1 : 以下、\... - 2017/09/20 21:29:25.658 njg17OZr0 1/30

「夏も終わって、涼しくなってきたなぁ……ん?」

セミ「ジジッ…ジジッ…」

「死にかけのセミ、か」

「哀れなもんだな……こないだまでうるさく鳴いてたのに」

「だけど、俺みたいにだらだらと生きるより、よっぽど有意義だったのかもしれないな」

セミ「ま、待ってくれ……」ジジッ

「!?」

元スレ
セミ「死にゆくオレの願いを聞いてくれ……」ジジッ 男「何をしろってんだ?」
http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1505910565/

18 : 以下、\... - 2017/09/20 21:32:50.597 njg17OZr0 2/30

「セミが……セミがしゃべった!?」

セミ「おい、お前……」

「なんだよ!?」

セミ「死にゆくオレの願いを……聞いてくれ……」ジジッ

「えええ……!?」

セミ「た、頼む……!」

「い、いいけどさぁ……何をしろってんだ?」

セミ「み、水を……水をくれ……」

「わ、分かった!」

23 : 以下、\... - 2017/09/20 21:35:36.292 njg17OZr0 3/30

「ちょうどよかった! あそこに池が――」

セミ「イヤ……だ……。池の水はイヤだ……。衛生面に不安がある……」

セミ「ミネラルウォーターが……飲みたい……」

「はぁ? お前、ワガママいうなよ! ここらへんコンビニもスーパーもねえぞ!」

セミ「ああ……なんて冷たい人間なんだ……。やはりこの世で一番怖いのは人間……」

「ええい、分かった! 分かったよ! 買ってきてやる!」タタタッ

セミ「急いで……くれ……」

27 : 以下、\... - 2017/09/20 21:38:17.970 njg17OZr0 4/30

「ハァ、ハァ……ほれ、買ってきたぞ」

セミ「……」ゴクゴク

セミ「ありがとう……」

「これでもう満足して死ねるだろ? じゃあな」

セミ「……ま、待ってくれ……」ジジッ

「なんだよ? お礼になんかくれるってのか?」

29 : 以下、\... - 2017/09/20 21:41:30.633 njg17OZr0 5/30

セミ「ステーキ……」

「ステーキ?」

セミ「ステーキを食いたい……」

「ステーキだとぉ~? セミのくせに! てか、セミってステーキ食うのか?」

セミ「た、頼む……! 最期に……ステーキを……」ジジッ

「分かった、分かったよ! 連れてってやるよ! ステーキハウスに!」

セミ「チェーン店は……ダメ……。個人でやってる店がいい……」

(いちいち注文が多いセミだ!)

31 : 以下、\... - 2017/09/20 21:45:17.174 njg17OZr0 6/30

―ステーキハウス―

セミ「モグモグ…」

(セミのくせにナイフとフォークを使いこなしてやがる)

「どうだ? うまいか?」

セミ「ああ、うまい」

店主「そうでしょう、そうでしょう! うちのステーキは安くて絶品ですから!」

「ええ、1000円いかずにこの大きさのステーキなんて、なかなかありませんよ」

セミ「だが――」

「?」

セミ「オレの目の前にいるこの男なら、同じ値段でもっとうまいステーキを作れる!」

「え、同じ値段でステーキを!?」

36 : 以下、\... - 2017/09/20 22:08:26.651 njg17OZr0 7/30

「ちょっと待て! 俺は多少は自炊するけど素人だぞ!? できるわけが――」

セミ「た、頼む……」

「!」

セミ「死ぬ前の最期の頼みだ……あの店主との料理勝負に……勝ってくれ……!」

セミ「それを見届けなければ……死んでも死にきれん……!」ジジッ

「……!」

「分かった、やってやる!」

「おっさん、ステーキ勝負だ!」

店主「いいだろう! 受けて立つ!」

37 : 以下、\... - 2017/09/20 22:10:38.321 njg17OZr0 8/30

(それから勝負までの一週間、俺は死に物狂いでもっと安くてうまい牛肉を探し)

(一流シェフに土下座して、ステーキの焼き方を猛特訓した!)

(知り合いの女の子に味見してもらったりもした!)


「どう?」

「うん、おいしい! デリシャース!」


(そして――)



「付け焼刃とはいえ、特訓の成果を見せてやる!」ジュゥゥゥゥ…

店主(ほう……この小僧、かなり特訓してきたな!)ジュゥゥゥゥゥ…

38 : 以下、\... - 2017/09/20 22:13:27.618 njg17OZr0 9/30

「さあ、食ってくれ! 俺のステーキを!」サッ


審査員A「これを素人が作ったというのか!? 信じられん!」モグモグ…

審査員B「噛むごとに とろける肉汁 いとうまし」

審査員C「なんとジューシィな味……! ジューシー、ジューサー、ジューシェスト!」


男 98点 ― 97点 店主

バン!



店主「……!」

店主「フッ……俺の負けだ」

「いや……マグレですよ。それにあなた、相手が素人だからって本気じゃなかったでしょう?」

店主「言い訳するつもりはねえ……負けは負けさ」

41 : 以下、\... - 2017/09/20 22:15:54.841 njg17OZr0 10/30

「ふぅ~、人間やればできるもんだな……。ステーキ焼く特訓で手がマメだらけだ」

「さ、これで満足だろ?」

セミ「う、うぐぐぐ……! うぐぉぉぉ……!」ジジッ…

「ど、どうした!?」

セミ「死ぬ前に……頼みがある……」

「なんだ!? まだあるのか!?」

セミ「一度でいいから……エベレストの頂上からの景色が見たい……」

「エベレストぉ!?」

44 : 以下、\... - 2017/09/20 22:19:05.683 njg17OZr0 11/30

「ちょっと待て!」

「さっきの料理勝負は相手の油断もあって、なんとか勝てたが」

「エベレストは油断なんかしねえ! 俺みたいなヘタレが登れるわけが……!」

セミ「た、頼むぅ……」ジジジ…

「……!」

「分かった! お前にエベレストの頂上からの景色を見せてやる!」

47 : 以下、\... - 2017/09/20 22:21:24.998 njg17OZr0 12/30

登山家「ほう、私に弟子入りしたいと?」

「はい、あなたは何度もエベレストを登っていると聞きました」

「俺もまた、なんとしてもエベレストを踏破せねばならないのです!」

登山家「その眼差し……気に入った! 弟子にしてやろう!」

登山家「ただし、エベレストは死の山……いかな熟練者でも死ぬ可能性がある」

登山家「その覚悟はできているんだろうな?」

「もちろんです! 死ぬことなんて怖くない……怖いのは友に悔いを残すことだけ!」

48 : 以下、\... - 2017/09/20 22:24:30.801 njg17OZr0 13/30

「ねえ、エベレスト登山するって本当!?」

「ああ、本当だ」

「無茶よ! あなた運動部にすら入ってないのに……死んじゃうわ!」

「ああ、死ぬかもしれないな」

「なのにどうして!? どうして、そんなことするの!?」

「そこに山があるから……かな」

「!」

「じゃ、行ってくる!」

53 : 以下、\... - 2017/09/20 22:27:44.171 njg17OZr0 14/30

―エベレスト―

「さぁ、登るぞ」

セミ「うむ」

ザッザッザッ…

(寒い……それに空気が薄くなってきた……。これがエベレスト……世界一の山……)

(あちこちに遭難者の遺体が……俺もこうなっちまうのかな)

(いや……必ず登りきってみせる!)

(セミに“エベレストの頂上からの景色”を見せるためにも!)

ザッザッザッザッザッ…

54 : 以下、\... - 2017/09/20 22:31:12.385 njg17OZr0 15/30

ビュオォォォォ……!

「くっ、ブリザードだ!」

セミ「耐えろ、耐えるんだ!」

「分かってる! こういう時は無理に動かず、じっとしてるに限る!」



ドドドドド……!

「雪崩だぁっ!」

セミ「逃げろ! 巻き込まれたら終わりだぞ!」

「ああ……ただし走ると高山病だ! 高山病にならないよう逃げないと!」

56 : 以下、\... - 2017/09/20 22:35:11.020 njg17OZr0 16/30

―頂上―

「や、やった……!」

「俺はエベレストを登りきったんだ!」

セミ「よくやったな」

(空気が薄くて頭がろくに働いていないが……やっぱり感動するなぁ)

「これで満足だろ? さ、下山しよう」

セミ「う、うぐぐぅ……」ジジッ

「お、おいどうした!? しっかりしろ! まさかとうとう寿命か!?」

57 : 以下、\... - 2017/09/20 22:37:58.247 njg17OZr0 17/30

セミ「もう一つ……願いを聞いてくれないか……」

「まだあるのかよ!?」

セミ「ああ……もう一つだけ、頼みを聞いてくれ……」

「なんだよ、今度はまさか宇宙に行けなんていうんじゃ――」

セミ「東大生になったお前の姿を……見たい……」ジジッ

「!?」

58 : 以下、\... - 2017/09/20 22:40:55.822 njg17OZr0 18/30

「東大生だと!?」

セミ「ああ……東大生になったお前を見なければ、悔いが残ってしまう……」

「無理だよ……俺、今までちゃんと勉強したことなんてなかったし。学校の成績もひどいし」

セミ「まぁ、無理にとはいわんがな」

セミ「しかし……無念だ……」

セミ「願いを叶えることなく……俺は死を迎えることになるのか……」ジジッ

「……!」

「待てよ! お前の願い、叶えてやる!」

「なってやるよ……東大生に!」

62 : 以下、\... - 2017/09/20 22:45:19.917 njg17OZr0 19/30

「お帰り! エベレストから戻ったのね!」

「疲れてるでしょうから、ゆっくり休んでちょうだい」

「いや、休んでいるヒマはない」

「そういやお前、勉強できたよな? 俺に勉強を教えてくれ!」

「いいけど……いきなりどうして?」

「俺は東大を目指すからだ!」

「なんで!?」

「死にゆく友のために……俺は東大に入学しなければならないんだ!」

「えええええ!?」

64 : 以下、\... - 2017/09/20 22:48:18.064 njg17OZr0 20/30

「うおおおおおおおおおっ!」カリカリカリカリカリ

「う……」ウト…

(眠い……だが、この程度! エベレストで感じた眠気に比べたら!)

「ちょっとぉ、勉強のしすぎで手に血マメができて、マグマみたいになってるじゃない!」

「このくらい……どうってことないさ……」

「たとえ、両手が使えなくなっても、俺は東大に合格してみせる!」

66 : 以下、\... - 2017/09/20 22:50:31.630 njg17OZr0 21/30

―東大―

試験官「では、始めて下さい」

試験官「……む!?」


「……」カリカリ…


試験官(あの受験生、両手が折れているから、口でペンをくわえて解答している!)

試験官(フフフ……まるでかつての私を見ているようだ)

69 : 以下、\... - 2017/09/20 22:53:29.574 njg17OZr0 22/30

「……!」

「やったーっ! 合格できたぞ! しばらくはリハビリ生活だけど!」

セミ「見事だ……」

「これでもう、お前も心おきなくあの世に旅立てるだろ?」

セミ「いや……待ってくれ……」ジジッ

「まだあるの!?」

セミ「お前に……恋人ができるところが見たい……」ジジッ

「恋人……!?」

セミ「頼む……! それを見なきゃ、オレは……!」

「分かったよ……見せてやるとも!」

71 : 以下、\... - 2017/09/20 22:57:16.713 njg17OZr0 23/30

「なに? こんなところに呼び出して」

「今までずっと、ありがとうな」

「俺のステーキ食べてくれたり、登山しようとする俺を止めてくれたり、勉強教えてくれたり……」

「そんなことで呼んだの? 別にいいって」

「いや……本当にいいたいことはまだある」

「!」ドキッ

「俺はずっと君に対して、ある気持ちを持っていたんだが、それを打ち明けることができなかった」

「だけどある友の後押しによって、やっとそれを打ち明ける勇気ができた……!」

72 : 以下、\... - 2017/09/20 22:59:57.258 njg17OZr0 24/30

「俺は君のことが好きだ! 付き合って下さい!」

「うん……こっちこそよろしく!」


セミ「フ……見せつけてくれる……」



――――――

――――

――

74 : 以下、\... - 2017/09/20 23:04:11.323 njg17OZr0 25/30

―病院―

患者「おかげで調子がよくなりました! ありがとうございました……!」

「お大事に」

「……」

セミ「今日も大勢の患者を救ったようだな」

「ああ、あれから俺は東大を出て医者になり、あいつと結婚し、名医と呼ばれるようになった」

「なにもかもお前のおかげだよ」

セミ「オレはお前の力を引き出すきっかけになったに過ぎんさ……」

セミ「――うっ!」ズキン…

75 : 以下、\... - 2017/09/20 23:07:33.249 njg17OZr0 26/30

「セミ、どうした!?」

セミ「どうやら、今度という今度こそ……お迎えがきたようだ……」ジジッ

「そんなこといって、まだなにか願いがあるんだろう? いつものパターンじゃないか」

セミ「いや……もうない……」

セミ「立派になったお前を見ることができた……オレはもうこの世に未練はないのさ……」

「……!」

「だったら……今度は俺が自分で願いを叶えてやる!」

セミ「……?」

79 : 以下、\... - 2017/09/20 23:09:16.354 njg17OZr0 27/30

「今の俺なら、お前を助けられる!」

「みんな、このセミを手術室に運んでくれ! オペを行う!」


医者A「はいっ!」

医者B「分かりました!」



セミ「……」

83 : 以下、\... - 2017/09/20 23:12:19.545 njg17OZr0 28/30

―手術室―

(セミを手術するなんて、はじめてだが……)

(ミネラルウォーターを買った時のスピード、ステーキ作りで手に入れた器用さ)

(エベレストを踏破した体力、東大に入った頭脳、告白した時の勇気)

(全てを駆使して、この手術に挑む!)

(俺は必ずセミを助ける! 俺ならやれる!)

「――メス!」サッ

87 : 以下、\... - 2017/09/20 23:17:17.450 njg17OZr0 29/30

――

――――

セミ「やれやれ、まさか本当に助かってしまうとは……名医にも程がある」

「あと20年は生きることを保証するよ」

セミ「そんなに長生きしてもしょうがないがな」

「そういうなって。生きてれば、なにかいいことあるかもしれないんだから」

「ところで、俺はある時期、お前がいったいなんて種類のセミなのか調べまくったことがある」

「しかし、いくら調べても、どんな学者に聞いても、お前が何ゼミかは分からなかった」

「だが、俺はようやくお前の正体が分かったよ」

セミ「……!」

88 : 以下、\... - 2017/09/20 23:20:36.354 njg17OZr0 30/30

「お前は人間に“真剣になることの大切さ”を教えるセミだったんだ」

セミ「ご名答」

セミ「そこまで分かってるなら、もうオレの名前も分かっているな?」

「ああ、お前の名は――」

「真剣ゼミ……!」







おわり

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