関連
【ガルパン】マタニティ・ウォー!【1】
【ガルパン】マタニティ・ウォー!【2】
【ガルパン】マタニティ・ウォー!【3】
【ガルパン】マタニティ・ウォー!【4】
■60日目(より詳しく)
///////////午前10時~
母体と胎児の定期健診
午前11時~
この日は祝日。各学園から見舞いや面会の生徒が相次いで、センターにぎわう。
一週間ほど後に今度は連休があるので、遠方の学校はそちらに予定を合わせている。
大洗からは、
沙織と麻子と優花里、たかちゃん、小山(会長もこようとしたけどモモちゃんに泣きつかれた。「お体が心配なので今は長距離移動しないでください」)
アンツィオからは、
ペパロニ、かるぱっちょ、他もぶ子数名(もぶパパ)
もちろんダージリンさんや西さん達も。
//////////////午後13時頃
アンチョビ、再検査の連絡を受ける。
//////////////午後14時頃
アンチョビ・大部屋へ戻ってくる。
この時部屋にいたメンバー[ペパロニ・かるぱっちょ・たかちゃん・みほ・ありす・もぶ子数名]
-------------------------------------------
ペパロニ「え、姉さんだけ個室に移動、すか?」
アンチョビ「うん。ちょっとだけ数値が乱れてるから、念のためしっかり観察しようって事になってなぁ」
ペパロニ「それって……大丈夫なんすか……?」
アンチョビ「そう心配するな。ちょっとだけ優しくしてくれればそれでいい」
ペパロニ「……。」
カルパッチョ「こーら、ペパロニがそんな顔してちゃだめでしょ?」
ペパロニ「わかってるけど……」
アンチョビ「ほらほらペパロニ、落ち込んでないでお腹におしゃべりしてくれ。久しぶりなんだ」
ペパロニ「えぇ、みんなの前でですか……?」
アンチョビ「そーだぞ。もーはやくー!」
ペパロニ「だだこねないでくださいよぉ……」
みほ(ペパロニさんはアンチョビさんのお腹におしゃべりします。お口を大きくあてて、唇をぴったりつけて、そのままの状態で喉を震わせ『お゛お゛お゛い゛、げん゛きかぁ゛ぁ゛ぁ゛? もうひとりのマ゛マ゛だぞぉ゛ぉ゛ぉ゛』。)
みほ(お腹がブルブルするそうでアンチョビさんとっても気持ちがよさそうです。それに耳はまだ聞こえなくてもペパロニさんの声の振動が子宮の赤ちゃんに届くはずだ……って)
愛里寿「わ~」
華「あら~」
みほ(みんな、二人のそんな姿をみても照れたりはしません。むしろ優しい気持ちになれるみたい、だってそれは──)
愛里寿「ルミも、私のおへそをハムハムしながら「む゛ー」っておしゃべりしてくれるよ。ぶぶぶぶーってお腹が震えて気持ちいいの」
そど子「ふぅん……なんだか生理痛の時にも効きそうね」
モブ子「あー……そういえばご無沙汰だぁ生理痛」
そど子「あの痛みから逃れられ事だけははホント妊娠様様なのよねぇ」
モブ子2「わかるっすねぇ」
(雑談)
みほ(だれにだって、多かれ少なかれ「ひみつの儀式」があるんです・)
みほ(私がお姉ちゃんやエリカさんにマッサージしてもらったみたいに)
みほ(……あ、そうだ)
みほ(「二人の秘密儀式」、つぎのセラピーのテーマにぴったりかもしれません。)
みほ(そうやってお互いを知り合うことで、みんながどんどん仲良しに……)
-------------------------------------------
しばらくおしゃべり。
今日はあいにくの雨。
命名、レクリエーションルームや大部屋や食堂に散らばってる。
///////////////午後15時40分
アンチョビ、もよおしてトイレへ。(大部屋をでて廊下を少し行ったところ)
---------------------------------------
ペパロニ「姉さん、私も一緒に」
アンチョビ「いいってば……トイレくらい一人でいかせてくれ」
:アンチョビ出ていく
ペパロニ「……。」
みほ(あ、ペパロニさん、時計をみた)
みほ(アンチョビさんがトイレにいって何分が経たったを、チェックするんだ……)
----------------------------------------
/////////////1分経過
---------------------------------------
からからから……
アンチョビ「……ただいま」
みほ(え? 早い──)
アンチョビ「えっと、ごめん、ちょっと……隣の病棟まで行ってくる」
ペパロニ「──え?」
:全員の視線がアンチョビへ
:各自無言のままアンチョビの言葉を反芻、アンチョビの様子をうかがう。外見はとくに辛そうといった様子もないが。
カルパッチョ「……ドゥーチェ、どうしたんです」
アンチョビ「あー……ちょっとだけ、ほんのちょっとだけだぞ?……下着に血の点々がついてた」
みほ(え……!)
ペパロニ「ちょ・・・・・・内線!! 内線で緊急電話をします!」
アンチョビ「わああああ待て待て待て、大げさに騒ぐな体はなんともない!」
アンチョビ「ただの不正出血だと思うし、いやもしかしたら痔だったのかも──」
ペパロニ「バカな事いってんじゃないっすよ!」
アンチョビ「でもなぁ歩いていけるくらいなんだけどなぁ~」
みほ(後にして思えば──)
みほ(アンチョビさんは平気な自分を装うことで、内心の動揺を押し殺そうとしていたのかもしれません)
みほ(私もそうだけど、強いショックをうけたときって、不思議と人前では強がってしまうんです……)
みほ(ともかく──その直後に、アンチョビさんは──)
アンチョビ「もー、なんにもなかったら恥ずかしいぞぉー────ッひやぇうっ」
みほ(アンチョビさんのあげたどこか間の抜けた声。その声に反射的に振り向き──その後で目にした光景は、私の目に長く焼き付いています)
アンチョビさんの着ている病院着──の股間に、じわりと赤い染みが広がる。水水しく今までみたどんな赤色よりも赤かった。
初めはサクランボほどの大きさだったそれは、直後急激に拡大し、リンゴほどの大きさまで広がる。そして今度は、一転、ぴたりと拡大を止める……
全員が硬直する。
けれどしばらくそこに留まっていた赤リンゴは、ある瞬間に飽和し、直後絵具を垂らすように、すーっと、右足へと赤い汁を──。
アンチョビさんは、石造のように硬直したまま、その一部始終を見おろしていました。
ペパロニ「──ドゥーチェ!」
ペパロニさんの悲鳴とともに。。
カルパッチョさんは内線電話に突進し、他に者はアンチョビに駆け寄る。
ペパロニさんだけがアンチョビさんの身体に腕を添えようとした、が──
アンチョビ「──触るなっ!!」
受話器にむかってわめいていたカルパッチョさんでさえ思わず振り向くくらいの、切迫した金切り声。
みんなぎょっとする。
ペパロニ「ドゥーチェ?」
かすれた声でペパロニさん。
アンチョビさんには聞こえていない様子。
アンチョビさん、ゆっくりて股間に手をあてがう。
指先で血にふれようとしている?──いや、違う。
それはまるで、そこにある「何か」を確認しようとしているような──
みほ(──!!!)
直観的に理解させられて、みほ、戦慄する。
アンチョビさんの手は今や股間を覆っている。
そこにある『固形物』の、
そのたしかな重みを、
手の平で感じようとするように──
ペパロニさんの顔は、アンチョビさんの顔を同じくらいに真っ青になってる。
その場にいた全員の顔が凍りつく。
アンチョビさんが焦点の合わない目をしながら小さく呻く。
た、す、け、て……
震えながらゆっくりと腰をおとして、がくりと膝をつく。
がそのままオシリを下ろそうとは決してしない。膝で半立ちになったまま──
みほ(……違う)
みほ(アンチョビさんは今──)
──座、れ、な、い、ん、だ──
全てを理解した時、みほは全身の血が足元に流れ落ちていく音をハッキリときいた。
「皆で支えてください!!!」
ペパロニさんの悲鳴の意味を、誰もが瞬時に理解した。
全員でアンチョビさんを囲み、肩に、脇腹に、腹部に、腕を回す。
アンチョビさんの身体を前のめりに倒させる。
ペパロニさんは、アンチョビさん腰に後ろから手を回し、しっかりとささえる。アンチョビさんの腰が、絶対に落ちないように。
いやまアンチョビさんの身体はぶるぶると震えている。皆で支えなければ──今にも崩れ押してしまいそうなほどに。
「お医者様がすぐここに来ます! ……ひっ……ドゥーチェ!!!」
センターの人達が駈けつけるまでの2分50秒。
それが長かったのか短かったのか、そんなことはもうわからない。
ただただ一心に、アンチョビさんの無事を祈った。
それと同じく、口にはせずどもその場にいた何人かはこう考えていたと思う。
──次こそはは自分なのかな──
みほもまた──。
/////////////午後14時30分
全員が大会議室に集まっている。
部屋には全員はいれたが、とうていい椅子わたりない。妊娠者が座り、その周りにパパや見舞の者達は立っていた。
部屋は静けさに包まれている。
窓の外の雨音だけが途切れること無い音。窓の向こうには隣の病棟が見えている。
あの病棟のどこかに、アンチョビさんがいる。
(アンチョビさん、無事でいてください……)
そう祈る一方で、子供の事はほとんどあきらめている。それを受け入れてしまおうとしている。……。そんな自分をみほはおそろしくかんじた。
//////////////午後16時
センター長が大会議室に。
センター長は女性。なんどもみんなの前で状況の説明をしてくれていた人。各人の個別の相談にもよく答えてくれていた。
そんな彼女の顔も今は険しい。
→安斎さんは無事。意識もはっきりしていて会話もしっかり。
→赤ちゃんは残念ながら亡くなった。
→あるいは私達は赤ちゃんをすくえたのでは。私の責任において可能性や責任の有無を検証する。
→経過が良好ならば、明後日には安斎さんはご両親とともにへ帰る。
→明日には面会も可能。ただし、時間は短く、なるべく静かに、少人数で。今はペパロニとカルパッチョうが一緒。ご両親は夜に到着。
---------------------------------------------------------
ペパロニからの伝言を預かっています。
→『皆負けるな。私達は負けると思って戦ったりはしない。戦車道の魂を忘れるな』
センター長〆る。
未来は不確定。
ですがともに立ち向かいましょう。的な。
見舞いのメンバー&パパメンバー、センターへの数日間の滞在を依頼される。(もっとも副作用のない健全な精神安定剤)
---------------------------------------------------------
カチューシャ「マタニティ・クラス……明日もやるわよ、絶対……!」
ニーナ「カチューシャ様、でも……みんなそんな元気……」
カチューシャ「何を言ってるの! 私達は負けない! 何があっても、私達は私達のまま、生き抜いてやるのよ!」
まほ「カチューシャに賛成だ。ワタシ達は永遠に悲しんでいるわけにはいかない。前に進まねば。……安斎もそう願っているだろう」
みほ(お姉ちゃん……)
まほ「明日の講師は私だ。皆……どうか参加をしてほしい」
----------------------------------------------------------
夜・母から電話
→自分もしばらく関東に常駐する。何かあればすぐに駆け付けるし、また見舞いにも行く。
就寝前・一人で中庭をあるく。雨はやんでいるが、地面はまだ濡れている。
みほ「あ……お姉ちゃんとエリカさん……」
ベンチで二人。エリカさんは泣いているらしい。微かにしゃくりあげる声が聞こえる。まほに抱かれて頭を撫でられている。
軽い不安障害だと言われたことを思い出す
みほ、そっとその場から立ち去る。
------------------------------------------------------------
■61日目
マタニティ・クラスの最中、ニーナがスッと手をあげる。
--------------------------------------------------------
ニーナ「──すみませんが……先生を読んでほしいだじゃ」
まほ「ん、先生?」
カチューシャ「ニーナ……?」
ニーナ「カチューシャ様、もうしわけありませんだじゃ。」
ニーナ「……最後まで一緒にいたかった」
カチューシャ「何を言って──」
ニーナ「わだす、今ぁ──」
ニーナ「……出血……」
ニーナ「……してるようだですだ……」
カチューシャ「…………!!!!!!」
ニーナ「二―ナ!!!
ニーナ「さけばねでください……だいぢようぶだぁ。痛みもない、出血も……あんまり多くはなさそうだべな。ただ、椅子さ、次座る人にはもうしわけないだが……」
──ダージリン様! 内線で!先生を!──
──ええ! !!……なんてこと……!!!!
カチューシャ「ニーナッ、ニーナッ……あんたっ……また私を一人にするつもり!?」
ニーナ「いんやぁ、今日の午後には、ノンナさん達も到着するべ。ギリギリセーフにしてほしいじゃあ……」
カチューシャ「ニーナッ……ニィナアッツ!!」
ニーナ「……。」
ニーナ「……。」
ニーナ「………………………………アリーナ……。」
ニーナ「……あぁ、いけん、ぼーっとしとったぁ……」
ニーナ「カチューシャ様、本当の本当にごめんなさい、エカテリーナ様と一緒に、この子が遊ぶところをみたかっただゃ……」
カチューシャ「~~~~~~っ……」
みほ(ニーナさんは最後まで落ち着いた(だけどそれがかえって悲愴な)様子でした。……先生や看護師の肩が駆け付けると、ほとんど自分の力で歩きながら、大会議室をでていきました。)
みほ(ニーナさんが運んでいかれた直後、皆が呆然としていると──)
──バアン!!!!
カチューシャさんが、小さな拳を、机にたたきつけました。
そのまま、何度も何度も、何度も……。
カチューシャ「ああああ!!!」
カチューシャ「あああああああ!!」
カチューシャ「あああああああああああああああ!!!!」
みほ(──。)
みほ(あるいは──カチューシャさんも私と同じ怒りを抱いていたんだろうかと、ふとその時に感じました。)
ダージリン「カチューシャ! おやめになって! ……止めて! お願いよカチューシャ!!」
カチューシャ「誰だ!! 誰が!!!! あああああああああああああ!!!!」
ダージリンさんに抱きしめられながらも、怒りに燃える双眸は、涙をゆるさず、ひたすらに何かを睨みつけていました。
その時、スイッチが入りっぱなしになっていた演壇のマイクが、お姉ちゃんの呟きを、拾ってしまいました。。
まほ『覚悟を決める時が──きたというのか……』
部屋はシンと静まり返る。
お姉ちゃん、ハッとする。
けれど今の言葉は、それはたしかにその通りなのかもしれない。
皆、まほの言葉をかみしめる。発言者たる当のまほさえもが、自分の言葉の意味を改めてかみしめる。
そんな中みほは──
----------------------------------------------
みほ(私達は今、地獄にいるのかな)
みほ(……)
みほ(私は一人じゃない。そう思って頑張ってきた。……だけど、皆と一緒にいても……)
みほ(地獄は地獄だったんだ……)
みほ(……。)
みほ(私達はこのまま、結局最後には──)
エリカ「……みほっ」
みほ「え……?」
:突然、隣に座っていたエリカがみほの手をつかんだ。腕に縋ってくる。
みほ「エリカさん……?」
エリカ「……っ、……っ」
エリカ「……みほ……みほっ……」
みほ(え……)
みほ(エリカさん、必死にはを食いしばって、涙をこらえてる。)
みほ(あ……! そうだ、エリカさんは今、軽い不安障害だって──)
みほ「エリカさん、息を吸って、深呼吸を……!」
みほ(お姉ちゃんに慰めてもらわないと! お姉ちゃん、エリカさんを──!)
みほ「……っ」
みほ(だめだ、遠い……!)
みほ(……あ。)
みほ(──私)
みほ(私はここで何をしてるの?)
みほ(エリカさんは今、私の隣にいる、私の手を握って、私の名前を読んでる!)
みほ(それなのに私が、何もしないだなんて──)
みほ「……!!」
みほ(私だって……私だってエリカさんのことを──)
みほ(守ってあげたい!!!)
……ぎゅうううう!
エリカ「あ……」
みほ「……エリカさん……」
みほ「大丈夫、だなんてとても言ってあげられないけど……」
みほ「お姉ちゃんの代わりにだなんて、私はとてもなれないけど……」
みほ「だけど私も──」
みほ「私もエリカさんの事、想ってる」
みほ「だってエリカさんは、」
みほ「私が今まで生きてきた中で」
みほ「──一番大切なお友達だもん──!」
みほ(──お姉ちゃん、ごめんなさい──)
みほ(今だけは、エリカさんの事……お姉ちゃんからとってもいいですか──)
みほ(そうじゃないと、私)
みほ(こんな地獄──)
みほ(生きていけない)
----------------------------------------------------------
■60日目 胎児の夢
■61日目 ミホーシャ 怒りのデス・ロード
■63日目
福田さん流産
■64日目
-----------------------------------
食堂で、誰かが言ってた。
「お地蔵様ってさ……生まれてこれなかった赤ちゃんを、供養する気持ちも込められてるんだって」
「…そうだったんだ……」
みほ「……。」
みほ(池の周りの路地に、たしかお地蔵様があった……)
行ってみる。
オレンジペコさんがいた。しゃがんで目をつむり、お地蔵さんに手を合わせてる。
道端のそのお地蔵様は、ちょうど新生児くらいの大きさ。頭にかぶせられている綺麗な真新しい頭巾は、良く見れば聖グロリアーナの赤いスカーフ。
みほ「……。」
ペコ「あ……みほさん」
みほ「隣、いいですか」
ペコ「ええ、もちろん」
しゃがんで一緒に合わせる。
お地蔵さんは、とても優しくて穏やかな表情。
その安らかな顔を見つめる──気が付けば、涙が頬を伝っていた。
ペコさんも、隣で鼻をすする。
昨日の夕暮れ、福田さんの赤ちゃんが流れた。
その時、オレンジペコさんは誰よりも大声をあげて泣いていた。
-------------------------------------------
■65日目
赤ちゃんの命の意味を考える。
この命に何か意味をあげたい。
せめて、この子達が生きていた事を何かに残したい。
→センター側の人に相談。
→話の終盤、今回の事件で流産した赤ちゃんのために神社の建立が決まる。本社を皇居の一角に。分社を各地方に。
■66日目
センター長から説明。
世界中で再び流産群発。
原因はまだ特定できない。申し訳ない。
-------------------------------------------
センター側から不思議な履物が支給された。
アリサ「何これ……おむつ、みたいな……?」
その履物の意味を考えて、誰もがゾッとした。
-------------------------------------------
-------------------------------------------
産婦人科の女医さんやカウンセラーの人を招いて流産についての講演会が催される。
流産の精神的肉体的苦痛がいかなものであるか。
回復にいたるまでの一般的な変遷等々。
更に、流産体験者の方を招いての質疑応答なども。
覚悟を決めろと、暗に告げられている。
-------------------------------------------
■67日目
アリサさん流産
■68日目~75日目
回復した流産組が随時見舞いに訪れだす。
会長、ナカジマ、さき、ローズヒップ、ミカ等々
みんなそれぞれに今回の事件へ向き合ってる。
ある種の皮肉→
処女受胎は未知の現象であるけれど、流産ならば人類は過去に何千万回と経験してきた。その心のケアの方法もある程度は確立されている。(もちろん落ち込んだままのメンバーもいるけれど)
大人達は、集団妊娠には上手く対応できなくとも、それが集団流産へ切り替われば、何とか対応しうる……。
70日頃?
またしても姉に慰められるエリカを目撃するみほ。
みほはエリカに、同性愛志向についての話をする。
(いけないこととわかっていたけれど、葛藤の末、気持ちを抑えきれずに。)
(しかも、エリカさんには隠し事をしていたくないから、というズルい言い方で。→自己嫌悪しながら)
みほ「エリカさんはお姉ちゃんの事、……好きですか」
エリカ→尊敬はしているがそれは恋愛感情ではない(と思う)。ていうかお互い子供がいるんだからそんな事は今はもうどうでもいい。
みほ→内心で安堵。そしてまた自己嫌悪。
この間は流産の発生が一時的に収まっていた。
流産組の元気な姿をみれたこともあって、ちょっとだけ気持ちが上向く。
あるいはこのまま……と淡い期待するけれど、
結局それは、最悪の形で裏切られる。
。
■76日目
華さん・そど子さん流産
魔の悪い事に、お見舞いに来ていた沙織と麻子が、大洗へ帰るためにセンターを出発した数十分後のことだった。
沙織と麻子へはみほが電話連絡を買って出る。電話の向こうで鳴いている二人の声が、忘れられない。
-----------------------------------------------------------------------------------------
カチューシャ「ミホーシャ。あなたにはまだ私達がいる。……ミホーシャ、聞いてる……?」
みほ「……。」
■77日目
オレンジペコさん流産
■78日目
カチューシャさん流産
-------------------------------------------
夜、エリカさんを誘い出して、中庭のイチョウの林を歩く。
街頭の光あ木々に遮られ、そこは闇の中。足元さえもおぼつかない。
エリカ「ねぇ、どこまでいくのよ」
みほ「……。」
エリカ「転んでお腹を打ったらどうするの」
みほ「じゃあ、もうここでいいです」
エリカ「……みほ、あんた大丈夫? ……ごめん、バカね私も…。大丈夫なわけないわよね」
みほ「……」
振り向くみほ。
暗がりの中、ゆっくりと手を伸ばす。指先がエリカの体に触れる。
エリカ「みほ……?」
指先の感触を頼りに、そのままエリカに浅く身を寄せる。上腕のみを使用して、甘く抱きつく。
エリカ「ちょっと」
エリカがわずかにたじろぐ。その足元で、踏みつけられた落ち葉がサカ、サカと二度音を立てる。
みほ「エリカさん。私……もうだめです」
エリカ「……。明日……一緒にカウンセリングをうけましょ、今の私達には……それが必要よ」
みほ「……。」
みほ「頭を撫でてください。熊本でしてくれたみたいに。エリカさんに慰めてほしいです」
エリカ「みほ……。」
みほ「撫でてください。お願いします……お願いです……」
エリカ「……。……いいよ……」
みほ「……エリカさん」
エリカ「何?」
みほ「この事、お姉ちゃんには黙っててくれますか」
エリカ「……どうして?」
みほ「……。」
みほ「心配、かけたくない」
エリカ「……。」
大きく鼻で息をすう。
病室のシーツの匂いと、エリカさんの匂い、鼻腔がエリカさんで一杯になる。
---------------------------------------------
■79日目~85日目
だんだんと大部屋が広くなっていく。それぞれが孤独感にさいなまれるようになる。
流産組がお見舞いにはきてくれるのだが、……妊娠しているものとそうでないものとのあいだで、微妙な意識のずれが生じている。
姉妹3人と愛里寿ちゃんとで、なんとか励ましあう。
■86日目
まほ流産
エリカ、不安障害大爆発。
→私はどうなる?私とお腹のこは間違いなくまほの子。
→隊長は私を大切にしてくれるのか? もしかして私は捨てられるのでは?
みほ、愛里寿、まほの代わりになんとかエリカさんを元気づけようと奮闘。
大部屋が引き払われる。各人に個室が与えられる。
みほはエリカの部屋で毎晩一緒に夜を共にするようになる。
■87日目
しほが見舞いに来る。
■88日目
愛里寿流産。
ボコのテーマを喘ぎつつ、血を流す愛里寿。
みほ、この日以降ボコを好きになれなくなる。(嫌いではないけど、ボコの気持ちに共感できない)
やってやるじゃどうしようもないことがこの世界にはある。
■88日目~■92日目
エリみほ・お互いのお腹が大きくなり始めている。夜なよな、お互いにお腹をさすりあう。
しほ、大洗メンバー、たびたび見舞いに訪れる。
この頃、会長から戦車道についての話を聞く。
→何とか復活させようと奮闘している。
・今回の件の仕組みを解明したがっている機関はけっこうある。こいつらを見方につけたい。
・今回の事件での検証に身を投じても良いとさえ言ってるメンバーもいる(世界各国に)。
・あの役人もいまは味方になりつつある
→心の底から会長を尊敬する。会長だけでなく、なんとか立ち直りつつある皆のことも。が、みほ自身の気持ちは妊娠の事で手一杯。どこか他人事に感じてしまう。そんな自分を嫌悪。
■93日目 みほ、ベッドでお互いのお腹をさすりあっている間に次第に感情が昂る。
(私にはもうエリカさんしか妊娠を共にする仲間がいない(国内では)。ずっと一緒に支えあって生きていきたい。この人の赤ちゃんを守ってあげたい。そして私のことも守ってほしい。)
→エリカにキスを迫る。(恋愛感情というよりも、ただただエリカを独占したい)
→エリカに拒まれる。エリカは、まだまだ、まほに操をたててる。
→この展開が不自然にならないように、ここまでの間でみほの感情の発展をを段階的に描写していく。
■94日目~96日目
→エリカの精神が不安定に。
・自分とまほの子宮はいまや繋がっていない。
・隊長は家元。将来は別の人と結婚して子供を設けるのが自然
・その時私はどうなるの? この子はどうなるの? 私は一人で生きていくの?
・私はまだ西住家の養子でいられるの?
→みほが大丈夫だとなだめても、なかなかその声が届かない。
■97日目 隊長の回復したまほがつくばへ見舞いにやってくる。
→エリカ、まほに迫る。
・この子はあなたの子です。どうか私達を捨てないでください。
→まほ「当たり前だ」
・けれどエリカはまほの言葉だけではどうしても不安。かっとなって法的な婚姻関係を迫り始める(この展開が不自然にならないように、ここまでの間でエリカの不安を段階的に(r
→みほまほ仰天。なんとか二人でエリカをなだめる。
→エリカが落ち着いた後、まほは病院を後にする(杏と会うため→後述)
その夜。エリカさんがとんでもないことを言い出す。。
「自分は隊長の人生の邪魔になるんじゃないのか。いなくなったほうがいいんじゃないのか」
→みほブチ切れる。
→姉のもとをさるくらいなら、私と一緒にいて、私がエリカさんを守る→エリカをおそう(極自然な流れ)
→エリカ、なんだかんだで抵抗しきれない
→かくして二人は一線を越える。→肉体的不倫関係へランクアップ
--------------------
エリカ「みほ」
みほ「なに?」
エリカ「この事、隊長には……言わないで」
みほ「エリカさん、最低……」
エリカ「……みほに言われたくない」
みほ「……そうだね、私も……クズだね……。」
みほ「……。」
みほ「いいよ。お姉ちゃんには秘密。だけどじゃあ代わりに──この事は、お母さんにも秘密にしてください」
エリカ「……ていうか言えないわよ……」
エリカ「ハァー」
エリカ「私達、どうなっちゃうのかしら」
みほ「わからないよ。だけど……エリカさん、好き……」
エリカ「……意味わかんないわよ……」
→2回戦へ
一時の快楽。
■99日目 エリカ流産
みほ。神を呪う。
■???日目
……おぎゃあ、おぎゃあ……
みほ(……。)
……おぎゃあっ、おぎゃあっ……
みほ(……ちょっと……今は勘弁してよ……。困ったなぁ、うんちかなぁ……)
<『次は~、水戸~、水戸にぃー停車しまぁーす』
みほ(……あと二駅かぁ……)
おぎゃあっ! おぎゃあ……!
みほ(ちょっと……お願いだから静かにして……)
男「……うるっせーなァ……」
みほ「っ……す、すみません……」
男「……あのさぁ……通勤時間帯にさぁ……なんで子供連れて電車に乗るかぁ……」
みほ「はい、すみません……どうしても託児所が遠くて……すみません……」
男「危ないだろ……五月蠅いし……これから仕事だってのに……」
みほ「……すみません……私も仕事で……すみません……」
男「……ッチ……」
みほ「……っ……」
おぎゃあっ! おぎゃあっ!おぎゃあっ! おぎゃあっ!
みほ(……ああもう……)
みほ「……ね、あと少しだから、静かにしようね、ね、他のお客さんに迷惑だよ?、ね、ね……」
おぎゃあ! おぎゃあ! おぎゃあ! おぎゃあ!おぎゃあっ! おぎゃあっ!
みほ「あぁ……うんちかな? お腹空いた? ね、ごめんね、もう少しだからね、ね、お願いだから……」
おぎゃあっ! おぎゃあっ!おぎゃあ! おぎゃあ! おぎゃあ! おぎゃあ! おぎゃあ! おぎゃあ! おぎゃあ! おぎゃあ!
みほ「わかったから、ねぇ……お願いだから……」
おぎゃあ! おぎゃあ! おぎゃあ! おぎゃあ! おぎゃあ! おぎゃあ! おぎゃあ! おぎゃあ! おぎゃあ! おぎゃあ! おぎゃあ! おぎゃあ!
みほ「………ツ………ねぇ……っ、ねぇ……お願いだから、静かにしてよ、お母さん困っちゃうから……」
ぎゃあ! ぎゃあ! ぎゃあ! ぎゃあ! ぎゃあ! ぎゃあ! ぎゃあ! ぎゃあ! ぎゃあ! ぎゃあ! ぎゃあ! ぎゃあ!ぎゃあ! ぎゃあ! ぎゃあ! ぎゃあ! ぎゃあ! ぎゃあ! ぎゃあ! ぎゃあ! ぎゃあ! ぎゃあ! ぎゃあ! ぎゃあ!ぎゃあ! ぎゃあ! ぎゃあ! ぎゃあ! ぎゃあ! ぎゃあ! ぎゃあ! ぎゃあ! ぎゃあ! ぎゃあ! ぎゃあ! ぎゃあ!
みほ「~~~~~~~~~~~~~~~~っ」
みほ「~~~~……。」
みほ「ねぇ……」
みほ「どうして静かにしてくれないの……?」
みほ「ねぇ……」
みほ「────どうして静かにしてくれないのよッッッ!!!???」
男「!?」
男「お、おい、アンタ……」
みほ「お、お母さんは!」
みほ「私は!! あ、あんたのために頑張ってるんだよ!!!!??」
みほ「アンタのために一生懸命に働てるんだよ!!!!????」
男「ちょっと──やめなさいって──」
みほ「それなのにアンタはっ、どーして!? どーしてお母さんに迷惑ばっかりかけるのよ!!!?? ねえええええ!!! どうしてよ!!!!?? 何考えてるの!!!! 泣いてないで答えてよ!!!」
みほ「叩いたりはしないから! だから答えてよ! ねぇ!!!!! いいかげんにしなさいよおおおおおお!!!」
老女「────あ~! はいはいはい! ね、お母さんおちついて! ね、大変よねぇ…………!」
みほ「……!? あ……え…………」
老女「ほ~~~~ら貸してごらん。オー可愛い赤ちゃんだねぇねぇ……よしよし、ほーら、抱っこだよォ、おー……よしよし……!」
おぎゃあ! おぎゃあ! ……ぎゃあ……あ……あぶ……うー……
老女「んー、あんたは可愛いねぇ~。ねー、お母さんは幸せだね、あんたみたいな赤ちゃんがいてぇ、ねぇ」
みほ「あ……。」
みほ「……あの……」
みほ「……あの、すみません……すみません……私……」
老女「あぁいいのいいの、気にしない気にしない……若いのに大変よだねぇ、私も子育てには苦労したよぉ、なかなか泣き止まなくてねぇ……」
みほ「はぁ……」
老女「だけどアタシらのころは親と同居があたりまえだったから、まだ自分の父母に手伝ってもらえたけど……今どきはねぇ……あんたがた都会の若い人は本当、大変だぁ……精一杯、頑張てるよねぇ……」
老女「ただ……すこーしノイローゼ気味だねぇ。ちょっとだけ心配だ。一度カウンセリングをうけるといいよ。市役所に行けば相談窓口があるからね……きっと、力になってくれるから」
みほ「……はぁ……」
老女「さぁ……お母さんのところにかえろうねぇ、よしよし。またねぇ」
みほ「あ……。」
あー……ぶー……だぅー……
男「なぁ、悪かった……謝るよ」
みほ「……いえ……」
みほ(……。)
うぶぅー……あぶ、おげ……う゛ぁぅ~……
みほ(……はぁ……)
みほ(ごめんね……)
みほ(……結局最後まで……私はいいお母さんにはなってあげられなかったね……)
みほ(だけどもう………………)
みほ(………大丈夫だから……)
みほ(…………今まで、本当にごめんね…………)
みほ(今日は……託児所にいはかないの……)
みほ(……………………………ごめんね……)
──────────。
『赤ちゃんポスト』
☆いつでもドアをノックしてください。まずはゆっくり、お話しをしましょう☆
みほ(……。)
:裏路地に隠れた一角。
:建物の壁に、小さな不透明な窓。今は閉じられている。
:窓の手前には赤ちゃんを寝かせるための台。その台の上には、呼び出しインターホン。
みほ(……そっか、ホントにポストがあるわけじゃないんだ……)
みほ(あはは、そうだよね、手紙みたいに投函できるわけないもんね……)
みほ(バカだなぁ、私……。)
あー、ぶー、だぅー……
みほ(……。)
みほ(元気でね)
みほ(立派な大人になってね。お母さんみたいになっちゃだめだよ)
……あー、うー……
みほ(貴方は可愛いよ。)
みほ(世界一かわいい……。)
みほ(だから……良いお母さんのところで、幸せになってね……)
みほ(こうしてあげることが……多分、あなたの為に私ができる、一番良い事だから……)
みほ「……」
みほ「……よしっ」
みほ「じゃあ、インターホン……おすねっ」
みほ(……パンツァー……フォーっ……!)
(ピンポーン)
『はい、こんにちわぁ』
みほ「……こんにちわ……」
『……大丈夫よ。ね、心配しないで。まずはゆっくりお話しをきくから──』
みほ「あの……名前は、ありません。自由に決めてください」
『……え?』
みほ「戸籍を変更するための書類とか──母子手帳とか証明書とか、大事な書類は一緒においておきます」
みほ「この子のこと、お願いします!」
『ちょ──ちょっと待って、ねえ、お母さん──!』
みほ「……ッ、元気でねッ!!!!」
だだだだだだだだだだ……!!!
──────。
みほ「……ふぅ……」
みほ「……。」
みほ「ゆっくり公園を散歩するだなんて……いつぶりかなぁ」
みほ「はぁ~……」
みほ(……。)
みほ(自由になったんだし……久しぶりに、ショッピングモールにでも行ってみようかな)
みほ(……。)
みほ(……。)
みほ(……。)
みほ(まぁでも……別にほしいものなんてないか……)
みほ(ん~……じゃあ、せかっく一人なんだし……ちょっとおいしいご飯でも……?)
みほ(……。)
みほ(……。)
みほ(……。)
みほ(食べたいもの)
みほ(別に……ないや……)
みほ「……あ」
みほ(あの子はまるこぼーろが大好きだって……ちゃんとメモに書いたっけ……?)
みほ(書いた……よね? ……どうだったかな……あぁー……チェックし忘れた……失敗したなぁ……昨日は仕事で疲れてたから……)
みほ(うーん、夜泣きしたときはおでこをチュウチュウしてあげると泣き止むって……それは……うん、書いた、書いたよね……?)
みほ「……。」
みほ「まぁ……もう、関係ない、か……そうだよね」
みほ「うん。何か、楽しいことをしなきゃ……何か楽しい事を……」
(みほのあしもとに、ゴムのボールがてんってんっと跳ね転がってくる)
みほ「わ……?」
< 母親「あ、すみませんー。……ほら、ごめんなさいしてこなきゃ」
みほ「あ、いいえー……」
< 幼子「あぅー、ごめんあしゃいー」
みほ(あ……可愛い……)
みほ、ボールを取ってあげる。
幼子「あいがと」
みほ「うん……ふふ」
< 母親「とってもらえてよかったねー」
< 幼子「あぅー」
みほ(……。)
みほ(……。)
みほ(いいなぁ……)
みほ「……ふふ」
みほ「でも────私だって、もうすぐだよね」
みほ「あと二、三年したら、私の赤ちゃんも、あんな風に」
みほ「あぁ……楽しみだなぁ────」
みほ「あんな風に、一緒に──」
みほ「……。」
みほ「……。」
みほ「……。」
みほ「……。」
みほ「……え?」
みほ「……………私の、赤ちゃんは……」
みほ「………………………………………。」
みほ「…………………………………………………………………あれ?」
みほ「………………………………………………………………………………………………………………………」
< 幼子「あー、きゃ~♪」
< 母親「こらぁー、やだも~♪」
みほ「……………。」
みほ「……………。」
みほ「……………。」
みほ「……………。」
みほ「……………。」
みほ(だめ)
みほ(返して)
みほ「……っかえしてええええええ!!!」
だだだだだだだ!!!!!
母親「──!?」
母親「きゃあああああ!?」
母親「ちょっと!? 何よあなた!?」
みほ「かえして!! かえしてよ! 私の赤ちゃん!!!! かえして!!!」
母親「ひっ……だ、誰か!! 警察を、警察を呼んでください!!! 子供が……私の子供が!!!!」
みほ「ああああああああああかえせ!!!」
みほ「かえせかえせかえせかせああせかっけかあせっかかけっけあせ!!!」
みほ「あああああああああああああああああああああああ!!!!」
みほ「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
──────。
みほ「っ!!!!!!」
:みほ、ベッドから飛び起きる。
──■101日目 深夜2時──
夢の記憶が言葉にできないほどに不快。耐
えがたい不愉快さに襲われて、気が狂いそうになる。
頭を抱えて、ベッドでもんどりうつ。
みほ「ああああああ……!」
みほ(エリカさん、お姉ちゃん、会長、助けて! ……助けて!!!)
みほ(でも……もうエリカさんもいない! お姉ちゃんもいない!! )
みほ(ここには……誰もいない!!
みほ「い゛いいいいいっ……もう、だめ……だめ!! 」
みほ「お母さん……お母さん!!!!」
母に電話をする。
寝ぼけたしほの声は、みほの尋常じゃない声色を聞いてすぐに覚醒。
----------------------------------------------------------------
しほ『みほ、あなたLINEは使えるわね?』
みほ「……使える、けど……」
しほ『なら、いったんこの電話をきって、ラインでかけ直しなさい。ああ、いえ、私からかける』
みほ「……。」
しほ『そして、いい? そのまま通話状態にしておきなさい。話をしながら──あなたのところまで今から行く』
みほ「え……?」
みほ「だけど、お母さん、今、どこ……?」
しほ『虎の門のホテルです。けれど、高速を使えば、この時間帯なら一時間もかからない。』
みほ「きて、くれるの……?」
しほ『いくと言っているでしょう。いい? 通話状態のままで、よ。話をしながら運転するから』
みほ「……。」
みほ「……やだ、だめ……きちゃだめ……」
しほ『……は?』
みほ「だって、もしお母さんが運転で事故にあったら」
みほ「私、私……」
しほ『……。』
しほ『……とにかく、すぐいく。みほ、まほは随分元気になったわ。今日はね──』
---------------------------------------------------------------
//////////深夜3時半頃。しほ、到着。
みほは、しほが無事に到着するまでの間、本当に気が気ではなかった。
---------------------------------------------------------------
しほ「汗がすごいわね。風邪を引かれては困る。……着替えをもらってきましょう」
---------------------------------------------------------------
母に衣類をぬがされ、体を拭いてもらう。
その間も、何かヘドロの中に浮いて言えるようなぼーっとした感覚がある。
夢の感情が忘れられない。
身体が熱っぽい……。
---------------------------------------------------------------
しほ「少し前かがみになれる? 腰をふくから。お腹を圧迫しない程度に、ゆっくりと」
みほ「ん……」
ごっし、ごっし、ごっし
みほ(……。)
みほ(……。)
みほ(子供のころにも、こうやってお母さんに体を吹いてもらったことがあった気がする)
みほ(……。)
みほ(風を、引いた時……)
ごっし、ごっし、ごっし
みほ「お母さん、少し力強い……」
しほ「ん」
……っしゅ、っしゅ、っしゅ
みほ(……。)
みほ(お母さん)
みほ(……優しい……)
みほ「ねぇ……お母さん……」
しほ「何?」
みほ「あのね……」
みほ「どうしても一つ、聞いておきたいことがあって……」
しほ「……ええ、いいわよ」」
みほ「あのね……」
みほ「もし……」
みほ「もしも、私が流産をした時──」
しほ「みほ……そういう無駄な心配を──」
みほ「──無駄な心配じゃ、ありません。」
しほ「……。」
……しゅ、しゅ、しゅ
みほ「これは、必要な覚悟。みんな出来る限りの覚悟をして……毎日ここで暮らしてました」
みほ「そのみんなの覚悟を……無駄だなんて、言わないでください」
しほ「……。」
しほ「ごめんなさい……謝るわ」
しゅ、しゅ、しゅ……
みほ「……それでね」
しほ「ええ」
みほ「もし流産をしても、私は──」
みほ「私は……熊本に帰れますか? 熊本の大学に……いかせてくれますか?」
しほ「……。」
しゅ、しゅ、しゅ
……しゅ……。
……。
みほ「……お母さん……?」
しほ「……。」
しほ「みほ」
みほ「……はい」
しほ「それは──その質問は──むしろ私が貴方に聞きたかった事です」
みほ「……え?」
しほ「貴方は、熊本に帰りたい、熊本の大学に行きたいというけど──」
しほ「一番大きな理由としては、やはり、子供のためでしょう」
みほ「……うん……」
しほ「だから……一月以上前、貴方に熊本へ戻ることを許した時に、本当は確認をしたかった。でも、こんな時に聞くようなことではないと……黙っていました。つまり──」
しほ「──もしも子供がいなくなった時、それでもあなたは熊本に帰ってきてくれるのか、西住流に戻ってきてくれるのか……と」
みほ「……!」
みほ(……戻ってきて『くれるのか』……)
みほ「……じゃあ……」
しほ「……。」
しほ「何があろうと……構わないわ。戻ってらっしゃい。まったく……それこそ、無駄な心配というものです」
みほ「……!」
みほ(よかった……)
みほ(……本当に、よかった……)
みほ(あぁ……私にはまだ……帰る場所があるんだ……)
みほ(……幸せ……)
しほ「聞きたい事は、それだけ?」
みほ「うん……っ」
みほ「……。」
みほ「お母さん、ありがとう……ここに来てくれて」
しほ「……電話であなたの声を聴いた時は、いよいよかと思ったけれど──まぁ、ひとまず無事で、本当に──」
しほ「──……。」
しほ「……。」
しほ「……。」
しほ「……。」
しほ「……。」
みほ「……?」
みほ「お母さん?」
みほ「……どうしたの……?」
:しほ、みほのお腹を撫でる。おへそが浮き始めていてる。しほの指の脇が、くりくりとそのでっぱりを撫でた。
みほ「んっ……」
しほ「……。」
しほ「……最初に貴方たちが身ごもったと聞いた時は……いったいどんな恐ろしいものが、ここに詰まっているのかと思ったけれど……」
みほ「えー……ひどいよ、お母さん……」
しほ「それでも超音波写真をみて、こうやって膨らむお腹を見れば──」
しほ「──思いのほか、愛しみのような感情も、湧いてくるものなのね」
みほ「……お母さん……」
しほ「……。」
しほ「………………ならせめて、……。」
しほ「……もう少し早くに……………………………………」
みほ(……?)
みほ「……ねぇ、お母さん?」
みほ「本当にどうしたの?」
みほ「……変だよ……?」
しほ「……。」
しほ「……。」
しほ「ねぇ、みほ。」
しほ「聞いてちょうだい」
みほ「う、うん、何?」
しほ「私は────」
しほ「──会ったのです。あの子達に──」
みほ「……え?」
しほ「……二人に、会ったのよ……」
みほ「誰、に?」
みほ「……。」
しほ「……」
……ぞわっ……
みほ(……?)
みほ(あれ……?)
みほ(なんで私──鳥肌が──)
しほ「会わないわけにはいかなかった。事件の中心にかかわるものとして──家元として──」
しほ「そして何より」
しほ「私はあの子達の──」
「 祖母なのだから 」
みほ「………………………………………………………………え?」
──母の言葉の意味を理解した時、私は──
──ただただ茫然とするしかなく──
──けれど私は、この時はじめて……それを見ました──
しほ「小さかった。けれど──ちゃんともう、人の形をしていた。……綺麗な顔をしていた」
しほ「抱かせてもらえないかと……お願いはしてみたけれど──まぁ、さすがに断れたわね……今思えば、バカなことを聞いたものね」
──あの、お母さんが──
しほ「この子を抱き上げてあげたいと、あれほど強く思ったのは──えぇ、貴方やまほを産んだ時以来でしょう」
──あんなに厳しかった、私のお母さんが──
しほ「それに……そうねぇ……出来れば生きているときに──……。」
しほ「…………………生き、ている……ときに……」
しほ「……い、きて、いる……あの子達を……二人を………………ふたり……を、………………ふっ……ッ……!」
──こんなに顔をくしゃくしゃにして──歯を食いしばって──涙を流している姿を──
しほ「ぐぅっ……おぉ……ぐぅぅぅっぅぅうぅっぅぅ……!!!」
しほ「……生まれて、ほしかった……生まれてきてほしかった……元気な二人を──抱き上げてあげたかった……」
しほ「……ああ!! 本当に、何もかも今更なのに!……いまさら、もっとお腹に声をかけてやればよかったと……あぐぅっ……うっ……おおおお……情けない、わねぇっ!」
──母はひとしきり、涙を流し続け──
──その後、母は私の膨らんだお腹に手をあて──
──母らしい、ものすごく厳しい声で、こう叫んでいました──
しほ「生まれてきなさい、どうかあなたは、生まれてきなさい、どうか──どうか元気に──生まれてきなさい──!」
──その母の言葉をきいて私は──
みほ「あああああ! あああああ! わああああああああ!!!!」
ひきつけを起こすぐらいに泣きじゃくりながら、そうしてひたすらに、神様へ祈っていました。
みほ(どうか! どうかこのこを無事に産ませてください! お願いします!)
二日前には心の底から呪った神様へ、今は、こうして慈悲を請う。
神様ならばきっと許してくれるはずだ、と……そんな自分勝手なことを考えながら……。
---------------------------------------------------------------------------
■101日目(朝)
しほ「熊本に帰りましょう」
→妊娠者がもはやみほ一人になってしまった事や、みほの精神的な負担をかんがみて。
もともとそういう方向で話が進んでいた。
熊本の実家なら検査器具もろもろ運び込めるスペースはあるだろう。
データはオンラインで何とか。細かい調整はリアルタイムで。みほの都合を優先する。
(国側もなるべくみほに子供を産ませて研究したい。無理させて流産されたらもとも子もない)
■102日目
何人かが、最後の見舞いに来てくれた。
(本当はみんなが来たがっているけれども、みほの隊長を考えて各校から代表が)
・愛里寿、ペコ、カチューシャとは電話で少しだけ話をする。
・エリカ・まほはすでに熊本へ戻っている。
・退館前、母に頼んで、最後に一人で池の回りを散歩させてもらう。
→いろんな事があったなぁ。
熊本に帰ったらどんな顔してエリカさんやお姉ちゃんに会おう?
(エリカとみほはある種の不倫状態)
「私の戦いはまだこれから」
つくば入院編(■54日目~■103日目)完
-------------------------------------------------------
■顛末-98日目(エリカ流産の前日)
みほとエリカ、つくばで一緒にすごした最後の一日。
一時の温もりをとめて、互いの身体をむさぼりあう。
次々に死がおとずれるこの冷たい空間の中で、互いの身体だけが暖かい。
一日限りの快楽フェスタ。二人で協力し、性についての色々な初めてを体験した。
けれど……、
みほ(この奥に、お姉ちゃんの子供がいるんだ……)
みほ(私達の恥ずかしい声……聞こえてるのかな……)
みほ(それを聞いて、この子はどう思っているのかな……)
後ろめたい感情が、始終、頭の隅で蠢いていた。
--------------------------------------------------------
■顛末-100日目(エリカ流産の翌日)
エリカが流産をしてとうとうみほは一人。。
母が、姉が、大洗や他校みんなが、メールや電話で口々に励ましてくれる。
だけどもう嫌だ、もう耐えられない。
みほ(早く流産をしてしまいたい。どうせこの子もすぐに死ぬ。)
みほ(どうせ死んでしまうのなら、早く終わりにしてあげたい。)
みほ(一刻も早く、この苦しみから逃れたい。)
方法はいくらでもあるはずだ。
みほ(明日の朝、目が覚めたらお母さんに電話をして、相談をしてみよう。だからせめて、もう一晩だけはこの子と一緒にいてあげよう。)
どうか神様、せめて夢の中だけでも、この子を幸せにしてあげられますように。
どうか神様、せめて今晩だけは、この子と良い夢を見られますように。
………………………………………………………………。
……、、、、ほ……みほ、
みほ(……。)
……起きな、、い、……みほ。
みほ(……ん……。)
みほ「……ん、う……?」
:目を開ける。母の横顔が、自分を覗き込んでる。
みほ「……お母さん、……?」
:ぼやけた視界のまま、あくびと伸び。飛行機のエンジン音の唸りが耳に響く。
:顔の側の窓の向こうでは、白く輝く一面の雲海が、のんべんと後方へ流れている。
──■104日目 13:42 熊本行の飛行機、静岡上空9000メートル──
しほ「嫌な夢? うなされていたわ」
みほ「あ……うん……よく覚えてないけど、多分、そうだったと思う……」
しほ「そう……次は、きっと良い夢を見られる。まだ一時間はかかるから。ゆっくり休んでいなさい。またうなされていたら……起こしてあげるから」
:しほ、手に持っていた書類に視線を戻す。
:みほ、その母の横顔を、見つめる。安心を得る。
みほ「お母さん、私、頑張って赤ちゃんを産むね。……流産しなければ、だけど……」
しほ「……? なんです、急に改まって」
みほ「あのね──」
→ 一人ぼっちになって一度はくじけたけれど、お母さんのおかげでまた頑張ろうと思えた、的な話。
みほ「だから──」
みほ「ありがとうございます、お母さん。私、あきらめずに赤ちゃんを──産みます」
→母、無言で抱きしめてくる。びっくりしたけれど、とても嬉しい→(私は、お母さんが、大好き)
→そう感じるにつけエリカとの事を黙っているのが、どんどん後ろめたくなっていく。
→打ち明けてしまいそうになる。けれど、エリカに断りなく勝手に打ち明けるのは躊躇われる。結局、言えない。
:二つの感情のせめぎ合いに、みほ苦しむ。
夜、熊本の家に到着した。
お父さん(常夫さん)が待ってた。
みほ「お父さん……!」→「これからは家にいる。今まですまなかった」
みほ嬉しい。もとめてやまなかった父性が、ようやく少しだけ補填された気がする。
お姉ちゃんもまた、自分の帰郷を素直に喜んでくれた。
後ろめたい感情はもちろんあるけれども、それよりも会えたことが嬉しい。
現金な自分にちょっと呆れる。
→エリカも西住家にいる。本人が望んだ。(今は、部屋で眠っている)
→ただし、事後の体調があまりおもかんばしくない。食欲があまりない。流産後の精神的なショックだろう。今は時間が必要。
まほ「一応、庭を散歩したり、軽く体を動かしてはいるんだが……」
まほ「ただ、私とはあまり話をしてくれいんだ……寂しいよ」
(まさか自分とのことがあったから?) みほ、ぎくりとする。
家族四人で遅め晩御飯を食べる。(エリカさんはすでに部屋で軽い食事をすませてる。だいたいいつもそう)
姉への後ろめたさはあたしかにある、けれどやっぱりそれ以上に、家族でいれて幸せ。
お父さんがしきりにお腹を触ろうとするので、お母さんと姉がそれをたしなめた。
みほ「えへへ……触っていいよ、お父さん」
久しぶりに、心が安らいだ。
就寝前。
思い切ってエリカさんの部屋を訪ねる。
けれど、エリカさんはやっぱり眠っていた。
一週間ぶりの、一方的な再開。
枕元で、その寝顔を見つめる。
つくばですごした、最後の辛い日々を振り返る。
今、こうして二人で静かな時間をすごせていられることが、なんだか奇跡みたいに思えた。
エリカさんのお腹にそっと手をそえる。
みほ(エリカさんのお腹、ペッタンコになっちゃったね……)
涙がでた。
今日は、流産をせずに済んだ。
---------------------------------------------------------
■105日目
明け方//////////
隣の部屋の物音で、目が覚める。
みほ(あ、……エリカさん、起きたかな)
どうしても、エリカさんとお話しがしたい。
みほ「エリカさん……起きてますか」
ドアをノックする。
間があった後、
エリカ「うん……起きてる」
少し弱弱しいけど、間違いなく、エリカさんの声。
一週間ぶりに耳にしたその声。全身の神経の一本一本全てに、微量な電流が走った。
エリカさんの部屋に踏み込む。
再開は瞬間は以外とあっけなく通り過ぎ、
互いの隊長やメンタル面をぽつりぽつりと報告しあう。
この一週間のお互いの事なども。
------------------------------------------------------------------
みほ「お姉ちゃん、エリカさんとあんまり喋りできくて寂しいって、そう言ってた」
エリカ「……。」
みほ「もしかして私のせいで、お姉ちゃんと話しづらく……
エリカ「ううん、違う。みほのせいじゃない」
みほ「本当?」
エリカ「私ね……隊長とどう喋っていいのか、良く分からなくなっちゃったのよ。アンタとなら、こんな風にしゃべれるのにね……」
みほ「でも、それって、やっぱり私の……」
エリカ「だから、違うって。……私と隊長、もう赤の他人になっちゃったでしょ? そのせいかもね」
みほ「他人だなんて、そんな」
エリカ「だって、隊長のお腹にはもう私の赤ちゃんはいない。私のお腹にも、もう隊長の赤ちゃんはいない。養子の話も、……多分なくなる」
みほ「……。」
エリカ「ついこの間まで、私達は4人だった。なのに今、私は一人」
エリカ「……その事が寂しくてたまらない。だからせめて、隊長の側にいたい。そう思って、この家にいさせもらっているのに……何をやってるのかしらね、私……」
みほ(……河嶋先輩と、同じなのかな。失ったものが、あまりにも大きすぎて、ショックが、大きすぎて……)
------------------------------------------------------------------------------
エリカの弱音が、みほの母性を刺激する。
みほ「ね……エリカさん……」
自分のふくらんだお腹を、くりくりとエリカに押し付ける。そうして、エリカさんの背中を抱く。
いやらしい気持ちはほとんどない。ただただ、エリカさんを慰めてあげたい。
一度一線を越えたためか、そういう事がごく自然にできた。自分の体全部を……赤ちゃんさえもつかって、エリカさんを慰めてあげたい。
エリカさんを寝かしつけて、その手を握る。エリカさんは、抵抗をしなかった。
それどころか、堪えていたものを吐き出すように、
エリカ「私、この部屋で何度もみほの事を考えた……寂しかった……」
子宮と子宮でつながっていたお姉ちゃんとエリカさん。
それと同じように、私とエリカさんも、あのつくばの辛い日々の中で、何かが繋がってしまったような気がする。
みほ「うん。私もずっと会いたかったよ、エリカさん……」
エリカさんが寝息を立て始めた後、みほは静かに、自室へと戻った。
ふと自分の感情の変化に気付く。
みほ(やっぱり私は……エリカさんとお姉ちゃんに、仲良くしてほしい。)
後ろめたいとかどうのとかよりも、そう願う気持ちのほうが遥かに強くなっている。
過去の後ろめたさよりも、これからの事に気持ちが向くようになった。
ここはもう地獄の凍てつく一丁目ではない。
私の家族に守られた、暖かい熊本の家なのだ。
エリカさんとお姉ちゃんがまた仲良くなれるように、頑張ろう。
力がわく。
------------
:午前中
早起きをしたせいか、なんだか眠たい。妊娠のせいもあるのかも?
自室のベッドでうつらうつらしながら、過ごす。
------------
:お昼過ぎ
家の前におっきなトラックが止まって、大量の検査機器が下ろされてきた。
病院の集中治療室で見るような臨床検査機器やら分析・実験機器やら、全部みほの為。
ネットワーク工事の業者さんもやってきた。
半日かけてみほの部屋をオンライン対応に改装……。
お父さん、その配線工事を興味深そうにながめてる。
隣の部屋のエリカさん、うるさくないかなぁ。
-----------
:夕方
お姉ちゃんと一緒に軽く犬の散歩。(誰かと一緒ならば、短い外出はOK)
エリカさんと話した事を、姉に伝える。
お姉ちゃんは、悲しそうな顔をして
まほ「私も、エリカと共に赤ちゃんを産みたかった。その気持ちは、同じだ」
と、お腹をさすっていた。
みほ(エリカさん。エリカさんとお姉ちゃんは、赤の他人なんかじゃない。だって二人はお互いの赤ちゃんを妊娠していたんだよ。そんな簡単に、他人に戻っちゃうはずがないよ……)
------------
夜。
姉の発言を今度はエリカさんに伝える。
エリカ「……。」
エリカさんは少し涙ぐんで、無言で俯いていた。
純粋な思いやりから、そっとエリカさんの肩を抱く。
そうしてそのまま、一緒に眠ってしまった。
---------------------------------------------------------------------------------
■106日目
早朝、つくばのセンターからからお家に電話がかかってきて、「みほさんのデータが届いてません」という安否確認があったそうな。
お母さんに怒られた。
そうだった。寝る時は自室のベッドであれこれと検査計をつけてないといけないんだった。
心配かけてごめんなさい、つくばの人。
……っていう話をエリカさんにしたら、少しだけ笑ってくれた。
------------
お昼すぎ
アリサさんとケイさんがお見舞いに来てくれた。同じ九州とは言え、わざわざ来てもらえて嬉しい。
アリサさんは、とっくに元気になっていて、私の赤ちゃんが無事なことをとても喜んでくれた。アリサさんは強い人。
ケイさんも、私のお腹をみて大はしゃぎ。
ちょっと涙ぐみながら、お腹に向かって「がんばれぇー!! 負けるなファイト――――!」
中庭に響き渡る大声。
庭でストレッチをしていたお姉ちゃんが飛んできて、「何をやっているんだお前は!」と少し怒ってた。
私はべつに、励ましてもらえて嬉しかったけれど。
サンダースの皆さん、戦車道復興に向けて頑張ってる。
みほ(戦車かぁ……)
そういえば、もうずっと戦車の事を真剣に考えていない。生きることで手一杯だった。
------------
夜、エリカさんとおしゃべり。
昼間のサンダースの事や、戦車道の思い出話。
エリカさん、少しづつ笑顔が増えてきたかもしれない。
今日も、流産せずにすんだ。
------------------------------------------------------------------------------
■107日目
お母さんと一緒に車で熊本中央病院へ。
病院での検診は特に異常なし。
通常であれば安定期に突入するけれど、油断はまったくできない。と釘をさされた。
たしかに、つくばでも流産には一定の周期があるように思えた。
……だとしたら……そろそろ……。
夜。エリカさんが私の部屋にきて、腰をマッサージしてくれた。とっても気持ちいい。
赤ちゃんは、まだ私のお腹の中にいる。
--------------------------------------------------------------------------------
■108日目
お姉ちゃんと一緒に縁側でゆっくりしていたら、エリカさんが顔をだしてくれた。
そうしてそのまま、お姉ちゃんとぽつりぽつりとおしゃべりしてる。
よかった。
お姉ちゃんにお礼を言われた。
まほ「みほが帰ってきてくれたおかげで、エリカが元気になったよ」
よかった!
---------------------------------------------------------------------------------
■109日目
お母さんとお父さんとお姉ちゃんとで朝ごはんを食べていると、
------------------------------
エリカ「あの……おはようございます……」
まほ「エリカ」
エリカ「その、今日からは私も一緒に、ここで食事をしてもいいでしょうか……」
まほ「……! ああ、もちろんだ!」
しほ「好きなように食べなさい。ただし、準備は自分ですること」
エリカ「は、はい……!」
まほ「手伝ってやろう、何がいい。目玉焼きにするか、ベーコンは入れるか?」
エリカ「え、いや、自分でやりますから……」
--------------------------------
お姉ちゃん、すごく嬉しそう。
お父さん、「ますます女所帯だ。良いことだ」と笑ってた。
楽しい。
ちょっとハシャギすぎたのかも。
体が重い。
足がむくむし、腰がずっしり。
お母さんにそれを伝えると、
「妊娠中はよくあることです。大人しく寝てなさい」
というわけで一日ベッドで横になる。
だけど、部屋でただ横になっているのも、あまりいいことじゃないのかもしれない。
色々と考えてしまう。
次の瞬間、出血──するんじゃないかという不安にも襲われる。
まほ『エリカ、今日は一緒に犬の散歩にいこう』
エリカ『はいっ』
空けておいた窓からから、二人の楽しげな声が聞こえてくる。
少しだけ、不安が和らいだ。
微かな寂しさをもまた、感じているけれど。
------------------------------------------------
つくばでエリカさんが流産をしてから、それそろ10日が経つ。
つくばで目の当たりにした沢山の涙、そしてあの嫌な夢、忘れらるはずがない。
血にまみれた、死と喪失の日々。
いつまたそれに引き戻されるか、その恐ろしさから逃れることは、どうしてもできないみたい。
■110日目
お昼寝
また嫌な夢をみてしまった。
うなされていたらしい。
エリカさんが、起こしてくれた。
-----------------------------------------
エリカ「汗、すごいわよ」
みほ「うん……嫌な夢を、見ちゃいました……」
エリカ「……。赤ちゃんの夢?」
みほ「……。」
エリカ「……。嫌な夢なら、私もよくある」
みほ「どんな……?」
エリカ「……隊長と私と、赤ちゃん達と、四人で一緒にお出かけをして──」
エリカ「ああ幸せだなって思ってたら、目が覚める」
みほ「……。」
エリカ「……どっちが悪夢か、わらりゃしないわね……」
みほ「エリカさん」
エリカ「?」
みほ「エリカさんと一緒に……お昼寝をしたいです……」
エリカ「……、ええ、いいわ」
いくら不純な気持ちは無いとはいえ、私達はあっけなく、そんな事をできてしまった。自分達に飽きれる。
エリカ「一応、鍵……閉めるから」
みほ「うん……」
甘えて、何度かエリカさんの名前を呼んだ。そのたびに、エリカさんは頭を撫でてくれた。
エリカさんの体の匂い、私は全部覚えてる。頬、耳、口、つむじ、おでこ、うなじ、首もと、肩、脇、指の間、それぞれ少しづつ臭いが違うけれど、私はそれらが全部好き。
二人で一緒に、夢現に祈る。
私達の悪夢が、ちゃんと夢に帰れますように。幸せな世界こそが、現実でありますように。
--------------------------
夜。
エリカさんの夢の話を、姉に伝える。
まほ「そうか、エリカはそんな夢を」
みほ「お姉ちゃんは、どう? お姉ちゃんも……」
まほ「ああ、あるよ。何度かな……。目が覚めた後……とても辛かった。」
みほ「そのお話し、エリカさんにもしてあげて。きっと、エリカさんの慰めになる……」
まほ「……。そうだな、話してみるよ。ありがとう、みほ。」
みほ「エリカさんには、やっぱりおねえちゃんが必要だよ……」
ちょっといびつな、罪滅ぼし。
-------------------------------------------------------------
■111日目
熊本の病院から電話があって、お父さんとお母さんと一緒に呼び出された。
「私の赤ちゃんの寿命が、わかるかもしれません」
つまり、何日後に流産をするか、──あるいは流産しないか──ということが。
病院で説明を聞く
赤ちゃんの細胞分裂を阻害していたたんぱく質を特定できた。
複数のがん抑制遺伝子が不活性になると、そのタンパク質を合成する遺伝子とその支配下の遺伝子群が活動を始めて──
なにか堂々巡りのような話だった。
私達の赤ちゃんの性染色体は普通の人と少し違ってる。赤ちゃん個々でさえも少しづつ異なってる。
だから過去の研究成果を結び付けられずなかなか特定できなかったけれど、ようやくデータがそろい始めた。
つまり──サンプルデータを提供してくれる数千の胎児の亡骸のおかげ……。
話を聞いて恐ろしくなる。
日本で74人
世界では3928人
今回の事件で生まれ、そして死んでしまった赤ちゃんたち。
生き残りは、自分と、カナダに一人と、アルジェリアに一人。
その数千の赤ちゃんの亡骸の上に、自分と自分の赤ちゃんがいるような気がしてくる。
それに、先生の説明を聞いていると何だけか人間がただの機械仕掛けの人形みたいにおもえてきて……少し、気分が悪くなった。
羊水と血を取られる。
痛かった。
それにしても、ひどい話。
原因が分かっても、それを防ぐ方法はまだわからない。
正確には、そのたんぱく室の受容体?をブロックすることはできるけど、そうすると他の必要な機能まで阻害されてしまうそうな。
本当にひどい話……なんて言ってはいけないんだろう。
寿命が分かるようになったのだって、大勢の大人の人達が必死に研究をしてくれたから。
他の皆は、それを教えてもらえることさえできなかった。。
とはいえ……でもでもだっては、どうにもとめられない。
家に帰ってからは、なんだかどっと疲れがでてずっと横になっていた。
夜、お姉ちゃんとエリカさんが一緒にいてくれた。
------------------------------------------------------------
■112日目。
明日の午前2時頃、母のパソコンに検査結果がメールされてくるらしい。
そのメールを開いた時、私の赤ちゃんの寿命が分かる。
怖い。
人間はいつ死ぬかわからないから生きていられるって、テレビでみたことがある。
あんまり元気がでなくて、ずっと部屋で寝ていた。
午後、お母さんが部屋にきてくれた。
-----------------------------------
しほ「みほ」
みほ「お母さん……」
しほ「飲みなさい。温まるわよ。便秘にもきく」
ホットミルクを持ってきてくれた。
みほ「ありがとう。……はぁ、、、暖かい、おいしい……」
しほ「……。」
みほ「……。」
私も、お母さんも、口数は少なかった。
しほ「みほ、おなかを触っても?」
みほ「うん……触ってあげてください」
お母さんにお腹マッサージをしてもらいながら、それが気持ち良くて──気が付いてたら眠っていた。
目が覚めた時、母はまだそにいた。椅子にもたれてうたた寝をしている。
時計をみると二時間ほどがたっていた。母はずっと側についててくれたのだろうか。
眠っている母の顔を見つめる。
眼の形、鼻の形、唇の形、頬の形……。
私のお母さん。
私を産んで、私を育ててくれた人。
--------------------------------------------------------------------
■113日目。
午前2時頃に結果のメールが届くだろうと連絡されえていた。
家族全員でおきていた。お母さんも、お父さんも、お姉ちゃんも、エリカさんも、私も。
けれど、解析に手間取ってメールは午前6時くらいになると、お母さんに連絡があった。
体に悪いからと、私は寝かされることになった。
だけと、私は眠りたくない。
寝て起きて、その時にはもう赤ちゃんの命が分かっているだなんて、嫌。
それなら、あと数時間、何もわからないままに起きていたい。
「目が覚めるのが怖い」
そう呟くと、エリカさんとお姉ちゃんが、何も言わずに、私の頭を撫でてくれた。
そうして、いつの間にか、私は眠ってしまった。
──────。
夢を見ていました。
かぁーごーめーかぁーごーめ
かーごのなーかのとおりいわぁ
胎児達が、私の周りを回ってる。
宙に浮いて、時おり上下しながら、輪になってクルクルクルクル。
可愛い。
いーつーいーつーでぇやぁる~
よーあーけーのーばーんーにー
どの子が誰の赤ちゃんであるかは、どうしてか大体分かった。
ペコさんの赤ちゃん、福田さんの赤ちゃん、お姉ちゃんの赤ちゃん……。
その中に、一人だけ、見覚えのない子がいました、
(そっか、あの子がきっと、私の赤ちゃんなんだ)
その顔をよーく確かめようと、眼をこらす。
けれど、
『鬼は眼を隠していなきゃいけないよ』
と、エリカさんの胎児に叱られてしまいました。
(よーし、絶対私の赤ちゃんをあててみせるから)
私は両手で目を覆ってそのばにかがんで、胎児たちの楽し気な歌声にリズムをとり──そして──
つーるとかーめとすーべったー
うしろのしょうめん──
「──だ~あれ……!」
振り向いた瞬間、私のすぐ目と鼻の先にその胎児の、大きく開かれた口が──
『 お か あ さ ん 、 お き て 』
みほ「──────………!!!」
みほ「………………………………。」
夢を見ていたような気がする。良く覚えていないけれど、誰かにあっていたような。
まぁ、それよりも──
みほ(今、何時……?)
天井に近い所の壁かけの時計をみあげて、みほ仰天。
みほ「……え!?」
──■113日目・午前8時──
みほ「!? え!? 8時!? え!?」
飛び起きる。
とっくに結果が分かっているはず。
と、そこで気づく。
ベッドの脇に、皆がいた。
お母さんも、お父さんも、お姉ちゃんも、エリカさんも。
みんながそろって、じぃーっと、みほを見つめている。
なんで起こしてくれなかったの?→みほが眠りながら笑っていた。起こすのは気が引けて
そんなことよりメールは? もしかしてまだ?→いや、もうとっくに届いてる。
みほ、皆の雰囲気で察する。
みんなに、笑みがある。
母がノートパソコンをもってくる。
メールの中身、こんな雰囲気
↓
:おそらくみほの胎児は生き残るだろう。(カナダとアルジェリアで生き残っている2人の胎児も同様)
:みほの胎児の染色体はテロメア起因の死(ほかの胎児は9割方これ)を回避してる。
:ただし、油断は禁物。23番染色体が通常の人間とは異なっている。それはみほの胎児も一緒。何がおこるかは、まだまだ分からない。
:だけどとりあえず、流産の確率は相当低いだろう。
みほ、何度も読み返す。
お父さんに手がぽんと頭をなでる。
「名前を、考えておかないとな」
みほ、声を殺してないた。
いっそ大泣きしたいのに、なぜか、それができない。
甘える子犬の様に喉をならして、小さく小さく、長く長く、泣き続けた。
知らせは、世界各国すべての関係者に伝えられ、もちろん、連盟を通じて他の生徒達にも。
みほ、人生でたくさんのおめでとうメールと電話をもらった日。
会長、紗希ちゃん、そど子さん、華さん、他、妊娠をしたメンバーからは特に心の籠った連絡があった。
それぞれが経験した辛い日々、あるいは、我が子をもごモルという喜びから得た何か、今も心に残る人には言えない気持ち、
それぞれの思いをまのあたりにして、みほは本当に涙がとまらなかった。
/////////////////////////////////
以後、日数表示変更
旧『第一回関東地方合同検査入院初日より何日が経過したか』
↓
新『みほは妊娠何日目か』
/////////////////////////////////
---------------------------------------------------------
■114日目 改め 159日目
自分はどうやら本当に母親になれるのかも。希望がわいてきた。
出産予定日は4か月後くらい
お姉ちゃん、少し安心できたのでひとまずそろそろ学園艦に戻るとのこと。
まほ「私も戦車道のために頑張る」
みほ、寂しい。
だけど、エリカさんはもうすこしいてくれるそうな。
エリカさんもお姉ちゃんと一緒に学園艦に戻りたがったけれど、お姉ちゃんが私を心配してエリカさんにはもう少し家でやすむようにと言ってくれた。
お姉ちゃんがいなくなって、エリカさんと二人だけ。
少し、どきどきする。
-----------------------------------------------------------
■160日目
赤んぼが本当に生まれるらしいと聞いてお国の人達も本格的に先を見据えた動きを始める。
東京のお役人さん(女性)がわざわざ熊本まで今後の打ち合わせにやってくる。
役人♀「みほさんには、母親になることよりもご自身の人生についてを、より深く考えて頂きたい」
回りくどい言い方に首をかしげるみほ。
→みほが母親としての役目を果たすことはほとんどない。子供は国が育てる。みほには出産後の自分の人生を、子供の人生からきりはなしてしっかり考えてほしい。
みほ、わかってはいたけれど、いざ本当に子供を生めるかもしれないと思うと、政府さんの意向がすこし辛い。
だけど、これまでの費用はすべて税金で賄われてきた。つくばでの入院も、熊本の家にある機材も。
政府に助けてもらうということはそういうことなのだ、と、改めて現実を突きつけられる。
エリカ「気分悪いわねぇ、せっかく私達が喜んでるのに……水をさすんじゃないわよっ」
役人さんが帰った後、エリカさんが、自分の代わりに怒ってくれた。
けれどもたしかに、出産後の人生を、自分は改めて考えなければいけないのかもしれない。
今までは、とてもそんな余裕はなかったけれど。
みほ(私の人生、かぁ……)
みほ(そういえばもう、学校も、ずいぶんお休みしてるよ……)
お腹を撫でる。
ともあれ、頑張ろう。
--------------------
■159日目
人生……うーん。
頑張ろうとは思うけれど、、さすがに少し、お休みをしていたい。
だって、ようやく大きなストレスから解放されたんだから。
お母さんもエリカさんも、しばらくはゆっくりしろと言ってくれた。
----------------
■160日目
ぼけ~
----------------
■161日目
け~ ……あ、赤ちゃん動いた……
----------------
■162日目
はぁー……。
----------------
■163日目
さすがに軽く叱られた。
エリカ「いつまでぼけっとしてるのよ」
しほ「そういえば、元はこういう子だったわね」
ひどいよぅ。
■164日目
エリカさんの部屋で人生相談。
エリカさんはこの先どうするの?
→とりあえずこの先も黒森峰で頑張る。戦車道復興させる。いつまでも泣いてはいられない。養子の件もなくなるだろう。私は逸見エリカ。頑張らなきゃ。
エリカさん、ヘタレる時もあるけれど、頑張る時は人二倍。
みほは昔から、エリカさんのそういうギャップが大好き。
みほ、エリカの元気がうれしくて、冗談半分で次のように言った。それがいけなかった。
みほ「エリカさんが私の赤ちゃんのパパになってくれたら──」
みほ「また皆で、家族になれるかな」
エリカさんは「あんたのパパねぇ……?」と鼻で笑う。
「ひどい」といいつつも、みほ、内心でちょっぴり安心。これは危険な火遊び。
が、その直後、エリカさんと目があった。
その瞬間に感じる。胸の奥の高鳴り。
(あ、……まずい。)
と思ったけれどもすでにあとの祭り。どちらからともなく顔が近づいて、キス。
初めはおかなびっくり、本当にいいの、いやだめでしょ? 本当にするの?とうかがうように。
口づけ合っていたのは20秒だったか、30秒だったか、
とにかく、最終的にはすっごい興奮した。
お互いにバカみたいに鼻息が荒かった。
ようやくそれが終わった後、エリカさんが呟いた。
エリカ「私……明日、学園艦に帰るわ……」
みほ、こくこくと頷く。
みほ「う、うん。それがいいよ、きっと」
このまま一緒にいたらほんとうに危なそうだなーって、お互いに思った。
まだ何の覚悟も決まっていない。
……という風な感じで、エリカさんは翌日、熊本のお家をでて学園艦にかえっていった。
■164日目
昨日のエリカさんとの事、お母さんに言ったほうがいいのかなー。
……やめとこう。
『お母さんにはもう、隠し事をしていたくない──』
熊本行きの飛行機の中で感じていたあの罪悪感。それがすっかり薄れている。
良くも悪くも、気持ちに余裕ができたってことなのかなぁ
■165日目
タイミング良く、アンコウチームのみんなが泊りがけで遊びに来てくれた。
エリカさんの事はひとまず忘れよう!
今日から3日泊、みんなと一緒!
■166日目
わーい!
■167日目
たーのしー!
■168日目
……みんな帰っちゃった……寂しい……。
■169日目
「少し運動が足りないわね」
とお母さんに注意され、一緒にスイミングスクールへ。50メートルプールをゆらゆら歩く。
■170日目
お母さんとマタニティ―・ヨガ教室
■171日目
お母さんとウォーキング教室
■172日目
お母さんとハイキング……お母さんヒマなの?ってきいたら怒られた。
「誰のためだと思っているの」
優しい。
■173日目
会長が来てくれた。
「え、これ……タンケッテですか!?」
写真の中で、cv33に乗った紗希ちゃんと桂利奈ちゃんが笑ってる。
タンカスロンと戦車道の合いのこのような方式で、戦車道の授業を仮再開できたそうな。
各校ともにその体制が整いつつある。
契約書を交わした。
もし妊娠しても誰にも裁判起こさない事。
かつ、妊娠した時は再び国に全面協力する。
杏「私が熊本にきたのもさー、復興に向けてのシンポジウムに参加するためなんだけど──」
そのシンポジウムの質疑応答の中、
反対派の人権団体等からけっこうな反発もあったそうな。
「子供を何だと思ってる」
「戦車道をやりたいという貴方たちエゴで、貴方たち自身の子供の命をもてあそぶのか。なんという非道か」
エリカさんが言い返したそうな。
「この人の子供なら妊娠してもかまわない、そう覚悟して私達は戦車にのる」
「それと男女の恋愛と何が違う」
「下衆な曲解をして、私達の絆を貶めないで」
反対派絶句。話にならんとその場はお開きになった。
みほ(エリカさん、頑張ってるんだ……)
エリカさんみたいな人と、赤ちゃん一緒に育てたいなー、ちらっと頭によぎる。
ちらっと……けれど、「ごりッ」と、みほの気持ちの中に大きな痕を残していった。
お姉ちゃんはエリカさんと一緒にタンケッテにのっている。
「再び妊娠をするリスク」
西住流みずからそれを背負うことで、復興派の最前線に立ってる。
お母さんもそれを許容してる。みんなで、崩れかけた戦車道を支えてる。
ヒマなの?だなんて聞いてごめんなさい、お母さん。
-------------------------------------------------------------------------------------------
■174日目
また今日も、会長が家にきてくれた。
だけど今日は愛里寿ちゃんとルミさんも一緒。
ついでに辻廉太さん(名刺をもらった)も一緒。
みほ(どうして役人さんが一緒に……?)
ひとしきり再開を喜びあった後、
--------------------------------------------
愛里寿「みほさんに頼みがあるの」
みほ「うん、私にできることなら」
愛里寿「私の母さんの説得に協力してほしい」
みほ「説得……?」
--------------------------------------------
聞いてびっくり、島田流家元は戦車道再会反対派の急先鋒。
みほ「全然知らなかった。私のお母さんは、何も……」
しほ「……。」
→お母さんわざとに黙ってた。今はみほに余分な気苦労をさせたくない、というか、知ったところで今は関係ない
みほ(そういえばお母さん、さっきからずっと渋い顔してる)
→本当は身重のみほを関わらせたくない。周りの強い要望に折れてしかたなし。
--------------------------------------------------------------------------------------------------
■175日目~182日目
みんなで協力して愛里寿ちゃんのお母さんを説得……はできなかったけど、少しだけ仲直りできた、かも?
バーッとダーッと、解決できればよかったんだけど、仕方ないね。
賛成派VS反対派
---------------------------------------------------------------
自分達の娘が突然「得体のしれない妊娠」をさせられた。
世界中で親達が苦しんでる。文化的に、大問題になっている国だって。
ただまぁ娘達が流産し、ようやく家族ともども元の生活に戻れるかと思ったら、
「もう一度戦車にのりたい。妊娠してもかまわない」そう口にする生徒は少なくない。
何人もの親たちが心底ゾッとさせられた。
「この子の一生は、もう完全にくるってしまった。もう取返しが付かない」
そんな風にとらえてるお母さんも、大勢いる。
千代「そういうお母さん達もまた、救いをもとめてる」
みほ(……愛里寿ちゃんが流産をした時、愛里寿ちゃんのお母さんは、誰よりも悲しんでた……)
千代「戦車道復興はまだ早すぎます、妊娠のリスクが0になってからでないと、このような悲劇、二度と繰り返させたくありません」
愛里寿・ルミ「……。」
----------------------------------------------------------------
賛成派→その気持ちは分かります。けれど私達はパートナーを心から尊敬する。妊娠を受け入れるほどにまで、その心持ちこそが尊いのでは? それこそ戦車道の育む乙女のたしなみでは。その尊敬の気持ちは、男女間の尊敬と何が違うの? なぜこの妊娠がいけないの?
反対派→たしかに違わない。違わないからこそ、だったら普通に男女間で妊娠をすればいい。どうしてわざわざマイノリティーな道を選ぶ必要があるのか。お母さん悲しい。普遍的な幸せを得てほしい。そう願うことがいけないのか。
連盟→まぁまぁ各々お気持ちはわかりますが……
反対派→黙れハゲ加害者め
連盟→;;
賛成派→……私達は今の状況を自分の意志で選んだわけじゃない。気付いた時にはこうなっていた。けれど私達は今、自分を不幸だと思ってはいない。悲しいことも辛いこともたくさんあったけれど、それを後悔はしていない。私達の進む道を認めてほしい。
反対派→それは認めます。しかし、この悲劇が再現されることは防がねばならない。
賛成派→もちろん同感です。しかしだからこそもう一度戦車にのって検証をする必要もあるのでは。
反対派→だめだ。そんなリスクを娘に冒させるものか。
賛成派→本人達はかまわないっていってる。
反対派→親の気持ちがわからないのか。苦労するのはお前達なんだ。
研究したい派→あ、妊娠しても費用等の心配はいりませんよ~(また誰か妊娠しないかな~)
反対派→そういう問題ちゃうわボケ何考えとんねん死ね
研究したい派→(ちっ)
お上→(とりあえず早く戦車道世界大会したいですねぇ。経済動かしたいですねぇ。)
以後泥沼
そんな殺伐とした壇上にみほ降臨→穏健ひよりみ妊娠派
:たしかにいろいろ大変です。だけど皆で力を合わせればきっとなんとかなっちゃいますよー
:私は今とっても幸せですし赤ちゃんもかわいいですー。
現役の被害者にニコニコされるとなんか人としてつっかかり辛い。あと、みほには極端な主張がないのでそもそもつっかかれない。
なお、揚げ足鳥や謀を企む者があってもそのへんはしほがガッチリガード。
みほ、お母さんと一緒に数日かけていろんな人達と会う。
折衝折衝また折衝。お母さんが普段何をしているのかも、少しだけ理解できた。
母の力になれたらしいことが嬉しい。なんとなく達成感。ちょっぴり大人な気分。自分の存在が人から認めらてる。社会参加の喜び。
しほVS千代、小倉の某ビル某会議室にて、ひとまず休戦。
千代→「私はこれからも反対派の意見を代弁していきます。これは必要な声。私がいなくとも第二第三の私が~。……ただし、娘たちの気持ちも理解できる。戦車道の魂にある程度の健全性があることは認めます」
しほ→「では戦車道に問題が無いか、これからも島田流として戦車道内外から監視をしててください。何かあれば、立場は違えどお互いに協力して対策を探りましょう。」
-------------------------------------------
千代「また戦車に乗るのね。二人で」
愛里寿「はい、お母様。ルミと二人で、乗ります」
:千代、『本当は認めたくないけれど、親としては娘の頑張りを褒めてあげなくちゃ』的な寂しいほほ笑みを残して、さっていく)
愛里寿、ルミ。二人で手をとりあいつつ、去っていく千代の背中を見送った。
みほ、母と一緒にその一部始終を見届ける。
--------------------------------------------
--------------------------------------------
みほ(戦車道のこと、久しぶりにたくさん考えたなぁ)
会議室を出ようとしたら同席してたら辻さんが挨拶だか勧誘だかにきた。
役人「君は、復興派のシンボルになれますよ」
みほ「えと、私そういのは……苦手で……」
役人「成せば成る、ですよ。西住さんは家柄も、これまでの経験も、おかれている境遇も、申し分ない」
みほ「はぁ」
役人「あとは……学歴があれば、なお良い」
みほ「でも私、もう、学校ずいぶんいってないです……」
役人「問題ないでしょう。高校卒業資格を得て、大学入試で点を得る。それさえクリアしていれば、大学教育を受ける資格は得られます。それがこの国のルールです」
みほ「はぁ」
役人「それに、黒森峰大学ならば、お母様にお願いをすればあるいは──」
しほ「──正規の資格を持たない人間を、誰であろうと、黒森峰大学に迎えいれるつもりはありません」
役人「……。」
役人「……こほん、入試の過去問を解きなさい。そして理解できないところ、暗記の不十分な所があれば、それを一つひとつさかのぼって徹底的に勉強なさい。ひたすらその繰り返しです。私はそれで東大に入りました。無論、現役で」
みほ「はぁ……」
みほ(簡単に言わないでほしいなぁ)
役人「なに、浪人生をやっていると思えばいいのです。考え方次第ですよ。では」
みほ「へぁ、ありがとうございます……」
みほ(私、どうしてこの人に励まされてるんだろう……)
みほ、お母さんと一緒に色んな人達に会うにつれ、世の中にはいろんな考え方とそのためにうまれる軋轢があって、そういう多種多様な厄介毎から、自分は母に守られていたのだと実感。
流派のしがらみの中に生まれた姉や自分は、普通のご家庭よりも更にいっそうその傾向が強い。
「同性を好きになったときは、必ず教えて」と母がいっていた理由が少しわかったような気がした。
西住流を、家を、そしてみほ自身を、敵意ある他者から守るため。
守るためには、それを把握しておかなきゃ、対策をきちんと練ることができない。
みほ(……。)
みほ(私、エリカさんとの事……お母さんに黙ってていいのかな……。)
みほ(それに……)
みほ(戦車道をやると、妊娠だけじゃなく、同性愛者になるリスクもあるって、もしそんな風に責められたら)
みほ(みんな、困るだろうな……)
みほ(……。)
みほ(私、エリカさんとどうしたいんだろう)
みほ(私って、同性愛者なのかなぁ……)
---------------------------------------------------------------------------------------
■183日目
エリカさんに電話。
「聞いて聞いてエリカさん、私も戦車道の事で頑張ったんだよ~。」
→へぇ、やるじゃない。元気そうでよかったわ。
「エリカさんも元気?」
→まぁね。
「お姉ちゃんと一緒にタンケッテに乗るの楽しい?」
→ええ。CV33じゃ、物足りないけど。
「そっか。お姉ちゃんの赤ちゃん、妊娠できそう?」
→バカ。
「あははごめんね。久しぶりにエリカさんとお話しできて嬉しくて」
→も~。
「えと、それで……あのね?」
→なによ?
「エリカさんは私のこと、好き?」
→……ふぁ!?
「どうして私とえっちなことしたの?」
→「」
「エリカさんはお姉ちゃんの事どう思ってるの?」「お姉ちゃんとキスとか、してるの?」「私とお姉ちゃんと、どっちが好き?」
→……ギブ
→いきなり何なのよ……
「えっとねー……」→実はカクカクシカジカ。
→……。
→電話でいきなりいわれても、困る。考える時間がほしい。
→近いうちに熊本の家に帰るからその時に話しましょう。
そんな感じ。
「わ。エリカさんが会いに来てくれるんだ。わぁい」
→のんきすぎ……
。
----------------------------------------------------------------------------------------------
■184日目
しほ「みほ、辻さんから郵便が届いてるわよ」
みほ「へ?」
→[黒森峰大学の10年分の赤本,各教科ごとのおすすめの参考書]
説得に協力してくれたお礼だそうです。
しほ「よかったわね。しっかり勉強なさい」
ひええええ。
↓
辻さんに言われた通り、過去問をつらつら眺めてみるけれど……問題が難しすぎてさっぱりわからない。
「うぅ、私、ちゃんと大学いけるのかなぁ……」
↓
縁側に寝転がってひなたぼっこ。(現実逃避)
ぼこっ、と赤ちゃんがお腹の中で動いた。
(……ぼこ、かぁ……)
-----------------------------------------------------------------------------------------------
■185日目
クローゼットにしまっていたボコ人形をとりだす。
……うーん……。
あの時の愛里寿ちゃんの顔がフラッシュバック。うつろな目で、助けを求めるようにボコの歌を呻いてた。
けれど愛里寿ちゃんは、今でもちゃんとボコが好き。
「やーってやーるーやってやーるー……やぁってやるぜー……かぁ……」
深夜、エリカさんの事を考える。
みほ(ああいう環境だったから起こったことなのかな。でも、このお家でも私とエリカさん、キスしたことある……うーん……)
----------------------------------------------------------------------------------------------
■186日目
悩み多き人生。
ぼこ人形に自分のボテ腹をボコボコなぐらせてたら一日が終わった。
しほ「みほ、勉強はどう? はかどっていますか?」
いいえ、お母様。
---------------------------------------------------------------------------------------
■187日目。
縁側でボコ人形でお腹ぼこぼこ~……。
「……何やってんの?」
「あ! エリカさん!」
約束通り、会いにきてくれた。
嬉しい。
----------------------------------------------------------
エリカ「お久しぶりです。……師範」
しほ「『お義理母様』でかまいません。あなたの部屋も、まだちゃんと二階にある」
エリカ「……っ、ありがとうございます。……お義母様……」
しほ「ゆっくりしていきなさい」
エリカ「はいっ」
しほ「………………。」
:しほ、エリカをじっと見つめる。エリカさんはその眼差しの意味が、よくわからなくて、ちょっと戸惑うけれど。
エリカ「?」
しほ「……。」
エリカ「……??」
みほ(……お母さん……)
< しほ「……。」ジー
< エリカ「?、?、?」
みほ(……。)
みほ(エリカさん。お母さんはね、エリカさんの赤ちゃんに会ってくれたんだよ。抱いてあげたかったて……泣いてたんだよ……)
みほ(お母さんにとっても、もうエリカさんは……他人とは違う)
みほ(……。)
みほ(やっぱり──お母さんには隠し事をしていたくなくなっちゃうなぁ……)
二人でエリカさんの部屋へ。
のんびりとお互いの近況報告を……してたはずなんだけど!
久々に会えたのがなんだか嬉しくて、やっぱり自然に段々とそういう雰囲気になって……。
なし崩しにキスしそうなって……みほ、はたと冷静る。
ダメダメダメダメー!
みほ(ちゃんと話し合わなきゃ!)
『エリカさんはお姉ちゃんの事をどう思ってるんですか!』
------------------------------------------------------------------
エリカ「──隊長は私にとって、人生で一番憧れてる人……この人の子供なら産んでもいいって、そう思えた人よ」
みほ「そう言えばエリカさん、お姉ちゃんに『結婚してください』ってお願いしたこと、あったね。つくばで」
エリカ「もう、思い出させないでよね。あの時は……気が変になってたんだから」
みほ「でも、あれはきっとエリカさんの本心なんだって、私は思ったよ」
エリカ「……。」
みほ「子供を産んでもいいって思えるくらいの憧れの人……そんな人の赤ちゃんを身ごもったら、例え相手が同性であれ、ずっと一緒にいたい、ってそう思ってもおかしくないんじゃないかなぁ……」
エリカ「……。ふん。だけどね、無理よ隊長と私が結婚だなんて、ありえないわ」
みほ「そう?」
エリカ「そうよ。だって隊長はこの家の長女。仮に、もしも隊長がそんな風に思ってくれたとしても西住流がそんな事を許すはずがない。それこそ、誰かさんみたいに西住流を捨てでもしない限りね……痛ッ! もう、噛まないでよ!……とにかく、隊長だってそういう事をちゃんと分かってるし、私だって……それぐらい理解してる……」
みほ「……。」
エリカ「だから、隊長の赤ちゃんを産むことは、私に実現できる精一杯の「お近づき」だった。……あーぁ、産みたかったなー隊長の赤ちゃん……」
みほ「……。」
みほ「私ね……」
みほ「もうけっこう前のことになるけど……」
エリカ「?」
みほ「お姉ちゃんがエリカさんと同性婚して、もしそのせいでお姉ちゃんが西住流を継げなくなるのなら──」
みほ「代わりに私が、頑張って西住流を継ごうかなって、そう思った事がある。そうすれば、お姉ちゃんんとエリカさんは──」
エリカ「……。」
エリカ「……ホントあんたって……時々びっくりするような事を考えるわよね……」
みほ「だって、お姉ちゃんにもエリカさんにも、幸せになってほしいもん。今の話じゃ……エリカさんが、可哀想すぎる……。エリカさんは、譲ってばっかり……」
エリカ「……。悪いけど、そんなのは余計なお世話よ」
エリカ「隊長にとって、西住流を継ぐことは人生で一番の目標。そうやって高みを目指す隊長こそ、私のあこがれ」
エリカ「だから、それを邪魔するなんて、私は絶対に嫌。そんな事になるなら……死んだ方がましよ」
みほ「……。」
みほ(……エリカさんって、本当に……一図な人なんだなぁ……)
みほ(だけど、それじゃあやっぱり──)
みほ「エリカさんは、一生お姉ちゃんと結婚はできないね。たとえ、もう一度赤ちゃんができても……」
エリカ「……。」
みほ(ヒドイ事言ってる、私)
エリカ「ふんっ……結婚がなによ」
みほ「ふぇ?」
エリカ「隊長の子供が埋めれば──それで、時々隊長がかわいがってくれれば、人生万々歳よっ。結婚なんて、ただの紙切れじゃない!」
みほ(エリカさんは……誰よりも頑張り屋さん……。……エリカさんのそういう所、私、本当に……)
みほ「……ふふ、結婚してくださいって、お姉ちゃんに泣きついたくせに」
エリカ「だからっ……このぉッ……!!」
みほ「ふやぁっ!?……うー、エリカさんに噛まれた……」
エリカ「アンタが悪いっ」
みほ「うぅ……まぁ、お姉ちゃんについては、とりあえず分かりました。じゃあ……私は?」
エリカ「……は?」
『エリカさんは私の事をどう思ってるんですか!』
------------------------------------------------------------
エリカ「……。」
エリカ「……さぁ。」
みほ「さぁって、ひどい」
エリカ「だって、本当に分からないんだもの」
みほ「ええー……」
エリカ「……。」
エリカ「中学のころは、私にとって一番のライバルで──」
みほ(私は、唯一の友達だと思ってたのに)
エリカ「そのあと、一度は私の世界からいなくなったのに──」
エリカ「なのに……いつの間にか、大嫌いな裏切り者になって戻ってきた。」
みほ「……。」
エリカ「それからしばらくたて、多少は仲直りできたかと思ってたら、わけのわからない事件がおこって、いつの間にかあんたとは姉妹になって……そして気が付いたら……今度はつくばの病院で、あんたと二人きり」
エリカ「……隊長がいなくなったあと、私は……」
エリカ「他の誰にも見せた事のないようなところを、みほに、一杯見せた。」
エリカ「それだけじゃない。……私が流産をした時も、側にいたのはアンタ」
エリカ「アンタって、本当に、何なの……?」
みほ「……。」
エリカ「……。」
エリカ「みほは、さ……見たんでしょ」
みほ「え」
エリカ「見てたはずよ」
エリカ「私が産んでしまった、隊長の──赤ちゃん」
──!
みほ「──……。」
みほ「……うん……」
みほ「見たよ。私は、見た」
みほ「……見えちゃったの……」
みほ「ごめんなさい……」
エリカ「やめて、謝ることじゃないわ」
みほ「……うん……。」
みほ(あの日──)
みほ(エリカさんが流産をしてしまったあの時、私は──)
──■概要 旧・第100日目(エリカ流産の日)──
エリカさんが泣いている。
おむつを抱えて泣いている。
我が子を抱えて泣いている。
たいちょうたいちょう、と涙にあげぎながら。
ナースコールはもう押した。
誰か早く来てと祈り続ける。
自分には、エリカさんの背中を、ただ抱いてあげることしかできない。
騒々しい足音が、ようやく遠くから聞こえき始めた時──
ふいに、エリカさんが一度、上半身をもたげた。
そうして──股間からのびた、まだ細い臍の尾がゆるす限りに、おむつを抱え上げ──その中身を──。
その時、みほは見た。見えてしまった。血液が照る臍の尾に導かれて、おむつの股間の部分──そこに黙して横たわる、姉とエリカさんの小さく胎児の、血にまみれた安らかな寝顔──
みほ(──貴方が、エリカさんとお姉ちゃんの──)
──────。
みほ「顔、はっきりと覚えてる。エリカさんとお姉ちゃんの──赤ちゃんの顔……」
エリカ「ええ、私も、この目に焼き付いてる。あの子の、顔。……どうしても、看取ってあげたかった。」
エリカ「その時に、みほも……一緒に看取ってくれた……」
みほ「……。」
エリカ「……。」
エリカ「……結局──気付けばアンタがずっと一緒にいる。熊本に帰ってきた後も──今も、ね……」
みほ「……エリカさん……」
エリカ「学園艦……少し、寂しいのよ。この家なら、隣の部屋に、あんたがいるのに……」
エリカ「学園艦の寮じゃあ、隣の部屋にいるのは──小梅だもの」
みほ「ぷっ……くく」
エリカ「ちょっと何笑ってんのよ。小梅に失礼でしょ」
みほ「だって、エリカさんが──……んっ……!?」
エリカ「……、み、ほ……」
みほ「……っ」
エリカ「……ん、ちゅ……私には、みほしかいない、こんなこと、出来る相手……」
みほ「あ、ん……」
みほ(だめ……だめ、なのに……)
みほ「……はぁ……はぁ……」
エリカ「ん……ちゅる……ぶぁっ……」
みほ「はぁ……エリカさん……」
エリカ「アンタは──隊長の妹で、ライバルで、裏切り者で、……友達で……それに私の、、変な所を、、その、舐め、、、えと、口に含んだ、唯一の奴で……おまけに、ただ一人、私の赤ちゃんを私と一緒にみてくれた人……なのに、私と隊長を一緒にしようしたり……ホント、何なのよアンタ……」
みほ「……ごめんなさい、私にもわからないです──んっ、あんっ、エリカさっ……っ」
エリカ「そうよね、ちゃんと分かったら、きっとこんな事にはなってないわよね……」
みほ「……ん、ふぅっ……!」
エリカ「みほ、みほ、みほ……」
みほ(……っ)
みほ(お母……さん……っ)
みほ「────駄目っ……!」
エリカ「……!?」
みほ「だめ、です……」
エリカ「……みほ……」
みほ「お母さんは、一生懸命戦車道のっために頑張ってます」
エリカ「……。」
みほ「私も……力になりたいなって、思った。だから……隠し事を、したくないです」
みほ「そのためにも、まず、はっきりさせなきゃ」
みほ「もしも私達がこれからもこういう事を続けるなら……私達は同性愛者だって、ちゃんと、お母さんに、言わないと……約束を、守らないと……」
みほ(そうだよ。ちゃんとお母さんにお話しさえしてしまえば、別に問題はないんだもん。そのために、私は、今、エリカさんと──)
エリカ「……。」
みほ「エリカさん……。」
エリカ「……違う。」
みほ「……?」
エリカ「なんどもいってるけど、私は──同性愛者なんかじゃない」
みほ「どうして、そういえるんですか?」
エリカ「隊長が男と結婚するなら──私だって、いい旦那みつけて、元気な子供産みたいって、そんな風におもうこと、ある」
みほ(え……?)
みほ「じゃあ、どうして私と、こんな事するんですか?」
みほ「私は……いったい何なんですか……?」
みほ(何これ私──すごく気持ちがザワザワしてる──)
みほ「ちゃんと、説明をしてください」
エリカ「……。」
エリカ「みほは──私の、全部だった」
みほ「? 全部……?」
エリカ「隊長がいなくなった後、私が流産をしてしまうまでの間……みほだけが、私を……」
みほ「……。」
エリカ「私の身体と心が、それをまだ覚えてる」
」
みほ(……エリカさんは、それほどにまで追い込まれて、ううん、それは私も、同じ……)
千代:──辛い思いをするのは貴方たちなのよ──
みほ(……。)
みほ「エリカさん。もう……ここはつくばではありません……お母さんも、お姉ちゃんも、お父さんも、私もいる……熊本のお家。だから……大丈夫だよ」
みほ「もう、辛いをする心配は、ないんだよ……」
エリカ「……。ええ、分かってる。時間がたてば、きっと……忘れられる……」
みほ「……。」
エリカ「みほ、あんたは立派よ」
みほ「……?」
エリカ「アンタは昔からやればできる奴。私はそれを良く知ってる。だからきっと、お義母さまの力にもなれる。頑張りなさい。あんたは私の、自慢のライバルなんだから」
みほ「……。」
エリカ「もう、寝るわ」
みほ「え……。」
エリカ「疲れたし、あんたも、部屋に戻って」
みほ「……。」
みほ「うん……じゃあ……。」
みほ「……おやすみなさい」
エリカ「ええ、おやすみ」
キィィィィ。バタン。
----------------------------------------------------------------------------------------------
みほ、自室のベッドに横たわる。
耳を澄ませる。隣に部屋からは何の物音も聞こえてこない。
今起こったことの意味を考える。
この先、自分とエリカさんはもう二度と、抱き合ったりはしないのだろう。キスをすることも、ないのだろう。
あの部屋のドアを閉めた時、自分とエリカさんの秘め事は、あっけなく終わったのだ。もう……。
みほ「……。」
ひどい失敗をしてしまったような、そんな気分がしている。
胸をかきむしりたくなるほどの後悔。
だけど、何を後悔?
それがよく分からない。
みほ(……)
私は、お母さんに隠し事をしてるのが嫌なだけ。
エリカさんと同性愛者でいることは、別に構わなかった。
みほ(でも、エリカさんは同性愛者じゃないって──)
みほ(あ、じゃあ、私は……ふられちゃったのかな……?)
みほ(え? 待って、じゃあ、私は同性愛者なの? それなら、それで、お母さんに言わないと。)
みほ(あれ? あれ? なんだか、すごく頭が混乱する)
みほ(……。)
みほ(私はただ、エリカさんと一緒に、赤ちゃんを抱いてみたかった。エリカさんみたいな人と、一緒に子育てをしてみたかった)
みほ(なのに……なんで、こうなっちゃったんだろう?)
みほ(熊本へ帰ってきて、エリカさんと一緒のお家に住めて、私、ずっと幸せだったはずなのに……あれ……?)
ベッドが、なんだか宙に浮いているみたい。ベッドの下にはにぽっかり大きな穴が口を広げていて……直径500メートルくらい?淵はよく見えないし、底もみえない、常闇の黒い穴……。
そこへ落ちていくように、気を失うように、いつしか、浅い眠りに落ちていた。
---------------------------------------------------------------------------
■188日目
夜中。ふと目が覚める。時計を見る。午前2時30分。
となりの部屋から、すすり泣く声が聞こえる。
エリカさんが泣いてる。
腹を抱えてと起き上がり、自室をでる。
隣の部屋に入ると、エリカさんは、ベッドにうずくまって、泣いていた。セミの幼虫が丸くなって、ひっ、ひっ、と、引き付けを起こすみたいに。
「エリカさん……?」
つくばで──お姉ちゃんが流産をしてしまた直後も、エリカさんはこんな風に泣いていた。
あの時自分は──この人は本当は強い人、だから、弱っているときは、私が守ってあげなきゃ──ふとそんな衝動に、心から駆られて──。
「エリカさん。」
同じようにして、震える背中を抱きしめてあげ──られなかった。お腹が、あの頃よりも随分と大きくなってしまっている。
「……。」
だから代わりに、同じように寝そべって、うずくまっているエリカさんの顔に、己の顔を近づける。あたかも、丸まったダンゴムシの甲羅に無理やり爪の先をねじ込ませるみたいに。
「エリカさん」
ひ、ひ、ひ、の引きつけにときおり鼻水が混じる。
エリカさんが顔をもたげた──
「……!」
涙でぐしょぐしょ、鼻水でぐしょぐしょ、充血した目と顔面は、見る影もなく無様……。
瞬間、堪えられなくなる。
「──エリカさん!」
体中の細胞が破裂した。卵母細胞を除く全ての細胞が分解した。つくばで感じたあの快感を、体中のあらゆるDNAが覚えてる。この人がほしい、この人の染色体がほしい、この人と染色体を組み替えたい。全身が総毛だって、それとともに染色体の一本一本がほどけだし、そして何億何兆のミミズとなって、全身を這いまわる。細胞核を飛び出して、エリカさんの染色体をひたすらに求めて。どこ、どこ、どこ?
みほは襲い掛かる様に──エリカさんの顔を抱きしめた。互いの鼻が接触し──その接触面に気付いた全ての染色虫が、エリカさんの表皮へ向けて殺到する。
「みほ、ごめん、みほ……」
皆あったぞ、この口の奥に、エリカさんの巨大な染色体が覗いているぞ。食らいつきたい。キスがしたくなる。した。
そのまま、唇の表皮細胞を削りあいながら、舌でこすり取りあいながら、聞く。
「どうしたのエリカさん」
舐めとった鼻水唾液涙、すべて、味を確かめた。ねがわくば、その体液に含まれるエリカさんの染色体がアミノ酸に分解されぬままありのまま吸収されて私の中に届きますように。
「ごめん、無理だった……」
「うん」
「みほが頑張ってるんだから、私も負けるもんかって。でも、ダメだった。私やっぱり、……まだ、一人じゃ……無理みたい……」
「そっか……」
その降伏によって、みほは理解させられた。エリカさんのつくばの夜は、まだ続いている。
だから、死に抗うために行ったあの必死の生の快楽を、自分達はまだまだ分かち合える。今、まさにこの瞬間からもう一度。
みほは今、それが嬉しくてたまらなかった。
そうだった、思い出したよエリカさん、あの時つくばの病室で──苛酷な環境に適応して強くなるために、生き抜くために、その必要な進化はひっそりと行われたんだ。それこそが私とエリカさんの、一番の秘め事。
冷え切ったつくばのあの部屋の中、私達はベッドの中で必死にお互いの身体の熱を交換しあった──その共有された熱エネルギーのイタズラのせいで、私とエリカさんの心の染色体はもう二度と元の二人には復元できないほど徹底的に──組み替えを起こしてたんんだ──
──だから、ごめんなさいお母さん。お母さんから受け継いだ染色体──もう、バラバラになっちゃった──
---------------------------------------------------------------------------------------------------
続き
【ガルパン】マタニティ・ウォー!【6】