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右京「呪怨?」修正版<<第1話>>
右京「呪怨?」修正版<<第2話>>
右京「呪怨?」修正版<<第3話>>

216 : 以下、名... - 2018/03/14 11:08:23.25 VKN7a1Ov0 212/293



<<最終話 少女>>


あと数分もすれば新年が開けるという大晦日の真夜中。

夜の住宅街をシルバーのスカイライン・セダンが疾走していた。

車が向かう先は東京都練馬区寿町4-8-5。

ようやく目的地にたどり着くと車から颯爽と一人の男が出てきた。


「ここが佐伯家か。」


車から降りたのは冠城亘だ。

先ほどのファイルを読んだ冠城は居ても立ってもいられなくなりこうして現地を訪れた。

ファイルに記されたように真新しく揃え立つ住宅に比べて

一軒だけ古びた家というのが悪い意味で悪目立ちしていた。

そんな佐伯家の玄関前には『空き家』という張り紙が貼られていた。

どうやら佐伯一家は既にこの家を手離しているようだ。

217 : 以下、名... - 2018/03/14 11:09:51.76 VKN7a1Ov0 213/293



「お邪魔…します…」


一応断りを入れて家の中に入ったがやはり人などいない。

もう何年も誰かが出入りした形跡もなく家中が埃まみれだ。

それにしても家の中とはいえかなり肌寒い。

一応分厚いコートを羽織ってはいるが無人の住宅で暖房器具が動いているわけでもない。

現在、外の気温はマイナス2度。この家も同様の肌寒さを感じさせる。

本来ならこんな無人の家に忍び込むなど警察官としてあるまじき行動だ。

そんな冠城だがコートの胸元からあるものを取り出した。それは日記と絵だ。


「あのファイルが正しければ
かつてこの家で杉下さんはこの二つの遺品を使って世界を修正してみせた。
もしもそれが正しいのであれば…」


俊雄の絵と伽耶子の日記を取り出してかつて右京が行ったことを実行してみせた。

だが何か変化が起きたわけではない。特に何の異常も見受けられない。

当然だ。タイムスリップなんてまともに考えればありえないことだ。

まるで狐に化かされた気分だが元々単なる興味本位でしかなかった。

それでも心の何処かでこの家で

あのような恐ろしい出来事が本当に起きたのではないかと信じたい気持ちはあった。

これでハッキリした。やはり青木の指摘したようにあのファイルは単なる悪戯だ。

さあ、もう帰ろう。気づけばもうすぐ年が明ける。

そしてこの近隣のお寺から除夜の鐘が鳴り響いた。

218 : 以下、名... - 2018/03/14 11:10:18.95 VKN7a1Ov0 214/293



((ゴォォォン!)) ((ゴォォォン!))


2018年1月1日、年が明けた直後のことだ。何か奇妙な違和感が漂った。

それは決して口では簡単に説明出来るようなものではなく…

だが何かおかしい。そう感じながらも佐伯家を抜け出して路上に止めた愛車へと向かった。

愛車へ向かう途中、冠城は持ってきた絵と日記をどうするか悩んでいた。

いくらあのファイルが悪戯だったとしても

この二つの証拠品は紛れもなく佐伯伽耶子とその息子である俊雄のモノだ。

本来ならこの二つは二人に返却するのが筋だ。だが事件から既に10年も経過している。

さらにいえば現在あの二人がどこに住んでいるのか自分にわかるはずもない。

従ってこの物品を返却しようにもそれが出来ないといった困った状況に陥っている。

こうなればもう一度青木に頼んで現在の佐伯一家の所在を確かめてもらうしかない。

さすがにこんな頼み事を聞いてくれるかは微妙だが

公僕として市民から預かった証拠品を無闇に処分などすれば問題だ。

とりあえずこの二つは持ち帰ろうとするが…

219 : 以下、名... - 2018/03/14 11:10:51.47 VKN7a1Ov0 215/293



「アンタ…何でそれを持ってるんだ…?」


ふと背後から誰かが自分に声を掛けてきた。

周りを見回してみるがこんな真夜中の住宅街に自分の他に誰かいるわけでもない。

つまりこの背後から声を掛けてきた誰かは間違いなく自分に声をかけたということだ。

とにかく振り返ってみたが路地に明かりが点いてないせいでその人物の顔は見えない。

背格好からして二十代前後の若い男でこの青年にこれといって見覚えはない。

それなのにどうしてこの青年は自分に声を掛けてきたのか疑問に思えた。


「オイ、無視しないでくれ。どうしてそれを持っているのかって聞いているんだ!」


「……悪いけど何を言っているのか意味がわからないぞ?」


「惚けんな!それだよ。その絵と日記だ!それはあの佐伯家にあったモノだろ!?」


その青年は苛立っているがどういうわけかこの絵と日記の秘密を知っていた。

馬鹿な…何故この絵と日記を知っている…?

もしこの絵と日記を知っている者がいるとすれば

それはかつてあの起こりえたかもしれない事件に関わった杉下右京とその相棒たち。

あとはあのファイルを読んだ自分と青木の二人だけだ。

だからそれ以外の人間がこの絵と日記の秘密を知っていることはまずありえない。

220 : 以下、名... - 2018/03/14 11:11:17.40 VKN7a1Ov0 216/293



「悪いけどそれをこっちに渡してくれ。
アンタにはそれがどれだけ危険なものかわかってないみたいだからな。」


さらにこの青年は絵と日記を引き渡すように要求してきた。

どうやらこの青年はこれらのモノが危険なものであることを把握している。

つまりこの青年はあの事件の関係者では…?

そう勘繰っているとこの騒ぎを聞きつけたのか警官が駆けつけてきた。


「どうしました。何かトラブルですか?」


まずい。まさか現職の警察官が同業者に職務質問されるとは…

こんなのは笑い話にもならない。とにかくまずは疑いを晴らさなければならない。

すぐにポケットから身分証を提示して目の前にいる警官に同業者だと伝えよう。

すると青年も自分と同じくポケットから何かを取り出そうとしていた。

どうやら自分と同じく身分証を提示して疑いを晴らそうとしているのだろう。

それから冠城は自らの警察手帳を提示して警官の前で自らの身元を明かした。

221 : 以下、名... - 2018/03/14 11:11:58.61 VKN7a1Ov0 217/293



「警視庁の冠城亘です。」


「あ、俺も警視庁の甲斐享です。あれ?アンタも警察官なんですか?」


警官にライトを照らされてようやく青年の顔がハッキリとわかった。

だがその青年の正体を知り冠城は思わず驚愕した。

何故なら甲斐享といえばあの甲斐官房付きの御子息にしてダークナイト事件の犯人だ。

だが彼は現在、刑務所に服役中の身だ。

いや、その前に甲斐享はたった今警察手帳を提示していた。

どういうことだ?既に甲斐享は3年前に逮捕されている。

その際に彼は懲戒免職処分を受けて警察官としての身分を剥奪された。

従ってこの警察手帳を提示することなど本来は不可能だ。

だがそんな疑問を抱く自分を尻目にカイトは警官たちにある質問を行っていた。


「ところでパトロールなんて何かあったんですか?」


「それが…実はこの近くにある鷲尾という家で子供が誘拐されたという通報があって…」


警官たちが語るにはすぐ向かいの家にある鷲尾なる家で誘拐事件が発生した。

誘拐されたのはその家の息子である鷲尾隼人くん。

今日は息子の12歳の誕生日を祝うというのに何で誘拐など…

彼の両親はそのことを深く嘆いているという現状を告げられた。

その後、問題はないとのことで冠城とカイトはすぐに解放された。

再び二人きりの状況になったがやはりカイトが気になるのは冠城が所持している絵と日記。

何故こんなモノを持ち歩いているのか。

冠城の事情を知らないカイトにしてみればそのことがかなり疑問だった。

222 : 以下、名... - 2018/03/14 11:12:45.30 VKN7a1Ov0 218/293



「それで冠城さんといったよな。アンタどうしてその絵と日記を持っているんだ?」


さすがの冠城も返答に困り果てていた。

何故なら冠城自身も平静を装っているがこの状況にかなり困惑していた。

今の警官たちが話していた事件は五年前に起きた鷲尾隼人少年の誘拐事件だ。

その事件についてたった今起きたように語っていた。つまりここは過去の世界だ。

さらにカイトがこの絵と日記の所在を確かめるということは

カイトはこの絵と日記に何かの力が宿っていることを知っている。

それが意味するのはあのファイルにあった事件が実際に起きたモノだという事実だ。

今まで半信半疑でいたがこうして自分自身が

この不可思議な現象を目の当たりにしているのであればもう信じるしかなかった。

223 : 以下、名... - 2018/03/14 11:13:11.37 VKN7a1Ov0 219/293



「わかった。すべてを話そう。俺は2018年1月1日の未来からやってきた。」


我ながら馬鹿なことを言っているなと自覚をしている。

それにカイトに至っても何を言っているのかと呆れたような素振りを見せていた。

カイトがこの事実を認めたくないのはわかる。普通なら信じられるはずがない。

本来ならこんな事実を認めさせることなど出来やしない。

だが冠城にはカイトにこの事実を認めさせるだけの材料があった。


「信じられないのなら証拠がある。俺は未来の特命係に在籍している。」


そのことを告げられるとカイトは不快そうな顔つきに変わった。

何故目の前にいるこの見ず知らずの男が未来の特命係に居る?

杉下右京の相棒は自分だ。それ以外の誰かなど決してありえない。

そんなあからさまな態度が見え見えだった。

確かにカイトからしてみればいきなり未来からやってきたなど言われたら冗談に思うはず。

それにどうして未来の自分が特命係を離れなければならないのか?

そう疑問を抱くカイトに冠城はある事実を突きつけようとしていた。

224 : 以下、名... - 2018/03/14 11:13:39.48 VKN7a1Ov0 220/293



「何故自分が特命係を離れなければならないのかって疑問に思っているよな。
それについては簡単だ。キミの行いが右京さんにバレたからだよ。ダークナイトくん。」


ダークナイト。そう告げられるとカイトの顔は真っ青になった。

それと同時にカイトは目の前にいるこの男が未来から来たという事実を

否応なく信じざるを得なかった。

そんな動揺するカイトの反応を見て冠城自身は予想通りだと思った。

この時、カイトは既にダークナイトとしての活動を始めていた。

あの杉下右京ですら事態が発覚する直前まで

カイトがダークナイトとして犯行を繰り返していたことにまったく気付かなかった。

そのことをいきなり現れた冠城に告げられてカイトは動揺を隠せずにいた。


「それじゃあ…俺が特命係を去った理由は…」


「もうわかっているはずだ。
これより二年後、キミの犯行はあの杉下右京の手により暴かれた。
俺はその半年後にキミの後任として特命係にやってきた。」


それから冠城はこれよりカイトが辿る顛末を語った。

今から二年後、相棒の杉下右京によりダークナイトの正体が暴かれること。

その際、恋人の悦子は妊娠中でそんな彼女を置いて刑に服さなければならないこと。

さらに父親の甲斐峯秋もカイトの逮捕が影響して失脚した。

これよりカイトの身に纏るすべてを打ち明けてみせた。

225 : 以下、名... - 2018/03/14 11:14:15.95 VKN7a1Ov0 221/293



「ハハ…なんだよそれ…最悪すぎるだろ…」


自分が辿る末路を知りカイトは愕然とした。

冠城はそんなカイトを見ても正直自業自得だと思い同情する気にもなれなかった。

元々冠城はカイトとは面識がないため特別な感情移入など持ち合わせてはいない。

だがそれを抜きにしてもカイトが愕然とするなど当然の結果だと思っている。

本来なら市民を守り、法を順守する警察官が裏で私刑を行っていた。

それだけでも許されるべきことではない。

だがもっと許されないのは自分の身勝手な行いに巻き込まれた人たちがいることだ。

それは先ほど上げた悦子や峯秋は勿論だがあの杉下右京も同様だった。

右京は立場上カイトの直属の上司に当たる。そのため右京も無期限の休職処分を受けた。

本来ならその時点で警察官としての復職は絶望的だったが

甲斐峯秋の力添えでなんとか現職に復帰することができた。

それがなければいくら右京とはいえ今でも現職への復帰は不可能だっただろう。

警察官の無期限休職など事実上の懲戒免職も同然だ。

もしも右京が休職されたままなら冠城自身も警察に入ることもなかっただろうし

さらに言うなら右京がいなければどれだけの未解決事件が多発していたのやら…

それを思えば甲斐享が犯した罪を許したくはなかった。

もしも犯行に及ばなければきっと幸せな未来を歩めたはずだ。それを自分の手で遮った。

こんな愚かな行為を肯定する気になど決してなれなかった。

226 : 以下、名... - 2018/03/14 11:14:41.24 VKN7a1Ov0 222/293



「………アンタは俺の犯した罪を暴くためにわざわざ未来からやってきたのか?」


罪を暴かれたことに動揺しながらもカイトは冠城が未来からやってきた理由を尋ねた。

いきなり現れた男から自らの過ちを追求されればこうもなるだろう。

確かにカイトの罪を暴きたいという思いは冠城にはある。

冠城はかつて法務省の役人だった。

どんな犯罪だろうと真っ当な法の裁きを下すべきであることを信条としている。

それ故に法を遵守する立場にある警察官が法を破り私刑を行うなど許すことは出来ない。

本来ならカイトの罪は今すぐにでも咎めるべきものだ。だがそれは無理だ。

何故ならここは過去の世界。もしもこの時点で歴史が書き変わればどうなるのか?

あのファイル通りなら右京たちは時間軸を変えたということになる。

それはこの通り世界が本来あるべき姿へと修正された。

だがそれをもう一度繰り返したらどうなる?

ひょっとしたら何かの拍子で最悪な未来に変わってしまうのではないか?

いくら罪を正すためとはいえそこまで危険を犯すわけにはいかない。

さらに言えば自分がこの世界に現れたのは恐らくカイトの件とは無関係のはずだ。


「俺はキミの罪を問い質すためにこの世界に来たわけじゃない。」


「それなら…何しに来たんだよ…?」


「それはこの絵と日記に関係しているんだろうな。
もしキミと右京さんが過去の世界を修復して
すべてが解決されたのなら俺がこの世界に来ることは不可能だったはずだ。
だからこれは…」


冠城が何かを言いかけようとした時だった。向こうからカイトを呼ぶ声が聞こえてきた。

一体誰なのかと気になった冠城が確かめてみるとなんとそこには右京がいた。

いや、正確には彼は自分の知る杉下右京ではない。

恐らくこの過去の時間軸に当たる杉下右京ということになる。

こうなると厄介だ。自分が右京と出会うのはこれより二年後の2015年だ。

それより先に出会ってしまえば未来が変わる危険がある。

そう察した冠城は急いでそこから走り去り近くの物陰に隠れ込んだ。

227 : 以下、名... - 2018/03/14 11:15:08.45 VKN7a1Ov0 223/293



「カイトくん、どうかしましたか?」


「あ…いえ…なんでもありません…」


そんな隠れた冠城を未だ動揺したままカイトは心配そうに見つめていた。

ところで右京だが隣に一人の少女を伴わせていた。

年齢は10歳くらいで表情がやけに曇りがちな不安そうな子だ。


「杉下さん、この子はどうしたんですか?」


「実は先ほど佐伯家の前を彷徨いていたので保護しました。
ですがいくら事情を聞いても何も話してはくれないので正直困っています。
せめて名前くらい教えてほしいのですがねぇ。」


名前も名乗らずにいる奇妙な少女。

そんな少女だがようやくその重い口を開いて自らの名を告げた。

228 : 以下、名... - 2018/03/14 11:15:37.55 VKN7a1Ov0 224/293



「家出少女…」


そう名乗ってみせたがどう考えてもそれは偽名だ。どうやら本名を名乗る気はないらしい。

この子にどんな事情があるのかはわからない。いや、この際だからそれは置いておこう。

それよりも問題は右京とカイトだ。何故二人がこの場所にいるのかそれが疑問だ。

するとそこへもう一人やってきた。それはなんと陣川だ。


「杉下さ~ん!カイトく~ん!お待たせしました。頼まれていたものを買ってきましたよ。」


「ご苦労さまです。それでは行きましょうか。」


「行くって…本当に入るんですか…?だって事件はもう終わったはずでしょ…」


陣川と合流した右京たちはこれからある家に入ろうとしていた。

そこは先ほど冠城が入ったはずの佐伯家だ。

右京たちにしてみればあの忌まわしい出来事が多々起きた因縁の家。

まともな人間なら二度と関わりたくもないそんな家に再び足を踏み入れる。

それは一体何のためだ?


「恐い…昔この家で…人が殺されたんですよね…」


この家と何の縁もない家出少女ですら不気味な雰囲気を感じていた。

当然だ。これまでこの家に関わってどれだけの命が失われてきたことか。

いくら脅威が去ったとはいえ、こんな家に好んで立ち入るなど正気の沙汰じゃない。

だが右京はそんなことなどお構い無しに入った。

そんな右京に連れてカイトと陣川、それに家出少女もまたこの家に立ち入った。

唯一人、冠城だけは玄関の窓から

四人の動向を覗きながらこれから何が起きるのかを見届けようとしていた

233 : 以下、名... - 2018/03/14 16:09:33.49 VKN7a1Ov0 225/293



「中に入ったはいいけど…なんだこりゃ…」


「ゴホッ、ゴホッ、そこら中埃だらけですね…身体に悪いです…」


陣川と家出少女が指摘するようにどうやら2013年の段階でも

この佐伯家は長年空き家の状態で人の入った形跡は無いままだ。

それからカイトは先ほどこの近辺で得た聞き込みからの情報を右京に伝えた。


「近所の人の話だと佐伯家は五年前に佐伯剛雄の親族が家を売り払ってしまったそうです。
その後は神戸さんの手筈通り変な噂が立って
この家の買い手は現れないのでご覧の通り今も空き家のままです。」


「カイトくんの言う通りこの五年間誰も家に入った痕跡は見当たりませんね。」


「どうやら杉下さんの心配は無用だったみたいですね。
佐伯伽椰子はいなくなり亡者たちも消滅した。まったく杉下さんは心配性なんだから。」


確かに亡者たちはいなくなりこの世界に平和が戻った。

この過去の世界は平和そのものだ。

外で覗いている冠城ですらカイトの言葉を肯定したいと思う。

だが右京の考えはそうではなかった。

234 : 以下、名... - 2018/03/14 16:12:21.58 VKN7a1Ov0 226/293



「いいえ、僕にはそうだとは思えません。まだ事件は終わっていないとみるべきです。」


今の発言にカイトと陣川は思わず驚いたが冠城もまた右京と同じ考えだった。

その理由は冠城自身にある。

もしも本当にすべてが解決されたのなら自分はこの過去の世界に招かれることはなかった。

つまりまだこの事件は終わっていないということになる。

そんな話を聞いて未だ半信半疑なカイトと陣川を納得させるべく右京はあることを語った。


「カイトくん、キミはこの世界が本当に元の世界だと思えるのですか?」


「だってそうじゃないですか!
あの時俊雄くんが俺たちをこの世界に導いてくれたはずですよ!?」


「僕が思うにこの世界は確かに僕たちがいた世界とほぼ同一であると思います。
しかしそれだけです、あの時僕たちは過去の世界に行きあの未来を修正したと思った。
ですが今の僕たちは恐らくあの時の影響を受けたのか
元の世界に戻ったわけではなく実際は新たに生まれた他の時間軸へ移動した。
つまり佐伯伽椰子の呪いが発生しない時間軸への移動。
謂わばパラレルワールドが発生したのだと思います。」


まさか警察官の口からパラレルワールドなんて言葉が聞けるとは…

こんな状況だが冠城は一瞬だけ口元が緩んでしまったがそれなら納得ができる。

何故ならこの話に確固たる証拠がある。

それはあのファイルに記載されていた2008年と2011年の二つの時代にいた右京の相棒。

亀山薫と神戸尊、彼ら二人が生き証人だ。

二人がそれぞれ元の世界に戻ったからこそ右京はこの家の呪いにとり憑かれずに済んだ。

だがそれは裏を返せば亀山と神戸の二人を犠牲にしたことにも繋がる。

右京たちは知らないだろうが

あのファイルには亀山と神戸があの呪われた世界で死亡したと記載されていた。

酷な言い方だがこの世界は彼らの犠牲の上に成り立っているということになる。

235 : 以下、名... - 2018/03/14 16:13:50.39 VKN7a1Ov0 227/293



「けどそれが今更何の関係があるんですか?
もうこの世界は平和だ。何も問題が無いじゃないですか!」


そんな右京の疑問に陣川が反論を繰り出した。

確かに亀山と神戸の犠牲はあった。だがそのおかげでこの世界の平和は戻った。

これ以上何の問題があるのかとそう尋ねてみせた。


「果たしてそうでしょうかねぇ。」


「それってどういう意味ですか?」


「先ほども言った通り僕はこの世界は違う時間軸だと申し上げました。
僕たちが過去の世界であの悲惨な事件を止める事に成功できた。
それによってこの世界の佐伯伽耶子は人を呪わずに済んだ。
ですが元の世界の佐伯伽椰子はどうでしょうか。彼女はどうなったと思いますか?」


「そりゃ…成仏したんじゃないですか?あの時の俊雄くんみたいに…」


「いいえ、そんなはずはありません。」


「え?何でですか?だって俊雄くんは成仏したはずでは!」


「確かに俊雄くんは成仏した。しかし成仏したのは俊雄くんだけです。
伽椰子は成仏などしておらず未だにあの呪われた亡者のままであると思うべきです。」


それが右京の抱いている懸念だった。実は冠城も同様の懸念を抱いていた。

あのファイルを読み漁り思ったのはやはり佐伯伽耶子という女の存在だ。

ファイルには俊雄が成仏したことにより一件落着のように記載されていた。

だがこれはどう考えてもおかしい。本来あの呪いを起こしたのは佐伯伽耶子のはずだ。

俊雄だけが成仏してそれですべてが解決したなどそんな単純な話では済まされない。

つまり俊雄の成仏など真相を偽るためのフェイクであり

この事件の元凶である伽耶子はまだ何処かに潜んでいると考えるべきだ。

236 : 以下、名... - 2018/03/14 16:14:39.86 VKN7a1Ov0 228/293



「でも杉下さんの話が正しければここは違う世界なんですよね?
それならもうこの世界には呪われた亡者たちや…あの佐伯伽椰子はいないんじゃ…」


カイトの言うようにこの世界に戻れたのは右京、カイト、陣川の三人だ。

佐伯伽耶子など影も形もない。しかし右京の見解は違った。


「その佐伯伽椰子が僕たちと共にこの世界に来ていたとしたらどうでしょうか。」


「なっ!そんなバカな!?あり得ないですよ!」


「そうですよ!大体彼女がどこにいるというんですか!?」


右京の見解にカイトと陣川は激しく異論を唱えた。

二人はかつてあの地獄を体験してしまった。

ようやく解決したというのにまたあの地獄に逆戻りするなど認めたくない気持ちはわかる。

だが右京の見解通り伽耶子が野放しにされたらどうなる?

この世は再びあの呪われた世界と化すだろう。

だからこそ今ここで伽耶子の正体を突き止める必要があった。

だが突き止めるにしてもどうすればいいのか?

この場に霊能力者がいるわけでもないのに悪霊みたいな存在に気づけるはずがない。

そう思っていた矢先、右京はあることを指摘した。

237 : 以下、名... - 2018/03/14 16:15:06.77 VKN7a1Ov0 229/293



「僕たちがあの亡者で溢れた警視庁から脱出してこの佐伯家に来た時…
仁科理佳さんとお会いしましたよね。残念ながら彼女はとり憑かれていました。
あの佐伯伽椰子の怨念にとり憑かれてそのまま亡者と化して僕に襲い掛かってきました。
ですが襲い掛かる前に部屋に閉じ込めておきましたから問題はありません。」


「なんてこった…理佳さんも手遅れだったのかよ…
けどさっきの話で杉下さんは伽椰子に憑りつかれた理佳さんを部屋に閉じ込めたから
そもそも追って来られないはずですよ。」


「ここで注目すべき点があります。徳永家に置いてあった固定電話です。
そこに佐伯伽椰子の指紋が残されていました。
何故とり憑かれた仁科理佳さんではなく佐伯伽椰子の指紋が残されていたのか?
それは彼女が呪いの力で彼女自身が増殖したからではないでしょうか。」


「伽椰子が増殖!?そんなバカな事が…」


「そんなバカな事があり得たんですよ。あの鈴木信之くんの最後の連絡の内容。
『あの女の人が…襲ってきた…それも一人なんかじゃない!たくさん』と言い残していた。
あの最期の言葉が正しければ伽椰子は呪いの力を使い増殖をしたかもしれません。」


右京の推理はあまりにも荒唐無稽な話だった。

部外者である家出少女は付いていくことも出来ずにいた。

だがこの推理が意味することはつまりはこういうことだ。


「そしてその彼女は今も僕たちと一緒に居ますよ。」


もしも伽耶子が呪いの力で増殖したのであれば彼女は誰かに憑いている可能性がある。

それは一体誰なのか?

その事実を告げられた陣川はすぐさまこの中で最も怪しい人物を指した。

238 : 以下、名... - 2018/03/14 16:16:02.97 VKN7a1Ov0 230/293



「家出少女。キミがこの中で一番怪しいじゃないか!」


「そんな…私は…」


「キミはいつの間にかこの家の前に居て僕たちが来るのを待っていた!
しかもキミは自分の名前すら教えようとしない!キミこそが佐伯伽椰子じゃないのか!?」


「ちがいます!私…本当に何も知りません!?」


陣川は年端もいかない家出少女に激しく詰問した。確かにこの少女はかなり怪しい。

本名を口にしないだけでも相当だがこの家で起きたことを踏まえれば

この家出少女こそ佐伯伽耶子にとり憑かれているという可能性はかなり高い。


「陣川くん待ちなさい。彼女は本当に何も知りませんよ。」


「けど…杉下さん…この子がこの中で一番怪しいじゃないですか!」


「確かにこの少女は不審な点が多い、しかしこの少女は間違いなく事件とは無関係ですよ。」


右京に制されて渋々ながら家出少女から離れる陣川。

だがそうなると他に怪しい人物は…

そんな時、カイトはふと窓から覗き込んでいる冠城を思わず睨みつけた。

その視線を向けられて冠城はすぐにそこから目を逸らしてしまう。

確かにカイトにしてみれば

こんな状況で未来からやってきたという冠城に疑いを向けるのは当然だ。

だから疑われても文句は言えないのだが…

239 : 以下、名... - 2018/03/14 16:16:47.86 VKN7a1Ov0 231/293



「まあとにかく、みなさん落ち着いてください。
この中に潜んでいる佐伯伽耶子をあぶり出す方法はあります。
それをこれから行いましょう。」


そう告げると右京は先ほど陣川に頼んで買ってきたものを取り出した。

それは一升瓶だ。

その瓶に汲まれているものを紙コップに入れてこの場にいる全員に配り出した。

中に入っているのは水だということだが

そんなものを使ってどうやって伽耶子の正体を暴くというのか?

240 : 以下、名... - 2018/03/14 16:17:32.38 VKN7a1Ov0 232/293



「とりあえずこれでも飲みながら落ち着いて僕の推理を聞いてもらえますか。」


「推理って何ですか?」


「おかしいと思いませんか。
あれだけの犠牲者を出しながら何故仁科理佳さんだけ憑りつかれた状態であったのか?
これには理由があるからだと僕は推理しています。」


「あの…そもそも理佳さんがとり憑かれているってどうしてわかったんですか?」


何故右京が理佳がとり憑かれているとわかったのか?

その答えはひとつ、境遇だった。

かつて伽耶子は小林俊介という想い人が居た。

だがその恋は成就することもなく淡い失恋で終わった。

それは仁科理佳も同様だった。彼女もまた恋人と別れた経験を持つ。

伽椰子は理佳の失恋に共感を抱いたからこそ理佳にとり憑いたと右京は推理してみせた。


「なんかわかる気がする…
女の人って恋愛話になると他人事でも自分のことのように思えるから…」


そんな右京の推理に思わず同じ女性である家出少女も同意した。

それにカイトも悦子が理佳の失恋に関して親身になっていたことを思い出した。

確かに女性は恋愛事に関しては鋭いものがある。

つまり伽椰子がとり憑いたのは女性特有の感情があってこそだ。

それは同じく佐伯家の呪いに巻き込まれた鈴木信之にも言えることだった。

あの少年は母親と死別した過去を持つ。それはかつてこの家で起きたかもしれない惨劇で

唯一人生き残った俊雄と重なったのではないか?

だからこそ鈴木一家が殺害されていく中で信之のみが生き残った。

241 : 以下、名... - 2018/03/14 16:18:14.71 VKN7a1Ov0 233/293



「すべては佐伯伽耶子が女性であり母であるが故の犯行だった。
ですがそれもやがては憎悪という感情に覆され共感を得た二人ですら殺害するに至った。
人を呪わずにはいられないという習性が共感を得た人間すら最後は殺害する。
まさに業といえるべきものですよ。」


「つまり伽椰子から共感を得るには…」


「そう、この中に仁科理佳さん以上に恋愛面において決して報われない人物がいます。」


恋愛において報われない人間。

それを聞かされたカイトと家出少女はすぐにそのことを否定した。

何故ならカイトは恋人の悦子との関係は至って順調であり

家出少女もまたこの歳でまだ恋愛など経験したことがないと強く訴えた。


「失礼しました。みなさん先ほど渡したお水を飲んで落ち着いてください。」


そういえばと先ほど渡された紙コップに注がれた水を飲み込む一同。

だがその時だった。

242 : 以下、名... - 2018/03/14 16:18:49.36 VKN7a1Ov0 234/293



「ゲホッ!うぇぇ…」


右京、カイト、家出少女は口に含んだその水をすぐに吐き出した。

吐き出した理由は簡単だ。これが実は水ではなく酒のせいだ。

しかも単なる酒ではない。それは口に含むと思わず吐き気を催すような悪寒を感じた。

未成年の家出少女は勿論だが

普段は酒を嗜むカイトもこんな腐ったような酒は飲んだことがなかった。


「これ…ゴホッ…お酒じゃないですか!」


「ええ、あなた方に飲んでもらったのは清酒です。
未成年にお酒を飲ませるのはどうかと思いましたがどうしてもある事を確かめたかった。」


「それって一体何を試すつもりだったんですか?」


「以前にもこの家で同様の事が試されました。
鈴木響子さんという霊能力を持つ女性がこの家を購入する際に…
『購入する人間に清酒を飲ませろ、もし吐いたりしたら絶対に売るな!』
そう警告していた。
つまりあなた方が飲んだ清酒が腐った味だったのは悪霊の影響。
だから今みたく口に含んだ瞬間に拒絶してしまったのでしょうね。」


「けど…だからってこれが何だというんですか?」


「カイトくん、それに家出少女さん、あなた方の反応は正解でした。
こんなお酒を飲んで違和感を抱いて吐き出したのは正常な状態だという証拠です。」


そこでようやくカイトと家出少女は気づいた。

つまり伽椰子にとり憑かれている人間とはこの腐った酒を平然と飲み干せる者。

そんな中、一人だけこのコップ一杯分の清酒を余裕で飲み干した人物がいた。

それを見てこの場にいる全員が伽耶子は誰にとり憑いたのかがようやく判明した。

243 : 以下、名... - 2018/03/14 16:19:15.32 VKN7a1Ov0 235/293






「そう、このお酒を平然と飲んでいる陣川くん。
キミこそが佐伯伽椰子にとり憑かれている元凶ですよ!」





244 : 以下、名... - 2018/03/14 16:19:50.59 VKN7a1Ov0 236/293



その事実を告げられてこの場にいる全員が清酒を飲み干した陣川に注目した。

確かに陣川は恋愛面に置いて報われたことがない。

過去に幾度か事件関係者の女性に片思いを抱いたがそれは報われずに終わった。

さらにこれはこの時代においては未来の出来事に当たるが

コーヒーショップの店主・矢島さゆりが殺害される事件があった。

その際には犯人への怒りからか執念で逃走した犯人を見つけ出して復讐を行おうとした。

大袈裟かもしれないが陣川の恋愛の報われなさは不運を通り越して宿命すら感じるほどだ。


「ちょっと待ってくれ!僕がとり憑かれているという証拠はあるんですか!?」


「証拠ならあります。こちらを見てください。」


右京が取り出したのは一枚の紙だ。

それは恐らくあの呪われた世界においてこの家中に貼られた右京とカイトの手配書。


「この手配書ですが何故このような手配書が作られと思いますか?
それはあの時点で
佐伯伽椰子の魔の手から生き残っていた人間が僕とカイトくんだけだったからですよ。」


「だけどその手配書には…」


「そうだ!その手配書には陣川さんの名前が無いですよ!?」


家出少女の指摘でカイトも気づいたがこの手配書には陣川の記述がなかった。

考えてみればこれはおかしい。陣川もあの亡者たちの魔の手から逃げ切っていたはずだ。

それなのに名前が無い理由があるとすれば…

つまり陣川は既に佐伯伽耶子の手に堕ちていた。

だからこそ、この手配書に名前を記述する必要がなかった。

それが警視庁で陣川が唯一人生き残っていた理由だ。

245 : 以下、名... - 2018/03/14 16:20:18.99 VKN7a1Ov0 237/293



「それにもうひとつ証拠があります。この清酒です。
恐らくこの清酒が腐った原因は佐伯伽椰子の怨念に憑かれたキミの影響だからでしょうね。
この家自体は僕たちが過去の世界に行ったから怨念は関係ない。
あるとすれば僕たちの周りに悪霊に憑りつかれたキミがいたからですよ。」


右京の推理により陣川へと疑いを向ける一同。

そんな陣川だがなにやらブツブツと何かを呟きだした。


「待ってください…そんな…お酒を飲んだり手配書に…名前が載ってなかったくらいで…」


最初はなにやら反論を呟いていたがやがて声が聞き取れなくなるほど小さな声になり

最後は奇妙な唸り声を出すようになった。そう、あの声だ。

246 : 以下、名... - 2018/03/14 16:20:47.02 VKN7a1Ov0 238/293



『あ゛…あ゛…ああ…』


右京はこの反応を見て少女とカイトを陣川から遠ざけようとする。

だが…既に遅かった。

陣川の身体から何か得体の知れないモノが浮かび上がり抜け落ちてしまった。

そして陣川はその場に倒れ伏してしまった。


「陣川くん、大丈夫ですか。」


「うぅ…ん…アレ?僕は今まで何をしてたんだ?
確か…警視庁に入ろうとする佐伯伽椰子という女性を案内して…それから…
おかしいな…それ以降の記憶が無いぞ?」


どうやら陣川は正気を取り戻したようだ。だがそれで事態が解決したわけではない。

そんな時だ。


((ベチャ)) ((ベチャ))


二階から奇妙な音が聞こえてきた。

それは得体の知れない何かが這いずるような不気味な音だ。

やがて二階のドアが音もなく開きだした。そして階段から何か…いや…それは女だ。

生気を感じさせない青白い肌に髪の長い不気味な女が這いずるようにその場に姿を現した。

247 : 以下、名... - 2018/03/14 16:21:21.92 VKN7a1Ov0 239/293



「ようやく会えましたね。佐伯伽耶子さん。」


右京にその正体を見破られた女。それは佐伯伽耶子。

かつてこの家で夫である佐伯剛雄に惨殺され非業の死を遂げた伽耶子。

死後も彼女の業の深い怨念は留まるところを知らなかった。

唯一心の繋ぎ留めでもあった息子の俊雄すら利用して

この家に関わる者たちすべてを惨殺してその呪いの力を強めていった。

だが右京たち特命係によって世界は改変された。

そんな伽耶子の次なる標的は右京とカイトの二人だ。

伽耶子は四つん這いの体制で二階からゆっくりと降りてきた右京たちに近づいてきた。

一歩、また一歩と近づく伽耶子。


「あ…あぁ…化け物…」


「化け物…確かにそうだな…こんなの人間じゃねえよ…」


その不気味な姿を前にしてカイトと家出少女は足元が震えだしまともに動けずにいた。

だが二階から姿を見せたのは伽耶子だけではなかった。

もう二人、伽耶子の後ろから肌白い亡者たちが現れた。

それは右京がかつて最も信頼していたあの二人の男たちだ。

248 : 以下、名... - 2018/03/14 16:21:48.68 VKN7a1Ov0 240/293



『あ゛…ああああ…』


『あ゛あああああ…』


それは右京たちと共に過去の世界に行ったはずの亀山薫と神戸尊の二人。

この事態に思わずカイトたちに動揺が走った。

命を賭して過去の右京に警告を促したはずの彼らがこんな変わり果てた姿で現れたのか?

あまりの衝撃に理解が出来ずにいた。


「やはりこうなってしまいましたか。僕としたことが迂闊でした。」


まるでこうなることを予め知っていたかのように呟く右京。

それは五年前の2008年での世界で既にわかっていたからだ。

右京たちが世界を改変するということ、

それは同時にあの呪われた世界に

亀山と神戸の二人を犠牲にしなければならないという犠牲を伴う手段だった。

本来なら右京もかつての相棒たちを犠牲にするやり方など決して選択しなかったはず。

だが他に方法はなかった。

そのせいで二人は命を落とし伽耶子が使役する亡者として右京たちの前に立ちはだかった。

249 : 以下、名... - 2018/03/14 16:23:02.71 VKN7a1Ov0 241/293



『あ゛あああああ…』


伽耶子に操られた亀山と神戸は右京とカイトの二人を拘束。

どれだけ抵抗しようと身動きが右京たち。そんな二人の元へ伽耶子が近づいてきた。

今度こそ確実に自らの手でトドメを刺そうとする伽耶子。

この状況を覗き見していた冠城もなんとか動こうとするが…

だが膝が震えて満足に動くことが出来ずにいた。

どんな人間だろうと怨念の塊であり伽耶子の前には成す術もない。

このままでは右京たちが餌食になるのは時間の問題。まさに絶体絶命の状況。


「フフ、どうやらここまで僕の予想通りの行動に出てくれましたね。」


こんな状況で不敵な笑みを見せる右京。

まさかこの最悪な状況を切り抜ける打開策があるとでもいうのか?

だが考えてみればここは過去の世界だ。

つまり未来からやってきた冠城にしてみれば

今この場で起きている出来事は既に終わったことでもある。


「佐伯伽椰子さん。
僕たちを過去の時間軸から追いかけてきた時点で既にあなたは終わっているんですよ。」


伽椰子は右京の言葉に意味がまったく理解できなかった。

だがまもなく右京の真意をこの場にいるすべての者たちが知る事になる。

250 : 以下、名... - 2018/03/14 16:23:29.59 VKN7a1Ov0 242/293



「あれ…みんなの身体が…なんか透けてる…」


その異変に気づいたのは家出少女だ。

なんと家出少女以外この家にいる者たち全員の身体が透け始めた。

それは伽耶子とそれに使役されている亡者の亀山と神戸。

さらに右京、カイト、陣川の三人も同様の事態が起きていた。

一体これはどういうことなのか?


「どうやら僕の思惑通りですね。
先ほど申し上げたように、僕たちは別の時間軸からやって来た謂わば異物の存在です。
この時系列に悪影響を及ぼす僕たちがいつまでもこの時間軸に存在できると思いますか?」


「それじゃ…これは一体!?」


「事象というべきでしょうか。
僕たちは歴史の修正作用によりまもなくこの時間軸から消え去るんですよ。」


それがこれから右京の行おうとする伽耶子の怨念を払う手段だった。

そんな右京の話を受けて伽耶子は玄関に置かれた鏡を覗いた。

見ると自分の姿が消えつつあるのがわかった。これでは完全に消え去るのは時間の問題だ。

そう悟った伽耶子はその怒りの矛先を右京へと向けた。

251 : 以下、名... - 2018/03/14 16:24:09.04 VKN7a1Ov0 243/293



『あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛…』


伽耶子は怒り狂いながら右京に襲いかかった。

このままでは右京が危ない。未だ身動きの取れないカイトがなんとか助けに入ろうとする。

だがその行動に何の意味もなかった。

何故なら伽耶子の身体は右京をすり抜けてしまい触ることが出来なかった。


「もう…触れる事も出来ないんですね…」


家出少女が先ほどまで恐怖の対象だった伽耶子をまるで憐れむように見つめていた。

恐らく無理に行動した所為なのだろうか、伽椰子の存在が急激な速さで消えつつあった。


『あ゛あああああああ…』


存在が消えゆく中で伽椰子は奇声を発した。

だがそれは先程までの恐怖に満ちたものではない。

それはまるで悲鳴だ。


『消えたくない。お願い!助けて!』


右京たちにはそう訴えているように感じていた。

かつて非業の死を遂げた伽耶子はすべての人々を呪った。

だがそんな伽耶子にも最期の時が訪れようとしていた。

252 : 以下、名... - 2018/03/14 16:25:46.11 VKN7a1Ov0 244/293



「そうやってあなたは助けを乞うのですね。ですが…
佐伯伽椰子、これはあなた自身の罪です。
かつてあなたはこの世界を呪いによって破滅へと導こうとした。
それは決して人が行ってはならない禁忌だった。
そのせいで何の罪もない大勢の人たちが死んだ。その中には僕の大切な人たちもいた。」


「本来ならこのやり方は警察官としてあるまじき行いなのでしょう。」


「ですがこれは誰かがやらなければならなかった。
あなたはその罪を償わなくてはいけない。
あなたの犯した罪はたとえ過去が修正されようとしても決して消えることのない罪です。」


「あなたは今こそ犯してきた罪と向き合う償う時が来たのですよ!」


右京の言葉と共に伽耶子の存在は消滅した。だが消滅する寸前のことだ。

それは伽椰子にしかわからないことだった。

気づけば伽椰子は独りで何処かに立ち尽くしていた。

そこは闇に包まれたとても暗く決して光など差さない何もない場所。

そこには誰もいなかった…自分が使役する亡者も…血を分けた実の息子である俊雄も…

しかし彼女は気付いた…背後から押し寄せる不気味な気配に…

その気配を察した伽椰子はすぐにうしろを振り向いた。するとそこにいたのは…

253 : 以下、名... - 2018/03/14 16:26:12.40 VKN7a1Ov0 245/293



『 『 『あ゛あああああああああああああ…』 』 』


そこにいたのは無数の亡者たちだ。

夫の剛雄をはじめ、鈴木達也と息子の信之と妹の響子。

北田洋と妻の良美。徳永達也と妻の和美、母の幸枝。

介護ヘルパーの仁科理佳と所轄署の吉川。

剛雄を先頭にかつて佐伯家に関わった者たちが亡者となり伽椰子に襲い掛かってきた。

だがそれだけではなかった。伽耶子の前にある二人の男女が迫ってきた。


『あ゛あああああああ…』


それはかつての想い人である小林俊介、

それと彼の妻にして伽耶子にしてみれば恋敵でもあった真奈美。

彼らもまた亡者として伽耶子に襲いかかった。

剛雄たちだけでなくその昔待ち望んでいた小林とこんな形で再会を果たす伽耶子。

こんな再会など自分は望んでなどいない。そう思った矢先のことだ。

背中にベチョッという触感が伝わった。

まるでドロドロとした汚らしい何かが張り付いたような感覚だ。

一体何が背中に付いたのか?

恐る恐るその背中に張りつかれた異物の正体を確認すると…その正体は…

254 : 以下、名... - 2018/03/14 16:27:11.28 VKN7a1Ov0 246/293



『あ゛ああああああああ…』


伽耶子が振り返ってみるとそこには気味の悪い胎児がいた。

まだ生まれるには早すぎた

母親の胎内にいなければ生きることなど出来るはずもないか弱い存在。

それは五年前、

小林夫婦の住むアパートで母親と共に剛雄の手によって惨殺された名も無き胎児。

その胎児が自らの恨みを晴らそうと伽耶子にとり憑いた。

この場に集った者たちの思いは唯一つ。


『よくも殺してくれたな。許さない。お前も同じ苦しみを味合わせてやる。』


『呪ってやる。未来永劫呪い続けてやる。』


『佐伯伽椰子、お前も呪われてしまえ!』


彼らの思いは伽椰子への憎悪に満ちた怨念と化した。

その怨念に囚われ伽椰子は次第に闇の中へと引き込まれていった。

まさに因果応報といった報いだろうか。

かつて伽椰子が人々に招いた怨念は伽耶子自身に振り返った。

そして彼らは伽椰子を引きずるように深い…深い…闇へと堕ちていった…

255 : 以下、名... - 2018/03/14 16:27:58.20 VKN7a1Ov0 247/293



「これで佐伯伽耶子は消滅したんですね。」


「そのようですねぇ。彼女はこれから自らの罪を償わなくてはならない。
それは彼女自身がその過ちと向き合わない限り未来永劫苦しむことになるでしょう。」



佐伯伽椰子は完全に消滅した。 それと同じく亡者と化した亀山と神戸も消えた。

消えていく寸前、彼らの顔はまるで満足したような穏やかな表情を見せていた。


「亀山くん、神戸くん、どうも…ありがとう…」


消えゆくかつての相棒たちに感謝の言葉を贈る右京。

思えば彼の犠牲なくして伽耶子の怨念を断ち切ることは出来なかった。

右京自身、彼らを犠牲にしなければならないやり方については断腸の思いがあったはずだ。

そんな別れを惜しむ右京たちにも異変が起きつつあった。


「杉下さん!これは一体どういう事なんですか!?説明して…あれ?僕の身体が…!?」


この状況を全く理解出来ず激しく動揺していた陣川が消えた。

それだけではない。右京たちの身体も徐々に透けていた。

どうやら右京たちにも最期の時が訪れようとしていた。

256 : 以下、名... - 2018/03/14 16:28:26.18 VKN7a1Ov0 248/293



「あなたたち…消えちゃうのに…恐くないんですか…」


まるで運命を受け入れるかのように静かに待つ右京とカイト。

もうすぐその存在が消滅するのに

何故動揺することもなく落ち着いているのか…?

そんな家出少女の疑問に右京は悔いるようにこう呟いた。


「これが僕に与えられた罰だからですよ。」


「罰ってどういうことですか…?」


「僕はこの事件を解決するためとはいえかつての相棒を犠牲にしてしまった。
こうして誰に知られることもなく存在が消えていくことが僕に与えられた罰です。
これが彼らを犠牲にしてしまった僕の結末に相応しいのでしょう。」


今回の解決方法は命を重んじる右京にしてみれば

致し方なかったとはいえ犠牲を払わなければならないものだった。

それでもこんな過ちを犯した自分を許す気はない。

だからこそ、この結末を甘んじて受け止めるつもりだった。

だが右京が悔いるのはそれだけではなかった。

257 : 以下、名... - 2018/03/14 16:29:23.18 VKN7a1Ov0 249/293



「それに佐伯伽椰子についてもです。
いくら許されない過ちを犯したとはいえ出来ればこのような解決は避けたかった。」


「そんな…だってあの人は…」


「確かに佐伯伽耶子の罪は許されないものでした。
ですが僕は警察官です。警察官とは罪を犯した者を罰するだけではありません。
その罪と向き合い過ちを正す。
彼女を闇に突き落とすのではなく光に導いてあげるべきだった。それなのに僕は…」


確かに伽椰子の罪は許されるべきものではない。

だからといって彼女を闇の中に閉じ込めたことを後悔する右京。

そんな右京だが今回の方法で一番悔いるのは相棒のカイトについてだった。


「それとカイトくん、本当に申し訳ないと思っています。
キミには何の罪もないというのにこんなことに付き合わせてしまいました。」


右京から謝罪の言葉を促されて思わず苦笑いを浮かべるカイト。

その理由はやはり冠城から指摘された未来の自分についてだろう。

彼はこれよりダークナイトの犯行に及ぶ。

それは今回の右京が行った解決方法よりも身勝手な犯行だ。

それを思えばカイトがこうして消滅するのも

自らの罪を清算するという皮肉めいた結末なのだろう。

258 : 以下、名... - 2018/03/14 16:29:58.62 VKN7a1Ov0 250/293



「ところで家出少女さん。
そろそろあなたについてお聞きしたいことがあります。
あなたもまたこの世界の人間ではありませんね。」


「そんな…けど…どういうことですか…!?」


「先ほど、この家に入る時に彼女はこう言いました。
『昔この家で…人が殺されたんですよね』
この発言は本来ならおかしいと思えませんか。」


そういえばと冠城もようやく気づいた。

そもそもこの世界は右京たちの手によって改変されている。

右京たちが過去の世界で佐伯剛雄の犯行を阻止した時点で殺人事件など起こるはずがない。

それなのにこの家出少女はこの家で人が殺されたと言った。

つまりこの家出少女は…


「私…本当はもう死んでいるんです…」


それから家出少女は自らの正体を明かした。


「私はこの近所に住む鷲尾という家の娘でした。」


「けど5年前に悪い病気に掛かって死にました。」


「お父さんとお母さんが懸命に看病してくれたのに…」


「私には隼人という弟がいます。けど弟も体が弱くて…
そんなあの子が12歳の誕生日を迎えることになりました。
それでお父さんたちがそのことをお祝いして誕生パーティーを開く…はずでした…」


この家出少女の弟、鷲尾隼人だがどういうわけか連絡が取れない状況にあった。

家出少女はそんな家族を不憫に思いこうして生前の姿で現れた。

だが既に死んだ身である彼女にはこの事態を解決する術はない。

だから右京に見つかるまで家の周りを彷徨くことしか出来ずにいた。

259 : 以下、名... - 2018/03/14 16:31:00.54 VKN7a1Ov0 251/293



「鷲尾隼人…そうか…キミはあの行方不明になった子のお姉さんなんだな…」


「それに鷲尾家で五年前の世界で俊雄くんを預かってもらいました。
なんとも奇妙な偶然です。その家の子が行方不明とは…何か因縁を感じてなりません。」


「今日は弟の12歳の誕生日なんです。
弟は私と同じ先天性の病気で12歳までに発症したら命は無いと言われて…」


「なるほど、12歳の誕生日の今日まで弟さんは無事発症せずにすんだという訳ですね。」


「お父さんとお母さん…
今日まで頑張ったんです…それなのに…弟が死んだら…
私だけじゃなく弟までいなくなったらきっと悲しみます!だから…だから…」


家出少女は縋るような思いでその心中を訴えた。

その事情を聞いて右京は鷲尾隼人が行方不明になった経緯を推理した。

家出少女が言うには隼人は卓球クラブに所属して

そのコーチを務めている瀬田江美子と仲が良くてよく家に遊びに行ったらしい。


「カイトくん。鷲尾家に身代金の要求はありましたか?」


「いえ、ありませんでした。というか犯人からの連絡自体なかったんですけどね。」


「これは事態がかなり切迫してますよ。
犯人の正体は不明ですが
目的が営利目的でないのなら犯人の狙いは金銭ではなく…相手の命…
つまり最初から殺人が目的なのかもしれません。」


「それじゃあ隼人くんは既に殺されている可能性が…」


弟が殺されているかもしれないという可能性を聞いて家出少女は酷く動揺した。

当然だ。実の弟が殺されているかもしれないと知らされて冷静でいられるわけがない。

だからといって行動に移すことも出来ない。

見ての通り右京とカイトの二人は存在が消滅する寸前で

家出少女に至っては既に死んだ身であるために家族の前に姿を見せることが出来ない。

さらにこの状況を覗いている冠城も自分が動くにしてもここは過去の世界であり

この世界でなんらかの行動に出ることにより未来に支障を来すわけにはいかない。

つまりこの世界の人間ではない彼らでは鷲尾隼人を救うことが敵わない。

だが事態は急を要している。

一刻も早くなんらかの手を打たなければ少年の命が危険に晒される。

そして右京はこの家出少女にこの事態を解決出来る方法を告げた。

260 : 以下、名... - 2018/03/14 16:31:55.55 VKN7a1Ov0 252/293



「それならばあなたはこれから花の里という飲み屋に行ってくれませんか。」


何故この状況で花の里に行けと…?この右京の発言に冠城は思わず首を傾げた。

だが隣にいたカイトは右京の思惑に気づいた。

それから彼は携帯を取り出して誰かにメールを送ろうとしていた。

それを終えるとカイトは未だにこの状況を覗いている冠城に視線を移した。

その目はまるで冠城にこの後のことを託すかのように訴えていた。


「花の里に着いたらある人間が必ず現れます。それはあなたの知る人間です。
その人に今の事情は説明しなくてもいいので
あなたはそのコーチのお婆さんの家まで案内してください。
急いでください。すべてはあなたに掛かっているのですからね。」


これからの行動について家出少女にその一切を説明する右京。

その説明を終えると右京とカイトの身体が消滅しようとしていた。

いよいよ右京たちもこの世界から消滅する時が訪れたようだ。


「どうやら僕たちもそろそろ時間のようですね…」


「まったく…もう少し延長してくれりゃ俺たちで隼人くんを探しに行ったのに…
神さまも融通が利かないよな。それじゃあな家出少女、絶対に隼人くんを助けるんだぞ。」


こうして事態を乗り切るための方法を教えられた家出少女はそれを行おうと行動に出た。

けどこの家を出ようとした時にあることに気づいた。

それはまだ右京たちの名前をまだちゃんと聞いてなかったことだ。


「あの…そういえば…あなたたちのお名前はなんというんですか…?」


「これは失礼、まだ名乗っていませんでしたね。警視庁特命係の杉下右京です。」


「同じく特命係の甲斐享だ。じゃあな家出少女。しっかりやるんだぞ!」


自らの名を告げると右京たちは満足そうな表情で静かに消滅した。

佐伯伽椰子、それに特命係の面々が消え去り家出少女は一人となった。

だがこれで終わったわけではない。

先ほど右京から教えられた花の里へ向かわなくてはならない。

家出少女は誰もいなくなったこの家にペコリとお辞儀をした。

それが今となっては自分に出来る精一杯の感謝の印だ。

261 : 以下、名... - 2018/03/14 16:34:58.69 VKN7a1Ov0 253/293


「それじゃあ行こうか。」


「あの…あなたは…?」


「俺は冠城亘だ。心配しなくてもいいよ。彼らと同じ特命係だ。」


いきなり現れた冠城に思わずキョトンとする家出少女。

本来ならこの時代に影響を与えることは許されない。

だがこの少女が花の里までの道筋を知っているとは思えないので冠城が道案内をする。

まあこのくらいなら未来に支障を来すこともないだろう。

それから家出少女は冠城に案内されて花の里の店前までたどり着いた。

しかしたどり着いたはいいが冠城が店の中に入るわけにはいかない。

冠城がこの店を知るのはこれから約二年後になる。

それなのにこのタイミングで女将の幸子に会うわけにも行かない。

それでも冬の寒空だ。こんな冷えた夜に子供を野晒しには出来ない。

そこで暖を取るために近くにある自販機に暖かい飲み物を買いに行った。

そんな飲み物を買っている最中だが右京は何故花の里に行くように促したのか?

その意図がわからない。いや、待てよ。ここが過去の世界でもうひとつの時間軸なら…

もしやと右京の思惑に気づいた冠城が急いで家出少女の元へ戻ろうとした時だ。


「お一人ですか?」


家出少女が店の入り口付近に座り込んでいると一人の男が現れ少女に声を掛けてきた。

その様子を物陰で覗く冠城にはこの男が誰なのかよくわかっていた。彼は杉下右京だ。

そしてこの瞬間、ようやく右京の意図が理解できた。

つまり右京は本来この時間軸にいる自分自身にあとのことを託していた。

そして家出少女もこのことを理解したようで店に入った後、

自分を家まで連れて行ってほしいと促しながらある場所まで案内した。

そこは事件があったとされる瀬田江美子の家の近隣。

家出少女を送り届けた後、

右京はその老婆の家で不審な動きがあった事を察知して事件の捜査を開始した。

そして家出少女の弟である鷲尾隼人少年を助け出す事になる。


<<最終話 少女 完>>

262 : 以下、名... - 2018/03/14 16:35:57.62 VKN7a1Ov0 254/293



<<エピローグ(前編) 特命>>


2008年10月―――


気づけば冠城は何処かの小学校にいた。

気になってとある教室を覗いてみるとそこには二人の警察官らしき人物がいた。


「小学生のみなさん、今日はピー○ーくんと一緒に学びましょう。」


『いいかいキミたち、悪い事なんかしちゃダメだぞ!
伊丹っていう人相の悪~い刑事がキミたちの家まで押しかけて逮捕されちゃうからね!』


それは右京ともう一人…警察のマスコットキャラピー○ーくんの着ぐるみを着た亀山だ。

どうやら二人は犯罪撲滅週間のため、この小学校に児童たちの指導を行っているらしい。

上から頼まれたらなんでもやるのが暇な特命係の役割。

身近な犯罪について細かく説明する右京に対して小学生男子から

その着ぐるみ暑くないの?とか

夢のないことを言われて思わず挫けそうになる亀山を眺めるとどうにも笑いがこみ上げた。

こうして指導も終わって児童たちもいなくなり後片付けをする右京たち。

そんな右京たちのところへ一人の教師が現れた。先ほどのクラスの担任教師だ。

263 : 以下、名... - 2018/03/14 16:36:25.65 VKN7a1Ov0 255/293



「先ほどは失礼しました。申し遅れましたが私は担任の小林という者です。
しかしまさか警視庁の刑事さんがお越しくださるとは思ってもみませんでしたよ。
それだけ警察が児童に対して親身だという事ですよね。」


好意的な解釈をしてくれたがどうせ内村刑事部長あたりからの嫌がらせだろう。

ところで冠城はこの担任どこかで見覚えがあった。

そういえば小林と名乗っていたが…まさか…?


「失礼ですが…刑事さんたちと以前どこかでお会いしませんでしたか?」


「いえ、あなたとは初対面のはずですが…」


「何か…初対面って気がしませんね…」


「けど来てくれて本当に助かりましたよ。
あんな事件があった後じゃ児童も不安がりますからね。」


「事件?」


「佐伯って家で殺人未遂の事件があったじゃないですか!
それから麻薬まで出てきて犯人はその家の旦那さんでしょう。
この近所じゃその話で持ちきりですよ。」


佐伯…?麻薬…?

そこで冠城はクラスに貼られていたカレンダーの日付を確かめてみると

その日付は2008年の10月と記載されていた。これでようやく状況を把握できた。

ここは2008年の世界で右京たちが改変した修正後の時間軸だ。

264 : 以下、名... - 2018/03/14 16:37:10.03 VKN7a1Ov0 256/293



「ああ、そういえばそんな事件がありましたよね右京さん!」


「僕たちはその事件を担当していなかったので詳細は存じませんが
夫が妻を殺害しようと犯行に及んだそうですね。
ですが駆けつけた警察官に取り押さえられてそれも未遂に終わったと聞きました。」


「その事件俺たちも知らせを受けて駆け付けたのに
伊丹たちや角田課長がすぐに現場で犯人逮捕してましたからね。
結局俺たちはすぐに帰っちゃいましたけど…
そういえば…それから暫く…
みんなが俺たちの事をまるで幽霊を見るような変な目で見てましたよね?」


「そういえば角田課長も変な事を言ってましたね。
僕たちを見るたびに『ドッペルゲンガー』だとか『一卵性の双子の兄弟はいるのか』と…」


なるほど、どうやらあの事件後に少々奇妙な事態になっていたようだ。

右京たちは知らないがあのファイルを読んだ冠城にはその理由はわかっていた。

あの事件で偶然にも過去と未来の右京たちが

その場に居合わせていたなど伊丹たちには知る由もないのだから。


「まぁそんな訳でして…
ただ…厄介な問題がありましてね…
その事件を起こした犯人がウチの児童の親でして…」


「それは大変ですね。でもそれじゃあその子は…」


「ええ、殺害されそうになった奥さんも
麻薬常用者であったため同じく逮捕されたと聞いています。失礼ですがその児童は…」


佐伯家での事件は本来起こりえた殺人事件から殺人未遂とそれに麻薬押収に修正された。

だが佐伯家は両親揃って逮捕された。

従って夫婦の息子である俊雄は児童養護施設へと送られる。本来ならそのはずだった。

265 : 以下、名... - 2018/03/14 16:37:36.90 VKN7a1Ov0 257/293



「実は私の家で引き取る事にしたんですよ。
…といっても母親が施設から出てくるまでの間なんですけどね。」


「本当ですか!その子の親戚とかどうしたんですか?」


「それが…誰もあの子を引き取ろうとしなくて…」


「無理もないでしょうね。
逮捕された夫の佐伯剛雄は城南金融で麻薬を流していたそうですし
そんな厄介な家族と関わりになりたくないのでしょう。」


「けどイジメとか大丈夫なんですか?」


「大丈夫ですよ。ウチのクラスじゃそういう事はさせませんから。
それに…あの子の母親とはちょっと縁がありましてね…」


どうやら小林俊介は事件後に気づいたようだ。

かつて自分が俊雄の母である佐伯伽耶子が大学の同期だったこと。

その縁を感じたのか俊雄を引き取ることを買って出たそうだ。


「実は俊雄くんのお母さんと私は
大学が同期だったらしくてこれも何かの縁だと思いましてね…」


「『だったらしく』…ですか。随分と曖昧な表現を使われるのですね。」


「お恥ずかしながら大学時代は彼女の存在をまったく知らなかったので…
それに私ももうすぐ親になるので子供を見捨てたくなかったんですよ。」


小林は自らに子供が出来ることをとても喜ばしく思っていた。

彼の子供とは以前の時間軸で剛雄に惨殺された生まれてくるはずだった胎児のことだろう。

その子供が今度は何事もなく無事に生まれてくる。

本来の時間軸を知らない小林はまさに幸せの絶頂にあった。

こうして話を終えた右京たちは小学校を後にした。

その帰り道、二人は歩きながら

先ほどの俊介が教え子を引き取った話を聞き何か想うところがあった。

266 : 以下、名... - 2018/03/14 16:38:11.00 VKN7a1Ov0 258/293



「あの先生立派ですよね。いくら教え子だからって余所の子を引き取ろうとするなんて…」


「きっと子供が生まれる事が彼に人としての責任を果たさせようとしたのでしょう。
それこそ打算や同情などではない別の…慈しみ…慈愛というモノかもしれません。」


「慈愛か…」


「それにしても亀山くん…よく今回の仕事を引き受けましたね。
てっきりキミの事ですから着ぐるみを着た仕事なんて嫌がるものかと思っていましたよ。」


かつて特命係に左遷されるまで捜査一課で活躍していた亀山には

こういった雑用の仕事を不得意とする人間だ。

だが今回はどういうわけか率先してこの仕事を引き受けたらしい。

その理由は先日、親友の兼高公一が亡くなったことの報告をするために

サルウィンへ向かったのが大きな起因だった。


「いやぁ…今までの俺ならそうだったかもしれませんが…
なんというか…その上手く説明できないんですけど…
子供たちに正義を教えるっていうのに使命感を感じたっていう気がして
こんな俺にも何か出来る事があるんじゃないかと思ったんですよ。」


「おやおや、先日サルウィンへ行った時に何か影響を受けたのですか?」


「ハイ、充分影響を受けましたよ!」


「そうですか。」


力強く返事をする亀山に何か強い決意を感じた右京。

それから数ヶ月後、亀山薫は自らの意思で警察官を辞職。

この後は妻の美和子を伴ってサルウィン国へと旅立った。

それは亡き友人の志を継ぐため。

そしてサルウィンの子供たちに本当の正義を教えるために…

267 : 以下、名... - 2018/03/14 16:38:37.32 VKN7a1Ov0 259/293



2011年10月―――


再び場面が変わった。次に冠城が目覚めた場所はとある墓地だ。

そこにはやはり右京ともう一人は神戸尊が老婆を伴って墓参りをしていた。

彼らが弔っている墓には『城戸』という名前が刻まれていた。


「刑事さん、充のために墓参りにまで来てくださってありがとうございます。」


どうやら彼らが弔っているのは城戸充の墓だ。

一緒に息子の死を弔ってくれた右京と神戸に母親は深々と頭を下げていた。


「いえ…今の僕にはせめてこれくらいの事しか出来ませんから…」


冤罪により刑務所に入れられて

ろくに人付き合いのなかった息子のために弔ってくれたことを母親は感謝した。

だが神戸してみれば本来感謝される謂れはない。

むしろ城戸の母親からは憎まれてもいいとすら思っていた。

何故なら自分もまた城戸を冤罪に追い込んだ一人でしかない。

こうして墓参りに来たのも純粋な想いだけでなく罪の意識からでしかなかった。

そんな神戸と右京が墓参りを終えて帰る途中にある家族と鉢合わせした。

268 : 以下、名... - 2018/03/14 16:39:04.76 VKN7a1Ov0 260/293



「コラ信之!ちゃんと母さんの墓参りをしないか!」


「兄さん、そんなに怒鳴らないの!」


それは鈴木達也とその息子信之、それに達也の妹でもある響子の家族たちだ。

どうやら彼らもこの墓地に墓参りに来ていたらしい。


「失礼、そちらもお墓参りでしたか。」


「あぁ…すみません…お恥ずかしいところを見せてしまって…
実は先日家内を亡くしてしまって、それで息子と妹を連れて墓参りに来たのですが
この通り母親が死んで以来息子が口を聞いてくれなくて…」


「兄さんはガサツ過ぎるのが悪いのよ。
この年齢の子は繊細なんだから!
この前だって一見のお客さんに事故物件を売りつけようとしたりして…」


「事故物件?するとあなたは不動産屋さんですか?」


「はい、そうですけど…うん?」


達也は何やら神戸の顔を見るなり思い切り凝視してみた。

すると大声を上げてあることに気づいた。

269 : 以下、名... - 2018/03/14 16:39:30.60 VKN7a1Ov0 261/293



「アァ――――ッ!アンタ3年前に私にあの家を売るなと言った刑事さんだ!?」


「神戸くん、キミこの人と面識があったのですか?」


「お言葉ですが…あなたとは会った事が…
アレ…待てよ?そういえばどこかで会ったような気が…」


突然大声を上げられても神戸は何のことだかさっぱりわからなかった。

だがこの光景を覗いていた冠城には達也が驚いた意味がわかっていた。

こうなった原因は3年前の2008年に別の時間軸からやってきた神戸にあった。

これまた別の時間軸の右京からの指示で

神戸は当時の達也に接触して今後佐伯家の物件に関わるなと警告を促していた。

だがそのことをこの時間軸の神戸は知る由もなかった。


「はて?何故でしょうかね。僕もあなたと会ったことがある気がするのですが…」


面識は無いはずなのにそれぞれ見覚えがあるという不可解な三人。

それが他の時間軸であった出来事だとは想像もつかないだろう。

だがそれよりも問題は信之だ。彼は未だに母親の墓参りを拒絶していた。


「信之くん、何故お母さまのお墓を直視しないのですか?」


「お母さんが死んだって事…信じたくないから…」


まだ14歳の信之には母親の死を受け入れることは難しかった。

ある日、何の前触れもなく大事な肉親が死んだ。

それを受け入れる準備もまだだというのにどうしてと信之は嘆くばかりだ。


「そうさ、人間なんて案外あっさり死ぬんだよ。
残された人間がいくら後悔したって何もならないんだ。」


そんな信之に対して神戸は冷たく突き放すかのように母親の死を理解させようとした。

その言動に思わず達也と響子は何を言うのかと目くじらを立てるが…

270 : 以下、名... - 2018/03/14 16:39:58.18 VKN7a1Ov0 262/293



「だからせめて…供養してやる事が残された人間の役割だと俺は思うよ…」


残された人間の役割。死んだ人間が生き返ることなど決してありえない。

死は何の前触れもなく誰にでも訪れる。それは確かに不幸な出来事だ。

だがそれでも人は前に進まなくてはならないと神戸は落ち込む信之にそう促した。

そんな神戸の意思を汲むかのように信之は母親の墓の前でそっと手を合わせた。

こうして弔うことが残された者の役割であるかのように…


「すみません。変な説教染みた事を言っちゃって…」


「いえ、そんな事ありませんよ、亡くなった義姉さんもきっと満足してますから。」


「おや、その様な事がわかるのですか?」


「ちょっと杉下さん!?すみませんね、この人こんな性格なモノで…」


「実はウチの妹には霊能力がありましてね、昔から何でも見えちゃうんですよ!」


「おや!それは素晴らしい!それでは僕たちにも何か見えるのでしょうか?」


響子が霊能力を持ち合わせていると聞いて思わずはしゃいでしまう右京。

そんな響子の能力を通して彼女は二人にあるものを視た。


「そうですね、そちらの神戸さんでしたっけ? あなたの方には…男の人が見えますね。」


神戸の背後にいる霊と聞いてそれは城戸充ではないのか?

そう疑う神戸に彼はどんな様子なのかと響子に尋ねた。


「なんだかとても穏やかな表情をしているわ。これなら安心して成仏しますよ。」


霊となった城戸充は既に恨みなど抱いてはいなかった。

それを聞いて神戸は少しだけ肩の荷が降りたような気がした。

しかし響子が伝えたいことはまだあった。響子は何かを聞き取りある言葉を神戸に伝えた。


「ありがとう。彼はそう言っています。」


「ありがとう…ですか…まさかお礼を言われるなんて…」


本来ならお礼なんて言われる筋合いはない。

それでも城戸にしてみれば自分の無実を晴らしてくれたことに代わりはなかった。

その言葉を聞いて神戸は思わず涙ぐんだ。

思うことがあるとすれば唯一つ、城戸の魂が安らかに成仏してほしいことだけだ。

ちなみに右京も自分の背後に何か憑いてはいなのか尋ねたが…


「あなたは…初老の男性が見えますね…官僚っぽい感じの男性が…」


そのことを聞いて覗いていた冠城は思わず苦笑いを浮かべた。

それは間違いなくかつての小野田官房長以外にありえなかった。

こうして鈴木一家と別れて帰路に着く右京と神戸たち。

そんな時にある夫婦とぶつかってしまった。

271 : 以下、名... - 2018/03/14 16:40:30.76 VKN7a1Ov0 263/293



「痛っ!」


「すみません!大丈夫ですか?」


「ウチの主人がすみません。あら?どこかでお会いしませんでしたか?」


「い…いえ?会った事はありませんね。」


この夫婦、かつての北田洋と良美夫妻だ。

彼らも墓参りのためにこの墓地へと訪れていたようだ。

そんな謝罪を済ませる妻の良美とは対照的に

夫の洋はなにやらブツブツと独り言を呟いていた。


「うぅ…これというのも今朝のコーヒーの豆がブルーマウンテンじゃなかったからだ。
いや…卵の黄身が半熟じゃなかったからかな?とにかく今度から気を付けてくれよ!」


どうやら洋もまた相変わらず注文が多いようだ。

その神経質が災いしてかつての世界で妻の良美からフライパンで殴られたというのに。

見かねた神戸はそんな洋にある忠告を促した。


「そんな無茶な注文ばかりしていると頭をフライパンで殴られちゃいますよ。」


その言葉に思わず首を傾げる北田夫妻。

そんな忠告を残してその場から立ち去る神戸だが…

272 : 以下、名... - 2018/03/14 16:41:20.26 VKN7a1Ov0 264/293



「キミ、何故先ほどあのご主人にフライパンで頭を殴られるなどと言ったのですか?
本来フライパンとは調理器材であり決して人を殴る凶器ではありませんよ。」


「それは…僕にもよくわからないんです…
ただ…あの奥さんの顔を見たら何故かそう思ってしまって」


「そうですか、それよりもよかったですね。」


「よかったとはどういうことですか?」


「城戸充のことですよ、彼からお礼を言われたのでしょう。」


「そんな…いくら本人からお礼を言われても…犯した罪は一生消える事はありません。
城戸充の冤罪はこれから一生付き合っていかなければならない僕自身の罪です。
だからこの罪はたとえ彼が許してくれても一生背負い続ける覚悟です。」


神戸の不器用ながらも愚直な信念を聞いて思わず呆れながらも同意する右京。

それに対して神戸も右京ほどではないと思わず意を唱えた。

こうして墓参りを終えた二人は空を見上げた。

陽の光がこの墓地周辺をこれでもかというほど照らしていた。

まるでその光が城戸充の魂をあの世へと導くかのように思えた。

273 : 以下、名... - 2018/03/14 16:41:46.34 VKN7a1Ov0 265/293



2013年3月―――


冠城はまたもや異なる時代へと飛ばされた。だがそこは先ほどまで居た佐伯家周辺だった。

何故こんな場所に飛ばされたのかと疑問に思う中、

なんと佐伯家に忍び込もうとする三人の少女たちを目撃した。


「ねぇ、やっぱまずいんじゃないの?」


「大丈夫だって、ここの家はもう何年も前から空き家だから!」


「確か5年くらい前にこの家の旦那がクスリやって捕まったんだって!」


「しかも奥さんを殺そうとしたんだって!これってやばくね?」


「…でも…」


「心配ないって、こんな空家入っても誰も文句言わないし!」


どうやら肝試し感覚で入ろうとしているらしい。これはまずい。

いくら伽耶子の脅威が去ったとはいえまだ何が起きるのかわからない。

急いで止めなければと少女たちに駆け寄ろうとした時だ。

274 : 以下、名... - 2018/03/14 16:42:13.56 VKN7a1Ov0 266/293



「おやおや、いけませんねぇ。空き家とはいえ無断で侵入するのは犯罪ですよ。」


「そうそう、法律でも3年以下の懲役または10万円以下の罰金が科せられちゃうよ。」


「ちょっと!アンタたち何よ!?」


「我々は警察の者です。
ここを通りかかったらあなた方がこの家に入ろうとしたのを見かけたものでして。」


そこへ都合よく右京とカイトが現れてこの三人を注意してくれた。

さすがにこの女子高生たちもこんな下らない遊びで

警察に補導されるのは御免かと思ったのかそそくさと退散していった。

そんな女子高生たちを見送ると彼らは再びある場所へと歩き出した。

一体どこへ行くのだろうか?気になった冠城は密かに二人を尾行。

すると二人はこの家の向かい側にあるとある一軒家に入っていた。

表札を見るとこの家の主は『鷲尾』とあった。

ひょっとしてと思った冠城は警察官としてはあるまじき行動だが

密かに庭から入り込みベランダから家の様子を覗き込んだ。

275 : 以下、名... - 2018/03/14 16:42:42.63 VKN7a1Ov0 267/293



「刑事さんたち、息子の誕生パーティーによく来てくださいました!」


「本当にあなた方には感謝しきれません!」


「いえいえ、僕たちは職務を全うしたまでですよ。」


冠城の予想は的中した。

この家は2013年に誘拐事件の被害にあった鷲尾隼人の自宅だ。

両親が官僚なだけあってこの辺りでもかなり立派な邸宅だ。

そのリビングで改めて隼人少年の誕生日パーティーが執り行われていた。

右京たち特命係は隼人の命を救った恩人としてこうして招かれたようだ。


「フンッ!まさかお前たちまで呼ばれていたとはな!」


「まったく暇な窓際部署め!」


「内村部長に中園参事官!?何でここにいるんですか!?」


「こちらの鷲尾氏は財務省の官僚だ。この機会に仲良くしようと思ってな。」


「決して下心があっての事ではないぞ!」


いや、それ間違いなく下心あってのことだよなと

カイトとそれに覗いてる冠城が心の内でそうツッコミを入れた。

それにしてもパーティーの主役である隼人の姿が見えない。

まさかまた何かトラブルに巻き込まれたのではと心配する一同。

するとそこへ主役の隼人が元気よく玄関を開けてリビングへと入ってきた。

276 : 以下、名... - 2018/03/14 16:43:19.35 VKN7a1Ov0 268/293



「お父さん、お母さん、ただいま!」


「お帰りなさい。もう、帰りが遅いから心配したじゃないの。」


「ゴメンね。実は友達を連れてきたから遅くなったんだ。」


すると隼人の後ろからお邪魔しますと一人の少年が現れた。

年齢からして14歳くらいの制服を着た男子中学生だ。

さらにその子は背中に5歳になる少女をおんぶしていた。


「こんにちは。今日はお招き頂いてありがとうございます。」


「あら!俊雄くんに妹ちゃんも、いらっしゃい。どうぞ上がって!」


俊雄と名乗る少年は妹と一緒に用意されていた席へと座った。

まだ上手にスプーンとフォークを持てない幼い妹に丁寧に世話を施す俊雄を見て

随分と仲のいい兄妹だとこの場の大人たちは誰もが感心した。

そんな妹の世話をしている最中に俊雄はあることに気づいた。


「ところで…僕…お二人とどこかでお会いした事がある気がするんですけど…」


「さて?僕は初対面だと思いますが…」


「俺も…キミとは会った事ないな、けどなんだろ…初めて会った気はしないな。」


「同感です。確かに以前どこかでお会いした気がするのですが…不思議ですねぇ…」


なにやら俊雄は特命係の二人と以前どこかで会った覚えがあると告げた。

同時に右京とカイトも俊雄とは初めて会った気がしなかった。

その話を聞いてまさかと疑う冠城…

各々が疑問を抱く中で右京は俊雄にある質問を行った。

277 : 以下、名... - 2018/03/14 16:44:04.96 VKN7a1Ov0 269/293



「ところで俊雄くんと隼人くん。
お友達だそうですが俊雄くんの方は中学生ですね。
普通キミたちくらいの年齢なら同世代の人間を友達にすると思うのですが…」


俊雄と隼人は年齢が二歳ほど離れている。

それにも関わらず仲が良いのは珍しいことではないが

年頃の小学生が歳の離れた上級生と親しいのは少々気になっていた。


「俊雄くんは昔この辺りに住んでたんです。
その時にウチの子とよく遊んでくれてそれで知り合ったんですよ。」


「なるほど、そういう事でしたか。」


「でも待てよ、この辺りで引っ越したなんてさっきの空き家くらいじゃ…」


「空き家といえばあの家で確か5年くらい前に事件があったな。」


「そういえばありましたな。
事件が早急に解決したため捜査本部も作らずに終わりましたが…
確かあの事件は夫が妻を殺害しようとしたとか…それにその夫は麻薬も所持してたと…
さらに言えば夫妻の子供も危うく殺されかけたというろくでもない顛末でした。」


やはりそういうことかと冠城はこの状況を理解した。

このパーティーに出席しているあの少年は本来なら亡者と化したはずの佐伯俊雄だ。

それも右京たちが時間軸を修正したことにより彼はこうして健やかに成長した姿で現れた。

ちなみにこれは偶然だが過去の世界で右京たちは俊雄をこの家に預かってもらっていた。

その縁がこうした形で繋がりを見せるとは思わなかった。

278 : 以下、名... - 2018/03/14 16:44:31.75 VKN7a1Ov0 270/293



「ハイ…僕はそこの家の子供です。」


「まったく子供がいるのに麻薬に手を出すとは!」


「親の風上にも置けませんな!」


せっかくのパーティーで思わず鬱屈した表情を見せる俊雄。

それとは対照的に俊雄の両親に対して内村と中園はけしからんと憤慨した。

それでも子供のパーティーを利用して

胡麻摺りしている二人に言われる筋合いはないなとカイトと冠城は内心毒を吐いていた。


「これはせっかくの場で失礼しました。その様な経緯があったとは知らなかったもので…」


「いえ、いいんです。親がやった事は事実ですし…僕も危うく殺されそうでしたから。
あの時、刑事さんたちが乗り込んでこなかったら僕は今頃死んでいたはずです。
それにあの後周りの人たちが本当によくしてくれましたからね。」


俊雄が健やかなる成長ぶりを見せたことでホッとひと安心する一同。

そんな時、右京はこのリビングに飾られてある一枚の写真立てに注目した。

それは何年か前に取られたと思われる鷲尾一家の集合写真。

その写真にはまだ幼い隼人と両親、それに一人の少女が写っていた。

279 : 以下、名... - 2018/03/14 16:45:08.28 VKN7a1Ov0 271/293



「この写真ってあの子ですよね!」


「ええ、間違いありません!僕たちの前に現れた家出少女ですよ!」


数日前、隼人を助けた時に何故か誘拐された事件現場まで導いてくれた謎の少女。

まさかこの家の娘だったとは予想外だった。

このことを知った右京たちはすぐに家出少女について尋ねたのだが…


「失礼ですが、
こちらには隼人くん以外にもう一人お子さんがいらっしゃるのではないですか?」


「はい、実は娘がいたんですよ。」


「けど…その子は先天性の病気で…思えば何もしてやれなかったわ…」


この事実を聞かされて二人は思わず驚愕した。

当然だ、まさか自分たちを導いた存在が幽霊だったなんて普通ならありえない事だ。

だがこれで納得できた。

だからこそあの子は自分たちに救いを求めたのだと…

280 : 以下、名... - 2018/03/14 16:45:35.11 VKN7a1Ov0 272/293



「実は僕たちが隼人くんの危険を察知出来たのはこのお姉さんのおかげでした。
きっとお姉さんは天国からキミの危機を知って僕たちにその事を伝えに来たのでしょう。
恐らくこれはご両親の祈りが天に届いた。これこそまさに奇跡と言えるでしょうね。」


右京から自分が助かった経緯を聞かされて隼人は涙を流した。

いや、隼人だけでなく両親も涙した。今は亡き姉が自分の危機を報せてくれた。

かつて何もしてやれずに死なせてしまった不憫な娘だと一家は悔いていた。


「ありがとう…本当に…ありがとう…」


娘の遺影を前にして家族は心から感謝の言葉を贈った。

弟を救ってくれてありがとう。どうか安らかに眠りなさい。

そう祈りながら隼人の誕生パーティーが開かれた。


「写真立てといえば今度歴代刑事部長の写真立てを制作する予定でしたな。」


「うむ!そうだ、私を中心に歴代刑事部長の写真立てをズラッと…」


『あ゛…あぁぁ…』


「!?何だ…今のは!妙に背筋が凍るようなこの感覚は…」


「どうかなさいましたか部長?それで写真立ての方は如何なさいますか?」


「やはりやめておこう…国民の血税をそんな無駄な事に使っちゃいかんよキミ!」


こうしてパーティーが終わり右京たちは俊雄とその妹を家まで送りながら

その道中でふと、どうしてもひとつだけ気になることがあった。

281 : 以下、名... - 2018/03/14 16:46:18.72 VKN7a1Ov0 273/293



「何故あの家出少女は僕たちを選んだのでしょうか?
警察官なら都内だけでも4万人近くいます。
その警察官の中で何故あの少女と面識も無い僕たちであったのか疑問に思いませんか?」


「いや…そういうところはファンタジーだと思ってくださいよ。」


「まだ疑問はあります。あの少女は花の里で待っていたのです!
普通なら困り事があれば最寄りの交番なり所轄に駆け込めばいい。
それなのに少女に場違いな飲み屋にあの少女は居た!
つまりあの少女は最初から知っていたわけですよ。
あの店に警察官である僕たちが立ち寄る事を!」


右京は家出少女がどうして花の里で自分たちを待ち構えていたのか気になっていた。

そんな心霊体験に興奮する右京を冷ややかな目で見つめるカイト。

その手のことはファンタジーだとでも片付ければいいのに妙な性分だと嘆いた。

だがその背景には五年にも及ぶ壮絶なドラマがあったことを二人は知る由もないだろう。

さすがの右京もまさかそこまで推理することは出来なかった。

282 : 以下、名... - 2018/03/14 16:46:54.23 VKN7a1Ov0 274/293



「お~い!二人とも!」


そこへ俊雄たちに向かって手を振ってくる一人の男が駆け寄ってきた。

彼は小林俊介。俊雄がおんぶする妹の父親でありさらに…


「お義父さん、来てくれたんだね。」


「二人とも、ちゃんといい子にしてたかい?」


「おや!あなたは…確か以前小学校でお会いした…」


「あの時の刑事さんじゃないですか。その節はどうもお世話になりました。」


俊雄を引き取ってから彼此五年が経過した。彼は俊雄を養子として家に招いていた。

小林も右京のことに気づいたようで挨拶を交わした。

ところで小林だがこうして外まで出迎えるのはある理由があった。


283 : 以下、名... - 2018/03/14 16:47:28.30 VKN7a1Ov0 275/293



「実は大事な話があるんだ。
お前のお母さんが近々施設から出てくるそうなんだ。それで話というのは…」


そこまで言うと俊雄の顔色が険しいものへと変わった。

その様子を見て右京たちも理由を察していた。

先ほど鷲尾家での会話にもあったが俊雄の両親は殺人未遂と麻薬摂取の容疑で逮捕された。

当時、幼い俊雄にしてみれば自分を殺そうと父親と麻薬に逃げた母親。

父親はまだ刑期を終えていないようだが母親は麻薬の治療を行う施設へ入所していた。

それで肝心の要件とはこの母親がなんと俊雄と会いたいと言ってきた。


「僕…もう母さんとは…会いたくない…」


俊雄はそんな母親との対面を拒絶した。一見非情かと思われるがこれは当然のことだ。

当時、俊雄が父親から虐げられている間に母親はその現実から逃れるため麻薬に逃げた。

それは幼かった俊雄にしてみれば絶望に値する光景だ。

だから両親に失望した俊雄は母親からの申し出を断ろうとしていた。

確かに俊雄の気持ちは理解できる。当時、俊雄が虐げられていた境遇を思えば尚更だ。

だがここで母親からの申し出を断れば俊雄は二度と母親と会うことはないだろう。

それは容易に想像できることだ。

それでも、もし母親が更生しているのならばと信じた右京はあることを俊雄に申し出た。


284 : 以下、名... - 2018/03/14 16:47:56.77 VKN7a1Ov0 276/293



「俊雄くん、お母さんと一度だけ会ってあげてください。」


「で…でも…」


「まず会って、それから話をしてみてください。
キミがお母さんを許せないという気持ちはわかります。
ですがあの事件からもう5年が経ちました。お母さんも変わったかもしれません。
それにはまずお母さんがどういう人間なのか…施設に入りどう変わったのか…
キミは知るべきだと僕は思いますよ。」


確かに母親は許されざる罪を犯した。

それを俊雄が受け入れたくないという気持ちは理解出来る。

だがそれは同時に母子の縁が切れることも意味する。

それでも俊雄にとって生みの母親は伽耶子しかいない。

これはこの場にいる右京たちや俊雄はまったく知らないことだろうが

伽耶子が罪を犯した理由はかつて恋焦がれた小林俊介へと一途な恋心にあった。

しかしそんなものは俊雄にしてみれば何の関係もなかった。

当時の幼い自分が虐げられる理由ですらない。

そんな哀れで愚かな母親を許したくはないと同時に

やはり心の何処かでもう一度母親を信じたいという希望もあった。

だからもう一度だけ会ってあげて欲しい。それからすべてを決めればいい。


「わかった。僕、お母さんに会ってみるよ。」


こうして俊雄はもう一度だけ母親に会う決意を固めた。

そのことを聞くて右京とカイトは軽く会釈してその場を去った。

その帰り道のことだ。この近隣にある介護施設である親子を目の当たりにした。

285 : 以下、名... - 2018/03/14 16:48:22.03 VKN7a1Ov0 277/293



「母さん、ここでの生活はどうだい?」


「快適だよ、家の中で寝たきりよりもずっとマシさ。」


「もう…お義母さんたら自分でここに入る事さっさと決めるんだから!」


「アンタたちは早く孫の顔でも見せて私を落ち着かせてくれりゃいいんだよ。」


「お母さん、和美さんだって心配して言っているんだからそんなこと言っちゃダメよ。」


それは徳永勝也と和美夫妻。それに妹の仁美に母親の幸枝。

家族揃って笑顔でこの施設に入居した幸枝のお見舞いに訪れていた。

その笑顔はとても穏やかなものでかつての時間軸で

佐伯家の恐怖に怯えていた頃とは想像もつかないものだ。

そんな徳永一家の横を車椅子の乗った老人が声を掛けてきた。


「幸枝さん、まったくアンタは…
せっかく子供さんが来てくれたのにそんな蔑にして!それじゃ碌な死に方せんぞ!」


「余計なお世話さ、私はもう病室へ戻るよ。」


「フフ、皆さん仲が良いんですから。」


それはかつてあの佐伯家を捜索した所轄刑事の吉川、

それに彼の車椅子を押しているのは介護士の理佳だ。

二人もまた伽耶子の呪いから解き放たれてこうして穏やかな時を過ごしていた。

286 : 以下、名... - 2018/03/14 16:49:05.92 VKN7a1Ov0 278/293



「いいですね、俺も子供に囲まれたあんな老後を迎えたいや。」


「まだ若いのに随分と先の事を仰いますね。」


そんな平穏な光景を見て老後の安寧を思うカイト。

右京の言うようにまだ結婚すらしていないカイトが心配するようなことではない。

それでも将来はあんな家族を築きたいとカイトは切に願った。


「ところで今日の事で思ったのですが…
いえ…今日の事だけでなく実は…数年前から僕は何か奇妙な違和感を抱いています。」


「奇妙な違和感?それってどういう意味なんですか?」


「その正体がわかりません。
思い出そうとするとまるでその事を思い出してはいけないと思ってしまい
思い出せなくなる…奇妙だと思いませんか?」


右京の話はまるで頓珍漢なものだがカイトはその悩みにどういうわけか共感を抱いた。

実はカイトもここ最近になってある違和感を覚えた。だがその正体がわからない。

右京と同じくそのことを思い出そうとすると

何故か靄が掛かったかのように記憶の断片すら覗くことが叶わなかっ

287 : 以下、名... - 2018/03/14 16:50:18.39 VKN7a1Ov0 279/293



「その話…なんとなくわかる気がします。
俺も最近何か違和感を感じるんですけど…その正体がわからなくて…
けど心のどこかで何故かその事を思い出しちゃいけないって…感じて…」


「まるでパンドラの箱ですね。
神に託された箱をパンドラという女が開けてしまい
中からこの世の災厄が解き放たれてしまった伝承かもしれません。」


「けどパンドラの箱って最後は希望が残っているんじゃないですか?」


「希望ですか。そうですね…希望が…この世界に溢れてくれるといいのですが…」


「ありますよ。この世には希望なんてそこら中に転がっているんですから。」


希望、彼らの見つめる先にはかつての佐伯家があった。

かつてこの家において絶望という名の呪いが振りまかれた。

この5年間、忌まわしい絶望に何度も挫けそうになった。

それでも杉下右京の相棒たちは最後の希望を繋いでいた。

その希望が報われ、こうして平穏な世界が取り戻された。


<<エピローグ(前編) 特命 完>>

288 : 以下、名... - 2018/03/14 16:51:00.92 VKN7a1Ov0 280/293



<<エピローグ(後編) 伽耶子>>


気づけば冠城亘は埃まみれと化した佐伯家の中、元の場所へと戻っていた。

そして理解した。かつてこの家で特命係と佐伯伽耶子の因縁。その真実を…

杉下右京はこの家について何も知らないと答えた。当然だ。

佐伯家で起きた事件を解決したのはあの忌まわしい時間軸に居た右京であり

この時間軸にいる自分が知っている右京はこの家に関わりすら持ってはいなかった。

だから右京は決して偽ってなどいなかった。

それは同様にかつてこの家に関わった右京の相棒たちや伊丹や芹沢たちにも言えることだ。

誰もこの家で起きた事件など知らない。

そう、あの封じられていたファイルを紐解いた自分以外は…

腕時計を見ると時刻は既に朝の6時前を指していた。どうやら長居しすぎていたらしい。

さあ、もう帰ろう。そう思った矢先のことだ。

289 : 以下、名... - 2018/03/14 16:52:50.03 VKN7a1Ov0 281/293







……………ぁ…………あ゛…………あ…………






290 : 以下、名... - 2018/03/14 16:53:28.78 VKN7a1Ov0 282/293



それはとても不気味な呻き声だった。

冠城の背後から聞こえてくるこの呻き声に額から一筋の冷や汗が垂れ落ちた。

この声は知っている。先ほど過去の世界で聞いたあの怨霊と化した佐伯伽耶子の呻き声だ。

まさか…ある嫌な予感が過ぎった冠城は

長年この家の廊下に放置されていたあるモノを見つけてそれを手に取った。

それは清酒の入った一升瓶。

五年前の2013年に右京が伽耶子の正体を炙り出すために用いたその清酒を一口含んだ。


「ゲホッ…酷い味だ…」


だが口に含んだ瞬間、これまで感じたこともない嫌悪感が伝わり思わずそれを吐いた。

これでハッキリした。まだ『居る。』

この家にはまだあの女が…呪われた怨念…佐伯伽耶子が居る…


『あ……あ……あ゛……ぁ………』


最初は微かだった呻き声が発せられる度に近づいて来るのがよくわかる。

恐らく自分のところへ近づいてくるのだろう。

だがどういうことだ?伽耶子との決着は既に5年前に着いたはずだ。

それがどうして今になって伽耶子が悪霊と化して再び現れるのか理解出来なかった。

そんな戸惑う冠城の元に携帯の着信が鳴り響いた。着信の相手はなんと青木年男からだ。

291 : 以下、名... - 2018/03/14 16:54:22.13 VKN7a1Ov0 283/293



『もしもし…冠城さんですか…』


急いで連絡に出ると青木はなにやら酷く怯えていた。

まさかと思った冠城はすぐに何があったのか尋ねた。


『実は…警視庁を出てからずっと変な気配がするんです…』


『今は自分のアパートに戻っているけど…それでもずっと誰かに見られてる気がして…』


『あの変なファイルを見てからこうなんですよ!一体どういうことなんですか!?』


青木からの連絡を聞いて冠城はこうなった事態を思い出した。

そもそもの発端は自分が俊雄の絵と伽耶子の日記を見つけたからだ。

恐らくあれは五年前に消えた呪われた世界から移動した右京たちが持ち込んだモノ。

だがここでひとつだけ気になることがある。

警視庁のデータベースに記録されていた佐伯家の事件に関するファイルは誰が作成した?

あのファイルを記録したのは特命係だと記されていた。

しかし冷静に考えてみればあんなファイルを右京が残すだろうか?

答えは否。それは絶対にありえない。

かつて呪いの世界を創り出した伽耶子の痕跡を杉下右京なら決して残すはずがない。

それでは一体誰があのファイルを遺したのだろうか?

292 : 以下、名... - 2018/03/14 16:57:12.58 VKN7a1Ov0 284/293



「そうか…佐伯伽椰子…アンタ自身だったのか…」


冠城は背後に近づいて来る伽椰子に対してそう呟いた。

正確に言えば伽椰子本人ではなくとり憑いていた陣川にやらせたのだろう。

陣川ならアレでも警視庁の職員で以前は短期間だが特命係にも在籍していた。

つまりあのファイルはもしもの時のために残しておいた伽椰子のバックアップだった。

それがこの五年掛けてようやく封印が解けた。

あの佐伯伽椰子が暗闇の底から復活を遂げようとしていた。


『冠城さん…助けてください…変な不気味な声が来るんです…なんとかして…』


携帯越しから青木の助けを呼ぶ声が聞こえてきた。

普段は邪険に扱っているし嫌なヤツではあるがこうなった原因は自分にある。

なんとかしてやりたいが冠城自身にも伽椰子の魔の手が迫りつつある。

一体どうすればいいのか…?

293 : 以下、名... - 2018/03/14 17:01:18.58 VKN7a1Ov0 285/293



「こうなったら…」


そんな時、冠城は先ほど過去の世界に飛んだ時の出来事を思い出した。

かつて右京はこの悪霊を深い闇へと封じ込めた。

あの方法は右京たち自身の存在を消滅させるという自己犠牲によるものだ。

もしもアレと同じ解決方法を望むのなら方法は唯一つ、

伽椰子が遺したあのファイルを読んだ自分たちがこのまま手に掛けられることで

誰に知られることもなく伽耶子の存在を抹消させるしかない。

元々自分の不始末でこうなった。この脅威が外に出ればどんな事態に陥るか…

だから覚悟は出来ている。だが…ひとつだけ躊躇せざるを得ない要素があった。

この方法では犠牲が生じてしまう。

犠牲とは青木のことだ。彼は今回の件で巻き込まれただけにしか過ぎない。

いくら嫌なヤツだからといってもさすがに巻き添えを喰わせるのは酷だ。

それでも今ここでなんとかしなければまた五年前と同じ惨劇が起きる。

それだけはなんとしても阻止しなければならない。

こんな元旦の日に初日の出も見ずに死ぬなんて冗談では…

294 : 以下、名... - 2018/03/14 17:02:19.73 VKN7a1Ov0 286/293



「考えろ。こんな時…杉下右京ならどうする…?」


思えば右京が行った方法は本当に完全なる解決方法だったのか…?

いや、今にして思えば彼は伽耶子を闇に封じる際に後悔していた素振りがあった。

つまりあの方法は一時的なその場しのぎではあったがやり方は誤りだったのかもしれない。

それがたとえ大勢の人々を殺めた罪人だとしてもだ…

それでは本来なら右京はどんな解決策を望んでいたのか?

ひょっとして彼は怨念と化した伽椰子すらも救いたかったのではないのか?

もしもそうだとして一体どうやって救えばいい?そういえば…

そこである答えを導き出した冠城は廊下を一歩ずつ歩き出した。

だがその足取りはまるで鎖にでも繋がれたかのように重たかった。

力を入れないと何かに引っ張られて何処かへ連れて行かれそうな感覚が過る。

それでも踏ん張らなければならない。とにかく一歩、また一歩と歩いた。

本来なら数秒でたどり着けるはずの玄関が遠くにあるように思えてならない。

そしてなんとか玄関前にたどり着いたその時だった。

玄関の扉を開けようとドアノブに手を伸ばした。すると誰かが自分の手を掴んできた。

ガシッと掴んできた腕は人の温もりなど感じさせない冷たい腕だ。

なんとか解こうとしても、とてつもない力に押さえつけられて振りほどく事も出来ない。

こんな細い腕のどこに大の男を締め付ける力があるのか不思議でならなかった。

それから冠城は恐る恐る、この腕の先を覗いた。


『あ゛…あぁぁぁ…』


そこには一人の女がいた。

腰まで伸びた長い髪に白いワンピースを着た恐ろしい形相をしたこの女。

過去の世界で目撃したあの佐伯伽耶子だ。

伽耶子と顔を合わせてしまいその恐ろしさに硬直して身体が満足に動かない。

そんな伽耶子だが顔を近づけようとしてきた。

どうやら過去の犠牲者と同様に自分のことも殺すつもりらしい。

あともう少しだというのに…

このまま大人しく殺されなければならないのか。

295 : 以下、名... - 2018/03/14 17:06:43.31 VKN7a1Ov0 287/293



『――――あとのことは頼みます。』


そんな孤独と恐怖に打ち負けそうになった瞬間、ふと誰かの声が過ぎった。

それは彼だ。甲斐享。

過去の世界で消滅する寸前だったカイトを窓から覗いていた時、

目が合った彼から告げられたかもしれない言葉だ。

そうだ。この事件は杉下右京の相棒たちが希望を繋いできた。

かつて亀山薫は警察官としての職務を捨ててでも右京たちの身を守った。

同じく神戸尊も過去に犯した罪と向き合いながら彼らをこの家に導いた。

すべてはこの事件を解決するため、そして自らの正義を貫いたからこそだ。

それにカイトとて同じだ。あの時、彼は自分の消滅を受け入れた。

自らの罪とそれに後のことを冠城に託して…

杉下右京の相棒たちが繋いできた希望はまさにこの時のためにあったのではないか?

そして自分も…

冠城がこの事件に興味を抱いたのは単なる好奇心だけではなかったのかもしれない。

それはこの家とか関わった特命係として使命ではなかったのだろうか。

ならば彼らが繋いできた希望を自分で絶やすわけにはいかない。

今こそこの事件に幕を下ろす。十年前から続くこの呪われた負の連鎖に決着をつける。

それが特命係の宿命ならば…


「この…行け…あと少しだ…」


決意を新たにした冠城は再び腕に力を入れて扉のドアノブを回そうとした。

踏ん張れ。恐怖に怯えるな。あと少しだ。

自分自身を叱咤激励してなんとかこの扉を開けようとした。

それでもあと少しというところでどうしても扉を開けることが出来なかった。

伽耶子の力による影響なのか金縛りにあっているかのように未だに全身が硬直している。

そのせいで唯一動ける腕にどうしてもあとほんの少しの力が入らない。

その間にも伽耶子が冠城に迫ろうとしていた。まずい。殺される。

まさに窮地に立たされたこの瞬間、思いもよらない事態が起きた。

296 : 以下、名... - 2018/03/14 17:08:26.10 VKN7a1Ov0 288/293



扉が自然に開き出した。冠城自身が開けたわけではないのにどうして…?

同じく扉が開いたことで伽耶子も驚きを隠せなかった。

何故なら扉から一筋の光が差したからだ。光は伽耶子の全身に当てられた。

その眩しさに思わずたじろぐ伽耶子。この光の正体は何なのか?


「これは新年の夜明けだよ。」


冠城は自分の腕時計で現在の時刻を確かめながらこの光の正体を告げた。

今の時刻は早朝6時過ぎ、この時期なら朝日が見える時刻だ。

何故伽耶子にこの太陽の光を浴びせるのか?過去の世界で既に右京は答えを示していた。

かつて呪いという闇が伽耶子の心を支配した。

その闇の底に伽耶子を堕とすことは決して完全な解決には至らない。

負の連鎖を完全に断ち切るのは闇ではない。光であるべきだ。


『……光……暖かい……』


初日の出を拝む伽耶子の目から一筋の涙が零れ落ちた。

伽耶子は光の中に何かを見つけたのかそっと手を伸ばそうとしている。


『と…し…お…』


俊雄と…恐らく光の中に自分が居た時間軸の俊雄を見ているのだろう。

それから伽椰子は光に導かれるようにこの場から消えた。

余りにも一瞬で、それでいて呆気ない終わり方だった。いや、これでいい。

この事件は既に5年前に終わっていた。これは過去の亡霊が生み出した幻にしか過ぎない。

その亡霊がようやく闇から抜け出せた。すべては終わった。

そして一連の出来事を見届けた冠城は緊張の糸が途切れたのかその場で気を失った。

297 : 以下、名... - 2018/03/14 17:09:58.14 VKN7a1Ov0 289/293



…ぎ…く…


…か……ぶ……ん…


「冠城くん、いい加減起きたらどうですか。」


「ふぁ……右京さん!どうして!?」


気づけば目の前に杉下右京が居た。しかも外に連れ出されていた。

一体どうして右京が自分の目の前にいるのか?

この事態に何がどうなっているのかわけがわからず狼狽えていた。


「あ…その…とりあえず聞きたいのは…俺どうしてたんですか…?」


「今から1時間前、
この家に入ろうとしたら気を失ったキミが扉から倒れるように現れました。
まさかと思い救急車を呼ぼうと思いましたがどうやら寝ていたみたいなので
起きるのは待っていたのですがまさか1時間も寝られるとは思いませんでした。」


右京は呆れるように今の状況を説明してみせた。

そのことを知った冠城はすぐに腕時計で現在の時刻を確かめた。

既に時刻は朝の7時を回っていた。

右京の言うようにあれから1時間も寝過ごしていたようだ。

そのことに気づいた冠城はすぐさま携帯を取り出して青木に連絡を取った。

連絡に出た青木は携帯から怒鳴り散らしていたものの無事であることは確認できた。

ちなみに青木もまた冠城と同様の方法を行っていたらしい。

余りの恐怖に耐えかねた青木はベランダから外に逃げようカーテンを開けた。

すると丁度、朝日が部屋に入り込み気づけば恐ろしい気配が忽然と消えたそうだ。

とりあえず無事で良かった。

青木の無事を確認した冠城は今回の件はすべて忘れろと忠告を促して連絡を切った。

それにしても気になるのは右京だ。どうして彼がここにいるのか?

何故ならこの時間軸の右京は佐伯家の事件とは一切関わり合いがない。

つまり彼がこの家を訪ねに来る理由がないのにどうして来たのか?その理由を尋ねた。

298 : 以下、名... - 2018/03/14 17:11:31.20 VKN7a1Ov0 290/293



「実は今から5年前のことです。ある奇妙なメールを受け取りました。」


右京は自らの携帯を提示してそのメール文を冠城に見せた。

それは以下の内容が記されていた。


『杉下さん、5年後の2018年1月1日に東京都練馬区寿町4-8-5に向かってください。』


それはまるで先ほどまで起きていた出来事を予言するかのような内容だった。

一体誰がこんなメールを送ってきたのか?

気になった冠城はこのメールを出した送り主を確認した。するとそれは意外な人物だった。


「カイト…まさかこれは甲斐享からのメール…?」


「そうです。5年前の3月13日のことです。
いつものように花の里へ向かおうとしたらカイトくんからこのメールが届きました。
気になりましたがそのすぐ後に僕たちは鷲尾隼人くんの誘拐事件に遭遇して
彼にこのメールについて問い質すことをすっかり忘れていました。」


事情を聞いて冠城はあることを思い出した。

2013年の世界でカイトが消える直前、誰かにメールを送っていた。

なるほど、これですべてがひとつに繋がった。

それは冠城が過去の世界に行った時にカイト自身もある疑惑を抱いていた。

もしも2013年で伽椰子との因縁に決着がついていたのなら

未来から冠城が現れることは決してあり得なかった。

いずれ伽椰子は復活する。カイトもそのことを危惧していた。

だから彼は消える直前、冠城にすべてを託した。

そして冠城の助けとなるべく

この時間軸の右京にメールを送ることで彼をここへ来るように仕向けた。


「実は僕自身も昨日までは忘れたままでしたよ。
そう、キミがあの妙な絵と日記について聞いてくるまでは…
細かいことが気になるのは僕の悪い癖ですから。」


カイトは右京の性格を把握していた。

こんなメールを残せばきっと右京はこの家を訪ねるはずだと確信した。

さすがは元相棒だと思わず苦笑いを浮かべてしまった。

299 : 以下、名... - 2018/03/14 17:12:42.10 VKN7a1Ov0 291/293



「それでキミはどうしてこの空き家を訪ねたのですか?
わかっていると思いますが空き家といえど不法侵入を犯しているわけですよ。」


「あ、それは…とある事件の証拠品を関係者に返却しに来たんです。」


「証拠品とはあれのことですか?」


右京が指したのは今も開けられたままの扉の先にある玄関前に置かれた絵と日記だ。

それはまるで長年離れ離れになったままの母と子がようやく再会した場面を思わせた。

形がちがうがあの呪われた時間軸の伽耶子と俊雄もこうして再会を果たせた。

もうこの親子の仲は引き裂かれることもないだろう。


「キミ、持ち物はちゃんと本人に返すのが基本ですよ。
いくら不在とはいえこのまま放置して帰るのは警察官としてどうかと思いますがねぇ。」


「苦言はご尤もです。唯、今回に限ってはたぶんこれが正解なんです。お叱りは後ほどで。」


「よくはわかりませんがそこまで言うなら…
ところで何か奇妙ですねぇ。以前にもこんな事情をわからずに押し通された気がします。」


「まあ、右京さんにもわからないことくらいあってもいいじゃないですか。
世の中知りすぎるとろくなことがありませんよ。
それこそこの世が破滅を辿るようなそんな事態がね…」


何も知らない右京に冠城はまるで皮肉かのような警告を促した。

もうこの世界にあのような惨劇は起きないだろう。

それでも好んで鬼の棲家に入り込み薮を突く真似は避けたい。

この事件はようやく終わりを迎えたのだから…

300 : 以下、名... - 2018/03/14 17:13:34.20 VKN7a1Ov0 292/293



「それでは要件は済んだのですから早く行きましょう。
いくら空き家とはいえ、警察官がいつまでも無断で居ていい場所ではありませんよ。」


「そうですね。それじゃあ…」


右京に促されながら冠城はこの家の扉を静かに閉めた。

扉を閉める寸前、

もう一度寄り添い合うように置かれた絵と日記を見つめながら願った。

どうかこのまま安らかに眠ってほしい。

今度こそ静かな安らぎを―――

こうして十年に及ぶ特命係と佐伯家の因縁は静かに幕を下ろした。


<<エピローグ(後編) 伽耶子 完>>

301 : 以下、名... - 2018/03/14 17:20:04.32 VKN7a1Ov0 293/293

とりあえずこれで特命係と佐伯一家を巡る因縁の物語は終わりです。
最後呆気ないなと思われる方は申し訳ありません
元々このssは当時の拙い文章を修正したくて書いただけのものですから

ちなみにラストは当時は伽椰子を闇に封じるやり方でしたが
もしも他に方法があるならどうしようかなと思い逆の方法で光に導くやり方を取りました。
当時のラストがよかったんじゃねと思う方はごめんなさい。


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