男「ずっと前から好きでした!」 後輩「……誰?」【前編】
1年生 教室
男「後輩!」
後輩「あれ? 先輩、どうしてここに……」
男「大丈夫か!?」ガシッ
後輩「せ、先輩、痛いですよ」
男「わ、悪い……」
後輩「なにかあったのですか?」
男「球技大会の話し合いはどうなった」
後輩「……なんで、そのことを先輩が知っているのですか?」
男「いいから、教えてくれ」
後輩「バスケに出場することになりましたよ。……バスケ部の皆様が推薦してくれたので」
妹「お兄ちゃん、どうしたの? そんな怖い顔して」
男「貴様……!」ギロッ
後輩「言っておきますけど、妹さんは私を推薦していませんよ。むしろ、私の希望を汲むように、と説得しようとしてくれました」
男「本当か?」
妹「えっと……球技大会の話し合いのことだよね? それなら、後輩さんの言っている通りだよ」
後輩「妹さん以外の方が私を推薦したのです」
妹「急にそんなことを言いだしたのかわからないんだけど、どうしても譲れないみたいで……」
男「……あいつが手を回したんだよ」
妹「えっ?」
後輩「……」
男「大丈夫か?」
後輩「先輩がなにを心配しているのかわかりませんが、私は平気ですよ」
男「……」
後輩「バスケ部の皆さんに推薦されたということは、名誉なことですしね。それに妹さんとプレーすることができますし」
妹「そ、そうだよー! お兄ちゃんは心配しすぎなんだよ!」
後輩「本当です。いくら、私のことを世界で、いや宇宙一愛しているからといっても、過保護すぎますよ」
男「そう、だな……」
後輩「まったく。先輩には私しかいないのはわかりますが、もう少し冷静になってほしいものです」
男「……行くぞ」グイッ
後輩「えっ、ちょっと、先輩……?」
校舎裏
後輩「一体、ここでなにをするのですか?」
男「ここなら、誰も来ない」
男「だから、好きなだけ甘えてもいいよ」
後輩「……っ!」ギュウ
男「よく堪えたな」ナデナデ
後輩「あそこで落ちこんだりしたら、妹さんが責任を感じてしまうと思って……」
男「あいつのこと心配してくれたのか。ありがとう」
後輩「私、うまくやれるでしょうか……」
男「うまくやれなくてもいいんだよ。やろうとしなくていいんだよ。後輩は後輩なんだから」
後輩「でも……」
男「少なくとも、俺は後輩を誰かと比較なんてしない。まあ、比較したところで、後輩の圧勝だしな」
後輩「馬鹿……」ギュウウウウ
同時刻 バスケ部部室
後輩姉「やっほー」
副部長「……おー」
後輩姉「どうしたの? 元気ないね。……というよりも機嫌が悪いってほうが正しいか」
副部長「まだ、妹が来ないんだよ。いつもなら、一番に部室に来てるのに」
後輩姉「あー。それなら、私の妹が悪いかも」
副部長「……お前の妹が?」
後輩姉「うん。たぶん、妹ちゃんに泣きついてるんじゃないかな? 助けてー、って。ほら、うちの妹は甘え上手だからさ」
副部長「なっ……! お前の妹はどうなってんだよ!」
後輩姉「知らないわよ。もう3ヶ月も顔を合わせてないんだから」
副部長「お前等、姉妹じゃねえの……?」
後輩姉「いろいろとあるのよ」
副部長「どうでもいいけど、妹にまでちょっかい出すのなら、しばくからな」
後輩姉「甘い! 副部長は甘い!」
副部長「ああ!?」
後輩姉「本当に欲しいものがあるのなら、どんなことをしてでも奪い取るべきだよ。そんなんだから、先を越されるんだよ!
副部長「……」
後輩姉「まあ、代替品で満足というのなら、構わないけど」
副部長「……お前の妹だと思って、こっちは引いてたんだけど」
後輩姉「よく言うよ。殺すとか言ってたくせに」
副部長「わかったよ。もう引かねえからな」
後輩姉「そうそう。それでいいの。もっと、欲望に正直にならなきゃ」
副部長「……でも、どうしたらいいんだ?」
後輩姉「君って、たまに乙女になるよねえ……」
副部長「し、仕方ねえだろ……。こういうの苦手なんだよ……」
後輩姉「密室で二人っきりになって、服を脱いで誘惑すればいいんだよ」
副部長「出来ねえよ!」
後輩姉「恥ずかしがってどうする。宝物なんでしょう? 誰にも譲れないのでしょう?」
副部長「だけど、俺の裸なんかみても……」
後輩姉「大丈夫だって。君はとっても魅力的だから」ニヤァ
副部長「本当に成功するんだろうか……」
後輩姉「大丈夫だって。私も協力してあげるからさ」
副部長「……」ジト
後輩姉「そんな人を疑うような目で見ないでよ。私はただ、副部長の恋が成就するのを協力したいんだからさ。私たち、親友でしょう?」
副部長「姉……」
後輩姉「まあ、対価は貰うけどね」
副部長「そんなこったろうと思ったよ……それで、何が欲しいんだよ」
後輩姉「えっとね。副部長の携帯に入ってる……」
副部長「……はあ!?」
後輩姉「いいでしょう? 成功すれば、そんな画像は無用になるんだから」
副部長「まあ、いいけどよ……」
後輩姉「ありがと!」
副部長「……」ジー
後輩姉「なに?」
副部長「お前って、そっちの気があったんだな」
後輩姉「まあ……ね。その画像の人物ではないけど」
夜 後輩宅
後輩姉「ただいまー」
後輩「……」
後輩姉「あら、珍しいじゃない。貴女がお出迎えしてくれるなんて」
後輩「どういうつもりなのですか?」
後輩姉「とりあえず、靴ぐらい脱がせてもらってもいい?」
後輩「いいから、答えてください!」
後輩姉「3ヶ月も私から逃げまわっていたくせに、なんなの? 都合がいい時だけ私に近付かないで」
後輩の部屋
後輩姉「で、なんの話?」
後輩「とぼけないでください。私が球技大会でバスケに出場するように仕向けましたよね」
後輩姉「仕向けてなんかいないよ。ただ、『最後の球技大会で、妹とバスケが出来たら嬉しい』って言っただけ」
後輩「しているじゃないですか!」
後輩姉「なんでよ。貴女をバスケに出場させてなんてお願いしてない。あの子達が勝手にしたことだよ」
後輩「それだけで、あれだけ強硬に主張するとは思えません」
後輩姉「それだけ私を慕ってくれているってことじゃない。もしくは実の妹に逃げまわられている私を可哀想だと思ったのかもね」
後輩姉「だから、私は今回のことには関係ないからね。結果的に利益を得たというだけ」
後輩姉「貴女と勝負をできるという利益をね」
後輩「やっぱり、そうきましたか……」
後輩姉「物分かりがいい妹を持てて幸せだよ」
後輩「……それで何を賭けろと言うのですか?」
後輩姉「私のクラスと試合をして、貴女が10点以上得点を決めたら、男くんと一生関わらないって誓ってあげる」
後輩姉「でも、それが達成できないのなら……」
後輩姉「男くんと別れてもらうよ」
後輩「はあ……。貴女のことだから、そんなことだろうとは思っていましたよ」
後輩姉「で、どうするの?」
後輩「そんな賭けに乗るわけないでしょう。私にメリットがないのですから」
後輩姉「あるでしょう。勝てば、私という邪魔者がいなくなるんだよ」
後輩「既に貴女は存在していないようなものです」
後輩姉「……酷いこと言うね」
後輩「事実ですから」
後輩姉「まあ、そうだよね。事実は伝えないといけないよね。例えば、男くんと私が寝たこととかね」
後輩「そ、それは過去のことです!」
後輩姉「そうだね。男くんのファーストキスの相手も、初めて手を繋いだ相手も、みんな私だけど、中学時代の話だね」
後輩姉「だからこそ、貴女が何をしても、2番目でしかないの。私が使いこんだ中古品を自分仕様に改造しているだけに過ぎない」
後輩「……っ!」
後輩姉「男っていうのは、初めての女の事は一生忘れられないんだよ」
後輩姉「ねえ、私が男くんに抱かれたときのことを話してあげる」
後輩「聞きたくありません!」
後輩姉「そんなこと言わないで、聞いてよ」ドン
後輩「は、離してください!」
後輩姉「こうやってベットに押し倒されて、まず首筋を舐められたの。ねっとりとね」ペロッ
後輩「い、いや……」
後輩姉「次は胸を……」
後輩「やめてください!」ドン
後輩姉「痛いなあ、もう。事実はちゃんと言うべきなんでしょう?」
後輩「……」ギロッ
後輩姉「おー、怖い怖い。まあ、いいや。で、勝負するの?」
後輩姉「しないというのなら、私が男くんに何をしてもいいって黙認するってことだよね? 貴女の目の前で、男くんを犯したっていいんだよ?」
後輩「やれるものなら、やってみればいい。そして、思い知ればいい。先輩が貴女のことなんて、眼中にないことを」
後輩姉「ずいぶん強気だね」
後輩「過去は変えられません。貴女との間にあったことを私がいくら嘆いても、なにも変わりません。だからこそ、私は今の先輩との絆を信じます」
後輩「それに、貴女が実際に行為に及んだとしても、私の先輩への愛は変わりません」
後輩姉「そう……。それだけ、あの男が好きなのね」
後輩「ええ。誰にも渡しません。だから、この勝負はしませんよ」
後輩姉「……」
後輩「さあ、出ていって下さい」
後輩姉「ねえ、この画像を見てくれない?」
後輩「まだ何か……な、なんですか、これは!?」
後輩姉「男くんの妹ちゃんの着替えを盗撮したものだよ」
後輩姉「勝負しないというのなら、この画像をばらまくよ。そうだなあ、ネットに投稿しようかな。住所と名前つきで」
後輩「この悪魔……!」
後輩姉「自分が欲しいものを手に入れる為なら悪魔にだってなるよ」
後輩姉「さあ、どうするの?」
後輩「やりますよ。やればいいのでしょう」
後輩姉「ありがとうー!」
後輩「……絶対に負けません」
後輩姉「一度も私に勝ったことがない貴女が言っても説得力ないわよ」
後輩「この勝負だけは負けられないのです!」
後輩姉「はいはい。じゃあ、私寝るから。せいぜい頑張ってねー」バタン
後輩「……絶対に先輩は渡しませんから」
翌日 朝 中学校校庭
男「左手はそえるだけ……」シュッ
後輩「……」
男「おっかしいな……。なんで入らないんだ?」
後輩「フォームがめちゃくちゃだからですよ」
男「あ、おはよう」
後輩「……どうして、ここに先輩がいるのか聞いてもいいですか?」
男「球技大会に向けて自主練するかなって思ったから来たんだよ。ほら、ここら辺でバスケットゴールがあるのはここだけだろ」
男「それで、勝負の内容は?」
後輩「そこまでお見通しですか……」
男「まあ、あいつのことだしね」
後輩「姉のクラスと試合をして、私が10点以上決めれば、先輩には近付かないそうです」
男「……決められなかったら?」
後輩「先輩が想像している通りです」
男「……」
男「そんな勝負、どうして受けたんだ。今のままでも、あいつが入ってくる余地なんてないだろう」
後輩「いろいろあるのですよ……」
男「はぁ……。どんな弱みを握られたのかしらんが、そんな勝負は今からでも遅くはないから断ってしまえ」
後輩姉「そんなの私が認めないよ」
後輩&男「!」
後輩姉「まったく……。こんな朝早くからどこに出掛けるのかと思えば、愛しの男くんに泣きつきにいったのね。甘ったれの貴女らしいわ」
後輩「ち、違います! これは……」
後輩姉「なら、私との勝負を断ったりしないよね?」
後輩「……もちろんです」
後輩姉「と、いうことなので、男くんは余計なことを言わないでね。この勝負を邪魔するのなら、全力で報復させてもらうよ」
男「やれるもんならやってみろよ……!」
後輩姉「ほー。なら、実際にやってあげようか?」
後輩「や、やめてください!」
男「後輩……?」
後輩「……先輩には、私から言っておくので、やめてください」
後輩姉「わかった。ちゃんと教育しておいてね」
後輩「はい……」
後輩姉「じゃ、私は朝練あるから先に行くねー」タッタッタッ
後輩「……」
男「何を隠してんだよ?」
後輩「まずはシュート練習から始めましょうか」
男「どうしても言えないのか……?」
後輩「……私が勝てばいいのです。あの女に勝利すれば何もないのです」
後輩「私を信じてください。必ず勝ちますから」
男「わかったよ。じゃあ練習しよう」
後輩「ふぅ……」
男「……後輩って、バスケ上手いんだな」
後輩「いえ、そんなことはありませんよ」
男「でもシュートフォームが綺麗だし、今だって、ほとんど決めてたよな?」
後輩「嫌味ですか? 20本中16本しか入っていませんが」
男「いや、充分凄いって……」
後輩「姉がこの距離からフリーでシュートしたら全部決めていますよ」
男「マジで……?」
後輩「ええ。まあでも、私が10点決めるかどうかが勝負の焦点ですから、あまり関係ないですけどね」
男「そ、そうだよな! あいつが何点決めようが勝負には関係ないよな!」
後輩「向こうもそれがわかっているので、得点に興味はないでしょうけどね」
男「……DFも凄いの?」
後輩「そりゃあ、県選抜ですからね」
男「……」
後輩「そんな絶望した顔をしないでくださいよ。こっちは、これから練習をして差を埋めようとしているのですから」
男「そうだな……。うん。後輩なら大丈夫だよな!」
後輩「はい。任せてください」
男「よーし。じゃあ、俺がDFに入るから、1vs1やろうぜ」
後輩「……バスケやったことあるのですか?」
男「小学生の頃に遊びでやってた。あと、妹の練習に付きあったりもしてたかな。まあ、そこらへんの素人よりはできると思うよ」
後輩「そうですか。では、お願いします」
男「よしこい! 全力で止めてやる!」
・
・
・
昼休み 1年生教室
妹「へー。お兄ちゃんと朝練したんだ」
後輩「はい。おかげで、対人練習ができました」
妹「なるほど。だから、山王戦後半の三井みたいにヘロヘロなのね」
男「……うるせえな」
妹「まあ、運動不足のお兄ちゃんだとそんなもんだよねー」
男「そういう問題じゃなくてだな……なんつーか、格が違うんだよ」
妹「お兄ちゃんは無理をしないでいいからさ。ここはあたしに任せてよ」
男「お前でも相手にならんぞ……」
妹「あんたよりはマシよ。じゃあ後輩さん、明日の朝練からあたしが付き合うからね」
後輩「でも、妹さんは部活の朝練があるのでは……?」
妹「あー。あれは自主練だから大丈夫だよ」
後輩「しかし……」
妹「いいんだって。あたしが後輩さんの力になりたいってだけだからさ!」
後輩「……ありがとうございます」
妹「いーえ。じゃあ、明日からビシバシ指導していくからね!」
後輩「はい! よろしくお願いします!」
男「自信失っても知らねえぞ……」
翌日 朝 中学校
後輩「うーん……」
妹「わー! やっぱり、後輩さん凄い! こんなにシュートフォームが綺麗な人、初めて見たかも!」
後輩「でも、シュートが決まらないのなら意味がありませんから」
妹「……10本中9本入れてるけど?」
後輩「ええ。1本外してしまいました……」
妹「……」
男(ショックだろうな……現役なのに10本中7本しか決められなかったもんなあ……)
妹「じ、じゃあ、1vs1でもやろうか!」
後輩「でも、妹さんの相手になるのかどうか……」
男「そうだな。俺とやってるのを見てから、お前がやるか決めればいいんじゃねえか
妹「素人は黙ってて」
男「……」
妹「とりあえず、やってみようよ。そのほうがアドバイスもしやすいしさ」
妹(DFする振りをして、後輩さんのおっぱいも触りやすいしね……)ムフフ
後輩「私からOFでいいですか?」
妹「うん! そのつもりだったし」
後輩「では……」ダムダム
妹(ああ……バスケしてる後輩さんも素敵……)
後輩「……」スッ
妹「……えっ」
後輩「……」パサッ
男「ナイシュー」
妹「えっ」
妹(め、めっちゃ速かったんだけど……)
後輩「いまのプレーはどうでしたか?」
妹(わかんないよ! 全然見えてないって!)
後輩「私としては、ドリブルのスピードが……」
妹「もう一回、もう一回やろうよ! 今のだけじゃわからないからさ!!」
後輩「は、はい……?」
後輩「……」ダムダム
妹「……」ゴクリ
後輩「……」ピッ
妹「!?」
後輩「……」パサッ
妹「う、嘘でしょ……」
後輩「シュートの軌道が良くないなあ……」
妹「!!?」
妹「い、いまのプレーさあ……」
後輩「えっ? ああ、シュートですよね。次はもう少し腕を閉じてみます」
妹「そこじゃなくて……あたしを抜かないでシュート打ったよね……?」
後輩「はい。寄せが甘かったのでシュートを選択しました」
妹「そ、そうなんだ……」
妹(今の寄せが甘い!? どれだけ詰めればプレッシャー感じるのよ……)
後輩「また私がOFでいいのですか? そろそろ攻守を交代したほうが」
妹「いえ、このままでお願いします!」
後輩「わ、わかりました……」
妹(バスケ部レギュラーのあたしがやられっぱなしで終われないよ! 次こそは必ず止めてみせる!)
後輩「っ!」ダムダム
妹(さっきよりも2歩距離を詰めた。これでシュートの選択肢はないはず。となれば……)
後輩「……」ダッ
妹(ドリブルでしょうね! よし、このまま追い詰めて……)
後輩「……」クルッ
妹「なっ……!」
後輩「……」パサッ
妹(あ、あんなターンについていけるわけないでしょう!?)
後輩「またですか?」
妹「お願いします!」
・
・
・
妹「もう一本!」
後輩「いいですけど……」
・
・
・
妹「も、もう……」
男「もうやめとけ」
妹「……」
後輩「だ、大丈夫ですか?」
男「おい。生きてるか?」
妹「こ、こんなに上手いとは思わなかった……」
男「だから言ったろ。格が違うって」
妹「後輩さん!」
後輩「は、はい!」
妹「ごめんなさい! どさくさに紛れておっぱい触ろうとか考えてごめんなさい! そんなことできるようなレベルじゃありませんでした!」
同時刻 高校 体育館
後輩姉「……ふぅ」
副部長「うす」
後輩姉「あ、副部長、おはよー」
副部長「お前が黙々と自主練してるなんて珍しいな。それも地味なステップワークなんて」
後輩姉「今回は気合が入ってるからさ」
副部長「……まあ、あと二つ勝てば全国だもんな。さすがのお前でも気持ちが入るか」
後輩姉「えっ? なに全国って?」
副部長「だよな……。そのほうがお前らしいよ」
副部長「まあ、怪我しない程度に頑張れよ」
後輩姉「あんがと。副部長はもっと頑張ったほうがいいよ」
副部長「あっ?」
後輩姉「だって、あれから行動してないじゃん」
副部長「し、したよ!」
後輩姉「じゃあ、連絡先聞いたの?」
副部長「それは追々……」
後輩姉「そりゃ、副部長からすれば、スポブラからフリルのついたブラにするのは、大きな変化かもしれないけどさあ……」
副部長「……似合わないか?」
後輩姉「どっちでもいいよ。服を着てたら見えないんだから」
後輩姉「まずは話すところから始めないとダメでしょう。なんで、いきなり身体を晒すことを考えてんのよ」
副部長「だって、お前が服を脱いで誘惑しろって……」
後輩姉「そんなこと言ったっけ?」
副部長「覚えてねえのかよ!?」
後輩姉「あー、言ったかもしれない」
副部長「ほらみろ! これはお前の指示通りなんだよ!」
後輩姉「なんか、ズレているような気がするけど。まあ、いいや。作戦変更ね」
副部長「まだなにもしてないのに!? 恥辱を耐えて下着を買いに行ったのに!?」
後輩姉「それくらいじゃ動じないらしいからさ」
副部長「お、男に聞いたのか!?」
後輩姉「いや。聞いてないけど。というか、男くんの意見なんかどうでもいいんだけど」
副部長「訳が分かんねえよ……」
後輩姉「まあ、私に任せんしゃい。悪いようにはしないから」
副部長「本当に大丈夫なんだろうな……」
後輩姉「大丈夫大丈夫。副部長みたいな無意味なお色気作戦とかしないから」
副部長(こいつ……! いつか、必ずぶっ殺してやる……!)
休み時間 3年生教室
後輩姉「やー!」
男「……」ウゲェ
後輩姉「すごく嫌そうな顔をしてくれてありがとうね」
男「……お前ってさあ、神経が膨張しすぎて切れちゃってんじゃないの?」
後輩姉「なに言ってるのかよくわかんなーい」
男「どの面下げて俺に話し掛けに来てんだ。おかしいぞ、お前。知ってたけど」
後輩姉「そんな頭のおかしい私と会話をしてくれるなんて、男くんは優しいね」
後輩姉「そんな優しい男くんの為に、私も一肌脱ぎました!」
男「そうか。露出狂の変態がいるって通報してやるからな」
後輩姉「本当にここで脱いであげようか?」
男「……なんだよ?」
後輩姉「昼休みに体育館使っていいよ。練習するんでしょ?」
男「なにが目的だ?」
後輩姉「別に何かの企みがあるわけじゃないよ。ただ、あの子がベストの状態で戦いたいだけ」
副部長「……」ドキドキ
後輩姉『いい? 休み時間に私と男くんが話している時に、私に用事がある振りをして会話に混ざってきなさい』
副部長「よーし……」
後輩姉「本当に何もないってば」
男「いーや。お前は信用ならない」
副部長「お、おい!」
後輩姉「おー。副部長ー! ちょうどいいところに来てくれたね!」
男「ん?」ジロッ
副部長「!!!????」バンッ!
後輩姉「……なにやってんの?」
副部長「蚊! 蚊がいた! 机にでっかい蚊がいたんだよ!」
後輩姉「なるほど。それじゃあ、仕方ないね」
男(いや、それでも過剰に叩きすぎだろ?)
副部長「あ、あ、あ、あ、姉よお、今日の部活には参加するよなぁ!?」
後輩姉「うん。大丈夫だよー」
男(なんだこの女。身長だけじゃなく、声までデカすぎだろ……)
後輩姉「そうだ副部長、男くんが昼休みに体育館使いたいんだってさ」
男「一言も言ってねえけど」
後輩姉「使ってもいいよねー」
副部長「お、おう! いいんじゃねえか!」
男「いや、別に俺は使いたいわけじゃ……」
副部長「……!」カァァ
男「は?」
副部長「つ……使えばいいだろおおおおおおおおおお!」ダッ
男「……なんだあいつ」
後輩姉(ダメだ、あいつ。使い物にならない……)
昼休み 1年生教室
後輩「そうですか、姉が体育館を使えと……」
男「どうする?」
後輩「使わせてもらいましょう。少しでも練習したいですから」
男「大丈夫か? 朝早くからあれだけ練習してるんだし、疲れてるんじゃないか?」
後輩「無理するくらいじゃないと、あの姉には勝てませんよ」
男「……そうか」
後輩「心配してくれてありがとうございます。でも、本当に大丈夫ですから」
???「そうじゃない。俺は後輩に構ってほしいんだよ」
後輩「へっ?」
妹「ああ、いつもなら後輩に抱きつかれて幸せな時間を過ごしているというのにー」
男「黙れ」ゴンッ
妹「痛い、痛いよー」シクシク
後輩「大丈夫ですか?」ナデナデ
男「……後輩、早く飯食って体育館に行こうぜ」
後輩「その前に妹さんに謝ってください」
妹「そうだそうだ! グーで殴りやがって!」
男「平手打ちだったらいいのか?」
後輩「先輩!」
男「ちっ……。殴ったりして悪かったな」
妹「仕方ないなー。今日のところは許してあげよう」ギュウ
後輩「妹さんは寛大ですね」ナデナデ
男「いつかしばいてやる……」
妹「ふー。満腹満腹」
男「おい、もういいだろ。後輩から離れろ」
妹「やだー。もっと密着するー」ギュウ
男「……お前、いい加減にしろよ」
妹「なに実の妹に嫉妬してんの? 情けないったらありゃしない」
男「誰がお前なんかに嫉妬なんかするか」
男「後輩はバスケの練習をするんだよ。お前がそんなことしてたら動けないだろ」
妹「そうだった……。後輩さん、ごめんね。忘れてたよ……」
後輩「いいのです。昼練習は明日からやることにしたので」
男「そうなのか?」
後輩「はい。他にやることができたので」
妹「なにをするの?」
後輩「先輩とランデブーするのです」
男「……え?」
後輩「さあ、行きますよ」グイッ
男「お、おい……」
妹(……お兄ちゃん、頑張ってね)
校舎裏
男「どうしたんだよ?」
後輩「ここなら誰も来ませんよ」
後輩「だから、好きなだけ甘えていいですよ」
男「いや、さっきの話を鵜吞みにすんなよ。全部、あいつの妄想だよ」
後輩「では、私が甘えたいので抱きついてもいいですか?」ギュウ
男「……既に抱きついてるじゃねえか」プイッ
後輩「あら、すみません。我慢できなかったもので」
後輩「抱きつかれるよりも、抱きつくほうが私には合っているみたいです。妹さんに抱きつかれていた時より、今のほうが落ち着きます」
男「なら、いつでも抱き枕になってやるよ」
後輩「そんなの嫌です。抱き枕は私を撫でてくれないでしょう」
男「……俺が撫でるのは、鈍器で殴ってるのと一緒なんじゃないのかよ」ナデナデ
後輩「そうなのです。しばらく動けそうにないので、この体勢のままでいてくださいね」ギュウウ
男「……後輩」
後輩「なんでしょう?」
男「なんつーか、その……気を遣わせてごめんな。本当に妬いていたわけじゃないんだよ」
後輩「そんなことはわかっていますよ」
男「えっ、そうなの?」
後輩「当然です。私は先輩の彼女ですからね」
後輩「あまりべったりしなくなったから、物足りないと思っていたのでしょう?」
男「まあ……な。ここ最近の距離感の方が正常なんだ、ってわかってはいるんだが……」
後輩「そんなことありませんよ。私たちがこうやって密着していないなんて異常です。あり得ないです」
後輩「異常な状況を我慢する必要はありません。まあ、先輩はシャイですから、自分から抱きついたりなんてできないでしょうけども」
男「……本当にありがとな。癒されたよ」
後輩「自分だけ癒されるなんて狡いですよ、先輩」
男「そうだな。ごめん」ナデナデ
後輩「んー。あと10分は撫でてもらわないと、許さないです」スリスリ
金曜日 放課後 体育館
妹「あ、あの……」
後輩姉「……ああ、居残ってごめんね」
妹「あ、いえ、それはいいんですけど……そんなにやって大丈夫なのかなって」
後輩姉「むしろ、これくらい追い込まないと」
妹「でも……」
後輩姉「心配してくれてありがとう。でも、本当に大丈夫だから」
妹「部長……」
後輩姉「じゃあ、私はもう少し練習してから帰るから、先に上がっていいよ。片付けもやっておくから」
妹「わかりました。では、お願いします」
後輩姉「はい。お疲れ様」
妹「……日曜日の試合、絶対勝ちましょうね!」
後輩姉「なにそれ?」
妹「えっ」
妹「日曜日に向けて練習してるんじゃないんですか!?」
後輩姉「なにかあったっけ?」
妹「総体予選ですよ!」
後輩姉「あー……そういえば、日曜日だっけ」
妹「ええ……」
後輩姉「確か、中央高とだよね? あんな相手に私が自主練するわけないじゃん」
妹「なら、なんの為に……?」
後輩姉「欲しいものを手に入れる為に、だよ」
後輩姉「もういいかな? そろそろ練習したいから」
妹「あ、はい……。お疲れ様です……」
後輩姉「気を付けて帰ってねー」
後輩姉(日曜日に総体予選か……だから、みんな気合が入っていたのね)
後輩姉(確か準決勝だっけ? いや準々決勝だったような? ……あと二つ勝てば全国、とか言ってたから準決勝か)
後輩姉(もし勝って、決勝進出となると、あのハゲ顧問が球技大会のことを騒ぎそうだな)
後輩姉(……それはそれで面白くなりそうだけど)
男 自宅
妹「ただいまー」
男「……」
妹「うわっ!? ……なんだ、お兄ちゃんか。なんでそんな所に座ってんの?」
男「もう動けないです……」
妹「はぁ……。とりあえず、玄関から移動しようよ」
リビング
妹「なんでそんなに疲れてるの? 放課後は公園でドリブル練習するだけでしょ?」
男「今日は公園に子供が大勢いたから、走ることになったんだよ」
妹「まったくさあ……。元陸上部なんだから、ちょっと走ったくらいで、そんな状態にならないでよ」
男「……ショッピングモールまで走ったんだぞ」
妹「専門は長距離だったじゃん」
男「そういう問題じゃねえだろ」
男「往復13kmだぞ!? サッカー一試合分は走ってんだからな!」
妹「いいじゃない。後輩さんの揺れ動くおっぱいを見れたんだから」
男「……まあ、堪能させていただきましたね」
妹「見るだけで、触らないあたりがお兄ちゃんらしいね」
妹「あーあ。あたしも後輩さんと放課後に自主練したいなぁ……」
男「お前には部活があんだろ」
妹「それはそうなんだけどさあ……」
男「まあ、気持ちはわからなくもないがな。玉拾いとか声出しをやってるよりは、後輩と一緒に居たいわな」
妹「だから、レギュラーだっつーの!」
男「それ、本当なのかよ? 朝練で後輩に無様にやられてる姿からは想像できないんだけど」
妹「……後輩さんが凄すぎるんだよ。噂では聞いてたけど、まさかあれだけの実力だったとは」
男「噂?」
妹「後輩さん、ミニバスやってたらしいんだけど、めっちゃ上手かったらしいよ」
男「そうなのか?」
妹「だって県選抜だよ? しかも、チームには他に上手い選手なんかいなくて、後輩さんのワンマンチームだったにも関わらず県ベスト4まで行ってるんだから
ね」
男「そりゃ凄い……」
妹「中学でバスケ続けなかったのか、みんな不思議がってたもん」
男「……なんでだろうなあ」
妹「だから、今回の球技大会はバスケ部で話題になってるんだ。あの後輩さんのプレーが見れる、って」
男「そうだな。見て勉強しろよ」
妹「なんでお兄ちゃんがそんなに偉そうにするのかね……」
男「そりゃあ、彼氏ですからね」
妹「はいはい。あと、部長との姉妹対決も注目されてるね」
男「……なあ、正直なところ、あいつに勝てるのか?」
妹「部長のクラスは、部長しかバスケ部いないし、なんとかなると思うよ」
男「いや、そうじゃなくてだな……。後輩はあいつに勝てるか?」
妹「1vs1でってこと? んー。確かに後輩さんは凄いけど、部長はそれよりもスーパーだからなあ……」
男「マジかよ……」
妹「でも、後輩さんにはあたしたちバスケ部4人がいるからね。1vs1では無理でも、コンビネーションで崩せるよ」
男「……そうか。宜しく頼む」
妹「まっかせといてー! あたしと後輩さんのゴールデンコンビぷりを見せてあげるから!」
男「ああ、楽しみにしてるよ」
翌週 月曜日 朝 中学校校庭
後輩「球技大会の出場を辞退ですか?」
妹「ごめんなさい……」
後輩「一体、どうして……」
妹「昨日、総体予選の準決勝だったんだけど、なんとか勝ったのね。そしたら……」
男「土曜日に決勝をやるらしくて、怪我を避けるために、予選に登録されている選手は球技大会には出さないそうだ」
後輩「……」
妹「まあ、バスケ部が出れないってことは、後輩さんの独り舞台になるだろうから、優勝は間違いないよ!」
後輩「おそらく、そうはならないでしょうね……」
妹「えっ?」
後輩「いえ。なんでもありません」
男「……」
体育教官室
顧問「……話とはなんだ?」
後輩姉「球技大会ですけど、私は出場しますよ」
顧問「馬鹿なことを言うな。全国を賭けた試合を控えているのに、球技大会に出すわけないだろう」
後輩姉「なぜですか?」
顧問「昨日も説明しただろう。球技大会なんてお遊びで怪我をしたらどうする?」
後輩姉「なるほど。お遊びで怪我をしてはいけないということですね?」
顧問「そうだ。わかったのなら、下らない事を言ってないでコンディションを整えろ」
後輩姉「わかりました。では、退部します」
顧問「なっ……!?」
顧問「何を言っているんだ!?」
後輩姉「球技大会に向けてコンディションを整える為に退部を申し出たんですよ。お遊びで怪我をするわけにはいかないですし」
後輩姉「私にとっては、総体なんてどうでもいいんですよ。今回の球技大会こそ、全力を注ぐ価値があるんです」
顧問「ふざけるな! お前は部長だぞ!?」
後輩姉「あんたが勝手に部長したんでしょ」
後輩姉「では、失礼します」
顧問「ま、待て!」
後輩姉「まだ何か?」
顧問「本当に辞めるつもりか……?」
後輩姉「それは先生次第ですね」
顧問「……どうすればいい?」
後輩姉「貴方は髪だけじゃなく、脳までないんですか? 私は、球技大会への出場を認めないなら退部する、と脅しているんですよ。どうすればいいのかなんて、考えなくともわかるでしょう?」
顧問「お前を欠くわけにはいかないんだ……」
後輩姉「なら、答えは一つしかありませんね」
顧問「お前の出場を許可する……」
後輩姉「私だけですか? 他の部員は?」
顧問「それは認めん! お前だけ特別に……」
後輩姉「そうやって、私を依怙贔屓しているから、部員たちの信頼を得られないんですよ」
顧問「だが……」
後輩姉「3年生は最後の球技大会となるので特別に参加を許可する、というのはいかがでしょう? これなら、他の部員たちの不満も抑えられます」
顧問「……わかった。そうしよう」
後輩姉「さすが先生。デコだけじゃなく、心も広いんですね」
顧問「……怪我だけはするなよ」
後輩姉「先生、心配しすぎですよ。そんなんだから、禿げるんですよ」
昼休み 1年生教室
後輩姉「と、いうわけで。私は球技大会に参加しまーす!」
妹「部長だけですか!?」
後輩姉「ううん。3年生全員だよ。最後の球技大会だからなんとかなりませんか、ってお願いしたら先生も認めてくれたよ!」
後輩「……お願いではなく」
男「脅迫だろ……」
後輩姉「そういうことだから、頑張ってね」
後輩「ええ。全力で貴女を叩き潰しますよ」
後輩姉「男くん、君の彼女怖いんだけどー」
男「ああ、恐ろしいくらいに可愛いな」
後輩姉「ふふふ。地獄におとしてあげようか?」
妹(さ、三人とも顔は笑っているのに、目が笑ってない……)ガタガタ
水曜日 体育館
後輩「……」ダムダム
モブA「も、もうやだぁ……」
後輩「……」スッ
妹「後輩さん、ナイッシュー!」
男友「お前の彼女すげえな……」
男「いや、まだまだだろ」
男友「もう30点も決めてんのに!?」
男「現役バスケ部のご意見は?」
妹「んー。まあ、確かにいつもよりドリブルのキレがないかもね。初戦の緊張もあるんだろうし、これからギアが上がってくるんじゃないかな」
男友(ば、化け物かよ……)
試合終了後
妹「後輩さーん!」ギュウ
後輩「きゃっ!」
妹「お疲れ様!」
後輩「も、もう! 突然抱きつかないでくださいよ! ビックリするじゃないですか!」
男「そうだそうだ。さっさと離れろ」
妹「いーやーだー! あたしが後輩さんのことを癒してあげるんだもん!」
男「お前なあ、いいかげんに……」
後輩「離れるのは貴方です」ギロッ
男「えっ」
妹「そうだそうだ! さっさと離れろ!」
男「えっ……えっ?」
後輩「妹さん、教室に移動しましょう」
妹「いいけど、自販機に寄って飲み物買わない?」
後輩「大丈夫ですよ。気の利く先輩が飲み物を奢ってくれるそうですから」
妹「さっすがー! 女の子の気持ちがわからないくせに、どうでもいいところには気が利くお兄ちゃんは違うなー!」
後輩「では、先輩、十分後に私たちの教室に来てください」
妹「飲み物よろしくね、ごみいちゃん!」
男「……えっ?」
男友「こっち見んな」
10分後 自販機前
男「……」
妹「まだ、こんなところにいるの? 早く行きなよ」
男「どうして、お前がここに……?」
妹「あたしはバスケ部ですからねー。審判しないといけないの」
男「……後輩はまだ怒ってるのか?」
妹「怒ってる? ……あー、さっきのやつか。あれは怒ってるわけではないんじゃないかな」
男「でも、離れろって……」
妹「あのタイミングで近付こうとしたお兄ちゃんが悪い。ほんと、デリカシーがないよね」
男「ええ……」
妹「だいたい、落ちこみたいのはこっちだっつーの」
男「お前は後輩に抱きついて、イチャコラしてたじゃねえかよ」
妹「だからこそ悲しいのよ。あたしはいいけど、お兄ちゃんはダメなんだよ?」
男「そんな特別扱いいらねえよ……」
妹「もうめんどくさいなあ……。こんなところでうじうじしてないで、後輩さんのとこに行って、話すればいいでしょ」
男「でも、近寄ったら怒られるし……」
???「待たせるほうが罪は重いですよ」
男「えっ」
後輩「捕獲です!」ギュ
男「……えっ」
後輩「妹さん、すみません。この唐変木は私のほうで預かりますので、球技大会の運営のほうに戻ってください」
妹「うん。じゃあ、また後でね」
後輩「はい。ありがとうございました」
男「こ、後輩……?」
後輩「……さっきはすみませんでした」ギュウ
男「いや、いいんだけどさ。俺がなにか気に障ることをしてしまったんだろうし。……まあ、かなりショックだったけど」
後輩「ごめんなさい……。あの時の分まで抱きしめますから、許してください」ギュウウウ
男「……後輩が抱きつきたいだけだろ?」
後輩「ええ。ずっとこうしていたいです」
男「一応、理由を訊いてもいいか?」
後輩「単純なことですよ。私は直前まで試合をしていたのですよ? 7月の蒸し暑い天候の中、締め切った体育館でバスケをしていたわけですから、当然、汗をかいていたわけです」
男「ああ、そういうことか……」
後輩「幻滅しました……?」
男「俺が後輩に幻滅したりするわけねえだろ」
後輩「っ……! もう、どうして、そういうことを軽々しく口にするのですか!」
男「だって事実だし」
後輩「もう知らない!」
男「幻滅した?」
後輩「もっと好きになりました! 責任とってください!」ギュウウウウウ
男「ああ、一生かけて責任をとらせてもらうよ」ナデナデ
後輩姉「おー。こんなところでイチャイチャしちゃって」
後輩&男「!」
後輩姉「廊下で抱きあうなんて非常識すぎるなあ。場所考えなよ」
後輩「な、なにしにきたのですか! ……ま、まさか!」ギュウ
後輩姉「私は飲み物を買いにきただけ。その男に何かしようってわけじゃないよ」
後輩「……」ギュウウウ
男「大丈夫。何があっても、俺は後輩から離れないよ」ナデナデ
後輩姉「ごめん。男くんに水をぶっかけたいかも」
後輩「……」ジー
後輩姉「なに? 何か飲みたいものでもあるの?」
後輩「ち、違います!」
後輩姉「なら、なんで私のことを見つめてるわけ?」
後輩「貴女のことなんて見ていません!」
後輩姉「じゃあ、私が感じた視線は男くんからかな?」
後輩「なっ!?」
男「大丈夫大丈夫。俺は後輩しか見てないよ」ナデナデ
後輩「そ、そうでしょうね! 先輩は私に夢中ですからね!」ギュウウウウウ
後輩姉「あのさ、イチャつくなら他所でやってくんないかな」
後輩姉「私は気を利かせてここに来てあげたんだよ? 体育館に私がいたら、君たちが来づらいと思って」
男「後輩の試合は終わってんだよ。いま、体育館に行く理由なんてない」
後輩姉「それならそれでいいけど、私と試合する前に敗退した場合も、君たちには別れてもらうからね」
男「そんなことあるわけねえだろ」
後輩「……」
後輩姉「さすが我が妹。私の言いたいことが理解できたようだね」
後輩「ええ。3年2組の試合を偵察しなくていいのか、ということですね」
後輩姉「うん。そういうことだね。あのクラスに誰がいるのかわかっているでしょう?」
後輩「……ええ。把握しています」
男「バスケ部の奴がいるのか?」
後輩姉「君もよく知っている、あの副部長ですよ」
男「誰、そいつ?」
後輩&後輩姉「えっ」
後輩姉「副部長だよ? ほら、ショートカットで身長が高くて、ちょっとつり目な子」
男「特徴を言われても知らんもんは知らん」
後輩「あの、先輩……本当に副部長を知らないのですか?」
男「後輩までなんだよ。そんな女、見たことも話したこともねえよ」
後輩「で、でも、中高一緒ですよね?」
男「そんな奴、中学にはいなかったと思うけど?」
後輩&後輩姉「……」
後輩姉「副部長だよ? ほら、ショートカットで身長が高くて、ちょっとつり目な子」
男「特徴を言われても知らんもんは知らん」
後輩「あの、先輩……本当に知らないのですか?」
男「後輩までなんだよ。そんな女、見たことも話したこともねえよ」
後輩「で、でも、中高一緒ですよね?」
男「そんな奴、中学にはいなかったと思うけど?」
後輩&後輩姉「……」
後輩姉「ち、ちょっと待って。この間、私と話している時に、バスケ部の子が来たよね? その子が副部長なんだけど……」
男「それが目的か」
後輩姉「なにが?」
男「後輩がいない所で俺がお前と会話をしていることをアピールして、俺たちがギクシャクすることを狙ってんだろ?」
後輩姉「……なに言ってんの?」
男「それくらいで揺らぐような脆い関係じゃねえんだよ」
後輩姉「ねえ、この男はなに言ってんの?」
後輩「私にもわかりません……」
後輩姉「まあ、いいや。副部長の話は置いといて、体育館に行ってきなよ。3年2組の試合始まっちゃうよ」
男「誰がお前の指図を受けるか。なあ、後輩」
後輩「……いえ。ここは姉の言う通りです。体育館に向かいましょう」
男「後輩……?」
後輩姉「そのほうがいいだろうね」
後輩「貴女に言われたから、というわけではありませんから。元々、副部長の試合をチェックしておくつもりでしたし」
後輩姉「ふーん。でも、ここでイチャイチャしてたよね? 体育館に向かう気配なんてなかったけど」
後輩「あ、あれは先輩が悪いのです! 私は体育館に移動したかったのに、先輩がここでうな垂れているから……その、つい……」
後輩姉「……」
男「後輩は優しいな。ありがとう」ナデナデ
後輩「もう! 頭を撫でないでくださいよ! 動けなくなるでしょう!?」ギュウ
後輩姉「いいから早く移動しなさいよ。水ぶっかけるわよ」
体育館
妹「あれ? 二人ともどうしたの?」
後輩「3年2組の試合を偵察にきたのです。……もう、試合始まっていますか?」
妹「うん。もう5分くらいかな」
後輩「……ほら、先輩のせいで5分も遅れてしまったじゃないですか」
男「なんでだよ。俺は抱きつかれてただけだぞ」
後輩「抱きつかせたのは貴方でしょう?」
妹「……」
男「妹はどっちが悪いと思う?」
妹「さあ? どっちも爆発すればいいんじゃないかな」
後輩「試合はどういう状況ですか?」
妹「3年2組が一方的に押し込んでるよ。もう15点差くらいかな」
後輩「たった5分でそこまでの点差がつくのですか……」
妹「副部長が凄いんだよ。あんなに気合が入ってる副部長を見たことない」
男「どうせ相手がたいしたことねえんだろ」
副部長(勝つ、勝つ、勝つ! 絶対に俺は勝つんだ!)
副部長(必ずあの女に勝って、男を俺のものに……!)
・
・
・
数日前
副部長『なんだよ、それ……』
後輩姉『だから、私が勝ったら、あのカップルは別れるってことだよ』
副部長『なんでそんなことすんだよ!?』
後輩姉『あれれー? なんで、副部長が怒るの? この話は君にとってもいい話じゃない?』
副部長『そ、そうだけど……』
後輩姉『そんなんじゃ、あの二人が別れても、男くんを捕まえられないよ』
後輩姉『いい? 欲しいものはどんな手を使ってでも、必ず手に入れなければならない。誰かに奪われているのなら、なおさら、手段なんて選んでる場合じゃない』
後輩姉『男くんは宝物なんでしょう? その男くんと手を繋いでいた私の妹を殺してやりたいと思ったんでしょう? なにを躊躇っているの?』
副部長『……俺に、男を振り向かせることできるのかな?』
後輩姉「今は無理ね。彼は、私の妹に夢中だから。でも、その関係が壊れてしまえば、君は必ず勝てる。傷心の男くんに近付いて甘い言葉を囁けば、簡単に落とせる」
副部長『……』
後輩姉『まあ、そうなる為には、私が勝たないといけないんだけどね』
副部長『……いや。お前に出番はない』
後輩姉『えっ?』
副部長『三回戦であの女のクラスと当たるんだよ。その時、俺がこの手で葬ってやる』
・
・
・
副部長(待ってろよ、男。俺が幸せにしてやるからな……)
男「……」ゾクッ
後輩「どうしたのですか?」
男「いや、なんか吐き気が……」
妹「そういえば、妹さんと副部長って、ミニバスで一緒だったんだよね?」
男「そうなの?」
後輩「ええ。私がミニバスに入団したのは4年生なので、1年間だけでしたけどね」
男「その時の実力はどうだったの?」
後輩「チーム内では姉に次いで2番目に上手かったです。地区選抜にも選ばれていたかと」
妹「でも、同じミニバスの子に聞いたことあるんだけど、1vs1やったりすると後輩さんが勝ってたんでしょう?」
後輩「それは、私のようなタイプと相性が悪かっただけですよ。高身長のプレーヤーからすると、身長の低いドリブラーは対応しづらいって言うじゃないです
か」
妹「へー。副部長って、小学生から大きかったんだ」
後輩「ええ。165cmくらいはありましたよ」
妹「わー、凄い! 今のお兄ちゃんと同じじゃん!」
男「馬鹿。俺は166cmだ」
妹「たった1cm大きいだけで、ドヤ顔してんじゃないわよ」
男「1cmだろうとなんだろうと、俺の方が大きいのは間違いないだろ」
妹「だったら、小6当時の身長はどうなのよ」
男「……覚えてねえ」
妹「143cmだよ、おチビちゃん」
後輩「先輩って小学生の頃は身長が小さかったのですね。知りませんでした」
妹「今も、ね」
後輩「……?」
男「……じゃあ、俺は自分の試合に行くから」スタスタ
後輩「先輩……?」
妹「あー……やっぱり、触れちゃいけない話題だったか」
後輩「どういうことですか?」
妹「お兄ちゃん、身長が低いのを気にしてるのよ。そんなの仕方ないことなのにね」
後輩「……」
校庭
後輩「先輩、探しましたよ」
男「悪い。トイレに寄ったりしてたからな」
後輩「許しませんよ。私を置いていくなど、許し難い行動です」
男「……ごめんな。後輩の前で身長の話をされて恥ずかしくてさ」
後輩「恥ずかしいことなんてないでしょう?」
男「でも、俺と後輩は身長が変わらないんだぞ? やっぱり、彼氏としては、思うことはあるよ」
後輩「いいえ。私たちの場合、それが大きなメリットを生んでいます」
後輩「例えば、私たちは同じ目線で歩くことができます。それは、この身長差だからこそです。同じ風景を同じ角度で見ることができるのは、私にとって大きな幸せなのです」
男「……」
後輩「背伸びや屈んだりしなくとも顔がすぐ近くにあるということは、お互いにメリットありますよね」
後輩「……」チュ
男「!」
後輩「だって、なんの負荷もかからずにキスすることができるわけですから」ニコッ
男「……そ、そうかもな」プイッ
後輩「おわかりいただけましたか?」
男「……ありがとう」
後輩「お礼なら言葉よりも態度で示してください」
男「ん……、そうだな」ナデナデ
後輩「……そっちですか?」
男「どれを期待してたんだよ?」
後輩「……」ジー
男「な、なに?」
後輩「根性なし」
男「!?」
放課後 バスケ部部室
後輩姉「あーあ。これから練習か。球技大会の後くらい休みにしてほしいよね」
副部長「……お前、何かあったのか?」
後輩姉「なんで?」
副部長「1年がかなりビビってたぞ。球技大会で素人相手に本気を出してたって」
後輩姉「別に本気なんて出してないけどね」
副部長「本気を出さずに無失点ゲームしたのかよ。相手が素人とはいえ、バスケの試合で0-50なんて異常だろ」
後輩姉「いやいや、軽く流したよ。ほんの少し機嫌が悪かっただけでさ」
副部長「相手は災難だったな。機嫌の悪いお前と試合するなんて悪夢だ。想像もしたくない」
後輩姉「私のほうがよっぽど悲惨な目に遭ったから。あの二人の熱い抱擁を目の前で見せつけられたんだよ?」
副部長「それは悪夢だな。想像すると殺意が湧いてくる」
後輩姉「それに引きかえ、君は幸せな時間を過ごしたようだね。男くんの試合を見に行ったんでしょ?」
副部長「もちろん。男の勇姿を目に焼き付けてきたぜ」
後輩姉「で、少しは話すことできたの?」
副部長「……試合終わったら話しかけようとしたんだけどな。ある1年の女子が男に説教を始めたから近寄ることすら出来なかったよ」
後輩姉「そのまま別れてしまえばいいのにね」
副部長「なんなんだよ、あいつ! あんなに一生懸命プレーした男に説教するとかあり得ないだろ!」
後輩姉「君は彼女じゃないんだから、あの子がやることに文句を言っちゃいけないよ」
副部長「だけど、男はあんなに頑張ったのにあんまりじゃないか……俺が彼女だったら、抱きしめて褒めてやるのに……」
後輩姉「君がそんなことをしても、男くんは悪態をつくだけで感謝なんてしないよ」
副部長「いいじゃねえか。ツンデレっぽくて可愛いぜ」
後輩姉「……恋は盲目、だね」
後輩姉「副部長は誤解しているようだけど、実際の彼は口も性格も悪くて、小憎らしいって感じなのよ」
副部長「それは強がってるんだよ。身体も気も小さい男が、周りからなめられないように、虚勢を張っているんだ」
後輩姉「んー……」
副部長「どうだ、可愛いだろ?」
後輩姉「確かに、弱い自分を隠すために強がっている姿は愛おしいと思うよ? でも、男くんはそういうキャラクターではないから。あれは生まれもった性格であって、演じているわけではない」
副部長「なんでわかるんだよ」
後輩姉「そんなの目を見ればわかる」
副部長「……目?」
後輩姉「そう。目は口程に物を言う、って言うでしょう? 虚勢を張っている人は往々にして怯えた目をしてるのよ」
副部長「それはあくまでお前の推察だろ」
後輩姉「じゃあ、男くんが君の言うような性格だとしよう。それでも私は、彼への印象は変わらない」
副部長「だけど、さっき愛おしいって……」
後輩姉「それは別の人物に対しての話」
副部長「……誰だよ?」
後輩姉「さあ、誰でしょうね」
・
・
・
公園
後輩「さあ、誰でしょうね」
男「……」
後輩「試合中に足を捻挫したにも関わらず終了までプレーを続けて、全治3週間の診断を下された大馬鹿者は、誰でしょうね」
男「めんどくさそうな顔をしながら『球技大会なんて適当にこなしておけばいい』とかほざいていた野郎ですかね……」
後輩「先輩は本当にどうしようもない馬鹿です。早々に交代しておけば、軽い捻挫で済んだのに」
男「後輩にいいところを見せたかったんだよ……」
後輩「試合前にこれ以上ないくらいの醜態を晒しておいて、球技大会でちょっといいプレーしたくらいで私が喜ぶでも思っているのですか?」
男「……なあ、俺はあの時、一体なにを間違えたんだ?」
後輩「間違いに気付かないとは、さすが唐変木」
後輩「先輩が痛みに耐えてプレーしている姿を見せられて、私は辛いだけでしたよ」
男「うまく隠せてると思ったんだけどな。現に捻挫してたことに気付いたのは後輩だけだし」
後輩「彼女なのですから当然でしょう。周囲の目は誤魔化せても、私を騙すことなど不可能です」
男「だな。今回のことで、後輩に隠し事ができないのがよくわかったよ」
後輩「なら、もう……あんな無茶はしないでください」ギュ
男「……心配かけてごめんな」ナデナデ
後輩「次はないですからね」ギュウ
後輩「今回のことで身に染みてわかったのではないですか。人間、よくないことを考えているとろくなことにならないのですよ」
男「確かに、キスしてもらうためにゴールを決める、とか邪な考えはダメだよな」
後輩「はっ?」
男「ほら、約束しただろ? 俺がゴールを決めたら、後輩にキスしてもらうって」
後輩「……私が訊いているのは、無茶した理由が私にキスしてもらう為なのか、ということです」
男「そうだけど?」
後輩「……」ギロッ
男「こ、後輩……?」
後輩「キスくらいいくらでもしてあげますよ!」チュウウ
男「!?」
男「お、おい!」
後輩「なんですか!? キスしてほしいのでしょう!?」チュ
後輩「何度だって!」チュ
後輩「してあげますよ!!」チュウウウウウウウウ
男「○△□×!!?」
後輩「あと何回すれば満足なのです!? 100回でも200回でもしますよ!」
男「も、もういいって!」
後輩「そもそも、試合前にキスしていますよね!? 無茶してまでキスしてもらうほど飢えていたはずではありませんけど!」
男「あれは頬っぺたにだったしな……」
後輩「不満だったら、その場で言えばいいでしょう!?」
男「……自分から言うのはアレだし」
後輩「私は、貴方が望むなら唇どころか身体さえ喜んで差し出しますよ! なんなら、証明しましょうか!?」
男「俺が全部悪いです。ごめんなさい……」
男「……自分からはできないから、せめて勝ち取ろうと思ったんだ」
後輩「先輩ってどこまで馬鹿なのですか。貴方は既に私の心を勝ち取っているのですよ。それ以上のことなんてないでしょう」
男「でも……」
後輩「そりゃあ、私だって先輩からキスされたいです。時には不満を覚えますけど、でも先輩が奥手なことは理解しているので我慢はできますよ」
男「……」
後輩「まあ、せめてプロポーズくらいはしてくれないと困りますけど」
男「……ああ。任せてくれ」
後輩「期待はしませんけど、待っていますよ」
後輩「さて、そろそろ帰りますかね」
男「もうこんな時間か……。ごめんな、貴重な練習時間を削ってしまって」
後輩「先輩とたくさんキスできたのでいいですよ」
男「お、お前なあ!」
後輩「別に恥ずかしがることないでしょう。先輩って本当に初心……」
男「どうした?」
後輩「……いえ、なんでもないです」
男「なら、いいけど……」
後輩(こんなに奥手な人が姉を押し倒すなんてことできるの……?)
翌日 朝 中学校校庭
妹「お兄ちゃんと部長が付き合ってた? なにそれ?」
後輩「知らないのですか……?」
妹「知らないもなにもあの二人は付き合ってないよ」
後輩「で、でも、姉が告白したのは事実なのです!」
妹「部長がお兄ちゃんに? いやー、それはなにかの勘違いだよ」
後輩「この目で見たのです! 間違いありませんよ!」
妹「うーん。それが事実だとしても、お兄ちゃんは受けなかったはずだよ。中学時代から後輩さんに夢中で他の女の子なんて眼中になかったし」
後輩「……私がはっきりしないから、自暴自棄になって姉と……」
妹「あー、ないない。実はお兄ちゃん、昔から部長のこと嫌いでさ。なんかライバル視してるみたい。『あいつには絶対に負けない』って中学の頃は事あるごと
に言ってたし」
後輩「なら、あの話は……」
妹「安心しなよ。お兄ちゃんは後輩さん一筋だって。そんなの後輩さんだってわかってるでしょ?」
後輩「それはそうですけど……」
妹「そんなに気になるなら、本人に直接訊いてみれば? お兄ちゃん、嘘つくのヘタだから誤魔化せないだろうし」
後輩「……検討してみます」
妹「そろそろ練習しようよ。今日は山場なんだし、気合入れていこー!」
後輩「……なんで、あの人がここに」
妹「えっ?」
副部長「……」キョロキョロ
妹「副部長……?」
副部長「お、男はどうしたんだ?」
妹「お兄ちゃんなら捻挫したので家にいますけど」
副部長「そ、そうなのか……」ガックシ
後輩「……」
妹「副部長はどうしてここに?」
副部長「お前を呼びにきたんだよ。朝練に参加しないで、こんなとことで遊んでる場合じゃねえだろ。レギュラーの自覚あんのか」
妹「す、すみません……」
副部長「いいから早く行けよ。時間を無駄にすんな」
妹「……後輩さん、ごめん」
後輩「私は大丈夫ですから、行ってください」
妹「じゃあ、また学校で……」
副部長「行けよ!」
妹「は、はいいいいいいいい!」ダッ
副部長「ちっ……」
後輩「……それで、何の用ですか?」
副部長「さすが出来のいい後輩さん。察しがよろしいようで」
副部長「姉と賭けをしてるそうだな」
後輩「貴女には関係ないでしょう」
副部長「それがあるんだな、これが」
後輩「何があるというのですか」
副部長「男が好きなんだよ。ずっと、ずっと前からな」
後輩「……なるほど。確かに関係ありますね」
副部長「俺がお前らの関係を終わらせてやるよ」
後輩「できるといいですね」
副部長「バスケを投げだしたお前が俺に勝てると本気で思ってるのか?」
後輩「困難なことはわかっています。ですが、なんとしてでも勝たなければならないのです」
副部長「精神論でどうにかできる実力差か?」
後輩「それは……」
副部長「まあ、今回は運がなかったな。俺と当たらなければ、姉を相手に10点決めればいいだけだったのに。そもそもお前のような軟弱な女が男を守ろうなんておこがましいんだがな」
後輩「……守る?」
副部長「そうだ。俺なら、あいつを守れる、幸せにしてやれる。お前じゃ役不足なんだよ」
後輩「……」クスッ
副部長「なんだよ?」
後輩「いえ。貴女は安い女だな、と思いましてね」
副部長「ああ!?」
後輩「だって、そうじゃありませんか。守るとか幸せにするとか一方的に相手を大切にできれば満足なのでしょう? 相手を愛するだけで満足なんて独善的な思考です」
副部長「なら、お前は見返りを求めてんのかよ」
後輩「ええ。私は愛し合いたいですから。もちろん、相手から愛されるように努力しますけどね」
後輩「愛することが目的な貴女には、先輩を振り向かせることはできませんよ」
副部長「ふん。お前たちが別れることになれば、俺にはいくらだってチャンスはあるんだ。じっくり時間をかけて関係を築くさ」
後輩「貴女にチャンスなど訪れません。年下の女に想い人を奪われた負け犬になんて、私は負けませんから」
副部長「ほざいてろ。重圧に負けてバスケを投げ出したお前なんかに負けねえよ」
後輩「……」
副部長「……」
後輩「では、学校で」
副部長「首洗って待っとけよ」
体育館
後輩「……身体を動かしてきます」
男「俺も行くよ」
後輩「いえ。集中したいので、一人でやってきます」スタスタ
男「……後輩、やけにピリピリしてるけど、なんかあったのか?」
妹「なんか悩んでるみたいだよ、お兄ちゃんのせいで」
男「俺? ……なにかしたのか?」
妹「んー。私にはよくわからなかったけど、お兄ちゃんが悪いんじゃないじゃないかなー。うん。絶対にそうだと思う」
男「曖昧なくせに、断定してんじゃねえよ」
後輩姉「おはよー!」
妹「あ、おはようございますー!」
男「面倒なのがきやがった……」
後輩姉「男くんだー。妹ちゃんから聞いたよ。捻挫したんだってー?」ギュウ
男「!?」
後輩姉「大丈夫?」ギュウウウウウウ
男(こ、こいつ……笑顔で捻ったところを踏んでやがる……!)
後輩姉「痛いの?」
男(患部をダイレクトで踏まれてんだからな! 痛いだろうな!)
妹「お兄ちゃん?」
男「別に痛くねえよ……」
後輩姉「そっかあー」ギュウウウウウ
男「暑苦しいから離れろ……」
後輩姉「やーだー」ギュウウウウウウウウウウウウウウウウ
男「頼むから……」
後輩姉「なんでよー。昨日のお礼させてよー」
妹「うちの兄がお世話になったんですか?」
後輩姉「ちょっとね。……男くんと話をしたいから席外してくれる?」
妹「あ、はい……」
後輩姉「昨日は本当にありがとうね」
後輩姉「わざわざ、私の目の前であの子と抱き合ってくれて。おかげで大切なことを思い出せたわ」
後輩姉「君を殺したいほど憎い、ってことをね」ボソッ
男「……っ!」ゾクッ
後輩姉「そういうことだから、行動には気を付けてね」パッ
男「……お前にとやかく言われる筋合いはねえよ」
後輩姉「私はあの子の姉よ。節度ある交際をするように導くのは当然でしょう」
男「導かねえで終わらせようとしてんじゃねえか……」
後輩「……なにをしているのですか」
男「こ、後輩……!」
後輩姉「なんだと思う?」
後輩「なんでもいいですが、私の許可なく先輩に近付かないでください」
後輩姉「あら……」
後輩「目障りです。消えてください」
後輩姉「……そうね。そうするわ」
男「……やけに素直に聞いたな」
後輩「さあ? 私には関係ありませんし」
男「うーん……」
後輩「……」ベシッ
男「な、なんだよ?」
後輩「貴方は私のことだけ見てなさい」
男「お、おう……」
・
・
・
後輩姉「……」
妹「お兄ちゃんと話し終わったんですか?」
後輩姉「……妹ちゃん、中学校で朝練してたら副部長が来たって言ってたよね」
妹「そうですけど……?」
後輩姉「……」
妹「なにかあったんですか?」
後輩姉「あの馬鹿、余計なこと言ったな……」
副部長「よお、雑魚。よく逃げなかったじゃねえか」
後輩「……」
副部長「シカトかよ」
後輩「……弱いやつほどよく喋るとはよく言ったものですね」
副部長「なんだと!?」
後輩「では、試合が始まりますので」スタスタ
副部長「ちっ……」
後輩「……」ダムダム
妹「後輩さんはどうやって攻略するんだろう」
男「ドリブルで切り裂く」
妹「はあ……これだから素人は。副部長が守るゴール前でシュートを決めるのは簡単じゃないわよ。まして、シュートを決められるのが後輩さんだけなんだもん。的を絞って守れるから、より後輩さんは難しいよ」
副部長「させるかあ!」
後輩「!」
妹「ほらね。ゴール前には簡単に侵入できる。でも、その後は副部長が手ぐすねを引いて待ち構えているのよ。苦しい体勢に追い込んで、シュートモーションに入ったら、あの身長を活かしてブロックショット決めてくる。……本当に嫌らしいのよ」
男「なら、外から打てばいいじゃねえか」
妹「馬鹿? 現役のバスケ部員だって3Pを決めるのは難しいのに、何年もバスケをやってない後輩さんに決められるはず……」
後輩「……」シュ
副部長&妹「えっ」
「……」パサッ
副部長「……」
妹「……」
後輩「さあ、次です!」
副部長&妹「えっ」
副部長(3Pだと……そんな馬鹿な……)
後輩「……」ダムダム
副部長(そ、そうだ。たまたまに決まってる。何本も決められるはずが……)
後輩「……」シュ
副部長「……」ゴクリ
「……」パサッ
副部長「!?」
男「何が『決めるのは難しい』だ。二本連続で決めてるじゃねえか」
妹「噓でしょ……」
妹「今の2本は大きいよ。これで、副部長はゴール前に留まることができない……」
副部長(……やつが3Pを習得しているなら打たせるのは危険だ。だが、もし俺をゴール前から誘い出すのが目的だとしたら……)
後輩「……」ダムダム
副部長(く、くそったれ……)
後輩「……」ニヤァ
妹「ゴール前を空けて3Pを防ぎにいけば、逆にドリブルするスペースを与えて振り切られるリスクを負うことになる。でも、3Pを決められるのは避けたい」
妹「これで後輩さんが優位になった……」
男「俺は最初から楽勝だって言ってただろ」
・
・
・
後輩「さあ、ラスト2分で10点差です。どうしますか?」ダムダム
副部長「……お前からボールを奪って速攻で8点差だ。まだわからない」
後輩「そうですか。ぜいぜい最後まで足掻いてください」
副部長「男は……俺が守るんだ。俺しか守れないんだ」
後輩「一つだけ言っておきます」スッ
副部長「……っ!」ダッ
後輩「貴方が思っているほど先輩は弱くありませんよ」クルッ
副部長「なっ……」
後輩「……」シュ
「……」パサッ
後輩「奥手ではありますけどね」
妹「これで12点差……」
男「……」
妹「なんで、さっきから黙ってんの?」
男「あいつ、どこかで見たような……」
妹「そりゃ中高一緒なんだし、どっかで顔合わせたことくらいあるでしょ」
副部長「……あいつ、泣いてたんだよ」
後輩「はい?」
副部長「俺があいつと初めて出会ったとき、男は公園の片隅で泣いてたんだ」
副部長「小さい体をさらに小さく丸めて、誰にも負けないってつぶやきながら……」
副部長「……あの時、決めたんだ。俺が守るって。守り抜いてみせるって」
後輩「……」
副部長「だから、お前に負けるわけにはいかないんだ……!」
後輩「貴女の想いはわかりました。しかし、私にとっても先輩は大切な存在なのです」
後輩「譲ることはできません」
副部長「残り2分。俺は最後まで諦めねえぞ」
後輩「望むところです」
・
・
・
試合終了後
妹「お疲れ様!」
後輩「ありがとうございます」
男「圧倒的だったな」
後輩「そうでもなかったですけどね……それより先輩、副部長のことですが」
男「ん?」
副部長(終わった……。なにが男を守るだよ……。男に嫌われるのが怖くて、ずっと逃げてたくせに。なんて傲慢なんだ……)
後輩『相手を愛するだけで満足なんて独善的な思考です』
副部長「……」チラッ
後輩「~~~」
男「~~~」
副部長(どう見ても、男の隣にふさわしくないのは俺のほうだよな……)
男「おい」
副部長「な、な、な……なんで……」カァァ
男「あの時はありがとうな」
副部長「お、覚えてたのか……?」
男「いや、ついさっきまで忘れてた」ドーン
副部長「ああ、そう……」
男「試合見てたけど、それなりに頑張ってたじゃねえか」
副部長「どこがだよ。何年もバスケをやってなかったやつに好き放題やられたんだぞ……」
男「仕方ねえよ。相手が悪い」
副部長「……ああ、お前の彼女は凄いよ」
男「だろ? 自慢の彼女だ」
副部長「そんな風に笑うんだな……」
男「はあ?」
副部長「いや、幸せそうな顔してるからよ」
男「実際、幸せだしな。後輩が傍にいてくれるだけで、俺は生きててよかったって思える」
副部長「……」
後輩『私は愛し合いたいですから。もちろん、相手から愛されるように努力しますけどね』
副部長「……愛し合っているからこそ、そう思えるのかもな」
男「じゃあ、そろそろ戻るわ」
副部長「あ……うん。そうだよな」
男「まあ、こうして再会したのも何かの縁だ。たまには話そうぜ」
副部長「いいのか!?」
男「ダメなのか?」
副部長「いやいやいや! 俺は嬉しいけど!」
男「なら、変なこと聞くなよ」
副部長「ごめん……」
男「じゃあ、またな」
副部長「……うん! またね!」
校舎裏
男「中1の時、仲が悪い同級生がいて、そいつがチビチビうるせえからボコボコにしたことがあってさ。その時にあいつに声をかけられたんだ」
後輩「……公園の隅で小さくなっていたそうですが」
男「制服のÝシャツが破かれたから、隠してたんじゃねえの」
後輩「泣いていたのは?」
男「あー。そのまま家に帰ったら親に怒られるからじゃん?」
後輩「強くなりたいと呟いたのは」
男「一方的に叩きのめせるようになりたいってことじゃね」
後輩「……」
男「いやー。あの時、副部長がYシャツを家に取り行ってくれなかったら、親父に殴られるところだったぜ」
後輩「副部長が不憫でなりません……」
男「あいつと話してみたら、いろいろ思い出したよ。確かに中高一緒だったわ」
後輩「だから言ったではありませんか……」
男「仕方ないじゃん。中三からはあいつと話したことないし」
後輩「その時期に何かあったのですか?」
男「後輩と出会った、だろ?」ニコッ
後輩「……馬鹿」プイッ
バスケ部部室
後輩姉「……残念だったね」
副部長「完敗だったよ……」
後輩姉「君が悪いよ。昨日まで、あの子は勝てるのか半信半疑で精神的に追い込まれていた。でも、君が余計な挑発をしたせいで、絶対に勝つって腹をくくってしまった。試合前のあの子の目を見たときに、副部長の敗北を確信したよ」
副部長「なんであんな馬鹿なことを言ったんだろうな……」
後輩姉「まあ、安心してよ。私が勝つから。そうすれば、副部長にもまだチャンスはあるって」
副部長「もう、いいんだ。たとえ、あの二人が別れたとしても、男の心は手に入らないってわかったから。あの二人の間に入ることなんてできないんだよ」
後輩姉「……なによ、それ」
副部長「わかってるんだろ? あいつの気持ちがお前に向くことがないことくらい」
後輩姉「知らないわよ……」
副部長「なあ、もうやめにしようぜ。しっかり話し合えば、きっと……」
後輩姉「この気持ちを話したところで誰が理解できるの? 誰が認めてくれるの? 現に貴女はわかってないじゃない」
副部長「それは……」
後輩姉「あの二人は一時的に愛し合っているだけよ。恋愛感情なんて記憶と一緒。時間が経つにつれて薄れていくもの」
後輩姉「必ず私のもとに帰ってくるわ。必ずね」
昼休み 1年生教室
男「……あれ、後輩は?」キョロキョロ
妹「後輩さんなら、お兄ちゃんを迎えに行ったけど……会わなかった?」
男「いや、うちの教室には来なかったが……」
妹「自販機にでも寄ってるのかも。連絡しておけば?」
男「……連絡先知らねえんだよ」
妹「はあ? 現代のカップルでそんなことありえるの?」
男「仕方ねえだろ。俺の電話番号を知ったら、電話代で破産するって言うんだから……」
妹「お兄ちゃんたちだと、実際にとんでもない請求額になりそうなのが面白いよね」
妹「じゃあ、あたしから電話しとくよ」
男「おう。早くしろな」
妹「なんなのよその態度は……ありゃ、電源が入ってないみたい」
男「……何かあったんだろうか」
妹「授業前に電源切って、そのままにしちゃってるんじゃない」
男「それならいいんだが……」
妹「男子に体育館裏に呼び出されて告白されてたりして」
男「ねえよ」
妹「どうかなあ? 後輩さんは美人だからねえ」
男「校内で堂々と俺にキスをする後輩に告白するような馬鹿はいねえよ」
妹「告白と言えば、部長から告白されたことあるの?」
男「……はあ?」
妹「後輩さんが言ってたんだよね。中学生の頃、お兄ちゃんが告白されてる現場を見たって」
男「なんだよ、それ……」
妹「あたしはそんなことあり得ないって言ったんだけど、後輩さんが譲らないんだよね」
男「……」
妹「どうしたの? ……まさか、本当に部長から」
男「後輩、探してくる!」
体育館裏
後輩姉「そっちから来てくれるとは思わなかったわ」
後輩「話があるのです」
後輩姉「私に勝てないと悟って賭けを取り消したいの?」
後輩「勝てないと悟っているのは、貴女のほうでしょう?」
後輩姉「……どういうことかしら」
後輩「貴女と先輩が交際していたという話は嘘ですね」
後輩姉「証拠はあるの?」
後輩「妹さんに確認しました。貴女が先輩と付き合っていた事実はなく、また先輩の家に訪れたことはないということを」
後輩姉「……」
後輩「貴女は私に勝てないと悟り、先輩に交際し、強引に純潔を奪われた等という下卑な嘘を吐いて、私を先輩から遠ざけた。しかし、結局、貴女は先輩を振り
向かせることができなかった」
後輩「今回も一緒です。貴女がどんなに策略を巡らせたところで、先輩の心をつかむことはできませんよ」
後輩姉「色々とおしいわね」
後輩「何がですか!?」
後輩姉「まず、男くんに事実確認をしていない点。第三者の証言より、まず当事者から聞くべきでしょう」
後輩「それは……」
後輩姉「結局、貴女は怖いのよね。彼に話を聞いて私の話が事実だったら、立ち直れないほどのショックを受けてしまうから」
後輩「ち、違います!」
後輩姉「そう。まあ、いいわ。実際、あの男とは何もないし、私は貴女の持つ魅力に勝てないとも思ってる」
後輩「ほ、ほら! やっぱり……」
後輩姉「でも、嘘をついた理由が間違っているわ。私は男くんを振り向かせたいわけじゃない」
後輩「なら、なぜ……」
後輩姉「それは、試合が終わった後のお楽しみ」
後輩「この期に及んで、まだしらばっくれるのですか!?」
後輩姉「ええ。いまはまだ言うべきではないもの」
後輩「ふざけないでください! 3年間も私を欺いておいて、まだ隠すというのですか!」
後輩姉「……3年? いいえ、もっともっと前、私が物心ついたときから、ずっと隠してきたことよ」
後輩「何を言って……」
男「後輩!」
後輩「どうしてここに……」
男「おい。どういうことだ」グイッ
後輩「ちょっと、先輩……」
男「後輩は黙ってろ」
後輩「……」
後輩姉「放してくれないかな。私は妹に呼び出されただけなんだけど」
男「お前が俺に告白した、だって? 笑わせてくれる」
後輩姉「あら、それは事実でしょう?」
男「どこがだ! すぐに冗談だから本気にするなって言ったじゃねえか!」
後輩姉「『告白』という言葉は、隠していた心の中を明かすという意味なのだけど」
男「……っ!」
後輩姉「ほら、事実でしょう?」
後輩姉「もういいかな? 試合の準備したいんだけど」
男「好きにしろよ……」
後輩姉「じゃあ、私は行くよ。二人でいられるのも後僅かなんだし、せいぜい楽しんでね」スタスタ
後輩「先輩……?」
男「……あいつとなんの話をしたんだ?」
後輩「えっと……先輩と姉が交際していた件について……」
男「そんな事実はないからな」
後輩「ええ。先ほど、姉も認めました」
男「そうか……」
後輩「……何を隠しているのですか?」
男「……」
後輩「私には言えないと……?」
男「……後輩は知らないほうがいいんだよ」
後輩「私だって当事者ですよ! 知る権利はあるはずです!」
男「確かにそうかもしれない。でも、少なくとも俺の口から言うべきことじゃないんだ」
後輩「どうしてもですか……」
男「……あいつが打ち明けなければ意味がないから」
後輩「……わかりましたよ」
・
・
・
体育館
後輩姉「さあ、決着をつけましょうか」
後輩「試合が終わったら、貴女が隠していることを洗いざらい話してもらいますからね」
後輩姉「私の話を聞く余裕あるの? 試合に負けたら、愛しの男くんと離れることになるのよ?」
後輩「大丈夫ですよ。私は負けませんから」
後輩姉「……その根拠のない自信をいつまで保てるかしらね」クスッ
後輩「……」ダムダム
後輩姉「……」
男「後輩が仕掛けないとは意外だな……」
妹「そう? まだ序盤だし、ボールをキープしてリズムを掴みにいくのは当然じゃない?」
男「条件を考えると最初から飛ばしていくかと思ったんだが」
妹「いや、今日2試合目だよ? いくら10分ハーフとはいえ、最初から飛ばしたら体力持たないでしょ。まして、後輩さんはブランクがあるんだし」
妹「むしろ、部長のポジションが不思議だよ」
副部長「確かに」
男「うわっ! お前いたのか!?」
副部長「……さっきから隣にいたよ」
妹「やっぱり、副部長もそう思います? あのポジショニングだと、3Pを打ってくださいって言ってるようなものですよね?」
男「後輩が3Pを打てること知らないんじゃねえの?」
妹「いや、部長、あの試合を見てたからね……」
副部長「……打たせたいんじゃないか」
男「なんのために?」
副部長「それは……」
後輩姉「ほらほら、早くシュートしないとバイオレーション取られちゃうよ」
後輩「ちっ……」スッ
後輩姉「そんなに私と1vs1したいの?」
後輩「うるさいですよ!」ダムダム
後輩姉「隙あり」バシッ
後輩「!?」
妹「後輩さん、どうしたんだろ。今の場面、強引にドリブルで仕掛ける必要なんてないのに……」
副部長(やっぱりか……)
後輩姉「これで先制っと」パサッ
後輩「……っ」
後輩姉「せっかくフリーなんだから、3P狙えばいいのに」
後輩「……切り札は最後までとっておく主義なのです」
副部長「たぶん、後輩は3Pに自信がないんだ」
妹「で、でも、副部長との試合では2本連続で決めましたよ」
副部長「だが、あの2本以降は打ってすらいないだろ?」
妹「あっ……」
副部長「おそらく、あの2本は俺を誘い出すための囮。要は、3Pがあるかもしれない、と俺に思わせられればよくて、決まったらラッキーくらいだったんだろうよ」
副部長「姉はそれをはっきりさせるために、ゴール前に陣取って後輩をフリーにさせてるんだ」
男「何のためにそんなことを……」
副部長「3Pがあるかないかで守備の対応が変わってくるからな。味方は素人でパスを選択しても得点に結びつく可能性は低いうえに、3Pもないのならドリブルだけを気にすればいい」
副部長「ただでさえ1vs1の守備が強い姉を攻略するのは、より困難になったってことだ」
男「でも、後輩のドリブルはわかっていてもそう簡単には止められないだろ。現にお前だって何度も交わされてたじゃねえか」
副部長「俺は相性が悪かったし、本来のポジションではない場所で対応させられたからな。逆に姉は後輩みたいなタイプを得意としてて、1vs1に絶対の自信を持ってる。単純に仕掛けても勝てないだろうよ」
後輩「こんどこそ……」スッ
後輩姉「また1vs1? 3Pはどうしたの?」
後輩「貴女の思惑通りにはいきませんよ!」クルッ
後輩姉「ワンパターンなんだから」バシッ
後輩「なっ……!」
副部長「ほらな?」
男「マジかよ……」
妹「あたしが出てれば、コンビネーションで崩せたのに……」
副部長「無理だ」
妹「あたしたちバスケ部員4人がいれば、いくら部長だって止められないですよ!」
副部長「姉にフェイスガードされてる状態からシュートまで持ち込めると思うか?」
妹「で、でも、スクリーンプレイで何回かはフリーにさせられますし……」
男「それじゃあ足りないんだよ……」
妹「えっ……」
副部長「そういうことだ。当初の予定通り、味方にバスケ部員がいたとしても、10点というのは厳しい条件なんだよ。それが、後輩一人で10点を決めなきゃいけないっていうのは……正直言って不可能だ」
男「後輩……」チラッ
後輩「……」ジー
男(えっ……。めっちゃ俺のこと見てる……)
後輩姉「ミニバス時代と一緒ね。チームメイトに恵まれず、一人で打開することを余儀なくされているんだもの」
後輩「……」ジー
後輩姉「……よそ見なんてしてる余裕あるの?」
後輩「ありますよ?」
後輩姉「今の状況わかってないの?」
後輩「試合そっちのけで副部長と仲睦まじくお話してますね。後でお灸をすえねばなりません」
後輩姉「あの男のことじゃないわよ!」
後輩「さて、落ち着いたところで、そろそろ始めましょうか」
後輩姉「何を言って……」
後輩「Aさん!」シュッ
A子「は、はい!?」パシッ
後輩姉「!」
後輩「ナイスキャッチです! そのままBさんにパスです!」
A子「え、えい」バッ
後輩「Bさん、シュートです!」
B美「はわわ!」スッ
「……」ゴン
B美「ふぇぇ……」
後輩「どんまいです! 切り替えて守備をしましょう!」
後輩姉「……貴女、勝負を投げたの?」
後輩「黙ってプレーできないのですか?」
後輩姉「チームで10点取っても意味ないのよ」
後輩「知ってます」
後輩姉「なら、どうして無意味なことをするの?」
後輩「これはバスケですよ? 5対5で試合をしているのです。他の選手にパスをするのは当然でしょう?」
後輩姉「賭けはどうなったのよ」
後輩「賭けの内容に『貴女を1vs1で抜く』ということは含まれていません」
後輩姉「なるほど。つまり、私には1vs1で勝てないと認めるのね」
後輩「煽ってもなにもないですよ。貴女に勝つことに固執していたあの頃の私ではないのですから」
後輩姉「……」
・
・
・
後輩姉(前半も残り2分……。いつまで仕掛けないつもりなの……)
B美「に、にゃったー! 入ったー!」
後輩「ナイスです!」
後輩姉(……パスを回し始めたことで、他の子たちも動きが良くなってきた。でも、それがなんだというの。最後は貴女が決めなくてはいけないのよ?)
後輩「さあ、前半もあと少しです! 頑張りましょう!」
後輩姉(何を考えているの……?)
副部長「もう残り2分だぞ……いつまでこれを続けるんだ」
妹「……」
男「後輩はいまだに0点……」
妹「足が止まり始めてる」
男&副部長「えっ?」
妹「ほら、3年生は部長以外、足が止まってきてる」
男「……本当だ。まあ、運動部じゃないやつらだし、そんなもんだろ」
後輩(さて、そろそろですかね)
後輩姉「このままだと、10点どころか1点も決められないわよ」
後輩「私より、チームメイトの心配をしたほうがいいのでは?」スッ
後輩姉(ついに仕掛けてきたわね。だけど、私を抜くなんて……)
3年女子「えっ」
後輩姉「ば、ばか、そんなところで突っ立ってんじゃないわよ! 邪魔よ!」
後輩「……」スッ
後輩姉「あっ……」
「……」パサッ
後輩「まずは2点」
男「ラッキーな形だけど、ようやく決まったな」
妹「違うよ。今のは狙ったんだよ。他の3年生に目掛けてドリブルで仕掛けて、その選手が部長の邪魔になるように仕向けたの」
男「そんなこと可能なのか?」
妹「部長以外の選手は疲れて棒立ちだったもん。とっさに対応できるはずないよ」
妹「後輩さんはこれを狙ってたんだよ。部長のチームメイトが、部長の足を引っ張ることをね」
後輩姉「ちっ……」
3年女子「ご、ごめん……」
後輩姉「いいよ、もう。次からは集中しててよ」
3年女子「ごめん……」
後輩姉(もう少しでインターバルだし、ここは全員でゴール前を固めて妹のドリブルするスペースを消して……)
後輩「……」スッ
後輩姉「3P!?」
「……」パサッ
後輩「これで5点」
後輩姉「な、なんで……」
後輩「言ったでしょう? 切り札はとっておくって」
後輩姉「……」
男&妹「……」ジー
副部長「なんだよ!?」
妹「いえ」
男「別にー」
インターバル
妹「後輩さーん!!」ギュウ
後輩「だから、突然抱きつくのはやめてくださいよ!」
男「……」グッ
副部長「お前は行かないのか?」
男「相手クラスの奴が行くのはおかしいだろうよ」
副部長「まあ、それもそうだな」
妹「だって、後輩さんのこと大好きなんだもん!!」ギュウウウウウウウ
後輩「もう……」ナデナデ
男「……」ググググッ
副部長「めんどくせえから行ってこいよ」
A子「まさか、私たちがあのバスケ部部長がいるクラスと接戦だなんて……」
B美「ゆ、夢みたいだにゃ……」
妹「みんな頑張ってるもん! 絶対に勝てるよこの試合!」
後輩「……」
妹「後輩さん?」
後輩「えっ……? ああ、はい。勝てますよ、きっと」
B美「後輩さんが言うならいける気がしてきた……」
A子「確かに……」
妹「なによそれ! あたしの言葉が信用できないっての!?」
B美「だって」
A子「ねえ?」
妹「なんだとー!」
後輩「……」フラッ
A子「どうしたの」
後輩「すみません。ちょっと行ってきます」タッタッタ
B美「どこに行くんだにゃ……?」
妹「そんなの決まってるじゃない」
後輩「さあ、お仕置きタイムです!」
男「お、お仕置き? 俺が何をしたって言うんだよ」
後輩「自分の胸に手を当てて考えてみればいいのではないですかね? 試合そっちのけで美女二人に囲まれてにやにやしていたダメ彼氏さん」
男「言いがかりだ! むさくるしい女2人が近くにいただけで俺はなにも……」
後輩「うるさいです! とにかく、私の機嫌を損ねたのは事実なのですから、お仕置きです!」ギュウ
男「……!」
副部長「それのどこがお仕置きだよ」
後輩「後半はちゃんと試合を観てくださいよ!」パッ
男「……わかった」
後輩「そろそろ試合が始まるので……」
男「まー、待てって」グイッ
後輩「な、なんですか?」
男「……」チュ
後輩「なっ……」
男「今回は間違えてないよな?」
後輩「……っ!」
男「好きだよ」
後輩「……やっぱり、先輩には敵わないなあ」
後輩「先輩は凄いです。私がしてほしいこと、かけてほしい言葉がわかるのですから」
男「彼氏だからな。これくらい当然だろ」
後輩「おかげで弱気になっていた心が前向きになりました」
男「そりゃあ良かった」ナデナデ
後輩「……先輩、大好きです。ずっと貴方の傍にいたいです」
男「俺もだよ」
後輩「待っていてください。必ず、勝ちます」
男「ああ。待ってる」
副部長「お、お前よお、少しは周りの目とか気にしろよな」
妹「インターバルとはいえ、試合中だよ。キスするとか信じられないんだけど」
男「仕方ねえだろ。それしか、落ち着かせてやる方法が思い浮かばなかったんだから」
妹「はあ?」
男「いいから、後輩のこと応援してやってくれ」
後輩姉「見せつけてくれるわね」
後輩「羨ましいですか?」
後輩姉「少しは落ち着けたようね。良かった。後半、まともな勝負にならないんじゃないかって心配したのよ」
後輩「……なんの話でしょうか?」
後輩姉「3Pを決めたのに怯えた目で私を見るんだもの。すぐわかったわ。貴女が私に勝てないんじゃないかと弱気になっていることにね」
後輩姉「そりゃそうよね。隙をついて5点を奪えたからいいものの、実力差は明らかなんだから」
後輩姉「5分、いえ3分で立ち直った心を打ち砕いてあげるわ」
後輩「私は諦めません。後半、貴女がどんな策を講じてきても、必ず攻略します」
後輩姉「たかがキスしたくらいで、よくもまあ、そこまで強気になれるわね」
後輩「貴女は知らないでしょうが、好きな人とするキスはそれほどの力があるのですよ」
後輩姉「この試合を勝った後に検証させてもらうわ」
後輩「それはどうですかね。もし勝てたとしても、先輩が貴女に振り向くことはないと思いますが」
後輩姉「それでいいのよ。あの男とキスをするなんておぞましくてたまらないもの」
後輩「はい……?」
後輩姉「さっ、後半を始めましょうか」
後輩「……?」
後輩姉「……」ダムダム
後輩「……いつまでそうしているつもりですか」
後輩姉「そうね。20秒過ぎくらいまではこうしていようかしら」
男「姉はキープしているばかりで仕掛けてこないな」
副部長「あれはディレイオフェンスだからな」
妹「で、でも、ディレイオフェンスなんて、実力が劣るチームが採る戦術ですよ? 部長がいるのに、そんなことする必要ないですよ」
男「どういう戦術なんだ?」
妹「攻撃時間24秒を目一杯使いながら攻めるの。少しでも時間を稼いで、相手の攻撃回数を減らすためにね」
副部長「つまり、後輩のシュートチャンスを減らせるってことだ」
後輩(ディレイオフェンスをしてくるなんて……)
後輩姉「取りにこなくていいの? 時間なくなっちゃうよ?」ダムダム
後輩「時間がないのは貴女も一緒でしょう」
後輩「それもそうだね。」スッ
後輩(無理にボールを奪いに行って体力を消耗するより)
後輩姉「よいしょっと」パサッ
後輩(速攻を繰り返して攻撃回数を増やすことに専念したほうがいい!)ダッ
後輩姉「そうはさせないよ」
後輩「!」
後輩姉「私のマークを振り切れるかな?」
後輩「フェイスガード……!」
後輩姉「なんで驚いてるのよ。私にフェイスガードされることくらいわかってたでしょ」
後輩姉「まあ、ディレイオフェンスとのコンボは想定してなかっただろうけど」
副部長「これは追い込まれたな。ディレイオェンスをやられて攻撃回数は減り、フェイスガードによってパスを受けることさえままならない」
妹「どうして部長はここまでやるんですか……たかが球技大会なのに……」
副部長「……姉にとっては、これがラストチャンスだからな」
男「……」
後輩姉「さあ、どうする?」
後輩「そんなの決まってます!」ダッ
後輩姉「逃がさないよ」サッ
後輩「もう……」キュッ
後輩「しつこいですよ!」ダッ
後輩姉「ほらほら、もっと頑張ってよ」サッ
・
・
・
副部長「……もう5分以上も後輩はボールに触れてないな」
妹「ボールを受けられる局面を何度も作ってるのに……」
副部長「そうだな。味方が素人集団でなければ、パスをもらえたはずだ」
妹「……これ以上、見てられません。あたしが後輩さんを助けます」
副部長「お前は出場を禁止されてるだろうが。顧問にバレたら総体予選に出れなくなるぞ」
妹「それでもいいです! このまま後輩さんが潰されるのは見てられませんよ!」
男「騒ぐなよ」
妹「だって!」
男「お前が今からコートにたっても勝敗は変わらねえよ」
妹「そんなことないもん! 後輩さんの力になるもん!」
男「馬鹿か。お前の力なんて必要ねえよ。後輩が自信満々に俺に待ってろって言ったんだ。それを信じろ」
後輩「……」ハァハァ
後輩姉「苦しそうね」
後輩「そうですね……さすがにちょっときついです」
後輩姉「私を振り切るために走り回っていたものね」
後輩「……もう5分になりますか」
後輩姉「ええ、そうよ。貴女がボールを触れていない時間はそんなになるのよ」
後輩「残念でしたね」
後輩姉「……なにが?」
後輩「3分で私の心を打ちのめすのではなかったのですか?」
後輩姉「へえ……まだ、勝つつもりなんだ」
後輩「当然です。先輩を待たせているんです。負けるわけにはいきません」
後輩姉「この状況をどうやって打開するつもり?」
後輩「動いて動いてとにかく動き回りますよ」
後輩姉「それは無策と一緒よ」
後輩「仕方ないじゃないですか。用意していた策はことごとく貴女に潰されたのですから。いま出来ることはそれしかありません」
後輩姉「……最後まで体力が持つといいわね」
・
・
・
後輩姉(……残り3分。まだ、ボールにすら触れていない)
A子「ご、ごめん……」
後輩「ドンマイです! 切り替えて守備をしましょう!」
後輩姉(あれだけ動き回っているのだから、相当苦しいはず。……なのにどうして)
後輩「さあ、貴女からボールを奪って速攻です」
後輩姉(この子は諦めないの……)
後輩姉「……もう諦めなさい。この状況を打開するのは無理よ」
後輩「なぜ?」
後輩姉「後半始まってから一度も触ってないのよ!?」
後輩「私と貴女の実力差を考えればあり得ない話ではないです」
後輩姉「そのヘロヘロな状態で何ができるの? 息は上がっていて、まとも走れていない。今の貴女では私に勝てないわよ!」
後輩「そんなのやってみないとわかりませんよ」
後輩姉「その根拠のない自信はどこからくるのよ!?」
後輩「先輩です。先輩が見守っていてくれている、待っていてくれる。だから、私は諦めません」
後輩「貴女は何に怯えているのですか? 試合を有利に進めているのはそちらですよ」
後輩姉「……怯える? この私が?」
後輩「そんな怯えた目で強がられても説得力ないですよ」
後輩姉「ふ、ふざけたこと言わないで!」
後輩「事実ですし」
後輩姉「そんなこと……あるはずないでしょ!」ダッ
後輩「……遅い」サッ
後輩姉「!」スッ
「……」ガゴン
後輩「リバウンド!」
A子「は、はい!」
後輩「ナイスキャッチです!」ダッ
A子「後輩さん!」スッ
後輩「……」パシッ
後輩姉「やらせない!」サッ
後輩「……」ニヤ
後輩姉「!?」ドン
ピィー
審判「アンスポーツマンライクファウル!」
後輩姉「なっ……!」
男「ちっ、いま速攻のチャンスだったのに」
妹「でも、これでフリースロー2本ゲットだよ!」
男「ドリブル中だったからスローインだろ?」
妹「パーソナルファウルならそうだけど、いまのは速攻を意図的にファウルで止めたっていうでアンスポだからフリースローになんの!」
男「つまり……」
妹「2点奪える大チャンスってことだよ!」
後輩姉「パーソナルファウルでしょ!?」
審判「い、いえ、明らかに速攻を潰しにいっていましたし……」
後輩姉「違うわよ! この子が止まったから接触したのよ!」
後輩「抗議してるとテクニカルファウル取られますよ」
後輩姉「こいつ……!」
副部長「……姉らしくないな」
男「そうか? あいつはあんなもんだろ」
妹「部長は、ワンマン速攻でも冷静に対応してファールなんてしないし、もしファールを取られたとしても抗議をするような人じゃないよ」
副部長「フリースローを2本決められたとしても、後輩はまだ2ゴール決めないといけない。慌てることなんてないはずなのに……」
男「まあ、姉妹だからな」
副部長「はあ……?」
男「虚勢を張ってるのは後輩だけじゃないってことさ」
後輩「そんなに慌てなくても大丈夫ですよ。フリースローを2本とも決めたとしても、まだ3点残っているのですから」
後輩姉「勘違いしないで。私は貴女と違うの。動揺なんてしないし、怯えたりしない」
後輩「諦めない私に怯えて、それを指摘され動揺した人が何を言っているのですか」
後輩姉「……なにその妄想。つまらないわよ」
後輩「この試合を通してわかりました。私と貴女は似ています。自分を偽って、弱さを覆い隠そうとしている」
後輩「でも、私には弱さを受け入れてくれる人がいます。だからもう自分を偽ることはしません」
後輩姉「……」
後輩「では、フリースローを打たねばいけませんので」スタスタ
後輩姉(私たちは似てないよ)
後輩「6点目」スッ
「……」パサッ
妹「ナイシュー!」
後輩姉(貴女は他人に嫌われてしまうのが怖い。でも、私は他人にどう思われたって構わない)
後輩「これで7点」スッ
「……」パサッ
後輩姉(私が嫌われたくないのは、失いたくないのは……)
後輩「さあ、あと3点です」
後輩姉「……ねえ」
後輩「なんですか?」
後輩姉「私ね、好きな人がいるの。その人がいれば他人なんてどうでもいいの」
後輩「せ、先輩は渡しません!」
後輩姉「馬鹿ね。他人なんてどうでもいいって言ってるでしょ」
後輩「えっ……?」
後輩姉「私が好きなのは貴女よ。血のつながっている妹の貴女が愛おしくてたまらないの」
後輩姉「ずっと隠してきたことを話すことができてすっきりしたわ」
後輩「な、なにを言って……」
後輩姉「んじゃ、勝負を再開しようか」ダッ
B美「にゃ……?」
後輩姉「失礼」ベシッ
B美「ふぇぇ!?」
後輩姉「ついてこれるかな?」ダムダム
後輩「は、はやい……!」
後輩姉「よっと」シュ
「……」パサッ
後輩姉「ふぅ……」
後輩「……ディレイオフェンスはどうしたのですか?」
後輩姉「もうそういうのはいいかなって。せっかく、貴女とバスケできるんだもん。目一杯楽しみたいの」
後輩姉「残り2分間、妙な策は一切なし。純粋にバスケの実力で勝負よ」
後輩「わ、私は騙されません!」
後輩姉「なにが?」
後輩「貴女が私のことを好きだなんて……」
後輩姉「好きだよ。世界で一番好き。物心ついたときから妹一筋」
後輩「……っ!」
後輩姉「男くんとの仲を引き裂こうとしたのは、妹を奪われたくないから。今回の勝負だって、貴女を手に入れたいから画策したことなの」
後輩「う、うそ……」
後輩姉「貴女とバスケができて、しかも勝てば、あの冴えないチビ野郎と別れさせることができて一石二鳥! 素晴らしいでしょ?」
後輩「だ、騙されません! 騙されませんよ!」シュッ
「……」ガゴン
後輩「!?」
副部長「シュートフォームがバラバラだ。あれじゃあ入りっこない」
妹「さすがに疲れちゃったのかな……?」
男「……」
後輩姉「ほいっ」シュッ
「……」パサッ
後輩「……」
後輩姉「ほら、早く攻めなよ。時間なくなっちゃうよ」
後輩「……」ギロッ
後輩姉「あー、やっぱり怒ってる?」
後輩「当たり前でしょ、この愚姉! 告白するにしてもタイミングがあるでしょうよ!」
後輩姉「い、いやー、自分を偽ってるとか言われたからさあ……」
後輩「私に責任をおしつけないでください!」
後輩姉「でも、妹が可愛すぎるから好きになっちゃったわけだし、責任がないとは言えないよね」
後輩「馬鹿! 本当にどうしようもない馬鹿です!」
妹「な、なんか揉めてますね」
副部長「そうだな、なにを話してるのかは聞こえないが……」
妹「止めに入りますか?」
男「やめとけ。せっかく姉妹喧嘩してるんだから」
後輩「もういいです! 3点決めて、このくだらない賭けを終わらせます! 話はその後です!」
後輩姉「……話してくれるんだ」
後輩「ええ。試合が終わったら厳しく事情聴取しますから」
後輩姉「そっか。……よし、今後の二人の交際について話し合おうね!」
後輩「そんな話なんてしませんよ!」
男「……」フッ
妹「なに笑ってんの?」
男「良かったなと思ってさ」
・
・
・
試合終了後
妹「す、凄いよ! 部長のマークを振り切って3P決めちゃうなんて!」
後輩「いえ、あれは……」
男「お疲れ様」ポンポン
後輩「先輩……」
男「信じて待っててよかったよ」
後輩「……私、行かなくちゃいけないのです。一緒に来てもらえませんか?」
男「……」
部室
副部長「おい、姉!」
後輩姉「……なに? 負け犬に何か用?」
副部長「いや、お前、最後のは……」
後輩「シュートブロックできました、よね?」
後輩姉「なんで、貴女がここに……」
後輩「試合が終わったら事情聴取するって言いましたよ」
後輩姉「そうだけど……」
後輩「副部長。姉と二人にさせてもらえますか?」
副部長「……わかった。後は頼む」
後輩姉「……男くんはどうしたの?」
後輩「二人で話し合ってこい、って怒られました」
後輩姉「そう……」
後輩「どうして、シュートブロックしなかったのです」
後輩姉「告白したときに気づいたんだ。私はずっと、貴女のことが好きって伝えたかったんだってことに」
後輩姉「だからもう良かったんだ。想いも伝えられたし、きっぱり諦めようって思ったの」
後輩「……一方的に告白をしておいて、返事も聞かずに自己完結させないでくださいよ」
後輩姉「だ、だけど妹は男くんのことが……」
後輩「そうですよ。私は先輩が好きです。あの人がいない人生なんて考えられません」
後輩「でも……」
後輩「私は……お姉ちゃんのことも好きなのです」ポロポロ
後輩姉「妹……」
後輩「ずっとずっとお姉ちゃんが憧れだったの。バスケを始めたのも、お姉ちゃんとプレーしたかったから。お姉ちゃんと一緒に居たかったから」
後輩「なのに、お姉ちゃんは全国大会に行ったのに、私の代は県予選で負けちゃって……どうして私はお姉ちゃんみたいになれないんだろうって悩んで、苦しんで……お姉ちゃんへの劣等感が大きくなって……それでお姉ちゃんを避け始めたの……」
後輩姉「いいよ、いいんだよ。私だって、嫌なことたくさんした、酷いことたくさん言ったもん……」ギュ
後輩「お姉ちゃん、お姉ちゃん……」ギュウ
副部長「……なんとかなったみたいだな」
男「そうみたいだな」
副部長「いいのか、入らなくて? 抱き合ってるみたいだぞ?」
男「バーカ。長い間、仲違いしていた姉妹が仲直りできたんだ。水差すようなマネするかよ」
副部長「それもそうだな」
後輩姉「……ねえ、妹」
後輩「なんですか……?」
後輩姉「仲直りの印にキスしようよ」
後輩「え、えっ?」
後輩姉「大丈夫大丈夫。男くんにバレなきゃ平気だって」
男「ち、ちょっと待て!」バンッ
後輩「せ、先輩……?」
後輩姉「やっぱり盗み聞ぎしてたのね」
男「そうじゃねえよ! 心配だったから、外にいただけで……」
後輩姉「姉妹の会話を盗み聞きするとか悪趣味ー」
男「違うっての!」
後輩「……」ジー
男「な、なんだよ?」
後輩「通報しましょうか?」
男「後輩!?」
後輩「嘘ですよ。心配してくれてありがとうございます」
男「目がマジすぎるって……」
後輩姉「……幸せそうね」フフッ
後輩「幸せです!」ニコッ
後輩姉「見せつけてくれちゃってー」
後輩「そ、そんなつもりは……」
後輩姉「……」ポンポン
後輩「……?」
後輩姉「男くんに幸せにしてもらうのよ」
後輩「~~~~~~! もちろんです!」ギュウ
後輩姉「男くん、私の妹をよろしくね」
男「……ああ。大事にするよ」
日曜日 後輩宅前
男「……」
後輩「す、すみません! 服を選んでいたら遅くなってしまって……」
男「いいよ。そんなに待ってな……」
後輩「どうしたのですか、先輩? 顔真っ赤ですよ?」
男「あ、いや、その……」
後輩「つまり、私の服装がとても良い、ということですか?」
男「……そういうことです」
後輩「先輩って本当に初心ですよねー。そんなに顔真っ赤にするくらい照れちゃうなんて」
男「うるせ……」プイッ
後輩「ちゃんと見てくださいよ。先輩の為にコーディネートしたのですから」
男「……」チラッ
後輩「どうですかー?」ニコッ
男「……っ!」プイッ
後輩「もう! なんで、目を背けるのですか!」
男「全体的に露出度高すぎるんだよ!」
男「スカート短すぎ!」
後輩「そうですか?」
男「そうだよ! 学校だともっと長いだろ!」
後輩「そりゃ校則がありますし」
男「だとしても、今日は短すぎる! 他の男たちにジロジロ見られてもいいのか!?」
後輩「構いませんよ。そのリスクを理解した上でこのスカートを選択したのですから」
男「そこまでして穿く理由はなんだよ!?」
後輩「先輩に喜んでほしいからですけど」
男「……」
後輩「いい加減にしないと、本気で怒りますよ」
男「……ごめん。俺の為にオシャレしてくれたのにな」
後輩「そうですよ。先輩は黙って、私の生足を思う存分堪能すればいいのです」
男「お、お前なあ……!」
後輩「ちなみに、見るだけでは物足りない場合は触っていただいて構いませんからね」
男「そんなことできるわけないだろ!!」
後輩「据え膳食わぬは男の恥ですよ」
男「今日はそういうことしないからな!」
後輩「……どうしてですか」ウルウル
男「こ、後輩……?」
後輩「私に魅力がないからですよね。ごめんなさい……」グスッ
男「違う! そんなことないって! むしろ、魅力的すぎて理性を抑えるのに必死なくらいで……」
後輩「いやいや。先輩がヘタレ童貞で手を出す度胸がないってだけでしょう」
男「貴様……!」
後輩「怒ることないでしょう。事実なのですから」
男「……否定できないのが悲しい」
後輩「否定してもらえない私の方が悲しいですよ」
後輩「先輩がこの調子じゃ、私の初体験はしばらくお預けになりそうですね」
男「……焦ってすることでもないだろ」
後輩「んー。でも、先輩から何もされないっていうのは、正直、寂しいですよ」
男「この前、キスしたよな」
後輩「……っ」カァァ
男「なんで照れるんだよ!」
後輩「なんか思い出したら恥ずかしくなっちゃって……」
男「なーに言ってんだよ。後輩はもっと恥ずかしい状況でキスしてくるだろ」
後輩「そうですけど……でも、あれは不意打ちでしたし……」
男「いやいや。後輩だって毎回不意打ちでしてくるし」
後輩「それに……先輩がかっこよかったですし」
男「……っ」カァァ
後輩「『今度は間違ってないよな?』」ドヤァ
男「やめてくれ!」
後輩「ふっふっふ。私より優位に立とうなど千年早いのです」
男「あー、わかった。俺の負けだ」
後輩「でも、あの時のキスは本当に効果てきめんでしたよ。あれがあったからこそ、私は立ち直ることができたのです」
男「……なら、良かった」
後輩「本当に良かったです」ギュウ
男「おいおい。そろそろ行かないとバスに乗り遅れるぞ」
後輩「私、一度抱きついたら、しばらく離れられないのですよ」
男「わかるけど、バスの時間もあるし」
後輩「先輩が私を満足させてくれれば、離れることができるかもしれません」
男「満足、ねえ……」
後輩「さあ、どうします? 私はこのままでも構いませんよ?」
男「わかったよ。これでいいか?」チュッ
後輩「正解です! よくわかりましたね!」ギュウウウウウウ
男「ああ。後輩の遠回しなおねだりを理解できるのは俺だけだろうよ」ナデナデ
バス車内
男「姉とはうまくやってるか?」
後輩「はい。おかげさまで仲良くやってますよ」
男「学校ではよく喋ってるの見るけど、家ではどうなのかなって思ってたけど、心配なさそうだな」
後輩「大丈夫ですよー。昨日なんて、久しぶりに一緒にお風呂に入ったくらいですし」
男「!!!!??」
男「な、なんだよそれ!?」
後輩「昨日の総体予選で優勝したら、一緒にお風呂入る約束をしていたのです」
男「なんで、そんな約束しちゃうの!?」
後輩「姉妹なわけですし、一緒にお風呂に入るくらい普通じゃないですか」
男「普通の姉妹ならね!? でも、姉は後輩のことが好きなんだぞ!?」
後輩「その話は決着がついたでしょう」
男「そ、そうだけど……」
後輩「まったく。姉妹でお風呂に入って、洗いっこしただけです。先輩がやきもちを妬くような話ではありません」
男「洗いっこ!?」
後輩「先輩はめんどくさいなあ……」
男「だ、だって、俺だってしてないのに……」
後輩「先輩は私とお風呂に入るなんていつでもできるでしょう?」
男「そうなの!?」
後輩「当然でしょう。なんなら、今日にでも私の家で入ります?」
男「え、でも……」
後輩「まあ、先輩の心の準備が整ったら教えてください。私が身体の隅々まで丹念に洗ってあげますから」
男「……そ、そんなことさせられるかああああああ!!!!!!」
後輩「はあ……本当にめんどうな人だなあ……」
映画館
男「この映画でいいのか? ホラー映画もやってるけど」
後輩「ホラー映画を観なくても、いまは気兼ねなく甘えられますから」
男「一時期、ホラー映画に拘っていたのは、やっぱりそういう理由だったのか」
後輩「あの頃は何かしらの理由付けをしないと甘えることができませんでしたから」
男「そうか? 結構、甘えていたような気がするけどな」
後輩「なら、言い換えましょう。あの頃と違って、いつでも先輩と寝ることができますからね」
男「誤解を招く言い方はやめなさい」
後輩「あの話って本当なのですか? ホラー映画を観るたびに、妹さんが先輩のベットに潜り込んでくるというのは」
男「ああ。本当だよ」
後輩「妹さんって意外と甘えん坊ですよね」
男「末っ子だからな。そういう気質はあるかもしれん」
後輩「確かに末っ子は甘え上手って言いますよねー」
男「でも、後輩も末っ子だけど甘えるのが下手だよな。かなり遠回しだし」
後輩「いいのですよ。先輩には通じるのですから」
男「それもそうだな」スッ
後輩「……」
男「手繋ごうぜ」
後輩「……ずるいなあ」ギュ
???
男「……」
後輩「いろいろ種類があるのですねー」
男「なあ……」
後輩「んー? なんですかー? あ、これなんか、先輩に似合うのでは?」
男「この店で何を買うの?」
後輩「えっ? そんなの先輩の下着に決まってるじゃないですか」
男「意味わかんねえよ!」
後輩「この間のデートで私の下着を選んでくれたじゃないですか。だから、そのお返しに私が先輩の下着を選んであげますよ」
男「いいってそんなの!」
後輩「なにを恥ずかしがっているのですか。妻が旦那の下着を買うのは当然のことですよ?」
男「そ、そうだけど、まだ早いだろ!」
後輩「今のうちに慣れておくべきです。それに、私だけに自分好みの下着を着用させるなんて不公平です」
男「後輩が勝手に言い出したんだろ!?」
後輩「なんだかんだいって先輩もノリノリで選んだじゃないですか。フロントホックなら外したら胸がすぐ見えるんでしたっけ?」
男「そ、それは……」
後輩「しかも、透けるのが嫌だとかいって白の下着を強制しましたよね?」
男「……ぐぬぬ」
後輩「えっと、パンツの種類は、ブリーフにトランクス、それにボクサー、か。先輩はどの種類を履いているのですか?」
男「なんだっていいだろ……」
後輩「なるほど。ノーパンですか」
男「違うわ! ボクサーパンツだよ!」
後輩「ボクサーパンツですね。……クマさんが前面にプリントされてるこのパンツとかどうでしょう?」
男「……もういいよそれで」
後輩「でも、脱がしたときに、このクマさんが出てくるのか。笑っちゃいそうだな」
男「お前には恥じらいってものがないのかよ……」
男「わ、悪い」
後輩「どこに行っていたのですか?」
男「えっと……トイレに行っててさ」
後輩「もう。トイレに行くのなら会計が終わるまで待っててくださいよ。パンツを履き替えてもらおうと思ったのに」
男「はあ!?」
後輩「だって、私だけ先輩が選んだ下着を着けているのは不公平でしょう」
男「……えっ。今日、あの下着なの?」
後輩「ええ。お見せしましょうか?」
男「ば、馬鹿! こんな人前で見せるなんて……」
後輩「馬鹿は貴方です。二人っきりの場で見せるに決まっているでしょう」
本屋
男「後輩ってどんなの読むの?」
後輩「ジャンルとか作家関係なく、色々読みますよー。今は森見登美彦にハマってますね」
男「夜は短し歩けよ乙女の人?」
後輩「知っているのですか?」
男「アニメ映画化したじゃん? 小説は読んでないけど、その映画は観たからさ」
後輩「どうでした?」
男「ヒロインの口調が誰かさんに似てるなって思った」
後輩「誰でしょうねえ」
後輩「先輩は学園物が好きなのでしょう?」
男「ラノベの話?」
後輩「いえ。薄い本の話ですけど」
男「……は?」
後輩「妹さんが言ってました。先輩の部屋の本棚の奥には女子高生が滅茶苦茶にされる本がたくさんあるって」
男「な……!?」
後輩「しかも、ヒロインは貧乳ばかりだそうですね」
後輩「そう言われてみれば、ロリっ子の貧乳ヒロインは最高だ、なんて評価してましたよね」
男「ち、違うんだ!」
後輩「伺いましょう」
男「二次元はそういうのが好きなだけだって!」
後輩「ふむ。では、三次元は違うと?」
男「当然だ!」
後輩「その割には私に手を出してきませんよね!」
男「それはただ、俺がヘタレなだけだ!」
後輩「ドヤ顔で宣言することではありませんよ」
帰り道
後輩「楽しい時間はあっという間に過ぎてしまいますね」
男「そうだな……」
後輩「この時間がいつまでも続けばいいのに……」
男「……なあ、ちょっと寄り道していかないか?」
後輩「……! つ、ついに私のアピールが実を結びましたか!」
男「あ、いや、そういうことではなくてだな」
後輩「とりあえず、お母さんに今日は泊ってくるって電話しておきますね!」
男「少し寄るだけだっての!」
後輩「冗談ですよ。先輩にそんな根性があるとは思いませんしー」
男「……根性は正しく使うものなんだよ」
後輩「はいはい。で、どこに行くのです?」
男「俺と後輩の思い出の場所だよ」
中学校 校庭
後輩「なるほど。ここで二人寄り添って星を眺めようと?」
男「まあ、それもあるけど、始めるならここかなって」
後輩「何を始めるのです?」
男「俺と後輩が出会ったこの場所で、新しい関係を始めたいんだ」
男「……」スッ
後輩「えっ、これは……指輪ですか……?」
男「……うん。婚約指輪として受け取ってほしい」
後輩「……!」
男「プロポーズは俺からしてほしいって言ってただろ?」
後輩「……先輩は本当に狡いです……」
男「絶対、後輩を幸せにしてみせる。特別な能力もない俺が言っても説得力がないかもしれないけど」
男「必ず、君を幸せにするから……」
男「これからもずっと俺の傍に居てください!」
後輩「喜んで!」チュッ
END
932 : ◆TMTTBwd/ok - 2018/02/25 21:52:44.87 sgT44xm50 485/529以上です。
長い間、ありがとうございました。
933 : 以下、名... - 2018/02/25 21:57:44.38 462MtUZTo 486/529おつ
934 : 以下、名... - 2018/02/25 22:01:12.05 uvtBYen20 490/529乙
色々放置しっぱなしな気がしなくもない…
>>934
気になるやつ教えてください
936 : 以下、名... - 2018/02/25 23:04:17.35 uvtBYen20 492/529具体的じゃないけど何となくだから気にしなくっていいよ
937 : 以下、名... - 2018/02/25 23:06:07.45 g1APx2AfO 493/529乙
妹とか後輩姉とか副部長とかのその後が気になる
>>936
なら、いいんだけど……
>>937
お、男友は!? 俺の一番好きなキャラなんだけど……
939 : 以下、名... - 2018/02/25 23:22:22.64 uvtBYen20 495/529言っちゃうと球技大会に尺取り過ぎたんじゃないか?という気持ち
そもそも男友が一番好きだと言いながら後半出番なかったよね?
>>939
それはその通りだと思う。
球技大会が男と後輩の初回のデートより先に行う展開を予定してた。球技大会⇒デートで演技を解消するって順。諸々あって入れ替えたんだけど無理が出てきちゃって、話しが纏らなくなってしまった。
男友の出番減もそれが原因。当初の予定のままなら、彼が影の主役になるはずだった。
941 : 以下、名... - 2018/02/25 23:34:00.45 uvtBYen20 497/529後半グタグタしすぎた気がする。投稿スピードだけども……
中途半端というか無理やりまとめた感が……
>>941
俺の実力不足と見通しの甘さが招いたことです。本当に申し訳ありませんでした。
上でもあったけど、初期の頃の変態トークを求められてたと思う。読んでくださる皆様が何を期待しているのか、どんな話を読みたいのかをもっと考えるべきだったと猛省しております……
マジ
944 : 以下、名... - 2018/02/25 23:46:41.34 uvtBYen20 500/529まとめサイトのコメント欄で言われそうだけど「レズ設定とか必要だったのか?」と
無駄なところ多すぎたんじゃない?
マジ糞SSだったわwww
でもお疲れ様でした
>>944
おっしゃる通りです
947 : 以下、名... - 2018/02/25 23:51:46.88 uvtBYen20 503/529あと途中で書くのやめますとか言う書き込みはなりすまし?それともガチでやめようと思った?
荒れていたから気になる
948 : 以下、名... - 2018/02/25 23:52:19.66 OVNE3Cu70 504/529俺ガイルと変猫に影響受けすぎちゃう?
>>947
本気で思いました。なりすましではないです。
>>948
その二作品に引きずられたのは否定できない
950 : 以下、名... - 2018/02/25 23:58:55.85 uvtBYen20 506/529途中で路線変更しすぎて別人が書いたように感じるけど……>>1だよね?
失礼だと思うけれど、もしも乗っ取りだったら正直に答えてほしい。完結したから誰も文句は言えない
>>950
1です。乗っ取りではないですね。
そうかもしれないと疑われても仕方がない出来ですが……
952 : 以下、名... - 2018/02/26 00:03:23.41 DLbJ6kBb0 508/529色々あったけどお疲れ。
とりあえずまとめサイトは見ないほうがいいよ。
コメントが荒れるかもしれないのが予想できてしまうから……
>>952
そうなるのは仕方ないです。
読んでくれた人の意見にはできるだけ目を通しておきたいです。たぶん、相当えげつないこと書かれると思うけど……
954 : 以下、名... - 2018/02/26 03:38:51.89 B+I5tjwG0 510/529追い付いたら終わってた。
作者乙、次回作書くなら絶対読まして貰うわ。
955 : 以下、名... - 2018/02/26 04:11:55.95 9/buWUBu0 511/529よくぞ完結してくれた!
にしても、宣言通り最後の一回の投下にする為とは言え、ここまでのペースからすると、怒涛の如き勢いにも思える
とにかく、乙でした
>>954
次回作って今回の続き? それとも新作?
どんな形になるにせよ、この作品のリベンジは果たすつもりです。
>>955
最後くらい宣言通りにやりたいな、と。ただ駆け足で終わらせた感は否めない……
957 : 以下、名... - 2018/02/26 20:59:20.53 sNHT3zzeO 513/529とりあえずまとめサイトで多かったのは「長い」
>>957
やっぱり、200くらいでまとめるべきだったか……
まとめサイトを見て、これだけは言っておきたいことが一つ。
童貞童貞って言われてるけど、それは違う。
童貞ではない。ちゃんと経験してる非処女ですわ。
960 : 以下、名... - 2018/02/26 22:11:46.26 sNHT3zzeO 516/529>>959
ガチで女だとしても童貞臭する作品たということだろ
事実として認めてくれても「女が書いたとは思えない」とか言われそう
>>960
なるほど……
改善するしかないかあ……
962 : 以下、名... - 2018/02/26 22:23:31.94 sNHT3zzeO 518/529そもそも証明できないのに「私は非処女です」と言っても今の世の中「嘘松乙」で終わるからな……
言わない方がいいよ。読者的にはどうでもいいと思っている人が多いと思うから
>>962
そうか。そうだよね。ごめんなさい。
ここでなら、冷静に話を聞けそうなので相談したいのだけど、このSSの初期のノリで新しく作品を作りたいんだけど、どうかな?
964 : 以下、名... - 2018/02/26 22:43:20.32 sNHT3zzeO 520/529好きにしたらいいと思う
書くのも>>1、どうつくるのも>>1
>>964
今回みたいに読んでくれる人が求めるものとかけ離れたものは作りたくない。
ここのレスとかまとめサイトのコメントを参考に作ってみる。
966 : 以下、名... - 2018/02/26 23:37:20.19 1ryHlE60O 522/529俺はかけ離れてはいなかったが
そもそもすべての人の求めるものを書くなんて無理だと思うし
読みたい人は読むし、趣味に合わなければ読まなきゃいいしなんだから、外野を気にしすぎない方がいいんじゃないか
967 : 以下、名... - 2018/02/26 23:44:46.15 DLbJ6kBb0 523/529大多数という意味だろう
968 : 以下、名... - 2018/02/26 23:48:43.36 hzqssom/0 524/529エタらず完結させてくれて嬉しい限り
個人的には長いss大好きだからまたこのくらい書いてもらってもモウマンタイ
次作も期待するよ乙
>>966
ありがとう。でも、今回はかなり自分善がりな作品で、読んでくれる人たちに失礼なことをしてしまったから。
球技大会編をラストに持ってきたせいで、後輩と姉の姉妹の確執がメインになってしまった。読んでる人たちが読みたかったのはそういうものではなかったのかなって。
まとめサイトで「序盤はそれなり、終盤はクソ」っていう評価を見たときにそう思った。
>>968
ありがとう。頑張ります。
970 : 以下、名... - 2018/02/27 00:26:24.44 kyWfZ2HU0 526/529954だが、どっちだとしても期待してるわ
書くのは>>1だしな
>>970
ありがとう。でも、希望だけでも教えてほしいな
972 : 以下、名... - 2018/02/27 21:10:32.27 JZxIhuLm0 528/529乙でした。
個人的には長くて良かったよ~
途中エタらず完結させてくれてありがとう。
>>972
ありがとう。また、次回作も読んでいただけると幸いです。
次は男友の話を書く。機会がありましたら、よろしくお願いいたします。