関連
葉隠「強くてニューゲーム……って、俺がだべ!?」【前編】
葉隠「強くてニューゲーム……って、俺がだべ!?」【中編】
葉隠「強くてニューゲーム……って、俺がだべ!?」【後編】
葉隠「強くてニューゲーム……って二スレ目だべ!?」
死体発見時、舞園の部屋の状況
十=十神、腐=腐川、葉=葉隠、大=大神、霧=霧切、タ=タンス ★と★の間に物干し竿が張られていた
<科学室>
葉隠「ん、そういえばこの睡眠薬……」
大神「どうかしたか?」
葉隠(注意書きを読んでいて気付いた)
葉隠「いや、効果が出るまでに時間がかかるって話だったけど、それ以外にも特徴があるみたいだべ」
葉隠「振動に弱い、ってことらしい」
大神「振動?」
葉隠「ああ。安眠のためよほど大きな音が近くで鳴っても起きないようになってるけど」
葉隠「その代わり、揺すられたりするとすぐ起きてしまうらしい」
大神「ふむ……珍しい特徴だな」
モノクマ「ボクの自信作だからね!」
腐川「あんたが作ったの……ってか、それ言うためだけに出てきたの?」
葉隠(振動に弱い……ならあのとき、腐川っちが十神っちを揺すって呼びかけたから起きた……)
葉隠(一応理屈には合ってるな)
コトダマ『睡眠薬の特徴』ゲット!
腐川「……あ、思い出したわ」
葉隠「どうした?」
腐川「さ、さっき言ってた包丁の話よ」
葉隠「包丁……どっかで見かけたのか?」
腐川「み、見たわけじゃないけど……その」
腐川「白夜様を起こしたときにどさくさに紛れて白夜様の胸の辺りも触ったんだけど……」
大神「……腐川はそろそろ自重という言葉を覚えた方がいいぞ」
腐川「う、うるさいわね! 分かってるわよ!」
腐川「そのとき何か硬い感触があったのよ」
葉隠「硬い……もしかしてそれが」
腐川「ええ、今にして思えば包丁の柄のような形だった気がするわ」
葉隠(十神っちが包丁を……一体何のために?)
コトダマ『包丁の行方』ゲット!
コトダマリスト
『モノクマファイル4』
被害者は霧切響子。死因はナイフによる胸の一突き。その他外傷、薬物などの反応は無い。
『ナイフ』
霧切の胸に突き刺さったまま発見された。武器として使用する目的か、切れ味鋭く適度な重さで使いまわしやすい。
『ヒモ』
ナイフの柄に結び付けられていた。かなりの長さがある。
『霧切のメモ』
霧切が持っていたメモ。内容は『舞園の部屋に一人で来てね。来ないと……分かってるよね。うぷぷぷぷ モノクマ』となっている。モノクマは自分が書いたものではないと証言。他二枚とは筆跡が違う。
『腐川のメモ』
腐川が持っていたメモ。内容は『科学室に来い。話すことがある 十神』葉隠が持っていたメモと筆跡が一緒である。
『葉隠のメモ』
葉隠が持っていたメモ。内容は『音楽室に来てちょうだい。少し話し合いたいことがあるの 霧切』腐川が持っていたメモと筆跡が一緒である。
『舞園の部屋の状況』
封鎖されていた扉以外に人が通れる場所は無いようだ。
『物干し竿』
壁に突っ張る式の物干し竿。舞園の部屋に付けられていた。
『タンス』
舞園の部屋を封鎖するために使われたタンス。葉隠が見つけたとき、中は空だった。洋服をかけて入れるタイプのため、仕切りは無い。底板が外れやすくなっている。
『テープ』
タンスの上に付けられていたテープ。
『十神の証言』
苗木に睡眠薬を盛られたせいで寝ていた、と証言している。
『包丁』
食堂から一本無くなっている。
『舞園の部屋突入前の捜索』
舞園の部屋突入前、校舎は大神と腐川が、宿舎は葉隠が人の隠れられそうな場所を全て探した。
『科学室の睡眠薬』
科学室にあった睡眠薬。保健室の物と違って、効果が出るまでに時間がかかる。2錠無くなっている。
『腐川の証言』
十神の部屋から出たゴミに睡眠薬があったとのこと。
『睡眠薬の特徴』
音には強いが、揺すられると起きてしまう。
『包丁の行方』
腐川が十神が持っているようだと証言。
モノクマ「じゃあまず学級裁判のルールを説明するよ」
モノクマ「皆さんの中には殺人を犯したクロがいます。今から話し合いでそれが誰なのかを決めてもらいます」
モノクマ「その結果正しいクロを指摘できればクロだけがおしおき」
モノクマ「指摘できなければクロ以外がおしおき。そしてクロは卒業できます」
モノクマ「というわけでよろしく!」
苗木「現場は密室、中には死体と十神君だけ」
苗木「よってクロは十神君! Quod Erat Demonstrandum!」
葉隠(無駄に発音いいな)
苗木「さあ投票に移ろうよ!」
大神「待て。それでは裁判の意味が無いだろう」
大神「結論を出すのはもう少し話し合ってからでいいのではないか?」
苗木「ええー。でもそう間違ってるとは思わないけどなあ?」
葉隠(本当にクロは十神っちなのか……?)
議論開始!
腐川「だ、だからそう結論を早急に出さないでって……」
苗木「でも、そうでしょ? 死体がある部屋で呑気に寝ていたんだよ?」
大神「そう言われると……」
苗木「でしょ。そんなの普通『あり得ない』って」
コトダマセット『十神の証言』カチャ!
葉隠「それは違うべ!!」パリーン!
葉隠「十神っちが死体のある部屋で寝ていた理由……それは睡眠薬を飲まされたからだべ!」
大神「睡眠薬……?」
腐川「そ、そういえば前回の裁判でもそんな話あったわね……」
十神「そういうことだ。そして飲ませたのは……」
苗木「僕だって言いたいんだね?」
十神「俺が使うヤカンにピンポイントで睡眠薬を仕掛けられるのが、他に誰がいる」
苗木「なるほど、なるほど」
十神「つまり、こいつは俺を死体のある部屋で眠らせて放置することで俺に罪をなすりつけようと――」
苗木「でもさ」
苗木「それだと一つ説明できないことがあるよね?」
葉隠「説明できないこと……」
苗木「まあ僕は睡眠薬なんて仕掛けてないんだけどさ」
十神「よくも抜け抜けと……」
苗木「仮に、だよ。そうだとしたら十神君の行動に一つ説明が付かないことがある」
葉隠「……?」
苗木「葉隠君なら、分かるかな?」
葉隠「お、俺!?」
葉隠(いきなり指名されて焦る)
葉隠(にしても十神っちの行動でおかしなところ……俺も違和感を感じていたそれは……)
『眠っていた場所』
葉隠「これだべ!!」
葉隠「十神っちが寝ていたのはいい、だけどどうして死体がある部屋で眠っていたんだ?」
大神「……? 前回と同じように眠った後に『部屋に運んだ』のではないか?」
葉隠(いや、それはあり得ない)
コトダマ『睡眠薬の特徴』セット!!
葉隠「それは違うべ!!」
葉隠「今回使われた睡眠薬は音には強いが、振動には弱いんだべ!」
苗木「つまり運ぼうとすると、十神君は起きてしまうってことだね」
腐川「で、でも眠った白夜様を運べないんじゃ、部屋にカップが残ってないとおかしいじゃない」
葉隠「いや、それは今回の睡眠薬が時間が経ってから発動するタイプだから関係ないんだべ」
大神「ということは……結局どういうことなのだ?」
葉隠「それは十神っちは睡眠薬の効果が現れた瞬間、あの部屋にいたということになる」
十神「……ちっ」
葉隠(十神っちが睨み付けてくる)
大神「……おかしくないか?」
腐川「お、おかしいわよ……だって」
葉隠(オーガと腐川っちも気付いたようだ)
葉隠「そう、十神っちはどうして舞園っちの部屋にいたんだべ?」
十神「……」
葉隠(十神っちはだんまりを決め込むようだ)
葉隠「言わないなら、俺の推理を話すべ」
葉隠「まず、話は飛ぶけどこの三枚のメモ」
葉隠「オーガの話によると、苗木っちが俺のメモを書いたんだよな?」
苗木「……ん、そうだよ」
葉隠「そして筆跡が同じ腐川っちのメモも苗木っちが」
苗木「だね」
腐川「な、苗木! あんた、どうしてあんなことをしたのよ……!」
腐川「白夜様からの呼び出しかと思って舞い上がった私が馬鹿みたいじゃない……!」
葉隠(それは俺も気になっていた。どうして苗木っちは……)
苗木「あーそれは……ま、今は葉隠君の推理を聞こうよ」
葉隠(露骨に話題を変えたな。……気になるけど、今は推理を優先だべ)
葉隠「そしてこの最後のメモ」
葉隠「霧切っちを舞園っちの部屋に呼び出している。差出人はモノクマってなっているけど」
モノクマ「僕はそんなの書いていないよ?」
葉隠「というわけで、モノクマじゃないなら俺たち誰かの仕業だべ」
葉隠「そして二枚のメモと筆跡が違うことから苗木っちでも無い」
苗木「そうだね」
葉隠「そして俺、腐川っち、オーガはその時校舎の四階にいたわけで呼び出す意味も薄い」
葉隠「そう考えるとやっぱり霧切っちを呼び出したこのメモは」
葉隠「十神っちが出した可能性が高いってことになる」
大神「十神が舞園の部屋にいたのもこれが理由か」
葉隠「ああ、霧切っちを呼び出した場所ってことなんだろうな」
苗木「なるほどなるほど」
苗木「それで?」
葉隠「……え?」
苗木「だから十神君は霧切さんを舞園さんの部屋に呼び出して何がしたかったのかな、って」
葉隠「何がしたかった……か」
葉隠(それは……あの証拠から想像できる)
『包丁の行方』
葉隠「これだべ!!」
葉隠「腐川っちの証言によると……十神っち、懐に包丁を持ってるらしいな?」
苗木「へえ」
葉隠「包丁……十分に凶器になるそれ。持っていた理由はやっぱり……」
葉隠「霧切っちを呼び出して、殺すつもりだったんじゃないか?」
大神「……!」
苗木「どうなの、十神君?」
十神「……」
腐川「びゃ、白夜様……?」
十神「ああ、そうだな」
十神「俺は――霧切響子を殺そうとしていた」
葉隠(十神っちは言った。霧切っちを殺そうとしていた、って……)
葉隠(それはつまり犯行を認めた。十神っちがクロだということ――)
葉隠「………………」
葉隠(――なのだろうか?)
葉隠「何か引っかかるな……」
大神「どうして霧切を殺そうとしたのだ?」
十神「もちろんこのゲームに勝つためだ」
葉隠(相変わらず十神っちはこのコロシアイ学園生活をゲーム扱いする)
腐川「だったら私を殺せば良かったのに……! 白夜様の腕の中で、息絶える私……イィッ!!」
大神「本当にそれでいいのか、腐川……」
苗木「でも、腐川さんの言うことも最もだよね」
葉隠「……? どういうことだべ?」
苗木「だってさ、腐川さんは十神君の言うことだったら何でも聞くでしょ?」
苗木「わざわざモノクマの名前を騙ってまで霧切さんを呼び出して殺そうとするより、そっちの方が楽だよ」
苗木「さっきの様子だと反撃される危険もないしね」
葉隠「なるほど……」
葉隠(確かに腐川っちの方が殺しやすそうに思える)
十神「笑わせてくれるな」
葉隠「……何がだべ?」
十神「腐川を殺す方が楽だった、だと? おまえらは全く分かっていない……」
十神「このコロシアイ学園生活、学級裁判というものの本質を」
葉隠「コロシアイ学園生活の本質……」
十神「……聞くが、葉隠。おまえがもし誰かを殺して卒業をしようとした場合まず何を考える?」
葉隠「俺はそんなこと――」
十神「仮定だ。話の腰を折るな」
葉隠(仮定……って、怖い仮定だべ……)
葉隠(まあでも実際卒業を狙うとしたら……俺は……)
葉隠「どうにかして誰にも俺がクロだとバレない、完全犯罪……とかか?」
十神「そうだな、それが理想だ。おまえの頭脳がそれを思いつけるかという問題はあるがな」
葉隠「……仮定の話だろ」
十神「ああ、そうだ。だからその完全犯罪の方法が思いつかなかった場合、おまえはどうする?」
葉隠「それは……」
葉隠(どうすればいいのか?)
十神「分からないのか?」
葉隠「……降参だべ」
十神「答えは学級裁判を勝ち抜けるような方法を考えるべきだ」
葉隠「……? 自分がクロだとバレないことと一緒じゃないのか?」
十神「いいや。そこを勘違いしている。実際、学級裁判を勝ち抜くためには自分がクロだと思われても良いからな」
葉隠「……!?」
大神「それは……どういう……?」
腐川「???」
苗木「……なるほどね」
葉隠「苗木っちは分かったのか?」
苗木「うん。つまり十神君は学級裁判でクロだと疑われて自分に票が入ったところで、それよりも他の人の票が多ければ良いと言ってるんだよ」
苗木「学級裁判のルールは一番票を集めたものがクロだった場合におしおき、クロじゃなかったらクロが卒業だからね」
葉隠「票を……」
葉隠(そういや今までの裁判、大体が全会一致だったから気にしてなかったけど……言われてみればそうか)
葉隠(実際前周回の二回目の事件では、大和田っちをクロだと信じなかった石丸っちが十神っちに投票してたりとかもあったわけだし)
十神「そう考えるとこの状況でゲームを勝つための方法が見えてくる」
十神「今回の事件の前、残った生徒は六人だった。卒業のために誰かを殺したとして、残りは五人」
十神「つまり、三票を自分以外に入れることを達成すれば卒業が出来る」
苗木「……腐川さんを殺そうとしなかったのはそれが理由か」
苗木「彼女は十神君の言ったことなら何でも信じる」
苗木「十神君がでっち上げたクロに票を入れてくれるのは目に見えているからね」
十神「そういうことだ」
十神「そして俺自身も投票できるから、これで二人。後一人を騙すことが出来れば、卒業できる」
葉隠「後一人……一体誰を騙すつもりで……」
苗木「え、葉隠君でしょ」
腐川「葉隠じゃないの?」
大神「葉隠だろうな」
葉隠「いやいやいや、そんな俺が騙されやすいみたいな話を……」
十神「何を言う、おまえに決まっているだろ」
葉隠「……泣いていいか?」
十神「そしてクロだとでっち上げるのは……苗木のつもりだった」
苗木「……まあ、そうかもね。今までの行いからして、僕が疑われやすいから」
葉隠「自分で言うのか」
葉隠(まあでも三番目の裁判で命がけでクロに協力したり、今回は俺の全員で生きて帰る希望を破ると言ったり……)
葉隠(事件があって一番に疑われるだろう苗木っちになすりつけるのは理に叶っている)
大神「……そうか、そのためにあの証拠が」
葉隠「あの証拠?」
大神「腐川が十神の部屋のゴミ箱から見つけたものだ」
十神「ちょっと待て、ゴミ箱だと……? 腐川っ!!」
腐川「ひ、ひぃっ! ご、ごめんなさい!!」
葉隠「十神っちの部屋から……」
葉隠(えっと……それは……)
『睡眠薬』
葉隠「これだべ!!」
葉隠「中身の入った睡眠薬が十神っちの部屋のゴミ箱に捨てられていたんだべ」
葉隠「どうしてそんなことをしたのか……というと」
苗木「犯行の後、眠らされてたフリをして、僕に睡眠薬を飲まされたんだとして逆にアリバイを主張するため……ってことか」
苗木「三回目の裁判を逆手に取って、僕が十神君に罪を押しつけようとしている……それは本当のクロだからだ、という風にでっちあげようとした」
苗木「それで、そのためには睡眠薬が一個無くなってないといけなかった」
葉隠(セリフとられたべ……)
十神「霧切を殺そうとしたのも消去法だ」
十神「まずクロとしてでっち上げる苗木、そして票要員の腐川、葉隠は殺せない」
十神「そして大神は、この俺でも真正面からは殺せない」
十神「必然的に霧切しかないなかったわけだが……それも好都合だった」
苗木「霧切さんが死ねば、彼女の推理力も発揮されなくなる」
苗木「推理小説で探偵を殺すのは御法度だけど……まあ、実際は一番に殺すべきだよね」
十神「そういうわけだ。この俺が勝つための条件が全て整っていた。だから動いたんだ」
葉隠(一周目と違って、このタイミングで十神っちが動いた理由もそういうことなのか)
大神「そんな理由で霧切を殺したのか……」
葉隠(十神っちの犯行計画が次々と明らかにされていく)
葉隠(でも……だからこそ)
葉隠「いいや、違うべ、オーガ」
大神「違う……?」
葉隠「十神っちは――霧切っちを殺していない」
腐川「白夜様は……殺していない?」
十神「話を聞いてて分からなかったのか」
十神「俺はずっと殺そうとしていたと言って、殺したとは言っていない」
十神「それに実際に殺していたら、こうもあっさり計画をバラすわけがないだろ」
葉隠「そうだべ。……それにそもそもの十神っちが殺したんじゃないのかと疑った発端は、十神っちが包丁を隠し持っていたからってことだったよな」
大神「ああ」
葉隠「だったらどうしてそれを使ってないんだべ」
腐川「……あ」
葉隠「霧切っちを殺した凶器はナイフだった。十神っちが持っていた包丁は使われていない」
葉隠「わざわざ凶器を二つ用意する意味も薄い……つまり」
葉隠「殺そうとしていたけど……何らかの要因でそれが出来なかった、と考えるべきなんだべ」
大神「どうしてそんな事態に……」
葉隠「それはもう十神っちが言ってたとおり、いざ霧切っちを呼び出して殺そうとしたときに睡眠薬の効果が出たから……ってことなんだろう」
葉隠「睡眠薬も科学室から二錠無くなっていた。一個は十神っちのアリバイ工作で、二つ目は苗木っちが使ったってことだべ」
腐川「まさに嘘からでた真って状態だったわけね……」
十神「そうだ……つまり、クロは苗木、貴様で――」
苗木「いやいやいや、ちょっとみんな、その結論は一足跳びすぎるでしょ」
葉隠「この期に及んで、言い逃れをするのか、苗木っち」
苗木「言い逃れとかじゃなくてさ、ほら、葉隠君たちが言ったんじゃない。ちゃんと話し合ってからクロを決めようって」
葉隠「話し合うことなんて……」
苗木「まあ百歩譲って、僕が十神君に睡眠薬を飲ませた。そういうことにしよう」
苗木「でもさ、この証拠が表すように」
『舞園の部屋の状況』
苗木「現場の舞園さんの部屋には隠し扉などの存在はなく、唯一の扉は内側からタンスで塞がれていた――密室なんだよね」
苗木「中にいたのは殺された霧切さんと十神君だけ。それにそもそも僕は現場に最後に来たんだよ。そんな人が犯行を出来たはずが無いじゃないか」
葉隠「……」
葉隠(そうだ……まだそんな謎が残っていた)
葉隠(部屋の中にいた十神っちがクロじゃないとすると……これは密室殺人ということになる)
苗木「つまり、殺したのは十神君しかあり得ないって――」
十神「そんなペテンが俺に通用すると思ったのか、苗木」
苗木「……何のことだい?」
葉隠「十神っち、聞いてもいいか?」
十神「おまえらが証言したことの中に、今認識している事実と異なっているものがある」
葉隠「証言……?」
十神「ああ。そこから逆算すればどういう状況だったのは容易に想像が付く」
葉隠(十神っちは何か掴んでいるみたいだけど……)
葉隠(俺たちの証言の中のおかしいこと……それは……)
『舞園の部屋突入前の捜索』
葉隠「これだべ!!」
葉隠「そうだ、俺たちは十神っちを探すために、校舎と宿舎の全てを捜索した」
葉隠「その結果どこにも見つからず、唯一扉が開かなかった舞園っちの部屋を見ようとした」
葉隠「けど……それはおかしいんだべ」
葉隠「だって苗木っちは密室の外にいたって話だった。なのに密室以外の全てを捜索してその姿は見つかっていないんだから!!」
大神「密室には苗木はいなかったのに、密室以外にもいない……」
腐川「む、矛盾してるじゃない!!」
葉隠「いや……矛盾なんかじゃない。この状況を作り出す方法が一つ存在する」
葉隠「それは――舞園っちの部屋のどこかに隠れておくこと」
葉隠「そして俺たちが死体に驚いている間に、さも部屋の外からやってきたように装って声をかけたんだべ」
大神「なるほど……それなら筋が通るが」
苗木「ぼ、僕が隠れていた? そ、そんなことあるわけないよ!!」
葉隠(苗木っちが狼狽え始めた)
葉隠「だったら苗木っちは事件現場に来る前どこにいたんだべ?」
苗木「え、えっと……それは……」
葉隠「答えられないだろ。それに……隠れていた場所も想像が付いている」
葉隠(そうだ……捜査のときに不自然なところに気づいたあれ……)
『タンス』
葉隠「これだべ!!」
葉隠「苗木っちは部屋を封鎖していたタンスの中に隠れていたんだべ!!」
葉隠「あのタンスには仕切りがなかった。俺の背丈くらいはあったし、十分に人が隠れる余裕はある」
葉隠「そうして俺たちが部屋に入ってきたときは隠れたままやりすごし、頃合いを見て外れやすくなっていた底板から抜け出た」
葉隠「死体を見て俺たちが立ち止まったのも、タンスより部屋に入った地点だった。つまり後ろから声をかけるのは可能だったってことだべ!!」
大神「なるほど……苗木がタンスの中にいたから、その分重くなって葉隠が部屋の封鎖を突破できなかったわけか」
苗木「そ、そんな……タンスの中に入ってただなんて……」
葉隠「だったらどうしてあんな発言をしたんだ?」
苗木「発言?」
葉隠「俺は聞き逃さなかったぞ」
苗木『いたたぁ……やっぱり打ち身になってるなあ……』(>>210)
葉隠「打ち身……想像するに、これはタンスの中に入っていて、オーガに吹っ飛ばされたときに打ったんじゃないか?」
苗木「どうしてそれを……あっ!」
葉隠「認めたな、苗木っち!」
苗木「うっ……それは……」
十神「終わりだな」
腐川「そ、そのようね……」
大神「……」
葉隠「事件を最初から振り返るべ!!」
葉隠「まず始めに苗木っちは十神っちが使うだろうヤカンに睡眠薬を仕込んだ。理由は十神っちに罪を押しつけるため」
葉隠「十神っちが本当にそれを使うかは運が絡むけど、幸運の才能を持つ苗木っちには容易いことだった」
葉隠「そうとは知らずに睡眠薬入りの紅茶を飲む十神っち。でも睡眠薬は時限性。このときはまだ効果が現れなかった」
葉隠「その後、十神っちは呼び出した霧切っちを殺すために、舞園っちの部屋に向かった」
葉隠「でも、そのタイミングで睡眠薬の効果が現れたんだべ」
葉隠「舞園っちの部屋で眠ってしまう十神っち」
葉隠「そこに苗木っちが現れた。霧切っちを持っていたナイフで殺す苗木っち」
葉隠「そしてタンスを動かし、部屋の封鎖を完了し密室にすると、自分はタンスの中に入って隠れた」
葉隠「その後異常を感知した俺たちが部屋の封鎖を突破して、死体を発見」
葉隠「驚いている隙に、何食わぬ顔で部屋の外から入ってきた風を装い、密室にいる十神っちにしか殺せなかったという状況を作ろうとした」
葉隠「つまり……クロは苗木っちなんだべ!!!!」
十神「どうだ、苗木。申し開きがあるなら聞くが」
苗木「……」
腐川「放心して聞いてないようね……せっかく白夜様が話しかけているっていうのに、贅沢なやつね」
苗木「……」
モノクマ「うぷぷっ、議論は終わったみたいだね」
葉隠「終わった……」
葉隠(霧切っち……敵討ちは済んだべ)
苗木「……」
モノクマ「だったらこれから投票タイムに――」
大神「待つのだ!!」
葉隠(オーガが声を張り上げた)
葉隠「どうしたんだべ、オーガ」
十神「そうだぞ、もう結論は出ただろうが。間違っているとでもいうのか?」
腐川「も、もしかして苗木の味方をするつもり……?」
大神「そんなことはない。議論も大筋には納得している。苗木の味方でも無い」
大神「だが……何か」
大神「大きな見落としをしているのではないか……と、不安になってな」
葉隠「見落とし……」
大神「我にはどうもさっきからの苗木の狼狽えようが演技にしか見えない」
大神「悪い予感がする」
葉隠(予感……曖昧な言葉だが、占い師の俺はそれを見過ごすことが出来ない)
葉隠(でも……まだ、何か……)
苗木「………………」
モノクマ「それで? まだ投票行かないの? だったらさっさと議論してよね」
葉隠(モノクマが急かしてくる)
十神「おい、苗木! 何か言うことは無いのか?」
苗木「言うことも何も……僕がクロなんでしょ。さっさと投票に行ったらいいよ」
葉隠(一転して苗木っちは自分の罪を認める発言をした)
葉隠(やっぱり……何かおかしい……でも……)
大神「葉隠、事件と関わりがあるのか分からないが、少し聞いても良いか?」
葉隠「どうした、オーガ?」
大神「葉隠は苗木の目的を知らないか?」
葉隠「目的? それって希望のためとかじゃないのか?」
大神「いや、それは分かっている。我が聞きたいのは今回の事件に限っての話だ」
葉隠「今回の……だったら、たぶん俺の希望を否定するってことだべ」
大神「葉隠の?」
葉隠「ああ。俺の全員で生き残るっていう希望を壊してみせるって」
腐川「つまり誰かを殺してみせるってこと? 物騒じゃない」
大神「なるほど……でも……」
葉隠「何か気になるのか、オーガ?」
大神「いや……苗木はわざわざ嘘をついてまで我を葉隠に差し向けておきながら、自分は霧切を殺した」
大神「ただの陽動だと考えるには、少し手間がかかりすぎている」
大神「そこを我は違和感に思っていたのだが……とにかく事件が発生すれば良かったというのなら分かる話………………」
大神「なのだろうか……?」
葉隠(オーガの歯切れの悪い物言い)
葉隠(でも……確かに苗木っちが同時に二つの殺人を企てどっちかで成功すればいいというような策を立てるだろうか?)
葉隠(苗木っちの才能は幸運。下手な鉄砲、全弾命中を可能にする)
葉隠(なのに二つの事件を起こした意図は……)
葉隠(一つの目的に添って……と考える方が正しい)
葉隠「………………」
葉隠「苗木っち、一つ聞いても良いか?」
苗木「いいよ」
葉隠「苗木っちは前、俺の希望を否定するために誰かを殺すって言ったよな?」
苗木「うん、そうだね」
葉隠「その誰かって……もしかして俺じゃないのか?」
大神「葉隠を……?」
苗木「さすが葉隠君だね。うん、その通りだよ」
苗木「この先葉隠君が生きていても、絶対的な希望にたどり着くとは思えないし、否定ついでに殺そうと思ってたよ」
腐川「だ、だったら葉隠を殺せば良かったじゃない」
十神「それは出来ないだろ」
十神「葉隠は内通者の特権で殺しに来る者がいる場合、モノクマからその情報を教えられる」
十神「警戒している相手を殺すなんて、素人には難しい」
葉隠「だからオーガを唆したんだろうな。警戒していようが関係無しに殺せるから」
大神「では同時に霧切を殺したのは何故だ? 我が葉隠を殺さないと思い、目標を変更したのか?」
葉隠「うーん……そこが分からないんだよな」
葉隠「苗木っちが一つの目的の元に行動していたというならば、霧切っちの事件も俺を殺す目的で行われているはずなんだけど……」
腐川「霧切を殺すのと、葉隠を殺すのって全然違うじゃない」
十神「その点と点を結びつけるのは強引だと思うが……」
大神「だがそれなら苗木の行動に一貫性が付く」
葉隠(俺を殺す……殺すいっても、苗木っちはどうやって殺すつもりだったんだ……?)
葉隠(俺ももうコロシアイ学園生活二周目だ。色んな殺し方を見てきた)
葉隠(その中でも多かったのは刺殺と殴殺だろう)
葉隠(苗木っちはナイフを用意していたし、刺殺で行くつもりだったんだろうか……)
葉隠(ポピュラー……と言っていいのか分からないが、まあ多くを殺してきた方法だし…………)
葉隠(…………………………)
葉隠(…………………………)
葉隠(…………………………)
葉隠「いや――違う!!」
大神「どうしたのだ、葉隠?」
葉隠「このコロシアイ学園生活で一番人を殺してきた方法は刺殺や殴殺なんかじゃないんだべ!!」
十神「いきなり何言い出してるのか知らないが……刺殺も殴殺も多かったと思うぞ」
葉隠「確かにそうなんだけど……そういう意味じゃなくて……!」
腐川「だったら何だって言うのよ?」
葉隠「それは――」
葉隠(ある意味殺し方の一つ。ある時は理不尽に、ある時はクロの生徒に行われたそれは――)
葉隠「おしおきだべ!!!」
葉隠(それに気づいたときには俺の中でばらばらだった点が組み合わさり、線となり……推理が出来あがっていた)
葉隠(つまり……この事件のクロとは……)
葉隠「………………」
腐川「おしおき……ってモノクマの?」
大神「多いとは思うが……それがどうしたのか?」
十神「……ん、ちょっと待てよ………………まさか!!」
苗木「――あはははははっ!!!」
苗木「ようやく気づいたんだね」
腐川「気づいたって……何をよ」
大神「やはり先ほどまでは演技だったか。……しかし、おしおきが何か関係あるのか?」
苗木「大ありだよ」
苗木「そうだね、まだ理解していない人もいるみたいだし、順を追って説明しようか」
苗木「先に認めておくけど、さっきの葉隠君の推理はほとんどあってたんだよ」
十神「やはり睡眠薬も貴様が……!」
苗木「でも一つだけ……僕が霧切さんをナイフで刺したという部分だけが間違っている」
腐川「はあ? でも霧切にナイフは刺さっているじゃない」
苗木「まあ聞いてよ。僕は君たちが気にしなかったこの証拠たちで、こういう装置を作り上げたんだ」
『ヒモ』『物干し竿』『ナイフ』『テープ』
大神「これは……」
苗木「ナイフにつけたヒモを霧切さんの上に渡した物干し竿を通してから、その端をタンスにテープで固定する」
苗木「これでナイフは霧切さんの頭上で宙吊りとなる」
苗木「そして部屋のタンスを倒すと……まあどうなるかくらいは分かるでしょ?」
腐川「霧切に向かってナイフが落ちる……」
大神「……ナイフには適度な重さがあった。落下速度だけで霧切を刺すのは可能……か」
苗木「そう。そしてこの装置の肝は……とどめをさしたのが、タンスを倒した人間になるってこと」
腐川「それって……」
大神「どういうことだ……?」
十神「分からないのか? これを使えば、他の人間が殺人を起こしたことに出来るってわけだ」
腐川「そ、そんなの屁理屈よ……!」
腐川「仕掛けをした苗木が殺したようなものじゃない!」
大神「我もそう思うが……」
十神「ルールについて俺たちが議論しても結論は出ないだろう」
十神「おい、モノクマ。今言った状況の場合、クロは誰になるんだ?」
モノクマ「はいはい。じゃ早速答えるけど……」
モノクマ「そんなの――考えるまでもなくタンスを倒した実行犯がクロだよ」
モノクマ「装置を作るのはあくまで準備だよ? トドメをさしたのはタンスを倒して、ナイフを落とした人に決まってるじゃん」
大神「事故みたいなものだろう。苗木の方が殺意あるように思うが」
モノクマ「いやいや。苗木君はタンスの中に入って、倒れないようにしていたっていう……ある意味、霧切さんを殺さないようにしてたくらいだよ」
モノクマ「それを誰かさんが外から扉に体当たりしたせいで……うぷぷぷぷ」
苗木「つまり……僕はクロじゃないってこと」
苗木「いやあ、このまま気づかれないんじゃないかってはらはらしてたよ。自分からクロじゃないって釈明するのもかっこ悪いしさ」
大神「クロではないということは……あのまま誰にも気づかれなかったら苗木、貴様も死んでいたのだぞ」
苗木「そこはみんなを信じてたからさ。みんなの希望なら、僕程度がやったことくらい見抜くって」
苗木「まあもし見抜けなかったら……その程度の希望だったってことだ。死んでもしょうがないさ」
腐川「相変わらず狂ってるわね……」
苗木「にしても、このトリックを実現させるためにいろいろ苦労したんだよ」
苗木「装置だけなら簡単だけど、中に入ってこないといけない理由も作らないといけないからさ」
十神「……なるほど、俺に睡眠薬を飲ませた理由はそっちか」
大神「どういうことだ?」
十神「今言った仕掛けが苗木の本当の目的だったとしたら、苗木は俺に睡眠薬を飲ませて罪をかぶせる必要はなかっただろ」
腐川「そ、そうね。結局タンスを倒した人がクロなわけだし……」
十神「だから俺を睡眠薬で眠らせたのは、俺を他のやつらに探させるためだった」
十神「探している最中に、開かない扉があれば不審に思い無理やり開けようとする」
十神「それで殺人装置の発動条件を満たすってわけだ」
大神「なるほど……」
十神「もちろん俺がいないことを不審に思い探してもらいたいが、殺人装置を準備する前に見つかっては意味がない」
十神「それを解消するために腐川を俺の名前で科学室に呼び出したのだろう」
十神「呼び出し時間までは現場から遠ざけることができ、殺人装置を準備する余裕ができる」
十神「そして準備が終わり呼び出し時間になれば、不審に思い探し始める」
十神「わざわざ腐川を使ったのも、自分から探してくれというのでは不自然だからだろうな」
大神「……そういえば今回のモノクマファイルには殺害された時刻が書いてなかった」
大神「書いたら、ついさっき殺されたことを示してしまうから……ということなのだろう」
腐川「……にしても怖いことを考えるわね」
腐川「封鎖された扉を突破しようとした者がクロになる……って、それって部屋の外にいた私もクロになる可能性があったってことじゃない」
大神「運次第で、我ら三人が誰にでもクロになる可能性があった……」
十神「……いや、違うだろう」
腐川「?」
大神「?」
苗木「そうだね、十神君の言うとおりだよ」
苗木「運っていうのはどんなときも僕の味方だ」
苗木「僕にはこの殺人装置の引き金を引いて欲しい人間が明確にいて」
苗木「そして三分の一の可能性を見事当てた」
苗木「分かってるんでしょ。さっきから随分と黙ってるけど――」
苗木「葉隠君――君が、霧切さんを殺したクロだ」
葉隠「………………」
葉隠(苗木っちの目的に気づいたときには分かっていた)
葉隠(そうだ、オーガが扉を突破する前に、俺は扉に体当たりをしてタンスが倒れた音を聞いている)
葉隠(あのときに苗木っちの用意した殺人装置は起動して……)
葉隠(俺は……同じ二周目という境遇で、頼れる仲間である――)
葉隠(霧切っちを自らの手で殺した……)
葉隠「………………」
葉隠(そして悲劇はそれだけでは終わらない)
葉隠(俺が霧切っちを殺したクロだということなら)
葉隠(この裁判……おしおきされるのは俺だということ)
苗木『殺せない内通者を殺す方法』
苗木『二つ目は――おしおきに持って行くこと』
苗木『内通者の特権は自分を殺そうとする者がいる場合に教えるというもの』
苗木『つまり自分に殺させようとする者がいてもモノクマは教えない』
苗木『あはっ、あははははははははははっ!!!』
腐川「葉隠がクロ……」
大神「それではこのままおしおきされるのは葉隠になるというわけか……? 理不尽な……!」
十神「だが、ここからやつがおしおきされないためには、わざとクロを間違える方法しか残っていない」
十神「それで葉隠は卒業できるが……今度は俺たちがおしおきされることになる」
苗木「その通り。あはっ、詰んでるねえ葉隠君?」
葉隠「…………」
苗木「……あー黙っちゃって。それじゃ何考えてるか分からないよ」
苗木「いや……それとも霧切さんを自分の手で殺したって方にショックを受けているのかな?」
大神「霧切を?」
苗木「だって彼女と葉隠君は組んでいたみたいだからね」
葉隠「気づいて……いたのか」
葉隠(俺が内通者の疑いをかけられてそれに巻き込まないように霧切っちとの関係は公にしていなかったが……)
苗木「当然。だから君の部屋を訪れたときに霧切さんのマネをして警戒を解いたり」
苗木「音楽室に呼び出すときに差出人を霧切さんの名前にしたり」
苗木「――仲間を殺した方が君が絶望するであろうと思って、霧切さんを標的にしたんだ」
葉隠「……っ!」
葉隠(俺と関わってしまったばかりに……霧切っちは……)
十神「そうか……この装置殺すのは誰でも良かったはず」
十神「なのに警戒心が特に強い霧切を標的にしたのは……そのためか」
葉隠「俺の……せいで……」
苗木「いい表情になってきたねえ、葉隠君」
苗木「でもね、そんな葉隠君にも一つだけ希望があるよ」
腐川「……上げたり落としたり……こいつ何したいのよ?」
大神「我らに分かる訳ないだろう」
葉隠「希望……?」
葉隠(こんな絶望を……逆転するような何かがあるっていうのか……?)
苗木「ああ。君の希望『みんなで生き残る』だったかな」
苗木「それが大体叶う未来がね」
葉隠「そんな都合がいいこと……」
苗木「じゃあちょっと話を変えるけど」
苗木「そもそもこのコロシアイ学園生活、一体いつまで続くか考えたことがあるかな?」
葉隠「それは……最後の一人になるまでじゃないのか?」
十神「いや、違うな。ルール変更さえなければ、四人になるまでだ」
葉隠「四人……?」
苗木「さすが、十神君は気づいていたか」
苗木「そう、残り四人になった時点でこのコロシアイ学園生活は成り立たなくなる」
葉隠「そんなこと……」
苗木「簡単な話さ」
苗木「コロシアイ学園生活には卒業という褒美がなければ成立しない」
苗木「卒業には学級裁判という過程がなければ成立しない」
苗木「学級裁判には事件という原因がなければ成立しない」
苗木「事件は死体発見アナウンスという放送がなければ成立しない」
苗木「死体発見アナウンスにはクロ以外の三人の目撃者がいなければ成立しない」
葉隠「……あ」
苗木「残り四人の時点で事件が起きたとしよう。すると一人はクロで、一人は被害者で、そして残り二人は目撃者となる」
苗木「つまり目撃者三人は永遠に達成できず、捜査が始まらずに事件が成立しないから、裁判を行うことが出来ない」
苗木「唯一自殺の時は成り立つかもしれないけど……まあそのときはクロは自明だしね」
大神「なるほど……」
苗木「まあ四人になった時点で別のルールが発動するんだろうけど……」
モノクマ「そんなの知りませーん」
苗木「しらばっくれているクマは無視して、それでもおそらくコロシアイというルールは無くなるだろう」
苗木「四人は人数が少なくなり過ぎる。コロシアイが起きにくいと思うし……考えられるのは黒幕対生徒の構図かな?」
葉隠(この学園の秘密を全部解き明かす、あの最後の学級裁判だろうか?)
苗木「まあそうなれば全員が生き残る可能性があるんだよ」
腐川「で、でも、そもそも前提条件が成り立たないわよ! 残り四人って……!」
苗木「そうだね、今この場には五人いるからね」
苗木「けどそもそも僕は葉隠君の希望が大体叶うとしか言ってないよ」
十神「そうか……つまり」
葉隠「つまり、こう言いたいんだな、苗木っちは」
葉隠「俺さえ死ねば――他のみんなは生き残れるって」
苗木「そういうことさ」
苗木「だから君の希望を少しでも叶えるため、君が犠牲になってよ、葉隠君!!」
葉隠「………………」
葉隠(俺は本来自分が一番大事な人間だった)
葉隠(依然だったら、何も迷うことなくそんなの嫌だと言っていただろう)
葉隠(でもこのコロシアイ学園生活を通して変わった)
葉隠(何がきっかけだったのかは分からない)
葉隠(失敗ばかりだった)
葉隠(成果に全く結びつかなかった)
葉隠(むしろ逆の結果ばかり引き起こしていたと言っても良い)
葉隠(それでも――俺はみんなで生きて、このコロシアイ学園生活を終えたいって思ったんだべ)
葉隠(だから……俺がここで口にするべき言葉は)
葉隠「みんな俺に投票してくれ」
大神「葉隠……お主……」
腐川「は、葉隠……」
十神「葉隠……貴様……」
苗木「ははっ、さすがだね! これでも希望ヶ峰学園に選ばれただけのことはあるってわけか」
葉隠「まあな」
苗木「結構結構。すばらしいよ」
苗木「……でもね」
苗木「――葉隠君は、本当に『死ぬこと』について考えてる?」
葉隠「何……を……?」
苗木「死、だよ?」
苗木「覚めることのない永遠の眠り」
苗木「そこには希望も絶望もない。無が広がるばかり」
苗木「熱に浮かされていない?」
苗木「これでみんなを救えるんだ、っていうヒロイックな思考にとりつかれて本質を見失っていない?」
葉隠「そ、そんなこと……」
苗木「本当に葉隠君は……死んでも大丈夫なの?」
葉隠「…………」
葉隠(死)
葉隠(このコロシアイ学園生活で身近になったそれ)
葉隠(死者はもうそれ以上話せない)
葉隠(死者はもうそれ以上感情を持つことが出来ない)
葉隠(死者はもう何も出来ない)
葉隠(そんな当たり前のことを……思い知らされた)
葉隠(このままおしおきになればもう奇跡は起きない)
葉隠(前周回、おしおきを止めたアルターエゴは)
葉隠(今回危険なことをさせたくないとして、何もさせなかったから)
葉隠(おしおきになれば、俺は確実に死ぬ)
葉隠(俺はそんな無を……受け入れられるのか……?)
葉隠「…………」ブルッ!!
葉隠(想像して思ったのはゾッとするほどの虚無感)
葉隠(そして渇望)
葉隠「い…………」
葉隠(もっと占いをしたい、金を稼ぎたい)
葉隠「い、嫌…………」
葉隠(もっと楽しみたい、希望を持ちたい)
葉隠「嫌だべ……!!!!!」
葉隠「俺は……もっと生きていたい!!!!」
苗木「生きていたい? クロの君が生き残るためってことは」
苗木「君以外の人を殺すってことだけど?」
葉隠「ああ、そうだべ! それでも俺は生きていたい!!!」
苗木「………………はははっ!!!」
苗木「ようやく表したね……!!」
苗木「そうだ。それが君の本性だ!」
苗木「他者を犠牲にしてでも自分が生きていたい……」
苗木「そんな君が……『みんなで生きる』希望を持つなんておこがましいんだよ!!」
葉隠「そうだ……みんなが俺に投票しなければ、生き残れるんだべ……」
葉隠「な、なあオーガ。おまえは俺に投票なんかしないよな……?」
大神「……くっ」
葉隠「どうして目を逸らすんだべ? 俺を殺したりしないよな?」
大神「すまない……」
葉隠「だからどうして謝るんだべ!!」
大神「…………」
葉隠「な、なら腐川っちは? 十神っちは? おまえらは俺を殺したり何かしないよな!?」
腐川「だ、だってしょうがないじゃない! そうしないと私たちが死ぬんだから……」
十神「……諦めろ、貴様はゲームに負けたんだ。たとえ理不尽な罠にかけられたんだとしてもな」
葉隠「ちょ、ちょっと待てよ! だから、どうして俺が死なないといけないんだべ!!!」
葉隠「俺は死にたくないんだべ!!!!!!!!!!!!!!!!」
苗木「いくら叫ぼうと結末は変わらないよ」
葉隠「嫌だべ…………嫌だべ…………」
葉隠「嫌…………………」
葉隠「…………」
苗木「放心状態だね。恐怖に脳が耐えられなくなったのかな?」
苗木「まあいいや、これで希望を持つに足らないって証明できたわけだし……」
苗木「モノクマ投票に行ってよ。これ以上議論することもないし」
モノクマ「そうだね。それでは投票タイムに行きましょう!!」
………………………………………………。
…………………………………………。
……………………………………。
………………………………。
…………………………。
……………………。
………………。
…………。
……。
『???』
葉隠『……ここは?』
葉隠(目の前に広がるのは黒一面の世界)
葉隠(先ほどまで裁判場にいたはずなのに……)
葉隠『いや、もしかしてここは……死後の世界か?』
葉隠(そうだ、こんな黒い世界、現実な訳ない)
葉隠『……俺、死んだのか』
葉隠(案外いつもと同じように思考が出来て驚いている)
葉隠(ここが何もない一人の世界ってこと以外は、生前と変わらない……)
葉隠『まあ、そこが大きな違いなんだけどな……』
『……どうしたのかしら? さっきからぶつぶつと独り言して』
葉隠『……っ!?』
葉隠(一人じゃなかった)
葉隠(俺の後ろからかかった声は……その聞き覚えがあって、頼もしさを感じるその声の主は……!!)
葉隠『霧切っち!!』
霧切『全く……気づくのが遅いのよ』
葉隠『どうしてここに霧切っちが?』
葉隠(いや、でもここが死後の世界だと考えれば、霧切っちがいてもおかしくないか……)
葉隠(やっぱり俺死んだんだな……)
霧切『……何か、勘違いしているようだけど、ここは死後の世界じゃないわよ?』
葉隠『え、そうなのか?』
霧切『ここまで普通に会話できることをおかしく思いなさい』
葉隠『いや、でも死後の世界がどうなってるのかなんて、分からないだろ』
霧切『まあそれもそうだけど……って、そんな話してる場合じゃないのよ』
葉隠(……何か霧切っち焦ってるな)
霧切『ギリギリ間に合って良かった』
霧切『干渉できる時間も少ない、要点だけ言うわ』
霧切『まず、まだ四番目の裁判、私を殺したクロを見つける裁判は終わっていないのよ』
葉隠『えっ、そうなのか!?』
葉隠(そういえば……俺は投票結果も見ていない。死後のショックで忘れたとかそういうのじゃないだろう)
霧切『そうよ、だから戻ったら裁判を――』
葉隠『でも……裁判が終わってないって言っても、俺がクロって結論は変わらないだろ』
葉隠(そうだ、もう結果は覆せない)
葉隠(苗木っちの罠にかかってしまった俺は、おしおきを待つだけの状況なのだ)
葉隠『だからまたすぐここに戻ってくるべ』
霧切『全く……ここは死後の世界じゃないって言ったわよね』
霧切『それに……私が言ったことを忘れたの?』
葉隠『霧切っちが言ったこと……?』
葉隠(聞き返した、そのときだった)
ビーーーーーーーッ!!!!!
霧切『いけない、もう時間だわ……!』
葉隠『え、時間ってどういうことだべ!』
霧切『とにかく、私は言ったわ! 捜査するときの心構えを!』
霧切『それを思い出して……葉隠君!』
霧切『あなたが真実を掴むのよ……!』
葉隠『……だから、どういうことだべぇぇっ!!!!!』
葉隠(その叫びを最後に、黒一面の世界は崩壊を告げていった)
………………。
…………。
……。
葉隠「――はっ!?」
葉隠(目を開けると、そこは元の裁判場だった)
葉隠「い、今のは夢だったのか……?」
葉隠(それにしてはリアリティがあったし、何があったのかをはっきり覚えている)
葉隠(死後の世界じゃないっていうのは本当だったみたいだけど……だったらあれは何だったんだ?)
苗木「放心状態だね。恐怖に脳が耐えられなくなったのかな?」
葉隠(混乱している俺をよそに苗木っちが話を進めていく)
葉隠(そうだ、今気にするべきはあの世界じゃなくて、霧切っちが言っていたことだ)
葉隠(霧切っちはまだこの裁判が終わっていないと言った)
葉隠(そして自分が言ったことを思い出して、真実を掴めとも)
苗木「まあいいや、これで希望を持つに足らないって証明できたわけだし……」
葉隠(霧切っちが言ったこと、捜査の際の心構え……)
葉隠(えっと……何だったっけ……?)
葉隠(ああ、そうだ)
葉隠(状況が水面下で動いていて、それでも頑張らないといけないって話をした時だった)
霧切『そういうときだからこそ基本に戻るのよ』
葉隠『基本に……』
霧切『ええ。複雑に絡み合ったように見える状況ほど、基本に立ち戻ってみれば驚くほどに簡単にほぐれることがある』
苗木「モノクマ投票に行ってよ。これ以上議論することもないし」
葉隠(基本に立ち戻る。……そんなことで何か見えてくるのか?)
葉隠(この事件の基本……裁判の基本……それは)
葉隠(このコロシアイ学園生活のルール)
葉隠(それはつまり……)
葉隠(………………………………あれ?)
葉隠(おかしいことが二つあった)
葉隠(それを前提に考えると……今までの推理が崩れ去って、新しい推理が組み上がる)
葉隠(でも精査が足りない、本当にこれで合っているのだろうか)
葉隠(不安になる……けど)
モノクマ「そうだね。それでは投票タイムに行きましょう!!」
葉隠(霧切っちが言ったことだべ。間違いなわけがない……!!)
葉隠「ちょっと待ってくれ!!!!!!!!」
葉隠(俺は声を張り合げて、投票の開始を阻止する)
葉隠「まだ議論することがあるはずだべ!」
モノクマ「え、まだあるの? もう、今回長すぎない?」
苗木「……醜いあがきだね、葉隠君」
苗木「時間稼ぎ? それともみんなを欺く方法でも考えついた?」
苗木「でも、残念だったね!」
苗木「もう、未来は変わらない!」
苗木「『君がこの事件のクロ』、それで裁判は終わりなんだから!!」
葉隠「それは……違うべ!!!」パリーン!!
怪しい人物を指名しろ!!!
葉隠「クロは――苗木っち!! おまえだべ!!!」
葉隠(俺の宣言に、一時裁判場が静寂に包まれる)
葉隠(それを破ったのは……)
苗木「……あはっ……はははははっ!!」
苗木「この期に及んで何を言うかと思えば……」
苗木「僕をクロにして、投票させて、そして自分以外を殺してでも卒業するつもり?」
苗木「本当、よくそんな君がみんなで生きて帰るなんて希望を持ったの?」
苗木「恥ずかしくないのかい?」
葉隠「――いや、そうじゃない」
葉隠「俺が苗木っちをクロだと言うのは……みんなで生き残るためだべ」
葉隠「だって、このまま俺に投票がされれば」
葉隠「真のクロ、苗木っちが一人卒業で、みんな死ぬんだからな」
苗木「ふうん……なるほど」
苗木「苦し紛れ……ではないみたいだね」
苗木「でも、僕がクロ? 何を言っているんだい?」
苗木「僕が作った殺人装置の引き金を引いた君がクロだってことはさっき説明したつもりだけど……」
苗木「……あ、もしかして装置を作った僕がクロだってまだ言い張るつもりかい?」
苗木「それはもうモノクマが違うって説明したでしょ?」
葉隠「いいや、そうじゃない」
葉隠「モノクマが嘘をつくはずがない。実際に殺人装置の引き金を引いた場合その人物をクロにするだろう」
モノクマ「……まあ、そうだね。ボクは嘘をついたことなんてないよ」
苗木「だったら君はなんて反論するつもりかい?」
葉隠「……内通者の特権を持った俺をおしおきで排除する」
葉隠「そのために作られた、人に殺人をさせる装置」
葉隠「善悪はともかく、苗木っちの発想は見事だべ」
苗木「まあ自信作だからね」
葉隠「これの標的にされた俺は死ぬしかないと思っていた」
苗木「ようやく認めて――」
葉隠「でも」
苗木「……?」
葉隠「それは殺人装置が――実際に使われた場合の話だべ」
苗木「……? 何を言いたいんだい?」
葉隠「俺たちは殺人装置のインパクトに目が眩んで、初歩的なことを考えていなかったんだべ」
葉隠「そういう手段はある……でも、それは今回の事件で実際に使われたのか、と」
苗木「……? だから何を言って……?」
葉隠「そう考えると……やっぱりおかしい部分がある」
葉隠「それは――」
苗木「だから、君は何を言って……!!!?」
証拠を提示せよ!
『モノクマファイル4』
葉隠「これだべ!!」
苗木「……それの何がおかしいんだい?」
葉隠「霧切っちの死体の状況だべ」
『死因 ナイフで胸を一突きされたことが死因。
その他外傷、薬物の反応などは見られない。』
葉隠「この内、大事なのは致命傷のナイフ以外に外傷が無いこと、そして薬物の反応がないこと」
葉隠「つまりこれは縛られたり、睡眠薬を飲まされたわけじゃないということを示す」
苗木「それの何が……?」
葉隠「……さっきからワンパターンだな、苗木っち」
葉隠「もうちょっと他の返し方はないのか?」
苗木「そうは言っても……そんなの今回の事件には関係ないでしょ」
葉隠「いいや、関係ある。だって、この記述が本当なら」
葉隠「霧切っちはどうして自分を狙うナイフの下で、ずっと大人しくしていたのかが分からない」
葉隠「殺人装置はいつ起動するのか、さすがの苗木っちにも分からない」
葉隠「つまり苗木っちは縛ったり、気絶させたり、睡眠薬で眠らせたりで霧切っちが一時その場から動かないようにしないといけない」
葉隠「しかし、そういうことをした痕が霧切っちの死体から見つかっていない」
葉隠「要するに殺人装置は使えるはずがなかったんだべ」
葉隠「だとすると……推理は最初の物に戻り」
葉隠「つまり――苗木っちが霧切っちをナイフで刺したっていうことになる!!」
葉隠(よしっ、決まった。これには苗木っちも言い返せないはず……)
苗木「ははっ、何だそんなことか」
葉隠「……っ!?」
苗木「葉隠君はそんなところを気にしていたのか。相変わらず目の付け所がどこかズレているというか」
葉隠「え……えっ!?」
葉隠(苗木っちの余裕の表情……もしかして、俺は何かとんでもないミスを……)
苗木「まあいいや、教えてあげるよ」
苗木「僕が霧切さんをナイフの下で大人しくさせた方法」
葉隠「そ、そんなの……」
苗木「ふふっ」
葉隠「まさか……本当に……?」
苗木「そうだよ……そして」
苗木「その方法は――――――!!」
苗木「………………何なんだろう?」
葉隠「…………………………は?」
葉隠(一瞬頭がポカンとなる)
葉隠「……ふ、ふざけてんのか苗木っち!!」
苗木「い、いや、そんなつもりは無くて……」
葉隠「……?」
葉隠(どういうことだべ? こんな事態なのに、苗木っちから嘘をついているよう様子も、ふざけているよう様子も感じられない)
苗木「あれ……僕は霧切さんを……どうやって……」
苗木「記憶にぽっかりと穴が……僕はこのとき何をして……」
苗木「最後に覚えているのは…………ナイフが刺さって……倒れた霧切さん…………?」
苗木「…………」
苗木「……い、いや、そんなことない……!!」
苗木「霧切さんは……そうだ、僕が外傷を付けない方法で気絶させたんだよ!!」
苗木「ほら、首筋の裏をトン、ってね!」
苗木「だから外傷が付いていないんだよ!!!!」
葉隠「首筋の裏って……」
葉隠(あれって実際はかなりの力がいるはずだし、出来たとしても何らか外傷は残るはずだろ……?)
大神「我でも傷を残さずには難しいな」
葉隠(あ、傷を考えなければ出来るんか……? 怖え、オーガ)
十神「それで葉隠。どうするんだ?」
葉隠(議論を見守っていた、十神っちが声をかける)
十神「やつの言い分は荒唐無稽だが、無視できる物でもないぞ」
葉隠「……だったら別の証拠をぶつけるだけだべ。今度は言い逃れが出来ないやつを」
十神「……そうか。本当、おまえの豹変ぶりはどういうことなのか」
十神「まあいい……なら見せてみろ」
腐川「失敗したら許さないんだから……!」
大神「信じてるぞ」
葉隠「ああ、分かってるべ……!」
苗木「そうだよ、僕が霧切さんの首筋の裏をトンって」
苗木「それで気絶させた霧切さんをナイフの下に置いた!」
苗木「どうだ、これで全部筋は通っている!!」
葉隠「……残念だったな、苗木っち」
葉隠「仮にそれが本当だったとしても、説明できないことがもう一つあるんだべ」
葉隠(そう、それもこの裁判のルールの一つ)
証拠を示せ!!
『死体発見アナウンス』
葉隠「これだべ!!」
葉隠「死体発見アナウンス……クロ以外の三人が死体を目撃した場合に、捜査の開始を告げるアナウンス」
葉隠「これは今回も変わってないよな、モノクマ?」
モノクマ「……はいはい、変わってませんよ」
モノクマ「全く……結局、毎回推理の助けになって……そんなつもりじゃないのに」
葉隠「さて、振り返ってみるべ」
葉隠「今回の死体の目撃者は誰だったのか」
葉隠「まず、十神っちは死体のある部屋で寝ていたけど、それは事件が始まる前からのはず。つまり実際に死体を見たのは起きたそのときが初めて……これで合ってるか?」
十神「ああ、そうだな」
葉隠「よって、残る目撃者候補は俺と腐川っちとオーガと苗木っちの四人になる」
葉隠「そしてもし俺がクロだったとしたら、死体発見アナウンスが鳴るためには腐川っちとオーガと苗木っちが死体を見る必要がある」
葉隠「その場合霧切っちが死体になるのは装置起動後だ。だけどそのとき苗木っちは倒れたタンスの中にいる」
葉隠「俺たちが死体を発見して動揺している隙に抜け出したってことは、俺たちより先に死体を見ることが出来ない」
葉隠「だけど……俺と腐川っちとオーガが部屋に突入した時点で死体発見アナウンスは鳴った」
葉隠「それはおかしい。だって苗木っちはまだ死体を見ていないはずだから」
葉隠「つまり俺がクロだという前提は成り立たないことになる!」
葉隠「俺と腐川っちとオーガが部屋に入った時点でアナウンスが鳴ったってことは……苗木っち、おまえしかクロの可能性はないんだべ!!」
苗木「違う!!」
苗木「それは……違うんだよ……」
苗木「僕が殺したはずが無い……これは何かの陰謀なんだ……」
苗木「ねえ……違う……はず……だよね……?」
苗木「………………」
十神「決まりか」
腐川「終わりのようね」
大神「そうだな」
葉隠「やったべ……」
モノクマ「うぷぷっ、さてようやくみたいだね」
モノクマ「それでは行きましょう。投票タイムーー!!」
みんなの顔の移ったスロットが回る……回る。
そして徐々に遅くなっていき――
苗木誠の顔のところでスロットは止まった。
裁判終廷!!
モノクマ「いやー四連続で当てるなんて、さすがだね!」
葉隠(長かった裁判が終わった……)
葉隠(俺は……生き残った)
苗木「ああ……ああ……」
葉隠「苗木っち……」
葉隠(結局霧切っちを殺したクロは苗木っちだった。でも、裁判途中の豹変といい、何があったんだろうか……?)
モノクマ「やっぱり、今回の事件で何があったのか気になる感じ?」
葉隠「……ああ。見せてもらえるのか?」
モノクマ「もちろん! それじゃあ、これが今回の事件の全貌だよ!!」
葉隠(モニターが降りてきて、映像が再生される)
葉隠(映し出されたのは舞園っちの部屋だった)
<事件発生直前・舞園の部屋>
霧切「モノクマからの呼び出しなんてあったから来てみたけど……」
霧切「あなたも呼び出されたの、十神君?」
十神「さあ、どうだと思う?」
霧切「そうね……あなたが包丁を持っていなければ信じてあげても良かったのだけど」
十神「くくく……それくらいは見抜くか」
胸元に入れて隠していた包丁だったか、霧切はその形で見抜いたようだった。
<現在>
葉隠「これは……」
十神「ここからか。言っただろう、俺は霧切を殺すつもりだったって」
葉隠「……」
葉隠(そうだったな。いくら未遂だったとはいえ、十神っちのしたことは……)
葉隠(いや、今は映像に集中するか)
霧切「私を殺すつもり?」
十神「ああ、そうだ。ゲームの勝利のため、生け贄になるがいい」
霧切「……言っておくけど、女だからって油断しないことね。探偵として最低限護身術くらいは身につけてるわ」
十神「それくらい手応えがないとな」
向かい合ってにらみ合う十神と霧切。
その対峙は意外な結末を迎える。
十神「…………」コクッ
霧切「……」
十神「……っと。…………」コクッ
霧切「…………?」
十神「うっ、いかんいかん。……」コクッ
霧切「……あなたふざけているの?」
立ちながら目を閉じ、うとうとしてははっと起きる十神。
十神「……違う」ブルブルッ!
十神「俺は…………クソッ……!」
十神「やつの…………仕業……………………か」バタッ
十神「……」スースースー
壁にもたれ掛かって座り、完全に目を閉じる。
本格的に寝始めたようだ。
霧切「……一体どういうこと?」
霧切(殺しに来たかと思えば、その場で寝始めて……)
霧切(……いや。十神君はやつのしわざと言った。それはつまり――)
そのとき舞園の部屋の扉が開いて、また一人入ってくる。
苗木「さて、そろそろ十神君も寝て……あれ、霧切さん……!?」
霧切「苗木君……!」
苗木「え、えっと霧切さん、どういてここにいるの?」
霧切「さあね。……それにしても、あなたが十神君に睡眠薬を飲ませたのね」
苗木「あら、見抜かれたか」
霧切「十神君に嘘をついている様子はなかった。私を殺しに来たのは本気だったはず」
霧切「なのに寝てしまったのは……誰かが睡眠薬を飲ませたに違いない」
霧切「警戒心の高い彼に飲ませることができるのは……」
苗木「超高校級の幸運の僕しかいないってわけか」
苗木「まあ、正解だけどさ」
苗木「にしても参ったなあ。本当は十神君が眠る直前に僕が誘導しようと思ってたんだけど」
苗木「都合良く十神君がこの部屋に入ったのを見て、ここでトリックを仕掛けようと思ったんだ」
苗木「まさかそれより前に霧切さんが入っているとはね」
苗木「十神君の行動しか見てなかったから気づかなかったよ」
霧切「トリック……」
霧切(苗木君が持っているのは……ヒモにナイフ、テープ。それと……あれは洗濯物を干すためのつっかえ棒かしら)
苗木「にしても十神君、あんなところで寝ちゃって……しょうがないな」
霧切(何故わざわざそんなものを……)
霧切「っ……まさか!?」
苗木「もう、だから霧切さん鋭すぎだって」
霧切「あなた……正気なの!?」
霧切「それを使って――」
霧切「誰かに自分を殺させるつもりでしょう!?」
苗木「本当――ご明察だね」
<現在>
葉隠「っ……!?」
葉隠(誰かに自分を殺させるつもりって……!)
十神「そうか……殺人装置の標的は自分にするつもりだったのか」
十神「それならナイフの下で大人しくさせるために縛り付ける必要も睡眠薬で眠らせる必要もないな」
十神「自分が覚悟して、ナイフの下で待てばいい」
十神「いや……もしかしたら俺が標的になってた可能性もあるのか……?」
葉隠「そんな……自分の命を使ってでも俺を殺そうとしてたってわけか!!?」
葉隠(どうしてそんなことを……?)
霧切「どうしてそんなことを?」
苗木「どうしてって……ああもう白状しようか。葉隠君を殺すためだよ」
苗木「内通者の特権を持った彼を排除するにはおしおきしかないと思ってね」
苗木「そこで眠っている十神君を殺させるか、僕自身を殺させるか迷ってたけど……」
苗木「部屋の隅まで届くようにヒモは用意してないし、ああやって壁にもたれかかられてると上手く急所に当たらないから自分の命を使うことにしたよ」
苗木「今回使った睡眠薬は強力な代わり、振動に弱いから十神君は動かせないし」
苗木「まあ、でも良かったよ。十神君と僕じゃ、彼の希望の方が大きいからね。僕が死ぬ方が自然の摂理にあっている」
苗木「でも霧切さんがこの部屋にいたってことで失敗かな。十神君がコソコソしてるなあとは思ってたけど、まさか霧切さんを殺そうとしていたなんて」
苗木「あーあ、残念だけど……まあ新しい方法でも考えようかな」
霧切「苗木君……あなたは……っ!!!」
苗木「……あれ、霧切さん怒っているの?」
苗木「そういえばいつもクールな霧切さんが、僕に限っては取り乱すから何なんだろうって思ってたけど」
苗木「そんなの霧切さんらしくないよ。霧切さんはいつも冷静でいないと」
霧切「やめなさい! 今のあなたが私を語らないで!!」
苗木「失礼だなあ、今の僕も何も、これが希望のために動く本当の僕だよ」
霧切「……ねえ、本当にどうしたのよ?」
霧切「口を開ければ希望、希望って。以前のあなたはどこに行ったの?」
霧切「あなたが言う希望って何なのよ?」
苗木「僕が言う希望? それはね――」
苗木「……何なんだろう?」
<現在>
葉隠「俺の部屋で聞いたときと同じだべ……」
葉隠(一周目と大きくかけ離れている苗木っち)
葉隠(そのキーワード、希望)
葉隠(それが何なのか聞いたとき、苗木っちは答えられなかった)
葉隠「これは……一体……?」
霧切「……何を言っているの? そんな自分自身も分からないことに振り回されているわけ?」
苗木「いや……そんなことは……」
苗木「あ、れ……? ……そういえば、僕は同じ質問を葉隠君にもされたっけ……?」
苗木「どうして…………僕は答えられないんだ……?」
苗木「答えられないのは…………そんなもの……ないから?」
苗木「僕が言う…………希望は…………からっぽ」
苗木「だったら…………………………………………僕が今までしてきたことは」
苗木「……………………」
霧切「な、苗木君……?」
苗木「ああああああああああああああああああああああああっっっっっっ!!!!!!!!」
苗木「僕は……僕だって元々はみんなで生きて帰るんだって、そう思ってたんだ……!」
苗木「なのに、舞園さんを守りきれなくて……僕の力が足りないせいで死んでしまって……!」
苗木「絶望して……絶望して……絶望して……」
苗木「そこで『声』が聞こえて…………」
霧切「な、何を言っているの、苗木君!!」
霧切「返事をしなさい!」
苗木「違う、そんなつもりじゃなかった……!!」
苗木「僕の意志じゃなかった……!」
苗木「ああ、でも僕がしたことは……!」
苗木「希望なんかじゃない……絶望じゃないか!!」
霧切「…………」
霧切(どういうわけなのかは分からない)
霧切(それでも分かることが一つだけあった)
霧切「今、目の前にいるのは……一周目と同じ。私たちを導いてくれた苗木君じゃない」
霧切(それがこの周回では、ちょっと間違ってしまっただけ)
霧切「大丈夫よ、苗木君」
苗木「っ、霧切さん……! ち、違うんだ! 僕は!!」
霧切「大丈夫、分かってる」
苗木「そうだ、分かってるんだ!! 僕がしたことが許されないことくらい……!」
霧切「そんなことないわ」
苗木「そんなことあるんだよ!!」
霧切「どうして?」
苗木「僕はみんなを絶望させたんだ! 許されるわけがないんだ!!」
苗木「こんな僕に近づかないでよ!!」
霧切(苗木君が持っていたナイフを構えている)
霧切(苗木君は今パニックになっている、近づいては刺されるかもしれない)
霧切(――でも、今伝えなければ苗木君は壊れてしまう)
霧切(だから)
グサッ!!
苗木「…………えっ?」
霧切「大丈夫、私は許すわ」
霧切(胸に深々と刺さったナイフ。不思議と痛みは感じなかった)
苗木「霧切さん……どう、して……?」
霧切「誰にだって弱さはあるもの。仕方ないわ」
苗木「でも……!」
霧切「ふふっ……最後に元のあなたに戻ったようで良かったわ」
霧切(残った力を振り絞って苗木君を抱きしめる)
霧切(後のことは……………………まあどうにかするでしょう……)
ドサッ
苗木「霧切さん……? 霧切さん、返事をしてよ!!?」
霧切「………………」
苗木「ああ、僕はまた…………」
苗木「………………」
苗木「………………」
苗木「………………」
苗木「………………」
苗木「………………」
苗木「あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっ!!!!」
苗木「――何か呆けてたけど……急がないと!!」
苗木「そうだ、僕の目的は葉隠君を殺すこと」
苗木「そのために――霧切さんを標的に殺人装置を作り上げないと……!」
苗木「腐川さんが疑問に思うまで、後少しかな?」
苗木「さっさと物干し竿の設置に、ナイフのセットに、やっていかないと……」
苗木「……?」
苗木「あれ、霧切さんにもうナイフが刺さっているけど………………」
苗木「まあいっか、急がないと!!」
苗木「あはは、楽しみだなあ……!!」
………………。
…………。
……。
モノクマ「と、こういうことがあったわけです!!」
葉隠「霧切っち……」
葉隠(そうか、霧切っちが抵抗無く殺されたなんて、って思ってたけど……)
葉隠(自分から殺されたなら……そうか……)
十神「……色々と意外だな」
腐川「そ、そうね、あの苗木なんかのために死ぬなんて……」
大神「そこまで霧切は苗木のことを思っていたのか……?」
葉隠(三人とも腑に落ちない顔をしているけど……一周目のことを知らない三人だ。しょうがない)
モノクマ「さて、ではみんなお待ちかね、おしおきに参りましょう!!」
モノクマ「それで、苗木クン? 今どんな気持ち?」
苗木「…………」
モノクマ「むっ、学園長を無視とはあまりいただけませんねえ?」
苗木「…………」
モノクマ「ねえ、聞いてる? もしもーし」
苗木「…………」
モノクマ「反応無いね。……ああ、つまんなくなっちゃった、もうおしおき行っちゃおうか」
葉隠「苗木っち……」
葉隠(今までずっと苗木っちのことを憎んでいたけど……)
葉隠(でも、あの映像を見て心が変わっていた)
葉隠(苗木っちが死ぬ必要は無い)
葉隠(事故みたいなものじゃないか)
葉隠(霧切っちもこんなこと望んでいるとは思えない)
葉隠(でも、俺に力はなく――その無慈悲な宣告を黙って聞くしかないのだ)
モノクマ「それでは張り切っていきましょう!!」
『苗木誠クンがクロに決まりました。おしおきを開始します』
<補習>
苗木「…………」
苗木と教師に扮したモノクマがベルトコンベアを流れる。
苗木「…………」
後ろからは断続的に何かを潰す音がする。
苗木「…………」
しかし、苗木は顔色一つ変えない。
苗木「…………」
まるで生気を失った人形だ。
苗木「…………」
プレス機の前まで来た。
苗木「…………」
モノクマが逃げ、苗木も潰される。
苗木「…………っ!」
――その直前。
苗木「あれ、ここは――――?」
ブチッ!!
モノクマ「えくすとりぃぃぃぃぃぃむっ!」
葉隠(苗木っちが死んだ……)
葉隠(前周回と違ってアルターエゴは助けに来なかった……)
葉隠(俺がアルターエゴに頼んでおけば……いや、そうしたらアルターエゴが今度は犠牲になる)
葉隠(俺はどうするべきだったんだ……?)
モノクマ「いやぁ、やっぱおしおきは血沸き肉踊るね!」
大神「……気は済んだか、モノクマよ」
モノクマ「ええ、もうそれはせいせいと」
大神「ならば我の質問に答えて貰ってもいいか?」
モノクマ「学園長大人気だねっ! いいよ、何でも答えて――」
大神「葉隠は本当は内通者ではないのではないか?」
モノクマ「……」
大神「どうしたモノクマ、何でも答えるのではなかったのか?」
モノクマ「……唐突な質問で驚いてね。どうしてそう思ったの?」
大神「我は葉隠を本気で殺す一歩手前まで追い込んだ」
大神「しかし、そのときでも葉隠は自分は内通者ではないと言い張った」
大神「あれが嘘だったとは思えない」
大神「つまり……葉隠は内通者ではない思ったのだ」
十神「そうは言ってもだな」
十神「俺がゲームマスターだったとしても参加者に一人は内通者を置くぞ。最悪ゲームが始まらない自体だって起こり得るからな」
大神「なるほど、十神の言い分も納得できる。何故ならば――我が本当の内通者なのだから」
十神「……っ!?」
腐川「な、何ですって!?」
葉隠「……」
葉隠(オーガがここに来てカミングアウトか)
十神「…………ここで大神が内通者だと明かす意味……嘘を付いて利点があるとは思えん。本当の可能性が高いな」
十神「ならば、葉隠が内通者ではないということの信憑性が増す」
十神「始動役には一人いれば十分だ。それが超高校級の格闘家ならなおさら」
十神「葉隠なんて役立たずをスペアで置いておく意味もない」
葉隠「それはありがとな(怒)」
大神「モノクマどうなのだ?」
モノクマ「え、えっと、それは……」
葉隠「そうだべ、だから俺は内通者じゃないんだべ!」
葉隠「つまりモノクマの動機発表、あれは嘘を付いたってことになる!!」
十神「ゲームマスターが嘘か……それではゲームが成り立たないぞ」
十神「そもそも残り四人になって、ルール上もこれ以上続けるのは無理だ」
十神「どうするつもりだ?」
腐川「そ、そうよ、どうするつもりなのよ!」
大神「モノクマ、答えよ」
モノクマ「…………うぷぷっ」
葉隠(不吉に笑って……告げた)
モノクマ「ああもう、今日の裁判長くて疲れたなー」
葉隠「……は? 何を言って」
モノクマ「寝るのが遅くなると、ボクのピッチピチの肌が、がさついちゃう」
腐川「あんた人形じゃない」
モノクマ「そういうわけで今日はもう寝るから。じゃあならばい!」
十神「逃げるのか……!」
葉隠(モノクマは俺たちの質問に答えることなく、その場から姿を消した)
葉隠(十神っちが言うように、逃げた印象が強い)
葉隠(モノクマが去った裁判上。大神は頭を下げた)
大神「すまなかった。内通者だと黙っていて。皆を騙すことになってしまった」
葉隠「オーガ……いや、良いんだべ! だって人質を取られてのことだろ!」
大神「そういってもらえると助かる……ん? 我は葉隠に人質のことを言ったか?」
葉隠「え……ああ、俺の占いだべ!」
葉隠(そうだった、まだ二周目では語られていないことだった)
十神「葉隠は簡単に許したか……」
十神「だが、俺は許さないぞ、ゲームのプレイヤーとしてフェアじゃない」
腐川「そうよ、フェアじゃないわよ!」
葉隠(っ、そうだ、一周目でも十神っちは内通者のオーガを許さなくて……)
十神「――と、さっきまでなら言ってただろうな」
葉隠「……あれ?」
十神「ゲームマスターが嘘を付いたことで、もうゲーム自体が破綻している」
十神「それなのにプレイヤーがフェアじゃない言っても意味がない」
腐川「白夜様……」
大神「十神……」
葉隠「十神っち……」
葉隠(どうやら今回はこじれずに済みそうだな)
十神「モノクマは逃げたがどうなるかは大体予想が付く」
十神「これ以上今までのルールで続けるのが無理というなら新しいゲームを始めるだろう」
十神「殺し合うという構図は人数から難しい。おそらく黒幕対俺たちだ」
葉隠(やっぱりこの学園の秘密を暴けっていう最後の裁判だよな……?)
十神「とはいえこれは予想。明日にはモノクマがちゃんとアナウンスをするだろう」
十神「今日はもう帰って寝た方が良いな」
腐川「わ、分かりました白夜様!」
大神「……そうだな、今日は色々ありすぎた。さすがに我も疲れた」
葉隠「じゃあ今日はもう寝るべ!」
こうして俺たちは四回目の裁判を終え、解散した。
C H A P T E R 4
『そして誰かが罰を受けた』
E N D
C H A P T E R Final
『希望 VS 絶望』
(非) 日 常 編
<葉隠部屋>
葉隠(自室に戻った俺はベッドに寝転がる)
葉隠(俺は今までにないほどに希望を抱いていた)
葉隠(生き残った生徒四人の団結は良好だ。十神っちがオーガのことを許したことは大きい)
葉隠(そしてこれから起きると思われる最後の裁判。この学園の秘密も俺は全部知っている)
葉隠(つまり負けることが無い戦いというわけだ)
葉隠(これで俺は江ノ島盾子に勝って、そして俺は……)
葉隠「俺は……どうするんだ?」
葉隠(俺の一周目の記憶は希望ヶ峰学園を出たところで途切れている)
葉隠(その次の記憶は、二周目、みんなが自己紹介をしている場面だ)
葉隠(つまり……この二周目をクリアしても、さらに三周目になるという可能性もあるわけだ)
葉隠(終わりのないループ……)
葉隠「……」ゾクッ!
葉隠(……いやいや、そんなこと無いべ!)
葉隠(三周目に続くと決まった訳じゃない)
葉隠(そもそもこの世界は……どういう世界なんだろうか)
葉隠(ああ、それに裁判中の霧切っちもどういうことだったんだろう)
葉隠(死後の世界じゃない、ならば夢かというとはっきりと思い出せるし違う)
葉隠「分からないことばかり……だべ……」ウトウト
葉隠(ああ、俺も疲れがたまってるな……)
葉隠「…………」zzz
『……やく…………………こう……』
『……………みたい…………………ぱり…………』
『…………だね。……………なのか……』
『……そろそろ………………………わよ……』
葉隠(ん……何か声が……二つ?)
『……なさい。…………ってるわよね』
葉隠(誰の声だ……?)
『そんな…………。……だよ』
『いいのよ…………。ほら……』
葉隠(あれ……この聞き覚えがある声は……!)
葉隠「苗木っちと霧切っちだべ!!
葉隠(がばっ、と俺は起き上がる)
葉隠(そこは俺の部屋じゃなかった。全面黒一色の世界)
葉隠(裁判中に霧切っちと話した世界)
葉隠(そして今回は……)
苗木「良かった、起きたみたいだね」
霧切「だから最初から無理矢理にでも起こせば良かったのよ」
葉隠(俺にとってなじみ深い……一周目と同じ様子の苗木っちも一緒だった)
葉隠(再びやってきた黒一面の世界)
葉隠(そこには霧切っちと苗木っちがいた)
葉隠「どうして二人がここに……」
苗木「そうだね……えっと、どこから説明すればいいんだろう」
葉隠(戸惑う様子はやっぱり俺が慣れ親しんだ、一周目の苗木っちだと思われる)
葉隠(……? だとしたら二周目の苗木っちは何だったんだ?)
葉隠(さっきも思ったが分からないことが多すぎる)
霧切「順を追って説明しましょうか」
葉隠「霧切っちはこの世界についてもう知っているのか?」
霧切「ええ。あの世界で死んだ後、苗木君に説明して貰ったわ」
葉隠(死んだのに生きてる? だからここはどこなんだ……?)
苗木「じゃあ葉隠くんが覚えているところから話すね」
苗木「まず、僕たちはコロシアイ学園生活で江ノ島盾子に勝って希望ヶ峰学園を脱出した」
苗木「葉隠君はその後すぐ二周目のコロシアイ学園生活が始まった、と思ってるかもしれないけど本当はそうじゃないんだ」
葉隠「え、どういうことだべ……?」
葉隠(そうじゃない……記憶違い? 俺は……もしかしてまた記憶喪失になってるのか?)
苗木「ごめんね、その内分かるから。そして外の世界に出た僕たちは絶望に落ちた世界を救う『未来機関』に拾われたんだ」
葉隠「『未来機関』……?」
苗木「そう。そこで世界から絶望の残党を倒すために僕たちも活動していたんだ」
葉隠「絶望の残党って何だべ?」
苗木「江ノ島盾子亡き後も、世界を絶望させるために動いている者たちだよ」
苗木「その中には僕たちの先輩もいた」
葉隠「希望ヶ峰学園から絶望に?」
苗木「江ノ島さんのせいでね」
苗木「それでも僕は彼らが元の希望に戻れると信じた」
苗木「そのためにある計画を実行したんだ。その名も『新世界プログラム』」
葉隠「新世界プログラム……」
葉隠(仰々しい名前だべ)
苗木「絶望時代の記憶をブロックして、バーチャル世界で生活させることで、希望に戻そうとする計画」
苗木「それが色々大変なことになったんだけど……まあ、今は関係ないから省略するね」
葉隠(どんな事態になったんだろうか……?)
葉隠「何か話長くないか? 結局今の事態とどう繋がるんだ?」
苗木「ごめんね、そろそろ説明できるから」
苗木「新世界プログラムは絶望を希望に戻すプログラム」
苗木「そして僕が進めていたプログラムはもう一つあったんだ」
苗木「それが『旧世界プログラム』」
苗木「このプログラムの狙いは『絶望を理解すること』だった」
葉隠「……絶望を知ってどうするんだ? やつらは理解できないだろ?」
葉隠(江ノ島盾子の行動理念は全く理解できるとは思えなかった)
苗木「どうする……か。あはは、そうだね。未来機関の人にもそう言われたよ」
苗木「でも、僕は絶望の人ともきっと分かりあえる……そう思ってるんだ」
葉隠「……苗木っちらしいべ」
苗木「それでその旧世界プログラムだけど、概要はこうだった」
苗木「バーチャル空間に、希望ヶ峰学園を構築、コロシアイ学園生活を再現する」
苗木「それを条件を変えたりしながらシミュレーションすることで、絶望の、江ノ島盾子の行動を理解しようというプログラム」
葉隠「なるほどなるほど……って、え?」
葉隠(それは……もしかして、この世界は……)
苗木「そう、葉隠君が二周目だと思っていた世界はゲームの世界だったんだよ」
葉隠(二周目がゲーム……)
葉隠(そんな……だったとしたら……)
葉隠「こんな現実だと見紛うゲーム……金儲けの匂いがするべ!!」
霧切「最初に抱く感想がそれなの?」
苗木「あはは……葉隠君らしいね……」
葉隠「でも、そういうことなら分かったべ」
葉隠「新世界プログラムと同じように、旧世界プログラムも記憶をブロックすることが出来る」
葉隠「俺は記憶喪失をしたわけじゃなくて、コロシアイ学園生活を終えてからの記憶をブロックしてこの世界に入ったってことか」
葉隠「だから二周目のように感じている、と」
苗木「そういうこと」
葉隠「ゲームだったから、霧切っちも死んでいなかったと」
霧切「まあ、そういうことね」
葉隠「……ん? だったら、苗木っちと十神っちと腐川っち、朝日奈っちも二周目だったのか?」
苗木「いや、二周目だったのは葉隠君と霧切さんだけだよ。他の三人は別の仕事があって、僕は外からモニターしててね」
苗木「葉隠君と霧切さん以外はデータをインプットしたアルターエゴによって再現しているんだ」
苗木「正確にはゲーム内のアバターをアルターエゴで動かしているって形だけど」
葉隠「アルターエゴ……そうか、ここがゲームの世界なら、アルターエゴは完全にその人物になりきれるのか」
葉隠「……ん、でも待てよ。だったらどうして俺と霧切っちだけゲームに入ったんだ?」
葉隠「俺たちもアルターエゴで再現すれば良かったじゃないか?」
霧切「……それが私と葉隠君の記憶をブロックした理由にも繋がるのよ」
葉隠「記憶をブロックした理由?」
苗木「今回二人にこの世界に入ってもらったのは……この『旧世界プログラム』に入り込んだウイルスを駆除するためだったんだ」
苗木「ウィルスが発現した過程なんだけど、元は新世界プログラムを行ってた一人だったんだ」
苗木「そのデータ化された精神が、プログラム終了後もゲーム内に残ってしまいウィルス化した」
葉隠「新世界プログラムの一人……俺たちの先輩ってやつか」
苗木「元は絶望の残党だ。放置しては何をするか分からないと、すぐに削除しようとしたんだけど、そのウィルスは逃亡。システムを同じくする旧世界プログラムに侵入した」
苗木「ウィルスは奥深くに潜んだのか、表面からじゃ削除できなかった。でも、プログラムを起動すれば動き出すだろうという結論に至った」
苗木「こうして仮想世界の希望ヶ峰学園で二回目のコロシアイ学園生活――旧世界プログラムが始まったわけだ」
苗木「そしてウィルスは予想通り動いた。一人のアバターに取り付いたんだ」
苗木「葉隠君は気づいているかもね。一周目と行動が大きく違った人物がいなかったかい?」
葉隠「……っ、苗木っちか!?」
苗木「正確にはアルターエゴの僕だけど……あれはウィルスが感染していたんだ」
苗木「一回目の裁判が終わって絶望している際に感染したみたいだね」
苗木「……おそらくウィルスはそれだけじゃただのデータだ。仮想世界に影響を及ぼすためには、アバターが無いと駄目なはず。だから僕の身体を乗っ取ったんだ。けど、誰にでも乗っ取ることは出来なかったはず、ここから推測になるけどアルターエゴの僕が絶望したことによってアバターと精神の結びつきが緩んだその隙を狙って……」
葉隠(苗木っち語っているがよく分からない。にしてもなあ――)
苗木「っと、ごめんね、あんまり本筋には関係なかったか。話は戻すけど、ウィルスは元になった人物の名を取って――」
葉隠「狛枝状態の苗木っちがウィルスに感染していたなんて」
苗木「狛枝ウィルスって呼んでいる」
葉隠「……あれ?」
苗木「……何で葉隠君がその名前を知ってるの?」
霧切「占いだそうよ。3割を引いたんじゃない?」
苗木「あはは……さすが超高校級の占い師だね……」
葉隠「狛枝ウィルス……それを倒すために俺たちはこの旧世界プログラムに送られたと」
苗木「プログラムの性質上、初期設定以降は基本的に外から干渉できないんだ」
苗木「その例外が今やっているように、実際に生身で入っている人間の精神だけをこの整備空間に呼ぶこと」
苗木「そのために葉隠君と霧切さんには実際にゲームに入ってもらってたんだ。非常時に対応して貰おうと思って」
葉隠「整備空間……この黒一色の世界はそんな名前だったのか」
苗木「そして実際に二人はやってくれた」
葉隠「うん? ……ああ、そうか。狛枝ウィルスが取り付いた苗木っちはおしおきされたから」
苗木「まだ解析は終わってないけど、ウィルスは取り付いたアバターごと削除されたはずだ」
霧切「私のアドバイスのおかげね」
葉隠「霧切っち……そうだべ。霧切っちのおかげで苗木っちがクロだって分かったんだ」
苗木「殺されたことでアバターとの繋がりが切れた霧切さんだけど、精神はまだゲームの中だったからね」
苗木「そのまま葉隠君にコンタクトを取って貰ったんだ」
葉隠「そうか……でも、もうちょっと早めにして欲しかったべ。あんなギリギリじゃなくて」
霧切「ゲーム空間とはいえ実際に死んだのよ。精神へのショックがどれだけか分かるかしら? あの早さで復帰したのは早い方だわ」
葉隠「ああ……そうか」
葉隠(ゲームの中とは思えないほどリアルな世界。実際に痛みも発生する)
葉隠(死なないとはいえ、死ぬほどの痛みを味わえば色々精神的にやばいだろう)
葉隠「でも、俺たちの記憶をブロックする必要は無かったんじゃないか?」
苗木「それなんだけど、ウィルスは未来機関の存在を知ってたんだ」
苗木「だから未来機関の者だとバレると警戒される」
苗木「データの世界だからね、思考を読まれる可能性も考えると記憶をブロックした方が確実だったんだ」
苗木「それでいざというときはこうやって事情を話して協力して貰うと」
葉隠(なるほど……でも)
葉隠「だったら、完全に一周目の記憶まで消した方が良かったんじゃないか? 俺が記憶残っているせいで、コロシアイ学園生活が引っかき回されたわけだし」
苗木「……いや、僕もそう言ったんだけどね」
葉隠「……?」
苗木「記憶が無いから覚えてなくて当然だけど、葉隠君が『一周目の記憶持っておけばコロシアイ学園生活なんてベリーイージーモードだべ!』って言って反対を押しのけたんだよ」
葉隠「俺が…………でも、言いそうだな」
葉隠(全く俺のせいでこんなに俺が苦労するとは)
苗木「これで事情は話し終えたかな」
葉隠「それで俺はこれからどうなるんだ?」
苗木「ああ、話してなかったね」
苗木「旧世界プログラムではコロシアイ学園生活は残りが五人になった時点で、最後の黒幕との直接対決に移行するようになっている」
苗木「葉隠君も覚えている、この学園の秘密を暴けってやつだよ」
葉隠「なら、もう全部分かっているし楽勝だな……って、あれ五人?」
葉隠「コロシアイ学園生活は四人になった時点で成り立たなくなるんじゃなかったのか?」
葉隠(十神っちの話だとそうだったはずだが)
霧切「忘れたの? まだあなたたち生徒以外に、黒幕の江ノ島盾子が残っているじゃない」
葉隠「あ……そうか」
苗木「コロシアイ学園生活が成り立つ最小単位が六人なんだ」
苗木「まず被害者が一人、クロが一人、そして死体発見アナウンスのため目撃者が三人」
苗木「そしてゲームマスターのモノクマを操る一人」
苗木「合計六人いないとコロシアイ学園生活は成り立たない」
霧切「現在、十神君、腐川さん、大神さん、葉隠君、江ノ島さんの五人だから成り立っていない」
霧切「だから明日には黒幕との直接対決に移行するはずよ」
苗木「それで勝って、江ノ島さんから脱出ボタンをもらい、玄関から出た時点でゲームクリア。元の世界に戻される」
苗木「狛枝ウィルスを削除した今、このプログラムを続ける意味はないんだけど、クリアしないとプログラムが終わらないからね」
苗木「だから葉隠君には最後までよろしく頼むよ」
葉隠「分かったべ!」
葉隠(謎が解けて俺はすっきりした気分だった)
葉隠「そういやバーチャルの希望ヶ峰と、この整備空間っていつでも行ったり来たり出来るのか?」
苗木「いや、本来はゲームの休止期間、裁判が終わった直後だけでね」
苗木「この前の裁判の時はかなり無理をしたから、もう一回するのはちょっと厳しいかな?」
葉隠(そういえば霧切っちが時間がないって、やけに焦ってたな)
苗木「もう一回言っておくけどこの世界は、旧世界プログラム……超高校級の絶望、江ノ島盾子のことを理解するプログラム」
苗木「一周目と類似した状況に置いて、大きく外れた行動をするとは思えないけど……気まぐれはある」
苗木「むしろその気まぐれなどから思考パターンを観察するのが目的なんだけどね」
葉隠「えっとつまり……江ノ島っちが何をするか気を付けろってことか」
苗木「そういうこと」
霧切「それじゃあそろそろ葉隠君には戻って貰うわ」
葉隠「いいぞ。さっさと最後の裁判をクリアして戻ってくるからな!」
苗木(逆に心配になるな)
苗木「これからゲームクリアまで僕らは介入できない」
霧切「一人でごめんだけど、頑張ってちょうだい」
葉隠「分かった!」
葉隠(そうして俺は苗木っちと霧切っちに送られて、元の希望ヶ峰学園に戻ることとなった)
<翌朝>
葉隠「…………ふわぁっ」
葉隠「はぁ~……あれ?」
葉隠(いつもと比べて充足感のある目覚め)
葉隠(今日でこの生活も終わりという気持ちから来ているのかと思ったが……時計を見て違うことに気づく)
葉隠「もう昼間だな……?」
葉隠(充足感があった理由は簡単だった。寝たいだけ寝たからだ)
葉隠(いつもはモノクマの朝放送に叩き起こされていたのが、今日はそうでなかった)
葉隠(アナウンスに気づかなかったとは思えない。つまり……)
葉隠「モノクマがアナウンスをしなかった?」
葉隠(一気に頭が冴え始める)
葉隠「またイレギュラーか……?」
葉隠(これで終わりだと思ったのに……最後まで楽はさせてくれない……)
葉隠(………………)
葉隠(いや)
葉隠「そういえば前周回もモノクマが動かなかったときがあったな」
<体育館>
十神「遅いぞ、葉隠」
腐川「あんたいつまで眠ってるっていうのよ?」
大神「朝寝坊は体に良くないぞ」
葉隠「ああ、すまんすまん。……で、それは」
葉隠(三人ともこの体育館に集まっている理由がそこにあった)
十神「ああ。このモノクマが全く反応を返さなくてな。分解して調べているところだ」
十神「見た感じ高性能なロボットだな。最初の時にあの暴走族に使ってたが、こいつにも爆弾が仕込まれている」
葉隠(どうやら三人でモノクマをバラしていて、それが一段落付いたというとことのようだった)
十神「しかし、どういうことなんだ……?」
葉隠(十神っちは顎に手を当て考える。そういえば前周回はどうしてこうなったんだっけ……?)
十神「モノクマを操作していたやつ――黒幕に何かあったと考えるのが普通だが……」
腐川「な、何が起きたのかしら……?」
大神「ここまで完璧にゲームを管理してきたのに、こんな失態を起こした理由……」
葉隠(悩んでいる三人に俺は提案した)
葉隠「……考えても仕方ないべ!!」
葉隠「こうなったらみんなで黒幕のところに乗り込むんだべ!!」
十神「つまり、情報処理室にか」
腐川「それって四階の……?」
大神「確かモノクマの操作も、監視カメラの映像もあそこで取り扱ってるはずだったな」
十神「……まあすることもないしな。いいだろう」
腐川「白夜様が言うままに……!」
大神「我も異論はない」
葉隠「じゃあ決まりだべ、みんなで行くぞ!」
<四階・情報処理室前>
十神「それで来たはいいが……そういえば葉隠、鍵がかかっていたらどうするんだ?」
葉隠「鍵……?」
十神「留守にするにしろ、中にいるにしろ鍵はかけておくものだろ。ここはこの学園生活で重要な位置を占めているんだから」
腐川「まあ、そうよね」
大神「我なら壊せるかもしれないが……校則で鍵がかかっている扉の破壊は禁止されている」
葉隠(そういや忘れてたけど、前周回同様、その校則は追加されていたか)
十神「で、どうするんだ?」
葉隠「………………」
葉隠(三人の視線が集まるが……当然俺に答えはない。その場の思いつきだ、そこまで考えてなかった)
葉隠「ま、まあ鍵が開いてるかもしれないし……」
十神「そんなことあるはずが……」
葉隠「確かめないと分からないって……!!」
葉隠(俺はやけくそで情報処理室のドアノブに手をかける。すると――)
葉隠「開いた……?」
十神「バカな……!」
葉隠(十神っちが驚いているが、俺だって驚いていた)
腐川「……誰もいないみたいね」
大神「そのようだな」
葉隠(部屋の中をのぞき込むと、誰もいなかった)
十神「……理由は分からんが、まあいい。開いているなら調べるまでだ。モノクマの異常の原因も分かるかもしれない」
葉隠(十神っちも切り替えて、部屋に入る)
葉隠「じゃ、俺も」
葉隠(俺も部屋に入った)
十神「しかし……どういうことなんだ」
腐川「この部屋は前来たときと変わらないわね……」
大神「そのようだ」
葉隠(そして程なく調べ終えた俺たち。成果は無しだった)
葉隠(となると、気になるのが一つ。それは入ってきたのと反対側にある扉)
十神「あの奥の部屋も調べてみるか……?」
腐川「この前はちょっと入った後に追い出されたのよね。黒幕は床下に隠れていたみたいだけど」
大神「しかし、今度こそ鍵が……」
葉隠(奥の部屋も調べるか話合う三人。俺はそれとは別のことを考えていた)
葉隠(やっぱり気になるな。前周回……どうしてモノクマは動かなかったんだ?)
葉隠(えっと……ちょっと待てよ、のどまで出掛かってるんだけど……)
十神「駄目で元々だ。とりあえず、あの扉を開けてみるぞ」
腐川「鍵がかかってないといいけど……」
大神「葉隠どうした? 奥の部屋を調べるぞ」
葉隠「……え、ああ。分かった」
葉隠(俺たちは四人並んで扉の前に立つ)
葉隠(そして、俺はふと思い出した)
葉隠(………あ、そうだ)
葉隠(前回は霧切っちを探してだったんだべ)
十神「こっちも開いたか。しかし……?」
葉隠(宿舎の二階、監視カメラがない場所を探していた霧切っちが理由で……)
腐川「わ、罠とかじゃないわよね……?」
葉隠(つまり……今周回、霧切っちが死んで、生存者が全員ここにいるのに、モノクマが止まっているのは……イレギュラーじゃないのか……!?)
大神「さて中はどうなって……っ!?」
葉隠「え……?」
葉隠(オーガが息を飲んだ気配に俺も顔を上げて部屋の中を見ると)
部屋一面の血。
飛び散った肉片。
十神「……はぁっ!?」
腐川「血……血っ!? あばばばば……」
大神「むごいな……」
葉隠「……どういうことだべ?」
葉隠(全員が困惑していた。だが、俺とみんなのとでは種類が違うだろう)
葉隠(全部を知らないみんなは、この凄惨な光景を見て)
葉隠(対して俺の驚きは、一周目との違い)
葉隠(これはおそらく……江ノ島盾子が殺された、ということだ)
葉隠(訳が分からないが……何か嫌な予感がする)
葉隠(そう……まだ無いんだべ)
葉隠(コロシアイ学園生活の(非)日常と非日常を切り替えるそれ)
葉隠(これを死体と呼んでいいのかは分からないが、事件であるのは確かなのに――死体発見アナウンスがまだ鳴っていない)
C H A P T E R Final
希望 VS ×
異 常 編
十神「しかし……これは一体どういうことなんだ?」
十神「さすがに状況が分からないぞ……?」
ジェノ「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーん。……って、何この部屋? 趣味悪っ」
大神「腐川が気絶してジェノサイダーが出てきたか。……しかし、我にもさっぱりだな」
葉隠「…………」
十神「……葉隠、さっきから黙ってばかりだが大丈夫か?」
葉隠「え……ああ」
葉隠(色々考えないといけないことが山積みだけど、三人がいる場所で一人だけ考え事をするわけにもいかない)
葉隠(とりあえず状況に対処するために……)
葉隠「よく分からないけど……黒幕が死んでるってことなら、この部屋も調べ放題だべ」
葉隠「この死体が誰なのか気になるし捜査してみないか?」
十神「捜査か……アナウンスはなってないが……そうだな、出来ることはやっておくか」
葉隠(そうして俺たちは情報処理室、奥の部屋の捜査を始めた)
葉隠(正直グロ画像以上の状況に、これまで何回も事件に立ち向かった俺でも辛いのだが)
十神「俺がこの程度で臆すと思うか?」
ジェノ「私が超高校級の何なのか分かって言ってるわけ?」
大神「我も大丈夫だ」
葉隠「……そ、そうか」
葉隠(どうやら俺以外は大丈夫なようだった)
葉隠(そうして部屋を調べ始めた俺たち)
葉隠(いつもなら渡されるモノクマファイルも、モノクマが機能停止しているため無い)
十神「死体は……爆散しているから調べようがないな」
葉隠「まあ死因が爆死ってことは分かるな」
十神「というよりそれしか分からないと言った方がいい」
十神「そして……どうやらこの部屋には、人体だけじゃなくてところどころに機械の破片と……繊維のくずも散らばってるな……」
十神「これは……さっきまでの……もしかして……」
葉隠「……?」
葉隠(何に気づいたんだろう?)
葉隠(そして部屋から事件には関わってないだろうが気になる物を発見した)
十神「……何だこのディスクは」
腐川「この学園の真実?」
大神「もしもの時のために……と書いてあるが」
葉隠「見てみるか」
葉隠(何となく予想は付くけど……)
葉隠(ディスクを再生すると、江ノ島盾子によって事の次第が話され始めた)
葉隠(意外な黒幕の正体に当初は驚いていた三人だったが、続く衝撃的な話を聞いている内に口数が少なくなっていった)
葉隠(江ノ島と戦場が入れ替わっていたこと、史上最悪の絶望的事件、学園のシェルター化、俺たちの記憶がブロックされていたことなど)
葉隠(おそらく最後の裁判で判明するはずだった事実は全部網羅されていただろう)
葉隠(江ノ島盾子はラスボスであることにこだわっていた)
葉隠(その矜持が謎を残したまま死ぬのを良しとしなかったのだろう。これは不意のアクシデントで死んだ場合の備えということだ)
十神「…………」
腐川「…………」
大神「…………」
葉隠(俺はとっくに承知の事だが、三人には衝撃的な事実だ。しばらく黙っていたが)
十神「……捜査を再開するぞ」
葉隠(十神っちの一言で俺たちは捜査に戻った)
葉隠(しかし、その成果はほとんど無かったといえるだろう)
葉隠(そう、江ノ島盾子が殺されたこの事件――証拠と呼べる物がほとんど残っていなかった)
葉隠(情報処理室も肉片、機械の破片が散らばっていること以外に、変わった様子はない)
葉隠(念のためにオーガと十神っちが校舎を、俺と腐川っちが宿舎を調べたけど何も無し)
葉隠(捜査が一段落して、四人で集まり情報をまとめる)
十神「ちっ……分からないことだらけだな」
葉隠(確かに二周目の俺でさえ分からないことの方が多い)
十神「これから裁判だったら絶望的だったが……あいにく死んだのは黒幕だ」
腐川「モノクマが動かないんじゃ、裁判も無いわよね……」
大神「だろうな」
葉隠「唐突なのは否めないが……これはゲームクリアってこと……なのか……?」
十神「かもな。さて、それでこれからどうするかだが……」
十神「………………」
葉隠「十神っち?」
十神「ああ……すまん。とりあえず各々で考えるとしよう」
十神「あの部屋にもこの学園を脱出するための方法は残っていなかった」
葉隠(そうだったけど……あれ、なら脱出ボタンはどこに……?)
十神「だから救助が来るまで待つということになるだろうが……まあ他の方法を思いついたなら言ってくれ」
十神「ちょっと俺も……考えをまとめたい」
腐川「そ、そうね……私も」
大神「我もだな」
葉隠(みんなやけに元気が無いけど……ああ、そうか)
葉隠(俺は既に知っていたから気にしなかったけど、この学園の真実をいきなり聞かされてきついんだべ)
葉隠「分かった。なら、また明日だな」
葉隠(そうして俺たち四人はそれぞれの部屋に帰っていった)
<葉隠の部屋>
葉隠「さて、俺も考えをまとめないとな」
葉隠(俺の一周目の知識、そして苗木っちに聞いた知識。それを使って今の状態を紐解いていかないと)
葉隠(まずは……この一連の事態はイレギュラーであるということだろう)
葉隠(一周目から大きくルートが外れている。このタイミングで江ノ島盾子が死ぬ事なんて無かった)
葉隠(何らかの要因によってこうなったのだと考えられるけど……)
葉隠「何が原因なんだ……?」
葉隠(狛枝化した苗木っちも死んで、一周目から大きく変わる要素は特に無いはずだ)
葉隠(生き残っているのが四人であること、オーガが生き残っていることが違うけど……それがこの状態に繋がるとも思えない)
葉隠(何か特大なイレギュラーがあるはずだが……)
葉隠「……まあ、ちょっと後回しだな」
葉隠「そしてこの事件の犯人だけど……」
葉隠(三人とも江ノ島を殺した人間とは思えない反応だった)
葉隠「……毎度思うけど、クロの演技力やばいよな」
葉隠(人を殺したというのに、何食わぬ顔でいられるなんて。俺だったらすぐに表情に出そうだ)
葉隠(でも……そもそも俺たちの中にクロはいるのだろうか?)
葉隠(あんな凄惨な殺し方心象的にも、手段の面から言っても出来るとは思えない)
葉隠(かといって封鎖されている学園の外から干渉があったとも考えにくい……)
葉隠(だったら……誰が殺したんだ?)
葉隠「……これも後回しか」
葉隠「最後に一番気になる点……これからどういうことになるというのか?」
葉隠(事件が起こって日常でもなく、かといって裁判も始まらないため非日常でもない)
葉隠(言うなれば異常な状況)
葉隠(いや、学級裁判が無くなったのは喜ばしいことなのかもしれない……が)
葉隠「この世界は現実じゃなくて、ゲームの中の世界なんだべ」
葉隠(忘れてはいけないその事実)
葉隠(しかも俺たちが体験した一周目のコロシアイ学園生活をシミュレートしたという代物)
葉隠(つまりこんな事態は想定していないだろう)
葉隠(最後の裁判も無しにコロシアイが終わることなんて)
葉隠(ゲームというのは現実のように融通は利かない)
葉隠(鍵のかかってる扉を破壊して進むわけには行かないし、ジャンプコマンドがない場合はちょっとの段差だって越えられない)
葉隠(そして苗木っちは言っていた)
苗木『黒幕との直接対決に勝って、江ノ島さんから脱出ボタンをもらい、玄関から出た時点でゲームクリア。元の世界に戻される』
苗木『狛枝ウィルスを削除した今、このプログラムを続ける意味はないんだけど、クリアしないとプログラムが終わらないからね』
葉隠(だから――)
葉隠「最後の裁判がいつまでも発生しないこのゲームは……一生終わらない可能性がある?」
葉隠(どちらにしろ脱出スイッチが見つかっていない現状は学園からの脱出方法が無いと見ていいだろう)
葉隠(十神っちが言っていた、学園の外からの救助というのもおそらく無い)
葉隠(コロシアイ学園生活のシミュレーションというこの世界に、学園の外のデータをわざわざ設定する意味がない)
葉隠「………………」
葉隠(俺は先ほどイレギュラーでこの事件が起きたと言ったが……)
葉隠(このイレギュラーは一周目と違うという意味ではなく、このゲーム世界の枠組みを大きく逸脱しているというイレギュラーなのだ)
葉隠(ゲームの外の苗木っちはもう介入することが出来ないと言った)
葉隠「この事態……俺だけでどうにかしないといけないのか……?」
葉隠(でも、そんな方法思いつかない)
葉隠(だとしたら――俺はこのゲームの世界で一生を過ごすことになるのだと)
葉隠「一周目の俺なら、そうやって絶望してたんだろうな」
葉隠(頑張ったのに、頑張ったのに……どうしても事件の発生を止められなかった)
葉隠(そのたびに絶望して……でも学級裁判を乗り切ってきたんだべ)
葉隠「俺はこの絶望だって乗り越える!」
葉隠(そうだべ……今までと何ら変わりはない)
葉隠(超高校級の絶望である江ノ島盾子が殺された事件。そのクロを探せばいいだけ)
葉隠(ただ一つ違うとすれば)
葉隠「このゲーム世界において、コロシアイ学園生活というゲームが終わり現実が戻っているということ」
葉隠(だから推理を助けてくれるモノクマファイルだってないし、推理の要点だってまとまってくれないし、そして裁判じゃないから仲間だっていない)
葉隠(俺は一人で……今までの一周目と二周目で得た情報をフル活用して推理に挑む必要がある)
葉隠「……頑張るか!」
葉隠(そうして俺は推理を組み立てていって……)
<翌日>
<希望ヶ峰学園・某所>
葉隠(俺は自分の推理に従ってある場所を訪れていた)
葉隠(そこには先客がいる)
???『――――』
葉隠「どうしたのかって? そんなの決まってるだろ」
葉隠(俺は先客をビシッと指さして宣言した)
葉隠「おまえが今回の事件のクロだべ!!」
葉隠(俺の宣言に、しかし目の前のクロは驚いた様子はなかった)
???「――――」
葉隠「……まあ、そんな簡単には認めないよな」
葉隠「でも、今回の事件を起こせる存在は限られている」
葉隠「おまえも知ってるようにこの世界はゲームの世界だべ」
葉隠「故に、今回の被害者江ノ島っちは最後の裁判を以て倒されるべきラスボス」
葉隠「それがこんなタイミングで殺されるのはあり得ない」
???「――――」
葉隠「……魔王が途中で倒されるRPGだって最近じゃ珍しくない、か」
葉隠「ああ、そうだな……でも」
葉隠「それはゲーム内の人物が起こそうと思って起こせる物じゃないんだべ」
葉隠「シナリオライターが元々そういうストーリーにしていた、あるいはチートを使って倒した状態にしたとか」
葉隠「要するにゲームの世界より、上位で動いている存在にしか起こし得ない」
葉隠「つまり、今回のクロは元々このゲーム内に存在しない侵入者――」
葉隠「狛枝ウィルス……おまえにしかいない」
狛枝「あはは、ばれたみたいだね」
葉隠(この旧世界プログラムとシステムを同じくする新世界プログラムからの侵入者)
葉隠(狛枝ウィルス……)
葉隠(ああ、そうだべ。こいつはまだ死んでいなかったし――今だって『ある人格を乗っ取って』この世界に存在を続けている)
葉隠(完全に乗っ取っているのか、元の人格の様子は全く見えないけど)
狛枝「あはは、流石だよ葉隠君!」
狛枝「アシストがありながらも、ここまでの事件を突き止めてきただけの推理力はあるってことか」
葉隠「分かってるなら……」
狛枝「まあまあちょっと待って」
狛枝「言いたいことは分かるし、ここに来たってことは全部分かってるんだと思うけどさ」
狛枝「それでもやっぱりこの世界で誰かをクロ認定するなら――やっぱり一から証明するのが筋って物じゃない?」
葉隠「学級裁判のまねごとをしようって言うのか?」
狛枝「そうそう。大丈夫、終わったら話は聞くからさ」
葉隠(……逆に言うと終わらない限り話は聞かないということか)
葉隠「付き合うしかないみたいだな……」
狛枝「あははっ、それじゃあスタート、ってことで!」
C H A P T E R Final
希望 VS 希望
非 日 常 編
狛枝「そもそもの話だけどさ、僕は苗木君がおしおきされたとき一緒に消えたんじゃないかな?」
狛枝「葉隠君も整備空間で外の苗木君にそう聞いたはずでしょ?」
葉隠(整備空間だって一応ゲームの中。狛枝っちなら知っていてもおかしくはない)
葉隠「ああ、苗木っちはおまえが消えたと思っていたし、俺だってそう思っていた」
葉隠「でも……思い返してみればあの苗木っちのおしおき気になる点があるんだべ」
狛枝「気になる点?」
葉隠「それは……苗木っちの最期の言葉だべ」
『あれ――ここは……?』
狛枝「そういえばそんなことを言ってたね」
葉隠「まるで自分の状況を理解していない言葉。これはあの瞬間に、おまえが苗木っちから出て行ったってことじゃないのか?」
葉隠「だから突然正気を取り戻した苗木っちは、何が起きているか分かっていなかったし、おまえも殺されなかった」
狛枝「なるほど、筋は通ってるね。それに……正解だよ」
狛枝「あの苗木君のアバターは心地よくて名残惜しかったけど……仕方ないよね」
葉隠(おまえが苗木っちを唆したから事件を起こして、クロになったっていうのに……まあでもそれは今言っても仕方ないことだべ)
葉隠「そして狛枝っちは次に乗っ取るアバターを探し始めた」
狛枝「ああ、ちょっと待ってその前に」
狛枝「アバターを乗っ取らずに、そのままの状態でこの世界にいたって可能性はないのかな?」
葉隠「無いな。だって苗木っちがちらっとだけど」
苗木『……おそらくウィルスはそれだけじゃただのデータだ。仮想世界に影響を及ぼすためには、アバターが無いと駄目なはず。だから僕の身体を乗っ取ったんだ』
葉隠「……って、言ってたからな」
狛枝「あら、覚えていたか」
葉隠「それで狛枝っちが誰に憑依したかだけど……」
葉隠「その前に今回の事件の話に移るぞ」
狛枝「おっと、いきなり話を変えてきたね」
葉隠「そっちの方が分かりやすいからな」
狛枝「ま、そういうことなら」
葉隠「今回の事件……超高校級の絶望、江ノ島っちが殺された事件」
葉隠「黒幕であった彼女が死んだことにより、モノクマファイルも作られていない」
葉隠「だから死体の状況に関して分かることは……せいぜい爆死した、ってことぐらいだべ」
狛枝「それだけじゃ何も分からないんじゃないかな?」
葉隠「いや……この殺害方法こそがクロを特定するんだべ」
葉隠「爆死とはつまり、爆弾を使ったということ」
葉隠「だったら今回のクロはどこから爆弾を調達したのか?」
狛枝「誰かが作ったんじゃないの? 君たち超高校級ならそれくらい朝飯前でしょ?」
葉隠「確かに十神っちなら……って、違う違う」
葉隠「それは無い。だって事件が起きた後に、学校中を調べたけど特に気になる痕跡は残ってなかったからな」
葉隠「爆弾を……それも人を殺せる威力の物を作るとすればどうしたって痕跡が残るはず」
狛枝「そうだね……だったら爆弾をどうやって用意したって言うんだい?」
葉隠「そんなの簡単だべ。モノクマの自爆用の爆弾……それを使って江ノ島っちを殺した」
葉隠(威力は最初の爆発で確認済み。あれなら人を殺すことも可能なはず)
狛枝「モノクマの爆弾でねえ……証拠はあるの?」
葉隠「ああ。十神っちが見つけた機械の破片と繊維のくず」
葉隠「それはモノクマが爆発したから散らばったのだと考えられる。見覚えがあるようだったのも、直前までモノクマを解体していたからだべ」
狛枝「なるほどね」
狛枝「でも、そうなると別の関門が立ちふさがることくらい、葉隠君なら分かっているはずだよね?」
葉隠「ああ。どうやって江ノ島っちが管理しているモノクマを爆発させた……ってことか」
狛枝「一ついい方法があるよ。僕が江ノ島さんのアバターを乗っ取ればいい」
狛枝「そしてモノクマを操って自殺する直前に、アバターから離れる……それで江ノ島さんは殺せる」
葉隠(江ノ島っちに取り付いて自殺させる……中々極悪な方法だが)
葉隠「それはない」
狛枝「どうしてそう言えるんだい?」
葉隠「この世界、旧世界プログラムは江ノ島盾子を理解するための世界」
葉隠「だから江ノ島盾子の様子は常に観察されている」
葉隠「それなのに狛枝っち、おまえが取り付くことが出来るはずがない」
狛枝「……ふーん、なるほど」
狛枝「だったら誰に取り付けば、江ノ島盾子を爆殺出来るっていうのかな?」
狛枝「モノクマを操作主の江ノ島盾子からコントロールを奪って、それを爆発させるなんて芸当一体誰だったら出来るんだい?」
葉隠(モノクマのシステムの掌握)
葉隠(俺はそれに似た行いを……一周目で見ている)
怪しい人物を指名せよ
『アルターエゴ』
葉隠「おまえしかいないんだべ!」
葉隠「アルターエゴ、超高校級のプログラマー不二咲っちによってノートパソコン上に作られた人格」
葉隠(俺も落ち込んでいたときには世話になった)
葉隠「一周目では四回目の裁判で壊されたけど……二周目ではまだ壊されていない」
葉隠(それも俺が学園の秘密を全部知っていて、危ないマネをさせなかったからだ)
葉隠「そしてこれも一つの人格だべ。つまり狛枝っちが乗っ取ることは可能」
狛枝「……まあこうやって会話してる時点で気づいているのは分かってたけどね」
葉隠(ノートパソコンには狛枝っちの顔が映り、声が聞こえてくる)
葉隠「そしてこの場所も」
<現在位置 校舎二階・男子トイレ奥・隠し部屋>
葉隠「俺も霧切っちも用がなくて訪れていないから、誰にも気づかれていない」
葉隠(今回の事件の捜査。校舎側はオーガと十神っちに任せていた。二人がこの部屋の存在に気づいていないなら、ノートパソコンを発見できていなくておかしくはない)
葉隠「この部屋はネットワークに繋がっている」
葉隠「ここからハッキングをかけて、モノクマのシステムを掌握」
葉隠「そして江ノ島っちをモノクマで爆殺した!」
葉隠「これが今回の事件の詳細だべ!!」
狛枝「……なるほど」
狛枝「お見事……って言っておこうかな」
COMPLETE!!
葉隠(狛枝っちがクロであるという証明が終わった)
葉隠(最後の絶望も……俺は乗り越えたんだべ)
葉隠「一つだけ聞いてもいいか?」
狛枝「何かな?」
葉隠「どうして江ノ島っちを殺したんだべ?」
葉隠(その動機だけはどうしても分からなかった)
狛枝「ああ、それは簡単な話だよ」
狛枝「あのまま江ノ島さんが生きていたら、始まるのは答えの分かっている最終裁判だ」
狛枝「そんなのじゃ希望の踏み台にならないだろう?」
狛枝「だから、より絶望的に……ゲーム世界に閉じこめられるっていう絶望を用意したんだよ!」
葉隠「…………」
葉隠(俺には理解できないが……それが狛枝っちにとっては重要なことだったのだろう)
狛枝「それにしても……」
狛枝「どんなに絶望しようと諦めない」
狛枝「葉隠君こそが僕がずっと探していた希望……」
葉隠「……?」
狛枝「……とは、正直思えないけど」
葉隠(何か貶されたな)
狛枝「さて……僕もここまでかな」
葉隠「狛枝っち……」
狛枝「このままゲームクリアすれば、居場所のバレた僕はデリートされるだろう」
狛枝「けどまあ、暴かれたクロがおしおきされるのは仕方ないことさ」
狛枝「ましてや僕はこの世界の異分子にして元絶望。生かしておいたら何をするのか分からない」
葉隠「だ、だとしても……」
狛枝「じゃあ最後に報酬だ」
葉隠(狛枝っちがそう言うと、宙から何かが落ちた)
葉隠「これは……脱出スイッチ?」
狛枝「ああ。江ノ島さんを殺した後に盗んでおいたんだ」
狛枝「これを使って学園を脱出するといい。その時点でゲームクリアだ」
葉隠「…………」
葉隠(さんざんこの二周目のコロシアイ学園生活を荒らした狛枝っち)
葉隠(個人的には許せないし、それにやつはデータ上のバグみたいなものだ)
葉隠(このまま死んだところで俺が気にすることはない……)
葉隠(…………)
葉隠「ああ、気にすることはないな!」
葉隠「じゃあな狛枝っち! ありがたく卒業させてもらうべ!!」
葉隠(俺は脱出スイッチを掴むと颯爽と部屋を出ていく)
狛枝「あら、特に感慨もなく行かれたけど……」
狛枝「……」
狛枝「ははっ、大丈夫だよ」
狛枝「きっとまたすぐ会えるだろうからさ」
<玄関>
葉隠(それから俺は生き残りの三人を呼んで、玄関に向かった)
葉隠(脱出スイッチをどこで手に入れたのか、特に十神っちには追求されたが、俺は占いで場所を当てたの一点張りで誤魔化した)
十神「これでこの学園ともおさらばか」
腐川「よ、ようやくね……これからは私と白夜様が紡ぐ未来が……」
十神「そんなのはない」
大神「…………」
葉隠「どうしたオーガ?」
大神「あれだけ終わって欲しいと思っていたこの学園生活も……いざ終わるとなると少し寂しさを覚えてな」
大神「らしからぬ感傷を覚えていた」
葉隠「……そうか」
葉隠(オーガの横顔は憂いに満ちていて……とてもこれが人工知能による模倣だとは思えなかった)
葉隠(それは十神っちや腐川っちも同じ)
葉隠(ここを出ればゲームクリア。NPCの三人は現実に戻ることは出来ない)
葉隠「…………」
葉隠(ここにいるのとは別人だが、十神っちと腐川っちは生きている)
葉隠(けど……オーガは違う)
葉隠(一周目で自殺したということは、現実世界では生きていないということに……)
大神「葉隠どうした?」
葉隠「……俺も同じだべ、らしくない感傷に浸ってた」
大神「そうか」
「「………………」」
十神「話は終わったか! なら、さっさと外に出るぞ! そしてこいつからさっさと離れてやる!」
腐川「白夜様ぁっ……!?」
大神「十神がああ言っていることだ、さっさとボタンを押したらどうだ?」
葉隠「そうだな」
葉隠(そして俺は手に握った脱出ボタンを……押した)
物々しい機械音。
こちらを狙っていた銃も引っ込む。
ついに待ちわびた瞬間。
四人は扉を見上げて見守る。
そして――。
ガコンッ!!
――扉は開かなかった。
葉隠「……え?」
葉隠(どこか故障したような嫌な音が鳴り、扉の開閉動作が止まった)
腐川「な、何よ……?」
大神「これは……?」
十神「……どういうことだ、葉隠」
葉隠「って、いやいやそんなの俺に言われても……!」
葉隠(一周目の記憶と違う。あのときはスムーズに開いていたはずなのに)
葉隠(だったらこれは……?)
予想外の事態に一瞬頭が真っ白になった葉隠は。
次の瞬間、玄関から黒一色の世界に飛ばされていた。
葉隠「……っと」
葉隠「ここは……整備空間か?」
葉隠(三回目ともなればこの光景にも慣れる)
葉隠(何故このタイミングで呼び出されたのか……それは先ほどのイレギュラーが関わっているのだろう)
霧切「来たわね、葉隠君」
葉隠「あ、霧切っち! どういうことだべ、扉の開閉が途中で止まって」
霧切「それに関して苗木君から説明があるわ」
苗木「あー、うん。……結論から言うとね」
苗木「脱出スイッチが故障したみたいなんだ」
葉隠「スイッチが故障……!?」
苗木「うん。いや、本当はそんなこと起こることは無いはずなんだけど……プログラムのミスかな……?」
苗木「よほど運が悪いか……いや、運が良くない限り起こるはずがない事態でね」
葉隠「運が……」
狛枝『きっとまたすぐ会えると思うからさ』
葉隠(去り際に聞こえてきたセリフ)
葉隠(そういえば狛枝っちは元は希望ヶ峰学園の生徒で、俺たちの一個上の超高校級の幸運だったと苗木っちは言っていた)
葉隠(つまり……これは狛枝っちの運……いや、でもさすがに……?)
葉隠「そ、それでその故障はどうすればいいんだべ? 何か他に脱出スイッチの代わりになるようなものでもないのか!?」
苗木「いや、脱出スイッチはゲーム中一個しか手に入らないアイテムって設定されていてね、代わりもない」
苗木「それが壊れた今……ゲームをクリアする方法は残っていない」
葉隠「……はあ!? だったら……!」
苗木「で、でも、一つだけ方法があるんだ!!」
葉隠「方法……?」
葉隠(何か嫌な予感がする……)
苗木「そう、ゲーム中一個しか手に入らないアイテム。それをもう一回手に入れるためには……」
苗木「最初からにしてやりなおせばいいんだよ」
葉隠「最初から……って、つまり俺に三周目をしろっていうのか!?」
葉隠(俺は思わず叫ぶ)
苗木「えっと……そういうことになるね」
葉隠(バツが悪そうな苗木っちはさらに絶望的な言葉を口にする)
苗木「しかもゲームはまだ終わっていないから、狛枝ウィルスを外から削除出来ない。……だから再起動の際に紛れて誰かに取り付くと予想できる……かもね……」
葉隠「それって難易度上がっているよな……!?」
葉隠(誰が狛枝っちのような行動をしだすか分からないって……それは……!)
霧切「こうなってしまった以上、仕方ないわよ」
霧切「誰が悪いって問題でもないんだし……やるしかないわ」
葉隠「霧切っち……」
霧切「三周目にも記憶は引き継ぐことは出来るし、それに次は最初から私も協力できる」
霧切「これだけのアドバンテージがあれば大丈夫よ」
葉隠「そうは言ってもな……」
葉隠(でも……確かに苗木っちを攻めても仕方ない)
葉隠「しょうがないな……」
霧切「そういうことね」
苗木「えっと……本当にごめんね」
苗木「じゃあこれから『はじめから』の処理をしてくるから……」
葉隠(そう言って苗木っちは姿を消す。ゲームの外の世界から操作するのだろう)
葉隠「三周目……か」
葉隠「だったら……今度こそ誰も死なせずに乗り切ってみせるべ!」
葉隠(俺は二周分の記憶を持っていて、霧切っちという協力者がいる)
葉隠(それでも容易ではないだろう)
葉隠(でも……だからこそ、あの絶望的な状況にはさせない)
葉隠(今度は全員で、希望を持ってゲームをクリアする……!)
葉隠「俺たちの戦いはまだまだこれから……だべ!!!」
ー 完 ー
553 : ◆YySYGxxFkU - 2016/10/23 22:55:40.95 Wy4xpgfo0 912/912以上で完結となります。
………………。
はい、本当に完結です。打ち切りっぽいとか、三周目無いのとか思われるでしょうが完結です。
ですがきっと葉隠はこの先、三周目を頑張って攻略してくれるでしょう。
そう、葉隠の冒険はまだまだ続くのです――。
……良い話っぽくしたところで締めで。
読んでいただきありがとうございました。