※『とある神父と禁書目録』シリーズ
【関連】
最初から:
ステイル「最大主教ゥゥーーーッ!!!」【1】
1つ前:
ステイル「最大主教ゥゥーーーッ!!!」【2】
学園都市。
それは日本の首都東京の西部に位置する巨大な教育研究機関の総称であり、
同時に世界の一方を占める勢力、『科学』の総本山である。
三次大戦の主役となった十年前と較べ技術進歩の速度が緩やかになっているとはいえ、
今なお世界最高の科学技術を擁して、勢力を拡大し続ける事実上の独立国家。
数多の学生が超能力を有し、『魔術』に対抗しうる力を秘めるこの世のパワーバランスの一極点。
――――そして、彼女の人生が始まった場所。
それが、学園都市だった。
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ロンドン・ヒースロー空港の特別通路を、一組の男女が暗い面持ちで歩いていた。
十字教をなめたようなスタイルの神父――ステイル=マグヌスは、いつも通りの憂鬱な面である。
彼にとっては悲しいことだが、別段周りから見て珍しい表情、というわけでもない。
そのステイル以上に凄絶な表情でスーツケースを引いているのが、
国内外に多数のファン(お前らまず入信しろよ)を当人も知らぬ間に獲得している、
イギリス清教最大主教――インデックス=ライブロラム=プロヒビットラムであった。
「ねえ、ステイル…………やっぱり帰らない?」
「…………そういうわけにはいかないね。大体、あなたが是非にと言ったんだ」
「そ、それはそうなんだけど!」
ステイルとて、気乗りしないのは山々である。
あれよあれよという間に清教派内で決定していた今回の『仕事』は、
その始まり――は別として、終わりまでほぼ全てあの曲者が仕組んだことだ。
ましてや行き先があの街ともなれば、いよいよ彼のテンションはストップ安である。
しかしインデックスは、彼よりはるかに陰鬱な表情でSAN値の最安値を更新し続けている。
彼女がこのフライトを渋っているのには、ステイルとは全く別の理由があった。
「す、ステイルは『アレ』に乗ったことがないからそんな風に構えてられるんだよ!
一度でもあの地獄を体験したら、私みたいな敬虔な子羊が震えるのはしょうがないかも!」
イギリス清教のファイナンス部門は相当に切ないことになっていたらしい。
なんと最大主教が乗る便だというのにファーストクラスはおろか
ビジネスクラスのシートさえ押さえてないのだと言う。
…………というか、そもそもクラスがどうとかいう問題ですらなかった。
「僕も噂には聞いてるが……そんなになのかい、『アレ』は?」
「…………カエル先生いわく、『十分も経たない内に思考する余裕が消える』代物なんだよ」
(……それは、旅客機と呼んでいいのか?)
二人がみっともなくあーだこーだ言っているうちに、とうとう通路が終わってしまう。
到着したのは滑走路を見渡せる開放的なロビー……ではなく、
油と鉄の芳ばしい香りが漂う巨大ガレージであった。
カッチリとした、しかし高級なスーツに身を包む美女が二人を出迎える。
「ようこそ、今回のテストフライトにご搭乗くださる方々ですわね?」
そう、『テストフライト』だ。
何をトチ狂ったのか、シスコン軍曹が己の上司のために手配したのは
未だ一般客を乗せて飛行した経験のない試作機であった。
先立つものがどうこう以前に、面白がっているのが明け透けな事この上ない。
ゴルゴダに向かう救世主のような心もちで此処まで歩んできた二人は、
案内役に言葉を返す気力もなく顔を上げて――
――『処刑の十字架』を目の当たりにした。
ステ「……」
イン「…………」
ステ「………………」
イン「………………え、『コレ』で行くの?」
穴三「その為のフ○ジールです」ハイ
ステ「旅客機が喋るなぁぁぁあああああっっ!!!!!」
イン「…………私達、新型の『超音速旅客機』に乗るって聞いてたんだけど……」
ステ「なのにあれはなんだあぁぁぁぁっ! せめて飛行機の形状を保てえええ!!」
案内役「まあ、学園都市製のガラクタなどと一緒くたにして欲しくはありませんわ!
それに『飛行機』などと無骨、そして無粋な呼び名!
我が婚后航空の先端技術を駆使した次世代型制空システム!
その名も『ネクスト』! と呼んでいただきたく」
ステ「技術もフォルムも設計思想も何もかもが尖り過ぎなんだよおおーーーっ!!!」
案内「それではお時間ですので、シートにお座りくださいませ」
イン「……あれはシートって言うより、コックピットって言うんじゃないのかな」
ステ「…………おい待て。パイロットはいったいどこに乗るんだ……」ンゼェハァ
案内「その点はご心配なく。超高性能AIが目的地まで完全自動でお送りいたします♪」
穴三「単騎でも墜落率はほとんどありません」ハイ
ステ「1%でも有ったら大問題だろうがああぁぁっ!!!」
イン(出発前からステイルが絶好調なんだよ)
ステ「もういい。無理にでも別の便を取ろう、最大主教」
イン「え、いいのかな……? 『仕事』に影響するんじゃ」
ステ「そのツケはヤツが払わされて然るべきだ。付き合ってられるかこんな…………」
案内「まあ、困りますわお二方!」
ステ「困ってるのは僕らだ!!!」
案内「実はお二人にお手紙を預かっているのですが……
このような事態になったらお渡しするように、と」
イン「………………誰から?」
案内「今回のクライアント、土御門元春様でございます」
ステ「やっぱりかああぁぁぁ!!」
ステ「見たくねぇ……」
イン「でも、無視したらそれはそれで後がこわいかも……」
ステ「そうなんだよな…………しょうがない」ピラッ
元春『いぇーい、元気にいちゃついてるかNYAー、二人ともぉー?』
ステ「焼き捨てたい」シュボッ
イン「お、落ち着いてステイル! まだまだ先は長いんだよ!」
元春『これを読んでるってことは案の定グダグダ言ってんだな?
まったく恋愛だけじゃなくこんな事にもチキン野郎ってわけだ』
ステ(いつかコイツを『コレ』に乗せてやる。必ずだ)
イン(気温がジワジワ上がってきたんだよ……)
元春『まあぶっちゃけ、他の選択肢も用意できないことは無いんだけどにゃー。
ただ速くて安い、っていうかテスト料が入ってくるとなりゃあ乗らない手はないぜよ。
…………そういうわけで、保険を掛けさせて貰った』
ステ「目眩がしてきた……」
イン「だ、だいじょぶ? 膝枕しよっか?」
ステ「べ、別にいいよ」
案内「」イラッ
穴三「」イラッ
元春『わかってるとは思うがお前たちの命の担保くらいはちゃんとしてるぞ?
……もちろんこれからするのはお二人さんが渋った時の為の
人質……いや物質(ものじち)の話だぜい』
イン「い、命は保証してくれるって!」
ステ「『保証』か、それとも『補償』なのかは議論の余地があるがね……はぁぁ」プカー
元春『いやーそれにしてもご両人、誕生会では良い画を撮らせてもらったにゃー』
ステイン「「!!」」アッ
元春『ロンドンタイムズにタレこむ、と言ったな…………あれはウソだ。
日本のニュース番組のトップを、確保する準備が万端整ってるぜーい!!』
ステイン「「!!??」」
案内(息の合った二人ですわね……)
元春『まあオレだって鬼じゃあない。やることやりゃあ無かったことにするぜい。
んじゃ、久々の日本をしっかり楽しんで来いよ(笑)』
ステ「」
イン「…………不幸なんだよ」
イン「うう……せめて、最後の祈りの時間が欲しいかも……」
ステ「最後というか、最期になりそうな…………っ、いや!
僕がいる以上、貴女を決して死なせは、いや傷つけさせはしない…………!」キリッ
イン「す、すている…………」キュン
案内「あーさっさと乗りやがってくださいますか? 後がつかえてますので」イラッ
ステ「『後』なんて誰もいないだろうが!」
イン「じゃ、じゃあ。覚悟を決めて……」シートベルトガシャ
ステ「おい、最後だ。もう安全性については聞かない。聞くだけ無駄だ。
どれぐらいスピードが出るのか、それだけ教えろ」オナジクガシャ
グイングイングイン ドドドドドドドドドドド
ステ「ってなに勝手にエンジン掛けてるんだおい!!」
穴三「テストの汎用性は高くなりました。いい傾向です」ワクワク
ステ「お前かあ!! なんだこのポンコツAI!?」
ジー ガチャン アー マイクテス マイクテスデスワ
案内『機体性能から算出される瞬間最大速度は時速五千キロほどになります』
ステ「!?」
イン(意外と大したことない、そう思える自分が悲しいかも)トオイメ
案内『ただし、今回のテストはこの機体の為のものではありませんわ』
イン「へ?」
案内『モニタをご覧くださいませ。PVをお流しいたします』
ステ「なんでこのタイミングで!?」
ピッ
案内『これが、今回我が社が自信を持ってお送りする新型追加ブースターです!』
ステ「」
イン「わーかわいいですわー」ボウヨミ
案内『これにより、夢の時速一万キロ台を大きく突破!!
学園都市までおよそ三十分の快適な空の旅を』
ステ「もういい早く出せっ!!! やるならさっさとやってくれえーーーーーっっ!!!!」
そして、二人は風になった。
「」
「」
見慣れた倫敦の街並みが後ろへ後ろへとかき消えていくが、
もちろんステイルとインデックスにそんな瑣末事はインプットされない。
意識が光の彼方へ飛翔するなか、ステイルが認識できたのはただ一つ。
「オイルタンクから、燃料が逆流」
「するなああああああああぁぁぁぁあぁぁーーーーーーっっっっっ!!!!!!!」
無機質なポンコツ声の提供する『ツッコミどころ』だけであった。
かような変態企業がひしめく極東の科学の坩堝で、二人を待ちうけるモノとは――――!?
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IN
トンデモ発射場レディー ←New!
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『…………本当に来るなんて驚きだ。心中お察しするけど』
『まあ、ウチのトップはお人好しなんでな』
『我らのヒーローと一緒、で?』
『…………アイツの影響力は本当に計り知れないな』
『まったく。あのお人好しどもなら何も言わなくても首を突っ込むだろうし』
『己が身ぐらいは自分で守れる。だからこそ、こっちのうるさいのも最後には黙ったんだ』
『それはこちらにとっても好都合。……こういう釣りはお互い得意のようだけど』
『釣り人二人に魚が一匹。こうなると漁夫同士の駆け引きだな』
『おいおい、お互い手の内は見せ合って、カード交換までしただろう?』
『はは、どうだろうなぁそれは?』
『魚の方も相当の大物だという疑いが濃い。限られた脳細胞は有効に使おうじゃないか』
『違いない。……さて、悪いがそろそろ切るぜ』
『そうかい。また楽しいおしゃべりを期待するけど』
『そいつは光栄だな。そんじゃあ――』
『あばよ、どこの誰ともわからない先輩さん?』
『じゃあな、世話した覚えもない後輩君?』
二人がロンドンを出発して二十七分後
日本時間 午後六時
学園都市 二三学区 国際空港
当麻「ちょっと早すぎたんじゃないか? 二時間前にこれから家出るって言ってたんだぞ?」
美琴「この特別学区に直接着陸するんだから、超音速旅客機でも使ってるんじゃないかと思うのよ。
だとしたら、後一時間以内には着くわね」
当麻「…………アレか。インデックスのヤツ、ちゃんと乗れたんだろうか……」
美琴「大袈裟ねぇ。いくらあの子が科学嫌いでも飛行機ぐらいダイジョブでしょ」
当麻「お前はアレが、どんだけインデックスにトラウマを刻んだ代物なのか知らないんだよ……」
美琴「はあ。まあ私はそのフライトを楽しんだ事ないしー?」
当麻「いいか? あれをフライトだなんて呼ぶのは明らかにライト兄弟に対する冒涜だ!
上条さんは今でも土御門に賠償請求を行いたい気持ちで」
キーーーーーーーーーン
当麻「ん?」
キキーズザァッ! Σ穴二三 三三三三三三三三三 キーーーーーーーン
当麻「…………」
美琴「…………」
当麻「…………なんなんだ、アレ?」
美琴「わわわ、私に聞かれても知る訳ないでしょうがぁぁっ!!」
当麻「……新型の駆動鎧か? いや、あんなの開発してるなんて話は……」
美琴(見覚えのある社名ロゴが入ってるのは秘密ね)
当麻「だとするとまたDM社? いやでもあのロゴは…………」
美琴「あーーーーーーーっ!! だ、誰か降りてくるわよ!」
当麻「人乗れんのアレ!? っておい、まさか……アイツら…………」
ステイン「」ゲッソリ
当麻「」
美琴「」
イン「こ、ここは? 遂に私達は主の御許に……?」
ステ「き…………気を、しっかり、ウェップ、持つんだ…………」
オーイ オマエラー!
ステ「な、何者だこんな時に…………!」ザッ
イン「……待って! あ、オェップ、あれは……」
当麻「やっぱりお前らかよ! だいじょ「みことーーーーーーーーーーっ!」ガバアァッ!
当麻「……へ?」
美琴「んなぁっ!? ちょ、ちょっといきなり何するのよインデックス!」
イン「ほ、ほ、本物のみことですわよね? 幽霊じゃないよね?」
美琴「なんか喋り方おかしいし!
あたしの死亡届でも見たことあんのかアンタは!
生きてるに決まって…………い、インデックス?」
イン「こ……怖かったんだよおおぉぉぉっ!! 生きて会えるなんて思わなかった!」ウエーン
当麻(昔より、一段と酷い反応に見える……いったいなにが?)
美琴「……あーもう! ほら、泣かないの!
これで私より年上だってんだから信じられ…………」
ポニュポニュ ←インさん ペタ ←美琴さん
美琴「…………」
イン「ううう…………みことぉ…………」ダキッ ポニュポニュ
当麻「あのー美琴さん? どうかして…………ヒイッ!」
美琴「大きすぎる…………修正が必要ね…………」
イン「!?」ガバッ アトズサリッ
ナンデアンタソンナニソダッテンノヨー! フコウヘイダッツーノー! ビリビリ
アワワ! ワタシハベツニナンモシテナインダヨー! キーン ムコウカ
当麻「相変わらず仲良いのか悪いのかわかんねえなぁ。おいステイル、大丈夫か?」
ステ「……………………ああ」ヤツレ
当麻「いつもならイヤミの一つもぶつけてくるお前がこのザマってのは、相当なもんだな……」
ステ「やかましい。君もアレに乗ってみればいいさ…………」
当麻「上条さんにだって時速七千キロの素敵な旅を味わった経験はあるんですよ」
ステ「…………あれは、一万キロを軽く超えてるそうだ」
当麻「…………うっそーん」
ステ「ふう…………」シュボッ
当麻「いきなり煙草かよ……。ここまで迎えに来てやったんだから、挨拶の一つもよこせよ」
ステ「なんだ、君は遠路はるばる地獄をくぐって来た客に乞食のような真似をするのかい?」ハンッ
当麻「…………あーあー、テメェはそういうヤツだったよ。忘れてた俺が悪かったなこりゃ」ケッ
当麻「それで…………どうなんだ、インデックスとは?」
ステ「君に教える義理などない。……と言いたいが、お父上に免じて話してやる。
…………君も、彼女の家族だからね」
当麻「そういえば、父さんがそっち訪ねたって聞いたときはビビったな。
何をやってきたのか話そうとしないしさ」
ステ「まあ、君にだけは絶対言えないだろうね」
当麻「なんだよそれ……。まあいいや。結局お前とインデックスは……」
ステ「僕と彼女は、恋人(ラバーズ)でもなんでもない。
……今のところは、そういう形で落ち着いた」
当麻「………………ん、そうか」
ステ「存外、あっさりした反応だね」
当麻「俺が口を挟む事でも無さそうだ、って思ってさ。
インデックスの事に関してだけは、お前は信用できる」
ステ「フン……」
当麻「俺の家族を頼むぜ、ステイル」
ステ「…………ああ、君に言われるまでもないね」
美琴「ああもう、なんで私はいつまで経っても『こう』なのかなぁ……」トボトボ
イン「元気出してくださいませ、みこと」ヒョコヒョコ
美琴「だってだって! とうとう打ち止めにまで抜かれたのよ!?
同じ母親の血が、っていうか同じ遺伝子なのにぃ…………」
イン「授乳期って、膨らむんじゃなかったっけ……?」
美琴「とっくに終わったわよ! 確かに当時は…………その、ちょっとだけ膨らんだけど」ボソボソ
イン「どのくらい?」コソコソ
美琴「えっと、…………よ」ゴニョゴニョ
イン「…………よ、良かったね?」ニコ
美琴「見ないでっ! そんな慈愛に溢れた眼差しで私を!」
当麻「おう、追っかけっこは終わったのか?」
イン「あ! とうま久しぶり! いたの?」
当麻「一応三年ぶりだよな俺ら!? なにその『あ、漬物食べ忘れてた』みたいな反応!?」
イン「お残しなんていう許し難い生命への冒涜、私はしたことないかも!」
当麻「ああホント懐かしいやりとりだよコレ! 涙が出るぜまったく!」
ステ「…………」
美琴「あ、どうもお久しぶりです」
ステ「おっと、これは失礼。結婚式以来ですね、ミセス上条」
美琴「えーっと、ステイルさんで良いんですよね?」
ステ「ええ。ステイル=マグヌスです。最大主教の護衛をしています」ペコリ
美琴「どうもご丁寧に。いつも妹達がお世話になってます」ペコリ
ステ「別に僕が何か世話を焼いてるわけじゃあ……」
美琴「そっかぁ、あなたが…………」
ステ「? なにか?」
美琴「あなたが、インデックスの好きな人かぁ…………」
ステ「…………ミセス上条? どこからそんな話を」
美琴「ああそれから、そのミセスっての止めてくれません? 私達一応同い年でしょう?」
ステ「何をもって『一応』を付けた!? 紛れもなく僕は二十四歳だ!」
美琴「そうそうそんな感じ。 敬語もいらないわねー」
ステ「……だったら、何と呼べばいいんだ」
美琴「そりゃあ普通に名前で。あだ名なんて『超電磁砲』ぐらいしかないし」
ステ「……成程、夫婦だ」ハァ
美琴「どういう意味よそれ……。とりあえず、一回呼んでみて。ホラホラ!」
ステ「ヤレヤレだね。…………美琴。これでいいかい?」
美琴「ちゃんと出来るじゃない。これからよろしくね、ステイル!」ニコッ
ステ(この夫婦と一緒に夜道を歩きたくはないな……ん?)
イン「…………すている?」ギラ
当麻「…………おい、ステイル」ユラリ
ステ「……ちょっと待て。それはあまりに理不尽だろう……?」
美琴「どうかしたの二人とも? ……ああごめんね、ステイルを独り占めしちゃって」
イン「別に、そういうわけじゃ…………ない、よ」
美琴「…………その分じゃ、いろいろありそうね」
イイゼ、テメエガミコトニフラグヲタテルッテイウナラ ソゲブ!
セメテサイゴマデチャントイッテグハアアアアァァァッ!?
美琴「男どもは放っておいて行きましょ? 積もる話もたくさんあるし」
イン「うん! みことの料理が毎日食べられないのは残念だけどなぁ」
美琴「へ? なんで?」
イン「え? だって私達はこれから…………ねーステイル!」
ステ「な、……なん、だい?」ボロッ
当麻「ちっ、意識があるのか……耐久力を上げたな」
ステ「覚えてろよ貴様……」
イン「私達はこれから、第三学区のホテルに泊まるんですわよね?」
ステ「それはそうだろう。自分で言うのもなんだが、僕らは賓客だよ」
当麻「へ? お前ら、ウチに泊まるんじゃないのか? 俺らそのつもりで準備してたんだけど」
美琴「そうよ、ウチは部屋も空いてるし。食料だってたーっぷり買い込んだんだから」
ステ「……待て待て、常識で考えろ。僕らはいずれ君の上司とも会談するんだ。
それが人の家に転がり込むなんて馬鹿な話があるか」
当麻「この学園都市に――常識は通用しねぇ」
ステ「それはDM社のキャッチコピーだろうが!!」
イン「世界中で流行ってるよね、それ」
美琴「だいたい、あんなアレ(穴三)で上陸しておいて今さら常識なんて言われても」
ステ「………………!!! と、い・う・こ・と・はぁ!!」
当麻「土御門にもよろしく世話してやってくれって言われたし」
ステ「またやられたのか僕らはああああっっ!!!??」
美琴「なんかお金に困ってるんでしょアンタたち?」
イン「うっ」
ステ「ぐぐっ」
当麻「そうか……お前もまた、土御門の犠牲者の一人なんだな」ポン
ステ「やめろォ! 君に同情されると大事な物をわんさか失いそうなんだよ!!」
当麻「意地をはるんじゃねぇ! お前だって辛かったんだろ、苦しかったんだろ!?
俺だってなぁ、ひざ蹴りだのドロップキックだのバックドロップだので
アイツと青ピにはなんべんもボコボコにされてる!
それは大体がよくわかんねぇ理不尽な理由で、俺は奴らに抵抗し続けた!
ちょっと気を抜くとイタリア、イギリス、ブラジル、南極、アトランティス、宇宙!
どこにでも送り込まれた! そんな無茶苦茶をなぁ、許していいはずがねえんだ!
一緒に闘おうぜ、グラサン野郎の享楽のためだけの陰謀と!
いい加減に始めようぜ、魔術師!
まずはあのアロハシャツのふざけた幻想(わな)をぶち壊す!」
ステ「」
イン「久々の生説教キター! と思ったらほぼ単なる愚痴だったかも」
美琴「とうま…………」キュンキュン
イン(このバカップルが)ケッ
ステ「くそ、この分じゃ出発前にヤツが通達してきた宿泊先も……」
当麻「嘘っぱちだろうな、間違いなく」
ステ「…………はぁああああ」
美琴「だいたいさ、イギリス清教トップの御訪問だってのにこんな寂しい到着して。
政治的パフォーマンスの一つも組まれてないの?」
当麻「おい美琴、ストレートすぎるだろ…………」
イン「そういう予定も、最初はもちろんあったけど」
ステ「僕らはそういう気疲れするのはゴメンなんだよ」フー
美琴「わがままねぇ。まあ、トップってそんなものかしらね」
ステ「会談当日はカメラが入って晒し物にされるらしい。それだけで十分さ」
イン「そう言えば、まことは連れてきてないの?」キョロキョロ
美琴「この学区は立ち入りに厳重な審査がいるからね。
いくら当麻でもそうそう簡単に子供用のパスなんて取れないの」
ステ「じゃあ、誰かに預けてきたのか」
当麻「マンションのお隣さんにな。あそこなら友達もいるし安心だ」
イン「りこうのお家?」
当麻「ああそっか、お前ら友達だったのか」
ステ(そしてそれは、僕の悪夢の始まりでもあるわけだ)トオイメ
当麻「んじゃ、そろそろ行くか。車回してくるから、玄関口で待ってろ」
イン「大丈夫? とうまの運転なの?」
当麻「どういう意味だコラ!」
ステ「すまないが僕らを巻き込まないでくれるかな。
できれば車は君一人で走らせて、僕らは公共の交通機関を……」
当麻「なにその事故る前提のリスク分散!?
今日だってここまでちゃーんと上条さんは運転してきたんですよ!?」
美琴「途中で壊れた踏切に立ち往生した上、三回ぐらい追突されかけたけどね」
当麻「…………」
イン「…………みこと、辛かったですわね」ナデナデ
美琴「ううん、大丈夫。もう慣れたから……」ナデラレナデラレ フニャー
ステ「君は自宅の鍵さえくれればもう用済みだよ、じゃあな」バイバイ
当麻「…………不幸だ」ズーン
ステイン((元祖は味わいが深いなぁ))
電車内
ガタンゴトン ガタンゴトン
イン「大変なことになっちゃったけど、みことのお料理をいつでも食べられるのは嬉しいんだよ!」
ステ「へえ、それほどの絶品なのかい。僕も楽しみだな」
イン「なんて言ったらいいのかな……柔らかくて、ふわふわしてるんだよ。みことの手料理」
美琴「ほ、褒めたってデザート増やしたりしないわよ!
だいたいアンタら、毎日舞夏に食事作ってもらってるんでしょ?
あれに較べれば私のなんてたかが知れて……」
イン「どっちにしろ、愛情がこもってるから美味しいんだよ、二人の料理は」ニコ
美琴「……す、好きに言ってなさい!!」プイ
イン「みことは相変わらずのツンデレさんだねー。
とうまとくっついて本人にだけはデレデレになったけど、基本がそのままかも」ニヤニヤ
ステ「四六時中見せつけられたら、たまったもんじゃないね」ニヤニヤ
美琴「……アンタらに言われたくないっての」ボソ
ステイン「「へ?」」
美琴「ああそれから、一つ言っておくわよインデックス?」
イン「なーに?」
美琴「いくらなんでもアンタに無制限に食わせるだけの蓄えは用意してないからね。
私の目がある以上、ある程度食事制限させてもらうわよ」
イン「」
ステ「それはありがたい」
イン「!?」
イン「すすすステイル!? わ、私をポイ捨てするの!?」
ステ「人聞きの悪すぎる言葉をわざわざ選択するんじゃない!
だいたい貴女の暴食が、土御門の策略に論理的な『言い訳』を与えてるんだよ!!」
イン「じゃ、じゃあステイルは、今回の事は全部私が悪いと思ってるの……?」ウル
ステ「…………!! そ、そうは言ってないだろう!
ただ、常識的な範囲に食費をおさめるのは」アセアセ
イン「すているからも一緒にみことにお願いして? …………ダメ?」ウワメヅカイ
ステ「…………」メヲソラス
美琴(計算なのかしらね、アレ)
イン「…………」ゴク
ステ「…………」ニコ
イン「!」パァ
ステ「……ダメだ」ニッコリ
イン「」/^o^\
ステ「そんな顔で見ても…………なんだその顔!?」
美琴(ブリティッシュジョーク……じゃなさそうね。っていうか漫才?)
イン「ステイルのけちー」/^o^\
ステ「その顔? をいったん止めろ!」
イン「えー」/^o^\三三三/^o^\
ステ&美琴「「気に入ったんかい!!」」
イン「ブーブー。……ステイル、最近ちょっと厳しいよ」
ステ「貴女が最大主教になってから甘やかした覚えは無い」
美琴「その前ならあったんかい」
イン「なんで、すている…………?」
ステ「ん、その…………言うなれば、だね…………」
美琴「聞けよ」
ステ「どこぞのクワガタではないが……あ、愛故のムチ、だとでも思ってくれ」
イン「……う、うん」カァ
ステ「…………」ポリポリ
美琴(私と当麻も、傍から見たらああなのかな…………
いや、それはそれで……………………キャー!)モワモワ
ステイン「「…………」」ドンビキ
午後七時半 上条家前
当麻「おっ、ちゃんと来れたか。真理(まこと)、ご挨拶しろ」
真理「んー? はいめ、まして?」キャッキャッ
ステ「はじめまして。……なんだ上条当麻、君こそ生きて帰ったのか。
しかも僕らより早くとは運の良いことだね」ハッ
イン「はじめましてですわ、まことー。先に着いたのに何で外で待ってるの?」ハテ
当麻「あの学区はスピード制限緩いから、基本は車のが速いんだよクソ野郎。
ってゆーか、お前らが俺の鍵持ってったからだろうが!
だいたい美琴も鍵持ってんだから俺の取り上げる必要ねーし!!」
美琴「ただいま真理ちゃーん! ねー当麻、浜面さんに挨拶は?」
当麻「嫁さんにまでスルー!? ああもういいよ、慣れましたよ……
浜面家も飯時だから、お邪魔になっちゃうだろ。
真理返してもらう時に一応お礼したけど、お前は明日でいいんじゃねえかな」
真理「ままー、まんまー」
美琴「そうね、じゃあ二人とも上がって。すぐにご飯にするから」
ステ「申し訳ないね、美琴」
イン「なによりお待ちかねだったんだよ!」
当麻「ああ、悪い。ちょっと待ってくれ」ゴソゴソ
イン「どうしたの、とうま?」
当麻「んっと、どこにしまったっけな…………あったあった、コレだ」ヒョイ
ステ「…………小袋? なんだそれは?」
美琴「ああ、土御門さんから届いた奴じゃない」
ステイン(…………またか…………)
当麻「実はな、土御門から『二人を家に上げる段になったらこの嚢を開けよ』って指示されてんだ」
ステ「諸葛孔明かアイツは……」
イン「よく孔明の罠に嵌まってるステイルが言うと重みがあるんだよ」
ステ「やかましい! と言うかなんだかんだで貴様もヤツの片棒を担いでるぞオイ!!」
当麻「まあまあ気にすんなって。よっと」シュルシュル
美琴「短いけど文が入ってるわね…………なになに」
元春『トップニュースを無かったことにしてやったとして、
それで終わる土御門様だと思うのかにゃー?』
当麻「なんだこりゃ」
美琴「意味わかんないわね」
イン「トップ…………ニュース……」ハッ
ステ「…………上がらせてもらうぞっ!! 他にも届いてる物があるな!?」ガチャガチャ
美琴「……はっはーん、成程。どうぞお上がり下さいー」ニヤニヤ
当麻「?」
イン「ま、待ってすている! 私も……」
バタンッ
ステ「」
イン「」
美琴「なかなか良く撮れてるわよねー『ソレ』」ニヤニヤ
当麻「なんだ、『ソレ』の話だったのか」
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飛び込んだ二人の目に映った部屋は、素朴な生活感に満ちていた。
ここで暮らす者が、幸せであることを語らずとも実感させる。
しかしその窓際には、いまだ眠らない都市からの光を遮る異物が存在していた。
それは自分達が寄り添い合う誕生会での風景。
――――その、特大パネル(約二メートル四方)であった。
口をあんぐりと開けたままフリーズした二人に、空気の読めない男が声を掛ける。
彼の手にある起爆スイッチは一つではなかったようだ。
「二つ目の嚢は『お前らが固まったら』開けろっつー話だ。という訳で……」
当麻は固く縛られたパンドラボックスの口を躊躇なく緩めていく。
なんだかんだ言って、この男も現状を楽しんでいるのかもしれなかった。
「……よっと! 二つ目の中身を読み上げるぞー」
そして、哀れなアダムとイヴは自らの首にロープが締まっていくのを黙って眺めていた。
「えー、『小萌先生と風斬ちゃんと、ついでに一方通行にも送りつけといたぜい』……だってよ」
「」
「」
「いやーアンタらも大変ねーあはは」
「」
「」
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「せっかくのご飯の味がよくわからなかったんだよ……」
食事後とは思えない生気のない声でインデックスがひとりごちる。
あの後二人は意識の定かでないうちに、いつの間にやら晩餐を終えていた。
「まあま、これから毎日御馳走したげるから、楽しみにしてなさい?」
現在インデックスはリビングで、美琴と二人ソファーに腰掛け談笑していた。
かつての恋敵同士の、実に三年ぶりの対面である。
電波に乗せたやりとりは幾度となく交わしたとはいえ、直に顔を合わせての交流はやはり格別であった。
「誕生日はゴメンね。どうしても当麻の都合がつかなくて」
「いいよ、わかってたことだもん。…………それに、あんな、素敵な…………」
話題は、二ヶ月ほど前のインデックスのバースデイの件に移っていた。
いまだに想起するとこみ上げるものがあるのか、言葉に詰まる。
「……そ。喜んでくれて何よりだわ」
美琴は、小さく肩を震わせ俯くインデックスの背中を優しく撫でる。
部屋にはしばらく、コツコツという柱時計の正確な音のみが奏でられた。
背越しにでも伝わる彼女の温かい拍動が落ち着いたのを見計らって、美琴は再び声を掛ける。
「ステイルの事、だけど」
震えが収まったはずの身体が、ひと際大きく跳ね上がる。
「あの人が、好きなのよね?」
インデックスは顔を背け、しかしコクンと頷いた。
しかし、羞恥や驚愕のために逸らした、という風には美琴は受け取れない。
「…………ごめんなさい。これ以上は、立ち入らないわ」
これは、もっと複雑な『何か』だ。
頭を掻いて、共通の友人であるメイドの話でもしようか、と頭を巡らせていた美琴に、
「……聴いて欲しい。…………ううん違う、みことには、最初から話そうと思ってたの」
決然とした貌でインデックスがその『何か』を蒸し返した。
語り始める前に、告解者は唯一の懸念を確かめねばならなかった。
「とうまとまことは、今なにをしてるのかな?」
「パパは可愛い我が子を寝かしつけようとして………………一緒に、寝たみたいね」
超能力者――『電撃使い』としての能力の一端で、美琴は家族の動向を概ね把握できる。
愛する夫にだけはその効き目が無いが、そこは常なら経験則で補うところだ。
ちなみにステイルは件のパネルを四つにばらして厳重に包んだ後、
どこか広い場所で燃やしに行ったらしかった。
「じゃあ、この話を今聴いてるのは…………」
「万が一、盗聴器かなんかがあっても私には通用しない。
正真正銘、私とインデックスだけの女の秘密よ」
珍しく神経質に状況を確認するインデックスに、母である女は胸を叩いて請け負う。
力強い仕草に勇気づけられた彼女は、二度三度と深呼吸をくり返し――
――自らの、醜い『熱』を告白した。
「私はね、みこと。まだ、とうまを――――」
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マンション裏の、遊具が狭い空間にこれでもかと立ち並ぶ公園。
どうにかこうにか巨大パネルを運搬してきたステイルは、
陽の在るうちは笑い声で賑わうだろう憩いの場に、念のため『人払い』を施した。
覆いを取り外した彼は羞恥に叫びたくなる衝動と――それ以上の葛藤に苛まれながら、カードを翳す。
切り取られた世界の中の男女は、灰も残らず炎に消えた。
「良かったのか?」
刹那の間だけ炎が上がった虚空を、暫し眺めていたステイルに一つの影が近づく。
『人払い』されている空間に侵入できる者など、たとえこの街でも極めて限られる。
「良いに決まっているだろう。残り三枚と土御門の元データ。
……と、ついでにクソ野郎自身も同じ行く末になるさ」
特段驚いた様子もないステイルは、顧みもせずにいらえる。
「…………お前さ。他にインデックスと写ってる写真、何枚持ってる?」
影はもちろん、彼女が真に愛する男だった。
「『彼女』との写真は無い。今燃やしたこれだけだ」
懐に肌身離さず持っている一枚を無意識に弄りながら、神父は努めて平坦に答える。
当麻はその仕草に気付いたのかどうか、会話の向きを変えるが――
「…………お前も、拘るんだな」
――ステイルは容赦なく、向けられた切先を突きつけ返した。
「僕ではなく彼女がだ。嘗ての君のようにね、上条当麻」
己を懸想してくれる人が本当に愛したのは、自分ではない『自分』。
現在のインデックスと十年前の上条当麻は、実に似通った業を背負っていて。
そしてその帰結まで、同じ道程を辿るはずなのだ。
「僕にとってはそんなこと、大した問題じゃあない」
――そんなの、もう、どうでも良いよ――
いつかの声が重なって、ステイルの吐露は当麻の耳に届いた。
十年前の上条当麻の罪はあの日、彼女の心からの叫びによって許されていた。
ならばインデックスのカルマも、神父に赦されて終わるのだろうか。
――しかし。
「本当に、そうか?」
上条当麻は、己が信念に従い愚直に突き進む。
束の間、ステイルは逡巡する。
「……そうだとも。僕の問題は、そこではない」
僅かにでも感化されてしまったのか、と告解者は自嘲する。
ステイル=マグヌスもまた、このどこまでも憎く畏敬すべき英雄に――
――自らの『真の懊悩』を、ぶつける決心を固めた。
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「…………帰ってきたわね」
ステイル達の帰宅を精緻に察知した美琴が呟く。
インデックスは、すでに湯浴みも済ませて床に就いていた。
ガチャリ、と気遣いを感じさせる静かな音が、しかしそれ以上の静寂に包まれたリビングまで届く。
手の中のグラスを揺らしながら、シャワー上がりの美琴は二人に声を掛けた。
「おかえり。男同士の腹の内の見せあいはどうだった?」
「どっちかって言ったら、コイツが一方的に割ってただけだな」
「黙れ。君の腹の中を見たいときは直接かっ捌くまでだ」
「んだとこのヤロ……おっといけね」
声を荒げずに罵り合う男どもを見て、思わず彼女は噴き出す。
基盤部分では平和を愛する夫の喧嘩腰、というのは平時では滅多に見られない姿だった。
あるとすれば金髪の変態か、青髪の変態と絡んでる時に限られるだろう。
「やっぱりアンタたち、良い友達なんじゃない?」
「「誰が」」
声が揃ってしまったことに気づき、再び反目した二人を見て、美琴は爆笑をすんでのところで堪える。
「……っく、く、……ぷぷ…………はーぁ。
ま、深くは訊かないわ、私も女の秘密は話せないし。
そろそろ日付も変わるけど、もう寝る?」
「……このマンションのセキュリティは?」
「自分の目で確かめただろ。学園都市では最高峰だよ」
それは即ち、『科学的』に全世界最高水準である、という意味だ。
この夫婦は一宗派のトップたる自分達よりよほど裕福なのではないか、とステイルは一瞬悩む。
しかし眠気が勝ったのか、彼は疑問を振り払って勧めに従う事にした。
「了解した。で、どこで寝れば? このソファかい?」
「廊下の、こっち側から数えて二番目の部屋が空いてるわ」
(慣れない事をするもんじゃあないな)
おどけたつもりだったステイルは、淡白に流されたボケを悼んで苦笑する。
と同時に軽く、素直な感嘆の声を上げた。
「客室が二つもあるのか……羨ましい話だね、まったく」
「インデックスの家はこんなとこよりずっとでかいんだろ?」
「『ランベスの宮』は最大主教の住まいだ。僕には関係ない」
肩をすくめて馬鹿にするステイルに、しかし夫婦は底意地の悪い笑みを並べる。
背筋に寒いものを感じた男は、慌てて問い質した。
「なんだ、その面は……!」
「いやいや、なんでもありません事よ?」
「そうだ、ベッド一つしかないから気を付けてねーん」
魔術師が『仕事』用に匹敵する形相で鋭く睨みつけても笑って手を振るのみ。
つい六時間ほど前のアバンギャルドな滑空旅行が、
ここにきて脳に休息を求める信号を発させている事も手伝う。
これ以上は時間と体力、精神力の無駄だと判断したステイルは踵を返した。
(いいだろう。どんな罠を仕掛けたか知らないが、
拠点攻略の達人でもあるこの僕に通じると思うなよ……!)
その謎のプライドの高さが、命取りになるとも知らずに。
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チュン チュンチュン
翌朝、インデックスは昔懐かしい雀の鳴き声で目を覚ました。
手探りで昨夜寝付くまでは握っていた携帯電話を、『自由な右手』で手繰り寄せる。
瞼を上げればいつ以来だろう、天蓋もつかず大きさは一人分のベッドが。
そして可愛らしく飾り付けられた、彼女の住居からすればやや手狭な部屋が目に入る――
――はずだった。
眼前に、見慣れた黒尽くめの柱が鎮座――というか横倒しになっていなければ。
「…………へ?」
そして、御近所迷惑な悲鳴がマンションを劈いた。
「すすすすすすすすすすすす、すている?
さささささささすがに、まだ、心の準備が、できてないんだよ……!」
「違う、これは違うんだ! いいか、ハッキリ言っておく!!
僕がこの部屋に入ったのはあのバカ夫婦の仕組んだ謀略で、
いまだに居るのは寝ぼけた貴女がどーしてもその手を離さなかったからだ!!!」
「へ? あわわ!(バッ) ご、ごめんなさいですわ! で、でもでも!
全くそういう気にならなかったって言うならそれはそれで失礼な話かも!」
「ふざけるなどうしろって言うんだ!! 黙秘だ! その件については断固として黙秘する!!」
部屋の外からはしてやったりの呵々大笑がこれまた近隣に迷惑をかけている。
そんな大声さえ耳をスルーする必死の痴話喧嘩の中で――――
――――二人の科学の街での、騒がしい日々が始まった。
午前八時 上条家 リビング
真理「ごちそーさまでいた!」
イン「うう……ごちそうさまなんだよ」
美琴「はい、お粗末さまでした」
イン「美味しかったけど、でもでもやっぱり……」
美琴「」ギロッ
イン「なんでもありませんわ」
ステ「…………馬鹿な。白米四杯で終了だと?」
当麻「昔はそうめん三昧で過ごした夏もあったからなぁ……」
美琴「厳しくやればもっと減らせるわよね、インデックス?」
イン「」
ステ(…………やはり僕らは、甘やかしていたんだろうか?)ズーン
当麻「お前らはどれぐらい日本に居られるんだ?」
ステ「帰国予定は七月の下旬になっている。一月半ほどだ」
美琴「結構長いわね……」
イン「…………迷惑なら、今からでもホテルに」
美琴「誰もそんなこと言ってないでしょ」
当麻「なにを今さらだろ、インデックス。
今回はちゃんとイギリスから謝礼も受け取っちまってるしな」
イン「……うん、ありがと二人とも」
ステ「それにしても謝礼? 僕は何も聞いて…………それはそうか、
こんなサプライズを仕込むぐらいだ。知らせるわけもないか」ハァ
美琴「大した額じゃあないのに当麻ったらなかなか受け取ろうとしなかったのよ」
イン「うーん、変なところで律儀だよねとうまは」
当麻「どうして家族を迎えるのに金なんか貰わなくちゃならねーんだよ」
美琴「…………って感じでね」
ステ「君の石頭じゃあ納得できないだろうが、今の彼女には立場というものがあるんだ」
当麻「けっ、そんな事は俺だってわかってるよ」
イン「頭で理解できても心が頷かない。……ふふ、ほんと変わらないねとうまは」
ステ「…………」
真理「ままー? ぱぱー?」
美琴「んー? どうしたんですか真理ちゃーん?」
真理「?」ユビサス
イン「え?」ユビ
ステ「僕ら?」ササレ
当麻「そういや、ちゃんと紹介してなかったよな」
美琴「そうね。ほら真理ちゃん、パパとママのお友達の……」
ステ(誰がコイツと友達なんだ……!)ピクピク
イン(抑えるんだよ、ステイル)
美琴「……わかったー? じゃあ言ってみましょ。インデックスと、ステイル!」
真理「いんでっくしゅと、しゅている!」キャッキャッ
イン「…………あーん、可愛いんだよー!!」ダキッ
真理「いんでっくしゅ、いんでっきゅしゅ!!」ンキャンキャ
イン「もうダメかも! お持ち帰りしたいですわー!!」ガバ
美琴「こらこら!」コツン
ステ「………………」
当麻「どうだ? 子供を抱いたインデックスを見た感想は?」
ステ「…………どう、とはなんだ」
当麻「いや、別にここで惚けなくてもいいだろ」
ステ「……………………」
ステ「………………………………だ」
当麻「んー?」
美琴「聞こえないわねー?」ヌッ
ステ「…………せ、聖女マルタのようだ、と言ったんだ…………!」
美琴「……えー、よくわかんな」
当麻「ああ、お前の好みのタイプド真ん中ってことか」
ステ「んがっ!?」
美琴「ほうほう」ニヤニヤ
ステ「げほっ、がほっ!! 貴様、憶えてたのか!?」
当麻「まあ、お前とした数少ないお気楽話だったからなぁ。
いや、結構重たいシチュエーションだったっけ……?」
ステ「そ、それは君の記憶違いだ!」
美琴「『憶えてたのか』の後でそれはないでしょ。……ねー、インデックス?」
ステ「ハッ!!!」オソルオソル
イン「…………」
ステ「…………い、今のを聞いて……?」
当麻「そりゃあそうにきmグホォ!!!」
美琴(ちょっとアンタ黙ってなさい!!)ドゲシッ!
当麻(か、上条さんの上条さんが…………!!)
イン「す、すているは」モジ
ステ「ななな、なんだっ!」アセ
美琴「」ワクワク
当麻「」チーン
真理「?」
イン「……マルタ様みたいな、働き者の女の子が好きなの?」
ステ「…………ん……ぐぐ……」
美琴(ほらそこで一発! ガツーンとかましなさいよ素直じゃないわね!)
当麻(…………お、お前が言うな…………)
イン「………………」ゴクリ
ステ「………………」
ステ「僕が、聖女マルタを好きなのは」
イン「!」ゴクリ
ステ「……どこまでも清らかで、慈愛に満ちているからだ」
イン「…………怪物タラスクを、その御心だけで鎮めたみたいに?」
ステ「まさしく、そうだね」
当麻(宗教関係の話はわかりにくいな)
美琴(アンタ魔術サイドにドップリ浸かってたでしょうが!)
ステ「そして、今の貴女はそれほどに…………光輝いて見えた」
イン「」パクパク
上琴((キター!!))
真理「?」
ステ「…………もういいだろう! この話は終わりだ!!」
美琴「御馳走様でした」
当麻(どこが『恋人でもなんでもない』んだよ)
イン「い、いただきますわ!」
ステ「おい、落ち着くんだ最大主教!」
当麻「そういや、親船さんに会うのはいつだっけ?」
ステ「君が知らなくてどうするんだ、まったく? 公式会談は七月十日の予定だよ」
美琴「けっこう先じゃない。それまでアンタ達は何して過ごすの?」
イン「…………」
ステ「…………」
美琴「何も無いんかい!」
当麻「え? ってことはお前ら、これって夏休みみたいなもんなの?」
イン「退屈な日々を寝転がって過ごすのは得意なんだよ!」エッヘン
上琴「「威張るな!」」
ステ「……僕はそんな自堕落な生活には耐えられないよ」
イン「えー」
ステ「しょうがない、全大型零分針ツアーでもやるか」
イン「わーい!」
上琴「「おい!」」
ステ「冗談はさておき、僕らもなんだかんだでやる事はある。
会いたい人もいるしね。日中は出歩くことの方が多くなるだろうな」
イン「この時期の日本はジメジメしてて嫌なんだよ……」
ステ「……ヤレヤレ。君たちも自分の仕事があるだろうから、僕らにそうかまける事はないよ」
美琴「でも私たち、今日は日曜で仕事も無いわ。どっか案内しよっか?」
イン「……えっと、ごめんねみこと?」
ステ「僕らが最初に訪う相手はもう、決めているんだ」
当麻「…………ああ、あの人か」
美琴「当麻、誰だかわかるの?」
当麻「まあな」
イン「私とステイルが、とうまの次に……
もしかしたらとうまよりお世話になったかも知れない人なんだよ」
当麻「おい」
ステ「もちろん僕は君に世話になった覚えなど無いが」
当麻「おい!!」
ステ「実は訪日が決まった時点で既に連絡を入れていてね。
さすがにあの空港には来てもらえなかったが、今日を逃すとゆっくり会えないんだ」
イン「そういうわけだから、ごめんなさい」ペコリ
美琴「もちろん、全然かまわないわよ。大事な人なんでしょ? 楽しんでらっしゃい」
当麻「俺の分もよろしく言っておいてくれ。最近なかなか会えないしな」
ステ「はっ。自分で言えよ、上条当麻」
当麻「……テメーはいちいちそうやって」
美琴「やっぱり仲良いわねぇ」
イン「ロンドンに居るときとは別の意味で生き生きしてるかも」
美琴「さみしい?」
ステ「…………べっつにー」
イン「じゃあとうま、みこと、まこと。行ってきますわ!」
ステ「夕刻までには帰るつもりだ。それまでは気にしないでくれ」
当麻「おう、気を付けてな」
美琴「いってらっしゃーい」
真理「いっえらっしゃーい?」
イン「ふふふ」
ガチャン
イン「…………あったかいね、此処は」ヒョコヒョコ
ステ「…………ああ、そうだね」スタスタ
イン「巻き込みたく、ないな」
ステ「それこそ、余計なお世話と言いそうだがね。……あの二人は」
イン「…………」
午前十一時 第四学区 レストラン『虚数学区』前
ステ「……なかなかアカデミックな店名だな」プカー
イン「まだ来てないかな?」
ステ「日本の礼儀に則って三十分前行動だったが……やはり早すぎたか」
イン「おなか減ったねー」グーグー
ステ(こっちも早すぎる)
「シスターちゃーん! ……ステイルちゃーーん!!!」
ステ「…………来たようだね」ジュッ
イン「うん! …………ひさしぶりーっ! こもえーーっ!!」
小萌「二人とも、久しぶりなのですー!」ガバッ
ステ「おっと。飛びついては危ないよ、小萌」
イン「こもえは相変わらずちっちゃいねー」ダキッ
小萌「シスターちゃん……いやいや、最大主教さんが育ち過ぎなのです!」
イン「…………小萌にまで、そんな他人行儀で呼ばれたくないよ」
ステ「…………」
小萌「うっ! こ、これはしつれ……いえ、ごめんなさいなのです。
やっぱり先生も大人ですから、柵というものが先に立ってしまいます」
ステ「まだ教師を続けて?」
小萌「もちろんです! 先生は生涯教育の現場に立ち続けてみせるのですよ!」
イン「……やっぱり凄いなぁ、こもえは」
ステ(二百五十年後でもそのまま教壇に立ってそうだな……)
小萌「二人だって、教室で会った事はなくても先生の生徒なのです。
お友達に言えないことがあったら、いつでも相談してくれていいですよー?」ニコリ
ステ(……本当に、この人には)
イン(……一生、敵いそうにないかも)
結標「感動の再会してるところ悪いんだけど、そろそろ私達も輪に入っていい?」
イン「ああ、あわき! 来てくれたの?」
結標「小萌に無理やり連れて来られた……っていうか、足代わりにされたんだけど」
小萌「あ、あははーなのです…………」
姫神「どうも。久しぶり。インデックス」
イン「あいさー! 会いたかったんだよ!」
姫神「私も。会いたかった。ステイルも。久しぶり」
ステ「まだミコフクなのか、秋沙。元気だったかい」
イン「!?」
小萌「!?」
結標「?」
イン「すている!? いつの間にあいさにフラグを建ててたのかな!?」ガクガク
ステ「そんな事をした覚えは無い!!」ガクガク
姫神「まあ。よく考えれば。ステイルは命の恩人だから。
そういうことになっててもおかしくない」イェーイ
小萌「そ、そういえばそうなのでした……何たる伏兵!」
ステ(そういや二回も助けてるんだった)
イン「うーでもでも! あいさはとうま一筋だったはずなんだよ!」
姫神「その上条君は。奥さん一筋だけど」
イン「ぐぐぐぐっ!!」ガハァッ!
ステ「なぜ見え見えのカウンターに突っこむんだ……」
結標「芸人根性みたいなものを感じるわね……」
-------------------------------------------------------
「根性!?」ガタッ
「隊長! 電波を受信してないで仕事してくださいませ!!」
「ん、ああ。悪い悪い」
-------------------------------------------------------
結標(…………白昼夢でも見てるのかしら、変な光景が)フリフリ
姫神「フラグ云々は冗談として。命の恩人なのは事実だから」
ステ「例の結婚式以来、僕らはメル友というわけだ」
イン「うう……知らなかったかも」
ステ(何故か言いにくかったんだよな……)
小萌「うう……ステイルちゃんに下の名前で呼んでもらうのは、
先生だけの特権だと思ってました」
イン「ロンドンでは結構同僚を名前で呼んでるんだよ」
ステ「まあ、そういう文化だからね」
結標「じゃあインデックスも名前d」
ステイン「「わーーーーーーっっ!!!」」
結標「なによいきなり!?」
ステ「す、すまない……」
イン「ご、ごめんなさいですわ……。
…………その、私達にとってはものすごーくデリケートな問題なんだよ」
結標「はあ」
小萌「何というか、複雑なんですね二人も」
ステ「…………そろそろ入ろう、予約の時間だ。予定より人数が多いが……」
イン「だ、大丈夫なんだよ! オーナーとは友達だから!」
姫神(逃げた)
結標(逃げたわね)
小萌(逃げたのです)
カランカラン イラッシャイマセー
ステ「へえ…………小さいが、雰囲気がいいな」
店主「御予約のお客様ですね? あちらの窓際のお席へ」
イン「えっと、ごめんね? 予約より二人増えちゃったんだけど」
店主「え、えーっと、じゃあ……そのお隣の席へどうぞ」
イン「ありがとですわ」
店主「(ですわ?)いえいえ、それでは追加のお料理を用意しますね」イソイソ
結標(見た事あるような……)ハテ
姫神(無いような。やっぱりあるような)ハテ
ステ「……良かったのかい? 彼女も友人なんだろう?」
イン「うん。でも、今日は小萌にお礼を言う日だって決めてたから。
ちゃんと話して、わかってくれてるんだよ」
ステ「……そうだね。今日は、小萌に今までの感謝を伝えなくては」
小萌「…………」グス
イン「あれ? 小萌泣いちゃってる?」ニヤニヤ
ステ「そろそろ[ピーーー]歳だというのにこれではね」ニヤニヤ
小萌「ななな、泣いてませんよっ! 私はあなた達よりずーっと大人なのです!」
ステイン「「はいはい」」ナデナデ
小萌「二人して頭を撫でるんじゃありませーーん!!」ナデラレナデラレ
結標(ねえ秋沙、もしかして私達場違い? っていうか空気?)
姫神(ふふふ。淡希先輩も。私の領域に飲み込まれはじめてる。ふふふ)
結標(『原石』怖っ! レベル5を侵食してるんじゃないわよ!)
姫神(ふふふふふ)
------------------------------------------------------------
ステ「…………よし、行き渡ったね。じゃあ最大主教、頼むよ」
イン「では、私達の再会を祝して!」
――カンパーイ!――
小萌「んっ、くっ、ぷはーっ! 昼間から飲むお酒は最高ですねー!」グビグビ
ステ(犯罪的な光景だ、しかし)
姫神「それにしても。このムニエル。美味しい」モグモグ
結標「無国籍料理店、ってヤツかしらね。そういえばいつだったかの
『学園都市ウォーカー』に載ってた気がするわ、このお店」パクパク
イン「ふふ、でしょでしょ。私も鼻が高いかも!」ドガガガガガガガ
ステ「貴女が自慢するのか……まあ、気持ちはわかるが」パクリ
小萌「んー! こっちのサラダもドレッシングが抜群ですね!」
ステ「ああそうだ、小萌。土御門から何か届いてないかい?」
小萌「…………そういえば、ステイルちゃんは土御門ちゃんと同僚なんですよねー。
本当に世間は狭いのです。それで、何かって何ですか?」
結標(実は私も元同僚なんだけどね)
イン「その、多分……私達の写真、なんだけど」ゴニョゴニョ
結標(なんか面白そうな話ね)ニヤニヤ
姫神(あまり。引っ掻きまわさない方が)デモニヤニヤ
小萌「……写真なんて、届いてないのですよー?」
イン「へ? そうなの?」
ステ(どういう事だ……土御門お得意のブラフか? だが何の意味があってそんな)
小萌「写真は届いてないけど、インデックスちゃんとステイルちゃんが
抱き合ってる姿をタップリ収めたビデオが」
ステ「土御門ォォォォーーーーーーッッ!!!!!」
姫神「それは。それは」ニタニタ
結標「熱烈に愛の抱擁、ねぇ」ニタニタ
イン「なにを余計な修辞を付け加えてるのかな!? そもそも抱き合ってたわけじゃ」
小萌「私としてはちょっぴり複雑でしたが、
二人がとーっても仲良しのようで安心しました」シクシク
ステ「くっそおおお!!!」
イン「だ、大丈夫? また血管切れてない?」
ステ「何とかね…………小萌」
小萌「なんですかぁー」ズーン
ステ「(何故落ち込む)そのビデオとやらに、コレを張ってくれないか」つ紙切れ
イン(あ)
小萌「なんなのですかコレ?」
ステ「貴女の健康を祝う魔術の護符さ。
件のブツに張り付けてベランダにでも一晩放置しておいてくれ」
小萌「はあ……了解しました」
ステ(これでまず一件)
結標「ふーん、魔術ねえ。そう言えばあなた」
ステ「なにか?」
結標「この面子で面識が無いのって、私とあなただけじゃない?」
ステ「確かに…………最大主教の友人なのはわかったが。小萌の生徒なのか?」
結標「違うわよ、改めて自己紹介するわね。
私の名前は結標淡希。霧ヶ丘大学って所で研究員、やってるわ」
姫神「でも。淡希先輩を学内で見かけたことなんて。一度も無い。不良研究員?」
結標「茶化すんじゃないわよ。そっちの秋沙とは小萌の所の居候仲間ね。
更に高校、大学と一応は先輩後輩の仲よ。どっちにしろ余り時期は重ならないけど」
小萌「二人が同じ霧ヶ丘だったと聞いたときには先生もビックリしたのです」
ステ「…………成程。君が『座標移動』というわけか」
結標「……へえ、さすが腕利きの魔術師さん。敵の事情には精通してるって訳?」
ステ「そんなに構えないでくれ。『仮想敵』だよ、ただの」
結標「そのシミュレート結果を聞いてみたいわね、是非とも」
ステ「仮想と言わず、実際に試してもいいさ」ガタ
結標「いいわよ、表出る?」ガタッ
姫神「ちょっと。二人とも」
小萌「結標ちゃん、やめなさい!!」
イン「コラッ!! ステイル!!!」
ステ&結標「」ビクッ
姫神(ほっ)
結標「あはは、ごめんなさいね?」
ステ「殺伐とした空気が最近恋しくてね」
結標「あらやだ、あなたもそうだったの? ちょっと平和ボケするとこういう雰囲気がねー」フフ
ステ「やはり僕らのような人種は、時々シリアスタイムを取らないと息苦しいね」ハハ
姫神(なに。このほのぼのしているようで。血なまぐさい会話)
ワキアイアイ
イン&小萌((どうしてこうなった…………))
姫神(空気化回避のため。早めに行動に出るべき)
姫神「淡希先輩の自己紹介が済んだところで。近況報告とかしたら?」
ステ「ああ、そう言えばそうだね」
結標「すっかり話が弾んじゃったわ」
イン(ナイスなんだよ、あいさ!)
姫神「それじゃあ。言いだしっぺの私から」
小萌「よっ、やれやれ!」
結標「あなたちょっと酔ってない?」
小萌「ワインの一本や二本で潰れる小萌先生ではないのです!」
イン(懐が)
ステ(痛い)
姫神(また。いつもの。パターン?)フフフ
ステ「おっとすまない、続きをお願いするよ秋沙」
姫神「!!」
イン&小萌(嫌な予感が……)
結標「?」
姫神「わ。私は。医者を目指して勉強中。
それから淡希先輩と一緒で霧ヶ丘で研究協力もしてる」
イン「……それは、安全なんだよね?」
小萌「…………」
イン「あ、ご、ごめんなさいこもえ!
その、学園都市を信じられない、ってわけじゃあ」
小萌「いえ、しょうがないことなのです」
結標「…………前統括理事長の退任後、これでもかと膿が出てきたからね」
ステ「その上、すべての闇が暴かれたという証拠も無い」
小萌「………………」
小萌「あのころ……」
姫神「小萌…………」
小萌「私は、自分の無知が恥ずかしくてしょうがありませんでした」
「学園都市の教育は生徒の未来の為であると盲信して」
「結標ちゃんも、姫神ちゃんも、御坂……美琴さんも、上条ちゃんも」
「私の知らないところで、酷い目に遭ってて」
「そんなことも知らずにのうのうと教鞭を執っていた私は」
「私は、教師を辞めるべきなのだとさえ思いました」
イン「そ、そんな……」
ステ「………………」
姫神「そんな顔しないで。インデックス。ステイル」
小萌「そうです。結局私は、今も先生のままなのです」
イン「…………なんで?」
小萌「ふふふ、決まっています」
小萌「先生は、先生だからです。生徒の為に生きるからこそ、先生なのです!」
ステ「……はは、成程」
姫神「いかにも。って感じでしょ?」
イン「うん、こもえらしいんだよ」ニコ
結標「ちなみに霧ヶ丘の研究が健全である事は、この私が保証するわよ」
姫神「万年サボりの淡希先輩に。なぜか請け負われる私って」フフフ
結標「おいこら」
結標「私はさっきしたから、次はそっちのお二人さんね」
姫神(私の話のわりには。私の台詞数が少なかった気がする)
ステ「僕らの近況か……正直、分けるほどでもないから一緒に話そうか」
結標「なに? あなた達夫婦なの?」
ステイン「「ぶっ!!」」
ステ「げっ、がはっ!」ムセタ
イン「おっ、お餅、ももちががが……」ツマッタ
姫神「だ。大丈夫。二人とも?」
小萌「ちょっと結標ちゃん! からかうにしてももっとマシな言い方があるはずです!」
結標「えー? だって近況報告をまとめるって、まるきり夫婦のそれじゃない?」
ステ「ちっ、違うに決まってるだろうが! ただ四六時中一緒に居るだけだ!!」
イン「」モチゴックン
イン「す、す、す、すている!! ちょっと落ち着いて!?」
ステ「……え? …………あああああああっっ!?
僕はいったい何を口走ってるんだ!?」
イン「ち、違うんだよみんな! 私とすているはその、お偉いさんとボディーガードなの!
つまり単なる一心同体、いわゆる一蓮托生ってわけなのです!」
ステ「貴女ももちつけ、いや落ち着け! 文脈が微妙に繋がってないぞ!?」
小萌「うう……そうなのですか。
つまり二人は病める時も健やかなる時も
共にある事を誓ってしまったのですね…………」シクシク
結標「風呂場とかベッドでも共にあるのかしらね」ククク
姫神「小萌先生。涙拭いて。何故か私も胸が痛いけど」つハンカチ
小萌「先生もいい加減、新しい恋をさがすべきなのかもしれません」ドウモ チーン
イン「もうダメかもコレーーーーっ!?」
ステ「不幸だあっ!!」
イン「え。ふ、不幸なの…………?」ウル
ステ「あ、いや、今のは弾みで」ワタワタ
三人(((ケッ)))
小萌「では。最後は私の番なのですよ」ケロリ
ステ(さっきの大騒ぎはなんだったんだ……)ゲッソリ
イン「こもえはいつまで経ってもこもえですわよね」
ステ「確かにそんな気がするな…………」
結標「そして実際にその通りよね」
姫神「十年前から。変わってない」
小萌「うわーん! みんながいじめます!」
イン「ううん。違うんだよ、こもえ」
小萌「ぐす…………え?」
ステ「貴女は十年前、僕たちをあたたかく見守ってくれた頃の小萌そのままだ」
小萌「え? え?」
姫神「小萌が居なかったら。私。路頭に迷ってた」
小萌「ひ、姫神ちゃんまで……」
結標「つまり。私達全員、変わらないでいてくれる小萌に感謝してる、ってこと」
小萌「………………」
イン「こもえ」
ステ「小萌」
小萌「は、はい!」
イン「とうまたち、皆の『先生』でいてくれてありがとう」
小萌「お礼を言われるような事じゃありません! 先生として当然の……」
ステ「そして、僕らを『生徒』と呼んでくれてありがとう。とても、嬉しかった」
小萌「あ、あ…………うぅ」
姫神「二人とも。あまり感動させると。また泣いちゃう」
結標「ま、その場合私達も共犯だけどね」
小萌「ん…………あ…………ひっく、えっぐ」
ステ「あーあ。結局泣かせてしまった」
イン「こもえ、いつもお疲れ様」
小萌「私、こそ! みんなに会えて嬉しいです! みんなの先生にしてくれて!」
「あり、がとうございますっ! うわあああああんん!!!!」
午後二時 『虚数学区』裏
姫神「小萌先生は。泣きやんだかな」
ステ「結局三十分ぐらい泣いてたな……ちょっとやり過ぎたか」
姫神「そんなことない。最高のうれし泣き」
ステ「なら、いいんだが」
ステ「それでなんだい、二人で話とは? ……あまりその、アレすると、最大主教が」
姫神「ふふ。大丈夫。すぐ終わる話だから。心配しないで」
ステ「っ、エッヘン!」
姫神「ふふふふふ」
ステ「さっさと始めてくれ!」
姫神「……小萌先生は。私の知る限り最高の先生」
ステ「奇遇だね。僕もそう思う」
姫神「だけど。私の記憶にもう一人。忘れられない『先生』がいるの」
ステ「………………それは、まさか」
姫神「ん」コクリ
姫神「教えて。ステイル。あの人は。どうなったの?」
ステ「……なぜ、そんな事をいまさら?」
姫神「メールで聞けるような事じゃなかったから。いつか。会えたら聞こう。
そう思ってるうちに。十年が過ぎてた」
ステ「…………」
姫神「私は。あの人の『協力者』だったから。なのにあの人は。どこかに消えて」
「…………私だけが。こうして平穏に暮らしてる」
「その事を思うと。どうしようもなく心が痛いの」
「ねえ。教えて? あの人は――」
「アウレオルス=イザードはどうなったの?」
-------------------------------
午後三時 学園都市 とある場所
ステ「小萌も喜んでくれたようで良かったね」スタスタ
イン「むー」ヒョコヒョコ
ステ「……まだ怒ってるのかい」シュボ
イン「だって。百歩譲って二人で話してたのは良いとして、内容も秘密なんて」
ステ「じゃないとテーブルから離れた意味が無いだろう」プカー
イン「…………そういう話じゃないんだね?」
ステ「………………」
『魔術を失い、記憶を失い、崩れ去った自らの「目的」さえ失った。
その後の消息に関しては僕も一切関知していない…………その生死さえも』
『………………そう』
『仮に君がヤツを見たところで、風貌はすっかり変わり果てている。
唯一ヤツの「顔」を知る僕でさえ、いま会って判別できるかと聞かれれば…………』
『あんなに一途に。あの子を想ってた。あの人が』
『………………それこそ、いまさらだ。詮無き事だよ』
ステ「……ああ。違うとも」
ステ「そんなことより、秋沙と言えば!」
イン(誤魔化したんだよ)
ステ「君は彼女と、ロンドンでも電話をしていたんだろう?」
イン「もちろんなのです。友達だもん」
ステ「…………ならばなぜ、秋沙の口調は君にうつってないんだ?
小萌のそれはあっという間にコピー完了だと言うのに」
イン「……あ、あれ? ホントだ」
ステ「…………考えるだけ無駄か。そもそもメカニズムからして謎なんだから」ハァ
イン「なんでなのですわー?」
ステ「…………………………はあぁぁぁ」ヤレヤレ
-------------------------
IN
みんなの先生 ←New!
NOT IN
吸血殺し ←Why?
-------------------------
姫神「なんでって? それは。私が聞きたい。ふふふ」
姫神「…………不幸…………はぁ」
ステ「………………」
イン「ねえすている、私 の 方 だ け 見 て ?
アンジェレネもこもえもトチトリもレッサーもあいさもローラもるいこも
かおりもいつわもまいかもアニェーゼもルチアもシスターズもサーシャも
ヴィリアンもキャーリサもリメエアもシェリーもオルソラもショチトルも
みこともあわきもさいあいもうみどりもしずりもかざりもあいほもききょうも
くろこもらすとおーだーもわーすともひょうかもせりあもみさきもヴェントも
エリザードもワシリーサもさだのりもまこともガブリエルも見ないで?
私の事だけ見てればすているはそれでいいんだよ?」
ステ「これ全然別の何かが外れてるから!
後半とりあえず女の名前並べただけになってるぞ!!
あと最後の方明らかにおかしいだろ!!!
それに平仮名ばっかりで読みにく…………待て、来るんじゃない」
イン「すている、邪魔者は全部私が消してあげるから」
ステ「現状彼女たちが僕らの邪魔をした事は一度たりともない!!
基本的に当人同士の問題のはずだよな!?
おい、早くリテイクだ、急げ…………」
イン「 す ー て い る ぅ ♪ 」
ステ「アッーーーーーーー!!!!!」
-------------------------------------------------------
リテイク
とある日 とある木陰
イン「ニャー♪」ゴロゴロニャー
ステ「ニャーて。猫抱えてるわけじゃあないんだから」
イン「赤毛でおっきい可愛げのない猫さんなんだよー♪」
ステ「余計なお世話だよ。……さあ、そろそろ仕事に戻ろう」
イン「やだ」
ステ「……わがまま言うんじゃない」
イン「やーだよーだ」
ステ「………………」ムクリ
イン「ああもう! 勝手に行っちゃダメなんだよ!」ダキ
ステ「…………最大主教」
イン「なぁにかなぁ?」
ステ「…………………………当たっている」
イン「何がかな、言ってみてってきゃわああ!!」
ステ「は、はしたない真似をするんじゃない! 神裂が見たら嘆くぞ!!」
イン「誰も見てないよー♪」
ステ「どこに土御門の手の者が潜んでるかわからないだろう!」
イン「だったら見せつければいいかも」
ステ「…………ああもう! 好きにしてくれ!」
イン「お仕事はいいの?」
ステ「仕事はする。そこは最低ラインだよ」
イン「じゃあお姫様だっこのままで仕事していい?」
ステ「…………それで仕事になると思ってるのか…………!」
イン「すているとくっついてた方が効率上がるもーん♪」
ステ「公開処刑だ、これはぁ…………っ!」
ステ「くそ、いい加減に行くよ。遅刻してしまう」ゲッソリ
イン「だっこー」
ステ「(幼児退行してないか)…………後でだよ」
イン「うーん、しょうがないんだよ。でもその前にちょっと耳貸して?」
ステ「はあ? まあ、いいが……」カガム
イン「んっ」マワリコム
ステ「そっちに耳は無い…………」
CHU☆
イン「ん…………」
ステ「………………」
イン「えへへ」
ステ「……………………」
イン「よーし、すている分補充完了! 行こ!」
ステ「…………………………やれやれ」マッカ
オワリ
朝 上条家
当麻「さて、時間だな」
ステ「おや、補習にでも行くのか」
当麻「テメーは上条さんをいったい何だと思ってんだ?」
イン「毎年留年ギリギリだったあの頃が懐かしいね」
当麻「ええ、ええ。過ぎ去ってみれば感慨深い笑い話に……なるわけあるか!」グイ
ステ「おい、彼女に触れるな!!」ドン
当麻「おおっ!?」シリモチ
イン「ステイル!?」
美琴「ちょ、ちょっとー。気持ちはわかるけどやり過ぎよステイル」
当麻「わかるのかよ! 俺の気持ちの方を慮ってくださいません!?」
美琴「結構独占欲強いのね、ステイルって」
イン「え、え? …………えぇ?」ポー
当麻「聞け!」
ステ「違う! ……最大主教、いま貴女が身につけている『ソレ』の事を忘れたのか」
イン「へ? ………………あ」
当麻「ま、まさか『歩く教会』が…………?」
ステ「その通り。最大主教昇叙の折にめぎ……前任者がもう一着用意したんだ」
当麻「じゃあ、もしいま俺がインデックスに触れてたら…………?」
イン「…………間違いなく裸にひん剥かれてたんだよ」
美琴「ほーう…………?」バチバチ
ステ「そういうわけだから、とりあえずヴェルダンで焼くよクソ野郎」シュボ
当麻「未遂ですよ未遂!? しかも故意じゃねーし!」
イン「とうまは覚えてないだろうけど、前科ありですわよ」
当麻「」
バリバリバリバリィィィ!! ボボボボッ!!!
当麻「じ、時間だって言ってるだろ…………遅刻しちまう、ぜ……」ボロボロ
美琴「ちっ」
ステ「生命力だけはクマムシ並だねまったく」
当麻「なにその虫!? ゴキブリとかじゃねーの普通!?」
ステ「殺虫スプレーも無効化するようなヤツと較べたらゴキブリに失礼だろう」
イン(トリ○アの泉で見たなぁクマムシ)
当麻「……じゃ、俺らはそろそろ仕事行くけど」
イン「行ってらっしゃーい」
美琴「真理のこと、くれぐれも頼むわね」
ステ「安心して任せてくれ、美琴」
イン「お母さんなのに仕事あるんだね」
美琴「まあ、育児中だから週三日の出向で済ませてもらってるんだけどね」
ステ「普段はこの子をどうしてるんだい?」
当麻「一昨日みたいにお隣の奥さんに預けてるんだ。
そのお隣さんの友達に託児所勤めの人が居るんだけど、そこを頼る事もあるな」
真理「ままー、ぱぱー」
美琴「いつでもパパより先にママって呼んでくれる真理ちゃーん!
良い子で二人のいう事聞くのよー?」
当麻「細かい事で悦に入ってんじゃねえよ……行ってくるぞ、真理」
真理「いっれらっしゃーい」オテテフリフリ
当麻「行ってきまーす」フリフリ
美琴「なんかあったらお隣に聞いてねー」フリフリ
イン「うん、任せて欲しいのです!」フリフリ
ホライソイデトウマ! チョ、アンマオスナヨ!
ガチャン
ステ「慌ただしいことだな……」
イン「それじゃあまこと、何して遊ぼっか」
真理「あっちー!」
イン「え? どうかした?」
ステ「向こうの部屋に行きたがっているようだね」
イン「よーし、行ってみよう! んっせ」ダッコ
真理「おー」
ステ「やれやれ。子供部屋かな?」
スタスタ ヒョコヒョコ
ガチャ
デデンデンデデン デデンデンデデン
シュワちゃん「――I'll be back」
ステ「!?」
イン「!?」
ステ「な、何者だ貴様!」
真理「しゅわちゃんー!」
イン「ま、まこと、お友達なの?」
ステ「んなわけあるか! 貴様、一体どうやって侵入して……」
デデンデンデデン デデンデンデデン
シュ「I'm back」
ステ「どこからだ! いちいちテーマ曲らしきものを流すな!」
イン「待ってステイル! これってもしかして」
真理「あいむばーっく」
ステ「……!? 人形か……?」
イン「う、うーん。近くで見てみましょー」オソルオソル
ステ「待つんだ最大主教。万が一ということもある。
僕が確かめるから下がっていてくれ」キリッ
イン「…………うん」キュン
真理「ケッ」
ステイン「「!?」」
ステ「き、気を取り直して……動かないな。背面に何か書いてあ」
シュ「俺の背後に立つな」
ステ「何で急に日本語になるんだよ!」
イン「しかも元ネタが全然違うんだよ」
ステ「どれ……『小児用玩具 タ○ミ○ーター 一分の一サイズ』……」
イン「………………」
ステ「どの口が『小児用』とかほざいてんだ!!」
シュ「I will」グッ
ステ「やかましい!」
イン「こっちには説明書があったんだよ」ガサゴソ
真理「とりせつー」
ステ「…………いや、別にもう読まなくても」
イン「んーっと……『お宅のお子さんの情操教育に役立つ事間違いなし!』」
ステ「親馬鹿が高じすぎて頭が沸いたのかあの二人は!!
どういう情操を育てるんだこのマッチョマンがぁ!!!」
イン「『※審判の日を迎えると暴走を開始します』」
ステ「捨てろオオォーーーーッ!!! 今すぐにだあああああ!!!!」
ドンドンドン!!!
ステ「ぜぇ……はぁ…………ん?」
イン「お隣からなんだよ」
『るっせぇーぞ隣ぃぃぃ!!!! マンションだってことカァンケイなしかぁ!?
よーっぽどブ・チ・コ・ロ・されたいのかにゃーん!?』
ムギノモジュウブンチョウウルサイデスヨ
ハッハァ チガイネェナァ
イン「………………にゃーん?」
ステ「……………………ブチコロ?」
ステイン「「………………」」
イン「行ってみようか、お隣」
ステ「…………ああ、謝罪しなければね」ユラリ
イン(なんか殺気を感じますわ)
上条家のお隣 玄関前
ステ「じゃあ押すぞ」
真理「ぞー」
イン(どきどき)ダッコチュウ
ビンボーン ビンボーン
ステ(……なにかおかしくないか?)
ピッ
『へーい、どなたですかぁ?』
イン(男の人?)
ステ「ああ失礼、実は隣の上条家に居候しているものですが」
??『居候? どーりで平日に物音がするわけだ』
ステ「その事で迷惑をお掛けしたようなので、一言お詫びをと」
??『はは、あんなの日常茶飯事っすよ。たまたまこっちもうるさいのが来てたんで。
そんな気にすることでもないですよ?』
ステ「そう仰ってもらえるとありがたい。
これからもお世話になるかもしれないので、一度ご挨拶させて貰っても?」
??『ああどうぞどうぞ。今開けるんで』
ステ「…………」シュボッ
イン「……ステイル? さっきから何かただならぬ雰囲気なんだよ?」
ステ「なぁに、大したことじゃあないさ……」
イン(えー)
ガチャ
仕上「どうもお待たせー。んじゃ早速中に」
ステ「入らせてもらおう」グイッ
仕上「うおっ!?」
イン「ちょ、待ってよー!」
浜面家 リビング
ズカズカ
理后「あれ……しあげは?」
麦野「なによアンタ? まさかさっきの隣の」
ステ「『原子崩し』、麦野沈利で間違いないね」
イン(ちなみに靴はちゃんと脱いだのですよー)
麦野「……あぁん? だったらなんだってんだぁ!?」ギロ
ステ「………………い…………は」
麦野「あん?」
絹旗「なんか様子がおかしいですね」
黒夜「やばいのキメてんじゃねコイツ?」
イン「どうしちゃったのステイル?」
麦野「ん。アンタのその声…………」
ステ「貴様のせいで、僕は、僕はっ、僕はあああああああぁぁぁぁぁ!!!!!
…………イ ノ ケ ン テ ィ ウ ス ッッッ!!!!」
イノケン「んごー」メラメラ
麦野「ええええええっっ!!??」ナニコレ
十分後
トv'Z -‐z__ノ!_
. ,.'ニ.V _,-─ ,==、、く`
,. /ァ'┴' ゞ !,.-`ニヽ、トl、:. ,
rュ. .:{_ '' ヾ 、_カ-‐'¨ ̄フヽ`'|::: ,.、
、 ,ェr<`iァ'^´ 〃 lヽ ミ ∧!::: .´
ゞ'-''ス. ゛=、、、、 " _/ノf:::: ~
r_;. ::Y ''/_, ゝァナ=ニ、 メノ::: ` ;.
_ ::\,!ィ'TV =ー-、_メ:::: r、
゙ ::,ィl l. レト,ミ _/L `ヽ::: ._´
;. :ゞLレ':: \ `ー’,ィァト.:: ,.
~ ,. ,:ュ. `ヽニj/l |/::
_ .. ,、 :l !レ'::: ,. "
イン「よしよし」ヒザマクラ
真理「よしよしー」ナデナデ
ステ「も、申し訳ない……どうかしていたようだ僕は…………」ピクピク
麦野「あー…………」
仕上「……気にすんなって。家の方は絹旗がガードしてくれたから被害ゼロだ」
絹旗「超超能力者二人と超大能力者二人に喧嘩売るなんて無謀過ぎです」
イン(奇襲苦手なのに無理するからかも)
理后「別にわたしは何もしてないよ?」
黒夜「理后さんはそこに居るだけでいぃんだよ、セラピー的な意味で」
麦野「悪かったわね、アンタ。ちょっとやりすぎたかにゃーん?」
ステ「……自分で言うのもなんだが、完全に自業自得だ。どうしてそうも気を遣ってくれる?」
シーン
ステ「なんだい、この痛々しいほどの静けさは……」
仕上「いや、アンタがビームに吹っ飛ばされた時にな……」
黒夜「懐からバラまかれた胃薬の山を見てさぁ、みんなこう……」
絹旗「超いたたまれない気持ちになってしまいました……」
理后「あなた、苦労してるんだね」
ステ「」
麦野「それであんたが気絶してる間に、このインデックスから事情を聞いたのよ」
イン「語るも聞くも涙なくしては出来ない一大スぺクタクルでしたわ」
ステ「泣きたいのは僕だああああああ!!!」
絹旗「何が切っかけだったかは忘れましたが、
インデックスさんと私達は超電話友達なのです」フンス
黒夜「なんだよ水臭ぇな最愛ちゃん、私だけ除け者かよ」
仕上「お前は携帯すぐ壊すだろ、『窒素爆槍』で喧嘩して」
理后「まず電話を身体に内蔵するところから見直すべきだよ、くろよる」
麦野「切っかけ…………おい、理后。あんた覚えてるんじゃないの?」ニヤリ
イン「…………!」
理后「うん。いんでっくすは、私とすているがどういう関係なのかを探」
イン「わーーーー! わわわーーーーーーーー!!!」
ステ「…………ああ、土御門の力場を探ってもらった時のアレか」※>>40参照
仕上「へー、んなことあったのかよ」ニヤニヤ
黒夜「ひゃはは、旦那の浮気を探ってたのかよぉアンタ!」ニタニタ
イン「あうう…………」マッカ
ステ(そこから僕の悪夢は三速ぐらいにギアチェンジしたわけだが)トオイメ
麦野「そういうわけでアンタの苦労は理解したから、これ以上は追及しないわよ」
ステ「………………痛み入る。まったくの逆恨みだったなコレは…………」
仕上「む、麦野にいたわりの精神を発揮させただと…………!?」
絹旗「出産前後の超理后さん以外、誰も成し遂げられなかった偉業を…………!」
麦野「はーまづらぁ、きーぬはたぁ?」
仕上&絹旗「「あっ」」
麦野「アンタら後で『チキチキ☆めるとだうなー』ね」
仕上&絹旗「」
イン「なにそれ?」フッカツ
理后「説明がむずかしい…………」
黒夜「確かに現存する言語システムじゃ解説しがたいよねアレ。ヘッダが足りないっつうの?」
ステ(意味がわからん)
黒夜「六発中六発弾の入ったロシアンルーレットを六連射、ってのがいちばん近いかなぁ」
ステ「それ絶対死人出るよね」
麦野「ったく、コイツラときたら…………」
仕上「それはお前の口癖じゃねぇだろ」
ステ(口癖?)ビクビクッ
イン(可哀想なステイル……)ホロリ
ステ(いや、貴女のせいだから)
理后「でもあの頃のむぎの、すごく優しかった」ニコニコ
麦野「……! な、なに言いだすのよ!」
理后「しあげの次によく病室に来て、リンゴ剥いてくれたよね」
絹旗「えー? 私だってよく行ってたけど、超滅多に会いませんでしたよ」
理后「だれかが来るとむぎの、すぐ窓から逃げ出しちゃってたから」
黒夜「くくく、どんだけハズかったのよ沈利ちゃん!」
仕上「アグレッシブだなー。まあ知ってるけど」
理后「大丈夫、そんなツンデレなむぎのでも私は応援してる」
麦野「」パクパク
ステ「…………」
イン「神妙な顔してどうかしたのですかー?」
ステ(僕も同じような事をした、とは言いにくいなこの空気)
真理「あー、せんせー」
ステ「君はいつの間にやら空気と化してたね……」
絹旗「あれ、真理ちゃんじゃないですか? そっか、お母さんは今日居ないんですね」
イン「うん、私がみことから預かったの……って、この子を知ってるの?」
絹旗「ええ、私は託児所でよくこの子の面倒を超見ますので。こっち来ますか、真理ちゃん?」
ステ(『よく』のあとに『超』? 日本語は難しいな……)
真理「んー! せんせー!」
イン「ちぇー……。元気でね、まことぉ…………」
仕上「大袈裟だなオイ」
真理「せんせー! …………もあいせんせー!」タッタッタッ
絹旗「」ピシッ
ステ「」
イン「?」
絹旗「………………いいですか、超間違ってますよ? 先生の名前はきぬはた」
真理「もあいー!」
絹旗「……………………」
プッ
絹旗「いま笑ったのは超誰ですかあああ!?」
黒夜「ひゃはははは! も、モアイちゃんだとよ!! コイツは傑作だぁ!」
絹旗「海鳥ちゃァァァァン!? 超スクラップにされてェみたいですねェェ!!」オフェンスアーマー!
黒夜「上等だコラァ! イースター島のお仲間の元に愉オブにして配達してやンよォ!!」ボンバーランス!
絹旗「いィ歳こいてイルカちゃンと一緒におねむしてるガキが
つけ上がってンじゃねェぞォォォォ!!」
黒夜「何かいけないンですかァ!? 私はまだ二十二なンですゥ!!!」
仕上&ステ((それはないだろ))
絹旗「私よりちょォォっとだけ若いからって超調子こいてンじゃ……ねェ……」
ステ(どうしたんだ一体)
黒夜「イッヒヒ!! さっきまでの威勢はどォこに逝っちゃったのかなモアイちゃ、ン…………」
イン(あれ? なんか寒くなってきましたわ)
理后「 ふ た り と も ? 」
絹旗&黒夜「「ひいいいいっ!?」」ゾワッ
ステイン((ヤバっ、こわ))
理后「……ふたりが怖い顔してるから、まことが泣いちゃったよ?」
真理「んえっ、せんせーこわい…………」
黒夜「あ…………」
絹旗「ちょ、超ごめんなさい真理ちゃん!!」
真理「ひっく、うえっぅ、うわぁぁぁん!!!」
絹旗「あああああ!! 泣きやんでくださいー!」ワタワタ
黒夜「や、やべぇ……。そ、そうだ! ほーら真理、おててがいっぱーい!」
バサモサドサッ!
真理「うえええええええええええぇぇぇぇぇぇぇんんんん!!!!!」
絹旗「なに超余計な事してくれてんですか海鳥ぃぃ!!!」
黒夜「こ、こんなはずじゃあ…………」ガーン
仕上「ちょっとしたホラーだったぜ、今のは」
麦野「あるいはグロね」
絹旗「言ってる場合ですか! 手伝ってくださ……」
理后「おいで、まこと?」
真理「ん、ひっく…………りこー」トタトタトタ
五分後
真理「zzz」スヤスヤ
イン「…………凄いんだね、りこうは」
理后「それほどでもない」ブイ
仕上「さすがは俺の嫁だ」
麦野「うるせーよドリンクバー往復係」
仕上「その称号まだ返上出来てなかったわけ!?」
ステ「…………それに引き換え、あっちの連中と来たら」
黒夜「くっそ、一方通行にウケた唯一の一発芸だったのに…………」ズーン
絹旗「私、保母さんなのに。やっぱり本物の母親には敵わないんでしょうか…………」ズーン
ステ(一方通行の笑いの沸点は意外と低いな)
イン(アハギャハよく言ってるから意外でもないのです)
麦野「なんだかんだ言っても『アイテム』最強はやっぱり理后ね」
仕上「裏篤を産んでからますますそんな感じだもんな。母は強しってか」
イン「そういえばりとくは居ないの?」
理后「あの子は五歳だから平日は幼稚園に通ってるの」
ステ「……じゃあ一体、父親の君は仕事もせず何をしてるんだ」
仕上「消毒されるべき汚物を見るような目をしないで!? 一応ここに居るのも仕事だから!」
イン「自宅警備員、ってやつかも!」
仕上「ちっがぁぁう!! 重役会議中なんだよ今!!」
ステ「その会議に部外者を招き入れたのは誰だい」
仕上「んがっ!!!」
麦野「まあ、会議っつってもお茶しながら駄弁ってただけよね」
仕上「お前一応社長だろ!」
イン「え? そうだったの?」
麦野「あれ、電話じゃ言わなかったっけ?」
ステ「彼女達は株式会社『アイテム』さ。中小企業の割には名前が売れているね」
仕上「あれ? よく知ってるな」
麦野「…………あんたそう言えば、私の顔知ってたわね。
不公平じゃない? 魔術サイドばっかり情報握ってさ」
ステ「…………そうとも言い切れないよ。
科学の『秘匿性』が長年歴史の裏に隠れてきた魔術に及ばないように、
魔術結社の『経営論』・『組織論』というものは科学に比して遥かに劣っている。
情報を隠しすぎる分、まとまりが無くなって個々の能力に依存しがち、というわけさ」
麦野「よく言うわ。アンタらの頭脳は元『グループ』のグラサン野郎でしょ?
…………最ッ高に食えない奴だったわね」
ステ「…………獅子身中の虫、という言葉が日本にはあるね」ゲッソリ
麦野「……………………あ、なんかゴメン」
仕上(何度見てもレアな光景だぜ……カメラどこだっけ)ニヤニヤ
麦野「はーまづらぁ?」
仕上「ななななんでごじゃいましょうか麦野さん!?」
イン「ちなみに獅子身中の虫は故事成語だから、正確には仏教圏の言葉なのですよー」
理后「おー。先生みたい」パチパチ
イン「ふふふふ」
ステ「…………適職だろうな、それは」
チュドーン
仕上「ぬぎゃあああああ! お助けえええ!」ドタバタ
理后「しあげ、静かにして。まことが起きちゃう」
仕上「俺が悪いんですか理后さん!?」
イン「結局、お仕事の話は聞いたことなかったね。何やってる会社なの?」
黒夜「滞空回線(アンダーライン)って聞いたことあるかぁ?」
イン「うーん…………どっかで聞いた事あるかも」
ステ「貴女の記憶力で『あるかも』は無いだろう」
イン「ああ! 『かいせんそくど』の話で聞いたんだよ!」
麦野「真骨頂は速度じゃなくて機密性とサイズだけどね」
仕上「その気になればいくらでも悪用できるシステムだからな。
そういうわけで管理を統括理事会から委託されてんのが俺たち『アイテム』ってわけだ」
黒夜「コンプライアンスとバランスとりつつ
実用化まで漕ぎつけんのは大変だったよなぁ…………」トオイメ
麦野「苦労したのは主に私と理后だろうが。電子的な意味で」
ステ(ふむ………………)
絹旗「ちなみに私は臨時でヘルプに入ってるだけで超正社員ではありません」
ステ(やっと復活したか)
理后「きぬはたは自分の夢に専念してくれてもいいのに。
そうすれば託児所じゃなくて、幼稚園とか保育園でも……」
絹旗「む、理后さんらしくもない発言です!
親御さんの超大切なお子さんを預かる仕事に優劣なんてありません!」
黒夜「ヒュー。言うじゃねぇの最愛ちゃん」
イン「かっこいいよ、さいあい!」
絹旗「ちょっと、茶化さないでくださいよ!」ウガー!
理后「……うん、きぬはたの言うとおりだね。ごめんね?」
絹旗「あ、わ、私こそ偉そうなことを……」
真理「んー…………まま…………」
絹旗「あ……」
麦野「ほら、出番じゃない絹旗?」
絹旗「…………おはようございます、真理ちゃん」
真理「あ、もあいせんせー。おあよう」
絹旗「………………はい、超よくできましたね♪」
ステ「今度はちゃんと耐えたじゃないか」
仕上「子供のする事にいちいち腹を立ててちゃ育児なんてできねぇよ」
理后「もうお昼の時間だね。何か作ろっか」
黒夜「手伝うよ理后さん。アンタらも食ってく?」
イン「いいの!?」パァ
ステ「僕らはあまり料理が出来ないから助かるが……」
理后「子供の食べる物はちゃんとわかってる人に任せた方がいいよ」
ステ「…………お見通しか。参ったね」
イン「みことにも、お隣に聞きなさいって言われちゃったしね……」
麦野「インデックス、あんたはコイツに料理作らないの?」
イン「…………えええええ!?」
仕上「なんだこのリアクション」
イン「わ、私が料理…………?」
黒夜「なんだその『考えた事もありませんでした』ってツラはよ」
ステ「正直、僕も想像だにした事がない」
イン「…………!」カチン
ステ「なぜ怒る!?」
イン「いィんだよ、私に料理が出来ないと思ってるンなら、まずはそのふざけた――」
ステ「ストップ! やめろ! 貴女がその先を言ってしまうのは色々マズイ!!」
麦野「私ら日常的に使ってるわよね?」
黒夜「挨拶代わりに[ピーーー]とか[ピーーー]とか、あと[ピーーー]」
仕上「子供の教育に悪いので遠慮してくださいませんかね!?」
イン「とにかく! ステイルをなンとしても見返してやるンだよォ!!」
ステ(そもそも完全記憶があれば楽勝だろう…………)
理后「じゃあ台所に行こう」
黒夜「最愛ちゃん、しっかり面倒見てろよぉ」ケラケラ
スタスタ ヒョコヒョコ ガシャガシャ
ステ(…………ガシャガシャ?)
絹旗「海鳥に言われるまでもないですー」ベー
真理「できたよ、せんせー!」
ステ「へえ、積み木遊びでも……」
デデンデンデデン デデンデンデデン
シュ「I’m back」
絹旗「わー、上手に超シュワちゃんが作れましたねー♪」
ステ「なんでだあああああああぁぁぁ!!!!!」
ステ「なんだこれ、流行ってるのか!?
どんなスカイ○ットが現代に介入したらこうなるんだ!」
仕上「最近学園都市で育児ロボとして売れまくってんだよ。まあアレはちゃちいオモチャだけどな」
ステ「育児するのアレ!? コ○ンドーでも量産する気なのか!
っていうか玩具にしては作りこみが精巧すぎるだろうがぁぁーー!」
麦野「クソッたれのDM社製品ってあたりがまた胸糞悪いのよね」
ステ「それ以前の問題だろ完全にぃぃぃぃ!!」
仕上(悲しい宿命背負ってんなコイツも……)ホロリ
ステ「…………ハァ………………ゲホ……すまないが、一服させてくれ」スッ
仕上「あ、俺も」
絹旗「だったらベランダ行ってくださいね、超ヤニ臭いオヤジども」シッシッ
麦野「そのまま戻ってこなくてもいいわよー」フリフリ
ステ「…………まあ、当たり前か。あと僕はオヤジじゃない」ズーン
仕上「…………行こうぜ、同志」ズーン
キッチン
イン「何を作るの?」
理后「大人数だから、一度に作れるもの……パスタにでもしようか」
黒夜「それでアンタさぁ、ホントに料理したことねぇの? いっぺんも?」
イン「とうまとみことがお付き合いし始めた記念に、一回だけ……」
理后「…………えっと、何作ったの?」
黒夜(やっべ空気重い)
イン「…………食パントーストして、上に目玉焼き乗っけたの」
黒夜「………………………え、それだけ? ってアイタぁぁっ!!」ゴツン!
理后「かみじょうとみことは、喜んでた?」グーデナグッタ
イン「う、うん! 特にとうまは泣いて嬉しがってくれたかも!」
黒夜(私でも涙出そうだな、そのシチュエーション。いろんな意味で)
理后「よかったね、いんでっくす」
イン「……うん!」
黒夜「これ、イイ話なのか?」
理后「じゃあ、いんでっくすはすているの好物を作ってみよう?」
黒夜「理后さんの台詞読みづらいてぇぇぇ!!」ガツン
イン「(肝っ玉母さんなんだよ)えっと、ステイルの好物…………タバコ?」
理后「…………」
黒夜「……いや、世界中探せばそういう料理もあるかもしれねぇけど」
理后「とりあえず、普通の食べ物でお願いします」
イン「何で敬語!? だ、だってステイルが
食べ物の好き嫌い言ってるところなんて見た事無いのです!」
理后「似た者夫婦?」
黒夜「いや、女の前でカッコつけてるだけじゃね?」
イン「好き勝手言わないで欲しいかも!」
黒夜「でも現実問題さぁ、好物も把握してなくて喜ばせられると思うか?」
イン「…………」
理后「……いんでっくすは、すているに喜んで欲しい。それは、間違いないんだよね?」
イン「……………………ん」
黒夜「ちっ、煮え切らねぇでやんの」
理后「くろよる」
黒夜「事実だろ、コレは」プイ
理后「…………ねぇ、いんでっくす?」
イン「……なぁに?」
「誰かの事を想う時は、その人の顔だけ、思い浮かべてみよう?」
「……!」
「私はね、しあげの困ったみたいな笑い顔が好き。
りとくを見て、デレデレしてる顔が好き。
きぬはたとくろよるに、お兄ちゃんみたいに接してる顔が好き。
むぎのと、それに他の友達と喧嘩してじゃれ合ってる顔が好き。
――私に、あいしてるって言ってくれる顔が好き」
「いんでっくすは、あの人のどんな顔を知ってる?
――――どんな顔が、好き?」
「…………すているは」
「うん」
「コーンの入ったスープを見ると、ちょっとだけ嫌そうな顔するの」
「うん」
「たまーに出るステーキにはがっつかないけど、目だけは子供みたいにウキウキしてる」
「うん」
「でもね、私が一番好きな顔は」
「……うん」
「私が、ごちそうさまって言った時なの。――すごく、優しいの」
(ああ、そうだ。私はこの五年間、こんなに――)
「…………ちゃんと見てるじゃんかよ」
(あの人の顔ばかり、追いかけてたんだ)
「……わかったよね。いんでっくす?」
「うん」
インデックスは、ステイル=マグヌスが好きだ。
「ありがとう。りこう、くろよる」
それだけは。
「何か照れんな」
「どういたしまして」
――――それだけは、他にどんな柵があっても変わらない。
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そのステイルと仕上は、世のお父さんよろしく寂しい指定席に佇んでいた。
「ふうぅ………………はぁ」
「喫煙者はいつだって肩身が狭いよなぁ……あ、火ィくれ」
「ああどうぞ」
「サンキュ」
ベランダには暫く、焼けるような吐息だけが漏れる。
「………………君も苦しい生き方を選ぶんだね」
「お前も、人生賢く生きてるようには見えねぇな」
「……それもそうだ」
「俺はお前の事、魔術側のお偉いさんって事ぐらいしかわからねえけどよ。
お前の方はどうやら俺たちの事をよく知ってるんだろ?」
「そうだね。『アイテム』の事ならある程度は」
前統括理事長アレイスター=クロウリーの失踪後、
その手の内に秘められていた禁忌の技術の存在が次々に明らかとなった。
中でもその汎用性の高さから最も流出を危惧されたのが――悪魔の目、滞空回線であった。
臨時で統括理事会を取り仕切った現最高指導者、親船最中は
アレイスターの残したこの『遺産』の存在を公表して注意を呼びかけるべきと判断する。
しかし時すでに遅く、体制の混乱に乗じて侵入した外部の産業スパイによって、
滞空回線の管理システムは東京の巨大コンツェルンの手中に落ちていた。
畢竟、全世界に遍く情報が一つの権能の手中に収められるという危機である。
彼ら『アイテム』は資本という大敵から悪魔の技術を奪還すべく大立ち回りを演じ、
結果として経済界の鼻つまみ者として扱われることとなりながらも――
――見事、世界を揺るがしかねない『目』の存在を公表するに至ったのである。
「君たちは、まさしく未曽有の危機から世界を救った英雄というわけだ。
…………しかし、失ったものも少なくはないだろう?」
ステイルは紫煙を吐き出し青空をけぶらせながら問う。
それに応じるように浜面仕上が一息ついた。
「あらゆる意味で、な。命だけは残ってるがそれも親船の婆さんの援助あってのことだ。
俺の右腕は…………」
突然男は言葉を切り、左手を右手首に添えて思い切り引き抜く。
さすがに面食らったステイルが断面に視線を向けると、無機質な鈍色が覗いた。
「これで驚いてたら麦野や黒夜はもっとさ。まあ、アイツらのはコレとは別件なんだがよ」
「……他の二人は」
「さすがにこんな弄くり回しちゃいねえが、サッパリ綺麗な身体ってワケじゃあない」
何でもないように機械仕掛けの腕を元に戻す。
その口調の軽さが、ステイルにかすかな、そして理由もわからない羨望を生んだ。
「大事な人が傷ついても、堪えられるのか」
「そうじゃねぇ。俺は、そんな聖人君子じゃあない。
守りたいモノ……理后の命や心っていうどうしても譲れねぇもんの為に、
別の何かをなりふり構わず犠牲にする。そういう選択をしたって事だ」
浜面仕上は、決して後悔などしてはいなかった。
その眼に燃ゆる確固たる信念の火を見て、彼は羨望の正体を悟る。
「…………僕にも覚えがある。そして僕はその線引きを間違えた」
――命だけ。命だけでも助かるなら。
「……いや、違うな。どう考えてもあれ以上の選択は、無力な僕には出来なかった」
とき
――次にその胸に刻まれる一年が、少しでも辛くないモノになるように。
「後悔しているとは、思いたくない。ただ、忘れられないんだ」
そうして、『失敗』したあの日。
「あの日、この――――」
続くステイルの言葉を、頭上を通過した航空機の轟音が掻き消した。
悪魔の技術が人の手で清められた今、その言の葉を受け取ったのは間違いなく浜面仕上のみだった。
「……そうか。お前の想いの行き場は、土の下にも空の上にも無いんだな」
「ああ。燃え尽きてしまった」
そして空に再び、一筋たなびく煙がかかる。
「――――もう何処にも、無いんだ」
仕上の視線が一瞬、窓の内側に向く。
しかし彼は、それ以上の事は何もしなかった。
「俺には、その悩みは解決出来そうにないな。心当たりが無いわけじゃねーんだが」
束の間、瞠目する。
「ただ、それは俺の口から言っていい事じゃあない」
「……上条当麻にも、同じ事を言われたよ」
「珍しいな。アイツが説教を中途半端でやめたのか?」
「僕と彼女に関する事だったからかな。そうじゃなければ一発かまされてただろうよ」
いつの間にやら話題の中心は、学園都市が世界に誇るヒーローに移っていた。
「はは、もしかしてお前もやられたクチか」
「そうだとも、忌々しい事にね。……あれが、始まりだったのかもな」
ステイル=マグヌスは『成功者』に初めて会った日の事を追想する。
「俺にとっては、間違いなく人生の分岐点だったぜ」
浜面仕上もまた、八つあたりのように弱者に向けた己の憤りを
粉微塵に打ち砕かれた過去を、笑いながら反芻していた。
そして過去と同時に力強く未来を見据える無能力者の横顔に、ステイルは僅かに目を細めた。
「その延長上に、君の闘いがあったと?」
アンダーライン
「あんなふざけた『 代 物 』にのさばられたら、
俺と理后、裏篤の未来はどうなっちまうんだよ。
…………俺がバカみたいな闘いを始めた理由は、たったそれだけさ」
「羨ましいね。…………見事に成し遂げた君が」
笑みの発する擬音が、ニカ、からニヤリ、に変わる。
「自分は永遠に失敗者です、みたいな湿気たツラぶらさげてんじゃねぇよ。」
辛辣な言葉にそぐわない表情を見てとった神父は舌打ちしながら続きを促す。
人生の先輩はすぅ、と息を吸った。
「俺からお前に言えるのは、やり方を変えるのも一つの手だって事だな。
お前、あの子が大事で大事で仕方が無いんだろ?
でもな、危険から遠ざけるだけじゃあ、いや違うな、遠ざけた結果失うモノだってある。
相手から信頼されるだけじゃない。お前も背中を預ける相手として、信頼してみたらどうだ?」
彼女を、信頼する。
(僕は、彼女を信頼していないのだろうか?)
対魔術師戦においてインデックスの持つ『禁書目録』は、
さながら能力者に対する浜面理后の『能力剥奪』の如き力を発揮する。
事実、ステイルは彼女の実力を知った上で一つの戦場を任せた事もある。
(…………なら、『今』は?)
「…………君の忠言が」
すっかり短くなった煙草を指の間で塵に変え、呟く。
「僕の悩みをすっかり解決してくれた訳じゃあないが。
…………一つ、気が楽になったよ。ありがとう、人生の先輩」
「そりゃどうも…………って、お前俺より年下なの!?」
「僕は二十四歳だ! 老け顔に関して君には何も言われたくないな!!」
「どういう意味だオイ!?」
男たちの喧しい声が、閑静なマンションの一角に響いた。
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キッチンとベランダから聞こえる賑やかな声をBGMに、絹旗最愛は温かな命をあやしていた。
その姿を穏やかな笑みを浮かべた麦野沈利が椅子に腰かけながら見守る。
やがて幼子はいま握っている玩具に飽きたのか、新たな贄を求めて辺りを見回し始めた。
子守を一段落させた絹旗は、目線はあくまで真理から放さずに、麦野に静かに語りかけた。
「…………麦野、来月は」
「わかってる」
返事は、起伏のない声で即座に戻ってきた。
「私の口から何を言っても無駄かもしれませんが、無理だけはしないように」
「……何で今年は、そんな話するのよ」
麦野が、おどけるように、どこまでも優しく笑った。
絹旗は口元に手を遣り、語るべき素材をゆっくりと咀嚼する。
しかし、なかなか外には出てこない。
「………………言いなさい、絹旗」
いつしか懇願するような色を帯びていた麦野の命令に、彼女は意を決した。
「今年は、あの子が来るかもしれません」
「――――そう」
暫くののちそう絞り出した女の顔色を窺う勇気は、絹旗には無かった。
その代わりに、話を続ける事で凍りつきそうな空気をかき混ぜる。
「裏篤の顔を、一度見てみたいと。そう、話題の端に」
「私の顔は、見たくないってこと?」
瞬間、わけもわからないまま絹旗は窘める声を上げていた。
「麦野……!」
「はは、ゴメン」
しかし麦野は鋭い糾弾を軽く受け流し、窓の外に焦点を合わせる。
ガラス越しに見える二つの影は、そろそろ室内に戻って来そうだった。
「私だけが、どうしようもないモノを抱えてるわけじゃあ、ないんだよね」
ポツリと、微かな声。
そのとき初めて、絹旗は女の表情を目に入れた。
――――麦野沈利の貌は、裁きを待つ咎人のそれだった。
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IN
窒素爆槍(怒った時だけ一方通行) ←New!
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続き
ステイル「最大主教ゥゥーーーッ!!!」【4】