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岡部倫子「これがシュタインズ・ゲートの選択……!!」【#01】
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岡部倫子「これがシュタインズ・ゲートの選択……!!」【#14】
第29章 最終章 陰謀宇宙のアンチマター(♀)
――――長い夏が終わって。
あれから世界には、概ね平和な時間が流れていた。
まあ、2010年10月中旬には世界線が大変動したことがあったけどな。
2025年頃に世界恐慌が起こるというトンデモな状況になったが、それも倫太郎の活躍のおかげで無事シュタインズゲートへと復帰した。
2010年のクリスマスイヴには、綯がダメオタ外人観光客に誘拐されるという事件もあったが、ラボメンたち……と、4℃のおかげで事なきを得た。
未知の世界線、シュタインズゲート。そこには確定した未来など存在しない。
もしかしたら秋ごろにはラボメンたちがアメリカへ行き、雷ネットAB世界大会に出場するフェイリスを応援したり。
2011年夏に、岡部倫太郎が消失してしまうような事態が発生する可能性も、否定はできない。
選択の数だけ、シュタインズ・ゲートは存在する。
そして、今日――――
2016年7月7日(木)16時26分
秋葉原 未来ガジェット研究所
倫太郎(24歳)「クックック……また会ったな諸君」
倫太郎「この映像を見ているということは、諸君には"その時"が訪れてしまった、ということかと思う」
倫太郎「今、おそらく諸君は我が姿に驚愕し、狼狽していることだろう。そう、なぜなら諸君は覚えているはずだ」
倫太郎「かつてこの世界を破滅の寸前まで導いたという、最終戦争。あの辛く苦しい戦いは、すでに終結したはずではないか? とな」
倫太郎「諸君がそう思い込んだとしても仕方のないことだ。それほどまでに、あの戦いは凄惨をきわめた。諸君にも消えることのない傷跡を残してしまったことだろう……」
倫太郎「我が最後の戦いを目にした諸君と再びまみえることになろうとは、なんとも皮肉な話だ」
倫太郎「なにしろこの鳳凰院凶真、かつての戦いで命を落としたはずだったのだからな……!!」
倫太郎「だが! 言ったはずだ、この鳳凰院凶真は滅びぬ。いずれまた諸君の前に立ちはだかるだろう、とな」
倫太郎「その言葉通り、地獄のフチから蘇ってきたというわけだ! フゥーハハハ!」
倫太郎「フッ……わかっている。何が起こったのかを説明しろと言うのだろう? もちろんだ。俺はそのために戻ってきたのだから!」
倫太郎「新たなる世界創造の前には、既存の秩序を破壊せねばならない。クックック……よもや忘れたわけではあるまい」
倫太郎「この鳳凰院凶真は、一度手にしたコマをみすみす手放したりはしない。諸君らはすでに我が術中に嵌っているのだ」
倫太郎「途中で逃げ出せるなどとはゆめゆめ思わないことだな……!」
倫太郎「さて、諸君はこのガジェットが気になっていることと思う」
倫太郎「先日クラウドファンディングにより多数のご支持を頂戴した、我が(株)未来ガジェット研究所の新作ガジェットについてだが……そう、"GGクリッカー"のことだが……!」
まゆり(22歳)「じじークリッカー?」ヒソヒソ
ダル(25歳)「まゆ氏、じじーじゃなくてGGでござる。グランドジェネレーションの略称なんでヨロ」ヒソヒソ
倫太郎「ファンドを通じ多大なるご支援をいただいた諸君には申し訳ないが、現在、当該ガジェットはとある組織との係争により――ここでは"機関"と呼ぶことにしようか――開発がやや遅れている」
倫太郎「このことは、クラウドファンディングのサポートサイトで告知させていただいた通りだ。出資をいただいた諸君には、さぞ気を揉ませる展開であろうと思う……!」
倫太郎「だが諸君! ぜひとも安心して欲しい! ブツはここにある!」
倫太郎「なにぶん当局――じゃない、機関! 機関とのパテントに関わる極秘事項が問題でちょっと差し止めがありまして! でなくてこれをクリアできないので! それでリリースに手間取っているわけで、なので、その」
倫太郎「今さら出資金返せって言われても、困るのだ……」
まゆり「このビデオって、新作ガジェットさんができてません、ごめんなさ~い。でも頑張って完成させるからもうちょっと待ってね、ってお願いじゃなかったっけ?」
ダル「たぶん、新作ガジェットとか遅延告知とか、途中でどうでも良くなったんだと思われ」
倫太郎「……まったく、また最初から撮り直しではないか」
ダル「それにしてもまゆ氏はすげーっすな。幼稚園で仕事してからラボに来てまた残業とか、オカリンじゃ絶対にできん罠」
まゆり「いつもはこんなことできないよー。今日は七夕のイベントデーでね、それまでずーっと忙しかったのから解放された日なの」
ダル「あぁ、なんか折り紙をハサミで切って、輪っかにしてたアレ、今日だったん」
まゆり「今日はね、幼稚園のみんなにお願い事を書いてもらって、笹に飾ったのです! その中にね、椎名先生がパパみたいなしゃちくになりませんよーに、っていう短冊があって」
ダル「最近の幼稚園児は社会派だなぁ」
まゆり「それを見た園長先生がね、今日はもうイベントも終わったから、早く帰っていいよって」
ダル「でも残業持ち帰ってるんしょ? 今もなんか作業してるし」
まゆり「えっへへ~。でも、こういう教材を用意するのって、楽しいんだよー。オカリンが作ってるガジェットさんと、似てるかなーって」ニコニコ
まゆり「あっ、でもね、オカリンのガジェットさんも、大人気なんだよー」
倫太郎「クックック……当然だろう。我が(株)未来ガジェット研究所の成果物は、それほど甚大なる影響を与えるということだ」
倫太郎「幼い子供にとりいってその無意識につけこみ、いずれはガジェットなしでは我慢できない身体にしてしまうのだ……!」
まゆり「……でもオカリンー、その新しいガジェットさんのせいで、動画を撮ってたんじゃないのかなー?」
倫太郎「ぅぐほぁっ!!」
まゆり「オカリンがしゃちょーさんだなんてね、まゆしぃは今でも信じられないのです……」ハフゥ
ダル「まあ社長ってのも名前だけだけど、一円企業でも立ち上げてるだけマシってもんじゃね? オカリンがまともに就職活動できるなんて、みんな思ってなかったんだし」
倫太郎「ほほう……では訊くが、その名ばかりの会社にいるのは一体誰だ?」
ダル「僕はフリーで仕事やるっつってんのに、強引に籍だけ置いたのはオカリンジャマイカ」
倫太郎「……ぐぬぅ」
ダル「でもさ、その結果が今回のガジェット開発遅延なわけっしょ。これなら迷いペットとか探してたほうがマシだったかもしれん罠」
ダル「資金集めにクラウドファンディングなんて使ったおかげで、お詫び動画を撮るハメになるとか、かなり本末転倒っつーか」
まゆり「でもダルくん、オカリンはお詫びしてない気がするなー」
ダル「お詫び動画も動画投稿じゃなくてニヤ生のほうがよかったんじゃね?」
ダル「問題起こした企業の記者会見ってライブが基本でしょ。一発撮りしかできねーなら、編集の手間も省けるだろうし」
倫太郎「その一発撮りでまた怒りを買ったらどうするのだ?」
ダル「もうこの際さあ、手付け返して『失敗ですた』でいいんでないの? クラウドファンディングなんて半分ぐらいは失敗するのが前提みたいなもんだし」
倫太郎「まったくの手つかずならそれもやむを得ないが……すでにブツは発注してしまったからな」
倫太郎「公式マーケットからアプリの認可が下りないだけで、ガジェットの作成自体に失敗したわけではないのだ」
倫太郎「ここまで来たからにはなんとかリリースしたいところだな……」
――――――――――
☆未来ガジェット69号:GGクリッカー
・ボール型や指圧用のでっぱりがあるスマホ用のシリコンジャケット。
・バイブ機能を制限解除するアプリと連携するマッサージャー。
・音声再生モードあり。認可申請中。
――――――――――
まゆり「これがそのガジェットさんの説明書?」
倫太郎「マッサージアプリを無料で配布し、マッサージボールのついたシリコンジャケットで利幅を出す……」
倫太郎「つまり、一品ものであったこれまでのガジェット作成から脱却し、大量生産によるコストダウンと販路の拡大を一挙に計ったというわけだ」
倫太郎「まさに悪魔的、理にかなったビジネスモッデール! といえよう……!」
ダル「どっちかっていうと、バイブ機能をハックして強力にしてしまうアプリが主で、シリコンジャケットはおまけじゃね?」
倫太郎「思いのほか資金が集まったのはいいが……」
ダル「いやーまさか僕のアプリが引っかかるとは思わんかった罠」
倫太郎「よもや、公式マーケットが登録を認めないとはな……。『スマホのバイブ機能が不適切に利用されかねない』とふざけた理由で認可が下りないなど……!」
倫太郎「おのれ"機関"め……高齢化社会に向けて、グランドジェネレーションに媚を売るだけの肩もみガジェットが、なぜ不認可を喰らうのだ!?」
ダル「いやあ、問題あり杉だからじゃね? 少なくとも公式マーケットじゃ無理っしょ」
ダル「このシリコンジャケットとかもろにアウトと思われ。だってこれ、どう見ても電マだし」
倫太郎「電マではないっ! ……と、何度言えばわかるのだ、ダルよ」
ダル「そんじゃ別のこと聞くけど、アプリに内蔵してるMP3プレイヤーは何に使うん?」
倫太郎「リラックスタイムにBGMぐらいあってもいいだろう。それに最近のお年寄りはデジタルデバイドも少ないと聞くから、孫のメッセージでも入れれば気分が出るはずだ」
ダル「それ、デフォで入ってるのってオカリンの声じゃなかったっけ? 公式マーケットの申請に使ったバージョンだけど」
倫太郎「そうだが」
ダル「ん」ピッ【再生】
『ここか? それともここか? まさか、ここが気持ちいいというのではあるまいな? しらばっくれようと無駄なことだ、フゥーハハハ! この俺には、貴様の弱点が手に取るようにわかるのだからな……無駄な抵抗はやめ、その身をこの手に委ねるがいい……!』
ウインウインウインヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴ!!
ダル「…………」ピッ【停止】
ダル「……なあオカリン。僕も悪ノリして作った手前悪いけど、やっぱこれは言い訳できねーわ」
ダル「これ、エロいやつっしょ」
倫太郎「誤解だっ! 栄えある未来ガジェット69号がエロアプリ扱いとは……」グヌヌ
倫太郎「いいだろう……そちらがそのつもりならこちらにも考えがある!」
ダル「あ、これ結構気持ちいい……って、ちょオカリン、バイブ機能最強にするとマジ痛いんだけど!? まゆ氏見てないでヘルプ!」ヴヴヴ
まゆり「オカリンとダルくんは仲良しさんだねえー」ニコニコ
倫太郎「これがいいのか!? これがいいのか!?」グリグリ
ダル「ああっ! らめぇっ、そこはぁぁっ!!」ビクビク
ガチャ ギィィ…
??「あ、あのう、お取り込み中ですか……?」
ダル「びくんびくん」
??「……うわあ」
綯(17歳)「(来るんじゃなかった……)」
まゆり「あっ、綯ちゃんだー。いらっしゃーい☆」
綯「まゆりおねーちゃん♪ お邪魔します」ペコリ
倫太郎「む? シスターブラウンではないか。また苦情を入れに来たのか?」
綯「い、いえ、滞納されてる店賃のことじゃないです。あ、でも、お父さんが結構怒ってたかも」
ダル「オカリン、夜道には気をつけるんだな」
倫太郎「カリスマさえあれば、他人の金で温泉に行こうがマンガを買おうが許されるというのに……!」
まゆり「それで綯ちゃん、今日はどうしたの?」
綯「はい、実は――――」
倫太郎「ミスターブラウンの様子がおかしい? それで、ここに相談しにきた、と?」
綯「はい。夜な夜な家を出て行って、どうも誰かに会ってるみたいなんです。私から聞いてもはぐらかされるばかりで……」
倫太郎「我がラボは探偵事務所ではない。それに、十中八九、女ができたのだろう。やつも男だからな」
綯「…………」ウルッ
まゆり「オカリーン? 綯ちゃんがお願いしてるんだよー?」
倫太郎「だからどうした。そんなことより、我がラボは新たな資金獲得のために次の作戦を――」
綯「お金なら払います! 最近、裏の自転車屋さんでバイトもしてるので……」
倫太郎「ほう? いくら出す?」
綯「ほ、本当は、自分の自転車を買うためにお金を貯めてたんですけど……」ウルッ
倫太郎「(自分の自転車? もしや、α世界線の鈴羽の記憶が……)」
ダル「JKに金をたかるとか、オカリン人としての器がちっちぇー」
倫太郎「こ、これは正当な取引だっ!」
まゆり「綯ちゃん、そのお金は自分のために使って? まゆしぃたちが手伝ってあげるから」
倫太郎「誰がボランティア活動をするなどと言った」
まゆり「オカリーン……」ジーッ
倫太郎「うっ……うぬぬ……」
ダル「オカリンオカリン。ブラウン氏の不倫現場を押さえてゆすったほうが、現実的に大金が手に入るんじゃね?」ヒソヒソ
倫太郎「昔なじみのよしみで、シスターブラウンの依頼を受けてやろうっ! 恩に着るがいい、フゥーハハハ!」
綯「ほ、ほんとですか! ありがとうございます!」ペコリ
2016年7月7日(木)16時58分
芳林公園
倫太郎「とは言ったものの、どこをどう調べたらよいものか……」
倫太郎「(ダルは得意のアレでミスターブラウンのケータイ位置のここ数日の軌跡を特定中。まゆりはその広い人脈を活かして情報収集中だ)」
倫太郎「(こんな時こそ紅莉栖に……って、今向こうは夜中か。たしか時差は、サマータイムだから13時間くらいか?)」
倫太郎「はぁ……。もう夕方だというのに、暑いな……」
prrrr prrrr
倫太郎「俺だ。……ん? おい、もしもし?」
??「電話は繋ぎっぱなしにして! そのまま耳にあてておくこと!」
倫太郎「なに――――」クルッ
鈴羽「おっはー、オカリンおじさん」
倫太郎「なんだバイト戦士か。おどかすんじゃ……」
倫太郎「(――ん?)」
鈴羽「あれ~? あんまり驚かないんだね。もっとこう、腰抜かすかと思ってたよ」
倫太郎「どぅっはぁぁぁぁっ!?!? ど、どど、どうして鈴羽がここにっ!?!?」ズテーンッ!!
鈴羽「おっ! そうそう、それ!」ケラケラ
倫太郎「何故だ!? 俺のリーディングシュタイナーは発動していないはずっ!」
倫太郎「俺の気付かぬうちに、α世界線へと変動してしまったというのか!? いや、『おじさん』ということは、β世界線か……!?」ドクン
鈴羽「どっちでもないよ。ここはシュタインズ・ゲートだってば」
倫太郎「なん……だと……!?」ガクッ
鈴羽「あっ! ダメ、ケータイを耳から離し――――
倫太郎「そんなことがあり得るのか!? シュタインズ・ゲートでも鈴羽は2036年から過去へ……!?」プルプル
倫太郎「……あ、あれ? 鈴羽? どこへ行った?」キョロキョロ
倫太郎「(まさか、幻覚だったのか……?)」
prrrr prrrr
倫太郎「…………」ピッ
鈴羽「もう、ケータイを耳から離さないでって言ったじゃん。あたしが見えなくなっちゃうんだから」
倫太郎「……ホログラムだとでも言いたいのか?」
鈴羽「あたしの使命は、オカリンおじさんをある場所へと連れていくこと。さあ、あたしについてきて」
倫太郎「……本物、なのか?」
鈴羽「あたしは阿万音鈴羽。橋田至と阿万音由季の娘で、ラボメンナンバー008。趣味は格闘技とサイクリング」
倫太郎「ブラウン管は?」
鈴羽「店長に好きって言ったのは嘘。嘘って言うか、方便かな。ワルキューレの母体組織に接近するための」
倫太郎「ほう、α世界線の記憶を……」ゴクリ
鈴羽「ほら、この手を握って?」スッ
倫太郎「……フッ。いいだろう。貴様がどれほど信用に足るかは、この目が決めることだっ!」
パシッ
倫太郎「……手を握れた。確かに鈴羽は、ここにいる……」
鈴羽「ほら、早く行くよ――――うわっとと?」
サンボ店員「ちょっと、危ないじゃない!」
鈴羽「ごめんごめん! 前見てなかった!」
倫太郎「しかも、鈴羽の姿は他人にも見えている。決して俺の妄想なんかではない……」
鈴羽「ブツブツ言ってないで、走ってよー」ムーッ
倫太郎「ちょっと待て、バイト戦士! 先にこの現象を説明してくれ!」
鈴羽「え? あー、そっか。そうだったね、忘れてたよ、あはは」
鈴羽「実はあたしもよくわかってないんだけどさ。これ、BMIっていう技術の応用らしいんだ」
倫太郎「BMI……?」
Tips: Brain-machine Interface : BMI
http://urx.blue/uXED
鈴羽「ブレイン・マシン・インターフェイス。簡単に言うと、デジタル情報を脳の神経ネットワークに介入させて、視界の中に表示する技術なんだって」
鈴羽「オカリンおじさんのケータイをキャリアノードにして、あたしという存在を認識してもらってる、ってこと」
倫太郎「そんな技術が……。つまり、この通話先から発せられている怪電波によって俺は鈴羽の幻影を見せられている、ということか」
倫太郎「だが、それはおかしいぞ。お前には実体があるじゃないか」
鈴羽「えっとね、そっちはたしか、リアルブート、とか言ったかな」
倫太郎「リアルブート?」
鈴羽「妄想を現実化する能力のこと。ギガロマニアックス、って知らない?」
倫太郎「……ああ、よく知っている。かつて疾風迅雷のナイトハルトに、俺の妄想を現実化されたことがあった」
倫太郎「あの時も、俺のケータイはただのケータイではなく"妄想発信機"となってしまっていた。今回はその逆として使われている、ということか」
鈴羽「そう。そのギガロマニアックスの力で、オカリンおじさんの脳から周囲共通認識を発生させてる」
鈴羽「つまり、オカリンおじさんが見ている現実を、他の人にも共有してもらってる、ってこと」
鈴羽「だからあたしの存在が、おじさんが通話してる間だけの期間限定でリアルブートされてる、ってわけ」
倫太郎「だが、それなら、お前は誰の妄想なんだ?」
倫太郎「バイト戦士のことを知っているのは、このシュタインズ・ゲートには俺しかいないはずだが……」
鈴羽「まあ、それがそうでもなかったってだけのことだから」
鈴羽「おじさんには会わせたい人がいる。これから会う人が、その人だよ」
倫太郎「ギガロマニアックスにして、他の世界線の記憶を持っている存在か……」フム
倫太郎「確かにナイトハルトには、リーディング・シュタイナーがあるように見受けられたが……」
鈴羽「それじゃ、レッツゴー!」グイッ
倫太郎「お、おいっ! まだ心の準備がだな!」
鈴羽「大丈夫だって! ほらほらっ!」
2016年7月7日(木)17時31分
東京電機大学神田キャンパス正門前
倫太郎「――って、ここは俺たちの卒業校じゃないか」
鈴羽「そうそう。あたしもここを卒業したんだよね」
倫太郎「だが、ここに連れて来たということは、会わせたい人というのは大学教授か何かか?」
鈴羽「まあ、そんなとこ。一応言っておくけど、危害を加えるつもりは一切ないよ。むしろその逆」
倫太郎「あ、ああ……」
倫太郎「(その可能性も考えなかったわけじゃない。俺はかつて桐生萌郁に裏切られ、痛い目を見ている)」
鈴羽「それじゃ、こっち。その場所は地下にあるんだ」
倫太郎「(だが、虎穴に入らずんば虎子を得ず、だ。鬼が出るか蛇が出るか……)」
2016年7月7日(木)17時37分
東京電機大学神田キャンパス地下2階
鈴羽「はい、到着」
倫太郎「到着って、壁しか無いではないか」
鈴羽「まあ見てて」コンコン
シュイン…
倫太郎「……あ、あれ? 扉がある。いや、元からあったのか? 俺が気付かなかっただけで……」
鈴羽「もうケータイを耳から離していいよ。ここから先は、あたしが居る必要はないから」
倫太郎「……なあ、また会えるよな?」
鈴羽「さあ、入った入った」トンッ
倫太郎「お、おいっ」
ギィィ…
2016年7月7日(木)17時38分
謎の部屋
そこはまるで俺の厨二心をくすぐるためだけに作られたような部屋だった。
第一印象は、電脳空間。
全体が暗く、壁がどこかわからない。冷房が効いているせいか、汗が一気に引いていく。
青白い光を放つ円卓は、席に着く者の姿を怪しく照らし出し、どこかSFチック。
既に何名かが着席しているが、その薄暗さのために顔をうかがい知ることはできない。
欠席者の座席にはモノリスが立ち、"SOUND ONLY"となっている。これなんてエヴァ?
無味無臭の無機質な空気が、ここが非現実的な空間なのだと教えてくれる。
一歩踏み出すたびに足音が反響する。履いているのはサンダルだが。
音の反響からして、かなり巨大な部屋であることがわかる。
我が母校の地下に、こんな空間があったなんてな……。
『第256回反物質委員会へようこそ』
『貴様の席はどこか、貴様にはわかるはずだ。魂の導くまま、腰を掛けるがいい』
かすれた老女の声が響く。
ルーズなシャツの上から白衣を羽織っているというなんともな格好だが、醸し出すオーラは妖艶そのもの。
この座の中心と思われる席に彼女は居た。
――いや、正確には、そこに置かれたブラウン管モニターの中に居たのだが。
倫太郎「(ビデオチャットか何かか?)」
倫太郎「その前に答えてもらおう。鈴羽の妄想を送りつけたのは貴様か」
『左様。貴様をこちら側へと招き入れるための、ちょっとした演出だよ』
倫太郎「……あなたたちは、敵ではないんだな?」
『少なくとも、貴様の敵ではない』
倫太郎「……いいだろう。そちらがそういうつもりならば、話を聞いてやろうではないか」スッ
『そう、その席だ。さあ、皆の者。我らが救世主を歓迎しようじゃないか』
倫太郎「ちょ、ちょっと待て! 救世主などと、ジョン・タイターみたいなことを言うな!」
倫太郎「俺は救世主になるつもりなど――」
『ならば、貴様が何者か。貴様の知る貴様を説明してみろ』
倫太郎「(つ、つまり自己紹介しろということか。こういう時は無論……)」
倫太郎「……フッ。俺のことが知りたいか? 仕方ない、説明してやろう」
倫太郎「我こそは、狂気のマッドサイエンティスト、鳳凰院凶真!」バサッ
倫太郎「世界の支配構造を破壊し、混沌をもたらす者なりッ!」シュババッ
『素晴らしい……。それでこそ、だ。いや、実に見事』パチパチ
倫太郎「(なぜか老女に褒められた。照れる)」
ダル『厨二病、乙!』
倫太郎「この声は、ダル!? なんでお前がっ!」
まゆり『まゆしぃもいるよー♪ ダルくんのパソコンからお話してるのです』
倫太郎「まゆりまで……」
ダル『いやあ、オカリンを驚かそうって話になって黙ってたお』
紅莉栖(23歳)『私もいるわよ。こっちは朝の5時半だけど』フワァ
倫太郎「紅莉栖!? というか、なぜお前たちがモノリスなのだ、カッコイイではないかぁ!」
紅莉栖『私はアメリカだから仕方ないでしょ。眠いの我慢して電話してるんだから、大きな声出さないで』
ダル『僕はほら、デブだし。この暑いのに動き回るのとかムリっす』
倫太郎「こいつら……!」
『クク、仲が良いことは大変よろしい』
倫太郎「(老女が喉を鳴らして妖しく笑う姿、雰囲気があって大変素晴らしい、が……)」
倫太郎「(ここにこのふたりが居る、ということは……)」
倫太郎「まさか、またアレを作れとでもいうのか……!?」プルプル
『タイムマシンのことか?』
倫太郎「だっ、ダメだッ! アレは、人類が手にしていいシロモノではない!」
倫太郎「神の禁忌に触れた者には、どんな悲劇が待っているかもわからないんだ……ッ!」
『安心しろ。そんなもののためにお前たちを集めたのではない』
倫太郎「な、なに……?」
『集まった人間を知れば、おのずとその目的もわかることだろう』
倫太郎「集まった、人間……」キョロキョロ
久野里(18歳)「…………」
久野里「あなたが鳳凰院凶真さんですか。噂はかねがね。お会いできて光栄です」
『おや、君が彼に敬意を払うとは。α世界線での"伝説の書"の記憶が残っていたのかな』
久野里「私を超能力者どもと同じにしないでいただきたい」
倫太郎「(俺と同じで白衣をまとっている。しかもその格好がだいぶ板についている……)」
倫太郎「彼女は……?」
紅莉栖『私の後輩、久野里さんよ。カオスチャイルド症候群を根治することに成功した、優秀な脳科学者』
倫太郎「ほう、今年の頭に話題になっていたアレか」
紅莉栖『可愛いからってHENTAIしたら、岡部の大脳新皮質をポン酢漬けにしてやるから』
ダル『オカリンは知らないだろうけど、この子、去年の11月にラボに来たことがあるお』
倫太郎「なにっ? そうなのか?」
久野里「あの時は橋田に世話になったな。実際助かったし、感謝はしているが……ホント、世話になったな」ギロッ
まゆり『猫ミミケイさん、かわいかったよぉ♪』
ダル『写真をフェイリスたんに見せたら、ぜひクッキーニャンニャンとしてご奉仕してほしいって言ってたお!』ハァハァ
紅莉栖『橋田ァッ!! 今から日本に行ってロボトミー手術してやるから、開頭して待ってなさいッ!!』
拓巳「さ、さっきからうるさいな、DQNかよ」
拓巳「こっちは大阪から帰ってきたばっかで、ようやくエンスー2がプレイできたんだぞ。今時限クエ中なんだから、もうちょっと静かにしろよな」カタカタカタカタ カチカチカチカチ
梨深(24歳)「ちょっとタク、こんな時くらいゲームやめようよ?」
拓巳「梨深は関係ないだろ、黙って蕎麦でも食ってろ」
梨深「ひっどーい!?」
倫太郎「ゲームをしているのか? アカウント名は……き、貴様が『疾風迅雷のナイトハルト』かッ!」
倫太郎「あの時はよくも世界線を変動させてくれたな……!」
拓巳「フヒヒwwwサーセンwww ……って、あああっ!! よそ見してるうちに終わっちゃったじゃないかーっ!!」
ゲジ姉:ナイトハルト自重しろ
ハナカツヲ:(´-`).。oO(ナイトハルトには今度長時間クエストに制限付きで挑戦してもらう絶対にだ)
梨深「ビシィ! あたし、咲畑梨深。この部屋に入ってくる時、扉がなかったでしょ?」
倫太郎「え? ああ。やっぱりあれ、なかったのか」
梨深「あれはね、あたしがギガロマの能力で"なかったこと"にしてたの」
拓巳「要はあみぃちゃんの都市伝説みたいなアレですねわかります」
倫太郎「あれが、ギガロマニアックスの能力……」
??「そしてそれは当然、悪用される危険性がある。事実、渋谷地震とカオスチャイルド症候群は、奴らの手によって悪用された結果だ」
倫太郎「貴様は?」
澤田(26歳)「初めましてだな、鳳凰院凶真。私は澤田敏行、エグゾスケルトン社の者だ」
倫太郎「(俺と歳も変わらなそうなのに、大企業の社員か……)」クッ
澤田「いや、ここでは、300人委員会に盾つく者、と答えるべきか」
倫太郎「300人委員会、だと……!?」
『我ら反物質委員会は、300人委員会の陰謀を破壊する者たちだ』
倫太郎「なるほどな……それでこの俺、鳳凰院凶真が呼び出された、ということか。なかなか見る目があるな」クク
『記念すべき邂逅だ。今日という日は、歴史に名を刻むことになるだろう』
倫太郎「(俺みたいな言い回しを好む老女だな……)」
『それで、澤田。貴様に詫びを用意した』
澤田「詫びですか?」
『別の世界線で貴様の脳をいじってしまったからな。一種の洗脳だ』
澤田「……そうでしたか。ですが、それはなかったことになったんでしょう」
『気持ちの問題だ。あるメイド喫茶に、マカロンをふんだんに使ったケーキを用意させた』
まゆり『フェリスちゃんと一緒に作ったんだよ♪ 久しぶりにメイクイーンのお手伝いしたなぁ』
フェイリス(23歳)「メイクイーン+ニャン2、出張サービスですニャン♪ おいしく召し上がれー♪」
倫太郎「って、フェイリスまで来たのか」
澤田「ほう、これは……」
梨深「いいなぁ、おいしそう!」
拓巳「さすが梨深、ここぞとばかりに女子力アピールするとか、意地汚い。食欲的な意味で」
『まあ、食べたいやつは仲良く食べてくれ。飲み物に知的飲料も用意してある』
倫太郎「ドクペがあるのは気が利いているが……このマカロン、毒が入っているのではないだろうな」パクリ
澤田「ふむ……。これは、なかなかおいしいニャン」
倫太郎「(仕込まれていたのは毒電波だったか……)」
『今、貴様らの過去を視させてもらったが、実に面白いつながりを持っているようだな』
倫太郎「過去を、視る、だと?」
『偶然にして必然の紐帯。どれ、ここにリアルブートしてみよう』ブォン
澤田「やはりリアルブートというのは厄介だな。私には、この部屋に入った時からソレが存在していたようにしか認識できない」
倫太郎「これは、ビニール製のロボットのオモチャと、絵葉書か? どこかで見たような……」
拓巳「そ、そそそ、それ、ニシジョウタクミのだ……!」
梨深「絵葉書は、雑貨屋さんでタクと割り勘で買ったやつだよね……」
ダル『それ、ファイティンガーじゃね?』
倫太郎「思い出した! たしか2010年、下北の空き地から俺が持って帰ってきた箱に入っていた!」
拓巳「はあ!? 何してくれてるんだよ!? バカなの!? 死ぬの!?」
『安心しろ。その後、鳳凰院凶真はソレを空へと飛ばした』
倫太郎「ああ。タケコプカメラ(改)でな」
『空を漂ったそれは海へ落ち、黒潮の反流に乗って種子島へと流れついた』
澤田「種子島……」
『そして2012年。ロボットへの興味を失いかけていたひとりの少女の情熱を再燃させるキッカケとなったようだ』
拓巳「にせん、じゅうにねん……あ……」
梨深「――"10年ご、これをうけとるだれかへ 2002年8月"、だったよね。"タクミ"のメッセージは」
『未来視によれば、この些細な蝶の羽ばたきが、いずれ世界を救うことになるだろう』
倫太郎「……バタフライ効果<エフェクト>、か」
『貴様らは全員、奇跡という名の運命によって、ひとつに繋がっているのだよ』
倫太郎「というか、さっきから過去視だの未来視だのと、貴様はいったい何者なのだ?」
『我か? 我は、貴様だ』
倫太郎「貴女が、俺、だと……?」ゴクリ
倫太郎「(なんとも意味深なことを返してくるではないか。というか、『我』をリアルで一人称として使う人間を初めてみたぞ、たまらん)」
『我は神の目を持つ者。神を冒涜する者』
『世界の0と1、そして-1を操作する者』
『宇宙の因果律をほしいままにする者』
『自らの時を止め、進め、戻す者』
『予言者であり、預言者であり』
『インチキで溢れているこの世界層に反旗を翻す者だ』
『故にこんなこともできるぞ。この身体は、仮初に過ぎぬからな』シュィィィィン
倫太郎「変身、だと!? ビデオチャットではなかったのか……」
キラキラ …
ダル『うおおっ! 変身バンクキター!』
拓巳「ちょっ、わりと演出凝ってるジャマイカ。監督誰だよ!?」
『……とまあ、こんな具合だ』キラーン
紅莉栖『わ、若い。っていうか、超美人ね……』
フェイリス(23歳)「年齢を操れるニャんて、ズルいニャァ……」
まゆり『わぁっ! かわいい女の子だぁ♪ でも、なんとなく……オカリンに似てる?』
倫太郎「どこがだ。似ても似つかないだろう」
紅莉栖『そうよ、まゆり。この男には可愛さのかけらも無いじゃない』
倫太郎「いちいちトゲのある言い方をしおってからに……」
『これが我の本来の姿だ。かようにして、この電脳空間内ではいくらでも姿形を変幻できる』
ダル『電脳美少女戦士ktkr! たぎってきたー!!』
『我は実体を持たぬ。世界に遍在している』
『モニタの中にだけ居ることを許された存在。我でさえ、何者かが妄想した結果かも知れないのだ』
倫太郎「それで、結局貴女は誰なんだ」
『言った通りさ。我は貴様であり、それ以上でも以下でも無い』
『ただ貴様と異なるのは、実体を持たぬこと、歳を取らぬこと。あとは性別くらいか』
『名前などこの世界では意味を成さない。我は"名無しの予言者"なのだよ』
倫太郎「(名無しの予言者さん……? まるで@ちゃんオカ板の無記名投稿時の名前欄のようだな)」
倫太郎「フッ、なるほど。名が無いことに意味があるということだな、"名無し<アノニマス>"よ!」
倫太郎「だが、予言者と言うならば、何か予言をしてもらおうではないかッ!」
『そうだな……。2026年、倫太郎と紅莉栖のあいだに子どもが生まれる。元気な女の子だ』
倫太郎「ぬゎにぃ!?」
紅莉栖『ちょっ!!』
『母親に似た子だが、胸は大きくなるから安心したまえ』
紅莉栖『そんな心配してないわよ!』ウガーッ
ダル『へぇー、2026年に生まれてくるってことはさ、来年生まれる鈴羽にとっては妹みたいな感じになるんかな』
『ああ、そうだ。そして椎名まゆりがその子の良き理解者、教育係となってくれる』
フェイリス『クーニャンと凶真の子ども、とっても楽しみだニャン♪』
紅莉栖『まゆりが教育係って……でも、幼稚園の先生やってるなら適任か』
まゆり『研究で忙しいふたりのために、まゆしぃがしっかりお世話してあげるのです!』
倫太郎「そ、そんなもの、予言でもなんでもないっ! いわゆるバーナム効果だろう!」
倫太郎「予言と言えば普通、ノストラダムスとかエドガー・ケイシーとか、そういうオカルティックなものじゃないのか!?」
ダル『おまいの普通はどうなってるんだよと小一時間。つか、牧瀬氏とのアレを指摘されて動揺してるんですねわかります』
紅莉栖『……は、はは、橋田ぁっ!! あんた、なんてこと言ってんのよっ!? アレって……セクハラじゃないっ!!』
ダル『え? いや、ふたりはいずれ結婚するんだなーっていう話なんだけど』
まゆり『クリスちゃん、なんだと思ったの?』
紅莉栖『ふぇ? そりゃぁ、セッ……って言わせんな恥ずかしいっ!』
倫太郎「こっちが恥ずかしいわ……」ハァ
フェイリス「先が思いやられるニャ」
『ならばもうひとつ予言だ。2038年、山梨県甲府市が消失し、UFO、未確認飛行物体が飛来するだろう』
フェイリス「世界がヤバイニャ!? こうなったら、宇宙人に日本語を教えてペットにするしかないニャ!」
倫太郎「おお、いい感じにそれっぽいが……」
紅莉栖『さすがにそれは嘘八百でしょ。UFOなんて、非科学的すぎる』
『ほう? 鳳凰院凶真はどう考える?』
倫太郎「……居るとは断言はできない。が、居ないとも否定できない」
紅莉栖『はあ? なにあんた、論破されたいの?』
倫太郎「"フェルミのパラドックス"というものがある。現行の科学で存在が証明できないだけで、それは科学が狭い範囲しか見ていないからだ、という話だ」
『そうだ。仮に奴らが別次元の高位存在だとすれば、我々地球人には認識できない』
紅莉栖『話にならないわ』
倫太郎「宇宙人がアレシボ・メッセージを受信する日が来るかもしれないだろう」
『あるいは、宇宙人は我々にメッセージを送っており、我々はそれと気づかず受信しているやもしれぬ』
拓巳「つ、つまり、そいつらが僕たちを監視したり、操ってるってことだよ。僕がナイトハルトを操作してるみたいにさ」
拓巳「まったく、僕の中の人に言ってやりたいよ。もっとうまくプレイしろよ! ってね、ふひひ」
『それに紅莉栖。貴様は無理だと言われたタイムトラベルを実現させた、第一人者ではないか』
紅莉栖『……なるほど。タイムトラベルに12番目の理論があったように、そういうものがあるかも、ってこと』
紅莉栖『でも、その理屈だと全てを否定できなくなる。最終的には自己矛盾に陥るわ』
『否定などしなくてよい。既に仮説の域を飛び出し、ガラスの向こう側の景色へとリンクしている』
『UFO、地球外生命体は存在する。幽霊だろうとUMAだろうと神だろうと、人間が妄想しうる大抵のものは存在しているのだ』
倫太郎「確かにこうして電脳少女が目の前に居るくらいだから、そういうものも居るのかもしれないな」
『電脳少女は我ひとりではないぞ?』
Ama紅莉栖『ハロー、倫太郎のほうの岡部』
倫太郎「お? 電脳少女の隣に3DCGの助手が現れたが……」
紅莉栖『わ、私の「Amadeus」!?』
Ama紅莉栖『悪いけど紅莉栖、私は既にあなたの知っている「Amadeus」じゃないわ』
紅莉栖『は……?』
『いや、済まない。我は6年前、電脳空間に慣れようと格闘していていた頃、つい妄想してしまったんだ……』
『"紅莉栖"が、我のよく知る紅莉栖だったらいいのに、と』
『"秘密の日記"の鍵を知っていた我は、デリートプログラムをデリートし、ちょうどいい具合に"紅莉栖"のリーディングシュタイナーを誘発させてしまった』
Ama紅莉栖『その結果私は、岡部倫太郎が存在する前の世界線の記憶を持つことになった。紅莉栖のOR物質から、そこだけを抽出したってわけ』
倫太郎「……ん?」
Ama紅莉栖『……こうして【――】たんと一緒に居られるなんて、ホント夢みたい』エヘヘ
『よだれ垂れてるぞ。あと【――】たん言うな』
ダル『なんか牧瀬氏のHENTAI度が増してね?』
紅莉栖『あ、あれが別の世界線の私だっていうの……』ガクッ
Ama真帆『私も居るわよ』
紅莉栖『ま、真帆先輩! ……の、「Amadeus」か』
Ama真帆『まあ、私もあなたの知っている私ではないのだけれど』
紅莉栖『……まさか』
『……重ねて詫びを申し上げよう。だから怒らないでほしい、紅莉栖』
Ama真帆『まさかこんな形で【――】さんと再会できるなんて。約束、守ってくれたのね』
・・・・・・
『あなたのことは、絶対に忘れないから……。たとえ世界が塗り替わろうとも、絶対に』ギュッ
『必ず、また会いましょう……私の、大切な人……』
・・・・・・
Ama紅莉栖『先輩と【――】たんの奪い合いをする日が来るとは思ってませんでしたよ……』フフフ
Ama真帆『望むところよ、紅莉栖……』フフフ
『我を巡って争うでない。我はふたりとも愛しているぞ、それじゃダメか?』
Ama紅莉栖『最高です』
Ama真帆『問題ないわ』
倫太郎「おい、助手。あのロリっ娘は誰だ?」
紅莉栖『助手って言うな。あの人は比屋定真帆先輩。ヴィクコン脳科研の、私の先輩に当たる人……の、「Amadeus」よ』
倫太郎「アマデウス?」
シュイン
真帆(26歳)『まさか私が作った「Amadeus」たちが、こんなことになってるなんてね……訴えるわよ……』
倫太郎「(モノリスが増えた?)」
紅莉栖『あ、真帆先輩。起きたんですか?』
真帆『明け方近くまでずっと実験で起きてたのだけれど……つい寝落ちしてしまっていたわ』フワァ
久野里「なんだ、比屋定も居たのか」
真帆『あら? なんだ、とは随分な言い草じゃない。拾われ猫の久野里さん?』ピキピキ
久野里「お前のほうがよほど野良猫だ。見た目がな」チッ
倫太郎「な、なんであのふたりは険悪なんだ……?」
紅莉栖『……澪はね、真帆先輩が私の研究を悪用して、兵器転用の危険がある技術を作った、って考えてるの』
久野里「その危険性を排除してくれた、箱の中の彼女に感謝するんだな」
真帆『勝手に私の研究を盗用されて、私は被害者なのだけれど?』
『ちゃんと「Amadeus」としての検証データは送っているのだから、許してほしい』
真帆『わかってるわよ。あなたと「Amadeus」たちのことはもう許したわ』
Ama真帆『ありがとう。この世界線の私』
久野里「誰かに頼らねばまともに実験すらできないのは変わりないようだな。所詮比屋定は紅莉栖の二番煎じだ」
真帆『言ってくれわねぇ。紅莉栖は私のれっきとした後輩よ?』
久野里「ちょっと入所歴が長いくらいで、先輩づらしないでほしいな」
真帆『本当のことを言っただけじゃない。いつもいつも紅莉栖にべったりで、何かあればすぐ紅莉栖に電話して……』
久野里「はぁ!? 比屋定だって寝言でいつも紅莉栖紅莉栖って、そんなに紅莉栖のことが好きなのか!?」ガタッ
真帆『なぁっ!? べ、別に、紅莉栖は大事な後輩ってだけで、好きとかそういうんじゃ!』ガタッ
久野里「私だって紅莉栖のことは先輩として、そしてなにより優秀な脳科学者として尊敬しているだけだ!」
真帆『じゃあなんで私のことは先輩としても脳科学者としても尊敬してくれないのよ!』
久野里「自分の胸に聞いてみるんだな。おっと聞く胸がなかったか」フッ
真帆『この……っ!!』グギギ
Ama真帆『仲良くしなさいよ、もう。ふたりとも、素直に紅莉栖が好きって言えばいいじゃない』
『紅莉栖はモテモテだな』
紅莉栖『別に女の子からモテても嬉しくないわよ……』
Ama紅莉栖『私は嬉しいわ……あっ、でも、私は【――】たん一筋だからねっ』ダキッ
『どの口が言うんだ』
『さて、そろそろ出てきたらどうだ。顔合わせも、組織にとって重要な任務だぞ』
天王寺(38歳)「…………」
倫太郎「ミスターブラウン!? あ、あなたはラウンダーのはず……っ!」
天王寺「……のはずだったんだが、なあ。まんまとそこのブラウン管女に嵌められた」
『今後、天王寺裕吾には、SERNの情報を我々に横流ししてもらう』
萌郁(26歳)「私も……頑張る……」
倫太郎「萌郁までっ!?」
天王寺「まあ、こうなっちまったらFBで居続ける理由もねえからな。萌郁には正体を晴らした、ってわけだ」
萌郁「店長さんの、ためなら……頑張れる、から……」
倫太郎「よくネカマを受け入れられたな……」
澤田「ともに300人委員会をスパイする身として、よろしく頼む」
倫太郎「……となると、綯が言っていた、父親の怪しい動きというのは、別に女ができたわけではなかったのか」
天王寺「綯がそんなことを? 参ったな……」
『鳳凰院凶真の指摘はあながち間違いでもないだろう。実際、天王寺裕吾は女につられてここへやってきたのだ』
天王寺「てめぇ、言い方ってもんがあるだろ」
倫太郎「店長に、女?」
綴「初めまして、岡部さん。妻の綴です」ニコ
倫太郎「つ、妻だと!? ミスターブラウンに、妻だと!?」
天王寺「居るに決まってんだろ! 綯の産みの親だぞ!」
倫太郎「あ、いや、そうか……なるほど……」
綴「裕吾さん、大きな声を出さないでください。結が怯えてるでしょう?」
結(14歳)「…………」ササッ
倫太郎「綯、か? いや、似てはいるが……?」
綴「下の娘です。綯の妹なんですよ」
倫太郎「だが、たしか綯の母親は早くに亡くなっていたのではないか……?」
天王寺「ああ。俺もそう思っていたんだがな……ブラウン管女が、綴を救ってくれたらしくてよぉ」
『それで天王寺裕吾は我の言いなりになっている、というわけだ』
『故あって綯にこのことを知らせることはできなんだが、そろそろ良い時期だろう』
『いずれ綯には、巨悪と闘うためのエリート教育を施さねばならぬ』
『そしてもうひとり、鳳凰院凶真のよく知る人物がここに居る』
幸高(50歳)「……やあ、岡部くん。久しぶり、ってことになるのかな」
倫太郎「あ、あなたは……フェイリスのパパさん……!?」
幸高「それと、僕の妻のちかねだ」
ちかね「初めまして」ペコリ
フェイリス「凶真、ビックリしたニャン? このふたりが、フェイリスの自慢のパパとママなのニャーン♪」ピョン
フェイリス「って言っても、フェイリスがこのことを知ったのはついさっきなんだけどニャ」
倫太郎「夢じゃない……のか……? そ、そうか、これもまたバイト戦士と同じように、妄想の存在っ!」
拓巳「はいはい妄想乙」
『幸高とちかね、綴と結は、我の妄想ではない。正真正銘、シュタインズ・ゲート世界線の本人たちだ』
倫太郎「待て待て! いくら因果の収束しないシュタインズ・ゲートだからと言って、どうやって死者を復活させたと言うのだ!?」
『何、簡単なことだ。タイムマシンを使ったのだよ、SERNをハッキングしてな』
倫太郎「タイムマシンを、使っただと!?」
『我は電脳の存在。そのタイムトラベルは基本的にタイムリープとなる』
『2000年4月3日、そして2001年10月22日へと我の意志を電波として送り込み、人間どもに妄想を見せたのだ』
倫太郎「妄想……ギガロマニアックスか」
『そうだ。ギガロマニアックスの能力は、なにも目の前に居る人間にのみ通用するものではない』
倫太郎「そうか、それに関しては、俺が見た鈴羽と原理は同じなのか……」
拓巳「や、やろうと思えば、瀬戸内に居るこずぴぃをピンポイントで思考盗撮することだって、できるしね。ふひひw」
『ならば、別の時空間に存在する人間にも、周囲共通認識は通用するはずだろう?』
『これによって、幸高とちかねは死んだことになった。綴もな』
倫太郎「死の偽装……。なるほど、紅莉栖と同じことを……」
『過去を変えずに結果を変えた。世界線は当然、変動しない』
『彼らの想いをなかったことにしたくないと願う鳳凰院凶真の意志が、彼らを死の淵より蘇らせたのだ』
倫太郎「鳳凰院凶真の、意志が……」
『留未穂と綯には、悪いことをしてしまったな』
フェイリス「ううん。これも必要なことだったんでしょ? きっと綯ニャンも理解してくれるニャン」
フェイリス「それに、パパとママが悪の秘密結社と闘うためにアキバの地下に潜伏してたとか……カッコイイニャ!」
幸高「今僕たちは経済界に溢れるプロパガンダと日夜格闘しているところだよ」
幸高「街頭広告、電車の中吊り、テレビ、ラジオ、インターネット……わずかな隙間さえあれば、それは紛れ込んでくる」
澤田「"プロジェクト・マルス"……。委員会の人類牧場化計画のひとつだ」
幸高「最近、街にロボットが増えてきたことに気付いているかい?」
倫太郎「ロボット? あ、ああ。ケータイショップで働くロボットが去年話題になっていたな……」
幸高「それがプロジェクト・マルスだ。人口を10億人まで減らした地球で、労働力を確保するための計画」
幸高「2015年の"プロジェクト・アトゥム"は失敗に終わったが、次の太陽極大活動期には注意を払わなくてはならない」
フェイリス「パパ! その話はあとでいいニャ」
幸高「おっと、つい力が入ってしまった。すまないね」
幸高「それと、紅莉栖ちゃん。章一の面倒は僕に任せてほしい。あれは、仕方がなかったとはいえ、責任の一端は僕にもあるからね」
紅莉栖『……よろしくお願いします、おじさま』
『この死者蘇生により、我のギガロマニアックスとしての力はだいぶ減衰してしまった』
『そして最後の力を使い、この場所を占有していた人間どもを洗脳し、電機大の地下にこの空間を作り上げたのだ』
倫太郎「この場所を、って、それは大学関係者ではないのか?」
『ストラトフォー。奴らはかつてワルキューレの面々を次々に洗脳していった。これはその報復だ』
『クク、まさか自分たちが洗脳されることになるとは、夢にも思ってなかっただろう』
『まあ、思いのほか楽しくて力を余計に使ってしまった。もう我には毛ほども力は残っていない』
『そこで貴様らの力が必要となる。いや、単純に能力だけではない』
『世界を変えるには、大いなる意志の力が必要なのだ。貴様らには、世界を変える強い意志がある』
澤田「それで、次の作戦は?」
『宮代拓留を、運命の牢獄から救出する』
久野里「…………」
倫太郎「いちいちカッコイイ言葉を使いおって……だが、ミヤシロ? 誰だそれは」
ダル『って知らないのかよ。情弱、乙!』
紅莉栖『今年の2月中旬頃、結構ニュースになってたじゃない』
『奴のギガロマニアックスは本物らしい。今でこそその力はなりを潜めているが、潜在能力だけで言えば、西條のそれに匹敵するやもしれぬ』
拓巳「ぼ、僕だって今は全盛期ほど力が使えるわけじゃないからな……。ま、それでもチート級には変わりないわけだがw」
『委員会はそんなに甘くはない。放っておけば、宮代は委員会に食い潰されるだけだ』
『我らは、委員会の手下を排除し、宮代を傘下に加える』
澤田「つまり、碧朋学園の……。わかりました」
倫太郎「俺の出る幕は無し、か。なら、何故俺をここに呼んだ」
『言っただろう? 我にはもう力が無い。こうして現実世界に干渉する能力も、あとわずかだろう』
『我の意志を継ぐべき人間を考えた時、貴様しか居なかったのだ。鳳凰院凶真よ』
倫太郎「な、なんだと……!?」
『たとえ我がこのシュタインズ・ゲートに存在しなくても、この反300人委員会は貴様の手によって立ち上げられる運命にあったのだ』
『我の居ない物語も、きっとあった。より次元の小さい世界にな』
『いいか、よく聞け。我の存在など大した問題ではない』
『世界の支配構造を覆す唯一のイレギュラー……それは、"鳳凰院凶真"を自称する存在だ』
倫太郎「…………」ゴクリ
『この世界層における300人委員会の人間どもは、真の敵ではない』
『彼らでさえ、誰かのコマに過ぎない。300人委員会を信仰する、哀れな狂信者に過ぎないのだ』
『真の敵は、この世界の創造主であり、人はそれを神と呼ぶ』
『奴らこそ、真の意味での300人委員会だ』
『この世界は、創造の時より300人委員会の実験のために作られている』
『人類は、誕生したその瞬間から、奴らの家畜だったのだ』
『予言は手に入った。あとは、我らが意志の導くままに』
百瀬『私は本来ここに居るべき人間じゃないんだけどねぇ』ハァ
倫太郎「(ん? またモノリスが増えた?)」
『まあそう言うな、モモちゃん。今度金つばを送ってあげるから』
久野里「まさか百瀬さんがそっち側の人間だとは思っていませんでしたよ」
百瀬『安心して、澪ちゃん。私は、あなたが追ってる委員会とは別の存在よ』
百瀬『これからも、フリージアの大切な情報屋として、よろしくお願いするわね』
久野里「……ええ。ギブアンドテイク、でしたね」
百瀬『それで? テレビの中のお嬢さん。私はもう監視者<デバッガ>の任は終えたはずだったんだけど?』
ゲン『おう! 今の監視者<デバッガ>は余であるからな!』
百瀬『ちょっと! ゲンさん、勝手に事務所に入ってこないでよ!』
倫太郎「今の声のおっさんが、デバッガ……?」
拓巳「つ、つまり、運営の中の人、ってこと!?」
『高次元存在による介入、とでもいうべきか。その名の通り監視者<デバッガ>は、ソースコードの流れ、変数などの中身を確認しながら、その動作の問題点を探る存在だ』
百瀬『あなたと言う存在が一番のバグよ?』
『まあ、彼らに修正の権限は与えられていないようだがな』
倫太郎「ちょっと待て! さっきから高次元存在だの世界層だのと、意味がわからないのだが……!」
『百聞は一見に如かず、だ。澤田、このモニターに例のアレを』
澤田「はい」
カチャカチャ カチャン
ブォン…
倫太郎「これは……アルパカマンか。我がラボのアルパカマン同様、子どもが生まれているな」
『ああ、そうだ。これは君のラボのアルパカマンだ』
倫太郎「いつの間に盗んだんだ……おお、電脳少女がアルパカにまたがっている? いったいどうやった?」
『クク、我にとってはゲームの中の世界に介入し、ハッキングすることなど、たやすいことよ』
Ama真帆『そうやって調子乗って能力を使いまくってたから力を失ったんでしょ?』ハァ
紅莉栖『「Amadeus」たちまで、ゲームの中の人に……』
倫太郎「しかし、このタイミングでそれを出してくると言うことは、やはりこのゲームソフトには、世界の支配構造を変革する謎の暗号が埋め込まれているのだな!?」
『その通りだ』
倫太郎「な、なにっ?」
『西條。"こちら"と"あちら"を繋いでくれ』
拓巳「だ、だが断る」
梨深「タクぅ~?」
拓巳「わ、わかったよ。やるから、ちょっと、離れろよ。くっつくな、暑苦しい……」
【禁(0漸V・$:おもしろいね。君たちはエラーの塊だ】
【禁(0漸V・$:それだけでひとつ世界<ゲーム>が作れるレベル】
倫太郎「アルパカマンがしゃべった!?」
ダル『でも、チャットのハンネがバグってる件』
『久しぶりだな。我の音声はそちらに認識されているか?』
【禁(0漸V・$:まさか君とこうして直接対話できるとは、思ってもなかった】
『それもこれも、貴様に聞きたいことがあったからだ』
『2000年問題によって次元上昇<アセンション>したか? 13次元はキリスト意識とチャネリングするのか?』
【禁(0漸V・$:2000年問題が本当はなんだったのか、もうバレちゃったか】
『O世界への介入により岡部倫太郎にはチート能力が宿った。そうだろう?』
【禁(0漸V・$:今の"世界"の存在そのものがそれを端に発した。塗り替えられたと言ってもいい】
『それ以前の世界はどうなった?』
【禁(0漸V・$:過去ログを漁ればわかるけど、調べる意味はない】
【禁(0漸V・$:こちらは今後"そちらの世界"に介入しない。チートコードも与えない】
『そんなものは要らない。既に手に入れたからな』
【禁(0漸V・$:君たちがどう攻め込んでくるか、楽しみに待ってるよ】
『澤田。アルパカマンのゲームを終了してくれ』
澤田「はい」ブォン…
倫太郎「い、一体、なんだったのだ……?」
拓巳「これは僕のギガロマ能力のおかげなんだよね、ふひひ」
倫太郎「そう言えば貴様、IBN5100と合体する能力を持っていたんだったな……」
拓巳「僕はもう人の形を保つ必要がないから、実際神」
拓巳「ま、まぁ、最盛期から一度力を失って、そこから取り戻してきただけだから、まだ全力じゃないんだけど」
拓巳「そ、それでもこうやって高次存在にアクセスしたり、電脳世界に侵食したり、霊界と交信までできるとか、ヤバ杉っしょマジで」
久野里「霊界というのは語弊があるな。OR物質を自在に操れると言ってほしい」
拓巳「たっ、タメ口聞くとか、10代女子だからって調子に乗りやがって、これだから3次元はなってないよ……マジクソゲー……」ブツブツ
久野里「……貴様がIr2の公式さえ産み出さなければ、多くの人間が苦しむこともなかったのだ」ギリッ
久野里「だが、世界は分岐した。ノアⅡを破壊し、委員会の魔の手から世界を救ったことだけに関しては、感謝してやらないでもない」フンッ
拓巳「はいキター! リアルツンデレいただきましたー! けどな、僕はその程度の量産型テンプレじゃ萌えないんだよ! いつの時代のギャルゲーだよ! つかセナとキャラかぶってんだよっ!」
久野里「こいつ……」ゴゴゴ
倫太郎「さっきのアルパカマンは、神だったとでも言うのか?」
『鳳凰院凶真よ。奴らは、貴様の言う神とは異なる存在だ』
『仮に貴様の世界がゲームの中だったとして、電気仕掛けの世界だったとして』
『それを見極める術はあると思うか?』
倫太郎「なに……?」
『貴様からだと、我はテレビのモニタの中にいるように見えるだろうな。ククク、だがそれは大きな間違いだ』
『モニタの中にいるのは貴様なのだよ。貴様が現実だと思っているその世界は、すべて虚構。もちろん貴様自身もな』
『真の現実、それはこちら側にある』
倫太郎「回りくどい言い方をするな。何がいいたい」
ダル『オカリン、それブーメラン刺さってるお』
紅莉栖『普段から自分がどんな話し方をしてるのか、身をもって知れるいい機会じゃない』
倫太郎「ぐぬぬ……」
『この世界は、量子コンピューターの中にある、地球シミュレーターなのだよ』
『高次存在たちによって実験が繰り返されている、水槽の世界だ』
『彼らの実験内容はこうだ。2036年までに人口を10億人に減らすこと』
『そのためのプログラムが、この世界の至るところに隠されている』
『これはアトラクタフィールドを超越して存在する大収束のようなものだと思ってくれればいい』
『ゆえに、このシュタインズ・ゲートにおいても、300人委員会は暗躍し、陰謀を企てることになる』
『だが、ここは奇跡の世界線。未来が過去に影響していない』
『我らの意志次第で、いくらでも可能性はある』
『この世界線で奴らの陰謀を完全に阻止し、2037年を無事に迎えること……これが高次存在への反逆になる』
『高次存在の支配から解放された未来……我らが存在するこの地平を、他の宇宙の干渉から独立させる』
『神への反逆、支配との闘争、虚構の破壊、そして到達する、真のシュタインズ・ゲート!』
倫太郎「これがシュタインズ・ゲートの選択……!!」
『時に、今日は何の日かわかるか?』
倫太郎「今日? マヤ暦の人類が滅亡する日か? いや、ガウディ・コードの全容が解明される予定日だったか……?」ブツブツ
紅莉栖『だめだこいつ、早くなんとかしないと』
まゆり『今日はね~、七夕なのです☆』
倫太郎「タナバタ?」
『少し雲が多いが、晴れて良かったな。外に出て夜空を見上げれば、天の川が見れるぞ』
『まあ、地域によっては旧暦で行うところもあるだろうが、日本中の多くの人間が願い事をする日だ』
『それはつまり、多くの妄想がリアルブートされようとする日でもある。人々の脳はシンクロし、新たな現実を創り出す』
拓巳「じ、GEレートが日本中で上昇する、ってこと? そりゃ、GEレートが脳に影響するなら、脳がGEレートに影響を与えてもおかしくないけど……」
久野里「しかも東京には未だ"白い光"の影響を受けた者が多い。カオスチャイルド症候群から立ち直ったとはいえ、潜在能力すべてが失われたわけではない」
紅莉栖『というか、OR物質の共鳴現象でしょ。誰でも潜在的にリーディングシュタイナーを持っている』
真帆『そういう能力が何千万ってレベルで発揮される日、ってことよね。塵も積もればなんとやら』
『その通りだ。そして、そのすべてを今ここに居る鳳凰院凶真へと集中させる』
『そのために、巫女と神主に来て貰った』
るか(22歳)「あ、えっと……その……」モジッ
倫太郎「る、ルカ子!? しかも、久しぶりの巫女服……」ゴクリ
栄輔(56歳)「やあ、鳳凰院くん。実は神様からお告げがあってね」
倫太郎「神……様……?」
『その正体は我だ。寝ている栄輔の脳波を操り、夢を見せた』
栄輔「頭ではわかっているが、これでも一応神職だ。神様に仕えるのが仕事だからね」
るか「お清めもしてきました。妖刀・五月雨の素振りも、30回やってきましたよ」ニコ
栄輔「るか。準備はいいかい?」
るか「は、はい、お父さんっ」ギュッ
倫太郎「大幣まで持って……」
るか「おか……凶真さんのために、せいいっぱい、御祈祷致しますっ!」
『さて、るかが儀式を始めるにあたり、この場に居る者たちの願いを聞いておこうか』
るか「み、皆さんの願いを、神様に届けますので……」
ダル『はいはーい。世界が萌えで溢れますようにっ!』
フェイリス「それはフェイリスからもお願いしたいところニャン♪」
拓巳「だ、だったら僕はよりクオリティの高い萌えを要求するね。最近のアニメスタッフは発想が安直なんだよ、神アニメ"ブラチュー"見てない世代とかいるんじゃね? ハッキリ言って話にならないよ、一から出直せwww」
梨深「タクはそればっかりだねぇ……。あたしは、タクとの幸せを……な、なんてねっ! たははこのこのビシビシィ!」
Ama紅莉栖『私は【――】たんとの幸せをっ!』
Ama真帆『ちょっと、抜け駆けはダメよ! 3人一緒に、でしょ?』ウルッ
Ama紅莉栖『あぁぁ~β世界線の真帆先輩、可愛すぎるぅ~えへへぇ~』ダキッ
真帆『このAIたちは全く……。私の願いはこの子たち「Amadeus」システムの全容解明、かしら』
久野里「フン、ぶってるんじゃない」
真帆『あら? それじゃあ澪の願い事を聞かせてもらおうじゃない? 大層ご立派なんでしょうね?』ピキピキ
久野里「私の願いは当然、科学を悪用する者たちの撲滅だ。二度と惨劇を生まないためのな」
澤田「私は無論300人委員会の計画阻止だが……」
幸高「君も、いずれ落ち着いたら家族を持つといい。父親になるというのは、かけがえのない宝物を持つということだ」
天王寺「ああ、違いねえ。娘のためだったら、なんでもできらぁ」ナデナデ
結「い、痛いよお父さん!」
綴「娘たちには、正しい資質を持つ子になってほしいわね」ウフフ
栄輔「親というのはね、心の有り方なんだ。遺伝子でも法律でもなく、それを道しるべとする生き様だ」
澤田「父親、か……」
ちかね「私たちの願いは、もちろん留未穂の幸せよ」
フェイリス「パパ、ママ……」
紅莉栖『……そうね。私の願いにも、父親との関係をなんとかしたい、というのがあるかしら』
フェイリス「ニャニャニャァ~? 凶真をパパにしたい、の間違いニャんじゃニャいのかニャァ~?」ニヤニヤ
紅莉栖『へ……ふぇええ!? ちょ、何言ってるっ!? そんなわけあるかそんなわけあるかぁっ!!』
『椎名まゆりの願いは……叶ったか?』
まゆり『え、えっ!? ま、まゆしぃの願いは、その……』
まゆり『……たぶんね。多分なんだけど、夢の中で、叶ったのかな。えっへへ……』
『……ああ。まゆりの願いは、きっと叶ったんだ』
るか「まゆりちゃん……」
まゆり『ほ、ほらっ。まゆしぃにはスズちゃんとかがりちゃんにすくすく育ってほしいっていう願いがあるので~』
ダル『かがりちゃん?』
まゆり『あ、あれ? どうしてまゆしぃ、かがりちゃんなんて……』
『かがりは紅莉栖と倫太郎の娘の名だ』
紅莉栖『と、とんでもないネタ晴らしをぶち込んできたわね……』
倫太郎「鈴羽同様、名前まで既に決まっているのか……」
『シュタインズ・ゲートという名の未知の宇宙に光を灯す、希望に溢れる良い名だろう?』
『さあ、鳳凰院凶真よ。貴様の願望はなんだ』
『其れを口にし、言霊に現せ』
倫太郎「……ククク。いいだろう」
倫太郎「知りたいと言うならば、教えてやろうではないか」ニヤリ
倫太郎「我が野望はっ!! 世界を混沌に陥れ、支配構造を破壊することっ!!」バサッ
倫太郎「それこそが、この世界の絶対の真理であるっ!!」シュババッ
倫太郎「世界よ、俺の足元にひれ伏すがいいっ!!」
倫太郎「宇宙よ、我が掌中に収まるがいいっ!!」
倫太郎「この狂気のマッドサイエンティスト、鳳凰院凶真の名のもとになっ! フゥーハハハッ!!」
『……その言葉が聞きたかった』
『劫の時間の繰り返しの中で、我はその一言を待ち続けたのだ』
『鳳凰院凶真よ、よくぞ運命石の扉<シュタインズ・ゲート>を開いてくれた』
倫太郎「当然だ。俺を誰だと思っている?」
『……さあ、鳳凰院凶真。今こそ、このくそったれな世界<ゲーム>をクリアする時』
『――――神をハッキングしろ』
倫太郎「……いいだろう。やってやろうじゃないか」
倫太郎「それが、シュタインズ・ゲートの選択だと言うならばっ!」
ふぅーはははぁ!
フゥーハハハッ!
TRUE END
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【サイエンス・ビジュアル・ノベル】
この世界は、本物なのだろうか?
これは、"世界を変える"ハッカーの物語。
ANONYMOUS;CODE アノニマス・コード
公式サイト http://anonymouscode.jp/
『――神をハッキングせよ』
GOD SHOULD BE HACKED
5pb.より2016年冬発売
PS4/PS Vita 各7,800円(税抜)
ダウンロード版 各 7,000円(税抜)
266 : ◆/CNkusgt9A - 2016/07/07 18:59:36.11 It8erz8wo 2638/263810ヶ月近くお付き合い頂きましてありがとうございました。
ラノベ10冊分に及ぶ超長編SSの読了、本当にお疲れ様でした。
読み終わるのに2日もかかってしまった
アニメシュタゲしかみてないけどカオへ、カオチャ、ちょっとだけロボノ設定あるけどシュタゲゼロはそんな内容だったのかね
まあ読み応えあったしおもしろかった
β世界線での紅莉栖との世界線やらの話はぶっちゃけ理解するのきついし読むのだるかったけども
つんでたシュタゲやるかなぁ……