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814 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/01 21:49:38.17 OTH5ONt20 766/908



【翌日 聖グロ】



アッサム「ヴェニフーキ。お話があります」

ヴェニフーキ「借金の保証人の話ですか?」

アッサム「ちっ、違いますっ! 次の親善試合のことですわよ!」

ヴェニフーキ「黒森峰ですね?」

アッサム「! 知ってたのですか…?」

ヴェニフーキ「ええ」


アッサム「…それで、その黒森峰の試合ですが、相手の隊長、西住まほさんと打ち合わせをした結果」

アッサム「彼女は試合には参加せず見学されるとのことです」

ヴェニフーキ「…」

アッサム「それで、後任の副隊長に新・隊長として指揮を執らせると」

ヴェニフーキ「…」

アッサム「ですから、聖グロ側も私ではなく、あなたに隊長として指揮をしてほしいのです」

ヴェニフーキ「…私が?」

アッサム「ええ」

ヴェニフーキ「私に全権を委ねることの意味、理解していますか?」

アッサム「…あなたのことはまだわからない」

アッサム「ですが、いつまでも後継者を決めずにいるのは宜しくありません」

ヴェニフーキ「…」

アッサム「だから、あなたが聖グロの隊長として、聖グロの顔として」

アッサム「黒森峰と戦いなさい」

ヴェニフーキ「わかりました」



あの時、まほさんが試合に出場しないと聞いて、もしやとは思ったが…。

本当に私で良いのか? 私は部外者だぞ? いずれは聖グロを去るというのに…。



815 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/01 21:54:43.92 OTH5ONt20 767/908



アッサム「それともう一つ」


ヴェニフーキ「何でしょう」

アッサム「試合当日は4時に現地集合です」

ヴェニフーキ「は?」ギロッ



おいこらふざけんな! この間よりも早くなってるじゃないか!!

私は他の生徒よりも早く起きないといけないってあれほど…!



アッサム「わ、私を睨まないでくださいまし! 黒森峰の隊長さんと話し合った結果そうなったのですから」

ヴェニフーキ「朝は苦手なのですが」

アッサム「朝というよりは深夜ですわね…」

ヴェニフーキ「…試合前日は早めに寝るので18時以降は起こさないと約束してください破ったら嬲り殺します」

アッサム「物騒なことを言わないで頂戴。…まぁ、私も前日は早めに寝るつもりですから」

ヴェニフーキ「ローズヒップに深夜1時ごろ起こさせに行きますね」

アッサム「それはやめて!」



ローズヒップなんて勿体無い。私が直々にブッ叩きに行ってやろう。

前回起こしに行ったときはデコピンをし損ねたからな。

今度はその顔面を鷲掴みにしてやろうか。それとも鼻の下にワサビをニュルッとやってやろうか。…フフフ。



~~~~~~



816 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/01 22:06:28.00 OTH5ONt20 768/908



ヴェニフーキ「…ということなので、アッサム様より私に指揮を執れとの命令が下りました」


「やっぱりヴェニフーキさんでしたの」

「他に適任者いらっしゃらないものね…」

「厳しくなりそう…」

「…」


ガヤガヤ


ヴェニフーキ「皆さんもよくご存知かと思いますが、相手は優勝常連校の黒森峰です」

ヴェニフーキ「"上品に、優雅に"で敵う相手でないことは理解しているはず」

ヴェニフーキ「そのため、対・黒森峰に特化した戦法を身に着けて頂きます」

「黒森峰に特化した戦法ですって…?」

「あの黒森峰にどうやって…」

「辛そう…」


ワイワイ ガヤガヤ


817 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/01 22:10:47.45 OTH5ONt20 769/908



ヴェニフーキ「先に言っておくと、今までの戦術では99.9%負けます」


聖グロ生「………」

ヴェニフーキ「黒森峰の戦車はいずれも火力・装甲ともにトップクラス」

ヴェニフーキ「従来の戦闘距離では我々の攻撃は一切通じません」

ヴェニフーキ「逆に、相手はこちらの射程範囲外から戦車を撃破出来る強力な火砲を持つ」

ヴェニフーキ「ティーガーIの56口径、ティーガーII、ヤークトパンター、エレファントの71口径」

ヴェニフーキ「これらは我が校だけでなく、他校のどの主力戦車の正面装甲も2,000m以上離れた場所から撃破できる」

ヴェニフーキ「更にヤークトティーガーに至っては搭載砲・装甲ともに最強の駆逐戦車」

ヴェニフーキ「128mm戦車砲は建屋もろとも戦車を吹き飛ばす威力で、マウスに匹敵する250mmの正面装甲は貫通記録なし」

「そんな…!」

「戦車の性能が違いすぎますわ! どうやって勝てと言うのですか!!」

「でも、こちらにはティーガーを撃破できるブラックプリンスがあります!」

「そうですわ! ブラックプリンスで戦えば何とか…!」


ヴェニフーキ「ブラックプリンスは1輌のみ」


「っ…!」

ヴェニフーキ「仮に一輌を撃破出来ても、砲撃による音と噴煙で即座に場所を特定され、集中砲火を浴びるのが関の山」

「で、ではどうすればいいんですの!?」

「端から勝負は決まっているではありませんか…」

「どうして負けるとわかって練習試合を申し込んだのですか!!!」


ガヤガヤ


818 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/01 22:13:35.66 OTH5ONt20 770/908


ヴェニフーキ「言ったはずです。対・黒森峰に特化した戦法を身につけて頂くと」

ニルギリ「あっ…あのぉ…」

ヴェニフーキ「はい?」

ニルギリ「その黒森峰に特化した戦法とは一体…?」


ヴェニフーキ「100m以下での超・接近戦です」


「100m以下ですって?!」

「そんなの無理ですわ! すぐに気づかれてしまいますもの!」

「500m離れた場所にいる戦車ですらすぐに見つかるのに……」


ヴェニフーキ「先日の知波単戦の交戦距離は?」


「…あっ!」

ヴェニフーキ「何故、彼女たちは我々をそこまで接近させたのか」

ヴェニフーキ「何故、それほど近付いても存在に気付かなかったのか」

ヴェニフーキ「…そこに答えがある」

ヴェニフーキ「そして、その答えこそが、打倒・黒森峰の戦術」

聖グロ生「!!!」


819 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/01 22:16:00.59 OTH5ONt20 771/908



「…ヴェニフーキ様……」


ヴェニフーキ「何か?」

オレンジペコ「私は…どうすれば良いのでしょう…?」

ヴェニフーキ「はい?」

オレンジペコ「ヴェニフーキ様だけでなく、アッサム様までいなくなって………」

ヴェニフーキ「…」


ヴェニフーキ「車長、やってみますか?」


オレンジペコ「えっ!? わ、私がですか!?」

ヴェニフーキ「ええ」

オレンジペコ「そ、そんな…車長だなんて…私にはまだ…!」

ヴェニフーキ「ローズヒップは車長であり、クルセイダー部隊の隊長」

ヴェニフーキ「ニルギリもマチルダやクロムウェルの戦車長をやっている」

オレンジペコ「あっ…!」

ヴェニフーキ「一年生が車長をやることは何もおかしいことではありません」

オレンジペコ「で、では、残りの乗員は…?」

ヴェニフーキ「あなたが選びなさい」

オレンジペコ「…」

ヴェニフーキ「いずれ私達は聖グロを去る。それを見越して今から後のパートナーを決めるのも悪くはない」

オレンジペコ「は、はいっ…!」


ヴェニフーキ「さて、それでは練習を始めましょう」


アッサム「………」


~~~~


820 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/01 22:22:13.32 OTH5ONt20 772/908




ヴェニフーキ「4号車は西の森へ、7号車は4・5号車の死角を補う形で配置」

ヴェニフーキ「各車、地形に適応した偽装を車体に施し、隠蔽せよ」

ヴェニフーキ「ローズヒップ、部下を率いて森林地帯を全速力で走り抜けよ」



対・黒森峰特化戦術とは言ったが、これは黒森峰以外でも十分通用する。

何故ならこの戦術は両者の戦車の性能差、数の劣勢を戦術で補完するものだからだ。

実際の戦争と違い、投入車両は限られるので量で覆されることはないが、戦車の性能の優劣をここで縮められる。


知波単学園は戦車保有数こそ問題ないが、重装甲を相手に砲で負けるため、通常の戦闘距離ではなく極限まで接近して砲弾の威力を落とさず命中させる。

また、命中させる場所も正面ではなく、装甲の薄い後面、を狙う。


知波単学園が生き残るために、私の戦車道を守るため血を吐いて生み出した最初で最後の戦術。それを聖グロに託す。

それくらい私はこの一戦に全てを賭けている。

戦うのは聖グロだが、これは同時に私の代理戦争でもあるのだ。


たかだか親善試合と侮ることなかれ…



821 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/01 22:32:15.87 OTH5ONt20 773/908




【練習試合当日】



まほ「お招きいただき感謝する。その、ワコールさん…?」

アッサム「ですから……私はアッサムですの……」シュン

まほ「うっ…」

アッサム「もう慣れましたの………」

まほ「す、済まない……」



当たり前のように名前を間違えられる。

ワコールは日本の衣料品の会社だ。もはや紅茶でもなんでもない。

衣料品だけに"歯に衣着せぬ"ことなく素直に間違えられている。

いっそ本名を名乗ったらどうだろうか。「聖グロの隊長を務める山田ですの」って。



まほ「以前お話したように、今回は私は見学に徹することにした」

まほ「投入戦車、作戦、人員、全てにおいて私が口を挟むことなく、次期隊長に委ねる」

アッサム「心得ておりますの。故に私も同様に今回は見物させて頂きます」

まほ「そうか。して、そちらの指揮官は?」

アッサム「ヴェニフーキですの」

まほ「やはりか…」

アッサム「性格には些か問題がありますが、戦車乗りとしての腕は一流です」

まほ「それは我々も重々承知している。相手にとって不足はない。今日はよろしく頼むぞアッザムさん」

アッサム「いえ…アッ"ザ"ムじゃなくアッ"サ"ムです……」ショボン

まほ「うっ…す、すまん………」アセアセ



名前はもういいとして、両校の元・指揮官同士固い握手を交わし、互いの健闘を祈る。

戦車道とはこのような騎士道精神に則った紳士的、いや淑女的な競技だ。

これが本来あるべき姿だろう。

私の性格が問題というのはいただけないが。



一方で、新しい隊長というのは…

822 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/01 22:35:04.78 OTH5ONt20 774/908



エリカ「こうやってアンタと戦える日が来るなんて。運命ってのは気まぐれね?」

ヴェニフーキ「そうですね。運命というものはとても残酷です」

エリカ「…逃げるんじゃないわよ?」

ヴェニフーキ「はい?」

エリカ「"親睦を深めるために"、"練習試合だから"。そんな言い訳は私には通用しない」

エリカ「邪道は邪道なりに本気で来てもらわないと困るわ」

ヴェニフーキ「…」

エリカ「そうでないと、潰し甲斐がない」

ヴェニフーキ「それはご自身に言い聞かせてみてはいかがでしょう?」

エリカ「なに…?」

ヴェニフーキ「後ろ盾のない今のあなたが、果たして本当に"王者"なのか、それとも邪道なのか。この試合でわかる」

エリカ「…」

ヴェニフーキ「これ以上は問答無用。試合で決着を」

エリカ「望むところよ……!!」



相変わらず口だけは達者な副隊長さんだ。私もだが。

だが、その表情は先日のそれではなかった。

相手を見下す余裕が無いのか

試合とそれ以外では切り替えが出来る人間なのか


それとも




~~~~




823 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/01 22:37:55.85 OTH5ONt20 775/908




●聖グロリアーナ女学院 投入車輌


隊長:ヴェニフーキ(西絹代)

副隊長:ルクリリ

 
ブラックプリンス歩兵戦車   ×1 ヴェニフーキ(隊長)車

チャーチル歩兵戦車      ×1 オレンジペコ車

マチルダ歩兵戦車       ×2 ルクリリ車

クロムウェル巡航戦車     ×2 ニルギリ車

クルセイダーMK.III巡航戦車  ×4 ローズヒップ,ジャスミン,バニラ,クランベリー車


合計10輌




●黒森峰女学園


隊長:逸見エリカ

副隊長:赤星小梅


ティーガーI         ×1 逸見エリカ(隊長)車

ティーガーII         ×2 赤星小梅車,ツェスカ車

V号戦車 パンター       ×3 

ヤークトパンター       ×1

ヤークトティーガー      ×1

エレファント         ×1

III号戦車 J型        ×1


合計10輌




~~~~~


824 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/01 22:44:30.00 OTH5ONt20 776/908



ヴェニフーキ「事前に説明した通り、本作戦は撃つことではなく、見つからないことが最重要です」

ヴェニフーキ「そのため、クルセイダー部隊を除く全車輌は持ち場に就き次第、山岳、森林問わず地形に適応した偽装を施します」

ヴェニフーキ「偽装用ネット、木の葉、岩石…ありとあらゆる自然物・遮蔽物を使用し、振り向いたら何処に戦車があるかわからなくなる程に隠蔽して下さい」

ヴェニフーキ「配置場所は地図に記載した通りなので、撃ち漏らし、誤射のないように味方全車輌の位置関係をしっかり把握すること」

全員『了解!!』


ヴェニフーキ「次に攻撃ですが、クルセイダー部隊を除き、こちらの戦車が配置完了してから移動することはまずありません」

ヴェニフーキ「なので、配置後は速やかにエンジンを切り、以後砲塔の旋回は手動で行います」

ヴェニフーキ「敵戦車への攻撃箇所は、車体側面、後面、車体下部の履帯、起動輪および遊動輪」

ヴェニフーキ「最優先撃破目標はティーガー、ティーガーII、パンター」

ヴェニフーキ「それ以外の旋回式砲塔を持たない駆逐戦車は、照準合わせで車体ごと砲の向きを変えるため、」

ヴェニフーキ「転輪および履帯を狙って操縦不能にすることで時間を稼ぐことが可能」


ヴェニフーキ「…説明は以上です。黒森峰が王者の戦いを仕掛けるのなら、こちらは女王陛下を守る騎士団としてこれを迎え撃ちましょう」

全車輌『了解!!!』


ヴェニフーキ「全車前進」



~~~~~~~~~~~~



828 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/02 21:08:36.28 oRGa30mf0 777/908




ルクリリ「黒森峰の戦車が見えますね…」

ヴェニフーキ「ええ。全車輌で固まって移動している」

ルクリリ「先頭にパンター、後ろにティーガーI、その両端を挟むようにティーガーII、そしてヤークトパンター、エレファント、ヤークトティーガー、III号戦車」

オレンジペコ「堅牢堅固な編成です…」

ルクリリ「さすが黒森峰だけあって綺麗な隊列を組んでますね」

オレンジペコ「あれだけ速度を合わせて隊列を乱さないで動けるなんて凄いです…!」

ヴェニフーキ「ええ」

オレンジペコ「…それで、この距離では砲撃は届くのでしょうか?」

ヴェニフーキ「そこは戦術と腕、ですね」



移動・配置が完了してしばらくすると、黒森峰の戦車が現れた。

黒森峰の戦車部隊は私達の配置場所の前を横切るように移動している。


         黒森峰車輌
       ←●●●●●●






     △
         △
   △   △
     △    △

    聖グロ車輌


…大まかに説明するとこんな感じだ。

索敵のために固まって移動する黒森峰に対し、それを迎撃するよう山の斜面にある森林地帯を我々が固める。

各車輌は車体にネットを張り巡らせ、その上に草木を満遍なく括り付け、狙撃兵のような偽装を施すよう指示した。

周囲に自然の遮蔽物がわんさかある森林地帯なので、偽装のための素材に困ることがない。

車体の偽装だけでなく、岩陰、倒木、木陰、落ち葉、自然界に存在するありとあらゆるものを利用して、文字通り自然に溶け込むようにした。

そういった関係で、一車輌あたりの行動および攻撃範囲は狭くなってしまうが、その死角を別の車輌が補うように配置した。戦車というより野戦砲の陣地みたいだ。


私はチャーチルの車長を務めるペコ、そして副隊長のルクリリさんと見通しの良い高台にて黒森峰の戦車を確認している。

言うまでもないが、このままでは敵は見当違いのところに行ってしまうので、「私はここにいるぞ」というアピールをしなければならない。



829 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/02 21:34:52.25 oRGa30mf0 778/908


ヴェニフーキ「では、ご挨拶に行ってきます」

オレンジペコ「ヴェニフーキ様自らですか?」

ヴェニフーキ「ええ。ペコは配置場所に戻ってて下さい。ルクリリさんはこのまま監視をお願いします」

ルクリリ「了解!」

オレンジペコ「かしこまりました」


ヴェニフーキ「こちら隊長車。これより5分後に隊長車による誘導射撃を行います」

ヴェニフーキ「この砲撃の後に黒森峰部隊はこちらへ進路を変更し、会敵を目的とする」

ヴェニフーキ「各車両万全の準備を整え、いつでも邀撃出来る状態に」

ヴェニフーキ「準備が終わったら引き続き待機し、次の指示を待って下さい」

ヴェニフーキ「繰り返しになりますが、本作戦は撃つことではなく、見つからないことが最も重要です」

ヴェニフーキ「各車輌、偽装およびその確認は徹底的に行って下さい」

全車輌『了解!』



各車輌に指示を終え、森林地帯の入り口まで移動する。

移動中に地図と照らし合わせながら配置済みの味方戦車を確認したが、この距離でもじっと注視しないと発見できない程に偽装されていた。


この森林は人の手が一切加えられてないんじゃないかと思うほど草木が自由に生い茂っている。

森林というよりはもはや原生林とか樹海と呼んだほうが良いのかもしれない。

そのため配置場所まで移動するのが大変だったが、それは相手も同じはず。

動かない我々にとって伸び放題、茂り放題の草木は相手の侵攻を阻む障害物となり、同時に我々を隠す偽装にもなる。

まさに天然の要塞だ。

戦車にも偽装をまんべんなく施しており、抜かりは一切ない。


830 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/02 21:41:48.06 oRGa30mf0 779/908



ヴェニフーキ「ランサムさん。車体の向きをを180度変えてください」

ランサム「了解」ガコン



ヴェニフーキ「…よし」

ヴェニフーキ「隊長車より全車輌へ。黒森峰車輌を誘導するための射撃の準備が完了」

ヴェニフーキ「これより誘導射撃を行います」

ルクリリ『こちらルクリリ車。黒森峰車輌の進路に変更はありません』

ヴェニフーキ「了解。それでは射撃を行います。ブラックプリンスの砲撃音が戦闘開始の合図と心得よ」

全車輌『了解!!』



ヴェニフーキ「モームさん、少し距離が離れていますが、行けそうですか」

モーム「…」コクリ

ヴェニフーキ「…では、ティーガーIをお願いします」

モーム「…」コク


キュラキュラキュラ....





ズガァァァァァァァァァァァァァァァン!!!!!!




ヴェニフーキ「戦車後退!」



砲撃と同時にブラックプリンスを発進させ狙撃ポイントから撤退する

着弾は確認できないが、目的はあくまで"敵はここにいる"ということを伝える一発なので、当たれば御の字だが、当たらなくても別に問題ない。

ただ、この役目は他の車輌では"囮"とみなされる可能性があるので、うまく引っかかるかどうかはわからない。

そのため、より信憑性を高めるために隊長車で行うことにした。

ブラックプリンスの大きな砲撃音は、他の僚車と明確に区別できるという意味で数少ない利点となった。


さて。これで砲撃場所はもう"もぬけの殻"。

あとは敵がやって来るのを待つだけだ。

この森林を再び登るのは大変かもしれないが、歩兵戦車の特徴でもある不整走破能力の高さが助けてくれた。


831 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/02 21:47:10.60 oRGa30mf0 780/908


ルクリリ『黒森峰車輌の進行方向が変わりました! こちらへ向かってきます!!』

ヴェニフーキ「了解。各員戦闘に備えよ」

ルクリリ『あっ…!』

ヴェニフーキ「どうしました?」


ルクリリ『手前側のティーガーIIが1輌だけ動いてません!』


ヴェニフーキ「動いてない?」

ルクリリ『乗員が降りて車体左側前方に集まってます』

ヴェニフーキ「…」



…確かに、ティーガーIIの前部に乗員が集まって何かやっている。

急な方向転換をしたせいで足回りが故障したのだろうか?



ルクリリ『こちらルクリリ車。どうやら起動輪がぶっ飛んだみたいですね』

ヴェニフーキ「起動輪が?」

ルクリリ『ええ。…もしかしてさっきの砲撃が当たったのでは…?』

ヴェニフーキ「…」

モーム「…」



…どうやら「こんにちは」ではなく、鉄拳で挨拶をしてしまったようだ。

私も砲手であるモームさんも着弾を確認する間もなく撤退したため、あの砲弾の行方は分からない。

ティーガーIを狙った弾が逸れて、ティーガーIIの起動輪に当たったということかな。

ティーガーIIの乗員にとってはとんだトバッチリだが、私達にとっては幸先がいい。

…しかし、"両脇をティーガーIIに挟まれてるティーガーIを狙え"という指示はちょっと意地悪だったかもしれないな。


832 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/02 21:52:17.29 oRGa30mf0 781/908



ズドォォォン!!



ルクリリ『わっ! 停車したティーガーIIが撃ってきましたっ!!』

ヴェニフーキ「…なるほど。動けないから"固定砲台"として使うわけですね」

ルクリリ『こ、固定砲台?』

ヴェニフーキ「ええ。走れないとは言え砲塔は回るので、味方の進軍を後方から支援するのでしょう」

ルクリリ『まるで自走砲ですね。…どうします?』

ヴェニフーキ「現時点でこちらの位置は特定出来ないはずなので、文字通り"闇雲"な砲撃です」

ルクリリ『…確かに。私も味方がどこにいるのかわかりません』ハハハ


ヴェニフーキ「各員、着弾の衝撃で偽装が剥がれないよう注意つつ、そのまま待機」

全車輌『了解!』

ヴェニフーキ「あの砲撃は黒森峰の進軍を助ける援護射撃かもしれませんが」

ヴェニフーキ「同時にこちらの音も消してくれるので、こちらも恩恵を得ることが出来ます」



833 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/02 21:55:54.26 oRGa30mf0 782/908



ルクリリ『ほっ他の車輌もこっちに接近しながら撃ってきます!!』

ヴェニフーキ「落ち着いて。着弾場所は?」

ルクリリ『車両の周辺に着弾してはいるものの、命中はありません…!』

オレンジペコ『でも、あちこちに着弾して木が倒されちゃってます…』

ニルギリ『ええ! こ、このままでは…!』

ヴェニフーキ「そうですね…」



木々がなぎ倒されたことで我々は丸裸に!


…と思ったが、倒れる木々がいずれも広葉樹だったおかげで、逆にそれが偽装の味方となってくれた。

実際に倒れた広葉樹のそばにいた車輌からは『倒木で車体が隠れました。まさに落木(ラッキー)です』なんてジョークが漏れるほどだ。…面白くなんかないぞ。

それに倒した木はおたくらの侵攻を阻む障害物にもなる。

炙り出しを期待してこのような面射撃を行ったのだろうが、逆にこちらに有利な結果となった。

なにせ我々は移動を必要としないのだから。


しかし、このままドカドカと砲撃を受けるのも気分の良いものではないので、少し反撃しよう。



834 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/02 22:09:11.20 oRGa30mf0 783/908




ヴェニフーキ「一旦停車してください」

ランサム「かしこまりました」



退却をやめ、先程の"ご挨拶"の場所に戻る。

挨拶前と比べると榴弾の雨によってなぎ倒された木々がゴチャゴチャになっている。

こうしてる間にもドカドカと砲弾が降り注いで木々が倒れる倒れる。

環境破壊もいいところだ。



ヴェニフーキ「グリーン様、砲弾を変更します」


グリーン「はい。どれにしますか?」

ヴェニフーキ「普通の弾よりも寸詰まりで、先端がコマのような形をしたやつ。…そう、それです」

グリーン「了解」


ガコン

グリーン「装填完了です」

ヴェニフーキ「モームさん、あの動かないティーガーIIの車体側面を狙って下さい」

ヴェニフーキ「砲撃のタイミングは任せます」

モーム「…」コクリ



カチッ






ズガァァァァァァァァァァァァァァァン!!!!!




















アナウンス『黒森峰 ティーガーII 走行不能!』




835 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/02 22:30:13.05 oRGa30mf0 784/908


ヴェニフーキ「車体側面後部に命中。お見事です。…では戻りましょう」

ランサム「わかりました」


ルクリリ『す、すごい!黒森峰のティーガー倒しちゃいましたよ!!』

ヴェニフーキ「落ち着いて。まだほんの1輌しか撃破してません」

ルクリリ『で、ですがあの最強のティーガーを倒したんですよ。一体どうやって?!』

ヴェニフーキ「砲弾を変更したのです」

ルクリリ『砲弾? 徹甲弾から榴弾に変えたんですか?』

ヴェニフーキ「いえ、榴弾ではなく」




ヴェニフーキ「APDS弾です」




ルクリリ『APDS…?』

ヴェニフーキ「簡単に言えば発射後に砲弾の周囲を覆っていた殻が外れて、矢のような細長い弾だけが飛んで行くやつです」

ヴェニフーキ「細いので装甲に通常の太い砲弾よりもザクッと貫きやすくなります。画鋲みたいに」

ルクリリ『ひぇぇ…なんだか痛そう…』

オレンジペコ『でも、小口径の砲弾ではそこまで威力が無いので装甲に弾かれてしまうのでは?』

ヴェニフーキ「ええ、その通りです。何故なら小さい砲弾では装薬量が少ないですし、仮に量を増やしても、爆発のエネルギーを受け止めるには小さい」

ヴェニフーキ「大口径砲弾は発射時の爆発エネルギーを受け止められるが、面積が大きいため着弾による装甲貫通力が低い」

ヴェニフーキ「小口径弾は接触面積が小さい分穴を開けやすい形だが、そもそも威力がない」

オレンジペコ「つまり、APDS弾はこれら2つの問題点を改善した砲弾ということですね?」

ヴェニフーキ「その通りです。発射時は大きく、着弾時は小さいという対戦車砲弾としては理想な形です」

ルクリリ「なるほど…」


ヴェニフーキ「…ただ、APDS弾は周囲を覆う殻を分離するタイミングの関係で命中精度はあまり良くない」

ヴェニフーキ「それに、装甲に角度があると通常弾よりも滑りやすいという欠点もあり、対抗策として傾斜装甲が導入された理由の一つでもあります」

ヴェニフーキ「そんな威力はあれど扱いが困難なAPDSなので、ぶつけたモームさんは"お見事"です」

ルクリリ『す、すごいですねモームさん…』



言葉にすることこそないが、褒められて嬉しそうなのはわかる。

聞くとことによると、私の知らない間もひたすら射撃の練習に励んでいたらしい。

アッサムさんは"弾代やメンテ費が凄いことになっている…"と言ってたが、こういう結果で還元されるのなら全く問題ないだろう。

なんで戦車道やらなかったのって毎回思う…。



オレンジペコ『ティーガーを倒せる17ポンド砲に、より強力な砲弾…まさに鬼に金棒ですね』

ヴェニフーキ「ええ、連合軍最強の一発です」

オレンジペコ『そ、そんなに凄いんですか!?』

ヴェニフーキ「威力としては先ほど叩いたティーガーIIの主砲・71口径88mm砲に匹敵するかと」

オレンジペコ『すごい…』



~~~~


836 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/02 22:40:35.68 oRGa30mf0 785/908


【観戦席】


アッサム「なるほど…」

まほ「ん?」

アッサム「実を言うと、以前ヴェニフーキから"砲弾が欲しい"と言われてました」

まほ「それがあの弾というわけか」

アッサム「おそらくは」

まほ「あの距離でティーガーIIを撃破したとなれば、こちらの戦車はほぼ全て撃破可能な位置となる」

まほ「しかも黒森峰側はまだ相手の位置を特定できていない」

アッサム「…」

まほ「この試合…この戦術…知波単学園のものに似ているな?」

アッサム「少し前に知波単学園とも練習試合を行いました」

まほ「うん?」

アッサム「その時に今回のような姿の見えない相手から攻撃を四方八方から受けまして」

まほ「…なるほど。つまり彼女は…ヴェニフーキは」

アッサム「あの時の戦いで、相手の戦法を会得したのだと思われます」

まほ「………」




~~~



「APDS弾なんてあるんだー」

「お恥ずかしながら徹甲弾と榴弾くらいしか知りませんでした…」

「私も使ったことないし、知らないのは無理もないかな」

「使っても大丈夫なのか、あんなの?」

「ええ。第二次大戦時にも使われておりまして偶然にもイギリスの17ポンド砲のものが最初のAPDS弾なんですよぉ!」

「…なるほど」

「まさかまさかAPDS弾を使う人がいらっしゃるなんて! 不肖

「あっ、黒森峰の攻撃が止んだよ!!」



~~~





837 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/02 22:49:02.60 oRGa30mf0 786/908




【聖グロ陣地】


ルクリリ『戦車接近してきます!』

オレンジペコ『いよいよですね…』

ヴェニフーキ「…」



パンター3輌が先頭で、その後ろにヤークトティーガーとエレファント、ヤークトパンター、III号戦車、そして最後尾にティーガーIIとティーガーI。

先程の一発を懸念しての隊列だとは思うが、常に先頭を走っていた西住まほさんとは対照的な編成だ。



『パンター3輌がこちらへ接近します!! 攻撃の許可を!!!』

ヴェニフーキ「待て」

『で、ですが! もうすぐ到達します…このままでは!!』

ヴェニフーキ「静かに。ここで射撃したら場所が特定されます」

『っ…!』

ヴェニフーキ「そのまま息を潜め、パンターの通過を待って」

『り、了解…!』



~~~


838 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/02 22:52:55.22 oRGa30mf0 787/908




『最後のパンターが通過しました…』


ヴェニフーキ「了解。見つからなかったようですね」

『ですが…後続のヤークトティーガーやエレファント、ヤークトパンターが接近』

『それを盾にする形でティーガーとティーガーIIも近づいてきています』



パンターの通過を報告する無線連絡が入る。

ヒソヒソ声で話す様子、相当近い場所を通過しているようだ。

あちらの無線からギュラギュラという履帯の漏れてくる…。



ヴェニフーキ「引き続き、最後の車輌が通過するまで待機」

『了解…!』




パンター3輌は我々の網の中に入った。

以降に続く重駆逐戦車・重戦車も攻撃網の中だ。


もういいだろう。









ヴェニフーキ「ローズヒップ小隊、攻撃準備。合図とともに出撃せよ」


ローズヒップ『よ、ようやく私の出番でございますのね………』



走り回ることが大好きな彼女にとってこの作戦は辛いものだが、よく辛抱してくれた。

その鬱憤を晴らすべく思う存分暴れてくれ。


839 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/02 22:59:06.49 oRGa30mf0 788/908


ヴェニフーキ「7、8、9、10号車はローズヒップ車の攻撃と同時に砲塔を旋回」

ヴェニフーキ「側面および後面に照準を定め、こちらの合図で一斉攻撃せよ」



ヴェニフーキ「ローズヒップ小隊、行動開始!」



ロードバイク『行っきますのよぉぉぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉ!!!』



私の合図とともにローズヒップを先頭に、バニラ、ジャスミン、クランベリーのクルセイダー部隊が一斉に走り出す。

その機動力、そして突破力は彼女らの最大の武器であり、木々が立ち並び地面がデコボコした地形にもかかわらず(しかも斜面を横切っている!)、平地を走るかのように爆走する。

土煙をあげて走り回るその光景は戦車というよりオフロード車だ。


当然黒森峰のパンターがこれに気付かないわけがなく、音がする方へ砲身を向けるが、なにしろ場所はデコボコの斜面だ。

照準が合わせづらいのはもちろん、ジグザグに動くクルセイダーには攻撃が当たらない。鬱蒼と生い茂る木々もまた彼女たちを砲撃から守ってくれる。

ローズヒップ小隊も爆走したかと思えば急停止して砲撃したり、再度エンジンを吹かして爆走したりを繰り返す。味方ながら見ていてこれは厄介だなと思う。

その上パンター3輌に対し、クルセイダーは4輌なのだ。撹乱効果は十分すぎる。

そうしている間に後ろから駆逐戦車、そしてティーガーたちもやってきた。



かかったな。




840 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/02 23:06:00.00 oRGa30mf0 789/908



『こちら8号車。砲塔の旋回が終了。いつでも撃てます』

『同じく7号車、いつでもOKです』

『10号車同じくパンターの後面を撃てます』

『9号車も大丈夫です』



クルセイダー小隊がパンターを釘付けにしている間に他の車輌は砲塔を回転させた。


目的、パンター3輌。






ヴェニフーキ「了解。カウントを開始します。 3…2…1…撃て!」


ズガァァァァァァァァァァァァァァァン!!!!


パシュッ! パシュッ! パシュッ!




アナウンス『黒森峰女学園 パンター1号、2号、3号車、行動不能!』




パンターとはいえ、装甲が薄い側面や後ろを100mにも満たない至近距離で撃たれたらひとたまりもない。

敵車輌に最も近い位置にいた4輌の、ほぼ同時に行われた砲撃によって3輌のパンターが一瞬で全滅した。

中にはエンジンに命中して炎上する車両もあった。山火事が心配だ。

普通ならこれだけ派手なな攻撃をすればこちらの居場所がバレてしまうが、ローズヒップ小隊による錯乱や、戦闘で発生した土埃が煙幕のような隠蔽効果をもたらしてくれた。

そりゃあれだけ走り回れば砂埃は出る。

おまけにパンターや後ろの駆逐戦車がバカスカ撃ったせいで木々が倒れてズサッと砂煙を上げたしね。

これぞモクモクパラリラ作戦だ。…って言ったら西住さんに怒られるかな?


また、こちらの同時射撃による砲撃音は一つとなり、何処から撃ったのか、何輌が攻撃したのかを隠した。

敵からしたら文字通り「見えない場所から四方八方に攻撃された」となる。

報告を受ける指揮官からしたら何を言ってるのか分からないかもしれないが、撃たれたパンター乗員らもまた何をされたのか分からない状態だ。

頭がどうにかなりそうだろうなぁ。


842 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/02 23:20:49.31 oRGa30mf0 790/908




ヴェニフーキ「1から4号車、攻撃開始」



だが、そのまま手を休めることなく、迅速に次の攻撃を繰り出す。

目標はヤークトティーガー、ヤークトパンター、そしてエレファント、そしてIII号戦車。

攻撃したが、頑丈な駆逐戦車は撃破にまでは至らなかった。

唯一、黒森峰車輌の中で最も火力・装甲の弱いIII号戦車だけ白旗が揚がった。

III号は中戦車の部類に入るが、重戦車・重駆逐戦車でひしめく黒森峰では軽戦車のように小さく見える。

だが、小さいことが最大の武器で、その身軽さから偵察車、砲撃観測車として運用をすることで、黒森峰の連携を強固なものとし、強力な砲撃をより正確なものとする。

それ故いつまでも残しておくと厄介だ。小さいからと侮ることなかれ…。

だが、この攻撃で黒森峰の隊列から左手側に位置してた2号車が特定され、ティーガーIIに撃破されてしまった。

この試合で初めて味方がやられたことになる。


これで聖グロの残存戦車は9輌、対する黒森峰は残り5輌…!


843 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/03 00:01:21.27 YPCfEdRp0 791/908


『エレファントの履帯が外れました!』

『こちらもヤークトパンターの遊動輪を破壊しました!』

『ヤークトティーガーもです!!』


チームメイトから攻撃成功の連絡が入る。


あの攻撃で駆逐戦車は撃破出来なかったが、そもそも端から撃破が目的ではなかった。

先ほど皆に指示したように、旋回式砲塔を持たない駆逐戦車は、撃破せずとも動けなくなればそれで走行不能とほぼ同じなのだ。

何故なら駆逐戦車は車体に対し強力な砲を搭載出来る代わりに、戦闘室は固定式で砲塔が存在しない。つまり砲の向きをほとんど変えられないのだ。


そして彼女ら駆逐戦車が向く方角に私達の戦車は存在しない。


そのため、駆逐戦車の足回りとなる履帯をはじめ、起動輪および遊動輪を狙い、車体から履帯を脱落させて動きを封じることを目的とした。

ヤークトパンターから「また履帯狙いやがって!!」と叫び声が聞こえた。

…また? 今回が初めてだぞ?


何はともあれ、これで駆逐戦車たちもほぼ壊滅し、残すはティーガー2輌のみとなる。



     ↑

  象  狩豹 狩虎  
    
     III号
 
  虎II    虎I



なお、駆逐戦車らは持ち前の厚い正面装甲を活かすべく先頭に位置し、後続のティーガーおよびティーガーIIを正面の攻撃から守るようになっていた。

おそらく森を突破することを優先にした配置なのだろうが、このような四方八方からの奇襲攻撃には対応できず、その上パンターが撃破されてから間髪をいれず攻撃したので、車列を変更する隙など無い。

あらゆる攻撃を弾き、あらゆる戦車を破壊する駆逐戦車は、動けなくなった瞬間からただの「鉄の塊」となり、後ろのティーガーたちの進路を妨げた。


このままではマズいと思ったのか、履帯が片側だけになったエレファントが進路変更を試みようとする。

しかし、ただでさえ超重量ゆえに足への負担が大きいものを片側の履帯だけで動かそうとするので、その負荷は計り知れず


ガキン!!!!


…という音と同時にもう片側の履帯も外れてしまった。




     ↑

     狩豹 狩虎  
    
     III号
   像
  虎II    虎I



制御不能となったエレファントは斜面を滑っていき、後ろにいるティーガーIIにガシャーンと激突してようやく止まった。ティーガーIIの砲身をへし折ってて。

砲身を台無しにされたティーガーII車長の絶叫が響く。日本語じゃないので何を言っているかまではわからなかったが、おそらく罵声だと思う。


不幸は連鎖するもんだな………。


845 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/03 00:27:04.35 YPCfEdRp0 792/908



ヴェニフーキ「全車輌、攻撃開始!」



一度崩れた体勢はそう簡単には戻せないし、戻す時間を与えてやるつもりもない。

混乱した黒森峰の残存車輌に向かって全車輌で一斉攻撃をする。

見えない相手に多方向から立て続けに撃たれる恐怖と、砲弾の雨が戦車を叩く音はまるでロッカーの中に閉じ込められたいじめられっ子のようだ。

黒森峰の戦車内はきっと阿鼻叫喚地獄だろう。

なにせ少し離れた場所にいる私でさえ「うるさいな…静かにしろよ」と言いたくなるほどだ。発砲音に命中音、とにかくやかましい。

撃てと指示しておいてこの言い草はないだろうと一人苦笑いしつつ。






アナウンス『黒森峰 ティーガーII、ヤークトパンター、エレファント 走行不能!!』






これで残るはヤークトティーガーと、隊長車のティーガーIのみ。

逸見さん。あなたは戦車内で何を思う?


846 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/03 00:45:56.45 YPCfEdRp0 793/908



…ただ、黒森峰も馬鹿じゃない。

滑り落ちたエレファントやティーガーII、自力で後退したヤークトティーガーは、隊長車であるティーガーIの両脇を守っている。

残骸とは言え、それらによってこちらの攻撃が阻まれてしまう。

いくら全体と比較して側面は装甲が薄いとはいえ、それを貫通させてその向こうにいる車輌を撃破するような砲は無いぞ…。





     ↑          聖グロ車輌(撃破)

     狩豹         ↗
    
     III号
   像          ↗
  虎II    虎I 狩虎




その上、ヤークトティーガーは後退しながら器用にも車体を左手側に向け、ドカンと一発放ち、またこちらの車輌を1つ戦闘不能にした。

並大抵のことでは超重量で攻撃範囲の限られた両極端な重駆逐戦車を、それも履帯が片方外れたものをあのようには扱えない。

…ヤークトティーガーの乗員は恐ろしいほど優秀だ。見学すると言ってた西住まほさんが乗っているんじゃなかろうな…?

で、逸見さんが乗るティーガーIもただぼーっとしているわけではなく、走行不能の黒森峰車輌の隙間を縫うように左側の聖グロ車輌を狙い、2輌がこれにやられた。





     ↑

     狩豹   
    
     III号
   像          ↗
  虎II    虎I 狩虎

             ↖

              ↖
             聖グロ車輌
          (チャーチル歩兵戦車)




このような状況でも冷静に的確に自分の役目を果たすヤークトティーガーだが、車体の向きを変えたことによって、右斜め後ろに配置していたチャーチルに右側面を晒す結果となった。

そして、チャーチルの攻撃によってヤークトティーガーもついに白旗を揚げた…。やるじゃないかペコ。


私はまほさんに次いで、ヤークトティーガーに乗る方達にも敬意を表したい。

普通の戦車ですら走行が難しい森林の斜面を故障させることなく上り、履帯を外されてもなお巧みな運転技術で味方を守り、尚且つこちらの戦車を撃破する。

それは黒森峰の名に恥じない、本当に見事な活躍だった…!



847 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/03 00:50:16.41 YPCfEdRp0 794/908


残すはティーガーIのみとなった黒森峰に、聖グロの戦車は容赦なく攻撃を浴びせる。

砲弾の雨に気を取られている間にティーガーIに接近を試みた。

起伏の激しい斜面だが、チャーチル譲りの走破能力を大いに発揮する。


そして…



ヴェニフーキ「全車輌、砲撃やめ!」



私の合図とともにピタリと砲撃音が止んだ。

おそらく黒森峰側は頭に「?」マークを浮かべながらペリスコープやクラッペから外部の様子をうかがっているだろう。

通常なら砲撃が止むということは、確実に命中・撃破させるために更なる接近することを意味する。

しかし今回の場合、確実に命中・撃破させる必要が無ければ接近する必要もない。というより





もう攻撃の必要はない。弾の無駄だ。


848 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/03 00:59:14.43 YPCfEdRp0 795/908



ヴェニフーキ「動くな!」

エリカ「っ!?」



     ↑

     狩豹   
    
     III号
   像          ↗
  虎II    虎I 狩虎


        ↑
     ブラックプリンス





これで王手だ。


左右斜め前方の攻撃に気を取られていたティーガーIの後ろについた。

ようやくそれに気づいた逸見さんはキューポラのハッチを開けてこちらを見た。

驚愕の表情が心地いいくらい印象的だった。



エリカ「…うそでしょ…………」

ヴェニフーキ「戦車の弱点といえば、後ろですけど」

ヴェニフーキ「あなたも"後ろ"が弱点のようですね」

エリカ「ぐっ!!!」



前方には被弾して戦闘不能になったパンターや動けないヤークトパンター。

左側にはエレファントと、ティーガーII。

反対側のヤークトティーガーもう動けない。

黒森峰の残骸によって動けないティーガーIは聖グロ車輌によって包囲され、いつでも攻撃出来る状態となった。

だからもう、彼女を除く黒森峰の車輌は「鉄の塊」として、彼女を保護する事のみ。奇跡を祈る車長もいた。

駆逐戦車を絶対防御の要だと信じて先に行かせたのが彼女のミスだった。


この戦術の真価は敵戦車が通過したところにある。なので旋回のできない駆逐戦車では端から勝負にならない。

対する逸見さんの戦術は、彼女の前は頑丈だったが、後ろは脆かった。まるで駆逐戦車のように…。


柔らかい場所を突かれた彼女は唖然となり、そして



849 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/03 01:01:10.94 YPCfEdRp0 796/908





エリカ「くそがァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!」




ヴェニフーキ「…」

エリカ「アンタには!! アンタだけには絶対に負けたくなかったのにッ!!!!!!」

ヴェニフーキ「…」



彼女はこちらを向いたまま、怒りと屈辱を露わに砲塔天蓋をガンガン殴る。…そんなに拳を叩きつけたら手が使えなくなるぞ。

ティーガーIの主砲は彼女とは真逆を向いているので、こちらへ旋回するよりこちらが撃つ方が圧倒的に早い。

彼女もそれを理解しており、会場全体に響き渡る叫びは"手詰まり"であることを意味する。


誰が見ても黒森峰女学園は敗れたということがわかる。

これで、私の戦車道での"ツケ"は払い終わった。


私のすべてをかけた黒森峰との親善試合は終わった。



850 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/03 01:01:36.78 YPCfEdRp0 797/908


















ヴェニフーキ「降参します! 参りました!!」


















851 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/03 01:02:33.70 YPCfEdRp0 798/908








アナウンス『聖グロリアーナ女学院の降伏により、勝者 黒森峰女学園!』





………私の降参によって。








856 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/04 16:51:42.05 B1e5jmIx0 799/908


【観戦席】



まほ「降参…」

アッサム「ど、どういうことですか!!?」

まほ「真意はわからん…彼女はあなたのチームメイトだろう。何か心当たりは無いのか?」

アッサム「…私にも彼女の考えはわかりません…何を考えてあんなことを…!」

まほ「…一体……どういうことなんだ……」



~~~~~



「ど、どうして降参なんかするんですかヴェニフーキ殿ぉ!?……」

「わからない…でも……」

「ヴェニフーキさん………」

「落ち着け。きっと何かしら考えがあるのだろう」

「うん…そうだよね…」

「真剣勝負を投げ出すだなんて…一体どのような理由があるのでしょう…」

「………エリカさん…」



~~~~~


857 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/04 16:53:33.35 B1e5jmIx0 800/908



【最前線】



エリカ「………な……降参………!?」


ルクリリ『ちょっとどういうことなのさ!! 何で降参するんだよ!!?』

オレンジペコ『仰る通りです! 私達の勝ちじゃないですか。あのまま撃てば勝ってましたよ…!』

ニルギリ『ど、どういうことなのですかヴェニフーキ様……!?』

ヴェニフーキ「このまま涙と鼻水でグチャグチャな隊長の顔めがけて撃つことも出来ましたが」

エリカ「なっ、泣いてなんかな



ヴェニフーキ「何か、違うな。と思いまして」



エリカ「はぁ?!」

ニルギリ『あの…違うって何がでs


エリカ「ふざけんのもいい加減にしろッ!!!!!」


ニルギリ『っ!?』

ヴェニフーキ「至って真面目ですが?」

エリカ「どこがッ!! これだけ完璧に私を追い詰めて! あとは撃てば終わるってとこまで来て!! 何が降参よバッカじゃないの!!!」

ヴェニフーキ「最初のうちは何とも思わなかったのですが、あなた方が我々の戦闘区域へ侵入したあたりから」





ヴェニフーキ「これは聖グロの戦い方じゃないな。って思った次第です」


858 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/04 16:54:58.35 B1e5jmIx0 801/908



聖グロ『!!!』


ヴェニフーキ「聖グロのもつ気品も優雅さも無い。戦車道を嗜む者としての騎士道精神も無い」

ヴェニフーキ「あったのは勝利至上主義者特有の浅ましさ、卑しさだけ」

エリカ「勝つことの何が悪いって言うのよ!!」

ヴェニフーキ「短絡的な一つの勝利で全てを失うこともある」

エリカ「なに…」



― 特攻兵器を使用したことによって批判が殺到し、戦車道どころか知波単学園まで"廃止"になってたかもしれない

― …

― 結果的にあなたは1つの学校を潰した諸悪の根源として一生恨まれ続けるでしょうね

― 戦術で勝って戦略で負けたということですね…




ヴェニフーキ「それに…」


ヴェニフーキ「あなたを背後から撃って勝利しても、何の価値もない」


エリカ「っ…!」

聖グロ生『?』

ヴェニフーキ「…かといって、私以外の者にとどめを刺してもらおうにも、近辺の僚車では周囲の駆逐戦車で狙えないし、遠方の戦車じゃ重装甲のため弾かれてしまう」

ヴェニフーキ「そう考えると、これが最善の策」

エリカ「ハッ! 邪道の分際で勝ち方に拘ってんじゃないわよ!!」


ヴェニフーキ「邪道には邪道の流儀がある」


聖グロ『!!』

エリカ「…!」




~~~~


859 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/04 16:58:35.94 B1e5jmIx0 802/908


【観客席】



『邪道には邪道の流儀がある』



アッサム「邪道ですって!?」

まほ「あの作戦のどこに邪道があると言うのだ…!」

アッサム「まほさん…?」

まほ「私のチームを完璧に追い詰めるほどの優れた戦術…」

まほ「…これが邪道ならば戦車道など皆邪道となってしまうッ!」

まほ「何故だ、何故邪道なのだ……!」

アッサム「私にもわかりませんの…。何故、邪道と言ったのか…」



~~~



「真剣勝負を途中で投げ出すのは確かに邪道です…でも…」

「聖グロのやり方じゃない? どういうことだ?」

「ダージリン殿とは違うかもしれません。…ですが、黒森峰に圧勝したことが邪道ならみんな邪道ですっ!」

「嫌だよ…ヴェニフーキさんが邪道だなんて…」

「…」


「………やっぱり、違う」

「えっ…?」


~~~

860 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/04 17:01:41.31 B1e5jmIx0 803/908



これで良かったんだよね。ダージリン。

あの時、あなたが言おうとしたのは恐らく…


 「黒森峰に勝たないで欲しいの…」


だったと思う。

つまり、勝ちさえしなければ、負けでも引き分けでも試合中止でも何でも良かった。

だから私は誰がどう見ても勝ったと確信した時に、降参を選んだ。

私は"似非邪道"の逸見さんを叩く事が出来たし、ダージリンの願いも叶えることができた。


ダージリンがどうしてそんなことを言ったのか

もちろん理由はちゃんとある。



これで勝ったとしても、それは"聖グロの"勝利じゃないからだ。



戦車も搭乗員も聖グロのものだけど、指揮やその作戦は聖グロではない私<部外者>だ。

聖グロの勝利でなければ聖グロにとって何一つプラスにもならない。偽りの勝利だ。


861 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/04 17:05:33.87 B1e5jmIx0 804/908


それどころか勝つことで「あの黒森峰に完勝した」だなんて自惚れたり、「黒森峰を破った最強の学校」として脚光を浴びてしまい、偽りの実績が出来上がってしまう。

偽りの勝利で偽物の実績に浮かれ、内部から腐敗していく。

ダージリンは自身がまとめ上げたチームがそうなってしまうのが許せなかった。

自分や仲間たち、そして聖グロの戦車道を築き上げてきた歴史を真っ向から否定し、破壊することになるから………。


でも、あの時ダージリンはそれを言わなかった。

…まぁ、それはダージリンが言い淀んだのを勝手に"他に好きな人が出来た"と私が勘違いして号泣したから、というのもあるけどね…。ごめん。

そうでなくてもあれだけ"逸見憎し"と勝負心に燃えていた私の前で「勝たないで」と言えなかったのだろう。

ダージリンが最後に一瞬だけ表情に陰りを見せたので気付くことができた。


この判断によって私は全聖グロ生に憎まれるだろうけど、ダージリンの尊厳を守ることが出来たから良いや。

だってダージリンもあの時


"もう…良いのよ…あなたの方が大事だもの……"


…って、聖グロより私を選んでくれたのだから。

逸見さんも叩きのめしたし、私がやるべきこと、やりたいことは全部やった。



あと、降参したのにはもう一つ別の理由があって、これは試合中に思ったことだ。

それは……


862 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/04 17:09:17.67 B1e5jmIx0 805/908




ガキン!!

グラッ....



「くっ!!」


エリカ「っ!!」



そう思っていたら鈍い金属音が聞こえ、同時にヤークトティーガーが動き出した。

どうやらブレーキが超重量に耐えきれず、壊れてしまったようだ。

トーションバーサスペンションがへし折れ、転輪が吹っ飛び、制御出来なくなった巨大な鉄の塊が坂を滑りながら下っていく。


おい! そっちは崖だぞ!!?


…そう思った時には遅く、ヤークトティーガーは谷底へ転落した。



ヴェニフーキ「フレミング、本部へ救護要請を」

フレミング「り、了解です! こちら聖グロ隊長車…」


エリカ「っ…!」ダッ


ヴェニフーキ「! 待てっ!!」



逸見さんは乗ってた戦車を放棄して走り出した。

あの女、まさか一人で救出に行くつもりか? 馬鹿な真似を…!

戦車は密閉されてるし特殊カーボンもある。外装が破損しても内部までは大丈夫なはず。

下手なことをするよりじっと救助を待つ方が安全だ。


それに崖は結構な高さがある。飛び降りたら…



863 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/04 17:12:13.65 B1e5jmIx0 806/908



ヴェニフーキ「あのバカ!」


ダッ!


ルクリリ「ヴェニフーキさん!!!」

ヴェニフーキ「そっちは任せます!」

ルクリリ「わ、わかった…!」



急いで逸見さんの後を追いかけたが、崖の下は川が流れており、見下ろした時には彼女は着水していた。

本当に飛び降りてしまった…。



「がばっ…ごっ…ゴボッ……ぐ…」



彼女はヤークトティーガーが流されたであろう方向へ泳いでいく。…というより流されていく…。

おい…あんたまさか………


泳げないのか!?


助けに行った勢いとは裏腹に、カナヅチなのか自身が沈まぬようもがくので精一杯だ。

駆逐戦車の方へ向かうというより水底に向かっている。

くそっ、このままじゃ本当に犠牲者が出てしまう…!



ヴェニフーキ「っ!!」



散々馬鹿馬鹿と罵っておいて何だけど、私も人のことを言えないみたいだ。

逸見さんの後を追うように崖から飛び降りて川へ飛び込む。


ざっぱーん!


そこそこ水深があるので、水底に体を叩きつけることは無かった。

一方で流れはせいぜい遊園地の流れるプール程度だったので、(どこかの誰かさんのようにカナヅチでなければ)何とか泳くことは出来た。

どうせ逸見さんだ。何も考えず勢いだけで飛び込んだのだろうなぁ。…まぁ私もだけど。

やれやれ…。



864 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/04 17:14:23.94 B1e5jmIx0 807/908


【谷底を流れる川】


エリカ「ガバ........ゴブッ....ゴボボ....ゴグッ....ゴボ....」

ヴェニフーキ「つかまって…!」

エリカ「ゴッボ...ガブ....」



沈みかけた彼女の胸ぐらをなんとか掴む事ができた。

掴んだ右手でラリアットでもお見舞いするかのように彼女を仰向けにさせる。

これで少なくともブクブク沈んでいくことはない。

あとは岸へ向かって引っ張るだけだ。足が攣らない程度にゆっくりバタ足で岸まで向かう


…こら、しがみつくな。

溺れる者は藁をも掴むだけに必死に私にしがみつこうとする。

ふざけるな。私にしがみついて良いのはダージリンだけだ。

…そんな事を考えてるうちに足が水底に届くくらいの所まで来た


865 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/04 17:15:13.68 B1e5jmIx0 808/908



【川岸】



エリカ「ゴゲェェェ!!!! ゴボゴヴォ゙ロゴ!!!!!!」ビチャビチャビチャ

ヴェニフーキ「…」



岸へたどり着いてから逸見さんは何か言葉を発するよりも先にマーライオンよろしくゲーゲー水を吐き出す。

そりゃそうだ。カナヅチが川に飛び込めば誰だってこうなる。



ヴェニフーキ「自分の力量をもう少し冷静に見計らうべきですね」

エリカ「……いわよ」

ヴェニフーキ「はい?」

エリカ「うるさいって言グ?! ゴボォォォォォォォ!!!?」



言い終わる前にまたゲロゲロ吐き出す。

嘔吐音と液体が叩きつけられるビチャビチャ音が響く。相当飲んだようだ。

…お、水と一緒に枯れ葉が出てきたぞ。



866 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/04 17:16:20.97 B1e5jmIx0 809/908


エリカ「なんで…助けたの………よ…」ゼェ..ゼェ...

ヴェニフーキ「あなたのような人でも死なれたら戦車道が廃止になりかねないので」

エリカ「よ…余計な…こと…を…」ゼェゼェ

ヴェニフーキ「…」スタスタ

エリカ「どこに……行くのよ…」

ヴェニフーキ「救助隊を案内します。あなたは助かってもヤークトティーガーの乗員はまだ水の中ですから」

エリカ「ちょっと待ち………!!?」

ヴェニフーキ「…」













エリカ「何で…あんたが………!!?」




あーあ。バレちゃった。

飛び込んだ勢いでレンズは吹っ飛んじゃったし、濡れたせいで髪のセットは崩れた。

もう髪の毛の色以外は西絹代だ。


867 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/04 17:17:40.25 B1e5jmIx0 810/908


エリカ「何でアンタが聖グロにいるのよ!?」

西 / ヴェニフーキ「あなたに関係のないことなので忘れて下さい」

エリカ「…」

西 / ヴェニフーキ「もしも誰かに話したら………殺しますよ?」

エリカ「…フン! 姿を偽ってコソコソやるような弱虫に何が出来るというのよ!」

西「…あのまま溺れて死ねば良かったのに。そうすればバレずに済んだ」

エリカ「なっ…!」

西「…ん、待てよ…?」











西「今からでも遅くないか」




868 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/04 17:21:12.33 B1e5jmIx0 811/908


エリカ「なっ!!?」

西「…」ジリッ...

エリカ「な、何よ…こっち来ないでよ…!」

西「…」ジャリ....

エリカ「ちょっと! 何するつもりなのよ!」

西「………」ザッ...

エリカ「こ、来ないでって言ってるでしょ…!」

西「…………」スッ...

エリカ「い…嫌ぁぁぁ!!」










西「ばぁーーーーーーっ!!!」バーン!!!










エリカ「ひぃぃッ!!?」ビクッ


西「………なーんてね。殺人犯になるのは御免ですから」

エリカ「…」

西「"なんちゃって邪道"はあなた一人だけで十分ですよ」

エリカ「…」

西「…早くしないと風邪ひきますよ?」

エリカ「………」

西「…あれ?」


エリカ「」ブクブク


西「…」



あーあ。気絶しちゃった。

まぁいいか。

自力で這い上がってここで倒れたってことにしておこう。

しかし水を吐いたり泡を吹いたりと、この人の前世ゼニガメかな?


その直後に駆けつけた救助隊員によって彼女は運ばれた。

ヤークトティーガーも無事に水揚げされ、乗員も全員無事だ。

もっともヤークトの中にいるのはあれだけ活躍したエリート集団だ。どこかの誰かさんみたいに水没如きでくたばったりはしない。


869 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/04 17:23:17.53 B1e5jmIx0 812/908




「なかなかやるわね。あなた」




西「っ!?」

アールグレイ「心配しないで。私よ」

西「…ビックリさせないで下さいよ。心臓に悪い」

アールグレイ「女の子を失神させといてよく言うわね」

西「…」

アールグレイ「そんなことより、その顔でここにいたら不味いわ。川を少し下ったところに車があるから急ぎましょう」

西「恐縮です。…というか試合観てたんですね」

アールグレイ「もちろんよ。黒森峰とご一緒するなんて初めてですもの」

西「…」

アールグレイ「でも残念ね。あなたが本当の聖グロ生だったら歴史的な快挙だったのに」

西「そうでしょうかね?」



そういってるうちにアールグレイさんが停めた車のところまで向かった。

さすがズル賢い人だけあって、真っ赤な車なのに外部からはほとんどわからない位置に停車してある。

…似たような作戦を立てただけになんか悔しい。


870 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/04 17:32:32.14 B1e5jmIx0 813/908


アールグレイ「あ、ちゃんと拭いてから乗ってよ? シート汚れちゃうから」

西「はーい」ブルンブルンブルンブルン

アールグレイ「ちょっと犬みたいにブルブルしない! タオル使いなさい!!」

西「はーい」フキフキ

アールグレイ「………まぁ、」

西「ん?」


アールグレイ「あれで、良かったのよ」


西「…」

アールグレイ「あの試合は99.9%聖グロの勝利だった。あの状態から黒森峰が起死回生の一手を打つのは無理」

西「まあ、その0.01%を私が起こしたわけで」

アールグレイ「ええ。あそこであなたがドーン!と一発やるか、相手が降伏すればそれでおしまいだった」

西「…」

アールグレイ「…けれど、部外者の指示で勝ったところで聖グロには何のプラスにもならない」

アールグレイ「生徒は黒森峰に勝ったって浮かれちゃうし、メディアは殺到するしで、聖グロ全体がおバカさんになってしまうわ」

西「…」

アールグレイ「…って」




アールグレイ「ダージリンが言ってたわ」




西「ダージリン?」

アールグレイ「ええ」


ガチャ


871 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/04 17:36:08.61 B1e5jmIx0 814/908


西「!!」


「ありがとう…絹代さん」


西「ダージリン…ダージリン……!」

ダージリン「嬉しかった…。あなたが私の思いを理解してくれて…」

西「わっ…いま抱きつくと濡れちゃいますよ…!?」

ダージリン「構わないわ。服なんて着替えれば良いだけですもの」

ダージリン「それよりも、寒いでしょう?」

西「…あはは」



試合が終わってもなお溢れ出る興奮作用のある物質が脳内からボタボタと溢れていたせいで…その…あはは………



アールグレイ「私の車の中でおっ始めないでよ? 掃除するの大変

西「するわけないでしょーがっ!!」ガァァァッ

ダージリン「っ…///」カァァ...


872 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/04 17:37:48.60 B1e5jmIx0 815/908


アールグレイ「今は着替えて、その崩れた変装を直すことが優先よ」

西「わかってますって…でも…」

アールグレイ「ん?」


チュッ


ダージリン「もぅ…///」

西「これだけはさせてください。あはは」

アールグレイ「この野郎…見せつけてくれるじゃない………」ワナワナ


ダージリン「練習試合、終わった後でね」

ヴェニフーキ「ええ。行ってきます」



私は車の中で髪を乾かし、服を着替え、再度ヴェニフーキの姿へと戻る。

…ダージリンの尊厳を守ることができて安心した。


~~~~~


873 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/04 17:39:29.40 B1e5jmIx0 816/908



【再び 試合会場にて】


審判員「一同、礼!」


「「「「ありがとうございました!」」」


エリカ「………」

ヴェニフーキ「………」

エリカ「………余計なことを…」


アッサム「お疲れ様。ヴェニフーキ」

ヴェニフーキ「お疲れ様です」

アッサム「あなたには言いたいことが山ほどありますが、まほさんがあなたとお話したいと」

ヴェニフーキ「…」

まほ「教えてくれ、ヴェニフーキ」

ヴェニフーキ「…」

まほ「なぜエリカ達をあそこまで追い詰めたにもかかわらず、降参した?」

ヴェニフーキ「先ほど彼女の前で言いましたが、この戦いは聖グロが望むものではなかった」

エリカ「だからどういうことよ! 私を打ち負かしておいて何が不満

まほ「落ち着けエリカ!!」

エリカ「っ…」

まほ「確かに聖グロは優雅だとか気品といったものを尊重し、騎士道精神に則った戦いをする」

まほ「…だが、あなたの指揮やあの戦術が聖グロの道から外れたものだとは思えん」

まほ「その証拠に、黒森峰は惨敗した…。」

まほ「勝利だけを糧に己を鍛え続けたものが集う黒森峰が…」

ヴェニフーキ「…」

まほ「私には、あなたが何故、あのような判断を下したのか、わからない…」

ヴェニフーキ「黒森峰が、あそこまで追い詰められたのは」









ヴェニフーキ「彼女が本気を出さなかったから」



875 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/07 19:19:07.11 d4Q4cJCQ0 817/908


エリカ「は、はぁぁ!?」

まほ「…」

エリカ「ば、バカも休み休み言いなさい! アンタ相手にどうして手加減してやんなきゃいけないのよ!?」

ヴェニフーキ「黒森峰の戦車をこちらの要塞に誘導し、ティーガーIIを1輌葬るところまでは問題なかった」

ヴェニフーキ「…しかし、黒森峰のパンターが侵入して来たところから違和感を覚えました」

まほ「…違和感?」

ヴェニフーキ「ええ」


ヴェニフーキ「あまりに都合よく事が進みすぎている、と」


まほ「…エリカ、お前本気を出さなかったのか…?」

エリカ「そ、そんなわけないじゃないですか! コイツの戯言に過ぎません!!」

まほ「そうか………?」

ヴェニフーキ「私も最初、あれだけ大見得切っていた逸見さんだけに、手を抜くなど有り得ないと思っていた」

まほ「…」

ヴェニフーキ「…しかし、いざ試合をしてみれば、黒森峰らしからぬ"お粗末"な戦術でした」

エリカ「アンタ……たかだか練習試合で一度勝ったくらいで良い気になるんじゃないわよ……!」

まほ「…」

ヴェニフーキ「…これらのことを鑑みるに、何かしらの理由で"手を抜いた"としか説明がつかない」



ヴェニフーキ「だから、手を抜いた黒森峰相手に勝って有頂天になるのも馬鹿馬鹿しいと思い、あの場で白旗を掲げた」



誠に勝手ながら、この試合はダージリンの尊厳を守るために、最初から勝利以外の方法をとらなければならなかった。

だが、試合を進めているうちに、黒森峰側の様子がおかしいことに気付き、本来の理由とは別に、白旗を揚げる理由が見つかった。

あれほど私を打ちのめそうと意気込んでいた逸見さんが、何故…。


876 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/07 19:21:44.45 d4Q4cJCQ0 818/908



エリカ「い、言わせておけば…!」

まほ「本当に、手加減してないのか?」

エリカ「ですから違います!! 私は断じて手加減など…」


「あの………」

まほ「どうした? 赤星」

赤星「私も…無線で状況を確認していたのですが…」

まほ「ああ?」

赤星「その…」


赤星「ヴェニフーキさんの言う通り、普段のエリカさんとは思えないくらい、杜撰な指揮でした………」


エリカまほ「!!!!」

エリカ「何よ小梅…アンタまで私を罵倒しようっていうの…?」

赤星「ち、違います…!」


877 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/07 19:24:26.25 d4Q4cJCQ0 819/908



まほ「…説明してくれ」

赤星「…はい」

赤星「聖グロから攻撃を受け、私のティーガーIIが動けなくなった後、聖グロ戦車が潜む森林地帯へ一斉射撃をした…ところまでは良かったのですが」

まほ「うむ。もし私があの場にいても恐らく同じことをするだろう…」

エリカ「…」

赤星「その後が問題で、どういうわけか全車輌で森の中に入っちゃったんですよね…」

エリカ「黒森峰は何時いかなる時も真正面から迎え撃ち、圧倒的な火力を以て敵を捻じ伏せて来た。それのどこが問題なのよ?」

赤星「そうなんですが、今回のような場合、2つか3つの小隊に分かれて3方向から包囲するものです」

赤星「実際に、対ゲリラ戦を想定した練習ではそのように指揮していたじゃないですか?」

エリカ「っ…!!」


ヴェニフーキ「…違和感の正体はそれだったのですね」

まほ「…」

ヴェニフーキ「そちらの方がおっしゃる通り、私も黒森峰は聖グロの攻撃網を破壊すべく、複数のルートから攻め入るだろうと予想しました」

ヴェニフーキ「最初のパンター3輌とは別に、他から攻めてくる、と」

まほ「…」

ヴェニフーキ「…そう思っていたら、そのすぐ後ろに駆逐戦車がやってきて、最後にティーガーが来た」

ヴェニフーキ「最初のパンターは囮や斥候だと思ってましたが、その次に来たのが"首の回らない"駆逐戦車だったので『ん?』となりました」

まほ「…」


878 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/07 19:26:48.77 d4Q4cJCQ0 820/908



ヴェニフーキ「それに、あのような起伏の激しい斜面を駆逐戦車に登らせるというのが予想外でした。なかなか無茶をなさると」

まほ「…その通りだ。固定式戦闘室の駆逐戦車はあのような場所に送るのは自殺行為…」

まほ「それに、過重量ゆえに履帯や変速機が破損する原因にもなる。デコボコした斜面を登るとなれば尚の事」

エリカ「う…嘘よ…私は………!」

赤星「………」

ヴェニフーキ「戦術面、運用面における違和感はもとより、こちらはほぼ全方位から攻撃をしたので、全方位を警戒をするはず」

ヴェニフーキ「なので」


ヴェニフーキ「背後を取られるような失態をするはずがない」


エリカ「ッ!!!」

まほ「………」

赤星「………」

ヴェニフーキ「…そういったことから、この違和感が何を意味するのか知るため、白旗をあげた」

ヴェニフーキ「これが、降参したもう一つの理由」



練習試合とは言え、相手は最強の黒森峰だ。

(試合は降伏によって私達の負けだが)その最強がこうもあっさり敗れるというのだから、疑問を抱かない方がどうかしている。

まほさんを見ても、黒森峰の敗北による悔しさより、「何故負けた!?」という疑惑の表情を浮かべている。

違和感だけが残る試合だった…。


879 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/07 19:30:12.32 d4Q4cJCQ0 821/908


エリカ「違う……私は…」

まほ「頼む…エリカ…!!」

エリカ「っ?!」

まほ「一体、何があったんだ!? 誰よりも勝ちにこだわるお前が何故そんなことを……!」

エリカ「違うんです…私は手加減など……」

まほ「嘘をつくな!!」

エリカ「ぇ………」

まほ「お前は黒森峰において最も優れた者と見込んでこの私が選んだのだぞ!」

エリカ「………」

まほ「そして実際、お前は他の追随を許さぬ実力を持っている!!」

まほ「そんなお前が手加減をせずあのような結果となるはずがないッ!!!」

まほ「本当のことを言ってくれエリカ!! 頼むッ!!」

赤星「…私からもお願いします…今後の黒森峰のためにも…!」

ヴェニフーキ「………」

エリカ「……わ…………」




エリカ「私…本当に…手加減なんかしてません………」




ヴェニフーキ「…」

赤星「…」

まほ「………」


880 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/07 19:31:45.29 d4Q4cJCQ0 822/908




まほ「………わかった。もういい」










エリカ「えっ…」

まほ「…こうなるとは思わなかった。これも私の失態なのだろう…」

まほ「お前がこのような状態ならば、隊長を任せることは出来ない………」

赤星「…」

ヴェニフーキ「………」

エリカ「で、では……」


まほ「私が卒業するまでの間、もう一度私が隊長に戻ってお前を叩き直す」


エリカ「!」

赤星「………」

まほ「…残念だ……本当に…」

ヴェニフーキ「?」



たかだか親善試合で黒森峰の命運に関わる重大な決定をさせてしまった。


黒森峰の隊長は逸見さんではなくなった。

再びまほさんが隊長に戻るという。

隊長からの降格…それはものすごく屈辱な事だというのに。


なのに





彼女は一瞬、確かに安堵の表情を浮かべた。



881 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/07 19:35:32.69 d4Q4cJCQ0 823/908



ヴェニフーキ「…そういうこと、ですか」

まほ「ん…」

ヴェニフーキ「何故、逸見さんが手を抜いたか、何となくわかりました」

まほ「!」

エリカ「だ、だから私は手加減なんて

ヴェニフーキ「ええ。あなたは手加減をするつもりなんて微塵も無かった」

赤星「よくわかりません…どっちなんですか?」

ヴェニフーキ「私も、今になってようやく理解した」




ヴェニフーキ「逸見さんは、"無意識に"手加減してたと」




まほ「…無意識…だと?」

エリカ「ハッ! 何度も言わせないでくれるかしら! どうしてアンタごときに手加減するというの!?」

ヴェニフーキ「ええ。あなたの性格上、私を相手に手加減はしてくれないでしょうね」

エリカ「だったら!」

ヴェニフーキ「…でも、あなたの意図に反して、あなたの気づかない所で、あなたは」


ヴェニフーキ「この試合が負けるのを望んでいた…のかもしれない」


エリカ「は、はぁ!?」

赤星「負けるのを望んでいたって…!」

まほ「どういうことだ…?」


ヴェニフーキ「まほさんが去ってしまうからですよ」


まほ「なっ!?」

エリカ「!!!!」


882 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/07 19:41:27.25 d4Q4cJCQ0 824/908


ヴェニフーキ「……さっき、あなたが"もう一度私が隊長に戻る"と言った」

エリカ「や、やめて!!!」

ヴェニフーキ「その時に、逸見さんが一瞬だけ、表情が明るくなった」

まほ「そうなのか、エリカ…!?」

エリカ「そ、そんなわけありません! わ私が降格を宣告されて誰がを喜ぶ人なんてッ!!!」



試合での違和感、"手加減をしたか否か"

当の本人はそれを頑なに否定している。それは彼女の性格を考えれば私でも理解出来る。彼女は"絶対に"手加減しない。

しかし、この試合結果は黒森峰のそれとは程遠く、「手加減した」とでもならない限り説明のしようが無いほどだった

もし手加減をしたとすれば、何故手加減をしたか。


彼女の心の奥底に眠る何かが勝利を妨げた。


もしそうだとしたら、それに起因するものは一つしかない。

そして、それを指摘したら先ほどにも増して取り乱している。

やっぱり、あなたは…



まほ「…エリカはこう言っている。何かの間違いではないのか?」

ヴェニフーキ「確かに、口では強がりを言いますね。逸見さんらしく」

エリカ「そ、そうよ! 手加減なんてするもんですか…!」

ヴェニフーキ「けれど、内面では、西住まほさんが黒森峰から去ることを何よりも恐れていたのでしょう」

まほ「!」

エリカ「ち、違うッ…!!!」

ヴェニフーキ「だから彼女は、そうならないように、まほさんを引き止めるために」





ヴェニフーキ「本人も気づかぬうちに"未熟"を演じるようになった」




883 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/07 19:44:31.74 d4Q4cJCQ0 825/908


まほ「そ、そんな馬鹿な…!」

エリカ「ぁ………ぁ………!」

ヴェニフーキ「自分が未熟であれば、黒森峰を去ることは無いだろうと思って」

まほ「お。おいエリカ…嘘だよな…?」



ノンナさんにとってのカチューシャさん

私にとってのダージリン。

そして逸見さんにとっての西住まほさん。


…皆、"心の支え"を失うことを何よりも恐れている。

そして、失われそうになったとき、ありとあらゆる手段を使ってそれを阻止しようとする。


彼女の"手加減"は、傲慢な性格の裏にあった、紛れもない彼女の"本心"だった。

…となれば今までの厭味ったらしい言動は

生意気な態度は

戦車乗として疑いたくなる人格は




全て、まほさんを引き止めるための潜在的な防衛手段だったのかもしれない…。


884 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/07 19:47:41.46 d4Q4cJCQ0 826/908





エリカ「…私には…やっぱり無理だったんです……」




まほ「エリカ!!?」

赤星「エリカさん…!?」

エリカ「…私は………あなたのように……王者にはなれない……私では…………」

エリカ「………何も無い………」

赤星「そんな…」

まほ「…っ……」



硬い装甲が砕け散った今、彼女の柔らかい本心が剥き出しになった。

その本心は砂で出来た城のように一吹きすれば簡単に崩れてしまうほどに脆い

そして、その砂の城が崩れ去った時



彼女の戦車道が終わる。





エリカ「…私は………ここまでです…………」

まほ赤星「!!!」



これが、私が望んだ結果…………?

私が憎んだのは仮面を被った女だった。

その仮面が外れた今なお彼女を憎むのか…?




彼女の戦車道の終わりはもうすぐ。







― 私は…私は………知波単学園の…戦車道を…………守れなかったんです……




885 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/07 19:53:24.00 d4Q4cJCQ0 827/908







ヴェニフーキ「西住流」







エリカ「えっ…」

まほ「!」



まほさんを繋ぎ止めること、自身の弱さを克服すること

この2つを見越した上で彼女の戦車道を継ぎ足すためにはこれしかない。




エリカ「にしずみ…流…?」

まほ「………」

ヴェニフーキ「まほさんの戦車道における哲学の源流を辿れば西住流に到達する。…そうですよね?」

まほ「…その通りだ。私の戦車道は西住流そのもの」

ヴェニフーキ「自身の戦車道に迷っておられるなら、西住流の門をくぐってみては?」

まほ「!」

ヴェニフーキ「西住流に名を連ね、そこで心身ともに鍛えれば」


ヴェニフーキ「あなたは"まほさんに"なれる」


エリカ「!? 私が…隊長にですって…!?」

ヴェニフーキ「あとは、まほさん同様、何重にも積み重ねていけば良いだけ」

ヴェニフーキ「まほさんを始め、各校の隊長の皆様がやってきたように…」


私やダージリンがやってきたように。



886 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/07 19:57:01.52 d4Q4cJCQ0 828/908




まほ「彼女の言う通りだ…」

エリカ「た…隊長…?」

まほ「私の考えは西住流にある。故に西住流は私の全てと言っても過言ではない」

まほ「だから、お前が西住竜の門をくぐり、西住流に名を連ねることになれば、たしかに私のようになれる」

まほ「いや…私を超える存在になるかもしれん…」

エリカ「!!!」

まほ「もっともお前の実力はさておき、西住流は私の帰る場所だ。西住流にいれば私がそこにいる」

まほ「お前の本当に目指す先に西住流があるのかもしれん」

エリカ「………」



エリカ「………フッ…フフッ…!」


887 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/07 20:00:31.35 d4Q4cJCQ0 829/908


ヴェニフーキ「…」

エリカ「…ヴェニブーキと言ったわね。その助言、いつか後悔するわよ…!」

ヴェニフーキ「ヴェニブーキでなくくヴェニフーキですが。…何故私が後悔を?」

エリカ「私が西住流で実力をつけた時、今度はあなたが膝をつく番よ…!」

ヴェニフーキ「…」

エリカ「邪道の分際で良い気にならないことねっ!」

ヴェニフーキ「言ったでしょう。"邪道には邪道の流儀がある"と」

まほ「…」

ヴェニフーキ「ここであなたがグレて黒森峰が"最弱"にでもなったら寝覚めが悪い」

エリカ「なっ…!」

ヴェニフーキ「それに、私は邪道なので、これ以上邪道が増えると居場所がなくなる」

ヴェニフーキ「なので、コッチには来ないでください。しっしっ」

エリカ「ちょっと! イヌみたいに扱わないでよ!!」

ヴェニフーキ「犬の方が可愛げがあります。わんわん」

エリカ「う、うるさいわよ!!」

まほ「………」

ヴェニフーキ「…そういうことですので。次の試合、楽しみにしております。西住流の逸見さん」

まほ「…先程から気になってはいたが」

ヴェニフーキ「はい?」



まほ「何故、あんたは自らを"邪道"と名乗る?」



888 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/07 20:03:04.83 d4Q4cJCQ0 830/908


ヴェニフーキ「…」

まほ「…」


ヴェニフーキ「教えるつもりはありません。邪道は意地悪なんです」


まほ「むっ…」

ヴェニフーキ「ただ、私は誰がなんと言おうとも王道ではありません」

エリカ「…フン。邪道だか外道だか知らないけど、せいぜい"あの時余計なことを言わなければ…"と後悔しないことねっ!」

ヴェニフーキ「実力をつけてから言ってください。ポンコツさん」

エリカ「なぁっ!? ポンコツですってぇ!!?」

赤星「ぽ…」

まほ「ポンコツ…」


ヴェニフーキ「あなたは別に邪道ではないとは言いましたが、かといってまほさんのような王道でもない」

まほ「…確かに、エリカが私の域に達するにはまだまだだな」

エリカ「た、隊長ぉ?!」

ヴェニフーキ「…ともなれば、"普通"になるのでしょうけど、あなたの脇役っぷりを見ると、ポンコツと言った方がしっくり来る」

エリカ「だ、黙りなさい!!」


889 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/07 20:05:24.30 d4Q4cJCQ0 831/908


ヴェニフーキ「次お会いする時までにポンコツから"馬の骨"に昇格することを期待してます」

エリカ「う、馬の骨ですってぇぇぇ!?!?」

ヴェニフーキ「ひひーん」

まほ「ぐっ…!」プルプル

エリカ「き、貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

ヴェニフーキ「おお。怖い怖い」

エリカ「次会う時にはギッタンギッタンのメッタメタにしてやる!! 絶っっっ対に覚えてなさい!!」

ヴェニフーキ「こんな古典川柳を知ってます?」

エリカ「な、何よ!?」


ヴェニフーキ「"逃げしなに 覚えて居ろは 負けたやつ"」


オレンジペコ「出典が無いので誰かわかりません…」

エリカ「…」

ワッハッハハハハ!!


赤星「エリカさんにもやっとお友達が出来ましたね」

まほ「ああ。そうだな」

エリカ「あんなの友達なんかじゃありません!」

ヴェニフーキ「そうですね。あなたはお友達じゃなく下僕です。ほらポンコツ、おすわり」

エリカ「げ、下僕ぅ!? ふざけんのも大概にしろッ!!!」


ワッハハハハハハ!!!


890 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/07 20:09:06.80 d4Q4cJCQ0 832/908


まほ「…ヴェニフーキ」

ヴェニフーキ「はい?」


まほ「ありがとう…!」


ヴェニフーキ「…憎まれることはあれど、礼を言われるようなことはしてませんが?」

まほ「何だかんだ言って、あんたはエリカを助けてくれた」

まほ「あのままではエリカの弱点を残したまま卒業することになる」

まほ「それによってエリカが潰れてしまえば黒森峰の崩壊、そしてエリカ自身の戦車道が閉ざされてしまうところだった」

ヴェニフーキ「…」

まほ「エリカもまた、私が育てた黒森峰の一つ。それを生かしてくれたこと、心より感謝する」フカブカ

ヴェニフーキ「…」

ヴェニフーキ「どういたしまして」フカブカ


まほ「…まだ私の引退は先になりそうだが、エリカが前に進めるならば以前のような心配はもうないだろう」

まほ「卒業までの間にエリカをしっかり鍛えることにした。黒森峰として、西住流として」

ヴェニフーキ「そうですね。彼女には戦車道だけでなく人としての礼儀をし っ か り 身に付けさせてあげてください」

ヴェニフーキ「もし不逞な真似をしたら、そこら辺にある木の棒で引っ叩けば言うことを聞きます」

まほ「う、うむ…。考えておこう…」



~~~


893 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/10 18:32:45.31 xOZKrxzA0 833/908



【試合が終わって…】



アッサム「………ヴェニフーキ」

ヴェニフーキ「お説教なら後で聞きます。今はそんな気分ではないので」

アッサム「お説教ではありませんわ。黒森峰の皆さんとあなたのやり取り、聞かせてもらいました」

ヴェニフーキ「…」

アッサム「なんだか、私がまだ聖グロに入ったばかりの頃を思い出しました」

ヴェニフーキ「そうですか」

アッサム「ええ。今以上に傲慢だった私を助けてくれたダージリンみたいでしたわ」

ヴェニフーキ「…」

アッサム「きっと彼女は…逸見さんは、またご自身の戦車道を探して歩み続けると思います」

ヴェニフーキ「そうでないと困ります。私のせいで破落戸にでもなったら面倒ですから」

アッサム「ふふっ。口は悪いけどそういうところはしっかりしてますのね」

ヴェニフーキ「"口は悪い"は余分です」

アッサム「…ただ」

アッサム「あなたは何度も自分のことを邪道邪道と言うけれど」

アッサム「私はそれを否定します」


894 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/10 18:39:10.67 xOZKrxzA0 834/908



ヴェニフーキ「…」

アッサム「確かに、あの場面で試合を降参したことには驚きました」

アッサム「…でも、それはあなたの考えや信念に基づいた判断によるもの」

アッサム「他の生徒はこの降参を不満に思っているけれど、それについては私の方から事情を説明しておきます」

ヴェニフーキ「…それはどうも」

アッサム「…」

アッサム「あなた達はよく似ていますわね」

ヴェニフーキ「はい?」

アッサム「性格は違うかもしれませんが、逸見さんと」

ヴェニフーキ「…」

アッサム「そして、優雅に振る舞う一方で、誰よりも芯の強いダージリンとも…」

ヴェニフーキ「………」



アッサムさんの話を聞いて、病院でダージリンから聞いた話を思い出す。

ダージリン自身も一度戦車道を見失いかけた一人だ。

だけど、そこから這い上がってライバルだったアッサムさんに勝ち、そして挫折しかけたアッサムさんを助けた。


私は逸見さんの事など正直どうでも良いと思っている。

だけどあのやり取りを振り返ってみると、確かにダージリンとアッサムさんとのやり取りに似ている。

歴史は繰り返すものなのかな…。


そして、繰り返しになるけど、逸見さんは別に邪道ではないことがわかった。

でも、だからといって別に王道というわけでもない。

ただの"普通"の戦車道を嗜む一学生にすぎない。

西住流の下で心身ともに鍛えれば、恐らくはまほさんのような王道に近づく者になるだろうから、いずれ自分たちの強敵となる。

結果としては敵に塩を送ったことになるが、このまま彼女が凋落してその戦車道に幕を閉じるのも何か嫌だし、まぁ良いや。



そして、もう一つ試合で………というより、ずっと前から見て見ぬふりをしていたけれど…






















                    私こそ本当の"邪道"だ。
 



895 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/10 18:43:08.99 xOZKrxzA0 835/908



ヴェニフーキ「………」

アッサム「どうしました? ヴェニフーキ」

ヴェニフーキ「………」

アッサム「?」



まほさんにとっての逸見さんは、自身が積み重ねてきた血と汗の結晶の一欠片だった。

一切の妥協を許さず、一切の邪道を認めず、高みを目指すために今を歩むまほさんが選んだ一人であり、まほさんの一つの成果。

選んだからには自分の代わり、自分の分身として、黒森峰を率いてもらうため持てる全てのノウハウを伝授したに違いない。


自分の思想を継承させるため

ついに手に入れられなかった栄冠を、彼女に獲得してもらうため

そして、

全国最強といわれる黒森峰を率いる者としての責任・重圧によって彼女が潰されないため。


誰にも気づかれないように、誰よりも努力したまほさんの、誰よりも黒森峰や仲間を想う気持ち。

そんなまほさんの全てを注ぎ込んだ結晶が彼女、"逸見エリカ"だった。


896 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/10 18:47:07.49 xOZKrxzA0 836/908


それを西絹代という聖グロの皮を被った邪道は、まほさんが築いた後継者を、まほさんの努力の結晶を軽々と砕いた。


私が憎んだ"逸見エリカ像"の正体は私自身だった。

ダージリンが汗水流して築いてきたもの蹂躙した反・聖グロ派と全く同じことを私がしていた。


邪道を憎んだ私はもう西絹代とは名乗らなくなった。

名前を捨て、姿を偽り、聖グロに潜んで聖グロを内部から腐食させる邪道になったから。

反・聖グロ派の弱体化工作を阻止しようと聖グロへ潜入したのに、やってることは連中と全く同じ。同じ穴の狢。

そして聖グロだけに飽き足らず、今度はまほさんが築いたものまで破壊しようとした。


行く先々で何かを腐敗させてる。まるで疫病のように。

これを邪道と呼ばず何と呼べばいいのか。

王道にあこがれていた私は、いつのまにか邪道を突き進んでいた。


ヴェニフーキと名乗った瞬間から、私の道は邪道一本だった。


897 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/10 18:49:07.82 xOZKrxzA0 837/908



アッサム「べ、ヴェニフーキ? どこへ行くの?!」

ヴェニフーキ「先に学園艦へ戻っててください。…一人になりたい」

アッサム「で、ですが…」

ヴェニフーキ「私のことなんて気にしないで下さい」

アッサム「………わかりました。あまり遅くならないように」

ヴェニフーキ「…」



ヴェニフーキと名乗ってから時間が経つにつれ、私の中の汚いものがどんどん膨れ上がっていく。


知波単学園を捨てたこと

仲間を捨てたこと

名前を偽っていること

姿を偽っていること

聖グロの皆を騙していること

プラウダやサンダースの皆さんを騙したこと

聖グロの戦車道を腐らせていること

まほさんの戦車道を崩そうとしたこと

逸見エリカを奈落の底へ叩き落とそうとしたこと


ダージリンを助けられないこと

ダージリンへの恩を返せないままでいること。



私は誰にも姿を明かすことはできない。

だから誰にも何も話せない。

問題が解決するまで私の中で溜まる汚物は吐き出されることなく増えていく。


また、薬が欲しくなる。



~~~


898 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/10 18:50:41.54 xOZKrxzA0 838/908



「アンタ、まだいたのね…」


ヴェニフーキ「…」

エリカ「何こんなところで黄昏てんのよ。カッコつけてるつもりかしら?」

ヴェニフーキ「"ご主人様"たちと一緒だったのでは?」

エリカ「…隊長達には先に帰ってもらったわ」

ヴェニフーキ「あなたも愛する隊長と一緒に帰れば良かったのに」

エリカ「余計なお世話よ」

ヴェニフーキ「…」

エリカ「…どうしてもアンタに聞きたいことがあるのよ」

ヴェニフーキ「あなたに話すことなど何もない」

エリカ「…どうして、知波単学園の西絹代がヴェニフーキなんて名乗って聖グロにいるのよ?」

ヴェニフーキ「言ったはず。あなたには関係ないと」

エリカ「偵察をするにしたら随分大規模だし、アンタの顔を見てると偵察以上に深刻そうな物が見える」

ヴェニフーキ「…」



899 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/10 18:51:50.84 xOZKrxzA0 839/908


ヴェニフーキ「あなたに言えることは」

ヴェニフーキ「余計な詮索はするな、そして口外するな。…それだけ」

エリカ「っ…」

ヴェニフーキ「もしも他の人が私の正体を特定したら、私は真っ先にあなたを疑います」

ヴェニフーキ「…その時はきっと」


西絹代「あなたを相当酷い目に遭わすでしょうね?」ギロッ


エリカ「うっ…」

ヴェニフーキ「…さっさと帰ってください」

エリカ「あ、アンタは何のために戦ってんのよ?!」

ヴェニフーキ「自己満足、ですよ」

エリカ「………」



"愛する人を守るため"なんて言えるはずがなかった。

私はダージリンのために戦っている。それは確か。

…だけど、私の戦いが本当にダージリンの為にになっているかはわからない。


それどころか


900 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/10 18:53:52.66 xOZKrxzA0 840/908


エリカ「…質問を変えるわよ」

ヴェニフーキ「しつこいですね。まほさんに嫌われますよ?」

エリカ「大きなお世話よ。…あの突撃馬鹿だったアンタがどうして聖グロに勝ったり、みほに助言出来たり、私に、………そこまで強くなれたの?」

エリカ「何がアンタをそこまで強くさせたの?」

ヴェニフーキ「まほさんやみほさんと同じ」

エリカ「隊長やみほと?」

ヴェニフーキ「戦わないといけない理由があった。勝たないといけない理由があった」

ヴェニフーキ「…それだけ」

エリカ「………」

ヴェニフーキ「もう満足ですか? 用がないのならどうぞお引き取りを」


エリカ「…」サッ

ヴェニフーキ「…」

エリカ「連絡先。交換しなさい」

ヴェニフーキ「あなたと何を連絡しろと?」

エリカ「…アンタって融通の聞かない女ね」

ヴェニフーキ「何とでも言って下さい」

エリカ「アンタは私が倒す邪道よ。そんじょそこらでヘコタレてもらっては困るわ」

ヴェニフーキ「…」

エリカ「…」

ヴェニフーキ「…仕方ない」


901 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/10 18:55:37.02 xOZKrxzA0 841/908



エリカ「最初からそうすれば良いのよ。頑固ね」

ヴェニフーキ「下着みたいに隊長様にピッタリ張り付く誰かさんには言われる筋合いはありません」

エリカ「なっ…!」

ヴェニフーキ「いや、あなたのことだから下着をごそっと盗んで…」

エリカ「ンなことするわけないでしょうがっ!!」

ヴェニフーキ「…でも、まほさんのことを想って夜な夜な自室で一人…」

エリカ「何で知っ、あ゛っ!!」

ヴェニフーキ「…ポンコツ」

エリカ「い、今のは誰にも言うんじゃないわよ! 言ったら殺すからねッ!!」

ヴェニフーキ「好きな人を想って劣情を催すことは誰にでもあることですけど?」

エリカ「大きなお世話よ!!」

ヴェニフーキ「やれやれ」



腐れ縁というのか、犬猿の仲というのか。

逸見さんと連絡先を交換した。

…一体、何を連絡すれば良いんだ。

路上に落ちてる犬のフンでも撮影して送りつけてやるか…?



~~~



902 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/10 18:58:21.03 xOZKrxzA0 842/908



逸見さんが帰ってからも、私はひとり高台で連絡船が聖グロ学園艦へ向かうのをぼうっと眺めていた。

日が沈みかけ、涼しい風から肌寒い風へと変わる。

もうすぐ冬がやってくる。


私は"ヴェニフーキ"を演じて、人の血と汗の結晶を砕こうとした。

無鉄砲な憎悪が祟り、余計な真似をした。

考えなしに突っ込んでバカを見る。そして多くの人に不快な思いをさせる。

…振り返ってみると私はエキシビションマッチ戦の時から何一つ変わってない。

そうした現実から逃げるように、姿と名前だけ偽ってまた暴走する。

走れば走るほど、王道とは真逆の道を進み続ける。


邪道を走れば王道に近づけるのかな…?



「ヴェニフーキさん」



…そう思ったら今度は別の人が私を呼ぶ。

誰とも関わりたくない時に限って色んな人と出会ってしまう…。


903 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/10 19:00:41.52 xOZKrxzA0 843/908



ヴェニフーキ「………今日はカチューシャさんはいないのですね?」


ノンナ「同志カチューシャは試合後にお休みになられたので、部下のクラーラに任せています」

ヴェニフーキ「退屈な試合をお見せして申し訳ないです」

ノンナ「いいえ。あなたの戦術は我々プラウダの包囲戦とも似通っており、大変参考になりました」

ヴェニフーキ「…。ご用件は?」

ノンナ「少し、お話がしたいと思いまして」

ヴェニフーキ「申し訳ありません。今は一人で居たい」

ノンナ「…。非礼を承知ですが、先程の逸見さんとの会話、聞かせてもらいました」

ヴェニフーキ「…あなたのような方も盗み聞きをなさるんですね?」

ノンナ「自分でも何故このような事をしたか、我を疑いたくなります」

ノンナ「…ですが、あなたの事が気になり、我を忘れてしまいました」

ヴェニフーキ「…」



ノンナ「………あなただったのですね。絹代さん」



ヴェニフーキ「…」

ノンナ「病院の前で"水飴"の話をした日が遠い昔のように思えます」

ヴェニフーキ「意外ですね」


904 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/10 19:04:13.73 xOZKrxzA0 844/908


ノンナ「意外?」

ヴェニフーキ「私があなたの前に現れた時には既に、正体がバレていると思っていました」

ヴェニフーキ「事を察して下さった為、あえて公言しなかったものと」

ノンナ「私にそこまで優れた洞察力はありません」

ヴェニフーキ「…」

ノンナ「…突撃が全てといっても過言ではないあなたに、練習試合でヴェニフーキと名乗ったあなたに、私のIS-2を撃破されたことは今でも驚いてます」

ノンナ「その上、ヴェニフーキの正体が絹代さんだったと知ってなお」

ヴェニフーキ「…」

ノンナ「そして、何より…」


ノンナ「明朗快活なあなたが豹変して、悲しい目をするようになったことが…ショックでした…」


ヴェニフーキ「…」

ノンナ「昔のあなたを知っているからこそ、あなたの豹変がにわかに信じがたいです」

ノンナ「今でもヴェニフーキという方は、絹代さんとは別人なのではと半信半疑なほどに」

ヴェニフーキ「…きっと、"ヴェニフーキは"別の何かだと思います。これが私の本性ですよ」

ノンナ「…」


905 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/10 19:06:58.94 xOZKrxzA0 845/908


ヴェニフーキ「私は姿や名前を偽って、あなたやカチューシャさんを騙した」

ヴェニフーキ「…いや、今も騙し続けてる」

ヴェニフーキ「私があなたの立場だったら…家族のように信頼を寄せるパートナーが騙されたら、間違いなく激昂するでしょう…」

ノンナ「それは止むに止まれぬ事情があったから、そうせざるを得なかったのでしょう」

ノンナ「あなたの"ただならぬ"豹変が、それを語っています」

ヴェニフーキ「…」

ノンナ「あなたが、何を抱えているのかはわかりません」

ノンナ「ですが、カチューシャへの恩もありますし、私の個人的なこともあります」


ノンナ「どうか、あなたのお力になりたい…」


ヴェニフーキ「…」

ノンナ「…」

ヴェニフーキ「…でしたら」

ノンナ「はい」




ヴェニフーキ「この事は忘れてください」

906 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/10 19:10:29.67 xOZKrxzA0 846/908


ノンナ「っ…!」

ヴェニフーキ「…それが、最高の"助け"です」

ノンナ「…」

ヴェニフーキ「これは私だけの戦いです。第三者を巻き込みたくはない」

ヴェニフーキ「なので、私は自分がこうしている理由を、第三者に話すことは無いですし、助けを乞うこともありません」

ノンナ「人間一人が出来ることは限られています」

ヴェニフーキ「それでも、自分の力で何とかする。無理ならそれまで。……そう思っています」

ノンナ「…」

ヴェニフーキ「…だから、忘れて下さい。私のことも、西絹代のことも」

ノンナ「それは不可能です」

ヴェニフーキ「何故?」

ノンナ「…あなたを見ていると」


ノンナ「まるで、自分が捨てられているような気分になるのです」


ヴェニフーキ「……。気のせいですよ。私は薄汚い生ゴミです。あなたのような人格者とは比較にならない」

ノンナ「いえ。立派だとか下賤だというものは関係ありません。これは私の本能がそう語りかけるのです」

ヴェニフーキ「…」


907 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/10 19:23:28.56 xOZKrxzA0 847/908


ノンナ「私が今、あなたの力となれなかったならば…」

ノンナ「死ぬ間際まで後悔し続けることになる」

ヴェニフーキ「…」

ノンナ「私に、出来ることはありますか?」

ヴェニフーキ「………」

ノンナ「ここでは何ですから、プラウダに行きませんか?」

ノンナ「そこでゆっくり、話し合いましょう」

ヴェニフーキ「私は英語がてんで駄目ですので、ロシア語は尚さらです」

ノンナ「ふふ。構いませんよ。モスクワは一挙に建設されたのではありません」

ノンナ「少しずつ、打ち解け合いましょう…」スッ

ピタッ

ヴェニフーキ「っ…!」

ノンナ「あなたは様々な悩みを抱えておられる方…」

ノンナ「ですが、鷹のような鋭い瞳の奥には」

ノンナ「屈強な戦士が持つ固い意思と、聖母のような優しい温もりを感じます」

ヴェニフーキ「ノンナさん…?」

ノンナ「絹代さん………Любо












「あら? 東側からのスカウトかしら?」


908 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/10 19:31:03.31 xOZKrxzA0 848/908


ノンナ「!」

ヴェニフーキ「…」

アールグレイ「Prynhawn da. Ms. Comiwnyddion」

ノンナ「…Добрый вечер. …Капитализма?」

アールグレイ「自己紹介が遅れましたわ。聖グロリアーナ女学院・OGのアールグレイと申します」

ノンナ「プラウダ高校のノンナです。OG…ですか」

アールグレイ「他校の生徒さんが我が校の生徒に"お声"をかけているようで?」

ノンナ「彼女が、ヴェニフーキさんが悩んでおられるので、手を差し伸べた次第です」

アールグレイ「お力添え感謝致します。…ですが、これは我が校の問題でしてよ?」

アールグレイ「他所様が介入すべき事柄ではありませんわ」

ノンナ「学校の違いなど些細なことです。目の前に困った仲間がいるのに助けない理由はありません」

ヴェニフーキ「…」

アールグレイ「素晴らしいお心がけですわ。我が校の規範にしたい程に」

アールグレイ「…ですが、やはり"境界線"は明確にしておかなければなりませんわ」

アールグレイ「"行く場所進む場所が自分の領域"というわけにはいきませんもの」

ノンナ「"部屋で縮こまっているだけ"では問題は解決しません。悪化するだけです」

アールグレイ「そのお部屋に連れ込もうとした理由は?」

ノンナ「先程述べた通りです」

アールグレイ「そう。困った仲間に手を差し伸べる…ね?」

ノンナ「ええ」

アールグレイ「そんな心優しい人が」





アールグレイ「どうのようにして猛禽類のような目をするものでしょう?」


909 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/10 19:34:28.48 xOZKrxzA0 849/908


ノンナ「何の事でしょう…?」

アールグレイ「…フフッ」

ノンナ「何が可笑しいのですか?」

アールグレイ「ヴェニフーキ。向こうに車を置いてあるから先に行ってなさい」

ヴェニフーキ「…かしこまりました」

スタスタ....


ノンナ「べ…絹代さん…!」

...ピタッ

ノンナ「っ…」



西「ありがとうございます。ノンナさん」



ノンナ「絹代さん……どうして…?」

西「…私には、やらないといけない事があるんです」

西「その為に、他人も自分も騙さないといけない」

西「…だから、この事は無かったことにしてください」

ノンナ「あなたには学校も仲間もいます…だから…!」

西「お願いします!」

ノンナ「ぐっ…!」

西「…ノンナさんにはカチューシャさんがいらっしゃいます。大切な人…ですよね?」

ノンナ「カチューシャは私の大切な同志です! そして絹代さん! あなたも大切な

ヴェニフーキ「お先に行っております。アールグレイ様」

ノンナ「ぁ…ぁ………!」

アールグレイ「こういうことなの。御免なさいね?」

ノンナ「う…嘘だ……」

アールグレイ「いい事を教えてあげる」









アールグレイ「あの子、もう"大人"なの」ニコッ



910 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/10 19:44:24.96 xOZKrxzA0 850/908



ノンナ「!!!」


アールグレイ「ふふっ。もう恋に恋する乙女では無いし、他人(ひと)の身体の味も知っている」

アールグレイ「どこを舐めたら相手が悦ぶかを知ってるし」

アールグレイ「快楽の蕾がほころびる様子をまじまじと眺める人がいる」

アールグレイ「あの子の牝の顔を知る人がいる」

ノンナ「…ッ……!!」

アールグレイ「それにね?」



アールグレイ「あの子の身体には、もう別の人の血が流れているのよ」フフッ



ノンナ「…なっ!!」

アールグレイ「…あらあらいけない。私としたことがつい話し込んでしまいましたわ」

ノンナ「…外道め……!」

アールグレイ「あの子も最初そんな顔をしていたわ」

アールグレイ「怒りで何もかも焼き尽くしちゃいそうな顔」

アールグレイ「そんなあの子が私に助けを求めたから、私はあの子に協力することにした」

ノンナ「これは協力なんかじゃない! 奴隷ですッ!!」

アールグレイ「解釈は人それぞれですわ。それでは、御機嫌よう」

ノンナ「……ぐ…っ…………」


913 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/12 19:55:53.46 w3WCBNpe0 851/908




~~~~




【車の中】



ガチャ バタン


アールグレイ「お待たせ。それじゃ行きましょうか」

ヴェニフーキ「…」

アールグレイ「どうしたの?」

西 / ヴェニフーキ「あそこまで言う必要ってあったんですか?」

アールグレイ「聞いていたのねこの子ったら…」

西「ええ」

アールグレイ「この事を知られると困るのよ。だから」

西「だからといって、わざわざアールグレイさんが"悪役"になる理由は無いのでは?」

アールグレイ「あらら。見抜かれちゃったわね」

西「わかりますよ。どうせアールグレイさんのことだから」


西「"絹代さんはOG会に縛られ、服従を余儀無くされている…"」


西「…そういう印象をノンナさんに与え、私への意識を逸らそうとしたのだろうと」

アールグレイ「協力してもらう以上、お仕事が終わったあとの生活を保証するのが筋よ?」

アールグレイ「あなたの言葉を借りるなら…」


アールグレイ「"邪道には邪道の流儀がある"ってね?」

914 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/12 20:29:32.27 w3WCBNpe0 852/908


西「…」

アールグレイ「これで良いのよ」

西「それであなたが全部抱え込んで

アールグレイ「それがこの件に対する私の責任と覚悟」

西「…」

アールグレイ「やってる事がやってる事ですもの。綺麗事で済む話なんてそうないわ」

西「…」

アールグレイ「それに、あなたは"愛する人"を守るために戦うのだから、他の人がどうこうなんて言ってたら嫉妬されるわよ?」

西「…ダージリンは?」

アールグレイ「自宅よ」

西「…」

アールグレイ「人は誰しも孤独なの。王道を進もうが、邪道になろうが」

西「…わかってますよ。そんなことくらい」

アールグレイ「それでもあなたのように悩むのだから、人間が優れた生き物だってわかるわね」

西「私としては悩みたく無いですけどね…」

アールグレイ「それで良いのよ。何とも思わなくなってしまったらそれこそ人間じゃなくなってしまう」

西「…」

アールグレイ「…でも、確かにそういった私情は"良い仕事"の妨げになるわ」

アールグレイ「だから、悩みを忘れるためには」

西「仕事に集中しろ、でしょう?」


915 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/12 20:32:50.03 w3WCBNpe0 853/908


アールグレイ「そうよ。ちゃんとわかってるじゃない」

西「…また、何か新しいことでも?」

アールグレイ「ええ。…ダージリンのお家に着くまでには終わる内容よ」

西「…」

アールグレイ「あなたがこの間設置した盗聴器、覚えてる?」

西「ええ。何か拾ったんです?」

アールグレイ「当たり。しっかり会話が録音されてたわよ」

西「どんな会話ですか?」

アールグレイ「慌てない。今聞かせてあげる」


カチッ

ザーー



『ご苦労様です。グリーン、そして皆さん』

『お疲れ様です。アッサム隊長』

『何か飲みますか。…といってもあなた達はコーヒーでしたわね』

『ええ。いつもすいません』

『良いわよ。ちょうどコーヒー豆が余ってたので』ゴソッ

『そのコーヒー、なかなか美味しいんですよね。こう、芳醇な香りといい、濃厚なとろみといい…』

『私は紅茶の方が好きですわ』

『あはは。私たちぐらいですからね。紅茶でなくコーヒーを好んで飲むのは』

『ふふ。好みもまた個性でしてよ』



西「! この声…」

アールグレイ「アッサムとGI6よ」


916 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/12 20:38:48.87 w3WCBNpe0 854/908



アッサム『…それで、何か掴めましたの?』

グリーン『我々はブラックプリンス乗員として、彼女の動向を観察していましたが』

グリーン『先日の知波単学園との練習試合時に言った"聖グロを変える"という言葉。それが気になります』

アッサム『…』


西「私がアッサムさんが白か黒かを判断するために言ったやつですね」

アールグレイ「ええ。見事に議題に上がってるわ」



アッサム『あの子の"変える"が何を意味するかはわかりません』

アッサム『…しかし、行動を見ると、必ずしもそれが悪いとは思えませんでした』

グリーン『ええ…。寡黙な方かと思いきや、言う時は刀で一刀両断するかのようにバッサリと言い切りますね』

ランサム『何を考えているのかわかりませんが、一定の理念に基いての行動に見えます』

モーム『筋は通っています』

フレミング『私も皆さんに同意です』



西「…モームさんって喋るんですね」

アールグレイ「喋るわよ?」

西「私がいる時は一言もしゃべらないのに…」

アールグレイ「それはお気の毒様」

西「なんかちょっと悲しいです」




アッサム『あなた達も異口同音に語るように、あの子、ヴェニフーキの考えは私もわかりません』

アッサム『…ですが、私はあの子が悪い子だとは思いません』


西「………」

アールグレイ「良かったわね。あなたの予想が的中よ」

西「ええ」


917 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/12 20:47:08.46 w3WCBNpe0 855/908



アッサム『あの子は確かに無口ですし表情もほとんど変えない』

アッサム『一方で何かを言う時はバッサリと言う。笑えないジョークも含めて』

グリーン『あはは。たしかに彼女のジョークは笑えないものが多いですね』

ランサム『おかげで密閉された戦車内が涼しくなります』

モーム『ちょっと寒いくらいです』

アハハハハハ!



西「…今度会ったら17ポンドの的にしてやる」ワナワナ

アールグレイ「やめなさい」

西「何がGI6だ! "愚痴タレ陰湿シックス"にでも改名しろばーか!!」



アッサム『考えは読めないけれど、その行動からは堅牢なる意思を感じます』

グリーン『同意です。一定の信念に基づいた行動だと見ています。その信念が何なのかはさておき』

アッサム『だからこそ気になるのです。あの子が何故あんな悲しい顔をするのか』

アッサム『何故、OG会とやり取りをするのか』

アッサム『何故、自らを邪道などと呼ぶのか………』

GI6『……』



西「こんな事やってるわけですからね。邪道と呼ばない方がおかしい」

アールグレイ「私からするとあなたの邪道なんて甘っちょろいわ」

西「アールグレイさんは邪道というより助平ですからね」

アールグレイ「拳が届く距離でよく言えるわね…」

西「事故を起こしては困るので片手運転はご遠慮ください」

アールグレイ「言ってくれるじゃない」

西「…」


918 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/12 20:50:38.07 w3WCBNpe0 856/908


アールグレイ「これで、アッサム達がどちら側なのかがわかったわね」

西「ええ。盗聴器さまさまです」

アールグレイ「ただ、アッサムが反・聖グロ派じゃないとわかったことで問題が増えたのよ」

西「…ええ、結局は"誰が内通者か"がわからなくなってしまったわけですからね」

アールグレイ「それもそうだけど、その問題というのがこの先のやり取り」

西「ん…」



グリーン『………わかりました』

アッサム『えっ?』

グリーン『彼女が邪道を名乗るのなら、我々も邪道として、その真意を探りましょう』

アッサム『どういうことですの…?』


グリーン『彼女の部屋に盗聴器を仕掛けます』


アッサム『!! グリーン! そのような事をしてはなりません!』

グリーン『自分が何をやっているかは重々承知しています』

グリーン『…ですが、これも聖グロの為。前隊長のような事はもう二度と起きて欲しくないので』

アッサム『だ、だからといって盗聴だなんて許しませんわ!』

グリーン『これは私たちのGI6としての信念です』

アッサム『うっ…』

グリーン『問題がなければ速やかに撤去します。我々が知るべきことは、彼女が白か黒かだけです』

アッサム『…』

グリーン『これは私がGI6の部長として、この問題を解決するための戦いでもあるんです…どうか』

アッサム『………わかりました』

グリーン『ご理解感謝いたします』




西「!!」

アールグレイ「今のやり取りが何を意味するかはわかったわね?」

西「ええ…」



西「盗聴器を仕掛けたのはGI6じゃなかった…」


919 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/12 20:56:04.63 w3WCBNpe0 857/908


アールグレイ「そうよ。アッサムやGI6とは別の誰かが、あなたのことを探ろうとしている」

西「…結局、敵が増えただけでしたね………」

アールグレイ「違うわ。前に進んだから別の壁が見えただけ」

アールグレイ「決して停滞しているわけではない」

西「そうでしょうか…」

アールグレイ「ひとまず、アッサムが"内通者"じゃないことがこれでわかった」

アールグレイ「だから、アッサムやGI6を味方につけなさい」

アールグレイ「それだけであなたは有利になれるわ」

西「そうですね」


アールグレイ「ただし、ヴェニフーキとして」


西「…ですよね」

アールグレイ「当たり前じゃない」

西「なんだかモヤモヤした気分です」

アールグレイ「汚い例えね…」





アールグレイ「…さて、着いたわよ」

西「ええ。ありがとうございます」

アールグレイ「さっき言ったことは忘れないで頂戴。あと、ちゃんと回収するのも忘れないで」

西「わかってますよ」

アールグレイ「それじゃ、ご機嫌よう」


ブロロロロロロ.....



最初からアッサムさんは白だとわかってた。

それは今日までの彼女の言動を見ればだいたい予想できる。

ただ、"白である"ということを裏付ける証拠が無かったから今日まで疑っていた。


これでようやくアッサムさんやGI6の面々に対し疑心暗鬼にならずに済みそうだ。

そう考えるとたしかに一歩だけ前に進んだと思う。ほんとに一歩だけど。


問題はやはり"じゃぁ犯人は誰なのか"にある。

わざわざ盗聴器まで仕掛けるような人だ…。



~~~



921 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/13 19:28:34.50 sPC1ktF60 858/908



【ダージリンの家】



西「ただいま。ダージリン」

ダージリン「お帰りなさい。あなた」

西「ふぅ…」

ダージリン「お疲れ様。本当に、ありがとう」

西「どう致しましてでございます。無事にダージリンの尊厳を守れて良かったですよ」

ダージリン「あなたが"降参"って言った瞬間、心臓が止まるかと思うくらい嬉しかったわ」

西「あはは」

ダージリン「もちろん、負けたことにじゃなく、私の考えを理解してくれたってことよ?」

西「わかってますよ」

ダージリン「ふふっ。ありがとう絹代さん。愛してる」ギュッ

西「私も死ぬほど愛してますよ」

ダージリン「…死んだら嫌よ」

西「あはは」ソワソワ

ダージリン「どうしたの?」

西「その…ダージリニウムが切れ掛かってきたので…」ギュー..

ダージリン「何よダージリウムって」

西「私の燃料です」

ダージリン「そう。じゃぁ私はニシニウムを補充しますわね」フフッ

西「キヌニウムにしてくださいよそこは」

ダージリン「はいはい」フフッ


~~~


922 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/13 19:31:40.34 sPC1ktF60 859/908



西「…ってことがありました」


ダージリン「やっぱり、アッサムは共謀者ではなかったのね…」

西「ええ。あの人は頭は良さそうですけど、悪さをする度胸というものは無さそうですし」

西「戦車道通じてやり取りしていたら、『ああ、この人じゃないな』ってわかったんです」

ダージリン「そう?」

西「ええ。それを"確定"させるための"もうひと押し"が無かったので、アールグレイさんから借りた盗聴器を隊長室に仕掛けました」

ダージリン「そんなことまでしたの…?」

西「私も驚きましたよ。そこまでするのかと」

西「…まあでも、その結果アッサムさんやGI6の面々は内通者ではないと分かったんですよね」

ダージリン「そうなると…」

西「ええ。"犯人は他にいる!"ってやつですね…」

西「私の部屋にご丁寧に盗聴器まで仕掛けちゃう犯人が…」

ダージリン「ええっ!?」

西「わっ!?」

ダージリン「あなた盗聴されてたの!?」

西「あれ? 言いませんでしたっけ?」

ダージリン「言ってないわよそんなこと一言も!」

西「あれぇ…そうでしたかな…」

ダージリン「それでどうなったのよ!?」


923 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/13 19:35:06.75 sPC1ktF60 860/908


西「そのままアールグレイさんの指示のもと、ジャケットごとクリーニングに」

西「きっと今ごろ洗濯機のなかでモミクチャになってるでしょう」

ダージリン「………」

西「なので、盗聴器と一緒に探知機も貸して貰ったんです。ほら」

ダージリン「…古い携帯電話みたいね」

西「ええ。曰くこういう形の方が怪しまれないと」

ダージリン「確かに」プイッ

西「…怒ってるんですか」

ダージリン「別に」

西「怒ってるじゃないですか…」

ダージリン「あなたにじゃなく、犯人に」

西「…」

ダージリン「人様の恋人のプライベートを盗聴するだなんて最低よ」

西「そうですね。とんだ助平です」

ツンツン

ダージリン「って何やってるのよ助平」

西「あはは。ダージリンの身体に当てたら何か出てこないかなぁ~って」

ダージリン「…何も出てくるわけ無いでしょう」

西「あはは」ツンツン

ダージリン「胸をつつかないで下さるかしら」

西「良い弾力です」ツンツン

ペシッ!

西「いだっ!」

ダージリン「バカなことしないの。壊れたらどうするのよ」

西「むぅ」

ダージリン「………ほら」ギュッ


924 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/13 19:36:31.49 sPC1ktF60 861/908


西「ん…」

ダージリン「どうせ、あなたのことだから」

西「…む。人を性欲の塊みたいに言わないでください」

ダージリン「違うのかしら? 会うたびに必ず裸にされるけれど?」

西「…」

シュルル

パサッ

ダージリン「ふふっ…」

西「…ダージリンのばか」

ダージリン「はいはい」

西「っぅ…ど…何処に指入れてるんですか…!」

ダージリン「あなたがこの間私にしたことを真似してるだけよ?」

西「ぐぅ…」

ダージリン「まさか、あなたがお尻に指を入れちゃうなんて思わなかったもの」フフッ

西「…っ…私は……中には入れて……ぅぁ………」

ダージリン「………気持ちいい?」ボソッ

西「………変な……気分です……」

ダージリン「そう。…だいぶ柔らかくなってきたわね? もっと入るかしら?」

西「!? っぅ…あぁぁ……だ、だめ………!」

ダージリン「んふふっ…絹代さん…」

西「…あぁぁ……!」


ダージリン「だ・い・す・き」ボソッ



………その後のことはよく覚えていない。



~~~


925 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/13 19:38:49.18 sPC1ktF60 862/908


西「………」

ダージリン「うふふっ。気持ち良かった♥」

西「あは…は…し、死ぬかと思いました…」ハァ..ハァ...

ダージリン「絹代さん、ずっとあんあん喘いでいたものね」

西「え…」

ダージリン「覚えていないの?」

西「え、ええ…」

ダージリン「そう…。虚ろな目をして涎を垂らしながら」

西「え…?」


ダージリン「"中じゃなきゃ嫌…"とか」

ダージリン「"ダージリンの赤ちゃん産ませて……"とか」


ダージリン「言ってたのよ? 絹代さん♥」ウフフ

西「…」



西「はぁぁ!!?」



ダージリン「うふふ♥」

西「そんなの嘘に決まってます。私がそんな事言うなんてありえない」

ダージリン「あまりに可愛かったから録音しちゃったわ♪」

西「え」

ダージリン「あなたの持ってるボイスレコーダーで♪」

西「え、え」



カチッ

『あぁんっ……ぁぁぁ……!』



西「なっ!!?」

ダージリン「ふふっ♪」



926 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/13 19:40:52.28 sPC1ktF60 863/908



『だーじりん…お願い………もっと……』

『……嫌です……ダージリンのじゃなきゃ嫌ぁ………』

『おねがい……ダージリン……ダージリン………ぁぁぁぁ………!』




ダージリン「ふふふっ。私だけが知ってる"乙女"な絹代さんねっ♪」

西「」

ダージリン「どうして絹代さんはこんなにも可愛いのかしら」ウフフフフ

西「う」

ダージリン「う?」


西「うわあああああああああああああああああ!!!」


バサッ!!!


ダージリン「ちょ、ちょっと! 布団に包まらないで出てきなさい!」

西(布団)『嫌です! もう絶対ここから出ません!!』

ダージリン「そんな引きこもりみたいなこと言わないの」

西(布団)『引きこもりでも何でもいいです! も、もう恥ずかしくてダージリンの顔見れない………』



あ、あ…あんなこと言ってたのか私は!?

たしかにその…気持ちよかっ…いや、そうじゃなくてっ!!

うわああああああもうダージリンの顔見れない!!

うわあああああああああああああん!!!!


927 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/13 19:44:17.24 sPC1ktF60 864/908


ダージリン「そんなに落ち込むことないわよ」

西(布団)『そりゃ聞く方はそう言えますよ。私は…私は…うぁぁぁぁん!!』ゴロゴロ

ダージリン「ちょっと転がらないの…ってそっちは…」

ドテッ!

西「うがっ!?」

ダージリン「だから言ったのに…」

西「うぅ…」ヒリヒリ

ダージリン「ほら。いつまでもしょげてないで起きなさい」

西「…誰にも言いませんか?」ジトー

ダージリン「言うわけ無いでしょう」

西「…何故そう言い切れるんです?」

ダージリン「自分の性行為を他人に話す恥知らずが何処にいるのかしら?」

西「…」

ダージリン「…怒るわよ?」

西「まだ何も言ってないじゃないですか」

ダージリン「それにね? "乙女"な絹代さんは私だけのものにしたいの」ウフフ

西「む…」

ダージリン「ほら、だから早く起き上がりなさい」

西「恥ずかしくて死にそうです。いや、いっそ殺してください…」

ダージリン「私を人殺しにしないで頂戴」

西「む…」


928 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/13 19:51:08.15 sPC1ktF60 865/908


ダージリン「心と身体を快楽に支配されたら誰だってあんな風になってしまうものなのよ?」

西「…ダージリンもですか?」

ダージリン「ええ。絹代さんが欲しくておねだりしちゃうわ」フフッ

ダージリン「"絹代さん、私のモノになって…"ってね?」

西「…私の何が欲しいのです?」

ダージリン「全部よ?」

西「…なら全部食べてください。肉も腸(はらわた)も骨も残さずボリボリと。余生はダージリンの栄養となって過ごしますので」

ダージリン「怖いこと言わないで頂戴」

西「ははは……」チラッ


西「……ん?」

ダージリン「?」


西「あんなのありましたっけ?」


ダージリン「えっ? …これかしら?」スッ

西「ええ。前来た時には無かったような…」

ダージリン「西グロの方から頂いたのよ。このベレー帽」

西「西グロから?」

ダージリン「ええ。だけど私は被り物はちょっと…」

西「そうなんですか」



929 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/13 19:54:35.28 sPC1ktF60 866/908



ダージリン「…」ヒョイ

ポフッ

西「んっ、」

ダージリン「ふふ。私よりもあなたの方がずっと似合うわ」

西「…そうですか?」

ダージリン「ええ。白銀の髪とマッチしているわよ。気に入ったらその帽子あなたにあげるわよ」

西「…でも、元はダージリンへとプレゼントされたものでは?」

ダージリン「そうだけれど…。被ってくれる人が使う方が帽子もきっと喜ぶと思うの」

西「ふむ…。ではではこれを被って聖グロに行きませう」

ダージリン「ふふっ。良いと思うわよ」

西「有難く頂戴します」

ダージリン「でも、お部屋の中で被るのはマナー違反ですわよ?」

西「心得ております」



…ということで、ダージリンから帽子をもらった。

柔らかくて平らで丸い帽子だ。ダージリン曰く"アーミーベレー"と呼ぶそうだ。

真っ黒な帽子だけど、楕円形で琥珀色の徽章がついている。

被った姿を鏡で見てみた。悪くはない…と思う。多分



~~~


931 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/15 22:45:26.28 qLKCdNm70 867/908



ダージリン「って、絹代さん!」

西「ど、どうしました?」

ダージリン「首!」

西「え、クビ?」

ダージリン「前より酷くなってるじゃない!」

西「そうですか?」

ダージリン「そうよ! 掻いちゃ駄目って言ったのに!」

西「…」



全く気づかなかったけど、首筋がボロボロになってる。

…おかしいな。掻き毟ってなんかいないはずなのに。

寝ているときに無意識に掻いちゃってるのかな…???


932 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/15 22:46:38.97 qLKCdNm70 868/908


ダージリン「ほら、動かない」ヌリヌリ

西「ん…」

ダージリン「全くもう。痒いなら掻かないでお薬を塗りなさい」

西「…そうします」

ダージリン「はいこれ。あなたにあげるから、定期的に塗っておきなさい」サッ

西「恐縮です…あ」

ポロッ コロコロ....

西「っ…」

ダージリン「ちょっと何をして…!!!」




ダージリン「絹代さん…手が震えているの……!?」



~~~


933 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/15 22:49:36.63 qLKCdNm70 869/908



【病院】


医者「身体に異常は見つかりませんでした。ただ…自律神経失調症の可能性が考えられます」

医者「いわゆるストレスから来る手足の震え・しびれですね」

西「…」

医者「それ以外にもなかなか寝付けないとか、体がだるいといった症状も出てくるかもしれません」

医者「薬を処方しておきますが、一番の解決はストレスを無くす事です」

西「…わかりました。ありがとうございます」

医者「お大事に」


ガチャ

ダージリン「! どうだったの…?」

西「"筋肉疲労"って言ってました。砲弾を何度も運んでたのが原因でしょうね」

ダージリン「でもあなたは車長でしょう? 砲弾を運ぶことなんて無いはずよ」

西「あはは。たまに車長以外の役割を担って練習指示してるので色々やってるんですよ」

ダージリン「そう…」

西「さすがティーガーを叩ける戦車砲だけあって弾も重たいんですよね。装填手の苦労がよくわかりました」

ダージリン「………」



…とうとう身体にストレスが回ってきた。

眠れないとか、体がだるいといったものは以前からあったけど、手の震えにまでなるとは…。

あと、ダージリンに怒られた首のそれもここから来ているのかもしれない。

そろそろ終わらせないとこっちが先に終わっちゃいそう。


934 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/15 22:51:10.49 qLKCdNm70 870/908




【聖グロ 紅茶の園】



聖グロ生1「あ…ヴェニフーキ様、おかえりなさいませ」

ヴェニフーキ「ただいま戻りました」

聖グロ生2「今までどちらへ? アッサム様が心配されてましたよ…」

ヴェニフーキ「色々と」

聖グロ生2「そうですか…って、その帽子、どうされたのですか?」

ヴェニフーキ「立ち寄ったショップで見つけて気に入ったので買いました」

聖グロ生1「ふふっ。よく似合ってます」

ヴェニフーキ「ありがとう」

ローズヒップ「あら? ヴェニフーキ様おかえりなさいませー!」

ヴェニフーキ「ただいま」

ローズヒップ「おや? そのお帽子はどうされましたのでございますの?」



案の定、皆にベレー帽の事を尋ねられる。

そりゃそうだ。白銀色の髪に黒い帽子なのだから気付かない訳がない。

…今更だがこの白っぽい髪色は茶色や金色といった髪色の生徒が多い聖グロではなかなか目立つ。

なんだってアールグレイさんはこんな色を選んだのだろうか…。

それとここ最近やたら色んな生徒に話しかけられるのだが一体何があったんだろう?


935 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/15 22:59:13.32 qLKCdNm70 871/908



~~


それから私は自室に戻り、探知機を取り出す。

この時点で既に電波を検知しているようでランプが点灯している。

予告通りGI6は私の部屋に盗聴器を仕掛けていた。


ベッドの中とか机の周辺とかに仕掛けておけばいいものを、わざわざシャンデリアの中に隠すものだから場所がわかっても撤去するのに手間がかかる。

やっとの思いで手にとることが出来た盗聴器は前回仕掛けられたものとはまた別の形をしていた。

GI6こと情報処理学部の生徒が作成したのかな? 以前のものよりもしっかり出来ている。


思えばあの時は、アールグレイさんとの電話でGI6の話をしたから盗聴器の存在に気がついた。

そして、そのやり取りから盗聴器を仕掛けたのはGI6だと思っていた。

ブラックプリンスがやってきたあの時にGI6とは対面したので、その過程でジャケットにヒョイとやられたと思っていた。

しかし、盗聴したやり取りを聞いて盗聴器を仕掛けたのがGI6ではないと知った。

ともなればあの時、GI6以外の何者か仕掛け…



盗聴器はGI6と知り合った時に仕掛けられたと思っていた。

でも違った。

ということは別の誰かが。

だれが、どこで、いつ仕掛けたのだろうか…


…ん?



"いつ?"






サーッと血の気が引いていく。

全身の産毛がゾワッと逆立つ。










盗聴器はサンダース戦より以前に仕掛けられた………?!


937 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/15 23:05:05.33 qLKCdNm70 872/908




ヴェニフーキ「………そういえば………カフェがあった…な」



手にした盗聴器に向かってぼやく。

何故そんなことを言ったのかはわからない。

ただ、恐怖から逃れるためだったのかもしれない。

私は誰かに監視されている。


今もなお。


ぽりぽり

ぽりぽり


首が痒い。

ダージリンにもらった薬を塗ってみたけど痒みはおさまらない。

それどころかどんどん酷くなっていく。

我慢できないほど痒い。



がりがり

がりがり


爪の中に垢なのか皮膚なのかわからないものが食い込んでた

ヌルッとする。血かな。

でも痛くない。むしろ痒い…。



~~


938 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/17 23:48:07.04 390tEMBw0 873/908




【聖グロ カフェ】



首の痒みが引いてきた頃にカフェへ向かった。

傷口にはダージリンから貰った薬を塗りたくったけど、これで痒みが引いてくれるとは思えない。

きっとまた、首が痒くなってバリバリガリガリ掻きむしると思う。

このまま掻きむしったらそのうち頸動脈でも切って血がブシャーってなりそうだ。

そうなったら私、死ぬのかな…。




「おや、奇遇ですね?」



盗聴器の持ち主と"合流"した。

リアルタイムで監視していたのだろうか。

私がカフェに入りカウンター席に腰を下ろした直後にやってきた。

あくまで偶然を装って。


939 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/17 23:52:43.70 390tEMBw0 874/908



ヴェニフーキ「お洒落なカフェがあって、気になったので寄ってみました」

グリーン「なるほど。私もここの雰囲気が好きです。もっとも紅茶が好きな生徒が多いので、ここに来るのは私たちや職員の方くらいですですけど」

ヴェニフーキ「そうですか」

グリーン「ええ。そういえばヴェニフーキさんは戦車内では紅茶を飲みませんよね?」

ヴェニフーキ「私にとってカップ片手に戦車に乗るというのは至難の業ですから」

グリーン「あはは。ごもっともです」



彼女はこの店は何度も利用しているようで、造作もなく店員さんに注文をする。

一方で私は初めてなので何をどう頼めばいいのかわからず、ひとまず彼女がオススメするコーヒーを注文した(自白剤とか入ってないよね…?)。

カフェといっても、学生やOLが休憩時に立ち寄るようなものとは程遠く、ハードボイルドなドラマや映画に出てくる寂れたバーみたいだ。

絢爛豪華な聖グロには似つかわしくないためか、私たち以外に客はいない。




グリーン「いかがです? 紅茶だけでなくコーヒーもまた上質な豆を使っているんですよ」

ヴェニフーキ「ええ。苦いです」

グリーン「あはは。そういうものですよ。その苦さのなかに良さがあるんです」



あいにく私は紅茶はもちろんコーヒーの心得もないので、この真っ黒な液体は「苦い」以外の感想が出てこない。

正直、こんな下品な泥水を好き好んで飲む連中の気が知れない。

…そう思っていたらグリーンさんがコーヒーのことを語りだした。

どうやらこの人は本当にコーヒーが好きなようだ。様々な銘柄の違いを語ってる。

曰く一日に何杯も飲んでるとのことだが、夜眠れなくなったりしないのかな?


940 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/17 23:54:46.18 390tEMBw0 875/908


ヴェニフーキ「グリーン様は、ここはよく利用されるのですか?」

グリーン「ええ。私含めて小説部の人たちはよく通いますよ」

グリーン「この落ち着いた雰囲気だとインスピレーションが働くので筆が進みます」

ヴェニフーキ「なるほど」

グリーン「ときにヴェニフーキさん」

ヴェニフーキ「何でしょう?


グリーン「何かお困りでも?」


ヴェニフーキ「…」

グリーン「何やら、顔に疲れが見えますね?」

ヴェニフーキ「…」

グリーン「同じ戦車に乗る仲です。良かったら相談に乗りますよ」



さっそく勝負を仕掛けてきたか。

相手は私の動向を探っているのだろうけど、私は既に目的を知っているので、心理戦みたいなものを繰り広げるつもりはない。

さっさと目的を果たして帰って寝よう。…コーヒー飲んで眠れるかわかんないけど。


941 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/17 23:57:06.28 390tEMBw0 876/908



グリーン「ここには私達以外誰もいないので心配はありません」

ヴェニフーキ「…」

グリーン「ええ。悩みは誰かに相談するだけでも楽になります」

ヴェニフーキ「…そうですね」

コトッ

ヴェニフーキ「部屋にこういったものを仕掛けられて困っています」

グリーン「これは…!」



そういってと先程の盗聴器をカウンターテーブルの上に置く。

こんな返しをされるとは思ってもなかっただろう。一瞬だけピクッと表情を変えた。

でも、さすがGI6の部長だけあって本当に一瞬の変化だった。ポーカーフェイスというやつか。

もっともその一瞬の変化を私は逃さなかったし、仮に気付かなかったとしても、この盗聴器の持ち主は既に特定済みだ。

盗聴によって盗聴の犯人を特定したわけだからね。何とも皮肉な話だよ。


942 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/17 23:59:05.66 390tEMBw0 877/908



ヴェニフーキ「なにやら、盗聴器のようなものですね」

グリーン「盗聴器…」

ヴェニフーキ「ええ。どうやら私のプライバシーは筒抜けのようです」

グリーン「それはいけませんね…」

ヴェニフーキ「ええ…。こんなものを仕掛けて私の何が知りたかったのでしょう」

グリーン「さぁ…」


ヴェニフーキ「小説部こと、GI6の皆さんは」


グリーン「えっ?」

ヴェニフーキ「全部、知ってますよ。これを仕掛けたのがあなただということも」

グリーン「…」

ヴェニフーキ「それに、あなたを始め、ブラックプリンスの乗員が全員GI6だということは、お会いしたその日のうちにわかりました」

グリーン「………」



ブラックプリンスがやって来たあの日、あなたたちGI6と対面した。

そしてその日の夜、アールグレイさんとの電話であなたたちの正体がわかった。

もしあの電話でのやり取りがなかったら、私は今どうなってたかな…。



グリーン「仮に、ですよ?」

ヴェニフーキ「ええ」

グリーン「私達がGI6だとすれば、何を根拠にそう判断されたのです?」



943 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/18 00:02:48.05 274RzRl30 878/908


ヴェニフーキ「そうですね。適応力の高さでしょうか」

グリーン「適応力?」

ヴェニフーキ「小説部と名乗りながら、戦車の中で個々の役割をそつなくこなす」

ヴェニフーキ「まるで、戦車道をやっていた人のように」

グリーン「…」

ヴェニフーキ「しかも余計な私情私語を挟むことなく、与えられた任務を遂行する機械のように黙々と」

グリーン「…」

ヴェニフーキ「それを見て、"ああ。普通ではないな"と思った」

ヴェニフーキ「言うなれば、あなた方が私を疑うのと同じ」

グリーン「…なるほど。もう一つ良いですか?」

ヴェニフーキ「どうぞ」

グリーン「先日の黒森峰との練習試合ですが、」



グリーン「試合のあと、プラウダ高校の副隊長たちと何を話していたのです?」



ヴェニフーキ「………」




いきなり、話が急転した。

話をそらしたかったのだろうか。

それとも、こちらが本題なのだろうか。



― ………あなただったのですね。絹代さん



― あなたは様々な悩みを抱えておられる方…

― ですが、鷹のような鋭い瞳の奥には

― 屈強な戦士が持つ固い意思と、聖母のような優しい温もりを感じます



― …ノンナさんにはカチューシャさんがいらっしゃいます。大切な人…ですよね?



………あのとき、ノンナさんは私に何を伝えようとしたのか。

私を見て、何を感じたのか。

アールグレイさんが来なかったらどうなってたのか。


結局、あのやりとりからは何もわからなかった。

けれど、今このやり取りでわかったことは2つ。

私はノンナさんをまた傷つけようとしている。


そして、私の正体がバレかけている…!

944 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/18 00:07:20.29 274RzRl30 879/908



ヴェニフーキ「聞いていたのですか?」

グリーン「あはは。何だか楽しそうだったので。羨ましくてついつい聞き耳を立てちゃいましたよ」

ヴェニフーキ「趣味が悪いですね。プライベートな話だったのに」

グリーン「いやいやすみません。ここだけの話にしましょう」

ヴェニフーキ「…」

グリーン「それで、一体どんなやり取りを?」



あのやり取りは決して"楽しそう"なものじゃなかった。

私のことを探らぬようにとアールグレイさんが本来しなくてもいい"クズ"を演じた。

そしてそのクズによる口撃でノンナさんを深く傷つけ、遠ざけようとした。

私が彼女を、ノンナさんをこれ以上傷つけたくない。

だから嘘を言った。



ヴェニフーキ「先日の練習試合のお礼として、今度はプラウダに遊びに来て下さいって言われました」

グリーン「なるほど、羨ましいですね。私も行ってみたいです」

ヴェニフーキ「実を言うと私も初めてです。色々ご馳走してくださるとの事で楽しみです」

グリーン「となると、お隣にいらっしゃった女性は…?」

ヴェニフーキ「?」

グリーン「ん?」



…?

何か、今、一瞬だけ話が噛み合わなかった?

なんかこう、互いに触れ合って動く歯車の歯が1枚だけ空振ったような…。


あのとき、ノンナさんとのやり取りをしたとき、後からアールグレイさんがやってきた。

聖グロの"前"隊長でもあるアールグレイさんは、ダージリンと同じく聖グロを象徴する一人。

普通の聖グロ生なら誰でもわかるはず。だから、別にウソをつく必要もない。

何故、そんなことを聞くんだろうか。


…ん?


945 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/18 00:12:55.53 274RzRl30 880/908



ヴェニフーキ「聖グロの卒業生ですよ。かつて戦車道をやっておられた」

グリーン「なるほど…」



どうも先程から会話が歯車が空転する。思うように進まない。

グリーンさんの策略なのかもしれないが、そういったものではなく、

まるでアールグレイさんを"知らない"とでも言わんとばかりの反応だ。

そして、知らないから、私から情報を引き出そうとしているかのように…。


ん?

知らない?

どうして?


GI6の部長を担う人が他校の隊長ならまだしも、聖グロで隊長をやってた"有名人"を知らないことは無いはずだぞ?

実際、アールグレイさん自身もGI6に他校の偵察を依頼したことがあるというのだから、多少なりともアールグレイさんとGI6に接点はあるはず。

なのにどうしてこうも知らなさそうな反応をする?

姿を見たら一目瞭然なのに…?


946 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/18 00:15:57.21 274RzRl30 881/908


グリーン「そのOGの方と、プラウダ高校の副隊長さんはどのような会話を?」

ヴェニフーキ「過去の試合についてお話しされてました。…残念ながら私が聖グロに来る前の話なので、蚊帳の外でしたが」

グリーン「なるほどなるほど」

ヴェニフーキ「…その方、聖グロの生徒なら誰だって知ってる人物ですよ?」

グリーン「ん?」

ヴェニフーキ「何しろ、隊長をやってた方なので」

グリーン「…」

ヴェニフーキ「…」



やっぱり、何か様子が変だ。

何故、『ええ。知ってますよ。アールグレイさん(前隊長)ですよね』という返答が来ない?

あのやり取りを見ていたのなら、聞いていたのなら知らないはずがないぞ?

本当に見てい…ん?




あの場所にいなかったのか!?



私から何か情報を引き出すためにあえて『見てましたよ』ってハッタリをかましているのか?!

…小癪な真似を。

そうならこっちも相応の意地悪をしてやるぞ。


947 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/18 00:18:45.65 274RzRl30 882/908



ヴェニフーキ「特徴的な髪型と口調なので、見たら普通の生徒でもわかりますけど…」

グリーン「あはは。ちょっと意地悪をしましたよ」

ヴェニフーキ「意地悪?」

グリーン「知らないフリをしたら、何かヴェニフーキさんが教えてくれるんじゃないかなぁ~と思ってたんですよ」

ヴェニフーキ「…では、ご存知と?」

グリーン「ええ」

ヴェニフーキ「でしたら、その人の名前、教えて下さい」

グリーン「えっ?」

ヴェニフーキ「人物です。私の横にいた、もう一人の人物」

グリーン「あぁ…」

ヴェニフーキ「…」

グリーン「…」


ヴェニフーキ「何故、黙るのです?」

グリーン「あはは。参ったなぁ…」

ヴェニフーキ「あのやり取りを見て、聞いた人なら誰でもわかりますよ」


ヴェニフーキ「聖グロの人間じゃなくても」


グリーン「えっ?」

ヴェニフーキ「もう一度聞きますが、私の横にいた人物は誰かわかりますか?」


948 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/18 00:22:41.17 274RzRl30 883/908


グリーン「ふふっ」

ヴェニフーキ「…」

グリーン「さすがですね、ヴェニフーキさん」

ヴェニフーキ「…」

グリーン「実は見ていたのは確かなんですけど」

グリーン「ただ、見ていた位置が悪くて、お二人の後ろ姿しか見えなかったんですよ」

ヴェニフーキ「…」

グリーン「会話の内容はしっかり聞こえていたんで問題なかったんすけどねぇ」



…どんどんボロが出てくるが、これで確定した。

あんた、あの場所にいなかっただろ!

そして会話も聞き取ることができなかったはずだ!



ヴェニフーキ「会話の内容をしっかり聞いていたのに、あの人のこと、知らないのですか?」

グリーン「えっ…?」





― 自己紹介が遅れましたわ。聖グロリアーナ女学院・OGのアールグレイと申します


アールグレイさんはノンナさんに自己紹介をしていたんだよ!

だからやり取りを聞いていたならその人を知らなくても、会話の流れでアールグレイさんだと判断できる。

それが出来なかったことは"会話を聞き取れなかった"ことを意味する!



949 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/18 00:28:10.14 274RzRl30 884/908


グリーン「っ…!」

ヴェニフーキ「"プラウダ高校の副隊長たち"と言うのだから、見ていたことは間違いないでしょう」

ヴェニフーキ「しかし、あなたじゃない別の誰かが見ていたのだと思います」

ヴェニフーキ「それで、そこから得た情報を元に、私を揺さぶって何か情報を引き出そうとした」

ヴェニフーキ「…違いますか?」

グリーン「………」



実際、私達が話をしたあの海が見える高台は、周辺に隠れるような場所などなかった。

だから、私達の会話を聞くためには嫌でも姿を晒さなければならない。

私はともかく、並外れた洞察力・観察力を持つアールグレイさんやノンナさんが居て、誰一人それに気付かないわけがない。

もちろん私の服から盗聴器の類が発見されることもなかった。こう見えて定期的に探知機をチェックしているのだ。


そういったことから"聞き耳を立てた"はハッタリで、実際は会話をしていた様子を"離れた場所で確認しただけ"に過ぎないだろう。



ヴェニフーキ「…黙秘、ですか?」

グリーン「…」

ヴェニフーキ「では今度は、"誰が見ていたか"を当ててみます」

グリーン「えっ…?!」



その"確認した人"は会話が聞き取れない場所にいたため、アールグレイさんの"自己紹介"を聞けなかった。

そしてその人物の姿を見ても誰なのか分からなかった。

だから不明瞭な情報は、グリーンさんの尋問によって私から引き出そうという魂胆だったのだろう。


950 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/18 00:31:38.60 274RzRl30 885/908




ヴェニフーキ「………フレミング、ですね。1年生の」



グリーン「っ!!」

ヴェニフーキ「彼女なら私の隣りにいた人物を知らないのもわかる」

ヴェニフーキ「面識がないのだから」

グリーン「………」



フレミングは1年生。

彼女が入学した時アールグレイさんはすでに卒業していた。

だから仮に名前を知っていたとしても、顔までは知らない。



― 確か、先代隊長の…

― そちらのお嬢様は初めましてね。アールグレイですわ



なにしろ、ダージリンのすぐ近くにいるペコですら、あの時が初対面だった。それも偶然の対面。

だから戦車道をやっていないフレミングがアールグレイさんのことを知らないのは無理もない。


ひとまず"会話を聞かれていなかった"。これだけわかれば後は私から追求することはない。

何故ならあの会話では私の"本名"が出ていたのだから…。


951 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/18 00:40:38.20 274RzRl30 886/908


ヴェニフーキ「…以上です」

グリーン「………」

ヴェニフーキ「…」

グリーン「…」





グリーン「………さすがです。ヴェニフーキさん」




ヴェニフーキ「…」

グリーン「まさか、あなたがここまで私達の行動を読んでいたとは思いませんでした」



私も驚いている。

まさかまさか、あのGI6相手にここまで戦えるとは予想だにしなかった。

私は西絹代なのか?

本当にあの"アホ"の西絹代なのか?


微細な違和感やそれが何を意味するのかという洞察力・観察力、そして推理力が鍛えられたのかもしれん。

…ヴェニフーキと名乗って以来、あらゆるものを疑い、休まることなく気を張り詰めて生活するようになったせいで。

私から色んな物が削られていくうちに、私は鋭利になっていった。。

それは皮肉にも"実戦で学ぶ"というものなのだろう。陸でクロールの練習をするのとはわけが違う。


私は鋭くなるために様々なものを削って来た。


安息

知波単学園

私の戦車道

仲間

西絹代



生き残るため

戦うため。

勝つため。


"あの時"と同じように。


952 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/18 00:45:07.24 274RzRl30 887/908


ヴェニフーキ「ただ、私はグリーン様たちと腹の探り合いをするのが目的ではありません」

グリーン「えっ…?」

ヴェニフーキ「あなたやアッサム様が聖グロを憂うが故に、私を疑っていることは知っている」

グリーン「と、言うと…?」

ヴェニフーキ「場所を変えます。皆が寝静まった頃に隊長室でアッサムさんも交えてお話しましょう」

グリーン「わかりました」



グリーン「あの時…あなたがいたら、あんな事には………」





一時の探偵ごっこを終えてカフェを後にした。

ようやく私はアッサムさんやGI6との疑惑を解消することが出来る。

彼女たちを味方につけることが出来れば私達が探しているモノもすぐに見つかるだろう。


………だが、私は重大なミスを犯してしまった。

そして、それは部屋に戻るまで気付かなかった。


















         コーヒー代、払ってないや……。






財布、部屋に置きっぱなしだった。


957 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/18 22:08:13.90 vSaTXsW40 888/908



【同日深夜 聖グロ 隊長室】



草木も眠る丑三つ時、私は聖グロの隊長室の扉を叩く。

隊長室にはアッサムさんとグリーンさんだけがいた。



グリーン「…遅かったですね」

ヴェニフーキ「今思うと、もう少し早い方が良かったと後悔しています」

グリーン「そうですね。眠たくなってきましたよ」

ヴェニフーキ「ええ。コーヒーでも飲んで眠気覚ましせねばなりません」

グリーン「…アレはおごりましたので、その代金分、しっかり話してくださいよ?」

ヴェニフーキ「ええ」



…やっぱり根に持っていたか。

こればかりは私が悪い。申し訳ない、グリーンさん。



アッサム「先ほどグリーンから聞きました。あなたが話をしてくださると…」

ヴェニフーキ「ええ。疑惑をかけられたままでは気分が悪いので、話すことにしました」

グリーン「…」

アッサム「…良かった」

ヴェニフーキ「ん?」

アッサム「あなたが、やっと話してくれる時が来て、安心しておりますの…」

ヴェニフーキ「…」

アッサム「ずっと、不安でしたの…」


958 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/18 22:18:19.40 vSaTXsW40 889/908






そして、約束通りアッサムさんとグリーンさんに説明した。


ダージリンの強制退学が、OG会の中に潜む反・聖グロ派による聖グロの破壊工作の一環だということ。

ダージリンを復学させ、奴らの工作を失敗に終わらせ、反体制派を壊滅させるため、私はOGの一人と手を組んだこと。

私の目的は、学園内にいる反体制派と繋がる"内通者"を特定し、そこから反体制メンバーを特定すること。


私の"正体"を除き、私が話すべきことは伝えた。


案の定ふたりとも「信じられない…」と唖然する。

無理もない。私もアールグレイさんから話を聞かされたときは耳を疑った。

聖グロでそんなことが起きているなんて…って。


もっとも私の場合、その後に「変装して聖グロへ潜り込んでくれ」と言われたので、そっちの方が驚いたけど…。




959 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/18 22:23:26.40 vSaTXsW40 890/908



グリーン「そんな事が起きていたなんて…」

アッサム「ゆ、許せませんわよ! そんな事のためにダージリンを!!」

ヴェニフーキ「ええ。許せません。だから私は奴らに報復をしたい」

アッサム「…そうだったのね」


ヴェニフーキ「他には何をお教えすれば良いですか?」

アッサム「…」

グリーン「では、連絡を取っていたというOGは…?」

ヴェニフーキ「一人はアールグレイ様」

グリーン「…なるほど。通りで私達の手が通じなかったわけですね…」

アッサム「確かに、アールグレイ様はダージリンを始め、私達にとても親切にご指導して下さいましたわ…」

ヴェニフーキ「ええ。私に対しては不埒で助平な態度ばかり取りますけどね」

グリーン「ふ、不埒で助平ねぇ………」

アッサム「こ、こらヴェニフーキ! いくらあなただからって…!」

ヴェニフーキ「…話を戻します。そして、もう一人が」





ヴェニフーキ「ダージリン様です」


960 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/18 22:26:05.65 vSaTXsW40 891/908



アッサム「!! あなた…ダージリンと連絡が取れるのですか?!」

ヴェニフーキ「ええ」

アッサム「ダージリンは私が呼びかけても一切応じませんでしたのに…」

ヴェニフーキ「きっと、ダージリン様もあなたの"立ち位置"がわからなかったのでしょう」

アッサム「っ!!」

ヴェニフーキ「実際に掛けてみます。私が何か言うよりも説得力がありますので」

アッサム「だ、ダージリンは無事なんですの!?」

グリーン「マム、落ち着いて下さい」

アッサム「………あなたは、本当にダージリンと連絡が取れるの?」

ヴェニフーキ「ええ」

アッサム「…お、お願い! ダージリンに…!」

ヴェニフーキ「かしこまりました」ピッピッ



部屋に呼び出し音が鳴り響く。

部屋はシーンと静まり返る。

その時間は永遠とも呼べるくらい長く感じた。

そして


961 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/18 22:30:13.32 vSaTXsW40 892/908




ダージリン『はい…』


ヴェニフーキ「お久しぶりです。ダージリン様」

グリーンアッサム「!!」

ダージリン『…どちら様?』

グリーン「ヴェニフーキさん、電話をスピーカーモードに!」

ヴェニフーキ「わかりました」ピッ

ヴェニフーキ「…ご挨拶が遅れました。聖グロのヴェニフーキです」

ダージリン『………あら、お久しぶり。ヴェニフーキ』

アッサム「だ、ダージリン!? 本当にダージリンなの!!?」

ダージリン『! その声……アッサム…?』

アッサム「ええ! 私ですのよダージリン…ダージリン…うぅぅっ……!」

ダージリン『……色々と、迷惑をかけたわね。アッサム』

アッサム「……とんでもない………私こそ…あなたをこんな目に………」



962 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/18 22:34:37.92 vSaTXsW40 893/908



ヴェニフーキ「それで、ご用件なのですが」

アッサム「っ…」

ダージリン『ええ。何かしら?』

ヴェニフーキ「私がここに来た目的、アッサム様やグリーン様に教えて頂けないでしょうか?」

ダージリン『目的…?』

ヴェニフーキ「どうやら、このお二方が私を例の内通者だと疑って酷いことをしますので…」

グリーン「なっ…」

アッサム「そ、そんな酷いことだなんて…!」

ダージリン『…そう。…つまりアッサムは"違った"ということね?』

ヴェニフーキ「ええ。アッサムさん"は"内通者じゃありませんでした」

グリーン「…私も内通者ではありませんけど」

ヴェニフーキ「…」

グリーン「ヴェニフーキさん…」

ヴェニフーキ「隣にいるGI6部長のグリーン様も違うと仰ってます」

ダージリン『そう…』


963 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/18 22:44:51.74 vSaTXsW40 894/908



ダージリン『アッサム、グリーン、聞いてくれるかしら?』

アッサム「ええ、聞いています…!」

グリーン「同じく、聞いております」

ヴェニフーキ「…」

ダージリン『あなたの横にいるヴェニフーキという子はね、私の父がお世話になっている方のご令嬢なの』

アッサム「そうなのですかダージリン?!」

ダージリン『ええ。幼い頃からの付き合いよ。だから、私がこうなったことを知って敵(かたき)を討つと言って聞かなかった…』

ダージリン『犯人を見つけ出すと言って、母校を飛び出して聖グロに入学してくれたのよ…』

アッサム「ヴェニフーキ…あなた…」

ヴェニフーキ「…」



ダージリンは私が聖グロに来た目的をアッサムさんやグリーンさんに伝えてくれた。

私の正体が西絹代であるということは伏せて、古い友人ということにして。

本当は恋人と言ってほしかったけど、それは西絹代じゃないから我慢した。


964 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/18 22:57:54.60 vSaTXsW40 895/908



ダージリン『…以上よ』

アッサム「…」

グリーン「…」

ヴェニフーキ「…」

ダージリン『ごめんなさいね。あなた達を疑って…』

アッサム「いいえ私こそ! あなたをこんな目にあわせた上に、疑わせてしまったことをお詫びします…!」

グリーン「私もGI6の部長でありながらこの事に気付けなくて本当に申し訳ありません…」

ダージリン『こればかりは仕方ないわ。私だって何も出来なかった』

ヴェニフーキ「ひとまず、これで私に対する疑いは晴れたという認識で宜しいですか?」

アッサム「ええ。…ごめんなさいヴェニフーキ。あなたにも色々と酷いことを言ってしまった………」

ヴェニフーキ「こういう事をしている以上、覚悟はしています」

ヴェニフーキ「もちろん、"盗聴"や"拷問"を受ける覚悟も」

グリーン「無礼を働き大変失礼致しました…」

ダージリン『…ヴェニフーキ』

ヴェニフーキ「はい、何でしょう?」


ダージリン『ありがとう』


ヴェニフーキ「ん、」

ダージリン『あなたのおかげで、親友を疑わずに済んだ…本当に感謝しているわ』

ヴェニフーキ「お役に立つことが出来て何よりです。…ですが、共謀者は別にいる、ということになります」

ダージリン『ええ…』

ヴェニフーキ「なので引き続き、犯人探しを続行させて頂きます」

ダージリン『ごめんなさい。こんなことをさせてしまって…』

ヴェニフーキ「お気になさらず。私が勝手にやっていることなので。…それでは、また」

ダージリン『ええ。また、お話しましょう』


ツー ツー ツー



最後に、ほんの一瞬だけ

私以外では絶対にわからない声でダージリンは言ってくれた。

それはアッサムさんもグリーンさんも気付かない。世界でたった一人、私だけが知っている声。

それは私が心の底から愛し、そして私を愛してくれるダージリンが、私だけに聞かせてくれる、とても優しい声。


私とダージリンだけのやり取りがそこにあった。



965 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/18 23:01:22.65 vSaTXsW40 896/908



グリーン「…」

ヴェニフーキ「…」

アッサム「…」

ヴェニフーキ「ご納得、いただけましたか?」

グリーン「ええ。疑ってごめんなさい」

アッサム「あなたも、内通者を探す一人だったのですね…」

ヴェニフーキ「私はダージリン様が退学されたと知り、腸が煮えくり返る思いをした」

ヴェニフーキ「だから、ダージリン様やOGの方と連絡を取り、この破壊工作の失敗、つまりダージリン様の復学のために戦おうと思いました」

ヴェニフーキ「それだけです」

アッサム「ありがとう…ヴェニフーキ」

ヴェニフーキ「お礼を言われるようなことはしてませんけれど」


966 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/18 23:10:40.32 vSaTXsW40 897/908



グリーン「しかし、何故そうならば"聖グロを変える"などと反体制派をほのめかすようなことを?」

アッサム「そうですわ。あんなことを言ったら誰だってあなたを疑います…」

ヴェニフーキ「あの時点でアッサム様たちがどちら側の人間かわからなかった」

ヴェニフーキ「"GI6を仕向けた"というだけでは、あなた方が反体制派の人間か否かわからず、その目的もわからない」

グリーン「確かに…」

ヴェニフーキ「だから、それを明確にするため、あえて"釣り餌"となっただけ」

ヴェニフーキ「言い方を変えれば、キューポラに閉じこもって出てこない隊長を引きずり出した」

アッサム「なぁっ?! ど、どうしてそれを!!」

ヴェニフーキ「私は当初、アッサム様が内通者だろうと疑っていたので、その行動を観察しているうちにアッサム様の弱点を」

アッサム「くぅぅぅ………」


967 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/18 23:15:19.56 vSaTXsW40 898/908



グリーン「なるほど…。敵を騙すには味方から…と」

ヴェニフーキ「結果的にそうなりました」

グリーン「あなたのような方がGI6にいたら頼もしいのに。実に惜しいです」

ヴェニフーキ「私は怪しい人を見つけたら、尋問ではなく拷問をしますけど?」

アッサム「ごっ、拷問?!」

ヴェニフーキ「そうですね。まずは爪を剥がしましょう」

アッサム「ひぃっ…!」

ヴェニフーキ「次に、指の関節一つ一つに釘を打ち付ける」

グリーン「…それはちょっと」

ヴェニフーキ「あとは…」

アッサム「も、もう結構ですの! 痛い話は勘弁願いますわっ!!」

ヴェニフーキ「それくらい、内通者を憎んでいると思っておいて下さい」

アッサム「え、ええ……」


968 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/18 23:23:18.96 vSaTXsW40 899/908


グリーン「…しかし、そうなると内通者は誰でしょうか」

ヴェニフーキ「誰であろうと、いずれ見つけますよ。何しろ私を盗聴するような人物ですから」

グリーン「私を疑っているんですか…?」

ヴェニフーキ「いいえ、グリーン様のは2個目です」

アッサムグリーン「!!」

グリーン「…2個目といますと?」

ヴェニフーキ「そのまま。グリーン様ので"2個目"」

グリーン「っ…!」

アッサム「ど、どういうことですの?!」

ヴェニフーキ「あなたがたGI6とは別に、私は監視されている」

ヴェニフーキ「あなたたちとは別の人に私は縛られている」

アッサム「なっ…そんなの聞いていませんわよ!?」

ヴェニフーキ「聞かれませんでしたので」

アッサム「どうして話してくれなかったのヴェニフーキ!!」

ヴェニフーキ「あなたは私を疑っていた。そして私もあなたを疑っていた」

ヴェニフーキ「そのような状況で何を話せると?」

アッサム「うっ………」


969 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/18 23:30:01.44 vSaTXsW40 900/908


ヴェニフーキ「…それに」

アッサム「えっ?」

ヴェニフーキ「これは私の戦いです」

グリーン「…どういうことですか?」

ヴェニフーキ「率直に言うと、」




ヴェニフーキ「"私の獲物に手を出すな"」




アッサム「…どういうことですのヴェニフーキ?」

ヴェニフーキ「反体制派やその共謀者は、私の手で探し出し、私の手で裁く」

ヴェニフーキ「そこに余計な介入をされては困ります」

アッサム「ば、馬鹿を言わないで! この件は聖グロ全体の問題ですのよ?!」

グリーン「その通りですよ。それに、仲間は多い方が…」

ヴェニフーキ「必要ない」

グリーン「っ…!」

ヴェニフーキ「今まで通り、何も無かったかのように、学園生活を送って下さい」

ヴェニフーキ「それが、聖グロを腐敗させようと目論む奴らに対する"最高の攻撃"となる」



970 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/18 23:35:39.74 vSaTXsW40 901/908




アールグレイさんが何故、私を選んだのか。

私が聖グロの生徒じゃないからだよ。

仮に作戦が失敗しても私には帰る場所がある。保険がある。

だけど、アッサムさん達は聖グロが帰る場所だから、もしも奴らに目をつけられたらそれでおしまい。

ダージリンの二の舞いになる。












971 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/18 23:38:07.99 vSaTXsW40 902/908



アッサム「ですが、あなた一人だけ…!」

ヴェニフーキ「ダージリン様の二の舞いになっては困ります」

アッサム「!」

ヴェニフーキ「何しろ、相手は己の思想のためにダージリン様を政治利用するような邪道」

アッサム「…」

ヴェニフーキ「アッサム様たちがコソコソやってるのがバレてしまったら、連中は間違いなく排除します」

グリーン「確かにそうですが…」

ヴェニフーキ「もしもこの件で問責されたら、"彼女が勝手にやったこと。私は再三に渡って警告した"と言えば良い」

ヴェニフーキ「そうすればアッサム様や他の誰かが被害を受けることもない」


972 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/18 23:42:48.68 vSaTXsW40 903/908



ヴェニフーキ「それに、そういう下衆な相手と戦う以上、こちらもその下衆に触れることになります」

ヴェニフーキ「これ以上邪道が増えては困る」

アッサム「…」

ヴェニフーキ「火傷するのも邪道になるのも私一人だけで結構」

ヴェニフーキ「私だけが火傷をすれば、他の生徒が火の粉を被ることもない」

アッサム「…」

ヴェニフーキ「私は私なりの戦いが出来て、聖グロの生徒も守られる。お互いに悪い話ではないと思います」

アッサム「…」

グリーン「何故あなたは何もかも一人で抱え込もうと…!」

ヴェニフーキ「言ったはずですよ。邪道が増えたら困ると」

アッサム「………どうして……」

ヴェニフーキ「はい?」



アッサム「どうして自分を邪道などと言うのですかッ!!!!」


973 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/18 23:48:08.10 vSaTXsW40 904/908


ヴェニフーキ「それは私が邪道だからですよ」

アッサム「そうじゃなくて! 理由を言いなさい! 理由をっ!!」

ヴェニフーキ「…」

グリーン「確かにあなたの行動は怪しいかもしれません」

グリーン「ですが、事情がわかればそれは称賛に値する行為です」

ヴェニフーキ「そう認識されていることが既に邪道なんですよ」

グリーン「なっ…」

アッサム「馬鹿なことを言うのはおやめなさいヴェニフーキ…!」




それは『私が邪道だから』としか言いようがない。

邪道じゃない人に邪道がどうこうだと説明したって理解されない。



大洗戦のとき、勝つために特攻兵器を使おうとした

ダージリンのおかげでそれを回避できた

そのダージリンは私のせいで全てを失った

そして私は狂って薬物中毒にすらなった

またダージリンに助けられた

でもやっぱりダーリンは助からない

だから私はヴェニフーキと名乗った

名前を捨てた

仲間を捨てた

学校も捨てた

姿も偽った

皆を騙した

そして聖グロに混乱を招いた

内部から腐敗させた

聖グロに飽き足らず黒森峰の戦車道も崩壊させようとした

死に物狂いで積み重ねてきたものを壊そうとした

血と汗の結晶を砕こうとした



974 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/18 23:50:58.26 vSaTXsW40 905/908




私は何度も邪道を進もうとして、その都度誰かに助けられて軌道修正をしている。

邪道と普通の道を行ったり来たりだった。

でも、気を抜けばまた邪道を進む。

そして気がつけば邪道が私の道になっていた。

だから、一度邪道を進んだらもう元には戻れない。

そして私の中の邪道は誰かを巻き込んで、その人の道を閉ざそうとしている。


だから、私だけが邪道になることで、誰かが邪道になるのを阻止する。

邪道として、邪道にならないよう戦う。

邪道は私だけの道。他の誰かが通ることは断じて許さない。


邪道として

邪道と戦う

私だけの道










ヴェニフーキ「あえて言うならば」









975 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/18 23:51:55.92 vSaTXsW40 906/908



















ヴェニフーキ(西絹代)「これが私の 戦"邪"道 です」
















                         つづく





976 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/19 01:05:49.11 +xIa/DlV0 907/908



【ここまでのあとがき】



● オリキャラ(?)について



・モームおよびランサム

GI6の生徒は代々作家の名前(英・M16所属経験有)を名乗っており、その中から。

なおグリーンおよびフレミングは「月刊戦車道」に登場する("フレミング"という名前は人気がないらしい…)。



・アールグレイ

言わずもがな島田フミカネ氏の妄想のあの人。

正体不明・性格不明・意味不明を良い事に好き放題させて頂いた。

ヴェニフーキ扮する西絹代をサポートする参謀役。



・髙山、上本、糸井、福留、原口、鳥谷、糸原、梅野、女仙

4月14日の阪神タイガースのスタメン。

女仙はメッセンジャー。

厳密に言うとこいつらが純粋なオリキャラ。他はどこかしらのものを流用



・ヴェニフーキ

前作終盤から出てきた謎の転校生。正体は西絹代。

読み手にすぐ正体バレるだろうから、このSSでは「何故あの子はこうなったのか」を書いてみました。

1.白髪
2.ブラックプリンス
3.ベレー帽

…と聞いてピンと来る人はいるかわかりませんが、モデルはこの子↓

TWB2vpz



977 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/06/19 01:27:21.79 +xIa/DlV0 908/908



● SSについて(自分語り)



「対空戦車はいいぞ」 SS書く


 ↓


オストヴィント登場あたりから「せや、無人機出るし西絹代強くしたろ」

 ・聖グロに完勝

 ・大洗もあんこうチーム撃破してギリギリまで追い詰める

「アカン。強くしすぎたわ…」


 ↓


対・知波単戦の中盤ごろから今作を裏で書き始める

 ・西絹代(魔改造)が主人公

 ・大洗戦後の入院生活でダージリン始め、色んな人がお見舞いに来るほのぼのストーリー(予定)

 ・ >>151 あたりで西とダージリンが結ばれてその後ムチャクチャ夜の戦車道して終わる予定だった

 ・ただR-18はアカンだろなと思って前作でモヤモヤしてところを色々補完する


 ↓


 ・書き溜め作ってる最中に作業用BGMでニコニコメドレー聞く

 ・you(ひぐらしのなく頃に)が流れる(今作最大の元凶)

 ・「せや! 西絹代発狂させたろ!!」

 ・ヴェニフーキ登場。前作終盤で意味深な終わり方をする

 ・今作にてヴェニフーキになった理由を書く

 ・他校と練習試合をしながらOG会とつながる人物やGI6相手に諜報合戦をする

 ・その過程で病み始めて邪道を語り始める(今ここ)


 ↓


 ???


…という具合にまたまた長いSSになって申し訳ない。

取り急ぎ事情(言い訳)を説明させていただきました。許してください。


このスレはHTML化依頼を出すので、他の人が読んでいる間に続きを書こうと思います。


レスくれた人、読んでくれた人、ありがとうございました。








続き
【ガルパン】西「四号対空戦車?」 後期型

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