1 : KASA - 2016/09/07 20:45:59.46 Nh7XoKz0O 1/537

みほ(生徒会室に呼び出しかぁ。『絶対に一人で来るように』って、いったい何だろう? まさかまた廃校とかじゃないよね……)


コンコン


みほ「あの、西住みほです。呼び出し放送を聞いて、来ました」

『ん、西住か。入ってくれ』

みほ「はい、失礼します」


キィィィィィ


「や、西住ちゃん」

柚子「ごめんね。お昼休み中に突然呼び出して」

みほ「いえ、えっとそれで、何でしょう? 戦車道のお話しですか?」

「まぁ、とりあえず、西住ちゃんもソファーに座ってよ」

柚子「冷たいお茶を用意するね」

みほ「あ、はい。ありがとうございます」

みほ(……なんだろ、お話し、長くなる感じなのかな)

「おーい、かーしま、例のFAX、持ってきてー」

「は」

みほ「FAXって、なんのFAXですか?」

「それがねぇ、なんと北米の戦車道連盟から」

みほ「北米って、アメリカの戦車道連盟ですか?」

「そ。まぁ厳密には、日本の戦車道連盟がまず受け取って、それを要約してうちの学校にも転送してくれたってわけ。……うちの学校だけじゃなくて、今ごろはすべての学校に、ね」

みほ「えと、いったい、どういうお話なんですか?」

「これがねぇ、ホント、冗談みたいな内容なんだよねぇ~」

元スレ
【ガルパン】マタニティ・ウォー!
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1473248759/
【ガルパン】マタニティ・ウォー! 最終章
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1489668640/



※人により、不快感を感じる描写、演出、状況があるかもしれません。


2 : KASA - 2016/09/07 20:46:32.32 Nh7XoKz0O 2/537

みほ「はぁ、そうなんですか」

「でもFAXが届くと同時に連盟から電話もかかってきてね。もう理事長のうろたえっぷりったら! 笑っちゃったよ」

みほ「はぁ」

「ま、おかげで、本当のことなんだなって認めるしかなくなっちゃったんだけどね。……ほんと、今でも冗談みたい」

みほ「……?」

「会長、お待たせしました。こちらです」

「うい、あんがと。ま、西住ちゃんも読んでもらえばわかると思うよ」

みほ「はぁ」

「……ただし」

みほ「はい?」

「今これから知ることは、まだ他の誰にも話さないでほしい」

みほ「え……」

「かーしま、このFAX最初にうちに来たのはいつだったっけ」

「四日前、ですね」

「そっか、四日も前か。西住ちゃん。私、皆にどう話したらいいのかって、すっごく悩んだ」

みほ「会長が」

「だけど、とにかくまずは西住ちゃんにって。そう思って、今日は西住ちゃんに来てもらったの」

みほ「は、はぁ」

「これを読んだら、西住ちゃんもすっごくショックを受けると思う。だから、覚悟をして読んでほしい。……ごめんね、脅かすような感じで」

柚子「西住さん。冷たい、お茶、持ってきたよ。……ここ、おいておくね」

みほ「あ、はい、ありがとうございます」

みほ(……皆の顔、なんだかすごくこわばってる感じがする……いったいなんなの? 会長の持ってるFAXに、いったい何が書いてあるの?)

「じゃあ、西住ちゃん、このFAXを渡すね」

みほ「あ、はい」

「時間をかけて、ゆっくり読んでくれたらいいからね。授業時間のことも気にしなくていい。私たちのことも、気にしなくていいから」

柚子「気がすむまで、読んでね」

「私たちも、お前が落ち着くまで黙っているから」

みほ「は、はい……」

みほ(うう、なんだか、どきどきしてきちゃった)

みほ(えっと、『戦車道関係者各位』、『緊急通達』……)

みほ「……え……?」

みほ「……『戦車道履修者における無性生殖的妊娠の可能性について指摘。および調査経過報告』……」

みほ(……な、なにこれ……!?)

「……」

柚子「……」

「……ほんと、これが冗談じゃないっていうのが、何よりの冗談だよ……」

3 : KASA - 2016/09/07 20:47:03.61 Nh7XoKz0O 3/537

みほ(……戦車道を行っている10代の女子が、突然妊娠。その、エッチなこともしていないのに……つわり、あるいは生理不順をきっかけに状態を自覚……)

みほ(……当初は単独の異常事例だと思われていたものが、実は各州で発生……判明後すみやかに事象情報を収集、統計化、対応機関を設置……)

みほ(……当該少女の隔離。入院。遺伝子検査……受精卵から、ど、同性のチームメイトの遺伝子!? ……未妊婦戦車道履修者についても現時点で全員を隔離……)

みほ(……その後すみやかに各国へ情報共有。該当女子への速やかな注意喚起、心のケア、戦車道の一時廃止……連盟による産後社会保障の検討あるいは……早期堕胎の処置について!?)

みほ(なにこれ、なにこれ、なにこれ!? 現実!? 私も妊娠するかもしれない? なによそれ!)



<キーンコーンカーンコーン



みほ(あ……午後の授業が……)

みほ(授業……そうだよ、私はただの高校生なのに……妊娠って……何それ。妊娠したらどうするの? どうしたらいいの? いやそもそもありえないよ……頭がクラクラする……)

柚子「西住さん、大丈夫? ……大丈夫じゃないよね……。冷たいもの、飲むといいよ」

みほ「……あ、はい……」


……ゴクゴク……

コト……カタンッ

みほ「あう、すいませんコップが、倒れて……手が震えちゃって」

「いい。気にするな」

「誰だってそうなるよ」

柚子「桃ちゃんなんか、顔中真っ青になってたもんね」

「うるさい! と、叫ぶ気力もでない。この件に関してはな」

柚子「まぁ、そうだよね……」

みほ(……この人達は、何で当たり前のように受け入れて、話をしているの……?)

みほ「ま、待ってください! おかしいじゃないですかこんなの!!」

「だよねぇ」

みほ「だ、だよねえじゃないです! な、なにもしていないのに妊娠だなんて! しかも友達の遺伝子って、友達の子供ってことですか!?」

「……」

みほ「ありえません! ありえませんよ! 何もかもがありえませんよ! だってそうでしょう!? 何がどうしたらそうなるんですか!?」

柚子「西住さん……」

4 : KASA - 2016/09/07 20:48:24.70 Nh7XoKz0O 4/537

「まぁ西住ちゃんの言う通りだよ。何もかもが、あまりにも非科学的だよねぇ。実際アメリカの方でも、いまだ完全には意見が統一されてないんだってさ」

みほ「じゃあやっぱり……何かの間違いなんじゃないんですか」

「普通に考えたらそうだよね。でもね、認めるしかないんだよ、目の前につきつけられた現実をね。それから目を背けちゃったら、それこそ非科学的なんじゃないかな」

「米国は宇宙人による誘拐の可能性も真剣に検討しているそうです。まぁ、事象があまりにぶっ飛んでいるのだから、推論も突飛にならざるを得ないのかもしれませんが」

みほ「う、うちゅーじん」

みほ(だめ、もう、頭がついていかない……お姉ちゃん……お母さん……あ!?)

みほ「あ、あの! 私のお母さんは!? これが本当の事なら、お母さんは戦車道の家元だから当然この事を知っていますよね!?」

「もちろん。っていうか……伝言を預かってるんだ。4日前、西住ちゃんのお母さんともしゃべったよ」

みほ「伝言……!?」

「この事を知ったら、とりあえず家に電話をしてほしいって」

みほ「電話、ですか」

「本音を言えば、今すぐ家に帰ってきてほしい、って感じだったけどね」

みほ「え……」

柚子「きっと、心配してるんだよ。こんな異常事態なんだもん」

みほ「お母さんが私のことを」

みほ(ああ……ってことは、これって、本当に本当のことなんだ……あはは、お母さんが心配してくれて嬉しいって思うよりも、そよりも、なんか、……ぼーぜんとしちゃう……)

「まぁこんな事になってしまったんだ。西住も、親元に帰りたいと思う気持があるだろう。だけどその前に一つ、私達に力を貸してほしい」

みほ「え?」

「私達はこれから少しづつ、戦車道を履修している皆に自体の告知を行おうと思う」

みほ「会長が、ですか。……だけど、こういう事でしたら、連盟の方達に説明してもらったほうがいいんじゃないでしょうか……」

柚子「うん。実際にそうしている学校もあるみたい。だけどうちは……」

「私の口から、皆に伝えたいんだ。私はこれを、人任せにしたくない。皆私の大事な、チームメイトなんだ」

「それに、そういったトップダウン的なやり方は、我が生徒会の前々からのやり方だ。それを踏襲すれば、わずかにでも皆の動揺を抑えられるかもしれない」

柚子「一番心配なのは、一年生の子達だよね」

「その通り。私達だってまだ動揺してるんだ。15歳の女の子が、簡単にこんなめちゃくちゃな現実を受け止められるはずがない」

「そこでだ、あんこうチームにはうさぎさんチームの動揺を受け止めてあげてほしい。だからまずは西住ちゃんからあんこうチームの皆に、こっそり伝えてほしいんだ」

みほ「私の口から、皆に……」

「無理っぽいなら、後日私の口から伝えるよ。だけど西住ちゃんにはその時までには心を落ち着けて、皆の動揺を助けてあげてほしい」

「パニックを防ぐためには、段階を踏んで情報を公表していくべきだと思う。情報統制を厳として、な」

みほ「……そう、ですね……そうかもしれません……」

みほ(三人とも、なんて立派なんだろう……)

みほ「……正直今でも頭が混乱してます。だけど……生徒会の皆さんがしっかりしてるところを見ると、ちょっぴり安心するっていうか、私もしっかりしなきゃって……思えます」

「ま、上がアタフタしてたら、まとまるものもまとまらないからね。私達だって、本当は強がってるだけなんだけどね、にひひ」

「強がってみせるのも、上の者の役目ですから」

柚子「ふふ、桃ちゃんがいうと、なんだか可笑しいね」

「うるさいっ」

みほ「そうですよね、私も隊長なんだから、しっかりしなきゃ。そ、それに、戦車道をやっているから必ず妊娠するって、決まったわけじゃないんですよね!」

「ん……まぁ、な」

柚子「そう、なんだけどね……」

「……」

5 : KASA - 2016/09/07 20:49:32.09 Nh7XoKz0O 5/537

みほ「……?」

「……西住ちゃんには、言っておこうかな」

「えっ」

柚子「か、会長」

「……私はね……もう、妊娠してるみたいなだよ」

みほ「え!?」

「……この数日の間に、私達3人は学園艦内で検査を受けたんだ。データベースへ遺伝子情報の登録も、行った」

柚子「そしたら会長は、もう、すでに……」

みほ「そ、そんな……」

「まいっちゃうよねぇ……こーんなチンチクリンなのに、お母さんになっちゃうんだって、あはは」

みほ「ど、どうして笑っていられるんですか!? これからどうするつもりなですか!? ほ、本当に妊娠してるだなんて……!」

「……まだ、私にもわからないよ。この先どうしていいのかだなんて。だからそう声を荒げないでほしいなぁ」

みほ「……あ、すみません……」

「私だってわかんない。わかんないよ。でもね……この小さな私のおなかの中に、どうやら私の子供がいるらしい。それだけは現実らしいんだ。だから、それだけは、認めなくちゃいけない……」

みほ「……会長……」

6 : KASA - 2016/09/07 20:50:04.41 Nh7XoKz0O 6/537

「私だって、今自分の身に何が起きているのかさっぱりわからないし、怖いよ。だけど……私は負けない」

柚子「西住さん。私たちも一緒に、会長と、戦うって決めたの、この目の前の現実と」

みほ「副会長……」

「お前にも、一緒に立ち向かってほしいと思う。……お前だけじゃない。戦車道チーム全員でだ!」

みほ「……!」

「ま、今すぐに元気を出してくれとは言わないよ。だけど、西住ちゃんなら絶対に私達の力になってくれるって、信じてる」

みほ「……はい。まだ、何が何だかさっぱりわかりません。だけど、私も、この学校と、みなさんと、チームの皆が大好きですから……」

「んっ! ……まぁ、今日は午後の授業なんていーからさ。生徒会室でゆっくりしてな。落ち着くまでね」

柚子「お茶、もう一杯いれるね」

「会長。会長も少し休んでください。おなかに子供がいるですから……」

「まだゴマ粒ほどの大きさもないはずだけどねぇ~。……へへ、ねぇ西住ちゃん。この子のパパがだれか、教えてあげよっか?」

みほ「パ、パパ!?」

「へへへー、実はね、この目の前にいる河嶋が、この子のパパなんだってさ!」

みほ「え、えええええええーーー!!!???」

「言わないでくださいよぅ……」

「遺伝子検査で分かったんだ。言っとくけど、私は河嶋とちゅーだってしてないからな?……ホント、不思議だよね。いったい私のおなかで、何が起こってるんだろう……」

みほ「もう、本当に、わけがわかりません……」

「だよねぇ、あはは」

「……会長!」

「んぁ?」

「会長と、会長のおなかの子供は、私が命を懸けて守りますから! 絶対に私が守りますから!」

「あはは、ありがとね~。んじゃそこのほしイモとって」

「はいっ!」

みほ(……この人達はどうして笑っていられるんだろう? もう笑うしかないのかなぁ?……ああ、もうだめだぁ、少し考えるのをやめよう。頭がどうにかなっちゃうよ……)

14 : 以下、名... - 2016/09/08 20:08:40.55 AHqpspPBO 7/537

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

みほ(……ん……あ、私、寝ちゃってたんだ)

みほ(今何時だろう? ……まだ30分しかたってないんだ。もっとずっと寝てたような気がするのに)

みほ「ふぁぁ」

みほ(……あ、生徒会長と桃さんも、お休みしてる……)

みほ(ソファーで一緒に。桃さんが生徒会長を膝枕して、なんだか恋人同士みたい)

みほ(ううん、もう恋人どころじゃ、ないんだよね。生徒会長のおなかの中に、桃さんの子供が。でも、そんなことって……やっぱりとても信じられないよ……)

柚子「あ、西住さん、もう起きちゃったの?」

みほ「副会長。すみません、私いつの間にか眠ってしまって」

柚子「気にしないで。もっとゆっくり、寝ててもいいからね」

みほ「ありがとうございます。だけど、次の休み時間には教室に戻ります。皆、心配してると思うし」

柚子「西住さんは、大丈夫?」

みほ「えと、どうでしょう。あはは、自分でもよくわかりません……」

柚子「そうだよね……」

「スー……スー……」

みほ「あのう、会長は本当に、本当に、妊娠しているんですか? 桃さんの子供を」

柚子「うん。お医者様は、間違いないって」

みほ「……なんだか、全部夢なんじゃないかって……そんな気がしてるんです」

柚子「私も、これって本当に現実なのかなって、時々ほっぺたをつねっちゃう」

みほ「ですよね……」

15 : 以下、名... - 2016/09/08 20:10:02.62 AHqpspPBO 8/537

柚子「会長、気丈に振る舞ってはいるけれど、本当は、昨日も、一昨日も、あんまり眠れてないみたいなの」

みほ「……そうなんですか……」

柚子「会長を一人にはしておけないからって、桃ちゃんが一緒に添い寝してくれてるんだけど……会長、夜中に何度も目が覚めて……不安で体が震えてるって……」

みほ「……」

柚子「そのたびに桃ちゃん、会長をぎゅっと抱きしめてあげて……そうすると少しの間は落ち着くみたいだけど……でも、朝になるまで、それが何度も何度も……」

みほ「……みんな、どうなっちゃうんでしょう……」

柚子「そうだね。本当に、どうなっちゃうんだろうね……」

「……こ~ら、小山」

柚子「あっ、会長」

「ふぁぁ……あんまり西住ちゃんを不安にさせちゃだめだよ。それでなくても私達は西住ちゃんに頼りっきりなんだから。こんな時くらい、私達はもっと強がってなきゃ」

柚子「あ、そ、そうだよね、ごめんね、西住さん」

みほ「いえ、そんな。やっぱり皆さんも不安なんだなって、変な言い方だけど、それはそれでなんだか安心しちゃいました」

柚子「……西住さんってやっぱりすごい、ふふ」

みほ「そ、そうですか?」

「……ねぇ西住ちゃん、これからいったい何が起こるのか、今はまだ、世界中の誰にもわからないんだと思う」

みほ「……」

「だけど、私には小山も河嶋もいる。大洗の皆もいる。私は一人じゃない。だから、絶対につぶれないよ、私は」

みほ「会長……」

「にひひ、できれば西住ちゃんにも一緒にいてほしいけど、だけど、西住ちゃんは西住ちゃんで、自分の事を第一に考えなきゃ」

柚子「お母さまも、きっと、大変だと思うの」

みほ「え? お母さんが、ですか?」

「連盟は最前線で対応にあたる責務を負うだろうし、戦車道そのものだって、この先どうなるか。その家元が、何事もなくいられるかな」

みほ「たしかに、そうですね……」

「極端な話、『女子が戦車道をすると全員が無条件に妊娠します。だけど原因はわかりません』なんて結論になったら、もうホント、何がどうなるやら。それでなくても、戦車道を疑問視する団体は常々いるのに」

みほ「……戦車道、なくなっちゃうんでしょうか……世界中の戦車道が……」

柚子「会長……もうそれくらいで」

「へ? あ、あああ! 西住ちゃんごめん! 西住ちゃんを不安にさせちゃあダメだって、自分で言ったばっかりなのにねぇ……いやぁ、これがマタニティブルーってやつかな? どうもここ数日は、だめだなぁ、あははは……」

みほ「い、いえ、仕方ないですよ」

「とにかく、本当に、西住ちゃんは自分の事をまず第一に考えてよね」

柚子「そうだよ。会長の言う通り」

みほ「は、はぁ」

16 : 以下、名... - 2016/09/08 20:11:03.39 AHqpspPBO 9/537

「それに私ね、お腹の子のパパが河嶋でよかったって、そう思ってるんだよ」

みほ「え……?」

「河嶋ってば、自分も遺伝的にはこの子の『親』なんだって知って以来、『絶対に二人を守る』って、もーホントうるさくってさぁ……馬鹿だよねぇ……だけどほんとは、それがすっごく嬉しくて……河嶋が側にいてくれなかったら、今頃私……なんちゃってね、にひひ」

柚子「会長! 私だって、会長と桃ちゃんの赤ちゃんなんだもん、絶対守ってあげなきゃって、思ってますから!」

「えへへ、あんがと。ほんとに……別の手段だって、無くはないのにね……」

柚子「……っ」

みほ(別の手段って……あっ……『堕胎』……)

「ま、とにかく、そーいうわけで私は一人じゃないっ、だから大丈夫! それと、私が今言ったことは、河嶋には秘密だぞっ」

柚子「ちゃんと伝えてあげれば、桃ちゃん、すごく喜ぶと思いますけど……」

「だーめ。だってこれ以上くっつかれたら、鬱陶しいんだもん」

柚子「もう、いまさら強がっったって、しかたないじゃないですか」

「と・に・か・く、かーしまには言っちゃ駄目だからね~」

みほ「あ、あはは……」

みほ(……そっか、分かった……皆、一人じゃないから、こうやって笑っていられるんだ……自分を支えてくれる人がいるから……)

みほ(……)

みほ(優花里さん、沙織さん、華さん、麻子さん)

みほ「……」

みほ(お姉ちゃんも、もう、知ってるのかな……他の学園の皆も……)

みほ(……お母さん……)



<キーンコーンカーンコーン



みほ「あ」

柚子「休み時間だね……どうする? 別に、いそいで教室に戻ることはないと思うけど……」

みほ「……いえ、戻ります。もどって、放課後になったら、皆に」

「無理は、しなくていいからね。西住ちゃんが言えなければ、私が言えばいいんだし」

みほ「はい。も、もしかしたら、お願いするかもしれませんけど……でも、皆、仲間ですから。だから私が、いわなきゃ」

みほ(……皆、どんな顔をするだろう……やっぱりビックリするよね……)

17 : 以下、名... - 2016/09/08 20:11:50.89 AHqpspPBO 10/537

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

みほ(あぁ、そろそろ教室についちゃう、皆に何て言おう。何もしていないのに妊娠するかもしれないだなんて、信じてくれるかなぁ……)

沙織「あ-! みぽりん帰ってきた!!」

みほ「あ……み、皆……」

麻子「やっと戻ってきたか」

「みほさん、あれからずっと生徒会室にいたのですか?」

優花里「あんまりにも遅いから、これから皆で生徒会室に突撃しようかって相談をしていたんですよ!」

みほ「あぅ、ごめんね、心配かけて」

沙織「先生に聞いても、みぽりんは生徒会室で用事がある、としか答えてくれないし」

みほ「え……」

みほ(もしかして……先生達にはもう、話は伝わっているのかな)

沙織「私みぽりんの事が心配で心配で……ちっとも授業に集中できなかったんだから!」

麻子「それはいつもの事じゃないのか」

沙織「麻子ひどい!」

みほ「……あはは」

みほ(あぁ、皆といると、こんな時でもやっぱり気持が落ち着く……)

「それにしてもみほさん。本当にいったい、何のお話しだったのです?」

優花里「ま、まさかまた大洗が廃校に!?」

みほ「あはは、やっぱりそれ、考えちゃうよね……でも、違うの」

麻子「じゃあ、なんなんだ」

みほ「えっと、それは、えっと」

麻子「?」

みほ「うぅ……ちょっとややこしい話で、まだ、私の中でもうまく言葉がまとまってなくて……ほ、放課後! 放課後にゆっくり、皆にお話しするから! それまで待って! お願い!」

沙織「え、えぇ~、じらさないでよー……なんだかすっごく不安になるんだけど……」

「みほさんがそういうのなら、仕方ありませんが……」

優花里「あの、西住殿、大丈夫ですか? なんだかすっごく顔が強張ってますが」

麻子「言い辛い事なら、なおのことさっさと話してしまったほうが、楽になれる」

みほ「うぅ……」

18 : 以下、名... - 2016/09/08 20:12:32.63 AHqpspPBO 11/537

<キーンコーンカーンコーン


優花里「あ……じゃあ私は教室に戻りますけど……西住殿、ほんとに大丈夫ですか?」

みほ「う、うん。じゃあ、放課後にね?」

優花里「むぅ、わかりました」


<タッタッタッタ……


沙織「ねぇみぽりん、なんだか汗かいてる」

麻子「脂汗じゃないのか、これ」

「みほさん……」

みほ「皆、ほんとにごめんね、私は、大丈夫だから……」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



みほ(……授業内容、全然頭に入らないや……)

みほ(……。)

みほ(普通に学校に登校して、普通に授業を受けて……当たり前の生活を送ってるのに……)

みほ(なんでこんな事になったんだろう。会長、大丈夫かな……)

みほ(……私も、妊娠しちゃうのかな……)

……ゾクッ……

みほ(妊娠したら、どうしよう)

みほ(産むのかな。産まなきゃいけないのかな。だって、赤ちゃんを殺すだなんて、できないよ……だけどどうしたらいいの!? わからない、わからないよ)

みほ(何もわからないのに……もし、本当妊娠したら……『どうしたらいいの?』なんてもう言ってられないんだ……)

……ゾゾゾゾゾッ……

みほ(そんなのって無いよ! 赤ちゃんを抱えて、私、どうやって生きていけばいいの!?)

19 : 以下、名... - 2016/09/08 20:13:27.85 AHqpspPBO 12/537

みほ(お金もいっぱいいるし、住むところだって、お仕事もしなきゃ……でも、赤ちゃんを育てながらどうやってお仕事したらいいの? 連盟が助けてくれるの!?)

みほ(……お母さんは、助けてくれるかな、私のこと、本当に心配してくれてるのかな……)

みほ(もし……もしも万が一だれも助けてくれなかったら、私と赤ちゃんと、どうやって生きていくの!?)

みほ(私は、会長みたいに強くない!!!)

みほ(なんで!? ねぇなんで!? なんで私が妊娠しなきゃいけないの!?)

みほ(お姉ちゃん!!! こわいよお姉ちゃん!!! 助けて!!!)

……ガクガクガクガク……



……シズミサン?……にしずみさん!?……



先生1「──西住さん!!」

みほ「あ!? は、はい!?」

先生1「西住さん、どうしたの? 具合が悪いの?」

みほ「え……あ……」

沙織「ちょっとみぽりん! すごい汗だよっ!?」

「体が震えてるし、私達の声も聞こえていなかったようですし……」

みほ「す、すみません! 考え事を……」

先生1「……。西住さん」

みほ「は、はい」

先生1「保険室で休んでらっしゃい。それと、沙織さん、華さん、それに冷泉さんも、三人で一緒に保健室までみほさん支えてあげて」

麻子「わかりました」

みほ(あ……そっか、先生は、やっぱりもう……知ってるんだ)

沙織「みぽりん、早く行こ!」

「一度汗をふかないと、本当に風邪をひいてしまいます」

みほ「皆、ありがとう……」

麻子「肩につかまれ」

先生1「三人とも、保健室ではついててあげなさ……ん?」


ダダダダダ……

20 : 以下、名... - 2016/09/08 20:14:08.41 AHqpspPBO 13/537

先生1「もう、授業中に廊下をドタドタ廊下を走って、一体誰!?」


ツカツカツカツカ

ガラッ!


先生1「こら! 一体どこのクラスの生徒!? ……ってわあああああ!? ちょっとあなた達!?」



ドタドタドタドタ!!!



「ふえええええん! 隊長ぉ~~~~~~!!」

みほ「梓ちゃん!?」

優季「沙織せんぱぁぁぁい!!! うぇえええええん!!!」

沙織「優季ちゃん! ていうか、うさぎさんチーム全員!? み、皆一体どうしたのよ!?」

麻子「うお、どうして全員泣いてるんだ」

「まぁ沙希さんまで、どうしたんです? よしよし」

紗希「……(;;)」

みほ(も、もしかして皆、例の話を知って……そんな、どうして!? なんで話が伝わってるの!?)

「隊長! 本当なんですか!? 私たち全員にんし--」

みほ「わああ梓ちゃん待って!」

「もが!?」

みほ(ダメだ! こんなところで騒いでちゃいけない! 話がどんどん広がっちゃう!)

みほ「せ、先生! この子達みんな戦車道の一年生です!」

先生1「あ……! わ、わかったわ、皆、全員で保健室へ---じゃなくて、戦車倉庫へ行きなさい! 特別のミーティングがあるのよね!? そうよね!?」

沙織「へ!?」

みほ「そ、そうなんです! ウサギさんチーム、あんこうチームのみんな、行きます!」

麻子「なんだ西住さん、元気じゃないか」

「ほんとですねぇ」

みほ「早く! 皆急いでください! はいフォー! フォーです! パンツァーフォーッ!!!」

沙織「ええええええ? ちょっとみぽりん!?」

うさぎさんチーム『ふえええええん!』



ドタドタドタドタドタ!!!!

21 : 以下、名... - 2016/09/08 20:14:39.90 AHqpspPBO 14/537

みほ(だけどどうしよう! どうしたら!? あんこうチームの皆にもまだ話をしてないのに!)

沙織『なになに、いったいなんなのぉ???』

『さぁ……?』

うさぎさんチーム『ふぇぇぇ……』

みほ(……!! しっかりしなきゃ! 私は隊長なんだから!! 私が泣いてちゃいけない!!! そうだ、会長だって決して強いわけじゃない、必死に、強くあろうとしてるだけ!)



<ガラッ!



みほ(あっ、別のクラスの先生かな……!? うるさいって怒られるのかな!?)


<モジャッ


優花里「あれ!? やっぱり皆さんじゃないですか!!」

みほ「優花里さん!」

優花里「み、皆して一体どうしたのであります?」

みほ「優花里さんも一緒にきて!」 

優花里「ふぇ!?」

先生2「こら! お前らなんだ!? 何をしてる!?」

みほ「あのっ、私達戦車道の生徒です! 緊急です!」

先生2「んおッ、そ、そうか……秋山! 緊急の戦車道ミーティングだそうだ! 行ってこい!」

優花里「へ!?」

みほ「優花里さん早く!」

優花里「りょ、了解であります???」

みほ(先生達にはもうちゃんと話が伝わってるんだ、私達の知らない間に。だけど、なんでそこまでしっかり情報統制していながら、うさぎさんチームにどうして話が漏れたんだろう???)

優花里『いったい何が始まるんです?』

麻子『さっぱりわからない』

うさぎさんチーム『ふぇぇぇ……』

みほ「くっ……ボコ! お願いボコ! ボコの勇気を私に貸して! ボコボコボコボコー!! 私もボコになるんだぁーーー!!! わぁーーーーー!!!」

沙織「み、みぽりんが壊れちゃった!?」

「あら~」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

33 : 以下、名... - 2016/09/09 19:16:40.12 2HAIa3LzO 15/537

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



うさぎさんチーム『うぇぇぇぇん!! いやだよお! こわいよおおおお!!!』

沙織「ねぇ! 皆どうしたの!? 何で泣いてるの!? 何がそんなに怖いの!?」

みほ「っ……」

みほ(戦車倉庫に来たはいいけど、ど、どうしたらいいの!? どうする!? 考えて! 考えて!!!)

みほ(まずはアンコウチームの皆に説明して、なんとかいそいで理解してもらって、それから皆でウサギさんチームを慰めて──)

桂利奈「うわあああああん! 私、ママになんかなれないよおおおおお! お母さぁぁぁん!」

優花里「マ、ママ!? 皆いったい何を言っているの!?」

みほ(──いやそれじゃだめ! 今すぐウサギさんチームの皆を今すぐ落ち着かせてあげないと! 怖いよね! 皆怖いよね! いつまでもこんな気持ちでいたら、皆、頭がおかしくなっちゃう!)

あゆみ「やぁぁぁ! 妊娠なんてしたくなぃぃぃ!」

「にんし……!? ま、まさか……だれかに、ひどい事されたんですか!?」エロドウジンミタイニ!

沙織「は!? ちょ、ちょっとまってよ! 何よそれ!? まさか……そんな……!!」ワナワナ

麻子「皆! お願いだから落ち着いてくれ! 何があったのか教えてくれ!!」

ウサギさんチーム『わあああああああん!!!』

沙織「やめっ、皆泣かないで! 泣いてちゃ……グスッ、泣いてちゃわかんないよおおお!」

ウサギさんチーム『わああああああああああああああああああああん!!!!』

みほ(ああっ……ボコ……お姉ちゃん……私に勇気を……!)




みほ「──皆! 静かにして!! 口を閉じてください!!!」




あんこう『ッ!?』

うさぎ『……ふぇ……?』

34 : 以下、名... - 2016/09/09 19:17:55.66 2HAIa3LzO 16/537


みほ「お願いです! 私の話を聞いてください。私の話だけを聞いてください!」

沙織「みぽりん……」

みほ「私は、私だけは全部、わかってますから!」

優花里「え……?」

みほ「今ここで何が起こってるのか、なぜウサギさんチームが泣いてるのか、あんこうチームの皆が何を知らないのかも、私だけは全部わかってます!! だから私に全部まかせてください!」

みほ(本当は私にだって何もわからないよ……でも、私が皆を守らなきゃ!)

沙織「だったら早く説明してよ! 私もう何がなんだか──」

みほ「沙織さん黙って!!」

沙織「え……っ」

みほ「乱暴に言って、ごめんね。でも、どうか、お願いだから」

沙織「……」

「……皆さん、ここはみほさんを信じましょう」

優花里「そうですね、そうしましょう!」

麻子「沙織、一緒に深呼吸だ」

沙織「う、うん……すぅーはぁー……」

ウサギさんチーム『……うう……隊長……』

みほ(まずはこれでいい、よね、ボコ、お姉ちゃん……っ)

35 : 以下、名... - 2016/09/09 19:18:50.52 2HAIa3LzO 17/537

みほ「では皆さんそれぞれチーム毎に戦車に乗り込んでください」

沙織「え……」

「沙織さん、とにかく、みほさんの指示に従いましょう」

沙織「わ、わかったわよ……」

みほ「全員が乗車した後、私はまずM3リーに乗り込みます。そこでちゃんとウサギさんチームの皆さんとお話をします。……ね、だからみんな、落ち着いて」

あや「西住隊長……」

桂利奈「あ、あい……」

「わかりました……」

みほ「ウサギさんチームとのお話が終わったら、次は4号に移ります。それから、何が起こっているのか、ちゃんとすべて、あんこうチームの皆さんにも説明します」

優花里「りょ、了解」

みほ「ただ、先にこれだけは言っておきます。……誰かに乱暴をされたとか、そういう話じゃないから、それだけは安心してください」

沙織「……ほんとに? 絶対?」

みほ「うん。絶対だよ、沙織さん」

沙織「……あぁ……よかった……よかったよぉ……」

みほ「──それでは改めて、全員、乗車!」


全員『は、はい……』


……カン、カン……カン、カン……


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


みほ(……全員、乗車完了……)

みほ「……ハァ……ッ」

みほ(……だめ! へたりこんじゃダメ……そしたらきっと、もう二度と立ち上がれない)

みほ(……今すぐここから逃げ出したい……熊本に帰って、お姉ちゃんに会いたい……お姉ちゃん! 皆にいったいどう説明したらいいの? どうしたら皆を安心させられるの? 私だって、こんなに混乱しているのに……)

みほ(……でも、今、皆を支えられるのは……私だけなんだよね……そうだよね、ボコ……!)

みほ「私、頑張る、今だけは頑張る。だから……これが終わったら、皆も私を、支えてくれるかな……」

みほ(……すぅっ……はぁっ……)


みほ「──西住みほ、M3リー、乗車しますっ」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

37 : 以下、名... - 2016/09/09 19:19:36.30 2HAIa3LzO 18/537

……キィ……


……カタン……





みほ「皆……」

ウサギさんチーム『……』

みほ(皆、涙で顔がぐちゃぐちゃ……ごめんね、ごめんね……!)

「西住隊長……」

みほ「梓ちゃん、おいでっ」

「隊長……!」


ぎゅっ


みほ「よしよし、怖いよね、怖かったよね……」

あや「隊長ぉぉぉ!」

みほ「あやちゃんも、さ、おいで。皆おいで! 皆で一緒に、くっつこ? そうすればきっと少しだけ安心できるから!」

優季「うあああん!」

桂利奈「たいちょー!」

あゆみ「ふぇぇ……」

みほ「ほら、沙希さんも」

紗希「……っ(;;)」


ぎゅうー……


みほ「よしよし……皆あったかいね。ほんとにウサギさんみたい……」

みほ(ああ、こんなにかわいい子達なのに……! なんで!? どうして皆がこんな思いしなきゃけないの!?)

38 : 以下、名... - 2016/09/09 19:20:57.74 2HAIa3LzO 19/537

「隊長……」

みほ「ん?」

「私達、ほんとうに妊娠しちゃうんですか!? 戦車道をやってる女の子は、妊娠しちゃうんですか!?」

みほ「……それは……」

みほ(落ち着け、落ち着け! すぅー……はぁー……)

みほ「梓ちゃん、ごめんね、その話を、いったい誰から聞いたの?」

あや「あの、私です」

みほ「へ?」

あや「私が、アリサさんから聞いたんです……」

みほ「アリサさん!?」

あや「私、アリサさんとはよく連絡をとってって、それで……」

みほ「二人は、連絡をとりあってたんだ……」

あや「大学選抜戦の後連絡先を交換して、それから……」

みほ「そっか……」


みほ(……)ギリッ


みほ(アリサさん……アリサさんはいったい、何をやってるんですか!? この子達をこんなに怯えさせて!!)


あや「で、でも! アリサさんは悪くないんです!」

みほ「……?」

あや「アリサさんは、私達の事を心配して、連絡してきてくれたんです。……はじめはアリサさん、私達がこのことを知ってるかどうかそれとなく探ってて……もちろんその時の私は、何の事かは分かってなかったけど、とにかく知ってるふりをして、喋ってたんです……だからアリサさんは、私達がもう知ってるんだと思って……」

優季「ふぇぇん……あやちゃん、ホントそういうの得意だもんね」

桂利奈「えぐえぐ……ほんとそーゆーとこやらしーよね、あやちゃんって……ぐすっ」

みほ「そ、そう、だったんだね……だけど、それにしたって……」

あや「アリサさん……妊娠してるそうです……」

みほ「……!!!!!」

39 : 以下、名... - 2016/09/09 19:21:42.38 2HAIa3LzO 20/537

あや「『告白もしてないのに』って、自分で笑ってました……たぶん、空元気で……」

みほ(……アリサさん……)

あや「それから、『あんたたちは大丈夫? 怖くて泣いてない?』って、『いろいろ不安だろうけど、難しいことは大人がきっとなんとかしてくれるから、あんまり心配するなって』……」

「あやからその話を聞いたのが、お昼休みの時です……ひっく。でも私達、訳が分からなくって、放課後、隊長に聞きに行こうって皆で話してて……」

あゆみ「だけど、授業中ずっとその事が頭から離れなくて、なんだかすっごく不安で、怖くて、私、涙が止まらなくなっちゃって……」

優季「あゆみちゃんが泣いてるのをみてたら、私も我慢できなくなっちゃって……」

みほ「そっか……それで結局、みんなが泣きだしちゃって、もうどうしようもなくなっちゃったんだね」

「そうなんですぅ! 私、私は車長なんだから泣いちゃだめだって、頑張ったんですけど、でもでも……わあああああん! どうしても我慢できなくてえええ!! うえええん!」

紗希「……(;;)」

桂利奈「皆泣かないでよぅ! 泣かな……ふええええん!」

みほ「……我慢しなくていいんだよ。皆で一緒に泣こ? 怖かったね。怖かったよね。私だって……考えてると、不安で体が震えるもの……」

「隊長も……じ、じゃあ、アリサさんの話は、本当なんですね……!?」

みほ「……うん、本当だよ」

あや「……! ひ、ひっく、うええええん!」

優季「彼氏もいないのに、なんで妊娠するのぉぉぉぉ……!?」

みほ「そうだね、ほんとだね、訳が分からないよね……」

ウサギさチーム『うわああああああん!』

みほ「よしよし……」

みほ(……アリサさんが、妊娠……! ああもう、頭がおかしくなる! 会長だけじゃない、誰が妊娠するか本当にわからないんだ! ……私も、妊娠するかもしれないんだ……)

……ブルッ……

みほ「……っ」

みほ(……だから泣いちゃだめっ! この子達の前では絶対にダメっ!)

みほ(……だけど、ほんとうに、どうしたらいいの? ……こんな事、私達にはどうしようも……)

みほ「……あ……」

40 : 以下、名... - 2016/09/09 19:26:00.06 2HAIa3LzO 21/537


──いろいろ不安だろうけど、難しいことは大人がきっとなんとかしてくれるから──



──連盟による産後社会保障の検討あるいは──




みほ「……」

「……? 隊長?」

みほ(……そうだよ、本当にどうしようもないんだ。私達にどうにかできることじゃないんだ)

みほ(だって、何もしていないのに妊娠するだなんて、そもそも対処できるはずがないよ)

みほ(それをどうにかしようって考えるほうが、間違ってる)

みほ「……」

「隊長、お願いです、何か言ってください。私……怖いんです……」

みほ「あ……ごめんね、そうだよね、怖いよね」

あゆみ「私達これから、どうしたらいいんですか」

みほ「……。皆聞いて」

あゆみ「……?」

みほ「私達にはもう、どうしようもないんだと思う」

あや「え……」

優季「そ、そんな、じゃあどうしたら」

みほ「だめ! どうにかしようって、考えちゃだめ!」

桂利奈「ふぇ!?」

みほ「私達でどうにかしようなんて、絶対に考えちゃだめ! だれかを頼るの!」

「頼るって、誰を」

みほ「誰でもいい。お父さんでも、お母さんでも、先生でも、戦車道連盟の人でも、私達先輩もでも、友達でも! とにかく絶対に一人で、自分達だけで、考えちゃダメ!」

みほ「不安な事、怖い事、心配な事、全部だれかに話すの。話して、いろんな人達でなんとかするの。私達だけで抱えないようにするの」

みほ「こんな不条理な事、どうしようもないよ! だから皆に力を貸してもらう。そうするしか、ないと思う」

「……」

みほ「もちろん、それでもやっぱり、怖いし、不安だし、泣きたくなると思う。そういう時は、こうやって、皆で泣くの。 暗い部屋で一人きりにじゃなくて、広い場所で一緒に、皆で!」

41 : 以下、名... - 2016/09/09 19:28:00.31 2HAIa3LzO 22/537

「……隊長」

みほ「うん?」

「私……少しだけ、隊長の言ってること、理解できるような気がします」

優季「私よくわかんなぁい……ひっく」

桂利奈「私も……うう」

あゆみ「……」

あゆみ「……たぶん、こういう事、なのかな」


ぎゅっ


優季「ふぇ? あゆみ……? ……あ……そーやってぎゅっとしてくれると、ちょっとだけ落ち着くかも……」

あや「……そっか。それだよ」


ぎゅっ


桂利奈「あやちゃん……あったかい……」

紗希「……」


ぎゅっ


「紗希……ありがと……」

みほ「そう、そうだよ皆。いつも誰かといなきゃだめ」

みほ「……この先、私達の誰かが、妊娠するかもしれない。ううん、すでに妊娠してるかもしれない……」

優季「……ひっく……」

みほ「だけど、どうやって子育てをしようとか、どうやって生きていこうとか、そんな事は今は考えない」

みほ「どうしたらいいですか? って、まずは身の回りのあらゆる人に頼るの。そして皆で考えてもらうの。いい? 絶対だよ! 約束して! ……返事は!?」

ウサギさんチーム『は、はい!』

42 : 以下、名... - 2016/09/09 19:28:31.53 2HAIa3LzO 23/537

みほ「……そう、これでいいはず……うん、あんこうチームの皆にも……」

桂利奈「あ……たいちょう、いっちゃうんですか……?」

みほ「うん、ごめんね……あのね……あんこうチームの皆は、まだこの事を何もを知らないの」

「え!?」

あゆみ「そうなんですか!?」

みほ「というより、戦車道を履修しているほとんどの皆が、まだ何も知らないの。本当は、あなたたちにこの話を伝えるのも、もう少し後になるはずだったの……」

あや「あ……そうか……私がアリサさんから聞いちゃったから……」

みほ「あはは、まぁ、ね……」

あや「あ、あの、アリサさんのこと怒らないでください! アリサさん、いじわるだし、ちょっと嫌味なとこもあるけど、ほんとに私達のことを心配してくれて……」

みほ「わかった。……はじめはちょっぴり怒ってたけどね。だけど、悪気はなかったんだもんね……」

「……ちょっぴりって雰囲気じゃ、なかったどね……」

あや「あはは……」

みほ「じゃあ、行ってくるね。また後で、こんどはアンコウチームの皆も一緒に、話そ!」

「……! あ、あの!」

みほ「ん?」

「私も、一緒に行っていいですか!?」

みほ「え……!?」

優季「あ……それ、ナイスアイデアかも~」

「先輩たちも、きっと、ショックを受けると思います。だから、先に知ってる私達がいたほうが、なにか、力になれるかも……」

みほ「だ、だけど皆は大丈夫なの? 皆だってまだ……」

あゆみ「まだまだいっぱい不安です……で、でも、隊長のおかげで、ちょっとだけ、元気はでましたっ」

あや「西住隊長がいなくなっちゃたら不安だし……それに、どうせ泣くなら、先輩と一緒に皆で泣けばいいかも……ね、桂利奈ちゃん」

桂利奈「そだね、そうかもっ」

みほ(……この子達は……!)

みほ「……み、みんなぁっ……」



ぎゅうううううううう!!



優季「ぎゃあ」

「く、くるしい」

あゆみ「むぎゅう」

あや「もみくちゃあ~」

みほ「みんな、本当にえらいよ……私、あなた達の事が、大好き……!」

紗希「……💛」

43 : 以下、名... - 2016/09/09 19:29:14.22 2HAIa3LzO 24/537

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「西住隊長。ウサギさんチーム、全員降車、完了しました。」

みほ「うん。それじゃ、アンコウチームの皆にも、外に出てきてもらうね」

「そっか、全員は入れないですもんね」

あや「またもみくちゃになっちゃう~」

桂利奈「わたしは気持いかったけどね~」

みほ「あはは…………うっ!?」

みほ(え、何!? 急に吐き気が──)

「え、隊長──?」



みほ「オェ! ォロゲェェェェッ!!」



ビチャアッ!!



優季「ひゃあああ!?」

「隊長!?」

みほ「……かはぁっ! ォェッ! ……はぁっ……はぁっ……ご、ごめんね、皆、かからなかった……?」

あゆみ「そ、そんなことよりも! 大丈夫ですか!?」

みほ「う、うん……はぁ、はぁ……なんだろう……」

みほ(なんで? まさか食中毒? ……うぷ! またすごい吐き気が!)

みほ「み、皆はなれ──ゲロぱァァァァァッ!!」



パシャァッ!!



あや「わあああ! ど、どうしようどうしよう!?」

「み、皆落ち着いて!」

みほ(ハァ、ハァ……なんで!? なんで!? ……あ……! これって、まさか……)

桂利奈「わああ! せ、先輩! 沙織先輩! 華先輩! 早くでてきてください! 西住隊長がぁー!」


ガンガンガン!

44 : 以下、名... - 2016/09/09 19:30:44.27 2HAIa3LzO 25/537

……バタン!


沙織「何!? どうしたの……ってわあああ!? みぽりん!?」

「どうされたんです!?」

優花里「に、西住殿大丈夫ですか!?」

麻子「ちび達、水だ! 水をもってこい!」

桂利奈「あ、あいぃぃ!!」

みほ(……はぁ……はぁ……これ……これって……つわり!?)

みほ(……ああ、そんな……心のどこかで、私はもしかしたら妊娠しないかもって、そう思ってた……そう思いたかった……お姉ちゃん、やっぱり怖いよ……お母さん……助けてお母さん……!)

「……あれ? 紗希、どうしたの? やだ、紗希も気持悪いの!?」

みほ(え──)

紗希「……」

紗希「オロゲェッ」


ビチャビチャァ!



「!?」

麻子「!?」

優花里「!?」

沙織「きゃあああ!? 紗希ちゃんも!? 何よ、何なのよおお!?」



みほ(あ、あ、あああ……うそ……うそ……)



みほ(あああああ……神様……!!!)



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

51 : 以下、名... - 2016/09/10 13:11:03.69 WOWfM8TsO 26/537

みほ(……頭が、くらくらする……目も、チカチカする……)


みほ「──はぁっ──はぁっ──」


みほ(息が、できない……苦しい、怖い、だれか助けて……)


みほ「──はぁっ──っ、……ああ……ああああ……!」


みほ(妊娠したんだ! 赤ちゃんが、いるんだ! 私のおなかの中に! 私の子供が!)

みほ(どうして!? 誰の!? なんで!?)

みほ(『出産』『子育て』『お母さん』──え!?)

みほ(どうするの!? 産むの!? ……産めるの!? 誰が育てるの!? 私!? 私が育てるの!? どうやって!?) 

みほ「──どうしよう──どうしよう──どうしたらいいの──お姉ちゃん、お母さん──」

みほ(……ああ! だめ! 今は考えちゃダメ!……)

みほ(──簡単に言わないで! 私のおなかの中に子供がいるんだよ!? 考えちゃだめだなんて、そんな簡単にいわないでよ!!! そんな事できるわけないよ!!! 考えちゃうにきまってるよ!!!)



……ポリン……みぽりん……みぽりん!!


みほ「──あ……」

沙織「聞こえる!? 私の声、聞こえてる……!?」

みほ「……沙織さん」

沙織「ああよかった……やっと、答えてくれた……ねぇ、いったいどうしちゃったの!?」

優花里「西住殿、これ、水、飲めますか」

みほ(私、いつのまにか座り込んで……う、口の中が、気持ち悪い……そっか嘔吐しちゃったから……)

みほ(……あっ)

みほ「二人とも! 紗希さん、紗希さんは!?」

優花里「大丈夫ですよ! 華さんと冷泉殿と、他の皆も一緒に、あちらで見てくれてますから」

みほ「よかった……」

沙織「これ、口の周りふいて」

みほ「だけど、ハンカチが汚れちゃう」

沙織「そんなことどうだっていいから!」


グシグシ……

52 : 以下、名... - 2016/09/10 13:12:30.51 WOWfM8TsO 27/537

優花里「さぁ、口をゆすいでください」

みほ「うん、……」


ごくごく……


みほ「──ハァ、……二人ともありがとう、少しだけ、楽になった」

優花里「気分はどうです? まだ吐き気はありますか?」

みほ「うん、でも、大丈夫」

みほ(……体中が震えてる……胸の奥が、まるで凍ってるみたいに冷たい……だけど、紗希さんっ)


グッ


沙織「あ……大丈夫なの!? 座ってなよ!」

みほ「ううん、立つ……立たなきゃ」

優花里「けど、これ、もしかして集団食虫毒じゃないですか? 紗希さんも吐いてしまってます。やばいですよこれは……」

沙織「早く、皆で病院にいこう!」

みほ(……違う……たぶん、違うの……)

みほ(紗希さん──)

沙織「ちょ……ね、ねぇ、みぽりんってば!」


とた、とた、とた……


あや「紗希、ほら、お水だよ。座ったままでいいから、少しづつ飲んで……」

紗希「……」コクコク

「紗希さん。寒くはありませんか? 頭痛は」

麻子「少し、体が震えてるな……顔色も悪い……」

みほ「──紗希さんっ」

紗希「……!」

「あ、隊長……!」

「みほさん、立ち上がって大丈夫ですか?」

優花里「少し、足元がふらついています……」

麻子「二人とも、とにかく早く病院へ行くべきだ」

沙織「そうだよっ」

みほ(……)

「……あの、隊長……まさか紗希も……隊長も……」

みほ「……わからない。けど……かも、しれない……」

優季「!」

あゆみ「うそ……」

桂利奈「さきぃ……」

みほ「……紗希さん、顔、良く見せて」

紗希「……」カタカタ

みほ「っ! 紗希、さん……!」


ぎゅうううっ

53 : 以下、名... - 2016/09/10 13:13:24.86 WOWfM8TsO 28/537

みほ(こんなに震えて……怖いよね! 怖いよね!! 私も、怖いよっ)

紗希「……っ」ポロポロ

みほ(なんで!? なんでこの子なの!? 神様なんで、どうしてなんですか!? 意地悪をするならせめて私だけにしてください! なぜこんな小さな子に……!!)

みほ(あ……だめっ涙がっ……)

みほ(でも、もう、止められないよぉ……!)

みほ「……くっ、う、ううっ、……ううっ、ううううううっ」

桂利奈「あ、……た、たいちょう……やだぁ、隊長泣かないで下さいよぅ……」

優季「ふぇ、うぇぇぇ、ふえええ……」

あゆみ「た、たいちょう、ひっぐ……」

「……っ」

優花里「み、みんな……」

沙織「ちょ、ちょっと、本当にどうしちゃったのよ!? みぽりんまで……! もういや! お願いだからだれか説明してよお!」

麻子「沙織っ」

「沙織さん、落ち着いてください!」

沙織「だって、みぽりんが泣いてるんだよ!? 皆が泣いてるんだよ!? こんなの普通じゃないよ!! 皆どうしちゃったのよお! 誰か教えてよおおお!!」

みほ(……っ、泣いてちゃだめなのに! 私がなんとかしなきゃいけないのにっ)

みほ(止まって! 止まって! これ以上泣いてられないの!)

みほ「──はぁッ、ぐっ、ひっぐ……うぅっ──ううううっ」

みほ(どうして止まってくれないの!? 泣いてちゃいけないのにっ お願いだから止まってよお……! そうしなきゃだめなの!

沙織「やだ、もうやだ! こんなのいやああああああああ!」

麻子「沙織!!」

みほ(そうしないと、皆が、皆が! どうかお願い止まって──────)





────ドガァァァァァァァァン!!!!!!!





全員『──────ッ!?』





パラ……パラパラ……

──ひゅぅぅぅ──



優花里「へ、ヘッツァーが……とつぜん発砲して、そ、倉庫の壁をぶち抜きました……」

みほ(ヘッツァー──)

みほ(──会長!?)

54 : 以下、名... - 2016/09/10 13:15:09.16 WOWfM8TsO 29/537

……かっぱん……

ひょこっ


「や、皆……びっくりさせてごめんね。とりあえず……落ちついてもらえたかな」

全員『……』


ひょこっ

柚子「実弾を打つ必要は、あったんでしょうか……」


ひょこっ

「ま、まぁ、緊急事態だ。学校側への説明はなんとでもなる……たぶん……」

「今はどーでもいいんだよ、そんなこと。……よいしょっっ」


すたっ! すたたたたた……

「西住ちゃん……」

みほ「……会長! 会長……!!」

「西住ちゃん、ごめんね……きっとまた、一番しんどい所を、西住ちゃん一人に支えてもらっちゃったんだね……」

みほ「会長、どうしてここに」

「サンダースから緊急連絡があった」

みほ「サンダース……?」

「おケイがエッライ剣幕でね~、『うちのバカがやらかしたかもしれない! 今すぐウサギさん達の様子を確認して!』ってね」

みほ「……あっ……!」

みほ(そっか! アリサさん、あやちゃんの様子が何かおかしいって、ちゃんと気づいてくれたんだ! それでもしもを考えてケイさんに……)

柚子「急いで一年生の教室に行ってみたら、皆飛び出していったっていうし……それで先生達からの話を追って、慌ててここまできたの。そしたら皆、大泣きしてるから……」

あや「……あああっ!? 全然確認する余裕なかったけど、アリサさんからすっごいたくさん着信がきてる……メールやラインも……」

「ったく、余計な事をしてくれた……」

柚子「ケイさんの声の感じ、あれは、アリサさんただの反省会じゃ、すまなさそうだね……」

あや「あのう、でも、アリサさんは悪くないんです……」

「でもバラしちゃったのは事実だしねぇ……ま、あやちゃんの方から、おケイに連絡してあげてよ。……もう遅いかもしれないけど」

みほ「あ、あはは……うっ……?」

みほ(──気が抜けたのかな、頭がすっごくクラクラする──でも……!)

55 : 以下、名... - 2016/09/10 13:17:32.25 WOWfM8TsO 30/537

みほ「あの、会長……!」

「ん」

みほ「今すぐ、全員に話をすべきです」

「西住ちゃん」

「いや、しかしそれではパニックに……」

みほ「そもそも、パニックになるなというのが無理なんです。だから、こうなったら、皆で一緒にパニックになるんです。そのほうが、かえって皆が気持を共有できるはずです」

「い、言ってることが無茶苦茶だぞ!?」

みほ「会長もわかると思いますけど、こんな事、どうしたって一人じゃ抱えきれません。冷静でなんか、いられません……だから、皆で一緒にパニックになるしか、ないと思います」

「……ふむ……」

「し、しかしなぁ」

「……あ、あの! 私も西住隊長に賛成です!」

桂利奈「です!」

柚子「あなたたち……」

「西住隊長のおかげで、私達、もう、全部ちゃんと理解してます! こんなこと……泣かなきゃやってられませんよっ!」

「……全員でパニックになったほうが結局は冷静でいられる、か……その通りかもしれないね……よし! 決めた! 小山! 非常呼集だ! 授業中だろうが何だろうが、戦車道履修者は全員ここに集合!」

柚子「はい!」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



<キンコーンカンコーン『非常呼集! 非常呼集! 戦車道履修者は、全員ただちに戦車倉庫に集合してください! 繰り返します──』



「西住ちゃん、ごめんね……そもそも最初から、こうすべきだったのかもしれない」

みほ「会長……」

「やっぱり駄目だね。どうにも、判断が鈍ってる。でも、たとえどんな状態でも、弱音を吐いてる場合じゃない……」

みほ「……こんな事になって、冷静でいられるはずがありません……私もよく、それが実感できました」

「……え?」

みほ「私、さっき、嘔吐しちゃったんです。紗希さんも」

「……!」

みほ「たぶん、二人とも、もう……」

「……西住ちゃんっ!! 紗希ちゃんっ!!」


ぎゅっ!!!


「頑張ろうね! 皆で一緒に、頑張ろうね……!」

みほ「会長……うぇっ、ひっく……」

紗希「……(;;)」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


優花里「なんだか私達、完全に置いてけぼりですねぇ……」

「あら、沙織さんったら、完全に白目むいて固まっちゃって……」

麻子「ほっとけ。正確な情報が伝わってくるまで、そのほうが静かでいい」

沙織「」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

62 : 以下、名... - 2016/09/12 18:50:22.40 V9Q4yMR4O 31/537

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


ざわざわ……


「各チーム、全員そろっているか?」

ホシノ「レオポン、オッケーで~す」

そど子「ちょっと! 授業中に呼び出すなんて、いくら生徒会でも横暴よっ」

典子「せっかく体育バレーの時間だったのに~」

エルヴィン「非常呼集とはいったい何事」

左衛門佐「まさか、また大洗廃校か!?」

優花里「あぁ、やっぱりそれ、考えちゃいますよね~」

ねこにゃー「むむむ、もしや例の役人がどこぞに潜みおるのではあるまいにゃ!?」

ももがー「それは聞き捨てならんもも!」

ぴよたん「あぶりだして袋だたきにしてやるぴよー!」


<アワワワワワワワワッ


麻子「……あの役人、二度とこの学園の敷居をまたげないな」

「小指を詰めるだけでは、これはもうおさまりませんねぇ」

みほ「……」

優花里「西住殿、西住殿……」

みほ「……あ、ごめん、何?」

優花里「顔色、やっぱり悪いですよ、保健室か、それか、ちゃんと病院に……」

みほ「ううん、大丈夫。……ここにいる」

優花里「そう、ですか……」

みほ「……」

紗希「……」

みほ「紗希さん、ううん、紗希ちゃん。手……つなご?」

紗希「……」コクン

ギュッ

みほ(はぁ……駄目だ。考えちゃだめって思えば思うほど……考えちゃうよ……)



「よーし、全員、こちらに注目しろ」

「あー……みんなごめんね、授業中に突然呼び出したりして、すまない」

「けれど、どうしても皆に伝えなくちゃならない大切な話があるんだ」


……ざわざわ……やっぱり廃校……

63 : 以下、名... - 2016/09/12 18:51:30.65 V9Q4yMR4O 32/537

「学園や戦車道についての話では、ないんだ」

「これから皆に聞いてもらう話は……ここにいる全員の、私達の、各々の人生そのものに深刻な影響を及ぼす、とても重大な話なんだ」

「いきなり、ごめんね。でも、これは脅しじゃないんだ……全員、心して聞いてほしい」


……しーん………


「じゃあ、後は……お願いね」

「ーーはいっ!」


ゾロゾロゾロゾロ

……ざわざわ……


あけび「ウサギさんチーム……?」

妙子「……あれ? 紗希ちゃんは?」

麻子「こっちにいる」

「紗希さん、少し体調が優れなくて……というか、みほさんもですが……」

優花里「二人ともどこかで休んでいてほしいのですが……どうしてもここにいるって……」

みほ(……だって、皆と、一緒にいたい。静かなところになんか、とてもいられないよ……)

あや「う~、最初の挨拶は私かぁ。緊張するなぁ」

「落ち着いて、あや。ゆっくり、一つ一つ話せばいいの」

あや「そ、そうだね……」

「……」

「な、なぁ、お前達……」

あゆみ「?」

「……やっぱり、ダメだっ。 お前達にこんな役目を負わせるなんてできるか! こんな事は、私や会長がやるべきだ!」

優季「えぇ? もぉ~、いまさらですかぁ~? さっきちゃんと話あったじゃないですかぁ」

「しかし……」

柚子「桃ちゃん、気持ちは分かるけど、今はこの子達を信じよう?」

「そうですよ先輩。私達に任せてください!」

「……。……わかった……すまないが……お前達に、託す。どうか……頑張ってくれ」

桂利奈「あい! やったりまぁすっ!」

64 : 以下、名... - 2016/09/12 18:52:14.92 V9Q4yMR4O 33/537

みほ「……みんな……」

「西住ちゃん」

みほ「……会長」

「『私達が発表します!』、か……まさかあの子達が、自分からそんな事を言ってくれるなんてね」

みほ「でも、確かに、とっても良いアイデアだと思います」

「そりゃあそうかも、しれないけどねぇ……」

みほ「みんなこれから、すぐには立ち直れないくらいの大きなショックを受けます。この後、確実に……それはもう、防ぎようがありません……。だけどそれでも、あの子達が、あんなに小さな子達が、くじけず健気に頑張ってる姿を見せてくれたなら……きっとそれは、みんなの励みになるはずです」

「それはわかるよ。だけど私……なんだか不甲斐無くてねぇ」

みほ「だけど、これはあの子達だからこそ可能な戦術です。あの子達に、ゆだねましょう」

「……。さすがだよ、西住ちゃんは。こんな時でもそんな事を考えられるんだ。強いね……」

みほ(……。)

みほ(会長。違うんです私は……最低の人間です。少しも強くなんかないんです)

みほ(私のお腹に子供がいるかもって、考えれば考えるほど怖くなってきて……もう、今、どうしようもないんです……考えちゃダメってわかってるのに……)

みほ(だから、だから……)

みほ(はやく皆にも、このおかしな現実を知ってほしいんです。)

みほ(皆にもこの恐怖を、知ってほしいです。一人でも多く、一緒に苦しんでくれる仲間がほしいんです。できるだけ大勢の人に、私が今どんなに恐ろしい気持ちでいるのかを、理解してほしいんです。……もう、一人では耐えられません……)

みほ(それでも一応、ちょっぴりみんなには申し訳ないなぁっていう気持ちもあって。そしたら、なんだか、罪滅ぼしのつもりなのかな……頭の別に一部では、妙に冷静に、どうしたらいいかなぁっ考えることもできてしまって……ふふ、人間って、不思議ですね……)

みほ(……)

みほ(私だけが妊娠して、それで他の皆が助かるのならそれで構わないって……私、さっき、どうしてそんな事を、一瞬でも考えることができたんだろう。どこに……そんな勇気があったんだろう。それとも私……自分でも気が付かないくらいの、嘘つきなのかな……)

みほ(……)

みほ(なんでこれが、現実なんだろう?)

みほ(どうしてこんな夢みたいな悪夢が、現実なんだろう?)

みほ(……って思った次の瞬間、はっと目が覚めて……そこはいつものベッドの上で……。ほっと胸をなでおろして、ああ夢でよかったって……だけどまだ心臓はドキドキしてて……きっと身体もパジャマも汗でびっしょりだから、シャワーも浴びなきゃ。それからいつも通りに学校へいって、みんなにこの夢のことを話すの。そしたら、『バカな夢だね』って皆が笑ってくれて……どうしてそれが、夢なの……? ちょっと意地悪が、すぎませんか……?)

みほ(……)

みほ(……ごめんね。あなたのお母さん、もっと立派な人だったらいいのにね。ウサギさんチームのあの子達みたいな……)

みほ(……ね、そうだよね)

みほ(……どうせならあの子達の内のだれかの赤ちゃんに、なれたらよかったのにね……えっとね、そうだなぁ、梓ちゃんとか、おすすめだよ……?)

みほ(……)

みほ(……っ!!!!!)

みほ(私、今、何を……なんて事を……)

みほ(最低だ……ああ……私……ほんとに最低だ……ああっ……)

65 : 以下、名... - 2016/09/12 18:53:44.12 V9Q4yMR4O 34/537

みほ「……ッ……ッ」ガタガタガタ…

紗希「……」ギュッ

みほ「……あ、紗希、ちゃん?」

紗希「……?」

みほ「う、ううん、なんでもなの。……なんでもない……ありがとう……ごめんね……」

「ね、紗希ちゃん。私とも、手を繋いでくれる?」

紗希「……」コクン

ぎゅっ……

「……にひひ。ありがとね。紗希ちゃんんの手は暖かいねぇ……」

みほ「……」

みほ(会長。私も、そんな風に笑いたいです。私のお腹の中の、この子の『親』が誰かわかれば……一緒にこの重荷を支えてくれる人がいたら……私もまた会長みたいに、笑えますか?)



あや「……で、では皆さん、まず私から、え、えーと……どうぞご清聴をお願いします……」

あや「えー……あのー……」

あや「……じ、実は私達……に、妊っ娠っ、しちゃうかもしれませんっ!!!」

「ぶっ」

そど子「は、はあああああ!?」

左衛門佐「な、なんだと……」

おりょう「事案発生ぜよ……」

「ちょ、ちょっと、そんな言い方じゃあちゃんと理解してもらえるわけないでしょ!? 会長からもらったFAX!あれ読んで!」

あや「あわわわ……ど、どれだっけ……!?」

あゆみ「これだよ!」

パゾ美「ねぇ、これ、もしかして、風紀案件……?」

そど子「ちょっと貴方たち!? 一体どーゆーこと!? ことによっては懲罰ものよ!?」

ゴモヨ「その前に、ちょっとくらいはあの子達を心配してあげたら?」

そど子「そ、それもそうね……で、でもとにかくもっとちゃんと説明しなさい! 尋問よ!」

桂利奈「わぁぁ、静かに、みんな静かにしてくださいぃぃ~」

優季「どうか落ち着いてぇ~」

「……あははは。いやぁ、やっぱりみんな、可愛いねぇ。」

みほ(……)

「けどさぁ、あのの子のいった事、少しも間違ってないんだよねぇ。やっぱりたちの悪い冗談だよ。何もかもが……」

みほ(あ……会長の苦しそうな表情……なんだか少し……ほっとしちゃう。そうですよね。会長も、辛いんですよね。……なんで忘れてたんだろ……もう、よく、わかんないよ……)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

72 : 以下、名... - 2016/09/14 21:31:05.84 iyWyPbY9O 35/537


「────明日、皆で一緒に検査機関へ行けたらと思います。あの、皆さん、すぐには信じられないかもしれないけど……全部事実なんです。皆で、励まし合って、助け合って……一緒に頑張りましょう!」

桂利奈「がんばろー!」

「で、では、これで、終わります」

あや「ご清聴、ありがとうございましたぁ」


──シィン──

……ぱちぱちぱちぱちッ!


柚子「も、桃ちゃん!? 拍手するような場面じゃないよ! 皆呆然としてるんだよっ!?」

「だからこそ私達が拍手するんだ! 一年生がこんなに頑張ったんだぞ! 私がやらずして一体誰がやる! お前達! 立派だったぞおおお!!!」

あゆみ「か、河嶋先輩、いいですからやめてください……」

優季「河嶋先輩って、意外と親ばかになりそぉ」

「うぉー、貴様らは我が校の誇りだぁー!」

みほ(……)

みほ「紗希ちゃん、ほら、見て、みんなが……」

紗希「……?」

みほ(みんな、どういうことなのか理解できないって顔してる。当たり前だよね……。だけど、理解できてもでいなくても、関係ないんだよね。信じても、信じなくても、現実はただ目の前にあって……どんなにそれから逃げ出したくっても、もう、自分達にはどうすることもできない……。以前の私は、まだ、黒森峰から逃げ出すことができた。だけど、今、私達は、いったいどこに逃げたらいんだろうね……)

「……さぁて、ちょーっとだけ、気合いれよっかな」

みほ「会長?」

スタスタスタスタ……

「皆、話はいま聞いた通りだ。……ただ、当たり前だけど、こんな話すぐには信じられないよね」

全員『……』

「だからまず、今の話が嘘じゃないって、皆に証拠を示そうと思う」

全員『……?』

「私は、妊娠してる」

全員『!?』

……ざわざわ、どよどよ……

73 : 以下、名... - 2016/09/14 21:31:47.13 iyWyPbY9O 36/537

優花里「……ど……どうするつもりなんです……? う、産むんですか……?」

「……。一つ、はっきりと知らせておくけど、戦車道連盟は私達を見捨てはしない。それは理事長からも確約を得ている。……まだ、口約束だけどね。だから、それだけは安心してほしい。皆に何がおこっても、また皆がどんな決断を行おうとも、今回の件で、皆の人生が破滅するようなことだけは、絶対にさせない。それだけは約束する」

優花里「……」

「とにかく、今はゆっくり時間を取って、各自落ち着こう。気になることや心配なことは、私に聞いてよ。できる限り答える」

そど子「こんなのって、こんなのって……不純異性交遊……じゃなくて、不純……何!? いったい何なのよお!?」

エルヴィン「まるで、聖母マリアの処女受胎……」

典子「うぁー……子供ができたら、しばらくバレーは無理……かなぁ……」

「……沙織さんを、このままにしておいて、よかったです……きっと大騒ぎでした……」

優花里「私達が説明しなきゃいけないんですけどね……」

「う、胃が」

沙織「」

みほ(うまくいった、かな。これで皆で、一緒に……)

麻子「……」

麻子「……ちょっと待てくれ……皆、今の話を、本当に信じてるのか?」

みほ(……麻子さん!)

そど子「え?」

「麻子さん……?」

麻子「会長が妊娠してるというが、その証拠はいったいどこにある」

柚子「……この知らせを私達が受け取ったのは、実はもう数日前のことなの。私達はすでに、検査を受けたわ」

麻子「だから、それのどこが、『証拠』なんだっ」

麻子「妊娠した、検査を受けた、そんな事は口先で何とでもいえる! そんなもの証拠でもなんでもない。そもそも、こんなバカな話……生徒会のいつもの悪ふざけに、決まってるだろっ! 一年生まで利用して! こんな大騒ぎまでこしらえて!」

「そんな!? 違います! 私達は嘘なんか……」

麻子「うるさい!」

「……っ!」

みほ(……いつも冷静な麻子さんが……どうして? 少し、意外……)

「冷泉。私達はちゃんと病院の診断書類を持っている。それに、なんだったら連盟の理事長に確認をしてくれてもいい。すべて……本当の事だ」

麻子「書類なんて、いくらでも偽造できる! 連盟の理事長だって……生徒会長の悪だくみに乗らされてるだけだっ!」

優花里「れ、冷泉殿、少し、落ち着きましょう、気持はわかりますが……」

麻子「落ち着いていられるか! 皆こんな話を信じてるのか!? なら皆、大馬鹿者だ! 今まで何を勉強してきたんだ! 戦車にのってるだけで妊娠……!? 冗談はいいかげんいしてくれ! 言って良い冗談と悪い冗談の区別もつかなくなったのか! あんたら生徒会は!」

「麻子先輩……」

74 : 以下、名... - 2016/09/14 21:32:39.47 iyWyPbY9O 37/537


「……」

「わかった」

「じゃあ、お金を渡すから、妊娠検査薬を買ってきてよ」

麻子「え……?」

「他にも、信じられない人は今ここで申し出て。全員にお金を渡すから、各自、どこかで……できるだけ、バラバラのお店で、妊娠検査薬を買ってきてほしい」

「そしたら私が……ちゃんと皆の見てる前で、それにオシッコ、するから」

そど子「うぇぇ!?」

「会長っ!? やめてください! そこまでしなくても!」

「皆の理解の助けになるなら、それくらい安いもんだよ」

「で、でも、だからって!」

麻子「っ……そ、そんな事しても、証拠になんかなるもんかっ!」

柚子「冷泉さん!?」

麻子「それで分かるのは会長が妊娠してるってことだけだ! 彼氏か誰かの子供を妊娠して、それを都合よくはったりに利用してるだけだ!」

みほ(……えっ……!?)

「麻子さん!!!!???」

そど子「ちょっとあなた!?」

優花里「冷泉殿いけません! それはいけませんよ!!」

「……そこまで、信用してもらえてないとは、ちょっと……予想してなかった、かな……あはは、参っちゃうね……」

「れ、冷泉!! 貴様ぁッ!」

柚子「桃ちゃん、だめっ!」

みほ(まずい……ダメ、こんなのダメだよ! 皆が、バラバラになってく……! そんなの、絶対にダメ! 皆で助け合うために、お話ししてるのに!)

みほ「あ、あの、麻子さん!」

みほ「麻子さんがショックを受けてるのはわかります。でも、どうして、そこまでかたくなに……ちょっと、変です!」

麻子「……。そういえば西住さん。さっき、吐いてたよね……」

麻子「あれ、もしかして……つわり?」」

「あっ……!?」

優花里「に、西住殿、西住殿も、まさか……!」

麻子「そうか、やっぱり……つわりのつもりなんだな」

「え……?」

麻子「……西住さんも、会長とグルなんだ……」

みほ「麻子……さん……」

優花里「冷泉殿ッ! あんなに苦しそうにしてたのに、演技なわけ、ないじゃないですか!? 冷泉殿……ちょっとひどすぎますよ!?」

75 : 以下、名... - 2016/09/14 21:33:19.54 iyWyPbY9O 38/537



みほ(……違う! しかたがないんだ! 麻子さんは、こわくて混乱してるんだ! だってその気持ちは、怖さは、私にもわかるもん! 私だって、ひどい事いっぱい考えちゃったもん! 麻子さんを責めることなんて、できない!)

みほ「待ってください! みなさんも、麻子さんも、落ち着いてください、皆、普通じゃないんです! 今は、いったん、冷静になりましょうよ!」

みほ(失敗……かもしれない、一度にみんなに話したのは……! 私の判断ミスだ! 麻子さんが、こんなにで取り乱すなんて! でも、どうして麻子さんはこんなに……)

麻子「……西住さんが演技なら、じゃあ……」

みほ「え……」

麻子「……紗希ちゃんも……」

紗希「……え……?」

麻子「紗希ちゃんも、演技だったのか……?」



みほ(──────!!!)




みほ「ま……麻子さんッッッ!!」

優花里「あ!?」




──パァンッ!!




全員「──!?」



麻子「──……っ」

みほ「あ──……わ、私……カッとなって……麻子さん、ごめん……」

麻子「……」

みほ「だけど、麻子さん──私になら、いくらでも、どんな事でも、言ってかまいません。全部、受け止めます。だけど、紗希さんは、すごく怯えてるんです。だから……それだけは……やめてください」

「……紗希さん、紗希さんも……!?」

優花里「……私……もう膝の力が、抜けそうです……」



麻子「……信じてたまるか……! 信じてたまるかあああああああああああ!!!」



みほ「ま、麻子……さん……?」

麻子「皆はいいよね……皆はお母さんもお父さんもいるから、いいよね!!!

麻子「ちゃんと、お父さんとお母さんが助けてくれるから、いいよね!!!」

みほ(……あ……!)

麻子「けど、けど私には、おばあしかいないんだ!!」

麻子「おばあだって、いつまでも元気じゃないのに……」

麻子「こんな事になるなら、こんな目に合うなら……」

麻子「……っ」

麻子「私、戦車道なんて──やるんじゃなかった!!!」

76 : 以下、名... - 2016/09/14 21:34:28.20 iyWyPbY9O 39/537

みほ(──!!!)

みほ「それは違います! そんな事いわないでください! 戦車道のおかげで私は皆と出会えたんです! 麻子さんとだって……!」 

麻子「その戦車道のおかげで、私は今こんな目にあってるんだ!! 皆だってそう思ってるだろ!? 戦車道にさえのってなきゃ、こんなことには……!!」

そど子「……っ、ちょっとあんた!、偉そうに、なにを悲劇にヒロインぶってるのよ!」

麻子「なんだと!?」

そど子「あなたなんか、自分一人じゃ勉強以外何にもできないくせに! 戦車道をやってなかたら、あんたなんかそのうち留年して退学してただの引きこもりになってるわよ! あんた、皆に助けられて、それでやっと今ここにいるんでしょ!?」

麻子「……っ」

そど子「一年生の子達も言ってたじゃない。皆で頑張ろうって! あんた……自分は一人だけだ! みたいな顔して、勝手に悲劇の主人公ぶるんじゃないわよ!」

みほ「麻子さん、私達、ずっと一緒に頑張ってきたじゃないですか」

優花里「皆の言う通りです。これからだって

麻子「……学園生活や戦車道の話と……一緒にしないでくれっ」

麻子「……皆のことは、もちろん信じてる……」

麻子「……だけど……」

麻子「この怖さは……私にしかわからない! 私にはお父さんやお母さんがいないんだ! 自分の生活や命を犠牲にしてでも私を助けてくれる……そういう人が、私にはもういないんだ!」

優花里「そんな事はありません! 私達だって、冷泉殿のためなら、なんだってできます! 仲間じゃないですか!」

麻子「そういってくれるのは、ほんとにうれしい……でも、もし皆に自分の子供がいたとして、それでもなお、私のために自分を犠牲にできるか? 自分の子供をほっておいて」

優花里「そ、それは……いや、そんな極端な例え、意地悪ですよ!」

麻子「……秋山さんのお母さんやお父さんは、秋山さんのためならなだってするだろう、親って、そういうもんなんだ。そういう人が……私にはいないんだ!」

みほ「麻子さん……」

みほ(あ、う……黙ってちゃダメ! 黙ってちゃだめだ! でも……何て言ってあげればいいの!?)

麻子「……ごめん、私、今日はもう……家に帰る」

みほ「……!」

77 : 以下、名... - 2016/09/14 21:35:03.10 iyWyPbY9O 40/537

みほ「麻子さん、駄目! 今一人になったら、こんな気持ちを一人で抱えていたら、気がくるっちゃう! 皆と一緒にいなきゃ!」

麻子「そうかもね。だけど──これ以上、皆に、嫌われたくない」

みほ「……! そ、そんな事、ない!誰も麻子さんを嫌いになんか……」

麻子「お願いだから! 今は一人にしてくれ。少し、頭を冷やしたいから……」

みほ「だからっ、一人でいても落ち着くことなんて、できな──」

「西住ちゃん!」

みほ「会長……」

「今は、一人にしてあげようよ」

みほ「でも!」

「西住ちゃんの言う通り、ずっと一人で考えてもいいことなんかない。でも、一人で考える時間もまた、必要だと思うよ」

みほ「それは……そうかもしれないけど……」

麻子「じゃあ、ごめん。皆……さよなら」


と、と、と、と……──。


そど子「……。……っ! 私、冷泉さんにもう一言だけ、言ってくる!」


たったったったっ……。


「……」

優花里「……」

「あの、私達、これでよかったんでしょうか……」

「皆、本当によく頑張ってくれたよ。ありがとね。えらいえらい……」

みほ(もう……頭が、ぐちゃぐちゃだ……)

みほ(……そういえば、会長、お母さんに電話しろって……)

みほ(……でも、ただでさえお母さんとしゃべるのは緊張するのに、今みたいな気持で私、お母さんとちゃんと話しができるのかな……電話はまた今度にしようかな……)


──自分の生活や命を犠牲にしてでも私を助けてくれる……そういう人が、私にはもういないんだ!──


みほ(……そうだった……私だって、少しくらいは、その気持を理解してるつもりだよ……麻子さん……)

みほ(けど、私にはお姉ちゃんがいる……お姉ちゃんなら、きっと私のためになんだって……)

みほ(けど、待って……もし、お姉ちゃんに子供ができていたら? そしたら、お姉ちゃんは……)

……ゾクッ……

みほ「あぁ……これなんだね。この感じなんだね……麻子さんっ……」






沙織「……。ハッ。あれ? 皆、どうしたの……? ていうか、私はいつから……」

優花里「……」

「……」

沙織「わっ、ていうかていうか、戦車道全員集合してるじゃん! いつの間に!? ……あれ? 麻子は?」

「……沙織さんなら、もう少し麻子さんに言葉をかけてあげられたのでしょうか……」

優花里「……でも、よけいに大騒ぎになってた気もしますねぇ……」

「そうですねぇ……」

沙織「な、なによ……一体なんなのよぉ!?」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

97 : 以下、名... - 2016/09/16 22:45:18.24 AVJNjYl5O 41/537

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


優花里「園殿、もどってきませんね……もう、夜になってしまいましたが……」

みほ「ずっと、麻子さんと一緒にいるのかな……」

優花里「かえって来ないということは、おそらく……」

みほ(麻子さん、そど子さん……)

「今晩は皆さんで一緒に戦車倉庫に泊って、明日の朝に皆で保健施設へ行く──という話は、みどり子さんにもちゃんと伝わっているのですよね?」

優花里「ええ、風紀のお二人がメールをしてくれてます。ただ、返信は無いし。電話にも、出ないって……。冷泉殿には、今はちょっと、連絡しずらいですし……」

みほ(麻子さん、明日、ちゃんとここへ戻ってきてくれるかな……)

みほ(私も、麻子さんのところへ行きたい。麻子さんの気持ち私にもわかるよって、伝えたい。だけど今は、私の声、麻子さんには届かないのかもしれない……)

みほ(お願いです、そど子さん、もしも麻子さんと一緒にいるのなら、どうか、麻子さんの事を……)

優花里「武部殿の様子は、どうです?」

「……沙織さん? 沙織さん?」

沙織「……。うう、……ううぅ……シングルマザーなんていやあ……」

「まだ、だめですねぇ」

優花里「華さんの肩に顔をうずめて、ずーっと寄りかかったままで……よほどショックだったんですねぇ」

「髪の毛が垂れて顔が全くみえません。沙織さん、貞子さんみたいになってますよ? それに、ずっと倉庫の床に座っているせいで、さすがに足がしびれてきました……」

みほ「あの……優花里さんと華さんは、思ったりよりも落ち着いてるんだね。二人が冷静でいてくれて、本当によかった」

優花里「いやぁ、私だってもちろん、何が何だかって感じではありますが」

「ある意味、冷泉さんと沙織さんのおかげかもしれません」

みほ「……?」

優花里「あ、私もそれ、わかります。身近な人がパニックになってると、なんだかかえって自分は落ち着けるんですよね」

優花里「それに、西住殿も、会長も、そして紗希ちゃんも……私の理解できない何かと、戦ってるんだなって、思うと」

「もちろん、にわかには信じられません。妊娠、だなんて。でも、みなさんの真剣な様子をみていると、とても嘘や冗談だとは」

優花里「冗談であって、ほしいんですけどね」

みほ「……」


98 : 以下、名... - 2016/09/16 22:46:50.03 AVJNjYl5O 42/537


みほ(会長。順番に公表していくっていう会長の目論見は、やっぱり正しかったんだと思います。皆で一緒にパニックに、だなんて、私の考えは、ごめんなさい、甘かった……。麻子さんとだって、本当ならもっと落ち着いて、私達だけで話せたはずだった)

みほ「ねぇ、優花里さん、華さん」

優花里「はい?」

みほ「二人も、戦車道なんか、やるんじゃなかったって……やっぱり思った?」

優花里「……。」

「……。それは……」

みほ「私、麻子さんの言ってたこと、認めたくない。でも、そう考えてしまっても当然だって、そうも思うの……」

優花里「……もしも……この先、例えば子供を抱えながら人生に絶望するような事になてしまったら、その時はやっぱり私も、そういう風に考えてしまうのかもしれません」

みほ「……」

優花里「ですが、今はまだ、そんな風には思いませんし、やっぱり……思えませんよ」

みほ「……本当?」

優花里「本当ですよ。私だって、戦車道のおかげで、こうして皆と仲良くなれたんです。西住殿と気持ちは同じです。だから、冷泉殿の言葉は……やっぱり少し、悲しいです」

「麻子さんも、動揺してしまっていただけですよ。きっと」

優花里「私もそう思います。ただ、お父さんとお母さんの話は……私、何も言えませんでした」

みほ「……」

「もちろん、誰しも少なからずは、麻子さんと同じ事を考えてしまうと思います。けれど、決してその気持ちだけが全てでは無いはずです。……私だって、そうですから」

優花里「そう、ですよね」

沙織「──麻子、そんな事を言ったんだ」

みほ「沙織さん」

沙織「みぽりん、私ね……私は……」

「──沙織、さん。いいんです」


 ぎゅっ


「今は、何も言わなくていいんですよ。考えなくていいんです。ずっと私が、こうして沙織さんの側にいます。だから、何も言わずに、ね?」

沙織「……。ありがと、華。……グス……ひっく……たまごクラブはまだ早いよぅ……」

「よしよし」

みほ(ありがとう、二人とも、本当にありがとう……二人のおかげで……私も頑張らなきゃって、また、思える)

みほ「……。ごめんね皆、私ちょっと、電話してくる」

優花里「電話、ですか?」

みほ「うん。実は……お母さんが、電話しろって」

優花里「あぁ……、私も、もう少しいろんな事がはっきりわかったら、お父さんとお母さんに、話さなきゃ……。でも、私は連盟の人に、同席してもらおうかなぁ」

「お母様、きっとまた卒倒してしまいます」

みほ「私も本当は、まだちょっと、電話しようかどうしようか迷ってるんだけど……でも、とにかくちょっと、外に行ってくるね」

優花里「あの、西住殿も、あまり根をつめないでくださいね。その……西住殿だって、もしかするとお腹に……」

みほ「うん……心配してくれてありがとう」

沙織「……早く帰ってきてねみぽりん……すん、すん……」

「よしよし」




 たったったった……




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

99 : 以下、名... - 2016/09/16 22:47:32.93 AVJNjYl5O 43/537

みほ「紗希ちゃん、皆、ちょっと様子を見に来たんだけど……って、えええ!? みんな、いったい何をしてるの……?」

「あ、西住隊長!」

桂利奈「今、皆で紗希ちゃんの子宮を皆であっためてます!」

みほ「し、子宮!?」

あや「ネットで調べたんだけど。とっても効果あるらしいですよっ」

みほ「えと、何に?」

優季「さぁ~?」

あゆみ「でも、こーやって、オヘソの下あたりをてのひらでクルクル~ってなでられると、暖かくて気持ちいいんだよねっ、紗希!」

紗希「……」コクン

みほ(あ……紗希ちゃん笑ってる……よくわからないけど、よかった……)





 ……カッパン……

みほ「こんばんは、会長、みなさん……別に用事はないんですけど、どうしてるかなって」

「やぁ、こっちはいつも通りだよ。今夜もこーやって、河嶋と添い寝だ」

「しかし、どうしてヘッツァーの中で……狭い」

「だって、私がウンウンうなされてるのを目の当たりにしたら、皆まで不安になっちゃうでしょ?」

「……っ。会長! 私が、私が一緒にいますから!」

 ぎゅっ

柚子「……ずるい! ねぇ桃ちゃん、やっぱり、私も、ヘッツァーの中に入りたいよっ」

「だめだっ、万が一妊娠したらどうする!?」

柚子「桃ちゃんか会長かとの子供なら、私頑張って育てるもん!」

「はぁ!?」

「あははは、そんときゃみんなで、一緒に赤ちゃんそだてよーね~」

「二人とも、冗談が黒すぎます!」

みほ「はは、ははは……」

みほ(すごいなぁ。三人とも、一緒にいれば、どんな時でも元気でいられるんですね……)

100 : 以下、名... - 2016/09/16 22:48:59.95 AVJNjYl5O 44/537

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


みほ(夜の校庭って、静かだなぁ。明かりがついてるのは、戦車の倉庫だけ。……皆あそこにいるんだって思うと、なんだか、安心する……。あ、星がいっぱい。今、太平洋のどのあたりを航行してるのかな……)

みほ(……)

みほ(麻子さん、戦車道をしなければよかったなんて、やっぱり、私には思えないよ。戦車道も、みんなも、そのどちらが欠けても、今の私にはたどりつけないんだもの)

みほ(……。)

みほ(お母さん、戦車道は、どうなってしまうんですか? お母さんは今……何をしてるんですか……?)

みほ(……お母さん……)


 ごそごそ

 ピッ、ピッ、


みほ「最後にお母さんと話しをしたの、いつだろう。履歴には……もちろん残ってないよね。えと、電話帳」

みほ「……あ……」

みほ(──アンチョビさん、お姉ちゃん、カチューシャさん、ケイさん、ダージリンさん、西さん、それに、直接の連絡先は知らないけれど、ミカさん達も……。皆、どうしてるだろう。皆も今、大変なのかな。もう少し落ち着いたら、連絡してみよう……)


 ピッ、ピッ、

 ->『お母さん』


みほ「……。」

みほ(だけど、電話をして、お母さんと、いったい何を話すの?)

みほ(……ううん、話をするために、電話をするんじゃない。私の知らないことを教えてもらうために、電話するの。戦車道の事や、それに……お姉ちゃんの事)

みほ「……。」

みほ「よし、電話……するっ」

みほ「──すぅ、はぁ──えいっ!」ピ


 ツ、ツ、ツ──プルルルルルルル! プルルルルルルルル!


みほ(心臓が、すごくドキドキいってる……そうだよ、お母さんと最後に話したのって、私がまだ熊本にいたころなんだ……私が戦車道から、逃げ出した頃……)


 ──プルルルルルルルル! プルルルルルルルル!


みほ(……もしかして、お仕事中なのかな……やっぱり、また今度に──)


 プルルルルルルル! プルルル、ぷっ、



『──はい』



みほ(──!)

101 : 以下、名... - 2016/09/16 22:50:27.65 AVJNjYl5O 45/537


みほ「あ、も……もしもし、お母、さん……?」

しほ『……みほ』



 ──ドクン──!



みほ(あ……名前、呼ばれたの、久しぶりだ……お母さんが……私の名前を……み、ほ……)



しほ『みほ? 聞こえてるの?』

みほ「……っ、ご、ごめんなさい。あの……久しぶり、です」

しほ『そうね、ずいぶんと、久しぶりね』

みほ「そ、そうだね」



みほ(……えと、なんだけっ、そ、そうだ、まずは戦車道のことだっ。お姉ちゃんのことは、まだちょっと、聞くのが怖い……)


みほ「あ、あの──」

しほ『──それで、例の話は、聞いたわね?』

みほ「──へ? ……う、うん……」


みほ(……。)

みほ(……あはは……お母さんらしいや。単刀直入)

みほ(……そっか、そうだよね……)

みほ(お母さんだって、私と無駄話をしようとは、思ってないよ。そうだよね……お互い、必要な確認をするだけなんだよね……うん、ちょっとだけ、落ち着いた……)

みほ(……すぅ……はぁ……)



みほ「あのね、お母さん」

しほ『ええ』

みほ「戦車道、これから、どうなっちゃうのかな」

しほ『……え?』

みほ「お母さんも今大変だと思うけど、何か知ってたら教えてほしいの。戦車道がこれから、どうなっていくのか……。戦車道連盟は、どうするつもりなのかとか……」

しほ『……。みほ? もう一度確認するけど、あなた、例の話、本当にちゃんと聞いたの?』

みほ「? うん。私達が妊娠するかもっていう、話だよね……?」

しほ『……妊娠検査は、もう、受けたの?』

みほ「ううん。明日、皆で病院に行くことになると思うけど……」

しほ『……そう……』

みほ「……?」



みほ(なんだろう? まるで、お母さん、なんだか少し、戸惑ってるみたいな……)

102 : 以下、名... - 2016/09/16 22:51:48.19 AVJNjYl5O 46/537



しほ『……まぁ、いいわ。知りたいのなら、答えましょう』

みほ「え?」

しほ『まず──戦車道そのものがこの先どうなるかについて、現時点では明確に言える事は何もありません。次に、戦車道連盟がどうするつもりか、という質問。その質問はすでに無意味ね。この件についての主導は、すでにWHOや各国の研究機関に移りはじめてる。人道問題調整事務所も動きはじめていてそれが少々厄介だけれど……とにかく戦車道連盟は、いまや執行機関の一つにすぎない。たまたま当事者になっただけの、ね』

みほ「へ!? ちょ、えと……だぶるえいちおー? って……なんだっけ……」

しほ『……。みほ、戦車道以外の事も、もう少し勉強なさい。あなた、学校の成績は大丈夫なの?』

みほ「ふぇ!? が、学校の成績!? それは、えと、はい……ごめんなさい……頑張ります……」

しほ『……ふ』



みほ(え……お母さん、今、笑った……?)


しほ『……本当に、少し、意外ね』

みほ「……?」

しほ『今回の事で、もっと取り乱しているかと思ったのだけれど』

みほ「あ……うん、それはもちろん、びっくりしたし……いろいろあったけど……ていうか今も、色々あるんだけど、まぁ、なんとか……」

しほ『それに、イの一番に戦車道がどうのと、おかしな子』

みほ「そ、そんなに、変かな」

しほ『戦車道はイヤだと泣いて、黒森峰から──西住流から逃げ出したのは、あなたでしょう』

みほ「うっ、それは、そうだけど……お母さんってば、エ……逸見さんみたい」

しほ『逸見? ……あぁ、あの子……』



みほ(……? 何だろう、今の、含んだ感じ……)



しほ『まぁいいわ、みほ』

みほ「っあ、は、はい」

しほ『とにかくあなた──熊本に戻ってきなさい』



みほ(──え?)



しほ『万が一あなたも身ごもっているのだとしたら、大洗に一人でいるわけにはいかないでしょう』

みほ「……えと、それって……ほんとに言ってるの……?」

しほ『……? 何? 変なことを、言ったつもりはないけれど』

みほ「だって……いいの?」

しほ『いいの、とは?』

みほ「だってお母さんさっき、私は、黒森峰から──ううん、西住流から逃げ出したって……」

しほ『……そうね。あなたを破門することも、一度は考えたけれど』

みほ「じ、じゃあ、なおさらどうして……戻れ、だなんて……お母さんがそんな事を、言ってくれるなんて……思わなかった」

しほ『……。みほ』



みほ(あ、今……なんだか少し、お母さんの声が、怒った……)

103 : 以下、名... - 2016/09/16 22:53:24.58 AVJNjYl5O 47/537



しほ『では、あなたは今後いったいどうするつもりなの?』

みほ「え?」

しほ『仮に妊娠していたとして、あなたはいったいどうやって生活をしていくの?』

みほ「え、えっと、それは……その、いろいろと頑張って──」

しほ「──ツワリに、訳の分からないイライラに、どんどん重くになる体に、定期健診や社会保障の手続きや妊娠からくるその他もろもろのあらゆる多種多様な不都合面倒事それら全てに、いったいどうやって対応していくつもりなの。あなた、ひとりで』

みほ「ひ、一人じゃないよ! その……みんなで、力を合わせて……」

しほ『……ハァ……みんなとはいったい誰。そのアテを、今ここで私に聞かせなさい』

みほ「え、えと、えと、生徒会ちょ──」

しほ『──まさか、大洗の学生だなどと言わないでしょうね』

みほ「──ひぁぅっ!?」

しほ『経済的にも生活能力的にも社会的にも貴方とそう大差のない能力しかなく、しかもそれぞれが重大な身体的精神的負担を抱えた未成年の友人が貴方の言う『みんな』だなんて、もちろん言わないでしょうね。そうよね? みほ』

みほ「あ、う、え……そ、その、戦車道連盟の、人、とか、先生、にも、いっぱい相談して……その……」

みほ(うああ!? ……な、なんだろう!? 私いま、すごく恥ずかしい! み、みんなで頑張ろうって、そんなに間違ってないはずのことなのにっ!?)

しほ『……ハァ……』

みほ(なんで!? 私、今、自分がすっごくバカみたいだよぅ! なんでこんなに、情けない気持になるの……!?)

みほ「だ、だって!! しかたないよ!! だって……私はもう、自分でなんとかしなきゃって、思って……」

しほ『自分で、ねぇ……』

みほ「う……」

しほ『……もっとも、そうさせたのは私の責任でも、あるのでしょうけれどね』

みほ「え……?」

しほ『みほ、聞きなさい』

みほ「は、はい」

しほ『私は鬼のような母親でしょうけれど、鬼ではないわ』

みほ「……う、うん……」

しほ『実の娘がこんな理不尽な目にあっているというのに、それを捨ておく親が、いったいどこに戦車道にありますか』

みほ「じ、じゃあ、お母さんは、私を……助けてくれるの……?」

しほ『……あなた、自分が自立しているとでも思っているの? 思いあがるものではないわね。あなたの学費をいったい誰が払っているのか、よく考えてごらんなさい』

しほ『それに……親子の縁を切った覚えもない』

みほ「で、でも……! お母さんは、もう、私のことなんて……興味ないんだって、私は……」

しほ『……。あなたもしつこいわね』

しほ『……みほ、一度しか言わない』

みほ「……?」

しほ『大会決勝と、大学選抜戦と、みなの先頭に立ってよく戦いぬいた。……立派だった』

みほ「──っ!?」

みほ「……っ、ちょ、……ちょっと、待って」

しほ『何』

みほ「……いきなりそんなの……ずるいよ……」

しほ『あなたがいう事を聞かないからでしょう。とにかく、わかったら、熊本へかえってらっしゃい。何もかも、今までとはもう状況が違うのだから』


104 : 以下、名... - 2016/09/16 22:58:15.99 AVJNjYl5O 48/537

みほ「……」

みほ「あの、お母さん」

しほ「何?」

みほ「私、どうしても、今すぐには帰れません。大洗には、私の仲間と戦車道が、あるから……ごめんなさい」

しほ「……そう……。……わかりました。では、そうね……明日、検査だと言ったわね。なら、一週間以内にはに結果がでるでしょう。それから、また連絡をするように。いいわね? 必ずよ」

みほ「うん」

しほ「じゃあ、切るわね」

みほ「。あの、お母さん」

しほ「なに?」

みほ「ありがとう」

しほ「……。何かあったら、いつでも連絡をしなさい。……みほ、切るわよ?」

みほ「うん。ばいばい、お母さん」



 ……プツ……ツー、ツー、ツー



みほ「……。」


みほ(お姉ちゃんの事、聞けなかった)


みほ「……っ。……っ」


みほ(戦車道の事も、もっと、よく確認したかった)

みほ(それに、ツワリの事も、もしかしたらって事も、伝えられなかった……だって……私、もう、……我慢、できなくて……っ)



みほ「……ひっ……はぁっ……ひっく……」


──皆はいいよね……皆はお母さんもお父さんもいるから、いいよね!!!──

──ちゃんと、お父さんとお母さんが助けてくれるから、いいよね!!!──


みほ(……麻子さん、……っ)


──親って、そういうもんなんだ。そういう人が……私にはもういないんだ!──


みほ「ああっ……うぁぁっ……ああああっ」

みほ(麻子さん、ごめん、ごめんね……私、お母さん、いたよ。私、お母さん、ちゃんと、まだいてくれたよ。ごめんね、ごめんね、私だけ、ごめんね……)

みほ(見ててくれた)

みほ(私の事、ほめてくれた)

みほ(すごく嬉しかった。麻子さん、お母さんがほめてくれるって、こんなにうれしいんだ……!)

みほ(それなのに、麻子さんにはもう、お母さんいない……)

 ……ゾク……

みほ「ああ……あああっ……うぁっ……ひぐぅ……っはぁっ……ぐす……ひっく……おがぁ、ざぁん……おかぁさんのばか……あぁぁ……」

みほ(麻子さんになんて言ってあげればいいのか、私には、もう、ぜんぜん分からない……)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

125 : 以下、名... - 2016/09/22 14:16:13.13 2mg/JtFUO 49/537

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


……リー、リー……リー……


「……スー……スー……」

優花里「……ムニャムニャー……」

沙織「……くぅー……くぅ……うぅ、華やめて子どもできちゃうよぉ……くぅー……」


みほ(……。)

みほ(ぜんぜん眠れない……)

みほ(麻子さんの事が、頭の中でぐるぐるグルグル)

みほ(麻子さん、もしかしてこのまま戦車道やめちゃうのかな……妊娠を絶対に避けようとするのならそれしか……けど今の時点で妊娠していないのなら今のところは今後も大丈夫なはずだって……だったらどっちみち今更戦車道をやめてももう……かといって100%安全ってわけじゃ……でもでも……)

みほ(ああ、もう、あたまがグチャグチャ……)

みほ「……うっ!?」

みほ(また吐き気っ……だめっ!、ここで吐いたら、眠ってる皆に迷惑が……)


 だだだ……


みほ「うぇッ、ぐ、せめて手洗い場までがまんを……あッ、駄目ッ、……オゥイエッ! オゲェェェェェェ!!!!」


 プシャアアアアアア!!!

 ……ぽと、ぽと……


みほ「うぅ、なんとか倉庫の外にはでたけど……口元を手でぐっと塞いでたせいで、お汁が飛び散っちゃった……うぅ、パジャマも顔も……べちゃべちゃ……汚いよぅ……」

みほ(あぁ、やっぱり、どう考えても私、妊娠……っ……)

みほ「っ……っ……もぉぉぉぉ……っ!!!!」

みほ「パジャマも、臭いしっ! 顔も、臭いしっ!、頭の中は、グっチャグチャだしっ!、なにもかもどうにもならないしっ! もうっ、やだぁっ!! どうして私が!!……うぅ……ぐすっ……なんでこんなに惨めな思いをしなきゃいけないの……?」

みほ(眠ろうとしても瞼の裏で嫌な考えがグルグルまわりだしちゃうし起きててもいろんな心配事が頭の中でぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるッ!!!……もう疲れたよ……何これ、妊娠ってこんなに辛いの……?」 

みほ(ていうか……まだ一日目!? 妊娠って、何か月も続くんだよ!? しかもそのうちお腹が大きくなりはじめて……? あは、ははは……うそだ……。私、お母さんだなんて、絶対無理だ……)

みほ「そりゃ麻子さんだって絶対妊娠したくないって思うよ……でも、戦車道の事はやっぱり……って、あああもおおおお! また!? ぐるぐるぐるぐる同じ事ばかり!!!! そんなの今考えどうするの!!?? どうにもならないって言ってるでしょ!!!??? もう嫌っ!! 誰か、助けてっ──」


 ──何かあったら、いつでも連絡をしなさい──


みほ(……ッ!)

みほ(……いやいや、駄目にきまってるよ……何を考えてるの……?)

みほ(だって、何時間か前に、わたし今は大洗で頑張りますって電話をきったばっかりだよ!? それに今、真夜中だよ……?)

126 : 以下、名... - 2016/09/22 14:16:41.51 2mg/JtFUO 50/537


みほ(……。)


 ごそごそ

 ……ピ

 ->『お母さん』


みほ「……お母さん……」

みほ(あ、ディスプレイにお汁がついちゃった……まぁどうでもいいや……自分の吐いたものだし……)

みほ(……。)

みほ(……。)

みほ「……ぐすっ……お母さんの声、もう一度聞きたい……。だって、あんなに優しくしてもらえるだなんて、思ってなかった……お母さん……」

みほ「でも、絶対怒られる……せっかく褒めてもらえたのに、また呆れられちゃう……でも、でも……」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



しほ『……。』

みほ「……。」


みほ(電話、しちゃった……)

127 : 以下、名... - 2016/09/22 14:17:24.05 2mg/JtFUO 51/537

しほ『……みほ』

みほ(ぁ……お母さんの声だ……)

みほ「お、お母さんっ」

しほ『……。たしかに母は、いつでも電話しなさい、と、みほに言いました。……6時間ほど前に』

みほ「……はぃ」

みほ(うぅ、すっごく不機嫌そう……当たり前だけど……)

しほ『私は、鬼ではありません。ただし、鬼のような母親ではある。貴方はそれを忘れるべきではないわね』

みほ「……ごめんなさい……」

しほ『今、何時だと思ってるの』

みほ「えと、その、午前3──」

しほ『答えろとは誰も言っていません』

みほ「──ひぅっ……すみません……」

しほ『ハァ……少しはシャンとしたかと思ったのだけれど、買いかぶりだったのかしらね』

みほ「……うぅ……」

みほ(やっぱりすっごく怒られた。なのに……やっぱりお母さんの声をきいたら、ホッとしちゃって……あ、だめ、涙が……)

みほ「……ぐす、ひぐ……うぅ……」

みほ(あぁぁぁ、だめ、だめ、さっきはせっかく我慢してたのに……でも、もう……胸のおくから嗚咽が溢れてきちゃって、とめられないよぅ……)

みほ「……えぐっ……ごべんなざぃ、でも、お母さんにどうしても相談したいことがあって、ひぐっ、私、頭がもうグチャグチャで、どうしていいのかわからなくて……ぐすっ……もう、どうしようもなくて……」

しほ『……。貴方はそれでも西住の女ですか……と、本来ならば叱りつけなければならないわね。けれど、まぁ今回は……あなたたちの特殊事情をかんがみて、特別に不問とします』

みほ「……ぐす……」

しほ『みほ……妊娠について、もちろん不安な事はあるでしょう。言ってみなさい。母が聞きます』

みほ「うぅ、ありがとう……実は、戦車道のことで……」

しほ『……はあ?』


みほ(……わ、お母さんもこんなすっとんきょうな声をだすんだ……)


しほ『……。転校させたのがかえって良かったのかしら』

みほ「……?」

しほ『まぁいいわ。で、何ですって?』

みほ「私の友達が、もう戦車道をやりたくないって……」

しほ『……ああ、やっぱりみほだったわね』

みほ「???」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

128 : 以下、名... - 2016/09/22 14:22:47.93 2mg/JtFUO 52/537

みほ「──という事なの。だから、妊娠なんか絶対にしたくないって……。お母さん、私、どうしたらいいのかな……」

しほ『……おおよその事は理解できた。けれどそれなら、悩むまでもなくい、簡単な話でしょう?』

みほ「え、ええ……?」

しほ『妊娠をどうしても避けたいのなら、戦車道にかかわるのを止めてあなたたちともいったんは距離を置く、それで解決する話です』

みほ「え……」

しほ『もちろん、検査の結果妊娠していなければ、だけど』

みほ「も、もしも、麻子さんが妊娠していたら……?」

しほ『……幸い、おばあ様は比較的元気なのね? なら、学園艦を降りておばあ様と同居するか、あるいはおばあ様に乗船してもらって同居……どちらにせよ、親族と同居、という形でなければ、文科省は許可しないでしょうね』

みほ「も、文科省……!?」

みほ(……うぅっ、あの眼鏡の人の嫌な顔が……あぅ、また気分が悪くなりそう……)

しほ『あるいはもしかすると──』

みほ「……?」

しほ『いえ、まぁいい。それよりも、みほ。いま聞いた限りだと……そもそもあなたが騒ぎ立てなければ、まったくもめるような話ではなかったはずよ? それは分かっているの?』

みほ「……え?」

しほ『……まぁ、それに気付いていればこんな事にはならないものね。……みほ、もしもその子が、妊娠はしたくないから戦車道はやめる、と言ったら、あなたはどうするの? 感情的な事は捨て置いて、判断してみなさい』

みほ「……。それはもちろん、麻子さんがそういうのなら、しかたないって、思うけど……」

しほ『では、あなたは昨日、その子……麻子さんの、何を責めたの?』

みほ「え? それは、『戦車道なんかやるんじゃなかったって』って言われて、そんな事をいわれたのがショックで」

しほ『貴方らしいわね。ところで、麻子さんは、貴方や戦車を嫌いになったから、そんな事を言ったのかしら』

みほ「……ううん、そうじゃなくて、麻子さんは妊娠が怖くて怖くて、たまらなかったから……」

しほ「おそらくはそうでしょう。それなのに……みほ。あなたはその時、麻子さんの言葉を、違うふうに受け取ったのではないの?』

みほ「……? 違うふうに……?」

みほ(……。)

みほ(あの時、私は……。)


 ──戦車道なんて、やるんじゃなかった!!!──


みほ(麻子さんのその言葉が、まるで私達の友情をないがしろにしているように感じられて、それに反発して……)


 ──それは違います! そんな事いわないでください! 戦車道のおかげで私は皆と出会えたんです! 麻子さんとだって……!──


みほ「……あれ?」

みほ(……麻子さんは感情的になって口走ってしまっただけで、その言葉が本心の全てだったわけじゃない。にもかかわらず、あの時私は、自分も感情的になって、麻子さんの言葉を大声で責め立てて……)

みほ(……。)

みほ「……あ……!?」

しほ「……。」

みほ(私が……そうやって叫んだから!? そのせいで、まるで、麻子さんが混乱して間違った考えにとらわれているんだ、みたいな印象を与えてしまって、それがみんなにも伝わって──!?)


 ──ちょっとあんた!、偉そうに、なにを悲劇にヒロインぶってるのよ!──

 ──麻子さん、私達、ずっと一緒に頑張ってきたじゃないですか──


みほ(……麻子さんは妊娠が怖かっただけ! それなのに、みんなで麻子さんを裏切り者みたいに責め立てて……!!!)

みほ(……え!? 私、私……麻子さんにすごくヒドイことをしてしまった!?)

みほ「……ど、どうしよう、私……私……!」

みほ(麻子さんが、会長や紗希ちゃんを嘘つき呼ばわりして、私、麻子さんを責めてたんだ! そしてその気持ちのまま、麻子さんの発言を大声で責めて……ああ! 私! ……なんてことを!!)

みほ「……あ、あやまらなきゃ、麻子さんに、謝らなきゃ……!」

129 : 以下、名... - 2016/09/22 14:24:51.66 2mg/JtFUO 53/537

しほ『……。みほっ! ……落ち着きなさい。みっともない』

みほ「っ!?」

しほ『そうやって感情的になるから、おかしな事になったんです。また繰り返す気ですか?』

みほ「……あ……は、はい……すみません……」


みほ(……。)

みほ(あはは、は……やっぱりお母さんに怒鳴られると……バケツ一杯の冷たい凍りみずを浴びせかけられたみたいな気になる……)

みほ(……でも、おかげでちょっぴり、頭が冷えた……)


みほ「……お母さん」

しほ『なに』

みほ「ありがとう、どうしたらいいのか、少しだけ、わかってきた気がする」

しほ「あなたがどうにかする話では、そもそもなかったのよ。……まぁ、身から出た錆です。あとは自分で考えて、自分でなんとかなさい」

みほ「……うん!」

しほ『それにしても……貴方の甘えた発言一つで、そこまで揉められるとは、大洗らしいわね。黒森峰では、まず起こり得ない話です』

みほ「……う……」

しほ『そもそも西住流にとっては、どのような理由であれ戦車道をやる気の無い者などはもはや論外。もとより思慮に値しません』

みほ「……。」

しほ『と、そんな小言を、これまでならばあなたに言ったのでしょうけれど』

みほ「え?」

しほ『みほ』

みほ「は、はい?」

しほ『貴方は自分なりに戦車道に向き合っている、それは前の電話のおりにも感じました。それについては母として評価します。』

みほ「あ、ありがとうございます……」

みほ(嬉しい……)

130 : 以下、名... - 2016/09/22 14:28:01.72 2mg/JtFUO 54/537

しほ『けれどね』

みほ「え?」

しほ「貴方はもう、戦車道や友人をの問題を、生活の中心に据えて考えてはいられないのよ? ……それが分かる?」

みほ「あ……。妊娠……してるかもしれないから……?」

しほ『そう。万が一本当に妊娠していたなら、貴方の生活はこれからどんどん変化していく。どうしようもなく変わらざるをえない。これからの日々においては、自分にとって何が大切なことなのか、何を大事にすべきなのか……それをちゃんと意識しておきなさい。あなたは今、それを考えなくてはならない時期にさしかかっているのよ』

みほ「……はい。お母さん……」

みほ(……。)

みほ(つわりの事……言っておこうかな……)

みほ「……。……あの、おかあ、……さん」

しほ『なに?』

みほ「……わたし……」

みほ「……。」

みほ「……ううん、なんでもない」

しほ『……そう』

みほ(……。結果がはっきりしてから、ちゃんと伝えよう……勘違いの可能性だって、まだあるもんね、そうだよ、きっと、勘違いかもしれないよ……)

しほ『……。ところでみほ。まほの、事だけれど』

みほ「……!」

しほ『あの子は元気にしている。だから、心配しなくていいわ』

みほ「お姉ちゃんは……妊娠……大丈夫……?」

しほ『……。ええ、大丈夫』

みほ「そうなんだ……! そっか! よかった……!」

しほ『……。あなたは、今はまず自分の身体のことを一番に考えなさい。いいわね』

みほ「うん……ありがとう」

しほ『……あぁ、それともう一点』

みほ「……?」

しほ『深夜の電話は、なるべくひかえてちょうだい。絶対にするなとは、言わないけれど』


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ……ピ


みほ「……。」

みほ(私、麻子さんに、ひどい事をしてしまったんだ)

みほ(麻子さんの気持ちを、ないがしろにしてしまったんだ)

みほ(……黒森峰にいたころ、お母さんが、私にそうしたように……)

みほ(でも、今は、そのお母さんのおかげで、私……うんっ)

みほ(私、まだまだ頑張れるよ。ありがとう、お母さん)

みほ(夜が明けたら、皆で……麻子さんの家に行こう。そして、ごめんねって、麻子さんの気持ちを大事にするよって……)

みほ「……ふぁぁ……」

みほ(……なんだか少し、眠くなってきちゃった……よかった、これでやっと、眠れそう……)

みほ「……あ、パジャマ、体操服に着替えなきゃ……手と体も拭いて……ふぁぁ……」


 ……リー、リー……リー……


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

135 : 以下、名... - 2016/09/25 10:54:32.67 27jkCpvxO 55/537

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 ちゅん、ちゅん……ちゅん……



「──つまり、私達は麻子さんを不必要に追い込んでしまったと、みほさんはそうおっしゃりたいのですか……?」

みほ「そうです。全部、私のせいです」

優花里「いや、まぁ……仮に西住殿の話の通りだったとしても、別に西住殿一人のせいでは……」

柚子「そうだよ、だって誰も、そんな風には思わなかったんだし……」

「私達だって……ねぇ皆」

あや「えっとー……」

優季「ていうか、難しくてよくわかんない……」

あゆみ「私も……」

「まぁまぁ、今は誰のせいだとか、そういう事はどうでもいいじゃない。西住ちゃんは、どうしなきゃいけないと思うの?」

みほ「はい。麻子さんの家にいって、とにかく、ちゃんとお話しをしようと思います。皆で、と思ってはいましたが、ここは私が一人で……」

「ふむ」

みほ「ただ……その前に一つ、皆の気持ちを確認しておきたいことがあります」

柚子「私達の気持ち……?」

みほ「はい。もしも……麻子さんが、ちゃんと考えたうえで『やっぱりもう戦車道はやりたくない、問題が解決するまでは皆とも会わない』と思うのなら、皆さんはどうしますか?」

「ん……ま、必ずそういう場面はくると、思ってたけどね……」

優花里「で、でもっ……麻子さんが、本当にそんな事をいうでしょうか……」

みほ「残念だけど、麻子さんだけではありません。やはり、他にもそう思う人がいて、当たり前だと思います。そうなったとき、私達は……どうするのか」

「西住隊長は、どう考えているんですか……?」

みほ「私は……できればその気持ちを、素直に受け入れてあげたいなって。今は思っています」

「……。そう、ですか……」

「ま、誰だって、こんな形で妊娠するのは、嫌だからねぇ……」

紗希「……」コクン

優花里「私は、やっぱり、認めたくありませんよ……」

「優花里さん……」

136 : 以下、名... - 2016/09/25 10:55:04.94 27jkCpvxO 56/537

優花里「もちろん、『お前が妊娠するかどうかなんてしったことか! 戦車道をやれー!』なんて事言えません……」

優花里「でも……戦車道は……私に人生を変えてくれたんです。大げさじゃなく、そう思います。……だから簡単には、認めたくありません……」

「けれど、どのみちしばらく、戦車道は活動できないからね……」

優花里「……」

みほ「優花里さんの気持ちは、私にもよくわかります。戦車道が私達に与えてくれたものは、あまりにも、かけがえのないものです。……だから……」

みほ(だからこそ……私は昨日、判断を間違えてしまったんだ……)

みほ「……。戦車道は、やめてもいつかまた、始めればいいんです」

優花里「……? また始める……?」

みほ「そうです。黒森峰で戦車道を捨てたはずの私だって、今こうして、大洗で戦車道をやっているんですから。それに、今回のことでやめる人達がいたとしても、戦車道を嫌いになって止めるわけじゃあないんです。だったら、皆の気持ちさえつながっているほうが、大事です」

優花里「それは……そうですが……」

「私達の心がけしだいなのだと、そうおっしゃっているのなら……私には、少しだけ、わかります。」

優花里「……」

みほ「皆、賛成して……もらえますか?」

「ウサギチーム、賛成です。……ね?」

桂利奈「う、うん……」

紗希「……」コクン

「うちも異議なしだよ」

優花里「……ハァ……五十鈴殿、あとでちょっぴり愚痴、聞いてもらってもいいですか?」

「ええ、いくらでも」

優花里「では、私も賛成です……うぅ」

みほ「……ありがとうございますっ」

みほ(……揉める必要なんて、本当に、どこにもなかったんだ……)

みほ「……。」

みほ「はぁぁぁ……」

優花里「西住殿? どうしたんです……すごい溜息……」

みほ「昨日のことは全部、何もかも、ただの茶番だったんだなぁって……」

優花里「茶番、ですか……?」

みほ「昨日麻子さんと言い争いをしたことも、いっぱいいっぱい悩んだことーんぶぜ必要なくて、何かがずれてたんだなって……、そう思うと、もう……なんだか私、自分が情けなくて……」

みほ「はぁぁぁぁぁぁぁ……。じゃあ……とにかく……麻子さんのとこへ行ってきますね……皆さん、朝早くからすみませんでした……」

「眠ってる皆には私から話をしておこうよ。まぁ、皆も賛同してくれるでしょ」

優花里「そういえば、武部殿もまだお休み中ですね」

「昨日、ちょっぴり、うなされていましたね……」

優花里「武部殿にもまだ少し時間が、必要ですねぇ」

沙織「──皆、もう、起きてたんだね。……」

「あら、話をすれば……」

沙織「あのね、今、そど子さんから電話があったよ……麻子の携帯から……」

優花里「へ!?」

137 : 以下、名... - 2016/09/25 10:56:11.15 27jkCpvxO 57/537

みほ「そ、そど子さん、なんて言ってました!? 麻子さんと一緒にいるんですか!?」

沙織「う、うん……寝起きだったから、あんまり詳しくは聞いてないけど……とにかく、今から学校へくるって言ってたよ……?」

みほ「麻子さんは1?、麻子さんも一緒ですか!?」

沙織「えと、うん、麻子も一緒にって言ってたけど……」

みほ「……!!」

優花里「よ……よかったじゃないですか西住殿!」

「麻子さん、やっぱり本気なんかじゃなかったんですよ! それとも、そど子さんが説得してくださったのか……」

みほ「うん、そっか……よかった……よかった! ……って、あれ……?」

「? みほさん……?」

みほ(……。)

優花里「どうしたんでしょう、なんだか顔が赤いし……あ、それに顔が小刻みに震えてます……」

みほ(……あれ……? なに、もしかして……全部、私の考えすぎ? 早とちり? あれ? あれ……? じゃあ、何? 本当に何もかも、全部まったく私の一人相撲……?)

みほ(……だと、したら……)


わたし『麻子さん、戦車道をしなければよかったなんて、やっぱり、私には思えないよ』キリッ

わたし『戦車道も、みんなも、そのどちらが欠けても、今の私にはたどりつけないんだもの』キリリッ

わたし『私、麻子さんの言ってたこと、認めたくない。でも、そう考えてしまっても当然だって、そうも思うの……』キリリリッ


みほ(だとしたら、なんか、これって……すっごく恥ずかしい……!?)

みほ「うぁ……ぁぁああぁぁぁあああっ!?」


優花里「わああ!? 西住殿!? 急に頭を抱えてどうしました!?」

「ありゃ……西住ちゃんも、ホルモンバランス、くずれてきちゃったかなぁ……」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



優花里「もうそろそろお二人が到着するはずですね。……ねぇ西住殿、元気だしてくださいよぉ。朝ごはん食べましょ。レーション、おいしいですよ?」

みほ「うぅぅぅう……」

「例え勘違いや早とちりだったとしても、色々と話し合いもできたし、ちゃんと意味はあったと思いますよ?」

みほ「……はぁぁぁ……」

沙織「みぽりん元気だしてよ……みぽりんが元気だしてくれないとなんだか私まで……はぁ……妊娠かぁ……」

優花里「あらら…沙織さんまで」

「さぁさぁ沙織さん。ちゃんとご飯を食べないと、出るはずの元気だって引っ込んでしまいますよ? はい、レーション、あーん」

沙織「むぐ……」もそもそ

138 : 以下、名... - 2016/09/25 10:57:09.55 27jkCpvxO 58/537

優花里「けど、なぜ園殿は、麻子さんの携帯から電話を……ご自分の携帯はどうされたのでしょう?」

沙織「後で説明するっていってたと思う……」もそもそ

「お二人にも、色々とあったのかもしれませんねぇ」

優花里「そうですねぇ。……あっ」

「どうかしましたか……? ……あっ。……みほさん、みほさん」


 とんとん


みほ「……ふぇ? 何? 華さん」

「向こうの入り口、帰ってきましたよ。──麻子さん。そど子さんも」

みほ「え──」



 ──キィィィ……



麻子「……。あ……。」

みほ(……!)

みほ「ま──……っ」

みほ(……あ……あれ……私、どうして、こんなに……)

みほ「ま、こ……っ」

みほ(早とちりだったのかなって、さっきはあんなに恥ずかしかったのに……それなのに……私、麻子さんが、すごく嬉しい……麻子さんの顔をみれて、すごく嬉しい……!)

みほ「……麻子さん……麻子さんっ……!」



 たたたたっ……!



麻子「……西住さん」

みほ「麻子さん」

みほ(……あ……どうしよう、言葉がいっぱい、喉につっかえて、いっぱいすぎて……でてこない)

みほ「麻子さん、私、昨日……本当に、……っ」

みほ(ごめんなさい、怒っていませんか、戻ってくれてありがとう、会えてうれしいです、何があったんですか、どうしてもどってきてくれたんですか、……麻子さんは今、何を思っているんですか……ああっ……どれから口にすればいいの!?)

そど子「……ほら、冷泉さん。さっさと言いなさいよ。またおばあ様に、叱られるわよ」

麻子「……っ、邪魔をするなそど子っ。私だって、怖いんだ……。……。……あの……西住さん」

みほ「……。はい」

麻子「昨日は……昨日は、本当に申し訳なかった、と思ってる……すまなかった」

みほ(……!!)

麻子「すごく、後悔してる。……皆にも、会長にも紗希ちゃんにも、謝らせてほしい。そして、許してもらえるなら……皆と一緒に……また──うぷっ!?」

みほ「……麻子さんっ! 麻子さん……っ!」

みほ(はやとちりでもなんでもいい! とにかく麻子さんが戻ってきてくれて……本当によかった……!)

麻子「あの……許して……くれるのか……」

みほ「……私の方こそ! もう、きっと麻子さんは戻ってこないんだって……だけどそれはしかたないんだって……でも本当は……すごく寂しかったんです……」

麻子「よく、意味が分からない……でも、そうか、許してもらえるんだ……そうか、よかった……はは……は……」

139 : 以下、名... - 2016/09/25 10:57:48.23 27jkCpvxO 59/537

そど子「ほらみなさい? だから言ったでしょ、心配する必要なんてどこにも……、……ごめん、邪魔ね。じゃ、先戻ってるから……」


 と、と、と……


『みどり子さん、お帰りなさい……心配をしていたんですよ』

優花里『そうでありますよ、電話をしてくれればよかったのに』

そど子『ごめんね。なんていうか……いろいろあったのよねぇ』



みほ「麻子さん……麻子さん……っ」

麻子「……もう、戻れないかもと、思ったんだ……私は、本当に一人になってしまうのかもって……そう考えたら……ひぐっ……はぁっ……すごく怖かった……えぐっ……」

みほ「麻子さんも、意外と早とちりなんですね……あは、は……ひぐぅっ……うぇっ……そんなわけ、ないじゃないですかっ……よかったです、本当に、早とちりで……よかった……」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



沙織「──お、おばあちゃんに電話したの!? 妊娠するかもって!?」

優花里「お、思い切ったことをしましたね……」

麻子「そど子にさせられたんだ。……私は話したくなかったのに」

そど子「そのおかげで冷泉さんは今ここにいるんだからね。感謝しなさい。おばあさまにも、電話をさせた私にもっ」

麻子「……。そど子」

そど子「な、なによ」

麻子「そど子の言う通りだ……感謝してる」

そど子「っ!? ……き、急にやめてよ、調子狂うじゃない……気持の悪い……」

麻子「っ、そっちが感謝しろっていったんだぞっ」

みほ「ま、まぁまぁ……」


『お話し中すみません、みなさ~ん』、


みほ「……?」

そど子「何かしら」


『えー次はー、ウェルシア前ー、ウェルシア前でーす……にひひぃ、バスの車内放送、一度やってみたかったんだよねぇ』

柚子『会長っこんな時にふざけないでください!』

『いいじゃん貸し切りなんだし。せっかく、全員そろったんだしさっ。明るくいこうよ』

『……あ、いえ、運転手さん。気にせず大学病院まで直行してください』


そど子「……。」

みほ「あ、あはは……」

優花里「元気ですねぇ、生徒会の皆さんは……」

「心強いじゃないですか。それに会長も嬉しいんですよ」

優花里「他のチームのみなさんも、とりあえず一人もかけることなく、一緒にこのバスにのれましたもんね。私も……嬉しいです……」

沙織「……ていうかさ、ていうかさ! 麻子のおばあちゃん、いきなりそんな話を聞いて、びっくりしなかった……? 大丈夫、心臓とまらなかった?」

麻子「最初は絶句してた。……心臓、止まっててもおかしくない雰囲気だったな」

そど子「やめなさい、縁起でもない」

みほ「麻子さん、それで……?」

麻子「ん……。ほんとうは私、戦車道をやめようかと思ってた。学校も……しばらく休むつもりでいた。おばあに電話するまでは……」

140 : 以下、名... - 2016/09/25 10:58:46.24 27jkCpvxO 60/537






みほ「……!」

「……。みほさんの、言う通りだったのですね……」

麻子「……? どういう意味だ……?」

みほ「はい。私……麻子さんの気持ちを考えたら、そうなってもおかしくないなって……すごく、悲しいけど、でもそれは覚悟をしておかなきゃって……」

麻子「そんな風に、思っててくれてたのか……」

みほ「……」

沙織「だ、だけど……せめて相談してよ! なんで一人でそういうこと決めちゃうの!? 私達友達でしょ!?」

麻子「……。相談して、解決するならいくらだって相談してる。だけど、こんな事どうしようもない……と思った」

沙織「そうかもしれないけど……なんか置いてきぼりにされるみたいで、寂しいよ……」

麻子「……。謝る……」

みほ「だけど麻子さん、そう考えていたのなら……どうして私達のところへ戻ってきてくれたの? 妊娠……怖くないんですか……?」

麻子「もちろん怖い。おばけよりも怖い。だけど……」

みほ「……?」

そど子「おばあさまに、すっごく叱られたのよね」

麻子「っ、なんでそど子が言うんだっ」

そど子「ふんっ。……昨日からずっとやきもきさせられたんだから……」

麻子「む……」

そど子「おばあ様には迷惑をかけられないから、絶対に妊娠なんかできない……冷泉さんがそう考えるのは当然だって、私も思った。だから正直私だって、しかたないかなって諦めてた」

麻子「……」

そど子「ただ、おばあ様にだけは絶対に連絡させなきゃって、ちゃんと私の見てる前で……」

麻子「……あの時はすごく腹がたった。なんでそど子にそんな事言われなくちゃならないんだって」

そど子「だって、そうでもしないと貴方、どうせずっとおばあさまにも黙ってたでしょう。心配をかけないようにって」

沙織「あー……絶対そうだ」

そど子「しかももし本当に妊娠してたら、この子はどうなっちゃうんだろう。なかなかおばあさまにも言い出せず、私達とも会わず……そんなの絶対にだめだって」

麻子「ぬぅ……」

そど子「だいたい……どうせ學校を休むくらいなら、いっそ、学園艦を降りておばあさまのところへ行ったほうがいいもの」

優花里「おぉ……園殿、意外と大人な判断するんですねぇ……」

そど子「意外ってなによっ。私が三年なの、忘れてない?」

麻子「私は忘れてた。……まぁ、それで結局無理やり電話させられて……妊娠の事とか、学校もしばらくはいかない、って話をした。そしたら……」

みほ「そうしたら……?」

麻子「死ぬほど怒られた」

みほ「ええ……?」

優花里「怒ることではないと思いますが……」

麻子「それはだな……むぅ、説明は下手だから、おばあに叱られた事を、話す……」

そど子「……冷泉さん。別に、何もかもを話す必要は、ないと思うけど……」

麻子「いや、皆には、聞いてほしい……」

沙織「……?」

麻子「……私が小学校のころ、私のお母さんとお父さんが事故で死んで……その時はすごく後悔したって、おばあは言ってた」

沙織「ちょ、、麻子……!?」

麻子「関係のある話なんだ。聞いてくれ」

沙織「そ、そう……」

141 : 以下、名... - 2016/09/25 10:59:34.98 27jkCpvxO 61/537



麻子「私だけが、生き残ってしまって……おばあはそれが不憫で、毎日毎日後悔ばかりしていたそうだ。どうしてお父さんとお母さんがでかけるのを止めなかったんだろうとか、雨で予定がつぶれれば良かったのにとか、自分が病気になって引き止めればよかっただとか……とにかく、毎日毎日後悔をしてた……らしい」

みほ「……。」

麻子「自分が死んだらこの子はどうなるんだろう。いったい誰がこの子を守ってくれるんだろうって……すごく不安になって、育児施設に勤めている知り合いに話を聞いたり、保護施設に連絡をとってたりもしてたそうだ。そんな時に……テレビで、交通事故のニュースをやってたのを見て……」

「……。」

麻子「可哀想な事故だったそうだ親も子供も、一家全員……。でも、おばあはそれを見て、ふと。……こう思って……。……。こう……」

優花里「……冷泉殿?」

麻子「……。ごめん、少しだけ……待ってくれ。今、しゃべると、まずい……。……。……ちょっと、だめだ。……。」

みほ(……。気付いてますか。麻子さんって、泣いてしまいそうな時、必死に無表情でいようとするんです。でも、唇がきゅっと固くなって、そんなの全部わかっちゃうんですよ……。なんだかちょっぴり、麻子さんらしいです)

そど子「無理、するんじゃないわよ……」

「そうですよ、無理にお話しすることは、ないんですよ。麻子さんが戻ってきてくれたのなら、私達はそれで、いいんですから」

麻子「いや……。そど子……代わりに話してくれ」

そど子「いいの? 私が話して……」

麻子「いい」

そど子「……せめてこういう時くらい、名前で呼びなさいよね。ほら、外でも眺めてなさい。これ、ティッシュ」

麻子「……っ」


 ……ずびー……


そど子「えっとね……おばあさま、すこし気持ちが疲れてしまっていたみたいで、事故のニュースをみて、ふと思ってしまったのですって、その……」

そど子「この子も──つまり、冷泉さんも……お父様やお母様と一緒に……その、事故にあってしまっていたほうが……もしかして冷泉さんにとっては幸せだったのかなって……一人で残されるよりは……」

みほ「……!」

優花里「そんな……」

沙織「おばあちゃんが、本当にそんな事を言ったんですか……!?」

そど子「ええ、私も、横で聞いてた」

「信じられません……」

そど子「きっと精神的にまいってたのよ……おばあさま自身、そんな事を一瞬でも考えてしまった自分に愕然としたって……」

みほ「……。」

そど子「すっごく自己嫌悪して、すっごく苦しんだそうよ」

冷泉「……ずび」

そど子「だけど、おばあさまってすごいのね、その時にちゃんと気づいたの。私にはまだこの子がいるんだ。起きてしまった事や、もう取り返しのつかない事を悔やんで、目の前にいるこの子まで失うわけにはいかない。この子のために、頑張らなきゃって」

沙織「……そうだよっ、それでこそ麻子のおばあだよ……!」

そど子「だからね、妊娠するかもしれないとか、したらどうしようとか、なるかどうかわからない事を心配して、目の前の友達を失うような事はするなって。あんたにはこの先一生もうできないような、すぎた友達なんだから、って。たぶん、昔の自分に麻子さんをかさねて、だからすごく怒ったのね」

優花里「いやっ、でも……すみません話の腰をおるようですが……だけど、それで本当に妊娠してしまったら……どうするんですか……?」

142 : 以下、名... - 2016/09/25 11:00:20.40 27jkCpvxO 62/537


そど子「……あー、ここからはちょっと、めちゃくちゃだったんだけどねー……」

みほ「?」

そど子「えっと……『だいたい子供なんてどうせそのうちできるんだから、びくびくするんじゃないよ!』 とか」

みほ「ふぇ!? そ、そういう問題じゃないと思う……」

そど子「あとは『勝手に私を殺すんじゃないよ! 最近の平均寿命がいくつだか知ってるのかい! 現代医療の力をなめるんじゃないよ!?』とか……」

「あらあら……」

そど子「でも一番感心しちゃったのが、『あんたのために結構な額の生命保険を私にかけてある、もしものことがあっても、それで食いつなぎながらなんとか頑張れ』だって。子供はできて当たり前、苦労してあたりまえ、みたいに思ってるみたい。すごいのね、昔の人って」

沙織「ええー……それでいいのかな……」

そど子「ま、でもね、最後の最後に……『とにかく、ひ孫の世話ぐらい私が見てやるから余計な心配するなって』って、その言葉が、冷泉さん一番うれしそうだったわね」

麻子「ずびーっ……言ってくれることはすごくありがたいんだけどな……結局おばあって、どこかしらが根性論なんだ……死んだらどうするんだ、ほんとに……」

そど子「やめなさいっ。だいたい、あなたもそれで考えが変わったのなら、冷泉さんだって根性論じゃない」

麻子「まぁ、昨日の様子だと、おばあ、まだまだ死にそうにないし……」

そど子「だからやめなさいってばっ」

麻子「……だけど、おばあがそういってくれて、本当にすごく安心したんだ。そしたら……もしかして私は、失わずにすんだはずのものを、失おうとしてるのかもしれないって、すごく怖くなって……」

優花里「冷泉殿……」

みほ「……。私達って、結局まだまだ子供なんだと思います」

麻子「……?」

みほ「家族が守ってくれてるんだって思うと、それだけですごく安心しちゃいます。何も解決していなくても。……私、昨日、お母さんとお話ししたんです……」

麻子「……。そか。それは、よかった……お母さんと話しができて……」

みほ「麻子さんも、おばあさんと話してくれて……本当によかった……」

そど子「……。ほんとそうよ……」

「そど子さんの、おかげですね」

優花里「ええ」

そど子「……べ、べつに……先輩として当たり前のことをしただけよ」

優花里「だけど、それならそれで、連絡をしてくださったらよかったのに……ごもよ殿やぱぞ美どのも、心配してたでしょ?」

沙織「そういえば、なんで麻子の携帯から電話をかけてきたんですか……? そど子さんの携帯は……?」

そど子「あぁ……水没して壊れちゃった。……冷泉さんに用水路へ突き落とされちゃって」

みほ「ふぇ!?」

沙織「な、なにしてんの麻子!?」

麻子「わ、わざとじゃない……学校を出た後、そど子がぐちぐちうるさいから、むっときてドンって押したら……ちょうどあぜ道の側に……」

「あぁ……あそこですか……」

そど子「小さな用水路なんだけどね、でも制服はべちゃべちゃだし、身体はどぶ臭いし……だけど、これはチャンスだと思って」

優花里「チャンス?」

そど子「冷泉さんに押されてこうなったんだから、家で洗濯とお風呂させなさい!って。これは人として断れないでしょ」

優花里「おお~」

「そど子さん……麻子さんのために、必死に頑張ってくださったのですね……!」

そど子「だから、その言い方は、なんか嫌っ」

みほ(……。)

みほ(本当に、それぞれいろいろあったんですね……)

143 : 以下、名... - 2016/09/25 11:01:57.15 27jkCpvxO 63/537

『はいはーい。皆、ちゅうもーく』


麻子「またか……」

そど子「こんどは何……」


『あと5分ほどで病院に到着だ』


みほ「……!」

優花里「とうとう……やだなぁ」


『検査はみっちり午後までかかる。皆、心しておくように』

柚子『お昼は病院の食堂を使わせてもらってね。食事の時間は皆バラバラになると思うけど、あとで全員に食券を配布します』

典子「あの! 注射とか、痛いのはあるんですかー?」

『残念だけど、注射は何度かあるね~』

桂利奈「うぅ、何度もあるんだ……」

『ま、注射以上の痛い検査はないから、それは安心していーよ』

『カウンセラーの方と話しをする時間もある。とても優しい女医さんだった。みんなも、いろいろ聞いてみると言い』

ホシノ「はーい」


みほ(……あ。雨だ……やだなぁ。)

みほ(……。)

みほ(朝食を食べた後、また一度吐いた……)

みほ(それにレーション、前までは好きな味だったのに、なんだか今日は、どうしても味が受け付けなかった……)

みほ(……。)

みほ「やっぱり私……妊娠してるのかな……」



 ……ぶろろろろろろろ……


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

150 : 以下、名... - 2016/09/26 21:45:21.35 1QVIhyAfO 64/537

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

みほ(うぅ……病棟の廊下って、やだなぁ。人気も少ないし、シーンとしてるし……なんだか私だけ、日常からどんどん切り離されていくみたい……)


 きゅっ……きゅっ……きゅっ……


みほ「皆それぞれ回る順番が違って独りぼっちだし……大学病院、広すぎだよ……」

看護師「? 何かお困りですか?」

みほ「っ!? い、いえ、何でもないです……」


 ……とととととっ……


みほ(声にでちゃってたんだ。恥ずかしい!)

みほ「だけど、はぁ……ほんのちょっぴりでいいから、誰かとお喋りしたいよぅ……」

みほ「……あっ」

みほ(隣の病棟の廊下、紗希ちゃんが一人で歩いてる! おーい、おーい)


 ぱたぱた


みほ「手をふっても気づかないなぁ。おーい、さきちゃーん……」

みほ(……)

おりょう「……何をしとるぜよ?」

みほ「ひゃぁっ!? お、おりょうさん」

おりょう「どこに向かって手をふって……お、紗希ちゃん。あの子、一人でちゃんと周れているのか……?」

みほ「あはは、ちょっぴり心配だよね。……おりょうさんはどう? 順調?」

おりょう「それが、内科の問診が長引いて、やっといまから昼メシぜよ……というわけですまぬ、先を急ぐっ。また後でな~」

みほ「あ、うん。また後でね。……。」

みほ(いっちゃった……。でも、ちょっとだけ、ほっとした……)

みほ「……あ」

みほ(今度は、廊下の向こうに……)


あけび「先に全部周り終わったほうが勝ちよっ」

妙子「私はあと3つかな」

あけび「うそっ!? はやっ!」


みほ「ふふ、バレー部の皆さん、病院なのに元気だなぁ……」

みほ(でも、そっか。姿は見えなくても、みんなが病院のあちこちにいるんだよね。そう思えば、ちょっとだけ寂しくない……かな……?)

みほ「また誰かに会えるといいな」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

151 : 以下、名... - 2016/09/26 21:47:21.86 1QVIhyAfO 65/537

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

みほ「あ、優花里さんだ!」

優花里「わあ! 西住殿ー!」

みほ「優花里さんも、泌尿器科の診察待ち?」

優花里「です! 西住殿もなんですね!」

みほ「うん。よかったぁ、優花里さんにあえて!」

優花里「私もですー!」

みほ「ねー! 他の皆、どうしてるかなぁ」

優花里「武部殿にはさっき内科で会いましたよ」

みほ「沙織さんどうだった? まだ、あんまり元気なかった……?」

優花里「いやぁそれが……今度こそ本当にお嫁にいけなくなっちゃった、って、すっごい嘆いてましたよ……」

みほ「?」

優花里「ほら、産婦人科で……」

みほ「産婦人科……?」

優花里「あ、もしかして西住殿……産婦人科はまだです?」

みほ「え? う、うん。まだだけど……」

優花里「そうですかぁ……あの、ちょっと、耳を貸してください……」

みほ「……?」

優花里「……ゴニョゴニョ……」

みほ(……!?)

みほ「……うそっ、そんな所まで検査するの!?」

優花里「すっごく恥ずかしかったですよぅ……足のせるとこ、めちゃくちゃ開くんですよ、あれ……」

みほ「えぇぇぇぇ……あっ、どうしよう、私、さっきお手洗にいっちゃった……」

優花里「いやまぁ、問題ないんだと思いますよ。何も注意は受けてないですし……」

みほ「うぅ、せめてウォシュレットのある所に入ればよかった……。……あっ!? 診察する先生は女医さんだよね!? まさか、男の先生じゃ……」

優花里「大丈夫です。さすがにそこは女医さんでした」

みほ「よかった……」


< 看護士『秋山、優花里さまー。秋山、優花里さまー』


みほ「あ……呼ばれちゃったね……」

優花里「じゃあ、お先です。……またどこかで会えるといいですねっ」

みほ「うん! 診察頑張ってね!」

優花里「西住殿もっ」


 ……からからから……ぱたん……


みほ「……。産婦人科かぁ、やだなぁ……」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

152 : 以下、名... - 2016/09/26 21:48:05.74 1QVIhyAfO 66/537

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

そど子「あら、西住さん……『コウノトリはどこから赤ちゃんを運んでくるのか』? なにそれ。」

みほ「わー、そど子さんに会えた」

そど子「園みどり──もういいわ。西住さんは、もうすべての検査が終わったの?」

みほ「ううん。少し、喉が乾いてしまって。休憩所なら、自販機もソファーもあったなって」

そど子「私もいいかげんに歩き疲れてきちゃった。ところで……それって、妊婦さん用のパンフレット……?」

みほ「そうなんですよ。私、こういうこと何も知らないんだなって思って……。それに、理科とかの勉強もあんまりだから、……『無性生殖』なんかも、それってそもそも何だっけて感じで、えへへ……」

そど子「冷泉さんに聞けば、色々と教えてくれるんじゃないかしら。あの子、勉強できるんだから」

みほ「そうですねー。……あ、そういえば。……。」

そど子「なに? ……ちょっと、ほんとに何よ、横目でちらちらこっち見て……」

みほ「あのぅ、そど子さんて……」

そど子「だから、何……」

みほ「麻子さんと……仲良し、なんですか……?」

そど子「……はぁっ!?」

みほ「ひぅっ……!? だ、だって、昨日だって……本当に一生懸命に……」

そど子「ぬ……」

みほ「……。」

そど子「べ、別に……少し、ほっとけないっていうか……。頭いいのにもったいないし……まぁ、私がしょげてる時は、引っ張ってくれたこともあるし……? だから、今度は私がなんとかしてあげなきゃって……」

みほ「はぁ、なるほど」

そど子「……あぁもぅっ、そんな事はどうでもいいでしょっ! 休憩しにきたのなら、黙って休憩してなさいよっ!」

みほ「ひっ……すみません……」

そど子「ふんっ」

みほ(……。)

みほ(そど子さんって、ちょっぴりダメな男の人とかと、恋人になりそうかも……)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

153 : 以下、名... - 2016/09/26 21:48:51.82 1QVIhyAfO 67/537

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

みほ「やっとこれで最後。でも、カウンセリング……? 何か質問をされるの……? 不安……」

みほ(……黒森峰にいたころ、お母さんからうけた尋問みたいなのを思い出しちゃう……)

みほ「……うぅ」


< 看護士『西住、みほ様ー。1番へお入りくださいー』


みほ「あ、はいー……うぅ、今後のことをどう考えているのかとか、いろいろ聞かれるのかなぁ……やだなぁ。」



 ……カラカラカラ……パタン……



みほ「……失礼しまぁす……」

女医「はいこんにちわ。西住みほさん、ね?」

みほ「は、はい、西住みほです」

女医「さぁ、座って。あっちこっち回らされて、ずいぶん疲れたでしょう?」

みほ「あ、はい……」


みほ(……思ったより歳のいってる人だ、60歳くらいかなぁ。見た目は優しそうな人……)


女医「西住さんは……あらまぁ、ご実家は熊本。随分遠くから来てるのねぇ」

みほ「はぁ。まぁ」

女医「今は一人で住んでるの? それともご家族のうちの誰かと?」

みほ「えと、一人で、です」

女医「まぁまぁまぁ! それは立派ねぇ……」

みほ「はぁ」


(な、なんだろ、近所のおばさんと世間話をしてるみたい……)


女医「大変ねぇ熊本から……あぁ、なんだったかしら……熊本にいる、黒い熊みたいな……」

みほ「あ、くまもん……」

女医「あぁくまもんね、そうそう」


みほ(……あはは……やっぱり、他県の人の熊本イメージって、それくらいなんだ……)


女医「まぁ、くまもんはどうでもいいのよ」


みほ(へ?)


女医「実はこっちにもにもくまのキャラクターがいるのよ。妙にケガをしている熊で──」


みほ(……!?)

154 : 以下、名... - 2016/09/26 21:49:57.56 1QVIhyAfO 68/537

みほ「あ、あー……もしかして、ボコ、とかでしたっけ」

女医「……あら、貴方も知ってるの? ボコちゃん」

みほ「えと、はい、ちょっとだけ……」

みほ(ボコちゃん……)

女医「うちの孫が本当に大好きでねぇ。包帯を巻いているところが可愛のかしら……」

みほ「あ、えと……可愛いというか、ボコは、ぼこぼこにされても負けないから、そういうのが、いいのかも……」

女医「あぁわかった、ボコは負けず嫌いなのね?」

みほ「そうです、やられてもやられてもボコは負けません」

女医「なるほどなるほど、ボコはとても根性があるのね。じゃあ、特訓なんかもしたり?」

みほ「あ、そういう事はしないんです、例え力は弱くても、ボコボコにされても、絶対にあきらめないっていうのがボコの魅力ですから」

女医「粘り強いのねぇ、うん、うちの孫にもそういう所を見習ってもらわないと。……そういえばボコランドっていう遊園地? があって」

みほ「あ! はい! 知ってますっ、私も行きましたっ」

女医「それはよかった、実は孫に連れて行ってってせがまれているんだけど、6歳の子どもでも楽しめると思う……?」

みほ「ぜんっぜん大丈夫だと思います! 小さい子向けのアトラクションもいっぱいありますし、私も友達といったけれどすごく楽しかったです。それに小さい子供なら──」



 ……………………。



女医「──ありがとう。孫に喜んでもらえる良い話を教えてもらた」

みほ「いえいえっ」

女医「けれど、あらまぁ、ごめんなさいね。わたしが聞いてばかりで……」

みほ「いえ、とっても楽しかったです!」

女医「みほさんも、何かきになる事があれば、私にも聞いて頂戴? もちろん、私の孫の事なら、なんでも教えてあげる」

みほ「ふふふ、そうですね、お孫さんの事、いろいろ聞いてみたいです。……あぁ、でも……」

女医「……なぁに?」

みほ「……誰かに、どうしても教えてほしいことがあって……」

女医「なんでもどうぞ。実は私、お医者様なの」

みほ「あはは……。……あの……」

女医「うん」

みほ「私達、どうして妊娠してしまうんでしょう……」

女医「……。そうねぇ」

みほ「これは夢なんじゃないかって、何度も何度も考えてしまいます。だって、こんなの、それぐらいしか、説明がつかないじゃないですか……」

女医「そうね……」

みほ「私達が、いったい何をしたっていうんでしょう。何か、悪い事したのかな……」

女医「……。ここは、おとぎの国ではないものね」

みほ「え……?」

女医「だから、この世界に起こるすべての現象には必ず何らかの仕組みがある。一つの例外もあり得ない。医者も科学者のはしくれだもの、それだけは100%信じているわ」

みほ「……」

155 : 以下、名... - 2016/09/26 21:51:12.00 1QVIhyAfO 69/537

女医「貴方たちがなぜ妊娠していくのか、今はまだその仕組みはわからないわ。けれどそれは、私達がまだ理解していないだけ。未知の原理が、必ずどこかに隠れてる。今、何がおきているのか、世界中の大人たちが、必死になってそれを探っている。だからみほさん、どうか、私達大人に、もう少し時間を頂戴」

みほ「こちらこそ、どうか、よろしくお願いします……」

女医「ええ、ありがとう。それともう一つ」

みほ「はい……?」

女医「貴方たちには何の罪もない、それもまた私達は確信してる。自分が何か悪い事をしたのかなだなんて、決して考えてはいけないわ」

みほ「……」

女医「ただ、もしかすると……時には悪意によってねじ曲げられた、愚かな意見を耳にすることもあるかもしれない」

みほ「え……?」

女医「アメリカでね、この異常現象が観測されはじめたのは3週間ほど前なのだけど……初めのころは、集団違法薬物接種だとか、不誠実な行為の結果であるとか……短絡的で恥ずべき見方が、少なからずあった」

みほ「……っ」

女医「けれど、今はもう決してそうではないと立証されてる。だからもし、そんなバカな事をいう者があったなら、すぐに連盟や、それか私達に教えて。あなたたちの誠実は私達が保障する。酷い現実だと私も思うけれど、どうか、負けてはだめよ。慰めになるかは分からないけれど……世界中に今、あなたたちと同じ境遇で戦っている仲間が、たくさんいる」

みほ「……はい! お話しをきかせてもらえて、本当に嬉しかったです」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

156 : 以下、名... - 2016/09/26 21:52:11.31 1QVIhyAfO 70/537

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


ぶろろろろろろろ……


『皆、長時間の検査、お疲れであった』


エルヴィン「DNAを削りとられてしまった……」

左衛門佐「口の中に綿棒をつっこんだだけだろう」

典子「MRIがあんなに怖いものだったなんて……」


 ワイワイガヤガヤ……


「沙織さん、大丈夫です?」

沙織「……うぅ、……華ぁ、華ぁ……私、汚れちゃったよ……」

「大丈夫、沙織さんはちゃんと可愛い女の子ですよ」

沙織「うぅぅ……」

みほ「産婦人科……いやだったね……」

優花里「注射よりもなによりも、あれが一番の山場でした」

「しかたがないですよ。私達のお母さまも、通ってきた道です」

沙織「ちょ、だめっ、変な事いわないで!」

優花里「あんまり考えたくないです……」

みほ(……。うぅ、想像しちゃった……。……。はあわわ、お姉ちゃんも……うぅ)

「あの、ところで、麻子さんは? 先ほどから姿も声も……」

そど子「こっちよ。出発と同時に寝ちゃった。昨日はあまり寝てないし、しかたないわね」

みほ「あ、そど子さんと一緒に座ってたんですね」

優花里「今となってはもう、冷泉殿の事は園殿にお任せですねぇ」

そど子「じ、冗談じゃないわ! 子守を押し付けないで!」


『はいはーい、ちょっと聞いてね。今回の検査結果は、検出方法が通常とは違う上、人数も多いってことで、五日後まで分からないんだけど……さぁて、どうやって皆に告知しようかな?』

スズキ「どうやって、っていうと……?」

柚子『事態が事態だから、該当者への告知は『寄港後に両親を交えて』という形も考えてはいるのだけれど』

ホシノ「うーん……? ちょっと面倒じゃない……? それに、なるべく早く知りたいし」

カエサル「いつものように、戦車倉庫前に全員集まって発表……ではだめなのか?」

典子「それでいいんじゃない?」

「うちも皆それでいーって言ってまーす」

柚子『み、みんな本当にそれでいいの……?』


みほ「……ふふふ」

157 : 以下、名... - 2016/09/26 21:55:20.17 1QVIhyAfO 71/537

優花里「西住殿……?」

みほ「こんな時なのに、皆、のんきだなぁって.なんだか可笑しくって」

優花里「あぁ……あはは。たしかにそうですね。けど、暗いよりもこっちのほうがいいですよ」

みほ「そうだね」

優花里「実は私……本当はずっと現実感がなかったんです。バタバタしてたっていうのも、あるかもしれませんが」

みほ「そうだったんだ」

優花里「でも……」

みほ「でも……?」

優花里「今日、病院の廊下を一人であるいている時にですね、ふと、気が付いたんです。『あ、これ、本当に現実なんだな』って。えへへ、実は脳みそが私も事態に追いついてなかったのかも……。自分も妊娠してるかもしれないんだって、初めて実感がわいたんです……そしたら、すごく怖くて、心細くなって……」

みほ「……」

優花里「だから、神経内科の待合室で西住殿と会えたといは、ほんとにホッとしました。そういう事もあったから……やっぱりこうやって、ガイガイワヤワヤしてるほうが、私はいいですよ。気がまぎれます」

みほ「……。ね、優花里さん……」

優花里「はい?」

みほ「今日は、私の家に泊まりにきてほしいな」

優花里「え?」

みほ「今日は皆家に帰るみたいだし……私も一人だと、いろいろ考えちゃうし……それに、寂しいし……だから、一緒にいてほしいなぁって……」

優花里「あ……はい! ぜひぜひ、泊りに行きます!」

みほ「うん! ありがとう」

沙織「……こらー、ずるーい」

みほ「沙織さん……?」

沙織「私もみぽりんち泊りにいくー」

「あぁ、それでしたら、私も」

みほ「ふぇ? あ……うん、もちろん! 皆で一緒に!」

優花里「ちぇー……せっかく西住殿と二人きりだと思ったんですが……とは言うものの、私もやっぱり賑やかなほうがいいです! 皆でお泊りかいしましょー!」

沙織「じゃあ、きまりだね! ……診察の愚痴も、聞いてほしいしね……よよよ」

みほ「あはは……!」

158 : 以下、名... - 2016/09/26 21:55:50.35 1QVIhyAfO 72/537

 ……ちょんちょん、


みほ「……?」

桂利奈「……あの、たいちょ」

みほ「あ、桂利奈ちゃん? どうしたの……?」

桂利奈「私と紗希も」

みほ「え?」

桂利奈「私と紗希も、泊りたいです。隊長の家に」

紗希「……」コクン

あや「ねー、何話してるの? ……え? 隊長の家にとまるの!? あ、じゃあ私達もー!泊まりたいですー!」

みほ「え!? 皆も!?」

「ちょっと……隊長に迷惑だよ!?」

沙織「ていうか、みぽりんの家、そんなに人はいんないよ!?」

「あらあら……」

優花里「……んーていうかそれなら……」

みほ「結局、今日も倉庫で……かな?」

沙織「そうだねぇ……」

優花里「じゃ、みんな、今日も倉庫でお泊りだー!」

あゆみ「はーい!」

優季「家から着替えもってこなきゃ~」

みほ(あはは……やっぱりみんなでいると楽しいなぁ)



『はいはいではー、ということで、5日後の発表は放課後に戦車道倉庫前、ということでいいかなー?』



<『異議ナーシ!』



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

212 : KASA - 2016/10/04 00:02:49.19 UhsUjAsEO 73/537

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


先生『──この出来事の後──の影響が広まり──』


みほ(いつも通りに授業を受けていたら、『偉いね』って先生に褒められちゃった。偉い事なんて、私は何もしていないのに)

みほ(みんなと同じように、授業を受けているだけなのにね)

みほ(だけど、ぼーっと窓の外を眺めていても、先生に少しも怒られなくなった。それはちょっとだけ、ラッキーかな)

みほ(……。)

みほ(お天気いいなぁ、青空がすごく綺麗)


 …………。


先生『──この動きは──なので──』

みほ(黒板に書いてあることも、先生が言っていることも、ぜんぜん頭に入らないや)

みほ(それでも、やっぱり授業にだけは出ていたくて。なんだか可笑しいね)

先生『──さん次のページ、読んで──』

生徒『はーい』

みほ「……。」


 ごそごそ


みほ(携帯をコッソリみてても、やっぱり怒られない。先生には、きっとバレてるのに。少しくらいは、皆と同じように、注意してほしいなぁ)

みほ(って言いながら、見ちゃうんだけどね)


 すっ、すっ、


みほ(他の学校の人達はからは、一度も連絡がこない)

みほ(……。)

みほ(皆、気を使ってくれてるんだ)

みほ(ありがとうございます。私も、今はまだ、せめて明日までは、大洗の皆のことだけを、考えていたいです、ごめんなさい)

みほ(今になってみると、アリサさんの事、ちょっぴり尊敬しちゃうなぁ)


 ……キーンコーンカーンコーン……ざわざわざわ、ね~帰りにケーキ食べていこーよー……


みほ(……。)

みほ(明日の放課後、検査結果が分かる)

「みほさん、今日も、優花里さんや麻子さんも一緒に、皆で帰りましょう?」

みほ(明後日の私達は、どうんなふうにすごしてるだろう? こんな風に学校で、皆と一緒にいられているのかな?)

みほ「──うん! 一緒に帰ろ!」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

213 : KASA - 2016/10/04 00:03:18.03 UhsUjAsEO 74/537

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


沙織「──ねぇ皆、わたし決心したよ! 私、もしも子供ができてても、ぜったい素敵なママになってみせるから!」

優花里「おおー」

「あら~」

みほ「よかったぁ。沙織さんがやっと元気になってくれて」

沙織「……。皆、あのね、ちょーっとリアクションが薄いんじゃないかなぁ」

麻子「どうすればよかったんだ」

沙織「『えぇ!? ど、どうしたの急に!? どういう事!?』とかさぁっ。もっとこう、あるじゃん」

優花里「コホン。……えぇ? どうしたんですかぁ、急に。どゆことです?」

沙織「なんか違うっ」

麻子「面倒だな」

沙織「なによーっ」

みほ「まぁまぁ、私達沙織さんが元気になってくれたのなら、なんだっていいもん」

「みほさんのおっしゃる通りです」

優花里「武部殿が笑顔でいてくれないと、やっぱり私達も寂しいですから」

沙織「そ、そぉ? そういってくれるなら、まぁ」


 ……たたたたたっ


桂利奈「せんぱーい! また明日でーす! さよなら~!」

沙織「わわ、そんなに急いでどこに行くのー?」

  < 桂利奈「これから紗希の家に集合して、皆で一緒にDVDで勉強するんでーす!

っさおりべん?

 『14才の母』ってゆードラマです!」


ええ?

麻子「なんだそれは」

「少し前に放送されていた、テレビドラマですね」

麻子「なるほど」

みほ「桂利奈ちゃん、ばいば~い」


  < 桂利奈「は~い!」


優花里「みんな、たくましいですねぇ」

みほ「うん。皆、とっても立派だよ。すごい」

「他のチームの皆さんは、今頃どうされているのでしょうか」

麻子「アリクイさん達は、家に帰って一緒に狩りをするとか言ってたな」

優花里「バレー部の皆さんはさっき体育館に走っていきましたし、自動車部の方々は車のレストアで忙しいみたいですよ」

みほ「会長達もいつも通りに生徒会のお仕事で、エルヴィンさん達は一緒に図書館だって」

麻子「あと、そど子、風紀の仕事があるって言ってたな」

優花里「冷泉殿は、そど子さんのスケジュールに随分と詳しいのですね」

麻子「……なんでニヤニヤしてる」

214 : KASA - 2016/10/04 00:03:44.95 UhsUjAsEO 75/537

優花里「いえいえなんでもないですよ~」

麻子「……っ」

みほ「あはは。じゃあ皆、いつも通りの放課後なんだね」

「きっと、それが一番ですよ」

みほ「……。そうだね。」

みほ(本当は皆、いつも通りでなんか、いられるわけがない。でも、だからこそ、いつも通りに笑って、いつも通りに過ごそうって、皆と一緒に)

沙織「ねぇねぇ! アイス食べにいこーよ!」

「それは名案ですねぇ」

みほ「うん! 行こ!」

麻子「私もいく」

優花里「そういえば、新作の味がでてるはずですよ! 皆で手分けして、全食チェックしましょ!」

沙織「きまりだねっ! ……でね? でね? 聞いて? 一人くらい子供がいてもさ、それでもかまわないよっていってくれる男の人ならさ……それってむしろ包容力があって素敵だと思わない!?」

「沙織さんが笑顔さえ忘れなければ、沙織さんの事を大切に思ってくれる男性が、きっといつかあらわれます」

沙織「だよね、だよね!」

「ええ、私が保障します」

沙織「華ったらやだもー! あんまり私のことおだてないでー!?」バンバンッ

「痛いです」

麻子「しばらく静かだった分、余計にやかましい」

優花里「まぁまぁ、武部殿はこうでなくちゃ」

みほ「そうだね、あはは……。」

みほ(……。)

優花里「? 西住殿?」

みほ「ん……」

優花里「どうかしましたか?」

みほ「ううん、ただ、とうとう、ほんとうに明日なんだなぁって……ふっと頭に浮かんじゃって」

優花里「……。そうですね。明日、なんですね……」

みほ「うん、明日……」

みほ(……。)


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

193 : KASA - 2016/10/03 23:06:08.17 3cfCWOF9O 76/537

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 ……ちゅん、ちゅん……ちゅん……


みほ(あんまり眠れなかった)

みほ(今日の、放課後、結果を知らされる……やっぱり怖い……)

みほ「……。」

みほ「……ん?」

 
 ……バラララララ……


みほ(ヘリのローター音?)


 …………。


みほ(……? 空耳、だったのかな……?)

みほ「……ふぁぁ……起きよ」

「すぅ……すぅ……」

麻子「くぅー……すぅー……」

みほ「ふふ、かわいい寝顔だなぁ……二人とも、家に泊まってくれて、本当にありがとう」

みほ「んしょっ、と……」


 ギシッ……
 
 ……とっ、とっ、とっ

 シャッ……


みほ「っ、まぶしい。い~お天気ー」


 カラカラカラ


みほ「んーっ、ぷはぁ。冷たい風が気持ち良いなぁー」

みほ「はぁ~」

みほ「……。」

みほ(優花里さんと沙織さん、お母さんやお父さんと楽しくすごせたかな。結果発表の前の、最後の夜だもん)

みほ(……今日の夜は、どうなっているか、分からないし……)

みほ「……。」

みほ「……あ」


 ……バララララララララララ……


みほ(ヘリコプター……やっぱり聞き間違えじゃなかったんだ)

みほ(だけど、ああいうツインローターのヘリ、この学園艦では初めて見る……もしかして、船の外から飛んできたのかな)

みほ(……どこから飛んできたんだろう。航行中の学園艦にどうしてわざわざ)


 ……バロロロロロロ……


みほ「あれ、あっちの方向って……」

みほ「……学校……?」

みほ(……。)

みほ(なんだろう、すごく嫌な感じがする……)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

194 : KASA - 2016/10/03 23:06:55.13 3cfCWOF9O 77/537

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 てく、てく、てく、てく、


みほ(……。)

みほ(皆でこんなに静かに通学するの、初めて)

沙織「……。」

優花里「……。」

「……。」

麻子「……。」

みほ(皆、不安なんだ……)


 てく、てく、てく、てく


みほ「ね……緊張、するね」

優花里「あ、はい……そうですね……」

沙織「緊張っていうか、怖いっていうか……」

優花里「このまま何も聞かずにすむのなら、そのほうがいいかもだなんて、思っちゃいます」

麻子「……。私達が知らないだけで、検査結果はもう出てる」

沙織「……。」

麻子「どこかの誰かは、私達の誰が妊娠していて誰がそうでないのかを知ってる。……妙な気分だ」

「知らぬが仏、ですね。まさに」

みほ「ほんとだね」

みほ(……今朝は吐かなかった……。ただ、そもそもつわりにしては時期が早すぎるって病院の先生は言っていたけど……とは言え、元々ありえない事が起こっているのだから、確実な事は今のところ何も分からない、とも……)

みほ「……。そういえば、優花里さんと沙織さんは、今朝ヘリが飛んでいたの気がついた?」

沙織「ううん、気がつかなかったけど」

優花里「私も」

みほ「そっか」

みほ「……。」

みほ(気にしすぎ、なのかもしれないけど……)


 てく、てく、てく、てく……


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


そど子「貴方たち、おはよ」

みほ「おはようございます」

そど子「冷泉さんも、今日はちゃんと遅刻しなかったわね」

麻子「偉いなそど子。こんな日でも遅刻の取り締まりか」

そど子「何よそれ……皮肉?」

麻子「そうじゃない。素直に感心したんだ」

そど子「別に……こうしてるほうが、気がまぎれるだけよ」

麻子「……。なら、遅刻してやればよかった」

そど子「……。ふん、バカな事いってないで、さっさと行きなさい。私は忙しいんだから邪魔しないでよね。……じゃあね、放課後」

麻子「ん……放課後」


 てく、てく、てく、てく……

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

195 : KASA - 2016/10/03 23:07:23.23 3cfCWOF9O 78/537

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ……オハヨー……ガヤガヤ……ハヨー……


 てく、てく、てく、てく……


みほ「あ」

沙織「? どしたの?」

「ん……学校ののヘリポートに、ヘリがとまっていますね」

沙織「そういえばみぽりん、さっきヘリがどうのって言ってたっけ」

優花里「あのう、あれって確か、戦車道連盟が所有しているヘリですよ」

みほ「そうなの?」

優花里「ええ、連盟のパンフレットで紹介されてました」

麻子「そんなところまでチェックしてるのか」

優花里「えへへ」

みほ(……。じゃあ、戦車道連盟の人が……?)


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


先生『……このXを代入すると~……』


みほ(……。)

みほ(妊娠検査の結果が発表されるこの日の朝に、戦車道連盟の誰かが、学園艦に来た)

みほ(誰だろう。理事長? 蝶野教官?)

みほ(……。)

みほ(……。)

みほ(……おかあさん……?)

みほ(……やだな、何を考えてるんだろう、私ったら……わざわざ熊本からここまで、そんなわけないよね、なんだか恥ずかしい、バカみたい)

みほ(けど、とにかく今、この学園内のどこかに、外から来た誰かがいる)

みほ(……。)

みほ(ザワザワする……)


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

196 : KASA - 2016/10/03 23:08:12.96 3cfCWOF9O 79/537

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 キーンコーンカーンコーン……


沙織「ね、お昼ご飯は屋上で食べよ」

みほ「うん、そうだね」

「では優花里さんと麻子さんにも──」




 ジジ……ジ────




みほ(あ──)

みほ(──スピーカが鳴る直前のノイズ──)

みほ(お昼休みになったばかりなのに──?)



 ──ピンポンパンポ~ン……ジ……ジジ……

 ──…………。



みほ「……。あれ……?」

沙織「何も流れないね」

「誤放送でしょうか?」

沙織「ま、いっか、じゃあ早く行こ──」



『──生徒の呼び出しを、告げる』



 ──ドクン──
 
 
 
『当学園において戦車道を履修している学生諸君は、至急、戦車倉庫内に集合していただきたい。繰り返す、当学園において──』



みほ(……!? えッ……!?)



 ──ドクン、ドクン──



沙織「ね、ねぇ……? わたし聞覚えがあるよ? この男の人の声……」



 ──ドクン、ドクン、ドクン──



「そんな……まさか……」



 ──ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン──!



みほ(どうして──)

みほ(どうして、この船に、この学園に──)

みほ(──どうしてあの人がいるの!?)

197 : KASA - 2016/10/03 23:09:04.30 3cfCWOF9O 80/537

 ガラガラッ!!



優花里「皆さん! い、今の放送を聞きましたか!?」

沙織「ゆかりん、麻子!」

麻子「今の声、間違いないぞ。あの男が……学園内にいる!」

みほ(……っ)

みほ(朝のヘリ……!)

みほ(あのヘリには、この人が乗ってたんだ!)

みほ(この男の人が乗っているヘリを、私は眺めていたんだ!)

みほ(私の見ている前で、あの人はこの学園艦にやってきたんだ!)

みほ(……何をするために!?)







 ──この学園を廃校とする──







 ゾクッ……

みほ「──ぅぁぁあッ!!」

沙織「みぽりん!?」



 ──キィィィィィィィィィィィィンッ──



みほ「ぅッ!?」

沙織「ちょ、ちょっと、大丈夫……!?」

みほ(耳鳴りだっ、すごく嫌な事が起こった時の……!)



 ──キィィィィィィイイイイイイィィィィイイイイイィィィィィィィ──

 ──ドクンッ、ドクンッ、ドクンッ──



みほ「ああああぁぁ……ッ!」

「みほさん!?」

みほ「──だめっ! そんな事、絶対に──ぉえッ」

優花里「……!? 西住殿、顔が青いですよ!?」

みほ「……はぁっ、はぁっ……!」


 ──ドクン! ドクン!! ドクン!!!──



198 : KASA - 2016/10/03 23:09:52.29 3cfCWOF9O 81/537

沙織「ちょ……どうしちゃったの!?」

みほ(胸がムカムカする、それに痛いっ、耳鳴りで頭が、いたいっ……──うぷっ!?)

みほ「──ごめんどいて!」


 どんっ


優花里「わっ……!?」



 だだだだだだっ!

 カラカラカラ!!



みほ「──オゲロァァーーっ! ……かはッ」


 
 <……ばしゃばしゃっ

 <『きゃぁぁあっ!? なんか降ってきたー!?』



みほ「っ……下の人すみませっ……オェッ」

沙織「やだやだ、どうしよう!?」

みほ「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」

「保健室へ行きましょう!」

優花里「そ、そうです、倉庫の方には私達が──」

みほ「だめっ!」

優花里「!?」

みほ「お願い、私も、一緒に!」

沙織「だけどみぽりん!」

みほ「絶対に、行く!」

優花里「西住殿!?」

麻子「……。」

麻子「西住さん」

麻子「私の肩に、つかまれ。」

沙織「麻子!?」

みほ「……!」

優花里「……っ、ああもうっ、わたしの肩も! どうぞ! つかまってくださぁい!」

みほ「二人とも、ありがとう」

「……しかたがありません、ゆっくり歩いて、皆で行きましょう」

沙織「ほ、ほんとに大丈夫?」

みほ「……させない、絶対に、そんなこと……させない……」

沙織「み、みほ……」

優花里「西住殿、さぁ、深呼吸をしてください」

みほ「……すぅー……はぁ……おぇっ……」

みほ(……ッ)

みほ(ボコ、お願いボコ! 今度こそ、ボコの勇気を私に……頂戴!!)


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

199 : KASA - 2016/10/03 23:11:04.38 3cfCWOF9O 82/537

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 ざっ。ざっ、ざっ、

みほ「二人とも、ありがとう、ごめんね、もう落ち着いた」

優花里「無理、してませんか?」

みほ「うん、平気だよ」

みほ(少しまだ胸はむかむかするけど、耳鳴りは、もう麻痺しちゃった……)

沙織「ねぇ、倉庫の前には、誰もいないけど……」

「きっとみなさん、中にいるんでしょう。放送でもたしか、『倉庫内に』と」

麻子「人には聞かれたくない話、か」

みほ「……もし、本当にあの人だったなら……」

沙織「みぽりん……」

みほ「……。」

沙織「ねぇ、やだよ、そんな怖い顔、やめてよ……」

みほ「……。行こう、皆」

沙織「……みぽりん……」



 ──ギィィィィ……



「──あ、隊長達!」

みほ「梓ちゃん。皆さん」

そど子「遅かったわね」

麻子「遅刻したか」

エルヴィン「いや、まだ私達生徒以外には誰も来ていない」

典子「生徒会の3人もまだみたいだけど……」

みほ(会長さん達も?)

ホシノ「もー……レストア、この昼休みで終わらせたかったんだけどな……」

「……あの、隊長……」

みほ「ん?」

「さっきの放送、あれ、あの人なんじゃないんですか」

みほ「……。」

「やっぱり、あの眼鏡の人の声だよね……」

「……っ、どうして今日、この日にっ、あの人がこの学園にいるんですか!?」

みほ「梓ちゃん」

「私、嫌です……怖いです!」

優季「梓……」

桂利奈「梓ぁ……」

みほ(……。)

ねこにゃー「もしも本当にきゃつが現れたら、鍛えあげた我らの拳でもって必殺の猫パンチをお見舞いしてやるのだにゃあっ

典子「必殺、スパイクっ……!」

あけび「キャプテン……!」

妙子「み、皆、落ち着こうよぉ……」

みほ(……。)

みほ(妊娠の事だけで、心配事はもう沢山なのに……!)

200 : KASA - 2016/10/03 23:11:42.11 3cfCWOF9O 83/537

……ぎゅっ



みほ「あ……?」

紗希「……」ギュッ

みほ「紗希ちゃん……?」

紗希「……」カタカタ

みほ「……! 紗希ちゃんっ」



 ぎゅぅぅぅ……



みほ(落ち着け。落ち着くの。)



 ──そうやって感情的になるから、おかしな事になったんです。また繰り返す気ですか──

 ──どうか、私達大人に、もう少し時間を頂戴──



みほ(私は、落ちついていなきゃ。)



 ────ギィィィィ



そど子「あ、かいちょ──………え?」

麻子「……あ!」

紗希「……!!」

みほ(? 誰──?)





「──きみたち」


 

 ──キィィィィィン──


みほ「……ッ」

優季「……でたぁ……」

みほ(……逆光……っ)

みほ(でも、間違いない)

みほ(この声、この背格好……!)

みほ(やっぱり間違いない!)

みほ(文科省の、偉そうな役人さん……!)

201 : KASA - 2016/10/03 23:12:12.99 3cfCWOF9O 84/537

役人「……。」


優花里「あ、あ、ああ……」

「……ノコノコと……っ」

麻子「何をしにきた……!」

役人「……。」


 ツカ、ツカ、ツカ……


役人「──遅れてもうしわけない。急な電話があったものでね」

ねこにゃー「……フゥーッ、フゥーッ……!」

妙子「猫田さん、抑えて……!」

左衛門佐「獅子身中の、虫……っ!」

「やだ、やだ」

スズキ「まじか……」

パゾ美「遅刻……っ」

みほ(……。)

みほ(皆が……)

紗希「……たいちょ……」フルフル

みほ(……!)

 ぎゅっ……!

みほ「……っ」




 ──キィィィィイイィィィィィィィィィイイイイイイイッ!!!




みほ(……どうして、今なんです……)

みほ(どうして今……! 私達の前に姿をあらわしたんですか……!)

みほ(私達どんな思いで今ここにいるか、あなたには分からないんですか──!!)

みほ(私達の誰が妊娠しようが貴方には、どうでもいいんですか──!!!)

みほ(……そんなに私達の学校が──)

みほ(私達の事が──)

みほ(邪魔なんですかっ!!!)


202 : KASA - 2016/10/03 23:13:02.04 3cfCWOF9O 85/537

ツカ、ツカ、ツカ……



役人「さて、全員、そろっているようですね」

みほ「……!」

みほ「まだですっ、生徒会の人達が、まだじゃないですかっ。会長の事、覚えて……ないんですか……!?」

役人「ん……あぁ、問題ありません」

みほ「……! ……っ!!」

役人「さて、あまり時間がないのだが……」

役人「一言だけ」

役人「心中、お察し申し上げる。君たちには、うむ……心から同情している」

みほ「」

みほ「」

みほ「」








 ────────ぷつん







みほ「……ふ……」

みほ「ふ、ふ……」

みほ「ふふふ、あはは……」

優花里「西住、殿……?」

沙織「みぽりん……?」

みほ「あはははははははは!」

「た、隊長……!?」

紗希「……!? ……!?」

みほ「っぁあーーー!! わあぁぁああーーーーーーーーーーっ!!!」

「み、ほ……さん……」

みほ「──だったらどうして!!! なんで私達をそっとしておいてくれないんですか!!! どうして私達の前にあらわれたんですか!!!!!!!!」


 だんっだんっ!!!


みほ「妊婦は! とっても!! 情緒不安定なんですっ!!!!!!!!!!」


 だんっだんっだんっ!!!!


役人「……どうか冷静になって、話を聞いていただきたい」

みほ「れい、せいに……!? よくそんな事が言えますね!!!???」


 だんっだんっだんっだんっ!!!

203 : KASA - 2016/10/03 23:14:06.08 3cfCWOF9O 86/537

みほ(──ごめんなさいお母さん)

みほ(──ごめんなさいカウンセリングの先生)

みほ(わたし、もう、我慢できません)

みほ(この人だって、本当はこんな事はしたくないのかもしれない)

みほ(いろんな事情があるのかもしれない)

みほ(──だったら尚のこと!!)

みほ(私もこの学校の生徒として、隊長として!!!!)

みほ(何かを背負った一人の人間として!!!)

みほ(抵抗します!!!!!!!!)

みほ「すぅ──ッ」

みほ「……っ」





みほ「やーってや~る~ やーってや~る~ やーってやーるぜッ、いーやなあーいつッをッ、ボーコボッコに~~~!!!!!」



優花里「!? に、西住殿!?」



みほ「ケ~ンカは売ーるものどーうどうとぉおぉぉぉーーー!!!」



「たい……ちょう……」



みほ(──ボコ、ごめんなさいボコ、ボコの勇気をこんな風に使ってしまって)

みほ(だけど、相手は男の人だもん、きっと私にはかなわない)

みほ(──だからボコ! どうかボコ、お願い! 今だけは、私をボコに!!)



みほ「かぁーたっでっ か~ぜきっりっ、たーんかっきーるぅ~~~~~!」


 
 ダンッ、だっだっだっだっだっ!!

204 : KASA - 2016/10/03 23:14:43.76 3cfCWOF9O 87/537

そど子「!? 西住さん!? 何をするつもり!?」

麻子「! やめろ西住さん!!」

役人「……!?」


みほ「っ、わぁあぁぁっーーーーー!!」


みほ(皆の恨みは私が全部持っていきます!!)

みほ(罰を受けるなら私だけでいいんです!!!)

みほ(これが最後のボコボコ作戦!!)

みほ(開始、しますッ!!!)


みほ「ッ、わあああああああああああーーーー!!!」


優花里「いけません西住殿!!」

沙織「みほ駄目っ!」

「みほさん!!!」

役人「待っ……!!!」


みほ「ああああああぁああああああぁぁぁああぁぁああぁぁぁぁぁぁ!!!!!」











『まったぁーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!』










みほ「──────!?」

みほ(あ──前にもこんな事が──おねえ、ちゃん……!?)


   ……ばたばたばたばた!

   < 「西住ちゃん!」

   < 「なんだ、何がどうなってる!?」

   < 柚子「間に合った、のかな……!?」



典子「会長達!」

205 : KASA - 2016/10/03 23:15:09.98 3cfCWOF9O 88/537

みほ(会長──?)

あけび「──と、誰……? あの女の人──」

みほ(え──)


優花里「……あ!!」

優花里「あの人、西住流の」

優花里「西住殿の──!!」



みほ(え──?)



優花里「西住殿のお母さん!?」




みほ(──!!!)




 ……かつ、かつ、かつ……
 



しほ「……。」

みほ「……お、……かぁ……?」

しほ「……。なんたる無様な……。」

みほ「え……」

 
 ツカ、ツカ、ツカ


役人「先生」

しほ「……私達が病院から戻るまで、どうかお待ちくださいと、申し上げたはずです……」

しほ「いえ、とにかく」

しほ「愚娘の非礼を、心からお詫びいたします」

みほ「おかあ、さん……?」

役人「まぁ、少しばかり肝が冷えましたが──」

206 : KASA - 2016/10/03 23:15:38.88 3cfCWOF9O 89/537

役人「母子そろって、大した胆力をお持ちです」

しほ「恐縮です」

役人「……皮肉ですよ」

しほ「理解しております」

役人「……。ハァ……」

みほ(……。)


 かつっ……


しほ「みほ」

みほ「え──」




 ──パァンッ!!!




沙織「ひっ……!」

優花里「あわわ……」


みほ「──……。」

しほ「貴方には、言う言葉がみつかりません。」

みほ「……。」

 
 かつ……


しほ「重ね重ね、真にもうしわけありません。どうか、娘の無礼をお許しくださいますよう」

みほ「……。」

しほ「何をしているの、あなたも、頭をさげなさい」

 
 グィッ 


みほ「……っ」

207 : KASA - 2016/10/03 23:16:07.10 3cfCWOF9O 90/537

役人「まぁ、頭をおあげください。恨まれるのも仕事のうちでしょう」

しほ「その様におっしゃっていただけると」

役人「それよりも、電話でお伝えした通りスケジュールが押していましてね。私は夕刻までに、次の学園艦に移らなくては」

しほ「承知しました。では……。みほ、行くわよ」

 ぐっ……

みほ「あっ……」

 
 かつ、かつ、かつ、

 た、とた……とたた……とた……


みほ(……。)

みほ(お母さんに手、熱い……)

みほ(……え?)

みほ(この手、お母さんの手……?)

みほ(私を引っ張ってる人、お母さん……だ……)

みほ(……どうしてここに、お母さんが?)

みほ(……。だめだ、頭が動かない……)

みほ(ほっぺたを叩かれて、いろんな感情と一緒に、頭の中が、ぜんぶとんでっちゃった)

みほ(……。)

みほ(……私、あんな風に……誰かを憎いと、思えるんだ……)

みほ(知らなかった……)


 かつ、かつ、かつ
 
 とた、た……た、た、た……


沙織「あ、みほ……」

「あの、みほさんのお母様なのですね。お初にお目にかかります」

しほ「あなたたちは確か。……娘が、情けない姿を見せました」

優花里「い、いえ……」

「……西住ちゃん!」

みほ「……会長……」

「私また西住ちゃんに……ごめん……本当に……ごめん……」

みほ「……いえ……」

208 : KASA - 2016/10/03 23:16:57.66 3cfCWOF9O 91/537

「西住」

みほ「河嶋先輩」

「あの人は……廃校を告げに来たわけじゃない。だから、安心してくれ」

みほ「え……」

柚子「まず私達からちゃんと事情を説明して、とは思っていたのだけど、ごめんね……」

「忙しいのは分かるけど、無茶をしないでほしいよ」

沙織「でも、じゃあ、あの人は、何をしに……」

しほ「国からの正式な通達です」

「国からの……?」

しほ「政府としての、貴方たちへの包括的な対応計画……」

しほ「みほ。あなたは熊本に戻らなくて正解だったわね」

みほ「……。」

優花里「あ、あの、西住どのはきっと私達のために……どうか、そう怒らないであげてください……」

しほ「……? ああ……そういう意味ではなくて、戻ってきていたら二度手間になるところだった、という意味です」

しほ「──もっとも、家の敷居をまたぐ許しを与えるかどうか、たしかにもう一度検討が必要なようだけれど」

みほ「……。」






役人「前例のない事態であるため、対応計画の策定に遅れが生じております。その点については深くお詫びを申し上げる」

役人「正式な通達文書についてはすでに学校に配付済みです。この場では手短に直近の概要を申し上げる」

役人「受胎生徒および染色体共有者においては、5日間の観察入院をお願いしたい。当然、費用についての負担をいただく事はありません」

役人「観察入院は全国五か所にて計画されております」

役人「関東および東北南部に所在する学校は──つまり大洗女子学園もこれに含まれるわけですが──つくば研究学園都市にて観察入院を予定しており──」


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続き
【ガルパン】マタニティ・ウォー!【2】

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