【12月31日 午前9時】
――サッポロ駅 売店
白ドレス「おぉー! バターサンド、メロンゼリー、ルイズの生チョコにじゃがホ○ックル……」キラキラ
白ドレス「さすがはホッカイドーはデッカイドー! どれもおいしそうだなぁ~!!」ルンルン
店員「あはは。どれにしますか?」
白ドレス「んー、迷うけど……。やっぱり、定番の白い愛人を20箱!」ビシッ
白ドレス「白い愛人っていいよね。響きがアダルティー、ってカンジで。あと何より白いし」
店員「白い愛人を20箱ですね。11520円になります」ジャコジャコジャコ チーン
白ドレス「はい、20000円ですね。……。……あ、あれ?」ゴソゴソ
元スレ
テロリスト「「「この列車は俺たちがハイジャックした!!!」」」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1514019635/
2 : ◆9xXTDlz//k - 2017/12/23 18:02:42.56 zTNaStQMo 2/602
・全部で600レスほどの予定です
・九日間に分けて更新します
・感想、質問等々、大歓迎です
※この作品はフィクションです。実在の人物や団体等とは関係ありません
白ドレス「お、お金が……。あんまりない……!!」ガーン
白ドレス「どどどどうしよう。あ、あるにはあるけど、いま使ったら車内販売で飲み食い出来ないよ……」
白ドレス「こ。困ったなぁ……」
紳士「おや。お会計でお困りですか? 少ないですが、私の分をお使いください」サッ
白ドレス「……! えっ、お、お金出してくれるんですか!?」パァッ
紳士「ええ。その白い愛人の数、ご友人に差し上げるのですかな? ご友人思いですな、お嬢さん」
白ドレス「お嬢さんだなんて、しかも良い声で、まったまたぁ~。……むふふぅ。事実だけどお」テレテレ
店員「ありがとうございましたー」
紳士「ふぅ……。無事に買えて良かった。良いところで会いましたな」コッ コッ
白ドレス「ナイスな紳士さん、ありがとうございました! ええ、本当に良いタイミングで会って……」コッ コッ
白ドレス「……!」
紳士「……ええ。本当に、良いタイミングで会った」
紳士「―――動くな。妙なマネをすれば、即刻撃つ」
白ドレス「わぁーお……。ひゅう。この往来の多い駅で、よくそんなダイタンなコトするねえ」チラッ
紳士「前を見て歩け。心配せずとも、拳銃は布で隠している。不自然な動きをするな」
白ドレス「そっか、拳銃か。でも拳銃なら、運が悪いと一発じゃ死なないかもね」コッ コッ
紳士「……チッ」
白ドレス「タダより高いモノはない、ってコトですかあ。私も用心しなきゃな~」
紳士「……普通のオトナならあの場面は、気持ちだけ受け取っておきます、と言うべきところだ」
紳士「楽園暮らしが裏目に出たな。特級指名手配犯00046号」
白ドレス「……ふっふっふっ。そこまで知ってるんだ。笑えてきちゃうなあ」
白ドレス「ってコトは、アレか、君。いつも私を追っかけ回してるコネコちゃん?」
紳士「その通りです。閣下の記憶に刻んでいただけているとは、恐悦至極」
白ドレス「あっはっはぁ~。そっかぁ。どーりで聞き覚えのある声してると思った」
紳士「……本当に?」
白ドレス「うっそでーす。一ミリも疑ってませんでしたぁ」
紳士「正直でよろしい」
白ドレス「ふふ。君たちにウソなんかついたら、私たちの品位がガタ落ちするモンでね」
白ドレス「……それで? 今日は何の用?」
白ドレス「知っての通り、お金は無いよ? それに、このあと予定があるんだよねえ」
紳士「……“サッポロ発、オーサカ行き”」
白ドレス「!」
紳士「本州縦断特急。『ドライ・ブラー号』に乗車する、という予定ですか?」
白ドレス「……うわぁ~、なんでそこまで知ってるのぉ。ぞくぞくしてきたあ。なに君、ストーカー?」
紳士「仕事柄ですよ。他にもお教えしましょうか? たとえば、今日の貴女の朝ゴハンは、白身の……」
白ドレス「わーっ! いい。言わなくていい。プライバシー侵害、ダメ、ゼッタイ!」ブンブン
紳士「貴女にこの国の人権が適用されるのでしょうか? まあ、ともかくですね……」
紳士「貴女は一時間後にこの駅から出発する、本州縦断特急『ドライ・ブラー号』に乗車する」
紳士「マチガイありませんね?」
白ドレス「マチガイありませーん。ひゅーう、尋問も気合い入ってるぅー。なんなら乗車券も見せようか?」
紳士「それには及びません。それと、乗車の理由も当てましょう。……ズバリ、“見世物”の見物だ」
白ドレス「うえー。本当に何でも知ってるんだねー。胃がムカムカしてきた」
紳士「しかし、その“見世物”とは……。ひどく恐ろしく、そして熱い……」
白ドレス「そうだね。やっぱ年末年始はエンジョイしたいからさ、どっかに旅行しようと思ったんだけど」
白ドレス「今日この日なら、世界中で、ココで起きる事件が一番面白いと思ったんだ」
白ドレス「―――『ドライ・ブラー号乗っ取り爆発大炎上事件』」
白ドレス「……ね? ワクワクするでしょ?」
紳士「……なんですか、そのトンチキな名前は。事件のプロファイルに見覚えはありませんが」
白ドレス「だって私が今考えたんだもん」
紳士「そうですか、良かったですね」
白ドレス「とにかく、今日。ドライ・ブラー号が、乗っ取られ、爆発、大炎上する」
白ドレス「それはマチガイないのでしょう?」
紳士「ええ。正確には、今日の夕刻から、明日の未明にかけて、ですが」
白ドレス「……で? そんなコト私に聞いて、どうするの? さらに詳しい身辺調査?」
紳士「その列車に、私たちも乗車します。実は私のバイクも今、搬入中です」
白ドレス「ほー。なんで?」
紳士「ある指名手配犯の標的と、ある白いモノが大好きな指名手配犯の女が乗るモノで」
白ドレス「うへぇー。それって片方、私のコトでしょう」
紳士「ご明察。白いモノが好きだという自覚は、あるんですね」
白ドレス「そりゃモチロン! 空前絶後のォ、超絶怒涛の真っ白さ! 純白を愛し、純白に愛された女!」
白ドレス「それが……。私」キラッ
紳士「まぶしい。歯も真っ白いのか……」
紳士「……そして。列車に乗って、事件という見世物を見て。最後に、どうするおつもりですか?」
白ドレス「ん? 私、バッドエンドは嫌なんだよねぇ~」
白ドレス「そんなさ、たくさんのヒトが死ぬ! みたいなさ」
白ドレス「虫唾が走る、っていうか。気に入らない」
紳士「なるほど……。それを聞いて、安心しました」チャッ
白ドレス「おぅ?」
白ドレス「銃、下げちゃっていいの? 私、逃げるよ? ぴょーんと逃げちゃうよ?」
紳士「どうぞ、ご自由に。ここで貴女を逃がしたとしても、列車で再び出会う。確実に」
紳士「……それよりも。取引をしませんか?」
白ドレス「……取引? マネーがトレードでウィンウィンなアレ?」
紳士「ええ。貴女にとっても悪いハナシではないと思いますよ」ニコ
白ドレス「わっるいカオだあ。さっき騙されたばっかりなんだよねえ。信用できないなあ」
紳士「そう言わずに。すぐにヒトを信用する貴女の純粋さは美徳ですよ」
白ドレス「は、恥ずかしくなるようなコト言わないでよ。照れちゃうから」テレテレ
紳士「嫌味ですよ……。私が提供する報酬は、今回、貴女の身柄を見逃すコトです」
白ドレス「ほー。任務の片方を投げ出すとは、大きく出たね。そんなにもう片方の標的がダイジ?」
紳士「貴女なら今回逃がしても、いつでも捕まえられると思いまして」
白ドレス「侮辱ぅ!」
紳士「しかし、貴女は安心して列車の旅ができる。私たちは頼み事を聞いてもらえる」
紳士「良いコトづくめだと思いませんか?」
白ドレス「まあね。双方にとってプラスってやつだね。それで、そっちの頼み事ってのは?」
紳士「……私たちが提示する条件は二つ。一つは、私たちの任務を妨害しないコト」
白ドレス「もう片方の、指名手配犯の標的を捕まえるのをジャマするな、ってコト?」
紳士「そういうコトです。貴女の横やりには、今まで散々頭を痛めさせられてきたので」
白ドレス「むふふぅ。照れちゃうな~」
紳士「ほめてません。そして、もう一つの条件は……。そうですね、貴女風に言うのであれば……」
紳士「バッドエンドを回避するコト」
白ドレス「……!」
白ドレス「ふーん。それ、私がさっき言った目的まんまじゃん」
白ドレス「何考えてるの? 君」
紳士「さあ。何を考えているのでしょうね」
白ドレス「ポーカーフェイスだねぇ。人生楽しい?」
紳士「貴女に私の人生をとやかく言われる筋合いはありません。ほっといてください」
紳士「もっとも、貴女に比べれば、たいていの人間の人生はつまらないモノでしょうが」
紳士「……私たちの要求は以上です。呑んでいただけますか?」
白ドレス「うーん。まあ、条件に異存は無いんだけどぉ」
白ドレス「ちょいとセコくない? ゼニガタのとっつぁんが、ルパンに振り込む報酬にしてはさぁ」
紳士「なるほど。では、そういうコトを言うのであれば――――」
紳士「先ほど私が支払った11520円。返していただけますか?」ニコ
白ドレス「うぐ!!」
白ドレス「き、汚い奴だ。か、金で私を買うなんて。呪ってやる、末代まで呪ってやる……!」
紳士「それほぼ永遠ですよね。さて、どうですか? もうすぐ列車の出発の時間ですが」
白ドレス「……くっ! べー、だぁ! 覚えてろ!!」ダッ タッタッタ…
紳士「……行ったか。すごく、疲れた……」
紳士「……一年を川に例えて、一番厳しい所を皆で乗り越えるから年の瀬、だっけ?」シュボ チリチリ…
紳士「私も、お正月くらいは実家に帰ろうかなあ」フゥー
【12月31日 午後4時】
――6号車【食堂車】
車掌「失礼します、お客様……。午後4時になりましたので、ティータイムは終了とさせていただきます」
乗客「ん? ああ、もうそんな時間か。悪いね、車掌さん。これ、お会計だ」ガタッ
車掌「ありがとうございます。引き続き、年をまたぐ特別な列車の旅、ごゆるりとお楽しみください」
ウェイター「車掌さーん、食堂車の掃除終わったぜぇー。ああ、疲れた」
ウェイトレス「食器洗浄も、完了。日も暮れるし、休憩したい」
車掌「お二人とも、ご苦労様でした。そうですね、ではディナータイムまで私たちも乗務員室にいましょうか」
――1号車【展望車・前】 運転室
副運転士「サッポロ発、オーサカ行き」
副運転士「本州縦断特急―――『ドライ・ブラー号』!」グルッ
副運転士「この豪華旅客列車は今、今年最後にして来年最初の運行と題して」クルクル
副運転士「年の変わり目をまたぐ、スペシャルでゴージャスな列車の旅をしている!」バッ
運転士長「おいおい」
副運転士「今日の朝10時にサッポロを出発したこの列車は、22時間のあいだ運行し」ルンルン
副運転士「明日の朝8時にオーサカへ到着する予定……」タッタッ
副運転士「つまり、列車の中でハッピーニューイヤーってワケですね!!」ビシッ
運転士長「はっはっは。上機嫌そうだな」
副運転士「そりゃそうですよ! この歴史あるドライ・ブラー号が行う、今年最後の運行は……」
副運転士「まさしく、登場してからこれまでのドライ・ブラー号の集大成!」
副運転士「そして、この年の集大成は、次の年のドライ・ブラー号の第一歩でもある……」
副運転士「こんな歴史的瞬間に立ち会えるというのに、なぜ興奮せずにいられるのでしょうか!?」
副運転士「いや、興奮せずにはいられない!」ランラン
運転士長「はっはっは……。まあ、とにかく運転席につきたまえ。仮にも走行中だぞ」
運転士長「たしかに今日の運行に立ち会えるのは名誉なコトかもしれないが、私たちは乗務員だ」
運転士長「乗務員の役目は、乗客の方々に上質な列車の旅を提供すること」
運転士長「私たちがお客様以上に浮かれて、本来の職務をおろそかにしてはいけないよ」
副運転士「むっ……。たしかに。そう、私はこの列車の副運転士なのです」
副運転士「乗客の皆さんに列車の旅を楽しんでもらうコトこそが、副運転士たる私の役目の第一!」
副運転士「今日の乗車券を買った方々は、皆、楽しい年末年始の旅を期待している……。なら!」
副運転士「今までのどの年末年始よりも楽しかったと言ってもらえるような運行にしたいモノです!」
運転士長「ああ、その意気だ」
運転士長「実のところ、私も高揚している」
運転士長「今日と明日の一日は、ドライ・ブラー号にとっても、重要な二日間となるだろう」
運転士長「ドライ・ブラー号の運転を開始から見てきた私としても……」
運転士長「今日の運行を無事に終え、新たなる歩みの初めとしたいモノだよ」
副運転士「へ? 士長、この列車のコト、完成した時から知ってるんですか?」
運転士長「ああ。こう見えて、幼い頃から列車というモノが好きでね」
運転士長「初めて運転室の席に座ったのも、このドライ・ブラー号だったんだよ」
副運転士「へーえ……。ドライ・ブラー号と共に生き、ドライ・ブラー号と同じ景色を見てきた、生き証人!」
副運転士「なんだかドラマティックでロマンティックですねえ!!」
運転士長「はっはっは……。だが、そんな美談ではないよ」
運転士長「ドライ・ブラー号の歴史は、すなわち、戦いの歴史でもあった」
副運転士「は? 戦い?」
運転士長「ああ。……たとえば、このフロントガラスの窓枠。ところどころ丸い穴が開いているだろう?」
運転士長「これは運転室で銃撃戦があった時の弾痕だ」
副運転士「えぇ!?」
運転士長「また天井には、黒いシミや、刀傷が大量についているが……」
運転士長「これは戦いで傷みすぎてダメになった床板を天井に張り替えている。戦いを忘れないために」
副運転士「……あっはっは、またまたぁ~! 士長はジョーダンが上手いですねえ!」
運転士長「いや、実際にあった出来事で……」
副運転士「ぷぷー! この平和な日本で、そんなコトあるワケないでしょう」
運転士長「……他にも、謎の赤い自爆スイッチなどもあるが。まあ、平和であるに、越したことはないがね」
運転士長「とにかく、長かった一年も、今日が最後だ」
運転士長「今年最後の運行も、何事もなく終わる、いつも通りの運行にしたいモノだな」
副運転士「そうですね! まあ、今年一年何も無かったし、今日も何も無いと思いますケド」ギシッ
運転士長「いや、油断はキンモツだ。事件は忘れた頃にやってくる」
運転士長「それが、このドライ・ブラー号だ……」
副運転士「またまた。おどかして~」
副運転士「ああ、夕焼けがキレイだなぁ……。トワイライト、っていうんですか?」
副運転士「まるでドライ・ブラー号の晴れ舞台を祝福しているかのようです!」
副運転士「こんなにも日の入りが幻想的で美しい大晦日に、何かが起こるハズが――――」
バンッ
白ドレス「起こるんだなぁそれが!!!」
副運転士「どぅっ、えっ!? わったっ、たったったぁぁああ!!」ガタタッ ドシン!!!
運転士長「……!」ガタッ
白ドレス「そこな乳臭いガール、知ってるかな? 薄暮とはつまりタソガレ、オーマガドキ!」
白ドレス「彼は誰だ、ニンゲンか? と書いて誰彼。魔に逢うと書いて逢魔時」
白ドレス「昼と夜のキョーカイがアイマイになる時間にこそ、ヤバいのはいっぱい出る!」
白ドレス「そうっ! 私のように!!」ビシッ
副運転士「わ、私のようにって、何イバってんですか! あ、痛た……」
副運転士「それに乳臭いガールってなんですか! み、見た目同じくらいに見えますけど歳!?」
白ドレス「木を見て森を見ず、井の中の蛙大海を知らず。知性足りてないよ、ガール」
副運転士「はああああッ!? さっきからガール、ガールって何なんですか、ムキー!!」
運転士長「怒る所そこかね、君……」
運転士長「……ここは関係者以外は立ち入り禁止だ。ましてや列車の中枢を司る運転室」
運転士長「何人であれ外部の者の侵入は許されない。お引き取り、願おうか」
白ドレス「おや? 私も乗客ですよ、眼帯のクミチョーさん。そんなにゾンザイに扱ってもいいのかな?」
運転士長「士長だ。……礼儀なき乗客に、向ける敬意などあるまいよ」
白ドレス「すごい。カタブツだ。私好きだよ、そういうの。ラストサムライ、ってカンジで」コッ コッ
白ドレス「うん。良いヒトたちだね、アナタたち。合格です。それじゃあ、簡潔に伝えましょうか」カタッ
運転士長「……? いったい、何を……」
白ドレス「―――今日この日、何らかの理由により、この列車は爆発する」
副運転士「は?」
運転士長「……!」
白ドレス「うーん、もうちょっと詳細に言おうか?」
白ドレス「今日この日、このドライ・ブラー号は、乗っ取られ、爆発、大炎上する」バッ
白ドレス「ああ、いや……。正確には、今日の夕刻から、明日の未明にかけて、だっけ」
副運転士「全然詳細じゃァありませんけどッ!!?」
白ドレス「なるほど! たしかに信じられないかもしれない! 事実、私の言っているコトは荒唐無稽だ!」
白ドレス「だけど……。それがこの列車の運命というモノ、です」
白ドレス「南無三!!」パチン
副運転士「……。な、なんなんですかこのヒト……」
運転士長「わからん……。アヤしいモノでも服薬しているのかもしれんな」
白ドレス「あーッ! いま私のコト、ヤク中扱いしたでしょ!? 迂遠に言ってもわかるんだから!」
白ドレス「最近の若い奴ってのはさぁ、ワケわかんないコトがあるとすぐ解決を科学に頼るよね!」
白ドレス「そういうのいけないと思うよ! たまにはオカルトを信じて、諦めるのもダイジ!」
副運転士「うわぁ……。なんか若者批判はじめましたよ。私と同年代のクセして」
副運転士「しかもオカルトマニアですよ。ワタシ霊感があるのー、とか言っちゃうやつですよ」
運転士長「うむ……。他の乗客の不安をいたずらに煽ってもいけない。留置室に放り込むか」
白ドレス「え? この列車、留置室とかあるの? 何それ鉄格子? こわ!!」
運転士長「さあ、ご同行願えるか」ズイッ
白ドレス「や! イヤだよ! せっかく楽しい旅を期待して乗車券買ったのに――――」バッ
副運転士「……!」
白ドレス「なんでブタバコにぶち込まれなきゃいけないかなあ!」
運転士長「そうは言ってもだなあ……。ヘンなウワサされるのもイヤというか……」
副運転士「―――待ってください。士長」
運転士長「どうした?」
副運転士「私。……この人のコト、少しは信じようと思います。爆発というのは、いつ起きるんですか?」
運転士長「……正気か?」
白ドレス「おお、感心感心。最近の若いのも、捨てたモンじゃないね。でも――――」
ドゴォォォン…!!!
副運転士「うわっ……!?」グラッ
白ドレス「……もー、はじまっている」
――8号車【ロビー】 屋根の上
…バラララララ
昼と夜が混じり合う、この薄暮の時間。世界を侵食せんとする宵の色にまぎれて、
迷彩に姿を隠した一機のヘリコプターが、ドライ・ブラー号の上空に迫っていた。
パイロット「目標地点、到着。すぐに降下しますか?」
キノコ頭「ああ、今すぐ飛び降りる。……お前たち、準備は良いか?」
テロリストA&B「「準備オーケーです!!」」
テロリストC&D「「いつでも行けます!!」」
キノコ頭「……よし。それでは、作戦を開始する」
パイロット「我らが悲願、作戦の成功を祈る。グッドラック」
キノコ頭「―――ああ、必ずや我らに勝利を。グッドラック」
バッ!!!
スタッ スタッ スタッ スタッ スタッ
キノコ頭「……全員いるな?」
テロリストA「はい、間違いなく」
キノコ頭「……武器、爆薬は?」
テロリストC「ここに、ありったけ! さっそく脅迫用の爆弾も設置しました!」
キノコ頭「問題ない」
バラララララ…
キノコ頭「……行ったか」
キノコ頭「……もう一度確認しよう」
キノコ頭「今から我々は、この本州縦断特急『ドライ・ブラー号』を襲撃する」
キノコ頭「なぜなら。“最強の兵器”を開発したという、若き天才科学者、通称“教授”が――――」
キノコ頭「今日、この列車に乗るという情報を手にしたためだ」
キノコ頭「…………」
キノコ頭「……このミッションから、降りるなら今のうちだ」
テロリストB「!」
キノコ頭「……先の戦争に、我々は敗北した」
キノコ頭「我々は敗北し、多くの同志を失った」
キノコ頭「もし同志たちがこの場にいたならば……。我々の短絡的な行いを止めるかもしれない」
キノコ頭「我々は戦争に敗北した。その事実を、甘んじて、粛々と受け入れるべきだと」
キノコ頭「……、……」
テロリストD「……もとより承知の上です」
キノコ頭「!」
テロリストA「……俺たちは、そんなコトはすべて呑み込んだうえで、今ここにいます」
テロリストB「俺は、敗北は認めますが……。だが、それでも奴らの行いを許せない」
テロリストC「我ら戦争の生き残り、それぞれ動機は違えど、目的は同じです」
テロリストD「一蓮托生ってやつですよ。まったく、今さら、リーダーらしくもない」
キノコ頭「……。お前たち……」
キノコ頭「ああ、ならば行こう。もはや迷いはない」
キノコ頭「俺たちは、この一日で歴史を変える。敗北を覆す。悲願を現のモノに」
キノコ頭「―――教授の持つ、“最強の兵器”を、この手にして」
――7号車【ラウンジ】
教授「“最強の兵器”、ねぇ……」ブラブラ
執事「あっ、そういえば。結局完成したんですか? 例の、“最強の兵器(仮)”とやら」
教授「ううん。一文字の、仕様書案すらも書いてない」
執事「まじですか」
執事「……どうするんですか? 明日オーサカについたら、昼には“最強の兵器(仮)”の発表会ですよ?」
執事「やばくないですか?」
教授「うん、やばい。8月31日なのに夏休みの宿題に何も手つけてないくらいやばい」
執事「はあ。そりゃまた、古典的な例えで。でも、今年の夏もたしかそんな……」
執事「…………」
執事「……まさか」
教授「そう、やばい。実は、リアル高校の冬休みの宿題も何も手つけてない」
執事「うわ。終わってる、この人」
教授「大丈夫! まだ私、若いし、未来があるから」
執事「いま科学者としての貴女が社会的に死にますよ……」
教授「勉強と仕事の両立って、むずかしいよね……」
執事「ハナシを逸らさないでください」
執事「まったく。俺も手伝いますから、列車がオーサカにつくまでに終わらせましょう」
教授「おっ、わっかるぅー。じゃあ、こっちの数学の宿題お願い」ドサッ
執事「やれやれ。……って、“最強の兵器(仮)”のほうじゃないんですか!?」
教授「いやあ。私の担任の、数学教師、コワくってさぁ……」
教授「あのマッチョに怒鳴られるくらいなら、記者会見で叩かれたほうがマシっていうか……」
執事「くっそ神経の図太いお嬢様をビビらせるほどの方ですか。一度会ってみたいモノです」
執事「……で、“最強の兵器(仮)”のほうは? どうなさるんですか?」
教授「そっちはね、努力じゃなくて、ヒラメキだから……。あ、そこのき○この山、取って」
弓使い「……ねぇ、剣ちゃん、オーサカにはまだ着かないの~?」
剣使い「あ? あと16時間くらいだな……」
弓使い「長! 列車の旅、長!! やっぱ飛行機のほうが良かったんじゃないのぉ~?」
剣使い「姐さん……。なら、一つ訊かせてもらうが」
弓使い「おう。おねーさんに何でも訊いていいんだぜ」ドンッ
剣使い「ポストに入ってた招待状見つけて、オーサカ行きたいー、って言ったのは誰だった?」
弓使い「ギクゥ!!」
銃使い「…………」ガシュガシュ
弓使い「そ、それはぁ~。一時の、気の迷いっていうか~……」
剣使い「やっぱ時代は山だよね、とか、山の風景がどうたら言ってた姐さんはどこ行ったんだ?」
弓使い「死にました。山でお腹は膨れません」
弓使い「やっぱ時代は食だよね。たこ焼き、お好み焼き……。さすがはオーサカ、食の都」
剣使い「オーサカ着いてから、やっぱ時代は海だよねとか言ってオキナワに行かないコトを祈る」
弓使い「そうだなあ、オキナワもいいよね」
剣使い「しかし、列車に乗ってると腕がナマるのも事実だな……。どこかに、模擬戦闘室はないものか」
剣使い「なあジュー、お前付き合わないか?」
銃使い「…………」ガシュガシュ
剣使い「……まーた食ってんのか?」
銃使い「うん」
剣使い「うまいか? それ」
銃使い「隊長も食べる? おいしいよ」
銃使い「たけ○この里」
剣使い「…………」
剣使い「いや、いいや。俺、甘いの苦手だしな」
弓使い「あ、じゃあ私は一個もらおーっと」
銃使い「はい。あーん」
弓使い「あーん。むふふ、銃ちゃんかっわい~♪」ナデナデ
銃使い「…………」ポフポフ
コロコロ…
剣使い「ん?」
教授「あー、き○この山、一個落としたー」ボリボリ
執事「何やってんですか、もー。ええと、たしかこのへんに……」ボリボリ
教授「き○この山食べながら喋ると汚いよ」ボリボリ
執事「お嬢様に言われたくはありません!!」ボリボリ
剣使い「おい……。もしかして探してるのは、コレか?」
キラーン
教授「ああ、それそれ! 見つかって良かった、ありがとうお兄さん」
教授「でも落としちゃったから、もういいや。お兄さんにあげる」
剣使い「え……。いや、一度床に落としたモノをヒトに勧めるのは、俺でもどうかと思うぞ……」
執事「お嬢様。そういう少しの油断が、週刊誌に隙を与えるのですよ。謝って下さい。私からもすいません」
教授「そうだね。ごめんなさい」
剣使い「なんかセツジツな理由だな……」
剣使い「しかし、じゃあコレどうしようか……。食べてもいいが、俺、甘いの苦手だしな……」
銃使い「じゃあ食べる」パク
執事「あ」
銃使い「おいしい」ボリボリ
教授「え。ちょっと、食べて良かったの……?」
銃使い「うん」ゴクン
執事「そうですよ。この発明オタクで鈍感な頭ネバーランドのお嬢様のき○この山を……」
教授「ごめん今日ちょっと言い過ぎじゃない?」
弓使い「あ、き○この山食べてるの? いいなー」
執事「おや。良かったら、き○この山食べますか?」
弓使い「え? いいの!? うれしーなー!」
銃使い「うん。じゃあ、こっちはたけ○この里を」
教授「うーん。なんか、ヒラメキそうなヨカン……。ヤカン……。ガッチャン?」
剣使い「お。なんだか難しそうな勉強してるな」
執事「そうなんですよ。ホント、最近の数学って難しくって……」ガシュガシュ
弓使い「よし、おねーさんが勉強を見てあげよう。どれ……。ごめん、無理」ボリボリ
銃使い「とりあえず代入だよ」ボリボリ
教授「私が手伝えればいいんだけどね~」ガシュガシュ
――8号車【ロビー】
スタッ スタッ スタッ スタッ スタッ
革ジャン「……ん?」
黒コート「……? どうかしたか?」
革ジャン「いや。今、なんか……」
革ジャン「ケータイの電波調子悪くね?」ブンブン
黒コート「本当だ。電波強度が弱になってる」
革ジャン「俺のもアンテナ一本しか立ってねえな」ブンブン
黒コート「アンテナ……? ともかく、トンネルにでも入ったか?」
ゴトン ゴトン
黒コート「……入ってないな」
革ジャン「く、くそ。ガキ使の前番組の総集編観てたのに、いいところで切れやがって……!」
革ジャン「ゆるせん! 俺の職務権限で、この列車、回線の速い電波に付け替えさせてやる!!」ガタッ
黒コート「お前にそんな職務権限ないぞー。ほら、ガキ使ならロビーのテレビでも観れるだろ」
黒コート「スミマセン、お姉さんー! テレビのチャンネル、ガキ使にしてもらってもいいですかー?」
フロント「テレビのチャンネルですか? ええと……」
フロント「すいません、そこのお客様、テレビのチャンネルを変えても構わないでしょうか?」
魔族A「えっ!?」
族長「……ああ、構わない」
フロント「では、失礼して……」ピッ
テレビ「デデーン マツモトー アウトー」
フロント「これでよろしかったでしょうかー?」
黒コート「あ、ありがとうございますー。……ほら、これで良かったか? 革ジャン野郎」
革ジャン「いや、ガキ使は、もういい……」
革ジャン「それよりも電波が悪くなった原因がわからなくてモヤモヤする……!」ガシガシ
黒コート「おいおい」
革ジャン「よし、俺は窓から屋根の上に登って原因を調べる! ココは任せたぜ、センパイ!」ガタガタ
黒コート「は? 屋根の上? なんで!?」ガタッ
革ジャン「バカと煙は高いトコと決まってる! 犯人がいるなら、マチガイなく上だ!」ガラッ
革ジャン「よいしょっとー!!」ヨジヨジヨジヨジ
黒コート「…………」
黒コート「はっ、まったくその通りだな……」ドサッ
黒コート「ココは任されちゃったよ、ったく」
黒コート「それにしても、全然それらしい奴が通らないな……」
黒コート「まあ、バカ正直に仮面なんていつも被ってるワケないか。何か他の方法考えないと……」
族長「手始めに、隣の車両の者たちに訊いてみる。行くぞ」ガタッ
魔族D「行動の精神、マジリスペクトっす!」
黒コート「あの乗客とか、体青いし、めっちゃアヤシイけど」
黒コート「体青いなんて特徴聞いてないし」チラ
黒コート「……っくっく、ガキ使ってなんで昔からこんな面白いんだろうな」
族長「…………」
族長「……夜か」ギン
魔族A「ええ! 体に、魔力があふれてきます……!」
魔族B「あと一刻もすれば、万全の状態になるかと!」
族長「ふむ……。昼間の人間界では魔力が生成できない、というのは本当か……」
族長「だが、それでこそ。不利な条件でこそ、我らがニンゲンに勝ると証明できる」
魔族C「族長、シブい……!」
魔族D「不屈の精神、マジリスペクトっす!」
フロント「テレビのチャンネルですか? ええと……」
フロント「すいません、そこのお客様、テレビのチャンネルを変えても構わないでしょうか?」
魔族A「えっ!?」
族長「……ああ、構わない」
魔族B「テ、テレビのチャンネルを変える、だと……!?」ザワッ
魔族C「テレビとは何だ……? よもや、ニンゲンの妖しげな魔術では……」ガタガタ
魔族D「族長……。まったく動じていませんでしたが、テレビをご存知なのですか!?」
族長「わからん」
族長「だが、そこの板を見てみろ」
魔族A「……?」
テレビ「デデーン マツモトー アウトー」
魔族A「……これは?」
族長「板の中で、マッチョが尻を叩かれているだけだ」
族長「我々にとって、さしたる害も無い。ニンゲンの為すコトには意味の無いコトも多い」
族長「ゆえに。ニンゲンの一挙手一投足事あるごとに怯える必要は無い」
魔族A「……た、たしかに……!」
族長「それよりも。我々は、魔力の満ちた今こそ」
族長「この列車に乗った意義を果たす必要がある」
魔族A「はい……。先週、我らはニンゲンどもに召喚され、奴らの戦争に巻き込まれかけました」
魔族B「しかし、ニンゲンどもが我ら魔族に敵うハズもなし。その場で撃退した、それはいいのですが……」
魔族C「奴ら! 我らを召喚しておきながら、我らの信念を侮辱した!!」
族長「ああ。しかし、奴らの信念もまた、ホンモノ……。であれば、最後にモノを語るのは、チカラだ」グッ
魔族D「聞けば我らを召喚したニンゲンの一派、明日の昼にオーサカで何やら発表会を行うとのコト」
魔族D「そして折りしも運行していたのが、オーサカ行きの、この列車! まさしく、僥倖!」
族長「そう。その発表会を我らが潰し、我らの信念を宣言する。それでこそ、恥辱はそそがれる」
族長「しかもこの列車、かつて多くの同胞が狙い、そして返り討ちに遭った……」
族長「超級の魔力塊を搭載し、動力源にして走る火薬庫、『ドライ・ブラー号』だという」
族長「ならば……。手始めに、同胞たちの誰もが為し得なかった、この列車の魔力塊の強奪を果たす」
族長「そして! その魔力塊のチカラを利用し、ニンゲンどもの発表会にて覇を唱える……!」グッ
魔族A「しかし。その、魔力塊を搭載している動力源とやら……。この列車の、いったいどこに?」
族長「わからん。だが、わからなければ、この列車の者に訊けばよい」
族長「手始めに、隣の車両の者たちに訊いてみる。行くぞ」ガタッ
魔族D「行動の精神、マジリスペクトっす!」
――7号車【ラウンジ】 屋根の上
ザッ ザッ ザッ ザッ
テロリストA「……リーダー! ターゲットの教授を発見しました! この真下です!」
テロリストA「コチラに気付いた様子はありません。仕掛けますか?」
キノコ頭「ああ。ならば、今すぐ襲撃する。我らの栄光を、ここから始めるとしよう――――」
革ジャン「―――いや、ここで終わるんだよ」
キノコ頭「……!? 何者だ!」
革ジャン「俺の電波を遮った罪は重いぜ。―――死んで詫びろや」チャッ
――7号車【ラウンジ】
ザッ ザッ ザッ ザッ
教授「……あれ?」
執事「……? どうかしましたか?」
教授「いや。今、なんか……」
教授「ケータイの電波調子悪くない?」ブンブン
弓使い「本当だ。電波強度が弱になってるね」
教授「せっかくゴーグル先生に英語の翻訳訊こうと思ったのに」
執事「あのですね。お嬢様は外国の方と話す機会も多くなるのですから、これから苦労しますよ」
教授「ふーんだ。今の英語でも十分苦労してるもーん」
剣使い「あ、すまねえマスター。ノド渇いてきたから、飲み物が欲しいんだが。コーヒーあるか?」
マスター「ございますよ。他の方々は、いかがですか?」
弓使い「あ、私お酒ほしいな! でもまだ夕方だし、シードルでいいや」
執事「水で」
銃使い「トニック」
教授「……シ、シードル? トニック? あ、私はコーラで……」
――7号車【ラウンジ】~8号車【ロビー】 連結部
族長「さて……。人間界で扉の向こうの者にモノを尋ねる時は、どうするのだったかな」
魔族A「たしかノックを2回するのでは?」
魔族B「それトイレじゃね?」
魔族C「4回が礼儀正しいんだっけ」
魔族D「それ逆にうるさくないか?」
族長「ふむ……。迷うな……。人間界の乗り物では、強く扉を開ける時に何か礼儀があると聞いたが」
魔族A「ああ、そういえば。強く扉を開ける行為は、ハイジャックというらしいですね。知りませんけど」
族長「ハイジャック……。悪くない響きだ。今日はそれでいこう。―――行くぞ!」ガチャッ
62 : ◆9xXTDlz//k - 2017/12/23 18:33:36.62 zTNaStQMo 62/602第一章「薄暮・前」は以上になります。
列車の旅、あこがれます。
第二章は、明日12/24(日)の18時ごろ開始の予定です。
64 : ◆9xXTDlz//k - 2017/12/24 18:00:30.23 U049RaU2o 63/602レスありがとうございます。
それでは、第二章「薄暮・後」を開始します。
60レスほどの予定です。
弓使い「っ!」クルッ
銃使い「―――!」バッ
剣使い「……!」チャキ
執事「…………」スッ
教授「え? 何!?」
ドカドカドカドカ
魔族A「やいやいやい、動くな!」
魔族C「動くんじゃないぞ!!」
族長「…………」ザッ
教授「何、アイツら……? 体が、青い……」
弓使い「……アイツらは魔族だね。この世の裏側、魔界に住む住人。いわゆる悪魔ってやつだ」
執事「魔族!? そんな存在が、実在……」
剣使い「あれは魔族でも青鬼族ってやつだな。……おい、まだ撃つなよ。まだ」
銃使い「…………」
魔族B「へへッ! 族長、奴らビビって動けやしませんぜ!」
魔族D「族長、一発キメゼリフお願いします!!」
族長「……ああ。そうだな」
族長「…………」
族長「―――ニンゲンどもよ。貴様らの長は、誰か」
執事「……お嬢様。お下がりを」ザッ
剣使い「俺……、ってコトでいいぜ。魔族のオッサン。何の用だ?」
族長「我らのコトを知っているか。ならばハナシは早い。我らの問いに、答える用意はあるか?」
剣使い「問い? 降伏するか、ってぇ問いなら……。首をタテには降れねぇなあ」
族長「……そうか。ならばこう言うしかあるまい」スゥゥゥ…
族長「脆弱なるニンゲンどもよ! 魔界の炎に怯え、神妙に聴くが良い!!」ボオオオオッ
族長「この列車は俺たちがハイジャックした!!!」
剣使い「―――ハ、ハイジャックだと!?」
執事「口から炎を!?」
銃使い「……!」バッ
弓使い「皆、逃げるんだ! 部屋が炎にまかれる!」
教授「炎も青いんだ。すごいなあ……」
魔族A「出たーッ! 族長の必殺、青い炎!」
魔族B「この炎にビビらず立ち向かってきた奴はあんまりいないぜ!」
メラメラ メラメラ
族長「今の宣言と、この炎を前にしてなお、臆せぬならば……。その勇者のみ、かかってこい」
――7号車【ラウンジ】 屋根の上
革ジャン「俺の電波を遮った罪は重いぜ。―――死んで詫びろや」チャッ
テロリストB「で、電波だと? 何の話だ!」
テロリストC「死んで詫びろだと? ナメた口を……」
革ジャン「死ね!!」バンバンバン
テロリストD「ぐぁッ!!」
キノコ頭「ぐっ……。拳銃を持っているだと……? 貴様、何者だ!?」
革ジャン「俺かい? 俺は――――」
革ジャン「―――ただのおまわりさんですよってね」
キノコ頭「パトロール!? 俺たちの動きを、どうして知って……」
革ジャン「おっと! パトロールと聞いて弁明しない! それすなわち、悪人ってコトだ」
革ジャン「ならば悔いは無いな? それじゃあ……」
メラメラ メラメラ
革ジャン「……お? あ、熱つッ!!」バタバタ
キノコ頭「なんだ、コレは……? あ、足下が燃えている!?」バッ
キノコ頭「おい、パトロール! お前の仕業か!?」
革ジャン「いや俺知らね」ブンブン
――7号車【ラウンジ】
ドゴォォォン…!!!
剣使い「ば、爆発!?」
族長「何事だ!?」
革ジャン「うわああああッ! 落ちるううううッ!!」ヒュウウウウ
キノコ頭「くそがああああああああ!!!」ヒュウウウウ
ドサッ ドサッ ドサッ ドサッ
教授「空からヒトが!?」
テロリストA「いてて。リーダー、大丈夫ですか!?」
キノコ頭「あ、ああ。なんとか」
キノコ頭「……? ここは……。―――はっ!!」
教授「……?」
テロリストB「……! いました、教授です!」
教授「え、私!?」
キノコ頭「く、この状況だが、やむを得まい……。こら、聞け!!」パァン
キノコ頭「この列車は俺たちがハイジャックした!!!」
弓使い「え!」
執事「またハイジャック犯!?」
キノコ頭「ま、また!? い、一体どういうコトだ!!」
族長「あ……。何やら悪いな。我々が先にこの列車をハイジャックしてしまった」
教授「ハイジャックに後も先もないと思うんだけど」
テロリストA「何やらものすごい場所に来てしまった」
革ジャン「いてて……。何がどうなっていやがる?」
魔族A「人間界ってニギヤカだなあ」
剣使い「ど……、どうすんだこの状況!?」
銃使い「…………?」
――13号車【展望車・後】
ドゴォォォン…!!!
ヒーロー「……。始まったか……」
ヒーロー「午後4時過ぎ、ラウンジカーでの謎の爆発から、この事件は始まる」
ヒーロー「ここまでは歴史通りだ……」
ヒーロー「だが、このままではいけない」
ヒーロー「誰かがこの歴史を変えねばならぬ!!」
ガチャ
車掌「な、なんですか今の爆発は!?」ダッ ダッ
ウェイトレス「誰かがデッカいオナラでもしたんじゃないのー」
ウェイター「爆音くらいで、いちいち騒ぐこたぁないって。それよりオジサン、昼寝の続きがしたいなぁ」
車掌「いや、どう考えても一大事でしょう! もっと危機感持っていただけますか!?」
ヒーロー「ふふふ……。その通り!」
車掌「な!?」
ヒーロー「―――とう!!」バッ
ヒーロー「すたっ」
車掌「な……。なんですか、あなたは!?」
ウェイトレス「全身ポリマースーツの赤色仮面だ」
ウェイター「まごうコトなき変態だな、ありゃ」
ヒーロー「私は変態さんではなァァいッ!!」ビシッ
ヒーロー「そう、私は。言うなれば、そう……。正義の味方! そう、なので、ゆえに……」
ヒーロー「この列車は俺たちがハイジャックした!!!」
車掌「―――は?」
ウェイトレス「いま正義の味方って言ったよね?」
ウェイター「正義の味方ってハイジャックするモンだっけか?」
ヒーロー「ふふふ……」
ヒーロー「私のまさかの発言に、度肝を抜かれているな……」
車掌「なんだかよくわかりませんが……。彼を縛り上げてください」
ウェイトレス&ウェイター「「はーい」」
ヒーロー「……あれ?」
――7号車【ラウンジ】
教授「……状況を整理しよう」
キノコ頭「この列車をハイジャックしようと思ってたら、突然炎にまかれて爆発した」
剣使い「学生のお姉ちゃんの問題解いてたら、突然魔族がやってきて爆発した」
革ジャン「俺の電波を遮った不届き者を撃ったら、突然床が爆発した」
族長「この列車をハイジャックしたら、突然屋根が爆発した」
教授「一度に喋るな!!」
銃使い「…………」ガシュガシュ
キノコ頭「……?」
キノコ頭「待て、チビッコ。お前、何を食っている?」
銃使い「たけ○この里。食べる?」
キノコ頭「……! ……クククッ、そうか」
キノコ頭「……クククッ、クハハハハッ……! 何たる巡り合わせ、何たる因果……!!」
テロリストA「リ、リーダー……? どうかしましたか?」
キノコ頭「おい、お前たち、予定変更だ。最初の標的を変更する」
キノコ頭「まずはコイツを消さねば、俺たちのハイジャックは始まらない」クルッ
キノコ頭「売り上げという名の暴力でき○こ派を追いつめ、俺たちを壊滅に追いやった悪の菓子……」
キノコ頭「たけ○この里を滅ぼさねば、俺たちのハイジャックは始まらないのだ!!」ビシッ
剣使い「……な? んだと……?」
キノコ頭「先週の、き○こたけ○こ戦争は、俺たちき○こ派の敗北に終わった……」
キノコ頭「だがココに、き○こたけ○こ戦争を真に終わらせる、“最強の兵器”があるという!」
キノコ頭「教授からソレを奪うのが、俺たちのハイジャックの目的だ」
教授「……なるほどね。そういうコト」
革ジャン「―――ちょっと待てよ。今のハナシ、聞き捨てならねえな」
キノコ頭「何?」
革ジャン「き○こたけ○こ戦争? とかいうのは初耳だが……」
革ジャン「―――俺はどっちかっていうと、たけ○こ派だ」
キノコ頭「―――何だと?」ピクッ
革ジャン「で、お前ら、き○こ派のうえ、俺のケータイの電波妨害まで行った……」
革ジャン「これはもう、まぎれもない悪だよな?」チャッ
キノコ頭「ほざいたな、政府の犬が……!!」チャッ
族長「―――くだらぬ」
剣使い「……!」
族長「くだらぬ。……実にくだらぬ」
族長「人間界に召喚されてみれば、どいつもこいつも、き○この山、たけ○この里と」
族長「実にくだらぬ」
キノコ頭「何だと……? 貴様にき○この山の何がわかる!」
革ジャン「ほう。俺にたてつくなら、かかってこいよ」
族長「き○この山? たけ○この里? はっ、笑止千万――――」
族長「チョコ菓子ならアル〇ォートが至高に決まっておろうがァァァッ!!!」
執事「アル、○ォート……っ!?」
族長「たけ○こ派のニンゲンどもは、先週我らを召喚し、き○こたけ○こ戦争への参加を要求した」
族長「だが、魔界では、アル○ォートこそ至高と決まっている。アル○ォート以外あり得ない」
族長「ゆえに、明日の発表会を潰し、アル○ォート派こそ最強と示すつもりだったが……」
教授「ええええ」
族長「これは捨て置けぬ。捨てては置けぬ。き○こ派、たけ○こ派――――」
族長「両者が同じ場にまみえたならば、アル○ォート派としての誇りを示すまで!!」
魔族A「族長、カッコイー! き○こもたけ○こもぶっ潰せ!!」
弓使い「アホだ、このヒトら」
キノコ頭「俺たちの肩には、き○こ派の命運がかかっている。ココで退くワケにはいかない……」
革ジャン「たけ○こ派とかいうのに義理立てする気はないがよ。声がデカいぜ、お前ら……」
族長「やはりニンゲンどもには、アル○ォートの素晴らしさはわからぬか……。ならば、チカラで示すまで」
弓使い「……ちなみに、どのお菓子もおいしいジャン、というワケには、いかない……?」
キノコ頭「ナメてんのか」
革ジャン「いくワケあるか」
族長「強い奴が一番強い」
弓使い「でっすよねー」
銃使い「…………」ボリボリ
執事「……大変なコトになりましたね、コレは」
教授「うん、大変なコトになった。私の知らないところで」
執事「お嬢様が“最強の兵器(仮)”をさっさと完成させないからですよ。このヒトたちが集まったの」
教授「ううう。責任重大だあ……」
剣使い「……あー、なんだ」ゴトッ
剣使い「き○こだ、たけ○こだ、アル○ォートだ、そんなのは知らねえが」
剣使い「魔族のオッサン。最初に仕掛けてきたのは、アンタだ」ビシッ
族長「!」
剣使い「臆せぬ勇者はかかってこい、と言ったな。ならば俺が、相手になろう」チャキ
族長「……いいだろう、ニンゲン。き○こ派でもたけ○こ派でもない身で、よく吠えた」
族長「貴様の得物は長剣か。ならば、俺も正々堂々、シャムシールだけで応じよう」ジャキ
族長「かかってこい、ニンゲン。その器、真に勇者を名乗るに値するか、見極めてやろう」
剣使い「……あとで吠え面かくなよ、魔族。少しは俺を楽しませろ」
剣使い「…………」ジリジリ
族長「…………」ジリジリ
剣使い「……いざ」
剣使い&族長「「勝負ッ!!」」バッ
――8号車【ロビー】
ドゴォォォン…!!!
黒コート「うわっ! なんだ、爆発!?」ガタッ
黒コート「か、仮面の男の仕業か……!?」
黒コート「ねえお姉さん、いま揺れましたよね!?」
フロント「ええ、揺れましたね。おそらく、先ほどの魔族のお客様のせいではないでしょうか?」
フロント「この列車では、よくあるコトですよ」
黒コート「よくあるコトなんだ」
黒コート「すぐ近くだったな。7号車か……? いったい、何が起こって……」
バン!!!
黒コート「な!?」
バッ ヒュッ ドタン
剣使い「ふっ!!」キン キン キン キン
族長「なんのッ!」カン カン カン カン
ズザァ!!!
黒コート「き、斬り合い!? なんだなんだ何なんだ!!?」
7号車で始まった剣使いの男と、青鬼族の族長の一騎討ちは、数合打ち合う内にもつれ合い、
戦いの場を7号車から隣接する8号車へと移動させる。
扉を開けると同時に、剣使いがもんどり打って8号車になだれ込む。
空中で族長のシャムシールの切っ先が剣使いの鼻をかすめるが、受け身をとって姿勢を立て直し、
長剣とシャムシールが打ち合うこと一度、二度、三度、四度。
四度目の激突は両者にとって重い衝撃になったのか、直後に両者は後方へ飛びすさる。
剣使い「ハァ、ハァ……」
族長「……、……」
剣使い「なかなか、やるじゃねぇか。魔族のオッサン」
族長「……ソレはコチラのセリフだな。ニンゲンの剣士よ」
剣使い(……こりゃあ、なかなかヤベェ奴にケンカ売っちまったな)
剣使い(同じ体格の、同じ武器の、同じ戦法の人間の敵と戦うのとでは、ワケが違いすぎる)
剣使い(内包するパワー! 桁違いの膂力! 振り下ろされる斬撃の重さ!)
剣使い(すべてが、人間のソレを優に上回る……。俺に勝てるのか!?)
族長(このニンゲン……。生白い小僧かと思ったが、認識を改めねばなるまい)
族長(奴は間違いなく、幾多の修羅場を切り抜けた戦士だ。奴の剣技がソレを語る)
族長(自らの得物である片刃の刀の特性を知り尽くした、間合い、斬り込み、攻撃のいなし方)
族長(ただの力押しでは、永劫勝負がつかぬ。……剣一本で十分と侮った己が慢心よな)
族長(……ならば)グッ
族長「―――ふっ!」ダッ
剣使い「くるか!!」チャキ
バッ!!
剣使い(……踏み込みが浅い! 体力が切れたか!? やはり消費するパワーは比例するのか……)
剣使い(いずれにしろ、コレが好機! 取って返せる!!)グッ
剣使い「浅いぞ! もらッ――――」
族長「…………」ニヤ
剣使い(なッ―――!?)
静寂を破った族長の右足の踏み込みは、たしかに浅かった。
それは事実である。
だが剣使いは、それを、体力が減った故の息切れと解釈した。
―――経験の差。
人間と魔族の違いなどではない、戦士としての経験の差が、
隙を作らせたと感じた剣使いに隙を作ったのだ。
この場に族長と同等の力量を持つ戦士がいたならば、叫んだだろう。
いや。族長と同等の戦士であれば、たしかにこの場一人、居合わせた。
黒コート「違うぞ坊主! 青いのの狙いは―――、フロントのテレビだっ!!」
――7号車【ラウンジ】
弓使い「うへぇー、行っちゃったよ……」
キノコ頭「すごい斬り合いだな。俺にはマネできそうもない」
魔族A「待ってくださいよー、族長~」タタタッ
魔族D「あ、すんません、どうもお騒がせしましたー」タタタッ
教授「ああ、うん……。行っといで~」
銃使い「…………」ガシュガシュ
執事「……さて、残る問題は」
革ジャン「俺たち、ってワケか」チャッ
キノコ頭「おっと。イキがるなよ」チャッ
テロリストA&B「「…………」」チャッ チャッ
テロリストC&D「「…………」」チャッ チャッ
キノコ頭「お前は一人だが、コッチには俺の他にも四人いる」
キノコ頭「たとえお前が俺を脳天をぶち抜いたとしても、その後にお前はハチの巣というワケだ」
革ジャン「…………」
革ジャン「……だから、どうした?」
キノコ頭「何……?」
革ジャン「なるほど、俺がお前をヘッドショットする、そこまではいい」
革ジャン「だったらその後、俺が同時にあと四人撃てばいいだけだろ?」
キノコ頭「……!」
キノコ頭「……っ。ナメた口を」
革ジャン「どうした? 手元が震えてるぜ」
革ジャン「まあ、当然だな。お前はき○こ派とかいう、一回の戦争限りの兵士だが――――」
革ジャン「こちとら叩き上げのおまわりさんだ。技術も覚悟も違うんだよ」
教授「……ねえ、おまわりさんってあんなヤバい殺し屋みたいなのばっかりなの?」
弓使い「う、うーん。まあ、普通は違うと思うけど……」
銃使い「警察とは、何度か戦ったコトがある」
銃使い「あいつらは一兵卒。責任を組織に任せ、死を恐れず突っ込んでくる。わりと」
銃使い「でも、あの革ジャンの警察は違う」
銃使い「まるで、自分は絶対に死なないというような、余裕、姿勢……、信仰」
執事「無頼漢、というコトですか?」
銃使い「すこし違う。あいつは、自分の命のコトを、重く見ている」
執事「……なるほど」
執事「では、あのキノコ頭の一団のほうは?」
銃使い「あれは典型的な戦闘組織。自らを一兵卒と割り切り、死を恐れない」
銃使い「仲間のためなら特攻も辞さない。……いちばん戦いたくないタイプ」
執事「いずれにしろ、並以上の戦士、というワケですね」
執事「……なんでそんなのが、よりにもよって、この列車に」ハァ
教授「だから私のせいでしょう」
弓使い「え? そーなの?」
教授「うん。あの警察官は、ただ暴れてるだけみたいだけど……」
教授「キノコ頭のほうは、私と、私の発明品を名指しした。明確に」
弓使い「ふーん。そっかァ……」
執事「……?」
弓使い「じゃあ、キノコ頭と革ジャンが戦ったとして、革ジャンが勝てばそれで良し」
弓使い「だけど。もしキノコ頭が勝ったら、私たちは貴女のせいで危険にさらされる」
教授「そうだね」
弓使い「じゃあ私たちは、貴女をキノコ頭に売り飛ばすのが最適解、ってワケだ?」
執事「……! 貴様……」バッ
弓使い「……ふふふ。イイ顔するね。イケメンだよ、執事くん」
弓使い「ねえ、どうする? 執事くん、お嬢様」
弓使い「もしココで、私たちが君たちを裏切って、斬りかかってきたとしたら」
弓使い「まあ、何の契約もしてないし、裏切りでも何でもないんだけどね」
教授「…………」
執事「……俺は、この命を引き換えにしてでも、お嬢様を守る」
教授「! ……っ。バカなやつ」
執事「バカで結構です。それが執事たる、俺の役目ですから」
弓使い「うん、うん。自己犠牲の精神、たいへん結構」
弓使い「私たちがいちばん戦いたくないタイプだ」
弓使い「……で、お嬢様のほうは?」
教授「教授、でいい」
弓使い「そう。教授は、私たちが斬りかかってきたとしたら、どうする?」
教授「…………」
教授「戦いはコイツに任せて物陰に隠れる」
執事「……!」
教授「だって私じゃこのヒトたちに勝てないけど、でも死にたくないし」
執事「お嬢様……。けっこう薄情ですね」
弓使い「…………」
弓使い「……ぷっ」
弓使い「あっはっはっはっは! 面白い、面白いねお嬢様、いやさ教授!!」バンバン
教授「ぐえ。痛い……」
銃使い「……姐さんって、思ってもいないコト言うの好きだよね」
弓使い「ああ、やっぱりわかってた? やっぱお芝居ヘタだなー、私!!」
執事「……え?」
弓使い「ゴメン! 今のはちょっとしたジョーク! 裏切るつもりとか無いから、忘れてね!」
教授「笑えないジョークだなあ」
執事「ホントですよ……。この状況で、からかうのはやめてください」
弓使い「ゴメン、ほんとゴメンってば。ふふ」
弓使い「でも、物陰に隠れる、か……。良い判断だ」
弓使い「いちばんバカな雇い主は、自分から敵に突っ込む奴。守れって言っといて、そりゃないよね」
弓使い「戦場から逃げる奴は、まあ普通かな。逃げた先まで守れる保障は無いけれど」
弓使い「初めから高みの見物は、妥当だけど……。あんまし、気分良くないよね」
教授「え? って、コトは……」
弓使い「ええ。戦場だって、ビジネスの場所。私たちが貴女たちのコト、守ってあげようか?」
教授「……!」
執事「……金ならあります。ぜひ、お願いしたい」
弓使い「オッケー! そうこなくっちゃ。羽振りも心構えも良い雇い主の下で働くのは、気分が良い」
弓使い「そうと決まれば、あのキノコ頭と革ジャン……。まとめてやっつけちゃおうか?」
銃使い「…………」コク
執事「……あの!」
弓使い「ん? なあに?」
執事「戦闘論理に詳しく、金で雇われて戦う……。貴女たちはいったい、何者なんですか?」
弓使い「……通りすがりの、フリーターです☆」
キノコ頭「…………」ジリジリ
革ジャン「…………」ジリジリ
弓使い「いい……? 銃ちゃん。剣ちゃんがいないから、前衛は私に任せて」
弓使い「奴らの銃弾は、剣を飛ばして弾く。だから、安心して狙撃に専念して」
銃使い「わかった。……死なないで」
弓使い「わかってるって。……さあ、ちょいとデートとシャレ込もうか!!」
グッ
マスター「―――そこまでだ」
キノコ頭「……!」
革ジャン「お前……。ここの、ラウンジのマスター、か……?」
マスター「いかにも」ズゥッ
マスター「―――ここは乗客の皆様のための、憩いの場」
マスター「―――お引き取り願えますかな」
銃使い「……!」ビクッ
弓使い「……ヤバいヤバいヤバい。何、何なの、あのおじいさん……? 尋常じゃない威圧感だ」
弓使い「あれ、半身、キカイか……? ちょっとちょっと右腕、なんで光ってるのかな」
革ジャン「―――イヤだね、……と言ったら?」
マスター「むろん」グッ
マスター「お相手するしかなくなりますな」
革ジャン「…………」チャッ
キノコ頭「……ふん。引き揚げるぞ」
革ジャン「……! ……腰抜けが」
キノコ頭「腰抜けで結構。俺たちはこの列車に、死にに来たワケじゃないんでな。おい、行くぞ」
テロリストA「ま! 待ってくださいリーダー……!」
マスター「そうですか。では、ワタクシもこれにて」
革ジャン「おい! 逃げるのか……!!」
マスター「――――」ギン
革ジャン「……!」
マスター「―――ここは乗客の皆様のための、憩いの場」
マスター「……それだけですので」
革ジャン「ちっ。……興醒めだ。じゃあ、あばよ。皆々様がた」テクテク
教授「……こ、これは……。助かった、のかな?」
――8号車【ロビー】
黒コート「違うぞ坊主! 青いのの狙いは―――、フロントのテレビだっ!!」
剣使い「何!? ――――」
族長「ご名答! だが、遅い!!」ブンッ
族長は右足を踏み切った直後、左足で床を蹴り飛ばし、
左へ直角に跳ねて剣使いの突進をかわす。
そして、フロントに備え付けているテレビをシャムシールですくい上げるように剣使いに投擲し、
族長自身もまた、左腕を支点に、フロントを蹴り飛ばして剣使いに上段から襲いかかる。
剣使いの視界をテレビで奪いつつ、反動の勢いを利用する、族長の決死の一撃であった。
剣使い(テレビがジャマだ! コレが狙いか……!)
剣使い「ぐッ。だが、なら……」
剣使い「テレビごと斬り飛ばすまでだァァッ!!」
族長「何!?」
剣使いの、長剣の斬り上げによる、裂帛の一撃。
次の瞬間、テレビはバターのように切り裂かれ、真二つの板片と化す。
そして、切り裂いたテレビの向こう側に現れたのは、
空中より斬り下げの一撃を放たんとする族長。
刹那。白き雷鳴と、青き紅蓮が、入り混じった。
剣使い「ぐぁッ!!」ビリッ
族長「むぅ……ッ!」ビリッ
カーン カーン
ロビーに響いたのは、乾いた二つの音。
お互いに予知しなかった、真っ向からの剣戟の激突により、
金属を伝えて流れる電流が両者の体をかけ巡る。
その衝撃が、互いの剣を、互いの後方へと弾き飛ばした。
剣使い「……ハァ、ハァ」
族長「恐れ入ったよ、小僧。……いや、白銀の剣士よ」
族長「ニンゲンにも貴様ほどの、戦士がいるとはな」
剣使い「へぇ。そりゃあ、お褒めに預かり光栄だな」
テクテク
革ジャン「……ちっ。おい、センパイ! 客室に戻るぞ!」
黒コート「お、おい革ジャン野郎!? お前、なんでそんなボロボロで……」
革ジャン「うるせえ! いいから休む! 俺は疲れた!」
族長「…………」チラッ
革ジャン「…………」キッ
族長「……どうやら、アチラは終わったようだな」
剣使い「ああ。俺たちも、ここまでにしておくか」
族長「―――待て!」
剣使い「……?」
族長「まずは此度の勝負、感謝する。族長の座に収まってから忘れて久しい、血湧き肉躍る戦いだった」
族長「だがこの決着は、必ずつけたい。次、貴様と俺が相見えた時……。列車を降りる、その前に」
剣使い「……ああ、いいぜ。その約束、違えるなよ」
族長「感謝する」
――1号車【展望車・前】 運転室
ドゴォォォン…!!!
副運転士「うわっ……!?」グラッ
白ドレス「……もー、はじまっている」
運転士長「むぅ……ッ!」ガクッ
副運転士「爆発音、振動……! 列車の後ろのほうから!?」
運転士長「女……! コレは、貴様の仕業か!?」
白ドレス「ノン、ノン! 私が爆発なんて起こすワケないじゃない?」
白ドレス「だから、さっきも言ったでしょう?」
白ドレス「―――これは、この列車の運命だと」
運転士長「運命……」
副運転士「……お、お姉さん! 貴女はいったい何者なんですか? この爆発を止める方法は!?」
白ドレス「ゴメン、その質問は二つともNGだよガール。もっと具体的な質問内容なら考えよう」
副運転士「え、えぇ……。な、なら。乗っ取られ、爆発、大炎上するのが、この列車の運命なら……」
副運転士「お姉さんは、どうしてソレを私たちに知らせに来たんですか!?」
白ドレス「…………」
白ドレス「……そうだね。一つは、死神との契約によるモノだ」
白ドレス「私は死神に、君たちに運命を伝えるよう差し向けられてしまった」
副運転士「死神……?」
白ドレス「ああモチロン、字義通りの死神じゃないよ? 死神みたいな奴、って意味だね」
運転士長「また死神か。私には、貴様がこの列車にとっての死神に思えるがな……」
白ドレス「それは解釈の違いってやつだね! 死神はたしかに死ある場所に現れる」
白ドレス「だけど、死神が現れるから死ぬのと、死ぬから死神が現れるのでは、大違いでしょう?」
副運転士「……?」
白ドレス「まあ、私は後者みたいに、運命をお知らせしに来ただけですよってコト」
白ドレス「そして、もう一つは……。私個人の善意によるモノだ」
白ドレス「君もさ、バッドエンドは嫌でしょう?」
白ドレス「たくさんのヒトが死ぬ! みたいなさ」
副運転士「……アタリマエです! 乗客の皆さんが危険にさらされる、というのなら!」
副運転士「命を懸けてでも、私が皆さんを守ります!!」
白ドレス「うん、良い心意気だ! 君みたいな善意のカタマリに、人々は救われるんだよ!」
運転士長「善意、か……。その言葉は本心としても、その思惑の裏に何がある?」
白ドレス「こちらは大人らしく老獪だね。でも、それを証明する手段は無いからノーコメントとしよう」
副運転士「……まだ質問があります」
白ドレス「何かな? 可能な範囲で答えよう」
副運転士「……この列車の運命っていうのは、未来の出来事ですよね」
白ドレス「なぜ未来の出来事なのに確信を持って言えたのか……って、問いかな?」
副運転士「…………」コク
白ドレス「それは、私がスゴいからだよ! スゴいから未来だってわかる!」
運転士長「……ふざけたコトを」
白ドレス「ふざけてなんかないよ? 特に君は、なんとなくわかると思うけどな。眼帯クン」
副運転士「……でも、もし貴女が、本当にスゴいヒトだっていうのなら……」
副運転士「そのチカラで、この列車の運命を変えてはくれないんですか?」
白ドレス「イタいところを突いてくるね。クリティカルヒットだ」
白ドレス「そうだねえ……。チカラというのには、常に代償がつきモノだ」
白ドレス「代償なきチカラは、妬まれ、嫉まれ、いずれ悪意によって封印される」
白ドレス「私が今回の事態に対して何も出来ないのは、その代償ゆえと思ってほしい」
運転士長「……女。悪魔とでも契約したのか?」
白ドレス「ノン、ノン! 視野が狭いね」
白ドレス「……そろそろ時間かな」
ジリリリリリ!!!
運転士長「……? 内線の電話、13号車の乗務員室!?」
運転士長「13号車にも何かあったのか!?」
ガチャ
運転士長「もしもし、コチラ運転室。……車掌か!?」
運転士長「……何? ハイジャック犯を名乗る変質者を捕らえた?」
運転士長「そ……、そうか。なら、とにかく、私が行く。それまで……」
運転士長「……いま縄を解いて脱走した!!?」
白ドレス「この列車の運命の発端は、とても、とてもササイでバカバカしいモノだ!」
白ドレス「き○こ? たけ○こ? アル○ォート? そんなの普通ありえない!」
白ドレス「だけども、信念を持って行動する彼らは、理由はどうあれ、皆本気だ」
白ドレス「ナメてかかればイタい目見ると、私は予言者らしく予言しよう」
白ドレス「高みの見物を決め込むような黒幕は、たいてい引きずり出されてボコボコにされるモノさ」
副運転士「え……? それって……」
白ドレス「それに、役者はまだ出揃っちゃいない」
白ドレス「事態を知りながら、まだ関わらずにいる者も……。少なからずいる」
白ドレス「たとえば私たちのすぐ近くにも、案外いるかもね?」
白ドレス「運命は絶対ではない! 歴史にイフはある! 過去だって未来だって思うがまま!」
白ドレス「だけど、それを為せるのは……。その時間に生きる、意志ある者たちだけ」
白ドレス「私はそんな君たちが生きあがき、運命を変えるコトを期待する!」
ガチャ
白ドレス「ほんじゃま。グッドラック、ってコトで」
副運転士「貴女は……。いったい、どこへ行くんですか?」
白ドレス「さあ? 雲のように自由気まま、それが私。すぐ会うかもしれないし、もう会わないかもしれない」
白ドレス「でも。私が必要とされれば、いつでもどこでも出てくるよ! じゃーねー!」
副運転士「…………」
副運転士「『運命は絶対ではない』……」
副運転士「『それを為せるのは、その時間に生きる、意志ある者たちだけ』……かぁ」
副運転士「…………」
副運転士「……いや。そんなコトより、私は私の役目を果たさないと!」
副運転士「この年末年始の運行を成功させて、新たな一年を迎える……」
副運転士「それが乗客の皆さんから期待されている、副運転士の役割なんだから!」
125 : ◆9xXTDlz//k - 2017/12/24 18:32:29.00 U049RaU2o 124/602第二章「薄暮・後」は以上になります。
自分は3つとも大好きです。
第三章は、明日12/25(月)の18時ごろ開始の予定です。
128 : ◆9xXTDlz//k - 2017/12/25 18:00:15.40 +u7TU514o 125/602それでは、第三章「夜中・前」を開始します。
60レスほどの予定です。
――1号車【展望車・前】 屋根の上
桜色の女「―――へっくしゅ!!」クシュン
ゴーーーーー
桜色の女「……う、ううぅ。今、誰かに拙者のウワサをされたような」ズビ
桜色の女「いや、確実にしたでござるな? どこからか話し声が聞こえてきたでござるよ!?」ガタッ
シーン
桜色の女「…………」
桜色の女「……やっぱり気のせいでござるか」ドカッ
桜色の女「まあ、列車の屋根の上なのに、ヒトの話し声が聞こえるワケないでござるな」
桜色の女「きっと聞き間違いでござる。でなければ、怨霊、物の怪、怪異のたぐい」
桜色の女「……しかし、この、ドライ・ブラー号といったでござるか?」
桜色の女「この列車……。何やら不可思議な魔の者によって呪われている」
桜色の女「“いわくつき”の列車らしいでござるからなあ。さっきも何やら後方で爆発が」
桜色の女「まったく、鉄仮面卿も、物好きでござる。こんな列車に乗り込むとは」
ゴーーーーー
桜色の女「しかし……。鉄仮面卿がこの時代で暴れたと聞いて、ひとつ仕置きのため追いかけてみたが」
桜色の女「どうやらこの列車、相当人気の旅らしく、乗車券の一つも取れない始末」
桜色の女「さりとて、列車の旅を前にして諦めるも、口惜しい……。というワケで」
桜色の女「この列車に無賃乗車で乗り込んだのでござるが」
ゴーーーーー
桜色の女「……寒い! 先頭車の屋根の上とか、風がモロに当たって凍え死ぬでござる!!」
桜色の女「おかしいなあ。この時代の今日は、いったい何日でござるか……」
桜色の女「……12月31日!? ははは……、日にちは同じか。道理でしばれるでござる。ござる」
桜色の女「……たしか、鉄仮面卿は、正規の乗車券を手に入れていたでござるな」
桜色の女「駅の改札に通していたのを見たから、マチガイないでござる」
桜色の女「となれば、知り合いのヨシミで、鉄仮面卿の客室にお世話になるでござるか」
桜色の女「うん。それがいい。名案でござる!」ガタッ
ゴーーーーー
桜色の女「……でも、鉄仮面卿の客室は、いったい何号車なのでござろうか?」
桜色の女「…………」
桜色の女「またフリダシでござる」ドカッ
桜色の女「……はあ、すっかり日も暮れたでござるなあ。とっぷり」
桜色の女「年末年始もヒマだからといって、怖いモノ見たさで友人の後を追わなければ良かったでござる」
桜色の女「…………」グウウウウウ
桜色の女「ハラの虫も泣いているでござる。よよよ」
桜色の女「もうすぐ夕食の時間でござるなあ……」
桜色の女「たしかこの列車には、食堂車もあったでござるな」
桜色の女「利用にいちいち乗車券は確認されるのでござろうか?」
桜色の女「……ま、腹が減っては戦ができぬ。ご厄介になるでござる」
【12月31日 午後4時】
――6号車【食堂車】
車掌「失礼します、お客様……。午後4時になりましたので、ティータイムは終了とさせていただきます」
乗客「ん? ああ、もうそんな時間か。悪いね、車掌さん。これ、お会計だ」ガタッ
車掌「ありがとうございます。引き続き、年をまたぐ特別な列車の旅、ごゆるりとお楽しみください」
ウェイター「車掌さーん、食堂車の掃除終わったぜぇー。ああ、疲れた」
ウェイトレス「食器洗浄も、完了。日も暮れるし、休憩したい」
車掌「お二人とも、ご苦労様でした。そうですね、ではディナータイムまで私たちも乗務員室にいましょうか」
――7号車【ラウンジ】
乗客「…………」テクテク
乗客「午後4時、か」
乗客「改変した歴史通りならば、ここ7号車で、まもなく事件が始まる」
乗客「早々に離れたほうが良さそうだな」テクテク
執事「おや。良かったら、き○この山食べますか?」
弓使い「え? いいの!? うれしーなー!」
銃使い「うん。じゃあ、こっちはたけ○この里を」
――8号車【ロビー】
黒コート「まあ、バカ正直に仮面なんていつも被ってるワケないか。何か他の方法考えないと……」
族長「手始めに、隣の車両の者たちに訊いてみる。行くぞ」ガタッ
魔族D「行動の精神、マジリスペクトっす!」
乗客「……!」
乗客「時空環境整備課まで乗っているのか。僕の動きを嗅ぎつけたか……?」
乗客「いや、この招待状がそもそも彼女らのワナという可能性も……。油断できないな」
【12月31日 午後8時】
――10号車【寝台車五】 客室
乗客「……あれから4時間が経った」
乗客「おそらくラウンジでの事件は収束し、乗務員たちが今後の対策を練っている頃だろう」
乗客「キョーミ本位で、この時代のき○こたけ○こ戦争に介入した結果、歴史が変わったのが先週」
乗客「だが歴史が変わった結果、発生するドライ・ブラー号ハイジャック事件と僕は、直接関係ない」
乗客「なのに、その事件に何故、僕が呼ばれたのか?」スッ
仮面の男「―――この、時空指名手配犯である、鉄仮面の僕が」カポ
仮面の男「この、昨日僕の元に届いた、今日のドライ・ブラー号の運行への招待状……」
仮面の男「年末年始の特別な列車の旅に招待してくれたはいいが、差出人は不明だ」
仮面の男「―――この招待状の真意が、たけ○こ派の客将だった僕への、き○こ派の復讐だとしたら?」
仮面の男「―――あるいは、指名手配犯の僕をおびき寄せるための、時空整備課のワナだとしたら?」
仮面の男「―――それとも、僕に近しい人物による、僕のためのサプライズパーティーだとしたら?」
仮面の男「くくく……。いずれにしろ、今年の締めくくりにふさわしい、馬鹿騒ぎには違いない」
仮面の男「祭とは人々の熱狂が生み出すモノ。だが熱狂が源ゆえに、冷却までの時間は長くない」
仮面の男「さて、そろそろ夕食の時間だな。今年の年末年始は、刺激的なモノになりそうだ」ガタッ
――13号車【展望車・後】 屋根の上
ヒーロー「……ふぅぅぅ。まったく、ヒドい目に遭った」
ゴーーーーー
ヒーロー「まさか、この時代を救いに来た俺を、いきなり縛り上げるとは……」
ヒーロー「この時代の人間の考えるコトは度し難い!!」
小型メカ「貴方がいきなりハイジャックとか叫ぶからいけないのだと思いますけどね」フヨフヨ
ヒーロー「おお、オペ子ちゃん。今回もよろしく頼むぜ」
小型メカ「気軽に言ってくれますね。時空環境整備課から出向している、私の身にもなってほしいモノです」
ヒーロー「しかし、昨日俺が唐突に思い立って縄抜けの術を会得していなければ、この時代は終わってた」
ヒーロー「ほんのササイなコトが歴史を決めてしまうのだなあ……。ブルブル」
小型メカ「貴方が唐突に思い立ってハイジャックなどと言わなければ縄抜けも必要無かったでしょうがね」
小型メカ「しかし、何故いきなりハイジャックなどと? むしろ我々は、ハイジャックを止める側でしょう」
ヒーロー「いやあ……。俺がハイジャックして列車が止まれば、ハイジャックも起こらないかなって」
小型メカ「うーん、問題はさらに大きな問題で塗り潰してしまえという感じですね。ちなみにその格好は?」
ヒーロー「この時代の正義の味方の正装だという! 俺は正義の味方だからな!」
小型メカ「私たちの時代では変質者の正装ですね。正義の味方が投獄されないコトを祈ります」
小型メカ「では、改めて我々の任務を確認しますね」
小型メカ「まず、我々の大目的……。それは、『き○こたけ○こ大戦』の勃発を阻止するコトです」
ヒーロー「き○こたけ○こ大戦? なんだ、それは?」
ヒーロー「俺たちの目的は、この列車がハイジャックされて大惨事になるからソレを阻止する、では?」
小型メカ「そうですが、ハイジャックの阻止は、き○こたけ○こ大戦の勃発を阻止する手段にすぎません」
小型メカ「はぁ……。これは、もう一度、最初から説明したほうが良さそうですね」
小型メカ「まず事の発端は、とある時空指名手配犯が、この時代の歴史を改変したコトでした」
小型メカ「通称・仮面の男。鉄仮面卿とも。彼はき○こたけ○こ戦争に介入し、戦争を終わらせたのです」
ヒーロー「ふむ……。それだけ聞くと、戦争を終わらせた英雄のように思えるな」
小型メカ「ええ。実際、き○こたけ○こ戦争は、ここで終わらなければ、私たちの時代まで続き……」
小型メカ「誰も得しないプロレスバトルとして形骸化。あっても無くても、歴史への影響はありません」
小型メカ「なので、戦争を終わらせた仮面の男を英雄視する声は一定数あり、その結論に異議は無い」
小型メカ「ですが、問題はここからです」
小型メカ「仮面の男の行動の問題は、戦争の結果はともかく、その先の歴史が変わるコトでした」
小型メカ「ゆえに彼は以前から指名手配されています。この事態でシッポを掴み、私の同僚も動いている」
小型メカ「そして、歴史が変わった結果、一人の天才科学者を乗せた列車がオーサカまで運行します」
ヒーロー「それがこのドライ・ブラー号……、というワケだな」
小型メカ「はい。彼女はたけ○こ派に依頼され、戦争を完全に終わらせる“最強の兵器”を開発中でした」
小型メカ「しかし観測された歴史では、今日列車は大惨事に巻き込まれ、彼女の発明は灰燼に帰します」
小型メカ「その原因をたけ○こ派は、き○こ派残党の陰謀と断定。……き○こたけ○こ大戦に突入します」
ヒーロー「そんな……、許せない。大惨事は俺が止めてみせる、未来の市民ボランティアの名にかけて!」
小型メカ「貴方の上役は大戦の阻止のために私を雇い入れたのではなかったのですか? まったく……」
ヒーロー「だが正史にも登場する人物たちには既に招待状を送った。条件は揃った。何も問題はない!」
小型メカ「仮面の男にも招待状を送ったんでしたっけ? まあ放置もマズいですか。って、アレは……?」
――7号車【ラウンジ】
魔王「何? このラウンジでの爆発に、魔族が関わっていた?」
パラ パラ
マスター「ああ。青い体、黒い角。そして得物のシャムシール。十中八九、魔界の青鬼族というやつだろう」
魔王「ほー……。この焼け跡、たしかに青いな。魔力を帯びている。青鬼族の特徴だ」ザラ
魔王「しかもまあ、ラウンジの天井なのにデカい風穴がコンバンハしちゃって。よほど手ひどく暴れたか?」
マスター「原因は魔族だけではないが。だが、この列車の魔族からの防衛をお前に任されたのは俺だ」
マスター「魔族からは俺が乗客を守ろう。お前が今日列車に乗ったのも、件の魔族を止めるためか?」
魔王「…………」
魔王「たしかに魔族の人間界との接触は、干渉だけならまだしも、侵攻はご法度だ」
魔王「それは慣習でも常識であり、こないだの魔界統一の折にも、魔王会議で採択された条約でもある」
魔王「だが、俺は唯一無二の人間の戦友であるお前を信頼している。普段ならこうして出張りはしない」
マスター「何……? 魔族は関係ないのか? ならば、まさか……」
魔王「ああ。俺は今日、スイートルームの乗車券の譲渡を頼み込んでまで、この列車に乗り込んだ」
魔王「魔族が人間界で暴れたのも問題だが、事は青鬼族どころじゃない。……心して聞け――――」
魔王「今回の列車ハイジャック事件。天界が関わっている」
マスター「……!!」
マスター「天界、だと? どこでソレを知った? なぜ、あの天界がこの列車に関わる?」
魔王「天界の動きを知ったのは、つい今朝だ。天界から何者かがこの列車に降り立ったと連絡が入った」
魔王「そして、天界がこの列車に関わるならば……。理由は、おそらくは。わかるだろう?」
マスター「……ああ。目的は魔族と同じ、か。だが、動機は違う。天界はそのホンシツを知っている」
魔王「―――古き人間と魔族の約定。大戦を終わらせた、大術士たちの、“最強の兵器”」
マスター「この列車の動力源である、その封印が解かれれば……。文字通り、太陽のフタが開く。か」
魔王「急務だ。俺は食堂車あたりに潜伏し、天界の使者をあぶり出す。そして、可能であれば、止める」
マスター「ああ。最悪の事態だけは、避けねばならん……。だが魔王、侮るなよ。天界は、強い」
――6号車【食堂車】
魔王(の、ハズが……)
料理長「ステーキ二つ、あがり! バイトくん、コレ持ってってー!」
魔王「あ、ハイ! わっかりましたー……」
ゴトッ
魔王「うわっ! しまった、転げ――――」
ウェイター「おっと! 大丈夫か、バイトくん? 気をつけろよ」ポスッ
ウェイトレス「気をつけろよー」
魔王「あ……、ハイ。ありがとうございます」
魔王(食堂車で、ディナータイム中の乗客たちを見張っていたところ)
魔王(なぜか列車のアルバイトと勘違いされ、給仕の手伝いをさせられている)
魔王(ど、どういうコトだ? 時給はちゃんと出るらしいからいいんだが……)
魔王(って、そうじゃない。俺の本来の目的を忘れるな……)
魔王(今もここで食事をしているかもしれない、天界の何者かを見つけ出さないと。あとついでに魔族も)
乗客B「ちょっと、そこのバイトさん。お水ちょうだい」
魔王「あっ、はーい! 今すぐにー!」
――1号車【展望車・前】
副運転士「……これで、今回の爆発に関わったヒトたちは全員ですか?」
車掌「そういうコトになりますね」
教授「騒ぎを起こした張本人たちは、誰もいないけどね」
執事「犯人の方々に自首していただければ、事件は解決なのですが」
剣使い「いや待て、それは困る。あの魔族とは再戦の約束をしたからな」
弓使い「再戦の約束とかしたんだ? アツいね、男の友情だね」
銃使い「…………」ボリボリ
運転士長「……ただし、ハイジャックを宣言した赤色仮面を目撃した場に、車掌と共にいた」
運転士長「ウェイターとウェイトレスは、現在、食堂車でディナータイムの給仕に回っている」
運転士長「7号車のマスターや、8号車のフロント担当もまた、そのまま持ち場で後始末を任せている」
副運転士「あんな事件があっても、運行を続けられるだけマシ、って感じでしょうか……。はぁ」
剣使い「さて、さっそく例のハイジャック犯の対策会議といこうか」
教授「『運命は絶対ではない』、だっけ? じゃあハイジャック犯全員潰せばいいんじゃない?」
車掌「そうは言ってもですね。私どもとしては、あまり事を荒立てたくはなく……」
副運転士「ちょ、ちょっと! 勝手に喋り出さないでください!!」
副運転士「ま、まずは。事件のあらましを再確認したいのですが……」
剣使い「む、そうだな。悪い、副運転士の嬢ちゃん」
剣使い「……と言っても、事態は単純明快だ」
剣使い「俺たち五人がラウンジに集まってたところ、突然ハイジャック犯たちが現れた」
剣使い「ハイジャック犯たちは三組。キノコ頭の一団、警察を名乗る革ジャン、そして青い体の魔族」
剣使い「それぞれき○こ派、たけ○こ派、アル○ォート派とかいうのを名乗ってやがる」
剣使い「また、後ろの二組の目的が何かは不明だが、少なくとも平和的じゃないのは確かだ」
剣使い「そして。最初の、き○こ派の目的は……。教授の嬢ちゃん?」
教授「ええ。私が明日オーサカで発表する予定の、“最強の兵器(仮)”。それがき○こ派の狙い」
副運転士「さ、“最強の兵器”? それはいったい……」
教授「“最強の兵器(仮)”。カッコカリ、を忘れないで」
副運転士「は、ハイ。でも、なんでカッコカリ……?」
教授「……完成どころかアイデアすら浮かんでいないからだけど」イラッ
副運転士「え。あ、なんかゴメンナサイ……」
執事「“最強の兵器(仮)”とは、お嬢様が、き○こたけ○こ戦争での、たけ○こ派に開発を依頼された」
執事「き○こたけ○こ戦争を終わらせるための、文字通りの“最強の兵器(仮)”です」
副運転士「そ、それは、具体的にはどういうシロモノなんですか……? スゴい爆弾とか?」
教授「それすらも何も決まってない。だからカッコカリなの。プライドが傷つくから、これ以上言わせないで」
剣使い「だが、実際に“最強の兵器(仮)”が何なのか、実際に存在するのか。そんなのは関係ねぇ」
剣使い「き○こ派の連中は、教授の嬢ちゃんが“最強の兵器(仮)”を既に持っていると」
剣使い「完全に思い込んで、そのうえで襲ってきやがる」
車掌「なるほど。であれば、もし仮に、我々が“最強の兵器(仮)”など無いと主張しても……」
弓使い「そんなの狂言だと判断されて、攻撃してくるだろうなー」
執事「あいにく、“最強の兵器(仮)”が存在しないというコトを、証明する手段もありませんしね」
運転士長「無いを証明するのは不可能に近い。悪魔の証明というやつだ」
教授「その悪魔ですら今回の事件に関わってるんだから、ふざけてるよね」
銃使い「…………」ガシュガシュ
副運転士「ええと、つまり。その、き○こ派のヒトたちが、この列車をハイジャックするのは」
副運転士「教授さんの“最強の兵器(仮)”が目的で。だけど、“最強の兵器(仮)”は存在しない……」
教授「そう。もし本当に存在するなら、思いついた瞬間くれてやる」
執事「しかし、き○こたけ○こ戦争を終わらせるって、実際にどう使うんでしょう?」
教授「だからソレが思いつけば苦労しないって何度も何度もさっきから言ってるでしょう!!」
副運転士「な、なるほど……。では、もしき○こ派のヒトたちが襲ってきた場合、対処は……?」
剣使い「戦って倒すしかねぇだろ」パシッ
弓使い「き○こ派の奴らは、一人一人はそんなに強くなさそうだしね」
副運転士「で、ですよねー」
副運転士「て、ていうか……。何なんですか? その……」
副運転士「き○こ派とか、たけ○こ派とか、アル○ォートっていうのは」
剣使い「なんだ嬢ちゃん、わからねぇで聞いてたのか?」
車掌「ほら。お菓子にあるでしょう? き○この山と、たけ○この里。車内販売にも在庫がありますね」
弓使い「でもさ、き○この山が好きなき○こ派と、たけ○この里が好きなたけ○こ派の対立って」
弓使い「けっこう根深いモノなんだよねー」
銃使い「どっちもおいしいと思う」
弓使い「うん。世間的には、この娘の言ってるコトが普通だと思う」
運転士長「だが、二派のうちの一部が暴徒化。それが、き○こたけ○こ戦争、というワケか……」
副運転士「そういえば。白ドレスのお姉さんも、何か言ってたような……」
執事「しかも、その戦争に何故かアル○ォート派までもが参戦している。まったく混迷した事態です」
教授「アル○ォートって会社違うよね? 一線超えちゃってるじゃん」
運転士長「ともかく。動機はどうあれ、き○こ派と、たけ○こ派と、アル○ォート派の三組は」
運転士長「それぞれが、この列車のハイジャックを宣言している……。そういう状況だな?」
車掌「はい。まさにこの列車は、今やチョコ菓子界の三国志、というワケです」
剣使い「三国志って、アレだっけ? リュービと……」
銃使い「ソーソーと」
弓使い「ホクサイ……、だっけね」
副運転士「ワケがわからない……。あ、そういえば車掌さん」
車掌「はい? どうかしましたか」
副運転士「貴方が目撃したという、赤色仮面とは、いったい……?」
車掌「ああ、そのコトですね……。実は、わかっているコトのほうが少ないのです」
車掌「奴は、ラウンジでの爆発の直後、突如として13号車に現れました」
車掌「出で立ちは、赤を基調としたポリマースーツと、仮面。はっきり言って変質者です」
車掌「そして、正義の味方を名乗り、この列車のハイジャックを宣言しました」
車掌「その後、縄で縛ったのですが、すぐに脱走……。事実だけを列挙すれば、こうなります」
副運転士「ううう。もっとワケがわかりませんね。手がかりが少なすぎるので、一旦保留で」
剣使い「あとは、嬢ちゃんの言ってた白ドレスの女、ってやつだな」
副運転士「……はい。彼女は午後4時ごろ、爆発が起こる前の時間、運転室に現れました」
副運転士「初めは何事かと思ったのですが……」
副運転士「会話するうちに彼女は、ラウンジでの爆発を、それが起こる前にピタリと言い当てたのです」
弓使い「なにそれ、未来人か何か?」
執事「摩訶不思議な現象が立て続けに起きていますから、もう未来人くらいじゃ驚きませんよ」
教授「そして言い残したコトバが、『運命は絶対ではない』……」
銃使い「『それを為せるのは、その時間に生きる、意志ある者たちだけ』……」
運転士長「私も車掌と電話をしながらだが、それは聞いた。本人も言っていたが、まるで予言者だな」
副運転士「他にもいろいろ言ってたんですけど、抽象的なコトばかりで、よくわかりませんでした」
副運転士「だけど、まとめると、この列車は爆発するけど頑張れば何とかなる、って感じです」
副運転士「それに私には、彼女の言っているコトが本当の出来事のように思えました。……おそらく」
教授「うえぇ。本当に抽象的だなあ。論理的じゃない。まあ、信じるしかないけど」
運転士長「……さて、現状のまとめはこんなところか。事件の原因である悪漢を止める必要がある、と」
車掌「ええ。次は、キノコ頭、革ジャン、魔族への対抗策を考えないと――――」
バンッ
革ジャン「おい!!!」
弓使い「ッ!?」バッ
銃使い「――――」チャッ
運転士長「…………」スッ
執事「貴様、ラウンジの、たけ○こ派の革ジャン!!」
車掌「何、コイツが……!?」
剣使い「ハナシが早くなったじゃねぇか。コイツを袋叩きにすれば、問題は一つ解決だ」
革ジャン「は? お前ら、何を言って――――」ドカッ!!!
革ジャン「ヌゴッ!!!」バタッ
副運転士「……? 突然倒れた!?」
黒コート「『は? お前ら、何を言って――――』……、じゃないだろ」
黒コート「まずはスミマセンだろうが!!」ドカッ!!!
革ジャン「ぐえっ!! ごぼっ!!」
教授「え……? いったい、何を……」
革ジャン「えー……と。このたびは、御列車のラウンジで暴れてしまって……」
革ジャン「本当に申し訳ありませんでした」ガバッ
黒コート「私からもスミマセン。私の監督不行き届きです」ガバッ
副運転士「な、なんだかわからないですけど、頭を上げてください!!」
革ジャン「そうだな。ずっと下げてるのも性に合わねえし、上げよう」ガバッ
黒コート「お前は一生頭下げてろ。むしろ地中に埋まってろ」ギリギリギリ
革ジャン「アイタタタ痛い痛い痛いギブギブギブ」バンバンバン
剣使い「……どうやら、実は敵じゃなかった、ってコトでいいのか?」
弓使い「あの暴れっぷりはあの中でいちばんヤバいと思ったんだけどなー」
運転士長「……すまない、黒コートの方。貴女はハナシが通じそうだ」
運転士長「良ければ、素性を教えてもらえるか?」
黒コート「貴方がこの列車の責任者でしょうか? このたびは、連れが本当に失礼をしました」
黒コート「私ども……。こういう者です」カパッ
副運転士「……え? なになに……」
教授「時空環境整備課、所属……。つまり、どういうコト?」
黒コート「……そうですね。誤解なきよう、端的に申し上げるならば」
黒コート「未来のタイムパトロール、といったところでしょうか」
銃使い「タイムパトロール!!」
執事「本当に未来人来ちゃいましたよ」
運転士長「じ、時空警察……。そりゃまた、突飛な登場人物が現れたな」
車掌「しかし現状、もはや未来人が現れてもおかしくない、といった状況になっていたところ」
黒コート「ええ。どんな状況ですか……」
副運転士「あ、あの。どうして未来のタイムパトロールさんが、この列車に?」
黒コート「……実は、私たちが追っている、とある時空指名手配犯が、この列車に乗り込んだのです」
黒コート「何をしでかすかわかりませんから、いちおう特徴を伝えると……」
黒コート「仮面の男です」
車掌「そいつ会いましたよ!?」
黒コート「ま、マジですか!? どこで!?」
車掌「この列車の最後尾、13号車で。一度は捕まえたのですが、逃げられてしまい……」
黒コート「……そうですか。しかし、この列車にいるという情報は本当だったか」
黒コート「もう少し、外見の情報を詳しく教えていただけますか?」サッ
車掌「ええと、背丈や体格は、普通の大人の男といった感じでしょうか」
車掌「全体的に赤色で、ポリマースーツを着て、仮面を被っていました」
車掌「あ、ポリマースーツって未来にもありますか? 全身を覆う、光沢がすごい硬質の素材です」
黒コート「完全に変質者ですね。よくわかりました。ご協力感謝します」カキカキ
革ジャン「そんなヤバい見た目なのに今まで見つからなかったのかよ……」
黒コート「……それでは、今度はコチラからお聞きしたい」
黒コート「先刻、ラウンジでは、いったい何があったのですか?」
黒コート「コイツに訊いても、電波妨害がどうだの、まったく要領を得ず……」
黒コート「乗員の方ならご存知かと、恥を忍んで参った次第です。コイツが電波だろってハナシですよね」
革ジャン「おい! サラっと何、侮辱して……」
革ジャン「ぐぁッ!!」ゴスッ!!!
運転士長「……そうですね。端的に言えば、き○ことたけ○ことアル○ォートの三つ巴です」
黒コート「はぁ?」
運転士長「詳細に申せば、これこれこういうコトでして」
黒コート「なるほど。事情はおおむね理解しました」
黒コート「つまり、き○こ派と、たけ○こ派と、アル○ォート派の三つ巴であると」
運転士長「そういうコトです」
副運転士「理解、早っ……。私でも2時間はかかったのに」
黒コート「ですが、たけ○こ派ってコイツのコトですし。問題は、残りの二組だけでは?」
車掌「……たしかに。これで問題は一つ解決した、と考えても良いのでしょうか」
黒コート「ええ、そう考えてもらって構いません。つぎ暴れたら私がコイツの脳天ぶちぬきます」
黒コート「わかったか、革ジャン野郎。列車降りるまで、たけ○こがどうとか一切口にするなよ」
革ジャン「はいはい。たけ○こは悪。たけ○こは春までお預け、っと」
黒コート「しかし、私どもの追う仮面の男は、三つ巴には関わっていないようだ……」
黒コート「事件の解決に協力したいのは山々ですが、私どもにも任務があります」
黒コート「キノコ頭や魔族を見たらなるべく倒しますので、そちらも仮面の男を見つけたらご連絡を」
黒コート「もし仮面の男の身柄を確保できた場合は、貴方がたに全面協力させていただきます」
運転士長「わかりました。私どもも、未来の方々にすべてを押し付けるのは忍びない」
黒コート「では、現状はいちおうの協力、というコトで。私たちは次は2~5号車の客室を調べてみます」
黒コート「おらっ、行くぞ」グイ
革ジャン「痛い痛いお気にの革ジャン引っ張るなちぎれるちぎれる!」ズズズッ
副運転士「お、お勤めお疲れ様ですー……」
バタン
副運転士「……大変なコトになってきましたね」
運転士長「ああ、大変だ。まさか、本当に未来人が現れるとは……」
車掌「ですが、元たけ○こ派と協力関係を結べた。これは一歩前進では?」
剣使い「たしかに。あとは、き○こ派とアル○ォート派だな」
弓使い「だけど、コッチは待つだけってのも、シャクだなあ。何かおびき寄せて叩く方法、ないかな?」
教授「必要なら、私がオトリになってもいいよ。雇い主としては、失格かもだけど」
執事「お嬢様。それ、俺が犠牲になる案ではありませんでしたか」
銃使い「…………」
運転士長「……一ついいか?」
副運転士「はい。なんですか? 士長」
運転士長「たしか、アル○ォート派というのは、魔族の一派なのだったな?」
剣使い「ああ。俺がじかに戦ったから間違いない。あの風貌、パワーは、間違いなく魔族だ」
運転士長「……そうか。もしそうであれば、アル○ォート派の狙いがわかるかもしれない」
副運転士「ほ、本当ですかっ!?」
車掌「……もしや、12号車に搭載している動力部、ですか?」
運転士長「そうだ。過去に何度も魔族がこの列車を襲撃に来たが、みな一様に動力源を探した」
副運転士「こ、この列車、何度も魔族に襲撃されているんですか!?」
運転士長「だから言ったろう。窓枠の弾痕も、天井の刀傷も、すべてホンモノだ」
車掌「私も最初に赴任した時は驚きましたよ。でも、おかげで強くなれました」
副運転士「そんなボディビルディングみたいな」
教授「ふーん。でも、なんで魔族が動力源を狙うの?」
運転士長「それは、この列車の動力源が、強力な魔力塊でもあるからだ」
運転士長「実はドライ・ブラー号は、魔力で動いている……。ゆえに停車もせず本州を縦断できる」
副運転士「し、知らなかった……」
運転士長「そして魔力塊のコトは魔界に広く知られているようでな。年一くらいで撃退するのだよ」
車掌「そういえば貴女は今年度からの着任でしたね。最後に魔族と戦ったのは、前年度末の春か……」
車掌「あの時は、桜が舞う空を闇で覆い尽くすほどの死神族に襲われて、もうダメかと思いましたよ」
運転士長「ああ。だが、あわやというところで、ラウンジのマスターが敵の首魁を倒し……」
運転士長「ザコどもをちぎっては投げ。料理長、フロント、ウェイター、ウェイトレスたちもよく戦ってくれた」
副運転士「み、みんな武闘派だったんですか……。異次元に来てしまったようです」
執事「やっぱりマスターさんが最強だったんですね。良かった。あれ以上がいなくて」
弓使い「……ちょっと待って。ハナシを戻すけどさ。なら」
剣使い「動力源の前で張ってりゃ、魔族はいずれ現れる、ってコトだな!?」パシッ
銃使い「…………」ボリボリ
運転士長「そういうコトになるな。普段から厳重に施錠しているから、そうカンタンには奪われないと思うが」
車掌「善は急げ、ですね。では、お三方は12号車を守る、というコトでいいですか?」
剣使い「おうとも!」
弓使い「教授も私たちと一緒に来るー?」
教授「いや、やめておく。魔族に加えてキノコ頭たちまで相手にしたら、さすがに不利でしょう」
執事「お嬢様は俺が守るので、ご安心を。ですが、いざという時は、助力をお願いします」
銃使い「任せて」コク
車掌「では、言ってまいります。皆さんも、お気を付けて」
副運転士「車掌さんたちも頑張ってくださーい!」
バタン
教授「……ここも静かになってきたね」
運転士長「ああ。残っているのは、四人か……」
執事「さすがに出来るコトが限られますね。何をしましょうか?」
副運転士「うーん、私は戦えないしなあ……」
教授「ていうかお菓子が元でここまで争えるってどういう状況なんだろうね」
執事「それこの事件に関わってるヒトのほぼ全員が一度は思ったコトでしょうね」
運転士長「しかし、そのホンシツがわからなければ、“最強の兵器(仮)”とやらは完成しないのでは?」
教授「む。痛いところを突かれた」
教授「ホンシツ……、ホンシツかぁ~……」
教授「いったい何故ヒトはお菓子が原因で争うのか……」
教授「き○この山や、アル○ォートが何をしたというのか……」
副運転士「そうですよねえ……」
執事「何もしてないハズなんですけどねえ」
運転士長「本来、食間に食べるためだけのお菓子だからな」
副運転士「…………」
副運転士「あっ、そうだ!!」スクッ
運転士長「……? どうしたんだ?」
副運転士「そうですよ、士長!」
副運転士「お菓子は本来、おやつの時間に食べて幸せになるためだけの食べ物なんです!」
運転士長「お、おお。そうだな」
副運転士「だから、夕食が終わった食堂車のヒトたちに、お菓子を配ってあげましょう!!」
副運転士「そしたら、それを見た、き○こ派のヒトたちや、アル○ォート派のヒトたちも……」
副運転士「お菓子の本来の役割を思い出して、改心してくれるかもしれませんよ!?」
執事「は、はぁ……」
教授「そんなムチャな。非現実的だ」
運転士長「まあ、車内販売や、引き揚げたロビーの商品には、お菓子もある。やってみるか」
――6号車【食堂車】
副運転士「はい、どーぞ! き○この山です!」カタッ
乗客A「あ、ありがとう」
執事「列車からのサービスです。たけ○この里です」サッ
乗客B「おや、ありがとう。君、イケメンね」
教授「アル○ォートだよ。良かったら食べるといい」ポスッ
乗客C「おねえちゃん、ありがとう!」
教授「……どういたしまして」
料理長「……あの、士長。いったい何をしているんですか?」
運転士長「う、うむ……。実は、今回の騒動の原因は、き○こたけ○こ戦争でな」
運転士長「だが、だからこそ、お菓子のホンシツを思い出そう、というワケらしい」
魔王(ど、どういうコトなんだ……?)
料理長「なるほど。たしかに、食べ物はヒトを笑顔にしますからね。彼女も目の付け所が良い」
魔王(どういうコトなんだ……)
副運転士「はい、どーぞ! たけ○この里です!」カタッ
仮面の男「ありがとう。とても麗しい女性」ニコ
副運転士「……?」
副運転士(仮面被ってて表情がわからないな……)
仮面の男「ん……?」ピクッ
教授「さて、私の分は配り終わったかな……」
仮面の男「―――君!!」ダッ
教授「え? な、何!?」
仮面の男「とても、とても、とても麗しい女性……。僕は君に一目惚れだ。良ければ名前を教えてほしい」
教授「は? ……な、名乗るほどの者じゃない。だが、それでも呼びたければ教授、と呼ぶと良い」
仮面の男「わかった! それでも呼びたければ教授さん! 僕は君に一目惚れだ!!」
仮面の男「僕は君と時空の彼方まで飛んで行きたい……」
仮面の男「それでも呼びたければ教授さん! 僕と結婚してください!!」
教授「お断りします。それと、それでも呼びたければ、は余計」
仮面の男「ガーン!!!」
副運転士「し、執事さん。教授さん、仮面のヒトに絡まれてますよ」
執事「はあ。まあ、彼女もこれから色んなヒトと出会うだろうから、あしらい方を覚えるのも修行ですよ」
執事「……それにしても、仮面か。まあ、赤色じゃないから別人かな」
副運転士「そういえば。最近は、仮面被るのが、はやってるんですかね」
――6号車【食堂車】 屋根の上
ヒーロー「あ、あれは……! 仮面の男!!」
小型メカ「さっき食堂車に歩いていったのは、見間違いじゃありませんでしたか。黒コートたちは何を……」
小型メカ「とはいえ、私たちには関係ないので、無視しても差し支えありませんが……」
ヒーロー「何を言っている! 言い寄られている女性が困っているだろう!」
ヒーロー「貴様、それでも正義の味方のハシクレか!?」
小型メカ「私は正義の味方になった覚えはないのですが」
ヒーロー「そうと決まれば、とーう!!」ブンッ
副運転士「えっ……!?」クルッ
執事「運転士さん、危ない!!」バッ
魔王(っ! 乗務員の女に窓ガラスの破片が……!)
魔王「―――間に合ええええええええええええ!!!!!!」ヴン
運転士長「……っ!? 貴様、魔族か!?」
運転士長「よせ! 常人に向かってそんなバカげた量の魔力を出すんじゃない!!」
魔王「うるせえ言ってる場合か!!」
魔王「うおおおおおおおおおおおおッ!!!」ヴヴヴヴヴン
教授「……!? 運転士さんの、周りの時間が……」
執事「止まっている!?」
仮面の男「これが魔族の芸当か……!」
魔王「長くは保たんそこの兄ちゃん女を引っ張れええええええ!!!」
執事「え? あ、ハイ運転士さん、引っ張りますよぉぉぉっ!!!」
副運転士「え―――――、一―――――体――――――」
グッ!!!
執事「うおおおおおおおおおおおおッ!!!」
魔王「もう無理!!!」パッ
ガッシャァァァァァァン!!!!!!
執事「うあッ!」ドタッ
副運転士「っ――――」バタッ
教授「バカ執事!! 大丈夫!?」
執事「え、ええ……。なんとか」グッ
運転士長「おい! 大丈夫かね!?」
副運転士「――――」
ヒーロー「やいやいやいそこの仮面の男ォォ!! 貴様、嫌がる女性に言い寄っていたな!?」ビシィィ
仮面の男「何のコトかな……。嫌がる女性に言い寄る、とは」
仮面の男「既に私と彼女は婚約済み。なのに嫌がるとは、どういうコトか」
ヒーロー「飛躍しすぎだろオイぃぃぃ!!? どう見たってガーンってジェスチャーしてたろうが!!」
仮面の男「それは目の錯覚、というモノ……。ああ君、それともアレかな」
仮面の男「その鬱陶しそうな仮面をつけているから、目の前の物事が見えていないのでは?」
ヒーロー「仮面ならお前だってつけてるだろうがァァ!!!」
仮面の男「男は、誰だって……。ココロに仮面をつけているのサ」
――5号車【スイート】 屋根の上
ガシャーン
魔王「―――間に合ええええええええええええ!!!!!!」ヴン
ヴヴヴヴヴン
ガッシャァァァァァァン!!!!!!
桜色の女「お……? これは、モメゴトの気配!!」
桜色の女「今ならコッソリ厨房に忍び込んでもバレない!」
桜色の女「やはり果報は寝て待て! 今こそ好機でござる!」
――6号車【食堂車】
教授「へ。変態仮面と変態仮面が、言い争っている……」
執事「お嬢様、ああいう状況がお好きなのですか?」
教授「ンなワケないでしょう。それよりも、運転士さんの容態は……」
運転士長「……おい。こ、これは……」
魔王「ああ……、うん。うん。これは、これはとてもマズいコトになった」
副運転士「」
魔王「死んでいる。完全に」
189 : ◆9xXTDlz//k - 2017/12/25 18:31:59.48 +u7TU514o 186/602第三章「夜中・前」は以上になります。
夜中の読みはヤチュウです。
第四章は、明日12/26(火)の18時ごろ開始の予定です。
193 : ◆9xXTDlz//k - 2017/12/26 18:01:11.58 S4IgpjZso 187/602普通の人間は撃たれたり爆発すれば死にます。
それでは、第四章「夜中・後」を開始します。
60レスほどの予定です。
――冥界
副運転士「……う、う~ん」ムクッ
副運転士「あ、あれ?」
副運転士「こ、ここは……?」
副運転士「う、薄暗い森? 私、なんでこんなところにいるんだろう?」
副運転士「さっきまで、たしか私、ドライ・ブラー号に乗ってたよね……」
副運転士「そう。食堂車の皆さんに、お菓子を配ってて……」
副運転士「教授さんが、仮面のヒトに絡まれてて……」
副運転士「そしたら、突然窓ガラスが爆発して……」
副運転士「…………」
副運転士「……え? どういうコト? 理解できない」
冥王「―――そら、無理もありまへんなぁ」ザッ
副運転士「え!?」クルッ
冥王「おはようさん。よう眠れましたか?」
副運転士「え。私、寝てました?」
冥王「んー? いや、わても、いま見つけたばっかりやから知らんけど」
副運転士「そ、そうなんですか。ううん。仕事中なのに気が抜けてるなぁ、私……」
冥王「大丈夫でっか? 立てますか? お手をどうぞ」スッ
副運転士「……わぁっ、白い手。しかもイケメン」ギュッ
冥王「せやろか? ははは。たいしたことないですよ」グッ
副運転士「あ、ありがとうございます。あの、お兄さんは、どちら様で……?」
冥王「わてですか?」
冥王「わては、この冥界をあずからせてもろてる、冥王の立場におるもんです」
副運転士「へえ。この冥界の、冥王さん……」
副運転士「……?」
冥王「ははは。ようわからん、いう顔ですなぁ」
冥王「他の死神たちも、全然来おへんし。誰か来るまで、お話でもしますか?」
副運転士「え、ええ。ゼヒお願いします」
冥王「うーん。いうても、どっから説明したもんか……」
副運転士「あ、あの。じゃあ、まず、ココはどこなんですか?」
冥王「ここ? ああ、その質問ならかんたんやな」
冥王「ここは冥界。体を離れた魂が訪れる、死後の世界いうやつです」
副運転士「え。し、死後の世界……?」
副運転士「じゃ、じゃあ私、死んじゃったんですか!!?」
冥王「たぶん、そうなんやろなあ……」
副運転士「たぶんって!!」
冥王「でも、なんもないのに死なへんやろ。なんか心当たりあらへん?」
副運転士「こ、心当たり、ですか……」
副運転士「うーん。そういえば、さっき、目の前で窓ガラスが爆発したんですけど……」
冥王「ははあ。ガラスの破片の刺さりどころが悪ぅて死んだ、いうわけか」
副運転士「いやいやいや! ガラス程度じゃ即死したりしませんよ!!」
冥王「そうかなあ。生き物って、案外かんたんに死ぬもんやで?」
冥王「せや、ほならクイズや。今の時分、特に年始の頃は日本人よう死ぬんやけど、なんでやと思う?」
副運転士「え? 日本人限定ですか? なんだか不謹慎クイズですね……」
副運転士「そうですねえ。寒くて死ぬヒトが多い、とか?」
冥王「そんなん日本人どころか、人間でも他の生き物でも、地球の半分はせやろ」
冥王「冬眠したまま出てこおへん虫さんとか動物とか人間とか、ようおるで」
副運転士「う。生々しいコトを言わないでください……」
副運転士「うーん、難しいなあ。何かヒント、ありませんか?」
冥王「せやなあ。まあうまいけど、なんであんな危険なもん、よう噛まんと食うんかわからんわ」
副運転士「……あっ! もしかして、おモチですか!? お雑煮の!」
冥王「正解。正月は、モチ一気に食うてポックリ逝きよる年寄り多いから、注意したってな」
副運転士「は、はい。喋りながらだと、どうしても咀嚼がおろそかになるんですよね……」
副運転士「……って、いったい何のクイズしてるんですか」
冥王「ははは。ほな、話続けよか」
冥王「ここは冥界。生き物の魂いうんは、生を終えたら死後、天界にいくんやけど……」
冥王「冥界は、外界から天界に向かう時に通る、死後の廊下みたいなもんやな」
副運転士「し、死後の廊下……。それって、三途の川みたいなモノですか?」
冥王「ええ。ありますえ、三途の川。おおむね日本の人は皆、そう言わはりますな」
冥王「ちなみに三途の川の渡り賃は、六文銭やのうても、三百円くらいでええですよ?」
副運転士「意外とリーズナブルだ」
冥王「でも最近は、舟渡すより、でかい橋通したほうがええんちゃうか、いう意見も出ててなぁ……」
冥王「船頭の仕事がなんや、公共事業や、利権やなんやで揉めてるんやわ」
副運転士「へえ。冥界も大変なんですね……」
冥王「さて。しかし、魂いうのは、全部が全部すなおに冥界には来てくれまへん」
冥王「でも来てくれな、わてらとしては困る。そこで、魂の運搬を任せてんのが……」
副運転士「……! もしかして、死神、とか……?」
冥王「そう。魔界の死神族。魂を運ぶ力を持った、特別な一族」
副運転士「や、やっぱり。さっきの前年度末の春のハナシ、本当だったんだ……」
冥王「やっぱ死に関わるせいで、魔界でも忌まれますなぁ。彼らが悪いわけや、ないんですが」
冥王「あれ、今の口ぶり……。死神族のこと、知ったはるんですか?」
副運転士「え、ええ。直接関わった、ワケじゃないですが……」
副運転士「私の働いてる列車が、今年の春に、死神の大群と戦ったらしいんです」
冥王「ははあ。すると、あんさんが……」
冥王「お嬢さん。本州縦断特急、ドライ・ブラー号の乗務員さんか?」
副運転士「え! 私たちの列車をご存知なんですか!?」
冥王「ええ、そらもう。懐かしいなあ。それが今回、冥王のわてが出張ってきた理由なもんでして」
冥王「―――今日の夜。乗員乗客が全員死ぬ、ドライ・ブラー号の大量の魂をきちんと回収するために」
――6号車【食堂車】
運転士長「……おい。こ、これは……」
魔王「ああ……、うん。うん。これは、これはとてもマズいコトになった」
副運転士「」
魔王「死んでいる。完全に」
執事「運転士さん!! 大丈夫ですか!?」ダッ
教授「士長さん! 運転士さんのケガは? まあ、悪くても切り傷くらいだろうけど……」
魔王「すまない」
魔王「死んでいる。完全に」
教授「は……?」
執事「い、いや。ガラスの切り傷くらいで、ヒトはなかなか死なないでしょう……」
執事「というか貴方は誰ですか? 給仕の方!!」
魔王「―――フ。よくぞ聞いてくれた!」バッ
執事「マント!? いったいどこから」
魔王「我こそは、あまねく魔性を統べる者。預かる座席は碧夕王。そう、わかりやすく言えば――――」
料理長「ああ、彼はうちの食堂車のバイトだよ」
魔王「そう! わかりやすく言えば、この食堂車のバイト!!」
魔王「って違うから!! この食堂車でバイトしてるのは成り行きですから!」
料理長「え、違うの? そうだったのか……。まあ、ちゃんとシゴトしてくれれば問題ないよ」
魔王「それじゃあ結局バイトじゃないですかッ!!」
教授「え? え? いったいどういうコトなんだ……」
執事「わかりません。士長さん、貴方はどう思われ――――」
運転士長「ホンモノだ」
執事「えぇ!?」
運転士長「……あまねく魔性を統べる者。誉れ高き、七魔公王がその一人」
運転士長「預かる座席は碧夕王。最も多くの魔族の長。……そうだな?」
運転士長「―――魔王よ」
教授「ま……!」
執事「ま、魔王!? そ、それはもしや、読んで字のごとく……」
運転士長「ああ。さっきも現れたという魔族、その王だ」
魔王「お、おお! やっとハナシのわかる奴が現れたな! そう、我こそは――――」
ウェイトレス「うわああああ!!!」
魔王「ええもう今度は何!?」
料理長「ウェイトレスちゃん! どうした!?」
ウェイトレス「ど、どろぼー!!」
運転士長「ドロボウだと!?」
ウェイター「大変だ、料理長! 厨房に、料理を取りに戻ったら……」
ウェイター「料理が着物姿の女に全部食われちまってたんだ!!」
料理長「なんだって!?」
桜色の女「ふうー。さすがは豪華旅客列車の料理。今まで食べた中でも、なかなか美味でござった」シーハー
料理長「ちっ。仕留め損ねたか……」
桜色の女「な、こ、こ、殺す気でござるか!? ていうか今どっからナイフ出したでござるか!」
桜色の女「……って、刃先にチーズがついてる。これ、料理包丁でござったか!!」
料理長「―――つまみ食い、死すべし。食い逃げ、死すべし。食後のシーハー、死すべし……」
料理長「貴様は今、この料理長の三つの禁忌をすべて破った!! もはや生かしてはおけぬ!!」
料理長「ウェイターさん、ウェイトレスちゃん! 何としても、この女を殺せ!!」
料理長「なます切りにして明日のブレックファーストメニューにしてやる!!」
桜色の女「言ってるコトがシャレにならないでござるよぉぉぉ!!?」
桜色の女「ひいぃぃ。くわばら、くわばら。こんな危険地帯からは、さっさと退散するでござる……」
ガチャッ
桜色の女「ぬゴッ!!」ゴツン
桜色の女「な、いったい、な……。今度は、ひとりでに扉が開いて……」
革ジャン「あー、くそ。2~5号車はカラブリだったな……」
革ジャン「全客室で聞き込みしたが、怪しい乗客は、部屋で白い粉吸ってた白ドレスの女くらいで……」
黒コート「あ、ああ。だが彼女の身元に、不審な部分は無い。どこからどう見ても普通の乗客だった」
革ジャン「やれやれ。仕方ない、俺たちも食堂車で腹ごしらえを……。ん?」
ヒーロー「だいたいお前の仮面、アクシュミだよなぁぁ!! 鉄! ただの、鉄だし!!」
仮面の男「ふふふ……。この仮面は実は、僕専用の、オーダーメイド品なのだよ」
仮面の男「このツヤ、この感触……。わかるかい? たしかに素材は鉄だが、見た目ほど重くはない」
仮面の男「しかしなんだね君、その安っぽい、プラスチックの仮面は……」
仮面の男「まるで百均の仮面だ。あれかね君、百均ヒーローかね?」
ヒーロー「ああそうだ! この仮面は百均だ! 庶民の味方の百均は正義の味方だぁぁぁ!!」
革ジャン「あれは、俺たちが追っている指名手配犯の、仮面の男!!」
黒コート「―――が、二人!!?」
黒コート「ほ、ホンモノはどっちだ……?」
黒コート「追っていると言っても、仮面の男という情報しか貰ってないからなぁ……」
黒コート「せめて鉄の仮面か、赤の仮面か、わかればいいんだが……」
黒コート「さっきの乗務員のハナシじゃ赤色だったってコトだし、赤いほうか?」
革ジャン「……センパイ。何を迷う必要がある?」ジャキ
黒コート「は?」
革ジャン「よく考えてみろよ。平和な国の、平和な時代の列車で、仮面なんて被ってるんだぜ……」
革ジャン「どっちも不審者に決まってるだろうがああああああ!!!」ダッ
黒コート「待てコラ革ジャン!!!」バン!!!
革ジャン「ぎゃあ!!!」ドサッ
革ジャン「な、何しやがるんだテメエ! 鉢金巻いてなきゃ即死だったぞ!?」
黒コート「さっき1号車で言ったハズだ。つぎ暴れたら私がお前の脳天をぶち抜くと……」
黒コート「まさかさっきの約束、もう忘れたってほど鳥頭じゃないよなぁ……?」グリグリ
革ジャン「熱い熱い銃口でグリグリしないでヤケドする」ジュウウウウ
運転士長「タ、タイムパトロールの方!?」ダッ
黒コート「おや、この列車の責任者の方。さきほどぶりです」
運転士長「ど、どうしてココに……?」
黒コート「いや。さっきお話した通り、2~5号車の事情聴取が終わったのですが、カラブリで……」
黒コート「次は客室に戻るか、9~11号車の取り調べをするか、それともこの食堂車で夕食をとるか」
黒コート「相談していた結果、とりあえずココを通った、というワケです」
革ジャン「そんな相談一言もしてねえだろ……、完全に独断じゃねえか……」
ゴツン
革ジャン「あいたっっ!!」
運転士長「なるほど……。しかし、申し訳ない。食堂車は今、この有様で……」
黒コート「は?」
仮面の男「百均だ、庶民だと、下品だな。仮面を被るなら、言動もミステリアスにすべきではないかね?」
ヒーロー「シャーーラップ! 仮面は正体を隠すためだけのモノ! 正体隠して弱きを助ける、ヒーロー!」
教授「し、死んだとか、ウソでしょ!? 運転士さん!!」
魔王「すまない、本当のコトなんだ……。本当にすまない」
執事「なんとか彼女を助ける方法は無いんですか!?」
ウェイター「俺はアンタに恨みは無いが嬢ちゃん、年貢の納め時ってやつだ!!」ビュッ
桜色の女「モ、モップと箒とは思えない、その棒さばき! さてはおぬしら、ヒトカドの戦士でござるな!?」
ウェイトレス「ううん、ただの掃除屋だよ」シャッ
黒コート「……こ、これは。ひどい」
革ジャン「昨日の状況以上だな。この列車、なんかヤバいモン憑いてんじゃねえかあ?」
運転士長「う、うむ。たしかに、厄ネタを積んでいるといえば、積んでいるが……」
料理長「ええい、チョコマカとっ!!」ババババッ
桜色の女「ぬおおおおっ!!!」キンキンキンキン
桜色の女「ふ、そこな、ふくよかな料理人……。拙者に刀を抜かせるとは、やるでござるな……」
運転士長「……肝心の料理長すら、この有様で」
黒コート「優雅に食事を、という状況には程遠いですね……」
黒コート「良ければ、この状況を収めるのに、ご協力しましょうか?」
運転士長「本当ですか!?」
黒コート「ええ。運良く、私たちの目的である、仮面の男……」
仮面の男「はっ! 君がヒーローだというのなら、私はさしずめ、悪の怪人・鉄仮面卿かな!!」
ヒーロー「なんだとおぉぉぅ!? よし! そこになおれ! 俺が直々に正義の鉄槌を下す!!」
黒コート「……のどちらかも、あの中にまぎれているコトですし」
桜色の女「……? 鉄仮面卿!?」バッ
仮面の男「ふふふ、いいだろう。僕の左は……。スゴいぞ?」スッ
桜色の女「ちょっ、ちょっ―――! 待った! 待ったー!!」
料理長「なんだ……?」
桜色の女「ご、誤解でござる。拙者は敵ではないでござる!」
桜色の女「そこのお姉さん!!」
黒コート「へ。私か……?」
桜色の女「そうでござる。もしや、あの仮面の男と敵対しているのでござるか?」
黒コート「あ、ああ。鉄のほうか、赤いほうか、イマイチ断言しかねるが」
桜色の女「なら、鉄のほうは、拙者に任せてほしいでござる」
黒コート「何?」
桜色の女「だから、鉄仮面のほうは、拙者が仕留めるでござるよ。つまり、おぬしらの味方でござる」
桜色の女「なので料理を食べたコトは見逃してほしいでござる! この通り、カンベン!」
料理長「貴様、そんなコトで許されると思って……」
ウェイター「まあまあ、状況が状況だぜ。おやっさん。ここは休戦といこうや」
ウェイトレス「うん。正直戦うのめんどくさい」
革ジャン「ってコトは、俺の相手は、赤いほうか……。オーケー、だな?」
運転士長「うむ。各自良ければ、私に異存はない」
魔王「彼女を助ける方法か……。まあ、あるにはあるが」
執事「それはいったい!?」
魔王「実は、世界には、生き物が死んだ後に魂が行くコトになる、冥界って場所がある」
魔王「もう死ぬべき人間、まだ死ぬべきでない人間。それは、冥界で一括管理されている」
魔王「そして今の嬢ちゃんは、俺が魔力の浴びせすぎで殺してしまった、いわば事故だ」
魔王「加えて、冥界の王である冥王は、俺の知り合いだ」
魔王「だから、俺が冥王に頭を下げて、お願いすれば……」
執事「まだ死ぬべきでない人間として、蘇生できるかもしれない!?」
教授「あ、頭が痛くなってきた……」
魔王「そうだ。だが冥王はシゴト熱心だからな」
魔王「ウカウカしてると嬢ちゃんの魂も、彼岸に連れていかれるかもしれん」
魔王「そして天界に連れていかれれば、どうダダをこねても蘇生は不可能だ」
執事「そんな……!」
魔王「だから事は一刻を争う。一刻も早く、俺が行って、嬢ちゃんを連れ戻さないと」
教授「待って……。冥界には、どうすれば行くことが出来る?」
魔王「おい待て。まさかお前さんも行く、なんて言うんじゃ……?」
教授「……今回の事態は、私が遠因のようなモノ。彼女がこうなった、責任の一端は私にある」
魔王「……。最近の人間も、やっぱ捨てたモンじゃないな」
魔王「だがダメだ。冥界は、死神族が跋扈する、魔族の領域」
魔王「魔族である俺なら出入りも自由だが、人間だとそうはいかない」
魔王「……ここは堪えてくれ。嬢ちゃんの魂は、俺が責任を持って必ず取り戻す」
教授「……わかった。信じるよ、魔王」
魔王「それじゃ、よいしょっと……」ガタッ
執事「……? 壁にもたれかかる必要が、あるのですか?」
魔王「ああ。冥界へ行くには、外界に肉体を残して、魂だけを飛ばす必要があるから、な」
魔王「だが俺の肉体に何かあれば、外界へは戻ってこれない。俺が戻るまで、俺を守ってくれよ」
教授「ええ。ならば私も、貴方の頼みに責任を持つ」
――冥界
副運転士「え! 私たちの列車をご存知なんですか!?」
冥王「ええ、そらもう。懐かしいなあ。それが今回、冥王のわてが出張ってきた理由なもんでして」
冥王「―――今日の夜。乗員乗客が全員死ぬ、ドライ・ブラー号の大量の魂をきちんと回収するために」
副運転士「え……?」
副運転士「乗員乗客が、全員死ぬ……」
副運転士「……って、どういうコトですか」キッ
冥王「おや。目つきが変わりましたなぁ」
副運転士「……あのですね。冥界の冥王だか、なんだか知りませんが」
副運転士「いくらイケメンでも言っていいコトと悪いコトがありますよ……!!」グイッ
冥王「え、エリ首捕まんとってください。わてが殺してるわけやあらへんし」ググググ
副運転士「…………」
冥王「く、詳しくお話しします。やから、放してくれまへんか」ググググ
副運転士「っ……」パッ
冥王「ふ、ふう……。お嬢さん、見かけによらず、力ありますなぁ」
副運転士「……もう一度、おうかがいします」
副運転士「今日の夜。ドライ・ブラー号の、乗員乗客が全員死ぬ、ってどういうコトですか」
冥王「……。それなら、まずこれを見てくれまへんか――――」
死神A「め、冥王さま~! 勝手に動き回らないでください!」
冥王「お。死神はん、お疲れさんです。探してるの、この人ちゃいますか?」
死神B「……! ド、ドライ・ブラー号の制服! マチガイない、この女性です!」
副運転士「え……? あの……」
死神B「乗務員さん! その節は、本当に申し訳ございませんでした」ガバッ
副運転士「え? あ、あの、何か知りませんけど、頭上げてください!」
副運転士「と、頭部はついてないみたいですけど」
死神B「い、いや。そういうワケには……」
死神B「覚えていらっしゃいませんか? その、ですね……」
死神B「今年の春、ドライ・ブラー号にごメイワクをおかけした、死神族の者なんですが……」
副運転士「……えっ、ああ! 今年の春の!?」
死神B「そうです! 思い出していただけましたか!?」
死神B「その節は、本当にごメイワクをおかけしました。申し訳ありません」
副運転士「いやいや、いいんですよ。それに私、その当時いた乗務員じゃありませんし」
死神B「そうなんですか? しかし、私たちが貴女のご同僚に、ごメイワクをおかけしたのも事実……」
死神B「……それと。今回のコトは、本当に災難でした。お悔やみ申し上げます」
副運転士「……?」
死神B「けれど、今年の春の罪滅ぼしというワケではありませんが……」
死神B「ドライ・ブラー号の皆さんの死後のお世話は、私たちが責任を持ちたいと思います」
死神B「どうぞご安心ください」
副運転士「し、死後の世話……。それに、今回のコト、とは」
冥王「お嬢さん、それですよ。わてが今から見せよう思たんは」スルルッ
副運転士「え……? なんですか、この巻物は?」
冥王「そうですなあ。いわゆる、エンマ帳ってやつやろか。その複製品です」
副運転士「エンマ帳……! それって、これから亡くなる人物の名前が書かれているという……?」
冥王「そうです。それで、ここを見てくれまへんか。今日の部分です」
副運転士「……う、うそ。そ、んな…………」
副運転士「ド、ドライ・ブラー号のみんなの名前が、ビッシリ、と……」
冥王「わかってもらえましたか?」
冥王「何も悪気があって、乗員乗客が全員死ぬとか言うてるんちゃいます」
冥王「単に、このエンマ帳に名前があるから、魂に取りこぼしが無いよう来ただけなんや」
副運転士「そ、そうだったん、です、か……。…………」
副運転士「……ごめんなさい。冥王さん。さっきは、掴みかかっちゃって」
冥王「いやいや。ええんですよ。誰にでも、マチガイはあります」
冥王「でも、どうしてそこまで……?」
冥王「例えば、わてが冥界の役人ごと、天界の主神はんに消されることになったとしても……」
冥王「そんな主神はんに掴みかかるほど怒らへんと思うけどなあ」
副運転士「……私、今日列車が大変なコトになるって、知って。誓ったんです」
副運転士「この年末年始の運行を、絶対に成功させるんだって」
冥王「え……?」
副運転士「どんな大変なコトがあっても、乗客の皆さんを守るって」
副運転士「そう決めてたんです」
副運転士「だから、ドライ・ブラー号のみんなや、乗客の皆さんが死ぬ、なんて言われて……」
副運転士「つい、カっとなっちゃって」
副運転士「…………、…………」グス
副運転士「……でも、だったら、だからこそ!」
副運転士「やっぱり私は、こんなところで死んでなんかいられません!!」
副運転士「お願いです、冥王さん! 今すぐ、私を生き返らせてください!」
副運転士「私は今すぐドライ・ブラー号に戻って、みんなを助けなきゃいけないんです!」
冥王「わ、わがままやなあ、あんさん。ちゃんと大学出たはるか? いくつ?」
冥王「あのな。このエンマ帳に書かれた、天界の意思いうのは絶対や。わてらには変えられへん」
冥王「そしてわてはただの執行者。執行者が、自分の意思で、上の命令に背いたらいかんのや」
副運転士「うぐ……。わかります。シゴトではちゃんと命令に従わないとですよね」
副運転士「でも、そこをなんとか! これは、これだけは! 絶対に譲れないんです、私は!!」
冥王「おろろ……」
魔王「……お――――――い!」
死神A「……おや? どこからか、声が」
冥王「なんや聞きなじみのある声やなぁ」
魔王「お――――い! 誰かいないか~……」
冥王「ああ、やっぱり。おーい、こっちやで~」ノシ
魔王「お――……。お? お!! ……あー、やっと見つけたぜ!」
魔王「あんた、ドライ・ブラー号の乗務員の嬢ちゃんだな!?」
副運転士「え……?」
冥王「おや、魔王はん。久しぶりですなあ。いや、今は碧夕王やったか?」
魔王「それはただの称号だ。お前こそ元気みたいだな、冥王」
冥王「ははは。みんな死んどる世界で、元気にやらせてもろてます」
魔王「しっかしお前、久し振りに来たが冥界、相変わらずアクシュミだなあ……」
魔王「お前さ、こんな鬱蒼とした森じゃなくて、もっとキラキラしたネオンビルとかにしねえ?」
魔王「死んだ魂もさ、死んだうえに来たのがこんなトコじゃあ、そりゃあ萎えちまうってモンだぜ」
冥王「はあ。しかし木ィ切り倒すにしても、冥界環境保護団体がうるさぁてなあ……」
副運転士「え、あの……? あれ、ええと?」
魔王「―――お。そうだ、お嬢ちゃん。俺の用は、お前だ」
魔王「帰るぜ、今すぐ。あんたの職場、ドライ・ブラー号に」
副運転士「え……!?」
冥王「ちょ、ちょっと。なに言うてはるんですか?」
冥王「魔王はん。いくらあんさんでも、それは困ります」
冥王「死者の魂を如何するかは、冥界の領分。魔王の仕事とちゃいます」
魔王「ああ、それだけどな。その女の子、俺が間違って殺しちまったんだ」
魔王「つまり完全な事故ってワケ。過失事故。となれば本来、彼女はここで死ぬ運命じゃない」
魔王「なら、外界に戻っても、何の問題も無いだろう?」
冥王「ふむ……。魔族による、事故ですか。魔界との規定もある。せやったら、まあ……」
冥王「せやけど、それはそれで、また別の問題になるんちゃいますか?」
冥王「魔界の魔王、それも七魔公王が、魔界のルールを破って人間殺したとか……」
魔王「うぐっ! そ、ソーベリーウィーク……」
魔王「ま、ま。そこは俺とお前の仲ってコトで? ちゃちゃっと揉み消しといてくれよ」
冥王「はあ……。わかりました。なら、そのように手配しときます」
魔王「よっしゃ!!」
冥王「まったく。そんなコトで、部下の魔族に示しがつくんやろか……」
副運転士「あ、あの……? 貴方は……」
魔王「ん、俺か? 俺は、たまたまドライ・ブラー号に乗り合わせた魔王の者だ」
魔王「良かったな、嬢ちゃん。また冥界から人間界に戻れるコトになったみたいだぞ」
副運転士「え……。ほ、本当ですかっ!?」
魔王「ああ。本当だ。魔王、ウソつかない」キラ
死神A「あ、あの……! 七魔公王の、碧夕王さまですよね! サイン貰えますか!?」
魔王「ん? 死神族のところの死神か。俺の管轄じゃないが……。ああ。お前の着てるローブでいいか?」
死神A「あ……! ありがとうございます! 一生タイセツにします!!」
冥王「……はい、はい。今、このお嬢さんが外界に戻れるようにしといたで、魔王はん」
魔王「ありがとうよ、冥王。やっぱ持つべきモノは友だな」
冥王「せやけど、意味あるんやろか? お嬢さんも含めて、列車の乗員乗客は、今日皆死ぬ運命やで」
魔王「何……?」
冥王「ほら。エンマ帳の、ここ見てみ。こんだけの人が死ぬんやから、相当な事故や思うが……」
魔王「……本当だ。乗務員の嬢ちゃんはモチロン、教授の嬢ちゃんや、執事の兄ちゃんまで」
魔王「ちなみに、死因はなんだ?」
冥王「死因? ええと。―――なんやこれ? 火砕流に、土石流。火山弾、やと?」
魔王「火砕流、土石流、火山弾!? や、やっぱり……」
冥王「ま、まさか。ドライ・ブラー号で、アレが目覚めるとでも……」
冥王「……ちょっと待て、魔王はん。今、『やっぱり』て言うたか? あんた、なんか心当たりあるんか!?」
魔王「俺の独自の調査だが。今回のドライ・ブラー号の事件には、天界が関わっている。十中八九」
冥王「……なるほど。そういうことか。ちょっと、お嬢さん。一つええですか?」
副運転士「え。あ、ハイ。なんですか……?」
冥王「さっきあんさん、『今日列車が大変なコトになるって、知って』……って、言いましたな」
冥王「―――それ。誰から聞いた情報や?」
副運転士「え、ええと。言っても、信じてもらえるか、わからないんですけど……」
副運転士「夕方ごろ、運転室に突然現れた、白ドレスの女のヒトです」
魔王「……!!」
魔王「おい、嬢ちゃん! ソイツは何を言っていた? いったい何と名乗った!?」
副運転士「いや、名前は聞いてないんですけど。要約すると、この列車の運命は、私たち次第だ、と」
魔王「……白ドレス。白色。運命。なるほど。なるほどなあ」
冥王「なにやら、きな臭ぁなってきましたなぁ。このエンマ帳に、書かれていることも」パンッ
魔王「ああ。エンマ帳を発行しているのは、天界……。これはひと悶着、ありそうだぜ」
魔王「おい、乗務員の嬢ちゃん! そうとなれば、急いで、列車に戻るぞ」
副運転士「えぇ? そりゃ、列車には戻りますけど……。どうして、急いで?」
魔王「俺たちのいない間に、悪さをされちゃあ困るからだ。そう、今回の黒幕――――」
魔王「―――“白の大天使”、にな」
副運転士「だ、大天使!? それはいったい……」
魔王「読んで字のごとく、だ。大天使。大いなる天の使い」
魔王「中でも白の大天使といやあ、神出鬼没、自由奔放、ハタ迷惑で有名だが……」
魔王「そのエンマ帳の、死亡リスト。それも白の大天使が原因の可能性がある」
副運転士「と、というコトは……!?」
魔王「ああ。エンマ帳の死亡リストは天界の管理。つまり、白の大天使をとっちめれば……」
魔王「その死亡リスト。無かったコトにだって、出来る」
副運転士「……!」
副運転士「よ、よくわかりませんけど。それはつまり……」
副運転士「ドライ・ブラー号のみんなや、乗客の皆さんを、助けるコトができるんですねっ!!?」
魔王「ああ。その通りだ」
冥王「やれやれ。知らんうちに、なんか大事になってきましたなぁ。しかし、なら、ついに……」
魔王「というワケで、俺たちは外界に戻る!」
魔王「もしもエンマ帳の中身が書き換わった時の対応! それと、俺の不祥事の揉み消し!」
魔王「頼んだぜ! 冥王!!」
副運転士「あ、あの! 冥王さん、お世話になりました! また会いましょう!!」
冥王「はいはい。いや、あんまり会わへんほうがええと思うで……」
死神A「……あの、冥王様。つまり、これはいったいどういう?」
冥王「うーん。まあ、このエンマ帳の中身も、運命も、絶対やない。いうことかなあ」
死神B「はあ……?」
――6号車【食堂車】
魔王「―――はっ!」パチクリ
執事「ま、魔王さん! お戻りですか!?」
魔王「あ、ああ……。なんとか。当初の目的は、達成できたみたいだ」
副運転士「う、うーん……。あれ、ここは?」パチッ
教授「う、運転士さん!! 良かった……」ギュッ
副運転士「きょ、教授さん!? く、くるしい。……って、あれ?」
桜色の女「―――ふっ!」フォン
仮面の男「おっと危ない!」バッ
スパッ
仮面の男「ふう……。後ろのテーブルが音も立てずに真っ二つ、とは。腕を上げたね」
仮面の男「それよりも、君もこの列車に乗っていたんだね。春風の旅人よ」
桜色の女「ああ。元々は、この時代にメイワクをかけたという、貴様を誅するためだったが……」
桜色の女「今は、一人の剣客として。貴様の血が欲しい」スッ
仮面の男「僕を列車の者に売り渡す、か。それもいいだろう。僕たちの戦いは、行雲流水なれば……」スッ
黒コート「革ジャン! そっちに行ったぞ!!」
革ジャン「くそがあ、チョコマカとっ!!」バンバンバン
ヒーロー「ふははははっ!! 当たるか当たるか、当たるモノかぁっ!!」ヒュンヒュンヒュン
革ジャン「てめえ! バク転しながら避けるとか、ナメてんのかああああ!!?」
ヒーロー「いやいやいや!! ナメてなどいない!! 単に君の弾道が非常に読みやすいだけだ!!」
黒コート「―――そうだな」フワッ
ヒーロー「え……?」クルッ
黒コート「お前の動きも、非常に読みやすい」
乗客A「な、なんなんだね、これは。さっきから……」
乗客B「こんなイベント聞いてないけど!?」
乗客C「すごーい! たのしい!」
ウェイター「コチラ、当列車のサプライズイベントとなっております」
ウェイター「危ないので、白線の内側でご観覧ください」
ウェイトレス「ごかんらんくださーい」
副運転士「な、なんですかコレは……!? な、何がいったいどうなって」
運転士長「おや、気がついたか。いや、君が気を失う前後に色々あってね……」
副運転士「色々ってレベルですか!?」
―――それは春風などという生易しいものではなかった。
桜色の女「―――。―――っ」
仮面の男「ふっ―――、ふっ! やはり君の剣筋、美しい! 客室に刀を置いてきた僕が恨めしい!!」
女の剣筋に一切の無駄はなかった。
一振り、一振りが、男の首を正確に狙う一撃。すんでのところで避けられた斬撃は、
取って返す刀で、再び男の首に追いすがる。その姿はまるで、獲物に食らいつく狼のように。
いや。狼と形容するならば、この刀の使い手こそが、この場で最もふさわしいだろう。
桜色の女の、普段の風来坊らしい、泰然自若とした余裕の姿は消え失せ。
ただ敵の赤い命の奔流を求める、かまいたちの如き飢狼だけが、そこにいた。
―――突如としてそれは、赤い仮面の真後ろに現れた。
ポリマースーツは、けっして革ジャンの男の銃技をあなどっていたのではない。
単純に、革ジャンの男の銃弾は、彼にとってバク転が最も避けやすかったのだ。
正確ではないが、常人の反応速度をゆうに超えた速さで放たれる、早撃ち。
まともに目測で指の動きを読んでいたのでは、その瞬間に既に撃ち抜かれている。
ならば、それを上回る速さで回ればいいじゃないか。ヒーローはそう考えた。
だが、その合理的な考えが、正義の味方気取りの男の背後に、致命的な隙を与えた。
黒コート「時空整備課を……」
ヒーロー「――――あ」
黒コート「ナメるなァァッ!!!」
黒コートの女は、ただの一般人である。
少し運動の才能に優れ、少し技術の努力を積み、少し踏んだ場数が人より多いだけの、
付け加えるならば少し未来からきただけの、ただの一般人である。
特別な能力など、何も持っていない。
魔族や一部の傭兵のように、魔法を使えるわけでもない。
ましてや、この日を待ちに待ったテロリストのように、重火器があるわけでもない。
―――そう。彼女が持っているのは。
ヒーロー「ぶべらああああああああああああああああああ!!!!!!」
鍛え抜かれた筋肉。漆黒に覆われた、長い肢体から放たれる――――
一撃必殺の体術。赤い硬質な背中を撃ち抜いた、ただ一発の蹴撃であった。
桜色の女「な―――? 赤いカタマリ……!?」
仮面の男「えっ? あの、ちょっ―――、待っ――――」
―――仮面の男は、完全に気を取られていた。
いや、彼の名誉のために言い替えるならば。
仮面の男は、完全に自分たちの戦いに酔いしれていた。
桜色の女との、幾度目かになる決闘。
彼と彼女の戦いは、必ず偶然によって起こる、戦いのためではない戦いだった。
だからこそ仮面の男は、その戦いの“意味の無さ”に、酔いしれていた。
そう、酔いしれていた。
酔いしれていたがゆえに、桜色の女は気付き、彼は気付かなかった。
とある黒い警察官が蹴り飛ばした、赤い塊が、自分たちの元に飛来していることに。
小型メカ「まったく。さっきから、何をしているんですか? バタバタと……」フワフワ
小型メカ「いいですか? ヒーロー気取りのお兄さん」
小型メカ「貴方の目的は、私たちの同僚が追っている、鉄仮面の男ではなく――――」
ヒーロー&仮面の男「「ぶべらああああああああああああああああああ!!!!!!」」
254 : ◆9xXTDlz//k - 2017/12/26 18:32:57.23 S4IgpjZso 248/602第四章「夜中・後」は以上になります。
登場人物はこれで全員です。
第五章は、明日12/27(水)の18時ごろ開始の予定です。
続き
テロリスト「「「この列車は俺たちがハイジャックした!!!」」」【中編】