ほむら「ゲッターロボ!」【1】

2 : 以下、名... - 2014/09/11 20:19:47.00 5KwpK+um0 248/1284

マミ 「・・・こ、ここは・・・?」

武蔵 「お。マミちゃん、気がついたか」

マミ 「武蔵お兄ちゃん・・・?え、わ・・・わた、し・・・?」


武蔵の腕の中で目を覚ましたマミは、未だ定まらない頭と目で状況を確認しようとした。

何とか上体を起こし、辺りを見回す。

ここは魔女の結界の中。自分は未だ、魔法少女の姿のまま。


マミ 「え・・・じゃ、じゃあ、どうしてお兄ちゃんが結界の中に?」


だんだんと頭がさえてくると同時に、幾つかの疑問が彼女の内に湧き上がってくる。

なぜ自分は武蔵の腕の中で気を失っていたのか。

そして、普通の人間に過ぎないはずの武蔵が、どうして魔女の結界の中に現れたのか。

3 : 以下、名... - 2014/09/11 20:20:39.44 5KwpK+um0 249/1284

そういえば・・・


マミ 「お兄ちゃん、私を魔女から救ってくれた・・・」


あの出来事が夢でないのなら。

武蔵は魔女に食われる寸前の自分を救い、素手で魔女の突進を受け止めていた。

魔女が見えていたのだ。

自分の兄が、あの得体の知れない流竜馬とかいう男と同じように・・・

だが武蔵は


武蔵 「おう、お兄ちゃんだからな。妹の危機に駆けつけるのは当然じゃないかよ!」


マミの疑問になど意に介さず、ただにっこり笑うだけだった。

不思議な包容力と安心感を与えてくれる、そんな笑顔だった。

4 : 以下、名... - 2014/09/11 20:21:53.70 5KwpK+um0 250/1284

武蔵 「ところで・・・ここからはどう出たらいいんだろうな?」

マミ 「え・・・」

武蔵 「俺の仲間が化け物の相手を引き受けてくれてな。俺には安全なところまで引くように言われて来た道を戻ってきたんだけど・・・」

武蔵 「ここ、入る事はできても出る事はできないんだな。結局ここで立ち往生していたってワケだ」

マミ 「あ、それだったら・・・」


結界の主である魔女が倒れれば、自然と元の空間に戻る事ができる。

マミがそう言おうとした矢先だった。

謎の爆音が結界の奥から聞こえてきたのは。


マミ 「な、なに、あの音・・・!こっちに向かって近づいてきている!?」

5 : 以下、名... - 2014/09/11 20:23:16.45 5KwpK+um0 251/1284

武蔵 「・・・おお」

マミ 「お兄ちゃん・・・?」

武蔵 「この音、この振動。忘れるわけがねぇ。やったな、やったんだな竜馬・・・!」

マミ 「竜馬って・・・あの、流竜馬・・・?そ、それよりも、この音が何か、お兄ちゃんには分かっているの?」

武蔵 「ああ、心配しなくていいぜ、マミちゃん。仲間がここにやってくるのさ」

マミ 「仲間・・・流竜馬のこと?」

武蔵 「ああ。しかも、強大な力を取り戻してな!」

マミ 「・・・」


音のする方。結界の奥へと目を向ける。

響いてくる爆音はますます大きくなり、もはやマミの鼓膜を破らんとするかのよう。

たまらず耳を塞ぐ。

そうしながらも目だけは逸らさず、見つめ続けた結界の奥から。

ついにそれは姿を現した。

6 : 以下、名... - 2014/09/11 20:24:15.47 5KwpK+um0 252/1284

猛スピードで突き進む巨体。

特徴的な突起のある頭部を持った、真紅の巨人。


マミ 「新手の魔女・・・?」

武蔵 「違う、ロボットだ!」

マミ 「ロボットって・・・」

武蔵 「ゲッターロボだっ!!」


ゲッターロボ 『うおおおおおっ、武蔵、伏せろおおおおおっ!!』


ロボットが雄叫びを上げる。


ゲッターロボ 『トマホークで結界の壁をぶち破る!!』


武蔵がマミを庇うように地に身を伏せる。

同時に彼らの頭上を飛び越えたロボットが、結界の壁に向かって手にした斧を振り下ろした!


ゲッターロボ 『ゲッターァァァアアアアア、トマホオオオオオオーーーーークッ!!!』

7 : 以下、名... - 2014/09/11 20:27:14.86 5KwpK+um0 253/1284

・・・
・・・


柔らかい感触。

優しく気遣うような、そんな感覚に心地よさを感じながら、私は眠りの世界から現実へと引き戻された。

うっすらと目を開けると、そこには心配そうに私を覗き込む少女の顔。

目覚めた私と視線がかち合い、パッと顔をほころばせる。


まどか 「あ・・・ほむらちゃん、気がついた!」

ほむら 「ま、まどか・・・?」


ぼんやりとする頭で状況を把握しようとする。

まどかの手が、私の頭の上に乗っかっていた。心地よい感触の正体は、これか。

8 : 以下、名... - 2014/09/11 20:34:08.17 5KwpK+um0 254/1284

ほむら 「鹿目さん、手・・・」

まどか 「うぇひっ、ごめん。もしかして邪魔だったかな」

ほむら 「そうじゃなくて、どうして手、頭の上に・・・」

まどか 「あ、うん。ほむらちゃん、苦しそうにしてたから。心配で、そのね。ついつい頭、撫でちゃってたの」

ほむら 「・・・鹿目さん」


まどかの優しさに触れ感動しながらも、なぜ彼女に頭を撫でられていたのか。

思い出そうと、はっきりとしかけてきた頭に鞭打ち記憶の糸を手繰る。

9 : 以下、名... - 2014/09/11 20:35:36.97 5KwpK+um0 255/1284

確か私は・・・


魔女を倒そうと、お菓子の魔女の口の中に自ら飛び込んだんだった。

魔女の弱点を突き、内側から破壊するために。


ほむら 「だけれど・・・」


私を急に襲ったのは、謎の魔力消耗現象。

力が抜け、魔女の口の中から脱出する方法を失い・・・


ほむら 「っっ!!!」


はっとして、ソウルジェムを確認する。

だが、私の心配をよそに、ソウルジェムは一点の穢れも無く、美しく輝いていた。


ほむら 「どうして・・・?」


まるで狐につままれたよう。

10 : 以下、名... - 2014/09/11 20:37:14.63 5KwpK+um0 256/1284

疑問に頭をひねる私に助け舟をよこす様に、まどかが語りかけてきた。


まどか 「マミさんがね、助けてくれたんだよ」

ほむら 「え・・・?」

まどか 「ソウルジェム、濁っちゃうと大変なことになっちゃうんでしょ?ほむらちゃんも、危なかったみたい」

ほむら 「巴さんが、私を・・・?」

まどか 「うん、グリーフシードって言ったかな。それを使って、ほむらちゃんを助けてくれたの」

ほむら 「・・・」


改めて辺りを見回してみる。

ここは・・・


ほむら 「巴マミの寝室・・・?」

11 : 以下、名... - 2014/09/11 20:39:03.53 5KwpK+um0 257/1284

まどか 「すごい、よく分かったね。そうだよ、ここはマミさんの家の寝室」

ほむら 「どうして・・・」


そう、私は巴マミの寝室のベットに寝かされて、まどかの看病を受けていたのだ。

だけれどどうして、こんな状況に・・・


ほむら 「っ!巴マミ・・・まどか、巴さんは無事!?」

まどか 「あ、うん・・・元気だよ?」

ほむら 「そ、そう・・・」


ほっと胸をなでおろす。

でも、だったらなおさら状況が分からない。

私が倒れ、巴マミも戦闘力を失い。

だけど二人とも無事で、私は助けられマミのベットの上でまどかの看病を受けている。

なぜ、こんな事が起こりえるのか。

12 : 以下、名... - 2014/09/11 20:40:58.03 5KwpK+um0 258/1284

ほむら 「あ・・・」


思い起こしたのは、気を失う直前。

私に語りかけてきた、謎の声のことだ。

あの声は確かに言った。私が望むのなら、力を貸すと。

朦朧とした意識下で聞こえた幻聴なのでは、とも思ったが、現に私は生きてここにこうしている。


ほむら 「力を、与えてくれた・・・?」


そう、私は望んだのだ。

後戻りはできないと直感を得ながらも、力が欲しいと。

そして私は再び意識を失い、気がついたらここにこうして寝かされていた。

13 : 以下、名... - 2014/09/11 20:43:40.24 5KwpK+um0 259/1284

あの後・・・

私が決断したその後で、一体何が起こったのか。


まどか 「ほむらちゃん・・・?」


物思いに沈む私に、まどかが不安げな表情を浮かべた時だった。


こんこん。


部屋の外から扉が二度、叩かれたのは。


マミ (がちゃっ)「鹿目さん。暁美さんの様子はどう?・・・あら」

ほむら 「・・・」

まどか 「あ、マミさん。ほむらちゃん、さっき目が覚めたんですよ。だいじょうぶみたい。うぇひひっ」

14 : 以下、名... - 2014/09/11 20:47:19.97 5KwpK+um0 260/1284

マミ 「・・・具合はいかが?」

ほむら 「おかげさまで。まどかから聞いたわ。お世話になったようで、その・・・ありがとう」

マミ 「ううん、礼を言うのは私のほうよ。聞いたの。お兄ちゃ・・・」

ほむら 「・・・」

まどか 「・・・?」

マミ 「こほん・・・兄から。あなたと流君、本当に私の身を案じて、あの場に来てくれたんだって。だから・・・」

マミ 「ひどい事を言って・・・縛っちゃったりして。本当にごめんなさい。そして、ありがとう」

ほむら 「い、いいえ・・・私はただ・・・」

まどか 「うぇひひっ」にこにこ


思いもかけぬマミからの謝罪を受け、動揺しまくりの私をまどかがニコニコと見つめている。

先ほどからの友好的な様子からすると、まどかもある程度のあらましは聞いているようね・・・

15 : 以下、名... - 2014/09/11 20:50:43.86 5KwpK+um0 261/1284

マミ 「でもね・・・」


一転、マミの声音に陰が落ちる。


マミ 「私はそれでも、あなたの事を信用しきれてはいないのよ」

まどか 「ま、マミさん・・・?」

マミ 「どんな理由があったにせよ、あなたが私の大切な友達を傷つけた。その事実に変わりはないわ」

ほむら 「・・・」

マミ 「なぜ暁美さんがキュゥべえを目の敵にするのか。それをあなた自身の口から聞かない事には、私は納得できない。それに・・・」


言いよどみ、言葉を濁すマミ。


ほむら 「なに・・・?」

マミ 「兄にも・・・魔女が見えていたようだった。あなたと一緒にいた、流君と同じように」

ほむら 「あ・・・」


マミに竜馬の名を出されて、改めて気がつく。

竜馬は今、どこに?


ほむら 「あの、巴さん。流君は今どうしているの?」

16 : 以下、名... - 2014/09/11 20:55:49.37 5KwpK+um0 262/1284

マミ 「居間で休んでもらっているわ」

ほむら 「彼を家に上げたの?」


意外だった。


マミ 「そこはほら、彼と兄は知り合いだったみたいだし、さ。それに、あんな事があって、流君だけ蚊帳の外になんて置けないでしょ」

ほむら 「あんなことって・・・?」

マミ 「それよりもよ。あなたはいったい何なの?キュゥべえを傷つけたと思ったら、私を助けに来たりして。一体何がしたいわけ?」

ほむら 「・・・言ったところで、あなたは納得してはくれないと思うのだけれど」

マミ 「・・・っ!」


私の一言に、マミの表情がたちまち険しくなる。

一瞬のうちに冷たく硬化してしまった部屋の空気に、おろおろしだすまどか。


まどか 「ほ、ほむらちゃんっ!ま・・・マミさん~」

マミ 「そう・・・なら好きになさい。今日の事はお互い貸し借りなし。これからの事は、互いに考えればいいことだわ」

ほむら 「・・・」

17 : 以下、名... - 2014/09/11 20:58:54.34 5KwpK+um0 263/1284

マミ 「具合が良くなったのなら、起きてらっしゃい。食事くらいご馳走するから・・・」


がちゃっ・・・


マミ 「・・・暁美さん」


部屋から出ようとしたマミが足を止め、再び顔をこちらへ向けた。


マミ 「あなたと流君が乗っていたロボット、あれはいったい何なの?」

ほむら 「・・・え?」

マミ 「あれはあなたの魔法少女としての力の一つなのかしら?正直、私にはそうは見えなかったのだけど・・・」

ほむら (・・・私がロボットに乗っていた?)


謎の声のセリフが、頭の中に蘇る。

私に力を与えると言った、竜馬をリョウと呼ぶ、誰とも知れない声。


ほむら (あの声の主・・・流君の仲間?だとしたら・・・)


マミ 「兄もあのロボットのことを知っているようだった。何だか私一人、蚊帳の外にいるみたい・・・」

ほむら (間違いない・・・)

マミ 「兄も、そのロボットの名前、知っていたのよ」

ほむら 「・・・」

マミほむら 「ゲッターロボ」

18 : 以下、名... - 2014/09/11 21:00:42.04 5KwpK+um0 264/1284

マミがロボットの名を口にするのに被せ、私も声を重ねる。

図らずもはもって響いた二人の声に、まどかは目を白黒させている。

それはマミも同じ。

私もまた、自身が手に入れた力の正体に戸惑いを隠す事ができなかった。

19 : 以下、名... - 2014/09/11 21:03:05.99 5KwpK+um0 265/1284

・・・
・・・


ゲッターの話は、ひとまずここまでだった。

そのあと。

起きてきた私を待っていたのは、竜馬や武蔵。そして巴マミの手による、心づくしの料理の数々。


ほむら 「なにごと・・・」

竜馬 「暁美、もう起きてきて平気なのか?身体の具合は・・・?」


慌てたように駆け寄ってくる竜馬に、不思議な安堵感を覚える。

無事でいてくれたという気持ちと、私の側にいてくれる事への安心感。


ほむら 「・・・あ、ええ。心配かけたかしら。だったら、ごめんなさい。もうすっかり平気だから」

竜馬 「そ、そうか・・・巴マミもソウルジェムを浄化すれば心配ないとは言っていたんだが、無事な姿を見るまでは、どうもな」

ほむら 「うん・・・」

竜馬 「・・・」

20 : 以下、名... - 2014/09/11 21:03:53.15 5KwpK+um0 266/1284

ほむら 「あ、それはそうと、流君」

竜馬 「なんだ?」

ほむら (後で話があるわ)こそっ


彼にしか聞こえない声で囁いた私に、竜馬が頷いて答える。


ほむら 「それで・・・」


改めて、辺りを見回す。

テーブルの上に所狭しと並べられた料理の数々。

ホカホカと、美味しそうに湯気を立てているのを見せ付けられては、私のお腹も鳴ってしまいそうだ。

そういえば、レーション以外のまともな食事なんて、退院以来このかた、満足には取っていなかったものね。


ほむら 「これは一体、何が始まろうとしているの?」


湧き上がる唾をバレないように飲み込みつつ、平静を装って側のまどかに聞いてみる。


まどか 「うぇひひっ、パーティーだよ」

ほむら 「パーティー??」

21 : 以下、名... - 2014/09/11 21:06:51.03 5KwpK+um0 267/1284

マミ 「あんな事があった後だけれど、せっかく昨日から料理の下ごしらえ頑張ったんだし、無駄にはしたくなかったから」


キッチンから、さらに追加の料理を運んできたマミが代わって答えた。


ほむら 「えっと、あの。もう少し分かるように説明してもらえると、ありがたいのだけれど・・・」

武蔵 「えへへへ・・・これは、俺の歓迎会なんだってさ」


マミは、今日はもともと帰国した武蔵の歓迎会を、まどかも交えた三人で行うつもりだったらしい。

そこに成り行き上、私と竜馬も呼ばれた形となってしまったということだった。


マミ 「暁美さん、食欲はある?この場にあなたがいるのも何かの縁、できれば兄の帰国を一緒に祝っていってもらいたいのだけど」

ほむら 「・・・私は別に、巴さんが良いと言うのなら」

22 : 以下、名... - 2014/09/11 21:08:18.09 5KwpK+um0 268/1284

まどか 「そうだよ。ほむらちゃんもご馳走になって行こう!こんなにたくさんの料理、ほむらちゃんたちもいないと食べきれないもの」

武蔵 「まぁ、俺だったら一人で全部食える自信、あるけれどな」

まどか 「うぇひひっ」

竜馬 「お前は黙ってろよ、武蔵。ていうかさ、俺も一緒にご馳走になっちまっても良いものなのか?」

マミ 「もちろんよ。あなたにも助けられたのですもの、お礼もかねて。それに、兄とは面識もあるみたいだし、遠慮は不要よ」

竜馬 「そうか。じゃあ、お言葉に甘えて・・・」

マミ 「もっとも、どこで兄の知己となりえたのか・・・そこははなはだ疑問なのだけれど・・・」

竜馬 「こっちの世界的には、今日が初対面って事になるんだろうがな」

マミ 「え・・・」

ほむら 「流君」


竜馬のこぼした言葉に、私は慌てて釘を刺す。

まだまだ分からない事は多いのだ。不確定な事で、巴マミを惑わせるのは得策じゃない。

24 : 以下、名... - 2014/09/11 21:09:13.58 5KwpK+um0 269/1284

武蔵 「難しい話は後だぜ。マミちゃん、腹減ったよ!もう食べちゃっても良いのかい」

マミ 「あ・・・うん。暁美さん、いずれ話はきっちりさせてもらうわよ。でも今は・・・」


マミ 「頂きましょっ!」


気持ちを切り替えたとでも言うように、今までの難しい表情から一転。

マミの顔に笑顔が広がる。

兄の帰国が嬉しくてたまらない。そんな気持ちを隠そうともしない、無邪気な少女の顔。


ほむら 「巴さん・・・」


こんなマミの表情は、はじめて見たかもしれない。

26 : 以下、名... - 2014/09/11 21:13:47.81 5KwpK+um0 270/1284

幼くして両親と死に別れ、それから彼女は一人で孤独と戦ってきた。

マミが魔女化してしまった時間軸もある。

その時間軸で彼女のソウルジェムを曇らせてしまったものは、孤独感から来る精神との葛藤の敗北だった。


ほむら (孤独は、彼女の最大の敵だった・・・)


それがこの時間軸では、武蔵という兄が存在している。


ほむら (武蔵は、巴マミの孤独を払拭しうる存在であってくれるのかしら・・・)


そうであることを願う。

マミを先輩と慕うまどかのためにも、私の目的のためにも。

そしてなにより、彼女自身のためにも・・・


マミ 「どうしたの、暁美さん。お箸、進んでないようだけれど。お口に合わなかったかしら」

ほむら 「・・・ううん、そんなことないわ。頂いています。とっても美味しい」


言いながら、手元の料理を一口二口。

口に中に広がるのは、かつては良く口にした、懐かしい味だった。

27 : 以下、名... - 2014/09/11 21:14:44.70 5KwpK+um0 271/1284

・・・
・・・


歓迎会が終わり・・・

私と竜馬。それにまどかの三人は、まどかの家への道を歩いていた。

日はとっくに暮れている。か弱いまどかを一人、家路につかせるのはあまりに心配だったから。


まどか 「何だかゴメンね。送ってもらっちゃって」

ほむら 「別に構わないわ。気にしないで」

まどか 「流君も、ありがとう」

竜馬 「おう」

まどか 「それと・・・ゴメンね」

ほむら 「・・・?どうしてそんなに、何度も謝るの?」

まどか 「えっと、ううん。これはさっきのとは違くて・・・あの・・・昨日、ね。私のこと、助けてくれたでしょ」

まどか 「それなのに私、あれからそっけない態度とっちゃって。悪かったなぁって・・・」

28 : 以下、名... - 2014/09/11 21:16:15.28 5KwpK+um0 272/1284

ほむら (まどか・・・)


だって、それは仕方がない。

まどかを守るためとはいえ、目の前でキュゥべえを殺そうとしたのだ。

事情を知らないまどかが警戒するのは、至極当然の事だもの。


まどか 「でもね、私。考えてたんだ。初めてほむらちゃんと喋った時、そして、さやかちゃんと話してるほむらちゃんを見て、ね」

まどか 「ほむらちゃん、本当はとっても優しい子なんだって。だからね、キュゥべえにひどい事をしたのも、何か事情があっての事なんだろうなって」

ほむら 「鹿目さん・・・」

まどか 「ねぇ、ほむらちゃん。なんで、あんな事をしたの?私、本当のことを知りたいよ。だってほむらちゃんの事、悪くなんて思いたくないもの」


・・・泣きそうになってしまう。

だけれど。


ほむら 「・・・鹿目さん。あなたは知らなくて良い事よ」

まどか 「え・・・」

29 : 以下、名... - 2014/09/11 21:17:07.98 5KwpK+um0 273/1284

ほむら 「唯一つだけ。キュゥべえの甘言には決して惑わされないで。今日、巴マミは危うく死にかけた。魔法少女として生きるということは、こんな事が日常茶飯事に起こりえるという事よ」

まどか 「う、うん・・・あ、あの。だけれど、キュゥべえやマミさんはっ」

ほむら 「まどか」

まどか 「え・・・」

ほむら 「着いたわよ」


ずっと私の方を見ながら歩いていたので、気がつかなかったのだろう。

ここはすでに、まどかの家の前だった。


まどか 「あ・・・」

ほむら 「それじゃ、私たちはこれで。流君、行きましょ」

竜馬 「・・・ああ」

30 : 以下、名... - 2014/09/11 21:18:38.89 5KwpK+um0 274/1284

まどか 「ほ、ほむらちゃん!」

ほむら 「・・・今日は楽しかった。じゃ、鹿目さん。また明日、学校でね」

まどか 「あ・・・う・・・」


まどかの返事も待たずに、きびすを返す私。

まどかも、追いすがってまで何かを言ってくることはなかった。


しばらく歩いたのち。

まどかの家がもう見えなくなった頃、竜馬がボソッと呟いた。


竜馬 「お前も辛いな」


私は、それにも何も応えなかった。

31 : 以下、名... - 2014/09/11 21:20:20.58 5KwpK+um0 275/1284

・・・
・・・


まどかを家まで送り届けたあと、竜馬と私は私の部屋へと向かった。

向かい合わせで座り、まずは安物の紅茶で唇を湿らせる。


竜馬 「やっと、ゆっくりと話せるな」

ほむら 「そうね。できれば武蔵さんにも同席して欲しかったのだけれど」

竜馬 「しかたがねぇさ。今日は、再会を喜ぶ妹から引き離すなんて、酷なマネはしたくねぇ。しかも、あんな事のあった後だしな」

ほむら 「わかっているわ」

竜馬 「ま、必要な事は後で俺から、武蔵には伝えておくさ。それに、今まで俺が知りえたことは、分かる範囲で説明もしておいた」

32 : 以下、名... - 2014/09/11 21:21:28.90 5KwpK+um0 276/1284

ほむら 「そう」

竜馬 「もっとも、巴マミが料理や暁美の様子見で側を離れた隙を突いてのことだ。随分と駆け足な説明になっちまったがな」

ほむら 「充分よ。疑問に思う事があれば聞いてくるでしょうし。・・・ところで」

竜馬 「なんだ?」

ほむら 「あなたの知っている武蔵さんに、妹や兄妹はいたの?」

竜馬 「聞いたことねぇな。あんな美人な妹がいたなら、絶対に自慢話の一つくらい聞かされていたはずさ」

ほむら 「ということは、流君と同じ、武蔵さんも。それどころか、巴マミまで・・・」

竜馬 「ああ。上手い具合にこの世界に入り込めるよう、過去が改変されているって事だな」

ほむら 「どこまでご都合主義的なのかしら」

33 : 以下、名... - 2014/09/11 21:22:13.55 5KwpK+um0 277/1284

竜馬 「武蔵の、こっちに来てから今までの事は、次に会った時に詳しく聞くとしようぜ。だから、今は・・・」

ほむら 「ええ。今は私たちの知りえた事のすり合わせをしてしまいましょう」

竜馬 「じゃ、まずはお前の話から聞かせて貰おうか。お前が化け物に飲み込まれてしまった後の話だ」

ほむら 「ええ」


私は頷いた。

まず竜馬に伝えねばならないのは、あの声の事だ。


ほむら 「声が・・・聞こえたのよ」

竜馬 「声?」

ほむら 「そう。魔女にわざと飲まれ内部から攻撃しようとした直後、私は例の急激な魔力の消耗に襲われた」

竜馬 「ああ。らしいな。あの白い奴もそう言っていた」

ほむら 「逃れようにも魔力が尽きてしまっては、魔法少女は万事休すよ。そんな時、私に囁きかける声がね、頭に響いてきたの」

竜馬 「そいつは、なんて?」

34 : 以下、名... - 2014/09/11 21:23:26.79 5KwpK+um0 278/1284

ほむら 「私に死なれては困ると。あなたや武蔵さんをこの世界に呼び込んだ元凶だからって・・・」

竜馬 「・・・どういう事だ、それは、ちょいと聞き捨てならねぇな」

ほむら 「そいつは言った。私が望むなら力を貸すと。だから、私は望んだわ。力を・・・私はまどかを残して死ぬわけにはいかないのだから」

竜馬 「・・・」

ほむら 「そして声の主はあなたの事を、こう呼んでいたのよ。リョウって・・・」

竜馬 「・・・!!」


竜馬の顔色が変わる。


ほむら 「心当たり、ある?」

竜馬 「・・・ある。いや、わからねぇ。だが、俺をリョウと呼ぶ奴なんざ、だいぶ限られている。そいつ、まさか・・・」

ほむら 「・・・」

35 : 以下、名... - 2014/09/11 21:24:13.70 5KwpK+um0 279/1284

竜馬 「・・・とりあえず、暁美。続けてくれ」

ほむら 「続けるも何も、そこまでよ。力を望んだ私は、再び意識を失い、気がついたら巴マミの寝室に寝かされていた」

ほむら 「だから、あの後で何が起こったのかを私は知らない。だけれど、巴さんから聞いたわ。私、ロボットに乗っていたんでしょ?」

竜馬 「ああ・・・そうだ」

ほむら 「ゲッターロボに」

竜馬 「ああ・・・」

ほむら 「わかるわ。本能が告げてくる。謎の声が私に与えた力、それこそがゲッターロボなんだって」

竜馬 「・・・」

ほむら 「もう、後戻りできないんだって・・・」

竜馬 「・・・そうか。まさかお前が後釜とはな」

ほむら 「・・・?それって・・・」


竜馬の意味深な一言に思わず口を挟んでしまうが、彼は意に介した風もなく、話を先へと進めてしまう。


竜馬 「じゃあ、次は俺の話だな。きっかけはキュゥべえだったよ」

ほむら 「え・・・?」

36 : 以下、名... - 2014/09/11 21:25:06.44 5KwpK+um0 280/1284

竜馬 「癪だがな。やつが俺にヒントを与えてくれたんだ。そして、俺も確信したぜ。ゲッターロボが今まで、どこにいたのか」

ほむら 「どこなの・・・?」

竜馬 「お前の便利なバックラーの中さ」

ほむら 「・・・」


私は驚かなかった。

今では分かる。これまでどころか、今この瞬間も。

ゲッターロボは私のバックラーの中に、その巨体を隠している事に。


竜馬 「あの時・・・」


竜馬は語りだした。

私が気を失った後、私の知りえなかった、あの空間で起こった事のあらましを。

37 : 以下、名... - 2014/09/11 21:26:12.74 5KwpK+um0 281/1284

・・・
・・・


お前が化物に飲み込まれちまった後・・・

待てど暮らせど、その後の動きが何も無い。さすがに焦ったぜ。

お前を信じてはいたが、これは暁美にとって予期しない出来事が起こってるに違いないってな。

そんな時だ。どこからとも無く、あの白いのが現れたのは。

奴は明確にこそは言わなかったが、暗に俺にこう告げた。

暁美の変調は、俺とお前の共通点にあるのじゃないかってな。


ほむら 「流君との、共通点?それって・・・」


ああ、ゲッターだ。

そうとしか考えられなかった俺は、ゲッターは暁美とともにあると確信した。

今となっちゃ、考えの飛躍もはなはだしくも思う。だがな。

それで、正解だったんだよ。

38 : 以下、名... - 2014/09/11 21:27:02.61 5KwpK+um0 282/1284

俺は呼びかけた。魔女の身体越しに、その中にいるお前に。

お前とともにいるであろう、ゲッターロボに。

・・・そして俺の声に応えて、ゲッターは姿を現した。


ほむら 「・・・どこから?」


魔女の身体の中からだ。

お前のバックラーに収まっていたゲッターが、魔女の中で顕現したのさ。

当然、ゲッターの巨体を化物が飲み込んでいられるはずも無い。

魔女の身体は四散し、後に残ったのはゲッターロボのみだったって訳さ。

39 : 以下、名... - 2014/09/11 21:28:37.83 5KwpK+um0 283/1284

・・・
・・・


ほむら 「え・・・それじゃ、私はその時いったいどこにいたの?」

竜馬 「・・・ちゃっかり、ゲッターのコクピットに収まってたよ」

ほむら 「すでに、ゲッターのコクピット・・・操縦席に・・・」

竜馬 「ああ。前にも言ったと思うが、ゲッターロボは本来三人乗りだ」

ほむら 「ええ、聞いたわ」

竜馬 「ゲッターロボはもともと三機のロケットマシンでな。それが合体して一体のロボット、ゲッターが誕生する。つまり、ゲッターには三箇所のコクピットがあるってわけだ」

ほむら 「流君が乗るべき操縦席と、武蔵さんの席と・・・」

竜馬 「そう。そして、後一つ。お前はその中で気を失っていたんだよ、暁美」

ほむら 「ということは・・・そこって・・・」

竜馬 「ああ。もう一人の仲間・・・神隼人が乗っていた、ゲッター2の操縦席だ」

40 : 以下、名... - 2014/09/11 21:30:30.45 5KwpK+um0 284/1284

ほむら 「ジン・・・ハヤト・・・」


初めて聞く名。

それなのに、なぜかとても懐かしい響き。

神隼人・・・


ほむら 「力を望んだ私が、かつては神という人の乗っていた操縦席に座っていた・・・」

竜馬 「そうだ」

ほむら 「不思議な感じ・・・ね、流君。何となくだけれど、私は思うの。私が聞いた、謎の声って、その神っていう人なんじゃないかって」

竜馬 「ああ、俺もご同様にそう思っていたところだ。だがな・・・」


彼が次に続けようとしている言葉は、何となく分かっていた。


竜馬 「奴はとうに死んでいる」


予想通りだった。


ほむら 「さっき流君が言っていた、後釜ってそういう事ね」

竜馬 「ああ。隼人が暁美に語りかけ、自分がかつて座っていたコクピットを明け渡す。話の筋は通る」

ほむら 「でも、それが正しいとして、すでに死んでしまった人が、どうやって私に話しかけてきたのかしら」

竜馬 「・・・わからねぇ。ともかく、今は話を先に進めるぜ」

41 : 以下、名... - 2014/09/11 21:32:07.81 5KwpK+um0 285/1284

・・・
・・・


ゲッターが現れた後。

俺はゲッター2・・・ジャガー号のコクピットで気を失っているお前を発見した。

慌ててソウルジェムを確認したら、案の定だ。黒く濁りかかっている。

俺ではどうしようもない。ともかく、この場から脱出する事が先決だ。

そう考えた俺はゲッターに飛び乗り、結界の入り口まで急行したあと、入り口を破壊して現実世界へと帰還したって訳だ。


ほむら 「・・・わざわざ結界を破壊したの?」


ああ。

お前は気を失っている。巴マミも目は覚ましていたようだが、覚醒直後で本調子じゃない。

ゲッターで入り口をこじ開けるのが一番手っ取り早いと思ったんだ。


ほむら 「結界は魔女が死んだら、程なく消滅するのだけれど。一緒に魔女を倒した時、見ていなかった?」


え・・・

あ、焦ってたんだよ、あの時は。

・・・そして、結界から出るのと同時だったぜ。ゲッターが跡形もなく、消えてしまったのは。

実際は、お前のバックラーの中に戻ったんだろうがな。

どうやらこっちの世界では、ゲッターは魔女の結界の中以外では活動できないらしい。

42 : 以下、名... - 2014/09/11 21:33:39.80 5KwpK+um0 286/1284

・・・
・・・


竜馬 「と、こんなところだな。後は、鹿目から説明を受けただろ。俺たちは外で待っていた鹿目と合流。巴マミの家へと向かった」

ほむら 「巴さんからは、グリーフシードの施しを受けた上で、ね」

竜馬 「そういう言い方はよせよ。武蔵から色々聞いたんだろうがよ、お前のことを心底心配そうにしてたんだぜ」

ほむら 「・・・うん」

竜馬 「今日接してみて思ったが、良い奴みたいだな、巴マミ。出会って間もない鹿目も、すっかり心を開いているようだし」

ほむら 「・・・そんなの、言われなくたって知っているわ」

竜馬 「そうだったな。お前、巴マミのこと、けっこう好きなんだろう」

ほむら 「な、なによ、藪から棒に」

竜馬 「明るく振舞う巴マミを見ながら、お前まで笑顔を浮かべていたぜ。気づいていたか?」

ほむら 「・・・」

43 : 以下、名... - 2014/09/11 21:34:30.79 5KwpK+um0 287/1284

竜馬 「暁美、お前も思ったよりは、良い奴だったんだな」

ほむら 「なによそれ、褒めてるの?けなしてるの?」

竜馬 「褒めてるんだよ。言葉は素直に受け取るもんだ。さて、それはともかくとして、だ」

ほむら 「なによ」

竜馬 「巴マミ・・・なんとか助力を得られるような運びに、話をもって行けないもんかなってな」

ほむら 「・・・そうね」


ある時は孤独に苛まされ。

またある時は、突きつけられた現実を受け入れられずに、暴走してしまう巴マミ。

なまじ実力があるだけに、そうなってしまっては非常に厄介な彼女だったけれど。

味方になってくれれば、これほど心強い相手はいないだろう。

そう、もしかしたら、この時間軸では・・・


竜馬 「暁美?」

ほむら 「この件については、後で考えをまとめておくわ」

竜馬 「ああ。じゃあ、残る懸念点は・・・」

ほむら 「私の、謎の魔力消耗現象、ね」

44 : 以下、名... - 2014/09/11 21:35:51.52 5KwpK+um0 288/1284

竜馬 「そうだな。そいつのせいで、お前は満足に戦えないどころか、常に魔女化の危険にさらされ続けているって訳だからな」

ほむら 「たまったものではないわ。戦えない魔法少女なんて、いったいどんな存在意義があるっていうのよ・・・」

竜馬 「・・・解決策はともかく、原因はもしかしたら掴めたかも知れないぜ」

ほむら 「え・・・」


竜馬の意外な一言に、私の目が丸くなる。

当の本人でも見当のつかない事が、魔法少女ですらない竜馬に解明できるなんて、とても思えないのだけれど・・・


ほむら 「どういうことなの?詳しく話してくれないかしら」

竜馬 「それなんだが、武蔵も交えて明日にでも仕切りなおさないか。武蔵の今までのことも、聞いてみたいだろ?」

ほむら 「それは、まぁ・・・」

竜馬 「あくまでも仮説だ。あまり期待されすぎても困るが、まぁ・・・良い線ついてるとは思うぜ」

ほむら 「分かったわ。あなたの言うとおりにしましょう」


頷くと、竜馬は残った紅茶を一気に喉に流し込んで、立ち上がった。


竜馬 「じゃ、明日な」


そう言って出て行く竜馬を、私は後ろ髪を引かれる思いで見送ったのだった。

50 : 以下、名... - 2014/09/12 21:03:31.67 9yblXWnv0 289/1284

・・・
・・・


翌日。

校門を潜った辺りで、登校してきたまどかとさやかと鉢合わせた。

爽やかな陽光に照らされて、一層映えるまどかの笑顔。

朝一番から素晴らしい物が見られたお陰で、何だか今日は良い事でも起こりそうな予感。



まどか 「おはよう、ほむらちゃん!」


手を振って駆けて来るまどか。今朝も元気ね。そんな無邪気な仕草もたまらない。

それとは対照的に、何だか美樹さやかの顔には生気が足りないよう。


さやか 「おはよ、暁美さん」

ほむら 「おはよう・・・」


にっこりと挨拶をしてくれたさやかだけれど、無理して作った笑顔である事は一目瞭然だ。

51 : 以下、名... - 2014/09/12 21:05:44.08 9yblXWnv0 290/1284

彼女の作り笑いは、普段が元気なさやかなだけに、見ていて非常に痛々しい。

さやかが元気を失う原因といえば、大体は見当がつくのだけれど。

私は一応、まどかに探りを入れてみる。


ほむら 「鹿目さん、美樹さんはどうかしたの」(こそっ)

まどか 「あ・・・うん。やっぱりほむらちゃんにも分かっちゃう?」

ほむら 「ええ、お芝居下手よね。無理して普段通りにしようとしているのが、見え見えだわ」

まどか 「そっかぁ・・・うん、えっとね。さやかちゃん、私にも何も言ってくれないんだけれど、たぶん上条君の事だと思うんだ」


・・・やっぱり。

52 : 以下、名... - 2014/09/12 21:08:34.26 9yblXWnv0 291/1284

まどか 「あ、上条君っていうのはね、今は入院してるんだけれど、さやかちゃんの幼馴染の男の子で・・・」


上条恭介。

さやかが魔法少女となる場合、彼女が望む願いは上条恭介の怪我の快癒、ただそれのみだった。

時間軸によって願いの内容が変わるまどかとは対照的で、それだけさやかの上条恭介に対する思いの深さがうかがえる。

将来を嘱望されたバイオリニストであり、美樹さやかの幼馴染にして想い人・・・

そして・・・


まどか 「・・・昨日の放課後も、さやかちゃん。お見舞いに行ったみたいなんだけど・・・」


人の恋路に口を出すほど野暮でもないし、暇でもないけれど・・・


まどか 「えっと、ほむらちゃん。聞いてる?」

ほむら 「あ、ええ・・・」

53 : 以下、名... - 2014/09/12 21:10:46.45 9yblXWnv0 292/1284

さやか 「なになにー。なに二人でコソコソ話してるのよ。これは妖しい関係の匂いがしますなぁ」

まどか 「やだ、そんなんじゃないよ。うぇひひ」


彼女の様子からすると、昨日上条恭介の見舞いに行った場で、彼から何か言われたのだろう。

何を言われたのかは・・・大体想像がつく。

・・・私は上条恭介という男が、正直好きではなかった。


さやか 「どうしたのよ、難しい顔して」

ほむら 「いえ、べつに」

さやか 「お腹でも痛い?それとも何か、心配事でもあるの?」

ほむら 「まぁ・・・」


後者ね。とは、口に出しては言わなかったけれど。

さやかが上条恭介の事で思い悩んでいる時は、彼女から目を離せない。

なぜなら、ヤツがさやかの弱った心の隙を突きにやってくる可能性が高いのだから。

54 : 以下、名... - 2014/09/12 21:17:52.98 9yblXWnv0 293/1284

・・・
・・・


教室。

二時間目も終ろうという頃になって、やっと竜馬が登校してきた。

遅刻をしておきながら、悠々と自分の席へと向かう姿は、さすが大物の風格だ。

・・・その面の皮、少しは分けて貰いたいくらい。

そして、時間は進んで昼休み。

何食わぬ顔で、彼は私に話しかけてくる。

・・・まったく。


竜馬 「よ」

ほむら 「今日はどうしたの?また、魔女の結界を探していたのかしら」

竜馬 「いや、魔女退治は少し休んだ方がいいだろう。戦う度に魔力が枯渇されたんじゃ、お互いたまったものではないしな」

ほむら 「そうね。じゃあ、今日はどうして遅れたの?悪目立ちはよしてって、言ってあったはずなのに」

竜馬 「そう言うなって。こっそり武蔵と会ってきたんだからよ」

ほむら 「あら・・・」

55 : 以下、名... - 2014/09/12 21:19:51.77 9yblXWnv0 294/1284

竜馬 「巴マミのいない場で話したかったからな。今日の話し合いの段取りとかをさ。で、今晩。またお前の部屋でって事で詰めてきたんだが、問題ないよな?」

ほむら 「ええ、巴マミがあっさり外出を許してくれれば良いのだけれどね」

竜馬 「そこはそれだ。俺たちと会うってんじゃ警戒されるだろうからな。上手くごまかして来るように、念を押しておいたぜ」

ほむら 「さすが、ぬかりがないわね。じゃ、頃合を見て私の部屋へ。武蔵さんは流君が案内してきてくれるんでしょう?」

竜馬 「そりゃ構わないが、なんでわざわざ別行動なんだ?一緒に行けばいいじゃねぇか」

ほむら 「うん・・・」


わたしはちらりと、視線を動かす。

その先には、まどかと談笑する美樹さやか。

表面上は明るくふるまってはいる様だけれど・・・


竜馬 「鹿目がどうかしたか?」

ほむら 「いえ・・・まどかと一緒にいる子の方よ」

56 : 以下、名... - 2014/09/12 21:24:09.56 9yblXWnv0 295/1284

竜馬 「えっと・・・なんつったかな。み・・・みき・・・?」

ほむら 「美樹さやか。まどかの親友よ。覚えてあげてね」

竜馬 「へぇへぇ」

ほむら 「かつて、私とともに魔女と戦った、魔法少女のひとりなんだから」

竜馬 「・・・!」

ほむら 「別の時間軸での話だけれどね。今はまだキュゥべえとも接触していないようだし、魔女の存在も知らない普通の女の子でしかないわ」

竜馬 「今はまだ・・・か」

ほむら 「ええ。彼女の心は今、おそらく不安定な状態にある。キュゥべえの甘言に取り込まれる危険性が高いの」

竜馬 「おそらくって、どういうことだ?確信を持てるわけじゃないって事か?」

58 : 以下、名... - 2014/09/12 21:29:26.41 9yblXWnv0 296/1284

ほむら 「今までの時間軸での経験則よ。美樹さやかはおそらく、放課後に病院へ向かうはず。入院している幼馴染の男の子を見舞いにね」

竜馬 「ふ・・・ん」


何かを察したのか、竜馬が幾分声を落とす。


竜馬 「・・・後でもつけるか?」

ほむら 「まさか。だって、クラスメイトなのよ」


軽く竜馬に笑って見せると、私は席を立ち、美樹さやかの元へと向かった。

まどかと話していたさやかが、私の気配に気がつき、顔をこちらへと向ける。

にこりと微笑んで迎えてくれたが、その笑顔に張り付いたわざとらしさが、私には不憫に感じられてならない。


さやか 「おや、暁美さんじゃないですか。私たちに何かご用ですかな」

ほむら 「ええ。美樹さんって、たしか上条恭介君の幼馴染だったわよね」

さやか 「え・・・そ、そうだけど、なんであんたが恭介の事を・・・」

59 : 以下、名... - 2014/09/12 21:31:02.46 9yblXWnv0 297/1284

ほむら 「深い意味はないの。鹿目さんから聞いたのよ。あなたと上条君は仲が良いって・・・ね?」

まどか 「うぇひっ!?」

さやか 「そうなの、まどか?」

まどか 「う・・・うぇひひひ・・・え、ええと・・・うん・・・」

ほむら 「入院しているって、聞いたわ」

さやか 「うん、まぁ・・・ちょっと事故でね・・・」

ほむら 「それでね、このクラスで顔を合わせてないのは上条君だけだし、挨拶もかねて、一度お見舞いでも・・・と、思ったのよ」

さやか 「暁美さんが?恭介のお見舞いに?なんで・・・!?」

ほむら 「クラスメイトだもの、心配するのは当然でしょう。いけないかしら」

さやか 「いや、いけないとか、いけなくないとか、私からはそういうの、なんとも言えないけどさ・・・」

ほむら 「じゃ、良いのね。では、今日にでも早速。放課後、ご一緒させてもらうわね」

さやか 「・・・え、今日!?早速!?」

ほむら 「今日もお見舞い、行くんでしょ?鹿目さんから聞いたわよ」

まどか 「う・・・うぇひひひ・・・」(ひくひく)

60 : 以下、名... - 2014/09/12 21:33:01.17 9yblXWnv0 298/1284

さやか 「まどか~・・・あんた、言わなくてもいい事を、人にぺらぺらと、まったく勘弁してよね」

まどか 「ご、ごめん」

さやか 「まぁ、いいわ。行きましょ、二人で」

ほむら 「ええ」

竜馬 「三人で、にしちゃくれねぇかな」


不意に後ろから声がかかる。

いつの間に側まで来ていたのか、竜馬が出し抜けに会話に加わってきたのだ。


ほむら 「ちょ・・・いきなりなに?」

さやか 「いやいや、あんたが言うな」


思わず本音の出た私に、さやかの冷静な突込みが入る。

正論過ぎて、ぐうの音も出ない・・・


竜馬 「俺が転校してきた時には、上条って奴はすでに入院していたからな。顔通しって事なら、俺が行かない理由はないだろ」

さやか 「そうね・・・分かったわ。じゃ、三人で行こうか。ただ、ちょっとなんて言うか・・・恭介ね、今はナーバスなの」

61 : 以下、名... - 2014/09/12 21:35:16.44 9yblXWnv0 299/1284

さやか 「だから、今日はホント顔通しだけね。私も、すぐに帰るつもりだったし・・・」

竜馬 「了解だ。じゃ、放課後にな」

ほむら 「あ、流君・・・美樹さん、それじゃ後で。鹿目さんも、また」


用件だけ済むとさっさと自分の席に引き上げてしまった竜馬を、私も慌てて追う。

席に戻るなり机に突っ伏し、居眠りを決め込む彼に、私はため息を一つ。

まったく、どこまでフリーダムなのかしら。


ほむら 「流君、どういうつもり?」

竜馬 「なんだよ、暁美。昼飯後は眠くなっちまうんだ。ちょいと放っておいちゃくれねぇかな」

ほむら 「・・・できれば病院には、流君には来て欲しくないのだけれど」

竜馬 「なんでだよ」


突っ伏していた竜馬が、顔を上げて私を見た。

気性の激しさを現す、鋭い目。気の弱いものなら、彼に本気で睨まれたなら、それだけで腰を抜かしてしまうだろう。

そして私は知っている。

流竜馬という人間が、彼の放つ眼光そのままの男であるという事を。


ほむら 「会わせたくないのよ、上条恭介とあなたを」

62 : 以下、名... - 2014/09/12 21:38:09.96 9yblXWnv0 300/1284

竜馬 「・・・言ってる意味がわからねぇ」

ほむら 「できれば今日は、夜まで別行動にしてもらえないかしら」

竜馬 「・・・上条恭介ってのが、美樹さやかが魔法少女化する上での、キーパーソンなんだろう。それくらい話の流れで、俺でもわかる」

ほむら 「ええ・・・」

竜馬 「上条と美樹に何らかのやり取りがあって、そこでできた弱みをキュゥべえに突かれる。暁美の心配事は、そんなところじゃねぇのか」

ほむら 「その通りよ」

竜馬 「・・・キュゥべえを美樹に近づけないためにも、人手は多いに越した事がないんじゃないのか?」

ほむら 「ええ・・・そうね、流君の言うとおりだわ・・・分かった、一緒に行きましょう。だけれど、一つだけ約束して」

竜馬 「改まって、なんなんだよ?」

ほむら 「流君は大人しくしていて。決して事を荒立てないように」

63 : 以下、名... - 2014/09/12 21:39:53.12 9yblXWnv0 301/1284

竜馬 「・・・お前な。病院なんだろ、大人しくしているさ。俺を何だと思っているんだ」


再び机に突っ伏す竜馬。あとはもう、話しかけても返って来るのは寝息のみ。

はぁ・・・と小さな溜息一つを残し、私も自分の席へと戻る事にした。

腰を下ろした後、改めて隣の席の竜馬に目を向ける。

乱暴で口が悪くて、そして我が強い。

だけれど、一途で自分の信念には、ひたすらにまっすぐな男。

・・・

そんな彼から上条恭介は、一体どう見えるのだろう。

64 : 以下、名... - 2014/09/12 21:43:11.22 9yblXWnv0 302/1284

・・・
・・・


放課後。

結局、午後の授業も居眠りし通しだった竜馬の耳を引っ張り、引きずる様に私は教室を出た。

さやかはお手洗いを済ませてくるとの事なので、先に校門前で待つことにしたのだ。


まどか 「ほむらちゃん!」


外履きに履き替えて玄関を出たところで、後ろからまどかに呼び止められた。

ちょっと怒っている様で、柔らかな頬をぷくっと膨らませながら、私を睨みつけている。


ほむら 「・・・怒った顔も可愛いのね、まどか(ほむぅ)」

まどか 「うぇひっ!?」

竜馬 「・・・おい、心の声が表に出てるぞ」

ほむら 「はっ・・・こ、こほん。な、何か用かしら、鹿目さん」

65 : 以下、名... - 2014/09/12 21:46:10.98 9yblXWnv0 303/1284

まどか 「あ、うん・・・!さっきのあれ、ひどいよー!おかげで私、さやかちゃんに怒られちゃったんだからね!」

ほむら 「上条君のこと?事実を言っただけだけれど。まどかから聞いたって」

まどか 「そうだけど、さやかちゃんに直接言わなくったって・・・」

ほむら 「不愉快な思いをさせてしまったのなら、謝るわ。だけれど・・・」

まどか 「?」

ほむら 「私は目的のためなら、手段は選ばない・・・!」ふぁさっ!

まどか 「あ・・・あう・・・」

竜馬 「・・・」

ほむら (今の私、ちょっとかっこよかったんじゃないかしら)

竜馬 「・・・と、とりあえず、歩きながら話そうぜ、鹿目」

まどか 「う、うん」

ほむら 「・・・」


二人は私を置き去りに、校門の方へと連れ立って行ってしまった。


ほむら 「・・・あれ?」

66 : 以下、名... - 2014/09/12 21:47:08.28 9yblXWnv0 304/1284

・・・
・・・


校門前。


まどか 「え・・・さやかちゃんの所にキュゥべえが・・・?」

ほむら 「今はまだ現れていないけれど、程なく彼女の前に姿を現す。その可能性が高いわ」

まどか 「え・・・て、いう事は・・・」

ほむら 「そう。あなたが知っているとおり、美樹さんは上条君のことで悩んでいる。そして・・・」

竜馬 「美樹さやかは魔法少女になる素養がある・・・らしいぜ」

まどか 「ほ、本当に?」

ほむら 「ええ、事実よ」

まどか 「ど、どうしてほむらちゃんに、そんな事が分かるの?」

ほむら 「・・・キュゥべえが美樹さんと接触するとしたら、上条君と会った直後、一番心が病んでいる時を狙ってくるはず」

まどか 「上条君と会って、心が病む・・・?なんで・・・?」

ほむら 「だから私たちは病院に行くの。そして、キュゥべえが美樹さんに近づこうとするなら、それを阻む」


まどかの疑問には敢えて答えず、私は事実のみ淡々と告げる。

疑問に対する答えを話した所で、今のまどかに信じてもらう事は、しょせん叶わないのだから。


ほむら 「そういう訳だから。利用するような真似して、悪かったわ」

67 : 以下、名... - 2014/09/12 21:50:33.35 9yblXWnv0 305/1284

まどか 「・・・」

ほむら 「納得がいってないって顔ね」

まどか 「ねぇ・・・ほむらちゃん」

ほむら 「なに?」

まどか 「魔法少女になるのって、ほむらちゃんにとっては、そんなにいけないことなの?」

ほむら 「・・・」

まどか 「たしかに、危険な事だって言うのは分かるよ。マミさんだって、毎日命がけで戦ってる。昨日だって危なかったの聞いてるもん」

まどか 「だけどね、それはこの街のみんなを悪い魔女から守るためなんだよね?戦う事で、救われてる人がいるんだよね?」

ほむら 「・・・そうね」


力ないただの少女だった頃の私も、確かに救われたのだ。

他でもない、魔法少女となったまどかに。


まどか 「本当に叶えたい願いがあって、それで魔法少女になれば、マミさんも仲間が増えて、それだけ危険じゃなくなるって事だよね」

まどか 「・・・ねぇ、それってそんなにいけない事なのかな」


当然の疑問だった。

魔法少女を待ち受ける終末の真実さえ知らなければ、だれだってまどかと同じように考えるだろう。

68 : 以下、名... - 2014/09/12 21:54:14.01 9yblXWnv0 306/1284

さて、何と言えばまどかは納得してくれるのか。


ほむら 「それは・・・」


私が考えを巡らせ、ほんの少しだけ逡巡していた時だった。


竜馬 「鹿目は、魔法少女になりたいのか?」


その間隙を突いてきたかの様に、竜馬が話に割り込んできたのは。


まどか 「え・・・う、うん。マミさんは素敵な人だし、こんな私でも力になれるなら、それはとても嬉しいなって」

竜馬 「じゃあ、それと引き換えに、どうしても叶えたい願いってのが、お前にはあるんだな?」

まどか 「え・・・」


戸惑いの表情を浮かべて、竜馬を見上げるまどか。

次の句が継げないのか、言葉を途切れさせたまま、口だけパクパクしている。

まるで・・・


竜馬 「まるで、自分の願いなんか、考えてもいなかったって顔してるぜ」


竜馬が私の考えを代弁するかのように、まどかに告げる。

69 : 以下、名... - 2014/09/12 21:56:25.72 9yblXWnv0 307/1284

図星だったようで、まどかはうぐっと小さくうめいて、俯いてしまった。

まったく、自分の欲求に無頓着な所は、とってもまどからしいと言えるのだけれど。


まどか 「うぇひひ・・・、そこら辺は、あまり深く考えてなかったよ」

竜馬 「鷹揚と言うかなんと言うか、大物だと思うぜ、鹿目は」

まどか 「う、うぇひひひ・・・」


人を疑う事を知らないまどかは、竜馬の言うことを素直に受け取って、顔を赤めながら頭なんか掻いている。

それ、褒められた訳じゃないと思うわよ。


竜馬 「だがな・・・命がけって部分は、もっと深く考えた方が良い」

まどか 「え・・・」

竜馬 「実感として湧かないのは仕方がないがな、命がけで賭けた命は、賭けに負けりゃ二度と手元に戻ってくる事はねぇんだ。分かるよな?」

まどか 「え・・・う、うん」

竜馬 「お前が命を失って、残されて悲しむ奴はいないのか?」

まどか 「・・・え」

竜馬 「お前が真に望む事、お前の未来が絶たれ、残された者が泣き、それ等と引き換えにしてまで望む事があったのなら、俺から言う事は何もない」

70 : 以下、名... - 2014/09/12 21:58:30.05 9yblXWnv0 308/1284

竜馬 「覚悟を決めた人間を引き止める言葉を、あいにく俺は知らないからな。だが、そうじゃないなら・・・」


竜馬が、ちらりと私へ視線を走らせる。が、すぐにまたまどかへと視線を戻すと、彼は言葉を続けた。


竜馬 「命がけって言葉を、軽々しく使うべきじゃない。お前を大切に思っている人のためにもな」

まどか 「う・・・」


大切な人を失いながらも、まさしく命がけで戦ってきたであろう竜馬の言葉は重たかった。

経験をともなった言葉の重さに、まどかは圧倒されて二の句もつけない。

そしてそれは、ともに聞いていた私も同様だった。


まどか 「・・・あぅ」

さやか 「やー、遅くなってゴメン。途中で仁美に捕まっちゃって、ちょっと話してきちゃった!」

まどか 「あ、さやかちゃん・・・」

竜馬ほむら 「・・・」

さやか 「・・・どうしたのさ?なんだかおもたーい雰囲気なっちゃってるけど」

ほむら 「何でもないわ。さ、遅くなる前に行きましょう」

さやか 「う、うん・・・」


キュゥべえ 「・・・」

71 : 以下、名... - 2014/09/12 22:00:50.48 9yblXWnv0 309/1284

・・・
・・・


病院。

私は竜馬の袖を引っ張り、まっすぐに上条恭介の病室へと向かおうとするさやかに背を向けた。


さやか 「あ、あれ・・・どこいくの、二人とも」

ほむら 「手ぶらで来ちゃったから。売店で何か買ってから行くわ」

さやか 「別に気を使わなくっても良いと思うけど」

ほむら 「そういうわけにもいかないでしょ。病室は聞いてるし、美樹さんは先に行ってて」

さやか 「あれ?私、恭介の病室がどこだか、教えてたっけ?」

ほむら 「鹿目さんから」

さやか 「ああ・・・」

まどか 「うぇひひひ・・・」


さやかからジト目で睨まれて、まどかの口から引きつった笑いが空しくこぼれる。

そう、まどかもさやかがキュゥべえと接触する可能性を聞き、心配して一緒について来ていたのだった。


さやか 「じゃ、まどか。私らは先に行ってよう?」

72 : 以下、名... - 2014/09/12 22:02:49.13 9yblXWnv0 310/1284

ほむら 「二人とも、後でね。流君、行きましょ」

竜馬 「おう」


私たちは、まどかたちとは反対の方へと歩き始める。


竜馬 「で、これからどうするんだ?身を隠して、キュゥべえをとっ捕まえる算段でも図るのか?」

ほむら 「え・・・?」

竜馬 「え??」

ほむら 「話、聞いてなかったの?売店に行って、病室に差し入れる物を買うのよ」

竜馬 「はぁ・・・!?俺はまたてっきり、二人と離れたのも考えがあっての事だとばかり・・・」

ほむら 「キュゥべえから身を隠したって意味は無いわ。さやかの側にいるのが、彼女を守るのには一番確実よ」

竜馬 「じゃあ、何のために差し入れなんて・・・」

ほむら 「いや、礼儀というか、常識として・・・」

竜馬 「・・・」

ほむら 「私、何か変な事を言ったかしら」

竜馬 「俺さ、お前の事クールな二枚目ポジションだと思ってたんだけどさ」

ほむら 「・・・?」

竜馬 「かなり天然、入ってるのな」

ほむら 「そうかしら。自分じゃ分からないけれど・・・」

竜馬 「そりゃそうだろうぜ」

ほむら 「あ・・・売店があったわ。ちょっと買ってくるわね」

竜馬 「はいはい」

73 : 以下、名... - 2014/09/12 22:04:21.25 9yblXWnv0 311/1284

・・・
・・・


上条恭介の病室前。

手に見舞い用の花束を抱え病室の前までやってくると、廊下でまどかがオロオロしていた。

室内に入るには入れないといった感じで、時々病室を覗き込んだりしながら、廊下をウロウロしている。


竜馬 「鹿目、ありゃ、なにやってるんだ?」

ほむら 「・・・だいたい、想像できるけれど・・・鹿目さん」

まどか 「あ・・・ほむらちゃん~~~」


まどかが、ホッとした顔で駆け寄ってきた。


竜馬 「どうしたんだ、お前。外で俺たちを待っててくれた・・・て様子じゃねぇよな」

まどか 「う、うん。じ、実は中でさやかちゃんと上条君が言い争いを・・・ていうか、上条君が一方的に・・・」

ほむら 「・・・まどかが一緒にいるのに?」

まどか 「うん・・・さやかちゃんに外で少し待っててって言われて。でも、心配だよ。あんな顔のさやかちゃん、見たことないもの」

74 : 以下、名... - 2014/09/12 22:08:43.50 9yblXWnv0 312/1284

ほむら 「・・・上条恭介」


恥も外聞も既に捨てているのか。さやか以外の者の前でも醜態を晒すなんて。

・・・それだけ精神的に追い詰められているって事なんだろうけれど。

だけれど・・・


竜馬 「上条は美樹になんて言ったんだ?」

まどか 「それは・・・えっと・・・」

竜馬 「大丈夫だから、言ってみろ」

まどか 「えとその・・・今日は友達まで連れてきて、皆で僕を笑いに来たのかって・・・上条君、そんな事言う人じゃなかったのに・・・」

竜馬 「・・・」


竜馬の目つきが代わる。

75 : 以下、名... - 2014/09/12 22:10:47.69 9yblXWnv0 313/1284

ギロリと病室の扉をねめつける。

なんて目力。扉ごときは容易く眼力だけで破壊してしまいそうな迫力。

あの目つき。さすがの私も、全身が総毛立つのを抑えられない。

ああ、怖い。だから、ここには彼を連れてきたくなかったのだ・・・


まどか 「・・・っ」


普段はノンビリしているまどかも、さすがに様子の一変した竜馬に気がつき、思わず息を呑んでいる。

彼女まで怯えさせてどうするのよ。まどか、すっかり固まってしまっているじゃない。


ほむら 「ちょっと、流君」


私は慌てて、引き止めるように竜馬の腕を掴んだ。

76 : 以下、名... - 2014/09/12 22:11:56.35 9yblXWnv0 314/1284

だが竜馬は、私の存在など意に介さぬかのように、視線を扉に据えたままで、こちらをチラリとも見ようとしない。


竜馬 「自分を笑いに来たと、そう美樹に言ったのか」

まどか 「う、うん・・・」

竜馬 「自分を本気で心配している奴に、そんな事を言ったのか」


ぎりっ・・・

竜馬の奥歯をかみ締める音が、私の耳にも届く。

怒りと憤り。その両者が寸分も隠れることなく、竜馬の顔を染め上げていた。


ほむら 「落ち着いて。顔、怖いから」

竜馬 「上条・・・男じゃねぇぜ」


竜馬が病室に向かって歩き出す。

バカ力の竜馬を生身の私が止められるわけもない。みっともなくズルズルと引きずられるままの私。


ほむら 「だからっ・・・(ずるずる)、今日は大人しくっ・・・(ずるずる)、しててって・・・(ずるずる)あぅ、最初に言ったでしょう!?」

77 : 以下、名... - 2014/09/12 22:13:49.53 9yblXWnv0 315/1284

竜馬 「挨拶してくるだけだ」

ほむら 「挨拶しようって顔じゃないじゃない!」


思い切り踏ん張って抗ってみても、竜馬の手が扉の取っ手を掴むのを引き止める事が叶わない。


竜馬 「邪魔するぜ」

ほむら 「ああ、もうっ」


私の奮戦むなしく、竜馬は上条の病室の中へと消えて行ったのだった。

引きずられたまま成す術のない、非力な私もろとも、まどか一人だけを廊下に残して・・・


まどか 「あわわ・・・」

78 : 以下、名... - 2014/09/12 22:15:18.77 9yblXWnv0 316/1284

・・・
・・・


まどか 「・・・え、えっと。私はこのまま、ここにいて良いのかなぁ」(ぽつーん)

まどか 「流君、すごく怒ってた様だけど、まさか乱暴な事しないよね・・・」

まどか 「ほむらちゃんだっているし・・・」

まどか 「・・・」

まどか 「・・・」

まどか 「うぇひぃ・・・やっぱり心配だよ・・・」

まどか 「・・・よしっ!ここはやっぱり、私も中に入っt
キュゥべえ 「まぁ、待ちなよ、まどか」

まどか 「うぇひっ?!び、びっくりしたぁ・・・キュゥべえ、いつからいたの??」

キュゥべえ 「ずっと側にいたよ。ただ、竜馬とほむらはどう言った訳か、僕の事を快く思っていないからね。身を潜めていたってワケさ」

まどか 「そ、そうなの・・・でも、そうしてここにいるの?」

キュゥべえ 「うん、君の友達の美樹さやかに用があってね」

まどか 「さやかちゃんに・・・え・・・そ、それって、まさか・・・」

79 : 以下、名... - 2014/09/12 22:16:15.26 9yblXWnv0 317/1284

キュゥべえ 「そうだよ、まどか。僕はさやかに魔法少女になって欲しいってお願いしに来たんだ」

まどか 「さ、さやかちゃんが、魔法少女に・・・」

キュゥべえ 「彼女にはその素質と資格があるからね。そしてどうやら、命と引き換えにしても叶えたい願いが、今の彼女にはあるようだ」

まどか 「もしかして、上条君のこと・・・?」

キュゥべえ 「まぁ、実際の所は彼女と話してみないと始まらないけれどね。今は取り込んでるようだし・・・」

まどか 「・・・」

キュゥべえ 「今はこうして、様子を見ておくことにしよう。まどかはどうするんだい?」

まどか 「・・・」

キュゥべえ 「・・・まどか?」

まどか 「う、うぇひっ?」

キュゥべえ 「どうかしたのかい、まどか。なにか考え事でも?」

まどか 「う、うん・・・」

85 : 以下、名... - 2014/09/14 00:11:50.53 sELL/rGP0 318/1284

・・・
・・・


竜馬 「邪魔するぜ」


いきなり扉を開け放って、鼻息荒く踏み込んできた厳つい男の姿を見て。

上条恭介は驚愕の表情を浮かべたまま、固まってしまった。

当然といえば当然の反応。


恭介 「な、何だ君は・・・」


やっと搾り出した、ちょっと間抜けな問いかけなど無視して、竜馬はズカズカとベットに迫る。

その上に臥している上条恭介を一点に見据えながら。


さやか 「え、なに?いったい何なの?」


ただならぬ竜馬の雰囲気を察したさやかが、慌てて竜馬とベットの間に割って入った。

その両の頬を、今しがたまで流されていたであろう涙で塗らしたまま、両手を広げて立ちふさがる。

その姿が、何と言うか・・・惨めでもあり、いじらしくもあって。


竜馬 「どけよ、美樹。挨拶ができないじゃねぇか」

さやか 「挨拶って・・・とても、そんな穏やかな雰囲気じゃないんですけど!?」

86 : 以下、名... - 2014/09/14 00:14:08.78 sELL/rGP0 319/1284

恭介 「挨拶って、どういうこと?あ・・・見滝原の制服・・・?という事は・・・」

竜馬 「よう、お初にお目にかかるぜ、色男。俺は流竜馬。お前さんが入院してから転校してきた、ま、クラスメイトって奴だ」


大柄な竜馬が、さやかの頭越しに上条に声をかける。これじゃ、さやかの決死の通せんぼもまったく意味を成さないわね。


恭介 「転校生?じゃ、君も?」


上条の視線が、今度は竜馬の脇に向けられる。

そこには、いまだ竜馬の腕を掴んで、大樹の蝉よろしくへばり付いていたままの私がいたのだ。


ほむら 「・・・っあ」


そういえば、ずっと竜馬の腕を掴んでいたままだった。

うかつだったわ・・・!

何だかこれじゃ、場もわきまえずに、病室に腕組んで入ってきたバカップルみたいじゃないの。

87 : 以下、名... - 2014/09/14 00:16:47.20 sELL/rGP0 320/1284

ほむら (すすすっ・・・)


私はあくまで自然な動きで竜馬から距離をとると、努めて常と代わらない態度で上条へと言葉を返した。


ほむら 「流君と同じ、転校生の暁美ほむらよ。よろしくね」(ふぁさーっ)

恭介 「あ、よ・・・よろしく」


まどか (あ・・・取り繕った)

キュゥべえ (取り繕ったね)


ほむら (誤魔化せた。完璧だわ)ほむぅっ

さやか 「え、ええと・・・」


私の完璧な自己紹介のおかげで場が和んだためか、張り詰めていたさやかの気持ちも多少は解れたよう。

88 : 以下、名... - 2014/09/14 00:18:03.79 sELL/rGP0 321/1284

そんな彼女の肩に、優しく手を置く竜馬。そっと、さやかを脇へと追いやる。


竜馬 「何を心配してるのか知らないが、さっきも言った通り自己紹介に来ただけだ。あと、暁美」

ほむら 「なに?」

竜馬 「せっかく買ってきた花、萎びる前に活けて来い。美樹、水場を案内してやってはくれないか」

さやか 「え・・・」

ほむら 「だけど、流君・・・」

竜馬 「外にいる鹿目も連れてな。それと・・・」


竜馬が声を落とし、私にだけ聞こえる声でボソッと言う。


竜馬 (美樹を便所にでも連れて行って、顔を洗わせてやれ。涙に濡れた女の顔なんざ、見たくねぇからな)

ほむら (柄でもない事を言うのね。私は、あなたたちを二人にはしたくないのだけれど)

竜馬 (俺がこいつに手を出すとでも?馬鹿を言え。俺が殴ったら、一撃であの世に送っちまう。そんなマネ、するかよ)

ほむら (・・・)


ほむら 「美樹さん、案内、お願いできるかしら」

さやか 「だけど、恭介が」

ほむら 「大丈夫だから」


私はさやかの手を取ると、部屋の外のまどかにも声をかけ病室を後にした。

89 : 以下、名... - 2014/09/14 00:20:44.15 sELL/rGP0 322/1284

・・・
・・・


花を活ける前にトイレによって、さやかに顔を洗わせる。

さやかは自分が泣いていた事にも気がついていなかったようで、困ったような笑顔を浮かべながら洗面台へと向かった。

蛇口をひねりながらも、眠かっただの、あくびをたくさんし過ぎただのと、彼女の言い訳は途切れない。

側にいる者に、なにより親友のまどかに心配をかけたくないのだろう。その心根がいじましい。

そんな、優しいさやかに涙を流させた張本人・・・


まどか (きょろきょろ)

ほむら 「鹿目さん、どうかしたの?」

まどか 「あ、ううん。なんでもないよ。うぇひひ・・・」

ほむら 「そう・・・」

まどか (キュゥべえ、どこに行っちゃったんだろ。ほむらちゃん達が出てきたら、とたんにどこかへ消えちゃった・・・)


・・・上条恭介。

繰り返すようだが、私は彼の事が好きではない。

90 : 以下、名... - 2014/09/14 00:22:44.47 sELL/rGP0 323/1284

さやかが魔法少女となった理由であり、その結果まどかを苦しめた遠因。

自分を想う少女の心につけ込んで、苦しさを発散させる捌け口とした男。

己の辛さにばかり敏感で、他人の心にはどこまでも鈍感で・・・

好感を持てる要素が、まったく見つけられない。

それが、私にとっての上条恭介だった。


ほむら 「惰弱な・・・」

さやか 「へ、なんか言った?」

ほむら 「いいえ、なにも」


夢が絶たれた。絶望の淵にいる。

そんな彼が投げやりになって、気心の知れた幼馴染に八つ当たりをしてしまう。

その程度の事、誰にだってあることじゃないのか。

はじめの内は、私だってそう思おうとしていた。

だけれど、さやかの願いによって復調した後の上条恭介は、怪我で打ちひしがれていた頃の彼と、なんら変わってはいなかった。

どこまでも人の心に鈍感で。見えているのは自分の望みと、自分に接してくる人の上っ面の薄っぺらい部分だけ。

・・・人のことを過剰に気にかけるまどかとは、まったく真逆の存在。

91 : 以下、名... - 2014/09/14 00:23:57.67 sELL/rGP0 324/1284

ほむら 「・・・」

まどか 「さやかちゃん、はい、ハンカチ。ねぇ、もう平気?大丈夫なのかな?」

さやか 「んー、なにが?」

まどか 「なにがって・・・えっと・・・」

さやか 「あはっ、ありがとね。でも、ホントただ眠たかっただけだから。さやかちゃんはいつだって元気なのですよ!」

まどか 「・・・うん」

さやか 「お待たせ、暁美さん。そんじゃ、花を活けに行こっか」

ほむら 「どうして・・・」

さやか 「ん??」

ほむら 「なぜ、そこまであの男に入れ込んで・・・放っておけば、あなたはこれ以上悩む必要も無くなるというのに・・・」

さやか 「なっ!?」

まどか 「ほ、ほむらちゃん!?」

92 : 以下、名... - 2014/09/14 00:27:40.83 sELL/rGP0 325/1284

さやか 「な、なにそれ・・・あんた、なに言っちゃってくれてるわけ?」

ほむら 「言葉の通りよ。上条恭介・・・美樹さんがそこまで入れ込むに値する男なのかしら」

さやか 「・・・???」

ほむら 「献身して悩んで、だけれど想いは届かずに気持ちばかり空回りさせて・・・美樹さんの気持ちを察する事もできない、あんな男のためになんて・・・」

さやか 「ちょっと!!」

ほむら 「あうっ、かはっ」


さやかに胸倉をつかまれ、壁に叩きつけられた。

したたかに背を打ち付けられ、込み上げてきた咳が呼吸を圧迫する。


さやか 「あんた、なんなの!?初対面のあんたに、恭介のなにが分かるっていうのよ!」

ほむら 「けほ・・・分かるのよ、私には。そしてこのままだと、あなたがどういう目にあうのかも・・・」

さやか 「なによそれ!!」

93 : 以下、名... - 2014/09/14 00:31:20.22 sELL/rGP0 326/1284

まどか 「あわわ・・・ちょっと、さやかちゃんやめて、手を離して!ほむらちゃんも、何でそんなこと言うの~~~!!??」

ほむら 「美樹さん、これから何が起こって、どんな決断をする事になったとしても、あなたの心は彼には届かない・・・それどころか・・・」

さやか 「まだ言うかっ!!」


ぎりっ・・・

さやかの手に力がこもる。喉が締め付けられ、ますます息が苦しい・・・

だけど、私の口は止まらなかった。


ほむら 「う・・・ぐ・・・美樹さ、ん。あなただって薄々は感づいているんでしょう・・・?上条恭介が、どんな風にあなたを見ているのかを・・・」

さやか 「う、うるさいうるさい!」

ほむら 「見たくないのよ・・・あなたが苦しむ姿を・・・」

まどか 「さやかちゃん、やめて!ほむらちゃん、死んじゃうよ!」

さやか 「転校生!なんだってのよ!仮にあんたの言う通りだとして、私のことなんて、あんたの知ったことじゃないじゃない!!」

ほむら 「・・・」


そう、知った事ではない。

94 : 以下、名... - 2014/09/14 00:33:55.33 sELL/rGP0 327/1284

さやかはまどかが魔法少女化する際の重要なファクターで、それが故に守る必要があった。

さやかの去就や生き死にが、まどかのメンタルにも大きな影響を及ぼす。だから、さやかから目を離せなかった。

それ以上でもそれ以下でもない。ただ、それだけのはずだった。

なのに・・・


ほむら 「仲間・・・”だった”・・・から・・・」

さやか 「え・・・?」


かつての時間軸においての。

気弱な私を気遣ってくれた。

手を差し伸べても届かない、思い人との事で悩んでいた。

自分の描く理想と、本心が望む願いとのギャップに、心を苛まれていった。

・・・最終的には魔女となって、かつての仲間に討たれて果てた。

そんな、様々なさやかの姿が、私の脳裏を駆け抜けていく。


さやか 「あんた、なに言ってるの・・・?」

ほむら 「う、ぐ・・・」

95 : 以下、名... - 2014/09/14 00:36:35.70 sELL/rGP0 328/1284

まどかの事が一番だということは、今も昔も変わりがない。

だけれど。

それでも最初のうちは、さやかの事も救いたいと思っていた。ともに笑いあえる日が来ればよいと・・・

友達だったのだから。

共に戦った、仲間だったのだから。


ほむら 「いつからだったかしら・・・誰も未来を受け止められない・・・だから、私も誰にも頼らない・・・そう決めて・・・」

さやか 「・・・」

ほむら 「たった一人の、友達だけ、守る、事ができたら、それで、いいと・・・だけ、ど・・・」

さやか 「ワケのわからないことをっ!」

まどか 「さやかちゃん、いい加減にして!」

さやか 「ま、まどか・・・」

まどか 「手を離して、さやかちゃん!本当に殺しちゃう気!?」

さやか 「あ・・・ち、違う・・・私・・・」


さやかの腕から力が抜ける。

途端に肺腑の奥に流れ込んでくる新鮮な空気に耐え切れず、私は膝を折ると、その場で盛大に咳き込んでしまった。

96 : 以下、名... - 2014/09/14 00:38:08.68 sELL/rGP0 329/1284

慌ててまどかが、私の背をさすりながら顔を覗きこんでくる。


まどか 「大丈夫、ほむらちゃん!」

ほむら 「こほっ・・・こほっ・・・へ、平気よ・・・」

まどか 「よ、良かった~~~」


心底ホッとした表情で、私の背をさすり続けてくれるまどか。


まどか 「だけど、ほむらちゃんもいけないんだよ。なんだってあんな、さやかちゃんが怒るようなことを言ったの?」

ほむら 「そ、それは・・・」


まどかに問われて、脳裏に浮かんだのは、あの男の顔。

流竜馬。

私の話を聞き、信じて、そして仲間と認めてくれた男。

そして、失った事もある故に、仲間の大切さを誰よりも知っている男。

そんな彼に・・・

流竜馬という男に、私は感化されてしまったんだろうか。


さやか 「ごめん・・・やりすぎた・・・」

ほむら 「美樹さん・・・」

97 : 以下、名... - 2014/09/14 00:39:26.46 sELL/rGP0 330/1284

さやか 「暁美さんさ、あいつの事、恭介と会った事があるの?」

ほむら 「・・・ええ」


この時間軸では、今日が初対面だけれど。


さやか 「そっか・・・あえて、どこでとは聞かないよ。でも、さ。だとしても、私と恭介の事に関しては、横から口を挟まないで貰いたいな」

ほむら 「・・・」

さやか 「たしかにあんたの言うとおり、今の恭介は私にちょっと当りが強いけどさ、それも幼馴染の気安さから来ていることだと思うし」

ほむら 「だけど、それは・・・」

さやか 「あいつ、自分の夢が絶たれて、本当に辛い時なんだよ。私に鬱憤をぶつける事で、ちょっとでも楽になってくれるなら、私は役に立てて嬉しいんだ」

ほむら 「・・・」

さやか 「暁美さん、私のこと心配してくれたんでしょ。ありがとう。そして、ごめんね」

まどか 「さやかちゃん・・・」

98 : 以下、名... - 2014/09/14 00:41:28.56 sELL/rGP0 331/1284

さやか 「さてと、この話はこれでおしまい。そろそろ病室もどろ?いい加減、遅すぎだって二人とも心配しているかも」

ほむら 「・・・ええ」


救いたいと思った。

だけれど、けっきょく私の言葉など、これまでと同様に美樹さやかの心には届かないのか・・・

このままでは、必ず。その追い詰められた心の隙間に、ヤツが忍び込もうと迫ってくる。

そして美樹さやかは100%、キュゥべえの甘言を受け入れて魔法少女になってしまうだろう。


ほむら (だけれど、彼女に対して私のできる事なんて、今までの時間軸通り、やっぱり何もないんだ・・・)


無力感に押し潰されそうになる。


キュゥべえ 「・・・」

99 : 以下、名... - 2014/09/14 00:47:53.72 sELL/rGP0 332/1284

・・・
・・・


時間は少し逆戻り、ほむら達が出て行った直後の病室。


竜馬 「さてと、改めましてこんにちわ。転校生の流竜馬だ。て、そりゃさっき言ったか」

恭介 「う、うん、聞いたよ。僕は上条恭介。よ、よろしく・・・」

竜馬 「おう」

恭介 「・・・」

竜馬 「青っ白い顔してるな。飯、食えてるのか」

恭介 「最近はあまり食欲が無くてね。でも、さやかにうるさく言われてるし、最低限は一応、ね」

竜馬 「美樹にねぇ。そんな頻繁に見舞いに来てるのか、あいつ」

恭介 「・・・」

竜馬 「良いヤツだよな。あの年でそこまで甲斐甲斐しくできるなんて、そうできる事じゃないぜ」

恭介 「おかしなことを言うよね。同い年相手に・・・」

100 : 以下、名... - 2014/09/14 00:51:28.94 sELL/rGP0 333/1284

竜馬 「おかしい?もしお前と美樹が逆の立場だとして、それを踏まえた上でなお、おかしいと言い切れるのか?」

恭介 「え・・・」

竜馬 「気にかけてもらって当然・・・心配されて当たり前」

恭介 「・・・」

竜馬 「一度そう思っちまうと、凄さってのはなかなか見えてこなくなるもんだからなぁ・・・」

恭介 「僕はそんな・・・あれはさやかが勝手にやってる事で・・・」

竜馬 「そうかい?だったらなおの事、気を利かせて世話を焼きに来てる女を泣かすようなマネなんざ止めときな」

恭介 「・・・っ」

竜馬 「男を下げるぜ」

101 : 以下、名... - 2014/09/14 00:53:23.84 sELL/rGP0 334/1284

恭介 「な、何で君にそんな事を言われなきゃっ・・・!」

竜馬 「大切なものを、失ったんだってな」

恭介 「え、あ・・・う、うん」

竜馬 「俺もさ、掛け替えの無い者を無くした事があるんだ。それも、自分のミスでな」

恭介 「え・・・き、君も?」

竜馬 「おう、そりゃ荒れたぜ。暴れた暴れた。物にも当たったし、人にも当たった。あんまり度が過ぎたんで、投げ飛ばされちまってな」

恭介 「投げ飛ばされた!?」

竜馬 「仲間に柔道の強いのがいるんだがな。おもっくそブン投げられた。俺じゃなけりゃ、死んでたかもな、あれは」

恭介 「は、はは・・・まさか」

竜馬 「大げさに言ってるんじゃねぇぞ?まぁ、それだけされる位、あの時の俺は手がつけられない馬鹿になってたってことだ。そんでな?」

恭介 「・・・」

竜馬 「体中痛くって、ぶっ倒れてるほか成す術無しって段になって、初めて色々考える余裕ができてさ・・・惨めだったぜ」

恭介 「惨めって、なにが・・・?」

102 : 以下、名... - 2014/09/14 00:54:45.43 sELL/rGP0 335/1284

竜馬 「やり場の無い憤りを周りにぶつけてる時、俺はそんな負の感情を発散させているつもりだったんだ。だが、そんなの全然違うってな。分かったんだよ」

恭介 「・・・」

竜馬 「結局憤りは心の底に澱のように沈んだまま。暴れる以外にやりきれない、俺の弱さを周囲に見せつけただけだってことにな」

恭介 (どきっ)

竜馬 「荒れようが暴れようが、あいつはもう帰ってこねぇのにな・・・」

恭介 「え・・・あ、あの・・・もしかして、君が無くしたのって、まさか・・・」

竜馬 「友達だよ。掛け替えのない、な」

恭介 「・・・」

竜馬 「お前の腕、もう治らないのか?」

恭介 「うん・・・そう医者に言われたんだ。諦めろって」

竜馬 「辛いな」

103 : 以下、名... - 2014/09/14 00:56:16.95 sELL/rGP0 336/1284

恭介 「僕の大切なものも、もう戻らないんだ・・・」

竜馬 「だとしても、今以上に自分を落とすなよ。自分から自分を惨めにする必要はねぇ」

恭介 「・・・え」

竜馬 「分かるぜ。お前、昨日はあまり眠れなかったんだろう?」

恭介 「・・・なんでそれを」

竜馬 「真っ暗な部屋の中で天井を見つめていると、色々と考えちまうんだよな。自分の言った事。それで傷つけた人の事。思い返して、あまりに惨めで死にたくなる」

恭介 「・・・っ」

竜馬 「お前が無くした大切な物、失って一緒に悲しんでくれる女の事、少しは気にかけてやれ」

恭介 「う、うう・・・」

竜馬 「邪険にするんじゃなく、頼ってやれ。お前も美樹も、二人とも惨めにならないために」

恭介 「う・・・うあああああああ・・・」

104 : 以下、名... - 2014/09/14 01:01:47.94 sELL/rGP0 337/1284

・・・
・・・


花を活けた花瓶を胸に抱え、私は病室の前まで戻ってきた。

並んで歩くさやかとまどかとは、トイレを出た後から会話一つ無い。

・・・空気が重い。

結局、私がやったのは、無駄にさやかを怒らせた事だけ。


ほむら (さやかの気持ちを上条恭介から逸らすことができたら、ヤツが付け入る隙を奪う事ができたのに・・・)


足取りも重く、病室の中へ入ろうとする。

・・・と。


さやか 「あれ??」

まどか 「どうかしたの、さやかちゃん」

さやか 「いやさ、なんか中から笑い声が・・・」

105 : 以下、名... - 2014/09/14 01:03:37.93 sELL/rGP0 338/1284

ほむら 「え・・・そんなバカな」


竜馬を病院へ連れてきたくなかった理由。

それは竜馬の性格からして、上条恭介という男の事が絶対に受け入れがたいと考えたからだ。

二人を引き合わせれば、無用のトラブルを引き起こしかねない。

そんな懸念を捨てきれなかった。

だから本当は、一室に二人きりにさせるのも抵抗があったのだけれど・・・


ほむら (流君が手は出さないと言明したし、私はさやかと話がしたかったから、敢えて上条の事は彼に任せたのだけれど・・・)


まさか、その二人が談笑してるなんて・・・?

信じがたい気持ちを抑え、私は中から聞こえる声に耳を澄ませる。


恭介 「へぇ、流君は空手の達人なんだね!」

竜馬 「達人というか、まぁ、そこそこはいけるつもりだがな」

恭介 「空手って、面白いのかい?」

竜馬 「そうだな。身体は丈夫になるし、合法的に相手をぶっ飛ばせるし、面白いぜ」

恭介 「あははっ」

106 : 以下、名... - 2014/09/14 01:07:59.91 sELL/rGP0 339/1284

竜馬 「武道の真髄は心技体を鍛える事だ。俺は好きで始めた空手ではなかったが、今ではやっておいて良かったと思ってるぜ」

恭介 「心技体か・・・うん。流君を見てると、とても納得できるよ」

竜馬 「そうか?」

恭介 「うん・・・僕も空手、できるかな。あ、でも、片手じゃやっぱり無理かなぁ・・・」

竜馬 「やる気があれば、ハンデがあろうが関係ないさ。実際に片腕の空手家ってのも、それなりにはいるしな」

恭介 「そうなんだ・・・なんか、すごいね」


まどか 「・・・」

ほむら 「・・・」

さやか 「・・・恭介が、笑ってる・・・」


さやかを先頭に病室に入る。

と、中では外から聞こえた声そのままの穏やかな雰囲気で、竜馬と上条が会話を楽しんでいた。

病室を出た時とは打って変わった様子に、一様に目が点の私たち。

一体、留守にしている間に、彼らに何が・・・??



さやか 「恭介・・・?」

恭介 「さやか。あ、みんなも・・・花、活けて来てくれたんだね。どうもありがとう」

107 : 以下、名... - 2014/09/14 01:09:21.58 sELL/rGP0 340/1284

ほむら 「い、いいえ・・・これ、ここに置いておくわね」

竜馬 「よぉ、遅かったな。広い病院だし、迷子にでもなったか?」

ほむら 「そんなところかも。それより、ねぇ。これって一体・・・」

竜馬 「お、もうこんな時間か。けっこう話し込んじまったな。長居しすぎても悪いし、俺たちはそろそろ帰るか」

ほむら 「え、いや、ちょっと・・・」

竜馬 「鹿目も行こうぜ」

まどか 「うぇひっ?で、でも・・・」

竜馬 「大丈夫だから」

まどか 「・・・流君?う、うん」

さやか 「え、まどか達、もう行っちゃうの・・・?」


ワケが分からないと、不安を色濃くのぞかせた、困り顔のさやか。

すがる様にまどかを見ている。

108 : 以下、名... - 2014/09/14 01:11:17.80 sELL/rGP0 341/1284

だが、そこはさすがの竜馬だ。さやかの様子になど、まったく頓着しない。


竜馬 「じゃーな、上条。今日は邪魔したな」

恭介 「ううん。空手の話、面白かったよ。また、聞かせにきてくれるかい?」

竜馬 「おう、それまでにたくさん食って、元気になっておけよ」


それだけ言うと、さっさと廊下へと消えてしまう竜馬。

放っておくわけにもいかず、私、そしてまどかも、追いかけるように後に続いた。

後に残されたのは、上条とさやかのふたりっきり。

118 : 以下、名... - 2014/09/16 01:06:13.90 uUFicj1R0 342/1284

・・・
・・・


さやか 「・・・」

恭介 「・・・」

さやか 「あ、あはは・・・あいつら、何しに来たんだろうね。特に暁美さんとか。ほとんど、恭介と話してないじゃんねー」

恭介 「うん・・・」

さやか 「はは、は・・・はは」

恭介 「・・・」

さやか 「・・・恭介。流君と何を話してたの?すごく楽しそうだったけど」

恭介 「うん、彼がやっている空手の話とかね。僕には未知の世界だから、すごく新鮮な気持ちで聞くことができたよ」

さやか 「へ、へぇー・・・そっかぁ・・・な、なんかさ、なんかだよ・・・恭介が笑顔で人と話してるのって、すっごく久々に見た気がする・・・」

恭介 「そうかな・・・」

119 : 以下、名... - 2014/09/16 01:07:07.34 uUFicj1R0 343/1284

さやか 「うん。恭介が楽しそうにしてると、私も嬉しい」

恭介 「さやか・・・」

さやか 「私じゃ、恭介をそんな笑顔になんて、してあげられないと思うから・・・」

恭介 「・・・っ」

さやか 「あはは、私、なに言ってるんだろ。さて、と。私も今日は帰るね。また来るかr
恭介 「さやかっ!」

さやか 「うぁ、びっくりした!どうしたのよ、急に大声なんか上げたりして」

恭介 「ごめん・・・でも、さやか。帰らないで、もう少し一緒にいて欲しいんだ」

さやか 「・・・え」

恭介 「さやかに、話したい事があるんだ。だ、だから・・・」

さやか 「恭介・・・?」


キュゥべえ 「・・・」

120 : 以下、名... - 2014/09/16 01:08:20.72 uUFicj1R0 344/1284

・・・
・・・


病院から出て、しばらく歩いた所で。

聞きたくも無い、あの声に呼び止められた私たち。


キュゥべえ 「やぁ、みんな」


・・・インキュベーター。


ほむら 「何か用?こちらはお前には、話したいことなど無いのだけれど」

キュゥべえ 「あいかわらず、ほむらはつれないね。それはともかくとして、だ。・・・流竜馬」

竜馬 「あん?」

キュゥべえ 「君にはしてやられたよ。こうなってはもう、美樹さやかに魔法少女になってもらうのは、まず望みが無いだろうからね」


およそキュゥべえらしからぬ言葉に、私は耳を疑う。


ほむら 「え・・・それってどういう意味・・・?流君・・・?」

竜馬 「俺はただ、上条を放っておけなかっただけだ」

ほむら 「・・・?」

キュゥべえ 「君が何を考えての上での行動だったか。そんなのはどうでも良いんだよ。重要なのは、その結果だ」

121 : 以下、名... - 2014/09/16 01:09:18.77 uUFicj1R0 345/1284

まどか 「さやかちゃんに魔法少女になるようにって、言えなかったの?」

キュゥべえ 「そうだよ、まどか。もう、彼女に話をを持ちかけた所で、意味が無くなっちゃったからね」

ほむら 「・・・分かるように説明しなさい」

キュゥべえ 「人というのは単純な生き物だよね。まったく理解に苦しむよ。あんなに悩んでいた上条恭介が、竜馬との会話ですっかり心を前向きに持ち直してしまった」

ほむら 「・・・!」


思わず竜馬に目が行く。

だが、当の竜馬は面白くなさそうに口を結んだまま、憮然とキュゥべえを見据えているのみ。


キュゥべえ 「恭介はさやかに言うだろう。これからも自分の側にいて、支えて欲しいと。こんな虫の良い提案こそ、今のさやかが最も望む願いに他ならない。ワケが分からないけれどね」

ほむら 「え、それって、美樹さんにとっての・・・」

キュゥべえ 「そうだよ。魔法少女の契約も無しに、さやかは最大の願いを叶えてしまった。こうなってはお手上げさ。彼女からは手を引かざるを得ない」

ほむら 「・・・!」

122 : 以下、名... - 2014/09/16 01:10:45.31 uUFicj1R0 346/1284

キュゥべえ 「さやかの事は、諦めるとするよ」


幾多の時間軸を渡り歩いた私にとっても、これは初めてのパターンだった。

さやかの報われぬ思いの終止符は、さやかの魔女化か戦死、あるいは失恋。いずれも彼女の望まない形でしか訪れなかったというのに。

それがこんな形で、さやかの心と命の両方を救う結果を向かえる事ができるだなんて・・・


ほむら 「流君、あなた・・・」


私は・・・

さやかに上条恭介との関わりを絶たせ、恋心を諦めさせる代わりに彼女の命を救いたいと思った。

そして、結果は失敗。ただ単にさやかの心象を悪くしただけに終ってしまった。

それなのに竜馬は、その両方を諦めさせる事なく、なおかつ上条恭介の心まで救って見せたのだ。


竜馬 「言ったろう?俺はヤツが放っておけなかった。かつての俺自身を見せ付けられているようでな」


そう言った竜馬の顔に一瞬だけ浮かんだのは、さっき病室の前で見せられた、あの凄まじいほどの怒気。

ああ・・・、そうだったんだ。

あの怒りは、上条恭介ではなく、彼に重ね合わせた過去の竜馬自身にこそ向けられたものだったんだ・・・

123 : 以下、名... - 2014/09/16 01:11:40.83 uUFicj1R0 347/1284

竜馬 「だから自分の気の向くまま、やりたいようにやっただけさ」

ほむら 「・・・うん」


それなのに、私ときたら・・・

仲間とか言いながら、彼の心一つ斟酌してあげることができていなかっただなんて・・・


竜馬 「後はあいつら自身の問題だ。良い方向に舵が切れたと言うなら、それは上条や美樹自身の力だろうさ」

ほむら 「・・・」


敵わない。

それが今、この瞬間。私が竜馬に抱いた、偽らない気持ちだった。

124 : 以下、名... - 2014/09/16 01:12:29.32 uUFicj1R0 348/1284

キュゥべえ 「さて・・・さやかはこんな事になっちゃったけれど、まどかは願いが決まったのかい?」

まどか 「・・・っ?」


不意にキュゥべえに矛先を向けられ、戸惑うまどか。

私の意識も、内省から一気に現実へと引き戻される。


まどか 「わ、私は」

ほむら 「インキュベーター!!」(ちゃきっ!)

キュゥべえ 「おっと、こんな所で銃なんか発砲しない方がいいよ。誰かに聞きつけられたら、君だって厄介ごとは背負い込みたくないだろう?」

ほむら 「・・・分かってるわ。だけど、まどかは契約させない。よけいな事は言わないで!」

キュゥべえ 「・・・分かったよ。僕もここで余計な時間を食ってる暇は無いのでね」

ほむら (・・・余計な、時間?)

キュゥべえ 「今日はこれで失礼するとするよ。じゃあね、まどか」


別れの挨拶を言い終わるやヤツは、まるで空間に溶け込むように、どこへともなく消えてしまった。

125 : 以下、名... - 2014/09/16 01:13:15.31 uUFicj1R0 349/1284

どこからともなく現れて、いずこへかと消えてゆく。

まったく、神出鬼没とは良く言ったものだわ。

だけど、今日のあいつ・・・何だか不可解だ。

だって・・・


ほむら (さやかの事、あまりに引き際が良すぎる・・・余計な時間、と言ってたわね。およそ、あいつらしくもないセリフ)


だって、魔法少女の契約は、キュゥべえにとっては至上の命題なはず。

だというのに、こんなにもあっさり、さやかの前から姿を消すと宣言するとは。

騙そうとしているのか?

それとも、あいつ。なにか良からぬ悪巧みでもしているのかも知れない・・・

126 : 以下、名... - 2014/09/16 01:13:49.31 uUFicj1R0 350/1284

茜色に染まった、夕餉れ時の空の下。

疑問を抱えたまま、私たちは再び歩き出す。

ふ、と。隣を歩くまどかを見る。

夕日を受けたまどかの顔は、ほんのり赤く照らされて、血色の良い肌が一層美しく映えていた。


まどか 「・・・ん?」


私の視線に気がついて、小首をかしげてこちらを見る。そんなしぐさも愛らしい。

この愛らしさを曇らせる要因の一つを、取り除く事ができた。

少しホッとする反面、釈然としない気持ちも残る。

なぜって・・・


ほむら (結局私は、さやかの事では何もできなかった・・・から・・・)


悔しいと思った。

127 : 以下、名... - 2014/09/16 01:18:25.94 uUFicj1R0 351/1284

・・・
・・・


その日の夜。

竜馬に連れられて、武蔵が私の部屋へとやって来た。

一歩足を踏み入れて、ギョッとする武蔵。竜馬の時と似たような反応ね。


武蔵 「随分とへん・・・個性的な部屋に住んでるんだなぁ」

ほむら 「気を使ってくれなくても、自覚はしてるので。居住性よりも機能美を優先した結果よ」

武蔵 「そういうものなのか・・・」


素直に感心してくれる武蔵。

ひとまず二人を座らせて、私は定番となった安物の紅茶を出す。

マミの家とは違って、お茶請けは何もないけれど。

そう言うと、武蔵はニコニコしながら手持ちの鞄の中身をテーブルにぶちまけた。

中から出てきたのは、原色バリバリの袋に入った外国のお菓子の山。


竜馬 「なんだこりゃ・・・」

武蔵 「一応な、お土産にと思って。帰国する時に持ち帰った、ニューヨークで買ったお菓子だ!」

128 : 以下、名... - 2014/09/16 01:19:17.67 uUFicj1R0 352/1284

ほむら 「たくさんあるのね。頂いて良いの?」

武蔵 「家にもたくさんあるからな、遠慮しないでいいぜ。これ食いながら、話を進めようか」

竜馬 「あいかわらず食い意地張ってるな。ていうか・・・ニューヨークか。お前、なんでそんなところにいたんだ?」

武蔵 「交換留学生制度って言う奴らしい。俺はニューヨークの高校に柔道の腕を見込まれて、一年を期限に渡米してたんだとさ」

竜馬 「と、言う事は・・・?」

武蔵 「ああ。気がついたら、そういう事になっていた。すでに帰国の段取りまで済んだ状態でな。しかも・・・」


武蔵が懐からスマホを出して、一枚の写真を表示させた。

そこに写ってるのは・・・


ほむら 「武蔵さんと・・・巴マミ・・・小さい頃の・・・」


両親と思われる男女の間に挟まって、笑顔で寄り添ってる仲睦まじい兄妹の姿であった。


武蔵 「可愛い妹つきで、だ」

129 : 以下、名... - 2014/09/16 01:20:06.23 uUFicj1R0 353/1284

竜馬 「その写真は・・・?」

武蔵 「昨日、マミちゃんのアルバムから複写させてもらった。ガキの頃の俺も、一緒にバッチリ写っていたぜ」

ほむら 「・・・やっぱり武蔵さんも、この時間軸特有の立ち居地と役割を与えられていたのね」

武蔵 「昨日竜馬から、今いる世界が俺たちが元いた場所とは別の世界らしいって聞いてな。不思議なもんだぜ」

竜馬 「ああ、不可思議だ。なんせこっちの世界にはゲッターも恐竜帝国も存在しないんだからな。そんな所に何だって俺たちが・・・」

武蔵 「いや、そういう事じゃなくってさ」

竜馬 「・・・?」

ほむら 「・・・?」

武蔵 「昨日初めてマミちゃんに会った時、初めて見る顔のはずなのに、俺は確かに感じたんだよ」

竜馬 「感じたって、何をだよ?」

武蔵 「なんつったら良いのかな・・・家族に対する情?みたいなものを、さ」

ほむら 「え・・・」

130 : 以下、名... - 2014/09/16 01:21:28.87 uUFicj1R0 354/1284

竜馬 「・・・武蔵、お前」

武蔵 「この子は確かに俺の妹だ、家族なんだって・・・記憶じゃなくって、もっと深い心の底の方で確信するような・・・」

竜馬 「・・・」

武蔵 「竜馬にはないのか?例えば、今一緒に住んでる家族に対して、そんな風に湧き上がった感情が心の奥から・・・」

竜馬 「ねぇな」


ぴしゃりと竜馬は言い捨てた。


武蔵 「そ、そうか。な、なぁ・・・竜馬」

竜馬 「なんだ?」

武蔵 「俺、妹なんかいなかったよな?マミなんて子、お前は知らないよな」

竜馬 「しらねぇな」

武蔵 「だ、だよなぁ・・・」

131 : 以下、名... - 2014/09/16 01:27:03.27 uUFicj1R0 355/1284

竜馬 「武蔵。お前、こっちの世界に取り込まれ始めてるんじゃないのか?」

武蔵 「取り込まれるって、なんだよ・・・」

竜馬 「元からお前は順応性が高かったからな。ワケの分からない状況の中に置かれて、自分の心を守るために世界に順応しようとしてもおかしくはねぇ」

ほむら 「どういうこと?」

竜馬 「武蔵は昔から適応能力が抜群に高かったんだ。ゲッターロボのパイロットになった時だって、俺や隼人が無理やり乗せられたのに対して、武蔵は自ら望んで乗り込み、あっさり馴染んで見せたくらいだ」

ほむら 「そうだったのね」

武蔵 「人を単純みたいに言うなよ」

竜馬 「そうは言っちゃいねぇ。ただ、俺とお前は対極だって事を、今更ながら再認識させられたって事さ」

武蔵 「そうだったな。お前は出会った時から、常に何かに抵抗していた。反骨精神が服を着て歩いてるような奴だったからな」

竜馬 「のべつ幕なく抵抗してるわけじゃねぇぞ。だが、納得がいかない事にはとことん抗ってやるさ」

ほむら 「流君にとって、私たちの世界は納得がいかない場所だって事ね・・・」

132 : 以下、名... - 2014/09/16 01:30:58.42 uUFicj1R0 356/1284

竜馬 「ゲッターもねぇ。恐竜帝国もいねぇ。そんな世界が、俺の居場所なはずはねぇ」

武蔵 「そういう反抗心が一切なくなった時、俺たちはこの世界の一部として定着してしまうのかもな」

竜馬 「冗談じゃねぇぜ。俺は必ず元の場所に帰る。その方法を必ず見つけ出してやる。俺には俺の世界で、やるべき事があるんだ」

ほむら 「・・・」


私だって紛れもなく、この世界の一部なのに。

竜馬に世界ごと、私も含めて否定されたように感じられて・・・

私の心に、言いようのない孤独感が押し寄せてくるのを抑えられない。

竜馬にとってこの世界は異質で、元の世界に返りたがっているというのは初めから分かっていた事の筈なのに・・・

それが、今になってどうして。


竜馬 「どうしかしたか?」

ほむら 「・・・別に何も」

竜馬 「・・・そうか?」


この感じ、あの時に似ている。

仲間と信じていた人たちに真実を話しても、受け入れてもらえず孤立してしまった。

あの時に抱いた、寂寥感に・・・

139 : 以下、名... - 2014/09/21 12:50:08.15 STRY2IPh0 357/1284

武蔵 「しかし・・・元の世界に戻るにしても、俺たちをこんな目に合わせたのは、一体なんなんだろうな」

竜馬 「さぁな。この世界の裏の裏まで知ってそうな事情通にとっても、こと俺たちに関しちゃ寝耳に水の異常事態だったようだしな」

武蔵 「誰だ、その事情通ってのは・・・」

ほむら 「巴マミの家で会わなかった?キュゥべえという、見た目だけは可愛らしい小動物なのだけど」

武蔵 「さぁ・・・?昨晩は俺とマミちゃんの二人きりだったけど」


・・・キュゥべえが巴マミの元へ戻っていない?

てっきりパーティーの時は、私や竜馬がいるから行方を眩ませていたと思っていたんだけれど・・・

先刻の口ぶりといい、あいつの事だ。

なにか良からぬ事を企んでいそうで気にかかる・・・


・・・それに。


キュゥべえだけじゃない。

・・・例の謎の声。

140 : 以下、名... - 2014/09/21 12:52:01.42 STRY2IPh0 358/1284

私の窮地を救い、ゲッターという力を与えてくれた”彼”も、あれから一度も私に語りかけてこようとしない。


あの声の主・・・神隼人と思われる彼には、いくらでも聞きたいことがあるというのに。

特に、私こそ竜馬たちがこちらへ飛ばされた元凶だと語った、その事の真意を。




武蔵 「・・・それでこれから俺たち、どうしたら良いんだ?」

竜馬 「当座は暁美の活動に協力しようと思っている。魔女という化け物を倒しつつ、暁美の友達をも守るって具合にな」

武蔵 「ああ、その魔女とかいうの!俺みたいな普通の人間には、見えないのが本当なんだってな。随分とマミちゃんに聞かれたぜ」

竜馬 「普通の人間じゃなかったんだろ。お前も、俺もさ」

武蔵 「そういう事なのかなぁ。何で見えると聞かれても、皆目見当もつかないし、どうにも答えようがなくって弱ったよ」(ショボン)

竜馬 「・・・そんなことでションボリするなよ」

ほむら 「人が良いのね」

竜馬 「それだけが取り柄だな」

141 : 以下、名... - 2014/09/21 12:55:19.48 STRY2IPh0 359/1284

武蔵 「聞こえてるんだよ。それで、ほむらちゃんが守りたい友達って?」

竜馬 「昨日の騒動でも逢っているだろ。鹿目まどかっていう俺たちのクラスメイトだ」

武蔵 「ああ、あのおっとりしてそうな子か。なるほど、守りたくなっちゃうタイプだな、確かに」

竜馬 「ゲッターロボが暁美の元にあった事から分かるように、暁美は俺たちが元の世界に戻るためのキーパーソン足り得るだろう。だから・・・」

武蔵 「魔女を倒し、鹿目って子を守りつつ、ほむらちゃんを中心に据えて、帰る方法を探るって寸法だな。了解だぜ」

ほむら 「え・・・」


図らずも、驚きの声が漏れてしまった。


武蔵 「ん?どうかしたかい?」

ほむら 「だって、そんなあっさり。私がまどかを守りたい理由とかも聞いていないでしょう?なのに、安請け合いをしてしまっても良いの・・・?」

武蔵 「安くはないさ。言ったろ?竜馬が認めた子なら、俺にとっても仲間だって。仲間だったら、つべこべ言わずに信じるんだよ」


そう言って、右手を差し出す武蔵。

142 : 以下、名... - 2014/09/21 12:57:40.31 STRY2IPh0 360/1284

まっすぐに私に向かって突き出された彼の太い腕は、そのまま私へ向けられた信頼の現れとも取れてしまい・・・

思わずうろたえてしまう。

すがる様に竜馬に目を向けるが・・・


竜馬 「握ってやれ。武蔵は自分が認めた相手の為なら、命さえ惜しまない男だ。必ず力になってくれる」


そう言って、にやりと笑われただけ。

対する武蔵は、竜馬とは打って変わり、目を細めて人の良さそうな笑みでこちらを見ている。

同じ笑顔でこうも違うものかと、驚かされるほどに対照的な二人・・・


武蔵 「俺は難しい事を考えるのは苦手だから、仲間が歩む道を共に進むのが一番確実なのさ」

ほむら 「は、はぁ・・・」

武蔵 「聞きたいことができたら、その都度聞くし。だからほむらちゃんも気にせず、気楽に頼ってくれていいぜ!」

143 : 以下、名... - 2014/09/21 12:58:32.90 STRY2IPh0 361/1284

ほむら 「・・・」


差し出された手を取りながら思う。

竜馬と武蔵。確かに対照的な二人だ。

だけど、根本のところでは二人は同質の存在なのだろう。

きっと、彼らの行動基準は、理屈じゃないんだ。

信じたいから信じる。放っておけないから放っておかない。

自分の心に、どこまでも正直に。


羨ましいと思った。

144 : 以下、名... - 2014/09/21 12:59:53.24 STRY2IPh0 362/1284

二人に対して、私はどうだろうと考えさせられる。

まどかを守りたい。その一心で、私は数多の時間軸を渡り歩いてきた。

その一事だけは、誰にはばかることなく断言できる。私のまごう事なき真実の望みだと。

だけど、その他の事は?

私は真の望みのために、他の全てを偽って生きているんじゃないのか。

それは、そう。自分の心ですらも・・・


偽った心で発した言葉が、人の琴線に触れるはずがない。

だから、私の言葉はいつもさやかに届かなかったのだろう。

上条の心を開いた竜馬とは、まるで正反対に・・・


ほむら 「さやかを救いたいと思った心も、偽った気持ちだったのかしら・・・」

武蔵 「・・・え?」

145 : 以下、名... - 2014/09/21 13:01:00.70 STRY2IPh0 363/1284

ほむら 「なんでもない。よろしくね、武蔵さん。私も、あなた達の力になれることがあれば、なんだって協力するわ」

武蔵 「ああ、期待してるからな!なんてったって、俺たちは仲間なんだから!」


仲間・・・

私も彼等と共に歩めたなら、もっと自分の心に正直に、物事を良い方向に進める事ができる様になれるだろうか?

もうずっと昔に諦めてしまった、かつての私がやろうとしていた事を。

再び掴もうと足掻いても、許されるだろうか。


ほむら 「・・・ええ、仲間だわ」


私は武蔵と、その横の竜馬に頷いて見せた。

そう、仲間。

それが例え、異なる世界から来た、一時だけのかりそめなのだとしても。

146 : 以下、名... - 2014/09/21 13:01:56.89 STRY2IPh0 364/1284

・・・
・・・


次回予告


竜馬や武蔵に触発されたほむらは、大切な友達「鹿目まどか」と共に、かつての仲間をも救おうと決意する。

だがその前に、彼女には解決しなければいけない問題があった。

謎の魔力消耗現象。

その正体が、竜馬の口からついに明かされる。

そして、見滝原周辺に続々と現れる、謎の魔法少女たち。

キュゥべえの暗躍は、ほむらの戦いに新たな混迷をもたらすのだった。

はたしてキュゥべえの目論見はいかに!?


次回 ほむら「ゲッターロボ!」第四話にテレビスイッチオン!

147 : 以下、名... - 2014/09/21 13:03:39.62 STRY2IPh0 365/1284

以上で第三話終了です。長々お付き合いいただき、ありがとうございました。

また4話においても、お目汚しを許していただければ幸いに思います。


164 : 以下、名... - 2014/11/14 12:14:57.42 D7gCJ1Lr0 366/1284

ほむら「ゲッターロボ!」 第四話

165 : 以下、名... - 2014/11/14 12:15:37.04 D7gCJ1Lr0 367/1284

風見野市

某所


魔法少女 佐倉杏子は、今日も日課である魔女退治を行うため、縄張りとしている風見野氏を徘徊していた。

その手に握るは、彼女のソウルジェム。魔女の住処である結界の反応を光で示してくれる。

・・・と。

ソウルジェムにわずかな変化が現れた。些細ながらも確かな、光の揺らぎ。


杏子 「へっ」


杏子はその変化を見逃さない。


杏子 「この先から、結界の反応がある。さて、今夜のメインディッシュはどんなお味かな・・・と」

166 : 以下、名... - 2014/11/14 12:18:11.47 D7gCJ1Lr0 368/1284

言うが早いか、杏子は駆け出した。

ソウルジェムの示す方へ、獲物のいる結界へと向かって。

自分が到着する前に、魔女が結界を閉じてしまっては元も子もない。

初動に遅れて、獲物を逃すようなへまを犯すような彼女ではないのだ。

だが・・・


杏子 「・・・」


導かれて到着した場所で杏子は肩を落とす。そこで見たものが、期待したものとは違っていたのだ。

杏子を落胆させたもの、それは・・・使い魔の結界。

167 : 以下、名... - 2014/11/14 12:20:32.86 D7gCJ1Lr0 369/1284

いわゆる”はずれ”。

この中に魔女はいない。戦っても、グリーフシードは手に入らないのだ。


杏子 「なんだよ、期待させやがって。とんだ無駄足だったじゃないか」


こればかりは、目の前で実物を確かめるまでは分からない。

残念だが、そうと分かれば長居は無用だ。


杏子 「こんな所で貴重な魔力を無駄使いしても仕方がねぇ~。もう遅いし、今夜は退散するとします・・・か・・・」

杏子 「・・・ん?」


きびすを返し、建物の陰へ回った所で、杏子の視界の端を何かが横切った。


杏子 「あれは・・・」


物陰から顔を半分だけ出し、立ち去ったばかりの使い魔の結界の方を伺う。

168 : 以下、名... - 2014/11/14 12:22:55.46 D7gCJ1Lr0 370/1284

するとそこには、杏子と入れ違いにやってきた、何者かの姿が。


 「・・・」


その姿を目で追い、杏子は確信する。あの格好、間違いない・・・


杏子 「・・・魔法少女」


杏子が驚いている間に人影は、結界に吸い込まれるように、彼女の視界から姿を消していた。

使い魔の結界の中へと、入っていったのだ。


杏子 「あいつっ・・・ここはあたしのテリトリーだって言うのに!」

杏子 「どこかから流れてきたハグレの魔法少女か、それともルーキーか・・・」

杏子 「なんにしても、好き好んで使い魔の結界なんかに入っていくなんて、気に入らないな。まるで・・・」


杏子 「・・・」


杏子 「ええーい、そんなことはどうでも良いんだよ。とりあえず、後でもつけてみるか」

杏子 「あいつが使い魔を倒してホッとした所で、お灸を据えてやろうじゃないの」

杏子 「思い知らせてやる。この街の獲物は、全てあたしの物だって事を、さ」

169 : 以下、名... - 2014/11/14 12:25:57.07 D7gCJ1Lr0 371/1284

・・・
・・・


使い魔の結界内


杏子 「さて、さっきの奴はどこへ行った・・・?こっちか・・・?」

杏子 「・・・」きょろきょろ

杏子 「・・・いた」


結界内を探索し、程なく杏子はあっさりと目的の魔法少女を発見する。

場所は、入り口からそれほど遠くない、まだ結界の序盤といった所。

そこで例の魔法少女はまさに今、一匹の使い魔と対峙している所であった。


使い魔 「きしゃーっ!」

 「う、うわわっ、きゃ、きゃあっ、うああああああっ!!」


杏子 「お、ちょうど使い魔との戦闘中か。どれ、お手並み拝見といこうじゃないか」


 「あわわわ・・・こ、来ないで!来るなこっち来るなぁ!あ、ああああっ!!」


襲い掛かる使い魔に、抵抗しようとする魔法少女。

170 : 以下、名... - 2014/11/14 12:28:19.02 D7gCJ1Lr0 372/1284

しかし彼女の武器は、何も無い空間を空回りするばかりで、まったく使い魔にダメージを与える事ができていない。

あまりにも不慣れで無様な戦いぶりに、杏子はただただ呆れるばかりだ。


杏子 「・・・なんだ、あの戦い方・・・まるでなってねぇ。ルーキーもルーキー・・・魔法少女に成り立てホヤホヤッって感じだな」

杏子 「まぁ、いくらなんでも使い魔の一匹くらい、どうってことないだろ」


そう思い、傍観を決め込んでいた杏子であったが・・・


使い魔 「きしゃしゃー!!」

 「っうう!!うわあああああ、ぎゃっ!!!!」

使い魔 「がぶっちょ」


杏子 「・・・え」

171 : 以下、名... - 2014/11/14 12:31:20.56 D7gCJ1Lr0 373/1284

使い魔 「がりっ!ばりばり・・・」

 「い、痛い!!いやぁ、いやああ!やめて!離れて!」


杏子 「お、おいおい・・・」


使い魔 「ばりんごりん、ばりぼり・・・」


一端喰らい付いた使い魔は、魔法少女がどんなに暴れようと、その牙を抜くことはなく。

より一層、深くえぐるように。

彼女の柔肌に食い込んでゆく。


やがて・・・


魔法少女の悲鳴も、そして抵抗も、力を失いか細くなっていった。

命の灯火が、立ち消えようとしているのだ。


 「い、いやあああ・・・ああ・・・あ、ああ・・・」


杏子 「う、嘘だろ」

172 : 以下、名... - 2014/11/14 12:42:03.74 D7gCJ1Lr0 374/1284

使い魔 「ばりばりばりぼりぼりぼり」

 「・・・」


杏子 「はっ・・・!く、くそ!」


予想を裏切るあまりの出来事に呆然としていた杏子だったが、やっと我を取り戻すと俄然地を蹴って飛び出した。

使い魔の元へと。

得物の槍を振りかざしながら!


杏子 「この使い魔野郎!どけ、そこをどけえぇ!!」

使い魔 「?」


ザシュッ!!

槍が使い魔を貫く。

耳障りな悲鳴を後に残し、文字通り霧散して消えうせる使い魔。

173 : 以下、名... - 2014/11/14 12:43:44.09 D7gCJ1Lr0 375/1284

いつも通りの、何の手ごたえも無い、ただのつまらない雑魚でしかなかった。

なのに・・・


杏子 「お、おい!大丈夫か!?」


慌てて、ピクリとも動かない魔法少女を抱き上げ呼びかけるが・・・


 「」

杏子 「・・・くっ」


杏子が抱き起こした”それ”は、身体の大部分を損傷し、ソウルジェムまで砕かれた、ただの物言わぬ骸へと成り果てていた。


杏子 「どういうことだよ・・・いくらルーキーたって、こんなチンケな使い魔一匹に、まともに反撃もできずにやられちまうなんて・・・」

杏子 「・・・くそぅ・・・胸糞悪い。嫌なモン、見せ付けやがって・・・」


なんともいえない後味の悪さが、杏子の胸に染みる。

174 : 以下、名... - 2014/11/14 12:45:22.87 D7gCJ1Lr0 376/1284

あの時様子を見るなんて悠長な事なんかせずに、すぐに飛び出していたなら・・・

自分が直にぶん殴って、この弱っちい魔法少女に”身の程”という物を、存分に思い知らせてやれただろうに。


杏子 「なぁ・・・」


杏子は骸に語りかける。


杏子 「あんた、一体どんな願いを叶えて、魔法少女になったんだい?どんな願いをすれば、こんなにもろく・・・」


当然、それに応える者など、いようはずもなかった。

175 : 以下、名... - 2014/11/14 12:47:56.53 D7gCJ1Lr0 377/1284

・・・
・・・


同時刻 ほむホーム


ほむら 「それで・・・」


私は最大の懸念点にして、最も切実な問題についての話を切り出した。


ほむら 「私の魔力消耗の件についてなのだけれど・・・」

竜馬 「ああ」

ほむら 「流君には心当たりがある、そう言っていたわね」

竜馬 「推測さ。だが、当たらずとも遠からず程度の自信はあるぜ」

ほむら 「聞かせて欲しいわ。この問題が解決しない事には、まどかを守るための行動すら、満足に行う事ができないもの」

武蔵 「何の話だっけ?」

竜馬 「暁美の魔力がな、意味も分からずに消耗する現象についての考察さ」

176 : 以下、名... - 2014/11/14 12:49:27.45 D7gCJ1Lr0 378/1284

ほむら 「魔力が尽きれば私たち魔法少女は戦えないし、人としての生にも終止符が打たれる・・・」

武蔵 「え・・・、それってどういう意味だよ」

竜馬 「あのな」


竜馬がかいつまんで、私たち魔法少女と魔女の関係を武蔵に説明する。

体育会系の竜馬の直情的な解説は、同じく体育系の武蔵にはピッタリとはまったようだ。

さほど時間を得ずして、武蔵はことの深刻さを十二分に理解してくれた。


武蔵 「つ、つまり魔力ってのはほむらちゃんにとって、エネルギーであると同時に、人間として生きるのに必要な飯みたいな物だってのか」

竜馬 「だな。ちょっと語弊があるが、まぁ、そんなところだ」

武蔵 「え、あれ・・・?待てよ?てことはつまり、マミちゃんも魔力が尽きたり、絶望してしまったりしたら・・・」

ほむら 「魔女になるわ。事実、そういう結末の時間軸も存在したし」

177 : 以下、名... - 2014/11/14 12:50:49.40 D7gCJ1Lr0 379/1284

武蔵 「そ、そんな・・・なんでだよ、何でそんな酷い・・・」


武蔵、絶句。


竜馬 「おい、武蔵・・・」

ほむら 「・・・」

竜馬 「お前、泣いてるのか?」

ほむら 「え・・・」

武蔵 「だ、だってさ・・・あんまり可哀想で・・・」


目に大粒の涙を湛え、しゃくりあげながら何とか言葉を続ける武蔵。


武蔵 「魔法少女って、自分の願いを叶えたくてなるものなんだろ?マミちゃんにいたっては、ただ命が助かりたかった、それだけの理由で」

ほむら 「・・・」

武蔵 「そんな当たり前のことを望んだだけなのに、なんで悲惨な目に遭わなきゃならないんだ?なぁ、ほむらちゃん、君は納得できてるのか?」

ほむら 「私は・・・」

竜馬 「・・・」

ほむら 「納得、できるわ」

武蔵 「え・・・」

178 : 以下、名... - 2014/11/14 12:53:10.81 D7gCJ1Lr0 380/1284

ほむら 「世の条理に反する願いを叶えれば、その歪みがわが身に振り返ってくるのは当然だもの」


そう、だから人は、自分の分を過ぎた願いなんか、叶えようとしてはダメなんだ。


ほむら 「だからこそ、許せないのよ。人を甘言で惑わして、本来叶わないはずの願いで運命を狂わせる、あいつのやり方と存在そのものが・・・」

武蔵 「ほむらちゃん・・・」

ほむら 「私も巴マミも、こうなってしまった以上は行きつく場所は一緒。願ってしまった以上は、それは仕方がない。その事自体に納得はいくわ。だけれど・・・」


一人の少女が、私の脳裏で微笑む。

無垢な笑顔。優しい眼差し。

そんな彼女の顔を、苦しみで曇らせることは絶対に許されない。


ほむら 「私やマミのような人間がこれ以上増える必要もない。だから、そのために・・・」


まどかのために・・・


ほむら 「私は、何度も同じ時間を繰り返しているの。できれば今回が、その長い旅の終わりになれば良い。いつもそう思っているわ」

武蔵 「そうか・・・」


そう呟いたきり、武蔵はもう何も言わなかった。

179 : 以下、名... - 2014/11/14 12:55:25.44 D7gCJ1Lr0 381/1284

だが、彼の表情は、とても私の言葉を肯定したようには見えなかった。

人の良い彼にとって、理不尽な魔法少女の境遇なんて、どうあっても納得できる事柄ではないのだろう。

だけれど、当事者の私がこう言う以上、継ぐべき言葉が見つからない。そんな風だった。


竜馬 「・・・武蔵。思えば俺たちの境遇だって、充分に理不尽だったじゃねぇか。だが、そんな境遇に折り合いをつけ、意義を見出し、これまで戦ってきた」

武蔵 「ああ」

竜馬 「暁美も、今は同じ気持ちなんだろう。与えられた境遇に意味を見出さなければ、俺たちは生きて行けやしない。武蔵にだって分かるはずだ」

武蔵 「・・・」

竜馬 「そして、俺たちが力無き人の盾となって恐竜帝国と戦っているように、暁美もまた大切な人を自分と同じ境遇に落ち込ませないよう、それが為に戦っている」

武蔵 「ほむらちゃん・・・君も、俺たちと同じなんだな」

ほむら 「あなた達みたく、全ての人の為になんて、大仰なことは考えていないけれど・・・」

武蔵 「守りたい人がいる。その気持ちは一緒だ・・・」


そう言ってもらえる事は、何と言うか・・・素直に嬉しい。


武蔵 「だけれど、俺は・・・」


言いながらスマホを見つめる武蔵。

180 : 以下、名... - 2014/11/14 12:57:34.16 D7gCJ1Lr0 382/1284

画面あるのは、私たちも先ほど見せて貰った、幼いマミと武蔵の姿。


武蔵 「・・・」

竜馬 「考え込むな。柄でもないだろう。それにその写真や感覚はまやかしだ。俺たちが本来歩いてきた人生じゃねぇ」

武蔵 「分かってるさ・・・」

竜馬 「・・・」

武蔵 「・・・」

ほむら 「・・・」

竜馬 「話が横道に逸れちまったな。本筋に戻そうぜ。いいな、暁美」

ほむら 「ええ・・・」


その存在は公にされず、誰に知られることもなく戦い、死んでいく運命。それが魔法少女。

悲しまれもせず、ただ忘れ去られてゆくのみの私たちの運命に、今は本気で哀れんでくれる人が目の前にいる。

同じゲッターチームの仲間同士なのに、こうも竜馬とは感じ方が違うものなのかと驚かされもしたが・・・

武蔵の優しさは、確かに私の胸に沁みた。

嬉しかった。

181 : 以下、名... - 2014/11/14 12:59:45.10 D7gCJ1Lr0 383/1284

・・・
・・・


竜馬 「この世界には、ゲッター線が存在しない」


私の魔力消耗減少の件で話し出したはずの竜馬が、まず口にしたのがこれだった。

まったく意味が分からない私と裏腹に、武蔵は大口を開けて驚いている。


武蔵 「は・・・どういうことだよ、そりゃ」

竜馬 「どうもこうもねぇ。例の魔女の結界でゲッターと再会し、乗り込んで分かった。ゲッター炉が機能していないんだ」

武蔵 「だって、お前。あの時ゲッターは動いていたじゃないかよ」

竜馬 「確かにな」

武蔵 「ゲッター線が無くてゲッター炉が動かないというなら、ゲッターだって活動できないはずじゃないかよ?それに・・・」

竜馬 「・・・」

武蔵 「ゲッター線も無しで、この世界の人類は、どうやって人に進化したって言うんだ?」

ほむら 「ちょ、ちょっと待って」


さすがに話題の飛躍が大きすぎる。

ついて行けない私は、思わず口を挟んでいた。


ほむら 「ゲッター線とか炉とか、はては人の進化とか・・・それが私の魔力消耗とどう関係があるの?分かるよう説明してもらえないかしら」

182 : 以下、名... - 2014/11/14 13:00:42.93 D7gCJ1Lr0 384/1284

竜馬 「ああ、すまねぇ。そうだな。まずは暁美には、ゲッター線というものがどういったものか説明しとかないとな」


そう前置きして竜馬が説明してくれたゲッター線とは、次のような物らしい。

彼らの世界で、地表に降り注いでいる宇宙線。それがゲッター線。

ゲッターロボは、内蔵しているゲッター炉でゲッター線を取り込み、稼動するためのエネルギーとしている。

ゲッターロボの名前の由来も、この宇宙線に因んでいるそう。


しかもこのゲッター線、ただエネルギーに変換できる、便利な物というだけでは済まないらしい。

今を去る太古の昔・・・まだ恐竜が闊歩していたころ。

そのころ降り注ぎ始めたゲッター線は、恐竜を死滅せしめ、代わりに地を這う下等な生物だった哺乳類に劇的な進化をもたらす。

そして生まれたのが、現生の人類だったというのだ。


武蔵 「つまり、俺たちの世界ではゲッター線の存在無しでは、人間の存在自体もありえないのさ」

183 : 以下、名... - 2014/11/14 13:03:43.82 D7gCJ1Lr0 385/1284

竜馬 「もっとも、その時地の底に逃れた恐竜の末裔が、今になって俺たち人類を絶滅の淵に追いやっているんだから、皮肉な話だがな」

ほむら 「じゃあ、あなた達が戦っているとい恐竜帝国って・・・」

竜馬 「ああ」

ほむら 「・・・」


なんてスケールの大きな話なんだろう。

竜馬の語った人類の創世史に、私はたまらず言葉を失ってしまう。


武蔵 「だから、疑問に思ったんだ。こっちの人類はどうやって誕生したんだろうってね」

ほむら 「普通に猿から進化したとしか。学校でもそう習ったし・・・」

武蔵 「それは、俺たちの世界でも一緒だったよ。ゲッター線云々の話は、俺達みたいにゲッターに深く関わっている者以外には、あまり知られていないはずだ」

ほむら 「つまり、私たちも知らない真実が、私たちの世界にも隠されているかもしれない。そういう事ね」

竜馬 「魔女や魔法少女の存在こそが、まさにそれだろうな。一部の者以外には知られていない、しかし厳然と存在する真実・・・他に何があったっておかしくはない」

ほむら 「・・・」

竜馬 「まぁ、過ぎ去った過去の話よりも、重要なのは今現在の直面している問題だ。で、ここからが俺の仮説なんだが・・・」

ほむら 「あ、う、うん」

184 : 以下、名... - 2014/11/14 13:06:39.30 D7gCJ1Lr0 386/1284

竜馬 「ゲッターは失ったエネルギーの補充を、暁美の魔力で補っているんじゃないかと思うんだ。そうすりゃ、色々と辻褄が合う」

ほむら 「え・・・でも・・・」

武蔵 「竜馬、そりゃおかしな話だぜ。俺だって分かる。ゲッター線と魔力ってのは、別のエネルギーなんだろ。代用なんか利きっこないじゃないか」


私が抱いた当然の疑問を代弁する形で、武蔵が竜馬に問いかけた。

それはそう。電池で動く機械にガソリンをぶちまけたって、動くはずがない道理・・・

だけど、竜馬はキッパリと返す。


竜馬 「両者が同じ性質のものだったとしたら、どうだ」

ほむら 「・・・!」

武蔵 「どういう意味だよ、それって」

竜馬 「俺たちには魔女や使い魔の姿が見える。本来であれば、魔法少女やその素質のある者にしか見えないはずの物が、だ。これは一体、どうしてだ?」

武蔵 「どうしてって・・・」

ほむら 「まさか・・・」

竜馬 「そうだ。ゲッター線と魔力が同じ物なら説明がつく。俺と武蔵はゲッターに選ばれたものなんだからな」


確かに、竜馬の言うとおりなら合点がいく。

魔力消耗に悩まされるようになったのは、この時間軸に来てからの事。

そして、ゲッターロボは、それと同時に私のバックラーに入り込んでいたのだ。

あんな巨大なロボットが、その巨体に見合ったエネルギーを私の魔力から補充しようとしているなら、際限なく魔力を吸い上げられていくのにも納得できる。

185 : 以下、名... - 2014/11/14 13:09:32.65 D7gCJ1Lr0 387/1284

ほむら 「あ・・・」


ふ、と。

私の記憶が呼び戻される。

あれは前の時間軸。初めてゲッターロボを目の当たりにした時の事だ。

私の側で共にゲッターを見ていたあいつが、確かにこう言ったのだ。


(キュゥべえ 「・・・あのロボット、あれはもしかして、同じ・・・」)

(キュゥべえ 「感じるんだ、あのロボットから。あれは・・・僕たちと同じ・・・」)


あいつはあの時、なにが自分と同じと言おうとしたのだろう。

私には分からなかった。キュゥべえが全ての言葉を吐き終る前に、私は今の時間軸へと遡行してしまったから。

だけれど、今の竜馬の話を聞いて、私の中で竜馬の説とキュゥべえの言葉が、どこかで繋がりそうな気がするのだ。


ほむら 「・・・」


だけれど、あと一歩が届かない。

186 : 以下、名... - 2014/11/14 13:24:31.96 D7gCJ1Lr0 388/1284

武蔵 「それにしても、驚いたぜ」

竜馬 「何がだよ」

武蔵 「お前だよ、リョウ。よく、そこまで考えられたな。お前はもっと脳筋派で、考察なんて退屈なことはブン投げちまうヤツだと思ってたのによ」

竜馬 「なんだ、その言い草は。褒めてるのか貶してるのか、どっちだ」

武蔵 「褒めてるんだよ。素直に感心しているの」

竜馬 「まぁ・・・な。そっち専門の奴がいなくなっちまったんだ。誰かが代わりを務めるしかないじゃねぇか」

武蔵 「だとしても、たいしたもんだ。俺には、やろうとしたってできる事じゃないもんな」

竜馬 「やれる奴がやれる事をすりゃ良いのさ。そんだけのこった」

ほむら 「・・・」

竜馬 「どうした、暁美」

ほむら 「考えていたのよ。あなた達が来た世界とは、人類の成り立ちからして違うんだなって」

竜馬 「ああ」

187 : 以下、名... - 2014/11/14 13:27:15.59 D7gCJ1Lr0 389/1284

ほむら 「私と流君・・・思った以上に遠い存在なのかもね」

竜馬 「・・・暁美?」

ほむら 「・・・」

竜馬 「成り立ちはどうだろうが、今は近くにいて仲間と認め合った仲だ。なんの遠い事がある?」

ほむら 「うん・・・」

竜馬 「よし、当座の事を考えようぜ。ゲッターロボの稼動には暁美の魔力が必要だ。俺や武蔵が暁美の力になるためには、ゲッターロボの存在はどうあっても必要」

武蔵 「だな。生身であの魔女に対抗するのは、どうあっても限界がある」

竜馬 「グリーフシードの確保・・・が最優先だな。それも大量に」

武蔵 「だとすれば、たくさんの魔女をやっつけて回るって方法しかないわけだよな」

竜馬 「ああ・・・だが、暁美の魔力が尽きてしまっては意味がない。要するに、ゲッターロボは使えない」

武蔵 「・・・俺たち、足手まといにしかならないんじゃないか」

竜馬 「そうなんだよな・・・卵が先かヒヨコが先か・・・よくある例え話だが、今の俺たちはまさにそんな状況だ」

ほむら 「・・・一つ、宛てがあるわ」

188 : 以下、名... - 2014/11/14 13:29:57.09 D7gCJ1Lr0 390/1284

竜馬 「大量にグリーフシードを落としてくれる魔女の心当たりでもあるのか?」

ほむら 「そんな都合の良い魔女なんていないわよ。でも、大量のグリーフシードは確保できるかもしれないし・・・」

武蔵 「し・・・?」

ほむら 「上手くいけば、仲間の数を増やせるかもしれない」

竜馬 「・・・へぇ、一石二鳥って訳か」

ほむら 「そうすれば、今度こそ・・・ワルプルギスの夜を越えられるかもしれない。いいえ、超えて見せる」

武蔵 「わるぷ、ぎ・・・?」

竜馬 「俺たちがこの世界に来て、はじめて見た、あの巨大な化け物の事だな」

ほむら 「・・・ええ」


実際は違う。

竜馬たちが見た魔女こそ、ワルプルギスをも超える最凶最悪の魔女。

私が守ろうとしている、鹿目まどかが化身した姿に他ならなかった。

だけれど・・・


ほむら 「そう、私が目指しているのは、あの魔女を倒した先に訪れる、平穏な日々・・・」


あえて事実を私は伏せた。

知られたくなかったのだ。仲間と認めた二人に、私の大切な人の成れの果ての姿を。

どのみち、ワルプルギスを倒せなければ、この時間軸での数々の試みも失敗に終る。

その後に訪れるのは、形はどうあれ、避けられない鹿目まどかの死という現実。それは揺るがない。

私にとってはワルプルギスも魔女となったまどかも、抗わなければならない存在だと言うことに変わりはないのだ。


ほむら 「とりあえず私は、明日学校を休むわね。ちょっと、隣の街まで行ってみるわ。それと武蔵さん」

武蔵 「なんだい?」

ほむら 「あなたには同道してもらいたいのだけれど。良いかしら」

197 : 以下、名... - 2014/11/16 12:59:26.95 LCAOlXWc0 391/1284

・・・
・・・


翌日 早朝

風見野市 廃墟となった教会内


見る影もなく荒れ果ててしまった”元・実家”で、杏子は目を覚ました。

普段はあまり寄り付く事もない場所。ここには杏子にとっての、嫌な思い出があまりにも多すぎたから。

そんな杏子が昨晩、深夜まであてど無くブラブラ歩き回った後で、自然と足が向いたのが、何故かこの場所だった。

教会の入り口を潜るなり、床に倒れ付して眠りについた杏子。

そのまま、泥のように眠る・・・つもりだったのだが。


杏子 「・・・くそ、結局あまり眠れやしなかった」


ほぼ日の出と同時に、杏子は夢の世界から呼び戻されてしまった。


杏子 「あたしには関係ないとはいえさ、魔法少女のあんな死に方を見せ付けられちゃぁな・・・」


夢身が悪くて、良く眠れやしない。


杏子 「・・・ちっ」

杏子 「むしゃくしゃする。魔女でもぼこって気を晴らさないと、どうにも腹の虫がおさまらねぇ」

杏子 「行くか・・・昨日の使い魔の親玉が、たぶん近くにいるはずだ。見つけ出して、あたしの魔力の足しになってもらうぜ」

198 : 以下、名... - 2014/11/16 13:03:20.66 LCAOlXWc0 392/1284

・・・
・・・


風見野市

街中 某所


杏子 「・・・」

杏子 「・・・お、早速ソウルジェムに反応。くく、待ってろよ。すぐにグリーフシードに変えて、あたしのコレクションに加えてやるからな」


ソウルジェムの光に導かれるまま、杏子は駆ける。

やがて、辿り着いた先で目にしたもの、それは・・・


杏子 「ビンゴ、当たりだ!」


魔女の結界。杏子が目的としていた物に違いなかった。

この中に、昨日の使い魔の親玉である魔女が居座っているはず。

そう思うと、否が応にも彼女の闘志は燃え上がる。


杏子 「昨日の名も知らないあんた、死に様を見届けたのも何かの縁だ。柄でもないが、敵くらいは討ってやるよ」

199 : 以下、名... - 2014/11/16 13:05:38.35 LCAOlXWc0 393/1284

杏子 「よーし、そんじゃぁ、いく・・・ぜ・・・」

杏子 「・・・」


だが、杏子は気がつく。

この結界の中から感じる気配が、魔女のそれだけではない事に。


杏子 「この気配・・・まさか、またなのかよ」


間違いない。

この中にいるのだ。

自分と同じ、魔法少女が。

200 : 以下、名... - 2014/11/16 13:06:48.94 LCAOlXWc0 394/1284

・・・
・・・


魔女の結界内


杏子 「・・・ん?」


結界のごく浅い場所で、杏子はある物を発見する。

それは無残に食い荒らされ、原形すらとどめていない・・・

まごうことない、人間の死体。


杏子 「これは・・・食い散らかされて良く分からないが、大人のようだな。男女二人分・・・」

杏子 「結界が顕現する時にでも巻き込まれちまったのか、なんにしても不運な事だ。ま、これもあんたらの運が無かったためだ。気の毒だけどね」


だが、ここにあったのはあくまで普通の人間の死体。

杏子が気配を感じ取った、魔法少女の物ではない。

ということは・・・


杏子 「さ、て、と・・・」


(きょろきょろ)


杏子 「思ったとおりだ。こっちには、この二人を食った奴らしい使い魔どもの死骸が転がっている」

201 : 以下、名... - 2014/11/16 13:09:00.86 LCAOlXWc0 395/1284

杏子 「やはり私より先にここに入った奴がいるようだ。それも今回は、多少は戦える奴がな」

杏子 「へっ。まったく、やれやれだ・・・」

杏子 「・・・って!」

杏子 「な、なにホッとしてんの、あたし!違うから!今のは、絶対違うから!」

杏子 「えーい、くそ!ともかく早く見つけ出して、ギタギタにしてやる!この街の獲物は、全部あたしのだって身体で教えてやるんだ!」

杏子 「逃げずに待ってろよーっ!!」(たたたたっ)

203 : 以下、名... - 2014/11/16 13:12:54.16 LCAOlXWc0 396/1284

・・・
・・・


結界内 深部


だが。

自分に無断で風見野で魔女を狩ろうとする魔法少女に灸を据える。

そんな杏子の望みは、あっさりと絶たれる事となってしまう。


杏子 「・・・結局、こうなっちまうのかよ」


そこで彼女が見た物は、魔法少女の死体。

周りには使い魔の死体も転がっている。奮戦むなしく、相打ちして果てたのだろう。


杏子 「・・・ここまで来て、魔女にたどり着けなかったなんてな。あんたも、因果な死に方したモンだよな」


杏子は舌打ちをする。

これで仇を討たねばならない魔法少女が二人になってしまった。

204 : 以下、名... - 2014/11/16 13:16:07.84 LCAOlXWc0 397/1284

杏子 「・・・?」


だが、視線を死体から逸らしたところで、杏子はあることに気がつく。

結界の奥に向かって、さらに続いている”小さな”足跡があるのだ。


杏子 「死体はここにあるって言うのに、足跡が他にも・・・?」

杏子 「てことは、魔法少女は一人じゃなかったって事か・・・!?」


 「きゃあああっ!!」


杏子の予想を肯定するように、結界内に響き渡る少女の悲鳴。


杏子 「!!」

杏子 「んなろっ、待ってろ!あたしの縄張りで、勝手に死ぬなんて絶対に許さねぇ!!」

杏子 「あたしが一発ぶん殴るまで、くたばるんじゃねぇぞ!!」

205 : 以下、名... - 2014/11/16 13:19:14.01 LCAOlXWc0 398/1284

・・・
・・・


同日 正午

風見野市


私はバスを降りると、記憶の糸をたどりながら、ある場所へと向かって歩を進め始めた。

少し遅れて、後ろを歩くのは巴武蔵。

はじめて見る街並みを物珍しそうに眺めながら、私の後を付いて来る。


武蔵 「なぁ、ほむらちゃん」

ほむら 「なに?」

武蔵 「なんで、俺を連れてきたんだ?」


当然の疑問だ。


ほむら 「これから会う人と、あなたを引き合わせたかったのよ」

武蔵 「なんでまた」

ほむら 「彼女は、私の知る魔法少女の中でも、一番のリアリスト。だから、賭けてみようと思うの」

武蔵 「・・・??」

ほむら 「本当のことを言ってみる。私の目的、あなた達の来歴。そして・・・」


魔法少女の逃れられない運命までも。

206 : 以下、名... - 2014/11/16 13:21:56.76 LCAOlXWc0 399/1284

かつての時間軸でも、私は彼女に同じことを話したことがある。

そしてその結果は、言わずもがな。一笑に付されて、まったく信用してもらえなかった。

だけれど、あの時と今では、多少状況が違う。

その状況の違いに、賭けてみたいと思ったのだ。


ほむら 「彼女を説得するのに、私だけでは役不足だと思ったのよ。男の身でありながら、魔女を認識できるあなたが一緒にいれば、説得力も増すと考えたわけ」

武蔵 「そっか。いや、俺が聞きたいのはそこじゃなくって、なんでリョウじゃなく、俺だったのかって事だよ」

ほむら 「ああ、特に特別な理由はないの。ただね、最近流君は授業をサボりがちだったから、これ以上目立って欲しくなかったのよ」

武蔵 「ああ、それでか」

ほむら 「それに私は、何だかんだで彼と一緒にいることが多いし、一緒に学校を休んだりして、変な噂でも立てられたりしたら、それはとっても困るのよ」

武蔵 「ははは、なるほど。そりゃぁちょっと、女の子らしい理由だなぁ」

ほむら 「ほむぅ」

武蔵 「うん、事情は了解したぜ。それで、俺たちがこれから会うって子は、どんな子なんだい?」

ほむら 「マミに次ぐベテランの魔法少女よ。仲間にできれば、とても心強い存在となってくれる・・・」

武蔵 「名前は?」

ほむら 「杏子・・・佐倉杏子・・・」

207 : 以下、名... - 2014/11/16 13:23:20.77 LCAOlXWc0 400/1284

・・・
・・・


教会前


ほむら 「ついたわ」


崩れかけた外壁を見上げながら呟く私に、武蔵はいぶかしげに問いかける。


武蔵 「ついたって・・・どう見たってここ・・・」

ほむら 「ええ、廃墟よ」


そう、ここは廃墟と化した教会の前。

多くの信者を迎えたであろう信仰の場は、今やかつての面影は微塵も残されていない。

幾年もの風雨に野晒しにされ、壁は苔むし、荘厳であったろうステンドグラスは割れるに任されたまま。

敷地は手を入れる者がいないため、うっそうとした雑草で覆われ、蒸せる様な草いきれが顔を覆う。

・・・見るも無残な有様だった。


武蔵 「ここにいるのかい?その、佐倉杏子っていう子は・・・」

208 : 以下、名... - 2014/11/16 13:25:02.64 LCAOlXWc0 401/1284

ほむら 「・・・」


正直分からなかった。

杏子はねぐらを転々とし、定まった住居など持ってはいなかったのだから。

ある時は野宿をし、またある時はホテルに部屋を取り・・・

だから、杏子に会うためにここにきたのも、これまた一つの賭けだったのだ。

杏子の居場所についての、唯一の手がかり。

それは、彼女が生まれ育った、この教会以外には無かったのだから。


ほむら 「ともかく、入ってみましょう」


武蔵を促し、入り口へと向かう。

209 : 以下、名... - 2014/11/16 13:26:24.40 LCAOlXWc0 402/1284

・・・と。

朽ちかけた扉を開こうとして、私は中に人の気配を感じ取った。


ほむら 「いる・・・」

武蔵 「分かるのかい?」

ほむら 「ええ」


確かに感じる。

この特有の気配は、紛う事ない・・・

魔法少女特有のものだ。

それも・・・


ほむら 「二人、いる・・・」

210 : 以下、名... - 2014/11/16 13:27:28.13 LCAOlXWc0 403/1284

武蔵 「それも、想定内の出来事なのかい?」

ほむら 「いいえ」


一人の気配は、間違いなく佐倉杏子のものだろう。

だけど、もう一人は・・・?

あまりに微弱で、その正体まで掴む事ができない。

それとも、もともと私が知らない誰かなのか。


ほむら 「予想外の出来事よ・・・」

武蔵 「危険は無いのか?いったん出直したほうが・・・」

ほむら 「ううん、それは平気だと思う」


杏子の闘気は感じられない。

211 : 以下、名... - 2014/11/16 13:28:41.89 LCAOlXWc0 404/1284

微弱な気配、もう一人の魔法少女が衰弱している理由は、おそらく佐倉杏子との戦いが原因ではないはず。

危険な状況とは思えなかった。


ほむら 「もっとも、何が起こるのか分からないのが私たちの日常だけれど。ともかく、入ってみましょう」

武蔵 「ま、俺はほむらちゃんに付いて行くだけさ」


武蔵の返事を待って、扉の取っ手に手をかける。

重苦しい音を立てながら、軋むように開く扉。

一歩踏み込むと、そこに広がるのは、外から見る以上に惨憺たる光景。


武蔵 「うわ、こりゃ酷いな」

212 : 以下、名... - 2014/11/16 13:33:21.86 LCAOlXWc0 405/1284

ほむら 「火事で全焼したのだから。悲惨なのは当然よ」

武蔵 「そうなのか・・・」


 「おい」


教会の奥から、不意に声をかけられた。

教会の最奥。そこはかつて、立派な教壇があったであろう、一段高い場所。

そこから一人の少女が、私たちを見下ろしている。

仁王立ちで、スマートな身体をすっくと伸ばし。

燃えるような真紅の瞳で、射るように鋭い視線を飛ばして来る彼女こそが・・・


ほむら (佐倉、杏子・・・)

213 : 以下、名... - 2014/11/16 13:35:16.83 LCAOlXWc0 406/1284

杏子 「なんだ、あんたら。神様を拝みに来たなら、ここにはもういないぜ。よそをあたりな」

ほむら 「・・・」

杏子 「・・・違うな。あんた、魔法少女か」

ほむら 「ええ」

杏子 「はっ、一体どうなってるんだか。今日び、魔法少女の特売セールでも開催中なのかね」

ほむら 「・・・どういうこと?」

杏子 「こっちの話だ。用件はなんだい?まさか、偶然ここに迷い込んだって訳でもないんだろ?」

ほむら 「話が早くて助かるわ。あなたに用があって来たのよ」

杏子 「・・・」

ほむら 「佐倉杏子」

杏子 「っ!?あんた、どこかで会ったことがあったか・・・?」

ほむら 「ええ。あなたは覚えていないでしょうけれど、私はあなたと会ったことがある。何度も、何度もね」

杏子 「・・・なにを言ってやがる?」

214 : 以下、名... - 2014/11/16 13:36:25.30 LCAOlXWc0 407/1284

ほむら 「単刀直入に言うわ。あなたと取引に来たのよ」

杏子 「取引だぁ?」

ほむら 「あなたにとって、絶対に損にならない話よ。聞く気はある?」

杏子 「面白いな、あんた。とりあえず、敵対する気はないと取っていいのか」

ほむら 「ええ。あなたと戦う気はないわ。縄張りを奪う気もない・・・」

杏子 「へぇ・・・」

ほむら 「用件を言ってもいいかしら」

杏子 「あんたとどこで会ったのか、用件はなんなのか。気になることは幾らでもあるが、聞いてやる義理があるわけでもない」

ほむら 「・・・」

杏子 「あいにく、信用できないヤツの持ちかける話に乗ってやるほど、私はお人好しじゃないよ。戦う気が無いと言うなら、私の前から消えてくれ。それと・・・」

武蔵 「あんな事言ってるけど・・・」

ほむら 「まぁ、最初からスムーズに話し合いを進めるとは思っていなかったから」

杏子 「あんただ、あんた」

武蔵 「あ・・・俺?」

杏子 「そうだよ。なんでシレっと魔法少女同士の話に立ち会ってるんだ?どう見たってあんた、魔法少女には見えないけれどな」

215 : 以下、名... - 2014/11/16 13:44:01.07 LCAOlXWc0 408/1284

武蔵 「確かに魔法少女ではないな。でも、魔法少女が何なのかは知ってるし、シレっと話に立ち会っていたわけでもないぜ」

杏子 「魔法少女でもないのに、魔法少女を知るあんたは、何者なんだい?」

武蔵 「俺は、この子の仲間だ」

杏子 「仲間、だぁ・・・?」


警戒の色は隠さないまでも、どこか飄々としていた杏子の声音が武蔵の一言で変わった。

不快な言葉を聞かされた。

そんな苛立ちを寸分も隠すことなく言葉に乗せ、私たちに投げつけてきたのだ。


杏子 「仲良しごっこで、お気楽なこったな。不愉快だ。とっととここを出ていきな」

武蔵 「気楽なんかじゃないぜ。こっちはこっちで、色々と大変なんだよ。俺も、この子もな。大変な者同士、助け合おうってだけの話さ。これのどこが仲良しごっこなんだい?」

杏子 「・・・何がどう大変だってんだよ」

216 : 以下、名... - 2014/11/16 13:45:44.45 LCAOlXWc0 409/1284

武蔵 「それはさ」

ほむら 「待って」

武蔵 「・・・?」

ほむら 「佐倉杏子」

杏子 「あん?」

ほむら 「こちらの事情、教えてあげる義理は無いわ」


杏子の口上をそっくり頂いて、きり返してみる。


杏子 「・・・てめぇ」

ほむら 「だけれど、取引の話。大人しく聞いてくれるなら、こっちの事情を話さないでもない。だって、両者は密接に関わっている事柄だから」

杏子 「・・・」

ほむら 「気にならない?この人がなぜどうやって、魔法少女に関わっているのか。そして、その事に関わる取引の内容・・・」 

217 : 以下、名... - 2014/11/16 13:50:49.41 LCAOlXWc0 410/1284

杏子 「言ったろうが!気にはなるが、聞いてやる義理はねぇと!これ以上ゴタゴタぬかすと、二度と無駄口たたけなくなるまで、ぶちのめしてやるぞ!!」

ほむら 「・・・」


だめか。

上手いこと杏子の好奇心に火をつけ、こちらのペースに巻き込めればと思ったのだけれど・・・

さやかの時と同じ。結局は相手を怒らせてしまうに終った。

あの時の竜馬のように、上手く事が運べない。やっぱり私には、相手の心の機微を推し量るという能力が、絶対的に欠けているようだ。


武蔵 「あの子、怒っちゃったぞ・・・」

ほむら 「・・・」


仕方がない。

杏子が頭を冷やすまで、ここは引き下がるべきか。

218 : 以下、名... - 2014/11/16 13:52:34.51 LCAOlXWc0 411/1284

そう、武蔵に告げようとした時だった。


 「きょ・・・きょーこ・・・?」


教会の奥から、か細い声が聞こえてきたのは。

声のした方に目を向けると、朽ちた装飾品の陰に身体を隠すように・・・

小さな人影がこちらの様子を伺っているのが目に入った。


 「ケンカしてるの、きょーこ・・・?」


物陰を出た人影は、おずおずとこちらへと近づいてくる。


 「だ、だいじょうぶ、きょーこ・・・」

武蔵 「小さな女の子・・・?」

杏子 「・・・なんだ、目が覚めたのか。こっちくんなよ、奥に引っ込んでいろ」

 「だ、だって・・・きょーこが心配で・・・」

杏子 「ちっ」

219 : 以下、名... - 2014/11/16 13:54:11.89 LCAOlXWc0 412/1284

ほむら 「この子は・・・」


私はこの子に見覚えがあった。

知り合いというには、関わりあいはあまりに希薄なものではあったけれど・・・

確かに彼女とは、いつだったかの時間軸で顔を合わせたことがある。

そう、彼女の名前は確か・・・


ほむら 「ゆま・・・?」

 「え、お姉さん、ゆまの名前、知ってるの・・・?」

ほむら 「ええ、千歳ゆまね」

杏子 「なっ・・・!?」

ゆま 「お姉さん、ゆまとどこかで会ったことがあるの?」

ほむら 「ええ。あなたは覚えていないでしょうけれど、何度かね」

ゆま 「・・・?」

220 : 以下、名... - 2014/11/16 13:56:04.46 LCAOlXWc0 413/1284

杏子 「こいつが魔法少女になったのは、つい昨日だったはずだぜ。それが何で、お前なんかと面識があるんだ」

ほむら 「・・・」

杏子 「あたしの名前も知っていた・・・何者だよ、お前」

ほむら 「話、聞いてくれる気になったかしら」

杏子 「・・・いいだろう。だけど、取引の話は後だ。物には順序ってもんがあるだろ?」

武蔵 「正論だな」

ほむら 「良いわ。まずは自己紹介から行きましょう。互いにね」


千歳ゆま。

思いがけない場所での再会ではあったけれど、彼女の予想外の登場に救われた形となった。

後は何とか、杏子の気を引きつつ、私たちの仲間にできたなら・・・

225 : 以下、名... - 2014/11/18 20:13:47.09 jq3cZNnm0 414/1284

杏子 「互いにったって、そっちはあたし等のことは知ってるんだろ?」

ほむら 「千歳ゆまに関しては、それほど情報は持ち合わせていないわ。それに、こちらの武蔵さんは、あなたの事も元より知らない」

武蔵 「俺とは正真正銘、初対面って事だ!」

杏子 「しらねぇよ。なんにしても、尋ねてきたのはそっちだ。まずはそっちから自己紹介するのが筋じゃないのかい」

武蔵 「まぁ、違いない。んじゃあ、まずは俺から。俺の名前は巴武蔵。訳あって、ほむらちゃんと行動を共にしている」

杏子 「巴・・・巴って、あんたまさか」

ほむら 「佐倉杏子は、かつて巴マミとコンビを組んでた事があるのよ」

武蔵 「あ、それはそれは。妹がお世話になったようで」

杏子 「あんた、マミの兄貴かよ。話に聞いてはいたが、まったく似てないな」

武蔵 「えー?双子のようにそっくりだろ」

杏子 「どこがだよ」

武蔵 「肉感的なボディとか」

杏子 「アホかよ」


容赦の無い突込みが、間髪いれずに飛ぶ様は、ある意味心地よくすら感じられる。

・・・突っ込まれた当の本人には悪いけれど。あ、ほら。武蔵が少ししょげてしまった。


杏子 「ていうか、そっちのあんた。あたしとマミの過去についてまで、随分と詳しいようだな」

226 : 以下、名... - 2014/11/18 20:16:42.12 jq3cZNnm0 415/1284

ほむら 「・・・私は暁美ほむら。あなたと同じ、魔法少女」

杏子 「涼しい顔して、なんでもお見通しよってか。あんた、面白くねぇ奴だな」

ほむら 「そんな万能なものじゃないわ。さてと、次はそちらが名乗る番だけれど」

杏子 「・・・佐倉杏子。風見野を縄張りに適当にやってる」

武蔵 「そんだけ?」

杏子 「他に何を言えって言うんだよ」

武蔵 「ま、良いか。えーと、それじゃあ、次は君の番だけれど。お名前は?」


武蔵がゆまに向かい、人懐っこい笑顔を浮かべながら尋ねる。

腰を屈め、目線まで幼い少女に合わせて。

・・・随分と、子供の扱いに慣れているようだ。


ゆま 「え・・・えっと・・・」

武蔵 「ん・・・?」

ゆま 「あ・・・あわ・・」

227 : 以下、名... - 2014/11/18 20:22:32.33 jq3cZNnm0 416/1284

武蔵 「緊張してるのかな?あ、そうだ、いいものがある!」


武蔵がゴソゴソと懐をさぐり・・・

取り出したのは、昨日私の部屋で食べたのと同じ、外国のお菓子だった。


ほむら 「持ってきていたの・・・」

武蔵 「いつ、何があるか分からないしな。非常食の備蓄は、いざという時の為に大切な準備なんだぞ」

ほむら 「はぁ・・・」

武蔵 「さぁ、お菓子をどうぞ。お兄ちゃんが外国で買ってきたものだけれど。ほら、美味しいよ」

228 : 以下、名... - 2014/11/18 20:31:19.98 jq3cZNnm0 417/1284

ゆま 「え・・・いいの・・・?」おずおず


遠慮がちに、武蔵とお菓子を交互に見つめるゆま。

・・・どうやら、自分に向けられた好意に戸惑いを受けるような、そんな育ち方をしてしまったようね。

だけれど、武蔵はそんな事を意にも介さぬように、手に持ったお菓子をゆまの視界いっぱいになるように近づける。

顔を庇うように、反射的にお菓子を手にとってしまう千歳ゆま。

後はもう、武蔵の思う壺だった。


武蔵 「ほら、お食べよ」

ゆま 「・・・」


おずおずと包み紙を開いて、お菓子を口へと運ぶ。

子供の味覚は正直だ。

一回二回と噛みしめているうちに、ゆまの顔にみるみる笑顔が広がっていく。


武蔵 「おいしい?」

ゆま 「うん!」

229 : 以下、名... - 2014/11/18 20:33:18.18 jq3cZNnm0 418/1284

上手いものだわ。

やはり武蔵をつれてきて正解だった。私は子供の扱いなんてどうして良いか分からないし、柄の悪い竜馬だと無駄に怖がらせるだけだったろうから。


武蔵 「まだあるから、後でもっとあげるからね。でも、その前に、まずは君のことを教えてもらいたいなぁ」

ゆま 「う、うん。ゆまは千歳ゆまって言うの。昨日、キュゥべえから言われて、魔法少女になったんだ」

ほむら 「どうして、佐倉杏子と一緒にいたの?」

ゆま 「それは・・・」

杏子 「あたしから説明するよ。今朝、魔女の結界の中で拾ったのさ。あたしが、こいつを」

ほむら 「拾った?」

杏子 「ああ」


ここで杏子は、ゆまと出会った経緯をかいつまんで説明してくれた。

杏子の言によると、二人が出会ったのは今日の朝はやく。

杏子が見つけた魔女の結界に先に入り込んでいたゆまは、魔女に襲われ対抗しきれず、気を失っていたらしい。

あわやと言うところで駆けつけた杏子に救われたわけだ。


杏子 「で、とりあえず連れて帰って傷の手当をしてやったのさ。いくらあたしでも、こんなガキを見捨ててきたんじゃ、あとあと夢身が悪いからな」

ほむら 「では、二人も出会ってまだ、間がないというわけね」

杏子 「そういうこった。さ、自己紹介はもういいだろ。そろそろ説明してもらおうか。あんたが私たちのことを、なぜ知っているのかを」

230 : 以下、名... - 2014/11/18 20:34:59.69 jq3cZNnm0 419/1284

ほむら 「・・・いいわ」


ここからは賭けだ。

かつての時間軸で、私は全ての真実を杏子をはじめ、まどかやみんなに話した事がある。

そして、誰一人として、真実を受け入れてくれる人はいなかった。

結果、私は誰のことも信用するのを止めた。結局、自分の心の内を受け止められるのは、自分自身以外にいないのだと諦めて。


だけれど。


竜馬が美樹さやかの運命を変えたのを目の当たりにし、私ももう一度運命に立ち向かってみたいと、切に思った。

私では竜馬のようには行かない。それは重々承知の上で、それでも明らかに、この時間軸は流れが今までと異なっている。

まどかを救いたい。

いつもと変わらない想い。ただ今回は、まどかを救った後で、ともに笑いあえる皆がいてほしい。

そう思うのだ。

かつての友達と。全てが終った後で。

頑張ったねと、共に喜びを分かち合いたいのだ。


私は告げる。

真実を。これから起こる事を。

目の前に佐倉杏子に。

231 : 以下、名... - 2014/11/18 20:37:35.54 jq3cZNnm0 420/1284

・・・
・・・


杏子 「ワルプルギスの夜って、あの最強の魔女だって言われる、あのワルプルギスの夜の事かよ!?」

ほむら 「ええ、あなたも話には聞いたことがあるでしょ。それが、間もなく見滝原で顕現する」

杏子 「まじかよ・・・」

ほむら 「そこで取引よ。佐倉杏子。どうか私の仲間になって、ともにワルプルギスの夜と戦ってくれないかしら」

杏子 「仲間・・・」


仲間という二文字を耳にした途端、杏子の眉間に深い皺が刻まれた。

よっぽど、この言葉が嫌いなのだと見える。


ほむら 「仲間という間柄に引っ掛かりがあるなら、一時的な同盟関係ということでどうかしら」


名目なんか、どうでも良かった。

ただ、佐倉杏子が共に戦ってくれる。そのこと自体が重要なのだ。


杏子 「・・・まぁ、良い。取引云々以前に、まずは確認しておきたい事がある。なんであんたに、そんな先のことが分かるんだ」

ほむら 「・・・」

232 : 以下、名... - 2014/11/18 20:38:38.44 jq3cZNnm0 421/1284

杏子 「教えろよ。じゃなけりゃ、取引も何も答えようがないだろう」

ほむら 「・・・てきたからよ」

杏子 「ああ・・・?」

ほむら 「私はもう何度も、ワルプルギスと戦ってきたからよ。そのたびに敗れ、時間を遡行し、奴に挑み続けているの」

杏子 「・・・何を言ってるんだよ、訳わからねぇ」

ほむら 「私の能力は、時間を超える力。佐倉杏子、そして千歳ゆま。あなたたちの事を知っていたのも、かつての時間軸で出会っていたからよ」

ゆま 「???」

杏子 「つまりあんた、未来から来たって事なのか?」


さすが、佐倉杏子は察しが良い。私の言葉少なな説明で、充分に理解してくれたようだ。

勘の良さは、私の知る魔法少女の中では、飛びぬけている彼女だ。


ほむら 「ええ、そう。と言っても、たった一ヶ月ほどの時間を行き来しているだけだけれど」

杏子 「・・・で、何度も行き来している時間の中で、私やこのガキとも出会ってたって、そういうことか?」

ほむら 「信じられない?」

233 : 以下、名... - 2014/11/18 20:40:55.79 jq3cZNnm0 422/1284

杏子 「魔法少女は条理を覆す存在だって、キュゥべえも言っていたな。だとしたら、あんたの言う能力が存在していても、不思議ではない・・・か」

ほむら 「私たち、そのキュゥべえに騙されていたのよ」

杏子 「・・・?」

ほむら 「・・・」


私は無言で武蔵に目配せをする。

いくらなんでも、これから始める話。あんなに幼い少女に告げるには酷過ぎる。

武蔵は私の意を理解してくれると、コクリと一度うなづいた。


武蔵 「ゆまちゃん、ちょっとお兄ちゃんと外で遊んでこようか」

ゆま 「え・・・でも・・・」

杏子 「・・・行って来いよ。目が覚めてから、あまり動いてないだろ。少し身体をほぐして来い」

ゆま 「うん・・・」

武蔵 「さ、行こうか」


武蔵に促され、ゆまは後ろ髪を引かれるようにしながらも、教会から出て行ってくれた。

残ったのは、私と杏子の二人のみ。


ほむら 「ご協力に感謝するわ」

杏子 「・・・良いから、早く先を続けてくれ」

234 : 以下、名... - 2014/11/18 20:47:09.93 jq3cZNnm0 423/1284

ほむら 「ええ・・・佐倉杏子。あなたは魔法少女の行き着く先というのを、考えた事がある?」

杏子 「ねぇよ。今を楽しく生きられれば良い。あたしはそう思うことに決めてるんだ。先のことなんか、知ったことじゃないよ」


知っていた。

杏子の過酷すぎる過去が、彼女を刹那的な考え方の持ち主へと導いたのだ。

だけれど、そんな考えでは魔法少女の本質へと辿り着ける事は、決して無い。


ほむら 「では・・・もし、魔力が尽きたら。あるいは、絶望に心を苛まれ、ソウルジェムが黒く染まりきったらどうなるのか。考えた事はある?」


だから、私が彼女の思考を真実へと導く。


杏子 「・・・ねぇっていってるだろう」

ほむら 「・・・マミ以上のベテランの魔法少女の存在、噂だけでも聞いたことがある?例えば、そうね。二十歳を過ぎた元・魔法少女とか」

杏子 「なにが言いたいんだよ、それのどこにキュゥべえが関係して来るってんだ。抽象的過ぎて、意図がさっぱり伝わってこねぇぞ」

235 : 以下、名... - 2014/11/18 20:48:30.56 jq3cZNnm0 424/1284

ほむら 「私たちの願いは、世の条理を覆し得られたもの。その結果生まれた歪みは、確実にわが身へと返って来る・・・」


杏子がピクリと体を震わせる。

彼女にとっては、痛いほど身に染みた事だったはず。


ほむら 「私たちの行きつく先は決まっている。そう遠からずに、生じた歪みに心を苛まれ、ソウルジェムを黒く染め上げるのよ」

杏子 「はっ、何を言って・・・」

ほむら 「誰もその歪みに耐えられない。だから、年を取った”元・魔法少女”なんていうのも存在しないの」

杏子 「えっ・・・?」

ほむら 「皆、消えていくのだから・・・」

杏子 「消えていくって、どういうことだよ、おい・・・」

ほむら 「ソウルジェムは黒く染まりきると、グリーフシードとなる・・・」

杏子 「え・・・」

ほむら 「聡いあなたなら分かるでしょう。グリーフシードは魔女が落とす物。つまり・・・」

杏子 「えっと、ちょい待てよ。じゃあ、あたしたちが普段倒してる魔女って、あれって元々は・・・まさ、か・・・」

ほむら 「ええ、そのまさかよ」

236 : 以下、名... - 2014/11/18 20:50:18.21 jq3cZNnm0 425/1284

杏子 「は、はははっ・・・、そんな馬鹿な話、あってたまるもんかよ。戯言であたしを惑わして、どうしようってんだ・・・?」


そう、それは受け入れがたい事実。

だけど、厳然たる真実だ。

かつての時間軸では、杏子本人が身をもって実証した事だってある。

だから、受け入れてもらう。

真実を見つめ、心の中に向かい入れ、さらには過酷な運命に立ち向かってもらおう。

私と同じように。


ほむら 「私は嘘は言っていないわ」

杏子 「・・・だっ、だけどっ!キュゥべえはそんなこと、一言もあたしには・・・あっ!」

ほむら 「そう、言っていない。誰も聞かなかったから」

杏子 「・・・っ」

237 : 以下、名... - 2014/11/18 20:53:25.79 jq3cZNnm0 426/1284

ほむら 「分かった?あいつは確かに嘘は言っていないかもしれない。だけれど、意図的に告げるべき事実を選択して、私たちをミスリードしているのよ」

杏子 「それが本当だってんなら・・・」

ほむら 「ええ、私たちはいずれ、魔女となる。それは避けられない運命。あなたも私も、あの千歳ゆまも・・・」

杏子 「・・・だけれど、それならキュゥべえの目的ってのは、一体なんなんだよ!?そんな事して、奴に何の得があるって言うんだ!?」

ほむら 「私たちが絶望し、ソウルジェムがグリーフシードへと生まれ変わる瞬間に、莫大なエネルギーが生み出されるらしいわ。奴の目的は、そのエネルギーを回収する事・・・」

杏子 「エネルギー・・・だぁ・・・?」

ほむら 「この宇宙に存在する数多の文明が費やすエネルギー。それを補うだけの量を私たちは生み出す事ができるらしいわ」

杏子 「はは・・・意味わからねぇ。話がでかすぎて、笑いしか出やしねぇよ・・・」

ほむら 「実感がわかない内は、そうでしょうね。やがて、大切な人や自分自身が魔女となる危険に迫られた時、その笑いは怒りに変わるのよ」

杏子 「・・・じゃあ、あたしたちは、奴に家畜のように扱われてるって、あんたはそう言うのかよ」

ほむら 「そう。羊が羊毛を刈られ、豚や牛が肉に加工されるのと同様にね」

杏子 「・・・そして、あたし等は魔力を刈られて魔女になる、と」

238 : 以下、名... - 2014/11/18 20:57:21.33 jq3cZNnm0 427/1284

ほむら 「逃れ得ない運命よ。だけれど、そうなるのを少しでも遅らせたいと思うのも人情でしょう」

杏子 「そりゃそうだ。与えられただけの運命に、はいそうですかと乗っかるだけの結末なんて、まっぴらゴメンだぜ」

ほむら 「そう思うわよね。だけれど、このままだとあなたは・・・」

杏子 「なんだよ、どうなるってんだ?」

ほむら 「私が見てきた時間軸では、あなたがワルプルギス戦を乗り越えたことは一度も無いわ。そこで戦死するか、それ以前に戦線離脱するか」

杏子 「だから、取引って事か?共に戦えって。だけれど、一緒に戦ったって、ワルプルギスに勝てたことは一度も無いんだろ?」

ほむら 「今まではね。だけれど、今回は事情が違う」

杏子 「?」

ほむら 「さっきの武蔵さんね、別の世界から来たのよ」

杏子 「・・・はぁ?」

ほむら 「そこで彼はロボットに乗って、敵と戦っていた。今、そのロボットは事情があって私が預かっている状態なの」

杏子 「別の世界?は?ロボットぉ・・・?」

239 : 以下、名... - 2014/11/18 21:03:15.85 jq3cZNnm0 428/1284

ほむら 「彼らが私たちの闘いに手を貸してくれる。だけれど、そのロボットが動力源としているエネルギーが、こちらの世界には存在していないらしくて」

杏子 「・・・」

ほむら 「私の魔力を代用に動かしているの。だから、私の魔力は常に枯渇状態。いつ、魔女になってしまってもおかしくない状況に置かれているというわけ」

杏子 「ちょっと待てよ。いきなりロボットとか言われても、子供のマンガじゃあるまいし、なに言っちゃってんのって感じなんだけどさ」

ほむら 「魔女がいて魔法少女がいて、喋る小動物までいる。ロボットが存在する世界があったとしても、それはそんなに驚くほどの事?」

杏子 「・・・分かったよ、話を続けてくれ」

ほむら 「強大な力を秘めたロボットらしいわ。その力を遺憾なく発揮できれば、あるいはワルプルギスの夜だって・・・」

杏子 「はん、読めたぜ、あんたの言う取引って奴が」

ほむら 「そう、佐倉杏子。あなたが大量のグリーフシードを溜め込んでいるのは知っている。それを私に提供して欲しいの」

杏子 「やっぱりな。けどさ、そんなことをして、私に何のメリットがあるんだよ」

ほむら 「ワルプルギスの夜を乗り越えられるかもしれない。それだけじゃ不足?」

杏子 「あたしがグリーフシードを溜め込むのに、どれだけの苦労をしてきたと思ってんだよ、ええ?」


この返答は想定内だった。

240 : 以下、名... - 2014/11/18 21:06:04.58 jq3cZNnm0 429/1284

だから、私は用意しておいた答えを彼女に投げつけてやる。


ほむら 「では、ワルプルギスの夜のグリーフシードをあなたにあげるわ」

杏子 「はぁ?」

ほむら 「あれだけ強大な魔女のグリーフシードよ。どれだけ巨大な物を落とすのか、想像もつかないわね。それをあなたに提供する。それでどう?」

杏子 「・・・」

ほむら 「巨大なグリーフシードがあれば、少なくとも魔力の枯渇から魔女化する危険性を先延ばしにできる。悪くない提案でしょ」

杏子 「ははっ、そういうの取らぬ狸のなんとやらって言うんだぜ。確実にワルプルギスが倒せるって確証でもないかぎりな」

ほむら 「そんなのあるわけないわ」

杏子 「話になりゃしねぇn
ほむら 「だけれど、ワルプルギスを超えられなければ、どのみちあなたも死ぬ事になる」

杏子 「・・・」

ほむら 「・・・」

241 : 以下、名... - 2014/11/18 21:11:35.13 jq3cZNnm0 430/1284

杏子 「・・・私がワルプルギスに関わらなければ済む話だろ?」

ほむら 「一度顕現したワルプルギスが、見滝原を壊滅させた後で、風見野に矛先を向けないと、あなたは言い切れるのかしら」

杏子 「・・・へぇ、そう来るか」

ほむら 「・・・」


告げるべきことは告げた。

後は彼女の心次第だ。

私の言うことを事実と受け取ってくれるのか。それとも、かつての時間軸と同様に、ただの戯言と切って捨てられるのか。

・・・これは勝率の分からない、ギャンブルなのだ。

242 : 以下、名... - 2014/11/18 21:16:29.89 jq3cZNnm0 431/1284

・・・
・・・


教会の外。かつての中庭。

雑草に埋もれている何かを見つけ、ゆまが嬉しそうに駆けて行った。

その様子を、武蔵が目を細めながら見守っている。


武蔵 (小さい子を見てると、元気ちゃんのこと、思いだすなぁ)


ややあって、ゆまがその手に何かを握りながら戻ってきた。


武蔵 (元気ちゃん、元気にしてるかなぁ・・・俺もリョウも隼人もいなくなって、寂しい想いしてるんだろうな・・・)

ゆま 「お兄ちゃん・・・?」

武蔵 「おっと、なんだい?」

ゆま 「へへ・・・はいっ」

武蔵 「お、なんだろう??」

ゆま 「四葉のクローバー、あそこに咲いてたから持ってきたの。幸運のお守りなんだって」

武蔵 「へぇ、よく見つけたね。俺にくれるのかい?」

ゆま 「うん、お菓子のお礼!」

武蔵 「そっかぁ、そりゃ嬉しいなぁ。ありがとね、大事にするから」


言うと武蔵はゆまの手からクローバーを受け取り、懐に大事にしまった。

243 : 以下、名... - 2014/11/18 21:19:20.00 jq3cZNnm0 432/1284

優しく、無垢な少女。

こんな少女がどうして、魔法少女となる事を望んでしまったのか。

ほむらから魔法少女の結末がどうなるかを聞いていた武蔵。

これからゆまを待ち受けるであろう運命を思うと、気が重くなるのを抑える事ができない。


武蔵 「ねぇ、ゆまちゃん」

ゆま 「なぁに?」

武蔵 「君はどうして、魔法少女になろうって思ったんだい?」

ゆま 「・・・」

武蔵 「あ、言いたくないなら良いんだよ。だけど、ちょっとお兄ちゃん、気になちゃってさ」

ゆま 「いいの・・・あのね・・・ゆま、悪い子なんだ」

武蔵 「え・・・ゆまちゃんが?俺にはそう思えないけど、どうしてそう思うんだい?」

244 : 以下、名... - 2014/11/18 21:21:30.71 jq3cZNnm0 433/1284

ゆま 「いっつもお母さんがゆまの事ぶつから・・・きっとゆまが悪い子だから、お母さん、怒ってばかりなの・・・」

武蔵 「・・・っ」


ふと、気がつく。

武蔵はゆまの頭を撫でるふりを装い、そっと彼女の前髪を掻き分けてみた。

そこにあったのは、巧妙に隠れるようにして額に焼き付けられた、タバコの跡。


武蔵 (この子、親に・・・)

ゆま 「だからね・・・ゆま、キュゥべえにお願いしたんだ。ゆまは良い子になれるように頑張るから、その代わりに・・・」

武蔵 「・・・」

ゆま 「もう、お母さんがゆまをぶたなくなりますようにって」

武蔵 「・・・っ」


武蔵 (なんだ、いま強烈に嫌な感覚が波のように押し寄せてきやがった・・・この子の願い、まさか・・・まさか、な・・・)

245 : 以下、名... - 2014/11/18 21:24:55.96 jq3cZNnm0 434/1284

・・・
・・・


同時刻

見滝原中学校 2年生の教室


昼食も終わり、昼休みの残された時間。

ほむらもいなく、特に話す相手もいない教室で、流竜馬は退屈な時間を過ごしていた。

机に突っ伏して一眠りとも思ったが、どうにも目が冴えて睡魔を引き寄せる事ができない。

彼にしては珍しい事だった。


竜馬 (やはり、暁美のことが心配なのかな、俺。会いに行った奴の素性も俺は知らないし、まぁ・・・武蔵が一緒なんだから案ずる事は何も無いはずなんだが・・・)

 「流くんっ」


不意に声をかけられ、思案の世界から現実へと引き戻される竜馬。

顔を上げると、そこには自分を覗き込む、物憂げなまどかの顔があった。


竜馬 「よう、鹿目。どうした?」

まどか 「うぇひ・・・起こしちゃってごめんね、流君。寝てたんでしょ?」

246 : 以下、名... - 2014/11/18 21:33:29.49 jq3cZNnm0 435/1284

竜馬 「いいや、別に。ちょっと気だるくって目を瞑ってただけさ。で、何か用か?」

まどか 「うん~・・・ほむらちゃん、風邪なんでしょ。だいじょうぶなのかなって」

竜馬 「ああ・・・」


今日、ほむらは病気を理由に学校を欠席していた。

竜馬のように、無断で学校を休むようなことはしない。彼女は基本的に優等生なのだ。

・・・仮病という点では、竜馬と五十歩百歩なのだけれど。


竜馬 「鹿目な、あいつの事は心配しなくていいぜ。病気ってのは、あれ嘘だから」

まどか 「うぇひっ!?」

竜馬 「内緒だぜ」

247 : 以下、名... - 2014/11/18 21:35:55.60 jq3cZNnm0 436/1284

まどか 「だ、だけどほむらちゃんったら、どうしてそんな嘘を言ったんだろ・・・まさか、不良になっちゃった!?」

竜馬 「ぷっ!」


不良だったら学校くらい、何も言わずにふけるだろうさ。

竜馬は、まどかのあまりのまっすぐな素直さに、思わず噴出してしまうのを堪えられなかった。


まどか 「???」

竜馬 「いや、悪い。お前がそれだけ暁美の事を心配してると知ったら、あいつも喜ぶだろうなって思ってな」

まどか 「うぇひ・・・なんだか、馬鹿にされてる??」

竜馬 「んなこたねぇさ」


馬鹿になどしていない。ただ、微笑ましかったのだ。

色々と嫌な物を見すぎて、年齢以上に擦れてしまった自分や、そしてほむらにも。

まどかの様に素直な角度で物事を眺めることは、もうできそうに無かったから。


竜馬 「むしろ、褒めてやりたいくらいだぜ」

まどか 「むぅ~・・・」

248 : 以下、名... - 2014/11/18 21:43:37.29 jq3cZNnm0 437/1284

竜馬 「暁美な、隣街の魔法少女に会いに行ってるんだよ。それで今日は、学校を休んだって訳さ」

まどか 「えっ、隣街って言ったら風見野市だよね!風見野にもいるんだ、魔法少女!マミさんみたいな人なのかな!?」

竜馬 「さぁ、俺は知らないが。だが実際、魔法少女ってのはあちこちにいるらしいぜ。俺たちが知らないだけでさ」

まどか 「そうなんだ~」

竜馬 「・・・」

まどか 「へぇ~」

竜馬 「・・・一応言っておくが」

まどか 「うぇひっ?」

竜馬 「魔法少女に変な親近感を抱くなよ。この前も言ったが、お前を大切な想う人を、悲しませるようなマネはするんじゃねぇぞ」

まどか 「う、うん・・・」


竜馬に釘を刺され、しゅんとしながらも、ほむらが病気ではないと分かって安堵の表情を浮かべると、まどかは自分の席へと戻っていった。

そんなまどかを見送りながら、竜馬は思う。

ほむらが会いに行った魔法少女は、一体どんな理由があって、自分の運命を戦いの日々の中に投げ入れたのだろう。


(竜馬・・・)


竜馬 「!?」

249 : 以下、名... - 2014/11/18 21:52:47.87 jq3cZNnm0 438/1284

(竜馬、聞こえるかい?)

竜馬 「頭の中に直接声が・・・この声、キュゥべえか!?」

キュゥべえ (やはり思ったとおり、君とは思念上での会話が可能のようだね。さすがは男性にして、魔法少女となる資格を持つ者だ)

竜馬 「相変わらず手品のような真似を弄してくる奴だな、てめぇは。今更いちいちおどろかねぇが、俺に何の用がある?」

キュゥべえ (実は君と一つ取引がしたいと思ってね)

竜馬 「取引・・・だぁ・・・?」

キュゥべえ (話だけでも聞いてみないかい?もちろん無理強いはしないし、気が乗らないなら断ってくれても良い)

竜馬 「・・・」


風見野で一つの取引がなされている中、図らずもここ見滝原において、別の取引が開始されようとしていた。

250 : 以下、名... - 2014/11/18 21:55:50.71 jq3cZNnm0 439/1284

・・・
・・・


見滝原中学

屋上


キュゥべえに呼ばれた竜馬は、教室を抜け出して一人、屋上へとやってきた。

昼休みも終わり、他に生徒の姿はない。

ただ一匹、ベンチで丸くなっている小動物の姿があるだけだ。


竜馬 「キュゥべえ」

キュゥべえ 「やぁ、竜馬。きてくれたね」

竜馬 「お前と無駄話をするつもりはない。とっとと用件を話してもらおうか」

キュゥべえ 「僕もそのつもりだよ。君は他の魔法少女達と違って、まどろっこしい事を抜きに話ができるから助かる」

竜馬 「で、話ってのは・・・?」

キュゥべえ 「竜馬・・・君は元の世界へと戻りたがっている。その方法を探して、暁美ほむらと行動を共にしている。そうだよね」

竜馬 「聞かれるまでもねぇ。俺には俺のやるべき事がある。そのためにも、元いた場所に戻らなきゃならねぇからな」

キュゥべえ 「でも、その方法は依然として謎のまま。この先、ほむらと一緒にいても、解明できるのかどうかは分からない」

251 : 以下、名... - 2014/11/18 22:00:50.66 jq3cZNnm0 440/1284

竜馬 「・・・無駄話をするつもりはないと言ったぞ」

キュゥべえ 「僕が、君が元の場所に戻る手伝いをしよう。そう提案しようと思ってね」

竜馬 「・・・!?」

キュゥべえ 「もちろん、さっきも言ったとおり、これは取引だよ。君も僕のお願いを聞き入れてくれればという条件つきの話だけれどね」

竜馬 「お前・・・俺や武蔵が元の世界に戻る方法を知っているって言うのか?」

キュゥべえ 「知らないよ」

竜馬 「・・・は?」

キュゥべえ 「言っただろう?君はとびきりのイレギュラーだって。僕達が有する膨大なデータバンクにも、君のような存在への対処法は記憶されていない」

竜馬 「お前、俺を馬鹿にしてるのか」

キュゥべえ 「慌てる乞食は貰いが少ない。これは君たち人間の諺だよね。そう、結論を急ぐものじゃないよ」

竜馬 「だったらお前もはっきり言ったらどうなんだ。一体お前は、俺になにが言いたい?」

キュゥべえ 「僕自身は君の知りたい情報を持ち合わせてはいない。でもね、推論ではあるけれど、君が元の世界へ戻る。そのヒントは提示できると思うんだ」

竜馬 「なんだってんだよ、それは」

キュゥべえ 「ここからが取引だ。僕からの願い、君が呑んでくれたら、そのヒントを君に教えてあげる。これは単純な交換条件という奴だよ」

竜馬 「・・・」

キュゥべえ 「現状、八方ふさがりの君が取るべき道の、指針ともなるはずの重要なヒントだ。この取引、決して君の損にはならないと断言できるけれど、どうかな」

竜馬 「それで、お前は俺に何をさせようとしている」

キュゥべえ 「それはまず、僕との取引を成立させてからじゃないと教えられないよ。話だけ聞いて、やっぱり止めますじゃ、僕のこれからの活動にも影響を及ぼす事柄だからね」

竜馬 「・・・」

キュゥべえ 「さぁ、答えを。君の立場を思えば、考えるまでもないと、僕は思うけれど・・・」

竜馬 「・・・」

256 : 以下、名... - 2014/11/19 12:51:24.04 byY+0dvw0 441/1284

・・・
・・・


ほむら 「どう、私の話、信じてもらえるかしら」

杏子 「突拍子も無さ過ぎて、疑う気も失せるよ」

ほむら 「言ってる自分でも、そう思うわ」

杏子 「魔女となる運命のあたし達に、異世界から来たロボット乗りときた。騙す気で来たなら、もう少しましな嘘をつくだろうさ」

ほむら 「それじゃ・・・」

杏子 「だけれど、だからと言って即信用できるほど、私は早計でもお人好しでもない。まずは、事実である証を示してもらおうか」

ほむら 「何を見れば、証と取ってもらえるのかしら」

杏子 「まずはお試しってことで、お前とその仲間とやらの戦いに同行させてもらう。直に見せて貰おうじゃねぇか、そのロボットとやらをよ」

ほむら 「良いわ。私のもう一人の仲間は見滝原にいる。あなたにも見滝原に来てもらっても・・・?」

杏子 「構わないぜ。どの道あたしは住所不定、気楽な根無し草みたいなもんだからな。どこへ行こうと気ままなものさ」

ほむら 「話は決まったわね。それじゃ、さっそく見滝原に・・・」

杏子 「あ、ちょっと」

ほむら 「?」

257 : 以下、名... - 2014/11/19 12:54:00.61 byY+0dvw0 442/1284

杏子 「あたしからも一つ、聞きたいことがあったんだ」

ほむら 「なに?」

杏子 「なぁ・・・見滝原で最近、見慣れない魔法少女とか・・・遭遇した事があるか?」

ほむら 「・・・?見滝原にいる魔法少女は、私と巴さんだけだけれど・・・言っている意味が分からないわね」

杏子 「なら良い。つまらない事を言っちゃったね」

ほむら 「??」


最後、杏子が何を言いたかったのかは気になる所だけれど・・・

それはともかく。

まずはお試しでも何でも、杏子の協力を取り付けることができた。

後は実際にゲッターロボを見てもらうだけ。魔女の結界さえ発生してくれれば、これは簡単に済ませる事ができる。

杏子がグリーフシードを提供してくれれば、ゲッターロボを安定して運用できるようになるし、魔女との戦いも安全に進める事ができる。

なによりも、ワルプルギスの夜を上回る力を得られたのなら、今度こそまどかを救えるかもしれないのだ。

しかも、さやかやマミ、そして杏子といった仲間達の誰一人も欠けさせる事のないままに・・・

258 : 以下、名... - 2014/11/19 12:55:10.48 byY+0dvw0 443/1284

杏子 「それじゃ、行こうか」


私が物思いにふけっている間に身支度を終えたらしい杏子が、私の前に立って教会の出口へと歩いてゆく。

背中には無造作に背負ったリュックが一つ。その中身は、おそらく大量のグリーフシードに違いない。

身支度がたったそれだけなのが、フットワークの軽い杏子らしいといえば杏子らしいのだけれど。


ほむら 「・・・ええ、行きましょう」


私も杏子を追って、出口の扉を潜った

外で待っていた武蔵が、私の姿を認め、駆け寄ってくる。

その傍らには寄り添うようにピタリくっついている、千歳ゆまの姿。

この短い時間のうちに、随分と懐かれてしまったようね。


武蔵 「話は済んだのかい?」

ほむら 「ええ、これから見滝原へ戻るわ。彼女も一緒に」

259 : 以下、名... - 2014/11/19 12:59:23.39 byY+0dvw0 444/1284

杏子 「一応、よろしくな」

武蔵 「ああ、こちらこそ!」


笑顔で握手を求める武蔵を無視し、杏子はゆまの方へと顔を向ける。


杏子 「・・・そんじゃ、これでお別れだな」

ゆま 「・・・え」

杏子 「行きがかり上助けはしたが、あんたとあたしは赤の他人だ。怪我は治してやったし、これ以上一緒にいる意味も無いだろ?」

ゆま 「で、でも・・・」

杏子 「分かったら家へ帰りな」

武蔵 「ちょっと待ってくれ」


いきなり、武蔵が二人の間に割って入る。


ほむら 「武蔵さん・・・?」

杏子 「なんだよあんた、関係ないだろ。いきなり割り込んでくるんじねーよ」

260 : 以下、名... - 2014/11/19 13:07:41.75 byY+0dvw0 445/1284

武蔵 「俺、この子を連れて帰るよ」

ほむら 「え・・・は、はぁ!?」

武蔵 「今日から俺が面倒を見る。さっき話して、そう決めたんだ。な?」

ゆま 「うんっ」


にっこり微笑みながら頷きあう武蔵とゆま。

なんだか場と不釣合いなホンワカムードが二人を覆っているけれど・・・


武蔵 「てことで、今日から俺はゆまちゃんのお兄ちゃんだ!」

杏子 「んなっ・・・!?」


杏子も呆れて物が言えないといった顔で、あんぐりと口を開けて固まっている。

なんて間の抜けた顔。普段の彼女からは想像もできない表情ね・・・

でも、それは私だって同じ。

武蔵の真意が分からず、私の顔も呆け気味。


ほむら 「ちょ、ちょっと待って・・・武蔵さん、自分で何を言ってるか分かっているの?」

261 : 以下、名... - 2014/11/19 13:09:21.93 byY+0dvw0 446/1284

武蔵 「この子さ、両親を亡くしたばかりなんだ」

ほむら 「え・・・」

武蔵 「だからさ、家に帰しても誰もいないんだよ。こんな小さい子、一人にはできないだろ」

杏子 「亡くしたばかりだって?」

武蔵 「ああ、だから・・・」

杏子 「じゃあ、あの結界で死んでた二人って、もしかして・・・」

ゆま 「・・・」


ゆまは何も答えない。

それを杏子は無言の肯定と受け取ったようだった。


杏子 「親が死んだそぶりなんて、あたしには微塵も見せなかったね、あんた。たいしたタマだぜ」


もしくは、その程度の親だったと言うことかしら。

親といっても所詮は同じ人間。無条件に愛し、尊敬できる相手とは限らない。

その事を杏子は、身をもって知らされていた。

だから特段、ゆまが天涯孤独の身となった所で、杏子にはそれほど同情してやる気にはなれないのだろう。


杏子 「話は分かったけど、武蔵だっけ?あんた、物事を簡単に考えすぎてないか」

武蔵 「どういう意味だよ」

262 : 以下、名... - 2014/11/19 13:11:18.99 byY+0dvw0 447/1284

杏子 「連れていくったって、犬や猫を拾うのとは訳が違うんだ。第一、こいつの事、どこに住まわすつもりなんだ」

武蔵 「そりゃ、俺と一緒に・・・」

ほむら 「いきなり妹が増えましたと言って、マミが承諾するかしら」

武蔵 「あ、そ、そうか!確かに・・・!」

ほむら 「はぁ・・・」


やはり、深くは考えていなかったようだ。

人のいい武蔵はあれこれ考えるより先に、哀れな少女を思う同情心から言葉を発していたのだろう。

人の立場や境遇を思いやる事ができる。それは武蔵の持つ美点には違いないのだろうけれど。

だけれど。


ほむら 「甘すぎるわね」

武蔵 「・・・」


武蔵は意気消沈。とたんに勢いがなくなってしまう。

263 : 以下、名... - 2014/11/19 13:13:21.37 byY+0dvw0 448/1284

雲行きが怪しくなってきたのを、幼いながらも敏感に察知したゆまが、不安げに武蔵の袖を引く。


ゆま 「お、おにいちゃん・・・」

武蔵 「ゆまちゃん、俺・・・」

杏子 「宛てが外れて残念だったね。でも、現実なんてこんなもんさ。せめて、命があっただけでも幸運だったって思うこったな」


突き放すように言い捨てると、杏子はくるりと皆に背を向ける。

そのままスタスタと、教会の敷地外へと歩き出してしまう杏子。

おそらく魔法少女となる前の千歳ゆまと出会っていたなら、杏子も多少はゆまの身の振り方などに気を回そうとしたのかも知れない。

だけれど、魔法少女はしょせん一匹狼。

徹頭徹尾、魔法は自分自身の為に使い、刹那的に日々を過ごす事を旨とする”現在”の杏子にとって、ゆまはすでに心を配ってあげる対象ではなくなっていたのだ。


ほむら 「・・・佐倉杏子の言うとおりだわ」

武蔵 「ほむらちゃん・・・」

264 : 以下、名... - 2014/11/19 13:15:39.17 byY+0dvw0 449/1284

ゆま 「・・・あぅ」


ゆまが心細げに武蔵を見上げる。

すがる様な瞳が、武蔵を一点に捉えて離さない。

だけど、頼られた武蔵も、この儚げな幼い少女の期待にどう応えて良いのか分からないのだろう。

なにせ彼自身が、この世界や魔法少女の事に対して、まだまだ不案内なのだから。


ほむら 「・・・」


だから、私が武蔵に替わって決断しなくてはならない。

ゆまに言うべき言葉、ゆまに告げるべき処遇。

私は口を開く。

生半可な同情なんて、却ってこの子のためになりはしないのだから。

265 : 以下、名... - 2014/11/19 13:17:28.29 byY+0dvw0 450/1284

・・・
・・・


竜馬 「言いたいことはそれだけか?」

キュゥべえ 「概ねはね」

竜馬 「だったら、とっとと俺の前から姿を消しな。正直、お前の姿は目障りなんだよ」

キュゥべえ 「・・・驚いたな。これは予想外の回答だ。君は、自分のいた世界に戻る事、それこそが至上の目的ではなかったのかい」

竜馬 「そうだぜ」

キュゥべえ 「だったらなぜ、僕の差し出す手を取ろうとしないんだい?」

竜馬 「お前が信用ならないからだ」

キュゥべえ 「・・・短絡的だね。確かに僕と君の間に信頼関係は存在しない。だけれど、そんな僕を利用するだけの度量が君にはあると思ったんだけれどな」

竜馬 「真に信用のおける奴は、そんなセリフは吐かないもんだぜ」

キュゥべえ 「訳が分からないよ」

竜馬 「わからねぇなら、お前は人間ってもんをまったく理解できてねぇ」

キュゥべえ 「・・・」

266 : 以下、名... - 2014/11/19 13:25:47.72 byY+0dvw0 451/1284

竜馬 「俺は暁美と約束した。互いの目的の為に協力し合うとな。仲間と誓ったんだ、そこにお前の立ち入る隙間はねぇのさ」

キュゥべえ 「愚かだね。そんな目に見えない絆とやらにすがって、元の世界に帰れなくなったら元も子もないだろうに」

竜馬 「すがる相手をお前にしなくとも、俺は元の世界に帰れると確信しているぜ」

キュゥべえ 「どういう意味だい?」

竜馬 「俺がこっちに飛ばされて来た現象に、お前は絡んでいなかった。だったら、お前抜きでだって帰る事ができる。何か間違ったこと言っているか?」

キュゥべえ 「へぇ・・・呆れたよ。どこまで楽天的なんだ、君は」

竜馬 「お前みたいに、暁美の留守を狙ってこそこそ画策するほど、腹黒じゃねぇって事さ」

キュゥべえ 「その決断、後悔する事がないよう祈るよ。自分で自分の取る道を狭めてしまった事に・・・」

竜馬 「道なんてもんはな、俺の歩いた後にできるもんだ。お前の敷いた獣道を歩くつもりなんざ、さらさらねぇんだよ」

キュゥべえ 「・・・」


音もなく、姿を消すキュゥべえ。

それを黙って見送った後で、竜馬は一言呟いていた。


竜馬 「あいつでも、捨て台詞っての吐くんだな・・・」

272 : 以下、名... - 2014/11/21 21:13:09.30 mDAG5eOh0 452/1284

・・・
・・・


同日 夕刻

ほむホーム


顔合わせのために、私たちは一堂に会した。

場所は私の部屋。

集まった面々は、私。

お試しではあるけれど、とりあえず行動を共にすることで話が決まった、佐倉杏子。

竜馬と武蔵のゲッターチーム。

そして・・・


杏子 「おい」


杏子が不機嫌さのにじみ出た顔で、私ににじり寄ってきた。


ほむら 「なにかしら」

杏子 「何でこいつが、ここにいる」


言いながら、一転を指差す杏子。

273 : 以下、名... - 2014/11/21 21:15:38.32 mDAG5eOh0 453/1284

そこには座っている武蔵。そして、その武蔵に寄り添うようにしている一人の少女。

千歳ゆまの姿があった。


ほむら 「ああ・・・この子、ね。しばらくここで暮らす事になったから」

杏子 「は、はぁ?」

ほむら 「仲間に加えたのよ。一緒に戦ってもらうわ」

杏子 「お、お前・・・本気で言ってるのかよ」

ほむら 「本気よ」

武蔵 「良かったなぁ、ゆまちゃん」

ゆま 「うんっ」

杏子 「ちょっt
竜馬 「ちょっと待てよ」


何か言いたげな杏子を制して、代わりに口を開いたのは竜馬だった。


竜馬 「見たところ、随分と幼いようだが、こんなんで本当に戦えるのか?悪いが、足を引っ張られるのはゴメンだぜ」

274 : 以下、名... - 2014/11/21 21:17:31.79 mDAG5eOh0 454/1284

ほむら 「その点なら心配ないわ。この子が得意とするのは、回復魔法。私や杏子では攻撃しかできない。誰かが傷ついた時、この子の力はきっと必要になる」

杏子 「初耳だぞ、そんなの。おい、ゆま。それ、本当なのか?」

ゆま 「え、えっと・・・たぶん、そんな気がする・・・」

杏子 「そんな気ってなんだよ、はっきりしないな」

ゆま 「だって、まだ使った事、ないから」

杏子 「・・・本人にもハッキリしない事を、あんたは随分と詳しく知っているんだな」

ほむら 「言ったでしょ、私は未来から来たと。以前の時間軸で見たことがあるのよ」

杏子 「なるほどね・・・」

ほむら 「流君も納得してくれた?」

竜馬 「暁美が見込んだんなら、役には立ってくれるんだろうさ。だが、本人はキチンと理解してるのか?俺たちの戦いのことに付いて・・・」

ほむら 「ええ」


その事は、すでにゆまには説明してある。

275 : 以下、名... - 2014/11/21 21:20:04.95 mDAG5eOh0 455/1284

竜馬の言うとおり幼い彼女の事だ、どこまで正確に理解してくれたかは分からないけれど。

だけどゆまは私の話を聞き、その小さな頭で考え決断し、今ここにいる事を自ら望んでくれた。

ただ一点、魔法少女と魔女の繋がりについてだけは伏せさせてもらったけれど。

隠し事をするようで後ろめたくはあったけれど、この酷すぎる運命、今のゆまでは受け止められるはずもない。

でもいずれ・・・

ワルプルギス戦を乗り越え、その時には彼女の心が成長してくれていたなら、その時には・・・


ほむら 「生半可な同情は彼女のためにならない。だから、私は全てを話して、住む場所の提供をする代わりに助力を願ったのよ」


激しい戦いの渦中に飛び込む以上、回復の力を持った者の存在は非常に心強い。

かつての時間軸では美樹さやかが担っていた事もあるポジションだが、今回彼女は普通の少女でいる道を掴み取る事ができた。

さやかに代わる治癒魔法の使い手と出会えたのは、嬉しい誤算だったのだ。

276 : 以下、名... - 2014/11/21 21:24:48.06 mDAG5eOh0 456/1284

竜馬 「だったら納得だ。よろしくな、俺は流竜馬だ」

ゆま 「うぇ・・・っと・・・」

武蔵 「このお兄ちゃんは俺の友達だ。顔は怖いが、食べられたりしないから安心して良いよ」

竜馬 「顔の怖さでは、お前にとやかく言われる筋合いはねぇ」

ゆま 「・・・千歳ゆまです。よ、よろしく」

竜馬 「ああ」

杏子 「なんだよ、随分とあっさり受け入れやがったな。どんだけ間口が広いんだよ、ガキが相手だぞ」

竜馬 「そうは言っても、暁美もお前にしても、まだ中学生だろ。この子とそう変わるもんでもないんじゃないか」

杏子 「けっ。潜ってきた修羅場が違うんだよ。しらけるけど、まぁいいや・・・あたしは佐倉杏子」

竜馬 「ああ、よろしくな」

杏子 「言っとくけど、よろしくするかどうかは、まだ決めてないからな」

竜馬 「ふーん・・・暁美?」

ほむら 「まだ杏子は、私の話した事柄を信用していないの。まずはゲッターロボを実際に見せろって」

277 : 以下、名... - 2014/11/21 21:28:38.96 mDAG5eOh0 457/1284

竜馬 「ま、もっともだな。そんじゃ行くか」


竜馬は一人で勝手に納得すると、おもむろに席から立ちあがった。


ほむら 「流君・・・?」

竜馬 「善は急げだ。さっそく魔女の結界を探しに行こうぜ」

ほむら 「今から?」


呆れて問い返す私に、竜馬はにやりと笑って見せた。


竜馬 「早ければ早いほど良い。存分に知ってもらうのさ。ゲッターの強さと、恐ろしさを、な」

278 : 以下、名... - 2014/11/21 21:31:07.62 mDAG5eOh0 458/1284

・・・
・・・


キュゥべえ 「取引は不首尾に終ったか。できれば、穏当に行きたかったんだけれどね。お互いのためにも」

キュゥべえ 「まぁ、いいや。すでに準備は始めているし、舵はどうとでも切ることができる」

キュゥべえ 「・・・」

キュゥべえ 「ゲッターロボ・・・暁美ほむらの魔力の消耗・・・僕の予想に間違いはないだろう」

キュゥべえ 「とすれば、僕は何としても手に入れなければならない。あの力を・・・」

キュゥべえ 「さて、そのための方法だけれど・・・」

キュゥべえ 「うん、彼女達に役に立ってもらおうかな」

キュゥべえ 「さて、そのためには彼女達を納得させるに足る”餌”を用意しなくちゃいけないのだけど」

キュゥべえ 「・・・」


キュゥべえ 「切るか、鹿目まどかを・・・」

279 : 以下、名... - 2014/11/21 21:37:16.36 mDAG5eOh0 459/1284

・・・
・・・


次回予告


連綿と長きに渡り続けてきた、己の計画の立て直しを図るキュゥべえ。

そのために彼は、二人の魔法少女に接近する。

キュゥべえの思惑を策略と知りながらも、敢えてそれに乗る彼女達の思惑は!?

そして、敵となり牙をむく魔法少女に抗したほむらの運命には、新たな悲劇の幕が切って落とされるのだった!



次回 ほむら「ゲッターロボ!」第五話にテレビスイッチオン!


ほむら「ゲッターロボ!」【3】

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