1 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/04/30 15:01:08.32 RaUtky6u0 1/183

※初めに

・このSSは「静・ジョースターの奇妙な日常」の続き・第十一話です。
長い上に>>1が痛いですが、所詮便所の落書きだと思ってお楽しみ下さい。

・ジョジョモブ中一番の不幸人、吉岡さんが出てきますが、割と救いが無いです。
吉岡さんが好きな方、原作キャラの改変が嫌いな方は閉じて下さい。

・投稿スピード遅いですが、気長にお待ちください。すみません。

・長くなりましたが、書かせていただいます。

一話
静・ジョースターの奇妙な日常
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1363790589/
http://ayamevip.com/archives/50359976.html

二話
仗助「静のやばい物を拾ったっス」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1365094145/
http://ayamevip.com/archives/50388491.html

三話
静「ジャンケン教師がやって来た」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1367669400/
http://ayamevip.com/archives/50455923.html

四話
静「引きこもりのうちへ遊びに行こう」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1368951927/
http://ayamevip.com/archives/50455979.html

五話
静「泥棒をしよう」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1370177583/
http://ayamevip.com/archives/50469446.html

六話
静「ペーパー・バック・ライターは父親に憧れる」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1373404472/
http://ayamevip.com/archives/50469515.html

七話
静「お見舞いへ行こう」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1379932767/
http://ayamevip.com/archives/50478595.html

八話
静「日本料理を食べに行こう」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1383137249/
http://ayamevip.com/archives/50482658.html

九話
静「幽霊屋敷に住もう」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1386418852/
http://ayamevip.com/archives/50495972.html

十話
静「双葉双馬は静かに暮らしたい」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1391689545/
http://ayamevip.com/archives/50496017.html

元スレ
静「吉岡純はお金が好き」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1398837668/

2 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/04/30 15:04:51.43 RaUtky6u0 2/183

――蒸し暑い夜だった。

額から吹き出る汗を慎重にぬぐう。手の中にある金を汚さないよう、注意を払った。
薄明かりの中、少しごわごわとした万札を丁寧に、何度もなんども数えてみたが、その枚数が増えることはなかった。
頭で理解はしていたが、苛立ちが募る。暑さがさらにそれを加速させていた。
ああ……なんて蒸し暑いんだ。

3 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/04/30 15:22:20.16 RaUtky6u0 3/183

安宿のクーラーはごうごうとやかましく唸るだけで、冷房どころか換気機能すらまともに働いてはいない。
鼻をつくツンとしたすえた臭いに嫌気がさして、乱暴にリモコンを操作してみたが、重低音がさらに大きくなるだけだった。
ひどく臭う。時間のたった汗と、脂と、加齢臭と、その他諸々……口に出したくない『体液』の臭い。
その大半は、ベッドに横たわるハゲた中年男性から臭った。
でっぷりとした毛むくじゃらの腹を満足そうに揺らし、裸のままイビキをかいている。
思わず、大きなため息が出た。
……呑気なものだ。私は毎日毎日、生きるのに苦労しているというのに、この男はそんな私の事情など知らず、身体を求めてくるだけ……。

「すごいわパパッ!!私たち新記録ッ!」

などと言って、盛り上げていたのが遠い昔のようだった。
財布を仕舞い、脱ぎ捨てた服をかき集める。
ブラをつける時、大きな鏡の前で、自分の顔を見つめてみた。
まるで泣きはらしたかのような赤い瞳が、鏡の中でらんらんと輝いていた。

55 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/05/14 22:58:39.56 vs55RKjw0 4/183

「あれ?もう行くのかい?……純ちゃん」

冬眠から目覚めた熊のように、のそりと男が起き上がった。
つるつるの頭を乱暴に掻き、大きなあくびをしてみせる。
その行動の一つひとつが、私の癇に障った。

2……3、5……7……11……13……17…………19。

心の中で素数を数えた。気持ちを落ち着かせるためだ。
ゆっくりと、汗で湿った制服に袖を通す。

……37…… 41、 43………… 47、 53、 59…………。

素数を101まで数えた所で、私は振り返り、精一杯の笑顔を作ってみせた。

「ええ……パパ。私、もう行かないと。……パパとずっと一緒にいたい気持ちは本当よ?だけど……もう行かないと。怒られちゃうわ」

「例の親父さんかい?純ちゃんの……」

「……ええ……」

笑顔が消える。『あの男』の事を思うと、目頭が熱くなり、胸がむかむかした。

56 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/05/14 23:00:15.99 vs55RKjw0 5/183

「だから、ごめんなさい。パパ……また今度。ね?」

「……うん、そうか。それは……残念だよ。……もっと一緒にいたかったんだけど……」

お前がたった三万ぽっちしかよこさないからだ、と罵りたくなるのをぐっと堪えた。
稼ぎは少なくとも、大切な金づるだ。一時の感情で関係を壊すのは宜しくない。

「それじゃあ、行くわね?パパ……今夜も、ありがとう」

ドアノブに手をかける。少し押すだけで、ぎぎぎ、と錆び付いた音が響いた。

「ああ~~ッ、待って。ちょいと待ってくれ、純ちゃん」

男の女々しい声が追いかけてくる。

「何?」

私は忙しいのだ。
三万円で、こんな安宿の一室に縛り付けられるなんてまっぴらだ。早く、早く帰らないと――
すぐにでも走り出せるよう、前のめりになっていた私の身体が、後ろから抱きすくめられた。

「う……!」

「純ちゃん……いつもありがとう。仕事だの家庭だので疲れきったパパの、心のオアシスだよォォ~~純ちゃんはァァ……」

鳥肌が立つ。耳にかかる荒い息が、ただひたすらに不愉快であった。
男を払いのけようと力が入った私の手に、
男はそっと、茶封筒を渡してきた。

57 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/05/14 23:02:42.90 vs55RKjw0 6/183

「!……これは?」

「ほんの気持ちだよ、純ちゃん。……パパの気持ち。こんなものでしか返せないのは悲しいけど、この年になると、純ちゃんのような年頃のコが、何を欲しがるのかわからなくってね。……今妻子とは別居中だし」

ちらりと中を見てみると、万札が何枚も入っていた。
私が今、一番欲しかったものだ……。

「そんな、パパ……私、もらえないわ。こんなの」

「いいんだ。もらってくれ。いつもありがとうっていう気持ちさァ。……恥ずかしながら、こうでもしないと、純ちゃんが妻や子のように目の前からいなくなっちゃいそうな気がしてね。……喜んでくれた?」

大人にはわからない。
高校生である私が、今『ぽん』と渡されたコイツを稼ぐのに、どれだけの覚悟と苦労が必要か……。
これだけあれば、まっとうに生きていける。学費を払う事が出来るのだ。
涙腺が緩むのがわかった。それを押し殺した。絶対に弱みなんぞ見せたくない。

「ええ。……ええ、ありがとう。パパ。……私、嬉しいわ」

「……また、会ってくれるかい?」

「ええ。……必ず」

本心だ。
私は男にキスをして、闇の中へと身を投じた。

…………

58 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/05/14 23:04:18.40 vs55RKjw0 7/183

…………

煙草に火をつける。
無駄金は使いたくなかったが、これだけはどうしても抑えられなかった。
吸わなければこんな生き方、やってられる訳がない。

肺を有害物質で満たしながら、汚い小道を進んでいく。
電信柱が無く、大きく開けた杜王町の夜空を見て、
一筋、涙かこぼれた。
一体いつになれば、この生活は終わるのだろうか……。

59 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/05/14 23:05:58.83 vs55RKjw0 8/183

ふと、昔の自分を振り返る。
コンビニでおにぎりをポケットに入れた。それが、初めてやった悪い事。
五歳の時の話だ。腹が減って死にそうになって、それでも悪い事はしたくなくて、散々悩みながら、ギッた。
いつの間にか、どんどん悪い事ばかりしていって、身体を売る事も煙草を吸う事も、全く抵抗が無くなってしまった。
タールで汚れていく肺のように、自分の心が薄汚く真っ黒になっていくのがわかる。

『仕方ないだろう?一人の少女が生きていくのに、他にどんな方法がある?』

心で言い訳を続ける。そんな自分が大嫌いだった。
嫌で嫌でいやでイヤで……ああ、どこで間違えたのだろう?

60 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/05/14 23:07:39.15 vs55RKjw0 9/183

普通の生活をしていた記憶が無い。幸せな毎日を感じた事が無い。
『幸せ』って何なんだ?『金』があれば行き着く事が出来るのか?
金が無いから、私はこうして苦労をしている。ならば、いつになったら楽になる?

……死ねば楽になるのだろうか?『天国』というものに行く事が出来れば、あるいは……?

そこまで考えて、大きなため息をついた。
私なんかが『天国』に、行ける訳が無いのだ。
私の吐いた煙草の煙は、排気ガスと交わり、空へと昇っていく。
杜王町の美しい空を、灰色に汚して、消えていった。
…………

61 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/05/14 23:09:22.60 vs55RKjw0 10/183

…………

「純ッ!!テメェッ!今何時だと思ってやがんだァ――ッ!!?」

ただいま、という暇も無く、私の頭のすぐ横で、ウイスキーの瓶が大きな音をたてて砕け散った。
オンボロアパートを震わせるような、父の怒号が私に浴びせられる。
完全に出来上がっている。もう少し早く帰れば、と後悔した。

62 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/05/14 23:10:54.45 vs55RKjw0 11/183

「わ、悪かったわよ……父さん。本当に……気をつけるわ。今度から……」

「今度からだァ~~?今度っていつだッボゲッ!テメェーッついこの間ッ、ガッコの先生の前で言った事忘れたのかッ!!」

「ついこの間って……」

三ヶ月も前の事だ。
援助交際の現場を隠し撮りされて、学校側にばれた時、

『もう二度とこのような事はしません。これからは清く正しく生きます』

と、父と先生の前で言った。それは確かだ。しかし……
……そんな事、出来るわけがない。誰が私を養ってくれるんだ?

「テメェがどうなろーと俺ァ~~知った事ァーねえんだよッ!だがなあ、俺に迷惑をかけるんじゃあねえぜっこのボケナスッ!テメエの事で呼び出される俺の身にもなれってんだ!アッ?」

「……ごめんなさい」

散らばった瓶の破片を拾い集める。
私の頭に、こん、とビールの缶が当たった。思わず、父を睨みつけてしまう。

63 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/05/14 23:13:00.42 vs55RKjw0 12/183

「あァ?純ンン……なんだ?その目つきはよォ?」

「……いえ、別に」

「何か文句あるのかッ?お片付けが好きなんだろうがよォ?ついでに缶くらい片付けてもらってもいいんじゃあねえのかッ?エッ?」

小さな細い目は血走って、ぎょろぎょろと私を舐めまわすように見つめていた。
口の端からは泡が吹き出て、父が正気でない事を如実に表す。

「ムカつくぜッ!その目ェーッ!取り引きに失敗した俺を小馬鹿にする奴らの目だ……ふざけやがって!」

「そんな、父さん。私は別に……」

「ふざけるんじゃあねえぞックソックソッ!あの意味わかんねえ不良がいなけりゃあああああ俺は今頃出世街道を突っ走ってたんだよオオオオ」

「……」

「社長の野郎~~俺の言う『不幸な事件』をこれっぽっちも信用せずに……『きさまはクビだ!吉岡ァァァ――!もうおれの前に二度とそのツラ見せるんじゃあねーぜこのクサレ脳ミソがッ!ざまあ~~~~みろッ』……だとお?クソックソックソオオオオオ!!!俺がッ……俺が何をしたっていうんだあ?畜生ッ!!」

がん、と机を乱暴に叩く音が響いた。見たくはないが、もう見慣れてしまったいつもの光景だ。
父はもう何年も、酒を飲んでは毒づき、暴れ、泣きながら眠り、そしてまた酒に溺れていた。
もうどれくらいになるだろう……私の安息は、この小さなアパートの一室には無いのだ。
とっくの昔に。

65 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/05/14 23:15:34.94 vs55RKjw0 13/183

「本当に、ごめんなさい。父さん……私、もう寝るから」

割れた瓶の片付けを諦めて、自分の部屋へと戻ろうとする。
チャチだが一応は侵入を阻める自室の鍵が、私の最後の希望であった。
さっと靴を脱ぎ捨て、足早に部屋へと入る。
ドアノブを握り、閉じる――その、あと数センチの所で、
父の両手がドアの隙間に入り込み、乱暴にこじ開けられた。

「おい待てよ純」

「何?やめてよ父さん……私疲れてるの」

「テメェ、夜遅くまでほっつき歩いてよォ~~……このお父様に、なァーんにもよこすモノは無いっつーのかい?え?……あるんだろうがよォ?ゼニ」

「……」

66 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/05/14 23:17:22.04 vs55RKjw0 14/183

酒臭い息が顔に吹きつけられる。こっちまで酔ってしまいそうだ。
私は苦々しげに、財布から一万円札を取り出すと、父に突きつけた。

「これしか、無いから。……バイト、稼ぎ少なくって」

「……あのなあー純。こんな額じゃあ酒買えねーだろーが……よ」

「……」

「これじゃあねーヤツを出してほしいんだよ。どっか隠し持ってんだろ?サッサと出せ!オラ!」

渡せる訳が無い。
あの金は、大切な金なのだ。ただの普通の16歳のように、女子高生をするために必要な金なのだ。
私が唯一、普通の一般人のように暮らすための……金なのだ。

「持ってない……本当に、持ってないの。財布を見てもらってもいいわ。私全然、そんな――」

「そうかあ?そうなのかよ?……それじゃあよォ~~その大切に抱えてる『鞄』の中ッ!」

「――!!」

「じっくり……調べさせてもらおうかあ?じィ~~っっくりとよォォオ~~~~ッ!!」

ものすごい力で、鞄をもぎ取られた。
取り返そうともがいても、大人の男の力には到底、敵わない。

「や……やめて!お願いッ!やめろッ!!それは私の――」

引き裂くように鞄を開けられ、中のものをどさどさと出される。
ぽとりと、封筒が落ちた。急いで拾おうとしたら、顔を思い切り蹴られた。

67 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/05/14 23:19:22.59 vs55RKjw0 15/183

「なんだあ?こりゃあ?茶封筒?……!!」

「や……やめてよッ!それはッ……!」

「純!テメェ……こんなモン隠し持ってやがったのかあああ!?アヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!大金じゃあ~~ねーかッ!!こんだけありゃあ高い酒でも――」

「やめろォォォォ!!それはッ!!私の学費だァァァアア!!」

拳を振り上げた。
それより早く、腹を殴られた。
息がつまる。一瞬意識が遠のく。
次に鼻の頭を叩かれ、私は床にうずくまった。温かい血がぼたぼたと辺りに飛び散った。

「う……ウゲエ……!」

「テメェ~~父親に手ェ上げるたあどういう事だあ?アア?ナメやがって……逃げ出した母親にソックリだぜェ~~テメエはよォーッ。……ま!今回はこの金で、全てをチャラにしてやるぜ」

『チャラ』?……全くなってない。
私が必死になって集めた学費を……この男は、酒代につぎ込むつもりか?

68 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/05/14 23:21:27.99 vs55RKjw0 16/183

「父さん、本当に……そのお金は大切なお金なの。私が学校に通うために必要なのよ。お願い。それだけは……」

「うるせえなあ~~またバイトだの援助交際でもして稼ぎゃあいいじゃあねえか!」

「……!」

怒りで身体が震えた。
蒸し暑い夜に、私の身体はがたがたと震えた。

「この金ッ!返してほしかったらよォ~~……ほらッ!」

茶封筒から万札を数枚抜き出し、私に放ってよこす。

「その金で酒買ってこい、酒ェーッ!ビールにウイスキーにブランデーに日本酒に、高いワインだッ!焼酎も買ってこいッ!そしたら……返してやらん事もねェーぜェ~~?」

嘘だ。
私にはすぐにわかった。
こいつは……この男は、絶対に返さない。一度手に入れた金を、返すはずなど無いのだ。
そう頭では理解していた。しかし……従わない訳にはいかない。
私は、弱いのだ。
あきれるくらいに、弱いのだ。

69 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/05/14 23:22:45.73 vs55RKjw0 17/183

「オラッ!早く買ってきやがれッ!!どうしたあ?金返してほしいんじゃあねえのかよ?ア~~ン?」

「う……ううッ……!!」

私は逃げるように、家を飛び出した。
涙と鼻血が止まらない。ぐしゃぐしゃの顔を覆ったまま、夜の街へと飛び出した。
男の狂った笑い声が、何処までも私を追いかけてきた。

…………

70 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/05/14 23:26:32.33 vs55RKjw0 18/183

…………

ありったけの酒を買い、家の前へと戻ったが、どうしてもそのアパートのドアを、開ける気にはならなかった。
失ったものが大きすぎる。
恐怖の象徴であった父を、ここまで憎いと思ったのは初めてだった。
……また、数十万円を稼ぐには……何度、身体を売ればいいのだろう。
私が稼いだ金の『重み』は……この、両腕にかかる酒の重みだというのだろうか。

「う……ううう……」

やっと止まった涙が、また吹き出してきた。
もう、汗なのか涙なのか血なのかわからない。
高校の制服は、私の身体中から吹き出てくる水分を吸い取り、どんどん重くなり、拘束具のように私の身体にまとわりついた。
重みと、暑さと、悔しさと、怒りと、悲しさと、痛みと、絶望と……。
喜びと楽しみ以外の全ての感情と感覚を、今の私は味わっていた。
涙が止まらない。……どうやって止めるんだっけ?

71 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/05/14 23:28:23.25 vs55RKjw0 19/183

「う……うう……ひっく、ひっく……!」

止めようと思えば思うほど、どんどん涙は溢れ出てきた。
歯の根ががちがちと鳴る。苦しい。心が壊れてしまいそうだ。
もう……耐えられない。
大きな口を開けた。叫び声をあげようとした。
全てを吐き出してしまおうと思った。

……その時だ。

72 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/05/14 23:31:08.59 vs55RKjw0 20/183

「ううううううう~~……うえええええええええん……シクシクシクシク……ひっくひっく……うえええ……怖いよお……怖い……」

……誰かの泣き声が聞こえた。
私の泣き声なんかより、遥かに大きく、そして重い。
私の中でぐるぐると渦巻いている感情なんかより、もっともっとドス黒い絶望が、その声の中に聞こえた。

「……誰?」

「ひっく……ひっく……」

「……どこにいるの?」

アパートと、隣の建物との間だ。そこから聞こえてくる。
顔を覗かせると、暗くて解りづらいが……一人の少女が、うずくまっているのが見えた。

73 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/05/14 23:32:24.30 vs55RKjw0 21/183

「……貴女は?……どうしたの?こんな時間に、こんな所で泣いて……?」

「怖い……怖いの……」

「……何が、怖いの?」

不思議と、その声には引き寄せられるものがあった。
どこかで聞いた事がある気がしたが……思い出せない。
誰なのだろう、この子は……?

74 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/05/14 23:33:59.20 vs55RKjw0 22/183

「怖い……私、毎晩夢を見るの。空条承太郎や、東方仗助や、静……彼らに殺される、夢を……」

「?……くう……誰?」

何を言っているのだろう。
殺される?夢の中で?
……本当に殺される事なんて、ある訳が無いのに。こんな現代日本で……。

「おかしくなってしまうわ、私……追いかけられる恐怖から解放されたはずなのに、ちっとも良くならない。……きっと、彼女が……静が、すぐ近くにいるからよ。……あの子の存在を感じるの……」

「……何を言ってるの?ちっとも……わからないわよ?」

よく見ると少女は、非常に華奢な身体ではあるが、自分と同じ年頃であった。
月明かりにぼんやりと照らされる身体は、青白く透き通っていて、なめらかな絹のような髪は、きらきらと白い光を放っていた。
綺麗だ。
……女の私が、そう思ってしまうくらい……綺麗だ。本当に……。

75 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/05/14 23:39:07.53 vs55RKjw0 23/183

「彼女を遠ざけてほしいの」

幼子のように泣いていた少女は、突如強い口調で言った。
これは……私に言ってるのか?

「貴女にならそれが出来る。……貴女の心に宿る力は、すさまじいわ。それを、こんな所で……醜く錆びさせてはいけない。貴女は知るのよ。自分の力の使い方を……」

「ちょ、ちょっと待って。……ついていけないわ。私?私が何を出来るっていうの?こんな……何も持っていない、人間のクズのような、私に?」

「持っているのよ、貴女は。……ハングリーな心を、ね」

ひりひりと空間が焼けつくのを感じた。
暑い夜なのに寒気がする。少女が放つ圧力が、私の精神を圧迫した。
息が出来ない。何なんだ?この……少女は?

「ちょ……っと待ってよ。たとえ、その……心の力?とか、持ってたとしても……私はただの女の子だし、それに……どうして貴女の言うことを聞かないといけないの?」

「……ああ。貴女……そういえば」

「何?」

「私と『友達』じゃあ、なかったのね?」

「……」

『友達』?人並みにいるつもりではあるが……。
知る訳無い。こんな、怪しげな友達なんて……。

76 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/05/14 23:41:59.68 vs55RKjw0 24/183

「……当たり前でしょう?貴女みたいな友達がいたら……きっと、忘れられないわ」

「そう。ならば……近くに来て?」

「……は?」

「来て」

有無をいわさない迫力を感じる。
心臓を氷の手で握られたかのようだ。逃げ出さなければならないと、脳が警告を発している。
しかし、私は逃げられなかった。じっと、少女を見つめていた。

「……親しくなりましょう?私と……私と、『友達』になりましょう?純」

……何故私の名前を知っている?とか、そんな怪しい言葉聞ける訳無いだろう?とか、
言いたい言葉は沢山あった。この両腕に抱えてる酒の種類より、沢山だ。
しかし……何故だろう。……言えない……。
頭がぼんやりする。……この怪しい色気……。

77 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/05/14 23:43:20.38 vs55RKjw0 25/183

右足が、ゆっくりと前に出た。
あれ、と思う間も無く、左足、右足、左足と、前へと進む。
少女に近付いていく。
火へと群がる羽虫のように、私は少女に近付いた。ゆっくり、ゆっくりと。

「……ハァ、ハァ、あ、なた……?」

「フフ……いい子ね?純。……与えてあげるわ。貴女の進むべき道と――」

「貴女……わ、たし……どこかで……?」

「――新しい力を」

ドスッ。

78 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/05/14 23:44:39.89 vs55RKjw0 26/183

激痛がはしる。口から血が吹き出た。

「!?――な――ゴボ!?こ、これは――!?」

私の胸に『矢』が突き刺さっていた。
痛い、いたい、イタい!
何だ、これは……!?

「う、あ……あな、た……一体ッ……!?」

79 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/05/14 23:46:02.89 vs55RKjw0 27/183

「落ち着いて。深呼吸よ……スーッハ~~ッ。……貴女は愛されて生まれてきた。私がそれを思い出させてあげる。これまでの最低な人生を取り返せるくらい、素晴らしい毎日を約束してあげる。それは、暗闇の中ひっそりと咲くしかない、悲しい人生かもしれないけれど……大きなおおきなヒマワリを咲かせてあげる。貴女の力が、私を『天国』へ導くの……」

「あ……あああああああッ!」

ぐるりと意識が一周する。世界が回る。
自分の身体から、何かが飛び出したような感覚がした。
私は私の後頭部を見つめた。
そばに誰かが立っていた。
それが私だと気付くのに、時間はかからなかった。

80 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/05/14 23:46:54.18 vs55RKjw0 28/183

「ッ……ハア!ハア!……ハア……?……??」

いつの間にか、私は自分のアパートの前に立っていた。
耳の奥で自分の鼓動が聞こえる。自分の中に、力強い脈動を感じた。

「これは……何?さっきのは……?」

胸に手を当てる。矢も無ければ怪我もしていない。
先ほどの出来事は夢なのではないか?と訝しんだが、よくよく見ると、制服に穴が空いている。

「……何が、起こったの……?」

考えがまとまらない。自分の心臓の音がうるさくてたまらなかった。

81 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/05/14 23:48:26.08 vs55RKjw0 29/183

「おい、うるせえぞッ!純ッ!!」

目の前のドアが、弾けるように開いた。
中から、真っ赤な顔の父が顔を出す。ぴくぴくと青筋を立て、その拳は怒りでわなわなと震えていた。

「テメエ、こんな夜中に外で大声上げるんじゃあねえッ!叫び声なんざ上げやがって……怒られるのは俺なんだぞ!?考えて行動してんのかァーッ!?」

「……父さん?」

「あーン?寝ボケてんのかァ?ムカつくガキだぜッ!オイ、ジロジロ見てんじゃあねえぞッ!」

「……」

ああ、一体どうしてしまったのだろう。
……奇妙な事だが……今の私には、
父を全く、怖いとは感じなかった。それどころか……。
『勝てる』……とすら、思ってしまうのだ。

82 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/05/14 23:50:16.47 vs55RKjw0 30/183

「オイッ!ぼさっとしてんじゃあねーッ!さっさと家に入れッスカタン!酒買ってきたんだろうなァ~~オイッ!」

腕を捕まれ、乱暴に引っ張られた。
私はそれを振りほどいた。乱雑に、神経を逆撫でるように。

「……あ?」

「……離してよ、父さん。……痛いじゃあないの」

父の顔が赤紫色に変色する。
血走った目はさらにぎょろぎょろと動きまわり、ぎりぎりと歯ぎしりの音が響いた。

「純……テメエ、親にしていいと思ってんのか?その行動~~……~~ナメてんのか?俺を誰だと思っている?エ?面白ェなあー……もう一度やってみろよその行動ゥゥゥウウウ~~ッ……!!」

「もう一度だろうと、何度だろうとやってやるわ」

「……」

83 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/05/14 23:52:02.21 vs55RKjw0 31/183

もう、心に迷いは無い。
涙はとっくに止まっていた。

「うんざりなのよ、父さんには……もう私の金を酒に使うのはやめて。お金、返してよ」

「――ふざけるなあああァァァァァッッッ――!!!」

拳が振り上げられるのが見えた。
しかし、私はそれより早く、『心を動かして』いた。

84 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/05/14 23:53:01.21 vs55RKjw0 32/183

「テメエッ!親に向かってその態度は何だァ――ッ!!もう許さねえッ!!お仕置きだぜェェェエエ純ンンンンンンンン!!!!」

「父さん、貴方は――」

不思議と、『心の力』の使い方は、よく理解していた。
まるで何年もこの力と、一緒に生きているようだった。
私は何もしなくていい。ただ、こう言えばいいんだ。

「貴方は、右手で私を――……」

パキイン。

…………

85 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/05/14 23:54:13.87 vs55RKjw0 33/183

…………

――蒸し暑い夜だった。

私は、興奮と恐怖に震えながら、走っていた。
蒸し暑い夜の闇を、がたがた震えながら、
走っていた。
ただただ、走っていた。

86 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/05/14 23:55:19.53 vs55RKjw0 34/183

鞄の中には、申し訳程度の衣服くらいしか入っていない。
だが、充分だ。
この力があれば、何でも手に入る。
そう確信していた。
……まずは、何処へ行こうか?
そう自分に問いかけてみる。
答えはすぐに決まった。
あの少女だ……あの少女の所へ行くのだ……。

87 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/05/14 23:56:29.80 vs55RKjw0 35/183

「確か、名前は――……『メイ』」

教えてもらった訳では無い。
だが、何故か知っている。
彼女の名前と、もう一つ……私達が『友達』だという事を。
私はいつの間にやら知っていた。

おかしいな、と首をひねる。
いつ、友達になったのだろう?
……まあいいか、会った時に聞こう。

88 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/05/14 23:57:56.09 vs55RKjw0 36/183

私の心は晴れやかだった。まるで、羽が生えたかのように。
そして、私は知っていた。
その心に生えた羽が……
……『悪魔』の羽だという事を。

…………

89 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/05/14 23:58:53.89 vs55RKjw0 37/183

…………

蒸し暑い、ある日の事。
寂れたアパートの一室で、男の死体が発見された。
室内に争った跡は無く、無職の男の数少ない金品には、一切手がつけられていなかった。

ただ一つ、『奇妙』な事と言えば……。

男の心臓は、まるで『ルビー』のような、光沢ある石となり、
かちかちに固まって、鼓動を停止していたのだ……。
身寄りも職も無く、素性のわからない男であったが、
名は『吉岡』であるという事が、警察の調べで判明した。

…………

120 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/05/21 15:09:40.27 XvBFrTUT0 38/183

…………

仗助「――静、オメーいつまで寝てんだぁ?オイ……」

ガチャッ

「……んー?……ムニャ……スースー……」ポリポリ

仗助「起きろォォ~~ッ。遅刻すんぞッテメー。ヘソ出して寝てんじゃあねーよ。腹壊すぞ」

「んん……兄さん何言ってんのよ……あたしは夏休みだってのお……だから寝坊しても大丈夫なのらァァァ~~……ムニャ」

仗助「……」

121 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/05/21 15:14:12.76 XvBFrTUT0 39/183

シャアーッ

「ウゲエッ!まぶしっ!……うう、やめてよォ兄さん……」ゴロゴロ

仗助「……静。……夏休みは『明日』からだぜ?」

「……」

ピタ

仗助「まだ成績表もらってねえだろうがよォ~~。今日が終業式のはずだろ?」

「…………」





「あ――ッッッ!!!」ガバアッ!!

122 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/05/21 15:16:20.25 XvBFrTUT0 40/183

「もうッ兄さんッ!!もっと早く起こしてよねーッ!!うわっ、今何時ッ!?」ヌギヌギ

仗助「何回も起こしたぜ。起きないテメーが悪いだろ~~がよ~~」

「HOLY SHIT!マジにヤッベェーわッ!い、一応聞くけど……兄さん」

仗助「あん?」

「あ……あたしを学校まで送ってくれたり……なんか、しないわよねェ~~?車で……」

仗助「今日おれ大学の教授と飲み会あっからよォー。歩きで行くんだよ。悪ィなーッ」

「ググ、期待してなかったとはいえ……正面きって言われるとヘコむわね……」ガックリ

仗助「はやくスカート穿きやがれ」

123 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/05/21 15:18:32.04 XvBFrTUT0 41/183

「そ、それじゃあ行ってきまァーすッ!」ガチャリッ!

仗助「おう、気をつけてなァ~~」

ムワッ

「うっ、ムシ暑いわ……この中走れっつーの?マジに?グレート。やってらんないわ……やれやれね」

ペラリ……

「……ん?」

124 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/05/21 15:19:44.98 XvBFrTUT0 42/183

ペラッ……

「アンタは……」

紙人間『……遅いぞ、静』ペラリ

「『ペーパー・バック・ライター』?……何してんのよ?あたしん家の前で」

紙人間『もちろん、君を待っていた。最初は『僕自身』が待っていたんだがな。あまりにも遅すぎるので、先に行かせてもらったぞ。ペラペラ。君に合わせて遅刻する義理は無い』

「あたしだって遅刻するつもりなんて無いわよーッ。校長のやたらと長ったらしい話の途中でクラスの列に加わる勇気は無いわッ。悪いけど走るわよッ」

タタタッ

125 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/05/21 15:21:07.42 XvBFrTUT0 43/183

紙人間『……話があるのだが』スススッ

「それって、昨日にやってた映画の話?主人公のドン・ペキンパー格好良かったわよね……それともアンタは敵の方が好きだったり?」

紙人間『……確かに僕はマイク・ハーパーの方が好きだが……今したいのはその話じゃあないぜ。ペラペラ……』

「?……」タタタッ

126 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/05/21 15:23:21.52 XvBFrTUT0 44/183

紙人間『……先日僕を攻撃した女生徒、『野高梨子』……覚えているか?』

「……一日二日で忘れられる名前じゃあないわねーッ。そいつがどうかした?」

紙人間『……』

「もしかして、まァーだ熱烈アタック食らってるとかァ~~?アンタなんか『押し』に弱そーだもんね。……男なら気合入れてバシッ!と言ったほうがいいわよ?それが結局お互いのために――」

紙人間『行方不明なんだ。彼女』

「――!」

ズザッ

127 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/05/21 15:26:15.65 XvBFrTUT0 45/183

「……『行方不明』?」

紙人間『……』

「『失踪』したって事?……何?フられたショックで傷心旅行にでも行ったの?」

紙人間『……それなら良いんだ。あんな女でも、無事っていうのならば本当に安心出来る。……だが、バスの運転手は彼女を乗せた覚えなんか無いと言うし、駅の監視カメラにも彼女の姿は映っていなかった。……警察の調査を勝手に盗み見たんだけどね』

「……『消えた』の?」

紙人間『そうとしか考えられない。……心当たりは?』

「無ェーわ。あるならとっくに言ってる。……同じクラスで親しいアンタが知らないんだから、あたしが知ってる訳無いでしょーッ?」

紙人間『静、お前は……』

「……何?」

紙人間『……気付いているか?ペラペラ……』

「……?」

128 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/05/21 15:30:44.22 XvBFrTUT0 46/183

紙人間『今、この杜王町には『吸血鬼』以外にも……『殺人鬼』がいる』

「!……」

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

紙人間『メイの仲間だ。何が目的で、何処のどいつかは検討もつかないが……『殺人』を犯している。……もう何人も、殺人鬼の手で人間が殺されている』

「……」

紙人間『……『消える』んだよ。こいつに殺された人間はな。人間が『塵』になって消えていく姿を、この町の地面は見ているんだ。……過去杜王町は失踪者や行方不明者の数が異常に多い町であったのだが……ここ最近、その数がまた増えている。……その事を、お前は……』

「……」

紙人間『……気付いているのかい?』

「……」

130 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/05/21 15:33:24.48 XvBFrTUT0 47/183

ミーンミンミンミン……

「……暑いわね、双馬」

紙人間『……ペラリ、そうだな……』

「……のどかで平和な町だなって思うのよ。たまにね……こうしてセミの声なんか聞いちゃって、コンビニでアイス買ってさあ。……暑いんだけど、それが心地よくって……」

紙人間『……』

「あたし、この町好きよ?都会からはちょっぴり離れてるけど、アメリカの騒がしい生活とは大違いでさ。何より……兄さんが命がけで守った町だもん。嫌いな訳無いわ……」

紙人間『……』

「だから、あたしが守るのよ。今度は。……兄さんの代わりに、あたしが町をね」

紙人間『……そうか』

131 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/05/21 15:34:58.92 XvBFrTUT0 48/183

「アンタも協力しなさいよ?双馬」

紙人間『……どうだかな?僕はそれほど、この町に感心は無いからな~~』

「へーッ?殺人鬼や被害者について熱心に調べてるくせに?」

紙人間『これはメイについて調べていた時に見つけたものだ。……奴から『弓と矢』を奪わなければならないからな』

「ん!……まあ、そういう事にしとくわねッ。ニシシッ」

紙人間『……フン』

「とにかく、これからは少し捜査の時間増やそうかしらねェ~~。今まで週三くらいでパトロールとか聞こ込みとかやってたけど、回数増やして……っていうか双馬、アンタの知ってる情報もあたしに教えなさいよ」

紙人間『……それはいいが……静』

「何?」

132 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/05/21 15:35:49.09 XvBFrTUT0 49/183

紙人間『……遅刻するぞ。ペラペラペラ……』

「!!……うっぎゃああ――ッ!!SON OF A BITCH!!」

ダダダダダダダダ――ッ!!

…………

171 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/02 22:15:13.68 VPlmOT5D0 50/183

…………

キィ~ンコォ~ンカァ~ンコォォ~~ン……

早人「オホン!ゴホッゴホッ……えっと、みんなお疲れ様。終業式……なんだかあっという間に夏が来たって感じだね。あまり長々とぼくから話すことは無いけど……くれぐれも夏休みの間、ハメを外しすぎないようにね。わかった?虻村君」

虻村「なんっでそこでおれの名前が出てくるんだッコラァー!」

アハハハ……

早人「じゃッ!最後にみんなが楽しみにしている……『成績表』を返して、今学期は終了としますっ」

エエーッ!ギャアーッ!マジカァーッ!

早人「出席番号順に、呼ばれた人から取りに来てね。……虻村君……梅川さん……大間君……」

ザワザワザワ……

172 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/02 22:18:10.12 VPlmOT5D0 51/183

虻村「……う……ウググ……」ズーン……

「この世の終わりって顔ね。写メ撮っちゃいたいくらいスゲー顔してるわよ」

広瀬川「ど、どうだった?……虻村君」

虻村「聞くんじゃあねーッ康司。……この世にゃあ触れちゃいけねー事が山ほどあるんだ……」

委員長「わっ、すごいな君。一番っていう言葉が好きなのかい?所々、一番よりナンバー2になってるけど」

虻村「見るんじゃあねーッコラァーッ!!」グオオッ!

「……うーん、あのさ。康司」

広瀬川「えっ、何?」

「確認するけど……成績表って『マル』が多いほうがいいのよね?『ペケ』じゃあなくって」

広瀬川「……」ポカーン

173 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/02 22:25:19.93 VPlmOT5D0 52/183

「あたしアメリカ暮らしが長いからさ……未だに正解に『マル』をつける日本の文化に馴染めないのよね。アメリカじゃあ正解に『チェック』をつけるもん。ヌカ喜びする前に確認しておくわ」

委員長「……成績表は『5』が一番良いんだよ」

「あ、五段階評価ってヤツか。ってェー事は、『3』より『4』の方が良いのね?……『4』って日本じゃあ『死』に繋がるから縁起ワルそーだけど」

虻村「テメーは『1』と『2』のどちらが大きいかだけ覚えてればいいんだよッ」

「何ィィ~~?」

早人「はいはいそこ、あまり騒がないようにッ。……次、静さん。……静・ジョースターさーん」

「あ、はいはいはァ~~いっ」ガタッ

スタスタスタ……

174 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/02 22:30:38.84 VPlmOT5D0 53/183

早人「……んー……」パラッ

「ちょっとちょっと、早人先生ィ~~。レディーの目の前で女の子のヒミツを堂々と見たりする?ムズかゆい気持ちになるじゃん、もうっ」

早人「ああ、ごめんごめん。気になっちゃってね。……静さん、日本の学校は初めてで、色々と大変だっただろうけど……よく頑張ったね」スッ

「はあ。……ありがとうございます」パシッ

早人「仗助さんに宜しく。それと……東方先生、あー……東方朋子先生に挨拶しておきなよ」

「……現国の成績、何かありました?」

早人「……見た方が速いと思うよ?じゃ、次ィー。鈴木さーん」

「……」スタスタ……

ピラッ

175 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/02 22:35:21.54 VPlmOT5D0 54/183

社会…5
数学…4
理科…4
英語…5(Excellent!!(スバラシイ!))
音楽…5
体育…5
美術…1(先生にはまだ理解出来ないものでした。ある意味スゴイよ)

「……そーっ……」ピラッ……

国語…(オオマケにマケて)3(もっと勉強すること)

「…………」

ニヘラッ

「……(まあ、ワルくはないんじゃあないの?美術は別にして。……兄さんホメてくれるかなァ~~)」

ニヤニヤ……

176 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/02 22:40:28.94 VPlmOT5D0 55/183

女生徒「良かったの?」

「……」

・ ・ ・

女生徒「ねえッ!私、話しかけてるんだけど。貴女に……『良かったの?』って聞いてるの。成績。……日本語……通じるわよねェ~~?」

「……」

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

177 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/02 22:43:22.24 VPlmOT5D0 56/183

「……いきなり何だっての?アンタ。特に親しくもないクラスメイトの成績を聞くなんて……デリカシー無いんじゃあないの?」

女生徒「同じクラスの人と仲良くしようっていう気持ち、無いの?孤立するわよぉ~~?女の社会ってヘドロみてーにドロドロしてて怖いんだから」

「……」

女生徒「そんな睨みつける事無いでしょう?成績表貰ってバカみたいにニヤついてるから、気になっただけ。ただの世間話みたいなもんじゃん。……怒ってるの?機嫌悪い?」

「いえ……普通よ。可もなく不可もなくって感じ。……成績表も普通よ、普通ゥー」

女生徒「ふ~~ん……そっか……」

178 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/02 22:47:18.31 VPlmOT5D0 57/183

女生徒「じゃあ、さ。……『賭け』でもしてみない?」

「!……」

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

女生徒「貴女の成績と私の成績……どっちが『上』か?……っていう『賭け』を、さ。……やってみない?静さん」

「……」

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

女生徒「自分という存在が、赤の他人よりどれだけ優れているのか……知りたくない?自分自身に金を賭けてみたくならない?貴女は私よりどれだけ上にいると思う?……それをお金で表してみてよ。さあ、貴女はいくらお金を賭ける?1万?10万?……100万くらい?」

「……」

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

179 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/02 22:51:21.88 VPlmOT5D0 58/183

「……悪いんだけど、お断りするわ。……(お金は欲しいけど)」

女生徒「……」

「さっきも言ったけどあたし、普通だから。……普段から真面目に勉強してる訳でも無いしね。社会がいいのはおじいちゃんの冒険話聞いて育ったからだし、音楽はミュージックが好きだから。本当にそれだけ。……自分自身に金を賭けられるほど、あたしは大した人間じゃあないわ」

女生徒「……ふゥ~~~~ん……そっかァ」

クルッ

180 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/02 22:53:24.46 VPlmOT5D0 59/183

女生徒「意外とつまらない人間ね、静。……賭けというのは『心の勝負』よ。勇気を持っている者が勝つの」スタスタ……

「……覚えておくわ。脳みそに容量の空きがあればね」

女生徒「ところで……私の成績なんだけどさ」

「……」

女生徒「なんと『オール5』なのでしたァァ~~ッ。ジャっジャジャぁ~~ンッ!……勇気だけじゃあ超えられないものっていうのもあるのねッ。アハハハハハハハハハ」スタスタスタ

ガラッ……ピシャンッ

「……何なのよ、アイツ……」シラケーッ

181 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/02 22:55:36.43 VPlmOT5D0 60/183

スタスタ

広瀬川「静さん、何を話していたの?」

「さあ?なんか一方的にバカにされただけよ」ガタンッ

委員長「成績はどうだった?落ち込んでいる様子は無いし、良かったみたいだけど」

「まあまあね。兄さんに怒られる事は無さそうだわ」ハイ

虻村「……オメー、美術で『1』取るなんざ、一体全体普段どんな絵描いてんだよ?」ピラッ

「あたしの美的センスにニッポンっていう島国が付いてきていないだけよ。あたしの油絵の凄まじさにはゴッホもビックリなんだから」

委員長「……ゴッホは生前評価を受けていないんだよ」

182 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/02 22:58:02.65 VPlmOT5D0 61/183

「さ。そろそろ帰りましょう。明日っからウキウキの夏休みよ。否が応でもテンション上がるわね~~ッ!」ノビーッ

ガラガラッ

広瀬川「どこかに出かける予定はあるの?静さんは」テクテク

「んー……一度アメリカの実家にでも顔出そうと思ったけど、日本の夏って物心ついてから初めてだしね。今年は日本で夏を満喫かな。国内のどこかには行きたいと思ってるわ。……思ってるだけだけど」

広瀬川「へえー。ボクは夏休みの間、親戚のおばあちゃん家にお世話になる予定でさ。……ビックリするくらいド田舎なんだけど、その地域に伝わるオカルト話がありそうで今からワクワクしているよッ」

「ふーん、いいんじゃあないのォ~~?委員長は?」

委員長「一週間ほど、家族と海外旅行に行く予定だよ。しかしまあ、僕は大学に向けての勉強会があるからね。夏休みの間はあまり会えそうにないよ」

「ふーん。って事は……夏休みは一人かあ」

虻村「スッゲェー自然に俺を無視するんじゃあねーッ!」

183 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/02 23:00:06.34 VPlmOT5D0 62/183

「どーせアンタもどっか旅行行くんでしょ?昨今のガクセーは金持ってんなー」

虻村「特に予定も無く一人だぜ~~ッ!文句あっかコラッ!旅行行きたいって思ってる『だけ』のお前と一緒だよッ!」

「って言っても、別にアンタと夏休みの間に会いたいって思う事無いしなァ~~。つまんなそうだし」

虻村「夏っつったらイベント盛りだくさんだろうがよーッ!海!山!祭りィー!それらに参加するだけでもスッゲェー楽しいだろッ!」

「だから、アンタとは行かないって。マジで。……ここだけの話さ」

虻村「ああ?何だよ?」

「……お金無い」ヒソヒソ

虻村「……そりゃあお前……致命的だぜェ~~……」

184 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/02 23:03:06.67 VPlmOT5D0 63/183

「夏っていったらさ、やっぱり遊ぶ訳だし、あたしもちょっとくらいお金持っておくつもりだったのよ?」ヒソヒソ

虻村「なんかあったのかよ?」

「『AKIRA』のライブビデオが発売してさ……高かったけど、高画質でライトハンド奏法が見たくって……お陰で今手持ち1万よ」ヒソヒソ

虻村「ちょっと茶ァーしばいてメシ食ってゲーセン行ったら終わりだなッ」

「マジでどうしよう……このままじゃああたし、旅行にも行けずに日がな一日ウジウジ家にこもってる事になるわ」ドンヨリ

虻村「!……そぉ~~だッ!静ァーちょっとツラ貸せッ!」ガシッ

「はあ?」

185 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/02 23:06:00.20 VPlmOT5D0 64/183

虻村「実はよ~~、金ねえのは俺もなんだよッ!夏休みの前半はちょいとバイトに精出そうとでも思ってた所なんだッこれが」ヒソヒソ

「工事現場のバイトとか似合いそうね、アンタ」ヒソヒソ

虻村「けどよォ~~高校生活初めての夏休みッ!バイトに使ったりウジウジ家ですごすっつーのは不健康だと思わねえか?なあ~~?」ヒソヒソ

「けど、金ねぇーもんあたし。何か『儲け話』でもあるっての?」ヒソヒソ

虻村「『儲け』じゃあねえけどよ~~……金がねえなら、『有る』所から『借りれば』いいんじゃあねえか?」ヒソヒソ

「……まさか、『ヤミ金』?」

虻村「違ェーよッボケ!俺ら健全なコーコーセーがンなもん借りれるかッ!」

委員長「……何の話をしているんだい、君たち……」

虻村「いやッ!何でもねェーッ!」ワタワタ

186 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/02 23:08:15.84 VPlmOT5D0 65/183

虻村「あのな、最近妙~~に『羽振り』がいいヤツが、クラスにいるんだよッ。俺は密かにワルい事して稼いでるんじゃあないかってニラんでるんだがよー」ヒソヒソ

「……そいつから借りるっていうの?そう簡単に貸してくれるかな?」ヒソヒソ

虻村「急に金持ちになったヤツなら、金の使い方がわかってねえだろう?ちょっとくらいなら貸してくれるモンだとは思わねえか?」ヒソヒソ

「うーん……まあ、そうだけど」ヒソヒソ

虻村「クラスメイトに借りるんだから、利息の心配とかも無ェしなァー。借りたモンは後で耳そろえて返せばいい。誰も損しちゃあいねえし、平和な事だろォ~~?」ヒソヒソ

「借りる額によるけどね」ヒソヒソ

187 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/02 23:10:55.43 VPlmOT5D0 66/183

虻村「相手の財布事情があるが、出来たら数万円ほど借りてよォー、二学期が始まってからゆっくりバイトして稼いで返せば、みんなハッピーじゃあねえか。もしかしたら……羽振りが良すぎて俺らに少しばかり『恵んで』くれるかもしれねえぜ~~?グフフ!」ヒソヒソ

「そ、それは人としてどうなのよ。虻村……」ヒソヒソ

広瀬川「……さっきから二人で話してるけど……そんなに悪い話なの?」

虻村「な、なんでもねーぜッ!みんながハッピーになる話をしてんだよッ!」

「そ、そうそうっ!主にあたし達の夏休みがハッピーだわ」

委員長「……?」

188 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/02 23:13:04.66 VPlmOT5D0 67/183

虻村「っつー事でよッ!俺らちょいとヤボ用思い出したから、抜けさせてもらうぜ~~」クルッ

「じゃあ、また今度ねーッ。良い夏休みをッ」フリフリ

タタタッ……

広瀬川「……どうしたんだろう?二人共」

委員長「さあ?……良い話では無さそうだけどね」

189 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/02 23:15:28.54 VPlmOT5D0 68/183

「で、虻村。そのクラスメイトってどいつよ。二人のビンボー学生に金貸してくれるほど懐の深いヤツなの?」テクテク

虻村「さあなあ~~。俺もあんまし話した事は無いのよ、実は」テクテク

「……そんなんで大丈夫?本当に?」

虻村「心配すんなッ。人間話しあえば分かり合えるモンだろォ~?っと……」

ガラッ

虻村「おーっス。ちょいと聞きたいんだけどよ~~」ヒョコッ

生徒「あれ、虻村……と、静さん?どうかした?帰ったと思ったけど」

虻村「あのよ、あいつ……何処に行ったか知らねえか?今クラスにいねえみてーだが……」キョロキョロ

生徒「あいつ?……ああ。彼女か。ええっと……」

190 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/02 23:17:26.45 VPlmOT5D0 69/183

生徒「おーい、誰か『吉岡さん』何処へ行ったか知らないかー?」

……ザワザワザワ……

「知ってる?」「いや、帰ったと思うぜ」「俺見ちゃあいねえよ」「吉岡ァ?ああ……」

「吉岡さんなら、『支倉高校』の方へ向かったよ。俺見たもんねーッ」ハイッ

生徒「……だ、そうだ」

虻村「『支倉高校』ゥ~~?……『デッドマンズ・カーブ』の所かよ?なんでんな所に……」

「?……何処よそこ」

虻村「行くぜ、静ァ~~。見失ったら厄介だ。さっさと会いに行こうぜ。……『吉岡』によォ~~」

「……」

…………

191 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/02 23:19:46.02 VPlmOT5D0 70/183

…………

支倉高校前道路
(別名『デッドマンズ・カーブ』)――

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

「……」タタッ

虻村「暑ゥゥ~~……ヒィイ……」ダラダラ

ブワァァアァアァ

「……」ズルリッ

「……ウチの学校の生徒なんか、いないみたいだけど……」

虻村「胸ん所に穴が開いた制服来たヤツだよッ。何かが刺さったみてぇーな穴開いてるヤツだ。そこから見える胸元がセクシ~~だぜェ~~。……お前と違って」

「ブチ消すわよ」

ミーンミーン……

192 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/02 23:22:11.91 VPlmOT5D0 71/183

ミンミンミン……

「あーもう、こんな暑さだし帰ったんじゃあないの?あたしも帰ってコーラ飲みたいわ」

虻村「う~~む……そうかもなぁ……これだけ探してもいないって事は……あっ!」

ガバッ!

虻村「いたッ!いたぜッ静ァ~~ッ!向こうの道だッ!」

「えっ?……あれ、あの人って……」

虻村「おい、結構足速ェーぜッあいつ!さっさと行くぜっ」タタッ

「ちょっ、待ってよ虻村ッ!あいつってさ……もうっ!」タタタッ

193 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/02 23:24:00.07 VPlmOT5D0 72/183

タタタタ……

虻村「ハァ!ハァ!……ま、待ってくれねえかッ!?吉岡……『吉岡純』サン~~ッ?」

「……」

ピタッ

「……はぁ、はぁ……アンタって……?」

虻村「少し……俺らの話を聞いて欲しいんだけどよーッ、時間大丈夫か?オメーっ」

「……」

クルッ……

194 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/02 23:25:35.02 VPlmOT5D0 73/183

「ええ。大丈夫……何の用?虻村くんに……静さん」

「……さっき話しかけてきた、クラスの……!」

「……」

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

206 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/09 23:06:03.78 p7kAqbCe0 74/183

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

「……」パサリ

「……ゴ、ゴクリ」

虻村「お、おい。おい静!」ヒソヒソ

「……何よ虻村」ヒソヒソ

虻村「話せよホラッ。女のテメェーのほうが話しやすいだろーがよッ」ヒソヒソ

「なッ!……ここまで来てそれは無いでしょーがッ!アンタから切り出しなさいよッ言い出しっぺ!」ヒソヒソ

虻村「け、けどよォ~~なんて言ったらいいか……」ヒソヒソ

「テメェー○○○○ついてんのかッ!何でもいいから言え!ってのーっ」ヒソヒソ

「……そこまで暇っていう訳でもないのよ」

「えっ!?」ドキッ!

虻村「あ~ん?」

207 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/09 23:08:55.17 p7kAqbCe0 75/183

「『タイム・イズ・マネー』ぇぇ……時は金なり。過ぎ去る時間は黄金よりも価値のあるものなのよ。だんまりしちゃってる暇あるなら、私もう行くけど?」ザ……

虻村「ちょ、ちょっと待った!待ってくれってェェ~~。あのよ、少しそのォ~~……『お願い』があるんだけどよォ~~……」

「『お願い』?……」

「うんそうッ!あたし達をちょっぴり、助けてほしいかなァァ~~って……ね?」

虻村「おうッ、そうなんだよなァ~~これがッ!」ウンウン

「それは『儲かる』の?」

・ ・ ・

「……ん?」

虻村「……ああ?」ポカーン

208 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/09 23:12:59.19 p7kAqbCe0 76/183

「私が一円でも『儲かる』っていうのなら、聞くわよ。最後まで逃さず聞いたげる。けどそうじゃあないっていうのなら……話は終わりね。例えば『金を貸して欲しい』とか……」

「う!」ギクリ

虻村「グ!」ギクリ

「……そういう下らないお願いなら、私は聞くつもりは無いわ。どうせ貸しても利子とか利息とか考えず、ただ返すだけなんでしょう?あわよくば逃げられたら良いかなァー……とか、思ってない?」

「ちょ、ちょっと!さすがのあたしでもそこまで悪どい事は考えてねえってのーッ!」

虻村「そうだぜッ!利子とか利息とか考えてねえのはマジだけどよッ!」

「ちょっと黙ってろアホ村ッ!」

虻村「ヌ、ググ……!」

209 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/09 23:15:47.93 p7kAqbCe0 77/183

「どうせなら、さ。……スリルに賭けてみるッ。……っていうのは、どう?」

バン

「!……」

虻村「……?」

「それが『青春』ってもんじゃあない?増やすか、スっからかんになるか。……勝負で決めるっていうのは楽しそうだと思わない?」

「……何の話?」

「フフ……」ゴソッ……

チャリンッ

210 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/09 23:18:42.48 p7kAqbCe0 78/183

キラキラッ

「……『500円玉』?」

虻村「おッ!……もしかして、恵んでくれたりィ~~とか……」

ドスッ!

虻村「ふぐっ!」

「……」ギロリ

虻村「す、すまねえ」

「……ポケットや財布に『500円玉』があると、何か妙~~に安心するわよね。『1000円札』のほうが価値があるんだけど、紙には無い重量感とか信頼感があるっつーか……」

チン!

キラキラキラ……

パシッ

「……さ」

「……」

虻村「……」

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

「……『ど~~っち』……だ……?」

211 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/09 23:21:32.55 p7kAqbCe0 79/183

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

「……え?」

「『どっち』に入ってると思う?『右手』か?『左手』か?……『500円玉』はどっちの手に入っているでしょう?」

「……ひだ……」

虻村「え?」

「……」

「……」

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

虻村「お、おい静。俺はサッパリわかンねえぜッ。お前わかんのかよ?『左』か?」ヒソヒソ

「……いや、右よ。右に入ってる……!」

「……」

212 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/09 23:25:18.95 p7kAqbCe0 80/183

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

「右に入ってる……でしょう?」

「……」

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

「……『右』……ね……」ググッ

スゥーッ……

パッ!

「……」

「……」

キラキラッ

「……『正解』よ。あげるわ」ピンッ

「……どうも」パシッ

213 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/09 23:27:00.00 p7kAqbCe0 81/183

虻村「よくわかったなあ、オメーっ」

「……あー……まあ、ね」

「フフ……私さ、家が貧乏で……ちょっと人には言えないような事でお金稼いだりしてたんだけど、最近はもっぱら『賭け』が好きでさ。……賭けというのは『心の勝負』……大きな『勇気』と、『打ち負かしたいッ!』っていう気持ちが強ければ、勝てるものなのよ。下らない精神論じゃあないわよ?その気持ちが強い者は、すなわち勝ちに『飢えて』いる。……飢えている者は勝とうと考え、努力するからね。……わかるかな?私の話」

ピンッ!

パシッ

「……右手」

「……ふーん」

パッ

キラキラ……

「いいわねェ」ピンッ

「……」パシッ

214 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/09 23:30:29.92 p7kAqbCe0 82/183

「私、無駄なお金はビタ一文払いたくないタチなんだけど、賭けだけは別でさ。……賭けに負けたっていう事は、つまりは『心』が敗北したって事。その代償を支払うのは当然の事よねえ」ピンッ

パシッ

「右手」

「……なかなか」パッ

キラキラ……

「すごいわ」ピンッ

「……」パシッ

「賭けなんて、カードやサイコロ、ルーレットなんか無くったって、どこでも出来るものなのよ。その時々の動きや現象を予想して、その『自分の心』にお金を賭ける。……心と心のぶつかり合いの果てに、相手の心を打ち破って、儲ける。……シビれると思わない?自分自身の心にお金を賭けるなんて……」ピンッ

パシッ

「……また右手」

「へえ?やるわねえ」パッ

キラキラキラ……

215 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/09 23:32:02.85 p7kAqbCe0 83/183

「これでもう貴女は2000円儲けた。私の心を打ち破ってね。……気分はどう?」ピンッ

「……普通ね」パシッ

虻村「静、オメーすげえなあ。全然わかんなくってよォ~~俺ァ~~」

「虻村アンタマジィ?マジに言ってんの?おまえ」

虻村「あ~~ん?」

「……いや……」チラッ

「……」ニコッ

(……わかりやす『すぎる』……イカサマでコインを入れ替えたりする気か?って疑っちゃうくらい、どっちの手に入ってるかモロバレよ。……お陰で儲かったけどさあ、なんか『施し』を受けたよーな感じで気分が悪いわね……)

216 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/09 23:34:23.03 p7kAqbCe0 84/183

「何?静。……2000円ぽっちじゃあ全然足りない!って顔ね?」

「……そうじゃあないわよ」

「わかってる、わかってるわよォ。……前座はこのくらいよ。お金を借りたいくらいに財布が貧しいんなら、もっとドッサリ儲けたいわよねえ?」

「……い、いや……」

虻村「そォーっだぜーッ!いや2000円でもスゲー欲しいけどよ~~、やっぱもうちっと『ケタ』がねえと、夏休みがワビシイよな~~ッ!」

「いや、あの……もうそれでいいわよ……チクショ~~……」ブツブツ

「ふ~~ん……そっか。……それじゃあ」

スッ……

217 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/09 23:36:41.75 p7kAqbCe0 85/183

「向こうの道を見て」

ビシ

「……」

虻村「……」

「あそこに『会社員』っぽいサラリーマンがいるの、わかるよね?……静、そっちじゃあないわ。あの店の前……そう、あの人よ。……あの人で『賭け』をしない?」

「……どういう意味?」

「あの人、のそのそとナメクジみてぇーな速度で歩いてるけどさ。……先に行った所の、二手に分かれた道」

「……」

虻村「……」

「……端っこが工事中の『右』の道へ行くか?ひと気のない『左』の道へ行くか?……っていう『賭け』よ。……やってみない?賭け金は……」

ピッ!

「……『100万円』よ」

ドン!

「!!な――」

218 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/09 23:38:44.82 p7kAqbCe0 86/183

「あっあー、わかってる。言わなくていいわ。……100万円なんて大金持ってないってね。そういう事でしょう?いいのよ別に……どれだけ長い時間がかかろうと、最終的に払ってくれればそれでいい。……っていう事なら、気が楽でしょう?」

「……」

「一日5000円ずつ返せばたったの200日で返済出来るし、お金じゃあなくっても『行動』とかでも返せるわよ。私のいう事を100万円分聞いてくれればOK。……ね?簡単でしょう?」

「……簡単って……」

「ン?」

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

「……100万円分の命令、でしょう?……そんなの……」

虻村「いいじゃあねーかッ!その賭けーッ!俺は乗ったぜーッ!」

「グッド」ニヤリ

「!!……」

219 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/09 23:40:40.66 p7kAqbCe0 87/183

「……ちょっ……ちょっと虻村!」ヒソヒソ

虻村「まあまあ静よォ~~、俺らは今、数千円くらいでも貰えれば喜ぶ所だが……欲を言えば数万円ほど欲しいって考えてるよなァ~~?こりゃーまたとないチャンスだと思わねえか?しかも負けても行動で返せるんだぜーッ?」ヒソヒソ

「だけど、こんな下らない賭けで100万なんて大金……」ヒソヒソ

虻村「100万?小学生じゃあねーんだからよォ~~。ギャハハ!持ってる訳ねえだろうがッ。こっちが勝ったらそこにカコつけて数万もらうッ。負けたら言う事聞いてハイさよならだ。な?簡単じゃあねーかッ」ヒソヒソ

「だ、だけど……」

「静、おせっかいかもしれないけど……女のアンタなら100万円なんてすぐ稼げるわよ?」

「……はあ?」

220 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/09 23:42:17.54 p7kAqbCe0 88/183

「んな方法あるなら賭けなんかしてないっての。何言ってんのよ?」

「にっちもさっちも行かなくなったら、『売れる』ものがあるって事よ」

「『売る』ゥ?……CDとかのこと?」

「違うわよ。もっとヤバい……売るモンあるじゃあない。ほら、春とか――」

「は、はあッ!?売る訳ねェーだろーがッボケェーッ!!!いきなり何言ってんのッセクハラかッコラァーッ!!!」グオオッ!

虻村「……」ポカーン

「……え、もしかして貴女……『まだ』なの?その……『経験』?キスした事も?……ウッソ、アメリカ生まれってもっとアカ抜けてると思ってたけど……」

「ううう、うっせーッ!!」

221 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/09 23:44:54.93 p7kAqbCe0 89/183

「わかったわ!賭けてやるわよ……『右』よッ!!」バン!

「『右』ね……じゃあ私は『左』だわ……虻村君も『右』って事でいいわよね?」

虻村「お?おうッ。……なあ、これってよォ~~……俺らが勝ったら、100万ずつって事か?」

「ええ、大丈夫。それでいいわ。私が負けたら一人100万払う。そういう賭けよ……」

「その前に確認するけど」

「ン?」

「……あの汗拭きながら歩いてる会社員は……アンタと『グル』じゃあないのよね?」

「……」

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

「自分の魂に賭けて誓うわ。あの人と私は『無関係』……なんなら今からあの人に話しかけて、携帯の電話帳を確認してもらってもいい。もしくは他の人を賭けの対象にしてもいいわ。後ろの方を歩いてる太ったオッサンにする?」

「……いえ。そこまで言うなら、いいわ。……あの会社員でいい」

「……ふうん。そう」

222 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/09 23:46:38.44 p7kAqbCe0 90/183

虻村「静よォ~~……自信マンマンに賭けたけどよ、大丈夫なのかァァ~~?」ヒソヒソ

「大丈夫。見て、あの人……携帯をいじってるわよね?」

虻村「んん?……ああ」

「あれたぶん、時間確認してる。……時間を見てるって事は、何かの時間を待ってる……例えば電車とか、人との待ち合わせとかよ。……電車が来るのはあと20分ある。ここから駅までは10分くらい。……だからあの人はのそのそ歩いてるって考えられる……」

虻村「え?けどよお……それが何で『右』なんだ?」

「地理も把握出来てねーのかアホッ。右は駅方面でしょうが。対して左は郊外に続く道よ。駅に行くには回り道ッ。民家しか無くって何も無い方だわ。……しかもあっちの方の家は全部ガレージがついてて、みんな車を持ってる。会社員が歩いて帰宅するなんてほとんど考えられないわ。待ち合わせだとしても、駅前とかの方が目印がたくさんあってわかりやすいでしょう?……どう考えても『右』に行く方が確立が高いのよ」

虻村「な……なるほどォ。そこまで考えてたのかテメェー。冴えてるなァ~~」

「アンタにホメられても嬉しくないってのー」

223 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/09 23:50:10.93 p7kAqbCe0 91/183

「静かに、二人とも。……そろそろ道に差し掛かるわよ」

「……」

虻村「……」ドキドキ



会社員「……」ノソォ~

オッサン「ブェークショイッ!……ズズーッ」ノロノロ



「賭け金は『100万円』……二人で『200万円』……チラッ……とよ」

ピラッ

「……!!」

224 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/09 23:52:04.63 p7kAqbCe0 92/183

吉岡純が胸の谷間あたりから出した『茶封筒』には……
一万円札が何枚も入っていた……。

「負けた時は『マジ』にきちっと払うのよ。それが賭けってもんだからね……」

虻村「んな……!!」タラリ

(だ……大丈夫。あたしの考えは……正しいはずッ!)

虻村「お、おいコイツマジに『持ってる』ぜェ~~……どういう事だ?」ヒソヒソ

「……アホ村め……」

225 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/09 23:54:00.67 p7kAqbCe0 93/183

ガヤガヤガヤ……

会社員「……」ノロノロォ~

オッサン「……ふぅー……」テクテク



「……来たわね……」

虻村「……ハァー、ハァー……!」

「…………」ドキドキドキ



会社員「……」カクッ……



(――やったッ!『右』よッ!『右』の方へ――……)

226 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/09 23:55:25.49 p7kAqbCe0 94/183

ブシュウ――z__ッッ!!!

「!?」

「……」

虻村「なっ……ああン?」

突如!向かいの道路に『水柱』が上がった!!
それは何と、『右』の道の工事中である所から……
……『水道管』から吹き出していたッッ!!

227 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/09 23:56:52.61 p7kAqbCe0 95/183

オッサン「うおおおあああ冷てぇェェ――ッ!なあんなんだよォ――ッ」

「すみませェん……事故でして、ちょっぴり水が漏れちゃいましたァ……すぐ直します。すみません。なので、そのォ……」

ピッ!

「……『左』の道から……回り道していただけますかあ……?」



「……なッ……!!」

虻村「う……ちょっと待……嘘だろおッ……~~?」

228 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/09 23:58:18.85 p7kAqbCe0 96/183

会社員「……」クルッ……

ノロノロノロノロ……



「げっ!あ、ちょっとアンタッ!そ、そっちの道は……ああ、クソッ!!」

「……フフフ……」ニヤリ

「……」

虻村「……負……負け?……えっ、マジか~~……っ?」

「む……『無効』よッこんなのッ!水道管が破裂するなんてッ……それが無けりゃあ、あの人は『右』に行ってたッ!!」

「……」

229 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/09 23:59:51.56 p7kAqbCe0 97/183

「今の賭けは無効よッ!純――ッ!!」

グオオッ!

「……仮に今……あの天高い空から『左』の道に隕石が落ちて来たとする……」

「!……」

虻村「……」

「そして仮にその『せい』で、あの会社員はまた道を引き返して『右』の道へと進んだとしたら……貴方達は『無効』だと言うの?……自分に有利な事には目をつむって、不利な事は騒ぎ立てる……それが本当に対等な『賭け』だと言えるのか……?」

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

「『時』は今よッ!『場所』はここよッ!何が起ころうと対等な賭けの一部なの。……さあ、わかってるでしょうねえ?」

「う……ううッ!」

「……払ってもらうわよ。一人100万……二人で200万ッ!」

230 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/10 00:01:53.84 6rNdAk5I0 98/183

虻村「ま……待てッ!待てよオイぃ~~……俺、100万なんて持ってなくってよォ~~……な?」

「……」

「……」

虻村「代わりによ!100万分の言うこと聞くからよォ~~……なんでも言ってくれよッ!肩でも揉むかァ?ジュース買ってきてやってもイイぜェェ~~ッ!!」モミモミ

「……」

虻村「な?なんでもコキつかってくれ!あ、けど夏休みの宿題は自信無くってよォ~~……それ以外なら、なんとかッ。体力だけはあっからよォー。まあ、存分に……」

「……」

虻村「……なァ~~?」ニコッ

「……ハァー……」

231 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/10 00:03:12.52 6rNdAk5I0 99/183

「『金』をナメすぎよ、虻村」ギロッ

虻村「……え?」

パキイン

「……ん?」

虻村「ああ?」

232 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/10 00:04:38.34 6rNdAk5I0 100/183

「……何の音……?……」

パキ……パキ……

パキパキパキパキ……!!

「――!!」

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

233 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/10 00:07:24.98 6rNdAk5I0 101/183

パキパキパキパキ!!

虻村「ぐがッ!!うゲェ~~ッ……!!」パキパキ!

なんと!!虻村千休の『顔』がッ!!顔の左半分がッ!!
『ルビー』のような光沢ある石にッ!!変わっていっているではないかッッ!!

「虻村ァァ――ッッ!!?それはッ……はッ!!」

パキパキパキ!

「あッ!!あたしの『右手』もッ!!う……うわああッ!!」

パキパキパキパキン!

234 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/10 00:09:19.76 6rNdAk5I0 102/183

┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨

「うわああッ!!これはッ……吉岡純ンンンン――ッッ!!」

┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨

「無駄よ。心が敗北してるの。賭けに負けたって事でね」

ドン

「……んなッ――……!!」

「……きィィ~~っちり!……耳そろえて払ってもらうわよ?それか、きっちり『行動』で、ね?……静」

ニコリ……

┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨

235 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/10 00:10:27.89 6rNdAk5I0 103/183

…………

取り立て日『ルビー・チューズディ』

…………

281 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/16 22:43:07.07 hWC5TGO60 104/183

┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨

パキパキパキイッ!

(『右手』がッ!!まるで宝石……『ルビー』のように変わっていくッ!!『スタンド』かッ!?こいつ……吉岡純!!)

パキイッ!!

虻村「あががっ、あががががっ……む……胸が……」

ドォ――ン

虻村「く……苦しい、胸が……」ブクブク

「なッ……!?」

282 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/16 22:46:20.52 hWC5TGO60 105/183

虻村「……」ビグビグビグ……ガグッ

「あーあーあーあー……『金』をアマく見るからよ。私は確実に『取り立てる』……アマく見るヤツには金の怖さ、身を持って体験してもらわないとね」

オオォオオオ

「虻村くんは金をナメたから、結構『重要』な器官が『ルビー』になったみたい。……左の肺と心臓の一部かな?うう~~~~ん……この状態でホントーに100万返せる?やり過ぎちゃった?……まァーいいけど」

「このッ――!!」

ブォン!

283 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/16 22:49:32.88 hWC5TGO60 106/183

ワイルド・ハニー『うおおッ!!』ギャン!

「スタンド攻撃をやめやがれッ!!純――ッ!!」ドラアッ――

「あ!それはダメ。『やめる』のは貴方よ。その方がいい。……私に攻撃するって事は、そのダメージは全部『ルビー』に跳ね返るって事だから」

「う!!」ピタッ!

284 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/16 22:51:12.88 hWC5TGO60 107/183

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

「……貴方は大丈夫だろうけど、虻村くんは果たして無事でいられるかな?……試してみるのもいいかもよ?私はイタくもカユくもないけど」

「……」

シュウ……ン

285 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/16 22:53:57.96 hWC5TGO60 108/183

「……最近さァ~~……景気良くブン殴れる敵が少なくって、苦労するわ……やれやれね」

「……」

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

「……『メイ』の差金って事?あたしを始末しろって……そういう事?」

「……『メイ』?……有栖川さんの事?あの不登校の……?」

「……何?」

286 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/16 22:55:41.52 hWC5TGO60 109/183

「どーして有栖川さんの名前が今出てくるのかはわからないけど……これは誰の命令でも無い。ただ私はお金を正確に返してもらいたいってだけよォ……本当にそれだけ」

「……」

「貴方や虻村くんは、私に『100万円』の借金がある。だから『わかりやすい』ように、身体の一部をルビーに……『100万円分のルビー』に変えさせてもらったわ。くっだらないけどそういう能力なの。貴方達が100万円を返せば、その宝石は元に戻る……」

「……」

「まあ、手っ取り早く返したいのなら、その宝石になった右手……ちぎり取るのが早いけどね。ケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケケ」

「!……」ゾォ~ッ

287 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/16 22:58:02.33 hWC5TGO60 110/183

ザッザッザ……

「あ」

「……?」

ザッザッザッザ……

「……ん?」クルッ

288 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/16 23:00:11.46 hWC5TGO60 111/183

ザッ

「……ふう~~……」

「……?(こいつ……水道管を工事してた……?)」

「……これで良かったのかい?……『純ちゃん』」

ズ ン

「!!――何ッ!?」

バッ!

「……ええ。本当ォーに……助かったわ。パパ」ニコッ

289 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/16 23:02:59.87 hWC5TGO60 112/183

「純ちゃんのためならパパは何でもやるけどね……こういう事、本当はやっちゃあダメなんだよ?水道管を『わざと』破裂させるなんて……」

「うん。このお礼はたっぷり返してあげるわ。……今夜にでも、たっ・ぷ・り・と……ね?」

「……そ、そう?じゃあ~~仕方ないなあ……本当、心のオアシスだよ……純ちゃんは」

「……なッ……は……!?」

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

290 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/16 23:05:22.61 hWC5TGO60 113/183

「じゃあ、そろそろ仕事に戻るね。ツマラない仕事だけど……」クルッ

「ま、待てッ!これは……どういう事ッ……!?」バッ!

「……」

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

「……どういう事なのよ……純……!!」

「甘ったれたガキの貴方に教えてあげる。……バレなきゃあイカサマじゃあないのよ」

「!……」

パキキッ

291 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/16 23:08:35.77 hWC5TGO60 114/183

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

「う……うう~~……うッ!うッ!!」ギギギ……

「……」

「う……うう…………」シュン

「……ふふ……」ニヤッ

「……静・ジョースターともあろう者が……一杯食わされるとはね」

「……」

「……悔しいけれど、負け……だわ」パキン

「ふうーん……そっか……」

292 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/16 23:11:21.79 hWC5TGO60 115/183

「……払うわ。100万円。……けどあたしは今手持ちが無い。100分の1の1万円すら持ってない……」

「何年たっても返せばいいわ。それが私の目的……だけどォ~~……」チラッ

虻村「が……」ブグブグ

「……彼はお金返す事が出来るのかな?今日一日だって生きられるかどうかって感じだけど……」

「……か……返す、わ……」

「んん~~?」

293 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/16 23:14:22.25 hWC5TGO60 116/183

「ゴメン、今ちょっと上の空で……聞いてなかった。なんて?」

「返す……あたしが、返すわ」

「何をォ?」

「あたしの分と、虻村の分……200万円分の借金、あたしが……返す」

「どうやってェ~~?」

「……」

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

294 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/16 23:17:56.10 hWC5TGO60 117/183

「貴方、今言ったわよねェェ~~……『1万円すら持ってない』ってェ。……そんな貴方が今日一日で、200万円稼ぐって?そりゃあスゴイ!それが出来たら年収7億円よ。……マジで言ってんの?」

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

「……お金は……無い。だから……『行動』で……返す、わ」

「……ふううう~~~~ン……そォう……」

295 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/16 23:21:04.05 hWC5TGO60 118/183

「『一発1万円』としてェ」

「……」

「結構ボッてる気もするけど、『生娘』だったら払うヤツもいるわよね。胸無いのもマニア受けしそうだし。……んで、一晩で一人3回は『ヤる』って考えれば、60人ちょっとか。……私の『パパ達』だけじゃあ人数足りないわね。……貴方結構クラスの男子に人気高いし、声かけたら二つ返事で集まるんじゃあない?若いヤツなら一晩5回はヤれそうだし」

「悪いんだけど……何の話?……ちょ、ちょっと……ヤバい話じゃあ……ないの?」ゴクリ

「バ~~カ!200万円稼ぐってえのはね、1万円稼ぐのの200倍苦労がいるのよ?当然だけどッ。……とりあえず片っ端から呼んでみるわね?あ!ビデオ撮って裏でさばけば、もう少し楽出来るか。……貴方はもう表歩けなくなるけどね。キャハハハハハハ!」ピッポッパッ

296 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/16 23:23:21.67 hWC5TGO60 119/183

「ゴメン。マジで悪いとは思う。だけど……それは無しでッ」

「……はあ?」ポカーン

「無し。……そ、それ以外で……お願いします」

「……あんたさあ、世の中ナメてるの?普通にお金稼ぐのだって、時間とか体力とか様々なモン捨てなきゃあならないのよ?大金稼ぐんだったらさあ、カラダだって捨てなきゃ――」

「オ・ネ・ガ・イ・シ・マ・ス!!」ペコオーッ!

「……ったく……しょ~~がねぇ~~なぁ~~ッ……」

297 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/16 23:25:17.08 hWC5TGO60 120/183

「あそこの塀の上に植木鉢がひとつ見えるわね?」

「……」

「あの鉢を持ち上げて底をのぞいてみな。おっと、近づかないでよ?距離をとって……貴方だけでやってよ?」

「……」ス……

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

298 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/16 23:28:25.73 hWC5TGO60 121/183

……植木鉢の下には、
小さな包みが一つ……置いてあった。

「そこにさあ~~……結構大きな橋があるじゃあない?一級河川一小川にかかってるヤツ」

「……」

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

「その橋を渡りきった所に、ポストがある。……橋を渡りきって、その『包み』をポストの下に置け」

「……」

「……それだけよ……そうしたら、『受取人』の女がそれをもらうからね」

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

299 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/16 23:30:53.68 hWC5TGO60 122/183

「……この『包み』は何?なんのために……中身は何?」

「そんな事知ってどうすんのォ~~?『持って』『渡って』『置け』……私何か難しい事言ってる?」

「きッ……聞く権利はあるわ。私が『運ぶ』んだから……権利はあるッ」

「……ハァ~~……ひとり言、だけどねェ……」

「……」

300 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/16 23:33:46.19 hWC5TGO60 123/183

「今、裏の世界で……流行ってる『麻薬』がある……のよねェ~~……」

「!!……まッ……?」

「おい、うっせぇーぞミソッカスが。私は『ひとり言』を言ってんだ。……イチイチ反応してンなよなァ~~?」

「……」

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

「……その麻薬はさあ、『ペーパードラッグ』って言われてて……日本語で『紙麻薬』……見た目も純度も普通のヤクなんだけどさあ……『絶対に足がつかない』の」

「……」

301 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/16 23:36:10.39 hWC5TGO60 124/183

「なんでかって言うとそのクスリ、逸話があってねえ。……ある一人の中毒者(ジャンキー)は毎日毎日、紙に描かれた『絵』の麻薬を眺めていました。毎日毎日その中毒者(ジャンキー)は、『この絵がモノホンのクスリになったらいいのにな』と思っていました。毎日毎日、まいにちまいにち……すると、ある日の事です。なんとそのクスリが、モノホンのクスリになってしまったのです!パンパカパ――z__ン」

「……」

「……バカみたいな話でしょ?けどマジよ。中毒者(ジャンキー)が見たまぼろしなんかじゃあない。……マジで紙が麻薬になった。……そんな訳だから、そのクスリは入手経路が不透明で……足がつかないの。」

「……」

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

302 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/16 23:38:29.73 hWC5TGO60 125/183

「そんな訳だからさァ~~……もし貴方が『捕まって』も……私や他の誰かさんに被害は出ないって訳」

「……」

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

「……おい、聞いてんのか?耳クソつまってんのかァ?私は今アンタに話しかけてんだぜ……返事したらどうなんだ?エ?」

「……『エニグマ』の……紙、って事……?」

「はあ?意味わかんない。何言ってんの?」

「……」

303 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/16 23:40:26.08 hWC5TGO60 126/183

「とにかく、アンタはそれを『置け』ばいい。……それが200万円分の行動よ。静……」

オオォォオオオオォオオ……

「働いてもらうわよ?……200万円分」

(ぐ……グレートに、ヤバいかもね……泣いちゃいそう)

310 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/19 22:28:32.88 n0yKxyWp0 127/183

オオォォオオオオ……

「……『それ』を持っていく前に……いくつか『ルール』を決めておこうか?」

「……」

「絶対に守るべきルールよ。取り引きが円滑に上手くいくようにするための『ルール』。破ったら……貴女や虻村くんの身体がどうなるか、わかんないわよ?脅しかけるようだけどね……」

「……どんなの?」

「んー……そうね。まず『一つ』……『スタンドを使う事を禁ずる』」

「!……何故?」

「『何故』?理由いるの?……まあ、あるけどさぁ~~」

311 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/19 22:33:27.43 n0yKxyWp0 128/183

「貴女は今から『それ』を持って歩く訳だけど……貴女はすでに『監視されている』……」

「……」クルッ

ミーンミーン……

「遠くからね。あの大きーな橋を渡る所もしっかり監視されてる。受取人の女から。……それを持って橋を渡るというのが、取り引きの条件なのよ。向こうはそれを見て行動を開始する……」

「……」

「『透明』になったら、渡ってる所が見えなくなるでしょう?スタンドで何かを動かしたりでもしたら、相手が不信に思っちゃうわ。だから禁ずる……私何か間違った事言ってる?」

「……わかったわ。スタンドは使わない」

「良し。……『二つ目』」

312 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/19 22:36:21.93 n0yKxyWp0 129/183

「アンタがもしも……いい?『もしも』の話よ?もしも……『捕まったり』でもしたら……」

「……」

「私も他の人も『無関係』……OK?もしも捕まったりしても、決して口を割らない。自分一人の責任よ……」

「……」

「ハイ!今言った事を復唱しろ。もしも捕まったら、貴女はどうする?」

「……口を割らない……全部、あたしの責任って事にする……」

「いいじゃあないの。わかってるわね……ああけど、勘違いしないで」

「何?」

「私は取り引きが上手くいくようにって願ってる。……取り引きの成立は金儲けに繋がるからね。貴女が捕まるって事は、私としても不本意なの。……今のは最悪のケース、万が一っていう可能性の、予防線の話よ」

「……わかった」

「最後。『三つ目』……」

313 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/19 22:40:31.31 n0yKxyWp0 130/183

「『逃げるな』」

「……」

「……説明はいらないわよね?代償は相当高くつくわよ。貴女は逃げる事無く、橋を渡りきり、ポストの下に『それ』を置けばいい」

「……」

「あら、意外と簡単ね。こんなので200万円稼げるなんて、マイク・タイソン以上に幸運(ラッキー)だと思わない?……よし!!じゃあー行けよ」

「……」ジッ

314 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/19 22:45:20.70 n0yKxyWp0 131/183

「あそこにいる人は……警官なの?」

「どの人?……質問多いわね、貴女」

「……」

「あのさあ……貴女もしかして、警官に追われる心当たりとかあるの?」

「……いや」

「じゃあ……なんの問題もないわね。警官なんてどこにでもいるし」

「……」

「貴女も、相手も……私も……みんな無関係よ。……誰も警官には追われてない。只のそれだけよ。……これから『追われる』かもしれないけど。……さあ行きなさいよ」

「……クソ……」

ザッ

315 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/19 22:50:19.75 n0yKxyWp0 132/183

ミーンミーン……

「……」

ザッザッザッザ……

オッサン「チクショー、ワイシャツが濡れちまった……この暑さで乾くかな」ブツブツ

ピッ!……ガコン

オッサン「グビッ、グビッ!」ゴクゴク

「……(あの、コーヒー飲んでるオッサンが警官なんて……いうのは、無さそうね……)」

ザッ……

316 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/19 22:55:09.88 n0yKxyWp0 133/183

ミーンミーン……

「け、結構距離あるわね……橋まで。……橋も大きいし」

ザッザッザ……

「……こんなもの持って歩いてるから、精神的にもクるし、それに……」

ギリ!

(……悔しいわ。死ぬほど……!)

ザッ……

317 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/19 23:01:08.12 n0yKxyWp0 134/183

「クソ、この静・ジョースターともあろうものが……小悪党の『使いっパシり』なんて、笑えないっての。やれやれね……」

ガサガサ……

「ン?……夏なのに、落ち葉多いのね……注意しないとスベりそうだわ」

ザッザッ……

「……よし、橋の向こうの『ポスト』が見えた。……あとは、渡り切るだけ。……なんとかなる、か……?」

ザ……

318 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/19 23:05:42.91 n0yKxyWp0 135/183

スタスタ……

「……」

スタスタ……

「……」

スタス……

(……おかしい。『奇妙』だ……何か引っかかる)

ピタッ

(……何か……『見逃した』ような……そんな気が……)

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

319 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/19 23:10:13.31 n0yKxyWp0 136/183

(……アイツの目的は、本当に『お金』か?……取り引きを成功させたいだけか?あたしや虻村から、金を取り立てたいだけ、か……?)

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

(ポストの下にこれを置く。……それだけで、全てが解決するのか……?)

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

320 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/19 23:14:15.39 n0yKxyWp0 137/183

警官1「……あのォ~~」

ザッ!

「!!」カチャッ!!

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

「は……え?(つ、ついクセでサングラスかけちゃったけど……姿消せないんだっけ……!)」

警官1「少し、お話いいですかね?君ィ~~……今大丈夫?」

「なん……だっての……?」

ゾロゾロ……ゾロ……

「――はッ!!」

321 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/19 23:16:06.92 n0yKxyWp0 138/183

ゾロゾロゾロ……

警官2「……」

警官3「……」

警官4「……応援頼む、例の少女発見。制服着用、サングラス……」

「なッ……!?」

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

警官1「あのォ~~、もし僕の勘違いだったら、本当に申し訳ないと思うし……心からお詫びするよ」

「ちょっ、待……」

警官1「少しだけ……その『包み』……確認させてもらってもいいかなァァ~~?」

「!!~~……」

322 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/19 23:19:38.78 n0yKxyWp0 139/183

「……――ハアッ!ハア!ハァッ……!!」

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

「いッ……(今!わかった……!!この時に!!『こんな時に』ッッ!!)」

警官4「……通報のあった通りの格好、背丈。……至急応援を……」

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

(あいつ……吉岡純ッ!!たしかこう言ったわね?……『『透明』になったら、渡ってる所が見えなくなる』って!……何故ッ!!)

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

323 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/19 23:23:14.15 n0yKxyWp0 140/183

(何故ッ!『あたしの能力が透明化だと知っているんだ』ッッ!?)

バン!

「くッ――」ダッ!

警官2「おおーっとぉッ!!」

ガシイッ!

「うっ!このッ……離してッ!」

警官2「逃げる事は無いだろ?私達はその『包み』を少し確認したいだけ……ただそれだけさァ」

警官3「暴れるんじゃあない。公務執行妨害とみなすぞ?」

「こッ……(この警官の数ッ!!間違いない……あたしはッ……)」

┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨

「……ハメられたッ……!!」

…………

324 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/19 23:25:56.96 n0yKxyWp0 141/183

…………

「ええ、ハイ。おそらくぶどうヶ丘の生徒だと思います。立ち聞きしちゃって……はい。麻薬の話でした。間違いなく。サングラスをかけてて……え、名前?そんなの知りません。……私の?ああ、何でもいいじゃあないですか。上様でもP子でも」

プチッ!

虻村「……グピイ……」

「くふふ……もう捕まったかなァァ~~静のヤツ。……騒がしくなってきたわね、向こうの方」

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

「人は『敵だ』と思うヤツには最大限の注意を払うが、それ以外にはあんがい無防備なモンなのよねェ~~……嘘ついて何も知らない『フリ』したら、コロッと騙されちゃって!案外かわいいわね、アイツ。……アイツが捕まったら、メイは喜ぶだろうなあッ!遠ォ――くゥ~~の方へブチこまれるといいわ。くふっ!」

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

「……そして……」チラリ

326 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/19 23:28:12.27 n0yKxyWp0 142/183

スタスタ……

「……」

「……」スッ……

サッ!

「……良い『取り引き』だったわ」ボソッ

「こちらこそ」

「……」スタスタ……

「……ニヤリ」

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

「あいつがちっぽけな量のヤクでドジふんでる間に、こちらでもっと大きな取り引きをする……私の計画には無駄が無いのよ。あいつが捕まるのもメイのために動くのも、お金のた・め♪……ふふっ!私ってばお金だーいっ好き!だからねェ~~~~」

虻村「ググ……」ピクピク……

「おい虻村ァー。テメェー静が捕まるまでくたばるんじゃあねーぞ?最後まで見届けてからくたばりなァ。アンタのうめき声が、最ッ高のBGMになってんのよォ~~」

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

「懲役何年かなァー、アイツ……ふふ、ふふふふふ……!」

…………

327 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/19 23:30:17.54 n0yKxyWp0 143/183

…………

「うおおあッ!離せッ!離しやがれッ!このォーッ!」ジタバタ

警官3「おい!暴れるなと言っとるだろーがー!!」

┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨

警官3「取り上げろ、あの包みッ!『ブツ』の可能性が高いッ」

警官2「では、失礼して……」

「このッ――」

バキッ!

警官2「うげェッ!!!」ブシッ

警官4「あっ!!」

328 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/19 23:33:02.13 n0yKxyWp0 144/183

警官1「おっ……おまえッ!!」

「『悪い』とは――思ってるっての!!」

ドグシャアッ

警官1「ゲッ!」ブッ!!

「ハァー!ハァー!!け、けど……中身は、見せられないッ……!」クルッ

ダ――ッ

警官3「逃げるなあッ!!!」

ガシィィィイッ

329 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/19 23:35:22.13 n0yKxyWp0 145/183

「うううッ!!『ワイル――」

(――……は、出せないッ!!『ルール』は破る事が出来ないッ!!)

ゴリイッ!

「ぐっ!」

警官4「きさまぁ!!逮捕する!!」

警官3「公務執行妨害!!……並びに麻薬所持容疑だッ!!」

┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨

「う……おおッ……」

┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨

「おおおおおおおおおおおおおおおおお」

330 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/19 23:37:26.45 n0yKxyWp0 146/183

(『ジョースター』!『ジョースター』!!『ジョースター』!!!……本当に『ジョースター』の人間だったら、賭けに負ける事もッ!ハメられる事もッ!無かったはず……あたしは……)

┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨

警官4「この『包み』は君が所持していたモノに間違いないなッ!?」

警官3「証拠品として開けて中を確認するぞ!いいな!?」

(……あたしは……『スタンド』が使えなかったら、こんなにも『弱い』……!!)

┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨

332 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/19 23:39:56.20 n0yKxyWp0 147/183

(けど、あたしは――)

警官3「くっ、この『包み』……なんて厳重な……!」ギチギチ

┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨

(あたしは、それでも――)

┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨

(……『ジョースター』を名乗るんだ。あたしは――『静・ジョースター』だから……!!)メラメラメラ……!!

333 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/19 23:42:29.57 n0yKxyWp0 148/183

スッ!!

警官3「ん!?」

警官4「何……?」

「……『スタンド』出せないし、涙も出ない……ションベンだって出そうに無いわ。けど……そんなあたしでも……」

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

「……『出せる』ものがある……『それは』……!!」

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

「……コォォォォオオオオオオ……!!」

335 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/19 23:44:41.93 n0yKxyWp0 149/183

バリイッ!!

警官3「えっ!!」

ビリビリビリッッ……

「『波紋(オーバー)――……」

バチィィンッ!!

「疾走(ドライブ)』ゥ――ッ!!!」

警官3・4「「ビリっときたああああ」」

ドッサァ――z__ッ!!

336 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/19 23:47:54.11 n0yKxyWp0 150/183

「うおおおあああッ!!」ザッ!

ドッゴォ――ッ!!

警官1「よッ……容疑者一名逃走!応援を頼む!繰り返す、応援を頼む!」

警官3「うぐうッ!?か、身体が動かないッ……!!」ビリビリ

オッサン「おいィ?テメェーら真夏に何騒いでんだァ?暑いぞ」グビッ

警官3「やかましゃぁぁぁ――一般人が近寄るなッ!」

オッサン「……」ポカーン

337 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/19 23:50:08.23 n0yKxyWp0 151/183

ダダダダダダダ!!

「ハアッ!!ハアッ!!ハアッ!!……『ルール』は守るわよ、純ン~~ッ!『橋を渡って』『置く』……それが200万の行動だったわね!?」

ダダダダダダダ!!

「つまりこういう事だな!?『包みを置いた後は』……『スタンドを使ってもいい』……と!そういう事なんだなッ!?」

ダダダダダダダ!!

「ならばやる事は決まってるッ!!見えたぞッ!!ポストが見えてきたッ!!」

ダアンッ!!

338 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/19 23:51:08.44 n0yKxyWp0 152/183

「ポストに――」

グオッ……

「タッチダウ――ンッッッ!!!」

ドグッシャアアアアアアッッ!!!

「『200万円』だッ!!!」

┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨

362 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/29 23:21:33.32 u2NE4T+U0 153/183

┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨

「ン!……」ペキッ

ペキペキペキ……パキンッ

「……」グッパッ、グッパッ……

スゥー……

363 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/29 23:23:39.93 u2NE4T+U0 154/183

「キツネッ!」

バッ!

「あ、ちょうちょッ!」

バッ!

「カエルぅぅ~~」

グニィ~~

「……良し、問題無ェー。『ルビー』に変えられてた右手は問題無く動くッ」ニギニギ

364 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/29 23:25:35.29 u2NE4T+U0 155/183

「あとは、この『橋』を引き返して純に会うッ!なァーに……」ザッ

ドッゴォ――!!

警官「「「待てェ――貴様ァー!!逮捕だァ――ッ!!!」」」ドドドド!!

「――簡単な話ね」

ズオッ!!

365 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/29 23:28:12.49 u2NE4T+U0 156/183

「『Wild・Honey』――ッ!」

ワイルド・ハニー『ドラアッ!!』ドガア!!

ス……

「『消える』」

スウ――z__ッ!!

警官1「なッ!!待て!『止まれ』ッ!!危なァ――いッ!!」

警官4「何ィーッ!?」ズザザッ!

警官3「『橋』が……『消滅』しちまったァ――ッ!!?」

バーン!

366 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/29 23:30:17.65 u2NE4T+U0 157/183

警官2「うおおおあッ!?オッ!俺は高いの苦手なんだよォーッ!!」ガッシイッ!!

警官3「俺に抱きつくんじゃあねーッ!!邪魔だッうっおとしいぜッ!!」

警官1「危険だ下がれッ!道を封鎖するッ!!」グオッ

警官4「おい!押すなと言っとろーがー!!!」

ワチャワチャ


「はいよ失礼ィィー」スッ

タタタタ……


警官1「えっ?」

警官2「えっ?」

警官3「えっ?」

警官4「えっ?」

367 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/29 23:32:54.20 u2NE4T+U0 158/183

ドッヒュゥ――

警官1「なッ……えっ?あいつ何ィ?『空中』を今、歩いて……?」ポカーン

警官3「……ほ……呆けてる場合か?場合なのかァァ~~!?急いで追いかけるぞッ!!」ダッ!

警官4「待つんだァ――ッ!!」グオッ!

ゴォーッ!!

「『追いかける』……そりゃあそうよねえ。だけど気をつけた方がいい。なんせこの一帯は『ワイルド・ハニー』」

ズルウ!!

警官4「うぐう!?」

368 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/29 23:35:19.73 u2NE4T+U0 159/183

ズッテエエン!!

警官3「うおおっ!?なッ!?何だァーッ!?」

警官4「ぷげッ!?わ……わからないッ!見えない何かにッ!滑って……!」ズルリッ

警官1「な、何でお前らこんな、なにも無い所でコケてるんだッ!?ここは私が――」

ズルッ!

警官1「ぷがぁ――ッ!!?」ズダァン!

警官2「ぎゃああああああああス!!?」ミキイッ!

369 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/29 23:38:00.57 u2NE4T+U0 160/183

「人って見えてる脅威には注意を払うけど、見えないモンはなんとも思わないのよね……純のヤツが教えてくれたようなモンだけどッ!『ワイルド・ハニー』で『落ち葉』を透明にしたッ!!ここらの落ち葉は気をつけないと、やたらめったら滑るわよォ~~」

ダダダダダ!!

「そしてあたしも『ワイルド・ハニー』」スウッ……

ウーウーウー……

「これであたしの姿は『見えない』……『警官』にもッ!そこらじゅうにいる『パトカー』からもッ!!」

ズッダァ――ッ

…………

370 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/29 23:40:23.20 u2NE4T+U0 161/183

…………

ウーウーウー……

「ふふふ!聞こえる!聞こえるゥ!どんどん集まってくるわねェ~~パトカー!」

キョロキョロ

「もう捕まったかな?静。メイの敵でコーマンチキで変なヤツだけど……意外と心が真っ直ぐで面白い所もあったわね。もし罪をつぐなっていずれ留置場とかから出てきたら……」

ニヤニヤ……

「今度は『友達』になるのも面白いかもねェ~~。ウヘヘッ」

「う……うう~~ム……」

371 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/29 23:43:02.74 u2NE4T+U0 162/183

「…………」

・ ・ ・

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

虻村「グム……ゲハッ!……スゥー……ハァー……すぅー……はぁ……」

ペキペキペキ……

「なッ!……え?……何?」

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

虻村「ううーん……うう……」ピクリ

「……何故……宝石になった身体が、元に戻っている?……虻村……!!」

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

372 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/29 23:44:53.76 u2NE4T+U0 163/183

「こ……これはッ!つまり……『これは』ッ!!」

(静が行動を『達成』した!という事ッ!……ヤツは橋を渡りきり!ポストの下に『包み』を置いたという事ッ!!……ヤ……)

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

「ヤツは捕まっていないのかッ!?ヤツは――『逃げ切ったというのか』ッッ!!?」

┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨

373 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/29 23:47:59.10 u2NE4T+U0 164/183

「マズイッ!!静・ジョースターは『透明』になる能力を持っている!ヤツは気付かれず!私に近付く事が出来るんだッッ!!」

┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨

「何処だッ!?静・ジョースタ――ッ!!何処にいるんだァァ――ッッッ!!!?」

┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣

374 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/29 23:49:31.83 u2NE4T+U0 165/183

メッシャアッ!!

「あぎィッ!!?」ミシ!

吉岡純の顔面がッ!!
突如、『透明な何か』に殴られて、大きく変形したッ!!

メキメキ……メキ……

「ぷ……ぎィ~~……!!」

ドッゴォ――ン!!

「ぷが――ッ!!!」ドシャアッ!!

375 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/29 23:52:36.66 u2NE4T+U0 166/183

┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨

「うぎィィィイイイイ……ハ、ハナがッ!ハナのホネがッ!!」

┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨

「――はッ!!」

カチャッ!

「……」スウウウ……

「しッ!!……静……!!」

「……純ン……」

┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨

377 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/29 23:55:22.20 u2NE4T+U0 167/183

「ハァーハァーハァーハァー……!!」

「……してやられたっていうやつよ。今回ばかりはアンタに完璧敗北って感じだわ。認めたくないけどね。……だからさァ~~今からさァァァ~~」

ビシイッ!!

「メタメタにアンタをぶちのめすからな。アンタのしたたかさはある意味尊敬するけど、そうでもしねーとこれからあたし、『ジョースター』を名乗れない。……そんな気がするのよね」

ドン

「んな!?……た、ただの『憂さ晴らし』でッ……殴るのかッ!!この私をッ!?」

「イカサマした。虻村殺そうとした。あたしにエロいことさせようとした。麻薬の運び屋やらせた。騙してあたしをブタ箱にブチ込もうとした。あたしをバカにした。……『憂さ晴らし』以上の感情が、アンタにはあるかもねェ~~」ヒュッ……

ドサッ!

「うぐッ!?……こ、これはッ!?」

ガサッ

378 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/29 23:57:57.21 u2NE4T+U0 168/183

「『包み』は持ってきた。……あのままポストの下に置いてたら、警察に調べられて指紋やら髪の毛のデータ取られそうだったからね。……アンタの言ってた行動は『ポストの下に置く』……それだけだったから」

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

「バッ!馬鹿なッ!?いや馬鹿かお前!?なんてものを持ってきてるんだッ!!警官が来たら捕まるぞッ!!私もお前も!!」

「警官が来るまで何分だ?5分か?10分か?15分くらいか?……それまでにアンタをぶちのめす。全力でぶちのめしてあたしは『消える』」

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

「や、やめろ!待ちなさい静ッ!実は今私、結構な大金を持ってるのよッ!!貴女がガンバッて『オトリ』になってる間に手に入れた金よッ!?私にとって命より大切な金だけど……折半でいいわッ!!それで……それで……!!」

「……悪いんだけどさ、純」

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

379 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/29 23:59:20.05 u2NE4T+U0 169/183

「――あたし、プッツンきてんのよ。何より自分が許せねー」

「う――うおッ――」

380 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/30 00:02:40.64 Oh+ioOj30 170/183

「うおおおおおおおおおお!!!!『右手』で殴る方に『100万円』ッッッ!!」

ワイルド・ハニー『ドラアッ!!!』

ドガアン!!

「プギッ!?」

「もう『右』は選ばねー……『左』よ。賭けはアンタの負けだっての」

ブ……

381 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/30 00:04:13.02 Oh+ioOj30 171/183

「うぐッ!?」

ブシュウ――z__ッッ!!

「な!?……あたしの『拳』からッ!?『血』……が……??……!?」

┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨

「『賭け』……は……負けた、か……パキパキパキパキ!」

「!?」

┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨

382 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/30 00:05:45.11 Oh+ioOj30 172/183

「だけどグッド。賭けに負けた分は、すぐに払わないとね!パキパキパキパキ!」

パキパキパキパキン!!

┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨

「ぐ……!!(純の顔面がッ!!硬い『ルビー』に変化しているッッ!!)」

┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨

「さあァ~~どうしたのッ!?静ァッ!全力でぶちのめすんじゃあなかったの?エ?私はま~~だピンピンしてるわよォ?……こうなったら意地でも倒れねェェ……テメェに死ぬまで食らいついてッ!!一緒にブタ箱だろうが地獄の底だろうが付きまとってやるぜッ!!パキパキパキパッキィーッ!!!」

「……」

┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨

「『賭け』はテメェーの負けだッ!!静ァ――ッ!!心が貧弱なんだよッこの『赤ん坊』がッ!!ギャハハハハハハハハハハ――」

383 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/30 00:07:01.25 Oh+ioOj30 173/183

ワイルド・ハニー『ドラ!!!』

ドグシャアッッッ

「バギ!!……え!?」メキ……

「……」ブシュウッ

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

「な……にを……?静、お前……?」

「痛ぇーわ。メチャクチャ痛ェー……拳でルビーを壊すのは、ちょっぴり……いや!かなり無理があるかもね。……けどさ、純……」

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

384 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/30 00:08:32.43 Oh+ioOj30 174/183

「あたしは有栖川メイを倒すのに……命を賭ける『覚悟』があるッ!!ジョースターを名乗る者として、強大な敵に立ち向かう『覚悟』があるッ!!」ドン!

┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨

「……!!……」

「お前にはあるのか?純……あたしに食らいつく『覚悟』がッ!!あたしにルビーを叩き壊される『覚悟』がッッ!!!」

「……う……ううう……!!」ガタガタ

「……あたしはすでに出来ている。……両拳をぶっ壊す気でぶちのめす『覚悟』が……ね」

オッ……

385 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/30 00:10:42.49 Oh+ioOj30 175/183

「ああああああああ!!!『ドラドララッシュに10億え』――」

ワイルド・ハニー『ドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラ
ドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラ
ドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラ
ドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラ
ドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラ
ドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラ
ドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラ
ドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラ
ドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラ
ドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラ
ドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラドラァァァァァァァァァァッッッッッ!!!!!』

ドッゴォォォォオオオオオンン!!!!

386 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/30 00:12:25.04 Oh+ioOj30 176/183

「オゴオォオオ――」ヨロッ……

「おっと!」

ガシイ!

「ぐゲッ!?」ガクンッ

「さて。純……あたしは今から姿を消す。当然アンタは麻薬の入った『包み』を抱えたまんま警察に見つかって、留置場にブチ込まれる訳だけど……助かりたい?あたしなら助けられるわよ?」

「プ……」コクコクコク!

387 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/30 00:13:13.51 Oh+ioOj30 177/183

「ならそれだけの『行動』をしないと、ね?……メイについて知っている事、全てしゃべってもらうからな?」

「ぐ……」

ォォォォォォォォオオ……

…………

388 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/30 00:14:22.94 Oh+ioOj30 178/183

…………

ウーウーウー……

警官1「こっちだ!こっちに逃げたぞォ――ッ!!」

警官3「追い込めッ!捕まえるんだァ――!!」

バッ!!

警官3「……」

警官4「……」

389 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/30 00:15:28.57 Oh+ioOj30 179/183

警官4「……どこにいる?容疑者って……どこに誰がいる?」

・ ・ ・

警官3「き……消えた……」

警官1「この建物の裏……だ……確かにいたんだ!」

警官4「消えただと?他に道は無いのに、どうやって逃げたっていうんだ?」

警官2「おいサイレン止めろ!顔は?容疑者の顔を見たヤツいるか?」

警官3「そ……それが、お……おかしいな」ゴシゴシ

390 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/30 00:16:53.86 Oh+ioOj30 180/183

警官1「サングラスをかけていて、その……」

警官3「詳しい顔は……確かに……」

警官2「……」

警官4「……」

391 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/30 00:20:28.83 Oh+ioOj30 181/183

オッサン「なんなんだよォォォォ」

警官「「「?」」」クルッ

オッサン「お前らが橋の所で暴れるから、コーヒーこぼしてまた濡れちまったあ~~~~!!オメーらのズボンをよこせッ!パンツまでぐっしょりなんだよッ!」

警官「「「…………」」」


――静・ジョースター……クレイジー・Dにより拳の怪我は完治。家に帰ってふて寝した――

――吉岡 純……怪我を負ったが、『ルビー』になっていたため意外と軽傷。服に空いた穴、なぜか塞がず――

――虻村 千休……静にほっとかれた――

…………

⇐To be continued=・・・?

392 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/30 00:25:27.80 Oh+ioOj30 182/183

スタンド名― ルビー・チューズディ(取り立て日)
本体―吉岡 純(16歳)

破壊力―E スピード―E 射程距離―A
持続力―A 精密動作性―E 成長性―B

荒削りの彫刻人形のような姿をしたスタンド。
賭け事に負けた者が、その賭け金をきっちり支払うまで、身体の一部を『ルビー』へと変える。(本体とて例外では無い)
逃げる気だったり金をアマく見ていたりする者ほど、重要な器官が『ルビー』に変化する。

名前元ネタはローリング・ストーンズのRuby Tuesdayから。
歌詞が吉岡純という人物を表しているような気がする……。
「純」という名前は、4部吉岡さんの借金、10億円から。(『じゅ』うおくえ『ん』)

394 : ◆eUwxvhsdPM - 2014/06/30 00:27:37.86 Oh+ioOj30 183/183

という訳で、11話完結です。
個人的な事なのですが、完璧なオリジナルキャラクターを名前付きで出すっていうのはあまりやりたくなくって、誰かの子供だとか成長した姿とか、そういう感じでキャラは出したいなって思ってます(全部が全部は無理だけど)
なので今回、子供がいてもおかしくなさそうだった吉岡さんの子供という形でキャラクターを出しました。
父親は本当に悲惨で、一番可哀想なモブだと思います。この話でトドメさしたのは自分としても結構辛かったです。もっと救いあった方が良かったなあ……。
せめて彼女にはこれから幸せになってもらいたいもんですね。

……もう4部キャラで子供いそうなキャラいないんだよなあ……さあどうするか……。

次の話は
静「杜王町の人々」
で行こうかなと。また考え中ですが、たぶん息抜き回になると思います。
ではでは。またのんびり進みますが、どうかよろしくお願いします……。


続き
静「杜王町の人々」

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