくらいになるんですか?」
冥土帰し「五日、という所かな」
美琴「その間ずっとこのままか……ん? アンタ、もしかして……ここに居続けたりしてないわよね?」
イン「うん、そうだよ。それがどうしたの?」
美琴「い、五日間もひたすらに祈り続けてたって事?」
イン「そ、そうだけど……」
美琴「……シスターって凄いのね」
イン「でも、とうまは目を覚まさないんだよ……少し、不安になってきたかも」
美琴「……ねえ、お祈りってなんか特別なやり方でもあるの? あったら教えてもらえるかしら?」
イン「イギリス清教式のなら教えられるけど……どうして?」
美琴「何も出来ないならお祈りに頼るってのも悪くはないかな、って思ってね」
イン「……短髪だけじゃなくてこの都市の人はそういうのは信じてないんじゃないの?」
美琴「困った時のナントカってやつよ。……それに、言ってたじゃない」
イン「……?」
美琴「『祈りは届く。人はそれで救われる』、でしょ?」
イン「……うん!」
冥土帰し「……祈り、もしかしたら彼の言葉も同じだったのかもしれないね?」
美琴「同じ? 説教が、祈りって言いたいんですか?」
冥土帰し「誰かを救いたい、間違っている道から助け出したい、そう願って彼は『対話』……この場合は『説教』をしていたのかもね?」
イン「結果的に戦う事になってしまうけど……それを避けたいから自分の願いを言葉で伝える……」
冥土帰し「僕には分からないがそうかもしれない、というだけの話さ。実際に僕は聞いた事が無いというのもまた事実だ
ただ――相手の幸せを願ったものである限り、その言葉がどれだけ薄っぺらいものだとしても立派な言葉に変わりはないんじゃないかな?」
美琴「……そんな風に持ち上げすぎると調子に乗りますよ、きっと」
冥土帰し「そうかもしれないね? ちょっと評価しすぎたかな……さて、僕は他の患者を診なくてはならない。後は任せるよ?」
イン「分かったんだよ。…………短髪、一緒にお祈りしてくれる?」
美琴「ええ……コイツが起きるんなら祈りでも何でもしてやるわよ」
イン(とうま……お願い)
美琴(……目を覚まして)
上条の目の前には一人の男が居た。ボロボロの体で立ち続け上条に自らの苦しみを訴え、その目からは涙も流れている。
弱々しい自分、傷だらけの上条当麻、今まで誰も見向きもしなかった存在が助けを求めている。
「助けてくれ……俺を、救ってくれ……」
上条「…………っ!」
それに対して上条は何も言えなかった。確かに今まで自分のしている事は間違っていると思った事もあった。
しかし、最終的には誰かを助けるために戦い続けた。相手を理解できないまま、そして自分の状態すら知らずにここまで来てしまった。
上条(俺のしてきた事は間違っていたのか、誰かのためと思っていたが誰のためにもならなかったのか、
誰かを不幸にさせてしまっていたのか、戦わずにここにとどまった方が良いのか……その答えは、誰が知ってるんだ?)
誰がその答えを出すのか、少なくとも上条当麻にはそれは出来ない。
その答えを自ら導いてしまっては何も変わらない、目の前の『自分』を傷つける事にしかならない。
上条「俺は……『上条当麻』という存在は……」
『と――、心――な―――丈―――ん――』
『――タ――――所――――とし――――――ない―――』
上条(……声? ……聞き覚えがある……誰だ?)
『とうま、心配しなくても大丈夫なんだよ』
『アンタはこんな所でぼうっとしてる場合じゃないでしょ』
上条「インデックス……それに、御坂……?」
『ごめんね……とうまがどれだけ辛い思いをしてるのか分かってあげられなくて』
『あの時みたいに見送るなんて絶対にしない、だから……帰ってきて、お願い』
上条(アイツら……心配してくれてんのか)
『……待ってるよ、とうま』
『……早く起きなさいよ、バカ』
上条「……そっか、そうだよな。今更こんな事にも気付かないなんて、やっぱり俺は馬鹿なのかもしれねえな」
「……どうした? 何を考えているんだ?」
上条「いや、自分の状況を理解できてないってのは間違いじゃなかったんだなって思ってさ」
「……俺が言った事を理解した、とは思えないな」
上条「いや、アンタの言った事も受け止めた。その上で気付いたんだよ、聞こえねえか?」
『私達の祈りで、私達の大切な人を――――お願いします』
「インデックス……御坂……?」
上条「そうだよ、『俺』が助けて、そして助けられた二人だ。アンタにもこの二人の声は届いたみてえだな」
「だからどうした、こんな声が聞こえても何も変わりはしないだろ? それともこんなので俺が救われるとでも言いたいのか!?」
上条「ああ、その通りだ。一番大事な事を思い出させてくれたんだよ、この声は」
「一番大事な事……?」
上条「『上条当麻』は『不幸』なんかじゃない、俺は世界で一番『幸せ』な人間なんだよ」
「……何を馬鹿な事を言ってんだ! 『幸せ』? 不幸じゃない? そんな訳ねえだろうが!」
上条「……いや、間違っていないさ。これを言うのは初めてじゃない、父さんの前でも言っただろう?」
「それは父親との間での話だ、あの時とは状況が全く違う! 現状をもう一度考えてみろ!」
上条「何も変わんねえよ、誰かの『不幸』に巻き込まれて苦しんでいるってだけだ。何も変わらず俺は『幸せ』なままだよ」
「違う! テメェはあれから何度も死にかけた、死んでもおかしくない状況に何度もなったじゃねえか!」
上条「でも、俺は生き続けている。『誰か』を助け、そしてその『誰か』達と共に生きている。
上条当麻は常に『誰か』に護られていた幸せ者だったんだよ」
「護られていた? 誰がテメェを護ろうとした! 誰が俺を救おうとした!?」
上条「インデックスや御坂も、姫神や風斬、土御門にステイル、神裂や五和、天草式のヤツらもそうだ。
俺を助けようなんて思ってなかったかもしれない、それでも俺はそいつ達のおかげでこうやって生き続ける事が出来た」
「利用されていた事もあっただろう? それでも、テメェはそんな事を言えるのか!?」
上条「ああ、断言してやるよ。上条当麻は一人じゃない、こんな所に一人で居続けるのは間違っているってな!」
「……なんだよ、結局はそんな結末しかねえのかよ。テメェはそうやってまた蘇る、そして俺は傷付く……何も変わらねえじゃねえか!」
上条「……そんな事考える必要も無いさ」
「……何?」
上条「俺は死なない、何があっても生き続ける。俺を思ってくれている人のため、俺が助けた人のため、
俺を護ろうとしてくれた人のため、そして……『上条当麻』と上条当麻のためにも俺は絶対に死なない」
「……そんな言葉信用できるか! もっと強大な敵が現れる、世界を巻き込むような『不幸』が起こるかもしれない……」
上条「……それを恐れて、ここで眠り続けろって言いたいんだよな」
「頼む……生きたいんだ、死にたくないんだよ……」
上条「……悪いな、自分でそれは出来ないってみんなに言っちまったんだよ」
上条「自分でエラそうに説教したからな、俺がその言葉を裏切るのは流石にナシだろ?」
「裏切る……? 誰を裏切るっていうんだよ?」
上条「今まで説教した人達だ。……その人達に俺は――――」
「限界を壊せ、誰かの側に居られる事を幸せに思え、感謝の思いを素直に伝えろ、命の奪い合いをするような悲しい生き方をするな、
自分自身の弱さをさらけ出せ、自分の事を理解してくれる誰かが必ず現れる、過去に縛られるな、もっと自分を大切にしろ、
諦めるな、閉じこもらずに外に出ろと言った。その言葉を俺自身が裏切るような真似だけはしたくねえんだ!」
「それはテメェが他人に対して言った事だろうが! 『上条当麻』には関係ない!」
上条「いや、そんな事はないんだよ。ここで眠り続けたら、自分の限界に負けた、一人でいる事を選んだ、
誰かが死んでしまうかもしれない状況を黙視した事になる。そして、自分自身を理解できていない事になる」
「……結局テメェは何にも分かってねえじゃねえか! 俺はもう戦いたくはないと言ってるんだよ!」
上条「違う、それは絶対に間違っている。上条当麻はそんなに弱い人間じゃない、そして絶対に死ぬ事は無い!」
「その考えが自分勝手だと言ってるんだ! そうやってまた自分が正しいと信じて誰かを傷つけちまうんだよ!」
上条「誰も傷つけない、誰も死なせはしない……そのために戦う、それがアンタの――『上条当麻』のためなんだから」
「……俺の、ため?」
上条「ああ……無事では済まないかもしれないけど俺は戦い、生き続ける。そして証明してやるよ、
『上条当麻』は『不幸』なんかじゃない、『幸せ』な人間だって事を」
「それがどうして俺のためになるんだ、そんな事を俺は望んでいない!」
上条「……もし、ここに居続けちまったら……それは『上条当麻』が不幸だって事を証明する事になる。
『不幸』だったから死にそうな目に遭って目を覚まさなくなったって事になる……『不幸』だって事を認める事になる」
「今更何を言ってんだ? 上条当麻は『不幸』な人間だ、それは変わりようのない事実だろうが!」
上条「そうじゃない、俺は……アンタを『不幸』にしたくないんだ」
「俺を、『不幸』にしたくない?」
「何を馬鹿な事言ってんだ、俺は本能から生まれたただの代弁者としての価値しかない。
今、ここだけの存在だ。この役目を終えれば消える、二度と現れる事も無いかもしれない」
上条「それがアンタを仲間外れにする理由にはならないさ。『不幸』だなんて思うなよ、『上条当麻』。
俺と一緒に戦ってくれ……誰かのために、俺のために、そしてアンタのために」
「……そんな事を、俺は求めていない。違う、俺は戦いたくなんか……間違った事を止めるために」
上条「自ら『不幸』になろうとするな! 俺は『上条当麻』を護る、そして今以上に『幸運』な人間にしてやる!」
「そんな事を……俺は、俺は……! 嫌だ! もう傷付きたくはない、それなら『不幸』のままでいい!」
上条「まだ分かんねえのか? アンタは……俺だろ?」
「違う、俺は生きたいと願い……」
上条「その願いも俺の願いだ、だから叶えるために努力する」
「…………それでも、」
上条「もう一つ大事な事がある。……アンタは『不幸』なんかじゃねえよ」
「……俺が、『不幸』じゃない?」
上条「アンタは『上条当麻』だ、だから『不幸』なんて似合わない。……理解してるんだろ? 本当は自分がどうしたいか」
「やめろ! 上条当麻は『不幸』な人間だ、『上条当麻』も『不幸』な人間だ! それを否定するなぁぁ!!」
自分が今まで出会って来た者達、救ってきた者達、戦ってきた者達、そして周りに居る大切な人達、
それを否定する事だけは絶対に許せない。自分がどんな不幸な目に遭おうと、決して自分は『不幸』ではない。
だからこそ、上条は自分自身にも言い聞かせるように上条当麻に言葉をぶつけた。
上条「分かったよ、上条当麻。テメェが自分を『不幸』だと今でも思っているのなら――」
「――――まずは、そのふざけた幻想をぶち殺す……ッ!!」
イン「…………あれ? 私、いつの間に寝ちゃって……っ!」
美琴「うーん……ん? あー、寝ちゃってた……か……!」
上条「――よう、目は覚めたか?」
イン「と、とうま……とうまが……起きてくれた! 帰って来てくれた!」
美琴「ば、バカ! それはこっちの台詞でしょうが! 何よ、……心配させて」
上条「……悪かったな。でも、もう大丈夫だ」
イン「とうま……とうまぁ……」
上条「い、インデックス!? 泣くなって……もう心配しなくて良いからさ」
美琴「……そうよ、泣く必要なんて、あいんあからぁ……」
上条「ってお前も泣いてんじゃねえか!」
美琴「ないてなんかいないわよぉ……っ……ばかぁ……」
イン「そうなんだよぉ……ひぐっ……とうまぁ……」
上条「やりづれえ……これならガブッたりビリッたりされる方がマシかもしれない」
イン「……本当に大丈夫?」
上条「本当に大丈夫」
美琴「本当の本当に?」
上条「本当の本当に大丈夫だって」
イン「本当の本当の本当に?」
上条「本当の本当の本当に」
冥土帰し「本当の本当の本当の本当にかい?」
上条「本当の本当の……ってアンタまでやらなくても良いだろうが!」
冥土帰し「いや、僕も安心したのは事実だからね? 一応、もし目覚めなかった場合の最終手段も用意していたけど」
上条「最終手段?」
冥土帰し「学園都市第三位、『超電磁砲』による最高の電気ショックを与えようと思っていたんだよ?」
美琴「ちょっと残念ね」
上条「……目覚めて良かった」
イン「……ずっと寝てたけど、夢でも見てたの?」
上条「夢? ……そうだな、夢だったのかもしれないな」
(……本当に俺の幻想を殺してくれるのか?)
上条(ああ、約束するよ。絶対にアンタは『不幸』なんかにさせない)
(分かった……頼んだぞ、上条当麻)
イン「とうま? 急に黙ってどうしたの?」
上条「……何でもないさ、『独り言』みたいなもんだよ」
美琴「まだ意識がはっきりしないならやっぱり電気ショックを……」
上条「いらねえっつうの!!」
上条「……まあ、何はともあれ心配させて悪かったな」
イン「ううん、とうまが目覚めてくれたのならそれで良いんだよ」
上条「御坂も、ありがとよ」
美琴「べ、別に良いわよ……アンタが起きなかったら私のストレスのはけ口が無くなっちゃうし」
上条「はけ口って……電撃は勘弁な」
イン「でも、短髪も一緒に祈ってくれたんだよ」
上条「へ? 何それ?」
美琴「ちょっと! それは……その、」
上条「……二人とも、祈ってくれたのか?」
イン「うん、私達には祈る事しか出来なかったから……」
上条「……インデックス、安心しろ。お前達の祈りはちゃんと届いたから」
イン「とうま……」
美琴「……祈りなんかで目覚めてたら医者は要らないけどね」
上条「そんな事言うなって。そういえば……お前、祈りながらもバカ、とか思ってただろ?」
美琴「えっ? 何でそれを……?」
上条「さあ、どうしてだろうな?」
上条「……なんか、ずっと眠り続けたせいか体が思うように動かねえ」
冥土帰し「とりあえず、明日までは様子見かな? まあ、顔色を見る限りではもう大丈夫そうだね?」
イン「とうま、何か欲しい物はある? のどが渇いてたりとか」
上条「いや、大丈夫だよ」
美琴「食べ物とか、本とかは? 言ってくれれば買ってくるけど」
上条「……なんか、そこまで優しくされるとちょっと気持ち悪いな」
美琴「ずいぶんな言い方ね……それより、もうちょっと素直に自分の欲求を言いなさいよ」
イン「そうなんだよ! 何か思ってる事があればもっと言って欲しいかも」
上条「……ああ、分かったよ」
美琴「ちょうど明日は休みだし、何かやりたい事があったら協力するわよ?」
イン「とうま、今やってみたい事とか何か無いの?」
上条「やりたい事、か……うーん、急に言われてもなぁ……あっ」
美琴「ん? 何か思いついたのなら言えば良いじゃない」
イン「とうま、何をしたいの?」
上条「あー……一言で言うなら」
イン美琴「うんうん」
上条「説教がしたい……」
イン「…………」 美琴「…………」
上条「な、何だよそのリアクションは!? 呆れた目で俺を見るな!」
イン「……やっぱり、ただの説教好きなのかもしれないんだよ」
美琴「……そうかもね、心配して損した気分」
上条「おい、説教を馬鹿にするなよ! いいか、説教っていうのはな――――」
イン美琴「…………はぁ」
549 : VIPに... - 2011/08/19 04:09:25.24 oSMg4VLmo 348/348ここまで見てくれた人、本当にありがとう >>1から見れば分かるがずいぶん迷走したな…サクッと終わらなかった
最後の説教相手は上条さんにしたかったがその結果がこんなんでした、分かりにくくてすまんね
読んでくれた方、アイデアをくれた方、☆たローラに説教しろよって言ってくれた方、全員に感謝。☆やローラへの説教は原作できっとやってくれるはずです
最後に一つだけ、美琴に当たらなさすぎじゃん? それではさようなら