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右京「呪怨?」修正版<<第1話>>

74 : 以下、名... - 2018/03/13 23:16:06.87 cw/0nUsY0 72/293



<<第2話 信之>>


2011年8月―――


「小野田くんの墓参り、代わりにしてくれてすまんね。」


「いえ、僕たちもいずれは伺おうと思っていましたから。」


ここは東京拘置所の面会室。

そこで右京は相棒の神戸尊と共にとある男と面会を行っていた。

その男とは瀬戸内米蔵。

以前は衆議院議員で一時は法務大臣まで上り詰めたが

兼高公一の事件で自身が不正を行った件が発覚したことにより逮捕された。


「やはり仮釈放請求は通りませんでしたか。」


「ああ、こうして自分の過ちを悔やむことになるとは皮肉なもんだ…」


瀬戸内は逮捕後も小野田と度々面会を行っていた。

その理由は小野田の旧友にして国際的テロ組織赤いカナリアの幹部である本多篤人。

実は小野田は生前、

赤いカナリアが本田の釈放と引き換えに都内で炭疽菌を散蒔くと脅迫された。

その事件は右京たちの協力もありなんとか未然に防がれた。

それでも犠牲が大きかった。

この事件に当たっていた公安の人間が

暴走を起こし首謀者である赤いカナリアのメンバーが殺害された。

この事件で小野田は誰の犠牲も出ない事件解決を望んでいた。

そんな小野田の願いも虚しく大きな犠牲が出てしまった。

そのことを悔やんだ瀬戸内は仮釈放を申請。理由は小野田への弔いを行うためだ。

だがその申請は結局通らず代わりに右京たちに小野田の墓参りに行ってもらった。

75 : 以下、名... - 2018/03/13 23:17:10.43 cw/0nUsY0 73/293


「小野田くんが亡くなって早一年か…俺よりも若いくせに先におっ死んじまうとは…」


「人間の生き死に年齢は関係ないですよ。
こればかりは運命としか言いようがありませんよ。」


「運命…ですか…もしかしたらそうだったのかもしれませんね…」


「どうしたんだい杉下くん?何か知っているような顔をしてるが。」


「実は…亀山くんが警察を辞める前に妙な事を言っていたのを思い出しまして…」


それから右京はこの場にいる神戸と瀬戸内にあることを打ち明けた。

それはかつて佐伯家で起きた殺人事件。

その直後、亀山が言っていた奇妙な発言と小野田の死についても…


「佐伯といえば確か練馬区で起きた惨殺事件の犯人ですよね。
犯人は捕まったけどその日の夜に警視庁の拘留所で死んだと聞いています。」


「それに佐伯俊雄、事件当時9歳の少年も未だ行方不明。
当時警察は少年の行きそうな場所を徹底的に調べたのですがねぇ…」


事件から3年経過した現在でも佐伯俊雄の行方は明らかになっていない。

世間ではやはり父親に殺された死亡説が出回っているが

その死亡説を確かめようにも肝心の遺体すらまだ発見されておらず

まるで神隠しにあったかの如く忽然と消えたままだ。

そういえばと右京はかつて亀山が言っていたあることを瀬戸内に尋ねた。

76 : 以下、名... - 2018/03/13 23:18:22.89 cw/0nUsY0 74/293



「ほう、亀山くんはその俊雄少年の事についてあの世の住人になったと言ったのかい。」


「ええ、僕には皆目見当も付かないので。
よろしければ仏法に御詳しい瀬戸内先生ならご存知ではないかと思うのですが…」


「そりゃアレだな、『亡者』の事じゃねえのかな。」


「お言葉ですが亡者とはなんですか?」


「生臭坊主の説法になるがね、
亡者ってのは何らかの理由で死んでしまい成仏できずに彷徨う魂のこった。
そんな連中が何を思って彷徨うかわかるかい?」


「さあ、何でしょうかね。」


「恨みだよ。
連中は生前何か強い想いを現世に残しちまった哀れな連中なわけだ。
それが…やがて呪いを生む。」


「呪い…ですか?
この近代科学が発達した21世紀の時代に呪いだなんて…
お言葉ですが前時代的過ぎますよ!」


呪いなど馬鹿げている。

いくら瀬戸内が元々は仏門の家柄だったとはいえ彼は法務大臣だった男だ。

そんな法に正通した彼が呪いなどと思わず神戸は苦笑する。

だが瀬戸内に至ってはかなり真面目だった。


77 : 以下、名... - 2018/03/13 23:19:30.12 cw/0nUsY0 75/293



「呪いに時代なんて関係ねえさ。ただ深い業があればそれでいい。
だからこそ殺人事件なんて血生臭い行為が未だに行われているわけじゃねえか。
それは俺なんぞよりもキミたちの方がよく理解してるんじゃないのかい。」


「仰る通りです。そうなると俊雄くんは…」


「仏法では親より早く死んだ子供は
三途の川へ連れて行かれて石を積まなきゃならんと言われている。
だが…もしもだ…俊雄くんが生きて亡者となっていたとしたらだ…
恐らくそいつは現世に留まり…より強力な呪い、つまり『呪怨』を生むんじゃねえのかな。」


呪怨、それは右京と神戸が初めて聞く言葉だ。

文字にするだけでも禍々しいものを感じさせるその言葉。

これにどんな意味があるのか?


「こりゃ俺が作った造語だからな、辞典になんか載ってねえんだがね。
意味は…強い恨みを抱いて死んだモノの呪い。
死んだモノが生前に接していた場所に蓄積され、『業』となる。
その呪いに触れたモノは命を失い、新たな呪いが生まれる。
つまりだ、呪いの連鎖ってモンは簡単に断ち切れないって事さ。」


それは普段、殺人事件に関わる右京たちには妙に実感できる話だった。

呪いの連鎖、かつて佐伯家で起きた事件はまさにそれに当てはまるものだ。

この話をした瀬戸内はこんなものは年寄りの戯言だから聞き流せというが

右京にはこの話こそあの事件の核心を突くものに思えてならなかった。

こうして要件を済ませた二人は拘置所を去った。


78 : 以下、名... - 2018/03/13 23:20:42.68 cw/0nUsY0 76/293


警視庁に戻るとすぐに内村部長に呼び出された。


その理由というのが以下のものだ。


「引き篭り少年の更生…?」


「そうだ、先日練馬署の少年課が奇妙な行動をする少年を補導してな。
親御さんに聞いたところ少年は引き篭りとのことだ。そこで…お前らも一応大人だ。
いいか!その少年を学校に通わせるようにしておけ!」


ある意味、嫌がらせにも近い仕事を押し付けられた特命係。


頼まれたらどんな仕事でも引き受けるのが特命係の役割だ。

そんなわけで戻って早々に右京たちはその引き籠もりとなっている少年こと

鈴木信之という中学生の少年を訪ねることになった。



79 : 以下、名... - 2018/03/13 23:22:01.89 cw/0nUsY0 77/293



「いやあ、まさか警察の方が息子にここまで親身になってくれるとは思いませんでしたよ。」



ここは鈴木信之の父親が経営する不動産屋。

鈴木信之は母親を亡くしており、

現在は父親の達也と二人暮らしの父子家庭という事情のために職場を訪ねていた。


「すみませんねえ。わざわざ職場の方に来て頂いて…
女房がいればこんな事にはならなかったんですがね。
しかしまさか警視庁の刑事さんが来てくれるとは思いませんでしたよ。」


「いえいえ、警察は市民の味方ですから。」


「単に面倒事を押し付けられたとも言いますが…」


父親の達也に愛想笑いを浮かべる右京と隣で皮肉を呟く神戸。

そんな話はさておいて達也は右京たちに息子の信之の家出の奇行について説明した。

信之はここ最近誰とも喋らず、毎日部屋に閉じ籠って

何も映らないTVをジッと眺めている

その光景はまるで何かこの世のモノではないモノを眺めているかのようだと達也は語った。


「…という訳なんですが…」


「そう言われましても…僕たちはその手の専門家じゃないので…」


思春期の少年というのは奇行に走りがちだと聞く。

世間でいうところの中二病の一種か何かじゃないかという節もあり

神戸はそこまで深刻だとは思わなかった。

もしもそこまで深刻なら精神科のカウンセリングでも受ければいい。

元々の専門外である自分たちにはそのくらいしか助言はできなかった。

そんな神戸を尻目に右京はこの不動産屋の表にある物件を眺めていた。

そこで気になる物件を見つけた。

80 : 以下、名... - 2018/03/13 23:24:00.47 cw/0nUsY0 78/293



「まあ…まずは信之くんと直に会ってみましょう。話はそれからという事で…
ところでひとつ聞きたい事があります。
これは僕の個人的な興味なのですが、
確かこの近所で三年前に佐伯という一軒家で殺人事件がありましたね。
あの物件…売れたのですか?」


「ええ、おかげさまで。それがどうかしたんですか?」


「表に貼られている中古物件の一覧を見ましたら佐伯家の物件が、
売買済になっていましたのでどなたが購入されたのか気になりましてね。
ちなみにあの事件に僕も関わっていましたのでその後の状況を聞いてみたくて…」


「すみませんね、細かい事が気になる人なんですよ。
けどそれって事故物件ですよね。そんな訳あり物件がよく売れましたね?」


「まあ…そこはどうにかしてといった感じで…」


神戸の少々きつい質問に戸惑いながらも苦笑いで曖昧な返事をする達也。

まあ購入者の事情など様々だ。

旧佐伯家の物件は中古で自己物件とはいえ都内23区に位置する庭付きの住宅。

たとえ曰く付きとはいえ多少の問題に目を瞑れば購入する人間もいるはずだ。

そんな経緯からその自己物件が売れた事情は察することなど容易だ。

だが問題はそんな曰く付きの物件に手を出して購入者には何の異常もないのかという点だ。

どうやら問題がないわけではないようだ。

達也はその物件についてあることを語りだしだ。

81 : 以下、名... - 2018/03/13 23:25:06.74 cw/0nUsY0 79/293



「ここだけの話にしてもらえると助かるんですけど…
実は…あまり大きな声では言えませんが…
あの物件ですが…あの後入った家族が…自殺しましてね…
それで売る前に霊能力のある妹の響子にその物件を見てもらったんですよ。」


「妹さん…霊能力者なんですか…?」


「妹は昔から変なモノが見えるって言ってましたので、
それで見てもらったんですけど…その時に妹が変な事を言ったんですよ。
『購入する人間に清酒を飲ませろ。もし吐いたりしたら絶対に売るな!』と…」


何故そこで清酒が出るのか?

それを疑問に思う神戸に対して右京が補足するようにある説明を行った。

清酒には古来から霊的な作用があると伝えられている。

もしもその家に悪霊がとり憑いていれば清酒に霊を移り、

その清酒が一瞬にして腐る作用がある。

妹の響子は清酒の反応でその家に悪霊がいないか確かめようとしたのかもしれない。


「まあ……そんな心配はありませんでした!
無事に物件も売れましたし♪それじゃちょっとウチの方へ行きましょうか!」


確かに曰く付きの事故物件だが売れてしまえば問題ない。

そう能天気な発言をする達也。

そんな達也とは反対に今の話でどうにも腑に落ちない点がある右京。

とりあえず達也に案内されて彼の自宅へと赴くのだが…

なんとその自宅だが、先ほど話題となった佐伯家の元家主である佐伯剛雄の犯行現場。

つまり被害者の小林真奈美が惨殺されたアパートだった。


84 : 以下、名... - 2018/03/14 06:09:11.33 VKN7a1Ov0 80/293



「それじゃここって…あの小林一家の元住居なんですか!?」


「ええ、間違いありません。
それにしてもまさか…その部屋に住まわれていたとは…」


右京から当時の事件を聞かされて驚きを隠せない神戸。

よくもまあこんな物件に住み着けるものだと呆れ返った。

これなら息子の信之が引き篭るのも当然ではないかと思うほどだ。

その事について達也に尋ねてみたところ返事はというと…


「いやあ、さすがにここは誰も入りたがりませんからね。
それなら自分で使った方が得でしょう。
私たちは幽霊とか信じてませんから大丈夫ですって!」


「そんなモンなんですかね…」


「気にしない人なんでしょうね。」


かつて佐伯剛雄が妊婦の小林真奈美を殺害後、お腹の子供すら惨殺してみせた凶悪事件。

その犯行現場に住み着くなどさすがに正気の沙汰を疑いたくもなるが…

さて、そんな時だった。

85 : 以下、名... - 2018/03/14 06:11:47.93 VKN7a1Ov0 81/293



「ちょっと!いるんだろ!開けとくれよ!」


隣室に住んでいると思われる老婆が達也の住む部屋をノックしていた。

それにしても明らかに強く叩いている。

状況から察するに何か急を要する事態なのだろう。

そんな老婆に達也が声をかけた。


「何なんですか!そんなにノックすることないでしょ!」


「鈴木さん!
実はねえ今お宅で若い女の悲鳴と赤ん坊の泣き声がしたのがしたのよ!
まったく喧しいったらありゃしないわ!」


女の悲鳴と赤ん坊…?

それはありえない。鈴木一家は父と息子の父子家庭だ。

当然若い女と赤ん坊など存在しない。

だが老婆は間違いなく女の悲鳴と赤ん坊の鳴き声を聞いたという。

そのことを不審に思った右京と神戸は鈴木宅の玄関ドアを開けてみた。

家の中はどうやら引越ししてきたばかりなのか荷物がろくに荷解きされてない様子だ。

ダンボールやそれにこれは父親の達也の酒乱癖なのかビール缶があちこちに散乱している。

そんな家の様子を伺いながら右京たちは部屋の奥へと入った。

86 : 以下、名... - 2018/03/14 06:12:52.30 VKN7a1Ov0 82/293



「あ…あぁ…あ…」


するとそこにはとある若い女性が白目を向いて気絶していた。

さらにもう一人中学生ほどの少年が無言のまま体育座りで何も映らないTVを眺めていた。


「響子!信之!?おい!どうしたんだ!しっかりしろ!?」


どうやらこの二人、達也が事務所で話していた息子の信之と妹の響子のようだ。

達也は何度も二人に呼びかけた。

だがどういうわけか二人はその呼びかけに応じない。

この部屋で何が起きたのか?

そんな疑問を抱く中、信之があることを呟きだした…

87 : 以下、名... - 2018/03/14 06:14:26.00 VKN7a1Ov0 83/293



「男の人が…隣の部屋で…女の人を…包丁で刺し殺していた…」


信之の言葉を聞いた右京と神戸はすぐに隣の部屋を確認するが…

だがそこには何もない。

ちなみに隣の部屋は台所になっている。

その台所だが右京はかつてこの台所で起きた惨劇を思い出した。


「この台所、かつての被害者小林真奈美さんが殺害されたのは確かここでしたね。」


「ねえ信之くん、他に何を見たんだい?」


「その男の人…女の人のお腹から…赤ちゃんを取り出していた…」


かつて佐伯剛雄が犯行に及んだ惨殺事件。

今の信之の証言は確かにその時の状況と一致する。

だがそれはもう過去の話だ。何故今更そんなことになるというのか?

まさか信之は過去の映像でも見ていたとでもいうのか?

それこそありえない話だ。

きっと父親からこの部屋で起きた事件を聞いたから

勝手に作り話をでっち上げているに決まっている。

思春期の年頃にはよくある話だと神戸は思ったのだが…

とりあえず響子を安静にさせるべく神戸と達也は寝かしつけていた。

その間に右京は家の中をいくつか物色してみると幾つか気になるモノを発見した。

それは玄関に捨てられていたお札、それに台所に置いてあった清酒の入った瓶だ。

88 : 以下、名... - 2018/03/14 06:16:02.27 VKN7a1Ov0 84/293



「お札に清酒?こんな物がなんだというんですか?」


「このお札…僕は専門家ではないのでわかりませんが…
これは恐らく悪霊退散のお札じゃないのでしょうかね。
考えてみればこの物件は事故物件です。
このようなお札が一枚貼られていてもおかしくはないでしょう。」


「それじゃあ…その清酒は…」


「そう!問題はこの清酒ですよ。神戸くんちょっと飲んでみてください。」


勤務時間内だというのに酒を飲んでもいいのかとつい疑問を抱いたが…

それでも右京のことだ。何か意図があってのことにちがいない。

そう直感した神戸は家主の達也に断りを入れて

コップに一口分の清酒を注いでそれを飲んでみた。

303 : 以下、名... - 2018/03/14 17:23:40.64 VKN7a1Ov0 85/293



「ブハァッ!オゲェ!ゲホッ!ゲホッ!何ですかこのお酒!?酷い味だ!?」


「酷い味ってそんな…つい三日前に買ったばかりですよ…?」


あまりの酷い味に清酒を吐き出してしまう神戸。

他人さまの家でさすがに失礼だと思われる行為だが本当に最悪な味だった。

普段はワインを嗜む派の神戸でも清酒が飲めないわけではない。

だが飲んだ瞬間、まるで全身に吐き気を催す程の悪寒が過ぎった。

それほどまでにこの酒は最悪なモノだった。

89 : 以下、名... - 2018/03/14 06:16:55.87 VKN7a1Ov0 86/293



「それでこの腐った清酒がどうしたというんですか?」


「この家にはビール缶が散乱していました。
少し変だと思いませんか?
ビール派の人間が清酒を飲もうとするのは僕としては引っ掛かるんですよ。」


「お言葉ですが…ビール派の人間だって清酒くらいは飲みますから!」


「勿論その可能性はあります。
しかし問題は何故この清酒が数日前から台所に放置されているのかです。
ビール缶が散乱している状況からして達也さんはかなりの酒豪だと伺えます。
それでは何故、数日前に買った清酒を飲みもせずに台所に放置したのか?
もしかしたらこの清酒は達也さんが本来飲むために買った物ではなく
別の使用目的のために購入したのではありませんか。」


右京の推理に神戸は不動産屋で達也が語っていたことを思い出した。

それは霊能力者の響子が達也に旧佐伯家を購入する者に清酒を飲ませろと指示したことだ。

つまりこの清酒の使い用途は旧佐伯家へのお祓いを行うためのものだった。


「でも…それだと…やっぱりおかしいですよ。
何でその清酒が使われないでこの家にあるんですか?
確かその佐伯家はとっくに売買済にされたと鈴木さんは言っていたはずです。
あ、まさか…」


「そう、達也さん。
あなたは響子さんの忠告を無視してあの物件を売ってしまったのですね。」


この指摘を受けて達也もさすがに気まずくなってしまった。

幼い頃より妹の響子と接してきた達也は彼女の霊能力者としての力を信じていた。

だが自分たちにも生活がある。

あの物件が欲しい購入者がいるなら売らなければならない。

そのため達也は響子の忠告を無視してあの物件を売ってしまったそうだ。

90 : 以下、名... - 2018/03/14 06:17:38.46 VKN7a1Ov0 87/293



「こっちだって商売なんですよ!
いくら事故物件だからって都内にある物件を遊ばせとくなんて出来るわけがないでしょ!
それに…一応先方の方には前もって事故物件だと知らせてありますし…」


「確かにあなたの行いに違法性はありません。
それに響子さんと信之くんの状態が
こんな風になってしまったのも決してあなたのせいだとも言えません。」


「けどこうなった以上はあの物件から手を引いた方がいいですよ。
それにこの部屋からも出るべきですよ。
少なくとも信之くんはなんらかの悪影響を受けているのは間違いないはずですから。」


確かに生活のためとはいえ、息子と妹は最悪な状態に陥った。

それでもいきなり見ず知らずの刑事たちから

家を出て行けと言われてはいそうですかと納得できるわけもない。

二人だって暫く安静にしていれば落ち着くだろうと達也は高を括っていたのだが…

91 : 以下、名... - 2018/03/14 06:18:25.74 VKN7a1Ov0 88/293



「 「ギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!??」 」


突然、寝かしつけていた響子が悲鳴を上げながら起き上がってきた。

それは最早異常としか言いようのない光景だ。

なんとか必死に落ち着かせようとする達也。だが…


「もうダメ!みんな…みんな殺される!?」


みんな殺されると、響子は発狂しながらもこの場にいる右京たちに何度も訴えた。

それがまるでこの部屋に潜む得体の知れない何かに抗っているように思えた。


「刑事さん…俺たちどうしたらいいんですか…」


「とりあえずこの家を出る事をお勧めします。
息子の信之くんと妹の響子さんを連れて暫くご実家へ預けておいた方が良いと思います。
神戸くん、僕らは明日かつての佐伯家に行きましょう。」


「まさか杉下さんは旧佐伯家にも何かあると疑っているんですか?」


「そう考えるべきだと思いますよ。この状態の響子さんを見ればね…」


確かに響子の状態は普通ではない。

右京たちは精神科のカウンセラーなどではないが

それでも彼女が異常であることくらいはわかる。

その原因が環境にあるのならこの場から遠ざけるべきだと助言してみせた。

「わかりました。それで現在佐伯家に入居している方は何というお名前ですか?」


「今は北田さんという夫婦が住んでます。
けど刑事さん…私は今朝お伺いしましたがその時の北田さんは至って普通でしたよ?」


「一応念のためにですよ。まあ何事も無ければ良いのですが…」


こうして右京と神戸に見送られながら達也は急ぎ家から響子と信之を連れ出した。

先ほど発狂した響子は家から連れ出された後もコクリ…コクリ…と頷き続け

まるで何かに憑りつかれたかのように奇怪な行動を取っていた…

92 : 以下、名... - 2018/03/14 06:19:12.84 VKN7a1Ov0 89/293


翌日―――


「神戸くん、遅いですねぇ。」


右京は一人、東京都練馬区寿町4-8-5の住所へとやってきていた。

そこはかつて佐伯家のあった場所で現在は北田という一家が暮らしている。

その家の前で右京は相棒の神戸が来るのを待っていた。

遅れること30分、ようやく愛車のGT-Rに乗った神戸が現れた。


「すみません。お待たせしちゃいましたね。」


「大丈夫ですよ。ところで遅れた理由はなんですか?」


「実は免許の更新に行ってきたんですよ。」


これが証拠だとでも言うかのように神戸は更新したばかりの免許を右京に見せた。

なにやら自慢したがっているがその理由は免許の種別がゴールドだからだ。

これは当然のことだが無事故、無違反の場合

運転手の免許区分はゴールドに区分けされている。

ちなみに神戸は2年ほど前に右京たちがERS(顔認証システム)の事件で

違反を犯したと疑われたが神戸があれはシステムの誤作動だと猛抗議してみせた。

その結果、ゴールド免許を保持することができたとのことだ。


93 : 以下、名... - 2018/03/14 06:19:48.31 VKN7a1Ov0 90/293



「あれは顔認識システムの誤作動だと蒙抗議しましてね…
その甲斐あってゴールドになった訳ですよ。
ちなみにパンチ穴の開いた前の免許証も記念に貰ったんですけど見ます?」


「ドヤ顔は結構、行きますよ。」


普段は右京に運転の荒っぽさを注意されている神戸だが

自身が無事故無違反を象徴するゴールド免許をこれみよがしに自慢してくる。

そんな神戸を尻目に右京はとある一軒家の前に立った。

そこはかつて旧佐伯家、正確には既に北田という夫妻が購入した物件だ。

昨日の響子を見るにこの家でまたもや何かが起きていることだけは確かだ。


「はーい!あら?どちらさまで?」


「失礼、警視庁特命係の杉下という者です。」


「同じく神戸です。実はちょっとお話があるのですが…」


「わかりました。どうぞ中へ入ってください。」


旧佐伯家から出てきたのはこの家の現住人である北田夫婦の妻である良美。

彼女は訪ねてきた特命係を快く家に招こうとしていた。

こうして二人はさっそく家の中に入ろうとした時だ。

94 : 以下、名... - 2018/03/14 06:20:37.77 VKN7a1Ov0 91/293



「失礼、僕は後からにします。神戸くんだけ先に家の中に入ってください。」


こうして神戸だけが先に家の中に入っていく。

その間に右京はあるモノに注目した。それはこの家の玄関前のポストだ。

見るとそこには3日ほど新聞や郵便物が放置された状態だ。

これが長期間の留守ならわからなくもない。

だがこの家の住人は先ほどの良美からしてちゃんと在宅している。

それがどうしてこんな放置された状態になっているのかどうにも奇妙だ。

だが右京にとってさらに奇妙なことがあった。


「おや、奥に何か挟まっていますね。」


他の郵便物の他に何かがあることに気づきそれを取り出してみせた。

だがそれは…本来なら…この家に存在するはずのないものだった…

95 : 以下、名... - 2018/03/14 06:21:09.82 VKN7a1Ov0 92/293



「これは…日記…?」


そう、右京が取り出したモノはかつてこの佐伯家で起きた惨殺事件で

佐伯一家の遺品となった伽椰子の日記だった。

だが本来、この日記はここに存在するはずがない。

何故ならあの事件後、

この日記は事件の本来なら俊雄の絵と共に

証拠品として警視庁の遺留品置き場に保管されていたはずだ。

それがどうしてこの家のポストに挟まっているのか?

これはまさしくこの家でまた何か奇妙な事件が起きているという明らかな証拠だ。

そのことを察した右京は急いで先ほど家の中に入った神戸の身を案じ

自身もまたすぐに家の中に入ろうとしたその時だった。

96 : 以下、名... - 2018/03/14 06:21:41.95 VKN7a1Ov0 93/293



「待ってください!」


誰かがいきなり背後から右京の肩を叩いた。

それは明らかに聞き覚えのある声だ。

ふと振り返るとそこには意外な人物がいた。


「ハァ…ハァ…なんとか間に合ったようですね…」


なんとそこにいたのは先ほど家の中に入ったはずの神戸だ。

これはありえない。

神戸が家から出てきたのなら

すぐにわかるはずなのに神戸は明らかに家の外から自分の肩を叩きに来た。

つまり神戸は家の外から現れたということだ。


「神戸くん…先ほど家の中に入ったキミがどうしてここに?」


「杉下さん!ここはもう危険です!早く逃げましょう!」


「はぃ?」


家の中に入って行った神戸が急に背後から現れた。

それだけでも奇妙なのにそれだけでなく家から逃げろという発言。

いつもの右京ならそんな言葉には従えなかったろう。

だがこの時何故かかつて亀山が言った

この家に絶対に入るなという忠告を思い出し、神戸の言う通りすぐさま立ち去った。

97 : 以下、名... - 2018/03/14 06:22:20.61 VKN7a1Ov0 94/293



「…」


そんな右京と神戸が立ち去る姿を窓越しから良美は不気味な目つきでジッと眺めていた。


「あの…奥さん、どうかなされたんですか?」


「いいえ、それよりもお連れの刑事さん遅いですね。」


なんとそこには奇妙な事に、

先ほど右京と一緒に出て行ったはずの神戸が、

何故か良美と一緒に家のリビングで彼女に勧められるままお茶を飲んでいた。


「あの人のことですから
きっと細かいことが気になってるんですよ。お気になさらないでください。」


ニッコリと営業スマイルで神戸は右京の行動を

いつものことだと気にせずマイペースでお茶を飲み続けていた。

だが言われてみれば確かに遅い。まさか本当にこの家には何かあるのか?

そう考えた神戸はお手洗いに行くと伝えてリビングを出て

怪しまれない程度にこの家の様子を探ってみることにした。

そこでふと目にしたのが台所だ。その台所の前に一枚の絵が置かれていた。

98 : 以下、名... - 2018/03/14 06:22:52.87 VKN7a1Ov0 95/293



「これは…子供が描いた絵…?」


気になって絵を調べると意外なことがわかった。裏面に書かれていた名前は佐伯俊雄。

かつてこの家で行方不明になった男の子の名前だ。

それがどうして台所の前に置かれていたのか?

嫌な予感がした神戸は台所の扉を開けてみた。するとそこではある男が倒れていた。


「しっかりしてください!…ダメだ…もう死んでる…」


すぐさま倒れている男を介抱しようと駆け寄るがその身体は既に冷たかった。

察するに死後2日近くが経過している。

死体が苦手な神戸はそれを直視することは出来ないが

倒れている男の死因は明らかに頭部を殴打されたことによる撲殺。

幸いにもこの男は身元を証明する持ち物を所持していた。

それで判明したことだがこの男の名は北田洋。現在のこの家の主であり良美の夫だ。

だがこうなると事態は最悪だ。その理由は妻の良美にある。

こんな台所に二日近くも倒れている夫に気づかないはずがない。

さらに言うなら神戸が先ほど飲んでいたお茶もここで汲んでいた。

つまり良美はこんな死体が放置されている場所で招いた客人に平然とお茶を出していた。

そう思うと神戸は不快極まりない吐き気に襲われた。

99 : 以下、名... - 2018/03/14 06:23:21.01 VKN7a1Ov0 96/293



「鬱陶しかったんです…」


「コーヒーの豆がブルーマウンテンじゃないとダメだとか卵の黄身を半熟にしろとか…」


「私もう…良美じゃないのに…」


そこへ背後から良美が忍び寄ってきた。

その手には何故かフライパンが…しかもそのフライパンには血痕が付着していた…


「あなた…まさか…そのフライパンで…」


「ええ、夫を殺しました。こんな風にして…」


その瞬間、ガンッと大きな衝撃音が響いた。

神戸は良美のよってフライパンで頭を殴られてそのまま床に倒れた。

その良美の背後には白塗りのゾンビのような姿をした少年が現れ、

良美は手を繋いで先ほどまでいたリビングへと戻っていった。

倒れた神戸の手には先ほど見つけた俊雄の絵が固く握りしめられていた…

100 : 以下、名... - 2018/03/14 06:24:02.65 VKN7a1Ov0 97/293



その頃、先ほどGT-Rに乗り急いで佐伯家を後にした右京と神戸だが

右京は何故あの家から立ち去らなければいけないのかを神戸に尋ねたが返答は…


「すみません…今は言えません…」


「やはりキミも同じ事を言うのですね。かつての亀山くんもそうでした。
何の説明もなくあの家から避難しろとの一点張り、一体キミたちは何を見た…
いえ、何を知ったのですか?」


「本当にすみません…今は言えないんです!」


「そうですか。
ところでキミ…頭から血が出てますが怪我しているのですね。
どこでそんな怪我を負ったのですか?」


「そうか…さっき思い切り殴られたからな…痛たた…」


神戸は手で血を拭おうとした時だった。

右京の手元に置かれていた絵とそれに日記を見て思わず驚いた。

それを見て右京はまたもや奇妙に思えた。

何故なら神戸にはこの絵と日記のことに関してはまだ伝えていないはずだ。


「……恐らく僕がまた北田さんのところに戻ると言ってもキミは反対するのでしょうね。」


「ええ、お言葉ですが断固として阻止します。」


「…それでは鈴木さんの実家に行ってもらえますか。僕の考えが正しければ恐らく…」


「わかりました。
けど期待はしないでください。誰か一人でも生き残ってれば御の字なんですから…」


こうして神戸は車を反転させて一路、鈴木達也の実家に向かうことにした。

既に事態は最悪な展開を迎えつつある。それでも誰か一人でも助けられたらいい…

そんな思いを募らせながら二人が乗ったGT-Rは鈴木達也の実家へと急行した。

101 : 以下、名... - 2018/03/14 06:25:18.21 VKN7a1Ov0 98/293



「夜分にすみません。警視庁の杉下という者ですが…」


それから数時間掛けて鈴木達也の実家に到着した。

既に時刻は真夜中、本来ならこんな時間に尋ねるべきではないのは重々承知している。

だがこの緊急事態のため急いで鈴木親子の所在を確認しなければならない。

だから何度も玄関をノックしたのだがどういうわけだか応答がない。

この家の車も自転車もあるから外出した形跡は見られない。

こうなれば強硬手段も致し方ないと思いベランダから乗り込もうとした時だ。


「あ…刑事さんたち…」


玄関から達也の息子である信之が現れた。

とりあえず伸之の無事を確認することはできた。

だが他の住人はどうなったのか?急いでそのことを尋ねてみるのだが…

102 : 以下、名... - 2018/03/14 06:26:01.17 VKN7a1Ov0 99/293


「みんな…みんな…死んだ…あの女の人と…子供が…」


女と子供。信之の話を聞いて右京たちはすぐさま家の中へと入った。

だがそこでは最悪な光景があった。

居間にてこの家の主である鈴木泰二とその妻ふみの死体があった。

二人の死に顔はまるで何か得体の知れないモノに恐怖し…

それから逃げようとした態勢で死んでいた。

さらにもう一人、部屋の奥で不気味に笑う女の姿があった。響子だ。


「…フフフ…ハハハ…」


達也のアパートで発狂した彼女は

最早正気ではなく赤ん坊の人形を抱えて狂ったようにあやしていた…

それを見た二人はまるで子を想う母の姿に重ねてしまった。

その後、神戸の通報を受けた地元警察が到着。

二人の死因は心臓麻痺によるショック死と診断され事件性は無いと判断された。

生き残った響子と信之だが響子は精神病院に入院させられ、信之も…

父親である達也は何故か行方不明になったために遠縁の親戚に預けられる事になった。

こうしてこの事件は一応の幕が閉じられようとした。 だが…

103 : 以下、名... - 2018/03/14 06:26:30.14 VKN7a1Ov0 100/293


「納得いきません。
どうもあの家では佐伯家の事件以来奇妙な事ばかりが起きています。
これは最早事件性があると僕は判断します。」


「杉下さん…いくら僕らがそう訴えても
上は鈴木一家の事件を事故死と判断して捜査を打ち切っています。
それに…いくら探したって証拠なんか出やしませんよ…」


事件はまだ終わっていない。そう結論づける右京とそんな右京を宥める神戸。

いつもなら右京の独断を宥めつつも

神戸自身もまた真実を知るためなら茨の道を突き進むタイプだ。

だが今回に限っていえば彼は消極的だ。

そんな神戸の事件に対する態度に右京はかつての相棒の姿を重ねていた。


104 : 以下、名... - 2018/03/14 06:26:58.48 VKN7a1Ov0 101/293



「そして僕が最も気になるのはキミの捜査に対する態度です。
以前の亀山くんもそうでした。
あの家で何かがあった直後、キミと同じくこの事件に消極的になってしまった。
彼は警察を辞めるまであの事件について何も語ろうとしなかった。
恐らくキミと同様の何かを体験したのではないのですか?」


「やっぱり…何か気付いちゃいましたか…」


「これを見てください。
北田さん宅のポストに入っていた絵とそれに日記です。
本来ならこの二つの物品は佐伯家で起きた事件の証拠品として
この警視庁の遺留品倉庫に保管されていなければならないものでした。
それがどういうわけか人知れずあの家に戻っていた。おかしいと思いませんか。」


「杉下さんは何が言いたいんですか…?」


「かつて僕もあの家で彼女の佐伯伽椰子の日記を読みました。
内容は小林俊介へのストーキング行為に関する記載でした。
佐伯伽椰子、それに彼女の息子俊雄、
僕にはまるでこの二人があの家に近付く者たちに不幸を与えているように思えます。」


これまでに犠牲になった人間たち。

加害者である佐伯剛雄をはじめ小林俊介、その妻の真奈美、

さらに鈴木達也、それに彼の父親に母親、響子など彼らはあの家に関わった。

いや、厳密に言えば家ではなく人に関わったからではないか?

右京はこの事件の背景にはまだ得体の知れない何かが潜んでいる気がしてならなかった。

105 : 以下、名... - 2018/03/14 06:29:21.81 VKN7a1Ov0 102/293



「杉下さん…あの家に行く気ですね…」


「行きます!恐らく北田さん夫婦にも何か危険が迫っているはず。
…いえ…もう何かが起きてしまっていると考えるべきではないでしょうかね。
キミのその頭の怪我ですがそれは北田さんの奥さんにやられたモノですね。」


右京からの指摘を受けて神戸はガーゼで止血されている自らの頭部を摩った。

その指摘通り確かにこれは北田良美によって殴打した負傷だ。

神戸が証言すればすぐさま良美を傷害の現行犯で逮捕することも可能だが…


「フフ、そこまでわかってしまうとは…
けどそれでもあの家に近づけさせませんよ。
それにもう…北田さんたちは手遅れでしょうね。あの夫婦もきっと…今頃は…」


「手遅れ…ですか?」


「ええ、間違いなく。
だからあの家には絶対に近付かないでください。
それとこれから僕の言う事を絶対に守ってほしいんです!
もしこれから先に奇妙な少年や女性が現れても絶対に近付いたり話しかけたりしないで!
あと数年…いや二年以内に今よりももっと悲惨な事態が起きます!
それまで絶対にあの家には近付かないで…ください!
そして…これはあまり関係ないかもしれませんが…
その頃には僕は特命係にはいないかもしれません…」


「いきなり話が変わりましたね。それは何故ですか?」


「実はその辺の事情が僕にもわからないんですよ。おかしいですよね…自分の事なのに…」


鬼気迫る神戸の訴えはかつて警察を辞めてでも右京を止めた亀山のそれと酷似していた。

二人がこんな意味のない行動をするはずがない。これにはきっと理由がある。

だが今はそれを聞く時ではない。

結局3年前と同じく右京は相棒の頼みを聞くしかなかった。

106 : 以下、名... - 2018/03/14 06:29:49.48 VKN7a1Ov0 103/293



それから数ヶ月後―――


「大河内さんが僕を呼び出すなんて珍しいですね。どういった風の吹き回しですか?」


「実は先週、城戸充という男が自殺してな…
その男がこんな遺書を残していたんだ。
内容は自分が無実である事、そして神戸…お前の事を絶対に許せないというモノだった。」


「僕を許さないって…まさか…」


「それともうひとつ、
これは関係ない話だが遺体があった現場には…奇妙な少年がいたらしい。
その少年は肌に生気が無く…
尋ねると妙な奇声を上げて何処かへ消えるようにいなくなった。
まるで猫が鳴くような声をしてな…」


その後特命係が捜査した結果、城戸充の冤罪が判明。

当時その裁判で神戸は嘘の証言をしてしまった事を悔やみ、

この事が後々尾を引く結果となった。

その後、元警視庁副総監の長谷川宗男により神戸は否応無しに特命係を去る形となった。


107 : 以下、名... - 2018/03/14 06:30:36.93 VKN7a1Ov0 104/293



××××××××××××


「ますますわからん。どうなっているんだ?」


それが神戸の関わった

2011年に佐伯家を廻って起きた事件のファイルを読んだ冠城の感想だ。

またもや不可解な謎が残ったままだ。

未だに失踪したままでいる鈴木達也、それに北田夫妻も…


「ファイルを読む限りだとこの三名は結局行方不明のままですね。
どちらも失踪届すら出されていないようですし
身内に心配してくれる人間がいなかったんですね。可哀想に…」


わざとらしく悲しい素振りを見せながら語る青木に冠城は疑問を抱いた。

失踪届が出されていない?

それはおかしい。北田夫妻はともかく鈴木達也は当時の特命係と関わっていた。

つまり右京たちが鈴木達也の失踪届を出していないということになる。

馬鹿な、鈴木達也には息子の伸之と精神病院に送られたが妹の響子がいたはずだ。

家族が居る達也のために失踪届を出さないなんてありえない。

それにもうひとつ言えば神戸だ。ファイルを読む限りだと彼はこの家で何かを目撃した。

そしてそのことを右京に隠している節があった。

彼とは以前にとある事件繋がりで会ったが

あの杉下右京と3年近くも共に相棒を組んでいた男がこんな無意味な行動を起こすか?

答えは否だ。彼もまたかつての亀山薫と同じく何かを隠している。

108 : 以下、名... - 2018/03/14 06:31:16.79 VKN7a1Ov0 105/293



「ちなみに神戸さんが関わった事件はこれですね。」


青木が警視庁のデータベースで検索したのは城戸充という男が関わっていた事件だ。

事件の発端は1996年、当時彼は被害者である綱島瑛子にストーカー行為に及んでいた。

当時、彼女は知り合いの神戸に城戸の件を相談。

神戸は警察官として彼に何度もストーカー行為を止めるように警告を促した。

そんな時に綱島瑛子は殺害された。容疑者として浮かび上がったのは城戸充。

だが城戸は犯行を否認、それどころか面識のあった神戸に助けを求めた。

そんな神戸だが親しかった綱島瑛子の死により彼に対して恨みに近い感情を抱いていた。

神戸は裁判の際、城戸のストーカー行為にいくつかの偽証を図ってしまった。

その時の神戸自身に罪の意識はなかった。

何故なら既に城戸が第一容疑者であり彼の犯行だと誰もが信じきっていた。

その感情が後に取り返しのつかない過ちを犯した。

後に杉下右京は真犯人が

事件当時、彼女が住むマンションの管理人だった若林晶文だと突き止めた。

つまり城戸は冤罪だった。そのことを知り神戸は深く後悔した。

あの時、もしも裁判で偽証など行わなければ彼は有罪にならなかったのではと…


「なるほど、特命係も一枚岩じゃないようですね。」


ファイルを読み警察官が犯した罪を知りご満悦気味な青木とそれとは対照的に

かつて城戸の冤罪に

間接的ながら手を貸してしまった神戸の心境を知り冠城は複雑な思いを抱いた。

確かに神戸が行ったことは罪に問われるかもしれない。だが既に時効だ。

それに彼が証言を行ったからといってそれが裁判に大きな影響を及ぼしたとも限らない。

当時、この冤罪事件に関わった警察官や判事は犯人と軒並みグルだった。

従って裁判で不利な証言をしたところでその状況を覆す材料があったとは思えない。

だが冤罪が明かされた直後の神戸はどうだっただろうか?

事件後もあの真実を追求することを信念とする杉下右京の元にいる。

もしも自分ならそれに耐えることなど出来やしない。

きっと罪悪感のプレッシャーに押し潰される。だからなのだろう。

神戸が特命係を去った理由、表向きは警察庁への復帰による人事異動だが本当は…

過去に冤罪を犯した自分が真実を追求する杉下右京の元に居るのが耐えられなかった。

それが冠城の考える神戸が特命係を去った本当の理由だと察した。

109 : 以下、名... - 2018/03/14 06:32:43.87 VKN7a1Ov0 106/293



「なるほど、特命係だって叩けば埃がいくらでも出てくるんですね。
けど特命係にはガチで犯罪をやらかしている人間がいますよね。
そう、ダークナイト事件の犯人。甲斐享とか…」


「おい、ここでその話は…」


冠城に咎められて笑いながら失敬とわざとらしい態度を取る青木。

こんな警視庁のど真ん中でダークナイト事件についての発言はさすがにまずい。

神戸の後に現れた杉下右京の新たな相棒となった甲斐享。

彼は数年前、頻繁に起きる事件加害者を制裁したダークナイトと呼ばれる連続犯だった。


「まあ神戸尊の事件とはちがって甲斐享には同情なんてしませんよ。
なんたって今は警察庁長官官房付なんて閉職に追いやられていますけど
数年前まで警察庁次長だった甲斐峯秋の息子。
そんなリア充のお坊ちゃんが事件を起こすんだからとんだ甘ったれだ。
だから同情の余地はありませんよ。」


相変わらず警察官が起こす不祥事には辛口な青木だがその意見に共感できなくもない。

神戸とは冠城自身も面識はある。

かつて杉下右京の相棒だった男だけあって一癖あるが信頼の置ける人物だった。

だが甲斐享については面識もないしそもそも周りの環境にもかなり恵まれていた。

そんな甲斐享が事件加害者に対して暴力という制裁を下すのは

世間の人から賞賛を浴びたかもしれないが暴力を振るって解決など幼稚な犯行だ。

事実、青木の指摘する甘ったれというのもかなり的を得ていると思ってもいいだろう。

110 : 以下、名... - 2018/03/14 06:33:25.16 VKN7a1Ov0 107/293


「それでこのお坊ちゃんも佐伯家の事件に関わっているようですね。」


青木が次に出したファイルの日付は2013年になっている。

時期からして当時の相棒だった甲斐享も関わっているとみて間違いない。

さらにいうならこれ以降のファイルがないということは

この時点で佐伯家に関する事件になんらかの決着がついたことを物語っている。

こうして二人は最後のファイルを読むことにした。


続き
右京「呪怨?」修正版<<第3話>>

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