ほむら「ゲッターロボ!」【1】
ほむら「ゲッターロボ!」【2】

287 : 以下、名... - 2014/12/30 11:40:16.38 MQv8Ixce0 460/1284

・・・某所


キュゥべえ 「助かったよ。君が僕の提案を呑んでくれて」

 「・・・」

キュゥべえ 「正直言うと、宛てが外れてね。最も期待していた人物からの協力が得られないと分かって、難儀していたんだ」

 「利害が一致しただけ。あまり気安く話しかけないで」

キュゥべえ 「・・・まぁ、僕としては、君が僕をどのように思ってくれていても構わない」

 「・・・」

キュゥべえ 「成すべきことが成されるか否か。それだけが重要だ」

 「それには同意するわ。で・・・お膳立てはどの程度、済んでいるのかしら」

キュゥべえ 「この街と、隣の風見野で、かなりの少女達との契約を済ませているよ。適応者が見つかれば、これからもドンドン契約していくからね」

 「・・・そう」

288 : 以下、名... - 2014/12/30 11:41:10.76 MQv8Ixce0 461/1284

キュゥべえ 「もっとも、そのほとんどは一人じゃ使い魔にも勝てない程度の力しか持っていない」

 「では・・・早いうちにこちらに引き込む必要があるわね」

キュゥべえ 「すでに何人か、初戦で斃れてしまっているしね。急いだ方が良いと思うよ。もっとも・・・」

 「・・・」

キュゥべえ 「あの程度の素質で済むなら、そこら辺にいくらでも代わりは歩いているけれどね」

 「黙りなさい。余計なことは言わないで。潰すわよ」

キュゥべえ 「おっと、僕の代わりだっていくらでもいるけど、無意味に殺されてはたまらない」

 「ねぇ」

キュゥべえ 「なんだい?」

 「なぜ、あなたは私のやる事に力を貸してくれるの?」

キュゥべえ 「君の予知した災いで、魔法少女や人間達が滅んでしまったら、僕だって困るからね。当然の事じゃないか」

 「・・・」

キュゥべえ 「・・・」

 「・・・いいわ。どの道、他に術が無いもの。なんにしても時間がない。今はすぐにでも行動を起こさなければいけない時」

キュゥべえ 「期待しているよ、織莉子」

289 : 以下、名... - 2014/12/30 11:42:27.04 MQv8Ixce0 462/1284

・・・
・・・


とある魔女結界の中。

私たちは群がる使い魔を蹴散らしつつ、その最奥まで辿り着こうとしていた。

今、私たちの目の前には木目調の扉が一つ。

扉を開けて中に踏み込めば、そこでは魔女が待ち構えているはずだった。


ほむら 「じゃあ・・・」


扉の前に整列した一同を前に、私は言う。


ほむら 「ゲッターロボを呼ぶわ」


自然と、口調が厳かになってしまう自分が、多少こっけいではあったけれど。

291 : 以下、名... - 2014/12/30 11:44:46.55 MQv8Ixce0 463/1284

ごくり・・・

誰かが唾を飲み込んだ音が、辺りに響いた。

音の主は竜馬か武蔵か。

緊張してしまうのも無理はない。それにそれは私だって同じ。

何せ、自分の意志でゲッターロボを呼び寄せるのは、今回が初めてなのだから。


武蔵 「いよいよだな・・・」

竜馬 「ああ。それより佐倉・・・」

杏子 「分かってるよ、ほら」


杏子が無造作に、いくつかのグリーフシードを投げてよこした。


ほむら 「ありがとう」

292 : 以下、名... - 2014/12/30 11:46:03.03 MQv8Ixce0 464/1284

杏子 「まだ、やると決めたわけじゃねぇ。ゲッターとやらが出て来なかったら、それは返してもらうからな」

ほむら 「分かっているわ」


これで、魔力を全て吸い取られて魔女になってしまう危険は、ひとまず無くなったわけだ。


ほむら 「では・・・皆、私から離れて」


皆を下がらせて、準備は全て整った。

今こそ・・・

ゲッターを呼ぶ!!

293 : 以下、名... - 2014/12/30 11:47:54.11 MQv8Ixce0 465/1284

竜馬 「・・・」

武蔵 「・・・」

杏子 「・・・?」

ゆま 「ねー、まだー??」

ほむら 「・・・えっと」

竜馬 「どうした、暁美。何か問題でも?」

ほむら 「あの、ね。ちょっと、言いにくいんだけれど・・・」

竜馬 「どうしたってんだ?」

ほむら 「ゲッターって、どうやって呼んだら良いのか、分からない・・・」

竜馬 「・・・え」

武蔵 「・・・」

ゆま 「あははっ、変なのー!」

杏子 「笑い事じゃないだろ。なんだよ、それ。さんざん期待させといて、そんな落ちは求めちゃいねーぞ」

294 : 以下、名... - 2014/12/30 11:49:15.37 MQv8Ixce0 466/1284

ほむら 「だって仕方がないじゃない。自分で呼んだ事、無いんだもの」


そう、前にゲッターに乗った時は、謎の声に言われるがままだったのだ。

しかも、乗った後のことは、気を失っていて覚えてすらいない。


杏子 「いや、仕方がないって言われたってさぁ」


杏子が呆れるのも分かるけれど、こっちだって困っているのだ。

ふだん普通にバックラーの中から武器を取り出したりしてるから、今の今まで気にもしなかったけれど。

あんな大きな物、どうやって取り出せば良いのか、まったく見当がつかなかった。


ほむら 「どーしよ・・・」ほむぅ

竜馬 「呼んでみたらいいんじゃねーか」

ほむら 「え、それって・・・?」

295 : 以下、名... - 2014/12/30 11:50:55.20 MQv8Ixce0 467/1284

竜馬 「叫ぶんだよ。心で、魂でな。ゲッターと俺たちは強い絆で結ばれていた。隼人の跡を継いだお前だって、それは変わらないはずだ」

ほむら 「・・・」

竜馬 「だったら、ゲッターはお前の声に応えてくれる。必ずだ」

杏子 「はは、そんなアニメじゃあるまいし」

ほむら 「いいえ」


笑い飛ばそうとする杏子を私は制した。

他に手がないなら、なんだって試してみるより他に無い。


ほむら 「それに」


私には何故か、竜馬の言葉が真実だと思えたから。


ほむら 「やってみるわ」

296 : 以下、名... - 2014/12/30 11:52:38.08 MQv8Ixce0 468/1284

杏子 「えー、マジかよ・・・」


明らかに引いている杏子をよそに、私は目を閉じる。

意識をバックラーの中へと。その中で眠っているであろう、ゲッターロボへと向ける。

程なくして・・・


ほむら 「・・・いた」


私の意識は、異次元のなかで漂う”それ”を認識した。

熱く、強く脈打つ、巨大な力の塊。

紛れもない。

あれこそが・・・ゲッターロボ!

297 : 以下、名... - 2014/12/30 11:53:45.16 MQv8Ixce0 469/1284

(呼べっ!)


私がゲッターを見つけるのと同時に、頭の中で何者かが命令する声が響く。


(叫べっ!)


私は深く頷くと、その声に従った。

バックラーの中へと。その中に広がる異次元へと。心の中へと。魂の奥へと。

私を構成する全てに響き渡れといわんばかりに、私は声を限りに叫ぶ!


ほむら 「出ろぉっ!ゲッタァーーーー!!!」

298 : 以下、名... - 2014/12/30 11:55:40.08 MQv8Ixce0 470/1284

・・・
・・・


次に目を開いた時、私は見覚えのない場所に座っていた。

目の前には数々の計器と、無骨な操縦桿らしきもの。

私は直感で悟る。

ここが、ゲッターロボの操縦席なのだ、と。


竜馬 「暁美」


竜馬の声が聞こえる。

そちらに目を向けると、モニターに移る竜馬と仲間達の姿。声はモニターと一体化しているスピーカーから聞こえてきていた。

竜馬がゲッターを・・・いえ、私を見上げている。

どこか誇らしげな、普段の不敵さを感じさせるのとは、また違った笑みを浮かべながら。


竜馬 「やったな」

ほむら 「・・・うん」

299 : 以下、名... - 2014/12/30 11:56:21.68 MQv8Ixce0 471/1284

竜馬の後ろでは、杏子が呆けた顔で突っ立っていた。


杏子 「ほ、本当に出やがった・・・」

ゆま 「かっこいーっ!!」

武蔵 「おっと、二人とも。驚くのも感激するのも、ちょっと気が早いってもんだぜ。本番はこれからなんだ」

竜馬 「そういうことだな。待ってろ、暁美。今、俺と武蔵も乗り込む。今回は操縦は慣れた俺達に任せるんだ」

ほむら 「ええ、乗って。だけれど、操縦は・・・」


操縦桿が手に馴染む。

計器が私に語りかける意味が分かる。

次に何をすれば良いのか、私には理解ができる。


ほむら 「操縦は私がする。魔女を倒す」

竜馬 「・・・暁美」

ほむら 「私が、このゲッターで」


そう、私はゲッターを動かす事ができる。

300 : 以下、名... - 2014/12/30 11:57:08.01 MQv8Ixce0 472/1284

・・・
・・・


二人が乗り込むのを待って、私はゲッターを動かす。

現在のゲッターは、私の乗っているジャガー号がトップとなる”ゲッター2”の状態。

つまり今のメインパイロットは、この私。

まさにおあつらえ向きな状況。これってやっぱり・・・


ほむら 「私を試そうとしているのかしら」


だったら、お望み通り試されてやろう。

私がゲッターのパイロットとして相応しいか、どうか。

あれ以来音沙汰のない神隼人に見せ付けてやる。

301 : 以下、名... - 2014/12/30 11:57:55.57 MQv8Ixce0 473/1284

ほむら 「行くわ」

竜馬 「応っ」

武蔵 「行こうぜ」


二人の返事を受けて、私はゲッターの左手のドリルで、魔女の住処の壁を扉ごと破壊する。


ほむら 「さぁ、ここの魔女。まずはあなたを最初の獲物とさせてもらうわ」


これからの戦いを占う、大事な一戦。その生贄となる栄光に感謝なさい。

私は進む。魔女の住処の奥に向かって。

そこに巣くう魔女へと向かって。


ほむら 「さぁ、とくと思い知ってもらうわよ。ゲッターの、私の恐ろしさを!」


今の私は、ゲッターを操縦できる悦びに満たされていた。

感激が言葉となって、口から継いで出るのを留めることができない。


そう、私が。

私こそが、ゲッターなのだから!

302 : 以下、名... - 2014/12/30 11:58:40.31 MQv8Ixce0 474/1284

・・・
・・・


一時間後

ほむホーム


武蔵 「いやぁ・・・」


再び、私の家に会する一同。

テーブルを囲い、それぞれの前にはおなじみの安物の紅茶。


武蔵 「瞬殺だったなぁ・・・」


紅茶に一口つけた後で、武蔵がぽつり。感慨深げに呟いた。


武蔵 「ほむらちゃん、躊躇せずに突っ込んで行っちゃうんだもんな。あっという間にドリルで魔女を貫いちゃってるし」

ゆま 「強かったね、ロボット。かっこよかったー!」

竜馬 「ああ。正直、相手がどんな魔女だったかすら、見ている暇がなかったくらいだ」

ほむら 「まぁ・・・湧き上がる闘志が抑えられなかったってところかしら」

竜馬 「だろうな」にやにや

ほむら 「なによ」

303 : 以下、名... - 2014/12/30 11:59:33.47 MQv8Ixce0 475/1284

竜馬 「いやな、魔女に挑む直前のお前のセリフ、まさにゲッター乗りって感じだったなって感心してたところさ」

ほむら 「・・・あれは何と言うか、自然に口から出ちゃって」(ほむぅ)

竜馬 「照れる事ねーよ。古くからの仲間と一緒に戦ってたみたいで、俺は嬉しいんだ」

ほむら 「流君・・・」

杏子 「お話中、悪いんだけどさ」

ほむら 「・・・佐倉さん。あなたには礼を言わなくちゃね。ありがとう」


私は頭を下げながら、懐からあるものを取り出しテーブルの上へと置いた。


杏子 「空になったグリーフシードか・・・」

ほむら 「ええ、たったあれだけの稼動でグリーフシードを一個、使い切ってしまった。あなたが提供してくれた分が無ければ、持たなかったわ。だから・・・」

304 : 以下、名... - 2014/12/30 12:00:24.82 MQv8Ixce0 476/1284

杏子 「礼は良いよ。そういう約束だったんだ」

ほむら 「じゃあ・・・」

杏子 「約束は守るよ。ロボットの実物も見せてもらったし、あんたらの言うことを信用する事にする。一緒に戦うよ」

竜馬 「じゃ、今度はよろしくって言っても、問題ないな」

杏子 「ああ・・・だけど・・・」

ほむら 「なに?」

杏子 「さっきから疑問だったんだけど、ここにはなんでマミの姿がないんだ?」

武蔵 「あ・・・」

ほむら 「・・・」

305 : 以下、名... - 2014/12/30 12:01:20.35 MQv8Ixce0 477/1284

杏子 「見滝原をずっと守ってきたのはマミだし、ここにはその兄貴までいるってのに、どうしてマミ本人がいない?」

ほむら 「それは・・・」

杏子 「今日は何か、出て来れない用事でもあったのかい?」

ほむら 「いえ、そうではなくて・・・」


ちらり・・・私は、武蔵の膝の上にチョコンと乗っかり、ご機嫌なゆまに視線を向ける。


ゆま 「・・・ん、なぁに?」

ほむら 「ううん、なんでも」


・・・私がマミに本当のことを話すのを躊躇している理由。

それを今、ゆまの前で説明するわけにはいかない。

306 : 以下、名... - 2014/12/30 12:02:05.13 MQv8Ixce0 478/1284

ほむら 「流君、お願いしても良いかしら」

竜馬 「・・・任されたぜ」

杏子 「ふーん・・・」


杏子も訳ありな雰囲気を察してくれ、この場ではこれ以上深く追求してくることは無かった。

こういう空気を読んでくれる杏子の性質は、相変わらず私みたいな人間には好ましい限りね。


杏子 「さ・て・と。じゃあ、あたしはこれで失礼させてもらうよ」

ほむら 「泊まる宛はあるの?」

杏子 「どうとでもなるさ。今までだってそうやって生きてきたんだ。心配は要らないよ」

ゆま 「・・・きょーこ、行っちゃうの?」

杏子 「お前らと馴れ合うつもりは無いって言ったろ。約束は守るが、それ以外の干渉はお互いに無しにしようぜ。それじゃーな」

ゆま 「うん・・・」

307 : 以下、名... - 2014/12/30 12:02:38.18 MQv8Ixce0 479/1284

竜馬 「佐倉、待て。俺も帰るから、そこまで一緒に行こう」

杏子 「ああ」


ゆまの寂しそうな眼差しなど意に介さず、杏子は竜馬と連れ立って部屋を出て行ってしまった。

そんなゆまの頭を、武蔵の大きな手が優しく撫でる。


武蔵 「ゆまちゃんは、杏子お姉ちゃんが大好きなんだなぁ」

ゆま 「・・・」

ほむら 「あんなにぞんざいに扱われているのに・・・」

ゆま 「助けてくれたから・・・」

ほむら 「え・・・」

ゆま 「助けてくれたし、怪我も治してくれたから。ゆまが痛いって泣いていた時、ずっと励ましてくれたから」

武蔵 「ゆまちゃん・・・」

308 : 以下、名... - 2014/12/30 12:04:22.01 MQv8Ixce0 480/1284

ゆま 「その時、ゆまのことを心配そうな目で見てくれたから、だからゆま・・・」


この子は・・・

出会ってから一日に満たない短い時間で、佐倉杏子の冷厳な仮面の下に隠れた本質を見抜いていたのかも知れない。

辛い経験から世間を斜めに見、他人に興味なさそうにふるまう杏子の、本当の素顔というものに・・・


武蔵 「きっと、杏子ちゃんから向けられた親切が、この子にとって初めて人から与えられた真心だったのかもしれないな」

ほむら 「・・・」

ゆま 「ゆま、きょーことも仲良くなりたいよ。いろいろ、お話したい・・・」

ほむら 「・・・大丈夫」

ゆま 「ほむらおねえちゃん?」

ほむら 「あの子は、口下手だし意地っ張りだから、あなたとどう接していいのか分からないの」

ゆま 「ほんとう?じゃあ、ゆま。これからきょーことも仲良くなれるかな?」

ほむら 「なれるわ。だって私は、あなた達が仲間になれる事を知っているもの」


もちろん、確証は無い。そういう時間軸もあった。ただそれだけの話。

だけれどゆまは、そんな私の気休めに過ぎない言葉にも、愛らしい顔を嬉しそうにほころばせてくれた。


ゆま 「・・・うん。ゆま、がんばるよ!」

314 : 以下、名... - 2015/01/02 22:37:24.97 Hwe04l0B0 481/1284

・・・
・・・


ほむホームからの帰り道

路上

夜の街。街灯がアスファルトを冷たく照らす中、竜馬と杏子は連れ立って歩いていた。

杏子に行くべき宛てなどない。今は黙って、竜馬の後をおとなしく歩くのみだった。

もとより世間話に花を咲かせるような間柄でも性格でもない、この二人。

今はただ、無言で歩を進めるだけ。


竜馬 「・・・」

杏子 「・・・」


しばらくして。

もうすでにほむらの家から大分離れた頃合。

先に口を開いたのは、杏子の方であった。


杏子 「もう良いだろ」

315 : 以下、名... - 2015/01/02 22:43:11.17 Hwe04l0B0 482/1284

竜馬 「そうだな」

杏子 「聞かせてもらおうか。なぜあの場にマミがいなかったのか。その理由とやらをさ」

竜馬 「単純なことさ。巴マミには、俺たちが集って共に戦おうという企てを話していない」

杏子 「・・・見滝原は元々がマミのテリトリーだ。それって、筋が通ってないんじゃないの?」

竜馬 「そういうの、気にするんだな」

杏子 「自分の気分が悪くなるのさ。あたしだったら、自分の縄張りを荒らす奴は絶対に許さねぇ」

竜馬 「お前は良い奴だな。暁美が仲間に引き込もうとしただけの事はある」

杏子 「その仲間ってのはよせよ。あたしはそう言う、ねちょねちょした関係は大嫌いなんだ」

竜馬 「分かったよ。じゃ、とっとと本題に行くが、巴マミを誘わなかった理由・・・」

杏子 「・・・」

竜馬 「・・・それは、巴マミが真実を知った時、その重さに耐えられないから、だそうだ」

316 : 以下、名... - 2015/01/02 22:44:43.18 Hwe04l0B0 483/1284

杏子 「あたしらが魔女になるって言う、あれか」

竜馬 「暁美は言っていたな。巴マミは強い人を演じている。それは繊細すぎて、傷つきやすい人だからなんだと」

杏子 「・・・」

竜馬 「暁美はかつての時間軸で、お前を含めた仲間達に全てを打ち明けたことがあったらしいぜ。だが、誰も真実を受け入れる事ができなかった」

杏子 「・・・だろうな。今のあたしだって、あんなロボットを見せ付けられなけりゃ、とても信じる気に離れなかったと思う」

竜馬 「その口ぶりからしたら、今は信用してくれているように取れるが?」

杏子 「ゲッターロボが現実にあることを証明できたなら共闘する。それが前提だったからな」

竜馬 「そうか。だが、巴マミは、正気を保てずに暴走してしまった。なまじ実力のある彼女のことだ。手が付けられなかったってよ」

杏子 「マミが暴走・・・?ははっ、まさか」

竜馬 「信じられないか?まぁ、俺だって自分で見てきたわけじゃない。信じる信じないは、お前の裁量に任せるしかないわけだがな」

317 : 以下、名... - 2015/01/02 22:46:57.38 Hwe04l0B0 484/1284

杏子 「・・・マミは・・・あいつは、確かに糞がつくほど真面目で融通が利かないところがある。ある、けどな・・・」

竜馬 「それだけ、余裕が無いとも言うな」

杏子 「だってそれは・・・仕方がないだろ。そういう奴なんだよ、あいつは。だけれど、だからってマミはそんな柔な奴じゃない」

竜馬 「・・・」

杏子 「あたしはそれを・・・知ってるんだ」

竜馬 「なんにせよだ。そういった理由から、暁美は巴マミに言い出せないんだとさ。暁美は決して引く事ができない願いを持って戦っている」

杏子 「・・・」

竜馬 「マミが暴走して暁美の前に立ちふさがったなら、その時はかつての仲間だろうと先輩だろうと、殺すしかない」

杏子 「それは、分かるよ・・・」

竜馬 「もちろん、そんなことは暁美の望むことじゃない。だから、言えない、と」

318 : 以下、名... - 2015/01/02 22:49:10.39 Hwe04l0B0 485/1284

杏子 「だけど、だからって、納得できることじゃない・・・」

竜馬 「どうやら、お前と暁美の中での巴マミ像には、決定的な違いがあるらしいな」

杏子 「・・・いずれにしたってさ」

竜馬 「?」

杏子 「実際問題、マミも活動してる見滝原で、あたし達が徒党を組んで魔女退治。そんなん、マミにばれないはず無いだろ?」

竜馬 「そりゃま、そうだろう」

杏子 「だまってて、いざばれちまったら、それこそいらないイザコザが起きるんじゃないのかなって。そう思うんだよ、あたしは」

竜馬 「・・・」


杏子が本当に言いたい事は言葉とは別の所にあるのを感じつつ、しかし、いま述べた杏子の意見もまた正鵠を射ていた。

だから竜馬は、敢えて抱いた疑問には触れず、彼女の表に現した言葉に対する答えだけを告げることにした。


竜馬 「お前の懸念ももっともだ。だが、その事は少し暁美に時間を与えてやってはくれないか」

杏子 「え、あいつ、マミのことで、何か考えがあるの??」

319 : 以下、名... - 2015/01/02 22:51:37.53 Hwe04l0B0 486/1284

竜馬 「ああ、らしいぜ。その考えとやらは俺も聞いてはいないがな。まぁ、暁美なら上手くやるさ」

杏子 「ずいぶんと、あいつの事を信頼しちゃってるのな」

竜馬 「仲間、だからな」

杏子 「またそれか・・・」


仲間という言葉に、過剰に拒否反応を示す杏子。

だが、そんな態度の裏側に、杏子のもう一つ別の顔が潜んでいるように、竜馬には感じられた。

それがどんな感情かまでは、推し量れなかったが・・・


竜馬 「・・・お前は暁美と、どこか似ているな」

杏子 「はぁ・・・!?よせよ、あんなすかした奴とあたしを一緒にするな!」

竜馬 「いや、似ているよ」


自分の感情を押し殺し、今ある自分を演じようとしている辺り。

そして、演じきれずに所々で素の自分をさらけ出してしまい、だけれど自分では、そんな事に気がついてもいない所とか。


320 : 以下、名... - 2015/01/02 22:55:11.31 Hwe04l0B0 487/1284

竜馬 「お前と暁美、良い友達になれるんじゃねぇのかなぁ・・・と」

杏子 「んなっ・・・!?」

竜馬 「俺は思うんだがなぁ」

杏子 「んなわけないだろっ、ばっ馬鹿じゃねぇの。つーか、馬鹿だろ、お前!ばーか、ばーか!」

竜馬 「・・・そりゃまぁ、頭は良い方ではないとは思うが」

杏子 「うっせー、バーカ!バーカバーカッ!ちねっ!」


杏子は竜馬に「バカ」をたたみかけるように浴びせると、クルリと背を向けて駆け出してしまった。


竜馬 「え、おい・・・!」


慌てて追おうとするが、とんでもない速さで走り出した杏子は、瞬く間に夜の街の中へと消えてしまう。

あとには、むなしく取り残されてしまった、竜馬がぽつんとただ一人。


竜馬 「なんだよ、あいつは・・・ふっ」


杏子の消えた方角を眺めながら、思わず噴出してしまうのを竜馬はこらえる事ができなかった。


竜馬 「面白い奴だな、佐倉杏子」

321 : 以下、名... - 2015/01/02 22:57:12.64 Hwe04l0B0 488/1284

・・・
・・・


ほむホーム


杏子と竜馬が去り、武蔵もマミの待つ部屋へと帰っていった、今。

この部屋には私と千歳ゆまの二人だけが残されていた。

これから、少なくともワルプルギス戦が訪れるまでの数日の間、私はこの良く知らない娘と共同生活を営まねばならなくなった。

・・・まぁ、勢いとはいえ、私から言い出した事ではあるのだけれど。


ほむら 「・・・」

ゆま 「・・・」


テレビも無い。雑誌も無い。当然ゲーム機なんて無用なものは置いていない。

だから、とりあえずの話題も無い。その結果として、私たち二人の間には会話が無い。

・・・気まずくも重い雰囲気が今、私の部屋を満たしていた。

322 : 以下、名... - 2015/01/02 23:01:28.70 Hwe04l0B0 489/1284

ほむら (困ったわ。子供って、どう扱えば良いのかしら)


武蔵がどうゆまと接していたか。見てはいたし覚えてもいるが、自分でできるかどうかはまた別の問題だ。

と、私が思い悩んでいた、その時。

きゅるる~っと、静寂に包まれていた部屋に鳴り響く、可愛い音。


ゆま 「///」

ほむら 「お腹、空いたの?」

ゆま 「ご、ごめんなさい」

ほむら 「そんな、謝らなくて良いのよ」


そういえば、やる事や話す事が多すぎて、食べる事をすっかり忘れていた。

幼いゆまが、我慢できなくなるのは当然だ。


ほむら 「私こそ、ごめんなさい。遅くなったけれど、夕食にしましょう」

ゆま 「うん!」


とたんにゆまの顔に笑顔の花が咲く。

323 : 以下、名... - 2015/01/02 23:04:00.90 Hwe04l0B0 490/1284

こういう自分の欲求に素直でいられるのも、子供の利点・・・いや、美点なのだろう。

少し、羨ましくもある。


ほむら 「待って。今、持ってくるから」

ゆま 「あ、あの、お手伝いする事があったら、ゆまもするよ」

ほむら 「・・・?持ってくるだけだから、あなたはそこで座ってて」

ゆま 「え??」


私は”食料”を放り込んでいる収納へ向かうと、いくつかを無造作に選んで、ゆまの元へ戻った。

持ってきたものを、これまた無造作にテーブルに並べる。ゆまがその様子を、興味深げに見ている。


ゆま 「なぁに、それ・・・」

ほむら 「缶詰、某栄養調整食品、パン、カップ麺、レトルトのカレーと温めるだけで食べられるご飯。お好きなのをどうぞ」

ゆま 「・・・」

ほむら 「・・・?」

324 : 以下、名... - 2015/01/02 23:04:48.86 Hwe04l0B0 491/1284

ゆま 「ほむらお姉ちゃん、お料理しないの?」

ほむら 「しないわ。しなくても、ご飯は食べられるもの」


料理に費やす時間があったら、身体を休めたり、ワルプルギス戦の作戦を考えたり、まどかの事を(ぴー)たり・・・

他に有益な時間の使い方が、幾らでもある。

しなくても良い事をしていられるほど、私には時間の余裕など無いのだ。


ゆま 「でも、こんなのばかり食べてたら、身体を壊しちゃうよ」

ほむら 「良いのよ。私はワルプルギスの夜が来るまでの健康が維持できたのなら・・・」


言いかけて、はっとする。

そうだ、この子はこの世界で、ワルプルギスの夜が去った後も生きていかねばならないのだ。

成り行きとはいえ、人ひとりを預かった以上、いい加減な食事を与えて病気にでもさせてしまったら・・・


ほむら 「とはいえ、私には料理のスキルなんかないし・・・どうしよう」


こんな事なら、簡単なおかずの作り方くらい覚えておけば良かった。

325 : 以下、名... - 2015/01/02 23:07:44.87 Hwe04l0B0 492/1284

ほむら 「・・・ん?」


料理、といえば。

私の周辺には、料理の先生としてうってつけの人が一人いたじゃないか。


ゆま 「・・・ほむらお姉ちゃん?」

ほむら 「ごめんなさいね、ゆま。今日はここにあるので我慢してくれる?近いうちに必ず、きちんとしたものを食べさせてあげるから」

ゆま 「うん」


素直に頷くと、ゆまはどれを食べようかと目の前の食料郡に目を移した。

あれこれ手にとって選んでいる姿を、何とはなしに眺めながら思う。

明日にでも彼女と接触してみよう。どの道、彼女とは話しをしなければならなかったのだ。

その良いきっかけが、ゆまのお陰で得られる事ができたと考えれば、これも僥倖だ。

326 : 以下、名... - 2015/01/02 23:10:09.56 Hwe04l0B0 493/1284

ゆま 「えっと、なぁに?ゆまの顔、じっと見て」

ほむら 「なんでもないわ。選び終わった?」

ゆま 「うん、これ!」


ゆまがいてくれたお陰で、佐倉杏子との話し合いもスムーズに進める事ができた。

そして、あの人との話にも・・・

もしかして千歳ゆまは、これからの戦いを占う上で、私たちを良い方向へと導いてくれる天使ともなってくれる存在なのかもしれない。


ほむら 「じゃあ、私も同じ物にしようかな。ちょっと待ってね、お湯を持ってくるから」

ゆま 「えへへー、うんっ」


明日、さっそく彼女と接触してみよう。

そして、告げる。これから起こる事を。真実を。

だけれど、もう同じ過ちは繰り返さない。


巴マミ・・・

必ず私たちの仲間にして見せるわ。

327 : 以下、名... - 2015/01/02 23:15:36.13 Hwe04l0B0 494/1284

・・・
・・・


翌日
 
見滝原中学校

昼休み。

私は巴マミと接触するべく、三年生の教室へと向かった。

教室の入り口にさしかかると、折りよく巴マミがお弁当を片手に、廊下へと出てくる所に行き当たる。

・・・幸先がいいわ。


マミ 「・・・あら」


だけれどマミは、私の顔を認めるやいなや、表情に険しい陰を刻んでしまう。

それはそうか。

成り行きで食事を共にした事はあるとはいえ、私たちは依然として敵のままなのだ。


マミ 「暁美さん・・・三年の教室に何か用?」

ほむら 「巴さん、どこかへ行くの?」

マミ 「屋上へ。お昼は鹿目さんと食べる約束をしていたから」

328 : 以下、名... - 2015/01/02 23:17:55.58 Hwe04l0B0 495/1284

ほむら 「そう。私は、あなたに話しがあってきたのよ」

マミ 「・・・用事は話だけかしら?」

ほむら 「ここは学校。事を荒立てるつもりは無い。歩きながらで良いわ。私の話を聞いてくれるかしら」

マミ 「・・・良いわ」


警戒の色を残しながらも、マミは頷くと屋上への道を歩き始めた。

私もその後を追う。


ほむら 「何もしないわ。そんなに警戒しなくても・・・」

マミ 「なんのことかしら」

ほむら 「まるで背中に目があるよう。私の気配を間断なく把握しようとしている。いつ襲い掛かられても良いように・・・」

マミ 「当然の処置だわ。あなたと私は、敵同士なんだから。そうでしょう?」

ほむら 「少なくとも、私にとっては違うわ」

マミ 「・・・」

329 : 以下、名... - 2015/01/02 23:19:41.38 Hwe04l0B0 496/1284

ほむら 「巴マミ。あなたにお願いがあるの」

マミ 「驚いた。暁美さんが私にお願いとはね。それで?私の持っているグリーフシードでも分けて貰いたいの?」

ほむら 「いいえ」

マミ 「では、見滝原のテリトリーを譲ってくれって事かしら?」

ほむら 「そんなこと、思ったこともない」

マミ 「・・・じゃあ、いったい何なの?」

ほむら 「巴さん。私、今ね。事情があって小さい子供を預かっているの」

マミ 「・・・はい?」


歩を止めたマミが、こちらへクルリと振り向いた。


マミ 「あなたが、子供、を・・・?」


私の話の意図がつかめないと言った顔で、じっとこちら見る巴マミ。

まぁ、無理もないけれど。


ほむら 「ええ。昨日からなんだけれどね」

330 : 以下、名... - 2015/01/02 23:21:15.88 Hwe04l0B0 497/1284

マミ 「そ、そう、大変ね・・・それで、ええと、それと私とどんな関わりが・・・?」

ほむら 「料理、教えて下さい」


言いながら、ぺこりと頭を下げる。


マミ 「・・・」

ほむら 「・・・」

マミ 「は・・・い??」

ほむら 「私、料理ができません。その子に食べさせてあげるものを作れないんです」

マミ 「???」

ほむら 「だからって、子供にでき合いばかり食べさせるわけにもいかないじゃないですか。そう思いません、巴さん?」

マミ 「それは、そうね・・・成長に良くないものね・・・」

ほむら 「だからと言って、悠長に料理を練習している暇は無いんです。分かりますか、巴さん?」

マミ 「まぁ、今まさに料理が必要なんだしね・・・」

331 : 以下、名... - 2015/01/02 23:24:34.33 Hwe04l0B0 498/1284

ほむら 「そうなんです。だから、誰かに直に教えてもらえたら、手っ取り早いなと。だとしたら、巴さん。それには、あなた以上の適役はいないわ」

マミ 「え・・・あ、ありがとう・・・んん??」

ほむら 「私の言っている事に賛同してもらえますか、巴さん?」

マミ 「え、ええ?えっと、まぁ・・・うん・・・あれ??」

ほむら 「ありがとうございます。では、今日の放課後にでもさっそく。私、授業が終ったら校門前で待ってますので」

マミ 「えっ!?ちょ、ちょっと、暁美さん!?」

ほむら 「必要な材料から教えて下さい。買い物をして、それから巴さんの部屋へ行きましょう。じゃ、そういうことで」

マミ 「暁美さん!?私、教えるなんて一言も・・・ちょっと、暁美さんったら!」


私はマミの制止を振り切って、足早にその場を立ち去る。

呼び止めて、断る。そんな隙を彼女には、絶対に与えたりなんかしない。

一方的にでもなんでも、約束事を取り交わせば、律儀な彼女はそれを反故にすることなんて、決してしたりはしないだろう。

つまり、この場でマミをまいてしまえば、私の思う壺。勝ち、なのだ。

332 : 以下、名... - 2015/01/02 23:26:54.56 Hwe04l0B0 499/1284

マミ 「暁美さんたら、ちょっと~~~!」


追いかけようにも、そんな事をしていたらまどかとの約束の時間が過ぎてしまう。

この場で巴マミは、しつこく私を追うことはしないだろう。

そんな、私の読みは当たった。

すでに私たちの間の距離は、かなり開いてしまっている。

姿すら見えなくなった巴マミの、私を呼ぶ声だけがか細く遠くから聞こえてくるのみ。


ほむら 「ふっ、勝った」ふぁさっ


相手の性格や状況から、二手三手先を読み、自分の都合の良いように事を進める。

これこそが、戦術というものだ。

333 : 以下、名... - 2015/01/02 23:29:39.95 Hwe04l0B0 500/1284

竜馬 「お前、えげつないな」


隠れて様子を見ていた竜馬が出てきて、呆れ顔で呟いたけれど気にしない。

そんなことより、重要な事を私は竜馬に確かめる。


ほむら 「武蔵さんに話は通しておいてくれた?」

竜馬 「ああ、巴マミのお料理教室の場に、あいつも居合わせるように。ちゃんと言い含めておいたぜ」

ほむら 「ありがとう」

竜馬 「・・・本当に大丈夫なんだろうな。もし失敗でもしたら、武蔵の恨みまで買ってしまいかねないんだぞ」

ほむら 「もちろん確約はできない。だけど、きっと大丈夫。この時間軸はいつもと違う。なにより、巴さんには心の支えとなってくれる人が側にいてくれる・・・」


そう、巴マミの最大の敵。

それは魔女でも敵対する魔法少女でもない。

孤独に抗う事のできない、繊細な心だ。

心のより所とするものが無かったからこそ、かつての時間軸でのマミは悲惨な真実に抵抗できず、その心を内側から瓦解させてしまったのだ。

だけれど、今回は・・・


ほむら 「いずれにせよ、魔法少女がたどる運命は一つ。知るのが先か後かの差があるだけ。それに、あなたも以前に言っていたはずよ」

竜馬 「そうだな。真実を知らねば、身の振り方を決める事も出来ない。それは、本人のためにもならない・・・」

ほむら 「とにかく、この件は任せてもらうわ。あなたは今日は、私が帰るまでゆまの相手でもしていて」

341 : 以下、名... - 2015/01/04 00:07:54.73 +hO80t+B0 501/1284

・・・
・・・


放課後。

律儀なマミは約束を守って、一人校門前でたたずんでいる私の前に現れた。

計算通り・・・!

ため息をつきつき、気乗りのしない表情を隠しもしないところは、この際大目に見ることにしよう。


マミ 「それで買い物からだっけ。いったい、何を作ってあげたいの?」

ほむら 「美味しい食事を」

マミ 「だから、その種類の事を・・・」

ほむら 「え・・・」

マミ 「・・・」

ほむら 「???」

マミ 「・・・その子、どんな食べ物が好きなのかしら?」

ほむら 「さぁ・・・」

マミ 「さぁって、何も聞いてないの?」

ほむら 「はい」

342 : 以下、名... - 2015/01/04 00:08:51.91 +hO80t+B0 502/1284

マミ 「・・・あっきれた。普通、人に何かをお願いするなら、そういう下調べはしておくものでしょう!?」

ほむら 「・・・すみません」


美味しい料理。それだけしか頭に無くって、具体的な事なんか思いつきもしなかった。

これではマミが気を悪くするのも当然だ。だから私は、素直に頭を下げた。


マミ 「・・・良いわ。じゃ、オーソドックスに考えましょう。大抵の子供が好きで、あなたにも簡単に作れる美味しいもの・・・」

ほむら 「・・・」


そう言われても私にはカップ麺しか思い浮かばなかったので、黙っている事にする。


マミ 「カレーとか、どうかしらね」

ほむら 「あ、良いですね」


カレーなら、確かに嫌いな人はまずいないだろう。

それに野菜やお肉も入っているので、栄養的にも良さそうだ。

343 : 以下、名... - 2015/01/04 00:15:07.01 +hO80t+B0 503/1284

マミ 「それなら材料は家にあるものだけで作れるから、買い物は不要ね。このまま帰りましょ」

ほむら 「あ、でしたら材料費を・・・」


慌ててお金を渡そうとする私をマミは制した。


マミ 「必要ないわ。たくさん作れば、家の夕食にもなるんだから。さぁ、行きましょ」

ほむら 「あ、でも・・・」


やはり材料費すら出さないのは気が引ける。

そう思って再びお金を渡そうとする私に構わず、マミはスタスタと前に立って歩き出してしまう。

こうなっては、やむをえない。

今は私も、マミに従うように後ろに続く以外になす術は無かった。


ほむら 「・・・」


私の目の前にはマミの背中。

その背中を追うように、後ろを歩く私。

・・・何だか、昔を思い出すようだ。

344 : 以下、名... - 2015/01/04 00:16:03.92 +hO80t+B0 504/1284

マミ 「えっと、なに?」


私の視線に気がついたマミが振り向いて、怪訝な表情を見せる。


マミ 「じっと私の背中なんか見て、もしかして、何かついてる?」

ほむら 「ううん、別に何も」

マミ 「・・・そう?」


ちょっと首をかしげた後、彼女は前を向き直り、再び歩き始めた。


ほむら (背中・・・)


再び、私の目の前に現れるマミの背中。

345 : 以下、名... - 2015/01/04 00:19:04.53 +hO80t+B0 505/1284

あの頃・・・

魔法少女になりたての、右も左も分からなかった私。

そんな私の目の前には、常にマミの背中があった。

いつか、あの背中に並べるだろうか。

努力を重ねれば、超える事ができるのだろうか。

当時の私は、華麗なマミの戦い方を見せ付けられるたび、そう夢想せずにはいられなかった。

そう。彼女のように強くあらねば、まどかを守る事なんて夢のまた夢だと。

そんなふうに、思っていたから。


ほむら (巴マミは・・・私の進むべき道を照らす月明かりであり・・・目標だった)


だけれど。

幾度も繰り返された時間遡行は、私とマミの距離を大きく隔ててしまう。

346 : 以下、名... - 2015/01/04 00:20:23.57 +hO80t+B0 506/1284

いつしか、マミの背中は憧れの対象から、私の行く手をはばむ大きな壁へと変わってしまった。


ほむら (戦う目的そのものが根本から違うのだもの。無理もないことだわ)


敵に回せば、これほどやりにくい相手はいない。

何度も厄介な目にも遭わされてきた。

でも・・・

憎めない。嫌いなんてなれない。


マミ 「ついたわよ」

ほむら 「え・・・」


はっとして顔を上げると、そこは見慣れたマンションの入り口だった。

考え事をしながら足を運んでいるうちに、目的の場所についてしまったらしい。


マミ 「ここが私のマンション・・・と言っても、暁美さんは前に一度来たことがあるから知っているわよね」

ほむら 「ええ」


本当は一度どころか、もう何度も来たことがあるのだけれど。

私はマミに促されるまま、マンションの入り口を潜った。


杏子 「・・・」

347 : 以下、名... - 2015/01/04 00:24:01.34 +hO80t+B0 507/1284

・・・
・・・


マミの部屋。

そこでは竜馬のお膳立て通り、武蔵が私たちが来るのを待っていた。

今日の私の計画をつつがなく成功させるためには、何としても彼の協力が不可欠だ。

この役目、他の人に代わりはできない。


武蔵 「よう、ほむらちゃん。いらっしゃい」


声をかけてきた武蔵の顔が、若干緊張で引きつっている。

竜馬から今日の私の計画を聞いているはず。だから、無理もない。

武蔵は、巴マミのことを実の妹として大切に思っているのだから。


マミ 「ただいま、お兄さん。これからこの子にお料理をレクチャーするから」

ほむら (ふだん通り”お兄ちゃん”って呼べば良いのに)ぽそっ

マミ 「なにか?」

ほむら 「いいえ、今日はよろしくお願いします」

348 : 以下、名... - 2015/01/04 00:25:22.84 +hO80t+B0 508/1284

マミ 「はい。じゃ、さっそくキッチンへ行きましょ」

ほむら 「ええ」


マミの後を追ってキッチンへ向かおうとする私の袖を、武蔵が掴んだ。


武蔵 「・・・ほむらちゃん」

ほむら 「・・・大丈夫。ここには、あなたがいるんだから」

武蔵 「君のことは信用している。だが、やはり俺は心配だよ」

ほむら 「・・・」

武蔵 「俺はもう、大切な人を失いたくない」

ほむら 「向き合わなくてはいけないのよ。誰もが自分の運命と・・・」

武蔵 「そうだよな。それは分かってるんだけど・・・」

ほむら 「武蔵さん、頼りにしているから」

武蔵 「・・・」


マミ 「暁美さん?早くこっちへいらっしゃい」


ほむら 「あ、はい」


キッチンから呼びかけるマミに返事をして、わたしもそちらへと向かう。

目配せすると、武蔵は頷いてリビングへと戻っていった。

・・・よし、気持ちを切り替えよう。まずは料理だ。

マミが教えてくれるのだから、私も気合を入れてしっかりと学ばなければならない。

そして、それが終ったら・・・

今度は私がマミに”教える”番だ。

349 : 以下、名... - 2015/01/04 00:26:20.81 +hO80t+B0 509/1284

・・・
・・・


案の定、と言うべきか。

私の指は切り傷だらけとなっていた。


ほむら 「野菜の皮むきが、あんなに難しかったとは・・・」


愕然とした。

爆弾なんかも自作していたし、私はもう少し自分のことを器用な人間だと思っていたのだけれど・・・


マミ 「まぁ・・・初めてなら仕方がないじゃない。これから徐々に慣れていけば良いのよ」

ほむら 「はい・・・」


マミは慰めてくれたけれど、これは重大な課題だ。

カレーを作るのに必要な工程は頭で覚える事ができても、実際の作業は身体で習得するしかないのだから。

350 : 以下、名... - 2015/01/04 00:26:56.25 +hO80t+B0 510/1284

野菜か・・・思わぬ伏兵だったわね。

なにせ、ジャガイモの皮をむこうとすると、包丁がイモの上でツルツル滑って、切れていたのは皮ではなく私の肉だったって言う始末。

じわじわと私を傷つけ、身体ばかりか精神にまでダメージを与えてくるとは、この野菜という存在・・・


ほむら 「・・・もしかしたら魔女並みに厄介な敵なのかも知れないわ」

マミ 「なに言ってるの。さぁ、せっかく完成したんだから、さっそく試食してみましょ」


付き合っていられないと言った口調のマミ。

たった今出来上がったばかりのカレーを、彼女がお皿に盛り付けてくれている。


マミ 「さ、リビングに運ぶの手伝って。兄にも食べてもらって、感想聞いてみましょうね」

351 : 以下、名... - 2015/01/04 00:28:33.29 +hO80t+B0 511/1284

・・・
・・・


完成したカレーの味は上々だった。

見た目不恰好な、私が切った野菜たちも、口の中に入れてしまえば味は同じ。

マミの手ほどき通りに作ったルーと口の中で混ざり合い、まさに絶妙な味のコントラストを舌の上に彩ってくれる。


ほむら 「・・・美味しい」

武蔵 「うんっ、こりゃ飯が進む。お代り、何杯でもいけちゃいそうだな!」

マミ 「暁美さん、頑張ったものね」

ほむら 「私は巴さんの指示通りに、手を動かしただけです」

マミ 「でも、次からは一人でも作れるでしょ。一応レシピはメモにして、後で渡すから参考にしてね」

ほむら 「何から何まで、ありがとうございます」

マミ 「一度引き受けた以上は、中途半端はしたくないもの」


頭を下げた私に、いかにもマミらしい返事がかえって来た。

352 : 以下、名... - 2015/01/04 00:30:32.02 +hO80t+B0 512/1284

武蔵 「しっかし、本当に美味いな、このカレー。なにか、特別な材料でも使ったのかい?」

マミ 「ううん、普通の市販のルーよ。ただね、ほんの少し工夫を加えるだけで、味って見違えちゃうものなの」

武蔵 「へぇ~、なんにしてもたいしたものだ」

杏子 「美味いけど、あたしはもう少し辛い方が好みかな」

ほむら 「それは・・・小さな子に食べさせるのが前提だから、敢えて甘めに教えてもらったのよ」

杏子 「そっか。ま、これはこれでイケるけどさ。あ、お代りもらえる?」

武蔵 「杏子ちゃんさ、もう少しきちんと噛んで食べた方が良いぞ。カレーは逃げたりしないんだから、慌てて食べなくて良いんだぜ」

杏子 「慌ててるつもりは無いんだけど・・・つうか、説教は良いから、早くお代り」

マミ 「はいはい・・・ちょっと待ってね」

ほむら 「・・・」

武蔵 「・・・」

マミ 「・・・佐倉さん?」

杏子 「はえ?」

マミ 「あなた、ものすごく自然にカレーを食べてるけど、どうしてここにいるの?」

353 : 以下、名... - 2015/01/04 00:32:50.35 +hO80t+B0 513/1284

杏子 「や、普通にチャイム鳴らして、玄関から入ってきたけど」

武蔵 「俺が上げたんだけど、いけなかったかな?」

マミ 「・・・いけないとか、そうじゃなくって・・・ていうかお兄ちゃん、彼女の事を名前で呼んでたわよね?」

武蔵 「まぁ・・・すでに顔見知りだしなぁ」

マミ 「え・・・」

ほむら 「・・・私からも聞きたいわ、佐倉杏子。あなたがなぜここにいるの?」

マミ 「暁美さんとも、知り合いだったの・・・?」

ほむら 「ええ」

杏子 「ほむらとマミが連れ立って歩いてるの見かけてさ。珍しい取り合わせで面白そうだったから、ついて来てみたんだよ」

ほむら 「・・・」

杏子 「それに、ほむらと打ち合わせておきたいこともあってさ。ま、ついでだよ、ついで」

ほむら 「打ち合わせ・・・?」

杏子 「ああ。互いの連絡手段をどうするか、まだ決めてなかっただろ。魔女を見つけた時どう動くか、とかさ、色々」

マミ 「え・・・それ・・・どういうこと・・・?」

354 : 以下、名... - 2015/01/04 00:34:12.72 +hO80t+B0 514/1284

杏子 「共闘する事になったんだよ。あたしとほむらと、魔女の見える流や武蔵たちとさ」

マミ 「・・・」


マミの目が、驚きに丸く見開かれる。

そのまま固まってしまうマミ。いくぶん顔も青ざめて見える。


ほむら (・・・まずい)


順を追ってマミに状況を説明して、仲間にも加わってもらうつもりだったのに。

想定外の杏子の乱入で、段取りが狂ってしまった。

お陰でマミは、心中じぶんがのけ者にされているのではと訝っているに違いない。

それも、私たちだけじゃない。最も頼りとする兄も含めて、だ。

今、彼女の心の中では、最も厄介な敵がグルグルと渦巻くようにマミの心臓を締め付けているはず。

そう、孤独というマミにとって最強最悪の敵が。


杏子 「てことで、あたしも見滝原でしばらく活動する事になったから。一応、ここはマミのテリトリーだからな」

マミ 「・・・」

杏子 「一言いっておかないと、筋が通らないだろ。で、いい機会だから、お邪魔させてもらったって訳さ」

ほむら 「佐倉さん、ちょっと黙って」

杏子 「あん?」

355 : 以下、名... - 2015/01/04 00:37:01.36 +hO80t+B0 515/1284

ほむら 「・・・言いたい事が済んだのなら、とっとと退散してくれないかしら」

杏子 「なんだよ、ずいぶんと棘のある言い方をするよな、あんた」


当然だ。

お陰で予定が狂ってしまった。マミにだって、いらない心痛をかける結果となって、頭に来ないはずがない。


ほむら 「どういうつもりなの。あなた、流君から何も聞いていないの?」

杏子 「聞いたぜ。あんたにはあんたの考えがあるってな」

ほむら 「だったら、どうして・・・」

武蔵 「そうだぜ、杏子ちゃん。どういうつもりか知らないが、場をかき回すんだったら、今はここから外してくれよ」

杏子 「あんたは、平気なのか、優しい優しいお兄ちゃんよ」

武蔵 「・・・なにがだよ?」

杏子 「ほむらや流は、あんたの大切な妹の事を、脆い奴だって言ってるんだぜ?」

マミ 「え・・・?」

武蔵 「おいっ!」

ほむら 「佐倉さん!」

356 : 以下、名... - 2015/01/04 00:37:51.98 +hO80t+B0 516/1284

杏子 「・・・あたしは、見届けに来ただけさ」

ほむら 「え・・・?」

杏子 「あんた、今日は”例の話”をマミにするために、ここに来たんだろ。だったら、あたしも見届けるって、そう言ってんだよ」

ほむら 「あ・・・」

マミ 「・・・暁美さん、どういうこと?」

ほむら 「えっと・・・」

マミ 「あなた、今日は私に料理を教わりたくて、ここに来たんじゃないの?預かっている子に食べさせたいって」

杏子 「千歳ゆまだろ。そいつも魔法少女だから」

マミ 「・・・っ!?」

杏子 「一応、”お仲間”って事になってるよ、そのガキもさ」

マミ 「暁美さん、私に嘘を言って、この部屋に上がりこんだというの?」

ほむら 「ち、違うっ・・・ゆまにきちんとした料理を食べさせたいというのは、本当の事よ」

357 : 以下、名... - 2015/01/04 00:39:14.98 +hO80t+B0 517/1284

・・・

もうすでに、話の順逆を選んでいる段階では無いだろう。

なぜって、マミは私に疑念に満ちた目を向けているのだから。

もともとこの時間軸でも、私とマミの関係は良好ではなかった。そこに新たないざこざの材料が投下されては、もう悠長な話し合いなど無理だし無意味。

・・・できれば、この料理を通した時間をもって、彼女との関係の修復に当てられれば、後の話し合いも穏当に進められると期待していたのだけど。


ほむら 「・・・分かったわ、巴さん」


杏子に良いように、事の運びを仕向けられたような気がする。

なぜ彼女がそんなことを企んだのか、理由は分からないけれど・・・

もう、ごまかしは効かない。


ほむら 「全て話すから、まずは私の話を聞いてくれるかしら」

362 : 以下、名... - 2015/01/07 09:20:53.44 lcaR+YGE0 518/1284

・・・
・・・


見滝原某所

一人の少女が今、苦難と試練の道へと踏む込もうとしていた。


キュゥべえ 「悩みや、望んでいる事があるなら、この僕が力になれるよ」

少女 「本当?!じゃあ、私の夢!アイドルになりたいって言う夢が叶うのかな!」

キュゥべえ 「そんなこと、造作も無いことだよ」

少女 「だけれど・・・そのためには魔女っていうのと、戦わなくっちゃいけないんでしょ。私、そんなの不安だよ。怖いよ」

キュゥべえ 「何かを得ようとすれば、リスクを負うのは当然のことじゃないかな」

少女 「それはそうかもだけど・・・やっぱり、怖い。死んじゃったら、夢も希望もなくなっちゃうもん」

キュゥべえ 「もちろん、僕としても無理強いはできない。君の気が進まないなら、この話はここまでだけれど・・・」

少女 「う~~~」


 「決心がつかないようね」


少女 「・・・だれ?」

363 : 以下、名... - 2015/01/07 09:26:33.08 lcaR+YGE0 519/1284

キュゥべえ 「来たのかい、織莉子」


キュゥべえが目を向けた先に、一人の魔法少女がいた。

魔法少女・・・美国織莉子は、キュゥべえの事など見えていないかのように無視し、怪訝な顔の少女の前で立ち止まる。


織莉子 「・・・はじめまして。私は美国織莉子。キュゥべえと契約した、魔法少女よ」

少女 「え・・・あなたも・・・」

キュゥべえ 「そう、君が僕と契約をしてくれれば、織莉子は君の先輩になるわけだね」

少女 「センパイ・・・」

織莉子 「ええ」


織莉子は少女の手を、そっと包み込むように握った。

キュゥべえの提案と、突如として訪れた非日常への誘いに緊張気味だった少女だったが、織莉子の暖かい体温に包まれる事で、不思議と体のこわばりも解かれてゆく。


少女 「わわっ」

織莉子 「あのね」


織莉子は言う。

少女の手を包んだと同じような、温もりに満ちた優しい表情で。


織莉子 「あなたが不安なのだったら、私がずっと一緒にいてあげるわ」

364 : 以下、名... - 2015/01/07 09:29:03.19 lcaR+YGE0 520/1284

少女 「え・・・?」

織莉子 「魔女との戦いも、私がサポートしてあげる。あなたは一人じゃない。だから、何も怖がる必要は無いの」

少女 「でも、だって、どうして・・・??」

織莉子 「なにか、納得いかない?」

少女 「見ず知らずの私に、どうしてそんな風に、優しくしてくれるんですか?」

織莉子 「ああ、そんなこと」


織莉子が柔らかく、くすりと笑う。


織莉子 「魔女は強大な敵よ。私だって、一人で戦うのは怖いものよ」

少女 「・・・」

織莉子 「仲間がね、一緒に戦うお友達が欲しかったの」

少女 「お友達、ですか」

織莉子 「そうよ。あなたも私のお友達になってくれないかしら。そうすれば、私だけじゃない。他のお友達にも紹介してあげられるわ」

少女 「えっ、魔法少女って、そんなにたくさんいるんですか!」

織莉子 「ええ、そうよ。そして、みんなで力を合わせて、魔女と戦っていくの。ね、そうすれば、何も危ない事なんて無いでしょう?」

少女 「たっ・・・確かにっ・・・」

織莉子 「私、あなたとお友達になりたいわ」

少女 「えっと・・・う~~~///」


キュゥべえ 「・・・」

365 : 以下、名... - 2015/01/07 09:31:20.19 lcaR+YGE0 521/1284

・・・
・・・


少女 「それじゃ織莉子さん、これからよろしくお願いしまーす!」

織莉子 「ええ。魔女が現れたら、すぐに連絡するわね」

少女 「はーい!」


先ほどまでの迷いやためらいはどこへやら。

織莉子の優しさにすっかりほだされた少女は、キュゥべえとの契約を済ませると、足取りも軽く家へと帰っていった。

夢が叶うことへの喜び。

人知を超えた力を手に入れた高ぶり。

それらが、彼女が夢と引き換えに大切な物を手放してしまったという事実を覆い隠してしまっていた。

今の少女には何も見えていない。

だが、心の高ぶりが晴れて目の前の霧が払われた時。

すべての事は手遅れなのだと、少女は思い知らされる、そんな日は確実にやってくるのだ。


織莉子 「・・・」

366 : 以下、名... - 2015/01/07 09:33:01.62 lcaR+YGE0 522/1284

キュゥべえ 「表情が暗いね。どうかしたのかい」

織莉子 「・・・いいえ、別に」


自分の胸を締め付ける、この痛み。

これは間違いなく罪悪感というものなのだろう。

その事が、織莉子には理解できる。

人ひとりの人生を終らせてしまった。その罪が、軽いはずが無いのだ。

だけれど・・・


織莉子 「どうもしない。私は、手段は選ばないと、そう決めたのだから」

キュゥべえ 「・・・」


いずれ自分は裁きを受ける事になるだろう。

だけれど、その前に成すべき事は成し遂げなければならない。

でなければ・・・


 「終ったのかい」

367 : 以下、名... - 2015/01/07 09:34:11.48 lcaR+YGE0 523/1284

織莉子 「・・・キリカ。今までどこにいたの?」

キリカ 「ん、そこら辺を散歩?っていうか、四歩五歩と。適当にうろついていたよ」

織莉子 「一緒にいればよかったのに。新しい仲間、あなたにも紹介ができたのに」

キリカ 「必要ないよ。会う理由が無い」

織莉子 「キリカ」

キリカ 「織莉子が言うことには従うよ。だけれど、私には友達なんて必要ない。私には、織莉子がいればそれだけで良いんだ」

織莉子 「・・・キリカったら、仕方がないんだから」

キリカ 「それにだよ」

織莉子 「?」

キリカ 「私にはこの世に、決してこの瞳に映したくない物があるんだ」

キュゥべえ 「それはなんだい?僕も興味があるな」

キリカ 「・・・織莉子の、今していたような表情さ」

織莉子 「・・・」

368 : 以下、名... - 2015/01/07 09:36:09.24 lcaR+YGE0 524/1284

キリカ 「しろまるが言っていた計画は、本当に織莉子を悲しませてまで実行する価値があるものなんだろうね?」

キュゥべえ 「それは織莉子が自分で決める事さ」

キリカ 「では、もし織莉子を無駄に悲しませる結果となった時は、しろまる・・・」

キュゥべえ 「・・・」

キリカ 「お前を切って千切ってこねって潰すぞ」

キュゥべえ 「おぼえておくよ」

織莉子 「キリカ、ありがとう。でも、心配は無用だわ。だって、私は」


この街を、父が愛した見滝原を。

守るためなら、茨の道をも厭わないと、そう決めたのだから。


織莉子 「さ、行きましょう。残された時間は少ない。もっともっと、私たちは”仲間”を得なければいけないのだから」

キリカ 「・・・了解」

キュゥべえ 「そう、野に放たれた魔法少女たちは、まだまだいる。糾合するんだ、君が守りたい物を守るために」

369 : 以下、名... - 2015/01/07 09:38:59.83 lcaR+YGE0 525/1284

・・・
・・・


マミ 「・・・」


彼女の顔面は、蒼白だった。

私は私の知る真実を全て、包み隠さずにマミに告げた。

まずは、あなたの兄である巴武蔵には、こちらの事情は全て話してあるという事。

それから、魔法少女の行く末。

キュゥべえの目論見。

私が時間軸をループしているという事。

その理由が、まどかを魔女とさせないためだということ。

そして、流竜馬と巴武蔵が別の世界からやってきた、異邦人であるという事も。


マミ 「お兄ちゃん・・・」


私が真実を一つ言うたびに、マミは兄の表情を伺うように、武蔵に視線を向けた。

その視線に、武蔵は無言で頷いて答える。肯定して見せたのだ。


マミ 「・・・」

370 : 以下、名... - 2015/01/07 09:40:09.45 lcaR+YGE0 526/1284

ほむら 「信じてもらえるかしら。信じられたならあなたには、私とともに戦う仲間となって欲しい」

マミ 「まって、そんないきなり、突拍子が無さ過ぎて・・・」

ほむら 「でも事実よ。私はあなたに嘘は言わない」

マミ 「だって、そんな・・・キュゥべえが私を騙していたなんて。それに・・・私が魔女に・・・さ、佐倉さん」

杏子 「ん?」

マミ 「佐倉さんは、この話、信じたの?受け入れられたの?」

杏子 「まぁ・・・魔女になるって下りはまだピンと来てはいないんだけど、ロボットに関しちゃ実物を見ちゃってるしな」

マミ 「・・・」

杏子 「それに、こいつらがあたしに嘘を言う理由が無いんだよね。あたしにとっちゃ、表情も読み取れないキュゥべえなんかより、よほど真実を言ってるように聞こえてさ」

ほむら 「佐倉さん・・・」

杏子 「だ、だからって、完全に信頼してるわけじゃない。勘違いするなよっ」

371 : 以下、名... - 2015/01/07 09:41:28.25 lcaR+YGE0 527/1284

マミ 「・・・お兄ちゃんは」

武蔵 「うん・・・俺が別の世界から来たってのも、ゲッターロボに乗って戦っているというのも事実だ。それに、ほむらちゃんが言うことも信用している」


武蔵は言った。

俺は確かに、ほむらちゃんが言う”魔法少女が魔女になる”瞬間を見たわけじゃない。

だけど、ほむらちゃんはまどかちゃんを救うという一念だけで、身も心も削ってまで何度も時間軸をループしてきた。

そこまでするには、それに見合った理由が無いとありえない・・・と。


武蔵 「ほむらちゃんの事は仲間だから掛け値なしに信用しているけれど、理詰めで考えても彼女の言うことは真実としか思えないんだよ」

マミ 「でも、だって!暁美さんの言うことが本当なら、お兄ちゃんは私の本当のお兄ちゃんじゃないって事になるじゃない!」

ほむら 「それは違うわ。この時間軸の人間であるあなたにとって、巴武蔵はあなたの本当の兄である事に違いはないのよ」

マミ 「違う!私にとってなんて、そんなのどうでも良い!お兄ちゃんにとっての私が、本当の妹かどうかが問題なのよ!」

武蔵 「マミちゃん・・・」


マミは席を立つと、武蔵のそばへと駆け寄った。

すがる様に懇願するように、武蔵の手を取ってにじり寄る。


マミ 「お兄ちゃんは、私のお兄ちゃんよね・・・?」

372 : 以下、名... - 2015/01/07 09:43:40.00 lcaR+YGE0 528/1284

武蔵 「・・・ほむらちゃんの言うことは、全て事実だ」

マミ 「・・・っ」


だが、マミに告げられたのは、厳然とした真実だった。

武蔵からすれば、大切に思っているマミに嘘などつけない。そんな真心からの言葉だったはず。

だけど・・・受け取った当のマミは・・・


マミ 「嘘・・・嘘だ・・・」

武蔵 「だけど、それでも今は、本当の妹のように思っt
マミ 「嘘だあああああああああっ」

ほむら杏子 「・・・!?」

373 : 以下、名... - 2015/01/07 09:46:12.51 lcaR+YGE0 529/1284

突然立ち上がり、まるで人が変わってしまったかのように絶叫するマミ。

次々と突きつけられる真実を押し流そうとでも言うように、声の限りに咆哮している。

そんな風に、私には感じられた。


マミ 「嘘だ、嘘よ嘘・・・嘘だ嘘だ嘘だ」

杏子 「ちょっ、マミ、落ち着けって!」

マミ 「触るなぁっ!」


落ち着かせようと差し出された杏子の手を、マミが乱暴に払い除ける。


マミ 「だってお兄ちゃん、七五三の時、一緒にお祝いしたじゃない。小学校に入った時も、笑って、これでマミも小学生だねって」

武蔵 「マミちゃん、どうしたんだ!?しっかりしろ!」

マミ 「パパやママが死んじゃった時だって、一晩中私に寄り添ってくれて、俺がいるから寂しくないって言ってくれて・・・」

武蔵 「マミちゃんっ!」

ほむら 「巴・・・マミ・・・」


・・・私、また、失敗した?

374 : 以下、名... - 2015/01/07 09:49:26.70 lcaR+YGE0 530/1284

マミ 「嘘嘘嘘嘘嘘嘘だぁ・・・っ」

武蔵 「マミちゃん!」

杏子 「おい、マミ!」


武蔵がいるから、平気だと思っていた。

心のより所のあるマミだったら、きっと辛い真実とも向き合ってくれるだろうと。

だけど今、目の前に突きつけられた現実は・・・


杏子 「・・・!?おい、マミ!ちょっとソウルジェムよこせ!・・・くっ、濁ってやがる」

マミ 「いやだ、いやだぁっ・・・」

杏子 「とりあえず、浄化させないと・・・うっ!?なんてこったよ、浄化した先から濁ってきやがる・・・」

武蔵 「・・・マミ・・・ちゃん」

ほむら 「・・・」


・・・また、間違ってしまった。

誰よりも信頼していた武蔵が、過酷な現実を肯定する事によって・・・

より重く、より痛く。

マミの心を押し潰す結果になってしまうとは・・・


マミ 「ああああああああ・・・っ」

杏子 「マミ、お前・・・嘘だろ。お前、こんな、こんな弱かったのかよ。こんなに脆かったってのかよ・・・」


うずくまり号泣を始めたマミと、何とかそれを落ち着かせようと必死な武蔵。

そんな二人を愕然とした表情で眺めながら呟いた杏子の一言が、私の耳にかすかに届く。

テーブルの上の、もはや誰も手を付ける者がいなくなったカレーからは、未だに暖かそうな湯気が、むなしくも立ち上り続けていた。

375 : 以下、名... - 2015/01/07 09:51:31.14 lcaR+YGE0 531/1284

・・・
・・・


泣き疲れたマミをやっとベットに寝かしつけ、私は杏子をともなって彼女の部屋を後にした。

武蔵にはマミから目を離さないように頼み、再びソウルジェムが濁った時の対処用に幾分かのグリーフシードも託してきた。


ほむら 「・・・」


私の考えは完全に裏目に出た。

マミの脆さは身に染みてわかっていたと思っていたけれど、それは私の予想を遥かに上回っていた。


ほむら 「・・・違う」


そうじゃない。ごまかしたって、仕方がない。

上回っていたんじゃなく・・・

マミの脆い部分を、私は履き違えていたのだ。

彼女の心の支えと頼んだ武蔵こそが、最大の弱点だったなんて。

思いもしなかった・・・

376 : 以下、名... - 2015/01/07 09:53:34.19 lcaR+YGE0 532/1284

ほむら 「私、巴マミのことを何も分かっていなかった」


心の内だけで悔やんでいる事に堪えられなくなって、私は隣を歩く杏子に言うともなしに話しかけた。


杏子 「あたしもさ。悪かったな、ほむら」


返って来たのは、意外な言葉。


ほむら 「・・・佐倉さん?」

杏子 「気に食わなかったんだ。お前や流がマミのことをまるで弱っちいみたく言うのがさ」

ほむら 「それは・・・」

杏子 「お前が他の時間軸とやらで何を見てきたのかは関係ない。あたしの知ってるマミはそんな柔な奴じゃない。もっと強い奴なんだって、そう思ってたから・・・」

ほむら 「・・・」

杏子 「袂を別ったとは言え、マミはあたしに戦いのイロハを叩き込んでくれたベテランだ。あいつの強さに対する信頼ってのは、今だって変わっちゃいない・・・」

ほむら 「佐倉さん、もしかして今日、巴さんの部屋に来たのって・・・」

杏子 「ああ、下手な誤魔化しなんかさせない。お前にあたしの知っているマミを見せてやる。そう思って、お前らの話に割り込ませてもらったんだ」

ほむら 「そう、だったのね・・・」


そうか、そうだったんだ。

杏子の行動には、マミを想う彼女なりの心情が働いていたと。

そういう事だったんだ。

377 : 以下、名... - 2015/01/07 09:55:21.83 lcaR+YGE0 533/1284

杏子 「結局、お前らのほうが正しかったって証明しちまっただけだったけどな。ごめん、あたしが掻き乱したばっかりに・・・」

ほむら 「それは違うわ」

杏子 「なんだよ、こんな時に変なフォロー入れたりすんじゃねーよ。よけいに惨めなだけだろ」

ほむら 「そうじゃない、そうじゃないのよ」


この時間軸においての、マミの精神の均衡を保っているのは、”巴武蔵”という男の存在だった。

私がキーパーソンと捉えていた男の存在は、その程度では済まされない、まさに”巴マミの心”そのものだったのだ。

その事を私が見抜けていなかった以上、どのように話を進めていたとしても、行き着く結果は同じだったろう。

杏子の行動がもたらした結果なんて、はっきり言って誤差の範囲だ。

それよりも・・・


ほむら 「あなたが巴さんのことを、そこまで大切に想っていたなんて・・・」

杏子 「んなっ!?」

378 : 以下、名... - 2015/01/07 09:57:34.29 lcaR+YGE0 534/1284

ほむら 「知らなかったし、気がつかなかった・・・」

杏子 「ち、違う!そういう意味で言ったんじゃねー!あ、あたしはただ・・・」

ほむら 「言い訳しないで。”よけいに惨めなだけ”よ」

杏子 「む、むぐぅ」


そう、杏子のこの気持ちにも、気がついてあげることができていなかった。

私は・・・

何度も時間軸をループして、マミや杏子たちと出会いと別れを繰り返し・・・

普通の人より何倍も彼女達と接する時間を持っていたのにも関わらず・・・


ほむら 「私は・・・私はいったい、何を見ていたんだろう・・・」


今度の呟きに、答えてくれる人はいなかった。

404 : 以下、名... - 2015/01/11 13:00:01.61 RtVUuQGN0 535/1284

・・・
・・・


その後。

私の部屋で竜馬やゆまと合流し、今日あったこと、そしてこれからの事を簡単に話し合った。

まずはいくつかの取り決め。

来るべきワルプルギス戦でゲッターロボの力を遺憾なく使えるよう、グリーフシードを節約する事。

そのためにも魔法少女は、極力魔法力を抑えた戦いをするよう心がける事。

具体的には、雑魚の使い魔は竜馬が片付け、対魔女戦にのみ魔法少女は力を振るう。

そして、少しでも多くのグリーフシードを確保するため、魔女の結界を見つけたら連絡を取り合い、即時殲滅する事。

などなど・・・

そして、もう一つ。


ほむら 「武蔵さんには、巴マミが落ち着くまで、戦いからは遠ざかっていてもらおうと思う。今、巴さんから目を離すことはできないから」

竜馬 「そうだな」

ほむら 「戦力を削られるのは痛いし、流君には負担をかけてしまうと思うけれど・・・」

竜馬 「どの道、そんな事があった後じゃ、妹の事が気になって武蔵は使い物にならないだろう。あいつは、情が深すぎるところがあるからな」

405 : 以下、名... - 2015/01/11 13:02:05.45 RtVUuQGN0 536/1284

ほむら 「ごめんね・・・」

竜馬 「らしくねぇな。佐倉、お前もいま話し合ったことで、異論は無いな?」

杏子 「ああ。それじゃ、あたしはもう帰るぜ。邪魔したな」

ゆま 「きょーこ、もう帰っちゃうの?」

杏子 「お前も、良い子にしていろよ」

ゆま 「・・・うん」


力なくゆまの頭をポンポンと叩くと、杏子は静かに私の部屋から出て行った。


竜馬 「・・・かなり堪えてるようだな。お前も佐倉も」

ほむら 「・・・」

ゆま 「お腹が空いてるの?ご飯食べる?」

ほむら 「私は巴さんの家で食べてきたから・・・ごめんね、あなたのご飯、いま用意するからね」

ゆま 「あ、ううん」


私が立ち上がろうとするのを抑えて、ふるふると頭を振るゆま。

406 : 以下、名... - 2015/01/11 13:03:31.51 RtVUuQGN0 537/1284

ふ、と気がつく。

ほのかに部屋の中に漂う、この香りは・・・


ほむら 「料理、したの?」

ゆま 「お兄ちゃんが作ってくれたよ」

ほむら 「流君が?」

竜馬 「ああ、簡単なもんで悪かったけれどな。まぁ、食えれば良いってだけの男の料理ってやつさ」

ゆま 「そんなことないよ。美味しかったもん」

竜馬 「そう思ってもらえるなら、何よりだ」

ほむら 「・・・」

竜馬 「まだ、少し残ってるからな。お前も後で腹が減ったら、食うと良いぜ」

ほむら 「あなたは・・・」

竜馬 「ん?」

ほむら 「私にできないことを、何でもこなしてしまえるのね」

竜馬 「・・・」

407 : 以下、名... - 2015/01/11 13:15:19.96 RtVUuQGN0 538/1284

ほむら 「それに引き換え、私は・・・ずっと一緒にいた人たちの事を何も理解していない。簡単な料理一つ、作る事ができない・・・」

ゆま 「お姉ちゃん・・・?」

ほむら 「何もできない・・・なのにあなたは・・・私に無いもの、全部を持っている・・・惨めだわ、私は・・・」

竜馬 「暁美・・・」

ほむら 「私には、何も無い・・・」


弱音が・・・

どうしてだろう。

今まで溜め込んでいた弱い心が、まるで濁流のように。


ほむら 「私には、何も無い・・・」


私の心の堰を切って、次から次へと言葉となってあふれ出すのを止められない。

408 : 以下、名... - 2015/01/11 13:19:48.22 RtVUuQGN0 539/1284

ゆま 「そんなことないよ!」


不意にゆまが大きな声で私の弱音をさえぎった。


ゆま 「そんなことない!そんな風に言っちゃダメだよ!」

ほむら 「ゆま・・・?」


かぶりを振りながら急に大きな声を出すゆまに、私は面食らってしまう。

この子には、大声で何かを主張するというイメージが、今の今までなかったから。


竜馬 「なにが、そんなことないんだ?」

ゆま 「だって、ほむらお姉ちゃん、ゆまと一緒に住もうって言ってくれたよ!」

ほむら 「だって、それは・・・」


あくまで、ゆまの治癒魔法に期待したからで、役に立ってくれるはずと、放置するのがもったいないと思っただけのことで・・・


ゆま 「それに、ゆまと一緒にご飯食べてくれたよ。ゆまの食べたいもの、選ばせてくれた!」

ほむら 「・・・そんなの、一緒の部屋にいたなら当然の」


言いかけて、気がついた。

この子は、そんな些細な事でも特別なんだと思える人生を歩んできただろう事に。


ほむら 「ゆま・・・」

409 : 以下、名... - 2015/01/11 13:21:32.09 RtVUuQGN0 540/1284

ゆま 「何も無いなんて無いよ!ほむらお姉ちゃんには、”優しい”があるよ!」

ほむら 「や、やめてよ・・・」

竜馬 「子供ってのには、ごまかしが利かないって言うぜ。物を見る目は下手な大人より、ずっとシビアだ」

ほむら 「・・・」

竜馬 「そんな子供が感じ取れる物がお前にはある。何も無いなんて言うなよ、ゆまに失礼だろうが」

ほむら 「やめてったら!」


利己的に動いてきた自分を肯定されることは、余計に惨めだった。

私は声を荒げて、竜馬の言葉をさえぎる。何も聞きたくなかった。


ゆま 「・・・お、お姉ちゃん」


私の剣幕に驚いたのだろう、ゆまも眼を丸くして、これ以上は何も言おうとしなくなった。

竜馬は・・・竜馬はいま、私をどういう目で見ているのだろうか。

惨めで、怖くて・・・

私は彼の顔を正視することができなかった。

410 : 以下、名... - 2015/01/11 13:27:17.65 RtVUuQGN0 541/1284

・・・
・・・


佐倉杏子は、夜の見滝原をあてど無くさまよっていた。

むしゃくしゃとする胸のうちをぶつけるように、乱暴にアスファルトを踏み叩きながら闊歩する。


杏子 「くそっ、マミの野郎」


知らず知らず、感情が言葉となってこぼれ落ちる。

だが、その怒りの矛先は言葉とは裏腹に、自分へと向けられている事に杏子は気がついていた。

マミのことなら、なんだって分かっていると思っていた。

ほむらの言うような、事実に心を押し潰されてしまうような、弱いマミなはずがない。

そんな確信めいた想いが、まったくの幻想であった事を思い知らされてしまったのだ。

自分の認識の甘さに、腹が立つのを抑えられずとも無理はなかった。

411 : 以下、名... - 2015/01/11 13:28:36.48 RtVUuQGN0 542/1284

杏子 (しばらく離れていた間に、あいつの事を良いように思い込んでいたのかもな・・・)


・・・これが思い出補正って奴か、と。

自己分析をしてみて、そんな甘い結論に導かれてしまう事にも腹が立つ。


杏子 (腹が立つ腹が立つ・・・)


いくら腹を立てても、自分を殴るわけにもいかない。


杏子 「このままじゃ、いつまでたったって眠れそうにもねぇ。そうだな・・・魔女でも狩るか」


魔女がいなければ、今日ばかりは使い魔でも良い。

とにかく、今は怒りのぶつけ先が欲しかった。つい先ほど、グリーフシードを節約すると取り決めた事さえ、今の杏子にはどうでも良い事だった。


ソウルジェムを取り出し、周囲の気配を探る。

反応は、あっけないほどすぐ現れた。


杏子 「ついてるな。結界は・・・こっちか。期待して待ってろ、化け物。今日はいつもの十割り増しで、槍の味を堪能させてやるぜ」

412 : 以下、名... - 2015/01/11 13:30:22.37 RtVUuQGN0 543/1284

・・・
・・・


襲い来る使い魔を、無双の勢いで血祭りにあげ続ける杏子。

結界内には、使い魔どもの断末魔が間断なく響き続けていた。

やがて・・・

無限とも思える使い魔の襲撃も、徐々に勢いが失われてゆき・・・


杏子 「けっ、敵さん、弾切れかよ!」


最後の一匹を槍で貫いた杏子が、吐き捨てるように言った。

先ほどまでの喧騒が嘘のように、静まり返った結界内。

彼女の足元には、数え切れないほどの使い魔の死骸が山となしている。


杏子 「物足りねぇが、仕方がない。そんじゃ、親玉に挨拶に行きますか」


槍をふるって穂先についた血のりを飛ばすと、杏子は結界の奥へと向かって歩を進めようとした。

413 : 以下、名... - 2015/01/11 13:30:53.86 RtVUuQGN0 544/1284

が、ピタリと足を止める。

背後から、自分を見つめる気配が一つ・・・


杏子 「・・・だれだ?」


言いながら振り返ると、いつからいたのか・・・

一人の魔法少女の姿が、そこにはあった。

純白のドレスとも見紛う、優美な衣装に身を包みし魔法少女。

杏子には見知らぬ顔だった。


杏子 「・・・ふうん、やっぱり見滝原でも行われてるらしいな」

414 : 以下、名... - 2015/01/11 13:33:35.21 RtVUuQGN0 545/1284

 「なにがかしら・・・?」


独り言のように呟いた杏子の一言に、落ち着き払って返答する魔法少女。


杏子 「魔法少女のバーゲンセールさ。だけれど、あんたはあたしが今まで見てきた連中とは、少し違うようだな」

 「そうね。そしてあなたも、私が求めていたバーゲン品とは違うようだわ・・・」

杏子 「ふーん・・・で・・・」


槍の穂先を白い魔法少女の胸元に突きつける。


杏子 「あんたは、あたしの敵か?」

 「どうかしら・・・」

杏子 「見たとこ、昨日今日魔法少女をはじめたルーキーって訳じゃないんだろ?だったら、あたしらのルールはわかってるはずだ」

 「・・・」

415 : 以下、名... - 2015/01/11 13:36:11.05 RtVUuQGN0 546/1284

杏子 「互いのテリトリーは侵すべからず。それが破られる時は、殺りあう時だってさ」

 「・・・小さい」


白い魔法少女が呟く。

何の感情もこもっていない声と表情で、ただ吐き捨てるように。


杏子 「ああ?!」

 「矮小だといったのよ。あなたの事じゃないわ。しがらみに縛られている、全ての魔法少女に対しての、率直な感想を言ったまでのこと」

杏子 「・・・何様だ、おまえ」

 「私に、そんなルールは関係ない。私は、もっと大きな事のために戦っているの」

杏子 「・・・」

 「何様だって聞いたわね。私は美国織莉子。キュゥべえと契約し、だけれどキュゥべえに縛られる事を拒んだ魔法少女・・・」

杏子 「キュゥべえを拒むって、あんたまさか・・・魔法少女がたどる運命の事を知っているのか・・・?」

織莉子 「・・・あなたも知ってるのね。私たちがいずれ、魔女となる運命を負わされている事に」

杏子 「・・・」

416 : 以下、名... - 2015/01/11 13:38:36.62 RtVUuQGN0 547/1284

織莉子 「だったら、ルールだなんだという前に、終局の淵に落ち込む前にやるべき事をやるべきなんじゃないのかしら。私も、あなたも」

杏子 「・・・」

織莉子 「あなた、お名前は?」

杏子 「佐倉杏子・・・」

織莉子 「佐倉さん、ゲッターロボって知っているかしら?」

杏子 「!?」

織莉子 「その顔、ご存知のようね」

杏子 「お前の口からなんで、ゲッターロボの名前が出て来るんだよ!?」

織莉子 「ふふ・・・」


初めて織莉子が表情を崩した。

その笑いは杏子の狼狽がおかしかったのか、それとも別の所に理由があったのか・・・

杏子には判別する術がなかった。


杏子 「何がおかしいんだ」

織莉子 「ここの魔女、あなたにあげるわ」

杏子 「なにっ!?」

織莉子 「私、これでも色々忙しいの。私自身が魔女になる前に、そして、ワルプルギスの夜が来襲する前に、やらなければならない事が山盛りなのよ」

杏子 「ワルプルギスが来る事まで・・・あんた、いったい何者だよ」

417 : 以下、名... - 2015/01/11 13:40:41.71 RtVUuQGN0 548/1284

織莉子 「私が会いたかった人ではなかったけれど、佐倉さん。今日はあなたと会えて、とても嬉しかったわ」

杏子 「おい、私の質問に答えr
織莉子 「慌てなくても、また会うことになるでしょう。あなたがゲッターロボと関わっているのなら・・・」


杏子の言葉をさえぎってそれだけ言うと、織莉子はきびすを返して結界の出口の方へと歩き出してしまった。

424 : 以下、名... - 2015/01/16 00:59:05.97 SwZgCOiL0 549/1284

杏子 「おい、待て!」


奴には聞きたいことがある。ここで逃げられてたまるか。

杏子も慌てて、織莉子を逃さじと後を追おうとする。

だけれど・・・


杏子 「・・・!?」


おかしい。

織莉子は別段いそいでいる風でもないのに、どうしてだろう。

追いつく事ができない。

必死に走って追いかけるが、歩いている織莉子との距離が一向に縮まる気配が無いのだ。

425 : 以下、名... - 2015/01/16 01:01:21.12 SwZgCOiL0 550/1284

刹那。

杏子は再び何者かの気配を感じて、慌てて振り返った。

今度は織莉子の時とは違う。明確な敵意をはらんだ気配。

その突然現れた大きすぎる殺意に、杏子の全身は一時に総毛だった。


杏子 「っ!?」

 「おいつけないよ、私がいる限りね」


そこにいたのは、先ほどの織莉子とは対を成すように漆黒の服に身を包んだ、一人の魔法少女。


杏子 「いつの間に、いつからそこにっ・・・!?」

 「君は織莉子に追いつけない。よしんば追いつけたとして、どうするつもりなんだい?」

杏子 「・・・」

 「織莉子に害をなすようだったら、もう絶対に許されない。死ぬしかないよ、君は」

426 : 以下、名... - 2015/01/16 01:05:40.38 SwZgCOiL0 551/1284

織莉子 「キリカ」


先を歩いていた織莉子が振り返りつつ、漆黒の魔法少女を呼ぶ。


織莉子 「今はまだ、戦う時じゃないわ。決戦の時の為に魔法力は温存しておくようにと、あれほど言ったじゃない」

キリカ 「でもだって、こいつは」

織莉子 「キリカ」

キリカ 「わ、わかったから、怒らないでよ。織莉子に嫌われたら、私はしぼんで朽ちて消え去るしかないんだから」


杏子に接していた時とは別人のように、怒られた子犬みたくうなだれて、織莉子の後を追おうとするキリカ。

まるで、すぐ傍らの杏子の事など、すでに眼中にも無いとでも言うように。


杏子 「お、おい待て、お前らっ!!」


このまま無視されたままで終ってたまるものか。

杏子は、去り際のキリカの肩に手を伸ばした。

427 : 以下、名... - 2015/01/16 01:15:16.44 SwZgCOiL0 552/1284

だが、しかし。

確かに目測では確実にキリカを捕まえたはずだった。

なのに・・・


杏子 「え・・・っ!?」


いったい何が起こったのか、その手がむなしく、空を切る。

杏子はまったく、見当外れの所に手を伸ばしていたのだ。


杏子 「ど、どうなってやがる・・・!?」


いまやキリカは、杏子の遥か先を歩いていた。


キリカ 「だからー、捕まえられないって。それじゃね、また逢う日まで」


いったん足を止めたキリカは、それだけ言い捨てると、再び駆け出した。


杏子 「な・・・な・・・」


もはや、どうあがいても追いつけない

やがて二人の魔法少女が視界から消え、辺りが静寂へと戻るまで。

杏子はただ、呆然として見送るほかになす術が無かった。

428 : 以下、名... - 2015/01/16 01:16:28.48 SwZgCOiL0 553/1284

・・・
・・・


数時間後。

すでに深更。

夜の帳が街を覆い、草木すら眠っているだろうこの時間にあって、私の部屋の明かりは未だ灯されたまま。

そこには、とても眠る気にはなれない私と、そして・・・

何をするでも語りかけてくるでもない。

ただ、だまって私の側にいてくれる、竜馬の姿もあった。

だけれど私は、そんな彼の顔を、今はまともに見ることもできない。


ほむら (取り乱しすぎた・・・)


私の醜態を目の当たりにし、そんな私を彼が今、どんな目で見ているのか。

知ってしまうのが、とても、とても怖かったから。

429 : 以下、名... - 2015/01/16 01:17:10.48 SwZgCOiL0 554/1284

ゆま 「すー・・・すー・・・」


奥の部屋からは、穏やかなゆまの寝息がかすかに聞こえてくる。

私を心配して、さっきまで無理して側にいてくれたゆま。

おしよせる睡魔に効しえず、とうとう音落ちしてしまったのだ。


ほむら (あんな子供にまで心配かけて、気まで使わせて・・・)


ああ、自己嫌悪。

430 : 以下、名... - 2015/01/16 01:18:53.23 SwZgCOiL0 555/1284

思えばかつての私も、自己嫌悪の塊だった。

自分になんの価値も見出せず、考える事といったら後悔する事ばかり。

そんな、まどかと出会う前の、何の力も持っていなかった頃の私。


ほむら (それは・・・基本的に今だって変わっていない)


ただ、魔法少女となって、まどかを守ると決めた時から。

過去を振り返っている暇なんか、無くなってしまったというだけ。

不器用な私が不器用なりに目的を果たすためには、後ろなんて振り向いている時間などなかったのだ。

・・・だけれど。

431 : 以下、名... - 2015/01/16 01:19:44.75 SwZgCOiL0 556/1284

ほむら (じゃあ、今は何で後悔なんて?)


マミとの接し方を間違ってしまった事。

杏子の本心に気づいてあげられなかった事。

それはつまり、今までの時間軸で私は、かつての仲間達とまともに向き合っていなかった事実の証明。

その事に対する後悔。

そして、たった今の竜馬に見せてしまった自分の弱さの事。

以前の私だったら、こんなことでここまで悔悟の念に責められることも、気を落とす事もなかったに違いない。

そう、誰にも頼らないと思いつめていた頃の私だったら。


竜馬 「・・・」


竜馬が席から立ち上がる気配がした。

そのまま、この部屋から出て行ってしまう。


ほむら (帰るのかしら。当然よね。もう時間も遅いし、なによりこんな私と一緒にいても、気が滅入るだけだもの)

432 : 以下、名... - 2015/01/16 01:21:02.27 SwZgCOiL0 557/1284

だけれど、玄関のドアを開ける音が、いつまでたっても聞こえてこない。

代わりに聞こえてくるのは、キッチンで湯を沸かす音。


ほむら 「・・・?」


しばらくして竜馬が部屋に戻ってきた。

その手に二つのティーカップを持って。


ほむら 「流君・・・?」

竜馬 「勝手に使わせてもらったが、紅茶を入れてきてやったぜ。少し喉を潤せ。落ち着くから」


言いながら彼は、私の前に無造作にカップを置く。


ほむら 「あ、ありがとう・・・」


礼を言いながら顔を上げると、私を覗き込むように見つめる竜馬と目があってしまった。


ほむら 「・・・あ」

竜馬 「おう、目はまだ死んでいないな」


にっと笑いながら、彼は再び私の向かい側へと腰を下ろす。

竜馬はいつもと変わらない顔で、私を見ていた。

433 : 以下、名... - 2015/01/16 01:22:21.67 SwZgCOiL0 558/1284

・・・
・・・


次回予告


見滝原と風見野において、乱造される魔法少女たち。

彼女らを糾合し、ほむらたちの前へと姿を現す美国織莉子。

いったい彼女の思惑は?そして、織莉子が見せるゲッターへの執着の真意はどこにあるのか。

ふたつの魔法少女の勢力がぶつかる時、裏で糸を引くキュゥべえの瞳が妖しい赤を湛えて光る!


次回 ほむら「ゲッターロボ!」第六話にテレビスイッチオン!


444 : 以下、名... - 2015/02/26 21:08:51.30 CmL6rb/G0 559/1284

ほむら「ゲッターロボ!」 第六話

445 : 以下、名... - 2015/02/26 21:09:23.07 CmL6rb/G0 560/1284

ふ・・・と、目を覚ましたマミは、自分がソファーに寝かされていたのに気がつく。

かたわらに目をやれば、付きっ切りで自分を看ていたらしい武蔵が、うつらうつらと舟を漕いでいた。

・・・あれから、どれくらいの時間が経ったのだろう。

ほむらや武蔵たちから、過酷な現実を突きつけられた、あの時から・・・


マミ (・・・夢、だったんじゃないのかしら)


そうであれば、どれ程に気が楽な事だろう。

だけれど、テーブルに残されたままになっている物を目にしては、そんなささやかな願いも無残に砕かれてしまう。


マミ (暁美さんと作ったカレー・・・)


武蔵を起こさないように、そっと身体を起こす。

446 : 以下、名... - 2015/02/26 21:10:49.60 CmL6rb/G0 561/1284

ふわり、彼女にかけられていた物が、音も無く床に滑り落ちた。


マミ 「・・・?」


拾い上げると、それは薄い毛布。

マミを気遣った武蔵が、かけてくれたのだろう。


マミ (・・・お兄ちゃん)


兄であるのに兄ではない。

武蔵に告げられた言葉を思い出すと、胸が張り裂けそうになる。叫びそうになってしまう。

そんな欲求を懸命にこらえながら、武蔵の肩に毛布をそっとかける。

そうしてから、足音を殺しながらシンクへと向かうマミ。

喉が渇いた。無性に水が呑みたかった。

447 : 以下、名... - 2015/02/26 21:11:41.11 CmL6rb/G0 562/1284

・・・
・・・


マミ 「んっんっ・・・はぁっ・・・」


コップで二杯。流し込むように水を飲んだ。

渇いた身体が潤されてゆく感覚とともに、心も幾分か落ち着いてくる。

と、同時に。

別の動揺がマミの胸の中で頭をもたげてきた。

冷静になると同時に思い返される、自分の言動。そして、思考。


マミ 「わ、私・・・」


マミの背を一筋、冷たい汗が伝う。


マミ 「私はなんて、恐ろしいことを・・・」

448 : 以下、名... - 2015/02/26 21:12:34.10 CmL6rb/G0 563/1284

あの時。

武蔵にとって自分は実の妹ではなく、さらに自分たち魔法少女の身に降りかかる運命の結末を知った、あの瞬間。

動揺し、焦燥し、押し寄せる孤独感に心を壊されそうになりながらも。

どこかでマミは冷静で、これから自分が成すべきことを頭の片隅で計算していた。


マミ 「わ、私・・・暁美さんたちを・・・」


殺そうとしていた。


いずれ魔法少女は魔女になる運命を負わされていると、ほむらは言った。

無二の友と信じ、信頼もしていたキュゥべえに騙されていると。

そしてその事を、他ならない武蔵が肯定している。

マミにほむらの話を疑う理由は、もはや無かった。

・・・と、なれば。

449 : 以下、名... - 2015/02/26 21:13:19.08 CmL6rb/G0 564/1284

人に危害を及ぼす存在となる前に、自分を抹消しなければならない。

同じ立場にある、ほむらや杏子ももろ共に。


マミ 「・・・」


あの時、マミは計算していたのだ。

ほむらと杏子、どちらを先に殺すのがベストなのかを。

相手の不意をついて手強い方を先に殺し、返す刀でもう一人を屠る。

そうしてから自分も命を絶てば、少なくとも将来の魔女が3匹は減ると。


マミ 「ああっ・・・」


もしあの時。

あの場に武蔵という存在がいなかったなら・・・


マミ 「きっと私は、ためらいも無く二人を殺していた・・・」


かつてはともに戦った友達を。

わざわざ敵であった自分の所へ料理を習いに来た、クールを気取りながらもどこか憎めない、あの少女を・・・

450 : 以下、名... - 2015/02/26 21:15:01.62 CmL6rb/G0 565/1284

マミ 「私、どうしたら・・・」


涙が頬を伝い、雫となってシンクへと落ちる。

とめどなく、とめどなく。


マミ 「私、もう魔女なのかもしれない」


人の姿はしていても。

友達を平気で殺そうとする、自分の事を人だとは思えなかった。


マミ 「魔女になった私は、これからどうしたら良いの・・・っ!」

 「死ねば良い」


背後からかけられた声にギクリとして、振り返るマミ。

そこで彼女が見たものは、厳しい顔で自分を睨みすえる兄、武蔵の姿だった。


マミ 「お、お兄ちゃん・・・」

武蔵 「・・・」

451 : 以下、名... - 2015/02/26 21:15:48.28 CmL6rb/G0 566/1284

・・・
・・・


同時刻

ほむホーム


ほむら 「私、弱くなったのかしら」


常と変わらない竜馬の表情と、彼が煎れてくれた紅茶が、こわばった私の感情を暖かくほぐしてゆく。


竜馬 「と、言うと?」


竜馬も自分の紅茶をすすりながら、言葉少なに問い返してくる。

先ほどからの竜馬は、まるで波の穏やかな水面のようだった。

身体を預ければ、優しく包み込み全てを受け入れてくれる。そんな包容力を今の彼からは感じられる。

普段は火のように激しい竜馬の、意外な一面を見せ付けられた気分。


ほむら 「私、あなたのことがまだまだ理解しきれていなかったようだわ・・・」

452 : 以下、名... - 2015/02/26 21:16:30.25 CmL6rb/G0 567/1284

竜馬 「そりゃぁな。何だかんだで、出会ってから日が浅いんだ。そんな簡単に理解できるほど、簡単なもんじゃないだろうぜ」

ほむら 「流君のことが?」

竜馬 「人それぞれがって事さ」

ほむら 「かもね・・・だけど今、私はあなたに自分のことを理解して欲しいと、切に思っているわ」

竜馬 「ああ」

ほむら 「だけれど、理解してもらえる自信が無い。だって、私は私のことが自分でも分からなくなってしまっている・・・」

竜馬 「何がお前を、そこまで惑わしている?」

ほむら 「・・・」


多少逡巡して・・・

だけれども、意を決すると私は口を開いた。

彼に感じた包容力を、私の感覚を信じる事にした。

信じたいと、頼りたいと、思ったから。

453 : 以下、名... - 2015/02/26 21:17:53.08 CmL6rb/G0 568/1284

ほむら 「今までの時間軸で、私は色々とひどい事をしてきた」

竜馬 「・・・」

ほむら 「まどかを守るため。私の目的を果たすためだったら、多少の罪悪感と引き換えに、どんな非情な事だってやってこられたわ・・・」

竜馬 「・・・」

ほむら 「それでも、ソウルジェムを汚す事は無かった。自分のやっている事が私にとって正しい事だと信じていたから。心を強く保つ事ができたから」

竜馬 「・・・暁美、ソウルジェムを見せてみろ」


言われるままに、私は己のソウルジェムをさらす。

手を伸ばし受け取った竜馬は、一目見るなり、うっと小さく驚きの声を漏らした。

前の戦闘後にきれいに浄化したはずのソウルジェム・・・

それが、新たな戦闘を得ずして、すでに黒く濁りかけていたのだから、驚くのだって無理もない。


竜馬 「・・・お前」

ほむら 「今は、どうしてなのかしら・・・巴マミの悲しみ、佐倉杏子の苦悩を思うと、私の魂も醜く淀んでしまうの」

454 : 以下、名... - 2015/02/26 21:19:09.29 CmL6rb/G0 569/1284

竜馬 「暁美、とりえあず佐倉から預かっているグリーフシードで浄化しよう」


竜馬がグリーフシードを取りに席を立ったけれど、私は構わずに話を続ける。


ほむら 「私は弱い・・・こんな事じゃ、まどかを守る事だってままなりはしないわ・・・」

竜馬 「別にお前は、弱くないと思うがな」


部屋の向こうからは、竜馬の声だけが返って来る。


ほむら 「気休めはよしてよ」

竜馬 「俺が詭弁を弄するほど器用じゃないのは、知ってるだろう」

ほむら 「だったら・・・どうして私のこと、弱くないなんて思えるのよ・・・」

竜馬 「思うに・・・俺はお前の視野が広がったのが、暁美の心を曇らせている原因じゃないのかと、そう思うんだがな」

ほむら 「視野って。それ、どういうこと・・・?」

455 : 以下、名... - 2015/02/26 21:23:25.14 CmL6rb/G0 570/1284

竜馬 「お前、自分でも言っていたし、分かってるんだろうが、今までは、鹿目以外のものが目に入っていなかったんだろう」

ほむら 「・・・そう。だって私にとって、まどかは私の全てだったんだもの」


自分で言いながらも、私は胸の内に奇妙な感情の訪れを感じていた。


竜馬 「そう言い切れるのって、凄いよな。誇るに足るに充分な資格がある」

ほむら 「何を言っているのよ・・・」

竜馬 「十代もそこそこで、そこまで想うことができる相手を得られるというのは、並大抵の事じゃない。俺は、そんなお前を羨ましいとさえ思うぜ」

ほむら 「・・・ばか」

竜馬 「だが、それは今でもか?」


意外な問いかけに、私は目を丸くする。


ほむら 「そんなの、当然じゃない。今までも今も、これからもずっと、変わるわけがないわ」


言い返そうとした途端、先ほど抱いた感情が再び胸の奥、むくむくと頭をもたげてきた。

なんなんだろう、このモヤモヤした感情は。


ほむら 「変わるわけ、ないもの・・・」


自然、私の言葉も尻すぼみに、勢いが削がれてしまう。

456 : 以下、名... - 2015/02/26 21:24:35.61 CmL6rb/G0 571/1284

竜馬 「お前が鹿目の事を大切に思っていることは分かっているさ。だけれど、それだけか?」

ほむら 「・・・」

竜馬 「さっきお前は言ったな。俺に自分のことを理解して欲しいと、そう望んだな」

ほむら 「え、ええ・・・」

竜馬 「欲求は、自らを写す鏡だって言うぜ」

ほむら 「意味が分からない。もっと、分かるように言ってくれるかしら・・・」

竜馬 「お前も理解したいと、思っているはずだ。今では、な」

ほむら 「理解したいって、いったい何を・・・」

竜馬 「巴マミの事、佐倉杏子の事、美樹さやかの事・・・理解したいと、その心に寄り添おうと、そう考え始めているはずだ」

ほむら 「あっ・・・」

竜馬 「だから、あいつらの心の痛みが理解できる。我が事のように心を痛めることができる」

ほむら 「・・・」

竜馬 「仲間として、大切に考えているからだ」

457 : 以下、名... - 2015/02/26 21:25:22.01 CmL6rb/G0 572/1284

ほむら 「何でそんなこと、あなたに分かるの・・・よ・・・」


弱弱しく反論しながらも、私の心は彼の言うことをすでに肯定していた。

そう、先ほどから抱いていた感情の正体は、違和感。

竜馬の言うことが事実だと、私の心が証明してしまっていたのだ。


竜馬 「仲間を想う気持ちは、誰よりも理解できているつもりだぜ」


戻ってきた竜馬が、再び私の向かい側に腰を下ろす。

手には浄化を済ませた、ソウルジェム。


ほむら 「だけれど・・・私はまどかが一番大切で・・・それは唯一無二であるわけで・・・そうでなければ・・・」


今までの私の歩んできた道と、犠牲にしてきた全ての命を否定してしまう事になる。

だけれど竜馬は、そんな私の葛藤を笑い飛ばすように言い切った。


竜馬 「大切な物が一つだけだなんて、誰が決めたんだ?」

ほむら 「え・・・?」

竜馬 「大切な鹿目と、大切な仲間。それで良いじゃねぇか」

ほむら 「あ・・・」


目から鱗とは、まさのこの事だった。

458 : 以下、名... - 2015/02/26 21:29:28.88 CmL6rb/G0 573/1284

ほむら 「流君、わたし・・・」


青天の霹靂。

竜馬の言葉に、目の前の霧が晴れていくような感覚を覚える。


竜馬 「だから暁美。自分には、何も無いなんて言うなよ。お前は弱くなったわけじゃない」

ほむら 「・・・」

竜馬 「仲間を意識した者は強い。3台のゲットマシンが寄り添い、無敵のゲッターロボとなるようにな」

ほむら 「・・・」

竜馬 「今はまだ、自分の気持ちの変化に、心が戸惑ってしまっているんだろうが・・・暁美?」

ほむら 「あなたは・・・何を例えるのにも、ゲッターロボなのね」

竜馬 「お前の言葉じゃないが、俺にとってゲッターは唯一無二の存在だからな。・・・ほら」


竜馬が身を乗り出して、テーブル越しにソウルジェムを差し出してきた。

459 : 以下、名... - 2015/02/26 21:30:09.24 CmL6rb/G0 574/1284

ほむら 「ありがとう」


私の手の平にポンと納まったソウルジェムは、先ほどのくすんだ様相とはまるで別物の様に、眩い光を放っている。

何となくホッとした気持ちで眺めていると、私の頭に、そっと包み込むような感触が。


ほむら 「・・・?」


何だろうと目線をあげてみると、私の頭を包んでいたのは、竜馬の広くて大きな手の平だった。


ほむら 「え・・・」

竜馬 「・・・」


そのまま、くしゃくしゃっと無造作に、頭をこねくり回される。


ほむら 「ちょっ・・・なにっ?!」

竜馬 「お前も少し、俺の事を理解してくれよな」

ほむら 「なんのことよ!」

460 : 以下、名... - 2015/02/26 21:31:21.49 CmL6rb/G0 575/1284

竜馬 「俺にこんな役、やらせるんじゃねぇよ」

ほむら 「さっきから何を言って・・・」


その間も、私の頭はグルングルンと回され続けたまま。

うう、さすがに目が回ってきた・・・

もう我慢がならないと、竜馬の手を振り払おうとした、その時。

ポタリ、と。

テーブルの上に一滴、雫が落ちたのだ。


ほむら 「え・・・」


雫は、最初の一滴の後を追うように、二つ三つと滴り続け・・・

瞬く間にテーブルの上には、小さな水溜りがいくつも出来あがった。


ほむら 「どこから・・・??」


雫の出所を探って、私はすぐに気がつく。

頬を伝い、顎から零れ落ちる、その雫の正体に。


ほむら 「私、泣いて、たの・・・?」

461 : 以下、名... - 2015/02/26 21:33:52.55 CmL6rb/G0 576/1284

竜馬 「らしくねぇから、メソメソしてんなよ」

ほむら 「流君、あなた・・・」


私を、慰めようとしてくれている・・・?

ということは、この”グルングルン”は、もしかして私のこと、撫でているつもりなの?

そうと気がついて、改めて竜馬の顔を視線を戻すと。

どこか照れた風で、なんとも言えない表情で私を見ている。

ふだんはいかつい竜馬の、そんな様子が妙に滑稽で。


ほむら 「ぷっ、ふふっ・・・」


思わず私の口から、笑いが零れ落ちた。

462 : 以下、名... - 2015/02/26 21:35:12.87 CmL6rb/G0 577/1284

竜馬 「・・・泣くのか笑うのか、どっちかにしといたが良いぜ」

ほむら 「だって、おかしいんだもの」


言いながら私は、彼の腕を払いのけるために振り上げかけた手で、今はそっと竜馬の腕を掴む。

大きくて無骨で、だけれど私を慰めようとしてくれた、優しい竜馬の手。


ほむら 「もう平気。それに、この涙は悲しくて流したものじゃないから」

竜馬 「・・・そうか」


そう。私自身忘れかけていたけれど。

涙って、悲しいときや辛い時にばかり、流れるものじゃない。

自分が気づいていない自分自身のことを、竜馬は私に気づかせてくれた。

それはとりもなおさず、彼が私を理解してくれているという事だ。


ほむら (・・・初めてだわ)


誰も私を理解してくれなかった。私の言うことを、信じてくれる人はいなかった。

それは、ともに戦った、仲間だと信じていた人たちだけではなく。

私が誰よりも大切に思っている、まどかですらも・・・

463 : 以下、名... - 2015/02/26 21:36:10.98 CmL6rb/G0 578/1284

ほむら (それが、今)


ほむら 「流君・・・」

竜馬 「ん?」


私のすぐ側に。

私を理解してくれる人が、こうしていてくれる事が、とても。

嬉しくてたまらなかった。

涙くらい、頬を伝って落ちるのも当然というものだ。


ほむら 「ううん、リョウ・・・」

竜馬 「・・・」

ほむら 「ありがとう」

竜馬 「おう」

464 : 以下、名... - 2015/02/26 21:44:30.15 CmL6rb/G0 579/1284

私は言葉少なに、だけれど万感を込めた気持ちを竜馬に述べた。

初めて、彼の事を愛称で呼びながら。

彼ならそれで、私の気持ちを全て酌んでくれる事だろう。

そして、思う。

いつかマミや杏子たちとも、竜馬としたように、心を交感させることができたら良いなと。

そう、切に願える。

願える自分に、竜馬が気づかせてくれたのだ。

465 : 以下、名... - 2015/02/26 21:45:23.65 CmL6rb/G0 580/1284

・・・
・・・


翌朝。

学校に行くために、玄関から一歩を踏み出した私に。


 「・・・よう」


不意にかけられた声。

そちらの方に顔を向けると、壁にもたれかかるようにして手を振っている人影が目に入った。


ほむら 「佐倉さん?」

杏子 「よ、朝っぱらから悪いな」

ほむら 「別に良いけれど、どうかしたの?」

杏子 「ああ、どうもこうもない、一大事だぜ。部屋に上げて欲しいんだけど、良いかい?」

ほむら 「私、これから学校に行くのだけれど・・・」

杏子 「そんなのんきな事、言ってる場合じゃない」


そう言う杏子の目は真剣だった。

466 : 以下、名... - 2015/02/26 21:46:42.71 CmL6rb/G0 581/1284

ほむら 「・・・良いわ、上がって」

杏子 「それと、流にも聞いて貰いたいんだけど、すぐ連絡を取ってくれるか?」

ほむら 「ああ、リョウだったら・・・」

竜馬 「呼んだか?」


私が名前を呼ぶのとほぼ同時に、竜馬がひょっこりと玄関先から顔を出した。

それをみた杏子の目が、なぜか点になっている・・・


杏子 「・・・え」

竜馬 「あれ、佐倉じゃねぇか。どうしたんだ、こんな朝っぱらから」

杏子 「・・・」

ほむら 「佐倉さん?」

杏子 「あは、あははは・・・そっか、そういう事か、いや、こりゃ参ったなぁ・・・」

ほむら 「え、え?佐倉さん??」

467 : 以下、名... - 2015/02/26 21:47:20.54 CmL6rb/G0 582/1284

杏子 「マミのあんなざまを目にした昨日の今日で、イチャコラよろしくやってたってわけかい・・・」

竜馬 「・・・?お前、なに言ってるんだ?」

杏子 「まぁ、あたしの知ったことじゃねぇさ。蓼食う虫も好き好きっていうもんな」

ほむら 「・・・何気にかなり失礼な事を言われてる気がするけれど、佐倉さん。何か誤解してない?」

杏子 「誤解もくそも、あんたらが何しようと、そっちの勝手だよ。好きにするが良いさ」

ほむら 「・・・」

杏子 「だがな、時と場合くらいは考えてくれ。ともに戦おうって、あたしやマミを巻き込んだのはそっちだって事、忘れるんじゃねぇぞ」

ほむら 「佐倉さん、ちょっと私の話も聞いて・・・」

竜馬 「まずは上がれ、佐倉。こんな玄関先じゃ、お前の用件だって腰をすえて話せないだろう」

杏子 「・・・ちっ」

468 : 以下、名... - 2015/02/26 21:49:28.78 CmL6rb/G0 583/1284

・・・
・・・


ほむら 「というわけで、昨夜は遅くなっちゃったし、リョウには泊まっていってもらっただけなの」

杏子 「・・・」

ほむら 「もちろん部屋は別々。そもそも、小さい子がいる前で、間違いなんて起こすはずがないじゃない」

ゆま 「ほえ??間違いってなーに??」

杏子 「まじ?」

竜馬 「まじだ」

杏子 「な、なーんだ、そうか。ちぇっ、まったく紛らわしい事してるんじゃねぇよ」

ほむら 「悪かったわね、期待に沿う事ができなくて」

杏子 「本当だぜ」

ゆま 「ねぇねぇ、なんの話ー?」

杏子 「ゆまは分からなくっていーの」

ゆま 「ふーん」

469 : 以下、名... - 2015/02/26 21:51:03.00 CmL6rb/G0 584/1284

竜馬 「ま、そう見られる分には、俺はまんざらでもねぇけどな」

ほむら 「何を言っているのよ」

杏子 「・・・」


竜馬の軽口に釘をさしている私を、杏子がなにやらジト目で見ている。


ほむら 「なにか言いたげだけど?」

杏子 「お宅らさ、昨日と雰囲気違ってるようなんですけど、ほんとのほんとに何にも無かったわけ?」

ほむら 「ええ、無いわ」

杏子 「・・・そっかぁ?」


まだ何か言いたげな素振りは残しながらも、杏子はここまでの話を切り上げるとペコリと一つ、頭を下げた。


杏子 「こっちの勘違いで不快な思いをさせちまったな。悪かったよ」

ほむら 「あ、うん・・・」


意外にも素直に非を認め頭を下げる杏子に、私は少々面食らってしまう。

470 : 以下、名... - 2015/02/26 21:55:29.03 CmL6rb/G0 585/1284

それは竜馬も同じようで・・・


竜馬 「一人で怒って一人で謝って、なんともあわただしい奴だな、お前は」


呆れた口調を隠しもしない。

だが、言われた杏子は涼しい顔だ。


杏子 「悪いと思ったら、すぐ謝っちまうんだよ。後に引いたら謝りづらくなるし、引け目にもなっちまうからな」

竜馬 「なるほど、だな。そういう考え、好ましいと思うぜ」

杏子 「おだてんなよ・・・さて、一区切りがついたところで、本題に行きたいんだが・・・良いかい?」


話題を切り替えた杏子の顔が、再び。

先ほど玄関前に現れた時のように、真剣な面構えへと変わる。

よほどの事が起こった。そのくらいは読み取る事ができる表情だった。


ほむら 「・・・わかった、話を聞くわ」

471 : 以下、名... - 2015/02/26 21:56:38.96 CmL6rb/G0 586/1284

杏子 「ああ。と、その前に。先に一つ確認しておきたい事があるんだけれど、お前らさ」

竜馬 「・・・?」

杏子 「あたしら同盟を結んだもの以外で、ゲッターロボの事を誰かに話したか?」

ほむら 「え・・・?」


質問の真意がつかめず、私と竜馬は思わず顔を見合わせてしまう。

そして互いに首を振る。どちらも誰にも、ゲッターの事なんか話していない。


ゆま 「ゆまだって、誰にも話してないよ」

杏子 「そっか。じゃあ、もう一つ。美国織莉子という名前に聞き覚えは?」

ほむら 「・・・っ!」

杏子 「こっちは心当たり、あるんだな」

ほむら 「どこで、その名前を?」

杏子 「会ったんだよ。昨日、直にな。お前と別れた後で、探し当てた魔女結界の中で・・・」

ほむら 「・・・」


美国織莉子・・・

私は確かに、その名前に覚えがある。

472 : 以下、名... - 2015/02/26 22:00:29.16 CmL6rb/G0 587/1284

心に底知れない闇を抱え込み、それとは対照的な純白のドレスに身を纏った魔法少女。

彼女と遭遇した時間軸は決して多くは無かったけれど・・・


ほむら 「と、言うことは、彼女が口にしたのね。ゲッターロボの名を」

杏子 「ああ。実際の所、名前以上に、どれだけの事を知ってるのかまでは分からなかったけれどな」

ほむら 「厄介だわ・・・」

竜馬 「何者なんだ、その美国織莉子とか言うのは。お前とも面識がある奴なのか?」

ほむら 「ええ。ただし、別の時間軸での事だけれど」

竜馬 「どんな奴なんだ?」

ほむら 「敵よ」

杏子 「・・・やっぱりな」


自分と同じ魔法少女を敵と言われても、杏子はさも当然な事を聞いたかのように、表情を動かさなかった。

感覚の鋭敏な杏子の事、織莉子と実際に会ったのなら、感じ取る何かがあったのだろう。


ほむら 「佐倉さん、あなたは彼女と遭遇して、よく無事で済んだわね」

473 : 以下、名... - 2015/02/26 22:01:13.36 CmL6rb/G0 588/1284

杏子 「ああ、あたしたちと事を構える気は無いようだぜ。今のところはな」

竜馬 「やがては敵対すると、そう言うのか?」

杏子 「はっきりとは言ってなかったけれどな。分かるんだよ、こっちに対する敵意がプンプン臭ってきやがった」

ほむら 「・・・」

竜馬 「暁美、かつての時間軸で出会った美国織莉子ってのは、どんな奴だったんだ?」

ほむら 「・・・一言で言えば、目的のためには手段を選ばない。そんな魔法少女だったわ」


そう、どこか私と似ている。

己の信念のためなら、大の虫を生かすために小の虫を殺す事をためらわない。

それは、例え自分の仲間であったとしても変わらなかった。

だから、始末におえないし、心底おそろしい。


ほむら 「・・・私が殺したけれど」

杏子 「・・・へぇ」

474 : 以下、名... - 2015/02/26 22:02:02.73 CmL6rb/G0 589/1284

ほむら 「仕方がなかった。彼女は目的の為に見滝原中学を魔女の結界に引きずり込んでまで、私の守るべき人を殺そうとしたのだから」

竜馬 (鹿目の事か・・・?)

ほむら 「そのため私たちは敵対して戦ったわ。辛くも勝利はできたけれど、あそこでもし情けをかけて逃がしていたら・・・」

竜馬 (待てよ・・・そいつはなぜ、人畜無害を絵に描いたような鹿目を殺そうと・・・?)

ほむら 「いずれ痛手を治した彼女は、再び目的を果たすために襲い掛かってきたに違いない。間違いなく、ね。だから・・・」

杏子 「中学校を結界にって、随分と無茶な話だな。死んだんだろ、かなりさ」

ほむら 「ええ、何十人規模での死者が出たはず」

杏子 「はず・・・?」

ほむら 「戦いの後、結局私は守りたい人を守りきれず、あの時間軸を捨てたのよ。だから、戦いの後のことは詳しく知らないの」

杏子 「その守りたい人って、誰の事だっけ?あたし、聞いてないよな?」

475 : 以下、名... - 2015/02/26 22:02:38.64 CmL6rb/G0 590/1284


ほむら 「・・・」


これは、杏子を仲間に誘ったときに、わざとぼかしていた事だった。

この事を突き詰めて説明していけば、最後はまどかがどうなるか。その事も余さず語らねばなくなるから。

それを知った時、杏子がはたしてどのような行動に出るか。

場合によっては、仲間から脱名されるばかりか、敵にさえ回ってしまうかも、と。

そんな懸念が払えなかったからだ。

だけれど、今は・・・


ほむら 「クラスメイトの鹿目まどかという少女。私は彼女を守るために、時間軸を遡行し続けている・・・」

竜馬 「暁美・・・」


良いのか?と、目で問いかけてくる竜馬に、私は微笑みながら頷きを一つ。


ほむら 「私の最も大切な人、まどかを守るため。私は戦い続けているの」

476 : 以下、名... - 2015/02/26 22:03:40.14 CmL6rb/G0 591/1284

杏子 「ふーん・・・人のため、か。好きじゃないけどな、そういう考え方。けっきょくは、身を滅ぼす種になるだけだと思うぜ」

ほむら 「ありがとう。だけれど、まどかを守るのは私のため。まどかのいない人生なんて、そんなの私が私でなくなってしまうもの」

杏子 「そこまで言いきるのかよ。いったい何者なんだい、その鹿目まどかっていう奴は」

ほむら 「いずれ・・・」

竜馬 「・・・?」

ほむら 「いずれ、最強最悪の魔女となって、見滝原はおろか、この世界を滅亡へと追いやる事になる存在・・・」

竜馬 「・・・え?」

杏子 「はぁっ!?」

竜馬 「なんだよ、それ。これは俺も初耳だぞ」

ほむら 「ごめんね、リョウ。言い難かったのよ。あのまどかがやがて、恐ろしい化け物になってしまうなんて、私以外に知る者なんて作りたくはなかった」

477 : 以下、名... - 2015/02/26 22:05:30.37 CmL6rb/G0 592/1284

竜馬 「最強最悪って・・・あの鹿目が、か。想像もつかないが・・・」

ほむら 「あなたはもう見ている」

竜馬 「・・・?」

ほむら 「リョウたちがこっちの世界に飛ばされた時、一番最初に巨大な化け物を目にしたはずよ」

竜馬 「あれって、ワルプルギスの夜とか言う奴じゃなかったのか!?」

ほむら 「違うわ。ワルプルギスは確かに強大な魔女。だけれど、魔女化したまどかには、足元にも及ばない」

竜馬 「あれが・・・あのでかい化け物が、鹿目だっていうのか・・・」


とても信じられないという表情で、口をつぐんでしまう竜馬。

今現在の、人としてのまどかを知るものなら、当然の反応だと思う。


杏子 「魔女になるって言うことは、その鹿目ってやつ、魔法少女なんだよな?」

ほむら 「いいえ、この時間軸ではまだ、ただの女の子に過ぎないわ。私の目的は、まどかをキュゥべえと契約させない事でもあるの」

杏子 「じゃあ、あんたが私に言っていた、ワルプルギスを倒したいって話は・・・」

ほむら 「多くの時間軸で、ワルプルギスの襲来はまどかがキュゥべえと契約する契機となってしまった。その芽を潰しておきたいのと・・・」

杏子 「・・・」

ほむら 「まどかが生まれ育ち、大切な人々とともに生きている見滝原を、私は守りたいと思っているから」

478 : 以下、名... - 2015/02/26 22:06:41.52 CmL6rb/G0 593/1284

杏子 「そっか」

ほむら 「黙っていてごめんなさい。リョウも・・・」

竜馬 「いやまぁ、言い難かったってのは理解できる。そこは気にしないで良い。だけれど、よくこの事、話す気になったな」

ほむら 「それは、もう・・・隠し事とか、しておきたくなかったから・・・」


仲間、だから。


杏子 「だけどさ、美国織莉子はどうして、まどかって奴が強大な魔女になるって知ってたんだ?さっきの話じゃ、過去の時間軸でも魔女化する前にまどかは殺されてしまったんだろ?」

ほむら 「それは・・・」

竜馬 「未来予知、か?」

ほむら 「・・・リョウ。冴えてるのね、どうして分かったの?」

竜馬 「鹿目の魔女化という未発生の事態を知っているとすれば、可能性は二つ。暁美のような時間遡行者であるのか、それとも未来を予め知ることができる者か・・・」

ほむら 「そうね」

竜馬 「美国織莉子は目的を果たす前に、暁美に殺されたんだろ。もし時間遡行が可能なら、目的失敗と判断した時点で、別の時間軸へ飛んで、再び活動すれば良い」

杏子 「そうか。そうしなかったのは、先のことは分かっても、時間を戻す術は持たないからだってことか・・・!」

479 : 以下、名... - 2015/02/26 22:07:34.95 CmL6rb/G0 594/1284

ほむら 「明察よ。美国織莉子は未来を見る力を持っている。かなり、限定的ではあるようだけれどね」

杏子 「だからあいつ、ワルプルギスの事も知っていたのか。すごいな、流。あんた、見た目以上に頭が切れる奴なんだな」

竜馬 「褒め言葉ととっておくぜ」

杏子 「そう思ってくれて良いよ。てことは、だ。今回も美国織莉子は、鹿目まどかの命を狙って動いている、と・・・?」

ほむら 「それは分からない・・・」


あいまいに答えながらも、私は内心でその可能性は低いと考えていた。

もし、かつての時間軸と同様に、まどかが最悪の魔女となる事を予知していたのなら・・・

あの時と同様、まどかの協力者を消すために、魔法少女狩りを行っていなければおかしいと考えたからだ。

それが、杏子を目の前にして、戦いを挑んでこなかったという。

そこから導き出せる答えは、ワルプルギスがもたらす惨禍までしか予知できていない、としか思えない。

・・・もちろん、確証は持てないけれど。

480 : 以下、名... - 2015/02/26 22:09:03.31 CmL6rb/G0 595/1284


ほむら 「・・・ただ、彼女がゲッターのことを知っていたとなると」

杏子 「そうか、ゲッターロボに関して、何かを予知したのかもしれないな」

ほむら 「問題は、予知で見たロボットの名前を、誰が具体的に教えたか、だけれど・・・」


先ほども言ったけれど、美国織莉子の未来予知はきわめて限定的で、予測できる範疇は美国織莉子本人ですら、コントロールしきれてはいなかったはず。

そんな彼女が、ゲッターロボという具体的な固有名詞を口にした。

・・・誰かが織莉子に教えたとしか、考えられない。


竜馬 「ここにいる、俺たちじゃない」

杏子 「マミや武蔵だとも考えられない」

ほむら 「となると、結論は一つ・・・」


私は部屋の隅。

日陰となって、朝の陽も当たらない暗がりを見つめる。


ほむら 「ねぇ・・・」


そこへ向かって、声をかける。

暗がりからは、先ほどまでは感じられなかった気配が一つ。

無機質で感情の感じられない、まるで置物のような気が発せられていた。

481 : 以下、名... - 2015/02/26 22:10:49.64 CmL6rb/G0 596/1284

ほむら 「お前ね?」


私は、その気配に向かって言う。

視線を向けたそこ、部屋の片隅の暗がりには。

まるで、光の当たらない闇から、白い影が浮き出てきたように・・・

あの忌まわしい生物が、こちらにあの赤いビードロような目を向けていたのだ。


竜馬 「こいつ、いつの間に入り込みやがった?」

ほむら 「キュゥべえ・・・」

キュゥべえ 「やぁ、みんな。久しぶりだね」


悪びれもせず、ぬけぬけと言いながら、トコトコと・・・

そいつは、私たちの方へと歩いてきた。

482 : 以下、名... - 2015/02/26 22:14:01.61 CmL6rb/G0 597/1284

・・・
・・・


死ねば良い。

優しく、誰よりも慕う兄からかけられたのは、耳を疑うような非情な言葉だった。


マミ 「・・・え」


信じられない物を見る目で、マミは武蔵を見つめた。

だが、見据えられた武蔵は表情一つ崩すことなく、もう一度。

ゆっくりと、はっきりと。

聞き間違えなど起こりようもないほど、よく通る明瞭な声音で。


武蔵 「死ねば良い、マミちゃん」


残酷な言葉を再び、マミへと突きつけたのだった。

483 : 以下、名... - 2015/02/26 22:15:20.15 CmL6rb/G0 598/1284

マミ 「ど、どうして・・・」


ショックのあまり、足に力が入らない。

マミはへたへたと、その場に腰をついてしまう。

手に持ったカップが床に転がり落ち、床に小さな水溜りを作る。

だが、今は武蔵もマミも、カップの事になど気にも留めない。

ただ、言葉もなく、互いに見つめ合うのみ。


マミ 「あ、あ・・・」


一度は冷静になりかけた理性が、再び崩壊して行く。

マミは言葉など知らない子供のように、意味の無いうめきを漏らしながら、今はただ。

惨めに震える以外になす術が無かった。

484 : 以下、名... - 2015/02/26 22:16:12.76 CmL6rb/G0 599/1284

武蔵 「・・・」


武蔵はそんなマミに近寄ると、自身も腰を落としてマミと同じ目線となった。

じっと見つめる武蔵。震えるマミの両肩に、手をかける。

マミの混乱と恐怖と絶望と、が。

震えとともに武蔵の心にまで伝わってくるようだ。


武蔵 「マミちゃん」


だが、武蔵はつとめて語調を強め、マミに語りかけた。


武蔵 「もし君が、まだ人間である友達を殺すというのなら、マミちゃんは自分が言うとおり、人の姿を借りた魔女に他ならない」

マミ 「・・・」

武蔵 「人には、取り返しがつかない事、してはいけない事というものが、確かにある」

マミ 「しては、いけない、事・・・」

武蔵 「君の心をいっとき支配した衝動は、実行に移したなら、まさしく取り返しがつかないことだった。分かるかい?」

マミ 「・・・あ、ぅ」


問われるまでもなかった。

485 : 以下、名... - 2015/02/26 22:16:48.24 CmL6rb/G0 600/1284

だけれど、マミは同時に思うのだ。


マミ 「だけれど、もし・・・もし、みんながこの先、魔女になってしまったら・・・人々に害をなす存在になってしまうのなら・・・」


今ここで、殺してしまった方が。

人として死ねた方が、本人のためにも、どれだけ幸せかもしれない、と。

そんなことを考える自分に衝撃を受けたのも事実だが、だからと言って、この考え方自体を全否定する事もマミにはできなかった。


マミ 「だって・・・」


何故なら・・・


マミ 「だって私が魔女になってしまったら、お兄ちゃんは私から離れていってしまうでしょ?嫌いになってしまうでしょ?」


そんな思いと恐怖が、マミの胸を締め付けて、離さなかったから。

だが、武蔵はかぶりを振って言う。


武蔵 「俺は、どんな事が起こったって、マミちゃんを嫌いになるはずがない。離れられるはずがないじゃないか」

マミ 「だって、本当に・・・?」

486 : 以下、名... - 2015/02/26 22:32:57.27 CmL6rb/G0 601/1284

武蔵 「お袋と親父が死んだ時、俺が両親に代わって君を守ると。そう、約束したじゃないか」

マミ 「え・・・、だって、それは・・・」

武蔵 「君の心が、もしくは存在そのものが魔女となってしまったなら、その時は君は死ぬべきだ」

マミ 「・・・」

武蔵 「引導は、俺が渡してあげる。妹を殺すんだ。その時は、俺だって人ではいられない」

マミ 「お、お兄ちゃん・・・」

武蔵 「君が堕ちるなら、俺もともに堕ちよう。どこまでもどこまでも・・・俺はマミちゃんと共にあるよ」

マミ 「お兄ちゃん、お兄ちゃんっ・・・」

武蔵 「だから、それまでは生きるんだ。人として、巴マミとして。若い命を、真っ赤に燃やし尽くして生きるんだ!」

マミ 「あああ、うああああああっ!」


武蔵にしがみつき、声を限りに泣きじゃくるマミ。

武蔵はマミをそっと抱きしめ、あとはかける言葉もなく、ただ優しく彼女の背をさすり続けていた。

そして思う。心の中で詫びる。

友に。命と背中を預けあった戦友に。


武蔵 (リョウ、すまん。俺はもう、こっちの世界の人間になりつつあるようだ・・・)

487 : 以下、名... - 2015/02/26 22:38:55.79 CmL6rb/G0 602/1284

・・・
・・・


ほむら 「お前が美国織莉子にゲッターロボの事を教えたのね」

キュゥべえ 「そうだよ」


ヤツは悪びれる風もなく、肯定して見せた。

まったく普段と変わらない態度、声音。感情が無いのだから、それは当たり前なのだけれど。

どこかのほほんとしているようにも見えて、こちらの心を無駄に逆立てる。


ほむら 「・・・よくも、ぬけぬけと」


いったい何を目的に・・・

そんな疑問を口に出そうとした時、不意に私の横を赤い影が横切った。


杏子 「キュゥべえ、てめぇ!」


赤い陰・・・杏子はキュゥべえに掴みかかると、奴を乱暴に壁へと叩き付けた。


キュゥべえ 「きゅっぷい」

杏子 「てめぇ、よくもあたしたちを・・・マミを騙し続けてくれたな!!」

488 : 以下、名... - 2015/02/26 22:41:53.49 CmL6rb/G0 603/1284

キュゥべえ 「何の事だい・・・?僕は何も嘘なんて・・・」

杏子 「うるせぇ!」


キュゥべえの喉元を掴んで壁に押し付けていた杏子が叫ぶ。

彼女の手に力が込められ、キュゥべえの首が締め付けられる。


キュゥべえ 「ぐ・・・君はいった、い、何を怒って、いるんだい・・・?まったく意味が・・・」

杏子 「わからねぇのか、そうかい。だったら、無理に分からなくてもいいぜ!」

キュゥべえ 「ぐ・・・ふっ・・・」

杏子 「このまま、首の骨をへし折ってやる!死んじまえ!」


杏子の顔が怒りに歪む。

彼女がここまで感情をあらわにするなんて、かつての時間軸でもそう見られたことはなかった。

それだけ強かったんだろう・・・

自分が思い描いていた、巴マミの偶像。

それをぶち壊す原因を作った、キュゥべえへの怒りが。
 
なにはともあれ・・・


ほむら 「佐倉さん」


私は立ち上がると、キュゥべえを締め付けている杏子の手を取った。


ほむら 「こいつに個の概念は無い。殺しても、別のキュゥべえが現れるだけ。何も響かないわ」

杏子 「そうかよ。だがな、せめて目の前のこいつだけでもひねり殺さにゃ、あたしの気がおさまらねぇんだよ!」

489 : 以下、名... - 2015/02/26 22:42:39.44 CmL6rb/G0 604/1284

ほむら 「意味が無いといっているの。それに・・・」


視線で杏子に示す。

つられて杏子が顔を向けたそこでは・・・


ゆま 「・・・」


いきなりの杏子の剣幕に怯えたゆまが、竜馬にしがみつきながら必死に泣くのを堪えていた。


杏子 「あ・・・っ」

竜馬 「そこまでにしておけ。それに、そいつには聞かなきゃならない事だって、あるだろう」

杏子 「・・・ちっ」


舌打ちをしながらも、杏子は私や竜馬の言う事に従ってくれた。

自由の身となったキュゥべえは、何事も無かったかのようにヒラっと床へと舞い降りる。


キュゥべえ 「やれやれ、いきなりでビックリしたよ」


と、感情のこもっていない声で、平然と喋るキュゥべえ。

いったい、どこをどうビックリしたのだろうか、問いただしたい話し方だった。


杏子 「・・・こいつ」

490 : 以下、名... - 2015/02/26 22:44:13.80 CmL6rb/G0 605/1284

ほむら 「佐倉さん、落ち着いて。お前も、これ以上人を挑発するような真似はしないで」

キュゥべえ 「そんなつもりは、無かったんだけれどね。気に障ったのなら謝るよ」

ほむら 「それで・・・」


キュゥべえの不遜な態度は、いつもの事。いちいち腹を立てたって、時間の無駄でしかない。

私は本題の話を再開した。


ほむら 「いったい、何のために、美国織莉子にゲッターロボの事を話したの?」

キュゥべえ 「取引さ。僕と織莉子たちとの、利害が一致したからね」

ほむら 「取引・・・?」

キュゥべえ 「織莉子の成そうとする事に、ゲッターロボは非常に有益な力となってくれるのでね、僕はその情報を提供したって訳だよ」

ほむら 「それでお前は、その見返りに何を得たというの?」

キュゥべえ 「さぁ・・・」


思わせぶりに、奴が話の腰を折る。


ほむら 「教えなさい」

キュゥべえ 「教える義理は無いと思うな。僕は最初、取引相手には竜馬を選んだんだけれどね」

ほむら 「え・・・?」

竜馬 「・・・」

491 : 以下、名... - 2015/02/26 22:45:10.30 CmL6rb/G0 606/1284

キュゥべえ 「すげなく断られてしまったんだよ。だから、替わりとして織莉子を選んだ。そうである以上、君たちに必要以上の事を教えてあげる謂れは無いんだよね」

ほむら 「取引って、どんな?」

竜馬 「知らん。だが、こいつが言うことだ。どうせ、ろくな事じゃないだろうぜ」

キュゥべえ 「ご想像にお任せするするさ。さて、他に話がないのなら、僕はそろそろ失礼させてもらうよ」

ほむら 「・・・」


これ以上、キュゥべえから何かを聞きだすことは不可能だろう。

そう思って私は、奴が去るのに任せるつもりでいたのだけれど。


杏子 「待てよ」


きびすを返し、暗がりへと戻ってゆくキュゥべえを呼び止めたのは、佐倉杏子だった。


キュゥべえ 「なんだい?」

杏子 「これだけは聞いておきたい」

キュゥべえ 「答えられる事だったら」

杏子 「お前、むやみやたらと魔法少女と契約をしているだろ」

ほむら 「え・・・?」

杏子 「風見野で、何人か。ろくに戦う事もできなかった魔法少女の死体を見せられたぜ。ありゃ、何のつもりだ?」

キュゥべえ 「何のつもりも何も、僕は命をかけるに値する望みを持つ少女に、夢を叶える力を与えただけだよ。君たちの時と同じさ」

杏子 「美国織莉子は、そんな”バーゲン品”の魔法少女に用があるようだったぜ。お前ら、つるんで何を画策してやがるんだ?」

492 : 以下、名... - 2015/02/26 22:45:55.33 CmL6rb/G0 607/1284

キュゥべえ 「言ったろう?応える義理はないと」


それだけ言うとキュゥべえは、今度こそ暗がりの中へと帰ってしまった。

たちまち消えうせる奴の気配。陰から湧き出したように現れて、影の中に掻き消える。

本当に薄気味の悪い奴・・・


杏子 「ちっ・・・」

ほむら 「ねぇ、佐倉さん。今の話、どういうことなの?」

杏子 「どうもこうも、聞いた通りさ。キュゥべえの奴、むやみやたらと魔法少女を増やしてやがるぜ」


・・・そういえば。

佐倉杏子を仲間に誘ったあの時・・・


(杏子 「なぁ・・・見滝原で最近、見慣れない魔法少女とか・・・遭遇した事があるか?」 )


確か、そんな事を聞かれたっけ。


杏子 「ゆまと初めて会った時も、側に魔法少女の死体が転がってた。たまたま一緒になっただけで、知り合いでもなんでもないって聞いてるけど、な?」

ゆま 「う、うん・・・」

493 : 以下、名... - 2015/02/26 22:46:38.21 CmL6rb/G0 608/1284

杏子 「そして、どうやら織莉子は、そんな急ごしらえの魔法少女たちに用があるらしい。何のためかは、分からなかったけれど・・・」

ほむら 「美国織莉子が、魔法少女を集めている・・・?」


あの、魔法少女狩りをやっていた、美国織莉子が?

・・・そんな、間逆なマネを?


竜馬 「どうやら、俺たちに明かされていない闇は、想像以上に深いようだな」


私の言葉を受けて呟いた竜馬の脇で。

いまだ怯えたままのゆまが、彼の足にしがみつきながら、ふるふる静かに震えていた。

494 : 以下、名... - 2015/02/26 22:48:05.83 CmL6rb/G0 609/1284

・・・
・・・


疑問と不安を胸に抱きつつも。

ワルプルギスの夜襲来の日は、刻一刻と迫ってくる。

時は待ってくれない。今は、成すべき事を成さなければならないのだ。

私たちはかねての決め事にしたがって、活動を開始した。

魔力をなるべく温存しながら、一個でも多くのグリーフシードを集めなければならない。

来るべき、決戦の日に備えて。


美国織莉子やキュゥべえの暗躍は気になるけれど、私たちは私たちの今日を必死に生きなければならない。

私の望み、友達の未来、そして、まどかの全てを守るために。

495 : 以下、名... - 2015/02/26 22:51:05.98 CmL6rb/G0 610/1284

・・・
・・・


見滝原中学

2年の教室


ほむら (ワルプルギスの夜が来るまで、あと一週間。良い感じでグリーフシードも集まってきたし、順調だわ)

ほむら (美国織莉子の行動が、未だに掴めていないのが気になるけれど・・・このまま、何もなく終るはずもないし・・・)


気だるい雰囲気が支配する、朝の教室。

登校してから授業が始まるまでの、つかの間の時間。

自分の席に着席して考え事をしていた私の肩を、不意にポンと叩かれた。

少し驚いて顔を上げた私の前に立っていたのは、ひきつった笑顔の美樹さやか。


さやか 「お、おはよー」

ほむら 「おはよう、美樹さん」


彼女と会話を交わすのは、一緒に上条恭介の病室に行った時以来。

あの日さやかと仲違いをして以来、気まずくって・・・どちらからともなく、互いを避けるようにしていたから。

そんな彼女が、むこうから声をかけてきた。

・・・なにかあったのかしら?


ほむら 「私に何か用?」

496 : 以下、名... - 2015/02/26 22:51:45.13 CmL6rb/G0 611/1284

さやか 「う、うーん・・・」


言いよどむさやかの背後から、小さく「ほら、ほら」と急き立てるような声がする。


ほむら 「・・・?」


立ち上がり、さやかの背後を覗き込んでみると・・・


まどか 「あっ」

ほむら 「・・・」

まどか 「うぇひひ・・・見つかっちゃった」


さやかの背中に隠れるように、小さく身を屈めたまどかと目があったのだ。


ほむら 「鹿目さん・・・何をやっているの?」

まどか 「あ、いやぁ~・・・特に何をと言うわけじゃ~・・・」

ほむら 「・・・?」

さやか 「その、じつはさ・・・まどかに急かされちゃって。今すぐ行けって、背中を押されちゃったって訳でさ・・・」

ほむら 「よく分からないわ」

さやか 「そのね、あの、ねぇ・・・」

まどか 「さやかちゃん、ファイト!」


隠れるのを止めたまどかが、さやかの隣に立って何やら応援している。

さやかの方は、顔が真っ赤だ。

・・・これは、このシチュエーションはもしかして・・・っ!?


さやか 「あのね、暁美さん!」

ほむら 「ま、待って!」


私は慌てて、さやかの言葉をさえぎる。

ここから先を、彼女に言わせるわけにはいかない。

497 : 以下、名... - 2015/02/26 22:53:42.37 CmL6rb/G0 612/1284

さやか 「っ、な、なによ!人がせっかく決心して言おうとしてたのに!」

ほむら 「気持ちは嬉しい。だけれど私、あなたの想いに応えることはできないの」

まどか 「え、ほむらちゃん、そんな・・・」

さやか 「・・・」

ほむら 「だから、ごめんなさい」

さやか 「そ、そっかぁ。そうだよね・・・」


さやかが悲しそうに、ションボリと肩を落とし、床を見つめながら言う。

いつもの元気なさやかの姿を知ってる分、このように落胆されると、こちらも罪悪感を感じてしまう・・・

だけれど、まどかの前でいい加減なごまかしなんて、言えるわけない。


ほむら 「私には、心に決めた人がいるから・・・それにそれは、あなたも同じだったはず」

さやか 「へ・・・?」

まどか 「・・・うぇひ?」


さやかとまどか、なぜか目が点。

あれ、予想外の反応・・・

そして。


さやか 「暁美さん、なに言ってるのさ・・・」

まどか 「ほむらちゃん、まじめなお話してるのに、そういうボケはいけないと思うよ」


さやかには心底あきれた目で見られ、まどかにはお説教を喰らってしまった。

え、私・・・なにかボケちゃってたかしら?

498 : 以下、名... - 2015/02/26 22:54:12.36 CmL6rb/G0 613/1284

さやか 「私は、この前の病院での事を謝って、仲直りができたらなって思ってさ。こうして、言いに来ただけなんだけれど・・・」

まどか 「さやかちゃん、あれからずっと悩んでて。でも、なかなか謝るきっかけが見つけられないって言うから、こうして私がついて来たのに・・・」

ほむら 「え・・・あれ・・・?」

さやか 「て言うか、今、あっさり言えちゃったわ。もしかして暁美さん、私が言い出しやすいように、わざとボケてくれたの?」

ほむら 「あ、いや・・・」

まどか 「あれ、そうだったんだ!そうとはしらず、怒っちゃってごめんね、ほむらちゃん!」

ほむら 「う、ううん、気にしないで・・・」


今度は逆に感心されてしまった。

私はただ、どうしようもない勘違いをしただけなんだけれど・・・


竜馬 「詰めの甘さは天下一品だな」


私たちの様子を席から見ていた竜馬が漏らした一言を、私はあえて聞き逃す。

そして、まどかたちに一言、告げたのだった。


ほむら 「う、嘘も方便というでしょ」

499 : 以下、名... - 2015/02/26 22:56:49.68 CmL6rb/G0 614/1284

・・・
・・・


教室

お昼休み


楽しいお昼時。

教室のみんなは銘銘、学食に行ったり、仲の良いもの同士が集まったりとしながら、食事の準備に余念のない様子。

私はといえば、机を移動させて、一群の集まりに合流していた。

そのメンバーは、まどか、さやか、そして志筑仁美の三人。

そこに私を交えた四人でテーブルを囲み、食事をとることになってしまったのだ。


ほむら (なぜかといえば、朝にさやかが謝りに来てくれた時・・・)


けっきょく私のボケ(という事にしておこう)が原因で、満足に話ができない内に朝礼の時間になってしまったから。

だから話の続きは持ち越しという事で、お昼を一緒にとりながら・・・と、いう流れになってしまったというわけ。


ほむら (こうして、友達と学校で食事するなんて、いつ以来かしら・・・)


思い出せないくらい、昔の事になってしまった。

500 : 以下、名... - 2015/02/26 23:03:59.66 CmL6rb/G0 615/1284

もう、誰にも頼らない。そう思いつめてから、私は人との接触を必要最低限以上は取らないように心がけていたから。

だから、こういう場は本当に馴れない。成り行きで参加してしまったけれど、魔女との戦いよりよほど緊張してしまう。


まどか 「ほむらちゃん、こうして一緒にご飯食べるの、初めてだよね」

ほむら 「そ、そうね」

仁美 「あら・・・暁美さんのお弁当箱、可愛いですね。黒ネコさんのイラストがチャームポイントになっていて」


仁美が私のお弁当箱を指して、にっこり笑う。


ほむら 「あ、これは・・・知り合いの子供が選んでくれたの」


私の部屋には、余分な食器が用意していなかった。

だから先日、ゆまと一緒に必要な雑貨を買いに、街まで買い物に行ってきたのだ。

お弁当箱はその時、ゆまが見繕ってくれた。


ほむら 「何となく、この黒猫が私に似ているからと」

まどか 「へぇーぇ」


それに合わせて、今までは購買のパンで済ませていた昼食も、自分で作るように生活を切り替えた。

けっきょく、頼りにしていたマミからはカレーしか教わる事ができなかったけれど、野菜の切り方やご飯の炊き方などは、あの時に教わっていたし。

それ以外はネットなどを駆使して、自炊するようにしたのだ。

501 : 以下、名... - 2015/02/26 23:06:18.11 CmL6rb/G0 616/1284

やってみると、意外と楽しい。ゆまも喜んで食べてくれるし、お手伝いも率先してやってくれる。

今まで使命感だけで生きてきて、ほかの事に目が届いていなかった分、新たに開かれた世界は新鮮で、そして・・・


まどか 「そう言うのって、何だか良いねっ」

ほむら 「ええ、本当に・・・本当に素晴らしいものだと思えるわ」

まどか 「そっかぁ。じゃあ、私からも素晴らしいものを一つ。はいこれ。食べてねっ」


まどかが自分のお弁当箱から私のお弁当箱へと、卵焼きを一つ入れてくれた。


ほむら 「え、これって・・・?」

まどか 「初めて一緒にお昼を食べる記念のプレゼントだよっ」

ほむら 「あ、ありがとう・・・」

仁美 「ふふっ、あらあら」

さやか 「あ~~っ!」


それを目ざとく見つけて、身を乗り出してくるさやか。


さやか 「ちょっと!いいな~。まどかのパパさんの卵焼き絶品じゃん!さやかちゃんにも一つ、よこしなさいよ!」

まどか 「うぇひひ、だめだよー。私だって大好きなんだから、残りは私が食べちゃうの」

さやか 「むー、良いな良いな、暁美さん羨ましいな!」

仁美 「さやかさん、大人気ないですよ・・・」

さやか 「わかったわよ・・・暁美さん、私の代わりに絶品卵焼き、良く味わって食べるのよ!」

ほむら 「分かったわ・・・鹿目さん、ありがとう」

まどか 「うぇひひ、どういたしましてっ」


緊張するけれど・・・

こういうの、嫌いじゃないなって思った。

510 : 以下、名... - 2015/02/28 23:17:52.37 6V7QUEZr0 617/1284

・・・
・・・


ご飯を食べながら聞いたさやかの話では、上条恭介は現在、精力的にリハビリに精を出しているそうだ。

一時期は自暴自棄になりかけていた彼も、今ではすっかりと「本来の恭介(さやか曰く)」に戻って頑張っているのだという。


まどか 「それで、あの・・・これって、聞いちゃって良いのかな?」

さやか 「恭介の怪我の事だよね。足の方はともかく、腕の方はやっぱり厳しいみたいだよ」

まどか 「そ、そうなんだ・・・」

仁美 「・・・」

さやか 「だけどね、頑張ってる恭介を見ていると、私は思うし信じられるんだ」

ほむら 「なにを・・・?」

さやか 「奇跡も、魔法もあるんだって」

511 : 以下、名... - 2015/02/28 23:19:18.79 6V7QUEZr0 618/1284

ほむら 「え・・・」


驚いて、おもわずさやかを凝視してしまう私。

魔法少女の存在を知っているまどかも、目をまん丸にしてさやかを見つめている。

そんな視線に気がついて、彼女は頭をかきながら、苦笑まじりに言った。


さやか 「やだなー、何、その顔」

まどか 「だってさやかちゃん、今、魔法って・・・」

さやか 「なになにー、まどかまで。さやかちゃんが柄にもなくメルヘンな事を言ったからって、その反応はあんまりじゃない?」

ほむら 「じゃあ、魔法っていうのは・・・?」

さやか 「例えよ、物の例え。だけれどね、恭介はあんなに頑張ってるんだもん。奇跡だってなんだって、起こせるんじゃないかなって。私には、そう思えるんだ」

ほむら 「そう、そうだったの・・・」


安堵のため息を漏らしながら、私は平静を装って、さやかの言葉に相づちで応えた。

そう、この時間軸でのさやかにとって、キュゥべえとの契約がもたらす願いなんて、もはや何の意味もない。

その事は理解していても、やはり彼女の口から”魔法”の二文字が出ると、ドキリとしてしまう。

512 : 以下、名... - 2015/02/28 23:20:41.84 6V7QUEZr0 619/1284

ほむら 「やはりあなたは、美樹さやかなのね」


状況や立場が違っていても、彼女の本質は何も変わりはなしない。


さやか 「意味深なこと言うのね。どういう意味?」

ほむら 「あなたらしいって、そう思っただけ」

さやか 「?」


ひたむきなまでに一途で、普段は活発さに隠れて見えにくいけれど、本当はどこまでも女性的な優しさを持つ人。

それが悪い方に現れて、苦しめられた時間軸もあったけれど・・・

やっぱりさやかの本質を私は嫌いになれない。むしろ、好ましいとさえ思えてしまう。

513 : 以下、名... - 2015/02/28 23:22:40.30 6V7QUEZr0 620/1284

ほむら (さやかと上条恭介がこれからも行き続けていく見滝原の街・・・)


ふ、と仁美のほうを見ると、彼女は一連の会話に口を挟むこともなく、もくもくと食事を続けていた。

私は知っている。仁美も上条恭介の事を、以前から慕っていたという事を。

しかし、今さらさやかと恭介の間に割り込むことは不可能と知って、自分の想いを外に出さないように必死なのだろう。


さやか 「ん、どしたの、仁美。黙りこくっちゃってさ」

仁美 「あ、別に何でも。込み入った話でしたので、立ち入るのもどうかと思って・・・」

さやか 「そんなこと、気にしないで良いのに。お、仁美のお弁当は今日も豪勢だね。それ、おいしそうだなー」

仁美 「さやかさんったら、相変わらずですのね。ふふっ、よろしければ、お一つどうぞ?」


そして、今までと変わらない態度で、さやかと接している。

彼女も辛いだろうな。

だけれど、どうにもならない事を態度に表して、周りを困惑させることは仁美の美意識に反する事なんだろう。

だから、いつも通りの自分を演じている。立派だと思う。


ほむら (そして志筑仁美が新しい望みを見出し、育んでいくはずの街・・・)


友達のためにも。この見滝原を守り通したい。

いや、まどか共々、この街も必ず守ってみせる。

まどかたちが食事を取る姿を眺めながら、私は決意も新たに、己に誓ったのだった。

514 : 以下、名... - 2015/02/28 23:23:44.62 6V7QUEZr0 621/1284


・・・
・・・


仁美 「浅ましい・・・」


学校からの帰り道。

今日も習い事があるからと嘘をついて、志筑仁美は独り。

まどかやさやかと別れて、自宅の近所にある公園のベンチでひとりごちていた。


仁美 「私ったら、どうしてあのような事を・・・」


考えてしまったのだろう・・・

いや、それは今でも。

考えまい考えまいと心に強く命じるほどに、嫌な思いが胸の内を黒く染める事に抗うことができない。

だからこその、自己嫌悪。

浅ましくて愚かしくて、消えて無くなってしまいたくなる。

515 : 以下、名... - 2015/02/28 23:25:59.61 6V7QUEZr0 622/1284

仁美 「ああ・・・」


落ち込んで、視線を足元に落とす。

すると、今までどうして気がつかなかったのだろう。

仁美の足元には、一匹の白い小動物が寄り添う様にたたずんでいた。


仁美 「あら・・・」


少し驚いたが、愛らしい動物が側によって来てくれた事は、生き物好きの仁美には素直に嬉しい出来事だった。

ささくれ立った心が慰められるようで、その事もありがたい。

だけれど・・・


仁美 「あなた・・・猫・・・とは、少し違うようだけれど・・・ウサギ・・・?とも、違うようだし」


まじまじ観察してみるが、その動物は仁美が知っているどの動物とも違って見えた。

実際に見たことはもちろん、図鑑やテレビでも見た記憶がない。


仁美 「まぁ、いいですわ」


深くは考えない事にして、仁美は動物をひょいと抱え上げ、自分の膝の上に載せる。

動物は嫌がるそぶりも見せず、仁美のなすがままに任されてくれた。

516 : 以下、名... - 2015/02/28 23:28:04.01 6V7QUEZr0 623/1284

仁美 「ふふ、大人しいですのね。ねぇ、あなた。私のことを慰めて下さってるの?」


答えを期待しない問いかけをしながら、優しく頭を撫でてやる。

動物は鳴き声一つあげずに、仁美の顔をじっと見つめている。

まるで、彼女の次の言葉を促しているかのように。


仁美 「・・・あのね、聞いてくださる?」


仁美は、ポツリポツリと、今の心境を語って聞かせた。

自分にはずっと昔から、慕っている男性がいたという事。

その人の側には、彼の幼馴染が寄り添っていて、今さら自分が立ち入る隙間などないという事。

それでも今までだったら、彼が幼馴染を女性として意識していなかった事が見て取れていた。

だから、いつかは自分にも彼の心をつかむ機会が訪れるのではないか。そんな淡い期待を持ち続けていたという事。

そして・・・今となってはその期待も、砂上の楼閣のように脆くも崩れ去ってしまったという事。

517 : 以下、名... - 2015/02/28 23:31:00.81 6V7QUEZr0 624/1284

仁美 「・・・今にして思えば」


想い人と幼馴染。

恭介のことを仁美が知るよりずっと前から見続け、密かな想いを胸に秘めつつ側にいたさやか。

そんな、さやかが抱く想いの大切さに気がついた恭介。

上条恭介と美樹さやかは、遠回りをしながらも、今。あるべき形に辿り着いただけなのに違いない。


仁美 「さやかさんは大切なお友達。人の心を思いやれる、とても素晴らしい女の子ですわ。だから・・・」


恭介にとって、これがベストな事なのだと。

そう、理性では分かっていた。

分かっていたはずなのに。


仁美 「私、最低ですわ・・・」


付け入る隙を、二人の破局を望んでしまう自分が確かにいた。

そうすれば、今のさやかのポジションに自分が入り込む自信がある。

そんな浅ましい事を考えてしまう自分に、仁美は大きなショックを受けていたのだ。

518 : 以下、名... - 2015/02/28 23:32:19.60 6V7QUEZr0 625/1284

仁美 「大切な人なのにっ、大好きなお友達なのにっ!二人の幸せを素直に受け入れてあげられないなんて・・・っ!」

 「人は二面性を持つ生き物よ。そして、綺麗ごとだけでは生きて行けない」

仁美 「えっ!?」


一瞬、膝の上の小動物が喋ったのかと思った。

だけれど、そうではなく。

声は仁美の隣から、穏やかな風に乗って流れてきたのだ。

顔を上げて、隣に視線を向けると、そこにはいつからいたのか・・・

自分と同じ年頃の、目を奪われるように美しい少女が一人、腰を下ろしていた。


仁美 「え・・・あ、あなた、は・・・?」

 「こんにちわ」

仁美 「こんにちわ・・・」

519 : 以下、名... - 2015/02/28 23:33:58.56 6V7QUEZr0 626/1284

 「盗み聞きするつもりはなかったのだけれど・・・聞こえてしまったの。あなたの胸のうち、あなたの苦悩が」

仁美 「あっ・・・」


顔を赤くして俯く仁美。

はからずも、膝もとの動物と目が合ってしまう。


 「ここで会ったのも、何かの縁。自己紹介をしましょう。私は美国織莉子・・・」

仁美 「美国さん・・・?」

織莉子 「織莉子で良いわ。私もあなたのことを名前で呼ばせていただくから」

仁美 「・・・」

織莉子 「志筑仁美さん?」

仁美 「っわ、私の名前を・・・!?」

織莉子 「ふふ、驚かせてしまったら、ごめんなさいね。私、少し前から、あなたの事を見ていたの」

仁美 「少し前って・・・」

織莉子 「数日前から。お友達になりたくって」

仁美 「・・・お友達に?私と?」

織莉子 「ええ。そして、見ていたから分かる。仁美さん、悩んでいるのね」

仁美 「・・・え、ええ」

520 : 以下、名... - 2015/02/28 23:34:55.97 6V7QUEZr0 627/1284

今、初めて会話を交わした相手。

無遠慮に踏み込んでくる態度に、普段の仁美であったら腹を立てて、この場を去っていただろう。

だけれど、疑心と自己嫌悪で心が弱っていた仁美には、優しい笑みを浮かべて自分に話しかけてくる、この少女・・・

美国織莉子の質問を振り切って、立ち上がる気持ちには、どうしてもなれなかった。


仁美 (不思議な人・・・人を惹きつけてやまない魅力のようなものがある・・・美国、織莉子さん・・・)


どうせ、まどかやさやかの誘いを断って、今日は暇なのだ。

なら、この人に思いの丈をぶつけてみるのも悪くない。仁美はそう思った。


仁美 「わ、私・・・」


誰かに聞いてもらいたかった。

もし、それで不愉快な思いをしたなら、その時はこの場を去り、それっきりにすれば何も問題はないのだから。

521 : 以下、名... - 2015/02/28 23:41:57.90 6V7QUEZr0 628/1284

・・・
・・・


織莉子 「そう・・・」

仁美 「・・・」


この人は、私の話を聞いて、どう思っただろう。

全てを語り終わった仁美は、織莉子が自分をどういう表情で見ているのか。

そのことを知るのが怖くて、膝上の動物から視線を外せずにいた。

・・・嫉妬と羨望に満ちた浅ましい心根を、さぞ卑しいと感じたのではないだろうか。

だけれど。


ふわっ


柔らかい感触が、身体を包む。

いつの間にか立ち上がった織莉子から、背中越しに抱きしめられたのだ。


仁美 「・・・っ!」

522 : 以下、名... - 2015/02/28 23:49:54.71 6V7QUEZr0 629/1284

織莉子 「辛かったのね」

仁美 「わた、私・・・」

織莉子 「誰にも言えず、誰にも語れず。心の痛みを表情にも出せず。大海に漕ぎ出した小船のように頼る術もなく、心細く・・・」

仁美 「・・・う、うぅ~~~」

織莉子 「泣きたい時は、泣いても良いの。辛い時は苦しみを隠すべきではないの」

仁美 「う・・・う・・・うぁ・・・」

織莉子 「そして、望んだものがあれば・・・それは自分に正直に望むべきなのよ」

仁美 「あああーーーーんっ」


人肌の温かみに心がほだされ、決壊した瞳からは涙が際限なくあふれて来る。

こらえ続けていた嗚咽は、心の膿を搾り出すように、胸の奥からいつまでも湧き上がってきた。

そんな仁美を、後は何も言わず。

織莉子は優しく抱きしめ続ける。

その様子を心底理解できないといった目で、膝もとの動物が見ているのを仁美は気がつかなかった。


キュゥべえ (まったく人というのは何世代を得ても、考えることは一緒なんだよね。 理解に苦しむよ・・・)

529 : 以下、名... - 2015/03/06 21:00:00.79 UO5ovpxT0 630/1284

・・・
・・・


翌日 朝

教室


志筑仁美が、学校を休んだ。

まどかやさやかと一緒に登校するための、いつもの待ち合わせ場所に現れなかったというのだ。


さやか 「仁美、どうしたんだろうね。風邪でもひいちゃったのかな」

まどか 「昨日はいつもと変わりなかったのにね。心配だよ」


なぜか私の席の前で、さやかとまどかが語り合っている。

一応私も、彼女たちの仲間として認められているという事だろうか。

ならばと、私も会話に加わってみた。


ほむら 「志筑さんから、何も連絡はなかったの?」


私の問いかけに、まどかが小首を傾げる。


まどか 「うん、なにも。仁美ちゃんが前に休んだ時は、メールで教えてくれたのに」

さやか 「だからよけいに心配なのよ。メールもできないくらいに具合が悪いとかさ」

530 : 以下、名... - 2015/03/06 21:00:50.20 UO5ovpxT0 631/1284

ほむら 「・・・」


私と仁美は、それほど親しかったわけではない。

かつての時間軸でも、必要以上の接触をしたことはなかった。

それでも、彼女の真面目でマメな性格は、傍から見ていてもよく伝わってきていた。

自分に何かがあって、友人が心配するのがわかっていて、連絡をおざなりにするような人ではなかったはず。


ほむら 「心配ね・・・」

まどか 「ほむらちゃんも心配だよね。どうしよう!電話、してみようかな」

さやか 「まぁ、待ちなって。本当に具合が悪いなら、寝ていてメールどころじゃないのかもしれないし」

ほむら 「そうね。まもなく先生も来るわ。休むのなら学校に連絡を入れているだろうし、少し待ちましょう」

まどか 「う、うん~・・・」

ほむら 「ほら、そろそろ予鈴が鳴るわ。二人とも、席に戻った方がいいわよ」


私に促され、二人はそれぞれの席へと戻っていった。

531 : 以下、名... - 2015/03/06 21:03:52.04 UO5ovpxT0 632/1284

それにしても、志筑仁美。彼女に一体何があったのか。


ほむら (単なる風邪なら良いのだけれど・・・)


・・・妙な胸騒ぎがするのは、どうしてだろう。


竜馬 「嫌な予感がするな」


まどか達が去った後、隣の席の竜馬が、声を落としながら話しかけてきた。


ほむら 「なにか、思い当る事でも?」

竜馬 「あるわけないだろ。志筑仁美とはほとんど話したこともないんだ。だがな、こういう時には臭ってきやがるんだよ」

ほむら 「臭い・・・?」

竜馬 「ああ、戦いの中で身に着けた嗅覚がな、嗅ぎつけやがるのさ。嫌な事件特有の臭いってやつを、さ」

ほむら (不安になるようなこと、言ってくれるわ)


だけれど、同じような思いを抱いてしまっている私には、竜馬の言う事を思い過ごしと聞き流すことはできなかった。

532 : 以下、名... - 2015/03/06 21:05:46.86 UO5ovpxT0 633/1284

・・・やがて。

朝のHR開始を告げるチャイムが、スピーカーから流れてきた。

だけれど、変ね。いつもならすぐにやって来るはずの先生が、今朝はなぜだか教室に姿を現さない。


中沢 「先生、遅いよな…?」


数分たって。

普段何かと和子先生の無茶な質問につき合わされている中沢君が、疑問の声を上げた。

それを皮切りに、静まり返っていた教室の中が、にわかに騒めきだす。


それから、さらに数分がたち、教室のざわめきが最高潮に達したころ。。

やっと先生が、教室へと姿を現した。

のだが・・・


和子 「皆さん、お早うございます」


教壇に立った先生の表情が、どことなく固い。

533 : 以下、名... - 2015/03/06 21:06:43.85 UO5ovpxT0 634/1284

和子 「遅くなってすみません。それと、もうこんな時間なので、朝のホームルームは中止にします。あと・・・」


先生が生徒たちの席に目を走らせる。見つめているのは・・・


ほむら (まどかと、さやか・・・?)


和子 「鹿目さん、それと美樹さん」

まどか 「は、はい」

和子 「二人には悪いのだけど、授業に使うプリントを運ぶお手伝いをして欲しいの。いいかしら」

さやか 「え、まぁ、そりゃ構わないですけど、なんで私ら・・・?」

和子 「ほかの皆さんは、先生が戻るまで自習をしていて下さい。以上」


先生は早々に話を切り上げると、まどか達を従えて、さっさと教室を出て行ってしまった。

それと同時に、再び喧騒に包まれる教室内。

534 : 以下、名... - 2015/03/06 21:10:31.52 UO5ovpxT0 635/1284

誰だって分かる。あまりにも不自然な、先生のあの態度。


竜馬 「何かがあったな」

ほむら 「ええ・・・」


ほむら (ということは、志筑仁美の身に何か?だから、仁美と親しい二人を連れだして、話を聞こうと・・・?)


いくら疑問に思っても、今は仮説をたてる以外になす術がない。

私には喧噪のなか、まどか達の帰りを待つ事しかできなかった。

535 : 以下、名... - 2015/03/06 21:14:54.65 UO5ovpxT0 636/1284

・・・
・・・


まどか 「仁美ちゃん、昨日から家に帰ってないんだって・・・」


一時間目も終わろうという時間になって戻って来た、まどかとさやか。

休憩時間になって事情を聴こうと、トイレに誘うふりをしてまどかを連れ出した私。

トイレまでの道すがら、人気が無い場所でまどかがコソリと話してくれた。


ほむら 「昨日から・・・?」

まどか 「うん。お家の人もなにも聞いないんだって・・・」

ほむら 「それで、まどか達が呼び出されたの?」

まどか 「うん。いつも私やさやかちゃんと一緒に帰ってるからって。だけど昨日は、仁美ちゃんとは別々に帰っちゃったし・・・」


語りながらも、まどかは今にも泣きだしてしまいそうだ。

536 : 以下、名... - 2015/03/06 21:17:03.35 UO5ovpxT0 637/1284

まどか 「仁美ちゃん、何かあったのかなぁ。昨日も一緒に帰っていたら、こんな事にならなかったのかなぁ」

ほむら 「まどか、自責の念に囚われているのなら、自分をあまり追い詰めないで」

まどか 「だって・・・」

ほむら 「友達だからって、いつだって一緒にいられるわけじゃない。彼女に何かがあったとしても、それはまどかのせいじゃないのだから」

まどか 「なにか・・・なにかって・・・」

ほむら 「もちろん、何もないことを私も祈ってはいるけれど・・・」


そうは言いながらも、あのしっかりとした志筑仁美が、家に何の連絡も入れずに行方知れずになるなんて、何事もないはずもない。

私は、そうも考えていた。

となれば、可能性としては・・・


ほむら (何らかの事件に巻き込まれたか・・・あるいは・・・)


魔女の結界に囚われたか・・・

537 : 以下、名... - 2015/03/06 21:19:38.32 UO5ovpxT0 638/1284

事実、こことは別の時間軸で、仁美は魔女に魅了され、危うく命を落としかけたことがあった。

その時は、間一髪のところをまどかと、魔法少女となったさやかに救われたのだけれど。

この時間軸でも、同じような出来事に遭遇していないとも限らないのだ。


まどか 「仁美ちゃん・・・仁美ちゃん・・・」ぐすぐす

ほむら (何にしても、放ってはおけないわね。もし志筑仁美の身に何かがあれば、まどかの心が持たない)


その弱みにキュゥべえが付け込んで来るかもしれない。

あいつに隙を見せるようなマネは、絶対に避けなければならないのだ。


ほむら 「まどか、心配しないで。志筑さんの事は、私も探してみるから」

まどか 「ほ、本当!?ほむらちゃん!」

ほむら 「ええ。だからあなたは普段通りに。だって彼女は、私にとっても大切な友人なのだから」


そう、今の私は、本心から思っているから。

538 : 以下、名... - 2015/03/06 21:21:35.09 UO5ovpxT0 639/1284

・・・
・・・


放課後。

私と竜馬は、学校から少し離れた公園へと向かった。

そこで杏子と合流し、魔女狩りに向かう手筈となっていたのだ。


ほむら 「ねぇ・・・」

竜馬 「ん・・・?」

ほむら 「志筑仁美の事、まどかから聞いたのだけれど・・・」


道すがら、私は竜馬に、まどかから聞いた一部始終を話して聞かせた。


竜馬 「家族に連絡も入れず、家に帰っていない、か。ちゃちな火遊びするようなタイプには見えなかったがな」

ほむら 「当然よ。彼女がそんないい加減な人なら、まどかが友人として認めるはずがない」

539 : 以下、名... - 2015/03/06 21:23:53.42 UO5ovpxT0 640/1284

竜馬 「てことは、だ。俺が嗅ぎ当てた悪い予感は、的中しちまったって、考えても良さそうだな」

ほむら 「ええ、あとは手遅れではない事を祈るだけだけれど・・・」


魔女の結界に囚われてしまったのなら、普通の人間にそこから抜け出す事は、まず不可能だ。

願うらくは、結界の中で身をひそめ、何とか命の火を繋いでいて欲しい。


ほむら 「私たちが、当たりの結界を引くまで、なんとか、なんとしても・・・」

竜馬 「・・・片端から結界を潰していかなくてはならないな」


魔女の結界か、使い魔のそれかを選り好みしている余裕はないという事だ。


竜馬 「魔力の温存を図ってきた俺たちには、少しばかり不利な事態だがな」

ほむら 「仕方がないわ。仁美に何かがあったら、不安定となったまどかの心に、あいつがつけ入ってくる危険がある」


まどかを守り通す最善の方法をとるための、魔力の温存だったのだ。

優先順位が変われば、採るべき方策が変わるのも当然と考えなくてはならない。


竜馬 「まぁ、可能な限り戦闘は俺が行う。お前は必要以上には魔力を使おうとするなよ」

ほむら 「ありがとう、リョウ。頼りにしているわ」

540 : 以下、名... - 2015/03/06 21:27:31.10 UO5ovpxT0 641/1284

・・・
・・・


ほむら 「・・・」


私はとある建物の前で立ち止まった。


竜馬 「どうした?」

ほむら 「この奥。そこの路地の間から、気配がする」

竜馬 「魔女の気配か?」

ほむら 「ええ、それともう一つ・・・」

竜馬 「魔法少女・・・?」

ほむら 「仲間以外の、ね」

竜馬 「・・・」


同じ魔法少女同士。なじみ深い仲間の気配なら、感じ間違うはずもない。

この奥から漂ってくるのは、今まで接したことのない気配。

それは、かつての時間軸で敵として渡り合った、美国織莉子や呉キリカの物とも明らかに異なる。


ほむら (そういえば、佐倉さんが言っていたわね・・・)


(杏子 「どうもこうも、聞いた通りさ。キュゥべえの奴、むやみやたらと魔法少女を増やしてやがるぜ」)


では、この先にいるのは、いまだ私が遭遇したことのない。

この時間軸特有の、新たな魔法少女というモノなのだろうか。

541 : 以下、名... - 2015/03/06 21:28:47.91 UO5ovpxT0 642/1284

竜馬 「で、どうするんだ?」

ほむら 「どうもこうも。美国織莉子の動きが気になる。ここにいる魔法少女が例の”バーゲン品”である可能性もあるわけだしね」

竜馬 「そうであれば、美国織莉子とやらと遭遇する機会が得られるかもしれない、か」

ほむら 「ええ」

竜馬 「奴が何者であれ、ゲッターのことを嗅ぎまわっているなら、捨て置くことはできない。何を目論んでいるのか、聞き出す必要があるだろう」

ほむら 「それに志筑仁美の件もあるわ。魔女の結界がそこにあるのに、見て見ぬふりはできない。行きましょう」

竜馬 「おう」


私たちは道を外れ、路地の中へと入っていった。

公園では杏子が待っているはずだけれど、仕方がない。

まずは、目の前の事象から対処する。

戦いの基本だもの。

542 : 以下、名... - 2015/03/06 21:29:38.38 UO5ovpxT0 643/1284

・・・
・・・


結界内


竜馬 「こりゃあ・・・」


結界に踏み込んでの、竜馬の第一声がそれだった。

あたりを見回すと、そこかしこに散乱しているのは使い魔たちの残骸の山。


竜馬 「派手にやってくれたもんだな。その、魔法少女さんとやらは」

ほむら 「ええ」


どうやら、よほどの手練れらしい。

杏子の話では、彼女が遭遇した”バーゲン品”は、戦う術もほとんど持たないような非力な子ばかりだったという事だけれど。

ここにいる魔法少女は、それとは別格の存在のようだ。

543 : 以下、名... - 2015/03/06 21:31:01.22 UO5ovpxT0 644/1284

竜馬 「だが・・・」


竜馬が使い魔の死骸が折り重なった周囲を眺めながらつぶやく。


竜馬 「力はあるようだが、お前のように”慣れた”戦いをするやつではないようだな」

ほむら 「ええ、そうね」


同感だった。

むやみやたらと、手当たり次第に使い魔を殺しつくす、この戦い方。

きっと魔力の消耗具合は尋常ではないだろう。

このような戦い方を続けていては、ソウルジェムが持つはずがない。

と、すれば・・・


ほむら 「資質の高い、新人の魔法少女・・・」

竜馬 「危ういな」


この奥からは、魔女の気配。

新人がいきなり、魔女の相手をするのはリスクが高すぎる。

いくら見知らぬ相手とはいえ、すぐそこに救える命があるのなら、見捨てるわけにはいかなかった。


ほむら 「・・・先を急ぎましょう」

竜馬 「応!」


私たちは頷きあうと、使い魔の死体を踏み砕きながら結界の奥へと駈け出した。

544 : 以下、名... - 2015/03/06 21:38:19.75 UO5ovpxT0 645/1284

・・・
・・・


結界を進むにつれ、強まっていく。

魔女の気配と、そして魔法少女の気配。


ほむら 「・・・?」


私は、かすかな違和感を得ていた。

魔法少女の、この気配。確かに初めて感じるものに違いない。

だけれど、どこかで接した事もあるような、そんな不思議な感覚。

これはいったい、どういうことなのだろう?


だが、ほどなくして私の疑問は解決される。

目の前に、明確な答えが示されたからだ。

545 : 以下、名... - 2015/03/06 21:39:09.06 UO5ovpxT0 646/1284

結界の最奥。

魔女の住処。

そこでは今まさに。

一人の魔法少女が、魔女に最後の一撃を繰り出したところだった。


魔女は住処いっぱいに断末魔の叫びを響かせると、その巨体を力なく横たえ息絶えた。

ほどなくその体は光の結晶となって四散し、後に残されたのはグリーフシード一つ。


 「おもったより、手間取りましたわ・・・」


言いながら、ひょいっとグリーフシードを拾い上げたのは、先ほど魔女を倒した魔法少女だった。

手間取ったとは言いながら、声も表情にも疲れの色ひとつ表していない。

涼しい顔で、さっそくソウルジェムを浄化させている。

そんな彼女の姿を見て、私も竜馬も声を失っていた。

546 : 以下、名... - 2015/03/06 21:40:08.50 UO5ovpxT0 647/1284

 「・・・あら?」


やがて。

ソウルジェムを浄化し終わった彼女が、こちらに顔を向けた。

怪訝な顔でこちらを見つめている魔法少女。

私は彼女の顔に、見覚えがあった。


ほむら 「な、なぜあなたが・・・」


私が、その一言だけを絞り出すように言うと、彼女も驚きの色を隠せないと言った声音で呟いた。


 「暁美さんと・・・流さん・・・?なぜ、あなたたちがこのような所に・・・」

ほむら 「それは、それはこちらのセリフよ・・・!」


私は混乱していた。

なぜ、彼女が?理解ができなかった。

547 : 以下、名... - 2015/03/06 21:41:13.41 UO5ovpxT0 648/1284

確かに彼女の存在は、どの時間軸においても重要なポジションを占めてはいた。

だけれどそれは、あくまでまどかやさやかの友人としてのそれであり、魔法少女の資質とは別のところにあったはず。

それなのに、今こうして、現に。

彼女は魔法少女として、私たちの目の前に立っている。

そして、混乱しながらも、納得したことも一つ。

先ほどから心を支配していた違和感。

・・・なるほど、こういう事だったのね。

”魔法少女”としては、初めて感じる気配。

だけれど、同時にどこかで見知ったような、親近感をも抱かされていた。

その理由は、とっても単純。

私は魔法少女になる以前の、この気配の持ち主の事を、良く知っていたからだったのだ。

548 : 以下、名... - 2015/03/06 21:43:47.75 UO5ovpxT0 649/1284

ほむら 「なぜ、あなたがその姿で、ここにいるの!?」

 「・・・」


私は、昨日も教室で話を交わしたばかりの。

あくまでも、私にとっては友人の一人という立ち位置に過ぎなかったはずの。

そんな、彼女の名を叫ぶ。


ほむら 「・・・志筑仁美!!」

仁美 「・・・」

549 : 以下、名... - 2015/03/06 21:46:21.02 UO5ovpxT0 650/1284


・・・
・・・


キュゥべえ 「志筑仁美。君の願いを叶えるのと引き換えに、君には魔法少女として魔女と戦ってもらうことになるけれど、それで良いんだね?」

仁美 「ええ。説明は織莉子さんからも聞きましたし、承知しましたわ」

キュゥべえ 「では、君はどんな願いで、その魂を輝かすのかい?」

仁美 「私の願いは・・・」


仁美 「                 」


織莉子 「・・・え?」

キュゥべえ 「・・・僕は、願いの内容に関しては干渉しない事にしているんだ。何を望むかは、君たち自身の問題なのだからね」

仁美 「・・・」

キュゥべえ 「だけれど、願いの強さは魔法少女の力量にも直接かかわってくる以上、敢えてもう一度だけ、聞かせてもらうよ」

仁美 「ええ」

キュゥべえ 「本当に、その望みが君の命を懸けるにふさわしい願い、なんだね?」

仁美 「間違いありまぜんわ。これは私が私らしくあるために、何よりふさわしい願い」

織莉子 「仁美さん、あなた・・・」


仁美 「この願いが叶うなら、私はこの命が尽きるとも、本望なのですわ」

550 : 以下、名... - 2015/03/06 21:48:56.99 UO5ovpxT0 651/1284

・・・
・・・


仁美 「なぜって・・・それは・・・暁美さん」

ほむら 「・・・」

仁美 「あなたも魔法少女だったと知って、今は驚いていますけれど、でも、だからこそ、あなたも分かっているんでしょう?」

ほむら 「なにを言ってるの・・・?」

仁美 「私が魔法少女として、なぜここにいるか。その理由なんて、とっても単純にして、明快」

ほむら 「・・・」

竜馬 「・・・」


仁美 「私が、私として、私らしくあるために、ですわ!」

551 : 以下、名... - 2015/03/06 21:55:07.34 UO5ovpxT0 652/1284

・・・
・・・


次回予告


魔法少女として、ほむらの前に姿を現した志筑仁美。

その背後には、彼女の運命の糸を操ろうとする、美国織莉子の影が見え隠れしていた。

一方そのころ、自宅療養中のマミと、見舞いに訪れたまどかへと忍び寄る、一つの影があった。

いよいよ満を持し、活動を開始した織莉子一党。

彼女たちがゲッターロボに向ける想いとは、いったい如何なる事なのか。


次回 ほむら「ゲッターロボ!」第七話にテレビスイッチオン!


ほむら「ゲッターロボ!」【4】

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