勇者「やっぱり子供は最高だね」戦士「んえ?」【前編】

272 : ◆O3m5I24fJo - 2017/04/12 21:36:03.51 OJWasiXIo 205/578


【ある秋の日】

女子大生「アポロンせんせーい!」

女子大生「エリウス君が図書館前で半裸になって全身に銀杏塗ったくってます!」

詩人「なんだって」

――図書館前

詩人「どうしてそんなことをしているのだね」

長男「……いいにおいでしょ」

詩人「君の感覚が独特なのは知っているがね」

273 : ◆O3m5I24fJo - 2017/04/12 21:36:44.67 OJWasiXIo 206/578


長男「……言い寄ってくる女が多すぎてうざったくて」

詩人「人が近づいてこないように銀杏のにおいを付けていたのかね」

長男「……普通の人はかぶれるから俺に触ることもできないです」

詩人「しかしだね……モテすぎるが故の苦悩はすっっっごぉぉぉぉぉく」

詩人「すごおおおおおおおおおおおおおおおくよくわかるがね」

女子大生「え?」

詩人「それでは共に講義を受ける学生達に迷惑だろう」

長男「……俺は散々迷惑かけられてます」

詩人「無関係の人間まで巻き込んではいけないよ」

長男「…………」

詩人「とにかくやめたまえ。そして体育館のシャワー室に行きたまえ」

長男「やです」

274 : ◆O3m5I24fJo - 2017/04/12 21:37:23.31 OJWasiXIo 207/578


詩人「君は本当に自分の担当教諭の言うことしか聞かないのだね……仕方ない、呼んでこよう」

長男「先生は忙しいからやめてください」

詩人「私も暇ではないのだがね」

女子大生「え?」

詩人「…………自分の学生にまでナメられているとは」

女子大生「エリウス君、ほら、周りを見てみて」

女子大生「エリウス君の半裸に興奮してるお姉さんお兄さんがたくさんいるでしょ」

長男「……!!」

女子大生「危ないから早く服だけでも着て、ね」

長男「……」コク

詩人「君は本当に周りが見えないのだね……」

女子大生「先生もたまにそうなりますよね」

詩人「口を慎みたまえ」

275 : ◆O3m5I24fJo - 2017/04/12 21:38:50.45 OJWasiXIo 208/578


【そのまたある秋の日】

女子大生「アポロンせんせーい!」

女子大生「モ○ゾーが出現したとキャンパス中が騒いでいます!」

詩人「なんだって」

女子大生「なんでも全身から雑草を生やした妖怪だそうです」

女子大生「どう考えても正体は」

詩人「エリウス君じゃないか!!」

――大学・メインロード

「わっ、ほんとに○リゾーのコスプレだ」

「モリ○ーがもそもそ歩いてるー!」

詩人「何をやっているのかね!!!!」

草を生やした長男「…………」

草を生やした長男「最近食べた雑草を再構成して体から生やしてます」

詩人「何故そんなことを」

276 : ◆O3m5I24fJo - 2017/04/12 21:39:17.67 OJWasiXIo 209/578


草を生やした長男「銀杏は駄目って言ってたじゃないですか」

詩人「しかし」

草を生やした長男「雑草臭さなら抑えてます」

草を生やした長男「これなら気味悪がって誰も近寄ってきません」

草を生やした長男「……とても快適です」

詩人「周囲の人間が君に気を取られて講義に集中できなくなるだろう」

草を生やした長男「知ったこっちゃないです」

草を生やした長男「他人とぺちゃくちゃ喋りながら講義中を過ごしているうるさい学生よりも」

草を生やした長男「俺の方が遥かにマシです」

詩人「不真面目な学生がいることは認めるが、」

詩人「教員達は君の奇行に慣れていないのだよ」

詩人「学生に教えなければならない内容が頭から吹っ飛んでしまう」

草を生やした長男「…………」

277 : ◆O3m5I24fJo - 2017/04/12 21:39:47.38 OJWasiXIo 210/578


草を生やした長男「モミジの葉っぱならいいですか」

詩人「更に目立つだろう」

草を生やした長男「…………」

詩人「色恋には面倒がつきものだ。若者であれば特にね」

詩人「気まずくならないよう異性と適度に距離を置くコツを教えるから」

詩人「どうか騒ぎが起きるようなことは……」

女子大生「え、先生にそんなこと教えられるんですか?」

詩人「あのだね」

教授「おや、エリウス君」

草を生やした長男「……先生」

詩人「彼の奇行をどうにかできませんかね」

教授「……ふむ、創意工夫に富んでいていいではありませんか」

草を生やした長男「!」

詩人「えぇ……」

278 : ◆O3m5I24fJo - 2017/04/12 21:41:26.91 OJWasiXIo 211/578


教授「自由に過ごしていいのだよ」

教授「上級学校までは抑圧されてつらかっただろう」

教授「君は君なりに、成功や失敗を積み重ねて」

教授「生きていく手段を見つけていけばいい」

長男「……」

教授「そうだ、新しい顕微鏡が届いたのだよ。楽しみにしていただろう」

長男「研究室行く!」

教授「おいで」

長男「せんせ、せんせ、俺、もっといろんなものを開発する!」

長男「今日は菊の花を顕微鏡で観察して、新しいものを作る!」ニコ

詩人「……普段からああして笑えばいいと思うのだがね」

女子大生「エリウス君、いつも無表情ですもんね」

詩人「…………」

詩人「…………はあ」

女子大生「教員としての器の大きさの違いを見せつけられてつらいんですね」

詩人「心を読まないでほしいね」

281 : ◆O3m5I24fJo - 2017/04/16 16:41:52.79 VWduyg2So 212/578


【学園祭】


歌姫「お父様ー!」

歌姫弟「おとうさまあ!」

詩人「クレイオー、アスクレーピオス、久しぶりだね。元気にしていたかい」

歌姫「ええ」

歌姫弟「うん」

詩人「上級学校の勉強は大変だろう」

歌姫「卒なくこなしておりますわ!」

歌姫弟「ね、ね、今日、おとうさまのおうちに泊まってもいい?」

詩人「いいよ。この頃はお母様の体調がとてもいいからね」

歌姫弟「やったあ! ぼく、おかあさまと一緒に寝るー!」

歌姫「この子ったら、朝から寝ることばかり考えて」

詩人「……すまないね。寂しい思いをしているだろう」

歌姫「おじい様もおばあ様も可愛がってくださってますもの」

歌姫「あたくし達、寂しくなんてありませんわ」

282 : ◆O3m5I24fJo - 2017/04/16 16:42:25.70 VWduyg2So 213/578


歌姫「あ、エリウス!」

長男(うげっ)

歌姫「あたくしよりも先に大学に入学した生意気なエリウス!」

歌姫「今日は案内を頼みますわ!」

長男「……やだ」

歌姫「今、なんて仰いまして?」

長男「俺研究室行くから」

歌姫「お祭りの時くらい外に出なさいな!」

長男「……騒がしいの、苦手」

歌姫「行きますわよ」

詩人「私はこれから演劇の準備があるからね」

詩人「娘と息子を頼んだよ」

長男「…………」

283 : ◆O3m5I24fJo - 2017/04/16 16:42:55.29 VWduyg2So 214/578


歌姫「はぐれそうですわ! 手を繋いでくださいまし」

長男「……やだ」

歌姫「ほら!」ギュ

長男「…………」イライライライライラ

歌姫弟「おねえさまね、エリウスくんと学校が離れてさみしかっ」

歌姫「こら!!!!」

歌姫「あら、あそこにお洒落なカフェがありますわ! 入りますわよ!」



歌姫「……薬膳カフェ、だそうですわよ」

長男「……薬学部の研究室がいくつか集まってやってる」

歌姫「あなたは手伝わなくていいんですの?」

長男「メニューの開発したし」

長男「うるさいの苦手だから、免除してもらってる」

歌姫「ふうん。そうですの」

284 : ◆O3m5I24fJo - 2017/04/16 16:43:23.94 VWduyg2So 215/578


先輩♀1「うそー! エリウス君が彼女連れてきてるー!」

先輩♀2「えー!」

長男「違う」

歌姫「た、ただの幼馴染でしてよ!」

先輩♀3「可愛い~! 美人ね~」

先輩♂「文学部のアポロン先生そっくりだな」

歌姫弟「おとうさまなんだよ!」

先輩♀4「3人とも美形すぎる~写真撮っていい?」

長男「だめ」

歌姫「写真くらいいいじゃありませんの」

長男「こっちの2人ならいいよ」

歌姫「勝手に決めないでくださいます?」

285 : ◆O3m5I24fJo - 2017/04/16 16:44:01.59 VWduyg2So 216/578


先輩♀1「何歳かな?」

歌姫「12でしてよ。でももう上級学校に通ってますわ!」

先輩♀1「エリウス君と同い年なのね~」

歌姫弟「今年で9さい!」

先輩♀2「将来の夢とか、ある?」

歌姫「考古学や古典文学の研究をしたいと思っておりますわ」

歌姫弟「お医者さん! お医者さんになって、おかあさまのご病気を治すんだあ」

先輩♀2「いい子すぎて涙出そう」

先輩♀4「ええっと、このパフェどうやって盛り付ければいいんだっけ?」

長男「……ここにイチゴを乗せて、こっちにチョコレート」

長男「カスタードを乗せたら調味料Aを振りかける。仕上げは調味料B」

先輩♀4「キャーありがとう!」

歌姫「…………」

286 : ◆O3m5I24fJo - 2017/04/16 16:47:29.95 VWduyg2So 217/578


歌姫「エリウス! あなたの一番のおすすめのメニューはなんですの」

長男「……カレー」

歌姫「……」

長男「……どうせ臭くなるから嫌とか思ってるんだろ」

歌姫「……まあ、そうですけれど」

歌姫弟「ぼくカレー食べたい!」

長男「わかったよ」

長男「ハーブティーでも飲んだら。ほら、これならおまえでも満足できると思うけど」

歌姫「一杯5000Gなんてぼったくりにもほどがありましてよ」

長男「貴重なハーブだから仕方ない。嫌なら450Gのやつ注文すれば」

歌姫「……5000Gの超スペシャルブレンドハーブティーをくださいまし!」

287 : ◆O3m5I24fJo - 2017/04/16 16:48:17.12 VWduyg2So 218/578


歌姫「ここで出るメニューにはそれぞれどのような効果がありまして?」

長男「おまえはありえないほど健康だからどれを飲み食いしても変わらないよ」

歌姫「失礼ですわね」

長男「アスクは病弱ってほどじゃないと思うけど、ちょっと体力がない感じがするから」

長男「カレーで正解だと思う。体力がつくように調合してるから」

歌姫弟「ぼく強くなるよ!」

歌姫「年下には優しいんですのね」

長男「おまえに対してドライなだけだよ」

歌姫「なっ……」

先輩♀3「カレー2つとスペシャルブレンドハーブティー1つ、お持ちいたしました~」

歌姫「……おいしいですわね。今まで飲んだお茶の中で一番ですわ」

長男「俺が考えたんだもん。当たり前でしょ」

歌姫「……よかったですわね、才能に恵まれていて。ふんっ」

288 : ◆O3m5I24fJo - 2017/04/16 16:48:54.87 VWduyg2So 219/578


歌姫「ここの方々と仲がよろしいんですのね」

長男「天才美少年だからちやほやしてもらえてるけど何か文句ある?」

歌姫「……キィィィィィィィィィ!!!!」

長男「……まあ、正直、鬱陶しいんだけどね。ああいうの」

歌姫「え……」

長男「同じコミュニティの仲間と最低限良好な関係を維持することは大事だってよく言われるけど」

長男「人と喋るの、めんどくさくてたまらない。黄色い声は特に耳障りだ」

歌姫「…………」

歌姫「せっかく友好的に接してもらえているのですから、そう否定的に思わなくてもいいのではありませんの?」

長男「俺の才能に嫉妬するのか、あの人達を庇うのか、どっちかにしてくれない?」

長男「コロコロ態度を変えられると、対応が更に面倒になる」

歌姫「…………」

289 : ◆O3m5I24fJo - 2017/04/16 16:51:08.16 VWduyg2So 220/578


歌姫「大学に入ってから丸くなったと聞いておりましたけど」

歌姫「変わってませんのね」

長男「少しはマシになったよ」

歌姫弟「このカレー癖が強いけどおいしー!」ガツガツガツ



――外

歌姫「色々な出し物がありますのね」

歌姫弟「あっち! ロボットあるよ!」

工学部生「おいでおいで! 楽しいよ!」

歌姫弟「わーい!」

長男「あいつショタコンだけど大丈夫?」

歌姫「え、こ、こらアスク! 戻っておいでなさい!!」

290 : ◆O3m5I24fJo - 2017/04/16 16:52:23.01 VWduyg2So 221/578


歌姫弟「おとうさまの劇までお時間あるでしょ? 医学部見に行きたいな!」

長男「いいよ」


歌姫「あら? なんですの、この掲示」

  残念なイケメンランキング(旧 残念な美形ランキング)

  1位 エリウス・レグホニア君(薬学部)

歌姫「…………」

歌姫(お父様の名前も4位に……)

医学生♀1「きゃあああ! エリウスくん!!」

医学生♀2「来てくれたのね!!」

医学生♀3「ねえねえ水3の授業のレポート大丈夫そう? 見せてあげよっか?」

医学生♀4「寒くなあい? お姉さんがギュッとしてあげるぅ!」

歌姫「!?!?!?!?」

長男(キモいキモいキモいキモいキモい)

長男「……触らないでください」

291 : ◆O3m5I24fJo - 2017/04/16 16:53:38.71 VWduyg2So 222/578


医学生♀4「だって可愛いんだもん」

長男「……俺、人間苦手なんです。先輩よりも、そこに置いてあるパキラの方がずっと好きです」

医学生♀4「またそんなこと言って~」

歌姫「離してさしあげてくださいます? 嫌がってるじゃありませんの」

医学生♀4「この子何?」

医学生♀3「やだ~プライド高そう」

医学生♀2「なんなの? 彼女?」

歌姫「違いますわ! ……あたくし、自分より背の低い男性には興味がありませんもの!」

歌姫「おチビのエリウスなんてただの下僕ですわ!!」

長男「…………」

歌姫弟「おねえさま……」

長男「いい加減離してよね」

医学生♀4「きゃっ」

292 : ◆O3m5I24fJo - 2017/04/16 16:54:22.22 VWduyg2So 223/578


長男「はあ……」

歌姫「…………」

長男「おまえ、他に友達がいないからって、俺と行動しようとするのやめてくれる?」

長男「俺はおまえのこと嫌いだし、おまえも俺のこと嫌いでしょ」

歌姫「なっ……」

歌姫「友達くらい大勢いますわ! ただ、大学生の友人は……」

長男「別に俺に案内させる必要ないでしょ。パンフレットあれば迷わないし」

長男「不安なら自分の父親と一緒に回ればいいでしょ」

歌姫「…………」

歌姫弟「あのね、エリウスくん、おねえさまは」

歌姫「アスクレーピオス、お黙りなさい!」

長男「アポロン先生に怒られたら嫌だから、先生の劇が始まるまでは面倒見るけど」

長男「その後は俺研究室行くから」

歌姫「……おチビ! おバカ! エリウスなんて知りませんわ!」

歌姫「今すぐお好きな所にお行きなさいな!」

長男「じゃあそうする」

293 : ◆O3m5I24fJo - 2017/04/16 16:55:25.99 VWduyg2So 224/578


歌姫「うっ……う……」

歌姫「エリウスの……おバカ……!」

歌姫弟「おねえさま、エリウスくんに謝りに行こ?」

歌姫弟「照れ隠しでひどいこと言うの、おねえさまの悪い癖だよ」

歌姫「弟のくせに何を偉そうに!!」

歌姫弟「ごめんなさい……」

歌姫「…………」

歌姫「……いいえ、ごめんなさい。あなたは本当にいい子ですわよ」

歌姫「あたくしと違って……」

歌姫「ううぅぅぅ…………」

――――――――
――

294 : ◆O3m5I24fJo - 2017/04/16 16:55:57.95 VWduyg2So 225/578


――演劇後

歌姫弟「おとうさま、劇すっごくよかったよ!」

詩人「うむ、ありがとう」

歌姫「お疲れさまですわ、お父様」

詩人「どうしたんだい、クレイオー。目が腫れているじゃないか」

歌姫「お父様の劇に感動しただけですのよ」

詩人「おや、エリウス君は……」

詩人「ああ、いたいた」

長男(うわあ)

歌姫「……研究室に行ったんじゃなかったんですの?」

長男「おまえが彼女なのかって言われまくって嫌だったから」

長男「ほんとの彼女とデートしようと思って」

歌姫「彼女って…………その鉢植えがですの?」

長男「白玉星草」

歌姫「…………」

歌姫「……相変わらず、相変わらずその調子ですのね」

295 : ◆O3m5I24fJo - 2017/04/16 16:57:27.37 VWduyg2So 226/578


歌姫「さっきのこと、気にしてないんですの?」

長男「?」

長男「いつもどおり喧嘩しただけでしょ」

長男「何おまえらしくないこと言ってんの」

歌姫「…………」

歌姫(言われてみれば、いつもこんな感じでしたわ)

歌姫(暴言を吐き合って、後味が悪いまま別れて)

歌姫(でも、次に会った時にはいつもと変わらず軽口を叩き合って)

歌姫弟「かわいいお花だね」

長男「でしょ」

歌姫(彼にとって、あたくしは大して意識する必要のない存在……)

296 : ◆O3m5I24fJo - 2017/04/16 16:58:04.97 VWduyg2So 227/578


詩人「喧嘩したとはどういうことかね」

歌姫「たいしたことじゃありませんのよ、お父様」

歌姫「さ、行きましょう。まだまだ回りたい場所がありますの!」

歌姫「ではエリウス、精々彼女とお幸せに!」

長男「ばいばい」

歌姫弟「エリウスくんばいばい!」

歌姫(もう、当分会わないでおきましょう)

歌姫(せめて、この感情が、嫉妬だけになるまでは)



長男「ふう……」

勇者「あーエルいたー! 探したんだよ!」

長男(うげえ)



297 : ◆O3m5I24fJo - 2017/04/16 16:58:44.85 VWduyg2So 228/578

恋慕と嫉妬が混濁した複雑な感情を向けられていたことにエリウスは気づいていない的な話でした

302 : ◆O3m5I24fJo - 2017/05/14 20:04:06.92 J6vvgTaDo 229/578

【もさもさした犬】

悪ガキ「おーいヘリオス、ボールそっちに行ったぞ!」

ジョナスに言われ、ヘリオスは草原を走った。

村の子供達が数人集まってキャッチボールをして遊んでいるのだが、だいぶ日が傾いてきつつある。
草の影に隠れたボールはなかなか見つからない。

悪ガキ「まだ見つかんねえのか? ボールはあれ1つしかないんだぞ」

戦士「おまえが滅茶苦茶な方向に投げるからだろ……」

ヘリオスはうんざりしながら草を掻き分ける。

戦士「……また明日、明るくなってから探した方がいいんじゃないか?」

悪ガキ「それじゃ不安で寝れねえだろ! おいおまえら、ボール探……ん?」

「! へっへっ」

探していたボールを咥えた犬が現れ、犬はヘリオス達を見ると地面にぽとりとボールを落とした。

戦士「見つけてくれたのか? ありがとな」

「わん! わん!」

303 : ◆O3m5I24fJo - 2017/05/14 20:04:37.39 J6vvgTaDo 230/578


戦士「野良犬かな」

悪ガキ「よし、決めた! おまえの名前はジョン! この俺様ジョナスの子分だからジョンだ!」

戦士「ええ……犬にジョンってありがちすぎないか……?」

戦士「モサモサしてるからモッシーがいい」

犬はやや大きめの中型犬だ。骨格は柴犬に近いが、人の指ほどの長さの硬い毛が全身を覆っている。

戦士「モッシー!」

「…………」

悪ガキ「ジョン!」

「ワン!」

悪ガキ「よし、ジョンに決定な」

戦士「モッシー…………」

304 : ◆O3m5I24fJo - 2017/05/14 20:05:08.59 J6vvgTaDo 231/578


日が地平線に隠れ、子供達は自分の家にそれぞれ帰っていった。

戦士「おまえ、帰る場所ないのか?」

「へっへっ」

戦士「ジョナスに付けられた名前が気に入ったなら、あいつんち行けよ……」

「…………」

戦士(なんで俺についてくるんだろ)

「わん! わんわん!」

戦士(懐かれたみたいだ)

戦士「俺んちに来るのはいいけど、貧乏だからいい生活はできないぞ」

戦士「貧乏な分、哀れに思ったご近所さんが規格外で売れない野菜や魚をたくさんくれるから」

戦士「おまえの分の飯を用意できないことはないけど……」

「へっへっ」

戦士「残飯の食い過ぎでお袋太っちゃったし……手伝ってもらおっかな……」

305 : ◆O3m5I24fJo - 2017/05/14 20:06:02.06 J6vvgTaDo 232/578


戦士(用意する飯の分量をもっと調節すれば、食費を抑えられると思うんだけど)

戦士(足りなかったら子供が可哀想だからって、お袋はたくさんの飯を作ってしまう)

戦士(それで結局余りはお袋の腹の中に……)

「くぅ~ん」

戦士「おまえくっさいな……明日洗ってやるよ」



その日以来、ジョンはヘリオスの家の庭に住みつくようになった。

「あ、犬にネギ類あげちゃだめらしいわよ」

戦士「あっ……そうなんだ。じゃあ今夜は何あげよう」

戦士「おかずもスープもネギ入っちゃってるし……」

「自分で適当に野菜を切ってわんこ飯作ってあげたら?」

戦士「そうする」

306 : ◆O3m5I24fJo - 2017/05/14 20:06:29.79 J6vvgTaDo 233/578


戦士「これなら大丈夫かな……」

「わんっ!」

ジョンはヘリオスに軽く体当たりした。「遊んで」の合図である。

戦士「わっ」

ヘリオスが抱えていた人参が地面に落ちた。

「!」

ジョンは人参を見ると、凄まじい勢いでかじり始めた。よほど腹を空かしていたのだろう。

戦士「えー……これから食べやすいように刻もうと思ってたのに……」

戦士「……まあ、食べてくれたならいいか……」

「♪」

戦士「……おまえの毛、何かに似てるなって思ってたんだけど」

戦士「俺の髪の毛とそっくりだな……」

307 : ◆O3m5I24fJo - 2017/05/14 20:07:43.78 J6vvgTaDo 234/578


――教室

戦士「なあクレイグ、犬の世話について詳しい奴知らないか?」

友人「ああー、こないだの野良犬飼い始めたんだっけ?」

戦士「飼い始めたっていうか……居つかれたんだよ」

友人「アリッサの家は代々犬の訓練士やってるから」

友人「あいつならかなり詳しいと思うぞ」

戦士「……女子か…………」

友人「そんなビビらずに話しかけてみろよ。案外普通に話せるもんだぞ」

戦士「それができたら苦労してねえよ」

友人「おーいアリッサ! ヘリオスが用あるってよ!」

戦士「えっ」

茶髪子「?」

戦士「いいいいいやあのっなんでもないから!!」

友人「あっ逃げやがったヘリオスの奴!」

茶髪子「…………」

308 : ◆O3m5I24fJo - 2017/05/14 20:09:02.45 J6vvgTaDo 235/578


放課後

戦士(教室で宿題やってたらちょっと遅くなったな)

戦士(ちくしょうクレイグめ……あんな目立つことを……)

戦士(今日はジョンと遊んで適当に休もう……)


茶髪子「よし、綺麗になったね」

「♪」

戦士「あれ……」

戦士(ななななななななんでアリッサが俺の家の前でジョンの手入れしてるんだ!?)

ヘリオスはビビりながら家の中に逃げ込んだ。

「あらおかえり」

戦士「どうしてあのあのあのあのジョンがああああああああああああ」

「あんまりにもあの犬が毛玉だらけだったから放っておけなかったんですって」

茶髪子「あの……」

戦士「ひぇっ」

「ちょっとあんた、その反応失礼よ」

309 : ◆O3m5I24fJo - 2017/05/14 20:09:28.86 J6vvgTaDo 236/578


茶髪子「これ、犬を育てる上での基本的な注意事項」

茶髪子「必要な物は、私の従姉のお店に行けば買えるから」

茶髪子「じゃあ……ね、ヘリオス君」

戦士「ひっ、あっあっ」

「ごめんなさいね、こいつ女の子の前だとこうなっちゃうのよ」

茶髪子「いいえ」

戦士「あの、あっ…………」

戦士「あり……がとう……」

茶髪子「うん。困ったことがあったら、なんでも聞いてね」

310 : ◆O3m5I24fJo - 2017/05/14 20:10:08.38 J6vvgTaDo 237/578


「これを機に女の子と喋る練習したら?」

戦士「無理だよ姉貴……」

「わんわん!」

戦士「別の犬みたいに綺麗になったな……」

戦士「俺が水洗いした時と全然違う」

「!」

「わおおぉーーーーん!!」

戦士「あっ何処行くんだジョン!」

農家の子「きゃっ!」

農家犬「ばうわう!!」

「きゃうんきゃうん!!」

戦士「駄目だって!! どうしたんだこんなにはしゃいで!!」

農家の子「その子、オスだよね?」

戦士「あっ……っ……う……」

農家の子「うちのラッティはメスだから……」

戦士「…………」

戦士(犬って発情すると股間がこんなことになるのか……)

「ひゃうううううううううううううううん!!」

311 : ◆O3m5I24fJo - 2017/05/14 20:10:38.15 J6vvgTaDo 238/578


数日後

「あらアリッサ、こんにちは。上がってって」

茶髪子「い、いいえ……ちょっと寄っただけですから。これ、どうぞ」

茶髪子「町から仕入れたわんちゃんのおやつなんですけど、ちょっと売れ残っちゃって」

茶髪子「でも賞味期限はギリギリまだだから……ジョン君食べてくれるかなって」

「ありがとね。ヘリオスー! アリッサちゃん来てるわよー!」

戦士「呼ばれても困るよ、姉貴……」

「お礼くらい言いなさいよ。あんたが連れてきた犬なんだから」

ヘリオスは柱の陰から玄関の様子を伺っている。

茶髪子「あの、私が勝手にやっていることですから……お邪魔しました」

「待って、ちょっと聞きたいことがあるの。でしょ、ヘリ……あっ逃げちゃった」

「ったくもう、直接聞けばいいのに……」

312 : ◆O3m5I24fJo - 2017/05/14 20:11:17.41 J6vvgTaDo 239/578


「昨日の夜からジョンが首元を痒がってるみたいでね」

「病気じゃないか心配なのよ」

茶髪子「えっと……ちょっと見てみますね」

ジョンは後ろ足で激しく首元をかき、そして背中を地面に擦りつけている。

茶髪子「多分、抜け毛がまとわりついてて痒いだけだと思います」

茶髪子「ブラッシングを毎日してあげれば大丈夫です」

茶髪子「もし心配だったら、私の叔父や従兄や獣医をやっているので、訪ねてみてください」

茶髪子「専門は家畜なんですけど、一応わんちゃんを看ることもあるので……」

茶髪子「城下町だったら、図書館の近くに名医がいます」

「そう。助かったわ」

313 : ◆O3m5I24fJo - 2017/05/14 20:11:43.04 J6vvgTaDo 240/578




妹1「すこ~すこ~」

弟1「ぐげぇ~ぐげぇ~」

妹2「おぴょあえ~」

弟2「あぱぱぐふぅ~」

戦士(兄弟達のいびきと寝相が酷過ぎて寝れない)

戦士(今夜は屋根の上で寝るか……)



戦士(やっぱり外は涼しくていいな。星も綺麗だし)

「はっはっ」

戦士「わっ、おまえ何処から上ってきたんだ」

「わふぅ~」

戦士「毛布代わりに丁度いいか……」

314 : ◆O3m5I24fJo - 2017/05/14 20:12:40.20 J6vvgTaDo 241/578


戦士「俺さ、別に女子が嫌いってわけじゃないんだよ」

戦士「ただ、この顔で怖がらせちゃうだろうなって思ったら、緊張して何も話せなくなるんだ」

「…………」

戦士「今日なんて男子と女子で戦争が起きて、」

戦士「俺は参加するつもりなんてなかったのに、」

戦士「この顔のせいで無理矢理ジョナスの盾にされてさ……」

戦士「はあ……」

「…………」

戦士「初対面の女子は大抵俺の顔を見たら怯えるし、」

戦士「男子とは一応普通に話せるんだけど、やっぱり初対面の時はビビられるんだ」

「…………」

戦士「おまえは俺の顔なんて気にせずに友達になってくれたな」

戦士「ありがとうな。おやすみ……」

「♪」

315 : ◆O3m5I24fJo - 2017/05/14 20:16:56.55 J6vvgTaDo 242/578

とりあえずここまで

317 : ◆O3m5I24fJo - 2017/05/25 21:38:09.86 SIbZhSKvo 243/578


【もさもさした犬・続】


「くぅーん……」

戦士「尻尾下げて……どうせまたラッティの所に行ってフラれてきたんだろ」

「…………」

戦士「おまえが来てからもう1ヶ月かあ」

「♪」

「ああそうだ、この間アリッサちゃんが言ってたんだけどね」

戦士「何?」

「その子、随分人に慣れてるでしょ?」

「もしかしたら、元々何処かで飼われてたんじゃないかって」

戦士「え……」

318 : ◆O3m5I24fJo - 2017/05/25 21:39:21.06 SIbZhSKvo 244/578


戦士「ボサボサだったし、首輪もしてなかったから、てっきり野良犬だとばかり……」

「元の飼い主が探してるかもしれないわね」

戦士「…………」

「まあ今のところ何も情報が入ってないそうだから」

「そんなに心配しなくてもいいと思うけどね」

戦士「おまえほんとに帰る場所ないのか?」

戦士「前は何処に住んでたんだよ」

「?」

戦士「言葉が通じたらなあ……」

戦士「一緒に出会った丘まで行ってみるか」

319 : ◆O3m5I24fJo - 2017/05/25 21:40:05.00 SIbZhSKvo 245/578


戦士「このへんの茂みから出てきたんだよな、おまえ」

「へっへっ」

戦士「この奥には行ったことないんだよな……危ないからあんまり村から離れるなって大人に言われてるし」

戦士「別に魔物が出るわけじゃないんだけど、ヘビはいるし、犯罪者も隠れてるかもしれないだろ」

「……!」ダダッ

戦士「わっ、おいジョン何処行くんだよ!」

戦士(急に走り出したと思ったら木の根元を掘り出した)

「ふぅぅぅぅぅん!」

戦士(ダンベル……? いや、木でできた骨型のおもちゃだ)

戦士「これ……おまえのおもちゃか?」

「!」ダダッ

戦士「今度は何処行くんだよ!」

320 : ◆O3m5I24fJo - 2017/05/25 21:40:30.94 SIbZhSKvo 246/578


「ハッハッ」ザッザッザッ

戦士「コップ……? これも木彫りだ」

戦士「犬は宝物を隠すことがあるって聞いたことはあるけど……」

戦士「これ、もしかしておまえの元の飼い主の」

「くぅぅぅん!」ダッ

戦士「勝手に走るなって!」



戦士「あれ……こんなところに小屋なんてあったのか」

「くぅーん……」

戦士「おまえ、ここに住んでたんだな?」

戦士「おじゃましまーす……」

戦士(人の気配はしない……)

322 : ◆O3m5I24fJo - 2017/05/25 21:48:30.53 SIbZhSKvo 247/578


戦士(あ、床に皿が置いてある。犬用の水入れみたいだ)

戦士(名前が彫られてる。J、o、h、n……)

戦士「そうか、おまえ、元々ジョンって名前だったんだな」

「へっへっ」

戦士「にしても埃っぽいな……ここの住人は一体何処に……」

「ワン!」

戦士「っ……!?」

戦士(こ、これ……)

戦士(人の……死体だ……)

323 : ◆O3m5I24fJo - 2017/05/25 21:54:17.77 SIbZhSKvo 248/578


――
――――――――

伍長「怖かったろー、いきなり死体なんて見て」

戦士「お、おれ、兵士になるんです」

戦士「人の死体くらいで、び、ビビったり、しません……」

伍長「おー強い強い」

平兵士1「こりゃ頭打って死んでますね。いや、死んでから頭打った可能性もありますけど」

平兵士2「ちょっと村に聞き込みしたらすぐに住民の身元はわかりました」

平兵士2「だいぶじいさんだったんで、まあ、寿命じゃないですかね」

伍長「長い間放置されてたことによる荒れはあっても、」

伍長「強盗が入った痕跡は特にないし、金品は無事だ」

伍長「事件性はおそらくないだろう」

「…………」

324 : ◆O3m5I24fJo - 2017/05/25 21:55:03.29 SIbZhSKvo 249/578


平兵士1「あ、日記ですねこれ」

平兵士1「最後の日付は亡くなったと思われる時期と合います」

戦士「……見ていいですか」

戦士(ほとんどジョンの成長記録だ……)

戦士(俺とジョンが会ったのは、日記が書かれた最後の日よりも少し後だ)

――帰り道

「くぅーん……」

戦士「そっか、おまえの飼い主、死んじゃってたのか」

戦士「寂しかったな」

「お、いたいたヘリオス」

戦士「親父……」

戦士(心配して迎えに来てくれたのか)

325 : ◆O3m5I24fJo - 2017/05/25 22:03:19.07 SIbZhSKvo 250/578


「あそこのじいさんなんだけどな」

「うちの親戚の、木彫りの細工や家財道具を作ってる家の生まれでな」

「男兄弟の中では一番下だったし、木を彫るのが上手かったから家を継ぐ気満々だったんだが」

「末の妹の旦那がもっと優秀で、そっちが婿入りすることになっちまったんだよ」

「それ以来、人生に絶望して、あそこに小屋を建てて1人で生活してたんだ」

戦士「…………」

戦士「日記、ちょっと読んだんだけど」

戦士「ジョンのことがすごく楽しそうに書かれてた」

「じゃあ、ジョンはあのじいさんを救ったんだな」

326 : ◆O3m5I24fJo - 2017/05/25 22:03:45.28 SIbZhSKvo 251/578


――自宅

「あら~あそこのおじいちゃんくたばっちまったのね」

戦士「ジョンはその人に育てられてたみたいなんだ」

「ああ~じゃあ、ジョン君があんたに懐いたのも納得できるわ」

戦士「え……なんで?」

「あんた、あのじいさんと似てるのよ、においが」

戦士「え?」

「体臭」

戦士「…………」

「ワンワンワンワン!!!!」

戦士「あーうん、ご飯な、今わんこめし作ってやるからな」

戦士「はあ…………」

「?」

329 : ◆O3m5I24fJo - 2017/05/25 22:10:17.36 SIbZhSKvo 252/578

(この時代のじいさんの基準は50歳くらいですし似てたのは元の飼い主が若かった頃の体臭です説明不足でしたすみません)

332 : ◆O3m5I24fJo - 2017/06/12 21:34:09.95 MCDAKFK4o 253/578


【もさもさした犬・続々】


戦士「ただいま~……ってあれ」

「おー、帰ったかヘリオス」

戦士「犬小屋?」

「ああ。あの小屋に残ってた木材で作った」

「あっちの遺族……といってもあのじいさんの甥や姪とだけどな」

「話し合って遺品をいくらかもらってきたんだ」

「じいさんの服とかも小屋に入れといたぞ」

「飼い主のにおいのするものがあると犬は安心するらしいからな」

「日記ももらってきた。中身はほとんどジョンに関することばかりだから、」

「まあ読んでも罰は当たらんだろうと思ってな」

戦士(ジョンの好きな食べ物や遊びについてたくさん書かれてる!)

戦士「親父……ありがとう!」

弟1「ジョン~!」

弟2「もっさもさ~!」

「♪」

333 : ◆O3m5I24fJo - 2017/06/12 21:34:41.86 MCDAKFK4o 254/578


妹1「お兄ちゃん、今日おさんぽついてっていい?」

弟1「おれも」

弟2「ぼくも!」

戦士「いいよ」



妹1「ジョン! こっちこっち~! あははは!」

弟1「はやいはやい!」

「ワン! ワウワウ!」

弟2「まって~!」

戦士(弟や妹達の良い遊び相手になってくれてるな)


詩人「ふんふんふ~ん♪」

戦士(あ)

詩人「やあ、僕と同じく太陽神の名をもつヘリオス君じゃないか」

334 : ◆O3m5I24fJo - 2017/06/12 21:35:12.30 MCDAKFK4o 255/578


弟2「わんちゃん! きれいだね!」

戦士「おまえ犬飼ってたっけ?」

詩人「城下町に住んでいるおじい様の犬さ。今日はこの村にお越しになっていてね」

妹1「なんて種類?」

戦士「見たことない犬種だな……」

詩人「コッカースパニエルだよ。東の大陸の犬だからね。珍しいだろう」

弟1「ほんとだ、きれいだね!」

詩人「ふふん」

戦士「紐に繋いでるんだな」

詩人「都会ではリードに繋ぐのがマナーなんだ」

詩人「放し飼いが当たり前なのはこんな田舎くらいだよ」

戦士「そ、そうなのか……」

335 : ◆O3m5I24fJo - 2017/06/12 21:35:39.67 MCDAKFK4o 256/578


詩人「君の犬にはもちろん噛み癖はないのだろうね?」

戦士「うん。甘噛みくらいはするけど」

詩人「そうか。ならまあいいだろう。くれぐれも人様に迷惑をかけないようにね」

戦士(相変わらず偉そうなやつ)

「♪」

スパニエル「♪」

戦士(犬達は仲良くなったみたいだ)

戦士(オス同士でも仲良くできることもあるんだな)

詩人「じゃあ失礼するよ」

妹1「アポロン君ばいばーい!」

336 : ◆O3m5I24fJo - 2017/06/12 21:37:46.73 MCDAKFK4o 257/578


茶髪子「あ……」

妹1「アリッサちゃんだあ! こんにちは!」

弟1「アリッサちゃん!」

弟2「あいっさちゃんこんにちは!」

妹1「この子ったら、まだちゃんとラ行言えないのね」

戦士「…………」

茶髪子「……こんにちは。ヘリオス君、セレネちゃん、クロノス君、ネレウス君」

妹1「わんちゃんいっぱいだね!」

弟1「この子達、まだ赤ちゃんだね」

茶髪子「うん。お国のために働く子達なんだよ」

弟1「わーかっこいい!」

弟2「かっこいいー!」

茶髪子「ジョン君、元気そうだね。良かった」

戦士「あ……あう……」

337 : ◆O3m5I24fJo - 2017/06/12 21:38:24.91 MCDAKFK4o 258/578


妹1「アリッサちゃんのおかげでジョンは毎日元気いっぱいなんだよ!」

妹1「また遊びに来てね!」

茶髪子「うん」

戦士(お礼……お礼でもなんでも何か話さなきゃ)

戦士(で、でも俺なんかが口を開いて怖がらせちゃったら嫌だし)


茶髪子「……あの、ヘリオス君」

戦士「……」

茶髪子「…………」

戦士(何か言いたいみたいだけど、やっぱり怖くて話せないんだろうな……)

茶髪子「よかったら、今度、その……」

妹1「あー見てみて! あそこにラッティがいるよ!」

弟1「会いに行ってくる!」

弟2「ぼくもー! ジョンもいくんだね!」

茶髪子「……じゃあね」

妹1「ばいばいアリッサちゃん!」

338 : ◆O3m5I24fJo - 2017/06/12 21:38:53.39 MCDAKFK4o 259/578


戦士(もうちょっと目尻が下がってたらなあ)

戦士(あ、アポロン君とアリッサが喋ってる。……同時に笑った)

戦士(俺は一生あんな風に女の子と話せるようにはならないんだろうな……)



「くぅーん……」

妹1「またラッティにフラれて落ち込んじゃった」

戦士「しつこい男は嫌われるぞ……」

339 : ◆O3m5I24fJo - 2017/06/12 21:39:45.97 MCDAKFK4o 260/578


戦士「ただいま」

妹達「「「ただいまー!」」」

「ちょっとあんた、エオス知らない?」

ヘリオスの2番目の妹のことである。

戦士「え……見てないよ」

「てっきりあんた達と一緒に出掛けたのかと思ってたんだけど」

妹1「いないの?」

「あの子ったら、何処行っちゃったのかしら」

「不審者が出てて物騒だっていうのに」

弟1「探しに行かなきゃ!」

「待ちなさい! 子供が出てったらかえって危ないわよ!」

「!」

戦士「ジョン、どうした?」

340 : ◆O3m5I24fJo - 2017/06/12 21:40:43.68 MCDAKFK4o 261/578


「ハッハッ!」ダダッ

戦士「わっ待てって!」

「ちょっとヘリオス! 戻ってらっしゃい!」

戦士「だってジョンが! 姉貴は大人呼んできて!」



「グルルルル……」

戦士「なんだこれ……布の切れ端? うちの国の布じゃないな」

「バウッ!」ダッ

戦士「ジョン!」

341 : ◆O3m5I24fJo - 2017/06/12 21:41:37.20 MCDAKFK4o 262/578


――村のはずれ

人攫い1「顔はまあ微妙だけど売れないこたないだろ」

妹2「…………」

人攫い2「やっぱ田舎にゃなかなか上玉はいねえか」

人攫い2「だが俺はちょっと可愛い子攫ってきたぜ!」ドサ

茶髪子「っ!」

人攫い2「子犬共も高価な犬種だ。そこそこ金になるだろう」

麻袋に子犬達はまとめて入れられている。

人攫い1「うわってめえ流石だな」



戦士(嘘だろ……人攫いだ)

「ガウッ!」ガサッ

342 : ◆O3m5I24fJo - 2017/06/12 21:42:05.72 MCDAKFK4o 263/578


人攫い1「うわっなんだこの犬! いてえ!!」

「ガルヴヴヴヴヴ!!!!」

戦士(普段は絶対人を噛まないジョンが攻撃してる! 悪い奴だって分かってるんだ!)

人攫い2「そのまま噛まれてろ! ブッ刺してやる!」

「ガアア!」

人攫い2「うわっ! ぎゃああ!」

人攫い3「おいなんだなんだ、野犬か?」

戦士(荷車から仲間が出てきた)

用心棒「人が来る前にずらかりてえってのに」

戦士(あいつ、剣を持ってる!)

343 : ◆O3m5I24fJo - 2017/06/12 21:42:37.25 MCDAKFK4o 264/578


「ガウ!! バウワウ!!」

戦士(どうしよう、このままじゃジョンが……)

妹2「んー! んー!!」

茶髪子「っ……」

戦士(エオス……アリッサ……)

用心棒「今晩の晩飯になってもらうぞ、犬」シャキ

戦士(お、大人を……この場所に連れてこなきゃ……)

戦士「…………」

戦士(今動いたら、どちらにしろ俺がいることには気づかれてしまう)

「ギャン!」

人攫い3「押さえたぞ!」

戦士(俺は……俺は兵士になるんだ。悪い奴の1人や2人倒せなくてどうする!)

用心棒「俺達を襲ったのが運の尽きだったなあ!」

戦士「っうおおおおおおお!!!!」

344 : ◆O3m5I24fJo - 2017/06/12 21:44:41.89 MCDAKFK4o 265/578


ガンッ!

ヘリオスが投げたやや大きめの石が用心棒の頭に命中した。

用心棒「づっ!!」

用心棒の持っていた剣は崖下へ落下していった。

戦士「ジョンを放せ!!」

人攫い3「うおっ! なんだこのガキ!?」

人攫いが驚いている隙にジョンは腕をすり抜けた。

戦士「妹を! 友達を返せ!」ボカボカ

人攫い3「ガキの拳なんて大して痛かねえんだよ!」ガッ

戦士「うっ!」ズサア

用心棒「生意気なガキめ!」

用心棒がヘリオスの背を踏みつけるが、ジョンがすぐに体当たりをし、
そして人攫いの首に噛みついた。

振り向いて用心棒の首にも噛みつこうとするが、腕で跳ね除けられる。

345 : ◆O3m5I24fJo - 2017/06/12 21:45:56.22 MCDAKFK4o 266/578


戦士(い、石を……あった!)ブンッ

用心棒「ふん」パシ

用心棒「投げ返してやろうか!」ブン

戦士「い゛っ……てっ……!」

用心棒「そいつはおまえの犬か? 飼い犬諸共あの世に送ってやる」

人攫い1「全く、手間取らせやがって!」

人攫い2「大人しくしろ!」

「ギャフゥ」

人攫い達がジョンを取り押さえる。

戦士(どうしよう……どうすれば……!)

戦士「う゛っ!」

用心棒がヘリオスの腹を蹴り、吹っ飛ばした。
ヘリオスは地面を転がり、崖へと近づいていく。

346 : ◆O3m5I24fJo - 2017/06/12 21:48:52.73 MCDAKFK4o 267/578


用心棒「落ちたらいてえだろうなあ」

用心棒が更にヘリオスを蹴る。

戦士(っ落ちてたまるか!)

右手でどうにか崖を掴むが、地面は今にも崩れそうだ。

用心棒「ガキが大人に敵うとでも思ったか? ん?」

用心棒「……おまえ、悪人みてえなツラしてんな。謝れば仲間にしてやらんこともないぞ」

戦士「誰がっ……!」

用心棒「じゃあさよならだな」

「バウッ!」

人攫い達は怪我で弱っている。ジョンは自力で抜け出して用心棒に向かって駆けた。

用心棒「なっ!」

その勢いにまかせたまま、ジョンは自分ごと用心棒を崖から突き落とした。

戦士「ジョンっ! ジョン、大丈夫か!?」

ガラッ……

戦士(やばい、崩れる……!)

347 : ◆O3m5I24fJo - 2017/06/12 21:50:01.14 MCDAKFK4o 268/578


戦士(ここはそんなに高くない。足から落ちれば死にはしな……って)

戦士(剣! 剣の柄が突き刺さってる! ここから落ちたら確実に当たる!)

戦士「だ、誰か……!」



伍長「おい大丈夫か!?」

戦士「伍長さん!」

伍長「今引き上げるぞ、しっかり掴まれ!」

戦士(た、助かった……!)

平兵士1「大人しくしろよー」

人攫い1「ちくしょう……」

人攫い2「早く治療しねえと感染症になっちまうー!」

人攫い3「いてえ……首がぁ……」

348 : ◆O3m5I24fJo - 2017/06/12 21:50:43.63 MCDAKFK4o 269/578


伍長「よくやったな!」

戦士「はあ、はあ……」

戦士「ジョン!!」

伍長「生きてるみたいだな」

戦士「今迎えに行くからな!」

平兵士2「エオスちゃんとアリッサちゃんだね。もう大丈夫だよ」

妹2「にいちゃん! にいちゃーん!」

戦士「エオス……よかった」

茶髪子「ヘリオス君……」

戦士「…………」

茶髪子「ありがとう」

安堵からアリッサは涙を流した。子犬達も無事だった。

349 : ◆O3m5I24fJo - 2017/06/12 21:51:15.05 MCDAKFK4o 270/578


――自宅

「あんたバカじゃないの!」

戦士「っ!?」

「子供がヒーローぶってんじゃないよ!!」

戦士「…………」

平兵士2「まあまあ奥さん」

「親をこんなに心配させて……! もう……」ギュウ

戦士「お袋……ごめん……」

「……がんばったわね。晩御飯食べなさい。今あっため直すからね」

戦士「うん」

戦士(帰ってすぐ怒られたのにはびっくりしたけど)

戦士(心配してもらえてなんだか嬉しい。普段は放っておかれてることが多いし)

戦士(ジョンが来てから、なんだか親の愛情を感じられることが多くなったな)

戦士「母さん、ジョンを褒めてやってよ。エオスを見つけたのはジョンなんだ」

「そうだねえ。ジョン君、ありがとね」

「♪」

350 : ◆O3m5I24fJo - 2017/06/12 21:52:26.41 MCDAKFK4o 271/578

kkmd
クロノスはゼウスの父じゃなくて時間の神の方由来の名前

353 : ◆O3m5I24fJo - 2017/06/19 19:42:00.37 m2rhFcF3o 272/578


【もさもさした犬・終】

放課後

戦士「……ふー」

戦士(やっと宿題が終わった。帰るか)

戦士(……あれ、校門の方に見慣れた犬がいる)



戦士「ジョン!」

「ワン!」

戦士「迎えに来てくれたのか?」

妹1「お兄ちゃんのこと待ってたみたいだよ」

「へっへっ」

戦士「そっか。ありがとな、ジョン」

戦士「おまえも待っててくれたのか」

妹1「うん。ジョンと一緒にお兄ちゃんと帰るのもいいかなって」

354 : ◆O3m5I24fJo - 2017/06/19 19:42:27.48 m2rhFcF3o 273/578


戦士「へっくし! けっこう冷え込んできたな」

妹1「ジョン寒くないかな」

戦士「冬毛が生えてきたから大丈夫だろ」

妹1「あ、そういえばね、お母さんがジョンの抜け毛でクッション作ったんだよ!」

戦士「ごわごわしてそうだなそれ」

茶髪子「…………」

妹1「あ、アリッサちゃんだ!」トテトテ

茶髪子「これ、断熱材。寒い時期は小屋の周りに貼ってあげてね」

妹1「わあ、ありがとう!」

茶髪子「ううん。じゃあね」

戦士「…………」

戦士(またお礼言いそびれた……)

355 : ◆O3m5I24fJo - 2017/06/19 19:43:46.35 m2rhFcF3o 274/578


妹1「ジョン、よかったね」

「♪」

妹1「ジョンーあのポストまで競争しよ!」

「ワン!」

戦士(俺達は表情や仕草からジョンが何をしたがってるのかもわかるようになったし、)

戦士(ジョンは自分で言葉を発せなくても、こっちの言ってることをどんどん理解できるようになった)

戦士(ずっと一緒にいたいな。でも犬の寿命って精々8年だしなあ)

戦士(おじいさんの日記から推測したら、多分ジョンは3歳くらいだ)

戦士(せめて10歳くらいまでは長生きしてほしいな)

356 : ◆O3m5I24fJo - 2017/06/19 19:44:17.03 m2rhFcF3o 275/578


――自宅

弟1「おとうさーんジョンが家の中に入ってきたよ! 遊んでいい?」

「好きにしとけ」

弟1「わーい!」

弟2「わあい!」

弟3「じょ~ん~!」

妹2「こっちこっちー!」

戦士(すっかり家族の一員だなあ)

妹1「お兄ちゃんお勉強教えて」

戦士「いいよ。……うわっジョン邪魔するなよ!」

「♪」ペロペロ

妹1「やっぱりジョンはお兄ちゃんが一番好きなんだね」

戦士「はあ……まったく」

戦士「よしよし」

357 : ◆O3m5I24fJo - 2017/06/19 19:45:58.39 m2rhFcF3o 276/578


――――――――――――
――――――――
――

翌年

戦士「おまえが来てからもう一年かあ」

「♪」

戦士「じゃあ学校行ってくるからな。今日はあんまり遅くならないと思うから」



――放課後

友人「あれ、もう帰んの?」

戦士「うん」

友人「おまえ最近休み時間に宿題やるようになったよな」

戦士「早く帰ってジョンと遊びたくてさ」

友人「俺おまえに宿題教えてほしかったんだけど」

戦士「んー……少しだけなら」

ガラッ

妹1「お兄ちゃん! ジョンが、ジョンが……」

戦士「ど、どうしたんだよ」

妹1「いいから早く帰ってきて!」

358 : ◆O3m5I24fJo - 2017/06/19 19:46:40.28 m2rhFcF3o 277/578


――自宅前

妹1「ジョンが1人で外を歩いてる時にね、畑の横に落ちてたお団子食べちゃったらしいの」

妹1「友達のママがジョンを見かけて、すぐにやめさせてくれたみたいなんだけど、」

妹1「わたしが帰ってきた時にばったり倒れて……」

戦士「ジョン! おいジョン!」

「くー……」

「それって1丁目の畑か?」

妹1「確かそうだったと思うけど、でもよくわかんない。下校中にアンナちゃんのママに教えてもらったの」

「あそこの番犬がこないだ死んじまってなあ。害獣に悩まされるようになって、」

「昨日から毒団子置くようにしたらしいんだ」

妹1「じゃあなんでジョンを繋いでおいてくれなかったの!?」

「父さんもさっき畑の持ち主に聞いたんだ」

戦士「…………」

359 : ◆O3m5I24fJo - 2017/06/19 19:47:17.33 m2rhFcF3o 278/578


戦士「獣医……獣医さん呼んでこないと……」

弟1「連れてきたよ!」

獣医「ジョン君……ああ、これはもう……」

戦士「助からないんですか!?」

獣医「もう少し早ければ、吐かせて助けることはできたんだけど……」

戦士「……そうだ……町の名医は……」

獣医「彼でも無理だろう。そもそも間に合わない」

「っ……っ……」

戦士「ジョン……嘘だろ……」

弟1「ジョンー! 死んじゃやだー!」

妹1「ジョンーっ!」

「ふぐっ……はっ……!」

戦士(こんな……こんなに苦しそうにもがいて……)

戦士(助け……られない……)

「…………がふっ」

戦士「ジョン……」

「――――」

戦士「………………………………………………………………」


戦士「今まで、ありがとうな」

360 : ◆O3m5I24fJo - 2017/06/19 19:48:52.02 m2rhFcF3o 279/578


――――――――
――

茶髪子「こんにちは。ジョン君が死んじゃったって聞いて……」

「弟と出会ったっていう丘の麓に埋めてきたわ」

戦士「…………」

「あの子、あれ以来ずっと泣きっぱなしでね」

茶髪子「……ヘリオス君、あのね、」

茶髪子「ジョン君、幸せだったよ。いつもあんなに楽しそうにヘリオス君と遊んでたんだもん」

戦士「…………」

茶髪子「どうしてもわんちゃんとは別れの時が来るんだけど、」

茶髪子「わんちゃんは、死んでからも家族のことを守ってくれる存在だから……」

茶髪子「あと、もし少しでも元気が出たら、ラッティに会いにいってみてね」

戦士「…………」

茶髪子「じゃあ……ね」

361 : ◆O3m5I24fJo - 2017/06/19 19:49:38.53 m2rhFcF3o 280/578


戦士(ラッティ……そういえば最近見てないな)

「ほら、体動かしてきなさいよ。そしたら気も晴れるでしょ」

戦士「……」

「一緒に行ってあげるから。悲しいのはあたしも同じなのよ」

戦士「うん……」



「こんにちはー。ラッティちゃん、今日は畑の番してないの?」

農家の子「こんにちは、アルテミスちゃん」

茶髪子「あ……」

「あら、さっきぶり。アリッサも来てたのね」

農家の子「実はラッティ、赤ちゃんを産んだの」

「あら」

農家の子「こっちの部屋にいるから、音を立てないようにそっと覗いてみて」

農家の子「ほら、ヘリオス君も」

戦士「…………」

戦士「…………!?」

362 : ◆O3m5I24fJo - 2017/06/19 19:52:32.62 m2rhFcF3o 281/578


「あらー、ジョンみたいな子犬がいっぱい」

戦士「あ、あいつ……」

戦士(ちゃっかりしてやがる……!)

農家の子「やっぱり……ジョン君の子供だよね?」

戦士(いつもフラれてたくせに、いつの間に……)

農家の子「よかったら、1匹か2匹どう?」

農家の子「今すぐじゃなくて、もうちょっと大きくなってからになるけど」

茶髪子「私も数匹もらうんです」

茶髪子「訓練された犬じゃないのに、ジョン君はエオスちゃんを見つけて助け出しました」

茶髪子「それってとんでもなくすごいことなんです」

茶髪子「だから、そのジョン君の子孫なら、きっといろんな所で活躍できるかなって」

「どうする? 寂しいでしょ。もらったら?」

戦士「……いい」

戦士「別れるの、つらいから……」

戦士「でも……たまに……子犬達に会いたい……」

農家の子「そっか。じゃあ、いつでも会いに来てね」

363 : ◆O3m5I24fJo - 2017/06/19 19:53:55.01 m2rhFcF3o 282/578


戦士(ジョンは死んじゃったけど、生きていた証はちゃんと残ってるんだ)

戦士(子犬、可愛かったな……)

戦士(俺は……子供を残すことなんて……できないんだろうな……)


――
――――――――
――――――――――――

戦士(……今日で、ジョンの10回目の命日か)

戦士(旅をしていてずっと帰郷せずにいたから、随分久しぶりの墓参りだ)

戦士(あれ以来、放し飼いされる犬はめっきり減って、今では全く見なくなった)

戦士(エサの質も良くなって、10年以上生きる犬も珍しくない)

戦士(ああ、あったあった。墓標代わりの石)

戦士(10年経っても変わらないな。少し安心した)

戦士「ジョン、俺、結婚できたんだぞ。今度は子供と一緒にここに来れたらいいな」

364 : ◆O3m5I24fJo - 2017/06/19 19:54:52.46 m2rhFcF3o 283/578


――
――――――――

墓参りに行った数日後、ヘリオスと同期は城下町の軍本部に研修を受けに訪れていた。

新兵「肩こったっすね」

戦士「そうだな。……あ」

訓練士「……!」

新兵「知り合いっすか? あの犬連れの綺麗な女の人」

戦士「同級生だ」

訓練士「久しぶり……ヘリオス君」

戦士「ああ、久しぶり。元気だったか?」

訓練士「うん、元気だよ」

戦士「今日は、その犬達を軍に届けに来たのか?」

訓練士「そうなの。厳しい訓練を乗り越えて、新しく軍用犬として配属される子達」

訓練士「2匹ともジョン君の子孫だよ」

戦士「!」

新兵「……」

新兵「俺先に行ってますね。どうぞごゆっくり」

戦士「気を遣わせてすまんな」

365 : ◆O3m5I24fJo - 2017/06/19 19:55:55.15 m2rhFcF3o 284/578


訓練士「女性とも流暢に話せるようになったのね」

戦士「あ……そうだな。当時は全然喋れなくて、アリッサさんに何度お礼を言いそびれたか」

訓練士「私も、ヘリオス君にいっぱい喋りたいことがあったのに、上手く話せなかった」

訓練士「お姉さんや妹さんに伝えてもらってばっかりで」

戦士「やっぱり、俺、怖がらせちゃってた?」

訓練士「ううん。そうじゃないの」

訓練士「あんまり緊張させちゃったら申し訳ないなって思って」

戦士「そっか」

戦士(確かに俺、酷いビビりようだったもんな。失礼にもほどがあった)

訓練士「それに、私、あの頃あなたのこと好きだった」

戦士「え?」

366 : ◆O3m5I24fJo - 2017/06/19 19:57:03.05 m2rhFcF3o 285/578


訓練士「だから、遊びに誘おうとしても恥ずかしくて言い出せなくて」

訓練士「懐かしいな。初恋だったんだよ」

戦士(え……ええええええええええええええ)

訓練士「あ、今はもう旦那一筋だよ。あなたも奥さん一筋なんでしょ?」

訓練士「『一途っぷりが素晴らしい』って実家に帰った時に聞いたよ」

戦士「…………」

訓練士「じゃあ、またね。仕事でたまに顔を合わせるかも。会えて嬉しかったよ」

戦士「ああ、また」

戦士(俺の薄暗い少年時代に少しだけ光が差したような……)

戦士(まあアリッサさんが例外なんだろうけど)

戦士「…………」

戦士(いずれ、ジョンの子孫と仕事をすることもあるかもしれない)

戦士(ちょっと楽しみだな)



367 : ◆O3m5I24fJo - 2017/06/19 19:58:22.24 m2rhFcF3o 286/578

kkmd
次は勇者ナハトがヘリオスと出会う前の話……の予定

370 : ◆O3m5I24fJo - 2017/07/09 21:39:10.33 wfTYkFe+o 287/578


【吸血鬼と湯けむり】


――東の大陸

吸血鬼(はあ、綺麗な男の子いないかなあ)

吸血鬼(一族の男は皆男臭くって嫌になっちゃう)

吸血鬼(男の子欲しさに、こっそり人間の町まで出てきちゃった)

吸血鬼(血が欲しいのもあるけど……)



勇者「怪我はないかい」

少女「は、はい。ありがとう……ございます……」

少女「私……どうお礼をすればいいのでしょう……」

勇者「お礼なんて要らないよ。君の純潔を守れたことが僕の喜びだからね」


吸血鬼「!!」

吸血鬼(あのコ、なんて綺麗なの……!)

371 : ◆O3m5I24fJo - 2017/07/09 21:39:46.43 wfTYkFe+o 288/578


吸血鬼(細い身体、高い背、ほんのちょっとあどけなさが残る顔立ち……)

吸血鬼(でも不思議、全然魔力の情報を読み取れない)

吸血鬼(美しい紺色の髪……)

吸血鬼(噂でちょっと聞いたことがあるわ。青い髪と瞳をもった勇者がいるって)



吸血鬼「ねえあなた」

勇者「!」

勇者(人間じゃない。亜人種だ)

勇者「……何者だい」

吸血鬼「そんなに構えないでよぉ」

吸血鬼「私、吸血族のヴェルミリオン。敵じゃないわ。あなたの血を狙ってるわけでもない」

吸血鬼「ただ……」

吸血鬼(いきなり『恋をしちゃった~』なんて言ってもついてきてくれなさそうね)

吸血鬼「あなたの腕を見込んでお願いがあるの」

372 : ◆O3m5I24fJo - 2017/07/09 21:43:54.70 wfTYkFe+o 289/578


吸血鬼「昔、私達の一族は、小さな村で人間と共生していたの」

吸血鬼「血を提供してもらう代わりに守ってあげていたのよ」

吸血鬼「でも、吸血行為を行う魔族が現れたせいで袂を分かつことになっちゃった」

吸血鬼「私達は何も悪くないってわかってはもらえたんだけどね」

吸血鬼「人間達は、血を吸われることそのものが怖くなっちゃったみたい」

勇者「…………」

吸血鬼「んで、その吸血魔族の一族が、この辺りで悪さしてるみたいなのよ」

吸血鬼「あいつらのことは許せないし、」

吸血鬼「私達が魔族だって誤解が広まって、こっちが間違って討伐されそうになるし……」

勇者「吸血魔族の退治を手伝ってほしいと」

吸血鬼「そうそう! お願いできるかしら?」

勇者「……いいだろう」

373 : ◆O3m5I24fJo - 2017/07/09 21:45:32.02 wfTYkFe+o 290/578


吸血鬼「私達の屋敷へ案内するわ」

吸血鬼(近くで見ても、やっぱり綺麗。吸い込まれそうな瞳……)

吸血鬼(夜に生きる私でさえ、もっと深い闇に引きずり込まれてしまいそう)

吸血鬼(でも血はまずそうね。あんまりお肉食べてなさそうだわ)

吸血鬼「本当にいるのね。人間でも、髪が魔力の色に染まってる子」

勇者「そういう体質でね」

吸血鬼「夜を思わせる色。それとは対照的に、肌は白くって……」

吸血鬼「あなた、まるで私達の仲間みたいね」

勇者「そうかい?」

吸血鬼「っ!」

吸血鬼(綺麗……やっぱり綺麗! 流し目を向けられてドキッとしちゃった)

吸血鬼(こんなに綺麗な人間がいるなんて……)

吸血鬼(欲しい……この子、絶対私のものにしてみせるわ……!)

勇者「…………」

勇者「あまり獲物を狩らんとする目で見つめないでくれるかな」

勇者「解ける警戒も解けなくなってしまうよ」

吸血鬼「あら……鋭いのね」

374 : ◆O3m5I24fJo - 2017/07/09 21:46:13.09 wfTYkFe+o 291/578


吸血鬼「ごめんなさいね。一目惚れだったの」

吸血鬼「でも、助けてほしいのはほんとなのよ」

吸血鬼「年はいくつ?」

勇者「今年で18になる」

吸血鬼「うそ。もっと若いでしょ」

勇者「……16だ」

吸血鬼「勘が当たっちゃった。あは。なんで嘘ついたの?」

勇者「大人のふりをした方が何かと便利でね」

勇者「君は…………吸血族は人間よりも寿命が長いのかい?」

吸血鬼「そそ。同年代に見えるでしょうけれど、何十年も生きてるのよ」

吸血鬼「私達にとっては大した差じゃないけどね」

375 : ◆O3m5I24fJo - 2017/07/09 21:46:51.73 wfTYkFe+o 292/578


吸血鬼「さあ、いらっしゃい。私の屋敷へ」

吸血鬼「晩餐を用意させるわ。吸血鬼だって、血ばかり飲んでるわけじゃないのよ」

吸血鬼「人間と同じように料理をすることだってあるわ」

勇者(闇を蝋燭が照らしている。重厚な雰囲気だ。……悪くない)

勇者(吸血族達の服のデザインは素晴らしいな)

勇者(貴族の衣服のような気品と、軍服のような堅さが共存している)

勇者(……着てみたい)

吸血鬼「ああ、そうだ。手伝ってもらうお礼は何がいいかしら」

勇者「とりあえず、前金代わりに君達の民族衣装を数着いただこうか」

吸血鬼「いいわよ。絶対似合うわ。」

勇者(よし……)

吸血鬼「すぐに持ってこさせるわね」

376 : ◆O3m5I24fJo - 2017/07/09 21:48:16.28 wfTYkFe+o 293/578


吸血鬼「あら、驚くほど似合うわね」

勇者(この服に出会うために僕はここに導かれたのかもしれない)

勇者(素晴らしい……!)

吸血鬼「ちょっとポーズとってみて」

勇者「……こうかい?」

吸血鬼「きゃー素敵!」

勇者(そこらの軍服よりも丈夫な素材でできている)

勇者(吸血族は戦闘を生業としていた)

勇者(いつ戦いになっても対応できるよう、普段からこういった素材のものを好んで身に着けているのだろう)

勇者(しかし……本当に……これほどしっくりくる服が手に入るとは……)

吸血鬼(さっきまではずっと作り笑顔だったのに、なんだか嬉しそうね)

吸血鬼(かわいいかも。うふふ)

377 : ◆O3m5I24fJo - 2017/07/09 21:50:10.21 wfTYkFe+o 294/578


食堂

吸血鬼「出発は明日の朝でいいかしら。魔族の棲家にはお昼には着くわ」

勇者「構わないが、君は太陽の下に出られるのかい?」

吸血鬼「ローブを被ればね。直射日光さえ遮ることができれば問題ないわ」

吸血鬼(食べ方も綺麗だわ。きっと良い家の生まれね)

吸血鬼「出身は何処なのかしら。その白い肌、きっと北の国の人なのでしょうけれど」

勇者「はは、何処だったかな。そんなことより、魔族の話をしたいね」

勇者「彼等について知っていることを全て教えて欲しい」

吸血鬼「そうね、強いのは2体いるわ。男と女よ。配下は確認できてるだけで10体ほど」

吸血鬼「弱点は日光。私達以上に陽の光が苦手みたいだわ」

吸血鬼「使う術はそこらへんの上級魔族と大して変わらないわね」

勇者「そうか」

吸血鬼(あんまり自分の話はしたくないみたいね)

378 : ◆O3m5I24fJo - 2017/07/09 21:50:56.94 wfTYkFe+o 295/578




勇者(星が綺麗だ)

勇者(……そろそろ眠ろう)




勇者「っ!?」ザッ

吸血鬼「きゃっ!」

勇者「何の用かな」

吸血鬼「んもう、こっそり忍び込んだつもりだったのに」

吸血鬼「私、魅力ないかしら?」

勇者「魅力的だよ。とても」

勇者「しかし僕はそういった行為をしようとは思わない」

吸血鬼「なによぉ! アレが使いモノにならなかったりでもするのぉ!?」

勇者「婚前交渉が嫌いなんだ」

吸血鬼「じゃ、結婚しましょ」

勇者「それはできない。僕は誰とも結婚するつもりはないんだ」

吸血鬼「んうー……諦めないからね」

吸血鬼(これだけ真面目なら絶対浮気しないでしょうし……もっと好きになっちゃった)

379 : ◆O3m5I24fJo - 2017/07/09 21:51:39.12 wfTYkFe+o 296/578


昼頃

吸血鬼「魔族はあの洞窟に潜んでるわ」

勇者「ああ。感じるよ、奴等の魔力を」

勇者「僕1人で始末できる程度の強さだ。君はここにいてくれ」

吸血鬼「あら、私はあいつらに恨みがあるのよ。少しくらい自分で殴らなきゃ気が済まないわ」

勇者「僕の攻撃に君を巻き込まない自信がない。自分の身を自分で守れるのなら好きにすると良い」

吸血鬼(どれだけド派手に戦うつもりなのかしら)

380 : ◆O3m5I24fJo - 2017/07/09 21:53:52.38 wfTYkFe+o 297/578


ヴコドラク「けっ、やっぱり非処女の血は腐臭がしてまじぃな」

モルモー「あんたが非処女にしちゃったんでしょぉ」

ヴコドラク「我慢できなくてよぉ」

――――

吸血鬼「あら、起きてるのね。昼間は寝ててくれてたらなって思ったのだけど」

勇者「余程多くの血を吸っているようだ。魔力振動が活発になっている。睡眠をとる必要がないのだろう」

――――

ヴコドラク「ま、デザートにとっといた処女がまだいるからな」

ヴコドラク「もう吸っちまうか」

女の子「ひっ」

モルモー「あたしもお昼ご飯にしよっと」

――――

勇者「…………」

吸血鬼(な、なんだか空気がピリピリしてるような……)

吸血鬼(もしかして……怒って……る……?)

381 : ◆O3m5I24fJo - 2017/07/09 21:55:07.76 wfTYkFe+o 298/578


男の子「ひえっ……」

モルモー「すぐには殺さないから安心してねえ」

モルモー「ちょおっと血をくれたら、その後は嬉しいことしてあげるぅ」

男の子「あうう……」ブルブル

ヴコドラク「暴れんなよお」

女の子「いやぁ……」




勇者「っ――」ブチッ

382 : ◆O3m5I24fJo - 2017/07/09 21:55:42.94 wfTYkFe+o 299/578


ザシュッ ザシュッ

吸血鬼「うわっ……」

ドゴォ

吸血鬼「ひ……」

ボォォォォォォ

吸血鬼「ああ……うわあ……」

ドッゴァァァァァァァァァン

女の子「ゃぁぁぁぁ……」ジョボオ

男の子「うぅぅぅうううぅうぅぅうううううう」ガクガク

グシャッ グシャッ

吸血鬼(あんなに静かな笑みを維持したまま、こんなことができるなんて)

吸血鬼(噂以上に……なんて……ああ……だめ、言葉にならない)

383 : ◆O3m5I24fJo - 2017/07/09 21:57:31.41 wfTYkFe+o 300/578


勇者「すまない。部下も全て瘴気に還してしまった。君の復讐の機会を奪ってしまったね」

吸血鬼「いいのよ……うん……なんだか気が晴れちゃったから……」

勇者「じゃあ僕はこれで。囚われていた人々を町に送ってくるよ」

吸血鬼「ま、待って!」

吸血鬼「少しでも吸血族への誤解を解くために、私の仲間に人間達を町に送り届けさせてほしいの」

吸血鬼「ああでも手柄を横取りされるみたいで嫌かしら!」

吸血鬼「あなたが手伝ってくれたっていうか助けてくれたってことは伝えさせるからあ!」

勇者「名誉に興味はない。君に任せるよ」

吸血鬼「それに、報酬だって前金代わりしか渡してないでしょ?」

吸血鬼「もう一回うちの屋敷に来て! ね?」

勇者「生憎だが」

吸血鬼「もう夜這いなんてしないし! お礼したいの! お願い!」

勇者「…………」

吸血鬼「うちの民族の鞄とか! 小物とか! いろいろあげるから!」

勇者(……欲しい)

勇者「わかったよ」

吸血鬼「やった♪」

384 : ◆O3m5I24fJo - 2017/07/09 21:58:48.18 wfTYkFe+o 301/578


――吸血鬼の屋敷

吸血鬼「汗かいたでしょ? お風呂入ってきたら?」

勇者「ありがたいね」


浴場

勇者(……随分広いな)

勇者(まともに入浴するのは久々だ。この頃は魔法で軽く水を浴びるだけだった)

勇者「……ふう」

勇者(しかし眠いな。屋敷に漂う葡萄酒の匂いのせいだろうか)

勇者「…………」ウトウト




バタン

吸血鬼「……のぼせるわよ?」

勇者「っ!?」ビクッ

385 : ◆O3m5I24fJo - 2017/07/09 21:59:58.45 wfTYkFe+o 302/578


吸血鬼「あ、やらしいことしにきたわけじゃないからね! 背中流してあげようと思って」

吸血鬼(あわよくばとはちょっと持ってるけど)

勇者「……1人でゆっくり入浴していたいんだが」

吸血鬼「恥ずかしがり屋さんなのね。……上がった方がいいわ。顔が真っ赤よ」

勇者「…………」

吸血鬼「女の子みたいに胸隠しちゃって、もう」

吸血鬼(実は女の子……なんてことないわよね。膨らみがあるわけでもないし)

吸血鬼(声だって低いもの。……低いわよね?)

吸血鬼「貴族の男の子にたまにいるみたいね、あなたみたいに肌を晒したがらない子」

吸血鬼「かーわいー」

勇者「疲れてるから……その……」

吸血鬼「もっと堂々としてていいのよ? ほら」グイ

勇者「やめっ」

吸血鬼「んもー!」

勇者「ひゃっ」

吸血鬼「何よ、女の子みたいな声出しちゃっ……」

吸血鬼(下も……ない……?)

386 : ◆O3m5I24fJo - 2017/07/09 22:04:55.72 wfTYkFe+o 303/578


吸血鬼(なんか読みにくい魔力してるなあって思ったけど)

吸血鬼(無性なのかしら。でも、この仕草……)

勇者「……………………」

吸血鬼「……女の子?」

勇者「…………」

吸血鬼「うーん……」

吸血鬼「…………」

吸血鬼「アリかも」

勇者「え……」

吸血鬼「私、それでもあなたのこと好きよ。そこらの男の子よりもよっぽど魅力的だもの」

勇者「ええと……」

吸血鬼「ねえ、いいでしょ? 私、あなたの旅についていきたい」

勇者「すまないが、仲間は作らないつもりなんだ」

吸血鬼「好き! 好きぃ!!」

勇者「っ……」

387 : ◆O3m5I24fJo - 2017/07/09 22:09:24.66 wfTYkFe+o 304/578


吸血鬼(……怯えさせちゃったみたい。私ったら、27歳も下の子に大人げなかったわね)

吸血鬼「ごめんね。まあ、また服着たり脱いだりするの面倒だから、」

吸血鬼「私は私で入浴するけどね。近くにいるくらい許してね」

勇者(退いてもらえた……)

勇者(女性であっても……体を見られるのは苦手だ)




翌朝

吸血鬼「……どうしても、ついていっちゃだめ?」

勇者「すまない」

吸血鬼「勝手についていくから!」

勇者「足手まといがいると戦いにくいんだ」

吸血鬼「でもどうしても一緒にいたいの!」

勇者「1人でいるのが好きなんだ」

吸血鬼「私はあなたといるのが好き!」

勇者「……やむを得ないな」

吸血鬼「っ!?」

388 : ◆O3m5I24fJo - 2017/07/09 22:10:43.71 wfTYkFe+o 305/578


吸血鬼(身体が……動かない!?)

勇者「数時間もすれば動けるようになる」

吸血鬼「ナ、ハト……」

勇者「必要以上に他人と関わるつもりはないんだ」

勇者「……どうか僕のことは忘れてほしい」

吸血鬼「ぜっ、たい……絶対忘れないから……!」

勇者「さようなら、ヴェルミリオン」

吸血鬼「いつか後悔することになるわよ……!」

吸血鬼「待ってなさいね……必ず、あなたを……捕まえてみせるんだからー!」

389 : ◆O3m5I24fJo - 2017/07/09 22:11:25.37 wfTYkFe+o 306/578

kkmd

※ナハトさんの胸が膨らみ始めたのは17歳くらいからなので当時はまな板

392 : ◆O3m5I24fJo - 2017/07/20 20:54:13.71 23Uh+dWko 307/578


*怪盗兄妹_1


館主「ぐぬぬ……」

ある冬が近付いた日、とある大陸のとある博物館に1枚の予告状が届いた。


【秘められし貴石が花を開かせる夜

闇に隠されしエメラルドを頂きに参上する

             怪盗タロット】

393 : ◆O3m5I24fJo - 2017/07/20 20:54:55.71 23Uh+dWko 308/578


怪盗タロット……兄と妹、2人1組の怪盗である。
世界中の宝物がタロットに盗まれているが、誰1人として彼等を捕まえることはできていない。

博物館の主は大急ぎで探偵を探したが、
どの探偵も予告状の差出人の名前を聞いた途端眉尻を下げた。


館主は困り果てたが、たった1人、
依頼内容を聞いても全く顔色を変えなかった者がいた。

巷では“紺色の髪の勇者”“さくらんぼ狩りの純血主義者”“色欲の断罪者”等と呼ばれている、
謎の美青年・ナハトである。

394 : ◆O3m5I24fJo - 2017/07/20 20:59:07.62 23Uh+dWko 309/578


館主「『秘められし貴石が花を開かせる夜』」

館主「これは我が博物館で毎年開催している貴石展のことだろう」

館主「今年は5日後に開催する予定だ」

勇者「闇に隠されしエメラルド、とは」

館主「“救済のエメラルド”と名付けられた最高級のエメラルドのことだ」

館主「8年前、この土地で採掘されたものでね」

館主「このエメラルドは貴石展の主役であり、世界最高の美しさをもっている」

館主「しかし、貴石展が開催される1ヶ月間しか基本的には人の目には晒していないため、」

館主「闇に隠されし、と表現したのだろう」

館主「救済のエメラルド目当てに世界中から観光客が訪れるほどの人気なのだ」

館主「そのため、開催中止は極力避けたい。観光客を悲しませたくないのだ」

勇者「……ふむ」

館主「タロットは厄介な盗人だ」

館主「一切魔術を使わず、謎のトリックで探偵を欺き、」

館主「まるで劇でも演じるかのようなパフォーマンスをして去っていく」

魔術を使えば、術者の魔力の残滓がその場に痕跡として残る。
そのため、魔術を使わずに行われた犯罪は、使った犯罪に比べて調査が困難なのである。

館主「勇者様ならきっと彼等を捕まえることができると信じておりますぞ!」

勇者「専門は強姦犯の追跡と浮気調査なのですが……やってみましょう」

395 : ◆O3m5I24fJo - 2017/07/20 21:00:22.16 23Uh+dWko 310/578


勇者「では、エメラルドを見せていただけますか」

館主「そ、それは……」

勇者「守るものの形と所在を教えていただかなければ、できる仕事もできませんよ」

館主「……わかった。あれは今我が自宅にある。お連れしよう」



メイド「お帰りなさいませ、旦那様」

勇者(大した豪邸だ)

館主「救済のエメラルドを保管しているのはこの特別保管室だ」

館主「これだよ」

勇者(確かに目を見張る美しさだ)

勇者(色味の異なる5つのエメラルドが台座に嵌められ輝いている)

館主「偽物を用意しようとも思ったのだが、時間が足らず……」

勇者「価値の低い物で構いません。エメラルドと、台座となっている物と同じ種類の金属を用意できますか」

館主「そ、それだけならばすぐに……」

396 : ◆O3m5I24fJo - 2017/07/20 21:01:28.01 23Uh+dWko 311/578


執事「お持ちいたしました」

勇者「使わせていただきますよ」

勇者ナハトがエメラルドと金属を掌に乗せると、
それらは一瞬で救済のエメラルドと瓜二つのジュエリーに変化した。

館主「!?!?!?」

勇者「救済のエメラルドと全く同じ構造をもつ複製を作りました」

勇者「目利きの鑑定士でも見分けることはできません」

勇者「魔感力の優れた人物か、世界最高レベルの魔導師であれば、」

勇者「魔力情報の違いによりレプリカだと気づくでしょうが」

勇者「そういった実力者は滅多にいません」

館主「な、なんと……」

館主(人間業ではない……)

館主「その能力を使えば、いくらでも高値のつく宝石を創り出せるのでは」

勇者「悪用する気は更々ありませんよ」

勇者「このレプリカの美しさが保たれるのは7日間」

勇者「敢えて私の魔力が抜けたら劣化するように構成しています」

館主「う、うむ」

397 : ◆O3m5I24fJo - 2017/07/20 21:04:43.14 23Uh+dWko 312/578


勇者「予告した以上、怪盗が貴石展の開催前にエメラルドを盗みにくることはないでしょう」

勇者「しかし、彼等が既に近くにいる可能性は非常に高い」

勇者「くれぐれも油断なさいませんよう」

勇者「……あちらにも何か保管しているようですが」

館主「大した品ではない」

勇者「…………」

勇者「では、怪盗タロットの情報を集めに町へ出て参ります」

館主(このレプリカの美しさが失われるのなら、)

館主(ただ怪盗にこれを盗ませるだけでは、いずれまた本物が狙われてしまう)

館主(やはり、なんとしても怪盗を捕まえてもらわなければ)

館主(しかし、あの若造にできるのだろうか……? 誰にも成し得なかったことを)

執事「旦那様、彼は魔族や盗賊を狩って生活しているただの旅人でしょう」

執事「信用に値する人物なのですか?」

館主「探偵紛いのことをしていると聞いたことがある」

館主「信じたいものだが……」

398 : ◆O3m5I24fJo - 2017/07/20 21:05:20.47 23Uh+dWko 313/578


勇者(流石にこの髪の色で情報収集をするのは目立ちすぎる)

勇者(この町の人間は茶髪が多いようだな)

勇者(……こんな具合か。髪の色は少し集中を乱すだけで変化してしまう)

勇者(気を抜かないようにしなければ)

勇者(服も地味な物を揃えるか)


――スナック

ママ「あら、綺麗な男の子ねえ。お酒はまだ飲めないかしら」

勇者「僕が欲しいのは、お酒じゃなくて情報ですよ」

ママ「うふふ。ものによっちゃあ、あたしの情報は高くつくのよ。坊やに払えるかしら」

勇者「世間話程度でいいんです。怪盗タロットについて……教えていただけませんか」







399 : ◆O3m5I24fJo - 2017/07/20 21:15:41.52 23Uh+dWko 314/578


5日後の夜

館主(客には申し訳ないが、レプリカを展示させてもらった)

館主(本物と輝きは変わりないのだ。許してくれ)

執事「日が落ちてだいぶ経ちました」

館主「もういつ現れてもおかしくないな……」

館主「うむ」

館主「ナハト、勇者ナハトはいるか」

館主「全く……何故おらんのだ!」

突然、全ての魔石灯が光を失った。
客達は闇に戸惑い混乱している。

400 : ◆O3m5I24fJo - 2017/07/20 21:20:24.67 23Uh+dWko 315/578


「翼を失った翠の結晶――貰い受けに参りましたよ」

展示室内に男の声が響き、救済のエメラルドが展示されていた場所だけが明るく輝いた。
奇妙な化粧をした男の姿が現れる。

怪盗兄「ああでもいけない、これは紛い物のようだ」

男の手に握られた5つの連なったエメラルドは、再び台に戻された。

怪盗妹「そして……本物はここに」

男の背後から、似た格好の女が現れる。

館主「なっ……んだと!?!?」

館主「あれは屋敷の地下に隠しているはず!」

客の内の何人かは歓声を上げている。
優雅に振る舞う怪盗のファンは密かに多い。

勇者「さあ……それはどうかな」

人々は展示室の入り口の方へ振り返った。
扉の両脇の魔石灯が妖しい光を放ち、そこに立つ青年を照らす。

401 : ◆O3m5I24fJo - 2017/07/20 21:26:19.86 23Uh+dWko 316/578


勇者「“救済のエメラルド”はここにあります」

白い手袋で覆われた手に握られているのは、確かに救済のエメラルドだ。

勇者「……なんてね。僕の言葉も真実とは限らない」

勇者「本物は一体どれなのだろうね」

勇者は懐に手を入れると、救済のエメラルドと同じ形をした物を5つ取り出した。

勇者「君達が本当に目利きなのなら、本物を見分けられるはずだよ」

怪盗兄「なんだとォ……!?」

勇者「もっとたくさんあるよ」

じゃらじゃらと音を立てて取り出されるそれらは、どれも本物と同じ輝きを放っている。
怪盗の男は勇者に近付き、1つ1つ必死に見るが、どれが本物でどれが偽物なのか見当もつかない。

怪盗兄「本物は何処にある……!?」

勇者「……ははは」

勇者「目利きの振りをしていたようだが、メイドとして忍び込ませた彼女に情報を入手させただけだったようだね」

勇者はカツカツと踵を鳴らしながら部屋の奥へと向かった。

勇者「実は、君が最初に手に取ったこれが本物なのだよ」

怪盗兄「なっなにいいいいいいい!!」

怪盗妹「そんな……!」

402 : ◆O3m5I24fJo - 2017/07/20 21:29:56.30 23Uh+dWko 317/578


館主「そ、そんなはずは」

勇者「信頼していただけていないようでしたので、こっそり摩り替えさせていただきました」

客達はすっかり勇者に夢中である。

勇者「しかし、君は他にも盗んだ宝石を持っているね」

勇者は怪盗の女に向かって言った。

勇者「見せてもらえるかな」

怪盗妹「……これも返せって言うのかしら」

女は懐から2粒のエメラルドを取り出した。
1つは他の物と同じ大きさだが、もう1つは4倍ほどの大きさである。

館主「あ、あれは……!」

勇者「あなたが救済のエメラルドと共に保管していた物、ですね?」

館主は驚いたまま押し黙った。

勇者「この宝石は君達に預けよう」

怪盗妹「……!」

会場がざわつく。

あろうことか、若き勇者は2粒のエメラルドを取り戻そうとはせず、
救済のエメラルドを怪盗の女に渡したのだ。

403 : ◆O3m5I24fJo - 2017/07/20 21:35:45.47 23Uh+dWko 318/578


勇者「皆さん、お聞きください」

勇者「これらのエメラルドは遥か北の大地より盗まれた物です」

怪盗妹「知っていたの……!?」

勇者「幼い頃に見たことがあったんだ」

勇者「黄金に輝く3対の翼に埋め込まれた6つのエメラルドと」

勇者「その狭間で輝く1粒の大きなエメラルドをね」

勇者「本来の名は“熾天使の木の葉”」

勇者「世界中から集められたエメラルドを黄金の熾天使像に嵌めこんだ芸術作品」

勇者「だが9年ほど前に、エメラルドのみが盗まれてしまった」

館主「くっ……くうっ……」

勇者「あなたは……これらが盗品だと知った上で所持していましたね」

404 : ◆O3m5I24fJo - 2017/07/20 21:37:01.67 23Uh+dWko 319/578


勇者「7つ全てを使えば盗品だとばれてしまうリスクが高かった」

勇者「そのため5つのみを新たな作品として利用したのでしょう」

館主「……美しいエメラルドが必要だった」

館主「この土地で採れるエメラルドは、そう質は悪くない」

館主「しかし他の産地より知名度が低く、マーケティングは上手くいかなかった」

館主「観光収入もないために町は貧しくなる一方……!」

館主「領主である我が父はいつも頭を悩ませていた!!」

館主「だから……確実に有名になる石を手に入れ……知名度を上げなければならなかった」

勇者「冬季にのみ公開していたのは、」

勇者「熾天使の木の葉のことをよく知っている北国の富裕層が訪れるのを防ぐためですね」

北国の多くは冬場が社交の季節であり、
貴族は首都に集まらなければならないため他国へ旅行に行くことは困難である。

405 : ◆O3m5I24fJo - 2017/07/20 21:42:12.71 23Uh+dWko 320/578


勇者「君達が本来の持ち主から依頼されて盗品を盗み返す義賊だということも調べさせてもらった」

勇者「本来は行政機関により本来の持ち主へ返されるべきだが、」

勇者「そういった組織は、権力者との癒着している場合もある」

勇者「残念なことに、必ずしも綺麗事で物事を解決できるとは限らない時代だ」

館主「くう……!」

勇者「ルクスリエース国からは、近々処罰が下されるでしょう」

勇者「土地を想う心には敬服します」

勇者「しかし、盗んだ物で作った栄光は、そう長くは続きません」

館主「…………」

勇者は踵を返し、出入り口へと向かう。

怪盗兄「待て……!」

怪盗兄「よくも俺達に恥をかかせてくれたな!」

怪盗妹「兄さん!」

怪盗兄「しかも俺より振る舞いが優雅だし! 妖しげな雰囲気醸し出しまくってやがるし!」

怪盗兄「俺等よりもそれっぽいじゃねーか!」

怪盗妹「兄さん……」

406 : ◆O3m5I24fJo - 2017/07/20 21:43:15.98 23Uh+dWko 321/578


怪盗妹「……ねえあなた、私達の仲間にならない?」

怪盗妹「あなたが協力してくれたら、世界中の盗品を盗み返せるわ」

怪盗兄「おい何言ってんだよ!」

勇者「生憎、1人旅が心地良くてね」

怪盗妹「……そう」

勇者「では、これで失礼させてもらうよ」

怪盗兄「覚えてろよ」

怪盗兄「次に会う時はおまえよりも優雅に立ち振る舞ってやるからなー!」

怪盗妹「恥の上塗りはやめて、兄さん」

勇者「ふふっ……楽しみにしているよ」

勇者(兄さん……ね)

勇者(魔力を読んだ限り、彼女の方は知らないようだ)





407 : ◆O3m5I24fJo - 2017/07/20 21:43:54.57 23Uh+dWko 322/578




怪盗兄「ちくしょう……」

怪盗妹「いいじゃない、兄さん。依頼通り盗み返せたのだから」

怪盗兄「俺のプライドはあいつに盗まれちまったがな」

怪盗妹「まあまあ」

怪盗兄「やけにあいつの肩持つじゃねえか!」

怪盗妹「あのね、兄さん。私も……盗まれちゃったみたい」

怪盗兄「え?」

怪盗妹「だいじなもの」

怪盗兄「なっまっまさかっ」

怪盗兄「おまえの心かああああああ!?!? うわああああああああ!!!!」



続く

410 : ◆O3m5I24fJo - 2017/07/21 20:48:23.96 8H5w8ebTo 323/578


*怪盗兄妹_2


――北の大陸北東部

戦士(幸い今日はほとんど雪が降ってない)

戦士(でもやっぱ冷えるなあ)

勇者「次の町に着いたら防寒具を買い足そうか」

戦士「大丈夫っす」

戦士(フラれてからも気を遣ってもらえてはいる)

戦士(そしてそれがまたつらい)

戦士(最近はずっと馬車での移動だから、徒歩は随分久々に感じる)

戦士(先日滞在していた村では馬車を借りられなかった)

戦士(あったかい宿で休みたいな……)

突如、2人を円で囲むように風船が現れた。
それらは破裂音を発しながら紙吹雪を巻き起こす。

怪盗兄「怪盗タロット、華麗に参上!」

怪盗妹「久しぶりね、ナハト」

411 : ◆O3m5I24fJo - 2017/07/21 20:48:50.23 8H5w8ebTo 324/578


戦士(俺がこの人達と会うのはこれで3度目だ)

戦士(お兄さんのスパーダさんはナハトさんをライバル視していて、会う度に勝負をけしかけている)

戦士(前々回はポージング対決だったし、前回は何故かジャンケン勝負だった)

戦士(妹のアミュレッタさんはナハトさんのことが好きらしく、)

戦士(ナハトさんの心を盗もうと必死である)

怪盗兄「おいヘリオス、何してんだ」

戦士「何って……見てのとおりゴミ拾いですけど」

地面には演出に使用した風船の残骸や紙切れが大量に落ちている。

戦士「環境破壊じゃないですか」

怪盗兄「真面目な奴だな……」

怪盗妹「ちゃんと自然に還る素材で作ってるから放っておいて大丈夫よ」

戦士「あ、そっすか」

412 : ◆O3m5I24fJo - 2017/07/21 20:50:24.04 8H5w8ebTo 325/578


勇者「今日は何の用だい」

怪盗兄「その澄ました顔、やっぱりいけ好かな……ん?」

勇者「なんだ」

怪盗兄「……顔つき随分変わったな?」

怪盗兄「なんつうか……女っぽいな? 太ったのか?」

勇者「……」

怪盗兄「あれだろ、体型が隠れる格好してんのも丸くなっちまったからだろ?」

勇者「寒いからだが」

怪盗兄「プロポーションの良さなら今は俺の方が上かもしんねえなあやったぜ!」

勇者「…………」

戦士(まずい。かなりイライラしてきてる)

413 : ◆O3m5I24fJo - 2017/07/21 20:51:18.80 8H5w8ebTo 326/578


勇者「……くだらない。行こうか、ヘリオス君」

怪盗兄「まあ待てって」

勇者「……」

怪盗兄「どれくらい体重あるか当ててやろうか? ……やっぱり頬のあたりが丸くなったな?」

スパーダはナハトの右手首を掴んだ。

戦士(うわあああああああああああナハトさんに触るな!!!!)

勇者「放せ」ギロ

怪盗兄「ひぃっ」

怪盗兄「お、おまえこんなに苛立ちを表に出す奴だったか?」

怪盗妹「兄さん、いい加減にして」

戦士「…………」

怪盗兄「なんでおまえまで睨みつけてくんだよ……」

怪盗兄(しかも涙目だし……あれか、こいつはナハトのことが好きなのか?)

怪盗兄(そうかあ、ヘリオスはホモだったか)

414 : ◆O3m5I24fJo - 2017/07/21 20:51:52.44 8H5w8ebTo 327/578


怪盗妹「実は、今日は協力を求めに来たの」

怪盗妹「この近くに大きな屋敷があるのだけど、」

怪盗妹「その屋敷の主が盗賊団を裏で操ってるって情報が入ったの」

怪盗妹「私達の目的は、彼等が盗んだ金銀財宝を盗み返すこと」

怪盗妹「でも、彼等はあまりにも強すぎるのよ。運ばなきゃいけないお宝も多くって」

怪盗兄「力を貸してくれ。プライドを捨てて頼んでんだ」

勇者「傭兵でも雇えばいい」イライライラ

怪盗兄「世界最強のおまえなら誰よりも安心なんだよ悔しいけど!」

勇者「急いでるんだ」

戦士(普段なら絶対盗賊を放置したりしないのに……)

怪盗兄「何かっかしてんだよ! 生理前の女じゃあるまいし」

勇者「…………」

戦士(どうしてここまで的確に地雷を踏めるんだろう)

415 : ◆O3m5I24fJo - 2017/07/21 20:52:37.39 8H5w8ebTo 328/578


勇者「ヘリオス君、彼等に協力してあげてくれるかい」

戦士「いいですけど」

怪盗兄「おまえはどうすんだよ」

戦士(いつにも増して厚かましいなこの人)

勇者「アジトの外で逃げ出した残党を狩る」

怪盗兄「ええ……」

戦士(俺だけじゃあ頼りないって思ってんだろうなあ……)

勇者「今のヘリオス君なら1人でも充分な戦力になる」

怪盗妹「わかったわ。ありがとう」





怪盗兄「ちゃんと旅人小屋見つけといたんだぜ。感謝してくれよ」

旅人の多い道には、宿として使える小屋がしばしば建てられている。
山小屋と同じようなものである。

怪盗妹「兄さん、感謝するのは私達の方でしょう」

戦士「裏に井戸もあるんすね」

怪盗妹「兄さん、ほら、化粧を落としてきましょう。このまま寝るのはお肌に悪いわ」

怪盗兄「他人に素顔を……まあいいか、こいつらだし」

416 : ◆O3m5I24fJo - 2017/07/21 20:53:10.08 8H5w8ebTo 329/578


怪盗妹「流石にお水冷たかったわねー」

戦士(あれ?)

怪盗兄「なんだよその目。俺達の素顔がそんなに面白いか」

戦士「いえ、なんでも」

戦士(メイク落としたら、この人達全然似てないんだな)

怪盗兄「あ、これ前金な」

戦士「どうも。……ナハトさん」

勇者「全て君が受け取っておくといい」

戦士「……あざっす」


怪盗兄「……なあ、こいつら前会った時よりぎこちなくなってないか?」コソコソ

怪盗妹「確かに……」コソコソ

怪盗兄「もしかしてさ、こいつら……デキてんじゃないか?」

怪盗妹「え、何言ってるのよ……」

怪盗兄「いちゃつきてえのに俺達が邪魔だからこんな態度なんだろ多分」

怪盗妹「そ、そんなまさか……」

勇者「こそこそ話をするくらいなら外に出ていってもらえるかな」

怪盗兄「ひえっ」

417 : ◆O3m5I24fJo - 2017/07/21 20:53:37.30 8H5w8ebTo 330/578


怪盗兄(ナハトがホモなら、アミュレッタもこいつのことを諦めるかもしれない)

怪盗兄(希望が……希望が見えてきたぞ……!)

戦士(一体何に対して滾ってるんだろうこの人)

戦士「まあ、寝ますか」

勇者「そうだね」

怪盗兄「ほら、2人で密着して寝てるじゃねえか。やっぱりそういう関係なんだろ」

怪盗妹「で、でも」

怪盗兄「ナハトのことは諦めろ、こいつらはホモップルなんだ」

怪盗妹「暖をとるために一緒のお布団にくるまってるだけでしょ?」

勇者「……」イライライラ

戦士「何話してるか知らないですけど、寝れないんでやめてくれませんかね」

怪盗妹「ご、ごめんなさい」

怪盗兄「睨まないでくれ。おまえの顔本気で怖い」

戦士(これじゃナハトさんがイライラしすぎて寝られない。駄洒落でも言おうかな)

怪盗妹「ほら兄さん、私達も……あっ」

418 : ◆O3m5I24fJo - 2017/07/21 20:54:09.45 8H5w8ebTo 331/578


怪盗妹「見て、雪が降ってるわ。月明かりに照らされて綺麗」

戦士「積もったら困りまスノウ」

怪盗兄「…………!?」

怪盗妹「…………」

勇者「…………」

勇者「ふっふふっ……ははははは……」

戦士「おやすみなさい」

勇者「うん……おやすみヘリオスくん……ふふっ……」

怪盗兄(さっむ……)

怪盗妹(ヘリオス君……彼のこと、よくわかってるのね)

怪盗妹(そりゃそうよね、私よりもずっと長く彼と一緒にいるのだもの)

勇者「っ……っ……」

戦士(痙攣してる……)

戦士(まあ、そのうち笑い疲れて寝るだろう。機嫌取れてよかった)

419 : ◆O3m5I24fJo - 2017/07/21 20:58:10.93 8H5w8ebTo 332/578


翌日、道中

勇者「……うっ」

怪盗兄「おいどうした」

勇者「…………」

戦士「おぶさりますよ」

勇者「すまない」

戦士(体調が悪い時はどうしようもないから頼ってもらえる。嬉しい)

怪盗妹「……調子、悪いの?」

勇者「…………」

戦士「問題ないです。行きましょう」

戦士(他人に弱ってるところを見られるのを極端に嫌う人だ。屈辱だろうな)

怪盗妹「…………」

怪盗兄「心配してやってるってのに」

420 : ◆O3m5I24fJo - 2017/07/21 20:59:27.82 8H5w8ebTo 333/578


怪盗兄「屋敷はあそこにあるわけだが」

勇者「逃げ出した盗賊を雷で撃ち落とすくらいはできる」

勇者「ここに置いていってもらえれば問題ない」

戦士「じゃあ、すぐ戻ってきますんで」

怪盗妹「……本当に大丈夫?」

勇者「ああ」

怪盗兄「じゃあ、俺達は作戦通りこっそり忍び込み、屋敷の主を捕らえお宝を確保する」

怪盗兄「盗賊を引き付ける役は……ほんとにおまえ1人で大丈夫なんだろうな?」

戦士「やれるだけがんばりますよ」

勇者「魔力を探った限り大した連中じゃない。ヘリオス君なら負けることはないだろう」

怪盗兄「おまえにとっては大したことないってだけだろ……? 普通の人間にとってはかなり厄介な相手なんだぞ」

勇者「彼なら無問題だと言っているだろう」

怪盗妹(……信頼してるのね、ヘリオス君を)

421 : ◆O3m5I24fJo - 2017/07/21 21:00:07.29 8H5w8ebTo 334/578


屋敷内

「侵入者だー!」

「愚かにも真正面から入ってきたぞー!」

戦士「かかってこい!」




怪盗兄「よし、あいつが囮になってくれたおかげでこっちはだいぶ警備が薄くなってるな」

怪盗妹「この程度の人数ならなんとかなるわね」

手品師「おっと、舐めてもらっては困る」

怪盗兄「っ!」

怪盗兄(こいつ、ちょっとやばいな)

手品師が片腕を振り上げた瞬間、廊下の各所から非常に小さなナイフが飛んだ。
2人の怪盗はマントで攻撃を凌ぐ。

特殊な素材でできたそれは、そう簡単に刃を通すことはない。

怪盗兄「つっ」

しかし、背後から飛んできたナイフがスパーダの右足を掠めた。

422 : ◆O3m5I24fJo - 2017/07/21 21:01:09.90 8H5w8ebTo 335/578


痛みに怯むことなく彼は杖の先を手品師に向ける。

手品師「そんな棒で何をっ!?」

それは仕込み杖だった。底がはがれ、針が勢いよく飛び出す。
手品師が針を防ごうと身構えた隙を逃さず、スパーダは間合いを詰めた。

スイッチを押して杖のシャフトから刃を出し、手品師の腕を浅く裂く。

手品師「ほう、貴様も奇術を操るらしいな。おもしr」

手品師は格好良く台詞を言おうとしたが、脇腹を直撃した炎弾に遮られた。
吹き抜けの階下にいるヘリオスが攻撃を加えたのだ。

戦士「もう彼は動けません」

怪盗兄「えー俺が倒そうと思ってたのに!」

怪盗妹「お礼を言うのが先でしょ!? ほら、行くわよ」

怪盗兄「悪い、先に行ってくれ」

スパーダは足を押さえている。敵が倒れたことで、遅れて痛みが出てきたのだ。

怪盗妹「……わかったわ」

アミュレッタは窓から外に出、外壁をよじ登っていった。

423 : ◆O3m5I24fJo - 2017/07/21 21:01:58.13 8H5w8ebTo 336/578


戦士「大丈夫ですか」

怪盗兄「微妙だ。ちくしょう、アミュレッタに良い所見せたかったってのに」

戦士「すみませんね余計なことをして。見せてください」

ヘリオスが傷口に手をかざす。

怪盗兄「おまえ、治療術使えるのか」

戦士「少しですけどね。先へ急ぎましょう」

ヘリオスは敢えて派手に屋敷のあちこちを破壊しながら進んだ。
敵を引き付けるためだ。

現れた盗賊達は次々とヘリオスに倒されていく。なお、命は奪われていない。
というのも、生きたまま憲兵に引き渡した方が報酬が多くなるからだ。

犯罪者の魔力はバッテリーの原料となるためである。

怪盗兄「殺さないように戦うのが一番難しいってのに」

怪盗兄「おまえ、どうやってそんなに強くなったんだ?」

戦士「ナハトさんに鍛えてもらいましたから」

怪盗兄「なあ、おまえらってデキてるんだよな?」

戦士「え?」

424 : ◆O3m5I24fJo - 2017/07/21 21:02:43.89 8H5w8ebTo 337/578


怪盗兄「あ、隠さなくていいぞ! そういう趣味を差別するつもりはねえからな!」

怪盗兄「おまえホモなんだろ?」

戦士「……もう、それでいいです」

戦士「でも付き合ってはないです」

怪盗兄「そうかあ、でも脈はあると思うぞ!」

戦士(ないんだよなあ……)

戦士「スパーダさんこそ、アミュレッタさんのこと大好きですよね」

戦士「必死にかっこつけて、他人を下げて、アピールしまくりじゃないですか」

怪盗兄「……はあ」

怪盗兄「俺さ、どうしてもナハトから盗み返したいものがあるんだよ」

戦士「アミュレッタさんの心ですよね」

怪盗兄「そうだよ」

怪盗兄「俺は一度もあいつのことを妹だと思ったことはない」

怪盗兄「アミュレッタが妹になったその日から、俺にとってあいつは女だった」

425 : ◆O3m5I24fJo - 2017/07/21 21:03:09.99 8H5w8ebTo 338/578


怪盗兄「俺達に両親はいない」

怪盗兄「大怪盗である養父に育てられたんだ」

怪盗兄「親父に連れてこられた時、あいつはまだ6歳だった」

怪盗兄「だが、目の前で両親を殺されたショックで記憶を失っていたんだ」

怪盗兄「ちくしょう、可哀想に……」

戦士「仇は取れたんですか?」ザシュザシュ

怪盗兄「いいや、まだだ。手掛かりは少しずつ集まってるけどな」

戦士「犯人、見つかるといいっすね」ボコッボコッ

怪盗兄「……よく人の身の上話聞きながら戦えるな……どんだけ余裕なんだよ……」

怪盗兄(将来はばけもんだなこりゃ……)

426 : ◆O3m5I24fJo - 2017/07/21 21:03:35.62 8H5w8ebTo 339/578


怪盗妹「待ちなさい!」

屋敷の主「捕まるものか!」

屋敷の主は必死に階段を駆け下りている。

怪盗兄「危ないアミュレッタ!」

怪盗妹「!?」

天井から勢いよく網が落ち、アミュレッタを捕らえた。

屋敷の主「よくやったリヴェッド!」

奇術師「わたくしめにお任せを」

怪盗兄「おまえは……!」

奇術師「久しいな、怪盗タロット」

戦士「誰ですか」

怪盗兄「……怪盗界屈指の悪人だ」

427 : ◆O3m5I24fJo - 2017/07/21 21:04:26.02 8H5w8ebTo 340/578


怪盗兄「奇術は人を驚かせ、そして喜ばせるためにある」

怪盗兄「なのにあいつは……奇術を悪事に利用し、人を不幸に陥れてばかりいやがるんだ!」

怪盗兄「まさかここで会うことになるとはな」

奇術師「今日こそ貴様等を我が奇術の餌食にしてや」

戦士「はっ!」

奇術師「ぐわーっ!」

奇術師は炎弾に倒れた。

屋敷の主「ひどい」

戦士「無駄にかっこつけてる人って隙が大きいんすよね。ナハトさんを除いて」

怪盗兄「おまえって容赦ないよな……」

戦士(さっさと終わらせてナハトさん迎えに行きたいし)

戦士「この人、一応実力者なら殺さないと危険だと思うんですけど」

怪盗兄「アミュレッタの両親の仇について何か知ってるかもしれない。生かしておいてほしい」

戦士「じゃあ任せます」

怪盗妹「……兄さん」

怪盗妹「私の両親の仇、って……どういうこと?」

怪盗兄「え?」

428 : ◆O3m5I24fJo - 2017/07/21 21:05:05.67 8H5w8ebTo 341/578


怪盗兄「ほら、おまえって両親を殺されて親父に拾われたろ」

怪盗妹「それはお父さんから聞いたけれど」

怪盗妹「『アミュレッタの両親の仇』って言ったわよね?」

怪盗兄「ああ」

怪盗妹「どういうこと?」

怪盗兄「何がだ?」

怪盗妹「えっと……だから……」

怪盗妹「私達、兄妹でしょ?」

怪盗兄「そういう風に育ったな」

怪盗妹「……兄さんの両親は?」

怪盗兄「病死したけど」

怪盗妹「兄さんと私って、血、繋がってないの?」

怪盗兄「え、おまえ、知らなかったのか?」

怪盗妹「……!?!?!?!?!?」

怪盗兄「ええええええええええええええ!?!?!?!?」

怪盗妹「嘘でしょーーーーーーーーーー!?!?!?!?」

屋敷の主(こ、この隙に)

戦士「逃げたらアキレス腱切りますよ」

屋敷の主「ひっ」

429 : ◆O3m5I24fJo - 2017/07/21 21:05:33.09 8H5w8ebTo 342/578


怪盗兄「道理で男として見られてねえなって思ってたんだよ!」

怪盗妹「見れるわけないでしょ兄さんだもの!」

怪盗兄「俺はおまえのこと最初っから女として好きだったんだぞー!?」

怪盗妹「ええええええええええええええええ!?!?!?」

怪盗兄「なのにおまえは!! あんなヒョロいナハトなんかに惚れちまうし!」

怪盗妹「ヒョロいのは兄さんだって一緒でしょ!!」

怪盗兄「だってヒョロい方がガチムチより怪盗っぽいだろ!?」

戦士「仕事のこと優先しませんか」

怪盗妹「そ、そうね……」

430 : ◆O3m5I24fJo - 2017/07/21 21:06:50.25 8H5w8ebTo 343/578


怪盗兄「あいつの何処がいいんだよー……」

怪盗妹「だって、彼のドヤ顔……カリスマ怪盗って感じがして素敵なんだもの……」

怪盗兄「残念だったな今回はあいつのドヤ顔拝めなくて」

戦士(そりゃ、そういう日だからどうしても機嫌は悪い)

怪盗妹「本当に……でも憂える彼の表情も貴重で素敵なのよ」

怪盗兄「でも太ったじゃんかよ!」

戦士(肉付きが良くなっただけだちくしょう!! まだガリガリの域だし!!)

怪盗妹「不健康なくらい細かったのが健康的になっただけでしょ!」

戦士(その通り!!)

怪盗兄「俺のドヤ顔じゃ駄目なのか!?」

怪盗妹「いきなりそんなこと言われても……私にとってスパーダは兄さんだもの」

怪盗兄「うっうっちくしょう……」

戦士(泣き出した……)

戦士(まあ失恋のつらさは痛いほどわかる)

431 : ◆O3m5I24fJo - 2017/07/21 21:07:21.87 8H5w8ebTo 344/578


勇者「おかえり」

戦士「無事終わりました。……一応」

怪盗兄「大体おまえはー!」

怪盗妹「なによー!」

勇者「……随分騒がしいね」

戦士「なんか揉めてるみたいです」

怪盗妹「あ……」

怪盗妹(彼、ヘリオス君の顔を見てる時は表情が柔らかくなってる)

怪盗妹(まるで、恋をしている女の子みたいに)

怪盗妹「…………」

怪盗妹「……ねえナハト、ちょっとだけ2人で話したいのだけど、いい?」

怪盗兄「駄目だー!」

怪盗妹「ちょっと黙ってて」

432 : ◆O3m5I24fJo - 2017/07/21 21:12:47.93 8H5w8ebTo 345/578


怪盗妹「私ね、ずっと気になってたの」

怪盗妹「孤独を好んでいたあなたが、どうしてヘリオス君の同行を許しているのか」

勇者「…………」

怪盗妹「あの子のこと、好きなのね」

勇者「…………」

勇者(女性の観察眼には敵わないな)

勇者(スパーダにも容姿の変化に気づかれたし、男を装うのはもう限界か)

怪盗妹「私、今日限りであなたのことは諦める」

怪盗妹「男の子同士の恋愛は苦労も多いでしょうけれど、応援してるわ」

勇者「え」

怪盗妹「でも、たまには会いに来てもいいわよね? お友達として」

勇者「…………」

勇者「……………………」

勇者(女だとバレているわけではなかった上にあらぬ誤解が……)

勇者(しかし……わざわざ解いてもややこしいことになるな……)

433 : ◆O3m5I24fJo - 2017/07/21 21:13:20.71 8H5w8ebTo 346/578


怪盗兄「何話してたんだよちくしょおおおお!!」

怪盗妹「兄さん、私、もういいの。お宝を持って依頼主の元へ戻りましょう」

怪盗兄「え、……マジでか!?」

怪盗兄「ぐすっ……よ゛がっだあ゛ぁぁ……」

怪盗妹「ありがとう、ナハト。ヘリオス君。はい、お礼よ」

怪盗兄「さらばだふはははは!」





戦士「……疲れた」

勇者「…………」

勇者(これでよかったのだろうか……?)

434 : ◆O3m5I24fJo - 2017/07/21 21:13:47.14 8H5w8ebTo 347/578


――
――――――――

怪盗妹「……はあ」

怪盗兄「何溜め息ついてんだよ」

怪盗兄「まだあいつに恋焦がれてるのか」

怪盗妹「ううん。この頃、私、変なのよ」

怪盗兄「?」

怪盗妹「……男の子同士の恋愛って、尊いと思わない?」

怪盗兄「……!?」

怪盗妹「未知の世界の扉を開けてしまった気分なの」

怪盗兄「そ、そんな……そんな馬鹿な……」

怪盗妹「兄さんが男の子に恋をしてくれたら、私兄さんのこと好きになれるかもしれないわ!」

怪盗兄「…………」

怪盗兄(俺の……俺のアミュレッタが目覚めたてほやほやの暴走腐女子になっちまった)

怪盗妹「こんな私でも、愛してくれる? 兄さん」

怪盗兄「俺の純情がああああああうわあああああああああああああああ!!!!!」


終わり

436 : ◆O3m5I24fJo - 2017/07/28 02:12:23.12 YA9RYlYho 348/578


*エリウスくんの日常


戦士「珍しく早起きじゃないか、エリウス」

長男「うん……なんか、眠りが浅くって」

長男「……約束、守れなくてごめん」

戦士「なんだそれ」

長男「俺もよくわかんない。なんとなく言いたくなって。変な夢見たせいかも」

戦士「そうか」

戦士「よし、せっかく早起きしたんだからロードワーク付き合え」

長男「ええ!?」

437 : ◆O3m5I24fJo - 2017/07/28 02:12:53.21 YA9RYlYho 349/578


長男「とーさん、もっむりっ……ぜっ、ぜっ」

戦士「ほんと体力ないなあ」

父さんは俺をひょいと持ち上げた。

長男「わっ!」

戦士「かっるいな~もっと飯食えよな」

長男「うっわ揺れる揺れる」

戦士「食が細いのも若い頃の母さんそっくりだな」

長男「うっせ!」

戦士「味の好みもよく似てるしな」

長男「母さんは雑草食わねえだろ」

戦士「そういう意味じゃなくてだな」

438 : ◆O3m5I24fJo - 2017/07/28 02:13:23.99 YA9RYlYho 350/578


帰宅すると、丁度朝食が出来上がっていた。
いつもよりもちょっと早い。アウロラが、朝が弱い母さんを手伝ったみたいだ。

長男「水がうめえ」

長女「兄さん、席について」

家族のほぼ全員がそろって「いただきます」と言う。
まだ赤ん坊のアルクスは流石に喋れない。

ルツィーレはもう7歳だってのに、まだ上手に食べられない。ぼろぼろこぼしている。
5歳のセファリナの方が上品だ。

アルバはガツガツとがっついている。朝っぱらからよくそんなに食べられるな。
……いつもの光景だ。何も変わらない。

長男「父さん、俺疲れて自分で運転する元気ない。父さんの車乗せてって」

戦士「仕方ないな」

自分の車を買う前は、父さんの車かバスで通学していた。

父さんに乗せてもらうのは久しぶりだ。

439 : ◆O3m5I24fJo - 2017/07/28 02:14:04.61 YA9RYlYho 351/578


研究室に引きこもってると、カツコツとプライドの高そうな足音が廊下から聞こえてきた。
予想通り荒々しく扉が開かれる。

歌姫「エリウス! 良い物を持ってきてさしあげましてよ」

長男「もっと静かにしろよな」

歌姫「超古代時代のキメラについての文献のコピーですのよ」

歌姫「あなたの研究に役立つと思ったのですけれど」

クレイオーが持ってきた紙に目を通す。

歌姫「有翼人や吸血族等、何種類かの亜人種は人為的に作り出されたキメラであることが判明しましたわ」

魔族の瘴気には、他者と他者の魔力や、生体そのもの同士を結び付ける性質があり、
亜人種の一部は魔族の瘴気を利用して人間と他の生き物を合成したことで生まれたんだそうだ。

だから魔適傾向が普通の人間より高い傾向があると記述されている。
植物と人間のキメラは……少しだけ載ってた。

440 : ◆O3m5I24fJo - 2017/07/28 02:14:32.63 YA9RYlYho 352/578


長男「へー、面白いじゃんこれ。よく発見できたな」

歌姫「……そのヘラヘラした笑いは一体なんですの?」

歌姫「この前、久しぶりに会ったと思ったら、すっかり人が変わっていて驚きましたのよ」

長男「先生に言われたんだよ。よく笑った方がいいって」

歌姫「そういう笑いじゃないと思うのですけれど……」

長男「で、用件はなんだ? 恩を売りに来たってことは何かあるんだろ」

歌姫「……お母様のための薬を作ってほしいんですの」

長男「わかったよ。症状教えろ」

クレイオーの母さんは体が弱いのに、よく2人も頑張って産んだなと思う。

歌姫「まあ、笑えるようになっただけ進歩ですわね」

クレイオーはバタバタと出ていった。コマ数が多くて忙しいらしい。

同期「ユウレイタケー、今の美少女、彼女じゃないんだよな?」

長男「冗談じゃねえ。付き合いてえならアプローチかけたらどうだ?」

長男「アポロン先生の娘だけどな」

同期「あ、いいわ。めんどそう」

441 : ◆O3m5I24fJo - 2017/07/28 02:15:04.44 YA9RYlYho 353/578


夏の日射しが木々の緑を照りつける。
セミが窓ガラスにぶつかって、また何処かに飛んでいった。

夏は苦手だ。暑いし、眩しいし。虫は多いし。
研究室内は冷房が効いていて快適だけど、教室によっては寒すぎることもあって嫌だ。

同期「おまえビオ○ンテでも生み出すのか?」

長男「俺はただ自分の子供がほしいだけだ」

俺と植物の細胞を融合させてみたり、
食べて再構成した、俺の魔力をたっぷり含んだ花から受精卵を作ってみたりしたけれど、
上手くいった試しはない。

同期「おまえがこの前作った研究の副産物、また馬鹿売れしたんだってな」

長男「そのおかげでマスコミが鬱陶しくて仕方ねえんだよ」

ただただ日常は過ぎ去っていく。進歩はすれども、目的には近づかない。

442 : ◆O3m5I24fJo - 2017/07/28 02:15:30.40 YA9RYlYho 354/578


同期「ユウレイタケってさ、どんな花との子供ほしいんだよ」

長男「……どうなんだろ」

植物との子供が欲しい。そればっかりで、どの種類がいいかなんて考えてなかった。

長男「とりあえず、小ぶりな白い花がいいな」

誰かの面影を追いかけているような気分になったけれど、それが誰なのかはわからない。
多分気のせいだ。

コン、コン

扉がノックされた。

同期「どうぞー」

文学部生「エリウスさんいますか?」

顔を覗かせたのは、見知らぬ女だった。
いや、会ったことあるのかもしれないけど、俺はなかなか人の顔と名前を覚えられない。

同期「行ってこいよ」

長男「……はあ」

443 : ◆O3m5I24fJo - 2017/07/28 02:16:14.47 YA9RYlYho 355/578


女はいかにも自分に自信がありそうだ。

文学部生「私、去年ミスコンで優勝したのだけれど、覚えてくださってるかしら」

長男「人間の美醜に興味ないんだ」

文学部生「あら、そんなところも素敵だわ」

こいつは俺の何を知ってるっていうんだ。名声と顔くらいだろ。

文学部生「ねえ、私とあなたって釣り合うと思わない?」

長男「は? どこが?」

文学部生「私と付き合ったらきっとわかってもらえるわ」

長男「俺植物にしか興味ねーんだ。これ、今の彼女」

廊下の花瓶に活けてる花にキスを落とす。

文学部生「も、もう! こっちは真面目に話をしてるのよ!」

文学部生「私に釣り合う男性はあなたしかいないわ」

長男「俺頭に障害あるんだけどそれでもいい?」

女は硬直した。

長男「あひゃひゃひゃひゃ」

女に背を向けて研究室に戻る。めんどくせえ。

あとこの人、今年のミスコンは優勝できないと思う。
クレイオーの方がよっぽど美人だもん。

444 : ◆O3m5I24fJo - 2017/07/28 02:16:41.87 YA9RYlYho 356/578


戦士「今日は学校どうだったんだ」

長男「いつも通り何も起きなかったよ」

父さんが大学の前まで迎えに来てくれた。
上級学校帰りのアウロラも乗っている。

長女「兄さん、大学で一番美人な人に告白されて振ったってほんと?」

長男「何処で聞いたんだよそれ」

長女「その人の妹が同じ学年にいて……休み時間に携帯でお姉さんとやり取りしたみたいなの」

長男「ええ……」

戦士「放課後まで携帯って触っちゃいけないもんじゃないのか」

長女「そうなのだけど……」

長男「変なこと言われなかったか?」

長女「『あなたのお兄さん、頭がおかしいって本当?』って……」

長男「…………」

445 : ◆O3m5I24fJo - 2017/07/28 02:17:07.85 YA9RYlYho 357/578


戦士「おまえはなんて答えたんだ」

長女「私が何も言う前に、友達がその子を追い払ってくれたの」

長女「その子、性格がきつくて有名で……でも権力も強くて」

長女「ちょっと怖いの」

戦士「目をつけられたら面倒なタイプだな」

長男「……ごめん。これから振り方考えるから」

ああいうのはきつく振らないとしつこい。
でも、俺の目の届かないところできょうだいに被害が及ぶのは嫌だ。

長女「兄さんのこと責めてるわけじゃないのよ」

長女「ただ、あの子に兄さんのことを馬鹿にされて、腹が立っちゃって」

長女「事実確認をしたかっただけなの」

もう嫌だこんな狭い社会。
早く出ていきたい。

446 : ◆O3m5I24fJo - 2017/07/28 02:18:08.55 YA9RYlYho 358/578


家に着くと、いつも通り母さんが笑顔で出迎えてくれた。

勇者「おかえり」

長男「……うん」

生返事して靴を脱ぎ、自分の部屋に荷物を置きに行く。日が沈んでも蒸し暑い。
窓からは満月が見えた。眩しいほど白く輝いている。

もし俺に運命の相手と呼べる植物がいるなら、月が似合う花だと思う。

夕食を食べて、風呂に入って、アルバやルツィーレと一緒にゲームをして……。

次男「今日友達と遊んでたらさー」

こいつはいつも楽しそうだ。山ほど友達がいて、俺とは真逆の生活を送っている。
正直、羨ましい。

アルバが寝た後は、自分の部屋で適当にネットサーフィンをして、気が済んだところでベッドに潜った。
明日は何か面白いことが起きないかな。多分いつも通りか、嫌なことが起きるだけだ。

447 : ◆O3m5I24fJo - 2017/07/28 02:18:34.39 YA9RYlYho 359/578


……疲れているのに眠れない。

目には悪いと思いつつ、魔石灯を点けずに本を開いた。頼りになる光は月明かりだけだ。
パラパラとページをめくる。

アクアマリーナの大樹の全景を写した写真がうすぼんやりと見えた。
この木は数千年に一度しか花を咲かせない。咲いたら面白いのにな。

残念な気持ちと、何故だかちょっと暖かい気持ちが湧いて、本を閉じた。
今晩はいい夢を見れるといいな。



450 : ◆O3m5I24fJo - 2017/08/01 20:02:57.28 co4FdOTho 360/578


*ルツィーレの日常


長男「アベリア……君はなんて美しいんだ」

長男「恭しく咲く君はまるで雪のようだ。今にも儚く溶けてしまわないか僕は恐ろしくてならないよ」

長男「ああ、君の甘い香りに蜂も蝶も夢中だね。僕も君にとっては愚かな一匹の虫に過ぎないのだろう」

近所の奥さんA「エリウス君ったらまたお花口説いてるわよ」

近所の奥さんB「お父さんもお母さんもまともな人なのに、どうしてあんな不思議な子が生まれたのかしらねえ」

長男「どうか今晩、僕と――」

次女「いぬのうんちー!」

長男「うわあああルツィーレ!!」

次女「あはははくっさーい」

近所の奥さんA「ルツィーレちゃんったら今日も元気ねえ」

近所の奥さんB「お父さんもお母さんも真面目な人なのに、どうしてあんなにお下品な子が生まれたのかしらねえ」

藍宝石「私が知りたい」

451 : ◆O3m5I24fJo - 2017/08/01 20:03:37.43 co4FdOTho 361/578


次女「お母さんに見せてあげよーっと」

長男「わざわざ木の枝突き刺して持ち運ばなくていいから!!」

次女「あきゃきゃきゃきゃ」

長男「ポイしなさいポイ!!」

次女「あ」

ぽと ぐちゃ

次女「落として踏んじゃったあ! あはは!」

長男「ああっ……もうっ……!」

次女「ねーねーエルお兄ちゃん、シチセキって知ってる?」

長男「じいちゃんが取引してる商人の国の節句だろ」

長男「笹に願いを書いた札を結ぶとお星さまが願いを叶えてくれるっていう」

次女「ルーシーね、キンタマをくださいってお願いするんだあ」

ルツィーレの一人称はルーシーである。友達からもそう呼ばれている。

次女「おち○ちんが生えてるのにキンタマがないのは中途半端だからね!」

長男「願わんでいい! おまえは女の子なんだから!!」

ルツィーレの身体は、吸収した双子の兄弟のものが混ざっている。
そのため股間に余計なものがくっついているのである。

452 : ◆O3m5I24fJo - 2017/08/01 20:04:06.96 co4FdOTho 362/578


次女「エルお兄ちゃんは何お願いするの?」

長男「俺は何も願わねえよ……シチセキなんてただの迷信だし」

次女「えー! 夢がない! つまんないなあ!」

長男「お星さまに願えば植物との子供ができるのか? できるわけねえだろ」

長男「はあ……疲れた。帰るか」

次女「アニメ見るー!」

長男「俺料理番組見たいんだけど」

次女「今日アニメ映画祭りなんだよ! クレパスしんくん薀蓄斎の赤ん坊!」

次女「その次はシャイニングガール☆アルビナ劇場版第一作!」

長男「わかったわかった……兄ちゃんはパソコンで見るから……」

453 : ◆O3m5I24fJo - 2017/08/01 20:04:36.46 co4FdOTho 363/578


テレビから発せられるヒロインの友達の声「劇場版を放送する前に、私達の物語のあらすじを説明するね!」

アリーはちょっと不器用な女の子。つり目がちだからキツめな子だと勘違いされやすいけど、本当はとっても優しいの☆

ある日、アリーの前に喋る犬が現れる。

「私、ヨハンナ!」

アリーはヨハンナに衝撃的な事実を告げられる!

なんと、アリーは太陽の女神姫の生まれ変わりで、悪の神の生まれ変わりが操る組織と戦わなくちゃいけないんだって!
アリーはヨハンナの言葉をすぐには信じることができなかったけど、早速最初の刺客が現れる。

戸惑いながらもシャイニングガール☆アルビナに変身するアリー。

454 : ◆O3m5I24fJo - 2017/08/01 20:05:06.33 co4FdOTho 364/578


初めての戦いは、そりゃもう大変!
宝具「サンライトソード」の使い方もわからなくって、苦戦を強いられるアリーを助けたのは、謎の美青年だった。

妙にスタイリッシュな礼服を身に纏う彼は、敵なの? 味方なの?


次女「アリーのモデル、お父さんなんだって!」

戦士「はぁ!? ……この目尻の吊り上がり具合は確かに俺だな……うん……」

戦士(姉貴を500倍可愛くした感じだ……)

次女「謎の美青年のモデルは勇者ナハト! お母さんだね!」

戦士「ほぼまんまじゃないか……」

戦士(アキレス達似のキャラもいる……)

テレビから発せられるヒロインの声「朝日に代わってお仕置きだよ!」

戦士「しかし……絵が動くってすごいな……」

次女「お父さんが子供の頃はアニメなかったの?」

戦士「テレビすらなかったんだぞ」

次女「えー! つまんないじゃん! かわいそー!」

戦士「…………」

455 : ◆O3m5I24fJo - 2017/08/01 20:05:34.11 co4FdOTho 365/578


三女「アルビナおもしろかった!」

次女「ルーシーはしんくんの方が好きー! 女の子向けってキラキラしててなんか変だもん!」

次女「でもアルビナはお父さんがモデルだから嫌いじゃないよ!」

戦士「もう寝なさい」

次女「やだー! シチセキのお願い書くー!」

戦士「アルカさん、短冊どこだっけ」

勇者「はい」

次男「俺もお願い書くー!」

次男「お父さんみたいな立派な軍人さんになれますように!」

次男「兄ちゃんも!」

長男「俺はいいって」

勇者「エルの分も用意してあるから」

長男「チッ……めんどくせえな」

長男「1人暮らしするのを母さんが許してくれますように」

勇者「だめー!!」

長男「っだーもうるっせーな耳元で叫ぶな!」

456 : ◆O3m5I24fJo - 2017/08/01 20:16:46.57 co4FdOTho 366/578


長女「お父さんとお母さんが健康で長生きしてくれますように、っと」

三女「アリーみたいになれますように!」

藍宝石「エリウスが人として成長できますように……」

次女「お父さんみたいな立派なキンタマが生えてきますように!」

戦士「書くんじゃないそんなこと!」

次女「おち○ちんがおっきくなりますように!」

次女「おっぱいもおっきくなりますように!」

長男「願い多すぎだろ」

次女「ねーねーお父さんとお母さんのお願いごとは?」

勇者「子供達みんなが元気に育ってくれますように」

戦士「……父さんはおまえ達が寝た後でゆっくり書くから」

457 : ◆O3m5I24fJo - 2017/08/01 20:17:20.19 co4FdOTho 367/578


――――――――
――

夜中

次女(目が覚めちゃった)

次女(そういえばお父さん、お願い事なんて書いたんだろ)

[家族を守ることができますように]

次女「……♪」

ルツィーレはこっそり両親の寝室に入った。

次女(お父さん、怒ってばっかりだけど、大好き)

次女(お父さんのおまた枕、やわらかーい!)

次女(お母さんのおっぱい、ふっわふわ!)

次女(良い夢見れそう♪)


翌日、ヘリオスは股間の痛みに悩まされた。

終わり


続き
勇者「やっぱり子供は最高だね」戦士「んえ?」【後編】

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