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食蜂「本っ当に退屈ね、この街は」【1】

95 : SS寄稿... - 2011/12/25 23:54:19.34 c1MFS++20 94/490

4月13日 6:00 病院前

冥土帰し「それじゃあ、頼んだよ」

冥土帰しはそれだけ言って、学園都市の協力機関の車に乗った。
車は猛スピードで走りだし、5秒もしないうちに上条達の視界から消えて行った。
代わりにあるのは、もぬけの殻になった病院と、協力機関が持ってきた食糧と武器、服ぐらいである。

御坂「助っ人は……?てっきりここで合流するのかと思ったけど」

上条「確かに……ひょっとしたら、あとから来るのかもな」

垣根「なんだそりゃ」

一方通行「まァどうでも良いじゃねェか。4人で世界救うぐらいの覚悟でいかねェと。
     ただ、これからどう動くのかが問題だな」

食蜂と能力者達が地下に籠っているのは分かっている(TVの演説で)のだが、どうも簡単に踏み込んでいいのか迷う。
とりあえず雲川の指示に従い土御門を取り戻すため、垣根が『未元物質』を使いこなして眼球を千里眼にして
土御門の位置を看破したが、曰く食蜂のすぐ近くに居るらしく、参謀的ポジションらしい。
要するに、土御門をいきなり取り戻すことは難しいということだ。

垣根「やっぱいきなり食蜂倒せばよくね?能力者解放しながらは回りくどいだろ」

一方通行「だから、そう簡単にいくわけねェだろォが。周りから崩して行った方が確実なンだよ」

垣根「じゃあどうすんだよ。さっきも言った通り、能力者達は地下に籠りっぱなしだ。
   俺達が動かないと、事態は動かねぇぞ」

御坂「まあまあ落ち着いて2人とも」

上条(こんな調子で大丈夫か?不安になってきたぜ)

96 : SS寄稿... - 2011/12/25 23:58:51.70 c1MFS++20 95/490

6:10

上条達は垣根が千里眼で見つけた地下へと繋がる入口がある第6学区へ、そこら辺にあった車を拝借して向かっていた。

御坂「こんなに悠長にしていて良いのかしら……」

一方通行「良いに決まってンだろ。別に何時間以内に救わないといけないなンて時間制限はねェンだから。
     来るべき時に備えて体力も能力も温存しとくべきだ」

御坂「そっか」

上条「垣根は運転出来るんだな」

垣根「男なら、車の1つくらい運転できなきゃな」

一方通行「無免許運転が偉そうに言ってンじゃねェ」

垣根「いいじゃねぇか。誰も居ないんだし」

そんな会話をしている間に、第6学区のとある遊園地の前に到着した。

垣根「この遊園地のメリーゴーランドの中心。ここから地下に入れるぜ」

4人は車から降りる。その時だった。
音もなく垣根と御坂が、上条と一方通行の側から消え去った。

上条「――な!?」

一方通行「早速仕掛けてきやがったかァ」

理由は簡単だった。能力が上がって千里眼と化した固法美偉の『透視能力』(クレアボイアンス)で上条達の位置を特定。
あとは結標の『座標移動』(ムーブポイント)により、御坂と垣根をテレポートしたのだ。
上条は『幻想殺し』により、一方通行は反射によりテレポートを免れたと言う訳だ。

一方通行「気をつけろ。来るぞ」

一方通行が注意を喚起した直後。
上条の真上に、『グングニル』の先端を上条に向けた五和がテレポートされた。

上条「――やべ」

上条が数歩後退して槍を避けたと同時、ゴギャア!と『グングニル』が深く地面に突き刺さった。

五和「全く。当麻さんが避けるから、地面に刺さっちゃったじゃないですか。抜くの大変なんですよ。これ」

随分と滅茶苦茶な事を言う。避けなきゃ死ぬのだから避けるに決まっている。
それにしても、洗脳中の行動や言動は真実と雲川は言ったが、これもそうなのだろうか。

上条(……余計なことは考えるな。真実かどうかは問題じゃない。能力者を救いだし、食蜂を倒す事だけに集中しろ)

一度目を閉じ、深呼吸。そして目を見開く。
そんな上条を見て、五和は両手で頬を覆い、うっとりした様子で言う。

五和「キリッとした顔の当麻さんかっこいい♡服も似合っていますよ♡」

今の上条は、紫色のラインが入った黒のウインドブレーカーを着ている。パンツも同じものだ。

上条「おいおい、褒めたって何も出ねーぞ」

五和「大丈夫ですよ。今から真っ赤な血と、黄色い脂肪と、汚れた臓物をまき散らせてあげますからね♡」

今ので確信した。いくら洗脳中でも、こんなことを思っているはずがない。
まあ、真実だろうがそうでなかろうが――

上条「今すぐ洗脳を解いてやるからな」

97 : SS寄稿... - 2011/12/25 23:59:47.28 c1MFS++20 96/490

上条と五和がそんなやりとりをしている時、一方通行は、

一方通行(どこ行きやがった!?)

黄泉川が見えた気がして、走り出し、気付いたら遊園地内に入って彷徨っていた。
辺りには大量のアトラクションがあり、隠れるには困らない。

一方通行「黄泉川ァ!出てこいやァ!」

瞬間。
大声で叫んだ一方通行に返事をするかのごとく、銃声が鳴り響いた。
1秒後、銃弾が一方通行に直撃し、上空へ逸らされた。

一方通行「銃弾なンか効かねェぞ」

ただこの戦いは、殺す戦いではなく救う戦いの為、反射では駄目だ。
ベクトルを操って、どこか違う方向に弾かなければならない。
すなわち、微々たるものではあるが、デフォルトの反射に比べ演算を余計に行わなければならない。
それが長時間続けば、どうなるのか。だがそんな事は、黄泉川を速攻で見つけ、洗脳を解けば済む話。

一方通行(ふン。いいぜェ。鬼ごっこの始まりだァ)

一方通行は不敵に笑い、地面を蹴って跳んだ。

98 : SS寄稿... - 2011/12/26 00:02:04.19 HgBmFR610 97/490

御坂(ここは……)

なんとなくテレポートされたのだろうと言う事は分かった。御坂は周りを見渡す。
どうやら倉庫街みたいだ。

御坂(わざわざテレポートされたってことは、何かあるのよね……)

御坂が警戒を高めた、その時だった。
ヒュン!と空気を切り裂く音が真後ろからして、背中にわずかな柔らかさと重みを感じた。
御坂はその正体を一瞬で看破する。

御坂「黒子」

白井「ご名答ですわお姉様。きっと四六時中黒子の事を思ってくれていましたのね」

喋りながら、白井の柔らかい手が御坂の体を這っていく。脇腹に胸に太腿に。

御坂「黒子。いい加減にしないと、黒焦げにするわよ」

白井「黒子を黒焦げ。つまらないダジャレはお止めになってくださいですの」

そして白井の手が、御坂の股間に向かいそうになった時、

御坂「どらぁ!」

白井の手を掴み、一本背負いを繰り出した。
しかし白井はテレポートを実行し、御坂の手から抜け出す。

白井「焦らないでくださいお姉様。黒子はいつでも受け入れオーケーですのよ」

異様に冷静なこと以外は、清々しいくらいにいつも通りの白井だ。
なんだろう。割と容赦なく黒焦げに出来る気がする。

白井「ここは学園都市外周に面している学区の中で、物資の搬入が盛んな第11学区。 陸路最大の玄関となっていますの」

御坂「いきなりどうしたの?」

白井「何も知らないのは可哀想だと思って……教えてさしあげただけですの」

御坂「……わざわざありがと。じゃあそろそろ、黒焦げにしていいわね?」

白井「やれるものならやってみてくださいな。わたくし白井黒子と」

「「「「「私達をね」」」」」

物陰から5人の少女達が現れた。柵川中学の冬服の初春と佐天、常盤台の冬服の婚后光子、湾内絹保、泡浮万彬だった。
御坂は思った。合計6人の少女は食蜂の策略により全員レベル5。
雑魚ならともかく、レベル5が6人はどう考えても分が悪い。でも――

御坂(気持ちで負けちゃ駄目だ。自分を信じるんだ)

御坂は自分に言い聞かせる。ゆっくりと息を吸い、吐く。そして、

御坂「6対1か。いいわ。教えてあげる。あなた達偽者のレベル5と、本物のレベル5の力の違いを。そして、先輩の威厳をね」

宣言した。いよいよ戦いの幕が上がる。

99 : SS寄稿... - 2011/12/26 00:03:57.63 HgBmFR610 98/490

垣根(この俺がテレポートされちまうとは……)

垣根は目だけを動かして周囲を見る。特にこれと言った物はない。
あるのは今立っているビルの屋上へと繋がる扉くらいだ。

心理定規「帝督♪」

不意に後ろから、心理定規の楽しそうな声が聞こえてきた。
垣根は急いで振り向く。同時。

心理定規の手の中の拳銃から発射された弾丸が、垣根の右目を貫いた。

垣根「痛ってぇな」

そう言う垣根の右目からは血が流れるどころか、傷一つなかった。
それもそうだ。弾丸は右目を貫いたと言うより、通り抜けただけなのだから。

心理定規「やっぱり拳銃程度では死なないか」

言いながら拳銃を横に投げ捨て、後ろへ手を回す。
腰の辺りから取り出されたのは、40ミリの小型グレネード砲。
心理定規は容赦なくグレネードの引き金を引く。

グレネードの弾頭は垣根に直撃し爆発したが『未元物質』の翼の前では何の意味もなかった。

心理定規「まあ、そりゃあ死ぬわけないよね」

心理定規がグレネード砲もその辺に投げ捨てた瞬間、垣根は彼女の後ろに回り込み、真っ白な翼で自分ごと包み込んだ。

心理定規「ちょ、何よ。触らないで汚らわしい!」

食蜂が言わせたことだと思いたいが、昨日雲川と上条と御坂の話を盗み聞きした時、洗脳中の言動は真実だと言っていた。
中には食蜂が言わせている時もあるとも言っていたが、食蜂に洗脳される前、精神的に傷つけてしまった以上、
言動が真実である可能性は否定できない。どの道、やることは決まっている。

垣根「俺はこの数日間、ずっとお前のことだけ考えてきた。それで分かったよ。今から俺の話を聞いてほしい」

垣根の独白が始まった。

100 : SS寄稿... - 2011/12/26 00:04:36.80 HgBmFR610 99/490

地面から槍を引き抜いた五和が、上条に向かって駆け出した。

五和「ふふ」

槍の先端を上条の顔面目がけ放つ。
上条は数歩後退し、顔を少し横にそらして避ける。

五和「避けないでくださいよ。私の愛の印ですよ」

連続で突きを放つ五和だったが、上条は後退しながら、それらを全て避ける。その上、考え事をしていた。

101 : SS寄稿... - 2011/12/26 00:05:45.07 HgBmFR610 100/490

4月7日の19:30。
晩御飯を食べ終わっていた上条と五和は寄り添いながら、ただボーッとしていた。
穏やかな時間が流れて行く中、五和が口を開く。

五和「今日、食蜂さんが当麻さんのクラスに転入してきて、クラスメイト全員を洗脳したんですよね?」

上条「そうだけど、その話はやめないか?今は、この穏やかな時間を大切にしたいな」

五和「分かっています。けど、聞いてほしい事があるんです」

上条「……分かった。話してくれ」

五和「はい。その、私にはアレイスターの加護みたいなのがあるらしいですが、
   それでも万が一私が洗脳されて当麻さんと戦うことになった場合、私が首にかけている『グングニル』は
   容赦なく破壊してください」

上条「魔術には詳しくないからよく分からんけど、それ結構貴重な霊装なんだろ?
   それに、そうやってアクセサリーにもなって、五和も気に入っているんだろ?本当に良いのか?」

五和「はい。当麻さんを傷つける凶器になるぐらいなら、いりません。
   それに、アクセサリーなら買えばいいだけの話ですし、寧ろ当麻さんとペアのアクセサリーが買えたら、
   そっちの方が良いかなーなんて///」

上条「分かった。万が一そうなったら破壊させてもらうよ」

五和「はい」

102 : SS寄稿... - 2011/12/26 00:07:17.45 HgBmFR610 101/490

上条「――約束、果たすぜ」

顔面に向かって放たれた槍を、上条は右手で受け止めた。
瞬間、ガラスが割れるような甲高い音が響き『グングニル』は崩れ去った。
上条はそのまま攻撃態勢にシフト。五和の頭を触るべく肉迫する。

五和「よくも……私の大事な……」

言いながら五和は後退する。しかし上条の方が速く、後退し始めてから2秒で、上条の右手が五和の頭に触れた。
同時、独特の甲高い音と共に、五和の体が揺れ前方に倒れていく。上条は彼女を優しく受け止め、抱きしめた。
その直後だった。

吹寄「上条ぉぉぉ!」

突如上条の真上に出現した吹寄制理が、かかと落としを繰り出した。
その一撃により半径20mの地面が砕け、捲りあげられた。にもかかわらず。

上条当麻は五和を抱えながら、20m先で平然と立っていた。

上条「吹寄って『風力使い』(エアロシューター)だったんだな」

吹寄「あら、上条のくせによく分かったわね。勉強を教えた甲斐があるってものだわ」

上条「まあな」

適当に言いながら、上条は考える。
五和を抱えたこの状況で、レベル5となった吹寄と戦うのは少しきつい。

上条「悪ぃな吹寄。お前はあとで絶対救うから。今は退かせてもらうぜ」

上条はそう言うと、背中から『竜王の翼』を生やし、病院へ向かって飛んだ。

103 : SS寄稿... - 2011/12/26 00:08:31.69 HgBmFR610 102/490

上空へと跳んだ一方通行は、黄泉川の位置を確認した直後に、隕石の如く彼女の近くの地面へ突っ込み、衝突した。
落下の衝撃で地面は震え、周囲に莫大な煙がまき散らされた。

一方通行「チェックメイトだ」

地面が揺れたことにより、尻餅をついていた黄泉川に近付く。

黄泉川「近付くなじゃん!」

黄泉川が豊満な胸の隙間からスタングレネードを取り出し、投げた。
莫大な光と音が周囲にまき散らされる。

一方通行「チッ」

一方通行は舌打ちをしながら目を開いた。
彼はスタングレネードが投げられた瞬間に目を閉じていた。
音は既に“全て”遮断済みだ。よって影響は全くない訳だが。

一方通行「どこ行きやがった?」

一方通行が目を閉じていたのは、ほんの数秒だ。
そこまで遠くに逃げられるとは思えない。

一方通行(となると、テレポーターによって逃がされたか。どうしてこう回りくどいかなァ、食蜂ちゃンはよォ)

仕方ないので、もう一度地面を蹴り、跳んだ。

104 : SS寄稿... - 2011/12/26 00:09:44.40 HgBmFR610 103/490

一方通行は空中から地上を見回したが、黄泉川を発見する事はかなわなかった。
仕方ないので地上に降りる。

一方通行(あァ、どうっすかなァ……)

そんな一方通行の前に、少年が突如出現した。
と思ったら、少年はクルリと向きを変え、一方通行に背を向け飛んだ。
飛びながらも、チラチラと一方通行の方を見る。まるでついてこいと言わんばかりに。

一方通行(ありゃあ映像か?まァどうすればいいか悩ンでたところだし、ついていくかァ)

105 : SS寄稿... - 2011/12/26 00:12:33.96 HgBmFR610 104/490

電撃を纏い、運動神経や反射神経を飛躍的に上げた御坂が最初に狙ったのは初春だった。

御坂(洗脳とか操作とか、食蜂のやっていることは結局脳内電流の操作だ。
   私はそれに干渉する事が出来る。だから、頭に触れることさえできれば――)

そんな思いで初春の頭に触れに行くが、白井により初春はテレポートされた。

御坂(そう簡単にいく訳ないわよね……!)

しかし落ち込んでいる暇はない。
『水流操作』の湾内と泡浮によって生み出された水流が御坂に襲い掛かる。

御坂(くっ!)

青髪の少年にやられた時の記憶がよみがえる。

御坂(……集中しろ!)

ここは倉庫街。倉庫の中にコンテナなど盾に出来るような物は山ほどある。
よって御坂は、それらを電磁力で集め盾にした。レベル5の水流(しかも2人分の)であったが、何とか防ぎきった。

佐天「それじゃあ甘いですよ」

声は盾にしたコンテナの向こうから。一体何が甘いのか。
疑問に思った御坂だったが、すぐに答えを知ることになる。

婚后「わたくしの能力をお忘れになりましたの?それと、佐天さんの能力も」

御坂(――そう言う意味か!)

2人の『空力使い』(エアロハンド)により噴射点が作られたコンテナが、砲弾のように発射された。

御坂(危なかった……)

白井「安心するのはまだ早いのではなくて?」

上に跳んで回避した御坂を、テレポートした白井のドロップキックが襲う。

御坂「ぐっ!」

後ろからのドロップキックを、身を捻り両腕をクロスしてガードしたが、
思いのほか威力が強く、数m先の倉庫の壁までぶっ飛ばされた。

佐天「休んでいる暇はありませんよ?」

声は背にしている倉庫の向こうから。
今この状態で、噴射点を作られればどうなるか。

御坂(まさか、倉庫ごと――)

ゴバッ!とコンテナの何倍もの大きさがある倉庫が、数百m吹き飛ばされた。

106 : SS寄稿... - 2011/12/26 00:15:36.99 HgBmFR610 105/490

御坂「はぁ、はぁ」

背にしていた倉庫の一撃を何とか避けきった御坂は、大量にある別の倉庫の陰に身を潜めていた。

御坂(参ったなぁ。皆本当にレベル5級の力使うんだもんなぁ)

食蜂の演説で分かっていたが、実際に対峙してみると身に沁みてよく分かる。
しかも6対1。さすがに手も足も出ない。

御坂(さぁて、どうしたものかな……)

悩んでいると、ポツリと肩に冷たい雫が当たった。
雨……?しかし空は雲ひとつない快晴だ。ということは、

初春「みーさかさーん。どーこでーすかー?出ーてきーてくーださーい」

甘ったるい声。普段は癒されるようなその声も、今は何となく怖い。

初春「出てこないならいいです。そのまま聞いてください。レベル5の力ってすごいですよねー。
   『水流操作』と『空力使い』を合わせれば、人工的に雨を降らせることはもちろん、嵐を起こす事だって
   出来るんですから。御坂さんも、これぐらいの強力な力を持っているんですよね」

一体何が言いたいのか。御坂は疑問に思う。

初春「それだけの力を持っていたんですから、きっと心のどこかで私達低いレベルの能力者を見下していたんでしょうね!」

明らかに声のトーンが違っていた。洗脳中の言動は真実だと言う。
ただし、上条と戦った時の最後の方の言動は、食蜂に言わされたものだ。
つまり、真実ではないかもしれない。
しかし、心のどこかでコンプレックスを抱えていた可能性は否定できない。
つまり、真実かもしれない。思わず、御坂は叫んでいた。

御坂「違う!私はそんな事思っていない!」

言った後にしまった!と思った。大声を出したことにより位置がバレたかもしれない。

初春「そんなムキにならなくても大丈夫ですよー。
   こんな戯言交じりの挑発を真に受けるなんて。御坂さんは素直だなあ。皆さん、あそこですよ」

御坂(くっそ!)

まずいと思った御坂はその場から離れる。その1秒後だった。
ボガァン!と、さっきまで御坂の居た場所の倉庫がまとめて吹き飛ばされた。

初春「死んでください♪」

御坂が移動した先に、初春が待ち構えていた。初春だってレベル5のはず。
確かもともとは『室温保存』だったはずだが、どんな能力になっているのだろうか。
不用意に近付くのは危険かもしれない。けれども。

御坂(ここで退いてたまるか!)

あえて一騎討ちを挑む。御坂と初春の腕が交錯した。

107 : SS寄稿... - 2011/12/26 00:19:27.54 HgBmFR610 106/490

御坂「くっ!」

初春「チッ!」

御坂が頭を狙って伸ばした右腕は、初春が顔を左に振ることで回避。
逆に初春が御坂の右脇腹を狙って伸ばした右腕は、御坂が着ていた薄いピンク色のウインドブレーカーに
少しかすめるだけだった。

御坂「これは……」

何か焦げ臭い。
そう思い右脇腹付近を見ると、ウインドブレーカーが少し焦げていた。

御坂「初春さん、あなたの能力は……」

初春「私は『絶対温度』(ヒートハンド)と呼んでいます。見ての通り、熱ですね。
   私が触れた個所は、もれなく熱で溶けます。
   まあヒートと言っても、冷却方向での能力も使用できますし、もっと凄い事も出来ますよ。たとえば」

初春が数mは離れている御坂に向かって右手を突き出す。ただそれだけ。
それだけだったのに、ピキピキと御坂の体が氷に覆われた。

御坂「これって……!」

初春「水分を急速に冷やして凍らせただけです。どうですか?」

御坂「どうって……」

そんな能力について評価を下している場合じゃない。
電撃を迸らせて、覆われている氷を適度に砕いていく。

初春「やっちゃってください。湾内さん、泡浮さん」

言葉と同時、2人の激流が御坂に襲い掛かる。

御坂「くっ!」

まだ氷から抜け出しきっていない。電撃をぶつけることで防御するしかない。

初春「させませんよ♪」

ジッ!と能力の発生源である前髪が焦がされた。
わずかとはいえ髪の毛が溶けたのと熱さで、演算が出来ない。

御坂(――ッ!)

2トンもの激流が、御坂を飲み込んだ。

108 : SS寄稿... - 2011/12/26 00:22:27.51 HgBmFR610 107/490

垣根「俺が、わがままだったんだよ。お前が洗脳されたのは、俺のせいだ」

心理定規から全く反応がないが、垣根は続ける。

垣根「俺は本当に自分勝手だった。
   俺は、お前が求めに応えてくれないだけで勝手にいら立って、お前の気持ちも考えないで、一旦別れようなんて」

心理定規「……っ、そうよ!その上あなたは浮気した!最っ低最悪の男よ!」

垣根「それは違う。なんか変な女が勝手にまとわりついただけなんだ。
   でも、信じられないよな。その状況で別れようなんて言ったから、なおさら」

心理定規「言い訳なんて聞きたくない!」

心理定規は両手で耳をふさごうとするが、垣根の手がそれを阻む。

垣根「聞いてくれ。俺は、いつかお前の気持ちを無視しそうだったから、あえて距離を置こうと思った。
   けどそれは、言い訳だった。
   俺がお前と一緒に居たら辛いから、お互いの為に一旦別れようなんて理由付けていただけなんだ。
   お前にしたら辛いだけなのに」

心理定規「帝……督……」

垣根「本当にすまなかった。だから、こんな駄目な男だけど、もしよかったら『別れよう』宣言は撤回で。
   これからもずっと、お前の側にいたい。お前を守り続けたい」

心理定規「帝……督……!」

ビクン!と心理定規の体が震えた。

垣根「どうした!?」

心理定規「う……ああああああああああああ!」

垣根の手を振り払い、両手で頭を抱える心理定規。

垣根「まさか――ん?」

苦しむ心理定規をよそに、垣根は気配を感じていた。包み込んでいた翼を開く。

垣根「……20人か」

『Equ.DarkMatter』。
『未元物質』の力を使って製造された新物質を素材とし、ありふれた物理法則を超越した性質を持つ、
白いのっぺりとした仮面をつけた人間が、垣根達の周囲に20人ほどいた。

垣根「失せろ。じゃねぇとボコボコにすんぞ」

しかし垣根の言葉を無視して『Equ.DarkMatter』は、
仮面から『未元物質』の翼を出して垣根達を襲う。

垣根「ふん」

対して垣根は、背中から20枚の翼を出し、伸ばす。
それは『Equ.DarkMatter』の翼を切り裂き『Equ.DarkMatter』すらも切り裂いた。
刹那の内に、垣根が勝利した。

109 : SS寄稿... - 2011/12/26 00:24:02.37 HgBmFR610 108/490

垣根「殺しはしない」

垣根の翼は仮面や体の一部を切り裂いただけであり、致命傷には至らなかった。

垣根「ただし、これ以上俺に逆らうのなら――手足の切断ぐらいはするぜ」

もちろん彼らは、食蜂に洗脳されて差し向けられただけだろう。
だからこの脅しに意味はないし、ましてや彼らに罪もない。

だが垣根は善人ではない。
たとえ彼らが洗脳されている被害者だとしても、逆らうのなら容赦はしない。
脅しは、きっと今の状況を把握している食蜂に向けたものだ。
これ以上彼らを戦わせるのなら、彼らを傷つけることになるぞ。と。

当然ながら食蜂にとっては、彼らがどれだけ傷つこうが関係ない。
寧ろ使い捨てのようなものだろう。脅しを聞く必要はない。
それでも言わないよりはマシかと、垣根はあえて脅した。

そんなダメもとの脅しが効いたのか、仮面が破壊されて使い物にならなくなったからなのかは分からないが、
『Equ.DarkMatter』は、それ以上何もしてこなかった。

心理定規「帝督……!」

戦いが終わり、垣根の腕の中には正気に戻った心理定規がいた。

垣根「お前……すげぇよ。自力で洗脳を解くなんて……」

心理定規「帝督の声が、ちゃんと届いたから。私こそごめんね。こんなに迷惑かけて」

垣根「良いよ。俺は、お前がいればそれで」

110 : SS寄稿... - 2011/12/26 00:28:47.66 HgBmFR610 109/490

少年の幻に導かれ、一方通行は第20学区にある、とある野球スタジアムのホームベース上にいた。

一方通行(コイツは……)

先程から若干の違和感。この違和感の正体は知っている。

一方通行(AIMジャマーか……)

AIM拡散力場を乱反射させ、自分で自分の能力に干渉させる事によって能力使用を妨害するワイヤーが、
ドームの隅から隅まで張り巡らされている。能力を打ち消すというよりは『照準を狂わせて暴走を誘発させる』代物。

一方通行「くっだらねェ」

吐き捨てながら、一方通行は能力を封印した。

一方通行「能力は切った。さっさと出てこい黄泉川ァ!」

息を深く吸い、腹の底から叫んだ。スタジアムに一方通行の声が木霊する。それに応えるように、

黄泉川「よく来たなぁモヤシ!私の為に来てくれたじゃん?だとしたら、止めてほしいじゃん!気持ち悪いからさぁ!」

能力を封印した一方通行には、黄泉川のエコーのかかった声はダイレクトに聞こえていた。

111 : SS寄稿... - 2011/12/26 00:42:30.43 HgBmFR610 110/490

一方通行「やだね。オマエがいくら嫌がったとしても、連れて帰る」

黄泉川「キモいじゃん!オマエみたいな1万人以上の人間を殺した犯罪者なんて死ねばいいじゃんよ!」

一方通行「御託は良いから出てこいよ。そンなに俺に死ンでほしいンなら、オマエが殺しに来い」

黄泉川「言われなくてもそのつもりじゃん!ただし、その役目は私じゃないけどな!出てこい!」

黄泉川の命令と同時、後ろから気配を感じた。
一方通行は振り向くが、筋肉質な女性、手塩恵未は既に彼の懐に飛び込んでおり、華奢な体にタックルをかました。

ゴロゴロと天然芝の上を転がる一方通行に追い討ちをかけるように、
熊のような男佐久辰彦が数mジャンプして、一方通行に拳を振り下ろした。

「ぐ……は……!」

しかし、悶絶したのは佐久のほうだった。

「ん?」

よく見ると、佐久の手足に穴が空いている。手塩がそう視認した時、グラリと揺れ彼は倒れた。
その先には、一方通行が超然と立っていた。手には、2丁の拳銃。その銃口を、今度は手塩へ向ける。

手塩「なるほど」

一方通行にタックルをかました時、手応えは確かにあったが何か釈然としなかった。
彼を倒すつもりでタックルをかましたのは間違いない。だが彼の体が、あまりにも転がり過ぎた気がしたのだ。

手塩(あえて、転がったな)

一方通行は手塩のタックル直撃寸前に、後ろへ跳んだのだ。
そして中途半端にタックルを受け、あえて転がる事でダメージを最小限に留めた。
それにより手塩や佐久に、わずかではあるが油断を生じさせたのだ。

あとは簡単。タックルの直後で動けないと思っている佐久の拳を避け、手足を銃で撃った。

112 : SS寄稿... - 2011/12/26 00:43:46.78 HgBmFR610 111/490

手塩「だが、この私を、拳銃程度で、仕留められると、思うな」

手塩は駆け出した。
同時、一方通行は拳銃の引き金を何回も引くが、上半身を振り、低く屈むなどして弾丸を全てやり過ごす。

手塩(もらった!)

そして身を低く屈めた手塩の拳が、一方通行を仕留める射程圏内に入った時、

一方通行「馬鹿だなァ、オマエ」

ぐしゃり、と。手塩の顔面に一方通行の膝がめり込んだ。

手塩「な、んで……」

低い体勢から仰け反り、ブリッジのようになった手塩の手足に、弾丸が撃ちこまれた。
もはや身動きすら取れない手塩に一方通行は答える。

一方通行「何でって、膝の前に顔面が来るほど身を屈めていたから、丁度いいと思って膝を出しただけだ。
     拳銃ばかり気にしているから、こういうことになンだよ」

手塩「そんなはずは、ない。膝蹴りなどの、反撃は、想定してある。それでも、私の拳が、先に届く、計算だった」

一方通行「だからまァ、摺り足気味に少しだけ前へ進ンで、オマエを見誤らせた。
     そしていよいよ俺の腹か顔面に拳を叩きこむ為に低く屈めた体を起こす一瞬を狙って、
     思い切り一歩前進して膝を出した。それだけの話だ」

手塩「なるほど……完敗だ。お前、アンチスキルに、なれるよ」

どォでもいい。と一方通行は吐き捨てる。

113 : SS寄稿... - 2011/12/26 00:45:24.73 HgBmFR610 112/490

黄泉川「ちっ!どいつもこいつも役立たずじゃん!」

声をした方を見ると、完全武装の黄泉川がいた。

黄泉川「能力も使えない。その拳銃もこの装備の前には無意味。お前はこれでおしまいじゃん!」

盾を前に出しながら、黄泉川は一方通行へ特攻する。

一方通行「オマエも馬鹿だなァ」

突っ込んでくる黄泉川に対し、一方通行は左に数歩移動する。
そして盾と足のわずかな隙間に右足を滑り込ませる。

黄泉川「へっ?」

素っ頓狂な声をあげながら、黄泉川は前のめりになって転んだ。

一方通行「オマエは眠っていろ」

黄泉川「ぐっ!」

盾が仇となり、起き上がれない黄泉川のうなじにスタンガンを当て、気絶させた。
その直後だった。

一方通行「……が!」

一方通行の後頭部に衝撃が走った。
たまらず彼は、何の確認もせずに銃口を後ろに向け引き金を引く。

「どこを狙っているのですか?」

声は真上から。今度は銃口を上に向け、引き金を引く。
しかし、ヒュン!と空気を切り裂く音が聞こえただけだった。

「拳銃如きでは、この僕は倒せませんよ」

今度は一方通行の真正面にテレポートしていた。

一方通行「……『死角移動』(キルポイント)か」

査楽「何ですかそれは。僕には査楽という名前があるのですよ」

どォでもいい、と一方通行は銃口を査楽に向けて引き金を引いた。
だが弾丸は、テレポートであっさりと避けられた。

114 : SS寄稿... - 2011/12/26 00:47:28.99 HgBmFR610 113/490

ヒュンヒュンヒュンヒュンと、査楽は連続でテレポートし一方通行を翻弄。
一方通行は走りながら査楽を目で追い、やたらと撃ちまくるが全て当たらなかった。

査楽は嘲笑うかのように弾丸を避け、動いている一方通行へ、時には殴り蹴り、ナイフで切り裂いたりした。
しかし一方通行は(査楽もいたぶるつもりで本気で殺そうとしていないとはいえ)致命傷は避け、
ダメージを最小限に留めた。

査楽「どうしたのですか!?超一流の悪党さん!」

一方通行「うるせェやつだ」

言いながらも、当たるはずないのに拳銃で撃ちまくる。

査楽「無駄ですよ!そんなものは当たりません!」

何発目になるかも分からない弾丸を避けつつ、一方通行の背中に拳を叩きこむ。

査楽(まただ……)

違和感。確実に手応えはあるのに何かしっくりこない。
ギリギリのところで、クリーンヒットは避けられているような、そんな気がする。
大体だ。一方通行は劣勢なはずだ。なのに。

査楽(何なんだその笑みは!?)

あまりにもふてぶてしい態度の一方通行に対して、言葉こそ強気に振る舞っていたが、心の中では若干の動揺があった。

一方通行「終わるぞ」

パンパンパンパン!と、もはや査楽を狙っていない4発の弾丸が放たれた。
先程走りながら新たな弾丸を装填していたが、今ので尽きたのか。
拳銃を持っている両手はだらりと下がっている。

査楽「何が終わりだと言うのですか!?」

一方通行の真後ろにテレポートした査楽は、持っていたナイフを突き出す。

査楽「終わりなのはあなただ!」

ナイフが一方通行の背中に当たり、ガキィン!と反射された。

査楽「な!?」

査楽が反射の反動で腕がビリビリしている間に振り返った一方通行は、
拳銃の引き金を引き彼の手足に弾丸を叩きこんだ。

115 : SS寄稿... - 2011/12/26 00:49:38.05 HgBmFR610 114/490

査楽「ぐ!な、んで、反射が……」

一方通行「俺は無闇やたらに拳銃を撃っていた訳じゃねェ。
     確かにオマエを狙って撃ちはしたが、外れてもAIMジャマーのワイヤーを撃ち抜けるコースに撃った。
     あとは分かるな?」

査楽「なる……ほど……それで能力を復活させたと」

一方通行「AIMジャマーはまだ少し残っているが、これだけ破壊すれば、今の俺なら暴走しねェ」

査楽「そうですか……敵いませんね。超一流の悪党には……」

一方通行「悪党とかどうとかにこだわっている内は、まだまだだな」

査楽「……そうかもしれませんね。ところで、いいことを教えてあげましょうか?」

一方通行「……」

査楽「僕がこのスタジアムの中で、能力を自由に使えた理由ですよ……」

一方通行「いらねェ。
     どうせ背中にAIMジャマーから出る特殊な電磁波をジャミング出来る装置を付けていた、とかだろ」

査楽「そうです。何だ、分かっていたのですか。そこまで分かっているのなら、僕の言いたい事、分かりますよね?」

一方通行「……」

査楽「AIMジャマーをジャミング出来る装置、あなたにあげますよ。
   これからもあなたが戦うのは、AIMジャマーが張り巡らされているようなところでしょう。
   それを妨害できる装置をあげると言っているのです」

一方通行「いらねェな。その提案、罠だろ?」

査楽「……ふふ。あなたにはつくづく敵いませんね。ですが、最後まで足掻ききって見せますよ」

言うが早いか、査楽はテレポートして黄泉川の側にテレポートした。

査楽「終わりです!」

ピーという機械音。そして――

ボッガァァァン!と、査楽が背中につけていたAIMジャマージャミング装置が爆発した。

116 : SS寄稿... - 2011/12/26 00:51:06.66 HgBmFR610 115/490

一方通行「チッ」

一方通行は舌打ちした。
自分が傷ついた訳でもないし、爆発の寸前に黄泉川に覆いかぶさって彼女も守り切った。
ただ爆発によって査楽に手塩、佐久が死んでしまった。

この戦争で一方通行らは1つの約束をしていた。
無傷で救えとまでは言わない。ただし死者は出来るだけ出さないようにしようと。

しかしながら正直なところ、知り合いならまだしも、他人なら動きを封じる程度に傷つけることに躊躇いはなかったし、
最悪死んでもいいとさえ思っていた。だが実際に目の前で死なれる(自分の仲間とあわよくば自分を殺すために)と、
なかなかに後味が悪い。

一方通行(暗部に居た頃は、こンなことでいちいち何かを感じる事なンてなかったが)

だいぶ日常に馴染んで、感覚が一般人よりになってきているのかもしれない。

一方通行(まァいい。最低限守りたい者は守り切った。あとは――)

救う作業が残っている。一方通行は黄泉川の頭に手を当て、脳内電流のベクトルを操る。

一方通行「――コマンド実行――削除」

要した時間はわずか2秒。黄泉川の体がビクン!と跳ねた。その直後だった。

ドゴン!と、スタジアムの天井が破壊された。

一方通行「何だ!?」

一方通行は身構える。破られた天井からは、その残骸と1人の人間。

一方通行「オマエは……!」

117 : SS寄稿... - 2011/12/26 00:53:12.12 HgBmFR610 116/490

泡浮「やりましたわね湾内さん」

湾内「そうですね泡浮さん。わたくし達の手で、憧れの御坂さんを葬ったなんて、夢のようですわ」

初春「まだですよ2人とも。よーく見てください」

言われて2人は、激流に流されたであろう御坂のほうを向く。
するとそこには、

絹旗「超大丈夫ですか?」

御坂「ええ。助かったわ最愛」

レベル5第4位、絹旗最愛が御坂の前で両手を水平に広げて立っていた。

初春「とんだ邪魔が入りましたね」

佐天「ま、絹旗さんも一緒に殺せばいいだけっしょ」

婚后「6対2で、優勢であることに変わりはありませんからね」

白井「油断は禁物ですわ。彼女は絹旗最愛。『窒素装甲』という能力で、窒素を纏う事が出来ますの。
   さらには、大気中にある窒素もある程度は操れるみたいですの」

一方で、御坂と絹旗は、

御坂「あなたが助っ人の1人だったのね」

絹旗「助っ人?何の事でしょうか?私はたった今出張から超帰ってきただけですが。
   この状況は一体どう言う事ですか?」

御坂「え?助っ人じゃないの?出張から帰ってきた?」

絹旗「ええ、そうです。私は4月8日から超出張に行っていたんですよ。
   それで第11学区を通って帰ってきたら、この状況です。
   もう何が何だか訳が分からなかったのですが……とりあえず御坂さんを守りました」

御坂「……ここ数日の学園都市についてのニュースを見ていないの?」

絹旗「ニュース?学園都市関連のニュースは一度もやっていませんでしたよ。この数日で超何かあったんですか?」

なるほど、道理で会話が噛み合わない訳だ。

御坂「よく分からないことあると思うけど、今の状況を詳しく説明している暇はないわ。けど、協力してほしい」

絹旗「はい。私に出来る事なら、超喜んで」

御坂「あの子達ね、食蜂に操られているのよ。しかもレベル5になっているわ」

絹旗「超マジですか……!確かにあの水流の威力はレベル4以上だとは思っていましたが」

御坂「あの子達を救いたいの。力を貸して」

絹旗「もちろんですよ。そして食蜂の雌豚を、超ぶん殴ってやります!」

御坂は既に氷を砕いて抜け出している。2人は身構えた。

118 : SS寄稿... - 2011/12/26 00:55:29.60 HgBmFR610 117/490

佐天「で、どうするの初春。また凍らせて水流で流すとか?」

初春「いえ、それはもういいです。一度破られた手で倒すのは何か癪なので」

婚后「破られたと言いましても、絹旗さんが助けに入ったからですし、初春さんが本気を出せば、どうとでもなるでしょう」

初春「そうですね。ですが、私の能力で勝ったら、あの人達を本当の意味で潰した事にはなりません。
   私のような凍らせるとか、熱で溶かすとか、そんなちまちましたものじゃなく、佐天さんみたいな能力で、
   力で叩き潰さないと」

白井「わたくしなら、体内に金属矢をテレポートで一発ですの」

初春「調子に乗らないでください白井さん。白井さんの座標攻撃は、動く事によって簡単に避けられます」

白井「それは初春もじゃないですの?」

初春「私はその気になれば、空間ごといけますから」

白井「初春のくせに生意気ですの。あとでお仕置きですわね」

初春「やれるものならどうぞ♪」

一方で、身構えていた絹旗と御坂は、

絹旗「なんか超喧嘩が始まりそうな空気ですが……」

御坂「どうでもいいわ。1つだけ言っておくけど、あの子達の言動には耳を傾けないで。救う事だけに集中するのよ」

絹旗「は、はい」

御坂「そして、ちょっときついだろうけど、最愛には佐天さんと婚后さん、湾内さんと泡浮さんをお願いしたいの。
   私が黒子と初春さんを取り戻すから」

絹旗「はい!」

御坂「それじゃあ行くわよ!」

6人の少女のもとへ、御坂と絹旗が先に仕掛ける。

119 : SS寄稿... - 2011/12/26 00:56:26.94 HgBmFR610 118/490

湾内「み、御坂さんが!」

湾内が叫んだときには、御坂は既に初春の懐に潜り込んでいた。

佐天「――っ、させませんよ!」

莫大な風を手中に収め、御坂だけに当たるように放つ。

絹旗「それは超こっちの台詞です!」

大気中の窒素を操り、風から御坂を守る。

白井「させませんわ!」

御坂の手があと少しで頭に触れるところで、初春は白井によってテレポートされた。

御坂(黒子からにするべきだったかな……!)

体勢を立て直すため、御坂は高速で後退する。

絹旗「やっぱりそう簡単にはいかないですね」

御坂「そんなことないわよ。さっきまでは手も足も出なかったけど、今は防戦にさせた。いけるわ」

120 : SS寄稿... - 2011/12/26 00:58:28.08 HgBmFR610 119/490

白井「全く、危ないじゃありませんの。わたくしがテレポートしなければやられていましたわよ」

初春「いらなかったですよ?寧ろ御坂さんにカウンターを仕掛けられたのに余計な事してくれやがって。て感じです」

白井「……めちゃくちゃ殴りたいですの。大体それなら、佐天さんはどうなんですか?」

初春「佐天さんはいいですよ。白井さんのような逃げではなく、前衛的な妨害ですから。
   直撃していれば、ダメージになりましたからね」

泡浮「まあまあ、お二人とも落ち着いて」

初春「呑気に落ち着いてじゃないですよ。
   湾内さんと泡浮さんと婚后さんは、御坂さんに全く反応できていませんでしたよね?
   油断している場合じゃないですよ?これだから温室育ちは……」

婚后「その言い方はないのではなくて?元はと言えば、お二人の言いあいから隙が生まれましたのよ?」

初春「油断させる為の演技ですよ。その証拠に、佐天さんはベストなタイミングで攻撃をしてくれました」

湾内「佐天さん凄いですわ」

佐天「へ?ま、まあそうですね~」

初春「お嬢様3人は気合入れてください。この調子だと、いくら6対2でも足を掬われますよ」

白井「偉そうに……」

初春「白井さんも、お嬢様3人ほどではないですけど、大した活躍してないですし、頑張ってくださいね」

婚后「いい加減にしてくださいません?初春さん感じ悪いですわ」

初春「それは悪かったですね。もともとこういう性格なので」

佐天「も、もういいんじゃないかな!?皆さん落ち着いて。初春もさ、もう煽るような事言うのやめようよ」

初春「佐天さんは黙っていてください」

佐天「むっ……」

121 : SS寄稿... - 2011/12/26 00:59:49.06 HgBmFR610 120/490

絹旗「また超口喧嘩です。ですが油断させる為と分かっていて、不用意には突っ込みませんよ。
   ここは遠距離から行きましょうかね?どう思います、御坂さん?」

御坂(何なのよ……)

初春と白井が喧嘩するのはまだ分かる。それぞれと2人きりでいるときに、それぞれの愚痴をよく聞いた。
ただ初春の態度が、面識がなかったはずのお嬢様3人組にも悪いのはどういうことか。
食蜂が言わせている?油断させる為?それにしたって、いくらなんでも無駄な会話が多すぎる。
というか会話自体が無駄でしかない。回りくどすぎる。

現状は6対2だ。単純に物量で攻めきればいい。現に油断作戦はお嬢様3人、いや、様子からして白井や佐天すらも
ギリギリ反応出来ただけで、作戦だとは思っていなかっただろう。訳が分からない。一体何がしたいのか。

御坂「ちっがーーーーーーーーーう!!」

御坂の突然の雄叫びに、その場に居る全員がビクついた。

絹旗「み、御坂さん!?」

御坂「ごめん最愛。もう大丈夫だから」

絹旗「は、はあ」

ゴチャゴチャ考えすぎていた。食蜂が言わせて遊んでいるのか、彼女達の本音なのか。そんな事問題じゃない。

御坂(最愛には注意しといて、私が忘れるわけにはいかないわよね)

洗脳中の敵と戦う時の鉄則。救うことに集中する事。

御坂(余計な事は一切考えるな。雑念を排除しろ)

パン!と御坂は自分の頬を両手で叩いて気合を入れ直す。

御坂「今度こそ行くわよ最愛!」

絹旗「はい!」

122 : SS寄稿... - 2011/12/26 01:01:07.17 HgBmFR610 121/490

御坂は駆けだした。今度の狙いは白井。今まではトロそうな初春を狙っていたが上手く行かないし、
まずは厄介なテレポーターを狙えと雲川に言われたのを思い出したのだ。

御坂「黒子大好き!愛しているわ!」

白井「ぬふぉおおお!?」

洗脳と言ったって、一から十まで完璧に操作している訳ではない。
ゲームで例えるなら、いつでも介入できるが、オートモードの状態。
そこを狙ってひょっとしたらと思い、ダメもとの嘘告白だったが案外効いているようだ。

御坂(チャンス!)

お嬢様3人組や佐天の妨害は絹旗が止めてくれる。ただ、もう1人いる。

初春「白井さんはほんとに!」

案の定初春が割り込んできた。
左手で白井の首根っこを掴み、右手で御坂に対抗しようとする。

御坂「初春さん調子のりすぎ!」

出来るだけ無傷で救いたかったが、やはりそれは無理そうだ。
いきなり頭を狙いに行くのでは駄目だ。確実に詰めていくほうがいい。

御坂は屈み、初春の右手を避け、逆にその腹に拳を叩きこんだ。

初春「こほっ!」

咳き込み、屈む初春の頭を触る為に、左手を伸ばす。

御坂(もらった!)

しかし正気に戻った白井がテレポートを実行し、初春と共に御坂から数m距離をとった。

123 : SS寄稿... - 2011/12/26 01:03:46.39 HgBmFR610 122/490

白井「お姉様の言うとおりですわ。初春は調子に乗り過ぎですの」

初春「そうですね。反省します。ということで、御坂さんは一旦放っておいて絹旗さんを先に潰しましょう」

御坂「筒抜けの作戦会議とか、私をなめているの?させないわよ」

初春「白井さんは絹旗さんのところへ行ってください。私もジャッジメントのはしくれです。御坂さんは私が倒します」

白井「分かりました。頼みますの」

テレポートを実行し、白井は消えた。

初春「いいんですか御坂さん?これで絹旗さんは5対1ですよ」

御坂「初春さんも行くならともかく、黒子だけなら仕方ないわ。
   私は最愛を信じている。それに、初春さんを救う絶好のチャンスだしね」

初春「思いあがらないでくださいよ。
   私はこの6人の中で、いえ、絹旗さんや御坂さんを合わせても1番強いですよ。
   加えて、御坂さんは電撃を使えません。雨に濡れた私を雷撃の槍で穿てますか?
   私を救うとしたら、無理ですよね?」

ニヤリと、不敵な笑みを浮かべる初春。対して御坂は、至って冷静だった。

御坂「初春さんこそ思いあがっているんじゃない?
   私としては最終的に救えれば、多少は黒焦げにしてもいいと思っているけど」

それに、と御坂は続けて、

御坂「電撃を使うまでもないわ。初春さん如き、体術だけで十分よ」

御坂も笑みを浮かべた。それは初春にとっては嘲笑に見えた。

初春「この人格破綻者が……男にも振られるし、友達も私達だけ。
   クローンは死なせる、駄目人間が調子こかないでください」

男に振られる。クローン。白井がバラしたか、食蜂が言わせているか。
でもそれは一旦置いておく。

御坂「その駄目人間に、あなたは救われるのよ。それにしても随分と毒を吐くけど、その調子じゃ友達なくすわよ」

初春「御坂さんには言われたくないです。変態の後輩がいるだけのくせに」

御坂「お洒落のつもりなのか知らないけど、頭に花飾り乗っけている変人になにを言われても」

初春「御坂さんのお子様センスに比べればマシですよ」

御坂「目上の人にそんなに失礼な態度とっちゃ駄目ね。人生の先輩として教育が必要なようね」

初春「御坂さんも目上の人に失礼だったりしますけどね」

ひとしきりの煽りあいが終わり、2人の眼光が鋭くなる。
そして――

御坂「いくわよ!」初春「いきます!」

同時に駆けだした。

124 : SS寄稿... - 2011/12/26 01:06:05.80 HgBmFR610 123/490

湾内「さすがレベル5第4位ですわね!」

湾内と泡浮は水流攻撃を行っているのだが、窒素を纏い操る絹旗に、まともにダメージを与えられてはいなかった。

婚后「お二人とも避けて!」

婚后と佐天の能力で、噴射点が作られた倉庫が次々と発射される。

絹旗「甘いです!」

飛んでくる倉庫に向けて、絹旗はその場で思い切り拳を前に突き出す。
それだけ。たったそれだけで、絹旗を狙って放たれたいくつもの倉庫は粉々に破壊された。

婚后「馬鹿な!?なぜ!?」

白井「狼狽している暇はありませんのよ、婚后さん!」

テレポートしてきた白井が、婚后に喝を入れつつ、太腿のホルダーから金属矢を取りだした。

それを見た絹旗はバックステップ。
直後、絹旗が先程まで居た場所に、金属矢がテレポートされていた。
そのまま突っ立っていたら、肩や心臓、ふくらはぎを貫かれていただろう。

絹旗「っつ!」

しかし、左肩と左ふくらはぎに激痛。左肩を見ると、金属矢が刺さっている。

白井「甘いですわよ絹旗さん。金属矢は、あなたの体を直接狙うモノだけではありませんのよ」

つまり、白井はバックステップするのを見越して、絹旗の後ろにも金属矢をテレポートしていたのだ。
絹旗は攻撃が来る座標に自ら跳び込んだようなものだった。

婚后湾内泡浮「「「今ですわ!」」」

ここぞとばかりに水流と、倉庫が襲い掛かってくる。

絹旗「さすが白井さんです……!ですが――」

絹旗は右腕を振りまわす。それだけで水流は弾かれ、倉庫は砕け散った。

125 : SS寄稿... - 2011/12/26 01:08:31.63 HgBmFR610 124/490

佐天「もう!何でなのーっ!」

佐天が叫んで攻撃を止める中、お嬢様3人は攻撃を止めない。
絹旗はそれらの攻撃を全て防ぎながら、白井のテレポート攻撃を避けるために不規則に動きまわっていた。
白井はその佐天の近くにテレポートする。

白井「簡単な事です。
   絹旗さんは周囲にあえて不安定な窒素の壁を作り、それに衝撃を加える事で窒素を遠距離まで飛ばしていますの」

つまり、絹旗は削板の『念動砲弾』(アタッククラッシュ)に近い事の窒素バーションをやっていたわけだ。
これは削板に教わったものではなく、絹旗が一人で生み出した技だ(削板自身も無自覚に感覚で行っていた技なので、
そもそも教わる事が出来ないが)。意外と絹旗と削板のセンスは似ているのかもしれない。

佐天「えっと、よく分からないです。つまりどう言う事なんですか?」

白井「遠距離攻撃じゃ、碌にダメージも与えられないと言う事ですわ」

佐天「ええ!?でも絹旗さんは窒素を纏ってもいるんですよね?
   だとすると、近距離も駄目、遠距離も駄目、絶対防御じゃないですか!」

白井「そうですわね。このままだと、いたずらに能力を消費するだけですの」

佐天「そ、それです!能力を消費させればいいんですよ!」

白井「それは無理ですの」

佐天「な、何でですか?」

白井「絹旗さんの防御力が、私達の攻撃力をはるかに上回っているからですの」

佐天「つ、つまり?」

白井「あそこの婚后さん派閥の3人組、あの人達の全力の攻撃を、絹旗さんは少しの力で難なく防ぐ事が出来ますの。
   先にバテるのは、こちらと言う事ですわ」

佐天「じゃあ、どうするんですか?あれだけ動きまわられたら、白井さんのテレポートも通じませんし」

白井「左肩と左ふくらはぎを痛めた状態で長い間動きまわるのは不可能ですの。いずれ疲れますわ。
   それにその気になれば、絹旗さんを中心にして半径5mは串刺しに出来るほどの金属矢は持っていますの」

佐天「そ、その手がありましたね!」

白井「ですが、あっさり終わらせてはつまらないですから、ここはじっくりといたぶって差し上げましょう」

126 : SS寄稿... - 2011/12/26 01:11:19.64 HgBmFR610 125/490

婚后「ああ、もう!」

もう何個目かになるか分からない倉庫を発射したが、例によって粉々に破壊された。
倉庫街とは言え、限りはある。このままだと倉庫が無くなってしまう。

絹旗(これならいけますね!)

右腕を振り回して攻撃を全て防ぎながら、左肩と左ふくらはぎの痛みを我慢して走り回る。

絹旗「ぶへっ!」

何かにつまずいて転んだ。
この私がつまずく!?一瞬動揺した絹旗だったが、答えはすぐに分かった。

金属矢が3本、地面に刺さっていたのだ。

金属矢ぐらい、つまずくどころか蹴り曲げてしまいそうだが、それは出来なかった。
絹旗は現在、窒素を20cmほど纏っているが、バランスを考えて体の随所に窒素の薄い部分が存在する。
それの一番顕著な部分が足付近。だから転んだ。

絹旗(超マズいですね!)

呑気に倒れている場合じゃない。白井が金属矢をテレポートしてくる!

絹旗(転がる!?いや――)

それじゃあ駄目だ。
白井は転がる事も予期して、金属矢を横にもテレポートしてくるかもしれない。

絹旗(ここは!)

両腕で少しだけ上体を起こして、なりふり構わず前へ転がる。
その直後だった。先程まで絹旗の居た場所とその左右の地面に金属矢が刺さっていた。

佐天「隙だらけですよ、絹旗さん」

転がり、立ち上がったばかりの絹旗の窒素に覆われた背中に佐天の右手が触れた。
背中の窒素に、噴射点が作られる。

絹旗(しまっ――)

噴射点から莫大な空気が噴き出す。
絹旗はミサイルのごとく発射され、倉庫群を突き抜け、数百mほど吹き飛ばされた。

127 : SS寄稿... - 2011/12/26 01:16:46.20 HgBmFR610 126/490

絹旗「超痛ってーな」

倉庫をいくつも突き抜けながら数百mほど吹き飛ばされたにもかかわらず、目立った外傷はなかった。

佐天「ほ、ほんとに無事だ……」

泡浮「驚きですわ……」

湾内「ひょっとして不死身のお方なのでしょうか……」

婚后「そんな非科学的なこと、ありえませんわ……」

白井「婚后さんの言うとおりですの。彼女は不死身でも何でもありません。
   レベル5の『空力使い』の一撃を受けても、さほどダメージにならないほどの防御力を有しているだけですの」

白井がテレポートしてきたのだろう。
5人の少女は絹旗の目の前でそんなやりとりを繰り広げた。

絹旗「あなた達の攻撃が超弱すぎるだけじゃないですか?」

婚后「何ですかその言い草は!?わたくしを常盤台の婚后光子と知っての狼藉ですの!?」

絹旗「超事実を述べただけです」

婚后「もう我慢できませんわ!」

白井「お待ちください婚后さん。絹旗さんの狙いは、挑発してあなた達に能力を使わせるつもりですの」

婚后「そ、そうなんですの?」

絹旗「さすが白井さん、超冷静ですね」

白井「随分と余裕なようですが、わたくしがその気になれば、絹旗さんなど瞬殺ですのよ?」

絹旗「そう言うのは実際にやってから言って下さいよ。
   瞬殺できるとか粋がるやつに限って、逆に超あっさりやられるような噛ませ犬のキャラですよね」

白井「その減らず口、金属矢で閉じて差し上げましょうか?」

絹旗「やれるものなら」

ギリッ!と白井の歯軋りが、全員の耳にはっきりと届いた。

佐天「白井さんが挑発に乗ってどうするんですか!」

白井「分かっていますわ。わたくしは大丈夫ですの」

128 : SS寄稿... - 2011/12/26 01:20:17.13 HgBmFR610 127/490

白井「絹旗さんは私を怒らせ、能力を乱発させ、金属矢のストックを失わせると同時、疲労させるつもりかもしれませんが」

そこで一旦言葉を区切ると、開いた右手を絹旗に見せつけた。
白井が何をしたいのか分からない絹旗は、眉をひそめる。

白井「その陳腐な企みは通じませんの」

ヒュン!と白井の開いた右手の指の間に金属矢がテレポートされた。

白井「レベル5となったわたくしは、直接触れていないものもテレポートできますの。
   つまり、金属矢がなくなることはありません。
   それどころか、精度は落ちますが、転がっている金属矢を絹旗さんの体にねじこむ不意打ちも出来ますしね」

さらに言うと、金属矢ではなくその辺りの瓦礫でもいい訳ですし、
絹旗さん自体を壁や地中に埋める事も出来ますしね。と白井は饒舌に語った。

白井「とにかく、絹旗さんはそんな相手に挑発しているんですのよ?喧嘩を売る相手は選んだ方が良いですわよ」

おほほほほ。と似合わない笑い方をする白井を見て、絹旗は呆れながらこう言った。

絹旗「哀れですねぇ白井さん。本気で言っているのだとしたら、ハグしたくなるぐらい超哀れです」

呆れから、わずかな笑みを浮かべながら絹旗は続ける。

絹旗「確かに、白井さんが言った攻撃方法は極めて厄介です。ですが、超完璧ではありません」

白井「なかなか大口を叩くではありませんか。一体どうやって、わたくしの多彩な攻撃を防げると言うんですの?」

絹旗「超簡単ですよ。
   私が動きまわれば、私自身のテレポート、金属矢などの異物を体にテレポートされることもありません」

白井「ですが」

絹旗「先程のように転ばせるなどして私の動きを止める。
   もしくは私とその周囲の座標に、まとめて異物をテレポートする超力技がある。と、言いたいんですよね」

白井「そ、そうです。それをどう防ぐと言うんですの?」

絹旗「そこは超逆転の発想ですよ。周りの異物を動かせばいいんです」

佐天「そ、それってどういう……」

絹旗の発言に対して言葉を発したのは、佐天だった。

129 : SS寄稿... - 2011/12/26 01:22:38.07 HgBmFR610 128/490

絹旗「私が衝撃を超飛ばすことで、周囲の異物を絶え間なく動かし続け、テレポートを妨げるという事です」

白井「なるほど。ですがやはり、私には勝てませんわね」

言いながら白井は、人差しと中指を立て、

白井「理由は2つ。まず1つ目は、そんなことをしていたら先にバテて能力が使えなくなるのは、絹旗さんの方ですの」

絹旗「どうでしょうか?あなた達の超全力の攻撃は、それほど力を使わずに防ぎきれますが」

佐天「そ、そうですよ白井さん!絹旗さんまだまだ余裕そうだし、先にバテるのは私達じゃないですか?」

白井「落ち着きなさい佐天さん。これからは、能力は最低限にローテーションで攻撃して行きます。
   たとえば、婚后さんと湾内さんが攻撃している間、佐天さんと泡浮さんは休む。と言う風に」

佐天「なるほど!それならいけますね!」

白井「まあ本当はそんな事する必要もないですのよ。2つ目の理由。わたくしから異物をテレポートする。
   この最も基本的な、わたくしからのテレポートを防げない限り、根本的解決にはなりませんわ」

両腕を組んで、勝ち誇ったような顔をする白井。対して絹旗も、笑みを浮かべていた。

絹旗「だから、そんな事で勝ち誇っている白井さんが超哀れだって言っているんですよ」

婚后「まだ強がりますか!」

白井「なぜ婚后さんが怒りますの?これは挑発ですわ。いちいち答えなくてもいいですの」

絹旗「挑発でも何でもありません。超単純に感想を述べたまでです」

どこまでも強気な絹旗に、白井は怪訝そうな顔をする。

絹旗「白井さんの言う通り、白井さん自体をどうにかしないと根本的解決にはなりません。
   つまり、今までのテレポートの攻略が出来る出来ないとか言う会話は、ほぼ無駄なことだったんです」

佐天「じゃ、じゃあ何で!?」

絹旗「佐天さんは体力があるのか、途中から攻撃をサボっていたからかは分かりませんが、あまり疲れていないようですね。
   ですが、そこのお嬢様3人組はどうでしょう?
   もともと超温室育ちだった上に、この激しい戦闘。体力なんて保たないんですよ」

佐天「つ、つまり?」

絹旗「この無駄な会話は、彼女達の回復の為だったんですよ」

佐天「ええ!?そうなんですか白井さん!?」

白井「なぜそれに気付いていながら、会話を無駄に繰り広げたんですの?」

絹旗「私も、超疲れていたからですよ」

白井佐天「「え?」」

この事実に佐天はもちろん、さすがの白井も驚いた。

130 : SS寄稿... - 2011/12/26 01:24:07.64 HgBmFR610 129/490

絹旗「レベル5の攻撃が3~4人ですよ。いくら私が超防御に特化した能力とは言え、バテない訳ないですよ。
   特に最後の佐天さんの攻撃はヤバかったですね。いや~、白井さんがお喋りなおかげで、そこそこ回復しましたよ」

佐天「そんな……じゃあ攻め続けていればよかったの?全然苦しそうじゃなかったのに……」

絹旗「ポーカーフェイス超うまいでしょ?C級映画ならヒロイン張れますね」

白井「……ですが、結局は一時凌ぎなだけ。
   これで攻め続ければ良いと言う事は分かりましたし、何よりわたくしを攻略しない限りは」

絹旗「一時凌ぎ?超違いますよ。白井さんを攻略する為、体力回復を図っていたんです」

白井「能力や体力が少し回復したところで、わたくしを」

絹旗「超攻略できますよ。『倒す』っていう、単純な方法で」

白井「だからわたくしを」

絹旗「倒せます。一瞬で。皆さんも同時に」

絹旗の一言に、5人の少女の間に動揺が走る。

白井「ぶ、ブラフですの!」

絹旗「信じる信じないは皆さんの超勝手です。
   ただ1つだけ言える事は、一瞬で決着(ケリ)つけてやる。ということだけです」

131 : SS寄稿... - 2011/12/26 01:29:23.48 HgBmFR610 130/490

結論から言うと、決着は本当に一瞬でついた。右拳を上げ、下ろす。
絹旗がこの動作をしただけで、5人の少女は地にひれ伏す形となった。

白井「これは……一体……」

今も続いている何らかの圧力で地に伏せられた白井は、当然の疑問を口にした。

絹旗「超簡単な事です。窒素で皆さんを抑えつけた。ただそれだけです」

白井「そんな……事が……」

絹旗「しかしこの技は、超集中力を使います。長くは保ちません。ですから」

言いながら伏している佐天に近付き、その首にチョップをお見舞いした。
佐天の意識はそれで断絶した。

絹旗「こう言う風に、1人1人潰していきます」

婚后、湾内、泡浮の3人を次々と気絶させていく。そしていよいよ白井の番。

絹旗「テレポーターだからって、超調子に乗りすぎましたね」

白井「完敗ですわ」

そうして絹旗のチョップが白井の首に当たる直前――

絹旗「っぐ!」

右脇腹に衝撃。絹旗は横合いに数mぶっ飛んだ。

132 : SS寄稿... - 2011/12/26 01:30:37.45 HgBmFR610 131/490

絹旗(一体何が……)

絹旗は窒素を操り、白井達を抑えている時も窒素の装甲は解いていない。
不意打ちを受けたって、問題ないはずなのに。痛む右脇腹を抑え、白井の方を見る。
その側に立っていたのは、

「調子にのってンのは、絹旗ちゃンの方じゃねェのォ!?」

肩甲骨の辺りまで伸びている黒い髪。
小柄な身体を締め付けるように、黒い革と錨で出来たパンク系の衣装で身を包んだ、黒夜海鳥だった。

絹旗「お前……超生きていたんですか……」

黒夜「誰も死ンだなンて言ってねェけどなァ」

白井「あなたは一体何ですの!?」

黒夜「あァ?うるせェな」

黒夜の脇腹から、赤子のような機械の腕が無数に飛びだし、白井を殴りつけた。
あまりに突然すぎて、絹旗はもちろん、殴られた白井ですら悲鳴を上げる事はなかった。

絹旗「何……で……」

唐突な出来ごとの連続に、絹旗の頭はパンクしかけていた。

黒夜「落ち着け。オマエが疑問に思っている事は大体分かる。今からその答えを教えてやる」

133 : SS寄稿... - 2011/12/26 01:31:41.80 HgBmFR610 132/490

圧倒的速さで初春の後ろに回り込んだ御坂は、脇腹を狙って回し蹴りを放つ。

対し初春は、思い切り屈み回し蹴りを回避しつつ、反時計回りの水面蹴りで御坂の左足を払う。
そうして前のめりになって、地面に倒れそうになった御坂の顔に肘を叩きこむ。

ぐらり、と後ろに仰け反る御坂に追い討ちをかける為、氷のメリケンサックをつけた左手で殴りかかる。

しかし御坂は、踏ん張らずにそのまま背中から倒れて行く。
結果左拳が空を切り、前のめりになった初春の顎に衝撃が走った。

御坂が地に手をつき、バク転の要領で初春の顎を蹴ったからだ。

逆にフラつく初春を見て、チャンスとばかりに頭を触る為に左手を伸ばす。

しかし今度は御坂が虚を衝かれた。
何とか踏ん張った初春が左手を避け、頭突きをかましたからだ。

御坂「いっ!?」

またしてもグラつく御坂に、初春は飛び蹴りを放つ。

今までのアクションもそうだが、さすがに飛び蹴りが来るとは思わなかった御坂はモロに飛び蹴りを腹に喰らい、
地面を転がった。

134 : SS寄稿... - 2011/12/26 01:34:45.77 HgBmFR610 133/490

御坂「初春さんのくせに、やるじゃない」

褒め称えているのか、馬鹿にしているのか分からないような事を言いながら御坂は立ち上がる。

初春「いつまで上から目線でいるんですか?もう御坂さんの負けですよ」

初春は右手を前に出す。それだけ。
それで御坂の薄ピンクのウインドブレーカーが突如燃えだした。

御坂「あつっ!」

なりふり構わずチャックを下ろしてウインドブレーカーを投げ捨てる。
真ん中にピンクのハートがプリントされたTシャツが露になる。

御坂「くそ……!」

初春「だっさいTシャツですね。大丈夫です。ぜーんぶ吹き飛ばしてあげますから」

何を言っているのかよく分からなかったが、その答えをすぐに身を持って知る。

ボンッ!と、ステンレスのシンクに熱湯をかけたような音。
御坂の背後の空間が爆発した。

御坂「あぐっ!」

不意打ちの爆発に対応できなかった御坂は前に吹き飛び、地面に膝をついた。

初春「爆発とは、気体の急速な熱膨張を指すんですよ。私の言いたい事分かりますか?
   私の能力をもってすれば、こうして擬似的爆発を起こせるんですよ。座標や範囲、威力も思いのままに、です」

手を御坂の顔面が見えないようにかざす。
もういつでも御坂を包み込むぐらいの爆発は出来る。

初春「もう分かったでしょう?温度を操作する事によって生まれる数々の座標攻撃。
   はっきり言っておくと、電撃だって氷の盾を生み出す事によって防げます。
   私には協力者がいて、御坂さんの座標は常に把握していますから、逃げるのも無理です。
   信じる信じないは自由ですけどね。詰みなんですよ。諦めて食蜂さんの傘下に入ってください」

御坂「……ふっ」

短く息を吐き、御坂はゆっくりと立ち上がる。

御坂「お断りよ。誰があんな奴の下につくもんですか。食蜂の傘下に入るぐらいなら、黒子と1日デートの方がマシよ」

初春「……状況分かってないんですか?死ぬか従うか、御坂さんにはこの2択しかないんですよ」

御坂「それは違うわ。第3の選択が残っているわよ。あなたを殺すって言う選択がね」

135 : SS寄稿... - 2011/12/26 01:37:44.78 HgBmFR610 134/490

初春「私を殺す?どうやって?」

御坂「『超電磁砲』で」

初春「そうか。そういうことですか」

初春は氷の盾を生み出し、電撃を防ぐと言った。確かにエネルギーである電撃はそれで防げるかもしれない。
だが物理的なモノを媒介にして射出する『超電磁砲』なら氷の盾を貫く事が出来る。

初春「いいんですか?本当に私を殺しちゃって。佐天さんや白井さん、上条さんは幻滅するでしょうね~」

御坂「別に。仕方ないわよ。私は自分の命が可愛いし、食蜂に従うのもプライドが許さない。
   この2つを達成する為なら、軽蔑されても構わないと思っているわ」

初春「本気、なんですね?」

御坂「ええ」

初春「うわああああああああああああ!」

悲鳴。
同時、御坂がいた空間が爆発する。しかし御坂は避けていた。

初春(マズいマズいマズいマズい!)

初春は周囲に爆発を乱発していた。
初春の今までの戦略は、自分が絶対に殺されないという状況があったからだ。
だってそうだ。体術だって電撃だって、よほどじゃない限り喰らったって死にはしない。
相手は救うために戦っている。手加減される事は必至だったわけなのだから。

だが『超電磁砲』は違う。音速の3倍以上で放たれるそれは、喰らえばまず即死だ。

物理的なものだからこそ、氷の盾は無意味と化し、逆に爆発は通用するが、音速の3倍以上のそれを爆撃出来るはずがない。
結局、殺す気になった御坂の『超電磁砲』など止める術はない。否、この爆発の乱発すら無意味だった。

ドゴォォォン!とコンテナを媒体にした『超電磁砲』が爆発など突き抜けて、初春の目の前の地面に直撃した。

初春(くぅ!)

初春は即席で氷の盾を生み出し、地面の破片や余波をなんとか凌ぐ。
その間に、本当に居た協力者からの信号を受け取っていた。『コンテナの中に入った御坂がそっちに飛んで行く』と。

初春(ちょっと意味が分からないですが……)

協力者の信号通り、コンテナが飛んできた。
数は5個。どれに御坂が入っているのかは分からない。

初春(なら全部吹き飛ばせばいいだけ!)

バゴォン!とコンテナは爆発し火に包まれ、もろくも地面に落ちた。

初春「やった!?」

やってなどいなかった。ボフッ!と煙をかき分け御坂が手を伸ばす。ごく単純な話。
初春がコンテナを爆発させる寸前に、コンテナから飛び出ただけのことだった。

初春(――くっ!)

御坂(勝った!)

完全に意表を突かれた初春の様子を見て、御坂はそう思った。
しかしここで、御坂の予想を超える出来事が発生した。

ボンッ!と御坂と初春の間の空間が爆発した。
2人は爆発をモロに受け、吹き飛ばされた。

136 : SS寄稿... - 2011/12/26 01:39:40.86 HgBmFR610 135/490

超至近距離で爆発を喰らって、うつ伏せに倒れている御坂には立ち上がる力が残っていなかった。

御坂(くっそ……)

初春「無様ですね、御坂さん」

爆発の煽りを受けたはずの初春は、御坂を見下ろしていた。

御坂「な、んで……」

頭の花飾りはなく、柵川中学の冬服も焦げていることから、煽りを受けていない訳ではないはずだ。

初春「あの爆発と同時、咄嗟に氷の盾も生成したんですよ。
   即席だったので、おざなりなものでしたが、こうして立ち上がれるほどには防げましたよ。
   惜しかったですね~。私を殺すつもりなら勝てたでしょうに、救うために戦ったばかりに、
   こんな結末になっちゃって」

あはははは!と初春は嘲笑いながら、御坂の頭を踏みつける。

御坂「くぅ……」

拳を固く握り締め、立ち上がろうとするが、体は動かない。動いてくれない。

初春「今の私なら、触れた個所の細胞を完璧に死滅させる事が出来ます。
   つまり、一生モノの傷をつける事が出来るんです。どうしましょうか?
   御坂さんの×××に指突っ込んで、子供を産めない体にしましょうか?
   それとも死にますか?それとも、食蜂さんの傘下に入りますか?」

御坂「……どれもお断りよ。私は死なないし、食蜂の傘下にも入らない」

初春「……状況分かっています?御坂さんには選択権はないんですよ」

御坂「そうね。私は敗者。選択権なんてない。けど、アイツがいる。
   アイツが私を死なせないって、守ってくれるって約束したから」

初春「はっ!何を言うのかと思えば、結局は他人任せですか!例の上条さんですか?
   無理ですよ。戦いはここだけで行われている訳ではありません。そんな都合よく来るはずがありません」

御坂「来るわよ……」

初春「来ないですよ!そんな少年漫画みたいな展開、あるわけないんですよ!」

言いながら初春は、御坂の腹を思い切り蹴った。
その後少し離れ、極めて小規模な爆発を、御坂の体の各部位に起こす。

ボッボッボッ!と連続で爆発を喰らった御坂は額からは血を流し、全身には火傷を負った。
もはや悲鳴をあげることすら出来なかった。

御坂(私……ここで……死ぬのかな……)

薄れゆく意識の中で、漠然とそんな事を思っていた。
やっぱり都合よく助けてくれるヒーローなんていなかったのか。

御坂(私って……ほんとバカ……)

そりゃそうだ。来る訳ない。初春の言う通り、戦いは各所で行われているだろう。
だとすると助けに来る余裕はない。仮に戦いに勝利し余裕があったとしても、この場所が分かるとは限らない。
助けに来るなんて幻想を、どうして考えてしまったのだろう。

御坂(まあ……食蜂の下につく位なら……死んだ方がマシか……)

喰らった爆発は合計5発。腹部に両手と両脚だ。多分次は顔面に来る。

初春「さよなら」

御坂は死を覚悟して目を閉じた。
そして――

137 : SS寄稿... - 2011/12/26 01:41:20.66 HgBmFR610 136/490

初春「ぐふぅ!」

初春の悶絶した声。御坂は目を開いて初春の方を見る。
そこには。

片膝をつく初春に、彼女の頭の上に右手を置いている一方通行だった。

一方通行「――コマンド実行――削除」

要した時間はやはり2秒。
初春の体は痙攣したように動いたかと思えば、そのまま地面に崩れ落ちた。

御坂「あくせ……られーた……」

一方通行「遅くなってすまなかった」

御坂「そ、れは……春上さん?」

一方通行が左手で抱えている人間を見て、御坂は尋ねる。

一方通行「名前は知らねェけど、ここに来る途中にいたから、ついでにな。オマエはもう喋ンな。一旦病院に戻るぞ」

右手に初春、左手に春上を抱え両手がふさがった為、御坂は背負うことにした。

御坂「待って。最愛が……最愛が黒子達と……」

一方通行「さすがにこの人数を抱えて戦うのは厳しい。だが大丈夫だ。
     手は打ってある。だから、オマエは安心して眠っていろ」

御坂「信じて……いいの?」

一方通行「あァ」

とても短い返事。何の根拠も説明もない。しかし、その声には力強さがあった。

御坂「分かった……」

そうして御坂は、眠りについた。

138 : SS寄稿... - 2011/12/26 01:44:12.32 HgBmFR610 137/490

黒夜「まず私が死ンでない事についてだが、オマエとの戦いの後生き延びて、こうして復活を遂げた。
   ただそれだけ。次に、何で私がこのツインテールを殴ったのか。これも簡単。私は食蜂の味方ではないからだ。
   オマエを倒すという目的の達成の邪魔になる奴は、食蜂の手駒でもぶっ潰す」

そして、と食蜂は続けて、

黒夜「オマエが最も疑問に思っているであろうこと。なぜ窒素を纏っていたのにもかかわらず、攻撃を受けたのか。
   簡単だよ。私のこの機械の腕は窒素を吸収し放出する。窒素に頼っているオマエにとっちゃあ、天敵ってワケだ」

絹旗「要するに、私に対して復讐を超遂げたいってことですか」

黒夜「そうだ。だが弱ったオマエを仕留めても意味ねェ。やるなら、万全のオマエをやらねェとな」

そう言うと黒夜は、救急箱を投げた。

黒夜「それで一通りの応急処置が出来る。学園都市製の栄養ドリンクも入っている。
   それらで体調を万全に整えろ。5分待ってやる」

絹旗「……いいでしょう」

『暗闇の五月計画』で何ヶ月か一緒に過ごした絹旗と黒夜は、互いにある程度の事は知っている。
だから黒夜は絹旗の疑問を、思考パターンを推測して答えられたのだ。

それは逆にも当てはまる。絹旗も黒夜の思考がある程度分かる。
黒夜は基本的には攻撃的で、勝つために手段を選ばない。体を改造したことからも一目瞭然だ。

しかし彼女は、基本的には小細工や戦略を好まない。とにかく力で叩き潰す。
因縁があればある相手ほど、力で叩き潰す傾向は強くなる。そんな人間だ。

だから多分、5分ぐらいなら待つし、栄養ドリンクが毒薬と言う事はない。
そして機械の腕のトリックをわざわざ教えた。機械の腕について知らなかったから負けた。
という言い訳をさせない為に。完璧に力のみで叩き潰したと言う事を証明する為に。

どの道だ。左肩とふくらはぎに金属矢は刺さっているし、結構疲れていたところだ。この状況に甘んじるしかない。

139 : SS寄稿... - 2011/12/26 01:47:11.87 HgBmFR610 138/490

3分が経過した。
絹旗は刺さっていた金属矢を抜き、応急処置を終え栄養ドリンクを飲んだ。

黒夜「思ったより早く終わったな。しかし5分と言った以上、まだやらない。
   そっちにとっても悪い話じゃないだろ?休めるンだから」

絹旗「……ええ、超そうですね」

黒夜「相変わらず無愛想だねェ。まァいいや。もう一度言っとくが、私のこの機械の腕は窒素を吸収し放出する。
   オマエの『窒素装甲』は通用しねェからな」

絹旗「ですが、お前の『窒素爆槍』(ボンバーランス)も私には超通用しません」

黒夜「そンなこと分かってンだよ。だからオマエには使わねェ。オマエにはこの腕だけで攻撃する」

絹旗「いよいよプライドまでも超捨てましたか。能力ではなく科学の力で勝って、それで満足ですか?
   だったら安心です。そんなプライドの欠片も持ち合わせていない、からくり仕掛けのお前など軽く捻ってやりますよ」

黒夜「絹旗ちゃンよォ、オマエの考えは手に取るように分かるよ。
   そうやって挑発して私の能力を使わせまくり疲弊させ、機械の腕も極力使わせないようにする。だろ?
   残念。そンな挑発には乗りませン」

絹旗(チッ)

絹旗は心の中で舌打ちをした。黒夜の言っている事が図星だからだ。

絹旗は脇腹に痛烈な一撃を喰らっている。窒素を吸収し放出する。は多分真実だ。
だから使わせたくない。が、そんな単純な思考、読まれて当然だった。

『窒素爆槍』が効かないとはいえ、明らかに劣勢だ。機械の腕は2本とかじゃない。実に数千本はあるのだ。
いくら赤子のような腕とは言え、それを一斉に喰らえばひとたまりもない。

絹旗(どうすれば……!?)

逃げるか。いや無理だ。黒夜は『窒素爆槍』を放出して空を飛べるほどだ。
機動力では相手の方が上。逃げ切れるわけがない。背を向けた時点で負ける。

そうなると、やはり真っ向勝負しかないのか。
無理だ。1対1じゃあどうしようもない。誰か助けにきてくれないものだろうか。

絹旗が悩んでいると、黒夜はそれを見透かしたかのように口を開く。

黒夜「悩ンでるねェ。でもその時間ももうお終いだ。5分経った。いくぞ」

絹旗「ちくしょう!」

黒夜の機械の腕が絹旗に伸びる。戦いが始まった。

140 : SS寄稿... - 2011/12/26 01:50:25.06 HgBmFR610 139/490

絹旗「うおりゃー!」

絹旗はとにかく逃げ回り、機械の腕を潰す為に倉庫の瓦礫やコンテナを投げまくる。

黒夜「何だそりゃ」

しかし『窒素爆槍』でそれらは粉々に砕かれた。絹旗本人に通用しなくても、瓦礫などには通用する。
そして機械の腕は絹旗に迫る。

絹旗(考えろ。考えるんだ)

懲りもせず逃げながらコンテナなどを投げ、時間稼ぎをしながら考える。
しかしながら、コンテナや倉庫にも限りがある。そこまで時間はないだろう。

絹旗(『窒素爆槍』は掌から出す……って、そんな分かり切った事何の解決策にも――いや、掌……掌だ!)

ある1つの可能性に気付いた絹旗は、転がっていたコンテナの上に跳び乗り、さらに倉庫の上に跳び乗った。
そんな絹旗を追い、機械の腕が伸びてくる。

絹旗「そこです!」

絹旗は右拳を握るという動作をした。同時、グシャア!と機械の腕約100本が潰れた。

絹旗「窒素を吸収し放出するのは、掌からだけだと思いましてね。どうやら超ビンゴのようですね」

要するに絹旗は窒素を操り機械の腕の掌ではなく、腕部分を狙って破壊したのだ。

黒夜「ほォ」

絹旗「それに自分で言っていて、超気付きましたよ。吸収し放出するってことは」

言いながら絹旗は、今できる最大限の窒素を操り黒夜に“投げた”。
当然黒夜は機械の腕を出して応戦する。

ボッシュウウウウウ!という音と共に窒素は吸収され、黒夜の脇腹から出ていた機械の腕は全て砕け散った。

絹旗「吸収しきれないほどの量の窒素をぶつければ、破壊されると言う訳です」

黒夜「大正解だ」

機械の腕全てを失ったと言うのに、黒夜は余裕そうだった。

絹旗「何余裕ぶっこいているんですか。お前の負けですよ。黒夜」

黒夜「オマエはさ、いつまで経っても短絡的だよなァ。1つの攻撃手段を潰しただけで、なぜ勝ったと言い切れるンだ?」

絹旗「何が言いたいんですか?」

黒夜「オマエを潰す手段は、まだあるンだよ」

言うが早いか、黒夜は跳び、3mの高さの倉庫の上に居る絹旗の眼前に現れ、彼女の顔面に拳を叩きこんだ。
その拳で絹旗はふらつき、倉庫から落ちた。

141 : SS寄稿... - 2011/12/26 01:54:52.00 HgBmFR610 140/490

絹旗「まさか……お前も……」

鼻っ柱を押さえながら絹旗は呟く。

黒夜「だから言ったろ?短絡的すぎンだよ。オマエは」

バゴォ!と絹旗の腹部に蹴りが叩きこまれた。
それは人間の脚力の比ではなく、絹旗は数十m地面を転がった。

絹旗「おえぇ!」

口からは血が溢れ、悶えることしか出来ない絹旗の前に黒夜は立つ。

黒夜「オマエの読みは途中までは良かったよ。掌からしか吸収できない。
   吸収しきれないほどの窒素をぶつける。正解だよ。
   掌から吸収した窒素は、別の掌から放出しなきゃいけないからな。
   それを無視して、全掌でオマエの窒素をガードした。そりゃあ壊れるってモンだ」

だがなァ、と言いながら絹旗の腹を踏みつけ、かかとでグリグリしながら続ける。

黒夜「それを私がわざとやったということに気付かずに、勝利を確信したのは間違いだったなァ。絹旗最愛ちゃン?」

絹旗「ぐ、おぉ、が、ぁ」

痛む腹を踏みつけられ、絹旗は最早返事すら出来ない。

黒夜「オマエはいつまで経っても浅墓だ。どうして私の全てを知りもしないのに、勝利を確信したンだ?
   オマエだって成長して、レベル5にまでなったンだろ?
   じゃあ私だって成長している、他のトリックがあるかもしれない。と普通は思わないか?」

黒夜は問いかけるように喋り続けるが、当然絹旗は返事が出来ない。

黒夜「私はオマエを倒す為だけに体をさらに改造した。私の全身は、窒素を吸収し放出する事が出来る。
   さらに窒素を蓄えたり、放出の強さを自由に調節できたりだ。
   私が倉庫まで跳ンだのは、これらの機能を利用したからだ。オマエ専用のカスタマイズだよ。喜べ」

絹旗「うぅ、ぐ、ぉ」

絹旗は力の入らない手で、黒夜の足を何とかどけようとする。

黒夜「知りたがりのオマエのことだ。1つの疑問が残っているだろう。
   なぜわざと窒素を吸収し腕を破壊させたのか。その答えはこうだ。
   短絡的なオマエのことだ。腕を破壊した時点で勝利を確信し油断すると思っていた。
   私はね、オマエをただ潰すだけじゃ足りないンだよ。天国から地獄に叩き落とされる感覚を味あわせたかったのさ」

それと、と黒夜は続けて、

黒夜「オマエは私の腕を破壊するために、攻撃自体はたったの2回だったが、莫大な窒素を操った。
   つまり、能力をほとンど使い切ってしまった訳だ。でもそれで問題ないとオマエは思った。
   機械の腕さえ破壊すれば『窒素爆槍』しかない私に勝てると踏ンでいたわけだからなァ」

絹旗「つまり……何が言いたいんですか……」

腹は踏まれ続けているが、何とか言葉を紡ぐ。

黒夜「私が言いたい事は、完璧に勝ちたかったってことさ。
   私が機械の腕で肉体的にオマエをフルボッコにしても、能力自体は万全だった。これじゃあ真の勝利とは呼べない。
   能力もたくさン使って、もう使えないって状態でフルボッコじゃないと駄目だったンだ」

要するにだ。黒夜は絹旗に能力をギリギリまで使わせ、絶望を味あわせる為だけに機械の腕をあえて破壊させた。
ということだ。

完璧に勝つ為とはいえ一見無駄な行為にも思えるが、黒夜は絹旗の性格や考え方を完璧に読み切った上でそれを実行し、
結果として絹旗はこうして地面に伏し、黒夜に一切の反撃が出来なくなっている訳だから、この勝負は黒夜の完全勝利と
言えるだろう。

つまるところ、絹旗は完敗だった。

142 : SS寄稿... - 2011/12/26 01:57:09.71 HgBmFR610 141/490

黒夜「さァて、どう料理しようか?まずは眼を抉ろうか?
   それとも×××に掌無理矢理ぶち込ンで、『窒素爆槍』炸裂させるか?
   それじゃあ死ンじまうモンなァ。そうだ。皮膚の3割を剥がそう。3割なら大丈夫だろ。それクリアしたら5割で――」

黒夜の声など、絹旗の耳には届いていなかった。
あるのは思考など何もかも読まれ、こうして敗北した屈辱だけだ。

絹旗「……せよ」

黒夜「あァ?」

絹旗「早く殺せよ……遊ンでるンじゃねェよ。オマエみたいな劣等生に負けた時点で、生きている価値はねェ。
   一思いにさっさとやれ」

魔術と科学の戦争で対峙した時も抑えてきた、一方通行の思考が持つ攻撃性が溢れ出てくる。
口調どころか、丁寧な言葉遣いまで失われている。

黒夜「イヤだね。オマエは簡単には殺さねェ。じっくりたっぷりいたぶってから殺す」

絹旗「クソが……」

黒夜「決ーめた。まずは両手の指を千切って、入れ替えて――」

黒夜の言葉は続かなかった。
一方通行が彼女の顔面に飛び蹴りを叩きこんで、数十mはぶっ飛ばしたからだ。

一方通行「ようドチビ」

絹旗「一方通行……どうしてここに……」

一方通行「面倒臭ェから、詳しい説明はしねェ。ただ言える事は、オマエを助けに来たってことだ」

絹旗「そうですか……って、ちょ、あの」

一方通行「ハシャぐな」

一方通行はバタバタ暴れる絹旗を左手で抱えた。

絹旗「だって、こんなモヤシに抱えられるなんて超恥ずかしいです///」

一方通行「じゃあ自分で歩くか?」

絹旗「……超すいませんでした。出来ればおんぶしてください」

一方通行「仕方ねェな」

絹旗「ちょ、そこは、お尻は触らないでください!このアクセロリータ!」

一方通行「はァ?オマエが辛そうにしてっから支えてやってンだろうが。自分で歩くか?」

絹旗「……超すいませんでした。このままでお願いします。(い、意外と大きい背中///)」

黒夜「イチャついてンじゃねェぞクソコラァ!」

一方通行と絹旗が呑気なやりとりを交わしている間に、ぶっ飛ばされた黒夜が拳を固く握り締めて、
彼らに猛スピードで突っ込む。

絹旗(超やばいです!)

一方通行「ふン」

しかし絹旗の心配は取り越し苦労だった。
一方通行は左に数歩移動しただけで、黒夜の突進をいとも容易く避けたからだ。

143 : SS寄稿... - 2011/12/26 01:59:47.74 HgBmFR610 142/490

黒夜(避けただと!?)

衝撃の事実に驚愕しながらも、ズシャアアア!と地面を数mスライドして黒夜は止まった。
何もかも『反射』で済ませてきた一方通行が『避ける』という行為ができるとは微塵も思っていなかった。
だがそれは。

黒夜「やっぱり覚えていたか。私の体に木原数多の数値が入力してある事を」

自分が脅威である事を認めているようなものだ。

一方通行「あの飛び蹴りを耐えるとは、丈夫さだけはあるよォだなァ」

黒夜の言葉などまるで無視した発言だった。

黒夜「まさか避けられるとは思わなかったが、避けるという事は私を恐れていることと同義だぞ。一方通行」

発言を無視した一方通行の発言を、さらに無視して発言した黒夜。
一方通行は呆れた様子だった。

一方通行「よくもまァ下らない事をペラペラと喋りやがる。やっぱりオマエはゴミだなァ」

黒夜「あァ!?」

一方通行「しかしだ。人間やめた粗大ゴミとは言え、俺が生み出したゴミでもある。
     ゴミは責任もって片付けないといけねェよなァ」

黒夜「その言い方だと、オマエのその背中に居るチビもゴミってことになるが。
   いや、ゴミである私に負けたンだから、ゴミ以下って訳かァ!?」

絹旗(何を!?)

一方通行「何で?コイツはただのチビだろうが」

黒夜「何でだよ。オマエの言い方だと」

一方通行「あのさァ」

黒夜の言葉にわざわざかぶせてまで、言う。

一方通行「言い方もクソも関係ねェンだわ。
     チビはチビ、ゴミはゴミって言う話に、特別な意味や理由なンてねェンだよゴミ」

黒夜「ちっくしょおォォォがァァァ!」

大気中にある窒素を吸収し、足から放出。結果先程の3倍のスピードで一方通行に迫る。
彼の顔面を木原神拳で殴り飛ばす為に。

黒夜「死ねェェェ!」

体中がサイボーグ化している黒夜の膂力は人間の比ではない。
よって一発でも当てれば勝てるのだ。そして一方通行は今度こそ避けられないだろう。

一方通行「遅ェ」

しかし一方通行は黒夜の予想に反して、屈むことによって拳を回避。
そして彼は右拳を固く握り締めていた。黒夜の腹を殴る為に。

一方通行「終わりだ」

ドゴォン!とベクトルの力が乗せられた超強力な拳が、黒夜の腹に叩きこまれた。
あまりの威力の拳を喰らって、黒夜はだらりと一方通行に寄りかかった。戦いはあっけなく終わった。

144 : SS寄稿... - 2011/12/26 02:03:06.43 HgBmFR610 143/490

一方通行「邪魔くせェ」

寄りかかる黒夜を、一方通行は容赦なく払いのける。

黒夜「な……ンで……オマエ……」

一方通行「まだ意識があンのか。本当に体だけは丈夫に出来てやがるな」

黒夜「そ……ンな……風に……」

一方通行「あァ?」

絹旗「何でモヤシだった一方通行が、攻撃を2度も避け、超カウンターを決められたのか。
   って言いたいんだと思いますよ」

一方通行「何でって、そンなモン決まってンだろ。成長した。ただそれだけだ」

今の黒夜はまさに絹旗と同じだった。
一方通行の全てを知りもしないのに、木原神拳があるからと思って勝利を確信し、慢心したことが一番の敗因だった。

一方通行「さァて……どうする?」

一方通行は黒夜に向かって問いかける。そこに絹旗は口を挟む。

絹旗「どうするってどういうことですか……超殺すべきでしょう……」

一方通行「俺もついさっきまではそうするつもりだったンだがよォ。ここまで丈夫なら、無理して殺す事もねェかなァと」

絹旗「超意味わかんないです。……まさか、奴隷にでもするつもりですか?
   無理ですよ。性格が超超ちょー歪んだやつですから」

一方通行「そンなつもりはねェよ。ゴミってのは、捨てる以外にもリサイクルって言う方法もある。
     ただ捨てるよりは、再利用した方がマシだろ」

絹旗「冷酷な一方通行が、超甘い事を言うようになりましたね」

一方通行「良い傾向だろォが」

絹旗「……そうですね。殺さずに済むなら、それはそれでいいです」

一方通行「ということで、改めてどうする?」

黒夜「どうするも……何も……敗者は……勝者に……従わなければ……ならない……」

絹旗「じゃあ」

黒夜「だが……断る!」

黒夜の体が爆発した。

145 : SS寄稿... - 2011/12/26 02:03:58.02 HgBmFR610 144/490

一方通行「自爆、流行ってンのか……?」

黒夜の自爆を、一方通行は後ろに跳んで回避していた。

絹旗「黒夜……」

一方通行「悲しいか?」

絹旗「……いえ、成績コンプレックスのストーカーが居なくなって、超嬉しいです」

一方通行「……そうか」

絹旗「……はい」

そう言った声は震えていた。明らかに泣くのを我慢している。
なぜ泣くのを我慢しているのか。それは黒夜が死んだからだ。

ここで1つ疑問が浮かぶ。
なぜ黒夜が死んだからと言って、絹旗は悲しむ必要があるのだろうか。
その答えは『暗闇の五月計画』にある。

147 : SS寄稿... - 2011/12/26 02:08:09.79 HgBmFR610 145/490

そもそも『暗闇の五月計画』とは『置き去り』(チャイルドエラー)という、
平たく言うと学園都市に捨てられた子供達を使って行われた計画だ。
絹旗最愛、黒夜海鳥の2人もそうだった。2人はここで出会った。

学園都市の『闇』を知らない当時の2人は、純粋な少女だった。
『置き去り』という同じ境遇からか、はたまた相性が良かったのか、2人は親友となった。

そんな2人含む『置き去り』達は『暗闇の五月計画』で、能力開発をはじめとする様々な実験の実験体となった。
それはまさに、地獄と言っても過言ではなかった。
実験に耐えられず肉体的に崩壊していく者、精神的に崩壊して自殺をする者。
そんな掃き溜めの中で、絹旗と黒夜の2人は何とか生き延び、互いを励まし合った。
彼女達は強かった。並の実験なら『暗部』に堕ちることはなかったのかもしれない。

だが不幸なことに、この『暗闇の五月計画』は当時レベル5の第1位だった一方通行の演算パターンを参考に、
能力者の『自分だけの現実』を最適化、能力者の性能を向上させ『一方通行の精神性・演算方法の一部を意図的に
植え付ける』という最低最悪のものだった。

これにより彼女達は、窒素をそこそこ操れる程度だったが、一方通行の攻撃性を付与した黒夜には『窒素爆槍』が、
防護性を付与した絹旗には『窒素装甲』という特性が発現した。
さらに一方通行の思考パターンの一部を植え付けられた関係上、能力使用時に感情が高ぶると、
一方通行の思考が持つ攻撃性に本来の人格が引き摺られてしまうまでになってしまった。

それでも絹旗は、完全に抑える事はできなくともある程度は抑えてきた。
だが黒夜は、攻撃性が付与された事もあってか、暴走してしまったのだ。
暴走した黒夜によって『暗闇の五月計画』の研究者達は皆殺し。計画は一定の成果を上げたものの破綻した。

そして彼女達は同じ『暗部』という道に進む。
ほんの少しではあるが良識を持っていた絹旗も、そこで完全に『闇』に染まった。
黒夜はさらに加速度的に堕ちていった。親友だった彼女達は、お互いの事を気にもかけなくなっていった。

しかし転機は突然訪れた。第3次世界大戦直後、一方通行によって『暗部』が解体されたのだ。
その時絹旗は、今は亡き浜面・滝壺と出会い、良識を多少は取り戻していたこともあってか、素直にその事を喜んだ。
だが黒夜は違った。
詳しい事は分からないが、彼女は表の世界に戻るどころか『暗部』が解体されることすら良しとしなかった。
彼女達の道はそこで完全に違った。

その後彼女達は、大戦直後の11月初旬、争うこととなった。結果は絹旗の負け。絹旗は気付いた。
覚悟はしていたがもう黒夜は以前の黒夜じゃない。

それでも絹旗は黒夜の事を諦めきれなかった。たとえ性格が最悪でも、体をサイボーグ化し、人外に成り下がっても。

その後11月の下旬、黒夜含む『新入生』が学園都市にクーデターを起こした。
結果としては学園都市側が勝利したわけだが、絹旗と黒夜が直接出会う事はなかった。

さらにその後12月のクリスマス・イブに魔術vs科学の戦争が勃発。
その機に乗じて『新入生』の残党が、絹旗含む浜面達に牙をむいた。そこで絹旗と黒夜は、2度目の直接対決を迎えた。

絹旗は、もはや元には戻れそうもない黒夜を見て思った。もう黒夜の事は忘れようと。
今まで紆余曲折あったが、浜面と滝壺と麦野との平和を崩すのなら容赦はしないと。

いざ戦いが始まると、一時は黒夜に追い込まれるものの、最終的には逆転勝利。
常人なら即死級の必殺技をクリーンヒットさせた。これで絹旗としては完全に決着をつけたつもりだった。

しかし、今日4月13日。こうして黒夜と再び相まみえることとなった。
浜面達は死亡したが、今は白井や初春との平和がある。再び叩き潰す事を決意した。

結果は敗北。しかし一方通行に助けられ、逆に黒夜を追い詰めることに成功。
その時点で絹旗は、容赦なく叩き潰すつもりだった。だが一方通行は見逃すと言いだし、黒夜の方もかなり弱っていた。
絹旗はそこで希望を抱いてしまった。ひょっとしたら前のような関係に戻れるかもしれないと。
だがその思いは届かず、黒夜は自爆。そして今に至る。

148 : SS寄稿... - 2011/12/26 02:10:22.27 HgBmFR610 146/490

一方通行は、絹旗と黒夜について詳しい事は知らない。
でも彼女達、いや『置き去り』達は自分が存在したが為の計画に巻き込まれて狂ったのであろうことは容易に想像がつく。
だから彼は、こんな事を言った。

一方通行「記憶、失ってみるか?」

絹旗「いきなり何言いだすんですか?それに、どうやって」

一方通行「俺の力を使えば多分できる。辛い記憶を失わせる事が出来る。
     今まで辛い事だらけだっただろ?記憶を無くしても、そンなに損はねェと思うが」

絹旗「……そうかもしれません。けど、超遠慮しておきます。
   辛い記憶だって私の一部で、否定するのはいけないと思いますから。
   なかったことにしては、いけないと思いますから」

一方通行「……そうか。ならせめて、俺の思考パターンだけでも消すか?」

絹旗「……どうしましょうかね。窒素の装甲がオートじゃなくなる気がしますし、超迷いますね」

一方通行「別に良いじゃねェか。オートじゃなくても。オマエが常に集中を緩めなければ、問題ねェよ」

絹旗「そうですね。じゃあ、お願いします」

一方通行「あとでな。今はゆっくり眠っていろ」

絹旗「はい」



時刻は7:00。戦いの第一局面が終了した。

154 : SS寄稿... - 2011/12/27 09:56:33.07 JDo3T/bx0 147/490

上条達は6:30に冥土帰しの病院に到着。
まず上条は、五和をとある高校の制服から学園都市の協力機関が持ってきた濃いピンクのウインドブレーカーと
濃いグレーのパンツに着替えさせた。その後今の状況を簡単に説明。ここまでで約20分経過していた。

上条「そう言う事だから、本当は巻き込みたくないんだけど、五和にも協力してほしい」

五和「分かりました。それで、その、本当にごめんなさい。操られていたとはいえ、当麻さんに攻撃するなんて……」

上条「いいよ別に。特に怪我とかないし。それよりさ、これ」

そう言って上条が五和に見せた物は、今は亡き神裂火織が使っていた『七天七刀』だった。

五和「これは、女教皇(プリエステス)の……どうして……?」

上条「よく分かんねーんだけど、学園都市の協力機関が持ってきたんだよ。
   とりあえずさ、槍も壊れちまったわけだし護身用に持っておけよ」

五和「わ、私ごときがプリエステスの得物を使いこなせるでしょうか……まして私は本来、槍使いですし……」

上条「別に使いこなせなくたっていいだろ。何もないよりはマシさ。なあに、いざとなったら俺が守ってやるからさ」

五和「当麻さん///」

上条「そう言う事だからさ、朝飯食おうぜ。協力機関が持ってきたおにぎりとかの軽食になるけど」

五和「え、そんな呑気にしていて良いんですか?」

上条「多分だけど、大丈夫だ。食蜂にとってこの戦いはゲームにすぎない。
   だから徹底的に俺らを追い詰めるとかは、まだしないはずだ。
   この病院だけは、まだあえて見逃されているはずなんだ」

五和「そ、そんな希望的観測で大丈夫ですか?」

上条「大丈夫だって。万が一能力者が攻め込んできても、俺が守るから」

五和「当麻さん///」

155 : SS寄稿... - 2011/12/27 09:57:59.53 JDo3T/bx0 148/490

そうして2人は軽い朝食を摂った。時刻は7:00になっていた。

上条「さーて、朝食も食べ終わった事だし、行きますか」

五和「あの、今更なんですけど、当麻さんは2度目の朝食だったんじゃないですか?
   もしかして、私に付き合って無理して」

上条「確かに2度目だったけど、腹減っちゃってさ。腹が減っては戦はできぬって言うし?貴重な食料食べちゃった」

五和「そ、そうですか。あはは……」

ちょっと残念だったが、食べちゃった。が、お茶目で可愛いと思ってしまった。

上条「よし。じゃあ行きますか」

五和「はい」

垣根「ちょーっと待って下さいよー」

戦場に舞い戻ろうとした2人を、病院の入口で垣根が阻んだ。
そしてその垣根の隣には、十九世紀のフランス市民に見られた格好(全身黄色)をした人物が御坂を背負って立っていた。

「はろ~」

上条「ヴェント!?と傷だらけの御坂!?」

ヴェント「詳しい説明は病院の中でする。もうすぐダーリンと、一方通行だっけ?そいつも戻ってくるからさ」

156 : SS寄稿... - 2011/12/27 10:01:26.80 JDo3T/bx0 149/490

ヴェントの言う通り、7:10には絹旗を背負った一方通行と、真っ赤なスーツに身を包んだフィアンマが病院に戻ってきた。
傷だらけの御坂と絹旗は、五和とヴェントと一方通行によって応急処置。
フィアンマは、上条、垣根に病院のロビーで状況説明をすることになった。

上条「聞きたい事があり過ぎて、頭がパンクしそうなんだが……」

「俺様達がここに居るのは、雲川芹亜に指示されたからだ。助っ人の6人の内の2人だ」

上条「他の助っ人は?」

フィアンマ「他も各々役目を果たしているよ。削板軍覇なんかは既に戦闘を開始しているからな」

上条「本当に大丈夫なのか?雲川先輩も頼りになる強い助っ人だって言っていたけど、正直信じられない。
   だって俺の能力で『原石』の力を失って、しかも能力開発していないから完璧な一般人。
   それでレベル5に対抗できるとはとても思えない」

フィアンマ「そう思ってやつには魔術を仕込んだ。今や俺様達でも理解不能な魔術を使う。
      それと、やつは戦闘に関しては天賦の才がある。何も心配いらん」

上条「マジかよ……」

垣根「で、他の3人は?窒素のチビガキは助っ人じゃないって聞いたんだが」

フィアンマ「戦争の時に一緒に居た服部半蔵と郭とか言う忍と、闇咲逢魔だ」

垣根「ああー、忍ね。確かに居たような気もするけど。で、やみさかおうま?誰だよ」

フィアンマ「魔術師だよ。結構使える奴だ。何せ透明になる魔術を使える。今頃はどこかに侵入しているんじゃないか?」

上条「なるほど。助っ人については分かった。じゃあ次の疑問だ。
   皆戦った能力者はどうした?フィアンマとヴェントは侵入者なんだから、当然ここに来るまでに迎撃されたんだろ?
   垣根もだ。わざわざテレポートされて、誰とも戦ってないわけがない。
   御坂に至っては傷ついて帰ってきた。まさか、逃げてきただけか?」

フィアンマ「もっともな疑問だが、それは問題ない」

そう言うとフィアンマは、右手に持っていた魔道書らしきものを上条に見せる。

フィアンマ「この本の中に能力者を回収する事ができる。
      さらに言うと、準備をしておけば本の中に居る人間を好きな場所に移動させる事も出来る」

上条「よ、よく分からんけどスゲー!……って垣根はあんま驚かないのな」

垣根「助っ人の話はともかく、本の説明は黄色いねーちゃんからもう聞いたからな」

フィアンマ「要するにだ。救った能力者はこの本の中に閉じ込める。
      またはこの本を通じて、ある場所にワープさせる事も出来る。これで救った能力者達は安全だろ?」

上条「凄いな!これで能力者の心配はいらなくなった訳だ。五和も転送してもらおうかな」

フィアンマ「俺様はどっちでもいいぞ。後で話し合ってくれ。この本は俺様の他にも、助っ人全員が持っている。
      忍ペアは2人で1つだがな」

上条「そっか。じゃあ垣根や一方通行は、救った人を転送してもらったんだな」

フィアンマ「ちなみに現時点で回収したのは、合計9名。
      今も戦っている削板と俺様達が回収したのを合わせると、65名となる」

上条「お前らどんだけ回収したんだよ!」

フィアンマ「普通だ。それより俺様達はあくまで回収したにすぎず、洗脳自体は解いていない。
      だから今から、お前の『幻想殺し』で解除する」

上条「どうやって?」

フィアンマ「こうやって」

フィアンマは手に持っていた魔道書を開く。するとそこから、56人の人間が飛び出て来た。

157 : SS寄稿... - 2011/12/27 10:03:36.44 JDo3T/bx0 150/490

上条「うわっ!ちょっと、おい!」

56人の人間は乱雑にばら撒かれた。全員気絶している。

フィアンマ「こう言う風に、5冊の魔道書はリンクしていて、魔道書の中身は別の魔道書に自由に移動できる。
      距離の制限は特にない。さあ早く頭を触れ」

上条「……お、おう」

上条は56人の頭に次々と触れて行く。独特の音が56回響き渡る。

フィアンマ「よし。じゃあ転送するぞ」

フィアンマは特に何のモーションも呪文らしき事も唱えなかった。
それでも56人の人間は、開いている魔道書に吸い込まれていった。

上条「すげーな。でもその魔道書、破壊されたらどうなるんだ?」

フィアンマ「中に何かが入っているときは、その入っているモノも壊れるが壊させはしないし、
      基本的に本の中に入れっ放しにはせずに、すぐに転送するから心配はいらんよ」

上条「それ超便利なんだけど、俺らにもないのかよ?」

フィアンマ「あと1冊だけある。だがこの魔道書は『幻想殺し』を持つお前はもちろん、能力者にも使えない。
      使えるのは、何の才能もない一般人か魔術師のみだ。
      土御門の為に用意したんだが、どうやら洗脳されたらしいじゃないか。
      だから、お前の彼女に持たせるのが妥当かな」

上条「そっか」

フィアンマ「さて、女の子達の治療が終わったら、軽く作戦会議だ」

158 : SS寄稿... - 2011/12/27 10:04:44.56 JDo3T/bx0 151/490

食蜂陣営

食蜂「で、結局今の状況は?」

土御門「侵入者3名に合計56人が奪還。一方通行には3人殺され1人奪還。
    その後御坂と絹旗の救助に向かい、1人殺され6人奪還。他は垣根に20人倒され1人奪還。
    上条に1人奪還されていますね」

食蜂「合計89の手駒が減ったわけねぇ」

折原「向こうの状況は、御坂美琴と絹旗最愛が満身創痍。一方通行様にダメージ。上条様と垣根様は無傷ですね」

食蜂「なかなか楽しいゲームねぇ。さぁて、お次はどうしましょうか……」

159 : SS寄稿... - 2011/12/27 10:08:59.05 JDo3T/bx0 152/490

7:20 第14学区

「おっしゃあ!これで8人目!」

これまでに『洗脳能力』(マリオネッテ)『思念使い』(マテリアライズ)の精神系能力者2名、
肉体強化の能力者1名、テレポーター1名、『量子変速』(シンクロトロン)の釧路帷子と介旅初矢の2名、
『絶対等速』(イコールスピード)の合計7名を倒し奪還。
そしてたった今、絹旗が先日拘束した『肉体鋼化』の女を、削板軍覇は奪還した。

削板「次はどいつだぁ!」

叫ぶ削板に呼応するように、9人目の能力者が削板の目の前にテレポートされた。少しぽっちゃり気味で、おかっぱの少年。
普通の制服を着ているが、首からは派手なシルバーアクセサリーがいくつもぶらさがっていた。

削板「おおう、なんか似合ってないぞ。その首にぶら下がっている銀色の奴」

「間違った昭和の番長みたいな恰好をしている君には言われたくないね」

鋼盾掬彦は若干キレ気味で返す。

削板「何だと!?俺は怒ったぞ!」

削板は地面を蹴って駆けだした。
2人の距離は10m以上開いていたが、削板はその距離をわずか2歩で埋め、時間にして1秒強で鋼盾の懐に入った。

削板「っ!」

放たれた拳は、しかし空を切った。鋼盾が右に移動したからだ。

削板「やるじゃねぇか。ガッチリした体型の割には、動けるんだな」

鋼盾「君の今までの戦いをずっと見ていたんだ。今更その程度では倒されないよ。僕には油断も慢心もない。
   次は僕の力を見せてあげるよ」

そう言って鋼盾は、首にいくつもぶら下がっているシルバーアクセサリーの1つを触った。
すると金属はウネウネと動き出し、最終的に1.5mほどの鎌になって、彼の手に収まった。

鋼盾「『金属使い』(メタルマスター)の僕は、あらゆる金属を使いこなす事が出来る。
   さっきの体を鋼鉄化するだけの脳なしじゃないからね」

削板「なるほどな。今の発言で確信したよ。お前はただの根性無しだ」

鋼盾「何だって?どうしてさ」

削板「お前は今、あの女の事を馬鹿にした。他人の事を馬鹿にするような根性無しには、絶対負けない」

鋼盾「なんだそりゃ。お前みたいな熱血馬鹿は死ねっ!」

鋼盾が駆け出す。意外と素早い彼は削板にある程度近付き、首を刎ねる為に鎌を水平に振るった。

対して削板は、その場で思い切りジャンプ。避けた鎌の刃の部分に乗り、棒の部分に1歩踏み出す。

鋼盾(コイツ……!)

このままでは顔面を蹴られる。そう考えた鋼盾は鎌をあっさり手放し、後退する。
結果削板の蹴りは空を切り、バランスを崩す。

その隙に鋼盾は、左手でアクセサリーの1つに触れて槍にして、削板に放つ。
しかし削板は、ほんの少しだけ横に移動して槍を掴み取った。

鋼盾(尋常じゃない反射神経だな……)

だが鋼盾は別段焦っていなかった。右手でアクセサリーの1つに触れ鎖を作り、落ちている鎌と繋いだからだ。

鋼盾「おらおらおらぁ!」

鎖で繋いだ鎌をやたらめったら振りまわすが、削板は涼しい顔して避ける。

鋼盾(何で……何で当たらないんだーっ!?)

削板の戦闘は見てきた。確かに彼は、なぜか攻撃を避けるスキルが高く、テレポーターですら彼を倒せなかった。
だからと言って、これだけ避けるのは異常すぎる。

鋼盾が焦り始めたころには、避けながらも少しずつ近付いていた削板が、彼の懐に入っていた。

削板「せいっ!」

鋼盾「くそっ……!」

鋼盾はギリギリで盾を作り出して、削板の拳を防いだ。防いだが、地面を数mスライドした。

160 : SS寄稿... - 2011/12/27 10:10:14.27 JDo3T/bx0 153/490

鋼盾(なんて威力だ……!)

避けるスキルだけではなく、攻撃の威力も半端じゃない。
削板の戦いを見ているときは、なぜ攻撃を当てられず、それどころか負けてしまうのかよく分からなかったが、
実際に対峙してみるとその強さが分かった。

削板「おらぁ!」

削板は虚空から魔法陣らしきものを出し、それを掴み取って円盤投げの要領で投げた。

鋼盾(そんなもの、僕の盾の前では!)

バカ正直に真正面から来た魔法陣を、盾で防ぎ上に弾いた。が、その威力で鋼盾は盾ごと仰け反った。

削板「終わりだ」

その隙に削板は鋼盾の前に行き、落下してきた魔法陣に拳を通す。
魔法陣を通った拳は青く輝き、盾など破壊して、鋼盾の腹部に深く突き刺さった。

鋼盾「め……ちゃくちゃだ……」

腹部に強烈な一撃をもらい、地面に崩れ落ちる鋼盾を、削板は魔道書で回収した。

161 : SS寄稿... - 2011/12/27 10:12:47.99 JDo3T/bx0 154/490

7:30になって、御坂と絹旗が復活した。
御坂はオレンジ色のジャケットに黄色のスカートと茶色のブーツ、絹旗に至っては上下ともジャージという出で立ちだ。

上条「御坂……服が、明るいな……」

御坂「し、仕方ないじゃない!もう服がないのよ!」

絹旗「そうです!私なんか超ジャージですよ!」

上条「す、すまん」

一方通行「仕方ねェから、服屋行くぞ」

垣根「まあ今の地上の学園都市には俺達しかいないからな。服も盗み放題って訳だ」

御坂「服を盗むなんてダメですよ!」

上条「自販機に蹴りぶち当てて、無銭で缶ジュース飲んでいた奴がそれを言うか?」

御坂「あれは私の1万円札を飲んだんだからいーの!まだ貯金ある筈よ」

一方通行「まァどうでもいい。金は俺が払ってやるから。ドチビもだ。好きなの選べ」

絹旗「うぇ?一方通行が超優しい……だと……」

垣根「あれ?ひょっとして一方通行はロリコンなんですかー?」

一方通行「そンなンじゃねェよ。服は大事だろォが」

垣根「そもそもさー。別に美琴ちゃんや最愛ちゃんはもう戦わなくてもいいんだぜ?俺達で何とかするし」

御坂「遠慮します。一方通行が守ってくれるって言っていますし、負けたままでは終われないので」

絹旗「私も、超迷惑でなければ、皆さんと一緒に戦いたいです。一方通行、いざとなったら私の事も守ってくれますよね?」

一方通行「オマエが望むのなら、守ってやる」

絹旗「という事で、私も戦いからは降りません」

上条「一方通行、お前何ハーレム築いているんだよ。羨ましいなチックショー!」

御坂「アンタ、それ本気の発言?」

上条「本気だけど。何か変なこと言った?あと名前で呼んでくれって」

垣根「つーか彼女の前でそういう発言どうなの?」

五和「当麻さん……」

上条「え、あ、いや、その、あれですよ。男だったら、誰でも一度はハーレム築きたいって願望あるし、そうだよね?」

一方通行「ねェけど」

垣根「同じく」

五和「当麻さん……」

上条「だから、その、すいませんでしたーっ!」

上条の本気の土下座が繰り出された。

162 : SS寄稿... - 2011/12/27 10:15:14.39 JDo3T/bx0 155/490

フィアンマ「いつまでコントをやっているんだ。少し黙れ」

垣根「全くだ」

一方通行「オマエが言うな」

御坂「一方通行が言えた立場じゃないでしょ」

絹旗「超同感です」

ヴェント「あーもう!無限ループか!」

フィアンマ「もういい。まずは、服を買う組と能力者奪還組に分かれる。
      一方通行と女の子2人、ヴェントが服組、上条と俺様と垣根と五和が能力者奪還組だ」

上条「つーか思うんだけど、服を買う暇あるか?食蜂にまたテレポートされたら」

一方通行「それは多分大丈夫だ。いくら食蜂のクソアマでも、服を買う余裕ぐらい与えるはずだ」

そんな一方通行の希望的観測に呼応するように。

食蜂「うんうん。いいよいいよ。服でも食糧でも武器でも、何でも思う存分準備しちゃってぇ~。
   やっぱりさぁ。弱りかけや不意打ちで倒してもつまらないのよねぇ。
   準備万端で『これで負けたら仕方ない』っていうレベルのあなた達を真正面から叩き潰したいからさぁ」

病院内に食蜂の声が響き渡った。

絹旗「な、なんで……」

一方通行「別に盗聴や監視されていたって不思議じゃねェ。こンなことでいちいちうろたえるなドチビ」

御坂「じゃあ何よ。着替えとかトイレとかも見られちゃうわけ?」

垣根「まだいいじゃねぇか。女の子同士なんだから。俺ら男の方が問題だっつーの」

上条「いやでも、土御門とかからも見えるんじゃないか?」

食蜂「うーん。当麻君の言う通りカナぁ。まぁ気にしないでよ」

絹旗「気にしますよ!見られるなんて、超嫌です!」

御坂「ていうか当麻って気安く呼ぶんじゃないわよ」

食蜂「なんで?当麻君の事をどう呼ぼうが私の勝手でしょ?あなたに何の権限があるの?彼女でもないくせに」

御坂「……っ」

五和「ではその彼女から言わせてもらいましょうか。不愉快です。当麻さんの事を名前で呼ぶのは止めてください」

食蜂「彼女でもないくせに。と例えで言ったのは私だけど、それを決めるのは当麻君本人だよ?」

上条「気持ち悪いから止めてくんねぇかな」

食蜂「あっそ。じゃあ止めるわ。ところで準備が完了したら『完了した』って叫んでね。
   そこから第2ラウンド開始だから。そして、これは私からのプレゼント。じゃあね~」

ヒュン!と上条達の目の前に削板がテレポートされてきた。

163 : SS寄稿... - 2011/12/27 10:16:33.35 JDo3T/bx0 156/490

削板「おう。久しぶり」

上条「あ、ああ。なんか、いろんな意味で大丈夫か?」

削板「おう。そんなことより、能力者4人奪還したから戻してくれ」

そうして削板が魔道書から出した4人の頭を、上条が右手で触り再びそれを回収する削板。

フィアンマ「それじゃあ、お言葉に甘えていろいろ準備させてもらいますか」

上条「そうだな。一方通行組は服だったよな。俺らはどうすんの?」

フィアンマ「武器とか、装備を強化するとか。時間はあるんだ。ゆっくりじっくり考えて準備しようじゃないか」

垣根「マジで呑気にしていて良いのか?食蜂が嘘ついているかもしれねぇぜ」

ヴェント「その時はその時でしょ。でも実際、監視や盗聴はされても、この病院は襲撃されてない。
     私達をある程度泳がせてから倒すと言うのは、嘘じゃないんじゃない?」

御坂「そうね。ドSの食蜂のことだから、万全な状態の私達を叩きのめしたいって言うのは、本当の事だと思うわ」

上条「もう食蜂の考えている事なんてわかんねーよ。あれこれ考えるのはもう止めてさ、能力者が来れば奪還。
   来なければ準備を続ける。それでいいじゃねーか」

垣根「……そうだな」

フィアンマ「意見はまとまったようだな。それでは行くぞ」

164 : SS寄稿... - 2011/12/27 10:17:49.90 JDo3T/bx0 157/490

食蜂陣営

折原「本当に泳がせるのですか?特に垣根様は体力を回復させると厄介なのでは」

食蜂「いいのよ。何かね。物足りないのよ。このままじわじわといたぶるだけじゃあ駄目なの。
   もっと派手に、豪快な戦いを演じてほしいからね」

折原「はあ」

食蜂「それよりも、闇咲って人と半蔵って奴と郭って奴は見つかったの?」

土御門「まだですね。盗聴した通り、闇咲は透明になる魔術を使える。
    視覚的にはまず見つけられない。他の2名も、腐っても忍。なかなか見つからないですね」

食蜂「まぁ放っておいても所詮はネズミ3匹。問題ないか」

165 : SS寄稿... - 2011/12/27 10:19:36.99 JDo3T/bx0 158/490

時刻は9:00。上条達、一方通行達はそれぞれ準備が終わり、病院前に集合していた。
御坂は緑色のウインドブレーカーにホットパンツ、絹旗はふわふわしたニットのワンピースという出で立ちだった。
ちなみに今更ではあるが、一方通行と垣根は紺碧色の長点上機の制服を着ている。

上条「ホットパンツ……」

御坂「何か文句ある?」

上条「いくら春とはいえ、寒くないのかなって」

御坂「ちょっとだけ寒いけど、我慢できるレベルよ」

絹旗「女の子は超強いんですよ」

上条「そ、そっか」

一方通行「寒くないのかって言うのもあるが、コイツらの脚が出しっ放しなのは、危険でしかねェ」

御坂「いいのよ。こっちの方が動きやすいし」

絹旗「そうですよ。というか脚見るとか超キモいです」

一方通行「ふざけンな。オマエらの身を案じて言ってンだよ。ジャージとかで良いから着れば良かったのによォ」

御坂「ジャージはダサすぎるわ」

絹旗「それに、いざとなったら一方通行が超守ってくれるんですよね?なら大丈夫ですよ」

一方通行「はァ……分かった。じゃあ俺から離れンなよ」

御坂絹旗「うん(ええ)」

垣根「何で一方通行ばっかりモテてるんだ……俺も女の子に好かれたいよーっ!」

上条「垣根は彼女居るだろ」

垣根「彼女がいるのとモテたいのは別。お前だってハーレム築きたいって言っていたじゃねぇか」

上条「それはもう忘れろ」

削板「お前ら何を言っているんだ!彼女一筋が普通だろうが!その根性叩き直してやろうか!」

五和「ですよね!当麻さんに鉄槌お願いします!」

削板「よっしゃ!」

上条「何で俺だけ!?五和さん、許して下さいーっ!」

フィアンマヴェント「「……」」

なんかもういろいろとカオスな空気になってきた。だいぶ前から思っていた事だが、コイツらは緊張感がなさすぎる。

フィアンマ「完了だ!」

なのでフィアンマは、合言葉を叫んだ。その瞬間、上条と一方通行以外の人間がテレポートされた。

166 : SS寄稿... - 2011/12/27 10:21:00.39 JDo3T/bx0 159/490

上条「またかよ……!」

一方通行「気ィ抜くなよ」

身構える2人の目の前に、8人の人間がテレポートされた。

吹寄「さーて、今度こそ勝負してよね」

「いざ尋常に。勝負」

とある高校の制服を着ている吹寄と、巫女服の姫神。

「久しぶりですね。一方通行さん」

「殴られたお礼、今果たすわ」

「えへへ。ようやくこのロリコンを嬲れると思ったら興奮するなー、ってミサカはミサカは心中を吐露してみる」

「それ私の台詞なんだけどー。ミサカもあんなところやこんなところが勃っちゃってるぅ」

芳川「あなたは危険すぎるわ。ここで処分する」

フレメア「大体そう言う事だから、死んでよ一方通行。にゃあ」

スーツの海原に、とある高校の制服の結標、水玉のワンピースに大きめのYシャツの打ち止め、
アオザイの番外個体、アンチスキルの装備の芳川に、RPGの姫キャラ風のフレメアだ。

上条「8対2か」

一方通行「俺が6人やる。オマエは巫女服とデコをやれ」

上条「初めからそのつもりだけど。本当に6人大丈夫か?」

一方通行「誰に向かって口聞いてやがる?」

上条「オッケー」

上条は『幻想殺し』を解除。『竜王』の力を解放し、一方通行は笑みを浮かべた。

167 : SS寄稿... - 2011/12/27 10:22:16.31 JDo3T/bx0 160/490

御坂「またここか……」

御坂は再び第11学区にテレポートされていた。先程の戦闘の名残か、倉庫やコンテナが瓦礫となって大地に転がっている。

御坂「っ!」

御坂は何の前触れもなく、横に転がった。直後、上から可視出来るほどの風の刃が伸び、地面に直撃した。
横に転がっていなければ、真っ二つになっていたところだった。

佐天「さっすが御坂さん。不意打ちもあっさり避けちゃうなんて」

声は上から。佐天はふわふわと浮いていた。

御坂「佐天さん、パンツ見えちゃうわよ」

佐天「あれ?案外驚かないんですね。私がここいることを」

御坂「逃げていたんでしょ?最愛は気絶させただけだって言っていたからね」

佐天「なぁーんだ、つまんないなー。ま、いいや。楽しみましょう。2人きりで」

御坂「お断りするわ。速攻で終わらせてやる」

168 : SS寄稿... - 2011/12/27 10:24:28.41 JDo3T/bx0 161/490

垣根は第23学区、より詳しく言うと、かつてオリアナと上条・ステイルのコンビの最終決戦の場にテレポートされた。
彼の目の前には、20人の女子がいる。

垣根「可愛い子ばかりじゃん。なんだこれ、食蜂は俺にサービスしてくれているのか?
   もしかしてハーレムなのか?俺の時代到来なのか?」

「shit……勘違いも甚だしい」

ギョロ目にウェーブのかかった黒髪が特徴的な、ゴスロリ服を着用している布束砥信が、侮蔑するように言った。

「私は好きだよ。あなたみたいなイケメン」

茶髪ロング、白いブラウスにホットパンツを着用している柳迫碧美が垣根をフォローする。

「私もカッコイイから好きだな。お兄ちゃんになってほしい!」

フード付きパーカーを着ている金髪ツインテール少女、木原那由他も柳迫に続いた。

「そうかぁ?私はあんなひ弱そうな男より、もっとマッチョな男が良いと思うけど」

ポニーテールで、胸にサラシを巻いた目つきの悪いサラシ女がそんな事を言った。
他16名の少女達も、垣根に評価を下す。

垣根(何なんだこいつら……ムカついてきた)

それでも垣根は、少女達が評価を下している間は何もしなかった。そして少女達が導き出した垣根の最終評価は。

垣根がイケメン派7名、そうでもない派13名、結論、垣根は大した男じゃない。

垣根「オッケー。戦争だボケェ!」

垣根は背中に『未元物質』の翼を生やし、少女達の集団に向かっていく。
少女達は炎や電撃、水流を出したりして垣根を迎撃するが通じす、突っ込まれて四方八方に吹っ飛んだ。

垣根「へぇ。お前らはやるようだな」

先程の垣根の一撃で、吹っ飛んだ少女16人は戦闘不能になった。
しかし4人の少女は平然と突進を避けていて、垣根を取り囲むように立っていた。

布束「Of course……その程度ではやられない」

柳迫「イケメン君ともっとお話したいからね」

那由他「そうだよ。垣根お兄ちゃんが、那由他のお兄ちゃんにしてください。
    って懇願するまで、やられるわけにはいかないからね」

サラシ女「お前みたいなひ弱そうな男に負けるのは、プライドが許さねぇ」

垣根「茶髪と金髪ツインテの2人は良い。ポニーテールとギョロ目女は、ムカついた」

比喩ではなく、垣根の目の色が変わる。右がオレンジ、左が青に。4人の少女も身構える。

169 : SS寄稿... - 2011/12/27 10:27:56.18 JDo3T/bx0 162/490

絹旗「食蜂のクソアマ、超悪趣味ですね……!」

第10学区の墓地にテレポートされた絹旗の目の前には、

「久しぶりだねぇ。絹旗」

「きぬはた、可愛くなったね」

「そうか?いつも通りチビだけど」

「結局、私達は絹旗を殺す訳よ」

明るい色のトレンチコートにストッキングの麦野沈利、ピンクジャージの滝壺理后、彼女に合わせているのか、
紺色のジャージの浜面仕上、なぜかメイド服のフレンダ=セイヴェルンだった。

目の前に広がるこの異様な光景を説明するとすれば、可能性としては4つある。
1つ。『肉体変化』(メタモルフォーゼ)能力者が彼らの姿に変身している可能性。
ただし学園都市に『肉体変化』はわずか3人しかいない。つまり、1人分説明がつかない。
もっとも、それは去年のデータであるため、増減している可能性もあるが。

2つ。クローンやロボなどの『作り物』と言う可能性だ。生前の内に、何らかの手段でDNAを採取。
そこからクローンを生み出す事も、学園都市の技術なら出来なくもない気がする。または精巧なロボットなのかもしれない。
だが4人を見た感じ、無機物ではなく本当に生きている気がする。

3つ目。精神系能力者もしくは『幻術使い』(イリュージョニスト)が、自分に麦野達の幻影を見させている可能性だ。
ここは墓地。身を隠せる墓石などいくらでもある。

4つ目。彼女達に似ている人間をコーディネートして、それっぽく見せているか。

だが、どの可能性にも1つだけ言える事がある。

絹旗(こいつらは本物の麦野達ではない)

当然のことながら、死者は蘇らない。学園都市の技術がどれだけ進んでいようが、それだけは絶対に揺るがない事実だ。

麦野「なぜだ?なぜ私達が本物ではないと言い切れる?」

麦野は絹旗の心理を読みとったような発言をした。
絹旗は一瞬動揺したが『精神感応』(テレパス)を応用すれば、難しくない事にすぐ気付いた。

麦野「私達が麦野沈利や滝壺理后、浜面仕上にフレンダのDNAや細胞から出来たクローンだとすれば、
   私達はオリジナルと細胞レベルで同じなんだ」

絹旗「何が言いたいんですか?」

麦野「細胞レベルでオリジナルと一緒な私達に、絹旗と一緒に過ごした記憶があるとすれば、それは本物とどう違うんだ?」

絹旗「それは……」

麦野「私達が争う必要なんてないんだよ。絹旗もこっちにこいよ」

絹旗「……ぁ」

目の前には、かつて仲間だった人間がいる。去年の10月、暗部抗争の時に麦野に粛清されたフレンダまでいる。
暗部の時は、なんだかんだ言って楽しかった。同年代の女の子と過ごす日々。
浜面という情けないけどやる時はやる男の存在。生まれて物心ついた時には『置き去り』で、
その後計画に巻き込まれ理不尽な人生を過ごしてきた絹旗にとって、暗部での仕事仲間にすぎなかったとはいえ
麦野達とは、『アイテム』とは唯一の自分の居場所であった。

滝壺「楽になろうよ、きぬはた」

浜面「そうだぞ。戻って来いよ」

フレンダ「結局、さっきの殺すって言うのは嘘だった訳よ」

だが、違う。目の前に居るのは確かに麦野達の姿形はしている。でも所詮は作り物の体に、記憶を入れたものだ。
絹旗と共に過ごした麦野達ではない。

麦野「共に過ごしたもクソもないわよ。私達は紛れもなく『アイテム』そのものよ」

絹旗「違います。それは、あなた達が超クローンだった時の話です。あなた達がクローンとは限りませんから」

170 : SS寄稿... - 2011/12/27 10:29:19.17 JDo3T/bx0 163/490

滝壺「なかなか鋭いね」

浜面「そうだよ。俺達はクローンじゃない。でも」

フレンダ「結局、絹旗には私達が『アイテム』に見えている訳でしょ?
     そして、私達は絹旗と共に過ごしてきた記憶も持ち合わせている」

麦野「それってやっぱり、絹旗から見れば私達は『アイテム』と同義ってことじゃない?
   人格とかが違うとか言う詭弁は止めてね。そんなのはいくらでも“調整”できるから」

絹旗「いえ、やっぱり超違いますよ。お前達は『アイテム』じゃない」

きっぱりと、言い切った。

絹旗「お前ら幻影の“嘘”なんて超必要(いら)ないんですよ。“本当”ならもう知っています」

フレンダ「はぁ?」

絹旗「――どっかの、超素直になれない電撃姫を助けるために駆けつけて、さらには私まで助けて、
   200万対4という絶望的状況で立ち上がった白髪のモヤシを知っています。
   それに加えて、頭に花飾りを乗っけたハッカーに、ドSツインテール。それが今の私の“本当”の居場所なんです」

麦野「詭弁どころか、支離滅裂な感情論か」

滝壺「つまり、きぬはたが言いたいことって?」

浜面「俺達はもう必要ない。いいからやろうぜ。ってことだろ」

絹旗「超そう言う事です。なんだ、浜面にしては理解が早いですね」

麦野「分かったわよ。そこまで言うなら、お望み通り叩き潰してあげるわよ」

171 : SS寄稿... - 2011/12/27 10:29:59.14 JDo3T/bx0 164/490

削板は第1学区の広い通りにテレポートされていた。

「やあ。久しぶりだね」

ダッフルコートにジーパンの好青年を見て、削板は尋ねる。

削板「お前は……誰だっけ?」

「去年の10月、学園都市でやりあっただろう?オッレルスだよ」

削板「ああ……そんな事があったような気もするな」

オッレルスが目の前に居る事は、いろいろと異常なのだが、特になにも考えず言った。

削板「まあいいや。やろうか」

オッレルス「そうだね」

2人は同時に地面を蹴った。

172 : SS寄稿... - 2011/12/27 10:30:37.54 JDo3T/bx0 165/490

フィアンマとヴェントは、第7学区の窓のないビルの跡地にテレポートされていた。
背中合わせに立っている2人の周囲には約100の能力者。
掌から炎を出しているところを見ると『発火能力者』(パイロキネシスト)らしかった。

フィアンマ「目には目をと言うが、この俺様相手に火で勝負してくるとはな」

ヴェント「私にとっては天敵だけどね」

フィアンマ「ここは俺様だけで十分だ。ヴェントは他の奴らのところに行け」

ヴェント「逃げられそうもないんだけど」

フィアンマ「大丈夫。俺様が活路を開く」

173 : SS寄稿... - 2011/12/27 10:31:44.68 JDo3T/bx0 166/490

五和は第12学区にある施設、高崎大学の図書館にテレポートされていた。

五和「……」

周囲に怪しい気配はないが、五和は不意打ちにも対応できるように神経を研ぎ澄ませる。

「そんなに緊張しなくてもいいのよな?」

突如、建宮斎字の声が図書館内に響いた。

五和「建宮さん!?」

建宮「そうだ。五和さんに殺された建宮さんなのよな」

五和「うっ……」

自分を揺さぶる為の小細工と分かってはいるが、分かっていても辛いものがある。

建宮「あの時の痛み、一生忘れないのよな」

五和「……」

建宮「まあいい。そんなことより、ゲームの説明をするのよな」

五和(ゲーム……?)

建宮「この大学には、俺を含む天草式メンバーがいたる所に居る。
   その網を掻い潜り、大学から出たらお前さんの勝ち。それ以外はお前さんの負け。簡単だろ?」

五和「人数的にも状況的にも、私が圧倒的に不利ですね」

建宮「だがお前さんに選択肢はない。返事は『はい』か『YES』かなのよな」

五和「いいですよ。やりましょうか」

直後、五和の周囲に4人の男女がテレポートされた。4人は一斉に五和に襲い掛かる。

五和「――!」

175 : SS寄稿... - 2011/12/27 20:20:06.39 JDo3T/bx0 167/490

吹寄「いくわよ」

意外と綺麗な吹寄の脚に、膨大な風が集まる。

吹寄「喰っらぇぇぇえええ!」

風を纏った脚で上条に特攻し、彼の顔面目がけて蹴りを繰り出す。
レベル5級の風が渦巻いている蹴りを、しかし上条はあっさり受け止めた。

上条「吹寄、パンツ見えているぞ」

吹寄「貴様、この状況でよくもまあ……この変態!」

吹寄は一旦後退して、再び特攻するつもりだった。しかし上条はそれを許さなかった。
空いている手で吹寄の胸倉をつかみ、引き寄せ、頭突きをかました。

吹寄「いっ……たぁ……」

掴んでいた手を離すと、吹寄は地面に崩れ落ちた。

上条「次はお前だな。姫神」

姫神「私は。制理のようにはいかない」

自信ありげな姫神の背中からは、炎の翼が生えていた。
その形容は、例えるなら朱雀のようだった。手には扇子らしきものがある。
だが上条は臆せず、

上条「お前も一瞬だ。姫神」

宣言した。

176 : SS寄稿... - 2011/12/27 20:23:32.40 JDo3T/bx0 168/490

一方通行「ギャハッ!」

一方通行は一瞬で結標の懐に潜り込んだ。しかし結標はテレポートであっさり避ける。
それでも一方通行は270度方向転換して、めげずにもう一度結標の方へ行く。対して結標は再びテレポートで避ける。
けれども一方通行は諦めずに、三度結標の方へ行く。対して結標もやっぱりテレポート。

その間に番外個体は、御坂よりは弱いが『超電磁砲』を発射できるようにカスタマイズされたメタルイーターで、
擬似『超電磁砲』を連射。打ち止めとフレメアはレディースの拳銃で射撃。
海原は自身の能力『念動力』(テレキネシス)で不可視の波動を放ち、芳川もアンチスキル装備にライフルで狙撃する。

それらは高速で動く一方通行にはさほど当たらず、当たったとしてもダメージは通らなかった。
ただ一方通行は反射どころか、弾丸を弾くことすらしなかった。当たった弾丸は、一方通行の皮膚のところで止まっている。
理由はもちろん、皆を傷つけない為だ。彼は結標を追いかけながら、そんな事を平然とやってのけている。

番外個体「やってくれるじゃない?ミサカ、興奮して濡れてきちゃった☆」

打ち止めフレメア「「早く死ねよロリコン」」

芳川「あなたなんてただの犯罪者なのよ。死んだ方が社会の為になるの。だから死んでよ」

海原「忘れたんですか?
   あなたがどれだけ頑張ろうとも、御坂さんのクローン1万人以上殺した事実は消えないんですよ!?」

結標「そうよ!その上女の顔面まで殴るなんて!鬼!クズ!サド!死んじゃえ!」

一方通行「無理」

もはや声を出すのもだるいと言った調子で、一方通行は適当に答えた。

177 : SS寄稿... - 2011/12/27 20:27:02.23 JDo3T/bx0 169/490

なおも結標と一方通行の追いかけっこ、そしてそれを横から邪魔をする海原達という構図は続いた。

結標(コイツは一体何が狙いなの?)

テレポートで悉く逃げられるのは分かっているのに、一方通行は追撃を止めない。それが不気味で仕方ない。

結標(まさか、体力切れ狙い?)

でもそれは非効率と言うか、一方通行が不利過ぎる。
だって自分は点から点の移動をするだけだが、一方通行は自分を追う間ずっと能力を使用しっぱなしだ。
加えて、海原達の攻撃を受け止め、余計に演算を行っている。
この条件で長時間戦い続ければ、どちらが先にヘバるかは明らかだ。

結標(何なの?気持ち悪い!)

一方通行「ハハッ!無様なローアングルを晒してくれてアリガトウ!」

一方通行は笑っている。この不利な状況で。周囲になど目もくれず。ただ結標だけを狙って、彼は追いかけてくる。
それはもう、結標からすれば不気味さを通り越して一種の恐怖でしかなかった。

結標(やだ……!絶対に捕まりたくない……!)

それはほんのわずかではあるが、演算に狂いを生じさせる。結果として結標のテレポートの精度はわずかに落ちる。
テレポートごとに常に20mの距離をとっていたのが、19m99cmになる。
たかが1cmではあるが、超高速の一方通行相手には油断できない演算の狂いだ。

さらにその様子は、結標だけでなく他の人間の冷静さも失わせる。

番外個体「ミサカをシカトしてんじゃねーぞゴラァァァ!」

メタルイーターを連射させる。しかし一方通行には通じない。そしてついに弾丸が切れた。一方通行はそれを見逃さない。
彼は肌に付着して止まっていた弾丸の3つを、メタルイーター目がけ投げる。
ベクトルの力を受けて投擲された3つの弾丸は、あっさりとメタルイーターを引き裂いた。

その間にフレメア・打ち止めの拳銃の弾丸も、替えも含めて尽きた。
一方通行は先程と同じように弾丸を投げ、拳銃を破壊した。

海原には付着していた弾丸をいくつか投げた。対して海原は能力で自身を分子レベルで固めて両腕をクロスしてガードする。
レベル5の『念動力』で作った鎧だ。ミサイルなら3発は耐えられるレベルである。
弾丸など何発喰らったところで、問題ない。

しかし一方通行が投げた弾丸はベクトルの力を受け『超電磁砲』以上の速度で雨となって海原の体に直撃した。
これにはさすがの海原も悶絶した。痛みで演算に集中できず、鎧が解ける。
そこへ一方通行は、残りの弾丸を彼の手足にぶち込んだ。

唯一冷静だった芳川は、だからこそ悟った。
一方通行には勝てない。そんな彼女の手足にも、一方通行は容赦なく弾丸をぶち込んだ。

これで3人が武器なし、2人が使い物にならなくなった。結標の焦りは、より加速する。

結標(どうすれば……)

一方通行は結標に余裕を与えなかった。ポケットに手を突っ込み、スタングレネードを投げる。

結標(まず――)

莫大な光と音に周囲は包まれ――

178 : SS寄稿... - 2011/12/27 20:28:32.93 JDo3T/bx0 170/490

一方通行は、正体は『肉体変化』能力者だった番外個体と打ち止め、学園都市外へ逃がしたはずのフレメアと芳川、
割とどうでもいい海原、貴重なテレポーターの結標の全てを救った。

一方通行(ったく、都市外に逃がしたフレメアと芳川をわざわざ捕まえて洗脳するたァ、
     食蜂のクソアマも、なかなかゲスな手を使うじゃねェか)

どうでもいい海原はともかく、芳川の血のベクトルを操りながら、そんな事を考えていた時だった。

上条当麻が巫女服の女を抱えて空から落ちてきた。

一方通行「オマエ……何したンだ?」

上条「別に。上空で姫神と一騎打ちで正面衝突しただけだよ」

あっさり言う上条は全くの無傷で、ダメージを受けていたのは巫女服の女だけだった。

一方通行「さすが、ヒーローは違うねェ。ギリギリで勝った俺とは大違いだ」

上条「お前もかなり余裕そうだけど。……っと、吹寄の頭に触らなくちゃ」

上条は吹寄の下に駆け寄り、頭を触った。甲高い音が響く。

一方通行「さァて、まずはコイツらを魔道書持ちのアイツらに届けねェとな」

上条「そうだな」

179 : SS寄稿... - 2011/12/27 20:31:06.46 JDo3T/bx0 171/490

佐天が瓦礫と言う瓦礫を風で拾い集め、御坂に向かって放つ。御坂はそれを、電撃を飛ばして破壊する。

佐天「だりゃあ!」

今度は可視できるほどの風の刃を連続で放つ。縦に横に十字に。
御坂はそれらを電撃で防御するまでもなく、避けながら佐天に肉迫する。

佐天「ちっ!」

肉迫された佐天は空中へ避難する。そして風の刃の連発。
対して御坂は深追いせず、一旦後退する。

佐天「御坂さんは覚えていますか?
   レベルについて悩んでいる私に『レベルなんてどうでもいい事じゃない』って言った事を」

御坂「……それがどうしたの?」

佐天「どうでもいいわけないじゃないですか。
   あの場は、御坂さんなりに私を励ましているんだって自分を納得させましたけど、
   どう考えたってレベル5の御坂さんが言うことじゃないです。説得力がなさすぎます」

御坂「じゃあ聞くけど、その台詞をレベル0の人が言ったって、ただの負け惜しみにしか聞こえないと思わない?」

佐天「そうですね。
   そうかもしれませんけど、そうやって言うってことは、私達低レベルの能力者を見下していたんですね!」

御坂「……そうね。全く見下していないと言ったら、嘘になる。それは認める」

けど、と御坂は続けて、

御坂「『レベルなんてどうでもいい事』って言うのは、あの時だけの方便じゃない。本心よ」

力強く、言い切った。

佐天「そんなわけないでしょう?嘘はいけませんよ」

御坂「嘘じゃない。私は今この瞬間、たとえレベル0になろうとも、佐天さんを救う事を止めないわ。
   それだけは絶対に言える」

佐天「何でそんな嘘を……平然と……」

御坂「私はレベル5だから戦っているんじゃない。そんな次元の話じゃない。
   私は皆を救うために戦っているんだから、それにレベルなんて関係ないことなの」

佐天「綺麗事を……!なら実際にやってみて下さいよ。御坂さんはこの戦いで能力を使わないでください」

御坂「……分かったわ」

御坂は、纏っていた電撃を解除した。

180 : SS寄稿... - 2011/12/27 20:32:34.52 JDo3T/bx0 172/490

佐天「え?まさか、本当に……」

御坂「ただし、抵抗はするわよ」

佐天「……いいでしょう。綺麗事を抜かす御坂さんに、痛い目を見てもらいます!」

風の刃の攻撃が再開される。さっきよりも速く、多くの刃で御坂を攻撃する。

御坂「くっ、おっ……」

走り、跳び、転がり、クリーンヒットはなんとか避けるが、頬や腕、剥き出しの脚にいくつか掠める。

佐天(本当の本当に能力を使わない気か……!)

佐天は加速して一気に御坂の前に躍り出る。そして右掌を前に出す。
空気の波動が発射され、御坂は数十m吹き飛ばされ、地面を何回もバウンドした。

御坂「ぅ……ぁ……」

痛む体に鞭を打って、やっとの思いで立ち上がった御坂の視界に飛び込んできたものは、
一直線にこっちに向かって飛んでくる、風に乗った大量の石つぶてだった。

御坂「……が……あ……」

大量の石つぶてが御坂の体を叩いた。
両腕をクロスして顔だけは守ったが、もはや立っていられるだけの力すら残っていなかった。

崩れ落ち、膝立ち状態になった御坂の懐に潜り込んだ佐天は、彼女の耳元で呟く。

佐天「まだ終わりませんよ」

御坂の腹に触る。人体に噴射点は作れないが、掌から膨大な空気を放出する。
結果、御坂は数百m先の倉庫の壁まで飛ばされた。

181 : SS寄稿... - 2011/12/27 20:35:30.44 JDo3T/bx0 173/490

御坂「ごほっ!」

咳き込んだ御坂の口から、鮮血が溢れる。

御坂(私って、やっぱり駄目ね……)

レベル5相手に能力なしで戦うのが無謀なのは分かっていた。
さっきはボロボロのところを一方通行に助けてもらって、五和やヴェントに治療までしてもらったのに、もうこのザマだ。

それでも証明したかった。レベルなんてどうでもいいと言う事を。大切なのは気持ちなのだと言う事を。

馬鹿な事をしているとは分かっていた。
能力を使わないフリして、不意打ちで使って怯ませて、頭を触る事も出来たかもしれない。
でもそれをしなかった。嘘だけはつきたくなかったから。

その結果がこれだ。もう仲間達に顔向けできないほど迷惑をかけていると思う。けどやってしまったのだから仕方ない。

御坂(でも……せめて……)

佐天だけは、どうにかしたい!

佐天「みーさかさん」

壁にもたれかかって、ぐったりとしている御坂を佐天は見下す。

佐天「分かりますか?今の御坂さんの状態が、私達レベルの低い人が常に感じていた事なんですよ」

御坂「……」

佐天「何か……言って下さいよ……」

御坂「どうして……泣いているの……?」

佐天「え?」

言われて両手で頬を触ると、確かに温かい滴が流れていた。

佐天「あれ……なんで私、涙なんかを……」

必死で拭う涙は、けれどもとめどなく溢れる。

御坂「佐天さん。大事なのはレベルじゃなくて気持ちなのよ」

佐天「違う!この世界は所詮、力がある者が、権力を持つ人が得するように出来ている!
   だから、幸せになる為には、力を手に入れるしかないんですよ!」

泣きながら叫ぶ佐天に、しかし御坂は冷静に、諭すように語りかける。

御坂「そんな事、ないわよ。気持ちさえしっかりしていれば、力なんてなくたって、弱くたって変われる。
   レベル0だから何も出来ないなんて事ない。佐天さんは私の事を励ましてくれたじゃない。
   私は、それで気持ちが楽になったよ?佐天さんのおかげで元気が出たんだよ?」

佐天「だから……なんだって言うんですか!?」

御坂「何度も言っているけど、レベルなんて関係ないってこと。
   レベル0だって、レベル5を元気づける事が出来る。大事なのは気持ち。だから、こんな事はもう止めよう?」

佐天「そんな……御坂さんの言っている事は感情論ですよ……だって、そんな……」

御坂「佐天さんも分かっているんでしょう?こんなことをしても虚しいって。だから、泣いているんでしょ?」

佐天「違う!私は、私は――」

佐天は右手を振り上げた。この手が振り下ろされれば、御坂は風に切り裂かれて死ぬ。

佐天「うわああああああああああ!」

御坂は最期のときも目を閉じなかった。右手が振り下ろされる。

182 : SS寄稿... - 2011/12/27 20:36:56.75 JDo3T/bx0 174/490

パシッ!と一方通行の手が、完全に振り下ろされる寸前の佐天の右手を掴んだ。

一方通行「ここら辺で勘弁してくれませンかねェ」

佐天「くっ!」

佐天は逃げようとするが、とんでもない力で掴まれている腕を振りほどけない。

佐天(ならば!)

空いている左手で、一方通行の体に触る。あとは空気を発射すれば、彼の体は吹き飛ぶ。

佐天(喰っらえ!)

佐天の左手から、膨大な空気が発射された。しかし8割方の空気は横に反らされ、2割の空気が反射された。

佐天「な!?」

2割とはいえ、反射された空気を喰らった佐天は、軽く数十mは吹き飛ばされる。
それでも彼女は地面をスライドして何とか踏ん張る。

一方通行「ご苦労さン」

声は真後ろから。佐天が振り返ろうとした時には、一方通行は後頭部に触れていて。

一方通行「――コマンド実行――削除」

毎度少しの狂いもなく、またしても2秒で終わらせた。

一方通行「まァた無茶しやがって」

佐天を抱えながら、一方通行は話しかける。

御坂「また……助けられちゃったわね……」

一方通行「それは別に良い。ただよォ、もう少し自分を大切にしろ」

御坂「うん」

緊張の糸が切れたためか、御坂はそこで気絶した。

183 : SS寄稿... - 2011/12/27 20:38:52.41 JDo3T/bx0 175/490

サラシ女の『表層融解』(フラックスコート)も、いまやレベル5。
彼女はアスファルトの粘度をコントロールして大量の針を生み出す。

垣根「くだらね」

垣根は空を飛び、針山と化した地面に一瞥をくれる。しかしこれでは、残り3人の少女もただでは済まないはずだが。

垣根「ありゃ?」

少女3人の姿が見当たらない。その事実に気付いた直後だった。

空中に居る垣根の真後ろから放たれた布束の蹴りが、彼の側頭部に直撃した。

垣根「痛ってぇな」

布束「Wow……やるじゃない」

布束は多少驚きながらそう呟いた。垣根がノーダメージだからだ。

布束「体を超硬質化して、私の一撃を凌ぐなんてね。本当に常識は通用しないのね」

言葉では垣根を褒めているが、若干小馬鹿にしたようなニュアンスも感じられる。

布束「But……彼女の攻撃はどうかしら?」

柳迫「ひゃっほーう!」

垣根の目の前に躍り出た柳迫が、彼の頭頂部目がけてかかと落としを繰り出す。

垣根「ふん」

垣根は全く焦ることなく、冷静に翼でガードする。

垣根「ぬがっ!」

とてつもない衝撃が垣根を襲った。
ただのかかと落としを喰らって、彼は針山の地面にたたき落とされた。

184 : SS寄稿... - 2011/12/27 20:41:12.26 JDo3T/bx0 176/490

垣根「マジで痛ってぇな。そして完全にムカついた」

かかと落としをまともに喰らい、針山の地面にたたき落とされたが、針山だけが砕け、垣根はやっぱりノーダメージだった。しかし疑問は残る。かかと落としごときで叩き落とされた事だ。

超硬質化した今の垣根は、殴る蹴るなどの体術は愚か、銃弾やナイフなどの凶器ですら傷一つつかず、揺るがない。
物理的ダメージは通らないと言っていい。
にもかかわらず、いくら上からの衝撃とはいえ叩き落とされる事は、明らかな異常だ。

那由他「お兄ちゃん“この俺がこんなことになるなんて”って顔をしているねー」

垣根「うぜぇなお前。可愛いから許すけど」

布束「Oh my god……あなた、ロリコンだったのね」

垣根「うるせぇ。ゴスロリ似合ってないぞ」

柳迫「ねーねー、私は私は?」

垣根「ビッチっぽい。0点」

柳迫「ふっざけんな!私は処女だっつーの!」

つい余計な事を口走りながら、柳迫は空中から垣根に肉迫する。

柳迫「ムカついたのは私の方だ!」

柳迫の蹴りを翼で防ぐが、衝撃を殺しきれず、針山を大量にぶち抜きながら吹っ飛んだ。

185 : SS寄稿... - 2011/12/27 20:44:20.95 JDo3T/bx0 177/490

垣根「なるほどね。衝撃を増幅させているわけね」

やっぱりノーダメージの垣根は平然と立ち上がる。

柳迫「そうだよ。
   『衝撃拡散』(ショックアブソーバー)って言う、受けた運動量を散らすことで衝撃を軽減する能力なんだけど、
   レベル5の今は、衝撃を増やす事も出来るんだ」

垣根「そんなんじゃあ、俺をポンポン飛ばす事は出来ても、ダメージは与えられねぇぞ」

柳迫「でも徐々に消耗はしていくよね?」

垣根「そりゃそうだけど、お前らじゃあ無理だ」

柳迫「なら、させてみせるよ!」

垣根を蹴り飛ばす為、柳迫は駆け出す。

垣根「大体、お前の能力はそうでもねぇ」

迫る柳迫を前に、垣根は会話をするような調子だ。

柳迫「強がりは、攻略してから言ってよね!」

柳迫の回し蹴りが、ガードした垣根の翼に直撃した。しかし、垣根は吹き飛ばされなかった。

柳迫「何で?」

垣根「衝撃を拡散なんてことは、俺の翼でも簡単にできるっつーの」

柳迫「くっ!」

距離を取ろうとするが柳迫を、蛇のように動く垣根の翼が掴み、包んだ。

サラシ女「敵はその女だけじゃねぇぜ!」

粘度を操られたアスファルトが針となって生え、垣根に襲い掛かる。

垣根「もちろん、そんな事は分かっているぜ」

『未元物質』に包まれ繭のような状態になっている柳迫を、サラシ女に向かって投げる。

サラシ女「うぇ!?んなのアリかよ!?」

繭の柳迫は針山など次々と砕きながら、サラシ女に向かって行く。
ゴキャア!と、サラシ女がギリギリで生み出したアスファルトの盾は砕けた。それで繭の勢いもなくなった。

サラシ女(へっ。なんだ。大した事――)

垣根「2人目――」

何とか繭を防ぎ少しだけ気の抜けたサラシ女の懐に、垣根は入った。

サラシ女(まず――)

とその時、サラシ女の体がふわっと浮き、あっという間に浮いている布束の横についた。

186 : SS寄稿... - 2011/12/27 20:47:37.79 JDo3T/bx0 178/490

垣根「ちっ。無駄な抵抗しやがって」

布束「油断するなと言ったはずだ。Really……世話が焼ける」

サラシ女「分かってる分かってる」

注意を促す布束を、サラシ女は適当に流す。

垣根「今の会話の感じだと、ギョロ目がリーダー的ポジションってところか。
   今お前らが浮いているのも、お前の仕業だろギョロ目」

布束「Exactly……私の能力は大気系『空気風船』(エアバッグ)のレベル5。
   能力の特性上、かまいたちとか、竜巻は生み出せない。
   However……空気の粘度を操ることには長けていて、普通の大気系能力者には出来ない事が出来る」

サラシ女「よく喋るなあ……ってキャ!」

垣根ではなく、仲間であるはずのサラシ女がそう呟いた直後、彼女は一直線に地面に落下していった。

サラシ女「や、やばい!」

しかしサラシ女は、ぽよん。と空気の風船の上に落ちて安全に地面に着地した。

垣根「今のが実演か……」

布束「針をいくつか作って」

サラシ女「……はいはい」

地に両手をつき、針を10本ほど生やす。

布束「それを地面から切り離して。出来るでしょ」

サラシ女「(何が狙いなんだよ……)はいはい」

プチンと、針がアスファルトから切り離された。同時、それらはフワフワと浮き始める。

布束「Example……こんな感じで、物を浮かす事が出来る」

垣根「そんなもん普通の大気系能力者でも出来るだろ」

布束「Indeed……ここまでなら普通の大気系能力者でもできる。But……ここからが違う」

布束はそう言って、指をバチンと鳴らす。するとフワフワと浮いていただけの針がくるくると回り始めた。

垣根「で、それがどうしたの?」

布束「まだ分からないの?一般的な大気系能力者でも瓦礫などは“風に乗せる”ことはできる。
   けれど、それは大雑把で直線的な攻撃にしかならない。
   その点私の能力でなら、自由自在に変則的な攻撃が出来る」

垣根「ふーん。でもそれなら、普通の大気系能力者の方がメリット大きくね?」

布束「まあ、やってみればわかる、さ」

針はドリルのように回転して、垣根に向かう。

垣根「しょっぱいねぇ」

垣根は軽く翼を振るう。だったそれだけで針など全て砕け散った。

187 : SS寄稿... - 2011/12/27 20:48:56.95 JDo3T/bx0 179/490

垣根「終わりか?」

布束「ちょっと、何でも良いから、もっと大きいのお願い」

サラシ女「はいはい」

サラシ女により、ビルのような大きさの針が大量に出来上がる。
それも先程の針と同じくフワフワと浮かび上がり、ギャルルル!とドリルのように回転して、再び垣根の下に向かう。

垣根「うっぜぇ。まずはサラシ女から仕留めないとエンドレスか……!」

飛んでくる針を、時には避け、受け流し、破壊してサラシ女に近付いて行く。

サラシ女「くっそ!もう能力は使えない!助けてくれ!」

サラシ女の救援要請に、布束は答えない。

サラシ女「なんで……」

垣根「能力が使えなくなった足手まといは要らないってことじゃねぇの?」

狼狽するサラシ女の懐に飛び込んだ垣根は『未元物質』で彼女を包み込む。
能力が使えない彼女に『未元物質』に対抗する力はなかった。

188 : SS寄稿... - 2011/12/27 20:50:40.34 JDo3T/bx0 180/490

布束「ここは一旦退くべきか……ん?どうした、なゆ――」

那由他「邪魔」

サラシ女が捕まる様を見て撤退を思案し始めた布束の胸を、那由他の腕が貫いた。

布束「な……」

那由他「弱者は要らない」

ズボッ!と那由他の腕が引き抜かれ、空中に居た布束は落下し地面にたたきつけられた。

垣根「あらら。まさか仲間殺しちゃうなんてな」

那由他「仕方ないよ。弱者は足を引っ張るだけだからね」

垣根「気持ちは分からないでもないけどな。ところで、俺が言うのもアレだけど、何でお前は今まで攻撃しなかった?」

那由他「だってー、お兄ちゃんと2人きりが良かったんだもん♡」

垣根「うぜぇなブリッ娘。可愛いから許すけど」

那由他「可愛いは正義ってね」

垣根「ま、誤魔化すならそれでいいよ。どんな意図があるかはしらねぇが、こっちのやることに変わりはないしな」

那由他「言っとくけど、3人とは格が違うからね?」

垣根「この眼で見りゃあわかる。AIM拡散力場をある程度操れるんだろ?
   ギョロ目がいないのに空中に居れるのは、AIM拡散力場で足場を作りその上に立っているからだ」

那由他「うわぁー。お兄ちゃんすっごーい!その眼ってAIM拡散力場も見えるんだー!
    でもでもー、それが勝敗まで左右するとは限らないけどねー」

垣根「そうだな。俺がAIM拡散力場を可視出来ようが出来なかろうが、
   お前がAIM拡散力場を操れようが操れなかろうが、俺の勝ちに変わりはない」

那由他「かっこいー。私、お兄ちゃんに惚れちゃいそうだよー」

垣根「お喋りはここまでだ。さっさと始めようぜ」

189 : SS寄稿... - 2011/12/27 20:52:17.22 JDo3T/bx0 181/490

先に仕掛けたのは那由他の方だった。
凄まじい速度で空中から垣根の懐に入った彼女は、右手でAIM拡散力場を掴み刀にして、彼の腹を切り裂く為に振るった。

垣根「ふん」

垣根は余裕と言った調子で『未元物質』で生み出した刀で、那由他の一閃を受け止める。

那由他「とう!てい!やあ!」

左手にもAIM拡散力場の刀を持ち、二刀流で斬りかかるが、垣根は難なくあしらう。

那由他「んもう!」

埒が明かないと思った那由他は、一旦後退して刀を捨て拳銃を生み出す。

垣根「ほう」

那由他「死んじゃえ!」

拳銃の引き金を引く。AIM拡散力場で出来ている拳銃なので弾丸も同じものであるが、威力は通常の弾丸より速く、高い。

垣根「無駄だって」

しかし垣根の翼の前では、AIM拡散力場の弾丸など無意味に等しかった。全ての弾丸を防ぎ、逆に羽毛を発射する。

那由他「それこそ無駄だもん!」

前方にAIM拡散力場の盾を展開し、羽毛を防ぎきる。那由他はさらに、周囲に設置型の大砲をいくつか生み出す。

那由他「撃てー!」

那由他の掛け声と共に、いくつもある大砲が火を吹いた。砲弾はかなりの速さで垣根やその周囲の地面に着弾し、爆発した。

190 : SS寄稿... - 2011/12/27 20:53:39.87 JDo3T/bx0 182/490

垣根「はー、すげぇな。こりゃあ、いつか戦ったピンクジャージの女より強ぇや」

周囲が火の海に包まれている中、垣根は形だけ那由他を褒め称える。

那由他「滝壺のお姉ちゃんの事だね。そうだよ。今の私は滝壺のお姉ちゃんの全盛期を超える。
    油断していると、死んじゃうよ?」

垣根「その程度では、俺の『未元物質』を暴発させることはできねぇぜ」

那由他「本当にそうかな?」

垣根「やってみろコラ」

那由他「なら、いっくよー!」

人間とは思えない速度で、那由他は垣根の懐に入る。だが垣根は既に、カウンターの右拳を放っていた。

ドゴォ!と那由他の腹部に拳が叩きこまれたが、

那由他「つーかまえた♡」

那由他は万力のような力で、左手で垣根の右腕を締め上げる。

垣根(ヤベッ。抜けねぇと――)

霊体化でもして左手から抜けだそうと試みようとした垣根より早く、那由他は右腕ごと彼の口に『体晶』を放りこんだ。

垣根「ク、ソがあああああああああああ!」

那由他が垣根から離れると同時、『未元物質』は暴発し柱となり彼の体を飲み込んだ。

191 : SS寄稿... - 2011/12/27 20:54:59.70 JDo3T/bx0 183/490

『未元物質』の柱は10秒ほどで消え去った。その後には、血まみれで倒れている垣根だけだった。

那由他「アハッ!やった。やったよ。私の力でレベル6の垣根お兄ちゃんを倒したよー!」

歓喜の声をあげて、ワナワナと震え出す那由他は興奮を抑えきれない。

那由他「えへへ。お兄ちゃん、お兄ちゃぁぁん」

倒れている垣根に近付いた那由他は、彼の頭を踏みつける。ゴッガッゴリッ!と生々しい音が続く。

那由他「アハハ、アハハ、アハ……あれ?」

足に違和感。なんだと思って那由他は自分の足を見ると、垣根の手に掴まれていた。

那由他「まだ動けるんだ?」

垣根「まあな。本当に情けねぇ。完全に油断しちまっていた」

ゴキャリ!と垣根の手が那由他の機械の足を握りつぶした。

那由他「どんな握力――」

驚愕した直後、ズバン!と那由他の機械の左腕が千切れ飛んだ。

那由他「な――」

狼狽する暇もなく、さらに那由他の右腕、左足、握りつぶした右足までもが引き裂かれた。
ゴトリと、那由他の胴体だけが無残に転がった。

192 : SS寄稿... - 2011/12/27 20:57:33.26 JDo3T/bx0 184/490

垣根「ク……ソが……」

何とか立ち上がった垣根の腹部辺りは、紺碧色の制服の上からでも分かるほど赤黒く染まっていた。

那由他「へへ。苦しそうだね、お兄ちゃん」

一方で那由他の方は、体の9割が義体だったため大した苦しみはなかった。

垣根「畜生が……全身機械の……サイボーグかよ……」

那由他「そうだよ。私は今まで様々な実験を受けてきて、体が爆発して……今では脳と心臓以外は機械で出来ているの」

垣根「なんで……そこまでして……」

那由他「お兄ちゃんにはまだファミリーネームを言っていなかったね。
    私は木原一族の木原那由他。ここまで言えば、お兄ちゃんなら大体分かるよね」

垣根「なるほどね……あの木原一族か……道理でトチ狂った奴だと……思ったぜ」

那由他「そんなことよりいいの?そのままだと、お兄ちゃん出血多量で死んじゃうよ?」

垣根「いらねぇ心配だ。能力で……傷は塞いだ……」

那由他「そんなこと出来るの?それ以前に『体晶』で能力は使えないはず……」

垣根「自分で腹に穴空けて、とった。そしてその穴も、体中の傷も、臓器の孔も『未元物質』で、塞いだ……」

那由他「そんな……有り得ないよ……」

垣根「有り得ないって、そりゃそうだ。俺の『未元物質』に、常識は通用しねぇ」

那由他「常識は通用しないなんて……そんな言葉で片付けられるレベルじゃないよ」

垣根「これが……レベル6『神ならぬ身にて天井の意志に辿り着く者』の力だ」

那由他「ふふ。そう、だね。やっぱりお兄ちゃんはカッコイイや。――けれど、私もまだ終わらないよ」

胴体だけだった那由他の四肢にAIM拡散力場が集まり、それぞれ手足を象る。
那由他はゆっくりと立ち上がった。

垣根「はは。お前も十分常識が通用しねぇよ」

那由他「まだだよ」

那由他の背中に、さらにAIM拡散力場が集まり羽を象る。色は虹。
その姿は蝶のようで幻想的だった。那由他は飛び上がり、垣根から距離をとる。

垣根「綺麗じゃねぇか」

那由他「最後の勝負だよ。お兄ちゃん」

垣根「上等じゃねぇか」

『未元物質』で応急処置的に大きな傷を塞ぎはしたが、大量の血液を失い、ダメージが残っている事に変わりはない。
無理して一騎打ちをするべきではない。それでも垣根は、あえて那由他に挑む事を選んだ。

那由他「いくよ!」

凄まじい速度で那由他は空中から垣根に突っ込んでいく。垣根も那由他へ突っ込む。

那由他「――!」

垣根「――!」

正面衝突した2人は、白い光に包まれて――

193 : SS寄稿... - 2011/12/27 20:58:59.99 JDo3T/bx0 185/490

那由他「やる、ね、お兄ちゃん」

白い光の中で、その言葉を最期に那由他は消し跳んだ。

垣根「負けるわけには、いかねぇんだよ。『絶対迎えに行く』って、約束しちまったからな」

魔術vs科学の戦争では生き延びはしたが、その約束は果たせなかった。
だから彼女を魔道書で送る時に、あえて同じ約束をした。今度こそ果たす為に。

垣根「しかし、このままだとヤベェな。もしここで敵が襲ってきたら――」

そう言う時に限って、都合の悪い事は起こるものである。垣根は後ろに人の気配を感じた。

垣根(くそっ!)

なりふり構わず、翼を振るう。

194 : SS寄稿... - 2011/12/27 21:01:14.39 JDo3T/bx0 186/490

フレンダ「結局、私達の誘いを断った事を後悔させるって訳よ!」

絹旗(体が……超動かない!)

体の自由が効かない絹旗の顔面に、フレンダの蹴りがクリーンヒットした。
絹旗は数個の墓石をぶち抜きながらぶっ飛ばされた。

絹旗「超痛ってー」

体の自由が利かなくなろうとも、窒素を纏えなくなった訳ではない。つまり、絹旗は無傷だった。

麦野「相変わらず頑丈だねぇ。『窒素装甲』」

麦野は褒め称えるが、考え事に夢中で当の本人は聞いていなかった。

絹旗(体の自由が超利かなかったのは、おそらくは『洗脳操作』の仕業……どっかに隠れているはずですが、
   いちいち探している暇はありませんし……ここら一帯を、まとめて吹き飛ばしますかね……)

滝壺「物騒な事を考えているね。きぬはた」

絹旗「心も読まれていますし、超やりづらいですね」

浜面「これで分かったろ?この状況、どう考えたってお前が不利だ。今俺達の仲間になるってんなら」

絹旗「バカ面は超黙っていてください」

浜面「なにおう!?」

フレンダ「そんなことより、私の蹴りについてはノーリアクションな訳!?」

絹旗「どうせ肉体系能力の何かでしょう。超しょぼいです。と言うか地味」

フレンダ「なにおう!?私のこの美しい脚を最大限に生かす能力、『脚色脚力』(アダプテーション)を馬鹿にする訳!?」

絹旗「結局、肉体系能力ってことでいいですか?」

フレンダ「結局そうよ!」

麦野「フレンダは確かにしょぼいよ。脚だけを強化する能力、所詮は三流の能力さ」

フレンダ「麦野まで!?」

麦野「だけど私達は違う。言っておくけど、私と滝壺は生前と同じ能力、
   『原子崩し』(メルトダウナー)と『能力追跡』(AIMストーカー)だ」

絹旗「……超浜面はどうなんですか?」

麦野「浜面は、私と滝壺の一流の能力者と違って二流かな。
   『爆裂空拳』(バーンナックル)って言って、フレンダよりは使えるぐらい」

フレンダ「麦野酷い」

麦野「そしてもう気付いていると思うけど『精神感応』と『洗脳操作』によって絹旗の心は読めるし、
   体の自由もある程度奪っている。頭の良い絹旗なら、この状況がどれだけ不利かは分かっているわよねぇ?」

絹旗「……」

麦野「もう一度だけ言う。これが最後だ。私達のところにこい」

絹旗「……超断ります」

195 : SS寄稿... - 2011/12/27 21:02:48.45 JDo3T/bx0 187/490

浜面「おいおい考え直せ。どう考えたってお前に勝ち目ねぇって!」

絹旗「どうしたんですか浜面?そこまでして私を引き込みたいなんて、もしかして私の事が超好きだったりして」

浜面「な!?そんなわけねぇだろ!俺は滝壺一筋だしぃ!」

滝壺「はまづら……?きぬはたは確かに可愛いけど、浮気は駄目だよ?」

浜面「きっぱり否定しましたが!?」

絹旗「ふふ。なるほど再現度は超高いですね。
   麦野の傍若無人っぷりに、フレンダがあしらわれる感じ、浜面の情けないオーラに、滝壺さんの嫉妬。
   本物と比べてもなんら遜色ないです」

フレンダ「いきなりどうしたの?」

絹旗「別に。ただ麦野が私に選択肢を超与えたのが気になっただけですよ。
   本来の麦野なら、容赦なく叩き潰しているのにです」

麦野「そうだよ。本来の私なら叩き潰している。けど、あえて聞いたのよ。
   私だって無闇やたらに人を殺したくはないからねぇ」

絹旗「麦野はそんな超殊勝な人じゃなかったですよ」

麦野「私も変わったのさ。けれど、もう容赦しない。ここからは本気で叩き潰す」

絹旗「そうこなくっちゃ」

196 : SS寄稿... - 2011/12/27 21:05:13.14 JDo3T/bx0 188/490

麦野「ふん」

麦野が軽く右腕を振るった。『原子崩し』の光線が放たれる。

絹旗(やっぱり体の自由が利かない!)

それでも窒素を纏い、操る事は出来る。だから絹旗は、前方に窒素の盾を展開した。
窒素の盾は光線を一瞬は受け止めたが、3秒もたずに引き裂かれ、絹旗は飲み込まれた。

フレンダ「絹旗の奴、結局あっさりと消し飛ばされた訳よ」

滝壺「まだだよ、ふれんだ」

フレンダ「え?」

滝壺が注意を喚起した直後。絹旗の方から、窒素の衝撃波が飛んできた。

フレンダ「はにゃーーーーーー!?」

ゴバッ!と、窒素の衝撃波は麦野が生み出した『原子崩し』の盾に阻まれた。

麦野「油断するなフレンダ。絹旗もレベル5。絶対防御と言っても過言ではない防御力があるんだから」

フレンダ「わ、分かった」

麦野「浜面、フレンダ、アンタらは絹旗に近付いて休みなく攻撃し続けなさい。私と滝壺が、後方から支援する」

浜面「なんだよそれ。俺は麦野の流れ弾喰らって死ぬのなんて嫌だぞ」

麦野「大丈夫だ。信じているぞ」

フレンダ「全く心がこもっていないって訳よ……」

麦野「いいから行く!」

浜面フレンダ「「はいはい」」

197 : SS寄稿... - 2011/12/27 21:08:27.95 JDo3T/bx0 189/490

フレンダ「見よ!この脚線美!」

相変わらず体の自由が利かない絹旗は避ける動作は出来ず、
繰り出された蹴りに対して、なんとか腕を出すことしか出来なかった。

ドゴォ!とフレンダの脚と絹旗の腕がぶつかり合い凄まじい音が響くが、絹旗はぶっ飛ばされなかった。

フレンダ「おりょ?」

浜面「どけ!フレンダ!」

フレンダと入れ替わるように、浜面の右拳が飛んできた。絹旗は左拳で対抗する。
そうして拳と拳がぶつかり合った瞬間――

ボガァ!と浜面の拳が爆発し、絹旗は吹っ飛んだ。

絹旗(超浜面のくせに――爆発する拳ですか。生意気です)

心の中で毒づきながらも、絹旗は無傷だった。窒素を拳に集中する事によってダメージを最小限にとどめたのだ。
フレンダの一撃も腕に窒素を集中させることによって、ダメージどころかぶっ飛ばされることさえも防いだのだ。

麦野「なるほど、窒素一点集中か。それで私達の連携攻撃にどこまで耐えられるかねぇ。いけ。フレンダ、浜面」

麦野の命令と同時、2人は駆け出す。麦野も何かを斜め上に投擲した。
その正体を確認する暇もなく、今度は腹部を狙うフレンダの蹴りと、顔面を狙う浜面の拳が同時に突き刺さった。

絹旗「ぐおっ!」

両腕をクロスして顔面を守り、腕と腹部に窒素を集中させていたのにもかかわらず、
墓石をぶち抜きながら数m地面をバウンドした。

198 : SS寄稿... - 2011/12/27 21:10:39.66 JDo3T/bx0 190/490

麦野「まだだよ絹旗」

絹旗「……!」

ねっとりとした麦野の声に、ゾクリと背筋に冷たいモノが走る。
極太の『原子崩し』の光線が空中に放たれ、浮いているミラーボールのようなモノに直撃したかと思うと、
それは拡散して雨となって降り注いだ。

浜面「うわっ!」

フレンダ「さすがにヤバいって訳よ!」

敵味方を無視した『原子崩し』の雨は約10秒間も続き、周囲の大地は荒れ果てた。

浜面「危ねぇよ麦野!」

フレンダ「こればっかりは浜面に同意。けど浜面の爆発する拳も危ない」

先程の絹旗への同時攻撃時、浜面の爆発の煽りを受けたフレンダは、ススにまみれたかのように多少黒ずんでいた。

滝壺「はまづら、ふれんだ、油断しちゃだめだよ。きぬはたはまだ生きている」

浜面フレンダ「「え??」」

麦野「改造型『拡散支援半導体』(シリコンバーン)を利用した私の攻撃を防ぐとはやるじゃない」

滝壺「くる。5mぐらいの大きさの窒素のブーメラン」

滝壺の予言の直後、煙を引き裂き、窒素のブーメランが飛んできた。
飛んできたと言っても、滝壺以外の3人には可視すら出来ないため、来ている事自体が分かりにくい。

麦野「どのへんだ滝壺!」

滝壺「違う。ブーメランは私達を狙っていない。これは――」

ブーメランは滝壺達から逸れ、周囲の墓石を破壊しながら乱れ飛ぶ。
するとゴリッ!と、明らかに墓石が破壊された音ではない音が2回響いた。

滝壺「『洗脳操作』と『精神感応』がやられた。残っているのは私達を『アイテム』に見せている『幻術使い』だけ」

麦野「本当にやるじゃない。絹旗」

絹旗「お前らなんかに負けてたまりますか」

麦野「言うね絹旗。でも、もう飽きちゃったし、次の攻撃で終わらせるか。滝壺」

滝壺「うん」

滝壺は返事をして両手を前に出す。ボシュウ!と絹旗の体を覆っていた窒素が失われた。

絹旗「これは――」

麦野「『能力追跡』で一時的に能力を剥奪した。やっておしまい、フレンダ、浜面」

浜面フレンダ「「おう(うん)!」」

2人が絹旗に迫る。

絹旗(くっ……そ――!)

199 : SS寄稿... - 2011/12/27 21:11:41.06 JDo3T/bx0 191/490

爆発が起こった。という事は、浜面の拳がちゃんとぶつかった証でもある。

麦野「終わったか」

前方に広がる煙を見て、麦野は決着を確信したが、

滝壺「あぐっ!」

滝壺の喘ぐ声。麦野は思わず振り返った。彼女は地面に伏していて、既に気絶していた。

麦野(まさか……)

前方に振り向き直すと、煙は晴れていて、気絶して倒れているフレンダと浜面がいた。
比べて絹旗は超然と立っていた。勝負はまだ決していなかった。

麦野「どういうことかしら……?」

絹旗「超気合い、ですかね」

麦野「まさかとは思うが、気合いで滝壺から能力を奪い返し、さらには窒素を操り3人を一気に押し潰したとでも言うのか?
   爆発が起こったのは、絹旗の体にではなく窒素にぶつかったからか」

絹旗「そうなりますね」

麦野「随分タフになったねぇ。けど、私は野垂れている3人とは違うわよ」

絹旗「超御託は良いです。さっさとやりましょうか」

戦局は1対1。正真正銘のラストバトルが幕を開ける。

200 : SS寄稿... - 2011/12/27 21:13:29.03 JDo3T/bx0 192/490

ギュイーン!と連続で放たれる光線を、絹旗は紙一重で避けて麦野に肉迫する。

麦野「目が良いな。私の光線を見切れるとはね。だけど」

使い捨てではなく、拡散できる範囲も広がった改造型シリコンバーンを前方に投げる。
それに光線を当てて、拡散させる。全方向に拡散される為、横に跳ぼうが上に跳ぼうが完全に避ける事は出来ない。

絹旗「ぐあっ!」

ズドドドド!と絹旗は光線の雨を体中に喰らい、その勢いで地面を数m転がる。

麦野「あらぁ?もう限界なのかなぁ?」

立ち上がった絹旗の着用しているふわふわのニットのワンピースは、ところどころ溶けていた。
それは麦野の『原子崩し』が一部通ったことを表していた。

麦野(拡散された分、威力が弱くなった『原子崩し』であのザマか。なら拡散されていない一撃で終了だな)

考えてみれば、絹旗は3人を倒す為に窒素を操り、能力をかなり消耗している。このチャンスを逃さない手はない。

麦野「そりゃ!」

『原子崩し』を絹旗の両隣の大地に走らせる。つまり、絹旗の横への回避を封じた。

麦野「消し飛べ」

直径2mほどの光線が放たれる。横に跳べない絹旗はとりあえず左手を出すが、あっさりと飲み込まれた。

201 : SS寄稿... - 2011/12/27 21:15:27.95 JDo3T/bx0 193/490

麦野「意外としぶといわね」

絹旗「はぁ、はぁ」

左腕を覆っていたワンピースは肩まで消えていたが、腕は健在だった。

絹旗「くっ!」

勝てないと思ったのか、絹旗は麦野に背を向けて逃げ出した。

麦野「逃がすか!」

光線をいくつか放射するが、墓石をいくつか貫いただけで仕留められなかった。

麦野「この墓地内限定で鬼ごっこってわけね。やってやろうじゃない」

麦野は光線を撒き散らしながら、ゆっくりと闊歩していく。決着の時は近い。

202 : SS寄稿... - 2011/12/27 21:19:11.64 JDo3T/bx0 194/490

墓石が破壊される音が断続的に響く。

麦野「いつまで隠れている気だ?墓石もいつかは無くなるんだぞ」

一定の間隔で光線を全方向に放射している麦野に隙はほとんどない。
もう墓地の5割が蹂躙されている。それでも絹旗は焦らず、墓石の隙間を移動しながらチャンスを窺っていた。

絹旗(もう少し……もう少し……)

麦野が歩き出して30歩目を踏み出した瞬間、

絹旗(そこです!)

麦野「うぇ――」

突然、麦野は前のめりになって地に手をついた。理由は単純。
絹旗が窒素を操って作ったわずかな凹凸につまずいたからだ。

麦野「クッソ――」

絹旗「とりゃ!」

麦野に追い討ちをかけるかのごとく、絹旗はスタングレネードを投げた。
同時、それは激しい光と轟音を撒き散らした。

麦野「ぐあああああ!クッソガキがあああああ!」

目と耳を潰された麦野は、なりふり構わず周囲に『原子崩し』を乱発する。
それは墓石、気絶していた浜面、滝壺、フレンダまでをも消し飛ばした。

麦野「きぃぬはたぁぁぁあああああああ!」

光線の威力は一層激しさを増す。麦野の目と耳がある程度回復するまでの、ややしばらくは光線が墓地を蹂躙した。

203 : SS寄稿... - 2011/12/27 21:22:39.00 JDo3T/bx0 195/490

麦野「はぁ、はぁ」

光線を乱発し続けたせいで、さすがの麦野も疲れ始めていた。だが、これで終わっただろう。
麦野はそう思っていたのだが、

絹旗「そろそろ、超決着つけましょうか」

声は後ろから。8割の墓地が破壊され、ほとんど荒れ果てた大地のようになっているこの状況で、絹旗最愛は生きていた。

麦野「やるわねぇ。でも、私の前にノコノコ姿を現したってことは、消し飛ぶ覚悟は出来ているんだよね?」

絹旗「いいえ。私は、超勝つ為の準備が整ったから姿を現したんです」

麦野「へぇ。見せてもらおうじゃないの。その準備って奴を!」

『原子崩し』を大地に走らせる。これで絹旗は左右に回避できなくなった。
万が一上に跳んだ場合でも、跳んだところで避けられないレベルの太さの『原子崩し』を放つつもりだし、
億が一避けられたとしても空中で撃ち抜くだけだ。

つまり、麦野の勝利は確定的だった。

麦野「終わりだよ!」

最後の光線が放たれた。対して絹旗は墓石の破片なのか、とにかく塊を投げた。

麦野(ふっ!そんなのでどうにかなるとでも思ったか!)

勝った!と麦野が確信した時、光線と塊がぶつかった。瞬間――

ズバッ!と拡散された光線が跳ね返され、麦野の体と右腕を貫いた。

麦野「ぐ、ああああああ!」

かなり細かく拡散された為、右腕や体には鉛筆の直径ほどの穴がいくつか空いただけだった。
しかしながら激痛である事に変わりはない。麦野は悶絶した。

絹旗「超チェックメイトです!」

絹旗の声と、ガチャリという拳銃のトリガーを引いた音が聞こえた。
撃たれる。そう直感した麦野は半透明の『原子崩し』の盾を生み出す。今の麦野には、それぐらいしか出来なかった。

パンパンパン!と銃声が連続で木霊する。絹旗は替えの銃弾が尽きるまで撃ち続けたが、結局盾は貫けなかった。
ならもういい。と言った調子で絹旗は拳銃を横に投げ捨てた。そして駆け出す。
ほんの少しだけ回復した己の能力で、窒素を纏った拳で殴る為に。

絹旗「終わり、です!」

バリィン!と絹旗の拳は半透明の『原子崩し』の盾をぶち破り、麦野の顔面に直撃した。
殴られた麦野は、地面を数m転がった。

204 : SS寄稿... - 2011/12/27 21:26:49.85 JDo3T/bx0 196/490

絹旗「超やりました……」

緊張の糸が解け、一気に力が抜けた絹旗は尻餅をついて呟いた。

絹旗(我ながら、超あっぱれの作戦でしたね……)

最後の光線の時に対抗して投げた塊は、実は改造型シリコンバーンだった。スタングレネードを投げたと同時、
あらかじめ位置を把握しておいた空中に浮きっぱなしだったシリコンバーンを撃ち抜き、回収しておいたのだ。
光線が乱発されている中で回収するのは苦労したものだ。
以前なら到底出来なかった芸当だが、ジャッジメントになるために色々努力してきた結果がここで実を結んだ気がする。

そしてあの最後の攻防に繋がる。
砂をまぶしてカムフラージュしたシリコンバーンを投げ、光線を拡散、反射させた。
もっとも、光線が放たれた時点でリセットはできないのだから、カムフラージュは必要なかったと言えば必要なかったが。
気持ち的にやったというのもあった。

しかし改造型シリコンバーンは、一方向だけでなく全方向に拡散させる代物だったため、
シリコンバーン投げたと同時、背中を丸めて背中に窒素を集中して何とか耐えなければならなかった。

結果として直撃した部分の服は溶け、多少の火傷を負ったものの致命傷は避けた。
本当に、ここまで上手くいったのは奇跡だと思う。

絹旗(ですが、もう動けません……)

もういっそのこと仰向けになろうかと考えていた、その時だった。ザリッと音がしたかと思うと、麦野が立ち上がっていた。

絹旗「――!」

麦野「立てよ絹旗。次が本当の最後の攻撃だ」

そう言う麦野の左腕には『原子崩し』がドリルのように回転して渦巻いていた。徐々にこっちに近付いてくる。

絹旗「――ふぅ」

絹旗は覚悟を決めた。もう能力も体力も限界だが、このまま黙ってやられることだけは嫌だ。
右腕に窒素を集め、ドリルのように回転させる。そして2人は同時に駆けだす。

絹旗「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

麦野「らあああああああああああああああああああああ!」

2人の咆哮が重なり、ドリルとドリルがぶつかり合った。
3秒ほど拮抗したのち、轟音と共に2人は弾き飛ばされ地面を何回もバウンドした。
麦野も絹旗も、完全に意識を失った。

205 : SS寄稿... - 2011/12/27 21:30:34.60 JDo3T/bx0 197/490

削板「どらぁ!」

削板の右拳がオッレルスの顔面に突き刺さった。グラリと揺らぐオッレルスの腹部に、さらに左拳を叩きこむ。
極めつけにくの字に折れ曲がったオッレルスの頭に、拳骨を叩きこんだ。
思い切り地面に叩きつけられたオッレルスは、スーパーボールのように2、3回跳ねた。

削板「堅ってぇなー」

削板はじんじんと痛む己の拳を見ながら呟いた。オッレルスは平然と立ち上がる。

オッレルス「痛いなー。もう少し手加減してくれてもいいだろ?」

削板「何で?お前が『念動力』の鎧を纏っている事ぐらい、1発殴ったら分かった。そんな相手に手加減する理由はない」

オッレルス「いくら『念動力』の鎧があると言っても、全くのノーダメージって訳じゃないからね」

削板「あっそ」

直後に数mの距離を埋めて、左拳をオッレルスの腹目がけて放った。

オッレルス「甘いよ」

しかしオッレルスの右手が左拳を受け止めた。ならばと、右拳を顎目がけて放ったが、それも左手で受け止められた。

削板(――まずい!)

直感した削板は距離を取ろうとするが、両手を掴まれている為叶わない。
そして、オッレルスの掌から強力な不可視の波動が放たれた。

削板「ぐおっ!」

超至近距離で能力の波動を喰らった削板は数十mほど吹き飛ばされるが、
しっかり地に足をつき、地面を何mかスライドしただけで済んだ。

206 : SS寄稿... - 2011/12/27 21:34:00.73 JDo3T/bx0 198/490

削板「――っと!」

削板は突然、その場で高さ3mほどのバク宙をした。
直後、轟音と共に莫大な風が一直線に走ってきて、その先に居たオッレルスにぶつかった。
バク宙をしていなければ、風に引き裂かれているところだった。

オッレルス「いったいなー。ちゃんとしてくれよシルビア!」

風をまともに喰らったと言うのに、平然とオッレルスは叫んでいた。
と、それに呼応するように、

「仕方ないだろ!そこの坊やが避けるから悪いんだ!」

肩までかかる金髪に青い瞳、パッツン前髪の額の上には大きなゴーグルを掲げ、 作業着のような服に白いエプロンを纏い、動き易そうな靴、という容貌の女が叫び返しながらロケットのように飛んできた。その手には剣の柄だけが握られている。

削板「へぇ。面白いねえちゃんだ!」

まだバク宙の途中で宙を舞っている削板の右手に、青い光の刀が握られる。

シルビア「喰らいやがれ!」

シルビアは柄だけの剣を振るう。削板も青い光の刀を振るった。
ガキィン!と金属がぶつかり合ったような音がした。

シルビア「ふっ」

削板「へっ」

2人は笑みを浮かべた。そして地面に着地した削板とシルビアは、何回か斬り合いをして互いに距離をとった。

207 : SS寄稿... - 2011/12/27 21:35:04.17 JDo3T/bx0 199/490

削板「やるねぇ姉ちゃん。俺は削板軍覇って言うんだけど、姉ちゃんは?」

シルビア「シルビア。お前が今まで戦っていた男の許嫁だよ」

オッレルス「適当言うなよ」

シルビア「良いじゃん別に」

削板「ふーん。まあいいや。早くやろうぜ」

オッレルス「君から聞いといてそれはないんじゃないかな?」

シルビア「私も君に同感だよ。早くやろうじゃないか!」

削板とシルビアの2人は地面を蹴った。

208 : SS寄稿... - 2011/12/27 21:37:49.37 JDo3T/bx0 200/490

ゴキィンガキィン!と金属がぶつかりあうような音が連続で木霊する。シルビアと削板の斬り合いのせいだ。

シルビア「おい!突っ立ってないで協力しろ!」

オッレルス「俺は体術が得意じゃない。君達の戦いには割り込めないよ」

シルビア「甘えんな!私が指示を出すから、その通りに動け!」

オッレルス「あ、ああ」

シルビア「まずは、この男の後ろに回り込め!そこで波動を放て!」

オッレルス「オッケー」

シルビアに言われた通り、削板の後ろに回り込んだオッレルスの掌から波動が放たれた。

削板「ふん!」

シルビア「きゃっ」

削板は鍔迫り合い状態から一歩引いて受け流し、ジャンプした。これで波動はシルビアに直撃する。

シルビア「なーんて、ね」

しかしシルビアは弾かれなかった。オッレルスが波動を消したからだ。

シルビア「そらぁ!」

空中で身動きが取れない削板を狙って、柄しかない剣が振るわれた。それで削板は引き裂かれるはずだった。

しかし削板は、足の裏に小さな魔法陣を2つ顕現させ、それを蹴って風の刃を回避。
シルビアから大きく距離を取り、目の前に直径2mほどの魔法陣を3つ並べて顕現させる。

シルビア「あれはヤバいわね。オッレルス!」

オッレルス「はいはい」

オッレルスとシルビアは隣合わせになる。
オッレルスは両掌の間に『念動力』をチャージし、シルビアは突きを繰り出す為に柄しかない剣を引く。

削板「『三重魔法陣の衝撃』(トライスペルインパクト)!」

叫びながら、自身が顕現させた魔法陣を思い切り殴った。
その一撃で魔法陣は3枚とも壊れ、とてつもない衝撃波が生まれ飛ばされる!

シルビア「いくわよ!」

オッレルス「ああ」

シルビアの柄しかない剣は学園都市製で、周囲の大気を集めて、刀身をそれで代用する事が出来る代物だった。
そして今、限界まで集めた大気を突きで一気に放出した。
そのパワーは、レベル5の大気系能力者が生み出す突風と比べても劣っていない。

その一撃にオッレルスがチャージした『念動力』の波動が上乗せされ、核シェルターをも引き裂く、究極の衝撃波となる。

2つの衝撃波は真正面からぶつかり合い、拮抗する。

オッレルス「シルビア、追加の――」

シルビア「違う!」

シルビアはオッレルスの手を取り、柄しかない剣から大気を放出して空を飛ぶ。その直後だった。

削板「『五重魔法陣の衝撃』(ペンタスペルインパクト)!」

削板の掛け声が聞こえたと思ったら、ゴッバァ!と、とてつもない衝撃波が走った。
飛んでいなければ、間違いなくぶっ飛ばされていた。

209 : SS寄稿... - 2011/12/27 21:40:05.45 JDo3T/bx0 201/490

オッレルス「うっひゃあ。喰らっていたら『念動力』を纏っている俺でさえ再起不能になっていたかも」

シルビア「油断するな!前方に『念動力』の盾を展開しろ!私が支えるから!」

衝撃が走った後の地に足をつけながら、背中合わせになる2人。シルビアは柄しかない剣に大気を集める。
その間に削板は直径3mほどの青い魔法陣を、目の前に20個ほど顕現させる。

削板「『多重魔法陣の衝撃』(デュアルスペルインパクト)!」

掛け声と共に、その魔法陣の内の1個を殴り、壊す。
一部分が相互に重なり合っていた20個の魔法陣は、1個壊れた事によって連動して壊れていく。
つまり、連動して魔法陣20個分の広範囲衝撃波が放たれる。

オッレルス「これはヤバいな……!」

両掌を前に出し『念動力』の盾を展開する。背中に居るシルビアは、柄しかない剣から大気を放出してオッレルスを支える。

オッレルス「嘘……だろ……」

ビキリ、と全力の『念動力』の盾にヒビが入る。シルビアにも支えてもらっているのに衝撃波が抑えきれない。そして――

オッレルスシルビア「――!」

盾が割れ、悲鳴を上げることもできず2人は吹き飛ばされた。

シルビア「くっそ……」

気絶しているオッレルスをどかしながら、シルビアは立ち上がる。すると目の前には、削板が息を切らしながら立っていた。
シルビアは削板が魔道書をかざしたのを見て、後退する。よって、オッレルスだけ魔道書に回収された。

削板「さすがに、お前までは、倒しきれなかったか」

シルビア「どうやら私1人では君に勝てないみたい。ここは退かせてもらうわ」

削板「くっ。待て!」

削板の呼びかけなどシルビアは当然無視し、柄しかない剣から大気を放出してロケットのように飛んでいった。
大技を3連続で使った削板には、追いかける力は残っていなかった。

210 : SS寄稿... - 2011/12/27 21:43:05.65 JDo3T/bx0 202/490

五和「――七閃!」

見様見真似で周囲に放った七閃は、見事に4人の人間を吹き飛ばした。

建宮「結構やるのよな。だが、能力者達は洗脳状態で痛みは感じない。その上肉体のリミッターも振り切っている。
   何が言いたいかと言うと、そいつらは完全に殺さないと止まらないのよな」

五和「そうですか。アドバイス感謝しますよ!――七閃!」

再び七閃が繰り出される。西洋剣を持っている男、野母崎ただ1人だけを狙って。

「くそっ!」

野母崎は西洋剣を振るって鋼糸(ワイヤー)を断ち切ろうとするが叶わず、まともに喰らい柱に巻きつけられた。

「どりゃあ!」

五和の後方から牛深が斧を投擲する。それはブーメランのようになって五和に向かう。

五和「甘いです!」

ガキィン!と七天七刀で斧を上に弾いた五和は、鞘に収まっている七天七刀を逆さまに持ちかえて、バットのように振った。
するとスポーン!と七天七刀が鞘から抜け出し放たれ、ブーメランのように回転して牛深に向かう。

牛深「ぬおっ!?」

牛深は面食らったが、なんとかジャンプでそれを回避。しかしそれは五和の計算通りだった。

刀が射出されたと同時に駆けだし、ジャンプしていた五和は、ジャンプした牛深の真正面で鞘を思い切り振り下ろした。

ガッ!と鞘の一撃をまともに受けた牛深は、地面にひれ伏す。それでもすぐに立ち上がろうとしたが、

五和「させません!」

フィアンマから譲り受けた魔道書で牛深を回収した。

「よくも!」

七天七刀の長さほどではないが、太刀を持っている女が五和に迫り突きを繰り出す。
五和は臆せず、刀を納める穴がある方を太刀の切っ先に向けて、鞘を突き出す。

太刀女「へっ?」

突き出された鞘の中に太刀はスライドしていき、つられて五和の懐に入ってしまう。
五和はそこへ、膝蹴りを女の腹部に叩きこんだ。さらにそのまま抱きこむように、魔道書で女を回収した。

「やるわね五和!」

最後の1人、ドレスソードを持った浦上が、五和を切り裂く為に駆けだしている。

五和「ふっ!」

短く息を吐き、先程納めた太刀で居合い斬りを繰り出す。ガッキィン!とドレスソードと太刀がぶつかり合う。

浦上「ぐっ……」

ぶつかり合った時の衝撃が大きすぎて、腕が痺れてしまった浦上はドレスソードを落とす。
一方五和は、太刀を投げ捨て鞘の先端を浦上の腹部に向けて、放った。

浦上「ぐはっ!」

五和「まだです!」

鞘が浦上の腹部にめり込んだまま、五和は走りだす。奥の柱に巻きつけられている、野母崎のもとへ。

野母崎「や、やめろおおおお!」

ドゴォ!と鞘に押された浦上が、野母崎にぶつかった。
野母崎と鞘のサンドイッチになった浦上は吐瀉物を撒き散らし、鞘と柱のサンドイッチになった野母崎も、悶絶した。

五和「回収します」

五和は魔道書をかざし、2人を一気に回収。その後放った七天七刀を拾い上げ鞘に納めたところで、建宮の放送がかかった。

211 : SS寄稿... - 2011/12/27 21:44:22.54 JDo3T/bx0 203/490

建宮「いやいや、お見事ですな五和さん。七天七刀を使いこなしているとは言い難かったが、動きは素晴らしかったのよな」

五和「馬鹿みたいに修行していた訳ではありませんが、日々の鍛錬は怠らなかったですから」

建宮「日々の鍛錬だけでは、そこまでは出来ないのよな。ひょっとしたら、センスでもあるのかもしれないのよな」

五和「それはどうも」

建宮「時に五和よ。よくもまあ、かつて仲間だった凄教徒達を容赦なく殴れるようになったもんなのよな?」

五和「何を言うんですか?こんなもの、幻覚か何かを見せているだけじゃないですか。もう皆死んでしまったんです。
   死んだ人は戻ってきません」

建宮「随分と冷たくなったのよな」

五和「何とでも言ってください。私は今の生活と、この世界を守るためなら鬼になりますよ」

建宮「威勢が良いのよな。どうやら、楽しいゲームになりそうなのよな」

4人回収した訳だが凄教徒は約50人いるため、残りは40人以上だ。ゲームはまだ始まったばかり。

212 : SS寄稿... - 2011/12/27 21:48:19.47 JDo3T/bx0 204/490

五和「――唯閃!」

見様見真似で図書館の壁に斬りかかった五和だったが、ただの居合い斬りにしかならず図書館の壁を壊す事は叶わなかった。

五和(わざわざ玄関から出なくても、壁を壊して出て行けばいいと思いましたが……さすが学園都市の施設。
   私程度の居合いでは傷をつけることすら出来ませんね)

まあいい。壁が駄目なら、図書館から出て廊下の窓から出るという方法もある。
五和はそう考え、勢いよく図書館を飛び出した。その直後だった。

初老の男、諫早が五和に跳びかかり、両手で持っていたメイスを振り下ろした。

五和「――っ!」

間一髪、七天七刀を水平に構えてメイスを受け止めた。しかし油断は出来ない。現在進行形でメイスの重圧は続いている。

「ぬおおおおおおお!」

五和(力が増した!?)

メキメキと諫早のメイスが圧してくる。初老の力とは思えない。
もっとも、幻覚か何かでそう見えているだけだろうから、実際はマッチョな人間なのかもしれないが。

五和(っ。このままだと圧し潰される……!やるしかない!)

覚悟を決めた五和は、クイッと七天七刀を傾けてメイスを左に反らす。
ゴトン!とメイスは地面に直撃した。

五和(今だ!)

鞘から七天七刀を引き抜き、峰打ちを繰り出す。

諫早「甘いわ!」

諫早は驚くほどの身軽さで峰打ちを跳んでかわし、反撃の蹴りを五和の顔面に叩きこんだ。

諫早「まだだ!」

五和の脇腹を狙って、メイスを横薙ぎにする。
五和は七天七刀を縦に構えてガードを試みたが、受け切る事は出来ず薙ぎ払われ、尻餅をついた。

五和「いたた……っ――!」

立ち上がる暇もなく追い討ちの振り下ろされたメイスを、七天七刀を水平に構えて何とか受け切ったが、

五和(どう……すれば……)

尻餅をついた状態で上からのメイスの圧力。潰されるのは時間の問題だ。
先程のように受け流して居合い斬りはもう通用しない。そもそも初めから居合い斬りを実戦で使うには無理があった。

2mほどの大きさの七天七刀は、元々は人間の膂力を遥かに上回る『聖人』であり、身長も180cmほどある神裂火織の得物だった。
それを魔術師とはいえ膂力も身長も普通の女の子でしかない五和が片手で振り回すなど、最初から無茶な話だったのだ。
ましてや五和の本来の得物は槍なのだから。

諫早は確かに身軽だった。しかしながら、神裂の一閃なら諫早は避けられなかっただろう。
五和の一閃だから避けられたのだ。

五和(私……ここで負けるのかな……)

もう腕が痛い。地面についているお尻だって痛い。峰の方とは言え、添えている左手からは血が流れるし痛い。
上条の口車に乗せられて調子に乗って七天七刀を手に取った事が――

五和(――当麻さん!)

213 : SS寄稿... - 2011/12/27 21:50:35.25 JDo3T/bx0 205/490

諫早(んん!?)

尻餅をついた状態の五和が押し返してきたので、諫早は若干動揺する。

諫早「やるじゃないか五和。ふん!」

諫早はマックスのパワーをメイスに加えた。それで今五和にかかっている負荷は優に300kgを超えている。
しかし彼女は潰れなかった。

諫早(なんだと!?)

五和「んがああああああああああああああ!」

左手がさらに深く裂け、鮮血が流れるが気にしない。
絶対に、負けるわけにはいかない!

五和「りゃああああああああああああああ!」

男勝りの雄叫びをあげながら、ついに五和が諫早を押し返した。
押し返され仰け反る諫早の顔面に、五和は上段蹴りを叩きこんだ。

諫早「ぐへっ!」

情けない声をあげながら、諫早はメイスを落として倒れた。
かけていた眼鏡は割れてしまっていて、破片がいくつか顔に突き刺さっていた。そんな諫早を、五和は魔道書で回収した。

214 : SS寄稿... - 2011/12/27 21:53:17.09 JDo3T/bx0 206/490

建宮「やるのよな。まさかあの状況から逆転するとは」

五和「当麻さんを初めとする仲間の顔を思い浮かべたら、絶対負けられないと思いましたから」

建宮「ふーん。思い一つでそこまで力が出せるとは、感心なのよな。
   ところで五和さんよ、もしかして窓からこの大学を出ようと思っているのよな?」

五和「それが何か?建宮さんはこう言いましたよ。『この大学から出れば良い』って。玄関からという指定はありません」

建宮「そっかそっか。それは俺が悪かったのよな。じゃあ今のうちに言っておく。窓には爆弾が仕掛けられている。
   窓から出ようとすれば、俺がスイッチを押して爆発させる。要するに、お前さんは玄関からしか出てはいけない」

五和「嘘……ですよね?」

建宮「仕方ないのよな」

建宮がそう呟いた直後だった。ゴォン!と上の階から地響きのような音が聞こえた。

建宮「お前さんが今いるのは1階、今のは4階の爆弾を爆発させた。これを至近距離で喰らえば、どうなるかは明白なのよな」

五和「ブラフですね。あの程度の音、能力者を使えば出せるんじゃないですか」

建宮「お前さんがそう思いたいなら、そう思えばいいさ」

五和(くっ)

こんなの冗談だ。せめて目の前で爆発を見ない限りはそう思う。そう思うが、もし本当だったら……。

建宮「悩む事はないのよな。別に玄関から出れば良いだけなのよな」

五和「そんなこと言って、玄関にも爆弾を仕掛けているんじゃないですか」

建宮「そこまではしないのよな。これはあくまで公平なゲーム。玄関からは無事に出られる。
   ただ窓からは駄目なだけなのよな。ちなみに、屋上からならアリなのよな。
   まあ無事に着地できるかは保証しないし、1階から屋上目指すより、1階にある玄関探した方が効率的だとは思うが」

五和(どうする?)

建宮「まだ悩んでいるのよな?ならもう1つだけ言っておくのよな。
   もしお前さんが無理にでも窓から脱出しようものなら、能力者の何人かを殺す」

五和「な――」

建宮「分かったら、大人しく玄関から出るのよな」

五和(くそっ……)

単なる揺さぶりなのかもしれないが、食蜂は200万人の能力者を従えている。
何人か死んだところで、大勢に影響は出ないだろう。とすると、何人かを殺すと言うのは、あながち有り得ない話ではない。
つまるところ、五和には玄関から出るという選択しかなかった。

五和(いいでしょう。やってやりますよ)

どの方向に行けば玄関があるのかも分からないが、とりあえず駆け出した。

215 : SS寄稿... - 2011/12/27 21:55:08.69 JDo3T/bx0 207/490

五和「はぁ、はぁ」

大学内を走り回り始めてから、かれこれ7分くらい経っている気がする。
廊下や講義を行う教室、ロビーなど、至る所でテレポートされてくる天草式の凄教徒数名を何とか倒し、回収してきた。
そうして疲労がたまってきた五和が次に辿り着いた場所は、体育館だった。

五和(あれは……)

割と広い体育館の中心にぽつんと、小柄な少年が1人立っていた。

「次は俺っすよ。五和さん!」

言うが早いか、両手に短剣を持った香焼が一直線にこっちに向かってくる。

五和(なかなか速いですが、スピードに溺れすぎですよ!)

一直線に向かってくる香焼に、五和は素直に突きを繰り出す。

香焼「ほんと、五和さんは単純すね!」

香焼はジャンプして突き出された七天七刀に乗り、踏み出す。五和の顔面を蹴り飛ばす為に。

五和「くっ――」

五和はギリギリで体を仰け反らせ、香焼の蹴りを回避。
さらに七天七刀を一旦手放し、香焼の足を掴み取り地面に叩きつけた。

香焼「いってぇ~!」

五和「回収!」

悶絶する香焼に、五和は魔道書をかざす。

香焼「それは勘弁!」

香焼は自らゴロゴロ転がって、魔道書の回収を回避。そしてすぐに立ち上がった。

五和(めちゃくちゃな動き……まるで読めない……)

そして何より、圧倒的な身軽さ。今までだましだましやってきたが、香焼相手には自分の攻撃はまず当たらないだろう。

五和(それでも――)

負けるわけにはいかない。

香焼「いくっすよ!」

216 : SS寄稿... - 2011/12/27 21:58:01.81 JDo3T/bx0 208/490

2本の短剣で一切の余裕を与えないように連続で斬りつけてくる香焼の攻撃に、
五和は刀を水平に構えて後退するだけの防戦一方だった。

香焼「とうっ!ていっ!やあっ!」

五和(くぅ……)

怒涛の攻撃に何も出来ない五和は、ある疑問を抱き始めていた。
これだけ絶え間なく攻撃を続けていたらスタミナが切れるはずなのに、動きが全く衰えないのだ。

五和(なん、で……?)

香焼「そこだ!」

五和が一瞬弱気になったところを香焼は見逃さず、左手の短剣を思い切り振り下ろす。
ガキィン!とそれを七天七刀で受け止めた五和は、その衝撃で左腕が痺れてしまい左手を離してしまう。
それでも右手は離さなかった。

香焼「そりゃ!」

ガラ空きとなった五和の胸辺りを狙って、香焼は右手の短剣を振るった。
五和は何とか後退して、短剣の一閃を掠める程度に留めた。

香焼「あーあ、今の一閃、短剣じゃなければ致命傷だったのに。
   短剣って、動きやすいかわりにリーチが短いのが難点なんすよね~」

余裕の態度を見せる香焼に、五和は無視して七閃を繰り出す。
一瞬という時間に七度殺せるレベルのワイヤー攻撃が、香焼に襲い掛かる。

香焼「そんな前時代的攻撃、喰らわないっすよ!」

しかし香焼は、短剣でワイヤーを切るのではなく受け流し、少しだけ跳び、ワイヤーを抜けかわした。

香焼「こうやって狭い隙間を抜けられるのが、小柄な体格のいいところなんすよね~」

確かに、香焼ほど小柄じゃなければ今の攻撃は抜けられなかった。

五和(ならば、賭けですが――)

五和はさっきの一閃で多少引き裂かれたウインドブレーカーを脱ぎ、水色のタンクトップ姿になった。
ただでさえ大きめな胸が、さらに際立つ。

香焼「でかっ!」

構わず五和は香焼に向かってウインドブレーカーを投げつける。

香焼「目眩ましっすか?甘いっすよ!」

カウンターがくることを分かっていながら香焼は突っ込んだ。

217 : SS寄稿... - 2011/12/27 21:58:45.14 JDo3T/bx0 209/490

ウインドブレーカーを引き裂いた先には案の定、鞘を引いている五和がいた。

香焼(突き程度で仕留められるほど甘くはないんすよ!)

繰り出された突きを、今度は思い切り屈んで回避した香焼は、まずは足でも切ってやろうと、短剣を振るう。

香焼(獲った!)

五和「――!」

グシュ!と肉を貫く音が木霊し、体育館の床には血溜まりが広がった。

218 : SS寄稿... - 2011/12/27 22:03:11.57 JDo3T/bx0 210/490

香焼「あ……れ……?」

香焼は床に伏していた。左肩を七天七刀に貫かれて。

五和「回収します」

魔道書をかざして香焼を回収した五和は、床に刺さった七天七刀を引き抜く。

五和「ふぅ」

香焼との一戦を終え、一息つく五和。我ながらあれだけ上手くいったのは、かなりラッキーだと思う。

香焼との最後の攻防の前、ウインドブレーカーを投げた時に七天七刀も上に投げていた。
そしてそれは、香焼がいよいよ五和の足を切断しようと言う時に落ちてきて、左肩を貫いたのだ。

しかしながら、香焼にうまく当たるとは限らなかったし、気付かれてかわされたかもしれないし、
七天七刀が落ちてくるのがもう少し遅かったら先にやられる、もしくは相討ちだったかもしれない。でも上手くいった。
だからラッキー。

五和(でも……このままでは……)

やはり今の対香焼でも得物をまともには使えず、運頼りの奇策で勝利したに過ぎない。
運も実力のうちとは言うが、この先運だけで勝てるほど甘くはないと思う。
おそらくではあるが、この戦いも監視されている。打てる策もなおさら減っていく。

結局、自分はまだ七天七刀を使いこなせない。
だったらと、今回収した香焼の短剣の内の1本を拝借しようと思ったところで、

「油断しすぎじゃない?」

後ろからの声に振り返るが、グシュ!と左肩が対馬のレイピアに貫かれた。

219 : SS寄稿... - 2011/12/27 22:04:14.99 JDo3T/bx0 211/490

ポタポタと、五和の左肩から血が滴り落ちる。

五和「うぅ……」

左肩を貫通しているレイピアを、右手で掴む。

対馬「それ、貴方の血で汚れたからあげる。私はまだあるから」

対馬は腰につけているレイピアをゆっくりと引きぬく。

対馬「次は心臓を一突きにして、終わりにしてあげるからね。大丈夫。一瞬で楽になるから」

そうして最後の一突きを放ったが、

対馬「な――ぐはっ!」

思い切り屈んだ五和にあっさりと回避され、逆に掌底を腹に叩きこまれた。

五和「う……くっ!」

対馬が怯んでいる間に、五和は左肩に刺さっているレイピアを抜いて、握った。

五和「さあ、やりましょうか対馬さん」

対馬「随分タフじゃない。本来の得物ではないレイピアで、どこまでやれるかしらね」

220 : SS寄稿... - 2011/12/27 22:06:38.22 JDo3T/bx0 212/490

対馬(嘘でしょ!?この子、本来の得物じゃないのに――)

レイピアでの決闘が始まって約1分。押されているのは対馬の方だった。
徐々に壁際に追いやられていく対馬は、しかし何の対策も出来ず攻撃を防ぐので精一杯だった。

対馬(やばい。そろそろ)

壁にぶつかる。このままだと貫かれてしまうだけだ。

対馬(こうなったら、一か八かだけど)

対馬は壁際ギリギリまで後退する。そして鬼気迫る五和の胸を狙って突きを繰り出した。最低でも相討ちにする為に。

五和も突きを放つ。しかしそれは、対馬を狙ったものではない。
突き出された対馬のレイピアの先端を狙って放たれたものだ。

レイピアとレイピアの先端がぶつかった。
瞬間、刃の部分を曲げたノコギリが戻った時のような独特な音が響き、対馬のレイピアが薪のように割れた。

対馬(嘘……でしょ……)

得物を失った対馬は、五和のレイピアに右肩を貫かれ、壁に縫い付けられた。

対馬「ひょっとして、火事場の馬鹿力って奴……?」

五和「回収します」

レイピアを手放した五和は、魔道書をかざして対馬を回収した。

221 : SS寄稿... - 2011/12/27 22:10:14.16 JDo3T/bx0 213/490

五和「やっ……た……」

ぺたりと、女の子座りをした。もう戦える力は残っていない。

五和「どうしよう……」

痛む左肩を抑えながら五和は考える。今まで回収した凄教徒の合計は10名程。
あと40名ぐらい残っている。ここで凄教徒に襲われたら、やられるだけだ。

五和「……逃げなきゃ」

せめてどうにかして玄関に辿りつけば、何とかなるかもしれない。そんな希望的観測を抱き始めた時だった。

建宮「ざぁんねん。ゲームオーバーなのよな」

クワガタのような髪型に、衣類も白地に斜めの赤十字が染め抜かれた、ぶかぶかのTシャツにだぼだぼのジーンズ、
1m程もの長さの靴紐、首には小型の扇風機を4つぶらさげている建宮が、五和の真後ろに立っていた。
その手には『フランベルジェ』が握られている。

建宮「今のお前さんには、戦うどころか走り回る体力すらないのよな。ここで一思いに処刑してやるのよな」

五和は首だけを後ろに向けて建宮を見た。そして悟った。この状況、どう足掻いてもひっくり返せない。
戦闘スキルでも、気持ちでも、運でも、奇策でも、火事場の馬鹿力でも。奇跡が起こらない限りは。

建宮「お前さんはよく頑張ったよ。使いこなせない得物で、10名程の凄教徒を回収したのは、誇って良い事だと思うのよな」

言いながら、フランベルジェを持っている右手を上げる。
絶体絶命の状況で五和は、このフランベルジェはフランベルジェの形をしているだけの、ただの鈍だろうな。
なんてことを漠然と考えていた。

建宮「もしかして、助けが来るとかっていう幻想抱いているのよな?無理無理。戦いは各地で行われている。
   万が一戦いを終えたとしても、この学区にお前さんがいる事までは分からない。
   億が一分かったとしても、この学区に来るまでに妨害が入る。
   兆が一この学区に入る事が出来たとしても幻術でこの大学は視覚的には見えない。助けは絶対にないのよな」

ああ、そうか。奇跡など起こらなくとも、誰かが助けに来てくれればいいんだ。
そんな事、なぜかは分からないけど考えつかなかった。

でも、建宮の言う通りだ。この体育館に辿り着ける可能性は限りなくゼロに近い。
けれども、屁理屈だけれども、可能性が低いとはつまり、ゼロじゃない。
だから他力本願だけれども、助けは絶対に来ないなんていう建宮の幻想を完璧にぶち壊して、助けに来てほしい。

五和は、とある少年の顔を思い浮かべた。

建宮「終わりだ!」

建宮のフランベルジェが振り下ろされる。
それでも五和は、助けが来る事を信じて目を閉じなかった。そして――

ドゴォ!と体育館の天井を壊して上から降ってきた少年に、建宮は殴り飛ばされた。

上条「遅くなってすまなかった」

五和「ぁ……」

その声を聞いて安心した五和は、思わず涙ぐんだ。

上条「だけど、もう大丈夫だ。俺が来たからには、何人たりとも、指一本触れさせない」

五和を背に守るようにして立つ上条は、そう宣言した。

222 : SS寄稿... - 2011/12/27 22:12:39.36 JDo3T/bx0 214/490

建宮「ぐ……やってくれるのよな」

殴れれた頬をさすりながら、建宮は立ち上がる。

建宮「ここは俺1人では荷が重い。人海戦術でいくのよな」

パッ!と約40人の凄教徒がテレポートされた。

建宮(これには、さすがのやつも少しはビビッているはずのよな)

そう思い、上条達を見る建宮だったが、

五和「でも、わざわざ天井を破壊する事はなかったんじゃないですか?……弁償するハメになったらどうするんですか?」

上条「えー!?俺弁償する必要あるの!?だって緊急時だったのに、本当に俺が悪いの!?」

五和「でも、嬉しいです。本当に駆けつけてくれるなんて///」

上条「彼女を守るのは当然だろ。ほら、これ被っていろ」

上条はウインドブレーカーを脱ぎ、五和にかぶせた。

五和「///」

そしてこの状況の中で、頬を赤らめる五和。

建宮(やつら、緊張感がなさすぎるのよな……そして何より、ムカつく!)

少女「やっていまいましょうよ!教皇代理!」

建宮「おう!一斉にかかれ!」

建宮の号令と共に、凄教徒が一斉に上条目がけて駆けだす。

五和「当麻さん!」

上条「大丈夫。任せとけ!」

上条は右手に『竜王の顎』を顕現し、咆哮させた。
その咆哮はとてつもない衝撃波となり、体育館のライトは全て割れ、凄教徒は全て吹き飛ばされた。

五和「きゃ!」

上条「ウインドブレーカー、ちゃんと被っていろよ!」

ドン!と上条は体育館の床を蹴った。

223 : SS寄稿... - 2011/12/27 22:14:57.65 JDo3T/bx0 215/490

上条が来てから、ものの5分程度で全ての決着がついた。咆哮に吹き飛ばされ、
ライトの破片の雨にさらされた凄教徒は怯み、ロクに行動できず『竜王』の力を使役する上条の前に、
為す術なくやられていった。建宮なんかはフランベルジェを砕かれ、顔面殴られてノックアウトだった。

五和「鮮やかなお手並みですね」

上条「ありがとよ。それより、その傷をどうにかしないと」

五和「こんなの、かすり傷ですよ。そんなことより、早く皆を回収しないと……っ!」

上条「無理するなって。こいつら程度ならいつでも倒せるし、食蜂の性格上、一度倒された奴を使うとは考えにくい。
   焦らなくていい」

五和「当麻さん……」

五和は上条に寄りかかる。

上条「ちょ、ちょっと」

五和「疲れたんです。少し寄りかからせて下さい」

上条「いや、そうじゃなくて」

五和「……嫌、ですか」

五和はしゅんとして、涙目になって上条を見つめる。

上条「いやだから、そうじゃなくてだな」

五和「じゃあ何でですか?もしかして照れているんですか?いいじゃないですか。家ではこうやっていつも――」

その時だった。

ヴェント「あのさー、イチャつくのは構わないけども、時と場所を考えてって言うかー。もうちょい緊張感もとうよ」

ぐいぐい迫る五和の対応に困る上条の数m後ろにいたヴェントが、気だるそうに言った。

五和「……え?まさか、今までの全部」

上条「そうだよ。見られた」

五和「はぅ……」

思わず上条のウインドブレーカーで顔を覆う。

上条「もう回収終わったのか?終わったなら五和の傷を頼む」

ヴェント「はいはい。人使いが荒いですね」

文句を言いながらも、ヴェントは魔術で応急処置的に五和の左肩の傷を塞いだ。

上条「よし。じゃあ一旦病院に戻るか」



時刻は9:30。戦いの第二局面が終了した。

224 : SS寄稿... - 2011/12/27 22:23:10.42 JDo3T/bx0 216/490

9:40になって、上条、五和、ヴェントが病院に戻ってきた。既に他のメンバーは全員戻ってきていた。

フィアンマ「ようやく戻ったか。早速だがヴェント、重傷者が3人いる。
      ここから1番近い病室のベッドに寝かせてあるから、回復魔術を頼む」

ヴェント「分かった」

上条「ちょ、五和も頼む」

五和をおんぶしている上条が言う。

ヴェント「分かっているわよ。アンタが病室まで運びなさい。彼女も、私に運ばれるよりそれを望んでいるでしょう」

上条「そうなのか五和?」

ぎゅっ、と五和の抱きしめる力が少し強くなったので、上条は自分で運ぶことにした。
その様子を、上条の手によって正気に戻った姫神は、ぼんやりと眺めて、

姫神「あれってもしかして。上条君の彼女……」

ずーん、という効果音が聞こえてきそうな位、姫神は落ち込む。

吹寄「まあまあ姫神さん。今は落ち込んでいる場合じゃないでしょ?」

姫神「うう……」

225 : SS寄稿... - 2011/12/27 22:27:16.92 JDo3T/bx0 217/490

一方通行「そうだ。落ち込ンでる場合じゃねェ。オマエら2人も魔道書で転送してもらえ」

吹寄と姫神を睨みながら、一方通行は言った。すると言われた吹寄は急に真面目な顔になって、反論する。

吹寄「いえ、それだけは遠慮します。
   軽く説明を受けて、未だに信じられないけど実際被害者になったし、リベンジと、皆さんの力になりたいです」

姫神「むしろ淡希こそ。何でここに残るの?」

結標「私?私はあれよ。ある男にいろいろ聞きたいのと、ぶん殴りたいのと、とにかくいろいろすることがあるの」

吹寄「完全な私用ですか……」

結標「悪い?」

吹寄「いえ、別に……」

一方通行「つーかだからよォ、結標はともかく、オマエら2人には大人しく転送されてほしいンだけど。
     レベル5相手だぞ。どう考えたって、オマエらには手に余る」

吹寄「分かっています。分かっていますけど」

姫神「皆が頑張っているのに。自分は安全圏でのんびりしているだけなんて。我慢できない」

一方通行「オマエら、あのツンツン頭のクラスメイトなンだって?
     だったら分かるだろ。オマエらが危険な目に会うのを、アイツは我慢できねェだろォよ」

吹寄「分かっています。けど、じっとしていられません。上条が何を言おうとも、私達の考えは変わりません」

一方通行「あっそ。じゃあ勝手にしろ」

吹寄「はい。勝手にします」

結標「え?ちょ、ちょっと、本当にそれでいいの?彼女達、絶対ただでは済まないわよ」

一方通行「これだけ忠告しても効かない馬鹿について、これ以上は俺の知った事じゃねェ。ま、何とかなるンじゃねェ?」

結標「いや、ならないでしょ。あなた達も良く考えなさいよ。レベル5よ。勝てないどころか殺されるわよ!?」

垣根「俺も結標に同意だ」

病室から戻ってきた垣根が、結標に続いた。

226 : SS寄稿... - 2011/12/27 22:29:08.31 JDo3T/bx0 218/490

垣根「はっきり言って足手まといだ」

姫神「足手まといにならないように。頑張る」

垣根「頑張るだぁ?そんな生半可な気持ちでどうにかなるほど、この戦いは甘くねぇぞ」

垣根の言葉は、誰が聞いても分かるほどに刺々しかった。

御坂「垣根先輩、何もそこまで言う事はないんじゃないですか?」

絹旗「超そうですよ。戦力が増える事は良い事じゃないですか」

垣根と同じく病室から戻ってきていた御坂と絹旗は、姫神をフォローする。

垣根「戦力が増える?何言ってやがる。コイツらなんてマジで邪魔なだけだ。
   つーかお前らガキ2人も、最早足手まといだぜ。特に連敗続きの御坂はな」

御坂「そ、それは謝りますけど」

佐天「そ、その言い方はないんじゃないですか!御坂さんだって、必死に頑張ったんですよ!」

病室の御坂にずっと付きっきりだった佐天が垣根に噛みつく。

垣根「お前、あれだけ病室で忠告したのに、まだ転送してもらってなかったのか」

佐天「私にだって、出来る事はきっとありますから。大切なのはレベルじゃなくて気持ちですから。
   私も皆さんと一緒に戦います」

御坂「佐天さん……」

垣根「糞みたいな感情論だな。さっきから言っている通り、そんなことでどうにかなるほど、この戦いは甘くねぇ」

一方通行「まァまァ落ち着けって。自分が追い込まれたからって八つ当たりは良くねェ」

垣根「何だと」

結標「あーもう!今は喧嘩している場合じゃないでしょ!」

結標の怒号で、場が一瞬鎮まり返る。

227 : SS寄稿... - 2011/12/27 22:31:31.74 JDo3T/bx0 219/490

垣根「とにかく、ガキどもは帰れ。レベル6の俺ですらこうして追い込まれたんだ。
   お前らには絶対にどうすることもできない」

佐天「嫌です!絶対に残ります!」

垣根「じゃあ多数決だ。ガキどもは帰ったほうがいいと思う人、挙手」

その言葉に、一方通行、フィアンマ、結標、病室から戻ってきていたヴェントが手を挙げた。
しかし、少女達以外に手を挙げてない少年が1人いた。

垣根「あれ?上条、お前はガキどもが残った方が良いと言うのか?」

上条「いや、そうじゃないけど……」

垣根「何だ。はっきり言え」

上条「皆の気持ちが痛いほどよく分かるんだよ。じっとしていられない。
   誰かが頑張っているのに、自分だけ楽するなんて耐えられない。って気持ちが」

垣根「で?」

上条「だから、本当は反対だよ。皆にこれ以上傷ついてほしくないし。けど、俺は吹寄達を止められない。
   俺が吹寄達の立場だったら、皆と一緒に戦いたいって言うと思うから」

垣根「じゃあ中立ってわけか?」

上条「まあ、そんなところかな」

垣根「俺含めて反対派が5人。戦いたいとのたまう少女も5人。1人が中立。
   あとは五和、お前と病室で仮眠をとっている削板次第だが」

上条「五和は?」

五和「私も、当麻さんと同意見です」

垣根「はぁ……中立2人。決着がつかねぇな。しょうがねぇ。削板を起こしに行くか」

そうして垣根が病室に向かおうとしたところで、

一方通行「もう良いンじゃねェの?1回戦わせてあげれば」

一方通行が投げやり気味に言った。

228 : SS寄稿... - 2011/12/27 22:33:36.77 JDo3T/bx0 220/490

垣根「造反か一方通行」

一方通行「そンな大層なもンじゃねェ。もう議論がだりィって言ってンだよ。一度痛い目見れば、分かるだろ」

垣根「痛い目を見ても挫けないガキが2人いるんだが?」

一方通行「その挫けない電撃姫とチビは俺が守るよ。
     ぶっちゃけ守るの疲れたし、大人しく転送されてほしいンだけど、一度約束しちまったからなァ」

垣根「……そこまで言うなら、百歩譲って相討ちらしかった絹旗と、レベル5の第3位である御坂は良いよ。
   でも残りカス3人は」

上条「じゃあ俺が守るよ。クラスメイトだしな」

垣根「佐天とか言うガキは違うだろ」

上条「そうだけど、約束って意味では、佐天さんも守らなきゃいけないんだ。
   『御坂美琴とその周囲の世界を守る』って、今はもういないけど、気障な男と約束しちまったからな」

垣根「……もういい。勝手にしろ。俺はもう少し寝る」

垣根はそう吐き捨てて病室へ向かって行った。

フィアンマ「……結局、少女達も参戦するで良いのかな?」

上条「良いんじゃないのか?」

吹寄「上条……ありがとう」

上条「別にお礼を言われるような事はしてねーよ」

姫神(上条君が。護ってくれる///)

佐天(なるほど。素であんなこと言っちゃう人なんだ。こりゃあ御坂さんも惚れる訳だ)

フィアンマ「よし。では皆、覚悟は」

ヴェント「ちょっと待ってダーリン。実はね」

229 : SS寄稿... - 2011/12/27 22:36:16.11 JDo3T/bx0 221/490

食蜂陣営

折原「本当に良いのですか?またしても奴らを泳がせるなんて」

食蜂「勝手な行動した黒夜が言っていたでしょ?やっぱりさぁ。完膚なきまでに叩きのめしたいのよね。
   ただ潰すだけじゃなくて、何もかも吐き出した空っぽな状態の、絶望したやつらを叩きのめしたいのよ。
   その為には、まだ足りないの」

折原「ですが、やつらは魔術などという得体のしれない技術で回復してしまいますよ。時間を与えれば、能力も体力も」

食蜂「大丈夫よ。その辺りは土御門に聞いてみなさい」

折原「私、土御門はあまり好きではないのですが……」

食蜂「仕方ないわねぇ。じゃぁ、説明してあげる。感謝しなさい」

折原「はい」

食蜂「土御門曰くね、魔術発動には魔力が必要なんだって。ゲームで言えば、MPってとろこかしらぁ。
   回復魔術だって、攻撃魔術だってMPは消費するのよ。つまり、やつらの回復は無限じゃないの」

折原「ですが、それも休めば回復するのでは?」

食蜂「まぁそうなんだけどぉ。それってつまり、やつらが傷つく、魔術で回復。
   傷つく、回復。で何度も苦しみや痛みを与えられるってことでしょ?」

折原「そうかもしれませんが、じわじわ軍が減っているのは、こちらの方ですよ」

食蜂「こっちは大人も含めて約230万人の駒があるのよぉ。
   確かに、結標淡希を奪還されたとかはあるけどぉ、人数的には1万分の1もやられてないのよぉ。
   分かる?1万分の1も減らせてないのに、御坂と絹旗は2度殺されかけ、垣根ですら追い詰められ、
   一方通行はダメージを受けた。この調子で行けば、どちらが有利かなんて、火を見るより明らかじゃない?」

折原「確かにそうですね。しかしながら、上条様はノーダメージですね」

食蜂「そうなのよねぇ。上条君と赤い奴と黄色い奴、削板軍覇が忌々しい。五和とか言う女はゴミね。いつでもやれる」

折原「何気にあの本も厄介ですよね。あの本のせいで戦える能力者も、少しひるんだ程度で回収されてしまいます」

食蜂「そうなのよねぇ。五和は明らかに魔道書に助けられていたわよねぇ」

丁度その時だった。

土御門「終わりました。報告します」

これまでの戦況の確認を終えた土御門が口を開く。

230 : SS寄稿... - 2011/12/27 22:39:21.26 JDo3T/bx0 222/490

食蜂「お願い」

土御門「まずは上条・一方通行ペアにより8人が奪還。奪還した結標、吹寄、姫神は、そのまま使うみたいですね」

食蜂「へぇ。あの巨乳と地味女をねぇ」

土御門「次に、御坂が佐天と交戦。能力を使わないと言う暴挙に出るも、一方通行の助けにより奪還されました。
    ちなみに一方通行が助けにいけたのは、ヴェントが上条達の前に現れて奪還した能力者を任せる事が出来たからです」

食蜂「魔術師達うざいわね」

土御門「そうです。100人の『発火能力者』を簡単に退け、その後もフィアンマの方は能力者を何人か回収。
    機動力があるヴェントが他の奴らの救援に行く。そんな感じです」

食蜂「本当邪魔ねぇ」

土御門「垣根対少女軍団ですが、レベル6だけあってしばらくは無双していましたが、木原那由他が
    『体晶』を飲み込ませた事により、追い込むことに成功。まあ最終的には勝利されましたがね。
    ちなみにそこにも、ヴェントが駆けつけています」

食蜂「次は?」

土御門「絹旗対『アイテム』は盤石の構えでしたし、実際終始押し気味でしたが、最終的には絹旗の底力の前に相討ち。
    駆け付けたフィアンマにより回収されました」

食蜂「次」

土御門「削板対オッレルス・シルビアですが、これもまた削板の一方的な勝利でしたね。
    全く持って理解不能な魔術を使っています。
    しかしながら『予知能力』(ファービジョン)のシルビアが何とか逃げ切りました」

食蜂「ふぅん。次」

土御門「最後に、五和対天草式十字凄教徒達ですが、約50人いるメンバーの内、10人ほどしか回収できなかった訳ですが、
    上条当麻とヴェントが救援に来たことにより形勢は逆転。全員回収されました」

食蜂「成程分かったわ。邪魔なのは、やっぱり魔術師ね」

土御門「そうですね。フィアンマとヴェントがかなり暗躍しています。
    最初の戦いでも、スタジアムの天井を壊して黄泉川を回収したのはフィアンマ、
    春上や初春、『心理定規』を回収したのはヴェントです」

食蜂「どうにか魔術師を止める能力者はいないの?」

土御門「そうですね。フィアンマやヴェントは、魔術師でもトップクラスですからね。ただ、削板なら対策法ありますよ」

食蜂「それは私にも分かっている。フィアンマとヴェントをどうにかしたいの」

土御門「なら、アイツを使わせて下さい」

食蜂「誰よ?」

土御門「妃雛菊(きさきひなぎく)。彼女なら何とかなるかもしれません」

食蜂「分かった。いいわよ」

231 : SS寄稿... - 2011/12/27 22:40:42.22 JDo3T/bx0 223/490

フィアンマ「俺達に2時間の猶予を与える、か」

ヴェント「そう。その間に準備を整えてらっしゃい。て言っていたわ。そうでしょ当麻?」

上条「ん?ああ。食蜂がわざわざ目の前に出てきてそう言っていたな。つーか何で名前?」

フィアンマ「おい上条。俺の女に何吹きこんだ?」

ゆらりと、フィアンマは病院のロビーの椅子から立ち上がる。

上条「え?いや、俺は何も、つーかヴェントさんよーく見て!明らかに笑い堪えているから!
   意図的にこの状況作り出して楽しんでいるから!」

フィアンマ「何?そうなのかヴェント?」

ヴェント「う、うん、ま、まあね」

笑いを我慢しながら答えた。

一方通行「緊張感ねェなァ」

フィアンマ「お前ら科学サイドだけには言われたくないな」

一方通行「しっかし、俺達を空っぽにして絶望させたい、ねェ」

フィアンマのツッコミを無視して呟いた。

上条「そうなんだ。2時間後、あっちから指示を出すらしい」

一方通行「強引なテレポートは止めンのか」

上条「ああ。今度からは指定された場所に、指定された人が来てもらうらしい。
   指示に従わなかった場合は、能力者を殺すってよ」

一方通行「へェ」

フィアンマ「俺様達はこの2時間で十分に体を休ませ、なおかつ準備をさらに整えればいい訳か」

上条「そういうこと」

一方通行「まずはガキどもの服からだな」

232 : SS寄稿... - 2011/12/27 22:42:03.28 JDo3T/bx0 224/490

結標、五和、ヴェント以外の女性陣は、ジャージを買うことにした。比較的安価で、動きやすいからだ。
御坂と絹旗も2連敗(正確には絹旗は相討ちではあるが)で、ダサいとも言っていられなくなってきたのだ。

ヴェントは未だノーダメージなので特に着替える必要はなく、結標はかつて着用していた霧ヶ丘女学院の装いになった。
五和は普通に服を買い、組み合わせることによって、魔術的に意味のある装いになった。

一方男子勢は、武器や装備、食糧をかき集めた。
そして病院で合流し、少々早めの昼食を摂り、装備を分配したところで2時間が経過した。
余談ではあるが、上条と一方通行と御坂は、回収した能力者の洗脳を解く仕事もあった。

削板「よっしゃあ!全力全開だぜ!」

仮眠を取り、十分な食物を摂った削板は万全のようだった。

一方通行「うるせェな。約束の時間だから静かにしてろ」

鬱陶しそうに削板を注意したその時、

食蜂「はぁ~い。皆さんお待ちかねの時間でぇ~す☆」

食蜂の声が病院内に響き渡る。

食蜂「上条君とかには言ってあるから分かっていると思うけど、これから指示を出しまぁーす。
   一度しか言わないからよ~く聞いてねぇ」

そして食蜂から指示が飛ばされる。


続き
食蜂「本っ当に退屈ね、この街は」【3】

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