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【ガルパン】マタニティ・ウォー!【1】
【ガルパン】マタニティ・ウォー!【2】
【ガルパン】マタニティ・ウォー!【3】
667 : KASA - 2017/02/07 10:11:51.09 pp8wn5tzO 294/537突然にすみません。
お詫びです。
生活環境を大きく変化させる時がきました。
二次創作を楽しむ時間は、もう失われます。
2月9日の夜8時に最後のテキスト郡を投稿し、それにて、このSSを終了とさせて頂きたい。
コメ稼ぎまでしておきながら、申し訳ありません。
672 : KASA - 2017/02/09 00:46:38.17 HjuIfJjiO 295/537まとめ書きなはずなのに、結構な分量になってしましました。
というか今の時点で、まだ書き終えていません。
>、このSSを終了とさせて頂きたい。
とかカッコつけて言い放っといてあれですが、、
結局、二、三回は投稿することになりそうです。
最後の最後まで情けねー
ちょいちょい挿入される日数は、
「この粗筋の最初の場面(検査入院初日)から何日経過したか」
を示しています。
■1日目
検査入院初日。
午前6時半:学園艦、大洗へ着港
午前8時:学園艦タラップにて、入院組と残留組でお別れ挨拶。
バス、つくばへ向けて出発。
51号線を南下。
遠ざかっていくマリンタワーと学園艦の姿に寂しさを覚える。
緊張からか、みな口数は少ない。車内は静か。
目的地は、『つくば霊長類医科学研究センター』
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沙織「びょ、病院とかじゃなかったの……?」
桂利奈「紗希ぃ、私たち研究されちゃうのかな……」
紗希「……。」
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つくば駅、研究学園駅付近はそこそこ都会。
みな、はしゃぐ。
が、すぐに景色は田んぼや畑ばかりに。
みな、再び口数が減る。
午前11時頃、一行をのせたバスがセンターに到着。
雑木林に囲まれた、一見すると辺鄙な場所。
ドナドナ気分。みんなの顔が曇る。杏だけはいつもどおり。
正門守衛所をぬけ、バスは施設内に。
バス、正面広場に停止。
すると、正面広場に、みほ達を出迎える集団が待っていた。
→聖グロと知破単の面々。
バスに向かって手を振る者も。
車内の空気が明るくなる。
バスを降りて、皆でご対面。
[ママ:パパ]の組み合わせ
オレンジペコ:ダージリン
ローズヒップ:アッサム
福田:西
他、各校10名ほど
ローズヒップ、もじもじ系女子と化している。
→尊敬するアッサムの子を身ごもった。これで母子ともども真なる淑女になれる、という独特の理論。
もじもじしているのは、「アッサム様の子を身ごもった」事に喜びと照れを感じているから。
ローズヒップの感じ方にみほは驚く。
が、さおりん曰く、「ちょっとだけ分かるかも」。
みほ「ふぇぇ……」
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ローズヒップ「わたくし、とっても幸せですございますの」
アッサム「それはいいけど、ローズヒップ、お願いだから、元気でお転婆なもとの貴方に戻って頂戴」
ローズヒップ「いいえ! この子の為にも、素敵な母親にならなくちゃでございますわぁ」
アッサム「うぅ……」
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ダージリンはそんな二人の様子を可笑しむ。
しかし一方で、ダージリンは彼女達の妊娠にある種の「申し訳なさ」を抱いてもいる。
知葉単の西さんもまた、福田達の妊娠に対して似たような負い目を感じている。
→性格は違うけれど、感性の根っこおいて、二人は似た者同士。
ダージリンと西、お互いの抱える複雑な心情を分かちあい、意気投合している。
その二人の様子に、オレンジペコと福田がちょっぴりヤキモチ。
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福田「ぐぬぬぬ……」
オレンジペコ「……。」
福田「……ぺ、ペコ殿っ!」
オレンジペコ「はい?」
福田「ペコ殿は、もっとしっかり、ダージリン殿と一緒にいてあげるべきだと思うであります!
オレンジペコ「福田さんこそ、西さんに浮気をさせないでくださいね」
福田「なっ!」
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みほも、ダージリンと西の関係がちょっぴりウラヤマシイ。
→自分とダージリンは「隊長としての責任感」を共有できた。けれども西さんは、もう一歩深いレベルで、ダージリンと気持ちを共有できてる。少し嫉妬してしまう。
みほ、自分の子宮に手をあてて、自分を叱る。そんなことじゃだめなんだ。
ともあれ、みんなでワイワイ、みほ、ちょっぴり幸せ。
ほどなくしてセンター長(モブ)が現れる。
センター長に案内されて、大洗の面々はひとまずは居住棟へ。
居住棟は、病棟というよりもむしろ合宿所。国民宿舎みたいな。外装はあまりきれいではないけれど、中はそこそこ清潔。
→戦車道連盟理事長や西住流家元の提案で、合宿の雰囲気を装った。「入院」ではなく「戦車道の合宿訓練」をイメージ。
センター長「当センターはこれ以後も、関東における検査拠点となります。また、国内の全妊娠者を対象とした統合一斉検査入院も、いずれ、当センターで実施される予定です」
みほ、姉やエリカの事を思う。
その後、アンツィオ高校も到着。
ゆっくり話をするまもなく、合同オリエンテーションが始まる。
みほが島田愛里寿とルミについて尋ねると、二人は後日到着との回答。
大ホールにて、合同オリエンテーション(昼食をはさみつつ)
検査入院の目的説明。
・多種多様な生体データの取得→コンピューター上で各個人の生体反応をシミュレート可能なレベルを目指す。
・各個人の心のケア、及び、心の強化
・今回の件について、あらゆる意味での共通認識の構築、質の高い情報共有(各個人の心の強化を主目的として)
事件の原因についての調査経過報告も行われる予定であったけれど、ミーティングはすでに長時間にわたっている。
疲れた顔をしている者もちらほら。
センター長の判断で、調査経過報告は後日に回される。
杏は、センター長の対応を評価。
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杏「検査スケジュールは相当綿密に組み立てられてるはずだよ。調整し直すのは相当大変だろうに。それでも、あたしらの体調を第一に考えて、柔軟に対応してくれるんだ。ありがたいねぇ」
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ダージリン、西、アンチョビ、大きく同意。
夕刻、自由時間。みほ、一人で敷地内を散策。
家族の事、仲間の事などなど、自分の中で今だ処理しきれていない事柄たちを、徒然と思う。
敷地の中心部には広い中庭があって、大きめの池が設けられてる。池を囲む外周路には沢山のイチョウの木が黄色い葉を広げてる。ベンチやテーブルもまた、そこかしこに設置さる。
背の高い建物の並ぶこの敷地内において、この場所はだけは空がよく開けてる。そらきれい。
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みほ「わぁ、すごく綺麗な所~」
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池の周りをぶらついていると、アンチョビとペパロニを発見。並んでベンチに腰掛けてる。
みほ、二人に声かける。
妊娠しているのはアンチョビで、パパはペパロニ。
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ペパロニ「お金の心配をしなくていいなんて、最高じゃないっすか!」
ペパロニ「姉さんの子供ならアタシは大歓迎っす! 親子で戦車道、やるっすよ!」
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アンチョビ→能天気なペパロニに飽きれつつも、こんな状況でも変わらず前向きなところがなんだか頼りに思えてくる。二人の立場はいくらか逆転しつつあるみたい。ペパロニがアンチョビの前を歩き、アンチョビの手を引っ張っていく。みほ、幼いころの自分と姉を思い出す。
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みほ(ペパロニさんって、アンチョビさんの事が好きなのかな……)
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母親から聞いた「同性愛志向」の話がちらりと頭をよぎる。
仲睦まじいアンチョビとペパロニに微笑みつつも、内心では少し複雑。
手をつなぐ二人の姿に、姉とエリカの姿が重なるった。
夜、晩御飯。
大食堂で全員一斉に。
すっごい賑やか。
みほ楽しい。
■2日目
早朝、目が覚めるみほ。
各校ごと、皆で一緒に一つの大部屋で寝ている。
大洗の面々はみんなまだ眠ってる。
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みほ(目が覚めて一人じゃないのって、なんだか幸せ)
みほ(愛里寿ちゃん寂しがってないかな。ルミさんにちゃんとお話しできたかな)
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今日の昼すぎに愛里寿とルミががこのセンターに到着する
午前中、各種検査の連続。
指示されるままに検査を受けるだけとはいえ、やっぱり皆疲れてくるし、お昼が近づけばお腹もすいてくる。
午前中最後の検査を受けている華さん。超音波検査。検査室の静まり返ったその中で、丁度胃の辺りに機械を当てられているまさにそのタイミングで、華さんのお腹がなる。
モニターの中で胃が激しく収縮。
同席していたさおりん、映像と音のコンボがツボにはまり爆笑。
一緒にいたみほ、ツチヤ、ホシノ、くわえてお医者様も笑いを堪える。
初めはただただ顔を真っ赤にしていた華さん。けれども、さおりんがあんまりにも笑いころげるもんだから、だんだんと不機嫌に。沙織、華の腕に抱き着きつつ半笑いで謝り続ける。その状態でお昼ご飯。
みほ、なんだか幸せ。
多少タイミングはばらけているけれど、お昼の食堂もやっぱり賑やか。そこかしこに見知った顔が。
なんとなく心強いみほ。
一斉検査、好きかも……。
午後一、愛里寿からメール
『あと少し』
みほ、正門で二人の到着を待つ。
(他のメンバーは午後も検査続行。島田愛里寿がどんな心持にあるかもわからないし、まずは、一番仲良しなみほに、任せよう。そのあとで、みんなで静かにそっと出迎えよう、という気づかいも有り)
ほどなくして、一台のタクシーが到着。
後部座席にはルミと愛里寿の姿。
みほ、緊張。
タクシーのドアが開く。
ルミに手をつながれて、愛里寿が下りてくる。
見たところ、愛里寿の外見に特に変化は無い。
それでもやっぱり、みほにとっては何かしら感極まるものがある。
駆け寄って、愛里寿を抱きしめる。
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みほ(愛里寿ちゃんの身体、こんなに小さい、こんなに柔らかい)
みほ(それなのに……それなのに……っ!)
愛里寿「ぷはっ、みほさん、苦しいよ」
みほ「あぅ、ごめんね愛里寿ちゃん、大丈夫? 身体、大丈夫?」
愛里寿「うん」
愛里寿「えっと、あのね、みほさん」
みほ「何?」
愛里寿「ルミに、お話し、したよ」
みほ「……!」
ルミ「あ~……久しぶりね、西住流」
みほ「はい、あの、選抜戦以来でしょうか」
ルミ「まぁ、そうなるわね、ん~、負け戦以来っていうのは、なんだかちょっとシャクねぇ」
みほ「す、すみません」
ルミ「……あはは、たしかに『隊長』っぽくない。愛里寿隊長の言ってた通りね」
みほ「あの、よく言われます……うぅ」
みほ(……この人が、ルミさん……)
みほ(愛里寿ちゃんの言ってた通り、賢そうな人。それに、きりっとしてて、眼鏡の似合う綺麗な人)
みほ(……。)
みほ(河嶋先輩の上位換装、なんちゃって……)
ルミ「貴方が、愛里寿隊長にアドバイスをしてくれたのね」
みほ「え?」
ルミ「ありがとう、感謝してるのよ」
みほ「え……わっ」
ルミ「ほんと、恩人だわー」
みほ(あ、握手)
愛里寿「えへへ……あのね、みほさん、私、ルミにいっぱい怒られたんだ」
みほ「え?」
ルミ「いや別に、怒ったわけじゃないですよ」
愛里寿「ううん、怒ってた。ルミは静かに起こるタイプなんだ」
みほ「えっと、そうなんですか」
ルミ「いや、べつに……」
愛里寿「あのね、私が打ち明けた後ね、ルミは、私のことをぎゅーっ抱きしめてくれて──」
ルミ「っ……ちょ、ちょっと、隊長」
愛里寿「苦しいから離してって私がお願いしてるのに、すごい力で全然離してくれないんだ」
ルミ「あのぅ、あんまり人には話さないでほしいかな~って……」
愛里寿「ダメ。みほさんには、言う」
ルミ「うう、まぁ、この子だけになら……」
愛里寿「それでね、ルミはね、私の耳元で、すっごく低~い声で、『どうして一人で頑張ろうとするんですか』って」
みほ(……愛里寿ちゃん、なんだかうれしそう……)
愛里寿「ルミ、すっごく怒ってた」
愛里寿「だけど私、自分がいけない事を考えてるって思ってたから……ルミがそういってくれたことが、すごく嬉しかった……」
ルミ「……。」
ルミ「お義母様にも──」
ルミ「早く、伝えるべきです」
みほ(……!)
愛里寿「……むぅ。」
ルミ「私も一緒に行きますから、ね? ちゃんと伝えましょ?」
愛里寿「……。」
ルミ「隊長。聞いてますか? 隊長?」
愛里寿「き、聞いている!わかった、わかってる……だから、もうちょっと待って、ちゃんとお母様にもお話しするから……」
ルミ「必ずですよ~?」
愛里寿「ルミが聞いてくれたから、私はもう平気なのに……」
ルミ「そーいう問題じゃないですよね~?」
愛里寿「ううう……」
みほ(ルミさんって)
みほ(素敵な人なんだ……)
みほ(ルミさんが、赤ちゃんのパパで……よかったね、愛里寿ちゃん)
みほ(……。)
みほ(でも、ルミさん自身は、平気なのかな)
みほ(大学生だから、大丈夫なのかなぁ……)
みほ(もう少し仲良くなったら、お話ししてみたいな)
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みほ、検査に戻る。
ルミと愛里寿、一緒にオリエンテーションを受けにいく。
夜、晩御飯。
大食堂で、愛里寿達も一緒に食べる。
選抜戦の話だのなんだので盛り上がり、愛里寿もみんなの輪に溶け込む。
西さんとダー様、みほと同じような感じ方で、愛里寿の妊娠に胸をうたれる。
二人で仲良く愛里寿を励ます。
そんなダー西の連帯感に、ペコと福田はやっぱりちょっぴり嫉妬。
しかしながら「自分のことだけを一番に心配してほしい!」という欲求は浅ましいと自覚をしてもいるので、
二人とも口には出せず。
結局、そういう内心を理解しあえるのはペコと福田もまたお互いだけであった。
ゆえに、不満をぶつける相手もまたお互いしかいないのだった。
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福田「もぉー、ペコ殿ー! だからダージリン殿をでありますねぇー!」
ペコ「福田さんこそですー!」
みほ(二人とも、あんまり仲が良くないのかなぁ……)オロオロ
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■3日目
朝から皆で検査漬け。つかれる。
午後、初日にカットされた今回の事件についての調査報告会が行われる。
検査から解放されてほっとする一同。
大ホールにて報告説明会。
→解明したことはまだナニもない。けれども、非常に気になる点も。
曰く、「ある日を境に、戦車の質量が数kg減少していた可能性がある」
「戦車」とは特殊カーボンを施された、アメリカの「戦車」。
当時、たまたまメンテナンスに入っていた車両数台から、この疑惑が浮かび上がった。
「当時」とは、搭乗者が妊娠したであろう時期。
日本国内の戦車においてもこれから精密な検査が行われるとのこと。精密なチェックは相当に困難だろうけれど……。
とうような話があったけれど、ほとんどの参加者の頭には「?」マーク。みほも。
それでも、若干名は、食いつく。
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ローズヒップ「車体が軽くなったのはわかりましたけれど、それが何か重要ですの???」
桃「さっぱりわからん」
みほ(私も……)
ペパロニ「軽量化できたんだからOKじゃないっすか?」
麻子「いや、もっと詳しく話を聞きたい」
アッサム「データを直接確認したいのですが」
愛里寿「減った質量はいったい何に変わったの?」
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しかしながら今のところはこれ以上の情報は確認できず、話題は次へ。
・妊娠者についての統計情報、動態報告
→流産「4名」
これに会場がざわつく。
統計データ上の割合としては、妊娠初期に起こり得る自然流産率からそれほど逸脱はしていない。
場所や時間に不自然な偏りも見られない。
と説明を受けるも、多くのメンバーは動揺。
流産は自然にも起こり得る、ということを、あんまりちゃんと理解していない者が多かった。
各々、自分の中に落とし込むためには少しばかり時間が必要なようだった。
その後、産中産後の社会保障体制について補足的なレクチャーが行われるけれども、大多数の者は上の空だった。
流産のほうに頭がいっちゃった。
もしも自分が流産した場合、悲しむべきなのか?喜ぶべきなのか? どう理解したらいいんだろう。
晩御飯。
自分達の母は「(自然)流産」を経験したことはあるのだろうか?
そんな話で盛り上がった。
有ったみたいだよ、とうっかり口を滑らせた子のもとに全員集合。みんなで話を聞いた。
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みほ(私のお母さんは、どうなんだろう……)
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しぽりんに電話をしてみたくなるけれど、気恥ずかしさが勝って思いとどまった。
■4日目
今日も今日とて朝から晩まで検査。
しんどいけれど、皆と一緒なので心強い。
励ましあえる。
///////////////////////////////////////晩御飯の大食堂。
麻子は食堂の隅で何やら分厚い本を読んでいる。
みほが声をかけようとするが、そど子に先を越された。
麻子の読書の邪魔をするそど子。
:ご飯の時間なんだから、本ばかり読んでないでご飯を食べましょう。
:一人で食べるのはつまらないから一緒に食べてよ。
:私のこと気遣ってくれるって、言ったのにー
と麻子にちょっかい出すそど子。
麻子、うっとおしそうにしつつも、なんだかんだで嫌ではなさそう。
みほ、そんな二人に興奮する。
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みほ(わぁ~、そど子さん、甘えてる! かわいい!)
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同性愛の話が頭にちらつくけれども、それ以上に、そど子のギャップが可愛いみほ。
(これがツンデレなのかなぁ?)
食堂に華と沙織が入ってくる。
麻子とそど子の事を二人に話そうとするみほだが、そこで違和感に気付く。
華と沙織が、どことなくよそよそしい。
ケンカしたのかと思うけれど、ケンカとは何かが違う。お互いの様子をうかがいあっているというか。言葉一つ一つの間に、妙な距離感。
どうしたの、とみほが心配するが、二人は濁す。なんでもないの、と。
そうは言われても、みほの感じている違和感はやはり本物。
みほはその原因をさぐるが、結局二人には最後まではぐらかされた。
二人が話てくれないことが、ちょっぴり……いや自分で思っているよりも、ショックだった。
夜、孤独を感じつつ、己の子宮を撫でる。
■5日目
朝食時・食堂
みほは、華と沙織の様子を伺う。
ところが二人は、昨日の様子が嘘みたいにいつも通り。
けれどもみほには分かる。
「二人は自然を装ってる」(私でなけりゃみのがしちゃうね)
しかし、聞いても答えてくれないだろうという確かな予感。
二人と自分の間に距離を感じてまたちょっぴり寂しくなる。
寂しさから愛里寿にちょっかいをかけつつ、ボコ談義。
////////////////////////////夕方・中庭
検査は一通り終わった。明日の午前中、それぞれの学校へ帰る。
みほは一人で物思い。
すると池の対岸をスーツ姿の男の人があるいてた。
研究所の所員さんかなーと思っていたら、
実は役人。
みほ、ぎょっとする。どうしてここに役人さん!?
みほの視線がよほどするどかったのか、役人もみほにきづく。役人も硬直。
しばし風の音が吹いたあと、池をはさんで、お互いにぎこちない会釈。
役人、再び歩き出す。
そのまま帰るのかと思いきや、池を回り込んでみほのところへ近づいてくる。
みほ、心臓バクバク。あと、胃がむかむかする。
役人、丁寧にみほに挨拶。
「検査は大変だったでしょう」
「体調はどうです」
「何か不自由はありませんか?」
みほ、ぎこちなく受け答えをした後、問いかける。
「どうしてここにいるんですか?
役人、
「仕事で──」
と、言葉をきり、しばし口を閉じる役人。
それから、ゆっくりとした口調で、みほに問いかけた。
「戦車道が、嫌になりましたか」
質問の意味がわからないみほ。
「戦車道のせいで、こんな目にあっている。もう、戦車道が嫌になりましたか」
みほ戸惑いつつも返答。
そんな事はありません。
「どうして嫌にならないんですか?」
しばしのやりとりの後、みほ、改めて問う。
「どうしてそんな事を聞くんですか」
役人曰く。
-戦車道そのものの処遇について、一定以上のレベルで協議がすすんでいる。
-伝統ある行事ではあるが、こんな事になってしまった以上、存続させることは不可能ではないか。
みほ、母や姉の事を思いつつ、また自分自身の想いもありつつ、ぎくりとする。
自分としては戦車道を続けたい。あれは自分にとって大切なもの。と訴える。
「戦車道受講者はほとんど皆がそう訴える。部外者にとっては不思議な事なのですが──」
みほの口調が鋭くなる。
「私達の学校だけじゃ足りなくて、今度は戦車道そのものを廃止にするんですか」
役人苦笑い。
-そんな風に考えないでほしい。
-最大公約数の幸福を考えている。
-廃止ありきではない。どうあるべきなのかを検討している。当事者たる君個人の意見にも興味があった。
-そもそもここにきたのも、君たちの状態を視察するため
みほ、まだ煮え切らない。
役人、それを感じとって、再び苦笑しつつ、言い方を変える。
-戦車道の世界大会誘致は、私のキャリアにとっても重要なステップ。戦車道の存続は、私個人の利益にも適っている──こんな風に言った方が、あなたに納得してもらいやすいですか?
みほ、自分が嫌な人間になっているように感じられて複雑な気持ちになる。
これ以上気分を悪くするのは申し訳ないので、と言って、役人、さる。
「お母様にも、よろしくとお伝えください」
「えと……はい……」
夕焼け空を一人見上げるみほ。
漠然とした不安とともに将来を考える。
子供、戦車道、これからの人生、etc...
////////////////////最後の夕食
通常のメニューに加えてアンツィオ組がパスタをふるまう。
グロリアーナ組は食後の紅茶をふるまう。
西隊長と杏は、次回入院の折はすき焼きとアンコウ鍋をふるまうと確約。
命名、明日の別れを惜しみつつ、食らう。
ペコと福田も一緒のテーブルで。
みほはご飯を食べつつ、華と沙織の様子をうかがう。
やっぱりどこか、何かが変。なんとなく、お互いに気をつかいあってる感。
沙織、みほの探るような視線に気づく。
数瞬、二人は見つめあう。
けれども結局沙織は何も言ってくれなかった。
みほ落胆。
////////////////////深夜・大部屋
みほ、沙織に起こされる。
沙織曰く、「二人だけで話をしたい」
戸惑いと喜びと不安を一緒くたに感じつつ、二人で中庭の池へ移動する。
並んでベンチに腰掛ける。雲の少ない月明りのまぶしい夜。それほど寒くはない。
--------------------
沙織「みぽりん、ごめんね。昨日か」
沙織「私、みほにひどいことしてるって……どうしても辛くて」
みほ「……。」
みほ「すごく寂しかった」
みほ「どうして、何もいてくれないんだろうって」
沙織「ごめんね」
みほ「でも、今は、とっても嬉しい」
沙織「え?」
みほ「沙織さんが、私の事を、こうやってこっそり連れ出してくれたから」
沙織「~~~っ」
沙織「みほ! ほんとにごめんねぇ……!」
みほ「ううん、もう、大丈夫」
みほ「だから……『やっぱりこれは二人問題』っていうことなら、私はもう、何も聞かなくても大丈夫……」
沙織「……。私、みほにちゃんとお話ししようって、そう思ってここまできたの」
みほ「うん」
沙織「だけど、ごめんなさい……今、迷ってる……」
みほ「そっか……」
沙織「『今はまだ、二人だけの秘密にしておこう』って、華と話をしたの」
みほ「……。」
沙織「だから私、今、勝手な事をしてる。華を裏切ってる」
沙織「……だけどだけどっ!」
沙織「華だってみぽりんが心配してるってことは分かってる。だから、きっと同じように悩んでるっ」
沙織「……でも、私も、華も、今、戸惑ってるの……」
みほ「……。」
沙織「だから、この事を誰かに話すのが、まだ、怖い」
沙織「皆なら大丈夫だ!って、思ってはいるよ。だけど、どうしても、不安で……」
みほ(……。)
みほ(みんな、同じなんだ)
みほ(愛里寿ちゃんも、エリカさんも、沙織さんも、華さんも……私も……みんなそれぞれ、いろんな不安があるんだ……)
みほ(ルミさんみたいに、話さなきゃだめって勇気付けてあげる事も大切)
みほ(お姉ちゃんみたいに、いつでも聞くよって、安心させてあげる事も大切)
みほ(なら、今は──)
みほ(……。)
みほ「……沙織さん、もう、大丈夫」
沙織「え?」
みほ「ありがとうっ、もう心配ないもん!」
みほ「これで……十分だよ!」
沙織「みほ……」
みほ「二人が話してくれるのを、待つよ」
みほ「だから……これからもずっと、私のお友達でいてください……」
沙織「~~~っ、当たり前だよぉ~~~!」
みほ(……今は、これでいい……)
……ガサッ!
みほ・沙織「っ!?」ビクッ
華「……。」
みほ「華さん!?」
沙織「華! も、もう脅かさないでよっ!」
沙織「……。」
沙織「聞いてたの?」
華「……お二人が部屋を出ていく音で目が覚めて……」
華「初めは、気が付かないふりをするつもりでした」
華「ですが」
華「やっぱり、どうしても気になってしまいました」
沙織「……。」
沙織「怒ってる?」
華「いいえ。怒ってなんか、いませんよ」
沙織「でも私、勝手な事をしたよ?」
華「そうですが、沙織さんがみほさんにお話しをしてくださるのなら、それでもいいかなと──」
華「そう思っていましたから」
華「沙織さんの言ってた通りです。私だって、隠し事をしてるのは辛いです」
沙織「……なんだぁ、そっか……じゃあ、こっそり抜け出すこと、なかったんだ……」
沙織「……なぁんだぁ……。」
沙織「……。」
沙織「じゃあさ、華」
沙織「もう、言っちゃおっか」
華「……そうですね」
沙織「──というわけだから、みぽりんっ」
みほ「ふぇ!?」
沙織「お話し、するね。……聞いてくれる?」
みほ「! も、もちろんだよ……!」
華「私も、お隣に座ってもよろしいですか?」
みほ「ど、どうぞどうぞ!」
華「失礼いたします」
ぎし……
みほ(わ、わ、二人に挟まれてる)
みほ(なんでだろう)
みほ(なんだかドキドキする)
みほ(お月様のせいなのかなぁ……!)
沙織「ふぅー」
華「はぁ」
みほ「……」
沙織「えっと、どうしよっか。私が話す?」
華「……いえ、今回は──やはり私に、話をさせてください」
沙織「……うん、わかった」
華「ええ」
みほ(……)ドキドキ
みほ(……なんだろう……)
華「──みほさん」
みほ「! う、うん」ドキドキ
華「聞いてください、私」
華「沙織さんと──」
華「キスをしたんです」
みほ(え)
華「……一度だけじゃありません」
華「昨日も」
華「今日も」
華「何回も」
華「偶然とかじゃ、ありません」
華「キスをするために──」
華「キスをしたんです」
みほ(……──!)
みほ(……──!)
── しほ「染色体共有者と被共有者の間で──」
── しほ「ある特別な感情の発生が、あくまで稀に、ではあるけれど、認められる、と。」
── しほ「そうした例が、これまでに十数件、国内外で報告されていて」
── しほ「ハァ……頭が痛いわね……」
みほ(……現実なんだ……)
みほ(……お母さん……)
沙織「みほ」
みほ「え……」
沙織「気持ち……やっぱり、悪いかな?」
みほ「……!」
みほ「そ──」
みほ「……。」
みほ(……そんなことないよ! って、……大声で言ってあげたいのに)
みほ(どうしてだろう、小さく首をふってあげられることしか、できない)
みほ(私、びっくりしてる)
みほ「ごめんなさい、私──」
みほ「びっくりして」
沙織「そう、だねよね」
沙織「私も……びっくりしたもん……」
みほ「……?」
華「実は、初めにキスをしたのは、私の方からで」
みほ「そう、なんだ」
華「沙織さんは嫌がっていたのです」
華「それなのに私が、ほとんど……無理やり」
みほ「ふぇ」
みほ「そ」
みほ「そうなんですか……」
華「はい……」
みほ(……。)
みほ(びっくりです……)
みほ「二人とも、ケンカとか、しなかったのかな」
みほ「だってその」
みほ「無理やり、だったんだよね」
沙織「……う~……えっと、ね?」
沙織「もちろん、私も抵抗したよ?」
沙織「背中を木に押し付けられて、右手ごと身体を抱きしめられて、左手は握りあげられて……」
みほ(……ひゃあああああ……)
みほ「ど、どこで、したの……?」
沙織「えっと。あっちの、イチョウの木がいっぱい生えてるところ」
みほ「あ、周りからちょっと見えにくいところだ」
沙織「うん。そこに、華につれてかれて」
華「すみません」
みほ「そ、そこで、いきなりキスをしちゃったの?」
沙織「あー、えっと、いきなりっていうかー……あー……。」
沙織「……うぅ、1からはなそっか……?」
みほ「えっと、えっと……うん……」
沙織「華、いい?」
華「はい。これは私にとっての、懺悔ですから……」
みほ(華さんが、エリカさんみたいな事いってる……)
沙織「みぽりん、気持ち悪いのなら、止めるよ……?」
みほ「う、ううん、そんなことないよっ。ただ、ちょっと……頭の中がくちゃくちゃしてるけど……」
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・華と沙織の独白
[華]
沙織さんの事は、ずっと前から、可愛い人だななって思っていました。
ですが、もちろんそれは、あくまで友人として、同性として、です。性的な意図はあるわけはないくて。
……そのはずなのに、検査入院の少し前から、私、おかしかったんです……。
『この人の赤ちゃんが、私のお腹の中にいる』
『こんなにも可愛らしくて可憐な人の、赤ちゃん』
『妊娠できた事が嬉しい、どうしても産みたい』
衝動的にそう感じるときがあって……
あるとき、ふと気が付いたんです。
私は、沙織さんのふっくらした体を抱きしめてみたいと、思っている。
肩を、胸を、腰を、下腹部を、肌を押し当ててその感触をぎゅっと確かめてみたい。
髪の毛の匂いを感じたい……。
それどころか、一度でいいから、沙織さんの柔らかそうな唇の感触を、確かめてみたい。沙織さんの特別なところ(唇)に、触れてみたい、と
唇に……
おでこに……
ほっぺたに……
眉毛に……。
自分の感覚が異常だと思うよりも、そういった衝動のほうが強かったんです。
けれども、それはいけないこと、沙織さんもそんなことは望んでいないって思って、茶道で培った自制心を総動員して、それを抑えてきました。
──抑えていた、つもりだったんです。。
昨日、検査で疲れた夕方。沙織さんと一緒に、この池のほとりをお散歩しました。
そしたら……ほんとうに、何のまえぶれもなく、です、
一日の検査を終えた安堵で、油断していたのかもしれません。
突然、気持ちがあふれて、もう、気が付いた時には抑えきれなくなっていて……
どうしても一度だけ! 一度だけでいいから抱きしめたい! 沙織さんの身体を感じたい……!
[沙織]
「抱きしめてもいいですか」って、突然華が言うもんだから、びっくりしちゃったけど……。
でも、ハグってすごく落ち着くんだよね。お母さんとはしょっちゅうやってるし。
。むかしは、そのお父さんとも~。
だから、まぁ、いっかなって。華は大変なんだから、甘えたくなるときくらいあるよね~って、そう思って。
だから、「いいよ」っていったら……そしたら、なんていうのかなぁ。血圧検査の機械あるじゃん?
ゆっくりゆっくり腕が圧迫されていくやつ。
あれって、想像以上に強い力で締め付けてくれるでしょ?
え、どこまで絞めるの?うそ、まだきつくなるの!?って。
そんな感じで、華の腕にゆっくりと、だけどすごくぎゅっと抱き強いめられて。
あれ?あれ?って。
それに……華はなかなか抱きしめるのをやめてくれなかった。しかも、華ったら私の頭の匂いを嗅いでるのがわかって、
なんか変だな?っとは思ったんだけ。まさかあんな事になるとは思ってなかったもん。
だから、まだその時はふざけてるんだと思って「やだも~」とか言ってたんだけど。
でね、少して、華はやっと力を緩めて、少し身体を離してくれたの。
だけど、背中に回された手はまだそのままで……。
華がね、じーっと私のことを見つめるの。目つき、普通じゃなかった。
泣きそうっていうか、何かをぐっと堪えてるっていうか……正直、ちょっとどきどきしたよ。
華はカッコイイもんね。美人だし、背も高いし、落ち着いてるし……でも、華の顔がゆっくりと近づきはじめて……
華が仕様押してる事がわかたときは……怖かった。背筋がぞくってしたよ。
何これ!? 何これ!? って。
それで、私は逃げようとしたの。
だけど私の身体、華と木の間に押し付けられてて。必死に身をよじって、なんとか左手は自由になったんだけど、その手もすぐに、華の手に抑えつけられて。
……。
……。
叫ぼうかなって、思ったよ?
だけど、華、すっごく泣きそうな顔しててるのが見えて。
そしたらさ、何か理由があるのかなぁ、叫んだら華が悪者になちゃう、華はいったいどうしちゃったんだろう、とか、頭の中にいろんな事が浮かんで、もう、メチャクチャで……。
しかたがないから、今は耐えよう、そのあとで、華を問いただして、怒るのはそれからにしようって、思ったの。
華の唇が、私の唇に触れた瞬間のこと、すっごくよく覚えてるよ。私の上唇のさきっちょに、華の唇のどこかが当たった。私の身体、すっごいびくってなって、でも、逃げられなくて……そこから、ゆっくりゆっくり、唇全体がくっついていって。どこまでくっついてくるんだろーっとか、思ってたかも。
華
ひどい事をしているて、自覚はありました。こんなの、ご……ゴウカンと同じだって。だから、沙織さんが本気でいやがったら、その時は止めようて、そんな風に自分に言い訳をしてたんです。沙織さんがどんなに怖い思いをしているかはわかってる、だから、本気で抵抗されたら、やめようって……最低です、私。
沙織
でも私ね、結局最後まで、本気で拒否したりはしなかったの。
それがどうしてなのか今でも、よくわからない。だから戸惑ってる……。
もちろん、私はレズじゃないよ!
かっこいい男子が普通に好きだし、イケメンと結婚したいし……。
ただ……華なら、いいかなって、ほんの一瞬ね、少しだけ、そう思っちゃった瞬間があって……で、気が付いたら、それがどんどん大きくなって……。
はぁ、……よくわかんない。
私、レズな子なのかなぁ……
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みほ「……」
みほ(色んなことがすごすぎて、言葉がでない……)
沙織「それが、昨日の夕方の事」(■4日目)
華「……。」
沙織「もしもさ、他の誰かにこんなことされたら……ビンタして絶交するよ!」
沙織「でも、華の場合は、どうしてかな。そうはならなかった」
沙織「キスしたあとも、なぜか私は華と一緒にいて、一緒に晩御飯を食べてた」
沙織「もちろん、ぎくしゃくはしてたとおもうけどさ」
華「実は昨日の夜も、夜中にコッソリ抜け出して、今みたいにここに座って、沙織さんと二人で話し合ってんです」
みほ「知らなかった……」
沙織「どうしてあんな事をしたの? ふざけてるの?って、問い詰めた。そしたら華は──」
華「ふざけてなんかいません。ただ、どうしても、沙織さんと、キスがしたくて……と、正直にありのままを言いました。……ああ、恥ずかしいです……」
沙織「なんで?って聞いても、華は分からないっていうし……また、すごく辛そうな顔で……」
沙織「それで、どうしたらいいのかなっーって悩んでたら、華が……」
沙織「『だけど、もう一度、キスしていいですか?』って」
みほ「ふぇっ」
華「あああっ……」
沙織「もーありえないよね!? 馬鹿にしてるのかー!ってね!」
沙織「……だけど……」
沙織「一番ありえないのは──」
沙織「『まぁ、いいよ』って答えちゃった私……」
みほ「!? ……!?」
沙織「はぁ……もう、わけわかんないよ」
みほ「い、嫌じゃなかったの?」
沙織「そのはずだったんだけど……今はもう、抵抗ないっていうか、……ていうかむしろ、ちょっと幸せ……うぅ」
みほ「ふぇぇ」
華「沙織さんが受け入れてくれるから、私は許されているだけで……それなのに私は、沙織さんに甘えて、今日だって、何度も……! ああ……っ、私に華道を続ける資格はあるのでしょうか……」
みほ(……。)
みほ(……『資格』……)
── しほ「王道から外れた者に──王者たる資格はありません」
みほ「……。」
沙織「まぁ、それでとにかく、わけわかんないけど、今は普通通りでいようって、華と話あったの」
沙織「だって、こんな感情、誰にも説明できない。自分でも、よく分からないのに」
みほ「……。」
沙織「それに──」
沙織「気持ち悪いって嫌われたら──」
沙織「どうしようって、すごく怖い」
みほ(あ……)
みほ(沙織さんすごく不安そうな顔してる、それに、華さんも……)
みほ(……っ)
みほ「び、びっくりした」
みほ「すごく、びっくりしたよ」
みほ「でも……」
みほ「だ、大丈夫だよっ」
みほ(あ、ちゃんと言えた……!)
沙織「みほ」
華「みほさん」
みほ「男の人が好きでも、例え、女の人が好きでも、沙織さんは沙織さんだし、華さんは華さんだもん! 二人は何も変わらない。私のかけがえの無い友達だもん!」
沙織「……! みぽりぃん……」
みほ「で、でもでも、もっとちゃんと華さんは沙織さんの事、考えてあげるべきだと……思います」
華「みほさんの、言う通りです……」
みほ「沙織さんの事、好き……なんですか?」
華「それは……えと……よく、分かりません……」
沙織「……。それって、なんかさ。体が目当てって、言われてるみたいな気分なんだよねー……」
華「!!」
華「そんな事は絶対ありません!!!」
みほ「わああ、は。はなさん、叫んじゃだめ」
華「あっ! す、すみません」
華「ですが、私、沙織さんにだけは、そんな、身体だけが目当てだなんて思われるのは、絶対にいやです……」
華「私、一日中いつも、沙織さんの事を考えてしまっています。お腹の赤ちゃんは、沙織さんの赤ちゃんなんだって思うと、本当にすごく幸せで、私、ずっと沙織さん感じていたいって、心から思うんです」
みほ(うぅ、これって沙織さんにとってすごく重たいんじゃ……)
沙織「うー……ごめんね、私言い過ぎた。華の気持ちは、とってもきれいなのに」
みほ(あれ、沙織さんは以外と平気そう……)
華「すみません、私に怒るしかくなんかないのに……」
みほ「あの私がいけないんだ、ごめんなさい。私が余計な事を聞いたから……考える時間が、必要なんですよね……」
沙織「まぁ、それは私も、同じなのかなぁ~……」
みほ「……。」
みほ「あの、あのね、そういえば──」
みほ「えっとね、お母さんから聞いた話なんだけど──」
沙織「?」
みほ(……あ、だけど……この話、二人にしても大丈夫なのかな)
みほ(二人って、この話って、どんな意味合いを持つんだろう……)
みほ(でも、少しでも、二人の力になれるかもしれないなら……)
みほ「実はね……」
──────。
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みほの話を聞いて、考える二人。
この気持ちは妊娠のせい?
お医者様に報告するべき?
けれど、ひとまず、自分達が落ち着くのが先。
ゆっくり考えよう。
とりあえず解散。
みほ、布団にもどるもなかなか寝付けず。
半身半疑だった同性愛の実例(?)が、身近に表れたことで。しかも、自分にとって大切な人達。
身の回りにおこっているこの一連の現象は一体なに?
みははいっそう深く意識するようになっていく。
■6日目
午前中・大ホール・最終合同レク
次回予定の検査入院についての案内、これからの生活における大小さまざまな注意点、等々、皆で説明を受ける。
→次回の予定は二週間、次々回は三週間後
ただし次回次々回については二日のみの入院。今回集めたデータとの差分観測、偏差分析が主な目的。
昼食後・正門
大洗組が最初にセンターを出発する。
すでに広場にはバスが待機している。
別れをおしみつつ、バスへ乗り込む。
出発。
夕刻。
バスは51号線を北上。
そろそろマリンタワーが目視できる。
夕日を浴びる学園艦も見える。
その巨大な艦影を、みなで眺める。
安堵を感じる。
日没後。
バスが港に到着。
学園艦のタラップが下りている。
戦車道履修者のみんなが待っていた。
各チーム毎に再開を喜ぶ。
柚子、優花里、梓が、きわだって、熱烈に。
学園艦は明日の朝に出航するらしい。
母への電話は、明日にする。今日は疲れた。
■7日目
みほ、朝6時出航の警笛で目が覚める。
久しぶりの学校と、授業。気持ちがふわふわしている。
お昼休み、皆で一緒に食堂。
ゆかりんニッコニコ。
華と沙織の間には、特にぎくしゃくしたものは見受けられない。みほも、特に何も触れない。
夜、母に電話する。
まほとエリカは現在検査入院中とのこと。
一度帰ってこいと言われる。
来週帰る、と明言。
--------------------------------
しほ「なら、エリカも家にお泊りをさせないとね」
みほ「え?」
しほ「色々、話さなければいけないことがある」
みほ「そっか、そうだね」
みほ(……お母さん、エリカさんの事「エリカ」って、普通に言うようになったんだ……)
しほ「ああ、ところで──」
みほ「?」
しほ「『紅はるか』、だったかしら」
しほ「あれは、おいしかった。また買ってらっしゃい」
みほ「……!」
-----------------------------------
■8日目~10日目
学校に通う。
久しぶりの平穏な日々。
ただし、いつもなら始まっているはずの生理が、始まらなかった。
そんな所に妊娠を実感。
■11日目
放課後、
沙織と華が、あんこうチーム戦車道倉庫に集める。
なんの用事だろうと首を捻る麻子と優花里。
みほは、察している。
4号の前で、華が宣言する。
「私は沙織さんの事が好きです。真剣な気持ちです」
驚く優花里。表面上はポーカーフェイスの麻子。
華、これまでの経緯を説明。
沙織→私はレズビアンではないけれど、今は、自分の感情に従う。華と二人でよく話し合って、それで決めた。
麻子も優花里、二人の選択を受け入れる。
沙織と華、ほっとする。
今のところは、打ち明けるのはアンコウチーム内だけということに。
ただし、他チームに対しても積極的に隠したりするつもりはないし、偽ったりもしないと。自然な在り方で。
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華「お母様にどういえばいいのかは、まだ、分かりません」
華「ですが、それでも今はまだ……沙織さんへのこの気持ちを、ありのままに愛でたいのです」
麻子「それでいいんじゃないか。私達はまだ、モラトリアムの中にいるんだ」
優花里「そうですよっ、将来を考える時間は、まだまだ沢山あるはずです! 急いで言う必要なんてありませんよ!」
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みほも心からおめでとうを言う。
と同時に、姉とエリカを想う。
四号の前にたたずむ沙織と華の姿が、まほとエリカの姿にぼやける。
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みほ(もしも……もしもお姉ちゃんとエリカさんが、同じようにお互いを想うのなら)
みほ(私は)
みほ(二人を応援してあげたい)
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みほ、自分の気持ちの変化に驚く。
なぜだろうと、自問自答する。もちろんすぐに答えはでてこない。
ただ、自分は「同性愛者」とひとくくりにの言葉でとらえているけれど、そこには決して一言では言えない、いろんな気持ちがあるんだ。そしてそれって、すごく素敵に感じられる。
親友二人の姿、みほはそんな事をぼんやりと考える。
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みほ(それに、もしも家元の問題がお姉ちゃんやエリカさんを困らせるのなら)
みほ(だったら──)
みほ(その時は──)
みほ(代わりに私が──)
みほ(……っ!?)
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自分の考えたことに驚いて、言葉にするのをやめてしまう。
どうして自分はそんな事を考えたんだろう。
混乱する。
三日後に、熊本へ帰る。その事を思う。
あんなに帰るのが嫌だったはずの実家なのに、今は、それをおもうと胸の奥が高揚する。
あと数日で、母に会える。
■12日目~14日目
学校、休日。
戦車道はお休み。
■15日目
実家の敷居をまたぐ。
びくびくせずに、堂々とまたぐ。
『紅はるか』は三箱買った。
懐かしい中庭を一人で歩く。
風景のなにもかもが懐かしい。
けれど今日は、前を歩く姉の背中はない。
縁側の障子の奥から、母の声がした。
『みほ?』
緊張が全身を駆け巡る。それにあらがって、凛とした声で返事する。
「はいっ」
まほとエリカは、明日帰ってくるとのこと。
ふたりで晩御飯を食す。
以前よりは、話が弾んだ。
自室に戻る。
自分が飛び出した時のまま、やっぱり何も変わっていない。
夜、ふと目が覚める。壁に掛けられた黒森峰の制服を眺める。過去を振り返る。
おしっこに行きたくなる。
トイレに向かう途中、母の部屋の障子からもれる灯り。
役人から聞いた戦車道の話を思い出す。
けれども、障子を叩くのはまだためらわれた。
■16日目
お昼すぎ、まほとエリカが帰ってきた。
母はちょうど外出中。
みほ、玄関で二人を迎える。
玄関で、エリカと向かい合う。
油断すると、まぶたに何かがこみあげてきそうになる。
声が震えているような気がして、なかなか口がきけない。
玄関で、しばらく二人して向かい合う。
まほは、エリカの隣で何もいわすにたたずんでる。
唐突に、エリカがみほのほっぺたを軽く叩いた。
ぺちっ!
はたいた格好のまま、エリカの手はみほの頬に添えられている。
みほが、その手を握る。
(エリカさんの手だ)
ちょっぴりまだ細い気がするけれど、
スカイプで話した時よりは、もとにもどってきてる。
------------------------
みほ「お、おかえりなさいっ……で、いいのかな……」
エリカ「まだ早いわよ、ばかね」
みほ「うっ……お、お姉ちゃんに言ったんだもん」
エリカ「……あっそ」
まほ「ただいま、みほ」
-------------------------
この家の玄関で、みほが私を出迎えてくれる。いつぶりの事だろう。
エリカの部屋が、すでに西住家にはできていた。
みほの隣の部屋。
養子計画は着々と進行中。
みほ、華と沙織のことをハタと思い出す。
まほとエリカの間の様子は、今のところ以前と変わらない。
夕方。
母帰宅。
晩御飯。
しほは、寿司を取ってくれた。
お父さんは出張中でいない。
4人で寿司を囲む。
エリカさんはタマゴ巻が大好き。
エリカとしほ、ずいぶんと接し方が自然になってきている。
入院検査やらの話で盛り上がる。
黒森峰はサンダースと合同であった。
→アリサのパパは、メグミ。ケイはママでもパパでもない。……にもかかわらずケイも合同検査に参加してた。これも隊長としての義務よHEY-!みたいな勢いで、強引に。(センター側:サンプルデータを収集する事はまぁ無駄ではないか……と了承)
ケイさんは凄いなぁ、とみほ感心。
ちなみに場が暗くなりかねない話題は、みんな意図的に避けている。
奇妙な連帯感を肌で感じていた。
食後は、気持ちを切り替えてまじめなお話しに。
養子の件。
逸見家側の了承はとれていること。
逸見家内での意志確認もほぼ終了しているとのこと。
(養子はあくまで合理主義的形式的なもの、等々)
そのたもろもろ、意思確認。
この時点で全員の意思疎通はほぼ完了。
西住エリカカッコカリ。
やったね家族がふえるよ。
就寝。
まほの提案で、三人一緒に居間で寝ることに。
しほは自室に引き上げた。
(お母さんも一緒にとは言い出せなかった。本当は言いたかったけど。なんとなく、姉やエリカの手前、甘えんぼって言われそうで)
三人の語らいへ→
区分け
■1日目~5日目
検査入院編
■6日目~14日目
大洗編(幕間)
■15日目~
里帰り編
→川の字に布団をならべて、西住三姉妹(仮)の語らい。
布団並び:
[みほ・エリカ・まほ]
まほが少しはしゃいでいる。
→普段よりもいくらか口数が多く、声に弾みがある。
ふとんの上で不自然に何度も寝返りをうったり。
みほ、姐の童心を感じて嬉しい。
エリカさんはちょっぴり困惑しているみたいだけれど、それはけっして嫌な困惑じゃなくて、ドギマギな困惑っぽい。(隊長がなんか可愛いんだけど……)
中学校時代の話、高校一年生時代の話。
三人は様々な記憶を共有している。
幸せ。
思い出話が時を駆け上るにつれ、第九回戦車道大会決勝の記憶がみほの脳裏にちらつきはじめた。
嫌な思い出を閉じ込めている、無意識の蓋。それが開こうとしている。
姉の無表情、エリカの怒声、母の冷たい声、それらが、蓋の隙間から漏れ出してくる。
そんな自分が、みほは嫌。
------------------------------
みほ(はぁ……)
みほ(この感覚、一生消えないのかな……)
みほ(……。嫌だな、何もこんな時に思い出さなくてもいいのに)
みほ(せっかく、お姉ちゃんと、エリカさんと、こうして……)
エリカ「──こら」
みほ「え?」
エリカ「あんたねぇ、露骨に口数、へらしてんじゃないわよ」
みほ「っ……べ、べつにそんなこと、ないです……」
エリカ「ふん、バレバレよ。……だって、私も意識しちゃってるし……」
みほ「え……」
エリカ「……。」
まほ「ふむ」
まほ「そうか」
まほ「やはりまだ、ひっかかるのか」
みほ「……。」
エリカ「……。」
まほ「エリカ」
エリカ「はい」
まほ「隊列を組み直すぞ」
エリカ「……はい?」
--------------------------------
みほ エリカ まほ
--------------------------------
↓
--------------------------------
まほ スッ…
? ?
みほ エリカ ↑
--------------------------------
↓
--------------------------------
まほ))) ススス…
みほ エリカ
--------------------------------
↓
--------------------------------
まほ
one-tyan…?
みほ エリカ
--------------------------------
yoisyo…
(((まほみほ!? エリカ!?
---------------------------------
みほ「わ、わっ、お、お姉ちゃん!?」
まほ「エリカ、お前もだ」
エリカ「へ?」
エリカ「……。」
エリカ「……はぁ……」
エリカ「了解です」
みほ「エ、エリカさんっ!?」
---------------------------------
まほみほ エリカ
--------------------------------
↓
--------------------------------
!? sikatanaiwane…
まほみほエリカ)))
----------------------------------
みほ「ふぇぇええぇぇええぇぇぇ」
エリカ「ねぇもう少しそっちに行ってよ、私のお尻がはみでてんのよ」
まほ「待てエリカあまりみほを押すな、私がはみでる」
エリカ「あぁ、すみません」
みほ「ひゃあああああ」
みほ「ひゃあああああ」
みほ(私、お姉ちゃんとエリカさんに、もみくちゃにされてるよぉ……)
まほ「さて、みほ」
みほ「な、なに?」
まほ「カウンセリングを始めようか」
みほ「カウンセリング!?」
まほ「案ずるな。私とエリカのカウンセリングは、おそらくは今やすでにプロ級だ」
みほ「そ、そうなの?」
まほ「何度カウンセリングを受けたと思ってる」
みほ「受けたから上手になるって、そういうものなのかな……」
エリカ「五月蠅いわね、私がここまでしてあげてるのよ。文句言うんじゃないわよ」
みほ「えええ」
みほ(お姉ちゃんとエリカさんの吐息が、耳元にあたるよぉ……)
みほ(お姉ちゃんの、テンション、少し変だし……エリカさんも、つられてるみたいだし……)
みほ(……だけど……なんだか楽しいなぁ……)
『去年のあの決勝戦での出来事、私達はどう受け止めるべきなのだろうか?』
→1年越しの真剣シャベリバ十代。いまならばできるはず。
●西住流ならば過去にとらわれず前を向いて歩くべきでは?
エリカ→たしかにそうかもしれません。だけど辛い記憶というものがどれだけ己を縛るかということ、今回の件で私もそれを体感しています。西住流とひとくくりにして黙殺できる問題ではないでしょう。
みほ→エリカさんありがとう。エリカさんがそう言ってくれて、とっても嬉しい。 前を向いて歩かなきゃって、私も思ってる、でもやっぱり、心の奥でしこりになってる。どうしたらいいのかなぁ。
まほ→考えてみよう。ところで私やエリカにとっては、あの出来事はどうなのだろうか? 私は──みほが戦車道を止めてそれで幸せになれるのなら、それもいいと思っていた。西住流が(というよりもお母様だが……)みほを苦しめているのは分かっていたつもりだからな。
……だが、それではみほの心の問題を解決する事にはならなかったのかもしれない。私は浅はかだったのだろうか。今はそれを後悔している。だからこうやって、改めて気持ちを確認したい。
みほ(お姉ちゃん、そんな風におもっててくれたんだ)
エリカ→私にも後ろめたいところはあります。あの時は私は本当に怒ってました。決勝にまけたか。らじゃありません。みほが黒森峰をやめるといったからです。みほに裏切られたと思いました。だからそのしかえしに、みほを傷つけてやりたくて仕方がなかった。……バカだった。後悔してる。今なら正直に言えます。……ごめん、言っていいわよね?
みほ→うん。
エリカ→ありがとう。戦車道を止めたいならやめればいいって、あの時は本気で思っていましたし、本気でみほにそう言いました。何日かして、すごく後悔。……結局黒森峰にもどってこなかったし……その事で余計に腹が立って……色々な後ろめたさや後悔を、みほへの軽蔑と怒りに転化させました。はぁ、とうとう言っちゃった……。
まほ→良く言えたな、偉いぞエリカ。
みほ→エリカさん……。
まほ→みほは、どう思っている? あの当時のことを。
みほ→え、えと……あの時の事を思い出すと。辛いです。気持ちが沈みます。
(まほ、みほの顔にゆっくりと自分の顔を近づける)
まほ→ああ、わかっているよ。私達は今、それがなぜかを、探ろうとしているんだ。それぞれ私達にとって、何がしこりなのか、どうすればそれを解消できるのかを。
みほ→う、うん。
まほ→具体的に、何を思い浮かべて、気持ちが沈む?
みほ→……お姉ちゃんの顔、エリカさんの顔、お母さんの顔。みんな、怒ってる。
エリカ→え……。
まほ→……。
エリカ→けどさ、私と、その……仲直りっぽいこと、できたじゃない……できてるわよね? なのに、そういう嫌な気持ちはまだ消えないの?
みほ→そうです……。
まほ→私達は今、再びこうして一緒にいるじゃないか。それだけではダメなのか?
みほ→私も、そうは思うんだけど、なんでかなぁ……。
エリカ→……少し前のワタシなら、昔のことをいつまでもひきずってんじゃないわよ!って、偉そうに言えたんだけどね。……今はもう、言えなくなっちゃった。あーあ、我ながら情けないわ。
まほ→いや、だがしかしエリカ、私はそれを良い変化だと思う。
エリカ→そうでしょうか? 西住流としてはよろしくないのではないでしょうか。
まほ→そうかもしれない。だが私としてはそういうエリカを好ましく思う。
エリカ→……。(///)
みほ→……。(エリカさんにお姉ちゃんをとられた感)
---------------------------------------------
その後も、明確な結論はでず。
『こうやって話すことが大事なんだよ』、それっぽくまほが〆た。
たしかにちょっとだけ、蓋の奥のドロドロが和らいだような気がするみほ(語尾ではない)
■17日目
午前中
母の車に連れられて、熊本中央病院へ行く。
しほ「こちらの病院でも一度検診を受けておきなさい。手帳の登録もあるから」
-----------------------------------------------------
家を出発してまだすぐ、ど田舎のあぜ道。
運転席・しほ
助手席・みほ
みほ「……あのね、お母さん」
しほ「何?」
みほ「赤ちゃんの事なんだけど」
しほ「ええ」
みほ「えっとね……」
みほ「私、あかちゃん」
みほ「熊本で産みたいなって──」
しほ「……。」
……キキィィィィィイイィイィイッ!!!(急ブレーキ)
みほ「わあ!?」
みほ「お、お母さん!? どうしたの!?」
みほ(タヌキか何かがいたのかな……!?)
しほ「……。」
しほ「車を脇に寄せるから、少し待ちなさい」
みほ「え……は、はい」
みほ(あれ? お母さん、怒ってる……?)
ブゥゥウゥゥゥン……。
みほ(え? え? 怒らせるようなこと、言ったのかな)
みほ(……熊本で産んじゃだめなのかな……そんな……)
……キィッ。
しほ「……。」
みほ「……。」
しほ「叱ろうかと思ったけれど──」
みほ(え)
しほ「考えてみれば、その点についてはまだキチンと話を、していなかったのね」
しほ「……急に止まって悪かったわね。お腹は大丈夫?」
みほ「え、う、うん……」
しほ「では聞くけれど──」
しほ「み、ほ?」(助手席側に、瑞っと顔を寄せてくる。)
みほ(ひっ!?)
しほ「貴方はどこで出産をするつもりだったの? まさか、『大洗』じゃないでしょうね? ……以前にも似たような会話をしたと思うけれど?」
みほ「え、え、え……!?」
みほ(お、お母さん、すっごく怒ってる???)
みほ「そ、そうじゃなくて、なんとなくぼんやりと、熊本で産むのかなーって思ってたけど……あらためて、ちゃんとお母さんにお願いしておきたくて……」
しほ「……。」
しほ「そうですか。そういう事なら、叱りはしませんが」
しほ「国の施設での出産になる可能性も、と、これも以前に言ったわね。けれど、そうでない場合は当然、この熊本で──」
しほ「──まぁ、地に足の着いた考え方を、多少はするようになったのね。あなたも」
みほ「え……」
みほ(よく分からないけど、褒められちゃった)
みほ(……ほんと……)
みほ(こうやってお母さんと)
みほ(以前なら考えられなかったような雰囲気で、お話しできることが増えてきた)
しほ「まだ他に、何かある?」
みほ「……えと、ないです」
しほ「そう、じゃあ行くわよ」
みほ「……うん」
ぶろろろろろろ……。
みほ「……。」
みほ(ホントは、他にも聞いてほしい事があったけど……まだ、ちゃんと考えがまとまってない)
:高校は大洗で卒業をしたい。でも大学は熊本でいきたい(かもしれない。)
:それってつまり、黒森峰の大学にいきたい(のかもしれない。)
:もっというと私も正式にもう一度西住流の人間になりたい(……のかなぁ?)
:それと、(子供が施設から帰ってきている間は)お母さんやお姉ちゃんやエリカさん達と一緒に熊本で子育てをしたい……
--------------------------------------
熊本医療センターにて
「あそこの一号分娩室で貴方を生んだ。まほは三号分娩室だったわね」
そんな事を覚えている母を、少し意外に思った。
診察台で股を開くのには、いつまでたっても慣れない。
院内の食堂でお昼ご飯を食べる。今更ながら、沙織と華の件を(名前は伏せて)母に話す。
まほとエリカには、まだ兆候は見られない。
「何も起こらないのならば、このまま話す必要はないのかもしれない、そうも思ってる」
珍しく消極的なその姿勢に、母の苦悩を感じた。
帰宅途中、熊本市内でチンチン電車と併走する。
家族で熊本に遊びにきた時に、よく利用していた。
二時頃、帰宅。
まほとエリカは縁側でくつろいでた。
二人は退院(?)直後でもあるから、今日はゆっくり。
みほも混ざり、のんびりすごす。戦車談義。
夕方、三人で犬の散歩にでる。
いぬ、大勢での散歩が嬉しいようで、ハシャグ。
畑の中の土道。
エリカさんが先頭でリードを引き(あるいは引っ張られ)、その後ろを、みほとまほがついていく。
姉に問う。
「お母さんが、なんだかすごく優しくなった気がする」
姉は、一歩、二歩、三歩と歩いたのち、少し口元を緩ませながら、
「お母様も心配なんだろう。みほの事が」
「そうなのかな」
エリカさんが、振り返る。
「『そうなのかな』って、何よそれ、当たり前の話じゃない」
「そうなんだけどね……」
西住のお家にもね、いろいろあるんだよ、エリカさん。……なんちゃって。
夜。
夕食を女4人で食べる。お父さんは──海外出張頑張ってね。
今晩は、三人それぞれの部屋で寝る。
寝る前に少しだけ、エリカさんの部屋へ遊びにいく。
まだ家具があまりなくて殺風景。
写真立ての一つに自分とエリカさんの並ぶ写真を見つける。
少し照れる。
その20分後くらいに、
「……っ!」
エリカさん、その写真の事を忘れていたのか、一人でこっそり照れてた。
まだ完璧ではないけれど、二人の時差が、少しづつ解消されている気がする。
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■18日目
エリパパエリママが挨拶にきた。
こうやって親戚付き合い(?)をする機会をちょくちょく設けているらしい。
エリママはみほの事をちゃんと覚えてくれてた。とってもうれしいみほ(語尾ではない)
取り立てていう事のない、穏やかに時が過ぎていく。
──という和やかな雰囲気を皆で協力して作りあげようとしている。
みほもそこに加わる。連帯感が心地よい良い。
晩御飯、6人で一緒に外食。
お店の前で、エリママエリパパとは分かれる。
運転席:しほ
助手席:まほ
後部座席:みほ・エリカ
変な感じがして、むずがゆい。
明日の予定を確認しあう。
みほ:朝、家をでて大洗へ帰る。(用事ついでに母が車で駅まで送ってくれる)
まほ&エリカ:お昼頃、家をでて学園艦へ戻る。
姉やエリカと別れるのが少し寂しい。
最後の夜は、またと三人で一緒に寝ることにした。
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まほ「私はみほの頭を撫でてやる必要があるのかもしれないな」
みほ「……へ?」
みほ(お姉ちゃん、またおかしなテンション……)
まほ「エリカと話し合ったたのだが──」
みほ「う、うん?」
エリカ「前にも言ったけど、私が今元気でいられるのは、隊長のおかげよ」
みほ「うん」
エリカ「私が何か不安になるたび、隊長は必ず私を慰めてくれる。何度でも、いつまでも」
エリカ「頭を撫でてくれたり、お腹を撫でてくれたり」
エリカ「なら……」
みほ「……私にも同じことを?」
エリカ「私や隊長が、あんたのトラウマの一因であるのなら、なおさらね」
まほ「どうだろうか、みほ」
みほ「ど、どうって……」
みほ「えと、えと、ありがとう、二人がそこまで考えてくれて、私すごく嬉しい。だから……も、もう大丈夫です」
みほ「……は、恥ずかしいし……」
まほ「……。」
まほ「 エリカ」
エリカ「はい?」
まほ「囲むぞ」
エリカ「……はいっ」
みほ「二人とも!?」
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みほ エリカ まほ
---------------------------
↓
---------------------------
まほ スッ…
! ↑
みほ エリカ
---------------------------
↓
---------------------------
まほ))) ススス…
みほ エリカ
---------------------------
↓
---------------------------
…。
まほ
…。 …。
みほ エリカ
---------------------------
↓
---------------------------
Panzer…
まほ
!? …!
みほ エリカ
---------------------------
↓
---------------------------
Vor! kyaaa!? Vor!
(((まほ Σみほ エリカ)))
---------------------------
みほ「わああああ、だ、大丈夫、ここまでしてもらわなくても大丈夫だからぁ!」
エリカ「みほ」
みほ「な、なに」
エリカ「ふざけてると思ってるのかもしれないけど──」
エリカ「私も隊長も、マジだから」
みほ「へ……」
エリカ「ふざけてこんな事するほど、私は酔狂じゃない」
みほ「へぁぇぇぇ……」
まほ「よく言ったぞエリカ……よしっ」
ぎゅっ
みほ「ひゃ」
なでなでなでなで
みほ「わああああ」
まほ「大人しくしていろ、みほ」
なでなでなでなで
みほ(……あ、あ、何これ……すごい、これ、とっても落ち着く……お姉ちゃんの手、気持ちいい、頭のテッペンがぽかぽかする……)
まほ「柔らかいな、みほの髪の毛は」
みほ「……うぅ……」
みほ(あ、でも、本当に……気持ちいい……)
みほ「……エリカさん、これをいつもお姉ちゃんにしてもらってるの?」
エリカ「ま、まぁね」
みほ「……ずるい」
エリカ「し、しかたないじゃない」
エリカ「あぁ……それとね、これも、すごく気持ちいいのよ」
みほ「え……っひやぁぁぁ!?」
エリカ「ちょっとっ、大きな声ださないでよ!」
みほ「だってエリカさんが私のパジャマの中に手を──!」
みほ「って……あ……」
くるくるくるくる
エリカ「あんた、子宮の位置ってちゃんと把握してる? おへその下、拳一つ分くらいの……まぁ、このあたりなんだけど」
みほ(あ……これって紗希ちゃんがみんなにやってもらってたクルクルマッサージだ……)
みほ「ふぁ……エリカさんの手、暖かい」
みほ(体がふにゃふにゃになっちゃう、夢ごこちだぁ……)
エリカ「でしょ、人にやってもらうと、すごく気持ちいいのよ」
みほ「これも、いつもお姉ちゃんに……?」
エリカ「……まぁ」
みほ「……。」
エリカ「何よその目は」
みほ「じつは私ね、エリカさんの事をすこし恨んでる」
エリカ「な、何よ、急に……また黒森峰の話?」
みほ「ううん、そうじゃなくて」
みほ「エリカさんに、私のお姉ちゃんを、とられちゃった……って」
エリカ「っはぁ!?」
まほ「……ふふ、面白いことを言うんだな、みほは」
みほ「ほんとにそう思ってるもん」
まほ「なら心配するな、ほら、私の手は──」
まほ「二本あるだろう?」
みほ「……」
まほ「エリカとみほ、二人の頭を撫でてやるさ」
みほ「……。」
みほ「だけど」
みほ「片方は、赤ちゃんのためにとっておかなきゃ」
エリカ「……!」
まほ「……。」
みほ「エリカさんの赤ちゃんをよしよししてあげるために」
まほ「……みほ……」
みほ「お姉ちゃん」
まほ「ん?」
みほ「エリカさんと──」
みほ「エリカさんの赤ちゃんと──」
みほ「一杯よしよし、してあげてね……」
まほ「あぁ、わかっている」
エリカ「私は……あんたの子供だって、ちゃんと撫でてあげるわよ」
みほ「……。」
みほ「……ねぇ、エリカさん」
エリカ「何よ」
みほ「頭、撫でていい?」
エリカ「……っ、だ、ダメ……調子にのらないで」
みほ「ずるいよ……」
みほ「……」
みほ「えいっ……」
エリカ「あっ……」
よしよしよしよし
くるくるくるくる
なでなでなでなで
みほ(……あぁ、気持ちいいなぁ……)
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■19日目
午前7時
みほ、目が覚める。
まほとエリカはまだ寝ている。
三人絡み合ってあられのない寝相。
みほはまほに抱き枕とされ、かつ、エリカの手がみほのズボンの中に突っ込まれている(子宮マッサージの名残)
まほの匂いにつつまれて、みほ幸せ。エリカの手の平も下腹部に暖かい。ヘブン状態。
そのまま二度寝──しようかとうつらうつらしていたら、
突然、スーッと部屋の障子があいた。足音に気付かない程度の絶妙な半寝をしていたらしい。
みほ、でぎょっとする。
廊下からこちらを見おろしているのは──エプロン姿の母。顔がこわばっている。。
みほ、母と見つめあい固まる。
体は硬直しているが心臓だけはバックバク。
「……」
しほ、何かを押し殺すように、眼をぐっと閉じ、長い長い一息を吐く。
そしてそのあと、スーッと障子を閉めて、静かな足音が遠のいていった。
みほ、気を失う様に、二度寝。
30分ほどたって、三人とも目がさめた。ごそごそしていると。
母がまた襖をあけ、
「朝食を食べなさい」
と何食わぬ顔で言った。
午前8時頃朝食
4人で食べる。
しほは今朝の事には特に何も触れてこない。
母にみられたこと、まほやエリカには秘密。みほは一人でドキドキしてた。
家の玄関でエリカとまほに見送られる。
口には出さないが、それぞれの顔に、押し殺しきれない心残りが見えた。
母の運転で駅に向かう。
駅に向かう間、大学の事を、ちょっとだけ相談してみるつもりだったが……朝のことがあったので、やめてしまった。
駅に到着。
友人へのお土産を買いなさい、と一万円を受け取る。驚く。
「連絡を欠かさぬこと」
そういって、母は去って行った。
土産には3000円くらいしか使いきれなかった。
贅沢をして、東筑軒のかしわ飯弁当を買う。
列車の中で、一人でのお弁当。寂しい。少し、涙がでた。今朝までは一人じゃなかったのに。
気を紛らわせるために、エリカさんと、沙織さんと、どうでもいい内容のメールをした。
沙織さんから写メが届く。華さんと一緒に、着物姿で並んでいた。華道をやってるっぽい。楽しそうでよかった。
夜、大洗にたどり着く。
学園艦が、夜の海辺で静かに巨大にたゆたってた。
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区分け
■15日~19日
熊本里帰り編
722 : KASA - 2017/02/11 22:23:33.19 5vxbr6hzO 330/537かなり走り書きなので、誤字脱字いつも以上にたたあると思いますが、堪忍です。
■20日目
第二回検査入院初日。
(みほはぎりぎり前日の晩に大洗に戻ってきてた)
皆、二回目なので少しだけ気持ちに余裕がある。
つくばへのバス移動中も、ちょっとした旅行気分にさえ。
みほ→熊本ですごした時間を振り返る。
大学の事、西住流の事、将来の事
:……あれ? いまのところ世間にはこの妊娠のことは秘密だけど──お腹が大きくなり始めたら、どうするんだろう?」
今まで通りに学校に通うことも、できなくなるのでは?
今更それに気づく。
会長に聞く。
『上の人達がいろいろ考えてくれてるよ』
デーンと構えてる会長。
昼すぎ、霊長類医科学研究センター到着。
ローズヒップさんの紅茶の飲み方がどことなく優雅になってる。アッサムさんはちょっぴり物足りなさそう。アッサムさんはもっともっといっぱいローズヒップの世話を焼きたいのだ。やさしー。
日暮れまで検査がたて続く。
特に何事もなく、めいめいメニューをこなす。
晩御飯はチハタンによる『すき焼き』。
食堂が宴会場みたいになった。
夜、愛里寿ちゃんと池のほとりでボコ談義──をするつもりだったが、イチョウの林の中に、じっと見つめあう沙織さんと華さんを発見。
みほ、愛里寿ちゃんの手をとって引き返す。
やだもー。
愛里寿ちゃん、お母さんにはまだ本当の気持ちを話せてない様子。
→……とうよりも、ルミのおかげで本当に妊娠がへっちゃらになってきた。『本当の気持ち』とやらはすでに過去のものになりつつある。
ならば、あえて『(数日前までの)本当の気持ち』を話す意味ってあるの?
→むしろ、『お母さん、私を心配をしてくれてありがとう。でも大丈夫、私がんばるよ!』って前向きな気持ちをこそお母さんに伝えたい。
と、明るい声で思いを述べる愛里寿。
みほびっくり。
「時間が解決する、ってこーいうことなのかな……」
もちろん、それってルミさんと愛里寿ちゃんの心の強さあってのこと。
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みほ(この先何がどうなるか……私に想像できることって、ほんのちっぽけな範囲の事でしかないんだ)
みほ(黒森峰から逃げ出した時だって、自分が転校先でもまた戦車道を始めることになるだなんて少しも思っていなかった)
みほ(私がちゃんと想像できるのは、あくまで私一人のことだけなんだ。そんな狭い世界の中だけで、私はあれこれ考えて一喜一憂してる)
みほ(だけど現実には、私に想像できないことがいっぱい起る。それってつまり……私が一人じゃないからなのかな? みんな、が私と一緒にいてくれるからなのかな……!)
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とっても大切なことに気が付けたような気がして、すっごく気持ちが明るくなれた。
妊娠して以来、こんな風に気持ちがはずんだのは、本当にはじめてじゃなかろーか……。
と思ったら、そうでもなかった、お母さんが振り向いてくれた時、姉やエリカさんにもみもみしてもらっていた時……あれ? もしかして私ってすごく幸せなのかなぁ? なんか、気持ちがドエライぽわぽわした。
■21日目。
一日検査。
だけどみほはまったくへっちゃらだった。だって私はみんなと一緒。
もう何も怖くない。
昼、屋上で休憩がてら日向ぼっこをしている時、ルミさんと一緒になった。
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ルミ「実は、『隊長の本当の気持ち』、家元には私からこっそり伝えてあるのよね。今のところ隊長は心配ありませんよ、ともね」
みほ「え!?」
ルミ「おっと、愛里寿隊長には秘密だからね?」
みほ「え、えと……でも、それって……良いんですか……?」
ルミ「うーん、良いか悪いかは分からないけどね。だけどそれが、私の役目だわ」
みほ「ルミさんの、役目?」
ルミ「愛里寿隊長と、愛里寿隊長の赤ちゃんを守る事。家元ときちんと連携をとりながらね」
みほ「……。あの、一度ルミさんに聞いてみたかった事があるんです」
ルミ「なに?」
みほ「ルミさんは平気なんですか。急に自分が、赤ちゃんのパパになってしまって」
ルミ「ん……まぁ、それはねぇ。もうちょっと色々遊びたかったなぁって感じはあるかなぁ……」
みほ「はぁ」
ルミ「随分早いうちに人生決まっちゃったなーって、そう思う時は、たしかにあるかな」
みほ「人生が決まっちゃった……?」
ルミ「だってさ、カタチはどうあれ島田流家元の娘さんを孕ませたっちゃんだから、そりゃもう責任とるしかないわよねぇ」
みほ(は、孕ませた……)
ルミ「まぁけど、戦車道やって食べていければいいなぁとは思ってたし、そういう意味では、島田流に骨をうずめる事になってよかったのかもね? 家元の家族ならとりあえず食いっぱぐれはしないでしょ」
みほ「……」
みほ「ルミさんて……すごいです」
ルミ「へ?」
みほ「ちゃんと自分の将来のことも考えてるし、くよくよせずに前向きだし……私なんて、まだまだで……」
ルミ「あはは、私だって、高校生の頃は何も考えてなかったわよ。むしろ今の貴方のほうがよほどたくさん考えてる」
ルミ「ま、ともあれ」
ルミ「そりゃあ、いろいろ真剣になるって」
ルミ「なにせ私は──」
ルミ「隊長を愛してるからね!」
みほ「ふぇっ」
みほ「あ」
みほ「愛、ですか」
ルミ「そうそう、愛だよ、愛。にひひ」
ルミ「おっと、これも隊長には秘密だからね?」
みほ「は、はい」
みほ「……。」
みほ「……。」
みほ(思い切って、……聞いてみよう……)
みほ「あ、あのっ!」
ルミ「なに?」
みほ「と、ということはその、ルミさんは、その」
みほ「レ」
みほ「レ」
ルミ「レ……?」
みほ「っ……レズビアンさん! なんですか!?」
ルミ「……へ?」
ルミ「」
ルミ「」
ルミ「ぷ──」
ルミ「あははははははははははは!」
ルミ「あは! あはひぇえっへへ!」
みほ「ふぇ!? え、ええ!?」
ルミ「あは、あはは……ひー、ああ、ごめんね笑って……!」
ルミ「あーだけど……ほんっと、面白いわねぇ貴方って」
みほ「?? え、え、えと、えとえと……???」
ルミ「ひー……隊長が貴方を好きな理由が、私も少しだけわかったわ……」
みほ「ふぇ、あ、愛里寿ちゃんが私を……」
ルミ「……ふー、あーやっと収まってきた……」
ルミ「おっほん、あのね、一つ教えてあげるけど」
みほ「は、はい……?」
ルミ「愛にとっては、男も女も関係ないのよ?……なんちゃって」
みほ「え……」
ルミ「いやー、さぁて、気分転換もできたし、私はそろそろ、愛する隊長のところへ戻るかなぁ。じゃ、またね?」
みほ「え……」
ルミ『あー、おかしかったぁ……』
(ルミ、去る)
みほ「……。」
みほ(……やっちゃった……)
みほ(ルミさんの言った『愛する』って……)
みほ(『大切に思う』って、そーいう意味でいったんだ……きっと……)
みほ(それなのに私は早とちりをして……とんでもない事を聞いちゃった……)
みほ(……うぅ、恥ずかしぃよう……)
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みほ、昨日は自分がなんだかとっても賢くなったような気がしていたけれど、今は、自分がとっても馬鹿みたい。
夜・食堂
今日はアンコウ鍋。
愛里寿の隣に座っているルミが、これ見よがしに愛里寿にあーんをしてあげたりしつつ、みほの方を見てニヤニヤ笑ってくる。
自分の発言を思い出してめっちゃ恥ずかしいみほ。
ほどなくしてアンチョビさんとペパロニさんが絡んできてくれた。
ルミさんの視線を気にする余裕がなくなったので、二人には内心ですっごい感謝。
■22日目。
次の入院は一週間後。
大洗に帰る。
学園艦は明日の夕方出航とのこと。
■23日目。
久々に登校。
華さんと沙織さんが教室で仲良くしてるのを見ると、なんだかドキドキしてしまう……。
(沙織さんと華さんはこの数日間に何度キスをしたんだろう? どこで、したのかな……)
すごく興味があるけれど、本人達にそれを聞ける性格ではなかった。
//////////////放課後。
学校に大きなトレーラーが何台もやってきて、戦車を全て運んで行ってしまった。
物質・材料工学専攻事務室というところに運びこんで、精密に検査を行うそうな。
戦車の積み下ろしを行うために、学園艦はまだ出航せずにいたのだ。
全員で校庭にでて、戦車を見送る。
優香理さんは最後まで、去っていくトレーラーに手を振ってた。
がらんどうになった戦車倉庫がすごく寂しい。
自動車部の4人が、空っぽになった倉庫をじっと眺めてた。
----------------------------
スズキ「……。」
ナカジマ「……。」
ツチヤ「……あーあ……」
ホシノ「……。」
----------------------------
たたずむ四人の背中と、ツチヤさんがぽつりと漏らした寂しそうな呟きとが、みほの印象に強く残る。
-----------------------------
みほ(……あぁ、そっか……)
みほ(戦車達と、一番長く一緒にいたのは、私でも優香理さんでもない)
みほ(自動車部の皆さんなんだ)
みほ(本当にありがとうございます、皆さん……)
-----------------------------
ウサギさんちーむとアンコウチームで一緒に下校。
道すがら、
「あ! 戦車はつくばに運ばれるんでしょー? じゃあさ、次の検査入院の時さ、ついでに見に行けないかなー!」
桂利奈ちゃんが嬉しそうにそうに叫ぶと
「ずるいよ! 私も検査入院したいですぅー!」
と、優香理さんがすごくゴネた。
さすがに潜入は難しいかな。
夜・家でふと心細くなる。
→戦車がなくなったら、戦車道の隊長でなくなったら、いったい私はなんなんだろう?
気持ちがざわざわするので、エリカさんにメールをする。
→黒森峰も一昨日戦車が運び出されたらしい。
『隊長、辛そうだった』
■24日目
登校。
戦車もなくなってしまったし戦車道の履修時間、どうしよう……?
→戦車道倉庫にて『マタニティ・クラス』開設。
講師:杏、河嶋、柚子(よーするに生徒会)
生徒:戦車道履修者全員
おふざけかと思いきやすごくまじめで実践的な内容。
みほ、杏の勉強量とその質の高さに驚く。
みほ(会長はとても真剣に勉強してるんだ……)
*初級クラス、上手なおっぱいのあげ方!
-----------------------------------
杏「はーい、じゃあこの授乳人形ケンタ君を使って、実際におっぱいをあげる練習だー」
杏「ではまずー……ツチヤちゃん!」
ツチヤ「ええ私!?」
ホシノ「おー、がんばれ、ツチヤ」
杏「じゃ、まずはおっぱいを出してね」
ツチヤ「へ!? 皆の前でですか!?」
杏「だって授業だし」
ツチヤ「いやいやいや! 絶対嫌だよ!」
杏「でもねー、赤ちゃんがお腹をすかしてるのに、恥ずかしがってらんないよー?」
そど子「そう言えば……私のおばさんも、割と人前で普通に……もちろん、男性がいない場で、だけど」
ツチヤ「ほ、ホントに……?」
梓「でも確かにこれは大切な行為です、そう考えれば、全然恥ずかしいことなんかじゃ、ないのかも」
ツチヤ「えええええ……ほ、ホシノぉ……」
ホシノ「頑張れツチヤ! 素敵なお母さんになるんだろ!」
ツチヤ「うぅ……」
……ぺろん
桂利奈「わー」
あゆみ「おっぱいだぁ」
ツチヤ「い、言わないで……」
杏「じゃ、ケンタ君をこーやって抱いて」
ツチヤ「リアルな人形だなぁ……わ、ちゃんと体重も再現されてる……」
杏「上手く抱けたら、口の中に乳首をいれてね。」
ツチヤ「えと……こうかな……」
きゅぽ
ツチヤ「ん」
みほ(……わ……)
みほ(まるで本当におちちを上げてるみたい)
みほ(なんだかとっても、尊い……)
みほ(みんなも、ツチヤさんの姿に見とれてる)
沙織「なんか……いいね、こうやってみると……お母さんが赤ちゃんにおっぱいをあげてる姿って……私、泣いちゃいそう」
ツチヤ「そ、そう?」
(その時、天窓から差し込む日が、こもれびとなってツチヤにそそいだ)
カエサル「おー……」
エルヴィン「まるで聖母マリアのようだ……」
ツチヤ「え、ええー……? えへへ、照れるなぁ」
杏「んじゃ、スイッチをいれるよー」
ツチヤ「へ?」
かちっ
……ブィィィィィィィン──
ツチヤ「っ!?」
ツチヤ「ちょ!」
ツチヤ「痛っ!?」
ツチヤ「ああああ痛い痛い痛い乳首とれるぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」
ナカジマ「つ、ツチヤ!?」
ツチヤ「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛! はなしてぇぇぇぇ!」
みほ「か、会長!? 何ですかこれ!?」
杏「や、赤ちゃんに授乳をするときは、ホントにこれくらいの力で引っ張られるんだよ?」
そど子「うそぉ……」
ツチヤ「助けてほじのぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!!」
ホシノ「あははは」
みほ(じゅ、授乳ってこんなに大変なんだ……)
杏「じゃ次、西住ちゃんね」
みほ「ふぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
------------------------------------------------------------------
帰宅後、風呂に入るみほ。
左の乳輪がひりひり。
だけど、みんなで一緒に何かをやるのはやっぱり楽しい。
マタニティ・クラスなんてものを始めてくれた会長に心から感謝する。
■20日目~22日目 第二回入院検査
■23日目~24日目 幕間
結局だらだらと書いてしまっている自分にちょいと危機感。
次からはしょり気味になるかもしれません。
早よ〆るつもりで書き方かえさせてもらったのに、でないといつまでたっても終わらんですよ。
{
☆西住みほのマタニティclassめも☆
○妊娠1週目
せいしさんがらんしさんに出会うために頑張ってる→まだ妊娠してない!(それなのに一週目?)
○妊娠2週目
受精
○妊娠3週目
着床
○4週目
子宮の中に赤ちゃんのふくろ?ができる。生理が来なくなる。
(⇒私達がこの妊娠事件を知ったのが、この頃)
○5週目
体温が高いままになる→赤ちゃんを育てるために、お母さんの身体は一生懸命
○6週目
赤ちゃんの心拍が聞こえ始める頃(5週目~6週目)
○7週目
たいのう? たいが?
○8週目
赤ちゃんが、ちょっとずつお母さんと同じ姿に
○9週目
→→→ わたしたちは今ココ! ←←←
○12~15週目
お腹がおっきくなりはじめる
○~40週目
出産
}:
■25日目~28日目
「たった四日間だけど、いろいろな事がありました」
麻子さんとそど子さんが喧嘩。二日間、二人ともお互いに口を聞かず。
きっかけは些細なこと。
:そど子「あんた(麻子さん)に無理をしてまで早起きしてほしくない。遅刻の取り締まりについあうのはもう止めてほしい。貴方には貴方の良いところがあるんだから(勉強とか)そっちを頑張りなさい。」
:麻子「いやだ。私はそど子と一緒に頑張るって決めたんだ」
お互いに心配をしあっているだけなのに、二人とも変に意地を張ってしまった。
二人の事がとっても心配みほ。
とはいえ、もそもが互いへの思いからくるいケンカ。
沙織さんや会長が間にはいって、ちょちょいと絡み合た糸をほどけば、あっというまに仲直り。
むしろなんでケンカしてたんだろうって、二人ともほうけてる。
おりょうさんがつぶやいた→『夫婦喧嘩は犬も食わない』とはこの事ぜよ……。
麻子さんとそど子さん、ケンカの前よりもずっと仲良しになれたみたいです。
「継続高校のミカさんが、私達の学園艦にふらっと現れた事もありました。(ミカさんは妊娠してる!)」:麻子さんそど子さんのケンカと同時進行
そのミカさんを探して、アキさんとミッコさんがやってきたり……(アキさんが、ミカさんの赤ちゃんのパパでした!!)。
なんで心配ばかりさせるのよ!ってアキさんは泣いていました。ミカさんはひどいです。
だけどミカさんもちゃんと反省したみたいで、放浪趣味はしばらく我慢するよって、そう言って、三人で一緒に石川県へ帰って行きました
『この子は風にのって運ばれてきたのさ』
ミカさんのその言葉が忘れられない。ミカさんは、赤ちゃんのことをとっても歓迎しているみたい。
私はどうなんだろう?
この子のために頑張ろうって思ってる、でも、この妊娠自体を、私はどう思ってるんだろう。ミカさんや、それにローズヒップさんや華さんのように『私のお腹に受胎しにきてくれてありがとう』って、
そんな風に、私は思えてるのかな?
■29日目~31日目(第三回検査入院)
「皆であかちゃんのエコー写真を見せ合いっこしました!」
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みほ「わぁ~! みんな可愛い!」
ダージリン「うふふ、この子の写真が一番よく撮れていると思わない?」
みほ「はい! なんだかもう、うーぱーるーぱみたいですよね!」
ダージリン「……。」
ダージリン「ウーパールーパー?」
みほ「はい、このさきっぽとか! ちっちゃい手の平なのかなぁ……! わぁ~お腹の中でぱたぱたしてるのかなぁ、かわいいなぁ~……」
ダージリン「……。」
オレンジペコ「みほさんはとてもユニークな感性をもっていらっしゃるのですね。とっても、ええと、素敵?……です」
ダージリン「私くしとしたことが、この場にふさわしい格言が一つたりとも思いうかばなくてよ。おやりになりますわね、みほさん」
みほ「?」
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沙織さんや桂利奈ちゃんにも怪訝な顔をされたけど、愛里寿ちゃんだけは「わかる! うーぱー!」ってすごく共感してくれた。
写真で赤ちゃんの姿を間の辺りにしたときから、やっぱり、皆の気持ちがいっそう変化しはじめたように思いう。
私のお腹にこの子がいるんだって、ホントの意味で理解できたような気がする。
皆、自分の赤ちゃんんお写真をいつも持ち歩いているみたい。
暇なときは中庭の池のほとりで物思いにふけるのが、入院中の趣味
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みほ(私のパパが誰なのかは、結局まだわからないまま)
みほ(いつか、分かる日がくるのかなぁ)
みほ(誰なんだろうね)
みほ(貴方のお父さんは……)
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事件の調査は、あいにくなかなか進展していない。いくつかの仮説?は提示され始めているようだけれど、どれもまだまだ不完全。
『検証実験』が行えないのが解明を阻む大きな壁。
本格的な実験をするってことは、『誰かに妊娠のリスクを負わせる』ってこと。
出来る範囲の、害のない実験だけを繰り返して、なんとか手探りをしている。大人の人達、頑張ってる。
麻子さんは研究についての資料やこのセンターにある分厚い本にたくさんを目をとおして、いっぱい勉強してるみたい。そど子さんのためでもあるのかな?
---------------------------------
みほ「ノートをみせてもらったけど、書いてあることが難しくて私にはぜんぜん理解できませんでした。やっぱり、麻子さんってすごい……」
そど子「でしょ? 朝が弱かろうが、遅刻ばかりだろうが、そんな事どうだっていいのよ。冷泉さんは冷泉さんの才能を大切にすればいいんだから。そのほうがよほど人のためになるもの」
みほ(そど子さんは、なんだか「理解のあるお母さん」みたいな事を言うようになりました……仲直りしていらい、なんだか貫禄があります)
-----------------------------------
勉強をしてる麻子さんの隣で、勝手にくつろいでるそど子さん→入院中によく見かけた風景。
「研究室に運び込まれた戦車たちは、げんざい分解作業中らしいです。パーツをどんどん細かく分解していって、『いったいどの部品の重量(質量)が減少したのか』を、突き止めるそうです。気の遠くなるような作業……(この話を聞いた時、ツチヤさんとホシノさんが、天井を仰いで呻いてました)」
みほ(ちゃんと元通り組み立ててもらえるのかなぁ……)
「関東にいるわたしたちは、出産までの間、立川にある米軍横田基地へ移住させられるかもしれないそうです。妊娠の件を機密にするためだとか。
優花里さんなら喜ぶのかもしれないけど、私はちょっぴり不安です」
■32日目~35日目
学校に行く。
戦車道の時間を利用して、杏主催のマタニティ・クラス。
お母さんたち(妊娠組)、皆この授業を楽しんでる。
検査入院中のエコー写真もあいまって、それぞれが、より具体的な将来を意識しはじめていた。
これからお腹が大きくなって、生活はどんどん変化する、そしていずれは、赤ちゃんを産む……それらを不確実な未来の事としてとらえるのではなく、
差し迫った現実として。
不安におののく気持ちもあれば、あるいは希望を持とうと前向きになろうとする気持ちもある。
それをみんなで語り合い、共有する。
そのためのマタニティ・クラス。
仲間と一緒に力を合わせて前進できてる感。
ぼんやりとではあるけれど、未来にたいしとして明るい希望を感じ始めてる。
ダージリンさんの言葉を思い出す。
「あの頃は大変だったねって、皆で笑いあえる日がいつかきっと必ず来る」
たいへんだけど、みんなと一緒でなら頑張れる。
子育てもきっと大変だけど、それだって、力を合わせてやればいい。こうやって、共に学びながら。悩みを打ち明けあいながら。
みほ(そうあるためにこそ、会長は、みんなの輪をつくろうとしてるんですね)
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杏「──よーし、そいじゃっ、今日の授業は赤ちゃんのおち○ちんのとり扱い方についてだぁー!」
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自分と会長の出会い方はあまり良いものではなかったけれど、それでも今はとても会長を尊敬してる。
授業が終わって、皆が戦車道倉庫を出て行こうとする中で、
みほ「わたし、『この人が私の赤ちゃんのパパだったらいいなぁ』って、そう思う人が何人かいて……会長も、その一人です」
って伝えると、会長が、珍しくマジメに照れた。
杏「おおー、西住ちゃんに愛の告白をされちゃった……うぁー、まいるなぁ……」
みほ、ルミさんの口にした「愛」という言葉の意味が、少しだけ理解できたような気がした。
みほ(私は同性愛者じゃないけれど、こういう『愛』なら大歓迎です)
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杏「もー不意打ちはずるいよ。西住ちゃん」
みほ「楽しい授業をありがとうございますって、そう伝えたくて」
杏「ん……西住ちゃんがそういう風にいってくれると……ホント……どうしていいのか、わからなくなっちゃうよ」
みほ「? どうしてです?」
杏「まぁ、あんまりいい出会い方じゃなかったからね。西住ちゃんとは、さ」
みほ「え……」
杏「今更どの口が言うんだって話だけどねー、あはは」
みほ「……。」
杏「それにね」
杏「私が戦車道に引き込まなければ、皆が妊娠はしなかったんだろうなーって、そんなふうにも、私は思ってる」
杏「いつだったか、冷泉ちゃんに言われた言葉は、こたえたよ。こたえたし……それってやっぱり、事実なんだ」
杏「だから、こうやって私が頑張るのは、当たり前のことなのさっ」
杏「ありがとうだなんて……そんな言葉、私には受け取る資格ないんだよねぇ」
みほ「……。」
みほ(……エリカさんからみた私も、こんな風なのかな)
みほ(去年の黒森峰での事を忘れられない私)
みほ(今年の大洗での事を忘れられない会長)
みほ(同じなのかなぁ)
みほ(……)
みほ(大胆不敵で威風堂々……みんな、会長の事をそんな風に思ってる。)
みほ(だけど、本当は会長だって私達とおんなじ、普通の高校生なんだって──)
みほ(そう気づいたのは、いつのころ?)
みほ(だけど、それに気づいたからこそ、私は会長を本当に尊敬してるんです)
みほ「……。」
みほ「あの、会長」
杏「なぁに?」
みほ「今日の放課後、生徒会室へいってもいいですか?」
杏「ん? どして?」
みほ「会長の子宮を、マッサージさせてください」
杏「……ほぇ!?」
みほ「とっても気持ちいいんですよ、人にお腹をくるくる~ってしてもらうと」
杏「え、ええー……し、子宮を? マッサージ? えー……」
杏「あ、あーっと、ちょっと今日の放課後は、忙しいかなぁー、あははー……」
みほ「じゃあ今晩でいいです」
杏「へっ」
みほ「夜、会長のお家にいっていいですか?」
杏「……に、西住ちゃん、……からかってる?」
みほ「……。」
みほ「……ごめんなさい、ちょっとだけ」
杏「も、もー! 勘弁してよ西住ちゃーん! あ~びっくりしたなぁもぉ!」
みほ「でも、感謝してるのはホントです、ありがとうございます」
杏「わうー、かったわかった、素直に感謝を受け取るよ、はぁ~……ほいじゃっ、またからかわれないうちに、さっさと退散するよ~」
みほ「はい」
杏「ばいば~い」
みほ「……。」
みほ(もしも本当に会長が私の赤ちゃんのパパだったなら)
みほ(きっと私、すっごく嬉しかっただろうなぁ)
みほ(ローズヒップさんの気持ち、今ごろだけど、少しだけ理解できるようになりました)
みほ(『この人みたいに、私の赤ちゃんもなってほしい』って、そう願う気持ちが、これなんですね……)
みほ「会長……」
みほ「……。」
みほ(……あれ??)
みほ(なんだろう、会長の足に──)
みほ(糸?)
みほ(赤い糸が、垂れてる)
みほ「──?」
みほ(真っ赤な──毛糸のパンツを履いてる?)
みほ(その糸がほどけて)
みほ(それが垂れ落ちて?)
みほ(静電気で太ももにくっついて──)
みほ(なんだかまるで血が流れてるみたいに……)
みほ(……。)
みほ(……違う……)
みほ(糸じゃない)
みほ(……。)
みほ(……。)
みほ(……。)
みほ「血?」
みほ「か──」
みほ「会長!!!」
杏「? どしたのさ、大きな声だして」
みほ「会長、足……」
杏「? 足?」
みほ「……。」
──あ
──今、むこうで、河嶋先輩と小山先輩が、私の声に気付いてこちらを振り向いた──変なの、どうして私は、冷静にそんな事を気が付いてるんだろう──こんな時に──
杏「え」
杏「何これ」
──会長が、指先で太ももをさわった、赤い糸が……こすれて途切れた……指先が赤く……──
──あ、河嶋先輩と小山先輩がこっちへ向かって歩きはじめた。距離、5メートル、かな──
──あぁ、そんなこと、どうだって──
杏「……」
杏「だめ……」
──どうしよう、私、体が、動かない──
小山「会長? どうかしましたか?」
河嶋「西住?」
みほ「……」
ちがう、河嶋先輩──私じゃなくて──
みほ「会長が」
河嶋「ん?」
河嶋「会長? どうかしまし──」
河嶋「……え」
──二人の視線が、会長の太ももに──
会長も、まだ固まって──
小山「……!?」
あ。
小山先輩の
表情が歪んで、
小山先輩が
口に手を当てて、悲鳴を──
小山「か……!」
小山「かいち──」
杏「──小山っ」
小山「っ!?」
河嶋「!?」
みほ(!?)
杏「叫ぶな」
杏「叫んじゃ、だめだ」
小山「え……」
杏「叫んだら、他の皆が気がついちゃう」
杏「だから、だめだ」
みほ(……!)
小山「で、でも」
小山「血が」
小山「会長、血が……」
杏「小山っ、いいからっ」
杏「大丈夫……私の気はしっかりしてる」
杏「だから、よく聞いて」」
杏「大丈夫……私の気はしっかりしてる」
杏「だから、よく聞いて」
杏「深呼吸をして、それから河嶋と二人で──」
杏「救急車」
杏「救急車を呼んで。病院に直接電話だ。特事例A,サイレンはならさずに!」
小山「……は、はい……」
杏「二人で一緒に行くな。……一人にはなるな! 一緒にいろ!」
小山「っ……はいっ」
杏「よし、わかったら……行けっ! 河嶋も!」
小山「桃ちゃん行くよ!」
河嶋「え……」
小山「桃ちゃん!!」
河嶋「でも……だけど会長が、血が──」
小山「っ……しっかりして桃ちゃん! 会長を助けなきゃ!!」
みほ(か──)
みほ「河嶋先輩、早く!」
河嶋「……っ!!」
河嶋「っ、あぁ……ああああ!!」
だだだだだだだ!!!!
杏「……。」
みほ「……。」
杏「……西住ちゃん」
みほ「……会長」
杏「……どうしよ」
みほ(……。)
みほ「……わかりま、せん」
杏「……はは、だよねー」
みほ「……ごめんなさい」
杏「ま、救急車は二人が呼んでくれるし、そうだね、正門へ移動しとこっか?」
みほ「は、い」
みほ(……。)
みほ(会長)
みほ(会長はどうして)
みほ(そんなに平気そうに──)
杏「あー、やれやれまいったなぁ──」
ふらっ
杏「あぇ?」
みほ「──危ない!」
がしっ!
杏「っ……お、おー、危なかったぁ、西住ちゃんありがとう、抱きとめてくれて。ころんでお腹をうつところだった」
みほ「……。会長……」
杏「……あー」
杏「だめだ」
杏「歩けないや」
杏「足に力が……入らないや……」
杏「……うん」
杏「こりゃだめだ」
杏「あぁ情けない」
杏「はは、は」
みほ「会長……」
みほ(……会長の身体……震えてる……)
みほ(……っ)
みほ(落ち着け……落ち着け……!!!)
みほ「あの、ここで座って、待っちましょう、あんまり動かない方が」
杏「あぁ、そだね」
みほ「じゃあ、ゆっくり、腰をおとして……私にもたれかかってくれていいですから……」
杏「うぃ、あんがと……はー、あー、ふー」
みほ(……会長の呼吸、変だ……)
みほ(やっぱる、動転してるんだ)
杏「はー、ひー、あー……おぉー、やばい、身体が震えるわぁ……おー、ほほほ、なんか笑えてきたよ」
みほ「……っ」
ぎゅうううう
杏「あー、ありがと」
杏「いやぁ、おちつくね、ハグは良いね」
杏「はー、あぁー、うぅー、はぁー、あはは……」
杏「うん、落ち着いた落ち着いた」
杏「ふぅー、ふぅー、あー、ふぅー」
杏「あー、まいったね、あー、ははは」
杏「あ、痛、痛つつ……はーっ、はーっ……おー、これは、痛てぇー、」
みほ(会長……っ)
梓「──わ、隊長? 何してるんですか?」
エルヴィン「おーい、なんかいま生徒会の二人が血相変えて出て行ったが……」
みほ(……!)
梓「え……会長!? どうしたんですか? ひんけつですか!?」
エルヴィン「おっとっと、いかんな、えっと、水を持ってきたほうがいいかな」
みほ「ま、待って二人とも──」
桂利奈「なになに、どしたのー?」
エルヴィン「会長が気分悪いみたいだ」
そど子「え? なに?」
沙織「大丈夫? みぽりん」
典子「ありゃりゃ、立ちくらみかな?」
どやどやどや
みほ「あ、あの、皆さん待ってください」
みほ(だめ……! 今は静かにしてあげなきゃいけないのに)
みほ(会長)
杏「はーっ、はーっ、はーっ……」
みほ(……っ)
みほ(もうちゃんと周りを見れてない)
みほ(小山さんと、河嶋さんに指示を出すのが、精一杯だったんだ……!)
紗希「……。」
紗希「……!?」
あゆみ「? 紗希、どうしたの?」
紗希「血……」
優花里「ほぇ? ……!?」
優花里「会長、足に血が……!?」
ツチヤ「え……ちょっと、これ……」
スズキ「おい、……まずくないか!?」
みほ(だめ、だめ、このままじゃ、皆が!)
そど子「救急車! 救急車を呼ばないと!」
左衛門佐「あ、いや! それはもう生徒会の二人が!」
そど子「呼びにいったの!? 間違いない!?」
エルヴィン「え、えと、たぶん、そのはずだが──」
そど子「多分じゃだめよ!!」
みほ(──会長……!)
みほ「み──」
みほ「皆さん! 静かにしてください!」
『……!?』
みほ(あ)
みほ(私、無意識に首元に手を当ててた。戦車の上じゃ、ないのに──)
みほ(まぁ、何だっていい。今は、会長を──)
みほ「──みなさん状況を説明します、落ち着いて聞いてください。会長が、お腹から出血をしてます。原因はわかりません。」
みほ「救急車は河嶋先輩と小山先輩が呼びにいってくれています」
みほ「今、私達が騒いでも何にも意味はありません。会長のために、静かにしてあげたほうがいいと思います。」
みほ「各チーム、伝わりましたか?」
典子「……う、うん……」
そど子「え、ええ……」
梓「皆、静かにしよう……」
みほ(……。)
みほ(倉庫が、怖いくらいに静かになった)
杏「はっ……はっ……はっ……はっ……」
みほ(会長の小刻みな呼吸の音だけが、小さく響いてる──)
あゆみ「……かいちょぉ……」
梓「あの、隊長、何か私達にできることは……」
みほ「……」
みほ(そんなの、私にもわからないよ……)
みほ(でも)
みほ(そんな風にいっても、皆を不安にさせるだけ)
みほ(……っ)
みほ「か、考えてあげてくださいっ」
梓「……え?」
みほ「落ち着いて、考えてあげてください。自分が今、会長に何をしてあげられるのか、って」
みほ「私はこうして、会長を抱いていますから」
そど子「……。」
そど子「……血。血を拭いてあげたほうがいいかしら……」
麻子「あ……そうか。そうだな」
そど子「ほ、保健室から、ガーゼを取ってくる!」
麻子「私も行く」
たたたたた!
ナカジマ「なぁ、門の前で、救急車を待ってようか、早くここまで案内できるように」
スズキ「そうだな、そうしよう……、みんな、私達は救急隊員をここまで誘導してくる」
梓「お願いします!」
エルヴィン「水……やはり水をもってこよう」
あけび「あ、ポカリのほうがいいかも……私、鞄にはいってるからもってくる……!」
エルヴィン「すまん、たのんだ!」
優花里「えと……きっと、担架で会長を運びますよね? だったら、倉庫正面の鉄扉を開けておいた方が」
沙織「そっか、そうだね!」
華「行きましょう!」
紗希「……。」
紗希「かいちょ……。」
みほ「紗希ちゃん、会長の手、握ってあげてくれる……?」
紗希「……。」コクン
ぎゅっ
杏「あ……?」
杏「……あぁ、紗希ちゃんかぁ……」
杏「……にひひ」
杏「……あんがとね」
紗希「……っ。」
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■36日目
角谷杏、学園艦内の病院で不全流産を確認。
手術を受け子宮内の残留胎児を取り出す。
みほ、生徒を代表して会長を見舞う。(小山と河嶋は、すで昨日から会長に付いている)
病院のベッドに横たわる杏の姿にショックを受ける。
杏、気丈にふるまう。
河嶋、今だ目がはれている。
小山、表情は沈んでいる
杏の笑顔だけが、異質。
「まー、こればっかりはしかたがないよ、起こり得ることなんだ」
「で、さ。西住ちゃんにお願いしたいんだけどさぁ、マタニティ・クラスの講師役、引き継いでくれないかなぁ」
みほ「私なんかに会長の代わりは務まらない」と固辞する。
けれど、これは西住ちゃんにしか託せない、西住ちゃんは隊長なんだから、と押し切られる。
「ごめんね、結局いつも、わたしは西住ちゃんに頼ってばかりだ」
------------------------------------------------------------
病室:ベッドの上で体をおこしている杏。右側にみほ、左側に小山と河嶋
杏「西住ちゃんにもらってほしいものがあるんだ」
杏「出産や子育て関係の本、いっぱい買ったんだよ。西住ちゃんにあげるから、授業に役立ててほしい」
杏「それと、私が書いたノート。こいつで3冊めだ。いつも鞄にいれて持ち歩いてんたんだけど……」
杏「これも含めて、全部受け取ってくれないかな。 私が持っていても、もうしかたがないし……」
杏「しばらくは、妊娠の予定もないしね、あはは」
みほ「……。」
:杏、窓の方に顔を向ける。みほの座る角度からは杏の顔が見えなくなる。窓の外は、気持ちの良い晴れ空。
杏「……見せてあげたかったな……」
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■37日目
戦車道倉庫にて、皆に杏の流産を報告。
命に別状はないけれど、会長はしばらく入院をする。
生徒会業務は小山が行い、河嶋は会長の元にいる。
戦車倉庫の空気が重い。
みほ、自分がマタニティ・クラスの講師を引き継ぐと伝える。
明日からはまた授業をやる。
明るい反応は帰ってこない。
みんな、俯いている。
会長の代わりに、自分がみんなを繋がなければいけない。
それは分かっている。わかっているけれど、虚しい。
どうしても気持ちが落ち込む。
会長はいったい何のために、妊娠から今日まで、頑張ってきたんだろう?
■38日目
マンションに大量の本が届く。段ボール1箱分。小山先輩からだった。
全部、出産や育児に関する本。それに、杏の書いた大学ノートも3冊。
会長が譲りたいと言っていた本たちだ。
ノートはびっしりまとめで埋ってる。
ものすごい勉強量だ。
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みほ「この、一番新しいノートの一ページ目……日付は、1週間くらい前かな」
『どうだ!
母はお前のためにこんなにも一生懸命に勉強をしたのだぞ!? 感謝しろ!
ところで、このノートの最後のページは、お前のためにとってある!
いいか、感謝の気持ちを良く考えて丁寧に書き込み、それから私に提出をすること!
いつかお前に娘だか息子だがができたら、その時は一緒にこれを見せてやろうじゃないか!
母より 』
みほ「……。」
みほ(会長は、誰よりも未来のことを考えてた)
みほ(漠然とした未来じゃなくて、いつか必ずおとずれる本当の明日を)
みほ(……すごすぎます……)
みほ(やっぱり、私なんかにはとても……)
ぺら、ぺら、ぺら、ぺら……
みほ(ノートは途中で終わってる。最後のメモは……3日前の日付)
みほ「……あ」
『 続きは頼んだぞ! 西住ちゃん! 』
みほ「ふふ、会長……」
みほ「……。」
みほ(……頑張らなきゃ)
みほ(……頑張らなきゃ)
みほ(そう、思っているはずなんです……)
みほ(だけど、どうしても、力が湧いてこないんです……会長……)
ぱらぱらぱらぱら……
ぱらぱらぱらぱら……
みほ「……?」
みほ「ノートの最後のページだけ、すごくたわんでる……?」
みほ(このページは、赤ちゃんにとっておいてあげるはずのページ……)
みほ(……ん、一番下に何か書いてあ──)
『
ごめんね
』
みほ(……私宛、じゃないよね)
みほ(……)
みほ(河嶋先輩へ、かな)
みほ(……。)
みほ(……。)
みほ(……。)
みほ(違う)
みほ(違う……!)
みほ(違う違う違う違う……!!!!!)
みほ「……っ」
みほ「……あぁ、ああ……ああああぁっ……」
みほ「かい、ちょお……」
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会長が、赤子を抱いて笑っている。どこかの野原の、ありもしない花畑の中で。
目覚めた後、さめざめと泣いた。
ずっと、夢を見ていられたらいいのに。
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■39日目
朝、地震と地響きで目が覚めた。それに家も傾いているような。
---------------------------------------------------
みほ「地震って……ううん、そんなわけない。ここ、船の上なのに……!?」
---------------------------------------------------
ベランダにでてみるけれど、何が起こっているのかはまだ良くわからない。
学校へ行く。
みんなも地震には気が付いているけれど、何が起こっているのかは分かっていない。
さておき、放課後、気分転換に街へ行こうと沙織や華に誘われる。
気のりしないけれど、二人の気遣いは無下にできない。
あんこうチームで街を巡った後、話の流れで艦橋の展望台へ。
その展望台から町を眺めて、5人は初めて今朝の地震の原因を理解した。
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沙織「が、が、学園艦がもう一隻、隣にくっついてる!?」
華「今朝の揺れと音は、その音だったのですか……?」
麻子「ででででかい船だな」(←高いとこ怖い)
優花里「あれって……プラウダ高校の学園艦ですよ!」
みほ「……カチューシャさん……!?」
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直後、艦外放送が鳴り響く。
------------------------------------------------------
ぴんぽんぱんぽ~ん↑
『こら~!!ミホーシャ一体どこにいるのよ!!!』
みほ「!?」
『カチューシャの命令よ! いますぐ学校にもどってきなさーい!』
麻子「相変わらず元気なお子様だな」
優花里「なんという近所迷惑……」
みほ(だけど、カチューシャさんはいま大変なんだって、以前ダージリンさんが言ってたはず……)
『カチューシャ様そったら大声で叫んだらここさ艦のかたがたに迷惑だべ』
『そもそもカチューシャ、みほさんの携帯に連絡をとればよいのでは?』
『っぐ……ミホーシャの番号知らないのよっ……』
『連盟に事情を離してみほさんのお母様と連絡をとり──』
『あーもー! うるっさいわねチマチマしたのは私の性にあわないのよっ!!』
『そったらこといっても学園艦で体当たりするのはさーすがにやりすぎだじゃー……』
『体当たりじゃないわよ! せ・つ・げ・ん!!』
ぴんぽんぱんぽ~ん↓
沙織「……えっと、とりあえず、学校に行く……?」
みほ「う、うん……」
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学校にいくとカチューシャ達4人が大洗の面々と一緒にみほ達を待ってた。
→カチューシャ、ノンナ、アリーナ、ニーナ
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みほ「か、カチューシャさんどうして……(ここにいるんですかandそんなに元気なんですか)」
カチューシャ「……杏の見舞いにきてやったのよ」
みほ「……!」
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カチューシャさん、元気ないんじゃなかったんですか?
→たしかにその通り。当たり前に子供を産むのは難しいといわれて、女性を否定された気分にもなった。自分の子供さえちゃんと産んであげられないなんて、私っていったい何なんだろう。何様なんだろう。
→一時期はだいぶん落ち込んで、ノンナもすごく気を病んでた。
→それを救ってくれたのは、ほかならぬニーナ。落ち込むカチューシャを何とか元気づけてあげようと、八甲田に住む祖母の元へとカチューシャを連れて行った。
でもどうして祖母のところへ?
→ニーナの祖母の身長はカチューシャよりも更に小さい。だけどそんな祖母は8人の子供の母親! 『うっとこのおばーしゃんならカチューシャ様をうまくはげましてくれるはずだべー!!』→その目論見大成功!!!
なんやかんやでカチューシャ元気を取り戻す→ノンナはニーナに大感謝→プラウダ高校におけるニーナの発言力、地位がともにぐっと高まった。ちなみにニーナも妊娠中、パパはアリーナ。
杏も病院から外出をしてきていた。
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杏「西住ちゃん、授業……あんまり上手くいってないんだってね」
みほ「……。」
みほ「……はい……すみません……」
杏「……」
杏「……ありがとうっ」
みほ「え?」
杏「私や、あの子のために、そうやって落ち込んでくれてさ……すごく嬉しい。ごめんね、私、とてもひどい事をいってるよね……だけど本当に、ありがとう……」
みほ「……っ、かいちょお……!」
-------------------------------------------
夜、カチューシャの提案で水子供養を執り行う。
---------------------------------------------------------
カチューシャ「お葬式っていうのはね、生きてる人達のためでも、あるんだから」
カチューシャ「昔の人達は、今よりももっと流産や死産なんて当たり前……その辛さから立ち直る手めに、こうやってみんなで手を合わせるのよ」
ノンナ「カチューシャ……立派になりましたね……」
カチューシャ「へへん! ……ま、ニーナのおばあ様の受け売りだけどね。さ、ちゃんと分かれを言いなさい。……誰にも邪魔はさせないから」
杏「ありがとね、カチューシャ」
杏「……。」
会長は、それから一言も口を開かず、目をつむって、ずっとずっと、海のかなたにむかっててを合わせていました。
その隣で、私も一緒に。そのまた隣では、他に皆さんも、一緒に……。
----------------------------------------------------------
■25日~28日
・麻子さんとそど子さんのケンカ
・継続高校の皆さん
■29日~31日
・第三回検査入院
・うーぱーるーぱ
■32日~35日
・角谷杏のマタニティ・クラス
・杏の出血
■36日
・杏の流産
■37日
・無気力みほ
■38日
・会長のノート
■39日
・カチューシャとお葬式
759 : KASA - 2017/02/17 18:53:07.09 YsD6VBpPO 357/537杏「河嶋ごめん……赤ちゃん、いなくなっちゃった……」
っていうセリフを杏に言わせたかったけど結局上手く組み立てる時間がありませんでした、ちきしょうめ。
■40日目
お葬式が一つのケジメになって、ちょっとづつ気持ちが上向いてくる。
けれどもみほは河嶋先輩の事が少し心配。
お昼休みの時間、沙織さん達と一緒に食堂へ向かう途中で、偶然に河嶋先輩を見かけた。
中庭のベンチで一人、気の抜けた座り方をして何をするでもなくただ顔を前方に向けてる。その視線を追っても特別なものは何もない。
心配ではあるけれど、今はそっとしておいたほうがいいのかな。
お昼休みが終わるころにもう一度中庭の前を通ると、河嶋先輩はまだそこにいた。
みほ(もしかして、お昼休み中ずっとああして……。)
張り付いて監視していたわけじゃないけれど、そう思えてならない。
予鈴がなると、河嶋先輩はベンチからフラッと立ち上がり、頼りなげな足どりで、校舎へと入っていった。
みほ(……。)
さておき、マタニティ・クラスの先生役に努める。
カチューシャ達も、日まではここにいるとのことなので、ついでに参加してもらう。
まだまだ会長のようには上手くやれないけれど、それでも頑張る。頑張りたい。
一方で河嶋先輩のことがやはり気にる。
マタニティ・クラスに河嶋先輩は参加していない。参加しろだなんて、言えるはずがない。
みほ(会長がいてくれたら……。だけど会長だって今は辛い思いをしてる。頼ってばかりじゃダメだ……)
杏の退院はまだ数日先。(通常の妊娠とは異なるため、時間かけて経過を詳しく観察)
夜。
一人で家にいるといろいろ考えてしまう。
姉やエリカさんの事も気になる。
もしも二人まで流産をするような事になってしまったら……。
嫌な想像をしてしまって腹の底が凍てつく。
母の声が聴きたくなる。
--------------------------------------
しほ『──みほ、体調はどう?』
みほ「うん、私は大丈夫」
しほ『そう』
しほ『……ところで』
しほ『角谷さんの事は残念だった』
みほ(……!)
みほ「お母さん、知ってたんだ……」
しほ『理事会から連絡があったわ。情報共有は密に行われているから』
みほ「あぁ……」
みほ「あの、お母さん。お姉ちゃんとエリカさんは……大丈夫?」
しほ『ええ、二人とも元気よ。母子共々』
みほ「よかった」
しほ『……それを確認したくて、電話を?』
みほ「うん。だけどお姉ちゃんやエリカさんには、あんまりこんな話はしたくないし……」
みほ(それに……お母さんの声も聴きたかった……)
しほ『みほ、聞きなさい。二人に何かが会った時は、すぐに貴方へも連絡をする。だからあまり余計な心配をしないように』
みほ「うん。ありがとう、お母さん」
しほ『時間をみつけてまた熊本へ帰ってらっしゃい。まほとエリカ、も貴方に会いたがっているわ』
みほ「うん……うん」
--------------------------------------
何でもない会話だったけれど、母の声を聞けて少しだけ不安が和らいだ。
■41日目
朝。
プラウダ高校の学園艦が青森へ帰る。
カチューシャとの別れ際、寂しくなって思わず抱き着く。
怒られるかと思ったけれど、カチューシャさんは何も言わずに背中を撫でてくれた。
去っていくカチューシャさんの背中に、会長の背中が重なる。
カチューシャさんは今、ノンナさんに担がれることなく自分の両足で前へ前へと歩いていく。
小さな背丈は小さいままで、だけどその後ろ姿は誰よりも頼もしい。
----------------------------------------------
:カチューシャ、背中ごしに叫ぶ。
カチューシャ「ミホーシャ元気な子を産みなさい! ミホーシャの子供なら──」
カチューシャ「エカテリーナの従者にしてあげるわっ」
みほ「? エカテリーナ……?」
:カチューシャ、チラリとみほを振り返り、にやりと良い笑顔を見せる。そして、自分のお腹をぽんっ!と一叩き。
カチューシャ「男の娘ならユーリねっ」
みほ「! あぁ……!」
カチューシャ「ふふふ、じゃ~ね~、ピロシキ~」
:カチューシャ、今度こそ去っていく。仲間達と一緒に、その先頭をのっしのっしと。
みほ(ありがとうございます、カチューシャさん。)
みほ(カチューシャさんの元気を、少しだけ分けてもらえた気がします)
------------------------------------------
昼休み。
河嶋先輩を見かける。また中庭のベンチに腰掛けて、老人のようにただ空を見つめている。
声をかけたい。
けれどどうしてもためらってしまう。いったい自分に何がいえるのだろう?
この悲劇にたいして、自分は本当の意味での当事者ではない。
だけど、とうとう思い切って声をかけた。せっかく分けてもらった元気を無駄にはできない。
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みほ「河嶋先輩っ」
河嶋「西住。どうした」
みほ「あの、よかったらお昼を一緒に食べませんか」
河嶋「……。」
河嶋「すまないが、私は遠慮する」
河嶋「あんこうチームの連中に声をかけるといい」
みほ「……そうですか……」
みほ「……。」
みほ(……もう少し)
みほ(もう少しだけでいい、私も積極的に)
みほ「……ご飯、食べないんですか」
河嶋「……。」
みほ「河嶋先輩、昨日のお昼休みもずっとここに座ってました」
河嶋「……。」
みほ「心配……してもいいですか……」
河嶋「……。」
河嶋「西住」
みほ「はい」
河嶋「マタニティ・クラス、頑張ってくれているそうだな。感謝する」
みほ「え……」
河嶋「これからも頼む。だから……私の事などは気にしなくていいんだ」
みほ「……。」
みほ「……っ」
みほ「お願いです、心配……させてください」
河嶋「……。」
河嶋「生意気だ」
河嶋「後輩のくせに……」
みほ「すみません」
河嶋「……。」
河嶋「……情けないと思ってる」
みほ「?」
河嶋「こんな時こそ、会長の代わりに私が頑張らないといけない」
河嶋「なのに……情けない」
みほ「……。」
河嶋「……西住、聞いてくれるか」
みほ「はい」
河嶋「私はあまり、賢くはない」
みほ「え」
河嶋「だけどそれでも、バカなりにいろいろ一生懸命に考えてたんだ」
河嶋「この先のことを、……三人の将来の事を」
みほ「……河嶋先輩……」
河嶋「だが、そんなこと考えてももう意味が無い」
河嶋「そう思うと……」
河嶋「なんだか……急に気が抜けてしまってな……」
河嶋「どうしても頭が動かないんだ」
みほ「……。」
みほ(ショックが強すぎたんだ……河嶋先輩にとって……)
河嶋「申し訳ないと思う。お前達が頑張っているというのに、だというのに私は」
河嶋「……まったく、情けない……」
河嶋「なぁ西住。時間が経てば、この気持ち変わるのだろうか……?」
みほ「……。」
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みほ、購買でパンを買い、それをもって河嶋のもとへ戻る。
怪訝な顔の先輩に無言で差し出す。
河嶋、しばらくためらったあと、しかたなしにパンを受け取る。
ベンチに並んで座って、無言で一緒に食べる。かける言葉がみつからないのだから、そうする事しかできなかった。
■42日目~44日目
河嶋先輩の事が心配だけど、マタニティ・クラスにも励まなきゃ。
夜更かしは母体に悪いとおもいつつも、会長からもらった本やノートを使い、夜遅くまで授業の準備を行う。
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みほ(勉強って、こんなに楽しかったんだ)
みほ(大切な知識が少しづつ少しづつ私の中に積み上げられていく)
みほ(もっともっと、出産や子育ての事をたくさん勉強したい)
みほ(赤ちゃんのためにも、皆のためにも)
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授業にも熱が入り始める。
いろんな事をはやく皆に伝えたい。そのためにも、もっともっとたくさん勉強をしたい!
力が湧いてくる!
──けれども、河嶋先輩に向けての言葉はなかなか見つけられない。
かといって、一人にはしておけない。
だから、42日目は小山先輩やアンコウのみんなと一緒に。
43日目は学校がお休みだったが、
44日目にはまたウサギさんチームと一緒に。
お昼休みのたびに河嶋先輩を囲み、無言のままで静かに食事をとった。
■45日目
今日も今日とて無言飯。
今日は歴女チームの皆さんが一緒に来てくれた。
食堂でパンやおにぎりを買い込んで、ぞろぞろと中庭へ向かう。
河嶋先輩は、今日も変わらずそのベンチに腰掛けている。ベンチは他にもあるのに、私達がくると分かっているはずなのに、それでも河嶋先輩はそこにいるのだ。
みんなでベンチを囲む。
河嶋先輩が、私達のほうを見て言った。
「お前達はローテーションを組んでいるのか」
そして、少し呆れた風にだけど笑ってくれた。
弱々しい笑顔ではあるけれど、この数日間で初めての笑顔だった。
予鈴が鳴った後。
立ち上がった河嶋先輩が、
「……すまない、ありがとう……」
ポツリと、そう呟いた。
明日、会長が退院する。
■46日目
予定では今日の夕方、会長を迎えに行くために、生徒会と紗希ちゃんとみほとで病院へ向かう。
迷惑にならないようなるべく少人数で病院を訪れるつもりだったが、紗希ちゃんだけは、どうしても自分も行くと言って譲らなかった。
だが……会長は、それよりもずっと早い時間に一人で戻ってきてしまった。丁度お昼休みの時間帯のこと。
この日はバレーボールの面々と連れ立って河嶋先輩を囲む。
例のごとく皆でまた静かにご飯をぱくつく。
会長が現れたのはこの時。
おもむろに、何気なく、当たり前のようにいつもの制服姿でベンチの前を通りすがった。
その場にいた全員の眼が点になる。
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みほ「か、会長!?!!??」
杏「ただいまー。いま戻ったよん。」
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桃ちゃん絶句。
杏「体はとっくに元気になってるわけだからさぁ、もー退屈で退屈で」
夕方まで待ってらんないや、と、一人でさっさと退院してきたそうな。
(通常、流産で入院するケースはあまり多くない。何か他に問題が無い限り)
皆も絶句。会長らしいといえば会長らしいけど。
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杏「私さ、流産についてのレクチャーをみんなにやろうと思うんだ」
みほ「……!?」
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流産は誰にでも起こり得る悲しいできごと。
だからこそ流産について真正面から向き合い、正しい知識を。
前もって考えておくことで、いざこの悲劇に直面したときに心が負けてしまわないように。それが今の私にできること。
誰もが、会長の前向きな姿勢に驚く。
それと同時に、みほは慌てる。
河嶋先輩と会長との気持ちの間に、あまりに温度差がありすぎるのでは?
河嶋先輩は今せつじつに慰めを必要としているのに、それをしてあげられる唯一の会長が、さっさと次の事を考えてしまっている。
みほ(そんなの、河嶋先輩が……可哀想だ……)
数日間モモちゃんの近くにいたみほの感情は、そういうふうに動いてしまった。
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みほ「あの、会長」
杏「ん?」
みほ「私がやります、流産のレクチャーは私がやります。いっぱい勉強します」
みほ「だから今はまだ、河嶋先輩と一緒にいてあげてください。河嶋先輩は、まだ……」
河嶋「西住……」
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けれどもそれはみほの早とちり。
会長は、「自分一人ではこれはできない」「かーしまが一緒に手伝ってくれないと無理」
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河嶋「だけど、私には無理です、そんな事できません」
杏「かーしま、悲しいのは分かる。だけど、失ってしまったものだけをいつまでも見つめるてるな。でないと、失わずにすんだものまで、失うことになる。今目の前にあるものを、大切しなきゃだめだ」
河嶋「わ──私にはそんな風には考えられません!」
杏「……!」
河嶋「私は会長のように強くはありません……会長のお考えには、ついていけません……」
杏「……。」
杏「……そうか」
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みほ、歴女メンバー、ぎょっとする。
みほあそど子と麻子のケンカを思い出す。
どうして二人がケンカをしなきゃいけないの?
会長は必死に前を向こうとして頑張っているだけ、河嶋はもう少し待ってほしいだけ、二人とも根っこにある気持ちはおなじはず。
二人が仲たがいをしてしまう事になんて絶対になってほしくない。
あわてて、二人の間に入ろうとするが……
結局、それもまたまた取り越し苦労だった。
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杏「……待つ」
河嶋「え……?」
:杏、河嶋のとなりにどすんと座る。
杏「言ったろ。私一人じゃ無理だってさ。かーしまが一緒にいてくれないと……私一人じゃとても耐えられないよ……」
河嶋「……会長……」
杏「だから、待つ。ね……はやく一緒に元気になろうよ、かーしま」
杏「でないと、あの子が余計な心配をしてしまって、天国にいきそびれちゃうよ……」
河嶋「……っ」
杏「はー……ねぇ、私にもパンをちょーだい」
カエサル「え」
杏「いやー、病院食は味が薄くてかなわないよ~。シャバの飯がこいしくてこいしくてさ~」
カエサル「お、おう……」
杏「ありがと。はぐ……ひー! うんまーい!」
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なんにも解決はしてない。
桃ちゃんはまだまだ落ち込んでるし、会長も本当にはまだまだ立ち直れていない。
けれど、会長がいるだけで何となく「あぁこれでもう大丈夫だな」っていう雰囲気になってしまう。
やっぱり会長にはかなわない。
悔しいけど、ちっとも悔しくないみほ。
小山先輩と紗希ちゃんが廊下で会長とすれ違ってたまげる。
■47日目~50日目
会長、河嶋、小山、、毎日一緒にお昼を食べてる。
中庭の同じベンチで、三人一緒に。
『生徒会の三人、今日も一緒にご飯してるね』
異口同音に、皆が言う。
その声には笑みが戻りつつある。
みほのマタニティ・クラスも少しづつ上手くいくようになった。
未来に希望を感じていられた、最後の日々。
■40日目~46日目
頑張れモモちゃん編
■47日目~50日目
不穏なモノローグ編
■51日目
「紗希ちゃんとツチヤさんとが倒れる」
お昼休み、みほが中庭で生徒会メンバーと一緒に静かに食事をしていると、あゆみちゃんが泣きながら駆けてくる。
何事かとベンチ立ち上がるみほの隣で、会長が『やめて』とかすれた声で呟いた。
みほ、会長の言葉の意味をあゆみちゃんの泣き顔の中に見出し、背筋が凍る。
紗希ちゃんの出血を知らされる。
みほ、背中の冷えが全身に広がる。
会長に目をむける。
会長は顔をこわばらせ。その額に脂汗が光る。会長はやっぱりまだ立ち直れてなどいない。
みほ気持ちが深い深い水の底に沈んでいく。そこは暗くて冷たくて苦しくて、あらゆる苦痛に満ち満ちてる。
平衡感覚がぶれて倒れそう。
揺れる視界。けれどふいに、母の像が浮かんだ。直立不動でたっている。鋭い眼差しで、自分を見つめている。
みほ(……。)
少しだけ心の乱れが収まる。
救急車は?→梓が呼んでくれた。
紗希ちゃんは今?→皆で保健室へ運んだ。
『情報共有を密に──』
という母の声が、脳裏にあったような気がする。
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みほ「小山先輩、戦車道チームの全員を倉庫に集めておいてください」
小山「え……でも……」
みほ「救急搬送が終わったら、皆にこの事を伝えます。伝えた方が、いいと思います。」
小山「(会長に視線で問いかける、が、会長は俯いて固まってしまっている)……っ、わかった!」
みほ「非常呼集、お願いします」
小山「うん!」
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会長が気を立て直す。
二人で、手を取り合い、気合を分け合う。しかし会長の手には汗がにじんでる。会長に頼りっぱなしではいけない。
ただ、河嶋先輩もがおずおずと手を重ねてくれた。そのおかげだろうか、会長の瞳の力強さが少しだけ増した。
小山先輩の、悲鳴を押し殺したようなくぐもった声が校舎に響く。
倉庫に集合をする過程でツチヤさんの出血を知らされる。
みほ、息が止まりそうになる。
その後、そど子さんと華さんの無事な姿を確認すると、力がぬけて一瞬気が遠くなった。
救急車二台は音もなく学校へやってきた。
他の生徒にほとんどが気付づかれぬまま、静かに二人を連れて行く。サイレンをならさぬ救急車が異様。学校からはなれて、ようやくサイレンを鳴らし始めたようだ
紗希には梓と桂利奈が、ツチヤにはホシノが、それぞれ付き添う。
全員が、戦車倉庫に集められた。
二人の出血を知らされ、誰もが狼狽え混乱している。
みほ、抑えようとしているのに膝が震える。
会長→危機管理マニュアルにのっとり連盟その他に連絡中。
状況を母に伝えておこうか、ふとそう思いつく。
思いついた次の瞬間、もう、携帯に手が伸びていた。
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しほ『──わかりました。貴方たちも入院なさい。今日から、直ちに』
みほ「……!」
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母の判断は自分なんかよりもはるかに迅速で、かつ徹底的。
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しほ『学園艦の中央病院へはこちらで連絡をいれておく。学校へ迎えを寄こさせるから、貴方たちは門の前で待機していなさい』
しほ『それと学校に残るメンバーは──……あぁ、いえ……それではだめね、みほ、全員を病院へ連れて行きなさい』
みほ「全員って、戦車道チームの全員?」
しほ『そうよ。全チームで一緒に病院へ移動しなさい。少なくとも二人の容態がはっきりするまで、会議室か何かで全員一緒に待機させていたほうがいい。下手にメンバーがバラバラになると無用に混乱してしまう』
みほ「わかりました、……お母さんありがとう!」
しほ『みほ、聞きなさい。まほもエリカも変わりない。だからしっかり落ち着いて行動しなさい、いいわね』
みほ「はい……はい!」
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おなじころ、会長もまた連盟の担当から同等の指示を受けていた。
:午前1時頃
救急車で先発→紗希・桂利奈・梓、ツチヤ・ホシノ
追って、マイクロバスで全員病院へ
病院到着後、みほ、華、そど子はそのまま入院手続き→同じ病室へ入院
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そど子「……私達だけになっちゃったのね……」
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そど子さんの言葉がかなしい。
麻子と沙織と優花里、それに会長とモモちゃんが入院室に顔を出してくれた。
他のメンバーは小山先輩を先頭に会議室を借りて待機。
:午後3時
会議室にて、担当医達から説明を受ける。
ツチヤさんと紗希ちゃんの赤ちゃんは死んでいた。
流産。
ツチヤさんの赤ちゃんは自然に外へと流れ出た。
紗希ちゃんは子宮内に赤ちゃんがとどまってしまうタイプの流産で、緊急手術をしなければならなかった。
梓→表情を失い、泣きつかれた目にはもう涙もなく、俯きがちにただ机を凝視している。
そど子、華→顔が青い。
会長→担当医から渡されたレジュメを無表情に読んでいる。
みほ→怒りを感じてる。何に腹が立っているのかは自分でも良く分からない。
ツチヤと紗希の両親も駆けつけて、今は病室で付き添っている。
妊娠者→即日入院。
それ以外の者、いったん帰宅。希望者はカウンセリングを受ける。
病室1:みほ・そど子・華
病室2:ツチヤ
病室3:紗希
自主的な付き添いとして、会長、河嶋、ホシノ、桂利奈、麻子、沙織、が自主的に各病室に泊る。
:夜
流産を経験した6人はこの日おなじ部屋で一晩をすごした。
(ツチヤ、ホシノ、さき、かりな、河嶋、杏)
そこで6人がどんな会話をしたのか、みほはそれ知らないし、聞くつもりもない。聞けない。
■52日目
二人のあかちゃんの遺体はつくばのラボへ移された。
私達にはその処置を拒めない。
調査への全面的な協力は私達の義務。
ここにきて初めてそれを実感させられた。
麻子さんと沙織さんは学校を休んでくれた。朝からずっと病室にいる。
5人とも、口数は少ない。
皆、話すときはなるべく明るい声をだそうとするのだが、それでもやはり、どうしても会話が途切れがち。
開けておいた窓の外、遠くの青空で始業のベルが鳴っている。
それはどこか間が抜けた音で、自分にはまったく関係のないものに聞こえた。
---------------------------------------------------
そど子「あーあ、授業、始まっちゃった」
華「いまごろ教室にいらっしゃるのですね、皆さんは……」
みほ(……昨日まで、私もそこにいたのにな……)
何度訪れても、病室ってどこか異世界みたい。
---------------------------------------------------
ツチヤさん、さきちゃん、二人の事が気になる。
沙織さんと麻子さんが、様子を見に行くことにした。
けれど5分ほどもしないうちに、麻子さんは戻ってきた。
---------------------------------------------------
そど子「随分はやいわね。もしかして二人にはまだ会えなかった?」
麻子「いや、会えた。沙織はいま談話室で二人と一緒にいる」
華「? どうして麻子さんだけ戻っていらしたのですか……?」
麻子「うん……皆を呼びに来たんだんだ」
みほ「私達を?」
麻子「ツチヤさんと紗希ちゃんが、三人にも会いたいと言ってる」
そど子「……!」
華「ですが、いいのでしょうか……妊娠している私達が、お二人に会っても。辛い思いをさせてしまうのでは……」
麻子「いや、ツチヤさんと紗希ちゃんは……流産をしてしまった自分達に会うのは、むしろ妊娠している三人にとって迷惑だろうか、と気にしている」
みほ「……! そんな事ありません! お二人に会って、顔を見たいです!」
華「もちろん、みほさんの言う通りです」
麻子「なら、一緒に来てくれるか」
そど子「当たり前じゃない」
---------------------------------------------------
とはいえ、実のところ流産をしてしまった二人に私達はなんて声をかけてあげたらいいんだろう。
二人の病室へ向かう途中、三人とも思いあぐねる。
答えは見つからない。
そしてそれはツチヤさんや紗希ちゃんも一緒。
それでもなお、会いたかった。その気持ちが一番強い。
病室で会話。
ツチヤ→流産は悲しい。だけど、これで今回の騒動から降りられたそのことを少し安心してもいる。
その気持ちは理解できる、とその場にいた誰もが同意。
ツチヤ→今改めて思う、私達の身に起こったことはいったい何だったのか???
話しながら、多少の笑みすらも浮かぶツチヤ。が、発作的に泣きだす。
話しながら、多少の笑みすらも浮かぶツチヤ。が、発作的に泣きだす。
ホシノ→すまん。昨日からこうなんだ。しばらくすれば収まるから。
皆、黙してその場にあることしかできない。
ツチヤの発作にもまた、その場にいた皆が共感する。
『同じ状況がおとずれれば、自分だってきっとこうなるだろう』
---------------------------------------
みほ「ねぇ、紗希ちゃん」
紗希「……。」
みほ「……紗希ちゃん?」
桂利奈「隊長、ごめんなさい。昨日部屋に戻ってきてから、ずーっとこうなんです」
みほ「……そうなんだ……」
桂利奈「ご飯はちゃんと食べてくれるし、手術もうまくいったし、身体は問題ないです。身体は……」
みほ「……。」
桂利奈「昨日の夜は、会長がずーっと一緒に紗希のとなりで窓の外の星空をながめてくれてました。」
みほ「会長が」
桂利奈「紗希にとっては、少しだけそれが慰めになってるみたいで……今日は私が、こーして一緒に空を見てます」
桂利奈「ね、紗希。いいお天気だね、お空きれいだね」
紗希「……。」
みほ(……あ……)
──会長『……見せてあげたかったな……』──
みほ(……さきちゃん……)
紗希「……。」
:午後四時頃
携帯に母から連絡がくる。
それが嬉しかった。
だが電話にでてすぐ、母の様子がおかしいとわかった。
------------------------------------------
しほ『──みほ、落ち着いて聞きなさい』
みほ「え──」
:脳裏に姉とエリカの顔がフラッシュバック。黒いヘドロ状の沼へ二人の死体が沈んでいく心象風景
しほ『──まほとエリカは無事よ、いい? 二人は無事』
みほ「……っ」
:安堵。どっと冷や汗がでる。しかしそれにしても母の声がどこかこわばっている。
みほ「お母さん……どうしたの?」
しほ『……』
しほ『……黒森峰でも、三人倒れた』
みほ「……!?」
みほ「それって……流産、っていうことですか」
しほ『黒森峰だけじゃない、昨日、サンダースでも──』
みほ「──。」
しほ『何かが起こっている。それをうけて緊急に全ての妊娠者を入院させることになった』
-------------------------------------------
各学園艦上で数日間妊娠者の様子を見る。
状態の安定を確認したのち、全妊娠者をつくばの霊長類医学研究センターへ移動さす。
対象者を一か所に集め、統合観察管理入院を行う。
-----------------------------------------
しほ『すぐに角谷さんへも、連盟の方から通達があるでしょう』
みほ「……。」
みほ「……ねぇ、お母さん」
しほ「ええ」
みほ「その入院って──」
みほ「いつまで?」
しほ『……。いつまで、とは?』
みほ「いつ、私達は帰れるの?」
みほ「私達はいつ退院できるの?」
しほ『……。』
しほ『母子の安全が確認されしだい……としか今は言えないわね』
みほ「……。」
みほ「……わかりました……」
しほ『みほ。私も数日以内に関東へ出るわ』
しほ『気をしっかりもちなさい』
みほ「はい」
しほ『では、切るわね。何か変化があったらすぐに連絡して、真夜中だろうが、ね』
みほ「はい」
みほ(……。)
みほ(……。)
みほ(退院、もうできないのかもしれない)
みほ(……私達は多分これから、全員が流産をするんだ……)
みほ(偉い人達はきっとそう考えたんだ)
みほ(……。)
:みほ、今度こそ平衡感覚を失う。足もとの床が不自然に脈動している。体温もおかしいく思える。身体のあちこちが、冷たいような熱いような。
みほ(じゃあ、次センターに入ったら)
みほ(もう)
みほ(もう、この子は──)
みほ(もう)
みほ(もう、この子は──)
みほ(──!)
みほ(やだ! いやだ! いやだ!)
──ぴっぴっぴっぴっぴっ
──とぅるるるるるる! とぅるるるるる!
──ぷっ
しほ『みほ? どうしたの──』
みほ「お母さん、一生のお願いです」
しほ『え?』
みほ「帰らせてください」
しほ『……?』
みほ「今から」
みほ「熊本に」
みほ「お母さんや、お姉ちゃんのいる家に帰らせてください」
しほ『……みほ』
みほ「お願いです」
みほ「どうかお願いです」
みほ「戦車道をやめたこと、黒森峰をやめたこと」
みほ「全部あやまります」
みほ「ごめんなさい!」
みほ「ごめんなさい!!」
みほ「ごめんなさい!!!」
みほ「だからどうか……」
しほ『みほ』
みほ「お願いです……お願いします!!」
みほ「お母さんの力でなんとかしてください」
みほ「この子に! せめて最後はお母さん達と一緒にいさせてあげてくださ──」
しほ『──みほっ!』
みほ「……。」
しほ『みほ……聞きなさい。』
しほ『あなたのその弱い心が──その子を殺すのです』
みほ「……っ」
しほ『何が「最後」ですか。馬鹿なことを』
みほ「でも、でも……!」
しほ『見通しのたたない現状では、いついつに退院などと、そう簡単に言えるわけがないでしょう』
しほ『ただそれだけのことです』
しほ『それなのに、貴方はそれを大げさに曲解して意味のない悲観に勝手に陥ってる』
みほ「……。」
しほ『しっかりなさい! 母親がそう不安がっていては、お腹の中の子供もたまったものではないわ。子を守ってしかるべき母体が子に負担を与えてどうするのです』
みほ「だけどっ……」
しほ『言い訳は──そして謝罪も、必要はありません』
しほ『……本当に熊本に帰りたいのならば──』
しほ『思い出しなさい』
みほ「思い出すって……なにを」
しほ『鉄の掟 鋼の心』
しほ『……まぁこのさい、「鉄の掟」はひとまず免除しましょう……』
しほ『出戻りたいのなら、せめて「鋼の心」くらいは見せてもらわないと家の敷居は跨がせられないわね。あなたは一度逃げ出しているのだから。戻りたいというのなら、はたしてその資格があなたにあるのか。それを証明してみせなさい』
みほ「……証明……」
しほ『「鉄の心」があれば、貴方は今言ったような情けない泣き言は言わないはずです』
みほ「……!?」
しほ『というわけだから──熊本に帰ってくることはありえないと、知りなさい』
みほ「そんな、お母さん……ひどいよ……」
しほ『そうです、私は鬼です。だから甘えることは許さないわ。……しっかりしなさい、みほ』
みほ「……。」
しほ『数日後には──いえ、三日後には必ず会いに行きます』
しほ『踏ん張りなさい。あなたは仮にも戦車道チームの長なのでしょう?』
みほ「……。」
みほ「……はい……」
しほ『いいわ。仲間にところへ行く前に、まず冷静になりなさい。動揺を広めてはなりません』
みほ「……はい」
しほ『じゃあ──』
みほ「……待って、お母さん!」
しほ『──何です?』
みほ「……。」
みほ「……。」
しほ『みほ、一体なんです、泣き言ならもう──』
みほ「黒森峰の大学にいきたいです」
しほ『……なんですって?』
みほ「私、もう一度、西住流の人間になりたいです。それにこの子と一緒にいられる時は、熊本でお母さんと一緒に子育てをしたいです。どうかお願いします」
みほ「……許してくれますか?」
しほ『…………………………。』
みほ「おかあさん」
しほ『……』
しほ『……貴方は……どうしていつもそう唐突なのですか……そういう大事な話はもっと場を選びなさい……』
みほ「ごめんなさい」
しほ『……ハァ……』
しほ『まぁ、いいでしょう、考えておきます』
みほ「……!」
しほ『貴方がこれ以上の醜態をさらさなければ、ですが』
みほ「はい」
しほ『じゃあ、今度こそ切るわね。……みほ、頑張ってみせなさい』
みほ「はい……はいっ」
しほ『じゃあね』
──ぷっ
ツー、ツー、ツー
■51日目 紗希ちゃん・ツチヤさん
■52日目 熊本さけえりてぇだ
■53日目
会長から連絡あり→明朝、妊娠者はつくばへ移動し、センターへ入院すること。
入院はママだけ。パパは入院しない。
(ただし他のメンバーがつくばを見舞う際は、ちゃんと申請をすれば交通費等々を国が後日補填してくれるとのこと)
入院日数は──今のところ未定。
華「未定、ですか」
そど子「……。」
みほ、二人を励ます。
みほ「はっきりわからないというだけで、いつかは必ず退院できます。あくまでこれは、私達や赤ちゃんを守るための措置なんです」
麻子「西住さんのいう通りだ。それに、母体の精神的な不安は、胎児に物理的な影響を与える……あまり考え込むな」
そど子「分かってる、けど……」
麻子「……」
ぎゅっ
そど子「わ……冷泉さん?」
麻子「……人肌のぬくもりは気持ちを落ち着かせてくれる」
麻子「と、本に書いてあった」
そど子「……。ありがと……」
麻子「毎週末、必ず会いに行く」
そど子「……絶対だからね」
麻子「おばあに誓う」
そど子「……ふふ」
<ウソツイタラ オバアサマニ ツゲグチスルカラ
<ソドコニウソハツカナイ デモツゲグチハヤメテクレ
<ナニヨソレ フフフ
みほ(……。)
みほ(パパさんも一緒に入院できればいいのになぁ)
みほ(離れ離れになってしまうなんて絶対つらいよ)
みほ(入院期間がわからないんだから、余計に……)
みほ(沙織さんと華さんは、大丈夫かなぁ)
みほ「沙織さ──」
沙織「華ぁっ」
華「わ、沙織さ……んむっ!?」
みほ「──!?」
……ちゅ、ち、ちゅ……
みほ(わあああ、沙織さん!? そど子さんもいるんだよ!?)
麻子「……!?」
そど子「?」(←背中を向けてるので華と沙織が見えてない)
華「ん……沙織さっ……皆さんが見……ぇる……」
沙織「私も、絶対会いに行く……これは会えない間の分だから……いっぱい安心させてあげる、華のことは、私が暖めてあげるからぁっ」
ちゅ、ちぃ、ちゅぷ
そど子「……? ねぇ二人とも何を──」
みほ(わあああ)
麻子「……う、動くなっ。そのままじっと、そど子は私に抱かれてろっ。わ、わ、私の体温だけを感じてろ!」
そど子「へっ……う、うん……」
そど子「……。」
みほ(麻子さん、ありがとうございますっ……!)
みほ(……それにしても……)
……ちゅ、ちゅ、ちゅ……
<ハナァ
<サオリサァン
みほ(二人とも大人になっちゃったんだなぁ……)
■53日目 あら^~
■54日目
つくばのセンターに移動する。
沙織と麻子も、日帰りでつきそってくれた→パパ権限。
移動はバスではなく、ミニバンで。
もうバスを使うほどの人数ではなくなってしまった。
センターの正門に到着。
またしても聖グロリアーナが迎えてくれた。
けれど、聖グロリアーナもやはり目に見えて人数が減っている。
辛い。いなくなってしまった人達の事を思い、胸が締め付けられる。
---------------------------------------------
みほ「ダージリンさん!」
ダージリン「みほさん!」
みほ「ペコさんも……よかった、無事だったんですね」
オレンジペコ「えぇ、みほさんも」
みほ「……ごめんなさい……本当はメールとかいくらでも連絡の方法はあるのに……なのに……」
ダージリン「お気になさらないで、私達だって……」
オレンジペコ「みんな同じですよ。皆、目の前のことだけで精一杯なんですから……とにかく、会えて良かったです……」
みほ「はい!……はい……!」
みほ「──。」
みほ(……あれ?)
みほ「……?」
みほ「??」
みほ(──ローズヒップさんはどこ?)
みほ(アッサムさんは……どこ……?)
みほ(──ッ!!)
みほ「ダージリンさん、あの……ローズヒップさんは」
ダージリン「…………。」
みほ「……そうでしたか……」
----------------------------------------------
入場手続きはせず、そのままみんなで正門広場に留まる。
センター側の人達も
「手続きはいつでもいいから」と気を使ってくれた。皆さん良くしてくれる。
知波単組、到着
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福田「オレンジペコ殿ぉーっ!」
ペコ「福田さん……! よかった……本当によかった……!!」
西「ダージリンさん……」
ダージリン「あぁ西さん、私……私……っ」
西「気張りましょう。今時こそ、私たちがふんどしのヒモを〆てかからなければ」
ダージリン「ええ……ええ……!」
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アンツィオ組
アンチョビさんは無事だけど、ペパロニさんは仲間の不幸に落ち込んで前みたいな元気はなくなってた。
アンチョビさんが前をあるいて、ペパロニさんがその後をついていく。以前の二人に戻ってる。
継続高校
ミカさんは、来なかった。
継続高校の他の人達から話を聞く。
『風に運ばれていってしまったよ。……母親に似てしまったんだね……それでいい、君は自由だ……』
離別の曲を、寂しげ弾き続けているそう。アキさんやミッコさん達と一緒に。
(じゃあ、ミカさんの赤ちゃんの遺体も──このつくばのどこかに)
悲しく、かつ、背中に冷たい感覚。
遠方の学校は夕方の到着になるという。
いったん手続きをして、部屋に荷物をおく。
仲間達と夜を共にした大部屋に、今は三人だけ。
部屋は広く、寒々しい。
そど子さんや華さんも同じ心もちでいるみたい。
ただ、その代わりに今はダージリンさん達がいる。西さん達もアンチョビさん達も。
少しだけ、、寂しさが慰められる。
妊娠者達には三つの大部屋が与えられて、どのように使おうと自由。
夜ごとに違う部屋で寝ようがまったく構わない。
適度な自主性は連帯に基づく健全な精神を育む……というスポーツ理念に基づく。
なお希望者には(短期長期問わず)個室への移動も考慮する。
最大限、私達のすごしやすいように配慮をしてくれている。
:夕刻
姉が来た。
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みほ「……。」
まほ「……。」
まほ「やっと会えたな。……心配したぞ」
みほ「……っ」
みほ「お姉ちゃん……!」
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駆け寄って、人目もはばからず姉の体にすがりつく。
姉に抱きしめられると、全身から力が抜けた。本当にこころが軽くなった。
(パパと一緒にいられるみんなが羨ましい)
その事は考えないようにしていた。大洗にいる間は、仲間のことだけを考えるようにしていた。それでもやはり、心の奥底にはずっとその寂しさがたゆたっていたのだ。
それが今、ようやく救われた。
(やっと私も家族に会えた!)
身体がぶるぶるっと震える。排泄の直後にも等しい魂の解放を感じた。
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エリカ「みほ」
みほ「……! エリカさん!」
ばっ!
エリカ「うぁ、ちょっと、放しなさい!」
みほ「よかった……よかった……!」
エリカ「……っ、……みほも、何事もなくてよかった。ふん、ちっとも熊本に帰ってこないんだから……」
みほ「ごめんなさい……!」
アリサ「──聞いたわよ。あんたたち、姉妹になるんですってね」
みほ「!!」
みほ「アリサさん!!」
みほ「ナオミさんも!!」
ナオミ「や」
アリサ「紗希……残念だったわね。もちろん、他の子達も……」
みほ「……ありがとうございます……」
みほ「サンダースの皆さんも──あの、ケイさんは今日は……?」
ナオミ「うん。ケイは長崎に残ったよ。……倒れた子を、ほってはいけないってね」
みほ「そうですか……ケイさんらしいです」
ナオミ「私もこれですぐに戻る。 遠方だから、一泊していってもかまわないとは言われたけれど……やっぱり、どうしても、ね」
ナオミ「そういうわけだから、私の代わりにアリサと仲良くしてやってくれ」
アリサ「っ……人前で保護者ぶらないでよっ」
ナオミ「ふ」
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黄昏時の終わる頃、ようやくカチューシャさん達が到着した。
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カチューシャ「エリ―シャ!」
エリカ「わわわ! ちょっと! あんたもみほもっ、どうして会うなり飛び掛かかってくるのよ!」
カチューシャ「ふふん、照れちゃって。落っことすんじゃないわよ、二人分の命がかかってるんだからね!」
エリカ「脅かさないでよ……」
ニーナ「もーカチューシャ様~。あんまり暴れちゃだめだじゃぁ、見てけろノンナさんがはらはらしてるだべ」
ノンナ「そ、そうですよカチューシャ、ニーナの言うことをよく聞いてください……」
カチューシャ「ん……ふんっ。ま、しかたがないわね。……エリ―シャ、かがみなさい!」
エリカ「もうっ、なんなのよっ」
カチューシャ「んしょっ、と……」
まほ「……カチューシャ」
カチューシャ「……あら」
まほ「……。」
カチューシャ「……。」
まほ「いつも通りの様だな。ふ……少し、安心した」
カチューシャ「ふんっ……まぁ……いろいろあったけどね」
まほ「ん……そうか、私もだ」
カチューシャ「お互い様ね」
まほ「あぁ。お互い様だ」
言葉は少なくとも通じ合うものがあったみたい。二人がゆっくりと握手を交わす。みほは、それが嬉しかった。
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パパさん達を見送る。皆寂しそう。
みほとまほとエリカは、少しだけその輪から外れていた。三人だけはお互いが家族だから。
夜。一つの大部屋に全員で寝た。ぎゅうぎゅうづめだけど、むしろそれが良かった。
会長や紗希ちゃんやツチヤさんのいない寂しさが、少しだけまぎれる。
流産の不安は、あまり考えないようにした。
寝る間際。恐る恐る愛里寿ちゃんにメールを送る。
明日の昼すぎ、ルミさんやお母さんと一緒にセンターに到着するそう。
自分の母もまた、明日、会いに来てくれるはず……。
■54日目 学園十色です!
■55日目
:朝8時頃 母から電話。
すでに東京に着いてはいるけれども、夕方まではお仕事。
つくばへ到着するのは日が暮れた後なりそう。
:午前中。講堂にてセンターの人達と全体ミーティング。
:全体的に気が滅入るミーティング。
→国内だけでなく海外でも流産多発。(今は収まってる)
→皮肉な事にその(遺体という貴重なサンプルの)おかげで今起こっている事が少しだけ見えてきそう。
・流産について
→原因そのものは、ありふれた細胞分裂異常。ただし、それがなぜ突然集中して発生したのかが不明。
・現状の推移
→上記を解明するために、妊娠者、胎児の遺体、健常胎児、それぞれのDNAサンプルを比較し、変異部位と特定しようとしてる。
群発流産はひとまず小康状態?
・これからの見通し
→流産がまた発生するのか。正直なところはなにもわからない。最悪のケースには備えなければならない。
みほが質問。
「あのう、私の染色体共有者が誰なのかは、まだわかりませんか……?」
→まだわからない。申し訳ない。だが研究は少しづつ前進しつつある。
ミーティング途中のトイレ休憩。
エリカさんが話しかけてくる。
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エリカ「妊娠する前の私なら、みほにこう言ってたと思う。」
みほ「エリカさん……?」
エリカ「『パパが誰かなんて、もうどうでもいいじゃない。すっぱり頭を切り替えて、私達と子育てすればいい』……て」
みほ「……。」
エリカ「ま、今は言えないけど」
エリカ「ただ、もし本当にそう言われたとしたら……どうなのよ」
みほ「? どう……って?」
エリカ「そういう風に思いきってしまうのもありなんじゃないかって、言ってるの。……やっぱり無茶?」
みほ「……うーん……」
みほ「お父さんが誰かは、どうしても知りたい、かなぁ……」
エリカ「そっか」
みほ「うん、ごめんね。でも、ありがとう」
エリカ「べつに、じゃ」
:エリカ、まほの隣の席へもどっていく。
華「エリカさん、なんだか別人になられたみたいです」
みほ「あはは……でも、私の覚えてる昔のエリカさんは、むしろこんな感じかな……?」
そど子「ふーん。西住さんが転校したから、拗ねてたんじゃないの?」
みほ「もしそうだったなら……嬉しいです」
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ミーティング再開。
・戦車の質量減少問題についての説明
→車体の合金に編み込まれた特殊カーボンの質量が減少しているらしい。
・特殊カーボンについて改めておさらい
→三次元空間内の重力エネルギーを高次元方向に離散させてくれるスゴいカーボン。すごく特殊。
すごさ1・特殊カーボンで囲われた空間は見かけ上は慣性重力から切り離される。
すごさ2・合金中に織り込めば学園艦みたいな巨大な物体もお手軽(質量的な意味で)に建造、運用できる。
すごさ3・宇宙ロケットの船体に組み込んで光速の壁の突破へ向けても研究中。
・その質量が減少ってどういうこと?
→まだわからない。マウスをつかった実験や遺体のDNAサンプルを利用して色々実験してる。
・よくわかないけど特殊カーボンが妊娠の原因?
→仮にそうだとしたら学園艦内の女子が全員妊娠していてもおかしくない。が、現在過去そのような事件は起こっていない。
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ミーティング終わり。
お昼ご飯まで自由時間。
まほはアンチョビとおしゃべりしてる。
華さんやそど子さんも、ペコさん福田さんと。
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みほ「エリカさん、お散歩したいです」
エリカ「いいけど」
……。
エリカ「へぇ。イチョウの林に広い池……いい場所じゃない。」
みほ「うん。私のお気に入りの場所……。」
みほ「……ふふ」
エリカ「? 何よ」
みほ「エリカさんの嘘つき」
エリカ「ええ?」
みほ「『以前の私ならこう言ってた』って……絶対嘘」
エリカ「さっきの休憩中の話?……ていうか、何が嘘つきなのよ」
みほ「だって……」
みほ「『私達と子育てすればいい』って、エリカさんは絶対にそんなこと言ってくれなかったよ。たとえ思ってても、口では絶対……えへへ」
エリカ「っ……何かと思えば、くっだらないわねぇ……」
みほ「だけど、エリカさんがそんな風に言ってくれてすごく嬉しかった。少し……元気でたかも」
エリカ「……あっそ……」
──。。
みほ「エリカさんは、大丈夫だった……?」
エリカ「?」
みほ「黒森峰でも……流産しちゃった子がいるって」
エリカ「あぁ……」
エリカ「……。」
エリカ「最悪だった」
みほ「……。」
エリカ「どうせあんたにはそのうちばれるだろうから先に白状するけど──」
みほ「え?」
エリカ「私、軽い不安障害みたいになってる。血を流しながら泣いてる仲間の姿が忘れられない。あれ以来……何かのきっかけでスイッチがはいると、どうしようもなく泣けてくる」
エリカ「隊長がそのたびに精一杯慰めてくれるし……少しずつマシになってるんだけどね」
みほ「そっか……」
エリカ「けど……次は私かもって、やっぱり不安になるわね」
みほ「……。」
みほ「さっきのミーティング……」
エリカ「……?」
みほ「流産の原因はちゃんと説明してくれたけど……」
みほ「でも、私が本当に知りたい事は、教えてもらえなかった」
エリカ「本当に知りたかったこと、って……?」
みほ「うん……私が教えてほしいのは、『どのようにして流産をするのか』じゃなくて」
みほ「『どうして流産をするのか』っていうその理由が知りたい……」
エリカ「……理由、ね……」
みほ「私……腹がたってしかたがないです」
エリカ「え?」
みほ「どうして私達がこんな辛い思いをしなきゃいけないんだろう、悲しい思いをしなきゃいけないんだろうって」
みほ「誰かに怒りたい」
みほ「怒って……恨みたい……」
エリカ「……。」
みほ「何の意味があって、私達は今こんな目に合わなきゃいけないんだろう。赤ちゃんだって、いったい何の意味があって……」
みほ「どうかお願いだからだ誰かに理由を説明をしてほしい。今回の事に、一体何の意味があるんだろうって……」
みほ「それを考えてると、時々、頭がおかしくなってしまうそう」
エリカ「……。」
エリカ「やばいと思ったらカウンセリングを受けなさい。一人で考え込んでも、ろくなことにはならないから」
みほ「……ふふ、エリカさんが言うと、説得力あるね」
エリカ「ばか」
みほ「でも、たしかに大洗ではあんまり皆にはこういう事は言えなかった……」
みほ「だから今、こうしてエリカさんに聞いてもらえて……嬉しいなぁ」
エリカ「悪いけど、私はカウンセラーじゃないわよ」
みほ「うん、違うよ。エリカさんは──」
みほ「──……。」
みほ「はぁ~」
エリカ「何よ」
みほ「噛みしめちゃった」
エリカ「?」
みほ「エリカさんと、またこんな風に話せてるんだなぁーって」
エリカ「何それ」
エリカ「……まぁだけど……そうね。ホント……いつぶりかしらね……」
みほ「……ね……」
エリカ「あ、そういえば……今日、師範が──お義母様が、ここにくるのよね?」
みほ「あ、うん、そうだよ」
エリカ「あんたさ……お義母様に何か言った?」
みほ「へ……?」
エリカ「何日か前だけど……お義母様、みほと電話をした後にすごく機嫌が良さそうにしてた。流産の件があって以来ずっとピリピリしてたのに、珍しくね」
みほ「……。」
みほ(……お母さん……)
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:昼二時頃。
「私も島田流に挨拶をしておこう」
まほと二人で愛里寿を待つ。
ほどなくして一台の黒塗りレクサス到着。
愛里寿、千代、ルミがおりてくる。
愛里寿はちゃんと千代とお話しできた様子。千代に礼を言われる。
愛里寿、千代→二人で手続きへ。
ルミ・まほ・みほ、情報交換。
家元→娘が流産をしてしまったとしても、それはそれで一つの解決なのだと覚悟している。娘の心のケアに万全をつくすのみ。
愛里寿隊長は→産んであげなきゃ申し訳ないと思ってる。
大学選抜→センチュリオン他一部の車両が接収されてしまった。トホホ。
「隊長と一緒に赤ちゃんを抱いてあげたい。けど、万が一流産してもやっぱり隊長の側にいるつもりよ。こんな風に関わっちゃったんだから。んー、そうねぇ……家元と一緒に隊長の将来の旦那さんを見極めるまで、あるかなぁ~」
→まほ、みほ、顔を見合わす。
→色んな考え方があるんだねお姉ちゃん……。
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夜、晩飯を食べ終わった頃。
母が来た。
電話でぶちまけた後の初対面だったので、少し意識してしまう。
エリカさんは母が機嫌よかったといってるけど、今は特にかわりない様子。
ちなみに、まほやエリカもまだみほの発言は知らない。
「少し話をしましょう」と、母に中庭へ連れ出される。
池のほとりのベンチ、に母子ならんで腰掛ける。雲が多くて月はない。
少し緊張する。
でも、母と二人でいられることが、今は嬉しい。
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しほ「今一度あなたに確認をします。電話でのあの発言は本心ですか?」
しほ「一時の感情や、生半可な気持ちで言ったのではないと──そう理解していいの?」
みほ「あの、……は、はいっ」
みほ「一度目の入院検査の後、最初に熊本に帰ったときからずっと、お母さんに相談しようって、思ってた。だから、決して一時の感情なんかじゃありません」
しほ「そうですか」
しほ「……貴方はきちんと私に頭を下げた」
しほ「ならば、今度はこちらがそれに答えねばならないわね」
みほ「じゃあ……」
しほ「ですが──」
しほ「一つ、貴方に聞いておきたいことがある」
みほ「え……?」
しほ「貴方が熊本へ戻るのは──」
しほ「子供の為?」
みほ「……。赤ちゃんのためじゃ……それじゃだめなの……?」
しほ「あぁ、いえ……ごめんなさい、変な言い方をしてしまったわね。そう思うのは親として当然だし、あなたは正しい判断をしている。」
しほ「ですから、貴方が熊本へ帰ってくるというのなら──私はいつでも貴方を迎えます」
みほ「……!」
みほ「熊本に、帰ってもいいの?」
しほ「ええ、その通りよ。……もう何度もそう言っているつもりだけれど。今度こそ理解なさい。」
みほ「ありがとう……!」
みほ(……。)
みほ(えりかさんともお話しできた。お母さんとも……)
みほ(今日は幸せだなぁ……)
みほ(……。)
みほ「そうだ、黒森峰大学の事も、許してくれる?私もまた、西住流として……」
しほ「……。」
しほ「今は──そんな来年の話よりも、目先の妊娠の事をしっかり考えなさい」
しほ「わかるわね?」
みほ「はいっ……お母さん本当にありがとう……」
しほ「……ええ」
しほ「………………。」
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■56日目
朝:しほ、千代と一緒に東京へ戻る。家元はいそがしい。
みほ達は基本的には暇。
検査や検診はあれど、今のところ一日の大半は自由。
学校教育を補填するためのプランを検討中だとか。
お昼ご飯・大食堂。
まほえり&そど華と一緒に食堂でお昼ご飯を食べる。
そこにカチューシャが割って入ってきた。
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カチューシャ「ミホーシャ。杏から聞いたわよ、貴方、大洗でおもしろい事をやってたそうじゃない」
みほ「えと、なんでしょう……?」
カチューシャ「マタニティ・クラスよ!」
みほ「あぁ……」
エリカ「何それ?」
華「それはですね~」
-かくかくしかじかー
まほ「──なるほど、自主的な勉強会か。いい考えだな」
みほ「うん。私達の会長が発案してくれたの。ただ会長は……それで、途中からは私が引き継いで」
まほ「そうか……」
カチューシャ「で、ここからが提案なんだけど──」
カチューシャ「それ、ここでも続けましょうよ」
みほ「ふぇ?」
カチューシャ「せっかく東も西も勢ぞろいしてるんだし、サミットよ、サミット!」
そど子「サミット……?」
カチューシャ「講師はミホーシャだけにまかすのではなく、全員で講師をやるのよ」
華「全員で……?」
そど子「あ……みんなで持ち回りで先生役をやるってこと?」
カチューシャ「その通り! どう? 好い考えだと思わない?」
エリカ「……。そうね、私は良い考えだと思う。隊長、どうですか?」
まほ「うん。私も賛成だ」
カチューシャ「決まりね! じゃー他の連中とも話をしてくるわ!」
たたたたた!
そど子「行っちゃった」
まほ「あの元気、私達も見習わなければな……見直したよ、カチューシャ」
エリカ「……あのぅ」
まほ「? どうした、エリカ」
エリカ「実は私も一つ……考えてたことがあって」
みほ「え?」
まほ「ほう」
エリカ「例えばですけど、みんなで集まって、一人一人がみんなの前で話をするんです。今回のことで、悩んだこととか、辛かったこととか、どうやって立ち直れたか、とか……もちろん、今現在考えてることでもいいですし」
そど子「なるほど……集団セラピーみたいなもの?」
エリカ「ええ。カウンセリングやセラピーの効力は身をもって理解してる。だから……どうかなって」
まほ「エリカ……偉いぞ、よく言った」
ぽんぽん
エリカ「あ……」
まほ「さすがはエリカだ。さっそくセンターの人に提案をしていよう」ポンポン
エリカ「うぅ……」
みほ(……いいなー、エリカさん。気持ちよさそうだなー……)
みほ(……。……あ)
みほ(そど子さんも、華さんも、なんだか羨ましそう)
みほ(二人とも、麻子さんや沙織さんの事を考えてるのかなぁ)
みほ(……。)
みほ(……みんな、どうしてるかなぁ……)
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■57日目
:マタニティ・クラスinつくば
第一日目はみほが手本を見せる。
会長に託されたノートを元に、しょっぱな流産についてをレクチャー。
センターの人も何人か覗いてくれた。
:西住エリカのマタニティ・セラピー
最初は告白はエリカから。
赤裸々な体験談が皆の共感を呼んだ。
「次は私よ!」カチューシャが意気揚々と立候補。
■58日目~60日目
流産の見えない不安におののく日々ではあるが。
それでもやはりみんな持ち前のバイタリティを発揮。
限られた中でも前向きに生活をしようとする。
マタニティ・クラスやマタニティ・セラピーも良い連帯感を生んでいく。
新しい生活スタイルに少しづつ心と体がなじんでいく。
けれどもやはり、ここは日常ではなかった。
60日目、空の暗い雨の夕方。
日本ではまず初めに、アンチョビさんが倒れた。
■55日目
母の許し?
■56日目~59日目
新生活編
■60日目
終わりの始まり編
続き
【ガルパン】マタニティ・ウォー!【5】