あやめ速報-SSまとめ-

お嬢様「この影慶という方、渋くてカッコイイし、毒手も素敵ですわ」

お嬢様「変装してるのに毒手で正体バレちゃうのもお茶目ですわ」

お嬢様「そうですわ！　私も毒手を習得いたしますわよ！」

お嬢様「ええと、影慶さまの穿凶毒手は、象をも即死させる猛毒を手にふりかける」

お嬢様「手っ取り早くていいですわね！」

お嬢様「シバザキ！　執事のシバザキはいまして！？」

シバザキ「はっ、ここに」

お嬢様「象をも即死させる猛毒をご用意なさい」

シバザキ「かしこまりました、丁度ここに猛毒の瓶がございます」

お嬢様「では早速ふりかけてみましょう」ダバダバ

お嬢様「（ばたっ）」

お嬢様「あやうく死にかけましたわ」

お嬢様「毒薬をふりかけるのは良くないですわね、振りかけたら皮膚からガンガン吸収されましたわ」

お嬢様「そういえば、影慶さまも死を覚悟した技として使ってましたものね」

お嬢様「他に参考になる書物はないかしら」

お嬢様「ググってみたら分かりましたわ、闘将!!拉麺男という漫画に毒手が出てくるそうですわ」

お嬢様「シバザキ！　いくらかかっても構いませんわ、その漫画をご用意なさい」

シバザキ「はっ、ただちに」

シバザキ「お嬢様、手に入りましてございます」

お嬢様「コンビニコミックですの？　まあいいわ」

お嬢様「ふむふむ、毒狼拳蛾蛇虫、この方が毒手の使い手ですのね」

-二時間後-

お嬢様「やっぱりクソかっけぇですわ！！！！！」

お嬢様「復讐のため、決死の覚悟で毒手を身につけるシーンは涙が止まりませんわ！」

お嬢様「でも左腕を失ってるのに、なぜ次の話で普通に治ってるのかしら…？」

お嬢様「そういえば流星拳の砲岩も何度も死んでるのに、次の話で普通に出てくるし…」

お嬢様「まあいいですわ、ええと蛾蛇虫の毒手は」

お嬢様「まず煮えたぎった油に手を突っ込み、火傷を負わせる」

お嬢様「そして毒グモ、毒草から集めた毒に手を突っ込み、傷口から毒を染み込ませる…」

お嬢様「分かりましたわ！　シバザキ！」

シバザキ「はっ、ここに」

お嬢様「煮えたぎった油と、毒の粉末をたっぷりご用意なさい」

シバザキ「用意できております」グラグラ　ボコボコ

お嬢様「気が利くわね」

お嬢様「ではさっそく、えいっ」ザボン

お嬢様「熱っっついですわああああああああああああああああああああああああああ」

お嬢様「はあはあ、なんてエグい熱さですの、意識飛ぶかと思いましたわ」

お嬢様「蛾蛇虫さまはこれを一日44回も繰り返すなんて、パない根性ですわ」

お嬢様「ダメですわ…ひ弱な私ではとてもマネできませんわ」

お嬢様「別の方法を探しましょう」

お嬢様「……」

お嬢様「とうっ」ザボン

お嬢様「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛！！！！」

お嬢様「グラップラー刃牙にも毒手が出てくるそうですわ」

お嬢様「シバザキ！」

シバザキ「はっ、すでに用意してございます」

お嬢様「あなたコンビニコミックにこだわりでもあるの？　まあいいわ」

-三時間後-

お嬢様「クッッッソかっけえですわ！！！」

お嬢様「柳龍光というおじさま、渋くて素敵ですわ」

お嬢様「しかも今回は修行の方法が書いてありますわ、これは参考になりますわ」

お嬢様「ええと、毒虫や毒草など、天然の毒物をすりつぶして砂に混ぜる」

お嬢様「それに貫き手を行う、簡単ですわね」

お嬢様「まずは毒虫や毒草をすりつぶして砂に混ぜるんですわね、シバザキ！」

シバザキ「お嬢様、全てここに。ゴマすりとすりこぎも用意しています」

お嬢様「あら気が利くわね、こんなに山盛りに」

お嬢様「さっそくすり潰しますわよ」ゴリゴリプチプチ

お嬢様「おえええええええええええええええええええ」

お嬢様「はあはあ、き、急に拒否反応が来ましたわ」

お嬢様「毒虫ってなんでこんなエグい見た目してますの」

お嬢様「でも負けませんわああああああああ」ゴリゴリゴリゴリ

お嬢様「おｒｒｒｒｒｒｒｒ」

お嬢様「できましたわ、これを砂に混ぜますわよ」

お嬢様「ええと、これを数分おきに突き、薬草を溶かした水での洗薬を繰り返す」

お嬢様「薬草って具体的に何なのかしら？　まあ手ピカジェルでいいですわね」

お嬢様「やりますわよおおおおおおおおおおおおおおお」ザクッ　ザクッ　ザクッ

お嬢様「今日で五日目…。おかしいですわ、手がサツマイモ色になりませんわ」

お嬢様「しかもパない頭痛がガンガンしてますし、体もだるいし血尿も出てますわ」

お嬢様「でも負けませんわよ！」ザクッ　ザクッ

お嬢様「（ばたっ）」

お嬢様「やっと退院できましたわ」

お嬢様「お医者様に変人を見るような目をされたのが屈辱ですわ」

お嬢様「……」

お嬢様「やはり、ちゃんとした文献に当たらないといけませんわね」

お嬢様「調べたところ、毒手は少林拳にルーツがあるそうですわ」

お嬢様「シバザキ！」

シバザキ「はっ、ここに」

お嬢様「先日命じましたわね、毒手についての文献は手に入りまして？」

シバザキ「はっ、用意してございます」

お嬢様「さっそく読んでみますわ」

お嬢様「ええと、五毒を砂鉄と泥を混ぜたものに加え、薬湯で手を洗いつつ貫き手を行う、これを長年続ければ功成る」

お嬢様「五毒とはムカデ、サソリ、ヘビ、ヤモリ、ガマという５つの毒を持つ生物を指す」

お嬢様「これだけですの？」

お嬢様「ちょっとヤフー知恵袋でも聞いてみますわ」


――毒手は手に毒を染み込ませるような武術ではありません


お嬢様「えっ」

――毒手は五毒手、または朱砂掌とも呼ばれ、砂鉄や砂に貫き手を行い、手を鍛える修行です

――その要旨は指を鍛えることのみであり、傷ついた指を薬湯で洗いながら修行したことで、毒を中和させていると誤解されたのでしょう

――毒の作用で皮膚を固くしたり、痛みを麻痺させる意味もあるかもしれませんが、それは熱湯や、熱した砂に貫き手を行うのと同じです

――いわゆる理論だけの苦行の一つ、何かしらの効果を狙ったものとは思えませんし、実際に行われたかどうかも疑問です

――中郷拳法にはこうした苦痛を与えるだけの、効果が眉唾ものの修行もたくさんあるのです

――そもそも、相手を毒殺したいなら毒を塗った武器を隠し持つなり、爪に毒を塗るほうがよほど確実でしょう

――ちゃんとした文献には、漫画で言うような毒手が使われた記録はありませんからね


お嬢様「そんな……」

お嬢様「民明書房に嘘があると言うの…？」

――さらに言えば、毒手の元祖と言われる闘将!!拉麺男の蛾蛇虫も映画「片腕ドラゴン」が元ネタです

――これは毒液を振りかけて手に毒を染み込ませるのではなく、手を鋼鉄のように固くする薬品をふりかけるものでした

――そこからゆでたまご先生が発想したのが毒手ではないでしょうか

――もっと古い漫画にも似たようなアイデアはありますが、文献に依っているものとは言い難く……


お嬢様「…………」

お嬢様「何てことですの」

お嬢様「おかしいと思いましたわ、なぜ漫画の資料しか見つからないのか…」

お嬢様「中国から渡ってきたはずなのに、カンフー映画にもほとんど登場しませんし…」

お嬢様「毒手は幻の拳法ですのね……」

お嬢様「…………」

お嬢様「いいえ！」

お嬢様「今まで幻だったからと言って、これから生まれないとは限りませんわ！」

お嬢様「この私が！　毒手の創始者となれば良いのですわ！！」

お嬢様「やりますわよおおおおおおおお！！！！！」

お嬢様「整理してみましょう」

お嬢様「毒手の目的はおもに２つですわ」

お嬢様「一つは遅効性の毒、じわじわと死に至らしめる毒を送り込むことで、一撃を与えれば相手がやがて死ぬようにする」

お嬢様「相手を一度傷つけ、すぐに逃げる、そして相手が弱って死ぬのを待つ、というヘビのようなやり方ですわね」

お嬢様「柳龍光や蛾蛇虫の毒手がこれですわ」

お嬢様「もう一つは即効性の毒、かすっただけで相手を即死させる」

お嬢様「影慶さまのはこっちですわね」

お嬢様「…ですけど、どう考えても、それほどの猛毒を手に染み込ませつつ、自分は耐性を持っている、というのは無理がありますわ」

お嬢様「……」

お嬢様「いえ、よく考えたら、死なせる必要はないのですわ」

お嬢様「即効性のあるしびれ薬などで、相手の動きを止めれば勝ったも同然ですものね」

お嬢様「例えばフグ毒のテトロドトキシン、ボツリヌス菌のボツリヌス毒素などは強い筋弛緩作用があり、血中に入れば動けなくなりますわ」

お嬢様「多量なら呼吸も停止して死に至る…」

お嬢様「トリカブトなどは逆に神経を過敏にさせて激しい痙攣を起こす…、他にもツキヨタケ、アカエイの尻尾の毒…」

お嬢様「……」

お嬢様「ダメですわ」

お嬢様「これは、致死性の毒が少量ならしびれ薬にもなる、というだけの話ですわ」

お嬢様「当たり前ですけど、相手に打撃で打ち込む毒と、私の手が含むことになる毒の量は桁違い……」

お嬢様「体を多少、慣らしたとしても、毒手になる前にあの世行きですわ…」

お嬢様「動きを止める……」

お嬢様「傷口にすり込む……」

お嬢様「…………」

お嬢様「……あ」

お嬢様「痛み……塩…？　いえ、辛子のような……」

お嬢様「そうですわ！！」

お嬢様「相手の体に傷とともに唐辛子を擦り込めば、激痛で動きが止まりますわ！」

お嬢様「しかも唐辛子ならそれほど有害でもないし、痛みは修行の間に慣れていきますわ！！」

お嬢様「シバザキ！！」

シバザキ「は、ここに」

お嬢様「唐辛子を大量に用意なさい！」

シバザキ「かしこまりました」



お嬢様「用意できましたわ！」

お嬢様「この壺に満たした唐辛子に、15分おきに100回の貫き手を行うのですわ！！」

お嬢様「やりますわよおおおおお！！！！」　ザクッ　ザクッ　ザクッ

お嬢様「あああああああ手が痛いですわあああああああああ」

お嬢様「焼けるように熱いですわああああああああああ」

お嬢様「なんのおおおおおおおおお」ザクッ　ザクッ　ザクッ

-１ヶ月後-


お嬢様「ついに完成しましたわ！」

お嬢様「このワインのように赤い手！」

お嬢様「これで打たれれば焼けるような激痛が走りますわ！」

お嬢様「しかも！　麻痺して感覚のなくなった私は痛くも痒くもありませんわ！」

お嬢様「そう…影慶さまの穿凶毒手になぞらえて」

お嬢様「鮮紅毒手と名付けますわ！！」



お嬢様「これならいけますわ！！」

お嬢様「今度こそ勝ってみせますわ！　わが終生のライバルに！！」

お嬢様「そこのあなた！　お待ちなさい？」

？？？「わっ、なになに？　急にどうしたの？」

お嬢様「勝負ですわ！」

お嬢様「私が新しく身に着けた奥義によって、今日こそあなたに勝ってみせますわ！」

？？？「うん、わかった！　受けて立つよ！！」




お嬢様「行きますわよ！　さくらさん！！」



（おしまい）