男「なかなか高そうな傘だな……」
男「どれ、開いてみるか」バサッ
男「……」
男「なんだ、この匂い……」クンクン
男(この匂い……まさかヤクか!?)
元スレ
男「お、傘がある! パクッちゃおwwwww」
http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1484579678/
男「この取っ手、外れそうだな……どれ」キュポンッ
男「……!」
男「やはりな……」
男「怪しい粉が入ってやがる。これだけでも末端価格は相当なもんだろう」
ザザザッ!
男「!」
大男「ぐへへへ……」
男「なんだ、お前たちは」
大男「その傘を返してもらおうか。大切な商品が入ってるからな」
男「悪いが、そういうわけにはいかないな」
大男「なら死ぬしかねえな! やっちまえ!」
男「やれやれ……運動はあまり好きじゃないんだがな」
ドカッ! バキッ! ドゴッ!
「ぐはぁっ!」
「ぎゃっ!」
「つええ……」
男「ふう、男にモテても嬉しくもなんともない」
大男「やるじゃねえか。腕に自信ありってとこか?」
男「全然だ。だから見逃してくれないか?」
大男「そういうわけにはいかねえな!」
大男「おりゃあっ!」ブウンッ
男「おっと」
大男「どりゃあっ!」ブウンッ
男「っとと」
大男「ちょこまか逃げやがってえ!」ブウンッ
男「逃げ足だけが取り柄だからな。オリンピック競技に逃げ足がありゃ金メダルだ」
大男「だったら蹴りで――」
男「ガラ空きだぞ」シュッ
ガッ!
大男「うがっ……! てめえ、オレのタマを……!」
男「もし女になっちまってても、俺に言いよるのは勘弁してくれよ」
大男「ううっ……」ドサッ
男(この傘をどうするか……とりあえず、あいつのところに行くか)
―警察署―
女刑事「なに、この傘? あなたの汚い部屋にでも眠ってたの?」
男「ちょいと町で見つけてね」
男「で、物騒なもんが入ってたから、お前さんのところに持ってきたのさ」
女刑事「ふうん……」
女刑事「とんだお手柄だわ」
女刑事「これは……犯罪組織≪パラソル≫の傘よ」
男「≪パラソル≫……!」
女刑事「目つきが変わったわね」
女刑事「そうだったわ、あなたの恋人は≪パラソル≫の手で……」
男「……」
女刑事「まさか、戦いを挑むつもり?」
女刑事「≪パラソル≫は警察でもうかつに手を出せない……無謀だわ」
男「無謀だろうとなんだろうと、俺はやるしかないんだ」
男「あいつを死なせちまった俺にできることは、それぐらいしかないからな」
女刑事「止めても無駄みたいね」
男「じゃあな……世話になった」
男「……」ピッピッ
プルルルル…
『兄貴、どうしたんすか?』
男「≪パラソル≫が、この界隈で動き始めた」
『マジっすか!?』
男「このチャンスを逃す手はない。お前の情報網で、奴らの動きを探れるだけ探ってみてくれ」
『分かったっす!』
『もし戦いになったら、オイラも――』
男「いや、いい。お前を巻き込みたくない」
『でも……!』
男「お前にゃ女房も子供もいるんだ。もう危ない橋は渡るな。これは命令だ」
『……分かりやした。でもこれだけは伝えておきます』
『オイラは今でも兄貴の舎弟っすから……』
男「ありがとよ」ピッ
男「!」
ザザザッ!
スキンヘッド「クックック、てめえだな?」
スキンヘッド「オレたちに逆らおうってバカは」
男「……手が早いな。その手際の良さをもっと平和利用しようとは思わないか?」
スキンヘッド「生憎その気はねえなぁ!」
バキッ! ドカッ! ドスッ!
「ぐぎゃっ!」
「ぐえっ!」
「あぐっ!」
男「久々に運動すると体がきしむな。こんなことならライザップにでも通っておくべきだったよ」
スキンヘッド「なんだとぉ~!? 武器持った五人が一瞬で……!」
スキンヘッド「ちくしょぉ~!」
男「畜生ってのはな、お前たちみたいな連中のことをいうもんさ」
バキィッ!
スキンヘッド「ぐへえ……」ドサッ
男「おっと、まだおねんねには早いぞ」
男「お前たちのボスの居場所を教えろ」
スキンヘッド「し、知るかよ……」
ボキッ
スキンヘッド「ぎゃああああああああああっ!」
男「ボスの居場所は?」
スキンヘッド「だから知ら……」
パキッ
スキンヘッド「いぎゃあああああああああああっ!」
男「居場所」
スキンヘッド「本当に知らな……」
ベキッ
スキンヘッド「あぎゃああああああああああいっ!」
スキンヘッド「……」ピクピク
男(両手足の指全部ヘシ折っても吐かなかったか……本当に知らないらしい)
男(後手に回るのは趣味じゃないが、しばらく自宅にこもるとするか)
男(夜になれば、あいつも情報を集め終わるだろう)
男(こちらから打って出るのはそれからだ)
男「俺だ」
『兄貴、大変なことになりやしたぜ!』
男「どうした?」
『≪パラソル≫は、組織最高の殺し屋『蝙蝠傘』を使って兄貴抹殺を企んでるっす!』
男「情報ありがとう。どうやら俺にもお客さんのようだ」
俺は電話を切った。
闇に包まれた部屋の中に、俺は強烈な殺気を感じていた。
男「いるんだろ? ……蝙蝠傘」
蝙蝠傘「電話に救われたな」
男「電話に? バカいえ、俺は電話の音で起きたんじゃない」
男「お前さんのバカ正直な殺気に起こされちまったのさ」
蝙蝠傘「……ハッタリじゃなさそうだな」
男「俺がハッタリを使うのは、女を口説く時だけさ」
蝙蝠傘「面白い!」
蝙蝠傘「シャッ!」
ズバッ!
男「……ナイフ、か」
蝙蝠傘「ピストルってのは殺しの感触を味わえねえから、趣味じゃねえんだ」
蝙蝠傘「シャシャッ!」
ザシュッ!
男「これで傷二つ、男前が台無しだ」
蝙蝠傘「オレの目は闇夜でも昼のようにきく! しかし貴様はどうかなァ!」
ザンッ! ザシュッ!
男「……くっ」
蝙蝠傘「流石だ! この闇の中でよくかわしている!」
男(やれやれ、こいつは強敵だ。夜目が利くだけじゃなく、ナイフさばきも一流だ)
男(組織最高の殺し屋ってのは伊達じゃないな)
男「携帯電話を……!」サッ
蝙蝠傘「させるかァ!」ドカッ
男「ぐはっ!」
ドガシャァンッ! パリィンッ!
蝙蝠傘「コケて酒瓶を割っちまうとは無様なもんだ!」
男「ぐ……」
蝙蝠傘「携帯電話の明かりを頼りに、オレと戦おうってとこだろうが残念だったなァ!」
蝙蝠傘「このケータイは壊させてもらうぜ!」グシャッ
男「いや……これでよかったのさ」
蝙蝠傘「なに?」
男「おかげで……こっちにも武器ができた」
蝙蝠傘「なにをほざいて――」
俺は床に散らばった酒瓶の破片を、すくい上げるようにして蹴り上げた。
破片は散弾のように、蝙蝠傘めがけて飛んでいく。
俺は自分の足癖の悪さに感謝した。
蝙蝠傘「ちいっ……!」
一瞬のスキ。
一瞬あればそれで十分だ。
ザクッ!
蝙蝠傘「が、はっ……!」
蝙蝠傘に密着した俺はナイフを奪い、奴の心臓に突き刺した。
組織最高の殺し屋は、うめき声をもらして息絶えた。
男「……」
男(俺は自宅に戻る時、尾行には細心の注意を払っていた)
男(そして、俺の自宅を知ってる奴は……ほとんどいない)
男(答えは一つ……か)
―警察署―
男「残業中、すまないな」
女刑事「あら、どうしたの? こんな時間に」
男「ちょっとお前に用ができてな……」
男「どうだ、もう日は落ちたし雨も降ってないが二人で相合傘とでもしゃれ込まないか?」
女刑事「別にかまわないけど……」
ザッザッザッ……
男「ところで、お前に聞きたいことがあるんだ」
女刑事「あら、なあに?」
男「なぜ……俺の恋人を殺した?」
女刑事「なにいってるのよ、急に」
男「しらばっくれても無駄だ……≪パラソル≫のボス」
女刑事「!」
女刑事「よく……分かったわね」
男「署を出てから、あのスキンヘッド男が襲ってくるタイミング……いくらなんでも早すぎた」
男「それに、俺の自宅を知ってる奴はほとんどいないのに」
男「あの蝙蝠傘とかいう殺し屋は俺の自宅へ忍び込んできた……」
男「こんなことできるのは、お前しか該当者しかいなかったのさ」
女刑事「彼ならブランクのあるあなたなら仕留められると思ったのに、驚きだわ」
男「なぜだ? なぜ俺の恋人を?」
女刑事「決まってるでしょ?」
女刑事「あなたを私のものにしたかったからよ!」
女刑事「あの小娘を殺せば、あなたは私のものになると思った!」
女刑事「だから組織を動かして殺したのよっ!」
女刑事「だけど……だけど、あなたは私に振り向いてはくれなかったっ!」
男「……」
女刑事「だから決心したのよ!」
女刑事「手に入らないなら、いっそ――あなたを殺そうってね!」
女刑事がすばやい動きで懐から拳銃を取り出す。
俺は咄嗟に、その手首を逆方向に折り曲げた。
女刑事は自分で自分を撃ってしまう格好になった――
女刑事「ふ、ふふ……さすが、ね……」
女刑事「さすが、私が……愛した男……」
男「……」
女刑事「私は最後まで、あなたを振り向かせること、できなかった……」
女刑事「でも……最後に……相合傘ができて……楽し、かったわ……」
男「……俺もだよ」
夜空には雲一つなく、星がまばらに瞬いていた。
だが、俺は傘を差したまま家路についた。
なぜなら、俺の心の中には、哀しみの雨が降り注いでいたのだから――
― 完 ―