【ポケモンSM】ヨウ「夢か、約束か」【前編】
【ポケモンSM】ヨウ「夢か、約束か」【中編】
ヨウ「夢か、約束か」
~約束の章~
ポケモントレーナーの ヨウが
勝負を しかけてきた!
ポケモントレーナーの リーリエが
勝負を しかけてきた!
リーリエ「お願い! ピクシーさん!」ヒョイッ!
ピクシー「ピッピクシーッ!」ポンッ!
ヨウ「ゆけっ、ウツロイド!」ヒョイッ!
ウツロイド「じぇるるっぷ……!」ポンッ!
ヨウさんのボールから出てきたポケモンさんを見た瞬間、わたしは戦慄しました。
なぜヨウさんが、ウツロイドさんを?
不意に、わたしの脳裏にウツロイドと融合したかあさまの姿が蘇ってきました。
まさか、ヨウさんはウツロイドさんの毒にやられて……?
ヨウ「ウツロイド、ステルスロックだ!」
ウツロイド「じぇるるっ!」バッ!
リーリエ「!」
素早く動いたウツロイドさんが触手を振り上げたと同時に、周りの尖った岩がピクシーさんに向かって飛んできました。
動揺して回避する指示を送らせてしまい、ピクシーさんの周りに、岩が周囲に浮遊してしまいました。
ヨウ「ウツロイド、更にヘドロばくだんだ!」
リーリエ「ピクシーさん! ちいさくなるです!」
ピクシー「ピクーッ!」
ウツロイドさんの触手から発射された毒の塊がピクシーさんに直撃するより前に、ピクシーさんは身体を小さくして、逃げ切ることに成功しました。
このまま身を隠しながら、パワーを上げていきます!
リーリエ「ピクシーさん、めいそうです!」
さすがのリーリエもウツロイドの登場に対して、動揺は隠せないか。
それに予想通り、ピッピ系統をパーティー内に入れていた。今のところ、僕の読み通り事が運んでいる。
僕は雪に視線を移しながら、ウツロイドがステルスロックを放ったと同時に、雪の中にあるものを、彼女は落としていたことに気付いた。よし、起点作りは順調だな。
リーリエ「ピクシーさん、めいそうです!」
ピクシー「……」キィィン
ピクシーは多彩な技を覚え、戦法も多くあるが、リーリエのピクシーはちいさくなったりめいそうでステータスを上げて殴ってくるタイプか。
ステータスを上げる技の対策は出来ているが、僕の目論見がバレる可能性もあるし、長期戦に持ち込ませるわけには行かない。
リーリエがどのくらいウツロイドのことを知っているのか分からないが、まずは身動きを封じてから考えるか。
ヨウ「ウツロイド、でんじはだ!」
ウツロイド「じぇるるっぷ!」バチチッ!!
ピクシー「ピッ……!」ビリビリッ
リーリエ「ピクシーさんっ!」
さぁどうする、リーリエ。ピクシーをまひにした今、これ以上逃げ回りながらステータスを上げるのは難しくなったぞ……!
出してこい、ソルガレオを。ウツロイドを倒すには、ソイツか2体目のポケモンに賭けるしかないぞ。
リーリエ「……!」
ピクシー「ピッ……!」ビリビリッ
麻痺になったピクシーさんを目の当たりにして、わたしはヨウさんに視線を移しました。
たぶん、ヨウさんはウツロイドさんに寄生されたわけではないでしょう。
ウツロイドさんは、自分の身を守らせるために人に寄生して毒を注入するそうです。かあさまがウルトラスペースでウツロイドさんを捕獲しても勝負に使わなかったのは、きっとそれが理由です。
ですから、自分が傷つくであろうポケモン勝負でウツロイドさんを繰り出しているということは、ヨウさんは寄生された可能性は低いと思います。
かあさまと同じようなことがヨウさんの身に起きたわけではないことに安堵する一方で、
「寄生していれば、ヨウさんがいなくなったのも、ウツロイドさんのせいに出来るのに」
という、胸の内にいる邪な自分がそう呟きました。
ヨウさん……どうして? わたしより、ウツロイドさんたちと一緒にいるほうがいいんですか?
いいえ、泣き言を連ねたって、あの人に届きません。ヨウさんに勝つことが出来れば、一緒にいられるんです! もう、弱気になりません!
誰にも渡したくないです。わたしだけのヨウさん………!
……でも、今のピクシーさんではウツロイドさんに勝つのは難しいのも事実です。
アローラに帰ってきたとき、エーテルパラダイスでにいさまに頼んで、ウルトラビーストさんのデータを見せてもらいました。
ウツロイドさんのタイプはいわ・どく。フェアリータイプのピクシーさんとは相性が悪いです。
更に言えばまひになってこれ以上コスモパワーやめいそうでステータスを上げるのは困難でしょう。
わたしの手持ちの中でどくタイプに強いのはもう一匹のポケモンさんとほしぐもちゃん。特にはがね・エスパーのほしぐもちゃんなら、ウツロイドさんを一方的に倒すことが出来ます。
わたしはステルスロックのダメージ覚悟で、ほしぐもちゃんのボールに手を掛けようとした時でした。
――これがヨウさんの狙いだったら?
わたしにほしぐもちゃんを出させることが狙いだとしたら?
ヨウさんの手持ちにはどんなポケモンさんがいるか分かりませんが、わたしがほしぐもちゃんを手持ちに入れていることは、きっと知っているはずです。
つまり、ほしぐもちゃんへの対策も出来ているということ……。
ウツロイドさんは、わたしの動揺を誘って判断力を失わせて、ほしぐもちゃんを出すために手持ちに入れたのでしょう。
そうはいきません。
ここは攻撃して、ウツロイドさんを押し切ります!
リーリエ「ピクシーさん! ウツロイドさんにだいもんじです!」
ピクシー「ピッピクシーッ!」ビリッ
ボウッ!
ヨウ「……!」
ウツロイド「じぇるっ!?」
大の字型の炎が発射されて、ウツロイドさんに直撃すると、瞬く間にウツロイドさんは火だるまになりました。
わたしとピクシーさんの反撃に、ヨウさんも驚きを隠せていない様子です。
ヨウさん……これが今のわたしの実力です。ヨウさんをアローラへ連れて帰るためなら、わたしだってなんでもするつもりです。
ヨウ「……!」
やるじゃないか、リーリエ。僕の考えを読んでくるとは。さすが、カントーを旅しただけのことはある。
本当は出てきたソルガレオを麻痺にさせてウツロイドを引っ込めたあと、ガオガエンを出して倒そうと思ってたんだけどね。
だが、まだまだ甘いな。
ウツロイド「じぇるるっぷ……!」
ウツロイドは特殊攻撃に対しては打たれ強いんだ。反撃できるチャンスはいくらでもある。
ヨウ「ウツロイド、クリアスモッグだ!」
ウツロイド「じぇるるっぷ……!」バッ!
ウツロイドの全身から、不思議な色の煙が上がり、ピクシーを覆っていく。
ピクシー「ピッ!?」
リーリエ「そんな、ピクシーさんが!」
クリアスモッグで、ピッピのステータスは全てリセットした。無論、ちいさくなるも消えて大きさも元に戻る。
このまま押し切ってビーストブーストでウツロイドの能力を上げてもいいし、倒されたとしても、次のポケモンでピッピの体力を削り取れる。もうウツロイドは充分役割を果たしてくれた。
ヨウ「ウツロイド、ヘドロばくだん!」
ウツロイド「じぇるるっぷ……!」ドンッ!
ピクシー「ピーッ!!」バシャッ!
リーリエ「ピクシーさんっ!」
ヘドロばくだんが直撃して、ピクシーがリーリエのそばまで吹っ飛んで、そのまま倒れた。
ウツロイドが敵を倒したことで、赤いオーラを纏い、すばやさが上昇した。
これで先にリーリエのポケモンを2匹にする事ができた。更に言えば、ステルスロック+α、加えてウツロイドはビーストブーストですばやさが上がっている。相当有利な状態だ。
だからといって気を抜くわけにはいかない。次のポケモンの出方次第では戦況をひっくり返されかねないかもしれない。
バトルツリーで、勝ったと思ったら思わぬアクシデントで逆転されたという場面が嫌というほどあったからね。
リーリエ「ピクシーさん……ゆっくり休んで」シュンッ
ヨウさん……やっぱり強いです。作戦を見破ってやっとヨウさんに一矢報いたと思ったら、作戦を見抜かれたときの事もキチンと考えているなんて。
でもまだまだ、諦めるつもりはないですよ、ヨウさん。わたしにはもう一匹のポケモンさんと、ほしぐもちゃんがついています!
リーリエ「お願い! キュウコンさん!」ヒョイッ
キュウコン「コォーンッ!」ポンッ!
ザクザクッズグッ!
キュウコン「コンッ……!」ガクンッ!
リーリエ「キュウコンさん、大丈夫ですか?」
キュウコン「コーン……!」ググッ
ウツロイドさんが放ったステルスロックによって、キュウコンさんは少しダメージを受けてしまいました。だけどキュウコンさんはそれを堪えて、ウツロイドさんと対峙します。
キュウコン「コーン!」カッ!
ヨウ「天候が変わった……ひでりか!」
あられが止んで、目がくらむほどの日差しが場を照らし出しました。
ウツロイドさんはさっきのだいもんじを当てても、大きなダメージにはなっていなかったです。ということは、とくぼうが高いってコトですよね……。
なら、この技で……!
リーリエ「キュウコンさんっ、サイコショックです!」
キュウコン「コーンッ!」
ブゥゥン!
ドドドド!
ウツロイド「じぇるるっ……!?」
ヨウ「!」
キュウコンさんが放った不思議な念力が衝撃波となってウツロイドさんにダメージを与えました。
結果は……やっぱり、効果ばつぐんの大ダメージでした。ウツロイドさんは、とくぼうが高い代わりにぼうぎょはとっても低いようです!
リーリエ「このまま押し切りますっ! キュウコンさん、もう一度サイコショックです!」
ヨウ「ウツロイド、パワージェムで反撃しろ!」
キュウコン「コーン!」ブゥゥン
ウツロイド「じぇるるっぷ……!」キランッ!
キュウコンさんの念力と、ウツロイドさんのパワージェムが同時に飛び出して、それぞれの相手に向かって解き放ちました。
キュウコン「コンッ!」サッ!
ウツロイド「じぇるっ……!」ドドドッ!!
ですが、キュウコンさんはパワージェムが当たる直前で身を翻しつつ、サイコショックをウツロイドさんに当てることに成功しました!
ウツロイド「るるっ……ぷ」
そのままウツロイドさんは地面に倒れて、立ち上がらなくなりました。
これで、お互いのポケモンさんは2匹! ヨウさんに並びました!
ヨウ「……よくやったな、ウツロイド」シュンッ!
やはりそう上手くはいかないか。
それに、ひでり持ちのキュウコンとは中々いいポケモンを持っている。
だが、ウツロイドだってただやられたわけじゃない。
既に毒はキュウコンを蝕んでいるのに、リーリエは気付くことができるかな?
ガオガエンのあくタイプ技で押し切ってもいいが、ソルガレオのためにとっておきたい。だからここはお前の出番だ。
ヨウ「行けっ、シルヴァディ!」ヒョイッ
シルヴァディ「ドドギュウウーン!」ポンッ!
リーリエ「ヌルさんの進化系……。ヨウさんもゲットしていたのですね」
フィールドに、グラジオから譲り渡された金色の毛並みを持つシルヴァディが現れる。
タイプ:ヌルから進化させるのは本当に苦労したが……その苦労に見合った活躍をしてくれる、大事なパートナーだ。
ヨウ「シルヴァディ、ARシステム起動だ!」
シルヴァディ「!」
僕はメモリの入ったケースを取り出すと、その中から青いメモリを手に挟んで、シルヴァディの頭部に向かって投擲した。
リーリエ「キュウコンさん、だいもんじですっ!」
シルヴァディの頭部にメモリが装着されると、体毛の色が青色に変わっていく。
すかさずリーリエがだいもんじを放ってきたが、もう遅い。既にシルヴァディのタイプはノーマルからみずに変わっている。
ヨウ「キュウコンにマルチアタック!」
シルヴァディ「グォォン!」グワッ!
ザクッ!
キュウコン「コーン!」
だいもんじに当たっても、それをものともせず突き破りながら、シルヴァディはみずタイプの力が宿った爪でキュウコンを切り裂いた。
キュウコン「コーン……!」ゼェゼェ
仕込んである『罠』も相まって、あっという間にキュウコンの体力は風前の灯になっている。あと一回マルチアタックで攻撃すればすぐにでも倒れるだろう。
もちろん、リーリエだってみずタイプの対策はしているだろうが。
ヨウさんが繰り出してきたのは、にいさまが連れていた相棒のヌルさんの進化系、シルヴァディさんでした。
ビーストさんを倒すために作られた人工のポケモンさんで、力を制御するために被せられた重いカブトを外した姿です。
シンオウ地方に伝わる、宇宙を創造したポケモンさんをモデルにしていて、さっきのように各タイプのデータが入ったメモリを装着することで、変幻自在にタイプを変える特性を持っています。
にいさまからヨウさんに三匹いたうちの一匹を託したと聞かされていましたが……。
キュウコン「コーン……」ゼェッゼェッ
リーリエ「どうした……の?」
わたしはキュウコンさんの様子に、違和感を抱きました。
確かに、ステルスロックとみずタイプのマルチアタックで大きく体力を削られましたが、それでももう少し元気なはず。
今のキュウコンさんの体力は、瀕死になる手前と言っていい状態でした。
その様子はさっきの攻撃による傷よりも、病気などで弱っていた印象を受けました。
……病気? まさか!
わたしは地面の雪へと目を向けました。
そこで気づきました。
銀色に輝く雪の絨毯の中に、黒い不純物が混じっていたのです。
リーリエ「どくびし……?」
ヨウ「……」
わたしが口にすると、ヨウさんは「やっと気付いたか」というふうに無表情のまま肩をすくめました。
リーリエ「そんな、でも、いつ……?」
ふと、わたしの頭の中でヨウさんがウツロイドさんに指示を送る場面が蘇ってきました。
ヨウ『ウツロイド、ステルスロック!』
あの時、ヨウさんの指示に従うだけでなく、ウツロイドさんは自分自身の判断でどくびしをステルスロックに混ぜて雪の中に仕込んだのです。
そしてそのどくびしを、キュウコンさんは踏んでどく状態になったのです。
信じられません。ポケモンさんが、トレーナーの指示を受けずとも勝手に判断して試合を自分たちの有利に運んでいくなんて。
ヨウ「シルヴァディ、マルチアタックだ!」
シルヴァディ「オオンッ!」
リーリエ「――ッ、キュウコンさん、ソーラービームです!」
キュウコン「コォォーン!」カッ!
キュウコンさんは力を振り絞って、太陽から光を浴びて緑に輝く光線を発射しました。ひでりの状態なら、ソーラービームのエネルギーはすぐに溜まります。
そしてシルヴァディさんはみずタイプです。ソーラービームを受ければ、ひとたまりもありません!
シルヴァディ「!」
ドォォォン!!
爆発が周囲に広がり、煙がもうもうと立ち込めました。
一瞬ですが、シルヴァディさんにソーラービームが直撃したのが見えました。倒れなくても、これで大ダメージは与えられたはずです。
ですが、わたしの予想は、すぐに裏切られる結果になりました。
シルヴァディ「……」
リーリエ「……!」
確かにキュウコンさんのソーラービームでシルヴァディさんにダメージを与えました。
ですが、シルヴァディさんは、ソーラービームに直撃してもなお、大きなダメージを負った様子もなく、平然と立っていました。
どうして? 確かにシルヴァディさんはソーラービームに当たったはずなのに。
ギリギリ、間に合ったな。
いくらシルヴァディでも、高火力の技で弱点を突かれたらひとたまりもない。
僕は手に持っているウォーターメモリをメモリ入れに仕舞いながら、心の中で安堵した。
ソーラービームが放たれた直後、シルヴァディは身の危険を察知して自らウォーターメモリを外し、僕に投げ渡したんだ。
すかさず僕はほのおタイプのメモリであるファイヤーメモリをシルヴァディに投げて装着させた。
そしてなんとか当たる直前に読み込みが終わり、タイプが変更されてソーラービームに耐えることができた。正直、冷や汗ものだけどね。
これはトレーナーとシルヴァディ自身の判断力と信頼関係が築かれていなければ出来ない僕だけの技術。まさかそれをグラジオの妹であるリーリエとのバトルでやるとは思わなかったな。
案の定、リーリエはソーラービームをキュウコンに覚えさせていた。
自分の弱点であるみずタイプの対策でソーラービームを覚えさせ、更にひでりでソーラービームのチャージ時間を縮める……。お手本のようなキュウコンの運用の仕方だ。
だが、それで僕の夢を潰せると思うなよ。
このままメモリを変えず、ほのおタイプのままで攻める。攻撃を躱されて反撃でソーラービームを喰らうリスクを防ぐ意味もあるが、次の相手の事もあるしね。ひでりのアドバンテージは、こっちも使わせてもらうぞ。
ヨウ「シルヴァディ、つるぎのまい!」
シルヴァディ「オオオン!」
シルヴァディが舞を踊って自身を鼓舞させ、攻撃力を上げる。もちろんリーリエはその隙を見逃さない。
リーリエ「キュウコンさん、サイコショックです!」
キュウコン「コーン!」カッ!
シルヴァディ「グォォッ!」ビビビッ!
ヨウ「怯むな、大した攻撃じゃない! かみくだくだ!」
僕の激を受けて、シルヴァディは地面の雪を蹴ってキュウコンに突進すると、喉笛めがけて食らいついた。
シルヴァディ「ガウウッ!」
ガ ブ ッ !
キュウコン「……!」ガハッ
かみくだくを受けて、一瞬のうちにキュウコンは意識を失ってその場に倒れた。うまく急所に当たってくれたようだ。
リーリエ「キュウコンさん……!」ダッ!
心配そうに駆け寄るリーリエに、僕はあくまで冷酷に徹して声をかける。
ヨウ「さあ、出しなよ。最後のポケモンを……!」
これが勝負の世界に生き、夢に殉じる男の姿だよ。リーリエ。
今の君は、僕がどんな人間に見える?
ヨウ「……」
ヨウさんは、槍で貫くかのように、鋭い視線をわたしに送っています。
こんなふうにヨウさんに睨まれるのは初めてでした。
ヨウさんは……本気でわたしを倒そうとしています。
わたしを拒絶しているみたいで悲しくもあり、わたしがトレーナーになったことを認められたみたいで、嬉しくもありました。
わたしはキュウコンさんを戻して、最後のポケモン……ほしぐもちゃんの入ったマスターボールを手に取りました。
リーリエ「ヨウさん……」
強くて、優しくて、なんでも知っていて……。
困っていると、すぐに助けてくれて……。
いつもわたしのことを想っていてくれて、誰よりもわたしのことを愛してくれた。
空っぽだったわたしの心を埋めてくれた。
わたしにとって世界で一番大切な人。
そんな人が今、自分の夢のためにわたしを倒して、また一人で遠くに行こうとしている。
ほしぐもちゃん……お願い、わたしに力を貸して。
わたしに、大切な人と約束を果たすために、未来をつかむために、力を。
リーリエ「ヨウさん……」スッ
わたしはマスターボールを構えると、ヨウさんを見据えて宣言するように言い放ちました。
リーリエ「わたし、ゼンリョクで戦って、必ず勝ちます! あなたといっしょにいるために!」
リーリエ「あなたとわたしとほしぐもちゃんで、未来を掴む為に!」
愛する人と供に。
それがわたしとほしぐもちゃんの望みなのだから。
リーリエ「ほしぐもちゃん、お願いっ!」ヒョイッ
ソルガレオ「ラリオーナッ!」ポンッ!
ほしぐもちゃんも、わたしの想いに呼応するようにボールから飛び出して咆哮を上げました。
ついに出てきたか……。
ソルガレオ「ラリオーナ!」
ソルガレオ……ガオガエンに次ぐ僕の相棒だったポケモン。
そして、僕とリーリエが作り上げた、アローラの思い出の象徴。
ソルガレオをアローラに置いてきたあの日から、いつかこんな日が来るだろうと覚悟はしていた。
ソルガレオはまるで僕に「戻ってこい」と訴えかけるように青い瞳で僕を見ていた。リーリエと同じように。
リーリエに味方するのも当然だ。彼は進化前のコスモッグの時からリーリエと居たし、島巡りでもずっとついてきていた。
そしてなにより、ソルガレオは僕とリーリエが一緒にいた時間がとても好きだったのだから。
また僕とリーリエが一緒にいられるのなら、彼はリーリエに協力を惜しまないだろう。
だが、僕だってかつての手持ちだろうと、思い出の象徴だろうと容赦するつもりはない。
自分が切り札として育てていたポケモンだ。弱点だって知り尽くしている。
ソルガレオははがね・エスパー。ステルスロックのダメージは受けるものの、どくびしでどく状態にはならない。
ヨウ「シルヴァディ! ソルガレオにマルチアタックだ!」
リーリエ「ほしぐもちゃん! じしんですっ!」
シルヴァディ「グオオオッ!」グワッ!
ソルガレオ「ラリオーナ!」カッ!
ズズンッ!!
シルヴァディの爪がソルガレオを裂くより早く、ソルガレオが衝撃波を地面に走らせて、じしんを引き起こした。
シルヴァディ「オオオッ!?」フラッ
振動がシルヴァディを襲い、体勢を崩す。
それだけじゃない。ほのおタイプのシルヴァディにじしんは大きなダメージだ。
もちろん、じしんを繰り出してくるのは想定内だ。
そろそろキュウコン戦でのダメージも響いてくる頃だ。
ひざしも弱くなったし、そろそろ頃合いか。
シルヴァディ「……」コクン
ヨウ「……」コクン
シルヴァディは僕を見ると、準備は出来ていると言うふうに頷いて、ファイヤーメモリを僕に投げ返した。
僕はメモリを入れ替えることはせず、ノーマルタイプのまま、シルヴァディに指示を送った。
ヨウ「シルヴァディ、かみくだくだ!」
シルヴァディ「グァァ!」ダッ!
リーリエ「ほしぐもちゃん! しねんのずつきです!」
ソルガレオ「ラリオーナ!」ダッ!
シルヴァディさんが牙を剥き出しに突進し、ほしぐもちゃんは頭に意識を集中させて、シルヴァディさんを迎え撃ちます。
でもわたしは腑に落ちないことがありました。
どうしてヨウさんはシルヴァディさんのタイプをあくタイプにしなかったのでしょうか。
あくタイプのメモリに変えれば、ほしぐもちゃんのエスパータイプの攻撃を無効化できるだけでなく、かみくだくもタイプが一致して威力が上がるのに。
その疑問は、思いがけない形で解けることになりました。
シルヴァディ「グォォッ!!」
ガブッ
ソルガレオ「ガッ……!」
シルヴァディさんは自分よりも体格が大きいほしぐもちゃんに、ひるまず食らいつきました。
しねんのずつきも直撃したのですが、シルヴァディさんは諦めることなく、必死にほしぐもちゃんに食らいついて離れませんでした。
ソルガレオ「ラリォォォ!」ブンブンッ!
シルヴァディ「――ッ!」
ほしぐもちゃんが必死にシルヴァディさんを振りほどこうとする中、ヨウさんは冷静にその光景を見守りながら、命令を下しました。
ヨウ「シルヴァディ」
ヨウ「だいばくはつだ」
シルヴァディ「!」カッ!
ドッゴォォォォン!!!!
リーリエ「ひゃっ……!」
ヨウ「……」
一瞬、シルヴァディさんの全身が銀色に輝いたかと思うと、耳をつんざくような轟音と全身が引きちぎれそうな爆風がわたしたちを襲いました。
ゴゴゴゴ
ソルガレオ「ラ……リオ……ッ!」グググッ
シルヴァディ「グ……!」
リーリエ「そ……んな」
信じられない。どうして?
わたしはヨウさんがシルヴァディさんに送った指示にショックを隠せませんでした。
だいばくはつ……。ポケモンさんの体力全てと引き換えに、圧倒的な威力の爆発を引き起こす技。
ゴローニャさんやマルマインさなど、もともと爆発する性質を持っているポケモンさんを除けば、ポケモンさんにだいばくはつを指示させることは、トレーナーの……いいえ、人の倫理に反しています。
ポケモンさんの命を軽んじているのと同じことなのですから。
半年前のヨウさんなら、絶対にしないはずです。
ましてやシルヴァディさんは、トレーナーさんを友と認めることで自ら兜を壊して力を解放するポケモンさん。だいばくはつさせることは、その信頼を裏切ることになります。
さすがのほしぐもちゃんも、シルヴァディさんの大爆発を間近で受けたせいか、かろうじて立ち上がれる程に弱ってました。
それ以上にわたしは、ヨウさんがこんな冷酷な命令を、シルヴァディさんに下した事実が信じられませんでした。
やっぱり……やっぱりダメです。
このまま、ヨウさんを行かせちゃダメです!
よく頑張ったな、シルヴァディ、後は僕たちに任せてゆっくり休んでほしい。
僕は心の中で労いながら、シルヴァディをボールに戻した。
リーリエは信じられないと言った感じで僕を見ているが……ああ、これが普通の反応だ。
マルマインでもない限り、普通ポケモンにだいばくはつを指示するトレーナーは批判されて然るべきだからね。
だけど、それはあくまで一般論だ。
トレーナーの世界では、だいばくはつで退場する事もひとつの戦術だ。バトルツリーでも、追い詰められたベロベルトやメタグロスがだいばくはつで敵を道連れにする場面を何度も見かけた。
シルヴァディも元々ビーストキラーとしての能力に加えて、ノーマルタイプであることから、どのポケモンにも負けない高威力のだいばくはつを繰り出すことができる。
その証拠に、ソルガレオの体力はあっという間に半分を切っているようだ。
シルヴァディは、僕の指示でだいばくはつすることに一切の躊躇いはなかった。
必ず僕が勝ってくれると信じて、我が身を犠牲にしているからだ。
だから僕もまた、シルヴァディの信頼に報いるように努めた。事実、シルヴァディにだいばくはつをさせた勝負は、一度として負けたことはない。
最初はともかく、今はだいばくはつというポケモンの命を軽く見る技を使っても、僕とシルヴァディの信頼関係が崩れるようなことはなかった。
……グラジオとは、結構この事でもめたけどね。彼を納得させるために、何回も彼との試合を重ねたっけ。
だから、リーリエとの勝負でも僕は負けるわけにはいかない。
役割を遂行して倒れたウツロイドと、だいばくはつして散ったシルヴァディのためにも。
そして僕は彼らの期待を双肩に担いでいる最後のポケモンが入ったボールを取り出した。
この中に入っているのは、僕がトレーナーとして初めてゲットし――今まで連れ添ってきた相棒とも言うべきポケモンがいる。
ヨウ「行けっ、ガオガエンッ!」ヒョイッ
ガオガエン「ガォォオオッ!」ポンッ!
ボールから飛び出し、ゆっくりと立ち上がったのはヒールポケモンのガオガエン。島巡りを始める際、ハラさんから貰ったニャビーの最終進化系だ。
今まで島巡りでゲットしたポケモンのほとんどは、新しい世代のポケモンたちにスタメンの座を譲り渡し、ポケリゾートのわいわいリゾートでレベルの低いポケモンたちのコーチになっていった。
だが、ガオガエンだけはどうにもそうさせることができず、バトルツリーの時も防衛戦の時も手持ちに入れていた。
ずいぶん情が移ったと最初は思ったけれども、言い換えればガオガエンの全てを知り尽くしている。
一目見てどんな調子か、どんな技を使うかも分かるし、お互いの信頼も高い。言い方は悪いが、使い慣れているポケモンだ。
ヨウ「相手はソルガレオだ。手負いとは言え、気を抜くなよ」
ガオガエン「ガオオオッ!」
ガオガエンはかつての同僚であっても容赦しないというふうに雄叫びをあげた。やる気は充分のようだ。
はっきり言えば、リーリエの負けは確定していると言っていい。
ガオガエンはほのお・あくタイプ。タイプだけでなく、技のレパートリーにおいてもソルガレオの天敵とも言うべき存在だ。更に言えば、ソルガレオはシルヴァディのだいばくはつで、深手を負っている。
後は大技を出せば、全てが終わる。
僕の迷いも断ち切られる。
僕とリーリエとの約束もなかったことになる。
僕とリーリエの……アローラの思い出が……。
『助けて……ください……ほしぐもちゃんを!』
『オニスズメさんに襲われ……でも……わたし、怖くて……足がすくんじゃって……』
ヨウ「……っあ」
ヨウ「ガオガエン……おにびだ」
ガオガエン「ガオ……?」
ガオガエンは一瞬、僕の命令に戸惑いを見せていた。しかし、すぐに両手に火の玉を出現させると、ソルガレオに向けて投げつけた。
今のは……?
『光りかがやく石……なんだか暖かい感じです』
『このコのこと……誰にも言わないで……ください。秘密で……秘密でお願いします』
ヨウ「……!」
ソルガレオ「!」
リーリエ「ほしぐもちゃん、避けて!」
わたしの声に合わせて、ほしぐもちゃんは傷ついた身体に鞭打つように身を翻しておにびを避けることができました。
だけど、同時にヨウさんの指示に違和感を抱きました。
ガオガエンさんは、ヨウさんが島巡りする際に、ハラさんから頂いた最初のポケモンさんです。彼のことを、ヨウさんはとっても大事にしていて、殿堂入り後の防衛戦でも、手持ちの中にガオガエンさんがいない時が見たことないほどです。
だから、近くでヨウさんの戦いを見ていた素人のわたしでも、ガオガエンさんの強さはよくわかっているつもりでした。
もしもZワザや得意技であるDDラリアットを繰り出してくれば、ほしぐもちゃんは倒れていたでしょう。わたしも、負けるかもしれない不安がよぎる程でした。
ですが、それにも関わらずヨウさんはやけど状態にするおにびを指示したのです。
確かにほしぐもちゃんは物理攻撃が多い子ですから、やけど状態になれば、ますます勝ち目は無くなります。ですが、それをするくらいなら、先に攻撃技を繰り出せば、勝てるはずなのに……。
リーリエ「ヨウさん……?」
ヨウ「……!」
わたしが声をかけると、ヨウさんはさっきの無機質な目つきとは打って変わって、困惑してなにかを迷っている顔になっていました。
まるで見えないものに戸惑っていて、身体を震わせて弱々しく虚空を見つめていて……。
ヨウさんは……自分自身に抗っているのでしょうか。
心の中で、わたしとの約束を守ろうとする自分と、夢を追おうとする自分が戦っているのですか?
……ひょっとしたら、ヨウさんを、取り戻せるかもしれない。
希望が、見えてきました。
リーリエ「……!」ギュッ
わたしは、ヨウさんの帽子を被って、頭を冷静にしながら指示を送りました。
リーリエ「ほしぐもちゃん! じしんですっ!」
ソルガレオ「ラリオーナ!」カッ!
ズズンッ!!
ガオガエン「ガオッ!?」
シルヴァディさんにしたように、ほしぐもちゃんは衝撃波を放って、地震を引き起こしました。
じしんの衝撃で、ガオガエンさんは大きなダメージを受けてよろめきました。
まだまだ、ここから一気に畳み掛けます!
リーリエ「ほしぐもちゃん! ストーンエッジです!」
ソルガレオ「ラリオ!」
ドドドッ!
ガオガエン「グッ……ガアッ!」ザザクザクッ!
次々と尖った岩がガオガエンさんを襲い、身体中を切り裂いていきます。幸運にも、急所に当たって、ガオガエンさんは息を切らしつつあります!
リーリエ「ほしぐもちゃん!」
ソルガレオ「ラリオ!」
ほしぐもちゃんも、ヨウさんの心の変化に気付いているようです。
これなら……!
この調子で、わたしとほしぐもちゃんの思いを届けることが出来れば……!
なにをやっているんだ、僕は!
ソルガレオを倒すチャンスはいくらでもあるのに!
DDラリアット、フレアドライブ、じしん、Zワザ……いくらでもソルガレオにとどめを刺せる手段はあるじゃないか!
なのに……なんで僕はあんなミスを……!
リーリエ「ほしぐもちゃん! きあいだまです!」
ソルガレオ「ラリオォォ!」キィィン!
まずい! あれを喰らえばガオガエンでもタダでは済まない!
ヨウ「ガオガエン、かわしてDD……」
『マリエで買ったままの服……似合いますか?』
ヨウ「――ッ!」
まただ……リーリエの思い出が、僕の目の前に映し出される。
ドンッ!
ガオガエン「ガッ……!」ザザザッ!
そのせいで、ガオガエンへの指示が遅れてしまった。
あっという間に、ガオガエンの体力がソルガレオと同等……いや、それ以下にまで落ちてしまった。
ガオガエン「……」
ガオガエンが、僕へ顔を向けた。
僕にとってガオガエンは、トレーナーとしての僕の半身とも言える存在だ。だから、僕はガオガエンの癖や性格も全て知っているし、ガオガエンも僕がどんな人間なのか理解している。
ガオガエンは、一向に指示を出さない僕の身を案じていた。
自分自身ではごまかしていたのかもしれないけれど、ガオガエンはお見通しだったんだ。
僕の心が、夢を放棄してリーリエとの約束を守る方へ傾きかけていることに。
ガオガエン「ガオォ……」
ヨウ「すまない……ガオガエン」
頭痛がする。
頭の中がリーリエの事でいっぱいになろうとしている。
彼女の笑顔しか考えられなくなってきている。
やめろ、僕は、ポケモンマスターにならなくちゃ……。
リーリエ「ヨウさん!」
リーリエが僕を呼んだ。
リーリエは目から透明な雫をこぼしながら、むき出しになった僕の心に向かって呼びかけていた。
エーテルパラダイスのあの夜、リーリエはコスモッグの姿が変わり、母親が自分勝手な都合でウルトラスペースへ消えた時、彼女は僕に涙を見せていた。
だけど今度は、僕が彼女に涙を流させていた。
僕の夢のせいで、僕が一番見たくないものを見せつけられている。
リーリエ「わたしっ、ヨウさんが自分の夢で苦しむ姿なんて、もう見たくないですっ!!」
リーリエ「お願いヨウさん! 気付いて! あなたには、あなたの夢を支える大切な人がいます!」
リーリエ「わたし、ヨウさんの夢を叶えるためならなんでもします! わたしは、ヨウさんの支えになりたいんです!」
リーリエ「もう迷わなくていいんです。ヨウさん、わたしとほしぐもちゃんとあなたで、一緒にどこまでも行きましょう……!」
ヨウ「オレ……は」
リーリエは涙を拭くと、真摯な眼差しを僕に向けた。
リーリエ「今、目を覚まさせます!」
ほしぐもちゃん、とリーリエはソルガレオに呼びかけると、その想いに応えるようにソルガレオの身体が白く輝きだし、額に第三の目が浮かんだ。
ソルガレオが真の力を解放した姿……ライジングフェーズ。敢えてあの技で、リーリエは僕との決着をつけるつもりか。
ソルガレオ「ラリオーーナッ!」
地面を蹴って、ソルガレオがフィールドの遥か上空へ飛び跳ねた。
そして、ソルガレオ自身がひとつの太陽になったかのように炎を纏うと、隕石が落ちてくる勢いでガオガエンに向けて疾走してくる。
ヨウ「……」
ソルガレオが落ちてくる姿がスローモーになり、代わりに僕とリーリエの思い出が、次々と走馬灯のように浮かんでは消えていった。
『ククイ博士のお知り合いなのですね。よろしくお願いします』
『ポケモンさんが戦うのは傷ついたりするので苦手ですが、わたし……きちんと見ます』
『ヨウさんのまねをしてみました。あなた……キズついてばかりだったでしょ』
『あっ、いえ……たまたまポケモンセンターに入るヨウさんを見かけて……もし、時間がおありでしたら、是非また、ポケモンさんについて、お話を聞かせて欲しいのです』
『わたし……ヨウさんのように、どんな試練にも立ち向かえるようになりたいのです! ですからわたし、気合いれてみました! はい、全力の姿です!』
『わたしは……トレーナーになって……ヨウさんと旅したいな……』
『わたし……色々ありましたが、アローラに来てよかったです! ヨウさんと出会えて、ううん……いっしょに旅もできて本当によかったです!』
『ヨウさん……私の気持ち……聞いていただけますか?』
『ヨウさんって……とってもあったかいです。このままずうっと、こうしていたいな……』
『わたし、ヨウさんがいてくれたから、頑張れるんです』
『ヨウさん……。会えた……やっと、会えました……』
『もう離しません! ゼッタイゼッタイに離しません! ヨウさんがわたしと一緒にいるって言うまで、わたし、ヨウさんから離れませんからっ!!』
リーリエ、僕は……。
『ヨウさん、お互いの宝物が戻ってきたら……その時は、その……』
『その時は、ずっとそばにいてもいいですか……? 今度こそ、ふたりで遠いところを旅したいです』
『約束ですよ? ゼッタイ破らないでくださいね?』
『わたしっ、ヨウさんが自分の夢で苦しむ姿なんて、もう見たくないですっ!!』
『お願いヨウさん! 気付いて! あなたには、あなたの夢を支える大切な人がいます!』
『わたし、ヨウさんの夢を叶えるためならなんでもします! わたしっ、ヨウさんの支えになりたいんです!』
『もう迷わなくていいんです。ヨウさん、わたしとほしぐもちゃんとあなたで、一緒にどこまでも行きましょう……!』
『あなたが背負っているもの、少しでもいいから、わたしにください……』
ヨウ「……!」ギリッ!
リーリエ「届いてっ……!」
ソルガレオ「ラリオーーーーーナッ!!」
ゴォォォォォッ!!
ソルガレオが、目前まで迫ってくる。
ただ一言、ある技を命令すれば防ぐことが出来る。だけど、僕の心が、心の中にいるリーリエが声を喉の奥へ通しやって、指示をためらわせる。
夢か、約束か。
リーリエ「ヨウさんっ!」
ガオガエン「……!」
僕は……オレは……っ!!
決断の章 ~完~
エピローグ
数日後――
クチバシティの港にて。
オーキド博士「ポリゴンとも異なる人工のポケモン……。更に言えばタイプも入れ替えることができるとは、久しぶりに研究者としての血が騒いでしまったわい」
オーキド博士「今度はわしの方からアローラを訪ねたいものじゃ。アローラ地方を守護するカプ神や異次元に住むというウルトラビーストを、観察してみたいしのう」
オーキド博士「それに、孫の顔とレッドくんもどれほど成長したか見ておかねばなぁ」
グラジオ「母上やククイ博士もきっと喜ぶだろう。是非ともアローラに来て欲しい」
オーキド博士「うむ、腕の方も大事にの」
グラジオ「あぁ……あなぬけのひもを持っていたのが幸運だった。あの時は死を覚悟したが……生き延びようと思えば出来るもんなんだな。右腕を骨折しただけで済んで良かったというべきか……」
グラジオ「それじゃあそろそろ行く。博士も、お元気で」
オーキド博士「それと、リーリエくんにも……」
グラジオ「……あぁ」
グラジオは博士に一礼すると、荷物の入ったトランクを引いて船着場へと向かった。
これからアローラへ向かう船の船着場の施設の中に、彼女はいた。
グラジオ「リーリエ、そろそろ船が出発する。行こう」
リーリエ「……」
グラジオがトランクを置いて、左手でリーリエの右手を取ると、無言のまま、リーリエは立ち上がった。
グラジオ「さぁ、アローラへ帰るぞ。母上たちが待っている」
リーリエ「……」
グラジオの後をついていくように、リーリエはアローラへと向かう大型船へと乗り込んだ。
グラジオは自室に自分の荷物とリーリエの荷物を置くと、彼女を甲板へと連れて行って、海のよく見えるチェアへと座らせた。
グラジオ「……一度、海でも眺めて、気持ちを落ち着かせな。そんな顔じゃ、帰ってもハウたちが悲しむだけだ」
リーリエ「……」
グラジオがいなくなって、周りでは、他のお客さんがポケモン勝負に興じたり、海を眺めている。
リーリエ「……」
もうリーリエはしゃべらない。笑わない。視線はうつろで、綺麗に輝いていた翠色の瞳はガラス玉のようになっていた。
リーリエの心は、船が進むたび上げる水しぶきよりも粉々に砕け散って、そこらじゅうに転がっていた。
リーリエ「……」
……ヨウさん
リーリエ『ヨウさんっ!』
ほしぐもちゃんがガオガエンさんにぶつかった瞬間、シルヴァディさんがだいばくはつをした時以上に、大きなエネルギーと衝撃波がわたしたちを襲いました。被っていたヨウさんの帽子が、勢いで飛ばされてしまうほどでした。
あまりの眩さに、わたしはつい、目を逸らしていました。
次第に光が空中に溶け込むように消えていき、そこでやっとわたしはほしぐもちゃんたちの様子を伺うことができました。
もうもうと立ち込める煙。わたしはヨウさんに、自分の想いが届いたことを確信していました。
リーリエ『勝った……っ!』
ヨウさんに勝った。ほしぐもちゃんのメテオドライブは、間違いなくガオガエンさんに当たりました。
これでヨウさんとの約束を果たせる。あの人と一緒にいられる。
だけどその希望は、儚く打ち砕かれたのです。
ガオガエン『ガオオ……!』
ソルガレオ『ラリオッ……!?』
ほしぐもちゃんのメテオドライブは、ガオガエンさんの張っていた青いバリアに阻まれていました。
あの技は、「まもる」。Zワザでもない限り、どんな攻撃も短時間防げる技です。
ヨウ『……!』ギロッ
リーリエ『そん、な……』
わたしの想いは、ほしぐもちゃんの想いは、ヨウさんに届かなかった。
ヨウさんは、鋭い目つきに戻って、わたしたちを睥睨していたのです。
そして、ヨウさんはZリングを掲げ始めました。
リーリエ『ヨウさん……いや……目を覚まして……』フルフル
だけど、ヨウさんはわたしの想いも言葉を無視してZポーズを取ると、体力の切れかかっていたガオガエンさんに、Zパワーが宿りました。
ヨウ『ガオガエン……ハイパーダーククラッシャーだ』
ガオガエン『ガオォォォォッ!!』ダッ!
闇と炎をまといながら、ほしぐもちゃんに向けてガオガエンさんは飛びかかりました。
リーリエ『ヨウ……さん……』
ソルガレオ『ラリオ……』
い……や……。
消えていく。
アローラの思い出が。
ヨウさんと交わした約束が。
わたしの夢が。
ヨウさんと紡ぐはずの未来が。
わたしは、目の前が真っ白になりました。
気が付けば、わたしは瀕死になったほしぐもちゃんのそばで、膝をついて呆然としていました。
ヨウさんはガオガエンをボールに戻すと、わたしに目を合わせました。
ヨウさんの黒い目は、寂しげに物語っていました。
――さよならだ、リーリエ
と……。
リーリエ「……」
ヨウさんに全部奪われました。
ヨウさんとわたしが結んだ約束も。
あの人に足りない全てになりたいという夢も。
わたしの、生きる理由も。
冷たい……寒い……苦しい……。
わたしの心から、太陽すら消えていました。身体の芯から凍りついて、もう死体と変わりません。
どうして……? ヨウさんはわたしのこと、愛していたはずなのに、どうしてこんな酷い事が出来るのですか?
いっそ憎めればよかった……。
憎むことが出来れば、この身体だけでも、動かせたかもしれないのに。
ううん……あの人を憎むなんて、わたしには出来ない。
だって、あの人はわたしの全てだったから。本当に憎むのは、ヨウさんを止められなかったわたし自身です。
冷たい……寒い……苦しい……。
ヨウさん……ヨウさん……わたしを温めて。
助けて……ヨウさん。
もうわたしは……頑張れません……。
リーリエがいなくなったシロガネ山の山頂で、僕はバトルフィールドに上がる階段で、途方にくれていた。
ロトム図鑑「ヨウ……大丈夫ロト?」
ヨウ「……大丈夫」
切れた唇からにじみ出る血を拭き取りながら、僕は何度も悔やんでいた。
ああ、なんてことをしたんだろう。
僕は自分で何をしたのか、よくわかっているつもりだ。
僕はこの手で、リーリエを、アローラでの思い出を、全て断ち切ってしまった。
リーリエは間違いなく、大切な人だった。
初めて、僕の触れられたくない領域に入ってきて、心を許した人。
本気で愛していた人。
僕は……どうすればよかったんだ?
オレはただ、自分の事をしただけなのに。あの時、リーリエがカントーに旅立ったように、外の世界へ一歩踏み出しただけなのに。あいつのように、なりたかった。
自分の身勝手な夢にリーリエとソルガレオを巻き込ませたくなかった。
それだけだったはずなのに。
リーリエ『ヨウさんっ!』
ソルガレオが、ガオガエンに迫る。ここで指示を出さないと、ガオガエンは倒れてしまうだろう。
だけど僕は、それでも構わないと思った。
彼女が望むのなら、それでいいじゃないか。
僕はリーリエと一緒に居られるだけで、満足できるんだ。
本当になれるかもわからないポケモンマスターを目指すより、僕のそばにいるリーリエとずっといられる方が、幸せな人生を送れる。
それでいい。
ガオガエン「……」
僕がそう望もうとしたとき、ガオガエンがこちらを向いて、目を合わせてきた。
ヨウ「……!」
その時、僕はガオガエン越しに、たくさんの顔が見えた。
トレーナーが強くなるため、そしてより強いポケモンのために、犠牲になったポケモンたちの顔が見えた。
夢を諦めた全てのトレーナーたちの顔が見えた。
僕が夢を叶えることに期待する、全ての人とポケモンの顔が見えた。
両親の顔が、ハウの顔が、グラジオの顔が、しまキングたちの顔が、キャプテンたちの顔が、ウツロイドの顔が、シルヴァディの顔が見えた。
その中にはもちろん、リーリエと僕自身の顔も混じっていた。
ガオガエン「……」
ガオガエンはなにも言わなかった。
ただ、彼の青い瞳が全てを物語っていた。
ウツロイドが成し遂げた役割を、シルヴァディの犠牲を無駄にする気なのか。
お前の夢は、ここで終わっていいのか。
倒してきた奴らの想いが無駄になってもいいのか。
それでいいのなら、俺は何も言わない。
そうだ、僕は何のために戦ってきた?
僕はポケモンマスターになる。これまで僕に倒されていったトレーナーたちのためにも、勝利の糧になっていったポケモンたちのためにも。
ここでリーリエの約束に甘んじてしまえば、彼らの想いが全て無と消えてしまう。
僕のポケモンたちの信頼と犠牲が無意味なものになってしまう。
僕の生きる意味がなくなる。スカル団の人たちのように堕ちたくない。
終わるわけにはいかない。
僕は、諦めるわけにはいかないんだ!
ヨウ『ガオガエン、まもるだ』
ガオガエン『ガオッ!』
ガオガエンはソルガレオの攻撃を受けきると、そのまま流れるように、僕はZワザへ移った。
もうためらわない。
ガオガエン『ガオオォォォォッ!!』
ソルガレオ『――!』
ガオガエンがZワザを決め、ソルガレオを全身全霊で押しつぶしていく。
リーリエ『ヨウ……さん』
ヨウ『……』
僕の行動に呆然としているリーリエに、僕は微かに笑いかけた。
……リーリエ、君だけだよ。
アローラでたくさんの仲間ができても、たくさんのトレーナーと戦っても、
僕に夢を忘れかけさせた人は。君だけだった。
今まで、ありがとう。
僕は勝った。
リーリエは魂が抜けたように、ソルガレオのそばで膝をついて呆然としていた。
最後に僕は彼女に――アローラに別れを告げるように、彼女をケーシィのテレポートで、麓のポケモンセンターに戻してあげた。
ただ、僕は然るべき報いを受けなければならなかった。兄のグラジオに、きちんとこの事を話さなければいけない。
グラジオは右腕の骨を折っていたものの、あなぬけのひもで脱出し、捜索隊に連れられてポケモンセンターで入院していた。
久しぶりの再会と、リーリエの様子の変化に驚いていたグラジオに、僕は包み隠さず全てを話した。
僕が話を進めているうちに、彼の表情はこれまでにないほど怒りで歪んでいき、話を負えないうちに、怪我をしているにも関わらず僕の胸ぐらを掴んで揺さぶってきた。
グラジオ『なんでそんなことをした!』
グラジオ『あいつはどれだけオマエのことを想っていたか分かってたはずだろ!』
グラジオ『リーリエは! オマエがいなければダメなんだ!』
グラジオ『それをオマエは……オマエは……! リーリエの想いをッ!』
ポケモンセンターのおねえさんがやってくるまで左腕で散々顔面を殴られ、挙句の果てに『二度とオレたちの前にそのツラを見せるな』と吐き捨てられ、リーリエを連れて病室の奥へ消えた。
僕は何も返せなかったし、抵抗も出来なかった。
グラジオの言うことが、全てだったから。
これが、僕自身の望んだ結末。
もうやり直しはできない。
僕は、リーリエと永遠にいる資格を失った。
これでよかったんだ。
でなければ僕は、リーリエに負けてガオガエンたちを裏切り、背負ったものに押しつぶされていた。
夢を諦めて、僕自身スカル団のしたっぱたちのようになっていただろう。例え、リーリエがいたとしても。
それに僕に執着して見境が無くなりつつあるリーリエはどうなる? 僕に依存することが、彼女のためになるのか?
僕といることが、彼女の幸せに繋がるのか?
いや……勝った今となってはいくらでも理由付けが出来る。
だが、僕は間違いなくこの手で、最愛の人とアローラでの思い出を全て踏み砕いてしまったんだ。
僕は自分のリュックから取り出した、リーリエが大事にしていたピッピ人形を手にとった。
彼女が子供の頃から大事に使われていたであろうそれは、ひどくくたびれていた。
今の僕がリーリエに出来るのはひとつだけ……彼女の約束と想いも、背負っていくことだ。このピッピ人形も、僕の部屋にある折戸の中のおもちゃたちの仲間入りをさせる。
僕は、負けるわけにはいかない。
リーリエの想いも一緒に。
ヨウ「行こうロトム。僕は……リーリエのぶんまで勝たなきゃいけないんだ」
ロトム図鑑「ケテ……」
僕はリーリエが残していった足跡を踏みながら、シロガネ山を降りるべく歩き出した。
ふと、僕はそばに何かが転がっていることに気付いた。
それは、かつてリーリエがカントーに行く際、僕が渡した、自分自身の帽子だった。
そういえば、ソルガレオが巻き返して来たとき、リーリエはこれを被っていた。
どんなふうにこの帽子を使っていたのかわからないけれども、リーリエなりに僕の帽子を大事にしていた。
だけど、もうその必要はない。
約束はもう、無くなってしまったのだから。
僕は雪を払って帽子を被ると、歩みを再開した。
この先に待っているのは、リーリエの思いを踏みにじった僕への更なる罰が待っているかも知れない。
だとしても、歩みを止めるわけにはいかない。
どんな絶望が僕を待っていたとしても、歩き続けることを止めれば、そこで僕は、本当の意味でリーリエの想いを裏切ることになるのだから。
ヨウ「夢か、約束か」
完
238 : ◆g/SXBgh1y6 - 2017/10/15 21:12:44.30 tM+/NA8e0 225/233あとがき
これでこのSSはおしまいです。
最初はヨウVSリーリエを書いてみようと思い立って筆を取った次第だったのですが、気が付けばこんな内容になってました。
以前は明るい話を書いたので、今度は暗い話にしようと思っていた結果でしょうか。
次回はハチャメチャで明るい話でも書けたらなぁ、なんて考えています。
今回のSSでも、ダメな部分が見えてきましたし、それを活かしていきたいです。
ちなみに元ネタは某有名なファンタジー漫画の黄金時代編で、ヨウとリーリエの性格も主要人物の二人からある程度拝借しています。
平沢進の『幽霊船』あたり聞きながらもう一度読んでいくと、もっと楽しめる……かもしれません。
こんなSSを読んでくださり、ありがとうございました!
またどこかで新作をお見せ出来れば幸いです。
――アローラ地方
――ナッシー・アイランド
アローラ地方に帰ってきたわたしは、なにかに導かれるように気付けばこのナッシー・アイランドにいました。
あの横穴で、わたしはずっと遠くを見ているようで何も見ないまま、うずくまっていました。
わたしが帰ってくると、様子がおかしいことにみんなはすぐ分かって声をかけてくれました。
だけど、どんな言葉をかけてきたのか、もう覚えていません。
もう、誰の言葉も思いも全部すり抜けて消えてしまうからです。
ヨウさんに負けてからわたしの心に太陽が消えて、どれくらい経ったのでしょうか。
わたしの心はとうに凍りついて、砕け散っていました。
それでもなお、小さくなったわたしは、叫んでいました。
寒い……苦しい……ヨウさん、助けて。
ヨウさん……。
……雨が、降ってきました。
半年前……島巡りしていた頃、この穴の隣でわたしを勇気づけてくれたあの人は、もういません。
わたし……なんのために生きてきたのでしょうか?
わたしはヨウさんに足りない全てになりたかった。
ポケモンさんの弱点を補うために別のポケモンさんを手持ちに入れるような――そういう存在に。
あるいは、パズルのピースがあるべき場所に収まるように。二人で一つの人間になれるはずだったのに。
わたしの心も、身体も、考えてきたことも体験したことも、全部ヨウさんのモノになるはずだったのに。
なのにどうして? どうしてヨウさんはわたしを拒絶したの?
たくさんたくさん、わたし……頑張ってきたのに。
空っぽだったわたしの心を埋めてくれたのは、あなただけだったのに。
あの人はわたしの全てを奪って、抜け殻になったわたしを……。
――勝ってしまった僕に出来ることはただひとつ。夢が潰れてしまった人たちの思いも背負って、これからも勝ち続けるしかないんだ
――チャンピオンである僕は、その人たちの希望と夢を奪っているんだ
奪う……?
そうだったのですね。
これがヨウさんの愛なんですね。
ヨウさんはわたしのことが好きだから、わたしとほしぐもちゃんを傷付けて、わたしの大切なもの全部、奪ったんですね。
だって、奪われてなにもかもなくなっても、わたしはヨウさんのことばかり、こうして考えていたのですから……。
そしてあの人は、大勢の人やポケモンさんの想いや夢を背負いながら、自分の夢を追いかけているのだから。
わたしもその中のひとりになった、それだけです。
嬉しい……。ヨウさんの中で、わたしはまだ生きているのですね。
だから。
――失っちまったんなら、取り戻せばいいんじゃないか?
今度はわたしがあの人の夢を、大切なものを奪う番です。
ポケモンマスターになろうとするヨウさんの夢をわたしが全部奪って、あの人がこれまで見てきたこと、聞いてきたこと、嬉しいことも悲しいことも、みんなわたしが背負うのです。
そうすれば、今のわたしのように、なにも出来なくなったヨウさんはずっとわたしのそばにいてくれる。
だって、ヨウさんが叶えたかった夢を。わたしが代わりに叶えるのだから。
ヨウさんの苦しみを知っているのはわたしだけ。ヨウさんの悲しみを癒せるのはわたしだけ。だからヨウさんは、わたしにしか頼れる人がいないんです。
わたしが、あの人の全てになります。
憎まれてもいい。蔑んでくれても構わない。ヨウさんの心が、わたしで占めてくれれば、どんな感情をわたしに向けても構いません。
その夢を叶えるためには今よりももっともっと頑張らなきゃいけませんけれど、必ず叶えてみせます。
自分の力で立ち上がって洞窟の外を覗くと、晴れ渡った空の向こうに、虹が見えました。
それはかつてヨウさんと見た色鮮やかなものではなく、漆黒に染まった闇の虹が、わたしを導くように差し込んでいました。
わたしは自然と金髪のポニーテールを解いて、昔のようにロングヘアーに戻しました。ポニーテールにした時よりも、自分が生まれ変わった気分がして……わたしの心は空っぽのままだけど、とっても晴れやかです。
これからきっと、いいことが起きそう。……っていうか、起こさせます。
そして、黒い虹に向かって笑いかけました。
大好きです、ヨウさん……世界中の誰よりも。
あなたがこの世界にいてくれるから、わたしはこれからも頑張れるんです。
あなたと出会えて、よかった。
だから、あなたの夢も大切なものもみんな、奪わせていただきますね。
To Be Continued…