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岡部倫子「これがシュタインズ・ゲートの選択……!!」【#01】

一つ前から
岡部倫子「これがシュタインズ・ゲートの選択……!!」【#04】

76 : ◆/CNkusgt9A - 2016/01/10 23:35:36.24 VBBZKhMUo 671/2638

第9章 無限連鎖のアポトーシス♀

未来ガジェット研究所


倫子「(――重ねられていた、温かい手の感触が)」

倫子「(強烈な目眩とともに、オレの指の間からすり抜けていった)」

るか「どうされたんですか、おか、凶真さん」

倫子「……ルカ子、ラボにいたのか」

るか「えっと……? 今日はまゆりちゃんのコスプレの誘いから匿ってもらってました。そろそろお暇しますね」

倫子「お前は……男だよな?」

るか「えっ? はい、そうですけど……ハッ!?///」

るか「い、いえ、ある意味では、その、ボクはまだ、男じゃない、というか……」カァァ

紅莉栖「逆セクハラ、だと……っ!?」

倫子「いや、実はだな……」

77 : ◆/CNkusgt9A - 2016/01/10 23:37:15.66 VBBZKhMUo 672/2638


・・・

紅莉栖「つまり、男の漆原さんは女の岡部の男らしさに惚れ、女の岡部は男の漆原さんの女らしさに惚れてる、と」

倫子「どうしてそうなった!? 貴様、話を聞いていたのかこの脳内お花畑女がっ!」

るか「え、えっと……」テレッ

倫子「(仮に、だ。仮に、ルカ子の中のリビドーがオレに向けられていたとして……)」

倫子「(オレは、そんなルカ子の心に踏み込むことはできない……)」

倫子「(向き合うべきなのかもしれない。でもオレは、そこまで器の大きい女じゃない)」

倫子「(踏み込めば、ルカ子を傷つけるだろう。すまない、ルカ子……)」

ガチャ

栄輔「鳳凰院くん! うちの宝物殿に秘蔵コレクションがあるのを思い出したんだけど、着てみないかな?」

倫子「なんで居るんだよっ!! 帰れよっ!! うわぁん!!」

78 : ◆/CNkusgt9A - 2016/01/10 23:38:21.35 VBBZKhMUo 673/2638


倫子「他に変わったところは……さっきまで巫女服だったルカ子が私服に変わっているくらいか」

倫子「そう言えば、ルカ子の私服は中性的なファッションだよな」

るか「はい。お姉ちゃんが昔からボクに可愛い服を着せるのが好きで、その影響ってのもあるんですけど……」

紅莉栖「(漆原家の闇は深い……)」

るか「最近になってまた、自分の好きな服を着れるようになったんです。凶真さんのおかげなんですよ」

倫子「オレの?」

るか「ボク、昔からよく痴漢に遭って……男なのに痴漢されるなんて、恥ずかしくて誰にも言えませんでした」

るか「だから、目立つのが嫌で、いつも地味な服を着ていたんです」

るか「でも、おか、凶真さんと出会って、そんなことはどうでもいいって気付いてからは、自分の好きな服を着るようにしたんです。鏡を見るのも嫌いじゃなくなりました」

紅莉栖「発想は岡部と一緒なのにやってることは真逆ね」

倫子「何度も言うが、オレの白衣は世界を欺くためのカモフラージュなのだっ。無論、オレの理想とするマッドなファッションスタイルでもあるがなっ! ふぅーははは!」

紅莉栖「はいはいかわいいかわいい」

倫子「こいつ……」

79 : ◆/CNkusgt9A - 2016/01/10 23:39:51.09 VBBZKhMUo 674/2638


倫子「それと、久野里さんが居なくなっているのか。ルカ子が男になったことで、久野里さんがここを訪れる因果が消滅した、と」

紅莉栖「また女?」

倫子「久野里澪。お前の未来の可愛い後輩だ。お前のことを天才牧瀬博士として慕う、13歳にして発育の良い美少女」

紅莉栖「なん……だと……? どうしてそんな大切なことを忘れてしまったんだ私の脳ミソォ!!」

倫子「飛び級してもお前が彼女と出会えるのは早くても5年後くらいだろう」

倫子「……って、そうだった。この世界線では来年にはオレたちはSERNに拉致されるから、結局会うことは無いのか」

紅莉栖「OMG!! 澪たんのためにも1%の壁を越えてね、岡部……」プルプル

倫子「まあ、そうなったところで天才少女ペアの仲睦まじいガジェット開発はなかったことになったのだがな……」

紅莉栖「何がリーディングシュタイナーだ、都合よく発動しろオラァ!!」ゴンッ ゴンッ

倫子「ダルのPCデスクに頭をうちつけるのはやめろ?」

栄輔「PCと言えば、先ほど宝物殿に入った時にわかったのですが、鍵が壊されていましてね」

栄輔「秋葉さんから預かっていたPCが何者かに盗まれてしまっていたようです」

倫子「な……っ。盗まれていた、だとぉ!?」

倫子「(いや、たしかにそれならこの世界線でIBN5100をオレが入手できていない理由に説明がつくが、一体誰が!? 何のために!?)」

栄輔「重い物を引きずったような跡がありました。1か月前に確認したときは鍵は壊れていなかったので、ここ最近の出来事かと」

るか「け、警察に届けないと……」

80 : ◆/CNkusgt9A - 2016/01/10 23:41:24.55 VBBZKhMUo 675/2638


倫子「おそらく、残りの取り消すべきDメールは、オレが送った写真集奪還Dメールと、ロトくじのDメールだ」

倫子「逆に言えば、このどちらかのDメールのせいで柳林神社に泥棒が入ったことになるな……」

紅莉栖「便利な言葉すぎて乱用は避けたいけど、それもバタフライ効果ね。予測不能なカオス的変動」

倫子「まるで現在が過去に侵食されているようだ。カオスに飲み込まれそうになる……」ハァ

紅莉栖「でも、原因が全くわからなくても、もう後の話は簡単よ。その2通とも岡部が過去の自分に送ったDメールなんでしょ?」

倫子「あ、ああ。ゆえに打消しDメールを送ることは今すぐにでも可能だ」

紅莉栖「でも、一応調べておいた方がいいのかしら? 打消しDメールはいつでも送れるけど、どうしてこうなったかわかっていた方が次の世界線の状況を理解しやすいかも」

倫子「一理あるな。それに、法則によればまゆりの……えっと、タイムリミットは16日の夜20時頃だろうから、まだ時間はある」

紅莉栖「使おうと思えばタイムリープマシンも使えるしね」

倫子「まずは写真集Dメールの線を当たってみるか……。となると、フェイリスに聞き込みだな。ゆくぞ、ワトスン!」

紅莉栖「美少女探偵鳳凰院ちゃんの誕生ねっ! 私はその助手ってことで」フンス

倫子「ちゃん付けするなっ!」

97 : ◆/CNkusgt9A - 2016/01/25 10:05:38.21 hJ8u+9qPo 676/2638

メイクイーン+ニャン2


ガヤガヤ ガヤガヤ


紅莉栖「なによこの人ごみっ!?」

倫子「そ、そうか。昼間は客が少ないと言っていたが、今はもう夕方。コミマ帰りの"ご主人様"で溢れているということか……!」ドキドキ

フェイリス「凶真! クーニャン! 丁度いいところに来てくれたニャ! 着替えは更衣室に用意してあるから早く着替えてくるニャ!」

紅莉栖「は?」

倫子「へ?」

フェイリス「どうせフェイリスに何か頼みに来たニャ? 聞いてあげるから代わりに今はお店を手伝ってほしいニャ!」

フェイリス「猫の手も借りたいほど忙しいんだニャーン! ウニャ~!」

倫子「わ、わかった! 手伝うから泣くなっ! ああもう、実際世話になってるから無下に断れない……っ!」

フェイリス「ニャフフ。凶真のそういうところ、大好きだニャン♪」

紅莉栖「……え? わ、私もなのっ!?」

フェイリス「凶真を護るためニャ!」ビシッ

紅莉栖「ぐぬぬ……いいように使われている……」

98 : ◆/CNkusgt9A - 2016/01/25 10:06:40.73 hJ8u+9qPo 677/2638


・・・

紅莉栖「オムライスが待ちきれないですって? お前は本当に卑しい豚ね」

ご主人様A「ハァハァ」

フェイリス「クリス・ニャンニャーン! 3番テーブルさんにオムライス運んでニャ!」

紅莉栖「今持ってきてあげるから、それまでコップの底の氷でも舐めていなさい。それとも私の靴の裏がいいかしら?」

ご主人様B「ハァハァ」

紅莉栖「DTの分際で私を指名なんて。おまえってほんとうに最低のクズね。気持ち悪い」スッ

【 死ね 】 ←オムライスのケチャップ文字


倫子「……なんなのだアレは。猫耳を付けた瞬間人格が変わったぞ?」

フェイリス「クリス・ニャンニャンはツンドラって設定なんだニャ」

倫子「お、おう?」

フェイリス「リンリン・ニャンニャンはいつも通りでいいニャ。勝気なオレっ娘はそれだけでポイント高いニャ!」

倫子「まったく嬉しくない……ってかその名前、鈴羽用の源氏名だったんじゃ……」ジトーッ

フェイリス「~♪」

100 : ◆/CNkusgt9A - 2016/01/25 10:08:31.61 hJ8u+9qPo 678/2638


ご主人様C「す、すみませぬ、注文よろしいでござるか?」

倫子「ヒッ。な、なんだ注文か。ほら、早く言え」ドキドキ

ご主人様C「アイスコーヒーとオムライスplz。無論オプション付きで、これは譲れない」

倫子「オプション……というと、アレか。おいしくなーれ、とかいう」

倫子「くそっ、どうしてこのオレがこんなことを……鎮まれ、オレの右腕……」プルプル

フェイリス「はーいオムライスお待たせニャン! ケチャップは自由に使っていいニャ!」

倫子「……ええい、テキトーにグリグリ塗りたくってやるっ!」ブチュブチュ

倫子「ほら、お待たせしました、だっ!」ゴトッ

ご主人様C「おうふ……」

倫子「そ、それで、やるんだよな、アレ……」ワナワナ

倫子「これは世界を欺くための演技……そう、ハニートラップなのだ……」プルプル

倫子「お、おいしくなーれ……ニャンニャン、ニャン……っ」カァァ

倫子「がぁーっ!! 狂気のマッドサイエンティスト鳳凰院凶真ともあろうものが何故このような真似をせねばならんのだぁっ!!」ドンガラガッシャーン

ベチョッ

ご主人様C「ああっ、倫子ちゃんのオムライスがっ!」

倫子「あっ……。ご、ごめん、なさい……」ウルッ

紅莉栖「お前、オムライス1つ運ぶこともできないのね。このグズ」

倫子「ふぇぇ……」グスッ

紅莉栖「(かわいい)」

ご主人様C「ハァハァ」

フェイリス「(ヤ、ヤバイ、フェイリスも持っていかれそうになったニャ……)」ドキドキ

101 : ◆/CNkusgt9A - 2016/01/25 10:09:25.34 hJ8u+9qPo 679/2638

秋葉原タイムスタワー
秋葉邸


フェイリス「今日は本当に助かったニャン! フェイリスは本当に素敵な友達を持ったニャン♪」

紅莉栖「はぁ……り、倫子たんのメイド姿が見られただけでも儲けものよね……」グッタリ

倫子「もうツッコむ気力も残っとらんわ……」グッタリ

フェイリス「……迷惑かけちゃってごめんニャ。フェイリスのために……」シュン

倫子「……まったくお前は。そういうのは言いっこなしだ」

フェイリス「……フニャ?」

倫子「オレたちは仲間なのだ。お前が困っていたら助ける、当たり前だ」

紅莉栖「そうね。フェイリスさんもラボメンだものね」

フェイリス「あ……ありがとう///」

倫子「それに、クリスティーナとフェイリスは幼馴染でもあるんだろう?」

紅莉栖「えっ?」

フェイリス「ハニャ?」

102 : ◆/CNkusgt9A - 2016/01/25 10:10:18.53 hJ8u+9qPo 680/2638


倫子「……あれ? この世界線ではまだ気付いてないのか? そう言えば、いつの間にか助手がフェイリスにさん付けをしているし……」

紅莉栖「えっと……どういうこと? フェイリスさんが、私の、幼馴染……?」

フェイリス「牧瀬……紅莉栖……あぁーーっ!! 思い出した!! クリスちゃんだぁ!!」ダキッ

紅莉栖「ふぉゎっ!?」ドキドキ

倫子「(そうか。パパさんが亡くなってしまって、2人が2人であると気付くキッカケが無くなっていたのか)」

フェイリス「留未穂だよっ! 秋葉留未穂っ!」スリスリ

紅莉栖「え、ええっ!? フェイリスさんって、留未穂ちゃんなの!? で、でも、前に留未穂ちゃん家に遊びに行った時は、たしか御茶ノ水の一軒家だったはず……」

倫子「さすがクリスティーナ、記憶力が良いな」

フェイリス「あの家はパパの会社が傾きかけた時に売っちゃったの」

紅莉栖「ってことは、ってことは、待って、お願い、整理する時間をちょうだい……」アセッ

紅莉栖「フェイリスさんは、パパさんの亡くなった2000年から岡部のことを見守ってたんだったっけ……」

フェイリス「そうだよ」

紅莉栖「ってことは……忘れもしない、2003年夏、久々に青森から遊びに来た東京で私の留学の相談に乗ってくれた、留未穂ちゃんの友達、この世のものとは思えないほどの美少女って……」プルプル

フェイリス「凶真だよ」

紅莉栖「――――――――――」バタッ

倫子「ちょっ!? お、おおい!? 大丈夫か!? クリスティーナ!?」ユサユサ

103 : ◆/CNkusgt9A - 2016/01/25 10:12:44.88 hJ8u+9qPo 681/2638


紅莉栖「やっと……会えた……っ」ポロポロ

倫子「お、おう……だが、7年前のことなどもう忘れてしまった」

紅莉栖「ううん、いいの……そっか、そっかぁ……グスッ……あの時の、岡部だったんだ……」ウルウル

紅莉栖「私ね、岡部のおかげでアメリカでもやっていけたよ……岡部の言葉があったから、ここまでやってこれたんだよ……」ヒグッ

倫子「…………」

フェイリス「凶真、ホントに覚えてないニャ?」

倫子「(α世界線に分岐したのは2010年7月のことだ。それ以前の世界線の過去と、この世界線の過去とは違っているはず)」

倫子「(それはおそらく、鈴羽の影響だ。鈴羽がディストピアから2010年に寄り道し、1975年に行くことでフェイリスはオレを見守ることになり、それがキッカケで紅莉栖はオレと出会っていた……)」

倫子「(ディストピアは、α世界線の話だ。β世界線の話ではない)」

倫子「(ということは、オレが知っている2003年ではオレと紅莉栖は出会っていない。母親のススメか何かで渡米したのだろう)」

倫子「(だから、"オレ"はお前と出会っていないんだよ、紅莉栖……)」グッ

倫子「……いつまで泣いているのだ、我が助手よ」

紅莉栖「ふぇ……?」

倫子「お前がかつてのオレにどんな感情を抱いていようと知ったことではないっ! 今のオレは、目的のためなら仲間をも犠牲にする冷酷非道なマッドサイエンティスト、鳳凰院凶真だっ!」

倫子「我が野望は世界の支配構造の変革であり、そして、ダイバージェンス1%の壁を突破することっ!」

倫子「貴様はっ! 我が助手として最高の働きをする必要があるっ! だから泣くな、助手よっ!」

紅莉栖「……う、うん。うんっ!」パァァ

104 : ◆/CNkusgt9A - 2016/01/25 10:14:00.13 hJ8u+9qPo 682/2638


紅莉栖「おかべぇ……えへへぇ……」ポワポワ

倫子「結局助手は使い物にならなくなってしまった」ハァ

フェイリス「しばらく幸せモードにしておいてあげるのがいいと思うニャ」

倫子「そう言えば、フェイリスは次の雷ネットABの公式大会に出ないのか? いくら仕事が忙しいとはいえ、調整くらいできるだろう?」

フェイリス「もしかして凶真、忙しそうにしてるフェイリスのことを気遣ってくれてるニャ?」

フェイリス「その気持ちはと~っても嬉しいんニャけど、それはできないのニャ」

倫子「なにか理由でもあるのか?」

フェイリス「フェイリスは主催者側なんだニャ。秋葉原で雷ネットイベントをやる時は必ずフェイリスに話が回ってくるのニャン」

倫子「そんなに権力者だったのかお前……。そうか、それで内内でフェイリス杯を開催していたんだな」

フェイリス「あれはフェイリスにとっては世界最高峰の大会なんだニャ!」

倫子「(実際チャンピオン級の実力を持っていて、それを発揮できる唯一の場だった、ということか)」

フェイリス「だから優勝賞品は世界で一番価値のあるもの、フェイリスが誰にも渡したくないものにしたんだニャ」

倫子「(写真集か……。真実がわかった今では愛おしいものにも思えるが、ぶっちゃけJS~JK盗撮写真集なんだよな……)」ガックリ

フェイリス「ニャ? くずおれてどうしたニャ?」

105 : ◆/CNkusgt9A - 2016/01/25 10:14:46.18 hJ8u+9qPo 683/2638


倫子「そう言えば、この世界線でも閃光の指圧師<シャイニングフィンガー>は凶真守護天使団とかいう恥ずかしい名前の集団の撮影隊長なのか?」

フェイリス「シャイニングフィンガー? 誰ニャ?」

倫子「桐生萌郁だ。ラボメンナンバー005」

フェイリス「……ウニャ! 思い出したニャ!」

倫子「(そんなに存在感が無いのか、あいつ……)」

倫子「というか、記憶にすら無いということは、あいつは守護天使団には入っていないんだな」

フェイリス「そういうことになるニャ。最近加入したのはクーニャンだけニャ」

倫子「(この世界線では萌郁の行動が変わっている?)」

倫子「(オレが写真集奪還Dメールを送った先は8月1日の昼頃……ちょうど萌郁をラボメンにした後だ)」

倫子「(……待てよ。あの時、なにか重大なことをフェイリスから聞いたんじゃなかったか……?)」


―――――

  「実は……凶真にだけ特別に教えるけど、フェイリスが子どもの時、柳林神社に奉納したのニャ」

  「……世界を混沌に陥れるマスターアイテム、IBN5100」

  「『いつかこれを必要とする若者が現れるから、それを快く貸してあげてほしい』」

  「……これって、モエニャンか凶真のことだと思うニャ」

―――――


106 : ◆/CNkusgt9A - 2016/01/25 10:16:04.85 hJ8u+9qPo 684/2638


倫子「(あの時はまだ萌郁に、IBN5100を使い終わったら貸す、という約束はしていなかった)」

倫子「(それでいて、あいつは自分の人生をかけてIBN5100を探していたんだ……)」

倫子「(……やはり、犯人は……)」ゴクリ

倫子「な、なあフェイリス。これを見て欲しい」スッ


『フェイリス杯 優勝賞品は オレの写真』


フェイリス「ニャ? 凶真のケータイの受信履歴?」

倫子「8月1日の昼、オレは別の世界線の未来から来たこのメールを受信したことでフェイリス杯の優勝賞品があの盗撮写真集だという事を知った」

フェイリス「ニャニャ!? って、例のタイムマシン実験、成功してたのかニャ!?」

倫子「それについては後で話すから、教えて欲しい」

倫子「あの時のオレの状況と、そして――」

倫子「桐生萌郁の行動を」

107 : ◆/CNkusgt9A - 2016/01/25 10:18:01.61 hJ8u+9qPo 685/2638


倫子「(フェイリスの話を整理すると、8月1日の流れは相当に変わっていた)」

倫子「(萌郁をラボメンにし、握手をしたあたりでオレはDメールを受信、フェイリスに詰め寄ったらしい)」

倫子「(はぐらかすフェイリスを締め上げ、更衣室に隠してあった例の写真集を強奪したオレは肩を怒らせてラボに帰った)」

倫子「(オレに嫌われたと思って絶望したフェイリスは、なんとかしてオレにIBN5100を在り処を伝えようとした。元々教えるつもりだったらしい)」

倫子「(それで、そのためにIBN5100を探しているという萌郁に場所を教え、自分が使い終わったらオレに渡すよう命じた)」

倫子「ということは、萌郁はその後柳林神社にIBN5100を取りに行ったんだな?」

フェイリス「そういうことになるはずだニャ」

倫子「(無論、これだけで萌郁が窃盗犯だと確信は持てないが、事象改変がDメール由来である限り、ここしか変数が無いのも事実……)」

倫子「(それにだ。8月4日、オレがDメール実験のために萌郁を呼び出した時、ケータイの受信履歴には8月3日以降の萌郁からのメールが存在しなかった)」

倫子「(これが意味しているのは……8月1日以来、萌郁はオレと距離を取っていた?)」

倫子「(言われて見れば8月4日、萌郁の機種変メール送信の時、なんとなくよそよそしかったような……)」

倫子「ん? だが、そうなるとこの世界線の鈴羽はどうやってオレが警官に襲われた話を知ったんだ? あれは萌郁に話したはずだが」

108 : ◆/CNkusgt9A - 2016/01/25 10:19:13.42 hJ8u+9qPo 686/2638


倫子「(ネットで調べてみたが、やっぱり例の事件は起きていなかった。というか、それを防いだ張本人が目の前に居る。ふむ……)」

倫子「おい助手。そろそろ再起動しろ。お前ならどう推理する?」ユサユサ

紅莉栖「……ハッ。あ、あれ? ここどこ? 天国?」

倫子「まだ地獄だ。1%の壁を越えるまではな」

紅莉栖「そ、そうよね……それで、えっと、何の話?」


・・・


紅莉栖「つまり、一体どうやって阿万音さんがフェイリスに岡部を護れ、って命令を出せるのか、っていう話か」

倫子「いや、それ自体は疑問じゃないんだ。この世界線の橋田鈴は、オレがさっきまで居た世界線の2010年に居た阿万音鈴羽なのだから」

紅莉栖「ううん、そうじゃない。"その阿万音さん"はたぶん、この世界線の阿万音さんに再構成されてる」

紅莉栖「この世界線の橋田鈴さんは、私の知ってる8月9日まで居た阿万音さんと記憶を連続させている、全くの同一人物のはず」


―――――

  倫子「済まない、時間が無かったんだ。それで、メーターは……」


   【 0.33871 】


  倫子「変わっていない、か……」

  ダル「だけど、過去に事象が増えたのは間違いない。メーターで検知できないレベルで世界線は変動したはず」

  ダル「だから、仮に初老の女性がこのラボを訪れるとしたら、それは間違いなくオカリンの記憶と全くの同一人物のはずだ」

―――――

109 : ◆/CNkusgt9A - 2016/01/25 10:21:07.89 hJ8u+9qPo 687/2638


倫子「……8月9日に鈴羽が1975年へ跳んだ時、わずかではあるが世界線変動が起こっていたことになっているのだな」

倫子「そして今オレたちがいる世界線へと再構成されたことになっていた……と言っても、記憶に全く齟齬はないんだろう」

紅莉栖「極小の世界線変動の場合、私たちの記憶は再構成されない。例えばバナナをフラクタル化させて過去に送った時もそうだった」

倫子「ゲルバナか……。ということは、から揚げが凍った時も、塩を過去に送った時も、記憶が再構成されない程度の過去改変だったわけだ」

紅莉栖「ともかく、"この私が初めて会った時の阿万音さん"が、"今の世界線に居る橋田鈴さん"になっている」

紅莉栖「あんたが経験したっていう、ラボが大檜山ビルから無くなってた時の世界線はまた特殊よね。Dメールを打ち消したのが阿万音さん自身だったから、阿万音さんが過去に跳んだ時点で大幅な世界線変動が発生した」

倫子「そ、そうか。その時だけは、前の世界線の鈴羽が大幅に世界線を移動していたことになるのか……」

紅莉栖「多分、綯ちゃんが送ったDメールを打ち消すタイミングの2000年5月18日の時点で世界線は大きく分岐した。存命してればだけど、橋田鈴さんはその時、世界線分岐を体感したはずよ」

フェイリス「ウニュ~、ちんぷんかんぷんだニャァ~」

110 : ◆/CNkusgt9A - 2016/01/25 10:22:19.37 hJ8u+9qPo 688/2638


フェイリス「そんなに難しく考えニャくても、この世界線にこの間まで居たスズニャンは、どうやって凶真の話を知ったのか、って考えればいいニャン」

倫子「あんまり知られたくない話ではあるが、既にフェイリスには知られているんだよな。守ってくれた張本人なわけだし」

倫子「……そう言えば、この世界線ではまだ言っていなかったな」ポリポリ

倫子「あの時、オレを守ってくれて、その、……ありがとう」ボソッ

フェイリス「ニャフフ。ニャ……ニャフ……ニャフフゥ///」

紅莉栖「話の辻褄を合わせるのに一番有力な説は、私が岡部から例の"ブチ殺し確定話"をしてもらった8月3日の午前中、阿万音さんが盗み聞きしてた。これね」

倫子「……そうかっ! この世界線では萌郁にじゃなく、お前に話したことになっていたのかっ!」ガバッ

紅莉栖「えっ、そこなの? ……リーディングシュタイナーってのは厄介ね」ハァ

倫子「ククッ。なかなかに良い推理を叩きだしてくれたではないかっ! さすがは天才HENTAI少女っ!」

紅莉栖「HENTAIちゃうわっ! でも、可愛いホームズさんにお褒め頂き光栄です」フフッ

倫子「全ての話は繋がった。あとは、萌郁がIBN5100をどうしたのか、だな」

倫子「……本人に会って直接聞いてみるか」

111 : ◆/CNkusgt9A - 2016/01/25 10:23:57.57 hJ8u+9qPo 689/2638

未来ガジェット研究所


倫子「ぐぬぬ……あのメール魔め、こういう時だけ返信を寄越さないとは……っ」プルプル

まゆり「ふはぁ、お腹いっぱーい。もぐもぐうーぱタイムしゅ~りょ~♪」

まゆり「まゆしぃは今日はほとんどなにも食べてなかったから、ずっとペコペコだったんだよー」

紅莉栖「メイクイーンの方は大丈夫だったから、明日も全力でコミマを楽しんでくるといいわ」

まゆり「うん! さてさてー、まゆしぃは明日早いから、もう帰るねー」

まゆり「ねぇねぇ、クリスちゃんとオカリンはコミマ行かないの?」

倫子「オレはパスだが、助手は行きたいそうだ」

紅莉栖「はあ?」

倫子「ノリノリで地獄メイドを楽しんでいたではないか」

紅莉栖「それは、そのっ……というか、岡部は探偵ごっこの続きをやるんでしょ? 私には助手として補佐する役目がある」

倫子「"ごっこ"ではないっ! これは、改変された世界の真実を探求するための崇高な使命であってだなっ!」

紅莉栖「厨二病乙」フフッ

まゆり「探偵ごっこ~? いいなぁ、まゆしぃもやりたかったなぁ」

倫子「まゆりには探偵犬がお似合いだな。自分のしっぽをいつまでも追いかけて居ろっ!」

ヽ(*゚д゚)ノ.。oO(しっぽを追いかける……?)


~~~~~~~~~~
メイクイーン+ニャン2


まゆり「大変だよ~~。マユシィの後ろからバタバタ変な音がするんだ~~」

まゆり「もしかして敵かもしれないよ~~」

まゆり「はわ~~これはマユシィのポニーテールかぁ。うっかりうっかり」

~~~~~~~~~~


紅莉栖「……さすがのまゆりでもそんなにおバカさんじゃないでしょ」

まゆり「えっへへー、この間ウィッグがずれてクルクル回っちゃったことがあったのです」

倫子「まゆり……」ブワッ

112 : ◆/CNkusgt9A - 2016/01/25 10:24:32.08 hJ8u+9qPo 690/2638


まゆり「あのね、最近オカリンとクリスちゃん、仲良しさんだよね? いつも2人で話し込んでるもん」

倫子「いつも? ここ最近もそんなことがあったのか?」

紅莉栖「えっと、私の記憶ではもう4、5回は岡部とタイムリープ実験について協議してる。多分、そう言う風に"再構成"されたんでしょうね」

倫子「なるほど……」

まゆり「さいこーせー?」

倫子「まゆりは気にするな。話を聞いてもわけがわからないと思うぞ」

まゆり「そっかー……」

紅莉栖「まゆり、ごめんね。でも、終わったらまた岡部との時間が作れるはずよ」

紅莉栖「今はちょっと寂しいかもだけど、岡部は必ずまゆりの側に戻ってくる」

倫子「フン、当たり前だ。なぜなら、まゆりはオレの人質なのだからなっ! ふぅーはははぁ!」

まゆり「……うん、わかったー♪ がんばってね、オカリン! クリスちゃん!」

倫子「……ああ」ニコ

113 : ◆/CNkusgt9A - 2016/01/25 10:25:16.86 hJ8u+9qPo 691/2638

2010年8月16日月曜日
未来ガジェット研究所


チュンチュン……

紅莉栖「(ハァ……ハァ……)」ワキワキ

倫子「んむぅ……」zzz

紅莉栖「(まゆりに合わせて朝早くラボに来た甲斐があった……っ! め、め、目の前に天使がっ! 天使の寝顔がぁっ!!)」キャッホーイ

紅莉栖「倫子たんかわいいよ倫子たん。クンカクンカ、スーハースーハー」

倫子「ん……」

紅莉栖「倫子たんぺろぺろ。倫子たんぺろぺろ」

倫子「ん゛ぅ……」イラッ

紅莉栖「ふぅ」ツヤツヤ

紅莉栖「でも、あの時のあの子が岡部だったなんてね……私は運命論者じゃないけど、これもシュタインズゲートの選択、なのかな……」トゥンク

紅莉栖「な、なんちゃってー! あはは……」

倫子「……ぐぅ」zzz

紅莉栖「…………」

紅莉栖「おはよう、岡部」トントン

倫子「んむ……ふゎぁ。助手か、今日はまた一段と早いな」

紅莉栖「まゆりならもうここに立ち寄って有明に行ったわ」

倫子「そうか……ちょっと待ってろ。顔洗ってくる」

紅莉栖「いってら」

114 : ◆/CNkusgt9A - 2016/01/25 10:26:26.08 hJ8u+9qPo 692/2638


紅莉栖「それで、桐生さんの行方についてはどうするの?」

倫子「メールの返信は……ないか。手掛かりは、奴が住んでいるボロアパートと、『アーク・リライト』とかいう編プロの名前くらいだな」

紅莉栖「あの人のバイト先か。ちょっとググってみる……ここね」

倫子「なんだ、事務所はアキバにあるのか」

紅莉栖「電話してみましょう……って、留守電になってる。お盆休み中か」

倫子「直接訪ねてみるしかないか」

紅莉栖「オーケー。それじゃ、出掛けましょう」スッ

倫子「……なんだ、その手は」

紅莉栖「……打消しDメールを送ったら、この世界線の記憶は無くなっちゃうんでしょ」

紅莉栖「私は……今ここで自我を認識しているこの私は、岡部の1マイクロメートルでも近くに居たい」

紅莉栖「世界が消えてなくなるまで……グスッ……」チラッ

倫子「……だ、だが断る」プイッ

紅莉栖「ぐはぁっ!」

倫子「誰が好き好んで女とおてて繋いでアキバを歩くかバカモノっ! 黙ってオレについてこいっ!」ガチャ バタン

紅莉栖「ああっ! 待っておかべぇ!」タッ

115 : ◆/CNkusgt9A - 2016/01/25 10:27:02.88 hJ8u+9qPo 693/2638

アーク・リライト事務所前


男性スタッフ「確かに居たな、そんなバイト。2日だけ来て音信不通になった女の名前が桐生だったと思うぞ」

紅莉栖「ありがとうございます」

倫子「(……IBN5100を手に入れたことでバイトを辞めることにしたのか?)」

紅莉栖「それじゃ、次は彼女の家ね」



ハイツホワイト


紅莉栖「こ、こんなボロアパートに住んでるの……!?」

倫子「お前はまたそうやって人の反感を買うことを言うー」

紅莉栖「……大丈夫よね? 今の、ここの住人に聞こえてなかったわよね?」オドオド

倫子「って、規制線か? ……警官にパトカーまで!? 事件でもあったのか!?」

116 : ◆/CNkusgt9A - 2016/01/25 10:27:52.36 hJ8u+9qPo 694/2638


紅莉栖「すいません。何かあったんですか?」

警官「ん? 君たち、関係者?」

紅莉栖「……たぶん、そうです」

警官「……自殺だよ」

倫子「じさ……つ……?」ドクン

紅莉栖「そ、それはいつですか!?」

警官「昨日だ。ご遺体は、近くの千代田第三病院に運ばれているはずだから、会いに行ってやってくれないかな?」

倫子「萌郁が……死んだ……? なんだよそれ。訳が分からないぞ……」ワナワナ

倫子「あいつはまだラボを襲撃していない……なのになぜ……」プルプル

??「…………」トントン

倫子「えっ――――」

萌郁「会いに……きてくれたの……?」

倫子「」

倫子「」

倫子「でたああああああああああっ!!!!!!!!!」ジョボボボボ

117 : ◆/CNkusgt9A - 2016/01/25 10:28:51.23 hJ8u+9qPo 695/2638

ハイツホワイト202号室


紅莉栖「もう! 紛らわしい真似はやめてください! 女の子が泣いてるんですよ!」

萌郁「自殺があったのは、201号室……202号室じゃない……」

萌郁「私は……幽霊じゃ、ない……」

倫子「ひぅっ……うぇぇっ……」グスッ

紅莉栖「(しかし、すごい部屋ね……桐生さんって、片付けられない女……?)」

萌郁「ショーツ……使ってないのがあるから、あげる……」ガサゴソ

萌郁「確かこの辺に……えっと……あった……」ポイッ

紅莉栖「ど、どこから出した!?」

紅莉栖「あと、そこに落ちてるブラウスとスカートも借りるわよ。ほら岡部? お着換えしようね?」

倫子「うん……」ヒグッ

紅莉栖「(かわいい)」

118 : ◆/CNkusgt9A - 2016/01/25 10:29:57.71 hJ8u+9qPo 696/2638


・・・

倫子「完全にOL風な格好になってしまった……マッド要素皆無ではないかぁ……」グヌヌ

紅莉栖「似合ってるわよ。機関の送り込んだスパイみたい」

倫子「そ、そうか?」パァァ

紅莉栖「(かわいい)」

萌郁「(かわいい)」

倫子「それで、萌郁は8月1日、柳林神社に盗みに入ったのか?」

萌郁「……ごめん、なさい」

紅莉栖「謝って済む問題じゃないわよ。普通に犯罪」

倫子「それもFBの命令だったんだな」

萌郁「っ!? FBを知っているの!?」

紅莉栖「まずはあなたが知っている情報を話しなさい。これは取り引きよ」

萌郁「FB……FBから、連絡が来ないの……もう2週間……」プルプル

萌郁「やること……無くなっちゃって……自殺しようかとも思ったけど……」

萌郁「そんなことより……岡部さんの写真を撮ってた……」

倫子「結局オレの写真を撮っていたのかよっ!」

紅莉栖「大天使リンコエルのエロスが桐生さんのタナトスに勝った……!」

倫子「伝説を増やすなぁっ!」

萌郁「今日は……メモリ、買いに行ってた……」

倫子「(一体何GB撮影したんだ……)」ガクガク

萌郁「姉さんにバレちゃったね……恥ずかしいな……」テレッ

倫子「……いや、オレももう慣れてきたから別にいい」ハァ

紅莉栖「で、IBN5100はFBに渡したの?」

萌郁「知らない……たぶん、他のラウンダーが持って行った……」

紅莉栖「役割分担してるわけか。まるで転売ヤーみたいな組織ね」

119 : ◆/CNkusgt9A - 2016/01/25 10:30:30.20 hJ8u+9qPo 697/2638


萌郁「あ、あの……岡部さん……」

倫子「む? どうした?」

萌郁「その……裏切って、ごめんなさい……」

倫子「(……いや、こいつはラボが襲撃された時、身を挺してオレたちを守ってくれたはずなんだ)」

萌郁「IBN5100……岡部さんに、渡せなかった……」

萌郁「そう思うと……メールにも返信できなくて……今日も、メール無視して……」

倫子「なんだ、そのことか。気にするな、もはや手に入ったも同然なのだからな! ふぅーははは!」

萌郁「……?」

倫子「(だが、萌郁の行動はなんか変だ。本当にオレにIBN5100を渡そうと思っていたのか? そりゃ、当然ラウンダーとしての任務を優先すべきだったのだろうが……)」


prrrr prrrr


紅莉栖「ん、私だ。ごめん、ちょっと出てくる」スタッ

倫子「……もしや、タイムリープか?」

萌郁「タイム……リープ……?」

120 : ◆/CNkusgt9A - 2016/01/25 10:30:59.22 hJ8u+9qPo 698/2638


紅莉栖「……そのまさかよ。ただいま、岡部」ニコ

倫子「フッ。なかなか渋みのある笑顔だな、アラフィフティーナよ」

紅莉栖「ま、まだ42だから! ううん、心は永遠のセブンティーンだからぁっ!」

倫子「(……またオレは、お前に助けられるのだな)」

紅莉栖「それで、岡部。まずはやること済ませちゃうわよ」

倫子「ああ……ああ?」

紅莉栖「ほかべえええええええええええ!!!!!!!!!」スリスリスリスリ

倫子「やることってそれかよぉ!? はなれっ、離れろぉっ!! うわぁん!!」

紅莉栖「倫子たんチュッチュ! 倫子たんチュッチュ!」

西田「ちょっとー、203の西田だけど大丈夫ー? 警察呼ぶ?」

倫子「だっ、大丈夫ですのでぇっ! イチャついているだけですのでぇっ!」

西田「まったく、最近の若い子は……」

121 : ◆/CNkusgt9A - 2016/01/25 10:32:05.02 hJ8u+9qPo 699/2638


紅莉栖「真面目な話をするわよ。急いで用件を済ませないと」ツヤツヤ

倫子「どの口が言うのだ……」ゲンナリ

紅莉栖「昨日の201号室の自殺……あれは、ラウンダーの仕業よ。本当は桐生さんが殺される予定だった」

萌郁「……っ!?」

倫子「なんだと……!?」

紅莉栖「私の若い頃の記憶では、昨日このアパートで自殺に見せかけて殺されたのは桐生さんだった」

紅莉栖「そこで私は未来のSERNから2010年のラウンダーに間違った指示を与えてみた。どうやら成功していたみたいね」


  『本来ラウンダーってのは、任務を達成したら消されるんだ』


倫子「……そう、だったのか」プルプル

萌郁「どういう……こと……?」

紅莉栖「だけど、私の小細工も時間稼ぎにしかならない。遅かれ早かれ桐生さんは証拠隠滅のために消される」

萌郁「ひっ……」

倫子「もしや、α世界線の収束なのか!?」

紅莉栖「世界線収束範囲<アトラクタフィールド>としてのα世界線の収束では無いことがわかってる。ただ、本来この世界線では桐生さんの8月15日の死は確定していたのよ」

紅莉栖「収束のブレ、奇跡的に死期を伸ばせたところで24時間以内には、ってところね」

萌郁「24時間……ってことは、私は、今日中に……」プルプル

紅莉栖「それからもう一つ。桐生さんがケータイ依存症という名の、ラウンダー依存症になっている理由」

倫子「ラウンダー依存症……? ケータイ依存症は萌郁の元々の病気みたいなものじゃないのか?」

紅莉栖「ううん、病気なんて生易しいものじゃない。これはね――」

紅莉栖「300人委員会による洗脳だったのよ」

倫子「洗脳だと……!?」

萌郁「……?」

122 : ◆/CNkusgt9A - 2016/01/25 10:33:58.30 hJ8u+9qPo 700/2638


紅莉栖「ラウンダーは無差別ダイレクトメールでメンバーを募集していた。それにはちゃんと理由があったの」

紅莉栖「あの迷惑メールには、実は断片的記憶データと神経パルス信号が添付されていた」

倫子「神経パルス……って、タイムリープ時の!?」

紅莉栖「前にも話したわよね。脳は記憶を思い出すときに前頭葉から信号が発信される」

紅莉栖「前頭葉を刺激する神経パルスを放射することで、トップダウン記憶検索信号を意図的に発信させることができる」

紅莉栖「これによって送られた記憶データを受信者に強制的に思い出させるという作用が発生する」

紅莉栖「理論上これを使えば、ありもしない記憶、想い出、感情、世界観や思考の癖に至るまで、脳に埋め込むことができる」

倫子「そんなことが可能なのか……。まさか、紅莉栖の論文が悪用されたのか!?」

紅莉栖「これ自体は私の理論じゃない。これは、VR技術よ」

倫子「VR技術……! またそれなのか……」

紅莉栖「うちの大学の精神生理学研究所の長年の研究成果ね。特許も持ってる」

紅莉栖「ある意図的な情報を神経パルスへコンバートする技術。それは、映像データや記憶データを脳に入れることができるということ」

紅莉栖「医療分野での運用が期待されていたけど、軍事転用や洗脳としての使い方が危惧されて、1997年にはアメリカ大統領が行政命令を出すほどのシロモノ」

倫子「1997年……。萌郁がラウンダー募集メールを受信したのが、2006年だったな……」

萌郁「…………」コクッ

紅莉栖「時期からして天王寺裕吾がラウンダーになったのは洗脳とは別の経緯でしょうけど、多くのラウンダーは多かれ少なかれこの洗脳メールによって思考誘導されているはずよ」

倫子「だ、だが、メールに洗脳情報を添付させるなど、どういう原理なのだ!?」

紅莉栖「私の研究で判明したのは、実は世界が非常にデジタルに近い物で構成されているということだった」

倫子「世界も人間の脳も、アナログベースのはずだろう!? 1と0の間にスキマがあるとでもいうのか!?」

紅莉栖「まさにそういうことよ。世界は電気仕掛けだった、っていうオチ」

紅莉栖「人間の記憶をまるごとデータとして取り出す理論を技術的に確立できたのもこのおかげね」

倫子「なぁっ……」

123 : ◆/CNkusgt9A - 2016/01/25 10:36:36.38 hJ8u+9qPo 701/2638


紅莉栖「電気仕掛けの世界なら、メール受信時に解凍されたパルスをケータイから放射することも可能ってわけ」

倫子「携帯電話にそんな機能があったなんてな……」

紅莉栖「もしかしたらこれも300人委員会の陰謀かもね。こういうことが可能な携帯電話端末の開発と一般普及を誘導した、とか」

倫子「内部の人間にトンデモ陰謀論を語られると、もうなにも信じられん……」

紅莉栖「でもね、添付された洗脳データは健康な状態の脳にはあまり影響がないの」

紅莉栖「タイムリープと違ってメールだから、こめかみ付近にケータイを近づけることも普通は無いしね」

紅莉栖「だけど、これは精神的に不安定であればあるほど効力を発揮する」

紅莉栖「桐生さんが例のメールを受信した時は、自殺をしようとしていた時だったのよね?」

萌郁「……自分の部屋で……睡眠薬、大量に飲んで」

萌郁「でも、死ぬのを失敗して……」

萌郁「……そこに、メールが。"ラウンダー募集"って。個人宛じゃなくて……一斉送信の」

萌郁「……気づいたら、返信してた……」

紅莉栖「不安定な状態の脳には断片的記憶データが埋め込まれやすくなる。思考が誘導されやすくなる。メールの情報に依存しやすくなる」

倫子「SERNめ、どこまでも卑劣な真似を……っ!」

倫子「……待てよ。1%の壁を越えれば、萌郁は洗脳されず、ラウンダーじゃなくなるのか?」

紅莉栖「いいえ、それはないわ。遅くても2005年には既に洗脳メールは発信されていることがわかってる」

倫子「当時のSERNがどうやってそんなことを……?」

紅莉栖「タイムリープ時の記憶の圧縮と原理は同じでしょうね。SERNはLHCでブラックホールを作ること自体は2005年時点で成功しているわけだから、洗脳用データの超圧縮自体は可能」

紅莉栖「洗脳用データ本体がどうやって作られていたのかって点は、300人委員会の息がかかったタヴィストック研究所――別名、洗脳研究所――との技術提携があったみたい」

紅莉栖「ともかく、そのデータを無差別に大量に飛ばせば、偶然受信した心を病んでいる人がラウンダー依存症を発症する、っていう仕組み」

紅莉栖「発症したら最後、通常のメールのやり取りだけで依存度は増幅していく」

紅莉栖「……試してないけど、例えば今、桐生さんのケータイ電話をへし折ったら、彼女は発狂して死ぬと思う」

萌郁「ケータイは……渡さない……」ギュッ

倫子「……例え話でもやめてくれ、紅莉栖……うぅ……」プルプル

124 : ◆/CNkusgt9A - 2016/01/25 10:38:04.86 hJ8u+9qPo 702/2638


紅莉栖「だからね、打消しDメールを送っても、1%の壁を越えても、2010年の桐生さんは300人委員会に洗脳された状態にある」

紅莉栖「できれば彼女を専門の病院に入院、いえ、通院でも大丈夫かな? とにかく、長期的なスパンでの治療が必要なの」

紅莉栖「……アトラクタフィールドを跨いだら、岡部と桐生さんの接点そのものが無くなる可能性もあるけど、もしどこかで出会ったなら彼女を病院に連れて行ってあげて」

倫子「わかった……が、オレがSERNの支配構造を破壊できたとしても、依然として300人委員会の陰謀は渦巻いているということか……」プルプル

紅莉栖「300人委員会の陰謀は、正直言って岡部1人でなんとかできるものじゃない」

紅莉栖「2010年時点でも、プロジェクト・マルス、プロジェクト・アトゥム、それからプロジェクト・ノアの事後処理の箱庭実験とか、同時並行的に人類牧場化計画が進んでいる」

紅莉栖「新世界秩序、ワン・ワールド・オーダーの流れは既に存在している」

倫子「くっ……」

紅莉栖「だけど、それはまだ確定はしていない。このα世界線と違って、ディストピアは確定していないの」

紅莉栖「何があっても1%の壁の向こう側を目指すんでしょ? 狂気のマッドサイエンティストさん」

倫子「……無論だ」グスッ

125 : ◆/CNkusgt9A - 2016/01/25 10:38:50.01 hJ8u+9qPo 703/2638


萌郁「……私が……洗脳……?」

萌郁「違う……FBへの想いは……洗脳なんかじゃ……」ワナワナ

倫子「なあ、萌郁。その、FB、ってのは、どんな人なんだ?」

萌郁「……FBは……お母さん……みたいに……私に優しくて……」

萌郁「私は……やっと心地良い……居場所を……」

萌郁「悩みを相談したり……いつも、すぐに返事くれた……」

萌郁「友達みたいで、でも包み込む優しさが……あって……」

萌郁「でも、会ったら……幻滅される……だから、会いたいなんて……思わない……」

紅莉栖「……重症ね」

萌郁「今は、岡部姉さんの……優しさに、助けられてる……けど……」

倫子「……ああ。オレでいいならお前の姉にでも母にでもなってやる」

倫子「得体の知れない奴なんかより、オレに依存してくれ」ダキッ

萌郁「ねえ、さん……うぅ……っ」グスッ

紅莉栖「……そうね。ラウンダー絶ちができるなら、桐生さんの脳にとってその方が良い」

126 : ◆/CNkusgt9A - 2016/01/25 10:41:47.95 hJ8u+9qPo 704/2638


倫子「……萌郁。教えて欲しい」

倫子「IBN5100を入手した後、FBから指令があったはずだ。それは、なんだったんだ?」

萌郁「……指定された場所に、置いておけ」

倫子「その場所は……?」

萌郁「コインロッカー……大ビル……前の……」

倫子「またあそこか……」

紅莉栖「秋葉原のIBN5100がFBの手許を離れるのは8月15日、昨日の午前3時頃よ」

倫子「知ってるのか!?」

紅莉栖「私を誰だと思っている。300人委員会序列持ちだぞ?」

紅莉栖「FBの正体も知ってる。居場所も、IBN5100の在り処も」

紅莉栖「と言っても、この世界線では岡部がIBN5100を手に入れることは絶対に不可能なんだけど」ハァ

倫子「……萌郁。一緒にFBに会いに行くぞ」

紅莉栖「はぁっ!?」

倫子「そして一言言ってやるんだ。萌郁を、オレの大事なラボメンを、こんな扱いしやがって、ふざけんなと……!」

萌郁「……い、いや……そんなの……できない……」

紅莉栖「どれだけ危険かわかってるの!? まかり間違って岡部が殺されでもしたら――」

倫子「オレは死なないっ! 何故なら、優秀な助手を始め、仲間たちがついているからだっ!」

紅莉栖「……っ。まぁ、でも、うん。あの人なら、岡部を狙ったりしないか……」ブツブツ

萌郁「……今の私には、姉さんしか、いない……」ブツブツ

倫子「オレは過去へ行く。萌郁、また後で、いや、また前で会おう」

萌郁「……わかった……」

127 : ◆/CNkusgt9A - 2016/01/25 10:45:05.59 hJ8u+9qPo 705/2638

大檜山ビル前


紅莉栖「……さっきは桐生さんが居たから言えなかったけど、FBの正体は天王寺裕吾、ブラウン管工房の店長さんよ」

倫子「……それはマジで言ってるのか?」

紅莉栖「えらくマジ」

倫子「だ、だが奴はかつての世界線で自分はFBではなくM2だと……いや、あの世界線ではラウンダーから足を洗っていたのだったな……」

倫子「それがこの世界線では足を洗わず昇進していた、と……信じられない、いや、信じたくないが……」プルプル

倫子「どの時点だ……綯のメールか? フェイリスか? まさかルカ子のメールの取り消しのせいで……考えてもわからんな」


  『……別に、俺は何もしてねえ。いや、"何もしない"をした、ってのが正解だな』


倫子「理由があるならそれはなんだ? 確認できるなら確認しておきたい……」

紅莉栖「危険な賭けになるけど、天王寺裕吾には私も岡部も殺せない可能性が高い」

倫子「……世界線の収束、だな」

紅莉栖「でも、どんなイレギュラーが発生するかわからない」

紅莉栖「あんたはスズちゃんから2025年に自分が死ぬって聞いてるみたいだけど、それはイコール2025年まで死なないとは限らない」

紅莉栖「アトラクタフィールド理論だって、完全な理論とは限らない。別の理論で打ち消されるかもしれない。プログラムは不完全かも知れない」

紅莉栖「忘れないで。世界は神が創り出した完全なものなんかじゃないってことを」

倫子「……わかった」


バチバチバチバチッ

グラグラグラグラ……


倫子「なっ!? 2階で放電現象が!?」

紅莉栖「ど、どういうこと!?」

128 : ◆/CNkusgt9A - 2016/01/25 10:46:43.21 hJ8u+9qPo 706/2638

未来ガジェット研究所


ダッ ダッ ダッ ガチャッ

倫子「(鍵が開いている……って、出る時に紅莉栖ともめたせいで閉め忘れたのか……くそっ!)」

倫子「誰だっ! 勝手にタイムリープマシンを使っているのはっ!?」

紅莉栖「……お、岡部。急に走り出してどうしたのよ」

倫子「……は? いや、さっき放電現象が起こったのを見ただろう!? 誰かがタイムリープマシンを――」

紅莉栖「見てないし、誰も居ないわよ?」

倫子「なにっ!? た、確かに誰も居ない……だ、だ、だが、お前とさっき一緒に見たぞ! 本当だっ!!」ワナワナ

紅莉栖「落ち着け。私はあんたを信じてる」

倫子「紅莉栖ぅ……」ウルッ

紅莉栖「……この一瞬で世界線が変動したか。タイムリープではメーターに表示されるほどの変化はないんだったっけ。でも、私の記憶が再構成されてる」

倫子「世界線が……変動した、だと……?」

紅莉栖「仮に誰かがタイムリープしていたとして、跳んだ瞬間、今日この時間ここでその人がタイムリープする歴史は消滅するわけだから、当然タイムリーパーはこの場に存在しなくなる」

倫子「な、なるほど……Dメールの送信履歴が消えるのと同じか」

倫子「だが、めまいは起きていないぞ……?」

紅莉栖「急激な脳内情報の変化が起こらなかったのね。変動前後で岡部の脳にほとんど違いが無く、めまいが起こらなかった可能性」

倫子「つまり、オレの脳内にしかさっきの光景は無いが、オレの行動はそれほど変わっていない、と……」

紅莉栖「でもあんたの記憶にあるってことは、それは間違いなく誰かがタイムリープしたということ」

倫子「……まさか綯かっ!? この世界線でも綯はワルキューレを裏切るのかぁっ!?」プルプル

紅莉栖「わからない……私にはそういう記憶は無いけれど……」

倫子「……くそっ! とにかく、とにかくタイムリープだっ! 萌郁が殺される前にっ!」

紅莉栖「……オーケー。準備できた。向こうの私によろしくね」

129 : ◆/CNkusgt9A - 2016/01/25 10:47:49.33 hJ8u+9qPo 707/2638


――――――――――――――――――――――

2010年8月16日12時36分 → 2010年8月15日06時36分

――――――――――――――――――――――

130 : ◆/CNkusgt9A - 2016/01/25 10:48:17.72 hJ8u+9qPo 708/2638


・・・
同世界線 4日前の記憶
2010年8月11日水曜日
新御徒町 天王寺家


天王寺「……綯。綯!」

「……お父……さん?」パチッ

天王寺「疲れちまったのか? ずっと車で移動だったから無理もねぇが、こんなところで寝てると風邪引くぜ」

天王寺「まぁメインが墓参りみたいになっちまったし楽しくはなかったよな。……ごめんな」

「…………」ジワッ

天王寺「今度近場でどっか……」

「…………」ダキッ

天王寺「わっ!? っとと」

「旅行……楽しかった。ありがとう、お父さん……」ギュッ

131 : ◆/CNkusgt9A - 2016/01/25 10:49:10.55 hJ8u+9qPo 709/2638


危険を冒した甲斐はあった。

記憶にある"私"は『遊園地も行きたかった』とその時言ったのだ。

それは実現しないということを私は"思い出して"いる。なぜなら私の父、天王寺裕吾は4日後、8月15日に死ぬのだから。

……鳳凰院凶真。私は、ヤツの計画に乗った。ワルキューレのメンバーの一員になった。

それは元々父に言いつけられていたことだからでもあったが、小さい時からの憧れも少なからずあった。

いや、正直に言おう。私は彼女に惚れていた。性別を超える恋をしていた。

幼い恋がそのまま、大人になった私の心に居座り続けた。

私はレジェンドの右腕になりたかった。だから、どんなことでも一生懸命に遂行した。

そして、裏切られた。

天王寺裕吾をあの日自殺に追い込んだのは、他でもない。鳳凰院凶真だったのだ。

世界の未来をディストピアから救う。その崇高な精神の陰に、ヤツの本性は隠されていた。

ヤツは、自分の幼馴染の命を救うためだけに、たった1人の少女を救うためだけに……

何十、何百という人間の、あらゆる犠牲を払ってきたのだ。

父の自殺さえ、計画のうちだったのだ。

ヤツは父を憐れんだことなどなかったのだ。心の奥底ではほくそ笑んでいたのだ。

ヤツは英雄なんかじゃなかった。ただのサイコパスだった。

ヤツのエゴが許せなかった。私のエゴが許さなかった。

132 : ◆/CNkusgt9A - 2016/01/25 10:50:44.79 hJ8u+9qPo 710/2638


私はワルキューレを抜け、情報とタイムリープマシンを売ってラウンダーになった。

父を殺したラウンダーに。父の所属していたラウンダーに。

ただ、鳳凰院凶真に復讐するためだけに。

2025年、念願叶って私はヤツを拉致して監禁して殺した。

いたぶって、じらして、ねぶって、人としての尊厳をすべて削ぎ落した上で惨殺した。

最後は私自身の手で喉を掻き切ってやった後、気が済むまでめった刺しにした。

満足した私は、SERNが回収したワルキューレのタイムリープマシンで過去へ跳んだ。

単純計算で2738回、実際はその倍以上。

タイムリープの影響でいくらか記憶が抜け落ちているとしても、これだけはハッキリ思い出せる。

拷問に泣き叫ぶ悲鳴、命乞いする哀れな姿。

……それでもヤツは、血管に直接鎮痛剤のミルクを注がれた幻覚の中で嗤っていた。


"オレが死のうとも、どこかの世界線のオレが立ち上がる"

"鳳凰院凶真は、何度でも蘇るのだ"


父を救うため、そして鳳凰院凶真に更なる復讐をするために、私はワルキューレのタイムリープマシンを使って2010年へと跳んだ。

待っててね、お父さん。今、助けてあげるから。

今日を入れてあと4日。鳳凰院凶真の行動把握、凶器の準備、肉体の調整……

そして当日、FBのケータイから他のラウンダーたちにでしゃばらないよう命令する。

裏切り者の1人、桐生萌郁は私の手で殺す。

仮に失敗しても、またタイムリープをすればいい。

成功するまで、何度でも。

何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも何度でも……



――私は、復讐者、天王寺綯。

133 : ◆/CNkusgt9A - 2016/01/25 10:51:52.19 hJ8u+9qPo 711/2638


・・・
2010年8月15日日曜日
未来ガジェット研究所


倫子「……服が萌郁から借りたOLファッションではなく、いつものオレの格好になっている。よしっ」

倫子「まだルカ子は来ていないか。紅莉栖! 起きろ! オレはタイムリープしてきた!」

紅莉栖「ふぇっ!? い、今、私の名前を――」

倫子「いいか、今すぐ電話レンジの準備をしろ! そうだな、お前のケータイから遠隔でいつでも放電現象を起こせるようにしておいてほしい」

紅莉栖「できるけど、あれカッコカリはどうし――」

倫子「オレから合図があったら起動するんだ! その時オレのケータイからDメールを送る。文面は、『写真集は嘘メ ールはSERNの 罠無視せよ!』だっ!」

紅莉栖「わ、わかったから、ちょっと時間を――」

倫子「オレは出かけてくる! 準備が終わったら合流するぞっ!」ガチャ バタン

紅莉栖「……な、なんぞ」ポカン

134 : ◆/CNkusgt9A - 2016/01/25 10:53:41.36 hJ8u+9qPo 712/2638

ハイツホワイト202号室


倫子「……というわけで、萌郁。これからFBこと天王寺裕吾に会いに行くぞ」

萌郁「……FBから、連絡がもらえるなら……私は……」ブツブツ

倫子「オレを、信じて欲しい」ギュッ

萌郁「っ……わかった、姉さん……(手、やわらかい……)」


ゴンッ ゴンッ


倫子「(その時、ボロアパートの鉄階段を慎重に上がる音が聞こえた)」ビクッ

倫子「萌郁、静かに……って、お前はいつでも静かだったな」

萌郁「……?」


ゴンッ ゴンッ


倫子「(来たか……だが、ヤツらの陰謀は未来の紅莉栖によって阻止されている)」

倫子「(今日ヤツらに殺されるのは隣の、えっと、西田さんじゃ無いほうのお隣さんだ)」

倫子「(……本当か? オレがあの時見た放電現象を紅莉栖が知らなかったように、既に紅莉栖の工作はバレていて、裏をつかれているのではないか……?)」プルプル

135 : ◆/CNkusgt9A - 2016/01/25 10:56:41.90 hJ8u+9qPo 713/2638



コツッ コツッ


倫子「(足音は外の廊下に差し掛かった。が……)」


コツッ コツッ ピタッ


倫子「(おかしい。202号室の手前に201号室があるはずなのに、何故ここまで来る……っ!)」

倫子「(ま、まずい! この周回の世界線では、何かが変わってしまっていたんだ!)」ダラダラ


ガチャガチャガチャガチャ


倫子「(ヒィィィィィッ! か、鍵は掛かっているが、このボロさからすると時間の問題かっ!)」ドキドキ

萌郁「……っ!」ダッ

倫子「おまっ……!」

萌郁「……っ」スッ

倫子「(玄関に置いてあったオレのサンダルと萌郁のヒールを音も立てずに取ってきた、だと……? さすが隠密部隊……)」

萌郁「……隠れて。押し入れ。早く」ギュッ

倫子「……い、痛いっ。押すなっ。蹴るなっ!」ヒソヒソ

136 : ◆/CNkusgt9A - 2016/01/25 10:58:30.30 hJ8u+9qPo 714/2638



ガチャ キィ……


倫子「(か、間一髪だった……立て付けの悪い玄関扉が開く前に、なんとか萌郁と押し入れに身を隠すことができた……)」ハァハァ

萌郁「…………」ハァハァ


ヒタ ヒタ ヒタ


倫子「(間違いない、闖入者はラウンダーだ……萌郁を自殺に見せかけて殺すためにやってきたんだ……)」ドキドキ

萌郁「…………」ドキドキ


ヒタ ヒタ ヒタ


倫子「(どうやらオレは布団か何かに頭を突っ込んでいる体勢らしい……オレのケツは萌郁の豊満なバストによって抑え込まれている)」フゥフゥ

萌郁「…………」フゥフゥ

倫子「(このとんでもない状況……隠れたからと言って、なんとかなるとは思えない……)」プルプル


ヒタ ヒタ ヒタ ピタ


倫子「(帰ってくれ帰ってくれ帰ってくれ帰ってくれ帰ってくれぇ……っ!!)」ウルウル


シュバーッ


倫子「(嗚呼、オワった……。無慈悲にも押し入れの襖が横に引かれ―――)」

137 : ◆/CNkusgt9A - 2016/01/25 11:00:04.68 hJ8u+9qPo 715/2638



ドササササァッ!!


倫子「っ!?」

萌郁「…………」

倫子「(それは、すごい音を立てて雪崩堕ちた)」

倫子「(ヤツが引いたのは、オレたちが押し入れに入った時とは逆の襖だった)」

倫子「(後でわかったが、オレたちが今居る逆サイドは、布団だけじゃなく、衣類全般を始め、文庫本、時計、カップ焼きそば、電気ポットなど、あらゆるものがカオスに侵食されていたのだ)」

倫子「(萌郁のずぼらな性格が勝ったのだ)」


??「くっ……どこに行った……」

??「タイムリープされたせいで足取りがつかめなくなったから、裏切者の家かと思ったが……」


倫子「(奴の声が少し漏れた。オレはケツからしか外界の様子を感知することができないが
おそらく女性の声だ)」

倫子「(それもかなり若い……。萌郁のような女ラウンダーが他にも居る、ということか?)」

萌郁「……次、動いたら、抑え込む……姉さんは、守る……」パクパク

倫子「(萌郁が蚊の鳴くような声で言う。だがっ!)」

倫子「(それはだめだっ! お前が狙われているんだぞ! そんなことをしたら―――)」


ピピピピピピピピピピピピ


倫子「(ヒィィィィィィィィィィィッッ!!!)」ビクビクビクッ

138 : ◆/CNkusgt9A - 2016/01/25 11:01:11.16 hJ8u+9qPo 716/2638



ピッ


??「…………」

??『…………』


倫子「(お、脅かすなぁ……。電話がオレや萌郁のものじゃなくてよかったぁ……)」ヘロヘロ


??「…………」

??『…………』


倫子「(ヤツは電話で通話相手と何やら会話しているが、日本語じゃない? これはもしや……フランス語か?)」


??「…………」

??『……FB』


萌郁「……っ!」ドキッ

倫子「(オレのケツを圧迫している萌郁の胸がはずんだ。心臓の音が、今になってようやく高鳴るのを感じる……)」

倫子「(それは、通話相手の発した『FB』という単語に対してだろう。というか、この状況自体には冷静に対応していると思うと、さすがM4と言わざるを得ない)」


??「…………」ピッ


ヒタ ヒタ 

ガチャ バタン

ゴンッ ゴンッ ゴンッ ……



シュバーッ

倫子「……死ぬかと、思ったぁ……」ヘナヘナ

萌郁「FB……」

139 : ◆/CNkusgt9A - 2016/01/25 16:54:39.92 hJ8u+9qPo 717/2638

秋葉原駅前ロータリー


紅莉栖「少しは連絡しろこのバカ岡部っ!」

倫子「バっ……!? バカとはなんだっ! 助手の分際でっ!」

紅莉栖「バカぁっ!! 心配したんだからなぁっ!!」ダキッ

倫子「ふごっ!? こ、公衆の面前でなにをやらかしとるか貴様っ! やめ、やめろぉっ!」

萌郁「…………」パシャ

倫子「撮るなぁ!! うわぁん!!」

紅莉栖「私だけじゃない! あの後まゆりがラボに来て、あんたが居なくて心配してたっ!」

倫子「……まゆりが? あいつは、だってコミマに行ってたんじゃ……」

倫子「いや、それでも、もう少しで手が届くんだ」

紅莉栖「だったら! 今すぐにでもDメールを送るべきよ!」

倫子「おまっ! 言ってることがタイムリープ前と逆ではないかぁっ!」

紅莉栖「未来の私のことなんて知らないわっ! FBなんてもっとどうでもいいっ!」ピィィ

萌郁「…………」

倫子「……落ち着け紅莉栖。オレはあのタコ坊主と話をつけなきゃならないんだ」

倫子「心配してくれて感謝している。お前と青森行きの約束がある以上、オレは死なない。だから案ずるな」

紅莉栖「岡部……」ジュン

紅莉栖「……少しでも危険だと判断したらすぐDメールよ。いいわね?」グスッ

140 : ◆/CNkusgt9A - 2016/01/25 16:55:25.85 hJ8u+9qPo 718/2638

新御徒町 天王寺家


倫子「(店長の家にはオレと萌郁で突入する手はずになった。紅莉栖には外で見張っていてもらう)」ピンポーン

天王寺「おう、岡部か。それと……まあいい。上がれや」

倫子「失礼します」

萌郁「…………」


【0.50311】


倫子「(世界線変動率メーターは着実に変動しているが……しかし……)」

倫子「綯はいますか?」

天王寺「綯? 綯なら近所の公園でやってるラジオ体操に行ったぞ」

天王寺「うちの娘は偉い。毎日欠かさずハンコをもらってるんだぜ?」ドヤァ

倫子「そ、そうですか」

天王寺「それだけじゃなく、最近はなんだか体を鍛えてるみたいでな……お前さん、まさかとは思うが、何か変なことを吹き込んだんじゃねぇだろうなぁ?」ギロッ

倫子「ヒッ。そ、そんなわけないでしょう」

倫子「(オレはミスターブラウンと世間話をしにきたのではないのだぞ……)」ドキドキ

141 : ◆/CNkusgt9A - 2016/01/25 16:56:31.22 hJ8u+9qPo 719/2638


倫子「単刀直入に聞きたい。あなたは、FB、ですね?」

天王寺「…………」

倫子「(一瞬鼻白んだが、顔つきが変わったな……やはりか……)」グッ

天王寺「……裏切ったな、M4」

萌郁「……!?」ビクッ

天王寺「フェルディナント・ブラウンって知ってるか?」

倫子「その頭文字が、『FB』……なんですね」

天王寺「ほう。だてに白衣を着てねぇな。頭の回転が速いこって」

倫子「別の世界のあなたから聞いたんですよ。ラウンダーから足を洗った世界のあなたからね」

天王寺「ハハ、今までにない傑作だな。この俺がラウンダーから足を洗うなんて、天地がひっくり返ってもねぇよ」

萌郁「そんな……だ、だって、FBは……私の、お母さん……みたいな存在で……」

天王寺「依存の次は現実逃避か? お前はもう用済みなんだよ」

天王寺「こんな俺でもそういう訓練は受けてるんだ……社会に居場所が無いやつを利用するなんて朝飯前だ」

倫子「……橋田鈴は、そんなことをさせるために貴方の世話をしたんじゃないっ!!」

天王寺「……!」

倫子「橋田鈴はタイムトラベラーだった……SERNのZプログラムについて知っていれば、それがいかに現実的な話か理解できるはず」

天王寺「……場所を変えよう。仏さんの居る前でするような話じゃねぇ」

萌郁「…………」





紅莉栖「(え!? 移動すんの!?)」コソッ

142 : ◆/CNkusgt9A - 2016/01/25 16:57:32.94 hJ8u+9qPo 720/2638

建築現場


天王寺「この街も随分変わっちまったな……」

倫子「……まずは、オレの与太話に付き合ってくれませんか」

天王寺「……いいぜ。教えてくれよ、異世界の俺のことを」

倫子「オレがかつて居た世界のあんたは、さっきも言ったがラウンダーから足を洗っていた」

天王寺「それで?」

倫子「綴さんと、もう一人の娘、綯の妹『結』と、4人で仲睦まじく暮らしていましたよ」

天王寺「……っ。創作にしては上出来だ」

倫子「教えてください。この世界では、どうして綴さんは死んだんだっ!! あんたが、なんらかの任務を達成しなかったからなのか!?」

天王寺「お前になにが分かる!!」ジャキッ

倫子「拳銃……っ」プルプル

萌郁「…………」

天王寺「……ほう。泣き虫嬢ちゃんのわりには落ち着いているじゃねぇか。それとも、何か秘策でもあるのか?」

天王寺「例えば、その白衣のポケットに突っ込まれた右手とかによ」

倫子「(紅莉栖への連絡はこのケータイからいつでも可能だ……それに大丈夫、こいつはオレを撃てない……)」ガクガク

143 : ◆/CNkusgt9A - 2016/01/25 16:58:24.99 hJ8u+9qPo 721/2638


倫子「橋田鈴は、ついこの間まで秋葉原に居た……」プルプル

天王寺「タイムトラベラーだから、ってか。確かにあの人には未来予知みてぇな力があった」

倫子「貴方のすぐそばに居たんだよ、彼女は……気づかなかったのか?」

天王寺「……?」

倫子「橋田鈴……いや、阿万音鈴羽は、SERNと戦うためにこの時代にやってきたタイムトラベラーだ……」

天王寺「バイトが……だと……!?」

倫子「貴方の恩人は、SERNに支配された未来を変えるために2036年からやってきたんだっ!」

倫子「IBN5100を確保するために、1975年へと跳んだんだっ!」

倫子「よく思い出せ……風貌だけじゃない、父親譲りの口癖、頭を掻く仕草、その身のこなし、自転車の趣味……思い当たる節はいくらでもあるだろうが……!」

天王寺「そう、だったのか……」

倫子「異世界の貴方は……"何もしなかった"と言った。何もしなかったから、ラウンダーから足を洗った、と」

天王寺「……そうか。そういうことかよ……クソ、なんだこの光景は……この記憶は……」ガクッ

倫子「(っ、店長にもリーディングシュタイナーが……!)」

天王寺「違う……違うんだ、岡部……待ってくれ……」

天王寺「その俺は……そいつは……」

天王寺「てめぇの家族と引き換えに、橋田鈴のすべてをSERNに売った男だ……」ポロポロ

倫子「えっ……」

萌郁「…………」

144 : ◆/CNkusgt9A - 2016/01/25 16:59:31.17 hJ8u+9qPo 722/2638


・・・


天王寺裕吾へ

君がこれを読む頃にはたぶんあたしはもうこの世にはいない

けど――キミにお願いがあってこの文章を遺そうと思う

将来、岡部倫子という人が訪ねてきたら大檜山ビルの2階を貸してあげて欲しい

美人だからって手を出すんじゃないよ、そんなことしたら末代まで呪ってやる

最後に、キミやキミの家族と過ごした3年と数週間は楽しい時間だった

こんな日々がいつまでも続いてくれたら――いつもそう思っていた

あたしにはどっちが正しかったのかはわからない

でも、キミの選択はどっちにしても正しかったんだよ

本当にありがとう

本当に

さようなら            橋田鈴   2000年5月18日


・・・

145 : ◆/CNkusgt9A - 2016/01/25 17:00:41.65 hJ8u+9qPo 723/2638


天王寺「だが、違うッ!! 俺は、この俺は、それができなかったんだッ!!」

天王寺「鈴さんを売ることなんてできるわけねぇ!! 恩を讐で返すような、そんな真似……っ!!」

倫子「(そういうことだったのか……ようやく綯のDメールによる過去改変の全貌が見えたが、こんなことって……)」グスッ

天王寺「だけど、だけどな、綯だけは奪われるわけには行かねぇ……」

天王寺「あのIBN5100が鈴さんの守ってきたモノだってのはな、ああ、そりゃぁよくわかってたぜ……」

倫子「(未来紅莉栖の話だと、今日の午前3時頃までソレは天王寺家にあったらしい……)」

天王寺「……笑えるぜ。あの時綴を救ったところで、結局こういう結末だったわけだ」

倫子「……ラウンダーは使い捨ての駒だとかつての"貴方"は言った。だから萌郁は今日殺される」

倫子「貴方が直接手を下さないのは、情が移ったからか」

天王寺「……ああ。違ぇねぇ。できることなら、M4を救ってやりたかった。鈴さんや綴が俺にしてくれたみたいにな」

萌郁「え……っ!」

天王寺「鈴さんならこいつにどう接するか考えたんだ。綴ならこいつにどう話しかけるか考えた」

倫子「それで女言葉を……」

天王寺「連絡を取らなくなったのも、それで依存から抜け出してもらいたかったからだ。まあ、それで見逃してくれるSERNじゃねぇってのはわかってるんだが、万が一があるかと思ってな」

天王寺「だからな、M4。お前が感じてた母性ってのは、俺のものじゃねぇ。今は亡き鈴さん……あのバイトと、綴のものだ」

萌郁「……私、FBに……嫌われて……なかった……」グスッ

146 : ◆/CNkusgt9A - 2016/01/25 17:02:06.47 hJ8u+9qPo 724/2638


天王寺「そうか……岡部と初めて会った時、鈴さんと同じ匂いがしたのは、バイトが岡部に憧れていたからだったのか……」

天王寺「なるほど……巡り巡って、ね……」

倫子「……橋田鈴は、貴方にとって母親代わりだったのですね」

天王寺「俺の母親は早くに死んだよ。日本人だったんだがな、最期はフランスだった」

倫子「貴方はどうしてラウンダーなんかに……っ」

天王寺「……ネズミが寄ってくるんだよ。死体と間違えてな」

天王寺「そんな生活から抜け出すチャンスが目の前に現れたら……飛びつくしかねぇだろ?」

天王寺「たとえその先で永遠に操られ続けるとしても……」

萌郁「……私は……洗脳でも、構わない……」

天王寺「……なぁ岡部」

倫子「……はい」

天王寺「俺は……どうすればよかったんだ……?」

倫子「それは……わかりません……」

天王寺「……岡部。綯のこと、頼むわ」

倫子「(綯のことを……? そうか、やはりあの時の放電現象は……っ! このままでは天王寺がっ!)」

天王寺「お前がダメ親父の代わりによ、母親代わりになってやってくれや」

倫子「――勝手なことをっ!!」ダッ



天王寺「どうしてこんなことになっちまったんだろうなぁ」スチャ



倫子「ミスターブラウンッ!!!」




147 : ◆/CNkusgt9A - 2016/01/25 17:04:41.96 hJ8u+9qPo 725/2638


―――――――――――――――――――
    0.50311  →  0.50988
―――――――――――――――――――

148 : ◆/CNkusgt9A - 2016/01/25 17:05:29.65 hJ8u+9qPo 726/2638


天王寺「…………」

倫子「はぁっ……はぁっ……」ダキッ

天王寺「てめぇ……何を……」

倫子「貴方はバカだ……っ! 綯の父親は、この世に貴方しか居ないっ!」ウルッ

倫子「代わりなんて、どこにも居ないんだよ……っ!」

倫子「だから勝手に死ぬなぁっ!! バカぁぁぁっ!!」ギューッ

天王寺「……白衣に、染みついてやがるな……埃っぽい匂いがよぉ……」

天王寺「懐かしいじゃねぇか……」ポロポロ

萌郁「えふ……びー……」

天王寺「……だが、俺の自殺を止めたところで、俺らが他のラウンダーに殺されるのは時間の問題だ」

倫子「わかっているっ! それはっ、オレがこれからDメールを――」





ラウンダーF「偽のFBを用意するなんて随分と賢くなったじゃないか。ドブネズミ」ガチャッ

149 : ◆/CNkusgt9A - 2016/01/25 17:06:49.15 hJ8u+9qPo 727/2638


倫子「(偽のFB……? 一体なんの話――)」

天王寺「お前は……ッ!!! お前らッ、逃げろッ!!!」

ラウンダーF「そうはいかない」

ラウンダーたち「「「…………」」」ゾロゾロ

天王寺「クソッ……」

倫子「な、なに……っ!? 紅莉栖は……おいっ! 紅莉栖はどうした!?」

ラウンダーF「本来なら明日の予定だったが……岡部倫子と牧瀬紅莉栖の身柄は拘束させてもらう」

紅莉栖「ん~~っ!! んんん~~っ!!」ジタバタ

倫子「紅莉栖っ!!!」

ラウンダーF「FBとM4は必要ない……殺せ」

ラウンダーたち「「「…………」」」ガチャッ

萌郁「ひっ……」

天王寺「…………」

倫子「やめてよ……やめて……やめろぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」





??「お父さんに、手を出すなぁぁぁぁぁぁッ!!!!」





ラウンダーF「……ッ!?」


150 : ◆/CNkusgt9A - 2016/01/25 17:08:24.87 hJ8u+9qPo 728/2638


ラウンダーたち「「「ぐわっ!? ぐほぉ!? ぐふぅ!!」」」バタッ バタッ バタッ

ラウンダーF「な、なんだ!? 何が起こっている!?」

「呼んでも応えませんよ。ひと眠りしてもらいましたので♪」ヒュン

倫子「お前は……綯っ!?!?」

天王寺「な……!?」

「いくら戦闘のプロでも、こんな低身長な対象相手の訓練は受けて無いでしょう?」ヒュン

「跳ぶ前に、手足を切り落として、低身長での戦闘シュミレートをしておいてよかった……」ヒュン

ラウンダーF「どこだっ!? どこから――ごほぉっ!!!」バタッ

「……お父さんとお母さんを殺した罪。お前は死ね」グサッ

ラウンダーF「―――――」ビクンビクン

倫子「あ……あ……」プルプル

萌郁「すごい……動き……」

「ふぅー。もう大丈夫です♪」パンッ パンッ

紅莉栖「げほっ! がほっ! た、助かったけど、どういうこと……」

「強いでしょう? タイムリープを繰り返して訓練に励んだ甲斐がありました」

「……鳳凰院凶真様、ご無事ですか?」

倫子「――――えっ?」

「今すぐ安全な場所に……ラボに戻りましょう。そこで次の作戦<オペレーション>の準備をっ」

151 : ◆/CNkusgt9A - 2016/01/25 17:10:05.94 hJ8u+9qPo 729/2638

未来ガジェット研究所


紅莉栖「電話レンジ(仮)の準備はいつでもオーケーよ。すぐにでもDメールは送れる」

紅莉栖「それと、フェイリスさんに連絡して秋葉原中に警戒網を敷いてもらった。けど、どこまで持つか……」

「私が今朝お父さんの携帯からラウンダーたちに誤報を出しておいたので多少は時間が稼げるかと!」エヘン

天王寺「なっ!? いつの間に俺のケータイを!?」

倫子「(偽のFBってのはこのことだったか……)」

「それに、やつらがここに攻めてきたら私が食い止めますっ!」

倫子「えっと……綯はタイムリーパーなんだよな?」

「はいっ! 中身はワルキューレメンバー011、コードネームエスブラウンですっ!」ビシィ!

倫子「敬礼はいい……そうか、ワルキューレメンバーなのか、良かったぁ……」ヘナッ

紅莉栖「エス……シスターブラウン、ってことね」

天王寺「綯が、俺の娘が、タイムリーパーだと!?」

「実年齢は26歳ですよ、お父さん♪」

萌郁「……?」

「私エスブラウンは、鳳凰院凶真様の命を受け、黄泉還り作戦<オペレーション・ヘル>を遂行しに来ましたっ」

紅莉栖「ヘル……北欧神話で、死者を生者に戻すことができるんだったっけ。ってことは、あなたの目的は……」

「お父さんを救うことです。ついでに桐生萌郁も」

萌郁「ついで……」

倫子「それを未来のオレが指示した、と……?」

「他でもない、お父さん……父の自殺を止めてくれたのは、鳳凰院凶真様じゃないですかっ!」

天王寺「あ、ああ。まあ、そうだな」

「私の知っている2010年8月15日には、あのフランス人のラウンダー、仮にラウンダーFとしますが、あいつによって父は殺されていたんです」

紅莉栖「岡部から聞いた話と違う……? あそっか、世界線が変動したのね!」

152 : ◆/CNkusgt9A - 2016/01/25 17:11:33.28 hJ8u+9qPo 730/2638


倫子「ど、どういうことだ、助手」

紅莉栖「店長さんに抱きついた時、岡部はめまいを感じなかった?」

倫子「あ、あの時は必死だったからよくわからん……言われてみればそんな気もするが……」

紅莉栖「ふむん。これは推測なんだけど、あんたがタイムリープする前に見たって言う放電現象は、未来から来た綯ちゃんがタイムリープした時に発生したものだったんだと思う」

紅莉栖「だけど、"その綯ちゃん"が15年間を跳び始める前の世界線では、多分店長さんは自殺してた」

紅莉栖「"その綯ちゃん"の目的は、自殺の原因を作った岡部を狙うこと。これは、あんたの経験した世界線でも似たようなことがあったことからの推測」

倫子「オレが店長を止められなかった可能性世界、ということか?」

紅莉栖「だって、あんたは例の放電現象を見たことが原因で、綯ちゃんがタイムリープしてきたと推測ができた」

紅莉栖「それがキッカケで店長さんの自殺も推測できて、だから自殺を止めることができたんでしょう?」

倫子「た、たしかにそうだ……」

紅莉栖「ってことは、"その綯ちゃん"からすれば15年前の2010年に"自分"はタイムリープしてきてないんだから、当然その時の岡部は放電現象を確認できない」

紅莉栖「ゆえに、その周回世界線では店長さんは自殺していないとおかしい」

倫子「……バタフライ効果。綯のタイムリープ行為それ自体がオレを通して世界改変を生み出した、と……」

紅莉栖「そして、岡部が店長さんの自殺を防ぐ選択をしたことで未来が再構成された。そこではラウンダーFによって店長さんは殺されることになった」

153 : ◆/CNkusgt9A - 2016/01/25 17:12:26.13 hJ8u+9qPo 731/2638


倫子「ま、待て待て。世界線は過去から未来まで確定しているのではないのか? それなのに選択ができるのか?」

紅莉栖「いつもシュタインズゲートの選択ガーとか言ってたのはどこのどいつだ。というか、その選択ができたのはリーディングシュタイナーのおかげでしょうが」

倫子「あ、そうか……この世界線に、この時代に存在しない知識を持つがゆえに、確定した因果に背く"選択"という行為が可能なのか……」

紅莉栖「ともかく、自殺を防ぐ選択をしたことで発生した世界線変動、未来の再構成によって、タイムリーパーの綯ちゃんの記憶も再構成された」

紅莉栖「彼女の目的も、岡部を狙う事からラウンダーFを倒すことに変わった」

倫子「オレの選択によって未来が変わり、同時に現在に居る未来人綯も変化した、と……」

紅莉栖「その結果、綯ちゃんは今日、ラウンダーFを倒した」

紅莉栖「店長さんと桐生さんがラウンダーFに殺されることは無くなった、というわけ」

「私、がんばりました!」ニコ

天王寺「…………」

154 : ◆/CNkusgt9A - 2016/01/25 17:14:39.12 hJ8u+9qPo 732/2638


倫子「……世界線はどの程度変動したんだ?」

紅莉栖「阿万音さん、というか、ジョンタイターの言う事が正しいなら、少なくとも0.000002%程度は変動したことになる」

紅莉栖「でも、まだ店長さんはラウンダーに狙われているはずから、大きくは変動していないのかも。もしかしたら24時間以内に死ぬことが確定しているかもしれない」

倫子「……α世界線である限り、未来のSERNがミスターブラウンや萌郁を仕留めにやってくる」

「そのたびに私はタイムリープで解決します。何万回、何億回かけてでも」

紅莉栖「今後、綯ちゃんがタイムリープっていう過去改変によってラウンダーを退け続けるたびに、世界線はわずかならが変わっていくのかも知れない」

紅莉栖「未来のSERNはそれを見込んで、店長さんを狙うリスクや費用対効果を考慮して見逃すかもしれない」

「こればかりはやってみなければわからないと鳳凰院凶真様も申しておりました」

倫子「オ、オレが……?」

紅莉栖「確かに店長さんと桐生さんの死亡はα世界線の収束というわけじゃない」

紅莉栖「例えば、今から天王寺さんと桐生さんが完全に地下に潜伏して、一切他者と交流をしないとかすれば……」

紅莉栖「それは世界の因果律にとって2人が消滅したも同然になるわけだし、生命確保だけは可能かもしれない」

紅莉栖「と言っても、それと1%の壁を越えることとは全く関係ない。SERNのディストピアを阻止しなければ、SERNが時間を支配するっていうアトラクタフィールドは越えられない」

紅莉栖「……完全に解説役になってるな、私」

倫子「……助手にしかできないことだ。助かっているぞ、もっと胸を張れ」

紅莉栖「無い胸のくせにってかやかましいわ! というか私は貧乳じゃないぞ西條っ!」

倫子「ヒッ。中途半端にリーディングシュタイナるなよ……」ビクビク

紅莉栖「……もうこの世界線に未練は無いわよね、岡部」

倫子「ああ……ミスターブラウンの真実、綯のDメールの過去改変の全貌もわかったことだしな……」

155 : ◆/CNkusgt9A - 2016/01/25 17:17:31.99 hJ8u+9qPo 733/2638



バチバチバチバチッ


紅莉栖「さあ、岡部。Dメールを」

「この世界線の未来は私に任せてくださいっ! 鳳凰院凶真様は1%の壁を越えるためにっ!」

倫子「……わかっている。わかっているとも……」

倫子「だが、オレの手で、こんなにも簡単に、まだ11歳の少女の人生を狂わせてしまうほどのことが起きてしまうなんて……」プルプル

紅莉栖「……この次の世界線なら桐生さんも店長さんも命を狙われない。IBN5100をあんたが確保している限りね」

紅莉栖「綯ちゃんだって、元気いっぱいな小学生のままよ」

紅莉栖「1%の壁を越えた向こう側も同じ。3人は大丈夫なはず」

「……凶真様。貴女が思っているほど、私は弱くない」

倫子「悪いな、綯……」

天王寺「……力になれなくて、すまねぇな」

倫子「何をそんな……。だったら、次の世界線では家賃を下げてくださいよ」フッ

天王寺「ああ、覚えてたらな」

萌郁「…………」ピロリン♪

『迷惑ばかりかけてごめんね><。 萌郁』

倫子「萌郁……。お前はもっと、幸せになるべきだよ……」


ピッ



156 : ◆/CNkusgt9A - 2016/01/25 17:18:40.73 hJ8u+9qPo 734/2638


―――――――――――――――――――
    0.50988  →  0.52072
―――――――――――――――――――

157 : ◆/CNkusgt9A - 2016/01/25 17:20:02.81 hJ8u+9qPo 735/2638



ガヤガヤ ガヤガヤ


倫子「(……目眩の減衰と共に音が聞こえてきた。とてもうるさい……ここは?)」


  K.O.!!


「バッタかよてめー這いつくばれよなんだそのウルキャンセビって追い打ち地上PP対空二択とか見え見えだっつーの今さらブッパとかクソかダブルピースでキメとけオラッ……」デュクシ デュクシ(※死体蹴り)

倫子「綯っ!? ま、まさかまだ中身は殺戮未来人なのか……?」プルプル

「あ、凶真お姉ちゃん♪ 私勝ったよー!」ダッ

倫子「ぐほぅっ……タックルはやめろ、タックルは……」ゲフッ

倫子「というか、ここは……ゲーセン、か?」キョロキョロ

倫子「(さっきまで綯と対戦していたであろう若い男は茫然自失といった感じでフラフラとその場を後にした)」

倫子「し、しかしスゴイ指の動きだったな。しかも顔色1つ変えずに」

倫子「(というか、完全に無表情<フラットアウト>だった……人殺しの目をしていたような……)」プルプル

「なんとなく……身体が動いたの。自分でもびっくりしました」

「凶真お姉ちゃんが見ててくれたからかな……えへへ……」

倫子「("リーディングシュタイナーは誰もが持っている"……いや、まさかな)」

倫子「だが、どうしてオレは小動物とこんなところに?」

「お父さんがね、映画でも見に行ってこいって。忘れちゃったんですか?」

倫子「店長が? 映画? オレと綯で?」

「ううん、そうじゃなくて……」

萌郁「……待った?」

倫子「……お?」

158 : ◆/CNkusgt9A - 2016/01/25 17:22:00.83 hJ8u+9qPo 736/2638

UPX オープンカフェ


倫子「(話を聞くに、どうやら今日ミスターブラウンは近所の老夫婦の家へ無料出張サービスで出向いており、オレと指圧師にシスターブラウンの面倒を見るよう押し付けていたらしい)」

倫子「(まあ、指圧師1人に暴走小動物を任せきれないという判断は妥当だろうが、どうしてオレが……もしかして家賃引き下げ交渉の結果か?)」

倫子「だ、だが、そもそも何故ミスターブラウンは指圧師と知り合いになっている。2人にそんなにかかわりは無かったはずだ」

倫子「(無論、裏稼業を除く)」

萌郁「今……ブラウン管工房で……バイトしてる、から……(子守りもお仕事のうちだよ(^o^) )」

倫子「お前がブラウン管工房でバイト!? アークリライトはどうしたんだ!?」

萌郁「今は、ライターになったから……掛け持ち……(時間は有効に使わないと(`・ω・´) )」

「萌郁お姉ちゃん、小説書いてるんだよね。今日も小説の、ネタ? 探してるって言ってた」

萌郁「さっき、ちょっと書いてみた……(さっそくダメ出しが欲しいなぁ( *´艸`) )」スッ

倫子「(あ、あの指圧師が、オレに自分のケータイの画面を見せた、だと!? 洗脳が解けつつあるのか……?)」ゴクリ

倫子「これは、ケータイ小説か……『あたしの虹』……」フムフム

倫子「……いいんじゃないか。すごく、幸せそうだ」

萌郁「……ありがとう……(姉さんに褒められたー!(≧▽≦) )」

倫子「(なんなんだ、ここは……さっきまで居た世界線とまるで雲泥の差じゃないか……)」

倫子「(Dメールを打ち消して良かった……)」ツーッ

「凶真お姉ちゃん!? 泣いてるの!?」

萌郁「えっと……(そ、そんなに名文だったかな?(´・ω・) )」

倫子「あ、ああ、いや、気にするな。萌郁の、いや、指圧師の成長ぶりに感動してな……」ゴシゴシ

159 : ◆/CNkusgt9A - 2016/01/25 17:23:17.36 hJ8u+9qPo 737/2638


倫子「なあ、指圧師よ。例のアレ……IBN5100は、まだ追いかけているのか」

萌郁「…………」ピロリン♪

倫子「『上司からストップがかかっちゃって 萌郁』……つまり、必要無くなったのだな」

萌郁「」コクッ

倫子「(IBN5100が8月1日から我がラボにあるとするなら、その理由を考えるのはたやすい)」

倫子「(盗聴器を仕込み、かつ聞き耳を立てていたFBが、うちのラボに橋田鈴のIBN5100があることを把握したのだ。というか、実際あのダンボール箱を抱えてラボに運び入れたのはFB本人だったな)」

倫子「(その時点でこれ以上M4に任務をさせる意味はないと判断したのだろう。萌郁を守るために……)」

倫子「(例の法則からすると、ラウンダーの襲撃は明後日8月17日の夜8時前になるはずだ。それと同時にIBN5100を回収するつもりなのかも知れない)」

倫子「(綯がタイムリープしてきていないということは、天王寺は生き残るのか? いや、きっとそうだ。前の世界線で綯がしっかりそういう因果を築いてくれたに違いない)」

倫子「(……希望的観測が過ぎるな)」フッ

倫子「だが、貴様は既にラボメンだ。今後とも我がラボの研究のためにその能力を捧げるように」

萌郁「姉さんの力に……なれるなら……(仕事場と近くてラッキーだよヾ(*´∀`*)ノ )」

倫子「ところで、どうして指圧師はミスターブラウンの世話になっているのだ?」

160 : ◆/CNkusgt9A - 2016/01/25 17:24:50.35 hJ8u+9qPo 738/2638


小動物の子どもらしくふんわりした話と、指圧師の言葉少ななつぶやきを聞き続けること小一時間、ようやくこの世界線の様相が見えてきた。

どうもこの世界線では8月5日頃に綯が交通事故に遭ったところを萌郁が助けたらしい。

まあ、事故と言うほどのことでもないかもしれない。

車道を走ってきた自転車が、横断歩道を渡ろうとした小学生の女の子とぶつかりそうになったのだ。

ギリギリで自転車の方がブレーキをかけたが、間に合わなくて、綯に激突してしまった。

怪我自体はどちらも大したことはなかった。ただ小動物はショック状態で泣いていて、1人では立てない状態だったので、偶然現場に居合わせた指圧師が付き添って家まで送ってあげることになった。

それが縁で、指圧師は店長によくしてもらっているのだとか。

店長は店長で鈴羽がバイトをやめてしまったせいで綯の面倒を見る担当が居なくなったため、このままではせっかく入れた出張サービス業を断らないといけないという危機に瀕していた。

小動物もバイト戦士が居なくなった寂しさのせいか、すぐ指圧師に懐いたようだ。

萌郁の存在は天王寺家にとって渡りに船だった。

指圧師は指圧師でヒマな店番時間を使ってケータイ小説のゴーストライターをやっているのだとか。ちゃっかりしている。

……もう、ラウンダーの影におびえる必要なんて、微塵も無い。

161 : ◆/CNkusgt9A - 2016/01/25 17:26:53.43 hJ8u+9qPo 739/2638


倫子「(しかし、オレが知っている8月5日には小動物は事故に遭ってなど居なかったはずだが……)」

倫子「なあ、綯はどうして自転車にぶつかってしまったんだ?」

「えっとね、歩いてたら向こうに白衣が見えて、凶真お姉ちゃんだーって思ったら走っちゃって……」

倫子「……それで自転車に気付かずに猪突猛進してしまった、と。オレは事故には気付かなかったのか?」

「うん。すぐ角を曲がっちゃってたから」

倫子「(この世界線のオレはロトくじを除くすべての過去を司る女神作戦<オペレーション・ウルド>に成功していないことになっているはずだ。オレが取り消したのだから)」

倫子「(さぞオレは落ち込んでいただろうな。実験は進まず、助手にラボの主導権を奪われつつあったのだから。なんらかのヒントを求めて魔境秋葉原の街を徘徊していたのかもしれない)」

倫子「(オレの記憶にある8月5日はたしか、ルカ子が我がラボを訪ねて来て女の子になりたいと言い、その後ダルとメイクイーンに行って、まゆりにカレーを奢って、そして……)」

倫子「(……そうだ。綯がDメールを送ると言い出したんだ。綯とオレが交差する因果は変わっていなかったということか)」

倫子「(それが過去改変ではなく交通事故という形に変わった、と……)」

倫子「ともかく、近くに指圧師が偶然居合わせてくれてよかったな」

「うん!」

萌郁「私は……岡部姉さんをスト、後を追いかけて盗さ、写真を撮ろうと思って……」

倫子「結局それかよぉっ! うわぁん!」

162 : ◆/CNkusgt9A - 2016/01/25 17:28:10.44 hJ8u+9qPo 740/2638


倫子「しかし綯は危なっかしいな。その暴走っぷりはなんとかならんのか」

「ご、ごめんなさい……」ウルッ

萌郁「もう、終わったこと……(綯さんを怒らないであげてー!><。 )」

倫子「ふふ、くくく、ふぅーはははぁ! いいだろう小動物!」

倫子「この狂気のマッドサイエンティスト、鳳凰院凶真が直々に交通安全のなんたるかをその小さな脳髄に刻み込んでやるっ!」シュババッ

「えっ……は、はいっ!」キラキラ

萌郁「姉さん……恥ずかしい……(ここオープンカフェだよぉ( ;∀;) )」

倫子「よく聞けシスターブラウン。世界は陰謀で満ち溢れているのだ、常に警戒を怠るなっ!」

「凶真様! はいっ! 凶真様!」

倫子「あの交差点の角からMI6の工作官がボンドカーでミサイルを発射するかもしれないっ!」

倫子「あるいは突如としてデロリアンが時速88マイルで時空を裂いて出現するかもしれないっ!」

「凶真様! はいっ! 凶真様!」

萌郁「姉さん……映画、好きなの……?」

倫子「かもしれないかもしれないっ! これがかもしれない運転だっ!」ドヤァ

「凶真様! はいっ! 凶真様!」

萌郁「違うと……思う……」

天王寺「おう岡部。仕事の途中で時間が空いたから戻って来てみたら、何してんだコラ」

倫子「だあああはっ!!」ビクゥ!!

「あ、おとーさん!」ダキッ

天王寺「綯~、いい子にしてたか~」ヨシヨシ

倫子「(お、落ち着けー! このハゲは拳銃など持っていないただの子煩悩パパだっ!)」ハーッ ハーッ

天王寺「今度綯に変なこと教えたら家賃倍にするって言ったよなぁ……あぁん!?」ゴキッ バキッ

倫子「マザコンマッチョの敵襲だっ、ラボに退避っ!」ダッ

天王寺「あっ、おいコラ! 誰がマザコンだっ! 待ちやがれっ!」

「走ったら危ないんだよー!」

163 : ◆/CNkusgt9A - 2016/01/25 17:28:47.20 hJ8u+9qPo 741/2638

未来ガジェット研究所


倫子「…………」

紅莉栖「『おまいは脳みそつるつるでつねw エアプは黙ってROMってろカス』っと……」カタカタ ッターン

倫子「るみぽ」

紅莉栖「ニャッ」

倫子「お前ギャルゲースレ民だったのか……」

紅莉栖「……お帰り、岡部。ドクペ冷えてるけど、飲む?」

倫子「なかったことにしてはいけない」

紅莉栖「あっ、私の飲みかけしかなかったわ。べ、別に私はいいけど、岡部はその、これでいい?」

倫子「なかったことにしてはいけない」

164 : ◆/CNkusgt9A - 2016/01/25 17:31:57.96 hJ8u+9qPo 742/2638


倫子「ゴクッ ゴクッ ぷはーっ。ひとっ走りした後のドクペは最高だなっ! 脳細胞が活性化していくのを感じるっ」

紅莉栖「間接キスを恥じらいなくやってのけるとは、さすがね」ハァハァ

倫子「同性だし、助手だし、別に問題なかろう。それで、お前はここで何をやっている?」

紅莉栖「まゆりと橋田がコミマに行っちゃったから、岡部と2人きりになってワンチャ……新しい未来ガジェットの開発でもしようかなって」

倫子「そうか、いい心がけだ。それで、例のSERNの擬似スタンドアロンサーバはどうなった?」

紅莉栖「ああ、あれ。橋田はLHCの方に夢中になってたけど、もしかしたらもうあの謎言語を解析し終わってるのかも」

紅莉栖「あのHENTAI、無駄にスペック高いのよね……」

倫子「……ということは、あるのだな。このラボに。IBN5100が」

紅莉栖「はぁ? 一緒に運んだでしょ? コスプレ神主の魔の手から逃げるために」

紅莉栖「ほら、ここにあるわよ」

倫子「おお……っ! ようやくたどり着いたっ! これで我が目的は達成されるっ!」パァァ

紅莉栖「目的? 何それ」

倫子「それは……えっと、あれ? ちょっと待て、むむむ……」

倫子「たしか、SERNをハッキングして、それから、えっと……」

紅莉栖「お、岡部……?」

倫子「バイト戦士から頼まれたんだったな。えー、たしか、最初のDメールのデータを消すんだ」

倫子「あー、それがディストピアの原因で、それが無くなるからラボは監視されず……」

倫子「そうだっ! オレたち3人が拉致されなくなるっ! お前も天才少女2号に会いたがっていたしなっ!」

紅莉栖「……大丈夫? 言ってること、いつもに増して滅茶苦茶だけど……」

倫子「いいからタイムリープだっ! ダルがコミマから帰ってくるのを待ってなど居られないっ!」

165 : ◆/CNkusgt9A - 2016/01/25 17:34:21.92 hJ8u+9qPo 743/2638


――――――――――――――――――――――

2010年8月15日11時27分 → 2010年8月13日15時27分

――――――――――――――――――――――

166 : ◆/CNkusgt9A - 2016/01/25 17:36:22.90 hJ8u+9qPo 744/2638

2010年8月13日金曜日
未来ガジェット研究所


倫子「ダル! クリスティーナ! これより現在を司る女神作戦<オペレーション・ベルダンディ>最終フェイズを開始する!」

紅莉栖「徹夜明けで、今まさに寝ようとしてたところにコレとか、我々の業界ではご褒美です……」ウヘヘ

ダル「牧瀬氏、かなりランク上がったな。既にS級か。ドMだけど」

倫子「ダル、IBN5100を!」

ダル「お、おう?」

倫子「長き戦いにいよいよ決着をつけるときが来た! すなわち最終聖戦<ラグナロック>が開始されるのだっ!」

倫子「本作戦の概要はすなわち、SERN本部の最深部に隠された極秘データを、IBN5100によるクラッキングで破壊することであるっ!」

倫子「(大声だっ! FBに聞こえるほどの大声を出せ、鳳凰院凶真ぁっ!)」

倫子「(世界の研究者を牛耳った未来のSERNならば、今がどういう状況か理解できるはずだ! ディストピアの首は既にギロチンにかけられているのだと!)」

倫子「(この宣言だけでもヤツらはオレたちを下手に刺激できなくなるはずだっ!)」

倫子「真の時空の支配者がどちらなのか、ヤツらの目にしかと刻み付けてやれ!」

倫子「戦いが終わった時、世界を陰で牛耳る支配構造はついに崩壊し、再構成されるだろう! そう、我らが望んだ混沌がついに訪れるのだぁ! ふぅーはははぁ!」

167 : ◆/CNkusgt9A - 2016/01/25 17:37:39.73 hJ8u+9qPo 745/2638


紅莉栖「クラッキングはよくないと思う」

倫子「な、なんという優等生的発言……! この世界線のオレはここまで発言力がなくなっているのか……」ガクッ

紅莉栖「でも既にハッキングしてるわけだし、SERNの研究態度は問題もあるから、私個人としては岡部に賛成する」

ダル「オカリンオカリン」トントン

倫子「ダル……?」ウルッ

ダル「ベ、別にあんたのためにクラッキングするんじゃないんだからね!」ニッ

倫子「……ダルぅっ!!」ダキッ

ダル「うおおおわああああっ!!!!!」バターン!!

紅莉栖「ぬああっ!? うらやまけしからんぞこのクソピザ!!」

ダル「ひどすぎワロタ、いや、ってかオカリン離れて、うおおうなじからほのかな汗のにおひが……」クンカクンカ

倫子「ありがとう……グスッ、さすが我が頼れる右腕<マイフェイバリットライトアーム>だっ!」エヘヘ

ダル「あ、やば、僕の股間がエクステンドしそうな件」

紅莉栖「その汚いイチモツを踏みつぶすッ!!」ゲシッ ゲシッ

ダル「ごほぉっ! ぐはぁっ! おぼぇっ!」

倫子「や、やめろっ! 鈴羽が産まれなくなるっ!」

168 : ◆/CNkusgt9A - 2016/01/25 17:49:07.19 hJ8u+9qPo 746/2638


・・・

ダル「もうお嫁にいけない……」シクシク


紅莉栖「……だいたいわかった。つまり、すべての元凶は最初のDメールだった、ってわけね」

倫子「そうだ。世界はアトラクタフィールド理論により、同じ結末へと収束してしまう」

倫子「ディストピアを回避するためにはα世界線から脱出するしかない。これまでに因果律をゆがませてしまった事象をすべて"取り消す"ことでそれは可能になるはずだ」

倫子「目指すべきは、オレがダルに最初のDメールを送る前の、β世界線」

倫子「エシュロンに捉えられたそのメールデータをSERNのデータベースから削除することで、歪んだ因果律はなかったことになる」

紅莉栖「見かけ上はね。今回は今までみたいに打消しDメールを送るわけじゃないから、改変された事象を元に戻すというより、最初のDメールなんて送られてませんでした、って世界に嘘を吐くようなもの」

倫子「そもそもあのDメールを受信したダルがなにか行動をしたわけじゃないしな。あのDメールの存在そのものがアトラクタフィールドを超越するほどの影響を及ぼしたのだ」

紅莉栖「そう。具体的にはエシュロンに捕捉されたデータを未来のSERNが分析することで、現在のラボが監視されることになってしまった」

紅莉栖「だから、Dメールなんて存在しませんでした、って隠ぺいするだけで世界の因果は元あったβ世界線に再構成される」

紅莉栖「とは言っても、β世界線でも例のDメール自体は送られている。でも、エシュロンにデータがない歴史を作るわけだから、橋田と岡部以外の全人類はその存在を知ることができない」

倫子「その世界ではオレもダルも、そのメールがタイムトラベラーだということにさえ気づかないかもしれないな」

紅莉栖「そして、例のDメールが疑似的に"なかったこと"になっている世界が誕生する」

紅莉栖「それを今居るこのα世界線で実現させることができれば、世界はβ世界線へと都合よく再構成されることになる、と」

紅莉栖「でも、クラッキング時に邪魔が入らないってのは少し不思議ね。阿万音さんは未来の橋田の研究の成果とか言ってたらしいけど、この行為だけが2036年への収束を潜り抜ける唯一の抜け穴だった、ってことよね」

倫子「それは不思議ではない。別の世界線で得た知識がオレに備わっているおかげで、クラッキングを行う選択が可能になっているのだ。この世界線が持つ収束の力によって邪魔されるわけがない」

倫子「……信じられないか?」

紅莉栖「ううん、とても興味深い。できれば客観的データが欲しいところだけど、それは岡部の脳を開頭しないと無理そうだし」

倫子「ヒッ」

紅莉栖「(かわいい)」

ダル「グロは勘弁なオカリンの性格を逆手に取るとか、お主やりおる」

倫子「助手は本当にマッドサイエンティストだな……だがそれがいい……」プルプル

169 : ◆/CNkusgt9A - 2016/01/25 17:51:24.97 hJ8u+9qPo 747/2638


ダル「繋ぎ終わったお。ちょっと設定いじらないとダメだけど、10分しないうちに始められる」

倫子「よし……っ!」

紅莉栖「それにしても、元凶となった最初のメールねえ……」

紅莉栖「それってあれでしょ? ATFで言ってたヤツ」

紅莉栖「私が死んでたとかなんとか」

倫子「そうだ。ラジ館でお前が殺されているのを目撃したオレは、ダルにそれを伝えるメールを送った」

倫子「ダルはたまたま電話レンジ(仮)の実験中で、放電現象が起……き……て――」

倫子「……あ、あれ? おかしいな、記憶が、混乱して……いや、そんなはずは……まゆりは? いや、まゆりは関係ないだろ……」ブツブツ

ダル「オ、オカリン?」

紅莉栖「……大丈夫?」

倫子「……クリスティーナ。お前、さっき、"β世界線でも例のDメール自体は送られている"と言ったな……?」

紅莉栖「え、ええ。Dメールを送らないように過去改変するわけじゃなくて、現在を改変することで因果律を正して歴史の修正力に再構成を任せるんだから、そうなってないとおかしいって」

倫子「……オレは、β世界線でも、あの文面のメールを書くんだな……?」

紅莉栖「だからそう言って……あっ」

ダル「な、なになに? どしたん?」

紅莉栖「そのメールの文面を岡部がケータイに打ち込むためには、当然、私は……」

倫子「……ラジ館の8階で」

倫子「……牧瀬紅莉栖は」

倫子「……死んでい―――」バタッ

紅莉栖「岡部!? おか―――」

ダル「ふぉ!? オカリ―――」

200 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/08 00:37:36.87 bFHfa8Mco 748/2638

第10章 因果律のメルト(♀)

2010年8月13日金曜日
未来ガジェット研究所


……リン……オカ……リンっ!


倫子「ん……、誰……だ……」

まゆり「あっ……オカリンっ!!」ダキッ

倫子「きゃっ!? って、なんだまゆりか。突然どうした?」

まゆり「どうしたじゃないよぉ! オカリンが、急に倒れたってクリスちゃんがぁ……!」グスッ

ダル「おおっ、オカリン目が覚めたん? 大事じゃなくてよかったお」

倫子「倒れた……オレが? それはどういう――」


  『牧瀬紅莉栖が男に刺されたみたいだ』


倫子「あ……」サーッ

紅莉栖「……しっかりして、岡部。私はここにいるわ」

紅莉栖「クラッキングは取りあえず中止にした。もちろん、いつでも再開可能よ」

まゆり「オカリン、だいじょうぶ? 顔色悪いよ?」

倫子「う、うん……」

紅莉栖「取りあえずは大丈夫なはずよ、まゆり。原因は過労ね」

紅莉栖「あと1時間目を覚まさなかったら救急車を呼ぶつもりだったけど」

倫子「……もしかして、タイムリープの影響か?」

紅莉栖「それは無いわ。橋田にパーツ集めてもらって、簡単な脳波測定器を作って岡部の脳内をモニターしたけど、特に異常は無かった」

紅莉栖「たぶん、疲れてたのよ。ゆっくり休んで」

倫子「……ああ」

201 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/08 00:38:54.91 bFHfa8Mco 749/2638


その日オレは、ルカ子のコスプレ説得から帰ってきたまゆりと共にそのまま池袋へ帰った。

自室に籠り、布団の中で瞼をぎゅっと閉じる。

目に浮かんでくるのは、いつも隣でオレを支えてくれていた紅莉栖の顔。

間違いないと信じていたこと。その方程式がガラガラと崩れていく。

β世界線では、7月28日に牧瀬紅莉栖は死んでいる。

そしてそれはアトラクタフィールド理論による収束のせいでどうしても回避できない。

天秤にかけられているのは、紅莉栖と世界。

選べるわけがない……

鈴羽や綯やフェイリスやルカ子……みんなの想いを犠牲にしてまでたどり着いたのが、こんな結末なのかよ……!

他に選択肢は……っ! オレは天才じゃないんだ、わかるわけがない……

世界が望む結果に対して、オレはあまりにも無力だ……

もしかしたら――

この世界線では、ディストピアにはならないかもしれない。

ラボは襲撃されないし、オレたちは拉致されないかもしれない。

17日の夜8時に何も起きなければ、オレは紅莉栖を殺す必要はなくなる。

……オレの祈りが、神に届くだろうか。

202 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/08 00:39:59.64 bFHfa8Mco 750/2638

2010年8月15日日曜日
岡部家 自室


prrrr prrrr


紅莉栖『……ハロー。今日もラボには来ないの?』

倫子「紅莉栖……」

紅莉栖『……ねえ、聞いて岡部』

紅莉栖『最大幸福数だけを見るなら、SERNへのクラッキングを選ぶべき』

倫子「……お前は簡単に割り切れるんだな」

紅莉栖『……私だって死ぬのは怖い。ううん、これがいわゆる"死"という現象なのかさえ怪しい』

倫子「……紅莉栖が居ない世界線になんて、行きたくないよぉ……っ!」

紅莉栖『岡部……』

倫子「……オレが困ってる時、悩んでる時、手を差し伸べてくれたのはいつも紅莉栖だった」

倫子「自己中心的で自分勝手なオレを、紅莉栖は受け容れてくれたんだ」

倫子「論破厨でクソレズで、どうしようもないHENTAIだけど……」

紅莉栖『おまっ』

倫子「それでも、紅莉栖がオレを助けてくれた」

倫子「紅莉栖が居ないと、オレは……」グスッ

203 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/08 00:40:57.86 bFHfa8Mco 751/2638


紅莉栖『……私は、岡部の選択を尊重する』

紅莉栖『24年後からタイムリープしてきて、押しつけがましいことも言わないつもり』

紅莉栖『それに、冷静になりなさい。私1人居なくたって、きっと岡部なら大丈夫よ』

紅莉栖『岡部を支えてくれる仲間はたくさんいる。ラボメンたちがそこにいるじゃない』

倫子「……だが、その選択は、オレにしかできないものなんだ。世界中で、オレにしかできない」

倫子「全責任は、オレにあることになる」

紅莉栖『岡部……いつもの独善的な態度はどうしちゃったのよ……』

倫子「独善的でなんかいられないよっ! 他でもない、私が紅莉栖を殺すの……」プルプル

倫子「その記憶は、私の中から一生消えることはないんだよ……」

倫子「紅莉栖を勝手に蘇らせて、勝手に殺したのが私だってこと、世界中の誰もが知らないまま……」

倫子「そんな世界で、1人で背負って生きていくなんて、私には……できないよ……」グスッ

紅莉栖『…………』

204 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/08 00:41:33.62 bFHfa8Mco 752/2638


常に冷静で。強がりで。譲らないものを持っていて。

可愛い女の子にはだらしないが、根は真面目すぎるほど真面目で。

いつしか、紅莉栖はラボの中心人物になっていた。

そして、オレはいつだって――

紅莉栖の放つ、自信に満ちた輝きに惹かれていた。

いつだって、彼女の動きを目で追っていた。

いつだって、彼女の言葉を胸に刻み込んでいた。

いつだって、彼女の語る理論にシビれていた。

まともに名前を呼ばなかったのだって、結局のところ、照れくさかったんだ。

憧れがあった。その憧れを悟られたくなかった。

オレは、牧瀬紅莉栖のことが好きだ。

なんで、よりによって紅莉栖なんだ……っ!

205 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/08 00:43:14.22 bFHfa8Mco 753/2638


選択を目の前にして、身動きが取れなくなっていた。

ただ漠然と日々を過ごすしかなく、あっという間に時間が流れていく。

ミスターブラウンに襲撃を中止するよう懇願してみようかとも考えた。

この際色仕掛けでもなんでもして。

だが、今はまだフランスに居るラウンダーたちまで説得できるとは思えなかった。

今年の夏コミマは15日から17日まで、3日間連続で開催される。

その最終日、オレはまゆりに付き合って会場で朝から閉幕までを過ごした。

途中、オレの白衣姿がコスプレに間違えられて撮影されたりしたが、概ねボーッとしていた。

現実逃避。

刻一刻とタイムリミットが近づいていることに気付かないフリをしていた。

そうでもしなければ、オレは、壊れてしまいそうだったのだ――

206 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/08 00:44:22.06 bFHfa8Mco 754/2638

2010年8月17日火曜日
秋葉原駅ロータリー


まゆり「はあ、やっと帰ってこられたー♪」

倫子「まゆりはこれからどうするんだ?」

まゆり「えっとね、ラボに行こうと思ってたんだよ」

倫子「なにか用事か?」

まゆり「特にないけどね、オカリンと一緒に、久々にのんびりしたいなーって」

倫子「そっか。じゃあ、ラボに帰るか」

まゆり「ねぇねぇオカリン、今日はね、どうしてまゆしぃについてきてくれたのー?」

倫子「なに、ただの気まぐれだ」

倫子「(本当は、何もせず時間が過ぎていくことに耐えられなくなかったからだ……)」

まゆり「でもでもー、これまで一度もコミマに一緒に行ったことなかったよねー? オカリンは萌えには興味ないもんね」

倫子「ロボットアニメには興味あるぞっ」

まゆり「オカリンって男の子みたいだよねー」

207 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/08 00:45:29.18 bFHfa8Mco 755/2638


まゆり「ロボットって言えば、今日フブキちゃんが話してたんだけどね、オカリン、ROBO-ONEって知ってる?」

倫子「ん? ああ、たしか5月にやってたホビーロボの格闘大会だったか。そういや会場は有明、というかお台場だったな」

まゆり「そこで優勝したのがね、種子島の女子高校生だったんだって!」

倫子「ほう、そんな片田舎のJKが優勝できるようでは、大会のレベルもたかが知れているな」

倫子「……待てよ? ならば、我らが未来ガジェット研究所が総力を上げて汎用人型決戦兵器を造り上げれば、優勝賞金が狙えるのではないかっ!?」キラキラ

倫子「さすれば、あの筋肉ダルマの不当な賃上げ要求に怯える必要もなくなるっ! これは胸が熱いな! ふぅーはははぁ!」

まゆり「楽しそうだねー♪ まゆしぃもね、ロボット作り頑張るのです!」

倫子「まゆりがか?」

まゆり「ロボットさんが着るお洋服なら、まゆしぃだって作れるよー? ロボまゆしぃを作っちゃうのです☆」

倫子「ロボットさんはお洋服など着ないっ!」

まゆり「えぇー、かわいいのにー」

208 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/08 00:47:47.39 bFHfa8Mco 756/2638

裏路地


まゆり「ねぇ、オカリン。今日はね、ありがとう」

倫子「なんだ、突然」

まゆり「えっへへー。だってね、まゆしぃは今日1日嬉しかったのです♪」

まゆり「ロボット作りも楽しみだねぇ。次の大会は冬コミマの前にあるってフブキちゃん言ってたよー」

倫子「次? 次なんてあるのか?」

まゆり「えー? 次は冬の大会だよー、オカリン」

倫子「冬……? どうして、冬が来るんだ?」

まゆり「んー? どうしてって、冬はね、秋の次にやってくるんだよ?」

倫子「……あ、ああ。そうだった、時間って、進むんだったな……」

まゆり「だいじょうぶ? 今日コミマで疲れちゃったのかな」

倫子「……くっ、あのコミマ会場に"機関"の幹部の1人、通称幻想案内<イリュージョンコンダクター>が紛れ込んでいた……オレは幻想を見せられていたのだっ!」

まゆり「えぇーっ!? それは大変だよー!」

倫子「クックック、だが相手を間違えたな。この鳳凰院凶真にかかれば、形而上の存在を手玉に取るなど朝飯前だっ! ふぅーはははぁ!」

まゆり「わぁー。すごいんだねえ、オカリンって」ニコニコ

倫子「鳳凰院凶真だっ」フンッ


ブロロロロロロ……


倫子「ん……?」クルッ

まゆり「――――オカリンっ!!」


ドンッ



209 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/08 00:49:11.61 bFHfa8Mco 757/2638


倫子「え……?」


  何が起こった?

  自分の記憶をたどってみる

  たしか、白いワゴン車が急発進してきて……

  道の真ん中を歩いていたオレは、轢かれそうになって……

  そうだ、まゆりがオレの身体を突き飛ばしたんだ

  なんで? どうして?

  わからない 必要な記憶が出てこない

  頭の中に封をされたような感じがする


倫子「まゆりは……? まゆりはどうした……?」

まゆり「…………」

倫子「まゆりっ!? おい、まゆり! 大丈夫か!?」ユサユサ


  『まゆりが、死んだ』

  なんだこの記憶は


倫子「すぐに救急車を……」


  『まゆりが死亡するのは"運命"なのよ』

  バカな、バカなバカな


まゆり「やっと、まゆ……しぃ、は、……」


  『オカ……リンの、役に……た……て……』

  それがまゆりの望みなわけ、ないだろ


まゆり「オカリンの……役に……立て……たよ……」

倫子「あ……あ……あ、ぁっ……」

210 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/08 00:50:28.23 bFHfa8Mco 758/2638


何匹もの虫が脳の中を我が物顔をして這いまわっている。気持ち悪い。

脳に感覚などあるはずないのに。かゆい。

随分前からおかしくなっていた"私"は、今ようやく目を覚ました。

さっきから嘘だ嘘だと、"私"がわめいている。うるさい。

何度か嘔吐し、それでも幼馴染の遺体を強く抱きしめている。汚い。

けれど、"私"はその子の死を悼んでいるのではない。

もっと大きななにかに押しつぶされているのだ。

不条理、罪悪感、絶望、そして無力。

半狂乱になった"私"は、彼女に抱き留められて沈黙した。


  「もう、疲れたよ……」

  「目を、覚ましなさいっ!!」


また私を助けてくれるんだね。ありがとう。

211 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/08 00:52:34.57 bFHfa8Mco 759/2638


「問題。岡部を救うために祈りを捧げたまゆりが岡部を救ったとする。ここから導き出される論理的帰結とは、どんなのもの?」

「① まゆりは岡部を助けることができた ②岡部を助けたのでまゆりは死ぬ ③岡部が助かったとは限らない」

「答えは③。現実は非情よね」

「じゃあね、岡部。世界線を超えようと、時間を遡ろうと、これだけは忘れないで」

「いつだって私たちはあんたの――」

「味方よ――」





―――――――――――――――――――――――

2010年8月17日21時53分 → 2010年8月15日13時53分

―――――――――――――――――――――――

212 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/08 00:58:10.06 bFHfa8Mco 760/2638

2010年8月15日(日)15時01分
六井記念病院


倫子「ん……、ここは……病院……?」

まゆり「オカリン……? もう、大丈夫なの?」

倫子「まゆ……り……」

ダル「ちょ、看護師さん呼んでくるおっ!」ダッ

紅莉栖「橋田、ナースコールすればいい……って、行っちゃったか」

倫子「くり……す……?」

紅莉栖「グッモーニン。目覚めはどう?」

倫子「オレは……いったい、なにがあって……」

まゆり「オカリンはね、突然、その、えっと、まゆしぃも聞いた話なんだけど……」

紅莉栖「声にならない声で叫びながら、自分の部屋を暴れ回った」

倫子「なに……ぐっ」ズキッ

紅莉栖「ほら、体中打ったんだから無理しない」

213 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/08 00:59:58.86 bFHfa8Mco 761/2638


倫子「オレが自分の部屋で暴れ回った……?」

紅莉栖「ごめん。正直に言うと、私、あんたと電話してた時、岡部青果店に居たの」

倫子「なっ……」

紅莉栖「通話終了したと思ったら突然叫び声が聞こえて、失礼を承知であんたの部屋に駆け込んだ」

倫子「それで救急車に……」

紅莉栖「せっかくだし、色々屁理屈を言って秋葉原まで運んでもらったわ」

倫子「……まゆり、ダル。今日はコミマ初日なのに、すまないな」

ダル「僕ほどの猛者ともなると、本気の戦いは朝イチっしょ、常考。ブツは全部ゲットし終わったから昼すぎには帰ってきたんだお」

紅莉栖「男のツンデレは気持ち悪い。岡部が心配で切り上げてきたと正直に言いなさいよ」

ダル「ぐふぅ……牧瀬氏、容赦ねぇっす」

まゆり「謝らないで、オカリン。まゆしぃたちはオカリンのそばに居たいから居るんだよ?」

紅莉栖「まゆりは元々お昼までの予定だったのよね。メイクイーンに荷物を取りに戻るために秋葉原に寄ったんだっけ」

まゆり「うん……あ、メイクイーンに百合の花束を置いてきちゃったから、後で取りに行かないと」

紅莉栖「そういうことだから、岡部は気にしなくていい」

倫子「…………」

紅莉栖「……ごめん、橋田、まゆり。少し、岡部と2人で話がしたい」

まゆり「えっ……」

ダル「あー、うん。わかったお。まゆ氏もほら」

まゆり「……うん。まゆしぃね、これからおばあちゃんのお墓参りに行ってくるね」

倫子「ああ、そう言えばお盆だったな。それで花束か……。あの婆さんによろしく言っといてくれ」

まゆり「うんっ! それじゃあ、トゥットゥルー♪」

ダル「ドゥッドゥルー」


ガララッ


倫子「……なあ、紅莉栖。お前のその、手の甲の痣……」

紅莉栖「ええ、暴れる岡部を抑え込んだ時の勲章。愛おしくてたまらないわ」スリスリ

倫子「いや、オレのことを気遣ってくれてるのはわかるがちょっと引くぞ……」

214 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/08 01:01:09.27 bFHfa8Mco 762/2638


紅莉栖「……記憶の方は大丈夫?」

倫子「え……?」

紅莉栖「状況から考えて、あんたがまた、未来からタイムリープしてきたという結論が出た」

紅莉栖「13日の時はタイムリープによる脳への障害は無いって診断したけど、正直自信なくなったわ」ハァ

紅莉栖「タイムリープの副作用で記憶の欠損等、なんらかの副作用が発生することは否定できない」

紅莉栖「……私のせいで、岡部がおかしくなっちゃったって思いたくなかっただけなのかも。確証バイアスを認識できないなんて、科学者失格ね」

倫子「ち、違うっ! お前の、お前のおかげで最悪の事態を回避できたのだっ!」

紅莉栖「……まゆりが死んだって叫んでいたけど、もしかして、本当に?」

倫子「……あ……、うぅっ!!」グッ

紅莉栖「もしそれが本当なら、しっかり思い出して!」

倫子「まゆりは……まゆりが、死ぬ、のは……」ハァッ ハァッ

倫子「世界線の、収束……っ」ポロポロ

紅莉栖「……なるほど、そういうこと」

紅莉栖「狂気のマッドサイエンティストがどうして世界を救うために動いているのかと思ったら」

紅莉栖「本当は、1人の女の子を助けるためだったわけか」

倫子「……ち、違うっ! これは、機関の陰謀だっ! きっとオレの記憶を改ざんして――」

紅莉栖「逃げるの?」 

倫子「――っ」

紅莉栖「これ以上、妄想しちゃダメ」

215 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/08 01:02:09.53 bFHfa8Mco 763/2638


倫子「……これまでもオレは、まゆりを助けるためっていう大義名分で……たくさんの人を傷付けてきたんだ」

倫子「オレはただ、まゆりを救いたいだけなのに……っ」ウルウル

紅莉栖「逃げたって、苦しくなるだけ」

紅莉栖「あんたは正義の味方じゃない。これ以上苦しむ必要なんてないの」

紅莉栖「まゆりを救うには、SERNにクラッキングを――」

倫子「紅莉栖を失うなんてできないよぉっ!!!!」

紅莉栖「…………」

倫子「…………」グスッ

紅莉栖「ねぇ岡部」

紅莉栖「すべて話して。あんたが体験してきたすべてを」

紅莉栖「主観混じりでも、事実が歪曲されていてもいい。私が合理的な推測を導いてみせる」

紅莉栖「だから、話して」

216 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/08 01:04:34.87 bFHfa8Mco 764/2638


・・・

紅莉栖「……つまり、まゆりの死はα世界線の収束なのね。オーケー、だいたいわかった」

倫子「オレは、まゆりが死ぬ運命にあることを、無意識のうちに忘れようとしていたんだ……っ」グッ

倫子「許されることではない……オレは……なんてことを……」ポロポロ

紅莉栖「……過度なストレスによる心因性の記憶障害である可能性がある」

紅莉栖「説明するまでもないことだけど、身近な人の死は多大なストレスになる。それをあんたは何度も繰り返し経験することになった。想像を絶するわ」

紅莉栖「そのストレスに順応していく自分に恐怖した。まゆりが死んだことに対して何の感情も抱かなくなることが怖かった」

紅莉栖「そして不都合な過去の記憶を思い出せなくなった。各種ストレスホルモンが分泌され、ストレッサーに対する防衛機構を働かせたわけね」

紅莉栖「ただ、タイムリーパーの岡部にとっての過去は、世界にとっての未来だった。まゆりの死は、過去であり、同時に未来でもある」

紅莉栖「物理的な時間は遡れても、主観的な時間は超越できない」

倫子「人間は根源的に時間的存在である、か……」

紅莉栖「あんたの心はもう悲鳴をあげているのよ。あんた自身のためにも、早くβ世界線に―――」

倫子「…………」ギリッ

紅莉栖「……そんな辛そうな顔しないで。とにかく、もうあんたはタイムリープしなくていい。ううん、しちゃダメ」

紅莉栖「岡部がタイムリープしないっていう選択をしたなら、私も……24年後? からタイムリープしてこないから」

紅莉栖「私はあんたの選択に従う。ただそれだけ」

倫子「……もし、もしオレが……っ」

倫子「また、性懲りも無く、紅莉栖に、助けてほしいって、言ったら……?」ウルッ

紅莉栖「(……かわいいな、まったく)」

217 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/08 01:05:58.03 bFHfa8Mco 765/2638


紅莉栖「そしたら私は、一生をかけて世界の仕組みを解き明かしてみせるわ」

紅莉栖「他に選択肢は無いのか、見逃したフラグは無かったか」

紅莉栖「みんなで大団円、ハッピーエンドルートは本当に存在しないのか」

紅莉栖「24年間かけて、絶対に」

紅莉栖「絶対に、あんたに伝える」


prrrr prrrr


倫子「ま、まさか……っ」ゾワッ

紅莉栖「……出るわよ?」ピッ

倫子「ま、待て――」

紅莉栖「ぐっ……」ヨロッ

倫子「紅莉栖……どうしてお前は、そこまでして……」グスッ

紅莉栖「……元々そういう性分なのよ。それに、岡部には返しても返しきれない恩がある」

紅莉栖「父に存在を否定されたあの夏の私を救ってくれたのは、他でもないあんただった」

紅莉栖「この出来事がβ世界線で消えるって言うなら、α世界線のうちに返すものを返さなきゃいけないじゃない」ニコ

倫子「……バカだな。バカ真面目だ」

218 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/08 01:06:52.08 bFHfa8Mco 766/2638


紅莉栖「私は岡部バカなの。知ってるでしょ?」

倫子「……ククッ、忘れるわけがなかろう」フッ

倫子「(紅莉栖の笑顔を見たら、頭の中の空気が入れ替わったような気がした)」スゥ ハァ

倫子「(紅莉栖ならきっとなんとかしてくれる。そんな確信があった)」ニヤリ

倫子「……ククク、ふぅーはははぁ! オレを誰だと思っている!」

倫子「狂気のマッドサイエンティスト、鳳凰院凶真っ! 仲間のステータスを忘れるはずがなかろうってイタタタタ……」ズキズキ

紅莉栖「まったくもう、痛めてる腕を動かさないの」

倫子「それで、天才HENTAI百合女よ。解き明かしたのだな、世界の仕組みとやらを」

紅莉栖「HENTAIゆーなっ! ……このやりとりも懐かしいわね」フフッ

紅莉栖「それじゃ、これから長くなるわよ。時間いっぱい使って話せるだけ話す」

紅莉栖「あんたが私に求めた、選択のための知識を――」

219 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/08 01:08:14.76 bFHfa8Mco 767/2638


この世界線ではあんたが知っている"かつての世界線の私"以上に研究を推し進めることができた。

あんたが話してくれた世界線変動体験が、かつての私にしてくれたものよりも豊富だった、っていうのも原因の1つだけどね。

私は、あんたがまゆりを見殺しにした世界線の未来から来てる。

まゆりを救えるのにもかかわらず、その選択をしなかった世界線の未来からね。

だからこそ……何としても原理を究明する信念を持てたのかも知れない。

もちろん、私にできるのは実験と研究と、そして論文を書くこと。

タイムリープマシンを何度も使うことができればもっと研究時間が稼げたけど、さすがにそこまでSERNを出し抜けなかった。

岡部は今、IBN5100を使ったクラッキングによって、私は死ぬと考えてる。

だからためらっている。そうね?

だったら、世界線変動により生じる"死"とはなにか。

世界線間を移動しているものの正体はなにか。

これについて科学的に正しい理論を導かなくてはならない。私はそう考えた。

その過程でできあがった仮説があるんだけど、それを説明するには次の疑問を解決しておかなくてはならない。

ずっと前から不思議だったのに、解が得られそうもないから無視し続けてきた疑問が1つある。

どうして岡部には完全なリーディングシュタイナーがあるのか、ということ。

220 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/08 01:09:18.78 bFHfa8Mco 768/2638


疑問点は3点に分けられる。

1点目は、岡部の"現在"とはなにか。意識はどこにあるのか。

リーディングシュタイナーの発動は、岡部の主観でしか捉えられない。ならまず、岡部の主観を定義しなくてはならない。

2点目は、リーディングシュタイナーとはそもそもなんなのかについて。

脳の機能異常なのか、世界線の再構成によるものか、あるいはもっと高次元の何かなのか。

3点目は、なぜ岡部だけがこの時代に人類で唯一完全なリーディングシュタイナーを持っているのか、ということ。

私はこの話をするためだけにタイムリープしてきたと言っても過言ではない。

長くなるけど、しっかり聞いて。私の仮説を。

221 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/08 01:10:17.84 bFHfa8Mco 769/2638

その1ヽ(*゚д゚)ノ【意識はどこにある】


紅莉栖「タイムリープマシンの完成にあたって前に私が言ったこと、覚えてる?」

倫子「たしか……」


  『結局は意識がどこにあるのか、という問題になる』


紅莉栖「そう。記憶をコピペして過去へ跳ばすとして、その時意識はどうなるのか」

紅莉栖「過去へ跳んだとして、コピペ元のオリジナルの脳はどうなってしまうのか」

倫子「やってみなければわからない……そうお前は言った」

紅莉栖「実際実験をしてわかったのは、意識も主観もタイムリープする、ということ」

紅莉栖「タイムリーパーにとっての"現在"が物理的過去へ移動した」

紅莉栖「でも、実はこれ、意識や人格そのものがデータ化して過去へ跳んだわけじゃなかったの。そう見えるだけだった」

倫子「なに? いつぞやの世界線でお前は――」


  『結論を言えば、意識も人格もバイナリデータ化していた。あるいは添付ファイルみたいな形で』


紅莉栖「そう。間違いなくタイムリープ時に、意識と人格を司る、"あるもの"がデータとして付随していたのよ」

紅莉栖「きっとその世界線での"私"は、この私ほど真に迫れなかったのね」

222 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/08 01:12:23.17 bFHfa8Mco 770/2638


紅莉栖「タイムリープはあくまでも受信側が未来の記憶を思い出すだけで、記憶が上書きされるわけじゃない」

紅莉栖「DLC(ダウンロードコンテンツ)が追加されるだけで、システムアップデートしてるわけじゃないの」

倫子「なら、コピペ元の脳はどうなる?」

紅莉栖「なかったことになる。綯ちゃんがタイムリープした時、ラボにその姿が無かったのと同じ現象ね」

紅莉栖「だからオリジナル側の脳の意識が過去へ移動したかのように見える現象が起きた」

紅莉栖「というか、"オリジナル側"という概念そのものが消滅するわけよね。タイムリープ自体がなかったことになってるんだから」

紅莉栖「単に世界線の再構成に主観が引きずられていただけね。結局、意識そのものが跳ばされたわけではなかった」

倫子「だが、意識が過去へ跳ばないなら、それこそDメールで過去改変した時と同じようにリーディングシュタイナーが発動して、オレは瞬間移動するのではないか?」

紅莉栖「確かに一見すると、記憶のコピペデータを過去に送信するのは、Dメールを送ることと何ら変わりはないように思える。どちらも過去に情報を送っているだけ」

倫子「一番の違いは、人間の脳内の信号を改変している点、か」

紅莉栖「ちょっとタイムリープの仕組みを簡単におさらいしてみましょうか」

223 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/08 01:13:40.61 bFHfa8Mco 771/2638


紅莉栖「まず、例のヘッドギアをかぶることで、側頭葉に蓄積されている記憶を神経パルス信号として解析し、走査する。この時、前頭葉に働く擬似パルスも添付する」

紅莉栖「次にVR技術を使って、神経パルス信号を電気信号へとエンコードしてデジタルデータ化。3.24TBの記憶データを取り出すことに成功する」

紅莉栖「これを圧縮して過去に送る。ミクロ特異点を通過し終えたタイミングで解凍するようプログラミングしておいて、同時にデコーダも作動させることで電気信号を神経パルス信号へと戻す」

紅莉栖「神経パルス信号は送話口から0.02アンペア程度の微弱な放電現象となって発せられる」

紅莉栖「側頭葉に神経パルス信号が流れた瞬間に記憶の埋め込みが完了するけど、これだけだとこの記憶を思い出すことができない」

紅莉栖「だから、擬似パルスを流すことで前頭葉から"トップダウン検索信号"を発信させる」

倫子「そのおかげで未来の記憶を思い出すことができるんだったな」

紅莉栖「同時に、もし人間にとっての"現在"を認識する信号があったとしたら――」

紅莉栖「ここが話のミソ。記憶や擬似パルス以外にも過去へ送られていたものの正体」

倫子「意識と人格を司る、"あるもの"……」

紅莉栖「そしてこれがリーディングシュタイナーの正体に深く関わっている」

224 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/08 01:14:56.73 bFHfa8Mco 772/2638


紅莉栖「まず、意識とは何か、という話なんだけど、これについては今の時代に次の理論がある」


  【脳で生まれる意識は宇宙世界で生まれる素粒子より小さい物質であり、重力・空間・時間にとわれない性質を持つため、通常は脳に納まっている】


紅莉栖「量子脳理論の、ペンローズ・ハメロフアプローチと呼ばれているものね」

倫子「……トンデモ科学ではないか」

紅莉栖「タイムトラベルだって今の時代じゃトンデモ科学だろーが。それに、この時代には既に妄想を現実にする機械や、洗脳攻撃に特化した沈黙の兵器という名のデザイナーベビーが開発されていたりする」

倫子「お、おう……」





Tips 量子脳理論 http://urx3.nu/rMAr

225 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/08 01:16:30.12 bFHfa8Mco 773/2638


紅莉栖「ケンブリッジ大学の数学者ロジャー・ペンローズとアリゾナ大学のスチュワート・ハメロフは、意識は何らかの量子過程から生じてくると推測した」

紅莉栖「意識の基本的構成単位も同時に組み合わされ、生物が有する高度な意識を生じるとした」

紅莉栖「このOrch OR 理論<Orchestrated Objective Reduction Theory 統合された客観収縮理論>は概ね正しかった」

紅莉栖「研究が進んで、この理論はもっと発展していくんだけど、それはアトラクタフィールド理論と結びつくものだったのよ」

紅莉栖「意識が量子的、つまり確率の雲なら、人間の行動選択も確率的になる」

紅莉栖「世界線が過去から未来まで確定した存在であっても、アトラクタフィールド内に可能性の振幅が存在するのは、まさにこれが理由だったというわけ」

紅莉栖「歴史が確定しているなら、人間には自由意思なんて無いことになってしまう。だけどそんなことはなくて、自由な意思は間違いなく人間に存在する」

紅莉栖「未来は単一世界線上の時間軸方向には確定しているけど、可能性世界線方向には確定してない。言い換えれば、"確定している世界線が無限にある"、それは確定していないことと同義」

紅莉栖「人間の意思の数だけ、選択の数だけ、いくつもの可能性世界線が重ね合わせ状態で無限個に枝分かれしている。確率の雲のような状態、非アクティブな状態で存在している」

紅莉栖「その無数の線のうち、似たような世界だけをより集めたものを世界線収束範囲<アトラクタフィールド>と呼ぶ。これの分類は当然恣意的で、理論的にはこのアトラクタフィールドも無限に存在していることになる」

紅莉栖「岡部のところは、2036年8月の状況をベースにアトラクタフィールドを分類しているみたいね。ディストピアならα、そうじゃないならβ、みたいに名前をつけて」

倫子「かつて鈴羽は"アトラクタフィールド理論は決定論に近いがもっとアバウトで、多世界解釈とコペンハーゲン解釈のいいとこ取り"と言っていたが、その辺の話か」

紅莉栖「私の居た時代では単にOR理論って呼んでるわ。基礎理論の1つよ」

倫子「OR……」

紅莉栖「私が命名し直したんだけど、その名前の意味するところは、まあ、その、ね。うん」

226 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/08 01:19:59.88 bFHfa8Mco 774/2638


倫子「素粒子より小さい物質ということは、エーテルみたいなものか? いや、あれはマイケルソン・モーリーの実験で存在が否定された……」

紅莉栖「一応指摘しとくと、有意な実験結果が得られなかっただけで、存在そのものは否定されてない」ムッ

倫子「いちいち突っかかるなよ……えっと、例えるならなんだ。精神か? それとも、魂とでも言いたいのか」

紅莉栖「世界中の色んな言葉で説明されているけど、面倒臭いから"OR物質"に一本化させて」

紅莉栖「この未知の超素粒子自体は宇宙を飛び回ってるけど、妊娠中の胎児の脳内において、その脳固有のOR物質の構成パターンを形成する」

紅莉栖「そして構成されたOR物質はその脳機能が停止するまで脳内に留まる」

紅莉栖「これがさっきから言ってる"あるもの"。意識と人格を司る物質」

倫子「意識は物質であったと……。たしか、心の哲学とかいう分野の話だったか」

紅莉栖「OR理論は心脳問題における心脳一元論と実体二元論のいいとこどり、ってところかしら。相互作用でも随伴現象でもなく、意識そのものが未知の物質で構成されていた、というもの」

紅莉栖「さて、このOR物質を分析してみると面白い性質を持っていることがわかった」

倫子「未来ではそんな技術まであるのか!」

紅莉栖「"物質"って呼んでるけど、その実態は情報なのよね。スピンの組み合わせなんだけど、突き詰めると電気信号のパターンと一緒」

227 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/08 01:22:24.03 bFHfa8Mco 775/2638


紅莉栖「OR物質の性質1つ目。OR物質の中には、記憶のバックアップデータが内包されている」

倫子「まるで自分の"中の人"だな」

紅莉栖「ホントにそんな感じよ……OR物質はまるで、"外の世界"の存在のような挙動をするの」

紅莉栖「この世界が電気仕掛けだってのは説明したっけ?」

倫子「ああ、前の世界線で聞いた」

紅莉栖「仮にここがゲームの世界だとするなら、OR物質はセーブデータね。リアルタイム進行オンラインゲームの、運営が管理してる個々人のプレイヤーデータって言った方が正確かも」

紅莉栖「しかもそれは量子的に保存されていた……データ量自体は大したことないのに、常に有機的に変化する記憶を瞬間的にバックアップし続ける性質があった」

紅莉栖「通常の脳においては常に書き足されていく秘密の日記みたいなものね」

紅莉栖「例えばこれは、脳内にある記憶になんらかの障害が発生した場合の修復機能を持っている」

倫子「記憶喪失の人がふとした瞬間に記憶を取り戻す話は聞いたことがあるな」

紅莉栖「脳内にあるOR物質の中に記憶のバックアップデータがあることで、障害が発生した記憶との照合、すり合わせが可能になり、正しい記憶の補修へと繋がるわけ」

倫子「脳には量子データを電気信号に変換する能力があったのか……」

228 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/08 01:24:02.88 bFHfa8Mco 776/2638


紅莉栖「次に、これは性質というか副次的なものなんだけど、OR物質はタイムリーパーにとっての"現在"を保証するものの1つとなっている」

倫子「送られたOR物質が受信側に存在する意識にダウンロードされる……実質、未来の意識が受信時に宿る、ということか」

紅莉栖「『過去から未来までが確定している世界線』に本来あるはずのない情報が意識に流入するから、受信のタイミングが"現在"を規定することになる」

紅莉栖「と言っても、OR物質そのものがリープ先の意識に主観を移動させてるわけじゃない。あくまでも、世界線再構成の性質に起因する結果論ね」

紅莉栖「この性質のおかげで、タイムリープ時、なんらかのアクシデントでコピーした記憶データが全破損したとしても、OR物質さえ過去の意識へ届けば意識だけが移動する」

倫子「そんな実験もしたのか……」ゾワッ

紅莉栖「まあ、未来の記憶が思い出せないっていう、病気なのか正常なのかわからない状態になるだけだから、別に心配はないわ」

倫子「バックアップデータが届くならば、記憶自体が無くとも記憶は修復されるのではないか?」

紅莉栖「バックアップは所詮バックアップよ。通常の脳は既にある記憶の方を優先して本来の記憶として認識する」

倫子「それはまあ、そうか」

紅莉栖「それにタイムリープの場合、受信側にもバックアップデータが存在してるわけで、記憶の修復力が働くにしてもそちらが優先される」

紅莉栖「その上バックアップは次々に更新されていくから、未来から来たバックアップデータは数日中に現在の記憶に上書きされて消滅してしまうことになる」

229 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/08 01:25:29.68 bFHfa8Mco 777/2638


紅莉栖「長時間タイムリープの場合、OR物質の影響で、肉体と意識のギャップが脳全体に悪影響を及ぼす」

紅莉栖「48時間制限をかけたのはこれが1つの理由だった」

倫子「なら、どうやって紅莉栖は24年間をタイムリープしたんだ?」

紅莉栖「記憶データと神経パルス信号だけを跳ばしたわ。OR物質は除去してね」

倫子「それなら、意識や人格は、オリジナルの紅莉栖のものなのか?」

紅莉栖「そういうこと。でも、記憶が正しく送られた時点で受信側のOR物質内の記憶バックアップデータは更新されるから、ちゃんと私は"未来の私"の意識も人格も思い出してる」

倫子「……? ならばOR物質がタイムリープする意味がないじゃないか」

紅莉栖「私はリーディングシュタイナー不適合者だから、2034年になっても強烈なリーディングシュタイナーを発動することはないから安心してこれができた」

紅莉栖「仮に完全なリーディングシュタイナー保持者がOR物質を除去して記憶データを過去へ送ると、Dメール送信と全く同じ現象が起こる。"リーディングシュタイナーが発動する"」

倫子「なるほど……」

紅莉栖「後で話すことにも関連するけど、完全なリーディングシュタイナーを考慮しなければ、OR物質はその存在を無視していいのよ」

倫子「古典物理学の範疇でなら量子効果を無視できる、というようなものか」

紅莉栖「この辺のことがわかったから、安定した送信環境の整備やプログラミングのバージョンアップだけでタイムリープ可能時間を飛躍的に伸ばすことができたわ」

倫子「ということは、改良さえすれば長時間リープ、ハイパータイムリープも可能ということか!?」

紅莉栖「今のラボの設備じゃ無理ね。OR物質が跳べても記憶が破損すると思う」

倫子「ぐぬぬ……」

230 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/08 01:27:02.15 bFHfa8Mco 778/2638


紅莉栖「このOR物質にはもう1つ面白い性質がある」

紅莉栖「OR物質は、脳外にあっても記憶のバックアップデータを内包したまま存在できるのよ」

倫子「……超素粒子なんだから、脳外にも漏れる、ってことか?」

紅莉栖「例えばヒトが生物的な死を迎えた場合、脳機能の停止に伴いOR物質は体外に放出される」

紅莉栖「そしてそのまま霧散、ということにはならない。かなり長いスパンでOR物質は記憶のバックアップデータをある程度保有したまま存在できる」

倫子「まるで幽霊だな……」

紅莉栖「これがOR理論の"時間や空間に左右されない"という意味でもある」

紅莉栖「前世記憶や臨死体験なんかはこれで説明できるわ。どちらも、一度脳からOR物質が飛び出して、再度脳に復帰する現象のこと」

紅莉栖「別個の脳だった場合が前世記憶、同一の脳だった場合は臨死体験になるわね」

倫子「臨死体験で見る死後の世界と言うのは、脳外に出たOR物質が見た世界、ということか?」

紅莉栖「バックアップ記憶はある程度保有されると言っても消滅しないだけで、完全な状態をキープできるわけじゃない」

紅莉栖「だから、脳外に出た場合は少なからず欠損や変成が発生する。これを記憶として理解すると、真っ白世界になったり、三途の川が見えたとして理性が理解してしまうんじゃないかしら」

紅莉栖「と言っても、通常の脳では記憶の修復力は微弱だから、そうそう起きないけどね」

倫子「(どこかで似たような話を――)」



  『私が空を漂って留未穂の成長していく様を見守っているんだ……』

  『そして、秋葉原も随分変わってしまったと、雲の上からつぶやいている自分が居る』


倫子「(いや、まさかな……)」

231 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/08 01:27:57.27 bFHfa8Mco 779/2638


紅莉栖「4つ目の性質として、ある個体のOR物質は、別個体のOR物質に影響を与えることがある」

倫子「ほう」

紅莉栖「例えば、私が岡部を強く意識する。そうすると、岡部も私を多少意識するようになる」

倫子「……それは心理学の話ではないのか? ザイオンス効果のような」

紅莉栖「ううん、物理レベルでこういう現象が起こることが確認されてる」

紅莉栖「想いや願い、絆とか、恨みとか呪いとか、目に見えない結びつきみたいなものが、なんらかの物理的反応を生じさせているの」

紅莉栖「例えば、『娘が産まれて欲しい』という強い念が、胎児の脳や、母体の脳に影響して、生体内の電気信号パターンが変化したり」

倫子「……まさかとは思うが、それがルカ子の性転換の種明かしなのか?」

紅莉栖「あのポケベルDメールが改変したのは、HENTAI神主に朝から晩まで毎日『健康な娘が欲しい』と祈らせることだった」

紅莉栖「それがOR物質を通じて、漆原さんの性別を女性にすることになったってわけ。もちろん、奇跡的に、だけど」

倫子「腐っても神主だしなぁ……祈祷こそ本職だもんなぁ……」

232 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/08 01:28:46.11 bFHfa8Mco 780/2638


紅莉栖「性質5つ目。OR物質は世界線を跨ぐ」

紅莉栖「というより、世界線が同時に2つアクティブ化することはあり得ないから、正しくは『全宇宙が素粒子レベルで再構成されようとも、この超素粒子だけは再構成に巻き込まれない』って感じかな」

倫子「そ、それはつまり――」

紅莉栖「さて、このOR物質というものの性質を踏まえた上で、リーディングシュタイナーの正体に迫ってみるわよ」

倫子「その科学番組風のしゃべり方はなんとかならんのか……」

233 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/08 01:30:24.52 bFHfa8Mco 781/2638

その2ヽ(*゚д゚)ノ【リーディングシュタイナーとはなにか】


紅莉栖「通常の脳は、世界線の再構成に巻き込まれることで記憶が再構成される。これは脳の性質というより因果律の性質ね」

紅莉栖「脳内の記憶ってのは電気信号のパターンでしかないから、因果律からして当然とも言えるわ」

紅莉栖「だけど、OR物質自体は再構成されない。個別の脳それ自体に依存している超次元的存在だと言える」

倫子「(かっこいい……)フム、それでリーディングシュタイナー発動時のテレポートが可能だったわけだ。再構成時、脳の座標が空間のどこに移動していようと、OR物質は脳に受信される、と」

倫子「そして、その理屈だと死者蘇生も納得できるな……」

倫子「(幸高氏が死亡している世界線では、それこそ霊魂のような存在だったOR物質が、生存世界線にアクティブを切り替えたことで脳へと叩き込まれたのだろう)」

紅莉栖「さて、世界線が変動したとする。記憶は再構成されたのにOR物質が持つ記憶バックアップデータは再構成されていない。ここにズレが生じる人はどうなるか」

倫子「バックアップは所詮バックアップだ。記憶としては再構成された方が優先されるだろう」

紅莉栖「その通り。だけど、今回は記憶全破損タイムリープの時と違ってバックアップデータ同士が競合することは無い。OR物質の情報はなにも書き換わっていないままだからね」

紅莉栖「この時、OR物質は本来の機能を発揮して、記憶とバックアップのズレを補修する」

紅莉栖「ただ、一般的な脳ではバックアップデータからの記憶の修復は上手く行かない。むしろ再構成された記憶に従ってバックアップの方が数日中のうちに次々と更新されていってしまう」

倫子「それではOR物質が世界線を超えて引き継がれる意味が無いな……」

紅莉栖「バックアップって言っても基本的には書き込み専用メモリなのよ。それに、修復が簡単に働くなら記憶喪失の人はほとんど地球上から居なくなる」

234 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/08 01:33:05.51 bFHfa8Mco 782/2638


紅莉栖「バックアップデータによる修復を行うには、なんらかの刺激が必要になるの。それは、OR物質を励起状態へと遷移させるもの」

紅莉栖「簡単なのはバックアップデータに関連する事象の再現ね。つまり、記憶に、バックアップデータと関連した情報を追加する。類似の電気信号を流すわけ」

倫子「フェイリスやルカ子、ミスターブラウンやお前もリーディングシュタイナーをわずかではあるが発動させていたが……」

倫子「フェイリスの場合、オレを10年間ストーカーしていたという話をしたら記憶が蘇ってきたのだった」

倫子「ルカ子の場合はオレとルカ子が出会った時の話、ミスターブラウンは橋田鈴の……。そしてお前の時は貧乳の話だった」

紅莉栖「この時、まさにデジャヴが発生する。新しい記憶のはずなのに、なぜか知っている気がするという現象ね」

倫子「(貧乳スルー、だと……!? さすがアラフィフ紅莉栖……)」

紅莉栖「脳はね、"これって新しい記憶じゃなくて、自分が忘れているだけなんじゃないか"、って思い込むから、記憶の修復力を一生懸命働かせてバックアップを引っ張ってくるわけ」

紅莉栖「それでも普通は、その"有り得ない記憶"は理性的に、あるいは社会的に否定される。思い違いや白昼夢として処理されてしまう」

紅莉栖「フェイリスさんたちの場合は岡部の説得があったから、それを別の世界線での記憶だと信じることができたけどね」

235 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/08 01:34:25.14 bFHfa8Mco 783/2638


倫子「ククク、だがクリスティーナよ。オレは気付いてしまったぞ」

倫子「リーディングシュタイナー以外にも、世界線を跨いで記憶を継続させる方法があるっ!」

紅莉栖「タイムトラベラーであるスズちゃんの存在、でしょ?」

倫子「ぐっ……貴様はオレの心が読めるのか……」グッ

紅莉栖「確かにスズちゃんは別の世界線の未来の記憶を保持したままタイムトラベルしてきた」

倫子「なぜタイムトラベラーは記憶が再構成されないのか、という疑問が起こるだろう?」

紅莉栖「でもそれは、リーディングシュタイナーとは全く関係が無いし、タイムトラベルの基礎理論を見落としているだけよ」

倫子「なに?」

紅莉栖「バナナもDメールもタイムリープもそうだけど、過去になにかをタイムトラベルさせる時、リング特異点を通過させている」

倫子「そうであったな」

紅莉栖「その時、フラクタル化が起きなければ基本的には送るものと送られたものの間に情報の変化は無い」

紅莉栖「そして世界は『タイムトラベラーがやってきた事象が在る』として再構成されるわけだけど、タイムトラベラーそのものが再構成されてるわけじゃない」

倫子「……そうか。鈴羽が世界線を跳び越えたというより、鈴羽が過去に行ったことで世界線が再構成されるのだから、鈴羽自身は何も変わっていないのか」

紅莉栖「結果として、別の世界線の記憶を持っている存在が出来上がった、ということだけのこと。リーディングシュタイナーとは関係ないわ」

236 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/08 01:35:18.87 bFHfa8Mco 784/2638


倫子「だが、もしオレがタイムマシンで1週間前に跳んで、そこでDメールを送るなどして世界線を変動させたら何が起こるのだ?」

倫子「その時、完全なリーディングシュタイナーを持つ脳が2つ存在することになってしまうだろう? 混線したりするのか?」

紅莉栖「仮に物理的タイムトラベル後にDメールで過去改変をしたなら、送信履歴が消滅するのと同様、タイムトラベルをしてきた事実そのものが再構成されるから、リーディングシュタイナー以前の問題よ」

紅莉栖「まあ、同一の脳が2つ存在した場合の世界再構成時にOR物質がどう働くかってのは確かに興味深いけど、現状では思考実験に過ぎないわね。実験しようがないし」

紅莉栖「あえて見解を述べるなら、記憶のバックアップデータが常時更新されていることこそが、OR物質が脳機能に依存している証左だと考えられる」

紅莉栖「主観としての累積時間が異なればそれはOR物質にとって別個体として認識されるはず。だから、世界線変動が起こっても、タイムトラベラーはタイムトラベラーの脳へ、現地人の脳は現地人の脳へリーディングシュタイナーを起こすはず」

倫子「なるほど……」

紅莉栖「閑話休題。話をリーディングシュタイナーに戻すわよ」

237 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/08 01:37:55.93 bFHfa8Mco 785/2638


紅莉栖「この記憶の修復力とも言えるOR物質の機能には個体差がある。また、人工的に開発することもできる」

倫子「開発……脳をいじくるやつか……」ウップ

紅莉栖「ううん、私が2010年に書いた論文の内容とVR技術を応用すれば、あるデータを脳に送るだけで問題ない。素粒子の衝突も不要」

倫子「記憶データをぶち込むのか? なんだか萌郁の洗脳みたいだな……」

紅莉栖「断片的記憶データを個体ごとのOR物質の量子データに変換して脳に送る。意識に直接注入する」

紅莉栖「脳が拒絶反応を起こして、生存個体は1か月以上高熱にうなされるっていう副作用があるけどね」

倫子「まるでウイルスだな。……ま、待て。今お前、"生存個体は"と言ったか!?」ブルブル

紅莉栖「ただ、私が実験した個体の脳では、どれも100%の記憶の修復力を発揮することはなかった」

紅莉栖「それでも、10%程度の修復力を持った個体が100個体あれば、擬似的に100%近い性能のリーディングシュタイナーを得ることはできなくもない」

倫子「(うわあ……)」

紅莉栖「SERNが過去改変で世界を牛耳るとして、このリーディングシュタイナーを自在に操れることは必須だった。理由は説明するまでもないわね」

紅莉栖「だけど、21世紀初頭に人類で唯一100%の修復力を発揮した人間が居た」

紅莉栖「OR物質が常に励起状態となる脳の機能異常を発現する人間が居た」

紅莉栖「あんたよ、岡部倫子」

倫子「…………」ドキドキ

紅莉栖「岡部の脳は、OR物質に内包されたバックアップ記憶を100%フィードバック可能なの。弊害として、再構成されたはずの記憶をすべて忘却することになるけど」

倫子「……オレはやはり超能力者なのだなっ! ふぅーはははぁ!」

紅莉栖「重度の脳炎患者とも言える」

倫子「うぐっ! そ、その言い方はヒドイ……」

紅莉栖「さて、どうして岡部だけがそんな特殊な脳、特殊なOR物質を持っているのか。次の項目に行くわよ」

倫子「ますます大学の講義めいてきたな……」

238 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/08 01:39:15.33 bFHfa8Mco 786/2638

その3ヽ(*゚д゚)ノ【なぜ岡部だけが完全なリーディングシュタイナーを持っているのか】


倫子「次の疑問はなぜオレが神に選ばれし特別な人間なのか、ということだなっ!」ドヤァ

紅莉栖「厨二病乙。まあ、これについては簡単な話よ」

紅莉栖「逆なの」

紅莉栖「岡部が突然能唯一絶対の力に目覚めた、なんてのは論理が飛躍し過ぎている」

紅莉栖「それよりも、ある研究機関が手あたり次第に人体実験をして、成功の結果を最初に得た検体がたまたま岡部だった、という方が現実的じゃない?」


  『Error. Human is Dead, mismatch.』


倫子「な、なんだと……」ゴクリ

紅莉栖「実は、私の所属していたヴィクコン脳科学研究所では、人工の脳を作る研究が進められていた」

倫子「AIか」

紅莉栖「妨害があってプロジェクトは中座してしまったんだけどね。今思えば、あれは未来のSERNによる妨害工作だったわ……」

倫子「ディストピアではSERNはありとあらゆる科学技術を独占しているのだったな」

紅莉栖「でも、妨害されてなければ、2010年にはPC上で脳の基礎構造を再現することに成功しているはずだったのよ」

紅莉栖「そうなっていれば、うちの大学ならいずれリーディングシュタイナー発動ウイルスを作ることも可能だったはず」

紅莉栖「実際、世界の技術を独占したSERN内でもうちの大学の研究成果は大いに役立つことになった。ディストピア化のためのリーディングシュタイナー研究にね」

紅莉栖「あんたは1999年12月に、1か月近く高熱にうなされた経験がある。けど、記憶には無い。そうよね?」

倫子「……なにが言いたい」

紅莉栖「ここからは推測でしかないんだけど、私はかなり確証を持っている」

239 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/08 01:41:44.30 bFHfa8Mco 787/2638


紅莉栖「まず、岡部がリーディングシュタイナーを2000年元日に発現しなかった世界線がある」

紅莉栖「その世界線を仮にO世界線とする。すべての始まりの、そのまた始まりの世界線」

倫子「O世界線? βでも、αでもないというのか」

紅莉栖「どのアトラクタフィールドに所属しているかが問題なくなるのよ」

紅莉栖「2000年は大分岐の年の1つだけど、とりわけイレギュラーなの。すべての世界線が一旦1つに収束する特異点」

紅莉栖「ううん、そうじゃない。本当は、2000年元日に岡部がリーディングシュタイナーを発現することで、すべての世界線が1つに収束している」

紅莉栖「ちなみに、2000年問題が水面下で発生する、というのも2000年の大収束事項。これも岡部のリーディングシュタイナー発現に関連している可能性が高い」

倫子「……いや、その理屈はおかしい。ルカ子の過去改変は2000年より前だったはずだ」

紅莉栖「因果の収束ということと、事象の収束というのは、似ているようで違う」

紅莉栖「漆原さんが男だろうと女だろうと、岡部はすべての世界線において2000年にリーディングシュタイナーを発動する、ということ」

倫子「なるほど、そういうことか」

紅莉栖「だからこそ過去改変で1975年からIBN5100を2010年まで持ってくることができたわけだし」

紅莉栖「例えば、1991年のソ連崩壊をふせぐような過去改変をしたとしても、岡部は2000年にリーディングシュタイナーを発動する」

紅莉栖「もちろん、多くの人の生死が変更されているはずだし、国家間の勢力バランスなんかも崩れている」

紅莉栖「だけど、そんな世界線でも、すべての可能性世界線の2000年収束と共通していることになる」

240 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/08 01:45:07.07 bFHfa8Mco 788/2638


倫子「……待て待て。全ての世界線でオレがリーディングシュタイナーを発現するのであれば、『オレがリーディングシュタイナーを発現しない』O世界線が成立しないではないか」

紅莉栖「かつてはあったと言っている」

倫子「やはり、2000年収束などなく、どこかの世界線ではリーディングシュタイナーを持たないオレが存在しているのではないか?」

紅莉栖「例えば、今からDメールを送ることで『岡部にリーディングシュタイナーがない』世界線がアクティブ化されるとして、何が起こる?」

倫子「それは、オレがリーディングシュタイナーを発動して……あ、あれ?」

紅莉栖「そう。その時点で『岡部にリーディングシュタイナーがない』が成立しない。だから理論上、『岡部にリーディングシュタイナーがない』世界線は存在してないことになる」

紅莉栖「逆に言えば、全アトラクタフィールドの全可能性世界線において、2000年に岡部がリーディングシュタイナーを獲得していることになる。これが2000年がイレギュラーと呼ばれる所以ね」

倫子「まるで人間原理だな……」

241 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/08 01:46:37.32 bFHfa8Mco 789/2638


紅莉栖「さて、私の仮定は以下」

紅莉栖「岡部がリーディングシュタイナーを2000年の元日に発現しなかったO世界線の未来において、ヴィクコン脳科学研究所がリーディングシュタイナー適合者を発見した」

紅莉栖「多分、研究員だった私は、被験体としての岡部と出会ったんだと思う」

紅莉栖「100%のリーディングシュタイナーってのは本当に意味のあることだからね。タイムトラベルが可能な状況下であれば、世界線間を自在に移動できる、ということと同義」

紅莉栖「"神の視点"を手に入れる事と同義なのよ」


  『その目、神の目』


紅莉栖「だから、研究所は適合者を探し続けた」

倫子「それがオレだった……」

紅莉栖「そして、リーディングシュタイナー発現用のウイルスデータを何者かが1999年の12月の岡部の脳内へと"タイムリープ"させた」

倫子「……!! そ、それでオレは高熱を出した、と……しかも、その高熱のことをオレ自身は覚えていない……」

242 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/08 01:49:15.86 bFHfa8Mco 790/2638


倫子「(それはそうだ。オレが完全なリーディングシュタイナーを会得するのが2000年元日ならば……)」

倫子「(1999年12月31日まで、オレにはリーディングシュタイナーが無い。改変前の記憶を引き継ぐことができない)」

倫子「(だが、ウイルスのタイムリープにより発生した高熱の記憶は、世界線変動後の再構成によるものだ)」

倫子「(当然、改変前の世界線――O世界線――の2000年元日までの記憶には高熱の記憶は無い)」

倫子「(そして2000年元日、リーディングシュタイナーを獲得した瞬間脳に修復される記憶は、高熱を出さなかった記憶なわけだ)」

倫子「だから、オレには高熱の記憶がない、というわけか……」

紅莉栖「それによって岡部が100%完璧なリーディングシュタイナーを持つ世界線ができあがった」

紅莉栖「さっきも言ったけど、同時に2000年大収束が発生し、岡部がリーディングシュタイナーを獲得しない世界線は可能性レベルで消滅した」

倫子「しかし、タイムリープ技術を有した人間でなければ、それは実行できないのでは……」

紅莉栖「……脳科学の研究に従事していて、タイムリープを発案できる存在。送ったのはO世界線の私でしょうね」

倫子「……そうだったな。そんなことができる天才はお前しかいないんだった」

紅莉栖「β世界線では中鉢博士の会見を見に来たせいで私が殺されちゃったみたいだけど、O世界線では2000年に現れたジョンタイターが居ないせいで会見が開かれず、おかげで生き延びたのかもね」

倫子「軽く言うなよ……」

紅莉栖「重く言っても仕方ないだろーが」

倫子「だが、オレにリーディングシュタイナーを発現させた目的は一体なんだ?」

紅莉栖「目的はたぶん……たぶんだけど……」

紅莉栖「今の私たちと同じじゃないかしら?」

倫子「なに……?」

243 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/08 01:52:42.53 bFHfa8Mco 791/2638


紅莉栖「世界線をO世界線からβ世界線に変える必要があった」

紅莉栖「ただ、β世界線では2010年時点で私が死亡したり、そのせいでα世界線へと変動してしまうことは想定できなかったと思うけど」

紅莉栖「まゆりを救うためかもしれない。世界を救うためかもしれない」

紅莉栖「もしかしたら、岡部自身を救うためなのかも」

倫子「オ、オレ……?」

紅莉栖「そのためにはリーディングシュタイナーを2000年元日に発現させる必要がある、と考えたわけね」

倫子「……きっと目的は達成されたのだろうが、その実態はついぞわからぬままか」

紅莉栖「ただ、リーディングシュタイナーはタイムトラベルが可能な環境とセットじゃないと意味がない」

倫子「オレたちのタイムトラベルは、ミスターブラウンがあそこに店を構えたり、42型ブラウン管テレビを設置したり……」

倫子「ダルが廃棄された電子レンジを拾ってきたりなどの偶然が重なって8号機の真の機能に気付くことで達成された」

倫子「なにより、大檜山ビルに設置されたSERNへの直通回線が無くてはタイムリープが出来なかった」

紅莉栖「もしかしたらそれらはすべて、O世界線における過去改変によって生まれた因果なのかも」

倫子「なんだと……?」

244 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/08 01:54:24.04 bFHfa8Mco 792/2638


紅莉栖「タイムトラベル自体はね、SERNのZプログラムと私の頭脳があれば人類は達成できる」

紅莉栖「ただ、2010年の秋葉原で大学生サークルがタイムマシンを開発するってのは、偶然が過ぎる気がするのよ」

倫子「オ、オレたちが手にした偶然の産物を、否定するというのか!?」

紅莉栖「そうじゃなくて、その偶然の産物自体が別の世界線の私たちの産み出したものだとしたら? ってこと」

倫子「すべては、偶然だ。だがその偶然は、あらかじめ決められていた世界の意志でもあった、と……」

紅莉栖「もちろん、β世界線の2010年の岡部にタイムマシンを開発させることが目的なんじゃなくて、リーディングシュタイナー発現ウイルスを送る環境を整えるために必要だっただけだと思う」

紅莉栖「2000年の岡部にリーディングシュタイナーを発現させるためには、当然安定したタイムリープ環境が必要。それを整備するために、世界に先駆けてタイムリープマシンを開発する必要があった」

紅莉栖「だから、未来の私たちがタイムマシンと微弱なリーディングシュタイナーを駆使して、2010年にタイムリープマシンを作る環境を整えた」

紅莉栖「少なくとも、直通回線だけは完全な偶然じゃなくて、意図的なものの可能性が高い。それ以外、天王寺裕吾の行動とか橋田の行動は偶然な気もするけど」

紅莉栖「この世界線では未来の私が2000年のSERNに指示することで直通回線を引いた」

倫子「(そういや、ラボのない世界線での未来紅莉栖もそんなことを言っていたな……)」

紅莉栖「ちなみに、カモフラージュのために、世界中のラウンダー幹部の居場所や研究所にも直通回線を引かせてもらったわ」

紅莉栖「それと同じようなことがO世界線でも起こっていた可能性」

紅莉栖「もしこの仮説が正しいなら、あんたがβ世界線へと戻っても大檜山ビルには直通回線が繋がってるはず」

倫子「……大檜山ビルにSERNへの直通回線が繋がっていることが、オレにリーディングシュタイナーがあることの因果と繋がっているから、か」

紅莉栖「そう。歴史のつじつま合わせってやつね。β世界線のSERNは何らかの理由で2000年になったらあのビルに直通回線を引く羽目になるのよ」

245 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/08 01:55:18.21 bFHfa8Mco 793/2638


倫子「だいたいわかったが、お前は1つ大事なことを見落としている。ウイルスデータをタイムリープさせるにしても、当時のオレはケータイ電話を持っていないぞ?」

紅莉栖「本来タイムリープには携帯電話端末のような受信機が必要。だけどウイルスデータを送信する場合、それが関係なくなる」

紅莉栖「脳そのものが受信機になるのよ。記憶データじゃなく、OR物質の量子データを送るんだから」

倫子「そ、そうだった……オレが瞬間移動しても意識が継続していたように、脳がどこにあるかという局所場指定は関係ないのか」

倫子「そう言えば、発熱した当時、医者には死んでいてもおかしくないと言われたらしい。成長途中の子どもの脳にはやはりきつかったのか?」

紅莉栖「そう。それなのよ。実は私もそこが引っかかってる」

倫子「なに?」

紅莉栖「成人でさえ死亡率の高い実験だったのに、ましてや子どもなんかじゃ死なない方がおかしい」

倫子「……お前、マジでヤったのか」プルプル

紅莉栖「仮説に仮説を重ねるようで悪いんだけど、これも1つ考えたの」

紅莉栖「実は岡部は1度、死んでるんじゃないか説」

倫子「HAHAHA、さすがは本場のメリケンジョークだ」

紅莉栖「というわけで、ここからは応用編に入るわ」

倫子「え、まだ続くのか……?」

246 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/08 01:57:26.07 bFHfa8Mco 794/2638

その4ヽ(*゚д゚)ノ【なぜ岡部は高熱で死ななかったのか】


紅莉栖「O世界線から改変された世界線の岡部は一度死んだ。高熱に耐えられずに」

倫子「マジか……」

紅莉栖「この時点で、岡部が1999年12月31日23時59分までに死亡する世界線が出来上がった」

紅莉栖「便宜上、i世界線と呼びましょう。結果的にこの世界線は虚構の世界線となってしまうから」

倫子「虚数のiだな」

紅莉栖「さて、岡部が死んだこのi世界線において、誰があなたを蘇らせたのでしょう」

倫子「いやいや、誰が、よりも、どうやって、のほうが問題だろう」

紅莉栖「いいえ、どうやって、はどうでも良くなるわ。それよりも重要なのは『誰が』ということ」


  『オカリン、死んじゃやだよぅ……!』
  『オカリン、死なないで……』


倫子「……まさか、まゆりか?」

紅莉栖「どうしてそう思った?」

倫子「たしかまゆりが、12月31日の夜、流れ星に願い事をしたらしい……いや、まさかな」

紅莉栖「そのまさかだと思う」

倫子「は……?」

247 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/08 01:58:02.62 bFHfa8Mco 795/2638


紅莉栖「1999年12月某日、ウイルスデータが未来から送られてきた時点で世界はO世界線からi世界線に分岐した」

紅莉栖「仮に2000年1月1日の0時0分まで岡部が生存できればリーディングシュタイナーを保有できる上、結果論だけど2025年での死亡収束を獲得できる」

紅莉栖「つまり、リーディングシュタイナーを保有した状態で生存できる可能性が非常に高くなる」

紅莉栖「さて。12月31日の流れ星へと祈ったまゆりの意識は、つまりOR物質は、岡部の脳内の意識に干渉した」

紅莉栖「生理的ダメージを軽減するよう働いたか、ウイルスを受容するよう促したか、あるいはOR物質が脳内から乖離することを抑え込んだか」

倫子「まるで超能力だな……まゆりにそんな特殊能力があったとは」

紅莉栖「原理自体は誰にでもある原始的な力。祈り、呪い、あるいは愛……」

倫子「愛……」

紅莉栖「まゆりには感謝しておきなさい」

248 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/08 01:58:54.85 bFHfa8Mco 796/2638


倫子「だが、それだとオレが死んだという事実は観測されなかったのではないか?」

紅莉栖「そう。実際にはそうはならなかった。i世界線はあくまで仮定の世界線」

紅莉栖「岡部は1999年に死亡するはずだった、という程度の意味」

倫子「だが、まゆりの行動によって未来が変わった……。そんなことがありえるのか?」

紅莉栖「世界線を大きく変動させるのに必要なのは何?」

倫子「……ダルをフェイリス杯で優勝させることはできなかった。つまり、過程が変わっても世界線はほぼ変わらない場合もある」

倫子「観測された過去が変わっても、結果が変わらなければ、世界線も変わらない」

紅莉栖「その逆も然り。観測された過去が変わらなくても、結果さえ変われば世界線は変わる」

倫子「何が言いたい」

紅莉栖「O世界線のまゆりが、7000万年前にタイムトラベルした可能性がある」

倫子「はぁ!?」

249 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/08 02:00:07.97 bFHfa8Mco 797/2638


紅莉栖「まゆりがね、前、言ってたのよ……私のホテルで。前って言うか、明日のことなんだけど」

倫子「(こいつの記憶の中の2010年8月16日では、紅莉栖はまゆりとホテルで女子会でもやるのか?)」

倫子「なんて言ってたんだ?」

紅莉栖「7000万年前の地球の夢を見るんだ、って」

紅莉栖「なんでかはわからないけど、そこが7000万年前だとわかるって言ってた」

紅莉栖「ねえ、岡部も見たことない?」

倫子「あ……ある……確かにあるぞ……」

倫子「そこには、オレとまゆりが居たような気がする……」

倫子「だ、だが、タイムマシンで7000万年前に跳ぶことは可能なのか!?」

紅莉栖「私が完成させたSERNのマシンでも、燃料満タンにしたところでせいぜい100年跳べるかどうかってものなんだけど……」

紅莉栖「あるいは、事象の地平面<イベント・ホライゾン>の向こう側なのかも。さすがにこれに関してはデータの取りようがなかったわ」

倫子「そんな危険なタイムトラベルを、オレとまゆりが……!?」

紅莉栖「カー・ブラックホールトレーサーの開発にはこぎつけたから、先行するタイムマシンが到着した場所と同じ世界線の同じ時刻へ移動することは可能」

紅莉栖「まゆりはこれを使って先に跳んだ岡部を追いかけたんだと思う」


  『カー・ブラックホールのトレースも可能なので、鈴羽さんのタイムマシンが到着する世界線と同一のダイバージェンスに到着できます』


倫子「(伽夜乃のマシンに搭載されていたアレか……)」

紅莉栖「なぜそんな夢を見るのかの理由はあとで説明する。とりあえず、あんたが見た不思議な夢の内容を教えて」

倫子「ああ、わかった」

250 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/08 02:00:54.36 bFHfa8Mco 798/2638


・・・


それは、7000万年前から続く記憶。

止まることなく、戻ることなく、

交わることのない流れの中で、

ヒトの想いが、時を超えた記憶。

ヒトの想いが、運命の門に到達するための記憶。



『オカリン、見ーつけた♪』

『ここはね、7000万年前の地球だよ』

『オカリンは、陰謀に巻き込まれて、タイムマシンでここに送られちゃったんだー』

『まゆしぃはね、オカリンを追いかけて、たくさん、たっくさん、たーっくさんの世界線の、すべてのオカリンを探し続けてきたのです』

『でね、オカリンもまゆしぃも、ここで死んじゃうと思う』

『きっと、7000万年後の秋葉原にいる、オカリンとまゆしぃまで、意志は連続していくんだって思うな』

『だから、大丈夫だよ♪』


そうだな。後のことはすべて……

――"岡部倫太郎"に任せよう

・・・

251 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/08 02:01:45.42 bFHfa8Mco 799/2638


紅莉栖「岡部倫太郎?」

倫子「ああ、確かに7000万年前のオレはそう言った気がする」

倫子「親父から聞いたことがある。もし男の子が産まれたら倫太郎という名前にするつもりだったと」

紅莉栖「O世界線の岡部は男の子だった? たしかに岡部は男の子趣味が強いし……」

倫子「こんな盛大な性転換があってたまるかっ」

紅莉栖「それと、陰謀に巻き込まれたってのも気になるな」

紅莉栖「……下手人はSERN? いえ、そうなるとO世界線の岡部を7000万年前に跳ばしたのは間接的に私、ということになるけど……」

倫子「オレにとってはそうであってほしいと思う。お前の作ったマシンなら信頼できるからな」

紅莉栖「素直に喜べない。SERNが世界支配をしてたならO世界線≒α世界線になっちゃうじゃない」ハァ

252 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/08 02:02:49.02 bFHfa8Mco 800/2638


倫子「……たくさんの世界線のオレ、というのは?」

紅莉栖「岡部の夢に現れたまゆりのイメージは、多分1人のものじゃない。何人ものまゆりの意識の集合体のはず」

倫子「OR物質自体は世界線を跨ぐ、唯一無二の超次元的存在なんだろう?」

紅莉栖「だけど、個体としてのまゆりは世界線ごとに存在する。OR物質は、それらを憑依して移動し続けている存在」

紅莉栖「その事実を岡部の脳が言語的にそう解釈したんじゃないかしら」

倫子「なぜ複数の意識が存在するのだ?」

紅莉栖「言い方が悪かった。たぶん、O世界線からまゆりが7000万年前に出発するまでにも、いくつも世界線変動を起こしていたはず」

紅莉栖「アクティブになったすべての世界線でまゆりは岡部を救いたいと願った」

紅莉栖「OR物質は常に最新に上書きされ続ける。すべての世界線のまゆりの想いは、重なり合って、より強力なものへとなっていく」

倫子「……このオレに各世界線での記憶があるように、各世界線での想いが積もっている、ということだな」

倫子「そう言えば、もう1つまゆりに関する夢を見たぞ」

紅莉栖「うん、それも教えて」

253 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/08 02:03:24.70 bFHfa8Mco 801/2638


・・・

『オカリン、死んじゃやだよぅ……!』
『オカリン、死なないで……』

頭の中でまゆりの声がする。それも二重に。

片方の声は今よりも幼い、多分小学生だった頃の声。
もう片方は、今よりも歳をとったような落ち着いた声だ。

姿は見えない。何も見えない。
オレは宇宙空間のような暗黒の中に立っていた。

『それでもあなたは行くのね……岡部を救うために……』

これは、誰の声だ? 助手か?

眼下に広がる暗闇の先に、いくつかの光点が観測できる。
それはきっと過去からの光。
地球で観測できる星の輝きは何十年、何百年も過去のものだと、助手は言っていた。

『私は行きます。彼を救う可能性が、彼がそこへたどり着く可能性が1%でもあるなら』

なんなのだこの声は……幻聴か? それにしてはやけにリアルだな……

『だから、信じて待っていてください。必ず、今ここへ届けます』

『――何千年も過去にある、お星さまの祈りを』

・・・

254 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/08 02:04:24.48 bFHfa8Mco 802/2638


紅莉栖「やっぱりまゆりを過去に跳ばしたのは私か……」ガックリ

倫子「その場にオレは居なかったようだが、なぜオレはこんな夢を?」

紅莉栖「たぶん、追いかけてきたまゆりから話を聞いて、それを元に音声だけ再現した記憶なんじゃないかしら。だから岡部の視点は宇宙空間? にあったとか」

倫子「だが、大人のまゆりは『彼』と呼んでいた。それが指す人物はオレのことではないのではないか?」

紅莉栖「いよいよO世界線の岡部は男性だった説が濃厚ね。β世界線では、過去改変のなんらかのバタフライ効果で女の子として産まれてしまったのかも」

倫子「……まゆりが、『オカリンが女の子だったらきっと可愛いだろうなーえっへへー♪』と思った意識が影響した、とかか?」

紅莉栖「(ありえる)」

倫子「(ありえる)」

倫子「……いや、1999年12月以前のオレの記憶には、女の子だった記憶がちゃんとあるぞ」

紅莉栖「8歳以前の幼少期の記憶なんていくらでも改ざんされているのが普通よ」

紅莉栖「仮にβ世界線での岡部が女の子だったとして、O世界線での男の子だった記憶は成長と同時に理性的にも社会的にも否定される可能性がある」

倫子「い、いやいや、いくらなんでも自分が男か女かぐらいは覚えているぞ」

紅莉栖「両親や幼馴染、役所や学校や病院からあなたは女の子だと言われ続けるのよ?」

紅莉栖「肉体的にも女の子なわけで、脳の機能としても『自分は生まれた時から女の子だった』として記憶を改ざんする方が自然よ」

255 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/08 02:05:21.09 bFHfa8Mco 803/2638


倫子「あるいは……オレがこれから男になるために、紅莉栖がウイルスをタイムリープさせ、まゆりが7000万年前へタイムトラベルをした?」

紅莉栖「どこに岡部を男にするメリットがある」ムッ

倫子「(紅莉栖は至って真面目なトーンで話しているが、百合女のバイアスがかかっているだろこれ絶対……)」

倫子「それは、男女の脳機能の差を利用して、とか……」

紅莉栖「……なるほど。なかなか鋭い指摘ね」

倫子「ホントっ!? 紅莉栖に褒められ――」キラキラ

紅莉栖「……?」

倫子「……あー、いや、このIQ170の灰色の脳細胞を持ってすればこの程度の推論は朝飯前だ、ふはは」アセッ

紅莉栖「確かにOR物質の働きは男女で差があることがわかってる。個体間影響力も、同性間での相互作用と、異性間での相互作用では様相が異なっている」

紅莉栖「O世界線の私たちはそれを利用するために岡部の性別を変えた? ここは研究の余地ありね……」

倫子「(まだやる気なのかこいつ……)」

256 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/08 02:07:29.49 bFHfa8Mco 804/2638


倫子「それで、この夢とオレが死んだことにどういう関係があるのか、ご説明願おうか」

紅莉栖「ウイルスデータを過去に送った時点で世界線は再構成されるから、O世界線のまゆりはおそらくウイルスを送る前か、送ったと同時に過去へ行ったことになる」

紅莉栖「まゆりが跳んだ時点で、まゆりは7000万年前に居るけどウイルスデータはまだ送ってないO´世界線が出来上がる」

紅莉栖「と言っても、7000万年も前の過去改変ともなるとバタフライ効果は皆無だから、ウイルスを送る状況は何1つ変わっていない」

紅莉栖「こうしてウイルスは送られ、8歳の岡部が死ぬi世界線が出来上がる」

紅莉栖「やっぱり子ども岡部の死亡リスクは計算されていたと思うのよね」

紅莉栖「O世界線の岡部が送り込まれた場所が7000万年前だ、ってのは偶然なのか意図的なものかはわからないけど、岡部に追いついたまゆりはそこで祈り続けた……」

紅莉栖「7000万年後、自分の想いが、再構成されたすべての可能性世界線に生まれる岡部を助けることを」

倫子「O´世界線だろうと、OR物質は世界線を跳躍して影響を与えることができるのだったな。それで、αでもβでもiでも、すべての2000年のオレを生かすように影響したと。だが――」

紅莉栖「次にあんたはこう言う。7000万年後のまゆりがどうやって7000万年前の想いを受信するのだ、と」

倫子「7000万年後のまゆりがどうやって7000万年前の想いを受信するのだ……ハッ」

倫子「って言わせるな。お前はどうせまた、OR物質ガーと言いたいのだろう」

紅莉栖「まあね。OR物質は脳外に放出されてもある程度は保有される。ただ、7000万年ともなると、相当強い意識じゃないと残らないと思うけど」

倫子「そして、西暦1994年に生まれるまゆりの脳を受信機として受け継がれた、と」

紅莉栖「ただ、まゆりは適合者じゃないから、記憶の方は微弱なデジャヴ、夢のようなものとしてしか認識できないでしょうね」

倫子「そうか、それと同じ原理でオレの脳にもO世界線出身のオレの記憶が夢として受信されたわけだ」

紅莉栖「この仕組みが、i世界線の当時5歳のまゆりに超常的な力を与えた」

紅莉栖「なかったことになり続けたすべての世界線の、すべてのまゆりの想いが集約された」

紅莉栖「その結果、流れ星にお祈りをする、という儀式を通して、発熱にうなされる岡部の脳に物理的に働きかけ、岡部の死を回避したのよ」

257 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/08 02:11:33.61 bFHfa8Mco 805/2638


倫子「……どこか抜けた少女だと思っていたまゆりが、実はオレの命の恩人だった、とはな」

紅莉栖「その可能性は否定できない、という程度の話だけどね」

倫子「だが、それならO世界線の未来のオレたちの目的が、まゆりの生存ではなくなってしまわないか?」

紅莉栖「時期にもよるけど、その可能性ももちろんある。はっきりとはわからない」

紅莉栖「それからね、もう1つO世界線からの過去改変によって発生した事象がある」

倫子「2000年問題、だったか。だが、オレの記憶では大した問題にならなかったと……」

紅莉栖「国家機密で公表されなかったけど、実は2000年問題は各国の衝突を煽る形で存在していて、SERNが未来から過去改変しなければ第3次世界大戦が発生してもおかしくないシロモノだったのよ」

倫子「だ、第3次世界大戦!?」

紅莉栖「その元凶はIBN5100よ。あれでしか解析できない特殊なプログラム言語で作られた、とあるプログラムに重大なバグが2000年に発生したせい」

紅莉栖「20世紀末のエンジニアたちはそもそもIBN5100にそんな機能があること自体知らなかったから、問題があることにさえ気づけなかった」

紅莉栖「まあ、IBN5100を世界中からかき集めてた未来のSERNなら余裕で修正できたわけだが」

倫子「……O世界線における敵対勢力が過去改変した可能性か」

紅莉栖「それがどういうわけか、岡部がリーディングシュタイナーを発現する因果と結びついちゃったみたいなのよね。まゆりの死とディストピアが結びついているように」

倫子「バタフライ効果。過程を考えるだけ無駄だろうな」

258 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/08 02:12:30.05 bFHfa8Mco 806/2638


紅莉栖「さて、以上4項目を踏まえた上で考えて欲しい」

倫子「ん? なにをだ?」

紅莉栖「クラッキングをするのかしないのかってことよ」

紅莉栖「それから、あんたが世界をβ世界線へと切り替えた場合、私はどうなるのかについても」

倫子「……ああ、そうだったな」シュン

紅莉栖「肉体的には死ぬ。というか、死んでることになる」

倫子「だが、OR物質は世界線を跨いで残る。残留思念みたいなものか」

紅莉栖「……可能性としてなんだけどね。未来のSERNに邪魔されないβ世界線では、うちの研究所の人工知能プロジェクトが継続している可能性がある」

紅莉栖「もしかしたら、PC上での脳機能再現に成功してるかもで、そのベースとなってるのは私の脳のデータなの」

紅莉栖「堅固なセキュリティがなければ、あるいは私もPC上でリーディングシュタイナーを発動して……」

倫子「……人工知能として蘇る、とでも言いたいのか?」ウルッ

紅莉栖「……あくまで可能性よ。お願いだからそんな恨めしそうな顔で私を見ないで」

259 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/08 02:15:36.13 bFHfa8Mco 807/2638


紅莉栖「それからね、あんたは自分1人で孤独に戦ってると思っているかもしれないけれど、それは違うわ」

紅莉栖「どこかの世界線の、いつかの誰かが、必ず今のあんたを支えてる」

倫子「……なかったことにはなってはいない」

紅莉栖「みんな、岡部は諦めないって信じてるから。その想いは絶対にあんたに届いてるから」

紅莉栖「可能性は無限に存在する。意志は継続していく」

倫子「だったら、まゆりも紅莉栖も両方助かる可能性が――」

紅莉栖「……時間ね」

紅莉栖「これで私が伝えたいことはすべて伝えた。あとは素材を元に自分で考察しなさい」

倫子「……どこかへ行くのか?」

紅莉栖「実は私、タイムリープデータの時限式デリートプログラムも作ったのよね。1分後に過去1時間の記憶は忘却される」

倫子「はぁっ!? それって――」

紅莉栖「"未来から来た私"は完全に消滅する。元の牧瀬紅莉栖に戻るってだけよ。死ぬわけじゃない」

倫子「い、いや、それは違うぞクリスティーナ!」

紅莉栖「まあ、記憶のバックアップデータは更新されちゃったから取り消せないけど、私程度のリーディングシュタイナーだったらほとんど思い出すことは無いでしょう」

紅莉栖「多分、1時間分の記憶喪失になっててあたふたすると思うけど、適当に言い訳しといて」

倫子「ま、待てっ! なぜそんな、勝手なことをっ!」ヒシッ

紅莉栖「……仮にあんたがα世界線に残ることを選んだとしたら、また同じことを繰り返さないといけなくなる」

倫子「あっ……」

紅莉栖「まあ、私が過去に来た時点で世界線は微妙に変動してるから、世界線的には別物ではあるけど、私の主観からしたら選択肢の無い強くてニューゲーム状態になるでしょ?」

紅莉栖「そんな苦行には耐えられない。それに、この記憶が今のSERNに悪用されたら困る」

紅莉栖「だからどうしても必要だった、ってだけだから。別にあんたのためじゃない。勘違いすんな」

倫子「紅莉栖……」グスッ

紅莉栖「……バイバイ、岡部」


フッ



260 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/08 02:17:39.87 bFHfa8Mco 808/2638


紅莉栖「―――あ、あれ? 電話が鳴り止んでる? タイムリープは?」

倫子「……失敗だ。お前は今まで、1時間近く呆けていたのだっ」グッ

紅莉栖「ふぇ!? ほんと、あれからこんなに時間が経ってる……そんな、未来の私がタイムリープに失敗するなんて……」

紅莉栖「でも、失敗したっていう記憶がある私なら、失敗しないように調整できるか。よし、今度の私なら大丈夫だから――」

倫子「紅莉栖っ!」ガシッ

紅莉栖「ふぉぉ!? ちょ、急に手を握るとか……」ドキドキ

倫子「……ありがとう。オレはもう、行くよ」

紅莉栖「えっ? 行くって、どこへ?」

倫子「……まゆりのところだ」

紅莉栖「……そう。それならよかった。まだ2日あるんだし、じっくり考えなさい」

倫子「ああ。いつもすまないな」

倫子「…………」

倫子「退院手続きってどうやるの?」ウルッ

紅莉栖「(かわいい)」

276 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/15 05:03:01.04 bP+CT+NFo 809/2638

芳林公園


倫子「(なんとか病院を出れた。紅莉栖にはまゆりのところへ行くと言ったが……)」

倫子「(あいつにどんな顔をして、なんと言ってやればいいのか……)」

倫子「(気付けばラボへと足が向いていたので、なんとはなしに近くの公園に寄ってみる)」

倫子「(ケータイの電源を入れると、まゆりからメールが届いていた)」


8/15 15:36
From まゆり
Sub 悩んでる?
トゥットゥルー、まゆしぃ
です。もう体は大丈夫か
な? オカリンが大変な
時にそばにいてあげられ
なくてごめんね。最近の
オカリンはね、たまにす
ごく辛そうな顔してるよ
ー? まゆしぃは、話し
相手になってあげられ
ないのかな? それとも
、まゆしぃだから、話し
相手になってあげられ
ないのかな? それは
ね、とても寂しくて、辛
いことだね。もしまゆし
ぃのこと重荷に感じてた
ら、はっきり言ってほし
いです。


倫子「なんだよこれ……なんだよこれっ……」プルプル

倫子「あいつ、なにが"重荷"だよ……! 勝手に自分を責めやがって、ふざけるなよクソッ……っ!」ウルウル

倫子「いつもは空気を読めないくせに、なんでこういうときだけ……!」ポロポロ

277 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/15 05:05:00.32 bP+CT+NFo 810/2638


倫子「(α世界線において、一研究機関に過ぎないSERNがディストピアを成立させた最大の要因はタイムマシンの完成にあった)」

倫子「(無論、300人委員会の承認を得たZプログラムの長年の成果ではあるが、それには稀代の天才、"タイムマシンの母"である牧瀬紅莉栖の存在が不可欠だった)」

倫子「(彼女は2010年時点でタイムリープ理論を提唱し実践。それだけでなく、鈴羽によれば2010年の時点で既にタイムマシンの基礎理論をこっそり書いていたらしい)」

倫子「(紅莉栖以上のタイムトラベルの天才は居ない。牧瀬紅莉栖の生存はディストピア成立に深く関わっている)」

倫子「(逆に言えば、牧瀬紅莉栖が生存したことでディストピアが成立した、と言ってもいい)」

倫子「(事実、鈴羽がワルキューレとして行った紅莉栖暗殺は、収束によって失敗したのだ)」

倫子「(牧瀬紅莉栖の2034年までの生存はα世界線の収束である)」

倫子「(ということは、ディストピアを回避することが確定しているβ世界線は、イコール牧瀬紅莉栖が死亡する世界線ということになる)」

倫子「(牧瀬紅莉栖の2010年での死亡はβ世界線の収束である)」

倫子「(仮にオレがβ世界線で電話レンジ(仮)を作って、紅莉栖を殺した殺人犯にDメールを送り、殺人をやめさせようとしても失敗に終わるだろう)」

倫子「(殺人事件を回避できたとしても、紅莉栖はラジ館の階段で足を滑らせて致命傷を負うかもしれない)」

倫子「(7月28日時点での生存を確保できたとしても、24時間死期がずれるだけかもしれない)」

倫子「(結局、ありとあらゆる過去改変の行きつく先にあるのは、『1%の壁を越えるしかない』という結論だ)」

倫子「(牧瀬紅莉栖を生存させるためには、α世界線へ移動するしかない……どんなに手を尽くしたとしてもこの結果が導き出されてしまうんだ)」

倫子「(だからオレは、まゆりか、紅莉栖か、選ばなければならない)」

倫子「……これが、シュタインズゲートの選択なのかよぉっ」グスッ

??「とぅ、とぅっとぅるー」

倫子「っ!?」ビクッ

278 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/15 05:07:09.72 bP+CT+NFo 811/2638


倫子「あー、汗が目に入ってしまった! マッドサイエンティストにあるまじきことだな!」グシグシ

??「そ、そんなに強くこすると目を痛めちゃいますよぉ!」

倫子「……えーっと、キミは?」

千世「え、えと、音更千世<おとふけちよ>って言います……」

倫子「……名前を言われても貴様が誰だかわからんぞ!」

千世「えっ? あっ!! す、すいません……あの、サンボで叔母さんのお手伝いをしている者です……」

千世「いつもオカリンさ、じゃなかった、鳳凰院さんのオーダーを承っているのですが……」

倫子「なに? ……ああっ! たしかにエプロンと三角巾をかぶせれば見覚えがある」

千世「お、思い出してくれましたか! よかったです~!」

倫子「というか、なにゆえ『とぅっとぅるー☆』などというド恥ずかしい挨拶を使っているのだ」

千世「え? それはまゆりちゃんが、ラボでの挨拶はとぅっとぅるーだよーって教えてくれたので……もしかして、間違えちゃいました!?」

倫子「い、いや、合ってる……いや合ってないが……くそ、まゆりめ余計なことを……」

279 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/15 05:07:55.12 bP+CT+NFo 812/2638


倫子「まさか牛丼のツケを払わせにきたのかっ!?」ビクッ

千世「い、いえ! あの、それも確かにありますけど、それは別にまた今度で大丈夫ですので!」

倫子「……ということは、偶然か。まあ、この公園に居れば出会うこともあるか」

千世「あの、オカリンさん、さっき泣いてましたよね? なにかあったんですか?」

倫子「っ……」

千世「も、もし私でよければ、少しでもオカリンさんのお力になりたいなぁと……って、お節介ですよね、すいません」

倫子「……まゆりが、遠くへ行ってしまうんだ」

千世「えっ? まゆりちゃんが、ですか? お引越しとかでしょうか……」

倫子「……そんなところだ」

千世「それは……えと、寂しくなりますね」

280 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/15 05:11:33.77 bP+CT+NFo 813/2638


倫子「あいつはオレの幼馴染だ」

千世「……まゆりちゃんがいつも昔の話を楽しそうにしてくれます」

倫子「小学生の時から、オレの周りには打算まみれの連中ばかりが話しかけてきた」

倫子「そんな中、まゆりだけはオレを1人の人間として、普通に接してくれたんだ。まあ、あいつが鈍かっただけかも知れんが」

倫子「オレたちはいつも一緒に居た……周りに疎まれても、煙たがられても、オレはまゆりが居たから乗り越えて来られた」

倫子「まゆりの婆さんが死んで、まゆりの心が遠のいて、それでもオレはあいつを取り戻したいと決意して、人質にしたんだ」

倫子「あの日、あいつの中に"まゆりが戻ってきた"時、あれだけ強く思ったのに……。まゆりを失いたくないって……願ったのに」

倫子「なのに、いつの間にかあいつがそばにいるのが当たり前になって……いつもそばにいるんだと、勝手に思い込んで……」ウルッ

倫子「オレはバカだ。こんな簡単なことに――こんな大事なことに、今まで気づかなかったなんて」グスッ

千世「だったら――」

千世「まゆりちゃんを、引き留めてあげてください。どうしても引っ越さなくちゃいけないとしても、それでも」

倫子「千世……?」

千世「オカリンさんの想いを、伝えてあげてください」

281 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/15 05:13:37.62 bP+CT+NFo 814/2638


千世「……オカリンさんには、そうやって悩んでいる姿は似合いませんよ」

千世「まゆりちゃんに、会いに行ってあげてください。居場所、わかりますか?」

倫子「……あいつは今頃、法要で池袋に居る」

千世「本当のことは言えなくても、なにか声をかけてあげるだけでも」

千世「それは、意味のあることだと思いますよ。"鳳凰院凶真さん"」

千世「まゆりちゃんはいつも笑顔で嬉しそうに、『まゆしぃはオカリンの人質なのです☆』って言ってましたよ」

倫子「……人質、か」

倫子「確かに。ククッ、鳳凰院凶真ともあろうものが、人質を逃がすなど許されないな」フッ

千世「はいっ。ツケを払わないのも許されませんよ」ニコ

倫子「そ、それはまた、後日……」

千世「……また、2人で牛丼を食べに来てくださいね」

倫子「ああ、いずれまたこの地に戻ってこよう。世話になった……さらばだっ!」ダッ

282 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/15 05:15:05.62 bP+CT+NFo 815/2638

雑司ヶ谷霊園


倫子「はぁっ……はぁ、はぁっ……」タッ タッ タッ

倫子「……またここに来るとはな。鈴羽、すまないが今日は挨拶はナシだ」

倫子「(――ここに来ると、あの日々を思い出す)」



オレは空が嫌いだ。

"空には終わりが無い"。そんな話を聞いたのは小学生の頃だった。

宇宙には果てが無く、いまだに膨張し続けているという。

終わりのない世界。それは、幼い頃のオレにとって畏怖を覚えさせるには十分だった。

そんな空へと手を伸ばし、毎日毎日空を見上げる少女。

その瞳には何も映っていない。その心にあるのは空虚だけ。

その何もない世界に、まゆりは今にも旅立とうとしているようだった。

空からまっすぐな光――レンブラント光線――が降りてきた瞬間、

死んだ婆さんが、オレからまゆりまでも奪ってしまうんじゃないかと感じた。

オレは、まゆりが空に伸ばしていた手を、空から奪い取ったんだ。



倫子「……? 向こうからまゆりの声がする。独り言か?」

283 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/15 05:16:28.49 bP+CT+NFo 816/2638


まゆり「ねぇ、おばあちゃん」

まゆり「最近ね、怖い夢をよく見るんだー」

まゆり「その夢の中ではね、いっつもまゆしぃはひどい目にあうの」

まゆり「まゆしぃの大好きな人たちと一緒にね、大好きな場所にいるとね」

まゆり「えっと、オカリンと、ダルくんと、クリスちゃんと、萌郁さんと、るかくんと、スズさんと、綯ちゃんと、フェリスちゃんとね」

まゆり「ラボの中とか、ビッグサイトとか、カラオケボックスとか、ブラウン管工房の前とか、まゆしぃのお気に入りの場所でね」

まゆり「突然息が苦しくなったり、ナイフで刺されたり、車に轢かれたり……」

まゆり「まるで本当のことみたいで、すごく苦しくて、すごく悲しくて、誰か助けてって一生懸命声を出そうとするけど、出せなくて」

まゆり「どうしてそんな夢、見るのかなぁ?」


倫子「(……まさか、これまでの世界線で、オレがまゆりを見殺しにした時の記憶が!?)」

倫子「(そう言えば、オレもまゆりが色んな死に方をする夢を見たことがある)」ゾワッ

倫子「(だが、どれも現実離れし過ぎていた……あれらは、オレや紅莉栖、ダルがタイムリープしたことで無かったことになった可能性世界の未来での記憶だったりするのか……?)」

284 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/15 05:17:25.35 bP+CT+NFo 817/2638


まゆり「でね、その夢の最後は、いつも決まってるの」

まゆり「オカリンがね、優しく抱きしめてくれるんだー」

まゆり「オカリンはまゆしぃを抱きしめて、泣きながらね、とっても悲しそうな顔してた」

まゆり「だからまゆしぃも、悲しくなって、ごめんね、ごめんね、って言うけど、やっぱり声は届かなくて」

まゆり「そこで、いつも目が覚めるんだー。どうして、こんな夢見るのかな……?」


倫子「(済まない……済まない、まゆり。全部、オレのせいなんだよ……)」ポロポロ


まゆり「でもね、おばあちゃん。最近のオカリンはね、とっても楽しそうなんだよ」

まゆり「そんなオカリンを見てるとね、まゆしぃも嬉しくなって、ニコニコできるの」

まゆり「特にクリスちゃんが……あー、でもちょっと残念な子かもだから、憧れたりはしないのです」

まゆり「でもね、たまに思うんだー」

まゆり「オカリンとまゆしぃはね、小さい頃からいつも2人きりでね」

まゆり「ラボが出来てからも、2人で並んでソファに座って、オカリンはラボの作戦計画書みたいなのを書いてて、まゆしぃはマンガ読んだりゲームしたりして」

まゆり「とてもゆっくり、優しく時間が流れてて」

まゆり「まるでまゆしぃは本当に人質になっちゃったみたいだなーとかふと思って、1人でえっへへーって笑ったり」

まゆり「このまま、ずっと続いてほしいなあって思ってた」

285 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/15 05:19:34.96 bP+CT+NFo 818/2638


まゆり「最近ね、オカリンと話す時間、ちょっと減っちゃった」

まゆり「だからね、まゆしぃは、寂しくなっちゃったのかもしれないね」

まゆり「でもね、オカリンの重荷にはなりたくないんだー」

まゆり「まゆしぃは、いつもいつも、オカリンに迷惑かけてばっかりだから」

まゆり「……いつまでも、このまま、人質のままじゃいられないよね」

倫子「このままでいいっ」グスッ

まゆり「んんー? あーっ! オカリンだー♪」

まゆり「……オカリン、泣いてるの? まだ身体痛いの?」

倫子「お前はオレの人質だ。だからお前はオレの手からは逃れられん。絶対にだ」ウルッ

まゆり「そっかー。……そっかぁ」

まゆり「(オカリンが今、心も身体もつらそうにしている理由ってやっぱり……)」

まゆり「……えっとね、まゆしぃは思うんだ」

まゆり「まゆしぃが人質じゃなくても、ラボにはクリスちゃんもダルくんも……みんな、いるよ」

まゆり「だから、オカリンはもうまゆしぃが人質じゃなくなっても、大丈夫だよ」

倫子「な、なにを勝手な――」

まゆり「まゆしぃはね、とっても嬉しいんだよ? みんながオカリンを大好きで、オカリンもみんなが大好きで……」

まゆり「だからね、オカリンはもう大丈夫だよ。まゆしぃが人質じゃなくなっても……」

倫子「――そんなことを言うなっ!!」ダキッ

まゆり「オ、オカリン……?」

286 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/15 05:22:13.18 bP+CT+NFo 819/2638


倫子「ラボには……オレのそばには、まゆりがいなきゃだめなんだ」ギュゥッ

倫子「まゆりがそばにいるから、オレはいつでも笑っていられたんだ」

倫子「いくつもの世界線のお前が、オレのそばに居てくれたんだ……」

まゆり「……えっ」

倫子「行くな、まゆり。オレの、ううん、私のそばから、どこにも行かないで……うわぁぁんっ」グスッ

まゆり「オ、オカリン!? まゆしぃは、どこにも行かないよ? 人質をやめても、そばにいるよ?」

倫子「それじゃダメなのっ! 我がままでしょ!? これが、私の、そして鳳凰院凶真の本性なんだよっ!」

倫子「鳳凰院凶真は、まゆりを守るために生まれたのっ!」

倫子「まゆりは、ずっとずっと、大切な人質なんだよっ!」ギュッ

まゆり「……ずっとって……いつまで……?」

倫子「いつまでもだよ」

まゆり「まゆしぃが大学生になっても?」

倫子「うん」

まゆり「まゆしぃが幼稚園の先生になっても?」

倫子「うん」

まゆり「……お嫁さんに行く時でも?」

倫子「歳をとって死ぬまで、まゆりは私と一緒にいればいいよ」

まゆり「……それじゃ、まゆしぃはお嫁に行けないね……」

倫子「どこにも行かないでって言ってるでしょ……」ギュゥッ

まゆり「えへへ……苦しいよ、オカリン」ギュッ

287 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/15 05:26:11.03 bP+CT+NFo 820/2638


まゆり「……まゆしぃね、オカリンのこと、好きだったよ。昔から……大好きだったよ」

まゆり「鳳凰院凶真のことも、倫子ちゃんのことも」

倫子「……初めてまともにオレの真名を呼んだな」

まゆり「あ、ほーそーいいんさんに戻っちゃったね。えっへへー」

倫子「こいつ……」フフッ

まゆり「女の子なのにね、変だってわかってたよ? ダメだって思って、ずっと隠してたの……」

倫子「……バレバレだったぞ」

まゆり「だからね、クリスちゃんがラボに来て……オカリンと仲良くなって……とっても嬉しいんだけど、なんだか寂しかったの……」

まゆり「オカリンが、クリスちゃんと一緒にアメリカに行っちゃうんじゃないかなぁって思うと……胸が苦しかったの……」

まゆり「でもね、もしそうなったら、まゆしぃも、お父さんが望んでるような、普通の女の子の気持ちになれるかなぁって思ったりしてね……」

まゆり「そんな自分が……とってもいやだった……」

まゆり「なのに、どうしても……だめだったの……」グスッ

まゆり「……ねぇ、オカリン。今だけは……我慢、しなくてもいいかなぁ」

倫子「……いいよ」

まゆり「……オカリン、背、高いね」スッ

まゆり「んっ……」チュッ



倫子「(今、ようやくわかった――)」

倫子「(まゆりはオレの人質であると同時に――)」

倫子「(過去から続く、私の半身だったんだ――)」

288 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/15 05:27:03.96 bP+CT+NFo 821/2638


まゆり「……あ、わ、わぁっ? ど、どうしようっ! き、き、キスしちゃった!」アワアワ

倫子「で、でかい声で言うなぁっ! 恥ずかしいだろ!」アセッ

まゆり「だ、だって、キス、なんだよ? オカリンと、キス、なんだよ!?」グルグル

倫子「そ、それがなんだっ!? たかがキスごときで、ど、動揺するでないっ! ふ、ふぅーはははぁ!」

まゆり「フェリスちゃんとクリスちゃんが、まゆしぃを殺しにきちゃうかも……」

倫子「あー……それか。そんな世界線でないことを祈ろう」

まゆり「ふえ?」

倫子「ああ、いや、なんでもないぞっ! その辺はオレがなんとかするっ」

まゆり「そ、そっかぁ……良かったぁ……」

まゆり「……どうしよう。安心したら……その……」

まゆり「もう1回……キス、したくなっちゃったかも……」

倫子「……ほら、まゆり。こっちに来いっ」

まゆり「あっ」


チュ



289 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/15 05:27:49.62 bP+CT+NFo 822/2638


まゆり「……えへへ。2回もしちゃったね」

倫子「お、おう。……誰かに言うなよ?」

まゆり「オカリンとまゆしぃだけの秘密だね♪」

まゆり「……おばあちゃんがまゆしぃのお願いごと叶えてくれたのかなぁ」

倫子「お願いごとって……あの婆さんは神様じゃないんだぞ?」

まゆり「ううん。おばあちゃんはまゆしぃにとって神様なんだー」

まゆり「……あの時ね、おばあちゃんが死んでお星さまになっちゃって、まゆしぃもお星さまになってしまいたいって思ってた」

まゆり「でも、そんな時にね、オカリンがまゆしぃを暗い暗い世界から救ってくれたのです」

まゆり「だからオカリンはまゆしぃにとっておっきなお星さま」

まゆり「ううん、おばあちゃんがお星さまになる前から、ずっとずっと、オカリンは輝いてたんだよ」

まゆり「ねえオカリン? まゆしぃとオカリンが初めて会った日のこと、覚えてる?」

倫子「……ああ。下校途中、突然目の前にボールが飛んできて……」

290 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/15 05:30:12.35 bP+CT+NFo 823/2638


・・・


倫子「……はい、これ。ボール」スッ

まゆり「…………」ビクビク

まゆり「……お、お母さん」

まゆり母「ほらまゆり、私の後ろに隠れてないで、お姉ちゃんにありがとうは?」

まゆり「…………」モジモジ

まゆり母「ごめんね、この子内気で。こんなんだからいつまで経ってもお友達が出来なくてねぇ」

まゆり母「良かったらまゆりのお友達になってくれない?」

倫子「……岡部倫子。よろしくね、まゆりちゃん」ニコ

まゆり「っ!!」ドキッ!!

291 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/15 05:32:15.82 bP+CT+NFo 824/2638


倫子「……握手」スッ

まゆり「…………」プルプル

倫子「……?」

まゆり「……しいな、まゆり!」ギュッ

倫子「……うん!」ニコ


・・・



まゆり「その時から、まゆしぃの宇宙が広がっていったの」

まゆり「小さくて真っ暗なまゆしぃの宇宙に、オカリンっていうお星さまをくれたおばあちゃんは、まゆしぃにとっては神様なのです」

倫子「まゆり……」

まゆり「今はラボのみんながオカリンを中心に回っててね、みーんなキラキラ輝いてるんだー」

倫子「……そこにはまゆりが居なくちゃ、ダメだな」

倫子「だってまゆりは……オレの宇宙を輝かせてくれる、一等星なのだからなっ」

まゆり「そうなの? そうだったらうれしいなぁ、えっへへー」

倫子「あ、でも、まゆりに素敵な男の人が現れたら必ず言えよ! オレがまゆりの伴侶としてふさわしいか審査してやるから覚悟しろっ」

まゆり「えぇー、まゆしぃにそんな人現れないよー」

倫子「……まゆりは、きっといいお母さんになると思うぞ」

まゆり「あ! だったらねー、養子でも取ろうかな。それでオカリンと一緒に3人で暮らすの!」

倫子「それでいいのか?」

まゆり「えっへへー」

292 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/15 05:33:06.41 bP+CT+NFo 825/2638


倫子「それじゃ、オレは一度アキバへ戻るよ。助手に心配かけたままだからな」

まゆり「でもねー、あんまり無理したらダメだよー? まゆしぃはね、ちょっぴり心配なのです」

倫子「……話せるときが来たら、すべて話す」

まゆり「ほえ? なんのこと?」

倫子「まゆり。もしオレが、お前に隠し事をしてるって言ったら、どう思う?」

まゆり「……実は、オカリンとクリスちゃんは付き合っています、っていうビックリなことー?」

倫子「どうしてそうなる」

まゆり「まゆしぃとキスまでしちゃったのに、オカリンは欲張りさんだねーえへへー。でもまゆしぃはそれでもいいよー、だってオカリンだもん」ニコニコ

倫子「そんな話をしてるんじゃないんだ、まゆり」

まゆり「あ、うん。全部話してほしいなんて、思ってないよ。人質だもん」

倫子「そんな話をしているんじゃないんだっ!」

まゆり「……もう、行くね」

倫子「ま、待て、行くな」ガシッ

まゆり「オ、オカリン、腕つかむの、痛いよ……」

293 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/15 05:34:43.41 bP+CT+NFo 826/2638


まゆり「……まゆしぃは、オカリンの重荷にはなりたくないよ」

まゆり「だから、オカリンが言ってくれるまで待つよ」

倫子「……一生、言わないかも知れないぞ。お前に関係していることでも、待つのか」

まゆり「……まゆしぃに? そのせいでオカリンはつらい顔してるのかな!?」ガシッ

まゆり「だったら話して欲しいな……」ギュゥ

倫子「それでお前は、傷ついてもいいって言うのか……?」

まゆり「……うん」ニコ

まゆり「まゆしぃがオカリンの役に立てるなら、まゆしぃは嬉しいよ」

倫子「……分かった。すべて話すよ」

倫子「オレはこれから、お前のために紅莉栖を犠―――」


  『まゆしぃだって、クリスちゃんを犠牲にしてまで生きていたくないよぉ!』


倫子「(な、なんだ? イメージ? ……きっと妄想だ。気にすることは無い――)」


ピロリン♪


倫子「……紅莉栖からメールか」ピッ


From 助手
Sub
やっぱりダメだった。フェ
イリスさんにパパたちの研
究について教えてもらって
ね、それでパパに電話した
んだけど、結局私、パパに
も死刑宣告されちゃった。
白昼夢も見た。かなり都合
よく作られてたけど、でも
ね、私、死んじゃっ



倫子「あいつ……っ!!」ダッ

まゆり「オ、オカリン!?」

倫子「まゆりはもう帰るんだっ! いいなっ!!」タッ タッ

294 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/15 05:36:11.48 bP+CT+NFo 827/2638

秋葉原 ラジ館屋上


倫子「……紅莉栖っ!! 早まるなっ!!」ドンッ!!

紅莉栖「うおわああ金網ぃっ! 金網に押し付けられるっ!」ムギュッ

倫子「はぁっ、はぁっ……紅莉栖、大丈夫か!? なにがあった!?」ガシッ

紅莉栖「ひょわぁっ!?///」ビクッ

倫子「ラボに行っても……ハァ……居なかったから、ここかと……フゥ……思って……」

紅莉栖「お、岡部……?」

倫子「心配したんだぞっ!! お前が、お前が死んじゃうなんて言うからぁ……」グスッ

倫子「屋上から、飛び降りちゃうかと思ってぇ……」ポロポロ

紅莉栖「……あー、あれ途中で誤送信しちゃったの。心配かけてごめん。私は平気だから」

倫子「……お前のほっぺに涙の跡がある」

紅莉栖「えっ? あっ、これはっ、違うの! とにかく、そういうのじゃないから!」グシグシ

倫子「……バカめ。この暗闇で涙の跡など見えるわけがなかろう。今何時だと思っている」

紅莉栖「くっ、かまをかけられたか……」

紅莉栖「とにかく、私が泣いてたのは岡部のせいじゃないから! 気にしなくていいの! ねっ!?」

倫子「……早まった真似をしたわけじゃないなら、それでいい」プイッ

紅莉栖「……そうじゃなくてね、β世界線で私が死んじゃった時のこと、思い出したの。それをあんたに伝えたかった」

倫子「な、なんだとっ!?」

295 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/15 05:37:52.44 bP+CT+NFo 828/2638


紅莉栖「岡部が病院を出てから、自分の記憶を検証してみようと思ったのよ」

紅莉栖「1時間の記憶喪失のあと、なんだか脳に違和感があったから……」

倫子「こんな大変な時に、何を……」

紅莉栖「こういう性分なの。たとえ明後日までに自分が消滅するとしても、知的好奇心は抑えられなかったでFA」

紅莉栖「それで、ラジ館に行ってみた」

倫子「記憶を刺激するため、か」

紅莉栖「自分の死について考えながらラジ館を見上げると、心拍数が上がって、世界がずれた気がしたわ」

倫子「……リーディングシュタイナーだ」ゾワッ

紅莉栖「目の前の景色が歪んだ。私の目の前に封筒を手に取って文書を読む男性が居た」

倫子「や、やはり犯人は男だったのか!」

紅莉栖「……っ。たぶん、パパと同じくらいの風体だったから、歳は40代半ばってところ」

紅莉栖「そこに、白い布、たぶん、白衣が映ったの」

倫子「白衣……?」

紅莉栖「たしか、ラジ館で私と岡部は出会っていたのよね? その印象が向こうの私にも記憶として強く残っていたのかもしれない」

倫子「確かに、あの時の紅莉栖はやたらとオレに突っかかってきたな……」

紅莉栖「私の記憶は都合よく改変されて、パパと岡部がもみあってるみたいに見せられた。そんなわけないのに、まったく脳ってのは厄介よね」ハァ

紅莉栖「そして、ナイフがお腹に刺さって……なんて言えばいいか、死ぬほど痛かった。まあ、死んだんだから当たり前か」

倫子「……っ」

紅莉栖「駅前の人通りの中で、絶叫しながら卒倒しちゃった……。救急車を呼ばれそうになったから走って逃げたけど」

紅莉栖「自分の死の記憶があるのって貴重なサンプルよね。正直、今すぐ大学に戻ってデータを――」

倫子「バカぁっ!!!」ヒシッ

紅莉栖「お、岡部……」

296 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/15 05:38:38.59 bP+CT+NFo 829/2638


倫子「お前だって、怖かったに決まっているっ! オレの前で変に強がるな、バカモノっ!」ギュッ

紅莉栖「ご、ごめん……」

紅莉栖「あ、でも次は肉体的に死ぬわけじゃないから、痛い思いはしないはずよ! だから岡部は心配せずにβ世界線に切り替えていいからね?」

倫子「紅莉栖のバカぁっ……アホぉっ……」ヒグッ

紅莉栖「……どうして私って、こういう時に気の利いた言い回しができないかな。もう」ハァ

紅莉栖「正直に言う。死ぬほど怖かった。今夜は悪夢決定ね」

倫子「一緒に居てやる。朝、目が覚めるまで、隣に居てやるっ」グスッ

紅莉栖「あ、ありがと」

297 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/15 05:41:33.87 bP+CT+NFo 830/2638


紅莉栖「その後ね、ホントに私とフェイリスさんが幼馴染なのかをメイクイーンに確認しに行ったのよ」

倫子「父親同士が大学の同期なのだろう?」

紅莉栖「フェイリスさんからそう教えてもらって、ビックリしたわ。そしたらフェイリスさんの家に招待された」

紅莉栖「歴史の闇に葬られた貴重な資料がーとかなんとか言ってたけど、パパとフェイリスさんのパパ、あと橋田教授の研究データが音声で残っててね」

倫子「そう言えばフェイリスのパパさんがそんなこと言ってたな……」

紅莉栖「……私は、かつて自分がパパにどれだけひどいことをしてしまったか、思い知らされた。パパがタイムマシン研究に熱中していたのは、亡くなってしまった親友と教授との絆があったからだったのに……」

紅莉栖「それなのに私はパパのタイムマシン理論を全否定した。完全に論破した」

倫子「……そうだったな」

紅莉栖「やっぱり、こんな私なんて居ない方がいいって思ったりもしたけど、フェイリスさんに説得されてパパに電話したの」

倫子「それであのメールの内容か」

紅莉栖「1度壊れてしまった絆は、2度とは取り戻せない。時間の流れが不可逆的である限り」

倫子「父親になんて言われたんだ? 以前お前は父親に嫌われているとは言っていたが、死刑宣告ってのは一体――」

紅莉栖「……『よく憶えておけ。貴様という存在はもうすぐ消えて無くなるのだ!』だって」

倫子「なっ!?」

紅莉栖「笑っちゃうわよね。言われなくても、もうすぐ、き、消えるって、言う、の、に……っ」グッ

倫子「……お前は、確かに今、ここにいるっ」ダキッ

紅莉栖「……うん」

298 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/15 05:42:55.86 bP+CT+NFo 831/2638


紅莉栖「とゆーかだな、私のことは後でいい。どうせなかったことになるんだから」

倫子「そんな言い方――」

紅莉栖「私が思い出した記憶は自分の死についてだけじゃない。まゆりを必死で助けようとする岡部のことも思い出してる」

倫子「なっ……」

紅莉栖「たぶん、あんたがなかったことにしてきた世界線での記憶。そして、そんな岡部に私は手助けしたい、協力したいって思った」

紅莉栖「岡部の決心はついたの?」

倫子「……さっき、まゆりに会ってきた。オレは、死ぬまでまゆりを人質にすることを誓った」

紅莉栖「その様子だと、腹は決まったみたいね。良かった」ニコ

倫子「……っ」ギリッ

紅莉栖「まゆりには話したの?」

倫子「……いや、話す必要はない」

倫子「あいつは、知らなくていいんだ。悪い夢は、きっとそのうち忘れるだろう」

紅莉栖「……そう。それが岡部の選択なのね」

紅莉栖「まあ、私としてもまゆりに変な罪悪感を負わせるなんてまっぴらごめんだから、それで良かったと思うわ」

紅莉栖「最悪のケースとして、私が岡部に、まゆりを見殺しにしろって言わなきゃいけない覚悟もしてたけど、取り越し苦労になったみたいね」

倫子「……オレが簡単に、諦めたと思うか? お前を、見捨てる覚悟ができたと思うか!?」

紅莉栖「でも諦めた。過程はどうあれ、結果は収束する。それでいいのよ、岡部」

紅莉栖「まゆりを助けて。そうしないと、あんたの心が本当に壊れちゃうから」

倫子「オレはっ! それでもお前を、失いたくない……っ!」グッ

紅莉栖「岡部……」

299 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/15 05:44:06.96 bP+CT+NFo 832/2638


紅莉栖「我がまま言っても仕方ないじゃない。世界を救うためには、タイムマシンの母を消すしかない」

倫子「紅莉栖を見殺しにして生きていくことに、なんの意味がある……っ」グスッ

紅莉栖「あんたには、まゆりだけじゃない、阿万音さんの願いも、ひいては未来の橋田や私たちの願いも託されてる」

倫子「ダメだっ! クリスティーナはオレたちの大切な仲間だっ! オレはお前も見捨てないっ!」ウルッ

紅莉栖「……ああ、もう。かわいいな畜生」

紅莉栖「聞いて、岡部」

紅莉栖「私は、まゆりを犠牲にしてまで生きていたくない」

紅莉栖「もしまゆりを助けなかったら、あんたを一生恨むから」

倫子「くぅ……」ポロポロ

紅莉栖「……目、真っ赤。今日1日中泣いてるのね」ハァ

紅莉栖「あのね、私、事あるごとに岡部のこと大好きアピールしてきたけど、岡部が特別ってわけじゃないから」

倫子「え……?」グスッ

紅莉栖「可愛い女の子が好きなだけ。とゆーかあんたは、自分はノーマルだってさんざん主張してきたわけで」

紅莉栖「私のことなんか忘れて、素敵な人を見つけなさい。それで幸せになりなさい」

紅莉栖「そしたらきっと、α世界線での出来事は全部ただの夢になるから」

倫子「お前は……夢なんかじゃない……ここに、いるのに……っ!」ダキッ

紅莉栖「……ありがとう。私のために、そこまで苦しんでくれて」ギュッ

300 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/15 05:45:07.20 bP+CT+NFo 833/2638


紅莉栖「ねえ岡部。そのまま聞いて」

倫子「…………」ギュッ

紅莉栖「あらゆる時、あらゆる場所に自分がいる」

紅莉栖「誰かを愛する強い気持ちが、何かを信じる強い感情が」

紅莉栖「何かを伝えたいと思う強い思いが」

紅莉栖「時を超え、繋がって、今の自分があるのだとしたら――」


  『きっと、7000万年後の秋葉原にいる、オカリンとまゆしぃまで、意志は連続していくんだって思うな』


紅莉栖「それは、素晴らしいこと」

倫子「…………」グスッ

紅莉栖「だから、見殺しにするなんて思わないで」

紅莉栖「世界線が変わってもたった1人、岡部が忘れなければ私はそこにいる。だから……」

倫子「……お前のことは、絶対に、忘れないっ」

301 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/15 05:46:17.69 bP+CT+NFo 834/2638


紅莉栖「もうじゅうぶん。私は大丈夫だから、後は、まゆりのことだけ考えて」

倫子「オレは……オレはぁっ……」ポロポロ

紅莉栖「ごめんね、岡部……。こんな可愛い子に、こんなつらい選択を強いるなんて、神様は何考えてるんだか」ナデナデ

紅莉栖「今だけは神様にマザーファッカーと言ってやりたい気分だわ」

倫子「どんな気分だよ……グスッ……」

紅莉栖「岡部1人がどれだけ頑張ったって、世界の意志には勝てない。だから、自分を責めないで」

倫子「…………」

倫子「……離れろ」トンッ

紅莉栖「お、岡部?」

倫子「お前は……オレが1人ではなにもできないと、そう言いたいのか」

紅莉栖「事実でしょ。今までもそうだった。あんたはいつも誰かの助けを借りないと何もできない」

紅莉栖「阿万音さん、フェイリスのパパさん、未来の橋田、そして、私……」

紅莉栖「私は、もう、あんたを助けられないから……ごめん……」

倫子「……お前がオレの何を知っているというのだ。たかだか2週間ちょっとの付き合いで」

倫子「何も知らないくせに、できないと決めつけるなぁっ!!」


  『何も知らんくせに、無理だと決めつけるなッ!!』


紅莉栖「……っ!!」ビクッ!!

302 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/15 05:46:47.59 bP+CT+NFo 835/2638


紅莉栖「ご、ごめん……そうよね、私なんて、赤の他人だもの……」

紅莉栖「1人で勝手に舞い上がってた。うぬぼれてた。訂正する」

倫子「オレにだってできることぐらい、ある」

倫子「今から一緒に青森に行くぞ」

倫子「お前のクソ親父に土下座させてやる」

紅莉栖「そうね、それならできるかも……」

紅莉栖「…………」

紅莉栖「…………」

紅莉栖「ハァッ!?!?」

303 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/15 05:47:48.24 bP+CT+NFo 836/2638


倫子「金ならいくらでもなかったことにできる。今からなら、寝台で行こう。それなら青森駅に明日の朝には着ける」

紅莉栖「"Wait, wait!!" 岡部、それマジで言ってんの!?」

倫子「オレはお前と約束した! 未来のお前とも、何度も約束した! 青森へ行って、父親と会うとなっ!」

紅莉栖「い、いや、えっと、心の準備がだなっ!」

倫子「服や靴は道中で適当に高そうなのを買う。あとドラッグストアで化粧品も買わなければな……」ブツブツ

紅莉栖「わ、私、パパに、憎まれてるのよ!? お前なんて、消えてなくなればいいって――」

倫子「それがどうしたっ!!」

紅莉栖「っ……」

倫子「可能性が有る限り挑戦するのが科学者なんじゃなかったのか? 一度や二度の失敗で簡単に諦めてしまうのか?」

紅莉栖「い、一緒にしないでよ……それに、これは私の家族の問題で、岡部には関係ないでしょ……」プルプル

倫子「いいや、関係がある! 言ったはずだ、お前は大事なラボメンなのだと!」

紅莉栖「……それ言われたら、反論できないじゃない」ウルッ

倫子「論破厨、ここに破れたりっ! ボサッとしてないで行くぞ、クリスティーナ!」

紅莉栖「パパの前ではティーナをつけないでよぉっ!?」

304 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/15 05:50:22.92 bP+CT+NFo 837/2638

2010年8月16日月曜日
NR青森駅


モブA「おい、見ろよ、あれ……」

モブB「モデルか!? アイドルか!?」

モブC「なんだあの美少女……」


ヒソヒソ ヒソヒソ


倫子「おまたせー……紅莉栖? どうしたの?」キラキラ

紅莉栖「ど、どど、どどど、どちら様でしょうか……」

紅莉栖「(すっごい美人が、そこに居た)」

紅莉栖「(アメ横で買ったにしては今風の女子大生ルックに、果実のようなリップ……なにより、麗しさを感じさせる髪を下ろしたミディアムヘアとモデル体型のボディラインが目に刺さる……)」

倫子「何の冗談よ。岡部倫子だけど」クスクス

紅莉栖「(言葉遣いや立ち振る舞いに気品を感じる……なんだこのペルソナ使いは……)」ビクビク

倫子「別に、多重人格ってわけじゃないよ? ちょっとテンションをよそ行きに着飾ればこうなるってだけ」

紅莉栖「確かに今までもちらほら素の岡部が見え隠れしてたけど、全開だとこうなっちゃうわけね……」

倫子「この女の子女の子した恰好だと、仮に私の身になにかあった時、世間様はまず私の味方をしてくれる」

倫子「そんな周囲が嫌で、今まではこういう喋り方とか仕草とかを封印してたんだけど」

倫子「これなら私が紅莉栖のパパを怒らせても、私に手をあげられないでしょう?」ニコ

紅莉栖「(はうあっ!)」ドキューン!!

紅莉栖「……もしかして岡部、私をパパから守るためだけにそこまでしてくれてるの?」

倫子「……こっちの私は嫌い?」ウルッ

紅莉栖「大好物です」^q^

305 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/15 05:51:05.23 bP+CT+NFo 838/2638

牧瀬家


倫子「ここね」ピンポーン

紅莉栖「ちょっとぉ!? どうしてそんなに行動的なのよぉ!?」ブルブル

倫子「時間が無いんだから仕方ないでしょ」ピンポピンポピンポーン

紅莉栖「ひぇぇ……ホントに実家に帰って来ちゃうなんて……」ガクガク

??『誰だッ! 朝から騒々しい!』

倫子「私、紅莉栖お嬢さんのお友達の、岡部倫子と申します。今日は章一さんにお話があって東京から来ました」

??『紅莉栖の……? 2度と連絡を取るなと言ったはずだ』

倫子「私があなたに言いたいことがあるんです。いいえ、私だけじゃありません」

倫子「秋葉幸高さんも、橋田鈴さんも、あなたに言いたいことがあると」

??『何だと……? わかった、入れ』プツッ

倫子「ほら、ね?」ニコ

紅莉栖「倫子ちゃんってこんなに頼もしかったっけ……?」

倫子「今だけは倫子ちゃんって呼んでね」

306 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/15 05:52:27.20 bP+CT+NFo 839/2638

牧瀬家 応接間


倫子「随分汚い家ね……あちこちに書類が散乱してる」

紅莉栖「7年間も1人暮らししてるからね。掃除もろくにやってないんだと思う」

ガチャ

??「……何の用だ」

紅莉栖「あ……パパ……えっと、久しぶり……」

倫子「(ん? この顔、どこかで見たような……って)」

倫子「あぁーっ!? ドクター中鉢!?」

中鉢「(なんだこの絶世の美少女は……紅莉栖とどんな関係なのだ?)」

紅莉栖「えっと、倫子ちゃん? 言ってなかったっけ」

紅莉栖「私のパパ、牧瀬章一は、中鉢博士っていう芸名でテレビに出たりしてて……」

中鉢「芸名ではないッ!!!」ドンッ!

倫子「きゃっ!」ビクッ!!

紅莉栖「ヒッ……ご、ごめん……」ビクビク

倫子「(壁のあちこちが凹んでいる理由はコレか……)」ドキドキ

中鉢「……岡部とか言ったな。あんたが余計な真似をしてくれたのか。何のつもりだ」

中鉢「用件だけ済ませてとっとと帰ってもらおうか」ギロッ

倫子「(お、落ち着け……うちの親父の方が頑固親父度は高いんだから、どうってことないはず……)」プルプル

紅莉栖「(倫子ちゃん、男性恐怖症なのに、私のためにがんばってくれてる……!)」

307 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/15 05:53:41.40 bP+CT+NFo 840/2638


倫子「パパさん、紅莉栖に謝ってください。私がここに来た最大の目的はソレです」

中鉢「なに?」

倫子「身に覚えが無いとは言わせませんよ。何度も何度も自分の娘に死ねばいいだの消えればいいだのと言い放っておいて、ネグレクトはなはだしい」

中鉢「…………」

紅莉栖「ちょ、ちょっと倫子ちゃん……」

倫子「その原因が、タイムマシン研究にあるというのなら、なおバカバカしい」

中鉢「――っ! 貴様も私の研究を馬鹿にするのかっ!!」ドンッ!

倫子「あ、あなたが何のためにそこまでタイムマシン研究に執着しているのか、その原因がバカバカしいと言っているんです!」ビクビク

中鉢「何を知った風な口をっ!」バンッ!!

倫子「(こ、こわい……が、ここは畳みかけるっ!)」ドキドキ

倫子「橋田鈴はっ!! 2036年から1975年へと跳んだタイムトラベラーだっ!!」

紅莉栖「ふぇっ!? それ言っちゃうの!?」

中鉢「な……なにを荒唐無稽な……」

倫子「私のラボが、彼女の乗るタイムマシンを造り上げるんです。2033年に」

倫子「18歳の彼女が、2010年の私のところへ訪ねて来て、そう教えてくれました」

中鉢「そ、そんな、馬鹿な……いや、しかし、なるほど……」

308 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/15 05:55:27.63 bP+CT+NFo 841/2638


紅莉栖「パパ? こんなトンデモ話、信じるの?」

中鉢「トンデモなものか……橋田教授と付き合いが一番長いのは他でもない、私だ」

紅莉栖「あ、そっか……」

中鉢「教授がタイムトラベラーではないかという疑念が生まれたのは、私が大学に入ってすぐのことだ」

倫子紅莉栖「「えぇっ!?」」

中鉢「あの若さにして助教授、しかも当時男社会だった学会において紅一点、未来を予知するような奇抜な論文でその地位を獲得していた人物の秘密を探ろうと、私は彼女の研究室に忍び込んだ」

中鉢「そこで目にしたのは、1冊のタイムマシン研究ノートだったのだ」

倫子「(鈴羽も自分の父親の背中を追いかけていたのね……)」

中鉢「私も小さい時、タイムマシンを夢想したことがあった。だが、そんなものは空想小説の世界の話に過ぎない」

中鉢「そう思っていた当時の私にとって、教授との出会いは衝撃だった……」

中鉢「無論、教授は自分がタイムトラベラーであることを全力で否定していたがね。しかし、教授は嘘を隠すのが下手だった」

紅莉栖「(でしょうね)」

倫子「(でしょうね)」

中鉢「だが、私はタイムパラドックスに気が付いてしまったのだよ」

中鉢「教授は一体、誰が造ったタイムマシンで過去へ来たのか」

中鉢「もしこのまま世間が、学会が、タイムマシンなど空想の産物だと一笑に付し続けていれば、教授の存在は消滅してしまうはずだ」

中鉢「逆に言えば、教授が存在している限り、タイムマシンは必ず造れるということ」

中鉢「それならば……私にもタイムマシンを造ることが可能なはずだと、確信を得たのだ」

倫子「ですが、橋田鈴さんの乗ったタイムマシンは、あなたが造った物ではなかった」

中鉢「……その可能性も、もちろんあった」

309 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/15 05:56:08.29 bP+CT+NFo 842/2638


倫子「おそらく、あなたがタイムマシン研究に執着しているのは、それだけが原因じゃない」

倫子「秋葉幸高さんは、あなたの親友だった」

中鉢「…………」

紅莉栖「えっと、倫子ちゃん? どういうこと?」

倫子「タイムマシンがあれば、死者は蘇る」

紅莉栖「えっ……あっ!」

中鉢「……そうだ。その通りだ。私は、理不尽極まりない命の奪われ方をした幸高を、救いたかったのだ……!」

倫子「2000年4月2日、飛行機事故の唯一の死者、でしたね」

中鉢「あんなもの、何かの陰謀だッ! 幸高の会社が立ち直っていくのを妬んでいた何者かによって仕組まれた暗殺だったのだッ!」

倫子「(この人は、まゆりを救うための解を探し続けた私と同じように、一縷の望みに縋り続けていたんだ……10年もの間、ずっと……)」

倫子「(タイムマシンは、魔物だ……)」

310 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/15 05:56:42.10 bP+CT+NFo 843/2638


紅莉栖「ごめん……ごめんなさい、パパ……」

紅莉栖「パパにとってそこまで大切な研究だったのに、何も知らない私がしゃしゃりでちゃって……」グスッ

中鉢「岡部倫子と言ったな。これは私の推測だが」

中鉢「――あんたも、タイムトラベラーだな?」

倫子「……これだけ色々しゃべったらバレますよね」

中鉢「それならばどこかにタイムマシンがあるはずだ!! この時代で既に実用的なものとは思えんが、あるいは2036年からもたらされたか!?」ガシッ

倫子「ひぃっ! な、なにを――」ゾワワァッ

中鉢「今すぐそれを使わせろッ!! 金ならいくらでも払うッ!! だから私を過去へ――」ユサユサ


??「やり直したい過去があるから、ニャ?」


紅莉栖「えっ!?」

311 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/15 05:57:55.78 bP+CT+NFo 844/2638


倫子「ふ、ふぅ、助かった……早かったね、フェイリス」

紅莉栖「ど、どういうこと!?」

フェイリス「凶真から昨日の夜メールがあって、"あるもの"を届けるよう頼まれたのニャ」

フェイリス「ここまで来るのに黒木に飛ばしてもらったニャン」

黒木「お久しぶりにございます、牧瀬章一様」

中鉢「あ、あんたは、幸高のとこの……」

倫子「仕事が忙しいのに、急に呼び出してごめんね」

フェイリス「2人はフェイリスの幼馴染なんだニャ! 2人のピンチには馳せ参じるのがフェイリス流ニャ!」

倫子「私に対しては一方的な幼馴染でしょうに……」

フェイリス「ちなみにお店の方はマユシィにお願いしたら快く臨時バイトに入ってくれたニャン♪」

紅莉栖「そっか、フェイリスさんが登場するのをわかってたから倫子ちゃんはこんなに押せ押せだったのね……」

フェイリス「で、持ってきたブツがこれニャ」スッ

紅莉栖「これって……ラジカセ?」

倫子「フェイリスのパパさんから聞いた通り、やっぱりあったね」ニヤニヤ

中鉢「……っ!? ま、まさかっ!!」

フェイリス「章一ニャンも覚い出したかニャ? 2003年7月25日、章一ニャンがフェイリスの家に来て吹き込んだテープだニャ」

紅莉栖「それって、私の11歳の誕生日……」

中鉢「や、やめろ!! それを再生するんじゃない!!」

フェイリス「黒木」

黒木「はい、お嬢様」ガシッ

中鉢「な、何をする!? 離せ、離せぇっ!!」ジタバタ

フェイリス「離さないニャーン♪ ポチッとニャ!」


カチッ……

312 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/15 05:58:24.99 bP+CT+NFo 845/2638


「2003年7月25日……」

「第……えー、第……何回目だったかな。とにかく、"相対性理論超越委員会"」

「……もう、幸高も橋田教授もいない……」

「2人とも……亡くなってしまった……」

「あの頃の私たちはあんなにも……」

「タイムマシンを作ろうという夢に溢れていたのにな……」

「あの頃に戻りたいよ……」

「そうしたら今度こそ、絶対に」

「タイムマシンを作ってみせる」

「娘に論破されないような……完璧なタイムマシンを……」

313 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/15 05:58:56.53 bP+CT+NFo 846/2638


「……なぁ、幸高……。それでな……」

「私は……俺はっ……」

「タイムマシンを使って、やりたいことがあるんだ……」

「今日、娘にひどいことを言ってしまった……」

「あの瞬間に戻って自分に言ってやるんだ」

「娘を、紅莉栖を……」

「傷付けるな、と……」

「感情に身を任せて家族の絆を壊すな……と……」

「俺は……あんなことっ……」

「言いたくなかったんだ……ッ!!」



ジー…… カチャ 

314 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/15 06:00:22.43 bP+CT+NFo 847/2638


フェイリス「ニャフフゥ」ドヤァ

倫子「フフフ」

中鉢「くっ……」

紅莉栖「パパ……」

フェイリス「カードは出し惜しみせず、切れる時に切るのが雷ネッター王者のプレイングニャ! 黒木!」

黒木「はい、お嬢様」スッ

中鉢「……ッ!? そ、それはッ!?」

黒木「章一様のお忘れ物でございます」

フェイリス「同じ日に章一ニャンがうちに置いていったのニャ」

倫子「中身は銀のフォーク……そうですね、章一さん」

中鉢「なぜそれをッ!? そ、そうか、タイムトラベルで見てきたのだな……ッ!!」

紅莉栖「えっ? えっ?」

フェイリス「クーニャン。開けてみるニャ」

紅莉栖「う、うん……あ、メッセージカード……」


  『11歳の誕生日おめでとう紅莉栖 パパより』


紅莉栖「……ホントだ。ちょっと子どもっぽい、銀のフォーク……」

中鉢「………………………………」

黒木「そのプレゼント箱を握りしめたまま、疲れた顔をして秋葉家を訪ねてこられた時のこと、今でもよく覚えております」

フェイリス「クーニャンは、否定なんてされてなかったんだよ」

フェイリス「フェイリスと違って、クーニャンとクーニャンのパパは、まだ繋がってるんだよ」

フェイリス「絆を結び直すこともできるんだよ、"クリスちゃん"」

315 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/15 06:01:56.52 bP+CT+NFo 848/2638


フェイリス「章一さんがうちに来た後、私はクリスちゃんが心配になって、黒木に頼んで、クリスちゃんが東京に来るってタイミングで会いに行ったの。覚えてる?」

紅莉栖「覚えてる……忘れるわけ、ないじゃない……」

紅莉栖「倫子ちゃんと引き合わせてくれた日のこと……」グスッ

倫子「そういうことだったのか……」

紅莉栖「でも、どうしてフェイリスさんが私のためにここまで? 幼馴染って言っても、そんなに親しかったわけじゃないのに……」

フェイリス「……パパのお葬式の時、一番つらくて、1人ぼっちになっちゃったって思ってたとき」

フェイリス「私を救ってくれたのは、クリスちゃんだったんだよ」

紅莉栖「私が……?」

フェイリス「ずっと嫌がってたのにおそろいの髪型にしてくれたあなたが、『1人じゃないよ、私がいるよ』って言ってくれた気がして」

フェイリス「橋田鈴さんだけじゃない。私のパパと、章一さんが私たちを出会わせてくれたんだよ」

中鉢「…………」

フェイリス「巡り巡って、私たちはみんな繋がってるんだよ」

紅莉栖「……ありがとう、"留未穂"。ありがとう、パパ……」

紅莉栖「ありがとう、ありがとう……」ポロポロ

316 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/15 06:03:19.19 bP+CT+NFo 849/2638


フェイリス「章一さんが否定したかったのは、クリスちゃんの存在じゃなくて、自分がクリスちゃんにひどいことを言ってしまった歴史の方だったんですね」

中鉢「ぐっ……勝手にそう思えばいい」

倫子「あなたは、タイムマシンしか手段がないと思っているかも知れない」

倫子「けど、そんなのは言い訳です。タイムマシンでどれだけの人が傷つくか、あなたは知らないんだ」

倫子「そんなものに頼らず……あなたには今すぐできることがあるじゃないですか」

中鉢「知った風な口を聞くなと……」

紅莉栖「パパ……」

フェイリス「大の男のツンデレは、可愛くないニャン♪」

倫子「アナクロな頑固親父よね。まあ、うちの親父には負けるけど」

紅莉栖「外野は茶化すなぁっ!」

フェイリス「ほらほら~、章一ニャン? クーニャンになにか言うことはないかニャ? 無いならクーニャンを東京に連れて帰っちゃうニャよ~?」

中鉢「とっとと帰れッ!! まったく、人の家に勝手に押しかけて、ふざけた真似をしてくれるっ」

倫子「……私は、世界を元に戻すように橋田鈴さんに頼まれています」

中鉢「なに……?」

317 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/15 06:04:03.24 bP+CT+NFo 850/2638


倫子「このままだと、世界はタイムマシンによってディストピアとなってしまうんです。だから、そんなタイムマシンの生まれない世界へ到達しなくてはならない」

紅莉栖「…………」

中鉢「ディストピア? フン、まるでH.G.ウェルズの『タイム・マシン』ではないか。空想科学の典型だな」

倫子「それが意味しているのは、あなたの研究をも無に帰さなければ、橋田鈴さんの願いは達成されないということ」

中鉢「……本当、なのか?」

倫子「あと24年経てばわかることです。そして、その選択はあと1日のうちにしなければならない」

倫子「だから、私たちには時間が無いんです」

倫子「今ここで、あなたの口から、あなたの言葉が聞きたい」

中鉢「…………」

中鉢「……………………」

中鉢「…………………………………………紅莉栖」

紅莉栖「は、はいっ」

中鉢「……良い友を持ったな」

紅莉栖「……うんっ」

318 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/15 06:05:04.11 bP+CT+NFo 851/2638

牧瀬家 外


倫子「お邪魔しました。ちゃんと掃除して、お洗濯して、栄養のあるもの食べてくださいよ?」

中鉢「貴様らに指図される筋合いはないッ」

フェイリス「章一ニャンって、鳳凰院モードの凶真そっくりだニャ」

倫子「は、はぁ!? 私があんな風に見えるの!?」

紅莉栖「……言われてみればそうかも。もしかして、私ってとんだファザコンだったの……?」

倫子「嘘でしょ……もう鳳凰院モードやめようかな……」ガックリ

フェイリス「そう言えば、IBN5100をルカニャンの神社に奉納した時、橋田さんの遺言でもう1つ奉納したものがあったんだニャン」

中鉢「神社だと? もしかして、教授が後生大事に持っていた巫女服か?」

倫子「は?」

319 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/15 06:07:06.36 bP+CT+NFo 852/2638


中鉢「当時のゼミ生から橋田教授七不思議の1つとされていてな、教授の自宅には男物の巫女服がある、という」

紅莉栖「それって、間違いなく漆原さんのよね……」

フェイリス「その通りニャ!」

黒木「奉納の際、漆原栄輔様より聞いたのですが、なんでもご子息が産まれた頃に『きっとこの子には巫女服が似合う』という予言を残していった三つ編みの白衣の女性が居た、と」

中鉢「間違いなく教授の仕業だな。教授ならやりかねん」

倫子「間違いなく鈴羽の仕業ね。鈴羽ならやりかねない」

フェイリス「フェイリスが男物の巫女服をルカニャンのパパに渡したことで、ルカニャンのパパは自分の息子に巫女服を着せる天啓を授かったんだニャン♪」

黒木「あとで聞いた話ですが、栄輔様曰く"2人居る娘の妹の方に巫女の仕事を手伝わせている夢"をよく見ていたので、違和感は感じなかったとのことです」

紅莉栖「……ふふっ。タイムマシンって、不思議ね」

倫子「ホント、不思議だね」ニコッ

フェイリス「2010年になったら巫女服が超似合う白衣の美人さんが秋葉原に現れるとも言われたらしいニャン」

倫子「神主が私に対してHENTAIだったのもお前の仕業かよぉっ!! うわぁん!!」

黒木「それでは皆さま、お車へどうぞ。秋葉原まで帰りましょう」

320 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/15 06:08:40.35 bP+CT+NFo 853/2638

車中


倫子「ふぅーはははぁ! ドクター中鉢、おそるるに足らずっ!」シュババッ

紅莉栖「ちょ、パンツ見えちゃうわよ! 股閉じて股っ!」ハァハァ

フェイリス「その恰好で鳳凰院モードになるのもちぐはぐだニャァ~。せっかくの美人さんが台無しニャ」

倫子「知ったことではないわっ! とにもかくにも、こうして我が野望は1つ達成されたのだっ!」

紅莉栖「2人とも、本当にありがとう」エヘヘ

フェイリス「当然のことをしたまでニャ!」

紅莉栖「……私ね、勘違いしてた」

紅莉栖「阿万音さんにも言われたけど、私が生まれてきたことが人類の不幸へと直結してて」

紅莉栖「まゆりの命が奪われることとも結びついてて……」

フェイリス「……やっぱりあの夢は、マユシィが死んじゃう夢は、本当のことだったんだニャ……」

紅莉栖「だから私はこの世界から消えなくちゃいけないんだって思ってた」

紅莉栖「1人で、ひっそり、誰にも知られずに」

倫子「……それは、違うぞ」

紅莉栖「うん」

紅莉栖「消えちゃうかもしれないけど、私の気持ちを、伝えてもいいんだって……わかったの」

フェイリス「クーニャンが凶真のことを好きだってこと? みんな知ってるニャン」

倫子「アホほど喚き散らしていたからなぁ」ニヤニヤ

紅莉栖「ぐはぁっ!!!」

321 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/15 06:09:49.48 bP+CT+NFo 854/2638


紅莉栖「そ、それもあるけど、ね。そうじゃなくて、私の理性的な部分が否定してきたことがあるの」

倫子「なんのことだ?」

紅莉栖「……第3の選択肢、よ」

倫子「っ!?」

紅莉栖「こんなの、全然論理的じゃない。それこそファンタジー丸出しで、これまでの私なら考えもしなかったけど」

紅莉栖「岡部ならきっと……やり遂げちゃうのかも」

紅莉栖「私がずっと無理だと思い込んで、目を背けて、逃げ続けていた父との再会も、こんなにあっけなくやり遂げちゃったんだから」

倫子「フッ。狂気のマッドサイエンティスト、鳳凰院凶真に助手風情の望みを達成できぬわけがなかろう!」

紅莉栖「……これからとんでもなく無責任なことを言うぞ」スゥ ハァ


紅莉栖「――もしかしたら、私も消えなくて、まゆりも死なない幸せな結末があるかもしれない」


倫子「な……!?」

紅莉栖「可能性世界線が無限に存在するというなら、そういう可能性も無きゃおかしい」

紅莉栖「それに、たとえこの現在(いま)が消えてしまっても、どこかの世界線でも私たちは今日みたいに巡り合うはずだから」

紅莉栖「巡り合わせの奇跡に、意志の継続に、賭けてみてもいいかも、って思ったの」

倫子「オレは、お前を助けられるのか……!?」

322 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/15 06:10:44.29 bP+CT+NFo 855/2638


紅莉栖「方法なんてわからない。もしかしたら、そこへたどり着くまでの道のりは、それこそ無限遠っていう理論上の存在なのかもしれない」

紅莉栖「ううん、岡部も忘れているだけで、私たちは既に長い長い旅を続けてきたのかも知れない」

紅莉栖「中には挫折して、諦めてしまった私たちもいるのかもしれない。心を壊して、立ち直れなくなった岡部も居るかもしれない」

紅莉栖「それでも――私は、岡部を信じる」

倫子「(こいつと一緒にラボに泊まった時から、オレはずっとこの言葉が聞きたかった……)」

倫子「岡部ではない。鳳凰院凶真だっ」

紅莉栖「……うんっ」

フェイリス「2人でイチャイチャしてないで~、フェイリスも混ぜてほしいニャン♪」

紅莉栖「イ、イチャイチャなどしとらんわっ!」

倫子「そんなこと言ってフェイリス、オレからお前に抱き着こうものなら卒倒するではないか」

フェイリス「ニャッ!? ニャぜそれを……!」

倫子「ほら。今日はありがとうな」ダキッ

フェイリス「ニ゛ャ゛ッ゛!? 美人モードの凶真が、フェイリスの肉体を優しく包み込み―――」バタッ

紅莉栖「こりゃ重症だわ」

倫子「ヒトのことを言えるのかお前は」

黒木「皆さま、到着致しました。ブラウン管工房前です」

323 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/15 06:11:31.03 bP+CT+NFo 856/2638

未来ガジェット研究所


倫子「(気絶したフェイリスを車に残して、紅莉栖とオレの2人はラボに入った)」

倫子「もうすっかり夜だな。青森まで往復したのだから当たり前か」

紅莉栖「……今更なんだけど、私、あんたに呪いをかけちゃったかも」

倫子「呪い?」

紅莉栖「私が助かる可能性……こんなもの、死への恐怖から来る、ただの幻想に過ぎないのに……」

紅莉栖「もし、ね? β世界線へ行って、もうどうしようもなかったら、私を助けることは諦めて欲しい」

紅莉栖「あんたが壊れちゃうのは、私は望まないから」

紅莉栖「『やっぱり無理だ』って判断したら、人並みの生活を送るべきよ。普通に大学を卒業して、社会人になって、結婚して、子ども作って……」

倫子「……相変わらず言うことが二転三転する面倒くさい女だな、お前は」

324 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/15 06:12:09.11 bP+CT+NFo 857/2638


倫子「オレはお前が好きだ、紅莉栖」

紅莉栖「…………」

紅莉栖「…………」

紅莉栖「"I beg your pardon?"」

倫子「英語で返すなよ……。もう1度言う、オレはお前が―――」

紅莉栖「わー! わー! わー! い、言わなくていいっ! 言わなくていいからぁっ!!」

倫子「聞いてくれ紅莉栖っ! お前のことは、絶対に忘れない」

倫子「誰よりも大切な人のことを……忘れたりしない……!」

紅莉栖「(ひぃ~っ///)」

紅莉栖「ま、まま、まゆりのことはどうすんのよ!? ハーレム系主人公ですかそうですか!?」

倫子「オレはまゆりも好きだし紅莉栖も好きだ。それじゃ、嫌か?」

紅莉栖「最高です」^q^

325 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/15 06:12:54.55 bP+CT+NFo 858/2638


倫子「お前は、オレのこと、好き、だよな?」

紅莉栖「うぐっ! ……い、今だけは、答えさせないでっ」

紅莉栖「言葉にするの、恥ずかしすぎる……」カァァ

倫子「今まで何度も自分から愛を叫んでいたくせに」フフッ

紅莉栖「ホントに……ホントに私のこと、忘れない?」

倫子「ああ」

紅莉栖「まゆりのことを忘れてた前科があるのに?」

倫子「ぐっ!? 結構エグいところを突いてきおって……鬼か貴様は……」

紅莉栖「それでも、覚えていてくれるのね?」

倫子「……ああ」

紅莉栖「……目を閉じろ」

倫子「な、なぜ目を……」

紅莉栖「いいからっ!」

倫子「…………」

紅莉栖「んっ……」チュ



倫子「(かすかにレモンの香りがした気がした――)」



326 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/15 06:14:11.48 bP+CT+NFo 859/2638


倫子「……この百合女め」

紅莉栖「べ、別にしたくてしたんじゃないから! より強烈な感情と共に海馬に記銘されたエピソード記憶は、忘却されにくいのよ!」

倫子「というかお前、フェイリスに殺されるぞ」

紅莉栖「あっ、しまった」ゾワッ

紅莉栖「で、でも、今まで純潔を守ってきた倫子ちゃんなら、ファーストキスのことについて精緻化リハーサルが行われるはずで、それはすぐに長期記憶になって、そうそう忘れないかなって思って……それで……」

倫子「……残念だったな。オレは、これがファーストキスではない」

紅莉栖「ふぇ!? で、でもフェイリスが岡部はキス経験は無いって――」

倫子「まゆりと小学生の頃にふざけあってキスした覚えがある」

倫子「(それにまあ、昨日もしたしな……)」

紅莉栖「ハァ!? ちょ、聞いてないんですけど!! 守護天使団の情報ガバガバじゃない!!」

紅莉栖「……そっか。倫子ちゃんは、初めてじゃなかったんだ……」シュン

倫子「そうだ。だからキスでは印象が弱い。長期記憶にはならないかもしれない」

紅莉栖「え……?」

倫子「だから、もう一度だ。絶対に忘れたくないから、念には念を入れる」

紅莉栖「そ、それなら、しょうがないな……」

倫子「ああ……」ダキッ

紅莉栖「んぅ……」チュ

327 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/15 06:14:59.16 bP+CT+NFo 860/2638


紅莉栖「時間が、あっという間に過ぎていく」

紅莉栖「……今だけはアインシュタインに文句を言いたい気分」

倫子「どんな気分だよ……」

紅莉栖「時間は人の意識によって長くなったり短くなったりする」

紅莉栖「相対性理論って、とてもロマンチックで――」

紅莉栖「とても、切ないものだね……」

倫子「……それは、2つの観測点があるからだ」

倫子「2つが1つになってしまえば、時間も共有される」

紅莉栖「……ねぇ、倫子ちゃん。こんなこと言うの、卑怯だってわかってるけど……」

紅莉栖「私の、最期のお願い、聞いてくれない?」

倫子「聞くに決まっている」

紅莉栖「あなたと、1つになりたい」

倫子「…………」

328 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/15 06:15:59.03 bP+CT+NFo 861/2638


紅莉栖「……人として軽蔑した?」

倫子「いや、相変わらずメリケン処女だなと思ってな。発想がハリウッドだ」

紅莉栖「言葉の意味はよくわからんが」

倫子「ほら、シャワー浴びてこい」

紅莉栖「……一緒に入ろ?」



オレたちはその日、互いを抱き合い、慰め合い、1つになった。

互いの存在が、確率的になどでなく、確かにそこにあるのだということを五覚で感じた。

それぞれのクオリアがひとつとなり、溶けて混ざった。

紅莉栖はやさしく、オレの身体を包み込んでくれた。

かつてオレが経験した、処女を穢された生理的嫌悪の記憶を上書きしていった。

あのトラウマが紅莉栖で消されるなら、これほど嬉しいことはない。

体力が尽き果てるまで、牧瀬紅莉栖の"命"を全身で感じた――――

329 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/15 06:16:45.60 bP+CT+NFo 862/2638

2010年8月17日火曜日 早朝
NR秋葉原駅前


紅莉栖「やっぱり岡部は白衣でなくっちゃね」

倫子「本当は残念なのだろう? 悪いが、秋葉原ではこの恰好の方が落ち着くのでな」

紅莉栖「……それじゃ、そろそろ行かなきゃ」

倫子「まゆりとダル、フェイリスたちは、本当に呼ばなくていいのか?」

紅莉栖「……なんだか、みんなに見送られると、辛くなるから」

倫子「どうしてもアメリカに行くのか?」

紅莉栖「たぶん、世界が切り替わる時にあんたたちと一緒に居たら、耐えられない」

紅莉栖「醜い気持ちを吐き出しちゃいそうだから。だから、私は目的をもってここを離れる」

倫子「未来ガジェット2号機『タケコプカメラーver2.67』(希望価格5,480円)、手土産だ。もっていけ」スッ

紅莉栖「……倫子ちゃんの残り香が」クンクン

倫子「変なことには使うなよ」

紅莉栖「つ、使わないわよ」ドキッ

倫子「…………」ジーッ

紅莉栖「あ、あはは……」

330 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/15 06:17:20.70 bP+CT+NFo 863/2638


紅莉栖「この2週間、なんだかんだで、楽しかった」

紅莉栖「一緒に青森に行ってくれて、ありがとう」スッ

倫子「……なんだ、両手を広げて」

紅莉栖「ハグよハグ! アメリカ式バイバイ!」

倫子「……オレも、楽しかった」ダキッ

紅莉栖「岡部、頑張って」ギュッ

倫子「……元気で」

紅莉栖「……うん」スッ クルッ


スタ スタ スタ ……


倫子「(……あいつは、オレを信じてくれた)」

倫子「(それでも、今この時は、絶対の別れなんだ)」ウルッ

倫子「(抱きしめて"そばにいてくれ"と告げたい)」グスッ

倫子「(お前が居てくれないと、オレは前に進めないのに……っ)」ポロポロ

倫子「……さよなら、牧瀬紅莉栖っ」ダッ

331 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/15 06:19:12.51 bP+CT+NFo 864/2638


岡部……。

岡部はきっとこれから、つらい思いをする。

私のことを誰も覚えていない世界でただ1人、私を覚えているなんて。

仲間をなにより大事にする岡部には、つらいことだと思う。

……ごめんね。

でも、私にはそのつらさが愛おしい。

ラボに居る何気ない時間、ジュースを口にした時。

街を歩くその一瞬、いつか誰かとキスした時――

いつもじゃなくてもいい。100回に1回でもいい。

私を思い出してほしい。

そこに私は居るから。

1%の壁の向こうに、私は必ず居るから――


岡部。

岡部……。

岡部っ!!

332 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/15 06:20:00.83 bP+CT+NFo 865/2638

未来ガジェット研究所


倫子「……それではこれより、現在を司る女神作戦<オペレーション・ベルダンディ>最終フェイズを開始する」

倫子「今日はコミマがあるにもかかわらず、緊急で集まってもらって済まない」

まゆり「ううん、だいじょうぶだよー」

ダル「オカリンオカリン。その前に1つだけ言っていい?」

倫子「なんだ?」

ダル「ラボはラブホじゃねえっつーの!! うっひょい!!」

倫子「だああっ!! 空気を読めバカモノがっ!!」ズドン!!

ダル「ゴホァアッ!! こ、股間の蹴り上げは、マズいっす……」バタッ

まゆり「えー? なになにー?」ズイッ

倫子「ま、まゆりは知らなくていいっ」プイッ

まゆり「もしかしてクリスちゃんとイチャイチャしてたのかなー? みんなのラボでー?」クルッ

倫子「(こいつ、目線を反らそうとすると正面に回り込んでくる……っ)」ダラダラ

333 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/15 06:20:36.21 bP+CT+NFo 866/2638


倫子「ダル、始めてくれ」

ダル「……いいんだな?」

倫子「……ああ」

ダル「オーキードーキー」カタカタカタカタ

まゆり「…………」スッ

カチッ カチッ カチッ

倫子「……カイちゅ~に耳を当てていると、落ち着くんだったな」

まゆり「うん。おばあちゃんがね、見守っていてくれるんだー」

倫子「(結局オレは、まゆりには全部話さなかった。まゆりが知る必要なんてどこにもないんだ)」

倫子「(オレだけが忘れなければ、それでいい)」

ダル「オカリン、見つけた! マジであったぞコレ!」

倫子「あったのか! オレの送ったDメールが!」

倫子「(これで、世界はアトラクタフィールドβに再構成される……っ!)」ドキドキ

334 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/15 06:22:01.36 bP+CT+NFo 867/2638


まゆり「オカリン……」ギュッ

倫子「そんな不安そうな顔をするな。大丈夫だ」ナデナデ

ダル「エンターキーを押せば、データは消せるようになってる」

ダル「その儀式はオカリンに譲るわ」

倫子「…………」ゴクリ

倫子「(大丈夫、紅莉栖はオレを信じてくれた)」

倫子「(可能性がある限り、オレは、お前を――)」


  『それでも――私は、岡部を信じる』


倫子「(……天文学的な確率に、賭けてみようじゃないか)」

335 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/15 06:22:57.34 bP+CT+NFo 868/2638


倫子「勝利のときは来た!」

倫子「このオレはあらゆる陰謀に屈せず、己の信念を貫き、ついに最終聖戦<ラグナロック>の火ぶたを切ったのだ!」

倫子「ここに至るまでに、我が手足となって戦ってくれた仲間たちに感謝を!」

倫子「訪れるのは、オレが望んだ世界なり!」

倫子「すべては運命石の扉<シュタインズゲート>の選択である!」

倫子「世界は、再構成される――!」


バターン!


紅莉栖「おかべぇっ!!」

紅莉栖「さよならを、言ってなかったからぁっ!!」

倫子「な―――」スッ


カタッ


紅莉栖「さよならぁっ!!」

紅莉栖「私も、岡部のことが だ   い       す           

336 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/15 06:24:04.29 bP+CT+NFo 869/2638


―――――――――――――――――――
    0.52074  →  1.13205
―――――――――――――――――――

337 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/15 06:25:01.37 bP+CT+NFo 870/2638

2010年8月17日火曜日
未来ガジェット研究所


倫子「…………」

倫子「…………」

ダル「…………」カタカタカタカタ

まゆり「~~♪」

倫子「……なあ、ラボメンナンバー004は、誰だっけ」

まゆり「んー? オカリン、ラボメンには004の人はいないよー?」

ダル「それとも名前すら明かされてない、隠れメンバーが? ょぅι゛ょなら許す」

倫子「……いや」

倫子「(この世界で、"ラボメンナンバー004の牧瀬紅莉栖"を知っている人間は、オレ1人だけ)」

倫子「(この世界に、牧瀬紅莉栖が8月17日まで生きていた痕跡は、何1つ残っていない)」

倫子「(開発室にあったのはタイムリープマシンではなく、改良されていない電話レンジ(仮)だった)」

倫子「(……紅莉栖が居ないなら、リープマシンは2度と作れない)」

倫子「(紅莉栖が居ないという事実が、今になって津波のように襲い掛かってくる……)」プルプル

まゆり「オ、オカリン?」

338 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/15 06:25:45.82 bP+CT+NFo 871/2638


倫子「ふ、ふふ、ふぅーはははぁ!」

ダル「うおっ!? 突然スイッチ入ったお」

倫子「このオレ、狂気のマッドサイエンティストである鳳凰院凶真は、そのアインシュタインにも匹敵するIQ170の怜悧なる頭脳により、"機関"及びSERNのあらゆる攻撃に対し――」

倫子「時空を操ることで、完全に勝利したのだ! まさにオレは神に等しき存在となった!」

倫子「そして我らが目指すべきは大いなる地平、我が野望が叶う世界! 世界の支配構造を再びリセットし、混沌の未来を手繰り寄せるのだ!」

倫子「そここそが、シュタインズ――」

まゆり「オカリン」ダキッ

倫子「――っ」

まゆり「もう、いいんだよ」ニコ

倫子「な……なにを言ってるんだ? オレは今、華麗なる勝利宣言と同時に、次の戦争への宣戦布告を――」

まゆり「だって……今のオカリン、泣いてるんだもん」

倫子「……っ!」ポロポロ

339 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/15 06:26:36.44 bP+CT+NFo 872/2638


まゆり「ねえ、無理しないで? 前にも言ったよね? まゆしぃはオカリンの重荷にはなりたくないって」

倫子「(リーディング……いや、この世界線でもまゆりはそういうことを言ったのか)」グスッ

まゆり「もう、その口調……続けなくてもいいんだよ?」

まゆり「鳳凰院凶真は、まゆしぃを守るために生まれたんだよね」

まゆり「今度はね、まゆしぃがオカリンを守りたいのです」

まゆり「だからね、辛いなら、普通の女の子に戻って、オカリンの心をね、さらけ出してもいいんだよ?」

倫子「オ……レは……うぅっ……うわぁぁんっ……」ヒグッ

まゆり「もう、まゆしぃのことは気にしなくていいから」

まゆり「まゆしぃは大丈夫だから」ニコ

まゆり「オカリンはね、オカリンのために、泣いてもいいんだからね?」

まゆり「なにがあったのかはわからないけど、泣いてもいいんだよ?」

倫子「まゆりぃ……っ! 私はぁ、わたしはぁ……うわぁぁんっ……っ!」ヒシッ

まゆり「よしよし、いい子いい子」ナデナデ

ダル「……あーっと、僕はメイクイーンに行く用事で忙しいんだった。ちょっと出かけてくるお」

340 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/15 06:28:06.11 bP+CT+NFo 873/2638


まゆりの言葉で初めて、ありとあらゆる重圧から解放された気がした。

もうまゆりが死ぬことは無い。そう思うと、紅莉栖の顔が目に浮かんだ。

紅莉栖の身体の温もりが。唇の柔らかさが。最後の言葉が。

この世界線には紅莉栖が居ないという事実が、胸を苦しくさせる。

私はもう、我慢できなかった。嗚咽が止まらなかった。

1日中、まゆりの温かい胸の中で泣き続けた。

まゆりを守るために生まれ、まゆりを人質にした"オレ"は……

"鳳凰院凶真"はこの日、新たな役割を得た。

紅莉栖の居る世界へ、くじけそうになる自分を導くための北極星<ポラリス>となった。

341 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/15 06:29:40.91 bP+CT+NFo 874/2638

2010年8月21日土曜日
未来ガジェット研究所


すぐにでも反撃ののろしを上げるべきだったかも知れない。

だが、まずはその前に、本当にまゆりが死なないかを確認しなくてはならなかった。

あれから3日以上経ってもまゆりは死ぬことはなかった。

ラウンダーが襲撃してくることもなかったし、ミスターブラウンも動きを見せずひたすら暇そうにしているだけだった。

ダルにラボのブラウン管テレビを調べてもらったところ、盗聴器は設置されていなかった。

やはり、SERNはこのラボを監視していない。エシュロンにDメールが捕捉されていないおかげだ。

それでも安心はできない。Dメールは送れない。

不用意に放電現象を起こせば、なにかのキッカケで店長がタイムマシンの存在に気付き、SERNに密告してしまうかもしれない。

そもそも、Dメールを送った瞬間、再度エシュロンに捕捉される可能性が高い。送るにしても、まずはエシュロンか、SERNのサーバをなんとかしなくてはならない。

とは言え、電話レンジ(仮)の改良のためには42型ブラウン管点灯時に実験を重ねるべきだ。

今のままでもDメールを送ることは、その性能を無視すれば可能だが、実用性を重視するならロト6メールを送った時点程度の改良は加えた方が良い。

結局、現状は迂闊に過去改変ができないどころか、まともに改良さえできない。

もどかしいが、慎重には慎重を重ねなければならない。

残念ながらオレは慎重じゃなかった。

α世界線漂流は、己の軽はずみな行動がもたらした悲劇だったのだ。

自分の愚かさが分かっていたなら、紅莉栖を失うことになんてならなかった。

未来を、こんな形にしてしまうなんてこともなかった。

だが……分かるはずがないだろう!

342 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/15 06:30:52.93 bP+CT+NFo 875/2638


7月28日の夕刊に"それ"が書かれていた。

牧瀬紅莉栖はラジ館倉庫に侵入していた外国人窃盗団を偶然目撃してしまったため、彼らに襲われて殺された――

犯人は現在海外へ逃亡し、国際手配中だと言う。

だが、その記事はよく読めば矛盾だらけの異様な内容だった。

ダルに警察のデータベースをハッキングさせてわかったが、日本警察はこの事件を全く捜査していなかった。

α世界線の時と一緒だ。300人委員会かどうかはわからないが、何らかの圧力がかかっているんだ。

紅莉栖の死の真相は、闇に葬られてしまっている。

憤りと同時に、しかし、紅莉栖の生きていた痕跡を確かめることができて、わずかに安堵する。

紅莉栖は何故死ななければならなかったのか。まずはここを追究しなければ――

それでも、どうしても『"オレ"があのDメールをダルに送信した因果』という壁が立ちはだかる。

加えて、電話レンジをタイムリープマシンへと改造することは、紅莉栖の居ない今となっては不可能だ。

何か手は無いのか……。

343 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/15 06:31:58.14 bP+CT+NFo 876/2638

大檜山ビル隣 ゴミ捨て場


倫子「ふう。これで最後だな」

ダル「はあ、もったいねえなあ。IBN5100は売ればプレミア付くのに」

倫子「(IBN5100はラボにあった。これが歴史の修正力、辻褄合わせの再構成というわけだ)」

倫子「("この世界線のオレたちもSERNをクラッキングし例のメールデータを消した事実が残る"よう、オレは世界改変をしたのだから、IBN5100がラボに無ければおかしい)」

倫子「(どういう経緯かはわからんが、この世界線でも柳林神社に奉納されていたソレをオレが借りたことになっていた)」

倫子「(奉納者を確認したところ、やはりフェイリスだった。秋葉家と漆原家には悪いが、これがラウンダーの手に渡る前に処分しなければなるまい)」

倫子「(間違っても萌郁に渡してはならない。それは萌郁の死を意味するからだ)」

倫子「(このIBN5100は鈴羽が1975年に跳んで入手したモノではない。そもそも鈴羽がタイムトラベルをする因果自体がこの世界線では消滅しているはずなのだから)」

倫子「(推測に過ぎないが、レトロPCマニアの幸高氏が生前自分の趣味で収集したものだったのだろう)」

倫子「(辻褄合わせと言えども、それなりに筋の通った再構成になっているはずだからな)」

倫子「(あるいは、元よりこれがβ世界線の歴史だったのかもしれない)」

344 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/15 06:33:08.81 bP+CT+NFo 877/2638


倫子「(オレの記憶には無い、"この世界線のオレたち"がSERNをクラッキングした、という行動は、そこまで意味不明なものではない)」

倫子「(α世界線においてもオレは、β世界線の2000年に現れたジョンタイターの情報を元に、SERNの擬似スタンドアロンサーバの解析をダルに依頼するつもりだったのだ)」

倫子「(そこにオレの送ったメールデータが保存されていることが判明すれば、陰謀論大好きなオレは間違いなくビビってダルにデータの抹消をさせたはずだ)」

倫子「(α世界線ではIBN5100を神社からラボへと運んだのは紅莉栖と一緒だったが、β世界線の8月1日にあいつが居るはずも無く……)」

倫子「(おそらく、ルカ子あたりと一緒に運んだのだろう。あれでもあいつは男だからな)」

倫子「(これらの再構成に違和感を見つけ出すことは不可能だろう。すべての人類が、別の世界線での出来事を忘れているのだから)」

天王寺「おう、オメーら。ガラクタ片付けてるのか、感心感心」

倫子「店長。あなたはたしか、1997年頃に秋葉原に来たと言っていましたよね」

天王寺「おう? 確かにそうだが、そんな話、お前さんにしたっけかな……」ポリポリ

345 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/15 06:35:30.87 bP+CT+NFo 878/2638


倫子「そこであなたは、誰かの世話になったはずだ。あなたみたいな無頼漢が1人で店舗を構えられたとは到底思えない」

天王寺「なんだとコラ、せっかく人が褒めてるのに家賃上げられたいのか、あぁん?」ギロッ

倫子「お、教えてください。あなたは誰の世話になったんです」

天王寺「……なんでそんなことを聞くのか、わけわかんねえが、隠すほどのことでもねえから教えてやるよ」

天王寺「葛城さんって人が居てな。日本に来たばかりで右も左もわからねえ俺によくしてくれてよぉ」

倫子「(……これが、元あった歴史なのだろう。無論、収束でもなんでもなく、ただ偶然そうなっていたというだけの話)」

倫子「(オレがα世界線漂流を開始する前からブラウン管工房はここにあったのだから、むしろ橋田鈴との関係の方が後付だったのだ)」ウルッ

倫子「(橋田鈴は、阿万音鈴羽は、この世界線の過去には存在しない……っ)」ポロポロ

倫子「……お話、聞かせて下さって、ありがとうございましたっ」ダッ

天王寺「あ、おい! どこ行くんだ!?」

ダル「ちょ、オカリン!?」

倫子「墓参りしてくるっ!」タッ タッ

346 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/15 06:36:52.95 bP+CT+NFo 879/2638


天王寺「なんだアイツ、送り盆か? 今日は17日だぞ」

ダル「いや、わかんねーっす」


prrrr prrrr


ダル「はーい」

ダル「え? だ、だれ?」

ダル「"父さん"?」

ダル「なに? オカリン?」

ダル「オカリンなら池袋に……え? ラジ館屋上で待機?」

ダル「なんぞこれ……」

347 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/15 06:38:07.37 bP+CT+NFo 880/2638

雑司ヶ谷霊園


倫子「はぁっ……はぁっ……」タッ タッ

倫子「……やはり、無い。『橋田家』と書かれた墓石が、無い……」

倫子「(鈴羽が死んだのは10年前。産まれてくるのは7年後)」

倫子「……この世界線では鈴羽は死んでない。それが確認できただけでも、良かった」

倫子「はぁ……」

倫子「(オレはまだ産まれていない鈴羽の墓を探しに来て、そこで鈴羽の強さ、優しさ、逞しさを思い出すことができる)」

倫子「時間ってのは、不思議なものだな。鈴羽……」

??「そうだね、リンリン」

倫子「…………」

倫子「……ははっ。感傷に浸りすぎて、幻聴まで聞こえてきたぞぉ……」ワナワナ

??「だ、大丈夫? リンリン、病院で診てもらった方がいいんじゃない?」

倫子「(お、おちつけ……きっと物の怪のたぐいだ、この墓場に棲みついているあああ悪霊かなにかだろう……)」ガチガチガチガチ

??「リンリン、体が震えてるよ!? すぐに手当てしないと!」

倫子「オレをリンリンと呼ぶなぁぁっ!!! 阿万音鈴羽ぁぁっ!!!」

鈴羽「うわっ!?」

348 : ◆/CNkusgt9A - 2016/02/15 06:40:18.15 bP+CT+NFo 881/2638


倫子「やはり阿万音鈴羽……何故かミリタリールックだが、幽霊なんかではない……っ!」プルプル

鈴羽「若い頃のリンリンって、すっごく魅力的だね。もちろん、大人のリンリンも素敵な人だったけどさ」ダキッ

倫子「未来のオレに会ったことがあるのか!?」

鈴羽「えーっ? あたしたちの関係、忘れちゃったのー? って、過去に来たんだから当たり前か」ギュッ

倫子「……どうしてお前がここにいる」

鈴羽「この時代の"父さん"から聞いたの」スリスリ

倫子「……質問が悪かった。どうしてお前が"この世界線のこの時代"に居るのだ!?」

鈴羽「あれ? 未来の父さんは、オカリンならすぐ理解するはずだーって言ってたけど」ムギューッ

倫子「理解しているから混乱しているのだっ! と言うか、1回離れろ暑苦しいっ!」ドンッ

鈴羽「うわっとと」

倫子「どういうことだ!? 未来はまたディストピアになるのか!?」ワナワナ

鈴羽「ああ、そっちか。うーん、詳しい話は父さんを交えてするよ」

鈴羽「取りあえずさ、こんなお墓じゃ雰囲気でないから、ラジ館の屋上に行こうよ、リンリン!」

倫子「だからリンリンと呼ぶなぁっ!」

鈴羽「おおー、リアクションも若々しいっ!」

倫子「なんなんだこの、α世界線と違って畏敬の念がまるで感じれられない、超絶馴れ馴れしい鈴羽は……」プルプル



倫子「いったい、なにがどうなっているんだぁっ!! うわぁん!!」



次章
岡部倫子「これがシュタインズ・ゲートの選択……!!」【#06】


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