老師「後継者が欲しいなぁ。どこかに弟子入りしてくれる可愛い女の子はおらんかの」【前編】

199 : 以下、名... - 2017/01/08 17:38:05.44 uW4g5WU+o 134/257

―都会 某所―

チンピラ「だから、それからあいつのことはしらねえんです!!」

「クソガキも連れてこれず、か」

チンピラ「それが、ガキのおもりをしていた野郎がかなり強くって」

「言い訳はするな」

チンピラ「ひぃ……」

「出来損ないを連れて来い。クソガキはこの際、後回しでいい」

チンピラ「は、はい!! すぐに探し出します!!」

「必ず、目の前に生きて連れて来い。できなければ、貴様らを処刑する」

チンピラ「か、かか、必ず!! ボスの前に!!」

「頼むぞ」

チンピラ「は、はぃ!!」

「使えない奴ばかりで困るな」

「山に老人と若い男、か」

「村で何度か噂をきいたことはあったが、若い男の存在はなかったはず。弟子でもできたのか」

200 : 以下、名... - 2017/01/08 20:26:46.08 uW4g5WU+o 135/257

―数週間後 山頂―

老師「うむ」

老師(口内炎、殆ど痛みがなくなってきたのぉ。ほっほっほ。復調に向かっておるわい)

老師(それはいいのだが……)

青年「師匠! 早朝の特訓、終了しました!」

少女「はぁー、今日も負けたぁー!! ジジイ! おわったぞー!」

老師「う、うむ。では、朝食にするか」

青年「はい!! 準備に取り掛かります!!」

少女「飲み物とってくるー」テテテッ

老師「むむ……」

老師(口内炎が治る間に、弟子たちがすこしだけ強くなった気がするなぁ)

老師(いや、そんなバカな。師匠よりも弟子が強くなるとかないはず)

青年「師匠、早くこちらに」

少女「ジジイ、ほら。水」

老師「うむ。では、いただこうか」

201 : 以下、名... - 2017/01/08 20:33:47.34 uW4g5WU+o 136/257

―午後 山頂―

青年「ふっ!」ザバー

少女「よっと」ザバー

青年「これで大釜一杯だな」

少女「つかれたぁ。このあとは、組手する?」

青年「まだ日も高いしな。師匠、いいですか」

老師「すきにせい」

少女「なぁー、新しい必殺技を考えたから、受けてほしんだけど」

老師「またか。おぬしの技など受けてもつまらんのだが――」

少女「どりゃぁぁ!!!」ブンッ!!!!

老師「おぉっと!!!」ササッ

少女「くそ……。よけられたか」

老師「ちょっと! 今、致命傷狙いに来ただろ!? 頸椎に蹴りが迫ってきたぞ!!!」

少女「必殺技なんだから仕方ないだろ」

老師「破門じゃ!!! なにを勝手に殺人拳を開発しとるんだ!!! 馬鹿者!!」

202 : 以下、名... - 2017/01/08 20:42:36.91 uW4g5WU+o 137/257

青年「ここ数日、足技ばかりを磨いてきたのはその必殺技のためだったのか」

少女「うん。この蹴り技が完成したら熊だって倒せるようになるだろ」

老師「熊を倒す前にワシを殺す気じゃあるまいな」

少女「ジジイに当たらなきゃ、熊にもあたらないしなぁ」

老師「こいつ、嫌い」

青年「師匠、そう仰らずに。この子も毎晩努力し、この足技を思いついたのですから、見守ってあげてください」

老師「草葉の陰からか。冗談じゃないわい!! ワシ、まだ死にたくないもん!!」

少女「安心しろって、ジジイの武術は二人で守っていくから」

老師「アホかぁ!! 半人前、いや、三分の一人前のお前たちにワシの武術など守れるわけなかろう!! 調子に乗るでないわ!!」

青年「こら、師匠が積み上げてきたものは月にも届くほど高いんだ。そのようなこと口に出すべきじゃない」

少女「ふーんっ」

老師「相変わらず可愛くないのぉ。この弟子二号は」

青年「心を許している証拠ですよ」

老師「こんな風になるなら開いてほしくないわい」

少女「おい、組手しよ、組手。日が落ちるまでに何回かしたいしな」

203 : 以下、名... - 2017/01/08 20:48:21.67 uW4g5WU+o 138/257

―夜―

少女「はぁ!! せい!!」ドゴォ!!!

ピシッ!

少女「わぁ!? 岩にヒビがはいった……」

少女「もうちょっとで砕けるな、これ」

少女「砕けたら、ジジイだってあたしのこと認めてくれるはずだ」

少女「おっし!!」

少女「おりゃぁ!!!」ドゴォ!!!!


老師「末恐ろしいのぉ」

青年「あの子は良い武道家になれると思います」

老師「おぬしも、まだあの巨木を倒すことをあきらめておらんのか」

青年「師匠に言われた夜の特訓ですから。完遂させてみせます」

老師「その斧、何代目になる」

青年「既に5代目です」

老師(ワシの弟子、優秀すぎやせんかの。劣等感、抱いちゃうぞ)

205 : 以下、名... - 2017/01/08 21:00:12.91 uW4g5WU+o 139/257

―小屋―

老師「うむむむ……」

老師(このままでは危ういぞ。危うすぎる。ワシの50年は一体なんだったのか)

老師(一か月ほどで山の上り下り二往復になれる小娘に、最初からワシと同等以上の実力者である筋肉バカ)

老師(弟子のくせにワシを追い抜く勢いではないか)

老師(くそぉ。このままではいつか見下されるぞ。あんな小便臭い小娘と、ただの筋肉バカにコケにされてたまるかぁ)

老師(どうするか……。威厳を保つために、何ができるか)

老師(岩砕き自慢はもう何の凄みも生まん特技と化してしまっている)

老師(では、やはり組手か……うーん……組手かぁ……)

老師(何十年も一人きりで修行してきたからなぁ、対人との組手は苦手だしのぉ)

老師(相手が木とか獣なら慣れておるし、純粋な力で圧倒できる女子供はまた話が違うんだが)

老師(筋肉バカ弟子と組手なぞしたら、更にワシが惨めな結果になりそうだしのぉ)

老師「参った。他に何かこう、弟子どもを感心させる一芸はないものか……」

老師「……そうだ。あれがまだ残っておったわ。まだ一度しか成功していないが、最近調子に乗っておる二人を黙らせることはできるはず」

老師「明日、決行するか。クックックック……」

206 : 以下、名... - 2017/01/08 21:08:05.70 uW4g5WU+o 140/257

―翌日―

老師「今から、食料を調達しにいくぞ」

少女「もう保存食なかったっけ」

青年「少なくはなっていますが、調達するほど枯渇しているわけではないですが」

老師「おぬしらもここの生活に慣れてきた。故に次なる段階に進んでもいいと判断した」

青年「それは、俺たちを認めてくれたということですか!!」

少女「別にどーでもいいけどなぁ。認めてほしいとか思ったことないし」

老師「喝!! お前たちなど、まだ殻も破れぬ雛も同然!! いい気になるでないわ!!」

青年「す、すみません。つい、嬉しくなってしまって」

少女「認めてないなら、そんなこというなよな」

老師「拗ねておるのか?」

少女「拗ねてねーよ! で、なにするんだよ! 早く、言えよ!!」

青年「こら、落ち着いて」

少女「ちっ。むかつく、ジジイだなぁ」

老師「こっちの台詞じゃい。さて、食料調達だが、山を少し下り、ある場所で調達しようと思うておる」

207 : 以下、名... - 2017/01/08 21:14:38.19 uW4g5WU+o 141/257

青年「ある場所、とは」

老師「森林だ」

少女「そこで食料とってくるのが次の段階に進んだことになるの?」

老師「あの森はより凶悪な獣と遭遇しやすくてな」

青年「熊以上のものが?」

老師「うむ」

青年「それは虎ということに……」

少女「と、とらぁ!? そ、そんなのヤバくないか!?」

老師「熊とはまた一味違う獣だからのぉ」

青年「虎か……。まだ出会ったことがないな。人間が勝てるものなのでしょうか」

老師「勝てぬのなら、ワシはもう15年ほど前に死んでおるわ」

青年「流石、師匠!!」

少女「マ、マジでそんなところで調達するのかよ」

老師「何を恐れておる。今日の飯は虎肉を使ったものにするつもりだぞ」

少女「無茶だろ!? いや、熊を倒せるやつが二人もいるなら、いけるのか……? よくわかんないけど」

208 : 以下、名... - 2017/01/08 21:26:47.62 uW4g5WU+o 142/257

老師「食材確保の他に、虎は大きな資金源となる」

青年「虎骨酒にして売るのですね」

老師「よく知っておるな」

青年「恐縮です」

少女「ここつしゅって?」

青年「薬酒の一種で、かなり希少価値が高くて、かなりの高価格で取引されているものだ」

少女「へー。すごーい」

青年「痛み止めの効果が高いと聞いたことがあるよ」

少女「そんなのが取れるならいいけどさ」

老師「安心せい。虎は必ず一匹でおる。群れを成さない生き物じゃて。それに奴らは夜行性。今から攻め入れば、こちらが確実に先制できる」

青年「虎の寝こみを襲うわけですか」

老師「虎の嗅覚、聴覚を掻い潜り、近づけば間違いなく狩れる」

青年「確かに。次の段階といえるほど、難易度の高いものですね」

少女「高すぎると思うんだけど」

老師「つべこべ言わず、行くぞ。強くなりたくないのなら、ここで形稽古でもしておくんだな。ほっほ」

209 : 以下、名... - 2017/01/08 21:32:01.97 uW4g5WU+o 143/257

―森林―

ガサガサガサ……!!

少女「ひっ!?」ビクッ

「アー!!!」バサッバサッ

少女「はぁ……びっくりしたぁ……」

老師「なんじゃ生娘みたいな悲鳴をだしおって。気色悪っ」

少女「なんだよ!!! ビビッて悪いかよ!!!」ブンッ!!!

老師「うひぃ!? 殺人蹴りはやめい!!!」ササッ

青年「静かに」

少女「どうかしたの」

老師「小娘がわるいんじゃい」

青年「ここを見てください」

少女「うっ……これって……」

老師「獣の糞か」

青年「この大きさからいって、そこそこの巨体かと。虎かもしれません。警戒していきましょう」

210 : 以下、名... - 2017/01/08 21:48:11.83 uW4g5WU+o 144/257

少女「だ、大丈夫なんだよな? ちゃんと、守れよ」ギュゥゥ

老師「はなれんかい。鬱陶しい」

少女「行くっていうからついてきてやったんだぞ!」

老師「こんでもええといったろうが」

青年「俺もなんだか言い知れぬ恐怖がこみ上げてきました。出会ったことのない敵と対峙していつもの力が出せるのか、不安です」

老師「こればかりは経験の差というものだな。いくら筋力をつけ、技を磨いたところで、無知という恐怖からは逃れられん。それを打ち崩すは経験。すなわち、知ることにあり」

老師「虎との対峙、すべからく恐怖と戦うことになる。そして知ればよい。その恐怖の正体を。さすればまた一つ、武の道を歩むことができる」

青年「はいっ」

少女「やだなぁ……」

老師(フハハハハ。どうやら、二人とも完全に怖気づいておるわい。こりゃ、ワシの勝ちだな。あー、負けをしりたいわい)

ガサガサガサ……

青年「むっ……」

少女「な、なになに!?」

「ガルルル……」

老師「現れたか、虎公。カッカッカッカ。我が拳が、そのしなやかな体躯を捉える」ザッ

212 : 以下、名... - 2017/01/08 21:52:46.70 uW4g5WU+o 145/257

少女「で、でた!? でちゃった!! マジで虎なんですけど!!」

青年「この圧力……。熊とは比較にならないぞ」

「ガルルル……」

老師「下がっておれ。まずは、知れ。虎との戦いをな」

青年「師匠、お願いいたします」

少女「ま、まけんなよ、ジジイ! 負けたらかっこわるいからな!」

老師「ほっほ。一匹の虎になぞ負けんわい」

「ガルルル……!」

ガサガサガサ……

「ガルルル……」

「グルルル……」

「ガァァ……」

老師「……」

青年「と、虎が4匹も……!!」

少女「え……えぇ……ちょっ……群れをなさないんじゃなかったの……?」

213 : 以下、名... - 2017/01/08 21:59:48.18 uW4g5WU+o 146/257

「ガルルルル」

青年「し、師匠、これは……ど、どうしたら……。我々よりも数が多いとなると……」

少女「ど、どうすんだよぉ、ジジイ! なぁ!!」

老師「慌てるでないわ。みっともない」

青年(この落ち着き。虎が四匹出たところで、師匠は動揺一つしていない。経験の差とはこれほどまでに人間を強くさせるのか)

少女(ジジイ、たまにかっこいいんだよなぁ)

老師(人生、色々あったの。いや、大半は山での生活だったか。最後ぐらい、可愛い女の子と隠居してみたかったのぉ)

「ガルルルルル……!!!」ザッ

青年「姿勢が低くなった……」

少女「ジジイ! 来るぞ!!」

老師「――かーっつ!!!!!」

青年少女「「……!?」」ビクッ

「ガァァァァァ!!!!!」

老師「キタァー!!!!」ダダダダッ

少女「あ、こら!! ジジイ!! 逃げるのかよ!!! おいてくなぁ!!!!」

214 : 以下、名... - 2017/01/08 22:07:10.58 uW4g5WU+o 147/257

「ガルルル!!!」ザッ

老師「こっちからもきたぁー!!」

青年「ダメだ! 囲まれている!!」

少女「そ、そんなぁ……」

老師「で、でで、弟子よ。この窮地から脱することはできるか」

青年「師匠と一緒ならば、怖くはありません。いえ、それは嘘ですね。恐怖はどうしてもぬぐえません。しかし、ここから生きて頂へ戻ることはできると信じています」

老師「そうか。よく言ってくれた。では、まずはお前からいけい」

青年「俺からですか!?」

老師「修行の成果、ここでみせてみよ!!」

青年「はい!!!」

「ガァァァァ!!!!」

青年(所詮、獣だ。人間のように思考して攻撃を仕掛けてくることはない。巨体に気圧されるな!! 動きだけに集中しろ!!)

青年「はぁぁ!!!」ブンッ

「ガァァウ!!!」ササッ

青年(突きをかわされた!! 虎の動きは牽制だったというのか!?)

216 : 以下、名... - 2017/01/08 22:11:21.71 uW4g5WU+o 148/257

「ガァァァァ!!!」

青年(喰われる……!! ここまでか……)

老師「キエエエエエエイ!!!!」ドゴォ!!!!

「ガッ……!!!」

ズゥゥゥゥン!!

青年「お、おぉぉ……」

老師「はぁ……はぁ……」

少女「すげー!!」パチパチパチ

老師「にげるぞぉ!!!」ダダダダッ

青年(師匠でも四匹の虎を一度に相手はできないか!!)

少女「おいてくなってばぁ!!」

老師「ええい!! 愚鈍なやつじゃ!! 背に乗れ!!」グイッ

少女「おぉ」

老師「しっかりつかまっておれ!!」ダダダダッ

「ガァァァァ!!!」ドドドドドッ

218 : 以下、名... - 2017/01/08 22:18:50.03 uW4g5WU+o 149/257

青年「ハァ……ハァ……! 師匠!! 虎はまだ追ってきています!!」

老師「そんなもの見ればわかるわい!!」

「ガアアアア!!!」

少女「もっと早く走れって!! 追いつかれるぞ!!」ペシペシ

老師「ええい!! 頭を叩くな!!」

青年「師匠!! 先ほどの一撃は見事でした!! もう一度、できませんか!!」

老師「お前が囮になってくれるならみせてやれるかもしれんなぁ! 実際、さっきはそれで成功したもんねー!」

少女「最低だな、クソジジイ」

青年「わかりました!」ザッ

老師「へぇ!?」

青年「各個撃破でいきましょう」

少女「危ないって!!」

老師「そうだぞ! 同じように成功するとは限らんて!!」

青年「俺は、師匠の一番弟子です。師匠の強さは誰よりも理解してるつもりです」

老師(このおバカちゃんは!! ワシのことどこまで買いかぶるつもりじゃい!!)

219 : 以下、名... - 2017/01/08 22:25:16.82 uW4g5WU+o 150/257

「ガァァァァウ!!!」

少女「いやぁぁ!!」

青年「こっちだ!! 虎め!!」

「ガァァァァ!!!!」

老師「ええい!! バカ弟子がぁぁ!!」

青年「はぁ!!!」ブンッ

「ガァァウ!」サッ

青年(予想通り、躱したな!!)

青年「師匠!!」

老師「どうにでもナレエエエエエイ!!!!」ドゴォ!!!!

「グッ……!!」

ズゥゥゥン!!

青年「やはり獣は獣か。同じ手に引っかかって――」

「ガァァァァ!!!」バッ!!!

老師(む……!? まさか虎も囮を使ったというのか……!?)

220 : 以下、名... - 2017/01/08 22:30:35.41 uW4g5WU+o 151/257

青年「うしろ……!?」

「ガァァァァ!!!」

老師「いかん!! よけろ!!!」

青年「……!」

青年(足が動かない……これが恐怖の正体か……)

「ガァァァァ!!!!」

老師(間に合わん!!)

少女「でやぁぁぁぁ!!!」ドンッ!!!!

「ギッ……!?」

ズゥゥゥゥン!!!

少女「はぁ……はぁ……ひぃ……ひぃ……」

青年「な……蹴りで……虎を……」

老師「う、うそぉ……」

少女「はぁ……や、やっちゃった……どうしよう……」

老師「う、うむ!! これで虎の陣形は総崩れ!! 今の内に逃げるぞぉ!!!」

222 : 以下、名... - 2017/01/08 22:42:51.57 uW4g5WU+o 152/257

―山頂―

老師「はぁ……ひぃー……もうはしれん……はしれんぞい……」

青年「さ、さすがに、つかれ、ましたね……」

少女「ごっほ……おぇ……はぁ……はぁ……もういや……あんなとこ……いきたくない……」

老師「は、はじめて……いけんがあったな……こむすめ……。あの場所は……人類には早すぎたのかもしれぬ……」

少女「あたしも、そうおもう……」

青年「虎が群れで行動していたのは予想外でしたね」

老師「一匹だけならワシがビシッと決めてやったのだが。流石に二匹以上は無理だな。ムリムリ」

青年「何故、群れていたのでしょうか……?」

老師「しらんわい。子育てでもしてたんじゃないのかの」

少女「虎の赤ちゃんが傍にいたってこと?」

青年「繁殖期というのなら、雄と複数の雌がいても不思議じゃないが」

老師「複数の女を侍らせる男か。憧れるのぉ」

少女「男ってそういうのがいいんだ。全然、わかんないけど」

老師「ガキにはわからんわい」

223 : 以下、名... - 2017/01/08 22:51:57.47 uW4g5WU+o 153/257

―夜―

青年「ふんっ!! ふんっ!!」ガッ!!!

青年(俺にもっと力があれば……!! あの虎も一匹なら仕留められていたはずだ……!!)

青年「俺はまだまだ弱い!! こんなことでは奴を倒すことなどできはしない!!」

青年「ふんっ!! ふんっ!!」ガッ!!!

バキィ!!

青年「ふぅー……。もう斧が折れてしまったか。最近、壊れる間隔が短くなっているな」

青年「ここまでにするか」

青年「虎か……」

青年「目標としては悪くないかもしれない。過去の偉人たちの多くも虎狩りをしていたときく」

青年「もし素手で虎を狩ることができれば……」

青年「奴にも近づけるのか……」

青年「いや、焦りは迷いを生む。今はまだ考えるときではないか」

青年「だが、いつか……必ず……!」

青年(待っていてください、父さん、母さん。俺は二人の無念を晴らします……!!)

224 : 以下、名... - 2017/01/08 22:57:36.93 uW4g5WU+o 154/257

―小屋―

老師「今日はもう終わりにするみたいだな」

少女「やけに早いな。斧でも折れたかな」

老師「そんなところだろうて」

少女「止めなくてもいいの? あいつの手、ボロボロになっちゃうぞ」

老師「何度も止めてるわい。だが、全く言うことをきかん」

少女「親の敵討ちのためだもんなぁ」

老師「うむ……」

老師(憎悪は人間を一番強くするからなぁ。ワシよりも強くなるのは時間の問題か)

少女「気持ちはわかるなぁ」

老師「なに?」

少女「親が殺されたら、やっぱああなるよな」

老師「おぬしの親も死んだと言っていたな。よもや、殺されたというまいな」

少女「殺されたけど」

老師「なにぃ……?」

226 : 以下、名... - 2017/01/08 23:11:39.61 uW4g5WU+o 155/257

少女「殺されても仕方のない二人だったけどな」

老師「屑だったか」

少女「ジジイのほうが何百倍もマシなほどにね。親父は毎日借金しては酒飲んであたしに暴力振るうし、母親は毎日違う男と外で遊んでた」

少女「で、親父が遂にヤバい連中から金を借りて、それを踏み倒そうとしたもんだから殺された。母親は母親で男にだまされて変な店で働かされることになって……」

少女「結局、母親はそこで働くのが嫌になったみたいで自殺しちゃった」

老師(なんという、壮絶な過去だ……。どれほどの経験を積んでいるんだ、この小娘)

少女「で、あたしは親父に金を貸して、母親に職場を紹介した組織に拾われた」

老師「む? つまり親を殺したと言ってもいい連中とつるんでいたということか」

少女「そうでもしなきゃ、ごはんも食べられなかったしな」

老師「おぬしが何故、そこまでねじ曲がったのかよくわかるな」

少女「うるせーよ。でも、もうあそこには戻るつもりはないから」

老師「そうなのか」

少女「帰る場所なんて、あたしにはないしね」

老師「なんだ、ここに一生住むつもりか」

少女「そ、そんなつもりはねーよ!」

227 : 以下、名... - 2017/01/08 23:25:14.22 uW4g5WU+o 156/257

老師(金貸しもして、おかしな店へ斡旋できる組織て……もうひとつしかないのぉ……)

少女「きいてんのかよ!! あたしはここに一生住むつもりはないからな!! ひとりでも生きていけるって思ったら、容赦なく家出するつもりだからな!! おぼえとけよ!! ったく」

老師「なぁ」

少女「なんだよ」

老師「次、おぬしのお迎えがきたら、ワシは何もせんぞ」

少女「なんでだよ!!!」

老師「この歳で物騒な連中に絡まれたくないんじゃよ。ケホ、ケホ」

少女「そんな弱弱しい咳なんてしたことなかっただろ!!!」

青年「おや、まだ起きておられたのですか」

老師「ちょっと聞いてくれ。こやつ、マジヤバいぞ」

青年「何がですか」

老師「とっても恐ろしい奴らと三年ぐらい一緒にいたようだわい」

少女「んだよ、子どもにあんなことさせてる時点で察せよな」

老師「ただのごろつきだとおもってたのにぃ」

青年「子どもに対してあそこまでの暴力を振るえるやつはただのごろつきでも、いや、人間ですらありませんけどね」

228 : 以下、名... - 2017/01/08 23:32:23.61 uW4g5WU+o 157/257

―都会 某所―

チンピラ「や、やめてください!! あの!! もうすこしだけ時間を……!!」

「もう一か月だ。随分と待った方だが」

チンピラ「確証はねえんですが!! やつはもう死んでるかもしれないってところまではわかってて……!!」

「死んでいる、だと?」

チンピラ「山からおりてきたっていう情報が一切なくて!! だから、山の中でもう……!!」

「誰に殺された?」

チンピラ「わかんねえけど!! あの男かもしれねえ!! 山に居た若い男が……!!」

「なるほど。そういうこともあるかもしれないな」

チンピラ「だから、あとすこしでわかるんだ!! じかんを……!!」

「時間は、ない」

チンピラ「い、いやだぁぁぁ!!!」

ザンッ!!!

「久しぶりに行ってみるか、あの村へ」

「たまには顔をだしておかないとな」

229 : 以下、名... - 2017/01/08 23:37:03.31 uW4g5WU+o 158/257

―数日後 山頂―

青年「はっ!! せいっ!!!」

少女「はっ!! やぁ!!」

老師「……」

老師(みるみるうちに洗練されていくのぉ。きぃぃ!! 憎らしい!! 天才はこれだからなぁ!!)

青年「ふぅー。早朝の特訓に続き、朝の特訓も終了しました」

少女「おっす!!」

老師「特訓項目が何気なく増えておるな」

青年「この子も成長したので、時間に余裕がでてきましたか」

少女「目標は日の出までに二往復することだけどな」

老師(五往復に増やしてやろうか)

青年「では、次は午前の特訓に入ります」

少女「おー」

老師「まてい。今日は、特訓よりも優先すべきことがある」

青年「はぁ、なんでしょうか」

230 : 以下、名... - 2017/01/08 23:48:22.19 uW4g5WU+o 159/257

老師「買い出しじゃ」

少女「買い出し? 何か必要なものとかあったっけ?」

老師「あのなぁ。ワシだけのときは一度麓の村へ行けば半年はここに籠ることができたが、今や三人となっている」

老師「便所紙や新たな衣服等も必要になるだろう」

少女「あぁ、そっか」

青年「生活必需品の買い出しというわけですか」

老師「そうだ。行ってきてくれるな」

青年「はっ! よろこんで!」

少女「金は?」

老師「ここにある」ジャラ

少女「へえ、ちゃんと貯金してるんだな」

老師「当然だ。山籠もりをしていても、必要最低限のものは買わなくてはならんからの」

青年「では、熊の手やそのほか漢方薬となる薬草も行商人に売ってきたらいいですか」

老師「そうしてくれ。初めてではないから、要領はわかるだろ」

青年「はい。任せてください」

231 : 以下、名... - 2017/01/08 23:54:20.06 uW4g5WU+o 160/257

少女「売るのはあたしにやらせてくれないか?」

老師「自信があるのか」

少女「これでも男を手玉にとってきたんだ。そういうことはお手のものだって」

老師「子どもに優しい男を相手にしただけではなくてか?」

少女「12歳っていう利点をしっかり使わねえとな」

老師「子どもであることは認めるのか」

少女「子ども扱いするなっての」

青年「分かったよ。売るのは君に任せる」

少女「ありがと。見とけよ、相場の倍で売ってきてやるぜ」

老師「ほっほ。商売はそんなに甘くないがのぉ」

少女「言ってろ。あたしを軽く見ると後が怖いってこと思い知らせてやる」

老師「わかった、わかった。わかったからさっさと行って来い」

青年「では、行ってまいります」

少女「いってきまぁーす」

老師「ついでに昼飯もたのむぞー」

232 : 以下、名... - 2017/01/08 23:58:05.81 uW4g5WU+o 161/257

―麓の村―

少女「ここに来るのもなんだか久しぶりだなぁ」

青年「毎朝、山の上り下りはしているけど、村の中には入らないからね」

少女「売るなら、やっぱりあそこがいいかなぁ」

青年「なんだ、どこで売ればいいのかわかっているのか」

少女「この辺りで色々と盗んだりしてたからな」

青年「そうか……」

少女「んじゃ、ちょっと行ってくる」

青年「待て。一人で行くな。もし、奴らがいたらどうするんだ」

少女「お、おぅ……そっか……ごめん……」

青年「二人で行動しよう」

少女「わかった」

女拳士「あー!?」

青年「ん? あ……!」

少女「誰?」

233 : 以下、名... - 2017/01/09 00:05:16.80 FrfOPDn1o 162/257

女拳士「貴方のこと探してたんです!! よかったぁ、ようやく見つかって」

青年「はぁ、そうなのですか」

女拳士「はいっ。実はですね……」

少女「誰だよ、この女」

女拳士「えっと、妹さん?」

青年「いえ、同じ流派の者です」

女拳士「こんなに小さい子が……。ふふっ、かわいい」

少女「あぁ? 子ども扱いするなよ。こう見えても蹴りで岩にヒビをいれることだってできるんだからな」

女拳士「まぁ、怖い。強いのね」

少女「ホントだからな!!」

女拳士「それはそうと、あの、是非会って欲しい人がいるんです」

青年「はい?」

少女「あたしの話をきけよ!!」

女拳士「師範に会ってくれませんか?」

青年「師範、に?」

234 : 以下、名... - 2017/01/09 00:11:10.17 FrfOPDn1o 163/257

女拳士「うちの師範、あちこちに道場を構えていて、あまりこっちには顔を出さなかったんですけど、丁度今、戻ってきていて」

青年「そうですか」

女拳士「で、一度師範とお話ししていただいて、もしよければ、うちの道場に来ませんか?」

青年「待ってください。一度お断りしたはずですが」

女拳士「でも、その、是非、あなたといっしょに……武道をしたくて……」モジモジ

少女「おい、おばさん」

女拳士「なぁに、お嬢ちゃん?」

少女「こいつにはちゃんとした師匠がいるんだよ。勝手に誘わないでくれるか」

女拳士「貴方も一緒にくる? うちの道場、女の子ばっかりだからすぐに馴染めるよ」

少女「興味ない」

女拳士「まぁまぁ、そう言わずにお話だけでも聞いてください。ね? 師範、とってもいい人だし、きっとあなたたちも気に入ると思うから」

青年「そう言われましても……」

女拳士「お願いします。話だけでも」

青年「うーん」

少女「悩むなよ」ゲシッ

236 : 以下、名... - 2017/01/09 00:17:28.06 FrfOPDn1o 164/257

―村の道場―

女拳士「こちらです。どうぞ」

青年「失礼します」

少女「買い出しはどうするんだよー」

青年「あそこまで言われて無碍にするわけにもいかないだろう。師範と話をして、その上できっぱりと断ればいい」

少女「真面目なんだから」

女拳士「師範、お連れしました。前に話した人と、その妹弟子さんです」

少女「妹じゃないって!」

師範「ようこそ、我が道場へ。歓迎いたします」

青年「……」

女拳士「どちらも武術の心得があるそうなので、道場としても益があると思います」

師範「見ただけで分かります。お二人とも、とても鍛えていらっしゃるようだ」

少女「まぁな。このおばさんよりは毎日鍛えているつもりだ」

女拳士「あらあら、そんな大口叩いて大丈夫?」

少女「やるかぁ?」

237 : 以下、名... - 2017/01/09 00:28:05.60 FrfOPDn1o 165/257

師範「こら、やめなさい。お客様に失礼ですよ」

女拳士「ごめんなさい……」

少女「ふんっ」

青年「……」

師範「おや、これは申し訳ありません。お茶を用意してくれますか」

女拳士「はぁーい」

少女「あたしたち、用事があるんだ。勧誘するなら他をあたってくれるか」

師範「勧誘なんていたしません。貴方たちがこの道場を気に入ってくれたら――」

青年「自分の家も道場で、由緒ある流派でした」

少女「え?」

師範「そうですか。では、幼少の頃から武芸を嗜んでいたのですか」

青年「十年前、土地を明け渡せと言われました。自分の父は頑なに先祖代々譲り受けてきた土地を渡すことはできないと断り続けました」

師範「それはそれは」

青年「その年から、何故か門下生は皆、道場を去り、経営は成り立たなくなりました。そしてまた土地を譲れと言われました。それでも父親は意見を変えなかったのです」

青年「数日後、自分の両親は殺されました。道場の中で。一人の男に殺されたのです」

238 : 以下、名... - 2017/01/09 00:33:36.42 FrfOPDn1o 166/257

師範「それはお気の毒に」

青年「今でも、男の顔はよく覚えています。自分から両親と帰る場所を奪った男の顔です。忘れることなど、できはしない」

師範「……」

少女「おい、どうしたんだよ」

青年「父親が守ろうとした土地にはそれは立派な道場が建っていると聞きました。きっと、ここと同じような看板を掲げているのでしょうね」

師範「そうですよ。私の道場がそこにあるのですから」

少女「え? あの、えっと……」

女拳士「お茶、はいりましたよー」

青年「貴様がぁ!!!」

師範「はっ!!!」ガッ!!!

青年「ぐっ……!!」

師範「まだ生きていたとは、驚きですね」

青年「貴様を殺すまで、死ねるわけがない」

少女「お前の仇って……」

青年「この男で間違いない。忘れもしないぞ、そのニヤケ面だけは」

240 : 以下、名... - 2017/01/09 00:39:43.79 FrfOPDn1o 167/257

女拳士「ちょっと!! 何をしているんですか!!」

青年「黙っていろ!!!」

女拳士「は、はい!!」ビクッ

青年「こんなに近い場所にいたとは……!! 探す手間が省けたぞ……!!!」

師範「世間は狭いですね。十年前のあの子どもがこんな場所にいるとは」

青年「あのときは恐怖で何もできなかったが……。今の俺は違うぞ!!!」

師範「私の目には何も変わっていないようにみえますが」

青年「なんだと……!!」

師範「私に恐怖している目だ」

青年「そんなわけあるかぁ!!」

師範「貴方にとって偉大なる父親を簡単に殺した相手だ。怖くなるのも分かります」

青年「黙れぇ!!!」

少女「おい! 落ち着けって!」

青年「邪魔をするな!! 引っ込んでいろ!!」

少女「……!?」

242 : 以下、名... - 2017/01/09 00:44:21.42 FrfOPDn1o 168/257

師範「貴方はどうやらこの道場には向いていないようですね。どうぞ、出口はあちらです」

青年「ふざけるなぁぁぁぁ!!!」ブンッ

師範「ふんっ!!!」ドゴォッ

青年「がっ……は……!?」

師範「十年、何をしてきたのかは知りませんが、自分の父親も超えてはいないようですね」

青年「うおぉぉぉぉ!!!」

師範「はいっ!」バキィッ

青年「ぐっ……!!」

師範「無駄ですよ」

女拳士「師範、その、あの……」

青年「殺してやる!! ころしてやるぞ!!!」

師範「やれやれ。まだやりますか」

少女「はぁぁぁぁ!!」バキィッ

青年「がっ……ぁ……」

師範「おや。仲間割れですか」

244 : 以下、名... - 2017/01/09 00:48:41.30 FrfOPDn1o 169/257

少女「買い出しの途中なんだ。もう行く」

師範「そうですか。その兄弟子を運ぶの、手伝いましょうか」

青年「ぐっ……うぅぅ……」

少女「余計なお世話だ。このまま引き摺って行く」

女拳士「そ、そんなぁ……かわいそう……」

少女「そうだな。可哀想だよ。親の仇を目の前にして、何もできないんだから」

女拳士「師範、その話って……」

師範「逆恨みですよ。私は正当防衛だったのですから」

少女「いくぞ」グイッ

青年「ころ……して……や……」

少女「お邪魔しました」ズルズル

青年「うぅぅ……」

女拳士「あぁ……絶対に擦り傷だらけになっちゃう……」

師範「ふふふ。また遊びにきてください。私は暫くここに滞在しますので」

少女「わかった。伝えとく」

248 : 以下、名... - 2017/01/09 00:53:45.85 FrfOPDn1o 170/257

―診療所―

医者「これで処置は完了です」

少女「ありがとうございました」

医者「あのときとは立場が逆転していますね」

少女「あはは。そうですね」

青年「……」

少女「落ち着いた?」

青年「どうして、止めたんだ」

少女「勝てないと思ったから」

青年「もう一度、行く」

少女「もう止めないよ」

青年「……」

少女「仇、とりたいなら師匠のところ戻ったほうがよくない?」

青年「くっ……うぅぅ……くそ……くそぉ……」

少女「ほら、帰ろ。買い物は済んだし、売るものも売ったしさ。今日の用事は終わりだ」

250 : 以下、名... - 2017/01/09 01:00:44.24 FrfOPDn1o 171/257

―山頂―

老師「おそいのぉ。全く、昼飯ではなく、夕飯になるではないか」

少女「帰ったよー、ジジイ」

老師「喝!!! どこで油を売っておった!!! 昼飯抜きになったではないかぁ!!! 久しぶりに村の売り物を食べたいと思っていたのにぃ!!!」

少女「肉まんなら買ってきたけど」

老師「これだけでワシは満足せんぞ!! はむっ……はむっ……」

少女「そこまで言わなくてもいいじゃんか」

老師「大体だなぁ。昼過ぎには終わる用事だったはずだぞ! えぇ!? おかしいだろうが!!!」

少女「心配してくれたの?」

老師「金を持ち逃げされたかと思って、不安だったわい」

少女「あぁ、そうですか」

青年「……」

老師「して、何があった? そんな陰気臭い顔で帰ってきたからには、相応の理由があるんだろうな? 意味もなくそんな顔をしているなら、破門じゃ」

少女「こいつの親の仇が麓の村にいたんだ」

老師「はぁ……。面倒臭いものを持って帰ってきよってからに。とにかく、小屋に入れ。白湯ぐらいは用意してやる」

251 : 以下、名... - 2017/01/09 01:08:32.33 FrfOPDn1o 172/257

―小屋―

老師「そうか……そういうことがあったのか……」

青年「申し訳ありません、師匠。自分を律することができないばかりか、この子に諭される始末」

青年「短い期間ではありましたが、俺は師匠から色々なことを学んだつもりでいました。けれど、奴を前にしたら、何もかもが消えうせてしまって……」

老師「……」

青年「面目ありません……」

老師(まぁ、別に何も教えてないしなぁ)

少女「これからどうするつもりなの」

青年「俺の目的はただ一つ、復讐だ。そのためだけに生きてきた。だから、奴を……」

老師「返り討ちに遭うだけだな。お前の両親のように」

青年「しかし!!」

老師「喝」

青年「え……」

老師「休め。今のお前は猪も倒せん」

青年「はい……。今日は、休みます……」

252 : 以下、名... - 2017/01/09 01:16:13.00 FrfOPDn1o 173/257

―山頂―

老師「風の噂でワシのことを聞いたと言っていたな……。最初に気が付くべきだったか」

少女「あいつ、寝ちゃったよ。無理もないけど」

老師「どうやら、因縁があるようだわい」

少女「因縁って?」

老師「バカ弟子は、なるべくしてワシの弟子になったようだ」

少女「そうなの?」

老師「ワシの噂は、きっと祖父から聞いたのだろうな」

少女「どうしたんだよ、ジジイ」

老師「我が弟子よ。おぬしは何のために強さを欲した」

少女「怯えなくてもいいように。どんな暴力にも怖がらずに済むほどの強さが欲しい」

少女「ジジイみたいに、強くなりたい」

老師「ワシは50年、ここに一人でいた。何故かわかるか」

少女「武術を極めるためじゃないのか」

老師「否、人間不審になったからだ。人付き合いが嫌になり、ここへ来た。そして、あまりにも暇だから体を鍛え始めた。きっかけはそれだけのことよ」

254 : 以下、名... - 2017/01/09 01:25:40.62 FrfOPDn1o 174/257

少女「そ、そうなんだ……」

老師「50年も鍛えていれば、岩の一つも砕けるようになるもんじゃな。カッカッカッカ」

少女「熊も虎もやっつけられるなら、すごいことだと思うけど」

老師「だが、人間とやり合うことは今までなかった。只管に木を殴り、獣と戯れ、この環境に適した武術を磨いただけのこと」

老師「故に、人間に相手に自身の力は発揮できぬ。心が力に鍵をかけている」

老師「ワシも人の子だ。人を殺すことは怖い」

少女「……!」

少女(だから、岩を砕けて熊や虎を倒せるぐらいに強いのに、人相手にはあんなに手加減してたのか)

老師「ワシはただただ臆病なだけだ。強くなどない」

少女「分かった。やっと今、分かった気がした」

老師「なにをだ」

少女「あたしの師匠がどれだけ強いのかってことに」

老師「おぬしの目は節穴だな」

少女「あいつの敵討ち、協力してやってくれない?」

老師「やなこった。地上げ屋はヤバい連中ばっかりなのは知っている。それが名門道場の師範ともなれば、万に一つも勝ち目はないわ。仇討ちなど諦める他ないわな」

256 : 以下、名... - 2017/01/09 01:32:04.36 FrfOPDn1o 175/257

少女「なら、なんでさっきはあいつのこと止めたのさ」

老師「……」

少女「死んでほしくないからでしょ」

老師「居なくなってくれたほうがいいわい。あいつの特訓に付き合わされる身にもなれ」

老師「朝は早いし、夜は遅い。こっちは毎日寝不足じゃい」

少女「でも、誰よりも先に起きて、誰よりも最後に寝るじゃん」

老師「あいつのほうが早起きのときもある。たまたまじゃい」

少女「お願いします、師匠」

老師「……」

少女「自分の兄弟子を、救ってやってはくれませんか」

老師「どこでそんな言葉づかいを覚えた」

少女「お願いします、師匠」

老師「……明日からだな。明日から、始めるとしよう」

少女「はい!」

老師「全く。こんなことなら弟子などとるでなかったなぁ」

257 : 以下、名... - 2017/01/09 01:37:21.26 FrfOPDn1o 176/257

―翌日 小屋―

青年「ん……」

少女「かーっつ!!!」

青年「うわぁ!?」

少女「寝坊だ。なにしてんのさ」

青年「あ、す、すまない!! すぐに支度をする!!」

少女「もう、ジジイも待ってるからね」

青年「あ、ああ」

青年(しまった。寝過ごしてしまったか……。昨日の所為か……。あれしきのことで精神が乱れてしまうとは、本当に未熟)

青年「急ごう」ゴソゴソ

青年「――すみません、遅くなりました!!」

老師「来たか」

少女「揃ったよ。何するの」

老師「早朝の特訓からだな。山を二往復してこい」

青年少女「「はい!!」」

258 : 以下、名... - 2017/01/09 01:41:25.92 FrfOPDn1o 177/257

―数時間後 山頂―

青年「はぁ……はぁ……」

少女「ふぅー……つかれたぁ……」

老師「遅いな。もう日が昇ってしまったぞ」

青年「も、申し訳ありません」

老師「日の出までに二往復できるまでは、村へ行くことを禁ずる。文句はないな」

青年「……はい」

老師「うむ。お前もだぞ」

少女「へーい」

老師「続いて、朝の特訓に入る」

青年「はい!!」

老師「さて……」ザッ

青年「え……師匠……?」

老師「かかってこい。乱取り稽古じゃい」

青年「つ、ついに……師匠と……!! はい!! よろしくお願いします!!!」ザッ

259 : 以下、名... - 2017/01/09 01:46:03.58 FrfOPDn1o 178/257

老師「どこからでもこい」

青年「はっ!」

少女「……」

青年「でやぁぁぁぁ!!!」ブンッ

老師(我が心、明鏡止水。水の音、風の流れ、自然を感じ、自然をこの身に宿すことで相手の動きを読み取る)

老師(これこそが、無我の境地なり!!!)

青年「はぁ!!!」ドガァ!!!!

老師「ぐほぉ!?」

少女「あーあ」

青年「師匠!?」

老師「ぐぬぬ……!! おくち、きれたぁ……」

少女「唾でもつけてれば治るって」

老師「アホかぁ!! 口内炎になるわい!! あぁ、折角なおったのにぃ」

青年「し、師匠、あの……」

老師「気にするな。さぁ、ワシに胸を貸すつもりでかかってくるがよい」

260 : 以下、名... - 2017/01/09 01:54:12.73 FrfOPDn1o 179/257

少女「ジジイが借りる側かよ」

老師「うるさいわい!! これがワシのやり方じゃい!!」

青年「師匠、一体どういう……」

老師「ワシも修行中の身。だが、肉体の衰えは隠しきれぬ。どんなに鍛えても、我が体は朽ち続けていく」

老師「ただし、我が心に衰えはなし!!」

青年「……!」

少女「衰える余地もないほどに、最初からしわくちゃだもんね、その心」

老師「小娘ぇ!! 黙っていろ!! 女子供には心も体もまけんぞぉ!!」

少女「そういうところを鍛えろ!! クソジジイ!!」

青年「師匠」

老師「なんだ、バカ弟子」

青年「俺は本当に幸せ者かもしれません」

老師「おぬしの頭がお花畑なだけだろうて」

青年「いきますよ、師匠!」

老師「どこからでもかかってこい!! 何なら、足だけでかかってきてもいいぞ!!!」

261 : 以下、名... - 2017/01/09 02:00:47.23 FrfOPDn1o 180/257

―正午―

老師「……」

少女「ジジイ、ごはんできたよ」

老師「いらん。口の中が血の味でひろがっているのでな」

青年「すみません、師匠。つい嬉しくなってしまって……その……」

老師「この!! クソ弟子がぁ!! こうなったら両手両足を縄で縛ってからかかって来い!!!」ザッ

青年「えぇ……」

少女「威厳もくそもないね」

老師「老いぼれ相手にホンキ出されても困るんだがなぁ。こういうの老人虐待じゃないかなー。ねー?」

少女「誰に話しかけてるんだよ」

老師「ワシの心のよりどころは、草木だけだわい」

青年「そんなことありません。俺たちも師匠の支えになりますから」

少女「こんなジジイ、支えたくないけどなぁ、あたし」

老師「下の世話はおぬしの仕事だからな」

少女「死んでもごめんだね」

269 : 以下、名... - 2017/01/09 18:10:59.00 FrfOPDn1o 181/257

老師「年寄りは大事にするものだと教わらなかったか」

少女「生憎と育ちが悪いんだよ、あたしは」

青年「俺は師匠のお世話なら率先してやりたいです」

老師「願い下げじゃい。男に世話してもらっても、面白くないというか気持ち悪いだけ」

青年「な……」

少女「要するに奴隷が欲しいだけだろ」

老師「可愛い女の子の世話人が欲しいだけだ」

少女「一緒じゃねえか」

青年「師匠の今後を考えれば、そういった人物の確保も必要になるか」

少女「こんなクソジジイの汚いものを処理してくれる人なんて、絶対いないね。大金積まれたってやらないよ」

老師「そこまでいうか」

青年「俺たち多大なる恩義があるんだ。何かでお返ししたいと考えるのはごく普通のことだ」

少女「世話する人が迷惑するだけじゃん。やめておいたほうがいいって」

老師「あーもー! 黙って飯を食え!! 午後からも修行が待っておるでな!! 厳しくいくぞ!! 血反吐とか吐かせてやるからな!!!」

青年「よろしくお願いします!! 師匠!!」

270 : 以下、名... - 2017/01/09 18:16:46.49 FrfOPDn1o 182/257

―夕方 山頂―

老師「おぇぇぇぇ……!!」

青年「師匠!! 大丈夫ですか!!」

老師「ちょ、ちょっと、はりきり……おぇぇぇぇ……!!」

少女「あーあ、もう」

老師「老いには勝てんということかぁ……!!」

少女「あたしの蹴りを腹でまとも受けるからそうなるんだってば」

老師「こむすめぇ……おぬしの蹴りごときで……反吐をはくことになろうとはぁ……おぇぇぇ……」

青年「師匠、休んでいてください」

老師「そ、そうだな……あとは自由時間にするかの……」

老師「寝るもよし、食うもよし、鍛えるのもよし。各々が目的にあわせて、うごけい」

少女「はぁーい」

青年「付き添います、師匠」

老師「構わぬ。お前にはやるべきことがあるだろう。ワシの介護をしている暇があれば、あの巨木に少しでも傷をつけておけ」

青年「は、はい」

271 : 以下、名... - 2017/01/09 18:23:47.97 FrfOPDn1o 183/257

―小屋―

老師「うぅぅ……うぅぅ……」

老師(小娘の足技、日に日に磨きがかかってきよって……。そら、まともに決まれば虎も倒せるわい)

老師(若いってええのぉ。あと30年早く、弟子を持っていたら面白かったかもなぁ)

少女「よっと」

老師「なんじゃい」

少女「はい、山菜のお吸い物。これなら食べられるだろ」

老師「何の真似だ」

少女「自由時間だっていうから作った。ほら」

老師「いらんっ」

少女「あっそ。んじゃ、ここに置いとくから」

老師「ふんだっ。意地悪な弟子のものなど、口にしたくもないわい」

少女「それじゃ、岩でも蹴ってこようかな」

老師「また捻挫でもしたらいいわい。今度は骨折でもしてこい。カッカッカッカ」

少女「ちゃんと食えよ。おやすみー」

272 : 以下、名... - 2017/01/09 18:37:33.61 FrfOPDn1o 184/257

―山頂―

青年「はぁ!! せいっ!! うぉりゃぁ!!!」ドンッ

青年「はぁ……はぁ……。まだ倒れないか……」

青年「どうすれば深く刃を入れることができるのかは、なんとなく掴めてきたが、それでも切り倒すほどの傷は負わせられない」

青年(ただ腕を振り下ろしてもこの巨木には掠り傷させつけることはできない。樹皮の堅牢さは鉄のようだ)

青年(全身の力を上手く使うことによって、初めてこの巨木に傷をつけることができる。ほんの僅かでも力の入れ方を失敗すると、刃は通らない)

青年(全神経を一点に集中させる動作を何千回、何万回と繰り返さなくては、この木を切り倒すことは叶わない)

青年「ふぅー……。師匠も無茶な修行を言い渡してくれたものだ」

青年「だが、こうして修行の辛さが理解できるようになったということは、俺も多少は成長しているということか……」

青年(道は果てしない。されど、歩み続ければ辿りつけるはず)

青年「この場に留まることは、許されない」

青年「せぇぇぇい!!! であぁぁぁ!!!」ドンッ


少女「がんばってるなー」

少女「あたしもやるか。岩を蹴り砕いてみたいし」

少女「せぇぇい!!!」ドガァ

273 : 以下、名... - 2017/01/09 18:45:30.12 FrfOPDn1o 185/257

老師「ふむ」ズズズッ

老師「ぷはぁ。ふん、まぁまぁだな」

老師「あれだけ努力できるのは、もはや才能よ」

老師「心の強さは鍛えようと思うても、鍛えられはしない」

老師「ワシのように、ただひたすらに敗走し続けるだけよ」

老師「うむ」ズズズッ

老師「憎らしいのぉ。あー、憎らしい」

老師「はぁー……」

老師「嫉妬してしまうな。バカ弟子にも、あの小娘にも」

老師「ワシはああやって楽しそうに修行していたかのぉ」

老師「もう忘れてしまったわい」

老師「……」ズズズッ

老師「ふぅ……。さて、ワシも寝る前に軽く運動でもしておこうか」

老師「ほっほ」

老師(何十年ぶりかの。修行をしたいと思えるのは)

274 : 以下、名... - 2017/01/09 18:53:48.82 FrfOPDn1o 186/257

―森林―

部下「ここです」

師範「奴が最後に着ていた服の切れ端か」

部下「恐らくは。ここで何かに襲われたと思ったほうがいいでしょう」

「ここに人骨のようなものもありました」

師範「あの出来損ないが行方不明になってから、三月ほどが経過する。腐敗したか獣に食われたと考えたほうがよさそうだな」

部下「もし、何者かにやられたとしたら」

師範「この山の主しかありえないだろう」

部下「では、噂の老人と若い男のどちらかということになりますか」

師範「それと出来損ないが逃がしたというメスガキも関わっている可能性があるな」

師範(あのとき、一緒にいたガキ……。ククク……一石で全てのものを落とせるかもしれないな……)

ガサガサガサ……

「グルルルル……」

部下「うぉ!?」

師範「なんだ、ヤマネコがいるのか。ここは」

276 : 以下、名... - 2017/01/09 19:22:56.53 FrfOPDn1o 187/257

―山頂―

少女「でりゃぁぁ!!!」

ドォォォォン!!

少女「うらよっしゃー!! 見たか、ジジイ!! 岩を砕いてやったぜ!!」

老師「それは砕いたとは言わん。割ったというほうが正しい」

少女「どっちでもいいだろ。これであたしも半人前は卒業だよな」

老師「岩なんてバカ弟子でも割れるわい。自慢にならんな」

少女「なんだよ……。全然、褒めないよな」

老師(女子供のくせに、ここまで強くなれるか……。神は何故、人間に優劣をつけるのか)

少女「ま、いいけどなぁ。けど、この岩を割れたら、ジジイでもあたしのこと認めざるを得ないだろ」

老師「え……」

少女「こいつだ」ペチペチ

老師(この山頂で一番巨大な岩ではないか……!!)

少女「今日からこれを蹴るぜ!」

老師「怪我するからやめとけ」

279 : 以下、名... - 2017/01/09 20:24:13.16 FrfOPDn1o 188/257

ズゥゥゥゥゥン!!!!

少女「おぉ!?」ビクッ

老師「なんじゃい!?」

青年「ふぅー……」

老師「お、おぬし……」

青年「師匠、巨木切り完遂しました。三か月以上、かかってしまいましたが」

少女「すっげー! おぉー!! やったじゃん!!」キャッキャッ

青年「力を一点に集中させるコツを掴めた気がする。これでも俺もようやく、一歩を踏み出せる」

老師(こいつら、化け物か)

青年「師匠! 次はどんな修行をしましょうか!」

老師「とりあえず、休め」

青年「俺はまだ動けます」

老師「休め!!!」

青年「はい!!!」

少女「修行させてやれよ」

280 : 以下、名... - 2017/01/09 20:36:01.12 FrfOPDn1o 189/257

―小屋―

少女「短期目標の達成を祝って、かんぱーい!!」

老師「浮かれるでないわ。ひよっこも同然だぞ」

青年「師匠の言う通りだ。この程度のことで舞い上がっているようではまだまだだ」

少女「こういうときは自分へのご褒美も必要だと思うんだけどなぁ」

青年「褒美か……。そうかもしれないな」

少女「とりあえず、のもー!」

老師「本来なら日の出までに山の上り下り二往復ができるようにならねば、こんなことはせんのだがな」

少女「もうちょっとでできると思うんだけどなぁ。今日なんてあと5分ぐらいの差だったしな」

青年「けれど、その5分を埋めるためには更なる鍛錬が必要になるだろうね」

少女「むずかしいなぁ」

老師「あと十年はかかるかのー」

少女「一か月ぐらいあればいいんだろ」

老師「本当にできそうだから、そういうことを軽々しくいわんでくれるか」

青年(あと一ヶ月……。この鍛錬を乗り越えれば……今度は奴を……!)

281 : 以下、名... - 2017/01/09 20:40:49.24 FrfOPDn1o 190/257

少女「ぷはぁー! にひひひ、おい、ジジイ。いい加減、あたしのことをみとめろよー」ペチペチ

老師「酒癖悪いな、小娘。師の頭を叩くとはなんたる暴挙か」

少女「いいじゃん、たたきやすいしさー」ペチペチ

老師「かーっつ!!!」

少女「おぉ。びっくりぃ」

老師「はやく、ねろ!!!」ブンッ

少女「あらよっと」サッ

青年(酔拳……!?)

老師「こいつめ!! こいつめぇ!!!」

少女「あはははは、あたらないよー」

老師「ヌエエエエエイ!!!!!」ドゴォッ

少女「ごぼっ!?」

老師「はぁ……はぁ……酔いは醒めたか……」

少女「ぐぅ……すぅ……」

青年「眠ったようですね」

283 : 以下、名... - 2017/01/09 20:49:45.10 FrfOPDn1o 191/257

少女「すぅ……すぅ……」

老師「寝顔だけは子供らしいの」

青年「師匠。大事なお話があります」

老師「なんじゃい。改まりおって」

青年「彼女も言っていましたが、恐らくはあと一ヶ月ほどで師匠から課せられた修行は終えられると俺も思っています」

青年「これは自惚れではありません。手ごたえを感じています」

老師(ワシもできるとは思うなー。認めたくないけど)

青年「日の出までに二往復ができれば、俺は山を下りようと思います」

老師「好きにせい」

青年「すみません。勝手なことを言っているのは百も承知です。ですが、俺はこの手を血に染めるためにここで修行をしてきました」

青年「元々、師匠の弟子には相応しくない人間なのです。復讐を果たす以外に生きがいを見いだせない、弱い人間です」

青年「師匠の意志、武術はきっと彼女が継いでくれると思います」

少女「すぅ……すぅ……」

老師「筋肉バカの弟子か、可愛げの一切ない小生意気な弟子か。この二択は厳しいのぉ」

青年「大切に育ててあげてください」

284 : 以下、名... - 2017/01/09 21:02:37.25 FrfOPDn1o 192/257

老師「復讐を遂げたあとは、どうする」

青年「罪を償います」

老師「そうか。おぬしはそういう道を選ぶだろうな」

青年「どのような理由があろうとも人を殺めるのは、罪ですから」

老師「風の噂でワシの存在を耳にしたと言ったな」

青年「は? ええ、そうです」

老師「ワシは人間不信に陥り、この山へ来た。その後も、殆ど人間とは話さずにいた。趣味で鍛え始めたことなど、誰にも漏らしたことはない」

老師「そんなワシのことが風に乗るなど、ありえん」

青年「……」

老師「おぬしの祖父、だろう」

青年「師匠はお見通しでしたか」

老師「気づいたのは、おぬしが道場破りに失敗した日だがな」

青年「祖父から聞いていました。かつて、祖父と同年者が門扉を叩き、入門した。その者は、誰よりも優れた才を持ち、若くして師範代候補に名が挙がっていたとか」

老師「50年以上も前のことだの」

青年「道場からは去ってしまったが、今もどこかで武術を磨いているはずだと、祖父は語ってくれました」

285 : 以下、名... - 2017/01/09 21:10:02.99 FrfOPDn1o 193/257

老師「何故、去ったか教えてやろう」

青年「え?」

老師「お前のジジイにワシの初恋相手をとられたからだ」

青年「……はい?」

老師「お前の、クソジジイに!! ワシの初恋相手を寝取られたからだ!!!!」

青年「あの、言い直したほうは微妙に意味が違っていますが」

老師「親友だと思っておった……!! 応援もしてくれると……奴はいった……!!!」

老師「だが!! やつはワシの知らぬところであの娘と懇ろになったのだ!!! ええ、その糞孫よ!!!! どう思う!!!」

青年「じ、自分の祖母に恋心を抱いていたのですか……」

老師「ワシの心はあの日、砕け散った。そして、その日に武道の道を外れ、世捨て人となった」

青年「失恋は誰にだってあるものかと……」

老師「かーっつ!!!!!」

青年「……!?」ビクッ

老師「ふざけるな!! ふざけるなよぉぉぉ!!! ワシがどれだけ惨めな思いをしたのかわからんか!!!」

老師「将来を期待され、師範代候補として注目されていたワシが……何故、ふられてしまうのだ……!! なぜ、あいつにとられてしまったのだ……!! ワシより弱かったあいつにぃ……!!」

286 : 以下、名... - 2017/01/09 21:18:12.30 FrfOPDn1o 194/257

青年「あの、師匠……」

老師「あの男の子孫だと最初から気づいておれば、貴様など絶対に、ぜーったいに弟子になどせんかったのになぁ!!! あー!! むかつくぅ!!」

青年「祖父が申し訳のないことを……」

老師「あやまるなぁ!! 余計にワシが惨めになるだろうが!!!」

老師「くそう……くそう……! おかげでこのとしまで……人をしんじられん性格になってしまったわい……!! ひとを愛す方法もわすれてしまった……!!」

老師「全てはあいつが元凶じゃい……うぅぅ……」

青年「けれど、師匠は武の道へ戻ってきたのですね」

老師「山に籠ったはいいが、やることが本当になくての。体力づくりから始めて、気が付けば拳を木に打ちつけておった。自分が嫌になるわい」

老師「結局、捨てられはしなかったの」

青年「祖父も捨てられはしないと、信じているようでした」

老師「腐っても、一時は何でも語り合った仲だったしな」

青年「生涯で最も理解していた友ということですか」

老師「やめろ。虫唾が走る。奴の所為で、今のワシがあるんだからな」

青年「こうして師匠と出会えることになったのも、祖父との関係があったからですね。俺は祖父に感謝を――」

老師「ころしてやるぞ……!! バカ弟子がぁ……!!! ワシがどれだけ苦しんだか……!!! お前にはわからん!!! キエエエエエエエエエエイ!!!!」

289 : 以下、名... - 2017/01/09 21:28:40.04 FrfOPDn1o 195/257

青年「す、すみません。言葉を間違えてしまいました」

老師「だから、別にお前が山を下りて、何をしようがワシはまっったく、興味などない」

老師「返り討ちにあって殺されてもいいし、復讐を果たして牢獄でやせ細ってもいいし、復讐を果たし別の誰かに恨みをかって殺されてもいい」

老師「貴様がどうなっても、これっぽちも気にせん!!!」

青年「うぅ……」

老師「というか今すぐ死ね!!」

青年「くっ……師匠……お可哀想に……」

老師「同情するなぁー!! ワシをあわれむなー!!!」

青年「あの、俺はもう破門ですか? 祖父の犯した罪を考えれば、それも致し方ないと思いますが」

老師「ああ、破門にしてやりたいぐらいだ! そんで虎の巣にでも放り込んでやりたいわい!! ぺっ!!」

青年「そこまでの因縁があったというのは知りませんでした……」

老師「だが、知ったのが遅すぎたな。好きなだけここで鍛えていけ。自信をつけてから山を下りろ」

青年「師匠……」

老師「胸糞悪いが、仮にもワシの弟子が無様に負けることだけはあってはならんからな」

青年「本当に、本当にここへ来ることができて、良かったです。師匠」

290 : 以下、名... - 2017/01/09 21:36:15.43 FrfOPDn1o 196/257

―数日後 早朝 山頂―

少女「うらー!!!」ダダダダッ

青年「どうだ!?」

老師「はい、ダメー!!! もう日の出じゃー!! しっかくー!! やーい! のろまー!!」

少女「うそだろ!? これでダメって、どういうことだよ!!」

老師「みよ!! 既に空は明るくなっておるわ!!」

少女「ふざけんな!! まだ太陽はみえてないじゃんかー!!!」

老師「空が明るくなりはじめたら、それを日の出というんじゃい。ほっほ。学の無い小娘はこれだからこまるのー」

少女「このクソジジイ……!!!」

青年「まぁまぁ。師匠の言い分にも一理ある」

少女「一理しかないなら、あたしらの勝ちだな!」

老師「ああ言えばこう言う。最近の若いもんは。はぁー、やれやれ」

少女「蹴りでその曲がった根性真っ直ぐにしてやろうか、あぁ!?」

老師「やるか? 女子供には容赦せんぞい」

青年「師匠、大人げありませんよ。君も師匠に失礼だ」

291 : 以下、名... - 2017/01/09 21:41:53.17 FrfOPDn1o 197/257

少女「飯の用意できたぞー」

老師「どれどれ。相変わらず、雑な切り方だのぉ」

少女「作ってやってんだから文句言うなよ!!」

青年「それでも最初に比べたら、かなり上達していると思うけどね」

少女「だよなー? 文句言うジジイは食わなくてもいいぜ」

老師「これはワシがとってきた食材だろうて」

青年「その食材も少なくなってきましたね」

老師「消費がはげしいのぉ。誰の所為か」

少女「ジジイだよ」

青年「今日は食材摂りに行きましょうか」

少女「さんせー」

老師「がんばってこい」

少女「ジジイも行くんだよ」

老師「ケホ、ケホ。ううむ、最近、歳の所為か上手くあるけんでのぉ」

少女「いいから、動け」

292 : 以下、名... - 2017/01/09 21:46:04.68 FrfOPDn1o 198/257

―山道―

少女「これ、食えるキノコかな」

青年「それは確か毒があったような……」

少女「そっか。じゃ、いらないや」ポイッ

老師「こっそりワシの飯に混入させるつもりがなくてよかったわい」

少女「お、そっか。じゃ、拾っとこ」

老師「させんぞ!!」ググッ

少女「冗談にきまってるじゃんか……!!!」ググッ

老師「ならば、この手を引けぇ……!!」

少女「ジジイが手を押さえてるから引けないんだよ……!!」

青年「……ん?」

少女「おい、どうしたの」

青年「何か、異臭がする」

老師「む……。確かに、何の臭いかの」

青年「師匠、行ってみてもいいですか?」

293 : 以下、名... - 2017/01/09 21:50:29.75 FrfOPDn1o 199/257

老師「この先は虎の縄張りだ。危険だぞ」

青年「む……」

少女「あの時よりは強くなってるし、大丈夫じゃない?」

老師「こりゃ。本気で言うておるのか」

少女「ごめん」

青年「しかし、この臭い、気になります。もし、人だったら」

老師「ううむ。分かった。娘、そのキノコを持っておけ。もしものときは獣に食わせてやれ」

少女「どうやって? 口に投げ込むのか」

老師「持っておるだけで良い」

少女「ああ、そうなのか」

老師「うむ」

青年「では、行きましょう」

老師「二人はワシを挟むように歩けよ」

青年「わかりました」

少女「あ!! ジジイ!! キノコをもったあたしごと虎に食わせる作戦だろ!!!」

294 : 以下、名... - 2017/01/09 21:55:28.04 FrfOPDn1o 200/257

―森林―

老師「しずかにせい!」

少女「またあたしを身代わりにしようとしやがってー!!」

青年「こ、これは……!!」

老師「なにかあったか」

少女「うっ……これって……」

青年「虎の亡骸か……」

老師「この腐敗具合からみて、数週間以上はたっておるか」

青年「四匹、俺たちを襲った虎でしょうか」

老師「同じ場所だ。間違いないだろうて」

少女「なんで死んでるんだ」

老師「首が折れておるな。自然死、とは言い難い」

青年「共食いをした形跡もありませんね。他の獣にやられたということもなさそうです」

老師「誰かが虎を始末したということか」

少女「誰かって、人間がやったの?」

295 : 以下、名... - 2017/01/09 22:03:17.27 FrfOPDn1o 201/257

老師「かもしれんな」

少女「そんな奴、山にいるのか」

青年「アイツなら、やりかねない」

老師「おぬしの仇か」

青年「奴は恐ろしく強い武道家です。虎を殺せても不思議はない」

老師「なるほどの」

老師(もしそうであれば、何故このような山の中、それも獣道に入り込んでいた……?)

老師(何かを捜していたとしか思えんな)

少女「どうする?」

青年「このまま土に還るのを待つしかないだろうね」

老師「それかここから骨を回収して売りさばこうかの」

少女「マジで?」

老師「虎骨酒の原料になるからのぉ」

青年「資金源の確保のためというのなら、そうしましょうか」

老師「うむ、では、失敬して」

296 : 以下、名... - 2017/01/09 22:09:24.79 FrfOPDn1o 202/257

―山道―

老師「ほっほ。ついておるなぁ。労せずして、これだけの虎の骨が手に入るとは」

少女「悪趣味だけどなー」

老師「狩りとはそういうものだ。猪や熊を殺すことと何が違うか」

少女「そうだけどさ。死体から漁るってのが」

老師「小便臭さはまだまだ取れんか」

少女「毎日、風呂にはいってるっつーの」

老師「そういうことではないわい。さて、ワシはこのまま村のほうへ行く」

青年「早速、売却ですか」

老師「金はいくらあっても困らんからのぉ」

少女「新しい服が欲しいなぁ」

老師「言ってろ」

少女「新しい服がほしいなー!!」

老師「ではな。昼過ぎには戻る」

青年「はい。お気をつけて」

297 : 以下、名... - 2017/01/09 22:25:06.40 FrfOPDn1o 203/257

―麓の村―

「はいよ。これぐらいでいいかい?」

老師「う、うむ……い、いいと、おもうのぉ……」

「交渉成立だ」

老師「お、うん。そ、そうだな。うむ」

「まいどあり」

老師「お、う、む」

老師(ふー。久しぶりに弟子以外の人間と喋ったわい。いつまでたっても慣れんのぉ)

部下「やはり、間違いはないかと」

師範「そうか。では、決行する」

部下「はっ。ただちに出立いたします」

師範「俺も行こう」

老師(うわぁ、見るからにヤバそうな連中だな。関わらないようにせんと)コソコソ

師範「ふふふ……」

老師(まとまった金も入ったし、服でも買って行ってやるかのぉ。はぁー、我儘な弟子だわい。まったく)

298 : 以下、名... - 2017/01/09 22:34:14.90 FrfOPDn1o 204/257

―山頂―

少女「はっ!!」ブンッ

青年「ふっ!!」

少女「なぁ! やっぱり!! 今日のは間に合ってたと思うんだけど!!!」ガンッ!!!

青年「つっ! しかし! 空は確かに明るくなっていた!!」ドゴォッ

少女「ぐっ……!! つぅ……」

青年「何を拘っている」

少女「だって、絶対に間に合ってた。納得いかないんだよ」

青年「師匠もそう簡単には合格点をくれないよ」

少女「こんなにがんばってるのにか」

青年「合格させてしまうと、俺が山を下ることになるからね。その先で俺が無様な死に方をすれば、師匠の沽券にかかわる」

少女「今更、面子とか気にすることもないとおもうけどなー」

青年「君だって、気が付いているんだろう。師匠が何故、厳しい態度をとるのか」

少女「全然わかんない。ジジイが単にあたしたちをいじめて面白がってるだけだろ」

青年「そういう側面もないとは言えないけど、本質はそうじゃないよ。単に扱きたいだけならば、師匠自身が俺たちと乱取り稽古をするわけはない」

301 : 以下、名... - 2017/01/09 22:52:18.32 FrfOPDn1o 205/257

少女「まぁ……なぁ……」

青年「師匠も成長しようとしている。ここからでも伸びしろがあると自覚しているんだ」

青年「自分の限界を定めず、努力し続ける師匠は、己にも他人にも厳しい人なんだ」

少女「自分には甘い気もするけどなぁ」

青年「心にもないことを」

少女「本心だってーの。ほら、次、やろうぜ」ザッ

青年「そうだね」

「精が出ますね。まことに素晴らしい」

少女「……!」

青年「貴様……」

師範「どちらも筋が大変よろしい。このまま技術を高めれば、それはそれは見事な武道家になれることでしょうね」

青年「何しに来た」

師範「ずっと待っていたのですよ。けれど、来る様子もないので、こうして貴方達を捜し、やってきたのです。はい」

少女「まだお前に会う予定がなかっただけだ」

師範「そうですか。でも、私のほうにどうしても会わなくてはいけない理由ができてしまいましてね」

302 : 以下、名... - 2017/01/09 23:02:38.86 FrfOPDn1o 206/257

青年「理由だと」

師範「以前に、ここへ一人の男がやってきたはずです。そこの少女を迎えに」

少女「……」

青年「それがどうした」

師範「その者はどうやら帰らぬ人になってしまったようでしてね。その犯人を捜しているのです」

師範「そこで最後にあったであろう貴方達にもお話が聞ければと思いまして」

青年「何故、あの男を捜す。貴様の門下生か」

師範「いいえ。あのような鈍間で屑な人間は我が道場には必要ありません。他の門下生が怯えてしまいますのでね」

青年「では、どういう関係なんだ」

師範「貴女」

少女「あたし?」

師範「既になかった話になっているかもしれませんが、お父さんには多大な借金があったはずです」

少女「な……え……」

師範「お母さんもその借金を返すために必死に働いていましたが、最後には首をつってしまった。悲しいですねぇ。小さな子供を残してこの世を去る親の気持ちが分かりません」

少女「なんで……そのこと……知ってるの……」

303 : 以下、名... - 2017/01/09 23:12:30.97 FrfOPDn1o 207/257

師範「ふふふ……。何故でしょうかねぇ」

青年「貴様、あの大男の……」

師範「想像にお任せします。ともかく、私は君を引き取りたい」

少女「え……」

師範「武術を習いたいのであれば、私の道場で好きなだけ学ばせてあげましょう。こんな劣悪な環境では、限界もあるでしょう?」

少女「お断り。あたしは、ここが気に入ってる。今更、温い場所で鍛えようとは思ってない」

師範「そうですか……」

青年「今すぐ、貴様を殺してやりたいが、師匠には止められている。だが、そう日数はかからん。首を洗って待っているがいい」

師範「私の組織は義を重んじる。義を破りし者には容赦なく、鉄槌を下す」

青年「何の話だ」

師範「どのような出来損ないでも同朋の死は弔う。組織から簡単に抜けることはなどできはしない。そういうことです」

青年「つまり、この子をもう一度貴様の組織とやらで使おうというわけか」

師範「いいえ。とんでもない」

少女「は?」

師範「裏切者には、何も与えない。ただ、処刑するだけです」

304 : 以下、名... - 2017/01/09 23:18:15.45 FrfOPDn1o 208/257

少女「殺すってこと。武術を学ばせてくれるって言っておいて、矛盾してるよ」

師範「言葉足らずでしたね。武術は好きなだけ学ばせてあげるつもりです」

師範「まぁ、貴女はただ、私の門下生に死ぬまで殴られるだけでしょうけどねぇ」

少女「な……!」

青年「去れ!! この子は、絶対に渡さん!!」

師範「お前も」

青年「なに……」

師範「お前も私は処刑するつもりでいるぞ。同朋を弔わなくていけないからな」

青年「敵討ちということか」

師範「それが俺たちの義だ」

青年「帰るつもりはないようだな」

師範「ないな。残念ながら」

青年「では、仕方ない。ここで、決着をつけてやるぞ」

少女「あのときとは一味違うからな」ザッ

師範「半人前未満が二人では、一人の達人にすら及ばない。そんなことも分からず、構えるか。笑いもこみ上げてこないな」

306 : 以下、名... - 2017/01/09 23:23:14.13 FrfOPDn1o 209/257

青年「それはどうだろうな……」ザッ

少女「やってみなきゃ、わかんないこともある」

師範「よろしい。少し稽古をつけてあげようか」

青年「はぁぁぁぁ!!!」

少女「でやぁぁぁ!!!」

師範「はい!!」ガッ

青年(簡単に俺の突きを受け止めた……!!)

少女「くらえぇ!!!」ブンッ

師範「威力のある蹴りだ。けれど、所詮は子どもの足」ガシッ

少女(掴まれた……!?」

青年「くっ!!」ザッ

少女「おっとと」

師範「小手調べ、ということでいいかな」

少女「当たりまえだろ!! ほんのあいさつ代わりだ!!」

青年「……っ」

307 : 以下、名... - 2017/01/09 23:30:13.50 FrfOPDn1o 210/257

少女「次は殺人脚をみせてやる!!」

師範「兄弟子はどうやら、君よりも実力があるようだ」

少女「そりゃ、こっちは何年も武術を磨いてきたし、あたしの何倍も努力してきてるからな」

師範「故に今ので気が付いたのだろう」

青年「……」

少女「気が付いた?」

師範「自分では勝てないと」

青年「……!」

師範「ハッハッハッハ。いいぞ。確かにあのときよりは幾分か成長しているようだ。自分と相手との実力差が分かるようになっているじゃあないか」

青年「黙れ!! 勝負は、最後までわからん!!」

少女「そうだ!! こっちはしぶとさだけなら負けないぜ!!」

師範「分かるだろう? にわか仕込みの貴様らでは到底越えられない。根性だけではどうにもならない世界もある」

青年「黙れと言っている!!!」

少女「このやろぉぉ!!!」ダダダッ

師範「俺の道場では根性論は不要なのだよ。何故なら、根性、勇気、諦めない心、その全ては何の意味もないからだ」ザッ

308 : 以下、名... - 2017/01/09 23:37:41.28 FrfOPDn1o 211/257

師範「――せぇぇい!!!」ドゴォッ

少女「ごぉ……ぇ……!?」

青年(力を一点に集中させれば……!!!)

青年「うおりゃぁぁぁ!!!!」ブンッ

師範「ふんっ!!!」パシッ

青年「ぐっ……!?」

青年(渾身の突きまでも……!?)

師範「今のは良いぞ。とても綺麗な突きだ。だが、俺には届かないようだ。キェェェイ!!!」ドゴォッ

青年「ごっ……!?」

師範「悲しいな。修行しても俺を倒せない。努力しても、仇はとれない。悲しい、弱いということは悲しい」

青年「お、のれ……!!」

少女「ごほっ……おぇ……」

師範「君たちの師匠は留守のようですねぇ。ふむ。こういう場所も中々良い。そうだ。合宿所をこういう場所に作りましょうか。年に二回ほど、頂上での練習も悪くありませんねぇ」

青年「はぁ……はぁ……!!」ザッ

師範「まだ立ち上がりますか」

309 : 以下、名... - 2017/01/09 23:45:10.34 FrfOPDn1o 212/257

青年「ここから、去れ……!!」

師範「まずは聞きましょうか。女の子を迎えにきた男は、誰か殺したのでしょうか」

青年「誰も殺してなどいない。奴は、逃げ出した。師匠に恐れ、山の中に去っていったんだ」

師範「なるほどぉ。そうですか。では、貴方は彼を殺してはいないと」

青年「我が一門、殺人拳に非ず」

師範「私を殺したがっているのに?」

青年「お前を殺すときは、師匠の下を離れるとき。だが、今はまだ、師匠の下で武道を弟子として歩んでいる」

師範「面倒くさいですねぇ。いいでしょう。あの男は事故で死んだ、ということにしても」

師範「では、この子だけを持ち帰るとしましょうか」グイッ

少女「いっ……!?」

青年「その子に触れるな!!!」

師範「この少女は我々の組織にいた人間だ。組織の長がどう扱おうと、お前には関係のないことでしょう」

少女「はなせよ!! このやろう!!!」

師範「目上の人間に対して礼儀がなっていないようだ。余程、粗悪な師なのでしょうね」

少女「師匠の悪口をいうんじゃねえよ、糞野郎!!」

310 : 以下、名... - 2017/01/09 23:48:39.67 FrfOPDn1o 213/257

師範「ふんっ!!!」ドゴォッ

少女「う……ぇ……!?」

青年「やめろぉ!!!」

師範「ふっ!!!」ドゴォッ

少女「お……ぉ……」

青年「きさまぁぁぁぁ!!!!」

師範「遅い」バキッ

青年「づっ……!?」

師範「出て来い」

部下「――はっ」

師範「このガキを持って帰れ」

部下「はっ」

青年「ま……て……」

師範「あと、ここが気に入った。合宿所を建てることにする。なので、あの小汚い小屋を燃やしておいてくれ」

部下「了解しました」

312 : 以下、名... - 2017/01/09 23:53:01.83 FrfOPDn1o 214/257

青年「き、さま……!! きさまは、また俺から……奪うのか……!!」

青年「全てを奪うのか!!!」

師範「あぁ。結果的にそうなるか。中々いないよ。君のように不幸な人間はね」

部下「火を放て」

「はい」

青年「やめろ!! そこには師匠の積み上げてきたものがあるんだ!!!」

部下「やれ」

「はっ」ボッ

青年「やめてくれ!! やめろぉぉ!!!」

師範「ハッハッハッハッハ。もう一度、始めればいいじゃないか。三度も全てを奪われることなんてきっとない」

師範「ああ、でも、二度あることは三度あるともいうか。ふふふ、そのときは諦めて死んだ方がいいかもしれないな」

ゴォォォォ……

青年「あぁぁぁ……ぁぁ……!! ああああああああああああああ!!!!!」

師範「引き上げるぞ」

部下「はい」

313 : 以下、名... - 2017/01/09 23:57:33.85 FrfOPDn1o 215/257

―山道―

老師「むぅ。時間が少しかかりすぎたのぉ」

老師「それもこれも小娘の我儘の所為だ。大体、こういう服でいいのかもわからんしなぁ」

老師「ま、文句など絶対に言わせんがな。カッカッカッカ」

老師「ん? あの男は……」

師範「どうも」

老師「お、おぉ。どうも」

師範「ここは良い場所ですね」

老師「そうですなぁ。ワシも気に入っておる」

師範「私も気に入りました」

老師「そ、そうかそうか。さ、山頂から見る景色もまた格別ですぞ」

師範「フフフフ。ええ。格別でした。では」

老師「あ、はい」

老師(なんじゃ、見た目と反して割と性格のいい男っぽいな)

老師(あれならバカ弟子のほうがよっぽど恐ろしいわい)

315 : 以下、名... - 2017/01/10 00:04:12.43 8K+FY/sYo 216/257

部下「よっと」

師範「扱いには気を付けてください」

部下「はい。分かっております」

老師(お付きの人、中々の大荷物だな。山頂で弁当でも食ってたのか?)

老師「まぁ、ええわい。弟子らが何か知っておるかもしれんし、あとできいておくかの」

部下「しかし、あの男、殺さなくてもよかったのですか?」

師範「死ぬよりも辛いめに遭う人間なんて中々目にかかれないだろう」

部下「は?」

師範「貴重だよ。普通なら自害するところを憎悪だけで生きてきた。でも、それも無意味だった。更なる絶望に顔を歪ませていただろう」

師範「ああいう人間は中々見ることができない。生かしておく価値は十分にある」

部下「な、なるほど」

師範「今度また俺に立ち向かってきたときは、どう苛めてやろうか。もしかしたら、俺の目の前で腹を切ってくれるかもしれない」

師範「考えただけでゾクゾクする。ハーッハッハッハッハ」

師範「お前もそう思うだろ?」

部下「え、ええ。もちろんです」

316 : 以下、名... - 2017/01/10 00:08:23.99 8K+FY/sYo 217/257

―山頂―

老師「ん……」

老師(なんじゃい。この臭いは……)

老師「まさか……!!」ダダダッ

ゴォォォォ……

老師「……」

青年「けさねば……ひを……けさないと……」ザバーッ

青年「ししょうの……すべて……まもらないと……!!」ザバーッ

青年「まもら、なければ……なくなる……なくなって……しまう……!!」

老師「……」

青年「ひを……けさねば……けさね……ば……」

老師「喝!!!!」

青年「し、しょう……?」

老師「やめい。どうにもならん」

青年「あ……あぁ……ぁぁぁ……!! し、しょう……す、みません……ししょ、う……すみません……!!」

317 : 以下、名... - 2017/01/10 00:15:38.30 8K+FY/sYo 218/257

老師「酷い怪我だ。また負けたのか」

青年「おれが……みじゅくなばかりに……うぅ……」

老師「虎を倒す男に挑むには、まだ5年は早かったかの」

青年「ししょう、あの子を……たすけて……やってください……! あのこが、ころされてしまいます……!!」

老師「いいのか」

青年「え……?」

老師「それは即ち、おぬしの仇討ちは永遠に叶わなくなるということだ」

青年「……ししょうが……ししょうが……おれの……かたきを……?」

老師「いいのだな」

青年「はい……! やつは……またおれから、ぜんぶを……うばった……! あたらしいいばしょも……かぞくも……ぜんぶ……ぜんぶ……!!」

青年「もう……だれでも……いい……ころしてくれ……あいつを……ころして……!!」

老師「分かった。ここで休んでおれ。明日の日の出までには戻る」

青年「ししょう……すみません……るすばんも……できぬ……おれで……」

老師「心配せんでもよい。奴はまだおぬしから全てを奪ってはおらん。残っておるではないか。ワシという老いぼれがな」

青年「よろしく……おねがい……します……!!」

320 : 以下、名... - 2017/01/10 00:22:15.42 8K+FY/sYo 219/257

―山道―

老師「……」ダダダダッ

老師(カッコいいこと言ってしまったが、勝つ見込みなんてこれっぽっちもないぞい)

老師(虎を狩れる人間が相手か……。怖い、あー、こわいのぉ)

老師(今からでも遅くない。別の山にでも逃げてしまったほうがいいのかもしれんなぁ)

老師(こんな老いぼれが戦いを挑んだところでなにができるっていうのかのぉ)

老師(きっと、まけるんじゃろうな。死ぬんだろうなぁ)

老師「……」ダダダッ

老師(死ぬのは怖いの。負けるのも嫌じゃの)

老師(しかし……)

老師「我が生涯、最初で最後の弟子の望みなら、仕方ないか」

老師「やれるだけのことはやろうか」

老師「負けても恨むな。恨めば化けてでてやるぞい」

老師「カッカッカッカ」

老師(でも、やっぱり怖いわぁ)

334 : 以下、名... - 2017/01/10 21:46:30.93 8K+FY/sYo 220/257

―麓の村―

女拳士「しはーん!!」テテテッ

師範「おや。今、稽古終わりですか」

女拳士「はいっ。そういう師範は、今日道場に顔を出してくれなかったですね」

師範「申し訳ありません。大切な用事がありまして」

女拳士「師範が多忙なのはわかってますけど、道場のみんなも直接稽古をつけほしいって言ってるんですよ」

師範「私がいなくとも、皆さんは健やかに成長しています。心配はいりません」

女拳士「そーいうことでもないんですけどぉ。明日は来てくれますか?」

師範「残念ですが明朝ここを離れるつもりです。次に来るのは一ヶ月後になりそうです」

女拳士「えー!? そんなぁ。また都会の道場にいっちゃうんですか」

師範「本当に申し訳ありません。ですが、次に来るときはいいものをお見せできると思います」

女拳士「なんですか?」

師範「ふふ。合宿なんかを考えていましてね」

女拳士「おぉー!! 合宿ですか!?」

師範「楽しみにしていてください。合宿所の土地は確保できたので、あとは建物を作るだけですね」

335 : 以下、名... - 2017/01/10 21:53:02.65 8K+FY/sYo 221/257

女拳士「すっごく楽しみです! みんなにも伝えていいですか?」

師範「勿論。秘密にするほどのことでもありませんからね」

女拳士「それじゃ、師範。次は稽古つけてくださいね」

師範「はい。よろこんで」

女拳士「さよーならー!!」テテテッ

師範「ふふ……」

部下「――ボス。この娘、どちらに」

師範「道場の中に運べ」

部下「ここで始末するつもりですか」

師範「そのほうがいいだろう。近くの山に捨てれば、獣が食ってくれるしな」

部下「でしたら、山の中でことを済ませばよかったのでは」

師範「この子は武術を習いたいと言っていただろう? 死ぬ前に死ぬほど武術を習ってもらおうと思ってな」

部下「そういうことですか」

師範「最後の場所は、神聖なる道場だ。本望だろう?」

少女「……」

336 : 以下、名... - 2017/01/10 21:59:44.51 8K+FY/sYo 222/257

―道場―

師範「今回で二度目ですねぇ。私の道場に来るのは」

少女「……」

師範「フフフ……。感動して声もでませんか」

部下「ボス。口を塞いでいるんですから、声はでませんよ」

師範「おっと、そうだったねぇ。可哀想に。助けも呼べないなんてねぇ」

少女「……」

師範「怖いなら逃げ出してもいいんですよ。逃げる者は追いません」

部下「両手足に枷をつけたのですから、どう足掻いても逃げることはできません」

師範「ハーッハッハッハッハ。これは失敬。お嬢さん。誰がここまで酷いことをするんですかねぇ」

部下「ボスですよ」

師範「ククク……。アーッハッハッハッハッハ!!! そうだった!! 俺だなぁ!! アーッハッハッハッハ!!!!」

少女「……」グッグッ

師範「無理だよ。きちんと施錠してあるからね。この鍵を奪わない限りは、君に自由などないんだ」

少女「……」

338 : 以下、名... - 2017/01/10 22:07:13.81 8K+FY/sYo 223/257

師範「何か言いたげですね。猿轡をとってあげなさい」

部下「はい」カチャカチャ

少女「……」

師範「どうぞ。口は自由になりましたよ」

少女「稽古、つけてくれるんだろ。やるなら、早くしろよ」

師範「強気ですねぇ」

少女「ガキ一人殺すのに、何時間かかるか計っててやるよ」

師範「フフフフ。怖いくせに、その虚勢。実に愛らしい。あぁ、可愛い。可愛すぎる」

少女「ぺっ」

師範「……」

部下「ボ、ボス!?」

師範「フフフ……。唾を飛ばすとは、品のないお嬢さんですね」

少女「なんだよ。クソガキに唾吐かれても何もできない腰抜けかよ。わらっちま――」

師範「ふっ」ドゴォッ

少女「ごっ……ぶ……!?」

339 : 以下、名... - 2017/01/10 22:12:24.36 8K+FY/sYo 224/257

師範「俺は大人しい女が好みだ」

少女「あ……が……ぃ……」

師範「さて、稽古を始めようか」

少女「あ……う……」

師範「一人ずつ、相手してやれ」

部下「はい」

「やべえな。こんな可愛い子と稽古できるなんてよ」

「よろしくお願いしまっす!!」

少女「はぁー……はぁー……」

師範「どうかしましたか」

少女「なんだよ。結局、これだけの人数がいなきゃ、何もできないんだな」

師範「……」

少女「すげえ小物じゃん。あたしの師匠のほうが、何倍も器が大きい、な……」

師範「そうか。どちらにしても君は死ぬけどな」

少女(あたしが死んだら、誰か泣いてくれるのかな……)

342 : 以下、名... - 2017/01/10 22:19:05.04 8K+FY/sYo 225/257

―麓の村―

老師「すっかり日が暮れてしもうたな……。さて……」

老師(この村から既に離れたかどうか。まずはそこを調べてみないといかんな)

老師(彼奴の道場を覗いてみるかの。門下生の一人でもいれば、何か情報がつかめるやもしれん)

老師「こっちだったかの」

門番「……」

老師「ここじゃ、ここじゃ」

門番「なんだ、じいさん。この道場に何か用か」

老師「あ、えと……その……見学、できないものかと思ってのぉ……」

門番「明日にしろ。今日はもう誰もいねえよ」

老師「あぁ、そうなのか……。では、明日こようかの」

門番「おう」

老師「うぅむ……」

老師(あんなやつ、以前見たときにはおらんかったぞい)

老師(怪しい……。とても怪しい……。が、あんなやつと正面から戦うなんて、できんな。あんなぶっとい腕で殴られたくないわい)

345 : 以下、名... - 2017/01/10 22:26:53.90 8K+FY/sYo 226/257

門番「ふぃー」

門番(今頃、中では良いことしてんだろうなぁ。ガキを自由にできるなんて、羨ましいぜ)

門番(俺もはやいとこ、ボスにみとめられてーなぁ)

老師「……」コソコソ

門番(認められたら……)

門番「うへへへ」

老師(いまだ!!)ダダダッ

門番「おっと!!」ブンッ

老師「うひぃ!?」ササッ

門番「なにしてんだ、じいさん。帰ったんじゃないのかよ」

老師「すまんのぉ。最近、ボケが始まったようで、家がわからんくなったんじゃ。ワシの家、ここかの?」

門番「ここは違う。あっちいけ」

老師「そういわんと。中を見せてくれぇ。もしかしたらワシの家かもしれんぞ」

門番「そんなわけねえだろ。とっとと失せな、ジジイ」

老師「かー、年寄りの願いも聞き入れてくれんとは、最近の若いもんは優しさがないのぉ。嘆かわしいわい。昔はよかったぁ。皆、人情味に溢れておったわ」

346 : 以下、名... - 2017/01/10 22:31:40.37 8K+FY/sYo 227/257

門番「勝手に昔話を始めるんじゃねえよ。失せな」

老師「はいはい。わかったわかった」

門番「ったく」

老師「とみせかけて、うりゃぁぁぁ!!!」ダダダダッ

門番「てめ!! ジジイ!!」

老師「馬鹿者めが!! 油断大敵じゃい!!!」

門番「まちやがれ!! おらぁ!!!」ブンッ

老師「あぶなっ!?」サッ

門番「老いぼれのくせに、やけに元気じゃねえか!!」

老師「おぬしも、でかいくせに機敏だな」

門番「これでも優秀な師匠に武術を学んでるからなぁ」

老師「そうかい。ならば、その修行の成果、みせてみよ!!」

門番「みたけりゃ、みせてやるよ!!!」ブンッ

老師「わはははは!! そんな突きでは腕にハエが止まるわい!!」ダダダダッ

門番「にげんじゃねえ!!! クソジジイ!!!」

349 : 以下、名... - 2017/01/10 22:37:25.95 8K+FY/sYo 228/257

―道場―

「待ちやがれぇぇ!!!」

師範「外が騒がしいな」

部下「見てきましょうか」

師範「いや、構わない。それよりもこのクソガキの稽古を優先させろ」

部下「はい」

少女「お……ぇ……」

「また吐いたぜ」

「次、吐かせた奴の負けな」

「おもしれえな。何発目に吐くかなぁ」

少女「かっ……ぎっ……」

師範「威勢がなくなったな。ククク……」

少女「こ……て……」

師範「なんだって?」

少女「もう……ころ……せよ……」

351 : 以下、名... - 2017/01/10 22:44:05.00 8K+FY/sYo 229/257

師範「お父さんとお母さんのところに逝きたくなったか」

少女「もう……いいでしょ……」

「まだ遊び足りないっすよぉ」

師範「だ、そうだ」

少女「は……あは……は……」

少女(おわりかな……もう……)

少女(結局、糞みたいな親の所為で……こうなったの……?)

少女(あんな親の間に生まれてこなかったら……こうならなったの……)

少女(師匠のこどもとしてうまれてたら……よかったな……)

師範「フフフ。美しい。絶望した顔は何度見ても、美しい」

少女「地獄におちろ……変態野郎……!」

師範「それだけ言えればまだ持つか」

少女(生まれ変わったら……師匠の孫に……って、無理か……)

ドォォォォン!!!

部下「な、なんだ……!?」

352 : 以下、名... - 2017/01/10 22:49:11.52 8K+FY/sYo 230/257

師範「何事だ」

老師「うわぁぁぁ!!」ゴロゴロゴロ!!!!

老師「ぐえぇ!?」ドーンッ

部下「人が転がってきやがったぞ」

少女「ジ……ジジ……イ……?」

老師「ごっほ! あやつ、このワシを本気で殴るとは……!! おかげでここまで吹っ飛んだではないか!!」

門番「今のはきいただろ!! ジジイ!!」

老師「ほっほ! 全然、きいてな……くはないな……!! グググ……!! おなか、いたいぃ」

門番「ハッハー!! 次は確実に――」

師範「おい」

門番「あ……!?」

師範「お前の役割はなんだ」

門番「あ、えと、いや、不審なジジイが入り込んだから、追い返そうとおもいまして……」

師範「見張りをしていたくせに、簡単に侵入を許したばかりか、持ち場を独断で離れたのか」

門番「そ、そういうことになるかもしれませんが、でも、俺はボスに言われた仕事を遂行しようとおもって……!!」

353 : 以下、名... - 2017/01/10 22:56:53.50 8K+FY/sYo 231/257

師範「やれやれ。頭の悪い奴だ。この場にお前がいて、部外者のジジイがここに居る時点で、貴様は何もできていないんだよ」

門番「が……ぁ……」

師範「見張るように伝えたはずなのに、勝手に行動する……。義に反したな」

門番「まってください!! つぎはちゃんと……!!!」

師範「連れて行け」

「こっちだ」

門番「やめてくれぇ!! おれはなにもわるくない!! はなせ!! はなせよぉ!!!」

師範「どうしてこうも馬鹿が多いのか。折角、拾ってやったのに。どいつもこいつも、俺の言うことを聞きやがらない」

師範「師匠と慕うくせに、何一つ俺の思い通りにならない。出来損ないの駒共め

老師「ふむ。おぬしの気持ち、よくわかるぞ」

師範「これはどうも。初めまして、ではありませんね」

老師「山ですれ違ったな」

師範「私はこの道場を経営し、多くの門下生に武術を教えている者です。以後、お見知りおきを」

老師「うむ。ワシは山の頂にて、50年過ごしていた、ただの老いぼれだ。別に覚えなくともよいぞ」

少女「ジジイ……きて……くれたの……」

354 : 以下、名... - 2017/01/10 23:05:45.21 8K+FY/sYo 232/257

師範「して、こんな夜分に何用でしょうか、ご老人」

老師「これでも、ワシは50年武術を磨いてきた。自分なりに何度も試行錯誤し、そして行き付いた道がある」

老師「ワシが築いた50年の武術。ワシだけで終わらせるには惜しいと思い始めたのだ」

師範「ほう。立派な心掛けだ。生まれた技術を後世に伝えようというのですか」

老師「うむ。だからの……」

老師「後継者が欲しいなぁ。どこかに弟子入りしてくれる可愛い女の子はおらんかの」

老師「おぉ。ここにおったわい。強く、優しい娘じゃい」

少女「え……?」

老師「さて、帰るぞ」

少女「う……ぅ……ぅぅ……」

老師「何を泣く」

少女「ばか……じょうきょうを……みろよ……」

老師「絶体絶命。まさに背水の陣。ここで一つでも誤れば、待っておるのは死のみよ」

師範「その子の師匠ですか」

老師「そうだが?」

357 : 以下、名... - 2017/01/10 23:13:20.10 8K+FY/sYo 233/257

師範「取り戻しにきたということですか」

老師「そうなるかの」

師範「フフフ……。もう一人の弟子は元気でしたか? 少し稽古をつけてあげたのですが」

老師「おぬしがやったのか。いやぁ、いい勉強になったじゃろうて。努力や根性だけでは通用しないこともあるとな」

師範「貴方とは気が合いそうですね。根性論は大嫌いですか」

老師「あー、嫌じゃ嫌じゃ。そういう暑苦しいのは大嫌いだわい」

師範「私も、気合とかやる気とか。そういうのは性に合わないのです」

老師「ほっほ。おぬし、話がわかるやつよのぉ」

師範「共感することが多いようですね」

老師「だが、おぬしとは相いれることはないだろうな」

師範「おや、何故でしょうか」

老師「ワシの弟子を泣かせたからだ」

部下「ボス。ここは俺が」

老師「あいや、またれよ。おぬしも一端の武道家であろう。この状況をどう見る」

師範「多勢に無勢。貴方の敗北は目に見えていますねぇ」

359 : 以下、名... - 2017/01/10 23:24:23.34 8K+FY/sYo 234/257

老師「そうだろう、そうだろう。このままではあまりにもワシが可哀想だとは思わんか?」

部下「何をいってやがる、クソジジイ!!」

師範「下がれ」

部下「ボ、ボス……」

師範「私は、弱いものが泣き叫ぶ姿を見ると、とても興奮してしまうのです。どのような快楽にも勝る」

老師「変態か」

師範「多勢に無勢では、相手は簡単に全てを諦めるものです。それでは泣き叫ぶ姿を拝むことができません」

師範「故に、私は仲間と共に一人を相手にはしません。むしろ、私は一人で、相手が複数人のほうが望ましい」

師範「相手が私の強さを目の当たりにし、自分の弱さを悟り、そして、天を仰ぎ、声をあげ、落涙する」

師範「あぁ……。想像しただけで果ててしまいそうだ……」

少女(だから、山でも一人だけでかかってきたのか……こいつ……)

老師「おぬしの趣味は理解できんが、ワシと一騎討ちをしてくれるということか」

師範「ええ。勿論ですよ、ご老人。ただし、私に負けたあとは、部下たちに稽古をつけてあげてください」

老師「よかろう。この老体が持ち堪えるまではな。ワシが勝てば、この弟子は返してもらうぞい」

師範「はい。ご自由にどうぞ」

361 : 以下、名... - 2017/01/10 23:32:12.67 8K+FY/sYo 235/257

師範「というわけです。お前たち、黙ってみておくように」

「「はい!!」」

老師「相手にとって不足がありすぎるが、これで多少の勝機は見えたか」

少女「ジジイ……」

老師「独りを好む武道家で助かったわい。おぬしも見ておけ」

老師「師の戦い方をな」ザッ

少女「は、はいっ」

師範「見たことのない構えだ。隙があるのかないのかも分からない」

老師「おぬしも構えたらど――」

師範「はいっ!!!」バキィッ!!!

老師「ぐっ……!?」

師範「せいっ!!」ドゴォッ!!!!

老師「ごっ……!?」

少女「ジジイ!?」

師範「ん? 50年で築いた武術とはこの程度なのですか」

363 : 以下、名... - 2017/01/10 23:38:36.80 8K+FY/sYo 236/257

老師「なか、なか、やるではないか……。口を切ってしまったわい……。また、口内炎に悩まされるな」

師範「見かけ以上に頑丈ではあるようだ」

老師「だが、ワシに同じ技は通用せんぞ」ザッ

師範「そうでなくては困る」

老師(我が心、明鏡止水。相手の動きを見るのではなく、感じるのだ……)

師範「……」スッ

老師(動いた……!! 右に体をひねれば――)

師範「はっ!!!」ドゴォッ

老師「ぶっ……!?」

師範「ふぅー……。弱すぎる」

老師「お……ぉぉ……」

部下「なんだ、あのジジイ。手も足もでてないぞ」

「ボスー。壊さないでくださいよー」

老師(ここまでの差があるのか……!)

師範「貴方があと30歳ほど若ければ、いい勝負ができたのですかねぇ。フフフ。時間とは残酷なものです」

364 : 以下、名... - 2017/01/10 23:47:26.58 8K+FY/sYo 237/257

老師「まだまだ……。若いもんには負けん」ザッ

師範「これ以上、無理をされては困ります。可愛い私の部下たちにも稽古をつけてもらいたのですから」

老師「ワシと稽古ができる者は、この世で二人しかおらん。残念だが、諦めろ」

師範「負ける気はない、ということですか」

老師「自慢ではないが、ワシは武術においては今まで一敗もしたことがない」

師範「その記念すべき一敗目をここで飾りましょうか」

老師(一撃……! 一撃でいい……!! 奴に掌底を食らわせることができれば……!!)

老師「むぅぅ……」ザッ

師範「ふっ」

老師「キェェェェイ!!!!」

師範「遅すぎる」サッ

老師(見切られた……!?)

師範「でぇい!!!」ドゴッ!!!

老師「ぎっ……!? がぁ……!!」

師範「肩透かしも甚だしい。それでも弟子を持つ身ですか?」

365 : 以下、名... - 2017/01/10 23:53:49.25 8K+FY/sYo 238/257

少女(このままじゃ……ジジイが……!!)

老師「ぐ……おぇ……!!」

師範「汚いもので神聖な道場を穢さないでもらえますかねぇ」

老師「おっ……くっ……。すまんの……歳をとると……上も下も緩くなってしまってな……」

師範「介護が必要ですねぇ」

老師「全くだ……。頼むぞ」

少女「だ、だれが……ジジイの……せわなんか……」

老師「ふふ。そうか。全く、こんな弟子を命がけで守らなくてはいけないとは。ワシは不幸だのう。本当に、不幸だわい」ザッ

師範「やれやれ」

老師「キエエエエエイ!!!」

師範「くたばれ」バキィッ!!!

老師「ずっ……!?」

師範「老いぼれが、よくここまで頑張りましたねぇ」グイッ

老師「な、なにを勝ち誇っておる……ワシは死んでおらんぞ……若造……」

師範「死ななければ負けではないと? そういうことなら、望み通りにしてあげますよ、ご老人」

366 : 以下、名... - 2017/01/11 00:03:31.51 FqLaTQWNo 239/257

―山頂―

ゴォォォ……

青年「……」

青年(俺は……何をしているんだ……?)

青年(何故、師匠の生きた証が燃え尽きるのをただ黙ってみているんだ……?)

青年(師匠は俺のために……あの虎にも勝る化け物に戦いを挑みに行ったんだぞ……)

青年(今頃、師匠は戦っている。師匠であろうとも無事では済まないはずだ)

青年(何から何まで……師匠に頼り……俺は……ここで何を学んだ……?)

青年(何をしてきた……? 手の皮膚が裂けようが、続けてきたことは一体、なんだったんだ?)

青年(俺はここで何をしている……)

青年「くっ……うぅ……」

青年(弱音は吐き尽くした……涙は枯れ果てた……!! ならば、あとは立ち上がるしかない……!!)

青年(何ができるかはわからない……! だが、行かねばならない……!!)

青年「師匠までも……家族までも失うわけにはいかない……!!」

青年「もう、失いたくはないんだ……!! なにも!!」

367 : 以下、名... - 2017/01/11 00:12:56.08 FqLaTQWNo 240/257

―道場―

師範「ふっ」ドゴォッ

老師「ごぇ……!? がぁ……!? おっ……おぇぇ……!」

部下「あーあ、何度目だよ」

「ハッハッハッハ。また吐いてるぜ、あのジジイ」

師範「はぁ……はぁ……。もういいですかねぇ。少し、疲れました」

老師「う……お……ぇ……」

少女(これ以上はダメだ……!! 見てられない……!! けど……)

師範「さて、そろそろガキの稽古に戻りますか」

老師「ま、てぇ……」ガシッ

師範「ジジイ……。汚れた手で、俺の足を掴むな」

老師「ワシは……いきて、おる……まけて……おらん……」

師範「鬱陶しいんだよ!!!!」ドガッ!

老師「ぢっ……!?」

師範「あーあ、大事な服が汚れただろうが。胸糞悪いぜ」

369 : 以下、名... - 2017/01/11 00:19:42.99 FqLaTQWNo 241/257

老師「お……が……」

部下「ありゃ、顎が割れたな」

「ダハハッ。ボスに楯突くからだ」

師範「おい、ガキの――」

老師「おぉぉ……まへぇ……」ガシッ

師範「ジジイ……!!」

老師「まへと……らん……わひは……ま……ら……」ギュゥゥ

師範「負けてるんだよ。何もかも」

老師「ここで……まける、わけには……いかん……! でしのまえで……かっこうのわるい……ことなど……できはしない……!!」ギュゥゥ

「ギャハハハハ!! 這いつくばってなんかいってるぜ、あのジジイ!!」

部下「十分、無様なのに気が付いてないみたいだな」

老師「かつ……どんなてを……つかってでも……おぬしを……たおす……」

師範「離せ」ゲシッ

老師「がっ……!? は、なさん……ぜったいに……はなさん……!! でしが……みておるのだ……!! わしの……かわいいでしがぁ……!!」ギュゥゥゥ

少女「やめろ……もういいって……」

370 : 以下、名... - 2017/01/11 00:25:45.24 FqLaTQWNo 242/257

師範「ちっ。どうしても離さないなら、この腕を砕くしかないか」スッ

少女「やめろ!!!」

師範「ふんっ!!!」ドンッ

ボキィ!!

老師「はぁぁぁ……!!!! がぃぃ……!!!」

少女「ジジイ!! ジジイ!!! くそ!! もう限界だ!!」

師範「ハッハッハッハ。もう掴めは――」

老師「ぐぁ……ぃぃ……!!」ギュゥゥッ

師範「……!」

老師「いきとるぞ……うでのいっぽんぐらいで……しなんぞ……まけんぞ……!!」

師範「しぶといなぁ……このクソジジイ……」

老師「おぬしをたおすとやくそくしたのだ!! まけるわけにはいかん!!!」

師範「ふんっ!!!」バキィッ

老師「うごぉ!?」

師範「……もういい。飽きた。殺してやるよ、ジジイ」

372 : 以下、名... - 2017/01/11 00:31:05.87 FqLaTQWNo 243/257

少女「……っ」カチャンッ

老師「うぅぅ……おぇ……ぇ……」

師範「何か最後の言うことはあるか?」

老師「ワシは……負けん……」

師範「今わの際がそれか。全く、激しくおめでたいジジイだ」スッ

老師「か……つ……ぜっ……た……ぃ……」

師範「死ねっ」

少女「させるかぁぁぁ!!!」ダダダダッ

師範「なに……!?」

部下「あのガキ! 枷をどうやって外しやがった!?」

少女「おりゃぁぁぁ!!!!」ブンッ

師範「ふんっ!」ガシッ

少女「ぐっ……!」

師範「残念だったな。起死回生の不意打ちも君の実力では不発で終わった」

少女「ちくしょう……!! 化け物が……!!」

373 : 以下、名... - 2017/01/11 00:36:39.51 FqLaTQWNo 244/257

青年「はぁぁぁぁ!!!」ダダッ

部下「なんだ!?」

師範「お前は……!」

青年「せぇぇぇい!!!!」ブンッ

師範「驚いたぞ。こんなにも早く復活するとはな」ガシッ

青年「バカな……!! 完璧に意表をついたはず……!!!」

師範「これは山頂での焼き直しか? フフフフ……。ハーッハッハッハッハ!!」

老師「――そこに、ワシはおったかの」

師範「……!」

老師「キエエエエエエイ!!!!!」

師範(まだこんなに動けたのか――)

老師「ぬんっ!!!」ドォォォン!!!

師範「ぎゃ……!?」

老師「はぁ……はぁ……はぁ……」

師範「フフフ……。今のは効いたぞ……老いぼれぇ……」

374 : 以下、名... - 2017/01/11 00:45:15.84 FqLaTQWNo 245/257

老師「渾身の掌底を食らってもまだ、動くか」

師範「所詮は老いぼれの掌打……。たいした……傷には……」

師範「ごふっ……!? ごっ……オェェェ……!!」

部下「ボス!?」

師範(なんだ……なんだこれ……!? 体の中身が全部……でてきそう……だ……!!)

少女「半人前未満二人と、達人一人なら、届いたみたいだね。お前の足下にさ」

師範「ぐっ……オェェェ……!! おっ……? あぁ……? ぐっ……?」

青年「師匠のそれは岩をも砕く。割るのではなく、砕くのだ。その意味をよく考えろ」

師範「グェ……ぇぇぇ……!!」

老師「やはり、人を死に至らしめる技となっていたか。使いたくなかった。使おうとも思わなんだ。だが、獣に対しては別じゃい」

師範「う……ぎ……ぅ……!!」

部下「てめえら!! よくも!!!」

青年「やるのか」

少女「別に良いけど、あんたらもこいつみたいになるぜ?」

老師「こちらは満身創痍。勝つ見込みはいくらでもある。かかってこい」

375 : 以下、名... - 2017/01/11 00:49:56.62 FqLaTQWNo 246/257

部下「クソジジイ……!!」

「殺してやる!!」

老師「喝っ!!!!」

部下「ひっ……!?」

老師「御託はいい!! かかってこい!! ムシケラども!!!」

「ひぃぃ!!」ダダダッ

「うわぁぁぁ!!」ダダダッ

部下「お、おい!! あいては瀕死なんだぞ!! こっちが数で攻めれば……!!」

青年「勝てるかもしれないな」

少女「まぁ、あんたらも無事には済まさないけどな」

部下「くっ……!?」

老師「どうした。こんのか」

部下「く……くそ……!!」ダダダッ

青年「逃げたか……」

少女「結局、ボスがいなきゃなにもできないんじゃん。ダッサー」

376 : 以下、名... - 2017/01/11 00:54:18.24 FqLaTQWNo 247/257

師範「お……ぶぅ……!?」

老師「苦しいか」

師範「ぐ……ぉ……!!」

老師「そのまま苦しめ。そして、死ぬが良い」

師範「ぎ……ぁ……!!」

老師「ゆくぞ」

青年「師匠、腕は……」

老師「なに。左腕は無事だ」

少女「そういう問題じゃねえだろ」

老師「そうだ。医者を連れてきてはくれぬか」

青年「は、はい! すぐに!!」

少女「無理すんな。ホントに死ぬから」

老師「もう死んでもええわい。あとは任せた」

少女「冗談でもそんなこと言うな!!」

老師「ひぃ……どこまで老体に鞭を打つつもりじゃい……」

377 : 以下、名... - 2017/01/11 00:57:41.26 FqLaTQWNo 248/257

青年「こっちです!!」

医者「は、はい!!」

老師「来たか」

医者「な、なんですか!? その傷は!?」

老師「ワシよりも死にかけのやつがこの中におる。看てやってくれ」

医者「え?」

師範「お……ぉ……おっ……」

医者「あぁ!! 大変だぁ!!」

青年「師匠……」

老師「ワシの拳は殺人拳に非ず」

青年「……」

老師「嫌なら、今すぐトドメをさしてこい」

青年「……俺は、師匠の弟子でいたいです。これからもずっと」

老師「はぁー、ほんっとにバカ弟子だのぉ」

少女「ジジイも相当バカだけどな」

379 : 以下、名... - 2017/01/11 01:02:25.70 FqLaTQWNo 249/257

老師「手癖の悪い小娘には言われたくないの」

少女「この鍵のこと? 気づいてたの?」

老師「スリの技術は鈍っておらんかったのか」

少女「三年もこれで生きてきたんだから、そう簡単に忘れられないって」

老師「困った弟子だの。はぁー、これからどうするか。帰る家もないしな」

青年「すみません、師匠。貴方が生きた証は全て灰になってしまいました。俺の責任です」

老師「はぁ? なんだって? 最近、耳が遠くてな」

青年「ですから、師匠の歴史ともいえる場所は……燃えて……」

老師「安心せい。ちゃんと、残ったわい」

青年「は?」

老師「ここにな」

少女「どこだよ」

青年「あの、見当たりませんが」

老師「ほっほ」

少女「笑ってんじゃねえよ。気持ち悪いなぁ」

380 : 以下、名... - 2017/01/11 01:07:54.14 FqLaTQWNo 250/257

老師「んぎぃ!!!」ビクッ

青年「師匠!?」

少女「急になんだよ!?」

老師「おほほほほ……!! いぎぃぃ……!! ひぃぃぃ……!!」

青年「師匠! お気を確かに!!」

老師「いだい!! いたいいたい!! なんか、全身がいたくなってきたぁ!!」ジタバタ

少女「えぇぇ!? 今更!?」

老師「ダメじゃ!! しぬぅ!! ワシ、しんじゃうぅ!!!

少女「お、おい! しっかりしろ!!」

青年「師匠も極限状態だったんだろう。故に、今になって本来の痛みが全身に巡り始めたんだ」

少女「冷静に分析してんじゃねーよ!!」

老師「いたぁぁい!! ぎゃぁっぁぁぁ!!!!」

少女「大丈夫だから!! 医者もすぐそばにいるから!!」

青年「先生!! こちらもすぐに診てください!! 重傷です!!!」

老師「おわきゃぁぁ!!! ふぎゃぁぁ!!! しにたくなぁぁい!!!」

382 : 以下、名... - 2017/01/11 01:16:19.97 FqLaTQWNo 251/257

―数ヶ月後 麓の村―

女拳士「今日も師範きてくれなかったね」

「うん。合宿所の話ってどうなったの?」

女拳士「わかんないよ」

「師範、重い病に倒れたとか噂あるよね」

女拳士「やめてってばぁ」


少女「結局、あいつは逃げたのか」

青年「みたいだね」

少女「良かったのか。親の仇、まだ生きてるぞ」

青年「けど、もう武道家としては生きてはいけないはずだ。師匠の一撃は、やつを殺したんだ。間違いなく」

少女「そっか。お前がそういうならそれでいいけどな」

青年「さて、買い物を済ませて帰ろう」

少女「なぁ、服かってもいいかな?」

青年「良いと思うよ」

少女「やったー」

383 : 以下、名... - 2017/01/11 01:21:49.51 FqLaTQWNo 252/257

―山頂―

少女「戻ったぜ、ジジイ」

青年「今、戻りました。師匠」

老師「……」

少女「おい。聞こえてないのか」

老師「遅いわ。バカ弟子ども」

青年「申し訳ありません。これでも急いだのですが」

老師「ワシは今、右腕がうごかんのだが!! だれのせいかのぉ!!」

少女「いつまでその話を引っ張るつもりなんだ?」

老師「いたたたた!! いたぁ! あぁ、こりゃ、いかん! 右腕はもうつかいものにならんわい!!」

老師「これでは修行もろくにできんぞい! あぁー、こまったなぁ! こまったなぁ!!」

老師「右腕が使えぬと言うことは箸すらももてんということだなぁ!! ひぇぇぇ!!」

少女「……」

青年「もう諦めるしかないよ」

少女「そうだな。努力じゃどうにもならないこともあるしな」

384 : 以下、名... - 2017/01/11 01:27:42.44 FqLaTQWNo 253/257

少女「はい、あーん」

老師「あーっ。はむっ。うむ、普通」

少女「ぶっ殺してやろうか」

青年「落ち着いて」

老師(ほっほ。いやぁ、この右腕があれば、素直に言うことをきくのぉ。最大限利用させてもらうぞい)

少女「マジむかつくぜ」

青年「それより、渡さなくてもいいのかい」

少女「あぁ?」

青年「自分のために買った服ではないんだろう」

少女「……」

老師「なんじゃい?」

少女「これ、買ってきた」

老師「ん? なんだ、この服」

少女「お礼、してなかったからな。あたしの服、買ってきてくれてありがとう」

老師「おぉ! そういえばそんなものも買ったのぉ。でも、おぬし、一度も着た事ないよな? なんで?」

385 : 以下、名... - 2017/01/11 01:34:13.72 FqLaTQWNo 254/257

少女「ジジイの悪趣味な服なんて、着れるわけないだろ」

老師「この服も、十分悪趣味だがなのぉ」

少女「文句言うなよ!!! あーもー!!!」ダダダダッ

少女「でりゃぁぁぁぁ!!!!!」

ドォォォォン!!!!

老師「簡単に岩を割るようになりおって。天才って嫌だわぁ」

青年「師匠の買った服を着ないのは、大事にしたいかららしいです」

老師「なにをいうか。あの服は動きやすいんだぞぉ」

青年「宝物にすると、前に言っていました」

老師「ふん。少しは可愛げがでてきたかの」

青年「けど、このまま順調に成長したら、すぐに着れなくなるでしょうけどね」

老師「そのときはまた、新しい服を用意せんといかんかの」

青年「……あの男はまだ生きているようです」

老師「病院から抜け出したと聞いたわい。行くのか」

青年「その考えもありましたが。けれど、もう終わったことです。師匠が俺の仇をとってくれましたから」

386 : 以下、名... - 2017/01/11 01:43:46.82 FqLaTQWNo 255/257

老師「おぬしの仇をうったとは言えんだろうて」

青年「いえ。十分です。俺の復讐は終わりましたよ」

老師「清々しい顔になってきたな」

青年「これからもよろしくお願いします、師匠」

老師「ぺっ。さっさと独り立ちしろ。面倒みきれんわい」

青年「死ぬまでついて行くつもりです」

老師「やめてぇ、ワシ、惨めになっちゃう」

少女「ジジイ!! 特訓するぞ!!」

老師「右腕動かんから、無理」

少女「本当はもう治ってるだろ!! それぐらい知ってるぞ!!」グイッ

老師「いたたたた!!! いたぁい!! いたいわぁ!!」

少女「うぅ……」

老師(隙アリ!!)

老師「キエエエエエイ!!!!」

少女「ふんっ!!!」バキッ!!!

387 : 以下、名... - 2017/01/11 01:54:33.85 FqLaTQWNo 256/257

老師「ぐっほ!?」

少女「元気だよな。ホント」

青年「師匠。彼女に騙し討ちは通用しなくなったようです」

老師「ふふ、面白い。我が弟子よ。ならば!! 目を隠し、両手両足を縄で縛って、正々堂々かかってこい!!!」

少女「そこまでしないとあたしに勝てないのかよ」

老師「弟子にはまだまだ負けるつもりはなぁぁい!! さぁ、早く目隠しをしろ!! 話はそれからだ!!」

少女「サイテーすぎるぞ」

青年「後継者に対してはそれぐらい不利な状況でも勝って欲しいという師匠の望みなんだろう」

少女「単に負けず嫌いなだけだろ」

老師「あー! 右腕がいたい!! でも、弟子が自分の両手足縛ってくれたら治るかもしれんのー!!」

少女「真面目にやれよぉ!!!」ブンッ

老師「殺人脚やめてぇ!!」

青年(俺も彼女に負けてはいられないな。強くなり、師匠に恩返しをしなくては。後継者の座は渡さないぞ)

少女(ったく、あたしの師匠は世話がやけるなぁ。あのときは本当にかっこよかったのに。ま、いいけどな。今の師匠も嫌いじゃないし)

老師(くっそぉ!! こやつらにどう罪悪感を抱かせてやろうか……!! 罪悪感さえ抱けせてしまえば拳も鈍るはず……!! フハハハハ!! 覚悟しろ、弟子たち!! ワシを越えるのは至難ぞ!! フハハハハ!!!)

388 : 以下、名... - 2017/01/11 02:02:00.20 FqLaTQWNo 257/257

老師「キエエエエエエ!!!!」

少女「おりゃぁ!!」ドガァッ

老師「うごぉ!?」

少女「よぉーし、あたしの勝ちだな」

老師「まだだ。自惚れるな、小娘ぇ。ワシは本気をだしておらんぞ」

少女「ホンキだったろ」

老師「もう一回だ!! 今のは準備運動じゃい!!!」

少女「ざっけんな!!!」

青年「師匠、大人げないですよ」

老師「師より優れた弟子なんて存在してはいかんのだ!!」

少女「はぁー。もう疲れたぜ。師匠、そろそろ夕食にしましょうか」

青年「特訓はまた明日ということで」

老師「むぅ……。そうだのぉ。そうするか」

老師「では、本日はここまでとする」

青年少女「「ありがとうございました!」」



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