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492 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/08 12:49:19.87 W5dqu19v0 450/905






航海十六日目:銀色の雨





493 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/08 12:51:07.63 W5dqu19v0 451/905


サイード「短い間ですが 世話になりました。」

舞踏会を終えた次の日の朝、マーディラスの港では砂漠の民の青年が漁師たちと別れの挨拶を交わしていた。

ボルカノ「なーに いいってことよ。オレたちも いろんな話が聞けて 楽しかったぜ。」

「たぶん あんちゃんは 将来大物になるぜ? おれは そんな予感がする。」

「もし フィッシュベルに 立ち寄るようなことがあったら 是非 訪ねてきてください! 歓迎しますよ!」

サイード「それは 楽しみです。」

コック長「砂漠の伝統料理は なかなかだったな。また レシピでも 教えてくれ。」

「あ ずるいですよコック長! いつの間に そんなことを!」

サイード「ははは… それも またいつか。」

「ネコちゃんも 元気でな。」

「にゃん。」

トパーズ「なうー。」

二匹の猫はお互いの匂いを嗅ぎ合っている。どうやら別れが近いことを察しているのだろうか。

マリベル「せっかく二匹とも 仲良くなったのにねー。」

そんな猫たちの様子をまじまじと見つめながら少女が呟く。

サイード「さすがに 一人旅は 寂しいからな。相棒を置いて 行くわけにはいかん。」

マリベル「わかってるわよっ ふふ。」

アルス「サイードも 元気でね。」

サイード「結婚式には もちろん 呼んでくれるだろうな?」

アルス「えっ……!?」

マリベル「そっちこそ 女王さまを 泣かすんじゃないわよ~?」

言葉に詰まる少年を他所に少女は余裕の表情で言う。

サイード「き きさま 聞いていたのか!?」

マリベル「ええ 聞いてましたとも。最初から 最後まで ばーっちりね。」
マリベル「大事なネックレスを預けて 予約しちゃうなんて あんたも きざったらしいのね~。」

サイード「だから 女王さまとは 何ともないと…。」

マリベル「はいはい 悪かったですよ~だ。」

アルス「そ それじゃあ もう 行くね?」

サイード「ふん! さっさと こいつを 連れて行ってくれ。」

マリベル「じゃあね~。」

サイード「くっ……。」

苦々しい表情の青年を尻目に少女は船長の元へ歩み寄る。

マリベル「ボルカノおじさま 行きましょ!」

ボルカノ「もう いいんだな?」

マリベル「ええ!」

ボルカノ「よーし 錨をあげろー! 出航だあー!」

「「「ウスッ!」」」

こうして漁船アミット号は二日間の滞在を終え、次なる大地を目指して海原へと繰り出すのであった。

サイード「……達者でな。」

仲間の船出を見届けた後、青年はこの地で見分を広めるべく再び城下町へと歩き出した。

「…にゃう~………。」

その隣でお腹いっぱいにエサをもらって少し肥えた相棒が、物珍しそうな顔で新しい土地の地面を踏み歩く。

一人と一匹の旅は、まだまだ始まったばかりなのだ。

494 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/08 12:51:39.80 W5dqu19v0 452/905


マリベル「ずいぶん 慌ただしく駆け抜けたわね。 この二日間 いや 三日かしら。」

船の甲板の上、遠ざかる港を見つめながら少女が呟く。

アルス「ご ご迷惑をおかけしました……。」

マリベル「まっ あんたのせいじゃ ないから あんまり気にしないことね。」

アルス「う うん。」

マリベル「それにしても これから 楽しみね!」
マリベル「腕が鳴るわ~。」

アルス「…そうだね!」



時は遡ること一刻ほど前、まだ港に漁師たちが集まる前の頃のことだった。


495 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/08 12:52:42.84 W5dqu19v0 453/905




マリベル「え… 一本釣り?」



ボルカノ「ああ どうも 昨日 酒場で聞いたんだが この辺りの海域には 大型の回遊魚が 回ってきているみたいでな。」

マリベル「そ それじゃあ この間みたいな マグロとか釣れちゃったりするわけ!?」

ボルカノ「むっ? ああ そうだよ。」

マリベル「…も……。」

アルス「も?」

マリベル「燃えてきたわ! アルス! あんたには負けないからね!」

アルス「えっ!?」

マリベル「漁の腕でも この マリベルさまには かなわないってことを 記憶に刻み込んでやるわ!」

アルス「ええー!?」

ボルカノ「はっはっは! こりゃ オレたちも 負けてらんないな!」

アルス「でも 一本釣り漁って かなり 体力がいるんでしょ?」

マリベル「あーら あたしには 体力はなくても 魔力があるわ! ちょちょいと 応用すれば 男にだって負けないんだからね!」

アルス「うぐぐぐ……。」

ボルカノ「わっはっは! 今から 楽しみだな。」
ボルカノ「後で コツを教えてやるから 今日は みんなで 競争だな。」

マリベル「おっほほほ! 待ってなさいよ 巨大魚! この マリベルさまが いくらでも 釣り上げて見せるわ!」

アルス「ぼ ぼくだって……!」


496 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/08 12:53:45.09 W5dqu19v0 454/905




ボルカノ「それ! 網をひけ!」



「「「ウースっ!」」」

港からほど近い岸辺にやってきた漁船アミット号の上では一本釣りのためのある仕込みを行っていた。

マリベル「うわー! これ 全部イワシなの!?」

一行が獲りに来ていたのは一本釣りのエサに使うためのイワシだった。
大型の回遊魚はこういった小魚の群れを追ってやってくる習性があるため、
今回の漁では時間の都合上、沿岸にいて比較的手に入りやすいイワシをエサとすることとなったのだった。

アルス「一瞬で 確保できちゃったね。」

大きな生け簀の中に入れられた大量のイワシは脆い鱗をまき散らしながら泳いでいる。
日の光に当てられてキラキラと光輝く鱗の渦は見ていて飽きないものがあった。

「うまそうだなあ そのまま 食いたくなっちまうぜ。」

「大事なエサなんだ。がまんしろよ。」

漁師たちにとっては見慣れた魚だがやはり鮮度のいいものには食欲をそそられるのか、中には涎を垂らしている者すらいる。

ボルカノ「よーし これだけ あれば足りるだろう。」
ボルカノ「出航だ! 急いで 漁場に向かうぞ!」

「「「ウスッ!」」」

こうして無事準備を整えた一行はそこから南下した場所にある大陸と島の間、
ちょうど円形になった海域に向かい船を走らせるのだった。


497 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/08 12:54:36.59 W5dqu19v0 455/905


ボルカノ「見つけたぞ。」

日はだいぶ高度を上げ、少しずつ昼間の暑さが顔をのぞかせようとしていた。

船長は望遠鏡を覗くのをやめ、船員たちに指示を送る。

ボルカノ「あっちだ! 海鳥の群れを見つけたぞ!」

「ウス!」

「ガッテン!」

漁師たちは船長の指し示す方に向かって船を進める。

マリベル「ボルカノおじさま どうして 海鳥の群れを探してたの?」

ボルカノ「マリベルちゃん どうして あの海鳥たちは 群がっていると思う?」

マリベル「……エサをとるため かしら?」

ボルカノ「その通り。そして あの海鳥たちが 狙ってるのは イワシだ。」

マリベル「つまり 同じように そのイワシを狙って やってくる奴らを 釣り上げるって言うのね!」

ボルカノ「さすがは マリベルちゃんだ。察しがいい。」

マリベル「うふふ。これでも網元の娘ですから……。」

どうも少女は少年の父親に褒められるのが苦手な様で、簡単な誉め言葉でもすぐに顔がほころんでしまうのだった。

アルス「…………………。」

そんな少女を複雑な顔で見つめる少年はいったい何を思っていたのか。

それは彼の父親ですらわからない。


498 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/08 12:56:49.17 W5dqu19v0 456/905


ボルカノ「ここらへんで いいだろう。錨を下ろすんだ!」

「ウス!」

ほどなくして海鳥の群れの近くに船を泊め、船長は錨を下ろすように指示すると少年たちに話しかける。

ボルカノ「どの漁でも 同じだが 大切なのは カラダ全体を使うことだ。じゃねえと すぐに 腕がしびれちまうぞ。」

マリベル「はーい。」

アルス「わかりました。」

「おっと アルス! おまえには まず エサ撒きをやってもらうぜ?」。

一本釣り漁はスピードが命であるため、釣る者と餌を配る者、そして餌を撒く者などの役割が定められていた。
基本的に釣る役を担えるのは経験を積んだ熟練の漁師だけとされている。
そうでない若手の漁師はまず餌配りや餌撒きをして釣る者の手助けをするのが習わしだった。

「この船にのったやつは 必ず 通る道だ。頼んだぜ?」

アルス「……はい!」

ボルカノ「わっはっは! 息子よ まあ 悪く思うな。何事も こうやって 少しずつ 経験していくもんだ。」

アルス「わかってます 船長。」

少年は竿を握れないことを少しだけ残念に思う反面、
船長の息子だからと特別扱いされないことに少しだけ喜びを覚え、与えられた仕事を全うしようと意気込むのだった。

マリベル「…………………。」

少女の心は複雑だった。

少年は漁師の一員として、たいへんな上に地味ながら大事な仕事を任されている。

それは少年の成長を見守る少女にとっても喜ばしいことであった。

だがそれに比べて今の自分は網元の娘として、半分は客として扱われている。
普通に考えてみれば初めて漁に出たものが竿を握れるはずもなく、
地道な下積みを経て初めて魚と対峙できるのだろうが、これから自分はその過程を飛ばして甲板に立つ。
そんな二人の立場の違い、否、男女の違いといった方がいいのだろうか、それを再確認させられているような気がしてならなかった。

なんとなく、自分がどうして今まで漁に連れて行ってもらえなかったのかがわかってしまったような気がした。

アルス「…マリベル?」

マリベル「……えっ?」

アルス「どうしたの? 浮かない顔しちゃってさ。」
アルス「ぼくのことなら 気にしないでよ。きみが 大物釣れるように 頑張るからさ!」

自信に満ちた表情で少年が言う。

マリベル「…………………!」

それはなんでもないような気づかいだった。

しかしどこかで少女の胸は高鳴ってしまっていた。

マリベル「ふふっ。」

“今はこのことで悩むのはやめよう”

“彼が自分のために頑張ると言ってくれたのだ”

“ならば自分はそれに全力で応えるべきだ”

そう思えたのだった。

マリベル「まっかせときなさい! あたしが あんたの分まで いっぱい釣り上げて見せるわよ!」

威勢よく声を張り上げると少女は手に持った竿を力強く握りしめる。

マリベル「さあ 行くわよ!」

群れが去るまでの短期決戦。



船長の合図で投げ込まれた撒き餌と共に、一本釣り漁は幕を上げた。


499 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/08 12:59:38.27 W5dqu19v0 457/905




ボルカノ「…きたな!」



釣り糸が絡まぬよう船の片弦だけに立って行われる一本釣り漁はそれぞれの立ち位置もたいへん重要であった。
船首と船尾に釣る者が立ち、中央には餌撒きと餌配りが立ってそれぞれの役割を全うする。

最初に引きがあったのはやはり船尾に立っていた船長だった。
重たい引きを腕に感じ力強く竿を引っ張り上げれば一瞬で魚が宙を舞い、その勢いで針が外れて甲板へと落ちる。

黒光りする背に側面にかけて銀の虎模様の入ったソレは、脂が乗って丸々と太っていた。

「良い型のマルサバカツオですね!」

そう言って別の漁師が餌を渡すと漁師頭は素早くイワシを針にかけてそれ投げ込む。

片手で竿を小刻みに動かし、もう片方の手で長い柄杓のような物を使って海面をたたけばたちまち次の魚が食いつく。

まさに入れ食い状態となっていた。

マリベル「ボルカノおじさま それはなんですの?」

少女が長い棒を指して問う。

ボルカノ「これは カイベラといってね。これで 海面を叩いてやれば イワシが逃げているって 魚に勘違いさせられるのさ。」

船長が餌を付け替えながら言う。

マリベル「ふんふん なるほど そういうことなのね。」

そういうと少女は身体に呪文をかけ、左手で餌の付いた竿を海面に垂らしながら右手のカイベラで海面を叩く。



マリベル「…………………。」



辛抱強く海面を見つめてその時を待つ。

その横では船長がまたしても次の獲物を釣り上げていく。

船首の方でも漁師の一人が次々とカツオを甲板に放り込む。

マリベル「むむぅ。なかなか 来ないわね。」

そう言って少女は釣れない原因を探り始める。

マリベル「…………………。」

隣に立つ船長に注目してその動きを観察する。

自分に足りないものは……。

マリベル「あっ そうか!」

何かに気付いた少女はすぐさまその動きを自分にも取り入れる。



マリベル「…………………。」


マリベル「……っ!」



にわかに竿が重たくなり、何かに引っ張られる感覚を全身で感じる。

ボルカノ「マリベルちゃん 思いっきり 竿を立てるんだ!」

マリベル「はいっ!」

その様子に瞬時に気が付いた船長の助言通り、少女は身体をしならせて竿を思い切り持ち上げる。




500 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/08 13:00:15.23 W5dqu19v0 458/905


マリベル「……!」

針にひっかかったままの丸々と太ったカツオが甲板に転がり込む。

ボルカノ「…お見事!」

マリベル「…………………。」

少女は竿とカイベラを置いて自分の釣り上げた獲物をまじまじと見つめている。

マリベル「…やった!」
マリベル「アルスー! やったわよ!」

アルス「おめでとう マリベル!」

少女が獲物を釣り上げたことに少年も素直に喜んでくれているようだった。

マリベル「この調子で ドンドン釣っちゃうわよ!」

アルス「こっちも がんばるよ。」
アルス「……よし!」

少年も気合を入れなおすと今度は餌配りの仕事に取り掛かり始める。

コック長「血抜きは わしらが やっておきますから マリベルおじょうさんは 釣りに集中してください。」

マリベル「ありがとう コック長!」
マリベル「見てなさい! あいつが 腰ぬかすくらい 釣ってやるんだからね!」

そう自分に言い聞かして少女も再び釣り針を垂れる。



カツオとの勝負はまだこれからだった。



501 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/08 13:02:01.21 W5dqu19v0 459/905


ボルカノ「こんなところか……。」

まだ日が天頂を通る前、漁を始めてから二刻ほどした時だった。
海鳥の群れもいなくなり、辺りからはイワシもカツオの群れもほとんど見受けられなくなった。

ボルカノ「撤収だ! 錨を上げろ!」

「「「ウスッ!」」」

漁師頭の号令と共に漁師たちは一斉に竿を引き、船を発進させる。
船の操縦を数名に任せ、その他の船員たちは釣れた獲物の処理や使い終えた道具の片づけを行うことになった。

マリベル「うーん 思ったより 釣れなかったわね……。」

二刻で少女が釣り上げたカツオは30匹ほどだった。それでも初めての一本釣り漁にしては本当によく釣ったと言える。

ボルカノ「いやいや マリベルちゃん ひょっとすると アルスより センスがあったりしてな。わっはっは!」

アルス「すごいや マリベル! こんなに釣っちゃうなんて!」

少年やその父親は素直に少女のがんばりを褒める。
長い間彼女のこらえ性の無さに苦労した少年にとっては、
少女が大変な重労働を辛抱強くやり続けたことはもはや奇跡と言っても良かった。
それほどに少女も今回の漁には思い入れをもって挑んだということだったのだろう。

マリベル「ふふっ ありがとっ。」
マリベル「でも ボルカノおじさまみたいに ポンポン 針から外れたら もっと たくさん 釣れたかもしれないのに…… やっぱり 難しいのね。」

照れながらも少女は悔しそうに言う。

「ああ 跳ね釣りですか。あれは少なくとも 三年は修行しないと うまくいかないんですぜ。」

船長と同じように大量にカツオを吊り上げた銛番の男がやってきて言う。

マリベル「そりゃ そうよね~。いい勉強になったわ。」

ボルカノ「おう コック長 血抜きはもう 済んだのか?」

コック長「ええ 一匹残らず やってきおきましたよ。」

この日の漁獲は指の先から肘ほどの長さの物が全部で三百匹ほどだった。

比較的よく釣れて味も良いこのカツオは鮮度が落ちるのも早いのだが、
それ以上に早めに血抜きをしなければ食あたりを起こす物質が体内で生成されてしまうため、
釣ったらその場で血抜きをしておかなければならなかったのだ。

「早くしないと 売り物にならなくなっちゃいますからね!」

ボルカノ「よし それじゃ あとは保存だが……。」

マリベル「お任せあれ! ほら アルスもやるのよっ!」

アルス「え? あれ ぼくもやるの!?」

マリベル「あら レディだけに あんな姿 晒せって言うの?」

アルス「う… わかったよ……。」
アルス「それじゃ ぼくはこっちから行くね。」

マリベル「じゃあ あたしはこっちの列ね。」

そうして二人は真っ白に輝く冷たい息を吐きながら満遍なくカツオの列を凍らせていく。

ボルカノ「便利なもんだな。あれ。」

コック長「いつか 食材の保存方法が 変わるかも しれませんな。」

「え? みんな あんなの 吐くようになるのか?」

コック長「バカモン。冷凍保存する技術が 出てくるようになるってことだよ。」

「きっとこりゃ 高く売れますよ~! ボク 帰ったら 久しぶりに城下町で 遊んじゃおうかな~!」

そう言って飯番は小躍りしながらにやつく。

「気が早えな おまえ。まだまだ 航海はこれからだぜ?」

「ははは… わかってますって!」

そんなやり取りをしながら男たちは二人の作業が終わるのを見つめる。
真剣ながらもどこか楽しそうに見える二人の姿は見ていて飽きないものがあり、
屈強でこわもてなはずの漁師たちの表情もいつの間にか子を見守る親のようなそれになっていた。

雲一つない空の下、温かい日差しを浴びながら漁船アミット号は次なる目的地へと向けて再び舵を切るのだった。

502 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/08 13:04:02.72 W5dqu19v0 460/905



ボルカノ「お 城が見えてきたな。」


その後北上しながら漁場をいくつか見つけては少しだけ漁をし、
漁船はマーディラスの大陸とメモリアリーフのある大陸との境、つまり海峡を越えようとしていた。

マリベル「あら 本当だわ。…見て見て アルス!」

アルス「うん?」

マリベル「だれか 橋の上にいるわよ?」

アルス「えっ!」

少女の呼び声にマーディラスの方を見やると確かに橋の辺りに人影が見える。

マリベル「だれだろうね。」

アルス「…………………。」

少年は意識を集中させ、遠い海の向こうの崖に佇む誰かの姿を見据える。

アルス「……!」

黙ったままの少年だったが、突然手を上げたかと思えばゆっくりと大きく左右に振った。

まるで誰かに合図を送るかのように。

マリベル「どうしたの?」

アルス「……ううん。何となくね。」

果たして少年の見つめるその先の人物に少年の姿が見えたかどうかはわからない。
だがどういうわけか少年はそうせずにはいられなかった。

マリベル「…………………。」
マリベル「…まっ 誰でもいいわ。」
マリベル「それより ボルカノおじさま。今日はどこまで 行くんですの?」

ボルカノ「ああ それなんだが……。このまま 夜通しで突っ走るか どこかで休憩するか 迷ってるんだよ。」

マリベル「夜通しだと どうなりますの?」

ボルカノ「次の目的地までは 明日の 真夜中ごろには つくだろうな。」

マリベル「どこかで 休憩すると?」

ボルカノ「明後日の昼頃 だな。」

マリベル「うーん。記憶が正しければ この辺りに 一軒だけ 宿があったはずなんだけど……。」

アルス「いいんじゃないかな 昨日は みんな じゅうぶん 休んだんだろうし。」

少女が頬に手を添えて考え込んでいると、それまで西の方を見つめていた少年が向き直って言う。

ボルカノ「……まあな。」

実際、漁師たちはマーディラスに滞在している間、少年や少女のように慌ただしい時間を過ごしていたわけでなく、
城下町で二日間を過ごしてしっかりと羽休めを終えていたところだった。
それにこれまで何十日もの間陸に上がらず漁に出ていた漁師たちにとっては
一日ベッドに横にならなかったからといってどうこうという話ではなかったのだ。

ボルカノ「二人とも 体は大丈夫なのか?」

マリベル「うふふ。これぐらいで 音を上げるようじゃ 英雄なんて 務まっていませんですことよ!」

アルス「……父さんの子ですから!」

ボルカノ「……決まりだな!」

二人の言葉に頷くと船長は号令をかける。

ボルカノ「おまえたち! 今日は このまま 船を走らせる! 到着は明日の夜中だ! いいな!」

「「「ウスッ!!」」」

こうして日も傾きかけた頃、漁船アミット号はあの忌まわしき事件以来の夜通しでの航海を決め、
一同は交代で見張りと操舵を行うこととなったのだった。

トパーズ「くぁ~……。」

甲板で日光浴に耽る三毛猫は、どこまでも退屈そうに欠伸をするだけだった。

503 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/08 13:05:54.70 W5dqu19v0 461/905


マリベル「気持ちいい風ねー。」

アルス「……そうだね。」

西から吹く涼しい風を受けながら、帆船は夜の海をゆっくり確実に東へとその船体を滑らせていた。

マリベル「ねえ あそこにあった 洞窟のこと 覚えてる?」

アルス「……覚えてるよ。」

甲板で見張りをする少年に付き合っていた少女が不意に話しかける。

アルス「たしか お宝探しだとか言って みんなで 張り切って 乗り込んだんだっけ。」

マリベル「あの時の キーファとガボの はしゃぎようったらね。見ていておかしかったわ。」

アルス「洞窟の中も 不気味だったけど あそこにいた 魔物もかなり 厄介だったよね。」
アルス「えーっと なんだっけ? コスモファントムみたいなやつ。」

マリベル「洞窟の魔人で いいんじゃないの? にしても 趣味悪いやつよね~。」
マリベル「どこの誰が 流した噂だか知らないけど やってきた人間を 片っ端から殺していたなんてね。」

アルス「好奇心は 猫を殺す か……。」

トパーズ「なおー。」

そう言って少年は足元で八の字を描いていた三毛猫を抱きかかえる。

マリベル「ちょっと 縁起でもないこと 言わないでよ。」

アルス「ごめんごめん。」

マリベル「それにしても どうして 洞窟がなくなって あんな宿が立ったのかしらね。」
マリベル「毒沼の真ん中に 宿屋を立てるなんて あたまが どうかしてるわ。」

二人で三毛猫を撫であっていると、思い出したかのように少女が呟く。

アルス「洞窟って 数百年で 消えちゃうものなのかな?」

マリベル「バカねえ。そんなこと言ったら 他の洞くつだって とっくになくなってるわよ。」

アルス「…………………。」
アルス「えーっと レブレサックにあった 魔物の洞くつは……。」

マリベル「……お店になったわね。」

アルス「ダーマの洞くつは……。」

マリベル「山賊のアジト……。」

アルス「マリベル……。」

マリベル「…………………。」
マリベル「って なに言ってんのよ! 今でも そのままの洞くつなら いっぱいあるじゃないの!」

アルス「あ ばれちゃった?」

マリベル「キーッ! アルスのくせに このあたしを 陥れようとするなんて 生意気よ!」



トパーズ「フギャアアアッ!」



504 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/08 13:08:32.54 W5dqu19v0 462/905


しっぽを触っていた少女の手に力が入ったのか、思わぬとばっちりを受け三毛猫は絶叫を上げる。

マリベル「あっ ごめんなさいね。」

トパーズ「ぅう~。」

鼻頭をなめて低く呻く猫に謝りながら少女は優しく患部を撫でる。猫は少女を恨めしそうに見た後、少年の腕の中で少しだけもがき、さっさと降りて船室の方へ行ってしまった。

アルス「あははは!」

マリベル「…ったく。要するに 脆いところは崩れて 後から来た人が 埋め立てて 造っただけの話よね。」

アルス「だとすると いまも 地下には 魔物たちが 潜んでいるのかもね。」

マリベル「……よしなさいよ。」

二人の間を風が抜けていく。

マリベル「…………………。」

アルス「…………………。」



マリベル「今日は おつかれさま。」



アルス「えっ?」

突然の労いの言葉に少年は戸惑う。

マリベル「たいへんだったでしょ?」

アルス「……まあね。」

少女は先の漁で汗を流して働いていた少年の姿を思い浮かべていた。

マリベル「悪いわね あたしだけ はしゃいじゃってさ。」

釣り手が楽な仕事ではないことはお互いわかっていた。

だが少女はなんとなくそう言わずにはいられなかったのだった。

アルス「マリベルだって あんなに がんばってたじゃないか。」
アルス「どれも 大切な役割に 変わりないし ぼくは そのうちの一人として 仕事ができるだけでも 満足さ。」
アルス「それに ぼくも これから少しずつ みんなや 父さんに 仕込んでもらうからさ。」

思いのほか少年はなんでもない風に言う。

マリベル「……そうよね。あんたは これから いっぱい修行して 立派な漁師になって……。」
マリベル「あたしは……。」
マリベル「この漁が終わったら… やっぱり あたしはもう 連れてってもらえないんだもんね……。」

アルス「マリベル……。」

マリベル「本当は ずっと……。」
マリベル「…………………。」
マリベル「なんでもないわ。…今のは 忘れてちょうだい。」

アルス「…………………。」



アルス「マリベル。」



505 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/08 13:12:20.56 W5dqu19v0 463/905


マリベル「ん? …っ!」
マリベル「……なによ。」

呼ばれたと思ったら不意に抱きしめられ、少女は困惑しているような怒っているような、
そして少しだけ恥ずかしそうな顔を横に逸らす。

アルス「ごめん 本当は ぼくも ずっと一緒にいたいけど……。」

マリベル「…わかってるわ。ワガママだって。」

アルス「…だからさ 一緒にいられる時間は 他の人より 少ないかもしれないけど その時間を 大切にしよう?」

マリベル「…………………。」
マリベル「なによ… アルスのくせに かっこつけちゃってさ。」

少年の肩に頭を乗せると、少女は照れ隠しの悪態をつく。

マリベル「あたしを 満足させられなかったら メラゾーマ百発よ?」

上目使いに少年を見上げて少女はさらっと恐ろしいことを言ってのける。

アルス「せめて メラじゃ……。」

マリベル「あら そんなに ザキがいいですって?」

アルス「メラゾーマでいいです。」

マリベル「…バカね。しないわよ そんなこと。」

ジトっと少年を睨んでいた少女だったが、あまりの少年の即答ぶりに思わずクスッと笑う。

アルス「前科があるからなあ。」

マリベル「だーかーらー。悪かったって 言ってるじゃないの!」

そう言って眉を吊り上げると、今度は腕を伸ばして少年の頬を引っ張る。

アルス「わ わハっハ わハヒまヒハ!」

身振り手振りで降参の意思を示し少年は必死に懇願する。

マリベル「ふんっ。」

アルス「あいたた……。」

マリベル「もとはと言えば あんたが 悪いんだからね? わかってるの?」

アルス「ハイ ワカッテマス。」

マリベル「…………………。」



マリベル「ね アルス。」



訝しげに少年の顔を睨んでいた少女だったが、
少しだけ頬を染めて少年の名前を呼ぶと何かを訴えるように上目がちに少年の目を見つめる。

アルス「…………………。」

マリベル「……もうっ やっぱり にぶちんね。」

黙ったまま見つめ返す少年に痺れを切らして少女は後を向いてしまう。

マリベル「は~あ。どうして こんなの 好きになっちゃったのかしらね~。」



アルス「マリベル。」



マリベル「なによ…っ!?」
マリベル「…………………。」

アルス「…………………。」



マリベル「あっ……。」


506 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/08 13:15:02.35 W5dqu19v0 464/905


振り向きざまを狙った不意打ちの接吻。

少女は一瞬何をされたか分からずにいたが、
唇の離れる瞬間にそれがなんだったのかに気付き、名残惜しげに短い声を漏らす。

アルス「…もう一回?」

マリベル「…………………。」
マリベル「……うん。」

どこか意地悪そうに見つめる少年に少しだけ心臓の高鳴りを覚えて見とれる少女だったが、
真っ赤になったまま少しだけ目を逸らすと絞り出すように懇願の言葉を呟いた。

アルス「大好きだよ マリベル。」

そんな少女が愛おしくてたまらなくなり、少年は促されるまでもなく素の言葉を少女に浴びせる。
そして少女の首に腕を回して正面を向けさせると、そのまま吸い込まれるように唇を重ね合わせた。

マリベル「ん…ん…… ふ……。」

荒くなる少女の息を聴きながら、ゆっくりとその柔い感触を確かめるように口を動かし少女の唇に自分のそれを這わせていく。
心臓と心臓の鼓動が重なり、いつしか二人は一体となってしまったような錯覚を覚えていった。



アルス「……苦しかった?」



長く短い時の中で愛を確かめ合った後、
どちらともなく離された口元からは刹那の橋がかけられ、風に流されて水面へと消えていった。

マリベル「はあ… ちょ…ちょっとね。」

少しだけ乱れた息を整えながら少女が答える。
その頬は林檎のように染まり、瞳はとろんと溶け、少年の理性を根こそぎ奪い去るかのような際どさを感じさせた。

アルス「ゴク……。」

マリベル「アルス……。」





“あっ まずいかも”





少年がそう思った時だった。



507 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/08 13:16:56.50 W5dqu19v0 465/905




「それでよ うちのカミさんが言うんだ。いつまで 待たせるんだってな。」



階下から近づいてくる声に気付いて少年がさっと少女から腕を離す。

「そりゃ おめえ そんなの おまえが その気になりゃあよ……。」

「おっ アルスに マリベルおじょうさん。見張りごくろうさん。」

「なーんだ 二人で イチャイチャしてたのかい?」

「ついでに こいつの のろけ話でも 聞いてくれよー!」

アルス「は ハハハ……。」

マリベル「…………………。」
マリベル「……んもうっ。」

少女の悪態を横に聞きながら少年は乾いた笑いを上げることしかできなかった。
ただ、あのまま放っておいたら何をしてしまうのか、否、何をされるかわかったものではなかった。
そうなってしまえば取り返しのつかないことになる。

言い方は悪いが少年はこの二人の漁師に救われたのだ。



「それでさ カミさんったらよぉ……。」



頭に入ってこないのろけ話を聞きながら少年はそっと胸を撫でおろし、
この後またどうやって少女のご機嫌をとろうかと考え始めるのだった。

そんな少年を眺め、星空に浮かんだ月が楽しそうに笑っていた。





そして……


508 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/08 13:17:29.45 W5dqu19v0 466/905






そして 夜が 明けた……。





509 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/08 13:18:59.79 W5dqu19v0 467/905


以上第16話でした。

*「ボルカノさんのことは 城下町でもよく ウワサしてるんだ。」
*「荒れた海での いっぽん釣りは 今でも 語りぐさだよ。」

既にこの旅の中ではいくつかの漁法を行ってきましたが、
原作をプレイしているとこの一本釣り漁業はちょっと特別なものであることが分かります。
「ああ、これぞ漁」というインパクトは確かにありますよね。
わたしは実際に一本釣りを見たことはありませんが、
ドキュメンタリー番組などで見かけるカツオ一本釣り漁は物凄い迫力ですよね。
針を入れた傍から釣れる光景には息を飲むものがあります。

ああいう風に入れ食い状態になるのはカツオの習性を利用した方法なんだとか。
興奮状態になったカツオは動くものをなんでも飲み込もうとするらしいですね。
ドラクエの世界で疑似餌などを使っているかどうかはわかりませんが、
今回のお話では実際に昔行われていた漁法を参考にさせていただきました。
(なので一応エサには生のイワシを用意しましたが)

それで、キーアイテムとなるのが「カイベラ」。
棒の先に竹の筒を半分にしたような物を取り付けた道具らしいのですが、
現在の様にスクリューの無い時代にはそれを水面に叩きつけてしぶきを起こしたそうです。
きっと大変な労力だったでしょうね。

マリベルがそれをこなす上でわたしなりに考えたのが魔力で身体を強化するという安直なものなのですが、
実際主人公たちがレベルアップして強くなるのはどういう原理なのかと考えた時に
どんなに体が丈夫になっても人には限界があると思うので、
やはりそういった謎の力を使って身体を強化していると解釈するのが無難ものかと。

みなさんはどうお考えでしょうか。

…………………

◇次回はいつもとは違った形式で物語をお届けします。



510 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/08 13:20:38.86 W5dqu19v0 468/905


第16話の主な登場人物

アルス
アミット号の新人漁師。
船長の息子にして世界の英雄という立場であるが、
新入りに変わりはないため漁においては特別扱いされない。
本人もそれでよいと思っている。

マリベル
自分が網本の娘であることを再認識する。
悲しくはあるが、アルスのことを後ろから応援したいと思っている。

ボルカノ
アミット号を仕切る国一番の漁師。
一本釣り漁では誰もが見とれる腕で獲物を吊り上げる。

コック長
場合によっては甲板に出て漁の手伝いをすることもある。
サイードに砂漠の料理を教えてもらっていた。

めし番(*)
コック長と一緒に甲板へ出て獲物の処理をする。

モリ番(*)
今回の漁ではボルカノと同じように釣り役に徹する。

アミット号の漁師たち(*)
新人アルスの成長を見守る先輩漁師たち。
漁が滞りなく進むよう、流れるような動作で作業に勤しむ。

トパーズ
アミット号のお守り猫。
暇な時は寝ているか、アルスやマリベルのもとへ行くことが多い。

511 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/08 22:38:16.91 W5dqu19v0 469/905






航海十七日目:ある少女の一日 / 少年の独白





512 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/08 22:42:08.12 W5dqu19v0 470/905




“漁船アミット号の朝は早い”



と、言いたいところだけど、漁をしながら長期間航海を続ける漁師たちに朝も何もないわ。

もっとも、今回の航海は特別なものだからいつもとは勝手が違うんだけど。

基本的に夜通しで船を走らせている間、交代で見張りと舵取りをしなきゃいけないから、

漁師たちは寝たり、寝なかったり、その日の予定で一日の動きが変わってくるわけよ。

あたしと言えば、今日は朝から三毛猫のトパーズに扉を叩かれてコック長たちが起こしに来る前に起きちゃったわ。

まったく、人の苦労も知らないでネコちゃんってのはいい気なもんよね。

隣で寝ているんだからあいつが止めてくれればいいのに、ホント気が利かないやつ。



仕方ないから起きて着替えて、あたしがいつも作ってる猫用のごはんをあげる。

流石に人と同じようなのを与えるわけにはいかないからね。

もっとずっと健康志向な献立で体調を保ってあげるの。あたしってばなんて優しい人なのかしら。



それが終わって二度寝しようと思ったら今度はコック長たちが来ちゃうんだもの。

せっかくの睡眠時間はあっさり朝ごはんの準備時間に早変わりよ。



今日の献立は芋のサラダとトマトのスープ、それから厚切りのベーコンとトースト。

朝だけどみんな本当によく食べるから作る量もかなりのものだわ。

芋の皮むき一つとってもその数は軽く二十弱。

面倒な作業だけど隣から起きてきた奴にテキトーに任せてあたしはひたすらベーコンを焼いたわ。

燻されたいい香りが寝不足でしぼんだお腹を少しずつ元に戻して、すっかりあたしもお腹ペコペコよ。



それから日が完全に昇りきる前にそれまで寝ていた漁師たちも少しずつ起きてきて、今日の朝ごはんが始まったわ。

やっぱり海の男たちね。あれだけ用意した料理がみるみるなくなっていくんだもの。作り甲斐があるってもんだわ。



食べ終わったら交代で来た漁師の人が皿を洗い、その横でコック長とあたしが鍋を洗う。

飯番といえばもうお昼ご飯の下ごしらえを始めようとしているわ。

それから自分の仕事を済ませたら、悪いんだけどあいつのハンモックで寝かせてもらうことにしたの。

流石に調理場はうるさいし、寝てたら気を使わせちゃうからね。

それにどうせあいつはしばらく表の見張りでいないし、昨日は遅くまで付き合ってあげたんだからこれぐらい良いわよね。



ハンモックに横になろうとしたらそこには先客がいたわ。三毛猫のトパーズよ。

まったくこの子ったらあたしの睡眠の邪魔をするのが生きがいなのかしらっていうくらいね。

仕方ないから渋るトパーズを無理やり持ち上げて自分の寝場所を確保することにしたわ。

もちろん嫌そうに鳴いてたけどそんなことは知ったことじゃないわ。あたしの眠りを妨げた罪は大きいのよ。



それからしばらく仮眠をとってお昼ご飯の準備が本格的に始まる前に体を休めておくことにしたわ。

この船の上での料理は戦場なのよ。



513 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/08 22:45:13.08 W5dqu19v0 471/905


日もだいぶ昇った頃に目を覚ましたあたしはとりあえず濡らした布で体を拭いてお風呂に入れなかった体をきれいにしていくの。

もちろん簡単なカーテンをかけて誰にも見られないようにね。

そもそも男だらけのこの船の中であたしってば紅一点だから普通に考えてみればかなり危ないのよね。

まあこの船に一人を除いてそんなことをする人はいないし心配はないんだけどね。



身体を洗い終わったらすぐに昼食の手伝いが始まるわ。

お昼の献立は鶏を二匹つかった香草蒸しにニンニクときのこの唐辛子パスタ、それから鶏からとれた出汁の玉ねぎスープ。

いくら途中の町や港で買い足せるからと言って船の上では食材は何一つ無駄にはできない。

過酷な旅に野営を重ねてきたあたしにとっては当たり前の感覚だけど、
いろいろと考えながら食材を使わなきゃいけないのはやっぱり難しいのよね。

そこの辺りは流石はコック長といったところかしらね。

パパや漁師のみんなが信頼を置くだけあるってものね。



なんでも今日の夕方からまた漁を始めるらしくて、男どもは競うように鶏肉に手を伸ばしては腹の中へ放り込んでいたわ。

体力付けなきゃいけないのはわかるけどもう少し味わってほしいもんだわよ。

そうこう言ってるうちに出遅れたやつが渋い顔でこっちを見てくるもんだから、
かわいそうになって皿洗いの時に差し入れしてあげる羽目になっちゃったわよ。

ホントとろいんだから、余計な世話を焼かなきゃいけなくなるこっちにの身にもなりなさいってんだわ。



昼すぎ、風に当たりに甲板に出たらボルカノおじさまが船の先端で海面を鋭い目で見ていたわ。

どうやら潮の流れを見てこの先魚がどのあたりに来るかを見ているんですって。

その横では普段は間抜け面のあいつが真剣そうな顔してその話を聞いていたわ。

あたしが後ろの方からその様子を見てるのなんてまったく気づいてないみたい。

せっかくこーんな美少女が見守ってあげてるんだから挨拶くらいしたらどうなのかしら。失礼しちゃうわ。



でも、いつもは何考えてるか分からないあいつが時々見せるあの顔はちょっとかっこいいなって思うわ。

ちょっと前まではカボチャの方が素敵だと思ってたのに、今なら素直にそう思えるんだから人って変わるものね。



いつかあいつもボルカノおじさまを追い越してエスタード一の漁師って呼ばれる日が来るのかしらね。

そしたらあたしは世界一の美少女、いやその頃には美女の方が正しいのかしら、まあいいわ。

あたしは世界一の美女にしてエスタード一の漁師の、漁師の……。

まっ、なんでもいいかしらね。

とにかくあいつには誰にも恥じない男になってもらわなくちゃ困るわ。

そうでないとつり合いがとれないものね。誰ととは言わないけど。



そんなこと考えてたらあいつがこっちに気付いて笑って呼ぶもんだから咄嗟で変な声が出ちゃったじゃない。

まったくレディに恥をかかせるなんてあいつもなってないわね。

後で仕返ししてやろうっと。



514 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/08 22:47:46.80 W5dqu19v0 472/905


そうして時間を過ごしているうちにすっかり日は傾いて夕方。

甲板が慌ただしくなって漁師たちがボルカノおじさまの指示を待たずとも自主的にどんどん仕事をこなしていく。

やっぱりお互い信頼して何をすべきなのか分かってるのね。

少し緊張してるけどあいつも状況を見て自分のすべきことを見つけてなんとかやってるみたい。

昔だったらおろおろするだけで何もできなかっただろうに、あいつも随分成長したんだなって感心したわ。

もちろんあたしの進歩には敵わないけどね。



今日は海面付近で群れを作る魚たちを網で獲るらしいわ。

今まで比較的深い所の、しかも大きな魚ばかり狙って漁をしていたから返って今回の漁は新鮮味があって面白かったわ。

なんてったってあたしも投網の技術に関しては自信があったからね。

漁師たちに混じって投げるのを手伝ったりしたわ。

結局それが運よくなのかわからないけどちょうど魚の群れに当たって、正に一網打尽よ。

重たすぎて引き揚げるのが辛いくらいだったからバイキルト使っちゃったわよ。

こんなところでもそつなく対応してしまう自分が怖いわ。



投げられた網を回収して、それだけで甲板には魚の山が積みあがっていたわ。

でも問題はここからよ。

すぐにみんなお腹を出して、食材にできるものは別にしてあとは全部冷凍保存。

この作業が大変なのなんの。

なんせ何百匹という魚を一匹一匹捌いていかなきゃならないんだからそりゃ骨も折れるってものよね。

網の手入れはひとまず置いといて船の全員で片っ端から選別しては捌いて、
ある程度まとまったらあたしとあいつでひたすら凍らせる作業の繰り返し。

もう口が凍傷になっちゃうかと思ったわよ。

鮮度を保つためには仕方ないとはいえこっちの身にもなって欲しいもんだわ。



もちろん獲った魚は全部冷凍じゃなくてこれまで通り塩漬け、酢漬け、干物、コック長が小さな窯を使って燻製を作ったりしてね。

全部が全部生で出されても調理の仕方がわからないなんて人も内陸の町にはいたりするから、これも大事な保存方法なのよね。

それに、やっぱり加工するにしてもコック長みたいな料理人が作った方が美味しく仕上がるってものよね。

こっちだってこれで食べていかなくちゃいかないわけだもの、常により高く取引できるように努力を惜しまないのよ。

あたしも網元の娘としてそういうセンスを磨かないとダメね。

これまでの旅で十分身に着けたつもりだったけど、この手のことについては果てが見えそうにないわ。

まっ、それだけやりがいがあるってもんだわよね。



515 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/08 22:49:53.44 W5dqu19v0 473/905


魚を処理し終わって一息つけるかと思いきやすぐさま夕飯の準備よ。

今日は昨日釣り上げたカツオとさっき獲れた魚をふんだんに使ったフルコースね。

たたきに、燻製、意外といける炒め物まで、手分けして存分に腕を振るってあげたわ。

結果は大反響。まったく、あたしってばフィッシュベルでお店が経営できるんじゃないかしらね。

コック長も飯番もそんな手もあったのかとか言って雷にでも打たれたみたいだったわ。

まあそうしたらこの船で誰が料理作るのよって話だけど。



夕飯が終わった後も漁師たちは網の手入れが終わってなかったみたいだからあたしも混じって手伝ったわ。

みんなは休んでていいって言ってくれたけど、やっぱりあたしだけが特別扱いなのも嫌だし、
何より自分だけ手持無沙汰っていうのがなんとなく許せなかったのよね。

疲れた体に鞭打って手入れを終えて、気づけば辺りは真っ暗。

もともと夜だったのはわかってたけど今日は新月だったみたいで、見上げれば月のない夜空が延々と広がっていたわ。

それで辺りを見回してみたら空をぼーっと眺めているあいつを見つけて、昼間の仕返しに後から首に息を吹き付けてあげたの。

そしたら驚いたあいつの素っ頓狂な声。

おかしかったらありゃしなかったわ。これでお相子ってところかしらね。



それからしばらく二人でどうでもいい会話をしながら過ごしてたんだけど、
気づいた時にはもう瞼がほとんど塞がってて、また目を開けた時にはハンモックに横になってたのよね。

いったいあの後どうしちゃったのかしら。

あたしのことだから死に物狂いで歩いて降りたのかしらね。

まあそういうことにしておきましょ。

でもおかしいわね。いつもバッグに隠してあるあたしだけの航海日誌を抱えたまま寝てたなんて。

いつの間にこんなもの持って寝てたのかしら。

やーねえあたしってば。



たぶん、真夜中を過ぎたぐらいだったかしら。

いつの間にか船の揺れが小さくなってどうやら港に到着したみたいね。

でも周りの物音がしないのをみると今日はこのままここで一泊するみたいね。

ま、このまま疲れた体で宿まで行く気力もなかったし、ありがたいと言えばありがたいことね。





さて、あしたはどんなことがあたしたちを待ってるのかしらね。




…………………


516 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/08 22:52:47.26 W5dqu19v0 474/905




どうやら彼女はもう限界らしかった。



無理もない。

昨日は遅くまで付き合わせちゃって、今朝はいつもより早く起こされ、料理に片付け、
漁の手伝いに魚の後処理、休む間もなく夕飯の支度に網の手入れ。

途中で仮眠はとったとはいえ、彼女にとっては少々酷な一日だったかもしれない。

もっとも、過酷な旅をしていた頃はこれ以上にひどい有様だったこともあったのだが。



なんにせよ今の彼女はぼくの言葉にも虚ろで、もう半分は夢を見ているようだった。

次第に頭が下がり始め、時々はっとしては頭を振っている。



もう寝かせよう。



そう思いぼくは彼女の体を抱きとめるとそのまま脇の下から背中にかけ、
もう片方は膝の下を抱えて持ち上げ、ゆっくりと起こさないように彼女を船室の一番奥へと運んでいく。

途中で見つかった時はどうなるかと思ったけどどうやら見て見ぬふりをしてくれているようだった。

彼らには後でお礼を言っておかなければ。



調理場にあるハンモックに彼女を横たえると少しだけ彼女は目を覚まし、
かけてあった鞄の中から何かを取り出しては広げて顔に被せる。

どうやら航海日誌のようだった。

だがそれはぼくたち漁師がつける簡素で分厚いものではなく、
織り込まれた羊皮紙を何十枚か束ね、可愛らしい装飾を施した本のようだった。



まじまじとそれを眺めていると不意に彼女が寝返りを打ち、例の日誌が床に転げ落ちる。

ぼくがそれを拾おうと手を伸ばしたとき薄闇の中である一文だけが目に映った。

そこに書かれていた内容はこうだった。





“あたしはこれからあいつのために何をするべきなのか”





517 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/08 22:53:51.50 W5dqu19v0 475/905


一瞬でそれは見えなくなってしまったが、
その文になんとなく彼女がここのところ見せていたどこか思い悩むような表情はこれが原因だったのだろうかと思いを巡らせた。



ぼくは彼女が一緒にいてくれるというだけでそれ以上はもう何も望まない。

だが、どうやら彼女はそうじゃないのかもしれない。

ぼくは何を彼女に無理強いするつもりもなく、ただ彼女のやりたいように楽しく生きていてくれればそれでいいと思っていたのだが。



漁についてきてくれとは言わない。

ではぼくは彼女になんと言ってやれば良いのだろうか。

こればっかりはぼくがどうこう言って解決できる問題ではないのかもしれない。



そこまで考えて日誌を拾い上げると、彼女の腕の中にそれを滑り込ませ、ぼくは厨房を後にした。



518 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/08 22:55:26.18 W5dqu19v0 476/905




自分の寝床のある食堂の椅子に座って今日一日を振り返る。



朝から食事は大満足だった。



旅をしていた頃だって、乏しい食材でも彼女がよく料理をしてくれたから、
量は少なかったけど楽しくて、満足していたことには変わりない。

だけど今や彼女は豊富な食材や料理人に囲まれて思う存分にその腕を振るってくれている。

すべてにおいて文句のつけようもない。



ただ昼はみんなの食べる速さのあまりにちっとも鶏肉が食べられずじまいだった。

それでも見かねた彼女が、皿洗いをしている時に昨日の残りをこっそりくれたのが嬉しくてたまらなかったな。



それから今日は父さんに魚の群れと潮の流れのことを教わった。

この世界には膨大な種類の魚がいて、場当たりではなく一つ一つを追いかけて漁をしなければならない以上、
この知識は漁師にとってはなくてはならないものだ。

知識だけじゃない。体の感覚をすべて使ってその時の状況を読み、的確に動いていかなければ漁は成功しない。

少しずつ経験を積んで、ぼくもいつかは父さんを超える漁師になるために精進しなければならない。

そのためにもこうやって吸収できることはなんでも吸収していかなければ。



520 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/08 22:57:36.19 W5dqu19v0 477/905


日が暮れてきた頃、漁師のみんなと一緒に今日は魚群を狙って海面付近で曳網をした。

移動しながらの漁となると漁法も限られてくるしチャンスも少ない、そこで頼りになるのがやはり父さんの目だ。

号令と共に放った網はすぐに魚群を飲み込んでずっしりと重たくなった。

引き揚げるとそこにはやはり大量の魚たちが掛かっていた。

網の目は大きめにしたあったから売り物にならないような小さな魚はかからなかったけど、それ以上に収穫は多かった。

片っ端から腹を出しては選別し、ぼくと彼女で加工しないものを冷凍していく。



それが終わった後はすぐに網の手入れだ。

複雑に入り組んでいる網はところどころ絡まったり変なものがくっついたりしている。

でもこういうものを放っておいては次に使う時にちゃんと広がらなかったり、魚が傷ついてしまったりする。

だから地道な作業だけどこの手入れだけは絶対に欠かせない大事な作業なんだ。



しばらくして夕飯に呼ばれて食堂に降りれば今日も豪勢な料理がテーブルの上に所狭しと並んでいた。

目移りしそうになりながら一つ一つ丁寧感想を言いながらに食べていく。

獲った魚が美味しい料理になって出てくるのはもちろん嬉しいし、
そうやって美味しそうに食べるぼくたちを見て料理をした3人も嬉しそうだった。



夕飯を食べ終わったらさっき終わらなかった網の手入れの続きだ。

丁寧にゴミを取り除きながら甲板に並べて乾かしていく。

切れやほつれがないか確かめながら作業を進めていたら夕飯の後片付けを終えた彼女がやってきて手伝ってくれた。

ぼくに加えて操舵や見張りをしていた人も休んでいるように言ったんだけど彼女は引かなかった。

どうやらただ乗っているだけの時間というのがなんとなく嫌ならしい。

もうこの船の誰もが彼女を網元の娘としてではなく一人の船員として見ているというのに。

いや、もしかすると漁師たち以上に彼女はこの船の上では働き者なのかもしれない。

漁師たちだけでは乗り越えられなかった困難も彼女がいてくれたおかげで突破することができた。

ぼくも彼女にどれほど助けられたことかわからない。

それくらいみんなが彼女に感謝していたし慕っていた。あの父さんですらね。



どちらかというとぼくは彼女が辛くないのか心配だった。

誰がどう見たってこの2週間はいろいろありすぎたと思う。

行く先々で事件が起こり、ひと悶着あり、魔物たちと戦う。

まるであの旅の続きをしているかのように。

それもほぼ毎日それの繰り返しで、流石に彼女も疲労が溜まっているのではないだろうかってね。



ぼくの予感は当たっていた。

作業が終わって星を見ていたら彼女がやってきて、その後、今に至る。

確かに宿に泊まったりしてるから肉体的な疲労はそこまでないかもしれないが、蓄積というものがあったに違いない。

彼女にはしばらくゆっくりしてもらいたいものだ。



521 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/08 23:00:03.99 W5dqu19v0 478/905


そこまで考えてぼくはふと隣の厨房で眠る彼女の顔を思い浮かべた。

この航海中、彼女は今まで以上に色んな表情を見せてくれた。

怒ったり笑ったりした顔はしょっちゅう見てるけど、あんな泣き顔を見せることなんて一度もなかった。

そう、気丈な彼女はどんな辛いことがあってもあの旅の中で涙を見せることはなかった。

プライドのせいで弱い自分を見せられなかったのはあるかもしれない。

でも、よく考えてみたら彼女の涙のほとんどの原因はぼくにあるのだろう。



最初の夜も、フォロッド城でも、クレージュでも、砂漠でも。

それに最近だって大神殿で泣かれてしまった。

ああなってしまったら不器用なぼくにはどうすればいいか分からないし、ただ抱きしめて謝ることしかできない。



理由は様々だけど、ぼくにはあの彼女が涙を見せるということ自体が衝撃的なことだった。

明らかに以前の彼女とは違うのだ。

いや、もしかしたら彼女はぼくたちに隠れてこっそり泣いていたのかもしれない。

でも今は恥ずかしがることもなく涙を流している。

きっと強がらずに素の自分を曝け出すことに対して彼女の中で何か思うところでもあったのだろう。



ぼくにとってはそれが嬉しかった。

彼女とはどんな気持ちも共有していたい。

これまでどうしてあげることもできなかった心の傷に気付いてあげることができる。

抱きしめて慰めてあげることができる。

一緒に笑って泣いて、時には怒ったりして。

これから起こるどんなことでも彼女と一緒なら乗り越えていける。

そんな確信がぼくにはある。





さて、そろそろぼくも寝よう。明日は彼女とどんなことを話そうかな。





522 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/08 23:01:12.03 W5dqu19v0 479/905


…………………



小さな船着き場へとたどり着いた船の中で、漁師たちが一人、また一人と眠りについていく。

少年は全員が寝静まったことを確認すると、食堂の卓を照らしていた小さな蝋燭を吹き消した。

真っ暗になった船内で、少年は自分の寝床で丸くなっている三毛猫を抱え、
三人分の大きないびきの木霊する中、小さな寝息を立てて眠り始めるのだった。

明日からの未来に、淡い希望を抱きながら。





そして……


523 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/08 23:01:43.77 W5dqu19v0 480/905






そして 夜が 明けた……。





524 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/08 23:02:49.96 W5dqu19v0 481/905


以上第17話でした。

今回はこれまでのお話の中で二人が募らせてきた想いを少しだけ語ってもらおうと、
趣向を変えてマリベルとアルスの独白という形にしてみました。

二次創作のお話を書くうえで、
どんなキャラクターにせよイメージというものが土台になってセリフなり描写なりが作られていくと思うのですが、
こういった一人語りとなるとそういうものが如実に出てしまいます。

「いかに原作に近い形で、読む人のイメージを壊さずに書けるか」
……難しいことですね。

「マリベル」という人気の高いキャラクターは勿論、
「主人公(アルス)」というプレイヤーの分身に色を付けていくというのはある種の冒険です。


描写と言えば、このSSの中では飲食の場面がたびたび登場しますが、
ドラクエの世界で食されているものがどんなものなのか
明確に描写されているところは見たことがありません。
(ただの勉強不足かもしれませんが……)
そこで悩むのは「現実世界で食べられている料理の名前をそのまま出して良いものか」ということです。

「アンチョビサンド」のようにわかりやすく名前の出ている物は良いのですが、
他にどんな料理があるのかはほとんどわかりません。
例えば、このお話では言えばペペロンチーノ一つとっても
「ニンニクときのこの唐辛子パスタ」と表現しております。
実際、「パスタ」なんてものがあるのかすらわからない以上、料理の名前を出すこと自体博打です。
「食事の描写がわかりにくい!」と戸惑われた方もいらっしゃるかと思いますがご容赦ください……。

ちなみに、前回登場した「マルサバカツオ」も勿論架空の生き物です。

…………………

◇ようやく次の目的地へと到着したアミット号。
王からの指令を受ける一行はある問題を抱え、別行動を取るのですが……


525 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/08 23:03:37.36 W5dqu19v0 482/905


第17話の主な登場人物

アルス
漁についてきたマリベルの体を案じているが、
一方で一緒にいられる時間を大事にしようとも思っている。
少女の変化には敏感で、いろいろと思うところがある様子。

マリベル
網本の娘としてではなく、一人の船員としてアミット号に乗り込む。
日々成長するアルスのことを見守っている。
実は隠れて自分だけの航海日誌を付けているらしい。

526 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/09 20:57:41.51 3FxrOVId0 483/905






航海十八日目:少女、城へ行く / 迷子を探せ





527 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/09 20:59:23.05 3FxrOVId0 484/905




マリベル「あふぁ~… 良く寝た……。」



朝日が半分ほど登った頃、波に揺られる船の中で少女は眠りから覚めた。

マリベル「あら?」

いつの間にか腕に日誌を抱えたまま寝ていたことを思い出し、そっとそれを鞄に戻すと濡れた布で身体を拭きながら呟く。

マリベル「だれにも 見られてないわよね……。」

それが日誌の内容なのか、自分の体のことなのかは彼女にしかわからない。



“カシ…カシ……”



そんな中、隣の部屋から餌を催促する猫が扉を叩く音が小さく聞こえてきた。

マリベル「はいはい 待ってなさいよ。」

手短に体を清め終えると少女は猫のエサを作りながら扉の向こうに呼びかける。
漁船は昨日の真夜中のうちに港に到着し乗組員全員が眠っていたらしく、どうやらまだ誰も起きてはいないようだった。

トパーズ「なお~。」

一匹を覗いては。

マリベル「シーッ! 静かにしてよね。みんなが 起きちゃうじゃない。」

トパーズ「…………………。」

扉を開けて餌入れと共に少女が現れると途端に三毛猫が膝に飛びついて餌をねだる。

マリベル「はい どうぞ。」

それからその部屋、つまり食堂の中を見やる。

コック長「グ… ゴゴゴ……。」

「…ふしゅるるる……。」

アルス「スゥ……スゥ……。」

料理人たちの間に混じって少年もまだ眠っていた。昨晩も少女と話した後、遅くまで仕事をしていたのだろうか。

マリベル「…………………。」

少女はその様子を眺めていたがしばらくして少年の毛布がずり落ちていることに気付き、そっとそれを掛けなおしてやる。

マリベル「ふふっ……。」

それから少年の頬をぷにぷにと指で押して遊び、やがて飽きると猫を抱えて忍び足で船の上へと歩き出した。



528 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/09 21:02:37.45 3FxrOVId0 485/905


マリベル「まぶし……。」

甲板へやってきた少女は朝日の眩しさに思わず顔を隠す。
腕に抱いた三毛猫も眩しそうに眼をつむっている。

空にはそれなりに雲はあったが本日も概ね晴れのようだった。

マリベル「平和な朝ね~。」

トパーズ「ナー。」

辺りを見回しても人は見当たらず、閑散とした港にはカモメの鳴き声が木霊しているだけだった。

マリベル「散歩でも しようっか?」

トパーズ「なおー……。」

そう言って三毛猫を降ろし、港と呼ぶには少々小さい船着き場へと降りて辺りを散策する。

マリベル「…………………。」

トパーズ「…………………。」

“何か変わったものはないだろうか。”

そんな期待を胸に少女も三毛猫も無言で歩く。
しかし船が二隻泊まれる程度のこの船着き場にそんな興味深いものなどあるはずもなく、少女はつまらなそうに近くの係船柱に腰かけた。

マリベル「なにも ないわね~。」

トパーズ「…………………。」

ため息をつく少女を他所に三毛猫は入念に辺りの匂いを嗅いでいる。
知らない土地にくれば大抵こうなるのだからおかしな話ではないのだが、それが一層少女にはつれなく見えてしまう。

マリベル「はぁ……。」





「どうしたの?」





529 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/09 21:04:53.80 3FxrOVId0 486/905




マリベル「きゃっ!」



しばらく猫の動きを目で追っていた彼女だったが、不意に後ろから呼びかけられて体が跳ねる。

アルス「あっ ゴメン 驚かせちゃった?」

マリベル「び びっくりするじゃないの!」

アルス「おはよう マリベル。」

マリベル「お… おはよう……。」

アルス「一人で散歩? あ トパーズもいたんだっけ。」

トパーズ「な~う~。」

そう言って少年は三毛猫を拾い上げる。

マリベル「ま~ね。」

アルス「今朝は よく眠れた?」

マリベル「うん。」

返事の通りもう少女の顔には疲労の様子は残っていなかった。それを見て少年は少しだけ安堵する。



マリベル「ねえ アルス。」



アルス「ん?」

マリベル「昨日 あたし あんたと話してた辺りから 記憶があいまいなんだけど どうしちゃったのかしら?」

アルス「え……と……。」

曖昧ながらも鋭い質問に少年はどう答えたものか考えあぐねる。

マリベル「……?」

アルス「そ そう! 自分で ちゃんと 部屋に戻ってったよ!」

マリベル「本当に?」
マリベル「なにか いやらしいこと してないでしょうね~。」

アルス「ち 誓ってしてません。」

マリベル「神さまに誓って 言える?」

アルス「も もちろん。」

マリベル「…あんな クソじじいに 誓って言えるようじゃ やっぱり あんた……。」

少年はまんまとはめられたようである。


530 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/09 21:06:15.60 3FxrOVId0 487/905


アルス「誤解だよ! ひきょうだよ!」

マリベル「うふふ。冗談よ。」

アルス「ほっ。」

マリベル「でも 変なのよね~。いつも 鞄にしまってある に……っ!」

アルス「えっ?」

マリベル「なんでもないわっ。」



アルス「もしかして 航海日誌のこと?」



マリベル「な なんで あんたが それを 知ってるのよ!」
マリベル「あっ さては あんた あれ 読んじゃったわけっ!?」

口に出すまいと思っていた物をピタリと当てられ、少女は困惑と同時に少年にさらなる疑惑の目を向ける。

アルス「い いやいや 決して読んでないから! 本当だから!」

“一文を除いては”とは死んでも言えなかった。

マリベル「嘘おっしゃい! じゃあ 何で あれの中身が 航海日誌だなんて わかるのよ!」

アルス「い いや なんとなく……。」

実際事細かに内容を見たわけではないので厳密にはあれが航海日誌だったのかはわからない。
ただ、それらしき何かと思って口に出しただけだったのだが。

マリベル「う 嘘よね…!?」
マリベル「ま まさか よりにもよって あんたに 見られるなんて……!」

そう言って少女は頭を抱えてしまう。

アルス「ま マリベル落ち着いて!」



マリベル「ふ ふふ…… ビッグバンと ジゴスパークと マダンテ どれがいいかしら……?」



トパーズ「……!」

必死に少年がなだめるも少女は世にも恐ろしい選択肢をずらずらと並べていく。
そんな少女からあふれ出る不吉な雰囲気に思わず猫が飛び退く。

アルス「……本当に 読んでないって。」

またかと思い少年は半分自棄になって言う。

マリベル「…………………。」

アルス「いいよ もう どれでも 好きにすればいいじゃないか。」



マリベル「……信じてあげる。」



しかし少女から返ってきたのは意外な言葉だった。

アルス「え……。」

マリベル「その代わり 本当にあの後 どうしたのか 詳しく話してちょうだい。」

アルス「…………………。」
アルス「わかった。」

本当のことを話すべきか少しだけ迷った少年だったが、
真実を知りたいという少女の意を汲んで昨晩あったことを話し始めたのだった。


531 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/09 21:07:09.25 3FxrOVId0 488/905




マリベル「は 恥ずかしぃ……。 そんな シュウタイ さらしていたなんて……。」
マリベル「今なら いくらでも れんごく火炎が 吹けそうだわよ……。」

少年からことの顛末を聞いた少女は両手を膝に置き、顔を真赤に染めては俯いて言う。

アルス「…でも かわいかった。」

マリベル「ふ ふんっ……。」



「お いたいた 二人とも!」



少年の一言に少女は赤い顔のままそっぽを向いていたが、再び声のする方へと振り返る。

アルス「あ おはようございます。」

マリベル「おはよう。」

「マリベルおじょうさん もう 朝ごはんの支度を 始めますよ!」

そこにいたのは飯番を任されている男だった。どうやら料理長から少女を呼びに寄越されたらしい。

マリベル「あら そう。わかったわ。」

アルス「ぼくも 手伝います。」

「お 嬉しいですね! それじゃ 行きましょうか!」

トパーズ「なお~。」



それからいつものように朝食の準備を済ませ、漁船アミット号は新しい一日を迎えたのであった。



532 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/09 21:08:00.94 3FxrOVId0 489/905




ボルカノ「この町が どういうところかは 大体わかった。」



朝食を終えた後、乗組員たちは今日一日の予定を会議室で話し合っていた。

ボルカノ「それで ここじゃ 誰に 締約書を渡せばいいんだ?」

だがここに来てある問題が発覚することとなったのだ。

アルス「うーん……。」

マリベル「この町も 町長って 呼べる人はいないのよね。世界一の 資産家の奥さんは 住んでるけど。」

アルス「町長がいない以上 住民会議を 開いてもらうしかないかと思います。」

マリベル「…てことは 下手をすると しばらく 滞在してなきゃ いけないのかしらね。」

「ええっ! まだまだ 行くとこは いっぱいあるってのに 足止めか!?」

ボルカノ「…………………。」
ボルカノ「とりあえず 行ってみるしかないか。」
ボルカノ「準備ができたら 出発するぞ。今日は 荷物が たくさんあるからな!」

「「「ウスッ!」」」

ここで話していても埒が明かない。

そう判断した船長の号令で一同は動き出し、魚の詰まった木箱を抱えてすぐ北に見える町へと歩き出したのだった。



533 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/09 21:09:36.67 3FxrOVId0 490/905




「ようこそ ルーメンの町へ。こんな片田舎に 旅のお方とは めずらしい。」



男性が片田舎と呼んだこの町こそ、
今回の一行の目的地にしてかつて再三滅びの運命を少年たちに救われた町、ルーメンだった。

「おや? それは…… なんと! あなたたちは 漁師ですか?」

ボルカノ「おう! この町の広場で 市を 開きたいんだが どうかね。」

「そりゃあ みんな 大歓迎ですよ!!」
「みんなには ぼくたちから 伝えておきますから どうぞ 始めちゃってください。」

ボルカノ「わるいな。」

そう言って男性は町の中へと消えていった。

「しかし…… 本当に ド田舎だな。」

漁師の一人が呟く。

ボルカノ「あの調子じゃ 漁師をやってる人間も ほとんどいなそうだし ここの町とは 特に 締約を結ばなくても いいんじゃないか?」

バーンズ王からの書状には港への停泊権、国の間での漁獲量の取り決め、
近海での漁業権及び安全保障など様々な項目が並んでいたが、
そもそもここまでやってくること自体が少なく、許可を取らなければならない相手がいない以上、
反って余計な取り決めはしない方がお互いのためになるのではないかと船長は考えていた。

マリベル「あたしも そんな気が してきたわ……。」

アルス「まあまあ とりあえず よろしくお願いしますってことで……。」

ボルカノ「……あいさつだけで 良さそうだな。」
ボルカノ「よし お前ら 商品を広げるぞ! 市の 準備だ!」

「「「ウスッ!!」」」


534 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/09 21:10:34.82 3FxrOVId0 491/905


「いらっしゃい いらっしゃい!」

「とれたてピチピチの魚を さらに 冷凍して 鮮度そのまま!」

「うちでなきゃ 味わえない 素材そのままのうまさだよ!」

「うわっ 全然 におわねえ! あんちゃんこれ どうなってんの?」

「カチコチだ! いったい どうやったんだこりゃ…?」

「へっへっへ! すごい 技術があんだよ!」

「おひとつ おくれ!」

「あ あたしも!」

「でっかい 魚…!」

「おお これうまそうだな!」


535 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/09 21:11:45.13 3FxrOVId0 492/905


アルス「ひぃ ひぃ……。」

マリベル「ふぅ ふぅ……。」
マリベル「なんてことなの! あれだけ あった 魚が 飛ぶように売れたわ…!」

少女の言葉通り、町の中心に並べられた大量の魚は噂を聞きつけた住人たちによってあれよあれよという間になくなり、
今ではカツオの切り身ぐらいしか残っていない。

アルス「すごい 盛況だったね!」

ボルカノ「まさか ここまで 売れるとはな……。」

船長や漁師たちもあまりの客の殺到具合に少し引き気味。

マリベル「しっかし 魔王が現れたとかいって みんな 家の中に ひきこもってたっていうのに いなくなったとたん こんなに活気づくなんてね……。」

少女が辺りを見回して言う。

確かに町の中は依然とは比べられないほどに活気づいていた。
町の中を歩く人々の顔も明るく、どこか楽しそうに見える。

アルス「それだけ 抑圧されていたってことだろうね。」

マリベル「ま おかげさまで きれいに売れたし あたしたちから言わせれば 文句はないんだけどね。」

少女の言うようにいつの間にか木箱の中はゴールドでいっぱいになっていた。
普段のアミット漁でもこれほどの利益をあげることはなかなかできないためか、漁師たちもホクホク顔で頷いている。

ボルカノ「それで これから どうするかだ。」
ボルカノ「思ってたよりも 要件が 早く片付いちまったし 午後は 解散しようと思うんだが。」

マリベル「ああ それなら あたしは ちょっと 王さまに会ってこようかしら。」

ボルカノ「ん? どうしてだい?」

少女の突然の言葉に船長は思わず首をひねる。

マリベル「この町のこととか 王さまに 先に報告しておいた方が 安心して 航海が続けられると思いまして。」

アルス「ぼくも 行こうか?」

マリベル「ダメよ。あんたは ここで みんなに 漁のことを 教えてもらってなさい!」

アルス「わ わかったって……。」

ボルカノ「助かるぜ マリベルちゃん。」

マリベル「うふふっ お任せくださいな。」

アルス「…………………。」

本当は少しでも一緒にいたいという気持ちを抑えて少年は黙り込む。

マリベル「…ふっ……。」

そんな少年の気持ちに気付きながらも、少女は少年の漁師としての向上のために心を鬼にするのだった。



536 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/09 21:13:04.89 3FxrOVId0 493/905




「これはこれは マリベルどの!」



「おや? アミット漁は もう 終わったのですか?」



昼頃になり一行が市場をたたんだ後、少女は一人故郷の島にある城へとやってきていた。

マリベル「いいえ。実は うちの船が立ち寄っている町のことで 王さまに お話があるのよ。」

「そうでありましたか! 王さまは 謁見の間におわします。どうぞ お進みください。」

マリベル「ありがとう。」

番兵たちに通され、三階にある謁見の間を目指して少女が階段を上っていると何やら婦人の話し声が聞こえてきた。



「大丈夫だって! きっと お父さまなら あなたのこと わかってくれるはずだわ!」



「うう… そ そうでしょうか……。」



マリベル「……?」

「あ マリベル!」

なにやら込み入った話をしていた二人だったが、
こちらの姿に気付くと片方の可愛らしい少女が来訪者の名前を呼んで駆けてきた。

マリベル「リーサ姫?」

リーサ姫「どうしたの? あ もしかして アミット漁が終わったのね?」

マリベル「いいえ。実は ある町のことで 王さまに お話がありまして。」

リーサ姫「まあ そうだったの? それより 聞いてよ この人がね……。」

「お お待ちくださいまし! やっぱりわたくしは……。」

リーサ姫「いいじゃない! この際だから マリベルにも 話してあげて?」

「…は はい……。」


537 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/09 21:16:00.23 3FxrOVId0 494/905




マリベル「それで 王さまに 想いを伝えたい…と。」



少女は婦人のバーンズ王に対する熱い思いを聞き、一言でそれをまとめる。

リーサ姫「そうなの。」

「何度も何度も 打ち明けようと 思ったのですが 結局 今の今まで できずに……。」

婦人は瞳を閉じてため息をつく。

マリベル「…………………。」
マリベル「まあ 話してみないと 何も 先に 進まないんじゃないのかしら?」

「それは そうなのですが……。」

マリベル「リーサ姫は どう思って いらっしゃるんですか?」

いくらこの婦人と王が上手くいったとして、
亡き王妃との間の娘である姫が首を縦に振らなければその後王家が揺るぐ可能性も出てくるだろう。

そう考えて少女は本人に確かめることにした。

リーサ姫「私は いいんじゃないかなーと 思ってるの。」
リーサ姫「お父さまは お母さまが亡くなってから もう ずっと 一人で 私やお兄さまのことを 育ててくれたんだもの。」
リーサ姫「アイラが来てくれたとはいっても やっぱり どこかで寂しいと 思ってるに違いないわ。」
リーサ姫「それに 家族が 増えたら 私も 嬉しいなって……。」

それが彼女の本心なのかはわからない。ただ、自分の父親やこの婦人のことを思って言っているということは伺えた。

マリベル「そう… そうですか……。」
マリベル「アイラは?」

リーサ姫「アイラも 応援してるって 言ってたわ。」

どうやらもう一人の王女もそれについては否定していないようだった。

「でも… もし ダメだったら……。」



マリベル「…………………。」



マリベル「一つ いいですか?」



「……なんでしょう。」

マリベル「わたしは これから わたしたちの国の 王妃になる人が そんな風に いつまでも うじうじしている人だったら 耐えられないわ。」
マリベル「そのことを はっきりと 覚えておいてくださいね。」

煮え切らない婦人に対して少女は釘をさす。

リーサ姫「マリベル……。」

マリベル「わたしから 言いたいことは それだけです。」
マリベル「それでは わたしも 王さまに お話があるので これで失礼しますわ。」

それだけ言うと少女は踵を返して三階へ続く階段をつかつかと上って行ってしまった。

「あっ……。」
「…………………。」



538 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/09 21:17:35.86 3FxrOVId0 495/905




大臣「おお マリベルではないか!」



階段を登り切ったところで国王を補佐する大臣が少女を見つけ歩み寄ってきた。

マリベル「こんにちは 大臣。締約書のことで 王さまに お話があるの。」

大臣「そうであったか。ささ では こちらへ。」

そう言って大臣は少女を玉座の前まで案内する。

バーンズ王「よく来てくれた マリベルよ。また 何か 起こったのか?」

マリベル「こんにちは 王さま。さすが お察しが よろしくって。」

少女は微笑んで挨拶をする。

バーンズ王「まあ そうでもなければ わざわざ アミット漁の途中で ここまで きたりせんじゃろう。」

マリベル「そうなんです。実は……。」

[ マリベルは 事情を説明した。 ]

バーンズ王「ふうむ。そうか……。」

マリベル「ですから ルーメンは あいさつだけで 済ませようかと 思うんです。」
マリベル「漁にしたって あそこまで 行くことは ほとんど ないでしょうし……。」

バーンズ王「うむ わかった。では その ルーメンについては また しかるべき時がきたら 使いをよこすとしよう。」

マリベル「わかりました。それから こちらが これまで 預かってきた 各国や町からの書状です。」

[ マリベルは 預かった書状を バーンズ王に 手わたした! ]

バーンズ王「ご苦労だったな。それに 領海内での 安全保障の項については わしも 盲点じゃった。」
バーンズ王「ありがとう マリベルよ。」

マリベル「もったいない お言葉ですわ 王さま。」

バーンズ王「これからも アルスや ボルカノを 頼んだぞ!」

マリベル「は はい!」

バーンズ王「では 引き続き 気を付けてな。」



539 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/09 21:19:52.90 3FxrOVId0 496/905


マリベル「あら?」

王との謁見を終え、階段を降りてきた少女の目の前には先ほどとは別の人物が立っていた。

アイラ「あら マリベルじゃない!」

それは先ほど少女が名前を口にしたばかりの、元ユバールの踊り子にしてこの国のもう一人の王女だった。

マリベル「アイラ! 元気してた?」

お互いの顔を見ると二人は駆け寄り軽く抱き合う。

アイラ「あたりまえよ! マリベルこそ 慣れない 漁船での生活で 苦労してるんじゃない?」

マリベル「ううん けっこう たのしくやってるわよ。」

アイラ「そう それなら いいんだけど。」
アイラ「それよりも 聞いたわよ~ アルスとのことっ!」

マリベル「えっ…!!」

まさか王女がそのことを知ってるとは思わず少女は“アストロン”をかけられたかのように固まって動かなくなる。

アイラ「マリベルも 隅に置けないわねー あんなに 素直じゃなかったのに!」

マリベル「ちょ ちょっと アイラ…!」

王女は意地悪そうな笑みを浮かべる。

アイラ「あら ちょっと からかいすぎたかしら。ウフフっ。」

マリベル「もうっ!」

なんとも楽しげに笑う王女に少女がかわいらしく抗議する。

アイラ「で ちゃんと 彼とは うまくやってるの?」

マリベル「っ…… うん……。」

あの夜以来いくつもの困難を乗り越えながら二人は順調に互いの距離を詰めている。

そんな気が少女もしていたため、なんとか王女の問いかけにも答えることができた。



アイラ「あーあ うらやましいな マリベルは。」



マリベル「えっ?」

唐突な言葉に思わず少女は下がっていた目線を上げる。

アイラ「あんなに 素敵な人 滅多にいないもの。そんな人と結ばれた マリベルは 幸せ者よ。」

王女はどこか寂しそうな、なんとも言えない表情をしていた。

マリベル「アイラ……。」

アイラ「でも 安心しちゃダメよ? きっと 世界中の美女が 彼を狙っているに違いないから。」

マリベル「っ… も もちろん 誰にも 渡さないわ! あいつのことを 全部受け止めてやれるのは 世界で あたしだけなんだから!」
マリベル「あっ ボルカノさんやマーレさんには 敵わないかもしれないけど……。」

そう言って少女は再び意気を失くして俯く。

アイラ「ふ ふふふ……。あっはははは!」

そんな少女を他所に王女は高らかに笑いだす。

マリベル「アイラ……?」

アイラ「やーっぱり あなたには 敵わないわね マリベル。」
アイラ「これなら どんな人が 彼に言い寄ったって 大丈夫そうね。 安心したわ。」

そう言って王女はまなじりに溜まった涙を拭いて微笑む。

540 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/09 21:21:02.59 3FxrOVId0 497/905


マリベル「アイラ……。」

アイラ「そうそう そういえば さっきここにいた おばさまだけどね。」
アイラ「マリベルに ありがとうと伝えておいてください ってさ。なんだか 晴れ晴れとした 感じだったわよ。」

マリベル「……そう。」

先ほどの婦人はきっと本当に決意したのだろう。

国王の答えがどうかはさておき、結果を聞ける日がそのうち来るのだろう。

そう思い少女は瞳を閉じて微笑む。

マリベル「あっ そうだ アイラ お昼ってもう 食べちゃった?」

アイラ「まあね。城のお昼は 基本的に 同じ時間だから……。」

マリベル「そっか……。」

アイラ「いいわよ。食後のデザートでも 食べようかと 思ってたから!」

そう言って王女は片目を閉じてウィンクする。

マリベル「ホント!?」

アイラ「たまには 二人だけで 城下町を 歩きましょうよ! あ リーサも連れていく?」

マリベル「賛成っ! リーサ姫の 恋愛事情とか 聞きたいもの!」

アイラ「うふふっ あんまり 期待できないと 思うけどね。」

こうして少女たちは姫を連れて楽しそうに昼下がりの城下町へと繰り出すのであった。

王女二人に英雄の美少女という取り合わせに城下町は大いに盛り上がったとかなんとか。


541 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/09 21:21:53.45 3FxrOVId0 498/905




アルス「どうして こうなったんだろ……。」



そんな少女たちが会話に華を咲かせている頃、少年はとある“困ったこと”に苦心していた。

「いやー まさか こんなことになるとはな。」

漁師の一人が苦笑して呟く。

元はと言えば“モンスターおじさんの運営するモンスターパークがある”と
町人に聞いた漁師の一人がそこへ行こうと提案したことから始まった。

食材の調達も済み、次の目的地までそう離れていないことから今日はいとまにするということもあって、
誰も反対することなく見物へとやってきたのだったが、どうやら間が悪かったようだ。

ボルカノ「メタルスライムっていうと この前 会った 体がブヨブヨしてる 金属の魔物のちっこいのだろ?」

アルス「うん……。」



遡ること数刻前。



…………………

542 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/09 21:22:38.97 3FxrOVId0 499/905


「おお お前さんか!」
「モンスターたちから 話は聞いておるぞ! 魔王を 倒してくれたそうじゃないか!」
「モンスターたちを代表して わしからも 礼を言わせてもらうよ。」

アルス「いえいえ とんでもない。」

「むむ どうやら お仲間さんがいっぱいのようじゃな。」

アルス「今日は みんなで 遊びに来たんです。」

「そうか。きっと モンスターたちも 喜ぶじゃろう……。」
「…………………。」

アルス「どうか したんですか?」

「うーむ 実はのう……。」



…………………



543 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/09 21:23:44.72 3FxrOVId0 500/905




アルス「行方不明の メタルスライムを 探せ…か。」



そう、モンスターじいさんの言う“困ったこと”とは
つい先日まで山地にいたはずのメタルスライムが姿を見せなくなったということだった。

コック長「そんなに すばしっこいというやつを わしらが 見つけられるんじゃろうか。」

アルス「みんなで 手分けすれば もしかしたら 見つかるかもしれません。見物がてら みなさんも 探してみてください。」

ボルカノ「それじゃ 夕日が沈む前にここに 集合だ。いいな。」

「「「ウスッ!」」」

アルス「ここの魔物たちは みんな 人間に対して 友好的です。」
アルス「あんまり 怖がると 向こうが 悲しむかもしれませんので みんな 楽しんできてください。」

「おうよ!」

こうして一行はそれぞれ好きな場所へと移動しながら行方知れずのメタルスライムを探すことになったのだった。

544 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/09 21:25:05.08 3FxrOVId0 501/905




ダークパンサー「ガウッ ガウッ!」



オニムカデ「プギー! プギー!」



「お おう…。」

「ホントに 魔物が いっぱいいるんだな……。」

草原地帯へとやってきた漁師たちが早速魔物と対面して面食らっている。



スライム「ピキー!」



「お こいつって アルスの言ってた メタルスライムじゃ ねえのか?」

「よく見ろ 色が 青じゃねえか。たぶん 普通のスライムだろ。」

スライム「おじさんたち だあれ? ぼく スライムだよ!」

「うおっ!」

「驚いたな おまえさん しゃべれるのか!」

スライム「ぼくだけじゃないよ! ここには 人と話せる魔物が いっぱいいるんだよ!」

「こりゃ 思ったより 楽しめそうだな。」

「だな。いろんなやつと 話してみようぜ。」

「見ろよ! このワンコ 首が二つあるぜ!」

バスカービル「くううーん……。」

もはや迷子探しをそっちのけで漁師たちはモンスターパークを満喫し始めてしまうのだった。



545 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/09 21:25:46.34 3FxrOVId0 502/905


アルス「そっか ありがとう。」

エイプバット「いいってことよ またなんかあったら 飛んでいくぜ。」

アルス「よろしくね。」

メタルスライムと聞いて真っ先に少年がやってきたのは山地のエリアだった。
最後に来た時にもあの怖がりなメタルスライムはそこにある洞くつで見かけたからである。
しかしどの魔物に尋ねても見かけていないという話だった。

ボルカノ「そうか じゃあ ここには もういないかもしれないのか。」

少年についてきた父親が腕を組んで言う。

アルス「そうみたい。他を探そうか。」

ボルカノ「その メタルスライムってやつに 仲間はいねえのか?」

アルス「心当たりは いくつか あるんだけど……。」

ボルカノ「じゃあ しらみつぶしに 回っていくとしようぜ。」

アルス「うん。」

こうして少年とその父親は観光に耽る漁師たちを放って律儀に一か所一か所回っていくことにしたのだった。



546 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/09 21:27:55.64 3FxrOVId0 503/905



スライム「あっ アルスさんだ! こんにちは!」


アルス「やあ 迷子のメタルスライムを 探してるんだけど 知らないかい?」

スライム「プルプル… ぼく わかんないや。」

アルス「そっか。」


「ホイミ!」

[ アルスの キズが 回復した! ]


アルス「……ありがとう。」


「…………………。」
「……知りませんね。」


「知らんなあ わしの 部下じゃないからのー。」


「やっぱり メタルはゴールドには 勝てないさ!」


「…………………。」

[ スライムタワーは グラグラしている! ]



「ぴ? ぴるる?」


「それより ボクを みがいてかない?」


「そんなコ いたんベスか?」


「ピキー!」


「はぐれメタル ナラ ワカルケド……。」


「ピュキー!」


「ピキュキュ?」


「プルプル…… フルフル……。」


「ギギ…… ワタシハ ハンター…… メタルハンター……。」


アルス「まさか もう やっちゃった?」

メタルハンター「ヤッテナイ……。」



メタルキング「ブヨヨ…。」



アルス「う~ん。」

ボルカノ「何言ってるか さっぱりわからんな。」



メタルライダー「なに? メタルスライムが 消えただと?」
メタルライダー「それは 由々しき事態だが 残念ながら わたしも 見てはいないな。」
メタルライダー「なあ 相棒よ。」

「…………………。」

547 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/09 21:30:01.85 3FxrOVId0 504/905




ボルカノ「結局 どこにもいなかったな。」



アルス「はぁ……。」



日がちょうど地平線に足を付けた頃になっても件のメタルスライムが見つかることはなかった。
途方に暮れた少年と父親は諦めてパークの入口へと戻り、漁師たちの帰りを待つばかりだった。

「探すには 探しましたけど 見つかりませんでしたぜ。」

「びっくらこいたぜ。あんな でっかい 魔物がいたなんてよ!」

「そっちも ダメだったのか。」

戻ってきた漁師たちも手掛かりは掴めなかったようだ。

コック長「マリベルおじょうさんも 心配してるだろうし そろそろ 町に 帰らないか。」

「そうですねー。」

パークの経営者には結局見つからなかったと報告して帰るしかない。

そう誰しもが思った時だった。





「あら みんな ここにいたの。」





548 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/09 21:31:34.00 3FxrOVId0 505/905




アルス「えっ!」



後からした声に少年が振り向くとそこには昼間別れたはずの少女が立っていた。

その胸には銀の光沢のあるスライムを抱えている。

マリベル「まったく 情けないわね~。みんなして どこ探してたわけ?」

アルス「マリベル どうしてここに……?」
アルス「それに その子は……。」

少年が震える指先でそれを指す。

マリベル「ああ さっき 城下町から戻ってきたんだけど みんな船だけ残して どこにも いないんだもん。どうせ ここだろうと 思ってね。」
マリベル「それで モンスターじいさんに 話を聞いたら この子が 行方不明だって聞いてね。砂漠で 見つけてきたわけよ。」

メタルスライム「ピキー!」

少女の言葉にそのスライムは元気よく鳴き声を上げる。

アルス「え でも 確かに 砂漠は 探したはずなんだけど……。」



マリベル「メタルブラザーズは 見たのかしら?」



首を捻る少年に少女は問いかける。

アルス「も もちろん! でも それしか いなかったから……。」

マリベル「は~ あっきれた。もう よく見なさいよ! メタルブラザーズは3匹でしょ!」
マリベル「むしろ 4匹のやつがいたら 是非 教えてほしいもんだわよ。」

アルス「あっ!」

少年の脳裏には普段は絶対に崩れない形がいつになくグラグラしているメタルブラザーズの姿が浮かんでいた。

マリベル「へんだと思って 話してみたら すっかり仲良くなっちゃって 遊んでただけですって。」
マリベル「ねー。」

メタルスライム「…ナカヨシ!」

「な なんて 人騒がせな……。」

「ほえ~。」

アルス「…………………。」

感想をあげる漁師たちを他所に少年は口を半開きにして呆然と立ち尽くしている。

マリベル「さ はやく おいき。」

メタルスライム「ピキー! マリベル モ スキー!」

マリベル「もう一人の 友達が 山で待ってるわよ?」

メタルスライム「ピ ピキー! ボク モウ イクネ!」

マリベル「今度 遊びに行くときは 誰かに 言っておくのよ!」

メタルスライム「ワカッタ! アリガト! アリガト!」


549 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/09 21:32:17.47 3FxrOVId0 506/905


マリベル「さ あたしたちも 帰りましょ!」

無事案内人にメタルスライムを預け、少女は一行に町への帰還を促す。

ボルカノ「そうだな。」

「けっこう 楽しかったなー!」

「腹減ったぜ……。」

「はやく 宿に 行きましょうよ!」

コック長「どれどれ この地方の味を もっと 確かめるとしようか。」

アルス「…………………。」

マリベル「なーにやってるのよ アルス。」

一行が動き出しても固まったままの少年を少女が呼ぶ。

アルス「…えっ……?」

マリベル「いつまで 固まってんのよ! 早くしないと 置いてっちゃうわよ?」

アルス「…ぼくの 半日は いったい……。」

それでも尚、少年は青い顔で呪詛でも唱えるかのようにぶつぶつと呟いている。

マリベル「もうっ わかったから! ほらっ。」

アルス「あっ……。」

いつまでも視線の定まらない少年に痺れを切らして少女が手を引く。

マリベル「うじうじしてると かわいい 女の子が いなくなっちゃうわよ~。」

アルス「は ハハハ……。」

そんなことあってはたまらないと言わんばかりにから笑いすると、少年は諦めて少女に歩調を合わせて進みだす。

マリベル「で 久しぶりのパークは どうだった?」

アルス「うん それがね……。」

そんな他愛もない会話をしながら二人は少し前を行く漁師たちの背を追いかけていくのだった。


550 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/09 21:33:10.41 3FxrOVId0 507/905


マリベル「ふう… やっぱり 自分で作る料理より 誰かに作ってもらった方が 楽でいいわよね~。」

宿で食事を済ませた一行は思い思いの時間を過ごしていた。
早々に横になる者、散歩に行く者、さらに食事をする者、酒を交わして仲間との会話に盛り上がる者。

そんな中に少年と少女も混じっていた。

アルス「やっぱり たいへん?」

マリベル「あたりまえよ。一人二人の量とは わけが 違うんだからね!」

少女がカウンターに頬杖をついて愚痴をこぼす。

マリベル「アルス あんた たまには あたしの代わりに 料理作ってよ。」

アルス「う うーん あんまり 自信ないな……。」

その隣で少年が頬を掻く。

マリベル「そんなこと言ってたら いつまでたっても 上達しないわよ?」

アルス「ちょっとは 練習してるんだけど……。」

マリベル「うふふっ 偉いわ アルス。ちゃんと 言いつけを 守ってたのね!」

アルス「とは言っても うちじゃ 母さんが 作ってくれるから なかなか 機会がないんだけどね。」

マリベル「じゅうぶんよ。それに マーレおばさまの横で 見てるだけでも 勉強になるんじゃないかしら。」

アルス「まあね。でも 母さん 手際が良すぎて 何やってるのか あんまりわからないんだけどさ。」

マリベル「……その分じゃ あたしが 料理を作らなくてもいい日は 遠そうね……。」

ぼそっと本音が漏れる。

アルス「えっ?」

マリベル「なーんでもないのよっ! それより グラスが空っぽよ。」

そう言ってはぐらかすと少女は少年が飲み干したグラスを指さして言う。

マリベル「お姉さん オススメちょうだい。」

「はいはーい。」

551 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/09 21:35:05.86 3FxrOVId0 508/905




「それじゃ あの二人は どこまで いってるんだ?」



カウンターで飲んでいる少年と少女の背中を横目に漁師たちはひっそりと俗な話で盛り上がっていた。

「あんまり 現場は見てねえから わからんが コック長たちの話じゃ 同じベッドで 寝てたとか なんとか……。」

広間を照らすロウソクの灯りが会話に妖しい雰囲気を漂わせていく。

「おい それって もう……。」

「さあな。だけどよ ここのところの 仲の良さを見てると あながち 間違いじゃないかもしれねえな。」

確かに漁師たちの目から見ても“お嬢様と付き人”くらいの関係にしか見えなかった二人が、
いつの間にか“かかあ天下”のような関係に昇格したような印象を受けていた。
正確に言えばもともと仲は良かったのだろうが、今ではずっとお互いの距離が近くなりどこからどう見ても恋人に見えるのである。
それに加えて“そんな噂”を聞けば“そんな発想”になるのも無理はないことだった。

「うぇっへっへ! しかし アルスも 隅に 置けないやつだな。」

「まさか アミットさんの娘を めとるなんてよ! ぐへへへ……。」





「ちょっと~?」





「「ひぃ!」」

思わずかけられた言葉に二人の背筋が凍る。

マリベル「あたしが アルスと なんですって~?」

少女の目は座っていた。



「お おたすけー!」



今日出くわしたどんな魔物よりも恐ろしいモンスターがそこにはいたのだった。



マリベル「おほほほほ~ 待ちなさ~い?」



こうして酒を酌み交わしながら、漁船アミット号一行は久しぶりに全員そろって宿で楽しく一晩を過ごしたのだった。





そして……


552 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/09 21:36:08.13 3FxrOVId0 509/905






そして 夜が 明けた……。





553 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/09 21:37:16.61 3FxrOVId0 510/905


以上第18話でした。

*「あなたたちの おかげで 私も勇気が もてるような気が してきましたわ。」
*「今夜 王さまに 私の気持ち つたえてみようかしら……。」
*「……て。たしか この前も そう思ったのに……。わたくしの いくじなし……。」

PS版のエンディングの最中、グランエスタード城で聞ける婦人の台詞です。
今回のお話ではバーンズ王に想いを寄せるそんな彼女に脚光を浴びせてみました。

その後どうなったのかはわかりませんがこのSSでは結局打ち明けていないという設定になっております。
果たしてバーンズ王は婦人の想いを受け止めるのか、それとも亡きお后への想いを貫くのか。
ある意味あの島の未来を決める大事なお話です。
どちらにせよあのエンディングの後、バーンズ王は難しい判断を迫られる日が来るでしょう。
後のことはご想像にお任せします。

そして後半に書いたのはモンスターパークでの騒動。
あれだけの魔物が同じところに集うのだからきっと魔物同士で何かいざこざが起こるだろうと考え、今回のお話を書き起こしました。

モンスターパークと言えば、PS版のモンスターパークでは台詞の前に魔物の名前が表示されますが
3DS版では“*”で統一されています。
そういったこまかい違いもあれば、新たに追加された魔物が増えているといった大幅な変更まで。
お話を書くうえでどう処理したものか迷いましたが、結局は演出の関係で折衷となりました。

ちなみに「メタルブラザーズ」は3DS版(ダウンロード石版)からの参戦です。

…………………

◇次回はクレージュから次の目的地までの短めのお話です。


554 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/09 21:39:59.67 3FxrOVId0 511/905


第18話の主な登場人物

アルス
せっかくの暇な時間を有効に使おうと思った矢先、
モンスターパークでの事件に巻き込まれる。今回はいいとこなし。

マリベル
町で市を終えた後、一人でグランエスタード城へ。
懐かしい仲間や知り合いとの再会を終えルーメンへ戻る。
漁師たちが手をこまねいていた事件をあっさりと解決してみせる。

ボルカノ
息子のアルスについてモンスターパークを見て回る。
結果はほとんど徒労に終わってしまったが、本人もそれなりに楽しんでいた模様。

アミット号の乗組員たち
アルスに連れられモンスターパークへとやってくるも、
見物に忙しくて迷子探しどころではなくなる。

バーンズ王
グランエスタードを統治する王。
アルスたちに課した任務の成功はもちろん、
アミット漁の成功を祈っている。

アイラ
元ユバールの踊り子にしてグランエスタードの王女。
道中連れ添ったマリベルとは非常に仲が良い。

リーサ姫
自分のことよりも妻と息子を両方とも失ってしまった父親のことを心配している。
煮え切らない様子の婦人の背中をそっと押す。

婦人(*)
バーンズ王に想いを寄せる婦人。
募る想いをなかなか打ち明けられずに悶々としていたが、
リーサやマリベルの後押しで遂に決心をする。

モンスターおじさん(*)
ルーメンの北にあるモンスターパークを運営する心優しき男性。
行方不明になったメタルスライムのことを気にかけ、何日も探していた。

メタルスライム
モンスターパークで暮らす魔物。かなり臆病な性格。
偶然知り合ったメタルブラザーズと仲良くなり、
遊んでいるうちに行方不明扱いに。

555 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/10 19:14:33.48 qDyAt+CI0 512/905






航海十九日目:つかまえた





556 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/10 19:16:10.33 qDyAt+CI0 513/905




マリベル「へえ あの奥さん いなくなったんだ。」



明くる日、一行は朝日が昇るとすぐに朝食を済ませ、早々にルーメンの船着き場を出発していた。

現在はしばらく航行し、目の前には二つの大陸が見えている。

アルス「うん ブルジオさんと 仲直りするっていって それっきりなんだって。」

少年と少女は船尾に立ち、離れ行くルーメンのある島を眺めながら話をしていた。

マリベル「あの人 後悔してたもんね。いつまでも 意地はるんじゃなかったってさ。」

アルス「うまくいくと いいね。」

マリベル「どうかしら。あの ブルジオさんだもん。」
マリベル「それに きっと 息子なんて 見たら ひっくり返っちゃうわよ。」

アルス「あまりの 臭さに?」

マリベル「あまりの 汚さもね。」

「「あっははは!」」

二人は顔を見合わせると愉快そうに腹を抱えて笑い出す。

マリベル「それにしても あの お屋敷って あの時から あのままなのかしらね。」

アルス「うーん チビィのお墓も いつの間にか 立派になってたし 一階もきれいになってたから 一度は 建て直したんじゃないのかな。」

マリベル「…かもね。」
マリベル「そうだ アルス チビィのかたみって 持ってる?」

アルス「うん。」

そう言って少年は袋の中から虫のような形をした琥珀色の塊を取り出す。

マリベル「…………………。」

少女はそれを見つめ、やがて目を伏せた。

アルス「どうしたの?」

マリベル「…………………。」
マリベル「……大切な人のために 命を張ろうとするのって 人だけじゃないのよね。」

アルス「…………………。」

思ってもみなかった言葉に少年は目をぱちくりさせる。

マリベル「今だったら チビィやロッキーの気持ちも 痛いほどわかるわ。」
マリベル「あたしもね きっと いつか そういう時が 来るのかもなって。」

アルス「マリベル……。」

マリベル「それがパパなのか ママなのか ……あんたなのかもしれない。」
マリベル「それでも きっと あたしは その時 満足して 死んでいけるんだろうなって。」
マリベル「前は 誰かのために 死ぬなんて 真っ平ごめんって思ってたわ。」
マリベル「でも 今は 違う。」
マリベル「どこかで みじめに野垂れ死するでもなく 欲望の限りをつくした後でもなく 大切な人のために 死んでいけるなら それも悪くないかなってさ。」
マリベル「…………………。」
マリベル「ごめん。いまのは 忘れてちょうだ……っ!」





アルス「…………………。」





557 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/10 19:17:28.84 qDyAt+CI0 514/905


言葉を遮って少年が少女の体を優しく抱きしめる。

マリベル「あ アルス……?」

アルス「させないよ そんなこと。」

マリベル「えっ?」

アルス「死ぬときは一緒って 言ったのは きみじゃないか。」
アルス「きみは どんなことがあっても 生き延びて 幸せに生きるんだ。いいね?」

マリベル「…………………。」
マリベル「ふふっ 一本取られたわね……。」

ささやく少年の言葉に心地よさと嬉しさ、そして少しだけの哀しさを覚え、少女はそっと瞳を閉じる。

“自分がいなければ何もできない”

そんな風に思っていた少年がいつの間にかこんなに強く、大きくなったのに対して
自分はこの少年なしでは生きていけなくなってしまった。

そんな風にすら思えたのだ。



「あのー……。」



「「ギャッ!!」」



いつの間にか二人の前に立っていた男に声をかけられ二人は毛を逆立てて飛び退く。

「お楽しみのところ 悪いんですけど マリベルおじょうさん そろそろ お昼の準備をしますよ。」

マリベル「あ え… ええ わかったわ……!」

アルス「そ そっか それじゃ また 後でね!」

マリベル「うん……。」

空気を読まない飯番の男に促され、少女は甲板を降りて行った。

アルス「び ビックリした……。」

「アルスさん アルスさん。」

アルス「は はい?」

「今夜にでも マリベルおじょうさんとの アツイ話 聞かせてくださいよっ。」

アルス「え………………。」

「楽しみにしてますからね!」

それだけ残して固まる少年を尻目に料理人はそそくさと調理場へと向かっていってしまった。

アルス「…ま まいったな……。」

そうして少年はふらつく足取りで見張りへと戻るのだった。

558 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/10 19:19:01.35 qDyAt+CI0 515/905


ボルカノ「しかし 助かったぜ。もしかしたら この先も そういう町や村が あるかもしれないからな。」

今は昼時、一行は交代で食事をとりながら少女が交わした国王とのやりとりついて話していた。

マリベル「お役に立てて 嬉しいですわ。」

配膳が終わり自分の食事に手を付けたばかりの少女が微笑む。

アルス「この先の目的地で 同じようなところは あったかな?」

マリベル「どうかしら…… ううん。一応は 大丈夫なんじゃないかしら。」

ボルカノ「それなら 安心だ。ただ あの ルーメンの町が ちょっと 特殊だったってわけだな。」

「たしかに 町長もいない 町なんて 珍しいっすよね。」

「でも ハーメリアも そうだったじゃないか。」

「あそこは 一応 アズモフっていう博士がいただろ?」

「まあ そうだけどよ……。」

ボルカノ「とにかくだ 次は 村長がいるみてえだし とくに心配はなさそうだな。」

マリベル「温泉! 今度こそ 温泉入りたーい!」

少女が興奮気味に言う。

「その温泉ってのは どんなとこなんです?」



アルス「……混浴の大浴場です。」





「「「うおおおっ!」」」





「本当か アルス!」

「むほっ!」

「船長! 急いでいきましょうぜ!」

ボルカノ「……お前ら 目的 忘れてないか?」

雄たけびを上げる漁師たちに思わず船長も苦笑する。

マリベル「もう やーねえ みんなして!」
マリベル「いっとくけど あたしは みんなとは 入らないからね!」

あからさまな助平心に少女も眉を吊り上げて宣言する。

「そんな殺生な!」

「なんてこった……。」

「千載一遇のチャンスが……。」

漁師たちはこの世の終わりかのような顔を浮かべて嘆く。

マリベル「……ったく。」

アルス「…………………。」



559 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/10 19:20:14.03 qDyAt+CI0 516/905


マリベル「まったく 男って どうして すぐそうなるのかしら。」

食事の後片付けを終えた少女は食堂で休む少年のハンモックを奪ってぶつぶつと文句を言っている。

アルス「まあまあ。みんな たぶん 冗談で 言ってるんだと思うよ。」

寝床を盗られた少年は椅子に腰かけ卓に寄りかかったまま答える。

マリベル「ホントに そうかしら?」

あの時の漁師たちの落ち込み様をみた少女には少年の言葉はにわかには信じがたかったし、
実際に少女の抱いた疑念はほぼほぼ正しいというのが現実だった。

アルス「それにしても エンゴウか…… あの時の ほむら祭は 楽しかったよね。」

少年は魔王を倒した後の凱旋で立ち寄った際のことを思い出して言う。

アルス「過去のほむら祭は ろくに 楽しんでいられなかったもんなあ。」

マリベル「まあ…そうね。お祭りって言うと うちのアミット漁ぐらいしか なかったし たまには ああいうのも 悪くないけど……。」 

アルス「グランエスタードも 恒例のお祭りとか やればいいのにね。」

マリベル「……あの 何もない島で お祭りやるっていう方が 難しいんだわよ。」

アルス「そんなことないよ。水の精霊は あの島に 眠っていたんだから やろうと思えば できるんじゃないかなあ。」

マリベル「そうはいっても 水の精霊のこと みんな わかってるのかしら。」

アルス「うーん……。」
アルス「…もし 知らなくても ぼくたちが 広めていけばいいんじゃないかな。」

マリベル「…………………。」
マリベル「…面倒くさい。」
マリベル「いっそのこと 魔王討伐を記念して あたしたちを 祭り上げればいいだわよ!」

アルス「ええっ? なんか 恥ずかしいよ……。」

マリベル「いいじゃないの あたしたちは それくらいのことを したんだから。」

アルス「きっと そのうち 面倒になると思うよ?」

マリベル「どうしてよ。」

アルス「毎年毎年 お祭りのときに 主賓にされて 挨拶させられて みんなに囲まれて……。」

マリベル「…………………。」
マリベル「やっぱり なしね。」

そう言うと少女は壁側に寝返りを打ってつまらなそうに大きなため息をつく。


560 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/10 19:22:17.16 qDyAt+CI0 517/905




マリベル「…あ そうだ!」



かと思えば突然跳ね起きて炊事場から何かを持ってきた。

マリベル「じゃーん。」

アルス「あ それって…!」

マリベル「あたしの お気に入りのドレスよ!」

その手にぶら下がっていたのはかつてフォロッド城での事件で破かれてしまった少女の一張羅だった。

アルス「どうしたの?」

マリベル「ほら 昨日 城下町に行ってきたでしょ? その時に 偶然 同じのが 一着だけあったから 買ってきたのよ。」
マリベル「このドレスも 大人っぽくて 好きだけど やっぱり これも惜しくってさ。」
マリベル「うふふ。高かったんだからね~。」

そう言って少女は買ったばかりのドレスを両手に掲げて鼻歌を鳴らす。

アルス「たしかに それの方が マリベルって感じだしね。」

マリベル「それって 褒めてるの?」

アルス「も もちろんだよ……。」
アルス「…そ そういえば 頭巾も買ってきたの?」

マリベル「え? ええ そうだけど それが どうかしたかしら?」

アルス「いや せっかく きれいな 髪なのに また 隠しちゃうのかなって。」

マリベル「なっ……。」

少女はいつの間にか立ち上がった少年に髪を撫でられていた。

マリベル「…………………。」

心地よい感触と少年の真っすぐな殺し文句に思わず顔が熱を帯び、少女はしばらく黙り込んで思案する。

マリベル「……そうね そこまで 言われちゃ 仕方がないわ。」
マリベル「…頭巾をするのは 甲板に出た時と お料理中 だけに しておこうかしらね。」

いつもは潮風で髪が痛むのを防ぐためと周りには言い聞かしているが、
本当のところはところどころ跳ね返る癖っ毛が恥ずかしく、
隠しておきたいというのが彼女なりの本音だった。
しかしフォロッドの王太后のみならず少年にまでこう言われてしまった以上、
必要以上に髪を隠すことも、気にすることもないのではないかと、少しだけだがそんな風に思えたのだった。



マリベル「…で いつまで 触ってるのよ?」



アルス「…飽きるまで。」



気付けば少年は少女の跳ね返った巻き毛を指に巻き付かせて遊んでいた。

マリベル「…………………。」

”いったい何が楽しいのだろうか”

少年の考えることはさっぱりわからなかったが、なんだか振り払うのも惜しいような気がして、
言葉通り少年が飽きるまで少女はそうして身を預けているのだった。


561 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/10 19:24:27.14 qDyAt+CI0 518/905




ボルカノ「いいか アルス 今日の漁は まさに 魚のゴキゲン次第だ。」



夕刻になってあたりが暗くなり始めた頃、漁船アミット号はまだ大陸間の細長い海域を航行し続けていた。

既に地図上ではもう少し行けばこの海域を抜け西側が開けてくるという位置に差し掛かっている。

ボルカノ「流し網っていうのは こっちから 働きかけない以上 うまいこと 魚の群れに 当たることを 祈るしかねえ。」
ボルカノ「だからこそ 時期や 潮流 天候が 大事になってくる。」
ボルカノ「少しずつでいいから しっかり 覚えていけよ。」

アルス「わかりました。」

本日行う“流し網”という漁法は“刺し網漁”に分類されるものの一つで、
一般的な刺し網漁法が帯状の網をオモリで海底に固定して通りかかる魚を捕えるのに対して、
流し網の場合は軽いオモリを使い、浮標の付いた身網を漁船が曳回して流れてきた魚を捕える漁法である。

航行を続けながら漁を行うアミット号にとっては都合の良い漁法の一つだった。

アルス「でも ここで サケが 獲れるとなると それこそ エンゴウの人たちに 配慮しなくちゃ いけなくなるね。」

そして今回の狙いはサケ。

エスタード島では馴染みのない魚ではあったが、他の大陸ではところどころで振舞われており、
ルーメンで仕入れた情報を元にこの海域で漁をすることになったのだった。

ボルカノ「まあな。ただ 他の漁場で ちゃんと育った サケが獲れるなら どこが一番の漁場か 見極めなくちゃならねえ。」
ボルカノ「今は とりあえず 確認も兼ねて しっかり やらせてもらうとしようぜ。」

アルス「はい。」

562 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/10 19:26:50.96 qDyAt+CI0 519/905


「ボルカノさん! そろそろ いいですか!」

ボルカノ「おう! そろそろ 引き揚げるぞ!」

「「「ウスッ!」」」

船長の号令で漁師たちが少しずつ網を引っ張っていく。

「おっ! かかってるぜ……!」

先頭で浮網を引いていた漁師が薄闇の中で魚影を確認する。

「よっしゃ どうやら アタリみてえだ!」

「ったく これだけ 重くっても どれだけ かかってんのか さっぱりだぜ。」

ボルカノ「気張っていけよ お前たち!」

「「「ウース!」」」

船長の言う通り、本当の勝負はここからだった。
刺し網漁というのは、比較的水深の浅い沿岸部で海底にいる甲殻類や底魚を対象とする場合、その長さは短い。
しかし遠洋で行われる流し網漁の場合、対象は回遊魚となりその長さは数百反に及ぶこともあるという。
アミット号は漁船としてかなり大きい方だが、乗組員の人数はさして多いというわけではないため、労働力を考えてある程度規模は抑えられていた。

アルス「ふう… ふう…。」

「ぐっ ぬぬぬ……。」

「ふんっ ふんっ!」

しかしそれでもかなりの重労働であることに変わりなく、長期戦を強いられる漁師たちの顔には疲労の色が見え始めていた。



マリベル「お待たせ! あたしも 手伝うわよ!」



そこへ夕飯の準備を終えた少女が作業着に着替えて甲板へ飛び出してきた。

アルス「マリベル……!」

マリベル「ふふっ みんなして お疲れのようね。でも このあたしが いれば……!」
マリベル「ふんっ……!」

そう意気込んで少女は漁師たちの間に滑り込んで力強く浮網を引き始める。

「ぬおっ……!」

アルス「は ハハハ……!」

マリベル「今日は… コック長の…特製シチューよ! 会心のでき…だからっ みんな がんばるのよっ!!」

「こりゃ へばってらんねえな!」

ボルカノ「それ もう一息だ!」

「「「ウスッ!」」」



563 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/10 19:28:53.64 qDyAt+CI0 520/905


少女の鼓舞に気を引き締めなおした漁師たちは力を振り絞り一つ一つ確実に浮標を回収していった。

「よしよし いい感じだ……!」

ところどころ絡んだ型の良いサケが次々と甲板へ並べられ、漁師たちに笑みがこぼれる。



「これで 最後だ!」



そして最後の浮標が引き上げられた。

「ぶはぁっ!」

「うおお 終わったぜ!」

「ちと 力みすぎたかな……。」

アルス「はっ… はっ… はあ……。」

ボルカノ「ふう……。」

長い長い揚網(ようもう)作業を終え、漁師たちは座り込んで息を整えている。

マリベル「みんな お疲れさま。」
マリベル「さっさと 処理して ひとまず 夕飯にしましょ。」

額の汗を拭いながら少女が労う。

ボルカノ「む そうだな……。」

そう言うと漁師たちはさっと起き上がり獲れたてのマスを捌き始めた。


564 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/10 19:29:48.06 qDyAt+CI0 521/905


「おお 筋子もってるぜ。」

漁師の一人が呟く。

マリベル「えっ! ホントに!」

少女が興奮気味に反応する。

アルス「マリベル ハラ子好きだったっけ?」

マリベル「何言ってんのよ。好きっていうか 美味しいじゃない!」

アルス「ま まあ そうだね……。」

ボルカノ「そうか もうすぐ そういう時期なのか……。」

すると何か思い当たる節があるのか少年の父親が顎に手を添えまじまじと見つめる。

マリベル「どうしたの ボルカノおじさま。」

ボルカノ「いや そろそろ サケも 川に帰る頃だったんだと 思ってな。」

マリベル「…この辺に 川なんて あったかしら?」

アルス「……ナイラ?」

マリベル「ええっ あんな バカでかい川に 帰るって言うの!?」

ボルカノ「いや もしかすると ここから もっと 西にある川かもしれん。」

アルス「そんな所に 川なんて あったかなあ。」

マリベル「……ははあ あそこかしらね。」

顎に手を置いて疑問符を浮かべる少年とは違い少女はそれがどこかわかったらしく、一人でうんうんと頷いている。

アルス「えっ?」

マリベル「ほら リードルートの 北から西にかけて 大きな川があったじゃない。」

アルス「…………………。」

マリベル「思い出せないの? ダメね~ まったく。」

アルス「うっ 悪かったですね……。」

「おおい みんな 休んでいないで 手伝ってくれよ!」

ボルカノ「むっ おお すまんすまん。」
ボルカノ「ほら 二人とも 早く終わらせて 飯にするんじゃねえのか。」

マリベル「あら いやだ あたしったら。」

アルス「そうだった もう 腹ペコだよ……。」

そうして漁師の催促に我に返った三人は雑談をやめ、すきっ腹を抱えて作業に戻っていった。



空には既に月が昇り、辺りはとばりで埋め尽くされていた。

565 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/10 19:32:24.39 qDyAt+CI0 522/905


マリベル「さすがに この長さは しんどいわね……。」

それから夕食を済ませた後、現在は数名で網の点検をしているのだが、
如何せん網の長さが尋常ではないのでその作業になかなか終わりが見えない。

マリベル「あんた なんか 面白い話ないの?」

アルス「えっ 急に そんなこと 言われても……。」

マリベル「…そーよねー……。」

最初から期待はしていなかったのだろうが、その顔にはハッキリ“つまらない”と書いてあった。

アルス「それを言うなら こっちの セリフだよ。」
アルス「城に行った時 なんか なかったの?」

マリベル「…そうねえ……。」
マリベル「あっ。」

少年に返され、何かを思い出したかのように少女は声を発する。

マリベル「そういえば 前から お城に 王さまがうんぬんって 言ってた おばさんがいたでしょ?」

アルス「いたいた。王さまに 片思いしてる 人だよね。」

マリベル「その人がね リーサ姫に 背中を押されてたわよ。」

アルス「えっ リーサ姫が!?」

姫がこれから自分の義理の母になるかもしれない人物を応援するなど、傍から見ればにわかには信じがたい話だった。

マリベル「そう そうなのよ。」
マリベル「それでも うじうじしてたから あたしが ビシっと言ってあげたんだけどね。」

アルス「なんて?」

マリベル「王妃になる人が そんなんでどうするって それだけよ。」
マリベル「ずいぶん 神妙な 面持ちしてたけど 後で アイラ伝いで お礼を言われたわ。」

アルス「そっか。じゃあ いよいよ 覚悟を決めたんだね。」

マリベル「まっ どうせ あの人のことだから また やっぱりダメなんです~ とか 言いそうだけどね。」

アルス「あはははっ! でも もし 王さまが真剣に考えたら 王室が また 変わるかもね。」

マリベル「は~あ もしかして あたし 面倒ごとに 加担しちゃったのかしら。」

これから先起こるだろうことを想像して少女はため息をつく。

アルス「そんなことないよ。マリベルの意見は もっともだって きっと みんな 言うと思うよ。」

マリベル「…アルスは どう思う? 新しい 王妃さまが 誕生して もし 子供が できて それが 男の子だったら。」

アルス「…きっと その子が 次の王さまに なるんだろうね。」

マリベル「そうなのよねえ。そうしたら リーサ姫や アイラの立場は どうなっちゃうのかしら。」

アルス「…わからない。でも リーサ姫も アイラも 決して 悪いようにはならないと思うけどな。」

マリベル「どうしてよ。」

アルス「もし 王子が誕生したら リーサ姫も アイラも 結婚のことで 悩まなくて済むだろうし 王さまも あの二人を 愛してるはずだから きっと 大事にしてくれると思うんだ。」
アルス「それに もし 王子が生まれなくても それはそれ。 今まで通り リーサ姫か アイラがお婿さんを もらって それで おしまいさ。」
アルス「考えようによっては エスタードの未来の 選択肢が 増えたってことになるんじゃないかな。」

マリベル「…………………。」
マリベル「いっつも あったますっからかんの ふりして けっこう 考えてるのね。」

アルス「ひどいなあ。」

マリベル「冗談よ ジョーダン。」



マリベル「…あ これで 最後ね!」



566 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/10 19:33:57.88 qDyAt+CI0 523/905


話し込んでいるうちに最後の一反まで点検が終わり、少女は感嘆の声を上げポキポキという音を鳴らしながら首を回す。

マリベル「ん あーあ……。」

「終わった……!」

「ふいー これで 今日の仕事は終わりだな。」

漁師たちも欠伸をしながら作業を終えた達成感を味わっている。



「見ろよ 港が 見えてきたぜ!」



アルス「本当だ……。」

漁師の言葉に北を見ればそこには灯りの付いた小さな船着き場のようなものがあった。

マリベル「ようやく 着いたわね。」

「でも 今日は もう 遅いから 宿も 閉まってるだろうな……。」

「ちぇー 温泉入ろうと思ったのにな。」

「まあ いいじゃねえか お楽しみは また 明日だ。」

「へっへっへ!」



マリベル「…………………。」



「ご ゴホン! オレは 船長に 点検が終わったことを 伝えてきますぜ。」

「お おれもっ!」

少女のしかめっ面を尻目に漁師たちはそそくさと甲板を降りて行ってしまった。

マリベル「まったく あれじゃ 明日は 油断できないわね……。」

舵取りを残していなくなった漁師たちの後を見つめながら少女は腕を組んで呟くのだった。



567 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/10 19:36:01.69 qDyAt+CI0 524/905


それからほどなくして漁船アミット号は船着き場に到着し、朝まで休眠をとることになった。

マリベル「あーあ それにしても あたしってば 罪な女ね……。」

二人だけとなった甲板で足元に絡みつく三毛猫を見つめながら少女が呟く。

アルス「えっ?」

マリベル「なんせ 王子になれた人を 奪っちゃったんだもの。」

屈託のない笑顔で少女が笑う。

アルス「…ぼくは 王さまになんて なるつもりはないよ。」
アルス「だって ぼくは 漁師になるって ずっと前から 決めてたし それに……。」

マリベル「それに?」

アルス「王さまになったら きみと 一緒に いられないじゃないか。」

マリベル「…………………。」
マリベル「ホント あんたって ばっかねー。」

アルス「むっ なんだよ……。」

少しだけ口角を上げて言う少女に少年は拗ねたように抗議する。

マリベル「あんたは 王様になんて なれっこないわよ。」
マリベル「なんたって このあたしが そんなこと 許すわけないじゃない。」
マリベル「あんたは これまでも これからも あたしのものよ。誰にも 渡してやるもんですか。」

アルス「それ 普通 ぼくの セリフじゃないの?」

あっけらかんと言ってのける少女に少年がツッコミを入れる。

マリベル「はあ? なーに 調子に乗ってんのよ。あたしは あたしのものよ。」
マリベル「ふふっ それとも なあに? あんたのものにしたいって言うの?」

勝ち誇ったように、それでいて挑発するように少女が言う。

アルス「…………………。」

押し黙る少年に尚も少女は続ける。

マリベル「それなら… 捕まえてごらんなさいな。」
マリベル「このあたしが ぐうの音も 出ないほど 良い男になって あたしをあんたのものにしてみせてよ。」

アルス「…………………。」

マリベル「……ちょっと なんか 言ったらどうなっ……!」





アルス「つかまえた。」





568 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/10 19:37:32.91 qDyAt+CI0 525/905


少女はいきなり腰をがっちりと抱かれ、気づけば目の前に少年の顔があった。



マリベル「あ いや そういう意味じゃ……んっ……!」



いきなりのことに戸惑っているうちに唇を奪われ、少女は成す術なく身を預ける。

アルス「…………………。」

マリベル「…ふ……ん…… はあっ……。」

やがて唇を離すと少年は少しだけ赤い顔で少女を見つめそっと呟く。

アルス「……努力するよ。」

マリベル「……ばか。」

真っ赤に染まった少女の口からはもはやそれしか出てこなかった。

トパーズ「なーお。」

そうして言葉を失くした二人の代わりをするかのように
三毛猫が足元でつまらなそうに月を見上げて鳴くのだった。





そして……


569 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/10 19:38:13.32 qDyAt+CI0 526/905






そして 夜が 明けた……。





570 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/10 19:39:51.48 qDyAt+CI0 527/905


以上第19話でした。

今回はルーメンからエンゴウまでの短いお話でした。
それでもお話の中には原作をプレイしていて思ったことをふんだんに盛り込んであります。

別居していたブルジオ夫妻のこと、
ルーメンで出会った二匹の魔物を通して少女が思うこと、
グランエスタードの世継ぎのこと、
そしてマリベルがどうしていつも頭巾をしているのかということ。

とあるサイトさんでは中世ヨーロッパの人々の服装について書かれた本を紹介されていて、
その中には女性の服装の挿絵があるのですが(もちろん男性のものも)、どう見てもマリベルのソレそっくりなんですね。
きっと鳥山さんはそういった資料から登場人物の服装をデザインしていったのだと思いますが、
そうであるならばマリベル以外にも頭巾をしている女性がいてもおかしくはないと思うんです。
(マーレなんかのそれはちょっと違うと思うんですが)
何が言いたいのかといいますと、「ファッションとして片づけるにはちょっと限界があるのでは」ということです。

そこでこのお話の中では「癖っ毛が恥ずかしいから」という理由も付け加えさせていただきました。
まあ3DS版では惜しげもなく髪を晒してくれているのでなんとも言えないのですが……

その方が可愛げがありますものね。

どれもこれもわたしの想像のうちのことですが、
些細なことでも考えてみると面白いものですよね。

…………………

◇火山のふもとの村にたどり着いたアミット号。
しかしそこにやってきていたのは彼らだけではなく……


571 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/10 19:40:53.79 qDyAt+CI0 528/905


第19話の主な登場人物

アルス
航海中暇な時はマリベルと話していることが多い。
自分の未来だけでなく、故郷の未来のこともよく考えている。

マリベル
人や魔物たちとの出会いと別れを繰り返し、
自分の生き方を考えることが多くなった。
城下町へ行った際にいつものドレスを入手。

ボルカノ
アミット号の船長として息子のアルスに様々な知識を教え込む。
馴染み無い魚でも果敢に漁に挑戦する。

めし番(*)
アミット号の料理人。
雰囲気をぶち壊すのに定評がある。

アミット号の船員たち
人数こそ少ないが、技量と腕っぷしでそれを補う。
パワフルな精鋭たち。

576 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/11 19:13:29.64 LLGD6zi70 529/905






航海二十日目:ハダカのこころ





577 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/11 19:14:05.31 LLGD6zi70 530/905


マリベル「なんか 船が 増えてない?」

朝、少女が甲板から辺りを見渡すとそこには昨晩まではなかったはずの船が数隻泊まっていた。

アルス「いつの間に 来てたんだろうね。」

隣に立つ少年も他の漁師たちも覚えがないという。

マリベル「ま まさか……。」

アルス「どうしたの マリベル 置いてくよ?」

顔色悪そうに突っ立っている少女に木箱を抱えて前を行く少年が呼び掛ける。

マリベル「えっ あ 待ちなさいよ!」

少女の中にはある懸念があったのだったが今はそれを確かめる術もなく、
少年に呼ばれて少女は我に返り慌てて駆け寄っていくのだった。


578 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/11 19:14:56.41 LLGD6zi70 531/905


ボルカノ「おお こりゃ すごい 人だな。」

村までやってきた一行の目に飛び込んできたのは人込みだった。

「……ってえと さっきの船は ぜんぶ 旅客船だったってわけか。」

「これなら もっと 魚を持ってきてもよかったかな?」

「いやいや フィッシュベルに持って帰る分が 減っちまうぜ。」

ボルカノ「とにかく オレたちは 村長の所に 行ってくるから おまえたち 適当に 店を広げておいてくれ。」

「「「ウスッ!」」」

そうして漁師たちは早速持ってきた魚を並べ、店を構え始める。

ボルカノ「それじゃ オレたちも 行くぞ。」

アルス「うん。」

マリベル「…ええ……。」

アルス「どうしたの マリベル?」

どこか覇気のない返事をする少女に少年が尋ねる。

マリベル「この分じゃ 温泉も いっぱいよね……。」

アルス「…やっぱり 見られたくない?」

マリベル「あったりまえじゃないの! …はーあ 諦めるしかないのかしらねえ。」

盛大なため息をつきながら少女はがっくりと項垂れる。

ボルカノ「がっははは! また 来れば いいじゃないか。」

マリベル「……ええ……。」

生返事をしながら少女はとぼとぼと村長の屋敷を目指して歩き出す。

アルス「あ はは…は。」

ボルカノ「…………………。」

少年とその父親は苦笑いしながらそれに続くしかなかったのだった。



579 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/11 19:15:45.62 LLGD6zi70 532/905




マリベル「ええっ 村長に 会えないですって!?」



せっかくの温泉への望みが絶たれ、腹いせにさっさと用を済ませて適当に休んでいこうと思っていた少女だったが、
屋敷で使用人に聞かされたのは意外な言葉だった。

「ええ そうなんです。今は 観光客の方々との お話で 忙しいようで……。」

マリベル「こっちは ただの観光で 来てるんじゃないのよ!?」
マリベル「王さまから 預かった 大事な大事な 書状を 持ってきてるんだから!」

「そ そうは 言われましても わたくしでは……。」

ボルカノ「まあまあ マリベルちゃん。」

詰め寄る少女をなだめすかして漁師頭が給仕人に問う。

ボルカノ「村長さんに あとどれぐらいで 話が 終わるのかだけでも 聞いてきてくれませんか?」

「わ わかりました 少々 お待ちを……。」

そう言って使用人はすごすごと奥の階段を上っていった。

マリベル「いったい あの連中は どこのやつらなのよ……!」

少女が両手を腰に当てて眉間にしわを寄せる。

アルス「……さっきの人たち なんか いい匂いしてなかった?」

ボルカノ「んっ?」

マリベル「そういえば… どっかで 見たことあるような……。」



「お待たせしました。」



少年の言葉に少女が何かを思い出そうとしていると先ほどの使用人が降りてきた。

「どうぞ こちらに。」

そう言って使用人は少年たちを案内する。

マリベル「……?」



580 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/11 19:17:19.95 LLGD6zi70 533/905




村長「これはこれは アルスさん マリベルさん わざわざ お越しくださったのに お待たせして 申し訳ありません。」



階段を昇ると、炎の村の長が少年たちを出迎え慌てて謝罪してきた。

アルス「いえ ほむら祭の時は お世話になりました 村長さん。」

マリベル「…………………。」
マリベル「待たせたっていうわりには その 先客が いないじゃないの。」

気にせず挨拶をする少年を横目に訝しげな表情を浮かべて少女が問う。

村長「…それが……。」





「いや~ん❤」





「「「…っ!」」」



表から聞こえてきた嬌声ともとれそうな甘ったるい悲鳴に、三人は一斉に窓の外を見る。





「ふんがー!」





そして目をぱちくりさせる船長を他所に少年と少女は盛大なため息をつくのだった。



“アイツか……”



581 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/11 19:18:02.22 LLGD6zi70 534/905


村長「メモリアリーフからの お客さんなんですが どうも あの頭首は 変な 趣味をお持ちのようで……。」

マリベル「ここまでやってきて あんなことするなんて ヘンタイもここまでキたのね。」
マリベル「……うっわ やだやだ。アルス はやく 用を終わらして さっさと 逃げましょうよ!」
マリベル「いつまでも ここにいたら ヘンタイがうつるわ!」

村長「なんでも そこが 終わったら今度は 温泉で やるんだとか。」

マリベル「……サイアク。」

アルス「…………………。」

村長「と ところで そちらのお方は……。」

なんとかこの場の空気を打破しようと村長が二人の後ろに立つ大男について問う。

ボルカノ「アルスの父の ボルカノです。この度は グランエスタード王の命で 参りました。」

[ ボルカノは バーンズ王の手紙・改を 村長に 手わたした! ]

村長「なんと アルスさんの お父上でしたか。」

そう言って書状を受け取ると村長はそれに目を通す。

村長「むっ どれどれ…… ははあ…… なるほど。」
村長「だいたいのことは わかりました。では お返事を書きますので しばらく お時間を いただけますかな。」

ボルカノ「ありがとうございます。」
ボルカノ「それと これから 広場で 魚を売らせてほしいんですが いいですかね。」

村長「お おおっ それでしたら 大歓迎ですよ。どうぞ お好きなだけ。」

ボルカノ「ありがとうございます。」

思惑はさておき、村長の快諾を受け船長は深々と礼をする。

マリベル「…ほらっ 二人とも 早く行きましょ!」

アルス「うわ 引っ張らないでよ! うわわわ……!」

ボルカノ「ぬおっ……!」

そうして一先ず用が済んだと分かった途端、少女はものすごい勢いで二人を引っ張り階段を降りていくのだった。



582 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/11 19:19:57.60 LLGD6zi70 535/905


「なんだなんだ?」

「見ろよ なかなか 面白えじゃねえか!」

案の定、屋敷の外には見物客が集まってきていた。

荒くれの姿をした男が嬉しそうな給仕人の娘を延々と追いかけるという
村長宅のテラスで行われている奇妙な光景を目の当たりにし、周囲は大きな騒めきに包まれていた。

「いいぞー!」

「ねえちゃん こっち 向いてくれー!」

「やだよ なんだい あれ。」

「オレにもやらせろー!」

マリベル「…………………。」

アルス「…………………。」

ボルカノ「…………………。」

そんな様子を三人は呆然と見つめる。

マリベル「…サイテー。あんなののために 温泉に 入れないなんて。」

アルス「…ぼくも 今日は 普通に宿屋で お風呂入ろうかな。」

ボルカノ「宿に 泊まれたらな。」

少年の父親は人だかりを見て今晩泊まる宿はないだろうと最初から気付いていたようだ。

アルス「……そうだね。」

少年も諦めたように肩を落とし両手を軽く上げる。

マリベル「ああ チカラが抜けてゆく……。」

アルス「おっと。」

マリベル「ボルカノおじさま は 早く 行きましょ……。」

少年に支えられて少女が絞り出すように言う。

ボルカノ「そうしたいのは やまやま なんだが……。」

そう言って少年の父親の指す先には村人に混じって歓声を上げる船員たちの姿があったのだった。



583 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/11 19:21:46.47 LLGD6zi70 536/905


その後、興奮する漁師たちをなんとか落ち着かせ、
メモリアリーフの主人の奇行を横に見ながらアミット号一行は少しだけ店を開いた。
購買者は村人が多かったが、お土産にするのだといって観光客たちもそこそこに買い付けていった。

マリベル「は~あ……。」

現在は店もたたみ、今晩をどう過ごすのかを宿屋兼食事処である“温泉亭”で話しながら遅めの昼食を摂っている。

マリベル「まったく あんなのの 何がいいって 言うのかしら。」

先ほどまで繰り広げられていた光景を思い出し、少女は肺の中の空気を全て吐き出す。

「いやいや マリベルおじょうさん あんな光景 滅多にみられるもんじゃ ないですよ。」

「まあ もう 見飽きたけどな。」

ボルカノ「あの 頭首は いつも あんなんなのか?」

アルス「……うん。」

ボルカノ「…それで よく ハーブ園が 回っているな……。」

少年の父親がもっともな疑問を口にする。

マリベル「きっと 使用人たちが しっかりしてるからだわよ。…メイド以外は。」

少女は食べ物を口に運ぶ代わりにこれでもかと毒を吐き続ける。

「それで 今晩は どうするんです?」

ボルカノ「空きがないいじょう 船で 寝るしかねえな。」

アルス「ぼくは 構わないけど……。」

「せめて おじょうさんだけでも 泊まれないんすかね。」

年頃の女性に気を利かせて銛番が尋ねる。

マリベル「あら おきづかいは けっこうよ。」
マリベル「あいつらと 同じ宿で 泊まるなんて まっぴらだもんね!」
マリベル「きっと あたしまで ヘンタイになっちゃうわ。」



アルス「……ごくっ。」



584 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/11 19:22:19.66 LLGD6zi70 537/905




「おっ いま アルス ちょっと 期待してただろ。」



食べ物を飲み込んだからなのか、はたまた別の何かなのか。
喉を鳴らした少年を漁師の一人が茶化す。

アルス「えっ そ そんなこと ありませんよっ!」

マリベル「……スケベ。」

アルス「ご 誤解だよ!」

ボルカノ「わっはっは!」

「がっはっは!」

コック長「まあ 宿は取れないが 温泉は しっかり 入らせてもらおうかね。」

「そうですよ! ここまで来たのに もったいないですって!」

「あとで 行こうぜ。」

「メモリアリーフの人たちも いるかもな。」

「バカ それが 狙いよ ぐっへっへ。」

顔を赤くする少年と少女を差し置いて他の乗組員たちは非常に楽しそうにこのあとの話をしている。

マリベル「……あんたも 行ってくれば?」

アルス「えっ?」

マリベル「あたしは 我慢するけど あんたは 平気なんでしょ?」
マリベル「遠慮しないで 行ってきなさいよ。」

アルス「…うーん……。」

決して少年の目を見て話そうとしない少女を見ながら少年は迷っていた。
確かに彼女の言う通り自分が気にすることはないので漁師たちについて行っても何ら問題はないのだが、
少女残して自分だけ楽しんでしまうのも何かが違う気がしていた。

アルス「まあ 考えとくよ。」

結局少年はそれだけ言ってお茶を濁すしかなかった。

マリベル「………はあ……。」

アルス「…………………。」

喧噪の中に紛れて吐き出されたため息を少年は聞き洩らさなかった。


585 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/11 19:23:02.60 LLGD6zi70 538/905




マリベル「あーあ つまんないのー。」



漁師たちが温泉につかりに行ってしまい、一人取り残され少女は当てもなく村の中を歩いていた。

今は喧騒もなくなり、村の中は普段通りの静けさを擁している。

マリベル「男は いいわよねー 気楽でさ。」

誰に言うでもなく、自分に語り掛ける。

マリベル「あいつも 行っちゃったのかな……。」

なんとも難しい表情をしていた少年の顔を思い出す。

マリベル「…………………。」
マリベル「まいっか。…あいつの 自由よね。」

“考えとく”という言葉だけではどうするかは推測できない。

押しに弱い彼ならば誘われたら行ってしまいそうな気もするが。



マリベル「…あ……。」



そうこう考えているうちに少女は一見の店の前で立ち止まる。



“ラルドン商店へ ようこそ! うらないも できます。”



そう書かれた看板が目の前に立っていた。

マリベル「パミラさんと イルマさん 元気にしてるかな……。」

助手の方はもちろん元気であることだろう、しかし老いた占い師のことはなんとなく気になってしまう。

マリベル「…せっかくだから 顔だけでも 見ていこうかしらね。」

最後に会ってからさして時が流れたわけでもないが、ここまで来たのであれば挨拶をしておいてもいいだろう。

そんな風に思い少女は店の中へと入っていったのだった。



586 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/11 19:24:51.17 LLGD6zi70 539/905




「いらっしゃいませー! あらっ? あなたは……!」



マリベル「こんにちは イルマさん。」

少女が店の扉を開くと元気の良い声と共に一人の女性が現れた。

イルマ「マリベルさん いらっしゃってたの! もっと 早く 声をかけてくれれば 良かったのに。」

そう言って若き占い師は微笑む。

マリベル「ごめんなさいね さっきまで お店やってたから。」
マリベル「元気にしてたかしら?」

イルマ「そりゃ もちろんですよ。あれから ますます 占いの腕も 磨いたんですよ!」

マリベル「そう やっぱり 将来のパミラさんは あなたみたいね。」

イルマ「そ そんな お世辞を……。」

少しだけ照れた様子で若き占い師ははにかむ。

マリベル「あ そうだ パミラさんはどう?」

イルマ「パミラさまなら 奥にいらっしゃいますよ。ここのところ 事件もなくて 張り合いがないんだとか。」

マリベル「そう じゃあ 挨拶していこうかしら。」

イルマ「ちょっと お待ちください。」
イルマ「パミラさまー マリベルさんが お見えですよー。」

娘の呼びかけにややあってから老婆が声を返す。



「おお マリベルか 入っておいで。」



イルマ「さ どうぞ。」

マリベル「ありがとう。」

若き占い師に促され、少女は暗い部屋へと足を踏み入れる。



「よく きたね マリベル。また キレイになったんじゃないかい?」



すると薄暗い部屋の奥に水晶を置いて佇む人の良さそうな老婆が少女に声をかけてきた。

マリベル「パミラさんも お元気そうでなによりだわ。」

パミラ「まだまだ このとおりじゃわい。」
パミラ「それにしても 今日はどうしたのじゃ? また何か 困ったことでも あったのかい?」

マリベル「あ いや そういうわけじゃ ないんだけど……。」

パミラ「そういう割には 何か 憂いた顔をしておるのう。どうせ 悩みでも あるじゃろう。」

マリベル「えっ…?」

パミラ「隠さないで 話してごらん? それとも 占ってみせようかね?」

マリベル「あたしが 悩んでること……。」

パミラ「うむ あいかわらず 心の奥底で わだかまってることが いろいろ あるようじゃのう。」
パミラ「どれ お代は いいから 少し 見てあげるとしようかね。」

そこまで言うと占い師の老婆は助手に声をかける。

パミラ「イルマ! 少しの間 誰も とおさんでおくれ。」

イルマ「はーい。」

返事と共に入口には幕が敷かれ、部屋の中はさらに暗くなる。

587 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/11 19:28:20.77 LLGD6zi70 540/905


パミラ「さて それじゃ 始めるとしようじゃないか。」

マリベル「ま 待って! あたし そんな つもりじゃ……。」

パミラ「いいんだよ。おまえさんたちには 恩があるからね これくらいの ことはさせておくれよ。」
パミラ「それじゃ カオを見せてごらん……。」

そう言って老婆は水晶を挟んで少女の顔を覗き込む。

マリベル「…………………。」

パミラ「ううむ これは…… いろんな景色が見える。それに お前さんの顔も。」
パミラ「……何やら神妙な… むっ? 満足そうな表情に 変わったようじゃ。」
パミラ「……お前さんを 囲む たくさんの人々。みんな 幸せそうじゃのう。」
パミラ「場面が 変わったようじゃ……。これは 巨大な船かのう。」
パミラ「また 変わったぞ…… こっちは荒れ狂う海 それに……。」
パミラ「…………………。」

マリベル「……どうしたの?」

パミラ「うむ…… どうやら この先 お前さんたちに いろんな運命が 降りかかる様に見える。」
パミラ「最初に見たものは どうやら その後のようじゃ。」
パミラ「じゃが そのことが お前さんの悩みと どうつながっていくのかは わしにもちとわからんのう。」

マリベル「そう……。」

パミラ「ふうむ どうやら お前さんは 数奇な運命のもとにいるように感じる。」
パミラ「あの少年もそうじゃが いったい お前さんは 何者なんじゃろうかのう?」

マリベル「……?」

パミラ「まあよい また 何か 見て欲しいことが あれば 立ち寄るがよいぞ。」
パミラ「わしは いつでも お前さんたちの 味方じゃからな!」

マリベル「……え ええ ありがとう。」

なんとも腑に落ちないものを抱えたまま少女は部屋を後にする。



イルマ「お疲れさまでしたー! どうでしたか?」



部屋の外で待機していた助手の娘が声をかける。

マリベル「…よく わからないわ。」

イルマ「そうですか… あ でも あたしは ひとつ わかったことがありますよ!」

なんとも言えない答えを返す少女に若き占い師は人差し指を立てて自信ありげに言う。

マリベル「えっ……?」

イルマ「今晩 月が てっぺんまで昇った頃 温泉にいけば いいことが あるみたいですよ!」

マリベル「真夜中に 温泉に 行くの?」

イルマ「これでも 会心の占いだと 思うんですけど……。」

頬に手を当てて娘は呟く。

マリベル「…そう ありがとう。考えとくわ。」
マリベル「ああ それから これ。」

そう言うと少女は微笑んで占い師の娘に何かを手渡す。

イルマ「えっ これは……?」

マリベル「お礼よ。また よろしくね。」

イルマ「こ こんなに…!」

マリベル「じゃあね!」

そう言って少女は店を飛び出して行ってしまった。



イルマ「こんな 大金 どっから 出てくるのよ……!?」



掌に置かれた多額の貨幣をまじまじと見つめ娘は固まるのだった。

588 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/11 19:29:26.71 LLGD6zi70 541/905


マリベル「数奇な運命…か……。」

店を出た少女は先ほど老婆から言われた言葉を思い出していた。

マリベル「いろんな光景に人々…… 神妙で……満足そうなあたし……。」
マリベル「……ダメね さっぱりわからないわ。」

どんなに考えても思い当たるようなことは浮かんでこなかった。

マリベル「あーあ 温泉でも入って ゆっくり考えたいところだけど……。」

肝心の温泉は多くの人で溢れたまま。
女性だけならまだしもどうせ男性ばかりで女性が入ってくるのを今か今かと待ち構えているに違いない。

そんな風に考えたら恐ろしくてとてもではないが入る気にはなれなかった。

マリベル「ここも 有名になったら ずっと こんな感じになっちゃうのかしら……。」

そう考えると先ほど若い占い師に言われた深夜の温泉というのは少し気になるところだった。
もしかすれば深夜であれば誰にも遭遇せずに入浴することができるかもしれない。

マリベル「かけてみるか……。」

そう呟いて少女は再び当てもなく村の中を彷徨い始める。

静かになった村には件の温泉のある井戸の中から漏れた男女の楽しそうな声が響いていた。


589 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/11 19:30:40.08 LLGD6zi70 542/905




「いやあ 良かった良かった!」



「メイドさんたちが あんなに いるとはよお!」



「あのご主人 さまさま だったな!」



「こんなの カミさんに 話せねえよ……。」



日も落ちた頃、温泉亭ではいろんな意味で入浴を十分楽しんだ漁師たちが口々に感想を述べていた。

「来てよかった……。」

コック長「おまえ まだ 顔赤いぞ。」

もはや温泉の感想などではなく、混浴という事実のもたらした効能についての話題しか上がっていなかった。

マリベル「…………………。」

そんな様を少女だけが不機嫌そうに眺め、何もしゃべることなく食事に徹していた。

「おい 食べ終わったら もう一回 行こうぜ!」

「いいね どうせなら 温泉の効能を 存分に 楽しもうぜ!」

「とか 何とか いって どうせ 女が目当てなんだろ?」

「おまえだって 鼻の下 伸ばしてたくせに 何言ってんだ。」

「へっ バレてたか。」

漁師たちは昼間の入浴に飽き足らず夜の入浴もしっかり堪能するつもりでいるらしい。

果たして裸になるのは身体なのかそれとも邪な感情なのか。

マリベル「……ごちそうさま!」

いい加減ここにいてはいつ自分まで引っ張り込まれるか分かったものではない。

そんな風に感じて少女は早々に席を立ち足早に外へ出て行ってしまった。

「ああ マリベルおじょうさん 行っちまったぜ!」

「くそっ なんとかして 誘おうと 思ったのによ……!」

ボルカノ「よく 考えてみろ お前たち。もし そんなことが アミットさんに 知れたら どうなったことか わからんぞ?」

そこまで来てようやく漁師頭が口を開く。
彼にとっては正直混浴などどうでもよかったが、
万が一仲間が下手なことをしては網元に申し訳が立たないと思いここは場を鎮めることにしたのだ。

「うっ…!」

「い いやあ おっしゃる とおりでさあ。」

「あぶねえ あぶねえ 危うく 首が 跳んじまうところだったぜ。」

アルス「…………………。」

そんなやり取りを少年は複雑な顔で見つめるのだった。

590 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/11 19:32:16.67 LLGD6zi70 543/905


マリベル「あーあ もう やんなっちゃうわ。」

一人宿を出た少女は行く当てもなく村の中をぶらついていた。

マリベル「この分だと 酒場も 混んでるわよねえ。」

そうは言ってもこのまま船に帰るのも少々癪に感じ、少女は不機嫌そうに腕を組みながら酒場へと入っていくのだった。

「いらっしゃい! おや これは これは マリベルさんじゃないか!」

マリベル「こんばんは マスター。」
マリベル「…………………。」

適当に挨拶を交わすと少女は辺りを見渡す。

「そんでよ ご主人ったらさ……。」

「まったく あの人には 驚かされてばかりだぜ……。」

「ダンスダンス ダダダン ダンスッ!」

「ステキ……。」

店のカウンターには例のハーブ園からやってきた従業員と思わしき男たちが、
その反対側では相変わらず情熱的な踊りを見せている踊り子とそれに見入る女性が何人かいるだけだった。

マリベル「おもったより 空いてたわね……。」

「マリベルさん 今日は 何にします?」

マリベル「何か オススメでもある?」

「はい それでしたら 買ったばかりの ハーブで 作ったのが。」

マリベル「せっかくだから それ もらおうかしら。」

「かしこまりました。」

そう言って店主は少女の目の前にトウキビ酒に大量のハーブを散らした薄緑色に輝くハーブ酒を差し出す。

マリベル「……いい香り。」

鼻を近づける前から鼻腔をすっきりとした爽やかな香りが突き抜けていく。
まるでバロックの橋で飲んだハーブティーを思わせるようなそれは
食後の苦しさを取り去ってくれるかのような清涼さを漂わせていた。

「どうです? 食後には ぴったりのお酒でしょう?」

マリベル「……いいわね これ。」

“今度あのハーブ園に寄ったときはハーブを大量買いして家で作り置こうか”

そんな風に少女はぼんやりと考えていた。





「いらっしゃいませ!」





また一人新しい客が入ってくるまでは。

591 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/11 19:33:32.09 LLGD6zi70 544/905


「あ やっぱり いらしてましたか アルスさん。」

マリベル「……アルス。」

アルス「こんばんは。」
アルス「…やあ ここだったんだね。」

少年は軽く手を上げて挨拶を交わす。

マリベル「なによ あんたも みんなと一緒に 混浴に行ったんじゃなかったの?」

アルス「……きみだけ残して 入るのも なんだかね。」

マリベル「ふん 調子いいこと 言っちゃって。」

少女は相変わらず不機嫌そうに言う。

アルス「……マスター 彼女と同じのを。」

「かしこまりました。」

そう言って先ほどと同じように店主は手早く少年にハーブ酒を差し出す。

マリベル「どうせ あんたも 女の人の裸 見たいくせに このすけべ。」

少女は少年の顔を見ようとせず頬杖をついたまま。

アルス「…………………。」

少年はちびちびと出された酒を飲みながら視線を天井にやり考え込む。

アルス「そういえばさ。」

マリベル「…………………。」

アルス「あの人たち 明日は 早いから 深夜は 入らないんだってさ。」

マリベル「……あっそ。」

そっぽを向いたままそれだけ返すと少女は杯を傾ける。

アルス「…………………。」

マリベル「…………………。」

二人は無言で酒を煽る。

“カラン”という氷の音が狭い店の中へ消えていった。

アルス「…本当はさ。」

しばらく押し黙ったままだった少年がポツリとつぶやく。



アルス「一緒に 入りたかったなって。」



マリベル「…………………。」
マリベル「…えっ? はっ……?」


592 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/11 19:34:40.14 LLGD6zi70 545/905


少年から飛び出した突然の言葉に少女は一瞬理解が遅れ、ややあってから驚いた表情で少年の方を振り向いた。

かくいう少年は杯の中を見詰めながら少し照れた顔をしている。

アルス「いや なんでもない。忘れて。」

マリベル「ばっ ばっかじゃないの!?」
マリベル「な なんで あたしが あんたと お風呂に……。」

真赤になって少女は小さく叫ぶと再びそっぽを向いて黙り込んでしまった。

アルス「ごめん。」

短く謝ると少年は杯の中の残りを一気に飲み干す。

アルス「マスター ごちそうさまでした。また いつか。」

そう言って少年は多めのお金を置いて席を立つ。

「ありがとうございました。」

アルス「おやすみ マリベル。」

マリベル「…………………。」

それだけ残して少年は静かに扉を開け、表へと出て行ってしまった。

マリベル「…………………。」

“バタン”という重たい音が店内に木霊し、一人の客が帰って行ったことを報せる。

マリベル「…ばかアルス。」

独りいなくなった少年に呟くと、少女は自分の中にわだかまる複雑な思いを洗い流すように残りのハーズ酒を飲み干した。

マリベル「マスター もう一杯。」

「かしこまりました。」

店の主人は何も言わずに黙々と酒を作り始める。

そうして再び店内には男たちの楽しそうな声とステージを踏み鳴らす踊り子の靴音、
そして氷がグラスを叩く音だけが静かに響いていったのであった。



593 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/11 19:37:34.89 LLGD6zi70 546/905


マリベル「…………………。」

夜も更けた頃、満天の星空の下で少女は一人、
酒で火照った身体を覚まそうと村の隅に置かれた角材に腰かけて煌々と揺らめく灯を眺めていた。

マリベル「…バカみたい……。」

少女には少年の行動がわかりかねていた。
前ならば男たちだけで温泉に浸かっていたはずの彼が今日ばかりは誰ともつるもうとせず、
それどころか少女だけが入らないからというだけで自分まで入らないと言い出す始末。
あまつさえその彼は自分と入りたいと言ってのけたのだ。

“本当はさ 一緒に 入りたかったなって。”

今まで決して彼が自分の願望をそんな形で口にすることはなかった。
それが他の男たちがむき出しにする邪な欲望だったのかはわからない。
しかしあの時少年が見せた顔はそれとは違って、どこか自分の羞恥の気持ちを隠しているように見えた。
それがますます少女を混乱させていた。

“ばっかじゃないの!? なんで あたしが あんたと……。”

思えば先ほどは驚愕と恥じらいから咄嗟であんな風に言ってしまったが、少々あれは言いすぎだったかもしれない。
自分と彼は既に恋人なのであって友達でもただの幼馴染でもない。
であれば入浴を共にするというのはさほど不自然なことではないのかもしれない。
しかしどういうわけか未だに自分の中で自らのすべてを晒してしまうことへの不安が先を行ってしまい、それを許そうとしないのだった。
たとえ相手が自分の好いた幼馴染であったとして。

マリベル「…はあ……。」

少女は基本的に相手がどう思おうが自分の思ったことはすべて言ってきたし、自分の気持ちに嘘はつかないようにしてきた。
時にはそれが人に自分を以て“わがまま”と言わしめる要因でもあったのだが、本人はそれをあまり気にしては来なかった。
今でこそ場面をわきまえられるようになったが、基本的に彼女の姿勢は変わらない。

しかしそんな彼女もあの少年と何かをしたり何かをしてもらうようなことに関しては正直に口に出せないこともあった。
様々な出来事を通してこれまでの旅も、そしてこの旅の中でも彼との距離を詰めていっていたはずだったが、
どうにも越えられない一線というものがあったらしい。

マリベル「やっぱり 恥ずかしいわよ……。」

そう言って少女は誰に見られているわけでもないのに両手で紅潮した頬を隠す。
彼にも散々正直にいろいろなことを言ってきたはずだったがこればっかりは言えない部類だったようだ。

マリベル「……ぶるっ………。」

あれこれ悩んでいるうちに気付けば体はすっかり冷え、
心地よく吹いていたはずの風はいつの間にか北風に変わり寒さを運んできていた。

マリベル「…さむい……。」

火に当たり寒さを紛らわそうとするも体の芯が冷えるような感覚に思わず身がすくむ。

マリベル「あっ……。」

なんとか暖をとれないものかと辺りを見渡した時、ふと煙の立ち上がる井戸が目に入った。

マリベル「温泉かあ……。」



“あの人たち 明日は 早いから 深夜は 入らないんだってさ。”



先ほど少年が言っていた言葉を思い出す。

マリベル「…………………。」

井戸までやって来た少女は耳を近づけて音で中の様子を探った。

マリベル「……誰も いないみたいね。」



“行くなら今しかない。”



そう思い立ち少女は急いで井戸の中へと降りて行くのだった。



594 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/11 19:39:00.51 LLGD6zi70 547/905


井戸の中は温泉の湧き出る音だけが木霊し、他には何も聞こえなかった。

マリベル「…………………。」

少女は目を凝らして辺りを確認する。

マリベル「……やった!」

奥の隅々までつぶさに観察したが確かにそこには誰もおらず、少女は思わず握り拳を作る。

マリベル「今のうち 今のうち……!」

そう言って少女はドレスを脱ぎ、近くにあった籠にまとめると浴巾(よっきん)を体に巻きつけて湯へと近づいた。

その時だった。



「…いやあ 外は冷えるなおい。」



「ホントだよな! もういっぺん 入っていっちまうか!」



マリベル「…っ!」



“しまった!”



どうやら二人組の男が井戸の手前までやってきているらしい。
自分の後に誰かが来る可能性などすっかり頭から抜け落ちていた少女は慌てて踵を返す。
このままでは湯に浸かれないどころか布越しとはいえ自分の裸体を見られてしまう。
そんな焦りから思うように濡れた床の上を走れず、少女は泣きたい気持ちになってしまった。

そしてまたその時。



「待ってください!」



男たちとは別の声が聞こえてきた。

「あん?」

「なんだ あんちゃん あんたも 風呂かい?」

「いま 女の子が 一人で 入っているんです。」

「なら 尚更 入らなくっちゃよ! なんせ ここは 混浴なんだぜ。」

「そうだぜ へっへっへ……!」

男たちはいやらしい笑い声を上げる。

「頼みます! 誰かに見られたくないからって 何度も あきらめていたのが ようやく 一人で ゆっくり 入れる時が来たんです。」
「せめて 彼女が 出てくるまで 待ってください!」

「……どうするよ?」

「うーん……。」

「お願いします! 宿代でも なんでも お支払いしますから!」

「え ほ ホントか?」

「そこまで 言われちゃ 仕方ねえ。まあ 風呂なら 宿にも あるからいいけどよ。」

「ありがとうございます!」

「……おう 確かに 受け取ったぜ。」

「そのじょうちゃんに ヨロシクな! がっははは!」

その言葉を最後に男たちの声は聞こえなくなった。どうやら行ってしまったようだ。


595 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/11 19:40:14.61 LLGD6zi70 548/905


マリベル「…………………。」

“助かった”

少女はドレスにかけたその手をいったん止める。

マリベル「…アルス?」

少しだけ大きな声で井戸の上にいる人物を呼ぶ。

アルス「ぼくは いいから ゆっくり 浸かっていきなよ!」

声の主はそう言って少女を気遣う。

マリベル「…………………。」

少女はしばらく俯いて考えていたが、やがて決心するともう一度上にいる少年に呼びかけた。



マリベル「アルス! 降りてきなさいよ!」



アルス「えっ?」

少女の真意が分からず少年は聞き返す。

マリベル「……い… いっしょに はいりましょ!」

ややあって返ってきた声は、少しだけ上擦っていた。

アルス「……うん!」

何かの呪文を唱える音が響いたあと、少年は降りてきた。

アルス「や やあ……。」

下まで降りてくると少年は少女の方を見ずにそのまま背中越しに言う。

マリベル「……こっち 見なさいよ。」

アルス「で でもっ……。」

マリベル「いいからっ!」

躊躇する少年に少女が語気を荒げる。

アルス「…………………。」

596 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/11 19:42:01.96 LLGD6zi70 549/905


振り返った少年は少女の体を見て黙ったまま固まった。
すらっと伸びた手足、絹のように白くやわらかな肌。
そしてまるで人形のように整った顔立ちは誰が見ても文句のつけようなどなかった。

マリベル「…なんか いったら どうなの?」

少女が恥ずかしそうに体を捩る。

アルス「…よかった……。」

マリベル「えっ?」

アルス「……タオルしてなかったら どうしようかと思った……。」

少年は冷や汗を流しながら言う。
体は大きな浴巾によって隠されてはっきりと見えはしないが、
それでも小さすぎず大きすぎない胸にくびれた腰から尻、
そして膝上までにかけての曲線美は少年の目のやり場を困らせるには十分すぎた。

マリベル「…………………。」
マリベル「はー……。」

少年の拍子抜けする感想に盛大なため息をついて少女が言う。

マリベル「まさか あたしが 素っ裸で 立ってるとでも 思ったの?」
マリベル「もっと 他に ないわけ? こう キレイだとか なんとか。」

アルス「いや 肌がきれいなのは 知ってたし……。」

マリベル「……もうっ!」

少しぐれた様子で少女は浴槽に向かうと、体を流してさっさと湯に入っていった。

アルス「…ご ごめん……。」

マリベル「いつまで そうしてるのよ はやく あんたも 入ったら?」

アルス「え あっ うん!」

少女の催促に少年は素早く服を脱ぎ、浴巾を腰に巻いて湯をかけてから少女の隣に腰を落とす。



597 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/11 19:43:35.86 LLGD6zi70 550/905


マリベル「…………………。」

アルス「…………………。」

浴槽に背をもたれ、二人はお互いを見ないように目線を下にしたまま黙り込む。

マリベル「あ あのさ……。」

なんとなく気まずい空気を打開するかのように少女が話し出す。

アルス「…うん?」

視線だけ少女の膝に移しながら少年が相槌を打つように問う。

マリベル「ありがと。あいつら 追っ払ってくれてさ。」

アルス「……うん。」

マリベル「…それに さっきは ごめんなさい。」

アルス「えっ?」

思いがけない言葉に少年は少女の顔を見つめる。

マリベル「あんな 言い方しちゃってさ。」

少女は尚も俯いたまま答える。

アルス「…いいんだ。謝るのは ぼくの方さ。」
アルス「だれだって あんなこと 言われたら そうなるよ。」

自分の膝に視線を落とし少年は後悔するように呟く。

マリベル「……恥ずかしかったの。あんたに あたしの体 見られちゃうのがさ。」
マリベル「あたしたち もう ただの幼馴染じゃないっていうのにね。」

アルス「ぼくも ちょっと 急すぎたと思う。ごめん。」
アルス「…でも やっと 叶ったんだな……。」

そう言って少年は目を閉じる。

598 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/11 19:44:38.06 LLGD6zi70 551/905


マリベル「えっ……。」

その言葉の意味が分からず今度は少女が少年を見つめる。

目に映った少年の身体は細身ながらかなりの筋肉質で、
その肌には相変わらず癒えない傷痕がいくつも刻み込まれており、
これまで彼がいかに身を挺して仲間を守ってきていたかが窺えた。

まるで誰かの傷を肩代わりするかのように。

マリベル「…………………。」

少女も滅多なことでは見ない少年の裸体は、非常に痛々しくもあり、
それでいて猛々しく、不思議な魅力を醸し出していた。
だがその傷の多くが彼女を守るためにつけられたものであることもわかっていた。

アルス「……マリベル?」

マリベル「…………………。」

少女は少年の言葉も聞こえぬほど食い入るように少年の身体を見つめていた。
いったいどれほどの血がこの体から流れたというのだろうか。
いつも何食わぬ顔して少女をかばい続けるその体は、どれほどの痛みを抱えてきたというのだろうか。

改めて目の前にして見ているうちに少女の中で感情が沸き上がってくる。

マリベル「アルス……。」

アルス「ん?」

呼び掛けに応じるその瞳は優しく、そんなものなど最初からなかったかのように少女の翡翠色の瞳を写していた。

マリベル「ごめんなさい。」

アルス「えっ?」

マリベル「ありがとう。」

そう言って少女は少年の身体を、その傷痕を労わる様に、何度も、何度も優しく撫でる。

アルス「…………………。」
アルス「それは ぼくのセリフだって いつも 言ってるじゃないか。」

そうして少年は少女の手を取り、そのまま優しく少女の肩を抱く。

マリベル「…ばかアルス……。」

そう言って少女は少年の肩に首をもたれる。

密着する二人の体がいつもより熱く感じられたのは、温泉のせいだったのだろうか。



599 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/11 19:47:44.81 LLGD6zi70 552/905


アルス「…嬉しいな。」

しばらくして少年が呟く。

アルス「夢だったんだ。こうして 誰にも邪魔されずに 二人で 温泉に入るのがさ。」

マリベル「うふふっ。あんたってば 意外と ロマンチストなのね。」

アルス「意外で 悪かったね……。」

不服そうに少年が言う。

マリベル「スねないの! これでも 褒めてんだからね?」

アルス「はいはい。」

そう言って少年は微笑む。

マリベル「…ふふ……。」

アルス「…………………。」

マリベル「……また 来ましょうよ。」

アルス「二人っきりで?」

マリベル「あったりまえじゃないの! やっぱり見られたくないし それに……。」
マリベル「誰にも 邪魔されたくないからね!」

片手を腰につけて少女は悪戯な笑みを浮かべる。

アルス「あっははは! また 夜中にこっそり 来ないとね。」

楽しそうに少年が笑う。

マリベル「…そういえば さっきは 何の呪文を かけたの?」

先ほど上から聞こえた呪文の発動音を思い出し少女が尋ねる。

アルス「えっ? ああ あれ見てよ。」

マリベル「……!」

少年に促されて視線を移したその先には入口から滴る水滴があった。

マリベル「もしかして 入口を ヒャドで 塞いだの?」

アルス「アタリ。だから 一応 時間制限が あるんだけどね。」

マリベル「そうねえ のぼせないくらいには 早めに 上がらないと いけないものね。」

アルス「ずっと 独占するわけにも いかないからね。」

マリベル「…そっ。でも……。」



“今晩 月が てっぺんまで昇った頃 温泉にいけば いいことが あるみたいですよ!”



アルス「……!」



マリベル「もう少し こうしてたいな。」



そう言って少年にもたれかかる少女の白魚のような体が少しだけ桜色に染まって見えたのは
湯にあてられたせいなのか、それとも彼女なりの恥じらいの色だったのか。

同じように頬を染められた少年が知る術はなかったのだった。





そして……


600 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/11 19:48:24.32 LLGD6zi70 553/905






そして 夜が 明けた……。





601 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/11 19:52:44.44 LLGD6zi70 554/905


以上第20話でした。

「ドラクエの世界にお風呂に入る文化はあるのか」

描写の上で非常に悩んだ部分です。
そこで原作中に出てくる民家や宿屋をすべて回ってみたのですが
わたしが見つけた範囲内ではグランエスタード城下町に一件、
過去のハーメリアに一件、ルーメンに一件といった具合です。
これだけ見るとあまり文化として根付いていないのではないかと思われますが、
マリベルとの会話の中でお風呂は毎日入るのが普通であることがわかります。
「アルスは ちゃんと 毎日 おフロに入ってる?」
(実際ゲーム画面では置かれていなくても、トイレ然りきっと省略されているだけなのでしょう。)

ただそうなるとお風呂を沸かすための設備などはどうしているのか…
なんてことを考えてみてはみたんですが、ハッキリ言うとよくわかりませんでした。
第6話でもマリベルがお風呂に入るシーンがあるのですが、
結局は描写を減らしてだましだまし書くことでことなきを得ました。
難しいものですねえ…

さて、今回はエンゴウで温泉に入るというイベントを書きました。
「温泉! 温泉入りたーい!」
…とは言いつつも、混浴だからやっぱり恥ずかしい。
結局原作では一度も温泉に入ることなくエンディングを迎えてしまいました。
(仕様上、着衣のままでジャボジャボ入っていけるのですが)
そこで、このお話ではアルスのチカラを借り、マリベルに念願だった温泉に浸かってもらったというわけです。

…観光の目玉として確立させたいのであればやはり男女別で入れるよう配慮してもらいたいものですよね。
もちろん、混浴は混浴の良さがあるので無くさないとして。

…………………

◇果たしてパミラが占いを通してみたのはいったいなんだったのか。
それはまた後々。


602 : ◆N7KRije7Xs - 2017/01/11 19:54:47.83 LLGD6zi70 555/905


第20話の主な登場人物

アルス
混浴で入るのをためらう少女に遠慮して自分も温泉には入らずにいた。
吹っ切れたマリベルと共に深夜の貸切温泉へ。

マリベル
裸を見られるのが恥ずかしく温泉に入るのを拒否していたが、
イルマの占いやアルスの手助けでなんとか入ることに成功。

ボルカノ
混浴は別にどうでもよく、温泉自体をしっかり堪能。
メモリアリーフの当主に唖然とする。

コック長
アミット号で一番の年長者。
もともとお風呂が好きなので温泉は楽しみだった模様。

アミット号の乗組員たち(*)
魚を売りさばいた後は温泉で混浴を楽しむ(愉しむ?)
日頃の疲れを存分に癒してほくほく顔に。

パミラ
エンゴウで代々占い師を務めている。「パミラ」は襲名制。
占いの腕は確かで、知識も豊富。

イルマ
パミラの助手を務める若い女性。
一見ただの元気な娘だが、占いの腕をちゃくちゃくと上げている。

村長
エンゴウの長。
村を発展させようとするあまり炎の精霊をないがしろにしていたが、
魔王復活から討伐までの一連の事件を経て改心する(?)

メモリアリーフの当主(*)
荒くれ男に扮してメイドを追いかけるという奇行が有名。
それでもハーブ園は上手くいっているというのだから世の中わからない。




続き
【DQ7】マリベル「アミット漁についていくわ。」【後日談】(6/8)

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