サンマルクカフェ――
男(≪サンマルクカフェ≫……初めて入るカフェだ)
店員「いらっしゃいませ」
男「コーヒーと……そうだな。適当にパンを見繕ってくれたまえ」
店員「あの、お客様……」
男「ん?」
店員「当店では、パンはご自分でトレイに乗せてレジに持ってきて頂く仕組みとなっております」
男「なんだと!?」
元スレ
男「チョコとクロワッサンを組み合わせてチョコクロ? ふざけてるのか!?」サンマルクカフェ店員「くっ……」
http://hebi.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1515430858/
男「貴様……店員の分際で私に労働せよというのか!? 自分でパンを持っていくという労働を!」
店員「しかし、そういう仕組みですので……」
男「分かった……貴様の名前は覚えた。どうなるか楽しみにしておくがよい」
店員「は、はい……」
男「このトングでパンを取ればいいんだな?」スッ
店員「その通りでございます」
男「どれ……」スッ
男(このトングで……)カチカチ
男(む、ついカチカチしてしまうな)カチカチ
男(まずい、やめられん、止まらん)カチカチ
男(それにこうしてパンを選んでいると……)カチカチ
男(100円玉を握り締め、駄菓子屋を無邪気に駆け回っていた自分の姿を思い出す……)
店員「お客様、ハンカチをどうぞ」サッ
男「ハッ!」ウルッ…
男(じゃがバターデニッシュ、やみつきドッグ、アーモンドシュガーパイ……)
男(ふん、どのパンもなかなかうまそうではないか……)
男「――ッ!?」
店員「いかがされました?」
男「なんだこれは!?」
男「チョコとクロワッサンを組み合わせてチョコクロ?」
男「貴様、ふざけてるのか!?」
店員「くっ……!」
男「チョコレートは立派な菓子だ。クロワッサンも立派なパンだ」
男「それぞれでうまいのだ。組み合わせることによるメリットなど絶無!」
男「なのにわざわざ融合させるなどという愚行を犯しよって……」
男「サンマルクカフェ……少しは期待したが、しょせん名前の通りの“三”流カフェだったか!」
店員「……お客様」
男「なんだ、若造」
店員「食べてもいないのに、文句ばかりいうのは筋が通っていないと思いますが」
男「ほう……?」ピクッ
男「貴様、この私に口答えしたな!?」
店員「しました」
男「筋が通ってないとまでいったな!」
店員「いいました」
男「ガッハッハッハッハ! この私にこんな口をきいた人間は何年ぶりか!」
男「いいだろう、買ってやろう! チョコクロとやらを!」
男「ただし、もしまずかったら……貴様は明るい未来には就職できん! 絶対にな!」
店員「……望むところです」
店員「チョコクロとブレンドコーヒーで、453円になります」
男「ふん」チャリン
店員「あと、よろしければスタンプカードをどうぞ」
男「なんだこれは?」
店員「ドリンクかデザートを購入していただくと、スタンプを一つ捺印します」
店員「一枚のスタンプカードで20個まで集められます」
男「ええっ!? 楽しそう!」
男「あ、集めるとどうなるんだ……?」
店員「10個集めると……対象のドリンクを一杯プレゼント!」
男「な、なんだと!?」
男「20個集めると?」
店員「対象のドリンクを一杯プレゼント!」
男「なんとぉ!? なんという大盤振る舞い! バカな、倒産したらどうするんだ!」
店員「ちなみに昔は20個集めるとデニブランもらえたんですけどね~」
店員「それと雨の日はスタンプが二倍もらえます!」
男「なにぃ!?」
男「晴れの日は?」
店員「一倍!」
男「曇りの日は?」
店員「一倍!」
男「豪雨の日は?」
店員「二倍!」
男「台風の日は?」
店員「二倍!」
男「雨が降ったり止んだりする日は?」
店員「うーん……基本的に雨の日扱いな気がします」
店員「ごゆっくりどうぞー!」
男(ふん、適当な席に座るとするか)ドスッ
客A「なんなんだよ、あのおっさん……」ヒソヒソ…
客B「店員さん、気の毒に……」ヒソヒソ…
男「……」ギロッ
客AB「ひっ!」
男(チョコクロ……名前からしてふざけた食い物だ)
男(チョコレートとクロワッサンだからチョコクロ……まんまではないか!)
男(まぁいい、一口だけ食ってすぐ吐き出して、あの若造には生き地獄を味わわせてやる)
男「いただこう」サクッ
男「……む」
男「はぅあ!」
男(うんまァ~~~~~い!!!)
男「サクサクしたクロワッサンの中に、ビター風味の柔らかいチョコが入ってっ……!」
男「一口だけのはずが、どんどん食べてしまう!」サクサク
男「ああっ、らめっ! 歯が勝手に動く! 喉が勝手に飲み込むぅ~ん!」モグモグ
男「こんなうまいパンがたった170円(税抜)でいいのか!? ――ち、ちくしょう!」
男「あああ……チョコが口の中でとろけるよぉ~ん!」
客A「黙って食えねえのかよ……」ヒソヒソ…
客B「目が完全にイッちゃってるよ……」ヒソヒソ…
男「……あ」
男(あっという間に全部食ってしまった……)
男「私の……完敗だ」
店員「そ、そうですか」
男「しかし、私からも一つだけアドバイスしておこう」
男「これからは、このチョコクロを看板商品にした方がよかろう」
店員「もう看板商品です」
男「そうなの!?」
店員「ちなみに“ホワイトチョコクロ”なんてのもあったりします」
男「クロなのにホワイト!?」
男(実業家として勝ちに勝ちまくってきたこの私が、まさかこんな完敗を喫するとは……)
男(だが……不思議と心は満足感で支配されている)
男「……また来よう」
店員「ありがとうございましたー! またお越し下さいませー!」
男(≪サンマルクカフェ≫か……これからもちょくちょく通うとしよう)
男(とっととスタンプ貯めたいしな!)
サンマルクカフェ――
店員「いらっしゃいませー!」
男「今日はチョコクロと……ベトナムコーヒーというのをいただこうか」
店員「かしこまりました」
男「ところで、ベトナムコーヒーというのはどんなコーヒーなのだ?」
店員「ベトナムのコーヒーです」
男「なるほど、分かりやすい!」
男「……」グビッ
男「ほう、かなり甘い……」
男(甘いからグビグビ飲むような代物ではないが、これはこれで味がある)グビッ
男(ベトナムの美しい情景が、この味と共に鮮明に浮かび上がってくるではないか)
ベトナム人『シンチャオ!』
男「そしてぇ、チョコクロ!」ガツガツ
男「し、しまった! 5秒で平らげてしまった! もっと味わうはずだったのに!」
サンマルクカフェ――
店員「いらっしゃいませー!」
男「今日はチョコクロと……プレミアムココアとやらをいただこうか」
店員「かしこまりました」
男「ところで、プレミアムココアというのは、普通のココアとどう違うんだね?」
店員「ファミチキに対するプレミアムチキンのようなものかと」
男「なるほど、分かりやすい!」
男(ココア……飲み終えちゃった。もう少し飲みたいな)
男「……ん?」
『ドリンクご購入のレシートをご提示で対象のドリンクがお替り半額!』
男「へえ~、当日同じ店でならレシートで安くお替わりできるのか!」
男「すみません、ココアのお替わりください」
店員「すみません、ココアは対象外です」
男「やだ、恥ずかしいっ!!!」
会社――
男「……であるからして、業績を伸ばすには……」ペラペラ…
男(ああ、チョコクロ食いたい、チョコクロ食いたい、チョコクロ食いたい、チョコクロ食いたい……)
部下A(この人は仕事は優秀だけど、いっつも会議が長いんだよなぁ……)
部下B(会議でネチネチと部下をいびるのが大好きだからなぁ……)
部下C(これさえなければ、すごくいい人なのに……)
男「今日の会議は早く切り上げよう!」
やったーっ!
男「……ありゃ、体重増えてる」
男(チョコクロ食いすぎで太ったな……このところ毎日食ってたもんな)
男(医者にチョコクロ止められたら嫌だし……)
男(仕方ない、運動するか!)
男「えっほ、えっほ、えっほ」タッタッタ…
男(チョコクロ食うために、食生活も改善せねばならんな!)
男(いや、私は今までの生活習慣全てを改めてみせる! 会社と……チョコクロのために!)
サンマルクカフェ――
男「やぁ!」ツルッツルッ
店員「ずいぶんと血色がよくなりましたね。どうしたんですか?」
男「最近、部下から怖がられず慕われるようになってね。気分がいいんだ」
男「それと、体じゅうが健康になった。肉体年齢が実年齢より10歳以上若くなったそうだ」
男「これも全て……チョコクロのおかげだ!」
店員「? ……は、はぁ、どうも」
男の自宅――
ザァァァァ……!
男(今日は台風か……会社も休みだし、家で大人しくしてるに限る)
男(しかし、雨だからスタンプは二倍もらえる……)
男(今、私のカードのスタンプは合計18個……今日行けば20個になる!)
男「行くっきゃねえ!!!」
ザァァァァ……!
男「ぐ……すごい雨だ! さすが何十年ぶりの超大型台風だ……!」
男「だが、なんのこれしき……!」
男「チョコクロが……私を待っているのだ!」
ビュゴォォォ……!
男「わっ、傘が吹っ飛ばされた!」
男「なんのこれしきぃ! 傘などいらん! 強行突破だ!」
男「チョコクロが私を待っているのだ!」
ドドドドド……!
男(サンマルクカフェに行くにはこの川を通るしかないが、台風で増水している……)
男(橋も頼りないし、行けば高確率で川に流される……)
男(やはり、ここは引き返すべきか……)
たすけて~……
男「……む!?」
子供「助けてぇ~!」バシャバシャ
男「あ、あれは! 子供が川に流されている! あのままでは溺死するのは確実ッ!」
男「待っていろ、今助けるぞ!」ザバァンッ
男「うおおおおおおおおおっ!!!」ザバザバザバ…
男「チョコクロで鍛え抜いた私の体に不可能はない!!!」ザバザバザバ…
男「私につかまれっ!」
子供「うんっ!」ガシッ
男(チョコクロのように、この子供を私の中に包み込み、泳ぐっ!)ザバザバザバザバザバ
母「どうもありがとうございました……!」
子供「ありがとうございました!」
男「いや、こちらこそ……おかげで川を越えることができた」
男「君たちはすぐ家に帰りなさい」
母子「はい!」
男「さて、サンマルクカフェまであとわずか……歩くとしよう」
ビュゴォォォッ!
男「む!?」
ガンッ!
男(しまっ……強風で飛ばされた看板に直撃した! なんという不覚!)グラッ…
男(しかも、今ので体勢が崩れて川に落ち――!)ヨロヨロ…
ドッボーンッ!
男「ぶわっ……!」
ドザァァァァァ……!
男「な、流されっ――!」
男「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
あぁぁぁぁぁ……
…………
……
サンマルクカフェ――
店員(今日はさすがに客来ないな……来るわけないか)
店員(――ん?)
ビショビショ…
男「やっと……たどり着いた……」ニヤ…
店員「あ、あなたは! いつものっ!」
男「店を濡らしてしまって……すまないね……」
店員「だ、大丈夫ですか!?」
男「ブレンドコーヒーと……チョコクロ……を、頼む……」
男「あと……スタンプ、カード、押して……」ガクッ
店員「お客様ーっ!!!」
この後、蘇生した男はチョコクロを10個も平らげたという……。
おわり