ほむら「ゲッターロボ!」【1】
ほむら「ゲッターロボ!」【2】
ほむら「ゲッターロボ!」【3】

561 : 以下、名... - 2015/04/13 19:39:01.49 CXmdU8Od0 653/1284

ほむら「ゲッターロボ!」 第七話

562 : 以下、名... - 2015/04/13 19:39:53.99 CXmdU8Od0 654/1284

まどかは途方にくれながら、夕暮れに沈む街を一人、とぼとぼと歩いていた。

大切な友達が行方知れずなのに、じっとなんてしていられない。

そんな思いに突き動かされ、まどかは街へと繰り出していた。

向うは、仁美とよく立ち寄った場所の数々。


まどか 「仁美ちゃん・・・仁美ちゃんっ・・・!」


一緒にポテトをつつき合ったファーストフード店。

お気に入りのアクセサリーを探して回った、雑貨屋。

学校帰り、別れるのが惜しくて、暗くなるまでおしゃべりに花を咲かせた小さな公園。


まどかは思いつく限りの場所へと、足を運んだ。

そして、探す。なじみの深い、見慣れた、あの優しい笑顔の友人を。

563 : 以下、名... - 2015/04/13 19:41:12.93 CXmdU8Od0 655/1284

だけれど・・・


まどか 「仁美ちゃん・・・」


毎日、学校に行きさえすれば見る事のできた、あの笑顔が。

今日は、どこを探しても見つけることができない。


まどか 「いったい、どこに行っちゃったの・・・」


まもなく日も落ちる。

まどかには、これ以上の心当たりは思いつかなかった。

564 : 以下、名... - 2015/04/13 19:42:01.28 CXmdU8Od0 656/1284

まどか 「・・・」


次第に闇色に染められつつある空を見ていると、考えたくもないのに嫌な方へ嫌な方へと、心が支配されそうになってしまう。

思い浮かぶのは、最悪の可能性の事ばかり。


まどか 「仁美ちゃんに限って、家出なんて考えられないし。仁美ちゃんしっかりしてるから、何かがあったらすぐにお家に連絡入れるだろうし・・・」


それができない状況に、巻き込まれている・・・?


まどか 「まさか・・・」


まどかの心が恐怖に震える。


まどか 「仁美ちゃん、もしかして魔女に・・・」


考えたくはなかった。が、そうだとすれば・・・

連絡が取れないのも、行方が分からないのも、すべての辻褄があってしまう。

565 : 以下、名... - 2015/04/13 19:43:54.81 CXmdU8Od0 657/1284

まどか 「・・・っ!」


たまらず、まどかは駆け出した。

なんとか、なんとかしないと!

だけれど、そのなんとかが分からない。

ほむらは言っていた。まどかは普段通りにしていろと。

だけれど、大切な友達の安否が定かでないのに、安穏としていられるようなまどかではなかった。


まどか 「・・・あっ!」


ふ、と。

まどかの脳裏に、ある人の姿が思い浮かぶ。

あの人なら、あの人だったら力を貸してくれる。そうに違いない!


まどか 「うんっ・・・!」


自分が次になすべきこと。

そのことを見据えたまどかは、一路、思い浮かべた人が住む場所へと、行き先を定めたのだった。

566 : 以下、名... - 2015/04/13 19:48:31.37 CXmdU8Od0 658/1284

まどか 「マミさん・・・!」


巴マミ。


まどか 「マミさん、マミさんっ・・・!」


彼女はここ一週間ほど、学校を欠席していた。

たちの悪い風邪にかかった。

まどかは、そう聞かされていた。

そんなマミから、数日前にメールが来ていたのだ。


「間もなく登校できそうです。学校で会ったら、よろしくね」


まどか (マミさん・・・!)


マミなら、話を聞いてくれる。

もし本当に仁美が魔女がらみの事件に巻き込まれているのなら、きっと力を貸してくれる。

仁美を助けてくれるだろう。

そんなマミに対する絶対的な信頼が、まどかの足を彼女の元へと向かわせてたのだ。


まどか (マミさん、マミさん助けて!)


 「・・・」

567 : 以下、名... - 2015/04/13 19:50:14.29 CXmdU8Od0 659/1284

・・・
・・・


魔女の結界の中で。

私と竜馬は、一人の少女と対峙していた。

まどかとさやかのクラスメイト。

私の新しい友人。

昨日の下校時間に行方不明となった、話題の渦中にある人。


そんな彼女が、思いもかけない姿で私たちの前に姿を現したのだ。


ほむら 「志筑、さん・・・あなた・・・」

仁美 「・・・」


予想だにできなかった。

理解なんか、尚の事できなかった。


ほむら 「なぜ、あなたがその姿で、ここにいるの!?」


私は、今の私の疑問をそのまま、言葉に乗せて投げつける。

意味が解らなかった。

568 : 以下、名... - 2015/04/13 19:51:17.76 CXmdU8Od0 660/1284

仁美 「なぜって・・・決まっているでしょう」

ほむら 「・・・」

仁美 「私が、私として、私らしくあるために、ですわ!」

ほむら 「志筑さん・・・」


仁美の決然とした言い切りに、私は次の句を失ってしまう。

今の彼女からは、それ以上の問いかけを許さない。

そんな凄味が滲み出していたのだ。


・・・程なくして。

主をなくした魔女の結界は崩壊をはじめ、私たち3人は通常の空間へと吐き出された。

場所は、元の路地裏。


仁美 「暁美さん、変身を解いたらいかがです?いくら人通りが少ない路地とはいえ、誰かに見られたら目立ちますわよ」


いつの間にか普段の制服姿に戻っていた仁美が、涼しい顔で忠告してきた。


ほむら 「・・・」


私は言われたとおり変身を解くと、次から次へと湧き上がる疑問をひとまず心のうちにしまうことにした。

まずは優先するべきことがある。他の事は、それが済んでからだ。

569 : 以下、名... - 2015/04/13 19:53:20.75 CXmdU8Od0 661/1284

ほむら 「志筑さん。ひとまず、お家の方と学校に連絡を。無事な姿を見せてあげて。みんな、心配してるわ」


そう、まどかが心配している。

先のことはどうあれ、ひとまず今は仁美が無事であったこと。

その事を一刻も早く知らせ、彼女を安心させてあげたかった。

だけれど・・・


仁美 「それなのですけど・・・」


私の気持ちなどお構いなしに、仁美がもったいぶりながら言う。


仁美 「私、これから忙しくなりますの。いま連絡をしたところで、引き続き心配させてしまうだけだと思いますし・・・」

ほむら 「・・・え?」

仁美 「するべきことが終わったら、後始末は然るべく行いますわ。ですから、暁美さん。口出しは無用です」

ほむら 「なっ・・・」


なに、その言い方は・・・!

まるで他人事な言い様に、私は全身の血が逆流するのを感じた。

570 : 以下、名... - 2015/04/13 19:55:20.19 CXmdU8Od0 662/1284

口出しは無用ですって?ふざけたことを!


ほむら 「あなたがいなくなって、いったいどれだけの人に心配をかけているのか、わかっているの!?」


まどかの心を、どれほど痛めつけているのかを!


ほむら 「あなたが今、優先するべきなのは!心配している人たちを安心させることよっ!」

仁美 「・・・」


だけれど、私の叫びにも、仁美は表情を崩さない。


仁美 「・・・これ以上の問答は無駄。言ったでしょう、私は忙しいと」

ほむら 「あなたはっ」


仁美を想い、その瞳いっぱいに涙を浮かべながら、顔を曇らせていたまどかの姿が、私の脳裏に蘇る。

まどかを・・・私の大切な人を、あそこまで心配させておいて、どうして涼しい顔をしていられるのか!


ほむら 「志筑仁美っ!」

571 : 以下、名... - 2015/04/13 19:56:37.52 CXmdU8Od0 663/1284

竜馬 「待て、暁美」


今にも飛びかからん勢いの私を制するように、竜馬が一歩、前へ出る。


仁美 「流さん・・・」

竜馬 「志筑、お前、その口ぶり・・・言いくるめられているな」

ほむら 「え・・・?」

竜馬 「誰に、何を吹き込まれた?」

仁美 「吹き込まれたとは、人聞きの悪い。私は自分の判断で、良かれと思ったことを行動していますのよ」

ほむら 「それって、まさか・・・美国織莉子・・・?」

仁美 「あら・・・」


意外といった風に、私を見る仁美。

その表情だけで、答えは明白だった。


ほむら 「どうして・・・」

仁美 「・・・ごきげんよう」


これ以上、ここにいても益が無いとふんだのか。

仁美はきびすを返すと、路地の奥へと歩み去ろうと、その場を歩き去った。


ほむら 「あ、待って!」


慌てて引き留めようと、後を追う私たち。

だけれど・・・

仁美の後に続いて路地の角を曲がった私の目の前には、一枚の壁が行方を塞いでいるのみ。


ほむら 「行き止まり・・・」


撒かれてしまったのだ。

572 : 以下、名... - 2015/04/13 19:59:55.95 CXmdU8Od0 664/1284

・・・
・・・


路地を抜けた私たちは、仕方がなく当初の目的地だった公園へと足を向けた。

今ごろ公園では、連絡もなく待ちぼうけを食らわされている杏子が、イライラしながら私たちの訪れを待っていることだろう。

だけれど今は、杏子の苛立ちにまで気を配ってあげるほどの余裕はない。


仁美はなぜ、魔法少女になろうとしたのだろう。

美国織莉子とは、どのように知り合ったのか。

なにより、なぜ仁美が魔法少女になることができたのか・・・


次々と湧き上がる疑問に、思考を塞がれてしまっていたから。


竜馬 「おい」


そんな私の思索を断ち切るような無遠慮さで、隣を歩く竜馬が声をかけてきた。


573 : 以下、名... - 2015/04/13 20:00:41.29 CXmdU8Od0 665/1284

ほむら 「なに?」

竜馬 「暁美・・・どうして、志筑から目を離していた?」

ほむら 「え、どういうこと?」

竜馬 「鹿目のためにもと、美樹にはあれほど気を配っていたお前が、なぜ志筑の事はノーマークだったんだ?」

ほむら 「リョウ・・・」

竜馬 「なぜ、教えてくれなかったんだ。あいつも魔法少女になる恐れがあるという事を」


そういうこと・・・

確かに、この時間軸での志筑仁美しか知らない竜馬にとっては、それはもっともな疑問だった。

だけれどこの件に関しては、私だって竜馬と、そう立場は変わらない。

だから、私はかぶりを振って答える。


ほむら 「そうじゃないの、リョウ・・・彼女は、志筑仁美は・・・」

竜馬 「・・・?」

574 : 以下、名... - 2015/04/13 20:03:05.39 CXmdU8Od0 666/1284

・・・志筑仁美。

関わり合いこそ少なかったものの、私はあまたの時間軸で彼女を間近で見てきた。

それは仁美が、私が守るべき人、鹿目まどかと近しい友人であったから。

ゆえに、知っている。


ほむら 「私の知っている志筑仁美には、魔法少女としての適性なんて、ありはしなかった」


その事実を。


竜馬 「なに・・・?」


そう、それは間違いがない。

だって、まどかに付きまとっていたキュゥべえが側にいた時にだって、仁美には奴の姿が見えてはいなかったのだ。

魔法少女の適性を測る、一番のバロメーターはキュゥべえその物。

適性の無い者には、キュゥべえの存在を感じることができないのだから。

575 : 以下、名... - 2015/04/13 20:04:06.00 CXmdU8Od0 667/1284

竜馬 「しかし現に、志筑は魔法少女として俺たちの前に現れた・・・お前の言う事が真実なら、これはいったいどういう事なんだ?」

ほむら 「分からない、私が聞きたいくらいよ」

竜馬 「そうか・・・だったら、聞いてみればいいんじゃねぇか」

ほむら 「そうね」


私たちは後ろを振り返る。

・・・こいつは、いつだって、どこにだって存在する。

”いる”と思って視線を向けた先には、たいてい奴が、なにくわぬ顔で佇んでいたりするのだ。

今だって。

奴はいつからそうしていたのか、さも当り前な顔をして、私たちの後を歩いていた。


ほむら 「・・・」

キュゥべえ 「やぁ、ほむら。こんな所で会うとは奇遇だね」


私と目があったキュゥべえが、白々しい言葉をさらに白々しい口調で吐く。

いちいち癇に障るやつだけど、今はそんなことを気にしている時じゃない。


ほむら 「聞きたいことがある。杏子も交えて話がしたいわ。このままついて来て」

576 : 以下、名... - 2015/04/13 20:06:18.43 CXmdU8Od0 668/1284

・・・
・・・


マミ兄妹が住むマンションの部屋の前。

チャイムを鳴らしたまどかの前に姿を現したのは、兄である武蔵だった。


武蔵 「あれ、君は確か・・・」

まどか 「こ、こんばんわっ」


まどかがぴょこんと、頭を下げる。

扉を開けて、意外な訪問者を笑顔で迎えた武蔵だったが・・・


まどか 「鹿目まどかです。こんな時間に、突然すみません」


顔を上げたまどかを見て、その表情からすぐに、何事かが起こったであろうことを察したのだった。


武蔵 「どうしたんだい、まどかちゃん」

まどか 「じつは、マミさんにお話というか・・・お願いがあって。あの、マミさんのお風邪って、もう治ったんですか?」

武蔵 「・・・」

まどか 「?」

577 : 以下、名... - 2015/04/13 20:07:51.21 CXmdU8Od0 669/1284

武蔵 「少し、玄関で待っていてくれるかな。マミちゃんが起きてるかどうか、見てくるから」

まどか 「あ、はい。お願いします」


再び頭を下げたまどかを残し、武蔵は部屋の奥へと消えていった。


まどか 「マミさん、寝てたのか・・・やっぱりお風邪、治りきっていないのかな」


不安げに呟くまどか。あくまで独り言だったのだが・・・


 「そうか。それは心配だよね」


予期せぬ返事があって、彼女は飛び上がらんばかりに驚いた。

慌てて声のした背後を振り返ると、そこには・・・


 「やぁ、こんばんわ」


いつから、そこにいたのだろう。

見知らぬ少女が一人、自分と一緒に玄関の内に立っていたのだ。

578 : 以下、名... - 2015/04/13 20:09:15.89 CXmdU8Od0 670/1284

まどか 「え、え・・・いつの間に・・・ていうか、だ、誰・・・!?」

 「ああ、ごめんごめん。驚かせたみたいだね。私は呉キリカ。君は?」


まどか 「あのっ、か、鹿目・・・鹿目まどか・・・です・・・」

キリカ 「まどかか。良い名前だね。まぁ、私が知っている、もっとも良い名前の人には、若干かなわないけれど」

まどか 「・・・」

キリカ 「私は巴マミの知り合いだよ。今日はちょっと用事があって、ここまで来たんだよね」

まどか 「あ、あー・・・そうだったんですか。びっくりしたぁ」


疑うことを知らないまどかは、キリカの一言で納得して笑顔を浮かべた。


キリカ (ま。知り合いって言うのは”未来形”だけれどね)


キリカが呟いた一言は、まどかの耳にまでは届かなかった。


まどか 「今、マミさんのお兄さんが、マミさんが起きてるかどうか見に行ってますよ」

キリカ 「うん、じゃあ、一緒に待とうか」

まどか 「はい・・・えっと、あの・・・、一つ聞いても良いですか?」

キリカ 「なにかな」

まどか 「どうして真冬でもないのに、コート着てるんですか?暑くないのかな・・・」

キリカ 「あー・・・単なるファッションだから、気にしないで良いよ。それに、見た目ほど暑くないしね」

まどか 「そうなんですかぁ」


キリカ (くふふ・・・素直な子だなぁ)

579 : 以下、名... - 2015/04/13 20:13:10.02 CXmdU8Od0 671/1284

・・・
・・・


マミの部屋


マミ 「え、鹿目さんが?」


武蔵からまどかの訪れを聞いたマミが、笑顔で顔を輝かせる。


武蔵 「会うかい?なにか、思い悩んでいる雰囲気だったけれど」

マミ 「もちろんよ。せっかく訪ねて来てくれた後輩を、追い返す事なんてできないでしょ」


言い切って、にっこりとほほ笑むマミ。

・・・長かったな。

マミの笑顔を感慨深げに見ながら、武蔵は思う。

長いといっても、実際の時間にしたら一週間程度でしかなかった。

だけれど武蔵には、現実以上の時間が、自分たち兄弟の間で流れていたことを実感していた。

580 : 以下、名... - 2015/04/13 20:18:52.93 CXmdU8Od0 672/1284

あの日。

マミがほむら達から真実を聞かされて、自暴自棄となった時から。

自分の運命を聞かされたマミが、今まで信じてきた生き方を突き崩されたのと同じように。

武蔵もまた。

新たな生き方。いまの自分が本当に守るべき物は何なのか、を悟らされた。

その事を噛みしめ、肯定し、受け入れる。

その事のみに費やした、とても密度の濃い一週間だったのだ。


武蔵 「じゃ、まどかちゃんを呼んでくるよ」

マミ 「ううん、いいわ。私が出迎える。だって可愛い、後輩なんだもの」


にっこり笑ったマミが、武蔵の前に立って部屋を出ていった。

マミの後姿を見て、武蔵は確信する。

俺たち兄妹は、もう大丈夫だ。この世界で、しっかりと生きていける、と。

ただ唯一、気がかりなこともある。

彼の戦友にして、背中を預けあってきた仲間に、自分の決意をどう説明するのか・・・


武蔵 (明日にでも、リョウに全てを話に行こう)


武蔵は心に決めた。

そして、確信する。

あいつだったら、俺の心を理解してくれるに違いない、と。

581 : 以下、名... - 2015/04/13 20:20:40.95 CXmdU8Od0 673/1284

・・・
・・・


公園


杏子 「あ、やっと来やがった!」


ベンチに腰を下ろしていた杏子が、私たちの姿を見つけて、眠気を押し殺した顔で食ってかかってきた。


杏子 「お前らな、いったいあたし等をどれだけ待たせれば気がすむのさ!」


そういう杏子の膝の上には、スヤスヤと寝息を立てている、ゆまの姿があった。

中学校からこの公園まで直接くる予定だった私たちに代わって、杏子が連れて来てくれていたのだ。


杏子 「見ろ。ゆまも待ちくたびれて、すっかり熟睡モードだ。邪魔くさいったら、ありゃしないぜ」


邪険に扱うそぶりを見せながらも、杏子はゆまの面倒を何くれとなく見てくれている。

口ではどうこう言ってはいても、やはり幼いゆまの事が気になって、捨ててはおけないのだろう。

杏子のこういう面倒見の良さは、どれだけの時間軸を隔てようとも、変わることはなかった。

582 : 以下、名... - 2015/04/13 20:21:54.52 CXmdU8Od0 674/1284

ほむら 「ごめんなさいね、佐倉さん。だけれど、それどころじゃなかったのよ」

杏子 「それどころじゃないって、いったい・・・あ」


ここで初めて、杏子は私たちの後をヒョコヒョコついて来た、あいつの存在に気が付いたのだった。


キュゥべえ 「やぁ、杏子」

杏子 「キュゥべえ・・・て、おい。いったい何があったんだ?」


この組み合わせに、ただならないものを感じ取った杏子が、詰め寄るように訪ねてくる。


ほむら 「・・・新しい魔法少女と会ったわ」

杏子 「・・・へぇ、そうかい」


杏子がギロリと鋭い目で、キュゥべえをにらみつける。

583 : 以下、名... - 2015/04/13 20:22:45.79 CXmdU8Od0 675/1284

もっとも、どんな視線もどこ吹く風のキュゥべえは、まったく意に介さずノホホンほほんとした態度を崩さないけれど。


キュゥべえ 「なんだい、杏子」

杏子 「やっぱり見滝原でも、何やら企んでるようだな、お前。風見野でみたいに、ここをバーゲン品で溢れさせるつもりかよ」

キュゥべえ 「僕にも考えがあってやってることなんでね、企むとか人聞きが悪い言い方はやめてほしいな」

杏子 「ほざくなよ。お前は聞かれたことだけ答えりゃいいんだよ」

キュゥべえ 「まぁ・・・今日、ほむら達が会った魔法少女は、バーゲン品なんかじゃなかったけれどね」

杏子 「あん?」

ほむら 「・・・」

キュゥべえ 「予想もしなかったんだよ。あの子があそこまで有能だったなんてね。バーゲン品の山から見つけ出された、そうだね、言うなれば・・・」


キュゥべえ 「彼女の事は掘り出し物、と呼ぶべきだよね」


ほむら 「・・・っ!!」


私の友人を、物みたいに!

思わず銃を引き抜き、奴の脳天に風穴を開けてやりたい衝動に襲われる。

584 : 以下、名... - 2015/04/13 20:23:45.77 CXmdU8Od0 676/1284

だけれど・・・


竜馬 「落ち着け」

ほむら 「わ、わかってるわ、リョウ・・・」


竜馬に制されるまでもなく、分かってはいる。

ここでこいつ一匹殺したところで、まったく意味がないなんてことくらい。


杏子 「掘り出し物って、どういう意味だよ」

ほむら 「さっき会った魔法少女の名前は、志筑仁美・・・」

杏子 「え・・・?」

ほむら 「私やまどかのクラスメイトよ」

杏子 「な・・・」


一瞬絶句した後、疑問に満ちたまなざしを私に向けてくる杏子。

なにを言いたいのかは、手に取るようにわかった。

だって、少し前の竜馬と同じ顔をしているのだもの。

だから私も、竜馬にしたのと同じ説明を繰り返し、杏子に聞かせる。

585 : 以下、名... - 2015/04/13 20:25:42.13 CXmdU8Od0 677/1284

杏子 「適性がなかったのに、魔法少女に?そんなことがあり得るのか?」

ほむら 「ありえないから、驚いているのよ。それで、こいつに納得のいく答えを聞かせてもらおうと思って、ね」

竜馬 「ここまで連れてきたってわけだ」


三人の視線が一つに交わり、キュゥべえへと注がれる。


キュゥべえ 「ああ・・・、どうして志筑仁美に適性がないと言い切るのかと思ったら、暁美ほむら。君は・・・」

ほむら 「・・・」

キュゥべえ 「この時間軸の人間ではなかったんだね」

ほむら 「・・・白々しい」


私は今回の時間軸では、仲間たちに別の時間軸から来たことを秘密にしていない。

で、あれば。

どこにでも存在できるキュゥべえが、私たちの会話を通して、この事を知らないはずなどないのだ。

586 : 以下、名... - 2015/04/13 20:26:34.99 CXmdU8Od0 678/1284

キュゥべえ 「で、君がどれほどの時間を遡行してきたのかは知らないけれど、いずれの時間軸においても、志筑仁美が魔法少女となることはなかった。そう言うんだね」

ほむら 「それだけじゃない。さっきも言ったけれど、志筑仁美はお前を認識できていなかった。それはつまり、適性を持たないことの何よりの証拠」


だから、仁美のことはノーチェックだったのだ。


キュゥべえ 「・・・なるほどねぇ。ところでほむら」

ほむら 「・・・なに?」

キュゥべえ 「魔法少女の適性って、どうやって決まっていると思うかい?」

ほむら 「・・・え?」

キュゥべえ 「今までの時間軸において、君が見てきた志筑仁美には適性がなかった。その観察眼は正しいよ。僕も従来通りであるなら、彼女に声などかけはしなかっただろうから」

ほむら 「ど、どういうこと?」

キュゥべえ 「僕はね、今。この星に来て初めて、計画の立て直しに迫られているんだよ。僕の目的も、暁美ほむら。君は知っているんだろう?」

ほむら 「私たち魔法少女が絶望し、魔女になる際に発せられるエネルギーを回収すること・・・」

キュゥべえ 「そう・・・」


奴の話は続く・・・

587 : 以下、名... - 2015/04/13 20:28:20.21 CXmdU8Od0 679/1284

・・・
・・・


この宇宙を存続させるためのエネルギーを入手すること。それこそが、僕たちの唯一にして最大の目的だ。

だから、そのためにエネルギーの元となる魔法少女には、それなりに素質がある子を選ばなくては、効率が悪い。

なぜなら、せっかく魔法少女になってくれても、魔女となる前に戦死されてしまっては、エネルギーを回収し損ねてしまう事になるからね。

君たち魔法少女には、程よく成長してもらって・・・

そして、程よく絶望してもらわなければ困るんだよ。


と、なると。


魔法少女となるべき人材は限られてくるよね。

実際、君たちや鹿目まどか、美樹さやかほどの素質を持った少女は、なかなかレアな存在なんだ。

誇って良いことだよ。

588 : 以下、名... - 2015/04/13 20:29:33.55 CXmdU8Od0 680/1284

・・・
・・・


杏子 「まだるっこしいな。イライラしてくる・・・」

ほむら 「まったくだわ。ねぇ、お前。いったい、何が言いたいの?」

キュゥべえ 「分からないかな」


キュゥべえが、やれやれとでも言うように首を振った。


キュゥべえ 「つまり、資質にさほど拘らなければ、魔法少女のなりては幾らでもいるという事だよ」

ほむら 「え・・・」


投げつけられたのは、予想外の言葉だった。

どういうこと?

理解ができない。


ほむら 「それって、どういう・・・意味・・・?」

キュゥべえ 「どうしたんだい、暁美ほむら。やけに察しが悪いじゃないか。君はもっと、頭の良い子だと思っていたんだけれど・・・」


おそらく・・・

私も本当は、奴の言うことを理解している。

だけれど、拒むのだ。

私の心が。

キュゥべえの言うことを認められない、信じたくない、と。

589 : 以下、名... - 2015/04/13 20:30:59.07 CXmdU8Od0 681/1284

しかし・・・


竜馬 「なるほど、質より量・・・て、わけか」

キュゥべえ 「一歩引いた立場の君は、さすがに冷静だね。そう、竜馬の言う通りだよ」

ほむら 「・・・っ!」


竜馬の言葉が、私の心に、受け入れがたい事柄が事実であることを認めさせてしまった。


キュゥべえ 「僕はね、計画を立て直すにあたって、今までの方針を転換させることにしたんだ」


それは、キュゥべえのさじ加減ひとつで、魔法少女になれるもなれないも決まってしまうという・・・


キュゥべえ 「今の僕にとって重要なのは、魔法少女の絶対数を増やすこと。それこそが、もっとも効率の良い方法へと変わったんでね」


厳然たる事実・・・!


キュゥべえ 「引き下げたんだよ、基準を。志筑仁美程度の資質でも、僕の存在を感じ取れるようにね」


ほむら 「こ、こいつ・・・!」

594 : 以下、名... - 2015/04/14 22:30:35.67 8DiIMnPJ0 682/1284

・・・私は、見てきたのだ。

たくさんの少女たちが、魔法少女となって人生を狂わせた、そのなれの果てを。

その陰では、どれほどの涙が流されてきたのかも、私は知っていた。

だけれどそれは、資質を持った者がキュゥべえの甘言に踊らされた結果でもある、と。

あくまでも、自業自得であると。

そう思えればこそ、冷徹に自分を保つこともできていたのに・・・!


ほむら 「お前はいったい、どこまで私たちの命を弄べば気が済むの!?」

キュゥべえ 「・・・ほむら。君は何を怒っているのかい?まったく意味が分からないよ」

595 : 以下、名... - 2015/04/14 22:31:46.68 8DiIMnPJ0 683/1284

ほむら 「けっきょく、魔法少女になるもならないも、全部がお前の手の平の上だったって、そういうわけね!?」

キュゥべえ 「それは責任転嫁が過ぎるんじゃないかな。僕は一度だって、強制的に契約を結んだことなんてないよ」

ほむら 「結ぶように、事を運んできたんじゃない!いま聞いた、資質の事だって・・・」

キュゥべえ 「選択の幅を広げただけさ」

ほむら 「・・・っ」ぎりっ


抑えがたい口惜しさから、私は無意識に唇を噛んでいた。

たちまち口の中に、生暖かい鉄の味が広がる。


キュゥべえ 「もっとも、さっきも言ったけれど、志筑仁美は嬉しい誤算だった」


口に入りきらなかった血は滴となって、足元にポタリポタリと滴り落ちていった。

だけれどキュゥべえは、私の様子などには、お構いなしに話しを続けている。

奴にとっては、私の憤りも、腸が煮えくり返るほどの怒りも、その他のどんな感情も・・・


キュゥべえ 「知っての通り、魔法少女の強さは、もともとの資質プラス、どのような願いでソウルジェムを輝かしたのか。その二点で決まる・・・」


指先ほどの興味も持ってはいないのだろう。

596 : 以下、名... - 2015/04/14 22:33:03.12 8DiIMnPJ0 684/1284

キュゥべえ 「よほど想いが深かったのだろうね。資質面では大きく劣る仁美だけれど、想いの力だけで君たちにも迫る力を持つに至った」

ほむら (こいつ、殺してやろうか・・・)


胸に湧き上がってきた、先ほどとは比べ物にならないほどの、純粋な殺意。

目の前のこいつを殺したところで、何の意味もない。

そんな、理性では十分に理解している事実を、私の感情が否定する。

理屈なんか、どうでも良かった。今はただ、キュゥべえを血の海に沈めてやりたい。

刹那的な衝動に突き動かされるように、奴に向かって一歩を踏み出そうとした、その時。


ポン・・・と。


不意に肩を叩かれ、私はすんでのところで我に戻された。

597 : 以下、名... - 2015/04/14 22:34:44.52 8DiIMnPJ0 685/1284

叩かれた肩越しに後ろを向くと、そこはいつの間にやってきたのだろう。

杏子が、複雑な表情で私を見ていた。


ほむら 「あ・・・」


呟く私に、杏子はただ首を横に振るのみ。


ゆま 「え・・・あれ・・・」


ベンチでは、いきなり膝枕を失ったゆまが、目覚めたばかりの寝ぼけ眼で、こちらを見ている。


ゆま 「きょーこ・・・あれ・・・あれぇ、どうしたの・・・?」

杏子 「なんでもねぇ。お前はそこで、少しおとなしく待ってろ」

ゆま 「う、うん・・・」

ほむら 「佐倉さん・・・」

598 : 以下、名... - 2015/04/14 22:35:49.73 8DiIMnPJ0 686/1284

杏子 「ゆまの前で無茶をするなと、あたしを諭したあんたが、我を忘れてどうするのさ」


ちょっと、キュゥべえと話をさせろ。

そう言った杏子は、私の前に出てキュゥべえと対峙する形となった。


杏子 「今日、ずっと考えていた疑問が一つ解けたぜ。おかげで多少、すっきりした」

キュゥべえ 「へぇ、それはどんなことを考えていたんだい?」

杏子 「あたしは風見野で、何人かの魔法少女の死にざまを見せられた。その中には、ちんけな使い魔に、なすすべなくやられちゃった奴もいてさ」

キュゥべえ 「・・・」

杏子 「ろくな資質もないやつを、何のサポートもなしに魔女の巣穴に放り込めば、ああなるのも当然だ。お前も酷なことをするよな」

キュゥべえ 「その頃は、まだ僕の計画の”実行者”が決まっていなかったのでね。増やした魔法少女を糾合できなかったのさ。やむを得ないよ」

竜馬 「その実行者とやらを、俺にやらせようとしたんだな。で、断った俺の代わりにお鉢が回ったのが、美国織莉子だった・・・」

キュゥべえ 「さぁ・・・」

599 : 以下、名... - 2015/04/14 22:36:39.83 8DiIMnPJ0 687/1284

杏子 「まぁ、良い。それで志筑って奴だけれど。想いの力だけで、私たちに迫る力を身に着けた・・・そう言ったな」

キュゥべえ 「そうだよ、杏子」

杏子 「だから言ったのかい、彼女は掘り出し物だったと、さ」

キュゥべえ 「そうさ。仁美は、そこいらのバーゲン品とはわけが違う」

杏子 「だったらさ、一つ聞きたい。いったいどんな願いを叶えれば、そんな力が得られるって言うんだ?」

キュゥべえ 「そこはプライバシーの問題があるから、本来は教えられないのだけれど・・・」

杏子 「もったいぶってるんじゃねーよ。お前にとって、あたしたちのプライバシーなんか、知ったこっちゃないんだろう?」

キュゥべえ 「そういうわけでもないけれどね。だけれど、ま、良いか。特にほむらは仁美を本気で心配しているようだしね」

ほむら 「・・・」

キュゥべえ 「仁美と契約を交わしたのは、昨日のこと・・・」

600 : 以下、名... - 2015/04/14 22:38:12.14 8DiIMnPJ0 688/1284

・・・
・・・


キュゥべえ 「志筑仁美。君の願いを叶えるのと引き換えに、君には魔法少女として魔女と戦ってもらうことになるけれど、それで良いんだね?」

仁美 「ええ。説明は織莉子さんからも聞きましたし、承知しましたわ」

キュゥべえ 「では、君はどんな願いで、その魂を輝かすのかい?」

仁美 「私の願いは・・・」


仁美 「私のお友達、美樹さやかさんと上条恭介くんが、この先も末永くお付き合いを続け、いつまでも二人で幸せに過ごしていくこと・・・」                 」


織莉子 「・・・え?」

仁美 「ですわ」

織莉子 「仁美さん、あなた・・・」

キュゥべえ 「・・・僕は、願いの内容に関しては干渉しない事にしているんだ。何を望むかは、君たち自身の問題なのだからね」

仁美 「・・・」

キュゥべえ 「だけれど、願いの強さは魔法少女の力量にも直接かかわってくる以上、敢えてもう一度だけ、聞かせてもらうよ」

仁美 「ええ」

キュゥべえ 「本当に、その望みが君の命を懸けるにふさわしい願い、なんだね?」

仁美 「間違いありまぜんわ」

601 : 以下、名... - 2015/04/14 22:39:36.77 8DiIMnPJ0 689/1284

キュゥべえ 「もし君が望むのなら、君自身が上条恭介と添い遂げることも可能なんだよ?」

仁美 「そんなことを望んで、いったい何の意義がありますの?」

織莉子 「自分の恋情よりも、友情を取ろうというのかしら?その気持ち、とても美しいとは思うけれど、でも・・・」

仁美 「そうじゃありませんわ」

織莉子 「では、どういった意味なの?」

仁美 「・・・さやかさんが上条君の心の隙間を埋めて差し上げた。その時点で、私の失恋は確定なんです。それを魔法の力で覆そうなんて、そんなの私の美意識が許しませんわ」

織莉子 「・・・」

仁美 「だけれど・・・!」

織莉子 「・・・っ!?」

602 : 以下、名... - 2015/04/14 22:40:32.70 8DiIMnPJ0 690/1284

だけれど、この先。もし、もしも!

万が一、お二人が破局して・・・

上条君が他の方と、お付き合いするようなことにでもなったら・・・

それだけは、絶対に認められませんわ!


私が負けを認めたのは、さやかさんだけ。

上条君が、他の方と契るような事でもあれば、私は二重に負けてしまうことになる。

認められない、そんなの認められるわけがない!


だから、お二人には終生まで添い遂げてもらわなければならないのです。

故に。

これは友情からくる願いなんかでは、決してありません。

どこまでも自分のための、利己的で身勝手な願い、なのですわ。

603 : 以下、名... - 2015/04/14 22:41:32.54 8DiIMnPJ0 691/1284

織莉子 「あ、あなたは・・・」

仁美 「そ・れ・に・・・」

織莉子 「・・・?」


それに、近い将来。

お二人が正式にお付き合いを続ければ、ほどなく男女の関係となるでしょう?

その先に迎えるであろう、結婚。さらには出産、子育て・・・最終的には、神の御許に召されるまで。


仁美 「お二人の幸せな人生のイベントの節目には、私の願いが必ず介在することとなる・・・うふふっ」

織莉子 (ぞくっ)

仁美 「もし私が死んでしまったとしても、私の想いは永久に消えず、お二人の人生とともに生き続けるんですのよ。素晴らしい、これはとても素晴らしいことなのですわ」

キュゥべえ 「・・・」

仁美 「ね、あなた方も、そう思うでしょう?こんな素晴らしい願い事、他にはありませんわ」

キュゥべえ 「・・・君の気持ちはわかったよ。では、その願いで、君のソウルジェムを輝かせるとしよう」

仁美 「ええ。これが私が私らしくあるために、何よりふさわしい願いなのですから・・・!」

604 : 以下、名... - 2015/04/14 22:42:52.10 8DiIMnPJ0 692/1284

・・・
・・・


キュゥべえ 「これが仁美が望んだ願いさ。まったくもって、僕には理解できない内容だけれどね」

ほむら 「・・・」


キュゥべえの話を聞き終えた私は、言葉を失ってしまった。

あの子がまどかやさやか達の前で見せる笑顔の影で、そこまで懊悩していただなんて。

私、全然気が付いてあげられなかった。


キュゥべえ 「この時、そばにはもう一人、魔法少女がいたんだけれど・・・」

杏子 「美国織莉子だな」

キュゥべえ 「そう。この時ばかりは、珍しく彼女とも意見が合ってね。織莉子にも、仁美の願いは理解の範疇に収まらなかったらしい」

杏子 「へぇ、織莉子はなんて言っていたんだ?」

キュゥべえ 「女の執念は恐ろしいって」

ほむら 「・・・」

キュゥべえ 「そういうものなのかい?」

杏子 「知るかよ。あたしは分かってやれるほど、人を好きになったことがねぇ」

605 : 以下、名... - 2015/04/14 22:43:52.67 8DiIMnPJ0 693/1284

キュゥべえ 「では、君はどうだい?暁美ほむら」

ほむら 「・・・」

竜馬 「暁美・・・大丈夫か?」

ほむら 「リョ、リョウ・・・」


私には分かる。

分かってあげられる。

仁美たちの立場を私とまどかに置き換えれば、簡単なことだった。

なのに、なのに私は・・・


ほむら 「また、また・・・また、私は理解してあげられなかった・・・」


私はどこまで、鈍感で人の心を見ることができないのだろう。


竜馬 「・・・」

606 : 以下、名... - 2015/04/14 22:45:55.59 8DiIMnPJ0 694/1284


・・・
・・・


その後。

もう、魔女退治なんて心境ではなかった。

今日はもう、引き上げよう。

そう決まった私たちは、キュゥべえをその場に残して帰路へと就いた。

この後は、解散するのか、どうするのか。

そこは何も決めていなかったけれど、何とはなしに。

みんなの足は、自然と私の部屋へと向いていた。

特に話すことはない。これからの方針といっても、やることは変わらない。

明日からはまた、ワルプルギス戦に向けてグリーフシード集めに精を出すだけだ。

だけれど、一つだけ。

私の心を重くする問題があった。

志筑仁美の事だ。

607 : 以下、名... - 2015/04/14 22:46:54.59 8DiIMnPJ0 695/1284

ほむら 「志筑さんの事だけれど・・・」


横を歩くリョウに問いかける。


ほむら 「まどかに、なんて言ったらいいのかしら」

竜馬 「・・・そうだな」


言ったきり、竜馬も口をつぐんでしまう。

すぐに答えがはじき出せるような問題ではない。当然のことだった。


ほむら 「まどか、きっと今もすごく心配してる。志筑さんが無事だったと、一刻も早く教えてあげたい・・・けれど・・・」


でも、彼女が魔法少女となってしまった事実は、どう話せばいいのか。

仁美とまどかは親しい友達だ。当然、何を願ってキュゥべえと契約したのか、まどかは知りたがるだろう。

それを知った時、まどかはさやかと上条恭介に、どんな感情を抱くのだろうか。


ほむら 「きっと、まどかは悲しむだろうと思うの」


あらゆることで。

そして私と同様。いえ、私以上に仁美と親しかったまどかだもの。

友達の苦しみに気が付いてあげられなかった、自分を責めてしまうのではないだろうか。

608 : 以下、名... - 2015/04/14 22:47:44.97 8DiIMnPJ0 696/1284

ほむら 「そんな想い、まどかにはして欲しくないの」

杏子 「正直に、言っちまえよ」


私の後ろをゆまと並んで歩いていた杏子が、私たちの会話に割り込んできた。


杏子 「志筑仁美とまどかは友達同士なんだろ。黙っていて、いざばれてしまったら、却ってまどかを悲しませるんじゃないか」

ほむら 「それは・・・そうかもしれない、けど」


正論だけれど、そんな簡単な問題じゃない。


竜馬 「佐倉の言う通りだが、問題は伝え方だな」

ほむら 「そうよね・・・」


答えなんか、出るわけもなかった。

609 : 以下、名... - 2015/04/14 22:49:16.18 8DiIMnPJ0 697/1284

沈んだ空気が、私たち一行の足取りをいっそう重くする。

けれども、歩みを止めなければ、いずれは目的地に着いてしまうもの。

気が付けば、私のマンションは、もうすぐ目の前に迫っていた。


ゆま 「あれ?」


今まで私たちの空気を読んで、ずっと静かにしていたゆまが、久しぶりに口を開いた。

何かに気が付いたのか、キョトンとした顔で、ある一点を指さしている。


杏子 「ゆま、どうした?」

ゆま 「お部屋の前に、だれかいるよ?」

ほむら 「え・・・?」


ゆまが指をさす方、私の住む部屋の玄関に・・・

確かに人影が一つ。ぽつねんと立っていた。

610 : 以下、名... - 2015/04/14 22:51:09.33 8DiIMnPJ0 698/1284

あの影、見間違うはずもない。


ほむら 「え、まどか・・・!?」


私の声が届いたのだろう。人影は顔を上げて私たちを見ると、慌てたように駆け寄ってきた。


まどか 「ほ、ほむらちゃん!」


そのまま、まろぶように私の胸へと飛び込んでくる。


まどか 「ほむらちゃん、助けて・・・!私、私!」

ほむら 「お、落ち着いて、鹿目さん。いったい何が・・・」


言いかけて、思わず言葉を飲み込む私。

私にすがり付き、子犬のように小刻みに体を震わせているまどか。

こちらを見つめる瞳は、真っ赤に充血しているし、まぶたも腫れぼったい。

間違いない、泣きはらした後の顔・・・

611 : 以下、名... - 2015/04/14 22:51:44.37 8DiIMnPJ0 699/1284

ほむら (ただ事じゃない・・・)

杏子 「おー、こいつがまどかかー・・・」

ゆま 「まどかかぁー」


もの珍しそうに、初めて見るまどかに無遠慮な視線を注ぐ杏子と、そのマネをするゆま。

だけれど、今はそんな二人にかまっている場合じゃない。


ほむら 「鹿目さん、助けてって?いったい、何があったの」

まどか 「ほむらちゃん、どうしよう・・・私の、私のせいで・・・っ!」


まどか 「マミさんがっ!!」

612 : 以下、名... - 2015/04/14 22:54:51.09 8DiIMnPJ0 700/1284

・・・
・・・


数時間前

マミのマンション

玄関内


マミ 「鹿目さん、お待たせ。久しぶりね、心配かけちゃってたかし・・・ら・・・」

まどか 「ま、マミさん!実は相談が、というか。助けていただきたいことがあって!」

マミ 「落ち着いて。えっと、その・・・」

キリカ 「・・・」

マミ 「?」


マミは後ろへ振り向くと、後からついてきた武蔵に小声で尋ねた。


マミ 「お兄ちゃん。訪ねてきたのは、鹿目さんだけじゃなかったの?後ろに、コート姿の変な子がいるのだけれど・・・」

武蔵 「・・・いや、俺が、マミちゃんを呼びに戻った時には、確かにここにいたのは、まどかちゃん一人だったぜ」

マミ 「・・・」


マミが再びまどかたちの方へ向き直る。

怪訝な顔で見つめていると、それに気が付いたキリカが、にっこりと笑いながら、ひらひらと手を振ってきた。


キリカ 「こんばんわ」

マミ 「こんばんわ・・・あなた、どなた?」

まどか 「え・・・!?」

613 : 以下、名... - 2015/04/14 22:58:34.30 8DiIMnPJ0 701/1284

マミ 「見ない顔だけれど、鹿目さんのお友達かしら?」

まどか 「え・・・え・・・?この人、マミさんの知り合いじゃないんですか?だって、さっき、私にそう言って・・・」

キリカ 「知り合いだよ。たった今、現在進行形で、ね」

まどか 「・・・!」


不意にキリカが動いた。

羽織っていたコートが宙に舞う。

その中から現れた姿は・・・


まどか 「え・・・」

マミ 「ま、魔法少女!?」

武蔵 「なっ!!」


それは一瞬の出来事だった。

614 : 以下、名... - 2015/04/14 23:00:13.24 8DiIMnPJ0 702/1284

まどか 「っ?!」

キリカ 「おーと・・・動かないでもらおうか」


鞭のように伸びたキリカのしなやかな腕が、しなるようにまどかの首へと絡みついている。

まさに刹那的に、まどかはキリカに捕えられていたのだ。


まどか 「え?な、な、なんなの・・・!?」


突然の出来事に、事態が把握できないまどか。


まどか 「は、離して・・・」


なんとか身をよじって戒めから逃れようとするが、非力な彼女があらがえる相手ではない。

むしろ、身をよじればよじるほど、絡みついた腕は、まどかの首へと深く食い込んでゆくのだ。


まどか 「ん、あぁ・・・」


気管を圧迫され、息を吸い込むことすら、ままならない。


キリカ 「ほっそい首。簡単にちぎれちゃいそう」

まどか 「くる、し・・・」

615 : 以下、名... - 2015/04/14 23:01:52.80 8DiIMnPJ0 703/1284

マミ 「ちょっと、なにをやってるの!その手を放して!」

武蔵 「こいつ・・・っ!」

キリカ 「おっと、動かないでもらうよ」


(ぎりぎり・・・ぎり・・・)


まどか 「うぁああ・・・あっ・・・」

キリカ 「巴マミも、そっちのお兄さんもね。じゃないと、力の加減が狂って、本当にこの子、くびちょんぱになっちゃうかもよ」


言いながらもキリカは、腕に込めた力を一切抜かない。

呼吸と血流をせき止められ、苦痛に喘ぐまどかの顔が、みるみると鬱血してゆく。


まどか 「あ・・・あ・・・」

マミ 「やめてっ!動かないから、だから止めて!鹿目さんが死んでしまう!」


マミの悲鳴にも似た声が、玄関内に響き渡った。

それを聞いたキリカが、やっと少しだけ。

まどかを締め上げていた腕から力を抜いた。

とたんに流れ込んでくる新鮮な空気の波に、肺が耐え切れずに盛大に急き込んでしまうまどか。


まどか 「うっ、かはっ!!こほこほっ、こほっ・・・!!」

616 : 以下、名... - 2015/04/14 23:02:50.95 8DiIMnPJ0 704/1284

キリカ 「動かない?ほんとだよ?私、約束を破る人は嫌いだからね」

マミ 「分かったから、鹿目さんから離れて!」

キリカ 「それはまだ、できない相談だよ」

マミ 「くっ・・・!私の名前を呼んだわね!という事は、私に用があるんでしょう!?」

キリカ 「ご名答」

マミ 「だったら、鹿目さんには用は無いはずよ!どうしてそんな、ひどいことをするのよ!」

キリカ 「だって、巴マミ。君は強い魔法少女なんだろ?」

マミ 「・・・!?」

キリカ 「私はそれ以上に強い魔法少女だけどさ。コトは可能なだけ、スムーズに運ばせる方が良いからってさ、私の大事な人が言っていたんだ」

マミ 「な、何が言いたいの・・・?」

キリカ 「要は、おとなしくついて来て欲しいんだよ。君に」

マミ 「そ、そのために鹿目さんを・・・」

キリカ 「拒んだり抵抗したりするの、大いに結構!ただし、その時はこの子がどうなるか。分かってると思うけど、試してみるかい!?」

まどか 「ま、まみさぁん・・・」

617 : 以下、名... - 2015/04/14 23:03:52.35 8DiIMnPJ0 705/1284

マミ 「あなたについて、どこへ行けばいいの・・・?」

キリカ 「来れば分かるよ」

マミ 「言う通りにするから、まずは鹿目さんを解放して」

キリカ 「だから、それはできないって。人質がいなくても、君が言うことを聞いてくれるって保証はないんだからね」

マミ 「---------っ!!!」


マミは混乱していた。

冷静に物事を考えることが、できなくなっていたのだ。

今はただ、まどかを。

かわいらしくて明るくて、無邪気なまでに自分を慕ってくれる。

そんな後輩を助けなくてはいけない。

呉キリカと名乗った魔法少女の目的が、どこにあるのか。

自分が付いていった先に、いったい何が待ち受けているのか。

普段のマミであったなら、冷静に見すえることができるであろう、物後の先の先。

今は、最重要なそれらの事も、思考の外でしかなかった。


武蔵 (危険だな・・・)


兄である武蔵には、マミが現在どのような心境におかれているのかが、手に取るようにわかっていた。

618 : 以下、名... - 2015/04/14 23:05:05.60 8DiIMnPJ0 706/1284

武蔵 (マミちゃん、まどかちゃんを助けたい一心で、周りが見えなくなっている。このままでは・・・)


意を決した武蔵が、一歩。

キリカの前へと足を踏み出した。


キリカ 「動くなって、言ってあったんだけどな」

武蔵 「俺が代わる」

キリカ 「?」

武蔵 「要は、魔法少女以外が人質となれば良いんだろ?俺はマミちゃんの兄だ。充分に人質の用は満たすはずだぜ」

まどか 「む、むさし、さん・・・・」

キリカ 「ふーん・・・」

武蔵 「・・・」


武蔵が、横に立つマミをちらりと見る。

マミも、若干ほっとした表情で武蔵を見返し、軽くうなづいた。

兄妹の間でのやり取りは、これだけで十分だった。


619 : 以下、名... - 2015/04/14 23:06:05.36 8DiIMnPJ0 707/1284

キリカ 「ま、良いけれど。だけれど、変な気は起こさないことだね。ほんと、どうなっても知らないから」

武蔵 「分かってるさ」

キリカ 「巴マミにも、言ってるんだけれど?」

マミ 「ええ」


そして。

武蔵はまどかと入れ違いにキリカへ囚われる形となる。


武蔵 「あまり、良い気分じゃないな、こりゃ」

キリカ 「お互い様だよ。可愛い女の子の代わりが、こんな太ったお兄ちゃんじゃ、ね」

武蔵 「がっしりしていると言ってほしいもんだな」

キリカ 「はいはいっと。そんじゃ、そろそろ行こうか」


キリカがマミに外へ出るように促す。

おとなしく、それに従うマミ。キリカと囚われの武蔵も、後に続く。

残されるのは、解放されたまどかのみ。


まどか 「ま、マミさんっ!武蔵さんっ!!」

キリカ 「あ、そうそう。この事、ダレかに言っても良いよ。それで」


キリカは懐から一枚の紙を取り出すと、それをヒラリとまどかの足もとに放ってよこした。


キリカ 「そのダレかに、それ。見せてあげてよ。それで、君の役目はおしまい」

まどか 「え・・・」

620 : 以下、名... - 2015/04/14 23:07:07.44 8DiIMnPJ0 708/1284

マミ 「・・・どういうつもり?」

キリカ 「そこから先は、私の大切な人から、全部話すよ。じゃあ、行こう」

まどか 「待ってっ!!」


立ち去ろうとする一行に、追いすがろうとするまどかだったが・・・


マミ 「鹿目さん。この子の言う通り、この事を暁美さんに・・・」


マミに制止され、その場に残される以外に成す術がなかった。

泣き出したい気持ちを懸命におさえ、足元の紙を拾い上げるまどか。

畳まれたそれを開いてみるとそこには・・・


「廃工場跡の魔女結界で待つ ゲッターロボへ」


それだけが書かれていた。


まどか 「ゲッターロボ・・・!?」


メモから顔を上げた時には、すでに。

まどかの前から三人の姿が、きれいに消え去った後だった。

627 : 以下、名... - 2015/04/17 22:42:06.93 hdVtNSX/0 709/1284

・・・
・・・


話を聞き終えた私は、たまらずまどかへと駆け寄った。

首元を確認すると、そこにはくっきりと赤く、キリカの腕の跡が残されていた。

苦しかったろうに、怖かっただろうに・・・

だけれど・・・


ほむら 「まどか・・・っ」

まどか 「っ」

ほむら 「無事で、無事で・・・本当によかった・・・!」


安堵から湧き上ってくる感情を抑えられず、私は思わずまどかに抱き付いていた。


まどか 「うぇひっ、ほむらちゃん!?」


たちまち全身を通して伝わってくる、暖かなまどかの温もり。

この暖かさが最悪の場合、呉キリカによって奪われていたかもしれなかったのだ。

628 : 以下、名... - 2015/04/17 22:44:26.75 hdVtNSX/0 710/1284

ほむら 「・・・」


私の体の表面が暖かな温もりで満たされるのと打って変わり、心の奥底からは怜悧な感情が湧き上がってくる。

それは例えようもない、怒り・・・だった。

まどかを怖がらせ、苦痛を与え、巴マミに言う事を聞かせるための道具として利用しようとした。

絶対に。絶対に、許されることじゃない!

呉キリカも、キリカの糸を操っている美国織莉子も。

絶対に許されない・・・!


まどか 「ほむらちゃん・・・」

ほむら 「・・・」


怒りに震える私の様子に気が付いたのか。

まどかがそっと、私の腰へと手をまわしてきた。

そのままキュッと、私の事を抱きしめる。


ほむら 「ほむっ!?」

629 : 以下、名... - 2015/04/17 22:46:19.02 hdVtNSX/0 711/1284

まどか 「ありがとね。私は大丈夫だよ」

ほむら 「ま、まどか・・・」

まどか 「だから、そんなに怖い顔をしないで?」


・・・やっぱり、まどかはすごい。

たったそれだけの事なのに。

沸き立った私の心には、凪いだ水面のような穏やかさが戻ってきた。


ほむら 「・・・うん」

まどか 「それで、これ・・・」


私から離れると、まどかは一枚の紙片を取り出した。

開いて、みんなに見えるように掲げる。


竜馬 「ゲッターロボ・・・」

まどか 「私には何のことか分からないけど、お願い!マミさんを助けて!」


まどかが、懇願するように私たちを見つめまわす。

630 : 以下、名... - 2015/04/17 22:47:33.24 hdVtNSX/0 712/1284

まどか 「マミさんも心配だし、マミさんのお兄さんが、私の身代わりに・・・もし、お兄さんに何かあったら、私」

竜馬 「大丈夫だ、鹿目」


竜馬がまどかの肩をポンッと一回、軽く叩いた。


竜馬 「巴マミは心配だが、武蔵の事は気にするな。俺たちにとっちゃ、この程度の修羅場なんざ慣れっこだ」

まどか 「流君・・・」

竜馬 「あいつは自分から鹿目の身代わりを買って出たんだろう?だったらお前が責任を感じる必要はない」

まどか 「え、でも・・・」

竜馬 「大丈夫なんだ。理屈抜きで、俺には分かる。絶対に平気だ。自分の身も、妹の事だって、武蔵は平然と守って見せる。奴はそんな男だ」

まどか 「う、うん、うん・・・!」


力押しの慰めだけれど、竜馬の理屈抜きの仲間に対する信頼感は、事情を知らないまどかをも納得させる説得力があった。


まどか 「お願い、流君・・・!」

竜馬 「任されたぜ」

杏子 「おい、早く行こうぜ。こうしている間にも、マミは・・・」

ほむら 「分かってる。鹿目さん、あなたは家に帰って」

まどか 「・・・」こくり


無言で一つ、頷いて見せるまどか。

631 : 以下、名... - 2015/04/17 22:48:48.29 hdVtNSX/0 713/1284

・・・よし。

美国織莉子。

この時間軸での彼女が、何を考え、何を狙って活動しているのかは知らないけれど。

このような強攻策をとってきた以上、私たちとの決着を今夜、つけるつもりなのだろう。


ほむら (のってやろうじゃないの)


私たちには目的のため、成すべき事がある。

織莉子たちに割く時間なんて、本当は無いのだ。

今夜、この時間軸での織莉子との関わりをすべて、終わらせてやろう。


まどか 「ほむらちゃん」


指定された場所に向かおうとする私を、まどかが遠慮気味に呼び止める。


まどか 「仁美ちゃんの事なんだけれど・・・」

ほむら 「巴マミの事は必ず私たちが助けるから、安心して」

まどか 「あ・・・うん」


まどかの問いをあえて無視して、私たちはその場を後にした。

おそらくこれから向かう場所には、志筑仁美も現れるに違いない。

その結果がどうなるのか、今の私には分からない。

だけれど・・・


ほむら (敵にまわるというのなら、打ち砕くのみだわ・・・)


それがたとえ、まどかの大切な・・・

そして、私が得た、新しい友達だっととしても。

632 : 以下、名... - 2015/04/17 22:52:03.54 hdVtNSX/0 714/1284

・・・
・・・


指定された廃工場に向かいながら、私は考えていた。

呉キリカが、最初に人質にしたのはまどかだった。

では、どうしてまどかは無事に解放されたのだろう。

殺そうと思えば、赤子の手をひねるよりも簡単に、まどかは血の海へと沈められていたはずだ。

だけれど、キリカはそうはせず、あっさりと武蔵との人質交換に応じたという。


ほむら (やっぱりだわ)


おそらくそうだろうとは踏んではいたが、今回の出来事が一つの仮定を確信させてくれた。

この時間軸での美国織莉子の未来予知は、まどかの正体にまでは届いていない。

633 : 以下、名... - 2015/04/17 22:52:57.60 hdVtNSX/0 715/1284

ほむら (考えようによっては、今夜は好機だ)


今は届いていなくても、この先いつか、織莉子の予知がまどかの正体を暴いてしまうとも限らない。

いや、きっと。おそらく遠からずの内に、その日はやって来るに違いないのだ。

だとしたら私は、まどかの身に危険が及ぶ事態となる、その前に。

不安の芽を摘んでしまわなければならない。

それは、つまり・・・


ほむら 「・・・」

杏子 「くそ、マミの野郎・・・」


思索に沈んでいた私の意識が、杏子のつぶやきで現実へと戻された。


杏子 「くそっ、くそ・・・」


吐き捨てるように、それだけを繰り返し続ける杏子。

634 : 以下、名... - 2015/04/17 22:57:54.93 hdVtNSX/0 716/1284

ほむら 「佐倉さん」

杏子 「マミの奴・・・あれから一週間もたつってのに、きっとまだ、腑抜けてやがったんだ。でなけりゃ、誰が相手だろうと、やすやすと言いなりになんて・・・」

ほむら 「・・・」

竜馬 「そうとも言えんだろう」

杏子 「なんだよ。その場にいなかったお前に、何が分かるってんだ」

竜馬 「まぁ、分からんが・・・」

杏子 「だったら、よけいな口、はさんでくるんじゃねぇよ」

ほむら 「ちょっと、佐倉さん。リョウにそんなこと言ったって、仕方がないでしょう」 

杏子 「・・・ちっ」

竜馬 「巴マミの事は分からないが、兄貴の事だったら、誰よりもよく知っているつもりだぜ」

杏子 「あん?」

竜馬 「武蔵の奴、おそらくはただ単に、鹿目の身代わりになっただけ・・・なんてことはないと思うんだがな」

ほむら 「それって、もしかして武蔵さんはわざと敵の手の内に乗ったって、そういう事?」

竜馬 「何の力もない女の子ひとり救えるんだ。悪い手じゃないだろう?」

ほむら 「ええ、おかげでまどかは助かった。だけれど・・・」

竜馬 「だが、武蔵だって馬鹿じゃない」

杏子 「?」

竜馬 「何の勝算もなく、ただ身代わりになんて手、仮に妹が腑抜ていたのなら、絶対にとらないはずさ」

杏子 「あ・・・」

竜馬 「敵さんは、武蔵という男の人となりを、何も理解していねぇ。そういうこった」

635 : 以下、名... - 2015/04/17 23:02:26.89 hdVtNSX/0 717/1284

・・・
・・・


廃工場跡

魔女の結界前。

キリカに自由と生殺与奪権を握られた武蔵は、大人しく指示に従って、この場所へとたどり着いた。

少し離れて、後ろからはマミも付いて来ている。

少しでもおかしな動きを見せたら、武蔵の命はない。

そう釘を刺されている以上、今のマミには唯々諾々とキリカの言うことに従う以外に成す術がなかった。

しかし、実のところマミは、そう現状を悲観してはいなかった。

むしろ、武蔵の機転によって、まどかを危険な目に会わせずに済んだことに心からホッとしていたほどだ。


マミ (お兄ちゃん・・・)


マミは武蔵を無条件に信頼していた。

636 : 以下、名... - 2015/04/17 23:04:42.82 hdVtNSX/0 718/1284

目の前の少女が仮にどれほどの手練れであろうと、自分と武蔵が揃っている以上、後れをとる事などありえないと確信していたのだ。

では、どうして反撃もせず、こんな人気のない場所まで、言いなりとなってついてきたのか。


マミ (この子を動かしている、頭となる者がいる)


キリカが言っていた”私の大切な人”。

その者こそが、人質をとってまで自分をこのような場所まで連れ出すように指示を出した、張本人に違いない。


マミ (その人を叩いてしまわない事には、問題は解決しないわ)


去り際にキリカが落していった紙切れ。

何が書いてあったのか窺い知ることはできなかったけれど、今ごろはそれを持って、まどかがほむら達の所へと走っているはずだった。


マミ (間もなく暁美さんたちが来てくれるに違いない。それまでに、何とかしてこの人たちの目的を探らないと・・・)


そんな事を考えている間も、新たな指示がキリカから飛ぶ。


キリカ 「さー、着いた着いた。さ、これから結界の中に入るよ」

637 : 以下、名... - 2015/04/17 23:08:27.04 hdVtNSX/0 719/1284

マミ 「・・・魔女退治でもするつもり?」

キリカ 「そうなるね。もっとも、魔女を倒すのは私たちじゃないけれど」

マミ 「・・・?」

キリカ 「それも含めて、答えはこの結界の中にある。私たちの目的、君たちに何をさせたいのか。知りたかったら、ほら。ちゃっちゃと入る」

マミ 「・・・」

武蔵 「今は、従おうぜ」


行こう、マミちゃん。この子の糸を操っている奴の面、拝ませてもらいに、さ。

そこで、目にもの見せてやろうぜ。


振り返った武蔵の目が、そう語りかけていた。

マミは頷く。

今の兄妹に、言葉など必要ではなかった。

638 : 以下、名... - 2015/04/17 23:12:42.78 hdVtNSX/0 720/1284

・・・
・・・


魔女結界の中。

キリカにせっつかれ、今は従うしかないマミたち兄妹は、ただ黙って奥へ奥へと足を運んでいた。

だが、マミはすぐにある違和感に気がつく。


マミ (おかしいわ・・・)


魔女の支配する結界内に無数に存在するはずの、使い魔の姿が一体も見当たらないのだ。

だが、目を凝らしてよく見ると、そこかしこに、何やらの残骸が散らばっているのにも気がつく。

マミは即座に、その残骸の正体を見抜いた。


マミ (・・・使い魔の・・・残骸)


それも、広範囲にわたって、おびただしい数が散乱している。


マミ (まさか、ここの使い魔って、もしかして・・・)


すべて、倒されてしまっている?

マミは自分が導き出した仮定に、背筋が凍りつくのを感じていた。

639 : 以下、名... - 2015/04/17 23:14:37.73 hdVtNSX/0 721/1284

その仮定が正しいのだとしたら、この結界に先に入り込んでいるであろう人物・・・

キリカの糸を操る人物とは、どれほどの手練れなのだろうか。


マミ (想像するだけで、恐ろしくなってしまうわね)


そのような人が、自分にどのような用があるというのだろう・・・

だけれど、そのことに関しては、いくら考えても答えなど出るはずもない。当人に確かめるほかに、知る術はないのだ。


マミ 「・・・」


マミの思索が五里霧中に迷い込んでいる間にも、一行の足取りはどんどんと結界の奥へと進んでゆく。


・・・やがて。


開けた場所へとたどり着く、マミたち一行。

どうやらここが、結界の主である魔女の住処のようだった。

だというのに・・・

640 : 以下、名... - 2015/04/17 23:20:47.93 hdVtNSX/0 722/1284

マミ 「・・・えっと」

武蔵 「どうした、マミちゃん」

マミ 「ここが、結界の最奥。魔女の住処だと思うんだけれど、いないのよ。肝心の住人が」

武蔵 「気配は?」

マミ 「気配は・・・感じる、けど。とっても微弱・・・と言うか、か細い・・・」


魔女の気配を探りながら話していたマミは、自分のセリフをヒントにして、あることに気がついた。


マミ 「死にかけてる・・・」

武蔵 「だ、誰がだ!?」

マミ 「魔女よ・・・」

武蔵 「っ!?」

641 : 以下、名... - 2015/04/17 23:34:25.84 hdVtNSX/0 723/1284

マミ 「だから、襲いかかってこないんだわ」

キリカ 「正解。やはり君は目ざといよね」


だまって兄妹の会話を聞いていたキリカが、最後に答えを投げてよこした。


キリカ 「今は魔女ではなく、魔女の結界が必要なんだよ。殺してしまったら、結界も消滅してしまうからね。死なない程度に、死にかけてもらったのさ」


そう言って、ある場所を指さす。

そこにいたのは、一人の少女。

ドレスのような丈の長い服をまとい、優雅なたたずまいでこちらを見ている。

そして、少女の後ろには・・・


マミ 「魔女・・・」


重傷を負い、すでに抵抗力をなくした魔女が、静かに身を震わせながら横たわっていた。

放っておけば、ほどなく息絶えてしまうであろう魔女を、とどめも刺さずに首の皮一枚で生かしておいているのだ。


武蔵 「なんてことを・・・」

マミ 「いくら相手が魔女だからって、むごい・・・」

642 : 以下、名... - 2015/04/17 23:37:11.53 hdVtNSX/0 724/1284

キリカ 「へぇ、魔女を狩って生きている魔法少女のくせに、魔女に同情なんかしちゃうんだ?」

マミ 「無駄に苦しませるような、趣味の悪い遊びをして、喜んだりした覚えはないわよ」

キリカ 「別に遊んでるわけではないけどさ。意味があってやっていることだと、さっきも言っただろう。・・・あ、そうか」

マミ 「・・・?」

キリカ 「君は、あれだ。魔女の正体を知っているんだ。だから、そういう風に憐みの目で魔女を見られるんだね」

マミ 「・・・っ!」

武蔵 「お前!」

キリカ 「さて、これ以上の話の続きは、織莉子としてよ。もともと私は、織莉子いがいと話をするの、好きではないんだ」


激高したマミと武蔵をよそに、キリカは一方的に話を打ち切ると、向こうに立つ少女・・・織莉子に向かって手を振った。


キリカ 「織莉子!巴マミ、連れてきたよ!」

織莉子 「・・・」


キリカの呼びかけを合図に、織莉子がこちらへと歩を進めてきた。

しずしずと。穏やかな歩調で。

しかし、見た目の立ち振る舞いとは裏腹に、彼女が近づくにつれて感じられるのは、織莉子と呼ばれた少女から発せられる、ある種の圧力。

まるで重力が意志をもって、マミたちの上から圧し掛かってくるかのよう・・・

643 : 以下、名... - 2015/04/17 23:40:18.04 hdVtNSX/0 725/1284

武蔵 「ただものじゃないな・・・」

マミ 「ええ・・・」

武蔵 「あの子が、キリカ。君のボスっていうワケか」

キリカ 「違うよ。友達さ。私の大切な、ね」

武蔵 「そうかい」


武蔵がマミを後ろ目に、チラリと見る。

合図だ。

敵の親玉が出てきた。ここでこれまでの形勢を逆転させてもらおう。

武蔵の無言の問いかけを、マミは正確にキャッチしていた。

頷いて、武蔵が動くのを待つ。


マミ 「・・・」

武蔵 「今だっ!!」


武蔵が身を沈ませたのは、掛け声を発するのと同時だった。

644 : 以下、名... - 2015/04/17 23:45:00.55 hdVtNSX/0 726/1284


その幅の広い体躯からは想像もできない素早さでキリカの腕から逃れると、その腕をつかんでクルンと体を回転させる。

とたんに、ふわりと宙に放り投げられるキリカの身体。


キリカ 「え・・・!?」


何が起こったかを把握する前に、キリカはしたたかに地面に叩きつけられていた。


キリカ 「かはっ」


いきなりの事で、受け身をとる暇すらなかった。

叩きつけられたショックが背骨を軋ませ、呼吸をすることすらままならない。


キリカ 「くふっ、ど、どうして・・・」

武蔵 「俺をデブだと思って侮っていたんだろうが、東葉高校柔道部主将、巴武蔵をなめるなよ!」

キリカ 「こんなデブに・・・スピードで、私が、後れをとる、なんて・・・」

武蔵 「俺はあいにく、動けるデブなんだよ!」

キリカ 「反則だよ、それ・・・」

武蔵 「何とでも言え!さぁ、ここからは反撃の時間だ!」

652 : 以下、名... - 2015/04/21 22:51:55.73 92sOFC4L0 727/1284

マミ 「お兄ちゃん、その子を押さえつけておいて!」

武蔵 「任せろ!力押しならなおの事、俺はだれにも後れをとらないぜ!」

マミ 「良かった、これで・・・」


心おきなく、変身できる!

マミはソウルジェムに意識を集中させると、魔法少女へと変身を遂げた。

すかさずマスケット銃を召還すると、その銃口を一点へと向ける。

標準の先にいるのは、仲間が倒されたにもかかわらず、平然とこちらへと歩み寄って来る美国織莉子。


マミ 「動かないで」

織莉子 「・・・」

マミ 「手荒な真似はしたくない。だけれど、あなたが言うことを聞いてくれなくては、この子に怪我をしてもらわなくちゃならなくなるかも知れないわ」

653 : 以下、名... - 2015/04/21 22:53:53.50 92sOFC4L0 728/1284

織莉子 「あら、意外」


口ぶりとは裏腹に、まったく何の感情も表さない声で織莉子が言う。


織莉子 「あなたは人質をとるような卑劣な真似、嫌いなタイプだと思っていたのに」

マミ 「それをあなたが言うわけ?」

織莉子 「まぁ、それもそうね」

マミ 「私だって、好きなはずないじゃない。だけれど、私はここであなたたちに良いようにされる訳にはいかないの」

織莉子 「・・・」

マミ 「何がしたいのか、教えてもらいましょうか。そのためだったら私は、なんだってやって見せる」

織莉子 「一皮むけたみたいね、巴マミ。今まで通りの甘いあなたでいてくれた方が、こちらとしては組しやすかったのだけれど・・


話しながらも、織莉子の歩みは止まらない。

654 : 以下、名... - 2015/04/21 22:55:15.69 92sOFC4L0 729/1284

マミ 「動かないでと言っているのに!」


マミは、一発。銃弾を放った。

狙うは織莉子の足もと。いきなり本人に命中させるつもりはない。

まずは威嚇を行うつもりだった。


織莉子 「・・・」


だけれど。

自分の足もとが銃痕にえぐられても、織莉子は平然としたまま、足を止めようともしない。


マミ 「え・・・」

織莉子 「あなたの弾は当たらない」

655 : 以下、名... - 2015/04/21 22:57:19.14 92sOFC4L0 730/1284

マミ 「お、脅しじゃないのよ!」


もう一発、足もとに向けて撃つ。

だが、それに対しても織莉子は顔色一つ、変える事すらしなかった。


織莉子 「だから、言ってるでしょう。あなたの銃弾は、私には当たらない」

マミ 「ど、どうして・・・」

織莉子 「威嚇射撃は、もういいわ。さぁ、当てる気があるなら、本気でいらっしゃい」

マミ 「・・・っ!!」」


挑発に乗せられるように、マミは照準を織莉子の顔に定めた。

すでに両者の距離は指呼の間に迫っている。

狙って撃てば、絶対に外すはずがなかった。

656 : 以下、名... - 2015/04/21 22:59:13.55 92sOFC4L0 731/1284

だが・・・


マミ 「っ!!」


静寂に包まれた結界内に、再び。銃声が響き渡る。

しかし・・・

マミの放った銃弾は、織莉子の頬すれすれをかすめただけで、彼女に顔に傷一つ付けることはなかった。


マミ 「・・・」


マミが愕然としている間にも距離を縮め続けた織莉子は、ついにマミの目の前までたどり着いてしまった。

その様子をキリカを抑え込みながらも見ていた武蔵が、あきれたような口調で言う。


武蔵 「あんた、死ぬのが怖くないのか」

織莉子 「何度も言ったでしょう。巴マミの銃弾は、私には当たらない」

武蔵 「なぜ、そうと言いきれる?」

織莉子 「見えていたから。あらかじめ、ね」

武蔵 「・・・どういう意味d

織莉子 「それに・・・」

武蔵 「・・・?」

657 : 以下、名... - 2015/04/21 23:00:44.11 92sOFC4L0 732/1284

武蔵 「・・・?」

織莉子 「同じ魔法少女を撃つのに、冷徹になり切れない。甘さを捨てても、優しさまでは捨てられない。巴マミはそんな人だと、分かっていたから」

武蔵 「あんたさ、本当に、何者なんだよ」

織莉子 「さあ・・・?」

武蔵 「まぁ、良いよ。マミちゃんがどうあれ、俺の手元に人質がいることは、依然変わりがないんだ。言う事は聞いてもらうぜ。俺は妹と違って、マミちゃんを守るためだったら何だってやれる男だ」

織莉子 「・・・」

キリカ 「くふっ・・・くふふっ」


数分続いた呼吸困難から解放されたキリカが、武蔵の下からこもった笑い声をあげた。


キリカ 「まさか、人質として連れてきたお兄さんが、ここまで戦えちゃうなんてね。人質交換は失敗だったかな。ふふふ」

武蔵 「何がおかしい・・・?」

キリカ 「妹が大切なら、さ。今すぐ私を放して、おとなしくしておいた方が身のためだと思うよ」

武蔵 「こいつ、まだそんな減らず口を・・・」

キリカ 「ねぇ、二人とも。君たちは、私たちに気をとられすぎて、注意力が、さ・・・さ・・・えーと、なんだっけ」

織莉子 「散漫」

キリカ 「そう、サンマンになりすぎちゃってたようだね」

658 : 以下、名... - 2015/04/21 23:08:42.12 92sOFC4L0 733/1284

マミ 「え、ど・・・どういうこと!?」

キリカ 「周りに目を巡らせて、よく見てみるといいよ」

マミ 「え・・・?」


慌ててマミは、意識と視線を四方へと巡らす。

そして、あることに気がついて愕然としてしまった。

なぜ・・・なぜ今まで気がつかなかったのだろう。


マミ 「・・・お兄ちゃん。その子、放してあげて」

武蔵 「・・・理由は?」

マミ 「囲まれてる」

武蔵 「なんだって・・・?」


武蔵も顔を上げ、マミに倣って周囲を見回した。

そして、彼も気がつく。

結界内に散乱する遮蔽物の影という影から、こちらに狙いを定める幾つもの気配に。


キリカ 「君たちを狙う、多数の魔法少女。一斉攻撃の洗礼を無事乗り切る自信があるのなら、試してみるのも良いかもだけどさ」

武蔵 「参ったな」


武蔵にはお手上げというように両手を上げて、押さえ込んでいたキリカを解放するよりほかに、打てる手はなかった。

659 : 以下、名... - 2015/04/21 23:10:45.80 92sOFC4L0 734/1284

・・・
・・・


指定された廃工場跡。

確かにそこに、魔女結界の入り口はあった。


杏子 「この中に、マミ達がいるんだな。よし、とっとと入ろうぜ」

ほむら 「待って」

杏子 「なんだよ、早いとこ行かないとマミが・・・」

ほむら 「冷静になって、少し落ち着いて。見て、入り口を」

杏子 「なんだってんだ・・・ん・・・?」

ゆま 「あー、誰かいるね・・・?」

ほむら 「ええ。さしずめ、私たちを導くための案内役といったところじゃないかしら」

竜馬 「敵も粋なことをしやがるな。しかも、あいつは・・・」

ほむら 「・・・ええ」

竜馬 「志筑仁美か・・・」

660 : 以下、名... - 2015/04/21 23:13:02.24 92sOFC4L0 735/1284

杏子 「へぇ・・・あそこにいるのが、例の掘出し物って奴か」

ほむら 「その言い方はやめて。聞いていて、気分のいいものじゃない」

杏子 「知るかよ。お前のクラスメイトであれ、今はマミを誘らった奴の仲間なんだろう?敵に気をかけてやる言われはねぇよ」

ほむら 「・・・」


杏子の言い分も、もっともだ。

だから私は問答を切り上げ、皆の先頭に立って仁美へと、結界の入り口がある方へと向かうことにした。

あちらも、すでに私たちがやって来た事に気がついている。

声が届く範囲まで距離が縮まると、仁美は普段と変わらない柔らかい笑みを浮かべながら、ぺこりと一つ頭を下げた。


仁美 「お待ちしていましたわ、皆さん。暁美さん、流君。先ほどぶりですわね」

ほむら 「・・・」


普段と違う所があるとすれば、それは彼女が魔法少女の装いに身を包んでいるという、一点のみ。

その一点の違いが、とてつもなく大きいのだけれど・・・

661 : 以下、名... - 2015/04/21 23:15:31.23 92sOFC4L0 736/1284

仁美 「そして、お初にお目にかかる方には、初めまして。志筑仁美と申します」

ゆま 「はわわ・・・千歳ゆまです」

杏子 「こらっ、なにやってんだ、ゆま!」


つられて頭を下げたゆまを、杏子が叱りつける。


杏子 「なに、相手のペースに呑まれてるんだよ。あいつは敵だ。名乗ってやる必要なんざねぇっての!」

ゆま 「きょーこ・・・ご、ごめんなさい」

竜馬 「お前たち、ゲッターを使って何をしようとしている・・・?と、聞いても、志筑は答えてはくれないんだろうな」

仁美 「・・・ふふ」

竜馬 「だったら、とっとと行こうぜ。お前についていった先に、俺の問いに答えられる奴が待っているんだろう」

仁美 「察しが早くて、助かりますわ。それにしても、びっくりしましたわ。あの方が言っていたロボットに関わっているのが、まさか私のクラスメイトだっただなんて」

ほむら 「こっちだってビックリよ。あなたともあろう人が、あんな手段を択ばないような女の仲間になっているだなんて」

仁美 「選べる手段が限られているのなら、もっとも効果的な方法を選択する。それのどこがいけない事ですの?」

662 : 以下、名... - 2015/04/21 23:23:01.52 92sOFC4L0 737/1284

ほむら 「・・・美国織莉子がやろうとしていること、あなたはもう知っているのね?」

仁美 「ええ。私は私の大切な人が生きてゆく世界を、是が非でも守らなければならない。織莉子さんは、その指針を示してくれた、大切な人です」

ほむら 「・・・美樹さんや上条君の生きていく世界、ね」

仁美 「はい」

ほむら 「では、その中に鹿目さんは入っているの?」

仁美 「・・・なぜ、そこでまどかさんが出てくるんですの?」

ほむら 「答えて」

仁美 「まどかさんは大切なお友達。当然はいっているに決まっていますわ」

ほむら 「・・・」


あなたが盲信する美国織莉子がやろうとしている事は、最終的にはまどかの抹殺だというのに。

663 : 以下、名... - 2015/04/21 23:24:34.53 92sOFC4L0 738/1284

真実を伝え、仁美の目を覚まさせてやりたい。

だけれど、現時点で織莉子とつるんでいる彼女に伝えられるはずもなく、そんなジレンマが狂おしいほどにじれったかった。


杏子 「グダグダ言ってるなよ。私はお前の能書きにつきあう気はねぇ!とっととマミの所へ連れていきやがれ!」

仁美 「分かりましたわ。では、ご案内します。さ、こちらへ」


仁美はきびすを返すと、すたすたと結界の中へとその姿を消してしまった。

私たちも、その後を追う。

仁美の背中の向こう・・・

その先にいるであろう、決着をつけるべき相手の元へと向かうために。

669 : 以下、名... - 2015/04/29 23:15:37.23 BT+H8fEn0 739/1284

・・・
・・・


仁美に導かれるままに、使い魔の残骸が散らばっている通路を進む私たち。


仁美 「あ、そうそう」


道半ばで、何かを思い出したようにつぶやいた仁美が、おもむろに私に向かって左手を差し出してきた。


ほむら 「?」

仁美 「暁美さん、手をつなぎましょう」

ほむら 「・・・」

竜馬 「へぇ・・・こっちのことは、全部リサーチ済みってわけか」

仁美 「ふふ、私と暁美さんはお友達同士ですもの。手をつなぐくらい、普通のことでしょう」

ほむら 「・・・そうね」


人質をとられている以上、従うほかにない。

私は言われるままに、その手を取る。

・・・これで私は、手持ちのカードを一枚、失ってしまった。

670 : 以下、名... - 2015/04/29 23:16:39.33 BT+H8fEn0 740/1284

仁美 「では、行きましょう」


再び歩き始める仁美に、手を引かれ並んで歩く私。

その様子を後ろから眺めていた杏子が、呆れたような声を上げた。


杏子 「はぁーん・・・?あいつら、何やってるんだ?仲良しごっこかよ」

竜馬 「そうじゃない。敵に先手を取られたのさ」

杏子 「あ、どういう意味だよ、それ」

竜馬 「暁美の強みである時間停止の魔法だがな、暁美が触れている相手の時間は止めることができないんだよ」

杏子 「・・・は?」

竜馬 「敵さん、こちらの手の内は、知り抜いているらしいぜ。もっとも、情報の提供先は分かりきっているけれどな」

杏子 「・・・キュゥべえの野郎」

竜馬 「なんにせよ、これで時間を止めて敵を倒すなり、巴マミを救うなりといった、もっとも簡単な手は封じられてしまった事になる。歯がゆいがな」

杏子 「・・・構わないさ。どのみち、マミのことは私が助け出すつもりだったんだ」


かつて助けられた借りは、ツケを付けて返す。

小さくつぶやいた杏子の声は、私や仁美の元までは届かなかった。

671 : 以下、名... - 2015/04/29 23:19:48.72 BT+H8fEn0 741/1284

・・・
・・・


ほどなくして私たちがたどり着いたのは、大きく開けた空間だった。

そこは結界の最奥。ここの主である魔女が住みかとしている空間だ。

本来ならば・・・という但し書きが、今は付け足されるのだろうけれど。


ゆま 「あ、あれ・・・」


震えた声で、一点を指さすゆま。

彼女が示したのは、魔女の住処のさらに一番奥。

そこで、静かに巨体を横たえている者だった。

その者こそ・・・


ほむら 「この結界の・・・魔女・・・」

672 : 以下、名... - 2015/04/29 23:20:38.21 BT+H8fEn0 742/1284

ゆま 「し、死んでるの?」

ほむら 「いいえ、魔女が死んでしまっては、この結界が存在できない。生きているわ」


かろうじて・・・と、最後に付け足すことを忘れない。


杏子 「痙攣してやがる。虫の息だな、ありゃ。おい、ずいぶんえげつない真似をするじゃないか」

仁美 「意味があってしていることです。とやかく言われる筋合いではありませんわ」

杏子 「なんだと!」

竜馬 「やめておけ」


今にも仁美に飛びかかりそうな杏子を、竜馬が制する。


竜馬 「それよりも今は、巴マミの安否を確認するほうが先だろう。おい、志筑。巴マミはどこにいる?」

仁美 「慌てなくても・・・」


にっこりと微笑んだ仁美が、横たわる魔女のほうを指さす。

先ほどは、魔女の陰に隠れていて気が付かなかったけれど。

そこには確かに、複数の人影がうごめいていた。

673 : 以下、名... - 2015/04/29 23:24:06.94 BT+H8fEn0 743/1284

そう、複数・・・

距離が遠くてまだはっきりとはしないけれど、かなりの人数がいるようだった。


ほむら 「あれは・・・」


その一群の人影も私たちの到来に気がついたようで、こちらへと向かって歩き始めていた。

やがて。

距離が縮まるにつれ、はっきりとしてくる一人一人のシルエット。

その先頭を歩かされている者こそ・・・


ゆま 「武蔵おにいちゃん!」


いち早く気が付いたゆまが叫んだとおり、間違いない。巴武蔵その人だ。

そして、その横には、兄に寄り添うように歩く、マミの姿も。


ほむら 「・・・っ!?」


そして、何より私を驚かせたものは。

武蔵とマミの背後。

巴兄妹に武器を突き付けながら、同じくこちらへと歩いてくる少女たちの姿だった。

674 : 以下、名... - 2015/04/29 23:29:59.66 BT+H8fEn0 744/1284

ほむら 「魔法少女・・・」

竜馬 「あれ、全てがか。ざっと10人ほどはいるようだぞ」

ほむら 「間違いない。彼女たちの中央にいるのが、美国織莉子と呉キリカ・・・」

竜馬 「他は・・・?」

ほむら 「あとは分からない。初めて見る顔ばかりだわ。あれが、彼女たちが・・・」

杏子 「キュゥべえが急ごしらえした”バーゲン品”ってわけか」

ほむら 「織莉子が魔法少女を集めていることは聞いていたけど、こんなにたくさん集めていたなんて・・・」

仁美 「あら、ここにいるのは、ほんの一部ですのよ」

ほむら 「なんですって・・・!?」

仁美 「あまり大ぜいで来ても、邪魔になるだけですもの。必要なだけ、選りすぐって招集されたんですのよ」

ほむら 「あなたたち、本当に何を企んでいるの・・・?」

仁美 「それは織莉子さんから聞いてくださいな」


そうこうしている間に、魔法少女の一群は、会話のできる距離まで近づいていた。

675 : 以下、名... - 2015/04/29 23:34:55.30 BT+H8fEn0 745/1284

彼女たちが足を止めるのを待って、まず口を開いたのは竜馬だ。


竜馬 「武蔵、お前は何をやっとるか」

武蔵 「すまない、リョウ。みんなも。まさか向こうさんが、こんなに大勢だとは思いもよらなかったんだよ」

竜馬 「言い訳なんざ、聞きたくもない。お前ならどんな状況でも、巴マミを守りながら、どうにかしてくれるもんだと期待していたんだがな」

武蔵 「まったくもって面目ない」

杏子 「お前もだぜ、マミ。巴マミともあろう奴が、こんなペーペー共に、なに後れを取ってやがるんだ」

マミ 「ご、ごめんなさい」


竜馬に続いて、マミに文句を投げかける杏子。

それぞれ旧知の間柄の人に叱られて、かわいそうに巴兄妹はそろって肩を落としてしまった。


ほむら 「リョウも佐倉さんも言い過ぎよ。いくら相手が新人の集まりでも、これだけの魔法少女に武器を突き付けられては、言うことを聞く以外にはないもの。それに・・・」

織莉子 「・・・」

ほむら 「的確な指示を出すブレーン役がいるのだもの。組織立って襲い掛かられたら、少数のこちらが不利なのは仕方のないことだわ」


言いながら、美国織莉子をにらみつける。

676 : 以下、名... - 2015/04/29 23:37:50.11 BT+H8fEn0 746/1284

だけれど彼女は涼しい顔。私の刺すような視線なんか、微笑でもって受け流してしまう。


織莉子 「ふふ、状況を的確に掴んでいるようね。はじめまして、暁美ほむらさん」

ほむら 「ええ、はじめまして。美国織莉子」

織莉子 「私のことをご存じなのね。過去の時間軸で、私と会ったことがあるのかしら」

ほむら 「・・・ええ」

織莉子 「では、私が何をしようとしているのかも、ご存じ?」

ほむら 「いいえ。私の知っている美国織莉子は、こんな風に徒党を組むようなやり方を好む人ではなかったわ」

織莉子 「そう・・・では、その時間軸では少数で動くことこそが、最も効率の良い方法だったのでしょうね」

ほむら 「・・・」

織莉子 「いいわ。私がやろうとしている事は、すぐに分かります」


織莉子が言うのと同時に、キリカがすっと動く。

マミの横まで来ると、彼女の喉元に長い爪のような武器を突き付けた。


マミ 「・・・っ」

677 : 以下、名... - 2015/04/29 23:39:40.57 BT+H8fEn0 747/1284

キリカ 「動かないでね。マミも、そっちのみんなも」

杏子 「マ、マミ!」

キリカ 「動くなと言ったよ。なんだったら、三枚おろしにされた彼女を見せられるのがご希望かな?」

武蔵 「よ、よせ!!やるなら、俺をやればいいだろう!」

キリカ 「言われなくても、巴マミの次に手を下されるのは、君だよ。太ったお兄さん」

杏子 「てめぇ・・・!ぶっ殺してやる!!」

ほむら 「落ち着いて、佐倉さん!相手をあまり刺激しないで!」

杏子 「く、くそ!くそぉ!!」

キリカ 「大人しくしてくれてたら、別に危害は加えないよ。今のところは、だけれどね」

ほむら 「くっ・・・、織莉子!美国織莉子っ!そちらの狙いは何なの!?人質を取るような卑怯な真似なんかしないで、とっとと要件を言えばいいじゃない!」

織莉子 「人質・・・そう、人質。分かっているじゃない、暁美ほむらさん」

ほむら 「・・・え?」

織莉子 「そう、この二人は人質。二人の安全と引き換えに、あなたたちからある物を譲り受けたくて、ここまでこうしてお連れしたのよ」

ほむら 「ある物・・・それって、まさか」

678 : 以下、名... - 2015/04/29 23:41:13.95 BT+H8fEn0 748/1284

竜馬 「・・・ゲッターか」


思わずリョウと顔を見合わせてしまう。

これまでの話の流れ。まどかに託されたメモ。

それらから類推される答えは、ただ一つ。


竜馬 「・・・ゲッターロボを手に入れて、お前は何を成そうというんだ?」

キリカ 「それはこっちの問題。面倒くさいなぁ。君たちは言われたとおりに、こっちに従っておけば良いんだよ」

織莉子 「・・・いいえ、本来のゲッターの所有者である彼女たちには、知っておくべき権利と義務があるわ」


挑発的にこちらの疑問を封じようとするキリカを制して、織莉子が静かに首を振る。


織莉子 「私には、未来が見える・・・」


動作と合わせるような静かな口調の織莉子。

自信や覚悟の現れなのか。私たちや呉キリカとは異質の落ち着き払った態度は、静謐なる圧力となって、私たちの頭上から覆いかぶさってくるようだ。

重く息苦しい空気が場を支配する。


織莉子 「そして垣間見た未来の見滝原は、地獄へと変わり果てていた」

ほむら 「・・・」

織莉子 「災厄をもたらしたのは、ワルプルギスの夜。最大規模の破壊をもたらす、魔女」

679 : 以下、名... - 2015/04/29 23:50:29.49 BT+H8fEn0 749/1284

ほむら 「知っているわ。だから私たちは、その悲劇を回避するために行動している」

織莉子 「そうね。ワルプルギスの夜の惨劇は回避できる。見滝原を壊滅の淵から救い上げたものは、一体の巨大なロボット・・・」

竜馬 「・・・」

武蔵 「・・・」

織莉子 「ゲッターロボ」

ほむら 「見たの?見たのね、ゲッターがワルプルギスの夜を倒すのを」

織莉子 「ええ」

ほむら 「そ、そう・・・」


倒せる。ゲッターはワルプルギスに勝つことができるのだ。

未来を予知できる美国織莉子が、そう断言しているのだから。

だとするのなら、見滝原の街を・・・まどかを今度こそ守り通せるかもしれない。

幾度も繰り返した時のはざまで、いくら成し得ようとしても成し得なかった宿願が、この時間軸で叶うかも知れないのだ。

・・・こんな状況じゃなかったら、飛び上がって喜びたいほどの情報を得ることができた。

だけれど、その宿願も希望も、このままでは織莉子たちに摘み取られてしまうかもしれない。


ほむら 「だったら・・・」


今はまだ、喜びに身を任せる時間ではないのだ。


ほむら 「どうしてこんな真似を?あなたたちがゲッターを求めなくても、ワルプルギスの夜は私たちが倒す。あなたが見た未来は、そのビジョンよ」

680 : 以下、名... - 2015/04/29 23:52:24.90 BT+H8fEn0 750/1284

織莉子 「そうかも知れない。だからこそ、今のうちのゲッターロボを譲り受けておかなければならないのよ」

ほむら 「・・・?」


・・・意味が分からない。

ゲッターが見滝原を救う未来を見て、それに乗っているのは私たちだということも、美国織莉子は認めている。

だったら、なぜ彼女はゲッターを欲する必要があるというのだろう。


織莉子 「私が見た未来のビジョンには、続きがあるわ」


続いて語られる織莉子の言葉が、その答えを提示してくれた。


織莉子 「ワルプルギスの消滅とともに、救われたかに見えた見滝原。だけれど・・・」

ほむら 「だけれど・・・?」

織莉子 「それは、本当の惨劇の始まりに過ぎなかったのよ・・・!」

ほむら 「・・・!」

杏子 「な、なんだよ、そのサンゲキって奴はさ・・・」

織莉子 「・・・ワルプルギスの脅威が去った直後・・・この見滝原は更なる脅威に曝されることになるわ。ワルプルギス程度、所詮は主賓の前の前座に過ぎなかったと思えるほどの、ね」

杏子 (ん・・・おいおい待てよ。それって、もしかして・・・)

竜馬 (暁美が言っていた、魔女となった鹿目のことを言っているのか?)

マミ 「え、なにそれ・・・私、そんなの知らない」

武蔵 「俺もだ。ほむらちゃんは、ワルプルギスから大切な人を守りたいがために、戦ってるんじゃなかったのか?」


このままキュゥべえの好きにさせていたら、まどかはどうなるか。

その説明を受けていない巴兄妹は、困惑した顔色を隠しもせずに、私を見ている。

681 : 以下、名... - 2015/04/29 23:54:41.68 BT+H8fEn0 751/1284

この場を切り抜けたら、二人にも真実を知ってもらわなくてはいけない。

けれど、それは後の話だ。

今は美国織莉子たちの前。そのことを話すわけにはいかない。


織莉子 「暁美さんは知っていたんじゃないの?いくつもの時間軸を渡り歩いてきた、あなただったら・・・」

ほむら 「いえ、知らないわ。私が守りたい人を守り切れなかった時点で、私は今までの時間軸を切り捨てて来たのだから」


そう、私が”知っている”ということを、悟らせてはいけない。


織莉子 「・・・ふーん、そう」

竜馬 「なんにしても、だ。ワルプルギス以上の脅威が現れるのなら、そいつも俺たちがゲッターで倒してしまえば良い。お前たちがゲッターを欲しがる理由にはならないな」

仁美 「それがですね、そういうわけにもいかないそうですのよ」

ほむら 「どういう意味・・・?」

織莉子 「・・・あなたが無責任なのかしら、暁美ほむらさん。それとも、一緒にゲッターロボに乗り込んでいた、流竜馬さん。あなたの意思・・・?」

ほむら 「何を言っているの・・・?」

竜馬 「抽象的な語り方をするんじゃねぇよ。分かるように話したらどうだ」

織莉子 「では・・・はっきりと言います」


織莉子はそこで、いったん言葉を切った。

少しうつむき加減となって、目をうっすらと閉じる。

その仕草は、何かを思い返しているかのようだった。

682 : 以下、名... - 2015/04/29 23:58:42.00 BT+H8fEn0 752/1284

織莉子 「・・・」


この間、ほんの数秒に過ぎない。

だけれど。

再び顔を上げた時、織莉子のまとう雰囲気は、それまでとは明らかに一変していた。


織莉子 「卑怯者」


抑揚なく、底冷えするような声で彼女は言った。

ゾクっと・・・

冬でもないのに、私の全身が寒気に覆われ、総毛だつのを感じる。


ほむら 「な、なんのことよ、一体・・・」


いきなりのあまりな言われように、私は何とか一言を返そうとしたのだけれど・・・

途中で言葉が、まるで形のある塊のように喉につかえてしまって、それ以上の声を発することができなくなってしまう。


ほむら 「うぐっ・・・」


違う・・・さっき感じたのは寒気なんかじゃない。

683 : 以下、名... - 2015/04/30 00:06:12.34 /ka2l99B0 753/1284

私の本能が、織莉子の発する気配は危険なものだと教えてくれているのだ。

そして、そう感じているのは、私だけではないようで・・・


杏子 「・・・」

マミ 「あ・・・ぅ・・・」

ゆま 「う・・・うぐっ、うぇぇぇ・・・」


私の仲間たちは一様に、言葉を失い顔色を青ざめさせて、為す術もなく織莉子を見つめていた。

幼いゆまなどは、得体の知れない恐怖に耐えられずに、今にも声を上げて泣き出してしまいそうだ。


ほむら 「な、なんなの・・・私の心をここまで委縮させてしまうなんて、いったい織莉子は心の内に、何を抱えているというの・・・」

仁美 「・・・なぜ、彼女がゲッターロボを欲しがるのか。その理由を聞けば、暁美さんにも理解ができるはずですわ」

ほむら 「志筑さん・・・」

仁美 「彼女があなた方に抱いている感情は、怒り・・・いいえ、怒りでは生ぬるい。そう、その心に名前を付けるのなら、怒りよりももっと激しく、そして狂おしい・・・」

ほむら 「・・・」

仁美 「憤怒・・・とでも、呼ぶべきでしょうか」

684 : 以下、名... - 2015/04/30 00:09:47.97 /ka2l99B0 754/1284


・・・憤怒。

なぜ、私たちにそのような激しい感情をぶつけてくるのか。

ぶつけられなければいけないのか。

疑問が頭の中で渦を巻いて、誰もが押し黙って織莉子の次の一言を待つしかない中で・・・


竜馬 「おい」


唐突に。

竜馬の臆する気配を見せない声が、静まり返った結界の中に反響した。


織莉子 「なに・・・?」


竜馬が一歩、織莉子の前へと進み出る。

そんな彼を織莉子は、まるで刃の切っ先のような鋭い眼差しでにらみつけた。

見つめられただけで、気の弱いものなら卒倒しそうな、人の心に深くえぐり込んでくるような視線。

だけれど、竜馬は全く意に介していないようで、普段と変わらない口調で、織莉子に話しかける。

685 : 以下、名... - 2015/04/30 00:20:04.37 /ka2l99B0 755/1284

竜馬 「納得がいかねぇ」

織莉子 「・・・なにがかしら?」

竜馬 「俺は確かに人から褒められるような生き方をしてきたつもりはねぇ。数えきれない人をぶん殴ってきたし、戦いの中で人命を奪ってしまったことだってある」

織莉子 「・・・」

竜馬 「だがな、誓って言うが、ただ一点。人から卑怯者と後ろ指をさされるような真似だけは、決してしてこなかった。胸を張って断言させてもらうぜ」

織莉子 「ずいぶんな自信ね」

竜馬 「ああ。それにそれは俺だけじゃねぇ。武蔵や死んだ隼人。ゲッターチーム全体の話だ。俺や仲間の中に、卑怯者なんざ存在しないのさ」

武蔵 「リョウ・・・」

竜馬 「何より、人質を取って俺たちのゲッターロボを力づくで奪い取ろうとしている連中の親玉に、卑怯者呼ばわりされるなんざ、道理が通らねぇだろうが」

キリカ 「おい、織莉子にあまりひどいこと言うなよ。私の堪忍袋の緒は、とびきり脆いんだぞ!」

織莉子 「・・・卑怯者を相手にするのに、こちらも卑怯な手を使う。理に適っているのではなくて?」

竜馬 「だったら聞かせろよ。俺たちを卑怯者と呼ぶ、その意味をな」

織莉子 「・・・」

仁美 「聞かせてあげたら良い。それを聞いて憤ったからこそ、私も織莉子さんたちに協力しようと決めたのです。他の皆さんだってそうでしょう?」

A子 「そうね」

B子 「言ってやりなよ、織莉子さん!」

C子 「そーだそーだ」


仁美の言葉に雷同するように、織莉子の取り巻きたちが一斉に声を上げる。

どうやら彼女たちにとって、私たちが卑怯者だということは、共通の認識のようだ。

そんな周囲の喧々囂々が鳴りやむのを待って・・・

織莉子が再び口を開いた。

どこか勿体つけたような、格下の者に教えを諭すような、そんな口調で。


織莉子 「ならば・・・教えて差し上げましょう。あなたたちがこれからなす事を。この街と、そこに住まう全ての人に対して、どれだけの許されざる所業を犯す事になるのかを、ね」

686 : 以下、名... - 2015/04/30 00:22:42.16 /ka2l99B0 756/1284

・・・
・・・


次回予告


ほむら達のことを卑怯者と悪しざまに見下す美国織莉子。

彼女が垣間見た未来の世界で、いったいほむら達はどのような罪を犯したというのだろうか。

そして、織莉子に手を貸し、ほむら達と敵対したキュゥべえの真の目的とはいったい何か。


崩壊間近の魔女結界の中で、いくつもの謎が今、解き明かされようとしていた!


次回 ほむら「ゲッターロボ!」第八話にテレビスイッチオン!

693 : 以下、名... - 2015/06/07 01:22:20.53 wwr2GWhj0 757/1284

ほむら「ゲッターロボ!」 第八話

694 : 以下、名... - 2015/06/07 01:23:31.29 wwr2GWhj0 758/1284

あの日・・・

私は、強大な力で灰燼と帰そうとしている見滝原の街にいた。

空に浮かぶは、異形の巨大な魔女。

私たち魔法少女が「ワルプルギスの夜」と呼んで恐れる、最強最悪の魔女。

奴が災厄を見滝原にまき散らすために、やってきたのだ。


・・・戦わなければならない。

たとえ勝てなくとも。


覚悟を決めてワルプルギスへと挑もうとした、まさにその時。

希望は突如として現れたのだ。

695 : 以下、名... - 2015/06/07 01:24:55.12 wwr2GWhj0 759/1284

それは真紅に輝く身体を持った、一体の巨人。

突然上空に現れたそれは、ワルプルギスにも引けを取らない体躯をものともせず、猛烈なスピードで魔女へと向かっていった。

やがて繰り広げられる、激しい空中戦。

私は、その時。

ただ、ただ・・・圧倒されてしまって・・・

その戦いの帰趨を、地上から見守ることしかできなかった。


ただ一つ。

分かった事があった。

あの巨人は、味方なのだと。

父が愛した、この街を守ってくれる希望なのだと。

696 : 以下、名... - 2015/06/07 01:26:53.92 wwr2GWhj0 760/1284

そして・・・

戦いは終わった。


戦いに敗れ、その存在を抹消されたのは、ワルプルギスの夜の方だった。

助かった!救われた!

私は歓喜の叫びを上げずにはいられなかった。

あの巨人が何者なのかはわからない。

魔女の一種なのか、魔法少女の使う魔法の一つなのか。

はたまた、私の想像の及ばない、もっと他の何かなのか。


だけれど。


そんな事は、私にとっては些細なことでしかなかった。

重要なのはただ一点。

あの巨人が、見滝原を救った救世主であるということのみ。


・・・本気で、そう思っていた。

新たな脅威が、突如として現れるまでは。

697 : 以下、名... - 2015/06/07 01:29:03.97 wwr2GWhj0 761/1284

そう、その力は、そして姿は、何としても形容しがたい。

まるでワルプルギス程度、その者の前では単なる前座の役割しか与えられていなかったのだ、と。

そこまで思えてしまうほどに。


そして、再び。

・・・殺戮と破壊が始まった。

せっかくワルプルギスの災禍を免れた見滝原の街が、人が。

災いの下に形と命を失っていく。

私は叫んだ。

やめて、と。父の願いが眠るこの街を、壊さないでと。

698 : 以下、名... - 2015/06/07 01:30:33.15 wwr2GWhj0 762/1284

・・・そして。


私は願った。

助けてと。

ワルプルギスを撃退したと同じように、新たな災いも排除してくださいと。

真紅の巨人に願ったわ。


だけれど・・・

私の願いは・・・

・・・

・・・届かなかった。

699 : 以下、名... - 2015/06/07 01:33:46.04 wwr2GWhj0 763/1284

・・・
・・・


織莉子 「・・・私の能力は、未来を見ること。いつもは暫定的な未来しか見えないのだけれど、この時だけはずいぶん具体的に未来を見ることができたわ」

ほむら 「・・・」

織莉子 「予知の中で見た、真紅の巨人。あれがロボットでゲッターロボという名前だというのは、しばらくしてからキュゥべえから聞かされた」

竜馬 「乗っているのが、俺たちだということも、だな」

織莉子 「ええ」

竜馬 「それで、お前の願いが叶えられなかったとは?その事が、俺たちが卑怯者呼ばわりされる事に、どう関わりが?」

織莉子 「・・・逃げたのよ、あなたたち」


軽蔑の色を濃くにじませた瞳で、織莉子が私たちを睨み付けた。

逃げた・・・?

700 : 以下、名... - 2015/06/07 01:37:28.13 wwr2GWhj0 764/1284

竜馬 「俺たちが、敵を目の前にして、しっぽを巻いて逃げたと?」

織莉子 「そうよ。だから、ああ呼んだのよ?あなたたちに相応しい呼び名で、卑怯者、と」

杏子 「おいおい・・・あいつの言ってること、本当なのかよ」

ほむら 「・・・」

織莉子 「あなたたちが卑怯なふるまいをした結果、見滝原は壊滅。私の喜びは、ぬか喜びに終わったと、そういうわけ」

武蔵 「馬鹿な!そんなわけないだろう!」


織莉子の言葉に、武蔵が噛みつく。


武蔵 「敵がどんなに強大であれ、マミちゃんたちが住む街を俺たちが、守るのを放棄して逃げ出すなんて、そんな事あるはずがないだろう!」

マミ 「お兄ちゃん・・・」

竜馬 「その通りだな。言ったはずだぜ、俺たちの中に卑怯者なんざいない、とな。一度敵に背を向けて逃げたら、そいつはもう一生、負け犬だ」

織莉子 「・・・」

竜馬 「そんな生きざま、俺はまっぴらごめんだぜ」

701 : 以下、名... - 2015/06/07 01:41:09.09 wwr2GWhj0 765/1284

キリカ 「なんだよ!じゃあ、織莉子が嘘を言ってるっていうのか!?」

竜馬 「そうじゃない。ただ、お前の未来予知は完ぺきではないのだろう?」

織莉子 「・・・?」

竜馬 「必ず、見た通りの未来になる。そうであったなら、お前が未来を変えようとゲッターを奪うなんてマネ、するはずがない」

織莉子 「驚いた。脳筋タイプかと思ったら、意外に頭が回るのね」

竜馬 「何とでも言え。ただ、断言してやるぜ。今回ばかりは、お前の予知は当たらない。なぜなら俺たちは、絶対に逃げないからだ」

ほむら 「・・・」

竜馬 「だろう、暁美」

ほむら 「・・・」

702 : 以下、名... - 2015/06/07 01:43:24.40 wwr2GWhj0 766/1284

・・・織莉子の見た未来の世界では、何らかの要因によってまどかは魔女化してしまったのだろう。

それを見た私が、その時間軸をあきらめ、今までと同様に時間をループさせた。

私も乗っていたはずの、ゲッターロボ、もろともに。

そんな未来を予知したのなら、ゲッターロボが逃げ出したのだと織莉子に解釈されるのも仕方がない。

・・・いや。

織莉子にとっては、紛れもない事実、か。


ほむら 「・・・」

竜馬 「暁美・・・?」

703 : 以下、名... - 2015/06/07 01:45:27.45 wwr2GWhj0 767/1284

織莉子 「暁美さんは、否定ができないようね」

ほむら 「そうね。だけれど・・・」


それは、まどかが魔女化してしまったらという場合の話。

そんな未来、私は認めないし、現実にさせるつもりもない。

この時間軸の事を、私は絶対に諦めたくはない!


ほむら 「あなたの未来予測は外れるわ。ゲッターがワルプルギスを倒した時点で、この見滝原は救われる。その後の災いも現れやしない」

織莉子 「・・・」

ほむら 「そして、それを成し遂げるのは私たちよ」

織莉子 「なぜ、そう言い切れるの?」

ほむら 「・・・」

織莉子 「あなたはどれだけの時間軸をループしてきたの?いったいどれだけの時間軸を見捨ててきたの?」

ほむら 「え・・・」

704 : 以下、名... - 2015/06/07 01:48:29.07 wwr2GWhj0 768/1284

織莉子 「どれだけの見滝原に住む人々を、見殺しにしてきたの?」

ほむら 「そ、それは・・・」

竜馬 「・・・おい、いい加減にしろよ」

織莉子 「そのような人の、のたまい事。信用するに値しないわね。ただ、それだけの話」

仁美 「お判りでしょう、暁美さん。あなた方に美樹さんと上条君が生きるこの街を、任せることはできない。で、あるならば」

キリカ 「戦える者が、戦うための力を持つ。至極、まっとう」

ほむら 「・・・くっ」


まどかの事を織莉子たちに話せない以上、言葉で彼女たちを納得させる術がない。

705 : 以下、名... - 2015/06/07 01:50:11.20 wwr2GWhj0 769/1284

どうやってこの場を切り抜けるべきか。

せめて、私の手を取っている仁美を振り切れれば、何とかできるかもしれないのに・・・


織莉子 「話はこれまで・・・」


織莉子は一方的に話を打ち切ると、スッと・・・

物音ひとつ立てずに、滑るように私の横まで歩み寄ってきた。

私を挟んで、仁美と反対側へと立つ織莉子。


ほむら 「な、なに・・・?」

織莉子 「ふふっ」


軽く笑うと、彼女は私の手を取り、そっと握った。


ほむら 「・・・?」

706 : 以下、名... - 2015/06/07 01:52:32.15 wwr2GWhj0 770/1284

織莉子 「仁美さん、暁美さんのお目付け役、お疲れ様。交代の時間ね。さ、あなたは打ち合わせの通りに」

仁美 「心得ていますわ」


織莉子と入れ替わるように、私のそばを離れる仁美。


ほむら 「何を考えているの?」

織莉子 「ゲッターロボを出しなさい」

ほむら 「!?」

織莉子 「出さねば、巴マミのソウルジェムを砕かなくてはいけなくなる」

ほむら 「なぜ、わざわざ入れ替わって・・・志筑仁美に何をさせるつもり!?」

織莉子 「予知能力の発動を制御できない私では、不都合があったから彼女とキリカにお願いすることにしたの」

ほむら 「分かるように言って!」

織莉子 「ゲッターを渡せば、わかる」

ほむら 「・・・っ」

707 : 以下、名... - 2015/06/07 01:54:31.58 wwr2GWhj0 771/1284

織莉子 「流竜馬」

竜馬 「・・・なんだ?」

織莉子 「あなたもゲッターに乗ってもらうわ」

ほむら 「え・・・っ?」

杏子 「こ、こいつ・・・いったい何を考えてやがるんだ」

武蔵 「なぜわざわざ、奴らにとって危険な真似を、あえてしようとしているんだ・・・?」

竜馬 「・・・理由は?」

織莉子 「単純な話。ゲッターロボの動かし方を私たちは教わらなくてはいけない。ゲッターは三人乗りなのでしょう?だから一機には流さんに乗ってもらうわ」

キリカ 「残りには、私たちが乗らせてもらうよ」

竜馬 「・・・理にはかなっているな」

ほむら (だけれど、それだけとは思えない・・・)

708 : 以下、名... - 2015/06/07 01:56:07.60 wwr2GWhj0 772/1284

織莉子 「元より、あなたに拒否権はないわ。お友達の、大切な妹を犠牲にしても良いというなら、話は別だけれど」

マミ 「ご、ごめんなさい」

武蔵 「りょ、リョウ・・・」

竜馬 「分かってる、分かってるさ。今はお前らに従おう。暁美、とりあえずはそれで良いな」

ほむら 「そうするしかないものね。でも、リョウ・・・それで良いの?」


ゲッターロボのパイロットであることに無上の誇りを持っている竜馬。

人質を取られているとはいえ、彼があっさり織莉子の要求を受け入れたのは意外だった。


竜馬 (並の人間に乗りこなせるほど、ゲッターロボは甘くない)

織莉子 「何か言った?」

竜馬 「いーや、別に。じゃ、とっとと始めるが、巴マミの命の保証はしてくれるんだろうな」

織莉子 「彼女の命を奪うことが目的ではないもの。ゲッターロボを受け取ったなら、きちんと解放してあげるわ」

竜馬 「・・・暁美」


竜馬が振り向いて、私にうなずいて見せる。

今は従うほかはない。

私はバックラーに念を送る。

程なくして、魔女の結界内にゲッターロボが実体化した。

709 : 以下、名... - 2015/06/07 01:57:02.26 wwr2GWhj0 773/1284

キリカ 「うわっ、本当に出た!」

仁美 「なんて巨大な・・・」

A子たち 「わーわーきゃーきゃー」


織莉子の取り巻きたちが驚嘆の声を上げる中で、ただ一人。


織莉子 「・・・」


美国織莉子のみが、複雑な表情でゲッターロボを見上げていた。

どこか悲痛な、先ほど私たちを睨み付けた時とは、まるで別人のような眼差しで。


ほむら (予知の中でとはいえ、一度ゲッターを目にしている彼女なら、他の子たちと感じ方も違うのは当然か・・・)

織莉子 「では、まずは流さん。あなたから乗って下さい」

竜馬 「了解だ」

キュゥべえ 「ちょっと待ってよ」


どこから湧いて出たのか、竜馬の足元にはいつの間にやら、キュゥべえが佇んでいた。


竜馬 「お前は本当に、ボウフラのような奴だな」

キュゥべえ 「僕も竜馬と同行させてもらうよ」

竜馬 「なに言ってるんだ、お前」

キュゥべえ 「僕にも役割というものがあってね。ねぇ、織莉子」

織莉子 「そうね」

710 : 以下、名... - 2015/06/07 01:58:56.24 wwr2GWhj0 774/1284

竜馬 「美国が絡んでるなら、俺に断われるはずもない。好きにしたが良いさ」

キュゥべえ 「それじゃ、よいしょっと」


キュゥべえはひょいっと飛び上がると、竜馬の肩先に落ち着いた。

まるでアニメのマスコットキャラのように、竜馬の肩に乗っかってゲッターに乗り込むつもりのようだ。


竜馬 「なれなれしいな、お前」

キュゥべえ 「しばらくの間、よろしく頼むよ。竜馬」

竜馬 「・・・」

織莉子 「彼がゲッターロボに乗り込んだら、こちらも順次、乗り込みにかかるわよ」

719 : 以下、名... - 2015/06/08 00:06:35.50 SYtqUjqv0 775/1284

・・・
・・・


かくして・・・

竜馬に引き続いて、織莉子の指名を受けた彼女の取り巻きたちが、ゲッターロボへと乗り込んでいった。

白羽の矢をたてられたのは予想通り、織莉子の腹心ともいうべき呉キリカと志筑仁美。

そして・・・

新米魔法少女の中からも、4人が選ばれて、キリカ達とともにジャガー号とベアー号に分乗して行った。

つまり、ジャガー号とベアー号にはそれぞれ、3人づつの魔法少女が乗っていることになる。


ほむら 「一人乗りに無理やり3人も乗り込ませるなんて、人口過多も大概だわね・・・」

武蔵 「まぁ、前例が無いわけじゃない。俺が初めてゲッターに乗った時も、狭いイーグル号の中に3人がすし詰め状態だったからな」

ほむら 「リョウと武蔵さんと・・・隼人さん?」

720 : 以下、名... - 2015/06/08 00:09:26.35 SYtqUjqv0 776/1284

武蔵 「いや、俺とリョウと、あとは原始人だ」

杏子 「はぁ、ナニソレ」

武蔵 「胸糞悪い事件で、あまり細かいことは話したくないんだが、とにかく図体のでかい男でも3人くらいは、無理をすれば乗れるって話だ」

ゆま 「見た目とおんなじ、中もおっきいんだね!」

武蔵 「もっとも、シートに座れるのは一人だけだ。残りの二人は、体を支えることもできず、機内を転がりまわることになるけどな」

織莉子 「心配はご無用よ。私たちは魔法少女。魔法の障壁を張って、身体を守ることくらい、なんてことはないもの」

武蔵 「そうかい」

ほむら 「だけれど、どうしてあんな無茶を?」

織莉子 「・・・ゲッターロボに乗るのにも、慣れが必要でしょう?」

ほむら 「そうね」

721 : 以下、名... - 2015/06/08 00:12:17.87 SYtqUjqv0 777/1284

織莉子 「ワルプルギス襲来まで、あと一週間。私たちには時間がない。ゲッターに慣れる事一つをとっても、効率の良い方法を選ばなければならないの」

ほむら 「それで、いっぺんに複数の仲間を、ゲッターに乗り込ませた。そういうのね」

織莉子 「ええ」


ほむら (嘘を言っている・・・)


確信はないけれど、私は織莉子の言葉の中にまやかしの色が含まれていることを感じ取っていた。

だけれど、それは何のための嘘なのか。

そこまで掴み取れるほど、私は織莉子の心の内を知り抜いているわけじゃない。

722 : 以下、名... - 2015/06/08 00:15:40.15 SYtqUjqv0 778/1284

ただ、一つ言えることは。


A子 「良いなぁー。私もロボット乗ってみたかったよ」

B子 「順番だもの、仕方がないわ。私たちは次の機会に乗ればいいのだし。ねぇ、C子」

C子 「そうだね!」


居残って、マミのソウルジェムに三人がかりで武器を突き付けている魔法少女たち。

彼女たちも、織莉子の語った説明を、寸分うたがわずに信じている様子だという事。


ほむら (何を考えているの・・・美国織莉子)


織莉子の心の内も、そして現在のゲッターロボの中で、どんな会話が交わされているのかも。

外側にいる私には、うかがい知る事などできるはずもなかった。

723 : 以下、名... - 2015/06/08 00:17:03.44 SYtqUjqv0 779/1284

・・・
・・・


竜馬 「おい、お前ら」


イーグル号のコクピットから、竜馬は通信機で他の二機に語りかけていた。


竜馬 「分かっていると思うが、ゲッターはどういうわけか魔法少女の魔力をエネルギーとしている。そこら辺、対策はしているんだろうな」

仁美 「問題ありませんわ」


即座にベアー号の仁美から返事があった。


仁美 「魔力補給用のグリーフシードは持って来ています。心配には及びませんわ」

竜馬 (なら、良いがよ。ゲッターの中で魔女化なんて事態だけは、まっぴらごめんだからな)

キリカ 「織莉子には全て分かっている事さ」


こちらはジャガー号に乗り込んでいる、呉キリカだ。


キリカ 「君は余計な心配なんかしないで、私たちの言うとおりにしていれば良いんだよ」

724 : 以下、名... - 2015/06/08 00:19:41.67 SYtqUjqv0 780/1284

竜馬 「そうかよ。なら、俺はこれから何をすればいいんだ」

キリカ 「そうだね。まずは適当にこの空間内を動いてもらおうかな」

竜馬 「・・・?」

キュゥべえ 「その様子を僕が見ているよ。ゲッターの操縦法を僕が記憶して、あとで織莉子たちにビジョンとして見せる」

竜馬 「なるほど、それがお前の役割か。生きたマニュアルってわけだ」

キュゥべえ 「便利だろう?」

竜馬 「・・・」


言われたとおり、竜馬はゲッターで広場内をうろついて見せた。

巨大なゲッターで限られた空間を歩くのだ。足元のほむら達を踏みつぶさないように気を配ることも忘れない。

725 : 以下、名... - 2015/06/08 00:23:25.89 SYtqUjqv0 781/1284

竜馬 「これでいいのかよ?」

仁美 「・・・」

キリカ 「・・・」

竜馬 「・・・おい?」

キリカ (これは・・・けっこう来るモノがあるね)

仁美 (少し動いただけで、この魔力の喪失感。確かに織莉子さんの言っていた”方法”でもとらないと、瞬く間にジリ貧になってしまう。たとえ、その方法が・・・)

キリカ ・仁美 (外道の極みなのだとしても・・・!)

竜馬 「お前ら・・・大丈夫なのか?」

仁美 「あ、は、はい・・・平気ですわ。では流さんは引き続き、ゲッターに様々な動きをさせてください。キュゥべえ、記録はよろしくお願いしますわね」

竜馬 「分かった・・・」

キュゥべえ 「そこは任せてもらっていいよ」

仁美 「ええ」

キリカ (さて、いよいよ始まるか・・・)

仁美 「と、その前に・・・」


仁美はシート越しに、後ろから様子をうかがっていた少女たちに声をかけた。


仁美 「では、D子さん。私と交代ですわ。E子さんももう少し前に来て、ゲッターロボがどういうものなのか、計器とかをよく見ておいて下さい」

D子 「あ、う、うん・・・じゃあ・・・よいしょっと」

E子 「それよりも志筑さん・・・私たち、ちょっとソウルジェムがヤバめになってきたんだけれど」

仁美 「・・・」

726 : 以下、名... - 2015/06/08 00:25:44.63 SYtqUjqv0 782/1284

E子 「そろそろグリーフシード、貰ってもいいかな」

仁美 「・・・まだ早いですわ。これから先は長いのですもの。限りある資源は節約して使わないと」

D子 「で、でもぉ・・・」

仁美 「大丈夫。今はゲッターロボに慣れる事だけに集中して」

E子 「まぁ、織莉子さんが認めたあなたがそう言うなら、従うけどさぁ・・・」

仁美 「・・・」


同じようなやり取りは、ジャガー号の中でも行われていた。

キリカは操縦席を同乗していたF子に譲って、その様子をのぞき込んでいるG子のさらに後ろへと移動していた。

そして、念を集中して、外の織莉子にだけ聞こえるように、念話を飛ばす。


キリカ (織莉子、程なくして”限界”が訪れる。いよいよ、実行のとき迫る、だよ)

727 : 以下、名... - 2015/06/08 00:27:34.93 SYtqUjqv0 783/1284

織莉子 (キリカ・・・ごめんなさいね。あなたと仁美さんにだけ手を汚させるような真似をしてしまって)

キリカ (構わない。私は織莉子の言う事にはすべて従うと、心に固く誓ってるんだ。それにそれが、織莉子の好きなこの街を守ることにつながるんだろう)

織莉子 (ええ・・・)

キリカ (だったら、全く問題なし。織莉子はこの後の事だけを考えていればいいんだよ。私は君が導いてくれないと、たちまち道に迷ってしまうのだからね)

織莉子 (キリカ、あなた・・・)

キリカ (じゃ、通信終わり!またあとでね!)


念話を切り上げると、キリカは再び視線を自分の前にいる、二人の魔法少女へと向けた。

未知の存在であるゲッターに、わき上がる興味を隠しもせず、無邪気に語り合っている二人の少女。


キリカ (ごめんね)


今度は誰にも届かないように。

キリカは心の内でだけ、そっとそうつぶやいた。

728 : 以下、名... - 2015/06/08 00:30:04.42 SYtqUjqv0 784/1284

・・・
・・・


キリカ達に言われるまま、ゲッターを操縦し続ける竜馬。

キュゥべえは竜馬の肩の上から、彼が操る操縦桿をじっと見つめていた。

その様子はキュゥべえたち共有のデータバンクに逐一送られ、必要な時にはいつでも取り出すことができる。


キュゥべえ (間もなくだ・・・このプランが確立されれば、僕たちのエネルギー回収のノルマは飛躍的に達成に近づける)


個人的な感情を持ち合わせない彼だったが、種全体としての喜びが体の奥から湧き上がってくることは抑えようがなかった。

それは、本能からくる喜びだった。


キュゥべえ (さて・・・)


この男、流竜馬にだけは本当の事を、今。

ここで話しておかなければならないなと、キュゥべえは思った。


キュゥべえ (どのみち今回の事が終わった後には、ほむら達にもすべてが知られてしまうことになるだろうけれど・・・)


この全てにおいて規格外の男が、いざとなったら何をしでかすのか。

悠久の歴史の中で様々な人間を観察してきたキュゥべえにも、測りかねるものがある。

そんな不測の事態が起こる前に、憂いの芽は摘んでおかなければならない。

729 : 以下、名... - 2015/06/08 00:33:34.56 SYtqUjqv0 785/1284

キュゥべえ 「竜馬」

竜馬 「なんだよ」

キュゥべえ 「操縦を続けたままで良いから、聞いてほしい事があるんだ」

竜馬 「改まって、気持ちが悪いな」

キュゥべえ 「この先、何が起こっても、君には取り乱さずに、そのまま操縦に専念していてほしい。その事を念押ししておこうと思ってね」

竜馬 「お前らが今更、なにを企もうが驚くほどの事なんざねぇだろうがよ」

キュゥべえ 「それを聞いて安心したよ」

竜馬 「・・・で?その、念押しの具体的な内容を聞いておこうじゃないか」

キュゥべえ 「では・・・」


キュゥべえ 「                    」

730 : 以下、名... - 2015/06/08 00:35:28.06 SYtqUjqv0 786/1284

竜馬 「な、なんだと・・・!」


驚く事はない。

そう断言していた竜馬だったが、キュゥべえの話を聞き終えるや、彼の顔から血の気がみるみる引いていった。

信じられないモノを見るような目で、肩の上のキュゥべえを凝視する。


竜馬 「お前ら、正気か・・・いや、お前は分かる。人を人とも思っていない、お前なら・・・」

キュゥべえ 「ひどい言われようだね」

竜馬 「だが・・・美国織莉子・・・あいつ、そんな事を考え付くなんて・・・人か?人を捨てるつもりなのか?」

キュゥべえ 「織莉子の成そうとする正義のためだからね。それが彼女の望みなんだ。仕方がない」

竜馬 「そんなの、ただのエゴだろうが!」

キュゥべえ 「僕は長い歴史の中で様々な人間を見て来たけれど・・・エゴの絡まない望みを持った人間なんて、数えるくらいしか出会ったことがなかったよ」

竜馬 「だからと言って、やって良い事と悪い事があるだろうが!!」

キュゥべえ 「・・・やはり君には事前に話しておいて良かった。このまま”コト”が起こったら、何をされるか分かったものじゃなかったからね」

731 : 以下、名... - 2015/06/08 00:37:08.27 SYtqUjqv0 787/1284

竜馬 「・・・くっ!」


竜馬がコンソール上の通信機に手を伸ばそうとする。

警告しなければ。キリカや仁美と同乗している、名も知らぬ魔法少女たちに。

・・・だが。


キュゥべえ 「待ちなよ」


それを、抑揚のないキュゥべえの声が制した。


キュゥべえ 「言ったはずだ、君はこのまま操縦を続けるように、と」

竜馬 「だまれっ、てめぇの指図は受けねぇ!」

キュゥべえ 「君がこちらの指示に従わない場合、僕は即座にその事を、外の織莉子に念話で告げる」

竜馬 「・・・っ」

キュゥべえ 「巴マミ・・・彼女の身にもしもの事があれば、巴武蔵は君の事をどう思うだろうね」

竜馬 「てめぇ・・・!」

キュゥべえ 「もちろん、暁美ほむらや他の子たちも無事では済まないだろう。君が止めようとする行為は、仲間の命より尊い事なのかい?」

竜馬 「・・・くっ、くそっ!」

キュゥべえ 「さぁ、ここで成り行きを見守ろうじゃないか。上手くいくかは結果を御覧じろ・・・だけれどね」

竜馬 (くそ、俺にはどうすることもできないのか・・・!?)

732 : 以下、名... - 2015/06/08 00:40:16.52 SYtqUjqv0 788/1284

・・・
・・・


ジャガー号

内部


F子 「え・・・え・・・どういうこと、呉さん・・・」

G子 「ど、どうして・・・」


キリカは抜きはらった武器を、仲間であるはずの二人の魔法少女に突き付けていた。

微塵でも動けば切り刻む。

キリカの彼女たちを睨む目が、言外にそう告げていた。


キリカ 「良いから、そのまま。大人しく座っていて。そうすれば、手荒な真似はしないからさ」

F子 「だ、だけど、このままじゃ私たち、ソウルジェムが・・・ソウルジェムが!」

G子 「もう限界なんだよ!は、早くグリーフシードをちょうだい!」

キリカ 「黙りなよっ!」

F子G子 「ひぃっ!!」

キリカ 「君たちのソウルジェムには、このまま黒く濁りきってもらうよ」

F子 「な、なんで!?なんでよぉ・・・!」

733 : 以下、名... - 2015/06/08 00:42:27.26 SYtqUjqv0 789/1284

キリカ 「そうすれば、ソウルジェムは砕けて、グリーフシードとなって生まれ変わる」

G子 「え・・・」

キリカ 「君たちは、魔女になるんだよ」

F子 「な、なに言ってるの・・・?」

キリカ 「言葉の通りさ。やがて魔女になる運命なのさ、魔法少女は。君たちも、私も」

G子 「・・・う、うそだ・・・ぁ・・・」

キリカ 「本当だよ。だけれど、魔女にならずにすむ方法が、たった一つだけある。知りたい・・・?」

F子 「え?え?」

キリカ 「それは、ね・・・」

734 : 以下、名... - 2015/06/08 00:43:55.50 SYtqUjqv0 790/1284

・・・
・・・


ベアー号

内部



仁美 「それは、魔女となる前に死んでしまう事・・・」

D子 「は、はい・・・?」

E子 「あんた、何を言って・・・うぐっ!い、良いから早く、あんたが手に持ってるグリーフシードをよこしなさいよぉ!」

仁美 「動くなぁっ!!」


仁美が、今まで見せたこともない顔と声音で、飛びかかろうとするE子を叱りつけた。

ビリビリとコクピット内の空気が震えるほどに、それは激しい叱責だった。

取り乱していた二人の魔法少女の動きが、押さえつけられたかのようにピタリと静まる。


仁美 「そう、それで良いのです。あなたがたはただ、運命を受け入れれば、それで良い・・・」

D子 「な、なによぉ・・・志筑さん、あなたいったい何なのよぉ・・・」

E子 「私たちに、死ねというの・・・?」

仁美 「ええ」


絶望に震えた声での問いかけにも、仁美は平然とうなずいて見せた。

735 : 以下、名... - 2015/06/08 00:45:22.06 SYtqUjqv0 791/1284

E子 「いったい、何のために!」

仁美 「この、見滝原を守るために・・・」

D子 「わけわかんない!やだよ、死にたくないよ!なんでこんなことするのよ!助けてよぉ!」

仁美 「どのみち、私たちは遠からず、人としての生を摘み取られるべき存在。それが、分を超えた望みを持った私たちの償い・・・」

E子 「・・・なに、言ってるのさ」

仁美 「死ぬ時期が、多少違うというだけ。私も近いうちにあなたたちの所へ行くことになる。だから、ねぇ・・・?」

D子 「・・・」

仁美 「今は、おとなしくソウルジェムを黒く染め上げて下さいな」

D子 「そんなの嫌だよ、助けてよ!う・・・うぐっ!?」

E子 「う・・・う、ぁ・・・」


そして・・・

その時が、訪れた。

743 : 以下、名... - 2015/06/09 01:20:19.81 Wp6ot+820 792/1284

E子 「う、うう・・・ああ・・・」

D子 「ああああああああっ!!」


ゲッターに魔力を吸い取られ続けた二人の少女のソウルジェムに、限界が来たのだ。

ぴしっ・・・と。

亀裂が走る音が、コクピット内に響く。

それは、ソウルジェムが形を失い、グリーフシードへ生まれ変わる為の産声。


仁美 「失敗は許されない。間髪入れず終わらせる・・・」


仁美は狭いコクピットの中、得物である剣を中段に構え、二人の少女に狙いを定める。

そして、待った。

ソウルジェムが砕ける、その瞬間を。

744 : 以下、名... - 2015/06/09 01:23:45.30 Wp6ot+820 793/1284

少女たちの断末魔の絶叫が、コクピット内を悲惨の色で染め上げる。

だけれど仁美の心は、穏やかな水面のごとくに静謐だった。

成すべき事のため、大切な人の住む世界を守るために。


仁美 (そのために、私は人であることを捨てたのだもの)


そして。

パリンっという破裂音とともに、E子とD子のソウルジェムがほぼ同時に砕けた。

代わりに姿を現したのは、新たなグリーフシード。

そう、魔女が誕生しようとしているのだ。


仁美 「いまっ!」


仁美は鋭い掛け声とともに、渾身の力を込めて剣を薙いだ。

745 : 以下、名... - 2015/06/09 01:25:30.81 Wp6ot+820 794/1284

・・・
・・・


竜馬 「なんてこった・・・」


竜馬はその様子をモニター越しに、全て見ていた。


竜馬 「これが、お前の企みなのか」

キュゥべえ 「そうだよ、竜馬。本当はこの役、君にやってもらえれば、ゲッターを強奪するなんて回りくどいことをせずに済んだのだけれどね」

竜馬 「・・・どういうことか説明しやがれ」

キュゥべえ 「発想の転換だよ」

竜馬 「・・・?」

キュゥべえ 「僕の目的が、魔法少女が魔女になる際に放出されるエネルギーを回収することだとは、君も知っているよね」

竜馬 「ああ」

キュゥべえ 「そのエネルギーというのは、正確にはソウルジェムが砕けた瞬間に放出されるのだけれどね。つまり、別に魔女化自体は僕にとってはどうでもいいことなのさ」

竜馬 「・・・」

746 : 以下、名... - 2015/06/09 01:27:19.22 Wp6ot+820 795/1284

キュゥべえ 「そして織莉子たちの目的は、ゲッターロボを運用するために必要な、グリーフシードの確保。この両者を両立させるためには、さてどうするか」

竜馬 「ま、まさか・・・だから美国は魔法少女を仲間に集め、志筑たちはあんなまねをしたと?」

キュゥべえ 「相変わらず君は察しがいい。もう分かったよね」

竜馬 「ゲッターにエネルギーを吸い取らせ、ソウルジェムをグリーフシード化させ・・・」

キュゥべえ 「そこから魔女となる寸隙をついて、人の姿をしている内に魔法少女を殺してしまう。そうすれば僕はエネルギーを回収でき、織莉子たちは戦わずにグリーフシードを手に入れられる」

竜馬 「人間の考える事じゃねぇぞ・・・!」

キュゥべえ 「それはそうさ。だって僕が提案した策なのだから」

竜馬 「ど外道がっ!!」

747 : 以下、名... - 2015/06/09 01:30:54.59 Wp6ot+820 796/1284

キュゥべえ 「僕に人間の世界での罵倒は意味がないよ。にしても、この方法。正直、少し賭けの部分があったんだ。魔法少女の命を絶つタイミングが、けっこうシビアだからね」

竜馬 「・・・」

キュゥべえ 「でもまぁ、呉キリカと志筑仁美は上手くやってくれたよ。おかげで確立された。これから僕は、この方法でどんどんエネルギーを回収できる。ノルマの達成も早まるというものだよ」

竜馬 「俺たちのゲッターをそんな事のために・・・」

キュゥべえ 「魔法少女による、エネルギーの永久機関さ。資質の高い魔法少女を探して回るより、よほど効率的だとは思わないかい?」

竜馬 「てめえっ、絶対に許せねぇ・・・!!」


竜馬が怒りのあまり、顔を朱に染めた、その時。


 (リョウ・・・)


唐突に。

どこからか、彼を呼ぶ声が聞こえたのだ。


竜馬 「え・・・?」


どこか、聞き覚えのある、懐かしい男の声。

この空間にいるのは自分とキュゥべえだけだが、当然そのどちらの声でもない。

748 : 以下、名... - 2015/06/09 01:34:10.52 Wp6ot+820 797/1284

 (リョウ)


今度は、先ほどよりさらに強く。

再び謎の声が、竜馬を呼んだ。

その声は、すぐ近くで聞こえたようでいて、裏腹にはるか遠くの、どこか他の世界から囁かれている様にも聞こえた。

耳からじゃない・・・

まるで頭の中に直接語りかけてくる様な、不思議な響きを持った声。


キュゥべえ 「・・・竜馬。君ではないよね、この声は・・・いったいどこから聞こえてくるのだろう?」

竜馬 「・・・お前にも聞こえているのか」

キュゥべえ 「これは空気を振動させて伝わってくる、いわゆる”声”とは別の物のようだね。むしろ僕や魔法少女が使う念話に近い・・・」

竜馬 「この声がどこから聞こえてくるか、分からねぇ、が・・・」


だが。


竜馬 「声の主には心当たりがある」

749 : 以下、名... - 2015/06/09 01:35:54.28 Wp6ot+820 798/1284

以前。

ほむらは謎の声に導かれ、ゲッターを呼び出しパイロットとして認められた。

その声の主。ゲッターに宿る、その謎の人物こそが、今。

自分に語りかけてきてきているのだろう。

そして、その声の正体とは・・・


竜馬 「お前か・・・?」

 (リョウ)

竜馬 「お前なのか、隼人!!」

750 : 以下、名... - 2015/06/09 01:38:25.34 Wp6ot+820 799/1284

・・・
・・・


ジャガー号。

内部。


キリカ 「はぁはぁ・・・」


キリカは乱れた息を整えつつ、自分の武器を見つめていた。

爪に似た形状の得物。それには血がべっとりとこびり付いていた。

それは今、彼女が手にかけた二人の少女の生血。


キリカ 「・・・」


キリカの足元には、先ほどまで己の運命も知らず、コクピット内をもの珍しそうに眺めていた少女たちが倒れていた。

今はもう、何を見ることも語ることもできない。

キリカが、殺してしまったのだから。

751 : 以下、名... - 2015/06/09 01:40:51.34 Wp6ot+820 800/1284

キリカ 「う、うう・・・」


コクピット内に充満する血の臭いにむせながらも、彼女は死体からある物を回収する。

それは、魔法少女たちの生まれ変わりともいうべき、二個のグリーフシード。


キリカ 「やった・・・織莉子、やったよ!うまくいったよ・・・!」


その時、ジャガー号内のモニターに灯がともり、仁美の顔が映し出された。


仁美 「呉さん、首尾はどうですの?」


画面の中の仁美が、キリカとは対照的な澄ました顔で言った。


キリカ 「上々さ。ほら、これ」

仁美 「グリーグシード・・・ふふっ、これで実証されましたわね。織莉子さんが示された方法は、やはり正しかったのだと」

752 : 以下、名... - 2015/06/09 01:41:53.34 Wp6ot+820 801/1284

キリカ 「・・・」

仁美 「どうかしました?」

キリカ 「いや・・・」

仁美 「変な人。まぁ、良いですわ。さて、次に考えなくてはならないのは、更なる効率化をいかに進めるか、ですわね」

キリカ 「どういうこと?」

仁美 「今回、得られたグリーフシードは4個。ですが、私とキリカさんは魔力維持のため、二つのグリーフシードを使っていますわ。結果、黒字となったのはたった二つのみ。これでは効率が悪い・・・」

キリカ 「え、と、言うことは・・・」

仁美 「一度に処理できる魔法少女の数を増やす必要がありますわね。とはいえ、魔女化する瞬間を狙って殺さなければならないのですから。いたずらに増やすだけでは、手が回らなくなってしまう」

キリカ 「処理って、あんた・・・」

仁美 「瞬時にして何人を屠れるか。私たちは知っておかなければなりませんわ」

キリカ 「・・・驚いたよ。虫も殺さないような顔をしておいて、ずいぶんとえげつない事を考えるんだね、仁美は」

仁美 「あら・・・」


モニターの中の仁美が、意外なものを見るように、目をまん丸く見開いた。


仁美 「もしかして、呉さん・・・罪悪感、お持ちですの?」

753 : 以下、名... - 2015/06/09 01:44:29.53 Wp6ot+820 802/1284

キリカ 「そうじゃないよ。だけれど、私は今、自分と同じ魔法少女の命を摘み取ったんだ。仁美みたく平然としてられる気分でもないよ」

仁美 「意外と・・・肝がお小さいですこと」

キリカ 「なんだと!だったら仁美は、いま何も感じてないっていうのか!?」

仁美 「ええ、感じてませんわ。当然でしょ?」

キリカ 「なっ・・・」

仁美 「これくらいの事で動揺する程度であるなら、最初から魔法少女になどなっていませんわ。私は私の守るべきもののために願いを望み、代償として人であることを捨てたのです」

キリカ 「仁美、おまえ・・・」

仁美 「この期に及んで人間らしい感情なんて、紙に包んでゴミ箱にポポイ、ですわ」

キリカ 「・・・はっきりと、確信したよ」

仁美 「なにをですの?」

キリカ 「私、お前の事、大嫌いだ」

仁美 「奇遇ですわね。私も、あなたとは気が合わないと思っていましたのよ」

キリカ 「・・・」

754 : 以下、名... - 2015/06/09 01:46:59.65 Wp6ot+820 803/1284

仁美 「・・・何はともあれ、今回の結果を織莉子さんに伝えなければ。念話、飛ばしますわね」

キリカ 「・・・うん」


瞼を閉じ、念を集中し始める仁美。

だがすぐに、怪訝な顔で目を開く。


仁美 「え・・・」

キリカ 「どうかしたの?」

仁美 「おかしい。念話が、送れませんわ」

キリカ 「えっ・・・」

755 : 以下、名... - 2015/06/09 01:49:20.77 Wp6ot+820 804/1284

仁美 「もう一度、やってみます」


再び目を閉じ、集中する仁美。

だが、すぐに目を開き首を振る。


仁美 「だめ・・・」

キリカ 「どうして?だって私は、さっき織莉子と念話で話したばかりだ。よし、じゃあ私がもう一度やってみる」


だが、結果はキリカも同じだった。

確かに飛ばしたはずの念話が、なにか厚い壁にさえぎられて、跳ね返されてしまう。

そんな感覚だった。

それは、今までにない経験。


キリカ 「そんな馬鹿な、ありえない」

仁美 「仕方がありませんわね。原因の追及は後です。今はまず織莉子さんへの報告を優先しなければ。いったん外に降りましょう。じかに話せばいいのです」

キリカ 「そうだね・・・じゃあ、ハッチを開いて、と」


ハッチに手を伸ばし、扉開閉のスイッチを探す。

756 : 以下、名... - 2015/06/09 01:51:51.78 Wp6ot+820 805/1284

だが・・・


キリカ 「あれ・・・」


キリカは愕然とする。

乗り込んだ時に確認し、確かにあったはずのスイッチが、まるで削ぎ落とされたかのように消え失せていたのだ。


キリカ 「ばかな・・・仁美!」

仁美 「呉さん、スイッチがありませんわ」

キリカ 「そっちも・・・?」


いったい何がどうなっているのか。


仁美 「・・・流君に聞いてみましょう。流君・・・流君っ!・・・え?」

キリカ 「仁美・・・?」

仁美 「イーグル号との通信が繋がりません、わ・・・」

キリカ 「!?」

757 : 以下、名... - 2015/06/09 01:55:11.83 Wp6ot+820 806/1284

外との念話が遮られてしまう。

機外に出るためのスイッチが消えてしまった。

そして、ゲッターの事を熟知している竜馬との通信もできない。


仁美 「これは・・・」


めったなことでは動じない仁美の心に、焦りと戸惑いの波が押し寄せてきた。


仁美 「呉さん、私たち・・・」

キリカ 「ど、どうなってるんだよ、どんな状況だよ、これ・・・」

仁美 「閉じ込められてしまった・・・?」

771 : 以下、名... - 2015/06/12 01:26:24.67 O+vq1ZcH0 807/1284

・・・
・・・


ほむら (・・・?)


どうしたのだろう。

織莉子の顔に、焦りの色が浮かんでいる。

ゲッターの中で、何かがあったのだろうか。

先ほどからゲッター内にいる仁美たちへと念話を飛ばしているようなのだけれど・・・


ほむら (私に向けられていない念話では、何を話しているのか分からないわね)


かといって、私が念話を飛ばしたところで、あの二人が応えてくれるとも思えない。

今は大人しく、推移を見守る他はないようだわ。

772 : 以下、名... - 2015/06/12 01:30:01.97 O+vq1ZcH0 808/1284

ほむら (に、しても・・・)


のしのしと動き回っていたゲッターも今は歩みを止め、不気味な静寂を結界内にもたらしていた。


ほむら (ゲッターが止まってから、もう数分。いくらなんでも動きが無さすぎる。中で何かが起こっているのかしら)


織莉子 「暁美さん・・・」


不意に織莉子が話しかけてきた。

どことなく心細そうな、頼りなげな声音。

まるで先程までの、泰然としていた彼女とは別人のようだ。


ほむら 「え・・・な、なに?」

織莉子 「あなた、中の流さんにコンタクトをとることはできる?」

773 : 以下、名... - 2015/06/12 01:33:18.03 O+vq1ZcH0 809/1284

彼女の質問の意図を計りかね、私は首をかしげる。


ほむら 「え、無理よ、そんなの。私は通信機を持ってないし、リョウは魔法少女ではないから、念で話もできないもの」

織莉子 「そうよね・・・」

ほむら 「ていうか、なぜ私にそんなことを聞くの?中の様子が知りたいなら、仲間の二人に応えてもらえばいいじゃない」

織莉子 「・・・」

ほむら 「・・・?」


そのまま織莉子は押し黙ってしまった。

やむを得ず、私も再び視線をゲッターに戻す。

・・・ふりをしながら、周囲の状況を再確認。

774 : 以下、名... - 2015/06/12 01:35:40.82 O+vq1ZcH0 810/1284

ほむら (マミに武器を突き付けている3人は、まったく隙がないわね。こちらが変な動きをしようものなら、瞬く間にマミのソウルジェムは砕かれてしまうに違いない・・・)


よく飼いならされているものだ。織莉子の統率力には感心する。

ゆまは不安げに武蔵の足にぴったりと抱き着いたまま、オロオロしている。幼い彼女の事だ、状況に対応できなくても仕方がない。

その、ゆまに頼られている武蔵も、最愛の妹を人質に取られては、どうにも動きが取れない。そんな無念さをにじませた表情でマミたちを注視している。


杏子 「・・・」


問題は杏子だ。

杏子のあの目・・・これまでの時間軸で、嫌というほど見てきた。

あの赤い目が不敵な輝きを灯す時。

あれは何かを企んでいる、そんな瞳だ。


ほむら (・・・今は、彼女が頼りかも)


きっと何か事が起これば、杏子はただちに何らかの行動を起こすだろう。

そこに、今のこの状況を切り抜けるチャンスが潜んでいるに違いない。

775 : 以下、名... - 2015/06/12 01:38:03.09 O+vq1ZcH0 811/1284

ほむら (問題は、その不測の事態が起こるのか否か・・・なのだけれど・・・)


今の織莉子の様子。ただ事ではない。

きっと中では何かが起こっている。そこに私たちが付け入るスキが生じるはずなのだ。


ほむら 「・・・あ」


その機会は、案外早く訪れたのかもしれない。


織莉子 「え、なに?」

ほむら 「ゲッターの足元のハッチが・・・」



そこは、ゲッターロボの各機コクピットと通じている、共通のハッチだった。

そこが今、唐突に開いたのだ。

776 : 以下、名... - 2015/06/12 01:40:12.63 O+vq1ZcH0 812/1284

そして・・・


竜馬 「・・・」


出てきたのは、竜馬ただ一人。


ほむら 「リョウ・・・」

織莉子 「え、どうしたと言うの。誰がゲッターから降りて良いと?」

竜馬 「・・・」

織莉子 「キリカと仁美さんは?答えなさい!」

竜馬 「・・・」


切りつけるような織莉子の叱責にも動じず、竜馬が無言で、地べたに何かを叩き付けた。

無様に地面を転がり、みじめな姿をさらしたモノは・・・


ほむら 「・・・っ!?」


・・・キュゥべえ?

777 : 以下、名... - 2015/06/12 01:43:44.97 O+vq1ZcH0 813/1284

織莉子 「な、どういうこと・・・きゅ、キュゥべえ・・・?」


しかし、問いかけられたキュゥべえは一言も発しないどころか、身じろぎ一つすることはなかった。

気を失っているのか、あるいは・・・

だけれど、そんな思索も織莉子の詰問の声の前では、かき消されてしまう。


織莉子 「キリカは!?」


悲鳴のような織莉子の声が、結界内に響く。


織莉子 「キリカはどうしたの?あなたが、何かをしたの!?」

竜馬 「俺は何もしていない」


言いながら、竜馬は織莉子と私の方へと歩み寄ってきた。

無言で一回。

静かに私にうなづいて見せると、竜馬は織莉子に向かって手を差し出した。

778 : 以下、名... - 2015/06/12 01:45:12.91 O+vq1ZcH0 814/1284

織莉子 「・・・え?」


握られたままの拳。

何かを持っているようだ。


竜馬 「受け取れ」

織莉子 「なんだというの・・・」


警戒しながらも、空いた方の手を竜馬に差し出す織莉子。

その掌の上に、ポン、と。

竜馬が何かを置いた。

779 : 以下、名... - 2015/06/12 01:47:15.42 O+vq1ZcH0 815/1284

織莉子 「これって・・・グリーフシード?」

竜馬 「呉キリカだ」

織莉子 「・・・っ!?」

ほむら 「なっ・・・?!」


驚愕の色を隠しもせず、手渡されたグリーフシードを織莉子は凝視していた。

そして、驚かされたのは私たちも同じ。


マミ 「ど、どうして・・・」

ゆま 「・・・あ・・・ぅ」

杏子 「・・・」

武蔵 「な、中で何があったってんだ!?おい、リョウ!」


だが、竜馬は浴びせられる問いかけには一切答えず、今度は私に向かって手を差し出す。

まさか、この流れは・・・

780 : 以下、名... - 2015/06/12 01:49:29.73 O+vq1ZcH0 816/1284

ほむら 「も、もしかして・・・」


言いながら、私も空いた方の手をリョウに向ける。

その上に、織莉子としたのと同じように、彼は一つのグリーフシードを乗せた。


ほむら 「これって・・・」

竜馬 「志筑仁美だ・・・」

ほむら 「ーーーーーっ!」


予想はしていた。

だけれど、面と向かって放たれた竜馬の言葉に、私の心がついていけない。

仁美が・・・死んだ?


ほむら 「こ、これが・・・」


今、手のひらの上にある無機質で冷たい物体が。

つい先ほどまで言葉を交わしていた、学校では笑顔を交し合った志筑仁美だと竜馬は言うのだ。

信じられない。いや、信じたくなかった。

781 : 以下、名... - 2015/06/12 01:51:01.90 O+vq1ZcH0 817/1284

ほむら 「うっ・・・」


ゾクっと。

私の背筋を悪寒が走りぬける。

私たち魔法少女にとって、グリーフシードは同胞の死体にも等しい存在。

今、私の手の中には・・・

友達の死体が、すっぽりと収まっているのだ。


ほむら 「りょ、リョウ・・・聞かせて、いったい中で何が・・・」

竜馬 「・・・」

織莉子 「そうよ!言いなさい、流竜馬!」


織莉子が今までになく声を荒げた。


織莉子 「事と次第によっては、巴マミを殺すわ!」

782 : 以下、名... - 2015/06/12 01:52:39.81 O+vq1ZcH0 818/1284

だが・・・

マミを人質にとっている3人の魔法少女たちも、私たちほどではないにしろ、動揺に心を奪われていた。


A子 「え・・・え・・・キリカちゃんと仁美さんがグリーフシードになっちゃったって・・・」

B子 「どういうこと?グリーフシードって、魔女の卵じゃなかったの?」

C子 「ていうか、二人とも死んじゃったってこと・・・ちょっと・・・あのロボットってやばいんじゃないの・・・?」


こそこそと囁きあっている。


織莉子 「何をしゃべっているの、あなたたち!きちんと人質に集中していて!」

A子 「あ、う、うん。ごめん、織莉子ちゃん・・・」


織莉子は自分の取り巻きたちを厳しい口調で叱責すると、再び竜馬を睨み付けるように視線を戻した。


織莉子 「さぁ・・・」

竜馬 「分かってる。だが、俺だって混乱しているんだ。あまり、せかさないでくれ・・・」


竜馬にしては弱気な言葉を吐いたものの、それでも彼はポツリポツリと思い出すように語り始めた。

783 : 以下、名... - 2015/06/12 01:53:52.42 O+vq1ZcH0 819/1284

竜馬 「どこから話すべきか・・・そうだな・・・」

ほむら 「・・・」


私も今は。

黙って竜馬の話に耳を傾けるほか、なすべき事が無かった。

掌の中のグリーフシード。

これが本当に仁美なのか。そうであるなら、どうしてこのような姿に成り果ててしまったのか。

私は・・・友達として知らなければならないから。


杏子 「・・・」

795 : 以下、名... - 2015/06/18 01:15:53.09 1s2X/w+60 820/1284

・・・
・・・


竜馬は不可思議な空間にいた。

身体はイーグル号のコクピットに座って、モニターで仁美たちの様子を見ている。

それは間違いがない。

だが、意識はもっと別のところにいた。

高い所から、全てを見下ろしているような・・・

まるで魂だけが体を抜け出し、ふわふわと浮かんでいるような胡乱な感覚。


竜馬 「こ、これは・・・」


形容しがたい状況に置かれ、竜馬の心に不安の波が押し寄せてくる。

いったい、何が起こっているのか。

796 : 以下、名... - 2015/06/18 01:17:26.61 1s2X/w+60 821/1284

 (リョウ・・・心を静かに保て)


謎の声が、再び竜馬に語りかけてきた。

だが、先程までとは違って、今度の声は竜馬のすぐ前から。

普通に会話を持ちかけられたように、ごく自然に聞こえてきた。


竜馬 「あ・・・」


竜馬がそちらへと視線を向ける。

そこには・・・


 「リョウ」


懐かしい友の姿が・・・


竜馬 「あ、ああ・・・」


自分と相対するように浮かんでいたのだ。

797 : 以下、名... - 2015/06/18 01:20:00.54 1s2X/w+60 822/1284

竜馬 「は、隼人!」


そう、そこにいたのは。

自分と共にゲッターに命をささげ、そして散って逝ったかけがえの無い友。

神 隼人。その人であったのだ。


竜馬 「やはりお前だったのか・・・隼人」

隼人 「この姿で会うのは、久しぶりだな。リョウよ」

竜馬 「・・・この姿、で?」

隼人 「俺はずっとお前と共にいたよ。ここで、この場所から、常にお前と共にあった」

竜馬 「この中って・・・お前は死んだ後も、ゲッターの中にずっといたと言うのか?」

隼人 「俺は死んではいないさ」

竜馬 「・・・死んだろう?俺はお前の最期を看取ったんだ。お前は死んだ。俺の腕の中で、確かに・・・眠るように・・・」

798 : 以下、名... - 2015/06/18 01:22:13.93 1s2X/w+60 823/1284

隼人 「リョウ・・・目に見える事象が世界の全てではない。その事を心に深く刻んでおくんだ」

竜馬 「・・・お前、本当に隼人、なのか?」

隼人 「そうでもあるし、違うとも言える」

竜馬 「・・・わからねぇよ」

隼人 「リョウ、個は全で、全は個だ。今の俺の姿も、お前に馴染みのふかい姿を取っているに過ぎない」

竜馬 「隼人・・・」


キュゥべえ 「禅問答は、後にしてくれないかな」


不意に竜馬の肩に乗っていたキュゥべえが、二人の会話に割り込んできた。

799 : 以下、名... - 2015/06/18 01:26:06.83 1s2X/w+60 824/1284

竜馬 「お前も、ここに来ていたのか」

キュゥべえ 「込み入って話していたようなので、黙っていたけれどね。それにしても・・・」


キュゥべえがキョロキョロと辺りを見回す。


キュゥべえ 「ここは不思議な場所だね。いや、場所と言える物ではないのかな。僕たちの精神だけが、特殊な空間に飛ばされているとでも言うべきか」

竜馬 「分かるのか?」

キュゥべえ 「状況から予測しているに過ぎないけれどね。僕もこのような”場所”にくるのは初めてだ」

隼人 「・・・」

キュゥべえ 「ねぇ、君はいったい誰なんだい?こんな芸当ができる者が、僕たちや魔法少女のほかにもいるなんて驚きなんだけれど」

隼人 「さえずるなよ、インキュベーター」

竜馬 「いんきゅ・・・なんだって?」

キュゥべえ 「・・・僕の正式な名前さ。それを言い当てるとは、神隼人といったかい?君は、今を生きている人間ではないね」

隼人 「・・・」

800 : 以下、名... - 2015/06/18 01:30:02.03 1s2X/w+60 825/1284

キュゥべえ 「僕の予想だと、君はこのロボットに取り憑いている残存思念の類じゃないかと思うのだけれど、当たるとも遠からずじゃないかな」

隼人 「・・・お前の浅い知恵と乏しい経験則で、俺の何を図るつもりだ」

キュゥべえ 「悠久の歴史を紡いできた僕の経験を、乏しいと言い捨てるとはね」

隼人 「お前の企み、しかと聞いたぜ。さすが、進化の枠組みから自ら抜け出した連中の考えそうなことだ。底がな、あまりに浅いんだよ」

キュゥべえ 「進化から抜け出した・・・?僕たちが?いったい何のことだい・・・?」

隼人 「おこがましいんだよ、貴様。ゲッターを思い通りに扱えるとは、思い上がりも甚だしい」

キュゥべえ 「・・・」

竜馬 「待てよ。じゃあやはり、お前が呉キリカと志筑仁美を外部から遮断しているのか。いったい、何のために・・・」

隼人 「インキュベーターの薄汚い企てに乗った連中には、ふさわしい報いを受けてもらう」

竜馬 「なに、それってどういう意味だ・・・?」

隼人 「それが進化の流れの反逆者に加担した者の末路だ」

801 : 以下、名... - 2015/06/18 01:31:22.92 1s2X/w+60 826/1284

竜馬 「ま、待て!あいつらをどうするつもりだ!」


思わず隼人に詰め寄ろうとする竜馬。

だが、すぐ近くにいるはずの隼人なのに、なぜか竜馬には指先一つの距離さえ縮める事が出来ない。


竜馬 「は、隼人・・・!」


隼人に向かって伸ばした腕も、むなしく虚空を掴むのみ。


竜馬 「・・・っ」


もはや竜馬には、目の前の隼人を見つめる以外になす術がなかった。

802 : 以下、名... - 2015/06/18 01:34:11.95 1s2X/w+60 827/1284

・・・
・・・


ベアー号内


仁美 「あ、ああああっ!!」


それは突然だった。

ゲッターが魔力を吸い上げる量が、急激に増加したのだ。

現在ゲッターは動きを止めている。過度なエネルギーの吸収は行われないはずだというのに。

なのに現実として、仁美のソウルジェムは瞬く間に輝きを吸い取られて行っている。


仁美 「これは一体、何が起こっているんですの!?」


だが、その問いに応える者はいない。

代わりにスピーカーから漏れ聞こえてくるのは、キリカの切なげな呻き声のみだった。


仁美 (ジャガー号でも、同じことが起こっている!?)

803 : 以下、名... - 2015/06/18 01:37:26.73 1s2X/w+60 828/1284

ともかく、今は現状をどうにか切り抜けなければならない。

このままでは数分を待たず、自分は魔力を吸い尽くされ魔女化してしまう。

仁美は先ほど回収したばかりのグリーフシードを懐から取り出し、魔力を吸収しようとした。


仁美 (大切なグリーフシードだけれど、背に腹は代えられませんわ!)


しかし・・・


仁美 「えっ・・・!?」


仁美は愕然とした。

先ほど誕生したばかりのグリーフシード。魔力は満タンのはずだったのに。


仁美 「二つとも・・・魔力が・・・からっぽっ!?」

804 : 以下、名... - 2015/06/18 01:40:16.27 1s2X/w+60 829/1284

ありえない事態に、仁美が息をのむ。

どうして・・・と考えて、思いつく可能性は一つだけ。


仁美 「まさか、ゲッターがグリーフシードのエネルギーを、じかに吸収してしまった!?」


そんなことが起こり得るのか?だけれど、可能性としては、それしか考えられなかった。

しかし、それでは。

外へ出るどころか、連絡の手段すら奪われた自分の行く末は窮まってしまったという事になる。

仁美は絶望に身を震わせた。

それはこのまま、このコクピットで魔女となるのを待つ他ないという現実。

突き付けられたのは、目前に迫った”死”。

805 : 以下、名... - 2015/06/18 01:42:00.50 1s2X/w+60 830/1284

仁美 「ま、まだ・・・まだ死ねない」


死は覚悟していた。

いずれ訪れるであろう自分の運命も受け入れていた。

だけれど、それは今ではない。

彼女にはまだ、遣り残している事があるのだ。


仁美 「さ、さやかさん・・・」


仁美は恋敵でもある一番の親友の名を呼びながら、開かないハッチを幾度も叩いた。

しかし、鉄の扉は無情にも、冷たい沈黙を守ったままで、びくとも動かない。


仁美 「上条君・・・」


愛おしい男性の名を呼びながら、目の前のコンソールをまさぐる。

この現状から脱する手がかりを求めて。

だが、彼女の希望に沿うようなものは、まったく見出す事が出来なかった。

806 : 以下、名... - 2015/06/18 01:43:18.90 1s2X/w+60 831/1284

仁美 「あ、ああ・・・」


そうしている間にも、仁美のソウルジェムの輝きは、刻一刻と失われつつあった。


仁美 「まだ、なにも・・・何もなし得ていませんわ」


藁にもすがろうと、仁美の手が虚空を掴む。


仁美 「上条君へのお別れも、さやかさんに上条君を託す一言も、私はまだ言っていない・・・」


その手の動きも、だんだんと緩慢になってくる。

吸われ続ける魔力とともに、仁美の思考も徐々に明瞭さを失っていった。


仁美 「上条君・・・」

807 : 以下、名... - 2015/06/18 01:50:10.61 1s2X/w+60 832/1284

・・・
・・・


竜馬 「隼人、やめろ!」


竜馬には、この瞬間にゲッター内で起こっている事が、モニターを通さずとも全てが見えていた。

感覚が、全てを掴みとる。

目に見えないはずの、仁美やキリカの心情ですらも、文章化されたように心の中へと流れ込んでくるようだ。

心が痛かった。二人が感じている絶望や恐怖が、我が事のように竜馬の心を締め付ける。


竜馬 「魔法少女は魔力が尽きると、魔女となってしまうんだ!このままでは、志筑と呉は魔女となってしまう!」

キュゥべえ 「しかも、今度は先ほど殺された子たちと違い、魔女化を食い止める者はいない。ゲッターの中に二つも、魔女の結界が誕生してしまう事になるね」

竜馬 「冗談じゃない!隼人、あいつらを追い詰めているのがお前なら、すぐにやめてくれ!」

隼人 「すべての存在には分際というものがある。それを弁えなかった者には、相応の報いがあって当然だろう」

竜馬 「だが、それでは・・・」

隼人 「リョウ、彼女たちは魔女にはならない」

竜馬 「・・・え?」

808 : 以下、名... - 2015/06/18 01:51:37.55 1s2X/w+60 833/1284

隼人 「なぜなら、彼女たちは絶望しないからだ」

竜馬 「それって・・・どういう意味だ?」

キュゥべえ 「ばかな、ありえないよ」

隼人 「見ていればわかる」


それきり。

隼人は竜馬が何を話しかけても、再び口を開こうとはしなかった。

ただ黙って、事の成り行きを見守れと言うように、不思議な深みのある目で竜馬を見つめるのみ。


竜馬 「・・・隼人」


竜馬も今は。

隼人に従って、事の推移を見守る以外に為すべき術は残されていなかった。

823 : 以下、名... - 2015/06/22 00:28:55.59 Tnexwrnf0 834/1284

・・・
・・・


キリカ 「織莉子・・・」


もはやつぶやく程度の力しか残されていない。

何が起こったのかは分からない。が、これから先。自分がどうなるかは、呉キリカにも分かっていた。


キリカ 「報い、なのかな・・・」


視線を移すと、そこには二人の少女が横たわっていた。

さきほど自分が手にかけた、今は物言わぬ二つの骸。


キリカ 「・・・君たちにだって、やりたい事はたくさんあったはずだよね。だから願いをかなえて魔法少女になったのだもの。だけれど、私がその望みを、全て摘み取ってしまった」


そのこと自体に、悔いはない。自分が最も大切に思っている、織莉子の願いを叶えるためだったのだから。

そして、それこそが、自分の願いでもあったのだから。

だけれど・・・

824 : 以下、名... - 2015/06/22 00:30:35.70 Tnexwrnf0 835/1284

キリカ 「人の願いを潰しておいて、自分だけ悲願を達成するなんて、虫のいい話があるはずなんてないか」


キリカは自嘲を込めて笑った。


キリカ 「ふふ、だったら良いよ。私も君たちの所に行く。だから・・・」


織莉子が願いを叶えることだけは、許してあげて欲しい。

それだけを切に思った。

そうしておいて、あとは流れに身をゆだねるつもりで、そっと目を閉じる。

黙っていれば、長くてもあと数分で魔力が底をついてしまうだろう。

それは、呉キリカとしての生の終焉を意味する。


キリカ 「織莉子・・・」


目を閉じれば、瞼に浮かぶのは愛おしい彼女の顔ばかりだった。

825 : 以下、名... - 2015/06/22 00:32:45.49 Tnexwrnf0 836/1284

自分がいなくなった後、織莉子はどうなるのだろう。

彼女は自分を欠いて、それでも願いを叶えることができるのだろうか。


キリカ 「織莉子、織莉子・・・」


キリカの心に、不安と孤独感が激流となって押し寄せてきた。

織莉子をおいて死ぬことの恐怖。

二度と織莉子と会えないことへの恐怖。

二つの恐怖がないまぜとなって、キリカの心を不安の色で染め上げようとする。


キリカ 「・・・っ!!」


間もなく恐怖は最大の絶望となって、わが身と心を覆ってしまうだろう。

そうなってしまう前に・・・


キリカ 「終わらせなきゃ・・・!」

826 : 以下、名... - 2015/06/22 00:35:01.99 Tnexwrnf0 837/1284

織莉子の願いを繋ぐゲッターの中で、自分が魔女の結界を発生させてしまうなんて事態は、なんとしても避けなければならない。

だから。

自分自身の手で、呉キリカの人生に終止符を打たなければならない。


キリカ 「よし・・・し、死ぬぞ!」


キリカは最後の力を振り絞り、己の武器の切っ先を自分のソウルジェムへと向けた。

一撃を振り下ろせば、虫ほどの力しか残されていないキリカでも、たやすく死ねるはずだ。


キリカ 「織莉子の願いを妨げない。そのためなら、死ぬ程度の事、どうってことない・・・っ!!」


覚悟を定め、キリカは武器を振り下ろした。

だが・・・

その切っ先がソウルジェムに届くことはなかった。

なぜなら・・・


キリカ 「え・・・!?」


・・・武器を手にした腕を、何者かにそっと握られたから。

827 : 以下、名... - 2015/06/22 00:36:44.31 Tnexwrnf0 838/1284

キリカ 「だ、だれ・・・!?」


自分しか、動く者のいないはずのコクピット。

それなのに、キリカの自害を押しとどめた者がいる。

驚きつつも、キリカは力の入らない首を必死に巡らした。

その何者かがいる方へと。

そして見た姿に、キリカはさらに驚愕させられる。



キリカ 「な、なんで君たちが・・・」


キリカは、やっとの思いでそう一言。

そう問いかけるだけで精いっぱいだった。

なぜなら、そこにいた者は・・・

先ほど自分が手にかけたはずの。

いや・・・

現に今も、コクピットの床に、冷たくなった体を横たえているはずの、F子とG子の姿だったからだ。

828 : 以下、名... - 2015/06/22 00:39:58.57 Tnexwrnf0 839/1284

・・・
・・・


ベアー号の中でも、同様の事が起こっていた。

仁美が手にかけた少女が二人、生前と同様の姿で現れ、そして今。

仁美の傍らに立って、静かに彼女を見下ろしているのだ。


仁美 「私を・・・迎えに来たんですの?」

仁美 「恨んでいるでしょうね。憎んでおいででしょう。今や瀕死の私に、とどめを刺しに参ったのですね・・・」

仁美 「・・・」

仁美 「え、違う・・・?でも、だって・・・」

仁美 「憎んでない・・・?どうして・・・だって私は、あなたたちを騙して、殺してしまったのですよ?」

仁美 「・・・」

仁美 「なるべくして、なるようになった・・・そうおっしゃるの?え、それは私も・・・?」

829 : 以下、名... - 2015/06/22 00:42:22.57 Tnexwrnf0 840/1284

仁美 「あなた達と一つになる?でも、私はまだ、遣り残したことが・・・」

仁美 「え・・・遣り残したことも、今の現状も、全ては定められていた事?それって・・・」

仁美 「・・・あなたたちの死も、ですの?」

仁美 「・・・」

仁美 「そう、そういう事でしたか。ああ、私にも見えてきましたわ・・・」

仁美 「ゲッターが私に流れ込んでくる・・・いいえ、私と交わる。一つになる・・・」

仁美 「あなたたちとも、いずれは上条君やさやかさんとも・・・」


D子とE子がそっと。

仁美に向かって、手を差し伸べる。

瞳もそれに応え、二人の手を静かに取った。


仁美 「ともに・・・」


受け入れの言葉とともに。

830 : 以下、名... - 2015/06/22 00:45:50.23 Tnexwrnf0 841/1284

・・・
・・・


竜馬 「志筑・・・呉・・・」

キュゥべえ 「まさか死んだ人間が、揃いも揃って姿を現すとはね」

竜馬 「どういうカラクリなんだよ・・・」

隼人 「あれは、俺と同じ存在だ」

竜馬 「キュゥべえの言っていた、残存思念とか言うやつなの、か・・・」

隼人 「志筑仁美が濁りはじめたソウルジェムを浄化しようとした時の事を思い出せ」

竜馬 「・・・え?」

キュゥべえ 「満タンであって然るべき、新しいグリーフシードの魔力がカラだったよね」

竜馬 「志筑はグリーフシードから、直にゲッターが魔力を吸い取ったと考えたようだが・・・」

隼人 「そうじゃない。あれは、元から空っぽだったのさ」

キュゥべえ 「・・・意味が分からないよ。そんな事があるはずがない」

隼人 「だから言ったのさ。浅はかな存在のてめぇ如きに、ゲッターは理解できないとな」

キュゥべえ 「・・・」

831 : 以下、名... - 2015/06/22 00:48:29.11 Tnexwrnf0 842/1284

竜馬 「待てよ。じゃあ、元から空だったというなら、その中身はどこに行っちまったんだ。それにそれと、今の出来事のどこに関わり合いが・・・」


疑問を言いかけた竜馬が、はっとして口をつぐんだ。


キュゥべえ 「・・・竜馬?」

竜馬 「隼人・・・あの二人、お前と同じ存在だと言ったな」

隼人 「ああ」

竜馬 「確かに死んだはずのお前が、今はこうして。俺の前に姿を現している。そして、あの二人の少女たちも。これは・・・」

隼人 「・・・」

竜馬 「理屈は分からねぇ。だから、これは俺のゲッター乗りとしての本能が告げる、単なる予想に過ぎない」

隼人 「リョウ。お前は今、真実の扉を開けようとしている」

竜馬 「お前も死んだ魔法少女たちも・・・ゲッターに取り込まれた・・・」

隼人 「違う。だが、近い」

竜馬 「いや・・・ゲッターと一つに交わった、のか!」

832 : 以下、名... - 2015/06/22 00:49:52.56 Tnexwrnf0 843/1284

隼人 「そうだ、リョウ。故に彼女たちは絶望に陥らない。人としての生を終える直前に、すべてを悟ったのだからな」

キュゥべえ 「では、魔力はどこに・・・」

隼人 「グリーフシードの持つ魔力は、元となった魔法少女の生命力そのものだ。彼女たちが自らゲッターと同化することを望んだのだから、あとに残されたグリーフシードは単なる抜け殻以外の何物でもない」

キュゥべえ 「馬鹿な・・・」

隼人 「感情を捨てたお前でも、驚きを隠せないか」

キュゥべえ 「だったらこれから先、どれだけゲッターを使って魔法少女の魔力を吸い取っても、僕はエネルギーを回収できないってことになるじゃないか!」

隼人 「く・・・くくく・・・やっと結論にたどり着いたのか、進化を放棄したものよ。そうだ、お前の言うとおりだ。魔力を吸われた少女たちは、”俺”と同化するのだからな」

キュゥべえ 「計画を練り直さなくては・・・そうとなれば、もうゲッターなんて用済みだ。僕は失礼させてもらうよ」

竜馬 「あ、おい・・・!」


キュゥべえがテレポートの体勢を取ろうとした、その瞬間。


隼人 「逃さねぇ」


隼人が静かに一言を発した。

まるでそれが合図でもあったかのように、キュゥべえはビクンと激しく一度痙攣して、竜馬の肩の上で意識を失ってしまった。

833 : 以下、名... - 2015/06/22 00:52:20.00 Tnexwrnf0 844/1284

竜馬 「隼人・・・お前、殺したのか?」

隼人 「殺す価値もないさ、こんなやつ」

竜馬 「では・・・」

隼人 「言ったはずだ、奴には報いを受けてもらう、とな。もっともこいつの代わりはいくらでもいるようだが・・・」

竜馬 「・・・何をしたんだ」

隼人 「インキュベーターを代表して、この個体に役に立ってもらおうと思ってな。悪いようにはしないから、こいつは連れて帰れ」

竜馬 「・・・志筑と呉は?」

隼人 「彼女たちは、すでにゲッターと共にあることを選んでいる」

竜馬 「・・・っ」


竜馬は再び、ジャガー号とベアー号に意識を向けた。

だが、そこにはもう、キリカも仁美の姿もなく・・・

ただポツン、とむなしく。

座席の上にグリーフシードだけが、残されているのみだった。

834 : 以下、名... - 2015/06/22 01:01:44.83 Tnexwrnf0 845/1284

・・・
・・・


竜馬 「・・・しばらくして、俺は通常の空間に戻された。その時にはもう、隼人の姿もなく・・・」

ほむら 「・・・」

竜馬 「・・・いや、隼人だけじゃない。ゲッターの中で生きていたのは、俺とこいつだけになっていたのさ」


言いながら、こつんと軽く。

竜馬が地べたに横たわっているキュゥべえを蹴飛ばした。

だけれどそれでも、キュゥべえはピクリとも動かない。本当に生きているんだろうか・・・


竜馬 「これが・・・俺がゲッターに乗り込んでから降りるまでの、顛末のすべてだ」


そう言って、竜馬は話を終えた。

先ほどまで生きていた6人の少女たちが、今はもういない。

しかも、その死が明らかにしたのは、ゲッターロボの、私たちの理解が及ばない恐ろしい一面。

しょせん子供でしかない私たちが受け止めるには、それはあまりに重い現実。

衝撃を受けないはずがない。私たちは、誰もが語るべき言葉を失っていた。

835 : 以下、名... - 2015/06/22 01:05:01.78 Tnexwrnf0 846/1284

そんな中。

沈黙を最初に破ったのは、動揺の色を隠せないままの織莉子だった。


織莉子 「そんな馬鹿な。じゃあ、私たちの計画は・・・?だったら私は、何のために罪のない少女たちを魔法少女に仕立て上げたの・・・」

ほむら 「・・・」

織莉子 「キリカは、何のためにこんな姿になったというの・・・」


グリーフシードと変わり果てた友を呆然と見つめ、誰に言うとでも無くつぶやいている。

だけれど、動揺しているのは織莉子ばかりじゃない。

私も仁美という友人の最期を聞いて、心がざわめくのを留められないでいた。

でも、それ以上に・・・


A子 「え・・・え・・・私たち・・・殺されるために集められたって事なの?」

B子 「そんな・・・それに、いずれは魔女になっちゃうって、どういうことなのよ!」

C子 「聞いてない!これじゃ、せっかく願いが叶ったって、意味ないよ!」


心酔していた人に裏切らていたことを知り、事実上の死刑宣告まで受けた織莉子の取り巻きたち。

彼女たちの取り乱しようは、私たちの比ではなかった。

・・・そんな混乱のるつぼにあって、ただ一人。

状況を冷静に見通していた者がいた。


杏子だ。

836 : 以下、名... - 2015/06/22 01:11:48.73 Tnexwrnf0 847/1284

杏子 「・・・武蔵っ!」


それは突然だった。

杏子が叫ぶのと同時に、風を裂くように駆け出したのだ。

彼女が駆ける先には、マミに武器を突き付けたまま狼狽えている、三人の魔法少女たちがいた。

・・・そして。

杏子に呼ばれた武蔵も、瞬時に状況を理解すると、彼もまた巨体に似合わぬ俊敏さで行動に出た。


杏子 「ロッソ・ファンタズマぁっ!!」


技名を叫ぶのと同時に三人に分身した杏子が、各々の獲物に向かって武器を振りかざす。


杏子 「やぁあっ!!」


気合の声もろとも突き出された槍の穂先は、それぞれ狙いたがわず少女たちの体を貫き、切り裂いていた。

突然の惨劇に見舞われ、鮮血を上げながら、悲痛な叫びをあげるA子たち。

837 : 以下、名... - 2015/06/22 01:13:59.94 Tnexwrnf0 848/1284

織莉子 「・・・え!?」


突然の成り行きにやっと我に返った織莉子だったが、時すでに遅しだった。


武蔵 「ほむらちゃん!!」

ほむら 「!」


武蔵がこちらに突進してくる。

私は強引に織莉子の手を振りほどく。と、同時に、ステップを踏むように一歩、後ろへと飛びのいた。


織莉子 「しまっ・・・」

武蔵 「女だからって、容赦しないぜ!」


そこに飛び込んできた武蔵が織莉子に躍りかかると、彼女の襟と腕をつかみ・・・


武蔵 「そらぁっ!!」


目にもとまらぬ速さで一本背負いを決めていた。

838 : 以下、名... - 2015/06/22 01:27:44.71 Tnexwrnf0 849/1284

織莉子 「あ、ああ・・・っ!」


宙高く投げ出され、受け身も取れないまま地面にたたきつけられる織莉子。


織莉子 「くあっ!!あ、ううう」

ほむら 「・・・」


声にならないうめきを上げながら身もだえている。

私はバックラーへと手を差し入れながら、そんな織莉子へと近づいて行った。

中から取り出したのは、一丁の小銃。

安全装置を外し、引き金に指を駆けると、織莉子へと向かって銃口を突き付ける。


ほむら 「やっと形勢逆転ね・・・」

839 : 以下、名... - 2015/06/22 01:29:19.29 Tnexwrnf0 850/1284

織莉子 「くぅ・・・」

杏子 「へ・・・この時を待ってたんだよ。こいつの気がそれて、取り巻きまで気が回らなくなる、その時をな」


分身を解いた杏子もやって来て、織莉子の顔を覗き込みながらニヤリと笑った。


ほむら 「あの子たち、殺したの?」

杏子 「殺すかよ、後味が悪い。身体は切り刻んでやったが、ソウルジェムには傷一つ付けてないぜ」


織莉子に注意を向けたまま、ちらりとそちらを確認する。

確かに杏子にやられた少女たちは、血の海に横たわりながらも、切なげな呻き声を上げ続けていた。

間違いなく、生きている。私はホッと、息を吐いた。

・・・敵だったとはいえ、今はもう、誰の死も目にしたくない。


ほむら 「そう・・・ありがとう」

840 : 以下、名... - 2015/06/22 01:37:30.96 Tnexwrnf0 851/1284

杏子 「な、なんだよ、気持ち悪いな」

ほむら 「この状況、打開できるとしたら、あなたが鍵だと思っていたから。その通りになったわ、だから」

杏子 「まぁ、な。こいつ、予知ができる割には、すごい動揺しまくってたからさ。ていう事は、今のこの瞬間の予知は出来てないんじゃないかって、そう思ったんだよ」

ほむら 「さすが、ベテランね。ビンゴよ。感の冴えは一流だわ」

杏子 「よせよ、褒めたって何も出ねぇよ。それよりも、だ」

ほむら 「そうね・・・」


私は屈みこむと、織莉子の顔を覗き込んだ。


ほむら 「ねぇ、美国織莉子」


言いながら、彼女のソウルジェムに銃口を突き付ける。


ほむら 「万策尽きた美国織莉子さん・・・あなたはこれからどうするつもり?」


筒先がソウルジェムにコツンっと触れ、無機質な音を結界内に響かせた。

841 : 以下、名... - 2015/06/22 01:39:13.92 Tnexwrnf0 852/1284

・・・
・・・


次回予告


美国織莉子たちの脅威は去り、再びグリーフシード集めに奔走するほむら達。

全ては一週間後に迫った、ワルプルギスの夜を乗り越えるため。

そんな中、かりそめの日常を送るほむらだったが、彼女はまどかにひとつの真実を告げる決意をする。

それがまどかを悲しみの底に突き落とす事となると知りながらも・・・

すべてはまどかのために。その想いの元に・・・


そしてついに、運命の日が訪れる!


次回 ほむら「ゲッターロボ!」第九話にテレビスイッチオン!


ほむら「ゲッターロボ!」【5】

記事をツイートする 記事をはてブする