ほむら「ゲッターロボ!」【1】
ほむら「ゲッターロボ!」【2】
ほむら「ゲッターロボ!」【3】
ほむら「ゲッターロボ!」【4】

856 : 以下、名... - 2015/07/31 23:20:27.35 OiZWHItK0 853/1284

ほむら「ゲッターロボ!」 第九話

857 : 以下、名... - 2015/07/31 23:21:35.13 OiZWHItK0 854/1284

ほむら 「ねぇ、美国織莉子」


言いながら、私は彼女のソウルジェムに銃口を突き付ける。


ほむら 「万策尽きた美国織莉子さん・・・あなたはこれからどうするつもり?」


筒先がソウルジェムにコツンっと触れ、無機質な音を結界内に響かせた。


マミ 「・・・」


その様子を複雑な表情をしながら、解放されたマミが見守っている。

美国織莉子。

この危険な魔法少女をどうするか、どうするべきなのか。

織莉子が何を成そうとしていたのか。その目的のためには、非常な手段も厭わない冷徹な心の持ち主なのか。

分かってしまったからこそ、このまま野放しにはできない。

だけれど・・・

858 : 以下、名... - 2015/07/31 23:23:19.77 OiZWHItK0 855/1284

優しいマミには、私に引き金を引くように促す事もできない。

そんなジレンマで頭を悩ませているというのが、ありありと見て取れる顔だった。

そしてそれは、最愛の妹を危険な目にあわされた武蔵も同様のようで・・・


ほむら (本当に似たもの兄妹なのね・・・)


その中にあって、ただ一人。

杏子だけが怒りをあらわに気炎を上げていた。


杏子 「・・・ほむら、何やってるんだよ。はやく殺っちまえよ」

ほむら 「佐倉さん・・・」

杏子 「こいつは生かしておいちゃダメな奴だ。おまえにだって、そんなの分かってるんだろ」

859 : 以下、名... - 2015/07/31 23:24:47.27 OiZWHItK0 856/1284

ほむら 「ええ・・・」


分かっている。

美国織莉子は賢い娘だ。

万策尽きたといっても、時を得ればどのように新たな企みを企てるか。

私には、皆目見当もつかなかった。

・・・それに。


ほむら (野放しにしておけば、いずれまどかの行く末を予知してしまうかも知れない)


そうなれば、呉キリカというパートナーを欠いたとはいえ、かつての時間軸での惨劇が繰り返されないとも限らないのだ。


ほむら (逃してはいけない)


そう思ったから、それが分かっていたから、こそ。

かつての時間軸では、私はためらう事無く、彼女の命を奪う事ができたのだ。

・・・だけれど。

860 : 以下、名... - 2015/07/31 23:27:42.51 OiZWHItK0 857/1284

杏子 「・・・お前がやらないなら、あたしがやるぞ」

ほむら 「佐倉さん?」

杏子 「こいつは許せない。そっちの雑魚たちとは違う。あたしはこいつを殺したって、心が痛まない自信があるね」


杏子が顎をしゃくって示したのは、いまだ呻き声を上げながら倒れている織莉子の取り巻きたち。

と、そこへ。

ととと・・・と、駆けてゆく小さな影があった。

それは・・・


ほむら 「え・・・ゆま?」

杏子 「ちょっ、ゆま、待てよ!?」


慌てて駆けだした杏子が、ゆまの前に立ちふさがって、叱るような口調で問いただす。


杏子 「お前、何やってるんだ。どこに行こうとしてるんだ?」

861 : 以下、名... - 2015/07/31 23:41:27.19 OiZWHItK0 858/1284

ゆま 「どいて、きょーこ。あのお姉ちゃんたち、助けてあげなきゃ」

杏子 「助けるって・・・織莉子の取り巻きたちをか」

ゆま 「うん」


ゆまが悪びれる様子もなく、こくんとうなづいた。


杏子 「ば、バカか、お前。放っておけよ。だいたい、ソウルジェムには傷一つ付けてないんだ。あとはてめーらで体でも何でも、修復するだろうさ」

ゆま 「でも痛がってる。かわいそうだよ」

杏子 「だから・・・」

マミ 「佐倉さん」


二人の押し問答に、マミが割って入った。


マミ 「この子たちのソウルジェムを見て」

杏子 「マミ・・・何だってんだよ」


文句を言いながらも、マミに促されて少女たちのソウルジェムに目をやる杏子。

杏子の軽く息をのむ音が、私の所まで聞こえてきた。

862 : 以下、名... - 2015/07/31 23:43:55.55 OiZWHItK0 859/1284

杏子 「・・・限界だな」

マミ 「ええ。この上でさらに魔力なんて使わせたら、この子たちまで魔女化してしまいかねないわ」

ほむら (なるほど、それは・・・そうなるわよね・・・)


信じていた人に裏切られ、自分たちの末路を知り、そのうえ身体を切り刻まれる。

それだけされれば、誰だってソウルジェムの輝きを曇らせるだろう。

ましてや彼女たちは、キュゥべえに大量生産された”バーゲン品”なのだ。

こんな事態になって、耐えられるほど強いはずもない。


杏子 「だから、だからってなんだよ。そんなの自業自得じゃないか。マミはこいつらに、何されたのか、もう忘れたのか!」

マミ 「この子たちは、そっちの子にただ従っていただけだもの。この子たちに対する遺恨なんて、私にはないわ」

863 : 以下、名... - 2015/07/31 23:46:03.61 OiZWHItK0 860/1284

杏子 「ちっ、良い子ぶりやがって、そんな所が昔から気に食わなかったんだ」

マミ 「そう言うあなたも相変わらずね」

杏子 「・・・それにさ。どのみち、さ。早いか、遅いかの差なんだろ」

マミ 「え・・・」

杏子 「そいつらも、あたし達も。結局行きつく先は同じなんだろ。だったら、変な情けをかけてやるだけ無駄ってもんじゃないのか」

マミ 「そ、それは・・・」


マミが言葉に詰まり、あたりに一瞬の静寂が訪れる。

竜馬がポツリ、正論だな、とつぶやいた。

だけれど。


ゆま 「じゃましないなら、どいて」


そんな二人のやり取りなんか目に入らないかのように。

ゆまが杏子とマミの脇を、すたすたと通り過ぎようとする。

864 : 以下、名... - 2015/07/31 23:56:30.19 OiZWHItK0 861/1284

杏子 「おい、今のあたしの話、聞いてなかったのかよ!」

ゆま 「ゆまたち、死ぬんだよね」

杏子 「あ・・・え・・・?」

ゆま 「きょーこもほむらお姉ちゃんも、ここにいる魔法少女たちもみんな、死んじゃうんだよね」

杏子 「そ、そうだよ!だからさ!」

ゆま 「じゃあ、きょーこは今日死ぬの?みんな今日死んじゃうの?」

杏子 「・・・う?!」


ゆまがゆっくりと杏子を見上げ、そしてにこりと笑った。


ゆま 「・・・死ぬのは、今日じゃないよ」


どこかさみしげで、これまでのゆまには似つかわしくない。

どこか達観した雰囲気の笑顔・・・

865 : 以下、名... - 2015/08/01 00:02:05.06 cr5Nuc8F0 862/1284


ほむら 「・・・あっ」


そして、私は気づかされる。

他に手いっぱいで、ゆまの事にまで気が回らなかった自分の迂闊さに。


ほむら 「さ、佐倉さん・・・私、私たち・・・まだ教えてない・・・」

杏子 「ああ?」

ほむら 「ゆまに、魔法少女がいずれ、魔女となる定めにあるという事・・・」

杏子 「あ・・・ああっ・・・!」

ゆま 「・・・」


そう、ゆまも織莉子の取り巻きたちと同じ。

今日知ったのだ。

やがては魔女となり、この世から消え去らねばならないという、自分の残酷すぎる運命に。


杏子 「ゆま、お前・・・」

ゆま 「・・・」

866 : 以下、名... - 2015/08/01 00:03:11.40 cr5Nuc8F0 863/1284

あとはゆまは何も話さなかったし、誰もゆまの行動を阻もうとしなかった。

いや、できなかった。

そんな私たちを尻目に、ゆまは傷ついた魔法少女たちを得意の治癒魔法で癒し始めた。


マミ 「暁美さん、佐倉さん。こちらの事は、私に任せて」


マミが武器を構えながら、ゆまの傍らにそっと寄り添う。

傷を癒した魔法少女たちが逆襲に出ないよう、見張りを買って出てくれたのだ。

ちょうど、先ほどまでの立場が逆転した形。

もっとも。


ほむら (今さら、あの子たちが織莉子に義理立てして、私たちには向かってくるとも思えないけれど・・・)

867 : 以下、名... - 2015/08/01 00:04:25.95 cr5Nuc8F0 864/1284

何にしても、千歳ゆま・・・

魔法少女の真実に触れても、泣くことも取り乱すこともなかった。

幼い彼女の事を気遣い、事実を隠ぺいしようとした私たちの気づかいは、けっきょく気の回しすぎだったという事なのだろうか。

それとも・・・


ほむら (ううん・・・考え込むのは後だ。今はそれより)


美国織莉子の処置を考えなくてはいけない。

佐倉杏子は織莉子を殺せと言う。その意見は正しい。かつての私もそう思ったからこそ、躊躇なく引き金を引けたのだ。

だけれど・・・


織莉子 「撃たないの?」


かつてと同じように。

自嘲とも諦観とも取れない微笑を浮かべながら、織莉子が言った。


ほむら 「撃つわ」


対する私も、かつて自分が織莉子に言ったのと同じセリフを、再び彼女に投げつけた。

だけれど、言葉と心は裏腹だと証明するように、引き金にかけた私の指が、こわばって動かない。

868 : 以下、名... - 2015/08/01 00:10:17.84 cr5Nuc8F0 865/1284

ほむら 「・・・っ」


私の心の内に。

先ほど織莉子から指摘された言葉が蘇る。


(織莉子 「あなたはどれだけの時間軸をループしてきたの?いったいどれだけの時間軸を見捨ててきたの?」 )

(織莉子 「どれだけの見滝原に住む人々を、見殺しにしてきたの?)


織莉子の言う通り、私は自分の目的のため、直接的・間接的を問わず、たくさんの人を見殺しにしてきた。

織莉子と私は、目的や手段が違うだけで、本質的には同質の存在でしかないのだ。

もちろん、まどかを危険な目にあわせ、仁美を結果的に死に追いやった彼女の事を許すことはできない。

だけれど・・・


ほむら (それを、同じ事をしてきた私が、織莉子を断罪する資格なんてあるはずがない・・・)

869 : 以下、名... - 2015/08/01 00:13:02.16 cr5Nuc8F0 866/1284

どうして良いのか分からない。

私は救いを求めるように、傍らに立つ竜馬に視線を向けた。


ほむら 「りょ、リョウ・・・」

竜馬 「・・・暁美」


だが、振り仰いだ竜馬の口から出たのは、私の期待した答えとは別の言葉だった。


竜馬 「ここはもう限界のようだぜ」

ほむら 「え・・・」


言われた私も 竜馬に倣って周囲を見渡す。

そして、気がつかされた。


ほむら 「結界の、崩壊が・・・始まってる?」

竜馬 「首の皮一枚で生かされていた魔女が、とうとう力尽きたらしいな」

ほむら 「じゃあ、私たちはもうすぐ、通常に空間に・・・」


戻されることになる。

そんな会話を交わしているそばから、結界の崩壊は加速度的に進んでゆく。

織莉子の処遇をどうするのか。その事を決める間もないほどに。


ほむら (彼女の事は、結界内で片を付けておきたかったのだけれど・・・)


と、その時だった。

870 : 以下、名... - 2015/08/01 00:15:37.37 cr5Nuc8F0 867/1284

織莉子 「・・・っ!!!」


結界の崩壊に気を取られ、皆の注意が織莉子からそれた、その一瞬。

彼女が不意に立ち上がり、私に当身を喰らわせて来たのだ。


ほむら 「・・・っ!」


突然の事に、身をかわすだけでやっとの私。

だけれど、当身を避けられた織莉子は二撃目を繰り出すでもなく、そのまま私の脇をすり抜けてしまう。


竜馬 「待て、美国!」

杏子 「野郎!」


織莉子の本来の目的は、私にダメージを受けさせることにあったのではなく、この場からの逃走にあったのだ。

さすがに場馴れしている竜馬と杏子の行動は素早く、とっさに織莉子を捕まえるべく駆けだそうとしたが、その瞬間。


パリンッ、と・・・


耳障りな亀裂音が響き渡り、まるでガラスが砕けたかのように結界を包む壁面が雪崩のように崩れ始めた。

871 : 以下、名... - 2015/08/01 00:16:48.53 cr5Nuc8F0 868/1284

ほむら 「織莉子っ!!」


天井も崩壊し、私たちの頭へとガラガラ音を立てながら、降り注いでくる。

残骸が視界を塞ぎ、私たちは逃げ去る織莉子の背中を見失ってしまった。


ほむら 「美国織莉子っ!!」


・・・そして、静寂が訪れ。

私たちは全員、元の廃工場跡へと放り出されていた。

美国織莉子、一人を除いて。


杏子 「お前、何やってるんだよ・・・」


呆れ顔で私を見つめる杏子の視線が痛かった。

返す言葉もない・・・

878 : 以下、名... - 2015/08/02 21:09:57.83 WOH5zeAJ0 869/1284

・・・
・・・


その後。

ゆまによる治療を終えた三人の魔法少女たちは、おとがめなしで解放された。

織莉子に騙されていたと知った今、これ以上あの子たちが私たちと敵対するはずがないと判断したからだ。

もっとも、手向かってきたところで、ブレーンのいない彼女たちが、私たちと渡り合えるはずもない。


マミ 「あの子たち・・・」


めいめいに去ってゆく三人の背中を見つめながら、マミが悲しそうにつぶやく。


マミ 「・・・きっと、長くないわね」

杏子 「そりゃそうだろう。戦う力も気力もない。遠からず魔女に食われるか、てめーが魔女になっちまうか」

マミ 「かわいそうね・・・」

杏子 「自業自得だろ。いっそ、あの場で見捨ててやった方が、苦しみが短くって済んだのかもしれないぜ」

ゆま 「・・・」

879 : 以下、名... - 2015/08/02 21:11:56.17 WOH5zeAJ0 870/1284

武蔵 「おい、そういう言い方はないだろう」

杏子 「うるせーな。あたしが何か、間違ったことを言ったか?」

武蔵 「ゆまちゃんに当て付けるような物言いはよせと言ってるんだ。目の前で人が死にかけていたら、助けてやりたいって思うのが人情だろうが」

杏子 「綺麗ごとは要らないんだよ。どーせあいつらは、将来のあたしたちの姿なんだ」

ほむら 「・・・」

杏子 「あたしらもああなるんだよ。その時、誰かが憐れんだり、同情してくれるっていうのかよ!」

ほむら (そうね・・・)


私はポケットに忍ばせている”志筑仁美”を、そっと撫でた。

880 : 以下、名... - 2015/08/02 21:14:03.93 WOH5zeAJ0 871/1284

仁美の死の真相を知っているのは、魔女の結界の中にいた限られた者たちだけ。

仁美の家族もクラスメイトも・・・

彼女と関わりの深かった者は、誰も仁美が死んだことを知る術がない。

やがて仁美の存在は、人々の記憶の底へと埋没して消えてしまうのだろう。

そしてそれは、明日の我が身の姿だと、そう杏子は言っているのだ。

だけれど、今は・・・


ほむら 「やめましょう、仲間内で言い争いなんて」


杏子の正論を正論だと認めたくない、私がいた。

だから、不毛な議論を私が遮る。


ほむら 「疲れた・・・今はただ、疲れたわ。今日はもう、帰りましょう」

881 : 以下、名... - 2015/08/02 21:16:00.33 WOH5zeAJ0 872/1284

時計を確認すると、日付はすでに変わっていた。

もう深夜なのだ。


竜馬 「そうだな。考えなきゃならないことはいくらでもあるが、今日は色々ありすぎた。みんな混乱してるだろうし、そんな頭で、何を話し合ったところで意味がない」


一晩寝て、頭と心をすっきりさせるのが先だ。

そう言って、竜馬が場をしめてくれた。


杏子 「ち、分かったよ、分かりました。それじゃ、これで解散だな」

マミ 「そうね。じゃあ私たち、帰らせてもらうわね・・・」

ほむら 「ええ」

マミ 「その・・・今日は迷惑をかけて、本当にごめんなさい。でも、おかげで助かったわ」

武蔵 「ありがとうな、みんな」

杏子 「・・・」

マミ 「・・・?どうしたの、佐倉さん。私の顔をじっと見ちゃって」

882 : 以下、名... - 2015/08/02 21:18:45.43 WOH5zeAJ0 873/1284

杏子 「いやさ・・・マミ。もう平気なのか?その、今日の事だけじゃなくって。ええと、色々と、さ」

マミ 「あ、うん・・・佐倉さんにも心配させちゃったよね。ごめんなさい。そして、ありがとう」

杏子 「別にあたしは心配なんてしてないぞ!ただ、これからの事を考えると、足を引っ張られたくないだけというか・・・」

マミ 「そうね。もう平気よ。お兄ちゃんとも色々話し合ったし、私もこれからどう生きていくか、覚悟も定まったから」

杏子 「そ、そうか・・・」


杏子・・・ほっとした表情をしている。

嬉しいんだろうな。

こんなことを指摘しても、彼女は絶対に認めたりはしないだろうけれど。

やっぱり杏子にとって、マミは特別な人なんだなと、今更ながらに思わせてくれる顔だ。

883 : 以下、名... - 2015/08/02 21:20:03.24 WOH5zeAJ0 874/1284

マミ 「その節はごめんね。見苦しいところをたくさん見せちゃった・・・暁美さんも、ね?」

杏子 「よせよ、さっきから何回謝るつもりさ。律儀なのも度が過ぎると、鬱陶しいだけだぜ」

マミ 「そうね、うん、分かった」

ほむら 「巴マミ。もし、今日の事を借りだと思ってくれているなら、これからの事、きちんと話がしたいわ」

マミ 「ええ、もちろんよ」

ほむら 「その返事だけで、十分よ」


おそらく、武蔵と二人きりで過ごした数日間の間に、彼女の心の中で何かが一皮むけたに違いない。

心の迷いから解放された巴マミは、この上なく心強い仲間となってくれるはずだ。


ほむら (それが分かった事が、今日の辛い一日の中での、唯一の収穫だわ)

884 : 以下、名... - 2015/08/02 21:22:33.68 WOH5zeAJ0 875/1284

武蔵 「よし、それじゃあ、マミちゃん。帰ろうぜ」

マミ 「ええ。ところで佐倉さん、あなたはどうするの?」

杏子 「いつも通りさ。適当に寝床を探して、適当に飯を食って寝るだけだよ」

マミ 「だったら、今晩はうちに泊まらない?良いでしょ、お兄ちゃん」

武蔵 「まぁ、歓迎するぜ」

杏子 「うーん・・・まぁ、今からどこで寝るか決めるのも億劫だし・・・お邪魔するか」

マミ 「決まりね。じゃ、行きましょ。では、暁美さん。また明日、ね」

ほむら 「ええ、明日」

竜馬 「巴マミ」


去りかけたマミを、不意に竜馬が呼び止めた。

885 : 以下、名... - 2015/08/02 21:23:42.07 WOH5zeAJ0 876/1284

マミ 「なぁに?」

竜馬 「こいつ、俺が連れ帰ってもいいんだよな?」


言いながら竜馬が目線を走らせた先には、今だ気を失ったまま身動き一つしないキュゥべえの姿があった。

結界崩壊時に私たちと一緒に、外に放り出されていたのだ。


マミ 「・・・どうして私に許可を取るの」

竜馬 「お前さんがこいつとは一番付き合いが長いからさ。生かすも殺すも、まずは巴マミにお伺いを立ててからと思ってな」

マミ 「わ、私は・・・」

武蔵 「好きにしてくれ」


思わず口ごもるマミに代わって、武蔵が答える。

キュゥべえに騙された事を知った今となっても、情の深いマミはキュゥべえを見捨てるような言葉は、口から出しにくいのだと思う。

だから・・・武蔵はナイスサポート。さすが、お兄さんだわ。


武蔵 「良いな、マミちゃん」


そして、有無を言わせぬ口調でマミに同意を迫る。

この辺り、ただの甘いお兄さんという訳ではなさそうだ。

886 : 以下、名... - 2015/08/02 21:25:50.68 WOH5zeAJ0 877/1284

マミ 「え、ええ・・・」

竜馬 「よし、了解だ」


そして。

手を振りながら、今度こそマミたちは帰って行った。

やがて三人の人影は、夜の帳に溶け込むように消えて。

あとに残されたのは、私とリョウとゆまの三人。


ほむら 「そいつ、捨てて帰ってもいいと思うのだけど・・・」

竜馬 「俺もそうは思うんだが、隼人の言った一言が、どうにも気になってな」


悪いようにはしないから、キュゥべえを連れ帰るように。

ゲッターの中で、隼人は竜馬にそう告げたという。


ほむら 「いったい、どういう意味なのかしらね・・・」

竜馬 「皆目見当もつかないが・・・意味のない事を言うはずもない。あの隼人が・・・いや」

ほむら 「・・・?」

竜馬 「ゲッターが、な」

ほむら 「そうね・・・」

887 : 以下、名... - 2015/08/02 21:30:35.22 WOH5zeAJ0 878/1284

確かに、そうかも知れない。

連れ帰れという言葉の真意は、きっとキュゥべえが目を覚ました時に、明らかになるのだろう。

だからこの件は、ひとまず竜馬に任せることに決めた。


ほむら 「それじゃ、キュゥべえの事は任せたわ。そ、それと・・・リョウ・・・」

竜馬 「なんだ?」

ほむら 「・・・ありがとう、ね?」

竜馬 「なんだよ、藪から棒に」

ほむら 「あの場をうまく収めてくれて。私は人をまとめるの、得意じゃないから」

竜馬 「俺だってそうさ。それに、俺は自分が思ったことを口にしただけだぜ」

ほむら 「・・・え」

竜馬 「言ったろ、今日は色々ありすぎた、と。俺も混乱してるんだよ。隼人が・・・いや、ゲッターが何を考えているのか」

ほむら 「リョウ・・・」

竜馬 「俺に何をさせようとしているのか、皆目見当がつかない。だが、考え込むには、俺は疲れすぎている」

ほむら 「・・・ねぇ」

竜馬 「?」


疲れている。そういった竜馬に追い打ちをかけるようで後ろめたかったけれど。

私は先ほどから抱いていた懸念を、竜馬に聞いてもらいたいと思った。

888 : 以下、名... - 2015/08/02 21:35:58.14 WOH5zeAJ0 879/1284

ほむら 「・・・私も、ゲッターはあなた以上に分からない。いえ、知らない」

竜馬 「暁美・・・?」

ほむら 「だから思うの。私もいずれ、仁美たちみたいに、ゲッターにすべてを取り込まれてしまうのじゃないかしらって」


懸念というより、それは恐怖と言った方が良い感情だったかもしれない。

死は恐れない。そんな覚悟は、とっくに定まっている。

まどかのためだったら、私はどんな運命だって受け入れる。

だけれど・・・


ほむら 「得体の知れない物に、納得がいかないまま死を下されるのだけは、絶対に嫌なの」

竜馬 「暁美・・・すまないが、俺がその答えを出してやることはできない。言ったろ、俺もゲッターが何をやろうとしているのか、分からないんだ」

ほむら 「うん、知ってる。ただ、聞いてもらいたかっただけ。ごめんね」


明確な答えを期待したわけじゃない。

一人で抱え込むのが、あまりに重い感情だったから。

仲間に・・・竜馬に共有してほしいというだけの、私のわがまま。


竜馬 「だがな」

ほむら 「え・・・?」

889 : 以下、名... - 2015/08/02 21:38:24.23 WOH5zeAJ0 880/1284

竜馬 「隼人はお前を後継者と認めたんだし、敵とは認識していない。だったら、志筑や呉みたいな事にはならないはずだと、俺は思うがな」

ほむら 「そうかしら」

竜馬 「ああ。それに、仮にお前に何かしようってんなら、ぶん殴ってでも俺が隼人を止めてやる」

ほむら 「・・・」

竜馬 「あいつとは何度も殴り合った仲だが、けっきょく決着はつけられなかったままだからな。良い機会かもしれない」

ほむら 「・・・ふふ、ありがとう、リョウ。少し気持ちが軽くなったわ」

竜馬 「なによりだ。それじゃ、俺たちも帰るとしようか。部屋まで送るぜ」

ほむら 「・・・ありがとう。じゃあ、いきましょう、ゆま」

ゆま 「うん」


私たちは三人並んで、私の部屋への帰路を歩き始めた。

890 : 以下、名... - 2015/08/02 21:39:51.04 WOH5zeAJ0 881/1284

・・・
・・・


私たちは、ほとんど無言のままで歩を進めていた。

疲れすぎていたせいもあるけれど、それ以上に。

私も竜馬も、ゆまにどう声をかけたら良いのか。

判断がつきかねていたからだ。


ほむら (ゆま・・・魔法少女の真実を知っても、取り乱すところか、泣き言ひとつ言おうとしない)


平気なはずがない。自分が魔女になる運命から逃れ得ないと知れば、あの時のマミのように正体を失ってもおかしくはないのだ。


ほむら (いえ、むしろそれが正常なんだと思う)


それも幼い少女なのだ。受け止めきれるはずがない。

なのに・・・

私の横を歩くゆまは、眠気と疲労でふらふらしてはいても、別段ショックを受けているようには見えなかった。

891 : 以下、名... - 2015/08/02 21:41:56.94 WOH5zeAJ0 882/1284

強がり・・・を通せるほど、器用な子とも思えないし。

では・・・


ゆま 「ゆまの事ね、心配してくれてるんでしょ。ありがとう、ほむらお姉ちゃん」

ほむら 「え、あ・・・ううん、そういうわけじゃ・・・」


心を見透かされたように不意に話しかけられ、とっさの返事に詰まる私。


ゆま 「だけど平気だよ。ゆま、だいじょうぶだから」


私を見上げながら、柔らかく笑うゆま。

その笑顔はあまりに自然で、無理をしている様子は微塵も感じられなかった。


竜馬 「ガキのくせに、見かけ以上に強いやつなんだな、お前は」


竜馬がくしゃくしゃと、ゆまの頭を撫でる。

くすぐったそうにしながらも、えへへと笑いながら竜馬の愛撫を受け入れていたゆまだったけど。


ゆま 「・・・」


急に真顔に戻ると、うつむいてしまった。

892 : 以下、名... - 2015/08/02 21:43:34.53 WOH5zeAJ0 883/1284

何かを言いたげで、だけれど言っても良いのか分からない。

そんな迷いを、地面を見つめるゆまの表情が語っているように、私には感じられた。


ほむら 「ゆま、どうかしたの?」

ゆま 「うん・・・」

ほむら 「言いたいことがあったら、言っちゃって良いのよ。スッキリするから」

ゆま 「そうだね。あのね・・・」


ゆまは、うつむいた顔を上げないままで。

ぽつりぽつりと話し始めた。


ゆま 「リョウお兄さんはゆまのコト強いって言ってくれたけど、違うよ。ゆまね、強くなんかない。ただ、知ってるだけ」

竜馬 「知ってる?何を・・・?」

ゆま 「良い事があったらね、良くない事もいっしょに起こるって、それを知ってるだけ」

ほむら 「・・・え?」

893 : 以下、名... - 2015/08/02 21:46:07.76 WOH5zeAJ0 884/1284

ゆま 「魔法少女になった時もそうだったよ。ゆまね、怒られたくなたったの」

ほむら 「怒られる・・・?だれに?」


私も竜馬も、ゆまが何を願い、何を望んで魔法少女になったのかを知らない。

武蔵だけはそれとなく聞いていたようだったけれど、彼もゆま本人も私たちには教えようとはしなかった。

デリケートな問題だから、言いにくい事もあるのだろう。

そう思って、こちらから話題にすることは避けていたのだけれど・・・


ゆま 「パパとママに。だからね、キュゥべえにお願いしたの。もう、怒られるようなことが起こりませんように、って」

ほむら 「そ、それで・・・?」

ゆま 「叶ったよ。もう、ゆまは怒られない。二度と・・・」

ほむら 「それって・・・」

竜馬 「お前の親父さんたちは、それからどうなったんだ?」

ゆま 「いまなら、ゆまの事を”怒られない良い子にして下さい”って祈ればよかったのなって、そう思うけど。もしかしたら、ゆまはあの時・・・」

ほむら 「・・・」

ゆま 「あの時、心のどこかで怒りんぼのパパやママなんか、いなくなってしまえって。考えちゃってたのかもしれないなって」

竜馬 「ま、まさか・・・」

894 : 以下、名... - 2015/08/02 21:50:25.88 WOH5zeAJ0 885/1284

ゆま 「パパもママも、食べられちゃった。ゆまの見てる前で魔女に」

ほむら竜馬 「・・・っ!」

ゆま 「もう怒られない。でも、パパもママもいなくなっちゃった。良い事の後にはきっと、悪い事が起きるんだよ」

竜馬 「なんてこった・・・」

ゆま 「でもね」

ほむら 「・・・?」

ゆま 「ゆまは一人になっちゃったから、だからきょーこに拾ってもらえたの。ほむらお姉ちゃん達にも出会えて、優しくしてもらえたんだよ」

ほむら 「ゆま・・・私は・・・」


ゆまが時折見せるさみしそうな表情の裏で・・・

そのような事を考えていたなんて。

私は全然気がつけなかった。


ゆま 「だからね、そろそろじゃないかなって思ってたんだ。次は悪い事が起こる番。魔女になっちゃうなんて、そこまでは考えていなかったけど」


今の生活が、程なく壊れてしまうに違いない。

そんな不安と諦めの中で、弱音一つ吐かずに、彼女は私たちに笑顔を見せ続けてきたのだ。

幼いゆまにとって、それはどれほど辛い事だったのだろう。

895 : 以下、名... - 2015/08/02 21:54:32.07 WOH5zeAJ0 886/1284

ゆま 「へへ・・・っ」


ゆまが顔を上げ、再び私を見上げた。

いつもと同じ、誰もが癒されるような、ヒマワリのように明るい笑顔を浮かべて。


ゆま 「だからね、ゆまは平気なの」

ほむら 「・・・あっ」


その笑顔に対し、私は二の句が継げなかった。

何と答えて良いのか分からない。


竜馬 「ならねぇよ」


そんな私に代わって、ゆまの話を受けてくれたのは竜馬だった。


竜馬 「魔女になんか、なりゃしねぇよ」


再びゆまの頭を撫でながら、竜馬が言う。

896 : 以下、名... - 2015/08/02 21:57:03.02 WOH5zeAJ0 887/1284

竜馬 「絶望しなけりゃいいんだ。楽しい事を見つけろ。やりたい事を探せ。生きる意義を考えろ」

ゆま 「え・・・え・・・?」

竜馬 「悲しかった過去は後ろに置いて行け。前だけ見つめて歩き続けりゃ、人はそうそう絶望するもんじゃない」

ゆま 「だけど、そんな事・・・ゆまは弱いし、悲しかったことを忘れるなんて、できないし・・・」

竜馬 「できる。暁美が実証している」

ほむら 「・・・えっ」

竜馬 「暁美は守りたい者のために、今を生きている。その目的がある限り、暁美は絶望せずに前だけを向いて生きていけるんだ」

ほむら 「ちょ、ちょっと・・・」


不意に持ち上げられて、慌ててしまう私。

私はそんなに立派なものじゃない。じゅうぶん後ろ向きだし、心の均衡を保っているのも実はギリギリの綱渡りだ。

だけれど・・・


竜馬 「そうだろ、暁美」


確かに・・・

それでも絶望せずにいられるのは、まどかを守り通すという望みがあるため。

生きる目標があるからこそ、私は絶望の淵に身を沈めることなく、今日までやってこられたのだ。


ほむら 「そうね」


それに今は・・・

897 : 以下、名... - 2015/08/02 22:02:33.62 WOH5zeAJ0 888/1284

ほむら 「リョウの言っていた事と、もう一つ。ともにいてくれる仲間が・・・友達がいれば。だから、ゆま」

ゆま 「はうっ」


竜馬の手の上から、私もゆまの頭へと手を添える。

ふんわりと。

竜馬の手を通して、ゆまの柔らかい髪の毛の感触と、そして。

彼女の体温が、じんわりと優しく伝わってきた。


ゆま 「・・・」

ほむら 「あなたが私の支えとなってくれているように、私やリョウがあなたの支えとなれたら、とっても嬉しい」


リョウのおかげで、仲間を信じる強さというものを、得る事ができた私だから。

ゆまにもそうあって欲しいと、切に思う。


ゆま 「良いの?ゆま、お姉ちゃん達のお友達でいて、本当にいいの?」

竜馬 「当然だ。佐倉や武蔵、巴マミだって同じ事を言うだろうぜ」

ゆま 「そっか・・・そっか・・・へへ・・・なんだか不思議」

ほむら 「なにが?」

ゆま 「良い事の後に、また良い事が起っちゃったよ。こんなの初めて」

ほむら 「ゆま・・・」

898 : 以下、名... - 2015/08/02 22:05:39.99 WOH5zeAJ0 889/1284

竜馬 「だったら、次も良い事が起こるだろうぜ。二度あることは三度あるって言うしな」

ゆま 「うん、えへへ」


照れくさそうにはにかむ、そんなゆまの笑顔を見ながら。

私はもう片方の手で、ポケットの中のグリーフシードを、そっと握っていた。


ほむら (もう、たくさんだ)


かつての時間軸で多くの仲間を失い、この時間軸でも友人を失った。

もうたくさんなのだ、あんな想いを味わうのは。

だから、これ以上はもう、絶対。


ほむら (誰の笑顔も、欠けさせてはいけない)


皆でワルプルギスの夜を乗り切り、私もまだ知らない未来を友達全員で生きるんだ。

左右の掌が触れている、それぞれの物に、大切な友人に。

私はそう誓ったのだった。

907 : 以下、名... - 2015/08/04 19:55:55.66 bAZriduZ0 890/1284


・・・
・・・


まどか 「ほ、ほむらちゃーん!」


思いがけない出迎えに驚かされたのは、私の部屋にたどり着く直前の事だった。

私たちを見送ったあと、ずっと帰りを待っていたまどかが、まろぶように駆けてきたのだ。


ほむら 「ま、まどか・・・」


面喰ってしまった私にお構いなく、まどかが質問の嵐をまくし立てる。


まどか 「ほむらちゃん、マミさんは!?マミさんとお兄さんは無事なの!?あれからどうなったの!?ねぇ、ほむらちゃん!」

ほむら 「ちょ、お・・・落ち着いて・・・」

まどか 「ほむらちゃんー・・・」


私の両肩をがしっと掴んで、今にも泣くき出しそうな顔をグイグイと寄せてくる。

うあ・・・ち、近い・・・

908 : 以下、名... - 2015/08/04 20:00:44.29 bAZriduZ0 891/1284

竜馬 「まぁまぁ、落ち着け、鹿目」


見かねた竜馬が間に入ってくれる。


まどか 「あ、流君・・・」

竜馬 「お前、ずっとここで俺たちの帰りを待っていたのか?」

まどか 「うん・・・ていうか、流君が持ってる白いのって、キュゥべえ・・・?」

竜馬 「あー、こいつの事は気にするな。寝ぼけて起きないから、俺の家に連れて帰るのさ」

まどか 「そ、そう・・・えと、そ、それでね。私、家でじっとなんてしてられなかったの。私のせいでマミさんがあんな事になっちゃったのに・・・」

竜馬 「お前のせいじゃないさ。鹿目はたまたま、あの場にいただけ、巻き込まれたのはお前の方だろう」

まどか 「うん・・・それでも・・・」

ほむら 「まどか・・・」

909 : 以下、名... - 2015/08/04 20:05:53.38 bAZriduZ0 892/1284

竜馬 「それでも、お前の気持ちは分かるぜ、鹿目。だが、それはそれとして、こんな時間まで外にいて、家の人は心配してないのか?」

まどか 「う、うん、それは平気。ママには友達の家に泊まるって電話しておいたから」

竜馬 「電話一本で許してくれたのか。けっこう放任主義なのか、鹿目の親御さんは」

ほむら 「そうじゃない。信用されてるのよ」


なんにしても、まどかも無茶をする。

日付も変わってしまった深夜になるまで、若い女の子が一人で、こんな屋外で何時間も。

すでに季節は春とはいっても、日が落ちた後はまだまだ冷える。

そんな中を、いつ帰るかもわからない私たちを外で一人で何時間も待っているなんて・・・

さぞかし、心細かったことだろう。

910 : 以下、名... - 2015/08/04 20:12:04.13 bAZriduZ0 893/1284

ほむら 「なら、鹿目さん。本当にうちに泊まっていけば良いわ。泊まると断っている以上、今から帰っても却って心配させるだけでしょう」

まどか 「うぇひぃ・・・い、良いのかな。というより、それよりもマミさんの事を・・・」

ほむら 「その話もするわ。なんにしても、こんな所でたむろしていては、近所迷惑になるだけだから」

まどか 「あ・・・そ、そっか・・・ごめんね」


そんなやり取りの間に、気を利かせてくれたゆまが、ドアのカギを開けてくれた。


ゆま 「お姉ちゃん、どうぞ」

まどか 「あ、ありがとう。えっと、あなたは・・・」

ゆま 「千歳ゆまです!」

ほむら 「先日、お昼に言ったでしょ。私のお弁当箱を選んでくれた、知り合いの子の話。この子がそうよ」

まどか 「あ、そっかぁ・・・えっと、初めまして、鹿目まどかです」

ほむら 「私と同じ、魔法少女なんだけれどね」

まどか 「え・・・」

911 : 以下、名... - 2015/08/04 20:13:46.22 bAZriduZ0 894/1284

ほむら 「今は事情があって、一緒に住んでいるの」

ゆま 「えへへー」

まどか 「・・・」


まどかの表情が一瞬曇ったのを、私は見逃さなかった。

無理もない。敵対する魔法少女の存在を目の当たりにしたばかりなのだ。

今のまどかにとって、魔法少女という存在は、あこがれの対象とはまた違った意味を持ち始めているのだろう。


ほむら (それはいい傾向だわ。魔法少女に対する淡い幻想なんて、打ち砕かれてしまった方が良い)


ただ、ゆまに対する警戒感だけは解いておきたい。

ゆまの事、できればまどかにも好きになって欲しいから。


まどか 「そっか、魔法少女なんだ・・・」

ゆま 「・・・?」

ほむら 「良い子よ。本当の妹みたいに、思えるほどに」

ゆま 「えー///」

まどか 「そう・・・そっか。そうだよね、ほむらちゃんと一緒にいるんだもんね」

912 : 以下、名... - 2015/08/04 20:20:58.83 bAZriduZ0 895/1284

ほむら 「・・・さぁ鹿目さん、上がって。えっと・・・リョウは」

竜馬 「俺は帰るぜ。それでな、暁美」

ほむら 「え・・・?」


竜馬が顔を近づけ、私の耳元で一言。


竜馬 「志筑の件、鹿目には黙っておいた方が良いんじゃないか」

ほむら 「・・・」


それだけを言うと、竜馬は手を振りつつ、スタスタとその場から去っていった。

志筑仁美の件、言うべきではない。竜馬がそう言うのは分かるし、私だって言いたくはない。

言えば、どれだけまどかが悲しむか。そんなの想像するまでもない事だもの。

だけれど、真実に蓋をして、まどかを騙すようなことをして、それで本当に正解と言えるのだろうか。

・・・私には、すぐに答えを出す事なんてできない。


まどか 「ほむらちゃん、どうかしたの?」

ほむら 「え、ううん・・・なんでも。さぁ、入って。鹿目さん、お腹がすいたでしょう?」


私は思索を打ち切って、まどかを部屋へと招き入れた。

まずはお腹に何かを入れよう。まどかだけじゃない。ゆまにも何か食べさせてあげなくてはいけないし、私だってお腹がぺこぺこだ。


ほむら (こんな状況なのに、お腹はきちんと減るものなのね)

913 : 以下、名... - 2015/08/04 20:27:31.37 bAZriduZ0 896/1284

・・・
・・・


さすがに今からでは、料理をする気にはなれない。

私は久々に、買い置きの出来合いを食卓に並べることにした。

ゆまが慣れた手つきで、食器を並べたり湯を沸かしてくれたりと、てきぱきと手伝ってくれる。

そして出来上がった食事を口にしながら、私はマミ救出の顛末を語ることにした。


ほむら (食べながら話した方が、深刻な感じにならなくて話しやすそうだから・・・)


私はできるだけ簡潔に、まどかと別れた後の出来事を語って聞かせた。

そう、簡潔に・・・省略できることは省いて。

敵対した魔法少女たちの中に仁美がいたという事と、仁美を含めた数人が死んでしまった事。

それらの事にはわざと触れずに、あくまでマミを無事救出できたことのみを強調し、最後に敵の親玉には逃げられてしまった事。

それだけを付け加えて、私は話を終えた。

914 : 以下、名... - 2015/08/04 20:29:26.90 bAZriduZ0 897/1284

ほむら (仁美の事、いつまで黙っているべきなのかは分からない。分からないけど、今は・・・)


マミの事で焦燥し、今にも泣きだしそうな顔で賭けよって来た時のまどかの顔を思い浮かべると・・・

とても今、この場で話す事なんて、私にはできなかった。

だって・・・


まどか 「ほんと!?よかった・・・良かったぁー!マミさんにもしもの事があったら、私どうしようかと・・・」


マミの無事を知り、うれし涙を流さんばかりに喜んでいるまどかの顔を、悲嘆の涙で曇らせる真似なんて、私には・・・


まどか 「今からメールしたんじゃ、迷惑かな。マミさん、明日学校に来るよね。朝一番で、教室に会いに行かなきゃ!」

ほむら 「・・・」

まどか 「うぇひっ、ごめんね、ほむらちゃん。私一人ではしゃいじゃって」

ほむら 「・・・ううん、良いのよ。さ、ご飯が終わったら、もう休みましょ。すっかり遅くなってしまったわ」

まどか 「うん、朝寝坊しないようにしないとだね。えへへ・・・」

ほむら 「そうね・・・」


・・・言えるはず、ないじゃないか。

915 : 以下、名... - 2015/08/04 20:34:49.57 bAZriduZ0 898/1284

・・・
・・・


竜馬の家への帰路。


キュゥべえ 「・・・」ぶるぶるっ


キュゥべえが竜馬の肩の上で、身体を大きく震わせた。


竜馬 「・・・お、気がついたか」

キュゥべえ 「こ、ここは・・・?」

竜馬 「俺の家へ帰る途中さ。お前にはしばらく、俺と付き合ってもらうぜ」

キュゥべえ 「な、なぜ・・・?」

竜馬 「隼人がお前を連れて帰るように促したのさ。悪いようにはしないと」

キュゥべえ 「・・・」

竜馬 「・・・?」

キュゥべえ 「それで、これから僕をどうするつもりだい?・・・僕を殺すの?」


竜馬 (なんだ、こいつ・・・なんだか様子・・・というか、雰囲気が変だ)

916 : 以下、名... - 2015/08/04 20:39:28.41 bAZriduZ0 899/1284

竜馬 「お前をどうするかは、まだ考えていないが・・・殺すつもりなら、わざわざ連れて帰ったりなんざしねぇよ」

キュゥべえ 「そ、そう・・・」


竜馬 (こいつ・・・殺されないと聞いて、”ホッと”したのか?感情の無いはずの、キュゥべえが?)


竜馬 「・・・」じー・・・

キュゥべえ 「な、なんだい・・・?僕をそんな、じっと見たりして・・・」

竜馬 「やっぱり、お前」

キュゥべえ 「え・・・?」

竜馬 「怯えているのか?」

キュゥべえ 「・・・!?」

竜馬 「さっきから、態度がおおよそお前らしくねぇ。いったいどうしたってんだ?」

キュゥべえ 「ぼ、僕が怯えている・・・?そんな馬鹿な・・・え、でも、今僕は狼狽えて・・・」

竜馬 「・・・」

917 : 以下、名... - 2015/08/04 20:48:20.40 bAZriduZ0 900/1284

それきりだった。

これ以後のキュゥべえは、竜馬が何かを話しかけてもブツブツと一人で呟いているだけで、一切反応をしなくなってしまった。

やむなく竜馬は、キュゥべえを肩にぞんざいに乗せたまま、再び家路をたどり始める。

そして、間もなく家の明かりが見える間際となって。


キュゥべえ 「竜馬・・・」


やっとキュゥべえが、独り言以外の言葉を発した。


竜馬 「なんだ?」

キュゥべえ 「君に頼みがある」

竜馬 「頼み?お前が、俺に?ろくでもない事を抜かしたら、ぶん殴るぜ」

キュゥべえ 「そうじゃない。切実な願いなんだ。竜馬、どうか僕を」

竜馬 「・・・お前を?」


キュゥべえ 「僕を助けてほしい・・・!!」

918 : 以下、名... - 2015/08/04 20:54:17.64 bAZriduZ0 901/1284

・・・
・・・


心も体も。

疲れ切っているはずなのに、どうしてなのか眠れない。

明かりを消した部屋の中で、私は天井を見つめながら、とめどない思索の旅を繰り返していた。

私の隣では、まどかが静かな寝息を立てている。

私もまどかも、床に布団を敷いての雑魚寝だ。ベッドはゆまに明け渡してしまった。

お客さんを床で寝かせるのが心苦しかったので、ゆまとまどかの二人でベッドを使うように勧めたのだけれど。

律儀なまどかは、私と一緒に床で寝ることを望んでくれた。


ほむら (どんな時でも、自分の事は二の次なのね)


それでこそ、まどからしいと言えるのだけれど。

そんな彼女が、仁美の事を知ったら、いったいどうなるのだろうか。

取り留めもなく、そんな事を考えていたら、すっかり寝そびれてしまった。

919 : 以下、名... - 2015/08/04 20:58:47.48 bAZriduZ0 902/1284

ほむら (仁美は死んでしまったけれど、死体は永久に見つからない)


身体は消滅してしてしまったから。

だから、仁美は未来永劫行方不明のまま。生きているのか死んでいるのか、普通の人には分からない。


ほむら (だけれど・・・)


まどかは仁美が魔法少女になったことを知らない。

でも、魔法少女と魔女の存在は知っている。そして、仁美は魔女に囚われたのではという疑いを抱いているのだ。


ほむら (・・・いずれ、真相にたどり着くかもしれない)


・・・時間を於けば於くほどに。

真実に触れた時の衝撃は、激しいものになるだろう。

だったら、なるべく早く、本当の事を知らせた方が良いのではないか。


ほむら (リョウは、黙っていた方が良いと言っていたけれど・・・)


それが本当に、まどかのためになるのだろうか。

なにが、まどかのために最善なのか。

私は答えにたどり着けない。

920 : 以下、名... - 2015/08/04 21:05:29.95 bAZriduZ0 903/1284

ほむら (何にしても、事実を告げるのは今でない事だけは確かだわ)


仁美の件に続き、マミが囚わるような事件が起こってしまい・・・

しかもそれは自分のせいだと、マミの無事が分かるまでまどかは懊悩し続けていたに違いない。

今、マミの無事を知り、まどかは心から安堵しているのに、再び奈落の底に落とすようなこと・・・

私の隣で安らかな寝息を立てている、そんなまどかにそんなひどいことを・・・


ほむら (私にできるはず、ないじゃない)


いずれ言うべき時が来るのかも知れない。

いま言わないことが、単なる問題の先送りでしかないのかもしれない。

それでも・・・


ほむら (明日・・・その事をリョウに相談してみよう)


どうするかは、それから先の話だわ。

そう心に決めると、私は毛布を頭からすっぽりとかぶった。

明日も学校。

無理にでも寝てしまわなくては。

色々ありすぎた”今日”という日を過去に置いて行くためにも、一日を終わらせてしまう必要があるのだから。

921 : 以下、名... - 2015/08/04 21:10:39.43 bAZriduZ0 904/1284

・・・
・・・


翌朝。

ゆまに留守番を託し、私はまどかと連れ立って部屋を出た。


まどか 「ゆまちゃん、学校に行かないの?遅れちゃうよ?」

ほむら 「・・・今は事情があって、学校はお休みしているの。昼前には知人が彼女を迎えに来るから」


口では厳しい事を言いながら、杏子は何くれとなくゆまの面倒を見てくれていた。

今日も昼頃にゆまを迎えに来て、一緒に魔女探しをする事になっている。

日課なのだ。


まどか 「そう・・・ところで・・・」

ほむら 「なに?」

まどか 「仁美ちゃんの事なんだけれど・・・」


やはり来たか。

922 : 以下、名... - 2015/08/04 21:12:02.83 bAZriduZ0 905/1284

昨日は巴マミの事でいっぱいいっぱいだったまどかは、マミの無事を知った後も仁美の話を切り出すことはなかった。

彼女のキャパが許容範囲を超えていたせいだと思う。

だけれど一晩寝て、頭を整理させてスッキリすれば。


ほむら (当然、次に出てくるのは仁美の話題になるわよね)


まどか 「えっと、ほむらちゃん。私、お願いごとばかりしてしまって、ホント悪いなって思うんだけど・・・」

ほむら 「分かってるわ・・・」


分かってるとは答えながらも、今の私はこの話題、どうお茶を濁そうかと、そればかりを考えていた。

今は誤魔化す。

まどかに仁美の事をどう告げるにしても、まずは竜馬に相談してからだ。


ほむら 「ひとまず急ぎましょう。遅刻してしまってはいけないわ」

まどか 「う、うん」


釈然としない顔をしながらも、まどかは頷いてくれた。

923 : 以下、名... - 2015/08/04 21:18:24.27 bAZriduZ0 906/1284

後は二人、ほぼ無言で学校への道を早歩きに歩く。


・・・と、その時だった。


ほむら 「・・・」


私は立ち止まって、周囲を見渡す。

目につくところには、なにも変わりはない。

・・・けど。


まどか 「うぇひっ?ほむらちゃん、急に立ち止まっちゃって、どうしたの?」

ほむら 「ううん・・・」


・・・気のせい?なわけがない。

確かに感じたのだ。

まとわり付くような、ジメジメとした・・・

まるで梅雨時の湿っぽさのような、鬱陶しい視線を。

924 : 以下、名... - 2015/08/04 21:18:59.22 bAZriduZ0 907/1284

ほむら (間違いない・・・キュゥべえだ・・・)


キュゥべえが監視している。

対象は私ではなく、間違いなくまどかの方だろう。


ほむら (あいつ、今度は何を企んでいるのかしら・・・)


程なくして、奴の視線が発していたプレッシャーが、霧に溶け込むように掻き消えた。

少なくとも、今この場で何かをしようというつもりはないらしい。

それとも、邪魔な私がまどかの側にいるせいか・・・


まどか 「ほむらちゃん・・・」

ほむら 「何でもない、行きましょう」


・・・そういえば、竜馬に預けた”キュゥべえ”は、あれからどうなったのだろう。

932 : 以下、名... - 2015/08/08 21:26:51.81 ccYpi4c/0 908/1284

・・・
・・・


朝。ホームルーム前の教室。

ざわめき続けるクラスメイト達。無理もない。行方不明となっている志筑仁美の続報が、何一つないのだ。

ただただ心配する声。

幼いなりの推理で、仁美の現況を想像する声。

心配のあまり、こらえきれない嗚咽を漏らす子も。

いつもは賑やかなさやかは一人、机に突っ伏している。

寝ているわけではないだろう。

人一倍感受性の強い彼女の事だ。皆の輪に加わったら最後、誰よりも激しく取り乱してしまうに違いない。

それが自分で分かっているから、一人静かに机だけに今の疲れた表情を見せているのだと思う。

933 : 以下、名... - 2015/08/08 21:32:14.44 ccYpi4c/0 909/1284

ほむら (・・・)


まどかも・・・

私という頼る先がある分、他のみんなよりは冷静でいられるようだけれど・・・


ほむら (教室の喧騒に呑まれつつあるようだわ。まどかだって長くはもたない・・・黙ったままでなんて・・・)


そんな中、喧噪の波を裂いて、彼の声が私の耳に飛び込んできた。


竜馬 「暁美」

ほむら 「リョウ・・・」


他のみんなに気を取られすぎて、彼がすぐ側まで来ていたことに気がつかなかったのだ。

でも、ちょうど良かった。彼には伝えたい事がある。


ほむら 「リョウ、あのね」


ほむら竜馬 「話がある(わ)」


ほむら 「・・・」

竜馬 「・・・」


ほぼ同時に同じ言葉を発しあって、私たちはしばし見つめ合ってしまった。

934 : 以下、名... - 2015/08/08 21:35:08.31 ccYpi4c/0 910/1284

ほむら 「・・・急いで相談したい事が。できれば次の昼休みにでも」

竜馬 「奇遇だな。俺も一刻も早くお前に伝えたい事がある。それと、あいつもな・・・」

ほむら 「え・・・?」


竜馬の視線に促されて。

私が顔を向けた先は、教室の窓。

そこには・・・


キュゥべえ 「やあ」


外から中を覗き込む、キュゥべえの姿があった。

935 : 以下、名... - 2015/08/08 21:41:40.79 ccYpi4c/0 911/1284

・・・
・・・


お昼休みの屋上。


キュゥべえ 「鹿目まどかが危ないよ」


屋上に他の生徒の姿がないことを確認して、ベンチに腰掛けて弁当箱を開く私と竜馬。

急に誰かがやって来た場合に備えて、あくまでも見た目は、普通に昼食をとっている体でいなくてはいけない。

そんな私たちに開口一番、キュゥべえがそう言ったのだ。


ほむら 「なんなの、藪から棒に」

キュゥべえ 「言葉通りさ。ゲッターを用いたエネルギー回収案は失敗してしまった。となれば、僕たちの計画は当然白紙へと戻る」

ほむら 「・・・」

キュゥべえ 「つまり、資質の高い少女への接触へと、回帰するわけだね。これは当然のプロセスだ」

ほむら 「だから、今朝はやけにお前たちの気配を感じたというわけね。まどかと接触するために・・・」


奴の言う事は理に適っている。

最も効率の良い方法が失敗したのだ。当然、次善の策を用いようとするだろう。

それは、キュゥべえたちの矛先がまどかへ再び向けられることを意味する。

936 : 以下、名... - 2015/08/08 21:42:59.82 ccYpi4c/0 912/1284

・・・しかし。


ほむら 「それをなぜ私に?」


教える必要があるのだろう。奴の言葉を借りれば”意味が分からない”だわ。


キュゥべえ 「僕はもう、群れには戻れないからね」

ほむら 「・・・?」

竜馬 「暁美・・・」

ほむら 「リョウ、あなたもどうして、わざわざこいつと私の仲立ちをするような真似をするの?」

竜馬 「俺がキュゥべえと、取引をしたからだ」

ほむら 「えっ!?」


私は、信じられない物を見る目で竜馬を見つめた。

私の仲間が、キュゥべえと取引を・・・!?


ほむら 「あなた、正気?!自分が何を言っているのか分かっているの?」

937 : 以下、名... - 2015/08/08 21:44:04.31 ccYpi4c/0 913/1284

竜馬 「正気だ。暁美、まずは俺の話を聞け」

ほむら 「き、聞くけど・・・でも・・・」

竜馬 「思い出せ、暁美。俺は昨日話したはずだ。こいつを連れて帰るようにと、隼人から言われたことを」

ほむら 「うん・・・」

竜馬 「隼人が・・・ゲッターが意味のない事を俺に勧めるはずがない。そしてその意味がな、こいつと話していて分かったんだよ」

ほむら 「なんなの、その意味っていうのは・・・」

竜馬 「・・・暁美。お前、こいつの事をどう思ってる?」

ほむら 「どうって・・・」


いきなり、何を言い出すのか。

そう思いながらも、私はキュゥべえを見る。

私がこいつをどう思うか?

そんなの決まっている・・・


ほむら 「殺してやりたいわ。たとえそれが意味のない行為だとは分かっていても。多くの人の人生を弄び、狂わせたこいつの事を」

竜馬 「・・・」

ほむら 「私がキュゥべえに抱いている気持は、掛け値なしの憎しみよ」

938 : 以下、名... - 2015/08/08 21:55:37.58 ccYpi4c/0 914/1284

言いながら、知らず知らずのうちに奴を見る目が険しくなっていく。

普段は理性で押さえつけている感情が、むき出しの殺意となって私の胸の奥から溢れ出してゆく。


キュゥべえ 「・・・ひぃっ」


え・・・?

今、キュゥべえが短くだけれど。

悲鳴なような声を上げなかった?


キュゥべえ 「・・・暁美ほむら。お願いだから、そんな目で僕を見ないでほしい」


まさか・・・


ほむら 「お前、震えているの?」

キュゥべえ 「・・・」

ほむら 「怯えてる・・・の?」


私の殺気に、感情の無いキュゥべえが怯えている・・・?

そんな馬鹿な。


ほむら 「リョウ!?」

939 : 以下、名... - 2015/08/08 21:58:52.92 ccYpi4c/0 915/1284

竜馬 「隼人の奴、こいつに何か細工をしたらしい」

ほむら 「それって、つまり・・・」

キュゥべえ 「今の僕には、君の眼差しが心底恐ろしい・・・」

ほむら 「・・・」

竜馬 「芽生えたらしいぜ」

ほむら 「・・・」

竜馬 「感情って奴が、な」


キュゥべえに感情が?ゲッターが奴に細工を?どうして、そんな真似を・・・

だけれど、確かに・・・

私の殺気を恐れるキュゥべえには、一見して感情が湧いて出たように見えないこともない。

だけれど、私は知っている。

私やまどか達がキュゥべえの本性を知る以前。

奴は私たちの前で、まるで感情があるかのようにふるまっていたことを。


ほむら (今度も演技かも知れない。だとしたら・・・)

940 : 以下、名... - 2015/08/08 22:02:39.02 ccYpi4c/0 916/1284

ほむら 「こいつに感情が生まれたとして、リョウはどんな取引に応じたというの?」

竜馬 「とりあえず、こいつの命を守ってやる」

ほむら 「命・・・?狙われているの?いったい、誰から?」

キュゥべえ 「他のキュゥべえたちからだよ、暁美ほむら」

ほむら 「・・・どういう事?」


キュゥべえの話を要約すると・・・

このキュゥべえは、キュゥべえ全体を繋ぐ統合意識から追い出されたのだという。

理由は彼が感情という、”精神疾患”を負ってしまったため。

キュゥべえの統合意識は、疾患が種全体の意識へと拡散することを防ぐため、些末な一個体を切り捨てたのだ。

そして、その次の手段として。


キュゥべえ 「僕は、他のキュゥべえから殺されることになる」

ほむら 「だから、それはどうしてなの?」

キュゥべえ 「簡単さ。僕は色んな事を知りすぎている。全体として制御できなくなった僕は、殺される以外にない」

ほむら 「そう・・・」


道理は通っている。

だけれど・・・

941 : 以下、名... - 2015/08/08 22:06:06.06 ccYpi4c/0 917/1284

ほむら 「虫の良い話ね。今まで散々少女たちを食い物にしてきておいて、自分が危なくなったら庇護を求める。それも敵である私たちに・・・」

キュゥべえ 「・・・」

ほむら 「無様ったら、ありゃしないわ」

竜馬 「暁美。それでも、こいつには利用価値がある。俺たちが知りたい情報をこいつから聞き出せるかもしれないんだ」

ほむら 「それが命を守ってやることへの代償という訳?・・・そうね、だけど」


私は懐に手を突っ込むと、あらかじめ仕込んでおいた銃を引き抜いてキュゥべえへと向けた。


竜馬 「お前、制服の下になんて物を隠してんだよ!」

ほむら 「織莉子の件もあったし、護身用に・・・ね?さっそく役に立つ時が来て嬉しいわ」

キュゥべえ 「・・・ぼ、僕を撃つつもりかい?」

ほむら 「ええ。あのね、今までどうして私が、必要以上にお前を殺さないできたか、分かっている?」

キュゥべえ 「・・・意味がないからだろう?僕の代わりは、いくらでもいるから」

ほむら 「ご名答。それで、ね。今のお前には、感情があるわけよね?」

キュゥべえ 「そ、そうだよ・・・」

ほむら 「殺されたら、嫌なわけよね。死にたくないって事よね。痛いの、怖いわけよね・・・?」

キュゥべえ 「・・・っ!」

942 : 以下、名... - 2015/08/08 22:08:59.33 ccYpi4c/0 918/1284

ほむら 「だったら、私にはお前を殺す理由があるって事になる。なにせ、お前に犠牲にされた少女たちの気持ちを、思い知らせる事ができるって訳なのだから」

キュゥべえ 「あ、あう・・・」

ほむら 「お得意の跳躍で、逃げても良いのよ?今は逃しても、私はお前を必ず追い詰め、鉛の弾をぶち込んでやるから」

キュゥべえ 「逃げるって・・・そんな、僕には・・・」

ほむら 「そうよね。私たちの元から離れたら、今度は他のキュゥべえたちから狙われる。殺される相手が、変わるだけだもの。逃げ場なんて、無いわよね」

キュゥべえ (がたがた・・・がた・・・)

竜馬 「暁美・・・よせっ!」

ほむら 「全ての時間軸で死んでいった、さやかや杏子、マミ・・・他の名も知れない魔法少女たち・・・」

キュゥべえ 「た、たすけ・・・たすけて・・・」

ほむら 「まどかの悲しみ。まどかを守れなかった私の無念。全ての恨みを、一発の銃弾に込めるわ。思い知れ!」

竜馬 「暁美っ!!」

943 : 以下、名... - 2015/08/08 22:14:33.80 ccYpi4c/0 919/1284

キュゥべえ 「・・・ひっ!!!」


キュゥべえが、目前の死への恐怖に、固く目を閉じてうずくまる。

だけれど・・・


ほむら 「・・・」


銃声はいつまでたっても轟くことは無かった。

当然・・・私には撃つつもりが、無かったのだもの。


キュゥべえ 「・・・?」がたがた

ほむら 「本当に撃つと思ったの?ここは学校よ、大問題になっちゃう」

竜馬 「お、お前・・・驚かすなよ」

ほむら 「ごめんね。だけれど、確信できたわ。こいつ、嘘は言っていないと思う」


言いながら見下した先のキュゥべえは、無様に腰を抜かした格好で、不格好に震えていた。

感情が無ければ、ここまで愚かしい取り乱しようなんて、こいつにはできないだろう。

944 : 以下、名... - 2015/08/08 22:15:24.14 ccYpi4c/0 920/1284

ほむら (確かにかつて、キュゥべえは感情のあるふりをして私たちに近づいてきたけれど・・・)


喜びや悲しみ、驚きや痛みなど。

感情の表面を撫でるくらいの演技しか、奴は私たちに見せたことは無かったのだ。

それも当然、そもそも感情の本質がどんなものか、キュゥべえには理解できていなかったのだから。

それが今、迫る死を目前にして、奴は見苦しいほどに狼狽して見せた。

・・・死の恐れを知らなければ、とてもできない芸当だ。


キュゥべえ 「ぼ、ぼぼ、僕を騙したのかい・・・暁美ほむら」

ほむら 「それがどうしたの?お前は今まで、どれだけの魔法少女たちを騙してきたと思っているの?殺されずに済んでいるだけでも、ありがたいと思う事ね」

キュゥべえ 「・・・」


明らかにむっとした顔で、私を睨むキュゥべえ。

こいつ、こんな顔もできたのか。

945 : 以下、名... - 2015/08/08 22:19:57.50 ccYpi4c/0 921/1284

ほむら 「まぁ、良いわ。話を先に勧めましょう」

竜馬 「お、おう・・・」

ほむら 「リョウの話というのは、キュゥべえのこの事?」

竜馬 「ああ」

ほむら 「じゃあ、せいぜい役に立ってもらいましょ。聞き出したい事は、いくらでもある・・・」


だけれど、それも今は、いったん後回しだ。


竜馬 「そうだな。それで、お前の方の話ってのは?」

ほむら 「うん、ちょっとリョウに相談に乗って欲しい事があったんだけれど・・・」

竜馬 「なんだよ、歯切れが悪いな」

ほむら 「事情が変わったから。ねぇ、リョウ。今日は先に帰ってもらっていい?」

竜馬 「そりゃ構わないが、魔女探しはどうするんだよ」

ほむら 「一日だけ休みをもらう。ちょっと、まどかと話したい事があるから」

竜馬 「・・・おまえ、まさか。志筑の事を・・・」

ほむら 「言ったでしょ、事情が変わったと。まどかに話すわ。全てを。そして・・・」


ほむら 「まどかの、魔法少女への幻想を叩き割るわ。粉々にね」


腹立たしいけれど、キュゥべえの情報は、さっそく役に立ってくれたのだ。

946 : 以下、名... - 2015/08/08 22:22:18.87 ccYpi4c/0 922/1284

・・・
・・・


その日の放課後。

誰もいない私の部屋に、まどかを招き入れる。


まどか 「へへ・・・朝はほむらちゃんの部屋から登校して、またここに戻ってきちゃった。ただいまって言うべきなのかな」

ほむら 「・・・」

まどか 「う・・・うぇひっ・・・そ、それでほむらちゃん、話っていうのは・・・?」

ほむら 「ええ・・・」

まどか 「もしかして、仁美ちゃんの事・・・?」

ほむら 「そう。見つかったから。一番にまどかに知らせようと思って」

まどか 「ほ、ほんとっ!!?」


花が咲いたように、まどかの顔が喜びの色でこぼれそうになる。

私はこれから・・・この顔を悲しみに歪ませなくてはならないのだ。

全てはまどかのため・・・やらなければいけない事、だから。

947 : 以下、名... - 2015/08/08 22:23:22.03 ccYpi4c/0 923/1284

ほむら 「・・・」

まどか 「ほむらちゃ・・・っ!?まさかっ!!」


私のただならない雰囲気に、まどかが最悪の事態を察してしまう。


まどか 「仁美ちゃんの身に何かあったの?!ねぇっ!」

ほむら 「慌てないで・・・すぐに会わせてあげるから」

まどか 「え・・・」


私は・・・

通学カバンに手を突っ込むと、ずっとそこに入れていた”ある物”を取り出して、まどかに渡した。


まどか 「え、なにコレ」

ほむら 「グリーフシード。魔法少女がソウルジェムを浄化するために使う、大切なものよ」

まどか 「あ・・・マミさんが使ってるの見たことある。あれかぁ・・・でも、少し形が違うような・・・」

ほむら 「形はそれぞれなのよ。個性がね、目に見える姿で形作られるから」

948 : 以下、名... - 2015/08/08 22:24:16.80 ccYpi4c/0 924/1284

まどか 「個性・・・?」

ほむら 「生前の性格が、形に現れると言っているの」

まどか 「生前・・・え・・・?」


まどかの表情が、徐々に曇ってゆく。

断片的な情報から、何か不吉なものを感じ取ったよう。


まどか 「ほむらちゃん、何を言ってるの・・・?」

ほむら 「グリーフシードはね、元々は魔女の卵なのよ。それを私たちはエネルギー源にしている」

まどか 「ま、魔女!?」

ほむら 「心配しないで。今のそれは、もう安全だから。なにせ、その持ち主は、すでに死んでいるのだから」

まどか 「・・・」

ほむら 「ねぇ、まどか。どうして魔法少女が、魔女の卵から魔力をもらえると思う?」

まどか 「・・・そんなの・・・分からないよ・・・」

ほむら 「根っこがね、一緒だからよ」

まどか 「だから・・・意味が分からない・・・」

ほむら 「根っこ。つまり、魔法少女も魔女も、元は人間だったという事よ」

まどか 「・・・っ!!」

949 : 以下、名... - 2015/08/08 22:26:02.59 ccYpi4c/0 925/1284

愕然とした顔で、私と手の中のグリーフシードを交互に見るまどか。

情報の断片から導き出した答えに、口元がわなわなと震えている。


まどか 「ま、まさか・・・まさか・・・まさか・・・」

ほむら 「志筑仁美よ・・・」

まどか 「・・・っ!!」


ショックのあまり、まどかの体が激しく震えた。

彼女の手元から零れ落ちたグリーフシードが、乾いた音を立てながら、むなしく床の上に落ちて転がる。


まどか 「嘘だ・・・」

ほむら 「本当よ」

まどか 「嘘だ嘘だ!ほむらちゃん、私を驚かせようって、そんな嘘を・・・」

ほむら 「真実なの。魔法少女はね、早かれ遅かれ、いずれはその姿になってしまう。宿命なの」

まどか 「え・・・」

ほむら 「・・・」

まどか 「それって・・・マミさんも?」

ほむら 「ええ」

まどか 「ほむらちゃんも、そうなの・・・?!」

ほむら 「・・・」

950 : 以下、名... - 2015/08/08 22:27:04.33 ccYpi4c/0 926/1284

腰が抜けてしまったのだろう。

ぺたり、床に膝をついてしまったまどか。

フルフルと震えながら、目をまん丸に見開いてこちらを見ている。

・・・胸が痛い。

だけれど、言わなくてはいけない。

まどかを守るため。それでもし、まどかに嫌われてしまっても、私にとって、それは本望なのだ・・・


ほむら 「・・・まどか。お父さんやお母さんは好き?家族の事を愛している?」

まどか 「うん・・・愛しているよ・・・」

ほむら 「では、言っておくわね。まどか、あなたには魔法少女としての、計り知れない資質が眠っている」

まどか 「それ・・・キュゥべえも言ってたよ・・・」

951 : 以下、名... - 2015/08/08 22:28:14.55 ccYpi4c/0 927/1284

ほむら 「あなたの力をもってすれば、あるいは志筑仁美一人くらい、元の姿に戻すのも容易いのかもしれない」

まどか 「え・・・っ!?」


事実、他の時間軸では魔女化してしまったさやかを、救った事だってあったのだ。

単なる想像じゃない。間違いなく、まどかになら可能だろう。

だからこそ、私の口で釘を刺しておかなければならないのだ。


ほむら 「だけど」

まどか 「・・・」

ほむら 「まどか。あなたがキュゥべえと契約を結んでしまったら、最後よ。そのグリーフシードは、将来のあなたの姿の鏡となってしまう」

まどか 「あ・・・で、でも・・・」

ほむら 「まどかを愛してくれているご両親を、かわいい弟を・・・あなたは裏切ってしまう事になる。それで良いの?」

まどか 「だけど、それで仁美ちゃんが助かるなら!」

ほむら 「あなたが死んだら、お父さんもお母さんも、きっと無事には生きていけなくなる!」

まどか 「・・・っ!」

952 : 以下、名... - 2015/08/08 22:29:03.07 ccYpi4c/0 928/1284

ほむら 「最愛の娘を亡くして、あなたのご両親がそのままでいられると、まどかは本当に思っているの!?」

まどか 「それは・・・だけど・・・っ!」

ほむら 「親だけじゃない。あなたがいなくなることで、間違いなく弟さんの人生も歪む。家族が消えるって、そういう事よ!」

まどか 「た、たっくんの・・・人生も・・・?」

ほむら 「それに、家族だけじゃない。あなたを愛しているのは、家族だけでなんか、決してない!」

まどか 「え・・・?」

ほむら 「マミもさやかも、あなたの友達は、みんなあなたを愛している!それに、わ・・・私も・・・っ」

まどか 「ほむらちゃん・・・?」

ほむら 「う・・・ぐっ、なんでも・・・何でもないわ」


自分の気持ちを、高ぶった胸の内をすべてぶつけてしまいたい。

そんなこみあげてきた欲求を、私はすんでの所で噛み潰す。

私の気持ちなんて、今は関係ないのだから・・・

953 : 以下、名... - 2015/08/08 22:29:48.74 ccYpi4c/0 929/1284

ほむら (とにかく、言うべきことは全て言った)


魔法少女が辿る運命と、それに翻弄されることになる家族の行く末を語って聞かせて・・・

キュゥべえの甘言なんかに惑わされないように。

そして、まどかが魔法少女になるという未来の芽を摘むことによって、織莉子がまどかに辿り着けないようにするため。

そのために、今日ここに、私はまどかを連れてきたのだ。


ほむら 「分かって。友人を亡くして辛い気持ちは、私にだって分かるわ」


そう、だれよりも。


ほむら 「だけれど、もしあなたが短慮を起こしてしまったら、今のあなたと同じように・・・ううん、それ以上に、もっともっと多くの人を悲しませる事になる」

まどか 「わ、私・・・」

ほむら 「自分を大切にして。あなたが周りの人を大切だと思うのなら、お願い・・・」

まどか 「ほむらちゃん・・・どうして・・・」

ほむら 「え・・・?」

まどか 「どうして、私をそこまで気にかけてくれるの・・・?」

ほむら 「そ、それは・・・」

960 : 以下、名... - 2015/08/12 07:46:43.47 j84NileQ0 930/1284

・・・
・・・


川辺。

夕暮れの日を映し、赤く染まりながら滔々と流れ続ける川を、竜馬は眺めていた。

川辺の草原に腰を下ろし、何をするでもなく、ただ茫洋と。


 「リョウ」


背後からかけられた馴染みのある声に、彼は顔を上げた。


竜馬 「来たか、武蔵」

武蔵 「ああ、呼び出して悪かったな」

竜馬 「なに、暁美にも用事ができたし、ちょうど良かったさ」


そうか、と笑いながら、武蔵も竜馬の隣へと腰を下ろす。

961 : 以下、名... - 2015/08/12 07:47:42.53 j84NileQ0 931/1284

武蔵 「川を見ていたのか」

竜馬 「ああ。まったく見知らぬ場所に来てしまったが、水の流れる姿はどこでも一緒だな、なんて思ってな」

武蔵 「いつになく、感傷的だな」

武蔵 「こちらに来てから、もうかなり経つ。これからどうなるかも分からないんだ、感傷的にもなるさ」

武蔵 「そうか・・・」


言いながら、武蔵も竜馬に倣って川の流れへと目を移した。


武蔵 「リョウ・・・この川な。幼いころ両親に連れられて、よくマミちゃんと一緒に泳ぎに来てたんだ」

竜馬 「・・・」

武蔵 「ちょうど小学校の帰り道にもあたっててさ。親に黙って遊んでて、危うく溺れかけたこともあったりしてな」

竜馬 「・・・そうか。まぁ、ガキならありがちなことだな」

武蔵 「あとでこっぴどく叱られてなぁ・・・」

竜馬 「・・・」

962 : 以下、名... - 2015/08/12 07:49:53.97 j84NileQ0 932/1284

武蔵 「・・・リョウ」

竜馬 「ああ」

武蔵 「すまん」

竜馬 「ま・・・うすうす、こうなるんじゃないかって思っていたぜ」

武蔵 「もう既に、この街で過ごした日々は、俺の記憶に深く刻まれてしまった。俺はもう、こっちの世界の人間に・・・」

竜馬 「・・・」

武蔵 「マミちゃんを置いて、俺だけ”あっち”の世界に戻るなんて・・・とてもできやしない。リョウ、俺を殴ってくれ」


言って、武蔵は目を閉じた。

どうなじられても良い。こっぴどく殴られたって、文句は言えない。

そう覚悟して、歯を食いしばりながら。

だけれど、いくら待っても拳どころか、文句の一つすら返っては来なかった。


武蔵 「リョウ・・・お前・・・」


恐る恐る開けた武蔵の目に映ったものは、そんな彼を優しげに見つめる竜馬の笑顔だった。


武蔵 「なんで・・・笑ってるんだよ」

963 : 以下、名... - 2015/08/12 07:52:05.69 j84NileQ0 933/1284

竜馬 「分かってたからだよ。守りたい人ができたから・・・だから、こちら側の自分を肯定しないわけにはいかなくなった。そういう事だろう」

武蔵 「お、俺・・・」

竜馬 「それでこそ、武蔵だ。俺のダチ公だぜ」

武蔵 「だが、俺は恐竜帝国との戦いを、お前だけに任せて降りてしまう事になる。隼人だって、もういないってのに・・・」

竜馬 「まぁ、そっちの事は俺に任せておけ。何とでもしてやるよ。俺は絶対に負けはしない。安心しろ。そのかわり」

武蔵 「・・・ああ」

竜馬 「お前は、お前の成そうと決めた事を、必ず成し遂げろ。我が身を捨ててでも守り通せよ、大切な妹を」

武蔵 「分かってる。約束する・・・!」


友の真情を心に刻み、あふれ出る涙を留め得ず。

武蔵は男泣きに泣きながら、何度も何度も頷いて見せた。

頷きの数だけ、友への感謝と、そして信念を貫いて見せるとの誓いを込めながら。

964 : 以下、名... - 2015/08/12 07:54:08.00 j84NileQ0 934/1284

竜馬 「さて、じゃあ、あとは俺がどうやって、元の世界へ戻るか・・・だがな」

武蔵 「そ、そうだな。リョウ、なにか、心当たりでも見つかったのか?」

竜馬 「まぁな。これ以上無いっていう事情通が、こっちに転がり込んで来てくれたよ。・・・ゲッターのおかげでな」

武蔵 「・・・?どういう意味だ?」


竜馬はキュゥべえとの取引の経緯を語って聞かせた。


武蔵 「・・・あのキュゥべえに感情が?にわかには信じがたいが」

竜馬 「まぁ、お前も実物を見てみればわかるさ。で、とりあえず今夜からでも、キュゥべえから色々聞き出すとするよ。もっとも・・・」

武蔵 「?」

竜馬 「今までの話からすると、俺たちがこちらに飛ばされた事自体には、キュゥべえは関わってはいなかったようだ。はてさて、有益な話が聞ければもっけもんなんだがな」

武蔵 「それなんだがな・・・」

竜馬 「どうした?」

武蔵 「お前をもとの世界に戻す事。それだけなら、何とかなるかも知れない」

965 : 以下、名... - 2015/08/12 07:57:23.34 j84NileQ0 935/1284

竜馬 「・・・なんだと!?武蔵、お前・・・何か知っているのか?!」


武蔵の意外な一言に、竜馬の顔色が変わる。


武蔵 「知らないよ、お前以上に、何もな。だが、一つな・・・俺に考えがあるんだ」

竜馬 「もったいぶるなよ。なんだ、その考えってのは」

武蔵 「まぁ、待て。確実ってわけでもないし、俺も不確かな事は言いたくない。その時が来たら話すから、今は俺にも一案がある程度に、覚えておいてくれ」

竜馬 「・・・早まったマネ、するつもりじゃねぇだろうな」

武蔵 「マミちゃんを泣かすようなことだけはしないと、胸を張って誓えるぜ」

竜馬 「・・・なら、良いがよ」


武蔵は何を言わんとしたのか。

知りたいと思う心が後を引きながらも、友が進んで話そうとしない以上は、竜馬もそれ以上詮索するつもりはなかった。

それよりも今は、キュゥべえから情報を引き出す方が先だ。


竜馬 「武蔵、今夜は暁美の部屋に俺とともに来い」

武蔵 「分かったぜ」

966 : 以下、名... - 2015/08/12 07:58:55.96 j84NileQ0 936/1284

・・・
・・・


同時刻。

見滝原市の某所。


杏子とゆまは、日課である魔女退治を首尾よく成し遂げ、帰途に就こうとしていた。

ほむらやマミとは違い、魔法少女の活動自体を生業としている杏子の、魔女結界を嗅ぎ付ける能力は抜群だった。

もはや、天性の才覚とさえいえる。

今回も短時間のうちに二か所も結界を発見、目的のグリーフシードを手に入れていた。


杏子 「へへっ、大量大量」


ホクホク顔の杏子に反して、ゆまは少し浮かない顔だ。


杏子 「・・・なんだよ、辛気臭い顔して。グリーフシードが手に入ったんだ、もっと嬉しそうな顔をしろよ」

ゆま 「でも、それ・・・元はソウルジェムだったんだよね?それなのに、喜んでちゃ悪いなって思って」

杏子 「悪いって、魔女の元になった魔法少女にか?」

ゆま 「うん」

967 : 以下、名... - 2015/08/12 08:01:29.16 j84NileQ0 937/1284

杏子 「・・・はぁー」


杏子は大げさにため息をつくと、軽くゆまの脳天にチョップを食らわす。

ぽこんと小気味のいい音が、ゆまの頭から飛び出した。


ゆま 「あいたっ」

杏子 「お、いい音」

ゆま 「もー、きょーこ!なんで叩くの!」

杏子 「下らねぇことで、ウジウジ言ってったからだよ。さっきの魔女が、元は何だったとしても、あたし達はそいつらを狩らなきゃ生きていけないんだろうが」

ゆま 「そーだけど・・・」

杏子 「魔女がかわいそうだからと、遠慮してたらさ。あたし達が魔女になってしまうんだ。そうなったらさ・・・」

ゆま 「・・・?」

杏子 「魔女が増えて、けっきょく力のない人間が、よけいに犠牲になるだけだろ」

ゆま 「あ・・・うん、そうだよね・・・」

杏子 「だから、あたし達は良い事をしてるの!はい、これでこの話は終わりだ!分かったら笑え!」

968 : 以下、名... - 2015/08/12 08:04:06.75 j84NileQ0 938/1284

ゆま 「・・・」

杏子 「なんだよ、納得してないって顔だな」

ゆま 「ちがうよ、そうじゃないよ」

杏子 「だったらなんだよ。言えよ」

ゆま 「・・・きょーこって優しいよね」

杏子 「は、はぁっ!?」


突然ゆまの口から告いで出た予想外の言葉に、思わず上ずった声を上げてしまう杏子。


杏子 「お、おまえ、いきなりなに言っちゃってくれてんの!?」

ゆま 「きょーこは・・・口は悪いけど、ゆまの事をいつも心配してくれるよね。気にしてくれてるよね」

杏子 「バカか、いつも言ってるだろ。あたしは、誰かに足を引っ張られたくないだけで、それ以上の事は何も・・・」

ゆま 「ゆま、きょーこと一緒にいたいな・・・」


ゆまが上目づかいに、杏子をちらりと見上げる。

969 : 以下、名... - 2015/08/12 08:06:05.80 j84NileQ0 939/1284

杏子 「・・・一緒にいるじゃないか」

ゆま 「ううん、そうじゃなくって。わるぷるぎすのよるをやっつけた後・・・きょーこ、風見野に帰っちゃうんでしょ」

杏子 「そりゃぁ、あそこがあたしのテリトリーなんだからな。いつまでも留守にするわけには・・・て、まさか・・・」

ゆま 「ついてく」

杏子 「だめだ!」

ゆま 「どーして?」

杏子 「どうしてもだっ!」

ゆま 「・・・」


強い口調で拒絶され、さすがに落胆してうつむいてしまったゆま。


杏子 「だいたいさ・・・なんだってあたしに着いてきたいなんて言うんだよ。お前、ほむら達とはうまくやれてるんだろ?」

ゆま 「うん、優しくしてくれるよ」

杏子 「だったら、このまま見滝原にいろよ。あたしはほむらみたいに優しくはしてやれねぇぞ」

ゆま 「・・・そしたら、きょーこが一人になっちゃう」

杏子 「・・・はぁ?」

ゆま 「ほむらお姉ちゃんには、見滝原にお友達がいるから。だけど杏子は・・・」

杏子 「お前・・・あたしを寂しい奴みたいに言うのはやめろよ・・・」

970 : 以下、名... - 2015/08/12 08:09:21.62 j84NileQ0 940/1284

ゆま 「それに・・・ゆまをいちばん最初に助けてくれたの、きょーこだから。だから、今度はゆまが助けてあげたいって・・・」

杏子 「・・・」

ゆま 「そう・・・おもうから・・・」

杏子 「ゆま、お前・・・」


そして、二人は口をつぐむ。

ゆまは言いたい事を全て言ってしまったから。

そして、杏子は。


杏子 「はぁ・・・」


杏子はこの日、二度目かの溜息を再び漏らした。


杏子 「だから、嫌だったんだよ。仲間とか友達とか、家族とかさ・・・」

ゆま 「きょーこ・・・?」

杏子 「愛着がわいたらわいた分だけ、いざ別れる時に悲しい思いをする。辛くなる、から・・・」

ゆま 「・・・」

杏子 「そんな思いをするくらいだったら、ずっと一人でいたほうが気楽だと、あたしは”あの時”に思ったんだ」

ゆま 「あの時・・・?」

971 : 以下、名... - 2015/08/12 08:12:47.20 j84NileQ0 941/1284

杏子 「おい、ゆま」

ゆま 「はいっ!」


杏子は膝を折ると、目線をゆまの高さへと合わせた。

初めて、対等の相手としてゆまと接したのだ。


杏子 「良いか、あたしを助けると言ったんだ。一度言った事は、絶対守り抜けよ」

ゆま 「あ、え、えっと・・・」

杏子 「一緒に行くからには、絶対にあたしのそばを離れるな。絶対に、絶対に・・・」

ゆま 「・・・」

杏子 「あたしより先に逝くんじゃねぇぞ・・・」

ゆま 「・・・うん」


ゆまがそっと。

杏子の首に手を回して、抱き着いてきた。

杏子もそれに応え、ゆまの背へと腕を回す。

972 : 以下、名... - 2015/08/12 08:19:06.30 j84NileQ0 942/1284

距離が縮まり、杏子の鼻腔へふんわりと、くすぐるように・・・

子供特有の、甘い香りが流れてきた。


杏子 (この香り・・・モモ・・・)


胸に、懐かしいものがこみあげてくる。


杏子 (神様も幽霊も信じないけれどさ・・・モモ・・・見ていたら、こいつの事を守ってやってくれよな)


杏子は妹を失ってから・・・”あの時”から始めて、心の内で亡き妹へと語りかけていた。

973 : 以下、名... - 2015/08/12 08:27:33.16 j84NileQ0 943/1284

・・・
・・・


次回予告


来るべき日に備え、日常の中の非日常を生きる魔法少女と竜馬たち。

それぞれの成すべき事と想いを胸に、少しづつ歩みを未来へと進めてゆく。

そんな中にあって、一人。

真実を知りながらも蚊帳の外に置かれ、まどかは懊悩していた。

その弱った心を穿つように、あの白い影が、不気味な静けさで忍び寄る。


次回 ほむら「ゲッターロボ!」第十話にテレビスイッチオン!

3 : 以下、名... - 2015/08/28 19:59:17.81 8TocSby00 944/1284

夕暮れ時。

まどかは、家の近くの小さな公園で一人。

ブランコに腰かけながら、物思いにふけっていた。

思い浮かぶのは、先ほど見た、ほむらの顔。


まどか 「ほむらちゃん・・・」


あの時・・・

まどかが、どうして自分の事をそこまで気にかけてくれるのか、と。

ほむらに訪ねた時に見せた、彼女の表情。


まどか 「あんな、ほむらちゃんの顔・・・ううん。あんな顔をした人、初めて見た、かも・・・」

4 : 以下、名... - 2015/08/28 20:00:26.37 8TocSby00 945/1284

結局ほむらは、何も答えてはくれなかった。

ただ、最初は悲しそうにうつむいて。

次に顔を上げた時には、寂しそうに笑って。

そして・・・あの表情を見せたのだ。


まどか 「なんて言ったらいいのか分からない・・・あんな顔・・・だけど・・・」


その後は、沈黙が続いた。

ほむらは何も語らないし、まどかにもほむらにかけるべき言葉を、探し出す事ができなかった。

やがて。

そんな重い沈黙に耐えかねたまどかは、引き留めようとするほむらの手を振り切って、部屋を飛び出してしまったのだ。

5 : 以下、名... - 2015/08/28 20:01:31.60 8TocSby00 946/1284

まどか 「ほむらちゃんに悪い事をしちゃったよね・・・」


キュゥべえ 「やぁ・・・」


まどか 「えっ・・・?」


突然かけられた声に、不意に回想の世界から現実へと引き戻される。

気がつくと、いつからそこにいたのだろう。

まどかの足元にちょこんと、キュゥべえが座っていたのだ。


まどか 「きゅ・・・キュゥべえ・・・」

キュゥべえ 「そろそろ、魔法少女になってくれると、決心がついた頃かなって思ってね」

まどか 「・・・ほむらちゃんから、聞いたよ」

キュゥべえ 「そのようだね。おかげで僕も、いろいろ説明する手間が省けて、助かるよ」

まどか 「魔法少女が魔女になるって!ほむらちゃんもマミさんたちも、みんな!」

キュゥべえ 「・・・」

まどか 「仁美ちゃんも、そうして死んじゃったって!私たちを騙してたの!?」

6 : 以下、名... - 2015/08/28 20:02:28.96 8TocSby00 947/1284

キュゥべえ 「僕は嘘なんて、何ひとつ言っていないよ。騙すだなんて、人聞きが悪い事、言ってほしくないな」

まどか 「だって、教えてくれなかった!魔女が何なのかも、魔法少女がどうなるかも!」

キュゥべえ 「聞かれなかったからね」

まどか 「っ!」


今まで、友達だと思っていた。

そんなキュゥべえが、さらりと悪びれもせずに。

都合のいい情報だけを開示していたことを認めたのだ。


まどか 「本当の事を教えてくれなかったのに、聞けるわけないよ!」

キュゥべえ 「でも、今の君は真実を知った。暁美ほむらから、色々とね」

まどか 「え・・・?」

キュゥべえ 「そして君なら、志筑仁美を救う事ができる。それは紛れもない事実だ」

まどか 「・・・っ」

7 : 以下、名... - 2015/08/28 20:04:12.96 8TocSby00 948/1284

キュゥべえ 「まどか。僕と契約して、魔法少女になってよ。君には魔女との戦いの日々と、遠からずの死という運命の二つがもたらされる」

まどか 「そ、そんなの嫌だよ・・・」

キュゥべえ 「だけれど、その見返りとして、君は一人の友達を救う事ができるんだ。それはとても、素晴らしい事だと思わないかい」

まどか 「ひ、仁美ちゃん・・・を・・・」

キュゥべえ 「そうさ。君の命が友を救うんだ。この事に逡巡するほど、君は独りよがりな人間ではないと、僕は思っているんだけれどね」

まどか 「・・・」


まどかは懊悩する。

自分がキュゥべえと契約すれば、それは近い将来、必ず家族を苦しませることとなる。

だけれど、たった今、この瞬間。

仁美の家族は、その苦しみの中にいるのだ。

自分と自分の家族を秤にかけ、仁美やその家族の苦しみから目を背ける。

それは、身勝手というものではないだろうか。

8 : 以下、名... - 2015/08/28 20:05:13.12 8TocSby00 949/1284

まどか 「わ、私っ・・・」

キュゥべえ 「さぁ、願いを言うんだ、鹿目まどか。君はどんな願いで、その魂を輝かせるのかい?」

まどか 「!!」


思わず目を閉じる。

すると、瞼に浮かんできたものは三人の顔。

まどかが愛し、まどかを愛してくれる、大切な家族の顔だ。


まどか (パパ・・・ママ・・・たっ君・・・どうして)


その家族の顔が、三人ともに・・・


まどか (どうして、そんな顔をしているの・・・?)


形容しがたい、見たこともない顔をしていた。


まどか (でも・・・)


・・・見たこともない?本当に?

9 : 以下、名... - 2015/08/28 20:06:10.09 8TocSby00 950/1284

まどか (ううん、この顔・・・一度だけ。それもさっき、見てきたばかりだ)


それは、紛れもない。

ほむらが、先ほどまどかに見せた表情と、そっくりだったのだ。


まどか (あ・・・)


そして、まどかは悟った。

あの表情が、無言のうちに語りかけて来る事の意味を。

それとともに、こみあげてくる温かい物がまどかの胸を満たしてゆく。


まどか 「キュゥべえ・・・」

キュゥべえ 「なんだい?」

まどか 「だめだよ。私、契約できない。魔法少女には、なれないよ」

キュゥべえ 「友達を見捨てるのかい・・・?」

まどか 「勝手だって分かってる。自分の事だけって言われたら、何も言い返せないけれど、だけれど・・・」

キュゥべえ 「・・・」

まどか 「私を愛してくれてる人に、あんな顔、絶対にしてもらいたくないから」

10 : 以下、名... - 2015/08/28 20:07:44.97 8TocSby00 951/1284

まぶたの裏の家族が。

そして、先ほどのほむらが見せた、あの表情。

あれこそが。


まどか 「愛する人を失って、悲しみに歪んだ顔なんて、絶対にさせたくはないから」


その事に、まどかは気がついたのだ。

だから。


まどか 「私が原因で、あんな顔。大切な人たちにさせちゃダメだって、分かったんだ」


そう言い切れる。

そんな境地に、辿り着けたのだ。


キュゥべえ 「・・・どうやら、その決意は固いようだね、まどか」

まどか 「うん」

キュゥべえ 「残念だ。だけれど、気が変わったら、いつでも呼んでくれて良いよ。僕はずっと待っているからね」

まどか 「その必要はないよ。私はマミさんたち魔法少女への憧れは憧れとして、憧れのまま・・・私のままで生きていくから」

キュゥべえ 「・・・」

まどか 「・・・キュゥべえ、もう私の前に姿を現さないで」

11 : 以下、名... - 2015/08/28 20:08:35.75 8TocSby00 952/1284

キュゥべえ 「残念だ、本当に・・・」


その一言を最後に、キュゥべえはまどかの前から立ち去って行った。

何度も何度も、未練が後を引くように後ろを振り返りながら。

だけれど、まどかがその後ろ姿に再び声をかける事は、無かったのだ。

12 : 以下、名... - 2015/08/28 20:09:39.11 8TocSby00 953/1284

・・・
・・・


私はその様子を、遊具の陰から覗いていた。

まどかが私の部屋を飛び出していった時。

彼女の質問に答えられずにいた私は、とっさにまどかを引き留める事ができなかった。

すぐに我に返って、まどかの後を追ったのだけれど。

とある公園で私が見たのは、まどかに魔法少女への契約を迫るキュゥべえの、見たくもない姿だった。


ほむら (すぐに飛び出しても良かった)


そして、私のこの手で、契約を迫るキュゥべえを殺してしまっても良かったのだ。

だけれど、そうしなかったのは・・・


ほむら (今この場でだけ契約を阻止できても、けっきょくは意味がないから)

13 : 以下、名... - 2015/08/28 20:10:44.96 8TocSby00 954/1284

私だって、四六時中まどかの側にいられるわけじゃない。

この後、私の目の届かないところで、まどかが契約してしまう可能性だってあるのだから。


ほむら (まどかがまどか自身の考えで、契約を拒否してくれなければ、意味がない・・・)


だから、私は事の成り行きを見守ることにしたのだ。

まどかが私の話をきちんと、その頭の中で咀嚼してくれていたなら。

彼女の事を愛する人が、自分がいなくなった時にどのような事になるのか。

その事に想いをいたしてくれれば、きっとまどかは契約を拒否してくれるだろう。

そう、希望を持っていたから。


ほむら (もっとも、本当に契約を結びそうになったのなら、その時は私が力ずくで阻止するつもりだったけれど・・・)

14 : 以下、名... - 2015/08/28 20:11:46.70 8TocSby00 955/1284

結果。

まどかは、自分の言葉で、自分の考えとして。

友情をダシにした卑怯な勧誘を、退けて見せてくれたのだ。


ほむら 「あ・・・」


膝から力が抜ける。

遊具のかげで、私はぺたんと地面に膝をついてしまった。


ほむら (届いた・・・)


どれほどの時をループしたのだろう。

何度も何度も訴えかけ、叶わなかった願い。私はその度に最も大切な人の死を見せられ続けてきた。

今が何度目かなんて、とうに数えるのなんて止めてしまっていた。

バカらしくて・・・そして、みじめで・・・

だけれど、今。この時間軸で。

私がこいねがい、決して手にする事ができなかった願いが、今。


ほむら 「届いた・・・まどかに・・・届いたんだ・・・」

15 : 以下、名... - 2015/08/28 20:12:53.80 8TocSby00 956/1284

そして私の胸にこみ上げてきたものは。

願いが叶った喜びでも、達成感でもなく。

ただただ、深い悲しみの波。

全ての時間軸で散っていった、全てのまどかの死に際が私の胸のうちに蘇ってくる。


ほむら 「まどか・・・やっと、やっと・・・あなたたちの死が、やっとこの時間軸のまどかの・・・」


救いとなって、結実したのだ。

涙が滂沱として、私の頬を濡らす。単純に喜べるはずなんてない。


ほむら 「すべてのまどかの死を・・・これで・・・無駄にしないで済んだ・・・やった、やったよ、まどか・・・」


かつての時間軸で。

バカだった自分を救ってほしい。そう言って、切なげに笑って。

死んでいったまどかがいた。

私は彼女に誓った。命に代えても、その願いを叶えると。

16 : 以下、名... - 2015/08/28 20:14:30.29 8TocSby00 957/1284

ほむら 「やったんだよ・・・っ!」

まどか 「ほむらちゃん、また、その顔・・・」

ほむら 「えっ!?」


迂闊だった。

突然かけられた声に我に返ると、そこには。

私を心配そうに見下ろす、まどかの姿が・・・


ほむら 「あ、えっと・・・い、いつからそこに・・・」

まどか 「・・・私の死を無駄にしないで済んだって、そのあたりから、かな?」

ほむら 「・・・っ!」


聞かれてた。

念願を果たした私は、あまりにも深く、自分の世界に入り込みすぎていたようだ。まどかの接近に、気がつきもしないだなんて。

迂闊どころの話じゃない。

いつか言っていた、リョウの私に対しての評が、頭の中に蘇る。


(リョウ 「詰めの甘さは天下一品だな」)


今さらながら、返す言葉もない・・・

17 : 以下、名... - 2015/08/28 20:15:51.45 8TocSby00 958/1284

・・・
・・・


夜の公園で、私たち二人。

まどかと私で、ブランコに隣り合わせで腰かけて。

ぶらぶらと、心地よい揺れに身を任せながら。

少し、話をした。


まどか 「私・・・魔法少女になるの、断っちゃった」


最初に話し始めたのは、まどかの方。


ほむら 「うん、聞いてた・・・」

まどか 「断った後でも、思っちゃう。これで良かったのかなって。仁美ちゃん、見捨てちゃったことに、なるんじゃないかって」

ほむら 「それは・・・違うわ。手段はどうあれ、志筑さんは自分の望みを叶えるために、必死に生きた。その結果がどんな形でも、それを受け止めるのは志筑さん自身の役目よ」

ほむら 「そうなのかな。本当に?」

ほむら 「人は、成すべき事のために生きているわ。何かを成そうと思ったら、そのけじめは自分でつけるべきなのよ」


今のは、竜馬の言葉の受け売り。

だけれど、今では間違いなく、私の考えにもなっていた。

18 : 以下、名... - 2015/08/28 20:18:30.23 8TocSby00 959/1284

まどか 「うん・・・ねぇ、ほむらちゃん」

ほむら 「なに?」

まどか 「仁美ちゃんは、キュゥべえに何を願って、魔法少女になっちゃったのかな」

ほむら 「それは・・・ごめん、そこまでは知らないの」

まどか 「・・・そう」


言えない。

言ったら、きっとまどかは、これからのさやかとの付き合い方に悩むことになるだろう。

さやかには、寸毫の落ち度がない事は頭では分かっていても・・・

だから、その代わりに。

私は言う。

きっと全ての魔法少女が願っているであろうことを。

仁美の想いに仮託して。


ほむら 「だからせめて。志筑さんの事を忘れないでいてあげて。いなくなってしまっても、いつまでもあなたの友達として、心の中で、ずっと・・・」

まどか 「うん」

19 : 以下、名... - 2015/08/28 20:19:16.63 8TocSby00 960/1284

死しても死体すら残らないことが多い魔法少女。

私たちの本当の死は、大切な人たちすべてから、忘れ去られた時にこそ訪れるのだ。


まどか 「忘れない」

ほむら 「ありがとう。志筑さん、喜んでると思う」

まどか 「ほむらちゃんの事だって、忘れない」

ほむら 「・・・え」

まどか 「私、分かったよ。ほむらちゃん、私の事、好きなんだね」

ほむら 「・・・え、ええっ?!」


いきなりの予想外な言葉に、思わずすっとんきょうな声を上げてしまう私。

なぜ、いきなりそんな事を言うの、まどか!

いや、そうだけれど、その通りなんだけれど!

20 : 以下、名... - 2015/08/28 20:22:05.21 8TocSby00 961/1284

ほむら 「い、い・い・い・いきなり何を言ってるの、鹿目さんっ!」

まどか 「ほむらちゃんの部屋での別れ際・・・ほむらちゃんが見せてくれた表情、ね・・・」

ほむら 「え、表情・・・?」

まどか 「その意味、いろいろ考えちゃって・・・そしたらね、重なったの」

ほむら 「・・・なにと?」

まどか 「私を失ったら、パパやママがどんな顔をするだろうって考えたら・・・あの時のほむらちゃんとおんなじ顔をしてた」

ほむら 「鹿目さん・・・」


正直、別れ際にした表情なんて、覚えてやしない。

だけれどあの時、私はとても悲しかった。

今までの時間軸で散っていったまどかと、目の前のまどかが重なっちゃって。

迂闊にも、そんな心情が、表に出てしまっていたらしい。

21 : 以下、名... - 2015/08/28 20:22:52.62 8TocSby00 962/1284

まどか 「とても辛そうで、消え行っちゃうような・・・そんな顔。私、パパやママにあんな顔、してほしくないなって」

ほむら 「・・・」

まどか 「そうしたら、キュゥべえと契約なんて、絶対しちゃダメなんだって、そう思えたから・・・」

ほむら 「鹿目さん・・・ううん、まどか、そうね。私、まどかの事が大好き。世界で一番、あなたが大切なの」

まどか 「・・・でも、どうして?」

ほむら 「訳わからないよね、気持ち悪いよね。あなたにとって、私は知り合って二週間にも満たない転校生でしかないのだから」

まどか 「気持ち悪いなんて、そんなことないよ。でも、どうしてなの?どうしてそこまで、私の事・・・」

ほむら 「それは・・・」

まどか 「もう一度、聞いても良い?どうしてそこまで、私の事を気にかけてくれるの?」

ほむら 「・・・」

22 : 以下、名... - 2015/08/28 20:23:26.42 8TocSby00 963/1284

言おう。

私は、意を決した。

重い内容だ。引かれてしまうかも知れない。

だけど、この時間軸の、このまどかになら。

私のすべてをさらけ出してしまっても、受け止めてもらえるのではないか。

そんな確信めいたものが、私の中には芽生えていたのだ。


ほむら 「聞いて・・・私とまどかとの出会いと、そして・・・」

まどか 「・・・」

ほむら 「何度もの別れを繰り返した、私のこれまでの事を」

30 : 以下、名... - 2015/09/08 16:56:46.46 1fs+dhBY0 964/1284

・・・
・・・


私が語っている間。

ある時は、驚きに目を見開いて。

またある時は、悲しみに両目を潤ませて。

コロコロと表情を変えながら、だけれどまどかは、最後まで。

私が語り終えるまで、口を挟まずに、黙って耳を傾けてくれていた。


語る内容は、本当にいろいろ。

最初の時間軸での、私たちの出会いの事。

まどかやマミに命を救われた事。

そして別れと、私が魔法少女になった経緯。

幾度も時間をループし、まどかを救おうとした事。

そして、それは一度もなし得ていない事・・・

時間を繰り返す度に、私と皆の距離が遠くなっていった事。

31 : 以下、名... - 2015/09/08 17:00:04.05 1fs+dhBY0 965/1284

だけれど、この時間軸で・・・

リョウと出会い、皆との出会いをやり直し、もう一度・・・皆との距離の取り方を考えて見ようと、そう思えた事。

そして、間もなく訪れるワルプルギスの夜を切り抜ける事ができれば、その時こそが・・・

私が待ち望んでいた未来が訪れる時なのだ、と。


まどか 「・・・」

ほむら 「これが・・・私がまどかを気にかける理由のすべてよ。あなたは私にとって、かけがえのない人だったの」

まどか 「・・・ほむらちゃん」

ほむら 「もちろん、それは今も」

まどか 「・・・あ・・・ぅ」

ほむら 「いきなり、こんなこと言われても困るよね。でも、納得できなくても、せめて・・・」


分かって欲しい。

そう、言おうとした時だった。


まどか 「ほむらちゃんっ!」

ほむら 「・・・わわっ!」


まどかが突然たちあがって、私に抱きついてきたのは。

32 : 以下、名... - 2015/09/08 17:02:27.32 1fs+dhBY0 966/1284

どか 「・・・ほむらちゃん、ありがとう」

ほむら 「ま、まどか・・・」

まどか 「あんな辛くて悲しい顔をするほど、私の事を大切に思ってくれていたんだね。そんな事、ぜんぜん知らないで私・・・」

ほむら 「信じてくれるの?こんな、嘘みたいな話を・・・」

まどか 「嘘なはずない。ほむらちゃんが、そんな嘘、つくはずないよ」

ほむら 「あ・・・」


届いた・・・


まどか 「だから、信じるよ。ほむらちゃんがいう事を私は・・・!」


私、報われたんだ。

そう思ったら・・・


ほむら 「ああ・・・う・・・ぐすっ」

33 : 以下、名... - 2015/09/08 17:04:12.41 1fs+dhBY0 967/1284

まどか 「約束するから。私、ほむらちゃんが悲しむような事、絶対にしないから。だから、ほむらちゃんも、お願い・・・」

ほむら 「う、えっぐ・・・ま、まどかぁ・・・」

まどか 「魔女になんかならないで。ほむらちゃんも、私を悲しませたりしないで!」

ほむら 「う・・・うぁ・・・うあああああああんっ」


自分でも驚いてしまった。

涙がとめどなくとめどなく、両の目から溢れてくる。

嗚咽が止められない。

子供のように、大口を開けて泣きだしてしまった、そんな私を制止することができない。


まどか 「ほ、ほむらちゃん!?」

ほむら 「ああああっ、うあああああああんっ!」

まどか 「・・・」

34 : 以下、名... - 2015/09/08 17:05:34.69 1fs+dhBY0 968/1284

柔らかなまどかの胸に顔をうずめて、声を限りに私は泣いた。

安堵と、やっと報われたという充足感と。

なにより、まどかが私の想いを受け止めてくれたことが、とても嬉しくって。


まどか 「ほむらちゃん・・・なんだか、私まで・・・えっぐ・・・」


そんな私を、まどかが鼻声交じりに慰めながら、優しく頭を撫でてくれた。

その手のひらが、本当に本当に暖かくって。


まどか 「ほむらちゃん、また泣いちゃったね」

ほむら 「うん、泣いちゃった・・・」


だけれど、断言できる。

今の私の顔は、先ほどまでの泣き顔とはまったく別物だという事を。

35 : 以下、名... - 2015/09/08 17:06:38.22 1fs+dhBY0 969/1284

・・・
・・・


まどかと別れ、私は自分の部屋の前へと戻ってきた。

すると、ドアにもたれかかる様にしながら、こちらに手を振る人影が一人。

・・・竜馬だった。


ほむら 「リョウ」

竜馬 「夜遊びは感心しねぇな」

ほむら 「そんなんじゃ・・・」

竜馬 「で、鹿目との話し合いはどうだった。て、聞くまでもないか」

ほむら 「え・・・」

竜馬 「お前の顔を見れば、大体わかる。上手くいったようだな」

ほむら 「うん、まぁ・・・ていうか、私ってそんなに顔に出てる?簡単に分かっちゃうわけ?」

竜馬 「なんだろなぁ。お前、自分で思ってるほどクールじゃないぜ。不器用だからな、けっこう顔に出る」

ほむら 「まどかにも表情の事を言われたし・・・これは少し、気をつけなくっちゃいけないわね」

竜馬 「良いんじゃねぇか。今のままがお前らしいぜ。無理に飾ろうとするな。ぼろが出るだけさ」

36 : 以下、名... - 2015/09/08 17:11:01.26 1fs+dhBY0 970/1284

ほむら 「そうかも。ところで、どうしたのリョウ。どうして中で待ってなかったの?」

竜馬 「入れなかったんだよ。留守だったからな」

ほむら 「留守って・・・ゆまは?もう、とっくに帰って来てる時間じゃ・・・」

竜馬 「なにか、連絡とかなかったのか?」


言われてみて、ハッとした。

慌てて携帯をチェックしてみると、未読のメールが一通・・・ゆまからだ。

読んでみると、今夜は杏子と一緒に過ごすとの、意外な内容。

正直メールチェックどころじゃなかったから、まったく気がついていなかった。

37 : 以下、名... - 2015/09/08 17:16:48.89 1fs+dhBY0 971/1284

ほむら 「・・・珍しい事もあるものね。あの二人にも、何かあったのかしら」

竜馬 「あったんだろうさ。きっと二人にとって、喜んでやれるような良い変化が、な」

ほむら 「だと良いわね。ううん、きっとそう」


今ごろ杏子とゆまは、二人きりでどのように過ごしているのだろうか。

他愛のない話に花を咲かせているのだろうか。それとも、楽しみながら口ゲンカなんかに高じているのかもしれない。

想像していると、つい笑みがこぼれてしまう。


ほむら 「ふふっ。さぁ、待たせてごめんね。リョウ、どうぞ中へ」

竜馬 「ああ、邪魔するぜ」


私は携帯をポケットにしまうと、鍵を開けて竜馬を部屋へと招き入れた。

38 : 以下、名... - 2015/09/08 17:17:53.14 1fs+dhBY0 972/1284

・・・
・・・


ほむら 「あれ・・・?」


紅茶を煎れて居間に戻ると、竜馬の隣にちょこんと、キュゥべえが座っている。


ほむら 「お前・・・いつの間に入り込んだの?」

キュゥべえ 「僕はずっと、竜馬の側にいたよ。離れたが最期、僕は同胞に殺されてしまうのだからね」


・・・いけしゃあしゃあと。


ほむら 「立場は変わっても、神出鬼没ぶりには変わりがないという訳ね」

キュゥべえ 「そう言わないで、歓迎してほしいな。何せ、今夜の主役は僕のはずなのだからね」

竜馬 「ま、違いないわな」

ほむら 「・・・」


・・・そう。

今夜はこのキュゥべえから、色々な事を聞き出すつもりでいた。

39 : 以下、名... - 2015/09/08 17:22:08.08 1fs+dhBY0 973/1284

なぜゲッターと竜馬たちは、こちらの世界へと飛ばされてきたのか。

魔法少女の魔力がゲッターエネルギーの代替になるのは、どうしてか。

また、なぜ男性の竜馬たちに、魔法少女と同じ”資質”が与えられているのか。

そして・・・


ほむら (どうすれば、リョウが元の世界へと、戻る事ができるのか・・・)


最後の疑問に関してだけ、私は嫌だな、知りたくないな、と。

そんな気持ちを捨て去る事ができないでいた。

分からずに、このまま竜馬とずっと、この世界で生きて行く事ができたら、どんなに素晴らしいだろう。

どうしても、そう思わずにはいられない自分がいるのだ。

だけれど・・・


ほむら (そんな想い、捨て去らなきゃだめだ。だってそれは、つまらない勝手なエゴでしかないのだから)

40 : 以下、名... - 2015/09/08 17:23:25.62 1fs+dhBY0 974/1284

竜馬は右も左もわからないこの世界で、私の願いのために命がけで協力してくれている。

そして、そんな彼は、成すべき事のために、元の世界へと帰らなければならないのだ。

使命ある人の本位と反対の事を願う。それは、その人に対する裏切りに他ならない。


ほむら (私は・・・リョウに対して、彼が私にしてくれたように、最大の理解者でいたい)


だから私は、竜馬が望む世界へ帰ることを、ともに願わなくてはいけない。

そのためにできる事は、協力を惜しんではいけないのだ。


ほむら 「・・・」

竜馬 「暁美・・・?どうした、難しい顔をして」

ほむら 「ううん、何でもないわ。それで、武蔵さんも来るのよね」

竜馬 「ああ、そろそろ来る頃合いだと思うぜ。奴が着いたら、キュゥべえへの尋問を始めるとしよう」

キュゥべえ 「尋問とか、穏やかじゃないな。今の僕は、あくまで君たちの味方であるつもりでいるのだけれど」

ほむら 「よく言うわ」

41 : 以下、名... - 2015/09/08 17:29:24.58 1fs+dhBY0 975/1284

確かに、こいつは先ほどまどかを貶めようとしたキュゥべえとは、別の個体。

感情を手に入れ、キュゥべえの群れからつまはじきにされた、あの”キュゥべえ”だ。

だけれど私たちの味方についたのは、立場上そうするより外になかったからに他ならない。

なにせ、命がかかっている。


ほむら 「まぁ、良いわ」


だから私も、今はこいつの立場を利用するだけだ。

その後の事は、その時に考えればいい。


キュゥべえ 「おっと、お客さんが着いたようだよ」


玄関のチャイムが鳴ったのは、キュゥべえが呟いたのと同時だった。

42 : 以下、名... - 2015/09/08 17:35:17.34 1fs+dhBY0 976/1284

・・・
・・・


竜馬 「まず第一に聞きたいのは、俺とゲッターがどうすれば、元の世界に戻れるのか、だ」


”尋問”が始まって、開口一番に竜馬が言ったのが、この質問だった。

それはそうだろう。この問題は竜馬にとって、何事にも優先しなければならない重大事なのだ。


キュゥべえ 「最初に断わっておくけれど、竜馬。君をこの世界に呼んだ事象と僕とは、まったくの無関係だ」

竜馬 「知っているよ。だが、それとこれとは、話が別だ。お前たちは長い歴史の中で、多くの知識を身に着けてきた。そうだろう?」

キュゥべえ 「否定はしないよ。だから、君のようなケースはどうするべきか。その対処法を知っているはずだと?」

竜馬 「で、どうなんだ?」

キュゥべえ 「期待に添えなくて、悪いと思っている。前にも言ったよね。君や武蔵は、僕にとってもイレギュラーな存在なんだ。類似のケースにも、遭遇したことは無い」

竜馬 「そうか・・・」

武蔵 「じゃあ、お前には全く、心当たりがないというんだな?」

キュゥべえ 「それなんだけれど・・・暁美ほむら」


不意に話の矛先が、私に向けられる。

43 : 以下、名... - 2015/09/08 17:41:46.48 1fs+dhBY0 977/1284

ほむら 「・・・なに?」

キュゥべえ 「ちょっとした疑問なんだけれど。君が前の時間軸で手に入れた武器。あれは現在どうなっているんだい?」

ほむら 「え・・・?」


急に何なんだというの?

質問の意図が、まったく見えてこない。


ほむら 「バックラーに収納している分は、この時間軸へ持ち越してきたけれど・・・それがなに?」

キュゥべえ 「・・・」


キュゥべえが、何事やら考え込んでいるように、しばし目をつむる。

ややあって・・・奴は話を継ぐように、別の質問を私に投げかけてきた。


キュゥべえ 「ほむら。君はなぜ、自分で武器を生み出せないのだろうね?」

ほむら 「・・・?」

44 : 以下、名... - 2015/09/08 17:44:18.10 1fs+dhBY0 978/1284

キュゥべえ 「巴マミであれ佐倉杏子であれ、他の多くの魔法少女も。彼女たちは戦うため、自前の武器を生み出す能力を与えられている」

ほむら 「それが?」

キュゥべえ 「それは当然だよね。だって君たち魔法少女は、魔女と戦う事が使命なのだから。戦う手段を与えられるのは、当たり前の成り行きだ」

ほむら 「・・・何が言いたいのよ?」


話が見えてこない。

回りくどい、持って回ったようなキュゥべえの物言いに、私の口調にも自然と苛立ちの色がにじみ出てくる。

それに対する答えの代わりは、キュゥべえの更なる質問だった。


キュゥべえ 「ほむら。君は戦うための武器を、どうやって手に入れているんだい?」


これまた、ゲッターとは関わりがないとしか思えない質問・・・

いったい私から、何を探ろうとしているのだろう。

キュゥべえの目論見は、まったくわからないけれど・・・


ほむら 「それは、爆弾を自作したり・・・あとは、時間を止めて盗んだわ」

武蔵 「盗んだ?」

ほむら 「ええ、警察や自衛隊や・・・武器のある所から」

45 : 以下、名... - 2015/09/08 17:46:16.79 1fs+dhBY0 979/1284

私は正直に答えた。

・・・今さら取り繕っても仕方がないもの。

だって、仕方がなかったのだ。

武器を生み出す能力のない私は、そうしなければ使い魔とすら戦えなかったのだから。


竜馬 「そうだったのか」

ほむら 「・・・軽蔑する?」

竜馬 「他に術がなかったんだろう?でもまぁ、良かったじゃねぇか。この時間軸では、盗みなんざしなくてもすむんだからな」

ほむら 「あ・・・う、うん」


さらりと言い流すような竜馬の一言に、私は少し救われたような気がした。

おかげで私は、心にしこりを残すことなく、話を先へと進める事ができる。


ほむら 「それで・・・この事が、リョウたちが元の世界へ帰る事と、なにか関わりがあるというの?」

46 : 以下、名... - 2015/09/08 17:47:14.55 1fs+dhBY0 980/1284

キュゥべえ 「・・・僕の経験則上、戦う手段を与えられていない魔法少女なんて存在しなかった。その事と、君の話を合わせて考えると・・・」

ほむら 「なに、なんなの?」

キュゥべえ 「この事は、僕の推測であると、あらかじめ断わっておくよ」

ほむら 「もったいぶらないで、良いから言って」

キュゥべえ 「では・・・君は自分では気がついていないだけで、戦うための手段が与えられていたと思うんだよ。他の魔法少女たちとは違った形でだけどね」

ほむら 「え、それってどういう事・・・?」

キュゥべえ 「それは・・・武器を生み出すのではなく、引き寄せる能力」

ほむら 「・・・?」

キュゥべえ 「考えてみて欲しい。君は武器を自作したり、盗んだりして手に入れたと言った。だけれど・・・」


思わせぶりにいったん言葉をくぎると、キュゥべえは私の目を凝視するように見つめながら、続きの言葉を綴った。


キュゥべえ 「何の知識もない女の子が、少し調べただけで爆弾を自作したりできるだろうか」

ほむら 「え・・・」

47 : 以下、名... - 2015/09/08 17:50:11.14 1fs+dhBY0 981/1284

キュゥべえ 「加えて、君は武器を盗んだと言っていたけれど、いくら時間を止める能力があるからと言って、それだけで簡単に事が運ぶものなのかな」

ほむら 「なによ、どういう事よ」

キュゥべえ 「暴力団程度ならいざ知らず、武器の保管に万全を期している自衛隊のような組織から、そうやすやすと武器が盗めるものなのか、という事だよ」


こいつ・・・何を言っているの?

だって、現に私は。


ほむら 「実際私は、そうやって今まで戦ってきたの。何なの、いったい。お前はなんの話をしているの?」

竜馬 「つまり・・・」


答えようとしたキュゥべえより先に、竜馬が口を開く。


竜馬 「暁美が自分で手に入れていたと思い込んでいた武器は、実は魔法の力で引き寄せられていたのだと、そういう話か」

ほむら 「え・・・?」

キュゥべえ 「そう。暁美ほむら・・・君は非常に”常識的”な思考の持ち主だよね。そんな君にとって、目の前に存在しない武器を”引き寄せる”なんて、思いもよらない事だったんだろう」

竜馬 「だから無意識下に、自分自身を武器が手に入れやすい状況へと”引き寄せ”ていた。そういう事か」

武蔵 「辻褄はあっているな」

48 : 以下、名... - 2015/09/08 17:52:40.11 1fs+dhBY0 982/1284

ほむら 「え・・・ちょ、ちょっと待ってよ」


キュゥべえの言う事が・・・

この仮説が正しいのだとしたら。

だとしたら・・・それって・・・


ほむら 「私が、ゲッターロボをこちらの世界へ”引き寄せた”という事・・・?」

キュゥべえ 「僕には、そうとしか考えられない」


そういえばゲッターの中で話した神隼人も言っていたっけ。

私こそが元凶だったと・・・


キュゥべえ 「暁美ほむら。ゲッターが初めて君の目の前に現れた時、どんな状況だったのか話してくれるかい?」

ほむら 「それは・・・あの時はワルプルギスの夜と戦っていて・・・私はとても敵わなくて・・・」


そう。

そんな私に代わり、まどかが魔法少女となって、ワルプルギスの夜を倒してくれたんだ。

だけれど、その結果・・・魔力を使い果たしたまどかは魔女となってしまった。

49 : 以下、名... - 2015/09/08 17:53:32.75 1fs+dhBY0 983/1284

ほむら 「私は自分の無力さを呪ったわ。どうして・・・どうして私には、魔力に裏打ちした力が与えられなかったのかと」


そうだ、そして願ったのだ。


ほむら 「まどかを守る力が欲しいと。私も他の魔法少女と同じ、力は欲しいと、そう願ったの」


その直後だ。

まばゆい光とともに、ゲッターロボが私の前に現れたのは。


キュゥべえ 「つまり、どうにもならない絶望の中で、藁にもすがる思いの君は、その時はじめて”常識的”な自分のタガを外したんだ」

武蔵 「その結果、俺たちは異世界へと飛ばされたと・・・そういう訳なのか」

ほむら 「あ・・・じゃあ、私」


私の無力さとわがままが原因で、竜馬たちを関係のない戦いに巻き込んだと、そういう事なの?

だとしたら私は・・・


ほむら 「りょ、リョウ・・・」

竜馬 「・・・暁美」

50 : 以下、名... - 2015/09/08 17:56:05.64 1fs+dhBY0 984/1284

キュゥべえ 「ただ一つ疑問なのは、ほむら一人が強く願ったところで、それだけで異世界の存在を引き寄せることが可能なのだろうか。そこなんだよね」

ほむら 「え・・・?」

キュゥべえ 「そこで竜馬、武蔵。君たちにも聞きたい。こちらの世界へと飛ばされる寸前、君たちは何を思っていた?」

武蔵 「あの時は、恐竜帝国の本拠地へ殴り込みをかけに行く途中だったな。俺は、奴らを皆殺しにして隼人の仇を取ってやろうと、そればかりを考えていたけれど」

キュゥべえ 「そうなんだね。では、竜馬は?」

竜馬 「俺は・・・俺も願っていたんだ。あの時・・・隼人を失って二人しか乗っていないゲッターの中で」

武蔵 「願う・・・お前が?いったい何を?」

竜馬 「笑ってくれ。あの時の俺は、不安でいっぱいだったのさ。これから敵と雌雄を決せねばならない時に、仲間が一人欠けていたんだからな」

武蔵 「リョウ・・・」

竜馬 「ゲッターは三人のパイロットがそろって、初めて全力を発揮できる。そして、恐竜帝国に抵抗できるのは、ゲッターを於いて他にはない」

ほむら 「・・・」

竜馬 「絶対に負けられない戦いだ。俺たちの敗北は即、人類の絶滅につながるのだからな。なのに俺たちには、全力で戦う術が失なわれていた・・・」


そして、竜馬はぽつりと付け加えた。


竜馬 「怖かったんだ」

51 : 以下、名... - 2015/09/08 17:58:42.14 1fs+dhBY0 985/1284

いつもは強気の竜馬が、珍しく吐く弱音。

そういえば出会って間もなかった頃の彼も、ゲッターロボの所在が分からない苛立ちから、焦ったり弱気な面を見せたりしていたっけ。


竜馬 「だから、願ったんだ。神でも悪魔でもいい。俺に強敵と渡り合える力を、新たな仲間を与えて欲しいと・・・」

ほむら 「まさか、それって・・・」

キュゥべえ 「僕の予想は正しかったようだね。ほむら、竜馬。君たちの出会いは、互いの願いが共鳴しあった結果、起こされた事だったのさ」

ほむら 「私が力を望んで・・・」

竜馬 「俺が仲間を欲したから・・・?」

キュゥべえ 「そう・・・」

武蔵 「ばかな、そんな偶然があるものか。たまたま二人が同時に願って、それでたまたま出会えたっていうのか?世界の壁を越えてまで?信じられるかよ!」

キュゥべえ 「もちろん、僕も偶然だなんて思ってやしないよ」

ほむら 「え・・・、まさかそれって・・・りょ、リョウ・・・」

竜馬 「ああ、ゲッターか・・・」

キュゥべえ 「そう、意志を持ったエネルギー体。あの得体の知れない存在だったら、これくらいの事は容易に仕組めるだろうね」


ゲッターが私たちを出会わせるために、この出会いを仕組んだ?

52 : 以下、名... - 2015/09/08 18:01:38.21 1fs+dhBY0 986/1284

ほむら 「いったい、何のために・・・」

キュゥべえ 「そこまでは、僕にはうかがい知れないよ。機会があったら、ゲッターに直接聞いてみると良い。なんにせよ、これではっきりした」

竜馬 「なにがだよ」

キュゥべえ 「竜馬や武蔵が、元の世界へ戻る術なんて、ありはしないという事がさ」

竜馬 「・・・暁美のバックラーの中の、他の武器と同じという事か」

キュゥべえ 「そう。一度ほむらの支配下に置かれた武器は、バックラーの中にとどめ置かれるか、時間軸を超える際に元の時間軸に置き去られるか・・・」


キュゥべえ 「いずれにせよ、元の”場所”へと戻る方法などはない。そう結論付けられるね」


そう断言して、キュゥべえは語るのをやめた。

しばしの重い沈黙が、この部屋を支配する。


竜馬 「ゲッターが仕組んだ、か。なるほど、言われてみれば納得だ」


最初に沈黙を破ったのは、竜馬だった。


竜馬 「ゲッターの無茶な力を使えば、世界の壁くらいは容易に超えられる気がするぜ」

ほむら 「りょ、リョウ・・・私・・・」

竜馬 「そんな顔をするな、暁美。責任を感じているというなら、そいつはお門違いだ。俺をこっちの世界に飛ばしたのは、俺自身でもあるんだからな」

53 : 以下、名... - 2015/09/08 18:08:48.88 1fs+dhBY0 987/1284

ほむら 「だけど、そうだとしても!私の戦いに、あなたたちを巻き込んでしまった事は事実だわ・・・!」

竜馬 「確かにここは、俺のいるべき世界じゃない。だけれど、そんな見知らぬ場所でお前と、仲間と出会う事ができたんだ」

ほむら 「リョウ・・・」

竜馬 「仲間の戦いは、俺の戦いだ。それに俺たちの出会いは、偶然なんかじゃなかった」

ほむら 「・・・」

竜馬 「互いに望んで出会えたんだ。それが分かっただけで、俺は喜んでるんだぜ。だから・・・」


竜馬がそっと。

普段の彼とは不釣り合いに優しい顔で、私の顔を優しくなでる。


竜馬 「そんな、辛そうな顔をするな」


大きく温かい手が、私の顔を優しく包む。

・・・また、泣きそうになってしまう。

54 : 以下、名... - 2015/09/08 18:29:44.83 1fs+dhBY0 988/1284

ほむら 「だけど、帰る手段がないって・・・」

竜馬 「それなんだがな・・・キュゥべえ」


竜馬がキュゥべえへと向き直ったため、手が私の顔から離された。

ただ、彼の手の温かみだけが、消えずに私の頬に残り続けている。

いや・・・それともこれは・・・私の顔が火照っているのだろうか。


竜馬 「ゲッターが仕組んだことだというなら、帰る方法だってゲッターが知っているはずだ。そうだろ?」

キュゥべえ 「それについては、断言しかねるけれどね」

竜馬 「けっ・・・まぁ、いずれにせよ。帰る方法はワルプルギスを倒した後で、ゆっくり考えればいいさ」

ほむら 「リョウ・・・」

竜馬 「全てが霧に閉ざされていたような以前と、状況が違うんだ。手がかりはいくらでもある。それだけで、今は気が楽だぜ」


・・・そんなはずないのに。

竜馬は、私が必要以上に罪悪感を得ないよう、わざと楽天的にふるまってくれているのだろう。

彼の世界は、存亡の危機に瀕しているはず。悠長にしていられるはずなんて、無いのだから。

だけれど・・・

55 : 以下、名... - 2015/09/08 18:33:36.45 1fs+dhBY0 989/1284

ほむら (私・・・また、勝手なことを考えてる・・・)


それは、先ほども否定したばかりの考え。

竜馬が帰れなければ。帰る手段が見つからなければ・・・

その時は、ずっとこちらの世界で生きていく他はない。

私と一緒に。私と同じ場所で。


ほむら (そんなこと考えちゃダメだって、それはエゴだって。分かってるのに、何度も自分に言い聞かせたのに)


竜馬をこの世界へと呼び寄せた罪悪感とともに、湧き上がってくる、この感情。

こんなことに、喜びを感じてしまうなんて、私はなんて身勝手で最低なんだろう。

それに・・・


ほむら (私、どうしてそこまで・・・竜馬に帰って欲しくないんだろう。仲間だから・・・?それとも他に、何か理由でもあるというの・・・?)


竜馬じゃないけれど、それこそ答えは五里霧中。

いまだ火照り続ける頬の意味も何もかも・・・私には分からない。

68 : 以下、名... - 2015/09/13 13:08:53.49 yOHPVSsX0 990/1284

・・・
・・・


キュゥべえ 「さて・・・他にも僕に聞きたい事があるのかい?」


沈みがちとなった場を仕切りなおすように、キュゥべえが言った。


ほむら 「そうね。じゃあ、最後にひとつ」


気持ちを切り替えるためにも、私はキュゥべえの誘いに乗る事にした。

聞きたかったのは、竜馬と初めて出会ってから抱いていた、もっとも根本的な疑問。


ほむら 「なぜ、男性であるリョウや武蔵さんに、お前や魔女の姿が見えるのか。それって、二人が魔法少女になる資質があるって事だと、以前お前も言っていたわよね」

キュゥべえ 「ああ、その事か」


キュゥべえが、つまらないことを聞くなとでも言いたげな表情で、私を見る。


キュゥべえ 「言いそびれていたけれど、資質のある男性は、おそらく二人だけではないよ」

ほむら 「え?」

69 : 以下、名... - 2015/09/13 13:10:20.93 yOHPVSsX0 991/1284


意外な言葉を返されて、私は思わず間抜けなポカン顔をしてしまった。

それはきっと、一緒に聞いていた竜馬や武蔵も同じだったはず。


竜馬 「俺たちだけじゃないって・・・じゃあ、他の適合者はどこにいるっていうんだ?」

キュゥべえ 「それはもちろん、君たちがいた世界さ」

武蔵 「意味が分からない・・・もっと分かりやすく言ってくれよ」

キュゥべえ 「つまり、竜馬たちの世界の人間はね。程度の差こそあれ、誰しもが魔法少女になる資質が与えられているんじゃないかな」

ほむら 「・・・は?」

キュゥべえ 「・・・て、思えるんだよね」


私の頭の中いっぱいに、キュゥべえに口癖が駆け巡る。

・・・ワケガワカラナイヨ。

70 : 以下、名... - 2015/09/13 13:11:17.81 yOHPVSsX0 992/1284

こちらの世界でも、魔法少女となれる資質を与えられた少女は、それほど多くはない。

なのに、竜馬の世界では、性別を問わず、誰もが魔法少女に慣れるとでもいうの?


キュゥべえ 「竜馬・・・君たちの世界にあって、この世界には無いもの。それは何だったかい」


私の混乱など意に介さず、キュゥべえは話を続ける。


竜馬 「そりゃぁ、前にも話したはずだ。ゲッターを動かすためのエネルギー・・・ゲッター線だってな」

キュゥべえ 「そう。そして、君たちの世界の人間は、ゲッター線によって猿から人に進化したという。つまり・・・」


キュゥべえ 「人間誰しもが、ゲッター線を体内に持っている。そういう事だよね」


武蔵 「・・・そりゃそうだろう。でも、だからどうしたってんだ?」

キュゥべえ 「考えてみて欲しい。ゲッター線とは、そして魔法少女の魔力とは何なのかという事を」

竜馬 「・・・?」

71 : 以下、名... - 2015/09/13 13:13:22.50 yOHPVSsX0 993/1284

キュゥべえ 「君たちも知っての通り、魔法少女たちの魔力は、ゲッターエネルギーとして転用できる。つまりそれは、両者は同質か、非常に近い存在だという証明となる」

ほむら 「あ・・・つ、つまり、同質のエネルギーを体内に持つリョウたちだからこそ・・・」

キュゥべえ 「魔女も見えるし、魔法少女となる資質をも与えられているという事さ」

竜馬 「だからか・・・お前の言った理屈で行くと、俺の世界の人間はみんな・・・」

キュゥべえ 「そう、もれなく魔法少女の候補者たり得るという、結論に行きつく訳だね」

ほむら 「・・・世界すべての人間が、魔法少女に・・・?」

キュゥべえ 「もちろん、魔力・・・いやゲッター線の含有量は個人で異なるだろうから、向き不向きはあると思うよ」

竜馬 「俺や武蔵だけが、特別なわけじゃなかったってことか・・・」

キュゥべえ 「いや、それでも君たちは特別さ。なにせ、ゲッターロボと誰よりも深くかかわってきたのだからね」

武蔵 「一層、魔法少女向きってわけかよ」

キュゥべえ 「君たちの世界を知らない僕だけれど、この予測はおそらく間違っていないはずだよ」


自信ありとでも言いたいのか、鼻息荒くキュゥべえは断言して見せた。

72 : 以下、名... - 2015/09/13 13:14:16.29 yOHPVSsX0 994/1284

武蔵 「だけど、どうしてこんな現象が・・・偶然にしてはできすぎてないか」

キュゥべえ 「もちろん、偶然なはずがない。それは、君たち・・・異なる二つの世界の人間を見比べれば、おのずと答えが見えて来るはず」

竜馬 「・・・?」

キュゥべえ 「考えても見て欲しい

 ほむらや竜馬たちの先祖は、異なる世界で異なる過程を得て、今の姿へと進化してきた。それなのに・・・

 両者には特に目立った相違点が見られないのは、どうしてだと思うかい?

 ゲッター線によってもたらされた進化と、僕が介入し魔法少女が培ってきた進化。

 プロセスが全く異なれば、互いに違った形に進化していてもおかしくはなかったはずだ。

 なのに、行きついた先には差異は見られない」

ほむら 「・・・あ」

キュゥべえ 「これはもはや、偶然で片つけてられる範疇を超えているよ」

73 : 以下、名... - 2015/09/13 13:15:04.71 yOHPVSsX0 995/1284

言われていれば、確かにそうかも知れない。

同じ世界の人間だって、生まれた国や時代が違えば、言葉や文化、肌や目の色さえ違ってしまうのだ。

それなのに、別の世界から来た竜馬たちは、私と同じ姿をして、同じ言葉を話している。

同じ日本人として、この世界へと現れたのだ。


ほむら 「きゅ、キュゥべえ・・・それって、つまり・・・」

キュゥべえ 「あのね、ほむら。僕は感じたんだ。初めてゲッターロボを見たあの時・・・不思議と懐かしい、妙な感覚をね」

ほむら 「懐かしい・・・?」


そう言えば・・・

ゲッターと最初に遭遇した時間軸のキュゥべえも言っていたっけ。

”あれは、僕と同じ・・・”と。

その言葉の意味をただす前に、私はこちらの時間へと飛ばされてしまったけれど。

目の前のキュゥべえは、あの時のキュゥべえと同じことを今、口にしようとしているのかもしれない。


ほむら 「感じたって、なにを・・・?」

74 : 以下、名... - 2015/09/13 13:17:14.32 yOHPVSsX0 996/1284

キュゥべえ 「僕とゲッターは、同じ存在、役割を担わされているものだと」

竜馬 「バカな!」


竜馬が即座に否定する。

だけど、キュゥべえは意に介さない。


キュゥべえ 「現在ははともかくとして。かつては同質の存在であった頃があったんじゃないかってね、そう思えてならないんだ」

竜馬 「お前のような奴らがゲッターと同じだと!到底信じられない!」

ほむら 「・・・」


それは、私だって一緒だ。

だけれど、キュゥべえの説が正しいのなら、二つの世界の人類がたどり着いた進化の果てが、同じである事の何よりの証明となる。

・・・けれど。


ほむら 「・・・同質というけれど。まかりなりにも生物であるお前と、エネルギー体であるゲッター線。何から何までが異るけれど・・・そこはどう説明するの?」

75 : 以下、名... - 2015/09/13 13:18:57.11 yOHPVSsX0 997/1284

キュゥべえ 「そこはね、僕にもわからない。けど、はるか遠い昔、こちらの宇宙が生まれて間もないころ。始原の宇宙にはゲッターが存在していたんじゃないのかな」

ほむら 「・・・」

キュゥべえ 「そこで、僕たちの先祖と何らかの関わりがあって、役割を引き継いだ者が、僕たちインキュベーダーとなった」

竜馬 「・・・」

キュゥべえ 「そうは、考えられないかい?」


進化をもたらすエネルギー体であるゲッター線。

そして、エネルギーを集める過程で進化をもたらして来たキュゥべえ。

関わりがある。そう言われれば頷ける共通点が、確かに両者にはあるようにも思える。

・・・けれど。


ほむら 「それもまた、お前の推測なわけでしょ?」

キュゥべえ 「残念ながらね。そこまで古い記憶は、僕たちのデータベースにも保存されていないんだ」

武蔵 「ほ、ほらみろ!結局お前の想像じゃないか!」

キュゥべえ 「では、他にこの現象を、どのように解釈すればいいのか。説があるなら、僕はぜひ聞いてみたい」

武蔵 「うぐっ、そ、それは・・・」

76 : 以下、名... - 2015/09/13 13:21:37.23 yOHPVSsX0 998/1284

ほむら 「・・・お前たちにとって私たちの進化は、エネルギーを得る手段の、単なる副産物ではなかったの?」

キュゥべえ 「長い積み重ねの中で、主と従が逆転してしまう現象は、君たち人類の歴史の中でもまれに見られる出来事だろう?」

ほむら 「・・・」


ああ言えば、こう言う。

そう吐き捨ててやりたいけれど。

だけど一概に、キュゥべえの誇大妄想と笑い飛ばせない何かが・・・

そう、まるで心の隙間に、ぴったり収まるピースが見つかったかのような。

そんなしっくりした感覚を抱いているのもまた、悔しいけれど事実なのだ。


竜馬 「分かった・・・いずれにしても、推論以上の答えは出てこない。そういうわけだな」

キュゥべえ 「残念ながらね」

77 : 以下、名... - 2015/09/13 13:23:22.96 yOHPVSsX0 999/1284

竜馬 「最後の説だけは、納得できないが・・・」


言葉を区切った竜馬が、私へと向き直る。


竜馬 「いま聞きたい事は、とりあえずは聞き終えたという訳だ。だからな、暁美」

ほむら 「リョウ・・・」

竜馬 「今後はワルプルギスを倒す事だけに注力する。その後の事は、その時だ」

ほむら 「ええ」

竜馬 「武蔵も、今はそれで良いな?」


武蔵 「・・・ああ」


ほむら (・・・あれ?)


竜馬に問われて頷いた武蔵の返事に、私は何か言葉にしきれない想いを感じた。

なにか、決意を秘めたような。

いや、それよりもむしろ・・・決意を新たにした?

そんな断固とした意志をにじませた返事。

根拠はないけれど、そう思えたのだ。

78 : 以下、名... - 2015/09/13 13:25:10.89 yOHPVSsX0 1000/1284

ほむら 「・・・」

武蔵 「ん?どうかしたか、ほむらちゃん。俺の顔をじっと見ちゃって」

ほむら 「う、ううん・・・なんでもないわ」


だけれど、私の視線に気がついてかけられたのは、優しみのこもった普段とおりの武蔵の声。


武蔵 「そうかい?」

竜馬 「暁美。こんなのは、見とれるような顔でもないだろう」

ほむら 「・・・別にそんな事は」

武蔵 「おいおいリョウ、ひどい言いようだな。こんな美顔、そうそうお目にかかれるものではないぜ。見とれるのも分かるってものですよ」

竜馬 「一生言ってろよ」

ほむら 「・・・」


気のせいだったのかしら。

79 : 以下、名... - 2015/09/13 13:25:58.52 yOHPVSsX0 1001/1284

だけれどあの時、私は確かに。

武蔵の内から湧きだすような、熱い意志を感じたのだ。

竜馬ほど表には出さないけれど、武蔵だってゲッターで戦い抜いてきた歴戦の勇士。

心の内にたぎるような決意を秘めていたとしても、おかしくはない。


ほむら (でも、それが何なのか・・・それとも、そもそも私の勘違い?)


・・・分からない。

答えなど見いだせないまま、今日の集まりは散会となったのだった。

87 : 以下、名... - 2015/09/26 20:26:34.45 jnW+U93L0 1002/1284

・・・
・・・


そして、時間は流れてゆく。

私も学校生活に限っては、以前と変わらない日常を過ごしていた。

すでに志筑仁美が行方不明となってから、数日が経つ。

日が経つにつれて、クラスメイトからは、彼女の話題が遠ざかって行きつつあった。

残酷だとか、薄情だとか言ってはいけない。


ほむら (みんな、日常を懸命に生きなくてはいけないのだから・・・)


それに、口に出したところで、非力な中学生の身でできる事など、心配すること以外には何もないのだ。

そんなの辛すぎるから、あえて誰も触れなくなる。

それで良いと思う。


ほむら (ただ、本当に彼女の事を大切に思っていた人たちの心の中で、忘れられずに生き続ける事さえできれば・・・)

88 : 以下、名... - 2015/09/26 20:27:21.71 jnW+U93L0 1003/1284

ふと、教室の窓から外を眺める。


ほむら 「・・・」


今日は曇り空。

暗雲垂れ込める雲の向こうから、ひしひしと伝わってくる怨念にまみれた波動。

ここからでも分かる。すぐそこまで来ているのだ。 


ほむら (ワルプルギスの夜・・・)


ワルプルギスの夜は、どの時間軸においても、毎回たがわずに同じ日にちに見滝原を襲撃してきた。

今回も、その法則は覆らないだろう。

だって、こんなに近くに奴を感じる。


ほむら (明日、か・・・)


いよいよだった。

89 : 以下、名... - 2015/09/26 20:30:37.54 jnW+U93L0 1004/1284

この時間軸を守り通せるのか、否か。

竜馬と出会い、マミたち魔法少女と心を通わせ・・・

はじめて、まどかだけではなく、時間軸に絡むすべてを守りたいと思える事ができた、この場所。

ここに来たことが、ここで得られた出会いのすべてが正しかったのか。

それとも、いつもと同じ結末に終わるのか・・・

その結果のすべては、あした判明する。

そして、幾度も繰り返してきた”明日”という日は・・・


ほむら (たぶん、もう無い・・・)


何となく、私にはわかるのだ。

91 : 以下、名... - 2015/09/26 20:33:24.34 jnW+U93L0 1005/1284

きっと、この時間軸を守り通せなかったなら、その時こそ私はどん底の絶望に陥ることになるだろう。

・・・ソウルジェムを、これ以上ないほどに真っ黒に染め上げるほどに。

だから・・・


ほむら (次の時間軸なんて、もう無いんだ)


そう思えるほどに私にとって、この時間軸は大切な場所となっていた。


ほむら (絶対に守り抜いて・・・勝ってみせる)


まどかのため。仲間たちのため。人として生きていくさやかのため。

大切な人を想うあまり、散らせてしまった仁美の命のため。

そして・・・そして、私自身のためにも。

92 : 以下、名... - 2015/09/26 20:37:13.04 jnW+U93L0 1006/1284

竜馬 「あまり、気負いすぎるな」

ほむら 「っ!」


ポンっと肩をたたかれ、私は現実の世界へと引き戻された。

気がつけば、時間はすでに放課後。周りの生徒たちも、三々五々と帰り支度を始めていた。

ずいぶんと長い時間を、私は思索の中で過ごしていたようだ。


ほむら 「リョウ・・・」

竜馬 「お前の予想が正しければ、いよいよ明日だな」

ほむら 「ええ」

竜馬 「で、今日はこれからどうする?」

ほむら 「今日はゆっくり休みましょう。明日は厳しい一日になる。英気を蓄えておかないと」

竜馬 「賛成だな。準備は万端。グリーフシードも充分な数が集まったわけだし」

ほむら 「ええ、あれだけ集めてだめなら、あとはもう何個集めたって、きっとだめって程にね」

93 : 以下、名... - 2015/09/26 20:39:42.90 jnW+U93L0 1007/1284

竜馬 「じゃ、一緒に帰るか?」

ほむら 「ううん・・・」


ふっと、まどかの席に目を移す。

彼女はまだ自分の席に座っていた。

というより、何をか言いたげな瞳で、じっと私の方を見ている。


ほむら 「私、まどかと一緒に帰るわ。話しておきたい事もあるし・・・」

竜馬 「そっか、分かったぜ。じゃ、明日な」


あっさり踵を返そうとした竜馬の袖を、慌てて掴む私。


ほむら 「あ、待って・・・」

94 : 以下、名... - 2015/09/26 20:41:02.18 jnW+U93L0 1008/1284

竜馬 「ん、どうした?」

ほむら 「今夜は・・・今夜も来てくれるんでしょう・・・?」

竜馬 「お前の部屋にか?まだ何か、話しておきたい事でもあるのか?」

ほむら 「そうじゃない、けれど・・・」

竜馬 「・・・?」

ほむら 「不安なのよ。私だって。お願い、今夜は一緒に・・・一緒にいて欲しいの」

竜馬 「・・・」

ほむら 「・・・」


なかなか返事をくれない。

いぶかしんで彼の顔を見上げてみると、どことなく複雑そうな表情をした竜馬と目が合った。


ほむら 「あ、もしかして、何か都合でも・・・?」

竜馬 「そうじゃないが、お前の言い方がな・・・」

ほむら 「???」

95 : 以下、名... - 2015/09/26 20:43:05.20 jnW+U93L0 1009/1284

竜馬 「いや・・・まぁ、分かったぜ。俺だって、不安がないと言ったらウソになる。誰かと一緒にいたい時だってあるってもんだ。行くぜ」

ほむら 「うん・・・!」


竜馬の返事を聞いて、途端に胸のつかえが氷解したような気持になる私。

どうしてだろう。分からないけれど・・・

なんだか今は、無性に竜馬に甘えてみたい気持ちなのだ。


そうして。

竜馬が教室を出るのを見送ってから、私は席を立つ。

向かうのは、まどかが待つ彼女の席。


ほむら 「まどか」

まどか 「ほむらちゃん・・・」

ほむら 「話があるわ。一緒に帰りましょう」

まどか 「うん」

96 : 以下、名... - 2015/09/26 20:45:19.66 jnW+U93L0 1010/1284

・・・
・・・


私の部屋とまどかの家の中間点。

互いが心を通わせる事ができた、あの公園で。

あの時と同じブランコに腰かけた、私とまどか。

ふと見上げてみれば、空は相変わらず、どんよりと曇ったまま。

今にも雨が噴出してきそうな分厚い雲に覆われている。


ほむら (だけれど私は知っている。あの雲に潜んでいるモノが、雨なのではなく魔女だという事を・・・)

97 : 以下、名... - 2015/09/26 20:49:04.80 jnW+U93L0 1011/1284


まどか 「ほむらちゃん、話って・・・なに?」

ほむら 「あ、うん・・・まどか、明日なのだけれど」

まどか 「ワルプルギスの夜・・・来るんでしょ」

ほむら 「分かるの?」

まどか 「うん。何となくだけど、とても大きくて悪い気配・・・みたいなものを感じるの。あっちの空のむこうから」

ほむら 「・・・まどか」

まどか 「それって、この前ほむらちゃんが話してくれた、最強最悪の魔女の事なんじゃないかなって、そうとしか思えなくて」


さすが、まどか。

魔法少女の契約などしなくても、彼女の類まれな資質は、ワルプルギスの邪悪な気配を鋭敏に感じ取っているのだ。

それでさっき、私の方をもの言いたげな目で見ていたのね。

98 : 以下、名... - 2015/09/26 20:51:28.67 jnW+U93L0 1012/1284

ほむら 「その通りよ、まどか。明日、この街は壊滅的な被害に見舞われるわ」

まどか 「・・・やっぱり」

ほむら 「ねぇ、まどか。話っていうのは他でもないわ。明日は間違いなく、避難所にご家族と一緒に避難していてね」

まどか 「ほむらちゃん・・・?」

ほむら 「約束して」

まどか 「う、うん・・・」

ほむら 「あなたには、とても不安な時間を強いる事になると思うけれど・・・」


そう。

なにせ、ワルプルギスは結界に隠れず、じかに街を攻撃してくるのだ。

魔女が見えるまどかにとって、成すすべなく避難所で過ごさなければならない時間は、想像以上の恐怖だろう。

99 : 以下、名... - 2015/09/26 20:55:20.75 jnW+U93L0 1013/1284

だけれど。


ほむら 「街の被害のすべては防げないけれど、避難所の皆の命は何があっても私たちが守るから」


耐えてもらうしかない。

そうして初めて、私は後顧の憂いなく戦いに赴くことができるのだから。


まどか 「うん」


そんな私の気持ちを汲んでくれたように、即座に頷いてくれるまどか。


まどか 「約束するよ。ほむらちゃんが大切に思ってくれている私自身を、絶対に粗末になんかしたりしないって」

ほむら 「それ聞いて、安心したわ」

まどか 「だから、ほむらちゃんも約束して。絶対、絶対・・・元気で私の元に帰って来るって」

ほむら 「当然じゃない。これから私は、まどかやみんなとやりたい事がたくさんあるのだもの」


そう思えるようになった。そんな時間軸と、出会う事ができた。

100 : 以下、名... - 2015/09/26 20:58:16.74 jnW+U93L0 1014/1284

だから。


ほむら 「帰って来るよ」

まどか 「・・・うん」


頷いたまどかが、すっと右手を差し出した。

軽く握った拳から、かわいらしい小指だけがチョコンと立っている。


まどか 「指切り」

ほむら 「・・・ええ」


頷き返して、彼女の小指に私の小指を絡めた。


まどか 「ゆーびきーりげんまん、うそついたら針せんぼん・・・」

ほむら 「・・・」

まどか 「飲ませないけど、もう口きいてあげない」

101 : 以下、名... - 2015/09/26 21:00:40.15 jnW+U93L0 1015/1284

ほむら 「それはきついわね。何があっても約束、守り通さないと」

まどか 「うん・・・指きった。うぇひひっ」


勢いよく指を離したまどかが、照れくさそうに微笑んだ。

その頬が赤く上気して見えるのは、申しわけ程度に差し込んでくる夕日に染められたからなのか。

それとも・・・


ほむら (この笑顔・・・これから先もずっと、近くで見ていたいな)


そう、切に思う。

そのためにも、明日は是が非でも勝ちを得なければ。

そんな決意を新たにして、私はまどかと別れて家路へと就いたのだった。

102 : 以下、名... - 2015/09/26 21:05:19.59 jnW+U93L0 1016/1284

・・・
・・・


その夜。

私の部屋のキッチンにて。

明日は決戦。そのためには精を付け、心と体にエネルギーを蓄えておかなければ。

そう思った私は、腕によりをかけての晩ごはんを用意していた。


ゆま 「えへへ、料理ってなんだか楽しい」

ほむら 「そうね」


私の隣では、せわしげにちょこまかと手伝いをしてくれている、ゆまがいた。

この子と過ごすのも、あと数日だろう。

何日か前に私はゆまから、ワルプルギス戦が終わったら杏子と暮らすという報告を受けていた。

それも良いと思う。口の悪さと裏腹に面倒見の良い杏子だったら、ゆまの事もかわいがってくれるに違いない。

103 : 以下、名... - 2015/09/26 21:06:37.23 jnW+U93L0 1017/1284

ほむら (私は少し、寂しくなってしまうけれど・・・)


ゆま 「・・・??どうかしたの?」

ほむら 「ううん、何でもない。さ、できたわ。お皿に盛るから、食器を持ってきてちょうだい」

ゆま 「はーい」


心の内が、顔に出てしまっていたかしら。

食器棚に向かうゆまの後ろ姿を見送りながら、こんな事ではいけないなと反省する。

ゆまが自分で決めた事だ。私は笑って送り出してあげるべき。

もう一生会えない訳でなし、寂しいと思ってるなんて、ゆまに察せられたらダメなんだ。

だけど・・・


ほむら (一緒に過ごすうち、あの子の事も私の中で、大きな存在になっていたのかもしれないな)


そう、まるで妹のような。

104 : 以下、名... - 2015/09/26 21:08:11.65 jnW+U93L0 1018/1284

ほむら (そんな風に思える相手に巡り合えただけで、私は幸せ者なのでしょうね)


ゆま 「ほむらお姉ちゃん。お、お皿・・・もってきた、よ・・・」よたよた

ほむら 「ありが・・・とうっ!?」


声のした方へ振り向いた私が見た物は、何枚にも重ねられたお皿のタワーだった。

グラグラ揺れるタワーの向こうから、ゆまの震えた声が聞こえてくる。


ゆま 「お姉ちゃん、は、早くっ、お皿とって・・・」

ほむら 「わっ、なにもそんないっぺんに持ってこなくても!ちょ、動かないで、落としちゃうから!」

ゆま 「あ、あわわわ・・・」

ほむら 「あ、あぁーーーーっ・・・!」


ゆまの元へ駆け寄ろうとするが、どう考えても間に合わない。

ああ、このままじゃ、晩ごはんを盛るお皿が全滅してしまう。

そうなったらいったい、どうやってご飯を食べたら良いの!?

105 : 以下、名... - 2015/09/26 21:11:04.50 jnW+U93L0 1019/1284

ゆま 「もう、ゆまダメ」ふにゃっ

ほむら 「ちょーっ!!」


グラグラとお皿タワーの揺れは、もはや最高潮。

あとは上滑りに一番上の皿から床に落ちるだけ。

一瞬ののちには、床に陶器の花びらがまき散らされることになるだろう。

ああ、なんてこと!


ほむら 「食事前に掃除をしなきゃならないなんて・・・!!」

ゆま 「ああああっ!」


バランスの限界に達したゆまが悲鳴を上げる。

私は思わず目を閉じた。やがて聞こえるであろう破壊音に備え、覚悟を決める。

106 : 以下、名... - 2015/09/26 21:12:51.63 jnW+U93L0 1020/1284

しかし・・・


ほむら 「・・・??」


いつまでたっても、お皿の割れる音は聞こえてこなかった。

代わりに耳に届いたのは。


 「なにをやっとるんだ、お前たちは」


呆れた色を隠そうともしない、男性の声。

恐る恐る開いた私の目に映ったものは・・・


ほむら 「りょ、リョウ・・・」

竜馬 「呼んでも返事がなかったから、勝手に上がらせてもらったぜ」


いつの間にやら、ゆまが落としかけた皿を軽々と抱えた竜馬の姿だった。

107 : 以下、名... - 2015/09/26 21:14:51.34 jnW+U93L0 1021/1284

ほむら 「い、いつの間にお皿を・・・」

竜馬 「後ろから駆け寄って、上からヒョイっとな」

ほむら 「どんな俊敏さなのよ、あなたは・・・まるで忍者ね」

竜馬 「大惨事を未然に防いでやったんだ。礼の一つくらい言ってもばちは当たらんと思うぞ」

ほむら 「あ、う、うん・・・ありがとう。ほら、ゆまも」

ゆま 「ありがとう、竜馬お兄ちゃん」

竜馬 「おう。というより、暁美」

ほむら 「なに?」

竜馬 「お前、時間を止めたら、簡単に何とかできたんじゃないのか?」

ほむら 「・・・」

ゆま 「・・・」

ほむら 「あ」

竜馬 「相変わらずだな。で、この皿。どこに置けばいいんだ?」

113 : 以下、名... - 2015/09/27 11:10:20.38 WYEf3Z0N0 1022/1284

・・・
・・・


竜馬 「ごちそうさま」


テーブルに並べられた大量の料理をペロリと平らげ、満足そうにお腹をさすりながら竜馬が言った。

ぜったい余ると思ったのに、どんな胃袋をしているんだろう。


ほむら 「おそまつさま」

ゆま 「竜馬お兄ちゃん、すごいねぇ。たくさんたくさん、食べるんだねぇ」

ほむら 「呆れるほどにね」

竜馬 「そんな言い方はないだろ。俺だって、いつもいつも武蔵みたいにがっついてるわけじゃないんだぜ」

ほむら 「へぇ、本当?」

竜馬 「本当さ。今日は美味い御馳走が山と出てきたからな」

ほむら 「え・・・」

114 : 以下、名... - 2015/09/27 11:11:47.99 WYEf3Z0N0 1023/1284

竜馬 「それで、ついつい食いすぎちまった」

ほむら 「そ、そうなの・・・」

竜馬 「これで、明日の決戦への備えは十分。スタミナ補給は万全だぜ」

ほむら 「・・・うん」

竜馬 「どうした。納得いかないってな顔だな?」

ほむら 「そうじゃなくって・・・そんなお世辞なんて言ってくれなくても・・・」

竜馬 「は??」

ほむら 「そうやって、たくさん食べてくれただけで、私は満足だから、だからね・・・」

竜馬 「お前は馬鹿か」

ほむら 「なによ・・・」

115 : 以下、名... - 2015/09/27 11:15:44.93 WYEf3Z0N0 1024/1284

竜馬 「お前、俺が心にもない事を言えないたちだってのが、まだ分かっていなかったのか」

ほむら 「そうじゃないけれど、でも・・・」


巴マミに料理を習い始めて、まだ日も浅い。

そうそう教わりに行く時間もないし、ずぶの素人の私の料理が、そんなに早く人に満足してもらえるだけの味になんて、達するはずなんてないもの。

だから手放しで褒められても、どうしてもピンと来ないのだ。


ほむら 「今日の料理も巴さんにもらったレシピを参考にしたから、食べられる味にはなってるはずだけど・・・私の腕なんてまだまだだから・・・」

竜馬 「・・・お前は」


竜馬が、やれやれといった風に、深いため息をつく。


竜馬 「暁美は鹿目のためだったらとことん前向きなのに、自分の事になると途端に自信がなくなっちまうのな」

ほむら 「それは、もともと私は、そういう人だから」

竜馬 「あのなぁ・・・お前がそんなんじゃ、俺は安心して向こうの世界に帰れないだろうが」

ほむら 「・・・っ」

116 : 以下、名... - 2015/09/27 11:17:26.67 WYEf3Z0N0 1025/1284

竜馬 「俺は美味いと思ったから美味いと言ったんだ。思った事を言って信じてもらえないんじゃ、俺はどうしたら良いんだよ」

ほむら 「・・・」

竜馬 「そりゃ、巴マミの腕前からしたら、まだまだなのかも知れない。でも、そんなのは当たり前だ。年季が違うんだ」

ほむら 「うん・・・」

竜馬 「なのに、ここまでの料理が作れるようになった。じっさい大したものだと思う。ゆまが手伝ってくれた事も、大きいと思うがな」

ゆま 「えへへー」

竜馬 「それに、食う側からすれば、料理なんてものは腕前だけじゃないだろう?」

ほむら 「え、それってどういう意味・・・?」

竜馬 「俺にとっては、お前が。お前が作ってくれた料理だったから・・・」

ほむら 「・・・」

竜馬 「・・・」

ほむら 「・・・あ///」

117 : 以下、名... - 2015/09/27 11:20:23.94 WYEf3Z0N0 1026/1284

竜馬のセリフは、私の顔を赤く染めるのに十分な威力を持っていた。

そんな私の様子に気がついた竜馬は、慌てて付け足すように次の言葉をつなぐ。


竜馬 「か、勘違いするなよ。仲間が作ってくれた料理だからって意味だからな。他意はないぞ、断じてだ」

ほむら 「わ、分かってるわよ」


そう、分かってる。

きっとそれが彼の本心で、言葉以上の意味なんてないって事は。

それきり、私たち言うべき言葉も見つからず。

しばらく、気まずい空気が場を支配してしまったけれど。


ゆま 「このグラタン、おいしいねぇ」ぱくぱく


屈託のない笑顔で料理を頬張るゆまの何気ない一言が、竜馬と私の間の微妙な雰囲気を弛緩してくれた。


竜馬 「・・・食後の紅茶が飲みたいな」

ほむら 「うん、分かったわ。煎れて来るね」


席を立ってキッチンに向かう私の背中越しに。


ゆま 「こっちのハンバーグもおいしいねぇ」むしゃむしゃ

竜馬 「たくさん食って、大きくなれよ」

ゆま 「はぁーい」


そんな二人の、まるで親子のような会話が聞こえてきた。

119 : 以下、名... - 2015/09/27 11:23:15.20 WYEf3Z0N0 1027/1284

・・・
・・・


それから。

食事の後かたずけを終えた私たちは、竜馬と私。その間に挟まれるように、ゆま、と。

ソファーに並んで三人で腰をかけて。

他愛ない話を交わしながら、ゆったりとした時間を過ごしていた。

明日は決戦だとは信じられないほど、穏やかで静かな空気が、私たちの間を通り過ぎていく。


ほむら (初めてかも。ワルプルギス戦を、こんなに穏やかな気持ちで迎える事ができたのって)


それはきっと、頼れるべき仲間がいてくれるからなのだろう。

孤独ではないという事は、それだけで強い力となってくれる。

その事を、私は竜馬と出会って学んだのだ。

120 : 以下、名... - 2015/09/27 11:25:00.80 WYEf3Z0N0 1028/1284

ほむら (それはきっと、感謝してもし足りないほど、大切なことで・・・)


そんな事をぼんやり考えていた私の太ももの上に、ぽてんっと。

軽い衝撃を感じて、私は視線を下へと向けた。

すると・・・


ゆま 「すー・・・すー・・・」


ゆまが静かな寝息を立てながら、私の足を膝枕にして眠りに落ちていたのだ。


ほむら 「あらら」

竜馬 「たくさん食って、満足したら落ちてしまったか」

ほむら 「ちょうど良いわ。普段なら、この子はもう寝ている時間だもの。明日も早いのだし、たっぷり休ませないと」

竜馬 「じゃあ、俺がベッドに運んでくるよ」

ほむら 「起こさないように、そっとね」

121 : 以下、名... - 2015/09/27 11:26:26.18 WYEf3Z0N0 1029/1284

竜馬 「分かってるさ」


言いながら、竜馬がそっとゆまの体を抱え上げる。

そのまま寝室へと消えて行き、またすぐにリビングへと戻ってきた。


竜馬 「起こさず、無事に運んで来たぜ。ミッションコンプリートだ」

ほむら 「ごくろうさま」

竜馬 「おう」


ふたたびソファーへと腰を下ろす竜馬。

二人きりになってしまった。

私たちの間を隔てていたゆまもいなくなってしまって、妙に竜馬との距離が近く感じてしまう。

122 : 以下、名... - 2015/09/27 11:27:32.06 WYEf3Z0N0 1030/1284

竜馬 「かわいいもんだな」


唐突な竜馬のつぶやきに、思わずドキッとしてしまう私。


ほむら 「え、なによいきなり!」

竜馬 「いや・・・ちょっと思い出してしまってな。向こうの世界での事」

ほむら 「・・・?」

竜馬 「向こうにもさ、小さい友達がいたんだよ。そいつは早乙女博士・・・まぁ、俺たちのボスの息子だったんだがな」

ほむら 「え??」

竜馬 「元気って名前でな。名前の通り、元気なガキだったよ。それに比べたらゆまはだいぶん大人しいが、小さい子供を見てると思い出してしまってな」

ほむら 「え・・・かわいいって・・・」

竜馬 「だから、ゆまの事だよ」

ほむら 「・・・あ」

竜馬 「・・・??」

ほむら 「あああー・・・」

123 : 以下、名... - 2015/09/27 11:29:27.74 WYEf3Z0N0 1031/1284

竜馬 「な、なんだよ、急に。頭抱え込んだりして、いったいどうし・・・あ、もしかして、お前」

ほむら 「・・・言わないで」

竜馬 「自分が言われたって思ったのか?かわいいって・・・」

ほむら 「言わないでって、言ってるのに・・・」

竜馬 「それは、勘違いさせて悪かったな・・・」

ほむら 「・・・」


別に竜馬は悪くない。

ただ、どうしてだろう。

最近竜馬と一緒にいると、私は不思議と自意識過剰になってしまう。

食事の時だって、そうだった。

いったい私、どうしてしまったんだろう。

124 : 以下、名... - 2015/09/27 11:30:58.61 WYEf3Z0N0 1032/1284

竜馬 「まぁ、なんだ。お前だってかわいいぜ。けっこうな、うん」

ほむら 「・・・付け足されるように褒められたって、嬉しくない」


それになんだか、ちょっと今。

私は、面白くない気分だ。


竜馬 「別に、付け足しってわけじゃないんだがな」

ほむら 「それに、ゆまと同じニュアンスでかわいいって言われても、嬉しくないし」

竜馬 「あー、まぁ・・・そりゃそうか」

ほむら (むすっ)

竜馬 「まいったな、こりゃ・・・」


困ったように頭をかいていた竜馬が、あ・・・とつぶやいて、私の顔をまじまじと見つめてきた。


ほむら 「な、なに??」

125 : 以下、名... - 2015/09/27 11:32:13.67 WYEf3Z0N0 1033/1284

竜馬 「お前、俺にかわいいって言われたかったのか」

ほむら 「なっ!ななな、なに言ってるの!?そ、そんなこと・・・そんなこと・・・!」


そんなこと・・・


ほむら 「そんなこと・・・ちょっと、あるかも、知れないけど・・・」

竜馬 「暁美・・・」

ほむら 「そういえば、ちょっと気になっていた事があったんだけど・・・いい機会だから、聞きたい事があるの」

竜馬 「なんだよ、唐突だな」

ほむら 「私、あなたの事をリョウって呼び始めてけっこう経つけれど、リョウは私の事、名前で呼んではくれないのね」

竜馬 「う・・・」

ほむら 「仲間なら、他人行儀は無しなんでしょ?どうして私の事は、ほむらと呼んではくれないの?」


そう。竜馬はずっと。

私の事を、かたくなに”暁美”と呼び続けてきた。

それはどうしてなのかなって、このところ疑問に思っていたのだ。

126 : 以下、名... - 2015/09/27 11:34:49.73 WYEf3Z0N0 1034/1284

竜馬 「そ、それは・・・だな・・・」


困り顔の竜馬。

今度は私の方が、そんな彼をまじまじと見つめてみる。

竜馬を困らせる事が、なんだか少し楽しい。


ほむら 「ねぇ、どうして?」

竜馬 「それはな、女性の名前って、男以上に大切じゃねぇか」

ほむら 「??」

竜馬 「それを軽々しく呼ぶなんてな、親しき中にも礼儀ありというか、そう思ったんだよ」

ほむら 「・・・」

竜馬 「・・・」

ほむら 「前時代的というか、何というか」

竜馬 「ほっとけ」

127 : 以下、名... - 2015/09/27 11:36:38.63 WYEf3Z0N0 1035/1284

ほむら 「でも、だからこその、流竜馬というべきしら」

竜馬 「・・・」

ほむら 「じゃあ、だったら・・・私から頼んだら?名前で呼んでくれるのかしら」

竜馬 「そりゃぁ、お前が望むんだったら・・・」

ほむら 「じゃあ、お願い」

竜馬 「・・・・ら」(ぼそっ)


照れているのか、竜馬にしては珍しく小声で、よく聞きとれない。


ほむら 「もう一度」

竜馬 「ほむら」


今度は大きな、いつもの彼の声で。

私の顔を見つめながら、はっきりと呼んでくれた。

途端に、私の胸にこみ上げてくる温かい感情。


ほむら 「・・・はい」

128 : 以下、名... - 2015/09/27 11:38:23.82 WYEf3Z0N0 1036/1284

竜馬 「・・・おっ?」

ほむら 「ん・・・どうかしたの?」

竜馬 「いや、お前・・・そういう風に笑う事も出来たんだな」

ほむら 「いま?私、笑ってた?」

竜馬 「ああ、初めて見せる顔だったぜ」

ほむら 「そっか・・・」


意識なんてしていなかったけれど。

自然と心が、私を微笑ませたのだろうか。

そう、私・・・作り笑顔なんかじゃなくて。

ちゃんと笑えるように、なっていたんだ・・・


竜馬 「かわいかったと、思うぜ」

ほむら 「え?」

竜馬 「今の顔」

129 : 以下、名... - 2015/09/27 11:39:37.52 WYEf3Z0N0 1037/1284

ほむら 「あ・・・う、うん」


照れくさいけれど。

だけれどここは、素直にお礼の言葉を言っておく。


ほむら 「うん、ありがとう」


だって、そう言ってもらえたことが、とても嬉しかったのだから。


竜馬 「明日の今ごろも、そんな顔をして笑っていようぜ」

ほむら 「そうね、ワルプルギスの夜を倒して・・・」

竜馬 「みんな、そろって、な」

ほむら 「ええ」

130 : 以下、名... - 2015/09/27 11:42:05.24 WYEf3Z0N0 1038/1284

わがままを言えて、それを聞いてもらえる事ができて。

しかもその結果が、私の望む通りの答えで。

しかも、望んだ以上の言葉も聞く事ができて。

それが嬉しくて嬉しくて、そして・・・


ほむら 「私・・・」

竜馬 「ん?」

ほむら 「リョウに甘える事に、馴れてしまったのかも知れない。だって今、とっても安心している・・・」


心がとても安らいでいる。


竜馬 「甘えられることは、良い事だと思うぜ。今までのお前は、一人で気負いすぎていたものな」


そうだったかも・・・

131 : 以下、名... - 2015/09/27 11:43:44.19 WYEf3Z0N0 1039/1284

ほむら 「安心したら、眠たくなってきちゃった・・・」

竜馬 「俺たちも寝るか。明日が早いのは、俺たちだって一緒だ」

ほむら 「そうね」

竜馬 「俺はこのソファーを借りるぜ。お前はゆまと一緒に、ベッドで寝るんだろ」

ほむら 「私は・・・私もここで、リビングで良いわ」

竜馬 「ここで良いって・・・」

ほむら 「あなたの側で眠るから」

竜馬 「・・・どこまで甘えん坊なんだよ」


言いながら、彼は自分の太ももをポンと叩いて見せた。


ほむら 「??」

竜馬 「貸してやるよ、膝枕」

132 : 以下、名... - 2015/09/27 11:44:55.44 WYEf3Z0N0 1040/1284

ほむら 「でも、それじゃ・・・リョウが横になれない」

竜馬 「俺はどこでだって寝られるんだよ。それだけの修練は積んできている」

ほむら 「でも・・・」

竜馬 「ふかふかのソファーに背もたれまでついているんだ。寝るには申し分ない。遠慮するな」

ほむら 「あ、じゃ、じゃあ・・・」


恐る恐る、竜馬の太ももの上に頭を乗せる。


ほむら 「うう・・・ごつごつしてる」

竜馬 「筋肉は男の勲章だ。それくらい我慢しろ」

ほむら 「はい・・・じゃ、お・・・おやすみ・・・」

竜馬 「ああ、お休み」

133 : 以下、名... - 2015/09/27 11:46:47.57 WYEf3Z0N0 1041/1284

目をつむる。

そんな私の頭の上に、竜馬の掌が優しく置かれた。

そっと、私を撫でてくれる。

まるで、小さい子供を寝かしつけるように。


ほむら 「・・・」


その感触と、伝わってくる竜馬の体温がとても暖かくて。

武骨な竜馬の掌を今、私はとても優しい物のように感じている。

だってほら。

こんなにも心地いい。


竜馬 「ほむら。明日は絶対に勝とうな。絶対に、絶対にだ」


竜馬のそんな声を聴きながら、いつしか私の意識は夢の向こうへと飛ばされていた。

134 : 以下、名... - 2015/09/27 11:47:58.50 WYEf3Z0N0 1042/1284

どんな夢を見たのかは、はっきりとは覚えていない。

だけれど一つ覚えているのは、そこには笑顔のみんながいたという事。

もしかしたら、ワルプルギスの夜を倒した後の事を夢見ていたのかもしれない。


そうして、数時間が過ぎた頃。

私は、とある異音のせいで夢の世界から引き戻された。

それは、そう・・・


『ご町内の皆様。本日午前7時、突発的異常気象に伴う避難指示が発令されました』


住民たちへ避難を呼びかける、広報車のスピーカーの音だった。


ほむら 「・・・ん」


朝が来たのだ。

135 : 以下、名... - 2015/09/27 11:49:27.91 WYEf3Z0N0 1043/1284

竜馬 「起きたか?」


先に目を覚ましていたらしい竜馬が、私の顔を覗き込みながら言った。


ほむら 「ええ、寝すぎなほどに」

竜馬 「上等だな。じゃあ、行くか!」

ほむら 「・・・うん!」


『付近にお住いの皆様は、速やかに最寄りの避難場所への移動をお願いいたします。こちらは見滝原市役所広報車です』


私たちの運命を決する、運命の朝が。

ワルプルギスの夜が、ついにやって来たのだ!

136 : 以下、名... - 2015/09/27 11:51:40.21 WYEf3Z0N0 1044/1284

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次回予告


最強にして最悪の魔女 舞台装置の魔女~ワルプルギスの夜~

奴がとうとう、見滝原市上空に現れた。

街と、そこに住まう人々の上に、災いと恐怖と嘆きの種をまき散らそうと襲い来たのだ。

そうはさせじと立ちふさがるのは、ほむらを中心に結集したゲッターチームと魔法少女たち。

大切な人々や、想いの詰まった場所を守るため。

深い闇と絶望に、希望の光が立ち向かう。


チェンジゲッター!スイッチオン!


戦えゲッター!負けるな魔法少女たち!

僕たちの見滝原市を守ってくれ!


次回 ほむら「ゲッターロボ!」第十一話にテレビスイッチオン!


ほむら「ゲッターロボ!」【6】

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