1 : VIPに... - 2012/03/06 09:47:48.50 wZBCjrPM0 1/222

「……」

「きっと良い事あるって」

「叩き落してから普通に慰めんな。
  てか今のはどう考えてもお前に対する皮肉なわけだが」

「ふふん、ボクは心が広いからね」

得意げな顔しやがって。

「心が広いなら今すぐにでも俺を自由にしろ」

「答えはNo.だよ、それとこれとは話が別だろ?」

女は青い瞳を細める。

「だって面白いじゃないか」


元スレ
男「最近現実が二次元に侵略され始めてて困る」女「諦めなよ」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1330994868/

2 : VIPに... - 2012/03/06 09:48:35.99 wZBCjrPM0 2/222

「……まあ予想してた流れだが、それよりもだ」

「何だい?」

「ボクっ子とかマジきもい」

「ふふ、ハッキリ言うね」

「三次元にボクっ子とか有り得ないから、媚売ってる様にしか見えん。
  それ以前に昨日までお前、自分の事『私』って言ってただろ」

女はあからさまに不満げな表情を見せた。

「え~、そうかな。ボクは良いと思うんだけどな、キャピ♪」

「……」

「そんな顔しないでさ。ほら、元々私は男っぽい口調だし、日本語だとね。
  私にボクっ子属性がついたらボクっ子、美少女、金髪碧眼、お嬢様の4属性になるんだよ?」

「それがどうした」

こいつが何を言いたいのかはわかるが、

「完璧にラノベの主要人物クラスの個性が手に入るじゃないかっ!」クワッ

何故そんなにキラキラ楽しそうな顔してそんな事を言うのかが理解できん。
あと4属性とか欲張りすぎだろ。

3 : VIPに... - 2012/03/06 09:49:00.64 wZBCjrPM0 3/222

「別に構わないだろ? 私が素で話すのは男と会長ぐらいしかいないんだから」

「……勝手にしろ」

「でもやっぱりボクっ子は止めといた方がいいね」

どっちだよ。

「だって私が男なんかに媚を売ってるなんて、天地がひっくり返っても有り得ないよ」ニコッ

「こいつっ……!」

生徒女「あっ、男くんに女さんおはよ~」

「「おはよう(ございます)」」ニッコリ

4 : VIPに... - 2012/03/06 09:49:27.65 wZBCjrPM0 4/222

「(よくそんなに裏表都合よく変えられるなお前)」

「(男にだけは言われたくないね)」

生徒女「始業式も一緒に登校だなんて仲良いよね~」

「あ、あはは……」

「もう、勘違いしてもらっては困ります。
  高校への道がたまたま一緒なだけで、
  クラス委員としてこのクラスの落ちこぼれを引率してるだけですから」

俺は幼稚園児じゃねぇ。

「……そういう事」

生徒女「でも男くんのクラスって特別選抜クラスでしょ? 
    私達のクラスに来れば一番頭良い筈なのにね、あはは」

「そっちに行ったらよろしく頼むよ」



5 : VIPに... - 2012/03/06 09:50:02.05 wZBCjrPM0 5/222

「すっかり有名人な私達も今日から高校2年生だ」

「あと2年もお前に巻き込まれ続けなきゃいけねぇのか……先が暗い」

「頑張りなよ。ボサボサ頭、眼鏡の冴えない2属性の男でも活躍できる場面はきっとまだまだあるからさ」

こいつ、俺の負の属性のみを取り上げてやがる。
女は俺に微笑を浮かべて語りかける。

「いざとなったらその眼鏡をとればいいじゃないか」

「何の為にこんな事してると思ってんだ!?」

6 : VIPに... - 2012/03/06 09:50:33.65 wZBCjrPM0 6/222

――――――――高校・教室

クラス男「よっ」

「おはよう」

クラス女「へぇ、2年に上がれたんだね~、良かったじゃない」

俺はこのまま上がりたくなかった。

「はは……理由はわからないんだけど……」

どうでもいいやり取りを終えて席に着く。

「……だるい」

後方から声が届く。

「どうした? 機嫌悪そう」

7 : VIPに... - 2012/03/06 09:51:34.47 wZBCjrPM0 7/222

「友か、……」ジロッ

「……ああ、把握」

「正直まだ信じられない、あの女さんがねぇ……」

「あいつの本性なら全部話しただろ」

「それでもさ~……」

会長「男くん!」

友は会長がいきなり喋ると毎回ビクッってなるな。

「おはようございます、会長さん。今年も」

会長「そんな面倒くさいやり取りなんかどうでもいい。それよりも先生から聞いたわよ」

「何をですか?」

会長はこの時を待っていたかのように顔をほころばせた。

会長「今日の始業式から1週間後のテスト、全教科70点以上とらなきゃ貴方下のクラスに落ちるって」

この人、テストの時期になると毎回話しかけてくんな……。

8 : VIPに... - 2012/03/06 09:52:04.42 wZBCjrPM0 8/222

会長「流石に貴方も下のクラスにはいきたくないでしょう? 今度こそ真面目に勉強するのね」

「……」

クラス女「ちょっと会長さん、一体何時の話持ち出してるの?
     男くんが頭良かったのって入学試験とクラス振分けの試験の時だけでしょ?」

会長「嘘ね、だって男くんは努力していないもの。
   ここのクラスの皆はテストの度に身を削る思いで勉学に励むけれど、
   男くんにだけはそれが見られない……怠けている証拠だわ」

クラス女2「……2回もテストで負けた事をまだ根に持ってるなんて陰湿」

会長「……うっ」

……この流れも聞き飽きた。

「会長、先ほどの話は本当ですか?」


9 : VIPに... - 2012/03/06 09:52:35.59 wZBCjrPM0 9/222

会長「えっ、そ、そうよ」

「……」ニヤリ

テストの時の会長に関しては笑って済ませるのが一番早い。

会長「……まさか自信があるの?」

「はは……ははは」

クラス女3「お、男くん……!?」

会長「……わかった、今度こそ負けない」

「はははははははははははははは!」

会長「あははははははははははははははは!」

「……何なんだ、これ」

ガラッ。

教師「……何を騒いでいる?」

会長「「いえ、何でもありません」」



10 : VIPに... - 2012/03/06 09:53:04.71 wZBCjrPM0 10/222

教室は静まり返っている。

教師「……お前達も今日から高校2年生だ、大人としての自覚も育ってきている頃だと思う」

教師「このクラスで将来のビジョンが定まっていない奴はいないだろうし、私が何か言う必要はないだろう」

会長「……」

「……」

教師「今のお前達に必要な事は、目の前の問題を解決する為に最大限の努力をする事だ。
   時には挫折し、またそれを乗り越える根性をつけて欲しい。その為に私も努力は惜しまないつもりだ」

教師「さて、今の私達の課題は一週間後に控えるテストなわけだが……」

何故俺を見る。

教師「良い結果が出る事を願うよ、以上だ」



11 : VIPに... - 2012/03/06 09:53:32.77 wZBCjrPM0 11/222

「息がつまりそうになった……流石は先生」

「内容は最小限かつ最重要か、俺はあまり好かない」

「あれ? 男って先生の事嫌いだったっけ?」

「今日から嫌いになった」

他人に個人情報を話す様な人間は信用できん。

「……」


12 : VIPに... - 2012/03/06 09:54:03.49 wZBCjrPM0 12/222

――――――――帰路


「やっぱお前が原因かよ……」

「あは、バレちゃったかな?」

「おかしいと思ったんだ、クソッ」

「そんなにイライラしないでほしいな、普通の感覚の持ち主なら感謝する所だよ?」

「どこに感謝する要素があんだよ」

「テストも提出物も全然駄目な男くんの為に教師に弁解をする私。
  ああ、なんて優しいのだろうね。男が二次元の住民だったら一瞬で惚れてるね」

「っは、やっぱスーパー金持ちの影響力は違うな」

女は俺の皮肉など意にも介さず言葉を続ける。

「でも困った事にとうとう限界が来てしまったみたいなんだ」

「俺は全然困らないんだが? むしろ大歓迎なんだが?」

「しょうがないからここらで一発キメちゃってくれよ☆」

「気軽に何言っちゃってんだお前!?」



13 : VIPに... - 2012/03/06 09:54:29.94 wZBCjrPM0 13/222

「いやいやいや、常識的に考えて不可能だろ。
  入学当時の2回のテスト以来ずっと学力・運動面において駄目駄目なこの俺がだぞ」

「できるさ」

「お前も俺が駄目な所散々見てただろ」

俺のアリバイは完璧だ。

「いやあ、去年の学園祭は面白かったね。あの時の事覚えてるかい?」

「っ……!」

「運動神経がない筈の君のあの走りっぷりをさ」ニヤッ



14 : VIPに... - 2012/03/06 09:54:57.96 wZBCjrPM0 14/222

「……」

「あ、あとどこから出てきたのか知らないけど君の入学試験の内容がこんな所に」ペラッ

「俺の個人情報はどうなってんだ!?」

「わぉ、すごいねぇ。君、後先考えずに試験受けたでしょ?
  流石は去年の新入生総代、……こんな馬鹿げた成績をとる人間がたった一年でここまで落ちぶれるものかな」

「さて、もう一度聞いてみよう。 ……できるよね?」

死ぬほど愉快そうな顔しやがって。

「俺の切ない一年間の努力を返せ畜生!」



15 : VIPに... - 2012/03/06 09:55:27.32 wZBCjrPM0 15/222

――――――――男自宅

「俺の馬鹿野郎!」バフン!

壊れない物にしか当たらないのは当然。

「……どうしてこうなった」

「思ってたのと違う、普通の高校生活ってこんなもんなのか……?」

想像してたのは生活してても、特に何も起こらない平凡な毎日だった筈だ。
あの女が原因の大半を占めている事は間違いないが……待てよ?

「俺のクラスにまともな奴って……」

いや、待て待て待て。
俺のクラスにはどんな奴がいるんだ。
俺、あの女、友、大半坊ちゃまかお嬢様……。
…………。

「……行く高校、間違えたな」

……まぁ転校するにも金に余裕がないから詰んだ事には変わりは無いが。

「独り言多いな俺」




16 : VIPに... - 2012/03/06 09:56:06.14 wZBCjrPM0 16/222

――――――――1週間後


「おはよう、男」

「……今日は一人で登校したい気分なんだが」

「駄目だね、これは私と男の契約だからさ」

「ならさっさと行くぞ」スタスタ

「随分と早足だね、……それよりも今日は何の日か覚えてるかい?」スタスタスタ

「また今日も入学当時の俺の失態を後悔するだろうな」

女は満足そうに口元をゆるめた。

「期待してるよ」



17 : VIPに... - 2012/03/06 09:56:33.88 wZBCjrPM0 17/222

――――――――学校・教室


会長が俺が席に着いた時に話しかけてきた。
どう見ても目元の隈を化粧で誤魔化しきれてない。

会長「ふふふ、今回は自信がある。誰よりも勉強したもの」

「ソレハ、スゴイデスネ」

会長「……どうしたの? 顔色悪いわよ」

「イエ、ソンナコトハ」

会長「まあいいわ、それよりもテストが待ち遠しいわねっ」

「……アハハ」

……家帰りたい。



18 : VIPに... - 2012/03/06 09:57:01.04 wZBCjrPM0 18/222

――――――――1週間後 学校・掲示板

<テスト 学年順位>

1位 男     

2位 会長     

3位 女

4位 友

以下略


会長「……嘘、あんなに勉強したのに」

クラス女「やっぱり男くんって頭良かったんだね、すごいよ」チラッ

会長「……っ」

会長をちらちら見ながら言うのやめろ、気まずいから。

「……たまたまね」

会長「ここの試験で偶然なんて……有り得ないわよ」スタスタ

クラス女2「……いくら生徒会長でも3回もテストで負けると悔しいのかな、あはは」

「……」



19 : VIPに... - 2012/03/06 09:57:33.59 wZBCjrPM0 19/222

――――――――帰路


「お前の所為で散々な目に遭った」

「それは毎度の事じゃないかな、観念するんだね。
  良かったじゃないか、今のクラスになんとか残れる事になってさ」

「嬉しくねぇ」

「でも会長が可哀想だったね。
  一生懸命勉強したのに君は軽々と一位をとっちゃうんだからさ、慰めのメールを送ってあげないと」

「何シンミリしてんだ! 原因はお前だろ!」

「おや? 会長の件で感情を乱すとは同情でも感じてるのかい? 一年前とは大違いだね」

「……」

「あははっ、いいじゃないか。君も随分と他人に興味を持つようになったんだね、良い事だ」

「俺はお前が嫌いだ」

「私は君が好きだよ? ……面白いから」


20 : VIPに... - 2012/03/06 09:57:58.60 wZBCjrPM0 20/222

――――――――高校・自習室廊下


時計の短針は8を指している。

会長「もうこんな時間、か」

最後に自習室を出るのはいつも私。そのくらい頑張った筈なのに。

会長「……悔しい」

プルルルルル

会長「……メール?」


【From】女
【Sub】遊ぼう
――――――――――――――――ー――――――――
 ちゃんと時間に気を遣った私は偉いだろ?
 用件は題名の通りだよ、遊ぼう。今高校の門の前にいるんだ。


会長「……ふふっ、これじゃ断れないじゃないの。
   夜遊びなんて生徒会長として許される事じゃないわ」

会長「……でも今日だけ、少しだけなら……いいよね」


21 : VIPに... - 2012/03/06 09:58:35.05 wZBCjrPM0 21/222

――――――――男自宅


「……腹減ったな」

『君も随分と他人に興味を持つようになったんだね』

「上っ面だけだろ」

自然に顔が険しくなるのを感じた。

「俺のどこが変わったって?」

部屋に高々と積まれているゲームを一瞥する。

「……いや、変わった。すげぇ変わったが」

『お前は人間じゃない、……ただの機械と変わらないんだ』

「……そんな簡単に芯まで変わるわけがねぇ」


22 : VIPに... - 2012/03/06 09:59:00.52 wZBCjrPM0 22/222

ピピピピピ

「……」ピッ


【From】女
【Sub】ちょっと来て欲しい
――――――――――――――――――――――――
 面白い事に巻き込まれたんだ。
 私の貞操の危機だから急ぐように。
 居場所は随時伝えるからよろしくね♪


「随時伝えるとかいくらなんでも余裕ありすぎるだろ。 俺には関係ない」ピッ

ピピピピピ

「……」ピッ


【From】女
【Sub】警告
――――――――――――――――――――――――
 役者が揃わないとつまらないだろ?
 もし来なかったら……君の事全部バラしちゃうよ。


「……脅迫とかねぇわ」

23 : VIPに... - 2012/03/06 09:59:42.28 wZBCjrPM0 23/222

――――――――街・表通り


「遅かったね。じゃあ、役者は揃ったし行こうか」

「……は? 何言ってんだ」

会長「この人が女の言っていた男の人なの?」

「……ん」ジロッ

会長「ど、どうも(か、顔近い……)」ニコ

「……はああああああああああああああああああああ!?」クワッ

会長「ひいッ」ビクッ

「こらこら、会長を怖がらせないでくれよ」

「おっ、お前これはどういう事だ!?」

「ああ、さっきのは嘘だから」

「はぁ!?」

「女の子2人で夜の街を歩くなんて危険すぎるじゃないか、当然だろう?
  君にボディーガードを頼みたくてね。あ、勿論拒否権は存在しないよ?」

「ざけんな! 自分で雇えばいいじゃねぇか! 金なら持ってんだろ!?」

「やだよ、堅苦しい。それに金があるからって軽々しく使うわけじゃないよね?」

会長「あっ、あのもし都合が悪いのなら断って頂いても結構ですけど……」

「ああ、君は本当にそんな奴なのかい? 本気で女の子を置いてきて家に閉じこもる臆病者なのかな」

「っ……この……!!」

なんで俺はこいつに目をつけられちまったんだ。

「……もう好きにしろ」

24 : VIPに... - 2012/03/06 10:00:13.72 wZBCjrPM0 24/222

――――――――街・ゲームセンター

「初めてゲーセンに来た感想はどうかな? 会長?」

会長「えっと……ちょっと騒音がすごいかも」

「あー、駄目駄目。反応が冷えてるね、もっと良いリアクションしてよ」

「『わぁっ、すごーい。色んなのがあるんだね~楽しそう~』とかさ、いつものキャラと違う感じで」

身振り手振りで楽しさを表現する女。

会長「素でそんな反応するのは小学生ぐらいなものだと思うけど……」

「むむ、いつか見てなよ。必ず会長キャラの殻を破ってみせるから!」

会長「会長キャラって何なの……?」

「さて、私はここらでお花を摘みに行ってくるよ。
  せっかくの機会だから会長は男と何か話してみたらどうだい?」

こいつ俺の名前あっさりバラしやがった。

「……」ジロッ

会長「……あはは」

……顔見られちまってるし素でいくしかねぇな。

25 : VIPに... - 2012/03/06 10:00:51.09 wZBCjrPM0 25/222

どうしよう、すごく気まずい。
女ってばこの人と友達じゃなかったの?
気を晴らそうと思ってきたのに、これじゃ逆に気が重くなるじゃない……。
……一緒に手洗いに行けば良かった。

会長「……」

「……」

な、何が話題を……。

会長「瞳、青いんですね。やっぱり女の友達だから外国の方なんですか?」

「まぁ……そうだ」

会長「あっ、髪は黒いんですね」

髪さらさら……。

「染めてる」

会長「へ、へぇ~……、どうして染めてるんですか?」

「言いたくない」

会長「そうですか……」

「……」

会長「……」

女、早く帰ってきてお願い。

26 : VIPに... - 2012/03/06 10:01:18.21 wZBCjrPM0 26/222

会長「……」

「……」

会長「女なかなか戻ってきませんね、ど、どこ行ったんですかねー?」

会長は男に愛想笑いを向ける。

「さぁ」

会長「……」

「……」

会長「……なんだかすいません。都合が悪いのにこんな事を」

「……敬語」

会長「……え?」

「敬語とかいらないから。俺は会長?だっけか、会長に敬語を使うつもりはねぇ」

会長「あっ、すいま」

「あと会長が俺に謝る理由がない、気晴らしの為にここまで来たんだろ。
  なら気にせずに思う存分遊べ、俺の役割はただの壁だ、無視すればいい」

会長「わかりまし」

「……」ジロッ

会長「……わかった」

……怖い人じゃない、のかな?

27 : VIPに... - 2012/03/06 10:02:00.24 wZBCjrPM0 27/222

「ふふ、遅くなってごめんよ」

「……」

会長「いいよ」

「さて、何から遊ぼうか……会長は何かやってみたいのあるかな?」

会長「あ……じゃあUFOキャ」

「やっぱりまず音ゲーからやるよね、普通は! じゃあ太鼓の達人でもやろうか!」タッ

会長「ちょ、ちょっと待ってよ」タッ

「……結局お前が決めんのかよ」スタスタ

28 : VIPに... - 2012/03/06 10:02:43.93 wZBCjrPM0 28/222

『フルコンボだどん♪』

「……才色兼備の生徒会長も流石にきついかな?」

会長「もう一回! もう一回やるわよ!」

「いいよ?」

もうこれで何回目だよ、これだけで11時回るぞ。

「……ふあ」

会長「もう! また負けた! 女強すぎじゃない!?」

「ふふ、昔はよくゲーセンに通ってたから。ここのゲームで負ける気はしないね」

会長「……そうだ! 次は男と勝負する! いいでしょ?」

女に勝つのは諦めたのか。

「それは名案だね」ニヤ

「2人でやってろ、だるい」

「……中学時代」ボソッ

「よし、俺は2Pでいいんだな」

いいだろう、2年間友からオタク文化について教わった俺の力を見せてやる。

29 : VIPに... - 2012/03/06 10:03:12.87 wZBCjrPM0 29/222

「……嘘だろ」

会長「やった! 勝ったわ!」

「へーい」パシッ

俺の目の前でハイタッチをする女と会長。

「何故だ」

「君、ゲームの才能ないんじゃない?」

「っ……3日だ」

「ん?」

「3日あればゲームぐらい完璧にこなせるわ!」

「あー出た出た。『本気出してないから今の無しね』宣言とか女々しいよね? 会長」

会長「……そうね」

「……」

「あれ、もうこんな時間だね。最後に何か一つやって帰ろうか」

会長「「UFOキャッチャー(だな)(ね)」」

「」

30 : VIPに... - 2012/03/06 10:03:40.00 wZBCjrPM0 30/222

「ふん、全く君達も性格悪いよね、私が唯一苦手な奴を指名するなんて」

「いや、会長が初めからやりたがってたのはコレだ」

会長「そうよ」

「つーか……何ガラスに張り付いてんのお前」

「う、うるさいよ。ああ、なんて酷い商売なんだろうね。
  取れる筈もないのに、こんなにも面白そうな物を餌にして……財布の中身を全部吸い取るんだから」

なぜか女は急に遠い目をしだした。

会長「……貴方が見てるぬいぐるみってそんなに面白い物なの?」

「会長は何を言ってるんだ? どう見ても可愛、いや面白いじゃないか! 君の眼は節穴だね!」

会長「ぷっ……あははっ」

「何がおかしいんだ!?」

会長「あはは……、私ここに来て良かったかもしれない。女のそんな一面、今まで見たことなかったしね」ニコ

「……く」カァアア

「そろそろ帰った方がいい、終電がなくなる」

会長「あら本当、じゃあ出ましょうか、女」

「」

31 : VIPに... - 2012/03/06 10:04:07.36 wZBCjrPM0 31/222

――――――――街・表通り


「ほら、早くしないと終電に遅れるよ?」タッタッタ

女の右手にはぬいぐるみが抱えられている。

「……急に元気になったな」

会長「ふふ、子供みたいで可愛いんだから」

女はそのまま駅へ走っていった。

会長「……男、今日はありがとう。女にも言ったけど」

「……だからそんなもんは」

会長「たとえそうでもお礼は必要よ?」

「俺には理解できない」

32 : VIPに... - 2012/03/06 10:04:39.99 wZBCjrPM0 32/222

会長「ふふっ、私と同じクラスでも男という名前の人がいるけど、まるで性格が逆ね」

それは俺だ。

会長「……でも」

会長が黒髪をかきあげ、黒曜の瞳で静かに俺の顔を覗き込んでくる。

会長「どこかで見たことあるような気がするのよね……」

「気のせいだ」

会長「そうよね、うん。女がきっと待ってる、早くいきましょう?」

「……そうだな」

33 : VIPに... - 2012/03/06 10:05:12.29 wZBCjrPM0 33/222

――――――――駅


「男が一緒に着いてくる意味なかったよね」

「なら呼ぶんじゃねぇ!」

会長「女ったら……」

「いやだってさ、普通あるよね? 
  男1人と美少女2人が夜中の街を歩いてたら起こるイベント、まぁ男一人で大勢と戦うとかさ」

「どこの世界の基準だソレ!?」

会長「(漫才みたい……)」

女は急に気の毒そうな表情を見せた。

「……男も残念だったね、せっかく私達にいい所を見せる機会だったのに」

「ごく普通に生きてればそんな機会来る筈ないのにな!」

「だから今日はもう用なし。帰っていいよ?」ニコッ

「あー……、もういい、帰る」スタスタ

会長「あっ……」

会長「……行っちゃった、本当にいいの? 女」

「いいのいいの、いつもあんな感じだしね」

会長「……なんというか、同情する」

「それはどういう意味かな?」

34 : VIPに... - 2012/03/06 10:05:42.80 wZBCjrPM0 34/222

――――――――電車内


「男はどうだった? 結構面白い奴だったでしょ?」

会長「面白いと言えば、まぁ面白いかな?」

「微妙な反応だね」

会長「掴みどころがなさそうな人だったから……」

「そうだね~、初めて会ったならまだわからないかな」

会長「女は何が知ってるの?」

「まーね、色々知ってるよ。何か知りたい?」

会長「別に?」

「えー、そこは乗っかろうよ」

会長「だって私そこまであの人には興味ないし……」

「お、という事は気になっている人がいると?」

会長「ちっ、違うわよ!」カァアア

「ふふ、わかりやすいね女は」

会長「本当に違うわ。気になっている人がいたとしても、……ただいるだけよ」

「ん~、でも会長に告白されて断る男子なんているのかな」

会長「人には色んな事情があるの、女にもわかるでしょ?」

「ああ、……わかるよ」

35 : VIPに... - 2012/03/06 10:06:10.72 wZBCjrPM0 35/222

「そういうわけで、男と私が友達になったキッカケについて話そうと思うんだけどいいかな」

会長「結局話すのね……」

「簡潔に言うとね」

会長「うん」

「知らない女の子が不良っぽいのに貞操を奪われそうな所へ私が首を突っ込んで、
  そこへ偶然通りがかった男を私が無理やり巻き込んだ」

会長「……それ、現実の話?」

「当たり前じゃないか」

会長「一度でもそういう経験のある人っているんだ……」

「ふふん、私はそんな事ぐらい何度も経験しているよ! すごいだろ!」

……男は何度も巻き込まれてるのね?

36 : VIPに... - 2012/03/06 10:06:43.24 wZBCjrPM0 36/222

会長「もう少し詳しく話してくれない?」

「おお、ちょっとでも興味が沸いてきたかな?」

会長はクスッと笑う。

会長「少し、ね」

女はご機嫌な調子で口を開く。

「あれは一年前の事だったね。
  あの頃はまだ私も夜な夜なゲーセンに通っていて、よく街に来ていたんだ」

「いつもの様にゲーセンに向かって歩いてたんだけど、途中で不良っぽい集団を見つけてね。
  学生かな? とにかく女の子が囲まれてたんだよ」

「絡まれて何か反抗しちゃったんだろうね。
  血の気が引いた顔で周りに助けを求めた目線を彷徨わせていたのが印象的だった」

会長「それは気の毒ね……」

「そうだね~。周りは見て見ぬ振りってヤツ、当たり前だけどね。
  誰だって痛い目には遭いたくないし、普通の神経を持っている人間ならってヤツだよ」

会長「でもそうはしなかったんでしょ?」

「当たり前じゃないか。
  少し可哀想、とは思ったけど何より面白そうだったからね。後をつけてみた」

会長「貴方って本当にすごいわね」

「む、そんな苦笑まじりに言われても困るな」


37 : VIPに... - 2012/03/06 10:07:13.82 wZBCjrPM0 37/222

「そのまましばらく後をつけていったら女の子がボロい建物に連れて行かれそうになってさ。
  その子すごい震えてたから、流石に可哀想になっちゃってね。友達の振りして声かけてみたんだ」

「はぁーい、ミッキーだよ☆ 何やってるの? ってね。あ、ミッキーは偽名だよ。
  ふふ、あんなにミッキーミッキー連呼されたのは流石に生まれて初めてだったね」

某世界的有名キャラクターの声とそっくりだった、もはや某じゃないが。

会長「それで?」

「……せっかちだなぁ。
  それで不良達は最初驚いてたけど、どうやら私まで襲う気になったらしくてね。
  こっちに詰め寄ってきたんだよ、5人ぐらいで。全く酷い話だと思わないかい?」

会長「よくそんなに意気揚々と話せるわね……」

「ふふ、ここからが見せ場なんだ」


38 : VIPに... - 2012/03/06 10:07:45.90 wZBCjrPM0 38/222

――――――――約1年前

DQN1「……君ってあの女の子のダチ?」

「そうだね」

「待ち合わせの場所にいなくて心配したよ。さ、行こっか」スタスタ

学生女の手を引いて、表通りに向かって歩き出す。

学生女「はっ、はい」

DQN2「勝手にどこ行こうとしてんだ?」ズイッ

「……邪魔だなぁ、どいてもらえる?」

DQN2「はは、外人とか運がいいな。……俺達と一緒に遊んでくれるならどいてやるよ」

DQN3「騒いでも無駄だぞ? この時間帯でここを通る奴なんかいないしな」

学生女「……」ガチガチ

「そっか」バチッ

どさっ。

生徒女「……え?」


39 : VIPに... - 2012/03/06 10:08:12.20 wZBCjrPM0 39/222

DQN4「おいDQN2?……お前何しやがった!?」

「そんなに吠えないでほしいな。ただのスタンガンだけど」バチッ

どさっ。

DQN5「てめぇ!」ガッ

スタンガンがはじき落とされた。
そしてすぐに両手が掴まれ、動きが封じられる。

「っ! ……ったいなぁ、壁コンクリだよ?」

DQN5「何なんだお前……!」

「そんな怖い顔しないでよ、ただの正当防衛じゃない」ニコ

DQN1「こいつも連れ込むぞ、……どうなるか思い知らせてやる?」



40 : VIPに... - 2012/03/06 10:08:45.65 wZBCjrPM0 40/222

生徒女「いっ、嫌っ、嫌だぁ!」

DQN5「……なんだお前、震えてんのか」

「顔近づけないでよ、汚いな」

……ちょっと困った事になってきたね。
架空のヒーローになるのはやっぱりキツかったかな。

???「……お取り込み中悪いんだけど」

DQN1「あ?」

「……あはっ」

「邪魔」

私は黒いジャージ姿のヒーローを見つけた。

41 : VIPに... - 2012/03/06 10:09:12.25 wZBCjrPM0 41/222

「……最高すぎるタイミングだね」

DQN1「今俺達が何してるかわかってんのか? なめてんじゃねぇぞ!!」

「いや、そこ通り道。あんた達がいると通れない」

「やっときてくれたんだねっ! 待ちくたびれたよ!」

DQN3「は?」

「……あ?」

「あのイケメンは私の彼氏さ! お前達なんか一瞬でぼっこぼこだよ!」

「……何言ってんだ、こいつ」

42 : VIPに... - 2012/03/06 10:09:40.07 wZBCjrPM0 42/222

男の周りをDQN3人が囲んでいる。

「理解できん」

DQN5「たった一人で来るとか頭沸いてんのかテメェ!」

DQN1「覚悟はできてんのか?」

「頑張れー! そんな奴らなんかボコボコにしちゃえ!」

生徒女「え……? でも……あの人関係ないんじゃ……」

「いや、だから俺はそこを通りたいだk」

DQN3の拳が男の頬を捉えた。

DQN3「余裕ぶっこいてんじゃねぇ!」バキッガスッ

DQN1「オラッ」ドスッ

「日本語、が通っじ、ねぇ」

男がDQN3人から一方的な暴行を加えられてる様を見て、女は深刻な思案顔になった。

「うーん、二次元なら格好良くさらっと全員倒してる筈なんだけど……」

生徒女「そんな悠長な事言っている場合じゃないと思うんですけど!?」


43 : VIPに... - 2012/03/06 10:10:05.91 wZBCjrPM0 43/222

どうなってんだ。
どうして俺は大人3人にボコボコにされてんだ。
……楽しそうな顔してんな、こいつ等。
大人しくしてても終わりそうにない。

「……」

DQN1「ぎゃっ」

DQN3「あ? 何言ってんだ聞こえねぇぞオイ!」ドガッ

ズン、と胃に響くような音がDQN達の耳に届いた。

「……」

DQN3「はっ……ぅ、ぅぇえ……」

DQN3が腹を押さえてうずくまる。

DQN5「……は?」

DQN5の視界に移っているのは、知らない間に倒れた仲間達と目前に立っている男のみ。

DQN5「な、何なんだよ畜生……」

「俺が知るか」バキッ

44 : VIPに... - 2012/03/06 10:10:46.62 wZBCjrPM0 44/222

「……」ガスガスガスガスガスガスガス

DQN達「ぎゃっ……も、がっ……もう、許し、ぐっ」

生徒女「あ、あの」

男の動きがピタリと止まる。

「……何」

生徒女「そ、それ以上やったらまずいんじゃ……」

「そうだよー、下手したら死んじゃうよ? 私達は平気だからさ」

「お前達の事はどうでもいい」

45 : VIPに... - 2012/03/06 10:11:27.66 wZBCjrPM0 45/222

生徒女「え?」

「こういう輩は後が色々と面倒だ。今ここでは何を言っても、いずれまた必ず同じ事を繰り返す。
  ならどうすれば良いか、……そんなのは簡単だ」ガスッ

DQN達「ぎゃっ」

「本能に教えてやればいい。
  何を考えても、本能が拒否反応を示すようにしてやれば全て解決だ」ガスガスガス

生徒女「でもちゃんと話せばっ」

「時間の無駄」ガスガスガス

生徒女「でも……」

「……君の言っている事は一理あるけど」

「……」

男は鋭い眼光を女につきつける。

「完全に正しいってわけじゃないよね」

それに女は微笑で答えた。

46 : VIPに... - 2012/03/06 10:11:56.22 wZBCjrPM0 46/222

DQN達「ひっ……も、もう許して、許してくれ」ガクガク

「……こんなもんか」

男は女達に背を向けて歩き出す。

「感謝するよ、ヒーロー君。君の登場タイミングは完璧だった」

生徒女「あっ、ありがとうございました……」

「……」

「……面倒臭い」スタスタ

女は静かに男の背中を見送り、呟いた。

「……君は本当に面白い奴だ」

47 : VIPに... - 2012/03/06 10:12:31.26 wZBCjrPM0 47/222

――――――――

「というわけなんだよ(一部隠蔽)。どうかな、感想は」

会長「えっと……凄すぎてちょっと……」

「いやぁ、あんなに楽しいイベントはそうそう巡りあえる物じゃないからね」

会長「普通有り得ないと思う」

「そうかな?」

会長「……」

「どうかした?」

会長「……男は、やっぱり怖い人だと思うのだけど」

「んー、怖いかぁ……。微妙に表現の仕方が違うよ」

会長「……どういう事?」

「正確に言うとね、男にとっての普通は私達の普通とは異なるんだ。
  それが私達にとっては怖い、と感じさせるわけ。まぁこの一年で随分と変わったけど」

会長「……え?」

「だから男は私が出会った中で一番面白い奴なんだよ」ニコッ

48 : VIPに... - 2012/03/06 10:12:57.79 wZBCjrPM0 48/222

――――――――翌日

「約束が違う」

「まぁまぁ、そんなに怒らないでよ。それに完全に約束を破ってるわけじゃないだろ?」

「は?」

「君と私の契約は『君の素性を周囲へバラさない代わりに私と楽しい学園生活を送ってもらう』だからね」

「……もはや契約じゃねぇ、脅迫だ」

「大丈夫だって、会長は口が堅いから。
  本当に嫌なら昨日の時点ですぐ帰ってたでしょ?」

「……」

「あ、あと君と私の再会について会長に話しちゃった件についてなんだけど」

「約束が違う!」

49 : VIPに... - 2012/03/06 10:14:20.03 wZBCjrPM0 49/222

――――――――高校・屋上

「た、大変だったんだね……」

「最悪だ」

「……」

「……」

「そうだ。昨日新しいゲーム買ったんだ、今度貸してあげる」

「マジか」

「うん、……でもそろそろ前貸した奴返して欲しいんだけど。その前に貸した奴も」

「いや、返したいのは山々なんだが。難しくてな」

「結構簡単なヤツ選んだ筈なんだけど……」

「……」

「また今度遊びに行こうか?」

「助かる」

「あっ、そろそろ昼休み終わるよ?」

「……戻るか」

50 : VIPに... - 2012/03/06 10:14:52.96 wZBCjrPM0 50/222

「あの人って……生徒会長だよね?」

「お前は回り道して、教室に行け」

「うん」

会長は床に散らばったプリント類と一人で黙々と集めている。

「……」スタスタ

会長「あっ、……男くん」

「手伝いますよ」

会長「いえ、いいの。これは自分のミスだから……」

「同じクラスじゃないですか」

会長「……でも」

「わかってます」

会長「え?」

「わかってますから、大丈夫ですよ」

会長「……」ボソッ

会長の呟きに男が何か聞きそびれたのかと顔を向ける。
それに会長は少しはにかんで答えた。

会長「ありがとうって、言いたかったのよ」

51 : VIPに... - 2012/03/06 10:15:18.30 wZBCjrPM0 51/222

会長「これでよしっ」

「一人で持てますか?」

会長「元々一人で持ってたんだから平気。それより男くんは先に教室へ向かった方がいいわよ?」

「……そうですね。では」

会長「あ、ちょっと待って」

「はい?」

会長「前から思っていたのだけど」

「ええ」

会長「私は貴方に対して敬語なんか使ってないよね?」

「まぁ、そうですね」

会長「なら貴方が私に敬語を使うのはおかしいと思うの」

……まさか言い返されるとはな。

「……やっぱり生徒会長ですから」

会長「それでもやっぱりおかしいわよ」ジー

「……」

会長「……」ジー

男は困ったように笑った。

「……わかったよ」

会長「うんっ! 行ってよし!」ニコッ

52 : VIPに... - 2012/03/06 10:15:55.98 wZBCjrPM0 52/222

――――――――高校・教室

「何かあった?」

「別に」

「そっか」

ガラッ。

会長「遅れてすみません……」

教師「重いものを持って来てもらってすまないな、ありがとう。机の上に置いといてもらえると助かる」

会長「はい」

クスクス……

「ああ、そういう事なんだ。だから男は……」

「……」

「なんとかしないの?」

「必要ない、そう思うなら友がやれ」

「そ、それは……」

「……相変わらずだな、お前は」

53 : VIPに... - 2012/03/06 10:17:44.55 wZBCjrPM0 53/222

――――――――帰路

……男くんと一緒に帰るのは初めてね。

会長「お邪魔してるわ」

「なぜ会長も一緒に」

「今日は生徒会の仕事がないし、自習室が開いていないからね」

会長「ごめんね、たまたま途中まで帰り道が同じだったから……もしかして邪魔だった?」

「いや、そうじゃないよ……そうじゃないんだけど……」

「なんだい、男らしくないな」

「(お前の所為だ……っ!)」

「男、見てみなよ。皆に注目されてるよ?」

「……あいつマジかよ」

「ここの2大美少女と一緒に下校とか……殺す」

「女さんだけじゃ飽き足らず生徒会長までも……!」

「……俺達の永遠のアイドルに何してくれてんだ、明日にでもシメちまうか」

「もう殺っちまおうか」

「あはは、人気者だねぇ」

「……ここは有名進学校じゃなかったのか」


54 : VIPに... - 2012/03/06 10:18:27.23 wZBCjrPM0 54/222

「どうせなら3人でしか話せない事話したいよね」

会長「例えば?」

「たと」

「今度のテストの事とかかな」

「……」

会長「あら、男くん真面目にテスト受ける気になったのね」

「そうだね」

「でも」

会長「ふふふ、今度こそ負けないから覚悟しなさい!」

「覚悟しとくよ」

「ちょっと」

会長「む、随分と余裕そうじゃない、でも負けないから」

「全然余裕じゃないって」

会長「もう! その全く焦ってない感じがむかつくわ!」

「ちょ、ちょっと待ってよ!!!」

55 : VIPに... - 2012/03/06 10:18:55.39 wZBCjrPM0 55/222

会長「……え?」

「何?」

「ええ!? 何その『この子いきなりどうしたのかな』みたいな反応!?」

「いや、いきなり大声で叫ばれても……ね」

「いや違うでしょ! そこ反応おかしいって! 冷たすぎるよ!」

会長「……女?」

「会長まで何なんだ! 私の事いきなり除け者にしちゃってさ!」

会長「今私達が歩いてる道、住宅街だから。
   もうちょっと声のボリューム下げてもらえる?」

「え……? あ、うん……ごめん」


56 : VIPに... - 2012/03/06 10:19:23.88 wZBCjrPM0 56/222

「くっ……まさか私がツッコミ役にまわるなんて、流石だよ。でも負けないから……!」

会長「女は一体何と戦ってるの?」

「それでさっきの話の続きだけ」

女が男の話を遮る。

「じゃあ恋バナでもしようかっ」

「……いいよ」

会長「ええっ!」カァァ

「どうした? 顔が赤いよ? 会長」

会長「いや……そういう話は同姓同士でする事じゃ……?」

「確かにそうだね」

「大丈夫だよ、典型地味男が一人混ざってても別にどうってことないだろ?」

「ハハハ」

58 : VIPに... - 2012/03/06 10:21:56.24 wZBCjrPM0 57/222

女、違うわよ。貴方間違ってる。
……男くんがいるのが大問題なのよ!?
どうしてこうなっちゃったの!? 
軽い気持ちで一緒に帰ろうと思っただけなのに……。
だめよ、ここで反論したら余計怪しまれてしまう。

会長「そ、それもそうね……?」

「そっか」

「あはは、男は会長認定の地味男だねっ」

会長「えっ!? ち、違うのよ違くないけど違うの! ……あ、あれっ!?」

「会長、大丈夫か? 落ち着いた方がいい」

会長「わ、私は落ち着きすぎてるぐらいに落ち着いてるわよ!?」

「……会長」

会長「な、何?」

「今私達が歩いてる道、住宅街だから。
  もうちょっと声のボリューム下げてもらえる?」

会長「えっ……? ご、ごめんなさい」

……あれ? これって私が悪いの?

59 : VIPに... - 2012/03/06 10:22:30.28 wZBCjrPM0 58/222

「じゃあ言い出した私からいってみようか」

できればこの話題はやめてほしいのだけど……。

会長「女は好きな人とかいるの?」

「いないよ? 恋愛感情とかの好きには興味ないからね」

会長「そうなんだ……」

「でも面白いって意味の好きはあるね。そういう意味なら好きな人がたくさんいるよ!」

「……へぇ」

「男、女性がそういう話をしてる時は嘘でも興味ありげに話を聞くものだよ?」

「……へぇ(笑)」

お、男くん……?

「……じゃあ今度は男の恋愛事情でも聞かせてもらおうかな!」

女の顔は引きつった笑みを浮かべている。

「いいよ」

60 : VIPに... - 2012/03/06 10:23:11.87 wZBCjrPM0 59/222

「会長は何か男に質問してみたい事あるのかな?」

会長「えっ」

どうしてそこで私なの!?

会長「……そ、その」

顔赤くなってないかな……?

「ええ」

会長「す、好きな人とかいたりするの……?」

「いないね」

「な、なんだろうね。
  この雰囲気……まるで告白してるみたいだ。私も少しドキドキしてきたよ」

会長「ええっ!? ……もう、女ったら!」

「あはは、冗談だよ」

61 : VIPに... - 2012/03/06 10:23:38.86 wZBCjrPM0 60/222

「返答が味気ないからもう少し掘り下げて聞いてみようか」

「いいけど」

「今までに女性と付き合った事は?」

「ないよ」

会長「……ないのね」

「じゃあ、今までに女性を好きになった事は? キスした事はあるかい? 手をつないだ事は?」

会長「そこまで聞くの!?」

「ないね」

会長「……えっ」

「本当なのかなソレ」

「今まで意識していなかったけど、思い起こすとないね」

「……ぷっ」

「あはっ、あはははははは! 
  高2にもなって女の子と手をつないだ事もないって残念すぎるよ! 流石は地味男だ!」

会長「ちょ、ちょっと失礼よ」

「……逆に聞くけど、会長と女はそういう経験ある?」

「えっ」

会長「えっ」

62 : VIPに... - 2012/03/06 10:24:09.70 wZBCjrPM0 61/222

「ば、馬鹿言うものじゃないね! そんな事ぐらい余裕で経験してるに決まってるじゃないか!
  男みたいな地味君とは違って私達は2次元並みの美少女なんだよ? 余裕だよ余裕! ねぇ会長?」チラッ

会長は無言で目を逸らした。

会長「……」

「……なんだが暑くなってきたねー。温暖化進んでるんじゃない?」

「今年は去年より寒いし、今日は冬型の気圧配置だけど」

「あはは、は……」

会長「ふふ……」

「……」

会長「……」

「……」

「さ、今日はさっさと帰ろうか」

会長「そ、そうねっ」

「……」

63 : VIPに... - 2012/03/06 10:24:43.10 wZBCjrPM0 62/222

――――――――翌日・男自宅

「……」カチャカチャ

「……っく、このっ」カチャッカチャカチャ

「あ……」カチャ…

「……」

「……飯でも食うか」

男は窓を一瞥する。

「曇りじゃなかったのかよ……だりいな」

ガラッ。ポツポツ……ザアアアアアア

「部屋干しとか……」

ピンポーン

「……」スタスタ

ドアの覗き穴を覗く。

「……嘘だろ」

ピンポーン…ピンポンピンポンピンポンピンポーン

「うぜぇ」ガチャ

「やぁ男、一日ぶりだね」

64 : VIPに... - 2012/03/06 10:25:09.73 wZBCjrPM0 63/222

「……どちら様でしょうか」

「見ての通り女だけど」

「……」

「んー、それよりもドアのチェーン外してくれないかな? 入れないんだけど」

「帰れ」ガチャ

「ちょ、ちょっと待ってよ! 今の私の格好見て何か思わないのかな!?」ガシッ

「……家が水浸しになってカビが繁殖する」

「もっと他にあるでしょ!?」

「そんな格好のお前を家に入れた瞬間に俺は犯罪者確定だ」バタン

「あっ! でも私は諦めが悪いからね、入れてくれるまでここで待たせてもらうよ!」

65 : VIPに... - 2012/03/06 10:25:41.90 wZBCjrPM0 64/222

――――――――1時間後

「……」フルフル

「……まだいんのか」ガチャ

「早く帰れ……そんなもんが俺に通じるわけねぇって事ぐらいわかってんだろ」

「ふ、ふふん……しょ、勝負はこれからだ……よ」フルフル

「……付き合ってられん」バタン

「……」

66 : VIPに... - 2012/03/06 10:26:07.98 wZBCjrPM0 65/222

――――――――30分後

「……そろそろ帰ったか」

ドンドンドン! ドンドンドン!

「……は?」スタスタ

「何」ガチャ

隣のおばさん「あんた何やってんのよ!!」

「なっ……」

「……」ニヤリ

隣のおばさん「こんな可愛い子を外にほっぽりだして! それでもあんた男なの!?」

「いや……これには事情が」

隣のおばさん「事情も何もないでしょ! さっさと家にいれてあげなさいよ!」

「……すいません」

67 : VIPに... - 2012/03/06 10:26:34.28 wZBCjrPM0 66/222

「はっはっは、どうやら私の勝ちみたいだね」

「まじで何がしたいのかわからん」

「面白そうだったからね、来ちゃった☆」

「全部それで済ませようとすんじゃねぇ! 帰れ!」

「えー、無理だよ」

「……は?」

「家出しちゃったからね」

「はぁ!?」

「勿論本気じゃないよ? プチ家出ってヤツかな」

68 : VIPに... - 2012/03/06 10:27:00.82 wZBCjrPM0 67/222

「関係ねぇのに一々巻き込みやがって……」ゴシゴシ

「私に目をつけられちゃったからね~」

「最悪だ」ゴシゴシ

「あっ、そこ強くこすりすぎだよ。もう少しやさしくして?」

「拭いてんのは床だ!」

「あはは、男もツッコミ役が板についてきたよね」

「……」ゴシゴシ

「あ、お腹すいたから何か作ってよ」

「……話そらそうとしてんじゃねぇぞ」

男はのそりと立ち上がり、女を見据える。

「そんなつもりないんだけどなぁ」

「ここに来たからには何か理由があるんじゃねぇのか」

69 : VIPに... - 2012/03/06 10:27:26.48 wZBCjrPM0 68/222

「ふふ、随分と疑われてるね」

「お前だからな」

「酷い理由だねぇ。でも本当に理由なんてないんだ」

「嘗めてんのか」ギロッ

「おっとと、早まらないでくれよっ」

「……家出先に俺ん所を選ぶ意味がわからん、会長の所に行け。今すぐ行け」

「しつこいなぁ、なんとなく来ちゃったんだからしょうがないでしょ。
  家出してからゲーセン行って、宿探してたら『あ、近くに男の家あったなぁ』ってね」

「……」

「本当……なんだよ」

暫しの沈黙の後、男はわしわしと頭を掻いた。

「仮にそうだとしてもだ……ただの知り合いの男の家に理由もなく上がりこむって有り得ねえだろ」

「……じゃあ」

「あ?」

「私と付き合ってみる?」

70 : VIPに... - 2012/03/06 10:27:55.48 wZBCjrPM0 69/222

「何言ってんだ?」

「……だよね、真面目なリアクション来てちょっと困っちゃったよ」

「だるいな、お前」

「1日ぐらい泊めてくれたっていいじゃないか。どうせ3連休なんだしさー」

「1日でもお前の為に消費したくない」

「えー、そうきちゃう? ふふ、そんなに嫌かぁ」

「……」

「じゃ、じゃあ」

「……風呂」

「え?」

「風呂入れ、また床拭かなきゃいけなくなるだろうが」バサッ

「わぷっ……いいの?」

「ジャージで我慢しろ、それが嫌なら出てけ」スタスタ

71 : VIPに... - 2012/03/06 10:28:29.53 wZBCjrPM0 70/222

「どっか行くのかい?」

「……いいな、15分だ。それまでに風呂から上がって着替えろ」ガチャ

「君って意外と……」

「何だ」

「紳士なんだね」ニコッ

「知るか」バタン

72 : VIPに... - 2012/03/06 10:29:57.13 wZBCjrPM0 71/222

――――――――30分後・男自宅前


「……なんで俺はこんな事してんだ」ガチャ

「……」スタスタ

ジャー……

「……15分っつっただろ」

きびすを返そうとした男の動きが停止する。
ある物体が視界に入ったからだ。

「……」

「……ゴキブリ」

「どこから……」

「窓か」ガチャガチャ

73 : VIPに... - 2012/03/06 10:30:18.21 wZBCjrPM0 72/222

「まあ、殺せばいい」

男は無言で洗剤と水が混ぜ始める。

「こんなもんか」

周囲を見回す。

「……どこいった」

男の眼が黒虫を捕らえる。

「……おい、やめろ」

ゴギブリは風呂場に突撃した。

74 : VIPに... - 2012/03/06 10:30:48.16 wZBCjrPM0 73/222

「……嘘だろ」

「これはまずい、俺が」スタスタ

コンコン。

「聴こえるか」

ジャ――…キュッ

「……あ、もう帰ってきてたんだ。ごめん、体冷えてたから長風呂しちゃってたよ」

「それはもうどうでもいい」

「え?」

75 : VIPに... - 2012/03/06 10:31:19.99 wZBCjrPM0 74/222

「ゴキブリがそっちに行った」

「え、……ご、ごめん。もう一度言ってくれるかな?」

「ゴキブリが、そっちに行った」

「……ぅぇぇ」

「問題ないだろ」

「えっ。ぜっ、全然平気だよ! 私を誰だと思ってるんだい!?」

「だろうな。俺はまた外出てくるから」スタスタ

「ちょ、ちょっと待ってよ!
  ゴキブリが暴れたらどうするのさ!? もしもの時の為に男手も必要だと思うよ!?」

「……っち」

「ん? 今、なにか言った?」

「別に」

76 : VIPに... - 2012/03/06 10:31:46.45 wZBCjrPM0 75/222

「男ーいるよね……?」ガチャ

「いる」

「は、早く着ないと」

カサ……

「ひっ」

「ど、どこ……」

カサ、カサカサカサ…カサ

「う、そ……」

女はゆっくりと後ろの壁を振り返る。

「……き」

「来るか」

「きゃああああああああああああああああ!!(英語)」

ガタッ、ドタドタ。ガラッ。

「……」

「……あう(英語)」

「いやあああああああああ!(英語)」バキッ

「なんでだっ!?」

77 : VIPに... - 2012/03/06 10:32:14.29 wZBCjrPM0 76/222

「とでも叫ぶと思った?」

「全力で叫びやがって! なんで俺が殴られなきゃなんねぇんだ!」

「だって君、乙女の裸見たじゃないか」

「見てねぇよ! 前もって眼隠してただろ!」

「それは男としてちょっとなぁ……」

「てめぇ……」

「わ、わかった! わかったからその袋を持ったまま近づかないでよ!」

「……ああ、お前こいつが怖いんだよな」

「そ、そうだよ! 早く捨てて!」

「嫌だ、お前に対する抑止力として使える」

「……君って最低だよね」

「お前には言われたくねぇ」

78 : VIPに... - 2012/03/06 10:32:42.11 wZBCjrPM0 77/222

「……」ゴシゴシ

「あはははっ。男、面白い番組やってるよ?」

「……」ゴシゴシ

「それよりいい加減お腹すいたんだけど、私お昼食べてないんだよ?」

「今忙しい。カップ麺でも食ってろ」ゴシゴシ

「掃除なんか後でいいじゃん」

「誰の所為だと思ってんだ」ゴシゴシ

「それはさっき謝っただろ?」

「……」スタスタ

「おー、お疲れさん」

「……」ジー

「……何見てんだ」

「いや、晩御飯何作ってくれるのかなぁってさ」

79 : VIPに... - 2012/03/06 10:33:10.12 wZBCjrPM0 78/222

「材料費がもったいない」

「えー、……男って結構ケチだよね」

「カップ麺なら食っていいって言ってんだろ」

「100円の晩ご飯とか悲しすぎるよ!」

「89円だ」

「あ、晩御飯代ならもう支払ったじゃないか」

「は?」

「私の裸見ただろ? お風呂上りの金髪美少女とか御釣りが返ってくるね」

80 : VIPに... - 2012/03/06 10:33:42.39 wZBCjrPM0 79/222

「……俺は見てねぇ」

「またまたそんな事言って~、雄が雌の体を見ないわけないじゃん」

「仮に俺がお前の裸を見たとしても金が足りない」

「それは私に対する悪口かなぁ!」

「俺、ロリコンじゃないし」

「今何て言った何て言ったぁああ!? ロリ!? いや私全然ロリじゃないし! 身長160あるし!」

「サバ読むな」

「君が無駄に図体でかいだけだろ!」

「あと貧乳に興味ない」

「がっ!? ひ、貧乳じゃないわ! これでもCはあんだぞバーカ!」

「俺の中ではC以下とか貧乳」

「っ……! で、でも大きさだけが重要ってわけじゃないじゃないか! 私は美乳だぞ!」

「貧乳が自動的に美乳になる風潮とかないから」

「……」ジワッ

81 : VIPに... - 2012/03/06 10:34:17.70 wZBCjrPM0 80/222

「……顔」

「……」ガチャ

男は冷蔵庫から食材を取り出す。

「顔はどう!? 顔も女にとっては重要だろ!」

「へぇ」ジャ―…キュッ…

「ほぼ毎日私の美貌を見せてあげてるんだから拝見料ちょうだいよ!」

「じゃあ顔も興味ない」トントントントン

「じゃあって何!?」

82 : VIPに... - 2012/03/06 10:34:45.32 wZBCjrPM0 81/222

「……飯の話からどこまで飛んでんだ」トントントントン

「君の所為じゃないか!」

「あー、うっせぇ。作ってやるからもう喚くな」トントントントン

「もはやご飯の話だけでは済まされないね! 容姿についてここまで酷く言われたのは初めてだ!」

「なら飯はいらねぇと」パラパラ

「いるよ!? 何言ってんの? 馬鹿?」

「……ガキか」ジャッジャッジャッ

83 : VIPに... - 2012/03/06 10:35:17.02 wZBCjrPM0 82/222

「……美味しい!」

「へぇ」

「見た目は貧相だけど味は良いね! この料理の名前何て言うのかな?」

「カルボナーラ」

「……」

「何だ」

「もうちょっと何かないの? 何とか風とかさ」

「ない、……ご馳走様」ガタ

「余ってるのもらってもいいかな?」

「勝手にしろ」

「そっか!」

「今から風呂だが……。部屋、漁るなよ」

「当たり前だよ、そのくらいの常識は持ってる」

84 : VIPに... - 2012/03/06 10:35:53.45 wZBCjrPM0 83/222

――――――――30分後

「あ、……男」

女の表情は心なしか沈んでいる。

「お前まさか」

「ご、ごめんよ。こんな事になるとは思ってなくて」

「何しやがった」

女は男に憐憫の眼差しを向け、口を開いた。

「……君って、エロ本一冊も持ってないんだねぇ」

「本気で訴えてやる」

85 : VIPに... - 2012/03/06 10:36:25.83 wZBCjrPM0 84/222

「いやー、正直引くね」

「……」

「その歳で一冊も持ってないとかさ。男として終わってるよ」

「なんで俺がお前から説教たれられなきゃなんねぇんだ!?」

「本当に一冊も持ってないの?」

「持ってるに決まってんだろ! 見せてやる」ダッ

「……見事に引っかかったね」

86 : VIPに... - 2012/03/06 10:37:06.65 wZBCjrPM0 85/222

「おら」バサッ

「早いね~。どれどれ……」

女の表情が固まる。

「れっきとしたエロ本だ、女の裸写ってんだろ」

「これ……医学書……」

女は慈愛に満ちた微笑みを男に見せ、肩に手を置いた。

「私のエロ本、貸してあげようか?」

「……」

87 : VIPに... - 2012/03/06 10:37:35.74 wZBCjrPM0 86/222

「女性に興味ないの? ゲイなの?」

「興味はある」

「じゃあ何で買わないの?」

「……」

「やっぱりゲイなんだね」

「店員の目が気になって買えなかっただけだ!」

「……チェリーってレベルじゃないよ」

「合理的に考えただけだ。わざわざ買いにいく労力が勿体無い」

「うん……もう、もうわかったから。私が悪かったよ、ごめんね?」

「……」

88 : VIPに... - 2012/03/06 10:38:08.04 wZBCjrPM0 87/222

「そんなに気を悪くしないでよ。テレビ面白いよ?」

「……」

「まぁお茶でも飲んで落ち着きなって」コト

「いつからここはお前の家になった。いちいち話しかけてくんな」

「だって暇じゃない」

「その方がいい」

「ねぇ、男」

「何だ」

「私がプチ家出した理由とか……聞いてみたくない?」

「ない」

「ふふっ、だよねぇ」

89 : VIPに... - 2012/03/06 10:38:34.98 wZBCjrPM0 88/222

「もう寝るぞ」

「大胆だね」

「そっちじゃねぇ!」

「……もう寝るの?」

「いつもならもっと早い」ガラッ

「健全だね、で私はどこで寝ればいいのかな?」

「布団出してやるから、そこで寝ろ」バサッ

「はいはい」

「……男」

「ん」

「おやすみ」ニコ

「…………ああ」

90 : VIPに... - 2012/03/06 10:39:09.69 wZBCjrPM0 89/222

グス…ヒック…

「……」パチ

「私は……じゃない」

「……」ゴロン

「」ビクッ

「……起きてるの?」

「……」

「そんなわけ、ないよね」

「……」

91 : VIPに... - 2012/03/06 10:39:35.51 wZBCjrPM0 90/222

――――――――翌日


「……ん」パチ

「……」ガチャ

「ん~……おはよう。どこ行ってた?」

「走ってた」

「へぇ~。朝早いんだね」

「お前が遅いだけだ。……朝飯できてる」

「おおっ! 昨日はあんなに嫌がってたのに何かあったのかい?」

「昨日みたいに無駄に時間を消費するのはもうたくさんだ」

「ふふ、素直じゃないなぁ。じゃあお言葉に甘えていただ」

「その前にその寝癖だらけの髪と寝ぼけた顔をなんとかしろ」

「えー、男は私の父親かい?」

ぶつぶつ文句を言いながら洗面所に向かう女を横目で見て男は呟いた。

「……まじで何やってんだ俺」

92 : VIPに... - 2012/03/06 10:40:20.56 wZBCjrPM0 91/222

「美味しかった! ご馳走様!」

「よし。さっさと着替えて帰れ」

「やだ」

「……」

「私は一日泊めてって言ったんだよ? 一泊二日が普通だよね」

「付き合ってられるか」ギロッ

「でも私が今いなくなったら色々大変なんじゃないかなぁ?」

93 : VIPに... - 2012/03/06 10:40:47.65 wZBCjrPM0 92/222

「は?」

ピンポーン

「お! いいタイミングだね」スタスタ

「おい、ちょっと待て何」

「男、一つ教えてあげるよ。……女の恨みは恐ろしいんだ」

女は男の目の前に携帯を突き出した。


【From】会長
【Sub】遊ぼう
――――――――――――――――ー――――――――
 
 そろそろ女の家に着くと思う。


「」

「女の家ってどこなのか……もうわかるよね。
  ひ、貧乳の私じゃ不満だろうから会長を呼んであげたんだよ、感謝してほしいね☆」ガチャ

「」

会長「おはよう、女」ニコ

「おはよう!」

「……oh」

94 : VIPに... - 2012/03/06 10:41:18.91 wZBCjrPM0 93/222

会長「あれ? 女その格好どうしたの……というか一人暮らし!?」

「まあね!」

会長「へぇ、思ったより狭い部屋借りてるのね」

「だよね!」

会長「えっ……ええ」

「さあ上がってってよ」

会長「失礼するわ」スタスタ

「……」

会長「……」

95 : VIPに... - 2012/03/06 10:41:55.94 wZBCjrPM0 94/222

「あはっ」

会長「誰この人……女と同じジャージ? え? ……ええっ!?」

「ふふ、手で顔なんか隠しても意味ないと思うけどなぁ」

「……」

会長「?! 男っ!? えっ、付き合ってた……えっ、同棲!?」

「……」

96 : VIPに... - 2012/03/06 10:42:24.95 wZBCjrPM0 95/222

会長「そんな事があったのね」

「会長ったらすぐ男の言う事信じるんだから。私との友情はどうなったのかな」

会長「なんだか……お疲れ様」

「……どうも」

「会長あっさり状況飲み込みすぎだよ!? 色々突っ込む所あるでしょ!
  寝泊りどうしたの? 風呂は? どうしてこうなったの? とかさ」

会長「女だったら何でも有り得そうな気がして」

「真理だな」

「心外だよ!」

97 : VIPに... - 2012/03/06 10:42:56.29 wZBCjrPM0 96/222

会長「でもどうして私が呼ばれたの?」

女が会長の背後に回りこむ。

「それはね。コレだよ!」モミッ

会長「きゃっ」

女の両目が驚きで見開かれる。

「重い! この形と手触り……Eはある! 本当に同じ人間とは思えないっ!」モミモミ

会長「ちょ、ちょっと女ったら何……って男は何ずっと見てるの!? 止めてよ!」

「……言いたい事はわかる、女」

「何さ!」キッ

女の目尻には涙が溜まっている。

「続けろ」

「言われなくても続けるよ! なんでこんなに違うんだ……っ!」モミモミ

会長「ちょっと!?」

98 : VIPに... - 2012/03/06 10:43:29.90 wZBCjrPM0 97/222

会長「もう! 私はこんな事の為に呼ばれたの!?」

「いや違うんだ……ちょっとからかおうと思っただけなんだ……だけど……」

女はそこまでで言葉を切り、静かになった。

会長「男もそうよ! ……そんな人だとは思わなかった」

「会長、1つ重大な事をお前は忘れている」

会長「……何よ」

「俺は男だ(性別的な意味で)」

会長「だから?」

「男なら誰だって凝視するだろ。
  目の前にでかい胸が揉まれている光景が晒されてたんだからな、本能だ」

会長「なっ!」カァアアア

「覗きまで本能の所為にするつもりはない、ただの犯罪だ。
  だが女性の特徴的な部分へ自然と目がいく事に関してはどうしようもない」

会長「男って、悲しい生き物なのね……」

99 : VIPに... - 2012/03/06 10:44:07.72 wZBCjrPM0 98/222

「確かに男の方が本能に流されやすい、だが女にも本能はある。表に出やすいのが男ってだけだ」

会長「そ、それは」

「あー、駄目駄目。男とマトモに話し合っても勝てないから」

女が復活した。だが声にいつもの調子は戻っていない。

会長「あ」

「鼻血か、俺には刺激が強すぎたらしい」ツー

「流石はチェリー君だね……」

「寝る」

会長「え?」

「血圧が急激に上昇してる。
  少し体を休めないとマズい。……何かしらやりたいなら女とでも遊んでろ」ボフッ

「だってさ。さて何をして遊ぼうか?」

会長「切り替え早いわね貴方」

100 : VIPに... - 2012/03/06 10:44:46.80 wZBCjrPM0 99/222

「なんかソワソワしてるね。どうした?」

会長「男の人の家に来たの、初めてだから」

「あはは、本人はあんな感じだけどね」

「……」スー

会長「……女は男と付き合ってるの?」

「ふふ、どうしてそんな事聞くのかな?」

会長「冷静に考えるとやっぱり男の家に泊まりに行くなんておかしいと思うの」

「だろうね」

会長「知り合ってまだ1年でしょ? 何かあったら大変じゃない」

「1年じゃないよ?」

会長「え?」

「ん~、男と私の出会いって結構複雑なんだよね、説明しずらいっていうかさ。
  とにかく家に泊まっても安全ってわかるぐらいの付き合いっていうのかな。まぁ安全とはちょっと違うけど」

会長「やっぱり付き合ってるんじゃないの?」

「付き合ってないよ?」

会長「よくわからないわね……」

101 : VIPに... - 2012/03/06 10:45:12.40 wZBCjrPM0 100/222

「……」スー

「ずっと寝てるね。じゃ、そろそろ昼ご飯だから起こそうか」スタスタ

会長「そっとしといた方がいいんじゃない?」

「まぁ原因は会長にあるし」ニヤ

会長「元々の原因は女でしょ!?」

「まぁそんな事はおいといてさ、昼ご飯どうする?」

会長「作るしかないんじゃない? でもこの家の物勝手に使ったら……」

「平気平気! 男の分も作ってあげればきっと怒らないって」ガチャ

会長「本当に平気なの……?」

102 : VIPに... - 2012/03/06 10:45:54.90 wZBCjrPM0 101/222

会長「ねぇ、ちょっといい?」

「……何」

会長「この家の食べ物少し使ってもいい? 駄目だったらいいんだけど」

「どうでもいい……」ゴロン

会長「これってOKって事よね……? 女ー、OKだって」

「だから聞く必要なんかないって言ったじゃないか。ほら、エプロン2枚見つけたよ」

会長「女って本当に自由なのね」

103 : VIPに... - 2012/03/06 10:46:21.10 wZBCjrPM0 102/222

会長「ちょっと手洗い借りるわ、女はここ使うでしょ?」

「私の後でいいじゃん」

会長「時間がもったいないから」スタスタ

「そっか」

会長「……え?」ジャー

会長「これって……男くんがいつも掛けてる」カチャ

辺りを見回す。

会長「……嘘、よね」

104 : VIPに... - 2012/03/06 10:46:52.93 wZBCjrPM0 103/222

「男、起きろー!」ユサユサ

会長「……」

「……うぜぇ、揺らすな」

「何さ、せっかく私達が昼ご飯を作ってあげたのに」

「おい」

「何?」

「後片付けは誰がやんだ?」

「男だけど」

「……お前らはもう少し丁寧に物を扱うって事を知らねぇのか」

会長「わ、私は違うのよ? 女が色々……」

「あっ! 全部私の所為にする気かい!?」

105 : VIPに... - 2012/03/06 10:47:25.03 wZBCjrPM0 104/222

「卵焼きか」パク

会長「簡単で申し訳ないのだけど……どう?」

「他人から評価される事に意味なんかねぇよ」

会長「私には必要なの」

「美味しい。……これでいいか?」

「……」

会長「ええ、十分よ」ニコ

106 : VIPに... - 2012/03/06 10:47:53.25 wZBCjrPM0 105/222

「……なんだコレ」

「卵焼きだけど? 早く食べてみてよ」

「無理」

「見た目で判断するのってどうなのかな! 美味しいかもしれないだろ!?」

男は箸で卵焼き一切れを掴む。

「無理」

「なんでさ!?」

107 : VIPに... - 2012/03/06 10:48:25.05 wZBCjrPM0 106/222

「重さがおかしい。どんだけ塩入れてんだ」

「一口ぐらい……食べてくれたって」

「……」パク

「どう?」

ガタン。

「正直料理オンチとかそんなテンプレいらなか……うぐっ!」ダッ

「そこは不味くても美味しいって言う所だよ!?」

会長「大丈夫?」

「ごほっ、喉が死ぬ」

「そんな本気でリアクションされたら困るんだけど……」

108 : VIPに... - 2012/03/06 10:48:56.74 wZBCjrPM0 107/222

「な、なんか気まずいから帰るよ。あと着替えに洗面所使わせてもらったから」ガラッ

会長「えっ」

「ああ、帰れ」

「また明後日かな? じゃ!」バタン

会長「ちょっと!?」

会長「……」

「結局俺が洗い物すんのか」

会長「私も手伝ってもいい?」

「助かる」


「……」スタスタ

女は誰に言うわけでもなく、ぽつりと呟いた。

「気まぐれもここまでかな。これ以上は……無理だよ」

109 : VIPに... - 2012/03/06 10:49:26.22 wZBCjrPM0 108/222

会長「男、1つ聞いてもいい?」

「ああ」

会長「洗面所にあった眼鏡について、と言えばわかる?」

「よくわかったな、他人の眼鏡の見た目なんか」

会長「えっ、そ、それは男の眼鏡が……そう、特徴的だったのよ!」

「あれは伊達眼鏡だからな」

会長「へぇ……でもどうして隠そうとしないの?」

「お前が俺の家に来た時点で諦めてる。どうせ隠そうとしてもバレんだろ」

会長「あはは。それで……男」

「何だ」

会長「貴方の事はどう呼べばいい? 男? 男くん?」

「男、でいい」

会長「……わかった」ニコ

110 : VIPに... - 2012/03/06 10:49:56.70 wZBCjrPM0 109/222

会長「でもどうして自分の見た目を隠そうとするの?」

「……」

会長「あ、言いたくないなら別にいいんだけど」

「この地域周辺だと面が割れてる。だから面倒、それだけ」

会長「もしバレたら?」

「退学、良くて停学か」

会長「それって」

「もうここまできたら隠しても変わらんし、教えてやる」

会長「……」

「この辺で最底辺の中学と言えばどこかわかるか」

会長「ええ、名前ぐらいは聞いた事あるけど」

「そこで頭張ってたのが俺」

111 : VIPに... - 2012/03/06 10:50:26.56 wZBCjrPM0 110/222

会長「嘘でしょ……?」

「嘘つく意味あんのか」

会長「男があんな人達と一緒だなんて、そんなの有り得ない」

「お前の感覚ではそうか」

会長「でもっ」

「簡単に説明してやる」

男は静かに会長を見据える。

会長「……わかった」

112 : VIPに... - 2012/03/06 10:50:57.58 wZBCjrPM0 111/222

「中学での俺は今みたいに髪を黒く染めたり眼鏡を掛けたりもしてなかった。
  見た目は完璧に外人だ、……目を付けられるのは当然だろうな」

「どうしてそんな中学に入ったの?」

「学費が一番安かったからだ」

「それだけ?」

「日本では最終学歴が最重要らしいからな、ならその過程はどうでもいい。
  別に中学や高校には行かなくても良かったが、俺には一般教養が必要だった」

「行かなくてもいいって……どういう事?」

「簡潔に説明すると言った筈だ」

「……」

「目を付けられた俺は周りの輩から一年間様々な妨害を受けた。
  別に普通に生活できれば構わなかったが、流石に支障が出るようになってな」

自分の過去を語る男の眼は冷たい。

「障害を除去する事に決めた」

113 : VIPに... - 2012/03/06 10:51:36.87 wZBCjrPM0 112/222

「除去するにも肉体的に劣っていたから体を鍛えた、そして格闘技を覚えた。
  そうして一年が過ぎた頃、俺は行動を起こした」

「やはり格闘技を覚えたからといって簡単に除去する事はできなかった。
  複数相手には負ける事もしばしばあった、場の数を踏んでいないってヤツだろうな」

会長「……」

「俺に刃向かってくる輩は二度と障害にならないように徹底的に叩き潰した。
  もちろん骨や内蔵には気をつかっていたが、そんな生活を延々と半年続けた」

男の言葉には感情が篭っていない。

「ようやく俺にとって障害となる輩はいなくなった」

114 : VIPに... - 2012/03/06 10:52:10.02 wZBCjrPM0 113/222

会長「貴方……」

「中学時代を振り返って俺はこう思った、最底辺の学校に行くと支障が出やすい。
  だから高校はこの周辺で最も学力の高い所を選んだ」

男の顔に微かな感情の変化が滲む。

「どうやら俺はまた失態を犯したみたいだがな。
  今の高校を選んだ所為で女と出くわしてしまった、あいつは今までの中で最も厄介な障害だ」

会長「……」

115 : VIPに... - 2012/03/06 10:52:52.32 wZBCjrPM0 114/222

会長「もう少し質問してもいいかな」

「ああ」

会長「高校で私が困っている時に、何度も手伝ってくれたのはどうして?」

「授業が円滑に進まないからだ」

会長「……そう」

「お前が同じクラスの女達から妨害を受けているのは知っている。
  だが何かしてやるつもりはない、そこまで俺にとって障害になっていないからな」

会長「……」

116 : VIPに... - 2012/03/06 10:53:33.35 wZBCjrPM0 115/222

「それにそんな面倒な事をする必要がない」

会長「どういう事?」

「お前はそんなくだらない事に屈しない」

会長「え?」

「クラスの女共はおそらく嫉妬しているだけ。
  自分が何をしてもお前に勝てないからな、自分の努力不足を都合の良い対象になすりつけているだけだ」

会長「……男」

「何だ」

会長「それって遠回しに私の事を励ましてくれてるの?」

男は顔をしかめた。

「違う、事実だ」

会長「やっぱり……男は男なのね」

「何を言ってんのかさっぱり理解できん」

117 : VIPに... - 2012/03/06 10:54:08.29 wZBCjrPM0 116/222

会長「でもどうしてそんな事話してくれたの?」

「口止め料だ」

会長「ふふ、そう。……じゃあそろそろ私も帰るわ」

「帰れ」

会長「酷いわね、私は女に騙されてここに来たのに」

「最近ロクな事おこらんからな、また何か起こるかもしれねぇだろ」

会長「そう? 私にとっては最近面白い事ばかり起きてるけど」

「……お前、女に似てるな」

会長「どこが?」

「いちいち首突っ込んでくる所が」

会長は愉快そうに頬をゆるめる。

会長「女に少し感化されちゃったのかもね?」

118 : VIPに... - 2012/03/06 10:54:36.26 wZBCjrPM0 117/222

会長「今日は色々な事が起きすぎて頭が混乱しそう。整理しなきゃ」スタスタ

会長「……メールが届いてる」ピッ


【From】女
【Sub】ごめんね
――――――――――――――――――――――――

 私が呼んだのにいきなり出て行っちゃってごめんよ?
 この埋め合わせはきっとするからさ。


会長「ふふ、女ったら」

足を止め、男の家の方角を眺める。

会長「……男の事、何も知らなかったんだなぁ」

119 : VIPに... - 2012/03/06 10:55:07.82 wZBCjrPM0 118/222

――――――――翌日

「……」カチャ

「寝癖、よし。眼鏡、よし」

「……」スタスタガチャ

「……」

「楽でいい」スタスタ

120 : VIPに... - 2012/03/06 10:55:42.99 wZBCjrPM0 119/222

――――――――高校


「おはよ。今日は女さんと一緒じゃないんだ」

「楽だ」

「女さんはすでに教室に来てるみたいだけど」

「……」

「どうでもいい」

「そっか」


会長「……」

121 : VIPに... - 2012/03/06 10:56:21.24 wZBCjrPM0 120/222

会長「女さん、お昼一緒にどう?」

「ええ、良いですよ」ニコ



「いきなりどうしたんだい? 呼び出してさ」

会長「……何かあったの?」

「ん? 何って?」

会長「男と一緒に登校してなかったから」

「ああ! そういう事ね! 男嬉しそうだったでしょ?」

会長「よく見てないからわからないけど」

「別に一緒に登校する理由ないでしょ? あ、あと男に伝言しといてくれないかな」

会長「え?」

「もう契約は破棄していい、だから安心してくれ。……そう伝えて欲しいんだ」ニコ

122 : VIPに... - 2012/03/06 10:57:15.98 wZBCjrPM0 121/222

会長「そう女が言っていたのだけど……」

「マジか」

会長「嬉しそうね」

「当たり前だ、この高校の唯一の障害が除去されたんだからな」

会長「男」

「何」

会長「今の女……どこかいつもと違うような気がするの。だから」

「だからどうした」

会長「え?」

「俺には関係ない」

会長「友達じゃないの?」

「あいつは知り合いだが、友達じゃない」スタスタ

会長「……どうなってるのよ」



123 : VIPに... - 2012/03/06 10:57:50.59 wZBCjrPM0 122/222

――――――――会長自宅


会長「ただいま」

辺りは静まり返っている。

会長「……」スタスタ

声がかかる。

メイド「申し訳ありません。すぐにお出迎えする事ができず」

会長「いい、貴方は一人でよくやってくれているから」

メイド「……」

会長「悪いのだけど、頼まれ事を引き受けてもらえる?」

メイド「私にできる事でしたら」

会長は暫しの逡巡の後、静かに口を開いた。

会長「いくつか調べて欲しい事があるの」


124 : VIPに... - 2012/03/06 10:58:21.69 wZBCjrPM0 123/222

――――――――3日後・高校

「ん」ピッ


【From】会長
【Sub】話がしたい
――――――――――――――――――――――――

 埋め合わせをしてくれる、と言っていたでしょ?
 放課後、どこかによって話したい事があるの。


「……しつこいなぁ」

女は曖昧に笑う。
ある人にはその顔が困ったように見えた。

「……」

「どうした?」

「別に」


125 : VIPに... - 2012/03/06 10:58:56.14 wZBCjrPM0 124/222

――――――――放課後

会長「じゃあ行きましょうか」

「会長も物好きだよね」

会長「……」

会長の声にいつもの余裕はない。

会長「女程じゃないわよ」

「ふふ、私が話したい事は特にないんだけど」

会長「申し訳ないけど女と男の事、少し調べさせてもらった」

2人に静寂が訪れる。

「……へぇ、もしかして私って犯罪者?」

会長「とりあえずどこかに寄っていきましょう。……全部話すから」


126 : VIPに... - 2012/03/06 10:59:26.22 wZBCjrPM0 125/222

「会長も不器用だよね、調べた事なんか隠せばいいのに」

会長「非常識な事をしたって自覚してるから。友達に嘘はつきたくない」

「友達、かぁ」

会長「私は貴方の事を友達だと思ってる。……だから貴方も私に嘘をつかないで」

「友達って結構さ、卑怯な言葉だよね」

一呼吸おいて言葉を続ける。

「……いいよ。できる限りの事は話してあげる」



127 : VIPに... - 2012/03/06 11:00:04.73 wZBCjrPM0 126/222

「会長はどこまで知ってるのかな?」

会長「かなり」

「曖昧すぎるよ」

会長「男と女の関係まではわかった」

「……会長って卑猥だね」

会長「そっちじゃないわ!?」

「ふふ、そこまで知ってるならさ」

会長「……」

「なおさら私の事は放って置くべきじゃないかなぁ?」





128 : VIPに... - 2012/03/06 11:00:36.87 wZBCjrPM0 127/222

会長「……」

「まぁいいけどさ、そろそろ講義を始めようか」

会長「いいの?」

「いいよ。さて、どこから話そうかな」

会長「……」

「生徒ちゃんに質問だよ、どうして外人の私はここ日本にいるのかな?」

会長「親の事情?」

「惜しいけど、もうちょっと詳しく答えて欲しいな。ヒントは財閥と結婚!」

会長「……許婚?」

「正解っ! 流石は優等生だね!」



129 : VIPに... - 2012/03/06 11:01:14.38 wZBCjrPM0 128/222

「詳しい正解は『許婚が日本にいるので私がそこに住む事になった』でした! 
  日本に住み始めたのは10歳からだね、それ以前にもちょくちょく来てたけど」

会長「そんな事って……」

「あるよ? 私の家の会社は今弱っててね。
  良家の経済的支援が欲しかったんだ、……政略結婚の道具ってやつ?」

会長「貴方の意思は?」

「関係ないね。一応親は私に謝ってたけどさ、……そんなの一時的な物だよ。
  どうせ結婚したら用なしサヨウナラ、そういう物でしょ?」

会長「……」

「しょうがない、そう思う事しか私にはできないけどさ。会長にだって似たような事情がある筈だよ」

会長「女……」

女の表情は明るい。

「だから私はそのかわりに親に要求したんだ」

会長「何を?」

「結婚するまでは私を自由にさせてくれってね」




130 : VIPに... - 2012/03/06 11:01:47.31 wZBCjrPM0 129/222

「どうせ人生の半分以上は好きでもない男と一緒の狭っくるしい毎日になるんだからさ。
  その人生の半分で知る筈だった分を取り返す為に、面白そうな事をたくさん探し回ったんだよ」

会長「……」

「でも探そうと思った矢先に一番面白いヤツと出会っちゃったんだけどね!」

会長「それが男なの?」

「うん」

女は嬉しそうに頬をほころばせる。

「それが今までで一番の幸運かな」




131 : VIPに... - 2012/03/06 11:02:21.43 wZBCjrPM0 130/222

「男ってほら、中二病を拗らせた人みたいな喋り方するでしょ? 私の口調も随分変だけどね」

会長「そ、そう?」

「あれでも良くなった方なんだよ?」

会長「へぇ」

「あと怒る時のパターンが似通ってたりしない? 感情の起伏が不自然っていうかさ」

会長「そういえば……」

「あれ、本当は怒ってないんだ。
  というか今まで本気で怒った事なんかないんじゃないかな。
  たぶん周りの怒るパターンに合わせて怒ってる振りをしてるんだと思う」

会長「……嘘でしょ?」

「だって男は感情に合わせて動いたりしないからね。
  ……きっと男の怒ったりする基準が普通の人とは全然違うからなんだろうけど」

会長「……」

「そういうのを説明するには、まず結構前まで遡らなきゃいけないんだ」



132 : VIPに... - 2012/03/06 11:02:48.87 wZBCjrPM0 131/222

「男と初めて出会ったのは私が9歳の時かな」

会長「そんなに前から?」

「許婚は当然日本人だからね、話も通じないし楽しくなかった。
  親には許婚と遊ぶように言われたけど、無視して良家の豪邸を探検してみたんだ」

会長「……それで?」

「すごく広い図書館を見つけてね。1時間ぐらいかな?
  面白そうな本を取り出しては読み漁ってたんだけどさ、隅っこの方に座って本を読んでる少年を見つけたんだ」

「まぁその少年が男なんだけどね」



133 : VIPに... - 2012/03/06 11:03:16.32 wZBCjrPM0 132/222

「どうして良家に私と同じ外人の子供がいるのか不思議に思ったけど、
  興味本位の方が勝って話しかけてみた。何してるの? ってね」

「何て答えたと思う?」

会長「さぁ」

「読書、だってさ」

会長「ふふ、男らしいわね」

「私がどんな質問しても返答は動詞と名詞で統一されてたね。
  単語しか言わないんだ、今より全然ひどかったんだから」

女は楽しそうに言葉を続ける。


134 : VIPに... - 2012/03/06 11:03:47.39 wZBCjrPM0 133/222

「それから良家に来た時にはちょくちょく男と会うようになったんだよ。
  男とのやり取りはとても会話とは呼べない物だったけど、私にとっては十分だった」

「私に同情とかそういう面倒くさい物無しで接してくれるのは男だけだったから」

会長「……」

「それから歳を重ねるにつれて、私も自分の置かれた状況とか男の事を把握するようになった。
  ……あくまでも表面上だけどね。そんな私はいつからか男に嫉妬するようになったんだ」

会長「どうして?」

女は苦笑した。

「悲劇のヒロインになりたかっただけさ、ああ私って可愛そうってね。
  そして男に『これからも自由の身の男が羨ましい、それに比べて私は……』って愚痴を吐いたんだ」

「そしたら男は初めて普通に答えてくれた」

女の表情から明確な感情を読み取る事はできない。

「『生きていられるだけで十分だ』……男はそう私に言ったんだよ」


135 : VIPに... - 2012/03/06 11:04:21.77 wZBCjrPM0 134/222

「もちろん10歳そこらの子供にその言葉の真意なんかわかるわけないでしょ?
  どういう意味か聞き直したんだけど返って来た返答は『なら、いい』の一言だけだった」

「なんだか悔しくなっちゃってさ、男について両親に聞いてみたんだ。
  もう会長も知ってるでしょ? ……男の生い立ちをさ」

会長「……」

「子供ながらに思ったよ、私はなんて弱いんだってね。
  男にとって見たら私が悩んでいる事も、会長の事だって小さな石ころに過ぎないんだ」

「……誰もが男のように強いわけじゃないんだけどね。
  でも私は反省したよ、男に謝ろうと思って良家に行ったんだけどさ」

一人で呟いているかのように口を動かした。

「男はもういなかった」


136 : VIPに... - 2012/03/06 11:04:58.04 wZBCjrPM0 135/222

「後はもうわかるでしょ。この前話した通りに感動の再開を果たして今に至るってこと」

会長「そう」

「もう終わりでいいかな? これ以上話す事はないし早く帰りたいんだけど……」

会長「駄目」

「えー、どうしてかな」

会長「貴方と男の過去についてはわかった。でも肝心な部分をまだ話してくれてないじゃない」

「……」

会長「男だけじゃなくて私の事も避けてたよね。理由を教えて」

「しつこい女は嫌われるよ?」

会長「誤魔化さないで」

「あーもー……わかったよ。会長って意外と怖いなぁ」

会長「悪かったわね」

「……理由はそろそろ結婚しなきゃいけないからでした、はい終わり。もういいでしょ?」



137 : VIPに... - 2012/03/06 11:05:47.61 wZBCjrPM0 136/222


会長「……どういう事?」

「だーかーらー結婚の時期が早まっちゃったの! 
  会社がヤバくなっちゃったんだよ! もうどうしようもないんだって!」

会長「だからって私と男を避ける理由にはならないじゃない」

「それは」

会長「貴方知ってるのよね?」

女の表情が固まる。

会長「私が男の事を好きだって事」


138 : VIPに... - 2012/03/06 11:06:48.39 wZBCjrPM0 137/222

「お似合いだと思うけど」

会長「話を逸らさないで。だから女は私達を避けたんでしょう?」

「そうだね。だって3年生に上がる頃には消える人間が身近にいても厄介なだけじゃないか」

会長「私はそう思わない」

「会長がどう思おうが私には関係ないよ。
  ……もう勘弁してくれないかな、そろそろ帰りたいんだけど」

会長の瞳が潤む。

会長「どうしてそんな嘘なんかつくの……?」

「言っている意味がわか」

会長「貴方がテスト結果の後にゲームセンターへ連れて行ってくれた時の事覚えてる?」

「それは」

会長「それだけじゃない!
   帰り道に誘ってくれた時も、男の家に呼んだ時もそうよ! 他にもいろいろな事に誘ってくれたわね」

会長「……全て男の事を私に教える為なんでしょ?」

139 : VIPに... - 2012/03/06 11:07:16.66 wZBCjrPM0 138/222

会長「あと数週間で自分は高校からいなくなってしまうから、
   もう時間がないからこんな事をしたんでしょ? ……私の為に」

「いくらなんでも美化させすぎだよ。
  あーもうそんなに泣かないでよ、困っちゃうじゃないか」

会長「泣いてない」

「はいはい。……当然だろ? 
  男はギャルゲーで言ったら難易度限界突破しちゃってるし、最低でもヒントが必要だよ」

会長「でも貴方だってっ!」

「うるさい!!」

140 : VIPに... - 2012/03/06 11:07:44.65 wZBCjrPM0 139/222

女の声は震えている。

「もういい加減にしてくれないかな。
  会長、君の友情を大切にする心は本当に素晴らしいと思うけどさ」

「女としては馬鹿丸出しだよ。話はもう終わり、じゃあね」

会長「待って! 男に事情を話せば何かが変わるかもしれないでしょ?」

「男が状況を把握できてないとでも思ってるのかい?
  今に至って男が何もしてない時点でもう結果はわかりきってる」

会長「でも」

「話しかけないでよ、もう友達じゃないんだから」スタスタ

会長「じゃあ最後に1つだけ教えて」

「……いいよ」

141 : VIPに... - 2012/03/06 11:08:30.60 wZBCjrPM0 140/222

会長「どうして私に男の事を教えてくれたの?」

「さっきも言ったじゃないか。ヒントがないと厳しいからだって」

会長「それは理由じゃない」

「……」

会長「人だったら誰だってほんの少しでも自分の利を考えて行動するもの。
   貴方の言う理由じゃ自分に得がひとつもないじゃない」

「あーあ、本当に大変なヤツと友達になってたものだね。……本当に厄介だ」

会長「よく言われる」

「ふふ、答えは簡単だよ」

「男の本当に笑った顔が見てみたい、それだけさ」

142 : VIPに... - 2012/03/06 11:08:59.68 wZBCjrPM0 141/222

「どうだい? 随分とメルヘンな理由だろ?」

会長「……それだけの理由で」

「会長だって男の成り立ちを知っているならわかる筈だよ、男が笑うだなんて普通は有り得ない。
  男は生きているだけで十分って言ってたけど、それじゃ本当につまらないじゃないか」

女は静かに言葉を続ける。

「確かに男の言う信念があればどんな事があっても耐えられるかもしれない。
  でもそれは最後の最後、究極の逃げだと思うよ。人生に何かを求める事ってそんなに駄目な事なのかな?」

会長「それは……」

「だから私が男と再会した時に思ったんだ。もし男が笑うような事があったならさ」

「この世は本当に楽しい事に溢れてるんだって」

143 : VIPに... - 2012/03/06 11:10:04.30 wZBCjrPM0 142/222

「そうだ、会長」

会長「何?」

「男に私の代わりに謝っといてくれないかな? 
  今まで色んな事に巻き込んできて本当にごめんなさいって」

会長「貴方が自分で謝ればいいじゃない」

「情報代を考えればお釣りが来ると思うけど?」

会長「……そうね」

「あとはもう簡単さ。
  会長と男がくっつけば、男が心から笑えるかもしれない。
  会長も男も私もみんなハッピー。
  そう思ったからこんな事をした、これで全ての疑問は解決だろ?」スタスタ

会長「女……」

「これからはもう高校では話しかけてこないでほしいんだ、……もう全部終わったんだから」スタスタ

会長は女を見送り、小さな声で呟いた。

会長「……貴方だって」

144 : VIPに... - 2012/03/06 11:10:38.33 wZBCjrPM0 143/222


――――――――会長自宅

会長「お帰りになられていたんですね」

会長父「……」

会長「先日のテストの結果ですが」

会長父「話は聞いている。……思わしくない結果に終わったらしいな」

会長「申し訳ありません」

会長父「何度も言っているがな。自覚を持て、将来の良家の嫁としてな」

会長「ですが私は良家の許婚では」

会長父「黙れ。わが社の将来はお前がどの家と関係を築けるかにかかっている。
    ……お前は良家の目がとまるように自分を磨いていればいい」

会長「……はい」

145 : VIPに... - 2012/03/06 11:11:08.69 wZBCjrPM0 144/222

会長「何よ、娘なんかに頼らないで自分で会社大きくしなさいよ」

会長「メイドもそう思わない?」

メイド「私からはなんとも」

会長はクスっと笑う。

会長「……なんて、女と出会う前だったら絶対に思わなかったのに」

メイド「何か、あったのですか?」

会長「うん、女と絶交しちゃった」

146 : VIPに... - 2012/03/06 11:11:42.65 wZBCjrPM0 145/222

メイド「大切な友達では?」

会長「私じゃどうにもできなかったのよ」

メイド「……」

会長「私は弱いわね。
   お父さんに正直に意見を伝える事も、女のように割り切る事もできないんだから」

メイド「何をすれば良いのかわかっているのですか?」

会長「ええ。痛いほどわかってる」

メイド「でしたら」

会長「メイド、……1つ聞いてもいいかしら」

メイド「はい」

会長「私はどうしたらいいの……?」

147 : VIPに... - 2012/03/06 11:12:16.97 wZBCjrPM0 146/222

――――――――
ここから会話は全部英語


死にたくない。

「……」ゴシゴシ

院長「そこが終わったら次は廊下だ」

「はい」ゴシゴシ

生きる為には死ぬ気で頑張らなきゃ駄目だ。
頑張らないと……

少年「……」

こいつのようになる。

「……」ゴシゴシ

頑張らないと簡単に死んじゃうんだ。
犬と何も変わらない。

148 : VIPに... - 2012/03/06 11:12:45.69 wZBCjrPM0 147/222

――――――――

院長「おい」バサッ

男の目の前に分厚い本が投げ出された。

「はい」ゴシゴシ

院長「掃除を止めろ」

「ごめんなさい」

院長「この本の内容を3日で全て覚えてみろ。全部覚えられたらご褒美をやるよ」

「でも文字が読めません」

院長「そんなの俺が知るかよ。……できなかったらお仕置きだ、いいな」スタスタ


149 : VIPに... - 2012/03/06 11:13:14.83 wZBCjrPM0 148/222

「覚えなきゃ」

ペラ……

覚えなかったらきっとご飯がなくなる。
死にたくない、死にたくない。

「文字も覚えなきゃ……」ドサ

ペラ……

ペラ……

「頑張ればいきれるんだ。だって僕は生きてる」

ペラ……

ペラ……

150 : VIPに... - 2012/03/06 11:13:44.76 wZBCjrPM0 149/222

院長とだれかの話声が聞こえてくる。

「おいおい、本当にそんな事したのか? 出来るわけねぇって」

「ははは、だってあのガキ気味悪りぃだろ? 
 何でもいう事聞いてよ。早く他のガキ共みたいにくたばっちまえばいいのによぉ」

「……」

ペラ……

「流石にひでえなぁ! 国からの支援金目当てで孤児院を開いただけあるぜ」

「それ誉めてんのか? ははは、まあ飲めよ」

「大丈夫、大丈夫……」

ペラ……

ペラ……

「頑張れば僕は生きていられる」

151 : VIPに... - 2012/03/06 11:14:29.05 wZBCjrPM0 150/222

――――――――

院長「どうだ、全部覚えられたのか」

「ごめん…なさい、半分……までしか」

院長「あ? 嘘ついてんじゃねぇぞ」ガスッ

「嘘なんか……ついてないです」

院長「……貸せ」

ペラペラ

院長「○▲ページの■×について話してみろ」

「……はい」

152 : VIPに... - 2012/03/06 11:14:58.51 wZBCjrPM0 151/222

院長の眼は驚愕で見開かれている。

院長「……嘘だろこいつ」

「……これで」

院長「何だよ」

「これで、まだ僕は生きていられるんですか」

院長「……ああ」

「良かっ、た」ドサ

院長「こいつは……」

――――――――

153 : VIPに... - 2012/03/06 11:15:26.10 wZBCjrPM0 152/222

「……」パチ

院長「起きたか」

「どうして……」

院長「今日からお前の仕事は出来る限り多くの本を覚える事だ、いいな」

「はい」

院長「あと睡眠も許してやる、とにかく覚え続けろ」

「……はい」

生きるのが楽になった。


154 : VIPに... - 2012/03/06 11:15:56.80 wZBCjrPM0 153/222

――――――――

院長「おい、迎えだ」

「はい」

院長「良かったなあ、自由の身になれてよ。
   俺もお前に随分といい思いさせてもらったぜ、ありがとよ」

「こちらこそ、有難うございました」スタスタ

義父「話には聞いている。今日から私が……君の父親だ」

「宜しくお願いします」

また生きるのが楽になった。



155 : VIPに... - 2012/03/06 11:16:42.83 wZBCjrPM0 154/222

――――――――
ここから日本語


義兄「お前さえっ! いなければ!」バキッガスッ

「ごめんなさい」

わからない。

義兄「謝ることしかできないのか!? 本当に感情がないのか!?」ガスッ

「ごめんなさい」

どうして怒っているのかわからない。

義兄「謝り続けるのをやめろ! ……何なんだお前は」バキッ

「……ごめんなさい」

義兄「……っ! もういい、この家から出て行け!」

義兄「お前は人間じゃない、……ただの機械と変わらないんだ」

生きているだけで十分な筈なのに。
どうして泣く、どうして怒る、どうして、どうして、どうして、どうして。





156 : VIPに... - 2012/03/06 11:17:24.94 wZBCjrPM0 155/222

――――――――

「……」パチ

全身は微かに震えている。

「……ここ1年は見てなかったんだが」

男は自分の手を見つめる。

「俺はまだ……」

「……」

「わっかんねぇなぁ」

男の呟きは暗い部屋に空しく消えていった。






157 : VIPに... - 2012/03/06 11:17:53.33 wZBCjrPM0 156/222


――――――――高校

会長「男」

「……何」

会長「学校が終わったらちょっと屋上にきてほしいの」

「面倒」

会長「お願い、大事な話だから」

「場所は」

会長「屋上で待ってる」スタスタ

「……」







158 : VIPに... - 2012/03/06 11:18:27.32 wZBCjrPM0 157/222

――――――――高校・屋上

会長「……何してるの?」

男は屈伸をしている。

「準備運動」

会長「どういう意味?」

「高校で屋上に呼び出されるっつったら目的は1つだろ。よし、やるか」

会長「果し合いじゃない!」

「……は? 何言ってんだお前」

会長「非常識なのは貴方の方よ!?」








159 : VIPに... - 2012/03/06 11:18:56.84 wZBCjrPM0 158/222

「で、用件は」

会長「本当はこんな雰囲気の中で言いたくないのだけど……」

「帰る」スタスタ

会長「い、言う! 言うから!」

「早くしろ」

会長「……本当に男って。
   まあいいわ、用件を言う前に謝らなきゃいけない事があるの」

「……」

会長「貴方の事、勝手にいろいろ調べさせてもらったから」

「俺の人権はどうした」








160 : VIPに... - 2012/03/06 11:19:26.08 wZBCjrPM0 159/222

男は顔をしかめる。

「まさかお前までも障害になるとはな」

会長「貴方の事が知りたかったのよ。
   直接聞いても話してくれないでしょ?」

「……さっさと話せ」

会長「そうね、貴方が相手だと無駄な説明はいらないから」

一呼吸おいて会長は口を開いた。

会長「良家に戻って欲しいのよ」





161 : VIPに... - 2012/03/06 11:20:02.28 wZBCjrPM0 160/222

「お前、どこまで調べやがった」

会長「貴方は9歳まで孤児院で育ったんでしょ?」

「……」

会長「やっぱり私は貴方の事を見た事があったのよ。
   ……ずっと前にね、直接見たわけじゃないけど」

会長「あの時どこかで見た事があるような気がしたのは、
   高校の男を見た事があるからじゃなくてテレビでの記憶があったから」

「……」

会長「一時期アメリカで有名だった天才少年って、貴方の事なんでしょ?」







162 : VIPに... - 2012/03/06 11:20:58.91 wZBCjrPM0 161/222

「だからどうした」

男の声には険が篭っている。

会長「その少年がある日本の良家の養子になった事もメディアで有名になっていたわ」

「お前は何がしたい。人の過去なんか穿り返しやがって。」

会長「貴方となら……私は本当の恋ができるの」

「……あ?」

会長の頬は微かに紅く染まっている。

会長「だって貴方の事が好きだから」






163 : VIPに... - 2012/03/06 11:21:29.55 wZBCjrPM0 162/222

会長「私が貴方の事を一方的に知るのは不公平だから、私の事も聞いてもらえる?」

「……勝手にしろ」

会長「私の家って成り上がりなの。
   でも私が高校に上がる頃には経営がうまくいかなくなっちゃって」

会長「ほら、成り上がりだから経済的支援もなかなかうけれないでしょ?
   そうなると頼みの綱は私がどれだけ優秀な家に嫁げるかに決まってくる」

「……」

会長「私はもう覚悟してた、諦めてたという方が正しいかもしれないけど。
   自分は本当に好きな人とは一緒になれないってね。
   ……だから貴方にもずっと告白しなかった。半年間ずっと」





164 : VIPに... - 2012/03/06 11:21:56.13 wZBCjrPM0 163/222

会長「周り関係なく優しく接してくれる貴方が好き。
   ……ずっとこの想いは心に隠しておこうと思ってた、かなわないと思ってた」

会長の頬が自然とほころぶ。

会長「でも今は違う。……やっと貴方に想いを伝えられる」

「だがその俺は本当の俺じゃ」

会長「関係ない」





165 : VIPに... - 2012/03/06 11:22:28.33 wZBCjrPM0 164/222

「……何?」

会長「高校の貴方も本当の貴方には違いないのよ。
   気づいていないだけで、今の貴方と高校の時の貴方と違う所なんて何1つないんだから」

「何、言ってんだ?」

会長「返事は今じゃなくていいから。
   時間がかかってもいいから……待ってる」スタスタ

「おい」

会長「貴方が自分で答えを出して」スタスタ

「……意味、わかんねぇよ糞が」ドガッ!!!!

「……」






166 : VIPに... - 2012/03/06 11:22:57.50 wZBCjrPM0 165/222

――――――――男自宅

「……俺には関係ねぇだろ」

「他人がどうなろうが」

……自分さえ生きてれば十分なんじゃなかったのかよ。

「どいつもこいつも……」

泣きそうな顔しやがって。

「……」

俺にわかるわけねぇだろ。

「俺じゃあ……な」





167 : VIPに... - 2012/03/06 11:23:26.60 wZBCjrPM0 166/222

――――――――女自宅
ここは英語

『式は一ヶ月後に行うという事でいいな?』

「はい」

『……ではまた連絡する』ピッ

「……」

目に映る物全てが色あせて見える。

「つまらないよ、本当に……」





168 : VIPに... - 2012/03/06 11:23:56.51 wZBCjrPM0 167/222

あの日、会長は私に言った。

『貴方だって!』

「好きなんでしょ……男の事が」

……人が良すぎるよ、会長。
そんなんじゃ損してばかりだ。
本当は謝りたい事がたくさんあるのに。
私一人で勝手に男の家に来ちゃった事とか、告白めいた事を言っちゃった事とか。

「……」

でも会長は何も疑わずに前に進む、それどころか皆が平等じゃなきゃ気がすまない。
だから男にはお似合いなんだ。

「ふふ、私もそんな風に生きてみたいよ」

女は弱弱しく笑みを作った。




169 : VIPに... - 2012/03/06 11:24:34.25 wZBCjrPM0 168/222

――――――――翌日・高校

「……何かあった?」

「特には」

「そっか」

「……」

「……」

「そういや友、ゲーム手伝ってくれると言ってただろ」

「だね」

「今日、予定空いてるか」

「うん」




170 : VIPに... - 2012/03/06 11:25:02.67 wZBCjrPM0 169/222

――――――――男自宅

「……」カチャカチャ

「あ、そこ違う、右、右」

「こうか」カチャカチャ

「あっ、後ろ」

「っ」カチャッカチャ

「あ」

「……相変わらず」

「まぁな」

「友」

「ん?」

「聞きたい事がある」




171 : VIPに... - 2012/03/06 11:25:34.96 wZBCjrPM0 170/222

「いいけど」

「素の俺と高校の俺は似ているのか」

友の表情が曇る。

「私まだ死にたくない」

「……殺さないから答えろ」

「えー、でも他人の意見なんか聞きたくないんじゃなかったの?」

「今は違う」

「まぁ……それならいいけど」






172 : VIPに... - 2012/03/06 11:26:13.91 wZBCjrPM0 171/222


「普段の男の方が無理してる感じがする」

「どういう意味だ」

「言葉通りの意味なんだけど……要は高校の男の方が素に近いんじゃないかって事」

「……あ?」ギロッ

友は男に両手を上げる。

「ほら、こうなるから言いたくなかったんだって」

「……根拠はあんのか」

「例を挙げるならほら、
  中学時代に苛められてた私を助けてくれたとか他にも色々あると思うけど」

「助けてねぇ、巻き込まれただけだ」

友はため息をつく。

「私が他のヤツラに囲まれてた時の事言ってんの?」

「……」

「でもそれってさ、私がいる道を通らなきゃそんな事にはならなかったでしょ」







173 : VIPに... - 2012/03/06 11:26:58.37 wZBCjrPM0 172/222

「遠回りでも他の道を行けば巻き込まれたりなんかしなかった」

「他人の為になんでわざわざ回り道なんかしなくちゃ」

「もう男も疲れたでしょ」

「……」

「素直に助けたいって言えばいいのに。
  一々俺には関係ないとか他人の事はどうでもいいとか自分の気持ちを誤魔化して」

「結局助けるんだから……私はずっと見てきた」

男の顔が苦渋に歪む。

「私は男を見かける時はいつだって」

「もういい」

「他人の為に動いてた」






174 : VIPに... - 2012/03/06 11:27:20.45 wZBCjrPM0 173/222

「……っ!」

友は静かに言葉を続ける。

「男が一年間勉強を教えてくれなかったら今の高校になんか行けなかった。
  女さんにずっと従っていたのだって何か知っていて助けになりたいと思ったからでしょ?」

「違う、俺は……」

「素直になりなよ」

「そうずっと思ってた。
  でも聞かれたくないのならって……ずっと言わないつもりだった」

「……やめろ!」

「でも他人の意見に興味がでてきたなら、言わせてもらうよ。だって私は友達だから」

「……あんたは優しい人間なんだ」






175 : VIPに... - 2012/03/06 11:27:55.01 wZBCjrPM0 174/222

男は顔を歪めた。

「……」

「男はこの1年ですごく変わった。女さんのお陰かな」

「……変わったというよりは素に近づいたって感じだけど」

「……」

「ここまで変われたのなら、ずっと気づかない振りをしていた物に向き合わなきゃ」

「お前が二次元以外の事に関してそんなにペラペラ喋るとは思ってなかった」

「はは、たった一人の友達だから」







176 : VIPに... - 2012/03/06 11:28:47.20 wZBCjrPM0 175/222

「他にもつくればいい」

「だって周り金持ちばっかじゃん、息苦しい」

「……そうか」

「……それに男程の優良物件もなかなかないし、普通は惚れるでしょ」

「おい、一言忘れてんぞ」

友は爽快な笑みで答えた。

「ただし二次元に限る!」ニコッ





177 : VIPに... - 2012/03/06 11:29:19.71 wZBCjrPM0 176/222

「そろそろ帰る」

「ああ、色々と助かった」

「……あーあ、わざわざここまで来てお礼の1つも無し、か」

「そんな物に意味は」

男の声を遮る。

「すーなーお。私に誤魔化しなんかそれこそ意味ないって」

「っち」

「あー、ごほんごほん……あ」

「あ?」

「あ、ありがとうございます」

友の両目が見開かれる。

「はは、……本当に礼を言われるとは思わなかったな」

「どう致しまして」ニコ



178 : VIPに... - 2012/03/06 11:29:47.27 wZBCjrPM0 177/222

「そうは言ってもさ。
  本当なら私の方が礼を言わなきゃいけない立場なんだけど」

「そうだ、礼を言え。勉強教えてやっただろうが」

「嫌だ。あれはもう勉強じゃなくて拷問じゃん……」

「死ぬ気で勉強させただけだ」

友の顔から血の気が引く。

「無理無理、やめて、思い出したくない。
  アレの所為で天才なんかこの世にいないって現実を叩きつけられたんだから」

「……また勉強教えてやろうか」

「それだけは勘弁」ダッ

「……ったく」



179 : VIPに... - 2012/03/06 11:30:30.25 wZBCjrPM0 178/222

「……」

「優しい……だと?」

「……」

「今の俺が素じゃねぇんだったら」

何を基準に行動すればいい。

「……」

『ずっと気づかない振りをしていた物に向き合わなきゃ』

「あるわけねぇだろ……元々何も入ってねぇ」


180 : VIPに... - 2012/03/06 11:31:06.93 wZBCjrPM0 179/222

――――――――1週間後・高校

「……」スタスタ

会長「……男?」

「放課後、屋上」スタスタ

会長「……」

「……」

「……頑張れ」

181 : VIPに... - 2012/03/06 11:32:02.25 wZBCjrPM0 180/222

「……」

会長「答えは出たの?」

「どいつもこいつも」

会長「え?」

「俺には関係なかったのによ」

会長「……」

「こんだけ頭を使わされたのは5年振りだ」

会長「そう……でもやっぱり返事はいらない」

「……何?」

182 : VIPに... - 2012/03/06 11:32:33.54 wZBCjrPM0 181/222

会長「さっさと行きなさい。
   ここで無駄話してる余裕あるの?」

「何言ってんだお前」

会長「私は男みたいに強くない」

「あ?」

会長「答えはわかってても聞きたくないの……これ以上言わせないで」

「おい」

会長「ほら、行って。
   私今から泣くから……見られたくない」グイッ

「……一言だけ言っとくぞ」スタスタ

会長「何よ」

「お前の事は嫌いじゃない」バタン

183 : VIPに... - 2012/03/06 11:33:08.58 wZBCjrPM0 182/222

会長「何よそれ……答え言ってるようなもんじゃない」

会長「慰め……なんか……いら、ないわよ」

両目から涙が零れ落ちる。

『女としては馬鹿丸出し』

会長「……うる……さいわよ馬鹿」

会長「馬鹿……ひっく」ポロポロ

会長「う……ひっく……うぁあああぁぁ……ひっく」

184 : VIPに... - 2012/03/06 11:33:37.76 wZBCjrPM0 183/222

ピピピピ

「ん?」

「会長からだ……。メアド、消し忘れてたよ」ピッ


【From】会長
【Sub】
――――――――――――――――――――――――
        馬鹿


「……何これ」

185 : VIPに... - 2012/03/06 11:34:20.93 wZBCjrPM0 184/222

――――――――良家

『落ち着きなさい』

義兄「そんな馬鹿な事が!」

『これは決定事項だから』プツッ

全身が震える。

義兄「有り得ない」

あいつは5年前にどこかへ消えた筈だ。

義兄「……俺が追いやった筈だろ?」

義兄「どうしてここにいる」

憎憎しげに視線を男に向ける。

義兄「男」

「……お久しぶりですね、兄さん」


186 : VIPに... - 2012/03/06 11:34:47.67 wZBCjrPM0 185/222

義兄「兄さん? ……兄さんだと? 嘗めているのか!」

「落ち着いてください」

義兄「よくも抜けぬけとその面を俺の前に晒せる物だ」

義兄の声の節々に怒気が篭っている。

「5年振りの再会なのに随分と冷たいですね」

義兄「俺の知っているお前はそんなふざけた冗談を抜かさない」

「……少し、変わったのかもしれません」




187 : VIPに... - 2012/03/06 11:35:27.97 wZBCjrPM0 186/222

義兄「出て行け、俺はお前と違って忙しい」

「ですが私にも聞きたい事がありまして」

義兄「お前に話す事など何もない!」

「……」

義兄「話す事があるとしたら……そうだな」

義兄は冷笑を浮かべる。

義兄「今の俺は昔とは違う。その意味がわかるか?」

「……いえ」

義兄「もはやここにお前の居場所はない。
   ……必要とされているのはこの俺なんだよ」



188 : VIPに... - 2012/03/06 11:35:55.22 wZBCjrPM0 187/222

「そうですか」

義兄「はは、お前はやはり普通じゃない。感情がないのだから当然か」

「感情はありますよ」

義兄「……どうしてこんなヤツを、どうして親父は俺じゃなくお前を気に入っていたんだ」

「……恐らく」

義兄「お前の意見は聞いていない!」




189 : VIPに... - 2012/03/06 11:36:23.08 wZBCjrPM0 188/222

義兄「何故だ! 俺は実の息子だぞ!? 体が病弱だったからか!?」

息は荒い。

義兄「お前さえいなければ! 
   養子に来るのがお前じゃなかったらこんな事にはならなかった!」

義兄「勝てないんだよ! いくら努力してもお前には!
   俺がどんなに頑張っても必要とされないんだぞ!? その苦しみがお前にわかるか!?」

「わかりませんね」

男をあざ笑うかのように義兄は顔を歪める。

義兄「……だろうな。
   所詮お前は人として欠陥品、今も機械のまま、そうだろ?」

「しかし理解しようとする事はできるかと」

義兄「……何?」





190 : VIPに... - 2012/03/06 11:36:59.39 wZBCjrPM0 189/222

義兄「何を、言っている」

「1年前まで、私はずっと他人の事について考える事は無駄だと思っていました。
  いえ、ただずっとそう思っていたかったのかもしれません。本心から逃げる為に」

「この5年間でさまざまな人と出会いました。
  問答無用で殴りかかってくる人、事ある度に巻き込んでくる人、難解な問いを問いかけて来る人達」

義兄「……」

「価値観が多少変わったのは確かですが。
  その出会いが私を変えたのかは正直わかりません、むしろわからない事が増えていますから」

義兄「結局お前は何が言いたい」

「他人の事について考えてみました、貴方の事も」





191 : VIPに... - 2012/03/06 11:37:52.15 wZBCjrPM0 190/222

奇を見るように男を見る。

義兄「お前は……誰なんだ?」

「家族、でしょうか」

義兄「やめろ、……お前はそんなヤツじゃない。人の事を考えられるわけないんだ!」

義兄「お前は冷徹で残酷な人間でなければいけないんだ! じゃないと」

「自分を責めてしまう……ですか?」

義兄「……っ!」

「ずっと兄さんは私の事を恨んでいるのだと思っていました。
  でも他に意図があったかもしれない、だから一週間ずっと考えてみたんです。過去の記憶を探りながら」

義兄「やめろ」

声は震えている。

「貴方は私の事を本当に恨んでいるわけじゃない」

義兄「やめろ!」

「ただ恐ろしかっただけなんですよね」






192 : VIPに... - 2012/03/06 11:38:31.58 wZBCjrPM0 191/222

――――――――5年前

義兄「俺の所為じゃない」

懸命に自分に言い聞かせる。

義兄「あいつが勝手に出て行ったんだ、俺は悪くない」

声が震える。

義兄「あいつが悪いんだ。俺の物を全部とっていくから……」

『ごめんなさい』

義兄「俺の……所為じゃ……」

義兄「俺は悪くないじゃないか……! どうして……」

――――――――





193 : VIPに... - 2012/03/06 11:39:01.74 wZBCjrPM0 192/222

義兄「……俺にはお前の言っている意味がわからない」

「貴方の観点から俺を見ると、確かに機械にしか見えませんから」

義兄「お前がそんな事をできるわけが……」

「まだ体の弱かった貴方にとって……私は何だったんですかね。
  貴方の代わりでしょうか、それとも貴方を死に追いやる悪魔でしょうか」

義兄「……っ」

「どちらにせよ恐怖の対象である事に変わりはありませんが」







194 : VIPに... - 2012/03/06 11:39:29.18 wZBCjrPM0 193/222

義兄「……どうしてお前は平然とそんな事を話せる」

「さぁ、幼少期が原因の1つではあると思いますが。ただ、1つ思う所はあります」

義兄「何だ」

「あの時にちゃんと他人の事を考えていたら……こんな事にはならなかった、と」

義兄「本当にお前は……」

「1つ、貴方に言っておかなければいけない事があります」

義兄「……」

「私がこの家を出て行ったのは貴方の所為ではありません。
  ……私が貴方の事を恨んだ事など一度もないのですから」









195 : VIPに... - 2012/03/06 11:40:09.75 wZBCjrPM0 194/222


義兄「そこまで……お前は……」

「これからも私が貴方を恨む事は有り得ません。
  そして貴方に害を及ぼす事も有り得ません、貴方が困っている時は必ず協力します」

義兄「……っ」

「私は貴方の家族ですから」

義兄「本当に……俺の所為じゃないんだな?」

義兄の声は震えている。

「はい」

義兄「そうか……そうかぁ……」

目の前で咽び泣く兄を、弟は静かに見守った。









196 : VIPに... - 2012/03/06 11:40:37.98 wZBCjrPM0 195/222

義兄「……聞きたい事があるんだろ」

「ああ、つい話が脱線してしまいましたね」

単刀直入に話を切り出す。

「女について、……どう思っているんですか?」

義兄「女、だと? まさかお前」

「いえ、そういう意味ではないのですが」

義兄「……別に、幼い頃にはもう決まっていた事だ。
   どうも思っていない、俺の意思が関係するものじゃないからな」

「そうですか。では破棄する事が可能ですね」

義兄「……お前は俺に独り身になれと?
   式が3週間後に控えているというのに」

「はい」

義兄「はは、やはりお前は怖い」









197 : VIPに... - 2012/03/06 11:41:06.13 wZBCjrPM0 196/222


義兄「胸のつっかえがとれた」

「そうですか」

義兄「俺は今こうして順調に事を上手く進めている。
   だがその間に必ずその代償としてお前を突き落としたんだと……無意識にだが頭に残っていた」

義兄「1つ聞いてもいいか」

「どうぞ」

義兄「どうしてこの家を出て行った? 
   俺の意見に左右されるような人間じゃなかった筈だ」

「……純粋に出て行こうと思ったからですよ」

義兄「それだけか」

「はい」










198 : VIPに... - 2012/03/06 11:41:33.09 wZBCjrPM0 197/222

「あの頃の私は生きているだけで十分でした。
  ですから私を生かしてくれる人には必ず感謝しました。
  ……どんなにひどい仕打ちを受けたとしてもです、その基準はわかりませんが」

義兄「……」

「この家で暮らすようになって、生きるのが非常に楽になりました。
  その恩に応える為に義父が私に命じた事は死ぬ気で完遂しました。
  その事がこの家に報いる事だと、ずっと思っていました」

義兄「お前は……」

「ですがそれは間違っていました」

男は静かに言葉を続ける。

「貴方の苦しそうな顔を見た時、私は貴方が生きる事を邪魔しているのだと気づきました。
  私は生きているだけで十分でしたから、この家を出て行くことにしました」

「私には家族がわかりません、愛情がわかりません、憎しみがわかりません。
  ……ですが、この家よりも貴方を苦しめる事の方があの時の私にとって重大だったのです」











199 : VIPに... - 2012/03/06 11:42:01.83 wZBCjrPM0 198/222

義兄「……それをもっと早く言ってくれれば」

「今だから言える事ですから」

義兄「意味のない事だったな」

「ええ、たられば、というヤツですね」

義兄「……その無機質な喋り方、何とかならないのか」

「少しずつ、変わっていくかもしれません」

義兄「そうか」











200 : VIPに... - 2012/03/06 11:42:28.57 wZBCjrPM0 199/222

「しかし婚約を破棄するのは簡単じゃないと思うんだが。
   当然経済的な事柄も絡んでくるはずだ、どうにかできるのか?」

「なんとかしますよ」

義兄「はは、お前なら本当にできそうだな」

「死ぬ気でやれば大抵の事はできます」

義兄「天才は恐ろしい」

「天才ではありません。死ぬ気でやるか、やらないかの違いです。
  兄さんもやろうと思えばできますよ。大丈夫です、死ぬ気でやっても案外死にませんから」

義兄「……俺は遠慮しとく」












201 : VIPに... - 2012/03/06 11:42:54.81 wZBCjrPM0 200/222

義兄「……さて、俺も兄として何かしてやらなければいけないな」

義兄「少しでも罪滅ぼしになれがいいが」スタスタ

心なしか足取りが軽い。

義兄「はは、今から何をしようとしているのか俺はわかっているのか?」スタスタ














202 : VIPに... - 2012/03/06 11:43:22.00 wZBCjrPM0 201/222


コンコン。

義父「入れ」

義兄「失礼します」ガチャ

義父「何か用か」

義兄の手は微かに震えている。

義兄「……はい」スッ

義父「……何故頭を下げる?」

義兄「この度の婚約を破棄させてください」

義父「何だと?」















203 : VIPに... - 2012/03/06 11:43:59.19 wZBCjrPM0 202/222

義父「お前は今自分が何を言っているのかわかっているのか」ギロッ

義兄「……っ! ……わかっています」

義父「私に媚を売る事ばかりを考えていたお前が」

義兄「……」

冷や汗が流れ、息が詰まる。

義父「よくもそんな口を聞ける」

義兄「で……すが」

義父「黙れ。この婚約にお前や許婚の意思など関係ない。
   一体どれだけの金が動いていると思っている」

義父「それともその損失をお前が取り返せるとでも言うのか」














204 : VIPに... - 2012/03/06 11:44:44.36 wZBCjrPM0 203/222

義兄「で、できます」

義父は虚をつかれたかのように聞きなおす。

義父「今、何と言った?」

義兄は一呼吸置いて、再び口を開けた。

義兄「やってみせます。死ぬ気でやれば出来ない事はありません」

義父「……損失はこちらだけではない。相手の面倒も見るというのか」

義兄「はい」

義父「お前にそんな事ができるわけが」

義兄「問題ありません」

義父は目をみはる。

義兄「家族が帰ってきましたから」













205 : VIPに... - 2012/03/06 11:47:01.27 wZBCjrPM0 204/222

義母『どうしたの、いきなり』

義父「此度の婚約は破棄する」

義母『……どういう事?』

義父「義兄が責任を負うようだ」

義母『貴方に口答えしたのね』

義父「ああ、とても信じられんが。両者共に結婚を望んでいないから、とな」

義母『それで、これからどうするの?
   とても義兄では責任を負いきれないと思うのだけど』

義父「男がいる」










206 : VIPに... - 2012/03/06 11:47:28.15 wZBCjrPM0 205/222

義母『……戻ってくると予想してたのね』

義父「それは愚問だろう、俺も一端の経営者だ。
   ……まさかこんな形で戻ってくるとは思っても見なかったがな」

義母『……』

義父「だが恐らく我が者が経済的に打撃を受ける事は間違いないな。
   若造2人が簡単に全てを解決できるほど、この世は甘くない」

義母『今日の貴方はなんだか優しいのね、いつもでは考えられないけれど』

義父「そう言ってくれるな。ただの先行投資だよ。
   この先を長い目で見れば大きなプラスとなる。今日ほど嬉しい事はないだろう」

義父の瞳は穏やかで優しい。

義父「私の息子達が……ここまで成長していたのだからな」










207 : VIPに... - 2012/03/06 11:47:54.26 wZBCjrPM0 206/222

――――――――翌日・高校

「眠そう」

「いろいろと疲れた」

「へぇ、男が疲れる事ってあるんだ」

「俺も人間だ」

「……でも楽しそう」

「むしろ面倒」

「そっか」










208 : VIPに... - 2012/03/06 11:48:21.65 wZBCjrPM0 207/222

「男! ちょっと話があるんだけどいい?」

「人前」

「そんなのどうでもいい! ちょっと来て!」スタスタ

「……」

「だりぃな」スタスタ

「……どういう事?」

クラス女「と、友さん2人共何かあったの?」

「さぁ……」

会長「……」








209 : VIPに... - 2012/03/06 11:48:48.68 wZBCjrPM0 208/222

「どうしてこんな事したのかな」

「……は?」

「ふざけないでよ!」

「……」

「婚約が破棄になったの……知ってるよね。男が何かしたんでしょ?」

「それがどうした」

「そんなの頼んでない! してほしいなんて言ってない!」

「そうだな」

「え?」








210 : VIPに... - 2012/03/06 11:49:20.64 wZBCjrPM0 209/222

「別に誰かに頼まれてやったわけじゃない」

「……何、いってんの?」

「俺が勝手にやった、お前は関係ない」

「……あはは」

「本当にいい迷惑だよ。勝手に巻き込んでさ」

「お前がいつもやっている事だ」

「そんなのとはわけが違うよ! 
  ……会長とはどうしたの? ……まさか断ったわけじゃないよね」

「ああ、そういう事になってんのか」

「嘘……でしょ?」









211 : VIPに... - 2012/03/06 11:49:46.74 wZBCjrPM0 210/222

女の両目から滴が零れる。

「男さぁ……本当に何やってんの?」

「……」

その声は震えている。

「全部台無しじゃん。私のやった事ぜーんぶ」

「本当に……どうして……?」ポロポロ

「必要だったからやった」

「……え?」

「わかりにくかったか?」

「俺にはお前が必要だ」









212 : VIPに... - 2012/03/06 11:50:14.99 wZBCjrPM0 211/222


「……っ」

「友に言われた。
  今まで気づかない振りをしてた物に向き合うべきだ、とな」

「俺は何がしたいのか、本当の自分とは何なのか。一週間俺は死ぬ気で考えた」

「……」

「だが考えれば考えるほど、答えは見えなくなった。ただ1つわかった事は」

「俺は変わりたい、そう思っているって事だけだ」










213 : VIPに... - 2012/03/06 11:50:52.22 wZBCjrPM0 212/222

女の眼が見開かれる。

「……!」

「どう変わりたいのかは俺にもわからない。
  だが、今の自分の何かを変えたいのは確かだ」

「俺は何か変われたのか、それすらもわからないがな。
  ……もしお前の眼から見て何か変わっているとしたら」

「恐らくお前のお陰だ……いや、お前の所為と言った方がいいのか」

「……」

「おい、何か反応しろ」

「いき、なり……そんな事言われたってどう、反応すればいいのさ」ジワッ

「どうして泣く」

「う、うるさいな。私にだってわかんないよ」ポロポロ











214 : VIPに... - 2012/03/06 11:51:43.45 wZBCjrPM0 213/222

「お前はすぐ泣くな」

「男の所為だろ!?」

「……正確に言えば、俺が変わった原因はお前だけじゃない」

「そうだね」

「会長や友……中学時代の輩、色々な奴が俺を変えた。
  誰か1人でも出会わなかったら……今の俺はいない」

「……」

「俺にとってはそいつら全員が必要なんだ」










215 : VIPに... - 2012/03/06 11:52:14.65 wZBCjrPM0 214/222

「なんか男……今すごく恥ずかしい事言ってるよね」

「うっせぇ、俺だって何でこんな事をお前に話しているのかがわからん」

「ふふ、どうしてだろうね?」

「これで、理由は話した」スタスタ

「ちょっと待って、1つ聞いてもいいかな」

「何だ」

「好きってどういう事か……わかる?」

男は静かな声で答えた。

「……まだわからない」

「うん……うん、そっか。まだ、ね」










216 : VIPに... - 2012/03/06 11:52:55.41 wZBCjrPM0 215/222

「言い忘れていた事がある」

「ん?」

「お前、俺に色々巻き込んで迷惑かけたと言っていたな」

「……うん」

「謝っただけで許されると思っているのか?
  お前は今まで1年間ずっと俺の妨害をしてきたんだ」






217 : VIPに... - 2012/03/06 11:53:24.97 wZBCjrPM0 216/222

「……」

「だから俺に協力しろ」

「……え?」

「まだ変われるのなら俺は変わっていきたい。
  お前が心から面白いと思う物を俺に教えろ。……それで許してやる」

女の瞳が潤む。

「また泣くのか」

「ふふ、知らなかったよ」

「男ってツンデレなんだね」ニコ

「黙れ」







218 : VIPに... - 2012/03/06 11:53:56.75 wZBCjrPM0 217/222

会長「それってどういう事ですか」

会長父「言葉の通りだ……もう頑張らなくていい」

会長「どうしてですか。私はまだ頑張れます」

会長父「もう無理に結婚をする必要もない」

会長「どうしてそんな事言うんですか!」

会長父「……会長?」

会長「私が頑張らなきゃ家の会社は駄目になってしますんです!
   何もかも諦めて、……この前やっと全部終わって決心がついたのに!」ポロポロ

会長「そんな事言わないでくださいよ……私はこれからどうしたらいいんですか」

会長父「お前……何か勘違いしてないか?」

会長「……え?」







219 : VIPに... - 2012/03/06 11:54:30.96 wZBCjrPM0 218/222

会長「良家と契約がとれたって……そんな御伽噺があるわけない」

『お前の事は嫌いじゃない』

会長「どうしてこんな事したのよ」ギュ

会長「……他人は関係ないって言ってたじゃない」

涙がこぼれる。

会長「貴方ってずるい、ずるいわ」

会長「これじゃ……嫌いに、なれないじゃないの」

ピピピピ

会長「……メール?」







220 : VIPに... - 2012/03/06 11:54:57.60 wZBCjrPM0 219/222

――――――――翌日

「……」パチ

「……7時」

「寝坊かよ」

ピンポーン

「……」スタスタ

ピンポーンピンポーン……ピンポンピンポンピンポーン

「うぜぇ」ガチャ

「おはよう! 男!」ニコッ







221 : VIPに... - 2012/03/06 11:55:40.23 wZBCjrPM0 220/222

「男が寝坊するなんてね、何かあった?」

「別に」

「あっ、聞いてよ男。会長ったらひどいんだ! コレ見てよ!」

男の目の前に携帯が突き出される。

「……」


【From】会長
【Sub】馬鹿
――――――――――――――――――――――――
  馬鹿馬鹿。貴方って本当に馬鹿ね。
  私なんかよりよっぽど馬鹿丸出しだわ。


「いくらなんでも馬鹿馬鹿言い過ぎだよね!?」

「どうでもいい」

「ん? ……これ下にスクロールできる」



                ……でもありがと。
――――――――――――――――――――――――


「私の周りはツンデレばっかりだよ!」

「うるせぇ」







222 : VIPに... - 2012/03/06 11:56:07.98 wZBCjrPM0 221/222


「ねぇ男、最近悩んでる事があるんだけど」

「……あ?」

「最近現実が二次元に侵略され始めてて困ってる」ニコッ

男は顔をしかめる。

「……随分と嬉しそうじゃねぇか」

「男も喜んでよ。
  今の男はヒロイン2人に好意を寄せられている主人公なんだよ?」

「……」

「それも私達はまだピチピチの高校2年生! イベントは盛りだくさんだよ!
  高校3年になったら新しいヒロインが出てきたりしてさ! ワクワクするね!」

「……お前って」

「ん?」

「本当に可笑しな奴だな」ニコ

それは笑顔とも言えない、本当に微かな笑みだった。







223 : VIPに... - 2012/03/06 11:56:53.97 wZBCjrPM0 222/222

「……」

「何黙ってっ……」

「……」ギュ

「……何やってんだお前」

「本当に……見れちゃったよ」ギュウ

「……」

「……おい、離れろ」

「……うん」パッ

「さあ! 早くしないと学校送れちゃうよ?」

男の腕を引っ張る。

「そこまで急ぐ必要ねぇだろ」

「駄目駄目! こうしてる間にも面白い事に出会えなくなっちゃうかもしれないだろ?」

男の面倒くさそうな顔と対照的に、女は花が咲くような満面の笑みを見せた。

「だって私達の世界は本当に楽しくて面白い事で溢れているんだからねっ!!」ニコッ




                                         fin







記事をツイートする 記事をはてブする