コンコン…
男「入るぞー」ガラガラ…
女「キャーッ!」
男「なんだよ、着替え中だったのか」
女「よくも、あたしの着替えをのぞいたわねぇ~!?」
男「だけど俺はちゃんとノックしたじゃんか」
女「うっさい!!!」
バキィッ!
元スレ
男「俺の彼女は暴力ヒロインなんだが体が脆すぎる」
http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1499700876/
男「……」
女「……」
女「いだだだだぁっ!」
女「手が、手がぁっ! あたしの右手がぁっ!」メキメキ…
男(俺は全然いたくない)
女「だったら今度は左手でぇっ!」
バシッ!
女「うぎゃぁぁぁぁぁっ!」ミシミシ…
女「あたしの、あたしの左手が……!」
男「おい、もうやめとけって。骨が折れちまうかもしれないぞ」
女「やめない! 今度は右足でキックよ!」
ゲシッ!
女「あうぅぅぅぅ……!」メリメリ…
女「右足が痛い……捻挫したかも……!」
男「だからやめとけっていったのに」
男「殴ったり蹴ったりしても、こっちには効かない上に、自分が痛いだけなんだからさぁ……」
女「ううう……」
男「ほら、手当てしにいくぞ」ヒョイッ
女「ちょっと! お姫様抱っこするなー!」バシバシッ
男(全然いたくない)
男「すりむいてるから、消毒液塗るぞ」チョイッ
女「んぎゃああぁぁぁぁぁっ!」
女「ちょっとあんた、あたしをショック死させる気!?」
男「いや、そんなつもりじゃ……」
女「そうだ! 残る左足で、男の弱点……タマを蹴ってやるわぁっ!」ブンッ
キンッ!
女「……」
男「……」
女「い、痛い……! 痛いよう……!」
男(ちょっと気持ちよかった)
女「あんたのタマに、あたしのケリがみごとに防がれちゃったわ……」
男「ったく、手当てしなきゃならない場所が増えたじゃねえか」
女「うっさい!」
男「あのなぁ、お前がいくら俺を殴ったって、大して痛くもかゆくもないし」
男「逆にお前が体傷めるだけなんだから、もうやめとけって」
女「ううう……」
男「どうしても俺を攻撃したきゃ、口でしろよ」
男「バカ! アホ! ドジ! マヌケ! ……とかさ。いい返したりしないでやるから」
女「だってそれじゃ……あんたの体さわれないじゃん」
男「……へ」
女「って、なんてこといわせんの! このバカァ!」
バチンッ!
男(ほっぺがちょっとヒリッとした)
女「んぎゃあぁぁぁぁぁっ! 掌がビリビリするぅぅぅぅぅ!」ヒリヒリ…
男「……ほら、帰るぞ」
女「うん……」
―駅―
ザワザワ… ワイワイ…
男「混んでるな……」
女「う、うん……」ビクビク
男(人混みでもみくちゃにされると、こいつ大けがするかもしれないんだよな……)
男「心配するな」
男「お前は俺が守る」
女「……ありがと」
男「ふぅ、どうにかなったな」
女「……」
男「大丈夫か?」
女「なぁ~にえらそうに、ガーディアン気取ってんのよ! このバカ!」バチンッ
男「……」
女「あいたたたた……! 手が、手がぁぁぁ!」
男「じゃあな」
女「うん、またねー」
男(あいつ、元々体が丈夫な方じゃなかったけど……)
男(ここ最近、一段と脆くなってないか? このままじゃまともに生活できなくなるかも……)
男(あいつは怒るだろうが、病院を勧めた方がいいかもしれないな……)
数日後――
男「なぁ」
女「なによ?」
男「お前……病院行かないか?」
女「ハァ?」
女「なんで? なんであたしが病院行かなきゃならないのよ」
男「自分でも分かってるんだろ?」
男「ここんとこ、自分の脆さが加速してるって」
女「うっさい!」
バキッ!
女「あぐぅぅぅぅぅ……手首が……!」ミシミシ…
男「な?」
男「思いきり顔面殴って、お前だけダメージ受けるってどう考えても異常だろ」
男「頼む、取り返しのつかないことになる前に、病院行こう」
女「……」
女「それでもし、もうすでに取り返しがつかないことになってるって診断されたら、どうすんのよ」
女「あたしだって、自分のことぐらい分かってるわよ」
女「だけど、医者に行ったら、もうそこから逃げられないような気がして……」
男「医者がどんな診断をしようと、俺はお前を見捨てない」
女「そんな同情――」
男「同情じゃない、好きだからだ」
女「……!」
男「さ、行こう」
女「……うん」
―病院―
医者「なるほど、体が脆くなっていると」
男「はい」
医者「たとえば、どのように?」
男「たとえば、俺を殴っても、彼女の手首の方が痛くなるんです」
医者「へ? 殴る?」
女「余計なこというな!」バキッ
男「……」
女「いだぁぁぁぁぁ……」
医者「よく分かりました」
医者「では、血液検査含め、全身の検査を行い原因を探ってみましょう」
女「ふうっ、やっと終わった」
医者「長時間、ご苦労様でした」
男「ありがとうございました」
医者「一週間後には結果が出ますので、またいらして下さい」
女「……分かりました」
女(どんな結果が出るのかな……)
女「あーあ、一週間後には、あたし余命宣告されちゃうのかもしれないのか」
男「もし、そうなったら……俺も付き合ってやるから安心しろ」
女「ハァ? 後追い自殺とかキモイから、マジやめてよね! このバカ!」
バシッ!
女「いだだだだだ……!」
男「だからやめろってのに」
女「あのさ……」
男「ん?」
女「三日後、近所の川で花火大会あるじゃん?」
男「ああ、あるな」
女「あれに行かない? いい思い出にしたいんだ」
男(花火大会か……駅とは比べ物にならないほど人が多いだろうけど……)
男「……いいよ。一緒に行こう」
―会場―
ワイワイ… ガヤガヤ…
女「うわ、すっごい人混み」
女「やっぱりやめとけばよかったかな……」
男「心配するな」
男「お前は俺が守る」
女「……頼りにしてるよ」
ギュゥ… ギュゥ…
男「大丈夫か?」
女「そっちこそ大丈夫? あたしのためにスペース作ってくれて」
男「ああ、大丈夫だ」
男「お前こそなるべく人とぶつからないように歩くんだぞ」
女「分かってるって!」
男「……」シャクシャク
女「……」シャクシャク
女「かき氷おいしいね~!」
男「ああ」
女「うっ、頭が……!」キーン
男「俺も……!」キーン
女「アハハ、この時ばかりはあんたもあたしと同じように痛いんだ」
男「まあな」
女「おっ」
男「花火が始まるぞ」
女「たーまやー!」
ヒュルルルルル…
パァンッ!
パァァァンッ!
ドォンッ!
女「わぁ~、キレイ!」
女「こんな綺麗な花火見れたし、もう思い残すことはないや」
男「バカいうなよ。まだ診断結果も出てないのに」
女「誰がバカよ!」
バチンッ!
女「いだだだだだっ!」
男「……」
男(こいつも不安なんだろうな、きっと。治るような病気ならいいが……)
―病院―
医者「結果が出ました」
医者「お嬢さんは、キャッシャ症候群ですな」
男「キャッシャ症候群?」
女「治るんでしょうか?」
医者「もう少し症状が進むと、根治が難しくなっていましたが、今のタイミングなら大丈夫」
医者「薬を飲んで、二週間ほど入院してもらえば、治るでしょう」
男「ホントですか!?」
女「やったーっ!」
女「はぁ~、二週間も入院か」
女「この退屈さ、ある意味普段味わってきた痛みよりも苦痛かも」
男「毎日見舞いには来るよ」
女「いらないって」
男「寂しいくせに」
女「誰が!」バシッ
女「いだだだだ……」
男「そうやって自滅する日々もようやく終わるんだな」
女「……うん」
二週間後――
女「……」
男「……どうでしょう?」
医者「うむ、もう退院しても大丈夫ですよ」
女「長かったぁ……」
男「ありがとうございます」
医者「体が丈夫になったのに伴い、筋力も普通になりましたから」
医者「これからは相手を殴っても自分だけ痛くなるようなことはないでしょう」
男「さてと、健康になった感想はどうだ?」
女「うーん、あまり実感ないなぁ」
男「だったら試しにそこらの壁でも叩いてみろよ」
女「うん」バシッ
女「……痛くない」
女「痛くないよ! 全然痛くない!」
男「じゃ、次は俺を殴ってみるか?」
女「えっ、でも……」
男「きっかけがないと厳しいか」
男「だったら胸揉んでやる」モミッ
女「……」
男「さ、殴ってみろ」
女「殴れないよ……」
男「なんで?」
女「だって、今のあたしが殴ったら、あんたに痛い思いさせちゃうでしょ?」
女「だから……殴りたくない」
男「……!」ドキッ
女「どしたの?」
男「いや……なんでもない」
女「?」
男(今のが……今までの攻撃の中で一番効いたな……)
― おわり ―