1 : 以下、名... - 2017/01/04 23:48:56.72 GmU+Uba/0 1/26




ふとした時に思う。




ある時は夕飯の前。


撫子「櫻子ー、ご飯できてるよ」

櫻子「あ、待って! 今行く!」


どたどたとせわしなく階段を降りてきたかと思うと、私のすぐ横を櫻子は走り抜けていく。


ふわっ


撫子「!」


私の目の前でたなびいた櫻子のくせっ毛は、通り過ぎた場所にシャンプーの甘い香りを微かに残す。


……あんなに背、高かったっけ。


撫子「家の中を走るな!」


戸惑いを取り繕うように大声を出した。


元スレ
撫子「ふとした時に、気づくこと」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1483541336/

2 : 以下、名... - 2017/01/04 23:49:37.37 GmU+Uba/0 2/26

ある時は勉強中。


がちゃ


櫻子「なっ、ねーちゃん何してんの!?」

撫子「櫻子が宿題サボってないか監視しに来ただけだよ」

櫻子「監視されなくてもちゃんとやってるっての!」

撫子「へえ……どれどれ……?」ぺらっ

櫻子「わっ、見るなー!!」じたばた


撫子「……」

櫻子「……ねーちゃん?」

撫子「……あ、いや、まだ全然終わってないけど、一応はやってるんだね」

櫻子「だから言ったじゃん! 早く返せ!」ばっ


少し前まで掛け算の六の段も覚えられなかった子が、連立方程式に頭を悩ませていた。

3 : 以下、名... - 2017/01/04 23:50:18.40 GmU+Uba/0 3/26

ある時は風呂上がり。


櫻子「ふ〜、さっぱりした〜」


櫻子「……ってあれ、ねーちゃん何飲んでんの?」

撫子「コーヒー」

櫻子「あっ、ずるい! 私も飲む!」とてとて


撫子「……あれ? あんたコーヒーなんて飲めたっけ?」

櫻子「失礼な! 私だって飲めるよ」

撫子「だって櫻子、前まで苦いの無理って……」

櫻子「えー、そうだったっけー?」


曖昧な返事を返しつつ、台所から自分のカップや道具を取り出そうとする櫻子の後ろ姿は、少し大人びて見えた。


櫻子「あっ、お菓子みっけ♪」


「食べちゃだめだよ」「えー」という言葉をやり取りをしてる間も、私はずっと上の空だった。




成長してるのは、私も花子も変わらない。 なのに、櫻子が変わるとその度に気になってしまう。


なぜだろう。

4 : 以下、名... - 2017/01/04 23:51:00.59 GmU+Uba/0 4/26

ある日のこと。


撫子「あれ、これって……」


今年も終わりが近づき、家の大掃除をしていた私は、物置きの奥から古いアルバムを発見した。

外観だけ見れば、それなりの値段が付きそうな見た目をしているが、ほこりまみれになった姿だとさすがにそれも見劣りしてしまう。


ぺら……


撫子「うわ、懐かしい」


中身を見た私は、思わず声を上げてしまった。

アルバムの一つ一つのページには、私、櫻子、花子を写した写真が、所狭しと並べられていた。一番最近のものでも三、四年前。古いものだと櫻子が生まれる前のものまである。


撫子(あ、これって……そうそう、あったあった)

撫子(最後にスキーに行ったのっていつだったっけ……多分小学生の頃だよね、懐かしいなあ)

撫子(うわ、中学校の卒業式の写真、私ぼろ泣きしちゃってるし……櫻子より先に見つけといて良かった)

撫子(わあ……生まれてすぐの花子、かわいい……)


ページをめくる度に現れる、さまざまな時間、さまざまな場所の写真。それらを見る度に、あんなことがあったな、こんなこともあったな……と、古い記憶を掘り返して、一人追想し、一人切ない感情に浸っていくのだった。

5 : 以下、名... - 2017/01/04 23:51:36.02 GmU+Uba/0 5/26

撫子「……」ぺらっ


私は段々と……ほぼ無意識に……今よりもずっと幼い、私と櫻子の写真ばかりを眺めるようになっていた。

どのページのどの写真でも、櫻子は屈託のない、無邪気な笑顔をカメラに向けていた。そして、幼い私は大抵、すぐ隣で笑顔を返すか、少し離れた場所から見守っていたりしていた。


撫子(このころの櫻子は、まだ可愛げがあったなあ……)


過去を思い出しながら、そんなことを思ったりする。


昔の櫻子がどんな子だったかと聞かれれば……やはり「元気」を体現したような子だったと思う。家の中でも、近所で他の子と遊ぶ時も、いつも誰よりもはしゃいでいた。人を気遣うこともできたし、誰とでも仲良くできる子でもあった。

少なくとも、今のように生意気ではなかったし、わがままでもないし、バカでもないし――

6 : 以下、名... - 2017/01/04 23:52:11.93 GmU+Uba/0 6/26

あれ?




櫻子って……


いつの間に、知らない間に、こんなに変わってたんだ。


櫻子が変わったということ。

そして、私がそれに気づけなかったということ。

否定しようのない事実が、私の全身を押し潰すかのような感覚を走らせた。


ずっと近くにいたはずなのに。

ずっと一緒に過ごしてきたのに。


なんで気づかなかったんだろう。


いつから?

いつ変わったんだっけ?

分からない。思いあたる節もない。


…………なんで………

7 : 以下、名... - 2017/01/04 23:52:49.48 GmU+Uba/0 7/26

櫻子「何見てんのー?」

撫子「うわっ!!」びくっ


アルバムに気を取られていた私は、背後から近づいて来る櫻子の存在に気がつかず、情けない声を出してしまった。


櫻子「……びっくりしたー」

撫子「それはこっちのセリフだよ」

櫻子「そんなに驚くことないでしょ!」


櫻子の言うことももっともだが、認めるのも何だか腹立たしく、私は適当にやり過ごす。


櫻子「……あっ、これってアルバム?」

撫子「ああ……そうだよ」

櫻子「へえー……うわっ、懐かしー!」


私よりもあからさまなリアクションを見せる櫻子を、私はざわつく胸を誤魔化すように見つめていた。

8 : 以下、名... - 2017/01/04 23:53:30.42 GmU+Uba/0 8/26

「……撫子、もしかして何かあったの?」

撫子「え……?」

「勘違いだったらごめんね。なんか、いつもより声が元気なさそうだったから」


毎日夜にひっそりと行われる、彼女と二人きりの通話。電話越しに聞こえる彼女の声は、少し心配しているように思えた。

彼女にいきなり意表をつかれて、胸がどきりとする。それなりに長い付き合いなだけあって、何か異変があるとすぐに気づかれてしまう。


撫子「……ううん、勘違いじゃないよ。ちょっと、寂しくなっちゃってさ」

「寂しい……?」

撫子「ん……櫻子のことでね」

「喧嘩でもしたの?」

撫子「いや……なんて言ったらいいのかな……」

9 : 以下、名... - 2017/01/04 23:54:33.52 GmU+Uba/0 9/26

私は一言一言、頭の中を整理整頓するように話し始めた。


撫子「前までちっちゃな子だと思ってたのに、いつの間にか大きくなっていて……」


「……うん…………うん」


彼女は一つ一つ、私の言葉を丁寧に掬いとるように聞いてくれた。

心の中にたまっていたたくさんの思いを、声という形にして変換して……気がつけば、かなり長い時間話し込んでしまった。


撫子「……あ、ごめん。つい話しすぎちゃった」

「別にいいよ。撫子がこんなに長く話してるの、珍しいし」


ふふっ、という笑い声。

部屋の中はとても静かで、一階のテレビから微かに伝わる音以外に、何も聞こえて来ない。たとえ電話越しでも、彼女の息遣いとか、声とか……否応なしによく聞こえてくる。

10 : 以下、名... - 2017/01/04 23:55:30.54 GmU+Uba/0 10/26

「撫子は、櫻子ちゃんのことが本当に好きなんだね」

撫子「っ……///」


私は思わず言葉を詰まらせる。

嘘ではない……のに、他人が言葉にして言うと、それが既成の事実であっても、すごく恥ずかしい気分になってしまうのはなぜなのか。


撫子「そりゃもちろん、姉妹だし……大切だよ。花子も、櫻子も」

「そういう意味で言ったわけじゃないんだけどなー」

撫子「えっ、え……それって……え?///」

「くすっ……」


学校だと私が彼女を弄る側なのに、電話となると、いつも彼女のペースに持っていかれてしまう。そういうギャップも、彼女にとっては私の魅力の一つらしいけど。

11 : 以下、名... - 2017/01/04 23:56:21.33 GmU+Uba/0 11/26

撫子「……意地悪」

「あ、もしかして拗ねちゃった?」

撫子「拗ねてない」


一人で空回り。櫻子相手にこんなに変な気持ちになっている自分が、いまだに信じられなかった。


「……私はさ、一人っ子だから、撫子の気持ちとか、よく分からないんだけど」


一息ついて、彼女は言った。


「撫子、櫻子ちゃんのこと、子供だと思ってるでしょ」

撫子「え……だって、現に子供だし……」

「年齢的な話じゃなくて。精神的な話」


彼女が何を伝えようとしているのか、いまいち理解ができなかった。


「……櫻子ちゃんもさ、いつまでも子供じゃないんだよ」

撫子「……!」どきっ

「これから高校に行って、大学に行って、就職して、家を出て……どこかの誰かと結婚するんだよ」

「自立して、一人で生きていけるようになっていくってこと、忘れてない?」

12 : 以下、名... - 2017/01/04 23:57:22.24 GmU+Uba/0 12/26

撫子「……」


何も言い返せなかった。

よくよく考えれば、至極当たり前のことなのに、私はその事実からずっと目を逸らし続けていたのかもしれない。


「それと撫子、一つ勘違いしてる」

撫子「え……?」

「人ってのはね、いつの間に変わるものじゃない」


「急に変わるものよ」


撫子「急に……」


「そう。特に櫻子ちゃんみたいな、小学生から中学生の間はね、その人を変えるきっかけになる出来事が、よくある時期よ」

「撫子なら、何か思いあたる節があるんじゃない?」


彼女に投げかけられた問いに、私ははっきりと答えることはできなかった。

けれど、櫻子を変えたものが何なのか、全く分からないわけではない。

それはきっと、隣の家に住む、幼馴染が原因だ。

13 : 以下、名... - 2017/01/04 23:58:02.26 GmU+Uba/0 13/26

「……撫子?」

撫子「……あ、ああごめん。ちょっと考え事してた」


眠くなって思考が散漫になっていた頭を、ふるふると左右に振る。

時計の針を見ると、既に通話が始まってから三十分が経過していた。


撫子「私たち、結構長く話しちゃったみたいだね」

「あ、ほんとだ。もうこんな時間」

撫子「明日は学校だし……今日はこのくらいにしとこうか」

「……ええ、そうね」

撫子「……話聞いてくれて、ありがとう」

「ふふ、お役に立てて何より」

撫子「おやすみ」

「おやすみなさい」


通話終了ボタンを押すと、携帯は見慣れたホーム画面を映し出す。何十秒かの間だけ、ベッドに腰掛けつつ、通話の余韻に浸る。

朝のアラームの設定を確認した後、画面を真っ暗にした。今日はもうさっさと布団にもぐって、深い眠りについてしまいたかった。

14 : 以下、名... - 2017/01/04 23:58:36.32 GmU+Uba/0 14/26

こんこん




撫子「………………ん…………?」


掛け布団を顔のすぐ前まで持ってきて、目を閉じた私の耳に、ドアを軽くノックする音が届いた。


がちゃ


櫻子「ねーちゃん、起きてる?」


撫子「……んー……櫻子…何………?」


こんな夜遅くに櫻子が私の部屋に来るなんて、とても珍しいことだった。

私は小さな声で、彼女の問いかけに応じた。


櫻子「……一緒に寝てもいい?」

15 : 以下、名... - 2017/01/04 23:59:40.39 GmU+Uba/0 15/26

もぞもぞ


撫子「……ん」


私はベッドの右端に寄り、左側に空きを作った。


櫻子「おじゃましまーす……」


櫻子は小声でそう言うと、私が空けたスペースに寝っ転がり、同じ掛け布団の中へと体を潜らせていった。


櫻子「へへ……あったかい……」


既に私の体温で温まった布団の感触に、櫻子は満足しているようだった。

そして、当の私はというと……あんな会話を交わした後ということもあって、目を合わせるのも気恥ずかしいという有り様だった。


撫子「……なんでいきなり一緒に寝ようだなんて思ったの?」


櫻子のいる向きとは反対方向を向いたまま、私は聞いた。


櫻子「あー……ほら、さっき、ねーちゃんが見つけたアルバム。あれ見ててさ、昔はこうして二人で寝てたよなーって思い出して……」

櫻子「たまには、こうやって一緒に寝るのもいいかなーって……///」


少し照れ気味なのか、たどたどしく紡がれる櫻子の言葉が、私の心にずきり、ずきりと刺さる。

16 : 以下、名... - 2017/01/05 00:00:25.18 GoTmYfNv0 16/26

櫻子「ふあぁ……眠……」


こすっ……


撫子(え、ちょ……!)


櫻子の足が、私の足と触れ合い、もつれ合って……もともと温まっていた布団の中の温度が、さらに上がったような気がした。

それに加え、櫻子は自分の顔をつんつんと私の背中に当ててくるもんだから……私の顔は、みるみる赤くなっていった。


撫子(こ、この状態で寝るの……///)


先程までの眠気はどこへやら。今は心臓のドキドキ音がやたらうるさくて、とても眠れそうになかった。

17 : 以下、名... - 2017/01/05 00:01:21.87 GoTmYfNv0 17/26

櫻子「……」


櫻子が掛け布団の中に潜り込んでから、三十分近くが経っただろうか。

もぞもぞと動いていた櫻子もようやくおとなしくなり、私もやっと一息ついた。


撫子(ふー……早く私も寝ないと……)

そう思いつつ、私はくるり、と身体の向きを変え、櫻子の方に向き直した。

これが間違いだった。


撫子(……!!)


身体の向きを変えた瞬間、私の目に飛び込んで来たのは……ぐっすりと眠る、櫻子の寝顔だった。


櫻子「すう…………すう…………」


単刀直入に言えば、私はこの顔に見とれてしまった。

起きている時には絶対見られない、穢れを全く知らないかのような、あどけない幼顔。それは櫻子が言っていた、一緒に寝ていた頃に見た櫻子の寝顔と、何一つ変わらない表情だった。

18 : 以下、名... - 2017/01/05 00:01:57.98 GoTmYfNv0 18/26

櫻子「……ん…………ぅ……」


どきどき、どきどき。

今なら、バレない……かな。


私はそっと、櫻子の頭の後ろに手を回す。そして、彼女が起きてしまわないよう、さらさらとした髪の毛をゆっくりと撫でてやった。


撫子「…………」


ああ……思い出した。

昔、眠れない櫻子のために、こうやって頭をなでなでしていたっけ。


櫻子「んぅ〜………」

撫子(おっと……)ぱっ


櫻子の唸り声に驚き、私は慌てて手を離す。

もぞもぞと体を動かしたものの、起きることはなかった。


櫻子「すう…………すう…………」


静寂な部屋の中に、一定の間隔で繰り返される呼吸音が再び響き渡る。

19 : 以下、名... - 2017/01/05 00:02:58.82 GoTmYfNv0 19/26

撫子「…………」


以前見た顔と同じ顔が見られて嬉しい。

嬉しいはずなのに。

どうして、心はこんなにもずきずきと痛むのだろう。

どうして、胸がきゅっとなるのだろう。


『人ってのはね、いつの間に変わるものじゃない』

『急に変わるものよ』


彼女の言った言葉を思い出す。

彼女の話した内容が本当だと仮定すると……櫻子はこれから、またどんどん変わっていくのだろうか。

……いや、そもそも彼女の言う「変化」が既に訪れているとも限らない。

櫻子の寝顔のように、私と櫻子をリンクさせるものは、これから一つ一つ、消えていくのかもしれない。

20 : 以下、名... - 2017/01/05 00:03:41.42 GoTmYfNv0 20/26

櫻子の成長が気になってしまう理由。

それはきっと、櫻子の性格にあるのだろう。

花子の場合、物心ついた頃には既にしっかり者で、周りに迷惑をかけることもほとんど無く、姉からすれば手間がかからなくてありがたい妹だった。

それに引き換え櫻子は……宿題はやらないわ、夕飯の当番は忘れるわ、私や花子の食べ物を勝手に食べるわ……ほとんど毎日、何かやらかすような子で、私どころか、妹の花子にさえ手間をかけさせる始末だった。


だからこそ……彼女の成長は、人一倍目立ってしまうのかもしれない。


撫子「……櫻子………………」


頭の中では、アルバムに貼られていた何枚もの写真が浮かび上がり、櫻子との思い出が蘇っていく。

21 : 以下、名... - 2017/01/05 00:05:33.70 GoTmYfNv0 21/26

自分に妹ができると知って、嬉しくてはしゃぎまわったこと。


妹ができたら何してあげよう、どんなことをしようと毎日考えていたこと。


病院で櫻子を初めて見た時のこと。


食事を食べさせたり、おもちゃを使って一緒に遊んだこと。


寝る前に絵本を読んだこと。


櫻子が道端で転んで泣いてしまい、私が必死になって宥めたこと。


私が小学生になると、二人でよく外の公園に遊びに行ったこと。


櫻子が友達をつくって、時々家に連れてくるようになったこと。


雨なのに傘を忘れてしまった時、櫻子が学校まで届けに来てくれたこと。


櫻子が友達と大喧嘩をして、一緒に謝りに行ったこと。


花子が生まれると知って、櫻子と二人で喜んだこと。


二人で掃除や洗濯を手分けして手伝ったこと。


一年間だけ、同じ小学校に通ったこと。


卒業式の日、私以上に櫻子がぼろ泣きして、ひま子もそれにつられて泣いてしまったこと。


春はお花見に、夏はお祭りに、秋は紅葉狩りに、冬はスキーに行ったこと。


一緒に笑って、一緒に泣いて、




一緒に過ごしてきたこと。

22 : 以下、名... - 2017/01/05 00:06:20.23 GoTmYfNv0 22/26

「…………………」


嫌だ。


櫻子「……んぁ………」


「………っ…………ぅっ……」


嫌だよ。


櫻子「……ねー……ちゃん……?」


お願い、離れないで。


撫子「……ふ………ううっ………っ……」


どこにも行かないで。


櫻子「……なんで………泣いてるの……?」


撫子「っ……さくらこ……さくらこ………」


私は愛しい妹の名前を呼ぶ。


何度も何度も、

ただただ求めるように、

寂しいよ、と伝えるかのように。


櫻子「ねーちゃん……大丈夫?………私はここにいるよ……」

撫子「ひっ……ぅ……うぅ……///」


櫻子に背中をさすさすされながら、私は声を押し殺して泣いた。

嬉しさやら悲しさやらで、感情はぐちゃぐちゃに混ざっていた。

23 : 以下、名... - 2017/01/05 00:07:03.04 GoTmYfNv0 23/26

櫻子「落ち着いた?」

撫子「ん……ありがと……///」


しばらくして、私は目尻に溜まった涙を指で拭いながら言った。

目の前にいる櫻子は、いつになく優しい顔をこちらに向けていた。


櫻子「……どうして、泣いてたの?」


櫻子は心配そうにしていた。普段めったに泣くことのない私がすぐ隣で泣いていたのだし、心配するのも無理はない。


撫子「ん、んーん……なんでもないよ……」

櫻子「ねーちゃん!」


櫻子は声量を上げて言った。


櫻子「なんでもなくない……だってねーちゃん、『さくらこ』って何度も何度も言って泣いてたじゃん!」


怒っているようで、少し悲しそうな声を、櫻子は漏らした。


櫻子「私のせいで泣いてるの? そうだったらあやまるから……」

撫子「ち、違う……櫻子は悪くない……から……」

櫻子「じゃあ……何?」


せっかく落ち着いたのに、私はまた泣きそうになってしまう。

それをなんとか堪えつつ、私は声を絞り出した。


撫子「…………怖くて……」

24 : 以下、名... - 2017/01/05 00:07:44.45 GoTmYfNv0 24/26

櫻子「……え」


撫子「櫻子が……これからどんどん大きくなって……変わっていって……離れていくんだなって……」

撫子「そう思ってたら……なんか寂しくて、怖くなっちゃって……」



櫻子「ばかっ!」


突然の大声にビクッとし、櫻子の方に目をやると、目を背けたくなるくらい真っすぐな視線が、私の心を捕らえた。


櫻子「何言ってんの……私がねーちゃんの前からいなくなるわけないじゃん!」

櫻子「大人になっても、何歳になっても、私はずっと私だもん! 変わるわけないじゃん!」



櫻子「私だって……私だって、ねーちゃんが大好きだもんっ!!///」


撫子「櫻子……」


ぎゅっ


櫻子「ぅ………うう~っ……」


櫻子は痛くなるくらい、私をぎゅっと抱きしめる。

そして、私の全然ない胸に顔を埋め、自分がむせび泣いているのを必死に隠そうとしていた。


撫子「ごめん……ごめんね、櫻子……」

櫻子「……うぅ………ばか…………ねーちゃんのばか……」


妹を泣かせちゃうなんて……私ったら何やってるんだか。

25 : 以下、名... - 2017/01/05 00:08:20.45 GoTmYfNv0 25/26

櫻子「……すー………………」


泣き疲れてしまったのだろう。櫻子は顔を埋めているうちにすやすやと眠ってしまった。


胸元でいびきをかく櫻子を、私はそっと腕で包み込む。

こうしていると、私と櫻子が一つになったようで、心がぽかぽかと温まるのを感じた。


撫子(……ありがとう、櫻子)


櫻子はたくさんのことに気づかせてくれた。


全ての思い出は、ばらばらに存在する点ではなく、一本の直線の上に、点々と位置しているものだということ。

たとえ二人が成長しても、いつどこにいたとしても、私と櫻子の姉妹の関係は、ずっと変わらないということ。

大きくなったからといって、それが離れることには繋がらないこと。


櫻子も私も、お互いが大好きだということ。




私は櫻子の頭の上に手を置いた。


夜遅くに起こしちゃってごめんね。

せめて朝が来るまで、幸せな夢が見られますように。


櫻子「……むにゃ」


私もそっと目を閉じる。

心と体で、温かさを感じながら。




おやすみなさい。

26 : 以下、名... - 2017/01/05 00:09:23.61 GoTmYfNv0 26/26

おわりです。

ありがとうございました。




オチが弱くてすみません。

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