1 : ◆MY38Kbh4q6 - 2017/04/08 16:05:45.54 6iENb3Do0 1/908
先日投稿した
【ガルパン】西住みほ「IV号対空戦車?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1475267396/
http://ayamevip.com/archives/49872432.html
を別視点から描いてみたものです。
・キャラ崩壊(いつもの)
・独自設定あり
・やっちゃえ西さん!キテるね西さん!
以上がOKならどうぞ
や、やってやるぞ!
元スレ
【ガルパン】西「四号対空戦車?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1491635145/
◆1 入院生活
【対大洗戦から1週間後】
ダージリン「それにしても」ズズ…
ダージリン「随分、痩せたわね?」カチャ
西「………」
ダージリン「でも、そんな痩せ方は不健康よ?」
西「………」
ダージリン「うちの砲手が言うにはね、背筋を伸ばして座るだけでダイエットに成功したって子がいるそうなの」
ダージリン「同僚がやお友達が皆痩せたねって驚くほど変わったそうよ」
ダージリン「あなたはおっちょこちょいだけど礼儀正しい子だから、その方法をオススメするわ」フフッ
西「………」
ダージリン「かく言う私も甘い物を摘みすぎたせいで少し体重が気になりだして」
ダージリン「見た目は変わってないかもしれないけど、油断していると…ね?」
西「………」
ダージリン「だから、私もその方法を試してみようと思うのだけど、いかがかしら?」クスッ
ダージリン「………」
西「………」
ダージリン「………」
ダージリン「紅茶、冷めちゃったわね…」
西「………」
スッ...
ダージリン「あなたの手、とっても温かい…」
西「………」
ダージリン「知波単学園は幸せね。こんな暖かい人がリーダーですもの」
西「………」
ダージリン「あなたの手でカップを持てばまた温かくなるかしら」
西「………」
西「……ぅ…」
ダージリン「! 意識が戻ったのね?!」
西「………ダ…ジ…リン…?」
ダージリン「無理に喋らなくて良いわよ。いま看護師を呼んでくるから」
西「ま…ッ…て…」
ダージリン「えっ?」
西「ぃか…なぃ…で……」
ダージリン「………」
ダージリン「わかったわ」
ダージリン「お言葉に甘えてここ居させて頂くわ。だから…」
ダージリン「だから、泣かないの」
西「ぁ…りが…と………」ツー
【数分後】
医師「無事に意識が戻られたので、あとはこのまま順調に回復していくかと思います」
ダージリン「良かった…」
医師「ただ、肋骨と左腕、左足が骨折しているのと、極度の疲労状態なので、しばらくは安静にしている必要があります」
ダージリン「あの、頭の傷は?」
医師「安心してください。痕は残りませんでしたよ」
ダージリン「そうですか」ホッ
医師「では、私は回診がありますので。また何かあったら呼んでください」
ダージリン「ありがとうございます」ペコリ
ダージリン「…」
西「…」
ダージリン「…良かったわね。後遺症やキズが残らなくて」
西「ええ…。生まれつき傷が治りやすい体質であったことに助けられたみたいです」
ダージリン「舩坂弘ね。面白くないジョークよ。うちの砲手でもそんな事は言わないわ」
西「ははは…」
ダージリン「腕はともかく、顔は乙女の命なのよ?キズが残らなくて良かったわ」
西「でも額にキズがあると何か格好良いじゃないですか。あのハリー・バッター?みたいに」
ダージリン「馬鹿なこと言わないで頂戴!」
西「すっ、すみません…」
ダージリン「…全く。それだけ元気ならもう大丈夫ね」
西「ええ。ダージリン殿には色々ご迷惑をおかけして申し訳ありません」
ダージリン「お気になさらず。好敵手を憂うのも淑女の嗜みでしてよ」
西「お、奇遇ですな。実は私もダージリン殿の事を前から考えておりまして」
ダージリン「それはどういうことかしら?」
西「その…なんと申せば良いのか…」モジモジ
ダージリン「歯切れが悪いわね。はっきり言って頂戴」
西「実はダージリン殿の…」モジモジ
ダージリン「ええ…」
西「走行中の戦車で紅茶をこぼさず持つという芸当が気になっておりました」
ダージリン「…………は?」
西「戦車の中は揺れるので、荒れ地を走った時なんてカップの中身をひっくり返してしまいそうです」
西「なのにダージリン殿や聖グロリアーナの皆さんは器用に紅茶を保っておられるようで」
ダージリン「………」プルプル
西「あ、あれ?ダージリン殿?」
ダージリン「こんな名言を知っているかしら」カタカタ
西「へっ?あ、ダージリン殿?!手が震えてますよ!紅茶こぼれt」
ダージリン「"クララのバカっ!!"」バシーン!
西「あいたーっ!!?」
― 数分前まで意識不明だった人にも容赦ないダージリンなのでした。
ダージリン「ふん」ツーン
西「その…機嫌を直して頂けないでしょうかダージリン殿」ヒリヒリ…
ダージリン「誰のせいだと思ってるのかしら」
西「あはは。すみません。ダージリン殿が面白いからついつい…」
ダージリン「…喧嘩を売っているのかしら?」
西「し、失礼しましたっ!張り手はご勘弁をっ!!」
ダージリン「…あなたはもう少し気品と言うものを学ぶべきよ」
ダージリン「何でもかんでも突撃すれば良いわけではない事を肝に銘じなさい」
西「あはは…。私もダージリン殿のようにお淑やかな女性になりたかったですね」
ダージリン「でしたら聖グロリアーナに転校されてはいかが?」
ダージリン「乙女の嗜みを一からご指南しましてよ」
西「うーん…。饅頭に紅茶は合うのでしょうか?」
ダージリン「またそれを言うのね…」ハァ
西「あ、饅頭じゃないですけど、菱餅ならあります」
ダージリン「…菱餅」ピクッ
西「…?どうされました…?」
ダージリン「いえ。ちょっと昔の話を思い出して」
西「そうですか?」
ダージリン「それより、ずっと気になってた事があるの」
西「何でしょう?」
ダージリン「知波単学園の戦術が大幅に変わったことについて」
西「あぁ…」
ダージリン「一体あなたはどうやってあの血の気の多い"突撃チーム"を変えたのかしら?」
西「………」
ダージリン「な、なによ…どうしてそんな顔するの?」
西「……いえ…」
ダージリン「?」
西「ダージリン殿になら話しても良いのかなぁ…って思いまして。ははは…」
ダージリン「そう…」
西「出来れば他の人には内緒に…」
ダージリン「ええ。あなたと私だけの秘密ということにしますわ」
西「恐縮です」
西「簡単に言えば、『人間、死ぬ気でやれば何とでもなる』というやつでしょうか」
ダージリン「笑えないわよ。あなたはそれで実際に死にかけてるのだから」
西「ははは…」
ダージリン「…」
西「…実は、大学選抜との試合が終わって暫くした日に夢を見たんですよ」
ダージリン「夢?」
西「ええ。ものすごく嫌な夢を」
ダージリン「…それはお気の毒様」
西「今だから夢だと言えるけれど、もしかしたら正夢になってたかもしれない…と」
ダージリン「どんな夢かしら?」
西「大洗女子の運命が懸かった大学選抜チーム戦、私が自分の隊をまとめ切れず暴走し」
西「その結果惨敗。大洗女子学園が廃校になるという夢です」
ダージリン「!」
西「エキシビジョンマッチ戦、大学選抜チーム戦において私は隊長でありながらチームをまとめることが出来ずにいました」
西「真正面から勇猛果敢に突撃し、潔く散ることが知波単の魂だ、誇だと思う皆と」
西「それが正解なのかと迷う私とのズレがあったために優柔不断になってしまい…」
ダージリン「あなたの学校は突撃が伝統ですものね」
西「ええ。その戦い方を否定するのは知波単を否定するも同然であります」
西「…だから私も練習試合とかなら皆が望む知波単として、存分に吶喊・突撃を用いた戦いをするつもりです」
西「でも、その考えが仇となり、私は負けてはならない戦(いくさ)で負け、一つの学校を潰してしまいました」
ダージリン「ご安心なさい。私達は大学選抜チームに勝利して大洗女子の廃校も阻止した。あなたもご存知の通り」
西「…」
ダージリン「…あなたらしくないわね。普段のあなたならそんなもの寝たら忘れるでしょうに」
西「あはは…。あの時の西住さんが私に向けた、怒りや悲しみ、嫌悪に満ちた顔は忘れようにも忘れられません…」
ダージリン「むしろ一度拝んでみたいものですわ。みほさんのそんな表情を」
西「全てを諦めた顔でした」
ダージリン「…」
西「笑顔が素敵で凛々しい西住さんからは想像も出来ないような、魂が砕け散った人の顔でした」
西「言うなれば…"心が死んだ人"の顔です」
ダージリン「それはなかなか物騒な話ね」
西「きっとそんな顔を本当に見せられたら壊れますよ」
西「心が、"ぱ り ん" と」
ダージリン「?」
ダージリン「ご心配なく。彼女は私達が思っている以上にしっかり者です」
ダージリン「万に一つ廃校になったとしても必ず別の方法を模索する」
西「…彼女は立派な方です。2度の廃校の危機に瀕しても、冷静で居られた。だから勝てた」
西「しかし…私は西住殿には遠く及びません………」
ダージリン「…!」
西「……同じ立場なのに………」
ダージリン「ちょっとあなた、一体何を…?!」
西「私は…私は………知波単学園の…戦車道を…」
西「………守れなかったんです……」ツー...
ダージリン「なっ!!」
西「……私は……命に変えてでも………守らなきゃ………いけなかったのに………」
ダージリン「…なによ、それ…」ワナワナ
西「あの戦いには……ヒッグ……知波単の……興廃が懸かってました…ヒグ……」
西「だから……私は……ッグ……頑張ったのに……グスッ…」
西「………負けちゃった………」
ダージリン「な、なによそれ…」
西「………」
ダージリン「そんなのあんまりじゃないッ!!!!」ダンッ
西「………」
ダージリン「許せないわよそんなの!」
ダージリン「自分や仲間の道を守るために死ぬ気で戦ったのに…なのに…!」
ダージリン「どうして誰もそれを認めないのよ!おかしいじゃない!!」
西「ダージリン殿………!」
ダージリン「あなたに何の恨みがあるって言うの!?」
ダージリン「独りで悩んで苦しんで!それでも勝たなきゃ全部台無しになる!!」
ダージリン「全部終わってしまうから止まることができないのに!!」
ダージリン「なのにこんな結果あんまりよ!!!」
西「ありがとうございます…ダージリン殿………」ギュッ
ダージリン「はっ、離しなさい!何であなたが私を慰めるの?!離しなさいっ!!」
西「私が不甲斐ないばかりに…あなたまで…」ゴシゴシ
西「私はダージリン殿に助けてもらってばかりですね…あはは」
ダージリン「やめて!頭撫でないで!!これじゃただの惨めったらしい女じゃない!!」
西「そんな事ありません。」
ダージリン「っ…!」
西「私は粗忽な人間ですが、人から受けた恩だけは忘れないつもりです」
西「なので、ダージリン殿が困っている時に何もしないなら、私はそれこそ"惨めな女"です」
ダージリン「…あなた何を言っているの?…本当に困ってるのはあなたなのに!」
西「馬鹿か利口かと言われたら…迷うところですが、恩を仇で返す馬鹿にはなりたくないと思っております」
ダージリン「………ホントに馬鹿げてるわ………ばかみたい…」
西「でも、ダージリン殿が私の分まで悲しんでくれたおかげで少し元気が出ましたよ。ありがとうございます…」ニコ
ダージリン「…………」
西「今の私には大したことは出来ませんが、せめてダージリン殿が落ち着くまでこうさせて下さいませ」
ダージリン「………人を片手で抱き締めといてよく言うわね」
西「はは……あいにく左腕は包帯でぐるぐる巻きですから」
ダージリン「………ばか…」
西「あはは。その…」
ダージリン「……なによ…」
西「知波単学園から戦車道が無くなったら…」
西「その時は志願者を集めて非公式のチームでも作ろうと考えてます」
ダージリン「…好きにすれば良いわ」
西「草野球ならぬ草戦車道チームでも作れば誰にも迷惑かけず、思う存分吶喊も突撃もすることが出来ますからね」
ダージリン「………」
西「どれだけの人が付いて来てくれるはかわかりませんが、もし戦車が1輌でも動かせる程度に集まったなら…」
西「どうかその時はまたお手合わせ願います」
ダージリン「…たった1輌で私に挑もうというの?」
西「さすがに聖グロリアーナ全員に1輌は…いや、戦車の機動力を活かせば或いは…」
ダージリン「…1輌じゃ無理よ」
西「そうですねぇ…5輌あれば勝てるかと」フフッ
ダージリン「…」ムカッ
西「痛っ!背中つねらないで下さい!」
ダージリン「……ふんっ!」
西(泣いたり怒ったりイジけたり…なかなか感性豊かな方だ)
西(でも私達のためにそこまでして下さるダージリン殿がとても愛おしく感じる)
西(しかし、どうしてダージリン殿はここまで激昂なさったのだろう…?)
ダージリン「………なによ」
西「いえいえ、ダージリン殿はお綺麗だなぁ…と」
ダージリン「こんな醜女によく言えるわね……」
西「そうですか?涙と鼻水でクッチャクチャなダージリン殿もこれはこrあいでででで!!!」
西(…この先どうなるかわかりません)
西(でも、出来ることなら、ダージリン殿とは今後も良好な関係を築いていきたい)
トントン
ダージリン「っ…」ゴシゴシ
西「ん、どうぞー」
「おお、意識が戻ったみたいだね!」
西「あ…」
ガチャ
ダージリン「…どちら様?」
西「学長殿…!」
ダージリン「!!」
学長「ケガをしているから『無事でよかったよ』とは言えないけど、見たところ元気にしてるようで安心したよ」
西「あはは…生まれつき傷が治りやすい体質であったことに助けられたみたいです」
学長「舩坂弘の名言だね。今の君が言うと冗談に聞こえないから怖いよ」
西「あはは…」
ダージリン「学長様自らお見舞に来てくださるなんて、いい学校ですわね」ギッ
西「だ、ダージリン殿!?」
ダージリン「生徒の努力が報われない。そんな学校ですもの」
学長「あははは…。まぁここに来たのは西君の様子を見に来たというのもあるんだけど」
学長「もう一つの目的は"それ"なんだよね」
西「………!」
ダージリン「信じられない」ボソッ
学長「君の望み通り、戦車道廃止は撤回することにしたよ」
ダージリン「!!」
西「えぇぇっ!!?」
ガタッ
西「…あいたっ!」
学長「こ、こら西君!…君は仮にも重傷なんだから無理に動いたら駄目だよ…」
西「で、ですが、廃止撤回とは!?」
学長「うん。実はね、大洗戦の後に戦車道関係の人が殺到してね」
学長「皆口を揃えて君の指揮や強豪校相手に勝利した秘策について知りたいと」
西「あはは。そんな大したことは…」テレテレ
学長「記事を書きたいから取材の許可をくれとか、戦車道履修者育成の参考にしたいとか…ね」
学長「更には生徒が戦車道を履修したいと言い出して、定員オーバー状態になってしまったり」
西「ははは…はっ!?」
学長「…と、知波単学園創設以来、凄いことになってるんだ」
学長「おかげで学校の電話は鳴り止まないんだよね」ハハハ
西(…な、なんか凄いことになっているぞ?!)
学長「知波単学園にとっては今までにないくらい脚光を浴びているよ」
西「そ、そうでありますか…!」
学長「でもね、そんなことはどうでも良いんだ」
西「え?」
学長「いや、どうでも良いは言いすぎかもしれない。でも私にとってはそれよりも優先すべきものがある」
西「?」
学長「君のことだ。あれから血の滲むような努力をしたと思う」
学長「…さすがに倒れるまで無茶をしろとは言わないよ?けれどもその姿勢だけは我が校の模範生としては十二分だ」
西「あ、ありがとうございます…!」
学長「それでいて強豪校に完勝するなんて実績まで作ってくれたらね」
ダージリン「…」ムスッ
学長「これで『廃止にします!』なんて言う者は教育者として失格だと私は思う」
西「!!」パァァッ
学長「私は改めて思うよ。君のような素晴らしい生徒に出会えて良かったと」
学長「だからこれからも戦車道を続けてほしいと思った」
学長「それが私の結論だよ」
西「あ、あ…」
西「ありがとうございますッ!!!」
学長「うんうん。そういうわけだから今はしっかり静養して、ケガが完治したらまた戦車道を再開して欲しい」
西「もちろんであります!」ビシッ
学長「それでは、よろしくたのむよ」
ダージリン「あの…」
学長「ん?」
ダージリン「その…先ほど無礼な態度を取ってしまったこと、お詫び致します」
学長「ああ。お気になさらず。君も西君と同じ気持ちだったのだからね」
ダージリン「恐縮です…」
学長「ダージリンさんと言ったね?西君をよろしくたのむよ」
ダージリン「はい」
学長「それでは、失礼するよ」
西「ありがとうございましたっ!」フカブカ
西「………」
ダージリン「………」
西「あの、ダージリン殿」
ダージリン「なにかしら?」
西「ちょっと、ほっぺたを軽くつねってもらっても良いですか?」
ダージリン「こうかしら?」ギチッ
西「あいででででッ!!! お、おっけー!!夢じゃないです!!」
ダージリン「何をやってるのだか。…まぁ、良かったわね」
西「ええ。ダージリン殿のおかげです」ヒリヒリ
ダージリン「別に私は何もしてないわ」
西「ダージリン殿がいなかったら私はあの時…」
ダージリン「特攻兵器」
西「知ってたのですか!?」
ダージリン「私とて一戦車道チームのリーダーでしてよ?」
ダージリン「相手が使う戦車、そして無人機もおおよそ把握しているつもりですの」
西「そう…ですよね」
ダージリン「あなたがそれを試合に持ち込むということは、レギュレーションをクリアした」
ダージリン「ならば使っても反則負けでは無いのだから試合では問題ない」
西「…」
ダージリン「…しかし、それは試合のルール上の話であって、その試合を見た人の反応とは別」
西「ええ…」
西「あの時、私は最低の人間になりました」
西「かつて我が国が開発した史上最凶の兵器の一つである特攻兵器を私は」
西「どの爆弾よりも強力で高精度な"誘導ミサイル"として見てしまった…」
ダージリン「でも、あなたは使用しなかった」
西「…」
ダージリン「あなたは正しい選択をしたのよ」
西「正しい選択?」
ダージリン「こんな格言を知ってるかしら。 "With great power comes great responsibility. "」
西「よ、横文字は不得手です…」
ダージリン「"大いなる力には、大いなる責任が伴う"」
ダージリン「学長さんはあのように仰ってたけれど、本当の"運命の分かれ道"はあの特攻兵器を使うか否かだったと思うわ」
ダージリン「あの時誘惑に負けて特攻兵器を使用したら、恐らく大洗の切り札であるポルシェティーガーはもちろん」
ダージリン「その近くにいた他の車両もろとも走行不能になっていたはず」
西「確かに…あの時ポルシェティーガーの近くには複数の戦車が固まっておりましたので…」
ダージリン「結果として大洗にも勝利したと思うわ」
ダージリン「でも、」
ダージリン「そうなった場合、きっと今とは全く逆の評価を受けたでしょうね」
西「ええ。間違いありません…」
ダージリン「特攻兵器を使用したことによって批判が殺到し、戦車道どころか知波単学園まで"廃止"になってたかもしれない」
西「…」
ダージリン「そうなればあなたは1つの学校を潰した諸悪の根源として一生恨まれ続けたでしょうね」
西「戦術で勝って戦略で負けたということですね…」
ダージリン「ええ」
西「やっぱり…その……」
ダージリン「?」
西「私にはダージリン殿がいないと駄目なんだなぁと思いました」
ダージリン「…何よいきなり」
西「実際あの時の私は特攻兵器を使用する直前まで追い詰められておりました」
西「そして特攻兵器を起動するために端末を取ろうとした時に」
西「すぐ隣にダージリン殿から頂いたティーセットがありました」
西「それでダージリン殿との会話を思い出しまして」
ダージリン「…」
西「それで、特攻兵器よりも知波単学園の伝統で最後を飾った方が良いだろうなぁって我に返ったのです」
ダージリン「あの時の約束、覚えてくれたのね」
西「ええ…」
西「あのあとボンヤリしている中でもダージリン殿がいて、目が冷めたときもダージリン殿がいました」
ダージリン「………」
西「本当にありがとうございます。ダージリン殿」フカブカ
ダージリン「やめて」
西「えっ………」
ダージリン「その"殿"というの。他人行儀みたいで好きじゃないわ」
西「ふぇ?で、ですが」
ダージリン「他の呼び方で呼んで下さらないかしら?」
西「…たとえば?」
ダージリン「人に聞かないで、自ら求め、調べた知識こそ身に付くものなのよ?」
西「………ケチ」ボソッ
ダージリン「どうかした絹代さん?」
西「い、いえ何でもありません」
西「ふむ………」ウーム
ダージリン「そんな悩むことなのかしら…」ヤレヤレ
西「そうですね…たとえば『ダーちゃん』はいかがです?」
ダージリン「急に馴れ馴れしくなったわね。…というより何処かの王者みたいで嫌よ」
西「では『リンちゃん』というのは?」
ダージリン「呼ばれても気付かないわ」
西「じゃぁ『田尻さん』とか?」
ダージリン「…殴るわよ?」
西「じりん」
ダージリン「真剣に考えてますの?」
西「ダーリン!」
ダージリン「ちょっと!」
西「なかなか難しいですな…」
ダージリン「あなたが真面目に考えないだけよ!」
西(そもそも私は"殿"以外で人を呼んだ事ってあったなぁ…?)
西(…あったような…ないような……いや、ある!)
西「ダージリン!!!!!」クワッ
ダージリン「きゃっ!!?」ビクッ ガタッ ゴン!
西(うむ。よくよく考えれば福田や玉田たちには敬称をつけずにそのまま呼んでいたしな)ウンウン
西(でも正直なところ目上のダージリン殿にそれは非礼…ってまた殿って言ってしまった…)
西(さすがに"無礼よ!"って怒られるだろうなぁ…。またほっぺたつねられるのは勘弁願いたいけど致し方ないか…)
ダージリン「……わよ」ヒリヒリ
西「ふぇ?」
ダージリン「……それで良いって言ったのよ」ヒリヒリ
西「ほ、本当でありますか?!ダージリン殿!?…あ」
ダージリン「…本当なら『己の立場を弁えなさい』と言うところだけど、特別に」ヒリヒリ
西「有り難きお言葉でありますっ!」
ダージリン「言わずもがな他所様にそんな口を利くものなら砲弾が飛んでくるから努々お間違え無きよう」
ダージリン「…あと急に大声で呼ぶのはやめて頂戴。心臓が止まるかと思ったわ」
西「そこは心得ております!!」ビシッ
ダージリン「心得てないから言ってるのよ!」
西「そうだ!」
ダージリン「…今度は何かしら?」ジトッ
西「私が"ダージリン"と呼ばせて頂けるのですから、ダージリンも私のこと自由に呼んで下さい」
ダージリン「そうね。お言葉に甘えて『突撃バカ一代』とでも呼ばせて頂こうかしら」
西「なっ、それはさすがに…」
ダージリン「冗談よ」クスッ
西(冗談を言う顔じゃなかったけどなぁ…)
ダージリン「そうね。『絹代さん』って呼ばせていただくわ」
西「………」
ダージリン「…なによ」
西「いや、意外だったなぁと」
ダージリン「意外?」
西「私より年上なのですから"絹代"とか"西"と呼んで下さるものだと思っておりました」
ダージリン「私は何処かの誰かさんと違って礼儀を弁えておりますので」オホホ
西(人を容赦なくつねるクセに良く言うなぁ…)
ダージリン「なによその顔」
西「い、いえ」
ダージリン「言いたいことがあるのならハッキリ言って頂戴」
西「今まで色んな人に"殿"をつけて呼んでいたのですが、やっぱりおかしいのかなぁと思いまして…」
ダージリン「おかしいわね」キッパリ
西「うぇぇっ?!」ガーン
ダージリン「それが敬称だというのはわかるけれど、何だか小馬鹿にされているような気がして私は好きではないわ」
西「そ、そうですか…」
西(ふむ…。ともなれば他の人も"殿"ではなく"さん"をつけてお呼びした方が良いかもしれない)
ダージリン「それならいっそ"ダージリン"と呼んでくれた方が良いわ。あなたのように」
西「ではこれから遠慮なくダージリンと呼ばせていただきますぞ!」
ダージリン「どうぞご自由に」
西「ダー・ジ・リンっ♪ ダー・ジ・リンっ♪ 聖グロだぁ~からキンキラキ~ン♪」キャッキャッ
ダージリン「人の名を雑菌みたいに言わないで頂戴!消毒するわよっ!」
西「おわーっ!?冗談ですってば!ポット下ろしてください!!」
ギャーギャー!!
看護師「お静かに願います!!」
西・ダジ「すいません…!」
― まぁ…これが彼女の本当の顔なのかもしれないわね。
【数日後 昼】
西(たまにはゴロゴロ過ごすのも悪くないなぁと思っていたけど)
西(流石に毎日ベッドでゴロゴロは退屈だなぁ…)
西(この時間だとテレビも面白いのやってないし)
西「…」
西「あいはぶぁぴ~ん」( ゚д゚ )つ♀
西「あいはぶぁぱいなぽ~」●⊂( ゚д゚ )
西「おぉーん」 ●⊂(゚д゚u)つ♀ ●⊂(u゚д゚)つ♀
+:.,'+:*.+,"+.*
西「………」
西「退屈だなぁ…」
コンコン
西「おっ?入ってますよー」
?「おかしいですね。病室に来たつもりなのに、お手洗いに来てしまったかしら?」クスクス
西「あ、失礼。どうぞ~(…とは言ったものの、誰だろう?)」
ガチャ
?「こんにちは。西さん」
西「どうもこんにちは(……ダージリン?今日はいつもの髪型じゃないのかな?)」
?「聖グロリアーナを破った隊長さんがどんな方か気になったので来てしまいましたわ」フフッ
西(…にしては声も違うし制服じゃない。そもそも"西さん"なんて呼ばな…呼ぶかな?)ウーン
西「あの、付かぬ事をお伺いしますが、どちら様でしょうか?」
?「ご挨拶が遅れましたわね。失礼しました」
?「わたくし、聖グロリアーナOGの」
アールグレイ「アールグレイと申しますわ」ペコリ
西「アールグレイさんですね。私、知波単学園の西絹代と申します」フカブカ
西「聖グロOGの方にまで足を運んで頂き恐縮であります」
西(…ん?でも何で聖グロリアーナのOGの方がいらしたのだろうか?)
~~~~~~~~~~~~
アールグレイ「この間はよくも聖グロをコテンパンにしてくれたな。覚悟は出来てるだろうな?」
西「えっ!?」
アールグレイ「死ねェッ!!!」
グサッ
~~~~~~~~~~~
○
o
。
西「」
アールグレイ「ふふ。私たち聖グロのOGは今あなたの話題で持ち切りですからね」
西「そ、そうなのですか…?」ビクビク
アールグレイ「ええ。それはもう。私達の母校を"こてんぱん"にしたというのだから」
西「」アワワ...
アールグレイ「"知波単学園の西絹代とは誰なの?!"と躍起になっているわね」フフ
西「きき恐縮であります…」オロオロ
アールグレイ「でも、いざ蓋を開けたら"知波単学園の戦車道を救った英雄"だったというのですから…ねぇ?」フフ
西「ははは……はぁっ?!」
アールグレイ「クルセイダー会はあなたを聖グロの"脅威"と言い」
アールグレイ「また、チャーチル会は聖グロの"好敵手"と言い」
アールグレイ「そしてマチルダ会は"騎士道精神に則り、西絹代の思想を戦車道に取り組むべき"なんて言い出す程」ウフフ
西(な、なんだか私の知らん所でエラい事になってないか?!)オロオロ
アールグレイ「こんな話は滅多に無いものだから、OG会はそれはそれは大はしゃぎでして」クスクス
西「そ、そうなのですか。あは、あははは…」
アールグレイ「ええ。知波単のサムライに皆"くびったけ"ですわ」ニコニコ
西(どうしよう…。屈託の無い笑顔でものすごい誤解をなさっておられる…)
アールグレイ「知波単学園が羨ましいわね。聖グロでもそういった武勇伝が出てこないものかしら」ウフフ
西(うーん。勝手に誤解しているとは言え、嘘をそのままにしておくべきなのかなぁ…)
西(いや、どう考えても良くない。正直に言った方が良いか)
西「あ、あのっ!」
アールグレイ「あら、どうしたのかしら?」ニコッ
西「私は…その、アールグレイさんやOGの皆さんが想像されるような者ではございません」
西「ましてや英雄だなんてとんでもない」
アールグレイ「あら、どうしてかしら?」
西「私は自分の居場所を守りたい為にただ闇雲に暴走しただけであります」
アールグレイ「…」
西「その結果、たまたま運が良く私の望み通りになったに過ぎません」
西「ですが、私のやった事と言えば後ろ指をさされる様なものばかりで、」
西「罵声が飛ぶならまだしも、英雄なんて自分にはとても…」
アールグレイ「…」
西「ですから…どうか、OGの皆さんには誤解されぬよう『知波単の西は噂のような立派な者ではない』とでもお伝え頂けないでしょうか」
アールグレイ「………そう」
西「…」
アールグレイ「……ふふっ」
アールグレイ「やっぱり。あなたは私の予想通りの方でした」ニコッ
西「えっ…?」
アールグレイ「絶大な力を持っているにも拘らず、それを鼻に掛けることもなく、あくまで謙遜に振る舞う」
アールグレイ「本当に武士道を極めたサムライのような方ね」ウフフ
西「そ…そんな…」
アールグレイ「こんな格言を知っているかしら?」
西「はい?」
アールグレイ「"イギリスはすべての戦いに敗れるであろう、最後の一戦を除いては。"」
西「すみません、よくわからないのであります…」
アールグレイ「あなたのやったことの中には、ひょっとしたら失敗もあったかもしれない」
アールグレイ「でも、あなたは知波単学園を守るという"最後の一戦"で勝利した」
アールグレイ「これは誰が何と言おうと変わらない事実でしてよ?」
西「確かにそうかもしれませんが…」
アールグレイ「そしてOG会はその結果を称賛している」
アールグレイ「胸を張れ、そして誇れ。…と言ってもあなたの性分では難しいかもしれないけれども」
アールグレイ「我々聖グロリアーナOGが認めた以上、卑屈になる理由はどこにもないわ」
西「…!」
アールグレイ「…そうね。もしこの事であなたに牙を剥くような者がいるなら…」
アールグレイ「それは聖グロリアーナOG会を敵に回したことになるわね」ニッコリ
西「」ゾワーッ
アールグレイ「ふふ。だけどOGの皆様には"本人が困ってるから程々に"とお伝えしますわね」ニコッ
西「は、はい宜しくお願いします…」
西(私はそんなに凄いことをしたのか…???)
アールグレイ「あと、うちの後輩、今の隊長のダージリンに会ったら仲良くしてあげてくださいな」
アールグレイ「ちょっと高飛車でお嬢様気質だけれど、根は優しくてとっても良い子なのよ?」ニコッ
西「ええ。ダージリンさんはとても素敵な方です(よくツネるけど)」
アールグレイ「あら、既に面識があったのね?」
西「はい。私が今こうして居られるのもダージリンさんのお蔭です」
西「本当にダージリンさんには感謝してもしきれない気持ちで一杯です」
アールグレイ「ふふ。そうだったのね」ニコニコ
アールグレイ「今は彼女も聖グロの人間らしく淑女になったけど、昔はなかなか面白い子だったのよ」
西「あはは。なんとなーく想像がつきます(今でも十分面白いですけどね)」
アールグレイ「でも、ずっと憧れていた"淑女"になろうと、あの子なりに頑張って成長していった」
アールグレイ「だから、私はあの子を次の聖グロリアーナの隊長に選んだの」
西「そうだったのですね…!」
アールグレイ「他の子には申し訳ないけれど、今の聖グロの隊長は彼女以外に有り得ない」
西「仰る通りダージリンさんは大変優秀な方です」
西「…しかし、それは他の聖グロの生徒さんも同じなのでは?」
アールグレイ「ええ。もちろん皆良い子ばかりよ」
アールグレイ「でもね、ダージリンは頭一つ抜けて優秀なの」
西「そうなのですか?」
アールグレイ「ええ。元からの才能もあったけれど、あの子は何より人一倍努力家だった」
アールグレイ「だから、ダージリンを私の後継者として選んだ」
アールグレイ「そしてダージリンは私の期待に応えてくれた」
アールグレイ「見事に隊長としての責務を全うしてくれた…」
西「ダージリンさんの優れたリーダーシップは、私も大いに参考にさせて頂いております」
アールグレイ「ありがとう。彼女の代わりにお礼を言わせて頂くわ」
アールグレイ「ただ…」
西「?」
アールグレイ「彼女もまた、聖グロの隊長としての"宿命"を背負っているの」
西「宿命…?」
アールグレイ「聖グロリアーナOG会による介入…聖グロの悪い方の伝統ね」
西「聖グロのOG会については私も聞いたことがあります」
西「経済的な援助をすると同時に、学校の運営にも強い影響力を持っているそうで…」
アールグレイ「ええ。OGも元は世間知らずなお嬢様だから好き放題言ってくれますの。まるで小姑様のように」
西「そうなのですか…」
アールグレイ「少しでも聖グロに泥を塗るような真似をすれば、"制裁"を受けることになるから気が気でなかった…」
西「!! ということは、ダージリンさんは…!」
アールグレイ「ええ。ダージリンもOG会に縛られているわ…」
西「っ…!」
アールグレイ「だから、あの子がOG会の意見を押し返して『クロムウェル』を導入したのは、聖グロでも一部の人間だけしか知らない"大戦果"なの」
西「それは凄い…!」
アールグレイ「ええ。本当に凄い話ですわ」
西「ダージリンさんについては前々から凄腕の隊長だと思っていましたが」
西「アールグレイさんの話をお聞きして、ますますその思いが強まりました」
アールグレイ「ふふっ。彼女もきっと喜ぶわ」
アールグレイ「…でも、同時にあの子は」
アールグレイ「貴族たちの"機嫌"を損ねてしまった」
西「っ…!」
アールグレイ「聖グロにおいて、OG会を敵に回す事はタブーとされているの」
アールグレイ「なぜなら…」
アールグレイ「OG会の采配一つで隊長どころか学園からも追放することも出来るから」
西「つ、追放ですって!!?」
アールグレイ「ええ。今やはOG会はそれくらい強い権力を持った組織になってしまったの…」
西「一体どうなってるんですか!いくらOGとはいえ…!」
アールグレイ「お金の力って、怖いわよ」
西「ぐっ…!」
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ダージリン「許せないわよそんなの!」
ダージリン「自分や仲間の道を守るために死ぬ気で戦ったのに…なのに…!」
ダージリン「どうして誰もそれを認めないのよ!おかしいじゃない!!」
ダージリン「あなたに何の恨みがあるって言うの!?」
ダージリン「独りで悩んで苦しんで!それでも勝たなきゃ全部台無しになる!!」
ダージリン「全部終わってしまうから止まることができないのに!!」
ダージリン「なのにこんな結果あんまりよ!!!」
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西(そっか…)
西(だからダージリンはあの時…)
アールグレイ「そしてもう一つ」
西「!」
アールグレイ「驚いたのは、西さん、あなたよ」
西「わ、私ですか?!」
アールグレイ「ええ。さっきも言ったように、OG会が皆口を揃えて貴方を称え出した」
アールグレイ「聖グロの生徒ならまだしも、"よそ者"であるにもかかわらず」
アールグレイ「これは前代未聞の出来事です」
西「私のような若輩者が認められるのです。偉業を成し遂げた方には同様に称賛されていたのでは?」
アールグレイ「いいえ。無かった」
西(バッサリ斬り捨てられた…)
アールグレイ「プラウダ高校のお嬢さんが黒森峰女学園の10連覇を阻止した時も」
アールグレイ「大洗女子学園が強豪校をまとめ、大学選抜チームに勝利し、二度にわたる廃校の危機から学校を守った時も」
アールグレイ「OG会の間ではほとんど話題にならなかった」
西(大学選抜チームに勝ったというのに…?)
アールグレイ「だから………」
アールグレイ「…いいえ、何でもないわ」
西「えっ…」
アールグレイ「ふふ、ごめんなさい。絹代さんが聞き上手だからついついお喋りが過ぎてしまったわ」ニコッ
西「は、はぁ…(いつの間にか絹代さんって呼んでる)」
アールグレイ「話題を変えましょうか」
西「はい」
アールグレイ「そうね………」
アールグレイ「うふふっ」ニタァ
西「え」ゾワーッ
西(なんだろう…ものすごーく嫌な予感がする)
西(…って何故接近してくるのです?!)
アールグレイ「ダージリンが聖グロに入った理由、知りたい?」ニコニコ
西「ふぇっ?!…えっと……まぁ、ちょっと気になるところではあります…」
西(この笑顔、心あたりがある…)
西("イタズラっ子"がする笑顔だ!!!)
アールグレイ「あの子はね、"白馬の王子様"にずっと憧れてたのよ」ウフフ
西「そ、そうなんですか…?(意外にメルヘンチックだなぁ)」
アールグレイ「でもね、『高貴な王子様は高貴な女性の所にしか行かない』って」
アールグレイ「だから聖グロに来て礼儀や作法を一生懸命学んだのよ。可愛いでしょう?」
西「ええ、とっても素敵です…!」
アールグレイ「最初は見ていて冷や冷やする事もあったけれど」
西「そうなのですか?」
アールグレイ「ええ。茶葉をそのままカップに入れたり」
アールグレイ「自販機で買った紅茶を出したら一級品を味わうかのようにしたり顔で飲んだり」
西(うわっ!それは恥ずかしい!!)
アールグレイ「マスタードがたっぷり入ったパイを食べて発狂したこともあったわね。ヒィーヒィー!って」フフフッ
西「あははは…(なかなかえげつない事をなさる)」
アールグレイ「…でも」
西「?」
アールグレイ「あの子は本当に、本当に頑張った…」
アールグレイ「だから…」
アールグレイ「来て欲しいわね。"王子様"」
西「絶対、来ますとも…!」
西(ダージリンもそんな過去があったんだなぁ。何となく察しはついていたけど)
西(そして、何だかんだ言ってアールグレイさんも後輩を案じる優しい先輩なんだね)
「ウォッホン!!」
西・アールグレイ「!!?」ビクッ
ダージリン「これはこれはアールグレイ様、お久しぶりでございますわね」ニコニコ
西(げぇっ!噂をすればっ!!!)
アールグレイ「あら、お久しぶりねダージリン。学校はどうしたの?」
ダージリン「お忘れでして?本日は創立記念日でお休みですの」ニコニコ
アールグレイ「そう言えばそんな時期ね」シンミリ
ダージリン「そ し て 絹代さん、御機嫌よう」ニコニコ
西「あ、あ、あは…は、ダージリン。き、昨日ぶりであります…」
ダージリン「絹代さんが空腹のあまり床に落ちてる物を食べて死んでないか心配で見に来たら」
西「しっ、失礼な!私だって落ちてるもn
ダージリン「まさかまさか、暴露大会をなさっていたとは」ニコニコ
西「」ビクッ
ダージリン「…ねぇ?」
ダージリン「絹 代 さ ん ?」ギロリ
西「あ、アールグレイさん!まさに今ダージリンに牙を剥かれているのであります!助けてくださぁーい!!」
アールグレイ「うーん。ちょっとこれは無理かも」フフフ
西「そ、そんなぁ!!」ガーン
ダージリン「ふふっ。もちろん覚悟は出来てるわよね? き ぬ よ さ ん」ゴゴゴゴゴ
西(…あ、香水のいい香りがす)
パチコーーーーン!!!
アイタァァァァァァァァァァ!!!!
西「っぅぅ…」オデコヒリヒリ
アールグレイ「…それにしても、ダージリンがお見舞に来るなんて思わなかったわ」
ダージリン「それはこっちのセリフですの。どうしてまたこんなヘンな所へ?」
西(ヘンな所とは失礼なっ!)ヒリヒリ
アールグレイ「絹代さんにはさっき話したけれど、聖グロを打ち負かした高校の隊長さんがどんな方なのか知りたくてね」
ダージリン「人のプライバシーを覗きたがる助平なソレが隊長でしてよ」シレッ
西「助平?!」ガーン
アールグレイ「こらこら、意地悪を言わないの。彼女が困っているわ」
ダージリン「意地悪をされたのは私の方ですけど?」
アールグレイ「こんな格言を知っているかしら? "完全主義では、何もできない"」
ダージリン「チャーチルの言葉ですね。何故それが出てきたのかはわかりませんが」
アールグレイ「才色兼備ななあなたにも、可愛らしいところがあるってことよ」
西「わかります」
ダージリン「分からなくて良いわよ」
コンコン
アールグレイ「あら?またお客様?」
西「今日は色んな方がいらっしゃるのであります。どうぞー」
ダージリン「…あなたは何でもホイホイ入れる前に確認を取るべきよ」ハァ
西「あ…すいません。いつものクセで」
アッサム「失礼します」
オレンジペコ「お邪魔します」
ダージリン「遅かったわね二人とも」
アッサム「あなたがローズヒップのように先にピューと飛んでいったのでしょう」ハァ
ダージリン「なんだか嫌な予感がしたからよ」
アッサム・オレンジペコ(嫌な予感?)
西「先日の試合ぶりですね。オレンジペコさんと…セイロンさん?」
アッサム「ぐっ、アッサムですわ!聖グロリアーナ隊長車砲手の!」
オレンジペコ「そういえば、アッサム様は自己紹介はまだでしたっけ」
西「先日はお世話になりました。西絹代と申します」フカブカ
アッサム「こちらこそ、宜しくですわ」ペコリ
アールグレイ「お久しぶりね。アッサム」
アッサム「なっ、アールグレイ様?!お、お久しぶりでございますの!」アセアセ
西(ん?随分取り乱しておられるな?)
オレンジペコ「確か、先代隊長の…」
アールグレイ「そちらのお嬢様は初めましてね。アールグレイですわ」
オレンジペコ「ご挨拶が遅れました。隊長車の装填手をしているオレンジペコです」ペコッ
アールグレイ「ご丁寧にどうも。1年の頃のダージリンにそっくりね」
ダージリン「アールグレイ様!」
西(あれ…なんだか疎外感を感じる…)
アールグレイ「ほらほらダージリン、絹代さんが困っていますわ」フフッ
西「え、あ、はい」
ダージリン「わ、私のせいですの?!」
アールグレイ「折角ですから紅茶を淹れてあげたら如何かしら?」
ダージリン「う…わかりましたわ」
オレンジペコ「ダージリン様が淹れる紅茶、久しぶりです」ワクワクペコペコ
アールグレイ「ふふ。本当に1年の頃のダージリンを見てる気分ね」ニコニコ
ダージリン「あ、アールグレイ様っ!」
西「実はオレンジペコさんを初めて見たとき、ダージリンの妹さんだと思っておりました」
オレンジペコ「えへへ。よく間違えられます」
アッサム「傍から見れば瓜二つですものね」フフッ
アールグレイ「賑やかで良いわね。私ももう一年聖グロに居たかったわ」シンミリ
ダージリン「留年なさるおつもりで?」コポポ
ダージリン「はい、どうぞ」コトッ
アールグレイ「ふふ…ダージリンも腕を上げたわね」
ダージリン「それはもう、アールグレイ様に姑様の如くご指導いただきましたので」
アールグレイ「ふふ。意地悪を言わないで頂戴。あなたカップに直接茶葉入れてお湯を注ごうとするんですもの」フフッ
西(緑茶でやったら大変なことになりますね…)
ダージリン「あ、あれは…!」
アッサム「…ありましたわねそんな事」ズズ
アールグレイ「アッサム、あなただって茶葉とヒジキ間違えて入れてたじゃない」フフッ
アッサム「アールグレイ様っ!?//////」カァァァ
ダージリン「…ひじき…ック…フフ…アハハッッ」プルプル
西「出汁が取れそうですな」フム
ダージリン「だ、出汁って…うっ…くふっ…あはっはははっ…!」プルプル
アッサム「笑いすぎですダージリンっ!!////」
西「こんなに笑うダージリンは初めて見ました」
アールグレイ「この子は案外笑い上戸で一度ツボに入るとこんな感じになるのよ」フフフッ
西「ははは。そうなのですね!」
アールグレイ「ほら。絹代さんも紅茶が冷めないうちに」フフッ
西「あっ、そうでした。いただきます」
西(よくよく考えたら、紅茶って飲んだことないんだよなぁ)
西(それにダージリンの淹れる紅茶を頂くのは初めてだし)
西(またとない機会だから味わって飲もうっと)
西「…」
アールグレイ「…」
ダージリン「…」←おさまった
アッサム「…」
オレンジペコ「…」
西「…あれ?皆さん?どうなさいました?!」オロオロ
アールグレイ「いえいえ、なかなかお上品ですね。思わず見とれてしまったわ」フフッ
西「そ、そうですか?」
ダージリン「…意外ね」
アッサム「我が校の生徒でもなかなかお作法が身に付かない子が多いのに、大したものですわ」
オレンジペコ「もしかして茶道をやっておられたのでは?」
西「ええ。実家に居た頃は華やら茶やら色々やらされており、学校でもそういった授業があるので気が付けば…」
アールグレイ「まぁ。良いとこのお嬢様でしたのね」
西「はは。そんな大層な話ではありませんよ」
西「何しろ、そういった生活が少し窮屈に感じたが故に、こちらに来たものでして…」ハハ
ダージリン「…」
アールグレイ「あなたとは逆ね。ダージリン」クスッ
ダージリン「…ええ」ズズ
アールグレイ(もしかしたら、白馬の王子様は…)
オレンジペコ「あら、もうこんな時間です」
アッサム「ふふ、楽しい時間は本当に早く過ぎてしまいますわね」
アールグレイ「ええ。時というものは、それぞれの人間によって、それぞれの速さで走るものなのよ」
オレンジペコ「シェイクスピアですね」
ダージリン「アールグレイ様は相変わらず格言がお好きですのね」ヤレヤレ
アッサム「ダージリンがそれを言いますか」
ダージリン「えっ?」
アッサム「…もう結構です」ヤレヤレ
オレンジペコ(ダージリン様も昔は延々と聞かされる側だったのかな?)
アールグレイ「それでは、私はこれで失礼します」
西「アールグレイさん、色々とお話して下さりありがとうございました」フカブカ
アールグレイ「こちらこそ。楽しい時間ありがとう」ニコッ
アールグレイ「もし良かったら聖グロにも遊びに来てくださいな」
アールグレイ「丁重におもてなしを致しますの。ダージリンが」フフッ
ダージリン「えっ、私がですの?」
アールグレイ「ええ。今の隊長はあなたですもの」
ダージリン「そうですわね。ヒジキのだし汁でもお出ししますわ」シレッ
西「えぇぇ…」
アッサム「だ、ダージリン!」
アハハハハハハハ
アールグレイ「それじゃ皆も元気でね?」
アッサム「色々ありがとうございました」ペコリ
オレンジペコ「アールグレイ様もお元気で。また学校に来て下さいね」
アールグレイ「ええ。ありがとう」
アールグレイ「そして、ダージリン」
ダージリン「はい?」
アールグレイ「今度は二人っきりでゆっくりお茶しましょうね」
ダージリン「ええ。喜んでお付き合い致しますわ」
アールグレイ「絹代さん」スッ
西「はい?」
アールグレイ「私の連絡先です」
西「あ…どうもです」
アールグレイ「もし、宜しければ」
アールグレイ「ダージリンが困った時は、どうか助けてやって下さい」
西「もとより、そのつもりです…!」
アールグレイ「ありがとう」
― 結局、伝えることが出来なかったね…。
【同日 夕方】
西(聖グロの皆さんは帰っちゃったし、また暇になったなぁ…)
西(やっぱり私はじっとしているのは性に合わないのかもしれん。戦車で突撃がしたい)
西(…あ!そういえば皆から頂いた御見舞品このままにしておくのは良くないな。食べ物とかもあるし)ヨッコイショ
西(食べ物とかは冷蔵庫に入れて、花はあとで看護婦さんに花瓶を借りて)ガサゴソ
西(…にしても片手が使えない上に松葉杖というのは不便だな。猫の手も借りたいとはまさにこの事だ)アハハ
西「…ん?なんだこりゃ?」
― BRITISH INFANTRY TANK MK.IV CHURCHILL Mk.VII
西「おおっ、夕三ヤの戦車模型じゃないか!!一度作ってみたかったんだよ!」キラキラ
西「ふむふむ…"イギリス歩兵戦車チャーチル"とな」
西「…ん?チャーチル?」
西「どこかで聞いたことがあるような無いような…」
西「まぁいっか」
西「ご親切にニッパーや接着剤まで付いているし、暇つぶしに有難く作らせて頂きませう♪」
西「まずはパーツを切り離してー」パチン パチン
< コンコン
西「カッターでバリやラインを消してー」キュッキュッ
< コンコン
西「接着剤を付けて貼り合わせるー」ヌリヌリ ペタン
< ガチャ
西「イギリスの~チャ~チル~♪」パチン パチン
西「模型になったチャ~チル~♪」ショリショリ
西「コぉ~ンにぃ~生まれたぁ~このぉ気持ちぃ~♪」
「チャーチルがどうしたのかしら?」
西「いやぁ、面白い形をした戦車だなぁ~と思いまし…」
西「うぉぁぁぁぁぁ出たぁぁぁぁ!!?」ビクゥッ
ダージリン「人を幽霊みたいに言わないで下さるかしら」
西「だ、ダージリン!? ノック無しで部屋に入るのはマナー違反ですぞ!心臓に悪いっ!!」ドキドキ
ダージリン「何度もしたけれど、あなたが全然気付かなかっただけよ?」
西「えー…」
ダージリン「えーもびーも無いわよ全く。知らない人が来たらどうするつもりだったのよ」
西「あはは…面目ない……ん?」
西「そういえば何故ここに?」
ダージリン「あら、私はここに来たらいけなかったかしら?」
西「いえ、そういうわけでは…てっきり帰られたのだと」
ダージリン「あのまま帰るつもりだったけれど、忘れ物を思い出して取りに来たのよ」
西(へぇ、ダージリンも忘れ物するんだ)
ダージリン「…なによその顔」
西「い、いえなんでもありません。ダージリンがそそっかしい人だなんてこれっぽっちも…あっ!」
ダージリン「ほぅ…」
ダージリン「コレであなたの鼻をつまめばその減らず口も治るかしら?」つ[ニッパー]
西「やめてください。天才バカボンのお巡りさんになります」
ダージリン「ついでにコレでその口を塞いでしまえば静かになるわね?」つ[夕三ヤセメント]
西「それもいやです」
ダージリン「まったく…。 それで?」
西「へ?」
ダージリン「チャーチルがどうのこうの言うから少し気になったのよ」
西「あぁ、コレです」
ダージリン「…なにこれ?」
西「え、プラモデルをご存知ないのですか?!」
ダージリン「ええ…知らないわ」
西「プラモデルというのは、説明書を見ながらプラスチックのパーツを組み立てて、戦車とか車とか飛行機とか作るものです」
ダージリン「なるほど…」
西「これがまた奥が深くて、実際に戦車を組み立てるエンジニアのような気分に浸れるのであります!」
ダージリン「そうなの?」
西「それで、組み立てが終わったら塗装をしたりステッカーを貼って完成!…なのですが」
ダージリン「なのですが?」
西「拘る人はあえて車体の色を暗くして色あせた質感を表現したり」
西「塗装の剥がれや配管のサビを表現したり、履帯や転輪を砂まみれにするのですよ!」
ダージリン「それって、面白いのかしら?」
西「」ニヤリ
ダージリン「な、何よ。急にニヤニヤして気味が悪いわね…」
西「ダージリン、ホントは興味津々なのでは?」ニコニコ
ダージリン「そ、そんなことないわよ。…あなたがノックも気付かないほど夢中になって何をしてるのか気になっただけよ」
西「ダージリンもやってみます?」ニコニコ
ダージリン「…あなたがどうしてもって言うならやってあげても良いわよ?」
西「…」
ダージリン「な…何よ…」
西「やってみたいですか?」
ダージリン「…少しね」
西「少し?」
ダージリン「…」
西「…」
ダージリン「………やってみたいわよ」
西「そうでしたか!」ニパァァァ
ダージリン「ぐっ…憎らしい笑顔ね…」グヌヌ
西「では、お隣にどうぞ」ポンポン
ダージリン「え?」
西「さすがに立ったままではやり辛いでしょう」
ダージリン「べ、ベッドに行けと…?」
西「ええ。幸い大きいベッドを選んで頂いたので、窮屈ではないかと」
ダージリン「…じゃ、じゃぁお邪魔するわね?」チョコン
西「どうぞどうぞ」
西「それではまず転輪を組み立てて行きましょう」
西「パーツナンバーはAの16と17ですから、まずはA16をランナーから切り離して下さい」
ダージリン「ランナー?」
西「あ、ランナーというのはパーツがくっついている枠のことです」
ダージリン「ほう…」
西「その枠がアルファベットで振り分けられているので、そのうちのAの16番をまず切り離します」
ダージリン「Aの16…これかしら?」
西「お、それですね。ではニッパーでランナーから切り離してください」
ダージリン「わかった。やってみるわね」
ダージリン「…」プルプルプル
西「…あれ?ダージリンってもしかして手先はあまり器用ではなかったりします?」
ダージリン「よっ、余計なお世話よ!こんなの慣れてしまえばアーリーティー前よっ!」
西(だけどすごく手が震えていますね…)
西(変なところカットしたら面倒なことになるし、ここは…)
ギュッ
ダージリン「ふぇっ?!」←手を握られている
西「このままゆっくりパーツとランナーの隙間にニッパーの刃を通していきます」
西「多少バリが残ってもあとからヤスリで削れば良いので安心してください」
ダージリン「え…えぇ…」
パチン コロン
西「おお、いい感じに切り離せましたね!」
ダージリン「ほ、本当?」
西「ええ。初めてにしては上出来ですよ!」
ダージリン「えへへ…///」
西「」ニコニコ
ダージリン「…ハッ!」
ダージリン「ま、まぁ私にかかればこんなもの簡単ですわよ!」フフン
西「では、今度はダージリン一人でやってみてください」
ダージリン「え」
西「今ので大体コツを掴んだと思います。なので今度はお一人で」
ダージリン「」
西「大丈夫。ダージリンは要領が良いのですぐ出来ますよ」
ダージリン「…って」
西「え?何と申されましたか?」
ダージリン「も、もう一回手、握って…」
西「あ…かしこまりました」ギュッ
ダージリン「…」
パチン ポロン
西「ふぅ…。ようやく転輪の組み立てが終わりましたね」
ダージリン「ええ」
西「まだまだ完成は先ですけど、疲れたので一旦ここで休憩しましょう」
ダージリン「そうね」
西「にしてもチャーチルは転輪が多いですな」
ダージリン「仕方ないわ。重たい車体を支えるためだもの」
西「なるほど。うちの戦車も転輪の数増やしたら突撃しやすくなるでしょうか」
ダージリン「それじゃ別の戦車になってしまわないかしら?」
西「そうですね。九六式重戦車ダ号とか」
ダージリン「何よそれ…」
西「グロリアーナの"グロ"で九六、ダージリンの"ダ"でダ号です」
ダージリン「意味がわからないわ。それに何で重戦車なのよ」
西「重量感のあr <ツネッ!> 痛ぁっ!!?」
ダージリン「私は重くないわよっ!」
西「あはは…ふぁぁ。何だか眠くなってきましたね」
ダージリン「ここは日当たりも風通しも良いから、お昼寝には最適かもしれないわね」
西「ええ。ただ、あまりに快適なので寝過ごしてしまうのですよ」ハハハ
ダージリン「あなたがニートになってしまわないか心配だわ」
西「に、ニートぉ?!」ガーン
ダージリン「ええ。こんな快適な所にずっといたら元に戻れなくなってしまうわ」
ダージリン「人間ね、一度堕落してしまったら矯正するの大変なのよ?」
西「…(長くなりそうだな)」
ダージリン「身の回りのあらゆるところに快楽は潜んでいる」
ダージリン「そういった快楽の誘惑からいかに自分を制するか…」
西(…あ、そろそろティーガースの試合中継始まってるな)ピッ
オオアライガワルイ
ナンデヤ! グンシンカンケイナイヤロ!!
ソラソウヨ
ワイワイガヤガヤ
西(あちゃー。また今日も29点差かぁ…)
ダージリン「快楽にハマって抜け出せなくなって、取り返しの付かないことになる人だっているのだから」
ダージリン「特に今の絹代さんはやる事が無くて毎日ボーッと過ごしているからまさにニート予備軍よ?」
西(うーん…今季はダメだなぁ…)
ダージリン「このままニートになってしまう前に……ちょっと聞いてるの!?」
西「え?!あ、ああ…聞いてましたよちゃんと!」
ダージリン「それじゃあ私が何と言ったか説明できるかしら」
西「え」
ダージリン「ちゃんと聞いていたなら説明できるわよね?」
西「え、えーと…ダージリンがニートって話ですよね??」ハテ
ダージリン「」ブチッ
西「あれ…違いました?」
ダージリン「ええ、どうやらあなたの存在そのものが間違ってるみたいね」ジリジリ
西「私の存在ってどういう…ちょっ、何でこっちに近づいてくるんですかっ!?」
ダージリン「この減らず口を矯正するためよ!!」ビローン
西「ふもぉぉ!!いひゃいへふっ!!ははひふぇふははい!!」ジタバタ
西「うぅ…容赦ないですなぁ…」ホッペヒリヒリ
ダージリン「ふん!」ツーン
西「仮にも私はケガ人でありますからして、もう少しお手柔らかに…」ヒリヒリ
ダージリン「あらあら御免あそばせ。あまりに憎まれ口を叩くものだから怪我の事なんてスッカリ忘れてしまいましてよ」ホホホー
西「動けないのを良い事に好き放題してよく言いますよ。そういうのが趣味なんですか?」
ダージリン「なんですって?」ギロッ
西「…なんでもありません」
ダージリン「まったく…」
西「っ…!」ブルッ
ダージリン「…何よ」
西「いえ…あの…」
ダージリン「毎度ながら歯切れが悪いわね。どうでも良い事はベラベラと喋るクセに」
西「……いえ…お手洗いに行きたくなって…」モジモジ
ダージリン「…あぁ。ちょっと待ってなさい。…あったわ」
西「?」
ダージリン「はい。どうぞ」
[尿便]
西「」
ダージリン「何よ?」
西「あの、この病室にトイレあるので…」
ダージリン「一人で行けるの?」
西「ええ、松葉杖があるので…おっと」ヨロッ
ダージリン「危なっかしいわね。連れて行ってあげるわよ」
西「あはは…恐縮です」ヨッコイショ
ガチャ バタン
ダージリン「やれやれ。手も足も使えないなんて不便ね」
西『あの…ダージリン』
ダージリン「どうしたの?」
西『その…厚かましいのは重々承知なのですが…』
ダージリン「何を今更。言ってご覧なさい」
西『さすがの私も人がそばにいる状態では用を足し辛いのであります…』
ダージリン「あなたにもそれくらいの恥じらいはあるのね」
西『あの…そろそろ出そうです…』ブルッ
ダージリン「はいはい。離れれば良いのでしょう」スタスタ
西『恐縮です…ん……ふぅ……』
ダージリン「それにしても良いベッドね」フカフカ
ダージリン「こんなベッド使ってたら動く気力を吸い取られそう」
ダージリン「一体どこのメーカーかしら?」
ダージリン「………」
ダージリン「ふぁぁ…」ノビーッ
ジャー
西『ダージリン、すみません。もう一回お願いします』
シーン
西『ダージリン…?』
ガチャ
西「ダージリン?」
西(帰られたのかな?)
西(ふむ…仕方ないな…)ケンケン...
西「よっと!」 つ[松葉杖]
西(にしても、帰るならひとこと言って欲しかったなぁ……って、あれ?)
ダージリン「zzz」スヤァ...
西「あはは。そこにいたのですね」
ウッター!
ティーガースガウチマシタァァァァァァ!!
西(おっと、テレビつけっぱなしだ)ピッ
西(…これでよし、と)
ダージリン「zzz」スヤァ
西(ダージリンも色々あってお疲れなんでしょう。このまま寝かせておきませう)
西(それにしても柔らかそうなほっぺただ。まるで肉まんのような)
西(………)
西(ちょっと触るくらいだったら良いだろうか…)
西(ダージリンさんも私のほっぺた引っ張ったしお相子だよね?)
西「」ソーッ
コンコン
西「!!」ビクッ
西「ど、どうぞぉ…?」
ガチャ
オレンジペコ「失礼します」ペコッ
西「あ、先ほどぶりであります。オレンジペコさん」
オレンジペコ「何度もすみません。ダージリン様の帰りが遅かったものでして」
西「ああ、もうこんな時間ですからね」チラッ
時計『20:00』
オレンジペコ「…あれ、ダージリン様…」
西「ええ。私が少し目を離した隙にぐっすりと」
ダージリン「」スピー
オレンジペコ「そうですか…困った人ですね。怪我人押しのけてベッドを占領しちゃうなんて」クスッ
西「ダージリンも色々お疲れなのですよ」
オレンジペコ「そうかもしれませんが…」
西「試合は終わったのですから、ゆっくりしてもバチは当たらないかと思いますよ」フフッ
オレンジペコ「たしかに…」
西「そういえばダージリンも隊長ですからね。聖グロの」
オレンジペコ「…忘れてたのですか?」
西「ええ。ここ最近は戦車から離れてしまったこともあって、ダージリンには色々お世話になってることもあったおかげで」
西「隊長としてではなく」
オレンジペコ「…」
西「お友達という印象が強いですね」
オレンジペコ「…」
西「…ん?どうかされましたか?」
オレンジペコ「えっと…」
西「?」
オレンジペコ「ダージリン様は知波単学園と戦って以降、やたら貴方の名前を呼ぶようになったんです」
西「えっ、私の名前をですか?」
オレンジペコ「ええ。事あるごとに"絹代さんだったらこういう時どんな顔をするでしょうね"…と」
西「そうなのですか」
オレンジペコ「ええ。それはもう楽しいことを思い出してるかのように」
西「ははっ。それは嬉しいです!」
オレンジペコ「西さん、率直にお尋ねしますが」
西「なんでしょう?」
オレンジペコ「西さんはダージリン様の事をどう思っておられるのですか?」
西「うーん…」
オレンジペコ「…」
西「少し前は聖グロリアーナの隊長殿という印象でして」
西「品の無い自分とは真逆の存在ゆえに少々接しづらい方だなぁと思っておりました」
オレンジペコ「では、今は?」
西「今は色々お世話をして頂いていることもあって、親しく思うようになったのですが…」
オレンジペコ「…」
西「実際のところ、よくわからないのであります」
オレンジペコ「よくわからない…?」ピクッ
西「ええ。よくわからないのですが…その、」
西「ダージリンが近くにいないと」
西「心にぽっかり穴が空いたような気持ちになります」
オレンジペコ「…それはどういう意味ですか?」
西「それが"よくわからない"のです」
西「腹に風穴でも空いたかのような…そんな錯覚に陥ってしまうんですよね」
オレンジペコ「…」
西「でも、ダージリンがいると、その穴が埋められていくような気がします」
西「冷たい風を遮ってくれるかのように、暖かい気持ちになれます」
西「それもダージリンのお人柄なのかな…」
オレンジペコ「…となれば、似たような方がいらしたら同様に"穴"を埋めてもらえると?」
西「それはないです」キッパリ
オレンジペコ「…」
西「…あれ以来、気がつけば私のそばにはダージリンがいました」
西「ダージリンがいる日常がごく当たり前のように思えました」
西「それは当たり前でも何でもないのに」
西「ですから、もしもダージリンがいなくなったら…と思うと凄く寂しいです」
西「学校が違うので、いずれ離れてしまう日が来ますが、それでも何かしらの形でダージリンとは繋がっていたい…と」
オレンジペコ「…わかりました」
西「なんだかお茶を濁す返答で申し訳ありません」
オレンジペコ「いえ。こちらこそ変なこと聞いてすみません」
オレンジペコ「今夜はもう遅いので、ダージリン様はこのままここで休ませて頂けないでしょうか?」
西「ええ、私は構いませんよ?」
オレンジペコ「ありがとうございます。それと、」
オレンジペコ「ダージリン様には私がここに来たことを内緒にして下さい」
オレンジペコ「そうでないと『どうして起こしてくれなかったのよぉ!!』って怒られちゃいますので」エヘヘ
西「あはは。ダージリンならきっと言うでしょうね」
オレンジペコ「…あ、重ね重ね恐縮ですが」
西「構いませんよ。なんでも仰ってください」ニコッ
オレンジペコ「連絡先、交換していただけないでしょうか?」
西「ええ、是非とも」つ[携帯]
オレンジペコ(あ、一応携帯電話は扱えるんですね)
西「ははは。こんなご時世ですのでパソコンや携帯電話は扱えたほうが良いなと思った次第ですよ」
オレンジペコ(うっ…顔に出ちゃってたかな…)
オレンジペコ「あ、来ました。有難うございます」
西「いえいえ、こちらこそ」
オレンジペコ「さて、それでは私はこの辺で失礼します。色々有難うございました」ペコ
西「こちらこそ。お休みなさい」フカブカ
西(さて…もうこんな時間か。1日が終わるのはあっという間だなぁ)
西(チャーチルもそのままだから片付けないと…)ジャラジャラ
チラッ
ダージリン「zzz」スヤァ
西(にしてもダージリンは寝顔も綺麗だなぁ)
西(起きてる時はちょっと口うるさいところもあるけれど)
西(………)
西(ダージリン真似)「こんな格言を知ってるかしら? "早起きは三文の徳"」
西(ダージリン真似)「あなたも一日中寝てばかりいないで、たまには早起きでもして自分を磨いたらどうかしら?」
西「…似てないか」ハハハ
― ええ。ダージリンもOG会に縛られているわ…
西(………)
― ダージリン様はやたら貴方の名前を呼ぶようになったんです
西(………)
― 西さんはダージリン様の事をどう思っておられるのですか?
― もしダージリンがいなくなったら…と思うと凄く寂しいです
西「ダージリン…」
西「…」
ダージリン「…」zzz
西「………」
ピタッ
ダージリン「…んっ……」
ツネッ
ダージリン「…っぅ……」
西「………」
プスッ プスッ
ダージリン「…んんぅ……」
西「………あはは…」
― 私はダージリンに甘えてばかりだなぁ…
ダージリン「………うーん?」パチッ
西「あ…おはようございます」
ダージリン「…絹代さん……いま何時ぃ…?」ポケー
西「えっと、9時ですね」
ダージリン「そう…」ウトウト
ダージリン「…」
ダージリン「9時ぃ?!!」ガタッ
西「わ!」
ダージリン「ひどいわ絹代さん!どうして起こしてくれなかったのよ!」
西(うっひゃぁ…オレンジペコさんの言った通りだ)
ダージリン「あぁ…私としたことが寝坊助にも程があるわぁ……」
西「ま、まぁまぁ落ち着いて…」
ダージリン「うぅ…あなたのそばにいるせいで私までだらけてしまったのね…」ズーン
西(失礼なっ!!)
西「あの…ダージリン」
ダージリン「なによ」
西「今晩はもう遅いでしょうから、此処に泊まっていって下さい」
ダージリン「え、ここに?」
西「ええ。生憎この近辺には宿泊施設がありませんので」
西「他にも空いている部屋や仮眠室があるかもしれませんので聞いてみますね」つ[電話]
ダージリン「ええ…お願いするわ」
西「……あの、申し訳ないのですが」
ダージリン「他にお部屋が無いのでしょう?」
西「ええ…」
ダージリン「仕方ないわよ。私のような健常者が病人や怪我人押しのけて『寝過ごしたから部屋を使わせてくれ』なんて厚かましいにも程がありますもの」
西(私を押しのけて寝てたクセに…)
西「ただ、私の部屋したら"利用者が許可するならそれで良い"とのことでして」
ダージリン「でも、それってつまり…」
西「あ、ダージリンはそのベッド使ってください。私は椅子にでも座って寝ますよ」
ダージリン「何を言ってるの。あなた仮にも怪我人なのよ」
西「とは言ってもダージリンを地べたで寝させるのはさすがに…」
ダージリン「あなたが椅子でどうして私は床なのよ…」
西「ははは冗談ですよ。私が床で寝ましょう」
西「ウチの玉田も選抜戦帰りの列車で地べたに寝そべってたことがありますので」アハハ
ダージリン「…じゃぁ」
西「ん?」
ダージリン「あなたのベッド…ほんの少しだけ貸してくれないかしら…?」
西「え?」
ダージリン「あなたのベッドなのだから、あなたが使うべきよ」
ダージリン「ただ、少しだけ場所を貸してくれないかしら…と思って」
西「や、やっぱり私が椅子なり床なりで寝ます!こう見えて戦車の中でよく転寝してますので!」
ダージリン「だからそれは駄目」ガシッ
西「わっ!だ、ダージリンは平気なんです?!」
ダージリン「え?…ええ、女同士でしょう?」
西「そう…ですよね…?」
ダージリン「ええ」
ダージリン「…でも、制服のままだと皺になるわね」
西「…あ、私の予備の浴衣があるので良かったら使ってやって下さい」
ダージリン「いいの?」
西「ええ」
ダージリン「じゃぁ、お言葉に甘えようかしら」
西「…」
ダージリン「なに?」
西「いえ、浴衣姿のダージリンも絵になるなぁ~と思いまして」
ダージリン「褒めても何も出ないわよ」←ちょっと嬉しい
西「浴衣は良いですぞ!浴衣一つあれば寝るのはもちろん、病院内や外も出歩けますし!」フフン
ダージリン「さすがに外を歩くときは着替えるわよ」
西「まぁ、私の場合こんな体ですからね」
ダージリン「ああ…そうだったわね」
西「はははっ!気軽に脱げるってのも浴衣の利点ですよ!」
ダージリン「何を言ってるのかしらこの子は」ハァー
西「あ、そうだ、病室内にシャワールームがあるので良かったらそちらも使ってください」
ダージリン「何から何まで悪いわね」
西「いえいえ、これくらい」
ダージリン「…じゃあ、お先に頂くわね?」
西「どうぞどうぞ」
西「………」
西(んー…大丈夫なのかなぁ…?)
西(ダージリンは優しいから気をつかって下さってるけど、一つのベッドで二人というのはどうなんだろう…)
西(やっぱりダージリンに言って私は床で寝た方が良いのでは?いやそうに違いない)
ダージリン『絹代さん』
西「ひゃっはぁい!?」ビクッ
ダージリン『? お湯ってどうやれば出るのかしら?』
西「え、え?あっ、あ、右側を回すと出るのでありますっ!」
ダージリン『ありがとう』
西(し、心臓に悪い)
ダージリン『ひゃああああっ!!!』
西「だーズりンどのォ?!!」←噛んでる
ダージリン『ちょっと!こっち冷水じゃないの!!』プンスカ
西「ももも申し訳ございませんっ!温かいのは反対側でしたぁーっ!!」
ダージリン『まったくもう…!』
シャワーーーーー
西(なんだか胃が痛くなってきた…)キリキリ
ダージリン『絹代さん』
西「…今度はなんでしょうか?」ジトッ
ダージリン『良かったら一緒にシャワー浴びません?』
西「ふぁっ?!」
ダージリン『手足が不自由でしょうし、髪洗うの手伝うわよ』
西「い、いえ、私は…」
ダージリン『?』
西「…ダージリンはそういうの気にされないのです?」
ダージリン『ええ。エキシビジョンマッチ戦後にもご一緒したでしょう?』
西「た、たしかに…」
西(…って、あの時は他の方もいたではないか!でも、今回はその…)
西(二人っきりってさすがに…)
ダージリン『じれったいわね。早くなさいな』
西「は、はいぃっ!」
西(もう…どうにでもなれば良いんだ…)グッタリ
【シャワールーム】
西「お、お邪魔します」E:タオル
ダージリン「余所余所しいわね。早くこっちへ来なさいな」
西「きょ、恐縮です(そりゃ余所余所しくもなりますよ!!)」
ダージリン「あら?腕や足はやっぱり濡らしちゃダメなの?」
西「え、ええ…ギプスなので上からタオルを巻いて更にビニル袋で水が入らないようにします」
ダージリン「不便ね。やっぱり一人じゃ大変でしょ?」プシュップシュッ
西「まぁ、慣れましたけ <ピタッ> ひゃぁっ!?」
ダージリン「ちょっと大声出さないで頂戴。びっくりするじゃない」
西「びっくりしたのは私の方であります!いきなり触るなんて反則ですぞ!」ドキドキ
ダージリン「それは申し訳ないわね。次からは"触る"って一声かけてからで良いかしら?」ゴシゴシ
西「え、ええ。それなら…」
ダージリン「じゃぁ触るわね」
西「触ってから言わないでください」
ゴシゴシ ワシャワシャ
西(でも…なんだか気持ち良いのであります。髪を切りに行った時の洗髪を思い出すのであります)ホヘー
ダージリン「懐かしいわね」ワシャワシャ
西「ほへ?」
ダージリン「昔はこうやって妹の髪を洗ってたのよ」モシャモシャ
西「妹…アップルペン殿ですか?」
ダージリン「"オレンジペコ"よ。それにペコは後輩。ちゃんとした妹よ」ゴショゴショ
西(…オレンジペコ殿が聞いたらちょっとヘコみそうな…オレンジ凹。…いや無いか)
西「妹さんは聖グロリアーナ生なのですか?」
ダージリン「いいえ、まだ中学生(※)だもの。でも、もしかしたらウチに来るかもしれないわね」ゴシゴシ
※ここだけの独自設定です
西「妹さんが聖グロリアーナに来たら今度はオレンジペコさんが隊長になっているかもしれませんね」
ダージリン「そうね。あの子はああ見えてなかなか頼もしいから」ゴシゴシワシャワシャ
西「それで、ダージリンよろしく」
西(オレンジペコ真似)「こんな格言を知ってます?」ドヤッ
西(オレンジペコ真似)「お寿司はね、銀シャリよりも上に乗ったチクワが一番おいしいの。握られた方がいい味だすのよ」ドヤァァ
西「…となったりしt ぶわぶっ!?」
ダージリン「私を格言自慢が好きな嫌味ったらしい人間みたいな言い方しないで頂戴」ジャー
西「ゴボゴボガボゴボゲホッゲホッゲエホッオェェェェッ!!!!」ブクブク
ダージリン「まったく。なんでお寿司のネタにチクワなのよ」ジャー
西「いきなりシャワー顔面にぶっかけるなんて卑怯じゃないですかぁ!!」ケホッケホッ
ダージリン「あらあら御免あそばせ。シャワーのときは一声かけろと言われておりませんので」
西「…まさにイヤミな女」ボソッ
ダージリン「…」ジャー
西「ゴボゴボガボゴボゲホッゲホッゲエホッオェェェェッ!!!!」ブクブク
ダージリン「フフフ」ニタァ
西「ゲホゲホオ゛エ゛ェッ! それ反則です!ルール違反であります!」
ダージリン「あなた用の制裁措置よ」フフフ
西「私は何も悪いことしてませんっ!」
ダージリン「自覚がないのならしょうが無いわねぇ?」
西「あ!シャワーこっち向けようとしていますね?!ダメです禁止です!!」
ダージリン「はしゃぎ過ぎよ。もう少し落ち着きなさい」
西(誰のせいだと思ってるんですか!!)
西「でも…」
ダージリン「今度は何よ?」
西「もし妹さんがうちに来たらどうします?」
ダージリン「"うち"って知波単学園?」
西「ええ」
ダージリン「それはご勘弁願いたいわね。騒がしいのはローズヒップ一人でお腹いっぱいですわ」
西「えぇー」
ダージリン「妹は私のようにお淑やかになってもらわないと困りますもの」
西「私のようにねぇ…フッ」
ダージリン「」シャワージャー
西「ゴボゴボガボゴボゲホッゲホッゲエホッオエッ!!鼻はやめゴボボガバオゴバ!!」ブクブク
西「」ゲホッゲホッ オェェッ!!
ダージリン「あなたもなかなか懲りないわね…」
西「むしろ懲り懲りです。ダージリンがイジワルするだけです!」
ダージリン「………」
西「…また何か悪いことでも企んでるんです?」ジトッ
ダージリン「………」
西「………」
ダージリン「………」
西「…どうしたんです?」クルッ
西「………」
ダージリン「?」
西「っ!!」
ダージリン「!! この助平っ!!」シャワージャー
西「ンゴボゴボゴゴンボオッゴゴンゴゴノゴッボゴゴボボゴボンゴオオォォォォオォォ!!!!!!」ブクブク!
西(ダージリンは見た目"だけ"は綺麗な方でした。……鼻血出てませんよね?)ゴボゴボ
西「ひどい目にあった…」チーン
ダージリン「それはこっちのセリフよ」E:タオル
西「はい!私悪くないであります!悪いのは急に黙り込むダージリンであります!!」
ダージリン「お黙りっ!人の裸舐めるように見てよく言えたものね!」キィィィ
西「な、舐めるようになんか見てません!ちょっと視界にチラッと見えただけですっ!」フシャー!!
ダージリン「やっぱり見たんじゃない!この助平!」ウガー
西「また助平って言った!!見たんじゃなく痴女ジリンに見させられたのですっ!!」ピギィ
ダージリン「なっ!痴女ですって!!?」
看護師「お静かに願います!!」ドンドン
西・ダージリン「すみませんっ!!」
ダージリン「ほらあんたのせいで怒られたじゃないのっ!」ボソボソ
西「ですから私は!!」ヒソヒソ
ダージリン「」シュッ
西「も゛っ!?」ボフッ
ダージリン「おバカな事言ってないで早く拭きなさい。いくらおバカなあんたでも風邪引くわよ」
西「じゃぁダージリンはしょっちゅう風邪引いてるのでは?」
ダージリン「あ゛あ゛ん!?」ギロッ
西「」ベー
ダージリン「…」
西「…」
ダージリン「…疲れたわ」ハァ
西「…同じく」ハフゥ
ダージリン「…ほら、後ろ向きなさいな。髪の毛拭くから」
西「はーい」ワシャワシャ
西「…ところで」
ダージリン「なによ」
西「寝るときは頭の"アレ"解くんですね?」
ダージリン「アレって何よ」
西「後頭部のもこもこしてるやつです」
ダージリン「…また引っ叩かれたいのかしら?」
西「暴力反対です」
ダージリン「これは『ギブソンタック』と言うのよ」
ダージリン「アメリカの画家チャールズ・ダナ・ギブソンが描いた"理想の女性"を描くギブソン・ガールの髪型なのよ」
西「なるほど…ん?」
ダージリン「どうしたの?」
西「米国ですか?」
ダージリン「そうよ?」
西「英国ではなくて?」
ダージリン「私とて何でもかんでもイギリスをリスペクトしてるわけじゃないのよ?」
西「そうなんですか?」
ダージリン「ええ。あなたもやってみる?ギブソンタック」
西「うーん、私がやるとサザエさんになりそうな気がします」
ダージリン「サザエさん…」
西「でも、私はそれ」
ダージリン「ギブソンタック」
西「…げぶそんたっくとやらじゃないダージリンは初めて見ますね」
ダージリン「ゲじゃないギよ。ギブソンタック」
西「そうそう。それです」
ダージリン「当たり前じゃないの。下ろすのは寝る時くらいですもの」
西「んー、私は髪をおろしたダージリンも良いなぁと思うんですけどね」
ダージリン「え?そ、そうかしら?」
西「ええ」
ダージリン「そう?」←ちょっと嬉しい
西「はい」
ダージリン「じゃぁ、たまにはこれにしてみようかしら?」
西「…あ、でもやめといたほうが良いかと」
ダージリン「どうして?」
西「男性からのお誘いが殺到しかねませんので」
ダージリン「良い事じゃない。淑女冥利に尽きましてよ」ホホホ
西「紳士と呼べるような方が寄って来るなら良いのですが、必ずしもそうとは言い切れないので」
ダージリン「さすがに私だって多少は人を選ぶわよ。多少はね」
西「不逞な人がハエのように集ってまるでウン」
ダージリン「」ツネッ
西「あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」ジタバタ
ダージリン「あんたはもう少し品を良くしなさい!!怒るわよっ!!!」
西「もう怒ってるじゃないですかっ!」ヒリヒリ
ダージリン「もっと怒るわ!!」
西「やめてくださいまだ死にたくありません」
ダージリン「"ごめんなさい"は?」
西「はいはいわたくしがわろうございますぅ~」シレッ
ダージリン「」ツネッ
西「痛い痛い痛いいだぁぁぁぁぁぁぃ!!!!!!」ジタバタ
ダージリン「どうやらあなたは徹底的に"品格"を矯正する必要がありそうね!」
西「人をツネるダージリンこそ改善すべきでありますっ!」
ダージリン「原因を作ってるのは何処のどなたかしら?」
(西`・ω・)σ
ダージリン「」ツネッ
西「いだぁぇぇぇぇ!!!」
ダージリン「少しは学習なさい!!」プンスカ
西「ダージリンこそもう少し手加減を覚えても良いと思うのでありますっ!」ヒリヒリ
ダージリン「駄目よ。あなたは甘やかすとすぐ付け上がるんですから」
西「…人のことよく言いますよ」ボソッ
ダージリン「あら、何か?」ワキワキ
西「まって!その手おろしてください!つねらないで!!」
ダージリン「小声で言ったって聞こえるわよ」
西「む。ダージリンもプラウダ高校のカチューシャさんみたいに二つ名つけたらどうですか?」
ダージリン「二つ名?」
西「"地獄耳のダージリン"」
ダージリン「私が地獄耳だったらあなたはロバの耳ね」Wギュゥッゥゥ
西「あ゛ぁぁっぁぁぁぁぁ両手は反則ですぅぅぅっぅ!!!」ジタバタ
西「ダージリンひどい」シクシク
ダージリン「ほら、お馬鹿なことやってないで髪の毛ちゃんと乾かしなさいな」
西「む。これくらい放っておけばすぐ乾きますよ」ヒリヒリ
ダージリン「だめよ。ちゃんと乾かさないと髪が傷んでしまうから」つ[ドライヤー]
西「まるでお母さんみたいですね。ママジリンですか?」
ダージリン「」ゴー
西「熱ッ!? ちょっとダージリン!さっきから暴力的ですよっ!!」
ダージリン「デキの悪いワンちゃんには躾が必要なだけよ」ゴー
西「私が犬でしたらダージリンは猫ですね」ニャー
ダージリン「あらあら嬉しいわ。猫は気高い生き物でしてよ」オホホ
西「…ガーフィールド」ボソッ
ダージリン「焼き加減が甘かったかしら?」ゴー
西「人を秋刀魚のように扱わないで下さい」
ダージリン「はいおしまい。私も髪を乾かすから。先にベッドに入って頂戴」
西「はーい。かしこまりでございます」
西(ん……何か忘れてるような?)
ゴー
西「………」
西(まぁいいか)
西「………」ジー
ダージリン「…何よ」
西「いえ、ダージリンの髪ってサラサラなんだなぁーと思いまして」
ダージリン「そう?」
西「ええ。洗髪料の宣伝とかで出てきそうな感じですよ」
ダージリン「そういうあなただってサラサラじゃないの」
西「そうですか?」
ダージリン「ええ。"絹代"って名前だけに絹のような手触りよ?」
西「そうかなぁ…?」クルクル
ダージリン「あなたは見た目だけは"べっぴんさん"なのだからもう少しお淑やかにすべきよ」
西「はーい。善処するであります」
ダージリン「やけに素直ね…?」
西「目の前に模範例がいますから」シレッ
ダージリン「」ガタッ スタスタ ツネッ
西「あ゛ぁぁぁぁぁッ!!!!」ジタバタ
ダージリン「自分を模範になさい!!」
【就寝】
ダージリン「ほら、私も入るからもっと奥へ行って頂戴」ゲシゲシ
西「あたっ!さっき"ほんの少し"って言ったじゃないですかぁ」
ダージリン「ええ。だから"ほんの少し"よ?」ニコッ
西「ぶぅ」
ダージリン「そんな不満げな顔しないでくれるかしら」
西「」プクー
ダージリン「ほっぺ膨らまさないの」ツン
西「」プシュッ
ダージリン「ふふっ」
ダージリン「電気消すわよ?お手洗いは大丈夫?」
西「むっ、子供扱いしないで下さい」
ダージリン「あなたは立派なお子様よ」
西「ダージリンだって未成年ではありませんか」
ダージリン「あなたよりは大人よ?」
西「たった1年の違いです。大した事ないのであります」
ダージリン「1年でも年上は年上よ。先輩は敬うものなのよ?」
西「そうですねぇ。チビっ子みたいにプラモデルに興味津々だったダージリン大先輩ですもんね」
ダージリン「あれは初めてだからよ」
西「意外でしたね」
ダージリン「なにが?」
西(ダージリン真似)「そんな子供じみた玩具で遊んでいないで、少しは勉強でもしたらいかが?」ヤレヤレ
西「…とでも言うかなぁと思ってたので」
ダージリン「ほぅ」ジリジリ
西「…って、なんでこっち近づいて来るんですか?!」
ダージリン「子供みたいな子供に礼儀の勉強をして差し上げようと」ニコニコ
西「え、ちょっ!落ちます!それ以上こっち来たら私ベッドから落ちあいでででで!!」
ダージリン「ホントに懲りないわねこの悪童は!」
西「ダージリンは…その、趣味とかはないのですか?」ヒリヒリ
ダージリン「趣味?」
西「ええ。たとえば将棋とか散歩とか昼寝とか」
ダージリン「最後のはあなたのでしょ」
西「む。私とて四六時中寝てるわけではありませんぞ」
ダージリン「そうなの?」
西「そうであります」フンス
ダージリン「…そうね。私の趣味といえば、やっぱり紅茶かしら」
西「そのまんまですね」
ダージリン「なによ」
西「血液も紅茶で出来てるんじゃないかというくらい飲んでおられますので」
ダージリン「否定しないわ」
西「話によると、戦車に乗ってる時も飲んでいるとのことで」
ダージリン「いつでも何処でも優雅に。戦車道と紅茶は淑女のたしなみでしてよ」フフフ
西「ほほぉ?」
ダージリン「…何か文句でも?」
西「い、いえ…」
ダージリン「あなたの事だからどうせまた『どこが淑女なんだろうか』とでも思ってたのでしょう」ジリッ
西「思ってません!手ぇワキワキさせながらこっち来ないでください!」
ダージリン「じゃぁ何を考えてたのかしら?」ジトッ
西「いえ、その…まぁ、乙女のたしなみを」
ダージリン「言ってみなさい」ガシッ
西「え」
西(り、両肩掴まれた…!?)
ダージリン「あなたの悪いところは肝心な事を言いよどむ所よ。どうでも良い事はペラペラ言うくせに」
西(ダージリンに言われたくないやいっ!)
モニュッ
西「いぐゥっ!? わ、脇腹は反則ですっ!!」
ダージリン「考えはお見通しよ。さぁ白状なさい」
西「えぇー…(やけに食いついてくるなぁ?)」
ダージリン「はやく」
西「まぁ、その…それだけ紅茶を飲んでおられるのでしょうから」
ダージリン「ええ」
西「戦車乗ってる時におしっこしたくなったらどうするのかなぁ…と」モジモジ
ダージリン「………は?」
西「さすがに試合中に降りて草むらで…、というわけにはいきませんし」
西「かといって、オムツを着用するのもどうかと思いますので…」
ダージリン「…何を言うかと思えば」ハァ...
西「い、いや!紅茶しこたま飲んでたらその…催す事だってあると思いますよ!」
西「実際問題、試合が始まれば数時間は戦車に乗ったままですし」
ダージリン「…」
西「そういう経験、無いのですか…?」
ダージリン「あるわよ」
西「(即答かい!)…でしたら」
ダージリン「そんな事知りたいの?」
西「………まぁ、ちょっと気になります」
ダージリン「助平」
西「…はいはいどーせ私は助平で不埒な女であります」ムスッ
ダージリン「そうね。その通りね」
西「………戦車の中で盛大に漏らして"おちびリン"とか"垂れジリン"ってあだ名つけばいいのに」ボソッ
ツネッ!!
西「ぐぎゅううううう!!!!」ジタバタ
ダージリン「おちびもおちびりもカチューシャだけで良いわよっ!」
西「???」ヒリヒリ
ダージリン「…一応皆には気を付けなさいと言っているけれど」
西「ほうほう」
ダージリン「どうしても我慢できないなら、ちゃんと"ソレ用"の瓶があるわ」
西「…なるほど」
ダージリン「他に良い方法があれば是非とも教えて頂きたいわね」
西「たとえば…戦車に乗る時は紅茶飲まないとか」
ダージリン「我が校の伝統を真っ向から否定するとはいい度胸ね」
西「私だったら戦車に乗ったままトイレに突撃しますけどね。伝統を尊重して」
ダージリン「却下よ却下」
西「…じゃぁ座席をトイレにするとか」
ダージリン「嫌よ。作戦行動中にすぐ近くにいる砲手が突然脱ぎ出して、用を足すところを想像してみなさい」
西(自分じゃなく砲手で例えるんですか…)
ダージリン「戦車の中は密閉されているから音だけでなく臭いも充満する。地獄絵図よ」
西「ふむ……」
西(ダージリン真似)「…ん、ちょっと失敬するわ(ごそごそ)」
西(アッサム真似)「うっ、またですの…? これで5回目ですわよダージリン…」
西(オレンジペコ真似)「だから紅茶の飲み過ぎには注意して下さいとあれほど…」
西(ダージリン真似)「ふぅ……」ジョロロロロ
ブゥゥッ!
西(ダージリン真似)「あら御免あそばせ」ホホホ
西「…みたいな感じで <バゴッ!!> sぐっふぉぉぁぁっ!!?」
ダージリン「あんたはトイレより自分の頭を心配なさいッ!!!」
西「は…腹は…反則ですぞ………」ヌォォ...
ダージリン「頭叩いたらバカがますますバカになってしまうわ!もう手遅れでしょうけど!!」
西「んぐぬぉぉぉぉ……」ジンジン
西「…実を言うと」ジンジン
ダージリン「…何よ」ジトー
西「今日が初めてなんですよね」
ダージリン「初めて?何が?」
西「紅茶を飲んだのが」
ダージリン「ええええっ!!?」バタッ
西「わっ!」
ダージリン「あなた今の今まで紅茶飲んだこと無かったの?」
西「え、ええ…。そうですけど…?」
ダージリン「喫茶店とか飲食店でも?」
西「飲食店じゃお冷とかオレンジジュースとか、あとはお茶ですね」
ダージリン「自動販売機で買ったこともないの?!」
西「普通のお茶ならよく買うんですけどねぇ」アハハ
ダージリン「」
西(そ、そんなにおかしいことなのかな…?!)
ダージリン「あなた、人生の9割損してるわよ」
西「え゛っ!?」ガーン
ダージリン「いい? 紅茶は1500年ごろにポルトガル人が中国でお茶を飲んだのが始まりとされてるの」
西(な、なんか急に解説しだした?!)
ダージリン「当時ヨーロッパは文化も風習も違う、遠く離れた東洋に興味をもっていて」
ダージリン「香料や香辛料、産物品を東洋からヨーロッパに運んでいたのよ」
ダージリン「そのときに一緒にお茶も含まれていて、それがヨーロッパ初のお茶といわれているの」
西(世界史はあまり得意ではないのであります。珍紛漢紛です)
ダージリン「中国から紅茶を輸入する代わりにイギリスは銀を提供していたの」
ダージリン「でもそれではだんだん財政が圧迫されるというから、植民地のアヘンを代わりに提供し始めた」
西(あ、コレは知ってる。アヘン戦争だ)
【30分後】
ダージリン「…というわけよ。おわかり?」
西「…はいダージリン先生…」ゲッソリ
ダージリン「本当にわかったのかしら?」
西「えげれすはなかなかエグいということがわかりましたであります」
ダージリン「…どうやらもう一回最初から説明する必要があるみたいね」
西「う、ウソです!ちゃんと理解してます!紅茶の魅力十二分に伝わりましたから故っ!」
ダージリン「なら良いけれど」
西(しばらくダージリンの前で紅茶の話するのやめようかな…)
ダージリン「ところで絹代さん」
西「はい」
ダージリン「紅茶飲むのは初めてって言ったわよね?」
西「え?…まぁ、そうですね」
ダージリン「ということは、今私が淹れたのが初めてってこと?」
西「そう言われてみればダージリンのが生まれて初めてですね」
ダージリン「ならば是非とも感想をお聞きしたいわね」
西「紅茶の味がしました」
ダージリン「」ツネッ
西「いだいっ!!冗談です冗談ですってばぁ!!」ジタバタ
ダージリン「初めてなのに"紅茶の味がした"なんて感想おかしいでしょう!」
西「ま、まぁそうですけど、なんと言いますか…」ヒリヒリ
西「普段我々が飲んでるようなお茶とはまた違った感じがしましたね」
ダージリン「と、言うと?」
西「私達は沸かしたお茶はそのまま飲みますので、それがお茶という認識であります」
西「ですが紅茶はそうではなく、砂糖や牛乳を入れて甘くして飲むわけなので、ちょっと新しいなぁと思いました」
ダージリン「普通の人ならもう10年は早くそれに気づいてたわね」
西「えぇー…」
ダージリン「まぁいいわ。またいつか淹れてあげるわよ」
西「ホントですか?!」パァァ
ダージリン「気が向いたらだけど」
西「楽しみでありますっ!」ワクテカ
ダージリン「それは良かったわ」
西「何しろ私の初めての人ですからっ!」
ダージリン「なっ…!」
西「え?」
ダージリン「あっ、あなたはもっと言葉を選ぶようにしなさいと何度言えば…!」ワナワナ
西(…そんなに変なこと言ったかなぁ)
西(実際ダージリンの紅茶が人生初・紅茶なわけだし、間違ってるのかなぁ??)
西(ひょっとしたら私の心得違いで以前にも飲んでいたとか? それはないと思うけどなぁ…うーん…)
西「ま、いっか」
ダージリン「良くない!!」
西「あ、あとは」
ダージリン「今度は何よ…」ジトー
西「ダージリンといえば色んな格言をよく言っておられますよね?」
ダージリン「ええ。それが?」
西「どこから仕入れてるのかなぁーと」
ダージリン「それはね…」
― こうして夜は更けていくのでした。
一緒にお風呂に入り、一緒の布団で眠る。
ダージリンとここまで仲良くなれるとは思いませんでした。
…ツネられるのはイヤだけど、この時間がずっと続けばいいなと思いました。
【翌日 朝】
チュンチュン
西「………ん…」パチ
西(ここは…? あ、病院か…)ファァ
西(んー…。今日もいい天気だなぁ…)ノビー
ギュッ
西(…ん?)チラッ
ダージリン「zzz.....」スヤスヤ
西「わっ?!」ビクッ
ダージリン「…んぅ…?」ネボケ
西(そ、そうか。ダージリンここに泊まったんだ。スッカリ忘れてた)
西「おはようございますダージリン」
ダージリン「んぅー…ぉはよぅござぃますのぉ……」ポケー
西(あれ? ひょっとして寝ぼけてる…?)
ダージリン「…ペコぉ…アーリーティー…」ウツラウツラ..
西(ふむ。どうやら私以上に寝ぼけてる人がいるようだ)
西「…」
西「」ニヤァ
西「あー…コホン!」
西(ペコ真似)「ダージリン様、早く起きて下さい。もう夕方ですよ」
西(アッサム真似)「ダージリン!何をしていますの!今日は練習試合の日でしてよ!知波単の隊長さんカンカンですの!!」
ダージリン「………」ポケー
ダージリン「ふぇぇっ?!きっ絹代さん!?絹代さん来てるのっ?!」ガバッ
ダージリン「ちょっとペコ!!何で起こしてくれ…な……???」
西「」プークスクス
ダージリン「」
ガシッ
ァ…
パチコーン!!
イッタァァァァァ!!!
ダージリン「朝っぱらから何やってるのよ!!!」プンスカ
西「それはコッチのセリフですよ!おかげでおデコ真っ赤ですぞっ!」ヒリヒリ
ダージリン「自業自得よ!」
西(ペコ真似)「お寝坊も自業自得ですか?ダージリン様?」
ダージリン「今度はグーで行こうかしら?」ギロッ
西「やめてください退院が遅れます」
ダージリン「まったく。どこでそんなモノマネ覚えたのよ…」
西「暇だったので色んな人の真似して遊んでました」
ダージリン「時間は有効に使いなさい」
西「でも色んな人の真似が出来るようになりましたよ!」フンス
ダージリン「…たとえば?」
西(みほ真似)「ダージリンさん!出来る限り余裕の表情を崩さず崖から飛び降りて下さい!」
ダージリン「みほさんがそんなこと言うわけないでしょう!!」ゲシッ
西「いでぇっ!!」
ダージリン「悪趣味にも程があるわよ!!」
西「そんなぁ…」ショボーン
ダージリン「…ほら、どうぞ」コトッ
西「ん?」
ダージリン「アーリー・ティーよ。イギリスでは目覚ましとしてベッドの中で飲むその日最初の一杯なの」
西「なるほど…だから先程アーリーティがどうのこうのと」
ダージリン「グー」ニギッ
西「…いただきます」ズズ
ダージリン「…」
西「ん…どうかしました?」キョトン
ダージリン「いいえ。あなたもそうやって静かに紅茶を嗜んでいれば悪くないのに。性格で損しているわね」
西(オレンジペコさんもダージリンを見て同じこと思ってるだろうなぁ…)
ダージリン「なにかしら?」
西「い…いえ、ダージリンの紅茶は美味しいなぁ…と」
ダージリン「褒めても何も出ないわよ」
西(グーは今にも出そうだけど…)
グゥゥゥ
西「あ、失敬…///」
ダージリン「まぁ随分と大きな音。お寝坊さんも飛び起きてしまいますわ」フフッ
西「はは…恐縮です」
西(そういえば昨夜は何も食べてなかったもんなぁ)
ダージリン「こんな格言を知っているかしら。"武士は食わねど高楊枝"」
ダージリン「生理現象だから仕方ないとは言え、あなたもピシッとした方が良いわ」
西(よく考えるとダージリンも昨晩は…)
キュゥゥゥ
ダージリン「ぅっ………/////」カァァァ
西(…やっぱり)
西「下に飲食店がありますので朝食行きません?」
ダージリン「…ぇぇ…/////」カァァァ
西(ダージリン真似)「こんな格言を知っているかしら。"武士は食わねど高楊枝"」
西(ダージリン真似)「生理現象だから仕方ないとは言えあなたもピシッと
ダージリン「ふん!」ドゴッ!!
西「グォォォォオォォッッ!? ……い…今のは…強烈…で…す………」
ダージリン「ほら!さっさと車椅子乗りなさい!置いてくわよ!」プンスカ
西「ぁぃ…」ボロッ
西(だんだん強度が増している気がするであります…)
【病院内にある飲食店】
「お待たせしました焼き鮭定食とサンドイッチです」
西・ダジ「いただきます」
西「ところで、ダージリンは今日はどうされるのです?」
ダージリン「そうね。一旦学園艦に戻ろうかしら。大会中だからしばらくは寄港したままだけど、学校に顔を出さないとさすがに宜しくないものね」
西「大会?」
ダージリン「戦車道の全国大会」
西「あ、そういえばそうでしたね」
ダージリン「…あなた一応隊長なのよ?大丈夫?」
西「あはは…。何日も寝てたせいで色々ド忘れしてしまって…」
ダージリン「まだ一週間しか経ってないわよ…」
西「私の体内時計だと1年は眠ってた気がします」
ダージリン「それだけ無茶をしたということよ。これに懲りてもうしないことね」
西「そうですね。知波単が廃校になったり戦車道が廃止になるといったピンチにならない限りは」
ダージリン「ピンチになってもよ。仮にピンチを回避出来てもあなたが廃人になったら意味が無いわ」
西「自分で言うのも何ですが、あの時はとにかく必死でしたからね」
ダージリン「…」
西「勝たないと終わりだと思ったから、時間が許す限り、ありとあらゆる情報や知識集めました」シンミリ
ダージリン「ほう…例えば?」
西「あらゆる戦車や無人機の移動速度、あらゆる砲の初速、射程距離、貫通力、試合会場の地形、過去の戦車道大会、歴史上の戦い…」
西「とにもかくにも片っ端から頭に叩き込みましたよ」
ダージリン「…」
西「一方で定期試験が重なっていた時期でもあったので、そちらの勉強もしなければいけなかったです」アハハハ
ダージリン「…」
西「私は頭が悪いので効率的な方法を知りませんし、知っていたとしてもしっかり吸収して実践出来るか自信ありません」
西「なので、寝る間も惜しんで戦車道に励んでましたよ」
西「今思うと、満足に寝たのは久々ですね」ハハハ
ダージリン「………」
西「我ながらよくあんなに頑張れたなと思います」ハハハ
ダージリン「………絹代さん」
西「ん。何でしょう?」
ダージリン「二度とそんな馬鹿な真似はしないで頂戴」ギロッ
西「"危機"に瀕しなければ」キッパリ
ダージリン「っ…」
西(ダージリンには申し訳ないけど、こればかりは…)
西「戦車道の大会といえば…」
ダージリン「ええ」
西「大洗のM3リーの戦法は大変参考になりました」
西「黒森峰との戦いでM3リーは、エレファントやヤークトタイガーといった重戦車を相手に善戦してました」
ダージリン「確かに。本来なら簡単に撃破されるのに大したものね。あの子たち」
西「ええ。後ろに回り込めたエレファントならまだしも、ヤークトタイガーは真正面から対峙していました」
ダージリン「ヤークトティーガーの前面装甲は250mm。悔しいけれど私たちの戦車では真正面から挑んで勝てる見込みは無い」
西「それは知波単でも言えますし、彼女たちM3リーの接射砲弾も尽く弾いていました」
ダージリン「それでも彼女たちはヤークトティーガーに勝った」
西「ええ。はたき込みのごとく相手の勢いを上手く利用して、水路へ落とし走行不能にさせましたね」
西「あの試合を見て私は"砲弾を命中させることだけが走行不能にさせる方法ではない"と思ったのです」
ダージリン「ほう?」
西「というのも、今の知波単が保有する戦車は火力・防御面において聖グロリアーナや大洗女子、その他多くの学校に劣ります」
西「それを鑑みるに、普通の対戦車戦闘では力負けするので、別の方法を考えねばならなかったのです」
ダージリン「なるほど」
西「まぁ…とにかく必死でしたよ」アハハ
ダージリン「それは次の試合でも活かせると良いわね」
西「もちろんですよ。またダージリンたちが相手になっても勝てるようにしておきましょう」
ダージリン「調子に乗りすぎですの。私達とて何度も同じ手にかかるど間抜けではないわよ」
西「私の策には見事にハマりましたけどね」ニシシ
ダージリン「」ゲシッ
西「あぎゃぁっ?!!」
ダージリン「冷めないうちにとっとと食べなさい」
西「…す、脛は反則です………」ヌォォ…
~~~~~
西「ふぅ…。満腹であります」ポンポン
ダージリン「よく朝からそんなに食べられるわね…」
西「ここの食事なかなか美味しいのですよ!ご飯もおかわり自由ですし!」
ダージリン「だからといって3杯は食べ過ぎよ」
西「はっはっは!知波単学園にいたころはもっと食べておりましたぞ!」フンス!
ダージリン「動いてないのに食べてばかりじゃ太るわよ?」
西「うっ…」
ダージリン「あら?部屋の前に誰かいるわね?」
西「おっ?」
「あ…!」
「「「隊長殿ぉーーーーー!!!」」」ダダダダ
西「わっ!?お、おまえたちここは病院だぞ!おお落ち着けッ!!」
ダージリン「あなたも落ち着きなさいな」クス
玉田「隊長殿の意識が無事に戻られて玉田嬉しいのであります!」ブワッ
細見「同じく!あのまま三途の川を渡っていたのではないかと思いました!」ジワッ
寺本「お葬式の準備するところでした」グスッ
西「まて!勝手に私を殺すでない!」
福田「知波単の隊長は西隊長殿の他おりませぬ!」シクシク
名倉「これで我が高校も安泰でございますっ!」ウワーン
池田「全くであります!いつでも突撃命令お待ちしております!」シクシク
浜田「また皆で突撃して散りましょう!!」ズビビ
西「い、いやいや散ったら駄目だろっ!」
髙山「そうです!吶喊して突撃すれば病も怪我も吹っ飛びますぞ!」
上本「ええ!私、いつでも突撃できるよう足腰を鍛えておりました!!」フンス!
糸井「ええ!それはもう!かけっこなら他校には負けませんぞ!!」
福留「足だけでなく腕も鍛えておりますぞ!」
原口「隊長がいない間も常に全速前進でございます!!」
鳥谷「これで隊長殿が戻ってきたら知波単学園は怖いものなしですぞ!!」ハッハッハ
糸原「今回は敢闘及ばずでしたが、次こそ我らが知波単学園が天下を取ってその名を轟かせるでしょう!!」
梅野「来季が楽しみであります!!」
女仙「いえす!いえす!!」
ワイワイガヤガヤ
アーダコーダソーダドアラ
ダージリン「に、賑やかね…」
西「あはは、ウチのチームはみな元気一杯ですからね!」
西(初めて見る顔もいるぞ……?)
玉田「おや? そちらの"ぱつきんのちゃんねぇー"は…?」
寺本「聖グロイアナ?の隊長殿で名前は確か"ドンジリン"殿でしたかな?」
福田「細見殿、私は"チャップリン"殿だったと思うのであります!」
池田「そんな名前じゃないだろ福田ぁ!"ユーコリン"殿なはずだ!」
名倉「"チャージマン"だと思われ」
ワイワイ ガヤガヤ
ダージリン「」イライラ
西「お、お前ら、この方は"ダージリン"さんだぞっ!」
玉田「おお!そうでした!さすが隊長殿!」
名倉「よくご存知でありますっ!」
福田「さすが隊長殿!博識聡明であります!」
ワイワイガヤガヤ
ダージリン「…ホントに、賑やかね」
西「あはははは……」
玉田「して、お体の方はどうなのでありますか?」
西「ああ、腕と足はこの有様だが心配はいらん。じきに戦車にも乗れるようになるさ!」
細見「それは良い知らせであります!」
福田「また隊長殿の吶喊が聞きたいのであります!」
西「ははっ、演習場に響き渡るよう鍛えておくよ」
名倉「何でしたら今ここでも!」
西「まぁ待てここは病院だ。ここで吶喊したら看護師さんがまた突撃してくる」
ワッハハハハ!
玉田「…さて、名残惜しいですが我々も学校があります故、そろそろ戻るのであります」
西「おっ、そうか」
細見「本当に名残惜しいのです西殿ぉ…」ギュッ
西「ははは今世の別れじゃあるまい。すぐ戻るさ」ナデナデ
ダージリン「…」
福田「それでも寂しいのでありますっ!」
タイチョウドノォー!
西「わっ!こらお前たち!いっぺんに抱きつくな!」ハハハッ
ダージリン「愛されてるのね」
西「あはは。隊長やってて良かったです」
ダージリン「それじゃ、私もそろそろお暇するわね」
西「え…」
ダージリン「なに?」
西「あ、いや、何でもないであります」
西「ちょっと寂しいなぁと思っただけです」
ダージリン「ちょっと?」
西「……だいぶ寂しいであります」
ダージリン「ふふ。ご安心あそばせ。またお見舞いに来てあげるから」
西「そうして頂けると嬉しいです」
ダージリン「ほら、そんな顔しないの。あなたの後輩たちが心配するわよ」
西「あ、そっか…諸君っ!」
知波単生「「「「「はっ!!」」」」」ビシッ
西「ダージリンさんがお帰りだから案内してやってくれないか?」
知波単生「「「「「了解っ!」」」」」ビシッ
西「うん、頼んだぞ」
玉田「一同、隊長に敬礼!」
ビシィィッ!!
西「うむ、また会おうぞ!」ケイレイ
西「ダージリン、色々お世話になりました」フカブカ
ダージリン「こちらこそ。楽しかったわ。それでは、お元気でね?」ニコ
西「ダージリンもお体に気をつけてお過ごしくださいまし」
ダージリン「ありがとう。 お嬢さん方、出口まで案内いただけるかしら」
知波単生「「「「「かしこまりでございます!」」」」」
【病院 玄関】
オレンジペコ「おはようございます。お迎えに上がりましたダージリン様」
アッサム「おはようございます。これはまた随分大所帯ですね」
ダージリン「おはよう。ペコ、アッサム。そしてご苦労様。知波単学園の皆様が案内してくださったのよ」フフッ
玉田「先日はお世話になりました」フカブカ
一同「「「お世話になりました」」」フカブカ
アッサム「これはご丁寧に」ペコ
オレンジペコ「こちらこそ」ペコリ
ダージリン「さて、それでは私達はここでお別れね」
細見「ダージリン殿、お気をつけてお帰りくださいませ」フカブカ
ダージリン「あなたたちもね。隊長さんみたいに包帯グルグル巻にならないことを祈るわ」クスッ
玉田「ご心配なさらずとも我々が今度は隊長が不在の間、知波単を引っ張っていくのであります」
ダージリン「きっと彼女も喜ぶわ」
福田「ええ!なにしろ西殿は英雄なのでありますから!」
ダージリン「英雄?」
寺本「そうであります!隊長は知波単学園を救ったヒーローなのです」
ダージリン「………」
細見「…?」
ダージリン「そうね、あなたの隊長は知波単学園を守るために戦った騎士よ」
玉田「む!隊長殿は騎士じゃなく武士であります!」
名倉「そうであります!隊長殿は居合いもやっておられます!カッコいいのであります!」
細見「西殿はとっても素敵なお方なのです!」キラキラ
ダージリン「はいはいわかりましたわ。それでは御機嫌よう」フフッ
【病室】
シーン
西(また急に静かになったなぁ)
西(ダージリンと過ごした時間はとっても楽しかったし、みんな元気そうで良かった。余は満足である)
西(………ただ、)
西(やっぱ誰もおらんと寂しいなぁ…)ショボン
西(またチャーチル作るかな)ゴソゴソ パカッ
西(今度ダージリンがいらっしゃる時までに完成するかなー?)
コンコン
西(ん? 誰だろ?)
西「どうz…どちら様ですか~?」
「西住です」
西「おお!西住さんですか!どうぞどうぞ!」
ガチャ
「失礼します」
西「お久しぶりです西住………さん?」
しほ「初めまして」
西「えっと、あれ? 初めまして…ですよね?」
西(私の知ってる西住さんと違う???)
西「あの…西住さん…ですか?」
しほ「ええ」
西「先日試合にてお会いした西住さんとはまた違う西住さんなのでしょうか…」
しほ「みほの母です」
西「そう言われると確かに似ているような…」
しほ「…」
西「あっ、ご挨拶が遅れました。知波単学園の西絹代と申します」フカブカ
しほ「ええ。よく知ってるわ。みほを打ち負かした隊長ですから」
西「あはは…。確かに戦車戦においては勝ちましたが、試合には…」
しほ「それでも、あの子に勝ったことには変わりありません」
西「…はは、恐縮です」
しほ「西絹代さんという方がどういう人物なのか、一度お会いしてみたかった次第です」
西「お、畏れ多きお言葉です」フカブカ
西(なんだかものすごく気まずい…)
西「かく言う私もエキシビジョンマッチ戦や対大学選抜チーム戦において、みほさん達のチームに様々なことを教えて頂きました」
西「私や知波単学園が今も生き続けているのは彼女たちのおかげかもしれません」
しほ「それは良かったです。あの子もしっかりやっているようで安心しました」
西「ええ。本当に」
しほ「しかし、家を出てからは一度も顔を合わせることがなくなって」
西「あら…そうなのですか…」
しほ「ええ。長期休暇くらい帰省すれば良いものを」
西(そう言われてみると私も長らく実家に帰ってないなぁ…)
しほ「あの子はコンビニによく行くそうで、ちゃんと栄養のある」
西(ふむふむ。怖そうだけど、いい母上様ですな)
コンコン
西「おや? またお客さんですかな? どちら様でしょうか~?」
「…あ…あの…」
西(女の子の声?…でもどこかで聞いたことがあるような…)
「西…さんの部屋は…ここ…ですか?」
西「はい。そうですよー」
「………」
西「? 立ち話もなんでしょうから中へどうぞ~?」
西(また確認せずに入れちゃったけど、まぁ良いよね)
ガラッ
「…こ、こんにちは」モジモジ
西「おや。あなたは」
「その…お久しぶり…です…?」モジモジ
西「確か、島田流の…ありささん?」
愛里寿「………ありす」ムスッ
しほ「…」
西「あ…、愛里寿さんですね。大変失礼致しました」アセアセ
西「それと、先日はお世話になりました」フカブカ
愛里寿「こ、こちらこそ…」
西(ふむ…。どうやら人と話すのが苦手な方のようだ)
西(…まぁ無理もないか。なにせこうやってお話をするのは初めてだからね)
西(ならば一つ、緊張をほぐしてみようかな)
西(確か、愛里寿さんは西住さんと同じ…えーと…あれ? 何だっけ?)
西(西住さんが好きなあのぬいぐるみ………あ、アレだ!!)
西「おっす!おらペコ!よろしくなっ!!」デーン
しほ「…」
愛里寿「…」
シーーーーン
西「………あれ?」
愛里寿「ペコじゃない。ボコ」ボソッ
西「」
愛里寿「…あなたが、その…みほさんをやっつけたという西さん?」
西「え? ええ。私が西です」
愛里寿「…ふむ」ジーッ
西「ん? 私の顔に何かついてますか?」
愛里寿「確かに、ボコだ」
西「へ?」
愛里寿「ほうたい」
腕:包帯
足:包帯
胸:包帯
頭:ガーゼ
西(…確かにそう言われてみりゃ私は満身創痍だったな)
西(ともなれば…)
西「おいらボコだぜッ!!」
愛里寿「おおーっ!」キラキラ
西(今度は成功した…!) ←謎の達成感
しほ「愛里寿さん、一人でここへ?」
愛里寿「あ…いえ…お母様と…」
しほ「」ピクッ
コンコン
しほ「」ギロッ
西(うっ…すごい殺気を放ちながらドアを睨んでおられる…)
西「…ど、どちら様?」オロオロ
『島田と申します』
西「島田ってことは…もしや…?」チラッ
愛里寿「うん。お母様」
西「…」チラッ
しほ「…」
西「ど、どうぞ?」オロオロ
ガチャッ
千代「お邪魔します。うちの娘がこちらn
しほ「…」ギロッ
千代「!」キッ
愛里寿「」ガタガタ
西「」オロオロ
― 映画などで病院が爆撃されるシーンは何度か観ましたが、
病院そのものをあえて戦場にするのは、おそらく今回が初めてだと思います。
なんというか、冷戦です。
一触即発の東西超大国に挟まれた島国の気分です。
お、お願いだからこっちにミサイル飛ばさないでぇぇ!!
【一方、廊下では…】
優花里「私は西殿にどんな顔をしてお会いすれば良いのでしょうかぁ…」
みほ「あはは。大丈夫だよ。西さんは良い人だからそんなことぐらいで怒らないよ」
優花里「でも!私は試合の時に西殿のこと酷く言ってしまいましたし…」シュン
みほ「ふふっ。優花里さんは心配性なんだから」
優花里「誰だって悪い事してないのに、ヒドい事言われたら怒りますよぉ…」ショボン
みほ「大丈夫。もし西さんが怒ったら私がフォローするよ」
優花里「どんな風にですかぁ…?」
みほ「ギャフン!って言ってあげる」アハハッ
みほ「こんにちはー。西住ですー」コンコン
『え? あ、どうぞー』
ガチャ
みほ「お久しぶりです西さn
しほ「…」ギロッ
千代「…」ジロッ
みほ「ぎゃふんッ!!!?」
優花里「にっ西住殿がギャフン言ってどうするんですかぁ~~~!!」
西「あんな漫画の様なポーズで固まる西住さんは初めて見たのであります…」
千代「お久しぶりですね。西住流のお嬢さん」ニコニコ
みほ「おおお久しぶっぶりりですぅっ!」カタカタ
優花里「に、西住殿、落ち着いてください!」
しほ「"ぎゃふん"とは随分な挨拶ですね。みほ」
みほ「な、にゃ、なんでお母さんがここにィ?!」オロオロ
しほ「先日の試合であなたを打ち負かした相手の顔を見に来たのよ」
みほ「こっ、ここ来なくて良いよこんな所にまでっ!!」ガタガタ
西(西住さんにまでこんな所って言われたぁ!?)ガーン
しほ「あら。どうしてかしら?」
みほ「ど、どうしてって…その…病院だし?」
しほ「病院だと何か都合が悪いの?」
みほ「えっと…その…」アタフタ
愛里寿「みほさん…」オロオロ
みほ「あ、愛里寿さん…?!」
千代「みほさん。先日はうちの娘がお世話になりました」ニコニコ
みほ「いいいいえいえこここちらこそっ!」
西・優(心臓に悪い…)
優花里「そ、そうだ愛里寿殿!にしず…みほ殿!下の階に病院限定ボコがありましたよっ!!」
優花里「今ならまだ売ってますので急ぎましょう!!」
みほ「そ、そうだね!行こう愛里寿さん!(グッジョブベリーナイスだよ優花里さん!)」グッ
愛里寿「う、うん!」トテトテ
西「あっ、ちょっと…!」
みほ「」パッパッパッ
西(え? ハンドサイン?)
西(なになに? …コ・ウ・タ・イ・シ・マ・ス?)
タタタタタタッ!!
西「…」
西(畜生ォ!!!足が動けば私も撤退的前進したのにッ!!!!)
千代「お久しぶりね。西住さん」ギロッ
しほ「ええ…」ジッ
バチバチッ!
西(ぬぉぉ…空気が重い…というかピリピリ痛い…)
千代「あなたがこのような所へ足を運ぶという事は、そちらの西さんに何かあったのでしょうね?」
しほ「ええ。西さんの戦術、哲学は我々西住流に通ずるものがあります」
しほ「我々西住流に"後退"の二文字は無い」
しほ「あなたならご理解頂けると思うのですが。西さん」
西「えっ? えぇ…まぁ…?」
しほ「故に我が流派、西住流を訪れてみては如何だろうと思いまして」
西「え」
千代「あらあら。肝心の西さんは萎縮しているじゃないですか」フフフッ
しほ「…」ギロッ
千代「雁字搦めにしては人は最大限のパフォーマンスを発揮できません」
千代「聖グロリアーナ、そして西住流のお嬢さんをも撃退した、西さんの柔軟かつ多彩な戦術」
西「いや、試合には負
千代「これは我々島田流の戦法によく似ている」
千代「つまり、西さんは島田流でこそ、その真価を発揮出来る」
千代「なので是非、我が流派へいらしてはいかが?」
西「あ…ははは…は…」オロオロ
西(二大戦車道流派の家元からお誘いが来るなんて一体どーなってんだ!!?)
西(何かがおかしいぞ! 絶対どこかで間違った情報が流れてる!!)
千代「…」バチバチ
しほ「…」バチバチ
西(…というか怖い! この2人怖い!!)オロオロ
しほ・千代「「…」」サッ
西「えっ? あの…これは…?」
千代・しほ「「私の連絡先です」」
千代「む…」ギロッ
しほ「ぬ…」ギッ
西「あの…」
しほ・千代「「何でしょう」」
千代「む…」バチバチ
しほ「ぬ…」バチバチ
西「」
西(見るからに仲悪そうなんだけど、どうしてか息はピッタリなんだよなぁ)
西(…まぁ仲が良かろうが悪かろうが、私の置かれた状況は決して良くないことには変わりないけど)
千代「西住さん、あなたのせいで西さんが萎縮してます」
しほ「その言葉、そっくりそのままお返しするわよ」
千代・しほ「…」バチバチ
西(あぁ…胃が痛い。助けてダージリン…)
西(………ダージリン?)
― ええ。ダージリンもOG会に縛られているわ…
西(そういえばダージリンは…!)
西「あのっ!!」ガタッ
しほ・千代「」ビクッ
西「お、お二人にお尋ねしたいことがありますっ!」
しほ「…」
千代「…」
西「その…聖グロリアーナ女学院のOGについてなのですが…」
しほ「…聖グロリアーナ女学院?」
千代「あら? 転校でもなさるの?」
西「いえ…そうではなくて」
しほ「聖グロリアーナ女学院はそこそこ歴史のある学校よ」
しほ「英国式の格式と作法を学ぶ名門校であり、気品ある淑女を養成すべく」
しほ「多才な教育、課外活動を推進している、いわば"お嬢様学校"」
千代「ふふ。西住さんもそこへ入学すれば良かったですわね」
しほ「あなたのような法螺吹きにはなりたくなかったもので」
千代「…」ギロッ
しほ「…」ギッ
西「ま、まぁまぁ…」
千代「多くのお嬢さんが卒業されて、中には政界や財界とのパイプのある人もいるそうよ」
千代「いわゆる"玉の輿"でしょうね」
西「…」
千代「そういったお嬢さんたちが作ったのが、いわゆる『聖グロリアーナ女学院OG会』」
千代「同窓会みたいなものだけれど、なにしろ学校に資金援助する代わりに運営方針とかにも茶々を入れているそうよ」
西「…」
しほ「そのOG会は、各々が在学時に使用していた戦車に因んで、マチルダ会、チャーチル会、クルセイダー会といった三大会派によって構成される」
しほ「その中でも特に強い組織力を持つのがマチルダ会と言われているわね」
― クルセイダー会はあなたを聖グロの"脅威"と言い
― また、チャーチル会は聖グロの"好敵手"と言い
― そしてマチルダ会は"騎士道精神に則り西絹代の思想を戦車道に取り組むべき"なんて言い出す程ですわ
西(なぜ聖グロOGは私をそこまで…!?)
千代「それにしても聖グロの子たちは気の毒ねぇ。OGのお小言のせいで戦車も満足に導入できない」
千代「ブラックプリンス、チャレンジャー、そしてセンチュリオン…。イギリスにも良い戦車はいっぱいあるのに」
西「…例えば、そういった事情の中で、OGたちを押し切って新しい戦車を導入したとすれば?」
千代「"大したものだ"と言うべきよ」
西「!!」
千代「ただ…」
千代「出資者からの要望を跳ね除けてしまえば、まず考えられるのが出資の取りやめ」
千代「あるいは…」
千代「それに加担した者への"私的制裁"でしょうね」
西「っ!! それってつまり!?」
千代「まぁ、そういったことを画策するのは大体隊長でしょうから」
千代「更迭されるかもしれないわね?」
西「!!!」
しほ「聖グロリアーナ女学院の隊長といえば、ダージリンという方だったはず」
しほ「彼女の計らいによってクロムウェル巡航戦車が導入されたことは、戦車道連盟の間でも一時期話題になったそうよ」
千代「そんな話もありましたねぇ」
しほ「確かにクロムウェルは強力な戦車だが、そこまで驚くようなものではない」
しほ「経済的に恵まれている聖グロリアーナ女学院であれば、それは尚の事」
しほ「別段ニュースになるようなことでも何でもない」
西「という事は、やはり…」
千代「その当時、言われていたことは」
千代「近いうちにまた隊長が変わるだろう。と」
西「………ですが」
千代「ん?」
西「今の隊長は、まだ現隊長としてチームを率いております」
千代「そうみたいね」
西「という事は…」
千代「許してもらえたのかもしれないわね?」フフッ
西「…!」ホッ
千代「しかし、どうして急に聖グロOGの事を?」
西「あ…実は、聖グロリアーナの隊長とは交流がありまして」
千代「…」
西「私が邪道を回避できたこと」
西「知波単学園の戦車道廃止を阻止できたこと」
西「…今日までの私の道は、彼女無しでは存在し得ないものです」
千代「…」
しほ「…」
西「………」
千代「ふふ。良いお話ね」
しほ「ええ。昔を思い出すわね」
西「…」
千代「隣にいるオバサンね、昔っからアタマが戦車の装甲よりも固くて」
千代「"どんな戦車も倒せる砲と、どんな攻撃も弾く装甲があれば良い"」
千代「…って、ずっと言って聞かないのよ」クスクス
しほ「あなたこそ、尻軽女がそのまま老けたみたいに"機動性だけあれば他はいらない"と軽口を叩いていたでしょう」
千代「ふふふ」メラメラ
しほ「フン」ゴゴゴゴ
西「家元様たちも仲が良いのですね」
しほ・千代「「それはない」」
西「うっ…」
千代「あらやだ。体重はヘビーなのに旦那様の前では豆タンクのように軽いのにねぇ」
しほ「フン。戦車だけでなく頭の中も軽い女にはわかるまい」
バチバチッ
西「まぁまぁ…」
チラッ
西「…ん?」
壁|ω・`)
壁|ω・`)
西「」
西(西住さんと愛里寿さんが壁越しにこちらの様子をうかがっている)
西(………ふむ)
西「おやぁー!? みほさんに愛里寿さん! そんな所にいないでこちらへどうぞぉー!!」
壁|д゚;) !?
壁|д゚;) !?
しほ・千代「…」ジロッ
みほ・愛里寿「!?」
しほ・千代「「こちらへ来なさい」」
みほ・愛里寿「」ガタガタ
西(はっはっは~! 先程のお返しですぞっ!)
みほ「西さんきっとロクな死に方しないよ…」ゲッソリ
愛里寿「ボコみたいに袋叩きにあって入院長引いてしまえば良いんだ…」ゲッソリ
西「」
その後、西住さん・島田さんは親子水入らずな会話をされました。
「ちゃんと栄養のあるものを食べなさい」とか
「たまには顔を見せなさい」とか
「遅くても9時には寝なさい」とか
「無人機は邪道だから一機残らず叩き落としなさい」とかとか
久々に娘と再開出来た家元様たちは満足したようで、一通り会話をしたあと帰っていきました。
あの二人のやり取りを見ると、「犬猿の仲」という言葉がよく似合います。なんだかんだ言ってお二方は仲が良いのでしょう。
……間に挟まれた愛里寿さんは死んだ魚の眼をしていましたけど。
ともあれ、親と子の微笑ましい光景でした
みほ「全然微笑ましい光景じゃないよっ!!」クワッ
西「ふぇえっ!?」ビクッ
みほ「まったく。好き放題言うだけ言って帰ってくんだからホントに困るよお母さんは…」ブツブツ
西「いい母上様に見えましたけどね」
みほ「きっと西さん疲れてるんですよ」シレッ
西「えぇ…」
優花里「しかし、あのお二方に挟まれてよく平然としていましたね西殿…」←最後まで隠れてた
西(これっぽっちも平然ではなかったのだが…)
みほ「いるだけで寿命が縮まるお母さんなんて邪道だよ。私だったら」
ママみほ『あらお久しぶりね。マカロン食べる?お小遣い増やしておくね』ニコツ
みほ「…くらいの優しさを娘には見せるよ。愛里寿さんが羨ましい…」トオイメ
優花里「そんな愛里寿殿もなんだか死んだ魚の眼していましたけどねぇ」ハハハ...
西(火花散らす両家元の間に挟まれてものすごく小さくなっていたなぁ…)
西「あ、マカロンはありませんがバウムクーヘンならありますよ。いかがです?」
優花里「あっ、おひとつ下さい!」キラキラ
西「どうぞどうぞー」
優花里「んま~♪」ハムハム
西「そういえば、西住さん達大洗女子の次のお相手はどちらですか?」
みほ「サンダース大学付属高校です」
西「ふむ。戦車はもとより、無人機が怖いところですなぁ」
優花里「ええ。レギュレーションで爆弾搭載数は抑えられてるとは言え、強力な無人機を保有していそうです」
西「サンダース、もとい米国は多彩な航空機を保有する国ですからね」
みほ「"どの無人機の対策をするか"ではなく、"どの無人機も落とす"という覚悟でないと厳しいですね」
優花里「一言に航空機といえど、用途に合わせて様々なカテゴリーがあるくらいですからね…」
西「読みが当たるのならば、いずれかに特化した対策を取れば良いのですが、外してしまうと致命傷になります」
西「ましてや大洗は無人機ではなく対空戦車での応戦となるので、それは尚のことでしょう」
みほ「実を言うと、その対空戦車もレギュレーションによって限られてしまって…」
西「えっ!?」
みほ「前回の試合で私たちが使ってたオストヴィント、38(t)対空戦車、3号対空戦車はオープントップであるために、本来なら使えない車輌だったんです」
みほ「以前までは見過ごしてもらえたのですが、安全性を考慮した結果、ルール改定で禁止されてしまって…」
西「となると無人機への対抗手段は無くなってしまうのでは?!」
みほ「いえ。そこでIV号戦車を"クーゲルブリッツ"という密閉型砲塔を搭載した対空戦車へカスタマイズしました」
西「おお…! 西住さんたちのIV号戦車は変幻自在ですね!」
みほ「えへへ。その対空戦車は砲身の俯仰や旋回も砲塔ごと行うので、慣れないうちは大変でしたよ」
西「ははは。西住さんを参らせてしまうなんて相当な代物ですな!」
優花里「酔っぱらいみたいにヘベレケになってましたもんねぇ西住殿!」
みほ「よ、酔っぱらい…」ガーン
― それから私達はしばらく談笑に花を咲かせました。
どうやら西住さんは"ぼこ"が相当好きなようで、延々とその良さをアピールしておられました。
隣で苦笑いしながら聞く秋山殿とは違い、水を得た魚のように話す西住さんがとても印象的でした。
確かに、満身創痍になっても退却せず、相手に挑み続ける姿は、西住流に通ずるものがあります。
そして我々知波単学園も真正面から相手に突撃するという点でも。
全く無関係なはずなのに、西住流には何かしらの縁があるような気がしてきました。
…と言うと今度は島田流の家元様に怒られそうなので『柔軟な戦い方は島田流と何かしら縁がありそうだ』と言って茶を濁しておきませう。
みほ「…あっ、もうこんな時間だ。そろそろ行かなきゃ」
西「本当に楽しい時間は経過が早いのであります」
優花里「色々ありがとうございました西殿」
西「こちらこそ。話の続きはまた時間がある時に是非しませう!」
優花里「そうですねぇ。…ボコの話は当分いいですけど」アハハ
みほ「えっ?!」ガーン
アハハハハハハ
優花里「あ、ちょっと家に電話するので先に行ってます。それでは失礼しますっ!」ビシッ
西「こちらこそ。楽しい時間をありがとうございました!」フカブカ
西「…」
みほ「…」
西「西住さん」
みほ「はい?」
西「次の試合、如何しょうか?」
みほ「ハッキリ言って、かなり厳しい戦いです」
西「そうですか…」
みほ「ルール改定で対空戦車が3輌から1輌になってしまった上に、相手はサンダース」
みほ「相手は戦車はもちろん、無人機も相当強力なものを使ってくるかと思います」
みほ「対空戦車が走行不能になったら、あとは戦車と無人機によって一方的に蹂躙される……」
西「………」
西「西住さん」
みほ「は、はい?」
西「これが"釈迦に説法"なのは重々承知しておりますが…」
みほ「うん?」
西「もしも、無人機が手に負えないと思った時は」
みほ「?」
西「その時は戦車を傾け、お天道様を叩き割るが如く砲弾を無人機へ放ってみて下さい」
みほ「えっ…?」
西「戦車を即席の対空砲として上空に放ちます」
西「命中すれば御の字ですが、そうでなくても多少の妨害にはなりますので」
みほ「!」
西「対空戦車は1輌とのことですが、即席の対空戦車を作ることで防空能力は幾分か向上します」
みほ「確かに…!」
西「そして、これはダージリンをはじめ、聖グロの皆さんにはご内密にして頂きたいのですが」
みほ「?」
西「聖グロの三つある無人機のうち、一つは戦車砲による撃墜判定が出ていました」
みほ「ええっ!?」ガタッ
西「山岳地帯に戦車二輌を忍ばせておき、自軍の無人機で扇動して迎撃地点まで誘導」
西「射程範囲に入ったらこれを戦車が叩く」
みほ「…」
西「こうも上手く行くとは思ってませんでしたが、それでも戦車で無人機の撃墜が可能であることがわかりました」
みほ「でも、アッサムさんは"エースパイロット"によって落とされたと…」
西「ええ。我々の無人機でも対無人機戦を展開させました」
西「ただ、こちらの無人機はなるべく硬い戦車の撃破を優先させたかったので」
西「対無人機用の航空機銃の弾は従来より少なくしました」
みほ「そうなのですか…!」
西「ええ。無人機は戦車ほどの装甲は無いので、脆弱な戦車砲でも命中すれば撃破できます」
西「なので当たるか否かの違いです」
西「空と陸とを連携させることで戦車砲は無人機を撃破でき、」
西「無人機は戦車を激破するという役割を構築してみた次第であります」
みほ「すごい…」
西「西住さん」
みほ「は、はいっ!?」
西「無人機は戦車でも落とせるのです。…戦術と腕次第で」
みほ「!!」
西「ですので、どうか諦めず、戦ってください。私達の分まで」
みほ「はいっ!…あ、あの」
西「ん?どうされました?」
みほ「変なことお聞きしますが…」
みほ「本当に西さんなのでしょうか…?」オロオロ
西「ふぇ? え、ええ…私は正真正銘 西絹代でありますが?」
みほ「で、ですよねっ! …なんだか、以前お会いした時とは全然違ったので、もしや別人では!? …と」
西(最近色んな人に言われるなぁソレ…)
西「まま、あれから私も色々考える事があったのです」
みほ「考える事?」
西「あはは。エキシビジョンマッチ戦や大学選抜戦を通じて、我が校も戦術を見直すべきと思った次第でして」
みほ「その結果が、ここ最近の戦果に繋がったわけですね…!」
西「ええ。今回は志半ばで終わってしまいましたが、次は更にその成果を発揮させて頂こうと思う所存であります」
西「ですから、西住さん達には私達の分まで存分に戦ってやって下さい」
みほ「もちろんです!アドバイスありがとうございます!」フカブカ
西「いえいえ。武運長久をお祈り申し上げます」フカブカ
続き
【ガルパン】西「四号対空戦車?」【2】