1 : 以下、名... - 2014/05/22 00:19:05.19 mX38UNwS0 1/1284原作版ゲッターロボとまどかマギカのクロスです。
「まどマギでやる必要があるの?」の最たる内容ですが、自分がまどかとゲッターが好きと言う理由のみでクロスさせて見ました。
ノンビリいきますが、よろしければお付き合いください。
なお、地の文が多めになってしまいましたが、その手のが苦手な方はご注意ください。
元スレ
ほむら「ゲッターロボ!」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1400685545/
ほむら「ゲッターロボ!」 第二話
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1404772977/
ほむら「ゲッターロボ!」 第三話
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1410434307/
ほむら「ゲッターロボ!」第十話
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1440759172/
ほむら「ゲッターロボ!」第一話
・・・
・・・
幾度目かのワルプルギスの夜
私はワルプルギスの夜との戦いに傷つき、持てる力を全て使い果たし・・・そして、今。
瓦礫に挟まれるように、ボロキレのような身体を横たえていた。
ほむら 「どうあっても、勝てない・・・」
絶望で心が黒く染まりそうになる。
そんな時だ。
まどか 「ほむらちゃん」
私の横に、まどかが降り立ったのは。
凛とした顔で。
魔法少女の衣装に身を包んで・・・
ほむら 「まどか・・・その姿・・・」
まどか 「ウェヒヒ、ごめんね。私、キュゥべえと契約しちゃった・・・」
ほむら 「まどか、どうして・・・こんなの、だったら、私は今まで何のために・・・」
まどか 「ほむらちゃん、ありがとう。ほむらちゃんが今まで、私のために頑張ってくれた事、すっごくすっごく感謝してるよ」
まどか 「だけど、だからね。もう良いんだよ。ほむらちゃんはもう、一人で頑張らなくってもいいの」
ほむら 「まどか・・・」
まどか 「あとは私が何とかするから。だから、ほむらちゃんは安全なところまで逃げて?」
ほむら 「だめ・・・それじゃだめだよ!まどかが戦ったら、たとえ勝てたって・・・っ」
まどか 「私は平気。ほむらちゃんを置いて、絶対に負けたりなんてしないから。だからね、ほむらちゃん・・・」
ほむら 「・・・」
まどか 「私が帰ってきたとき、笑顔で迎えてくれたら嬉しいなって」
ほむら 「っ!」
まどか 「じゃ、行ってくるね、ほむらちゃん!」
ほむら 「ま、待って!行っちゃだめ!これじゃ、あいつの思うつぼよ!」
ほむら 「・・・くっ、まどか一人を戦わせたら、まどかは魔力の消費に耐えられずに、魔女に・・・」
ほむら 「そんなのダメ・・・私も行かなきゃ!まどかと一緒に戦わなくちゃ・・・っ!」
ほむら 「・・・でも」
ほむら 「もう・・・なにも無い。武器も弾薬も、私自身の魔力も・・・」
ほむら 「戦えない・・・これ以上わたしにはできることがない・・・まどか・・・」
ほむら 「救いたいのに・・・あなたを助ける私になりたかったのに・・・」
ほむら 「まどか・・・まどかぁ・・・」
ほむら 「まどかぁあああーーーーーっ!!」
・・・
・・・
ほむら 「また、だめだった・・・」
何度も何度も同じ時間を繰り返し、私は時の迷宮を彷徨い続けてきた。
たった一人の大事な人を救うために。
まどかの幸せを守る。
たったそれだけのために。
だけれど、そんなささやかな願いにすら、私の手は届かない。
同じ時を繰り返えし、そのたびに、まどかの人生はいつも無残に踏みにじられる。
それを私は阻止する事ができない。
ほむら 「あと何度、あと何回繰り返せば、まどかを救う事ができるの・・・?」
誰に問うでもなく吐いた言葉に、もちろん答えは返ってこない。
今回も・・・
まどかは、ワルプルギスの夜との戦いで窮地に陥った私を救うために、インキュベーターと契約を交わしてしまった。
そして魔法少女となったまどかは、ワルプルギスの夜を一撃で屠った後・・・
私の目の前で・・・
魔女に・・・成り果ててしまったのだ。
キュゥべえ 「やれやれ、見事なものだね」
ほむら 「インキュベーター・・・」
キュゥべえ 「彼女は最強の魔法少女として、最大の敵を倒してしまったんだ。もちろん後は、最悪の魔女になるしかない」
キュゥべえ 「とはいえ、ここまで強大凶悪な魔女になるなんて、僕の予想を遥かに超えていたよ」
ほむら 「よくもぬけぬけと・・・お前のせいでまどかは・・・まどかはっ」
キュゥべえ「彼女は自らの望みで君を救うために魔法少女になったんだよ。僕を責めるのはお門違いというものじゃないかな」
ほむら 「・・・くっ」
キュゥべえ 「それで、暁美ほむら。君はこれからどうするんだい?」
ほむら 「・・・決まってる。私は何度でも繰り返す」
キュゥべえ 「・・・?まどかとは戦わないのかい?」
ほむら 「いいえ、私の戦場はここじゃない」
キュゥべえ 「・・・暁美ほむら、君は」
奴の問いかけには答えず、私は魔力を左手に装着されたバックラーに集中させる。
時を逆戻すため。新たな時間軸へと旅立つために。
何度でもやり直し、まどかを救うために。
ほむら 「でも・・・」
また、同じ事の繰り返しになるのではないだろうか。
不安が黒い霧となって、私の心を覆いつくそうとする。
一体どうすれば、まどかを救うことができるのか。私には皆目見当がつかない。光が見えない。
色々な方法を試してきた。
思いつく限りの様々な手段を。しかし、それらは一つとして実を結ぶ事はなかった。
まどかはどの時間軸においても、ただの一回たりとて救われる事は無かったのだ。
ほむら 「それは・・・私に力が足りなかったから」
キュゥべえ 「・・・力?」
ほむら 「そう、力・・・力が、力があれば」
ワルプルギスの夜を凌駕し、まどかしてを戦わせる必要の無い力を私が持つことができていたなら。
ほむら 「今日だってあそこで、まどかを契約させる事もなかった」
キュゥべえ 「・・・」
ほむら 「なぜ、私には力が無いの・・・?ほかの魔法少女のように、魔力に裏打ちされた力が・・・」
美樹さやかの持つ剣のような。
佐倉杏子の槍のような。
巴マミのマスケット銃のような。
・・・まどかが放った矢のような。
ほむら 「力っ、力が欲しい・・・っ。彼女を守る私であるための力が・・・っ」
ほむら 「力がっ!!」
その時だった。
私を取り巻く空間全体が、眩く光ったのは。
ほむら 「っ・・・?」
キュゥべえ 「!?」
辺りがまるで、フラッシュを焚かれたかのように、真っ白に染まる。
目に突き刺さるような強烈な閃光に、私は瞼を閉じずにいられない。
ほむら 「なに、なにが起こったの!?」
キュゥべえ 「わからないけれど、攻撃の類ではないようだね」
ほむら 「お前達が何かを仕組んだんじゃないの?」
キュゥべえ 「僕たちの理解の範疇を超える出来事も、起こりえるっていうことだよ」
ほむら 「・・・」
そして。
数秒の後。
キュゥべえ 「・・・暁美ほむら。目を開いて、あれを見てごらん」
感情を持っていないはずのキュゥべえが、珍しく声に驚きの色をのぞかせながら私の名を呼ぶ。
キュゥべえ 「あれは、なんだと思うかい・・・?」
ほむら 「あれ・・・?」
その声に誘われるように、恐る恐る開いた私の瞳に映ったものは・・・
ほむら 「・・・え?」
巨大な人型の”何か”だった。
それは赤い体躯に、二本の角を生やしたような特徴的な頭部を持つ”何か”。
ワルプルギスの夜に匹敵する巨体を誇るかのようにそびえ立ち、私たちを睥睨していた。
ほむら 「これって、まるで・・・」
キュゥべえ 「ロボットだね」
ほむら 「ロボット・・・?」
キュゥべえ 「そうとも。まるで君たち人間の子供が好んで見る、アニメに出てくるロボットに瓜二つじゃないか」
ほむら 「言われてみれば・・・でも、そんな物がどうして」
なりはああでも、魔女の一種なのだろうか?
キュゥべえ 「それは無いようだ。あれには魔女の持つ特有の、呪いの波動が感じられない」
ほむら 「それじゃ、一体・・・」
キュゥべえ 「ぼくにも分からないよ。こんな現象、この星に来て初めてお目にかかるしね。だけれど・・・」
ほむら 「なに・・・?」
キュゥべえ 「・・・あのロボット、あれはもしかして、同じ・・・」
ほむら 「え・・・?」
キュゥべえ 「感じるんだ、あのロボットから。あれは・・・僕たちと同じ・・・」
ほむら 「同じ?・・・それって、どういうk
ここまでだった。
私の意識は暗転する。
バックラーに充填された魔力が発動し、私は新たな時間軸へと意識を飛ばされたのだ。
あのロボットの正体。
最後にキュゥべえが何を言おうとしたのか。
謎は全て、もう二度と戻ることのない時間軸の壁の向こうへと、置き去りにする他にはなかった。
そして、もう幾度繰り返したか分からない。
まどかで出会う”運命の日”が、また訪れる・・・
・・・
・・・
3月25日
朝
見滝原中学校 二年生の教室
和子 「今日は皆さんに大事なお話があります。心して聞くように」
和子 「目玉焼きとはっ!固焼きですか!?半熟ですか!?はい、中沢君!」
中沢 「あ・・・ええと・・・い、いやぁ、僕は・・・ちょっとよく分からないです・・・」
和子 「ハッキリしない男性は嫌われますよ!では、(きょろきょろ)流君っ!」
竜馬 「んぁ?」
和子 「目玉焼きとはっ!固焼きですか!?半熟ですか!?」
竜馬 「そんなん、どっちでも良いんじゃないですかね?出されたなら俺は、どっちもありがたく頂きますよ」
和子 「その通り、どっちでもよろしい!たかが卵の焼き加減なんかで女の魅力が決まると思ったら大間違いです!」
竜馬 「でもまぁ、先にどっちを食いたいか聞いてくれたら、その時の気分で食いたい方を選ばせて貰いますけれどね」
和子 「え・・・あ、ああ。な、なるほど」
竜馬 「もう、座っていいっすか?」
和子 「そうね・・・確かにそう。あの時私が卵を割る前に、一言でも声をかけていたら・・・あんな行き違いも無かったはず・・・」
竜馬 「せんせー・・・?」
和子 「あ、はい。流君、座ってよろしい。えー、女子の皆さんはくれぐれも、卵の焼き加減にケチをつけるような男とは付き合わないこと。男子の皆さんは、そのような大人には決してならないように」
和子 「あと私は、もう少し段取りと言うものを勉強してみたいと思います。人間、幾つになっても学ぶと言う姿勢を失ってはいけませんね」
さやか 「な、何の話なんだろう・・・?」
まどか 「さぁ・・・うぇひひ・・・」
和子 「さ、て。あとそれから、今日は皆さんに転校生を紹介しまーす」
さやか 「そっちが後回しかよっ!」
和子 「暁美さん、入ってらっしゃーい」
ほむら 「・・・」がらっ
ざわざわ・・・
竜馬 「・・・っ!」
さやか 「うわっ、すげー美人!」
和子 「はーい、それじゃ自己紹介、いってみよー」
ほむら 「・・・暁美ほむらです。よろしくお願いします」
和子 「はーい、はくしゅー。暁美さんは心臓の病気で長く休学していたの。久しぶりの学校で戸惑う事も多いでしょう。皆さん、力になってあげて下さいね」
はーい
ほむら 「・・・」じっ
まどか (う、なに・・・??なんか私、睨まれてる!?)
ほむら (まどか・・・今度は。今度こそ、あなたを救ってみせる・・・)
見慣れた風景。見慣れたやり取り。
そして、見慣れた面々・・・
何度も繰り返した”転校初日”という特異な体験の中にあって、私はふと違和感を覚えた。
ほむら (なんだ・・・?)
違和感の先へと視線を走らせる。すると、一人の男子生徒と視線がかち合った。
いや、視線が合うと言うよりも・・・
ほむら (・・・睨まれている)
クラスの視線を一身に浴びている今にあって、ひときわ強い視線を彼から感じる。
それは他のクラスメイトの好奇に満ちた眼差しとはまったく異なり、刺すような、えぐるような力強さを持って私に投げつけられて来る。
竜馬 「・・・」
ほむら (あの男子生徒・・・誰?見ない顔・・・少なくても、今までの時間軸でのクラスでは見たことが無い顔だ・・・)
竜馬 「・・・」
ほむら (ただの視線じゃない。この投げつけられてくる、むき出しの感情は・・・そう・・・戸惑いと、もう一つ・・・)
・・・敵意だ。
和子 「じゃ、そうねー・・・暁美さんの席はっと。・・・流君の隣が空いてるわね」
ほむら 「ながれ・・・くん?」
和子 「ええ。はい流君、挙手ー」
竜馬 「・・・」すっ
ほむら (あの男・・・流と言うのか・・・)
和子 「彼の隣に座ってくれるかしら。流君も彼女が困っていたら、いろいろ助けてあげてくださいね」
竜馬 「・・・ぅす」
ほむら 「・・・よろしく」
竜馬 「ああ」
ほむら 「・・・」
竜馬 「・・・」
・・・
・・・
昼休み。
私は好奇心旺盛なクラスの女子に囲まれ、質問攻めにあっていた。
転校初日の通過儀礼。
「暁美さんって、前はどこの学校だったの?」
「前は部活とかやってた?文科系?運動系?」
「すごくきれいな髪だよね~。リンスは何を使っているの?」
投げかけられる質問はあらかじめ分かっている。
だから私は、悪印象を与えない程度に、当たり障りの無い答えではぐらかす。
? 「ロボット、見たことがあるか?」
そこに唐突にも、耳慣れない質問が飛び込んできた。
ほむら (ながれ・・・りょうま?)
竜馬 「ロボットだよ。でかい奴だ」
ほむら 「いきなり何の話?」
竜馬 「具体的に言わないと分からないか?じゃあ、全長は38メートル。重量は220トン。機体のメインカラーは赤で・・・」
ほむら 「ちょ、ちょっと・・・」
竜馬 「頭部には角のような突起がついている」
ほむら 「っ!」
竜馬 「心当たり大有りって顔だな、ええ?」
ほむら 「あなたはいったい・・・」
? 「暁美さん、ちょっと良いかな?」
竜馬 「・・・」
ほむら 「あ・・・」
まどか 「暁美さん、保健室行かなきゃならないんでしょ?場所、分かる?」
ほむら (まどか・・・)「い、いいえ・・・」
まどか 「じゃ、案内するよ。私、保険委員だし。みんな、ごめんね。暁美さん、休み時間は保健室でお薬飲まないといけないんだ」
「あー、そうなんだ。ごめんね、暁美さん」
「またあとでねー」
まどか 「流君も、ごめんね?」
竜馬 「別に」
まどか 「じゃ、行こうか」
ほむら 「ええ・・・」
・・・
・・・
廊下
まどか 「ごめんね、みんな悪気は無いんだけれど、転校生なんて珍しいからはしゃいじゃって」
ほむら 「いえ」
まどか 「流君も。口が悪くってぶっきらぼうだから、ちょっと怖いけど。根は悪い人じゃないと思うんだけれどね」
ほむら 「・・・」
まどか 「あ、ごめんね。私ばっかり話しちゃって。て、なんか私、謝ってばっかりだね。うぇひひ・・・」
ほむら 「・・・」
これも恒例行事。
だけど、私にとっては特別な意味を持つ行事。
この時間軸におけるまどかとの出会い。
私は何度となく繰り返した、まどかとの”最初の出会い”で、心に秘めたとある決意を新たにする。
今度こそ、まどかを救ってみせる、と。
その決意、想いだけが、たった一つ。私に残された道しるべだから。
・・・だけれど。
まどか 「そういえば、自己紹介まだだったよね。私は」
せっかくのまどかとの出会いなのに、今の私はほんの少しだけ上の空だった。
ほむら 「・・・」
まどか 「え、えっと・・・あ、暁美さん?」
それは、あの男の言っていた言葉。
頭に角のような突起を持つ、赤い色のロボットの事。
確かに私には見覚えがある。
ほむら (だけれど、それはこの時間軸での出来事じゃない・・・)
まどか 「うぇひ~・・・暁美さんったらぁ・・・」
どうしてあの男がロボットの事を知っているのか。
ありえない。たんなる偶然?
でも、だとしたら、どうして私にそんな話を・・・
まどか 「暁美さんったら!」
ほむら 「っ!」
まどか 「ねぇ、ボーっとしちゃってだいじょうぶ?具合でも悪いの?」
ほむら 「あ、ご、ごめんなさい・・・ちょっと考え事をしていて」
まどか 「どうしたの?心配事?」
まどかを不審がらせてはいけない。
今はまどかとの時間に集中しよう。
ほむら 「ううん、なんでもないわ。それで、なんだったかしら」
まどか 「うん。自己紹介がまだだったなって。うぇひひ・・・私の名前はね」
ほむら 「まどか」
まどか 「え・・・」
ほむら 「鹿目まどか・・・さん、でしょ」
まどか 「う、うん・・・あれ、もう自己紹介しちゃってたっけ???」
ほむら 「ううん」
まどか・・・まどか・・・
もう幾度繰り返したか知れない自己紹介を、この新しい時間軸でも繰り返し、何回口にしたか覚えていない「はじめまして」を、再び言の葉に乗せる。
願わくば、この「はじめまして」が。
最後の「はじめまして」となりますよう・・・
ほむら 「・・・」
まどか 「え、えっと・・・あの・・・暁美さん・・・???」
ほむら 「ほむらで良いわ。はじめまして、鹿目さん」
まどか 「あ、う・・・ほ、ほむ・・・ら、ちゃん・・・?は、はじめまして・・・」
・・・
・・・
放課後
教室内
まどかは美樹さやかたちと連れ立って、すでに教室からは姿を消していた。
彼女達はこの後、ショッピングモール内で軽食を取るつもりだろう。そしてその後・・・
ほむら 「・・・」
私は手早く机の中のものを鞄に詰め込むと、椅子を蹴るように席を立った。
彼女たちの後をつけ、監視しなければならない。
いつもの時間軸通りなら、間もなく彼女達は魔女の結界に囚われることになる。
竜馬 「待てよ」
すでに人影の絶えた教室。
残っていたのは私一人だけだったはずなのに、声の主はいつの間にか私の背後に忍び寄り、不意に声をかけてきた。
この無遠慮な声色は・・・
ほむら 「・・・流、君?」
竜馬 「ああ。ちょっと時間を取らせて貰えねぇか。話がある」
ほむら 「私もあなたに確認したい事がある。けど、今はダメ」
竜馬 「急ぎの用でも?」
ほむら 「ええ」
竜馬 「悪いが、無理やりにでも相手をしてもらうぜ。俺はこの一月、訳の分からない場所に訳の分からない状況で放り込まれたんだ。そんな中でやっとあんたと言う、手がかりになりそうな奴を見つけたんだからな」
ほむら 「・・・」
竜馬 「もう待てねぇ。これ以上は俺がもたねぇ」
ほむら 「・・・話を聞かないとは言っていないわ。ただ、今は忙しいと言っているの」
竜馬 「そうかい。だが、悪いな。ここは俺の都合を優先させてもらうぜ」ぎりっ
ほむら 「・・・っ」
またあの敵意。
ただの中学生では出しえない、修羅場を潜った者のみが出せる、えもいわれぬ圧迫感。
そんな物をこの男からは感じられる。
ほむら (こいつ、何者なの)
なんにせよ・・・
ほむら (逃がす気は無いと言うわけね・・・魔法を使ってどうにかするのは簡単だけど、事を荒立てたくない・・・)
ほむら 「分かったわ。ただ、私は本当に急いでいるの。だから、歩きながらでも良ければ。それなら話を聞くわ」
竜馬 「・・・ああ、それで良い」
・・・
・・・
下校途中
ショッピングモールへと続く道
ほむら 「それで、話と言うのは?」
竜馬 「ああ。朝も少し話したが、ロボットの件だ。でかくて赤くて・・・」
ほむら 「頭に二本の角がある・・・」
竜馬 「・・・やはりあんた、ゲッターに見覚えがあるんだな?」
ほむら 「ゲッター?ロボットの名前?」
竜馬 「そうだ、ゲッター。ゲッターロボだ」
ほむら 「ゲッターロボ・・・」
そんなロボットの名前には聞き覚えが無いけれど。
だけれど、やっぱり間違いはないようだ。
この男は、私が前の時間軸で見たのと、同じロボットの事を言っている。
ゲッターロボとは、あのロボットの名前なんだろう。
でも、何故?
今の時間軸の人間であるはずの彼が、私が前の時間軸でロボットを”見た”という出来事をどうして知っているの?
ほむら 「・・・ふふっ。ロボットなんて、見たことがあるわけ無いじゃない」
私はカマをかけてみることにした。
竜馬 「なっ・・・?」
ほむら 「でかいとか赤いとか、テレビかアニメの見過ぎなんじゃないの?」
竜馬 「さっき、頭に角があるとあんたも・・・」
ほむら 「それは朝方に流君が自分で言ったことじゃない。私はちょっと話に乗ってあげただけ」
竜馬 「どうあっても、しらばっくれるつもりか」
ほむら 「しらばっくれるも何もないわね。そもそも、なぜ私にロボットの話なんかするのかしら」
竜馬 「いたからだよ」
ほむら 「・・・?」
竜馬 「お前がロボットを見ていた場に、俺もいたからだよ」
ほむら 「・・・」
あの場にいた?
まどかが魔女へと成り果ててしまい、私が一つの時間軸を切り捨てる決意をした、あの忌まわしい場所に・・・
この男もいた?
ほむら 「そんな・・・」
だって、ありえない。
あの場所にいて、私がロボットを見ていたのを知っているのは、ほんの限られた者のみ。
私自身。それにキュゥべえ。
あとは・・・
ほむら 「あ・・・」
竜馬 「そうだ」
あと一人。
あの場にいて、ロボットと私の邂逅を見ていた者。
それは・・・
竜馬 「俺だ」
ほむら 「あなた、が・・・?」
竜馬 「そうだ、俺だ!」
竜馬 「俺が、ゲッターロボだ!」
あのロボット自身だ。
・・・
・・・
ショッピングモール内のファーストフード店
さやか 「自己紹介もまだなのに、まどかの名前を知ってたって?」
まどか 「そうなの・・・なんでなのかな」
さやか 「してたんじゃないの?自己紹介。まどかが忘れてるだけでさ。まどかって、どっか抜けてるところあるから」
まどか 「うう、ひどいよ・・・私、まじめに悩んでるのに」
仁美 「それにしても・・・今回の暁美さんと言い、この前の流君と言い、転入生はお二人とも、なんと言うか、個性的な方でらっしゃいましたね」
さやか 「だねー。この時期に転入だなんておかしな話だし、二人ともなにかイワクでもあるのかもね」
仁美 「イワク?」
さやか 「前の学校で、転校せざるを得ない、なにかをしちゃったとかぁー・・・」
まどか 「もう、さやかちゃん。やめなよ」
さやか 「冗談だって。あ、でも。そういえばあの時、流が転校生に何だかからんでたよね?」
まどか 「うん。ちょっと変な雰囲気だったから、割って入ったつもりだったんだけど・・・」
仁美 「冗談抜きで、あの二人には何か繋がりがあるのかも知れませんわね」
さやか 「・・・」
まどか 「・・・」
仁美 「・・・あ。もうこんな時間?ごめんなさい、お先に失礼しますわ」
さやか 「今日はピアノ?日本舞踊?」
仁美 「お茶のお稽古ですの。はぁ、もうすぐ受験だって言うのに、いつまで続けさせられるのか・・・それでは、また明日」
さやか 「うん」
まどか 「がんばってね」
・・・
・・・
ショッピングモール
CDショップ内
さやか 「じゃ私、恭介にあげるCD選んでくるから。悪いけど適当に曲でも聞いて、待っててくれる?」
まどか 「分かったよー」
まどか 「ふんふーん♪」きょろきょろ
まどか 「・・・あ、これ今月の新譜。うぇひひ、ちょっと視聴してみようかなぁ」(ヘッドホン装着)
まどか 「~~♪」
(まどか)
まどか 「・・・?」
(まどか)
まどか 「え・・・っ」(ヘッドホン外し)
まどか 「なに、今の声・・・」
(まどか、まどか)
まどか 「うぇひっ!?ヘッドホン外したのに!?CDの音じゃない・・・?」
(まどか、僕の声が聞こえるかい?僕、君に話があるんだ)
まどか 「頭の中に直接・・・?誰、誰なの?」きょろきょろ
(こっちだよ)
まどか 「・・・」とことこ
・・・
・・・
さやか 「おまたせー、まどか!」
さやか 「・・・まどか・・・いない?」
・・・
・・・
ショッピングモール
非常階段
(まどか、まどか)
まどか 「・・・どこに、いるの?あなた誰?」
? 「ここだよ、まどか。来てくれてありがとう」ひょこっ
まどか 「わ・・・え?ね、猫?ウサギさん・・・?あなたなの、私を呼んだのは」
キュゥべえ 「そうだよ、まどか。僕の名前はキュゥべえ。よろしくね」
まどか 「よ、よろしく・・・」
私は少し離れた場所で、キュゥべえとまどかが出会うのを見ていた。
ほむら 「ちっ」
思わず舌打ちが出てしまう。本当なら、二人が出会う前に手を打ちたかったのだけれど。
私の後ろでは、流竜馬が怪訝な顔で私を覗き込んでいる。
竜馬 「お前の用事って、これなのか・・・?」
ほむら 「まぁ・・・」
あいまいに答えておく。正直今は、彼の事が少し忌々しい。
彼のおかげで、貴重な時間を費やされたのは事実なのだ。
・・・話の内容は、それは私にも確かに興味があることだったのだけれど。
竜馬 「あそこにいるの・・・同じクラスの鹿目・・・まどかといったか。あの子、何をしているんだ」
ほむら 「ここからは、あなたには関わりのない事よ。話の続きは、また時間を作るわ。とっとと帰ってくれるかしら」
竜馬 「つーか、鹿目の前にいる動物、あれはなんだ?猫・・・とはちょっと違うようだが」
ほむら 「・・・聞こえなかった?邪魔だから帰れと言ったの。あなたには無関係・・・」
・・・ん?今、彼、動物って言った?
竜馬 「あんなすごい耳毛のある動物、そうそういないよな」
ほむら 「・・・」
竜馬 「ん、どうした?」
ほむら (あんぐり)
竜馬 「とんびに油揚げさらわれたような顔をしてるぜ」
ほむら 「・・・見えるの?」
竜馬 「は、なにが?」
ほむら 「キュゥべえ・・・あそこの白い生き物・・・」
竜馬 「・・・?見えるも何も、あそこにいるだろ。当たり前だ」
ほむら 「・・・どういうこと?」
竜馬 「・・・ん、待てよ。あの白いの、お前と初めて会ったあの日にも見たような・・・」
ほむら 「・・・」
竜馬 「そうだ。確か、お前の足元に小さな動物がいたな。あれ、あいつじゃないのか」
・・・この男は。
こんな短い間に、いったい何度、私を驚かせれば気が済むのだろう。
間違いない、流竜馬にはキュゥべえが見えているのだ。
と、言うことは。
ほむら 「流君、ちょっと質問なんだけれど。あなたが私をはじめて見たという日、他に見えた物は無かったかしら」
竜馬 「ああ・・・あの、馬鹿でかい化け物みたいな奴の事か?」
ほむら 「・・・見えていたのね、まどかの事を」
竜馬 「まどか?鹿目にもなにか関わりがあるのか?」
ほむら 「・・・」
竜馬 「・・・まぁ、いい。その化け物、俺達が戦っていた”敵”かと思ってな。突っ込もうとした矢先に・・・」
ほむら 「どうなったの?」
竜馬 「・・・わからねぇ」
ほむら 「分からないって・・・」
竜馬 「そっから先の記憶がはっきりしねぇんだよ。ふいに意識が遠のいて、気がついたら・・・」
キュゥべえ 「まどか、君には今、何か叶えたい望みはあるかい?」
まどか 「望み・・・?」
キュゥべえ 「そうだよ。君が望む事があれば、僕がなんだって叶えてあげる」
まどか 「え、ええ・・・??」
キュゥべえ 「その代わり、君にお願いしたい事があるんだ」
まどか 「なんなの・・・?」
しまった!
もう、猶予はない。
私はまどかと、奴。インキュベーターの元へと駆け出した。
竜馬 「俺は・・・て、おい!話の途中だぞ!」
ほむら 「・・・」
流竜馬の呼びかけはこの際無視し、私は意識をソウルジェムに集中させる。
途端に眩い光が私を包み・・・
竜馬 「!?」
一瞬の後。
光が収まった後には、魔法少女姿へと装いを新たにした私が現れた。
竜馬 「な、なんだ・・・変身、しやがったのか・・・?」
間髪をいれず、左手のバックラーから小銃を取り出す。
が、そこで一瞬、私は動きを止めてしまう。ざらついた感覚が、バックラーから伝わってきたからだ。
ほむら (バックラーの中に違和感・・・?)
ほむら (ううん、今はそれどころじゃない。あいつにこれから先を話させちゃいけないんだ)
躊躇はない。
疑問は後回しに追い出して、狙いを定め、撃つっ!
キュゥべえ 「僕と契約して、魔法少女になっt(ぱんっ!)
キュゥべえ 「う・・・」どさっ
まどか 「・・・え、え。ほ、ほむらちゃ、ん・・・・ひっ!?」
突然現れた私と横たわるキュゥべえを、何が起こったか分からないといった顔で見比べていたまどかだったが・・・
まどか 「ひ、い、いやあああっ!?」
無残にも朱に染まったキュゥべえを見て、つぼみの様な唇から悲痛な叫びが上がった。
驚愕と恐怖をない混ぜた両の瞳が、私を凝視している。
あの眼差しは、何度向けられても胸が痛む。
ほむら 「鹿目まどか・・・」
だけれど。
これは誰のためでもない。まどか自身のためなんだ。
・・・まどかのためだったら、私はどう思われたっていい。
ほむら 「そいつから離れて」
まどか 「ほ、ほむらちゃん、なんで!?どうしてこんなひどい事を!!」
ほむら 「あなたには関係ない。良いから離れなさい」
まどか 「だってこの子、怪我してる・・・」
ほむら 「・・・」(ちゃっ)
私は応えず、銃口をうずくまって震えているキュゥべえに向けた。
キュゥべえ 「う・・・うぅ・・・まどか、僕を助けて・・・」
まどか 「だ、だめっ!」がばっ
ほむら 「まどか、どきなさい」
まどか 「ダメだよ!酷い事しないで!」
ほむら 「言ったはずよ。あなたには関係ない」
まどか 「だって、この子、私を呼んでた!今だって、助けてって・・・!」
ここで、まどかと問答をする気はない。
私はただ、自分の成すべき事を成すのみ。
ほむら 「そう・・・」
まどか 「っ!」
ほむら (キュゥべえに覆いかぶさって・・・これじゃ撃てないわ)
引き剥がすしかない。
そう思って、私がまどかへ手を伸ばそうとした刹那。
その腕が強い力で掴まれた。
ほむら 「っ、流竜馬!」
竜馬 「お前・・・なにやってるんだ?」
ほむら 「あなたには関わりがない。何度言わせるの?」
竜馬 「そうはいくかよ。こんな小さな生き物に銃口向ける女なんざ、野放しにしておけるはずがいだろ。おい、鹿目!」
まどか 「は・・・え?な、流君・・・?」
竜馬 「ここは任せて、そいつを連れて逃げろ!」
ほむら 「ちょっ」
まどか 「だ、だって、ほむらちゃん、鉄砲もって・・・」
竜馬 「心配いらねぇから、早く行け!」
まどか 「う、うん!」たたたっ
ほむら 「まどか、待って!くっ、離してったら!」
竜馬 「お前が持ってる物騒なもの、先に手放したら離してやっても良いぜ」
ほむら (埒が明かない。かといって、手を掴まれている以上、時間停止でやり過ごす事もできない)
ほむら 「仕方がないっ!」
私は自由になる方の手。つまり、銃を持っている手を流竜馬へと向けた。
銃口が彼の眉間を狙い定める。
竜馬 「・・・何の真似だ?」
ほむら 「至近距離。撃てば絶対に外さない」
竜馬 「ほぉ・・・」
ほむら 「その手を離して。さもなくば・・・」
この男には聞きたい事が山ほどある。
しかし、今はまどかを追う事が何よりも優先されなければならない。
間もなくこの辺り一帯は、魔女の結界に取り込まれることになるのだから。
ほむら (早く追いかけて、まどかを護らなくてはいけない。そのためだったら・・・)
聞きたいことを聞けず、謎を謎のままで終らせてしまうことも私は躊躇わない・・・
ほむら 「撃つわ」
竜馬 「やってみろよ」
ほむら 「・・・」
竜馬 「撃ってみろと言っているんだ」
ほむら 「あなたも見ていたでしょう。この銃から出るのは実弾。玩具じゃないわ。それに私は、目的のためなら人ひとり、殺す事になんの躊躇もない」
竜馬 「だろうな。お前の目を見ていれば分かる」
ほむら 「え?」
竜馬 「お前、数え切れないほどの死を置き去りにして、今のこの場所に立っているな」
ほむら 「・・・」
竜馬 「お前と同じ目をした奴を俺は知っているんだよ。だから分かる」
・・・こいつ、自分の事を言っている?
ほむら 「・・・そう。だったら私が本気だと言うことも分かるのでしょう?」
竜馬 「ああ」
ほむら 「離して」
竜馬 「撃てと言っている。俺には当たらん」
ほむら 「・・・」
竜馬 「・・・」
まどか 「きゃーーーーっ!?」
ほむら・竜馬 「!!」
・・・
・・・
まどか 「はぁはぁ・・・思わず逃げてきたのは良いけど、どこに行けばいいんだろう」
キュゥべえ 「と、とにかく・・・さっきの子の目の届かない場所に・・・もう少ししたら、僕の友達が来てくれるから・・・」
まどか 「友達?う、うん、分かったよ。なるべく遠くまで行こう」
・・・
・・・
まどか 「はぁはぁ・・・こ、ここまで来れば・・・」
まどか 「・・・」
まどか 「・・・あれ、非常口は・・・え、え?どこ、ここ!」
まどか 「周りの景色が歪んで・・・なにこれ・・・私、悪い夢でも見てるの・・・?」
キュゥべえ 「気をつけて・・・どうやら僕達は魔女の結界に飲み込まれてしまったようだ・・・」
まどか 「魔女・・・?キュゥべえ、なにを言ってるの?」
キュゥべえ 「ぜぇぜぇ・・・」
まどか 「キュゥべえ、痛いの?しっかりして!」
まどか 「・・・」
まどか 「な、なにか・・・いる?」
使い魔たち 「キキキキ・・・」
まどか 「っ!?な、なにあれ?なんなの!?」
キュゥべえ 「あれは魔女の使い魔・・・まどか、危ない。早く・・・に、逃げるんだ・・・」
まどか 「逃げろたって、どこに!?私たち、囲まれちゃってる!」
使い魔たち 「キキ・・・」
まどか 「いや・・・嫌だよぉ・・・い、いや・・・」
使い魔たち 「キキーーーーッ!」
まどか 「いやあああああああっ!!」
竜馬 「おらあああああっ!!」ドガガッ!!!
・・・
・・・
まどかの悲鳴と竜馬の雄たけび。二つの叫びがほぼ同時に、魔女の結界内を震わせた。
そして、蹴散らされてゆく使い魔たち。
ほむら 「使い魔を倒している・・・」
魔法少女でもない流竜馬が。
しかも、素手で。
竜馬 「なんだ、こいつら!」どかっ!
竜馬 「しかも、なんだよ、ここは!さっきとはまるで別の場所じゃねぇか!」ばきっ!
竜馬 「おい、鹿目!怪我はないか!?」どががっ!!
まどか 「な、流くん・・・?う、うん・・・」
竜馬 「そいつか良かった!おい、暁美!」
ほむら 「え・・・」
竜馬 「呆けてるんじゃねぇよ、一時休戦だ!あんな物騒な得物を持ってるんだ、戦えるんだろ!?」
ほむら 「ええ・・・」
竜馬 「ならば、後でいろいろ聞かせて貰おうじゃねぇか。さっきの話の続きもな」
ほむら 「わかった・・・!」
まずはまどかの安全を確保する。
今はその事にのみ、集中しよう。
・・・
・・・
竜馬 「・・・終わりか?」
ほむら 「ええ、もう使い魔の気配は感じない」
辺りを見回して、それから視線を足元に落とす。
おびただしい、使い魔の死体の山。そのほとんどは流竜馬が素手で倒したものだ。
ほむら (それなのに・・・)
竜馬 「鹿目、終ったようだぜ。良かったな、間に合って。死なずに済んだものな」
まどか 「あ、ありがとう・・・流君こそ、怪我してないの?」
竜馬 「そんなへましねぇよ」
ほむら (無傷どころか、息すら上がっていない。どれだけタフだって言うのよ。化物なの?)
竜馬 「お・・・周りの景色が歪む・・・?」
ほむら 「この結界内の使い魔を全て倒したから。結界が解かれて、通常の空間に戻るのよ」
まどか 「きゅ、キュゥべえも言ってたけど結界って・・・?」
ほむら 「・・・まどか、もう安全よ。ひとまずはね」つかつか
まどか 「うぇひ?」
私はまどかに近づくと、その腕の中で丸くなっているキュゥべえをひょいと摘み上げた。
まどか 「あっ、キュゥべえ!キュゥべえを返して!」
ほむら 「悪いことは言わない。今日の出来事と、こいつの事は忘れてしまうことね。さもないと」
まどか 「さ、さもないと・・・?」
ほむら 「再びまた、悪夢のような出来事に巻き込まれる事になる。何度も何度も、そう・・・」
ほむら 「死ぬまでね」
まどか 「そんな・・・」
竜馬 「おい」
ほむら 「後で話の続きをしましょう」
竜馬 「そんな事より、そいつを」
ほむら 「良いの?」
竜馬 「・・・あ?」
ほむら 「私の邪魔をするということは、私と敵対すると言うこと。あなた、私に聞きたい事があるんじゃないの?」
竜馬 「・・・てめぇ」
ほむら 「あなたとは出切る事なら穏便に付き合って行きたいと思っているわ。私だって、流君には聞きたい事が幾らでもあるんだから」
竜馬 「・・・」
ほむら 「話は向こうで。それじゃ、まどか。また学校でね」
まどか 「ま、待って!」
追いすがろうとするまどかを振り切り、私はショッピングモールを後にする。
為すすべ無しといった体で後を追う、流竜馬を従えて。
・・・
・・・
廃ビルの敷地内。
ほむら 「ここなら人目にもつかないわね。落ち着いて話ができる」
竜馬 「・・・」
ほむら 「さて・・・」
私はポイっとキュゥべえを地面へと投げ捨てた。ゴム鞠のように数度弾んで地に墜ちる。
あいかわらず苦し気な息を吐きながら、身体を震わせている、その姿が白々しい。
ほむら 「もう良いんじゃない?ここにまどかはいないし、いい加減にそのわざとらしい演技は終わりにしたら?」
キュゥべえ 「・・・」
竜馬 「おい、動物相手に何を言って・・・」
キュゥべえ 「やれやれ」ひょこっ
竜馬 「!?」
キュゥべえ 「別に演技していた訳じゃないんだけれどね。僕だって生き物だから、痛くて苦しいのは事実だし」
竜馬 「しゃ、喋りやがった」
ほむら 「そう。そして・・・」
ぱんっ
キュゥべえ 「きゅっぷぃ!」ばたっ
竜馬 「お、お前!なに、いきなり撃ち殺してるんだよ!」
ほむら 「落ち着いて、流君。すぐに分かるわ」
竜馬 「分かるって、何が・・・」
ひょこっ
竜馬 「え・・・」
ほむら 「ほら、ね」
どこからともなく現れた、もう一匹のキュゥべえ。
そいつは何事もなかったかのように私たちの前を素通りし、今しがた撃ち殺したばかりのキュゥべえの死骸へと歩を進める。
そして・・・
キュゥべえ 「むしゃむしゃむしゃ・・・ごくん。キュっプイ」
竜馬 「・・・死骸を食ってる」
ほむら 「ね?こいつを殺す事なんて、不可能な事なのよ」
キュゥべえ 「だからといって、僕をむやみに潰すのは感心しないね。代わりはいくらでもいるけど、もったいないじゃないか」
竜馬 「喋るわ、殺しても代わりの奴が出てくるわ、死体を食っちまうわ・・・いったい何がどうなってるんだ」
キュゥべえ 「ところで君は魔法少女だよね。名前は・・・?」
ほむら 「暁美ほむら・・・」
キュゥべえ 「暁美ほむら、か。おかしいな、僕には君と契約した記憶がないのだけれど」
ほむら 「私のことなんか、どうだって良い。それよりも」
私とキュゥべえ。二つの視線が流竜馬を捉える。
竜馬 「あ?」
キュゥべえ 「・・・彼には君以上に驚かされたよ」
竜馬 「いや、俺の方がさっきから驚きっぱなしなんだが」
キュゥべえ 「君には僕の姿と声が認識できているらしいね」
竜馬 「頭がおかしくなったんじゃなければな」
キュゥべえ 「意志の疎通はできている。だいじょうぶ、君の精神は正常だ。正常だけれど、なぜこんな現象が起こっているのか、それが僕には分からない」
ほむら 「ええ、あなたなら何か知ってる事があるかと思って。それで、話のできる場所へ連れてきたのだけど」
キュゥべえ 「だとしたら悪いけれど、君の期待には応えられないな。暁美ほむら、正体の分からない君もイレギュラーだけれど、こっちの彼・・・えっと?」
竜馬 「流・・・竜馬、だ」
キュゥべえ 「竜馬の存在は、それをはるかに突き抜けている。とびっきりのイレギュラーだよ。まったく訳が分からないよ」
竜馬 「訳の分からないのは、お前達の方だと思うがな・・・ええと、お前、名前はなんだったっけ?」
キュゥべえ 「僕の名前はキュゥべえ。よろしくね、竜馬。君は僕がこの星に来て、初めて言葉を交わした人間の”男性”だよ」
・・・
・・・
竜馬 「つまり、お前は魔法少女になって、魔女って敵と戦っているってことか」
ほむら 「ええ、ここにいるキュゥべえに、上手いこと言いくるめられてね」
キュゥべえ 「言いくるめるとは人聞きが悪いな。僕は何も、事実と違うことを君達に言ったことはないはずだよ」
ほむら 「そうね。私たち魔法少女はキュゥべえに願い事を一つだけ叶えてもらい、その対価として魔女と戦う宿命を負った」
キュゥべえ 「契約は君達の意志によって為された。僕は何も強制していない。負った宿命だって覚悟の上だったはずだよ?」
ほむら 「最も重要な事を、意図的にぼかしておいて、よくもまぁぬけぬけと・・・」
キュゥべえ 「・・・君は何をどこまで知っているんだい?」
ほむら 「いちいち説明する義理はないわ」
キュゥべえ 「・・・そうかい」
竜馬 「その、魔女って言うのは、いったいどういった輩なんだ?」
キュゥべえ 「魔法少女が希望から生まれるのなら、魔女はその対極、絶望の呪いから生まれるんだ」
ほむら 「奴等は人の世にこっそり忍び寄り、虎視眈々、獲物である人間を狩ろうと狙っているわ」
ほむら 「結界と言う蜘蛛の巣に絡め取られた、哀れな獲物を、ね」
竜馬 「結界・・・そういえばお前、さっきの変な場所でも、そんな事を言っていたな。じゃあ、あれが・・・」
ほむら 「そう。ただし、あそこには魔女はいなかったけれど」
竜馬 「いきなり襲いかかって来た、あの化け物たちは魔女とは違うのか?」
ほむら 「あれは魔女に使役されている使い魔に過ぎない。本当の魔女の厄介さは、あんな奴らの比じゃないわ」
竜馬 「まぁ、確かに手ごたえのない奴らだったしな」
ほむら 「・・・」
キュゥべえ 「・・・」
竜馬 「な、なんだよ」
キュゥべえ 「普通の人間はね、魔女の結界に踏み込んだが最後、まず生きては出てこられないんだ」
ほむら 「腕っ節の強さとか、そんなのは関係なくね。なぜだか分かるかしら」
竜馬 「何が言いたい・・・?」
ほむら 「普通の人にはね、見えないのよ。魔女や、使い魔の姿が」
竜馬 「はぁ・・・?」
キュゥべえ 「さらに言えば、僕の姿もね」
竜馬 「・・・??」
キュゥべえ 「僕や魔女、使い魔の存在が認識できる者はね。ほんの一握りの限られた人間だけなんだ」
ほむら 「私のような魔法少女か・・・あるいは・・・」
キュゥべえ 「魔法少女になる素質を持った者か、だね」
竜馬 「は、はは・・・バカ言うなよ。じゃあ、お前等の言うことが本当なら、俺は・・・」
ほむら 「流君には魔法少女としての素質があるって事になるわね」
竜馬 「やめろ、気持ちが悪い!」
ほむら 「まったくだわ、吐き気がする」
竜馬 「・・・ぐっ」
キュゥべえ 「暁美ほむら。それは言いすぎじゃないかな。竜馬が少し、悲しそうな顔をしているよ」
竜馬 「してねぇよ」
キュゥべえ 「まぁ、ともかく。だから、さっき言ったじゃないか、流竜馬。君はとびっきりのイレギュラーだと」
竜馬 「お前、俺が初めて言葉を交わす男だって言ったな」
キュゥべえ 「そうだよ。なにせ魔法少女は女の子しかなれないからね。必然的に僕の事を認識してくれるのは、少女だけってことになる」
キュゥべえ 「僕がこの星に来てかなりの年月がたつけれど、今日みたいな日は初めてだ。流竜馬、君は実に興味深い存在だよ」
竜馬 「俺が魔法少女、か・・・」
キュゥべえ 「試しに契約してみるかい?」
ほむら 「やめて、本当にやめて。あなたの運命も、視覚的にも、ろくなことにならないから」
竜馬 「さっきからお前、ちょっと酷いんじゃないか」
竜馬 「とはいえ。俺だって、自分の女装なんざ見たくもないがな」
ほむら 「賢明だわ」
キュゥべえ 「まぁ、無理強いはしないよ。でも、叶えたい望みができたら声をかけてね」
竜馬 「覚えてはおく・・・」
キュゥべえ 「・・・」
竜馬 「ん・・・待てよ。確かさっき、鹿目はお前の事を暁美から庇っていたよな。つまり、あいつはお前が見えてたって訳だ」
キュゥべえ 「それはそうだよ。だって僕は、まどかに魔法少女になってくれるよう、お願いしにきたんだからね」
竜馬 「なるほど、鹿目も魔法少女になる資格があるって事か」
ほむら 「・・・そうね」
竜馬 「暁美はそれを、阻止しようとしていた」
ほむら 「・・・」
竜馬 「なぜだ?」
キュゥべえ 「それは僕からも聞きたいね。君はどうして、僕を殺そうとしてまで、まどかが魔法少女になることを阻もうとするんだい?」
ほむら 「・・・答える必要はないわ。それよりも、流君」
竜馬 「・・・」
ほむら 「魔女の事。私たち魔法少女のこと。こちらは色々と語らせてもらったわ。次はあなたが語る番」
キュゥべえ 「そうだね。僕も興味があるな」
ほむら 「あなたはいったい、何者なの?」
竜馬 「・・・俺は」
・・・
・・・
竜馬 「俺の話をする前に、一つだけ答えて欲しい。お前達、恐竜帝国って知っているか?」
ほむら 「きゅりゅう・・・って、あの恐竜?」
竜馬がこくんと頷く。
ほむら 「いいえ、聞いたこともないわ」
竜馬 「キュゥべえ、お前は?」
キュゥべえ 「さて・・・帝国と言うからには、それはどこかにある国なのかい?僕が知る限り、そのような国が存在したという話は知らないなぁ」
竜馬 「で、ゲッターロボも知らないと。そんなの、ありえねぇ事なんだがな」
ほむら 「ありえないと言われても・・・どういうこと?」
竜馬 「恐竜帝国は人類共通の敵だ。奴等は連日、世界中のあちこちに現れては、人々を襲い続けていた」
竜馬 「毎日毎日・・・どこかの街が襲われ、多くの人の血と涙が流される。まさに人々の生活は、生と死の背中合わせだったのさ」
竜馬 「それが、俺の生きてきた日常・・・のはずだった」
ほむら 「・・・それで、ゲッターロボと言うのは?」
竜馬 「ゲッターロボは、恐竜帝国から力なき人々を守るために建造されたスーパーロボットだ。恐竜帝国に対抗できる唯一の力・・・」
竜馬 「堅牢なる人類の盾。それが俺達ゲッターチームと、ゲッターロボなんだ」
キュゥべえ 「チームと言うからには、君の他にもゲッターロボにはパイロットがいるということかい?」
竜馬 「ああ・・・」
ほむら 「?」
竜馬が一瞬だけ目を伏せた。まつげの下に覗く、彼の瞳に宿った影。
寂しげな眼差しだと、なぜだか私には感じられた。
けれど、すぐに鋭い眼光を取り戻した竜馬は、話を再開する。
竜馬 「ゲッターチームは三人。それぞれが操縦する三機のマシンが合体し、ゲッターロボは生まれるんだ」
ほむら 「合体ロボ・・・ますますアニメの世界の話ね」
竜馬 「そうさ。悪の侵略者に正義のスーパーロボット。そいつらが戦いを繰り広げる、アニメのような世界さ」
竜馬 「だが、巨大な力のぶつかり合いは、当然周囲にも被害をもたらす。今まで人が生活を営んできた街は破壊され、巻き添えを食った人々が命を失っていく」
竜馬 「アニメのように綺麗に事はすすまねぇ。向けられる怨嗟。浴びせられる冷たい視線。だが、それでも戦いを止めることはできねぇ。生きるために。人類を滅ぼさないために・・・」
ほむら 「・・・」
竜馬 「それが俺たちの日常だったのさ」
ほむら 「流君・・・」
竜馬 「な。だから俺の常識として、ゲッターや恐竜帝国を知らない奴なんて、いるはずがねぇんだよ」
ほむら 「だけれど、私は本当にそんなもの、聞いたことも無いのよ・・・」
竜馬 「お前以外にも何人かに聞いてみたが、誰に聞いてもそう言われたよ」
竜馬 「放課後は新聞やテレビのニュースに噛り付いてもみた。だが、何を見たってゲッターのゲの字も出てきやしない」
ほむら 「・・・」
竜馬 「実際、あんなに頻繁に現れていた恐竜帝国も、なりを潜めたかのように姿を現しゃしないしな。だから、俺は・・・」
ほむら 「・・・?」
竜馬 「俺は、自分がおかしくなってしまったのではないかと・・・」
ほむら 「流君、それは・・・」
竜馬 「ゲッターのことなんざ知らない周りこそが正しくて、俺は今まで夢か幻の世界で戦っていたのではないかと、本気で疑い始めていた」
ほむら 「・・・」
竜馬 「だが、お前は俺の前に現れてくれた。暗闇の中に一点、灯った明かりを見つけ出した気分だったぜ」
キュゥべえ 「そこら辺のことを、もう少し詳しく話してもらえるかい?」
竜馬 「・・・あの日」
・・・
・・・
恐竜帝国の本拠地を探り当てた俺達は、雌雄を決する為に奴らの元へと向かっているところだった。
だが、後もう少しで敵の本拠地へ辿り着こうというところで、謎の現象に俺達は襲われた。
いきなり、眩い閃光がゲッターロボを包んだんだ。
周囲は真っ白に染まり、目は眩んで何も見えない。
どういったわけかゲッターのコントロールも利かなくなり、計器類に目を走らせたが眩しくって何も見えやしない。
・・・どれくらい、その状況が続いただろう。俺にはとてつもなく長い時間に感じたが、実際はほんの一瞬の出来事だったのかもしれないな。
ともかく。
謎の光が収まり、やっと視界を取り戻した俺達の眼に映ったのは。
破壊されつくした、しかし見覚えのない街並みと、超巨大な謎の化け物の姿・・・
ほむら 「・・・」
竜馬 「そして、お前だったって訳だ」
・・・
・・・
私があの時。前の時間軸の最後で経験した出来事と符合する。
やはり流竜馬は、あの時現れたロボットに間違いなく乗っていたんだ。
そのロボットこそ、彼の言うゲッターロボなのだろう。
竜馬の話を聞いて、私は確信を強くした。
しかし、それからの事が分からない。時間遡行が発動し、私が前の時間軸を離れた後。
彼に何が起こったのか。
ほむら 「それで。それからどうなったの?」
竜馬 「先刻も言ったと思うが、それからはわからねぇんだ。今度は不意に意識が遠くなり、次に目覚めた時には・・・」
キュゥべえ 「どうなっていたんだい?」
竜馬 「見滝原中学の転入生って事になっていた」
ほむら 「え・・・」
竜馬 「全てのお膳立ては済んでいた。俺は俺自身が理解できないままに、この街の住人として迎え入れられたって訳だ」
キュゥべえ 「君一人がかい?」
竜馬 「ああ。一緒にいた仲間も、俺たちが乗っていたはずのゲッターすらも、目が冷めた時には影も形も無くなっていた」
ほむら 「そんな事が・・・」
竜馬 「嘘だと思うか?なら、ちょっと聞くが、俺って何歳くらいに見える?」
ほむら 「え・・・何歳って・・・同じ年なんだもの。13歳か、14・・・」
彼の顔を見ながら言いかけて、思わず私は言葉を失ってしまう。
竜馬 「気づいたか?」
ほむら 「あなた、いったい何歳なの・・・?」
竜馬 「当年とって18歳。れっきとした高校三年生だ」
ほむら 「・・・っ!」
なぜ、今まで疑問にも思わなかったんだろう。
流竜馬の体格、顔つき、声に至るまで・・・どれをとっても同年代の男の子より遥かに大人びている。
中学生なんかには絶対に見えないのに、今の今まで、まったく違和感を感じる事がなかったなんて。
ほむら 「ど、どうして・・・」
竜馬 「それは俺が聞きたいくらいだ。俺が今まで生きてきた人生、経験や経歴、年齢や家族にいたるまで、俺はこの場所に何一つ持ち込めなかった」
竜馬 「恐竜帝国もゲッターも存在しない。俺の生きてきた証も何も無い。ここは・・・俺の知っている世界じゃない」
ほむら 「・・・」
違う世界からの来訪者・・・
彼の言うことが全て真実なら、そういう事になるんだろう。
違う時間軸から来た私もある意味で、別の世界の住人と言えない事もない。
しかし、流竜馬のそれは、まったく桁の違う話だ。
ほむら 「・・・私、流君は私の事を突き止めて、見滝原中に入り込んだんだと思っていたわ」
竜馬 「自分がまともかどうかすら疑わしかったんだ。そんな余裕は無かったさ。だが、お前が現れたお陰で、俺の記憶の正しさは証明された」
ほむら 「・・・」
竜馬 「・・・礼を言うぜ」
言い放った竜馬の眼光が、鋭く私を射る。
初めて会った時にも向けられた視線だ。
敵意。
その意味を私は知った。
ほむら 「私が、あなたをこの状況に追い込んだ張本人だと、そう思っているのね」
竜馬 「確信は無かったが、魔法少女とかいう妙な力と、そこの喋る動物・・・常軌を逸した存在である事は疑いねぇ。なにか、絡んでると見るのが自然だろ?」
ほむら 「そんなの、見せられる前から疑っていたくせに」
竜馬 「まぁ、勘だな」
ほむら 「・・・」
キュゥべえ 「ここでいがみ合っていても埒が明かないよ。それで竜馬、君は僕達がこの場所へ来る事になった原因だとして、どうしたいんだい?」
竜馬 「どうもこうもねぇよ。元の場所へと戻る方法を是が非でも聞きださせて貰う。俺は何としても、あの時、あの場所へと戻らなくちゃならねぇんだ」
キュゥべえ 「恐竜帝国とやらと、戦うために?」
竜馬 「それだけじゃねぇ・・・」
再び竜馬の表情に影が射す。が、それも一瞬。
竜馬 「暁美っ!」
ほむら 「!?」
不意に竜馬が飛びかかってきた!
意表を突かれただけじゃない。人間離れした彼の敏捷さに、私はまったく反応ができない・・・!
ほむら 「あぅっ!?」
竜馬の当身を喰らい、吹っ飛ばされる私。
その直後だった。
ぱーんっ!
一発の銃声が、周囲を振るわせたのは。
ほむら 「え、な、なに!?」
身を起こした私の目に映った物は、何かの大きな力を喰らい、抉れ返った地面の様相。
さっきまで、まさに私が立っていた場所だった。
ほむら 「これは・・・?」
竜馬 「おい、そこの!いきなり問答無用でぶっ放すとは、良い性格をしているな!」
竜馬の視線の先を追う。
廃ビルの屋上。人影が一つ。
逆光で陰になって良く見えないが、私には分かる。
あの銃声。この威力。こんな事ができるのは、彼女しかいない。
ほむら 「巴、マミ・・・」
竜馬 「なんだって?」
人影 「・・・私の事をご存知のようね」ひゅんっ
竜馬 「っ飛び降りた!?」
屋上から飛び降りた人影は、くるりくるりと身を躍らせながら、華麗に地面へと降り立った。
そして着地と同時に、手にしたマスケット銃の銃口をこちらへと向ける。
その、流れるような身のこなしには、さすがの竜馬も呆気に取られたようだ。
竜馬 「おいおい、嘘だろ・・・屋上からここまで、何メートルあると思ってるんだ・・・ていうか、あいつも・・・」
ほむら 「ええ。私と同じ、魔法少女よ」
マミ 「聞いたわよ。私の友達をずいぶんといたぶってくれたようね」
キュゥべえ 「マミ」
マミ 「キュゥべえ、無事だった?怪我は?」
キュゥべえ 「何とか平気だよ。それよりもよくここが分かったね」
マミ 「ええ・・・」
巴マミが、廃ビルの敷地入り口へと目を向ける。
そこには、物陰に隠れるようにこちらを伺う、もう一つの人影が。
ほむら 「まどか・・・つけてきてたの・・・?」
まどか 「うぇひっ・・・だ、だって、キュゥべえが心配だったから・・・」
そうか。あのあと、いつもの時間軸通りに現れた巴マミが、一人でいたまどかと接触。
事の次第を聞いて、まどかと一緒に私たちを探し当てたってところかしらね。
まどか 「ほむらちゃん。キュゥべえ、その人のお友達なの。ひどい事しないで、返してあげて・・・」
ほむら (その様子では、私がキュゥべえを撃ち殺したところは目撃されていないようね。なんにせよ・・・)
ほむら 「巴マミ。その物騒なもの、こちらに向けないでもらえるかしら」
マミ 「大切な友達を傷つけられて、そんな言い分が通ると思って?」
ほむら 「友達、ね」
思わず苦笑が漏れる。それを嘲笑と受け取ったのだろう、巴マミの顔がにわかに朱に染まった。
マミ 「何がおかしいの!?私、本当に怒っているんだからね!」
ほむら 「気に触ったら、ゴメンなさい。ただ、真実から蚊帳の外に置かれたあなたが、多少滑稽だっただけだから」
マミ 「っ、真実って何のこと!?」
ほむら 「言ってもあなたは理解しない。話したところで納得しない」
マミ 「何を言ってるの・・・!?」
ほむら (そして、理解できた時、あなたは壊れる・・・)
竜馬 「・・・おい」ひょいっ
キュゥべえ 「きゅっぷい」
竜馬 「何だかややこしい事になってるようだが、お前、説明してやれよ」
マミ 「!?」
キュゥべえ 「説明?何をだい?」
竜馬 「撃たれても、別になんでもなかったんだろ?その事、この芝居じみた動きの姉ちゃんに教えてやれって言ってんだ」
キュゥべえ 「何のことだい?僕には竜馬の言ってることが、まったく理解できないよ」
竜馬 「・・・こいつ」
マミ 「きゅ、キュゥべえを摘み上げてる・・・」
竜馬 「ん?」
マミ 「あなた・・・この子の事が見えてるの?」
竜馬 「あ、そうか。本来俺は、こいつが見えてちゃおかしいんだったよな」
ほむら (巴マミの意識が、逸れた・・・!)
マミ 「キュゥべえ、こっちへ・・・」
キュゥべえ 「わかったよ」
竜馬の手を振りほどき、キュゥべえがマミの胸へと飛び込む。
再び自分の元へと戻ったキュゥべえを抱きしめながらも、マミは竜馬から視線を外す事ができないようだ。
声が、動揺で震えている。
マミ 「この子が見えている、あなたはいったい・・・何者・・・?」
竜馬 「俺は・・・」
ほむら (今だ・・・っ)
巴マミの意識が、流竜馬へと逸れた今が好機だった。
意識をバックラーへと集中させる。
時間停止の魔法が発動し、私以外の全ての者の時が止まった。
耳が痛くなるほどの静寂が今、私を包み込んでいる。
ほむら 「今のうちに、巴マミの目の届かないところに行ってしまわないと・・・」
ほむら 「だけど・・・」ちらっ
竜馬 「」
マミ 「」
石像のように固まり、身じろぎ一つしない二人。
私が今、突然に姿を消し、流竜馬が一人マミの元に残されたら・・・
彼は一人、マミの追及を逃れる事ができるのだろうか?
ほむら 「平気よ平気・・・だいじょうぶ、だとは思う、けど・・・」
先ほど目の当たりにした、竜馬の身体能力。生半可な事では、彼に生傷一つつけることも難しいと思う。
だけれど、巴マミだって幾つもの修羅場を潜り抜けてきた、歴戦の魔法少女。
もし・・・
もし二人がこの後、戦うような事になったら・・・
どちらかが。あるいは二人とも。
傷ついて、互いにただでは済まないかも知れない。
ほむら 「・・・」
ほむら 「~~~」
ほむら 「~~・・・っ、もう!」
しばしの逡巡の後、竜馬の手をとる私。
彼をこのまま、この場に置き去りにする気には、どうしてもなれなかった。
竜馬 「俺の名前は流・・・あれ??」
私と接触する事で、竜馬の時間が再び動き出す。
竜馬 「おい、あんた・・・マミって言ったか?何を固まってるんだよ・・・」
ほむら 「・・・」
竜馬 「それで俺は、いつの間に暁美と手を繋いでたんだ?」
ほむら 「流君、私について来て。手は絶対に離してはダメ」
竜馬 「なんでだよ?ていうか、なんだか周りの様子が変だぜ。キュゥべえまで石みたいに固まっちまってる」
ほむら 「説明は後でするわ。良いから来て!」
竜馬 「な、なんなんだよ」
駆け出す私。不平を言いながらも、それに続く流竜馬。
私たちは廃ビルの敷地を抜け、そのまま街中へと向かった。
・・・
・・・
走る。
ひたすら走る。
行くあては、特に定まっていない。
ただ、少しでも遠くに。巴マミの目の届かないところまで行かなくては。
今の状況で彼女と敵対しても、私にはなんらメリットは無いのだから。
ほむら 「・・・」
竜馬 「これも魔法少女の力って奴なのか?」
ほむら 「・・・」
竜馬 「行きかう全ての奴らの動きが止まってやがる。人だけじゃねぇ。車や信号機みたいな機械までもだ」
ほむら 「・・・」
竜馬 「まるで、時間そのものが止まっちまってるみたいに、な」
ほむら 「・・・」
竜馬 「だんまりかよ」
ほむら 「・・・流君」
竜馬 「ん?」
ほむら 「さっき、どうして助けてくれたの?」
竜馬 「なんだ、さっきって」
ほむら 「巴マミ。彼女が私を狙って撃った弾丸よ。当たれば死なないまでも、大怪我は免れなかった」
竜馬 「ああ、あれ、な」
ほむら 「私はあなたにとって、こんな訳の分からない状況に追い込んだ、憎むべき相手じゃなかったのかしら。だったら・・・」
竜馬 「目の前で撃たれそうになってる奴を助けるのに、いちいち理由が要るのか?」
ほむら 「・・・」
竜馬 「それにな、話してみて分かったよ。お前、本当にゲッターの事を知らないみたいだな。そんな奴が、俺をどうこう出来るはずもない」
ほむら 「私の話、信用して良いの?」
竜馬 「嘘を言ってるかどうか。そんなのそいつの口ぶりや目を見ていれば分かるさ。それに俺はこうも言ったろ?感だって」
ほむら 「・・・案外、人が良いのね」ぽそっ
竜馬 「聞こえてるんだよ」
竜馬 「まぁ、お前がゲッターに細工したんじゃなくとも、あの場にいた以上、何らかの係わり合いがあるのは事実だ」
ほむら 「そうね。きっと、そうなのでしょうね」
竜馬 「だったら怪我されて、話ができなくなっても困るんでな」
ほむら 「・・・ありがとう」
竜馬 「らしくねぇな、どうしたんだ?」
ほむら 「信じてもらえた事が、少しだけ嬉しかったから」
竜馬 「?」
”あの時の彼女達”にも、今の竜馬のように言ってもらえてたら・・・
そんな詮無い想いが、空しく私の胸の内を吹き抜けていった。
竜馬 「案外、しおらしいところもあるのな。驚いたぜ」ぽそっ
ほむら 「きこえているわよ」
・・・
・・・
マミ 「・・・消えた?」
まどか 「ほむらちゃん・・・いったいどこにいっちゃったの・・・?」
マミ 「鹿目さんといったかしら。さっきの子たち、見滝原の制服を着ていたけれど。あなたの知り合いなの?」
まどか 「あ、はい。二人とも、私のクラスメートなんです・・・」
マミ 「そう・・・キュゥべえ」
キュゥべえ 「なんだい?」
マミ 「あの男の子、あなたの事が見えていたようだけれど、それについてなにか思い当たる事は?」
キュゥべえ 「さて。僕にもさっぱり、訳の分からない事だらけだよ」
マミ 「魔法少女でもないのに、キュゥべえと話したり触れたりできる。なぜ・・・?私たち以外で、そんな事ができる者がいるとしたら・・・」
マミ (・・・魔女?)
まどか 「あの・・・?」
マミ 「あ、ううん。なんでもないの。鹿目さん、あなたもキュゥべえや使い魔が見えてるのね」
まどか 「あ、はい・・・」
マミ 「じゃあ、改めて自己紹介しておかないとね。私は巴マミ。あなたと同じ見滝原中学の3年生。そして、キュゥべえと契約した魔法少女よ」
キュゥべえ (本当に訳の分からないことばかりだ。特に流竜馬。彼の事はおざなりにはできないね)
キュゥべえ (最優先で監視しなくては。そして、僕たちの計画に役立ってくれるようだったら、やがていずれは・・・)
・・・
・・・
次回予告
互いの思惑を異にしながらも、共闘を開始するほむらと竜馬。
片やまどかを守り、彼女の願いを叶えるため。
そして片や、己のいるべき場所へと戻るため、その方法を探るために。
そんな中、ほむらは謎の魔力の消耗に悩まされていた。
たちまち黒く濁るソウルジェム。焦るほむら。彼女の身に、いったい何が起こったのか?
次回 ほむら「ゲッターロボ!」第二話にテレビスイッチオン!
191 : 以下、名... - 2014/05/28 01:23:33.81 x8axIaIh0 124/1284ありがとうございました。
二話以降もお付き合い頂けたら嬉しく思います。
バラ園の魔女結界内
竜馬 「いまだ、暁美!」
ほむら 「わかってる・・・!」
私と流竜馬からの波状攻撃を受け、バラ園の魔女は紅蓮の炎に包まれた。
断末魔の雄叫びを上げながら、炎の中に崩れ落ちる魔女。
やがて。
炎の勢いがおさまり、魔女の身体が消し炭と成り果てた、その後に・・・
竜馬 「これか・・・」
私の目当てのものが、出現していた。
竜馬 「これが、グリーフシード・・・」
そっと手に取り、しげしげと眺めながらつぶやく竜馬。
竜馬 「魔女の卵であり、そして・・・」
ほむら 「私たち、魔法少女の成れの果て」
竜馬 「・・・」
ほむら 「いずれ私たち魔法少女は、例外なくその姿に成り果てる。途中で死んでしまわない限りは、ね」
竜馬 「今はそんな話は後回しだ。ほらよ」
竜馬が無造作にグリーフシードを放ってよこした。
弧を描いて飛んできたそれは、これまた無造作に差し出した私の手の中に、ストンときれいに収まる。
ほむら 「ナイスなコントロール・・・」
竜馬 「しんどいんだろ?早くお前の、それ・・・」
ほむら 「ソウルジェム」
竜馬 「浄化しちまえよ」
ほむら 「ええ・・・」
受け取ったグリーフシードをソウルジェムへとかざす。
どんよりと黒く濁り、今にも瘴気が溢れてきそうな私のソウルジェム。まさに限界の一歩手前といったところだった。
それがグリーフシードにより淀みを吸い取られる事により、徐々に本来の輝きを取り戻してゆく。
ほむら 「・・・」
私はソウルジェムが浄化されるさまを眺めながら、ぼんやりと昨日のことを思い出していた。
・・・
・・・
昨日
街中
時間の止まった街並みの中。
動く事のない人々を掻き分けながら、私たちは行く当てなどなく駆け続けていた。
竜馬 「いったいどこまで行くんだよ?」
ほむら 「巴マミから少しでも離れたい。これ以上彼女と事を荒立てるのは、得策ではないもの」
その時だった。
ほむら 「・・・?」
身体を駆け抜ける、違和感。
と、同時に。
ほむら 「・・・っ」
全身の力が頭の先から抜けていくような虚脱感が私を襲った。
足に力が入らず、思わず膝を折ってしまう私。
竜馬 「お、おい、いきなりどうした?!」
突然崩れ落ちた私に驚いて、思わず繋いでいた手を離してしまう竜馬。
しかし、彼の時が止まる事はなかった。
ほむら 「・・・え?」
地面に手をついて、荒い息を吐く私。
焦ったように私を覗き込む竜馬。
そして・・・
その脇を、怪訝そうな目で、幾人かの人々が行きすがる。
ほむら (時間停止の魔法が・・・解除されている・・・それにこの身体の気だるさ・・・まさか)
魔力が尽きかけている?
慌ててソウルジェムの輝きを確認すると、案の定だった。
ほむら (私のソウルジェム、黒く濁っている・・・)
でも、一体どうしてだろう。
そこまで魔力を消耗する戦い方なんか、していないはず・・・
竜馬 「暁美、どうした?ほら、立てよ!」
竜馬に促されるが、膝が笑って思うように足に力が入らない。
竜馬 「・・・立てないのか?」
ほむら 「無理みたい・・・」
竜馬 「一体いきなり、どうしたってんだ。どこか怪我でも負わされてたってのか?」
ほむら 「そうじゃない。ただ・・・」
そうこうしているうちにも、周りの視線は否が応にも集まってくる。
それはそうだ。ただでさえ目立つ格好の私が崩れ落ちていて、大柄の竜馬が側でなにやら話しかけている図は異様だもの。
人の目を引かないわけがない。
ほむら (早くこの場を離れないと・・・)
竜馬 「仕方がねぇな」
竜馬はくるりと後ろを向くと、チョコンとしゃがみこんだ。
彼の広く逞しい背中が、私の眼前を覆う。
ほむら 「え・・・なに・・・?」
竜馬 「背負ってやる。お前の家はどこだ。送ってやるよ」
ほむら 「え、あ、ちょ・・・」
竜馬 「早くしろ。これ以上目立ちたくないだろうが」
ほむら 「ほむぅ・・・」
確かに竜馬の言うとおりだ。
私は大人しく、彼の言うことを聞くこととした。
ほむら 「じゃ、じゃあ、とりあえずあちらに・・・」
竜馬 「あいよ」
私が指し示す方向に竜馬が駆け出す。
しばらくして人通りがまばらになったのを見計らい、私は変身を解いた。
魔力の負担が減ったためか、幾分身体が軽くなる。
ほむら (でも、どうして・・・ それにこれから、どうしよう)
竜馬の背に揺られながら、私は考えていた。
これからどこに向かおう。このまま家まで、大人しく送って貰っても良いものなのだろうか。
ほむら (クラスメイトなんだ。どうせ、隠し通せる事でもないのだし・・・)
夜の風が頬をなでる。疲れて火照った身体に、申し訳程度の癒しをもたらしてくれた。
・・・
・・・
ほむホーム
竜馬 「お前の家、どうなってるんだ」
ほむら 「開口一番、随分な言い草ね」
でも、竜馬の感想ももっともだ。
天井の歯車。
多数の映像が浮かんでいる壁面。
私が、私の目的を達するために、その作戦を練るために特化して作り上げた部屋は、他の者から見たら確かに異質なのだろう。
ほむら 「まずは・・・私を下ろしてくれないかしら。そこのソファーに」
竜馬 「あ、ああ・・・」
ほむら 「・・・ありがとう」
いったんソファーに横たえられた私だったが、すぐに身を起こすとキッチンへと足を運ぶ。
ほむら 「お茶、入れてくるわ。あなたも腰掛けて少し待っていて」
竜馬 「具合、もう良いのか」
ほむら 「ええ、だいぶ」
変身を解き、竜馬の背の上で休息を取れたお陰で、多少身体は楽になった。
とはいえ、私のソウルジェムが黒く淀んだままだと言うことに変わりはないけれど。
ほむら (迂闊だった)
こんなにも早くソウルジェムが濁るのだったら、先にグリーフシードの確保をしておくべきだった。
ほむら (濁ってしまった理由の詮索は後だ。まずは早急にグリーフシードを手に入れなくては・・・)
ほむら (戦えてあと一度が限度かしら。それ以上は無理が利かない)
魔女化してしまう・・・
ぞくりと寒気が、背を通り過ぎてゆく。
私が魔女となってしまえば、もうまどかを救える者はいなくなるのだ。
ほむら (そんなの、死ぬより恐ろしい)
明日、魔女を狩らなければならない。
それも速やかに見つけて、魔力を極力使わないように、戦闘自体もすばやく済ませてしまわねば。
ほむら (可能だろうか・・・)
あれこれ考えているうちにうちに煎れ上がったお茶を運びつつも、私の思案は途切れない。
ソファーでは、竜馬が落ち着かない様子で私の帰りを待っていた。
ほむら 「そわそわして、どうしたの?」
竜馬 「どうしたもこうしたも、どうもこの部屋は落ち着かない。お前はこんな所に住んでいて、落ち着いていられるのか?」
ほむら 「そうね。そもそも、くつろぐ事を目的とした部屋ではないから。さ、買い置きの安物で悪いけれど、これでもどうぞ」
言って、紅茶の入ったカップを差し出す。
スーパーで買った、徳用のティーパックで煎れたお茶。
巴マミが煎れてくれたような本格的な紅茶は必要ないし、今の私には興味もない。
味気はないが、ただ口を湿らせるだけなら、これで十分だ。
竜馬 「・・・ところでお前、さっきは一体何があったんだ?」
ほむら 「・・・」
竜馬 「今だって、そんなに回復してないんだろう。顔色を見れば分かるぜ」
ほむら 「・・・あなたには、今さら隠し事をしても意味がないし・・・」
竜馬 「え?」
ほむら 「これを見て」
竜馬 「これは・・・宝石?」
私が差し出したソウルジェムを覗き込みながら、竜馬が怪訝な表情を作る。
竜馬 「宝石のことはよく分からないが・・・なんだかあまり綺麗じゃないな。色がくすんでいやがる」
ほむら 「これはソウルジェム。魔法少女の魂・・・いいえ、正しくは魔法少女そのものよ」
竜馬 「は?」
ほむら 「見て、淀んでいるでしょう。これは、私自身が淀んでいるという事なのよ」
竜馬 「まったく、意味がわからねぇ」
ほむら 「魔法少女はね、契約した瞬間に、魂が肉体から抜かれてしまうの。抜かれた魂は、手にとって守りやすい形へと変化させられる」
竜馬 「ちょっと、待てよ。と言うことは、まさかこれが・・・」
ほむら 「キュゥべえが言うには、魔法少女の肉体は外付けのハードウェアでしかないそうよ」
竜馬 「・・・」
ほむら 「つまり、この宝石こそが私自身。本当の暁美ほむらなの」
竜馬 「じゃあ、さっきのマミって奴も・・・」
ほむら 「そう。そして、何の疑問も持たずにソウルジェムを持ち歩いている。これをただの変身アイテム程度に考えて、ね」
竜馬 「彼女は知らないのか、その事を」
ほむら 「ええ。彼女に限らず、このことに気がついている魔法少女は、ほとんどいないでしょうね」
ほむら (知ってしまったが最後、それはその子が魔女となる時でしょうから・・・)
竜馬 「お前、本当のことを知っているなら、どうして教えてやらないんだ?」
ほむら 「知っていても知らなくても、やらなければならないことに変わりはないからよ。この濁りにジェムが完全に染まってしまった時、私たち魔法少女は全ての魔力を失ってしまう」
ほむら 「そうならないように魔女を倒し、魔女の卵であるグリーフシードを手に入れなければならないの」
竜馬 「なんだ、その・・・グリーフなんちゃらというのは・・・」
ほむら 「魔女を倒すと、まれに出現する物の事よ。それでソウルジェムを浄化する事ができるの」
竜馬 「お前が具合悪そうにしているのは、つまりはその宝石が濁っているせいだって言う事か?」
ほむら 「そう。そして、今の私にはグリーフシードの持ち合わせが無い。一刻も早く手に入れなければならないの」
竜馬 「・・・」
ほむら 「なに?」
竜馬 「その宝石が、もし濁りきってしまったら・・・お前はどうなるんだ?」
当然の疑問だった。
先ほど自分で言ったが、今さら竜馬に隠し事をしても仕方が無い。
それに、私の言ったことを信用してくれた彼になら、むしろ話してみたい。
話して、どういった反応が得られるのか。それを知ってみたい。
そんな妙な好奇心も、今の私の中には芽生えていた。
ほむら 「・・・死ぬわ」
竜馬 「!」
ほむら 「人としては、ね」
竜馬 「・・・持って回った言い方をするな。一体どういうことなんだ?」
ほむら 「濁りきったソウルジェムは、別のものへと生まれ変わるの」
竜馬 「・・・?」
ほむら 「グリーフシードへと・・・」
竜馬 「ちょ、ちょっと待てよ。それって、魔女の卵の事だってお前、さっき言ったよな?それってつまり・・・」
ほむら 「そう、魔法少女は魔女へと生まれ変わるのよ」
竜馬 「!!」
ほむら 「それが私たち、魔法少女の逃れられない終末。運命」
竜馬 「じゃあ、お前も魔女に・・・?」
ほむら 「ええ、いずれ、必ずね」
竜馬 「・・・」
ほむら 「そんな悲しい結末が少しでも先延ばしになるように、私たち魔法少女にはグリーフシードが必要不可欠なのよ。でも・・・」
ほむら 「皮肉な話よね。私たちが命を永らえるためには、かつての同胞の魂を喰らう以外に方法がないなんて、ね」
竜馬 「・・・」
ほむら 「まるで、たちの悪いジョーク」
竜馬 「お前、そんな事・・・なんで平然と話してるんだよ・・・」
ほむら 「嫌と言うほど、見てきたからかしら。魔女に成り果てた魔法少女達と、その運命の結末と、を」
竜馬 「馴れるような問題でもねぇだろ」
ほむら 「馴れじゃないわ。諦観よ」
竜馬 「・・・」
ほむら 「魔法少女になった以上、避けられない宿命なの。受け入れるしかない。問題は・・・」
全てが終る前に、成すべきことを成せるかどうかなのだ。
竜馬 「・・・」
ほむら 「・・・」
竜馬 「そんな、大事な事だったならば、だ」
ほむら 「なに?」
竜馬 「なおの事、なぜマミに教えてやらない?」
ほむら 「教えたほうが良いと、あなたは思うのね」
竜馬 「当然だ。人は誰しも、死ぬまでにやり遂げなければならない事がある。自分の運命を知ると知らないとでは、歩む道を選ぶ上でも大問題じゃねぇか」
おそらく彼は、自分の覚悟の事を絡めて、言っているのだろう。
まったく正論だ。だけれど・・・
ほむら 「あなたは強いから・・・そう言い切れるのでしょうね」
竜馬 「何が言いたい?」
ほむら 「・・・あなたには全て本当のことを言うわね。私、実は未来から来たのよ」
竜馬 「・・・は?」
ほむら 「未来といっても、たった一ヶ月後の事だけれど。私はその一ヶ月を、何度もやり直しているの」
竜馬 「・・・」
ほむら 「それがキュゥべえに望んだ、私の願いを叶えるために与えられた力。そして、失敗するたびに時間をさか戻し・・・」
ほむら 「どうすれば運命を変えられるか、その答えだけを探して、何度も最初からやり直して・・・」
ほむら 「今日という日を迎えるのは、これで何回目になるのかしら。そんな事すら忘れてしまうほど、何度も何度も、ね」
竜馬 「暁美・・・」
ほむら 「信じてくれる?」
多少、すがる色が声に乗ってしまったかもしれない。
ここでまた、彼に真実を否定されたらと思うと、胸が少しうずいてしまうのだ。
かつて、仲間だと思っていた人たちに受け入れてもらえなかったあの時と、今の自分がオーバーラップする。
だけれど・・・・
竜馬 「信じるさ」
竜馬は一瞬の間もなく、即座にそう断定して頷いてくれた。
竜馬 「この状況で、嘘をつかれるいわれがねぇ」
ほむら 「ありがとう・・・」
竜馬 「お前らが俺の常識の通用しない手合いだってのは、もう何度も思い知らされている。今さらそんなのが、一つや二つ増えたとして、驚くほどの事でもないだろ」
ほむら 「順応性が高いのね」
竜馬 「まぁ、少しばかし感覚が麻痺してるのかもしれないがな」
ほむら 「・・・かつての時間軸で、巴マミや他の魔法少女達に、私の知った真実を話したこともあったわ」
竜馬 「どうなったんだ?」
ほむら 「誰も信じてはくれなかった。そして、ある子が限界を迎えて魔女化して、否が応にも真実を突きつけられてしまった時、巴マミは正気を保てなかった・・・」
竜馬 「見た感じ、そんなヤワな奴とは思えなかったが・・・」
ほむら 「彼女は強い人を演じているのよ。もともとが繊細すぎて、傷つきやすい人だから」
竜馬 「・・・嘘で塗り固めた自分てわけか。自分の心を保つために、なりたい自分を演じ続ける。そうと分かれば、あの芝居がかった身のこなしも納得ができようってもんだが・・・」
ほむら 「だから、言えないのよ。かえって事態を混乱させてしまうだけに終ってしまうから」
竜馬 「俺が考えなしだったよ。悪かった」
ほむら 「いいえ・・・」
素直に頭を下げる竜馬に、少々面食らってしまう。
案外、私が思っていた以上にまっすぐな好人物なのかもしれない。
しばし沈黙。
テレビすらないもの寂しい部屋に、静かに響くのは互いがすするお茶の音のみ。
竜馬 「立ち入った事だが、一つ聞きたい」
ほむら 「なにかしら」
竜馬 「お前はキュゥべえに何を望んだんだ?」
ほむら 「・・・」
竜馬 「命を懸けた戦いを受け入れてまで、お前が望んだ事。何度も時を戻しながらも成し遂げようとしている目的。それは一体なんなんだ?」
ほむら 「・・・」
竜馬 「・・・鹿目、なのか?」
ほむら 「なぜ、そう思うの?」
竜馬 「暁美の鹿目に対する執着は、ただ事には思えなかった。彼女を守る事。そして、キュゥべえと契約させない事。お前の行動の根幹は、全てそこに集約されているとしか思えない」
竜馬 「魔法少女の成り行きを知った今なら、余計にそう思える。どうだ?」
ほむら 「そう・・・ね、当たりよ」
竜馬 「やはり、鹿目を守るために・・・」
ほむら 「ええ」
私は竜馬に、本来の私の時間軸で起こった、まどかとの出会いと別れの顛末を語って聞かせた。
そして私の願い。それが
「まどかとの出会いをやり直したい。彼女を守れる私になりたい」
だと言うことも。
だから、「やり直す」ために、幾度でも時間という壁を越えて旅を続ける。
だけれど、未だに一度として、まどかの救済と言う私が望んだ形で、時間軸の終わりを迎えた事はない。
まどかがどんな最期を迎えたのか。それ自体はその都度違えど、どの旅の終着点においても必ず彼女は死んでしまう。
そして、私は「まどかとの出会いをやり直」すために、再び過去へと時間を遡行させる。
・・・その繰り返しだったということの説明も忘れずに。
竜馬 「暁美・・・じゃあお前は、守ろうと誓った相手の死を、何度も何度も見せ付けられてきたっていうのか・・・」
ほむら 「・・・ええ、数えるのを諦めてしまうほどに」
竜馬 「・・・お前」
ほむら 「流君が初めて私を見たあの日も、あれはまどかが死んでしまった直後。今から一ヵ月後の世界だったの」
竜馬 「じゃ、じゃあ、俺が見たデカイ化け物・・・もしかしてあれが鹿目を・・・?」
ほむら 「ええ」
嘘は言っていない。
ほむら 「あなたがなぜあの場所に現れたのかは分からない。でも、今のこの時間軸にいるのは、あの後に起こった私の時間遡行に巻き込まれたからだと見て間違いはないと思うわ」
竜馬 「俺も知らないうちに、時間の壁を越えていたということか。じゃあ、はぐれてしまった俺の仲間も、この時間のどこかに辿り着いてるのかも知れないな・・・」
ほむら 「断言はできないけれど、おそらくは。あなたの二人の仲間もきっと、この近くのどこかに流れ着いていると思う」
竜馬 「・・・いや、一人だ」
ほむら 「・・・?ゲッターチームと言ったかしら。それには流君も含めて三人いたんでしょ?」
竜馬 「・・・」
口をつぐんでしまう。
ほむら 「・・・?」
彼の顔を覗きこんでみると、額に張り付いているのは悲しみの色。
そういえばこの表情は、廃ビルで話している時にも見た。
ああ・・・と、私は納得する。
彼も大切な人を失っているのだ。
竜馬 「俺は決めたぞ」
ほむら 「な、なによ、藪から棒に」
竜馬 「暁美、俺はお前としばらく行動を共にする事にする」
ほむら 「え、ちょっと・・・」
竜馬 「そうすることで、消えたゲッターと仲間を追わせてもらう」
ほむら 「私と一緒にいたって、ゲッターロボに辿り着けるとは限らないと思う・・・」
竜馬 「そうは言っても、お前の話を聞いた後ではキュゥべえを頼る気にはとてもなれない。そうなると唯一のゲッターへの手がかりは、やはり暁美しかいないわけだからな」
ほむら 「まぁ、確かにそれはそうかもしれないけれど・・・」
竜馬 「その代わり、お前と共にいる間は、俺にできる限りのことはさせてもらうぜ。魔女との戦いにも手を貸そう」
ほむら (それは魅力的な提案かも・・・魔力消耗の原因が分かるまでは、彼が共に戦ってくれると言うなら、とても心強いもの・・・)
竜馬 「それと」
ほむら 「?」
竜馬 「鹿目を守るために、俺が力になれることがあるなら、力の出し惜しみはしないつもりだ」
ほむら 「え・・・」
竜馬 「その代わり、ゲッターに関する手がかりを掴む事ができた時には、今度はお前の力を貸して欲しい。・・・それで、どうだ?」
ほむら (まどかを守るための力になってくれる・・・かつての時間軸で、真実を告げたがために誰からも理解されなかった私の・・・)
・・・私の話を聞いて、力になってくれようと言う人が、今、目の前にいる。
それって、つまり・・・
ほむら 「仲間・・・」
竜馬 「・・・」
ほむら 「仲間に、なってくれるの・・・?」
思わず言葉が上ずってしまう。
まるで、かつての私。常に自分に自信が無く、人の顔色ばかりを伺って生きてきた頃の私。
あの頃に戻ったかのように、言葉が舌の上を滑って、うまく外に出す事ができない。
かつては渇望し、そして絶望して諦めてしまっていた物。共に戦う仲間。
それが今、手を伸ばせば届くところに現れてくれたのだから、無理もないと思う。
ほむら 「・・・私たち、仲間、なの・・・?」
竜馬 「ああ、仲間だ」
もう一度繰り返した私に、竜馬はうなずきながら右手を差し出した。
一瞬差し出された手の意味を量りかね、しかしすぐに理解して、私はおずおずと。
だけれど、しっかりと彼の手を握った。
・・・
・・・
竜馬 「暁美?」
竜馬に声をかけられて、我に返る私。
回想の世界に浸り過ぎていたようだ。すでに魔女の結界は消滅し、私たちは現実の世界へと戻ってきていた。
ソウルジェムはといえば、穢れはすっかりと浄化されていて、本来の輝きを取り戻している。
まるで重りを背負ったかのようだった倦怠感も、すっきりと消え失せていた。完全復調だ。
ほむら 「・・・ふぅ」
これでひとまずは安心。
早めにグリーフシードの在庫を確保しておかなければならないけれど、これで少しは余裕を持って、次の行動を思案する事ができる。
ほむら 「さて、どうしようかしら」
まずは、流竜馬というイレギュラーが舞い込んでしまったせいで、いつも以上に厄介な間柄となってしまった、巴マミとの関係の修復から手をつけるべきか。
ほむら 「ひとまずは、登校する?」
竜馬 「今からか?もう、大遅刻もいいところだぜ」
ほむら 「本当は休むつもりだったけれど、思いのほか魔女を早く倒す事ができたから。今から行けば、三時間目には間に合うでしょ」
竜馬 「まじめなんだな」
ほむら 「そうじゃない。可能な限りは、まどかの側に付いていたいだけよ」
そして、巴マミと接触するため。
他の生徒も大勢いる学校でなら、いきなりの戦闘、なんて展開も避けられるはず。
竜馬 「なるほどな、了解。じゃ、お前、先に行けよ」
ほむら 「え・・・流君は?一緒に行けばいいじゃない」
竜馬 「おいおい・・・俺と暁美、揃って遅刻してきたんじゃ、さすがに目立ちすぎるだろ?」
ほむら 「ああ・・・案外、細やかなのね」
竜馬 「お前がそういう方面に無頓着すぎるんじゃないのか?俺と噂にでもなったら、鹿目の心象も良くないだろう?」
ほむら 「それは・・・とても困る」
竜馬 「分かったら、早く行きな。俺も頃合いを見て、おっつけ登校するさ」
ほむら 「分かったわ。じゃ、流君、また後でね」
竜馬 「あ、そうだ。暁美」
ほむら 「なにかしら?」
竜馬 「リョウ、で良いぜ」
ほむら 「え・・・」
竜馬 「呼び方だよ。俺の仲間はみんな、リョウって呼んでたんだ。お前も、そう呼んでくれて構わないぜ」
ほむら 「え、ええ・・・?」
そんな、いきなり愛称で呼べと言われても、困ってしまう・・・
ほむら 「考えておく・・・じゃあ、学校で・・・」
竜馬 「おう」
あいまいな返答に竜馬もそれ以上は何も言わず、私たちはひとまずの別行動を取る事となった。
・・・
・・・
見滝原中学
教室
・・・ひそひそ
・・・ひそひそ
ほむら 「・・・」
転校翌日にいきなり遅刻してきた私は、昨日とは別の意味で皆の注目の的になっていた。
それも当然か。基本的にこの学校、志筑仁美や巴マミに代表されるように品行方正な生徒が多い。
場にそぐわない事をしてしまえば、目だってしまっても当然。
ほむら (不良だと、思われてしまったかしら)
別に構わないのだけれど。
? 「重役出勤、おはようさん!」
ほむら 「・・・?」
そんな「場」の空気など関係ないといった顔で、快活に声をかけてきたのは美樹さやかだった。
ほむら 「・・・」
さやか 「今日はどうしたの?退院間もないって聞いてたから、具合でも悪くしたかと心配しちゃったわよ」
ほむら 「・・・昨日は緊張しすぎたせいか、昨晩はあまり眠れなくって。心配かけたのなら、ごめんなさい」
さやか 「なんだぁー、ただの寝坊か。心配して損したっ」
ほむら 「・・・」
さやか 「でも、元気なら良かったっ」
そう言って、さやかは明るく微笑んだ。
敵対する事が多い彼女だけれど・・・
ほむら (この時間軸では、昨日のいざこざに巻き込まれなかった分、まだ私に好意的なのね)
好都合だ。私は彼女の事にも気を配らなければならないのだから。
ほむら (美樹さやかが巴マミと接触をすれば、彼女は高確率で魔法少女へとなる道を選んでしまう)
ほむら (そうなれば、ほぼ確実に、短期間にして魔女化する運命を歩むこととなってしまう)
その場合のまどかへ与える影響は甚大だ。
ある時間軸では、さやかを人間に戻すという願いを契約として、魔法少女となってしまったほどに。
さやか 「ところでさぁー」
ほむら 「?」
さやか 「暁美さんって、まどかと以前どこかで会ってるの?」
ほむら 「どうして?」
さやか 「んー・・・まどかがさ。昨日暁美さんに自己紹介した時に、もう自分の名前を知ってたって不思議がっていたから」
ほむら 「ああ・・・」
ふ、とまどかの方に視線を移す。
何となくこちらを伺っていたらしいまどかだったが、私の視線に気がつくと、慌てたように顔を背けてしまった。
ほむら (まぁ・・・昨日の件では、私に対しての悪印象ばかりが強調されてしまったし、仕方がないか)
嫌われてしまったのね。
・・・
別に私は、まどかを救う事ができるのなら、どう思われたって構わないのだけれど・・・
さやか 「・・・暁美さん?」
ほむら 「一応、クラスの人の名前はね、あらかじめ覚えておいたのよ、美樹さやかさん」
さやか 「私の名前まで・・・!クラスメイト全員の名前を?暁美さん、記憶力どんだけ!?何気にすごいのね」
ほむら 「別に。ずっと入院していて、時間と暇を持て余していただけだから」
さやか 「そっかそっか。ま、何事も無いなら、良かったよ。せっかく同じクラスになっただしさ、これから仲良くやっていこうね」
ほむら 「ええ」
気を使ってくれたのね。
思えば一番最初の時間軸でも、病み上がりで気弱な私のことを、何かと気を配って親切にしてくれたっけ。
ほむら 「美樹さん・・・」
さやか 「ん?」
ほむら 「あ、いいえ・・・」
・・・とにかく、この時間軸での美樹さやかとは良好な関係を築いていけそう。
そうすれば、彼女にキュゥべえの魔の手が伸びた場合でも、私のアドバイスに素直に従ってくれる可能性が高い。
魔女化を防げて、まどかへの負担も減らせる。
ほむら 「美樹さん、これからよろしくね」
さやか 「こちらこそ!」
快活に笑うさやかを、まどかが複雑な表情で見つめていた。
・・・
・・・
昼休み。
流竜馬はまだ登校してこない。
やむなく私は、一人で三年生の教室へと向かう。
巴マミと接触し、話をするために。
ほむら 「・・・」
教室内を覗き込む。お目当ての顔は見当たらない。
席を外しているのか・・・
ほむら 「あの・・・」
通りかかった女生徒を捕まえ、巴マミの行き先を聞いてみることとする。
ほむら 「巴さん、どこに行ったかご存知ありませんか?」
女生徒 「ああ、巴さんなら今日はお休み取ってるよ」
ほむら 「え?」
意外な答えが返ってきた。
ほむら 「あの、風邪とか、でしょうか?」
女生徒 「んー・・・え、と。あなた、巴さんの友達?」
ほむら 「ええ、まぁ」
嘘は言っていない。私は巴マミの友達だった事がある。
・・・この時間軸の事ではないけれど。
女生徒 「だったら知ってるよね。彼女、以前に事故に遭って・・・」
ほむら 「ええ・・・知っていますけれど、それが?」
女生徒 「うん。巴さん、ご両親が亡くなってから一人で生活していたんだけれど、今度お兄さんが外国から帰ってらして、一緒に住むことになったんですって」
ほむら 「・・・お、お兄さん!?」
耳を疑う。巴マミに兄が?
そんな話は聞いたことが無い。彼女は一人っ子で身寄りと言える身寄りも無く、遠い親戚が遠方にいるのみだったはず。
その彼女に兄!?
女生徒 「今日はそのお兄さんが帰国する日なんだって。それでお出迎えするために、お休みを取ってるのよ」
ほむら 「・・・」
女生徒 「えっと・・・どうかした?」
ほむら 「あ、いいえ、ありがとうございました」
私の様子に怪訝の色を覗かせ始めた女生徒に頭を下げ、足早にその場を去る。
ほむら (確かに、それぞれの時間軸では、細かな点での相違は少なからずあった)
だけれど、その人の家族構成のような、存在の根本に関わるところまで異なった試しはなかった。
これは一体、どういうことなのだろうか。
ほむら 「あいつの言葉を借りれば、とびっきりのイレギュラーといったところかしら」
・・・イレギュラー?
自分で言った言葉が、頭の隅に引っかかる。
そして、同時に思い浮かんだのは、彼の顔。
流竜馬・・・
ほむら 「そういえば・・・」
竜馬は言っていたっけ。
(竜馬 「俺が今まで生きてきた人生、経験や経歴、年齢や家族にいたるまで、俺はこの場所に何一つ持ち込めなかった」)
(竜馬 「全てのお膳立ては済んでいた。俺は俺自身が理解できないままに、この街の住人として迎え入れられたって訳だ」)
つまり、彼の今おかれている境遇は、竜馬を迎え入れるために改変された、この時間軸だけに存在するポジション。
だとするならば・・・
ほむら 「もしかして・・・!」
自分の教室に駆け戻る。
教室の中を見回す。
・・・彼はまだ来ていない。
ほむら (登校時間をずらすと言って、一体いつになったら来るってのよ・・・)
やむなく席に座る。気もそぞろだが、とりあえず今は成す術もない。
巴マミの兄。その正体を一刻も早く、確認に行きたい。
気ばかり逸るが、一人で学校を抜け出しても仕方がないし、第一どこに行けば良いのかも分からない。
さやか 「今日もさー、帰りにファミレスでパフェでも食べて行かない?」
聞くとはなしに、さやかの声が耳に入ってきた。
・・・どうやら、まどかを放課後の寄り道に誘っているようね。
まどか 「あ、さやかちゃん。今日はちょっと、用事があって」
さやか 「なぬっ!?」
まどか 「ごめんね、さやかちゃん。また今度誘ってもらっていいかな」
さやか 「むぅ、このさやかちゃんのお誘いを断わるとは、それってどんな用事なのですかな?気になりますなー。デートか、デートなのか!?」
ほむら (まどかがデート!?)ほむぅっ!
まどか 「うぇひっ、違うよー。あのね・・・」
チラッと私を見た後で、声を落とす。
あまり、私には聞かれたくない内容のようね・・・
まさか、本当にデート?
一応は否定してるけれど、男の人と会うとか!?
まどかは純粋でいい子だから、それがどういう意味を持つ事なのか、理解できていないだけと言うことも・・・!
まどか 「えっとね・・・」
ほむら (まどかぁーっ!)ほむうっ!!
まどか 「コショコショ・・・」
まどか 「ゴニョゴニョ・・・」
ほむら 「・・・」
まどか 「・・・ていう訳なんだ」
さやか 「そっかぁー。て、なんで小声?」
まどか 「うぇひひ・・・別に。まぁ、そういうわけだから、ゴメンね、さやかちゃん」
さやか 「おっけー、仁美と二人で行ってくるわ。今度は一緒に行こうね」
まどか 「うん」
ほむら 「ほむぅ・・・」
なるほどね。
今日、17時に見滝原駅。
巴マミに誘われて、出迎えた兄を紹介されつつ一緒に食事か。
ホッ・・・デートじゃなかった。
ほむら (い、いや、まどかがそんなフシダラな事、する筈ないって分かってたし。分かってたけど!)
と、とりあえず!
分かった事が二つある。
一つは多くの時間軸と同様、まどかとマミは出会ってすぐに意気投合、急速に仲を深めつつあるという事。
マミの一挙手一投足には、まどかの運命を左右させる要素が幾つも含まれている。気をつけなければ。
そして、もう二つ目。
それは今日の放課後、まどかの後を追えば、巴マミの”兄”の正体も判明すると言う事だ。
ほむら 「渡りに船と言うか、一石二鳥と言うか」
私はそっと。
耳に施した魔力を解除した。途端に聴力が通常のそれへと戻る。
・・・
・・・
放課後。
まどかが教室を出た後、少し時間を置いて私も学校を出た。
まどかが言っていた時間には、充分に余裕がある。
問題は、放課後になっても流竜馬が登校してこなかったという事だが・・・
竜馬 「よ」
校門にもたれかかりながら、竜馬が手を上げている。
ほむら 「あ、あなたね・・・」
少し脱力しながら、私は彼の元に駆け寄った。
ほむら 「流君、後から来ると言っておいて、どうして学校をサボってしまうわけ?」
竜馬 「ちゃんとこうして、後から来たろ?」
ほむら 「・・・もう、そういう事をして、あまり悪目立ちしては欲しくないのだけれど」
竜馬 「ちょっとな、魔女の結界を探していたら、遅くなっちまった」
ほむら 「え・・・」
竜馬 「暁美、グリーフシードの備蓄はたくさんあったに越したことはないんだろ?だから、探す手間を省いてやろうと思ってよ」
この人は・・・
た、たしかに魔女を見ることのできる彼なら、魔女の結界の入り口だって見分ける事はできるだろうけれど・・・
ほむら 「どうやって見つけたの?いくら”見る”事ができると言っても、ソウルジェムを持たないあなたでは、結界の気配を察する事はできないはず・・・」
竜馬 「そんな宝石は無くったって、俺には二本の足がある」
ほむら 「まさか・・・」
竜馬 「走り回った。最近はくさくさしてて、身体もあまり動かしてなかったからな。なまった身体に良いリハビリになったぜ」
ほむら 「・・・」
竜馬 「とは言っても、やっぱ何の手がかりも無しに探すのは無理があったな。これだけ時間をかけて、見つけられたのは一箇所だけだった」
ほむら 「それだって、充分すごいわ・・・あの・・・」
竜馬は・・・
私に余分な魔力を使わせないために、一生懸命に魔女の結界を探してくれたのだろう。
自分のできる事なら、力を出し惜しみしない。
彼自身が言った、その言葉のままに・・・
ほむら 「あ、あり、が・・・あ、あぅ・・・ありがt」
竜馬 「それより」
ほむら 「ほむっ?」
竜馬 「お前、どこに行くところだったんだ?こっち、家とは反対方向だろ?」
ほむら 「あ、そうだった・・・あ、あのね、流君」
竜馬 「おう」
ほむら 「あなたの仲間、見つかるかも知れない」
竜馬 「・・・っ!」
・・・
・・・
道すがら、私は事のあらましを竜馬に語って聞かせた。
ほむら 「本来存在しないはずの、巴マミの兄という存在。これはどう考えても・・・」
ほむら 「この時間軸でだけ与えられた、存在としての立ち位置。あなたが置かれている状況と、とてもよく似ている」
竜馬 「お前の言うとおりなら、確かに俺と同じ、この世界に迷い込んだイレギュラーの可能性が高いな。それにしても、巴マミの兄か。巴・・・」
ほむら 「何か?」
竜馬 「あ、いいや。それで、俺たちはどこに向かっているんだ?」
ほむら 「見滝原駅よ。そこでまどかと巴兄妹が合流する」
竜馬 「見滝原駅!?」
ほむら 「ええ、どうかしたの?」
竜馬 「天使の悪戯か、悪魔の罠かってな」
ほむら 「なんのこと?」
竜馬 「まさに俺が見つけた場所だよ。魔女の結界を、さ」
ほむら 「・・・嫌な胸騒ぎがする」
竜馬 「奇遇だな。俺もそんな気がしてたところだ」
ほむら 「急ぎましょう」
竜馬 「ああ」
・・・
・・・
見滝原駅
駅前は帰宅途中の学生やサラリーマンなどで賑わっていた。
そんな彼らが吸い込まれていく駅舎の壁に、明らかに場違いな文様が刻まれている。
私たちにしか見えないあれは・・・
竜馬 「あれだろ、結界の入り口ってのは」
ほむら 「間違いない。しかもあれって・・・」
・・・お菓子の魔女の結界。
なぜこんな所に。この時間軸では、魔女結界の出現時期や場所まで、従来とは大きく隔たっているようだ。
まずい。
まずい。
焦燥感が汗を呼び、私の額をうっすらと濡らす。
竜馬 「・・・どうした?」
ほむら 「巴マミの身が危ない。この結界の主は、彼女との相性が最悪なの」
竜馬 「・・・かつての時間軸で、巴マミはこの結界の主に敗北しているんだな?」
ほむら 「ええ」
竜馬 「天敵って訳か。マミはもう、この中なんだろうかな・・・?」
ほむら 「分からない。分からないけど・・・」
だけれど、マミなら。
辺りが結界に飲み込まれるのを阻止するため、何をおいてもこの中へと踏み込んでいるだろう。
あの人は、そういう人だ。
竜馬 「・・・おい」
ほむら 「え?」
竜馬の指し示す方に視線を移す。
そこに佇んでいた少女は・・・まどかだ。
私は彼女の元へと駆け寄った。
ほむら 「鹿目さん」
まどか 「・・・うぇひっ!?ほ、ほむりゃちゃん・・・と、流君・・・?」
私の顔を見て、身をこわばらせるまどか。
そんな、名前を噛むほど怯えなくっても・・・
と、今はそんな所で感傷に浸っている時ではなかった。
傷ついた心を内に隠し、私はまどかに巴マミの所在を質す。
ほむら 「巴さんは?あなた、一緒にいたんでしょう?」
まどか 「ど、どうしてそれを・・・」
ほむら 「彼女は今、どこに?」
まどか 「そ、それは・・・」
言いよどむまどか。無理もないけれど。
ほむら 「勘違いしないで。私は巴さんと事を構えたいわけじゃない。むしろその逆。助けたいのよ」
来るべきワルプルギス戦のために。戦力は少しでも多い方がいい。
まどか 「助ける・・・?ほむらちゃんがマミさんを・・・?」
ほむら 「ええ」
まどか 「・・・え、ええと」
多少逡巡しながらも、まどかは結界の入り口を指し示してくれた。
やはりね・・・
ほむら 「彼女は一人で?巴マミのお兄さんはどこに?」
まどか 「何でそんな事まで、知ってるの・・・?」
ほむら 「結界の中に、一緒に入っていったのかしら?」
まどか 「う、ううん。マミさん、魔女の気配を感じたから、駅の中の喫茶店に理由つけておいて来ちゃったって言ってた。私もまだ、会ってないよ・・・」
ほむら 「そう・・・で、彼女が結界に入ったのは、何分くらい前?」
まどか 「えっと・・・10分くらい、かな・・・」
ほむら 「ありがとう。良い、鹿目さん。あなたは絶対、この中に入ってきてはダメよ」
10分か。間に合うか?
ほむら 「流君、行きましょう。追いかけるわ」
竜馬 「分かったぜ。じゃあな、鹿目。また今度な」
まどか 「あ、う、うん・・・」
私たちは怪訝な表情のまどかに見送られながら、魔女結界への入り口を潜ったのだった。
・・・
・・・
まどか 「ほむらちゃん、マミさんを助けるって・・・一体・・・」
まどか 「ほむらちゃん、マミさんの敵なの?味方なの?私、分からない」
まどか 「分からないよ、ほむらちゃんが考えてる事、やろうとしている事が・・・」
まどか 「・・・」
? 「ちょっと、良いかい?」
まどか 「は、い・・・?」
? 「あー、やっぱり君だ。鹿目まどかさんだろ?マミのお友達の」
まどか 「あ、はい。あ、もしかしてマミさんのお兄さん?」
? 「うん、はじめまして。事前にマミから貰った写メに君も写っていたから、すぐに分かったよ。ところでマミ、どこに行ったか知らないかい?」
まどか 「えっと、その・・・」
? 「用があるからって先に一人で駅を出て行ってしまって。心配だから、探しに出てきたんだけれど」
まどか 「う・・・その・・・えっと・・・」(ちらっ)
? 「・・・どうしたんだい?そっちに何か・・・ん?」
まどか 「あ、あのっ、マミさんは今・・・」
? 「なんだ、あの変なマークみたいなの。何かの、入り口・・・?」
まどか 「え・・・お兄さん、あれが見えるんですか!?」
? 「見えるけど?ていうか、周りの人は誰も気にしていないみたいだな。あんな、場に不釣合いな物があるってのに」
まどか 「・・・あのっ、実はお兄さん・・・!」
? 「ん??」
キュゥべえ 「・・・」
・・・
・・・
魔女の結界内を私たちは駆けていた。
行く手には使い魔たちの死骸が累々。
これをたどって行けば、巴マミの元まで導いてくれるはず。良い道標代わりだ。
竜馬 「これを一人で片付けながら進んだってのか。巴マミ、かなりの手練のようだな」
ほむら 「彼女は歴戦の魔法少女。使い魔程度になら、絶対に遅れをとることはないわ」
竜馬 「高く買ってるんだな、マミのこと」
ほむら 「それは、まぁ・・・」
新人魔法少女として右も左も分からなかった私に、戦いのイロハを教え込んでくれたのは他ならない巴マミだった。
彼女の実力は、誰よりも理解しているつもり。
そう、弱点も含めて。
竜馬 「お・・・」
私の少し先を駆けていた竜馬の足が、不意に止まる。
あまりに突然の停止だったので、私はたまらず竜馬の背に激突。したたか鼻を打ってしまった。
全速力で走っていたのだ。車じゃなくったって、ほむらも急には止まれない。
ほむら 「ほむっ」どんっ
竜馬 「おっと。おいおい、気をつけろよ」
ほむら 「いたた・・・それはこちらのセリフよ・・・一体どうしたの、何か見つけた?」
竜馬 「ああ。使い魔の死体が、ここで途切れてる」
ほむら 「え・・・」
確かに。
これまで途絶えることなく転がっていた無数の死骸が、ここから先でピタリと無くなっている。
竜馬 「・・・ここで何か、彼女の身に起こったのか?」
ほむら 「まさか、こんな結界の途中で。巴マミに限ってありえn
私が言い終える前だった。
物陰から光の帯が、私に向かって襲い掛かってきたのは。
ほむら 「・・・っ!?」
光の帯が私に絡みつく。たちまち全身を、がんじがらめに縛り上げられてしまう。
動きを封じられた!?これじゃ、身動きが取れない・・・!
ほむら 「しまった、これは・・・!」
かろうじて自由の利く首を動かし、確認する。光の帯のように見えたのは、巴マミが魔力で生み出したリボンであった。
竜馬 「暁美っ!!」
急の異変に慌てて私へと駆け寄ろうとした竜馬にも容赦なく、光の帯の第二派が襲い掛かる。
私に意識が向きすぎていたせいだろう。彼らしくもなく、竜馬もまたリボンの縄に絡め取られてしまった。
竜馬 「くそっ、なんだこれは・・・!これも魔女の仕業だって言うのか」
暁美 「いいえ・・・」
視線を通路の奥へと向ける。つられた竜馬の視線も、そちらへ。
視線の先。そこにいた者は、凛とした立ち姿で、私たちを見つめている少女の人影。
カツンカツンと床を鳴らし、こちらへと向かってくる影の正体こそ・・・
竜馬 「縦ロール・・・」
マミ 「ちょっと、変な呼び名で呼ばないでくれる!?」
・・・巴マミ。
彼女を求めて、結界に踏み入った。
今、目的のマミと接触する事ができたと言うのに、この状況は・・・
マミ 「・・・ふふっ」
自分の放ったリボンの仕事ぶりを満足そうに眺めながら、彼女は笑った。
マミ 「やっと捕まえた。この間は、どういうマジックを使ったのか、急に消えてしまうんだもの」
ほむら 「バカ、こんな事をやってる場合じゃ・・・!」
マミ 「こんな事って?」
ほむら 「今度の魔女は、これまでの奴らとはワケが違う!私が狩るから、あなたは手を引いて!」
マミ 「・・・いったい何をたくらんでいるの?それともグリーフシードの手持ちが寂しくって、切羽詰っているのかしら?」
ほむら 「そうじゃないわ。ここの魔女はあなたの手に余るって言ってるのよ。このままじゃ、取り返しのつかない事になる・・・!」
マミ 「・・・私が魔女に遅れをとるというの?」
竜馬 「そうじゃねぇさ。手を引けないってんなら、一緒に連れて行けよ。協力した方が、勝率も上がるってもんだろ」
マミ 「信用すると思って?」
ほむら 「信用してくれなくったって良い。とにかく今だけ、私たちに任せて。悪いようにはしないから」
マミ 「信用できない人たちに、背中を預ける気にはなれないわね」
ほむら 「・・・巴さんっ!」
マミ 「・・・」
ツイっと背を向け、私たちを置き去りに奥へと進もうとするマミ。
私は慌てて止める。
ほむら 「巴さん・・・!巴マミっ!!」
マミ 「・・・あなたと・・・そちらの男の子には問いただしたい事が山ほどあるわ。でも、今はここの魔女を倒してしまう事の方が先決」
マミ 「大人しくしていれば、帰りにはちゃんと回収してあげるわ。話に納得がいけば開放もしてあげる」
ほむら 「わからずや!」
マミ 「・・・怪我をさせる気はないけれど、暴れたりしたら身の保障はしかねるわよ。じゃ、また後でね」
私の制止を無視し、歩み去ってしまうマミ。
人の気も知らないで・・・!
竜馬 「取り付く島もなし、か・・・だったら、力ずくで、この戒めを・・・」
ほむら 「・・・無駄よ。魔力で作られた結束帯ですもの。いくら流君の力だって、破る事はできないと思う」
竜馬 「うおおおおおお・・・くっ・・・どうやら、そのようだな・・・こいつ、どうやったら解けてくれるんだ?」
ほむら 「巴マミが気を失うか・・・もしくは命を絶たれるか・・・」
竜馬 「・・・そいつは、難儀だ」
ほむら 「こんなところで縛られてる場合じゃないのに・・・!」
ぼやいてみても、今の私たちに成す術はなかった。
・・・
・・・
時間の経過が遅い。
巴マミが立ち去ってから、まだ数分しかたっていないはずなのに、何十分もこうして縛られている気がしてならない。
もどかしい。
まもなく取り返しのつかない事になるであろう巴マミの身の上を分かった上で、こうして縛られている事しかできない自分が。
巴マミ。
思えば、対立してばかりいた気がする。
人の脅威となる魔女と使い魔を殲滅する事を至上主義とする彼女と、まどかの身を守る事を専一とする私では、進むべき道と取るべき手法が決定的に異なっていたから。
だけれど、望んでいがみ合っていた訳ではない。
そもそも、本来の時間軸でマミとまどかに助けられていなかったら、ここにこうしている自分も存在してはいなかったのだ。
厄介だと思った事はある。しかし、感謝こそすれ、マミの身の破滅を望んだ事などあるはずもない。
ほむら 「・・・くっ」
竜馬 「どうするよ」
ほむら 「どうもこうもないわ。今はただ、あの人が無事に戻ってくるのを祈るだけよ」
少数の例として、マミがお菓子の魔女に勝利した時間軸がないわけではない。
・・・ただ、その時には大抵、マミの隣には、まどかであったり私であったり、他の魔法少女が共同していたわけだけれども・・・
竜馬 「こんな場合、何に祈りゃいいんだ・・・?」
ほむら 「イレギュラーだらけのこの時間軸に、もう一つ。マミを破滅から救うイレギュラーが現れてくれる事・・・かしら・・・」
竜馬 「そんなもんが都合よく・・・ん・・・」
ほむら 「・・・?流君、どうかした?」
竜馬 「気配だ。俺たちが来た通路の方から、何かがこちらへと向かってきている」
ほむら 「まさか、マミの手を逃れた使い魔が、まだいた・・・!?」
だとしたら、身動きの取れない私たちは、使い魔にただ貪り食われるしかない。
万事休すだ・・・
竜馬 「・・・ち、違う」
ほむら 「・・・?」
ざすっ ざすっ
この時になって、私の耳にも通路の奥から響いてくる足音が届き始めていた。
ほむら 「これは・・・人の足音?」
竜馬 「間違いねぇ・・・この足音は・・・この気配はっ!」
やがて、足音の主が通路の奥から姿を現す。
ほむら 「人・・・」
紛れもない、人間。
人間の・・・男性だった。
竜馬 「お前か、お前がイレギュラーだったのか・・・!」
? 「竜馬・・・竜馬なのか!?」
ほむら 「流君、その人、もしかして・・・」
竜馬 「ああ・・・」
私の問いかけに、心なしか潤んだ瞳で竜馬がうなずく。
竜馬 「俺の仲間、ゲッターチームの・・・一員だ!」
・・・
・・・
マミ 「・・・ここが結界の最深部ね。魔女は・・・いた。まだ、グリーフシードのままだわ」
キュゥべえ 「マミ、魔女のグリーフシードは間もなく孵化するようだよ」
マミ 「キュゥべえ、あなた、いつの間に?」
キュゥべえ 「そんな事より、僕たちの後ろから招かれざる客がやって来ているようだ」
マミ 「暁美さんたちのこと?それだったら・・・」
キュゥべえ 「そうじゃないよ。別にもう一人、この結界に入り込んできた者がいる。それも、人間の男性がね」
マミ 「まさか・・・!」
キュゥべえ 「状況的に見て、あの流竜馬という男と同質の存在と考えて間違いないだろう。間もなくここに到達するだろうね」
マミ 「時間の余裕は無いって訳ね」
キュゥべえ 「彼らが何者で、何を考えているか。予断は許せないよ。マミ、気をつけて」
マミ 「分かってる・・・!」
キュゥべえ 「魔女が孵化するよ」
マミ 「せっかくのとこ悪いけど、一気に決めさせてもらうわよ!」
魔女が孵化すると同時に駆け出すマミ、先手を打ち魔法で魔女を縛り上げる。
魔女の動きを封じたマミは、すかさず魔法の砲を出現させ、その標準を敵へと定め・・・
撃つ!
マミ 「ティロ・フィナーレっ!!」
狙い違わず、魔弾が魔女の身体を貫く。
勝利を確信したマミから、会心の笑みがこぼれた。
・・・だが、その笑みは一瞬の後に凍りつく。
マミ 「・・・え?」
彼女は信じられないものを見た。
撃ち抜かれ、事切れたと思い込んでいた魔女の口から、もう一体の魔女が吐き出されたのだ。
マミ 「そ、そんな・・・なにアレ」
新たに出現した魔女は、大口を開け、マミに覆いかぶさるように襲い掛ってきた。
予想外の出来事に対応できず凍り付いてしまうマミ。
マミ 「・・・」
信じられないといった表情で、目前に迫る魔女を前に、マミは身じろぎ一つ取る事ができない。
彼女の頭を一飲みにしようと限界まで開かれている魔女の口。
その中は、まるで異次元の入り口の様に、底がまったく見えない異質の空間のようだった。
マミもまた限界まで目を見開き、自分の命を断ち切ろうと迫る魔女の口中を見つめたまま、ただ成す術もなく立ちつくしている他なかった。
・・・
・・・
ほむら 「あ・・・」
私たちを束縛していた魔力の縄が、力を失って地面に落ちた。
それの意味するところは・・・
ほむら 「巴マミの身に、何かが起こった」
考えたくはないけれど、やはり最悪の事態が頭に浮かんでしまうのを止める事ができない。
竜馬 「お前の考えてる事は分かるけど、まぁ、それはねぇだろ」
ほむら 「流君・・・」
竜馬 「あいつが来たんだ。そして、縦ロールを助けるために奥へと向かった。何とかするはずさ。間違いねぇよ」
ほむら 「信頼、しているのね」
竜馬 「ああ。あいつとは、命を預けあって共に戦ってきた仲だ。あいつは強い男だ。女の子一人救えないはずがない」
ほむら 「どんな理屈」
竜馬 「そうか?道理だろ」
ほむら 「まったく無茶苦茶だわ。だけれど」
竜馬の自信に満ちた表情には、私にまでそんな根拠のない話を信じさせる、説得力のようなものが宿っていた。
ほむら 「とはいえ、ここの魔女が手ごわい事に変わりはないわ。さっきの人がどれだけ強いかは知らないけれど、一人では魔女の相手は手にあまるはずよ」
竜馬 「ああ。せっかく自由の身になれたんだ。俺たちも後を追うとしようぜ」
ほむら 「ええ・・・!」
・・・
・・・
? 「うおおおおおっ!!!」
どすんっ!!
マミ 「あうっ!?」
突然の雄叫びと衝撃。
地面にしたたか身体を打ち付けられた痛みで、マミはやっと正気を取り戻した。
と、同時に、誰かに突き飛ばされたと言う事実にも気がつく。
死が逃れようのない現実として彼女に迫り、迫りくる運命と苦痛に身を委ねるしかないと、諦めの境地に達しかけた矢先。
予想もしなかった方向から、マミは吹っ飛ばされていたのだ。
マミ 「な、なんなの・・・」
衝撃で遠くなりそうな気を何とか繋ぎとめ、身を起こした彼女が見たものは。
? 「マミちゃん、無事か!?」
マミが今まで居た場所で、魔女から彼女を守るように立ちふさがる、広い背中。
重心深くドンと構え、魔女の巨体を両の手でしっかと支えている男の姿であった。
? 「この化け物、すげぇ力だ。長くは持たない。早く、安全な場所へ・・・!」
マミ 「お、お兄ちゃん・・・?」
? 「おう、お兄ちゃんだ!」
心持ち、顔をマミのほうに傾ける男。
時代はずれの学ラン姿に角刈りの頭。鋭いながらも、どこか愛嬌を帯びた目元は、彼の人柄を現すかのように優しげだった。
この男こそ、誰あろう・・・!
マミはもう一度、目の前の男性を呼ぶ。
マミ 「武蔵お兄ちゃん・・・!」
巴マミの兄、巴武蔵その人であった。
マミ 「武蔵お兄ちゃんっ・・・!!」(どさっ)
兄を呼ぶ一語を最後に、糸が切れた人形のように崩れ落ちてしまうマミ。
武蔵 「ま、マミちゃん!!」
マミ 「お・・・にぃ・・・ちゃ・・・」
武蔵 「ほっ、気を失っただけか。よし、待ってろよ。お兄ちゃんがすぐに、こんな訳の分からないところから連れ出してやるからな」
お菓子の魔女 「」
武蔵 「け、化け物め。貴様なんざぁ、ぜんぜん怖くないぜ。力も大きさでも、メカザウルスには遠くおよびやしねぇや!」
お菓子の魔女 「」
武蔵 「しかも、なんだか可愛らしい顔しやがって、却ってむかつくんだよ!!俺の可愛い妹にひどい事しやがって、絶対に許さん!!」
お菓子の魔女 「」
武蔵 「うおおおおおっ、いくぞ!喰・ら・い・やがれっ!!!」
・・・
・・・
武蔵 「大・雪・山っ、おろしぃーーーっ!!」
ほむら 「すごい・・・」
結界の最深部に辿り着いた私たちが目にしたものは、生身の体で魔女を投げ飛ばしている巴武蔵の姿だった。
したたかに巨体を地面に叩きつけられる魔女。その振動で、結界内がぐらりと揺れた気さえした。
ほむら 「なんて力なの・・・あなたにも驚かされたけれど、あの武蔵という人も大概人間離れしているわね」
竜馬 「褒め言葉と受け取っておくぜ。それよりも、巴マミはどこにいる?」
ほむら 「ええと・・・」
巴武蔵に釘づけだった視線を少しそらすと、武蔵の足元に別の人影があるのに気がついた。
途端に血の気が引く。あれは・・・
ほむら 「巴マミっ!!」
私は人影に向かって駆け出した。間違いない。あれは巴マミ。巴マミがピクリとも動かずに、倒れていたのだ。
ほむら 「巴さんっ・・・!」
慌てて彼女を抱き起こす。
ほむら 「頭・・・付いている・・・」
私は、ほっと胸をなでおろす。
まず一番に確認すべきなのは、巴マミの頭部の有無だった。
それは、彼女の端正な顔もそのまま、一切傷つく事もなく、あるべき場所にきちんとそのまま存在してくれていた。
最悪の事態は、避けられていたのだった。
竜馬 「胸が上下している。呼吸は問題なく、あるようだぜ」
ほむら 「え、ええ」
竜馬 「だから言ったろ?武蔵が来たからには、絶対に何とかしてくれるってな」
武蔵 「マミちゃんは気絶しているだけだ。危ないところだったからな、大好きなお兄ちゃんが来たってんで、気が抜けてしまったんだろう」
竜馬 「お兄ちゃんって面かよ。ともかく一旦、ここは引こうぜ。積もる話は、その後だ」
武蔵 「ところが、どうもそいつはいかんらしいな」
竜馬 「・・・」
武蔵が睨み、竜馬がその後を追って視線を向けた先。
そこには、体勢を立て直したお菓子の魔女がいた。
投げ飛ばされただけで、ダメージなんて喰らうはずもない。
無傷の魔女が、獲物を喰らう楽しみを邪魔された怒りを隠しもせず、私たちの前に立ち塞がっていたのだ。
竜馬 「出口を塞がれたか。どうあっても、俺たちを喰らわないと気がすまんらしい」
武蔵 「・・・というより、俺を喰らいたいんだろうぜ?食事を邪魔し、なおかつ自分を投げ飛ばした、憎い俺を、さ」
竜馬 「どうやらそのようだ・・・」
武蔵 「リョウ、マミちゃんを頼む。俺が囮となって時間を稼ぐから、その隙に彼女を安全な場所へ」
竜馬 「男だな、武蔵」
武蔵 「お兄ちゃんだからな。一つ、よろしく頼んだぜ」
竜馬 「了解だ」
ほむら 「お話中、悪いのだけれど・・・」
なんとなく気のあった二人の会話に入り込めずにいた私だったけれど、ここは敢えて間に割り込ませてもらう。
ほむら 「その役目は私が貰う。巴・・・武蔵さんは流君と一緒に安全な所へ」
武蔵 「えっと、君は・・・」
竜馬 「暁美ほむら。俺の仲間だ」
武蔵 「仲間・・・リョウが認めた子なら、俺にとっても仲間だ。そんな子に危険な事はさせられないぜ。俺に任せてくれ」
ほむら 「任せられない。確かに武蔵さんなら時間稼ぎ程度はできるかもしれない。だけれど、それでは魔女を倒す事はできないわ」
武蔵 「倒すって・・・君なら、あの化け物を倒す事ができるというのか?」
ほむら 「私はあいつとの戦い方を熟知している。絶対に遅れをとることはないわ」
武蔵 「リョウ、この子の言っていることは本当なのか?」
竜馬 「暁美は以前から、多くの魔女との戦いを経験してきている。そいつの言うことに嘘はないさ。それに」
竜馬が私の肩にぽんと手を置く。
竜馬 「暁美の強さは折り紙つきだ」
ほむら 「流君・・・」
武蔵 「リョウがそこまで言うなら、間違いはねぇな。分かった、暁美さんとやらに任せるぜ。かわいそうな目に遭ったマミちゃんの仕返しをしてやってくれ!」
ほむら 「わ、わかってるわ。任せて」
頷きながら、ちらりと竜馬に目をやると、彼もまた深く頷いて見せてくれた。
不思議な安堵感が心を包む。
これが、背中を預かってくれる仲間の存在感というものなのだろうか。
ほむら 「行ってくる」
私は一言だけを後に残すと、お菓子の魔女へと向かって駆け出した。
・・・
・・・
竜馬 「武蔵、暁美が戦っているうちに、早く巴マミをつれて後方へ引け」
武蔵 「あ、ああ。いや、リョウ。お前はどうするんだよ」
竜馬 「俺はここにいる」
武蔵 「リョウ・・・?」
竜馬 「暁美の戦いを見届ける。俺は、あいつの仲間だからな」
武蔵 「・・・分かったぜ。早く追いついてきてくれよ。正直、よく分からない事ばかりで、こんがらがって、脳みそがどうにかなっちまいそうなんだ」
竜馬 「こんがらがるほど、物が詰まってるようには見えねーけどな、その頭」
武蔵 「抜かせ」
武蔵はにっと笑うと、倒れていたマミを背負った。
魔女の意識は、突貫していったほむらに向けられている。今が好期だ。
彼は魔女の隙をつき、結界の最深部から抜ける通路に駆け込むと、あとは後ろも振り返らずに奥へと消えて行った。
竜馬 「さあ、後は思う存分暴れられるぜ。暁美、ここにはお前と俺だけだ。お前の戦い、俺が余すことなく見届けてやるぜ」
・・・
・・・
眼前にはお菓子の魔女。
奴は大口を開けて、私を飲み込もうと迫ってくる。
巴マミで満たせなかった食欲を、私で代用するつもりらしい。
ほむら 「お望みとあらば」
期待に沿いましょう。
私は足を止め、魔女と対峙した。
魔女はすでに指呼のあいだ。こうしている間にも、ぐんぐんとその距離は縮まってきている。
ほむら 「さ、どうぞ?お腹、空いているのでしょう」
誘うように、語りかける。
と、同時だった。
お菓子の魔女 「ばぐんっ!!」
魔女の大口が、私を頭から丸呑みしてしまったのは。
竜馬 「っ暁美!?」
外から竜馬の驚愕に満ちた叫びが届いた。しかし、魔女の口の中にいる今の私に、無事を知らせる術はなし。
ただ速やかに、この魔女を倒して、五体満足で彼の前に現れてあげるだけだ。
ほむら 「私のことを食べた気でいるようだけれど、見ていなさい」
お菓子の魔女は驚異的な再生能力を持っている。
外側からいくら攻撃しても、傷ついた身体を脱皮するかのようにに脱ぎ捨てて、何度でも無傷で復活してしまうのだ。
・・・だったら内側から破壊してやれば良い。身体の中から攻撃されては、さしものお菓子の魔女の回復能力も意味がないもの。
私はわざと飲み込まれることで、魔女の体内に侵入。あとは中から、砲弾の雨あられを喰らわせてやるつもりだった。
それが私の狙い。
ほむら 「・・・」
武器を取り出すため、バックラーに手を突っ込む。
と、ここで前にも感じた、あの違和感が再び私を襲った。
ほむら 「まったく、なんなの・・・」
嫌な気分。
私の体のことなのに、私の与り知らない所で良いように弄られている、そんなえもいわれぬ不快感。
それってつまり・・・
ほむら 「この中に、私の意志とは関係なしに入り込んでいるものがある・・・?」
そんな事があるはずがない。
否定と共に下らない仮定を頭から追い出そうとした、その瞬間。
なぜか竜馬の顔が脳裏に浮かんだ。
ほむら 「・・・まさか、まさかね」
ある仮説が心を一瞬かすめたが、今はそんな詮索をしているときではない。
事実の検証はひとまず後回し。今は、この邪魔な魔女を退治してしまわなくては。
ほむら 「いくわよ」
気を取り直し、再び武器を取り出すため、バックラーに手を差し入れる。
ほむら 「・・・・っ!?」
私の全身から力が抜け、突如として目の前が真っ暗になったのは、まさにその直後だった。
・・・
・・・
竜馬 「・・・おかしい」
魔女の様子を伺いながら、竜馬は呟いた。
竜馬 「化け物に何の変化も見られない。まさか・・・」
ほむらは彼の目の前で魔女に一飲みにされた。
その様を見せられた直後こそ驚きはしたものの、あのほむらが何の無抵も無しに魔女に喰われるはずがない。
何か考えがあってのことだろう。
すぐにそう思いなおし、物陰からの静観を決めこんでいた竜馬だった。
何せほむらは自信満々に
「絶対に遅れをとることはないわ」
そう、自分と武蔵の前で嘯いたのだ。
仲間がそうだと言った以上、信じて待つ以外に、取るべき道などあろうはずもない。
・・・だが。
竜馬 「いくらなんでも、遅すぎる」
動きがないのだ。
ほむらには当然うつべき手があったはずだ。だが、それにしては何らかの行動に出るにしても、時間がかかりすぎている。
嫌な予感と共に、冷たい汗が彼の背を走る。
竜馬 「暁美、信じて任せたんだ。頼むぜ・・・俺は・・・俺はもう・・・」
ほむらを喰らった魔女は、他にもいたはずの獲物を求めて、辺りを徘徊し始めた。
やがて竜馬が隠れている辺りにも、確実にやってくる事だろう。
竜馬 「これ以上、仲間を失うのはゴメンなんだ・・・っ!」
キュゥべえ 「なるほど、君には以前に失った仲間がいたわけだね」
竜馬 「キュゥべえ!?お、お前、いつの間に・・・」
キュゥべえ 「僕はマミと一緒に、最初からここにいたよ。もっとも、暁美ほむらはどういった訳か僕を毛嫌いしているようだから、ちょっと隠れて様子を見ていたんだけれどね」
竜馬 「・・・」
キュゥべえ 「はて・・・君も僕に良い感情を持っていないようだね。僕の記憶では、君に嫌われるような接し方をした覚えはないんだけれど」
竜馬 「・・・魔法少女達とお前がどういう風に関わりあってきたか。テメェの胸に聞いてみろ」
キュゥべえ 「僕は少女達の望みを叶え、その見返りに魔法少女となって戦ってくれるようお願いしてきただけだけど。常に彼女達の意志を尊重してね」
竜馬 「言うべきことを言わずに決断を迫るってのは、上手いこと言って騙してるのと何もか変わらねぇんだよ」
キュゥべえ 「僕には君の言っていることの真意が、さっぱり分からないよ」
竜馬 「・・・」
キュゥべえ 「そんな事より、良いのかい?暁美ほむらをあのままにしておいて」
竜馬 「なんだと!?お前、今のあいつの状況が分かっているのか!?」
キュゥべえ 「まぁ、おおよそは。彼女の狙いは魔女の内部からの破壊だったようだけれど、どうやら暁美ほむらは・・・」
竜馬 「どうなったってんだ?!言えよ!」
キュゥべえ 「魔女の口の中で、魔力が尽かけているようだ。君はもう知っているようだから言うけれど、彼女のソウルジェムがグリーフシードへと変化しかけているようだよ」
竜馬 「なんだと!」
キュゥべえ 「逃げるなら早くしたほうが良い。間もなくこの魔女結界には、二対の魔女が揃う事になるんだからね」
竜馬 「ば・・・ばかな。だって、あいつの魔力は今朝方に補充したばかりじゃねぇか。こんな早くに魔力が尽きるなんて話、聞いてねぇぞ!」
キュゥべえ 「僕も意外に思っている。だからね、竜馬。きっとほむらは今、なんらかの特殊な現象に襲われているんじゃないかと思うんだよ」
竜馬 「特殊なって、一体なんだよ、それは・・・?!」
キュゥべえ 「異常な魔力の消耗現象、そして異質な存在である君、くわえてマミの兄を名乗る武蔵のという男の登場・・・」
キュゥべえ 「”異質”がこれだけいっぺんに揃うなんて、そうそうある事じゃないよね。さて、これらに共通する事項はなんだろう?」
竜馬 「・・・?」
キュゥべえ 「いずれも、イレギュラーな出来事、または存在だという事だよ」
竜馬 「・・・!!」
キュゥべえ 「君との係わり合いが、ほむらの変調の原因じゃないかと、僕は思っているんだ。この仮説が正しかったとしたら・・・・」
竜馬 「まさか・・・」
キュゥべえ 「その鍵となりうるもの、それは君が捜し求めているものの他には、ありえないんじゃないのかってね」
竜馬 「・・・」
竜馬は呆然と立ち上がった。
物陰から身を乗り出した竜馬を、魔女が目ざとく発見する。
新たな獲物の発見に、魔女は嬉々として竜馬に向かい歩を進め始めた。
が、竜馬は逃げない。
魔女に向かって。
いや。
その中にいる、ほむらに。
さらには、ほむらと共にいるのかもしれない、あるものに向かって声を張り上げた。
竜馬 「暁美、待ってろよ!俺が今行く!!」
キュゥべえ 「逃げないのかい?」
竜馬 「暁美は、あの中で動けなくなってるんだろうが!?だったら、ここで俺が逃げたらあいつはどうなる!」
キュゥべえ 「まぁ、死ぬだろうね」
竜馬 「仲間が死ぬと分かってて、自分だけおめおめ逃げられるか!」
キュゥべえ 「無謀だよ。君がいくら強くたって、魔法少女の助けも無しに、一人で魔女に勝てるはずがない」
竜馬 「一人じゃねぇ」
キュゥべえ 「?」
竜馬 「癪だが、テメェの仮説を今は信じてやる。ゲッターが暁美と共にいるなら、俺は決して一人じゃねぇ!」
竜馬は駆け出す。
魔女に向かって。
いや、仲間と認めたほむらと、そこにいるであろうゲッターロボに向かって!
竜馬 「うおおおおっ、ゲッター!そこにいるなら返事をしやがれ!そして、俺に力を貸してくれ!」
竜馬 「仲間を!大切な人をもう二度と失わないため、俺にお前の力を再び貸してくれ!」
狙いを定めた魔女が、竜馬に向かって跳躍する。
躍り上がった魔女は空中で姿勢を整えると、後はそのまま一直線。解き放たれた鏃のように、竜馬を一口で食い殺そうと急降下してきた。
が、竜馬は避けない。
迫り来る魔女を睨みすえ、ひたすらに叫び続ける。
自分と武蔵と、そして散っていった仲間が命と青春の全てをかけた、己の分身とも言うべきマシンに向かって!
魂の限りに、叫ぶ!!
竜馬 「こいっ!応えろ!ゲッタァアアアアアっ!!!」
・・・
・・・
ほむら 「・・・」
唐突に、かつ急激に身体の力が抜けていった。
この感覚には覚えがある。
つい昨日、原因不明の魔力消耗に見舞われた時。
あの時に覚えた、頭の先から全身の体力が抜けていく、不快感。
あれとまったく同じだった。
ほむら 「ま、まさか・・・」
ありえるはずが無いと思いながらも、私は自分のソウルジェムの輝きを確認する。
一点の光すら射す事の無い魔女の口の中。その中にあって、唯一光を発っしているのは私のソウルジェム。
・・・だけれど。
ほむら 「・・・」
今や霞んではっきりとしない両目に鞭打ち、見つめた先。
そこに見えたものは・・・
ほむら 「濁っている・・・」
魔力が尽きる直前の、あの黒くくすんだ、おぼろげな光だった。
ほむら 「なぜ・・・だって、朝に魔力を補充したばかりなのに・・・」
自問しても、応えてくれる者はいない。
唯一つ分かっている事は、このままでは時を得ずして、自分のソウルジェムが砕けてしまうという事。
それは、人としての生を終え、魔女として生まれ変わる事を意味する。
ほむら 「なんとか、なんとかしないと・・・」
しかし、なんとかと言っても、一体どうしたら良いの・・・?
ここに魔力を補充させるためのグリーフシードなんて、存在しない。
お菓子の魔女を倒せばグリーフシードは手に入るけれど、戦うための魔力はすでに尽きている。
ほむら 「な、流君・・・」
助けを求めるように、私を仲間と認めてくれた人の名前を呼んでみる。
だけれど私のか細い声が、魔女の身体の外にいる竜馬に届くはずも無い。
・・・万事休すだ。
ここで魔女の餌として消化されるか。
それより早く魔女として生まれ変わるか。
ほむら 「どっちにしても、暁美ほむらは消えてしまう・・・」
自分が消えてしまったら、結界に取り残された竜馬はどうなるだろう。
マミが正気を取り戻してくれたら、結界の壁を破り逃げる事も可能だろうけれど、もしそうでなかったら・・・
そして、まどかは?
まどかはキュゥべえの誘惑から逃れ、人としての生を選び取ってくれるだろうか。
ほむら 「・・・ねない」
私は呟く。
ほむら 「こんなところで死ねない・・・っ!」
仲間を残し、まどかを置き去りにし、こんなところで朽ち果てるわけにはいかない。
ここで倒れてしまったら、私は私の願いすらも裏切ってしまう事になる。
まどかを守る。たった一つの道しるべさえも・・・!
そんな事、絶対に認められない・・・!!
? 「ならば、力を貸そうか?」
ほむら 「!?」
男の声が聞こえた・・・?
それも、私のすぐ側から・・・
ほむら 「ううん、違う・・・これは・・・側と言うよりも・・・」
むしろ、私の頭の中から、直接語りかけられてきているような・・・
? 「暁美ほむら。リョウが仲間と認めた女。お前が望むなら、俺がお前の力になろう」
ほむら 「リョウ・・・流君のこと?」
竜馬の言っていた、ある一言を思い出す。
”俺の仲間はみんな、リョウって呼んでたんだ。お前も、そう呼んでくれて構わないぜ”
彼の事を愛称で呼ぶなんて、この声の主はいったい・・・?
ほむら 「私の心に直接呼びかけてくる、あなたは何者なの!?」
? 「今、死なれては困るんでね。リョウや武蔵をこの世界に呼び込み、そして、元の世界に唯一戻す事ができる存在のお前に・・・」
ほむら 「私が流君たちを、こちらに呼び込んだ・・・?」
? 「そう、お前こそが元凶だ。だが、文句は言うまい。お前もまた、世界のシステムの被害者の一人でしかないのだからな」
ほむら 「元凶って・・・あなたが誰かは知らないけれど、なぜそんな事を言われなくちゃいけないの!?」
? 「俺には全てが分かるんだよ。だが、細かい問答はまたの機会にしよう。今はただ、お前のたった一つの意志を確認したい」
ほむら 「・・・」
? 「虎口を逃れ、生き延びるための力。それをお前は欲するか」
謎の声。謎の存在。謎の問いかけ。
誰かも分からない声の主に、私は決断を迫られている。
彼の言っている言葉が、何を意味するのかは分からない。
ただ、本能が私に訴えかけてくる。
ここでYESと応えれば、もう後戻りはできないのだと。
だけれど・・・
ほむら 「聞かれるまでもないわ・・・」
ここで命が尽きれば、後戻りも何も無い。
一巻の終わりなのだ。
それだったら・・・!
ほむら 「誰かは知らないけれど、力を貸して!私はここで倒れるわけにはいかないっ!!」
私は尽きかけた力を振り絞り、竜馬の事をリョウと呼ぶ、謎の声の主に向かって声を張り上げた。
・・・
・・・
竜馬 「!?」
竜馬の直前。
突然にお菓子の魔女が動きを止めた。
キュゥべえ 「・・・竜馬、下がったほうが良い。あぶないよ」
竜馬 「・・・っ!」
後ろからのんきそうに呼びかけるキュゥべえの声が、竜馬の本能に危険を訴えかけた。
とっさに地を蹴り、後ろへと距離をとる。
その刹那だった。
お菓子の魔女 「---------------っ!!」
声にならない断末魔の叫びと共に、お菓子の魔女の身体が四散したのは。
竜馬 「うわっ、ちくしょう、なんなんだ!?」
降りかかる魔女の肉片に全身を汚されながらも、竜馬は何とか事態の把握に努めようとした。
魔女の血煙で視界が塞がれ、周囲はぼんやりと曇っている。
だが、血煙の向こうに竜馬は見た。
先ほどまで魔女がいた場所に、黒い巨大な影が佇立しているのを。
竜馬 「・・・あ、あれは」
全貌はいまだつかめない。
だが、その特徴的なシルエット。
大きさ。
全てが見えなくとも、竜馬に分からぬはずがなかった。
竜馬 「応えてくれたんだな・・・」
竜馬は影に向かって語りかける。
竜馬 「仲間を守ってくれたんだろ。な、ゲッター・・・」
やがて・・・
血煙の晴れた向こう。
そこに立っていたのは、見紛うはずもない。
竜馬や仲間達と幾たびの修羅場を潜り、共に傷つき合ってきた彼の分身とも言うべき存在。
ゲッター1の勇姿であった!
・・・
・・・
キュゥべえ 「あれが竜馬の言っていたゲッターロボとかいうロボットか。まったく驚いたよ、あんな物が実在するなんてね」
キュゥべえ 「それにしても、あのロボット・・・いや、あのロボットが纏うエネルギー・・・なんだろう」
キュゥべえ 「感じる。どういうからくりかは知らないけれど、あれからは僕達と同種の匂いがする・・・」
キュゥべえ 「・・・これは、僕たちの計画も一から練り直す必要が出てきたかもしれないね」
・・・
・・・
次回予告
謎の声に導かれ、ゲッターの力を手にした暁美ほむら。
しかし、依然として魔力消耗による魔女化の危険からは開放されていなかった。
そこで彼女は、ある心当たりに思い当たる。
そして一方で暗躍するキュゥべえ。彼の狙いとは一体なんなのか?
次回 ほむら「ゲッターロボ!」第三話にテレビスイッチオン!
170 : 以下、名... - 2014/07/27 21:59:13.87 Xi1wFi9M0 247/1284以上で二話終了です。
引き続きノンビリですが、三話でもお付き合いいただけたら幸いです。
ほむら「ゲッターロボ!」【2】