狐神「お主はお人好しじゃのう」【1】
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狐神「お主はお人好しじゃのう」【4】

400 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/05/10 20:15:04.59 cQGbnkjZ0 1001/1313



《ダンジョン》


氷の退魔師「今説明した通り、あの結界内に入ると親玉を打ち取るまで外へは出られない」

氷の退魔師「一刻も早く親玉のもとへ向かいたいところだが……ダンジョン化してしまった街には逃げ遅れた人も多くいる」

氷の退魔師「そこで、親玉を滅するために教会へ向かう者と逃げ遅れた人々を保護する者に役割分担をしたい」

氷の退魔師「更に、全員が一気に結界内に入るのではなく待機する人員も必要だ」

氷の退魔師「先行隊は早期にダンジョンを攻略できるように最善を尽くすが、それなりの時間を要する可能性がある」

氷の退魔師「街で人々を保護するにしても、ダンジョンの主がいる限りはこの中で凌がなければならない」

401 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/05/10 20:16:27.28 cQGbnkjZ0 1002/1313

氷の退魔師「勿論突入時に現在準備している物資は持ち込むが……念の為に補給のための人員をここに残す」

西人街の聖騎士長「迷宮が完成する前に我々と避難してきた住民もここに大勢居ますからね。彼の寝床も用意しなければなりませんし……」

西人街の聖騎士長「そうですね……ダンジョンに突入する自由の団の団員は街の人の保護に当たります。隠れ家なども把握していますので」

氷の退魔師「わかった、任せる」

自由の団団員A(団長が敬語……)

自由の団団員B(似合わない……)

聖騎士C「き、騎士団長……我々は……」

西人街の聖騎士長「…………」

狼男(あいつは俺や団長が教会に隠れて、自由の団として行動をしていたことを知らなかった……)

狼男(さて、どう出る……)

402 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/05/10 20:18:25.70 cQGbnkjZ0 1003/1313

聖騎士C「わ……我々も街の人の保護に向かいます……!」

聖騎士C「団長が自分の知らないところで色々とやっていたということは、今の状況からなんとなくわかります……」

西人街の聖騎士長「…………」

聖騎士C「自分は馬鹿なんで詳しくは理解できないんですけれど……」

聖騎士C「ですが、それはこの街のためなんだろうって事もわかります」

聖騎士C「自分はこの街を守る騎士です……! 街のために頑張りたいです……!」

西人街の聖騎士長「……よし、わかった」

西人街の聖騎士長「うちの教会の騎士団も民間人保護に当たる。第一波と待機組はこの後振り分ける」

氷の退魔師「よし。そんじゃあ俺は最深部を目指す」

氷の退魔師「元々そのために仕事で来ているからな」

403 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/05/10 20:22:10.43 cQGbnkjZ0 1004/1313

氷の退魔師「あとは……」

共和国首都の聖騎士長「我々もそちらに同行していいですか」

西人街の聖騎士長「お前……! よくもノコノコと……!」

共和国首都の聖騎士長「剣を収めてください。今の我々に争う気はありません」

狼男「そちらから始めた喧嘩ですよ。どうやって信用しろと……」

共和国首都の聖騎士長「確かに信用していただくのは難しいかもしれません」

共和国首都の聖騎士長「しかし既に我々の目的はこのダンジョンを制圧することに変更されました」

共和国首都の聖騎士長「共通の目的の前では協力すべきでしょう」

西人街の聖騎士長「目的が変わった……?」

共和国首都の聖騎士長「ええ。我々の先程までの目的は、この街の教会に我々の騎士団を駐屯させることでした」

404 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/05/10 20:24:58.15 cQGbnkjZ0 1005/1313

共和国首都の聖騎士長「それが上からのオーダーの中で優先順位が高いものでしたから」

共和国首都の聖騎士長「しかしそのオーダーよりも優先順位が高いものが一つ言い渡されていました」

共和国首都の聖騎士長「魔王軍の残党がこの街に潜伏している可能性がある、という情報は前もって掴んでいましてね」

共和国首都の聖騎士長「遭遇した場合排除せよ、という指令が出ていました」

西人街の聖騎士長「その割には探そうとする素振りは無かったが?」

共和国首都の聖騎士長「あくまで遭遇した場合、ですからね。上としては本音はこの街の利権確保のほうが大事です」

共和国首都の聖騎士長「いいですか。器用に生きるには本音と建前を使い分ける必要があります」

共和国首都の聖騎士長「我々にも監視がついています。自分から下手な行動に出ることは出来ないのです」

共和国首都の聖騎士長「ですから私の代わりに氷の退魔師殿やそのご子息に動いて頂いたのです」

西人街の聖騎士長「……あの時わざと見逃したのはそのためだ、ってか?」

405 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/05/10 20:25:56.62 cQGbnkjZ0 1006/1313

共和国首都の聖騎士長「気づいていましたか」

西人街の聖騎士長「流石にな」

狐神「(気づいていおったか?)」

お祓い師「(いや、必死で……)」

共和国首都の聖騎士長「勿論下手な芝居というのは長くは持ちません。役者が揃ったのならば、あとは当初の目的を果たすのみです」

共和国首都の聖騎士長「氷の退魔師殿の手腕に助けられましたね。どうにか貴方がたを始末せずに済みました」

西人街の聖騎士長「こいつ……」

お祓い師「…………」

氷の退魔師「……なーにが手腕に助けられました、だ」

氷の退魔師「俺のこともわざと見逃しただろうが」

406 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/05/10 20:28:11.15 cQGbnkjZ0 1007/1313

共和国首都の聖騎士長「いえいえ、あれは全力ですよ。あまり手を抜いては監視の者に不審がられてしまいます」

氷の退魔師「ふん、どうだかな」

氷の退魔師「まあ付いて来る分には構わない。ダンジョンってのは一人で攻略するのは面倒な場面があるからな」

氷の退魔師「それで、後ろのコはどうすんだ?」

赤毛の術師「…………」

お祓い師(あいつ……共和国首都の聖騎士長が引き連れていたフードを被った奴らの一人か)

お祓い師(さっき戦った時はかなり苦戦したな……)

狐神「…………」

お祓い師「な、なんだよ」

狐神「……いーや、あんな台詞を吐いたばかりでよくも他の雌に目移りできると思ってのう」

407 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/05/10 20:29:40.06 cQGbnkjZ0 1008/1313

お祓い師「馬鹿。そういうのじゃねえよ」

狐神「さて、どうだかのう」

お祓い師「あのなあ……」

共和国首都の聖騎士長「……そうですね。貴女は我々の団員の確保に回ってください」

共和国首都の聖騎士長「民間人の安全確保のために結界内にわざと残らせましたので、彼らと合流してください」

共和国首都の聖騎士長「その後の人員の振り分けはその場で決めてください」

赤毛の術師「はい、了解いたしました」

氷の退魔師「よし、あとはお前だけだが……」

お祓い師「俺は……」

狐神「…………」

408 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/05/10 20:31:14.55 cQGbnkjZ0 1009/1313

お祓い師「俺は、民間人の保護を手伝う」

氷の退魔師「……それはお前の実力では、地下に潜っても足手まといになると理解しているからか?」

お祓い師「…………」

狐神「おぬし……」

お祓い師「……半分はそれで合っている」

氷の退魔師「ほう?」

お祓い師「親父が出向かなきゃならない程の相手に俺が歯が立つとは思えない」

お祓い師「そういう点では親父の言うとおりだが……」

お祓い師「俺とこいつの力は街の人々の保護に役立つ」

お祓い師「逃げ遅れた人も簡単に見つけ出せるからな」

409 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/05/10 20:32:28.63 cQGbnkjZ0 1010/1313

お祓い師「適材適所って言葉があるだろう?」

氷の退魔師「……わかった。それじゃあこれで決まりだ」

氷の退魔師「実際に本丸を目指すのは現時点では俺と騎士団長の二人だが……」

氷の退魔師「まあなんとかなるだろう」

狐神(それには全面的に同意じゃ……)

お祓い師(親父が負ける絵面が思い浮かばねえ……)

共和国首都の聖騎士長(正直私もいらない気はするのですが……念の為ってところですね)

西人街の聖騎士長「よし……物資の準備は?」

聖騎士C「完了です! 隊分けも済みました」

西人街の聖騎士長「そうか」

410 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/05/10 20:33:46.76 cQGbnkjZ0 1011/1313

役所の快活な受付嬢「ね、ねえ……」

西人街の聖騎士長「どうした?」

役所の快活な受付嬢「あの子達の姿がどこにもないの……!」

西人街の聖騎士長「何だと……」

お祓い師(あの子達……黒髪の修道女と酒場の娘のことか)

お祓い師(たしかに姿が見えないな)

西人街の聖騎士長「別の場所から脱出した可能性もあるが……逃げ遅れていると考えたほうがいいな」

西人街の聖騎士長「大丈夫だ、必ず見つけて連れ戻す」

役所の快活な受付嬢「うん……お願いね……」

役所の快活な受付嬢「あの子達は戦う力なんて無いんだから……」

411 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/05/10 20:35:37.94 cQGbnkjZ0 1012/1313

西人街の聖騎士長「ああ、わかっている」

氷の退魔師「行くか?」

西人街の聖騎士長「……ええ、急ぎましょう」

氷の退魔師「よし。全員覚悟は良いな?」

お祓い師「……ああ」

西人街の聖騎士長「…………」

氷の退魔師「それじゃあ第一突入隊、行くぞ」

416 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/06/05 22:14:00.95 GXu8g8qR0 1013/1313






聖騎士C「こ、これは……」

西人街の聖騎士長「建物が複雑に絡み合っている……まるで迷路だな」

西人街の聖騎士長「これが迷宮という名の所以か……」

狼男「元の街の風景とはまるで違いますね……」

狐神「おぬしよ、これは……」

お祓い師「いや違う。俺の目にもおそらくお前たちと同じ光景が写っている」

417 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/06/05 22:16:44.67 GXu8g8qR0 1014/1313

氷の退魔師「その通りだ。これは幻術なんかじゃない」

氷の退魔師「主によって作られた迷宮だ。地の利なんて無いものだと思え」

西人街の聖騎士長「これじゃあ、どこに誰がいるのかの目星もつかねえな」

お祓い師「こういう時、お前の力は本当に役に立つよな」

狐神「ふふん、お任せあれじゃ」

お祓い師「とは言っても抑えながらな。何日間この中にいるのかわからねえんだから」

狐神「ま、そうじゃな」

氷の退魔師「早速で悪いんだが、一つ頼まれてくれないか」

狐神「ふむ?」

氷の退魔師「迷宮の最深部への入り口……元々教会があった場所はどっちだ? 方角さえ分かればいい」

418 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/06/05 22:19:19.59 GXu8g8qR0 1015/1313

狐神「ええとじゃな……あちらの方じゃ」

氷の退魔師「よし分かった。俺は先を急ぐぜ」

氷の退魔師「主を倒せばこの迷宮も崩壊する。早いに越したことはないからな」

狐神「ほ、崩壊とは……」

氷の退魔師「ああ、別にここ一帯が崩れ落ちるわけじゃねえぞ。安心しろ」

狐神「う、うむ」

氷の退魔師「それじゃあ行ってくるわ」

共和国首都の聖騎士長「お供します」

共和国首都の聖騎士長「君はまず仲間と合流してください」

赤毛の術師「はい」

419 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/06/05 22:21:26.58 GXu8g8qR0 1016/1313

共和国首都の聖騎士長「それでは行きましょうか」

西人街の聖騎士長「いや、待て……!」

氷の退魔師「ん?」


赤鬼「グルルル…………」


狐神「でかい……! 正真正銘の鬼じゃ!」

お祓い師「ダンジョンの中はこんな奴らばかりなのかよ……!?」

西人街の聖騎士長「慌てんな! 各自戦闘準備を……!」

氷の退魔師「邪魔だ!!」

赤鬼「グガッ!?」

西人街の聖騎士長「戦闘準備を……って……」

420 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/06/05 22:25:44.76 GXu8g8qR0 1017/1313

赤鬼「グオオオ…………」

赤鬼「…………」

西人街の聖騎士長「い、一撃かよ……」

狼男「本当にお父上だけで大丈夫そうですね……」

お祓い師「これだから嫌なんだよ……」

氷の退魔師「よし、遅れんなよ」

共和国首都の聖騎士長「善処します」

氷の退魔師「お前らも死ぬんじゃねえぞ」

狼男「……い、行ってしまいましたね」

お祓い師「……ま、親父の心配はするだけ無駄だろうな」

421 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/06/05 22:27:49.87 GXu8g8qR0 1018/1313

お祓い師「俺たちが心配するべきなのは自分の身の安全、そして取り残された人たちの安全だ」

お祓い師「入っていきなりさっきの敵だ……」

お祓い師「親父は瞬殺したがあれはおそらく……」

西人街の聖騎士長「ああ。ランクはAだな」

西人街の聖騎士長「そんなやつがゴロゴロいるとすると……一筋縄じゃいかないぜ」

赤毛の術師「そうだと決まったわけでは無いけど」

西人街の聖騎士長「そうだと願いたいねえ」

西人街の聖騎士長「それより、お前さんはいいのか?」

赤毛の術師「いいのか、とは?」

西人街の聖騎士長「お仲間と合流しなきゃいけないんだろう?」

422 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/06/05 22:29:39.12 GXu8g8qR0 1019/1313

赤毛の術師「いや、しばらくは一緒に行動をさせてもらう」

赤毛の術師「ある程度進んだら仮の拠点を設けるでしょ? その場所ぐらいは把握しておきたい」

西人街の聖騎士長「なるほどな。ま、よろしく頼むぜ」

赤毛の術師「ん、足は引っ張らない」

西人街の聖騎士長「ははっ、その心配はしちゃいないさ」

お祓い師(この二人もかなりの強者だ。さっきの敵程度なら対処できるだろう)

西人街の聖騎士長「よし、記録をつけながら進むぞ」

狼男「記録、ですか?」

西人街の聖騎士長「ああ。ここはもう俺たちの知っている西人街じゃねえ」

西人街の聖騎士長「地図として記録を残しながら進まないとな」

423 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/06/05 22:31:19.23 GXu8g8qR0 1020/1313

西人街の聖騎士長「道中ずっと狐の嬢ちゃんの世話になるわけにもいかないだろう」

狼男「なるほど……」

お祓い師「しばらくは安全な行進になるだろうな」

狐神「む? なぜじゃ?」

お祓い師「台風一過みたいなもんだよ」

狐神「……ああなるほど」

424 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/06/05 22:36:34.01 GXu8g8qR0 1021/1313






お祓い師「予想通り何事もなく大分進めたな」

狐神「うむ。直線距離で言うならば四分の一は来てしまったのではないかのう」

西人街の聖騎士長「ああ。だが俺たちの目的はダンジョンの中心へ行くことじゃない」

西人街の聖騎士長「そろそろ一つ目の拠点を設けよう」

赤毛の術師「それこそこの辺りが良いと思う。立地的にもそれほど問題は無さそう……」

西人街の聖騎士長「そうするか……」

425 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/06/05 22:40:45.76 GXu8g8qR0 1022/1313

西人街の聖騎士長「よし、ここを拠点とする! 各自テントの設営に取り掛かれ!」

お祓い師「迷宮とは言ってもこの辺りは街が組み替えられたエリアだぞ?」

お祓い師「この辺りの建物を使うのじゃ駄目なのか?」

西人街の聖騎士長「勿論、建物も使うがそれだけじゃ駄目だ」

西人街の聖騎士長「建物って言ったって籠城用の要塞ってわけじゃない」

西人街の聖騎士長「敵の急襲に対応できるような対策が必要なんだよ」

お祓い師「なるほど……」

西人街の聖騎士長「あと、なるべく建物は避難して来た人のために残しておきたい」

お祓い師「それもそうだな」

お祓い師「設営の方は……手伝えることも無さそうだし、俺たちはこの周りを少し探ってくるかな」

426 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/06/05 22:42:02.21 GXu8g8qR0 1023/1313

西人街の聖騎士長「そうしてもらえるとありがたい。周辺地理は把握しておきたいからな」

西人街の聖騎士長「俺たちも作業が完了次第周辺散策に移るつもりだ」

西人街の聖騎士長「あと出来れば逃げ遅れた人を探して欲しい。嬢ちゃんの力があれば効率もいいだろう?」

お祓い師「ああ、任せろ」

赤毛の術師「……私も手伝う」

お祓い師「そうか? 助かる」

狐神「うぬぬ……」

赤毛の術師「……な、何か……?」

お祓い師「あー気にすんな。何か勘違いしているみたいだ」

赤毛の術師「……?」

427 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/06/05 22:44:15.15 GXu8g8qR0 1024/1313

狐神「ぐるる……」

お祓い師「獣に戻ってんぞ……」

狼男「あ、待ってください。自分も行きます」

お祓い師「あっちを手伝わなくて良いのか?」

狼男「ええ、部下に任せてきました」

お祓い師「お前も偉くなったもんだな」

狼男「いえいえ……」

赤毛の術師「…………」

お祓い師「うわ、今まで無表情だったのに露骨に嫌そうな顔」

お祓い師「こいつが人外だからか?」

428 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/06/05 22:49:01.56 GXu8g8qR0 1025/1313

赤毛の術師「……それもあるけど、それ以上にこの男が魔の者だから……」

お祓い師「わかるのか?」

赤毛の術師「ブローチが反応したから……」

狼男「…………」

お祓い師(黒髪の修道女の家の魔除けの暖炉と原理は似たものか……?)

お祓い師「このダンジョンを出現させた奴は新生魔王軍を名乗っているらしいが……お前は何か知らないのか?」

狼男「いえ、残念ながら」

狼男「たしかに自分は魔の契約はしていますが末端の末端です。そもそもかなりの新参者ですしね」

狼男「あの大神官に妻が処刑されてしまった後、復讐のための力を求めて辿り着いた先でしたから……」

お祓い師「そうか……」

429 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/06/05 22:50:30.61 GXu8g8qR0 1026/1313

狼男「それに、こんな事を起こすような感じはありませんでした。これは何となく、なんですけれでも……」

狼男「むしろ真逆で、人の目に触れないようにひっそりと生きていたい……そんな雰囲気でしたね」

お祓い師「千年前に初代勇者に魔王が討ち滅ぼされてからは、実質崩壊しているらしいからな」

お祓い師「百年単位の歴史の中でたまに名前が出てくるが、それも残党の一派にすぎない……」

お祓い師「お前が会ったのもそういった連中のうちの一つだったんだろう」

狼男「でしょうね」

お祓い師「こんな大規模な……あの受付嬢の情報が正しければ大陸規模での蜂起は、それこそ千年ぶりなんじゃないのか?」

狐神「過激な一派が徐々に力を蓄えていた……ってところかのう」

赤毛の術師「……おそらくは」

お祓い師「…………」

430 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/06/05 22:52:37.74 GXu8g8qR0 1027/1313

赤毛の術師「……何か?」

お祓い師「いや、狐神には嫌そうな顔はしないんだな」

赤毛の術師「……これは貴方の使い魔でしょ? 使い魔は最近は広く浸透しているから……」

お祓い師「これって言うなよ……」

お祓い師「そういえばそんな事を、お前んとこの聖騎士長が言っていたな」

赤毛の術師「使い魔の力は人間側の戦力増強に大きく貢献するから……」

お祓い師「あー、厳密にはこいつは使い魔じゃない」

狐神「指をさすでない」

赤毛の術師「……そうなの?」

お祓い師「ああ。式神って言ってな、原理が使い魔とは違ってな」

431 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/06/05 22:53:25.00 GXu8g8qR0 1028/1313

お祓い師「まあ細かい説明は……今はいらんだろ」

赤毛の術師「そうだね……逃げ遅れた人を探すのが先」

狐神「それでは二手に分かれるのはどうじゃ?」

お祓い師「確かにその方が効率は良いが……大丈夫か?」

狐神「わしはこの者と一緒に行く」

赤毛の術師「私……?」

狐神「戦力的に考えて妥当じゃろう。正直おぬしよりも頼り甲斐がありそうじゃ」

お祓い師「ぐ……反論はできねえ……」

お祓い師(それに正直、赤毛の子と狼男を一緒にするのは心配だしな……。狼男のことはまだ警戒しているみたいだし……)

狐神(この赤毛の小娘とお祓い師を二人っきりにはさせぬ……。わしの未来のお……夫に色目を使われては困るからのう……!)

432 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/06/05 22:54:46.79 GXu8g8qR0 1029/1313

お祓い師「まあその組み合わせが一番か」

狐神「じゃろう?」

お祓い師「狐神、力を借りるぜ」

狐神「うむ。あまり離れすぎないように注意じゃぞ」

お祓い師「ああ。ある程度探索したらもう一度ここで落ち合おう」

お祓い師「狐神を頼むぞ」

赤毛の術師「……任せて」

433 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/06/05 22:56:47.91 GXu8g8qR0 1030/1313






お祓い師「じゃあ俺たちはこっちに行くか」

狼男「ええ」

お祓い師「さっきの鬼レベルのやつが出てこない事を祈りたいな」

狼男「無理は禁物ですよ」

お祓い師「わかっている。あくまで今回は偵察だ」

お祓い師「ヤバそうだったらすぐに逃げるさ」

434 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/06/05 23:00:25.98 GXu8g8qR0 1031/1313

狼男「そうしてもらえると助かります」

お祓い師「そういえば聞いておきたかったんだが……」

狼男「何ですか?」

お祓い師「一応お前も魔王軍の配下と呼べるわけだよな」

狼男「まあ契約上は、ですが」

お祓い師「まだ詳しい素性はわかっていないが、仲間かもしれない連中と戦えるのか?」

狼男「それは大丈夫です。俺は復讐のために力が必要で彼らの門を叩いただけですから」

お祓い師「あっさりしてんな」

狼男「妻の命を奪ったあの大神官への復讐以外に目指すものはありませんでしたから……」

お祓い師「復讐以外に、か……」

435 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/06/05 23:04:39.29 GXu8g8qR0 1032/1313

狼男「ええ。そして、それはまだ達成されていないかもしれません」

狼男「ダンジョンの外に逃げ延びた人々の中にあの大神官の姿はありませんでした」

狼男「他の場所から逃げた可能性もありますが……」

お祓い師「奴にとっては契約した悪魔がいるダンジョン内のほうが安全」

お祓い師「ダンジョンが発生したときの混乱に乗じて最深部へと逃げたのかもな」

狼男「そう考えるのが自然ですね」

お祓い師「…………」

狼男「……そういえば旦那、姐さんと結婚するんですって?」

お祓い師「ぶっ!? な、何でそれを……!?」

狼男「いやあ自分は耳が良いですから。今朝の会話はしっかりと」

436 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/06/05 23:06:39.65 GXu8g8qR0 1033/1313

お祓い師「ああクソッたれ!」

狼男「はは、申し訳ないです」

お祓い師「まあ別に隠そうとしていたわけじゃないし良いんだが……」

狼男「式には呼んでくださいよ」

お祓い師「いつになるかわからんけどな」

狼男「楽しみにしておきますね」

狼男(ん……?)

狼男「……待ってください。何か声が聞こえます」

お祓い師「俺には聞こえんが……」

437 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/06/05 23:09:10.54 GXu8g8qR0 1034/1313



???「うわああああああっ!!」


狼男「悲鳴!」

お祓い師「今のは俺にも聞こえた! 急ぐぞ!」

狼男「この先です!」

お祓い師(今のが住民の声だったとしたら拠点へ連れて帰らねと……!)

お祓い師(おそらく状況として考えられるのは……)

狼男「見えました……!」

お祓い師「あれはゴブリンの群れ……!? 皇国では見かけないはずだ……!」

狼男「戦力として連れて来られたのでしょうか」

お祓い師「考えるのは後にするか。住民と思しき人が囲まれちまってる」

438 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/06/05 23:13:47.57 GXu8g8qR0 1035/1313

狼男「……こうしましょう。俺が人狼の力を使ってあの人達の所へと近づきます」

狼男「安全を確保できる状態になったっところで一気に焼き払ってください」

お祓い師「わかった。それじゃあこいつを持っていけ」

狼男「これは?」

お祓い師「火除けの札だ。こいつを中心に半径二メートル程は俺の術が届かない」

狼男「わかりました。行ってきます」

お祓い師「任せたぞ」

狼男(さて術を発動して……ゴブリンの中に溶け込むまではいいが、ここからが難しい)

狼男(まだ周りを囲っただけの状態で俺一人が人間の側へ寄ろうとすればどうなるか……)

狼男(明らかな行動の違和感から人狼の力が弱まるか、人間から反撃を受けるか……)

439 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/06/05 23:16:51.81 GXu8g8qR0 1036/1313

狼男(これは短期決戦ですね……)

狼男(……よし、最前まで来た。深呼吸をして……旦那へ合図を)

狼男「よし……!!」

西人街の住民A「ひっ!?」

ゴブリンA「ギギッ!?」

狼男「今です旦那!!」

お祓い師「おうよ!」

ゴブリンA「ギッ、ギイアアアアアアアアアアア!!」

西人街の住民B「うわああああっ!?」

狼男「あっ、熱っ!?」

440 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/06/05 23:19:01.93 GXu8g8qR0 1037/1313

狼男(そりゃあ炎が直接来なくても熱いに決まってるか……!)

お祓い師「……よし、何とかなったな」

お祓い師「大丈夫だったか?」

狼男「ええ、まあ何とか」

西人街の住民B「あ、貴方がたは……?」

お祓い師「そっちは聖騎士で俺は退魔師協会から来たモンだ」

西人街の住民A「きょ、協会の……助かった……!」

お祓い師「状況は理解できていないと思うが……詳しい話はここから避難してから拠点のヤツにでも聞いてくれ」

お祓い師「とにかく今は安全なところまで移動してもらう」

お祓い師「この辺りで他に逃げ遅れた人を見かけていないか?」

441 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/06/05 23:19:30.94 GXu8g8qR0 1038/1313

西人街の住民A「い、いや自分たちだけだと思う……」

西人街の住民A「とにかくどこかへ逃げようという話になった時に襲われてしまって……」

お祓い師(俺たちのような“攻略者”でなくとも無差別に襲われるということか……)

お祓い師「急がないとな……」

狼男「ええ……!」

お祓い師「まずはこの人達を連れてあの二人との合流地点へ向かうぞ」

445 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/06/20 22:12:32.13 nbhVTbUP0 1039/1313






狼男「まだ来てないようですね」

お祓い師「ああ……だがそれなりに時間は経っている」

お祓い師(もうしばらく経っても現れる気配がなかったら探しに行くべきだろうか……)

お祓い師(いやしかし……)

狼男「……これは……」

お祓い師「どうした?」

446 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/06/20 22:14:28.59 nbhVTbUP0 1040/1313

狼男「何か大きな気配が……」

お祓い師「何だと……!?」

狼男「方角は……先ほど姐さん達が行った道です……!」

お祓い師「くっ……あいつらが交戦している考えて良さそうだな……!」

狼男「自分はこの人達を拠点まで連れて戻ります! 旦那は姐さんの所へ向かってください!」

お祓い師「ああわかった!」

お祓い師(あの赤毛の女……あいつが付いているから平気だとは思うが……)

お祓い師(万が一ということも……)

お祓い師(いや、考えるな……! 今は急いであいつのいる場所へ!)

お祓い師(力を借りるぞ狐神……!)

447 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/06/20 22:16:02.69 nbhVTbUP0 1041/1313

お祓い師(この道を直進……それからあの角で左へ……)

お祓い師(そしてこの先に……!)

お祓い師「くっ……!?」

お祓い師「この距離なら俺でも感じる……! こいつはかなりヤバイ相手だ……!」

お祓い師「狐神ッ!!」

狐神「むうっ、おぬし何故ここに!?」

狐神「狼のやつはどうしたのじゃ?」

お祓い師「い、いや……逃げ遅れた人を見つけたから送り届けてもらってる」

お祓い師「それよりも……!」


青鬼「ガアアアアアアアアアアアッ!!」


お祓い師「くっ……!?」

448 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/06/20 22:16:52.74 nbhVTbUP0 1042/1313

狐神「完全に怒り狂っておる」

狐神「おそらく先ほどおぬしのお父上が仕留めた赤の片割れじゃろう」

狐神「感じる力は天狗ほどではあらんが……」

お祓い師「わかっている……手は抜けない相手だ……!」

赤毛の術師「向こうは完全に頭に血が上っている。撹乱して隙を作れば倒せるはず……」

お祓い師「わかった、そういうのは俺たちに任せな」

お祓い師「狐神、行けるか?」

狐神「勿論じゃ」

お祓い師「よし……! こっちだデカブツ!」

青鬼「グオオオオッ!!」

449 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/06/20 22:19:13.27 nbhVTbUP0 1043/1313

お祓い師「って、速い! いや一歩がデカい!」

お祓い師(ヤバイ追いつかれる!!)

青鬼「グウッ!?」

狐神「ほれ、どこを見ておる。雄なら雌の尻を追いかけんかい」

狐神「それともわしのか弱ーい爪の一撃で参ってしまったのかのう?」

青鬼「グ……グウオオオオオオオオオッ!!」

狐神「そうじゃこっちじゃ。付いて来るが良い」

お祓い師(そういえば単純な身体能力ではあっちの方がずっと上だったな……)

お祓い師(獣の神だからな……)

お祓い師「だが狐神ばかりに仕事はさせない……! くらえっ!」

450 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/06/20 22:19:52.57 nbhVTbUP0 1044/1313

青鬼「フン!!」

お祓い師「炎を手で払い除けやがった!?」

お祓い師「俺の技単体じゃ倒すのに一苦労しそうだな……」

お祓い師「だが……」

赤毛の術師「うん……詠唱完了、ナイスタイミング」

赤毛の術師「これで終わり」

青鬼「グッ……!?」

青鬼「グオオオオオオアアアアアアアアッ!?」

赤毛の術師「……ふう。大きいのを撃つと疲れる……」

お祓い師(雷の魔法か……並の威力ではなかったな)

451 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/06/20 22:22:33.24 nbhVTbUP0 1045/1313

お祓い師(流石はあの聖騎士長直属の部下ってところか)

お祓い師「流石だな」

赤毛の術師「……ゆっくり詠唱する時間があれば誰だって撃てる」

お祓い師「どうだかな。少なくとも俺には無理だぜ」

赤毛の術師「……? でも貴方はあの氷の退魔師の御子息……」

お祓い師「まあ色々あんだよ」

お祓い師「それよりも、一応人の気配を辿ってここまで来たんだろ? 逃げ遅れた人は近くにいそうなのか?」

狐神「うむ、どうやらあの建物に身を潜めておるようじゃ」

狐神「早いところ連れて帰らんと拠点が騒ぎになってしまっては困る」

お祓い師「そうだな」

452 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/06/20 22:23:03.70 nbhVTbUP0 1046/1313

狐神「わしの腹の虫も鳴き始めたしのう。急がんといかんな」

お祓い師「そりゃ一大事だ。お前が不機嫌になる前に戻るとしよう」

狐神「別にわしは不機嫌にはならん」

お祓い師「さてどうだか」

狐神「不機嫌にはならん!」

お祓い師「もうなってるじゃねえか! いいから建物の中の人達に出てきてもらわねえと!」

狐神「わかっておるわ! 呼びに行くぞ!」

お祓い師「はいはい……」

赤毛の術師「…………」

お祓い師「あ? どうした?」

453 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/06/20 22:24:11.78 nbhVTbUP0 1047/1313

赤毛の術師「……いえ……随分と仲が良いのね」

赤毛の術師「とても人と人外の関係とは思えない……」

お祓い師「……別に、仲良くすることに人かどうかは関係ない」

赤毛の術師「人と人外が対等だと……?」

お祓い師「そうなるな」

赤毛の術師「それならいま鬼を倒したことに対しては何も思わないの?」

お祓い師「……思わなくはない、だがこいつは敵だ。敵として俺達の前に現れた」

赤毛の術師「……じゃあ」

赤毛の術師「人間が貴方の前に敵として現れた時も同じように殺せる?」

お祓い師「…………」

454 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/06/20 22:25:53.47 nbhVTbUP0 1048/1313

お祓い師「……何故そんな質問を?」

赤毛の術師「だって貴方の言っている事おかしいもの」

お祓い師「…………」

赤毛の術師「……ああ勘違いしないで。私だって人を相手にはしたくない、なるべく」

赤毛の術師「でもね、私は人間だって人外だって必要に迫られれば殺せる」

赤毛の術師「……私からすればよっぽど貴方の方が区別をしている」

赤毛の術師「……貴方はただ、いい子になりたいだけ」

お祓い師「……まあその通りだろうな。所詮人間様の考えだ」

お祓い師「今は人の世だ。基準は常に俺たちの目線にある」

お祓い師「人間の社会で人間として生きて行くにはそのルールに従わないといけない」

455 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/06/20 22:27:32.64 nbhVTbUP0 1049/1313

赤毛の術師「人外を殺すのがルール……義務だとでも?」

お祓い師「義務になってしまっている」

赤毛の術師「……なぜ?」

お祓い師「“悪い人外”は人間社会の敵だから、だ」

赤毛の術師「……貴方が倒してきた人外は全部悪い人外だったの?」

お祓い師「……どうだろうな」

赤毛の術師「……結局言い訳」

お祓い師「だな。最近の俺の行動が矛盾しているのは俺が一番分かっている」

お祓い師「……少し前に知り合った化け猫が言っていた」

お祓い師「優しくしてくれる人たちは暖かいけど、とても歪だって」

456 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/06/20 22:28:10.00 nbhVTbUP0 1050/1313

赤毛の術師「歪……」

お祓い師「そいつはそれが悪いことだとは言っていなかった」

お祓い師「人間も社会も急には変われない。その途中には必ず歪な奴らが出てくる」

お祓い師「ただ少しずつだが、確かに変わろうとしている連中もいるってことだ」

赤毛の術師「……ふうん……」

お祓い師「さて、俺たちも行こうぜ。あいつが鬼の形相でこっちを見ているからな……」

赤毛の術師「……確かに、さっきの鬼にも引けを取らない」

お祓い師「ははっ、だろ?」

457 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/06/20 22:28:52.29 nbhVTbUP0 1051/1313






狼男「皆さん無事でしたか!」

お祓い師「おう、この子のおかげでなんとかな」

赤毛の術師「……別に……」

狐神「どうやら先ほどの赤い鬼の仲間だったようじゃ」

狐神「二体だけとは断言できぬ。他にも仲間がいるかも知れぬ」

お祓い師「ああ。今後もそのつもりで警戒した方がいいだろう」

458 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/06/20 22:29:27.16 nbhVTbUP0 1052/1313

お祓い師「単独の時に遭遇したらヤバイからな」

狼男「わかりました。団長にもそう伝えておきます」

お祓い師「さっきの人たちは?」

狼男「向こうの建物で休んでいます。疲れが溜まっていたようで」

お祓い師「そりゃあ急に景色が変わって、周りが人に害をなす人外だらけになればな……」

狼男「ですよね……」

狼男「入れ違いで団長と数人で編成された隊が周辺の捜索に向かいました」

狼男「他にも周辺に逃げ遅れた人がいるかもしれませんからね」

お祓い師「そうか……それじゃあ俺たちも」

狼男「いえ、旦那方は休んでください」

459 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/06/20 22:30:17.47 nbhVTbUP0 1053/1313

お祓い師「だが……」

狼男「確かに姐さんの力は捜索に便利ですが……」

狼男「この先何日間ダンジョンに篭もることになるのかわかりませんからね。無理をして体調を崩しでもしたら大変です」

お祓い師「それはそうだが……しかし」

狼男「……急ぎたいのは俺もそうです。あの二人の無事を確認したいですしね……」

狼男「ですが倒れてしまっては何もできなくなります。今は無事を信じて焦らずに行きましょう」

お祓い師「……わかった。そうする」

狼男「ではあちらの方で休憩を」

お祓い師「いや、俺たちも有事にはすぐに出られるようにしたい。設営したテントの方でいいか?」

狼男「旦那がそれで良いなら構いませんが……」

460 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/06/20 22:32:12.99 nbhVTbUP0 1054/1313

お祓い師「お前は平気か?」

狐神「元々は山奥の社で丸まって寝ておったのじゃぞ? 状況が状況じゃし寝所への文句など言わぬ」

狼男「わかりました。それではこちらへ」

赤毛の術師「……私は引き続き捜索に向かう」

狼男「……駄目ですよ。貴女も休まないと」

赤毛の術師「人外に心配される必要なんて無い」

狼男「俺が人外じゃなくても行こうとするんでしょう?」

赤毛の術師「…………」

狼男「貴女にもするべきこと……仲間を探すという優先事項があるのはわかっています」

狼男「ですが今は我々に協力してもらえると助かります」

461 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/06/20 22:32:49.14 nbhVTbUP0 1055/1313

赤毛の術師「協力……?」

狼男「ええ」

狼男「ここは拠点です。捜索にばかり人員を割いてしまうと拠点の守りが疎かになってしまいます」

狼男「待機するというのは休憩のためだけでは無いんです」

狼男「団長が捜索に向かっている今、あの人に代わる戦力がここにいて欲しい……」

赤毛の術師「…………」

赤毛の術師「……はあ。そういうことならわかった……」

狼男「助かります」

赤毛の術師「別に……教会が治める街の人々を守るのは当たり前」

赤毛の術師「それだけ」

462 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/06/20 22:33:57.95 nbhVTbUP0 1056/1313

狼男「ええ。本当に助かります」

赤毛の術師「…………」

狼男「……ええと、何か?」

赤毛の術師「……何でもない。休憩しろと言うなら休憩するから早く案内して……」

狼男「わかりました、こちらです」

お祓い師「(少しは打ち解けてくれたのか?)」

狐神「(どうじゃろうな……あれは相当の堅物じゃ)」

赤毛の術師「……何か?」

お祓い師「いーや、何でも。ほら行こうぜ」

赤毛の術師「…………」

467 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/07/06 21:12:40.48 krgR/9/N0 1057/1313






お祓い師「そろそろ日が落ちるな」

狐神「うむ。やはりお父上の言っていた通り、準備をしてから突入したのは正解じゃったのう」

お祓い師「ああ。単純に攻略するのにも時間がかかるってのに、俺たちは見逃しがないように探索しなくちゃいけないからな」

狐神「明日には別の場所へと移るのじゃろうか」

お祓い師「どうだろうな。その辺はあいつに聞かないと……」

狐神「む、噂をすれば帰還のようじゃな」

468 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/07/06 21:15:16.53 krgR/9/N0 1058/1313

狼男「団長、お疲れ様です」

西人街の聖騎士長「おう」

西人街の聖騎士長「衛生班! 怪我人を見てやってくれ」

西人街の聖騎士長「……さて、と」

お祓い師「どうだった?」

西人街の聖騎士長「見ての通り数人逃げ遅れた人を発見した」

西人街の聖騎士長「この感じだとおそらく、多くの人は最初の避難時に結界の範囲外まで逃げられたみたいだな」

お祓い師「そうか」

西人街の聖騎士長「とはいえここはまだ中腹だ。中心部へ近づけば逃げ遅れた人が更に多くいる可能性もある」

お祓い師「ああ。急がねえとな」

469 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/07/06 21:16:18.27 krgR/9/N0 1059/1313

西人街の聖騎士長「消耗した状態で無事に進めるようなダンジョンじゃねえ。今晩はゆっくりと休むぞ」

お祓い師「それは分かっている。だが明日はなるべく早く出よう」

西人街の聖騎士長「おうよ」

お祓い師「夜の間の見張りは……」

西人街の聖騎士長「それは俺の部下にやらせるから大丈夫だ。その為に休ませていた奴らがいるからな」

お祓い師「大丈夫なのか?」

西人街の聖騎士長「ん?」

お祓い師「いや……ここのダンジョンに出現する人外は強力な奴らが多い」

お祓い師「さっき鬼の片割れに遭遇したんだが、ダンジョンからの恩恵が無い素の状態でもAランクはあったはずだ」

西人街の聖騎士長「そいつは怖えーな……だが平気だ」

470 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/07/06 21:21:36.45 krgR/9/N0 1060/1313

西人街の聖騎士長「こんな片田舎にいようが俺たちはれっきとした聖騎士だ」

西人街の聖騎士長「そしてその聖騎士団に喧嘩売ろうとした自由の団もいる。心配しなくても大丈夫だ」

お祓い師「それどっちもお前だろう……まあ、それもそうか」

西人街の聖騎士長「ああ任せな」

狐神「……!」

狼男「これは……!」

お祓い師「どうした?」

狐神「ふむ、こちらへ近づいてくる気配があるのう」

お祓い師「何!?」

狼男「おそらく敵です……数も多そうですね」

471 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/07/06 21:22:03.93 krgR/9/N0 1061/1313

お祓い師「これだけ人が集まっていればニオイを嗅ぎつけてやって来るよな……!」

お祓い師「狐神、準備をしろ!」

狐神「うむ」

西人街の聖騎士長「いや、大丈夫だ」

お祓い師「なっ……」

西人街の聖騎士長「言ったろ? 夜の護りは俺の部下たちに任せな」

西人街の聖騎士長「よしお前ら! 敵さんが来るぞ、あれを準備しろ!」

自由の団団員B「はっ!」

お祓い師(“あれ”だと……?)

お祓い師(見たところただの銃のようだが……)

472 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/07/06 21:22:43.37 krgR/9/N0 1062/1313

西人街の聖騎士長「避難して来た人は建物の中に避難させておけ」

西人街の聖騎士長「きちんと隊列を組んでそっちには近づけせるなよ」

西人街の聖騎士長「松明をガンガン点けろ! 敵さんを見逃さないようにしろ!」

狐神「奴らの姿が見えたぞ」

お祓い師「あれはゴブリンの群れ……それにトロール達もいる……!」

お祓い師「かなりの数だ……どう対処するつもりだ」

狐神「聖騎士の者達は銃を構えておるがあれでは不足かの?」

お祓い師「ゴブリンになら十分効くだろうが……トロールとなると別だ」

お祓い師「さっき遭遇した巨大な鬼ほどではないが、強靭な肉体と高い耐久力を持っている」

お祓い師「一、二発当てた程度じゃ大したダメージは見込めないと思うが……」

473 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/07/06 21:23:51.37 krgR/9/N0 1063/1313

西人街の聖騎士長「よし、全員撃てっ!!」

ゴブリンB「ギアアアッ!!」

トロールA「グオオオオオッ!!」

狐神「……かなり効いているようじゃが?」

お祓い師「馬鹿な……!?」

お祓い師(弾が当たった箇所から術が展開している……!? あれはまさか……!)

西人街の聖騎士長「よし止め!」

西人街の聖騎士長(目視では撃ち漏らしは無いな……)

西人街の聖騎士長「気配は?」

狼男「……無いです。全て仕留めました」

474 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/07/06 21:24:39.87 krgR/9/N0 1064/1313

西人街の聖騎士長「よし」

お祓い師「なあ、今のは……」

西人街の聖騎士長「ああ凄いだろ? ちょっと知り合いから貰ったもんでな」

お祓い師「知り合いから、ね……」

お祓い師(昨日の護符、地図そして今回の術が展開する弾……)

お祓い師(これは確定か……)

西人街の聖騎士長「どうかしたのか?」

お祓い師「……いや。あんな凄いものがあるなら確かに安心だな」

西人街の聖騎士長「だろ? まあこっちに任せろってことだ」

西人街の聖騎士長「そろそろ夕飯の炊き出しが始まるはずだ。それを食ったら早めに寝ておいてくれ」

475 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/07/06 21:27:25.58 krgR/9/N0 1065/1313

西人街の聖騎士長「さっき言っていた通り明日は早めに出発する」

お祓い師「わかった」

狐神「ようやく夕飯……待ちわびておったぞ……」

お祓い師「本当にお前はそればっかりだな」

狐神「悪いかの?」

お祓い師「いーや、いつも通りで俺も安心できる」

狐神「あ、頭を撫でるでない……!」

お祓い師「ほれほれほれ」

狐神「やめぬかっ……! このっ……!」

赤毛の術師「…………あれはいつも?」

476 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/07/06 21:28:09.19 krgR/9/N0 1066/1313

狼男「いやー、前はあれほどでは無かったんですけれども……」

狼男「旦那も開き直ったみたいですね」

赤毛の術師「一緒にいると疲れそう……」

狼男「そうですか? 楽しそうじゃないですか?」

赤毛の術師「理解できない……」

お祓い師「ほら、お前らも食べに行こうぜ」

狐神「頭から手を離さぬか!」

狼男「さて行きますか」

赤毛の術師「……ふん」

赤毛の術師(……皇国の連中は馴れ合いが好きね……)

477 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/07/06 21:28:49.71 krgR/9/N0 1067/1313






西人街の聖騎士長「おはようご両人」

狐神「うむ……」

お祓い師「ああ……今は何時ぐらいだ」

西人街の聖騎士長「あの東の空に見えている太陽が本物の太陽ならば六時ほどか」

西人街の聖騎士長「ここ数日立て続けに忙しかったもんで懐中時計のねじを巻き忘れていてな……」

西人街の聖騎士長「二人共随分と眠たいようだが大丈夫か?」

478 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/07/06 21:30:14.73 krgR/9/N0 1068/1313

お祓い師「昨晩はこいつが中々寝かせてくれなくてな」

西人街の聖騎士長「それはそれはお盛んなことで」

狐神「誤解を生む言い方をするでない……」

お祓い師「悪かった、だから足を踏むな」

お祓い師「こいつは俺たち人間よりずっと気配に対して敏感だからな……」

お祓い師「こんな敵だらけのダンジョン内では、中々安心して寝付けないみたいでな」

西人街の聖騎士長「なるほど。あいつもさっき同じような事を言っていたな」

お祓い師「あいつ?」

西人街の聖騎士長「ああ、ちょうど来たな」

狼男「ふああ……どうも旦那、姐さん。おはようございます」

479 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/07/06 21:33:13.20 krgR/9/N0 1069/1313

お祓い師「なるほどな……」

狼男「どうかされましたか?」

お祓い師「いや何でもない」

狼男「……? そうですか」

西人街の聖騎士長「さて、必要な面子は揃ったから今日の作戦会議を始めるか」

お祓い師「あの赤毛の子は?」

西人街の聖騎士長「あいつなら一時間は前に起きてきたぜ。もう向こうで待っている」

お祓い師「ってことは俺たちが一番の寝坊か……」

西人街の聖騎士長「いや、あんたらには今日からかなり働いてもらうことになるからな」

西人街の聖騎士長「むしろ休養は取れる時に目一杯取っておいて欲しい」

480 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/07/06 21:36:12.25 krgR/9/N0 1070/1313

狐神「主にわし、ということじゃろうな」

お祓い師「だろうな……無理はするなよ」

狐神「わかっておる」

お祓い師「さて、向こうで作戦の説明をするらしいから行こうぜ」

狐神「うむ」

481 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/07/06 21:37:13.97 krgR/9/N0 1071/1313






西人街の聖騎士長「今後の動きに関する大まかな説明はこんなもんだ」

お祓い師「つまり狐神はここに待機して、あんたら騎士団員や自由の団の人間を逃げ遅れた人のいるところまで導けばいいってことだな」

西人街の聖騎士長「ああ。四、五人を一つの班として編成するつもりなんだがそのうち一人に術を発動して先導してくれ」

西人街の聖騎士長「その隊が保護対象のもとに着き次第、次の班をまた別の人のところへと導いてくれればいい」

西人街の聖騎士長「闇雲に探し回るよりもずっと効率がいいはずだ」

お祓い師「こいつの力はまだ複数の対象を一気に探し出すことは出来ないが、俺も力を借りて同時に探せば二組までは同時に導くことが出来る」

482 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/07/06 21:38:31.93 krgR/9/N0 1072/1313

お祓い師「ただしこいつは力をあまり長時間、大量には使えない。一日にどれだけこなせるかは正直分からない」

西人街の聖騎士長「無理をさせるつもりはない。体調を崩しちまったら元も子もないからな」

西人街の聖騎士長「あと探索は日が落ちる前に打ち切る。これは絶対だ」

狐神「ふむ。わしらはわざわざ走り回らなくても良いということじゃな」

お祓い師「その分力の行使に集中しろってことだな」

狐神「ふう……どうやらしばらくは重労働になりそうじゃな?」

お祓い師「俺もまだ遠く離れた相手に力を使うのは慣れていないからな……そこまで正確に出来るか……」

狐神「状況が状況じゃ。今慣れよとしか言いようがないのう」

お祓い師「そりゃあそうだけどよ」

狐神「コツが有るとすればそうじゃのう……この力は旅人が迷うこと無く山道を進めるようにと使っておったものじゃ」

483 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/07/06 21:45:05.37 krgR/9/N0 1073/1313

狐神「安全にたどり着いて欲しい、そんな気持ちがより力を増大させるかもしれぬ」

お祓い師「気持ち、か……」

狐神「うむ」

お祓い師「わかった、やってみる」

お祓い師「そっちの準備はいいか?」

西人街の聖騎士長「おうよ。今日探索に出向く奴は既に決めてある」

お祓い師「そうか」

お祓い師「……それよりもいいのか?」

西人街の聖騎士長「ん?」

お祓い師「この力ならもっと絞り込んだ人間の居場所に連れていけるんだぞ?」

484 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/07/06 21:47:00.53 krgR/9/N0 1074/1313

お祓い師「まだ黒髪の修道女と酒場の娘の二人は見つかっていないだろう?」

西人街の聖騎士長「……本音を言えば優先して探したいところだが、今は私情を挟むときではない」

西人街の聖騎士長「助けるべき人間に優先順位はつけねえよ」

お祓い師「……そうか、わかった」

赤毛の術師「…………」

赤毛の魔導師「……私も引き続き手伝うことにする……」

お祓い師「お前の仲間はいいのか?」

赤毛の術師「……皆強いから大丈夫……それよりも今は戦うすべがない人を逃がすのが大事……」

赤毛の術師「私だって仮にも聖職者……そこの人外がやるなら私もやらない訳にはいかない……」

狼男「えーっと、はは……」

485 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/07/06 21:52:31.32 krgR/9/N0 1075/1313

お祓い師「ふっ……おう、助かるぜ」

西人街の聖騎士長「そういうことならうちの隊員を連れていきな。この作戦は班行動をすることになっている」

赤毛の術師「私は一人で平気……」

西人街の聖騎士長「今回はただ戦えばいいんじゃない」

西人街の聖騎士長「一人では守りながら戦うことは難しいだろう?」

赤毛の術師「……そういいことならわかった……」

お祓い師「よし、話はまとまったな」

狐神「早速おぬしらを導いてやるとするかのう」

西人街の聖騎士長「ああ、やってくれ」

486 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/07/06 21:53:00.93 krgR/9/N0 1076/1313






お祓い師「驚くほど順調に進んでいるな」

狐神「昨日からこうやってやっていれば良かったのではないのかのう?」

お祓い師「いや、昨日の周辺の探索調査があってこその順調さだろう」

お祓い師「お前の力があるとは言え実際に足を動かすのは別の人間だ」

お祓い師「周りの地理や状況を抑えておくのは重要だったはずだ」

狐神「ま、それもそうかのう」

487 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/07/06 21:55:15.03 krgR/9/N0 1077/1313

お祓い師「それよりもお前は平気なのか? もうかなりの数を送り出したが……」

狐神「それなりに疲れは出てきておる……じゃが自らが体を動かしていない分いつもよりは力の消費はあらんのう」

狐神「むしろ食事を摂りながら悠々自適と出来て楽しいわい」

お祓い師「あのなあ、後で補給隊が来るとはいえ限られた物資から分けてもらっているんだからな」

狐神「そ、それぐらいは分かっておるわい」

お祓い師「だといいんだが……」

狐神「むうう……!」

狼男「どうも、ただいま帰りました」

お祓い師「おう、どうだった?」

狼男「親子連れでした」

488 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/07/06 21:56:24.70 krgR/9/N0 1078/1313

お祓い師「怪我は?」

狼男「大丈夫みたいでした。周りに危険な気配はなく、食料も十分に確保されていましたので」

お祓い師「食料だと?」

狼男「ええ。どうやらダンジョン化によって変わるのは地形だけで、元々あったものが消えてなくなったりするわけではないようですね」

狼男「建物の形状などは多少変化したようですが備蓄食料はそのままあったみたいで」

お祓い師「なるほど……」

お祓い師「これで一つ心配事は消えたな」

狼男「ええ。人外によって危険な目に合わない限り逃げ遅れた人も平気でしょう」

狐神「危険な目に遭う前にわしらが見つけてやれば良い、と」

お祓い師「だな」

489 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/07/06 21:58:51.40 krgR/9/N0 1079/1313

狼男「あとその親子連れと一緒に……」

お祓い師「ん?」

黒髪の修道女「どうも……一日ぶりですね」

お祓い師「あっ、無事だったか……!」

黒髪の修道女「ええ、どうにか」

狼男「その親子のことを力をうまく使って安全に潜伏させていてくれたみたいだ」

路地裏の酒場の娘「私もいるよー!」

お祓い師「お前は元気だな……」

路地裏の酒場の娘「いやあ、こんな状況だからこそ元気じゃないとさ」

お祓い師「確かにそうかもな」

490 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/07/06 21:59:56.34 krgR/9/N0 1080/1313

狼男「さて、姐さんが平気でしたら自分らももう一往復行くのですが……」

狐神「わしはまだ平気じゃ。おぬしこそ無理をするでないぞ」

狼男「ええそれではお願いいたします」

狐神「うむ」

狼男(…………ん?)

狐神「よし、それでは……」

狼男「……待ってください」

狐神「うむ?」

狼男「姐さんは感じませんか……? デカイ奴が近づいてくるのを……!」

狼男(この気は……まさか……)

491 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/07/06 22:01:50.76 krgR/9/N0 1081/1313

狼男「…………」

黒髪の修道女(えっ……狼男さん……?)

黒髪の修道女(まさか……)

お祓い師「…………!」

お祓い師「これは……!?」

狐神「……む、本当じゃ……! 力の行使に集中しすぎておったわ……!」

お祓い師「聖騎士長とあの赤毛の子は?」

狼男「まだ帰ってきていないかと」

お祓い師「くっ……」

お祓い師「こっちには避難して来た人が沢山いる。俺たちから出向いてやらないと危険なことになる」

492 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/07/06 22:02:25.67 krgR/9/N0 1082/1313

狼男「ですが旦那方は力を使った後ですから……」

お祓い師「つべこべ言っている暇はない! 主力の二人が戻るまで繋ぐしかないだろう!」

狼男「は、はい!」

お祓い師「悪いな、行けるか?」

狐神「まだ余裕があると言っておろう。心配するでない」

お祓い師「よし行くぞ!」

496 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/07/14 16:55:08.96 L2jkNBlf0 1083/1313






お祓い師「あれか……」

狐神「でかいのう……」

狐神「何かの獣のようじゃが、知っておるか?」

お祓い師「いや、あんな人外は初めて見た」

お祓い師「感じる力もそこそこデカい……ランクAの中でも上位のやつだ……」

狐神「あの天狗と同じぐらいということかの」

497 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/07/14 16:56:36.25 L2jkNBlf0 1084/1313

お祓い師「ああ、もしかしたら匹敵するかもしれん」

狼男「…………」

お祓い師「狼男? どうかしたのか」

狼男「このニオイ……やはり……!」

お祓い師「あ、おい待て!」

狐神「あやつどうしたのじゃ?」

黒髪の修道女「は、早く追いかけないと……!」

お祓い師「お前いつの間にこんな所に!?」

黒髪の修道女「実は先ほど狼男さんから良くない感情を読み取ってしまいまして……」

黒髪の修道女「とにかく早く追いかけないとマズイことになります……!」

498 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/07/14 16:57:22.12 L2jkNBlf0 1085/1313

お祓い師「よくわからんがとにかく後を追うぞ!」

狐神「うむ!」

狼男「…………」

狼男「……こいつ……」

お祓い師「急に飛び出すな……何があったんだ」

狐神「待ておぬし……その獣……」

お祓い師「何……?」

狐神「その獣……一体何を食っておる……?」

お祓い師「な……まさか……!」

???「グチグチ……パキッ……」

499 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/07/14 16:59:38.73 L2jkNBlf0 1086/1313

お祓い師「ひ……人……か……?」

黒髪の修道女「ひ……」

???「ボリッ……ボリッ……」

お祓い師(あのローブは……赤毛の子の仲間のものか……!)

お祓い師(ダンジョン化に巻き込まれた場合、主への反撃が出来なくなる……か……)

お祓い師「うっぷ……」

狐神「おぬし、気をしっかり持つのじゃ……」

お祓い師「……大丈夫だ……お前も平気か?」

狐神「……なんとかのう」

???「グジュッ……ニチィ……」

500 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/07/14 17:00:44.60 L2jkNBlf0 1087/1313

???「…………」

お祓い師「相手の正体がわからない以上下手に手出しは出来ないんだが」

???「グ…………」

狐神「来る……!」

???「グオオオオオオッ!!」

お祓い師「こっちだ!」

黒髪の修道女「は、はいっ……!」

狐神「くっ!」

???「ガアッ!!」

お祓い師「壁が抉れた!?」

501 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/07/14 17:01:32.46 L2jkNBlf0 1088/1313

狐神「続けてくるぞ!」

お祓い師「分かってる!」

???「ゴアアッ!!」

お祓い師「危ねえ!」

お祓い師(狐神の力、避けるのには本当に役立つな!)

???「ボリボリ……コリッ……」

狐神「壁を……地面でさえも“喰った”じゃと……!?」

お祓い師(巨大な獣の姿……ありとあらゆる物を食べてしまうその顎……)

お祓い師「まさか……いやしかし……」

狐神「何かわかったのかの」

502 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/07/14 17:02:29.13 L2jkNBlf0 1089/1313

お祓い師「確証は持てない……だがそうだとすれば俺達の手に負える相手じゃねえ」

お祓い師「こいつは力を使って誘導して拠点から離す。実際に交戦するのはやはりあの二人が戻ってきてからだ」

お祓い師「狼男聞こえたな! 一旦引くぞ!」

狼男「……こいつ……」

お祓い師「狼男!? 聞こえてないのか!」

狼男「こいつ……この男が何故……」

狼男「その姿は一体何なんだ“大神官”っ!!」

???「ボリッ……ボリッ……」

???「ヨバ……レタ……?」

お祓い師「なっ……」

503 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/07/14 17:07:16.51 L2jkNBlf0 1090/1313

お祓い師「なっ……」

狐神「あの獣があの太った大神官じゃと……!?」

狐神(た、確かに言われてみれば微かに……)

お祓い師「馬鹿な! 一昨日は確かに人間だった!」

狐神「じゃが人間から悪魔になることもあるのじゃろう?」

お祓い師「確かにあるが急すぎる……それに……」

お祓い師「あいつは……あいつはもしかしたら“ベヒモス”かもしれねえ……」

お祓い師「そんな簡単に現れていいような存在じゃねえ……!」

黒髪の修道女「な……!?」

黒髪の修道女「そんな……ベヒモスだなんて……」

504 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/07/14 17:08:35.13 L2jkNBlf0 1091/1313

狐神「その口ぶりからすると相当やばいやつなんじゃな?」

お祓い師「ヤバイなんてもんじゃねえ……暴飲暴食を司り、貪欲を象徴する規格外の人外だ……」

黒髪の修道女「七の魔王の中には含まれていませんが、それに並んで称される存在……」

お祓い師「つまり人外の頂点に君臨するやつだ……!」

狐神「なるほど、それはわしらじゃ相手にはならんのう」

狐神「……しかし、目の前のあやつは確かに力は強力じゃがおぬしが語るほどのものじゃろうか」

狐神「そして狼男が言うように、あやつはあの大神官に他ならん」

お祓い師「確かに俺も違和感は感じている……」

お祓い師「だが……」

狐神「わかっておる。憂慮すべき事があるならば下手に手出しをすべきではない」

505 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/07/14 17:12:20.07 L2jkNBlf0 1092/1313

狐神「なんならおぬしの父上の帰りを待ったほうが良いかもしれぬ」

狐神「じゃが……」

狼男「……俺は引きません」

狼男「いい加減決着をつけます」

お祓い師「よく聞け狼男」

お祓い師「そいつは現状でも相手にするのは厳しいが、更にやばい力を秘めている可能性がある」

お祓い師「だがちゃんと人員を確保すれば必ず倒せる。確実に決着をつけるにはそれが……」

狼男「違うんです」

狼男「このダンジョンにいる人達なら必ずこいつを倒せるでしょう」

狼男「だから俺がこいつに勝てるかどうかはどうでもいいんです。必ず誰かが倒してくれますから」

506 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/07/14 17:13:18.32 L2jkNBlf0 1093/1313

お祓い師「お前……まさか……」

黒髪の修道女「狼男さん、駄目です……!」

狼男「どんな形であれ俺にとっての決着をつけたい。もう終わりにしたいんです」

お祓い師「やめろ!!」

ベヒモス?「グルル……」

ベヒモス?「グオオオオオオッ!!」

お祓い師「ちっ!」

黒髪の修道女「きゃっ!」

ベヒモス?「ガッ!?」

ベヒモス?「ヨケ……ラレタ……?」

507 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/07/14 17:15:45.43 L2jkNBlf0 1094/1313

お祓い師「狐神の体力は今万全じゃねえ! この力で助けてやるにも限度がある!」

お祓い師「いいから一旦引くぞ!!」

狼男「引けません!!」

狼男「もう終わりにするんです! 役者はもう俺とこいつだけ……揃って退場すれば綺麗に終わるんです!」

お祓い師「……勝手なことを言うなよ……」

お祓い師「もう俺たちだって壇上にいるだろうが……!」

お祓い師「勝手に一人で退場はさせねえぞ……!」

狼男「だ……」

狼男「黙れ! お前のような若造に理解できるものか!」

狼男「最愛の妻を殺され……その怨念だけを原動力に何十年と生きてきた俺の気持ちが……!」

508 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/07/14 17:18:01.51 L2jkNBlf0 1095/1313

狼男「俺の気持ちがっ……!」

黒髪の修道女「狼男さん……」

ベヒモス?「ウルサイ……キサマ、クウ……」

狼男(いつの間に後ろに……!!)


お祓い師「燃えろっ……!!」


ベヒモス?「グガアアッ!?」

狼男「なっ……」

狼男「助けなくていいと……!」

お祓い師「知らねえな!」

狼男「何だと……!」

509 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/07/14 17:19:04.56 L2jkNBlf0 1096/1313

お祓い師「自殺志願者の気持ちなんかわかるか!」

お祓い師「大体他力本願なんだよ馬鹿が! 決着つけるって言うんなら最後まで責任を持て!」

狼男「…………」

お祓い師「少なくとも俺たちの結婚式までは生きてもらうぜクソジジイ! 呼べって言ったのはお前だからな!」

狼男「あんなのは戯言だ! 今そんな話を出した所で……!」

黒髪の修道女「どうして嘘をつくんですか!!」

狼男「なっ……」

黒髪の修道女「自分に嘘をつかないでください……!」

黒髪の修道女「本当はここで全て終わりになんてしたくないんですよね……!?」

黒髪の修道女「お祓い師さんたちの式にも参加したいんですよね!?」

510 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/07/14 17:23:23.22 L2jkNBlf0 1097/1313

黒髪の修道女「今はちょっと、疲れちゃっただけなんですよね……」

黒髪の修道女「私には分かるんです……だって私は……」

お祓い師「……おいクソジジイ、どうなんだよ」

お祓い師「この子はこう言っているが」

狼男「…………」

狼男「……まあ“覚”が言うんなら、そうかもな……」

黒髪の修道女「ご、ごめんなさい私勝手に……」

狼男「いや、いい」

狼男「……それに確かに他力本願では、あったかもしれん」

お祓い師「ふん……」

511 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/07/14 17:24:21.97 L2jkNBlf0 1098/1313

狐神「ふう……」

お祓い師「…………」

お祓い師(さて……)

お祓い師(まあ威勢よく言ってみたものの)

お祓い師「狐神、具合は?」

狐神「ううむ……拠点を危険に晒さず、かつわしらの安全を確保するには少々力が足りんかもしれぬ」

狐神「誰かさんが飛び出さなければ、一旦あやつを遠くに誘導することが出来たのじゃがのう」

狐神「こうも目の前におっては流石に意思に反して遠くまで惑わすことは叶わぬ」

狼男「すいません……」

狐神「まあ今言っても仕方が無いじゃろう」

512 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/07/14 17:25:07.06 L2jkNBlf0 1099/1313

お祓い師「休めば多少は回復するか?」

狐神「体力自体がかなり消耗しておるから気休め程度じゃろうな」

狐神「わしの力の回復を待つというよりは、増援の到着を待つために立ち回ったほうが良いじゃろう」

お祓い師「わかった」

お祓い師「……さて」

ベヒモス?「グルルォ……」

ベヒモス?「ハラ……ヘッタ……」

お祓い師「いい加減この性格直さないと命が保たないかもな」

狐神「おぬしの良いところではあるんじゃがのう」

狼男「……まったくです。俺は置いて行けばよかったものを……」

513 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/07/14 17:25:56.72 L2jkNBlf0 1100/1313

お祓い師「お、もう敬語に戻すのか?」

狼男「やっぱりお二人にはこの方がいいです」

お祓い師「……そうか」

お祓い師「それじゃあ狼男は修道女を護ることに専念してくれ」

狼男「はい」

黒髪の修道女「ごめんなさい、足手まといなのに着いてきてしまって……」

お祓い師「いいや、十分役に立ったぜ」

お祓い師「それじゃあ死なない程度にやるか……俺がな……」

514 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/07/14 17:26:47.18 L2jkNBlf0 1101/1313






お祓い師「ふう……ふう……」

狼男「はあ……はあ……」

お祓い師「何だこいつ……無茶苦茶だ……」

お祓い師(スピードは大したことは無い。狐神の力を使わなくても何とか攻撃は避けられる)

お祓い師(なんでも食べてしまうあの顎は脅威だが当たらなければ問題ない……だが……)

狼男「いくら攻撃を当てても……何かを口にすれば回復してしまう……」

515 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/07/14 17:27:31.67 L2jkNBlf0 1102/1313

狼男「一撃で殺し切るだけの攻撃を当てるか、周りに何も無い空間で戦うしか勝ち目は無さそうですね……」

お祓い師「前者は今の俺達には厳しいし、後者はそもそも不可能だ」

狼男「こ、困りましたね……」

ベヒモス?「グルル……」

お祓い師(尻尾巻いて逃げたいところだが、それはつまりこいつを拠点に招き入れるということだ)

お祓い師(こんな大食い野郎をあそこに連れて行くわけには行かねえ……)

お祓い師(戦いの中で気がついたがこいつはえらく鼻がいい)

お祓い師(狐神の術で一時的に撒いた所ですぐに場所がバレるだろう……)

お祓い師(俺ももう一発程度しか撃てる気がしねえ……)

お祓い師「はあ……八方塞がりとはこの事か」

516 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/07/14 17:28:55.50 L2jkNBlf0 1103/1313

ベヒモス?「ガアッ!!」

お祓い師(どうする……!)

ベヒモス?「──グッ、グオオオオオオッ!?」

狼男「なっ」

狐神「むう、雷……!?」

お祓い師「この術は……」


赤毛の術師「…………」


お祓い師(間に合ってくれたか……!)

赤毛の術師「……ねえ、そこの大きいの」

赤毛の術師「そのローブは……その血溜まりは何……?」

517 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/07/14 17:31:01.15 L2jkNBlf0 1104/1313

ベヒモス?「グルル……」

赤毛の術師「……そう……」

赤毛の術師「……私達はいつだって覚悟している……そういう仕事だから……」

赤毛の術師「命を取り合う裏方の仕事……」

赤毛の術師「これはいつか私にも訪れる最後……だけど」

赤毛の術師「だからと言ってあなたを許しはしない……!」

お祓い師「……! デカいのを撃つつもりだ!」

お祓い師「俺は邪魔されないように援護する! お前らは離れてろ!」

狼男「はい!」

赤毛の術師「日陰でしか生きられない私達だけど……」

518 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/07/14 17:32:33.30 L2jkNBlf0 1105/1313

赤毛の術師「仲間を殺された時ぐらい怒る権利はある!!」

ベヒモス?「ギャオオオオオオオオッ!!!!」

お祓い師(デカい……! だが……!)

ベヒモス?「グ……グオ……」

赤毛の術師「なっ……今のをモロにくらって……!」

お祓い師「駄目だ……! あいつはすぐに回復する!」

赤毛の術師「そん、な……はあ……はあ……」

お祓い師(あの子も消耗が激しい……! もしかしたらもう既に別の何かと戦ってきたのかもしれねえ……!)

ベヒモス?「グオオオオオ……」

お祓い師(クソッ、平気な顔しやがって……! 砂埃をかじっただけでも回復しやがる……!)

519 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/07/14 17:35:54.20 L2jkNBlf0 1106/1313

黒髪の修道女「…………!」

黒髪の修道女「……いる……」

狼男「いる、とは何が……?」

黒髪の修道女「あの獣の中に、あの大神官は確かにいます……!」

お祓い師「あれが大神官だと確信が持てた所で今更何を……」

黒髪の修道女「いいえ、違うんです! あの体内に大神官は元の肉体を持っているんです!」

黒髪の修道女「獣の脳や心の臓の辺りではなく……腹部から彼の心を感じます……!」

お祓い師「じゃあ直接そこに攻撃できれば……!」

黒髪の修道女「はい……仕留められるかもしれません……」

黒髪の修道女「……しかし、おそらく彼は体の中心奥深くにいます」

520 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/07/14 17:44:43.43 L2jkNBlf0 1107/1313

狐神「あの巨躯を貫けるような攻撃手段、ここにいる誰も持っておらんのう……」

狐神(炎や雷は通じんかった。わしや狼男の爪は表面を切り裂くだけじゃ……)

狐神(もっともわしの鈍った爪など表面を裂けるかも怪しいがのう……)

狼男「…………」

狼男「……俺がやります」

お祓い師「お前……」

狼男「俺は狼男であり、魔王軍の末端の末端であり……」

狼男「そして聖騎士です。この腰の剣はずっと飾りだったんですがまさかここで使うことになるとは」

狼男「狼男の筋肉を以って全力の刺突、作戦も糞もありません」

狼男「旦那には一瞬でいいので隙きを作っていただきたい」

521 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/07/14 17:45:26.68 L2jkNBlf0 1108/1313

お祓い師「……まさかお前、また」

黒髪の修道女「いえ、大丈夫です」

黒髪の修道女「今の狼男さんにそんな気はありません」

狼男「やりましょう、旦那」

お祓い師「……わかった」

お祓い師「これで打ち止めだ、失敗はできねえぞ」

狼男「はい……!」

お祓い師(足止めか……)

お祓い師「それなら言葉通り……足を燃やす!!」

ベヒモス?「ギッ!? グオオオオッ!!」

522 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/07/14 17:46:00.01 L2jkNBlf0 1109/1313

お祓い師「今だっ!!」

狼男「はい!!」

狼男「おおおおおおおおおっ!!」

狼男(終わらせるっ!!)

狼男(そして俺は次へと進むんだ!!)

ベヒモス?「グオオオアアアアアアッ!! ゴボオッ!!」

狐神「今まで以上に苦しんでおる!」

お祓い師「届いたか!」

狼男(いや、この感じ……剣先だけが……)

ベヒモス?「ガアッ!!」

523 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/07/14 17:46:57.86 L2jkNBlf0 1110/1313

狼男「ぐあっ!?」

黒髪の修道女「狼男さんっ!」

狼男「仕留め、きれなかった……!」

赤毛の術師「……いや」

赤毛の術師「十分時間は稼いでくれた……それに」

赤毛の術師「あの剣が目印……!」

ベヒモス?「ヤメ……ヤメロ……!」

赤毛の術師「死ねっ!!!!」

ベヒモス?「グッ──」

ベヒモス?「グガアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」

524 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/07/14 17:48:36.16 L2jkNBlf0 1111/1313

お祓い師「狼男が突き立てた剣に雷が……!」

ベヒモス?「ゴオオオオオオッ……」

ベヒモス?「バカ……ナ……」

ベヒモス?「…………」

赤毛の術師「……かたき……取ったよ……」

赤毛の術師「…………」

お祓い師「お、おい!」

狐神「力を使い果たして気絶しただけじゃろう」

狐神「安全とは言えぬが拠点まで連れて変えれば平気じゃ」

狐神「それよりも……」

525 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/07/14 17:49:41.34 L2jkNBlf0 1112/1313

黒髪の修道女「狼男さん! しっかりしてください」

狐神「先ほど殴り飛ばされた時、当たりどころが悪かったようじゃ」

狐神「こやつの治療は急いだ方が良いかもしれぬ」

狐神「わしもおぬしも満身創痍じゃ……とにかく一旦……」


???「──貴様が彼の者の末裔か」


お祓い師「なっ!?」

黒髪の修道女「ひっ!」

狐神「何じゃこの力は……!?」

お祓い師「この力の強さ……ダンジョンの主か……!」

???「左様。我はこのダンジョンの主にして新生悪魔軍の幹部が一人……レライエである」

526 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/07/14 17:52:06.06 L2jkNBlf0 1113/1313

お祓い師「レライエだと……!?」

狐神(また知らぬやつが出てきたのう……)

???レライエ「流石に無学ではないようだな」

レライエ「ならば我と貴様の実力の差も心得ていよう」

黒髪の修道女「ベヒモスに続いてレライエだなんて……何でこんなに……」

レライエ「ふむ……女よ。その肉塊はベヒモスではない、紛い物だ」

黒髪の修道女「紛い……物?」

レライエ「あの大神官、貪欲さは人にしておくには勿体無いほどでな……」

レライエ「それに加えてあの肥え方だ、ベヒモスがよく合うと思ったのだ」

お祓い師「よく合う、だと……?」

527 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/07/14 17:53:17.61 L2jkNBlf0 1114/1313

レライエ「ああ、言うならば悪魔堕ちの術。それを大神官に施した」

お祓い師「悪魔堕ちの術だと!?」

レライエ「何を驚く。悪魔堕ちなどそもそも珍しい話ではないであろう」

レライエ「しかしまあ、それは失敗であったな。器ではなかった」

レライエ「本物のベヒモスはそんなものではない」

レライエ「いや、モデルとした悪魔が高位過ぎであったか……この経験は次へと活かすとしよう」

お祓い師「おい……」

レライエ「何だ、末裔よ」

お祓い師「最深部には俺の親父と共和国の聖騎士長が向かったはずだ……」

レライエ「そのことであるか」

528 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/07/14 17:58:40.09 L2jkNBlf0 1115/1313

レライエ「勿論、来た」

お祓い師「まさか……!」

レライエ「奴は封印した」

お祓い師「封印だと……!?」

レライエ「この街の地下に眠ること数十年、我はダンジョンのためだけに力を練り上げていた訳ではない」

レライエ「むしろ本命は封印の術である」

お祓い師「…………!」

お祓い師(大陸中に同時に出現した沢山のダンジョン……)

お祓い師(違和感は感じていた……ただの戦力の分散にしかならないはずだからだ……)

お祓い師(親父のようなバケモンは大陸中に他にもいる……! そいつらに目をつけられてしまうだけなのに……!)

529 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/07/14 17:59:47.47 L2jkNBlf0 1116/1313

お祓い師(こいつらの狙いは、最初から……!)

お祓い師「各地の実力者をダンジョンに誘い込み、本命の封印の術で閉じ込めることが目的か……!」

レライエ「正解だ末裔よ。やはり頭は悪くない」

レライエ「しかし力は赤子のようだな。貴様の父は恐ろしい力を持っていたのだがな」

お祓い師「……そんな親父を本当に封印しきれたと?」

レライエ「当然である」

レライエ「我々が用いた術は“写し鏡”」

レライエ「閉じ込められた者たち自身の力が封印の壁となるのだ」

レライエ「自分自身の力を上回ることなど決して無い。故にあの封印が破られことはない」

レライエ「更に外側に対しては何の効果もない」

530 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/07/14 18:00:30.19 L2jkNBlf0 1117/1313

レライエ「つまり、外側から単純な力を以って破壊することは不可能ということだ」

お祓い師「厄介な術だなおい……」

レライエ「厄介な血筋は絶やすに限る」

レライエ「それではさらばだ、末裔よ」


共和国首都の聖騎士長「そうはさせませんよ」


レライエ「む?」

お祓い師「あんたも封印されたんじゃ……!」

共和国首都の聖騎士長「貴方のお父上がギリギリで押し出してくれましてね」

レライエ「わざと見逃したというのがわからないのか? あの氷使いと貴様とでは戦力として違いすぎる」

共和国首都の聖騎士長「それが判断ミスだとこの後わかりますよ」

531 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/07/14 18:03:22.68 L2jkNBlf0 1118/1313

西人街の聖騎士長「遅れたな、すまん」

お祓い師「お前も……!」

西人街の聖騎士長「俺たちは怪我人連れて拠点に戻るぞ」

西人街の聖騎士長「あのヤバそうなの一旦あいつに任せよう」

お祓い師「しかし……」

西人街の聖騎士長「そろそろ支援物資が届く頃合いだ。あの中にはお前の役に立つ物もあるはずだ」

西人街の聖騎士長「拠点の連中に装備を固めてから援護に回った方がいい」

西人街の聖騎士長「特にあんたら二人は体力の回復に努めてくれ。それから可能ならば封印とやらの解除ができないか探ってくれないか」

お祓い師「……わかった」

レライエ「見逃すとでも思うのか」

532 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/07/14 18:05:48.64 L2jkNBlf0 1119/1313

共和国首都の聖騎士長「ふふっ……」

レライエ「何がおかしい」

共和国首都の聖騎士長「──見逃させます!!!!」

レライエ「なっ……!」

レライエ(この……力っ……!)

レライエ「がっ!」

お祓い師「ぶ、ぶっ飛ばしやがった……」

黒髪の修道女「め、めちゃくちゃです……」

西人街の聖騎士長「優男に見せかけて超肉体派かよ……」

共和国首都の聖騎士長「……まあこれでも騎士ですから」

533 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/07/14 18:06:36.14 L2jkNBlf0 1120/1313

レライエ「……なるほど、認識を改めるとしよう」

共和国首都の聖騎士長(かすり傷ってところですかね……)

共和国首都の聖騎士長「さあ早く行ってください」

お祓い師「お、おう!」

お祓い師「俺と聖騎士長で狼男を担ぐ! 二人は赤毛の子を頼む!」

狐神「うむ」

黒髪の修道女「は、はい!」

西人街の聖騎士長「おうよ」

黒髪の修道女「では……お気をつけてくださいね」

共和国首都の聖騎士長「ええ」

534 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/07/14 18:08:57.32 L2jkNBlf0 1121/1313

共和国首都の聖騎士長「…………」

レライエ「良いのか? 多勢に無勢でも構わなかったのだが」

共和国首都の聖騎士長「後ろにそれだけ控えさせてよく言いますね」

レライエ「流石に気がつくか」

共和国首都の聖騎士長「あと別に私は一人で来ているというわけでは無いですよ」

覆面の術師たち「「……」」

レライエ「ベヒモスもどきに殺られたのが全てでは無かったか」

共和国首都の聖騎士長「敵討ち、というのは我々がやるようなことではないのですが……」

共和国首都の聖騎士長「せめてもの弔いに、貴女の首を持ち帰るとしましょう」

レライエ「ふ、笑わせるな。多少雑兵を集めた所で我に敵うとでも?」

535 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/07/14 18:12:35.51 L2jkNBlf0 1122/1313

共和国首都の聖騎士長「多少ではありません。じきに他の皆も駆けつけます」

レライエ「向こうで居を構えている取るに足らない者たちのことか?」

共和国首都の聖騎士長「個々の力だけを見て侮ると痛い目に遭いますよ」

レライエ「ふむ。では忠告に従って向こうから潰しに行かせてもらうか」

共和国首都の聖騎士長「出来るものなら、どうぞ」

レライエ「何……?」

共和国首都の聖騎士長「我々が何も対策せずにダンジョンに乗り込んできたと思いましたか?」

レライエ「む……!? さっき斬られた場所から何か……」

レライエ「力が……」

共和国首都の聖騎士長「いま貴女を“不死身にさせて頂きました”」

536 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/07/14 18:13:41.78 L2jkNBlf0 1123/1313

レライエ「何……?」

共和国首都の聖騎士長「不死身の代わりに貴女の力は儚く脆いものへとなってしまいましたがね」

共和国首都の聖騎士長「さながら森の妖精です」

共和国首都の聖騎士長「この術は準備するのに苦労しましたよ……もちろん私だけでは無理です」

共和国首都の聖騎士長「地位と人脈はこういう時に使うんですねえ」

レライエ「なるほど面白い……」

レライエ「だがこの手の術の効果が永久に続くことなど有り得ない」

共和国首都の聖騎士長「時間稼ぎとしては十分です」

レライエ「拘束される前に逃げるのみだ」

共和国首都の聖騎士長「逃しませんよ」

537 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/07/14 18:15:49.41 L2jkNBlf0 1124/1313

レライエ「狩人である我を相手に、我の迷宮で鬼ごとの勝負を挑むか」

共和国首都の聖騎士長「勝機がなければ挑みませんよ」

レライエ「なるほど、では存分に来るが良い……!」

538 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/07/14 18:16:50.54 L2jkNBlf0 1125/1313






お祓い師「急患だ! 衛生班頼む!」

聖騎士C「お、狼男さん……!」

お祓い師「状態はかなり悪い。あとそっちの赤毛の子も意識がない」

お祓い師「忙しいと思うが任せていいか」

聖騎士C「は、はい!」

聖騎士C「おーい! 人手をこっちに回してくれ!」

539 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/07/14 18:20:00.93 L2jkNBlf0 1126/1313

黒髪の修道女「私も手伝いますね」

聖騎士C「ありがとうございます!」

狐神「……拠点の中が慌ただしいのう」

狐神「何かあったのかのう」

西人街の聖騎士長「ダンジョンの主が出現したことが伝わったか、もしくは補給隊が到着したか」

お祓い師「どうやら後者で忙しくしているみたいだな。物が運び込まれてくる」

お祓い師(俺の役に立つものもあるはずだと言っていたが……)

西人街の聖騎士長「俺は隊に指示を飛ばしに行く」

お祓い師「わかった」

お祓い師(さてと、俺たちはどうするか……)

540 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/07/14 18:21:26.84 L2jkNBlf0 1127/1313

???「あ、いたいた……!」

???「お祓い師さん!」

狐神「む……?」

お祓い師「……やっぱりお前か、道具師」

???若い道具師「数日ぶりですねえお二人とも!」

若い道具師「さあ役に立つもの、たくさん持ってきましたよ!」

541 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/07/14 18:22:23.12 L2jkNBlf0 1128/1313

《現状のランク》

S3 氷の退魔師

A1 赤顔の天狗 共和国首都の聖騎士長
A2 辻斬り 肥えた大神官(悪魔堕ち) レライエ
A3 西人街の聖騎士長 お祓い師(式神) 赤毛の術師 赤鬼青鬼

B1 狼男
B2 お祓い師 トロール
B3 フードの侍 小柄な祓師 

C1 下級悪魔
C2 マタギの老人
C3 河童

D1 若い道具師 ゴブリン
D2 狐神 青女房
D3 化け狸 黒髪の修道女 天邪鬼 泣いている幽霊 蝙蝠の悪魔

※1 お祓い師(式神)は、狐神の力を借りている時のランク。
※2 九尾は詳しくは不明。お祓い師(式神)よりは上。
※3 肥えた大神官(悪魔堕ち)は文中では「ベヒモス?」表記

542 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/07/14 18:23:30.29 L2jkNBlf0 1129/1313

次章《レライエ》が終わった後はエピローグとショートストーリーを幾つか上げて終わりにしたいと思います。

548 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/09 15:12:45.52 4bNqtCLk0 1130/1313



《レライエ》


狐神「やっぱり、という事はおぬしはこやつが関わっていると気がついておったのか?」

お祓い師「まあな」

お祓い師「確信したのは昨日だ。自由の団の団員が使っていた術が発動する弾薬……あれはこいつが作ったものだ」

狐神「それだけの理由では他の者が作った可能性もあるのでは?」

お祓い師「いや、あの弾薬の製造法の礎には南部諸島連合国の文化があると以前言っていた」

お祓い師「誰もが簡単に作れるものではない」

549 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/09 15:13:31.71 4bNqtCLk0 1131/1313

お祓い師「地図の件ですでに頭に引っかかっていたしな」

狐神「そういえばわしらがあのマタギから貰った地図と同様の地図をあの団は持っておったのう」

お祓い師「この西人街に戻って来る前日の酒の場で聞いた話、覚えていないか?」

狐神「む……?」

お祓い師「酔いで記憶が飛んでるのかよ……」

お祓い師「ほら、マタギの爺さん西人街の出身だってだって言っていただろう」

狐神「そうじゃったかもしれぬ」

お祓い師「術式の特殊な弾薬とこの街の地下水路の地図……この二つをあれだけの量根回しできるのはお前しかいないだろう、ってな」

若い道具師「その通りです」

お祓い師「聖騎士長に借りでもあるのか?」

550 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/09 15:14:48.01 4bNqtCLk0 1132/1313

若い道具師「いえ、これは単に自分のためです」

若い道具師「これほど大量のデータを得られる機会なんてなかなか無いですからね」

お祓い師「……なるほど……」

若い道具師「……失望しましたか?」

お祓い師「…………」

若い道具師「弱い者のために技術を使うと言いながら、今やっているとこはどちらかと言えば戦争のための兵器作りに近いですからね」

お祓い師「……いや、失望なんかしない」

お祓い師「俺だって似たようなものだからな」

お祓い師「人も人外も隔たりがない世界になって欲しい、そうは思っているが……」

お祓い師「その過程である今は、こうして退魔師としてここに立っている」

551 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/09 15:15:59.79 4bNqtCLk0 1133/1313

若い道具師「結局は自分の中の正義、ってことなんでしょうね……」

お祓い師「それがないとやってられないさ」

若い道具師「……確かにそうですね」

狐神「…………」

若い道具師「ちなみに地図に関してはじいさんから申し出てきたんですよ」

お祓い師「へえ。あの爺さんはこの街の出身てことだが一体何が……」

若い道具師「あれ、あの席で話しませんでしたっけ」

若い道具師「じいさんは西人街の聖騎士長さんの養父に当たる人なんですよ」

お祓い師「えっ、そうなのか!?」

狐神「ふむ……」

552 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/09 15:18:50.68 4bNqtCLk0 1134/1313

若い道具師「どういう経緯かは知りませんが、あの地図はこの街に暮らしていた時に入手したものらしいです」

若い道具師「さて、補給物資の所へ行きましょうか」

若い道具師「お祓い師さんがいるとは聞いていたので使えそうな物も色々持ってきましたよ」

お祓い師「おお、助かる」

若い道具師「こちらが今回持ってきたものです」

お祓い師「かなりの量があるな」

若い道具師「ええ、騎士団の方に協力していただきました。物資と一緒に人員も増えたはずです」

お祓い師「ん、この石は……」

若い道具師「例の弾の原料になるものです。いわゆる魔石ですね」

若い道具師「引き続き作らないと足りなくなるかもしれないので……」

553 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/09 15:19:46.83 4bNqtCLk0 1135/1313

お祓い師「なるほどな」

若い道具師「こちらがお祓い師さん用に見繕った道具です。良かったら使ってください」

お祓い師「良いのか?」

若い道具師「お金の方は団の方からたんまり貰っていますんで」

お祓い師「はは、なるほどな……」

狐神「食べ物の……においじゃ……」

若い道具師「ええ、食料も大量に運んで来ました」

狐神「お腹空いたのじゃ……」

お祓い師「かなり力を使ったからな」

若い道具師「そういうことでしたら今、早速炊き出しを始めていると思います」

554 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/09 15:21:25.58 4bNqtCLk0 1136/1313

狐神「本当かのう!?」

若い道具師「ええ。この街で酒場をやっているという方が手伝ってくださっているみたいですよ」

お祓い師「酒場……あの子か」

狐神「あやつの作る料理は美味いからのう! 楽しみじゃ!」

お祓い師「保護した人たちが先だからな」

狐神「わ、わかっておるわ」

お祓い師「……と普段なら言うところだが、今のお前はかなり消耗している」

お祓い師「あの二人がダンジョンの主……レライエを仕留めてくれれば全てが片付くんだが、そう簡単には行かないはずだ」

お祓い師「まだまだ俺たちの仕事もあるはずだからな、休める内に体力を回復させておいて欲しい」

狐神「そういうことならおぬしも行くぞ」

555 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/09 15:22:24.36 4bNqtCLk0 1137/1313

お祓い師「いや俺は……」

狐神「わしらは二人でようやく一人前みたいなものじゃろうが」

狐神「どちらかが倒れてしまっては困るのじゃよ」

お祓い師「……そうかもしれないな」

若い道具師「あ、向こうに行くんでしたらこの木箱を持っていってもらえますか」

若い道具師「追加の食材を持って来るように頼まれていたんです」

お祓い師「わかった」

狐神「さてさて、今日はなんじゃろうなあ」

お祓い師「お前……」

狐神「む?」

お祓い師「……単に食い意地が張っただけじゃないよな?」

狐神「違うわ阿呆!」

556 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/09 15:23:01.46 4bNqtCLk0 1138/1313






路地裏の酒場の娘「あ、お二人さんも食べる?」

お祓い師「ああ、頂いてもいいか?」

路地裏の酒場の娘「もちろん良いに決まっているじゃない。働いている人はたくさん食べて然るべきでしょ」

路地裏の酒場の娘「それなのに騎士団の人とか遠慮しちゃってさあ」

路地裏の酒場の娘「むしろ街の皆の方が遠慮しちゃってるよ。先に食べてしまって良いのかって」

路地裏の酒場の娘「先行して援護に向かう隊にはさっさと食べてもらっちゃったけど」

557 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/09 15:24:12.74 4bNqtCLk0 1139/1313

狐神「むう? この茶色い液体はなんという料理なのじゃ?」

お祓い師「おいおい、カレーなんて超高級料理じゃねえか!」

狐神「かれえ?」

お祓い師「ああ、ここら辺じゃ中々手に入らないような香辛料を使って作る料理だ」

お祓い師「これを食えば下手な薬より病に効くって話だ」

狐神「たしかに香りは……非常に良いのう……」

路地裏の酒場の娘「あの道具師さんが入手したものらしいよ」

お祓い師「そういえば南部諸島連合国の料理だったか……」

路地裏の酒場の娘「私も特殊な機会で何度か使ったことがあるけど、こんな大量に作ったのは初めてだよ」

路地裏の酒場の娘「一体いくらかかったんだろう……」

558 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/09 15:25:34.64 4bNqtCLk0 1140/1313

お祓い師「あいつ、まだ謎めいた部分がかなりあるな……」

狐神「そんなことより早うそのかれいとやらを食わせておくれ!」

路地裏の酒場の娘「はいはいただいま」

狐神「ううむ何とも奇妙な見た目……まるで」

お祓い師「その先は言うな」

狐神「む」

お祓い師「今から食うんだぞ」

狐神「それもそうじゃ」

路地裏の酒場の娘「あはは! 言いたいことはわかるよ」

お祓い師「わからなくて良いって……」

559 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/09 15:26:00.04 4bNqtCLk0 1141/1313

路地裏の酒場の娘「あ、悪いんだけどこれも持っていってくれない?」

お祓い師「もう一杯……誰の分だ?」

路地裏の酒場の娘「あそこで手をインクで汚している子の所にお願い」

お祓い師「ああ、あいつか……」

560 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/09 15:28:23.43 4bNqtCLk0 1142/1313






快活な受付嬢「ふうー出来た……」

快活な受付嬢「疲れた……」

お祓い師「ようお疲れさん」

快活な受付嬢「あ、それ私の分?」

お祓い師「おう。お前も補給隊と一緒に来たんだな」

快活な受付嬢「ちょっとやることがあってね……とりあえず頂きましょう」

561 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/09 15:28:52.37 4bNqtCLk0 1143/1313

お祓い師「だな」

狐神「うむ! 頂くとしよう」

お祓い師「はふっはふっ……」

お祓い師「……おお、これは……」

狐神「なんと……」

快活な受付嬢「……お、美味しい……」

快活な受付嬢「あの子の料理?」

お祓い師「ああ、らしいぜ」

快活な受付嬢「相変わらず料理の腕は流石ね」

狐神「見た目からは想像できぬ美味さじゃのう……! 他の料理では形容できぬ新しい味じゃ……!」

562 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/09 15:29:41.38 4bNqtCLk0 1144/1313

狐神「これはいくらでも食えるのう……!」

お祓い師「いくらでも食えるほど安いもんじゃないのが残念だな」

狐神「そんなに高価な物なのかの?」

お祓い師「料理には詳しくないから実際どれ位かかるものなのかは知らないが……」

お祓い師「一つ一つが高価な材料を十数種類と混ぜて作るらしい」

お祓い師「南に行けばもう少し安くなるんだろうがな」

狐神「ここの街も十分南では無いのかの?」

お祓い師「皇国の中ではな。だがもっと南だ」

お祓い師「国境を越えて南部諸島連合国との船が行き来しているような港町まで下れば手に入りやすくなるだろう」

狐神「ここから南の国境となると、共和国とやらじゃったかのう?」

563 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/09 15:33:05.72 4bNqtCLk0 1145/1313

お祓い師「ああ、まさにこの街の教会が揉めていた相手だ」

狐神「うむ……」

狐神「石炭が採れる事が判明したから、じゃったかのう。要するにそやつらは争いの理由が欲しかったのじゃろう?」

お祓い師「ああ。だがもちろんいきなり街で起きた暴動を理由に軍隊なんか送り込めない」

狐神「じゃからまずは聖騎士団を送り込んできたわけじゃな」

快活な受付嬢「この街の教会はそもそも共和国の管轄だけど……」

快活な受付嬢「あの大神官が就任してからはある意味独立していたから、共和国本国としては今いる人員の一掃をしたかったんだと思う」

快活な受付嬢「そうやってこの街に人員を配置したら後は火種を仕込むだけ」

快活な受付嬢「理由のある正当な戦争ができるってわけ」

お祓い師「あの大神官が最後のあがきを見せたせいで早くも発火しそうだったけどな」

564 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/09 15:34:18.08 4bNqtCLk0 1146/1313

狐神「あの蝙蝠の悪魔による共和国の聖騎士団との衝突じゃな」

お祓い師「危うく本当に戦争になるところだった」

狐神「じゃがその問題はまだ解決しておらんのではないのかの。あの共和国から来た聖騎士長次第では……」

お祓い師「少し考え方が甘いかもしれないが、おそらくそうはならないと思う」

狐神「何故じゃ?」

お祓い師「ダンジョンに入る直前のあの聖騎士長と親父との会話を聞いて思ったんだ」

お祓い師「あいつは金欲にまみれた一部の神官共とは違うと思う」

狐神「ふむ」

快活な受付嬢「その割にはその人間どもの言いなりになってこの街を滅茶苦茶にしようとしていたけれど」

お祓い師「監視がいるって言っていただろう。上の不興を買えばあの席にはいられなくなる」

565 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/09 15:39:15.19 4bNqtCLk0 1147/1313

快活な受付嬢「地位にしがみつくのと金に目が眩むのとでは何か違いが?」

お祓い師「何か成したいのに地位がないと達せられない事なんて山ほどある」

お祓い師「あの地位はあいつにとって必要なものなんだと思う」

狐神「従順なふりをして来る時のために牙を研いでおるのかもしれんの」

お祓い師「かもな」

お祓い師「親父曰く俺たちをわざと見逃していたらしいし、あいつは戦争が起こるように事が進まないように立ち振る舞っていたんだと思う」

お祓い師「もちろん監視の目をごまかすための芝居をしつつ、な」

快活な受付嬢「ふうん……なるほどね」

お祓い師「俺があの立場だったら胃痛でのたうち回るだろうな」

狐神「わしも無理じゃ」

566 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/09 15:39:59.47 4bNqtCLk0 1148/1313

お祓い師「それで、あんたはどういう仕事があってダンジョンに入ってきたんだ?」

快活な受付嬢「これよこれ」

お祓い師「これは……名簿?」

快活な受付嬢「街の人のね。役所の人間総動員でダンジョンの外に逃げられた人をチェックしたの」

快活な受付嬢「そして次はこの拠点にいる人の分もまとめた所……お陰でろくに寝られてない……」

お祓い師「それは本当にお疲れ様だな……」

狐神「後どれぐらい残っておるのじゃ?」

快活な受付嬢「流石は騎士団とその団長が結成した自由の団……もうほとんど保護が完了しているみたい」

快活な受付嬢「とは言ってもこの街の人間の分しかわからないから旅の人とか、あと共和国の使者の人とかがどうなのかわからないけど」

快活な受付嬢「その辺は引き続き調べているみたい。私も休憩が終わった手伝いに行かなきゃ」

567 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/09 15:40:53.12 4bNqtCLk0 1149/1313

お祓い師「ほとんどってことはまだ見つかっていない人がいるんだな」

快活な受付嬢「街の人間では一人、書籍を取り扱った店の主人らしいんだけど」

お祓い師「書籍……まさか……」

快活な受付嬢「何か知っているの?」

お祓い師「もしかしたら前に世話になった人かもしれない」

快活な受付嬢「へえ……」

お祓い師「早く見つかると良いんだが」

快活な受付嬢「君たちはこの後はどうするの?」

お祓い師「狐神の力が十分回復するまではここで待機するつもりだ」

お祓い師「その後はそうだな……ダンジョンの深部へ向かうつもりだ」

568 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/09 15:42:57.99 4bNqtCLk0 1150/1313

快活な受付嬢「深部って危険なんじゃないの?」

お祓い師「強い連中は親父が倒してしまった……という事に賭けるしか無いな」

お祓い師「まあ、見つからないようにコソコソと進むのはお手の物だからな」

狐神「まあの」

快活な受付嬢「それで何で深部に?」

お祓い師「さっき遭遇したレライエ……このダンジョンの主曰く、親父は向こうの罠に嵌って封印されちまったらしくてな」

お祓い師「俺たちだけで何とかなるとは思えないが、状況を把握しに行きたい」

快活な受付嬢「こっち側の切り札だもんね……」

狐神「あのレライエとやらと共和国の騎士の力は拮抗しておった」

狐神「しかしこの空間は向こう側の味方をしおる」

569 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/09 15:44:32.38 4bNqtCLk0 1151/1313

お祓い師「まだ外からの支援があるが、それも限度がある」

お祓い師「向こうは何らかの補給手段があると考えるのが普通だ。消耗戦になればおそらくこちらが圧倒的に不利だ」

お祓い師(やはり親父の封印を解かないと確実な勝利は得られないか……)

お祓い師(写し鏡、か……。力技でそれを壊すには親父の力を超えなきゃいけないってことだろ……)

お祓い師(団員を総動員すればあるいは……)

お祓い師(……いや、待てよ……あれを使えばもしかしたら……!)

570 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/09 15:44:59.35 4bNqtCLk0 1152/1313






お祓い師「結局あまり休めなくて悪いな」

狐神「いや、そのことに関しては十分じゃ。携行食も貰ったしのう」

狐神「それよりもおぬし、何か策を思いついたのかの?」

お祓い師「まあな」

お祓い師「こいつを使うのさ」

狐神「それは……魔石とやらじゃったかのう」

571 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/09 15:49:05.32 4bNqtCLk0 1153/1313

狐神「そもそも何なのじゃ、その魔石とやらは」

お祓い師「何かと言われると正直俺にも良くわからん」

狐神「使えん奴じゃのう……」

お祓い師「いや、まだ誰も解明していないんだよこの魔石の仕組は!」

お祓い師「俺たち人間や人外が力を宿すように、石にも力が宿った物……だと一般的には解釈されている」

お祓い師「ただ、こいつが自発的に術を出したりする訳じゃない。あくまでこれ自身はただの力の塊だ」

お祓い師「通常は術者の力の補助のために使われたりする」

お祓い師「杖の先に付けたり、装飾品として身につけるのが一般的だな」

お祓い師「俺のもほら、このペンダントの赤い石がそうだ」

狐神「随分と小振りじゃのう」

572 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/09 15:49:50.58 4bNqtCLk0 1154/1313

お祓い師「大事なのは量じゃなくて質だ」

狐神「ま、そういう事にしておくかの」

お祓い師「本当だっての!」

狐神「それで、その石を使ってどうするのかのう?」

お祓い師「あ、ああ……こいつを封印結界内の親父に渡す」

狐神「渡すって、結界内の者に手渡せるとでも言うのかの?」

お祓い師「おそらく、だがな」

お祓い師「お前の力で親父のところまで行く道筋は見えている、そうだな?」

狐神「う、うむ」

お祓い師「つまり親父ところまで行く方法があるってことだ」

573 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/09 15:50:56.67 4bNqtCLk0 1155/1313

お祓い師「これは予想だが、おそらく封印結界は一方通行なんだろう」

狐神「つまり外から内に入るのは自由、内から外に出るには結界を破るしか無いと」

お祓い師「ああ、このダンジョンと同じだろう」

狐神「しかしその魔石の力をお父上が使えば写し鏡の結界はその分強くなるのではないのかの?」

お祓い師「そのことなんだが……」

お祓い師「結界がちゃんと個人を個人として認識してくれるなら、上手くいく」

狐神「どういうことじゃ?」

お祓い師「魔石の力を借りた所で術者は魔石と同化するわけじゃない」

お祓い師「あくまで術者は術者、魔石は魔石なんだ」

お祓い師「体中に魔石を沢山身につけている奴がいたとしても、そいつから感じるのは術者自信の力と複数の魔石の力だ」

574 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/09 15:52:02.43 4bNqtCLk0 1156/1313

狐神「なるほどのう……」

狐神「つまり結界もそのように認識するならば、本来のお父上の力を宿した結界と魔石の力を借りたお父上の戦いになり……」

お祓い師「結界に打ち勝てるという事だ」

お祓い師「俺の仮定が正しければの話だが」

狐神「現状で他に手段が無いならばやってみるしかあるまい」

お祓い師「お前の力を使ってレライエを親父のいる結界内に誘い込んで閉じ込める、というのも考えたが……」

お祓い師「こちらもダンジョン同様、結界の主は出入りが自由である可能性が高い」

お祓い師「現に結界を発動させたあいつは自由に動き回っているからな」

狐神「取り敢えずは危険性が低い方を先にやっておくというわけじゃな」

お祓い師「ああ。もし駄目だった二つ目の方法で行く」

狐神「ふむ……おや……?」

お祓い師「どうした、敵か?」

狐神「いや……人の気配じゃ」

575 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/09 15:52:36.99 4bNqtCLk0 1157/1313






本屋の髭店主「誰かが建物に入ってきた音がした時は驚いたが、兄ちゃん達だったか」

本屋の髭店主「あの時持って行った式神に関する本、役に立ったかい?」

お祓い師「それはもう随分と」

本屋の髭店主「はっはっは、そりゃあ良かった! 焚書前に引き取りに来たのはナイスタイミングだったな」

本屋の髭店主「あの本もまさに本望だったろうな!」

お祓い師「ま、まあ……」

576 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/09 15:55:09.21 4bNqtCLk0 1158/1313

本屋の髭店主「あー、その何だ。役に立ってよかった」

本屋の髭店主「奥の書庫に検閲を逃れた本があるから、使えそうなのがあったら持っていって良いぞ」

お祓い師「焚書されたんじゃ……」

本屋の髭店主「一部はな。本当に大事なのは守りきったぜ」

狐神「随分と危ない橋を渡っておるようじゃのう」

本屋の髭店主「まあな! 地下水路の地図さえ持っていれば、見つからないように在庫の出し入れするのも楽だから大したこと無いがな」

本屋の髭店主「おっと口が滑っちまったな……」

お祓い師「おっさんも地下水路の地図を持っているのか……?」

本屋の髭店主「と言うことは兄ちゃんもかい?」

本屋の髭店主「俺は昔知り合いにもらったんだが……」

577 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/09 15:56:21.53 4bNqtCLk0 1159/1313

お祓い師「その知り合いってのはもしかして、マタギをやっている……」

本屋の髭店主「おう、なんだ知り合いか」

狐神「命の恩人、じゃな」

お祓い師「ああ」

本屋の髭店主「そうかそうか、歳取ってもあいつは無茶してんだな」

本屋の髭店主「それで、役に立ちそうな物はあったかい?」

お祓い師「うーん、それが……おや?」

お祓い師「これは……」

狐神「何かあったのかの?」

お祓い師「……試してみる価値はあるか……」

578 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/09 15:58:11.46 4bNqtCLk0 1160/1313

お祓い師「ちょっと離れていろ」

狐神「うむ……?」

お祓い師(落ち着いて……集中すれば……)

お祓い師「っ!」

本屋の髭店主「おや」

狐神「これは……氷……!?」

お祓い師「何とか、出せたな……」

狐神「しかしおぬしには氷の術は……」

お祓い師「実用性に欠けるだけで全く出来ないわけじゃないって言っただろ?」

お祓い師「真面目に挑戦したこともなかったが、専門の書籍とオヤジ用に用意した氷特化の魔石があれば少しは使えるな」

579 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/09 15:58:40.82 4bNqtCLk0 1161/1313

お祓い師「威力は大したものにはならないが、不意打ち程度には使えるかもしれん」

お祓い師「この本、譲ってもらいたいんだが……」

本屋の髭店主「おうよ持っていけ。代わりにこの街を取り戻してくれ」

狐神「逃げ遅れた者達を騎士団の拠点まで連れて帰る、というのがわしらに課せられた仕事の一つであるがどうするかの?」

お祓い師「今この辺りまで聖騎士長たちが隊を進めている。そこまで連れて行けるが……」

本屋の髭店主「お、そうか。それじゃあよろしく頼むぜ」

580 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/09 15:59:37.00 4bNqtCLk0 1162/1313






お祓い師「一人保護してきたぜ」

西人街の聖騎士長「おう、お疲れさん。隊員に拠点まで連れて行かせるか」

お祓い師「書類上ではこの人で最後らしい」

西人街の聖騎士長「なるほど……これで気にせず暴れられるな」

お祓い師「調子はどうだ?」

西人街の聖騎士長「共和国の連中の一部と合流した。だが……」

581 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/09 16:00:35.12 4bNqtCLk0 1163/1313

西人街の聖騎士長「魔王軍の連中、想像以上に手強い」

お祓い師「強力なやつが出てきたのか?」

西人街の聖騎士長「いや、そうじゃない」

西人街の聖騎士長「急に向こうの守りが堅くなった」

西人街の聖騎士長「レライエが指揮を取り始めたからか……?」

お祓い師「いや、正しくはそうじゃないな」

お祓い師「今まではわざと守りを緩めていたんだ」

お祓い師「氷の退魔師という主力がいち早く最深部へと来れるようにな」

西人街の聖騎士長「なるほど……獲物が掛かればあとはそれを守るだけということか」

お祓い師「今のところ完全に向こうの思う壺だな」

582 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/09 16:01:53.58 4bNqtCLk0 1164/1313

お祓い師「教会の場所まで行ければ親父を開放できるかもしれない。どうにか進めないか?」

西人街の聖騎士長「そうれがどうにも一進一退でな」

西人街の聖騎士長「向こうの弓兵、矢を風に乗せて飛ばしてきやがる」

西人街の聖騎士長「そのお陰で銃にも劣らない射程だ」

お祓い師「面倒だな……」

西人街の聖騎士長「共和国の連中曰く、奴らの聖騎士長さんはレライエを一時的に無力化したらしい」

西人街の聖騎士長「効果が切れる前に拘束するために追跡中らしい」

お祓い師「流石だな……」

西人街の聖騎士長「だが……」

聖騎士C「隊長! 後退しないとマズそうです!」

583 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/09 16:02:22.77 4bNqtCLk0 1165/1313

西人街の聖騎士長「クソッ……前に進めねえ……!」

お祓い師「…………」

お祓い師「やはり俺たちだけ先に行くべきかもな」

西人街の聖騎士長「大丈夫なのか?」

お祓い師「狐神の術があれば見つからずに行けるはずだ」

お祓い師「親父さえ解放できればこっちのものだ」

お祓い師「もちろん無理そうだったら直ぐに引き返す」

西人街の聖騎士長「……わかった、任せるぞ」

狐神「そういう事ならば早速行くとするかの」

お祓い師「ああ」

590 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 20:20:24.96 RJRubkLg0 1166/1313






共和国首都の聖騎士長「やれやれ、いい加減諦めてくれませんかね」

レライエ「ふん、貴様のようなガキに我が捕まるわけが無いであろう」

レライエ「効果が切れれば再び振り出しに戻る」

共和国首都の聖騎士長「そうなる前に拘束したいのですが」

レライエ「拘束か……不便な術だなこれは」

レライエ「たしかに今の我は無力だが、同時に貴様らも我を滅する手段が無い」

591 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 20:22:11.71 RJRubkLg0 1167/1313

レライエ「我を捕らえて術が解けるのを待たねばならないという事か」

レライエ「我が逃げ切ればこの術は無意味だったというわけだ」

共和国首都の聖騎士長「無意味ではありませんよ」

レライエ「話しながら斬りかかってくるとは野蛮だな」

共和国首都の聖騎士長「急がないといけないのでね」

共和国首都の聖騎士長「……この術のお陰でさっきの状況を打破し、隊を配備する十分な時間を稼げました」

共和国首都の聖騎士長「ここで貴女を捕らえられないならば、正攻法で攻め落とすまでです」

レライエ「正攻法で攻め落とす? われの配下の練度を貴様らと同等に考えるな」

共和国首都の聖騎士長「確かにこちらは苦戦しているようですね……」

レライエ「それに加えてここは我のダンジョンである。この空間が我らの味方なのだ」

592 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 20:23:02.80 RJRubkLg0 1168/1313

レライエ「貴様らに敗れる理由がない」

共和国首都の聖騎士長「なるほど……」

共和国首都の聖騎士長「──ならばやはりここで貴女を倒すべきね……!」

レライエ「遅いぞ愚か者……が……?」

レライエ(足が……動かん……!?)

共和国首都の聖騎士長「念には念を……念には念を……それが私のやり方です」

共和国首都の聖騎士長「妖精化の術だけじゃないんですよ、こちらの手札は」

共和国首都の聖騎士長「さあ、終わりです……!」

レライエ「……ッ!」


レライエ「────クッ……ハハッ……ハハハッ!」


共和国首都の聖騎士長「っ!?」

593 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 20:24:31.63 RJRubkLg0 1169/1313

レライエ「…………ほう?」

レライエ「心の臓を狙ったが、どうにか腕で防いだか……流石だな」

レライエ「だがそれで十分だ。これで詰みだ」

共和国首都の聖騎士長「ま……さか……」

レライエ「そう、目の前で貴様と話していたのは我ではない」

レライエ「本物の我は既に術から解放されていたのだ」

共和国首都の聖騎士長(幻術を利用した替え玉か……!)

レライエ「念には念をか……」

レライエ「もう少し警戒するべきだったな人間」

レライエ「さあ、我の毒矢は効くぞ……?」

共和国首都の聖騎士長「くっ……!」

594 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 20:25:49.59 RJRubkLg0 1170/1313






お祓い師「中心部は後どれ位だ?」

狐神「もう少しじゃ。敵の気配もあらんし、焦らずに行くとしよう」

お祓い師「わかった」

お祓い師(やはり親父が先行したお陰だろうか……。戦線を抜けたら中心が近いのに敵の気配が無い)

狐神「おぬしよ」

お祓い師「ん?」

595 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 20:29:05.84 RJRubkLg0 1171/1313

狐神「携行食を寄越せい」

お祓い師「ああ……ほらよ」

狐神「うむ」

お祓い師「流石に疲れたか?」

お祓い師「直線距離はそうでもないのかもしれないが中心に近づくほど地形が入り組んでいるからな……」

狐神「いや、まだ体力的には余裕があるのじゃが……」

狐神「まあなんじゃ、保険と言うのかの」

お祓い師「保険?」

狐神「うむ」

狐神「今はおぬしとわしの二人での行動。有事の時に頼れる仲間らは離れた場所……」

596 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 20:29:41.88 RJRubkLg0 1172/1313

狐神「わしらが持つ身を守る力の中で最も有効な手段は逃げることじゃ」

狐神「もしもの時にこの迷宮の端から端まで逃げられるような力を蓄えおくべきじゃろう?」

お祓い師「まあ、それもそうだな」

狐神「じゃろう?」

狐神「……さて、おぬしよ」

お祓い師「どうした?」

狐神「話しておる内に着いたようじゃぞ」

狐神「目的地の入り口に、って事じゃが」

お祓い師「あれは……教会か……」

お祓い師「教会はそのままの形で残っているんだな」

597 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 20:31:05.21 RJRubkLg0 1173/1313

狐神「さしずめ征服の象徴と言ったところじゃろうな」

狐神「あそこの地下にお父上がおる」

お祓い師「中に敵の気配は?」

狐神「感じられる限りでは……無い」

お祓い師「……よし、行くか」

狐神「うむ」

お祓い師「内装もそのままだな」

お祓い師「方向は?」

狐神「こっちじゃ」

お祓い師「な……」

598 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 20:31:43.29 RJRubkLg0 1174/1313

お祓い師「ここは教会の中心、礼拝堂だ。こんな目立つ所に隠し扉が……?」

狐神「ええと、ここじゃのう」

お祓い師「絶対神の像の裏側……確かにそんなところを覗く奴なんているわけが無いか」

狐神「地下への階段が続いておる。これを降りれば着くじゃろう」

狐神「……む……?」

お祓い師「狐神……?」

狐神「おぬしよ! 伏せい!!」

お祓い師「なっ!?」

お祓い師(硝子を突き破って何かが飛び込んできた……!?)

共和国首都の聖騎士長「ぐっ……」

599 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 20:32:36.36 RJRubkLg0 1175/1313

お祓い師「お前は……!」

共和国首都の聖騎士長「おや……貴方が何故ここに……?」

お祓い師「そんなことよりお前……左腕が……!」

共和国首都の聖騎士長「ああこれはですね……」

共和国首都の聖騎士長「彼女……レライエは戦争を引き起こす悪魔であると同時に毒矢を射る狩人……」

共和国首都の聖騎士長「腕に一矢貰ってしまいましてね……切り落とさなければ体中の肉が腐り落ちてしまうところでした」

狐神「なんと……」

お祓い師「部下と一緒に行動していなかったのか?」

共和国首都の聖騎士長「いえ、途中までは一緒だったのですが……」

共和国首都の聖騎士長「向こうの手勢の大部分を引き付けてくれましてね、お陰で命拾いしましたよ」

600 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 20:34:06.68 RJRubkLg0 1176/1313

共和国首都の聖騎士長「ですが向こうの頭は私にご執心のようでしてね……それはそれはしつこく追いかけてくるんですよ」

共和国首都の聖騎士長「今も窓の外から何人かを従えて弓でこちらを狙っている筈です……」

共和国首都の聖騎士長「絶対にこの祭壇から顔を出さないでくださいね」

お祓い師「ああ……」

お祓い師(だがこのままでは膠着状態が続くだけだ……)

お祓い師(何とかあの地下への入り口を開けに行かないと……)

お祓い師「狐神、矢で射られないようにあの入り口を開けに行く方法は……」

狐神「無い」

お祓い師「な、無いだと?」

狐神「うむ。外で構えておるという弓兵どもは相当の練度じゃ」

601 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 20:36:25.93 RJRubkLg0 1177/1313

狐神「そやつが言うように少しでも顔を出せば瞬く間に射られてしまうじゃろう」

狐神「当然あの鉄扉を悠長に開けている時間など許してはくれぬじゃろうな」

狐神「わしに出来るのは意志がある者の行き先を変えることであって幻覚を見せることではあらん」

狐神「弓兵の狙いを撹乱するという使い方も出来ぬ」

共和国首都の聖騎士長「ふう……八方塞がりですね」

共和国首都の聖騎士長「これで彼女らがぐるっと回ってあちらの入り口から現れでもしたら……」


レライエ「現れでもしたら、どうする?」


狐神「…………!」

共和国首都の聖騎士長「っ……!」

共和国首都の聖騎士長(流石狩人を名乗るだけはありますね……上手く追い込まれていたとは……)

602 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 20:38:48.62 RJRubkLg0 1178/1313

お祓い師(ん……? なんだ……?)

共和国首都の聖騎士長「……いやいや、これは参りましたね……」

お祓い師「…………」

レライエ「ふん、コソコソと逃げ回りおって」

共和国首都の聖騎士長「応急処置をしたとはいえ、この怪我で相手をするのはちょっとキツいですから」

レライエ「ふん、よく言うわ」

レライエ「貴様、ランクはA1級であったか……」

共和国首都の聖騎士長「らしい、ですね」

レライエ「誇って良いぞ、貴様は我よりも強い」

レライエ「我は名前こそ多少は世に行き渡ったようだが、所詮A2程度の力しか無い」

603 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 20:40:13.00 RJRubkLg0 1179/1313

共和国首都の聖騎士長「まあランクなんてものは実績なんかも加味しますから、正確に強さの尺度としては使えないでしょう」

レライエ「ふん……狐女よりも狐らしいな貴様は」

レライエ「……我はA2止まりの悪魔ではあるが、ここは我の迷宮である」

レライエ「ここに居る時だけは、我もS級という領域に片足を踏み込める」

レライエ「その我をここまで追い詰めた貴様もあるいは……」

共和国首都の聖騎士長「……まあ何にしても、この通り片腕が無くなってしまいましたから」

共和国首都の聖騎士長「勝てる見込みは全く」

レライエ「どこまでも謙遜するか……その片腕でエルフの弓兵を相手にあれほど立ち回っておきながら」

お祓い師「エルフの弓兵だと……!?」

狐神「何か驚く事なのかの?」

604 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 20:41:20.77 RJRubkLg0 1180/1313

お祓い師「ああ……奴らは人外でありながら人とはもちろん、他の人外と交わることすらも嫌う森の民だ」

お祓い師「数百年……約千年前に魔王軍と人類が全面的に衝突した時でさえ、彼らの多くは不干渉を貫いたと言う……」

レライエ「実際多くは王国と北方連邦の間……自治区に今も引きこもっている」

レライエ「しかし我らに賛同する者も一定数いるということだ」

レライエ「人間が支配し、人間のみが生きることを許されるこの世は正されなければならない」

レライエ「貴様も人外ならばそう思わんか、狐の娘よ」

狐神「…………」

狐神「確かに今の世の中はわしらにとっては暮らしにくいのう」

狐神「わしらにだって人間と同じように生きる権利があるじゃろう」

狐神「この世は変わらねばならないとこやつは言っておったが、わしもそう思う」

605 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 20:41:50.28 RJRubkLg0 1181/1313

レライエ「ほう……末裔がか」

お祓い師「…………」

狐神「じゃがおぬしらのやり方には賛同できぬ」

レライエ「…………」

狐神「様々な命が集まって出来上がったこの社会もまた一つの大きな生き物であると言える」

狐神「生き物は、社会は急には変われぬ」

狐神「無理に形を変えようとすれば、亀裂が走り、ボロボロと崩れるだけじゃぞ」

レライエ「この世が変わるまでゆるりと待てと言うのか?」

狐神「じっくりと変えていくのじゃ」

レライエ「その間にも同胞達は虐げられ、死んでゆく」

606 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 20:42:46.01 RJRubkLg0 1182/1313

狐神「おぬしらがこうした行動を起こせば、それに巻き込まれた者たちが死んでゆく」

レライエ「目的も同じ、経過も同じならば既に動き出した流れに乗れば良いと思わんか?」

狐神「本当に目的が同じかのう?」

狐神「おぬしらはの目的は本当に平等な世なのかのう?」

レライエ「…………」

狐神「いや、おぬしに関しては分からぬが、“おぬしら”はどうなのかの?」

レライエ「……こちらに下るつもりは無い、と」

狐神「そうじゃな」

レライエ「……ならば、話は終わりだ」

レライエ「貴様も同胞の一人……我らに従うと言うのならば見逃してやろうとは思ったが」

607 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 20:43:35.60 RJRubkLg0 1183/1313

レライエ「残念だが死んでもらう」

狐神「…………」

レライエ「しかし何故ここ貴様らがいるのかと思ったが……なるほど末裔は気がついたか」

レライエ「その懐の魔石を使って氷の退魔師を結界から解放しようと考えたな?」

お祓い師「…………」

レライエ「だが残念だったな……それは不可能である」

狐神「……!」

お祓い師「……何故だ……」

レライエ「貴様が考えた通り、あの結界は閉じ込められた者自身の力のみを写し出し、魔石などはその内に含まれない……」

レライエ「しかしあの結界はその者の本来の力……つまりは潜在する力の限界を写すのだ」

608 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 20:51:02.82 RJRubkLg0 1184/1313

レライエ「どれ程優れた者であっても自分の潜在能力をすべて引き出す事は出来ない」

レライエ「そしてその差はその石ころ程度で埋められる差では無い」

レライエ「術者というのは日頃から魔石を身に着けている者が多い……その程度は考慮にあったに決まっているであろう」

お祓い師「クソッ……」

レライエ「貴様を殺すことで我らは千年の因縁に一つケリをつける事ができる、末裔よ」

レライエ「それでは死ね──」


共和国首都の聖騎士長「油断は良くないですよ」


レライエ「がっ……!?」

共和国首都の聖騎士長「おっと、眉間を撃ち抜くつもりだったのですが……やはり慣れない物は駄目ですね」

レライエ「きさ……ま……!」

609 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 20:54:36.68 RJRubkLg0 1185/1313

共和国首都の聖騎士長「最近流行りの小型の鉄砲……拳銃ってやつですね。ずっと隠れて生きていた貴女方はご存じないかもしれませんが」

共和国首都の聖騎士長「隠し持つには良いんですよ、これ」

共和国首都の聖騎士長「普通の弾ですので致命傷では無いでしょうが……その腕ではしばらく弓は射れませんね。これでおあいこです」

レライエ「我の腕を……! 許さん……!!」

共和国首都の聖騎士長「私の事ですから他にも何か隠しているかもしれませんね……迂闊に動かないほうが良いかもしれませんよ?」


レライエ「……クッ、同じ手に二度も引っかかるとはマヌケだな……!」


共和国首都の聖騎士長「まさか、また身代わりの……!?」

レライエ「貴様がどういう人間かはいい加減わかった」

レライエ「こちらだって慎重になるというものだ」

共和国首都の聖騎士長「……!」

610 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 20:55:04.77 RJRubkLg0 1186/1313

レライエ「騙し合いでは幻術に勝るものは無いな。真が見えないのだから仕方はないが……」


お祓い師「──いや、“見えてたぜ”」


レライエ「なっ……!」

お祓い師「あいにく俺には並の幻術は効かないんでね」

お祓い師「道具師に貰った札の威力、どんなものか試させてもらうぜ……!」

レライエ「がっ!?」

お祓い師(おお、すげえ爆発だ……!)

お祓い師「よし、トドメを……!」

狐神「待て! 何か来おる!」

エルフの弓兵A「レライエ様!」

611 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 20:58:12.36 RJRubkLg0 1187/1313

エルフの弓兵B「奴らからお護りしろ!」

お祓い師「弓兵が飛び込んできやがった……!」

共和国首都の聖騎士長(今ですね……!)

お祓い師「何だ!?」

狐神「礼拝堂が崩れる!?」

共和国首都の聖騎士長「氷の退魔師殿と戦っている最中にちょっと細工をしておきました」

お祓い師「どこまでも準備がいい人だなあんたは……」

共和国首都の聖騎士長「そういう性格なものでして」

共和国首都の聖騎士長「さて、この隙に逃げましょう」

エルフの弓兵A「逃がすか! 射て!」

612 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 20:58:56.08 RJRubkLg0 1188/1313

狐神「左に避けい!」

お祓い師「うわっ!」

共和国首都の聖騎士長「レライエのような力に寄るものでは有りませんが、エルフも毒矢の扱いに長けています」

共和国首都の聖騎士長「当たらないように気をつけましょう」

お祓い師「腕切り落とすのは勘弁だな……」

狐神「目的地が遠ざかるのう」

お祓い師「俺の案じゃ無理だって分かった訳だし、今は引くしか無い」

お祓い師(当然今後はこの辺りは近寄り難くなるわけだが……)

お祓い師「こうなったらもう、レライエを俺たちで倒すしか無いか……」

狐神「結局一番頭を使わない方法になるのじゃな」

613 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 20:59:38.61 RJRubkLg0 1189/1313

お祓い師「頭は使わないと倒せねえよ!」

お祓い師「とにかく今は包囲される前に遠くへ逃げるぞ!」

レライエ「逃、が、すか馬鹿めが……!」

お祓い師「こいつ……!?」

共和国首都の聖騎士長「もう傷口が……!」

お祓い師「これもダンジョンの恩恵か……!」

狐神「とにかく何かに隠れねば!」

レライエ「そこから退くなよ……もう片腕も落としてやろう……!」

お祓い師「(どうする……?)」

狐神「(向こうの角までは姿を見られずに行けるじゃろう)」

614 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 21:00:13.82 RJRubkLg0 1190/1313

レライエ「ッ!」

お祓い師「なっ!?」

共和国首都の聖騎士長「……!」

共和国首都の聖騎士長(あ、あと少しずれていたら当たっていましたね……)

狐神「(物陰なのにどうやって……!?)」

共和国首都の聖騎士長「(どうやら矢の軌跡を曲げられるようですね……)」

共和国首都の聖騎士長「(ここに身を潜めていても袋の鼠です。急いで先へ進みましょう)」

お祓い師「(き、狐神……!)」

狐神「(分かっておる……!)」

狐神「…………」

615 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 21:03:04.55 RJRubkLg0 1191/1313

狐神「(今じゃこっちへ!)」

レライエ「…………!」

レライエ「腕を置いていけ、この……!」

お祓い師「ぐっ!?」

狐神「おぬし!?」

お祓い師「かすっただけだ……! だが……!」

共和国首都の聖騎士長「毒はすぐに体を蝕みます! 処置の方法はこれしか有りませんのでご容赦を!」

616 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 21:03:33.65 RJRubkLg0 1192/1313






お祓い師「はあっはあっ……ここまで来れば……」

狐神「うむ……追って来る気配はあらん」

共和国首都の聖騎士長「さっきトドメを刺せれば良かったのですが……どうにも拳銃というのは扱いが難しいですね」

共和国首都の聖騎士長「撃ち切っても一発しか当たりませんでした」

お祓い師「どっちにしても小さな鉛玉で仕留めきれたかは微妙だ……」

共和国首都の聖騎士長「それは確かにそうですね」

617 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 21:04:09.99 RJRubkLg0 1193/1313

狐神「それよりもおぬし、大丈夫かの……?」

お祓い師「ああこれか? 正直に言うと滅茶苦茶痛い。泣きそうだ」

お祓い師「矢が当たった部分をナイフで削ぎ落としたんだからな」

共和国首都の聖騎士長「乱暴な処置で申し訳ありません……」

お祓い師「いや、これしか方法が無かったなら仕方が無いさ」

お祓い師「同じように腕を落とす羽目にならなかっただけマシさ」

西人街の聖騎士長「おう、無事だったか」

共和国首都の聖騎士長「どうも」

西人街の聖騎士長「って、腕が……!」

共和国首都の聖騎士長「ああこれは……まあ色々と」

618 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 21:07:17.67 RJRubkLg0 1194/1313

共和国首都の聖騎士長「応急処置はしたのですが、一応衛生班に見てもらいたいですね」

西人街の聖騎士長「あ、ああ……」

お祓い師「で、状況は?」

西人街の聖騎士長「相変わらず膠着していて中々踏み込めねえ……」

共和国首都の聖騎士長「そうですか……」

共和国首都の聖騎士長「こちらはダンジョンの主をあと一歩まで追い込みましたが、すんでのところで……」

狐神「追い込まれていたのはわしらの方じゃったがの」

共和国首都の聖騎士長「あれは作戦の内です」

狐神「どうだかのう……」

共和国首都の聖騎士長「ふふふ……」

619 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 21:07:50.38 RJRubkLg0 1195/1313

共和国首都の聖騎士長「まあこうして敵の陣営の中を駆け回って、向こうの大体の残存戦力の目星がつきました」

西人街の聖騎士長「勝機は?」

共和国首都の聖騎士長「おそらくあの感じでしたら数で押し切れば、いけます」

共和国首都の聖騎士長「主力は既に氷の退魔師殿が削ってしまいましたからね。残りはほぼあの弓兵隊だけです」

共和国首都の聖騎士長「拠点に残っている団員をもう少しこちらに回して、敵陣を囲みましょう」

西人街の聖騎士長「わかった。早馬を向かわせよう」

お祓い師「ちょっと待ってくれ」

西人街の聖騎士長「ん?」

お祓い師「ついでに食料の補給も頼みたい」

西人街の聖騎士長「食料? 腹でも減ったのか?」

620 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 21:10:01.72 RJRubkLg0 1196/1313

お祓い師「いや、親父の分だ」

お祓い師「流石に水筒や携行食は持っていたはずだが、それももう尽きるだろうからな……」

狐神「なるほど。伝説の術師も生き物である以上食は必須ということじゃな」

お祓い師「ああ、そういう事だ」

西人街の聖騎士長「なるほど、それではその事も伝えさせよう」

お祓い師「頼む」

西人街の聖騎士長「そういえばお前の考えた方法は駄目だったのか?」

お祓い師「まだ試していないが、やる前にレライエに無駄だと言われた」

西人街の聖騎士長「敵の言葉を鵜呑みにするのか?」

お祓い師「いや、理にかなった事を言われたんでな……」

621 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 21:10:56.84 RJRubkLg0 1197/1313

お祓い師「そもそも賭けに近い案だったから、こうなったら正攻法で行くだけだ」

西人街の聖騎士長「なるほど?」

西人街の聖騎士長「それじゃあ増援到着前に出来ることを済ませちまうか」

622 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 21:11:31.65 RJRubkLg0 1198/1313






お祓い師「増援到着から三時間……」

お祓い師「まさかここまで簡単にいくとはな」

共和国首都の聖騎士長「残存兵力も地形も把握しており……」

共和国首都の聖騎士長「敵の主力は氷の退魔師殿がほぼ片付けてしまいましたから、数で勝る我々が負けるはずがないです」

お祓い師「それはそうだが……」

お祓い師(やはり聖騎士長のような優秀な頭が二人もいると戦術的面でも大きく違うみたいだな)

623 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 21:14:23.91 RJRubkLg0 1199/1313

お祓い師(そういう立場に立ったことが無い俺には到底無理な芸当だな)

共和国の聖騎士A「団長。敵のエルフの弓兵を新たに捕らえました」

共和国首都の聖騎士長「ご苦労様。術での反撃をされないようにきちんと対策しておいてくださいね」

共和国の聖騎士A「はっ!」

お祓い師「捕虜か?」

共和国首都の聖騎士長「ええ」

共和国首都の聖騎士長「……この戦いはまだ始まったばかりです。大陸中に出現したという他のダンジョンが全て同様に上手く攻略されているとは限りません」

共和国首都の聖騎士長「それに先ほど貴方が説明してくれたように、このダンジョンは敵の陽動に過ぎない……」

共和国首都の聖騎士長「この規模ですら陽動に過ぎないのです……」

お祓い師「…………」

624 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 21:15:04.32 RJRubkLg0 1200/1313

共和国首都の聖騎士長「おそらくこれから、大陸全土を巻き込んだ大きな戦乱が起こるのでしょう」

共和国首都の聖騎士長「そこで大事になるのは、なるべく敵を増やさず味方を増やすことです」

共和国首都の聖騎士長「森の民は我々の味方になれる可能性があります」

お祓い師「今まで倒した奴らは、味方にはなり得ないと」

共和国首都の聖騎士長「そうですね」

共和国首都の聖騎士長「彼らのような純粋な悪意の塊はどうしようも無いのです」

共和国首都の聖騎士長「貴方はこの先、人と人外が平等に生きていけるような世の中を目指していきたと言っていました」

共和国首都の聖騎士長「それは具体的にどのように」

お祓い師「……法だ」

お祓い師「法で彼らにも人間と同じ権利を与えるしか無い」

625 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 21:16:07.75 RJRubkLg0 1201/1313

お祓い師「人の世で共に生きれば、例え人外であってもそこに適応して生きていけるはずだ」

共和国首都の聖騎士長「確かにそれは可能でしょう」

共和国首都の聖騎士長「ですが……」

狐神「じゃが、それはこれから生まれてくる者たちに限る」

狐神「わしらのように、既に人外として生きてきた者達は人外として振る舞うことでしか力が得られぬ」

狐神「わしがおぬしの力に依存しておるようにのう」

お祓い師「その通りだ……」

お祓い師「だが今生きている奴らを救う方法もあるはずだ」

共和国首都の聖騎士長「その方法とは?」

お祓い師「魔石だ。俺たち術師が魔石から力を得られるように、人外にも魔石から力を供給する方法があるはずだ」

626 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 21:17:22.88 RJRubkLg0 1202/1313

お祓い師「現状では単純な力への応用しか出来ないが、研究が進めば必ずどんな人外にも適用出来るはずだ」

共和国首都の聖騎士長「なるほど……」

お祓い師「法の整備も、術の開発もとてもじゃないが俺の力では無理だ……」

お祓い師「他人任せにはなってしまうが、それらが達成されれば必ず平等な世界が訪れる」


レライエ「────そんな世は訪れないッ…………!!」


お祓い師「がっ……!?」

共和国首都の聖騎士長「なっ!?」

お祓い師「レラ……イエ……!」

狐神「おぬし! まさか……!」

レライエ「…………」

627 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 21:18:50.13 RJRubkLg0 1203/1313

西人街の聖騎士長「てめえ、何してやがる!」

レライエ「チッ……!」

共和国首都の聖騎士長「一体どこから……!」

レライエ「フン……」

レライエ「ここは我の迷宮だ……回り道ぐらい把握している」

レライエ「この怪我では確かに上手く弓は射てないが、矢を直接突き立てる事ぐらいは出来る」

狐神「矢が……! おぬしよ……嘘じゃ……!」

共和国首都の聖騎士長「とにかく矢を抜いてください!」

共和国首都の聖騎士長「しかし腹部となると私のように切り落とす処置は出来ない……」

お祓い師「…………」

628 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 21:20:24.34 RJRubkLg0 1204/1313

狐神「どうして、こんな……」

狐神「嫌じゃ……嫌じゃあっ……!」

西人街の聖騎士長「やりやがったな……」

レライエ「……せめてもの反撃だ」

レライエ「もう我々の敗北は決定したようなのでな」

西人街の聖騎士長「どういう意味だ……」

レライエ「……どういうカラクリかは知らないが、氷の退魔師が結界を破ったようだ」

西人街の聖騎士長「何……?」

レライエ「各ダンジョンには撤退用に転送魔法陣が一回分だけ支給されていた……」

共和国首都の聖騎士長「転送魔法陣……! そんな高度なものを……!」

629 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 21:21:21.62 RJRubkLg0 1205/1313

レライエ「だが氷の退魔師が現れては撤退どころではないのでな」

レライエ「急遽強力な兵を転送してもらったのだが……全滅とは笑えるな。ふん、どちらが怪物か……」

レライエ「転送陣無しではもう我らは撤退はできん……」

レライエ「せめて滅せられる前に一つ嫌がらせをしに来たという訳だ」

狐神「貴……様……! よくも……!」

狐神「殺してやるッ……!!」

レライエ「さあ来るが良い。殺せるだけ殺して、我も死のう」

レライエ「……“我々の目的はもう果たされたのだからな”」

狐神「このォッ! 死ねェッ!!」

西人街の聖騎士長「嬢ちゃん待て!」

630 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 21:23:36.58 RJRubkLg0 1206/1313

お祓い師「そうだぞ落ち着け!」

狐神「止めるなァ! 離せ!!」

狐神「…………ん?」

共和国首都の聖騎士長「おや?」

西人街の聖騎士長「なっ!?」

レライエ「な……」

レライエ「何故生きている……!?」

お祓い師「おい、勝手に殺すなよ」

レライエ「馬鹿な……! 我の毒矢は即効性……掠りでもすれば直ぐに……!」

お祓い師「だから、掠りもしなかったんだよ」

631 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 21:24:35.98 RJRubkLg0 1207/1313

レライエ「なっ……」

お祓い師「ギリギリでな……この通り」

共和国首都の聖騎士長「ジャケットの下に氷の鎧……!」

レライエ「貴様は氷の術は扱えないはずでは……!」

お祓い師「だから、完全に使えないわけじゃ無いんだって」

お祓い師「本来は親父用に用意したものだが、魔石があればこの程度なら使える」

お祓い師(さっき譲ってもらった本、少し読んでおいて助かったぜ……)

お祓い師(だが思った以上に扱える……。血のおかげか?)

レライエ「こ……の……!」

レライエ「ならばもう一度やるまでだ……!」

632 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 21:25:10.19 RJRubkLg0 1208/1313

お祓い師「狐神! 力借りるぜ!」

狐神「う、うむ!」

レライエ「次は心の臓に突き立ててやろう……!」

お祓い師「矢ってのはそうやって振り回す物じゃないぜ!」

お祓い師「燃えろっ!」

レライエ「ぐっ!」

お祓い師「弓が無きゃ大した事無いのな」

レライエ「舐めるな人間風情がッ……!」

お祓い師「ッ……!」

狐神「油断するな馬鹿者! 掠めでもしたらお終いなのじゃぞ!」

633 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 21:26:36.40 RJRubkLg0 1209/1313

お祓い師「分かってる!」

レライエ「この……ちょこまかと避けおって……!」

お祓い師「避ける、逃げるが専売特許なんでな!」

狐神「……! おぬしよ!」

お祓い師「おっとっと……!」

エルフの弓兵B「離れろ下衆が!」

エルフの弓兵A「レライエ様!」

エルフの弓兵B「ご無事ですか!?」

レライエ「貴様ら……何故……!」

レライエ「貴様らは逃げろとあれ程……!」

634 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 21:28:20.09 RJRubkLg0 1210/1313

エルフの弓兵A「レライエ様を置いて逃げるなど出来ません」

レライエ「……馬鹿者が……!」

共和国首都の聖騎士長「…………」

共和国首都の聖騎士長「我々も援護しますか」

西人街の聖騎士長「…………」

西人街の聖騎士長「援護……ねえ」

エルフの弓兵A「レライエ様には触れさせん!」

西人街の聖騎士長「……ふう」

西人街の聖騎士長(殺さない程度にいくか……)

635 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 21:29:09.49 RJRubkLg0 1211/1313

レライエ「……末裔よ」

お祓い師「…………」

レライエ「せめて貴様だけでも殺す……」

お祓い師「お断りだ」

お祓い師「俺はこの後大事な約束が控えているんでな!」

レライエ「当たるか愚か者!」

レライエ(せめて一矢は……!)

レライエ(せめて一矢は打たねば終われん……!)

レライエ「ぐう……! あああっ……!」

狐神「あやつ、あの腕で弓を射ようと……!?」

636 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 21:29:56.31 RJRubkLg0 1212/1313

狐神「気をつけるのじゃ!」

お祓い師「おうよ!」

レライエ「ッ…………!!」

レライエ(射抜け!!)

お祓い師「……!」

お祓い師「燃えろッ!!」

レライエ(矢を宙で燃やし切った……! だがその程度は読めている……!)

お祓い師(爆炎の陰から……!)

レライエ(次こそ貰った……!!)

レライエ「…………」

637 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 21:31:17.44 RJRubkLg0 1213/1313

レライエ「…………なっ…………居ない……?」

狐神「……そこにはおらぬよ……おぬしの相手は」

レライエ「幻……覚……だと……!?」

狐神「否、ただおぬしが飛び込む方向を間違えただけじゃ」

狐神「これがわしの狐火じゃ」

レライエ「ぐっ…………! この…………!」

お祓い師「俺達の勝ちだな」

レライエ「がっ…………!」

レライエ「まだ……まだだ……!」

お祓い師「こいつ……!」

638 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 21:32:05.60 RJRubkLg0 1214/1313

共和国首都の聖騎士長「……やれやれ。一体何が貴女をそこまで?」

レライエ「貴様……! 我の部下はどうした……!」

共和国首都の聖騎士長「ああ、それらもう向こうの聖騎士長さんが……」

レライエ「…………!」

レライエ「許さん…………!」

共和国首都の聖騎士長「貴女は何故、何のためにこのダンジョンの主という役を務めたのですか?」

レライエ「そんな事語るまでもないであろう……!」

レライエ「人外が虐げられずに生きていけるような世界にするためだ……」

レライエ「それが魔王様の望んだことだった……!」


九尾「──それは違うわ、レライエ」


639 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 21:33:06.82 RJRubkLg0 1215/1313

お祓い師「なっ……!」

狐神「おぬしは……!」

レライエ「きゅ、九尾様!? 何故ここに!?」

お祓い師(母さん!?)

九尾「あの子はね、平等な世界になって欲しかっただけなの」

九尾「人とか人外とか、そういう区別を無しにね」

九尾「いま貴女たちがやっていることは魔王の意思に反するわ……だから魔王の名を関するのは辞めてもらえないかしら」

レライエ「……ッ!」

共和国首都の聖騎士長(気当たりだけでこれですか……)

共和国首都の聖騎士長(九尾……とんだ大物が出てきましたね……)

640 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 21:34:17.47 RJRubkLg0 1216/1313

レライエ「ですが……」

レライエ「ですが、魔王様の声は人間には届かなかった……! そして争いが起こった……!」

レライエ「争いが終わり、それからはずっと敗者のままだった……! 千年間も、ずっと!」

九尾「…………」

レライエ「千年という時は決して短く無い……! だが何も変わらなかった! 我らは虐げられ続けたのですよ!?」

レライエ「人間とは分かり合えない……絶対に……」

九尾「…………一度の失敗で何を言っているのかしら」

九尾「一度駄目だったのであれば、もう一度やれば良い」

九尾「今がその時なのよ」

レライエ「九尾様……」

641 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 21:35:01.57 RJRubkLg0 1217/1313

レライエ「それでも我は……」

九尾「……よく見なさい」

九尾「ここに既に何人も、かつての私達と手を取ってくれそうな人間がいるわ」

レライエ「あ…………」

九尾「千年前にできなかったことを、今もう一度始めるのよ」

九尾「本当は“あの子”を待つつもりだったんだけど……流石に千年は待ちすぎたわ」

九尾「これが良い機会なんじゃないかしらね」

レライエ「九尾様……我は……」

レライエ「…………」

九尾「とりあえずダンジョンの結界は解いて」

642 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 21:35:28.74 RJRubkLg0 1218/1313

九尾「続きはその後話しましょう」

レライエ「…………はい」

お祓い師(“あの子”ってのは一体誰のことだ?)

お祓い師(話の流れからするとおそらくは……)

お祓い師(……いや今は考えても無駄か。それよりも……)

お祓い師「これで一件落着か……」

643 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 21:36:07.01 RJRubkLg0 1219/1313






氷の退魔師「よう、無事だったか」

お祓い師「親父……」

お祓い師(転送陣からの増援とやら、親父と母さんの二人にやられたって事か……)

お祓い師(そりゃ全滅もするよな、あの二人を相手にすれば……)

お祓い師(親父が結界を破れたのは式神の術を使って母さんに力を借りたからか)

お祓い師(俺でさえ狐神から力を借りればA級と渡り合えるだけの力を得られる)

644 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 21:36:50.84 RJRubkLg0 1220/1313

お祓い師(あの二人だと一体どれほどの力が……)

九尾「…………」

お祓い師(……俺の方を見ているのか?)

九尾「……えっと、あの……」

九尾「ひ、久しぶりね」

お祓い師「……久しぶりって言ってもほんの数日前のことだろ、母さん」

九尾「えっ……!? き、気づいて……!?」

お祓い師「いや、親父に聞いた」

九尾「お、お前勝手に……!」

氷の退魔師「いやいや遅かれ早かれバレることだろうが」

645 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 21:37:45.45 RJRubkLg0 1221/1313

氷の退魔師「狐のお嬢さんの方は薄々感づいていたみたいだし」

狐神「当たり前じゃ」

九尾「それは……」

九尾「まあ、その通りだけれども……」

九尾「…………」

お祓い師「…………」

九尾「な、何を話せば良いのかわからないわ……」

お祓い師「同じく……」

お祓い師「二十半ばになって初めて母親と会うことになるとは思いもしなかったからな」

九尾「あ……」

646 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 21:38:22.82 RJRubkLg0 1222/1313

九尾「そのことは、ごめんなさい」

九尾「私は……」

お祓い師「今は詳しくは聞かないよ」

お祓い師「でも、いずれ聞かせてくれると嬉しいかな」

九尾「……ええ」

氷の退魔師「いやあ、こうして家族全員が集まれるようになったのは良いことだな」

氷の退魔師「ここに未来の娘候補も居るわけだし」

九尾「なっ……」

お祓い師「娘候補って……」

狐神「まあ確かに、わしとおぬしが番(つがい)になれば娘と呼べなくも無いが……」

647 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 21:39:07.58 RJRubkLg0 1223/1313

九尾「……待ってちょうだい」

氷の退魔師「ん?」

九尾「誰と誰が番になると……?」

氷の退魔師「だから、俺たちの息子が狐の嬢ちゃんとだよ」

氷の退魔師「いやいや血は争えないな。親子二代揃って狐を捕まえてくるとは」

九尾「駄目です!」

お祓い師「か、母さん……?」

九尾「この小娘いつの間に息子に色気を……!」

氷の退魔師「色気って……古今東西の男を取っ替え引っ替えしていたお前の言える台詞かよ……」

九尾「それとこれとは話が別です!」

648 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 21:41:21.91 RJRubkLg0 1224/1313

九尾「息子に相応しい器量の持ち主かどうか、見極めが必要よ……!」

狐神「ふん、望むところじゃ」

九尾「その余裕、いつまで続くかしらね……!」

お祓い師(何だこれ……)

氷の退魔師(うちの嫁に鬼姑の気質があったとは……)

九尾「……それに貴女は理解しているのかしら?」

狐神「何をじゃ?」

九尾「人と人外が伴侶となるその意味を」

狐神「…………」

九尾「人間と人外ととではその寿命に大きな差があるわ」

649 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 21:44:10.48 RJRubkLg0 1225/1313

九尾「うちの息子は半妖ではあるけれども、その体はほとんど人間と言える」

九尾「どんなに健康体であったとしても、百年後には確実にこの世を去っているわ」

九尾「でもその時、貴女はきっと生きている。その先もずっと生き続けるのよ?」

狐神「それは、そうじゃな……」

氷の退魔師「いま嬢ちゃんの命はお祓い師を依り代とすることで永らえている。そうだろう?」

お祓い師「ああ」

氷の退魔師「だがそういった人外を救う方法を俺たちは研究している」

氷の退魔師「直ぐにとは言わないが、遠くない未来に実用化するつもりだ」

氷の退魔師「だから嬢ちゃんは今の紐付けされた命からは解放される」

狐神「ほう、それは素晴らしいのう」

650 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 21:44:42.28 RJRubkLg0 1226/1313

氷の退魔師「だろ? それが完成すれば嬢ちゃんも人外としてまっとうな時間を生きていけるようになる」

狐神「ふむ、それは飛び跳ねるほどに嬉しいことじゃ」

狐神「じゃが、要らぬ」

お祓い師「な……!」

氷の退魔師「…………」

九尾「……それがどういう意味なのか、わかっているわよね」

狐神「うむ」

狐神「わしは、それで良いのじゃ」

お祓い師「狐神……」

氷の退魔師「……なるほど、これは想像以上だ」

651 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 21:45:18.24 RJRubkLg0 1227/1313

氷の退魔師「な、そう思うだろ?」

九尾「……ふん、知らないわよ」

氷の退魔師「これなら認めてやっても良いんじゃないか」

九尾「それとこれとは話が別よ!」

狐神「良かろう、ならば実力で認めさせてやろうではないか」

九尾「小娘が舐めた口をきくのね……」

狐神「いい加減子離れしたらどうじゃ年増め」

九尾「ぐぐぐ……!」

狐神「ぬうう……!」

お祓い師「……式はまだ先になりそうだな」

652 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 21:46:06.21 RJRubkLg0 1228/1313

氷の退魔師「俺が生きている内に頼むぜ。孫の顔ぐらい見てみたい」

お祓い師「俺に言われてもなあ……」

お祓い師「……そういえば、親父はどう考えているんだ?」

氷の退魔師「どう、とは?」

お祓い師「さっきの問についてだよ。親父なんて四十年もしない内にくたばると思うけど、母さんは違うだろ?」

九尾「…………」

氷の退魔師「あー、別に気にしたことねえな」

氷の退魔師「数十年なんて長寿な人外にとっては一瞬かもしれねえが、俺にとっては一生分だ」

氷の退魔師「一生分も俺のために割いてくれるだけでありがたいって思うね」

九尾「ふん、残される側のことを全く考えていない発言ね」

653 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 21:46:49.70 RJRubkLg0 1229/1313

氷の退魔師「気にして欲しいのかよ」

九尾「まさか。むしろあなたがそういう人だから夫にしたのよ」

九尾「長命の種の最期は自殺であることがけっこう多いの」

九尾「常に置いて行かれる立場に絶望してね」

九尾「でも私はその段階は越えたわ」

九尾「……それでも“その時”が来ると、やっぱり多少は考えてしまうのよね」

九尾「だからこの人みたいなのが私には丁度良いのよ」

氷の退魔師「価値観は人それぞれ、だな」

お祓い師「親父は世間一般からはかなりずれていると思うけどな……」

お祓い師「……しかし、やっぱり敵わないな」

654 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 21:47:39.18 RJRubkLg0 1230/1313

氷の退魔師「ん?」

お祓い師「親父はいつも一歩二歩先を行っている」

お祓い師「どんな人外にも力を供給する方法……発想まではあったんだが、既に実行に移っていたとはな」

氷の退魔師「そりゃあお前……」

氷の退魔師「俺はお前よりも二十年以上早く生まれているから、ただそれだけだろ」

氷の退魔師「これから先はお前次第なんじゃねえのか?」

お祓い師「親父……」

氷の退魔師「だが、一歩二歩程度ではなく千里は差があるから精々頑張るんだな」

お祓い師「うるせえ、言われなくてもそのつもりだ」

氷の退魔師「期待しないで待っているとするわ」

655 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 21:49:09.69 RJRubkLg0 1231/1313

氷の退魔師「さて、とっとと後処理して俺は出国しないとな」

お祓い師「出国? どこに行くんだ?」

氷の退魔師「法国さ。既に対策本部が立ち上げられているはずだ」

氷の退魔師「俺も手伝いと交渉にな」

お祓い師「交渉……?」

氷の退魔師「俺が個人的にやりたいこともあるんだが、世話になったこの街の教会の手伝いもしてやろうかと思ってね」

656 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 21:52:04.43 RJRubkLg0 1232/1313










お祓い師(西人街の一件から既に一月が経過した)

お祓い師(ダンジョン化した街は元に戻りはしたが、その爪痕はまだ深く残っている)

お祓い師(しかし新しい体制になった教会の主導のもと、着実に以前の活気を取り戻している)

お祓い師(新体制と言ったが具体的には何があったか)

お祓い師(実は西人街から共和国の教会関係者が撤退したのだ)

お祓い師(大神官は元は王国の人間だったが、最終的には共和国の教会に属していた)

657 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 21:52:44.07 RJRubkLg0 1233/1313

お祓い師(その大神官の不正のもみ消しと引き換えに撤退をした……)

お祓い師(それも理由の一つではあるがそれ以上に、単純に各国が自国のことで手一杯になったことが大きい)

お祓い師「“領土、未だに奪還できず”……か」

狐神「また新聞を読んでおるのか」

お祓い師「毎朝の習慣だからな」

お祓い師「それに“出発前”に情報を仕入れておくことは大事だ」

狐神「それで、何か進展はあったのかの?」

お祓い師「いや、相変わらず新生魔王軍に侵略された領土はほとんど奪還できていないらしい」

お祓い師「王国、帝国、共和国の三国をまたがる広大な土地に加えて南部諸島連合国の一部も占拠されてしまったらしい」

狐神「見事にしてやられた、ということじゃな」

658 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 21:53:35.91 RJRubkLg0 1234/1313

お祓い師「ああ」

お祓い師「大陸各地に出現したダンジョン……その多くは人間側の強力な人員を拘束するための囮だった」

お祓い師「親父がやられたようにな」

お祓い師「魔王軍を名乗る集団が各地にダンジョンを出現させれば、当然各国は万全の兵力で対応に当たる」

お祓い師「親父と同じようなSランクの人間たちもしばらく身動きが取れなくなってしまったらしくてな」

狐神「その隙きに向こうは主力を総動員して侵略を開始したわけじゃな」

お祓い師「未だに結界に囚われたままの人も多いみたいでな」

お祓い師「中々反撃に転じられないらしい」

狐神「一月経った今でもかの?」

お祓い師「ああ。食料なんかは外から補給できるから問題はないんだがな……」

659 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 21:54:48.05 RJRubkLg0 1235/1313

お祓い師「親父は母さんとの式神契約のお陰で脱出できたが、幸運としか言いようがない」

お祓い師「式神契約は皇国の中ですら、今の時代では珍しい術だからな」

狐神「ううむ」

お祓い師「大陸は今混乱の渦中だ。俺の力なんて微々たるものだが少しでも力になりたい」

狐神「じゃから“こんな時”なのに旅立とうと言うのじゃろう?」

お祓い師「それは……本当にすまん……。旅行と兼ねてってことでここは一つ」

狐神「ふん。別に気にしておらんわい」

お祓い師「いやいや、顔が」

狐神「なんじゃ?」

お祓い師「何でもないです」

660 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 21:55:37.05 RJRubkLg0 1236/1313

狐神「……まあ良い」

狐神「しかしおぬし、なんじゃ」

狐神「今からおぬしにやることなんてあるのかのう」

お祓い師「……それは言わないでくれ……」

お祓い師「この一ヶ月で戦況は良くならないが、世の中はだいぶ変わったもんな」

狐神「親父殿の功績もあってのう」

お祓い師「……まあな」

お祓い師「まずは一つ、皇国が正式に皇国内の教会を管理することになった」

お祓い師「今までは外国が管理する教会しか無かったが、西人街の教会を中心とした皇国の管理下の教会が出来たことで教会会議に皇国も出席が可能になった」

狐神「教会会議……法国とやらで行われておるやつじゃな」

661 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 21:56:49.62 RJRubkLg0 1237/1313

お祓い師「ああ。これは親父が皇家の人間と前々から計画していた事らしい」

狐神「故郷の外の国の長と繋がりがあるとは流石じゃのう」

お祓い師「本当に訳がわからん……」

お祓い師「どうやら以前、山間の集落での親父の話の中に出てきた陰陽師っていうのが皇家直属の人間らしくてな。そこからの繋がりらしい」

狐神「なるほどのう」

お祓い師「現在教会会議に参加できる国は総本山の法国に加えて王国、帝国、共和国、そして皇国になった」

お祓い師「そしてその会議で決定したこと、これが変化したことの二つ目だな」

狐神「退魔師協会の独立じゃな」

お祓い師「ああ。これからは退魔師ギルドとして教会からは完全に切り離された組織として運営されていくことになった」

お祓い師「親父が教会からの指示を待たずにダンジョンへの突入を決定した理由はこれだったんだ」

662 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 21:57:18.80 RJRubkLg0 1238/1313

お祓い師「教会とは別に動ける身軽な組織の有用性をアピールしたってわけだ」

お祓い師「実際、西人街のダンジョンは大陸で一番早く攻略されたらしい」

お祓い師「これで以前よりももっと自由に仕事が出来るようになる」

狐神「確かにたまに面倒なこともあったからのう」

狐神「しかし変化といえば一番大きいのはやはり……」

お祓い師「ああ」

お祓い師「人外にも人間とほぼ同じ法が適用されるようになったことだろうな」

狐神「うむ」

お祓い師「当然、様々な理由からまだ完全ではないが……」

狐神「それでも、ようやくわしらにも居場所が出来た」

663 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 21:58:02.26 RJRubkLg0 1239/1313

狐神「意外じゃったのがこんなにも早く各国がこのような体制になったことじゃな」

狐神「もっと時間がかかるものだと思ったのじゃが」

お祓い師「おそらく狙いは新生魔王軍への兵力の流出を阻止するためだろう」

お祓い師「人から隠れてい生きていくことに疲れてしまった人外が軍門に下る可能性は十分にあった」

狐神「まあ目的が何であれ、随分と住みよい世の中になったものじゃ」

狐神「実際には戦争の真っ只中だって言うのにのう」

お祓い師「皇国は戦線から遠いから実感が湧きにくいよな」

狐神「それなのにわざわざ自ら出向こうとしている馬鹿者をわしは知っておるがのう」

お祓い師「さて誰だろうな」

狐神「誰じゃろうなあ」

664 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 21:58:58.29 RJRubkLg0 1240/1313

狐神「新婚旅行なのに治安が悪い方へ向かおうとはとんだ大馬鹿者じゃ」

お祓い師「ははっ、ほんとに馬鹿だなそいつは」

狐神「ふふふっ」


狼男「あっ、お二人ともこんな所にいたんですか!」


お祓い師「もう時間か?」

狼男「いえ、まだ少し時間はありますが主役二人が消えてしまってちょっとした騒ぎになってますよ」

お祓い師「おっと、直ぐに戻らないとな」

狼男「そうしてください」

狼男「自分は先に戻っていますね」

お祓い師「ああ、わざわざ悪かったな」

665 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 21:59:31.25 RJRubkLg0 1241/1313

狐神「ご苦労であった」

お祓い師「…………」

狐神「なんじゃ、わしの晴れ姿に見惚れたかの?」

お祓い師「ああ綺麗だ」

狐神「あ、相変わらずつまらんやつじゃ……!」

お祓い師「お前は随分とからかい甲斐があるよ」

狐神「うるさいわい!」

お祓い師「暴れんなって、せっかくのドレスが汚れるぞ」

狐神「こんなに裾が長いのが悪いのじゃ」

お祓い師「お前が王国式が良いって言うからわざわざ取り寄せてもらったんだぞ」

666 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 22:00:20.21 RJRubkLg0 1242/1313

狐神「わかっておるわ」

狐神「いい加減待たせ過ぎておるから戻るとしよう」

お祓い師「だな」

お祓い師「いい加減腹は括れたか?」

狐神「む……」

お祓い師「頼むぜ、誓いのキスは必須なんだよ」

狐神「大勢の前で接吻を強要するとは破廉恥な文化じゃな」

狐神「じゃがまあ、一度ぐらいならば許してやろう」

お祓い師「よし、それなら新郎新婦の入場としますか」

狐神「さあっ、覚悟は決まった! 行くとしようかの!」

667 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 22:01:48.76 RJRubkLg0 1243/1313

お祓い師「馬鹿っ! こういう時は男がリードすんだよ!」

お祓い師「まず走るなっ! 転ぶ!」

狐神「えっ……ああああああっ!!」

お祓い師「おわあああああっ!?」





狼男「──それでは新郎新婦の入場です」

狼男「盛大な拍手でお出迎えください」


《本編・完》

668 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 22:03:26.77 RJRubkLg0 1244/1313

《現状のランク》

S3 氷の退魔師

A1 赤顔の天狗 共和国首都の聖騎士長
A2 辻斬り 肥えた大神官(悪魔堕ち) レライエ
A3 西人街の聖騎士長お祓い師(式神) 赤毛の術師 赤鬼青鬼

B1 狼男
B2 お祓い師 トロール
B3 フードの侍 小柄な祓師 

C1 下級悪魔 エルフの弓兵
C2 マタギの老人
C3 河童

D1 若い道具師 ゴブリン
D2 狐神 青女房
D3 化け狸 黒髪の修道女 天邪鬼 泣いている幽霊 蝙蝠の悪魔

669 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 22:10:06.86 RJRubkLg0 1245/1313



《エピローグ》


狐神「────とまあ、こんなもんじゃろう」

お祓い師「おいおい、そこからが本番だろ」

お祓い師「各国を渡り歩いて新生魔王軍と対峙して……」

狐神「馬鹿者、そこから先はおぬしは脇役じゃろうが」

狐神「その辺りの物語は書店に行けば必ず売っておる勇者の冒険譚を読めば幾らでも書いてあるわ」

狐神「おぬしが主人公なのは精々ここまでじゃ」

670 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 22:10:44.16 RJRubkLg0 1246/1313

お祓い師「うぐ、まあそうだけどよ……」

狐神「それで、なんで突然昔話なんかしたくなったのじゃ?」

お祓い師「……なんとなくだよ」

狐神「…………」

狐神「ああそうじゃ、林檎の皮を剥いてきたぞ」

お祓い師「おや、俺の手元に来るまでに全部残っているのは珍しいな。いつもは誰かさんがつまみ食いしてしまうのに」

狐神「うるさいわい」

狐神「今日は二人で食べたかったのじゃ」

お祓い師「……そうか」

お祓い師「それじゃあ頂くとする」

671 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 22:12:56.61 RJRubkLg0 1247/1313

狐神「どうぞ」

お祓い師「……ちょっと硬いな」

狐神「そ、そうかのう」

狐神「それなら今摩り下ろして……」

お祓い師「いや、食えなくはない」

お祓い師「それよりも何か話そう」

狐神「…………」

狐神「ああ、そういえばあの時……」

狐神「あの時のことはまだ許しておらんからな!」

お祓い師「あの時……?」

672 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 22:13:39.04 RJRubkLg0 1248/1313

お祓い師「ああ、お前がおぼこと知らずに酒の勢いで……」

狐神「違うわい! それも許しておらぬが違う!」

狐神「まあ酒のせいであるのは同じじゃが……」

狐神「おぬしが何かやらかす時は決まって酒絡みじゃ」

お祓い師「その言葉はそっくりそのままお前に跳ね返るぞ……」

狐神「む、そんなことはないじゃろう」

お祓い師「お前はほとんど記憶がなくなるから余計にタチが悪い」

狐神「わしは確かに酒には弱いが粗相はせぬ!」

お祓い師「いやいや」

狐神「絶対じゃ!」

673 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 22:16:32.37 RJRubkLg0 1249/1313

お祓い師「いや……」

狐神「ぐぬぬぬぬ……」

お祓い師「わかった、俺の負けだ」

狐神「それで良い」

お祓い師「……ふっ」

狐神「……なんじゃあ、笑いおって」

お祓い師「いや、お前と話していると本当に面白い」

狐神「今更じゃのう。一緒になって何年経ったと思っておる」

お祓い師「確かに随分と時間が経ってしまったな」

狐神「わしがこの姿に生まれてからの時間を考えれば些細なものじゃがのう」

674 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 22:17:27.93 RJRubkLg0 1250/1313

お祓い師「……本当に良いのか? 何なら今からでも……」

狐神「良いと言っておろう。これはわしの本心からの選択じゃ」

お祓い師「……そうか」

お祓い師「近頃、自分が何故生まれてきたのか考えることが多くなった」

狐神「随分と青いことを考えるのじゃな」

お祓い師「いや、これは一生の課題だと思うぞ」

お祓い師「剣を取って世界を脅威から救い出すためか、知の力を以って世界の謎を解き明かすためか、または……」

お祓い師「そのいずれでもなかった。その器ではなかったな」

お祓い師「実際にやってのけたのは、親父や勇者達だ」

狐神「おぬしも凡百とは比べられぬ程には活躍したと思うがの」

676 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 22:19:18.36 RJRubkLg0 1251/1313

お祓い師「さっきは脇役って言っていたがな」

狐神「わ、脇役にしてはということじゃ!」

お祓い師「……確かに俺は後世に少しは名を残せたかもしれない……」

お祓い師「ただし、俺でなくても良かったのは確かだ」

狐神「…………」

お祓い師「確かに西人街の一件の後の旅で俺は登場人物として選ばれたが、俺が死んでも代打がいたはずだ」

お祓い師「世界にとって俺は代えがたい何かでは無かった」

狐神「そんなことを言ったら、この世に生を受けた殆どの者はそれに当たるわい」

お祓い師「そうかもな……」

お祓い師「……悪い、水を取ってくれないか」

677 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 22:21:07.22 RJRubkLg0 1252/1313

狐神「う、うむ」

狐神「飲めるかの?」

お祓い師「ああ、ありがとう」

お祓い師「……生き返る気持ちだ」

狐神「たかが水で大げさじゃのう」

お祓い師「かもな」

狐神「さて、夕食は何にするかのう」

狐神「希望があれば言うが良い」

お祓い師「……お前も料理するようになったんだもんな。改めて考えると感動するな」

狐神「失礼じゃな!」

678 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 22:21:44.89 RJRubkLg0 1253/1313

狐神「おぬしだって別に得意なわけではなかろうが」

お祓い師「人並みに出来れば十分だっての」

お祓い師「食事当番に関しては実質俺一人だっただろう」

狐神「もう昔の話じゃろうが」

お祓い師「まあな」

狐神「それで、夕食は?」

お祓い師「ああ……」

お祓い師「もう少し話していたいから待ってくれないか」

狐神「……わかった」

狐神「少し眠くなってきたのう」

679 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 22:22:35.57 RJRubkLg0 1254/1313

お祓い師「布団に入ってもいいぞ」

狐神「いや、じゃが……」

お祓い師「平気だっての」

狐神「それではお言葉に甘えて……」

お祓い師「どうぞ」

狐神「相変わらず細いのう」

お祓い師「言う程じゃないだろう」

狐神「わしに取っ組み合いで勝てぬようではまずいのではないのかの」

お祓い師「お前は狐だからな。野山で暮らしていた奴には勝てねえよ」

狐神「雌に負けるのは恥じた方が良い」

680 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 22:26:31.41 RJRubkLg0 1255/1313

お祓い師「……俺は頭脳派なんだよ」

狐神「……頭脳派? 誰が?」

お祓い師「俺がだって言ってんだろ」

狐神「……くくくっ……あははははっ!」

狐神「頭脳派……頭脳派と来たか! あはは! これはおかしい!」

お祓い師「笑いすぎだろう……」

狐神「いやいや、久々に面白い冗談を聞いたのでのう……!」

お祓い師「俺たち二人の中で相対的にって意味だ」

狐神「暗にわしが馬鹿だと言っておるな」

お祓い師「どちらかと言うと阿呆だな」

681 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 22:27:01.08 RJRubkLg0 1256/1313

狐神「変わらぬわ!」

お祓い師「悪かったから暴れるな。痛い」

狐神「あ、ああ、済まぬ」

お祓い師「お陰で眠気が覚めた」

お祓い師「いや嘘だ」

狐神「何も言わぬ前にばらすな阿呆」

狐神「まあ眠いのはわしもじゃ」

お祓い師「…………」

狐神「…………」

お祓い師「……なあ」

682 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 22:27:45.54 RJRubkLg0 1257/1313

狐神「なんじゃ?」

お祓い師「お前は楽しかったか? 俺と出会ってから今まで」

狐神「ふむ……」

狐神「何度も命の危機に瀕して、お互いすれ違いも有り怒る日もあれば泣く日もあった」

狐神「そんな日々のことかの?」

お祓い師「いや……なんかすまん……」

狐神「ふふっ……じゃが楽しか楽しく無いかで言えば、楽しかった」

狐神「史上の幸福というものでは無いのかもしれぬが、日々それなりに面白く過ごせたわい」

狐神「現に積もり積もった今日、こうやって笑えておる」

お祓い師「……そうか」

683 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 22:28:17.89 RJRubkLg0 1258/1313

お祓い師「それが聞けて安心した」

狐神「それではその問をおぬしにも聞くとしようか」

狐神「おぬしはどうであった? 今日までの日々は有意義なものであったか?」

お祓い師「……まあ、ぼちぼちだな」

お祓い師「ぼちぼち満足な毎日だったよ」

狐神「なんじゃあ。とても幸せでした~、と言えぬのか」

お祓い師「お前の返答と同じだろうが」

お祓い師「だがまあ……」

お祓い師「そんなぼちぼち幸せな毎日が送れて、今この瞬間は最高な日だって言えるな」

狐神「…………」

684 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 22:31:48.03 RJRubkLg0 1259/1313

狐神「それは、良かった……」

お祓い師「なんだ、泣いているのか?」

狐神「なっ、泣いておらぬわ! よく見ぬか!」

お祓い師「そうか……泣いてはいないか」

狐神「……おぬし……」

お祓い師「そういえば聞いたか? 狼男のところに孫が一人増えたらしいぞ」

狐神「む、そうなのか」

お祓い師「手紙が来ていたんだが読んでいないか」

狐神「あー、そういえば来ていたかもしれぬ」

お祓い師「孫……か……」

685 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 22:32:36.80 RJRubkLg0 1260/1313

狐神「どうしたのじゃ?」

お祓い師「いや、もういい加減俺たちの時代じゃないんだなって」

狐神「その身体でまだ現役のつもりじゃったのか?」

お祓い師「いやいや、まさか」

お祓い師「ただ時間の経過を実感しただけだ」

狐神「確かに人間は寿命が短いからのう」

狐神「人外は寿命が長いものが多いから、世代という概念はあまり無いかもしれぬ」

狐神「極端な例を除いてお互いの歳などあまり気にせぬしな」

狐神「まあ人の寿命が短いとは言ったが、生き物全体で見れば長い方ではあるがのう」

お祓い師「確かに、獣や鳥や魚や虫……そんなのはもっともっと短い時間を生きているな」

686 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 22:33:15.52 RJRubkLg0 1261/1313

狐神「わしの山の仲間も瞬く間に死んでいった」

狐神「たまたまわしが山の主として化けて出ただけで、場合が違えば百以上も昔にわしも失せていたじゃろう」

お祓い師「そうなっていたら俺とお前が出会うことも無かったか……」

狐神「くくっ、おぬしの寿命も随分と縮まっていたじゃろうな」

お祓い師「そうかもなあ」

お祓い師「随分とお前には助けられたよ」

狐神「それはお互い様じゃな」

狐神「おぬしがいなければあの山火事の時点で死んでおったわい」

お祓い師「あの時はコソ泥しに行っただけなのにな」

狐神「初めはの」

687 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 22:34:10.03 RJRubkLg0 1262/1313

狐神「じゃが二度目はわしを助けるために戻ってきてくれた」

お祓い師「……きっかけっていうのは分からないものだな」

狐神「全くじゃ。わしもあの時は目の前の金の亡者とつがいになるとは思ってもおらんかったわい」

お祓い師「夫に向かって酷い言いようだな……」

狐神「おぬしは金銭に関して意地汚すぎるのじゃ」

お祓い師「お前は考えなしに使いすぎだ」

狐神「そう言う割には最近はおぬしも幾分か羽振りがよかったがのう」

お祓い師「流石に若い頃のままという訳にもいかないだろう」

お祓い師「それに、皇国で広く言い伝えられている事によると、あの世に渡る時の賃金は大した額ではないらしいじゃないか」

お祓い師「年老いてから多くを抱えても無駄になる」

688 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 22:35:07.99 RJRubkLg0 1263/1313

お祓い師「遺す分は十分にあるからな……」

狐神「うむ……」

お祓い師「…………」

お祓い師「……なあ、狐神」

狐神「……なんじゃ」

お祓い師「今までありがとうな」

狐神「……突然別れの言葉のようなことを言いおって」

お祓い師「……ぼちぼちなんて言い方したが、俺にとっては十分すぎるぐらい幸せだったよ」

狐神「……勿論わしもじゃ」

お祓い師「お前と一緒にこうやって家庭を持てて、良かった」

689 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 22:36:25.78 RJRubkLg0 1264/1313

狐神「そんなの……わしから礼を言いたいぐらいじゃ……」

狐神「おぬしのお陰でわしは……」

お祓い師「狐神……聞こえているか……」

狐神「聞こえておる。わしはここにおるよ」

お祓い師「聞こえていたら、いいんだが……」

お祓い師「最期にもう一度だけ言わせてくれ……」

狐神「聞こえておる、大丈夫じゃ」

狐神「わしはここじゃ。手を握っておるよ」

お祓い師「狐神……」

狐神「うむ……なんじゃあ」

690 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 22:38:25.58 RJRubkLg0 1265/1313



お祓い師「…………愛している。ありがとう…………」


狐神「…………うむ、わしもじゃ…………」


お祓い師「…………」

狐神「…………」

狐神「おやすみ……お疲れ様じゃ……」

狐神「……“依り代”であるおぬしの力が消えた瞬間、急に意識が遠のいてきたのう……」

狐神「……じゃが流石に、同時には逝けぬか……」

狐神「……けほっけほっ……」

狐神「……なあ、おぬしよ」

狐神「……さっきおぬしは脇役だと言ったが……」

691 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 22:39:41.82 RJRubkLg0 1266/1313

狐神「……確かに英雄譚に語られる主人公では無かったが……」

狐神「……わしにとっては、おぬしが英雄じゃったよ……」

狐神「……わしの物語では、おぬしが英雄じゃった……」

狐神「…………愛しておるよ、わしだけの英雄…………」

狐神「……とんでもないお人好しの、おぬしが大好きじゃった……」

狐神「……わしも少々眠い……」

狐神「……久々に二人で眠るとしよう」

狐神「…………」

692 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 22:40:35.37 RJRubkLg0 1267/1313






男性の声「父さん、母さん、入るよ」

男性の声「母さん……?」

男性の声「……これは……」

男性の声「…………」

男性の声「……最期まで仲が良さそうで……」

男性の声「抱き合って寝るなんて本当に年甲斐が無い……」

693 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 22:41:05.19 RJRubkLg0 1268/1313

女性の声「どうかしたの?」

男性の声「うん。数日は少し忙しくなるかも」

女性の声「え……それって……」

男性の声「うん……」

男性の声「…………おやすみなさい、お父さん、お母さん」

男性の声「本当にお疲れ様」


《エピローグ・完》


695 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 22:48:57.66 RJRubkLg0 1269/1313

《猫》


※《妖刀》編の後に当たります


フードの侍「こっちの方だと思うんだけど見つからないなあ……」

フードの侍(長い間拠点にしていたあの町を出て既に二週間が経過したわけだけど)

フードの侍(国境を越えて帝国入りする前に一つ、目的の物があると私の身体は言っている)

フードの侍(ご主人様が打った刀の内、盗まれた物を回収するのが私の使命)

フードの侍(どういう訳か、私の身体はご主人様の刀がある場所がわかる)

フードの侍(刀を見つけたら売却のリストと比較して、それが盗まれたものだとしたら基本的には回収をしている)

696 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 22:50:23.66 RJRubkLg0 1270/1313

フードの侍「皇国内のは全部確認し終わったと思っていたんだけど、今回は運が良かったなあ」

フードの侍「しかしこの辺にあるはずなんだけど見当たらない……」

フードの侍「周りに民家があるような気配もないし、持ち運ばれている最中だと考えた方が良いかもね」

フードの侍「そうなると……うん。あの馬車が怪しいかも」

697 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 22:52:49.07 RJRubkLg0 1271/1313






フードの侍(うーん、あの馬車……普通の行商人の物じゃないね……)

フードの侍(全員武装しているし、何よりも……)

フードの侍(あの中に死体を積んでいる。猫又の嗅覚は死体には敏感だからわかるよ)

フードの侍(死体はまだ新しいもの……恐らく商品という訳では無いだろうね)

フードの侍(事情はわからないけど、邪魔になった人を処理したばかりって感じかな)

フードの侍(捨てないで持ち歩いているのは、さっきまで開けた土地だったから)

698 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 22:55:50.74 RJRubkLg0 1272/1313

フードの侍(森に差し掛かったから、この辺で捨てていくつもりなんじゃないかな)

フードの侍(ご主人様の刀があそこになるのは間違い無さそうだけど、正規に購入されたものである可能性は低いね)

フードの侍(ただしまだ可能性の話で、そうではなかった時は面倒なことになるから手出ししにくいなあ)

フードの侍(何より相手は人間だし……)

フードの侍(不意打ちなんかすれば“行商人に襲い掛かった悪い人外”の出来上がりだもん)

フードの侍(何なら中の死体も私のせいにされるかも)

フードの侍(うーん、困ったなあ……)

商人風の盗賊A「ん……?」

商人風の盗賊A「そこにいるのは誰だ!」

フードの侍(あっ、やばっ……!)

699 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 22:56:28.76 RJRubkLg0 1273/1313

商人風の盗賊B「どうした?」

商人風の盗賊A「そこの草むらに誰か隠れていやがる」

商人風の盗賊A「出てこないと鉛玉ブチ込むぞ」

フードの侍(参ったなあ……)

フードの侍(仕方がない、変声の札を使って……)

フードの侍「(待ってくれ。私はただの旅の者だ)」

商人風の盗賊B「ん? 随分とチビだな」

フードの侍「(…………)」

商人風の盗賊C「おい、どうするんだよこいつ」

商人風の盗賊B「丁度“荷物”を捨てるところだったんだ。こいつも片付けちまって問題ないだろう」

700 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 22:59:33.46 RJRubkLg0 1274/1313

商人風の盗賊C「へへっ、それもそうだな」

商人風の盗賊A「そういうことなら新調したこいつの試し斬りだ」

フードの侍(あの刀……! 見つけた……!)

商人風の盗賊B「オイオイ、それは今回売りに行くやつじゃねえか」

商人風の盗賊A「そのつもりだったんだが、一度手に持ってみたら妙に馴染んでな……」

商人風の盗賊A「取り分から差し引いていいから俺のものにさせて貰うぜ」

商人風の盗賊B「そんなに気に入ったって言うなら良いけどよお……」

商人風の盗賊A「避けんなよ。掠っただけじゃ斬れ味がわかりにくいからな」

フードの侍「(黙って斬られる奴があるか)」

商人風の盗賊C「おい、あのチビも刀を持ってやがるぜ」

701 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 23:00:17.42 RJRubkLg0 1275/1313

商人風の盗賊A「面白え……」

商人風の盗賊A「行くぜっ!」

フードの侍「(フン……!)」

商人風の盗賊A「受け流したか、やるじゃねえか!」

フードの侍(あの刀の力は何だ……。確認できるまでは不用意に踏み込めない……)

商人風の盗賊A「ボサッとしてんじゃねえよ! 次行くぜ!」

フードの侍(は、速い……!)

フードの侍「(ぐうっ……!)」

商人風の盗賊B「ん……?」

商人風の盗賊C「こいつ、フードの下を見れば人外の女じゃねえか!」

702 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 23:01:09.51 RJRubkLg0 1276/1313

商人風の盗賊C「低い声は何か術を使っていたのか」

商人風の盗賊B「かなりの上玉じゃねえか……。これはバラす前に楽しめそうだな」

商人風の盗賊C「オイオイ正気かよ。女とは言っても人外だぜ」

商人風の盗賊B「お前人外とヤッたこと無いのかよ?」

商人風の盗賊B「身体は無駄に頑丈だからな、多少雑に扱っても死なないから最高だぜ?」

商人風の盗賊C「それは……ククッ、面白そうだな」

フードの侍(分かり易い小悪党だね……。こんなのばっかり)

商人風の盗賊B「という訳だから、殺すなよ」

商人風の盗賊A「出来れば、な」

商人風の盗賊B「あ?」

703 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 23:01:46.33 RJRubkLg0 1277/1313

商人風の盗賊A「この刀、どういう訳か知らねえが使っていると気分が良い」

商人風の盗賊A「何なら斬り刻んでやりたいぜ……!」

商人風の盗賊B「まあほどほどにな」

商人風の盗賊A「オラア! 行くぞメスガキ!」

フードの侍「むっ、ガキじゃないよ!」

フードの侍「その刀、私のご主人様のものだから返して」

商人風の盗賊A「あ? お前この刀のこと知っているのか」

フードの侍「まあね」

商人風の盗賊A「こいつは最高だな……! 力がどんどん湧いてくる……!」

フードの侍(あの刀……恐らく憑依型だ……)

704 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 23:03:44.76 RJRubkLg0 1278/1313

フードの侍(辻斬りが持っていたのと同じタイプかもしれない……)

商人風の盗賊A「ちょ……ちょこまかよ逃げんるんじゃ、ねえよ……」

商人風の盗賊A「斬れねえ、だろうが……」

フードの侍(だけどあの感じは……)

商人風の盗賊A「クソッ……早く斬りてえ……! 斬り刻みてえ……!」

商人風の盗賊A「……あー……」

商人風の盗賊A「お、お前でいいや……クククッ……」

商人風の盗賊B「がっ……!? て、てめえ……!」

商人風の盗賊B「ごふっ…………」

商人風の盗賊C「何やってんだてめえ! 正気か!?」

705 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 23:04:34.81 RJRubkLg0 1279/1313

商人風の盗賊A「あ、あはあ……気持ちがいい……」

商人風の盗賊C「ち、近づくんじゃねえ……!」

商人風の盗賊A「キモチイ……キモチイイなあ……!」

商人風の盗賊C「おい……! やめろ……!」

商人風の盗賊C「ぐああああっ!!」

商人風の盗賊A「キモチイキモチイ……」

商人風の盗賊A「……ん……?」

商人風の盗賊A「あは……心臓突かれた」

商人風の盗賊A「ごはっ…………!」

フードの侍「注意が仲間の方に向いたお陰で楽に仕留められたかな」

706 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 23:05:26.97 RJRubkLg0 1280/1313

商人風の盗賊A「…………」

フードの侍「辻斬りと比べると自我がかなり無くなっている感じだった……」

フードの侍「今思えばあの辻斬りも刀に操られていたとはいえ、だいぶ相性が良かったのかもしれない……」

フードの侍「…………」

フードの侍(使用者に取り憑くこの刀……ご主人様は何でこんな物を作ったんだろう)

フードの侍(この間折った辻斬りの物以外にも何本か確認している……)

フードの侍(ご主人様の作った刀の内、死ぬ間際の作品の多くはこのタイプの刀だった)

フードの侍(一体何故……)

フードの侍(ご主人様と過ごしたあの日々で、何かきっかけになる出来事なんてあったかな……)

フードの侍(…………)

707 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 23:06:00.57 RJRubkLg0 1281/1313

フードの侍(……あれ……?)

フードの侍(今まで気にしたことがなかったけど、絶対おかしい……)

フードの侍(私、ご主人様とどれだけ一緒に過ごしていたんだ……?)

フードの侍(一番古い記憶はご主人様がまだ幼い頃……よく遊び相手になっていた……)

フードの侍(そしてご主人様が亡くなったのは、三十歳に差し掛かる手前……)

フードの侍(私が今の姿になったのは、ご主人様が亡くなった後……餓死した後に目覚めたらこの体だった)

フードの侍(つまり私は猫の姿で三十年近く生きていたってこと……!?)

フードの侍(幾らなんでも有り得ない……猫はそこまで長寿じゃない)

フードの侍(…………)

フードの侍(まさか……いやでも……)

708 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 23:06:48.05 RJRubkLg0 1282/1313

フードの侍(もしかして、私は今の姿になる前も人外だったのでは……!?)

フードの侍(妖刀や魔剣などに対して嗅覚が優れるようになったのは、ご主人様の無念を晴らすために芽生えた能力)

フードの侍(つまり今の姿に生まれ変わった時に手に入れた力)

フードの侍(それなら、死体に対して敏感な嗅覚が元々私にある力……)

フードの侍(私はただの飼い猫が死んで人型の化け猫になったのではなく、猫又が死んで人型に生まれ変わったってこと……?)

フードの侍(なんでそんな事を忘れていたんだろう……生まれ変わった時に記憶に欠落があったのかな……)

フードの侍(……猫又と普通の猫を見間違えるはずがない。つまりご主人様は私を猫又と知って一緒に居続けたってこと?)

フードの侍(何か……何か思い出せそうな……)

フードの侍(ご主人様……)

709 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 23:07:15.72 RJRubkLg0 1283/1313






猫又「にゃあ」

妖刀の刀鍛冶「ああ、ごめんごめん」

妖刀の刀鍛冶「仕事に熱中しちゃってね。今からご飯を作るよ」

猫又「にゃあ」

妖刀の刀鍛冶「さて、今晩は何にしようかな……ゲホッゲホッ」

猫又「にゃあ!」

710 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 23:07:50.79 RJRubkLg0 1284/1313

妖刀の刀鍛冶「ゴホッ……大丈夫だよ、心配しないで。栄養のたくさんあるものを食べないとね」

猫又「にゃあ……」

妖刀の刀鍛冶「お前は昔から変わらず元気でいいね」

妖刀の刀鍛冶「ああいや、皮肉とかでは無いよ」

妖刀の刀鍛冶「お陰様で毎日楽しいからね」

猫又「にゃあ……」

妖刀の刀鍛冶「願わくば、意思疎通ができれば良いんだけどね。私はお前の考えていることは詳しくはわからないから」

猫又「にゃ!」

妖刀の刀鍛冶「ああ、早くご飯にしろって?」

猫又「にゃあ!」

711 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 23:08:16.76 RJRubkLg0 1285/1313

妖刀の刀鍛冶「おや、違ったか。難しいなあ」

妖刀の刀鍛冶「…………」

妖刀の刀鍛冶「……お前が人間になるのは無理だろうけど」

妖刀の刀鍛冶「私が人外になったら、お前の気持ちもわかるようになるだろうか……」

猫又「にゃあ……」

妖刀の刀鍛冶「うん、まあ取り敢えずご飯にしようか」

妖刀の刀鍛冶「…………」

妖刀の刀鍛冶「私は所詮刀鍛冶だ。そんなことは無理に決まって……」

妖刀の刀鍛冶「……いや、もしかしたら……」

妖刀の刀鍛冶「……やってみる価値はあるかもしれない」

712 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 23:09:39.05 RJRubkLg0 1286/1313






フードの侍「…………」

フードの侍「この記憶は……」

フードの侍(……ご主人様があの忌まわしい妖刀を作っていたのは、人外に近付くためだった……?)

フードの侍(私の気持ちを知るために……)

フードの侍(…………)

フードの侍(こんな危険な刀は辻斬りの時みたいに直ぐに折るべきなんだけど)

フードの侍(今回は、今回だけは他のと一緒に持って行こうかな……)

フードの侍(これは、ご主人様の成し遂げられなかった想いの形だからね)

713 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 23:10:08.13 RJRubkLg0 1287/1313






フードの侍(ようやく森を抜けられた)

フードの侍(帝国との国境も目の前まで迫っているな)

フードの侍(刀は皇国外では珍しいものだから高値で取引されているらしい)

フードの侍(探している盗品の刀の中には、さっきみたいな堅気じゃない商人が国外で売りさばいた物もあるはず)

フードの侍(大変だけど、大陸中を旅して見つけ出さなくちゃ)

フードの侍(それが今の私が生まれた理由だから)

714 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 23:11:59.49 RJRubkLg0 1288/1313

フードの侍(…………)

フードの侍(……終わったら、全てが終わったらどうすれば良いんだろう)

フードの侍(今の私が生きている理由が無くなったら、その後はどうやって生きていけば良いんだろう)

フードの侍(……生きている理由が無くなったなら死んでしまっても良いのかな)

フードの侍(そうすればご主人様とも……)

フードの侍(……いや、違う)

フードの侍(あの狐の神さまも、本来の生きる理由はとっくに失われていた)

フードの侍(だけど彼女は今も生きている)

フードの侍(理由は新しく作ればいい。もしかしたら、理由なんてそんな重要なものじゃないのかもしれない)

フードの侍「……うーん、そうだなあ」

フードの侍「彼女みたいに、恋をしてみるのも有りかもしれないな」

フードの侍「……さて、帝国を目指して行きますか!」

715 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 23:13:19.76 RJRubkLg0 1289/1313

《九尾》


※本編の三十年程前です


氷の退魔師(たまたま帝国に居る時にこんなデカい案件が来るとはな……運がいいぜ……)

氷の退魔師(元魔王軍の四天王、九尾の目撃情報か……)

氷の退魔師(滅してやんなきゃ先祖に顔向けできない。なんて言ったってうちの先祖は……)

帝国退魔師協会の組員A「あここにおられましたか氷の退魔師殿」

氷の退魔師「ああ、どうかしたのか」

帝国退魔師協会の組員A「ええ。皇国から例の方々が到着しました」

716 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 23:14:10.03 RJRubkLg0 1290/1313

氷の退魔師「陰陽師ってやつか……わかった今行く」

氷の退魔師(陰陽師……皇国独自の退魔集団……)

氷の退魔師(九尾の出自が皇国だから呼ばれたらしいが、果たして実力の方はどんなものかな)

長髪の陰陽師「おや、貴方が氷の退魔師殿ですか?」

氷の退魔師「ああ。あんたが皇国から来た陰陽師か」

長髪の陰陽師「ええ。よろしくお願い致します」

氷の退魔師(こいつ……優男に見えてかなりの使い手だ……)

長髪の陰陽師「流石、噂に聞く退魔師一族の当主ですね。感じるオーラが一般のそれとは違います」

長髪の陰陽師「若いのに凄まじいものです」

氷の退魔師「ふん。それはあんたもな」

717 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 23:14:42.94 RJRubkLg0 1291/1313

長髪の陰陽師「いえいえ。私なんてまだまですよ」

氷の退魔師(実力があるくせに謙遜する奴は苦手だ。底が知れなくて気味が悪い……)

氷の退魔師「まあいい。本題に移ろう」

長髪の陰陽師「ええ」

長髪の陰陽師「今回目撃情報があったという九尾について、ご存知の内容も多いとは思いますが、私の方から簡単に説明させていただきます」

長髪の陰陽師「まず九尾というのは皇国で生まれたとされる化け狐です」

長髪の陰陽師「その名の通り九つの尾を持つ狐で、皇国では人に害をなす物の怪であるとも、天からの使いの神獣であるとも考えられています」

氷の退魔師「はっ、魔王軍四天王の内の一体が天からの使いとは笑わせるな」

長髪の陰陽師「確かに現代に一般的に伝わる書物には、九尾は魔王軍の幹部として猛威を振るったと記されていますね」

氷の退魔師「……何が言いたい」

718 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 23:17:33.73 RJRubkLg0 1292/1313

長髪の陰陽師「会ってみないと分からない、ということですよ」

氷の退魔師「……皇国には人外と共生する文化がある土地が多いと聞くが、ちょっとボケてんじゃねえのか?」

氷の退魔師「相手は人外、更には魔王軍の幹部だぞ? 話し合ったら仲良しこよし出来るかもしれないって思ってんのか?」

長髪の陰陽師「それはわかりません。しかし相手を知らずに事を進めていくのは良くない」

長髪の陰陽師「人間にだって良い者と悪い者がいます。彼らだって同じなのですよ」

氷の退魔師「ちっ、話にならないな」

氷の退魔師「俺は別行動を取らせてもらう」

長髪の陰陽師「それは駄目です」

氷の退魔師「駄目って言ったってなあ……」

長髪の陰陽師「九尾の説明の続きを聞いてください」

719 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 23:18:53.65 RJRubkLg0 1293/1313

長髪の陰陽師「九尾の名は千年前の魔王軍の件以前にも、以降にも幾度登場しています」

長髪の陰陽師「そして九尾の現れた国は滅ぶとされており、それ故に厄災を運ぶと言われています」

氷の退魔師「おいおい。完全に悪い狐で決定だろう」

長髪の陰陽師「まあ伝承に過ぎませんから」

氷の退魔師「…………」

長髪の陰陽師「そして九尾が国を滅ぼした方法ですが、これは色香によるものだと言われています」

長髪の陰陽師「九尾は非常に美しい女性の姿を取ることが出来ると言われており、魅了の力を以って王や領地の当主を堕落させて国を衰退させたと言われています」

長髪の陰陽師「今回は個人が勝手な行動を取った場合、その魅了の力にやられてしまったと判断します」

氷の退魔師「ここの全員が敵の術中に嵌まる可能性のほうが高くないか?」

長髪の陰陽師「勿論、実動隊と待機組に分けて全滅は避けるようにしますし、隊には精神系の術に特化した者を連れて行きます」

720 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 23:19:39.52 RJRubkLg0 1294/1313

長髪の陰陽師「伝説の物の怪にどれ程対応できるかはわかりませんが」

長髪の陰陽師「取り敢えず今回は我々に従って頂けますか?」

長髪の陰陽師「何か問題があれば次は貴方の立案に従いましょう」

氷の退魔師「…………」

氷の退魔師「……わかったよ。取り敢えずは従おう」

721 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 23:20:16.64 RJRubkLg0 1295/1313






帝国退魔師協会の組員A「目撃情報があった場所はもうすぐです」

氷の退魔師「同じ場所に留まっているとは考えにくいが……」

長髪の陰陽師「もしいたとすれば、何らかの理由があるということでしょうね」

氷の退魔師「ん……? 向こうに何か……」

長髪の陰陽師「廃村……ですかね」

氷の退魔師「あそこが根城だったのかもしれないな」

722 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 23:20:46.55 RJRubkLg0 1296/1313

長髪の陰陽師「止まってください。誰かがいます」

氷の退魔師「あれは……」

栗毛の男の子「ひっ、人攫い……!」

氷の退魔師「子供……?」

栗毛の男の子「助けて……!」

長髪の陰陽師「落ち着いてください。私たちは悪い人じゃありませんよ」

氷の退魔師「…………」


???「人の子よ、お逃げなさい」


氷の退魔師「…………!?」

長髪の陰陽師「後ろへ避けてください!」

723 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 23:21:27.00 RJRubkLg0 1297/1313

氷の退魔師(地面が抉れた……!)

???「さあ、皆の所へお逃げなさい」

栗毛の男の子「う、うんっ……!」

氷の退魔師「なるほど、お前が……」

???九尾「こんな僻地に随分と大所帯で何の用かしら」

九尾「悪いけれどこの先へ通すわけにはいかないの」

九尾「お帰り願うわ!」

氷の退魔師「こっちもそういう訳にはいかなくてね!」

長髪の陰陽師(くっ……! 話す間もなく……!)

帝国退魔師協会の組員A「うっ、うわああああっ!?」

724 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 23:23:55.84 RJRubkLg0 1298/1313

帝国退魔師協会の組員A(一撃でさっきまで木が生い茂っていた所が更地に……!?)

帝国退魔師協会の組員A(なんて力なんだ……! これがSランク同士の闘い……!)

氷の退魔師(向こうはいわゆる神通力って奴を使っているのか……)

氷の退魔師(畜生の分際で神の力を名乗るとはな……!)

氷の退魔師(魅了の力とやらを使われる前に、殺す!)

九尾「先頭の二人は人間にしてはかなりやるわね」

氷の退魔師「余裕ぶっこいてんじゃねえぞ……すぐに殺してやる……」

九尾「お前さんの力はどこか懐かしい感じがするわね」

氷の退魔師「……残念だが初対面だ」

氷の退魔師(口車に乗せられるとまずい……早く片付けないと)

725 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 23:24:25.14 RJRubkLg0 1299/1313

九尾「ああ、“彼”の子孫ね」

氷の退魔師「……!」

九尾「流石に千年経った後の子孫じゃ顔も似てないし、性格もぜんぜん違うけど」

九尾「感じる雰囲気は彼そっくりね」

氷の退魔師(落ち着け……魔王軍の四天王ならうちの先祖を知っててもおかしくない……)

氷の退魔師(目の前のやつが敵であるということに変わりはない)

九尾「ちょっと焦って攻撃しちゃったけど、よく見ると勘違いだったようね」

九尾「悪かったわ。ここまでにしましょう」

氷の退魔師「なっ……!」

氷の退魔師(どういうつもりだ……)

726 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 23:25:14.83 RJRubkLg0 1300/1313

長髪の陰陽師「良かった……我々も争いに来たわけでは無いのです」

九尾「それでは何の用でこんな所まで?」

長髪の陰陽師「貴女に用事があるのは確かなのですが……そうですね……」

長髪の陰陽師「オウム返しで申し訳ないのですが、貴女は何故こんな所にいるのですか?」

長髪の陰陽師「伝説の妖狐が潜んでいるとなると、我々人間も気が気で無いので……」

九尾「なるほど。そうねえ……」

九尾「ここに留まっているのはさっきの子供達のためよ」

長髪の陰陽師「先ほどの子供は人間の子のようでしたが、一体何が……?」

九尾「予想はついている思うけれど、孤児よ」

九尾「麓の町は路地で寝るには少し物騒な所だから、山の中の廃墟の方がまだ安全だと思ってここを根城に生活しているみたい」

727 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 23:26:00.49 RJRubkLg0 1301/1313

長髪の陰陽師「人伝に聞いた話ですが、鉱山が駄目になって失業者で溢れてしまったようですね」

九尾「そうみたいね」

九尾「あの子達は身寄りのない者同士で集って何とか暮らしていたみたいなんだけどね」

九尾「この辺りも最近安全じゃなくなってしまったの」

長髪の陰陽師「伝説級の危険な人外でも出たんですかね」

九尾「ふふっ、面白い冗談ね」

九尾「残念ながら今回問題になっているのはどうやら人間のようなの」

長髪の陰陽師「人間……盗賊なんかでしょうか」

九尾「まあ似たようなものね」

九尾「最近この辺りに人攫いが出ているらしいの」

728 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 23:26:41.36 RJRubkLg0 1302/1313

長髪の陰陽師「なるほど人攫いですか……」

九尾「それであの子たちが困っている所に、偶然私が通りかかったから今は面倒をみているの」

長髪の陰陽師「そのようなことが……」

氷の退魔師「信用できないな」

九尾「…………」

長髪の陰陽師「氷の退魔師殿……」

氷の退魔師「女狐が子供を善意から保護している保証なんてどこにもない」

氷の退魔師「もしかしたら保存食程度に考えているかもしれないだろう」

長髪の陰陽師「さっきの子供の感じからは大丈夫そうでしたが?」

長髪の陰陽師「一旦討伐作戦は中止としましょう」

729 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 23:27:14.20 RJRubkLg0 1303/1313

氷の退魔師「お前、お人好しが過ぎるんだよ……騙されやすい性格だぜ」

氷の退魔師「大体、こんな最高の獲物を前に引き下がれるかよ」

九尾「…………」

長髪の陰陽師「……退魔師殿!!」

氷の退魔師「っ……!」

氷の退魔師「てめえ、何しやがる……!」

長髪の陰陽師「いい加減にしてください!」

氷の退魔師「……!」

長髪の陰陽師「……人外退治を愉しまないでください。彼女には敵意が無いのがわからないのですか」

氷の退魔師「……魅了の力にやられたんじゃねえだろうなお前……」

730 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 23:31:05.04 RJRubkLg0 1304/1313

長髪の陰陽師「後ろに控えさせている子が反応していないのでそれはないです」

長髪の陰陽師「話がややこしくなりそうだったので黙っていましたが、私の部下には淫魔がいます」

長髪の陰陽師「たとえ相手の格が違っても反応ぐらいは出来るはずです」

氷の退魔師「淫魔の部下だと……」

長髪の陰陽師「人外を従えてはならないという規約はありませんからね」

氷の退魔師「…………」

氷の退魔師(陰陽師の言うことを信じるとすれば……)

氷の退魔師(敵意がないだと……人外のこいつが……?)

九尾「…………」


栗毛の男の子「お、お姉さんから離れろ!」

栗毛の女の子「そ、そうだ! お姉さんに酷いことしないで!」

731 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 23:31:59.24 RJRubkLg0 1305/1313

氷の退魔師「……! さっきの……」

九尾「二人共出てきては駄目だと言ったでしょう」

栗毛の男の子「で、でも……!」

栗毛の女の子「こいつら悪い奴らだよ!」

九尾「大丈夫よ、ちょっと勘違いがあっただけだから」

氷の退魔師「…………」

九尾「……私のことが信用できないという気持ちは分かるけれど」

九尾「一旦休戦してくれないかしら。この子たちを巻き込んでしまうわ」

氷の退魔師「……案内しろ」

氷の退魔師「子供たちの所に案内しろ。自分の目で見て判断する」

732 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 23:33:19.17 RJRubkLg0 1306/1313

九尾「……丁度いいわ。相談したかったこともあるから」

長髪の陰陽師「相談ですか?」

九尾「ええ、この先のことで少し」

733 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 23:34:57.30 RJRubkLg0 1307/1313






氷の退魔師「こんなに子供が……」

九尾「鉱山に関わる仕事は危険が多いから、この子たちみたいな孤児が増えやすいの」

九尾「最近は随分と人間の技術も上がってきて、需要が急激に増えているから無茶な作業も多いみたいね」

氷の退魔師「ああ。特に石炭の需要が増えているらしい」

九尾「あら。さっきと打って変わってちゃんと会話してくれるのね」

氷の退魔師「子供たちの衣服が清潔なものだし、不健康な痩せ方もしていない……」

734 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 23:35:41.19 RJRubkLg0 1308/1313

氷の退魔師「少なくともちゃんと面倒をみているということはわかった」

九尾「わかって貰えてたようで何よりだわ」

九尾「それで相談というのが、あの子たちに関する事なんだけれども」

九尾「私はこの先ずっとここに留まる訳にもいかないの。だけどあの子たちをここに置いて行くのは心配で……」

氷の退魔師「なるほどな……」

氷の退魔師「俺の知り合いに孤児院をやっている奴が居るが、紹介してもいいぞ」

九尾「あら、それは助かるわ」

長髪の陰陽師「これで解決ってことで良さそうですね」

氷の退魔師「わざわざ王国から呼ばれて来たのに、これは退魔師の仕事じゃねえな……」

長髪の陰陽師「たまにはこういう事も有りますよ」

735 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 23:36:38.31 RJRubkLg0 1309/1313

氷の退魔師「まあ、たまには悪くもないな」

長髪の陰陽師「でしょう?」

氷の退魔師「ああ」

氷の退魔師「…………」

氷の退魔師「……あんたみたいな考え方っていうのは、やっぱり皇国だから育まれるものなのか?」

長髪の陰陽師「どうでしょうね……別に国は関係ないと思いますけれど」

長髪の陰陽師「皇国の文化について知りたいなら、九尾さんに道すがら聞いてみてはどうでしょうか」

長髪の陰陽師「私よりもずっと詳しいはずですよ」

九尾「それは暗に私が年寄りだと言っているのかしら?」

長髪の陰陽師「まあ年の功と言いますし」

736 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 23:38:19.44 RJRubkLg0 1310/1313

九尾「最初は金髪の方が失礼な奴だと思ってたけれど、長髪も長髪でムカつくわね……」

氷の退魔師「待て、道すがらってどういう意味だ」

長髪の陰陽師「お二人で子供たちを孤児院まで連れて行くのでしょう?」

氷の退魔師「俺はそんなつもりじゃ……」

九尾「ええ、そうよ」

氷の退魔師「なっ、お前……!」

九尾「私も初対面の人は信用できないもの。ね?」

氷の退魔師「ぐっ……」

九尾「そういう訳でしばらくよろしくね、退魔師さん?」

氷の退魔師(面倒事の予感……!)

737 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 23:39:04.15 RJRubkLg0 1311/1313






氷の退魔師「……と、まあ。こんな感じで何やかんやあって今にい至るわけだ」

お祓い師「何があったら結婚まで到れるんだよ……」

氷の退魔師「親の惚気話なんか聞きたいか?」

お祓い師「……遠慮していおく」

氷の退魔師「だろ?」

お祓い師(今の話からどうやったらこんなデレデレジジイになるのかは少し気になるが……)

お祓い師(長くなりそうだし、聞くとしても別の機会だな……)

738 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/23 23:42:41.98 RJRubkLg0 1312/1313

以上で書き溜めていた短編も含めて完全に終了です。
二年近くもお付き合い頂きありがとうございました。

以下sage進行でだらだらと呟いていきます。
早くhtml化しろと怒られそうですが許してください。

746 : ◆8F4j1XSZNk - 2017/08/24 00:45:51.53 iDBbA+UJ0 1313/1313

最終的なランクを載せ忘れていたので上げてきます


S2 九尾
S3 氷の退魔師 長髪の陰陽師 

A1 赤顔の天狗 共和国首都の聖騎士長 
A2 辻斬り 肥えた大神官(悪魔堕ち) レライエ
A3 西人街の聖騎士長 お祓い師(式神) 赤毛の術師 赤鬼青鬼

B1 狼男
B2 お祓い師 トロール
B3 フードの侍 小柄な祓師 

C1 下級悪魔 エルフの弓兵
C2 マタギの老人
C3 河童 商人風の盗賊

D1 若い道具師 ゴブリン
D2 狐神 青女房
D3 化け狸 黒髪の修道女 天邪鬼 泣いている幽霊 蝙蝠の悪魔

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