-放課後 学校の校庭-
タプリス「はぁ……」
タプリス(今日も一日、授業についていくのが大変でした)
タプリス(帰ったら復習しないと……って、明日の予習もですね)
タプリス(下界での生活は、なかなか大変です……)
パサッ
タプリス(ん? 目の前に何か落ちて……)スッ
タプリス(これは、ピンク色のノート? 誰かの落とし物でしょうか)
タプリス(表紙には、YURINOTEって書いてますけど)
ペラペラッ
タプリス(ざっと見た感じ、中のページには……何も書かれていませんね)
タプリス(これじゃあ、誰の持ち物かわかりません)
タプリス(とりあえずは……明日、学校で職員室に届けましょうか)
-その日の夜 タプリスの家-
タプリス「ふぅ……これで、予習も終わりっと」
タプリス「そういえば、今日、拾ったノート」
ペラペラッ
タプリス「あ、やっぱり。表紙の裏に何か書かれてます」
タプリス「なになに、このノートに……」
タプリス「二人の女の子の名前を書くと……百合百合する?」
元スレ
ガヴリール「千咲ちゃん、キスの日に先輩たちを導く」
http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1495540955/
タプリス「百合百合って、なんでしょうか……」
スゥゥッ
百合神『それは、女の子同士が、いちゃいちゃラブラブするってことさ』
タプリス「うわあぁぁぁぁっ!! あ、あなた! だ、誰ですか!?」
タプリス「ど、どどどどうして、わたしの部屋に!? それに、あなた浮いて……」
百合神『僕の名前は百合神、そのノートに、とり憑いていた者さ』
タプリス「とり憑いていた……者?」
百合神『そして、そのノートの所有者に君が選ばれたんだ、おめでとう』
タプリス「は、はぁ……わたしが、ですか」
百合神『これから君には、僕の野望のため、いろいろ働いてもらうよ』
タプリス「そ、そんなこと、突然、言われても……」
タプリス「それに野望ってなんですか……?」
百合神『僕の野望はね、この世の中を、百合少女で満たすことさ!』
タプリス「百合……少女?」
百合神『そう、百合少女。女の子同士で仲良くしている少女たちのことだよ』
タプリス「あの……わたし、このノートを拾いたくて拾ったわけじゃなくて……」
タプリス「拒否権って……ないんですかね」
百合神『ないね』
タプリス「うぅ……そ、それで、ノートに名前を書くと百合百合するって」
タプリス「イマイチ、よくわからないんですけど……」
百合神『それじゃあ明日、君の知り合いで試してみようか』
タプリス「試す……?」
百合神『それがたぶん、一番よくわかるんじゃないかな』
-翌日の朝 住宅街-
タプリス「あの……」
百合神『なんだい』
タプリス「個性的なお姿の百合神さんと一緒に外を歩くと」
タプリス「少しだけ、恥ずかしいです……」
百合神『ああ、それなら平気さ。僕の姿や声は、ノートに触れた者しか認識されない』
タプリス「そ、そうなんですね……」
犬「わんわんっ!」
タプリス「い、犬にすごく吠えられてますけど!」
百合神『こいつはまさか……、そうだ、ちょうどいい』
百合神『僕の手足になる存在も欲しかったからね』
タプリス「えっ、何を言って……」
百合神『そぉい!』
バシッ
犬「……きゃいん!」
タプリス「な、何をしたんですか!?」
犬「……」
百合神『こいつに、僕の使い魔になってもらうのさ』
タプリス「つ、使い魔?」
犬『……』ムクッ
タプリス「あ、起き上がって……」
犬『ふぅ……また、畜生の体かい』
タプリス「犬が喋ったぁぁぁぁっ!?」
百合神『まぁよろしく頼むよ、犬』
犬『わかったよ、百合神』
タプリス「はぁ……もう何がなんだか……」
百合神『それで、君の知り合いというのはどこだい』
タプリス「えっと……あ、いました!」
ガヴリール「――」
ヴィーネ「――」
百合神『なるほど、二人で登校中って、わけだ』
タプリス「そ、そうですね……」
百合神『じゃあ、そのノートを使ってごらんよ』
タプリス「で、でも……もし本当なら、少し怖いんですが……」
犬『それならまずは軽めに、手を繋ぐ、とかでも良いんじゃないかな』
百合神『ああ、それはいいね』
タプリス「わ、わかりました……書いてみます」
カキカキカキ
タプリス「天真=ガヴリール=ホワイトと、月乃瀬=ヴィネット=エイプリルは」
タプリス「手を繋いで登校する、っと」
タプリス「これで、いいですかね」
百合神『問題ないと思うよ。さて、二人を観察してみようか』
ガヴリール「……ッ」
ヴィーネ「……ッ」
ガヴリール「ヴィーネ……、えっと、さ」
ヴィーネ「な、なに? ガヴ、どうしたの?」
ガヴリール「これからちょっと、変なこと……言っていいか?」
ヴィーネ「へ、変なことって?」
ガヴリール「別に、嫌だったら、笑ってくれてかまわないんだけど、さ」
ガヴリール「お前と、その……手、繋いでもいいか?」
ヴィーネ「ガヴと……手を?」
ガヴリール「……ダメ、か?」
ヴィーネ「う、ううん! 別にその……、嫌じゃ、ないから」
ガヴリール「そ、そうか……じゃあ、繋ぐぞ?」
ヴィーネ「よ、よろしく、お願いします……」
ぎゅっ
ガヴリール「……」カァァ
ヴィーネ「……」カァァ
――
タプリス「……」パクパク
百合神『どうだい、ノートの力は本物だろう?』
タプリス「はい……なんだかすごく、甘酸っぱいものを見ることができました……」
タプリス「こちらまで、顔が赤くなってしまいます……」
犬『それは君にも、百合を愛する素質があるってことだね』
百合神『とは言っても、実はあまり、このノートのことが好きじゃなくてね』
タプリス「え、そうなんですか?」
百合神『なんでも思う通りの、百合が叶ってしまうっていうのも』
百合神『面白くないじゃないか』
タプリス「は、はぁ……」
犬『店に売ってる野菜よりも、自分で苦労して作った野菜の方が』
犬『美味しく感じるのと同じだね』
百合神『もちろん、お店のだって美味しいとは思うけど、ね』
タプリス「そ、そういうものなんですかね」
百合神『というわけで、これからは君が、僕の手となり足となって』
百合神『迷える百合少女を結ばせる、手伝いをしてもらうから』ニコッ
犬『今から楽しみだね』ニコッ
タプリス「はぁ……大変なことに、巻き込まれてしまいました」
-数日後 公園-
百合神『どこかに百合少女が落ちてないかなぁ』
タプリス「人を物のように、言わないでください……」
百合神『君の知り合いに、まだ女の子と付き合っていない女の子は、いないのかい?』
タプリス「いやいやいや……」
タプリス「普通に相手を女の子にしないでください……」
サターニャ「ちょっと! あんたまた、私のメロンパン、奪わせたでしょ!」
ラフィエル「あらあら、一体何のことでしょう?」ニコッ
タプリス「あれは……白羽先輩に、胡桃沢先輩ですね」
百合神『知り合いかい?』
タプリス「あ、はい。学校の先輩です」
百合神『ふーん』
サターニャ「どうしてこう、いつもいつも、私の邪魔ばっかりして!」
ラフィエル「邪魔なんてとんでもない。私はサターニャさんのためを思って……」
サターニャ「……それ、絶対ウソでしょ」
ラフィエル「うふふふ……」
百合神『……決めた』
タプリス「え?」
百合神『あの子たちにしよう』
タプリス「ま、まさか、あのお二人を、百合百合に?」
百合神『ああ』
タプリス「む、無理ですよ、それは……だって、あのお二人は……」
百合神『あの銀髪の子が、赤髪の子をよく弄っちゃってるから?』
タプリス「えっ、ど、どうしてそれを!?」
百合神『そんなの、見たらすぐにわかるさ。それに……』
百合神『あれは決して、嫌っているから、とかではなくて、むしろ……』
百合神『少なからず好意を持っている、と僕は思う』
犬『好きな子はついつい、いじめたくなっちゃう、あれだね』
タプリス「そ、それは違うような……」
百合神『いや間違いないね、あとはそれをどうやって』
百合神『赤髪の子に伝えていくか、だけど』
百合神『それには少し、情報を集めないといけないね』
犬『百合神、ノートは使わないのかい?』
百合神『もちろんさ。さぁ、君にも少し働いてもらうよ』
タプリス「は、はぁ……わかりました」
-数週間後 タプリスの家-
百合神『基本的な情報は揃ったかな』
タプリス「仕方がないとはいえ、すごい罪悪感が……」
百合神『何を言う、二人の将来のためだよ?』
タプリス「本当にそうですかね……」
犬『百合神、ちょっとおかしなことが』
百合神『なんだい、おかしなことって』
犬『最近、街中でイチャイチャする女の子たちが急増しているみたいだ』
百合神『急増、ね。それは……おかしいな』
タプリス「え、別にあなたたちにとっては、良いことなのでは?」
百合神『それはそうだけど、短期間で急増するなんて』
百合神『不自然すぎるじゃないか』
タプリス「は、はぁ……」
タプリス(あなたたちの存在の方が、よほど不自然な気がしますけど……)
百合神『とりあえず、頭の片隅には置いておくよ』
-街中-
百合神『ついに、作戦を決行する時がきた』
犬『今日は二人で、食べ歩きのデートみたいだしね』
タプリス「デートって……ただ、白羽先輩が尾行してるだけな気がしますが……」
タプリス「とりあえず、お二人にバレませんように……」
百合神『お、二人が来たみたいだよ』
サターニャ「ほら、ラフィエル、あーん」
ラフィエル「ふふっ、ありがとうございます」パクッ
タプリス「な、ななななっ……」
百合神『これは……』
犬『いったい……』
サターニャ「おいしいかしら? ほら、口にクリームついてるわよ」
ラフィエル「んっ、サターニャさんに取って欲しいです」
サターニャ「仕方ないわね……」スッ
ラフィエル「うふふ、私のクリーム、どうするつもりですか?」
サターニャ「食べちゃうに決まってるでしょ?」パクッ
タプリス「……既に、お二人に何かしているんですか?」
百合神『いや、僕たちはまだ、何もしていない』
百合神『君こそ、ノートに何か書いたりしたのかい?』
タプリス「そ、そんなことしてませんよ!」
犬『じゃあ、いったいなぜ……』
グラサン「……」ニヤッ
百合神『あの、スキンヘッドのサングラスの男』
タプリス「あ、あれは……、わたしの学校の数学の先生です」
犬『同じ匂いを感じる』
タプリス「同じ匂いって、どういうことです?」
百合神『とりあえず、彼に接触してみよう。千咲くん、頼んだよ』
タプリス「えぇっ、わたしですか!? む、無理ですよ!」
百合神『仕方ないな……じゃあ、君の体を介して、僕が会話しよう』
タプリス「そ、そんなことできるんですか?」
百合神『君は、口パクだけしていてくれ』
タプリス「わ、わかりました……」
――
タプリス『先生、こんにちは』
グラサン「……千咲か。どうした」
タプリス『あのお二人のことが、気になるんですか?』
グラサン「……」ギロッ
タプリス「……ッ」ビクッ
タプリス(ひぃ、先生、怖いです……)
タプリス『お二人、お似合いですよね。まさにベストカップルって感じです』
グラサン「千咲、お前まさか……」
タプリス『ええ。ですが少し、急ぎすぎ、ではないでしょうか』
グラサン「……」
タプリス『物事には順序というものがあると、わたしは思います』
グラサン「……何が言いたい」
タプリス『今日はなんという偶然か、キスの日、ですよね』
タプリス『どちらが早く、あの二人にキスをさせることができるか』
タプリス『わたしと勝負をしませんか?』
タプリス『負けた方は、あの二人から、手を引く。それで、どうでしょう?』
タプリス(ゆ、百合神さん、なんてこと言ってるんですか……)
グラサン「……同業者か」
グラサン「いいだろう、その勝負受けて立ってやる」ニヤッ
タプリス『ありがとうございます。わたし、負けませんから』
グラサン「くくっ……せいぜい楽しませてくれ」
――
タプリス「な、なんで宣戦布告してるんですか!」
タプリス「しかも、わたしを使うなんてひどいです」
タプリス「学校で会ったら、気まずいですよ……」
百合神『だって、せっかく進めていた計画を台無しにされたから……』
タプリス「子供ですか、もう!」
犬『でも、どうするんだい、百合神。あっちはもう、何かしらの手段で』
犬『二人に手を加えているみたいだけど』
百合神『しかたない、ここは一度リセットだ』
-公園のベンチ-
ラフィエル「サターニャさん、アイス買ってきましたよ」
サターニャ「ありがとう、ラフィエル」
ラフィエル「じゃあ、食べさせてあげますね♪」
ラフィエル「はい、あーん」
サターニャ「んむ。おいしいわ、とてもおいしい」
ラフィエル「本当ですか? よかったぁ」
サターニャ「でも、おいしいのは、あなたが食べさせてくれてるからね」ニコッ
ラフィエル「もうサターニャさんったら……」
――
タプリス「すごいバカップルっぷりですね」
タプリス「このままだと、すぐにキスとか始めてしまいそうです……」
犬『あれを混ぜてきたよ、百合神』
百合神『ありがとう、犬』
タプリス「え、混ぜてきたってなんですか?」
百合神『鎮静効果のある漢方をだね、あのアイスに混ぜてきたんだ』
百合神『それで一度、二人の状態をリセットさせてから、僕たちの計画に切り替える』
タプリス「な、なるほど……」
犬『それにしても、容赦なく食べ物に盛るなんて、さすがだね』
サターニャ「なんだか少し眠くなってきたわ」
ラフィエル「ふふっ、食べたら眠くなるだなんて」
ラフィエル「サターニャさん、小さなお子さんみたいです」
サターニャ「そうね……そうかも」
ラフィエル「私の膝で良ければ、お貸ししましょうか?」
サターニャ「ありがと、そうさせてもらうわ」
ころんっ
サターニャ「あたたかくて、いい気持ち」
ラフィエル「ありがとうございます。ここは、サターニャさん専用ですから」
サターニャ「そう、じゃあ思い切り堪能しないとね、うりうり」
ラフィエル「ふふっ……もう、本当に子供なんですから」ナデナデ
サターニャ「あんたの前では、別にそれでもいいわよ」
ラフィエル「私も……、その方がいいです。だって……」
ラフィエル「こうやって、よしよしって、できますからね」ニコッ
サターニャ「それ、本当に落ち着く……」
――
タプリス「なんか、リセットどころか……」
タプリス「ますます、いちゃいちゃし始めてませんか?」
百合神『おかしいな、もう鎮静漢方が効いてきても、おかしくないはずなのに』
犬『たしかに、あのアイスを食べたはずなんだけど……』
百合神『まさか、あのサングラスの男、なにか先手を……』
犬『そんな、いつの間に……』
百合神『くそっ、次の手を、次の手を考えないと』
犬『このままじゃ負けてしまうよ』
タプリス「どうしたら……」
グラサン「……期待はずれだな」
タプリス「なっ、先生!?」
グラサン「千咲の実力がどんなものか、黙って様子を見ていたが」
グラサン「時間の無駄だったようだ」
グラサン「あれだけ意気揚々と、挑んできたのだから」
グラサン「もっと楽しませてくれると思っていたが」
グラサン「……正直、失望したぞ」
タプリス「……」
百合神『ぐぬぬぬ……』
グラサン「そこで指を咥えて、私の仕上げを見ているといい」スタスタスタ
百合神『何か……何か、手はないのか』
犬『あの男、仕上げって言ってたけど……』
タプリス「あ、先生が……何かしてますよ!」
グラサン「……これで下準備は、完了」カキカキカキ
犬『なっ!? あれは!』
百合神『YURINOTEじゃないか!』
タプリス「えっ? ノートって一冊だけじゃないんですか!?」
百合神『いや、百合神の数だけ、ノートはある』
百合神『おそらく、僕以外の百合神が、あの男にとり憑いているんだろう』
タプリス「そんな……それじゃあ、それを止めることなんて……」
百合神『くそっ、もっと早くに気づいていたら……』
――
サターニャ「ねぇ、それだけでいいの?」
ラフィエル「えっ?」
サターニャ「頭を撫でているだけでいいのって、聞いてるのよ」
ラフィエル「こうされるのは、お嫌ですか?」
サターニャ「嫌いじゃないし……むしろ好きだけど」
サターニャ「他にしたいこと、あるでしょ?」
ラフィエル「そうですね……ありますよ」
サターニャ「……早くしなさい」
ラフィエル「ふふっ、わかりました」スッ
――
犬『ああっ、もうダメだ! 二人が近づいて……』
グラサン「……これで、フィナーレだ」カキカキカキ
ピタッ
サターニャ「……」
ラフィエル「……」
グラサン「なんだ? 二人の動きが止まって……」
グラサン「ど、どうして、キスをしない!? たしかにノートには書き込んだはず!」
グラサン「もう一度だ! もう一度書いて……」カキカキカキ
サターニャ「……すぅ、すぅ」
ラフィエル「ふふっ、サターニャさん。寝てしまいました」
グラサン「なぜ、何も起こらない……なぜだ!」
犬『いったい、何が起こって……』
百合神『僕にもわからない……なぜ、あそこまで距離の近づいた二人が』
百合神『途中でキスをするのを、やめてしまったのか』
グラサン「どうしてだ、なぜなんだ……」
タプリス「……先生」
グラサン「千咲、か?」
タプリス「無理やり、お二人にキスをさせるのは……」
タプリス「やはり、よくないことだと、わたしは思います」
グラサン「なっ!? 千咲! お前、何をした!?」
タプリス「わたしも実は、先生と同じノートを持ってるんです」
グラサン「な、なんだって!?」
タプリス「そして、わたしは……それに、書き込みました」
タプリス「胡桃沢=サタニキア=マクドウェルと、白羽=ラフィエル=エインズワースは」
タプリス「死が二人を分かつまで、自然体でいる、と」
グラサン「なん、だと……?」
タプリス「わたしは、先生のノートへの記載の合間に、これを書いたんです」
タプリス「よって、お二人が生きている間は、わたしが書いたノートの効力が持続され」
タプリス「他のノートの命令は、一切効かなくなります」
グラサン「そんな……」ガクッ
百合神『す、すごいぞ、千咲くん!』
犬『素晴らしい機転だね』
タプリス「あはは……、咄嗟に思いついたのが、うまくいって良かったです」
百合神『そうだ、千咲くん。その男に、ノートをタッチしてくれないか』
タプリス「え? あ、はい、わかりました」スッ
百合神『これで、聞こえるかな』
グラサン「こいつが……お前の百合神か、千咲」
タプリス「は、はい……」
百合神『あなたに一つだけ、言いたいことがある』
グラサン「……」
百合神『あなたのやったことが、間違っているとは言わない』
百合神『ただ、あなたの行為が、彼女たちの心までも捻じ曲げてしまっている』
百合神『そのことだけは、知っていてほしいんだ』
グラサン「……わかっては、いた」
グラサン「ただ、目の前の欲望に、目がくらんでしまった。それだけだ」
百合神『そうか……では』
百合神『僕と千咲くんが、自然に彼女たちを導くところを見せてあげよう』
グラサン「えっ?」
-夕方 公園のベンチ-
サターニャ「すぅ……すぅ……」
ラフィエル「……無邪気な寝顔ですね」
ラフィエル「私はどうして、あなたに悪戯をしてしまうのでしょう」
ラフィエル「……」
ラフィエル「嘘……そんなのはもう、わかっているんです」
ラフィエル「……これから、わたしが行うことは、戯れです」
ラフィエル「いつもの、戯れ、ですから」
ラフィエル「そう、それに対して、あなたがどんな仕草を見せてくれるのか」
ラフィエル「わたしにはそれが、楽しみで仕方がないんです」スッ
サターニャ「……」パチッ
ラフィエル「えっ?」
グイッ ドサッ
ラフィエル「サ、サターニャさん? お、起きて……」
サターニャ「知ってるでしょ。私が、負けず嫌いだって」グイッ
ラフィエル「えっ? えっ?」
サターニャ「あんたが、私に悪戯をするっていうんなら」
サターニャ「私だってあんたに悪戯してやるわ」
ラフィエル「え、えと、その……」
サターニャ「ほら、こっち向きなさい」
ラフィエル「あ、あの……えっと……」
サターニャ「……」
ラフィエル「~~~ッ!」カァァァ
サターニャ「……あんたも、そういう顔、するのね」
ラフィエル「な、ななっ……い、いくら、サターニャさんが負けず嫌いだからって」
ラフィエル「今、あなたが何をしたのか、わかってるんですか!?」
サターニャ「……当たり前でしょ」
ラフィエル「えっ?」
サターニャ「それに……他の誰にだって、こんなこと、しないわよ……」
ラフィエル「そ、それって……」
サターニャ「やられたらやり返す、目には目を歯には歯を、って言うでしょ」
ラフィエル「あ……」
サターニャ「ほら、早く……私にも」
ラフィエル「……はい」ニコッ
グラサン「師匠と呼ばせてください」
タプリス「えぇっ!?」
グラサン「私は今、猛烈に感動している。こんなにも素晴らしい百合があったなんて」
タプリス「は、はぁ……」
犬『本当だよ、君の実力は大したものだ』
百合神『これなら完全に、このYURINOTEを千咲くんに託せそうだ』
百合神『ぜひ、世の中の百合少女を導いてほしい』
タプリス「えっと……たぶん、使うことはないでしょうけど……」
タプリス「わかりました、受け取っておきます」
タプリス(これを初めて、校庭で拾った時は驚きましたけど)
タプリス(でもまぁ、使い方を誤らなければ、問題ないですよね)
タプリス(ああ、そうそう。あの時たしか、誰のノートかわからずに困りましたっけ)
タプリス(でしたら……)
百合神『ん? 千咲くん、ノートに何をしてるんだい』
タプリス「えっと、落としても大丈夫なように、自分の名前を書いてるんです」
百合神『あ』
犬『あ』
タプリス「え?」
ドドドドドドッ
タプリス「な、なんですか、この地響きは!?」
ガヴリール「タプリスゥゥゥゥ!!」
ヴィーネ「タプちゃぁぁぁん!!」
ぎゅぅぅぅ
タプリス「ぐえっ、せ、先輩たち!?」
ガヴリール「ああ、お前はほんとにかわいいなぁ」グイッ
ヴィーネ「ええ、タプちゃん、大好きよ」グイッ
タプリス「ぐるじい……いったい、何がどうなって……」
百合神『ノートに君の名前だけ書いて、対となる名前を書かないと、だね』
百合神『世界中の女性が、君に百合百合してしまうのさ!』
タプリス「そんな!?」
ドドドドドドッ
タプリス「ひっ! 人がたくさん来ます! 逃げないとっ!」ダッ
ガヴリール「待て! 逃げるな、タプリス!」
ヴィーネ「逃さないわよ! タプちゃん!」
百合神『全世界の女性から愛される女の子というのも……』
犬『なかなか、オツだね』
タプリス「いやぁ、助けてくださぁぁぁぁいぃぃぃっ!!」
おしまい