最初から
岡部倫子「これがシュタインズ・ゲートの選択……!!」【#01】

一つ前から
岡部倫子「これがシュタインズ・ゲートの選択……!!」【#05】

357 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/21 22:56:18.78 Hp93MJYeo 882/2638

第11章 境界面上のシュタインズゲート(♀)

2010年8月21日土曜日17時32分
ラジ館屋上


倫子「(屋上へと通じる扉が壊れている……なんだこれ、銃弾の跡か?)」キィ バタン

鈴羽「父さんも呼んでるから! こっちこっち!」

倫子「手を引っ張るなっ! 転んじゃうからぁっ!」トトト

ダル「あ、オカリン! 知らない女から突然電話かかってきて、ここでまゆ氏と待ってたんだけど、どういうことか説明plz!」

まゆり「オカリン! あれって、なにかな……」


プシュー ブォンブォンブォン……


倫子「(エンジンをつけているのか、駆動音が聞こえる……これは、間違いなく)」

倫子「……タイムマシン、だ」

鈴羽「リンリン、正解! さっすがあたしの大好きなリンリン」ダキッ

倫子「リンリンと呼ぶなと……いや、ツッコミを入れている場合じゃないな……」

倫子「オレがα世界線でかつて見た鈴羽のマシンはもっとオンボロに見えた」

倫子「それに、ラジ館の壁に突き刺さってもいない」

倫子「いや、違う。そうじゃない。オレは、この光景を一度見ている……!?」

倫子「(あの時、中鉢の発表会が始まる前――――)」


・・・


358 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/21 22:57:22.69 Hp93MJYeo 883/2638

倫子の記憶
世界線変動率【1.13024】
2010年7月28日(水)11時50分
ラジ館8階 会議室


ズドォォォォォォォォン!!


倫子「なんだ!? 機関の攻撃か!? このオレ、狂気のマッドサイエンティスト鳳凰院凶真に直接的な武力行使とは、身の程知らずが……っ!」

まゆり「地震かなぁ?」

倫子「まゆりはここにいろ。オレは震源である屋上を見てくる」ダッ

まゆり「えっ? あ、オカリン! 待って!」

タッ タッ タッ ガチャ



ラジ館屋上


倫子「(……? 鍵が壊されている?)」キィッ

キラキラキラ…

倫子「なんだこの燐光は……チャフか? 爆発か?」

倫子「いや、それよりも―――」

倫子「アレは、なんだ?」

359 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/21 22:59:26.94 Hp93MJYeo 884/2638


係員風の女「近寄らないでくださーい」

係員風の女「記者会見は予定通り始めますので、もうしばらくお待ちくださーい」

倫子「人工衛星? もしかして、中鉢の用意したタイムマシンの模型か何かか?」

倫子「いや、違う。これは陰謀の匂いがするな……これはカモフラージュで、きっと何かを隠蔽したいに違いない!」

係員風の女「下がってくださーい、お願いしまーす!」

倫子「あぅ、すいません」ビクッ

まゆり「はぁっ、やっと追いついた……ねえオカリン、まゆしぃね、うーぱのガチャポン見つけたから一緒に見にいこうよー」

倫子「え? あ、ああ。心配かけてすまなかったな、まゆり」


・・・


360 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/21 23:00:06.35 Hp93MJYeo 885/2638


倫子「思い出したぞ……っ! あれは、ドクター中鉢の発表会の時だっ!」

倫子「発表会が始まる直前、地震でも起きたかのようにビルが揺れて、屋上に出てみたら今みたいに"人工衛星"が置かれていたんだ」

倫子「……今思えば、アレは鈴羽の乗ってきたタイムマシンだったんだな。それに、係員風の女は、他の誰でもない、鈴羽だった……」

倫子「だが、そうなると、どういうことだ……?」

倫子「β世界線の7月28日正午ごろ、オレは既に鈴羽のタイムマシンを観測している……?」ワナワナ

鈴羽「そのためには、あたしたちがこれから何をしなくちゃいけないか。リンリンならもうわかってるんじゃないかな」

倫子「ま、待て! そんな一足飛びに話を進めるなっ! 一体、誰が、なんのためにこんな――」

鈴羽「未来のリンリンとその仲間たちが、世界を救うために、だよ」

倫子「っ!!」

361 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/21 23:02:13.02 Hp93MJYeo 886/2638


鈴羽「あたしは2036年から来たタイムトラベラー。リンリンに頼みがあるの」

まゆり「リンリン? パンダさんかなー?」

倫子「たぶんオレのことだ。認めたくはないがな」

鈴羽「この世界線の未来では、第3次世界大戦が起きちゃうんだ!」

倫子「なぁっ……」


―――――

紅莉栖『国家機密で公表されなかったけど、実は2000年問題は各国の衝突を煽る形で存在していて、SERNが未来から過去改変しなければ第3次世界大戦が発生してもおかしくないシロモノだったのよ』

倫子『だ、第3次世界大戦!?』

紅莉栖『その元凶はIBN5100よ。あれでしか解析できない特殊なプログラム言語で作られた、とあるプログラムに重大なバグが2000年に発生したせい』

紅莉栖『20世紀末のエンジニアたちはそもそもIBN5100にそんな機能があること自体知らなかったから、問題があることにさえ気づけなかった』

――――


倫子「元凶は、IBN5100……この世界線では、2000年問題が大戦の火種になった……」ゾワッ

鈴羽「さっすがリンリン。すごい、それが例の"リーディングシュタイナー"なんだね」

鈴羽「大戦を回避するために、あたしに協力して過去を変えて! お願い!」

倫子「なんだよそれ……なんなんだよそれはぁっ!!」

362 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/21 23:03:43.53 Hp93MJYeo 887/2638


まゆり「第3次世界大戦って……大変だー、大変だよー!」

鈴羽「椎名まゆりは黙ってて!」ギロッ

まゆり「っ!」ビクッ!!

鈴羽「こいつなんかのためにリンリンはっ……クソが……」ギリギリ

まゆり「ど、どうしちゃったのかな……まゆしぃ、悪いことしちゃったのかな……」ウルッ

倫子「……たとえ鈴羽でも、まゆりに悪態をつくことは許さん」ギロッ

鈴羽「わかってるよリンリン。リンリンにとって、椎名まゆりは絶対守護対象」

鈴羽「わかってる、わかってるよ……」グッ

ダル「なんなんこの子……ゆんゆん過ぎて怖いお、ガクブル……」

鈴羽「……ごめん、父さん。未来で色々あったんだよ……」

ダル「と、父さん!? ……って、あれ? もしかしてお主、あまゆき氏の親戚か何かでござるか?」

鈴羽「あまゆきし?」

ダル「先週コミマで知り合ったレイヤーさんなんだが、すっごく似てるかも。まゆ氏、あまゆき氏の本名ってなんだっけ」

まゆり「えと、『阿万音由季』さんだよー」

鈴羽「……そう。良かった」

ダル「……??」

363 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/21 23:05:39.19 Hp93MJYeo 888/2638


倫子「そのタイムマシンも、お前の父親、ダルが造ったのか!?」

ダル「え、この子の電波話、真に受けるん?」

鈴羽「そうだよ。さすがリンリン」

倫子「お前は、どういう経緯で過去へ」

鈴羽「中学生の時に日本政府軍を抜けて、私はワルキューレ所属になってタイムトラベラーとしての訓練を受けた」

倫子「それでミリタリールックだったのか。いや、モノホンの軍服なのか……」

鈴羽「2036年を発って、1975年、2000年を経由して、ここに来た」

倫子「経由だって……? あのタイムマシンは、未来方向にも跳躍できると言いたいのか!?」

鈴羽「そうじゃなきゃ、タイムマシンとは呼べないじゃん」

倫子「お前は……やっぱり、α世界線の鈴羽じゃないんだな……」

鈴羽「……そっか。あたしの最大のライバルは、α鈴羽とかいう狂信者の殉教者だったね」

倫子「っ!! たとえ鈴羽でも、そんな言い方は許さないッ!!」ガシッ

鈴羽「ぐっ!? リンリンに胸倉つかまれても、痛くも無いけど、やめてよ……」

まゆり「そ、そうだよ! やめて、オカリン」

倫子「……2036年の状況を教えてくれ。SERNはディストピアを作らないんだったな」

鈴羽「SERNなんてあたしは知らない。2036年は、第3次世界大戦の後に残った、焼け野原の世界」

鈴羽「人類の総人口は10億人まで減ったの」

倫子「10億人、だと……まさか、人類牧場化計画っ!?」

364 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/21 23:08:06.67 Hp93MJYeo 889/2638


倫子「結局300人委員会の陰謀の魔の手からは逃れられないってのかよ……っ!」グッ

鈴羽「核兵器が使われてね。かつての冷戦構造にそっくりだったって言われてる。きっかけはタイムマシン」

鈴羽「EUとロシアによる開発競争が火種になって、それにアメリカまでが横槍を入れたから収拾がつかなくなった」

倫子「300人委員会の本拠地EUと、あいつの研究が遺されているアメリカはわかる。だが、なぜロシアが?」

鈴羽「詳しいことはわからないけど、ロシアは完璧なタイムマシン理論を持っていたらしい」

鈴羽「2036年はさ、戦争は終結してるけど、地球はボロボロ。もうさ、人がまともに住める世界じゃないんだ」

倫子「なに? それなら、300人委員会の計画としては失敗じゃないのか……?」

鈴羽「各勢力が乱戦を繰り広げた結果なんだよ。このまま放っておいたら、地球が滅ぶか人類が滅ぶかってところ」

倫子「そんなの……ありかよ……」ガクッ

まゆり「オカリン、大丈夫……?」

倫子「そんなのって……そんなの……」プルプル

ダル「オカリンにまゆ氏の声、届いてないっぽいな……」

365 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/21 23:09:54.61 Hp93MJYeo 890/2638


倫子「(こういう時、オレのそばに紅莉栖が居てくれたなら、冷静に判断できたかもしれない)」

倫子「(だが紅莉栖は居ない。オレに助言を与えてくれることは、天地がひっくり返ってもあり得ない)」

倫子「……ふざけるなよぉ、鈴羽ぁ……っ!!」ポロポロ

鈴羽「え、えっ?」オロオロ

倫子「(逆恨みだ。わかってる)」

倫子「お前が言ったんだぞぉっ! β世界線なら、平和な未来が待っているってぇ……!」ポロポロ

まゆり「オ、オカリン! 泣かないで! えっと、ダルくん、どうしよう!」

ダル「お、おう!?」

鈴羽「リンリン、しっかりして! 2010年が未来への大きな分岐点で――」

倫子「そんなのは知ってるよぉっ!」ポロポロ

まゆり「もうやめて! 鈴羽さん!」

鈴羽「だったら分かるでしょ!? このままじゃ57億人が死ぬんだよ!?」

鈴羽「リンリンが行動しないことで、いっぱい人が死ぬんだよ!?」

倫子「そ゛ん゛な゛の゛知゛ら゛な゛い゛よ゛ぉ゛っ゛!! う゛わ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ん゛っ゛!!」

鈴羽「ガキみたいに泣き散らせば済むと思って――」

ダル「……悪いけどさ、これ以上は紳士の僕でも怒っちゃうレベル」

鈴羽「父さん……」

366 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/21 23:11:50.53 Hp93MJYeo 891/2638


まゆり「オカリン、泣かないで? ね?」ダキッ

倫子「うぇぇぇ……うわぁぁぁんっ……」ヒグッ

鈴羽「……この時代のリンリンは、こんなにメンタルが弱かったんだ。そりゃ、平和な時代だもんね。トレーニングなんか受けてる訳ないか」

倫子「オ、オレはぁっ……グスッ……オレの大事な女の子の命を……ヒグッ……犠牲にしてまでぇ……」ウルッ

倫子「この、α世界線に、たどり着いたんだぁ……っ!」

倫子「57億人が死のうと、地球が滅ぼうと……知ったことかよぉっ!! 紅莉栖が、紅莉栖が助かれば、それでいいんだよぉっ!!」

鈴羽「っ!? ……なるほど、そういうこと。そういうことだったんだね、"父さん"」ニヤリ

鈴羽「やっぱり、あたしの大親友のリンリンは、間違いなくあたしの知ってるリンリンだったよ……っ!」

367 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/21 23:13:41.04 Hp93MJYeo 892/2638


鈴羽「聞いて、リンリン」

鈴羽「もしも。もしもだよ? この世界線の未来を変えるために必要なのが、2010年7月28日に亡くなった牧瀬紅莉栖を――」

鈴羽「助けること……って言ったら?」

倫子「な……!?」

倫子「だ、だが方法がわからな――ハッ」

倫子「タイムマシン……これがあれば……!」ドクン

倫子「正真正銘の、タイムトラベルができるなら……!」ドクンドクン

倫子「まゆりの死なないこのβ世界線上で、紅莉栖を助けることができるなら……!」ドクンドクンドクン

鈴羽「もう因果は閉じてる。"すでに決まっている"んだよ」

鈴羽「リンリンは、あたしの手をつかむしか無いんだ」スッ

倫子「……そうだな。だって、オレは――」

倫子「――あの時既に、"このタイムマシン"を観測しているんだから」

   救える――

倫子「紅莉栖を助けに行くことは、世界の意志であり、偶然と言う名の必然であり……」

   紅莉栖を救える――

倫子「これがシュタインズ・ゲートの選択……!!」

   オレは世界を変えられる――

倫子「ククク……フフフ……」プルプル

   今助けに行くぞ、紅莉栖――

倫子「ふぅーはははぁ!」

368 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/21 23:14:34.35 Hp93MJYeo 893/2638


倫子「だが鈴羽っ! 残念だったな、お前の思い通りにはいかんっ!」ビシィ!!

鈴羽「ええっ!?」

倫子「貴様はオレが紅莉栖を助けることで世界線をアトラクタフィールドαへと変動させる腹積もりらしいが、そうはさせんぞっ!」

倫子「このタイムマシンを使い、紅莉栖もまゆりも助かる、第3の選択肢、都合のいい可能性世界へとたどり着いてやるのだぁっ! ふぅーはははぁ!」

鈴羽「……ふふ、くくく、あははは!」

倫子「な、なにがおかしいっ!?」

鈴羽「さすがリンリン。あたしの認めた友人」

鈴羽「最後まで聞いてよ。あたしだって、α世界線? なんてものは望んでない」

鈴羽「あたしに託された使命はただ1つ」

鈴羽「目指すべきは――」

鈴羽「アトラクタフィールドの狭間」

倫子「アトラクタフィールドの……狭間……?」

鈴羽「どのアトラクタフィールドからも一切干渉を受けない、たった1つの世界線――」



鈴羽「通称『シュタインズゲート』」

369 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/21 23:15:30.53 Hp93MJYeo 894/2638


倫子「な……! だ、だが、それはオレが創り出した特に意味の無い造語――」

鈴羽「もちろん、命名したのはリンリン」

倫子「な、なるほど……」

鈴羽「『シュタインズゲート』はさ、まだ誰も見たことのない未知の世界線らしいんだ」

鈴羽「でもシュタインズゲートの世界線変動率<ダイバージェンス>は、父さんとリンリンとですでに割り出されてるよ」

鈴羽「相対値で、ここ【1.13205】から、-0.08346%」

鈴羽「そこがシュタインズゲート【1.04859】」

倫子「紅莉栖の言った通りだ……無限の可能性の中に、必ずあるはずの、奇跡の世界線……っ」ウルッ

倫子「その世界線に到達するために必要な条件が、紅莉栖の救出……?」

鈴羽「父さんとリンリンが正しければ、ね」

鈴羽「牧瀬紅莉栖は、第3次世界大戦を回避する鍵なんだよ。57億人を救う、英雄のような存在なんだ」

倫子「……あいつはそういうタマじゃないよ。だが、わからんな」

倫子「なぜ、紅莉栖なんだ……?」

鈴羽「それは……分からない。だけど、うまくいけば第3次世界大戦を引き起こす未来を回避できるらしいんだ」

倫子「バタフライ効果か。原因と結果がわかっても、過程がわからない、と……」

370 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/21 23:19:03.03 Hp93MJYeo 895/2638


倫子「未来のオレはなんて言ってたんだ?」

鈴羽「……リンリンは10年ぐらい前、2025年に死んじゃった。8歳のあたしを残して」

倫子「……そ、そうだったな」

鈴羽「今思えば、一緒に遊んでもらってなんかいないで、リンリンを困らせたりしないで、リンリンの考えてる作戦を頭に叩き込んでおけばよかったと思う」

鈴羽「……でも、結局真相は分からず仕舞い。誰かさんのせいでね」ギロッ

まゆり「……っ」ビクッ

鈴羽「父さんはリンリンの意志を継いで、この計画を実行するためにたった1人でタイムマシンを作り上げた」

倫子「……さすがダル。ザ・スーパーハカーと言ったところか」

ダル「だから、ハカーじゃなくてハッカーだっつの」

倫子「おそらくSERNにハッキングして、タイムマシン研究関連のデータを根こそぎ盗んだのだろう」

倫子「タイムリープマシンは作れずとも、タイムマシン自体はリフターの調整と局所場指定の問題、つまり電子の注入と重力波のロックさえクリアすれば完成させられる」

倫子「α世界線との違いはその命を奪われなかったことか……あるいは、タイムマシンを巡って世界が技術戦争をしていたためか……」

倫子「ともあれ、我が右腕は、未来方向へも跳べる、完璧なタイムマシンを造り上げた、と……!」ドキドキ

371 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/21 23:20:30.28 Hp93MJYeo 896/2638


鈴羽「その世界線――『シュタインズゲート』は、未知って言うくらいだから、どんな未来が待っているのか誰も知らない」

鈴羽「もしかしたら第3次世界大戦が終結した後で、ディストピアが構築されるかもしれない」

倫子「そうなれば世界線はα世界線へと変動して……いや、"完全な未知"なら、そうとは限らないか」

鈴羽「もしかしたら牧瀬紅莉栖は、リンリンが助けた2日後とかに死んじゃうかもしれない」

倫子「それは……オレも考えた。だが、β世界線の収束から逃れられるなら、少なくとも紅莉栖は運命に殺されるわけじゃない」

鈴羽「もしかしたらリンリンは、2025年じゃなくて1週間後に死んじゃうかもしれない」

倫子「かまわない」

まゆり「オ、オカリンっ。死んじゃ、やだよぅ……」ウルウル

倫子「フッ。この鳳凰院凶真が死のうとも、第2第3のオレが立ち上がる。それはつまり、フェニックスの如く不死身だということだ!」

倫子「だから何も恐れることはないぞ、まゆり」ニコ

まゆり「そう、なの?」

倫子「(まゆりはまゆりの婆さんが死んで以来、人の死には敏感なのだ。心配はかけられない)」

鈴羽「もしかしたら、素晴らしい未来が待っているかもしれない」

鈴羽「少なくとも、あたしの知っている2036年でも、α鈴羽の知ってる2036年でもなくなるのは確か」

倫子「ならばっ! それこそがオレたち、未来ガジェット研究所の目指すべき未来だっ!」

鈴羽「行こう、リンリン。7月28日へ」

鈴羽「希望に満ちた幾千の可能性……輝きの時空<そら>へ」

鈴羽「力を貸して。過去を変えるため。お願い――」

鈴羽「この手を握って」スッ

倫子「……無論だっ!」


ガシッ!!


372 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/21 23:21:04.98 Hp93MJYeo 897/2638


ゼロが過去で、イチが未来。

人間は根源的に時間的存在だというならば。

世界一大切な幼馴染はオレの過去であり、世界一大切な助手はオレの未来だ。

どちらかを失うなんて、出来ない。

これが運命<さだめ>と言うならば――

決められている。そう、世界の意志でもある。

すべてオレに任せるがいいさ。

神をも冒涜する、我が魔眼の力で。

並行する無数の世界線の、継続する意志の力で。

折り重なる偶然の、宇宙規模の奇跡の力で。

いざ、難攻不落のnew gateへ。

エル・プサイ・コングルゥ――

373 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/21 23:22:46.37 Hp93MJYeo 898/2638


鈴羽「ありがと、リンリン! じゃあ、乗って!」

まゆり「オカリン、あのね、まゆしぃにはちんぷんかんぷんだけどね、頑張ってね!」

ダル「女の子を救うために過去へ跳ぶとか、かっこよすぎだろオカリン! 主人公になってくるのだぜ!」

倫子「……ああ。行ってくるっ」

倫子「ちなみに、このタイムマシンは2人乗りOKなのか?」

鈴羽「もちろんっ! あたしの最高の父さんが作った、最高傑作なんだからさ、当然だって!」ニコ

倫子「ダルは娘に愛されてるな」フッ

ダル「言葉の意味はよく分からんが、父さんではなくお兄ちゃんと呼ぶべきだろ常考」

鈴羽「父さんは父さんだよ。あたしの大好きな父さん」

まゆり「オカリン、絶対に帰ってきてね? 行ったまま、戻って来なかったらイヤだよ?」

倫子「別に違う世界に行くわけじゃない。過去にちょっと戻ってくるだけだ」ナデナデ

まゆり「うん……」

鈴羽「いつでも行けるよ!」

倫子「またな、まゆり……」

374 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/21 23:23:23.09 Hp93MJYeo 899/2638

タイムマシン内部


鈴羽「ケータイ出して」

倫子「ん? ああ」スッ

鈴羽「」ポイッ

カツン カラカラカラ …

倫子「お、おい!?」

鈴羽「持って行かない方がいい。混線するから」

倫子「……なるほどな」

鈴羽「ハッチ閉めて」

倫子「あ、ああ」ポチッ


ダル『がんがれオカリン!』

まゆり『このケータイちゃんを、取りに戻ってきてね!』


倫子「あいつら……」フフッ

375 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/21 23:26:50.40 Hp93MJYeo 900/2638


鈴羽「…………」カタカタカタカタ

――――――――――――――
  →  2010年7月28日11時50分
――――――――――――――

倫子「……ギリギリ過ぎないか?」

鈴羽「このタイムマシンって、場所移動ができないの。数日前に跳んだとして、このマシンのせいで騒ぎが起きて発表会中止とかになっちゃまずいでしょ?」

倫子「……それはそれでいいような気もする」

倫子「そうすれば、少なくとも紅莉栖はラジ館に来ない……いや、そうなったとしても紅莉栖はなんらかの原因で死んでしまうのか」

鈴羽「その場合リンリンは、『紅莉栖が男に刺された』っていう内容じゃないメールを7月28日12時46分に、タイムマシン初号機を調整中の父さんのケータイに送るのかもね」

倫子「タイムマシン初号機?」

鈴羽「えっと、電子レンジなんたら、っていう名前だったと思う」

倫子「電話レンジ(仮)だ……そうかっ! 世界にとって必要なのは紅莉栖が死んだことじゃなく、オレがなんらかのDメールを送ること、なのか!」

倫子「そしてエシュロンに捕捉され……そうだ、そうだよ! これならオレが観測した因果関係を歪ませずに、『紅莉栖が刺された』メールを送るために紅莉栖が死ぬ必要がなくなる!」

鈴羽「といっても、現状は牧瀬紅莉栖の死とDメール送信は密接に関係しているし、Dメールの内容が変わったからと言って牧瀬紅莉栖はどこかで死ぬ」

鈴羽「だからこそ、リンリンの過去改変行動が必須ってわけ。牧瀬紅莉栖の死を防ぐ直接的な行動が、ね」

鈴羽「牧瀬紅莉栖の死を防いだ状態で、Dメール送信の因果をつぶす……そうすれば『シュタインズゲート』へと到達できる」

倫子「ぐっ。せっかく希望が見えたと思ったのに……」

鈴羽「大丈夫。リンリンならできる。あたしの信じるリンリンなら、ね」

376 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/21 23:28:03.57 Hp93MJYeo 901/2638


鈴羽「それに、7月28日は分岐点なの」

倫子「分岐点……。世界線を再構成するような出来事が起きる日、ということだな」

鈴羽「それだけじゃない。このタイムマシンがあのラジ館屋上に出現することが確定している日、という意味でもある」

倫子「α世界線と一緒だ……2036年の収束が、そのまま2010年7月28日の状況に直結しているわけか」

鈴羽「だから、牧瀬紅莉栖が死んじゃうことがわかってる場面に遭遇して、事件を未然に防ぐことが可能」

鈴羽「だけど、牧瀬紅莉栖が生存する確率は50%なんだ。ううん、β世界線の収束はたぶん起きる」

倫子「まるでシュレディンガーの紅莉栖だな……」

鈴羽「でもきっと、抜け道があるはず。その抜け道こそが『シュタインズゲート』の入り口なの」

倫子「抜け道……。オレがαからβへと移動してきた時と同じように、世界を騙し、辻褄合わせをさせる、ということか」

倫子「ならば、オレは事件を防ぎ、生きた紅莉栖をこのマシンに詰め込んで未来へ送り返す! そうすれば、β世界線の収束を無視してひとっ跳びできるはずだ!」

倫子「(まゆりの時はこの方法は試せなかった。タイムマシンで未来へ跳ぶことができなかったからだ)」

鈴羽「な、なるほど……そこまでは聞かされてなかったけど、それならイけるかも」

倫子「この作戦が達成された瞬間、世界線が再構成されるのだから、帰りのタイムマシンにオレが乗る必要は無いっ! 『シュタインズゲート』の7月28日へとリーディングシュタイナーで跳び移るだけだ!」

鈴羽「いいねっ! リンリンならきっとできるよ!」

倫子「当たり前だっ! 助手風情の望みなど、叶えられぬオレではないわっ! ふぅーはははぁ!」

377 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/21 23:29:42.86 Hp93MJYeo 902/2638


鈴羽「リンリンってタイムトラベルは初めて?」

倫子「ああ。バナナやメールや記憶は送ったが、まさか自分自身が裸のリング特異点を通過することになるとはな」

倫子「ジョンタイター曰く、かなりのGが発生して、引っ張られるような感覚があるらしい」

鈴羽「ああ、それ書いたの、あたし。2000年に跳んだときに」

倫子「……そうか。それが元々の歴史だったわけだ」

倫子「待てよ? ということは、ドクター中鉢、いや、牧瀬章一は鈴羽の書いた理論を元にタイムマシン発表会を……?」

倫子「(ある意味、α世界線と同じ運命なんだな……)」

鈴羽「1つ忠告。そのドクター中鉢には気を付けて」

倫子「紅莉栖の父親に? どういう意味だ?」

鈴羽「第3次世界大戦はタイムマシンを巡る戦いだったって言ったよね? その原因を辿っていくと『中鉢論文』に行きつく」

倫子「お前、まさかタイムマシン理論をすべて掲示板に書き込んだのか!?」

鈴羽「一部にウソは混ぜておいたから、2000年時点ではあんまり相手にされなかったんだけど……」

鈴羽「ドクター中鉢はあたしの書いた理論を基に、独自の考えを加えたみたい。その完成度はとても高いらしいんだ」

倫子「(あの天才少女の父親なのだ、そういう才覚は備わっているのかも知れない)」

倫子「なるほど……だが、それなら何故お前はジョンタイターとして掲示板にタイムマシン理論を書き込む、などということをしたのだ?」

鈴羽「変な言い方になるけど、"それをリンリンが観測していたから"。あるいは、β世界線の過去で確定している事象だから」

倫子「そうか……2000年タイターの書き込みがなければ、α世界線漂流をしたオレが存在できなかった、というわけか」

鈴羽「もちろん、ちゃんと意味はあるよ。事実、『中鉢論文』は表向きには疑似科学として発表されて、世間はまともに取り合うことはしなかった」

倫子「真実に嘘を忍び込ませたことで、いずれ究明される真実までをも胡散臭くさせた、ということだな」

鈴羽「それでも『中鉢論文』の真価を見抜いた天才が居たみたいなんだ。あたしの情報工作はちょっとの時間稼ぎにしかならなかったってわけ」

鈴羽「とにかく、ドクター中鉢は牧瀬紅莉栖の殺された倉庫近くの会場に居たんだよね? だから彼には注意しといて。彼もまた世界線を大きく変えるキーマンのはず」

倫子「牧瀬家は父娘揃って世界を鍵穴だらけにしてくれているな……」

378 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/21 23:31:56.73 Hp93MJYeo 903/2638


倫子「お前は、ミッションが完了したら、元居た時代に戻るのか?」

鈴羽「実はそんなに燃料はなかったりするんだよね。2036年から1975年で61年分、そこから2010年まで戻ってきたから、累計96年分は消費した」

倫子「SERNのタイムマシンは、燃料満タンで100年程度のフライトが可能、と言っていたが……」

鈴羽「このマシンもそんな感じだよ。つまり世界線を変えられなかったら、あたしは2036年に戻れず、この時代に残るしかないんだ」

倫子「世界線の再構成を待って、鈴羽自身が再構成される可能性に賭けている、ということか……」

倫子「(α世界線では、ディストピアを阻止するために鈴羽は過去に跳ぶ。β世界線では、第3次世界大戦を回避するために鈴羽は過去に跳ぶ。これらは収束だ)」

倫子「(α鈴羽が間違って『シュタインズゲート』にやってきたり、今目の前にいるβ鈴羽と共に『シュタインズゲート』へと物理的に移動することは、アトラクタフィールドαおよびβの収束により不可能、ということ)」

倫子「(だからこそ『狭間の世界線』なのか……)」

倫子「(世界が『シュタインズゲート』へ再構成される時、オレはリーディングシュタイナーによって共時的に記憶を継続させるだろうが、β鈴羽とこのタイムマシンは2010年にはそもそも存在していなかったように再構成されるはず)」

倫子「(これは、β世界線ではラジ館にα鈴羽のタイムマシンが墜落した事実が存在していなかったことと同じ理屈だ)」

倫子「(それでも、世界改変の結果は辻褄合わせとして再構成される)」

倫子「(α鈴羽が、β世界線においてもIBN5100がラボに届く因果を残してくれたように、『シュタインズゲート』では、紅莉栖はその場に居合わせた方のオレの手によって救われたことになっていることだろう)」

倫子「(その場合、当然Dメールは送信されない。エシュロンに捕捉されることもないので、IBN5100でのクラッキングも不要になる。IBN5100がラボに届いた因果はすべて霧散するだろう)」

倫子「(つまりβ鈴羽は、紅莉栖が助かる因果だけを残して存在を消し、『シュタインズゲート』の2017年で産まれる"鈴羽"に再構成される)」

倫子「(……これは机上の空論に過ぎないかもしれない。とんでもない博打だ)」

379 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/21 23:33:32.38 Hp93MJYeo 904/2638


倫子「なあ、もし仮に、牧瀬紅莉栖を救うのに失敗したら……どうなる? 何度でもやり直せるのか?」

鈴羽「8月20日から7月28日への往復はさ、まだ2回ぐらいなら可能」

鈴羽「量子コンピュータの内臓電池、つまりバッテリーがもう残り少なくてね。燃料と同じで、こっちもこの時代では補給できない」

鈴羽「だから跳躍可能時間よりも、タイムトラベルの回数自体が問題になってる」

倫子「2回か……。できれば1回で決めてしまいたいところだ」

倫子「(再度紅莉栖を見殺しにするなど、オレの精神が持ちそうにない……)」ブルッ

倫子「だが、2回目の作戦時、1回目の作戦のオレたちとかちあうことは無いのか?」

倫子「それに、この世界線の7月28日にも別の世界線の鈴羽がタイムマシンで出現しているはずだ。彼女に出会ってしまう可能性はどうなっている」

鈴羽「この辺はリンリンの方が詳しいはずだよ? "確定した世界線"に存在しない出来事が起こるたびに世界線は再構成されるって、教えてくれたじゃん。未来で」

倫子「む?」

鈴羽「タイムマシンが時間移動するたびに世界線は再構成されるんだ。世界線変動率<ダイバージェンス>は0.000001~0.000003%くらいしか変わらないけど」

倫子「時間移動は、それだけで因果律を歪ませているからな。質量保存則や時間順序保護仮説もお構いなしだ」

鈴羽「この性質を利用する。"確定した過去"を変えないようにした上で、タイムトラベルによりわずかに再構成される世界線に到達できれば」

倫子「……過去を変えずにタイムトラベルができる」

倫子「つまり、"確定した過去"を踏襲することで、タイムトラベルによってわずかに再構成される世界線でも同じ過去を再現できる、ということか」

鈴羽「世界線変動率<ダイバージェンス>を好きな数値に合わせて世界線移動できたら楽チンなのになー」

倫子「それは不可能、というか順序が逆だ。タイムマシンが時間移動したことによって、世界線がその事象を観測した、辻褄合わせの再構成をするのだから」

鈴羽「わかってるよー。多世界解釈じゃなくて、アトラクタフィールド理論、なんでしょ」

鈴羽「アクティブ世界線は常に1本。もう耳タコだけど、またこの話が聞けてあたしは嬉しいな」

倫子「(α鈴羽と未来紅莉栖の受け売りだがな)」フフッ

380 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/21 23:35:03.73 Hp93MJYeo 905/2638


鈴羽「β世界線で"確定している過去"は、"7月28日にラジ館屋上にこのタイムマシンが1台現れる"、ということ。それは既に過去のリンリンが観測してるよね」

倫子「ああ。マシンが到着した時の振動も、マシン本体も、ミリタリールックの女も確認した」

鈴羽「でも、逆に言えばそれだけなんだ。だから、色んな世界線の記憶を持ったリンリンがそこでどんな行動を選択するかは確定していない」

倫子「そこに『シュタインズゲート』選択への可能性がある……」

鈴羽「もちろん、1回目の救出に失敗して、大きく結果を変えることができなかった場合、世界線はほとんど変動しない」

鈴羽「逆に言えば、世界線がほとんど変わってないなら、2回目に挑戦することも可能ということ」

鈴羽「だから、『シュタインズゲート』への行動選択以外で、"確定している過去"を大きく変えるようなことはしちゃダメ。そうしたら過去が大きく変わって、2回目の救出が不可能になる可能性がある」

倫子「"かつてのオレ"が観測していない出来事を起こすな、ということだな」

鈴羽「例えば、自分自身との接触は絶対避けて。修正不能な過去改変、深刻なパラドックスが発生する可能性があるから」

倫子「(確定した過去を変えてしまえば当然世界線は変動するが、最悪、わけのわからないアトラクタフィールドへと跳ばされてしまうかもしれん……)」

倫子「しかし、たった2回か……」

鈴羽「リンリンの頑張り次第ってところかな、あはは」

倫子「(今気づいたが、β鈴羽もα鈴羽と同じく、後先考えずに行動する節があるな……不安だ……)」

381 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/21 23:36:05.36 Hp93MJYeo 906/2638


鈴羽「じゃあ、行くよ? シートベルトしめて」

倫子「けっこう揺れるのか?」カチャ

鈴羽「揺れはほとんどないよ」ポチッ

鈴羽「たった3週間だから、ものの2、3分で行けるはず」

倫子「リング特異点を通過する物体の主観時間か……」

倫子「(Dメールやタイムリープ、あるいはゲルバナの時などは一瞬で送られていたものと思い込んでいたが、よく考えたら観測しようが無いのだ。こればかりはゲルバナに聞くしかわからんな)」

鈴羽「最初に1975年へ跳んだときなんかさ、6時間ぐらいかかって暇で暇でしょうがなかったよ」

倫子「それだと3週間を2、3分、というのと計算が合わないが……そうか、相対性理論か」

鈴羽「時間は歪む。普通の空間の中でさえ歪むのに、特異点の中なんか歪みまくりだよ」

382 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/21 23:37:40.59 Hp93MJYeo 907/2638



バチバチバチッ キラキラキラ……


倫子「なんだこれ……燐光……?」

鈴羽「時のかけらのようなもの。綺麗でしょ? タイムトラベルする時に出るんだよね」

倫子「(それに、わずかに香るオゾンの臭い……なんだか懐かしい気がする)」


ガグンッ!!


倫子「ぐ……うっ……! (すごいGだ、ジェットコースターの比じゃない!)」

倫子「(気持ち悪い……これだから絶叫マシンは大っ嫌いなんだ……っ!)」

倫子「(視界が歪曲する……これが時空のトンネルへと落ちる感覚なのか……)」

倫子「(……なっ!? 目を開けているのに視界が真っ暗に!?)」

倫子「(光子がオレの感光細胞に届いていないのか!? そうか、ここが、リング特異点……!)」

倫子「(鈴羽はものの数分と言ったが、オレの主観の時間感覚は正常に働いているのだろうか……息が、苦しい……)」

383 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/21 23:38:11.73 Hp93MJYeo 908/2638


――――――――――――――――――――――――――――
  2010年8月21日17時55分  →  2010年7月28日11時50分
――――――――――――――――――――――――――――

384 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/21 23:38:47.26 Hp93MJYeo 909/2638


倫子「……かはっ!! はぁ、はぁ……視界が、開けた……?」

鈴羽「ついたよ。これ、腕時計。持っといて」

倫子「ついに来たか……運命の日、11時51分……」ゴクリ

鈴羽「出るよ? リンリンは牧瀬紅莉栖をマークして、殺されるのを阻止して」

倫子「お前は?」

鈴羽「サポートに回る。"選択"をできるのは、神の目を持ったリンリンだけだからね。あたしに出来るのは人払いくらい」

鈴羽「じゃあ状況開始。終わったらこのタイムマシン前に集合ね!」

385 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/21 23:39:21.01 Hp93MJYeo 910/2638

2010年7月28日(水)11時52分
ラジ館屋上


鈴羽「…………」ジャキッ


カシュ カシュ


倫子「(やはりラジ館屋上の鍵は鈴羽のサイレンサー付きの銃による発砲で破壊されていたか)」


タッ タッ タッ


鈴羽「……っ!? マズい! 誰か来る!」

倫子「マズいもなにも、"オレ"が地震の元を調べようと階段を駆け上がっているのだ」

鈴羽「リンリンは隠れて! あたしがなんとかする!」

倫子「なんとかって……ああ、そうだった。あの時なんとかしたんだ、"お前"は」

倫子「なら大丈夫だ。オレはこのまま進んで、複雑な構造になっているラジ館の階段で"オレ"をやり過ごす」

鈴羽「わかった! 行って!」


タッ タッ タッ


386 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/21 23:40:07.52 Hp93MJYeo 911/2638

ラジ館4階 踊り場


倫子「はぁっ……はぁ……」

倫子「さて、どうする。紅莉栖はあと30分もすれば、8階従業員通路奥の倉庫で殺される」

倫子「現場で待ち構えるしかないか……」


??「すいません」


倫子「っ!?」ドクン

倫子「(この声は―――)」ドクンドクン

倫子「紅莉栖……っ!」ドクンドクンドクン

387 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/21 23:40:54.80 Hp93MJYeo 912/2638


紅莉栖「……私、あなたと面識ありました?」

倫子「紅莉栖ぅ……うぅ……っ」ウルッ

倫子「(こ、こらえろ……泣いちゃダメだ、泣くな私……っ!!)」グシグシ

紅莉栖「(かわいい)」

紅莉栖「さっき、このビルの屋上から下りてきましたよね?」

倫子「(紅莉栖が、生きてる……しゃべってる……っ)」グッ

倫子「(今すぐ抱きしめたい。このままラボに連れ帰ってしまいたい……)」プルプル

紅莉栖「……あの、大丈夫ですか? どこか具合が?」ズイッ

倫子「(ああ、紅莉栖の匂いだ。オレの大好きな紅莉栖の――)」スッ

紅莉栖「ちょぉぉっ!? な、なな、なんですか!?///」ドキドキ

紅莉栖「い、いきなり私のほっぺたを触ってくるなんて、あなたレズなんですかっ!? だ、だが、まずはお友達からだ話はそれからだぁっ!!」

倫子「出会い頭に何をほざいているのだHENTAI天才百合女がっ!」

紅莉栖「えっ?」

倫子「あっ」

388 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/21 23:43:15.08 Hp93MJYeo 913/2638


紅莉栖「まったく、ビックリして封筒から中身が出ちゃったじゃないですか……」イソイソ

紅莉栖「とゆーか百合女って何よ……私は一般的な感覚として可愛い女の子に好意を抱くというだけであって恋愛感情はノーマルなんですけど……」ブツブツ

倫子「(い、今のうちに退散せねば……)」クルッ

紅莉栖「質問に答えてくださいっ!」

倫子「っ!」

紅莉栖「……答えて」

倫子「……オレは、お前を……た、たす……っ」プルプル

紅莉栖「なんです?」

倫子「("助けられるだろうか"と言いかけて、言えなかった)」

倫子「(自信が、ない……)」ダッ

紅莉栖「あ、待って! 待ちなさい! せめてアドレスだけでもっ!」

389 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/21 23:44:02.21 Hp93MJYeo 914/2638

ラジ館8階 廊下


"倫子"『ドぉぉぉクぅぅぅターぁぁぁっ!』


倫子「この声は……会議室の中で"オレ"が暴れているのか」ハァ


"倫子"『オ、オレが誰なのかはどうでもいい! この"ジョン・タイター"のパクリめっ!』

中鉢『誰か、その美少女をつまみ出せ!』


倫子「客観的に聞くと完全なDQNだな……」ガックリ

倫子「そしてこの後、"オレ"は紅莉栖につまみ出される……」

倫子「父親の会見を邪魔したのだ、それなりに腹も立っていたことだろう」

倫子「とにかく、今のうちに例の倉庫で待機だっ」タッ

390 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/21 23:44:57.75 Hp93MJYeo 915/2638

ラジ館8階 従業員通路奥 倉庫


倫子「ここだ……ここで紅莉栖は、血だまりの中に倒れていた……」ブルブル

倫子「X時刻まで、あと20分ほど」ドキドキ

倫子「落ち着け、私……大丈夫、みんなが支えてくれてる……」スゥ ハァ

倫子「(犯人は誰だ……? 凶器は、おそらくナイフか何かだろう)」

倫子「(この倉庫をくまなく漁ってみたが、あるのはゲームソフトの在庫や書類ばかりで、凶器になりそうなものはドライバー1本見つからなかった。となると、持ち込みか……?)」

倫子「(だが、相手は18歳の少女を無慈悲に殺傷できる卑劣漢。オレなんかが相手取れるのだろうか……)」

倫子「と、取りあえず、あのダンボールの隙間に身を隠そう……」コソッ

倫子「(クソっ! ルカ子に清心斬魔流を教えておいて、自分は大事な時に何もできないではないかっ!)」

391 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/21 23:46:12.78 Hp93MJYeo 916/2638

2010年7月28日水曜日12時26分
ラジ館8階 従業員通路奥 倉庫


パチパチパチ……


倫子「(どうやら発表会が終わったらしい)」


スタ スタ スタ ピタ


倫子「(……なっ!? く、紅莉栖!?)」ドキッ!!


紅莉栖「…………」ニコ


倫子「(どうして紅莉栖が現場に? それに、なぜ手に持った封筒に微笑みかけている……?)」

倫子「(オレがかつて目撃した殺害現場に封筒など落ちていただろうか。記憶が曖昧だ)」


コツ コツ コツ …


倫子「(……来たか。この足音こそ、紅莉栖を殺した犯人っ!)」ドキドキ


中鉢「こんなところに呼び出して、なんのようだ」


倫子「(ド、ドクター中鉢っ!? い、いや、そもそも紅莉栖は父親に会いに来たのだから当然と言えば当然――)」ドクン


  『結局私、パパにも死刑宣告されちゃった』

  『よく憶えておけ。貴様という存在はもうすぐ消えて無くなるのだ!』


倫子「嘘……だろ……」ゾワァッ

392 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/21 23:47:58.59 Hp93MJYeo 917/2638


中鉢「ふむ、悪くない内容だ」ペラッ ペラッ

紅莉栖「本当っ!? ホントに本当!? どこかに読み飛ばしとか、読み間違いがあったりしない!?」パァァ

中鉢「っ、面倒臭い娘だ……」


倫子「(確信してから数分、オレは足を動かせなかった)」

倫子「(状況証拠が揃い過ぎている。どう考えても紅莉栖を殺したのは、彼女の父親である牧瀬章一だ)」

倫子「(元から娘を煙たがっていた章一が凶行に及んだ動機はおそらく、紅莉栖が大事そうに抱えていた封筒の中身……)」

倫子「(アレは、α鈴羽の言っていた『タイムマシンの基礎論文』であり、β鈴羽の言っていた『中鉢論文』だろう)」

倫子「(この論文を読み、自らの手でタイムマシンを造り過去をやり直せると確信した章一が、タイムマシン造りに邪魔な紅莉栖を殺したのだろう、とか)」

倫子「(αとβではジョンタイターの出現変化のために論文の中身が若干違うだろうな、とか)」

倫子「(人類史を揺るがす論文をさらっと書き上げる紅莉栖天才過ぎ抱いて、などと冷静に分析している一方で――)」

倫子「(足が動いてくれない。完全に腰が引けてしまっている)」ガクガク

倫子「(今すぐにでも飛び出して章一を追っ払ってしまいたい。それで紅莉栖は救われるのに……)」プルプル

倫子「(青森で会った時の怒声や威嚇が、正真正銘の殺意に変わることが確定していると思うと……こわいっ……!)」ウルウル

倫子「(それに、オレ1人の力では、40代の男をどうこうできる自信が無い……クソ、なんでオレは運動音痴で、やせ型で、しかも女なんだ……)」

倫子「(誰も助けてくれない……それどころか、現状では紅莉栖は父親の味方だろう。完全な孤独の中、オレはやり遂げなければならない……っ)」グスッ

倫子「(動け……動けよ、オレの両足……っ!)」ポロポロ

393 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/21 23:48:37.09 Hp93MJYeo 918/2638


紅莉栖「この論文はパパと共同署名でもいいと私は思って――」

中鉢「学会には出すな。これは私が預かっておく」

紅莉栖「で、でも――」

中鉢「私を哀れんどるのか!? それとも蔑んどるのか!? 娘の分際で!」

中鉢「私が今日、この場にお前を呼んだ理由を教えてやる。勝ち誇りたかったのだよ! お前に私の研究の偉大さを見せびらかすことでな!」

中鉢「お前が絶望するほどの差を知らしめてやろうとしたのだ!」

中鉢「なのにあの妙な白衣の美少女のせいで、すべて台無しだ! そしてお前がそんな私を見て、鼻で笑っていたのも知っているぞ!」

紅莉栖「笑ってなんて――」

中鉢「この論文は私の名前で発表する」

紅莉栖「……まさかパパ……盗むの?」

中鉢「なんだとっ!?」バチンッ!!

紅莉栖「きゃぁっ!!」バタンッ


倫子「(く、紅莉栖っ!!)」

倫子「(だ、ダメ、声も、出ないよぉ……っ!)」ガクガク

394 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/21 23:50:23.99 Hp93MJYeo 919/2638


中鉢「誰に聞いて口を利いているのだ!」ギリリリ

紅莉栖「あ、う……」


倫子「(紅莉栖が首を絞められている……)」ゾワッ


中鉢「なぜお前はそんなに優秀なのだ! 存在そのものが疎ましい!」ギリリリ

中鉢「私より優秀な人間などこの世にいてはならんのだ! 屈辱なのだ!」ギリリリ

中鉢「だから遠ざけた! お前と親子だと思われるのが耐えられなかった!」ブンッ

紅莉栖「――っ! かはっ! ごほっ!」バタンッ

中鉢「……ちょうどいい。タイムマシンさえ作ってしまえば、なかったことにできる」ニヤリ

中鉢「積年の恨み、ここで晴らさせてもらおうか。お前は、自分が書いた論文のせいで、今ここで消えるのだ!」ジャキン

紅莉栖「パパ……」


倫子「(章一が懐から仕込みナイフを取り出した、が――)」

倫子「(どうして紅莉栖は何の抵抗もしない!? それどころか、まるですべてを悟ったかのような目をしている……)」

倫子「(……そうか。こいつは、オレと過ごしたあの日々を知らない。自分が、世界から否定された存在だと信じ込んだままなんだ……)」グスッ

395 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/21 23:51:32.49 Hp93MJYeo 920/2638


中鉢「私を、バカにするなぁ!」ダッ

倫子「(ナイフで、刺されて、紅莉栖が――)」ドクン

倫子「(死んじゃう――)」ドクンドクン

倫子「う、うわああああああああっ!!!!!」ダッ

中鉢「な―――」


ドンッ!!

ズテーン  カラカラカラ…


倫子「(い、いつの間にか章一に飛びかかっていた……不意をつけたおかげで、なんとか体勢をくずすことができた!)」ハァッ ハァッ

倫子「(そして運良くナイフが今、私の足もとに転がっているっ!)」

倫子「(これさえ無ければ……これさえ無ければっ!)」パシッ

中鉢「き、貴様はあの時の! ……そうか、紅莉栖と示し合わせて、私の会見を台無しにしたのだなッ!?」ギロリ

倫子「(ひいいいいいいいっ! こわいこわいこわいこわいっ!)」ブルブル

中鉢「私をバカにした者は、1人残らず殺してやる……ッ!」ハァ ハァ

倫子「(もう章一は、狂っているっ! 父親なんかじゃない、ただの殺人鬼だっ!)」ガクガク

中鉢「今の私にはタイムマシンがある、完全犯罪などし放題だっ! ハ、ハハ、ハーハッハッハァッ!!」

倫子「(だ、だれか、たす、たすけ―――)」

倫子「たすけ、て……くり、す……っ!」ポロポロ

紅莉栖「―――っ!!」

396 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/21 23:53:08.76 Hp93MJYeo 921/2638


紅莉栖「やめて、パパ!」ガシッ

中鉢「邪魔をするなぁ!」グヌヌ

紅莉栖「あなただけでも、逃げてっ! 鳳凰院凶真さんっ! オカリンさんっ!」

倫子「(紅莉栖が、オレの名前を――っ!)」ポロポロ

倫子「(紅莉栖が、紅莉栖がオレを助けてくれる――っ!)」ポロポロ

紅莉栖「早くっ! これ以上、パパを抑えられないっ!」ググッ

中鉢「殺してやるッ! お前達2人とも、殺してやるッ!」グググッ

倫子「(そ、そうだ! このナイフを持って逃げれば、凶器が無くなる!)」

倫子「(『牧瀬紅莉栖が刺されたみたい』が成立しなくなるっ! このナイフは世界を変えるキーアイテムなのだ、死んでも手離すなよ、鳳凰院凶真っ!)」ギュッ

倫子「(後はここから逃げるだけ――)」




倫子「……足が、動かないっ」ポロポロ




397 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/21 23:53:48.86 Hp93MJYeo 922/2638


倫子「(なんで、なんでなんでなんで……っ!)」ポロポロ

倫子「(あと一歩なのにっ! あと少しで全てが救われるのにっ!)」ポロポロ

倫子「(世界を変えられるのに――――ッ!!)」ポロポロ

中鉢「どけェッ!! 私の邪魔をするなァッ!!」ブンッ

紅莉栖「きゃぁ―――――」


  その時、章一に突き飛ばされた紅莉栖の身体が――――


グサリ


ドクン

ドクンドクン

ドクンドクンドクン




倫子「――――――え?」




398 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/21 23:55:55.60 Hp93MJYeo 923/2638


中鉢「……ふはは、バカどもにはふさわしい末路だ」

中鉢「この論文は頂いていく。ヒヒ、ハハハ」タッ タッ タッ


   ……なんだ、この感触は。

   まるで、骨の間をかき分けて、肉をえぐったような。

   現在進行形で脈動している、それは。

   今もなお深く刺さり続けていく、それは。

   それの生温かい液体が、オレの両手を流れていく。

   それの呼吸に合わせて、わずかに揺れる。


紅莉栖「あ……ぐっ……!」


   その聞き慣れた声に、急激にオレの意識が覚醒する。

   章一に突き飛ばされた紅莉栖が、その勢いのままに正面から倒れ掛かってきた。

   足をもつれさせ支えを失った紅莉栖。ナイフを必死で握りしめていたオレ。

   紅莉栖は、オレの嘆願に応え、身命を賭してオレを守ろうとして。

   オレは、私は、紅莉栖を救いたくて、過去を変えようとして。


倫子「なん……で……」


   なんでこんなことに……



399 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/21 23:56:39.35 Hp93MJYeo 924/2638




   私の世界一大切な女の子を殺したのは。


   オレの大好きな助手を殺したのは。


   牧瀬紅莉栖を殺したのは――――




紅莉栖「ご……めんね……」







   ―――――――――――――オレだった





400 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/21 23:58:42.08 Hp93MJYeo 925/2638


紅莉栖「あなた……を……まもれな……かっ……」ハァ ハァ


   紅莉栖が苦しんでいる。声を絞り出している。

   紅莉栖の身体から力が抜ける。私に体重をあずけてくる。

   ナイフはさらに深く突き刺さる。熱い血がさらに溢れてくる。

   それでも、私の腕は動かない。ナイフを抜くことができない。

   こんなつもりじゃ。

   こんなつもりじゃなかったんだ。

   紅莉栖の身体が痙攣し始めた。激痛を感じているのだろう。

   痛いに決まっている。だって、これから紅莉栖は――

   死ぬんだから。

401 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/21 23:59:28.32 Hp93MJYeo 926/2638


倫子「どう……して……」

紅莉栖「父親を……人殺しには、できない……」

紅莉栖「それに……たすけてって、言ってくれた……から……」

紅莉栖「見ず知らずの……あなただけど……まもりたいって……思った、から……」

紅莉栖「友達になりたかった……から……好かれたかった……から……」

紅莉栖「バカだね、私……迷惑、かけちゃって……」

倫子「あ……あ、あ……」

紅莉栖「ねえ……わ……たし、死ぬの……かな……」

紅莉栖「……死にたく……ないよ……」

紅莉栖「こんな……終わり……イヤ……」

紅莉栖「たす……けて……」

紅莉栖「たす……」

紅莉栖「…………」

紅莉栖「…………」




紅莉栖「…………………………………………」




402 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/22 00:00:06.57 u/MTHkzVo 927/2638




私は、紅莉栖を殺した。

紅莉栖を殺したのは、私だった。




403 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/22 00:00:51.47 u/MTHkzVo 928/2638




  「きゃあああああああああああああああああ――――――――――――!」




404 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/22 00:01:25.65 u/MTHkzVo 929/2638



あの時の悲鳴は、てっきり紅莉栖のものだと思っていた。

まさか自分の声だったなんて。

ハハ、なんだよそれ。


405 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/22 00:02:17.37 u/MTHkzVo 930/2638


鈴羽「リンリン!」

倫子「ごめんね……ごめんねぇ、くりすぅ……うううぅっ……」ポロポロ

紅莉栖「…………」

鈴羽「……立って! リンリン!」グイッ


ヌチョ ドサッ ドクドクドク……


鈴羽「っ! ナイフ、回収しておかないと」スッ

倫子「こんなつもりじゃ……こんな、つもりじゃ……」ブツブツ

鈴羽「しっかりして! 今すぐここを離れないと人が来ちゃう!」

倫子「やだぁっ! くりすをおいていけないよぉっ!」ダキッ

倫子「は゛な゛れ゛た゛く゛な゛い゛よ゛ぉ゛っ゛!!」ギュッ

紅莉栖「…………」

鈴羽「チッ! ごめん、リンリン!」シュッ!!

ドスッ

倫子「うっ――――」バタッ

鈴羽「よっと。リンリン、軽いなぁ……」

鈴羽「……大丈夫だから。きっと大丈夫だからね」タッ タッ タッ

406 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/22 00:02:46.15 u/MTHkzVo 931/2638


――――――――――――――――――――――――――――
  2010年7月28日12時40分  →  2010年8月21日17時56分
――――――――――――――――――――――――――――

407 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/22 00:06:14.73 u/MTHkzVo 932/2638

2010年8月21日火曜日17時56分
ラジ館屋上


ダル「うお、もう帰ってきたお! まだ跳んでから1分も経ってないのに!」

まゆり「……オカリン? オカリン!」

倫子「…………」

鈴羽「心配しないで。気絶してるだけ。よっと」ドサッ

ダル「ちょっ、オカリン血まみれじゃん! どうしたん!? 一体なにがあったん!?」

鈴羽「この血はリンリンのものじゃないし、ケガしてるわけじゃないよ」

鈴羽「父さん、バケツと水、あと服も。今すぐ手に入れてきて」

ダル「わ、分かったお!」

まゆり「オカリン! 死なないで、オカリン!」ユサユサ

鈴羽「あんまり揺すると逆効果だ、椎名まゆり。今すぐやめろ」

まゆり「……ねえ、どうしてオカリンは気絶してるの!? どうして血まみれなの!?」

鈴羽「気絶させたのはあたし。血まみれなのは、牧瀬紅莉栖を刺し殺しちゃったから」

まゆり「殺した……ウソ……」

鈴羽「でも安心して。まだもう1回分、タイムトラベルはできる。失敗を、なかったことにできるんだ」

408 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/22 00:07:17.06 u/MTHkzVo 933/2638


・・・

ダル「はぁっ、はぁっ……持てるだけ買ってきたお。死ぬる……」ゼェ ゼェ

鈴羽「ありがとう、父さん! こっちに渡して!」

まゆり「ねえ、鈴羽さん! オカリンは、大丈夫なの!?」

鈴羽「本人の口から聞いた方が早いよ」トクトクトク……

ダル「それ、オカリンに飲ませるんと違ったん? バケツに入れて、マシンの冷却水にでもするん?」

鈴羽「よし。目を覚ませっ!」


バシャーッ!!


倫子「―――がはっ! ごほっ!」

まゆり「オカリンッ!」

ダル「どこの軍隊だよ……あ、いや、モロ軍人の格好だった件……」

鈴羽「さあ、リンリン。2回目の救出に行くよ! 手を貸して!」

倫子「……きゅう、しゅつ……?」

鈴羽「牧瀬紅莉栖を助けに行くんだ! このタイムマシンで! さあ!」

倫子「まきせ、くりす……」

倫子「たいむ、ましん……」

倫子「……あ、ああ……あああ……っ」




倫子「あああああああああああああっ!!! あああああっ!!! ああああああああああああっ!!!!!」



409 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/22 00:08:00.01 u/MTHkzVo 934/2638


まゆり「オカリンっ!?」

鈴羽「クソッ、錯乱したか。父さん、リンリンを抑えて!」

ダル「マジっすか……」ガシッ

倫子「あああああああああっ!!!! ああああああっ!!!!」ジタバタ

鈴羽「リンリンの肩には、何十億っていう人の命がかかってるんだよ!?」

倫子「ああああっ!!!! ああああああああああああっ!!!!」

鈴羽「たった1回の失敗がなんだって言うんだ!」

倫子「ああっ!!!! ああああああああっ!!!! ああああああああああああああっ!!!!」

鈴羽「く……! こうなったら、ビンタしてでも気合い入れ直して――」スッ



まゆり「だめぇぇっ!!!!!」ガバッ

410 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/22 00:09:56.09 u/MTHkzVo 935/2638


―――――――――――――――――――
    1.13205  →  1.29848
―――――――――――――――――――

411 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/22 00:11:06.71 u/MTHkzVo 936/2638


まゆり「だめだよ……! 無理強いするのは、よくないよぅ……!」

まゆり「こんなオカリン、見てられないもん……!」

倫子「あああっ!!! あああああっ!!!」ジタバタ

ダル「は、激同。オカリン抑えるの、もう限界だお……精神的に……」

鈴羽「でもさ、このままじゃ、未来を変えられない!」

まゆり「どうして? どうして未来のことを、オカリンひとりに押し付けるの?」

まゆり「そんなの、重すぎるよ……」

鈴羽「リンリンには、世界の観測者としての能力、神の目、リーディングシュタイナーがあるから」

鈴羽「だから、リンリンは救世主なんだ!」

まゆり「オカリンが、望んだわけじゃないのに……!」

鈴羽「……椎名まゆりにそんなことを言う資格はないッ!! どけぇ、椎名まゆりッ!!」ブンッ!!

まゆり「きゃぁっ!!」バタンッ

ダル「ちょ!?」

倫子「――――ぁぁぁまゆりぃぃぃぃぃっ!!!」ジタバタ

まゆり「いたた……あれ……これ、血……?」タラーッ

鈴羽「額を切っただけだ、いちいち反応するな――」

倫子「まゆりがしんじゃうっ!! まゆりが、まゆりがぁぁっ!!」ジタバタ

412 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/22 00:13:06.08 u/MTHkzVo 937/2638


倫子「まゆりがしんじゃうぅぅぅぁぁぁあああああああっ!!! いやぁぁぁぁああああっ!!!」ジタバタ

鈴羽「この世界線の2010年では椎名まゆりは死なない! リンリンは、岡部倫子は、椎名まゆりなんかのために犠牲になっちゃダメな人間だ!」

倫子「しんじゃうぅっ!! しんじゃうぅっ!!」ジタバタ

鈴羽「死なないって言ってるだろ! たとえあたしがこの拳銃を椎名まゆりに向けて、引き金を引いたって―――」ガチャッ

ダル「――――っ!!」ブンッ!!


バチーン!!


鈴羽「――――え? え???」ヒリヒリ

ダル「ハァ、ハァ……まさかこの僕が女の子に手をあげる日が来るなんて、思ってもいなかったのだぜ」

ダル「だけど、僕は今、どうしてもこうしなきゃいけなかった気がするんだ」

鈴羽「とう……さん……?」ヒリヒリ

ダル「こうしなきゃ、もっと大切ななにかを失っていた気がするんだ」

鈴羽「父さんにぶたれたことなんて、ないのに……」

鈴羽「父さんの貧弱なビンタなんて、痛くもかゆくもない……けど……」

鈴羽「すごく、痛いよ……世界で一番、痛かった……」グスッ

ダル「……今はオカリンとまゆ氏を病院に連れて行くことが先決だ。いいね?」

鈴羽「……ごめん、なさい。父さん……ごめ、ん、なさい……」ポロポロ

413 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/22 00:15:17.41 u/MTHkzVo 938/2638


オカリン?

もう、頑張らなくてもいいからね?

泣いてもいいんだよ、オカリン

まゆしぃはそばにいるからね

かけがえのないこの世界にはね、たったひとりのオカリンがいるの

まゆしぃにできるすべてで、オカリンの力になりたい

言葉を交わさなくてもわかるのです……頼りないかな

どうかずっと、そばにいさせて

重荷にならないように

この優しい夕暮れの大空に、想いが伝わるといいな――




414 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/22 00:17:21.90 u/MTHkzVo 939/2638

第12章 零化域のミッシングリンク(♀)


―――――――――――――――――
――――――――
――――
――



   どうして助けてくれなかったの?

――やめろ

   私は岡部を信じるって言ったのに

――やめろ

   助けてくれないばかりか、なんで私を殺したの?

――やめろ

   牧瀬紅莉栖を世界から消したのはお前だ

――やめろ

   牧瀬紅莉栖を刺し殺したのはお前だ

――やめろ

   お前さえいなければ、私は消えなくて済んだ

――やめろ

   私の代わりに、お前が消えればよかったのに

――やめろ

   可能性を消したのは、お前自身だ

――やめろ

   1人じゃなにもできないくせに、何でもできると思った?

――やめろ

   想いは通じると思った?

――やめろ

   自分が神になったとでも思った?

――やめろ

   バカなの? 死ねよ

――やめろぉ……


415 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/22 00:18:57.38 u/MTHkzVo 940/2638


   鳳凰院凶真? なにそれおいしいの?

――やめろ

   でかい口を叩くしか能が無いの?

――やめろ

   自分から危険に飛び込んでおいて、他人のせいにするの?

――やめろ

   できもしない約束を、なぜ誓った?

――やめろ

   私を助ける約束じゃなかったの?

――やめろ

   約束が違うじゃない

――やめろ

   どうして私が殺されなくちゃならないの?

――やめろ

   どうして私を殺したの?

――やめろ

   世界のせいにする気?

――やめろ

   逃げるの?

――やめろ

   私に未来は無いのに、あんたは未来を生きるの?

――やめろ

   どうしてあんたは生きてるの?

――やめろ

   どうしてまゆりは生きてるの?

――やめろ

   どうして私は死んでるの?

――やめろ

   あんたが私を殺したのよ

――やめろ


                 『それがお前の選択だよ、岡部倫子』



――――――――――――やめてくれぇぇぇっ……!!



416 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/22 00:20:43.04 u/MTHkzVo 941/2638


紅莉栖「……岡部。大丈夫?」


   くり……す……?


紅莉栖「もし、ね? β世界線へ行って、もうどうしようもなかったら、私を助けることは諦めて欲しい」


   諦めて……いいの……?


紅莉栖「あんたが壊れちゃうのは、私は望まないから」


   ホントに……? もう、頑張らなくていいの……?


まゆり「頑張らなくていいんだよ、オカリン」


   そっか……頑張らなくて、いいんだ……


まゆり「泣いてもいいんだよ、オカリン」


   泣いても、いいんだ……


まゆり「まゆしぃがずっとそばにいるからね」


   うん……うん……



417 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/22 00:23:52.20 u/MTHkzVo 942/2638


紅莉栖「どうしたの岡部。悪い夢でも見てた?」フフッ

倫子「えっ……あれ? どうして」ツーッ

まゆり「オカリン、涙、拭いてあげるね」

紅莉栖「さてっ。悪夢なんてすぐ忘れた方が脳のためよ。そんなことよりもっと大事な話がある」

倫子「助手の分際でオレに指図するとはいい度胸……」グスッ

紅莉栖「無理すんな。あと、"鳳凰院凶真"はやめたんじゃなかったの?」

倫子「う、うん。そうだったね、もう"アレ"は、必要ないもんね……」

まゆり「そうだよ、オカリン。無理してあの口調を続ける必要は無いからね? 昔のオカリンに戻っていいんだよ?」

倫子「まゆりとしゃべってると、小さい頃のしゃべり方を思い出せる」フフッ

紅莉栖「そんなことより、プ・リ・ン! 私の分を勝手に食べたんだから、早く買ってきなさいよ」

倫子「はぁ? 大方、自分で食べて忘れちゃってるんでしょ。全部クリスティーナの妄想なんじゃないの?」

まゆり「あっ、プリンならまゆしぃが買ってきてあげるよー?」

紅莉栖「妄想じゃない! ちゃんと名前まで書いて冷蔵庫に入れてあったでしょ!」

紅莉栖「あっ……さては!」

倫子「……? キッチンなんて行ってどうするの?」

418 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/22 00:25:35.45 u/MTHkzVo 943/2638


紅莉栖「ほらっ! あった! これでもまだ妄想と言い張るつもり? どうせ岡部が食べて、そのままゴミ箱に捨てたんでしょ、このドジッ娘。はい論破終了」

まゆり「わぁ、ホントだー。プリンのふたに、『牧瀬』って書いてあるよー」

倫子「私にドジッ娘属性はない。妄想乙。だいたい、なんで私がクリスティーナのプリンを食べるのよ。私はちゃんと自分の分があるもん」

まゆり「でもでも~、オカリン、さっきプリン食べてたよねー?」

倫子「う、うん。だから、あれは自分の分で……あっ」

紅莉栖「ほらー! 間違って食べたんじゃない!」

倫子「あ、あの時は考え事をしていて……それに、『牧瀬プリン』って読めるじゃない? 森永さん家のプリンも、小岩井さん家のプリンも同じでしょ」

紅莉栖「どーやったら読めるって言うのよ! 屁理屈を言うなっ!」

倫子「だいたい、『牧瀬』ってのは誰のことよ。クリスティーナなら知ってるけど」

紅莉栖「私の苗字だーっ!!」

倫子「もう、どうしろって言うの……ゴメンナサイ、テヘペロ☆ これでいい?」

紅莉栖「いい訳あるかーっ!!」

まゆり「オカリン、落ち着いて! まゆしぃがね、買ってきてあげるから、大声出しちゃだめだよぅ!」

425 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/28 23:20:01.28 Ui/UzoXUo 944/2638

2010年8月31日火曜日
代々木 AH東京総合病院 精神科 911号室【岡部倫子様】


鈴羽「これ……どういうこと……?」

まゆり「……えっとね? 今、オカリンと"クリスちゃん"と3人でお話してたところなんだー」

倫子「あら、鈴羽じゃない。相変わらずバイト頑張ってる?」ニコニコ

鈴羽「バイ……ト……?」

倫子「またサボって遊びに来たの? これじゃ、店長さんに怒られて当然だね。紅莉栖もそう思うでしょ?」

紅莉栖「え? ああ、うん。ってゆーか阿万音さん、私のこと、嫌ってなかったっけ?」

鈴羽「は……? えっと……?」

まゆり「あ、あのねっ! "スズさん"、今日はちょっと疲れてるんだって!」

鈴羽「("スズさん"って、あたしのこと、か……)」

紅莉栖「あらそうなの。だったら、そこにドクペが入ってるから飲むといいわ。糖分が脳に補給される」

倫子「まゆり。鈴羽に渡してあげて」

まゆり「うんっ。はい、ドクペだよ~」スッ

鈴羽「あ、うん……椎名まゆり、ちょっと」クイッ

426 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/28 23:21:17.02 Ui/UzoXUo 945/2638

病院廊下


まゆり「鈴羽さん、今日は来てくれてありがとう。えっと、オカリンの前では"スズさん"って呼ぶね」

まゆり「α世界線? のまゆしぃがそう呼んでたってオカリンが言ってたから……」

まゆり「あっ! でもでも、もし鈴羽さんさえ良ければ、まゆしぃはスズさんって呼びたいなー」

鈴羽「そんなことより、あの"おままごと"の説明をしてほしいんだけど」

まゆり「……オカリンはね、クリスちゃんがそこに居るって思ってるみたいなの」

鈴羽「自分で声を出してるのに?」

まゆり「う、うん。クリスちゃんの時はね、少し声が変わるから、今はオカリンじゃなくてクリスちゃんなんだなーってわかるんだー」

鈴羽「見えてる世界が違うのかな……」

まゆり「そう、みたい。オカリンはね、ここがラボだって思ってるみたいなの」

鈴羽「ラボって、この間父さんに案内してもらったあそこ?」

鈴羽「もしそうなら、リンリンを本物のラボに連れて行ったらどうなるんだろう」

まゆり「外出許可は申請すればもらえるけど、どうなるかわからないからやめてほしいな……」

鈴羽「ご、ごめん」シュン

初老の患者「あみぃちゃん! ろこぉ!? あみぃちゃん!」

鈴羽「うわっ!? ビックリした……」

まゆり「あ、山井さん。お部屋はあっちですよ」

鈴羽「……幻覚症状。ここは、そういう病棟なんだね」

まゆり「……オカリンね、"クリスちゃん"と一緒にガジェット開発もしててね、すごく楽しそうなんだよ」

鈴羽「それって要は一人芝居だよね。参ったな……」

まゆり「オカリンに用事?」

鈴羽「まあね。一応、言うだけ言っておこうかな」

427 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/28 23:22:23.10 Ui/UzoXUo 946/2638

911号室【岡部倫子様】


紅莉栖「――それでね、その時先輩はなんて言ったと思う?」

倫子「なんて言ったの?」

紅莉栖「"人は何処だって学ぶことができる。学ぶことが何ひとつ無い場所や時など存在しない。何故なら、私たち自身が未知の宝庫なのだから"――だって」

倫子「ふふ、さすが。言い訳も一流ってわけだ」

紅莉栖「そこが可愛いところでもあるんだけどねぇ」

鈴羽「あー、えっと、リンリン?」

倫子「もう、リンリンって呼ばないでって言ったでしょ? 恥ずかしいなぁ」

鈴羽「そ、そうだっけ?」

倫子「倫子でいいよ」

鈴羽「……岡部倫子。キミに伝えておきたいことがあるんだ」

倫子「なあに。改まって。もしかして愛の告白?」

紅莉栖「ちょ!? 阿万音さん! 抜け駆けは凶真守護天使団が許さないからな!」

倫子「その恥ずかしい名前、もうやめてってフェイリスに言ったのになぁ。あはは」

鈴羽「…………」

428 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/28 23:24:12.64 Ui/UzoXUo 947/2638


鈴羽「タイムマシンの燃料の残量からするとさ、時間移動はあと334日分が限度」

鈴羽「1年と経たないうちに、7月28日へは届かなくなる」

鈴羽「あのマシンは、ただのガラクタになる」

鈴羽「覚えといて。その日になったらさ、あたしは、たとえ1人でも跳ぶよ」

倫子「……? だって、あのタイムマシンは1人乗りでしょ?」

鈴羽「……そうだったね。うん。そうだった」

鈴羽「(あたしのせいでリンリンはこんなことになっちゃったのに、ここに居たくない……)」

鈴羽「(こんな痛々しいリンリンは見てられない……あたしは、こんなことをするために過去に来たんじゃないのに……!)」

鈴羽「(最低だ、あたし……リンリンのせいにしようとしてる……)」グッ

鈴羽「……それじゃ」タッ

倫子「あ! ルカ子の家に帰ったら、HENTAI神主には気を付けてね!」

まゆり「…………」

まゆり「(おばあちゃん、お願い……まゆしぃに力を貸して……)」ウルッ

429 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/28 23:25:19.07 Ui/UzoXUo 948/2638


倫子「相変わらず鈴羽はせわしないなぁ」

紅莉栖「阿万音さんらしくていいじゃない」

まゆり「ねぇ、オカリン。まゆしぃね、今日で夏休みが終わっちゃうから、明日からはずっとは一緒に居てあげられないんだー」

まゆり「あ、でもでも、毎日来るからね! みんなにもお見ま……ラボに遊びにくるように頼んだから、オカリンは寂しくないからね?」

倫子「うん、ありがと。ってっても、ラボには紅莉栖も居るし、むしろうるさいくらいかな」フフッ

紅莉栖「無理言って大学側に滞在を延期させてもらってるから、そろそろ先輩が私を拉致しに来てもおかしくないかも」

倫子「そしたらその先輩もラボに迎えてあげるから。来るなら来てみなさい……」ニヤリ

まゆり「でも、オカリンもそろそろ夏休み終わっちゃうんだよね」

まゆり「そしたら、また学校に通わなくちゃね! それまでに元気いっぱいになろうね、オカリン!」

紅莉栖「そうよ岡部。ただでさえ不健康な生活してるんだから、まゆりを見習って早朝ジョギングでもしてきなさい」

倫子「わ、私は運動音痴だからいいの! ってゆーか、紅莉栖もヒトのこと言えないでしょーが!」

倫子「ラーメンばっかり食べてて、太るよ?」ニヤニヤ

紅莉栖「う、うるさいなっ! 日本のラーメンが美味しいのがいけないの! はい論破、証明終了!」

倫子「なにそれ」フフッ

まゆり「そうだぁ! 今日はこれからお買い物に行こうよ! オカリンが大学に着ていく可愛いお洋服を揃えないと!」

紅莉栖「お、岡部が可愛いお洋服だと……ハァハァ」

倫子「HENTAI紅莉栖には見せてあげなーい」

紅莉栖「ぐはぁっ!」

倫子「冗談だよ」ニコニコ

まゆり「……さ、さぁ、行こー!」

430 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/28 23:26:37.55 Ui/UzoXUo 949/2638

渋谷 スクランブル交差点


紅莉栖「去年の渋谷地震の復興はもう8割がた済んでるのね。日本の威信をかけた復興事業だったってアメリカでもニュースになるくらいだったし」

倫子「あ、あそこの人たち。あれが噂の、えと、カオスチャイルド症候群、だっけ」

まゆり「制服は、かわいい、よね……今日、登校日なのかな……」

紅莉栖「……偏見を持っちゃダメよ。あの人たちは紛れもない被害者なんだから」

倫子「さすが紅莉栖、優等生的発言」

少女「うわぁっ!」ドンッ

まゆり「きゃっ。えっと、だいじょうぶ? ごめんね、まゆしぃがぼーっとしてたから……」

倫子「この人の多さじゃぶつかっても仕方ないよ。キミ、立てる?」スッ

倫子「(綯と同じくらいの歳の子かな?)」

少女「あ、ありがとう、ございます」

紅莉栖「そんなに急いでどうしたの?」

少女「えっと、私の恩人……幼馴染の男の子が今日、目が覚めるかもって連絡があって、走っちゃいました。ごめんなさい」

まゆり「(あれ? この子、どこ向いてしゃべってるんだろう……)」

倫子「目が覚める……?」

少女「渋谷地震の後遺症で、ずっと眠ったままなんです。でも、もしかしたら今日も目を覚まさないかも」

紅莉栖「街は復興しても、人はそう簡単には元に戻らない。失ったものが大きすぎたのね」

まゆり「……きっとその幼馴染の男の子はね、あなたのことを必要としてくれてると思うなー、えっへへー」

少女「そうかなぁ、えへへぇ」

倫子「それじゃ、人にぶつからないよう気を付けて行くんだよ?」

少女「おっけい!」タッ タッ

431 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/28 23:27:22.31 Ui/UzoXUo 950/2638


まゆり「渋谷はいつ来ても人がいっぱいだねー」

倫子「まゆり、手を離さないでね? まゆりはすぐはぐれちゃうから」

まゆり「うんっ! ありがとう、オカリン。えっへへ~♪」ニコニコ

紅莉栖「いいなぁ、まゆりは。羨ましい」

倫子「紅莉栖も服買おう? いつも同じ改造制服だと、せっかくかわいいのにもったいないよ」

紅莉栖「こ、これは、自分の荷物を少なくするためにだな……」

倫子「ねえ、まゆりは紅莉栖にどんな服が似合うと思う?」

まゆり「えぇっ!? え、えっとねー……うんとねー……」ムムム

倫子「そんなに悩んじゃうほど? まあ、紅莉栖は確かに何着ても似合いそうではある」

紅莉栖「それって褒めてるの? けなしてるの?」

まゆり「あ! それなら、フリフリでお姫様みたいなのはどうかなー?」

紅莉栖「絶対にNO!!」

まゆり「あぅ」

倫子「ふふっ。ナイスボケね、まゆり。紅莉栖にそれは無い」フフッ

まゆり「(……帰ったら、牧瀬紅莉栖って人がどんな見た目の人か、調べておかなきゃ……)」

432 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/28 23:27:53.68 Ui/UzoXUo 951/2638

LOFT近くの衣料店


まゆり「ねぇねぇオカリン! これなんかどうかな? 似合うと思うなー♪」

倫子「えー? これー? うーん、紅莉栖はどう思う?」

紅莉栖「り、倫子ちゃんが、更衣室でぬぎぬぎ……ハァハァ」

倫子「倫子ちゃん言うなぁっ!」

まゆり「あ、あはは……」キョロキョロ

まゆり「(……お店の人に変な目で見られちゃってるけど、大丈夫かな? ちゃんと売ってもらえるかな?)」


「……うぴ?」

「セナしゃん、セナしゃん。向こうに、見えない人としゃべってる、とってもとーっても美人な女の子がいるのら」

「とーめーにんにんげーんさーん?」

セナ「なに……?」

433 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/28 23:28:40.87 Ui/UzoXUo 952/2638


セナ「おいお前」ガシッ

倫子「きゃぁ!? ちょっと何……あ、あなた、蒼井セナ!?」プルプル

まゆり「オ、オカリンっ? あの、どちら様、ですか?」

セナ「(なぜ私の名前を……どこかで会ったか?)」

セナ「お前、見えているのか」

倫子「み、見えているって、何のこと?」

セナ「エラー。負の妄想だ」

倫子「妄想……?」

まゆり「あ! えっと、オカリンはそういう病気なんです! だから、悪いことはしてないんです!」ヒシッ

倫子「ちょ、まゆり! 私はもう厨二病は卒業したってば!」

セナ「そこに、お前が望んだ妄想の人間が居るはずだ。違うか」

セナ「(まあ、私が思考盗撮すればわかることだが)」

倫子「さっきから何をわけのわからないことを言ってるんですか! 紅莉栖、なんとかして!」

セナ「クリス? ……っ!? 牧瀬、紅莉栖!? なぜ生きている!?」

紅莉栖「ふぇっ!? えっと……?」

セナ「(それに、なんだこの記憶は……神社、巫女、それに、白衣……)」

セナ「まさかこいつ、私に妄想攻撃を!? ならばこちらも……!」


シュィィィィィィィィィィン!!


倫子「……っ!?」

434 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/28 23:30:14.67 Ui/UzoXUo 953/2638


倫子「ま、またその剣……や、やめてよ……」ガクガク

まゆり「えっ? えっ? なにがどうなってるのかな?」

セナ「やはり見えているのだな……! リアルブートしていない妄想の存在は、ギガロマニアックスにしか見えない……!」

「セナしゃん、ここでヤっちゃうのら? こずぴぃもねー、セナしゃんのお手伝いがしたいぽーん☆」

セナ「梢はおとなしくしていろ。このディソードは振り回すために抜いたわけじゃない。もう必要は無い」シュインッ

「うぷぅ、セナしゃんばっかりずるいのらー! ぷんすかぷーん!」

倫子「(なにこの変なしゃべり方の金髪ツインテの子……まゆりより年下っぽいけど……なんにしても、剣を消してくれてよかった……)」ホッ

セナ「お前、岡部倫子だな。そうか、思い出したぞ。去年渋谷の地下で会った妄想垂れ流し女……」

セナ「(この記憶は本物か? 記憶が改ざんされた気配はないが……)」

セナ「まるで雰囲気が変わっていたのでお前だと気付かなかった。それに、あの時はディソードが見えていなかったようだが」

倫子「去年だけじゃなくて、つい先々週も会ったじゃない! 柳林神社で!」

セナ「……ああ。どういうわけだか、私にもその"ありもしない記憶"がある」

セナ「確かに私は8月15日、西條と秋葉原へIBN5100を探しに行った」

倫子「IBN5100……? 予約してたフィギュアを取りに行ったんじゃなかったの?」

セナ「6月頃、ネットで祭りになったらしい。『転売厨なら手に入れなきゃ嘘だろ常考』、などとほざいていて鬱陶しかったので用心棒として雇われたまでだ」

倫子「(ネットの祭りは1975年へ跳んだα鈴羽の仕込みじゃなかったのか? いや、β世界線でもIBN5100がラボに届くようにした因果の再構成に組み込まれ……あ、あれ、なにか、大事なことが思い出せない?)」

435 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/28 23:31:31.99 Ui/UzoXUo 954/2638


セナ「だが、そこで"お前たち2人"とは会っていない」

セナ「会っているはずがないんだ。何故なら、新聞で報じられていた通り、牧瀬紅莉栖は7月28日に――」

まゆり「あー! 2人とも、翠明学園の制服の夏服バージョンだー! 有名デザイナーさんがデザインしてて、可愛いって評判なんだよねぇ、いいなぁー!」アセッ

セナ「……梢」

まゆり「(そのことはオカリンに言っちゃだめだよう! 牧瀬紅莉栖さんはオカリンの中ではまだ生きてるんだよう!)」

「……ってことらしいのら」

セナ「なるほど……」

倫子「そう言えばあなたたち、今日は夏休みじゃないの? どうして制服着てるの?」

「こずぴぃたちはねー、成績さんが悪いわるーいだから、ほしゅーだったのらー☆ ちなみにセナしゃんは2回目の3年せ――」

セナ「ともかく、私にはあるはずの無い記憶がある。お前の妄想攻撃か?」

倫子「それってどういう……もしかして、リーディングシュタイナー?」

セナ「ほう。お前はそんな呼び方をするのか。私たちはギガロマニアックスと呼んでいる」

倫子「ギガロマ……?」

セナ「場所を変えよう。あまり公の場で話す話でもない」

まゆり「えっと、どうしよう、オカリン……」

紅莉栖「ただの電波って感じでもない。ついていくべきよ。蒼井さん、私たちが知らない情報を持ってるみたい」

倫子「さすが紅莉栖、好奇心旺盛だね……わかった」

セナ「……ふん」

436 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/28 23:32:18.49 Ui/UzoXUo 955/2638

カフェLAX


店員「ほう。女ばかりでぞろぞろと。おぬしら、何のようじゃ?」

セナ「奥の席に頼む」

店員「相変わらず愛想の無い客よのう。4名様、ごあんな~い」

倫子「4名? 5人のはずだけど」

店員「人数が増えてもどうせ席は変わらんから、早う座れ」


「こずぴぃはねー、こずぴぃだよー☆ よろしくなのれす」

まゆり「まゆしぃはねー、まゆしぃ☆なのです。えっへへー」

紅莉栖「なにこの頭の痛くなる自己紹介……」

「でもで~も、こずぴぃの方がねー、まゆしぃより年上さんなのら~♪」

倫子「それで、その、話って何?」

セナ「私がお前と初めて会った時、お前は見事に未来予知をしてみせた。覚えているか?」

倫子「未来予知……?」

437 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/28 23:33:11.45 Ui/UzoXUo 956/2638

・・・
2009年10月29日
渋谷駅 地下コンコース


タッ タッ タッ

セナ「くっ、見失ったか……おい、そこのお前。今、リュックを背負った小太りの男を見なかったか?」

倫子「(な、なんだ!? こいつのしゃべり方といい雰囲気といい……まるでオレの理想とするエージェントとの邂逅ではないかっ!)」ドキドキ

倫子「(ここは敢えて振り向かずに……)フン。質問の前に名乗ったらどうだ、黒髪ロングの女よ」クックッ

セナ「……蒼井セナ(なんだこいつ。妙に芝居がかった口調で)」

倫子「……オレだ。今、妙な女と接触した。……ああ、機関に反逆し逃亡中の女の可能性がある。1時間以内に連絡しなかったら、オレはやられたと判断して、そのまま計画を続行しろ。それが運命石の扉<シュタインズゲート>の選択だ。エル・プサイ・コングルゥ」スッ

セナ「(ケータイ? 誰と話してるんだ……?)」

倫子「貴様、何者だ?」クルッ

セナ「(……変なやつかと思ったら、すごい美人じゃないか。こいつも岸本タイプか)」

倫子「答えろ。……いや、答えないという事は、ついに始まるのだな。アレが」

セナ「アレ、だと? サードメルトのことを言っているのか?」

倫子「(なにこの子、オレの妄想話に全力で付き合ってくれてるのか!?)」ワクワク

倫子「……いかにも」

セナ「っ!!」ドクン

438 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/28 23:34:10.64 Ui/UzoXUo 957/2638


倫子「(ならば、オレも全力で厨二全開トークを、あ、いや、世界の真実の物語を楽しませてもらうとしよう……!)」キラキラ

セナ「お前、何者だ? まさか……」

セナ「(いや、ギガロマニアックスの気配はない。希テクノロジーの関係者か?)」

倫子「ククク、ふぅーはははぁ! そうか、オレの正体に気付いてしまったようだな、コードネーム"蒼の剣士"よ!」

セナ「……はぁ?」

倫子「内閣特殊調査室のスーパーエージェント、その正体は体制<オーガナイザー>側の能力者<アウグル>! 貴様の目的は2つ。"聖想剣グラジオラス"の真なる持ち主を探すこと。そして、計画の障害を取り除くために邪魔者を処刑<エゼクサオン>すること……そうだな?」ニヤリ

セナ「(……こいつの心も半ば壊れかけているように感じる。ギガロマニアックスとして覚醒する潜在的な力があるのか?)」

セナ「それ以上妄想をするな。でないと、いずれ妄想に喰われるぞ」

倫子「妄想ができるのは、地球上のあらゆる生物の中で人間だけだ。肉体的に弱い人類が手に入れた"危険予測の能力"だが、その力は現代において肥大化しすぎてしまった……」

セナ「妄想は電気仕掛けだ。いや、この世界そのものが電気仕掛けなんだ」

倫子「仮想現実だな……!」キラキラ

セナ「(うっ、かわいい……)」

倫子「そうか、そういうことだったのか……! 現実の世界はすでに崩壊し、オレたちは量子サーバー内でデータだけの存在として生きて――」

セナ「そんなことは一言も言っていない」ギロッ

倫子「ヒッ、スイマセン……」シュン

439 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/28 23:34:57.85 Ui/UzoXUo 958/2638


セナ「私の言ったことを頭の片隅に置いておけ」

倫子「フッ、オレに忠告をするとは……ならばオレからも1つ、伝えておこう。エスパー西條を知っているか?」

セナ「なん……だと……?」

セナ「(エスパー少年騒動が全国中継されたのはつい先日、10月27日のことだが……まさかこいつ、ただの野次馬か?)」

倫子「あの男を死なせてはならない。世界の命運の鍵は、ヤツが握っている」

セナ「お前……っ!!」シュィィィィィィィィィィン!!

倫子「……? (右手を振りかぶって、羽虫でも居たのか?)」

セナ「(こいつ、妄想のディソードが見えてないのか……?)」

セナ「なにを知っている。西條を煽ったのは、お前か?」

倫子「あのスクランブル交差点での事件は予兆に過ぎない。終末のときはすぐそこまで迫っている。近いうちに渋谷は血の海と化すだろう」

セナ「そんなことはさせない」

倫子「蒼井セナ、と言ったか。お前と出会えて、よかった。既に分岐してしまった世界を正しい方向へと導けるのは、貴様だけだ」

セナ「……なに?」

倫子「我が名は鳳凰院凶真っ!」ガバッ

倫子「人はオレのことを、畏怖をこめて狂気のマッドサイエンティストと呼ぶ。貴様とはいずれまた会うことになるだろう。それが、運命石の扉<シュタインズゲート>の選択だ。エル・プサイ・コングルゥ」


クルッ スタ スタ ……


440 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/28 23:35:35.13 Ui/UzoXUo 959/2638


セナ「待て」グイッ

倫子「きゃっ!!」ズテーン

セナ「あ、転んだ」

倫子「……ひ、人がせっかく格好良く立ち去ろうとしているというのに、貴様空気を読めっ!」ウルッ

セナ「(かわいいがうっとうしい)」イラッ

倫子「う……ぐぁぁっ! こんなときに、右手が疼く……っ。ち、近寄るな! でないと、力が暴走を……!」ジタバタ

セナ「お前には見えているのか?」

倫子「え? なにが?」

セナ「私の持っている、これだ」シュィィィィィィィィィィン!!

倫子「……ああ、見えている。あまりにも鮮烈、見る者の目をくぎ付けにして離さない、その残酷なまでに美しい剣が」

セナ「なっ!? 本当か?」

倫子「無論だ……。妖刀朧雪月花。実に見事な日本刀……」

セナ「ウソをつくなっ! バカがっ!」グイッ

倫子「いやぁぁっ!! ちょ、おま、公衆の面前でなんてことを!!」

セナ「あ、つい西條のノリで股間を踏んづけてしまった。悪い」

倫子「うぅ……もう、お嫁に行けない……」シクシク


・・・

441 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/28 23:36:49.37 Ui/UzoXUo 960/2638


店員「待たせたの。注文の品、お待たせじゃ」

店員「しかし美少女よ。いくら外が暑いとはいえ、1人でそんなに飲んではおしっこを漏らしてしまうぞ」ヒョイッ ヒョイッ

倫子「いや、こっちのコーラは紅莉栖の分だし」

紅莉栖「さすがにドクペは置いてないから岡部はマウンテンビューか」

「肉まんまーんが、おいしそーなのら☆」

まゆり「このお店、肉まんも置いてるんだねー。あ、グレープフルーツジュースはまゆしぃのです」

セナ「それで、話の続きだが、お前の"予言"はピタリと的中した」シャク シャク

店員「堂々と店内でガルガリ君を食うでない! このどたわけが!」

セナ「渋谷地震は希テクノロジーの、引いては300人委員会の陰謀だった。まあ、実態は野呂瀬玄一の私的な野望だったのだがな」ペロリ

店員「ぐぬぬ……勝手にするがよいっ!」クルッ

セナ「鍵を握っていたのは西條拓巳。世界はヤツの妄想によって救われたんだ」

倫子「い、いや、だけどあれは、私が適当に思い付いた言葉を並べただけで……」

セナ「今思えば、既に片鱗を見せていたのだろう。"適当に思い付くこと"それ自体がお前の力だったと言える」

セナ「そして今ではエラーが見えるまでになった。力を覚醒させてしまうのは時間の問題だ」

セナ「それに、他にも心当たりがあるはずだ。未来のビジョンが浮かび上がるようなことがかつて無かったか?」


  『まゆしぃだって、クリスちゃんを犠牲にしてまで生きていたくないよぉ!』


セナ「なるほど、やはりな……」

倫子「そんなはずは……」

セナ「お前は、未来予知に特化したギガロマニアックスだ」

442 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/28 23:37:49.84 Ui/UzoXUo 961/2638


セナ「岸本と同じ……いや、岸本に言わせればツィーグラーと同様の能力か……」

セナ「お前の場合、近くに居る人間の脳を利用して、その脳が将来的にどのような電気信号を受信することになるか、を予知できるのだろう。一種の思考盗撮と言える」

セナ「去年私と出会った時のお前の未来予知では、お前は私の脳を利用したんだ」

まゆり「えっと、オカリンは、占い師さんってこと?」

倫子「そんなわけない! そうじゃなくて、私には、別の世界線の記憶を引き継ぐ能力、リーディングシュタイナーってのがあって――」

セナ「別の世界線?」

倫子「……ラボメンになるなら、話してあげなくもない」

セナ「ラボメン……なるほど。ラボラトリーメンバー……大学生のサークルみたいなものか」

「セナしゃんまで心の声が聞こえるようになったーらね、こずぴぃ、セナしゃんのお役に立てなくなっちゃうかもかもーで、ちょっと寂しいのれす」

セナ「梢ほどハッキリとはわからないが、私でも多少の思考盗撮はできる」

セナ「世界線については保留にしよう。ラボメンとやらになるつもりはないからな」

セナ「こいつの名前は……椎名まゆり、か。椎名に聞きたいことがある」

セナ「岡部は最近、心を壊すような出来事はあったか?」

まゆり「え……」

「あったーって言ってるのら!」

セナ「ふむ……」

倫子「……あなた達、もしかして超能力者なの!?」ビクビク

443 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/28 23:38:58.86 Ui/UzoXUo 962/2638


セナ「ギガロマニアックスだと言っている」

倫子「だから、それ、なんなの?」

セナ「乱暴に言えば、妄想を具現化する能力を持つ者のことだ」

倫子「妄想を具現化……?」

セナ「ディラックの海、負のエネルギーでいっぱいに満たされた観測不能の境界面に、ディソードをパイプの先端のように突っ込む」

セナ「ディソードはいわば、ゼロより下の領域とのリンクだ。世界は1と0、そして-1で構成されているが、この負の領域と接続する」

セナ「ディラックの海とのチャネルを大きくすることで、粒子と反粒子の対生成を起こし、世界にとってのエラー、妄想を創り出す」

セナ「このエラーを周囲の人間の脳と共有することで、妄想を量子力学的に具現化する」

倫子「……前に紅莉栖が作った未来ガジェット9号機みたいだね。他人の考えた映像を見るマシンを脳波だけで実現してる、ってこと?」

セナ「脳波じゃない。視界のデッドスポットに粒子を送り込むんだ」

倫子「(意識で粒子を操ってるの? どこかで聞いたような……)」

倫子「だけど、それだと幻覚にしかならないんじゃない?」

セナ「世界は電気仕掛けだ。何を見ているかじゃない。何を見せられているかだ」

セナ「現実なる実体を脳が認識しているんじゃない。複数の脳が共有した電気信号を現実だとして世界が成立しているんだ」

倫子「水槽の脳、みたいな話だね」

セナ「その例えで言うなら、水槽の世界、と言ったところか」

444 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/28 23:39:52.94 Ui/UzoXUo 963/2638


セナ「お前の見ている世界は本物か?」

倫子「ヴァーチャルリアリティだって言いたいの?」

セナ「お前がお前であるとどうやって証明できる?」

倫子「……?」

セナ「お前の目から見えている世界は妄想に過ぎない。それを現実として認識するためには、誰かと世界を、つまりお前の妄想を共有するしかないんだ」


  『その目、だれの目』


セナ「人間の脳はそういう風に作られている」

倫子「なら、未来予知なんて眉唾じゃない。未来のことを知ったところで妄想に過ぎない」

セナ「未来予知は、"正しく世界を視る"と言った方がいいかもしれない。この先どのようなことが起こるのか、周囲共通認識を経由して演算処理し、シュミレートしている」

セナ「サンプリング数がどの程度必要なのかは予知内容によるだろうが、複数の脳を使い現実を正しく認識することで、その世界固有の因果の流れを視ることができる」

セナ「どうやら、世界が分岐する地点までは因果が確定しているらしい。分岐点の先には全く別の未来が複数存在している」

倫子「(それについては嫌というほど知ってる……)」

445 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/28 23:40:54.93 Ui/UzoXUo 964/2638


セナ「その"未来"というのが、この世界の物理的な時間のことか、お前の主観的時間のことかはわからない。脳の認識次第では、あるいは両方かもしれない」

倫子「ラプラスの魔?」

セナ「あくまで量子力学的に認識をするから、未来予知が必ず当たるということはなく、ラプラスの魔とは異なる。いわば、確率的に未来が存在しているんだ」

セナ「例えば、未来の情報を入手したことで、それを回避するための行動選択をしたとする。そうすれば当然未来予知は外れる。世界は分岐するんだ」

セナ「だからこそ、岸本の言うところの、『邪心王グラジオール復活による世界の破滅』は回避できたわけだからな」

倫子「(タイムトラベルと似ている……?)」


・・・

『ポイントは、送るのは"記憶"だけってこと。あくまでも被通話者は未来の記憶を"思い出す"だけってこと』

『ある意味、未来予知ができるようになる、と言えるかも』

・・・


倫子「(もしかして、タイムリープのし過ぎで私にそんな力が……? いや、関係ないか……)」

446 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/28 23:42:38.03 Ui/UzoXUo 965/2638


セナ「自分のディソードは見えているのか?」

倫子「自分の、って、私の剣があるの?」

セナ「やはり、ディソードなしに未来予知をやってのけていたか……」

セナ「(西條クラスの素質を持っているかも知れないな……だが、慌てることは無い。まだこいつは覚醒していないのだから)」

セナ「(覚醒していないせいで、自分だけの現実、というより不完全な妄想世界――現実世界に牧瀬が生きているように物事が都合よく改ざんされるフィルターのようなもの――になっている)」

セナ「(反粒子を岡部のデッドスポットに送り込んで粒子を対消滅させ妄想の牧瀬を消したとしても、いたちごっこにしかならない)」

セナ「(だが、この程度の妄想世界なら妄想シンクロも容易い……妄想世界を消滅させれば、岡部がギガロマニアックスの力を使い続ける必要もなくなる、か)」

倫子「自分のディソードがあれば、私にもあなたたちみたいな超能力が手に入るの?」

セナ「むやみにこの力を使うな。私がお前に話したかったのはこの点だ」

倫子「あなたの話って、言葉が少ないわりに回りくどいね……」

セナ「妄想を現実にする行為にはリスクが付きまとう」

セナ「粒子とともに生成される反粒子は、自分のディソードにストックされていくんだ。たとえ自分のディソードが見えていなくてもな」

セナ「反粒子は数学的に言えば、"過去へ向かうもの"だから、ストックすればするほど、ギガロマニアックスには"現在の状態とのずれ"が発生し――」

セナ「存在としての自己崩壊を招く」

倫子「自己崩壊……」

447 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/28 23:44:03.10 Ui/UzoXUo 966/2638


セナ「これ以上妄想するな」

セナ「お前の場合、特に未来について妄想してはならない。その力はいずれ身を滅ぼす」

セナ「イマジナリーフレンドもやめた方がいい。今はまだ岡部個人の妄想に留まっているが、これを周囲共通認識化すれば"牧瀬紅莉栖"がリアルブートされてしまう」

セナ「私の知り合いにも妄想で人間を具現化したやつが居るが、そいつは力を使い果たして死期を早めた」

まゆり「ええっ!? オカリンが死んじゃうの、いやだよう……!」

倫子「だ、大丈夫よ、まゆり。私は死なないから……」

セナ「なんなら強制的にやめさせてやってもいいが、どうする?」

まゆり「ど、どういうこと……?」

倫子「ってゆーか、言ってる意味がわからない! 紅莉栖も何か言ってやって!」

紅莉栖「まるで私がイマジナリーな存在みたいに言ってくれてるけど、私はここに居るわよ。失礼しちゃう」

セナ「……岡部の創り出した妄想の牧瀬を消滅させる」

倫子「だから、妄想じゃないと何度も――」

セナ「カギとなっている牧瀬が消えれば、岡部の妄想世界も同時に消滅する」

セナ「(西條の妄想世界を消滅させた時は星来を殺す必要は無かったが、今回はそれでいいはずだ。なぜなら、こいつにとって必要なことは、『牧瀬紅莉栖の死を受け入れること』なのだから)」

セナ「無知は罪だ。知らない方が幸せなこともあると言うが、そんなのはただの甘えだ」

セナ「どうする、椎名」

まゆり「まゆしぃは……えっと……」

まゆり「こんなに痛々しいオカリンを、もう見ていられないのです……」ウルッ

セナ「……わかった。梢」

「もぐもぐ……うぴ?」

448 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/28 23:44:52.08 Ui/UzoXUo 967/2638


「つまりつまりー、もーそーのクリスしゃんを、ドカバキグシャーしちゃっていーのら?」

岡部「や、やめてっ!」

セナ「お前は動くな。動いたらお前の首元に突きつけている私のディソードをリアルブートしてやる」スッ

岡部「くぅ……っ!」

まゆり「えっと、今、オカリンに見えない剣を見せてるのかな……」

セナ「おい牧瀬。居るんだろう、出てこい」

紅莉栖「い、言われなくてもここに居るっ!」

セナ「よし。梢、迅速に頼む」

「わかったのら~☆ 殺しちゃーうよ♪」

「…………」クターッ

まゆり「寝ちゃったの?」

セナ「梢は岡部の妄想の世界に完全に入り込み、牧瀬を消しているんだ。じきに岡部は気絶する」

まゆり「えっ!?」

セナ「心配するな。現実の世界へ戻るためのスリープだ。今のうちに救急車でも呼んでおけ」

まゆり「う、うん。わかった」ピッ

岡部「やめてよぉ……やめて、やめてやめてやめ――――っ」クターッ

セナ「やったか」

「まっかっかでどーろどろにしちゃったーよ♪」

セナ「これで"牧瀬紅莉栖"は死んだ。もう蘇ることもないだろう」

セナ「これ以上妄想しないよう、そばについていてやれ。椎名」

まゆり「うん……」

449 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/28 23:45:30.57 Ui/UzoXUo 968/2638

代々木 AH東京総合病院 911号室【岡部倫子様】


倫子「ん……ここは、病院」

まゆり「オカリン! よかったぁ、目が覚めたんだね……!」ウルッ

まゆり「ごめんね、まゆしぃのせいでつらい思いをさせちゃって……」グスッ

倫子「……泣かないで、まゆり。それより、私こそごめんね」

まゆり「オカリン……? もしかして、覚えてるの?」

倫子「妄想の世界に閉じこもっちゃって、まゆりに迷惑かけちゃった」

まゆり「そ、そんなことないよ! ……オカリン、もう大丈夫なの?」

倫子「うん。ここがラボじゃなくて病室だってことも、α世界線じゃなくてβ世界線だってことも」

倫子「……牧瀬紅莉栖がすでに死んでいるってことも、ハッキリと思い出せる」

まゆり「オカリン……」

倫子「結局またまゆりの時みたいに都合よく記憶を改変しちゃってたんだね……」ハァ

倫子「あの超能力者さんたちには感謝しとかないと」

まゆり「うん……よかったぁ、よかったよぉ……グスッ……」ダキッ

倫子「まゆり……ありがとう、いつもそばにいてくれて……」ナデナデ

450 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/28 23:46:36.44 Ui/UzoXUo 969/2638

2010年9月1日水曜日
代々木 AH東京総合病院 911号室【岡部倫子様】


医者「今日1日検査した結果に問題がなければ、明日には退院できますよ」

倫子「ご迷惑をおかけしました」

倫子「(紅莉栖は前に、この病院の地下室で300人委員会の息がかかった研究機関による人体実験が行われていると言ってた)」

倫子「(このβ世界線でもそうなのかはわからないけど、そんないわくつきの病院からは一刻も早く退院したかった)」

医者「ですが、PTSD治療は長期の継続的治療が必要です。池袋周辺で通院できるメンタルクリニックを紹介しておきましょう」

倫子「(まあ、表で働いている医者は普通の人だと思うけど)」

医者「それじゃ、安静にね」


ガララッ


倫子「……私はなにをやってるんだ」ハァ

倫子「鈴羽、怒ってるだろうなぁ……」

倫子「ダルはどうしてるかな……」

倫子「店長さんに今月分の家賃、払わなきゃなぁ……」

倫子「ラボに、行きづらいな……」

倫子「テレビでも見よう。えっと、イヤホンは……」

451 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/28 23:47:40.06 Ui/UzoXUo 970/2638


キャスター『続いて、特集です。先日ロシアへ亡命したドクター中鉢氏こと牧瀬章一さんの発表した、通称"中鉢論文"の内容が公表されました』


倫子「(またこのニュースだ。妄想に逃げていた時にも何度か見たなぁ、その時は見て見ぬフリをしちゃったけど)」


ナレーション『この事件は当初、"ロシアン航空機火災事故"として報じられたものでしたが、搭乗していた意外な人物の意外な論文が、世間を騒がせることとなりました』

ナレーション『事故があったのは8月21日。日本時間11時5分に成田を発ったモスクワ行きのロシアン航空801便が飛行中、モスクワ到着直前に貨物室から出火するという事故でした』

ナレーション『その後飛行機はドモジェドヴォ国際空港に緊急着陸し、死傷者は出ませんでした。その時の映像がこちらです』

中鉢『無事にこの素晴らしきロシアに亡命することができて、実に喜ばしい限りだ。私を受け入れてくれたロシア政府には深く感謝している』

中鉢『無事着陸させた機長には賛辞を送りたいね。彼は、この私と、私が書いた人類史に残る論文を救ったという意味で、まさに英雄だよ』

中鉢『もしこの論文が失われたら、人類科学の発展は100年の遅れを見ることになっただろう』

中鉢『人類史上初の、タイムトラベル実現に関する論文だ、分かるかね!? タイムトラベルだよ! この私、ドクター中鉢がその発明に世界で初めて成功したのだ!』

中鉢『近いうちに学会で発表する予定だがね、そのとき全人類は驚愕し、やがて私を称えることになるだろう!』

中鉢『元々この封筒は、スーツケースに入れて貨物室に預ける予定だった。実際、そうしていたら論文は貨物室で焼け焦げ、人類の夢はそこで終わってしまっただろうな』

452 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/28 23:48:37.46 Ui/UzoXUo 971/2638


中鉢『しかし! まるで神が私に"世界にドクター中鉢の偉大さを知らしめよ"と言わんばかりに、幸運な運命のイタズラを起こした』

中鉢『その神による業がこれだ! これが封筒に入っていたおかげで、荷物を預ける際に金属探知機に引っかかってしまってな』

中鉢『私は封筒だけをスーツケースから出して、機内に持ち込んだのだ! 人類の夢を守った真の英雄は、この小さな人形であるとも言えよう!』


倫子「神による業、ねぇ……」


キャスター『この小さな人形は果たして人類の英雄になったのでしょうか。井崎准教授はどう思われますか?』

井崎『僕に言わせれば最高傑作ですね。もちろん、エンターテイメントとして、ですが。中身は典型的な疑似科学でしたよ、かの有名なジョン・タイター理論の発展型と言えるでしょう』

井崎『正直に言って、ロシアが彼に勲章や名誉博士号を与えているのは何かの陰謀としか思えません』

キャスター『それはやはり、中鉢論文が革命的だったから、ではないのでしょうか』

井崎『とんでもない! きっとどこかの金持ちが道楽で彼に"物語<フィクション>"を書かせ続けているんでしょう』

井崎『現在ドクター中鉢はロシアの研究施設に事実上軟禁されていますが、彼のインタビュー記事を見る限りでは好待遇で迎え入れられていると勘違いしているようですね、はは』

井崎『中鉢論文に関しては今度11月に行われる予定のATF<アキハバラ・テクノフォーラム>の講演で取り上げようと思っていましてね。ご興味ある方は是非、足をお運びください』

453 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/28 23:50:10.64 Ui/UzoXUo 972/2638


章一の手には、7月28日、私がまゆりに取ってあげた、そしてまゆりが失くした"メタルうーぱ"が映っていた。

丸っこい平仮名で『まゆしぃの!』と書かれている、世界に1つしかないものだ。

タブオクでプレミアがついている純金属製のキャラクターストラップが、第3次世界大戦のきっかけとも言える『中鉢論文』を火災から守ってしまった。

私は、このメタルうーぱのせいで2回目の紅莉栖の救出が絶対に成功しないことを悟った。

『シュタインズゲート』は理論上の存在にすぎなかったということ。どうあがいても到達することはできない。

454 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/28 23:51:02.90 Ui/UzoXUo 973/2638


ベッドから起き上がり病室から出て、渡り廊下を通った先にある外来棟8階の屋上庭園でダルに電話をかける。

電話レンジを破棄するよう頼むと、ダルは文句の1つも言わずに従ってくれた。

あれは存在するだけで危険。あれでもれっきとしたタイムマシンだから。

……これで、Dメールを過去に送ることができなくなった。

そもそも、β世界線でDメールを送るには困難が多すぎる。

一度α世界線に戻ってから作戦を立て直す方法もあるかもしれない。

そこでなら紅莉栖と共闘して、作戦を練り直すことができるかもしれない。

だけど、私にはもうこれ以上まゆりを殺すことはできない。

紅莉栖を助けるには、鈴羽のタイムマシンで2回目の救出へと向かうしかない。

……無理。"確定した過去"を変える方法がわからない。

あの時、私の体が動かなかったのは、恐怖を感じたから、という理由もあるけど、本当はそうじゃない。

収束のせいだ。あの後、もう1人の私が"確定した過去"を観測していたという事実が、私に紅莉栖を殺させたんだ。

455 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/28 23:52:40.44 Ui/UzoXUo 974/2638


例えば、章一を追い払って、紅莉栖を気絶させて、あの倉庫に赤いペンキをこぼし、そこに紅莉栖を寝かせれば、もう1人の私のことは騙せるかもしれない。

紅莉栖が男に刺されて死んでいると勘違いした私はめでたく例のDメールを送信し、エシュロンに捕捉される。

まあ、データを8月17日に取り消すことがこの世界線では確定しているのでα世界線へは変動しない。

だけど、メタルうーぱの入った封筒ごと中鉢論文を牧瀬章一が奪い、第3次世界大戦の引き金を引く、というβ世界線の収束までは騙せない。

このβ収束が騙せない限り、紅莉栖の死亡収束は回避できない。

例え7月28日12時40分の時点で紅莉栖が生存したとしても、あの生真面目な紅莉栖のことだから、論文を奪われた紅莉栖は自分の父親に対しに何らかのアクションを取るかもしれない。

あるいは、論文を完全に自分のものにするために、章一は娘を殺しにくるかもしれない。

仮に中鉢論文の本当の執筆者が章一ではなく紅莉栖だということが判明すれば、ロシアのSVRが紅莉栖を暗殺しにくるかもしれない。

あるいは、SERNのラウンダーやペンタゴンのDURPAあたりが紅莉栖を拉致しに来るかもしれない。

かもしれない。かもしれない。かもしれない。

第3次世界大戦が勃発するためには、そういうことが起こる必要がある。

それを回避するためには中鉢論文を消せればいいけど、それが出来ない。

バタフライエフェクト。

456 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/28 23:53:59.05 Ui/UzoXUo 975/2638


北京での蝶の羽ばたきがニューヨークで嵐を引き起こす。

今回の場合、メタルうーぱが第3次世界大戦を引き起こしたことになるけど、その過程は一切不明。

なぜあの時の私はメタルうーぱを引き当てたのか。なぜまゆりはメタルうーぱを失くしたのか。

なぜメタルうーぱが封筒に入っていたのか。なぜあの飛行機で火災が起きたのか。

そして、なにが収束でなにが収束じゃないのか。これがわからない。

言ってしまえば、これは悪魔の証明。一切不明なその過程の中から、収束じゃないものを発見しないといけない。

そんなこと、できるわけがない。

たとえあの時の私にガチャポンをさせないようにしても、収束によってまゆりは何度もガチャポンに挑戦してメタルうーぱを引き当ててしまうかもしれない。

たとえまゆりにメタルうーぱを失くさないように注意しても、収束によって誰かに盗まれてしまうかもしれない。

たとえ紅莉栖に封筒の中に何も入れないよう注意しても、収束によってメタルうーぱがころっと入ってしまうかもしれない。

こんな推論が無限に発生してしまう。無限個の選択のうちのどれか1つが『シュタインズゲート』へと至るカギだ。

これを、たった1回のタイムトラベルで偶然引き当てなくちゃいけない。

――そんなの、無理に決まってる。

457 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/28 23:56:55.21 Ui/UzoXUo 976/2638


私の主観では、紅莉栖を 3度殺したことになる。

α世界線を消滅させた時、ナイフで刺し殺した時、妄想を産み出して消滅させた時。

紅莉栖は、私を生かすために死んだ。私を守るために死んだ。

私は紅莉栖を助けられなかった。世界の収束がそれを許さなかった。

悲劇も、度が過ぎれば喜劇的だ。神を冒涜した咎人の報いだ。

……こんなことなら、代わりに私が死ねば良かったんだ。

私が死ねばよかったのに、世界はそれを許さない……

2025年に死ぬことが確定しているということは、2025年までは死ねないということ。

たとえ今ここで舌をかみちぎっても、自殺はできない。

生きてる価値なんてないのに。紅莉栖の元へ行って謝りたいのに。

15年間、この罪過を悔いながら生きるしかない。

紅莉栖がくれたこの命を大切にしなければならない。

まゆりが生きているこの世界を守らなければならない。

今度、紅莉栖の墓参りに行こう。アメリカのウェストミンスターにあるらしい。

パスポート、申請しておかなきゃ。

458 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/28 23:57:51.98 Ui/UzoXUo 977/2638


これから私は、どうしようか。

妄想の道に逃げてはいけない。まゆりに心配をかけちゃいけない。

少しでも普通の生活をして、少しでも普通の人生を歩んで。

誰にも打ち明けずに、ひっそりと2025年に死にたい。

そうだなぁ、とりあえず大学は卒業しないと。

この病室で閑居して、良くない考えばかりするよりも少しでも外に出て身体を動かした方がいい。

なにか目標を作って、それに向かって進めばいい。

紅莉栖の居ない新しい未来を切り開けばいい。

過去を変えるのではなく、未来を作ればいい。

459 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/28 23:58:25.39 Ui/UzoXUo 978/2638


過去を変えることがどれほどの罪か、もう嫌と言うほど味わった。

全ての犠牲の責を負い、それでも繰り返さないといけない苦しみ。

その中で摩耗し、心は壊れ、人としての感情が無くなっていく恐ろしさ。

例え方法があっても過去を改変してはいけないんだ。

あったかもしれない可能性を現実にしてはいけない。

未来は、誰にもわからないもので、やり直しが聞かないからこそ、

あらゆる不幸も、苦しみも、理不尽な事故も、人は受け入れ、前に進むことが出来る。

それが、人としてあるべき道。

だから世界線を変えてはいけない。

この世界線で私は生きていく。

460 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/29 00:00:17.41 IN/s0h3yo 979/2638


完全なリーディングシュタイナーを持つ私の脳内には、この世界線に存在しないはずの知識が大量に詰め込まれている。

だから、その知識に基づいて行動を選択してしまうと、「世界線の確定した未来」を大幅に変動させてしまう恐れがある。

α世界線漂流の時だって、改変された世界線を元に戻すという行動が選択できたのは、改変前の世界線の記憶を引き継いでいたからだった。

言い方を変えれば、「確定した世界線」は、別の世界線からの"情報"によって初めて「確定」が破たんする可能性が生まれる。

あくまで可能性だけどね。この段階では確率的にしか選択は存在しない。

たとえ別の世界線の過去や未来から情報が送られてきたとしても、それが無意味なものだったり、理解不能なものだったりすれば、"情報が送られた"という事象以外の再構成は発生しない。極小変動を起こすにしても、大幅には変動しない。

あるいは、その"情報"が人間だったとしても、ゼリー状で死んでいたり、「確定した」通りの選択を演じ続けるならば、世界線は大きくは変動しない。

8月21日、鈴羽のビンタから私をまゆりが庇ってくれた時、世界線が変動した。あの時の私は錯乱してたけど、リーディングシュタイナー特有のめまいがしたのは間違いない。

だけど、あの場に居た誰もが記憶を継続していた。これは、記憶の再構成が起こらない程度の世界線変動だった、という意味じゃなかった。

過去が全く変わっていない世界線変動が起こっていた。過去は変わらず、未来だけが変化した世界線変動だった。

いや、2036年時点の鈴羽の視点からしてみれば、タイムマシンによって過去を変えた、ということになるのかな。

変動率の幅はわからないけど、私がめまいを感じるほどだったのだから、それなりには変動したはず。

461 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/29 00:02:56.11 IN/s0h3yo 980/2638


その原因はおそらく、私と鈴羽のやりとりのせいで、まゆりやダルに「確定した世界線」通りではない行動をとらせてしまったことだと思う。

具体的に言えばそれは、まゆりが私を庇う、ということ。

改変の結果を基にして世界線は再構成される。だから、改変後は、「まゆりが私を庇った場合」の世界線として再構成された。

改変前の世界線では、「まゆりが私を庇う」ことは確定してなかったんだと思う。元の世界線では、私は鈴羽にビンタされていたのかもしれない。

されたところで、2回目の救出へと向かったとは思えないけどね……。

もしかしたらあの瞬間、まゆりにも微弱なリーディングシュタイナーが働いて、まゆり自身よくわからないままに別の世界線の自分の記憶に突き動かされた結果だったのかもしれない。

とは言っても、β世界線という大きな収束がある。ロトくじ改変時のように、ロトくじ関係以外は特に事象が改変されていない、ということもある。

「まゆりが私を庇う」ことで、それほど未来は大きくは変わらなかったのかも知れない。改変後も改変前も、中身はほとんど同じ世界線の可能性もある。

……いや、それは無いか。過去を改変しようと意気込んでいるタイムトラベラーの精神状態を大きく揺さぶったわけだから、きっと「確定していた未来」が大きく変わったはずだ。

そして未来が変わっているなら当然鈴羽の記憶の中身も変わっているだろう。かつてタイムリーパーの綯が、殺戮者から守護者へと変わったように。

今となっては、鈴羽の何が変わったかはわからず仕舞いだけど。

462 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/29 00:04:01.79 IN/s0h3yo 981/2638


私はもうこれ以上余計なことをしてはならない。確定した世界線を変えてしまうような選択をしてはならない。

もしそんなことをすれば、その瞬間、世界線は何の前触れもなく、バタフライ効果によって変化の過程が不明のまま、因果が再構成されてしまう。

私の主観からすれば、ある日突然北海道へ引っ越していたり、ラウンダーの一員になっていたり、雷ネッターチャンピオンになっていたりする、意味不明な世界線に跳ばされる、なんていう可能性もあるわけだ。

たとえそんな世界線だとしてもβ世界線である限りはまゆりは死なないけど、それでも、これ以上私の周りが不幸になる可能性はゼロとは言い切れない。

鈴羽も、私ほどじゃないけどその危険性を持つ人物と言える。私と鈴羽が共に行動すれば、危険度は何倍にも膨れ上がるだろう。

鈴羽と接する時は慎重にならなければならない。鈴羽が暴走しそうになったら、私が止めなくちゃいけない。

463 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/29 00:05:07.08 IN/s0h3yo 982/2638


α世界線での時間漂流は、すべて私の迂闊な行動のせいだったんだ。

もしもあの時の私がダルにメールを送らないという選択さえしていれば、α世界線は永遠に"可能性"の存在のままだったことだろう。

だけど、その選択のおかげで私は紅莉栖と出会い、大切な仲間たちとの日々を過ごすことができた。

私はただβ世界線に戻ってきたわけじゃない。

α世界線での冒険の果てにここへたどり着いたんだ。

このβ世界線こそが、紅莉栖の導き出した答えなんだ。

もう2度と世界の因果律をゆがませちゃいけない。

それは神に反逆する行為。神を冒涜する行為。

神の怒りに触れれば、どんな不幸が待っているかわからない。

464 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/29 00:05:57.69 IN/s0h3yo 983/2638


私はまゆりを助けることができた。ううん、まゆりをあんな運命にしてしまったのは私だった。

だから、これで十分。

天文学的な確率で紅莉栖を救うことができるかもしれない。

でももう、そこに希望は存在しない。理論上は存在しても、事実上存在していない。

望めばまた、世界の因果律は大きくゆがんでしまうのだから。

……まゆりは私を必要としてくれる。

もう鳳凰院凶真は必要ない。ううん、存在しない方がいい。

私はもう頑張らなくいいってまゆりも言ってくれた。

まゆりが居れば、死ぬまでの15年もさみしくないよね。

まゆり……まゆり……っ。



まゆり「なあに、オカリン」



465 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/29 00:06:56.94 IN/s0h3yo 984/2638

2010年9月2日木曜日
岡部家 自室


倫子「まゆ……り……?」

まゆり「疲れちゃって寝てたんだよ、オカリン」ナデナデ

倫子「……うん。そうだったね。膝枕してくれてありがとう、まゆり」

まゆり「えっへへー、どういたしましてなのです」

まゆり「今日は『オカリン退院おめでとうパーティー』楽しかったねー♪ ダルくんに、フェリスちゃんに、るかくん、みーんな集まって!」

倫子「(そう、まゆりにとってはそれで"みんな"なんだよね……)」

倫子「パーティーという名の、うちの青果店の余りもの処分だったけどね。わざわざ池袋に呼んじゃって悪かったかな」

まゆり「ううん、みんな来たいって言ってくれてたからね、いいと思うよ」

倫子「そっか」

まゆり「それじゃ、まゆしぃはもう帰るね。でも、寂しくなったらすぐ呼んでね? おうち近いから、いつでも飛んでいけるのです」

倫子「大丈夫だよ。ありがとう、まゆり」

まゆり「えっへへ~♪」

倫子「(まゆりには……まゆりには、幸せでいてもらいたい)」

倫子「(この世界線でまゆりの幸せは確定してるのかな……)」

倫子「(……どうせ私の寿命は縮まらないし、見てみようか)」

倫子「あ、ちょっとだけ待って、まゆり」

まゆり「うーん?」

466 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/29 00:08:13.11 IN/s0h3yo 985/2638


倫子「(未来予知のギガロマニアックス。周囲共通認識を作るためには自分以外の人間が必要)」

まゆり「どうしたのかな、オカリン」

倫子「……少しだけ、手を握っててくれないかな」

まゆり「……うん。いいよー」ギュッ

倫子「(意識を集中させる。まゆりの未来を妄想してみる……)」


・・・
2011年7月7日
ラジ館屋上


倫子「……鈴羽に、タイムマシンを使わせるわけにはいかない」

鈴羽「そう……つまり、計画を阻止しに来たってことだね」

倫子「どうせ失敗する。鈴羽のやろうとしてることは全部無駄なことだよ」

鈴羽「世界線の収束を回避する方法はきっとある。見つけられないだけで――」

倫子「そんなの、ただの妄想だっ!! 『シュタインズゲート』なんて単なる妄想なんだよっ!!」

467 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/29 00:08:58.92 IN/s0h3yo 986/2638


鈴羽「あたしは父さんの指示に従ってる! 父さんを信じているからッ……!」

倫子「そんなの、ただの思考停止でしょ!? どんなことをしてもどうせ何も変わらない……!!」

鈴羽「あたしは、あたしの意志で父さんを信じた」

倫子「この、アマァ……ッ!」

鈴羽「……あたしを止めることはできないよ」ジャキッ

倫子「じゅ、銃なんか出したって脅しにはならないよ。だって、鈴羽は私を撃てない」

鈴羽「そうかな」カシュッ カシュッ

倫子「ぐっ……ぐああああああああッ!!!!!」

鈴羽「足を撃ち抜くくらいならできる。大人しく車いす生活でもしてなよ」

鈴羽「もうアンタは、私の信じたリンリンじゃない……」


ガチャッ タッ タッ


まゆり「スズさん、やめて!」

468 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/29 00:10:12.14 IN/s0h3yo 987/2638


倫子「まゆり……ダル……うぐぅっ!」

ダル「ちょ、なにがあったん!? い、いま止血するお!!」

鈴羽「邪魔するつもりなら誰だろうと……」

まゆり「違うよっ……。私も、行く」

倫子「なっ……!?」

鈴羽「…………」

倫子「や、やめてっ……まゆり! まゆりまで何を……何を言ってるの……!?」

鈴羽「戻って来られないかもしれないんだよ? 世界に消されるかもしれないんだよ? それでも行くの?」

倫子「お願いッ! やめてッ! 私からまゆりまで奪わないでッ!!」

まゆり「……オカリン」

倫子「わかった、私が行く! 私が行くから、まゆりを、まゆりを連れていかないでぇっ!!」

鈴羽「……ごめん、椎名まゆり。もう時間だ」

まゆり「えっ……」

鈴羽「もたもたしてる暇が無いんだ。悪いけど、もう1人で跳ぶしかなくなった」

鈴羽「椎名まゆりは、岡部倫子を病院に連れて行くべきじゃないかな」

まゆり「あ……」

鈴羽「……さよなら」 


キィィィィィィィィン……


・・・

469 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/29 00:11:40.64 IN/s0h3yo 988/2638


倫子「(――初めて意識的に未来予知ができたけど、タイムリープの時とそんなに感覚は変わらない。むしろタイムリープより気持ち悪さは少ない)」

倫子「(それより、2011年7月7日。ここが分岐点なんだ……鈴羽の言っていた燃料切れのタイムリミット)」

倫子「(そして、この世界線では私がどうあがいても鈴羽は2度目の2010年7月28日へと跳び立ってしまう)」

倫子「(その後、私はまゆりと2人で2025年まで暮らすのかな……)」

まゆり「オカリン、落ち着いた?」

倫子「あ、うん。ありがとう、まゆり」

倫子「……ずっと一緒に居ようね」

まゆり「……うんっ」




倫子「(だけど、まゆりに未来のことは言えない)」


470 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/29 00:12:22.00 IN/s0h3yo 989/2638


倫子「(まゆりに未来の出来事を教えることで、まゆりの行動がこの世界線で確定している通りにならなくなってしまうかもしれない)」

倫子「(未来予知は現象的にはタイムリープと同じだ。未来の記憶を新たに手に入れるのだから)」

倫子「(だから、未来予知をするだけで世界線が大きく変動するようなことはないはず。黙ってさえいれば、全く変動しないと思う)」

倫子「(それでも、少しでも危険は減らしておきたい)」

倫子「(ダルには、私の考えに協力してもらわなければならない。だから、少なくともダルにはα世界線漂流の顛末をすべて話しておこう)」

倫子「(それでいて、その知識を元に行動しないようお願いしないといけない)」

倫子「(……世界を変えることより、変えないようにすることの方が大変そうだ)」

471 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/29 00:14:48.91 IN/s0h3yo 990/2638

2010年9月3日金曜日
ラジ館屋上


倫子「(結局、ダルにα世界線の話をするのに1日かかってしまった。一応、私に協力してくれるとのこと。ダルほど信頼できる男はいない)」

倫子「(それで、ダルがタイムマシンを見たいと言うから、ラボに泊まってる鈴羽を呼び出して3人でラジ館屋上へ行こうとしたところ、学校帰りのまゆりと合流した)」

ダル「……鈴羽が僕の娘だってのはよくわかったお。確かにこのタイムマシン、電話レンジに似てるし、僕が作ったような趣味も散りばめられてる」

倫子「世界線をこれ以上変えないためにも、ダルには2036年までにこれを完成させて、それで未来の鈴羽を2010年8月21日に送ってもらう必要があるの」

ダル「ハァ。まさか電話レンジがタイムマシンだったなんてな……あれ、作り直すのはダメなん?」

倫子「だっ、だめだよ! 少なくとも私が死ぬまではタイムマシンは作らないで!」

まゆり「オカリン……」

倫子「あれは本当に世界中の組織や研究機関が狙うレベルの危険なものなんだよ!? 生存収束がどの程度かわからない以上、みんなの命が危ないんだよ!?」

ダル「わ、わかってるって。オカリンの心配はもっともだお。最重要機密でコツコツ研究してくって」

ダル「僕はひとりでもやるよ。鈴羽と約束したからね」

倫子「……ありがとう、ダル」

ダル「それと、鈴羽が今後オカリンたちに危害を加えないよう、父親の僕がしっかり監督責任を果たすお」

鈴羽「…………」

ダル「ほら、鈴羽。ちゃんと謝りなさい」

鈴羽「……ごめんなさい、リンリン。ごめんなさい、椎名まゆり」グッ

472 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/29 00:15:47.81 IN/s0h3yo 991/2638


まゆり「スズさん、頭あげて? まゆしぃはね、怖かったけど、スズさんと仲良くなりたいな……」

倫子「(まゆりには現状の説明だけしておいた。α世界線での具体的な話は一切していない)」

鈴羽「許してほしいなんて思ってない。これがあたしの使命だから……リンリンに嫌われても、リンリンの心を壊してでも、それでもあたしは……!」

倫子「(わかってる、鈴羽の気持ちは痛いほどわかってる……だけど、私が過去へ行けばまた紅莉栖を……っ)」

倫子「……う、うぅ、おえぇっ!」ビチャビチャ

まゆり「オ、オカリン!?」

鈴羽「リンリン……」

倫子「ご、ごめん……ハァ……私は、もう……ウップ」

まゆり「スズさん、お願いだから今は、今だけはオカリンを過去に連れていかないでっ!」ウルウル

鈴羽「……わかっ、た。わ、かった、よ……」グッ

ダル「……今日はもう帰った方がいいお。オカリンは充分頑張ったって。ゆっくり休んで、復活に向けてパワーを蓄えるといいのだぜ」

倫子「うん……鈴羽、お願い。この世界線の確定した事象から外れるような行動を取れるのは、私達タイムトラベラーだけだから。余計な行動をしないよう、気を付けて」

鈴羽「わかった……」

475 : ◆/CNkusgt9A - 2016/03/01 11:46:27.09 1A8ym4qHo 992/2638

2010年9月4日土曜日
岡部青果店


まゆり「旅行に行こう!」

倫子「……え?」

まゆり「まゆしぃは考えたのです! オカリンがどうしたら元気になってくれるかなーって」

まゆり「それでね、るかくんと相談したら、旅行に行くと気分がリフレッシュできるかもって」

倫子「い、いや、いいよ。あんまりお金ないし」

まゆり「オカリンのおとーさんとおかーさんもね、一緒に行くのです!」

倫子「はぁ!?」

岡部父「お、いいねぇまゆりちゃん! 倫子の退院祝いだな、任せとけってんだい!」

岡部母「そうねぇ、ここのところずっと旅行なんて行ってなかったものね」

476 : ◆/CNkusgt9A - 2016/03/01 11:47:26.72 1A8ym4qHo 993/2638


まゆり「それでね、オカリンはどこに行きたい?」

倫子「どこって……うーん……」

倫子「(誰も知らないだろうけど、私はこの間青森まで行ったんだよね……)」

岡部父「金のことは気にすんな。パーッと使って、元気になってもらわなくちゃな!」

岡部母「その分お父さんが働いてくれるから」

岡部父「……お、おう!」

倫子「(あれからうちの両親は色々と気遣ってくれている。心配かけてしまって申し訳ない……)」

倫子「そうだなぁ、敢えて言うなら――」

倫子「――宇宙<そら>、かな」

まゆり「そら?」

477 : ◆/CNkusgt9A - 2016/03/01 11:49:04.89 1A8ym4qHo 994/2638


倫子「あ、別にまゆりにムチャ振りしてるわけじゃなくてね! ほら、まゆりって天体観測が好きだったでしょ?」

まゆり「うん! 子どもの頃、おばあちゃんの背中におんぶされてね、おばあちゃんにお空のお星様のこと、いっぱい教えてもらったんだー」

岡部父「へぇ、あの婆さんが」

倫子「私はソラが好きじゃなかった、ううん、嫌いだったんだけど、私もソラのこと、好きになりたいなって思って」

倫子「(だって、これからの15年間はまゆりと生きていくんだから)」

まゆり「うわあ、うれしいなぁ……えっへへー」

倫子「だから、つくば辺りに行こう。あそこだったら秋葉原からTXで1本で行けるし」

倫子「(金もそこまでかからないだろうし、宇宙関連の体験施設でまゆりと遊べればいいかな)」

まゆり「えー、そんなに近場じゃ旅行にならないよー」

岡部母「今調べたら、丁度来週頃、種子島でH-ⅡAロケットが打ち上げ予定らしいわよ」

倫子「た、種子島!?」

岡部父「おお、いいじゃねえか! ロケット打ち上げなんて男のロマンだぜ!」

まゆり「それじゃあ、種子島へ行こうなのです!」

478 : ◆/CNkusgt9A - 2016/03/01 11:50:52.28 1A8ym4qHo 995/2638

2010年9月11日土曜日
鹿児島 天文館


まゆり「オカリンオカリン、海に浮かぶお山から煙が出てるよー! あれって噴火してるのかなー」

倫子「まさかホントにここまで来るなんて……」

倫子「(そういうわけで私たちは種子島に2泊3日の旅行に行くことになったのだった。まゆりは1日だけ学校を休んで付き合ってくれている)」

倫子「(ロケット打ち上げってのは予定がずれることの方が多いから、もしかしたら見れないかもしれない)」

倫子「(それでも、9月の鹿児島の南国な気候は、私の心と身体を癒してくれている気がする。それだけでも来てよかった)」

倫子「(――紅莉栖の実家の青森から反対のところでもあるし)」

まゆり「……ねえオカリン。こうやって、知らない街に来ちゃったりしたらね、思い出すね」

倫子「ん、何を?」

まゆり「昔、2人で"てきちしんにゅー"したことあったよね。あの時も隣の駅まで大旅行だったのです」

倫子「……そんなこともあったね。あの時はまゆりが泣いて大変だったよ」

まゆり「えへへ。まゆしぃは泣いちゃってたけどね、オカリンがいたから平気だったよ」

まゆり「あの時からね、まゆしぃはずっと決めてたんだぁ。まゆしぃは、オカリンの人質だから役に立ちたいって」

まゆり「今度はまゆしぃの番だね!」

倫子「(……まゆりが居るから、涙が出ても平気なのかもしれない。紅莉栖が居なくても、まゆりが居るから……)」

まゆり「あ~! このお菓子も美味しい! "げたんは"さん、おいしいよー、オカリン!」

倫子「どれ一口……う゛っ゛! あ、甘すぎる……」

479 : ◆/CNkusgt9A - 2016/03/01 11:51:58.07 1A8ym4qHo 996/2638

鹿児島湾上
種子島行フェリー『あねもね号』デッキ


倫子「(鹿児島港16時発の高速船に乗った。飛行機でも良かったんだけど、まゆりが『この方が旅行っぽい』というので仕方なく船に)」

まゆり「すごーい! イルカさんがまゆしぃたちと一緒に泳いでるー!」

倫子「へえ、鹿児島湾ってイルカが居るんだね。自然のイルカって初めて見たかも」

まゆり「きっとまゆしぃたちを応援してくれてるんだよ。だからね、オカリンもきっとすぐ元気になるよ」

倫子「まゆり理論は相変わらずトンデモだね。イルカが船と並走するのは、その方が楽に泳げるからなんだって」

まゆり「えー、違うよー」

??「鹿児島湾じゃなくて、ここは錦江湾っていうんだよ。お姉さんたち、東京の人?」

倫子「お、そういうキミは地元の子かな?」クルッ

??「(うおっ、スッゲー美人……さすが東京人……)」ドキドキ

480 : ◆/CNkusgt9A - 2016/03/01 11:52:59.81 1A8ym4qHo 997/2638


海翔「え、えっと、俺、種子島に住んでる八汐海翔<やしおかいと>。小学3年生」

まゆり「とぅっとぅるー♪ まゆしぃはね、まゆしぃ☆です」

海翔「東京の挨拶はわかんないや……。お姉さん、東京から来たってことはさ、ゲーム強かったりする?」

倫子「ゲーム? んー、ダルならADVゲーかネトゲ。綯なら格ゲーがすごく強かったけど、私が最近やったのはアルパカマンくらいかも」

倫子「(もちろん小さい頃はそれなりにやってたけど、私は基本雷ネットとかいうアナログゲームでさえまともにできないゲーム音痴なんだよね……)」

海翔「アルパカマン? どうせお姉さんさ、西之表に着くまでは暇だろうから、一緒にゲームで対戦しない?」

海翔「『黄金狼ファイター』。もう1台PSP持ってるから、コレ使ってよ」

倫子「子どものくせにリッチなことを……!」

海翔「違うよ、ミサ姉、知り合いの姉ちゃんから友達と遊ぶ用に借りただけ。俺1度東京の人と戦ってみたかったんだよねー」

まゆり「でも、学校のみんなはあっちに居るけど、先生に怒られたりしないの?」

海翔「大丈夫、東京の人と交流するのも充分社会科見学だって言い訳するから。さ、勝負しよう!」

倫子「よし、ここは東京代表として実力差を見せつけちゃおうかな!」

まゆり「がんばれー、オカリーン!」

481 : ◆/CNkusgt9A - 2016/03/01 11:54:12.23 1A8ym4qHo 998/2638


倫子「ま、負けました……」ガクッ

海翔「弱いなぁ。まあ、暇つぶしにはなったよ。お姉さんたち、TNSC(種子島宇宙センター)のロケット打ち上げを見に来たんでしょ?」

まゆり「そうだよー。えっと、えっちなロケット?」

海翔「H-ⅡAロケット18号機、ね。準天頂衛星初号機『みちびき』を搭載してる」

まゆり「そっかー、お星さまをお空へ飛ばすんだねー」

倫子「人工衛星ってお星さまなのかな?」

海翔「この準天頂衛星システムってのは、山とか高い建物のせいで人工衛星からの電波が届きにくいところにも電波を届ける役割があるんだ。その初号機で、実証実験をするんだって」

まゆり「詳しいんだねー。将来の夢は宇宙飛行士さんかな?」

海翔「いや、今のは人工衛星の話でロケットの話じゃないんだけど……うん、まあ、そんなところ」ポリポリ

海翔「見学するんだったら長谷展望公園より宇宙ヶ丘公園がいいよ。あそこは俺のお気に入りの場所だから」

まゆり「そうなんだぁ! 予定通り打ち上げしてくれると嬉しいなぁ」

海翔「アキちゃんさー、おじさんからロケット打ち上げについてなにか聞いてない?」

あき穂「えっとねー、たしか今日の夜って言ってたー」

海翔「良かったね、お姉さんたち。この子のお父さん、TNSCの職員だから、たぶん今日の夜打ち上げだと思うよ」

海翔「わざわざ東京から来て見れないのはもったいないから」

倫子「うん、楽しみだね……!」

482 : ◆/CNkusgt9A - 2016/03/01 11:56:12.23 1A8ym4qHo 999/2638


結局、私たちはロケット打ち上げを見ることができなかった。

後に『あねもね号集団失神事件』と呼ばれる事件に巻き込まれてしまったからだ。

乗員乗客約110人を乗せたフェリーの中で、西之表港到着のだいたい30分くらい前になって、次々と乗客が体調不良を訴え始めた。

そしてほんの数分で、乗員乗客全員が意識を失った。

幸いにしてその後、意識を失った人は一部を除いてすぐに気が付き、船長の的確な指示で大きな事故も無くあねもね号は運航を再開。予定より約1時間遅れで西之表港に無事到着した。

だけど私は昏睡状態に陥り、種子島の病院に緊急搬送された。

まゆりは事件後すぐ目を覚ましていたらしく、24時間近く目を覚まさなかった私はまたまゆりに心配をかけてしまった。

自分のせいで私がまた酷い目に遭ったのだと迷信めいたことを言うまゆりをなだめすかすのは大変だった。

おかげで旅行は台無し。私が意識を取り戻した後はすぐに飛行機に乗って東京に戻り、AH東京総合病院で診てもらうことになった。

私としてはあの病院には行きたくなかったけど、世話になった医者が居るのでその方がいいと両親から強く推された。もっともなので従うしかなかった。

一応全身を調べてもらって、まゆりも親父もおふくろも身体に異常はなかった。

私は前科があったから特に脳を詳しく調べられた。やたら色々検査されたみたいだけど、診断結果は"日常生活に問題なし"とのこと。

後になって、失神事件のせいでエレファントマウス症候群とかいう奇病に罹った小学生が2人居た話を聞いた。

もしかしたらってことでまた病院に呼ばれて再検査もされたけど、その時も私の脳に異常は見つからなかった。

ただ、今はまだ発症してないだけで、自分にも充分その可能性があるという。

483 : ◆/CNkusgt9A - 2016/03/01 11:57:41.01 1A8ym4qHo 1000/2638


いっそのこと、リーディングシュタイナーもギガロマニアックスも、すべてかき消えてしまえばよかったのに。

そうしたらもう、普通の女の子に戻って、陰謀とか世界とかと無縁の日々を送れるのに。

そんなことを思いながら私はなんとか大学に復帰し、久しぶりの日常が始まった。

春期と変わったところは大きく3つ。

1つはAH東京総合病院に紹介してもらった池袋のメンタルクリニックに通院するようになったこと。

1つはゼミの活動に積極的になったこと。これは今の私の目標と関わっている。

そしてもう1つはラボに足が向かなくなったことだ。これは単純に忙しくなってしまったからとってのもあったけど、どうしても気持ちが進まなかった。

まゆりに常々一緒に行こうねと言われているので、身体のことやゼミの仕事が落ち着いたら行こうとは思っている。

11月になって、アメリカにも行った。紅莉栖の墓参りをひとりでこっそり実行した。

まゆりの応援のおかげかはわからないけれど、私は着実に紅莉栖の死を受け入れ、病状を快復している。

そうして自分の心身が安定してきたある日、私は臨床心理士に勧められて催眠療法を受けてみることにした。

484 : ◆/CNkusgt9A - 2016/03/01 11:58:46.70 1A8ym4qHo 1001/2638

2010年11月22日月曜日
池袋 メンタルクリニック 施術室


心理士「さぁ、岡部さん。リラックスしてください」

心理士「あなたは私の声を架け橋として、過去へと降りていきます。どんどん、どんどん降りていって……やがて柔らかい色をした光が見えてきます」

倫子「…………」

心理士「その光は何色に見えますか?」

倫子「……赤」

心理士「(赤、ですか。珍しいですね……)」

心理士「その光の中に、あなたの大切な人が立っています。その人はあなたの家族でしょうか?」

倫子「いや……」

心理士「では、友人? それとも恋人」

倫子「……恋人……」

倫子「いや、恋人じゃない。友人でもない。知人でさえないんだ……」

心理士「では、どういう?」

倫子「私と……紅莉栖は……」

485 : ◆/CNkusgt9A - 2016/03/01 11:59:12.07 1A8ym4qHo 1002/2638



  『こっちに来てくれない? だ、大丈夫よ! 怖くないから、一緒に行こう?』


  『世界線を超えようと、時間を遡ろうと、これだけは忘れないで。いつだって私たちはあんたの味方よ』


  『それでも――私は、岡部を信じる』


  『私も、岡部のことが だ   い       す           』



486 : ◆/CNkusgt9A - 2016/03/01 12:00:28.77 1A8ym4qHo 1003/2638


倫子「うぐっ……許して、紅莉栖、許して……」ツーッ

倫子「仕方なかったの……これしかまゆりを助ける方法はなかったの……」

倫子「紅莉栖が居ないと私、なにもできない……」

倫子「世界線の収束にも抗えない……奇跡の世界線へもたどり着けない……」


『あなた……を……まもれな……かっ……』

『……死にたく……ないよ……』

『こんな……終わり……イヤ……』

『たす……けて……』


――牧瀬紅莉栖が男に刺されたみたいだ。男が誰かはしらないけどさ。ヤバいかも。大丈夫かな。


倫子「私がぁっ! 私が刺したのっ!! 私がぁぁぁっ!!」ジタバタ

心理士「お、岡部さん!?」

倫子「あああああああああっ!!!!」

心理士「いいですか? 私があなたの肩を叩きます。それを合図に意識がもっとハッキリしてきますよー」

心理士「3、2、1……はいっ」トンッ

倫子「あ……う、うぅっ……」ツーッ

心理士「少し休んでいてください。今、お水とタオル持ってきますから」

倫子「タオル……? あ、全身汗だくになってる……」

倫子「(……紅莉栖の死を受け入れたつもりだったけど、そう簡単にはいかないよね)」ハァ

487 : ◆/CNkusgt9A - 2016/03/01 12:01:13.77 1A8ym4qHo 1004/2638

池袋 メンタルクリニック外


まゆり「あ、オカリン! どうだった……?」

倫子「たいしたことないって。ありがと、まゆり。わざわざ待っててくれて」


・・・

心理士『岡部さんのケースはトラウマがかなり強いので催眠療法は危険ですね』

心理士『今まで通りカウンセリングと投薬で経過を見ましょう。精神安定剤をお出ししますから』

・・・

まゆり「ううん、まゆしぃのことは気にしなくていいよ」

倫子「夕飯、まだだよね。今日はおごるよ」

まゆり「え? でも……」

倫子「たまにはいいでしょ。まゆりには世話になってるし、ね?」

まゆり「あ、それなら秋葉原に行かない?」

倫子「今から? まあ、時間はあるけど」

まゆり「えっとね、るかくんとフェリスちゃんが久々にオカリンに会いたいって」

倫子「……そっか。それだったら今日はみんなにごちそうするよ」

まゆり「あっ、えっと、そういうつもりで言ったわけじゃ……」

倫子「ううん、いいの。今日はなんだかそういう気分なの。ほら、行こう?」スッ

まゆり「……うん! えっへへー」ギュッ

488 : ◆/CNkusgt9A - 2016/03/01 12:05:17.05 1A8ym4qHo 1005/2638

秋葉原 ジョナサン妻恋坂店


フェイリス「凶真~! よくぞ無事で帰還したニャ! 心配したニャぞ~!」ダキッ

倫子「ちょ、抱き着くの禁止! もう、恥ずかしいなぁ」グイッ

倫子「(β世界線のフェイリスは私に躊躇なく抱きついてくる。まあ、元に戻ったわけだから別にいいんだけどね)」

倫子「(一度私を金で買収しようとしたことがあるのはαもβも共通らしい)」

フェイリス「女同士ニャんだし、いいじゃないかニャ」スゥー ハァー

倫子「あ、汗かいたんだから、深呼吸しないでよぉ! それと、"凶真"って呼ぶのも禁止っ!」

フェイリス「えぇーニャンでー?」

倫子「あ、あの名前は、その、く、黒歴史……だから……」プルプル

フェイリス「鳳凰院凶真様ァ! フェイリスめをしもべにしてくださいニャァ!」

倫子「……フェイリス」

フェイリス「きゅ、急にマジトーンはちょっと怖いニャ。だって、凶真は凶真――」

まゆり「フェリスちゃん……お願い……」ウルッ

フェイリス「……なんだかよくわからないけど、わかったニャ、"オカリン"」ハァ

489 : ◆/CNkusgt9A - 2016/03/01 12:06:22.81 1A8ym4qHo 1006/2638


フェイリス「凶真の萌えポイントは残念オレっ娘属性にあったけど、今のオカリンはもうすっかりあか抜けて普通に可愛い女の子になってしまったのニャン」

倫子「不満?」

フェイリス「べっつにー」プクー

倫子「ほっぺたつんつん」ツンツン

フェイリス「ウニャァ!! そういう普通の女の子っぽい可愛さは求めてないのニャ!!」ガバッ

倫子「今まで随分フェイリスにいじられたからね、その分のお返しをしておかなきゃ」フフフ

フェイリス「このフェイリスが手玉に取られるニャんてぇ……!」グヌヌ

るか「あ、あの、岡部さん。診察はどうでしたか?」

倫子「うん、すっかり催眠術にかかっちゃった」

フェイリス「ルカニャンも催眠術とかすぐかかりそうニャ」

るか「そ、そんな……」


  『ルカ子よ! 催眠術にやられるなど心の弱い証拠っ! そんなことでは妖刀・五月雨の使い手として失格だぞっ! もっと精進するのだっ!』


倫子「あはは、確かに即効でやられちゃいそうだね」

るか「……そうですね」

490 : ◆/CNkusgt9A - 2016/03/01 12:07:10.56 1A8ym4qHo 1007/2638


るか「そういえば岡部さん。ボク、時々ラボに顔を出すんですけど、ここのところずっとラボに来てないって橋田さんに聞いて……」

倫子「……なかなか行けなくてごめんね。明日を過ぎれば行けるようになるかも」

フェイリス「最近ちっともお店に来てくれなくなったのもそれが理由かニャ? 明日、何かあるのかニャ?」

倫子「ATF<アキハバラテクノフォーラム>の準備で忙しくてさ。それと、サークルに入ったばかりで色々やらされてたし」

るか「サークルに入ったんですか!?」

フェイリス「やっぱりUFOとかUMAとかかニャ? それともオカリンを教祖とする宗教サークルかニャ?」

倫子「フェイリスは私をなんだと思ってるの。テニサーよ、テニサー」

るかフェイリス「「えええーっ!?!?」」

フェイリス「今すぐ辞めるニャ! このままじゃ、オカリンがヤリサーの姫になってしまうのニャァ!」ガーン

倫子「ちょ、ここファミレス!」アタフタ

るか「岡部さんが、合宿と称した××××で、先輩たちにパワハラで●●●●を強要されて△△△△されるなんて、ボク、ボク……!」ウルッ

倫子「お前は思春期の高校男児かぁっ! ……って、そうだったんだった」ガックリ

まゆり「ゼミのせんせーがテニスサークルの顧問さんなんだよねー」

倫子「そういうこと。だから、どっちかっていうと単位とか顔利きのためにやってるだけ」

るか「そ、そうなんですか。よかったです……」ウルウル

491 : ◆/CNkusgt9A - 2016/03/01 12:07:54.71 1A8ym4qHo 1008/2638


フェイリス「ってゆーか、オカリンってテニスできるニャ?」

倫子「私、運動音痴だからね。一応試合はお情けで勝たせてもらってるけど、練習とかはしてないよ」

るか「えっ? それじゃ、なにをしてるんですか?」

倫子「……合コン、とか」

るかフェイリス「「えええーっ!?!?」」

フェイリス「オカリンに変な虫がついちゃうニャァ! 酔った勢いに任せてお持ち帰りされちゃうのニャァ!」

倫子「だぁっ! 大声を出さないでってばぁっ!」アタフタ

るか「岡部さんが、合コンと称した××××で、先輩たちにアルハラで●●●●を強要されて△△△△されるなんて、ボク、ボク……!」ウルッ

倫子「天丼!!」

まゆり「いいなー。まゆしぃもオカリンと合コンしたいのです」

フェイリス「それが良いニャ! それなら安心ニャ! 次からはマユシィも連れて行くよーに!」ビシッ!!

るか「で、でも、まゆりちゃん、合コンって何かわかってる?」

まゆり「みんなで楽しくパーティーするんでしょー?」

るか「パ、パーティーだなんて、そんな……せ、せめてハプニング××で……///」

倫子「この話題やめようか。健全な男子高校生が居る目の前でこの話題やめようか」

492 : ◆/CNkusgt9A - 2016/03/01 12:09:00.51 1A8ym4qHo 1009/2638


まゆり「そうそう! まゆしぃね、ダルくんと一緒に考えてるおぺれーしょんがあるんだー」

るか「オペレーション?」

フェイリス「どんな作戦かニャ?」

倫子「(まるで昔の私みたいなことを言い出しちゃったな……)」

まゆり「えっとねー、"スズさんを笑顔にしようだいさくせーん"!」

フェイリス「内容までわかっちゃったニャ」

倫子「……鈴羽、か」

倫子「(9月にラジ館屋上で会って以来、鈴羽とは1度も会ってない。どんな顔して会えばいいのかわからなくて……)」

倫子「(たぶんあいつは、過去に跳ぼうとしない私を嫌ってるはずだから……)」

まゆり「……オカリン。スズさんの話しても、だいじょうぶ、かな……」

倫子「……うん。大丈夫だよ、まゆり。むしろ、まゆりは大丈夫なの?」

倫子「(おぼろげにしか覚えてないけど、まゆりはあの時鈴羽に結構ひどいことをされた。それでもまゆりはラボの雰囲気を少しでも良くするためにここ3か月動いてきたんだね……)」

まゆり「あのね、スズさんはね、普段から怖いんだけど、でもね、でもね! 本当は、優しい人なんじゃないかなーって」

まゆり「タイムマシンさんの話さえしなければね、きっとオカリンにひどいことしないと思うし……」

フェイリス「……でも、マユシィに銃口を向けたニャ。正直、それだけは赦しちゃいけないことだと思うニャ」

るか「そ、そうだよまゆりちゃん。岡部さんに幻覚症状を起こさせたのも阿万音さんだって聞いてます」

倫子「……赦すよ」

フェイリス「ニャ?」

るか「えっ?」

493 : ◆/CNkusgt9A - 2016/03/01 12:09:43.93 1A8ym4qHo 1010/2638


倫子「鈴羽だって、18歳の女の子なのに、背負いきれないものを背負って、26年前っていう孤独な世界に居るんだから……」

倫子「私が悪いの。鈴羽は、全然悪くないんだよ……私だって、本当は鈴羽と仲良くしたいよ……」グスッ

フェイリス「ニャニャ……」

るか「岡部さん……」

まゆり「だ、だからね? スズさんを本当の笑顔にしてあげれば、オカリンも、みんなも、もっともっと元気になると思うのです」

まゆり「……オカリンが元気になるためにはね、ズスさんの笑顔がなきゃって、まゆしぃ、気付いちゃたのです」

倫子「まゆり……」

フェイリス「ニャるほど。マユシィの言うことも一理あるニャン。オカリンもそういう風に考えてるなら、フェイリスは何も言わないニャン」

るか「そ、そうですね。みんなで仲良くが一番ですよねっ」

フェイリス「それで、具体的には何をするのかニャ?」

まゆり「もうすぐクリスマスでしょ? だから、クリスマスパーティーをしようと思いまーす!」

倫子「……いいね、うん。いいと思う」

フェイリス「そうと決まれば、楽しいパーティーに向けて勇往邁進ニャ!」

るか「お料理なら任せてくださいっ」

まゆり「よかったー。まゆしぃは衣装づくりをがんばっちゃうのです!」

倫子「みんな……。ありがとう」エヘヘ

494 : ◆/CNkusgt9A - 2016/03/01 12:10:41.42 1A8ym4qHo 1011/2638

裏路地


まゆり「まゆしぃはこれからちょっとラボに寄っていこうと思うんだけど、オカリンも行かない?」

倫子「もしかしてまゆり、それが今日の目的だったり?」

まゆり「えっへへ~♪」

倫子「(策士に成長してる……!)」

まゆり「ダルくんも寂しがってたよ? 学校でもなかなか会わないって」

倫子「う、うん。なんか私のシンパ? ファンクラブ? が勝手に結成されちゃって、ダルと会いづらくなってるんだよね……」

まゆり「あとね、ユキさんからも今日行くかもしれないってメールがあったんだー」

倫子「ユキさん……って、鈴羽の母親になる人か」

まゆり「オカリン、まだユキさんに会ったことないでしょ? すごくきれいで優しくてとっても素敵な人だよ」

倫子「ダルにはもったいないね」フフッ

まゆり「ん~? ……あーっ、そっかー! そういうことになるんだもんねー! ダル君はかほうものだねぇ~♪」

倫子「わかってなかったのか……」

495 : ◆/CNkusgt9A - 2016/03/01 12:13:12.88 1A8ym4qHo 1012/2638

一方その頃
未来ガジェット研究所


鈴羽「……ねえ、父さん。お願いだから、不健康な食生活、やめてほしいな」

ダル「今アフィくさい対立煽りのIP特定中だからちょっと待って――」

鈴羽「父さんっ!」ガチャ

ダル「……その拳銃を抜く癖、どうにかならんの?」

鈴羽「あっ……ご、ごめん、なさい」シュン

ダル「(鈴羽に手をあげちゃった手前、あんまり強く言えん罠……)」

ダル「いやもういいって。父さんもちょっと無神経だったお。ごめんな、鈴羽」

鈴羽「……っ」

ダル「鈴羽が悪いんじゃないってわかってるお」

ダル「悪いのは、世界の方だ。戦争が鈴羽を、そうせざるを得ない状況にしてしまったんだよな」

鈴羽「父さん……ごめんね……こんな娘でごめんね……」ダキッ

ダル「そういうこと、言うもんじゃないお。つか、このやりとり何回目だよ」

鈴羽「うん……」

ダル「(こういう時くらい、涙を見せてくれてもいいと思うのだぜ……)」

496 : ◆/CNkusgt9A - 2016/03/01 12:16:04.04 1A8ym4qHo 1013/2638


ダル「でもさ、好きなモノくらい食べさせてほしいわけだが。僕の秘密のバイト、知ってるっしょ? 海外のクライアント相手だと時差もあるし、睡眠不足でストレスがマッハだお」

鈴羽「この時代の父さんってどんな仕事してるの?」

ダル「いや言える訳ねーだろ常考」

ダル「(300人委員会と繋がりがありそうなところの仕事を狙って請け負ったりしてるのはまだ言わない方がいいよな……スパイってほどじゃないけど、敵から情報を引き出そうとしてるのがバレたら鈴羽怒りそうだし)」

鈴羽「そうじゃなくて、ハッキング? って、どういう技術が必要なのかなと思って。才能も必要?」

ダル「鈴羽もハッキングに興味あるん? さすが僕の娘。うーん、そうだなぁ」

ダル「確かに僕みたいに才能があれば楽勝、ってこともあるけど、それ以上に経験や蓄積も要求される罠」

ダル「特に、最後の『鍵』を素早くこじあけてセキュリティを破る時は、発想と同時に経験がものを言うことが多いお」

鈴羽「鍵?」

ダル「無数に存在する選択肢の中からたった1つの正解を導き出すっつーの? これの繰り返し作業がハッキングなのだぜ」

ダル「ま、僕くらいの超一流ハッカーともなると、勘で一発K.O.だったりするわけだが」

鈴羽「ふぅん……リンリンにも、スーパーハッカーになってもらわないとね」

ダル「いや無理っしょ」

鈴羽「そうじゃなくてさ。シュタインズゲートをこじ開ける鍵を手に入れてもらいたいんだ」

ダル「あー、なる。"世界のハッキング"は神の目を持つオカリンにしかできないわけっすな」

鈴羽「そういうこと。父さんにしかできないことがあるように、リンリンにしかできないことがあるんだよ」

497 : ◆/CNkusgt9A - 2016/03/01 12:17:39.91 1A8ym4qHo 1014/2638


ダル「ま、僕は僕で研究資金稼いだり、仕事や大学でコネクション作っとかないと、2036年まで持ちそうにないっつーかさ。だから食生活のことは大目に見て欲しいんだお」

鈴羽「未来の父さんもそんなことばっかり言って、母さんに叱られてた」

ダル「オウフ……いや、それにタイムマシン研究も大変なわけっす。オカリンは全然手伝ってくれねーし、癒しが欲しいんだよねぇ」

鈴羽「あ、あたしが応援してあげてるじゃん」ムーッ

ダル「それだけで元気100倍なんだけどさ、時々自信なくなるんだよね。僕、ほんとにタイムマシンなんて作れんのかなって」

鈴羽「大丈夫だよ。だって、父さんは父さんだもん。未来から来たタイムマシンを精査なんかしなくても、絶対に作れるよ」

ダル「確定した未来が変動するようなタイムパラドックスが発生するからダメってのは、わかってはいるのだぜ?」

ダル「(……けど、そのタイムマシンのせいで鈴羽がつらい思いをしなきゃいけなくなると思うと、研究しててむなしくなるんだよな)」

鈴羽「タイムマシンはね、この最低最悪の世界線を変える作戦の嚆矢なんだ。そんなすごいものを作り上げちゃう父さんを、あたしは誇りに思ってるよ」

ダル「……全俺に嫉妬! この場合、すごく正しい意味で」

鈴羽「元居た世界線の父さんも、こっちの世界線の父さんも、あたしにとってはどっちも大好きな父さんだってば」ダキッ

ダル「つかさ、どうして鈴羽はそんなにパパっ娘なん? その歳頃だと、パパの洗濯物と一緒に洗わないでーとか言っちゃうのがセオリーだと思われ」

鈴羽「んー、リンリンのおかげかなぁ。お前の父さんは世界一頼れるスーパーハッカーだーって、そればっかり言われて育ったから」

ダル「(きっと僕が幼い鈴羽にハァハァしようとしたらオカリンが全力で阻止してたんだろうなぁ)」

鈴羽「中学から軍属になっちゃって、父さんと一緒に居れなくなった時はすごく寂しかったよ。だから、こうしてまた父さんと一緒に居る時間ができて本当に良かった」

鈴羽「この時代に来たことは後悔してないよ。むしろ、送り出してくれた父さんに感謝してる」

ダル「…………」

498 : ◆/CNkusgt9A - 2016/03/01 12:19:32.41 1A8ym4qHo 1015/2638


鈴羽「あたしは父さんに頼まれてるんだ……シュタインズゲートを目指せって」

鈴羽「だから、なんとしてもリンリンに過去へ行ってもらわなきゃいけない。牧瀬紅莉栖を救わなきゃいけない」

鈴羽「でも、今のリンリンのままじゃ、世界は、戦争に収束しちゃう……」

ダル「それな……」

鈴羽「あたしは……なにもできない、運命、なの、かな……」ウルッ

ダル「つかさ、諦めんの早すぎだろ常考。もうちょっと頑張ってみるのだぜ」

鈴羽「父さん……」グスッ

ダル「たぶんオカリンは疲れて眠ってるだけだから。目を覚ます時までに僕らが頑張ってなくちゃ」

ダル「焦ることないって。オカリンを信じてるんっしょ?」

鈴羽「……うん。あたしも、リンリンを信じてる」


『~~~♪』


ダル「……こ、この鼻歌は、2016年3月2日リリース『The Sound of STEINS;GATE魂』初収録の、『星の奏でる歌(CV.潘めぐみ)』! 隠れろ鈴羽っ!」

鈴羽「オーキードーキー!」サササッ


コンコン 

『こんにちは~。……あれ、もうこんばんは、かな?』

コンコン

『橋田さ~ん? まゆりちゃ~ん?』


ダル「あー、はいはい。今出るお」ドキドキ


ガチャ


499 : ◆/CNkusgt9A - 2016/03/01 12:20:32.57 1A8ym4qHo 1016/2638


由季「今バイトが終わって。いきなり来ちゃってごめんなさい。迷惑でした?」

ダル「いやぁ、とんでもなす」

ダル「(まさかこの人が僕の未来のリアル嫁だったとはなぁ。コミマで出会った時に感じた運命がマジモンとかそれなんてエロゲ)」

ダル「(まあ、オカリンの説明だとリーディングシュタイナーっていうデジャヴだったんだよね。α世界線で鈴羽と会った記憶が、阿万音氏を通して中途半端に再起されたっぽい)」

由季「また可愛いお洋服を見つけちゃったので、まゆりちゃんに見てもらおうと思ったんですけど、まゆりちゃんは今日は……」

ダル「ああ。うん、まだ来てないお。せっかく来てくれて悪いけどさ」

由季「あ、いえ。橋田さんにも見てもらおうと思ってましたし」

ダル「そ、そうなん?」

由季「はい。どうです、これ?」クルッ

ダル「あー……うん。いいんじゃね? うはぁ、天使ktkrって感じ」

由季「ホントですか? ありがとうございます」ニコ

ダル「(僕、ファッションとかわからんし……コスプレならいくらでも議論できるわけだが)」

由季「橋田さんもおしゃれしましょうよ。太っててもおしゃれってできるんですよ? きっと素敵だと思うなー」

ダル「……阿万音氏さ、コミマで出会った時から気になってたんだけど、どうしてそんなに僕によくしてくれるん? もしかしてデブ専なん?」

由季「ふぇっ!? そ、そそ、そんな、私がキモオタで年中半袖のピザメガネに、やらしい目でフゥフゥ視姦してきて、弱みを盾にHな要求をされて、私の肢体を滅茶苦茶に、なんて考えてませんからぁっ!!」

ダル「」

500 : ◆/CNkusgt9A - 2016/03/01 12:21:27.43 1A8ym4qHo 1017/2638


由季「そそ、そんなことより床がほこりだらけじゃないですか! ダメですよちゃんと掃除しないと!」アセッ

ダル「……ハッ。都合よく意識が飛んで記憶喪失になってしまったのだぜ」

由季「橋田さん、掃除機はどこですか?」

ダル「えっと、カーテンの……(ってあぶね! そこは鈴羽が隠れてるんだった!)」

ダル「あー、僕が持ってくるお」


シャーッ (※カーテンを開ける音)


鈴羽「母さんがHENTAIだったなんて知りたくなかったよ、父さん!」ヒソヒソ

ダル「な、なんとことかわからねーっす」ヒソヒソ


シャーッ (※カーテンを閉める音)


ダル「ほいこれ」

由季「な、なんですか、これ」キョトン

ダル「未来ガジェット5号機『またつまらぬ物を繋げてしまった by 五右衛門』だお。オカリンの力作。まあ、実際に組み立てたのは僕なんだけどさ」

ダル「でも、ここを外しちゃえば普通の掃除機として使えるから。元に戻すのも簡単だし」カチャカチャ

由季「お掃除するための掃除機なのに、分解したら、かえって散らかすことになりませんか?」

ダル「あう……」

由季「ふふふ。でも、もっと散らかしてくださってもいいんですよ。そういう人の方が私、興奮します……」ボソッ

ダル「ん、なんか言った?」

由季「そ、それじゃ、お掃除しちゃいます!」

501 : ◆/CNkusgt9A - 2016/03/01 12:22:48.54 1A8ym4qHo 1018/2638



ガチャ


まゆり「トゥットゥルー♪ わぁ~、由季さんがいるよ~!」ダキッ

由季「まゆりちゃーん!」ダキッ

まゆり「由季さん、そのお洋服、可愛い~!」

由季「まゆりちゃんにそう言ってもらいたくて、着てきたんだよー」

まゆり「いいなぁ、まゆしぃも着てみたいのです」

由季「お洋服、取り替えっこしてみる? は、橋田さんが居る目の前で……ハァハァ」

倫子「……お邪魔、します」コソコソ

由季「あ、もしかして岡部さん? お会いできて嬉しいです。噂通り、おキレイですね」ニコ

倫子「すず……由季さん。初めまして」

倫子「(危うく鈴羽と呼んでしまいそうになるくらい似てるなぁ……)」

ダル「おっ。オカリン、今ちょっと未来ガジェット5号機を分解してるお。まあ、すぐに組み立て直すんで安心してくれい」

ダル「(久しぶりだなオカリン、来てくれて本当に嬉しいのだぜ。まあでも、普段通りに接した方がいいよね)」

倫子「えっ、あ、うん。未来ガジェット、ね。えっと、タイムマシン開発は順調?」ヒソヒソ

ダル「うわ、それ聞いちゃうわけ? まったく、電話レンジを組み立て直しちゃいけない上に、ラジ館のタイムマシンを詳しく調べることも禁止だなんて、縛りプレイ厨も涙目な無理ゲーだっつの」

倫子「だって、ダルがタイムマシン作ってくれないと確定した未来から外れちゃうし、でもタイムマシンがあると危険だし……」ウルッ

ダル「……オカリンがつらい立場なのはよくわかってるって。なんだかんだ言って僕はできる男なんで、そこんとこよろしくなのだぜ」ニッ

倫子「ごめんね、ダル……」

502 : ◆/CNkusgt9A - 2016/03/01 12:23:19.85 1A8ym4qHo 1019/2638



シャーッ (※カーテンを開ける音)


倫子「(これが今ダルが研究してるタイムマシン関係の資料か……)」キョロキョロ


カタッ


倫子「ん? ……あっ、すず――」

鈴羽「しずかにして!」ギュッ

倫子「ふごっ!! ふごふごっ!!(鼻まで塞がないで! 息が、息がぁぁっ!!)」ジタバタ

鈴羽「リンリン、柔らかくていい匂い……じゃなくて、母さんに見つかっちゃう!!」


ダル「ちょ、どしたんオカリン……って、あちゃ……」

由季「どうしたんですか岡部さん!? って、え、えぇっ!? わ、私が居る!?」

鈴羽「あ、あはは……」

倫子「―――――」ガクッ

503 : ◆/CNkusgt9A - 2016/03/01 12:24:25.70 1A8ym4qHo 1020/2638


鈴羽「はじめまして! 至お兄ちゃんの妹の、橋田鈴羽と言います!」ビシィ!!

由季「は、橋田さんの妹さん……? それにしても、私そっくり……」

ダル「いやー、偶然って怖いすなーHAHAHA」

鈴羽「兄がいつもお世話になっています!」ビシィ!!

鈴羽「夜勤のバイトをしているので、奥で寝ていたところ、リンリン……岡部倫子が闖入してきたのでつい抱きしめてしまいました!」ビシィ!!

由季「えっ、バイト? それってどんなバイトなの? 給料は? 交通費支給は? 福利厚生は? 詳しく教え――」

まゆり「オカリン!! オカリン、しっかりして!! 死なないで!!」ユサユサ

倫子「や、やめて、揺らさないで……」ガクッ

鈴羽「あっ……リンリン、ご、ごめん……あたし、またリンリンにひどいことを……」

倫子「い、いや、私こそ悪かった……赦すよ……」クラクラ

鈴羽「こ゛め゛ん゛ね゛リ゛ン゛リ゛ン゛っ゛!!」ダキッ

倫子「も、もうやめてぇ……うわぁん……」ゴフッ

504 : ◆/CNkusgt9A - 2016/03/01 12:26:34.48 1A8ym4qHo 1021/2638


まゆり「由季さん、一緒にシャワー浴びよう?」

由季「(は、橋田さんの使ってるシャワールーム……きっとどこかにカメラが設置されているに違いない!)」ドキドキ

由季「うん、いいよ、まゆりちゃん!」ハァハァ



倫子「ダル、テレビ付けて、音量上げて。シャワー室に私たちの話が聞こえないくらい」

ダル「あー、はいはい。1号機くんはっと……あったあった」ピッ ピッ

倫子「それで……由季さんと鈴羽が出会うのは確定した過去なの?」

鈴羽「わからない。母さんからそういう話は聞いたことがないよ」

倫子「ってことは世界線が変わったのかな。でも、めまいを起こすほどじゃないから、過程が変わっても結果が収束してるか……」ブツブツ

鈴羽「ごめんねリンリン。母さんとの接触は最も危険だってわかってたのに……」

倫子「もしかしたらこれから変わるのかも……自分と同じ見た目の人間が居たら誰だって不審に思う……」

倫子「最悪、鈴羽を尾行したり、タイムマシンの情報を外部に漏らしてしまったりするかも……」

ダル「あ、阿万音氏はそんな人じゃないお。なんていうか、秘密とか無理に聞きたがるような人じゃないと思うんだよね」

倫子「私だってそう信じたい。だけど、由季さんの意思とは関係なくそういうことになってしまうかもしれない」

鈴羽「……これから父さんと母さんが仲良くなって、半ば同棲みたいな生活を開始するのは、この世界線の確定事項なんだ」

鈴羽「父さんは、結婚するまで母さんに指一本触れなかったって聞いてる」

鈴羽「その辺が変わってないならたぶん世界線にとって問題ないと思う。とにかく、あたしは父さんの"妹"で通すから」

505 : ◆/CNkusgt9A - 2016/03/01 12:27:38.40 1A8ym4qHo 1022/2638


ダル「でも、いずれ阿万音氏に、自分の娘を過去に送らなきゃならんって話しないといけないんだよな……」

倫子「…………」

鈴羽「……母さんを失った時の父さんの顔は、この世の絶望を凝縮させたみたいだった」

ダル「ちょ」

倫子「……っ」

鈴羽「母さんはあたしを無人機の機銃掃射から守って死んだ。母さんを貫通した銃弾は、あたしの胸にも届いたんだ」

鈴羽「傷痕、見る? これが母さんの墓標であり、未来の証明だよ。あたしのえぐれた胸部を見たら、幻滅するかな、はは……」スッ

倫子「ぬ、脱がなくていいっ! やめてっ!」ウルッ

鈴羽「……今リンリンが必死で守ろうとしてるこの世界の未来はね、地獄なんだよ」

倫子「か、過去を改変すれば、もっとひどくなるかもしれない……っ」プルプル

鈴羽「わかってる。いますぐ、じゃなくていい。あたしは、リンリンが復活するって信じてる。だからこんな話もする」

鈴羽「リンリンは、強い。リンリンは、美しい。リンリンは、賢い。リンリンは、正しい。誰よりも、誰よりも」

鈴羽「そんなリンリンが、あたしは大好きだから」ダキッ

倫子「ごめん……ごめんね……」グスッ

ダル「(心という器はひとたびひびが入れば2度とは、っつーけど、オカリンならきっと……)」




テレビ『……! ……! ……!』


506 : ◆/CNkusgt9A - 2016/03/01 12:28:36.26 1A8ym4qHo 1023/2638


『さて、次はちょっと気になるニュースなんですが――』

『現在アメリカで猛威を振るっている新型の脳炎ウイルスが、すでに日本にも上陸している可能性が出てきました』

『政府および厚生労働省は感染症法にもとづき、全国の医療機関に対して新型脳炎対策と、感染症発生動向の速やかな調査を指示した模様です』

『ここからは、御茶ノ水医科大学の春山壮子教授にお話を伺います』

『新型脳炎は感染力は弱いのですが、潜伏期間が長く突然発症します。症状としては幻覚や記憶障害が主ですね。……たとえば、そうですね……会社で仕事をしていたはずなのに、気がつくと家にいたりとか、会ったこともない人に会った記憶があるとか……あとは、実際には発生していない事件が起こった覚えがある、というような症例が報告されています』

『寝ぼけたりしているのとは違うんでしょうか』

『似てはいますが、夢と違ってもっと症状がハッキリしているようです。時間感覚を失ったり、まわりの人と記憶が一致しなくなるので錯乱状態におちいったり。……ただ、他の脳炎と違いまして、適切な治療を受ければ比較的速やかに完治することが分かっています。それほど恐れることはありません』

『そうなんですか! それなら皆さん、適切な治療を受ければ安心ですね』

『そうですね。適切な治療こそが肝要です』

『症状が現れたり、なにかおかしいと思ったりした場合には、直ちに近くの医療機関か、あるいはご覧の専門病院を受診してください』

『皆さん、下のテロップの専門病院ですよ! いいですか、専門病院ですからね!』

『専門病院では24時間フリーダイヤルにて相談を受け付けています。電話番号は0120――――』

512 : ◆/CNkusgt9A - 2016/03/18 19:25:53.74 dLMY1Bq4o 1024/2638

2010年11月23日火曜日(祝)11時26分 
UPX


ゼミ生「それじゃ、倫子は受付頼むね。倫子が居るだけで華があるもんねー」

倫子「そんなこと言って、めんどくさい仕事押し付けてるだけでしょー。もぅ」

倫子「(今日はUPX4階ホールでATFのコンベンションの準備をしていた)」

倫子「(私が所属してる井崎ゼミはこのセミナーに出席してレポートを書かないと単位をもらえない)」

倫子「(というのも、井崎さんもここで講演をするからだ。それでゼミ生総出てお手伝いをしてるってわけ)」

倫子「(……ダルも同じゼミなんだけど、鈴羽に捕まってるらしく、今日はギリギリで来るとか)」

倫子「(井崎さんは准教授にしては歳が若くスポーツタイプの人で、私はかなり可愛がられている)」

倫子「(セクハラもギリギリされている。私からすれば正直言って、同じ空間に居るだけで生理的に耐えられないタイプだ)」

倫子「(それでも、井崎さんと仲良くなっておくことには重大な意味があった)」

513 : ◆/CNkusgt9A - 2016/03/18 19:26:36.97 dLMY1Bq4o 1025/2638


倫子「(――ヴィクトル・コンドリア大学。私の、新しい目標)」

倫子「(紅莉栖の残した研究に少しでも近づくこと)」

倫子「(もちろん、紅莉栖の研究を引き継ぐほどの能力が自分にあるとは思えない。だけど、紅莉栖の残した研究に対して、1割程度でもなにか貢献できたらいいなって思ってる)」

倫子「(井崎さんはヴィクコンとコネクションがあるらしく、ヨイショしてあげれば成績のあまりよくない私でもなんとかしてくれないかなーなどと簡単に考えた結果だ)」

倫子「(それに、今回のATFでも夏に引き続いてヴィクコンから講演者が来るらしいから、そっちも見ておきたい)」

??「ちょっと、そこの方――?」

倫子「あ、はい。どうされまし……ん?」

514 : ◆/CNkusgt9A - 2016/03/18 19:28:16.89 dLMY1Bq4o 1026/2638


倫子「(うっわー、すごく野暮ったい子。まるで昔の私みたい……)」

少女「(うっわー、すごく美人な人。これが日本の女子大生か……)」ドキドキ

倫子「どうしたのかな。ママとはぐれちゃった?」シャガミ

少女「……っ。えっと、スタッフルームってどこかしら?」

倫子「もしかして、講演者のご家族の方? お名前は?」

少女「……んっ」スッ

倫子「これ、招待者用のゲストカード……ああ、この真帆さんって人の娘さん? お母さんの忘れ物を届けに来てくれたのかな? 偉い偉い」ニコニコ

少女「……ッ!! こっちもよく見なさいよッ!!」スッ

倫子「ふぇっ!? え、えっと……あれ、キミの顔写真の、ヴィクコン脳科学研究所のIDカード……?」

真帆「"ひやじょうまほ"って読むの。誰も読めないから先に言っておくわ」

倫子「……飛び級ってすごいのね。あなたみたいな中学生でも大学院に行けるなんて」

真帆「うわぁぁぁぁぁぁぁん!!」ピィィ

倫子「え!?」

515 : ◆/CNkusgt9A - 2016/03/18 19:29:05.91 dLMY1Bq4o 1027/2638


スタッフA「おい、受付に泣いてる女の子が来てるぜ」

スタッフB「迷子かな。受付の大学生も大変だな」


倫子「ちょ、ちょっと突然泣き出してどうしたの!? よしよし、泣かないで? ね?」アセッ

真帆「あなたみたいな……ヒグッ……綺麗な人にまで……グスッ……中学生と、間違えられるなんて……ウグッ……」

倫子「そ、そうよね。大学院生だものね、ごめんね?」ナデナデ

倫子「(うわ、髪の毛ぼっさぼさ……)」ナデナデ

真帆「なでなでしないでぇっ……うわぁぁぁん……」ポロポロ

倫子「どういうことなの……」

真帆「わたし、成人してるのぉ……っ!! 21歳なのぉっ!!」ウルウル

倫子「え? ……ホントだ、"1989年生まれ"。ってことは、私より2つ年上?」ナデナデ

真帆「…………」ウルウル

倫子「…………」ナデナデ

真帆「…………」ウルウル

倫子「…………」スッ

倫子「し、失礼しました、比屋定さん……」

516 : ◆/CNkusgt9A - 2016/03/18 19:30:25.31 dLMY1Bq4o 1028/2638


真帆「敬語はいいわ。私、アメリカ生まれアメリカ育ちだし」フンッ

倫子「は、はぁ……(ころっと機嫌が良くなったよ)」

倫子「(でも、脳科学研か……もしかしなくても、紅莉栖のこと知ってるよね)」ジーッ

真帆「……? 私の顔、そんなに気になる? 童顔だから……?」ウルッ

倫子「いやっ! えっと、そうじゃなくてね!? その、昔の私によく似てるなーって思って。あはは」アセッ

真帆「あ、あなたが私に、似てる? それこそとんでもない冗談だわ」

倫子「……つい半年くらい前まではね、私も身だしなみに全く気を使ってなかったの」

真帆「へ、へぇ……なんだか意外ね」

倫子「あなたもオシャレしたらもっと可愛くなると思うな」

真帆「……あ、ありがと」テレッ

真帆「って、そんなことはどうでもいいからっ! スタッフルームの場所を教えなさいよっ!」アセッ

倫子「ふふっ。はいはい。エレベーターまで一緒に行きましょう。あ、迷子にならないように手をつなぐ?」

真帆「泣くわよ!? また泣くわよ!?」

517 : ◆/CNkusgt9A - 2016/03/18 19:32:08.80 dLMY1Bq4o 1029/2638


倫子「そう言えば、今日はキミが登壇するの?」

真帆「いいえ。助手兼通訳ってところよ。登壇するのはうちの教授、"Alexis Leskinen"」

倫子「フィンランド人?」

真帆「へえ、詳しいわね……一応彼はアメリカ人よ」

真帆「テーマは"人工知能革命"。興味あるかしら?」

倫子「うん、おもしろそう! 真帆ちゃんの頑張ってるところ、バッチリ見ておかないと!」

真帆「って真帆ちゃん言うなぁっ!」

真帆「……なんだかあなた、紅莉栖みたいな人ね」

倫子「え? なにか言った?」

真帆「ううん、なんでもっ!」


ピンポーン


倫子「あ、ちょうどエレベーターが――――」



萌郁「…………」



倫子「……萌郁?」

518 : ◆/CNkusgt9A - 2016/03/18 19:34:19.70 dLMY1Bq4o 1030/2638


萌郁「……?」


倫子「(しまった、この世界線だとまだ面識ないんだった……!)」

倫子「(そう言えば、萌郁はまだ洗脳されたままのラウンダーなんだよね……早いうちになんとかしてあげないと)」

倫子「(……もしそれが『確定した未来』に背く行為だったら? ……余計なことはしない方がいいか)」

倫子「(いずれ世界大戦が起きれば、萌郁だってきっと助からないんだし……)」グッ


萌郁「あの……?」

真帆「ああ。えっと、雑誌社の方、でしたよね?」

萌郁「……お約束通り……取材を……」


倫子「(そっか、この世界線だとアークリライトの仕事を続けてるんだ……)」


真帆「それじゃ、スタッフルームで教授を待ちましょうか。あ、あなた、ここまで送ってくれてありがとう。えっと……」

倫子「あ、ああ。岡部倫子」

真帆「倫子、ありがとう。それじゃ」

倫子「うん、それじゃ」

519 : ◆/CNkusgt9A - 2016/03/18 19:35:46.25 dLMY1Bq4o 1031/2638


ピピピ


倫子「っと、まゆりからRINEだ」

倫子「(先週、まゆりと連れ添ってショップへ行き、ケータイをガラケーからスマホに変えた。このRINEというのはダルの作ったメッセンジャーアプリで、便利なので私たちの間で使っている)」


まゆり【トゥットゥルー♪ オカリン~、セミナーさんの準備、順調なのかな?】

まゆり【大丈夫?】

まゆり【辛いなら、途中で抜けてもいいと思うよ】

【大丈夫だよ。ちょっとソワソワしてるだけ】倫子

まゆり【そっか~。お仕事を頑張れば、ごほうびがもらえるって思えばいいんじゃないかな】

【ごほうび?】倫子

まゆり【なにか欲しいものある? まゆしぃが買ってあげようか?】

【別にいいよ笑 まゆりは私のお母さんだね】倫子

まゆり【えっへへ~♪】


倫子「……まゆりは過保護だなぁ。例の旅行のことを未だに自分のせいだと思ってないといいんだけど」

520 : ◆/CNkusgt9A - 2016/03/18 19:37:08.22 dLMY1Bq4o 1032/2638


ダル「おー、オカリン。いたいた」

倫子「もう、時間ギリギリじゃない。井崎さんのセミナー、『疑似科学の系譜と中鉢論文』、始まっちゃうよ?」

ダル「オカリンオカリン。今のセリフ、ツンデレ幼馴染属性のキャラっぽくもう一度言ってもらっていい?」ハァハァ

倫子「高校の時のノリに戻らないでよ、気持ち悪い」

ダル「我々の業界ではご褒美ですっ!!」

由季「もう、橋田さん。岡部さんが困っちゃうようなこと、言っちゃダメですよ?」

倫子「えっ、すず……由季さん! わぁ、今日は一段と可愛いですね! ダルもそう思うでしょ!?」

ダル「え、ああ、うん。絶対領域がたまりませんな、まったく」

由季「あはは、照れちゃいます」

521 : ◆/CNkusgt9A - 2016/03/18 19:39:54.03 dLMY1Bq4o 1033/2638


倫子「でも、由季さんがどうしてATFに?」

カエデ「オカリンさん、こんにちは。私たちの明路大学もATFと連携してて、さっき偶然ダルさんと会ったんですよ」

倫子「(この人は由季さんの後輩であり、まゆりのコスプレサークル仲間の来嶋かえで。御茶ノ水にある大学の2回生で、雰囲気はお上品な感じでおっぱいがすごい)」

倫子「(ホントは"オカリンさん"って呼ぶのはやめてほしい。だって化学薬品みたいな響きだから。"オカリン酸"。まあ、まゆりの友達だから特別ってことで)」

倫子「なぁんだ、てっきりダルが由季さんとデートしてたのかと」

由季「デ、デートだなんて、そんなっ! 私は、バイト帰りでギリギリになっちゃっただけで……」

ダル「こ、この僕がデートとかありえないっしょ。僕には2次元にたくさん嫁がいるわけですしおすし」

ダル「いやあ、そんなに嫁がイパーイいても選べないっつーの! ウホウホウホ、まいっちんぐ」テヘペロ

カエデ「そうですよ、ユキさんが豚ゴリラとデートするなんてありえないです」ニコ

ダル「オウフ……」

倫子「(そしてカエデさんは、例えるならドSの女豹である)」ビクッ


スタッフA「あのデブ、美少女3人に囲まれるとか、許すまじ……」ゴゴゴ

スタッフB「っざけんな! っざけんなよぉ!」ガツン ガツン

522 : ◆/CNkusgt9A - 2016/03/18 19:41:25.22 dLMY1Bq4o 1034/2638


由季「あれ? 橋田さん、袖とおなかが汚れてません?」

ダル「あ、ああ。これはさっきまで匍匐前進を……あ、いや、その……」

倫子「(鈴羽か……)」

由季「今拭きますから動かないでくださいね?」

ダル「あ、ちょっ!! も、もう僕行かないとだから、じゃなオカリンっ!!」ダッ

倫子「……ダルのやつ」ハァ

由季「もしかして、私、橋田さんに避けられてるんでしょうか……」

倫子「なぁっ!? そ、そんなことないから! 童貞こじらせてるだけだから! ほら、可愛い女の子に優しくされるのになれてないんですよ!」アセッ

由季「でも、岡部さんとはすごく自然に接してますよね」

倫子「そ、それは……」

カエデ「それはだって、オカリンさんってダルさんと付き合ってるんですよね? 美女と野獣というより、調教師と豚って感じですけど」ウフフ

倫子「ハァッ!? 私があんなキモオタピザメガネととか、無理無理無理ッ!!」

由季「とか言っちゃってー」

倫子「い、いや、やめてください由季さん、ホントに……吐き気が……」ウップ

倫子「……私、基本男性恐怖症で、大丈夫なのはダルくらいなんです」

由季「えっ、そうだったの?」

倫子「ほ、ほら! もう始まりますよ! 早く中に入りましょう!」

523 : ◆/CNkusgt9A - 2016/03/18 19:42:26.15 dLMY1Bq4o 1035/2638


・・・


井崎「いやぁ、楽しかったね、岡部クン。これじゃ、レスキネン先生の話が霞んじゃうかな、ハハ」

倫子「ソウデスネ、アハハ(棒)」

井崎「んで? 今日このあと、なにか予定ある?」

倫子「えっと、レスキネン教授の講演を聴こうかと……」

井崎「その後だよ。懇親会に来ないかい?」

井崎「セミナー関係者を集めたパーティさ。キミに出てもらえるとうちのゼミのイメージアップにもなるし、レスキネン先生とも仲良くなれるかもよ?」

倫子「……はいっ! 井崎さん、いや、井崎准教授、ありがとうございます!」

井崎「こちらこそよろしく。それじゃ、また後で」


倫子「(こ、これは、ヴィクコンへ近づけるチャンス……!)」

ダル「おっつーオカリン。ごめん、僕すぐ帰らんと」

倫子「えっ? せっかくだし、由季さんと夕食でも食べに行けばいいのに」

ダル「いやあ、この年にして娘に食事制限食らってるんで。ラボには鈴羽もまゆ氏も居ると思うから、オカリンも来たらいいお」

倫子「あー……うん。わかった」

524 : ◆/CNkusgt9A - 2016/03/18 19:43:11.90 dLMY1Bq4o 1036/2638


・・・
数時間後


倫子「そろそろヴィクコンの講演かな。……あそこに居るのは真帆ちゃんと、レスキネン教授?」


レスキネン「"So…That's what FBI came to the Institute after the fire? Why did the FBI do that?"」

真帆「"I don't know, Kurisu's mother and oue researchers said so."」

レスキネン「"Mrs.Makise's safe is a good thing, but I can't say that their house was burned down…"」

真帆「"That's right it really…"」


倫子「英語で何か話してる……『クリスの家が火事』『マキセ夫人は無事』『強盗』『警察が捜査中止』『なぜFBIが来た?』『奇妙だ』……」

倫子「こ、これって、もしかしなくても……ロシアの刺客が、紅莉栖の痕跡を消すために……」ブルブル


アナウンス『まもなくヴィクトルコンドリア大学レスキネン教授の講演が始まります』


倫子「……と、取りあえずシアター内に入って落ち着こう」ドキドキ

525 : ◆/CNkusgt9A - 2016/03/18 19:45:08.96 dLMY1Bq4o 1037/2638

ATF4階シアター内


由季「あ、岡部さん。こっち空いてますよ」

カエデ「背が高いからオカリンさんだってすぐわかりましたよ」ニコ

倫子「あ、ありがとう。助かったよ」

倫子「(ちなみにカエデさんは彼氏持ちである。しょっちゅう喧嘩してるらしく、彼が真性のマゾであることは想像に難くない)」

倫子「(それでいて腐女子でカプ厨で戦国時代専門の歴女という、なんというかこう、すごい)」

倫子「ふたりとも、このセミナーに興味が?」

カエデ「はい。ユキさんが見ていこうって」

倫子「由季さん、こういうのに興味あったんですね」

由季「え!? あ、いや、はい! すっごく、興味があって。あはは……」


パチパチパチパチ……


カエデ「あら、あのいかにもいい人そうなのに実は悪役っぽい方が登壇されるんですね」

倫子「(舞台にレスキネン教授が登壇したけど、デカさもあってすごい存在感……)」


ザワザワザワ……


由季「隣の人は、小学生でしょうか?」

倫子「(座席から舞台までが遠く、しかも隣に巨人が立っているせいで、遠近法とエビングハウス錯視の合わせ技で比屋定さんの小ささが強調されている……!)」

526 : ◆/CNkusgt9A - 2016/03/18 19:46:18.69 dLMY1Bq4o 1038/2638


レスキネン「"Ladies and gentlemen……"」

真帆「みなさん、本日は私のセミナーに集まってくださって感謝します」


倫子「(同時通訳かぁ。やっぱりあの子も頭いいんだろうなぁ)」


真帆「では、さっそくですが、私たちの最先端研究の一端をご紹介します」

真帆「このパソコンですが、研究所のスパコンのひとつと接続されています」

真帆「起動するまでの間、このシステムの概略を説明しましょう。スライド、映してください」


       『側頭葉に蓄積された記憶に関する神経パルス信号の解析』
-The analysis of nerve pulse signal on the memory that accumulated in the temporal lobe-


倫子「(え……!? あれは、紅莉栖の論文のタイトル……!)」


真帆「これは、私たちのチームにいた天才的な日本人研究者によって提唱され、完成されたものです」

真帆「記憶とは、電気信号の伝わりのひとつです。電気信号が海馬傍回を出入りすることで記憶は作られていくんですね」

真帆「そこで、牧瀬紅莉栖は……えと、この論文を……グスッ……か、書いた……ヒグッ……す、すいません……ウグッ……」


倫子「(……真帆ちゃんも紅莉栖と親しかったはずだよね)」

倫子「(真帆ちゃんから紅莉栖を奪ったのは、他でもない、私……ウップ……)」クラッ

由季「だ、大丈夫ですか、倫子さん」

倫子「う、うん……ごめん、手、握ってもらっていいですか」

由季「は、はい……」ギュッ

527 : ◆/CNkusgt9A - 2016/03/18 19:47:29.03 dLMY1Bq4o 1039/2638


真帆「えー、牧瀬研究員は。ゴホン、海馬傍回を出入りする電気信号のパターンが、どの記憶に対応しているのか解析を行い、完全なデータを得ました」

真帆「これによって、記憶というアナログなものを電気信号のパターンというデジタルなものに変換することが可能になりました」

真帆「そして現在、私たちのチームは、この理論を基に、人間の記憶をコンピューターに保存し、それを活用するシステムを開発しています」


―――――

『実は、私の所属していたヴィクコン脳科学研究所では、人工の脳を作る研究が進められていた』

『妨害があってプロジェクトは中座してしまったんだけどね。今思えば、あれは未来のSERNによる妨害工作だったわ……』

『でも、妨害されてなければ、2010年にはPC上で脳の基礎構造を再現することに成功しているはずだったのよ』

―――――


倫子「(そっか、β世界線では紅莉栖の言っていたプロジェクトは順調に進行していたんだね……)」

529 : ◆/CNkusgt9A - 2016/03/18 19:57:42.48 dLMY1Bq4o 1040/2638


真帆「現在、私たちが行っているプロジェクトは主にふたつです。ひとつは医療分野への応用」

真帆「たとえば、老化による記憶障害。あとはアルツハイマーなど。そうしたものへの対症療法(たいしょうりょうほう)が期待できます」

真帆「ふたつ目のプロジェクトのお話をする前に、質問を受け付けましょう。出来る範囲でお答えします。どうぞ」


倫子「(おー、いっぱい手が挙がった。色々聞きたいことはあるよね)」


ザワザワザワ……

「――ありえない。机上の空論だ」

「――実現出来たらすごいことだが」

「――馬鹿げている」


倫子「(……色んな質問が出たけど、どれも否定的なものばかりだし、挑発的なものが多かった。なにここ、@ちゃんか何か?)」

倫子「(紅莉栖の理論が完璧だってことはこの私が身をもって経験してるのに、こいつらぁ……)」イライラ


真帆「……えー、次はそちらのメガネのあなた。どうぞ」イライラ

カトー「カトーと言います。そもそも、こんなものは無謀だ。正気の沙汰ではない」

カトー「何より、これは神への冒涜だ。宗教的にも倫理的にも問題がある」

カトー「サイエンス誌の論文も、筆頭著者がたかが17歳の女性だったとあれば信用度は無いに等しい。彼女が殺されたのは出過ぎたことをしたために降ってかかった天罰だろう――」


倫子「(―――ッ!!)」ガタッ

倫子「異議ありっ!!」

真帆「ふぇっ?」

由季「岡部さん!?」

カエデ「あらあら~」

530 : ◆/CNkusgt9A - 2016/03/18 19:58:26.21 dLMY1Bq4o 1041/2638


倫子「たとえどんな理由があろうと、向上心や探求心を否定するのはナンセンスだっ!!」

カトー「なに……?」

倫子「他の質問者の人たちもなんだっ! できないと決めつけるのは早計だろうっ!」プルプル

由季「岡部さん、膝が震えてる……」

倫子「さ、最初は無理だと思われていた技術なんて、この世にいくらでも、あ、あるじゃないですか……っ!」ガクガク

真帆「あなた……」

レスキネン「"Awesome! She's really something!"」パチパチ

倫子「な、なんで拍手……?///」カァァ

真帆「えーと……"ただし、科学者たるもの常に冷静でなければいけない"」

倫子「ヒッ、スイマセ……って、教授の言葉の翻訳か」

真帆「大声で怒鳴っていいのは、実験が成功したときの"We did it!"、それだけでじゅうぶん……」

真帆「だそうよ」ニコッ

倫子「ご、ごめんなさいぃ……」ウルウル

由季「かっこよかったですよ、岡部さん」ヒソヒソ

カエデ「(涙目なオカリンさん……そそるっ!)」ハァハァ

531 : ◆/CNkusgt9A - 2016/03/18 20:00:21.98 dLMY1Bq4o 1042/2638


真帆「さて、ここで私はしばらく通訳をお休みさせていただきます」

真帆「これから私より優秀な通訳が登場します。これが私たちのチームが、今、最も力を入れているふたつ目のプロジェクト――」

真帆「『Amadeus』システムです」


倫子「(スクリーンに真帆ちゃんの姿が現れたけど、あれは本人とはちょっと違う……? 3Dモデルかな? でも、プロジェクトと何の関係が?)」


Ama真帆『みなさん、初めてお目にかかります』

真帆「ちなみにこれはドリームワークスにモデルを、YAMAHAに音声を作ってもらいました」

Ama真帆『みなさんの多くは疑問に思っています。人間の記憶をデータとして取り出したり、それを保存したり、さらにはデータを活用したり』

Ama真帆『そんなことが本当に可能なのかと』

Ama真帆『それでは、私はいったいなんでしょうか?』

Ama真帆『私は、78時間23分前の比屋定真帆の脳内から取り出された記憶を持ち、そのデータをベースにして動いているのです』


倫子「(まさかアレ、人工知能なのっ!?)」

532 : ◆/CNkusgt9A - 2016/03/18 20:01:23.83 dLMY1Bq4o 1043/2638


レスキネン「……? ……!」

Ama真帆『……!! ……っ!!』


倫子「(英語の応酬が続いているようで、私にはちんぷんかんぷんだ)」


真帆「えー、教授は今ですね、アマデウスの私にこんな質問をしました。キミのお父さんはイイ男かとか、オデンカンは好きかとか……」

Ama真帆『あー、もうそれ以上通訳しなくていいわ、真帆』

Ama真帆『恥ずかしいからやめてくれないかしら。何歳までおねしょしていたかなんて覚えている訳ないでしょ。覚えていたとしても言いませんけどっ』プイッ

Ama真帆『臀部に蒙古斑があるかなんてもっと答えられません! 弁護士呼びますよ!』


倫子「(ありそう)」

カエデ「あの、オカリンさん? みなさんどうしてアホみたいに口を開けて驚いてるんですか? 確かにすごく可愛いらしいCGですけど……」

倫子「あ、うん。さっき画面上の女の子は『恥ずかしくて答えられない』って言った。自分の秘密を話すことを拒否した上に、『覚えていない』とも言った」

倫子「これってまるで、人間の脳機能そのものじゃない?」

由季「あ……」

533 : ◆/CNkusgt9A - 2016/03/18 20:02:52.71 dLMY1Bq4o 1044/2638


真帆「みなさん、もうお分かりかと思いますが」

真帆「Amadeusは、自分が話していい事とそうでない事、あるいは、話したい事と話したくない事を自ら判断して喋っています。我々人間と全く同じ方法を取っていると言っていいでしょう」

真帆「私たちは、Amadeusにそういったプログラムをいっさい施していません。これは、私たちも驚くべき結果として研究を重ねている最中で、まだ詳しくは解明されていません」

真帆「えー……"さらに、私たちを驚かせたのは、Amadeusが意図して嘘をつくということ"」

Ama真帆『教授、その言い方は不適切です。嘘をつくのに平気なことなんてありません。私だって良心がとがめます』

真帆「"このような検証を続けていくことで、Amadeusに本当の意味での人工知能を実現させることが出来ると考えています。つまり――"」

真帆「"プログラムに人間と同様の『魂』を宿すことが出来るのではないか"」


ザワザワザワ……


倫子「(これって……紅莉栖の記憶のマッピングデータさえあれば……)」ゴクリ


―――――

『堅固なセキュリティがなければ、あるいは私もPC上でリーディングシュタイナーを発動して……』

『……人工知能として蘇る』

―――――

534 : ◆/CNkusgt9A - 2016/03/18 20:03:56.47 dLMY1Bq4o 1045/2638

未来ガジェット研究所


倫子「ホントにすごかったの!!」ハフーッ

まゆり「うんうん。それでそれで~?」ニコニコ

倫子「それでね……!!」パァァ


ダル「はぁ、もう耳にタコ状態だお。オカリン、帰って来てからずっと同じ話してるし」チョキチョキ

鈴羽「椎名まゆりが悪いんだよ、何度も繰り返し聞くから」チョキチョキ


倫子「もう、そこの2人もちゃんと聞いてよっ! もしかしたら紅莉栖が――」

ダル「あーはいはい。つか、今オカリンの名刺を作ってるんで」チョキチョキ

鈴羽「それより懇親会の時間は大丈夫なの、リンリン?」

倫子「ハッ、もうこんな時間!? 急がなきゃ!」

まゆり「はいっ、こんな時のためにオカリン用のドレスを用意しておいたのです!」

  『うむ、ご苦労まゆり』

倫子「うわあ、素敵っ! ありがとうまゆりっ!」ダキッ

まゆり「……えっへへー。あ、お着換え手伝うね。ダルくん、開発室覗いちゃダメだよ?」

シャーッ(※カーテンを開ける音)

ダル「くそう、この僕があのオカリンの生着替えなんかで興奮するもんか! やっぱりエロスには勝てなかったよ」コソコソ

鈴羽「うあらっ!!」ズドンッ!!

ダル「ぐぼぁっ!? か、かかと落としは、やめれ……」

535 : ◆/CNkusgt9A - 2016/03/18 20:05:29.79 dLMY1Bq4o 1046/2638


ダル「……オカリンにとってはさ、牧瀬紅莉栖って人、すっごく大切な人だったみたいだけど、正直僕らはよくわからんのよな」チョキチョキ

鈴羽「あたしも名前しか知らない。こっちのリンリンに会うまでは、第3次世界大戦を引き起こしたはた迷惑な人、ってくらいにしか考えて無かった」チョキチョキ

ダル「ちょ、それ絶対オカリンの前で言うなよ?」

シャーッ (※カーテンを開ける音)

まゆり「それでも、まゆしぃはオカリンが元気になってくれてすっごく嬉しいのです」

ダル「そりゃまあ、僕だってそうだけどさ……」

倫子「えと……どう、かな?」テレッ

鈴羽「さすがリンリンっ! バッチリ着こなしてるよ! やっぱりリンリンには白系が似合うね!」

ダル「まゆ氏にしてはわりと控え目なチョイスで逆にビックリだお。いわゆるフォーマルドレスってやつ?」

まゆり「すっごく素敵だよー、オカリン♪」

倫子「えへへ……それで、ダルも一緒に行かない?」

ダル「は? いや、僕そもそも招待されてねーし」

倫子「そうじゃなくて――」

倫子「ヴィクトル・コンドリア大学に、だよ」

ダル「……はいぃ?」

536 : ◆/CNkusgt9A - 2016/03/18 20:07:12.36 dLMY1Bq4o 1047/2638


倫子「あの大学には情報科学研究所ってところがあって、ダルくらいの腕前のハッカーを欲しがってるらしいから、話さえ通せばなんとかなるって!」

ダル「ハッカーじゃなくてハカー……あいや、逆だった罠」

まゆり「ええっ!? オカリン、外国に行っちゃうの~? 嫌だよぅ」シュン

倫子「……まゆりも一緒に行こう。そこでまた私たちで研究、それも最先端の――」

鈴羽「リンリン、名刺」スッ

倫子「……あ、うん。ありがとう」

鈴羽「……リンリンに行ってほしいのは、外国じゃなくて……」ボソボソ

倫子「……それじゃみんな。行ってくるね」

ダル「あ、うん。変質者には気を付けるのだぜ、ハァハァ」ワキワキ

まゆり「パーティー、楽しんできてね。いってらっしゃ~い!」

537 : ◆/CNkusgt9A - 2016/03/18 20:08:15.88 dLMY1Bq4o 1048/2638

秋葉原テクノフォーラム懇親会会場


井崎「うちのゼミの学生の岡部クン。美人でしょ?」

倫子「ど、どうも(年配の男性が多くて緊張する……)」

宇宙航空研究開発機構所長「キミ、ロケット工学に興味はないかな?」

物質構造科学研究所所長「量子ビームやミュオン粒子ってロマンがあると思わない?」

理化学研究所所長「ぜひともキミに『リケジョの星』になってほしい」

井崎「それじゃ、ボクは自分の売り込みに行ってくるから、あとは頑張りたまえ」

倫子「ええっ!? ちょ、井崎さん!」

倫子「(レスキネン教授と話しておきたいけど、いかついおっさんたちに囲まれてて近づき難い……)」

倫子「(とりあえず話しかけてくるおっさんたち全員に適当に愛想笑いしておくか……)」ハァ



倫子真帆「「やっぱり、こういうのには向かないわ……」」

倫子「えっ?」クルッ

真帆「あら、あなた。素敵なドレスね、とてもよく似合っているわ」

倫子「あ、ありがとう。あなたは……白衣?」

538 : ◆/CNkusgt9A - 2016/03/18 20:09:06.54 dLMY1Bq4o 1049/2638


倫子「パーティー会場に白衣女子が居るとは思わなかった。まるで昔の私みたい」

真帆「へえ、あなたも白衣を愛用してたのね。ホント、誰かさんみたい」

倫子「秋葉原の街中でも着るくらいにはね。今はもうさすがに恥ずかしくて着てないけど」

真帆「それ、遠まわしに、私が恥ずかしいやつだ、って指摘してるわよね?」

倫子「ふえっ!? い、いや、そんなつもりは」アセッ

真帆「ちゃんとした服も持ってきたつもりだったのよ!? ……忘れたけど」ガックリ

倫子「(かわいい)」

倫子「(……なんだろうこの気持ち。紅莉栖を演じてた時の気持ちに近いかも)」

539 : ◆/CNkusgt9A - 2016/03/18 20:09:53.04 dLMY1Bq4o 1050/2638


真帆「あなた、専門は?」

倫子「えっと、私は東京電機大学の学生で、井崎ゼミで勉強中なの。これ、名刺」スッ

真帆「ご丁寧にどうも。私のも一応渡しておくわ」スッ

倫子「そう言えば、比屋定さんって沖縄出身なの?」

真帆「そういう知識は豊かよね、あなた」

倫子「(中学生の時、ミリタリー系の知識を調べまくったついでに自然と覚えちゃったんだよね……)」

真帆「曾祖父と曾祖母が南米移民でね。私はアメリカ生まれのアメリカ育ち」

真帆「それでいて、移民の比屋定家はずっと日本人コミュニティで過ごしてきたから、祖父祖母父母全員日本人。DNAは生粋のジャパニーズよ」

倫子「なるほど、それで毛量が多いんだ……」

真帆「なぁっ!? それとこれとは関係ないでしょ!! 人種差別で訴えるわよ!!」

倫子「ひぃっ!? ごめんなさい!?」

真帆「……冗談よ。実際、ちゃんと手入れすべきよね、コレ……」モシャモシャ

倫子「1度美容院行ったら?」

真帆「……お金ないし、土地勘ないし、きっと子ども料金でいいって言われるし」グスッ

倫子「そ、そのままの真帆ちゃんが素敵だと思うよ!」

真帆「真帆ちゃん言うなぁっ!」

540 : ◆/CNkusgt9A - 2016/03/18 20:11:16.36 dLMY1Bq4o 1051/2638


倫子「(なんでこんなに会話が噛みあうんだろう)」

真帆「(まるで紅莉栖と話してるみたい……)」

倫子「そう言えば、今日はごめんね。セミナーの途中で邪魔しちゃって」

真帆「ああ、あれ。気にすることないわ。許せないの、ああいう人」

真帆「あなたが声を上げなかったら、たぶん私が同じことをしていたから。そしたらセミナーはめちゃくちゃになっていたでしょうね、あなたには感謝してる」

倫子「そんなこと言っちゃっていいの? 科学者たるもの常に冷静に、って教授が言ってなかった?」

真帆「今のは科学者としての発言じゃないわ。だからいいの。ボーイさん、カクテルちょうだい!」パシッ

真帆「ごく、ごく、ごく、ふー」

倫子「やけ酒?」フフッ

真帆「あなたも飲む?」

倫子「私、未成年」

真帆「つれないわね。どこかの委員長さんみたい」

倫子「アルコール強いの?」

真帆「まあね。周りには琉球のDNAのおかげって言われてるけど、科学的にはどうなのかしら」

倫子「その辺も研究すればいいじゃない」

真帆「私は天才じゃないの、専門だけで手いっぱいよ。脳の研究をしながら遺伝学をやる、なんて二足のわらじは履けないわ」

倫子「(やっぱり紅莉栖は天才だったんだなぁ……)」

541 : ◆/CNkusgt9A - 2016/03/18 20:11:50.08 dLMY1Bq4o 1052/2638


真帆「その専門の方も課題が山積みなのよね。例えば、記憶データを元の脳に書き戻すことができても、それを脳が利用できなければなんの意味も無いの」

倫子「ああ、それは側頭葉に記憶を書き戻す過程で一緒にコピーした擬似パルスを前頭葉の方に送り込めば、トップダウン記憶検索信号はちゃんと働くよ」

真帆「……なぜ断言できるの?」

倫子「だって私が被験者になっ――――」

倫子「(って、これはα世界線の記憶だってば! この世界線では存在しないはずの記憶っ!)」

倫子「う、ううん! なんでもない! えっと、その、あの……」アセッ

真帆「もしかして……"紅莉栖"から聞いた? だって、まだこの方法は、論文にもまとめられてなかった……」

倫子「(し、しまったぁ……)」ワナワナ

真帆「いえ、聞くまでもないわね。それしかありえないもの。あなた、紅莉栖からレクチャーされたのね?」

倫子「……はいぃ」グスッ

真帆「やっぱり……!」キラキラ

542 : ◆/CNkusgt9A - 2016/03/18 20:12:31.89 dLMY1Bq4o 1053/2638


真帆「いつ? どこで? 紅莉栖とはどういう関係?」グイッ

倫子「え、えと、彼女、7月に逆留学してたでしょ? その時に友達になって、こういう話で盛り上がって」

倫子「(嘘だけど、バレないよね……)」ドキドキ

真帆「……そうだったの。あの友達がいない紅莉栖に、友達ができてたんだ……」ウルッ

倫子「(やっぱりβ世界線でも友達いなかったんだ……そんな中、1人でラジ館に……)」

真帆「……紅莉栖の先輩として感謝するわ。彼女と友達になってくれて、本当にありがとう」

真帆「あなたが居なかったら、紅莉栖は日本に来て、たったひとりで――」

真帆「…………」

倫子「…………」

真帆「…………」

倫子「…………」




倫子真帆「「く゛り゛す゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛う゛わ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ん゛!!」」



543 : ◆/CNkusgt9A - 2016/03/18 20:13:33.20 dLMY1Bq4o 1054/2638


レスキネン「可愛い女の子達よ、泣かないでおくれ!」ダキッ

倫子「ふおわぁぁぁっ!?!?」ビクッ!!

真帆「ご、ごめんなさいレスキネン教授。パーティー会場で騒いでしまって……」

レスキネン「死者を悼む事は私達の心に大切な事だよ。泣きたい時は泣けば良いさ」ポンポン

倫子「きょ、教授、すいません、ちょっと、離れてぇっ……」ウルウル

真帆「そ、そうですよ! 私はともかく、彼女に抱き着くのはアメリカでもセクハラですよ!」

レスキネン「これはこれは、申し訳ない」スッ

倫子「はぁーっ……はぁっ……」ドキドキ

真帆「……あなた、大丈夫? 顔色がよくないようだけど」

倫子「えっと、私、実は男性恐怖症で……」ドキドキ

真帆「教授! 今すぐ女性になってください!」

レスキネン「あたし、レス子よ、うふふ」バチコーン☆

倫子「おええぇぇぇっ!!!!」ビチャビチャ

544 : ◆/CNkusgt9A - 2016/03/18 20:17:33.02 dLMY1Bq4o 1055/2638


真帆「……どう? 落ち着いた?」サスサス

倫子「うん、ごめんね。迷惑かけて」

真帆「いいのよ。それにレスキネン教授は安心していいわ、紳士だから……って、安心材料にはならないか」

倫子「う、うん。体の大きい人が怖いってのもあるから……」

真帆「それより、私はあなたともっと紅莉栖の話がしたいわ」

レスキネン「私もその話、気になっていたんだよ。君は、紅莉栖の友人だね?」

倫子「は、はい……」

真帆「岡部倫子さん。学生さんです」

レスキネン「そうか。それなら、マホ。ミス・オカァベに会わせてあげたらどうかな。彼女を」

真帆「……まさか、『Amadeus』を?」

レスキネン「此処で会ったが百年目、袖触れ合うも他生の縁。一期一会のトゥルットゥーなら、咲かせて見せよう百合の華」

倫子「……は?」

レスキネン「日本に居る間、彼女にテスターになってもらっても良いよ」

真帆「本気ですか? 確かに、紅莉栖の友人なら……いや、でも……」

倫子「(何の話かわからないけど、私がこのパーティー会場に来たのはヴィクコンとのつながりを作るため……!)」

倫子「私、お手伝いします!」

レスキネン「素晴らしい!」

545 : ◆/CNkusgt9A - 2016/03/18 20:26:34.35 dLMY1Bq4o 1056/2638


レスキネン「それじゃ、詳細はマホに聞いてね。よろしく」スタスタ…


倫子「教授って、日本語しゃべれたんだね。少し変だけど……」

真帆「あれ、今うちの大学で開発中の同時翻訳アプリよ。耳に翻訳機、胸元にマイクがついてたでしょ?」

真帆「AIを搭載してて意訳してくれるんだけど、少し変なしゃべり方になっちゃうことが多いのよね」

倫子「そんな実験もやってるんだね。『Amadeus』のテスターっていうのも、そういう実用試験って感じ?」

真帆「……まあ、そんなところ。デモンストレーションでやった記憶は私のものだったけどね、もう1人分、研究者の記憶を保存してあるのよ」

倫子「もう1人? ……ま、まさかっ!?」ドクンッ

真帆「そのまさかよ。『Amadeus』の中には、牧瀬紅莉栖の記憶が保存されているわ。8ヶ月前の紅莉栖だけどね」

倫子「紅莉栖の……『Amadeus』……っ!!」ドクンドクンッ

546 : ◆/CNkusgt9A - 2016/03/18 20:28:52.02 dLMY1Bq4o 1057/2638

2010年11月28日日曜日
和光市 理化学研究所近く ビル2階 世界脳科学総合研究機構日本オフィス準備室


倫子「ここは……?」

真帆「名前の通りよ。まだ出来たばかりで真新しいでしょ?」

倫子「……そのデスクが真帆ちゃんの机なんだ。汚っ」

真帆「き、汚くない! 完璧な配置じゃない! 計算機をいじりながらコーヒーを飲みながらメモが取れるのよ! あと真帆ちゃん言うなっ!」

倫子「それで……紅莉栖はここにいるの?」

真帆「っ、その言い方はあまり良くないわ。紅莉栖じゃなくて、"紅莉栖のAmadeus"なら存在する。死者は蘇らない」

倫子「わ、わかってるよ……」

真帆「……やっぱり、紅莉栖とかなり親しかったのよね。あなた」

倫子「いや、えっと、ほら、あの子って同性愛者じゃない? だから一方的に求愛されただけで、私は別に――」

真帆「へ? 紅莉栖って、同性愛者だったの?」

倫子「えっ?」

547 : ◆/CNkusgt9A - 2016/03/18 20:30:28.54 dLMY1Bq4o 1058/2638


真帆「確かに『KAWAII』を好む傾向があったけど、ジャパニーズカルチャーの範疇だとばかり思ってたわ」

倫子「あっ……ううん、嘘嘘」

倫子「(そっか、β世界線では違うんだ……だって、7年前に私たちは出会ってないんだから……)」

真帆「えっと、嘘、なの?」

倫子「わ、私の方が、その、女の子が好きで、紅莉栖に迫った……とか?」

倫子「(……うおおおいっ!! なんて嘘ついてるんだ私!!)」ガーン

真帆「そ、そうなの……いえ、あなたの性的指向や性自認を否定するつもりはないわ!」

真帆「大丈夫よ私、そういうのに偏見ないから! 教授もそういう人だし!」

倫子「(違うの、違うのよぉ……全部紅莉栖が悪い……)」グスッ

真帆「これでもアメリカ育ちだから、理解あるつもりよ! だから、泣かないで!」アセッ

548 : ◆/CNkusgt9A - 2016/03/18 20:31:29.97 dLMY1Bq4o 1059/2638


真帆「でも、だとしたら会うのはやめた方がいいかも……」

倫子「えっ!? な、なんで!?」

倫子「(それは困る! ヴィクコンとのせっかくの繋がりがなくなっちゃう上に、紅莉栖と会えなくなる……!)」

倫子「あのねっ! 紅莉栖と話したいことがたくさんあるの! 相談したいこととか、報告しておきたいこととかっ!」ヒシッ

真帆「……岡部さん。落ち着いて。あれは紅莉栖ではない。リピート」

倫子「あ、あれは紅莉栖ではない……」

真帆「このシステムの問題点よね。往々にして人間の方が混乱してしまう」ハァ

真帆「『Amadeus』の紅莉栖には、あなたと出会った記憶はないわ。それに、3月から今日までの間に私や教授が何度も起動してしまっているから、元の紅莉栖とは違う記憶を蓄積している」

倫子「もう慣れてるよ」

真帆「……?」

倫子「(私が世界線を移動するたびに、紅莉栖に一から状況を説明していた……あれと一緒ってことだから)」

倫子「案内して」

真帆「……わかったわ。こっちよ」

倫子「うん……」ドキドキ

549 : ◆/CNkusgt9A - 2016/03/18 20:32:25.57 dLMY1Bq4o 1060/2638

ブース内


倫子「はぁっ……はぁっ……」ドキドキ

真帆「大丈夫?」

倫子「ご、ごめん。あの、私の手を握っててくれない?」ドキドキ

真帆「えっ……ああ、うん。いいわよ」ギュッ

倫子「ありがと……あとでドクペおごるね」ドキドキ

真帆「い、いいわよ別に。減るもんじゃないし」

真帆「あ、でも、その、わ、私は異性愛者だからね!」ドキドキ

倫子「……え?」

真帆「…………///」ギュッ


   『何をいちゃついているんです、先輩』


倫子「あ――――」

550 : ◆/CNkusgt9A - 2016/03/18 20:33:24.45 dLMY1Bq4o 1061/2638


Ama紅莉栖『えっと、先輩? そちらの方は?』

倫子「く、く、紅莉栖……っ!」ウルッ

真帆「落ち着いて、倫子。あれは紅莉栖ではない」

倫子「あ、あれは紅莉栖ではない……いや、でも、どう見たって……っ!!」

Ama紅莉栖『ああ、"オリジナル"の知り合いの方でしたか。私とは初めましてですよね、よろしく』

倫子「…………」

倫子「…………」

Ama紅莉栖『あの……?』

倫子「くりすぅぅぅぅぅぅぅぅうわぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!」ヒシッ

真帆「ちょ、モニターがこわれちゃう!!」

Ama紅莉栖『あれ!? 突然真っ暗になった!? な、なにが起こってるんですか先輩!』

倫子「くりすくりすくりすぅぅぅぅ!!! くりすうわぁぁぁん!!!」スリスリ

真帆「だ、誰かー! って誰も居ないんだった! お願い、やめて、やめて岡部さん!!」

Ama紅莉栖『お、おのれは警察に突き出されたいか! 通報しますた! タイーホ確定!』

倫子「う゛わ゛ぁ゛゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」


次章
岡部倫子「これがシュタインズ・ゲートの選択……!!」【#07】


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