最初から
岡部倫子「これがシュタインズ・ゲートの選択……!!」【#01】

一つ前から
岡部倫子「これがシュタインズ・ゲートの選択……!!」【#02】

441 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/01 19:30:08.98 13cm5L15o 320/2638

第5章 時空境界のドグマ♀


そこに広がっていたのは一面の荒野だった。
空は絶望色に染まり、雲は凍えるほど寒々しく漂っている。

そこから生命の残滓を感じることはできない。

……また変な夢か。最近多いな。疲れてるのか?


『オカリン、見ーつけた♪』


まゆりか。どうしてそんなところにいるんだ?
どうして、そんな、岩の上なんかに。


『ここはね、7000万年前の地球だよ』

『オカリンは、陰謀に巻き込まれて、タイムマシンでここに送られちゃったんだー』


ほう? それはまた、トンデモ話だな。


『まゆしぃはね、オカリンを追いかけて、たくさん、たっくさん、たーっくさんの世界線の、すべてのオカリンを探し続けてきたのです』


ということは、お前はオレの知ってるまゆりじゃないのか……


『でね、オカリンもまゆしぃも、ここで死んじゃうと思う』


でも、お前がそばに居てくれてよかった。まゆりはオレの人質だからな。


『きっと、7000万年後の秋葉原にいる、オカリンとまゆしぃまで、意志は連続していくんだって思うな』


ああ、それか。知ってる。
だって、その結論を導き出したのは他でもない――"あいつ"なんだから。


『だから、大丈夫だよ♪』


そうだな。後のことはすべて……




――"岡部倫太郎"に任せよう。




442 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/01 19:31:31.03 13cm5L15o 321/2638


倫子「……午睡を貪ってしまったか。ふわぁ……」

倫子「(今頃橋田親子はうまくやってるだろうか……)」

まゆり「はぁー、まゆしぃも『うーぱ』とお友達になりたいなー」

倫子「また雷ネット翔のDVDを見てるのか、まゆり。お前、今年で何歳だ?」

まゆり「んー? まゆしぃは2月生まれの遅生まれだから、まだ16歳だよー?」

倫子「そろそろ大人の色気の1つでも出さないと、男の子にモテないぞ」

まゆり「オカリンはまゆしぃに彼氏ができてほしいのー?」

倫子「そりゃ、そうだろ。お前だって女の子なんだ、人並みの幸せはあってもいいんじゃないか」

まゆり「でもでもー、まゆしぃは今こうしてラボに居ることが幸せだよー♪」

倫子「……まゆり。ケータイが鳴ってるぞ」

まゆり「え? あ、ホントだ。トゥットゥルー♪ フェリスちゃん、おはよーニャン♪」

まゆり「きょうまー? オカリンに替わりたいのー?」チラッ

倫子「絶対に、ノウッ!」

443 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/01 19:32:35.03 13cm5L15o 322/2638


倫子「フェイリスのIBN5100探しは難航している、との連絡だったか」

ガチャ

ダル「ただいまー。ふぃー、やっぱ昼間に出歩くのは自殺行為だ罠」

鈴羽「もう、父さんはだらしないなー。おじゃましまーす」

まゆり「あーっ! スズさんにダルくん! おかえりー♪」

鈴羽「椎名まゆり、ちぃーっす」

倫子「それで、どうだった?」

鈴羽「うん……こんな素敵な時間を過ごせるとは思ってもなかった。鳳凰院凶真には頭が上がらないよ」

ダル「いやあ、周りの非リアどもの羨望のまなざしがたまらんかったっす」ムッハー

倫子「決してお前はリア充ではないがな」

鈴羽「あたし的には父さんがリア充? になってもらわないと困るんだけどね」

まゆり「ダルくんのお嫁さんかー。どんな人なんだろー」

倫子「案外まゆりだったりしてな」

まゆり「えっ? え、えぇーっ!? そうなの、スズさん?」

鈴羽「あー、これは言ってもいいのかなぁ」

ダル「な、なぬぅ!? マジで僕のリアル嫁がまゆ氏なん!?」

倫子「仮にそうだとしたらオレがダルを全力で更生させねばな」フッ

鈴羽「それ、あたしも手伝うよ。まずは痩せないとね」

ダル「い、いや、運動とか勘弁だお……」

まゆり「オカリーン……」

444 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/01 19:33:32.51 13cm5L15o 323/2638


倫子「今日も泊まっていくか? それとも新小岩の橋田家に……いや、それはちょっとまずいか」

鈴羽「さすがにあたしのお婆ちゃんやお爺ちゃんにまで迷惑かけられないよ」

倫子「せっかく未来人がラボに参加したのだ、マシン開発に協力してくれるとありがたいのだがな」

鈴羽「タイムパラドックスにならない程度なら手伝うよ。物資の買い出しとかさ」

ダル「うおっ、なんじゃこりゃ」

倫子「どうした? SERNのデータになにかあったか?」

ダル「ええと、今、SERNのroot権ゲットしようと色々調べてて……」

ダル「なぜかこのビルからSERNまでの直通の光回線が通ってる。1本じゃなくて、束になってるっぽい」

倫子「ほう? それってすごいのか?」

ダル「こっからフランスのSERNまで物理的に光ケーブルが直接繋がってるんだお! しかもむちゃくちゃ速い!」

倫子「……どういうことだ」

ダル「SERN以外にこんなことできる存在、無いはずだけど」

鈴羽「SERNの罠、かもね」

ダル「ってことは、SERNはとっくに僕たちの存在に気付いてる……?」

倫子「な、なんだとっ!?」ガタッ

445 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/01 19:35:00.43 13cm5L15o 324/2638


倫子「いや、待て待て。その回線はオレたちがテナントとして入る前から繋がっているはずだっ! ラボとは直接の関係がない……」

鈴羽「あるいは、未来のSERNが、自分たちのタイムマシンを使ってこのビルに直通回線を引いたとか」

倫子「未来だとぉ!? ラボが未来から監視されていると言うのかっ!?」ワナワナ

鈴羽「実際ここは反体制組織の母体だからね。監視対象になってなきゃおかしい」

ダル「でも、この回線はなんのためにあるん?」

鈴羽「それは……わからない」

倫子「れ、れれ、冷静に考えろ。お、落ち着くのだお前たち……っ!」ガクガク

まゆり「オカリン、大丈夫だよ。落ち着いて」ギュッ

倫子「……そうだ、冷静になれ。光回線を埋め込むことが歴史的に可能になるのは西暦何年だ?」

ダル「今ググるお……えっと、2001年がブロードバンド元年って呼ばれてる。FTTH<光ファイバー>が使えるようになるのは早くて2000年頃だお」

鈴羽「SERNがLHCでゼリーマン実験を始めたのが今から9年前だから、その頃だろうね」

倫子「ならばミスターブラウンが知っているはずだ。奴はたしか2000年6月にこのビルのオーナーになったと言っていた」

倫子「回線取り付け工事をオーナーに隠れて行うなど無理に決まっている」

鈴羽「……わかった。あたしが密偵として店長から情報を聞き出してくる」タッ

倫子「頼んだぞ、ラボメンナンバー008っ!」

446 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/01 19:36:35.94 13cm5L15o 325/2638


まゆり「スズさん、大丈夫かな……」

倫子「(今更ながらあのバカ正直な未来人に密偵を任せたのは失敗だった気がしてきた)」ダラダラ

紅莉栖「……阿万音さん、行った?」

倫子「なぜ開発室に隠れていたのだ、コミュ障ティーナよ」

紅莉栖「だ、だって、せっかくお父さんと会えたのに、私のせいで気分を害させたら申し訳ないと思って……」

倫子「……あいつから聞いた話だが、鈴羽は未来のお前を暗殺しようとしたそうだ」

紅莉栖「うん……橋田から電話で聞いた……」

ダル「ほとんど脅迫だった件」

倫子「だが鈴羽はお前を殺せなかった。そしてそのせいで鈴羽の仲間はたくさん殺された……と、あいつは思っている」

紅莉栖「阿万音さんの中では、私の存在が仲間の死に繋がっている、ってことよね。わかってる」

紅莉栖「でも未来の私がSERNで研究してるってところがどうしても納得できない!」

紅莉栖「それに、未来からもたらされたこの情報によって私の選択が変わる場合、世界線が変動する可能性だってある」

紅莉栖「私の意志で収束を突破する可能性よ」

倫子「もうアトラクタフィールド理論を理解しているのか、さすが天才HENTAI少女」

紅莉栖「なんで私が岡部の敵対組織で研究しなきゃならないのよぉぉぉ!!!!! 倫子ちゃんと離れたくないよぉぉぉ!!!!!!」

倫子「倫子ちゃん言うなぁ!」

447 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/01 19:37:55.52 13cm5L15o 326/2638


ダル「でもさ、この直通回線のおかげでLHCをこのPCから使えるようになったお」

倫子「SERNはここに人間をぶち込んでいたのか……。逆に人間を36バイトまで圧縮すれば通れたのにな」

ダル「そんなんできるわけないじゃん。オカリン、さすがの妄想力」

紅莉栖「……いえ、それなら、もしかしたら――」

紅莉栖「できるかもしれない」

倫子「…………」

ダル「いやいや、牧瀬氏。さすがによいしょしすぎっつーか」

紅莉栖「LHCが使える……人間一人分のデータの超圧縮……タイムトラベル……っ!!」

倫子「いい具合にマッドだな。ちょっと怖い」

まゆり「クリスちゃんはホンモノだよね……」

紅莉栖「つまりね、LHCのブラックホールをデータの圧縮に使うのよ」

紅莉栖「ブラックホールってのは、つまり素粒子の高速衝突だから、3.24TBくらいだったらDメール送信可能なレベルまで超圧縮できる」

倫子「ま、待て待て。そもそもどうやって人間をデータ化するのだ」

紅莉栖「あら? 私の論文、読んでないの?」

倫子「あ、ああ。あれな。もちろん読んだぞ! オレがお前の論文を読んでないわけないだろーハハハ」

まゆり「オカリンはね、英語が苦手なのです」

倫子「……すいません読めませんでした努力はしたんです」ウルッ

紅莉栖「(かわいい)」

ダル「えっと、『側頭葉に蓄積された記憶に関する神経パルス信号の解析』、ってやつ?」

紅莉栖「そうそれ。つまりね――」

紅莉栖「――人間の"記憶"をデータ化して、過去へ送るのよ」

448 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/01 19:40:54.98 13cm5L15o 327/2638


・・・

倫子「……だいたいわかった。つまり、人間の記憶をVR技術を用いて光信号として抽出、バイナリデータ化」

倫子「一方、神経パルス信号をクリスティーナの研究チームが開発したソフトを使ってデータ化」

倫子「これら記憶データと神経パルス信号データをLHCのミニブラックホールを利用して超圧縮」

倫子「高速回線を通じて電話レンジ(仮)内に発生するカー・ブラックホールのリング特異点を通過させ――」

倫子「過去の自分に"通話"する」

倫子「過去の自分が通話に出ることで、電磁波化されたデータが脳に直接侵入し、記憶を"思い出す"……」

紅莉栖「ポイントは、送るのは"記憶"だけってこと。人格や意識についてはこれに含まれない」

ダル「えっと、ソフトだけ入れ替えてハードそのまんま、ってことでおk? ジーコサッカーを非公認ゲーム化する的な?」

紅莉栖「その例えはわからんが、あくまでも被通話者は未来の記憶を"思い出す"だけってこと」

紅莉栖「ある意味、未来予知ができるようになる、と言えるかも」

倫子「デメリットは」

紅莉栖「意識は送れないから、Dメールと同じようになるかもしれない。つまり、自分が過去へ跳ぶんじゃなくて、再構成された世界を現在時刻で認識する、ってこと」

倫子(再構成前の世界を覚えているのはリーディングシュタイナーを持つオレだけ、ということか)

紅莉栖「それから、小学生の頃の自分に現在の記憶を転送した場合、記憶と肉体のギャップのせいで精神的な障害が起きるかもしれない」

ダル「強くてニューゲーム、は限界があるってことですね」

紅莉栖「それに、通話に出る人物が同一人物じゃないと電気信号がマッチングせずに弾かれてしまうかも」

倫子「脳の電気信号には個体識別機能があるのか」

紅莉栖「どんな結果になるかはわからない。人類初の試みだもの」

倫子「人類初……ククク。甘美な響きではないかぁ」ニヤリ

ダル「あっ」

紅莉栖「あっ」

まゆり「はじまったねー」

倫子「ククク、ふぅーはははぁ!」

倫子「オレだぁ。すべての点が1本の線で繋がった。……ああ、計画はこれより最終段階に入る。無論、『現在を司る女神』作戦<オペレーション・ベルダンディ>のことだ」

倫子「案ずるな。うまくやってみせるさ。今のオレたちは無敵だ。エル・プサイ・コングルゥ!」

449 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/01 19:43:19.95 13cm5L15o 328/2638


・・・

倫子「(あのあと鈴羽がブラウン管工房から戻ってきたが収穫は無かった。ミスターブラウンには回線工事の記憶など無い、とのことだ)」

倫子「(その後、鈴羽は漆原家こと柳林神社で寝泊まりすることになった。ルカパパの温情、と言えば聞こえはいいが……)」ゾワワァ

倫子「それで、助手はともかくとして、まゆりは帰らないのか? 早く帰らないとおじさんが心配するぞ」

まゆり「あのねぇ、まゆしぃもクリスちゃんたちの話を理解しようとしてみたんだけど……まゆしぃには難しい話だったよ。えへへ」

倫子「まあ、そうだろうな。正直オレもすべてを理解しているとは言い難い」

まゆり「まぶしいなぁ……」

倫子「む? どういう意味だ?」

まゆり「オカリンもクリスちゃんもダルくんも、キラキラ輝いてて……」

まゆり「クリスちゃんがラボメンになってね、なんだかラボの空気がビシッと引き締まった気がするんだー」

倫子「最初のうちはオレにこびへつらうだけのHENTAIだったが、今では委員長キャラを全面的に売ってるからな」

紅莉栖『そんなことないからぁ!』

倫子「(開発室から助手が悲痛な声を上げているがスルーしてやろう)」

まゆり「……まゆしぃももっと頭がよかったら、オカリンの役に立てたのかな」

倫子「……役に立っているに決まっている」

まゆり「うん……ねぇ、オカリン」

倫子「なんだ」

まゆり「まゆしぃは、これからもここに居てもいいのかな……」

倫子「くだらんことを。お前はオレの人質なのだ。どこへも行かせんっ」

倫子「無論、お前に恋人ができたなら応援してやる。ただし、オレに必ず紹介しろよ?」

まゆり「……うん。ありがと、オカリン」

450 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/01 19:46:12.77 13cm5L15o 329/2638


倫子「……まゆりは帰ったが、お前は帰らないのか」

紅莉栖「マシン開発のため、よ。あと岡部の人質であるまゆりが羨ましい」

倫子「まゆりはノーマルだ。それにあいつはお前の才能をうらやんでいるようだが?」

紅莉栖「才能なんかあったって……ううん、過去は否定しないけど」

紅莉栖「ねえ、岡部。まったく関係ない相談、していい?」

紅莉栖「この前、言ってくれたでしょ? いつでも相談しろって」

倫子「……ようやく話す気になったか」

紅莉栖「私って、父親に嫌われてるのよね……」

倫子「この前の電話か」

紅莉栖「父は物理学者なんだけど、私は小難しい話を聞かされるのが大好きな子どもだった」

紅莉栖「父の話をなんとか理解したくて、小さい頃から物理学の本を読みまくったわ。父の論文も必死で解読した」

倫子「それを有言実行してしまえるポテンシャルが天才たる所以だろうな……」

紅莉栖「その論文について議論できるレベルにまでなったのが小学生の高学年になってから」

紅莉栖「父と物理学の話をできるのが嬉しくて、楽しくて」

紅莉栖「そしていつも私が論破して終わってた」

倫子「それは嫌われる。間違いなく嫌われる。オレだったらノイローゼになってる」

451 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/01 19:48:46.53 13cm5L15o 330/2638


紅莉栖「忘れもしない、私が11歳の誕生日の日。父はうちを出ていったわ」

紅莉栖「それがショックで一時期は登校拒否にまでなりかけて……」

倫子「(メンがヘラってきたな……)」

紅莉栖「その頃ね、留未穂ちゃんの……フェイリスの友達が海外留学を勧めてくれてね。挑戦してみよう、ってことになったの」

倫子「フェイリスの友達?」

紅莉栖「友達って言っても、フェイリスは見守ってるだけ、とかなんとか言ってたけど……」

紅莉栖「とっても可愛い女の子だったわ。長くてキレイな髪で、目鼻立ちも整ってて」

倫子「ほう。さぞかし先見の明を持った子だったのだろう」

紅莉栖「そうね。今思えば、あの子には感謝しても感謝しきれないかも」

倫子「それで、父親には会ったのか?」

紅莉栖「ううん……この前の電話でね、"会いに来るな"って怒鳴られた……」グスッ

倫子「わかった。一緒に会いに行こう」

紅莉栖「……ふぇ?」

倫子「いつがいいか……そうだな。電話レンジ(仮)の改良が終わってから、夏休みが終わる前に行こう」

紅莉栖「い、いやいや、さすがにそんな迷惑かけられないって!」

倫子「お前はオレの助手だ。助手の悩みはオレの悩みだ」

紅莉栖「映画版ジャイアニズム……」

倫子「……まあ、普段のオレが嫌なら普通の格好をしていってもいい。それなりに化粧もしてやろう」

紅莉栖「えっ……」

紅莉栖「(女の子モード全開のオシャレな倫子ちゃんに会えるぜひゃっほうぅぅっ!!」

倫子「途中から声に出てるぞ……」

453 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/01 21:11:14.82 13cm5L15o 331/2638

2010年8月11日水曜日
ラジオセンター


倫子「(助手のテンションが上がりまくったせいで昨日は寝不足だ……)」ウトウト

まゆり「オカリン、寝なくてだいじょうぶ?」

倫子「今はこの紅莉栖に指定されたパーツのお使いが先決だ。なに、タイムリープマシンが完成してしまえば、この眠気も吹きと……ぶ……」ウトウト

まゆり「はわわ、もう、ころんじゃうよ、オカリーン」ダキッ

ppppp

倫子「んー? 助手からメールか。追加の買い出し命令か?」


From 助手
Sub 予定
新幹線と深夜バスどっちがいい
?私としては一緒に駅弁食べる
のも、席を並べて夜を明かすの
も捨てがたくて……( *´艸`)
もちろん交通費は私が出すわ。
ただママにバレたら殺されるw


倫子「(完全に浮ついているな……)」

倫子「(『お前が夢にまで見た修学旅行みたいで楽しいのはわかるが単芝は許さん』、と)」ピッ

倫子「ああ……ダメだ、睡魔が……」フラッ

まゆり「オカリン? オ、オカリン! オカリ――――――

454 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/01 21:13:23.14 13cm5L15o 332/2638

ハイツホワイト202号室


倫子「……ん……ふゎぁ、まゆり? あれ、ここは、どこだ……?」

萌郁「……おは、よう。姉さん……(ほっぺぷにぷにだったなー(≧▽≦) )」

倫子「え? ぬぅわぁ!? あ、あれ!? なんで指圧師が!?」

萌郁「ここ……私の家……(連れ込んでしまった(^^♪ )」

倫子「は……? なんだか、昭和臭のするアパートだな……」

萌郁「道端で……眠ってた、から……(椎名さんと会ってビックリしたよー)」

倫子「あ、ああ。そうだったのか。まゆりは?」

萌郁「友達に……コスを渡すって……(まゆりさんって友達多いなぁ)」

倫子「そ、そうか。すまないな、厄介になって」

萌郁「いい……(姉さんの力になれた、かな)」

倫子「……む? それよりもお前。なんだか顔色が悪いぞ?」

萌郁「っ! ……寝不足」

倫子「なんだ、お前もか。ほら、布団が空いたぞ。今度は萌郁が眠るといい」

萌郁「…………」

455 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/01 21:14:47.35 13cm5L15o 333/2638


ピロリン♪

倫子「『タイムマシンはどうなった? 破棄した? 萌郁』……ああ、今は研究の第二段階だ」

萌郁「第二、段階……?」

倫子「記憶を過去へ跳ばす、タイムリープについて実験をしよう、というところなのだ」

萌郁「…………」ピッピッ

ピロリン♪

倫子「『危険だから絶対やめた方がいいよ! 姉さんに何かあったら私いやだな>< 萌郁』、フッ、何を心配している」

倫子「オレは狂気のマッドサイエンティスト、鳳凰院凶真だぞ? マッドな実験こそ世界を混沌にする―――」

ピロリン♪

倫子「ぐぅ、途中でメールを送るな。えー、『お願いだから実験を中止して! 萌郁』……? お前……」

萌郁「……っ!」ガシッ

倫子「ぐっ!? い、痛いぞ、萌郁……。手を、腕から離せ……」

萌郁「約束……してくれたら……離す……」ギュゥ

倫子「……それはできない」

萌郁「どう……して……」

456 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/01 21:15:57.73 13cm5L15o 334/2638


倫子「信じられないだろうが、実は今、我がラボが将来的に開発することになるタイムマシンに乗って過去へ跳んできた未来人が居る」

萌郁「……?」

倫子「つまりだ。ここでどうあがこうと、オレたちはタイムマシン研究をする運命にある、ということだ。もはや神にも止めることはできない」

萌郁「……じょう、だん……?」

倫子「アトラクタフィールド理論でいう収束、という現象らしい。オレもすべて理解しているわけではないが……」

萌郁「そん……な……」ガクッ

倫子「お、おい!? あからさまに体調が良くないぞ、指圧師! とにかく寝ろ、な?」

萌郁「ねえ、さん……えふ、びー……」ガクガク

倫子「ほら、布団をかけておこう。鍵は閉めた後ポストに入れておくぞ?」

萌郁「ごめんなさい……ごめんなさい……」

倫子「……ゆっくり休め、萌郁」



バタン



457 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/01 21:19:07.80 13cm5L15o 335/2638

未来ガジェット研究所



倫子「…………」


PC『お姉ちゃん、恥ずかしいよぉ……』


紅莉栖「えへへぇ、いいよぉ、私にすべてをさらけ出しなさぁい……」カチカチ


PC『ひな子、変になっちゃいそう……』


紅莉栖「か、かわいすぐるっ……! たまらんすぐるっ……!」カチカチ


PC『そ、そこは……ひゃっ……あ……』


紅莉栖「ひな子たんペロペロ! ひな子たんペロペロ! ひなっ……」カチ…

倫子「…………」


PC『ぁ……んっ…んぁ…あっ…ぁ…あっんっ…』


紅莉栖「…………」

倫子「…………」


PC『えへへぇ、お姉ちゃん、だいす』ブチッ


紅莉栖「……どう見てもオ○ニーです本当にありがとうございました」

倫子「……ネラー語でごまかすあたり真性だな……というかごまかせてないぞ……」

紅莉栖「鬱だ……orz」

倫子「ダルのゲームはホテルへ持って帰っていいから。な?」

紅莉栖「う゛ぅっ……ぐすっ……ひぐっ……うぇぇっ……」

458 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/01 21:24:47.74 13cm5L15o 336/2638


倫子「(その後、泣き喚く助手をなんとかなだめすかしたオレは買ってきたパーツを使ってマシンの改良に取り掛かった)」

まゆり「ただいまー。オカリン、もう元気になった?」

倫子「ああ、指圧師には世話になった」

まゆり「オカリンが倒れてすぐ萌郁さんが通りかかってね。助けてもらったのです」

倫子「フブキちゃんへコスを渡せたか?」

まゆり「うん! フブキちゃん喜んでくれたよー」

まゆり「でもねー、るかちゃんの分も作らないとだから、今日はね、まゆしぃもコス作りのためにラボに泊まるのです」

紅莉栖「女子会って感じでいいわね。そういや橋田は?」

倫子「あいつは今日も鈴羽とぶらぶらデートをしてると思ったんだが、どうやら緊急でバイトが入ったらしい」

紅莉栖「へー。バイトやってたんだ」

倫子「詳しくは聞いても教えてくれないのだ。日本経済を裏で操るため、スーパーハカーとしての辣腕を振るっていることだろう、ククク」

グー

まゆり「えへへ、お腹すいちゃったのです……恥ずかしいなぁ」

倫子「もうそんな時間か。どれ、オレが買い出しに行ってこよう。2人は作業していろ」

紅莉栖「いってらっしゃーい」

459 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/01 21:29:03.58 13cm5L15o 337/2638

裏通り


倫子「おでん缶と、カップ麺。あとプラスチックフォーク、で良かったよな……」

ppppp

倫子「ん? 追加注文か?」ピッ


From patghqwskm@ninesixpbb.ne.jp
Sub
お前は知りすぎた。
▼添付画像アリ


倫子「また萌郁か……? って、な、なんだ、この画像……!?」ゾワワァ

倫子「なま……くび……う、うおぇぇっ!!」ビチャビチャ

倫子「はぁ……はぁ……、いったい、どういう……っ!」


  ・・・

  萌郁『SERNは「ラウンダー」っていう名前の非公式で私設の特殊部隊を持っててね』

  鈴羽『SERNの罠、かもね』

  萌郁『お願いだから実験を中止して!』

  ・・・


倫子「そんな……ウソ、だろ……!? 萌郁のケータイが、乗っ取られた……!?」ワナワナ

倫子「警察……いや、公表できない話が多すぎる。それに警察なんかが解決できるレベルの問題じゃない……」ガクガク

倫子「お、落ち着け……冷静になれ、鳳凰院凶真。きっと何かの間違いだ、大丈夫だって」プルプル

倫子「……今、ラボは、女子2人きり、だ」ゾワワァ

倫子「――まゆりっ!! 紅莉栖っ!!」ダッ

460 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/01 21:31:01.23 13cm5L15o 338/2638

未来ガジェット研究所


ガチャ バタン!!

倫子「はぁっ……はぁっ……。よ、よかった、ラボは無事だ、誰も居ない……」

シャー……

倫子「だ、誰も居ない……? まゆりは? 紅莉栖は?」

シャー……

倫子「2人はどこへ……この音は、シャワー音?」

シャー……

倫子「(その時、オレの脳裏にはヒッチコックの映画、サイコのワンシーンが浮かんでいた)」ガクガク

シャー……

倫子「(排水溝へ流れる鮮血……見開かれた瞳……)」ダッ



倫子「――おい! 大丈夫か!」ガチャ



紅莉栖「きゃぁ! って、なんだ岡部か」シャー

まゆり「どうしたの、オカリン?」シャー

倫子「あ、いや、なんでもない。オレの思い過ごしだった……ハッ!?」

461 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/01 21:32:48.80 13cm5L15o 339/2638


倫子「き、き、き、貴様ぁっ!? さっきの今で、まゆりと一緒にシャワーだとぉ!?」

紅莉栖「ギクッ」

倫子「大丈夫か、まゆりっ! 何も変なことされてないかっ!?」ペタペタ

まゆり「えっ? だいじょうぶだよ?」

倫子「そうか、なら良かった……」ホッ

倫子「おいHENTAI少女。どういうことか説明しろ」ギロッ

紅莉栖「い、いや、これは私からじゃなく、まゆりからの提案であってだな……」

まゆり「時間短縮で作業効率アップなのです♪」

倫子「ほう……では貴様は、そのまゆりの豊満なバストとヒップに欲情など一切してない、と言い張るのだな?」

紅莉栖「あ、当たり前でしょ! まゆりは友だちよ!?」

紅莉栖「触りたいなーとか、揉みたいなーとか、顔をうずめたいなーとか、ペロペロしたいなーとか、これっぽっちも思ってなんかないんだからな!」

倫子「ダウト」

まゆり「……すぐお洋服着るね。まゆしぃは悲しいのです」

紅莉栖「ぐはぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!」ビチャビチャ

倫子「(オレの妄想通り、排水溝へと鮮血が流れることになろうとは思いも寄らなかった……)」

467 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/03 03:25:26.16 MMXxl+Feo 340/2638

2010年8月13日金曜日
未来ガジェット研究所


それからほぼ丸2日間。
紅莉栖とまゆりは、ラボにこもりっきりだった。

例の脅迫めいたメールについて、ダルと鈴羽に相談しておいた。
が、SERNにはどうやらバレてないとのこと。

萌郁に聞いてもわからないの一点張りだった。
おそらく萌郁を装ってオレにメールした人物がいるのだろう。

誰が。一体。なんのために。

あの2通のメールはなんだか気味が悪くなったので削除してしまった。

ラジ館のタイムマシンを観察することは紅莉栖と鈴羽に止められた。
タイムパラドックスが発生する可能性がある、とのことだ。

それに、仮にSERNがオレをマークしているとすれば、オレがあそこへ向かうのは危険すぎる。

結局、リフターの代わりとなっている"なにか"については、自力で調べなければならない、ということだ。

468 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/03 03:26:43.85 MMXxl+Feo 341/2638


倫子「なあ助手。お前がHENTAIになったのはいつからだ?」

倫子「(さしものこいつでも生まれてから、ということは無いだろう)」

紅莉栖「HENTAIじゃないと何度言えば……と反論したいところだけど、今となっては論破できそうにない」シュン

倫子「親父が家に居た頃はお父さんっ子だったのだろう? その後のショックで……とかか?」

紅莉栖「前に話したわよね? フェイリスの友達のこと」

倫子「あ、ああ」

紅莉栖「なんていうか、本当にあの子、絵に描いたような美少女だったのよ」

紅莉栖「衝撃だった。こんな可愛い子が現実世界に居るんだ、って驚いたわ」

紅莉栖「その子に自分の身の上話を打ち明けて、私はドキドキしてた。夢のようだった」

紅莉栖「それをフェイリスがね、きっと紅莉栖ちゃんはその子に恋しちゃったんだよ、って言ってくれて……」

倫子「……女の子に目覚めた、か」

紅莉栖「……アメリカに行っても友達なんてできなかったから、寂しい時は彼女を思い出してた」

ダル「そして自分を慰めていたわけですねわかります」

紅莉栖「まあ、その子ももう立派な女性になってるんでしょうけど。向こうも私のことなんか覚えているわけないし」

まゆり「なんだかさみしいね……」

倫子「その少女のせいで助手はHENTAIになってしまったのか。罪作りな少女だな」

469 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/03 03:28:19.14 MMXxl+Feo 342/2638


紅莉栖「それで、最終調整のために電話レンジカッコカリを動かしたいんだけど」

倫子「……つまり、敵地に乗り込み死ね、というのだな」

ダル「やっぱ店長のご機嫌取れるのはオカリンしか居ないお」

まゆり「オカリン、死んじゃやだよー?」

倫子「この鳳凰院凶真、不死鳥の如く蘇ってみせようっ!」ダッ



ブラウン管工房



鈴羽「おーっす、鳳凰院凶真」

「凶真おねえちゃん! いらっしゃーい!」ドスッ

倫子「ふごっ!? タ、タックルはやめろ……」

天王寺「おう、岡部か。たまには俺も上の連中と混ぜろよ、若い女と話してみてえ」

「お父さん……」(※真顔)

天王寺「ち、違うぞ綯! 顧客獲得のためにだなぁ!」アセッ

倫子「(シスターブラウンの真顔は無表情すぎて怖いんだよな……)」

470 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/03 03:29:32.50 MMXxl+Feo 343/2638


TV『髪切った?』

倫子「それで、バイト戦士。首尾はどうだ?」

鈴羽「え? ああ、うん。父さんには色々案内してもらった。さすがに今日はバイトするよ」

天王寺「おお、そういや見つかったらしいじゃねえか。岡部もたまにはやるな」

倫子「ふん。この鳳凰院凶真にかかれば、失せ人の1人や2人発見するなど朝飯前ですよ」

「凶真おねえちゃん、すっごーい!」キラキラ

倫子「いや、まあ、あはは……」


グラグラグラッ……


「きゃっ!」ダキッ

倫子「あ、あいつら! 勝手に実験を……っ!」

天王寺「おいコラ! 揺らすなって何度言ったら分かんだ? 若い娘だろうが俺は容赦しねえぞ!」

倫子「ヒィッ! ぼ、暴力反対ですよ! それにこれは、人類史を塗り替える偉大な実験であって――」

TV『一旦CMでーす』

鈴羽「もう! テレビ消すよ!」ピッ

ブツンッ!


シーン……


471 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/03 03:30:45.05 MMXxl+Feo 344/2638


「……はぅ」

天王寺「……な、なんだ?」

鈴羽「あ、あれ? 揺れが止まった?」

倫子「そ、そんなバカな! リモコンを貸せ!」ピッ

TV『明日来てくれるかな? いいとも~』


グラグラグラッ……


倫子「これは……ク、ククク、ふぅーはははぁ!」

鈴羽「どしたの?」

倫子「見つけたっ! ついに見つけたぞぉ! これぞ間違いなくリフターの代替物だっ!」ピョンピョン

「わ、わーい!」ピョンピョン

天王寺「お、おい! ただでさえ揺れてるのに暴れるな! あぁー!? 俺のブラウン管ちゃんがぁ!?」ガチャーン

472 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/03 03:34:27.68 MMXxl+Feo 345/2638

未来ガジェット研究所


倫子「クリスティーナ。オレは今ここで予言しよう。3分後、お前はこのオレの偉大さに気付き尊敬の念を抱くとなぁ!」キラキラ

紅莉栖「鳳凰院様は天才であられます……だから"あのこと"は秘密にしといてぇ!」ヒシッ

倫子「ええい、いちいち抱きつくなっ!」

ダル「んお? あのことって? あ、そう言えば僕のエロゲが1つ見当たらないんだけどオカリ――」

倫子「女の秘密だ、貴様は口を挟むな」ギロッ

ダル「え、なんで僕怒られてるん」

倫子「それと助手よ、勘違いするな。そんなことではなく――」

倫子「42型ブラウン管テレビが、リフターの代わりとしての役割を果たしているっ!!」ドヤァ

ダル「マジで?」

倫子「どうだぁ。驚いて声も出ないかぁ?」ドヤァ

紅莉栖「……ちょっと待って、今計算する……」クルッ

倫子「あ、おい……」

紅莉栖「高電界から出る電子ビームの運動量……リング特異点へ与える影響……」カキカキ

倫子「…………」グスッ

まゆり「だいじょうぶだよ、オカリン。クリスちゃんはオカリンのこと大好きだよ?」ナデナデ

473 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/03 03:36:07.14 MMXxl+Feo 346/2638


紅莉栖「岡部の言う通りだったわ! 岡部すごい! 尊敬する!」アセッ

倫子「いいもん……別に。あんたはずっと計算式でもいじってればいいじゃない……」イジイジ

ダル「(女言葉に戻ってる……そんなにショックだったのかお)」

紅莉栖「でもホントに奇跡的な偶然ね。42型を設置してくれた店長さんに感謝しないと」

倫子「偶然だとぉ? ククク、違うな、間違っているぞクリスティーナ!」

倫子「すべては運命石の扉<シュタインズ・ゲート>の選択だっ!」

紅莉栖「……そ、そうねっ! その、シュタインズゲートすごいっ!」

倫子「そうであろう、そうであろう?」ニヤニヤ

ダル「牧瀬氏、もういっそのこと常識をかなぐり捨ててオカリン儲になっちゃえばいいのに」

まゆり「クリスちゃんは科学者さんだもんねー」

紅莉栖「"岡部のおかげ"でタイムリープマシンは99%完成したと言ってもいいわ」

倫子「いよいよだな……」ゴクリ

紅莉栖「このラボの、夢だものね。タイムマシンは」

倫子「夢、か」

倫子「そうだ。そのためにオレたちはこれまで努力を重ね、そしてこれからも挑み続けるのだ」

まゆり「よかったねー、オカリン♪」

倫子「オレはっ! 世界の支配構造を混沌に陥れっ! 時空の支配者となるのだっ! ふぅーはははぁ!」

ダル「オカリンが楽しそうでなによりです」

紅莉栖「激同」フフッ

478 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/04 21:49:05.65 B1gYbIKuo 347/2638


・・・

まゆり「できたー♪」

倫子「ルカ子コス、完成したのか?」

まゆり「うん。クリスちゃんより先にできたよー。競争してたんだー」

紅莉栖「負けたわ。でも、こっちももう終わりよ」

ダル「はい、完成」b

倫子「……そうか。ご苦労」

紅莉栖「…………」

ダル「…………」

まゆり「み、みんな、どうしたのー?」

紅莉栖「私たち、ひょっとすると、とんでもないもの作っちゃったかもしれない……」

倫子「ど、どうする?」

ダル「どうするって、何が」

倫子「タイムリープマシンの扱いについて、だ」

紅莉栖「…………」

倫子「実験大好きっ娘のお前は実験したくてたまらないだろう」

紅莉栖「岡部は? 鳳凰院ちゃんじゃなくて、倫子ちゃんの意見が聞きたい」

倫子「だからちゃん付けするなと……。オレも実験してみたくはある、が……」

倫子「……だれがタイムリープするんだ?」

479 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/04 21:50:03.13 B1gYbIKuo 348/2638


倫子「もし仮にオレが1時間前へタイムリープしたとして――」

倫子「フラクタル化によりスカスカになった記憶データがオレの脳にぶち込まれるかもしれない」

倫子「それは一種の記憶喪失と同じ状態になるのではないか……」ガクガク

紅莉栖「わ、私が跳ぶわっ! 倫子ちゃんに怖い思いをさせたくないっ!」

倫子「倫子ちゃん言うなぁ!」

ダル「なんの解決にもなってなくね?」

紅莉栖「結局のところ、実験しないとどうなるかなんてわかんないのよ」

紅莉栖「最終的には、"意識はどこにある"という問題に行きつく」

ダル「うは。それって、魂とか宗教の分野じゃん」

紅莉栖「だ、だから、岡部が実験したいなら、わ、私の脳を使って……。元々私が言い出したマシンだし……」プルプル

倫子「…………」

倫子「実験は、中止だ」

倫子「タイムリープマシンは、しかるべき研究機関に託そう。そして、世間に公表する」

ダル「ほっ」

紅莉栖「岡部……」ジュン

まゆり「ねえ、それならみんなで完成パーティーをしようよー!」

倫子「そうだな。内輪で宴会をやる分にはいいだろう。いざ、開発評議会っ!」

ダル「僕もうお腹ペコペコだお~」

紅莉栖「いいわね、それ。今まで根詰めっぱなしだったし、パーッと行きたいわ」

480 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/04 21:51:22.65 B1gYbIKuo 349/2638

ブラウン管工房


倫子『実験は中止だ』

倫子『タイムリープマシンは、しかるべき研究機関に託そう。そして、世間に公表する』


天王寺「……なんだってまあ、指令書通りに物事が運んじまうんだろうな」

天王寺「運命なんてもんは信じたくねえけどよ」ポチポチ


To M4
Sub 元気にしてた?
今日の夜、実行部隊に未来
ガジェット研究所を襲撃さ
せるわ。
すでに実行部隊は秋葉原に
入っているわ。作戦開始ま
でに昌平橋ガード下の公衆
トイレ前で合流してちょう
だい。


天王寺「綯……、綴……、鈴さん……」

天王寺「仕方ねえよなあ。仕方ねえんだよ」

天王寺「これ以上、失うわけにはいかねえよなぁ……」

481 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/04 21:53:00.82 B1gYbIKuo 350/2638

未来ガジェット研究所


prrrr prrrr

紅莉栖「あ、ごめん。私だわ。ちょっと電話出てくる。ママかな?」タッ

倫子「ここで出ても構わんのだが……。ちゃんと開発室のカーテンを閉めるところがいかにも助手らしい」

ダル「じゃ、僕はピザの予約しとくお」

まゆり「まゆしぃはるかちゃんとフェリスちゃんを呼びに行ってくるねー」

倫子「ついでにバイト戦士も頼む。指圧師にはオレからメールしておこう」

紅莉栖「…………」

倫子「早かったな助手。それじゃ、オレたちは買い出しにでも……クリスティーナ? どうした?」

紅莉栖「……ほかべぇ!!」ダキッ

倫子「ふおっ!?」

ダル「百合展開キタコレ!」

倫子「ちょ、どうした突然……って、お前、泣いているの、か?」

紅莉栖「……グスッ」

倫子「(よほどのことを母親に言われたのか? これは青森に行ってからも一波乱ありそうだな……)」

まゆり「クリスちゃん、大丈夫?」ナデナデ

紅莉栖「まゆり……まゆり……っ」ウルウル

倫子「ほら、いつまでもめそめそしているでないぞっ! ラボメンとしての本分を忘れるなっ!」

482 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/04 21:54:16.71 B1gYbIKuo 351/2638


倫子「で、だ。メンバーも全員集合したところで、また晩餐を作ろうと思うわけだが」

ダル「いやー、ホント僕って勝ち組だよな。マジリア充の最先端っつーか?」

倫子「貴様は二酸化炭素だけ吸引して酸素でも吐いていろ」

るか「そ、それは難しいですね……」

紅莉栖「ごめん。私、外の空気吸ってくる」

鈴羽「その方がいいよ。牧瀬紅莉栖の料理って激マズだから」

紅莉栖「う、うん……」

鈴羽「……調子狂うなぁ」ポリポリ

倫子「まあ、助手はカレーにパインをぶち込むような典型的メシマズ女子だからな。英断と言える」

鈴羽「調理器具の準備終わったよ。お、桐生萌郁も手が空いてるなら手伝ってくんない?」

萌郁「カレー……作るの?」

フェイリス「ニャハハ。みんなでパーティーするのにカレーはもってこいニャ!」

ダル「フェイリスたんがキッチンに!? みwなwぎwっwてwきwたw」

フェイリス「ダルニャンはちょっとダイエットした方がいいから、フェイリスの手料理はおあずけニャーン♪」

ダル「鈴羽ごめんなぁ。もしかしたら父さん、フェイリスたんと結婚できないかも……」

鈴羽「あたしの母さんはフェイリスじゃないから安心して」

ダル「ぐふぅ!!」

萌郁「……(やっぱりみんなと居ると楽しいな(≧▽≦) )」

萌郁「……私、牧瀬さん探してくる」

倫子「ん? ああ、頼んだぞ。ラボメンナンバー005」

483 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/04 21:55:38.01 B1gYbIKuo 352/2638

大檜山ビル前のベンチ


萌郁「…………」ポチポチポチポチ


To FB
Sub
彼らにはSERNに反抗出
来る戦力はない。
殺してしまう必要はないと
おもう_


萌郁「……(こんなメール、送れない)」


To FB
Sub
了解


prrrr prrrr


萌郁「……!!」


To M4
Sub 確認しておくわ
万が一にもないって信じて
るけど、裏切ろうなんて思
ってないでしょうね?
ラボの人たちだって、いつ
かあなたを見捨てるかもし
れないわよ?
昔の自分には戻りたくない
でしょう?
私はすぐ側であなたを見て
いるわ。


萌郁「(私……どうすれば……)」

カランコロンカラーン

紅莉栖「はい、店長さん。それでよろしくお願いします。それじゃ」

萌郁「っ!?」

紅莉栖「あら、萌郁さん……顔色悪いわね……」

萌郁「な、なんでも……っ、ない……」

紅莉栖「あいつなら、なんて言うかな……」

萌郁「……?」

紅莉栖「もしも、桐生さんがつらい目に遭ってるなら、私たちラボメンは必ず力になる」

萌郁「…………」

紅莉栖「たとえ今の世界線では相談できなくても……ううん、早くラボに戻りましょう?」

484 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/04 21:56:59.54 B1gYbIKuo 353/2638

未来ガジェット研究所


まゆり「ねぇねぇるかちゃん。まゆしぃが作ったコス、試着してみない?」

るか「え、ええっ!? まゆりちゃん、それ、作っちゃったの? は、恥ずかしいよ……」

倫子「まだルカ子に約束を取り付けていなかったのか。まゆりめ、意外と策士だな」

まゆり「"かわいいは正義"なのに。オカリンもクリスちゃんもかわいいよぉ~♪」

紅莉栖「え……。あ、うん……」

倫子「クリスティーナよ。放心していては"機関"につけ入れられるぞっ!」

紅莉栖「うん……そうなのよね、わかってる……」

ダル「ついに牧瀬氏がオカリンの厨二に同調してきた件」

フェイリス「ニャニャ!? ついにクーニャンもこちら側の勢力に……!」

倫子「嬉しいようで嬉しくないな、これ……」

鈴羽「牧瀬紅莉栖、大丈夫? 調子悪いの?」

紅莉栖「う、ううん。別に大丈夫よ、気にしないで」

鈴羽「そう……?」

倫子「(この2人、というか鈴羽の助手に対する意識は改められたようだな。ダルのおかげか)」

485 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/04 22:00:14.09 B1gYbIKuo 354/2638


TV『"爆破テロ予告で山手線、総武線、京浜東北線の前線が運転見合わせ"』

鈴羽「テロ?」

ダル「うお、全部アキバ通ってんじゃん。まゆ氏帰れないんじゃね?」

まゆり「本当だー。お家に電話しなくちゃー」

フェイリス「秋葉原でテロなんて、このアキバの守護天使であるフェイリスが天地神明に誓って許さないのニャ!」

萌郁「…………」プルプル

るか「桐生さん? そ、そうですよね。怖いですよね。ボクも怖いです」

鈴羽「……鳳凰院凶真。1つ聞かせて。タイムリープマシンは完成してるんだよね?」

倫子「あ、ああ。そのための開発評議会だ」

鈴羽「あたし、用事思い出したからちょっと出かけてくる」タッ

紅莉栖「スズちゃん……」

ダル「ちょ、我が愛しのラブリーマイドーターをちゃん付けしていいのは僕だけだお」

倫子「打ち解けたと思ったらすぐこれだ。助手の魔の手から娘を守ってやれ、パパ」

ダル「うおっ、オカリンのパパ呼びも捨てがたい……ハァハァ」

倫子「鈴羽の母親になるつもりは、ないっ!」



バァン!!



??「動くな!」

486 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/04 22:02:53.81 B1gYbIKuo 355/2638


オレは完全に油断し切っていた。

その警告はいくらでもあったはずなのに。

こうして仲間たちと和気藹々とする中に、あろうことか"鳳凰院凶真"を置き忘れてしまっていた――


ダル「えっ、ちょ……!?」

るか「銃!?」

倫子「(あれはAK-47、アーカーヨンナナ。カラシニコフと呼ばれる旧ソ連のアサルトライフルだ。モデルガンのような軽さは感じられない)」

倫子「(オレはミリオタではないが、中二の時、自衛手段をネットで色々調べていた延長で知っている)」

倫子「(この時のオレには、目の前の光景がどこか現実離れした、映画のワンシーンのように感じられた)」

ラウンダーA「手を挙げて全員一列に並べ」

ラウンダーB「早くしろ!」

ラウンダーC「タイムマシンはどこだ。渡せば危害は加えない」

倫子「やめて……やめてよ……」

倫子「私から、奪わないで……」

ダル「オ、オカリン、取りあえず手を挙げて!」

萌郁「……っ!」

紅莉栖「…………」スタスタ

ダル「ちょ、牧瀬氏!? どこ行くん!?」

ラウンダーC「う、動くんじゃねえ!!」

ラウンダーA「待て。この人が指令書にあった……」

ラウンダーB「なんだと? ってことは、あんた、FBなのか?」

萌郁「えっ―――」

487 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/04 22:07:46.55 B1gYbIKuo 356/2638


紅莉栖「300人委員会序列持ち、ZプログラムのSERN主任研究員……、牧瀬紅莉栖42歳」

紅莉栖「計画通り、私の意識は2034年からタイムリープしてきた」

紅莉栖「この時代の人格としてはFBでいいわ。2010年のラウンダーのみなさん、改めましてよろしくね」

倫子「(外人部隊と握手を交わす紅莉栖。え、なんだ? 今、なんて言った――)」

萌郁「えふ……びー……っ!!」ダキッ

紅莉栖「スパイご苦労様。あなたにはつらい思いをさせてしまったわね」ナデナデ

倫子「(スパイ? いや、それより300人委員会って……)」

萌郁「FBっ!! 牧瀬さんが、FBっ!! 私を、見ててくれたぁ……」ウルウル

紅莉栖「(――――――)」ヒソヒソ

萌郁「……? わかり、ました……」

紅莉栖「さて、今から32秒後にテロリスト阿万音鈴羽が玄関から現れる。あんたたち、彼女を生け捕りにしなさい」

紅莉栖「側頭葉を解剖した上でラジ館のタイムマシンに乗せて1975年へ跳んでもらうわ」

ラウンダーA「了解、FB!」

倫子「(だめだ……まったく理解が追い付かない……こいつらは、一体何をやっているんだ?)」

488 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/04 22:12:39.01 B1gYbIKuo 357/2638


カラカラカラ……

ラウンダーB「なんだ!? スモークか!?」

ラウンダーC「いや、違う……ケータイ?」

倫子「(あれは……鈴羽のケータイか? なんで部屋に投げ込まれ――)」

ガチャ!

鈴羽「ハッ!」

ラウンダーA「ぐあっ!」

鈴羽「借りるよっ!」パララッ! パララッ!

ラウンダーB「ぐふっ!?」バタッ

ラウンダーC「うおあっ!」バタッ

萌郁「動かないで、テロリスト」ジャキッ

ダル「桐生氏まで!?」

鈴羽「桐生萌郁っ!? どうして――ぐっ!」バタッ

ラウンダーA「クソガキが、舐めた真似しやがって!」

フェイリス「ス、スズニャンが爆破テロのテロリスト!?」

ダル「そんな……、なにかの間違いだお!」

萌郁「私は……M4。SERNの、ラウンダー」

倫子「SERN……!? ラウンダー、だと!? 助手、どういうことだ説明しろっ!」

紅莉栖「口で説明するよりも、実際に見せた方が早いかもね」


      『牧瀬紅莉栖には気を付けて』


倫子「お、お前、何を言って――」

紅莉栖「今から3分54秒後……、椎名まゆりは絶命する」

489 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/04 22:16:07.35 B1gYbIKuo 358/2638


ラウンダーB「これがSERNの力か……間近で見るのは初めてだ」

ラウンダーC「えげつねえことしやがる……」

ラウンダーA「俺は2回目だ。あれはたしか9年前……現場には居られなかったが、身籠った女がゼリーマンとして処分されたと聞く」

紅莉栖「漆原るか、秋葉留未穂。今すぐここから退室しなさい。まゆりが死ぬわよ」

るか「そんなぁっ!! まゆりちゃんっ!!」

フェイリス「……ルカニャン、今は言う事を聞くニャ」

フェイリス「紅莉栖ちゃん……私は、貴女を信じてるよ……」

紅莉栖「…………」

倫子「ちょ、ちょっと待て! 状況を整理させろ! ええと、どこから話をすれば……っ!」

まゆり「まゆしぃが、ぜつめい? ぜつめいって……絶体絶命の絶命?」

紅莉栖「死因はおそらく心臓発作。まゆりが死ぬ根本的な原因は、阿万音鈴羽。あんたのせいよ」

鈴羽「牧瀬……、マキセ、クリスゥゥゥゥアアアアアアッ!!!!!!!」

紅莉栖「そいつは殺せないから撃っていいわ」

ラウンダーA「大人しくしろ!」バァン!

鈴羽「ギャァッ!!!」

ダル「や、やめろ、やめてくれぇ!!」

紅莉栖「阿万音鈴羽の乗ったタイムマシンが2010年7月、そして1975年6月に現れることでこの世界線は因果が円環状に閉じてる」

倫子「なんの……話だ……」

紅莉栖「世界を救うために作ったタイムマシンが、ディストピアの大黒柱になってるんだから、笑っちゃうわね」

紅莉栖「あんたのおかげよ、橋田至」

鈴羽「父さんを……父さんをバカにするなぁっ!!! ぐっ!!!」

ダル「鈴羽ぁっ! 大声出しちゃだめだぁっ!」

紅莉栖「まゆり、そろそろ息が苦しくなってくるんじゃない?」

まゆり「え――――カハッ」

倫子「ま、まゆりっ!?」ダキッ

490 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/04 22:17:22.13 B1gYbIKuo 359/2638


倫子「嘘よ……こんな、こんなバカなことが……っ!!」

まゆり「オカ……リン……」

倫子「なんでよ……なにがどうなってんのよ、誰か説明してよぉ!!!」

倫子「冗談でしょ、全部演技なんでしょ!? ねえ!?」

紅莉栖「世界は欺瞞で満ち溢れてる。常に警戒を怠ってはいけない。誰の言葉だったかしらね」

倫子「……コノヤロウッ!!」ギロッ

まゆり「……いやだよ……死にたくないよ……」

倫子「まゆりっ!! そんな、ダメだ、逝くな!! おいっ!!!!!」

紅莉栖「橋田至を連行して。こいつも今は死なないから何してもいいわよ」

ラウンダーA「了解、FB!」バァン!

ダル「ぐはぁっ!」バタッ

鈴羽「父さんっ!!!」

紅莉栖「最後に岡部倫子……。お前は今から人体実験させてもらうわ。そこのマシンでね」

倫子「まゆりっ!! まゆりぃぃっぃっ!!!」

紅莉栖「あんたたち、後は私に任せて、とっとと仕事しなさい」

ラウンダーC「……マッドサイエンティストめ」

ラウンダーB「黙ってこのデブを運べ」

491 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/04 22:19:52.26 B1gYbIKuo 360/2638


倫子「まゆりっ!! まゆ、ゴホッ、ま゛ゆ゛り゛ぃぃぃぃっ!!!!!」ポロポロ

まゆり「…………」

倫子「そ、そうだ、きゅうきゅうしゃ! いますぐきゅうきゅうしゃをよべ、じょしゅ!」

紅莉栖「椎名まゆりは予定通り死亡。ねえ、鳳凰院凶真。こんなの否定したい?」

倫子「き、きさま、なにをいってるんだ、さっきから、おい……」プルプル

紅莉栖「ちょっと刺激が強すぎたかしら。簡単な話よ。これは夢なの」

倫子「ゆ、ゆめ……?」ガクガク

紅莉栖「そう。だから、あんたは夢から目が覚めれば元の世界に戻っている」

紅莉栖「今頃本当はラボメンみんなで楽しくパーティーをしている頃合いでしょう?」

倫子「そ、そうだ、かいはつひょうぎかいを……はは、そうだよ、おいしそうなカレーだって、そこに……」フラフラ

倫子「血の……臭い……」ゾワワァ

紅莉栖「ほら、愛しの倫子ちゃん。こっちにおいで」ヨイショ

倫子「じょしゅ……たす、けて……」ヨロヨロ

紅莉栖「はい、ヘッドギアかぶって。そうそう、良い子ね。ケータイ借りるわよ」

紅莉栖「……(本物のFBはスズちゃんが殺した。どこかに盗聴器。42型点灯済み。マシンは完璧)」ヒソヒソ

倫子「え――――」

紅莉栖「さようなら、岡部倫子」

紅莉栖「……ごめんね」ピッ



バチバチバチバチッ!!

492 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/04 22:26:37.94 B1gYbIKuo 361/2638




―――――――――――――――――――――――

2010年8月13日19時56分 → 2010年8月13日16時56分

―――――――――――――――――――――――




523 : >>522送った ◆/CNkusgt9A - 2015/12/06 00:57:18.96 B1hbzoR9o 362/2638

第6章 形而上のネクローシス♀

ブラウン管工房


天王寺「これは……驚いたな。まさかあんただったとは」

紅莉栖「指令書通り、今後は私が指揮を執りますので」

天王寺「肩の荷が下りるよ。ありがてえ」

紅莉栖「……勘違いしているようですが、あなたを生かしておくわけにはいきません」

天王寺「わかってるよ。それでも構わねえって言ってるんだ」

天王寺「だが、絶対に約束しろ」

天王寺「綯を関わらせるな。綯だけは何も知らずに育って欲しいんだ」

紅莉栖「大丈夫ですよ。私の居た未来では天王寺綯は秋葉原の大地主、秋葉幸高氏の養女となり、何も知らぬまま健やかに成長していきます」

天王寺「未来から来たあんたが言うんだ。間違いねえんだろうよ」

紅莉栖「あなたの処分方法ですが……この後、阿万音鈴羽が42型ブラウン管テレビの電源を入れにここにやってきます」

天王寺「あぁ? 42型ぁ?」

紅莉栖「それを阻止しようとすると同時に、自分がSERNの犬であることや、今日の襲撃を指示したことなどを暴露してください」

紅莉栖「そうすれば阿万音鈴羽は逆上し、必ず戦闘になる。そこで上手いこと死んでください」

天王寺「……おい、ちょっと待て。バイトの正体って、まさか……」

紅莉栖「あなたもよく知っている人物ですよ」ニコ

紅莉栖「2036年から来た反SERN組織のメンバーであり、橋田至の娘」

紅莉栖「そして……あなたの母親代わりだった、橋田鈴本人です」

天王寺「は、はぁっ!?」

524 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/06 00:59:32.76 B1hbzoR9o 363/2638


紅莉栖「ブラボーチームが阿万音鈴羽を確保。記憶を消去してから1975年へと跳ばします」

天王寺「……理解はできたが、タイムトラベルってのはとんでもねえな」

天王寺「つまり俺は、過去の鈴さんに殺されるってわけだ」

天王寺「クソ。SERNのくせに粋な演出をしてくれるじゃねえか」

紅莉栖「これはSERNの仕込みではないですけどね」

天王寺「……巡り巡って、か。因果応報だな」

天王寺「鈴さんを裏切ったツケが回ってきたってわけだ」

天王寺「あの人に殺されるなら……本望だよ」


prrrr prrrr


天王寺「……M4からメールだ。それじゃ、俺から最後のメールを送っておくよ」

紅莉栖「私に依存させるような文面でお願いします」クルッ

天王寺「任せとけってんだ」



『―――うあああああああっ!!!!!!!』



紅莉栖「……っ!!!」

天王寺「な、なんだ? 岡部か?」

紅莉栖「……あなたには関係ない。聞かなかったことにしなさい」ギロッ

天王寺「お、おう。わかった」

カランコロンカラーン

紅莉栖「はい、店長さん。それでよろしくお願いします。それじゃ」

萌郁「い、今の、岡部姉さん……?」

紅莉栖「桐生さん……? 早くラボに戻りましょう」タッ

525 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/06 01:02:04.58 B1hbzoR9o 364/2638

未来ガジェット研究所


鈴羽「……大丈夫。生命に問題は無い」

るか「岡部さぁん!!」グスッ

まゆり「オカリン……っ」

紅莉栖「岡部、大丈夫!?」

萌郁「岡部……さん……っ!」

ダル「牧瀬氏、桐生氏! な、なんかオカリンが急に悲鳴を上げて……」

倫子「はぁ……はぁ……。じょ、しゅ……?」

倫子「お、お前は、助手なのか……? オレの知っている助手なのか……?」ワナワナ

鈴羽「まるで記憶操作の洗脳を受けたみたい……」

倫子「紅莉栖……」ウルッ

紅莉栖「……初めて、まともに名前を呼んだくれたね」

倫子「……助けてくれぇ」ダキッ

紅莉栖「……また変な夢でも見たの?」ナデナデ

倫子「夢……? あ、ああ。そうか。あれは夢だったんだ……」

倫子「そうだよな、あんなのちっともリアルじゃなかった。どこのハリウッド映画だよ、はは……」

倫子「まゆりだって、こうして元気に……」

まゆり「オカリン? まゆしぃは元気だよ?」

紅莉栖「……ねえフェイリス。これ、どう思う?」

フェイリス「いつもの厨二……には思えないニャ」

紅莉栖「夕食時まではまだ時間があるし、ちょっと岡部連れて散歩しない? そう言えばドクペを買い忘れてたから、買いに行かなくちゃ」チラッ

フェイリス「……? ……大賛成ニャー! それじゃ、フェイリスとクーニャンと凶真は時間まで3人で約束の地を放浪してくるのニャ♪」

まゆり「えぇー、ずるいよフェリスちゃん、クリスちゃん。まゆしぃもお散歩したいよー」

フェイリス「このクエストは選ばれし者だけに許されているのニャーン。マユシィたちは準備の続きを頼むニャ」

紅莉栖「ほら、岡部。行くわよ?」

倫子「へ……? あ、ああ」

526 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/06 01:03:17.80 B1hbzoR9o 365/2638

秋葉原タイムスタワー
秋葉邸


紅莉栖「アイコンタクトに応えてくれてありがとう、フェイリス。さすが私の幼馴染」

フェイリス「それで……凶真はどうしちゃったのニャン?」

倫子「お、おい。買い出しに来たんじゃなかったのか? どうしてフェイリスの家に――」

紅莉栖「……ここなら街中に蔓延ってるラウンダーの目も、盗聴器も無いわ」

倫子「なんの話だ……?」

紅莉栖「黒木さんも幸高さんも私たちの味方だってのは未来でわかってる」

フェイリス「未来で……?」

倫子「お、おい助手! いったいなんの話だ、3行で説明しろ!」

紅莉栖「逆に聞くけど、岡部。あんた今、"何週目"?」

倫子「な……に……?」

紅莉栖「その様子だと、もしかして1週目、かしら。わかる? あんたは今日の19時56分からタイムリープしたはずよ」

倫子「タイム……リープ……? ま、まさか……お前……っ!!」

紅莉栖「ラボの襲撃、SERNの陰謀、まゆりの死」

倫子「……っ!?!? あ、あれは、夢じゃなかったのか……っ!?!?」ゾワワァ

倫子「く、来るなぁ! フェイリス、今すぐ逃げろ! こいつは、この女は裏切者だっ!!」バタバタ

フェイリス「ニャニャ?」

紅莉栖「そこも説明されてないってことはやっぱり1週目か。いいわ、ちょっと長くなるけど全部説明する」

紅莉栖「…………」

紅莉栖「…………」

フェイリス「……?」

倫子「な、なんだ……!?」



紅莉栖「こ゛め゛ん゛ね゛お゛か゛へ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛っ!!!!!!!」



倫子「えっ」


527 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/06 01:04:12.06 B1hbzoR9o 366/2638


紅莉栖の話は、即座に受け入れられるようなものではなかった。

まるで異世界の話をするような――

だが、オレの目の前に居るのは確かに"紅莉栖"だった。

ラボメンナンバー004にして、鳳凰院凶真の忠実なる助手。

オレの知っている、牧瀬紅莉栖。

オレは、裏切られたわけではないのか……

その考えが脳裏をよぎった瞬間、それを心から信じる自分しか存在しなくなっていた。


528 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/06 01:07:45.82 B1hbzoR9o 367/2638


フェイリス「――取りあえず、クーニャンは凶真の味方、ってことでオッケーニャン?」

紅莉栖「私は岡部のためだけに生きてきたっ!! 岡部のことばかり考えて生きてきたっ!! 私が岡部の力になるっ!!」ヴィェェ

倫子「お、おう……」

倫子「(中身が42歳とは思えんな……まるでいつもの助手ではないか……)」

倫子「だが、つい数分前のお前はまるでSERNの犬だったぞ」

紅莉栖「もちろん演技よ……そういう計画を立ててたの。"この私"はまだ実行してないけど」

倫子「ということは、またやるのか……?」プルプル

紅莉栖「あれをやらないと2036年の未来に繋がらないから、私が逃げ出してもそういう風に収束する」

紅莉栖「桐生さんあたりが私の代わりをやるはず。……ごめん、ちょっと嫌な事思い出しちゃった」ウップ

フェイリス「だ、大丈夫ニャン!?」

紅莉栖「……桐生さんはラウンダーを裏切ったことで射殺、同時にまゆりも撃たれる」

倫子「(やっぱり萌郁はラウンダー、スパイだったんだな……だが、ラボメンとしての最期を選んだ、ということか)」

倫子「……さすが未来人、未来予知能力を持っているとは」

529 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/06 01:09:23.01 B1hbzoR9o 368/2638


紅莉栖「今は"岡部の1週目"だから、襲撃の前に一度岡部を2週目に跳ばすわ」

倫子「またあの気持ち悪さを体感しろ、と言うのか……」ウェ

フェイリス「どうしてそんなことをするニャン?」

紅莉栖「言った通り、私は2034年からタイムリープしてきた。目的はまゆりの死を回避するため、よ」

フェイリス「マユシィの……死?」

倫子「お、お前がまゆりを殺したんだろぉ!?」ガタッ

紅莉栖「……簡単に言えば、まゆりが今から2時間41分後に死亡するのは"運命"なのよ」

倫子「はぁ!? そんなバカな話があるかっ!」

紅莉栖「物理学的に言えば収束によるもの。因果律の崩壊を世界が阻止しているの」

倫子「しゅうそく……、アトラクタフィールド理論っ!?」

紅莉栖「まゆりの死によって、世界はディストピアに収束する」

紅莉栖「まゆりの死を回避するには、アクティブ世界線を変更するしかない」

紅莉栖「それができるのは、岡部。あなただけなの」

紅莉栖「あなたこそ……救世主なのよ」

倫子「は……?」

531 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/06 01:13:41.70 B1hbzoR9o 369/2638


倫子「つ、つまり、お前もジョン・タイターと同じ目的――ディストピアを破壊する――で過去へ跳んできた、というのか?」

紅莉栖「そう。そのためにSERNの幹部に上り詰めることで情報をつかんできた」

紅莉栖「おかげで2010年のSERNに私の計画通り動いてもらえるような指令書を送れた」

倫子「……電話レンジ(仮)を作ったのだな。それでDメールを……」

フェイリス「クーニャンは24年間敵地に潜入していた、ってことニャ?」

紅莉栖「そうよ……グスッ……大好きな岡部と会えないまま20数年間……エグッ……一緒に青森にも行けなかったのぉ……」

フェイリス「おー、よしよし」ナデナデ

紅莉栖「勿論、裏でワルキューレにSERNの情報を流してみたりしたけれど……。あまり効果がなかった」

紅莉栖「それ以上に収束は強力だった。人間1人の意志で、未来を変えようなんてほとんど不可能だった」

紅莉栖「私の力では、未来へも過去へもいけるタイムマシンを作ったり、何十年タイムリープしても問題ないリープマシンは作れても――」

紅莉栖「……世界線を変えることはできない」シュン

倫子「なぜだ? 過去へDメールを送れば現在も変わるはず」

紅莉栖「それを認識できるのは完全なリーディングシュタイナー発症者だけ」

紅莉栖「私は……不適合者だった」

倫子「発症? 不適合者?」

532 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/06 01:20:01.03 B1hbzoR9o 370/2638


紅莉栖「リーディングシュタイナー。あんたが名付けたテキトーなネーミングが未来では通用してるわ」

倫子「……恥ずかしすぎるだろっ!!」ガバッ

フェイリス「未来の黒歴史を創出するとは……さすが鳳凰院凶真だニャ……」

紅莉栖「研究でわかったのは、リーディングシュタイナーは新型脳炎のようなものだった、ということ」

フェイリス「脳炎……? 凶真は病気なのかニャ?」

紅莉栖「脳に異常があることで発生する記憶喪失症状……それがリーディングシュタイナー」

倫子「……いいや違うぞ。オレはむしろ"覚えている"のだ、世界中の全員が忘れてしまったことを」

紅莉栖「通常の脳なら歴史の再構成に合わせて記憶も再構成される。だけど、リーディングシュタイナー患者の脳はね……」

紅莉栖「再構成されたはずの記憶を一瞬にして喪失してしまう。というより、記憶を"思い出せなくなる"の」

倫子「それでは脳がスカスカになってしまうではないか。だがオレはこうして前の世界線の記憶があるぞ」

紅莉栖「記憶だけじゃなく、今のあんたの脳には意識も人格も引き継がれている」

倫子「なに? 記憶はデータ化できるが、意識や人格はわからんと言ったではないか」

紅莉栖「結論を言えば、意識も人格もバイナリデータ化していた。あるいは添付ファイルみたいな形で」

533 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/06 01:22:57.08 B1hbzoR9o 371/2638


倫子「まるで人間の魂が未知の物質により構成されているというトンデモ話だな……」

紅莉栖「量子脳理論ね。まあ、それはおいといて」

紅莉栖「つまり、再構成された記憶と意識と人格を喪失して空っぽになった脳に、それまで脳が持っていた記憶と意識と人格がダウンロードされてるってこと」

倫子「い、いやいや、タイターの説によれば、世界は多世界解釈のはずだ。オレの脳ミソは無限個あるのだから、改変前の脳と改変後の脳は別物ではないのか?」

紅莉栖「それは嘘。阿万音さんがSERNを欺くために仕組んだ罠」

倫子「嘘……。また、嘘なのか……」

紅莉栖「本当は、世界線は常に1つだけがアクティブの状態にある。それ以外の世界線は可能性の雲になっているに過ぎない」

紅莉栖「岡部の肉体が別世界線に移動してるんじゃない。世界自体が、スイッチのオンオフのように切り替わってるだけ」

倫子「……なるほど、世界線が変わろうとオレの脳ミソは1つしかない。だから意識も記憶も人格も引き継がれる、と言いたいのだな」

紅莉栖「通常の脳でも非アクティブ世界線における”あったはずの記憶”を思い出すエラーが起こることがある。今の時代ではこれはデジャヴとか白昼夢として処理されてる」

紅莉栖「正直に言うと、未来でもよくわかってないのが本当なんだけど、現状では岡部の認識で問題ないと思う」

フェイリス「うニャ~、難しくてわかんニャい~!」

534 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/06 01:30:30.52 B1hbzoR9o 372/2638


紅莉栖「リーディングシュタイナー患者の脳を研究することで、人工的にリーディングシュタイナー脳を作る技術をSERNは開発した」

紅莉栖「これが無きゃ、タイムマシンでディストピアなんて夢のまた夢だものね」

倫子「……それは、脳を開頭して電気ショックを、とかそういうのじゃないだろうな?」ガクガク

紅莉栖「……今から代々木のAH東京総合病院の地下室に行けばわかるけど、この時代でも既に300人委員会は似たようなことをやってる」

フェイリス「マジかニャ……」

紅莉栖「だけど、私は不適合者だった。どれだけ脳をいじってもリーディングシュタイナーを手に入れることはできなかった」

倫子「……いじったのか?」ワナワナ

紅莉栖「今は18歳の脳だから、健康そのものよ」ウフ

紅莉栖「でもこれじゃ、私がタイムマシンで過去へ跳んでも意味がない。リーディングシュタイナーが無ければ、まゆりの死は回避できない」

紅莉栖「世界は間違いなくディストピアへと突き進む。そこでは私たちは全員不幸になる」

紅莉栖「他でもない、私がタイムマシンを完成させたせいでね……」

紅莉栖「だから、私はこの時間の岡部を頼るしかなかった……」グスッ

倫子「ま、待て待て。そこがわからん。どうしてオレじゃなきゃならんのだ?」

紅莉栖「本当は岡部にそんな思いをさせたくなかったんだけどね……」ウルウル

紅莉栖「あんたは2010年8月時点で"過去改変が可能な環境下"にありながら"リーディングシュタイナーを発症"している唯一の人類なのよ」

フェイリス「それで救世主……ニャるほど」

紅莉栖「そもそも、あんたが電話レンジ(仮)の機能に気付いたキッカケは、偶然Dメールを送信し、そして世界線の変化を観測したからでしょ?」

倫子「そ、そうだ。それが無ければおそらく天才少女たるお前にさえ興味を持たなかっただろう」

倫子「……もしかして、オレが、タイムマシンを作ろうと言ったから、お前も鈴羽も過去へ跳ぶことになって――」

倫子「まゆりが、死ぬのか?」ゾワワァ

紅莉栖「……岡部は間違ってないわ。悪いのは300人委員会以外の何者でもない」

紅莉栖「だから、岡部が責任を感じる必要は、ない」

倫子「あ、ああ……」

紅莉栖「つまりね……。岡部に改変前の世界線の記憶がある、ということがタイムマシン完成の因果へと直結している」

紅莉栖「裏を返せば、リーディングシュタイナーが無ければ過去を改変できない、ということになる」

フェイリス「えっと……それって文章的? 論理学的? にはそうかも知れニャいけど、なんだか納得できないニャ」

535 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/06 01:32:42.88 B1hbzoR9o 373/2638


倫子「納得できない?」

フェイリス「納得できないところはいくつかあるけど……、クーニャン。"現在"ってどこにあるのニャン?」

倫子「は……?」

フェイリス「時間は大きな川のようなもので、"現在"はそこに落ちた1枚の葉っぱのようなものだと思ってるんニャけど」

紅莉栖「なかなか鋭い質問ね」

フェイリス「クーニャンは2034年からタイムリープしてきたって言ったニャ。そうなると、その24年間はどこへ行っちゃったニャ?」

紅莉栖「私の脳の中……でいいかしら」

フェイリス「でも、そうなるとフェイリスたちの主観はどうなるニャ? フェイリスたちの脳には24年間の記憶なんて無いニャ」

倫子「そりゃそうだろ。だって、今はまだ2010年なのだから……ハッ」

紅莉栖「そう。私の記憶の中には、2034年まで生きてるフェイリスさんの記憶がある」

フェイリス「そのアダルトなフェイリスは、肉体を消滅させて、クーニャンの脳内に棲みついちゃった、ってこと?」

紅莉栖「そうよ。タイムリープでも微小な世界線変動が存在する。タイムリーパーが過去に跳んだ瞬間、到着時点から世界は分岐する」

紅莉栖「……"なかったこと"になる」

倫子「なかったことに……」

536 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/06 01:34:23.38 B1hbzoR9o 374/2638


倫子「それでオレがタイムリープしたことによって、あの惨劇はなかったことなった、ということか」

フェイリス「だから、そこがおかしいニャ」

倫子「む? オレには納得できたが」

フェイリス「タイムリープしてないフェイリスからすると、"現在"があっちに行ったりこっちに行ったりしてるのニャ」

フェイリス「まず、クーニャンが今日タイムリープして来ないで、クーニャンも襲撃された世界があるニャ?」

紅莉栖「そうね。私の24年前の記憶にはそれがある」

フェイリス「その時は凶真はタイムリープしなかったのニャン?」

紅莉栖「……岡部も女の子なのよ。あんなヤバイのが襲撃してきたら、どうなると思う?」

倫子「……悔しいが、チビって腰くだけになる未来が容易に想像できるな」ガックリ

倫子「だが、助手が過去へ跳んできたことにより、世界は分岐した。この分岐に乗ってオレは助手の大芝居を見たわけだ」

フェイリス「なんでそこで、今居る"1週目"の世界に分岐してないのニャン? 世界は1本の川の流れのようなものじゃないのかニャ?」

倫子「……フェイリスの言いたいことがわからん」

紅莉栖「つまり、フェイリスは"神の視点"を考慮してる、ってことよね」

フェイリス「そういうことニャ。クーニャンの話は、人類が時間を観測していることを前提に話をしてるのニャ」

537 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/06 01:36:49.08 B1hbzoR9o 375/2638


紅莉栖「結論を言うと、"現在"は観測者の主観に委ねられる」

紅莉栖「これは結果論ね。正直私も、実際にタイムリープするまではこの理論に確信が持てなかった」

紅莉栖「『現象に対して素直になれ』……。岡部の言葉のおかげで、私の実験は挑戦的になったみたい」フフッ

倫子「助手が過去へ来た因果に、オレの存在が影響しているのか……」

フェイリス「つまり、神の視点は存在しニャい? 時計は関係ないのかニャン?」

紅莉栖「強いていうなら、それに一番近いのは別の世界線を観測できるリーディングシュタイナー罹患者ね」

紅莉栖「世界線を分岐させてしまえば時間を客観化できる。観測した瞬間が現在になる」

倫子「量子力学の観測問題、か。箱を開いた瞬間、その中の猫の生死が決まると言う」

フェイリス「じゃあ、今からフェイリスが1時間前にタイムリープしたら、世界は切り替わるニャ?」

紅莉栖「そうなるわ。当然フェイリスの主観は1時間前を"現在"として認識する」

紅莉栖「私の主観では、そもそもフェイリスが1時間前にタイムリープしていたことを事実と認識した上で、今を"現在"として認識する」

紅莉栖「岡部からすれば目眩を感じないレベルのリーディングシュタイナーを発症することになる」

紅莉栖「橋田を雷ネットで勝たせようとした時のDメールレベルの世界の変化が起きる。つまり、ほとんど全く同じ世界へと切り替わる」

倫子「そして、謎の1時間の記憶を持ったフェイリスが突然オレの目の前に現れる、ということだな」

紅莉栖「だからこそタイムリープをするのは岡部じゃないといけないの」

紅莉栖「擬似的に世界の"現在"を岡部の主観に近似させるのよ」

フェイリス「それってニャんだか……凶真が独りぼっちになっちゃう気がするニャ」

紅莉栖「それをさせないために私が跳んできた……。岡部が改変した後の世界線でも、収束がある限り私は絶対に未来から跳んできている」

紅莉栖「その時私は必ず確認する。今、"何週目?"って」

倫子「……わかった。覚えておこう」

538 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/06 01:38:42.73 B1hbzoR9o 376/2638


紅莉栖「これで私がタイムリープしてきた理由はいいかしら」

フェイリス「つまり、凶真に世界線を変えてもらって、マユシィの死の運命を塗り替えるため、ってことでいいかニャ?」

紅莉栖「そう。世界線の変動はやってみなければわからない。そして私たちは絶対に諦めない」

紅莉栖「この2つの条件が揃ってるから、岡部は無限の時間をかけて世界を変えられるの」

倫子「当たり前だ。まゆりが死ぬ運命など、このオレ、鳳凰院凶真が塗りつぶしてくれるっ!!」

紅莉栖「そしたら、私を青森に連れて行ってね」フフッ

紅莉栖「……(今にそれがどれだけ無謀で、困難なことか。きっと身に染みてわかることになるんでしょう)」

紅莉栖「ごめんね、岡部……」グスッ

倫子「貴様はラボメンとして正しい行動をしたのだ。謝るのではなく誇るべきだっ」エヘンッ

紅莉栖「(かわいい)」

539 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/06 01:41:31.73 B1hbzoR9o 377/2638


倫子「ということは、またDメールを送ればいいのだな。まゆりを生存させるような18文字……」

紅莉栖「いいえ、そうじゃないわ。収束っていうのはそういうことじゃない」

紅莉栖「たとえどんな手段を使ったとしても、まゆりは必ず死ぬ」

紅莉栖「何故なら、まゆりが死んだことで岡部はワルキューレを立ち上げ、橋田がタイムマシンを作ってスズちゃんが過去へ跳ぶから」

紅莉栖「過去へ跳んだスズちゃんを私たちは既に観測している。因果は円環状に閉じている」

倫子「……そうか、それでお前はあの時、鈴羽を撃っても橋田を撃っても死なないなどと言っていたのか」

紅莉栖「私、これからそんなこと言うのか……鬱だ……」

倫子「だが、ならばどうしろというのだ? それになぜもう一度タイムリープせねばならん」

紅莉栖「それはね……私より詳しい人が居る。スズちゃんから聞いて」

倫子「鈴羽から……?」

紅莉栖「鈴羽は私と違って世界がディストピアになってしまってからの2年間を知っている」

紅莉栖「"1週目"ではもう時間が無いから、スズちゃんから話を聞くためにも1回タイムリープして"2週目"で時間を作らないといけない」

紅莉栖「午後2時頃へ跳んでもらうわ。私がタイムリープマシンを完成させた時刻よ」

紅莉栖「完成したらすぐに"実験はしない"って宣言して橋田とまゆりを解散させて」

紅莉栖「それから、未来から来る私に声を掛けてくれればいい。私が未来から来るまでは特に何もしないこと」

倫子「なるほど……」

紅莉栖「それよりも、今のうちに幸高さんも交えて300人委員会に対する対策を打っておきたい」

フェイリス「パパを?」

紅莉栖「もちろん、この世界線の未来でもディストピアは築かれる。だけど、そこから過去に跳ぶ鈴羽は別よ」

紅莉栖「もしかしたら無意味かも知れない。収束に押しつぶされるかもしれない」

紅莉栖「未来は変えられないかもしれない。それでも――」

紅莉栖「あの娘は、私たちラボメンの希望なの」

662 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 03:16:57.69 gd8Eaw7Mo 378/2638


幸高「――それで、紅莉栖ちゃん。僕を頼ってくれるみたいだね」

紅莉栖「私はもうちゃん付けされるような歳ではないですよ、おじさま」

幸高「あはは、それもそうか。いや、失敬」

幸高「……テキ屋さんの元締めにちょっと話をしたんだけど」

幸高「びっくりしたよ。紅莉栖くんから連絡があった通り、警察や鉄道会社に干渉があったらしい」

フェイリス「ニャッ!?」

倫子「なにっ!? ということは、あの爆破テロも……」

紅莉栖「報道まであと1時間ってところね」

倫子「(今までどこかリアリティに欠けるところがあったが、一度見た光景をこうして説明されると……現実なんだな、アレは)」ゾワワァ

幸高「この秋葉原一帯を封鎖して、出入りにも制限をかけているみたいだ。君たちを捕捉するためだろうね」

倫子「そこまでできるのか、SERNは……」ワナワナ

幸高「君たちは、一体何をして……」

紅莉栖「ごめんなさい。この計画自体は私が未来で練ったものです」

幸高「未来……?」

663 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 03:18:35.44 gd8Eaw7Mo 379/2638


・・・

幸高「……そうか、話はわかった。まさかタイムマシンが完成するとはね」

フェイリス「ニャ? パパ、信じるニャ?」

幸高「留未穂も信じているんだろう?」

フェイリス「それは、凶真やクーニャンが嘘を吐いてないってわかるからだけど……」

幸高「話してなかったかな。僕は大学時代、タイムマシンの研究をしていたんだよ」

倫子「えっ」

フェイリス「えっ」

倫子フェイリス「ええーっ!?!?」

幸高「東京電機大学の理論物理学専攻さ。僕は岡部くんの先輩にあたるんだよ」

倫子「し、知らなかった……」

紅莉栖「父とSERNで共同研究するようになってからお話を聞きました。橋田ゼミというところで"相対性理論超越委員会"というものをやっていたのだとか」

紅莉栖「(この世界線では……どう……?)」

幸高「そうそう。いやあ、懐かしいなぁ。当時を記録した8mmかカセットテープが残っていると思うけど、出そうか?」

紅莉栖「(良かった、スズちゃんはちゃんと記憶を持ったまま1975年に跳んでる)」

紅莉栖「(側頭葉の解剖に見せかけたただの人間ドッグはバレずに成功するみたいね)」

紅莉栖「(もしラジ館に刺さったタイムマシンが壊れてでもいたら"タイムマシンの母"が修理するつもりだけど、これも問題なさそう)」

紅莉栖「いえ、それはまた。それよりも、幸高おじさま……」

紅莉栖「あなたの愛する秋葉原を、こんな風にしてしまって……本当に申し訳ありませんでした」

幸高「君たちにとって大事なこと、なんだろう? それに、実際に荒らしているのは君たちじゃない」

幸高「SERNと300人委員会。僕は彼らのことを知っている。それも2つの方面からだ」

664 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 03:20:27.14 gd8Eaw7Mo 380/2638


倫子「知っているんですか!?」

幸高「1つ目は、その橋田教授が知っていたんだ」

幸高「教授はタイムマシン研究が外部に漏れるのを極端に恐れていた。出資元が僕しか居なかったのもそのせいだよ」

幸高「今にして思うと、SERNに感づかれるのを避けていたんだろう。聡明な人だったよ」

倫子「……そんな頃からSERNを警戒している人物が居たのか」

幸高「2つ目は300人委員会のことだ。正確には、そのものを知っているというわけじゃないけどね」

幸高「君たちは、"秘密結社"というのは現実離れしてフィクションじみた大層なものだと考えているんじゃないかい?」

紅莉栖「……今の岡部の頭の中ではまさしくそうかも」

倫子「それは違うぞっ! オレが言うことは常に真実っ! ゆえにっ! "機関"は妄想の産物なんかではないっ!」プンプン

紅莉栖「岡部、その"鳳凰院凶真"をずっとわすれないでね」

倫子「お、おう?」

幸高「有名なところだとシチリアンマフィア、テンプル騎士団、ソビエト連邦の出自なんかがそうなんだ」

幸高「君たちのラボだって、ある意味では秘密結社だ。この認識は重要だよ」

倫子「我がラボが"秘密結社"だと? わかっているではないかぁ、パパさん……ククク」ニヤリ

フェイリス「いつもの凶真だニャ」

665 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 03:21:22.82 gd8Eaw7Mo 381/2638


幸高「つまりね、300人委員会は"そこにいる"ことを前提としなければならない」

幸高「だが、こういう組織は考え方が分からない。本来なら喧嘩を売るべきではない相手だ」

幸高「けれどね、僕はこの秋葉原を自分勝手にしている連中を許せない。ああ、もちろん紅莉栖くんの事情はわかっているとも」

紅莉栖「……はい」

黒木「旦那様、お電話です」

幸高「おや、少し失礼するよ……。…………。どうやら手掛かりがつかめたようだ」

倫子「えっ?」

幸高「ラウンダーの1人を捕まえた」

フェイリス「ニャ!?」

幸高「話を聞く限り、おさげの女にやられていたところを確保してくれたらしい」

紅莉栖「……スズちゃんね。私の挙動をいぶかしんで動き出した、ってわけか……」

666 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 03:22:50.24 gd8Eaw7Mo 382/2638


幸高「昨日8月12日、フランスから特殊部隊が日本に入国したらしい」

倫子「あいつらか……」

幸高「目的はタイムリープマシンの奪取、並びに開発者3名の拉致。加えてIBN5100の確保」

倫子「IBN5100? なぜあいつらが……って、そうか。あの変なサーバを見られたくないのか」

紅莉栖「襲撃が起こる前に岡部が過去へ跳んで時間を巻き戻します。ですが、一応大檜山ビルの警備をお願いしてもいいですか」

幸高「わかった。知り合いに頼んでおこう」

倫子「このパパさん、もしかしてダル以上にナンデモアリなんじゃ……」

幸高「ちょうどいい、留未穂にも教えておこう。自分ではどうしようもない時は、誰か信頼できる人間に力を借りるのがビジネスの鉄則だ」

紅莉栖「……岡部。ごめんね、私1人の力ではどうしようもできなかった」

倫子「だから謝るなと。オレだってお前の力を借りなければどうしようもなかったと思う」

フェイリス「信頼は時として武器、ってことニャ!」

幸高「逆にそれは弱点でもある。300人委員会の構成員だって、血縁、地縁、なんらかのしがらみが必ずある」

倫子「つまり、分断工作ですね。スパイや洗脳、あるいは人質……」

幸高「それと、ヨーロッパ系の300人委員会、あるいはフランスに拠点を置くSERNがいずれ世界を牛耳るとしても、今は違う」

幸高「たとえば、中東のイスラム系武装秘密結社だって今は活動している。ロシア系でも、トルコ系でも構わない」

幸高「それらの組織がなにかのきっかけで300人委員会に対する敵対行動を取れば……と、これが僕の考えた仕返しさ」

倫子「す、すごい……。まるでアニメの世界の話だが、それを有言実行できてしまうとは……」

紅莉栖「……やっぱり、幸高おじさまに助けを求めてよかったです」

幸高「他でもない、親友の愛娘からの救援要請だからね。僕もいい意味でしがらみの中に居るってわけだ」

667 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 03:23:36.49 gd8Eaw7Mo 383/2638


幸高「おっと、そう言えば紅莉栖くんに渡すものがあるんだった。黒木」

黒木「こちらに」スッ

紅莉栖「私に?……って、え、これ……っ!?」

倫子「ひしゃげた箱? でも、かわいいラッピングがされているな」

フェイリス「中身は、フォークかニャ?」

幸高「章一の忘れ物だ。受け取ってほしい」

紅莉栖「そう……だったんだ……パパは、これをここに……」ウルッ

倫子「(そんなに大切なものなのか?)」

668 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 03:24:53.94 gd8Eaw7Mo 384/2638


紅莉栖「もう1つ、頼みたいことがあります」

幸高「なんだい?」

紅莉栖「ブラウン管工房の天王寺裕吾……さん、の、娘さん、綯ちゃんを秋葉家の養女として迎えてください」

フェイリス「ニャ!?」

幸高「……つまり、未来でそうなっているんだね?」

紅莉栖「そういうことです」

倫子「む? しかし、なぜだ」

紅莉栖「これから店長さんは殺される。彼を救うことはできない。綯ちゃんは親を失ってしまうのよ」

倫子「……これもSERNのせいか。クソッ」グッ

幸高「天王寺さんか、懐かしい名前だ。10年前、42型ブラウン管テレビを教授に頼まれて譲ったんだ」

幸高「そうじゃなくても、あれは価値があるから会社が傾きかけた頃に手放そうと考えたりしたんだけどね」

フェイリス「前にも話したと思うけど、パパは古い家電の収集家でもあるのニャ」

倫子「なんと、あの巨大なブラウン管にそんな由緒が……」

幸高「天王寺さんの人柄は半導体屋のトメさんから良い人だって聞いてるよ。わかった、そうしよう」

フェイリス「フェイリスに、妹ができるニャ?」

幸高「新しい家族を歓迎する準備をしなければね。ちかねにも相談しておこう」

フェイリス「……フェイリスが妹を守らなきゃ」

幸高「僕はこれから方々に電話をかけ続ける。君たちは少し休んでいたらどうだい?」

紅莉栖「ありがとうございます。でも、私たちはそろそろ過去へ戻る準備をしないと」

幸高「そうだったね。それじゃ、健闘を祈るよ」

倫子「……これが運命石の扉<シュタインズ・ゲート>の選択だよ。エル・プサイ・コングルゥ」

669 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 03:26:00.90 gd8Eaw7Mo 385/2638

未来ガジェット研究所


倫子「……なぁ、助手。本当にラウンダーは襲撃してくるのか?」

紅莉栖「自分の目で見たでしょ?」

倫子「そうなんだが……。あまりにもいつも通りのラボだから、周りがオレを担いでいるような気がしてならないのだ……」

紅莉栖「……まゆりの死は現実よ。つらいことだけど、絶対に忘れないで」

倫子「……う、うむ」

倫子「(まゆりの死を看取ったのはたしかにオレだった)」

倫子「(あいつはオレの腕の中で『死にたくない』と呟いたんだ……あれは、実際にあったことなんだよな……)」

紅莉栖「1周目の時は私が確実に未来に到着した後の時間へと跳んでもらったけど、今回は……」

紅莉栖「今から6時間前、午後1時30分に跳んでもらうわ。私の言ったこと、覚えてるわね?」

倫子「あ、ああ。鈴羽を捕まえて話を聞けばいいんだな?」

紅莉栖「そういうこと。それじゃ、私が42型の電源をつけてくるわ」

ガチャ

鈴羽「その必要はないよ、牧瀬紅莉栖。あたしが電源をつけてきたからね」

紅莉栖「っ……」

倫子「鈴羽……?」

670 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 03:26:52.62 gd8Eaw7Mo 386/2638


鈴羽「店長、天王寺裕吾がSERNの手下だったなんて思わなかったよ。まんまとしてやられた」

倫子「な、なに!? そうなのかっ!?」アタフタ

紅莉栖「……殺したのね」

鈴羽「もちろん。それから、妙な書類を手に入れたよ。これから起こることを指示している書類……差出人は」ピラッ

紅莉栖「っ!!」ビクッ

鈴羽「牧瀬紅莉栖、お前がすべての元凶だったんだね。あたしは早々にお前排除しておくべきだった……っ!」ギリッ

倫子「ち、違うんだ鈴羽っ! これは紅莉栖が打った芝居であってだなぁ!?」

鈴羽「鳳凰院凶真は騙されてるっ!……そうか、お前が洗脳したんだなァッ!?」ギロッ

紅莉栖「岡部、早くタイムリープマシンへ!」

倫子「お、おう!」

鈴羽「洗脳を解く前にタイムリープさせるわけにはいかないッ!!」ダッ



??「ダメだよ、バイトのおねえちゃん」



鈴羽「っ!?」


671 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 03:30:08.37 gd8Eaw7Mo 387/2638


鈴羽「な……綯……? どうして、ソファーの裏なんかに隠れて……」プルプル

「自分の胸に聞きなよ」ドスッ

鈴羽「しまっ!?……ぐあぁぁぁぁっ!!」バタンッ!!

倫子「なんで……そんな、どでかいナイフで……突進……すず、は……」ガタガタ

「あは……」

「あはは……」

「あははは……」

紅莉栖「ウソ……でしょ……」ガクガク

「嘘じゃない」ギロッ

紅莉栖「ヒッ」ビクッ

「父さんを死に追いやったお前たちを、絶対に許さないから」

倫子「おい紅莉栖どういうことだ説明しろぉっ!!」

紅莉栖「し、知らない……わからない……」ガクガク

「私がこの手で殺してやるまで、許さないから」グサッ

紅莉栖「ぐっ……ぎぃぃぃゃぁぁぁああああああ!!!!!!」

倫子「紅莉栖ぅぅぅぅっ!!!!!!」

「牧瀬は殺すわけにはいかないからな。足だけ潰してやるよ」

672 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 03:32:19.75 gd8Eaw7Mo 388/2638


「岡部倫子、お前は15年後に殺す」

  『――いいか、綯――』

「跪かせる。命乞いをさせる。そんなことでは許さない」

  『――俺に何かあったときには、あいつを頼れ――』

「自らの腸と肝臓と子宮と卵巣と糞尿を飲み下させてやる。もちろんそれでも許さない」

  『――男勝りの変なヤツだが、誰よりも優しくて温かい女性だからよ――』

「許さない許さない許さない……っ!」

673 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 03:33:21.44 gd8Eaw7Mo 389/2638


  『――このオレが、義理や同情で貴様を仲間にしたとでも思っているのか?』

「爪を剥がして目を潰して肉をニッパーでちぎり取って……」

  『――愚かな。お前はいつまでも発想が子どもだな』

「神経に焼けた鉄串を突っ込んで……」

  『――まゆりを殺した奴は、何人たりとも許しはしない』

「ケバブのように炙り吊るして……」

  『――思い出せ、お前もまゆりの死に荷担したことがあるはずだ』

「最後に残ったカスみたいな理性を強制的に目覚めさせてやる……!」

674 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 03:37:30.87 gd8Eaw7Mo 390/2638


鈴羽「がはっ! ごぼっ!!」ビチャビチャ

紅莉栖「内臓をやられてる……スズちゃんが死なないのはわかってるけど、すぐに病院に運ばないとぉ!」ポロポロ

「橋田鈴はいずれ殺す。それまで何十年間も怯えて待っていろ」

鈴羽「な……え……ゴフッ」グタッ

「それよりもお前だ、岡部倫子」

倫子「ヒィッ!」ビクッ

「誰よりも独善的で、自分の目的のためならすべてを切り捨てるクズ……」


  『凶真様ッ!! 信じてたのにッ!! 尊敬していたのにッ!!』

  『……大好きだったのにィッ!!!』

  『――天王寺裕吾は死ななければならない。計画は変更できない』

  『――まゆりのためなんだ』


「お前を、岡部倫子をタイムリープさせるわけにはいかない」

紅莉栖「っ!? どうして私の計画を……ってそうか、そこに隠れて見てたんだものね……」ポロポロ

倫子「何が……どうなって……」ワナワナ

「うるさい」ドスッ

倫子「ぐっ……はぁ゛ぁ゛っ!?!?!?」バタンッ!!

紅莉栖「おかべぇっ!!!!」ポロポロ

「両手を使えなくしてやるよ。ケータイがいじれないようにな」グサッ グサッ

倫子「……ぃぃぃぃぃぃぃぃあああああああああああああああ!!!!!!!!」



まゆり「やめてぇ!!!」


675 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 03:38:42.38 gd8Eaw7Mo 391/2638


紅莉栖「まゆりっ!? どうして戻ってきたのっ!?」

まゆり「る、るかちゃんのコスを置き忘れちゃって……」オロオロ

「なんだ、椎名まゆりか」グサッ グサッ

倫子「うわぁぁぁぁあああああっ!!! いやぁぁぁああああっ!!!」

まゆり「綯ちゃんっ! やめてぇっ!」ポロポロ

紅莉栖「(……待って、まゆりは間もなく死ぬ。でも今は生きている)」

紅莉栖「(この資源を使って時間を稼げれば、私が開発室まで這っていける……私なら手が使える……っ)」

紅莉栖「(考えてることサイテーだ……でも、今はそんなこと言ってられない……!)」

紅莉栖「まゆりっ!! 全力で綯を止めてぇ!! 岡部が死んじゃうっ!!」ポロポロ

まゆり「う、うん! わかったよ、クリスちゃん!」タッ

「雑魚が1匹増えたところで……っ!?」

鈴羽「させ……ない……」ガシッ

「っ! 鬱陶しいっ!」ブンッ ブンッ

紅莉栖「今のうちに……岡部っ! 痛いの我慢して歩いてっ!!」ズルズル

倫子「まゆりぃぃぃぃぃっ!!!! 逃げてぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!」

紅莉栖「……っ!! ダメ、岡部、こっちに、こっちに来てよぉっ!!!」ポロポロ

まゆり「綯ちゃんっ! 落ち着いてっ! そんなことしたらダメだよぅ!!」ガシッ

「クソ、11歳の肉体じゃ思うように動けない……」ギリリ

676 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 03:39:47.29 gd8Eaw7Mo 392/2638


「……そうか。ここで私が椎名まゆりを殺すのか」

「そういうことか。ふふっ。なるほど、それで……」

「死ねよ椎名まゆり」グサッ

まゆり「ぅ、ぁっ……」バタッ

倫子「ま゛ゆ゛り゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛っ゛!!!!!!!!!」

まゆり「オカ……リンの、役に……た……て……」グタッ

「邪魔だ、阿万音鈴羽」ゲシッ

鈴羽「ぐぅっ!」

紅莉栖「X68000へ入力……電話レンジ起動……っ!! 岡部っ、ケータイ貸りるわよっ!!」

「行かせないっ!」タッ

紅莉栖「間に合ったぁっ!! 岡部、跳んでぇっ!!!」ピッ

倫子「うわああああああああああああああああああああ――――――――――


677 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 03:40:49.84 gd8Eaw7Mo 393/2638




「逃げられると思うな、岡部倫子」



「お前は15年後に殺してやる」




678 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 03:41:37.15 gd8Eaw7Mo 394/2638


――――――――――――――――――――――

2010年8月13日19時53分 → 2010年8月13日13時53分

――――――――――――――――――――――

679 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 03:42:18.71 gd8Eaw7Mo 395/2638


頭の中に芋虫がいる。

脳がかゆい。死ぬほど痒い。

でも掻けない。

微細で、無数の針で、延々と脳を刺し貫かれているかのようだ。

脳に感覚なんてないはずなのに。


「……ぅあ、あ、あ、あ」


まゆり……まゆり……まゆり……

あいつは、綯に刺されて、血まみれで……血の……臭い……

無惨な死に方……断末魔……

『オカ……リンの、役に……た……て……』


「ああ、あああ、ああああ」


――気が、狂う。


「うわぁぁぁぁぁぁああああぁぁぁぁあああああああああああっ!!!!!!!!!」




680 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 03:45:32.82 gd8Eaw7Mo 396/2638

2010年8月13日(金)13時53分
未来ガジェット研究所


紅莉栖「岡部っ!? どうしたの!?」

ダル「ど、どしたん!? 何か買ってこようか? それとも救急車?」

倫子「……っ! かはっ……はあっ!」ヨロヨロ

まゆり「オカリンっ!」ウルウル

倫子「まゆ……り……?」

倫子「まゆりっ!! 大丈夫かっ!? 綯は、綯はどうした!?」ガシッ

倫子「(がしっ? 手でまゆりの肩を掴んだのか。手の痛みは……無い。記憶の中にしか……)」

まゆり「ええっ? 綯ちゃんならまだ下にいるんじゃないかな……」

倫子「……そ、そうか。なら、よかった……」

倫子「(次第に意識はハッキリとしてきて、オレは"思い出した")」


  『完成したらすぐに"実験はしない"って宣言して橋田とまゆりを解散させて』

  『それから、未来から来る私に声を掛けてくれればいい。私が未来から来るまでは特に何もしないこと』


倫子「(結局あの綯はなんだったのだろう……まるで小学生とは思えん)」

倫子「(まさか、あいつも未来から……?)」

倫子「時計は……2時前、か」

倫子「(こっちの紅莉栖は、まだ24年間を経験していない紅莉栖なんだよな……)」

倫子「マシンは完成したか?」

紅莉栖「ふぇっ? えっと、もうすぐ完成するところだけど」

倫子「そうか……。オレのことは気にせず開発を続けてくれ」

まゆり「ホントにだいじょーぶ?」ウルウル

倫子「……まゆり。私は大丈夫よ」ニコ

ダル「うおう、どう見ても大丈夫じゃない件。完成したらみんな休憩した方がいいと思われ」

681 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 03:46:54.36 gd8Eaw7Mo 397/2638


まゆり「できたー♪」

倫子「…………」

倫子「(あれ、この時オレは何か台詞を言ったような……)」

まゆり「るかちゃんのコス、クリスちゃんより先にできたよー」

紅莉栖「負けたわ。でも、こっちももう終わりよ」

ダル「はい、完成」b

倫子「っ! 実験は中止だっ!」

紅莉栖「えっ!?」

倫子「(しまった、いきなりすぎたか……?)」

紅莉栖「……2日間徹夜で作業してようやく完成した仕打ちがコレとか、ヤバい何かに目覚めそう」ハァハァ

ダル「牧瀬氏もこっち側へ来ちゃうといいお。楽になるのだぜ~」

倫子「(大丈夫かこいつら……さっきまでのことが嘘に思えるほど平和だな)」

倫子「……タイムリープには問題が山積みだ。その点についてじっくり検証したい」

紅莉栖「つまり私の心配をしてくれて……」ジュン

ダル「でもさ、完成祝いにちょっとでもパーッとやったりしないん?」

倫子「後日だ。それから、紅莉栖とちょっと相談したいことがあるから、悪いがまゆりとダルは帰ってくれ」

ダル「ちょ!? ラボはラブホじゃないんだからね!」

まゆり「そういうの、よくないと思うな……」

紅莉栖「お、お、お、岡部ぇ!? わ、私、2日も同じ下着穿いてるから、一旦ホテルに着替えを……」ポワワァ

倫子「ちっがーう!!!」

682 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 03:48:16.92 gd8Eaw7Mo 398/2638


・・・

紅莉栖「さっき名前で呼んでくれたよね……。それで、えっと、その、岡部……?」ソワソワ

倫子「貴様が今考えている脳内お花畑なことは一切ないから安心しろ」

紅莉栖「ですよね……」シュン

倫子「まもなくお前のケータイに電話がかかってくる。それは、2034年からタイムリープしてくる熟女紅莉栖だ」

紅莉栖「……なんの冗談?」

倫子「お前の理論は完璧だった、ということだ。さすがはオレの助手」

紅莉栖「ほ、褒めてくれるのは嬉しいけど、さすがに論理が飛躍しているというかだな……」


prrrr prrrr


紅莉栖「嘘!? ホントに……?」

倫子「タイムリープマシンは完成している。ちょっと気持ちが悪くなるが、いや、かなり気持ち悪いが……」

紅莉栖「で、でも、意識の所在の問題とか、現在時点の問題とか、人格障害の問題とか……」ワナワナ

倫子「大丈夫だっ! 信じろっ!」

紅莉栖「うん信じるっ!」ピッ

紅莉栖「……ぅぐぅっ!」ヨロッ

倫子「だ、大丈夫か?」ダキッ

倫子「(というか、オレの時より気持ち悪くなさそうにしている。もしかしてその辺も未来のタイムリープマシンでは改良されているのか?)」

683 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 03:50:29.17 gd8Eaw7Mo 399/2638


紅莉栖「……おか……べ……?」

倫子「無事、2010年へ到着したようだな」ニコ

紅莉栖「ほかべえええええええええうわああああああああああああああん!!!!!!!」ヒシッ

倫子「(やかましい!)」ビクッ

紅莉栖「会いたかったよぉぉぉぉぉおおおお!!!! さみしかったよぉぉぉぉおおおお!!!! こわかったよぉぉぉぉおおおお!!!」ギュゥッ

倫子「42歳のくせに子どもかっ!! わかったから離れろぉ!!」ゲシゲシ

紅莉栖「グスッ……エグッ……」ウルウル

倫子「……落ち着いたか?」

紅莉栖「う、うん……ごめんね岡部……」

倫子「1周目でも言ったがいちいち謝るな。お前は自分の行動を誇るべきだ」

紅莉栖「うん……えへへ……」

倫子「それで、だな。えっと……オレは"2周目"だ」

紅莉栖「2周目……了解。それじゃ、これからフェイリスの家に行ってくる。そっちはスズちゃんをお願い」

倫子「ま、待ってくれ。1つ聞きたいことがある」

紅莉栖「なに?」

倫子「あの綯の豹変ぶりはどういうことだ?」

紅莉栖「なえ、って、綯ちゃん? ……1周目でなにかあったの?」

倫子「それがだな……」

684 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 03:55:44.28 gd8Eaw7Mo 400/2638


・・・

紅莉栖「……なるほどね。綯ちゃんがタイムリーパーになっている可能性。そしてそれは父の仇を取るため……」

倫子「ミスターブラウンはSERNの犬だと言ったな。ということは、綯もSERNの幹部となり、お前の作った完璧なタイムリープマシンで……?」

紅莉栖「いえ、この私の記憶に無いんだから、それはないと思う」

倫子「なら、一体どうやって……」

紅莉栖「……このラボのタイムリープマシンを使ったのかも」

倫子「だがこれはSERNが回収するんじゃないのか?」

紅莉栖「そう。だけど、このマシンの起動に必要なのは階下のブラウン管テレビたちの絶妙な配置、ビルの外壁の素粒子透過性、そしてSERNとの直通回線……」

倫子「つまり、ビルごとパクる必要があった、ということか」

紅莉栖「"かなり昔"の話……いえ、"ちょっと未来"の話をするわね」

紅莉栖「岡部と橋田は、この後SERNの、スイス国境付近にある施設に2011年12月21日まで軟禁される」

倫子「我が天才的頭脳とダルの超人的能力を利用するためだな……ッ!!」

紅莉栖「ううん。このビルと電話レンジ(仮)の大局的なデータを取るために1年半年近く時間をかけたってだけ」

倫子「……SERNめっ」ムッ

紅莉栖「SERNはデータを取り終わってから電話レンジ(仮)とペケロッパを回収」

紅莉栖「2人がヨーロッパを脱出して日本に帰国するのはその後」

倫子「お前を残して……か」

紅莉栖「SERNによる収束現象の実証実験だった、ってわけ。2人は泳がされてたの」

紅莉栖「何がナイトハルトだ、あの偽者……ヒイラギアキコも……ブツブツ……」

紅莉栖「たぶん帰国後、橋田はラボで電話レンジ(仮)、というかタイムリープマシンを組み立て直したはず」

紅莉栖「橋田はSERNからデータを盗んでいたはずで、2010年の夏に作ったものより高性能になっていたと思われる」

紅莉栖「そしてそのマシンはその後のワルキューレへと引き継がれていく……」

倫子「お前が何を言いたいのかようやく見えてきたぞ。つまり――」

倫子「……綯はワルキューレの裏切者」プルプル

685 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 03:57:43.00 gd8Eaw7Mo 401/2638


紅莉栖「このタイムリープマシンは一度に最長で48時間しか跳躍できない」

倫子「なにっ!? そうなのか!?」

紅莉栖「それ以上の跳躍になると、指数関数的に危険度が増加する」

紅莉栖「意識、人格、そして記憶に障害が出てしまう……それじゃ、過去へ行ったって無意味」

紅莉栖「だから10年の跳躍をしようとすると、単純計算で1825回タイムリープする必要がある」

紅莉栖「まあ、2012年製のマシンが何十時間跳躍できるかによるんだけど」

倫子「……綯は気の遠くなるほどの回数、タイムリープをしてきた、ということだな」

倫子「なんという執念だ……」

紅莉栖「岡部にも執念を持ってもらいたいの。まゆりを救うという、絶対的な執念」

倫子「……わかっている。まゆりは、まゆりはオレの人質だ」

倫子「今までもまゆりとオレは支え合ってきたんだっ! 誰にも奪われたりはしないっ!」

倫子「SERNなんかに、300人委員会なんかに、収束なんかに殺されてたまるかぁっ!!」

ガチャンッ!!

紅莉栖「っ!?」

倫子「な、なんの音だ?」

686 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 03:59:07.04 gd8Eaw7Mo 402/2638


倫子「……なんだ、鈴羽が自転車を倒したのか。おい、そこのジョン・タイター! 話があるっ!」

鈴羽「ヒッ……」タッ

倫子「あっ、おい! 待てっ!」

紅莉栖「すぐに追いかけて、岡部っ!」

倫子「自転車を追いかけろと言うのかぁ!? 行くけどぉっ!! うわぁん!!」



中央通り



倫子「はぁっ……はぁっ……、体力は、無い、んだよぉ……はぁっ」ウルウル

倫子「そ、そうだ、電話してみるか……」ピッ


prrrr prrrr


鈴羽『…………』

倫子「鈴羽か! 聞きたいことがある!」

鈴羽『……ゴメン、きっとあたしのせいだ』

倫子「綯のことか!? それは、違う! 悪いのは全て300人委員会やSERNだっ!」

鈴羽『な、綯?……そっか、それもあたしのせい。あたしが甘えてたせいで……』

鈴羽『だから今度こそ、あたし行くよ。それじゃ』ピッ

倫子「おい! 鈴羽! おい!」

倫子「どこへ行こうと……って、そうか、そうだった」

倫子「……やつはラジ館にいるっ!」ダッ

687 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 04:00:28.03 gd8Eaw7Mo 403/2638

ラジ館前


倫子「なっ……タイムマシンが、起動しているのか? 光っている……」

倫子「ラジ館のシャッターは半開き……中にはMTB……エレベータもエスカレータも動いていない……!」ダッ

・・・

倫子「ぜぇっ……はぁっ……ふぅっ……は、8階まで来たぞ……」

倫子「会議室は7月28日から時間が止まっているかのようだな。そしてこれが、タイムマシン……」

倫子「……鈴羽ぁぁぁっ!!!」ダッ

鈴羽「っ!? な、なんでレジェンドが、追いかけてくるのさ……」

倫子「お前はっ! ディストピアを破壊するために来たんだろっ! どこへ行くんだよっ!」

鈴羽「……行きたくても、行けない」ウルッ

倫子「は……? それは、どういう……」

鈴羽「……タイムマシン、動かない」グスッ

倫子「……っ!! お前、手が!? やけどをしているのか!? すぐ手当をっ!」

鈴羽「あたしは、なんのためにここまで……」ヒグッ

倫子「い、いいから来いっ! 話はそれからだっ!」

688 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 04:01:23.10 gd8Eaw7Mo 404/2638

秋葉原タイムスタワー
秋葉邸


倫子「(あれからすぐ助手に電話をして、状況を説明したらココへ来いと命令された)」

倫子「(確かにここなら外部へ情報が漏れることはないが……)」

フェイリス「――取りあえず応急処置はしておいたニャ。まだ手、痛むかニャ?」

鈴羽「ううん、大丈夫。ありがとう、フェイリス」

紅莉栖「それで、タイムマシンは故障していたのね」

鈴羽「……うん」

紅莉栖「……フェイリス、岡部。ちょっとスズちゃ、じゃなかった、阿万音さんの手足を押さえてもらっていい?」

鈴羽「へ……?」

フェイリス「ラジャーニャー!」ガシッ

倫子「オレに命令をするなと……」ヒシッ

鈴羽「う、うわあっ!? レ、レジェンドに抱き着かれると、あたし……」ドキドキ

倫子「変なことを考えるなぁ! オレの周りこんなんばっかかよぉ!」

紅莉栖「阿万音さん、私はあなたの味方よ。同じラボメンだから。だから、冷静になって聞いてほしい」

鈴羽「……?」

紅莉栖「私は"タイムマシンの母"、牧瀬紅莉栖。2034年からタイムリープしてきた」

689 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 04:05:41.91 gd8Eaw7Mo 405/2638


・・・

紅莉栖「……とんでもなく無駄な時間を過ごしたわ」ハァ

倫子「さすがにあの立ち回りができた鈴羽を女子2人では押さえ切れなかった……イテテ……」ジンジン

フェイリス「ウニャァ……スズニャン、ひどいニャァ……」ヒリヒリ

鈴羽「んん~~~!! んんん~~~~~!!!!!」ジタバタ

黒木「一時はどうなるかと思いましたが、私もまだまだ現役ですな」ギュッ

倫子「(この最強執事、一体何者なんだ……)」ガクガク

自警団A「秋葉さん、これで問題ないかい?」

フェイリス「スズニャンを組み伏せるのを手伝ってくれてありがとうニャン」

幸高「君たちは引き続き警備と情報収集を頼むよ」

自警団B「了解だ」

倫子「今の人たちは……?」

幸高「ああ、秋葉原自警団の皆さんさ。と言っても、ほとんどが商店会の人だけどね」

幸高「紅莉栖くんから連絡を受けて、各自の判断で動いてもらっていたんだが、ちょうどうちで会議をしていたんだ」

紅莉栖「スズちゃん、よく聞いて。何度も言うけど、岡部もフェイリスも洗脳はされてない」

紅莉栖「私も、SERNの幹部になったのはすべてラボのため」

鈴羽「んん~~~!!!」ジタバタ

紅莉栖「まず、あなたのタイムマシンに関しては大丈夫。この私が直すから」

幸高「そして僕に教授との思い出があるから問題ない……ってことだけど、それはどうしてだい?」

紅莉栖「えっと……この阿万音さんがこれから1975年に行って、教授になるんです」

倫子「なにっ!? え、そうなのか!? もう、さっきから驚かされてばかりだ……」

倫子「(そういや、その教授とやらはSERNを警戒していたとか言っていたな……なるほど合点が行った……)」

幸高「ということは、目の前に居るのは、若かりし頃の教授……?」

紅莉栖「そういうことになります」

鈴羽「んんんんん~~~~~~!!!!」ジタバタ

幸高「若い頃はお転婆娘だった、というのは本当だったみたいですね、教授」フフッ


690 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 04:07:04.18 gd8Eaw7Mo 406/2638


倫子「……待て待てっ! それではなにか!? 鈴羽は1975年に行ったまま、帰ってこないということではないかっ!」

鈴羽「ん……」

紅莉栖「……推測なんだけど、橋田の作ったマシン、過去にしか行けないのね?」

鈴羽「…………」

フェイリス「そんニャァ!? 行ったら帰って来れないニャ!?」

倫子「な……っ! そ、そんなもん、タイムマシンとは呼べんっ!」

紅莉栖「岡部……」

倫子「ぐっ……」


  『――あたしは別に父さんのことを恨んだりしてないよ、それどころか尊敬してる』

  『――世界の支配構造を塗り替えるための、唯一の希望を残してくれたんだから』


倫子「……お前は、納得して跳んだんだな」

鈴羽「……ん」

幸高「こんな言い方は不謹慎かも知れないが、過去へ行っても教授には仲間ができる」

幸高「教授は学生から慕われる良き教師であり、敬愛すべき研究者だった」

幸高「それに、今の別れが最後じゃないよ」

倫子「え……あっ」

691 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 04:10:08.14 gd8Eaw7Mo 407/2638


倫子「そ、そうですよ! すでに妙齢を迎えているであろう教授の方の阿万音鈴羽は一体どこに居るんです!」

幸高「実は彼女は12年ほど前に大病を患ってしまってね。僕の知り合いに紹介してもらって、海外の病院で治療を受けているんだ」

鈴羽「ん……!?」

フェイリス「つまり、スズニャンが2人……! いよいよタイムトラベルって感じがしてきたニャー!」

幸高「だいぶ快方に向かってるみたいで、そろそろ退院できるって話も聞いたけど……」

幸高「えっと、これってタイムパラドックスになってしまうのかな?」

紅莉栖「いえ、その心配は無いです。2人は別世界線出身なので……。こっちのスズちゃんも頑張って2010年まで生きてね」

鈴羽「んんんんんん~~~~~!!!!!」ジタバタ

倫子「だが、そもそもだ。なぜ鈴羽は1975年へと行かなければならないのだ?」

倫子「その、フェイリスのパパさんと紅莉栖のパパさんにタイムマシン研究を指導するためか?」

紅莉栖「いいえ、それは副次的な結果に過ぎない。それに、うちのパパなら教授が居なくてもタイムマシン研究をしていたと思うわ」

紅莉栖「@ちゃんに書いてあったジョン・タイターの言葉を思い出して。何を必要としていたかしら」

倫子「なにって……たしか、オレたちと同じ、IBN5100……っ!」

倫子「な、なるほど! 1975年と言えば、IBN5100が発売された年ではないかっ!」

鈴羽「んん~~……」



倫子「というか紅莉栖。あの書き込みを知っているということは貴様、『栗悟飯とカメハメ波』だな?」

紅莉栖「ギクッ」

倫子「気持ち悪いクソコテ……」ジーッ

紅莉栖「24年前の黒歴史を掘り返さないでぇ!!」ピィィッ

692 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 04:12:14.53 gd8Eaw7Mo 408/2638


紅莉栖「そろそろ猿ぐつわを外していいかしらね。手足は拘束したままにさせてもらうけど」スッ

鈴羽「ぷはっ。はぁ……、もう、好きにしなよ」

倫子「それで、鈴羽。お前の口から改めて聞きたい」

倫子「なぜ、過去へ跳んだ」

鈴羽「……あたしは、300人委員会の独裁的支配構造を破壊するための解放組織ワルキューレのメンバーなんだ」

鈴羽「SERN……牧瀬紅莉栖がタイムマシン開発に成功したことで、世界の秩序はたった2年で塗り替えられていった」

紅莉栖「やっぱりそうなのね……」

鈴羽「この時代に来たのは……、えっと……」

鈴羽「前に言ってくれたよね。その、あたしを軽蔑しないって……」


―――――

  鈴羽『……私欲のために、過去に必要以上に干渉する行為を、見逃してくれる?』

  倫子『私欲、か。だが、お前は気付いていないだろうが、その欲望こそが運命石の扉<シュタインズ・ゲート>の選択なのだよ』

―――――


倫子「ああ、言った」

鈴羽「その……本当はあたし、この時代に寄るべきじゃなかった。まっすぐ任務を全うすべきだったんだ」

倫子「私欲、と言っていたな。それは……そうか。親父に会いたかったんだな」

鈴羽「だってワルキューレで神聖視されてるバレル・タイターやレジェンドを一目拝みたかったんだもんっ!」

倫子「ミーハーかっ!」

693 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 04:13:42.33 gd8Eaw7Mo 409/2638


鈴羽「ホントはね、父さんがこの世界に本当に居たんだ、ってことを確認できれば、自分の生きている意味に確信が持てると思ったんだ」

鈴羽「あたしはほら、時間軸や世界線から外れる使命を持ってたから。それでいて収束で生死が決まってるから」

鈴羽「だから、自分の生きている意味が、わからなくなってたんだ……」

倫子「見つかったか?」

鈴羽「……うん」

倫子「ならばよし。未来のオレに変わって、今のオレがお前を赦すよ」

鈴羽「レジェンド……っ!!」ウルッ

倫子「それで、本当の使命とはなんなのだ?」

鈴羽「……世界線を変える。これが最終的な目標」

紅莉栖「それに関しては私も同じ。まゆりが死なない世界線、巡り巡って、ディストピアが築かれない世界線へとアクティブを切り替える」

倫子「アトラクタフィールド理論、か」

鈴羽「今あたしたちがいるアトラクタフィールドαの範囲外に出る」

鈴羽「つまり、アトラクタフィールドβ上にあるβ世界線に跳び移るってこと」

紅莉栖「基本的にアトラクタフィールド同士は干渉できない。だから未来のSERNは2年でディストピアを作れたし、西暦2010年や2000年、1991年をより重要視していた」

フェイリス「世界規模の大事件がある年、ってことニャ?」

鈴羽「そう。まさにその年代がアトラクタフィールドの分岐点なんだ。多くの人間の生死、つまり人類の歴史に関わってくるからね」

鈴羽「大分岐の年なら、アトラクタフィールドを切り替えるスイッチがまだ有効な状態で保存されている」

倫子「それが、タイムマシンが開発された今、というわけか」

694 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 04:15:09.01 gd8Eaw7Mo 410/2638


鈴羽「ここ秋葉原でタイムマシン開発が行われたことがSERNのディストピアに直結している」

鈴羽「だから、それを阻止するように過去を改変すればいい」

フェイリス「阻止って、どうするニャ?」

鈴羽「……父さんの遺書には、一番最初のメールデータが原因だって書いてあった」

倫子「遺書……。ということは、ダルは……っ」

フェイリス「ダルニャン……」

紅莉栖「それは私が生前の橋田にリークした情報。SERNの擬似スタンドアロンサーバに、例のDメールが保存されている、って」

紅莉栖「内容は、私が男に刺された、というもの。受信日時は2010年7月23日」

倫子「28日ではない、か。そう、たしかダルは1週間前に届いたと言っていた」

紅莉栖「だけどSERNがこのメールを発見した当時、私はSERNで研究していて、当然過去に男に刺されてなんかいないから解析班に回されることになった」

紅莉栖「これが世界で唯一のアトラクタフィールドβから跳んできたモノであり、アトラクタフィールド理論を裏付ける証拠だった」

紅莉栖「そして当然送り主は誰か、という話になる。それは――」

紅莉栖「岡部倫子」

695 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 04:16:08.62 gd8Eaw7Mo 411/2638


倫子「……あの時オレは電話レンジ(仮)の機能すらわかっていなかったというのに」グッ

紅莉栖「岡部、何度も言うけどあんたが責任を感じる必要は無いからね。悪いのは300人委員会だから」

鈴羽「自分こそが主犯のくせに、どの口が言うんだか……」

紅莉栖「…………」シュン

倫子「これ以上無い胸をえぐってやるな」

紅莉栖「ぐはぁ!?」

鈴羽「とにかく、まさにコレがディストピアの根源的な原因なんだ。コレさえ発見されなければSERNが過去のレジェンドを監視することは無くなる」

紅莉栖「ラボが監視されなければ私はSERNに招聘されることもないからね」

鈴羽「そしてタイムマシンは完成しなくなる。ディストピアは消滅する」

鈴羽「同時に、関連する収束である椎名まゆりの死も解除されることになる」

倫子「……まゆりは、助かるんだな」

紅莉栖「たぶん、因果の関係で私たちはタイムマシン実験をしないか失敗してるはずなんだけど……」

倫子「(オレがDメールを使って世界線移動した時はいつも実験をしていない状況になっていた)」

倫子「(つまり、それがすべての実験に関して起きる、ということだろう)」

倫子「構わん。タイムマシンの開発の喜びなど、まゆりの命に比べればなんでもない」

フェイリス「でも、一体どうやってSERNはその1通のメールを捕捉したニャン?」

鈴羽「SERNはエシュロンのネットワークを利用して、世界規模で情報を傍受してるんだ」

幸高「エシュロン……まさか本当に実在していたとはね。実業家としてはちょっと許せないな」

696 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 04:18:45.81 gd8Eaw7Mo 412/2638


鈴羽「だから、捉えられた"最初のメールデータ"を、SERNのコンピュータから消去しないといけない」

倫子「……IBN5100、だな。だからこそやつらはIBN5100を血眼になって回収している、ということか」

倫子「(萌郁も、最初からそのつもりで……いや、悪いのはSERNだ。萌郁を傀儡のように操っていたのだから……)」

鈴羽「さすがレジェンド、そういうこと。そして、あたしの父さんなら間違いなくクラッキングを実行できる」

倫子「だがあれは失われてしまった……まだ助手がオレに対してヘーコラしていた頃は確実に手元にあったのだがな……」

紅莉栖「私の記憶には無いけど、もう昔の話よ……」フッ

鈴羽「あたしの役割は、君たちにIBN5100を託すことなんだよ。1975年に行って手に入れる」

倫子「待て待て。何もそこまでしなくても、パソコン1台くらい世界のどこかに転がっているはずだろう」

鈴羽「さすがにそれはSERNを侮りすぎてるよ」

紅莉栖「たとえ有ったとしても岡部は入手することができない。絶対に」

倫子「……収束というやつか。ゆえに過去改変でのみ入手できる、と言いたいのだな」

フェイリス「なら、病院に居る方のスズニャンがIBN5100を持っているんじゃないかニャ?」

697 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 04:19:51.83 gd8Eaw7Mo 413/2638


紅莉栖「幸高おじさま、何か聞いていませんか?」

幸高「残念ながら、教授とレトロPCの話題をしたことはなかったと思うよ」

倫子「ということは、妙齢鈴羽はIBN5100を入手できなかったのか?」

紅莉栖「そうとは限らないし、そもそも50代の阿万音さんは別世界線出身の別個体よ」

紅莉栖「こっちのスズちゃんが過去に跳んだ時点で世界線が変動する可能性がある。つまり、IBN5100が現在に届けられるという過去改変」

鈴羽「あたし自身には観測できないけど、レジェンドになら、ってわけ」

紅莉栖「リーディングシュタイナーね」

鈴羽「2036年時点だと、記憶は世界線間の自分との"情報伝達手段"かもしれないって説もSERNの研究者から出てるんだ」

紅莉栖「へぇ、そうなの。もしかして私の後輩が研究を続けたのかしら」

倫子「よし……! ならば善は急げだ。鈴羽には今すぐにでも1975年に跳んでもらおう」

紅莉栖「マシンのメンテが先ね。壊れていたんでしょう?」

鈴羽「うん……。8月9日の深夜、雷に打たれたみたい。中は水浸しだった」

倫子「というか、助手は直せるのか?」

紅莉栖「そもそも橋田にマシンの情報をリークしたのは私。"タイムマシンの母"に感謝しなさい」ドヤァ

鈴羽「こいつ……頭をライフルで撃ち抜きたい……っ!」

698 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 04:21:43.41 gd8Eaw7Mo 414/2638


紅莉栖「……ねえ岡部。まゆりの、その、死んじゃうとこ。もう見たくないよね?」

倫子「……当たり前だ。たとえなかったことになるとしても、まゆりを救えなかったという事実だけはオレの脳内に忘れ得ぬ記憶として残り続けるからな」

紅莉栖「私ね、3周目として、こういうシナリオを考えてる」

フェイリス「クーニャン、完全にクラスの委員長さんニャ」

紅莉栖「まずタイムリープマシンが完成する直前にリープする。完成したと同時に最大跳躍である48時間をリープして、8月11日まで跳ぶ」

倫子「む……? だが、そこには"お前"は居ないんじゃないか?」

紅莉栖「私は居ないけど、将来の天才メカニックは居る」

鈴羽「……父さん」

紅莉栖「橋田の技術でできるだけ直しておいてもらう。そして"この私"が13日の14時から橋田と同時にマシンを修理する」

紅莉栖「3時間。早くて午後5時までには修理できるはずよ」

倫子「(綯がタイムリープしてくる前にはなんとかなりそうか……)」

鈴羽「すごい……」

紅莉栖「スズちゃんっ!! もっと私を褒めてぇっ!!」ダキッ

鈴羽「ぎぃやあああああああああああっ!!!!!! 離れろおおおおおおおおおっ!!!!!」ジタバタ

倫子「……長年の監禁生活でHENTAI度が天井を突き破っているな」ゾワワァ

フェイリス「身の危険を感じるニャ」

699 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 04:22:37.95 gd8Eaw7Mo 415/2638


紅莉栖「それともう1つ気を付けて欲しいことがある」

倫子「盗聴器、だな。そんなものがラボにあるとは信じたくないが……」

鈴羽「盗聴器なんか無くても、ほとんど話は下に筒抜けだったけどね」

倫子「綯までがタイムマシンの仕組みを理解していたくらいだからな……」

紅莉栖「岡部、店長さんからもらったものでラボにあるものって何がある?」

倫子「そうだな……IBN5100を運んでもらったが、今は無いし。あ、テレビがそうだった」

鈴羽「テレビ? それって、あたしと一緒に運んだやつ?」

紅莉栖「なるほどね。さすがブラウン管工房」

倫子「だ、だが、テレビに盗聴器など愚の骨頂だろう。テレビをつけている間は、テレビの音声がうるさくて盗聴などできまい」

紅莉栖「あんたもさすがに重要な会議をする時はテレビ消してたでしょ?」

倫子「ぐ、たしかに……」

鈴羽「ってことは、これから機密事項を話す時はテレビをつけてれば大丈夫ってことだね」

倫子「わかった。覚えておこう」

700 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 04:23:40.20 gd8Eaw7Mo 416/2638


鈴羽「それと、秋葉幸高、さん。1つ確認したいことがある」

幸高「なんですか、教授」

鈴羽「うっ……。えっと、"あたし"は12年間海外に居るんだよね?」

幸高「そうなりますね」

鈴羽「それじゃ……について、教授のあたしは何か言ってなかった?」ヒソヒソ

倫子「む?」

幸高「それは……2005年……青果店……」ヒソヒソ

鈴羽「あたしがどれだけ調べても……そういうことだね?」ヒソヒソ

幸高「ええ。この10年間……」ヒソヒソ

鈴羽「そっか、よかった……」

倫子「2人はなにをひそひそ話をしているんだ?」

フェイリス「こっちの話ニャーン♪」

鈴羽「あの、鳳凰院凶真。最後にさ、その、勇気をくれないかな……」モジモジ

倫子「あ、ああ。頼んだぞ。ラボメンナンバー008、阿万音鈴羽」ナデナデ

鈴羽「ふゎぁっ……///」

フェイリス「スズニャンずるーい! フェイリスもっ!」ピョン

倫子「なんでお前まですり寄ってくるんだ……仕方ないな」ナデナデ

フェイリス「ニャフフ~♪」ゴロゴロ

紅莉栖「さあ早くタイムリープしないとぉっ!! ラボに急ぐわよ岡部ぇっ!!」ガシッ

倫子「わ、ちょ、引っ張るなっ!! こける、こけるぅぅっ!! うわぁん!!」

701 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 04:24:54.38 gd8Eaw7Mo 417/2638


――――――――――――――――――――――

2010年8月13日17時38分 → 2010年8月11日14時21分

――――――――――――――――――――――

702 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 04:25:39.77 gd8Eaw7Mo 418/2638

2010年8月11日(水)13時41分
中央通り


鈴羽「(今日も父さんとデー……、秋葉原の街を探索できるかと思ったのに、父さんもバイトしてたんだね)」ハァ

鈴羽「(でも、あたしもラボメンかぁ……えへへ)」

天王寺「なにかいいことでもあったのか?」

鈴羽「まあね」ニヘラ

天王寺「そうかよ。俺はちょっと出てくる。暫く留守番してろ」

天王寺「サボんじゃねーぞ」

鈴羽「うぃーっす(サボろう)」

鈴羽「さて、自転車磨きでも……お、椎名まゆり!」

まゆり「スズさーん! トゥットゥルー♪」

鈴羽「トゥットゥルー。あれ、鳳凰院凶真と買い物に出てたんじゃなかったっけ?」

まゆり「えっとね、オカリンは眠っちゃったので、まゆしぃはフブキちゃん用のコスをラボに取りに来たのです」

鈴羽「寝ちゃったの? 外で?」

鈴羽「(さすがレジェンド……女傑は豪快じゃないとね!)」

703 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 04:26:41.75 gd8Eaw7Mo 419/2638

2010年8月11日(水)14時21分
中央通り


鈴羽「(レジェンドはどの辺で寝てるのかな?)」キョロキョロ

鈴羽「(ラボメン……みんないいやつだなぁ)」

鈴羽「(ますますワルキューレの母体組織だってのが信じられなくなっちゃう)」


prrrr prrrr


鈴羽「(噂をすれば、レジェンドからっ!) うぃーっす!」ピッ

倫子『……バイト戦士か』

鈴羽「どったの? なんかちょっとテンション低くない?」

倫子『今お前と話すべきことはたくさんあるが、まず伝えないといけないことがある』



倫子『――お前のタイムマシンが壊れている』



鈴羽「……っ!?」

704 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 04:27:26.26 gd8Eaw7Mo 420/2638

ラジ館8階


鈴羽「そんなっ!? まさか、昨日の雷雨で!?」

倫子「……触らない方がいい。火傷するぞ」

鈴羽「ど、どうして……そんな、一体、なにが……」ワナワナ

鈴羽「それより……君は、誰なんだ……"岡部倫子"……」

倫子「……質問が間違っているぞ、阿万音鈴羽」

倫子「"誰か"、じゃない。"いつか"、と聞け」

鈴羽「なにを……っ!?」

倫子「察しが良くて助かる」

倫子「そう。オレは……」

倫子「――タイムリーパーだ」




倫子「(ヤバイ、オレかっこよすぎるだろ……鈴羽、こいつ、完全にビビってるぞ、ククク……)」



705 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 04:28:29.38 gd8Eaw7Mo 421/2638

未来ガジェット研究所


倫子「――ということなんだ」

鈴羽「…………」

ダル「まさかそんなことになってるなんて……ごめんな、鈴羽。未来ではもっとちゃんとしたマシンを作るお」

鈴羽「父さんが悪いんじゃないよ……」

倫子「(TVの音量を上げ、まゆり、ダル、紅莉栖、鈴羽の居る前で、タイムマシン修理計画について説明した)」

倫子「(無論、まゆりの死亡話と"タイムマシンの母"の話、そして未来の綯の話は避けたけどな)」

ダル「じゃ、さっそく見に行ってみるべき」

倫子「さすが父親。娘のピンチは放っておけないよな」

倫子「(やっぱりダルは良いやつだ)」

鈴羽「父さん……。その、ありがと」

ダル「オーキードーキー、鈴羽」ニッ

紅莉栖「橋田、あんた今最高に輝いてるわ……」

706 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 04:29:24.47 gd8Eaw7Mo 422/2638


鈴羽「あっ。そう言えば、コレ、見覚えあったりする?」スッ

まゆり「ピンバッジ?」

倫子「『O、S、H、M、K、U、F、A 7010』……?」

鈴羽「これ、父さんの形見なんだよね」

ダル「ちょ、さりげなく爆弾発言」

倫子「ダルは2033年に死ぬらしい。それまでに積みゲーはやりつくしておけよ」

ダル「これはメディアミックスに手を出してる場合じゃなかったお!」

紅莉栖「軽っ!」

まゆり「でも、このバッジ、どういう意味だろうねー?」

倫子「たしかに……何かの暗号か? ダル、覚えは?」

ダル「わかんね。つかそれよりも今はタイムマシンだろ常考」

倫子「そうだな。オレたちはラジ館へ向かおう。紅莉栖、ダルのエロゲは後で貸してやるからラボでやるなよ?」

紅莉栖「え……な、なななな、なあああああああっ!?!?!?」

707 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 04:30:27.30 gd8Eaw7Mo 423/2638

ラジ館8階


倫子「(まゆりはコス作り、紅莉栖はタイムリープマシン作りに専念させることにして、橋田家とオレはタイムマシンへと足を運んだ)」

倫子「どうだ?」

ダル「……この中、むちゃくちゃ暑い件について」

鈴羽「直りそう?」

ダル「いや、まだ確証はないけど。でもさ、ちょっと触ってみて思ったんだよね」

ダル「これって、なんか電話レンジと似てるかもって」

倫子「それは偶然ではない。なにせ"お前"が作ったのだからな」

ダル「いや作ってねーし」

倫子「2日で直せ」

ダル「うはー。過去最大級のオカリンのムチャ振り。つかなんで2日なん?」

倫子「そ、それは……。…………」ウルッ

鈴羽「っていうか、父さん。今日バイトあるんじゃなかったの?」アセッ

ダル「え? あ、ああ。ソッコーで片付けてきたから大丈夫なんだな、これが」

倫子「(鈴羽、うまく話を逸らしたな。まゆりの話は、できることならダルにはしたくない)」

鈴羽「ふぅん……ホントにバイトだったの?」ジトッ

ダル「まだ彼女も居ないのに浮気を疑われるとか、僕かわいそす……」


prrrr prrrr


ダル「あれ、牧瀬氏かな。はーい、もしも……」

ダル「ぐふぉっ!?!?」ヨロッ バタンッ

倫子「ダルっ!?」

鈴羽「父さんっ!?」

708 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 04:31:51.87 gd8Eaw7Mo 424/2638


鈴羽「大丈夫!? もしかして、熱中症!?」

ダル「ぐっ……はぁ、はぁ。これは確かに、ヘビーだな……」

倫子「おいっ! 突然どうした……っ、まさか」

ダル「……おお、オカリン。8年ぶり」

倫子「もしや貴様も未来から……?」

ダル「うん。牧瀬氏には頭が上がらないね」ヨイショ



ダル「――そう、僕は2033年から来た」



倫子「やはり……っ!」

鈴羽「えっ? ど、どういうこと?」

709 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 04:33:42.78 gd8Eaw7Mo 425/2638


ダル「タイムマシンを完成させる前に僕が殺されることはオカリンたちの情報からわかってたから、ギリギリまで粘って過去へリープしたんだ」

ダル「どのみちタイムマシンを完成させることは収束のせいで不可能だったみたいだしね」

倫子「だが、1周目と2周目では貴様はタイムリープしてこなかったぞ」

ダル「3周目のオカリンには、タイムマシンが壊れてるって知識があったでしょ? それが僕を過去へ来させる動機になった、でいいかな」

ダル「もちろん、タイムリープでは世界線は大幅に変動しないことはわかってる。でも、僕はじっとしていられなかった」

倫子「お前が今リープしてこなかったはずの、お前の中の記憶ではどうなっているのだ?」

ダル「たしか、未来の牧瀬氏が13日にやってきてマシンを直したんだ。それがちょっと悔しかったってのもある」

ダル「で、42歳の僕が存在するのは当然オカリンがタイムリープできなかった可能性の未来ってことだから、13日の夜にラボは襲撃された」

ダル「それでちょっとオカリン1人に任せるのは色々心配になってさ」

倫子「……なるほど、だいたいわかった」ガクッ

ダル「まさか雷程度でやられるなんてね」

ダル「娘を危険な目に遭わせたのが他でもない、僕だ、なんてのは、さすがに許せなかったんだよ」

鈴羽「父……さん……」ウルッ

ダル「もう何年振りかな。随分大きくなったね、鈴羽」

鈴羽「……泣かないよ。あたしは、戦士だから……」グスッ

ダル「ああ、ここで泣いてる場合じゃない。なんとかしないとな」ニコ

710 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 04:34:21.24 gd8Eaw7Mo 426/2638


倫子「というか、ダルよ。なんか話し方おかしくないか?」

鈴羽「あたしの子どもの頃の記憶だと、これが普通の父さんのしゃべり方だけど」

ダル「いやぁ、若気の至りっつーか? 倫子たんがこっちの方がいいってんなら戻しちゃってもいいんだからねっ!」

倫子「倫子たん言うなぁ! ダンディな方で頼むっ!」

ダル「オーキードーキー」ニッ

711 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 04:35:19.84 gd8Eaw7Mo 427/2638


倫子「それで、どうだ? "お前"から見たマシンの調子は」

ダル「……これなら半日で直せる。幸い、VGL<ヴァリアブルグラビティロック>が壊れたわけじゃないから、過去へ跳んだらちゃんとラジ館の屋上に出るようになってる」

鈴羽「ホントっ!」パァァ

ダル「落雷のせいで三カ所回路が焼き切れてるだけだな。えっと、僕これから買い物行ってくる」

倫子「パーツの買い出しならオレが行く」

ダル「いや、ちょっとこれオカリンだとわからないと思うから、僕が行くよ」

倫子「むぅ……そうか」

ダル「今日の深夜0時までにはフライト可能になると思う。それまで2人とも遊んできなよ」

鈴羽「全部父さんに押し付けるなんでできないよ」

ダル「そんなに人数いても作業できないし」

倫子「……わかった。オレが責任持って鈴羽の面倒を見よう。ほら、行くぞ」

鈴羽「え……う、うん。わかったよ……」

ダル「(ごめんな、鈴羽。僕は鈴羽にどんな顔して父親づらすればいいのかわからないんだ……)」



??「……フフフ」



712 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 04:36:02.99 gd8Eaw7Mo 428/2638

ラジ館屋上


??「あれれぇ? おかしいですねぇ。どうして私の殺すべき人間がこの時代に居るんです?」

??「ご丁寧にリープマシンに時限爆弾をつけて足跡をたどれないようにしておくなんて。滑稽」

??「いやはや、それにしても日本の警察は優秀ですねぇ。2010年8月11日、ラジ館に侵入者ありと。報告ご苦労様です」

??「もちろんラウンダーが握りつぶさせてもらいますけどねぇ? 警察が出る幕じゃないんで」

??「親子そろって、とんだおバカさんですねぇ。しかも娘はFBの元でバイトをしてるなんて!」

??「あのハゲ親父、私より下のくせにいちいち文句言いやがって……メルアド寄越すくらい別にいいじゃないですか……」ブツブツ

??「後で仕返ししておきます。まあ、それはそれとして」



??「――私のユートピアは、誰にも壊させませんから」

713 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 04:37:00.76 gd8Eaw7Mo 429/2638

未来ガジェット研究所


倫子「(まゆりには悪かったが、家でコス作りをするように命じておいた。従順に応じてくれたのは、鈴羽がそろそろタイムトラベルしなければならないことを悟ったからだろうか)」

倫子「とにかく、紅莉栖にはタイムリープマシンに専念してもらいたいというわけだ」

紅莉栖「襲撃……IBN5100……綯ちゃんのタイムリープ……なるほどね。それで、まゆりを救うためのキーアイテムがコレ、ってわけか」

倫子「13日の14時までに完成させてほしい」

紅莉栖「それじゃ、コレとコレとコレ、追加で買い出しお願い」

倫子「む? あのパーツは要らないのか?」

紅莉栖「えっ? 今のところ使う予定はないけど、もしかして後々必要になるの?」

倫子「なると思うぞ。12日の夕方、お前がオレに使いパシリさせたものだからな」

紅莉栖「じゃぁ、それもお願い」

倫子「うむ。では、行ってくる」ガチャ

紅莉栖「阿万音さんは……」

鈴羽「あ、コーヒーでも淹れようか?」

紅莉栖「ふふっ。サンクス。それじゃ、サポートよろしく」

714 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 04:37:57.32 gd8Eaw7Mo 430/2638


鈴羽「……ねえ、牧瀬紅莉栖。君はさ、SERNに興味ある?」

紅莉栖「……今のところ、SERNは許せない。このラボを滅茶苦茶にする主犯でしょ?」

鈴羽「この時代に来てから君を見ていて……君がSERNの研究員になっているとは思えなくなった」

紅莉栖「でも未来ではそうなっていた。ねえ、もしかしてなんだけど――」

紅莉栖「私がSERNに潜入するのって、スパイ行為のためなんじゃない?」

鈴羽「それって、どういう……?」

紅莉栖「未来ではSERNがタイムマシン技術を独占するのよね? だったら、橋田はどうやってタイムマシンを作ったの?」

鈴羽「――っ!!」

紅莉栖「まだわからないけど、でも、私なら岡部のために、このラボのために人生をかけてスパイになれると思う」

鈴羽「どうして君はそこまでして……」

紅莉栖「確かに私はあいつと出会ってからまだ2週間も経ってない。でも、どうしてかな。私の人生のほとんどはあいつで満たされてるような気がするの」

紅莉栖「父が家を出て、途方に暮れていた私を導いてくれたような……」

鈴羽「……もしかして、君もリーディングシュタイナーを?」

紅莉栖「さあ。ともかく、岡部がかわいいから、でファイナルアンサー」

鈴羽「それは同意」

715 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 04:38:40.69 gd8Eaw7Mo 431/2638


鈴羽「あたしね、牧瀬紅莉栖を24年後の未来で殺そうとしたんだ」

紅莉栖「…………」

鈴羽「その時の君は怪しく笑っていたよ。まるで自分を殺して見ろと言わんばかりに」

紅莉栖「それ、もしかして岡部の指示?」

鈴羽「ううん。レジェンドはあたしがワルキューレに入る前に死んでる」

鈴羽「今から15年後、SERNによって殺されるんだ」

紅莉栖「……聞かなきゃよかったかも」ウルウル

鈴羽「スキなの? 岡部倫子のことが」

紅莉栖「だって可愛いじゃないっ!! ホントはとっても美人なのに自分から残念系女子を演じてて厨二病全開でっ!!」

紅莉栖「倫子たんハァハァ!! 倫子たんハァハァ!!」

鈴羽「いや、それは同意するけど、一応同性だよね」

紅莉栖「悪いっ!? なにか文句あるのっ!?!?」キシャー

鈴羽「いえ、ないです」

716 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 04:39:55.59 gd8Eaw7Mo 432/2638

柳林神社境内


鈴羽「――それでラボから逃げてきたってわけ。あたしが牧瀬紅莉栖のそばに居ると作業が進まないみたい」

るか「ふふっ。牧瀬さんもかわいい方ですね」

鈴羽「それに、一応お世話になったし、挨拶しとかないと、って思ってさ」

るか「いえ、そんな。こちらこそ父が御迷惑をおかけしまして……」

鈴羽「一宿一飯の恩、ってやつだからいいんだよ。コスプレ? もできて楽しかったし」

るか「それでしたら、ボクも阿万音さんと同じラボメンですから」

鈴羽「そうだった。ホント、鳳凰院凶真の求心力はすごいや」

るか「きゅ、きゅうしん……?」

るか「でも、本当に行ってしまわれるんですね。向こうで落ち着いたら、お手紙でもいただければと思います」

鈴羽「……うん。そうだね。何年かかっても、あたしは必ず帰ってくるよ」

717 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 04:40:38.94 gd8Eaw7Mo 433/2638


??「あのー、すいません。少しお尋ねしたいことが」

鈴羽「おっと、女子高校生の参拝客さんかな」

るか「どうされました?」

??「この辺にニコライ堂があると伺ったのですが」

るか「あ、はい。それでしたら神田川を渡らずに御茶ノ水方面へ行けば、駿河台の坂の上にありますよ」

鈴羽「稲荷神社でキリスト教会の場所を尋ねるなんて、君って結構アレだね」

??「ふふっ。そうですね。でも、キリストの教えは素晴らしいですよ」

??「もし弱き者が危機にさらされてる場面に遭ったら、あなたならどうしますか?」

鈴羽「……え?」

718 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 04:47:00.99 gd8Eaw7Mo 434/2638


??「世の中には大した理由も無く弱者を踏みにじる人がいます」

るか「あ、あの、境内での宗教勧誘はちょっと……」

鈴羽「そんなやつが居たら、あたしならタコ殴りにしてあげるよ」

??「でも、外国で起こった事件だったら? 既に起こった事件だったら? あるいは――」

??「未来で起こる事件だったら?」

鈴羽「……?」

??「そう。たとえどんなヒーローがいても弱き人すべては守れません」

??「必要なのは、管理なんです。全人類を平等に扱う、管理」

伽夜乃「私は伽夜乃と申します。以後お見知りおきを」ペコリ

伽夜乃「――"橋田鈴羽"さん」クルッ スタ スタ ……

るか「えっと……?」

鈴羽「なんだったんだ……?」

719 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 04:48:30.46 gd8Eaw7Mo 435/2638


鈴羽「『最終チェックにもう少し時間が欲しい。 パパより』……ってことで、ごめん。漆原るか。もう一泊させて」

るか「はい、もちろんです。せっかくですから、お母さんに頼んでおいしいものを用意してもらいましょう」

鈴羽「あ、だったらあたし、カレーがいいな! 漆原家のカレーは極上だもんね!」

るか「お褒めに預かり光栄です。そう言えば、橋田さんは……」

鈴羽「……本当は父さんもゆっくり休ませてあげたいけど、あの調子だと梃子でも動かなそうだから」

るか「……そうですか」

栄輔「今日が最後だなんて、寂しいね。それで、阿万音さん用に草薙少佐コスを用意してみたんだが、お風呂上がりにでも着てみるといい」

るか「って、お父さんまでコスプレを!?」

鈴羽「っ!? そ、その恰好は、元FOXHOUND隊員……! 母さんが良く話してた、伝説の傭兵……」

栄輔「いや、僕もたまには自分で着てみようかなと思ってね」

栄輔「阿万音さんはこういうのが好きだと娘から聞いてたんだが、どうだい? 僕もまだまだいけるだろう?」

るか「もう、お父さん……」

720 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 04:50:05.76 gd8Eaw7Mo 436/2638

2010年8月12日(木)7時10分
未来ガジェット研究所


ピピピ ピピピ

倫子「――SERNの襲撃かっ!?」

紅莉栖「グッモーニン。ホント、ぐっすり寝てたわね。どう? 疲れ取れた?」

倫子「あ、ああ。そうだった……何度もタイムリープして忘れていたが、精神的疲労だけは蓄積してるな……」

鈴羽「それで、レジェンドに見て欲しいものがあるんだ」トンッ


 【 0.33871 】


倫子「……ニキシー管か?」

鈴羽「これは世界線変動率<ダイバージェンス>メーター。今、あたしたちがいるこの世界線がどこなのかを数値で表すことができるんだよ」

鈴羽「あたしが元々いた2036年の世界線を0%とした数値だから、あくまで相対的なものなんだけどさ」

紅莉栖「つまり、"2010年の大分岐が2036年にすべて収束する"と置いた系において、ニュートン極限のミンコフスキー時空における時間軸方向に垂直な世界線の振幅を――」

倫子「や、やめろォ……」

紅莉栖「アインシュタイン好きが聞いて呆れるわね」プププ

倫子「というかこれ、なぜ小数点第6位がないんだ?」

鈴羽「へ? 元々小数点は5桁だったんだけど」

倫子「……いや、済まない。記憶違いだ」

倫子「(初めて見るコレに、ニキシー管が1本足りないような気がした。これはリーディングシュタイナーとは関係ないただの記憶違いだろう)」

721 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 04:50:58.74 gd8Eaw7Mo 437/2638


紅莉栖「どういう仕組みなの?」

鈴羽「あたしにもわかんない。作ったのは11年後の鳳凰院凶真だよ」

倫子「オ、オレが? ……そうか、相対値ということは、リーディングシュタイナー所持者にしか意味が無い」

紅莉栖「これが意味しているのって、世界線ごとに異なる物理的情報がどこかにあって、それを検知してる、ってことよね? 温度計や気圧計みたいに」

倫子「だが、検知器には見えんな。ふーむ……」

鈴羽「ともかく、このメーターの数値が1%を超えた時、君はβ世界線にたどりついたことになる。そういう風に作られてる」

紅莉栖「1%……それはつまり、2036年の大収束から解き放たれる、ということね」

鈴羽「そう。1%を突破さえできたら……椎名まゆりは、助けられる」

鈴羽「これはレジェンドに返すよ。あたしが持ってても意味ないしね」

倫子「しかし、かっこいいなこれ……7万円くらいで売ったら売り切れ続出なんじゃないか……」

722 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 04:52:55.18 gd8Eaw7Mo 438/2638


倫子「それじゃ、オレたちはダルの様子を見てくる。この調子だと、タイムマシンの中でチャーシューになってるかもしれないからな」

紅莉栖「オーケー。リープマシンは任せて」

倫子「オレはスーパーに寄って行くから、鈴羽は先にラジ館に行って父親を労わってやるといい」

鈴羽「オーキードーキー」



スーパー


倫子「やっぱり知的飲料ドクペこそ至高だからな。ダルにはドクペを買って行ってやろう」スッ

ピトッ

伽夜乃「あっ、すいません」スッ

倫子「いえ、こちらこそ済まなかった。先に手に触れたのはそちらだ、ラスイチのドクペは持っていくがいい」

伽夜乃「あっ……///」

伽夜乃「(な、な、な、なんという美女……っ!! 偶然とはいえ、手と手が触れてしまった……!!)」ドキドキ

伽夜乃「(葉月ごめん、お姉ちゃんは……っ!! お姉ちゃんはぁぁっ!!!)」ポーッ

倫子「む? どうした? 要らないのか?」

伽夜乃「は、はいぃっ! 差し上げますぅっ!」ビクッ!!

倫子「いや、いいんだ。よく考えたらダルにはダイエットコーラの方が良い気がしてきた」

倫子「それに、貴様も貴重なドクトルペッパリアンの同志に違いない。友好の証に受け取ってくれ」スッ

伽夜乃「ゆう……こう……」ポワワァ

倫子「さらばだ。達者でな」

伽夜乃「はぅぅっ……」クラクラ

723 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 04:54:08.25 gd8Eaw7Mo 439/2638

裏通り


倫子「ここらでラボメンたちの進捗を確認してみるか」スッ


prrrr prrrr


倫子「オレだ。状況は」

ダル『……オカリンのその唐突な電話も懐かしいな』

倫子「っ、いちいちしんみりさせるようなことを言うなっ!」ウルッ

ダル『無人のラジ館で父と娘が汗まみれでくんずほぐれつ……はぁはぁ』

倫子「干からびて死ね」

ダル『ぐほぁっ!?』

鈴羽『父さんには一発お見舞いしておいたよ』

倫子「ご苦労」

鈴羽『この2人がレジスタンスの設立者なんだよね……なんだか実感沸かないなぁ』ハァ

倫子「……そう言えば、鈴羽は、オレがまゆりを救えない未来から来たんだよな」

鈴羽『そうだね。君は牧瀬紅莉栖を無理やり研究させるSERNを心底憎むことになるんだと思う』

倫子「まゆりを助けることもできず、のうのうと生き続けた挙げ句にテロリストとして活動するなど……下らんな」

鈴羽『世界に自由を取り戻そうとする、勇敢で立派な志だと思うけど』

倫子「オレはどんな女だった」

鈴羽『言わなかったっけ。君とは会ったことないよ。今から15年後にSERNに殺される』

倫子「なっ……」

鈴羽『未来ではみんなが不幸になる。だからあたしがIBN5100を届けるんだ』

ダル『鈴羽……』

倫子「……オレたちは、永遠に仲間だ。たとえ世界を違えてもな」

鈴羽『あはは。サンキュ』

724 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 04:55:47.62 gd8Eaw7Mo 440/2638


prrrr prrrr


紅莉栖『はろー』

倫子「オレだ」

紅莉栖『鳳凰院ちゃんからの電話だけで今日も1日生きていける……はぁはぁ』

倫子「だからちゃん付けするなぁ! というか、徹夜明けで変なテンションになっているのではないか、栗悟飯とカメハメ波よ」

紅莉栖『どぅええぃっ!? ど、ど、ど、どうしてその名前をををっ!?!?』ガタガタッ

倫子「ふふふ……。オレがタイムリープする前、お前は涙ながらに告白したのだ。"私はねらーでニコ厨で、すぐ『幼女(*´Д`)ハァハァ』とレスしてスレを荒らす糞コテですが、それでも助手でいさせてくれますか?"となぁ!」

紅莉栖『っ……』

倫子「無論オレはこう答えた。"お前がねらーでニコ厨で、ラボに置いてあるエロゲで全力オ○ニーに興じる女だろうと、ラボメンであることには変わりはない」

倫子「これからもオレの助手でいてくれて構わない。だから涙拭けよ"と――」

紅莉栖『……ウソかホントか判別できない自分が情けないわ』

紅莉栖『そう言えば、丁度よかった。1つ確認したいことがあったんだけど』

倫子「なんだ?」

紅莉栖『タイムリープしてきたってことは、リフターの代替となるものは判明してるの?』

倫子「ああ、それだったら1階にある42型ブラウン管テレビだ」

紅莉栖『なるほど……わかった。岡部はこっちは手伝わなくていいから。何度も同じことやるのは苦痛でしょ?』

倫子「む……」

紅莉栖『今は阿万音さんと橋田の力になってあげて。それじゃ』

725 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 04:57:17.91 gd8Eaw7Mo 441/2638


prrrr prrrr


まゆり『トゥットゥルー♪ まゆしぃです』

倫子「……元気か?」

倫子「(ついそんなことを聞いてしまった。いや、まだまゆりは大丈夫なはずなんだ)」

まゆり『んー? まゆしぃはいつでも元気だよー♪ へんなオカリン』

倫子「そうか、それはよかった。ルカ子のコス作りは順調か?」

まゆり『フブキちゃんとカエデちゃんの分はできたよー。るかちゃんのは、説得できなかったから今回は諦めたの』

倫子「(そうか。そう言えばオレが解散させてしまったから、ルカ子の説得……あれを説得と呼ぶかどうかは別だが……はできなかったんだな)」

まゆり『あ、でもね、ダルくんのお仕事がひと段落したらまゆしぃにも連絡してね』

倫子「……オレが池袋まで迎えに行くよ」

まゆり『えぇー? どうしたのオカリン? なんだかまゆしぃ、お姫様みたいだねぇ。えへへ』

倫子「いいだろ別に。お前はオレの人質なのだから、しのごの言うなっ」ピッ

倫子「先にダルに飲み物を届けよう。その後まゆりを迎えに行くか」

726 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 04:58:13.49 gd8Eaw7Mo 442/2638

ラジ館屋上


倫子「あっつ……。ほら、ダル。ダイエットコーラだ」

ダル「さすがオカリン。僕の飲みたいモノ、解ってくれてるね」

倫子「それで、どうなのだ?」

ダル「やれることはやった。起動実験だけは目立つからできなかったけどね」

鈴羽「作戦会議も十分し尽した。MTBも積み込んだよ」

鈴羽「あとはオペレーションを開始するだけ」

倫子「……そうか」

鈴羽「もしかして、寂しい?」

倫子「ふんっ。オレは狂気のマッドサイエンティスト、仲間の犠牲など厭わないのだっ!」

倫子「……紅莉栖とまゆりを呼ぼう。本当は宴会を開きたいところだが、オレの完璧なオペレーション開始宣言だけでも聞かせてやらねばな」フンッ

鈴羽「ふふっ。レジェンドがどういう人かわかって良かったよ」

鈴羽「この時代に来ることができて、君たちと同じ時間を過ごせて、あたし、ホントに楽しかった」

鈴羽「2036年はさ、とっても平和で、喧嘩すら起きないんだ」

鈴羽「おおよそ争いって名のつくものは、ミクロなものからマクロなものまで、ぜーんぶ消えちゃった」

鈴羽「その代わり、みんな死んだ魚の目をしてた……でも、未来ガジェット研究所は、みんな生き生きしてて、すごく眩しかった」

倫子「……もし、向こうで寂しくなったらうちを訪ねるといい」

鈴羽「えっ?」

727 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 04:59:20.87 gd8Eaw7Mo 443/2638


倫子「お前はこれから1975年へ行き、孤独と闘うことになるだろう。そこにラボメンは誰もいない――」

倫子「が、池袋の岡部青果店は、たしか築40年は超えているから、オレの親父がそこに居るはずだ」

倫子「そして1991年12月14日になればオレが生まれる。16年と半年、とても長い時間だが、だがっ!」

倫子「……オレはそこに居る。それは確定しているんだ」

鈴羽「……うん。わかってる。あたしが行くのは知らない街なんかじゃない」

鈴羽「今居るこの地平に繋がっているんだってこと、確信してる」

ダル「そうだ、鈴羽。オカリン。たしか、ピンバッジがあるよね?」

鈴羽「え? ああ、持ってるよ。ほら」

ダル「これ、ラボメンバッジって言って、ラボメンの証として作ったんだよね。僕が発案してさ」

倫子「なんと、そうだったのか」

ダル「鈴羽はそれを僕の形見だと思ってるみたいだけど、それは鈴羽のラボメンバッジなんだ」

鈴羽「あたしの……」

ダル「それを持ってれば、僕たちは時間を超えて、世界線を超えて繋がってるってことを覚えていられるはずだ」

鈴羽「……うん」

倫子「ダルにしては素敵なことをするじゃないか。さすが、俺の頼れる右腕<マイフェイバリットライトアーム>……」

728 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 05:00:16.64 gd8Eaw7Mo 444/2638


prrrr prrrr


鈴羽「ん? あたしにメールだ。誰だろう?」

倫子「知らないアドレスか? それなら萌郁の可能性があるが……」

鈴羽「……っ!?!?!? ど、どういうことっ!?」

ダル「鈴羽、どうした!?」

鈴羽「こ、これ……これぇっ!?」



To skyclad2010@egweb.ne.jp
From hazukiLove@hardbank.ne.jp
天王寺綯は預かった
返して欲しくば以下の場
所まで来られたし
▼添付ファイル有



倫子「この写真は……綯っ!! 拘束されてっ!?」

ダル「この場所、廃工場だ……いつか鈴羽が綯ちゃん氏を拉致、じゃなかった、"かくれんぼ"してた時の……」

鈴羽「まさか……ラウンダーっ!!」

730 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 05:01:19.61 gd8Eaw7Mo 445/2638

廃工場


鈴羽「レジェンド、本当に大丈夫……?」

倫子「ななな、なにを言っているぅ! 綯の一大事だぞぉ!」ガタガタ

倫子「それに、仮になにかあってもオレが記憶しておけばタイムリープでなんとかなる!」ブルブル

倫子「こ、このオレ、鳳凰院凶真に全て任せれば安心だなっ! ふ、ふぅは、はは、は……」ワナワナ

鈴羽「父さんはマシンを見張る必要があるから一緒に来れなかったけど……不安だなぁ。後ろに隠れててね?」

倫子「オレに隠れていろ、だとぉ? 寝言は寝て言うのだなぁ」ガクガク

鈴羽「お願いだから無理して見栄を張ろうとしないでよおっ!」

コツ コツ コツ ……

伽夜乃「いらっしゃい、鈴羽さん。さぁ後悔と懺悔の時間です」

倫子「ヒィッ!」サッ

鈴羽「き、君は、いつかのキリスト教の!」

伽夜乃「それだけじゃないんですよぉ? このお面に見覚えは?」スッ

鈴羽「それは……母さんを殺した女の……っ!!」

伽夜乃「それ、私です」ニタァ

鈴羽「……貴様ァァァァァアアアアアッ!!!!!」ダッ

731 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 05:02:38.05 gd8Eaw7Mo 446/2638


伽夜乃「おっと、この子がどうなっても?」

「――――っ!」

鈴羽「ぐっ!!!!」

伽夜乃「私のミッションは2つです」

伽夜乃「1つは、2010年へと逃亡したと思われる橋田至の暗殺」

鈴羽「っ!?」

伽夜乃「おかしいんですよねぇ。リーディングシュタイナー保持者の情報によれば、2033年に橋田至は前任者によって殺されていたはずなんですよ」

鈴羽「なん……だって……」

伽夜乃「なのに私にその記憶は無い。そして、2010年8月11日の警察記録から橋田至の逃亡先が判明」

伽夜乃「その後始末をしに来た、というわけですよ。牧瀬博士のタイムマシンに乗って」

鈴羽「おま―――」

伽夜乃「2つ目。"ワルキューレ"最後の1人を抹殺すること」

鈴羽「最後の1人……? ま、まさか、そんな……」ワナワナ

伽夜乃「そう。ワルキューレは壊滅したんです。世界に平和が戻ったんですよぉ!」

732 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 05:03:58.77 gd8Eaw7Mo 447/2638


鈴羽「何を言っているっ! 平和を壊しているのはSERNじゃないか!」

伽夜乃「ワルキューレはテロリストです。私の大事な家族を危険に陥れる忌むべき存在です」

伽夜乃「事実、SERNが世界を平定してから2年で争いは消滅しました。私も、私の妹も、もう暴力に虐げられる必要は無くなったんですよ」

鈴羽「そ、それは作られた平和だ! 偽りの世界だ!」

伽夜乃「争いも貧困も無く、本来失われていたはずの無数の命が救われた。虐待を受けていた子どもは1人残らず家族の元で平和に暮らしている」

伽夜乃「ワルキューレは、彼らへの大量虐殺を行おうとしているに等しい、死に値する大罪人なのです!」

鈴羽「ち……違う……そ、そんなことは……」ワナワナ




倫子「しっかりしろっ!! ジョン・タイターッ!!」


733 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 05:05:17.86 gd8Eaw7Mo 448/2638


倫子「ワルキューレの戦士ともあろうものが、何を舌戦で押し負けているのだっ!」

鈴羽「鳳凰院凶真っ! ご、ごめんなさい、あたし……」

伽夜乃「ほ、鳳凰院凶真っ!? 前任者がとどめを刺したと聞いているのに……そうか、この時代の方の、か」

伽夜乃「こんなところでワルキューレ創設者様にお会いできるなんて光栄です。暗がりでお顔が良く見えないので、どうぞこちらへ」

倫子「言われんでも行ってやるっ。貴様には、地獄へ堕ちても償い切れぬ罪があるようだなっ」

倫子「このオレ、狂気のマッドサイエンティスト鳳凰院凶真が直々に断罪してやる……覚悟しろっ!!」ギロッ

伽夜乃「ほう、さすが鳳凰院凶真。良い目をして……って、あれ……あなた、もしかして……」

伽夜乃「ドクペの女神様ぁーーーーーっ!?!?!?!?」




倫子「……は?」


734 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 05:07:10.48 gd8Eaw7Mo 449/2638


伽夜乃「なんでっ!? どうしてドクペの女神様が鳳凰院凶真なのぉっ!?」

倫子「こっちがなんでだ! ドクトルペッパリアンに悪人は居ないと信じていたのに……」グッ

伽夜乃「わ、私は悪人ではありませんっ! SERNの平和を守るためにっ!」

倫子「ん……、お前、その目……、過去に何かあったのか……」

伽夜乃「べ、別に両親からネグレクトされて学校でもいじめられて児童養護施設に預けられた生活で唯一の希望だった妹の葉月が叔父さんに強姦されて廃人になったとかそういうことはありませんからっ!」

鈴羽「一文で説明される取ってつけたような設定……」

倫子「1つ訊きたい、伽夜乃」

伽夜乃「は、はいぃっ! 鳳凰院様ぁっ!」

鈴羽「一応SERNにもレジェンドの伝説は伝わってるみたいだね」

倫子「(ダルめ、余計なことをっ!)」

倫子「お前の妹の葉月とやら、今はどうしているのだ」

伽夜乃「えっ……」

倫子「お前が側に寄り添ってやらずして、誰が守っているのだ」

伽夜乃「……あ、あああ……」

倫子「伽夜乃、お前の戦いはここに無い」ダキッ

伽夜乃「(なんて温かい手……)」ポロポロ

鈴羽「……むぅ」

倫子「戻れるなら今すぐ戻れ。お前の居るべき時代へ」

伽夜乃「すっ、すっ、すっ……」

735 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 05:07:52.32 gd8Eaw7Mo 450/2638


伽夜乃「すいませんでしたぁぁぁぁあああああっ!!!!!」ズサーッ

倫子「垂直降下土下座……なんなんだこいつ……」

鈴羽「……取りあえずこいつ縛っておくよ。綯、もう大丈夫だからね」

「お姉ちゃん、ありがとう。なんかね、この人変だよ」

鈴羽「うん。知ってる」

鈴羽「レジェンド、後はあたしにこいつを殺させて」

倫子「ダメだ。お前を人殺しにするわけにはいかん」

鈴羽「はぁっ!? 母さんの仇なんだよ!? それに、あたしはもうたくさん人を殺してるっ!」

倫子「それでもダメだ」

伽夜乃「……ラウンダーでタイムトラベラーとなる者は使い捨ての殉教者。任務に失敗した私はすぐにでも消滅しなければならない」

伽夜乃「だから……殺したいなら、殺せばいい」

倫子「では、貴様には死よりも重い罰を与えてやろう」

伽夜乃「ひ、ひぃ……」

736 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 05:08:56.26 gd8Eaw7Mo 451/2638


倫子「この世界線で生を受ける"貴様"をワルキューレの傘下に置く。姉妹ともどもな」

伽夜乃「っ!?」

鈴羽「ちょ、ちょっとレジェンド!?」

倫子「"貴様"の生まれは2018年頃だろう。このオレが直々に親元から引きはがし、ワルキューレの戦士として調教してやる。覚悟していろ」

伽夜乃「こんな"私"に、そんな素敵な人生を与えてくださるなんて……ああ、神よ……」

倫子「そして貴様はラウンダーをやめろ。未来へ帰れないというのならラボに来い。オレの下僕として死ぬまでこき使ってやる」

鈴羽「なっ!?」

伽夜乃「ほ、鳳凰院さまぁ……」ポーッ

「……よくわからないけど、私もこの人のこと、許せない」ギッ

「鈴羽お姉ちゃんのお母さんがかわいそうだよ……」

鈴羽「綯……」

737 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 05:09:28.33 gd8Eaw7Mo 452/2638


「いいか! お前は地を這う虫ケラだ! 地球上で最下等の生命体だ!」

鈴羽「綯っ!?」

「葉っぱの上で縮んだり伸びたりするくらいの価値しかない!」

倫子「……ん!?」

伽夜乃「あ、あの、この子どうしちゃったの……?」

「勝手にしゃべるな! 尺取り虫さんは、"はい"か"いいえ"で答えるんだ!」

「それと、答える時には頭とおしりに"鳳凰院様"とつけろ! わかったか!」

伽夜乃「鳳凰院様っ! はい! 鳳凰院様っ!」

倫子「やめろォ!」

「それで、貴様はラウンダーをやめるんだな!?」

伽夜乃「鳳凰院様っ! はい! 鳳凰院様っ!」

鈴羽「なにこれ……」

738 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 05:12:41.95 gd8Eaw7Mo 453/2638


倫子「綯、1人で帰れるな?」

「うん。今日のことはお父さんには言いません」

鈴羽「できた子だなぁ、綯は」

倫子「それで、お前のタイムマシン貸せよ」

伽夜乃「あ、いえ、あれは生体認証式なので、鈴羽さんを1975年に送るとなると、私も乗り込まないといけないのです」

鈴羽「死んでもやだよ」

伽夜乃「ですよね、あはは……」

伽夜乃「それに私のマシンは常にSERNにトレースされてますので、変な動きをすればすぐに第二第三の刺客がやってきます」

倫子「1975年から直接IBN5100を2010年へと物理的タイムトラベルさせることは無理か……」

鈴羽「……ちょっと待って。ってことは、あたしが1975年に行ってIBN5100を確保しようとすることは、SERNに筒抜けなの?」

伽夜乃「もちろんそうですよ。昨日ラジ館に侵入したことが運の尽きでしたね」

739 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 05:13:45.44 gd8Eaw7Mo 454/2638

伽夜乃「警察記録から阿万音鈴羽が2010年8月11日に秋葉原に居ることが判明。そこからは現地のラウンダーと未来のSERNの連携で未来ガジェット研究所から情報を引き出すことに成功」

伽夜乃「鈴羽さんの作戦、オペレーション・ブリュンヒルデの概要と同時に橋田至のタイムリープ先も判明しちゃうわけです」

倫子「(盗聴か、あるいは直接聞き出したのか……)」

伽夜乃「仮に鈴羽さんが1975年から暮らし始めても、各時代のエージェントが鈴羽さんを狙いにくるでしょう」

倫子「(そうか、それで今海外に居る妙齢鈴羽はIBN5100をオレの元へ届けることができなかった、と……)」

倫子「なんとかしろ、伽夜乃」

伽夜乃「そう言われましても……」

鈴羽「思ったんだけど、Dメールであたしを8月9日深夜の雷雨より前に跳ぶようにしてもらうのはどうかな」

鈴羽「そしたらマシンも壊れてないし、SERNに作戦がバレることもない」

倫子「だが、ダルがお前の父親だと判明するのは10日だったはずだ。その記憶がなくなってしまうぞ?」

鈴羽「……そんなの、構わないよ」

倫子「ふむ……」

740 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 05:15:28.17 gd8Eaw7Mo 455/2638


倫子「伽夜乃は鈴羽を暗殺するようSERNに言われてるんだろ? なら一緒に1975年へ行って鈴羽を守ってやれ」

倫子「そうすればSERNも未来から追加のエージェントを寄越さないだろう」

伽夜乃「つまり、二重スパイ、ということですね」

鈴羽「なんで母さんの仇なんかに……ブツブツ……」

伽夜乃「ただ、それでも私の力でなんとかできるのは、Dメールが物理的に送信可能になってしまう1980年代後半まででしょう」

倫子「日本に電波局が建ち始める頃、か」

伽夜乃「現地のラウンダーを直接未来から操作できる時代に突入してしまうと、さすがに私1人ではどうしようもないかと」

鈴羽「その頃になれば秋葉幸高の力も借りれるかもしれない。だからあたしに伽夜乃の力は要らないよ」

倫子「そうは言ってもだな……」

741 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 05:16:35.75 gd8Eaw7Mo 456/2638


倫子「わからんっ! わからんが、時間を支配できる限り、ベストを模索することは可能なはずだ……」

倫子「取りあえず鈴羽、すぐに1975年へ跳べ。またSERNがおかしなことをしないうちにな」

鈴羽「オーキードーキー」

倫子「伽夜乃は言った通り二重スパイをしろ。鈴羽は嫌がるだろうが、陰から支えてやってほしい」

伽夜乃「この世界線の葉月が幸せになるなら……仰せのままに」

鈴羽「……っ」ムスッ

倫子「2人のタイムトラベラーを過去に送って世界線が変わらなかった場合、鈴羽の提案通りオレはDメールを送る」

鈴羽「その場合、あたしは緋袴……えっと、柳林神社の巫女服でタイムトラベルすることになると思うけど、それで問題ないと思う」

倫子「よしっ! では、作戦開始だっ!」

742 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 05:17:34.20 gd8Eaw7Mo 457/2638

ラジ館屋上


ダル「ラウンダーまで手籠めにするとか、オカリンどんだけ人望あるんだよ……」

倫子「貴様の伝説の捏造のせいだがなっ!」

伽夜乃「持ってきました、これが私のタイムマシンです」

ダル「ほぅ、局所場指定が自在とか、さすが世界の研究者を独占しただけはあるな」

倫子「やっぱりシボルエか! このデザインにしたのは助手だろうな……ニクいことを……」

伽夜乃「カー・ブラックホールのトレースも可能なので、鈴羽さんのタイムマシンが到着する世界線と同一のダイバージェンスに到着できます」

倫子「まゆりと助手には悪いが、もう時間が無い。既にフランスから特殊部隊が日本へと入国している頃合いだ」

倫子「鈴羽っ! 準備はいいかっ!」

鈴羽『オーキードーキー! それじゃ、行くよ!』

鈴羽『35年後……じゃなかった、数時間後に、また会おうね!』

倫子「……ああ! がんばれよぉっ!」

ダル「がんばれぇっ! 鈴羽、がんばれよぉぉぉっ!!」ポロポロ



From ジョン・タイター
Sub ありがと
さよなら


キィィィィィィィィン……


倫子「くっ、まぶしいっ……!! 目が、眩む……っ!!」

743 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 05:18:32.22 gd8Eaw7Mo 458/2638


倫子「……行ったか。伽夜乃のマシンも消えている」

ダル「それで、オカリン。リーディングシュタイナーは発動した?」

倫子「空間がゆがんだのを感じたが、自信が無いな……ラボへ戻ってメーターを確認してみよう」

ダル「オーキードーキー!」



未来ガジェット研究所



紅莉栖「えっ? もう阿万音さん行っちゃったの?」

倫子「済まない、時間が無かったんだ。それで、メーターは……」


 【 0.33871 】


倫子「変わっていない、か……」

ダル「だけど、過去に事象が増えたのは間違いない。メーターで検知できないレベルで世界線は変動したはず」

ダル「だから、仮に初老の女性がこのラボを訪れるとしたら、それは間違いなくオカリンの記憶と全くの同一人物のはずだ」


コンコン


倫子「す、鈴羽かっ!?」


ガチャ……

744 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 05:19:11.26 gd8Eaw7Mo 459/2638




「おっはー」




745 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 05:20:02.97 gd8Eaw7Mo 460/2638


倫子「す、鈴羽っ!!」

ダル「おぉ……」

紅莉栖「あ、あなた、阿万音さんなの!?」

鈴羽「もうおばさんになっちゃったけどね」

幸高「教授、日本に帰ってきているなら連絡をしておいてくださいよ」

鈴羽「いやあ、若かりしあたしを乗せたタイムマシンが消えてからじゃないと絵にならないだろうと思ってさ、秋葉原で待機してたんだよ」

倫子「余計な演出を……。ということは、1周目や2周目の時も待機していたのか……?」

フェイリス「えっと……お姉さんが言う、『あたしは阿万音鈴羽だった』ってのは、ホントだったニャン?」

鈴羽「だからそう言ってただろう? キミの瞳でも見抜けなかったのは、レジスタンス時代に取った杵柄だなぁ」

鈴羽「……みんなに言わないといけないことがある」

倫子「……ゴクリ」

ダル「……」

紅莉栖「……」

鈴羽「あたしは……」



鈴羽「――失敗した」




746 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 05:21:12.05 gd8Eaw7Mo 461/2638


1975年に無事到着したあたしと伽夜乃は色々あったけど、数か月後には共同生活をするようになった。

母さんの仇とは言っても、同じ2036年の話ができる同士ってのと、レジェンドの話で1日盛り上がれる同志ってのは大きかったよ。

マシンを分解して手に入れた現金でIBN5100を複数台手に入れた。信頼できる人を伝って、2010年の秋葉原に届くようにしていたつもりだった。

だけど、やっぱりSERNの力は強大だったんだ。

あたしが日本中に隠していたIBN5100は、あの手この手で回収されていくことになった。

最後のIBN5100は伽夜乃が持っていたんだけどね。

伽夜乃が居てくれたからあたしは、病状が悪くなり始めた1998年頃に秋葉幸高のススメで日本を出て、海外の病院に行くことができたんだけど……

2001年にはもうあたしの手の届くところにIBN5100は無くなってしまった。

伽夜乃が殺されたんだ。ラウンダーの手によって。

それからのあたしは、君たちにこの失敗の報告をするためだけに命を長らえさせてきたんだ。

本当に、ごめん。

ごめんね。

あたしの人生は、無意味だった―――



747 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 05:22:30.00 gd8Eaw7Mo 462/2638


ダル「そんなことない。そんなことはないんだ、鈴羽」ダキッ

鈴羽「父さん……グスッ……」ギュッ

ダル「鈴羽がその情報を、長い時間をかけて手に入れてくれたことで、オカリンが次につなげることができるんだ」

倫子「ああ。お前の記憶を、お前の歴史を、お前の人生を……っ、1秒たりとも無駄にしてやるものかっ」

鈴羽「うん……うん……」

紅莉栖「残された選択はあと1つね」

倫子「過去のオレにDメールを送り、8月9日の夜に1975年へと向かう鈴羽を呼び止めないようにする」

倫子「――Dメールを、打ち消す」

鈴羽「ありがとう……鳳凰院凶真……」

鈴羽「お願い、あたしを消して……」

ダル「僕からも頼むよ、オカリン。たとえそうなったとしても、僕たちが親子であることには変わりないから」

紅莉栖「……そうね。たとえそうなったとしても、私たちがラボメンであることには変わりないはずよ」

倫子「鈴羽の生きた証は……、オレたちの絆はっ!」

倫子「決してっ! 決してオレは忘れないっ!」

倫子「たとえ世界中の誰もが忘却してしまったとしても、オレだけはっ!」

倫子「絶対に、覚えているからなっ!!」





To 電話レンジ(仮)
Sub
尾行は中止だ前のメー
ルはSERNの罠




748 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 05:22:59.30 gd8Eaw7Mo 463/2638


―――――――――――――――――――
    0.33871 → 0.40931
―――――――――――――――――――

749 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 05:25:14.03 gd8Eaw7Mo 464/2638

第6.5章 幽明異境のオブリガーダ♀


2010年8月12日(木)16時27分
未来ガジェット研究所


倫子「ぐっ……!!」

倫子「(この立ちくらみは、リーディングシュタイナーっ!)」

倫子「(ということは、鈴羽はIBN5100の確保に成功した……っ!?)」

倫子「(仮にそうだとしたらラボにIBN5100があるはず……)」キョロキョロ

ダル「それじゃ、綯様。準備はいい?」

「は、はい」

倫子「……綯? どうして綯がここにいるのだ? そして何故助手がいない?」

ダル「は? オカリンどうしたん急に」

ダル「Dメール実験をやるって綯様と約束したんしょ? それで牧瀬氏は反対するだろうからってこっそりやろうって」 

倫子「へ……? な、なんのことだ?」



―――――

  『――だから、お父さんのためにも、お母さんを生き返らせてほしいんですっ!』


  『任務を遂行し ろ。でなけれ ば綴が死ぬ!』


  『――メールは2000年の5月18日に送ってください。うちのお仏壇にいる、もう1人の人の命日なんですけど』

―――――

750 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 05:27:27.04 gd8Eaw7Mo 465/2638


倫子「……すまん、思い出した。確かにそんな約束をしていたな」

倫子「(何をそんな悠長なことをしているのだ、と思ったが、世界線が切り替わったという事はまだ未来から紅莉栖が来ていない0周目に戻った、ということだ)」

倫子「(ダルも未来からタイムリープしてこない。タイムマシンを修理する必要が無いからな)」

倫子「(部屋を見渡したがダイバージェンスメーターは無い。まあ、当然か)」

倫子「(それよりもさっき別れたばかりの54歳の鈴羽は今どこで何をしているのか……)」

ダル「でも綯様。どうして2000年5月18日に送るん?」

「お父さんが、その日の事をたまに独りでつぶやいているんです」

倫子「って、たしか誰かの命日だったんじゃないのか?」

「あ、はい。そうです。橋田さん、という人なんですけど」

倫子「橋田……って、ダルと同じ苗字?」

倫子「(何かが頭に引っかかる……くそ、記憶が混乱しているのか……)」ズキズキ

ダル「ほいじゃ、放電現象が起きたら送信ボタンを押してね」ピッ

倫子「あっ! バカ、ダル! 実験は中止だっ!」

ダル「へ? さっきまでめっちゃノリノリだったじゃん」

倫子「この一瞬で状況が180度変わったのだっ! とにかく、マシンを止め――」


バチバチバチバチッ……


「え、えっと、これ、押すんですよね」

倫子「ま、待てっ! 早まるな、やめろ、綯――――」


ピッ



751 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 05:28:20.12 gd8Eaw7Mo 466/2638


―――――――――――――――――――
    0.40931 → 0.00312
―――――――――――――――――――

752 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 05:29:47.28 gd8Eaw7Mo 467/2638

柳林神社


倫子「ぐぅっ……っ!! かはっ、はぁ……はぁ……」ヨロッ

るか「だ、大丈夫ですか!? 凶真さんっ!!」オロオロ

倫子「あ、ああ……大丈夫だ、オレの右腕に宿りし魑魅魍魎は鎮まったようだ……」

るか「よかったです……」ウルウル

倫子「……ここは柳林神社か。まさか、立て続けに世界線が変わってしまうとはな」

倫子「今は8月12日。明日になれば未来から紅莉栖がやってくるが、夜にはラボが襲撃される」

倫子「とにかくIBN5100だ。ラボにあるか、鈴羽が持っているか……あるいは、柳林神社に?」

倫子「なあ、ルカ子。この神社にレトロPCが奉納されている事実はあるか?」

るか「えっ? あ、はい、お父さんに確認してきますっ」タッ

・・・

るか「……どうやら、そのようなものはお預かりしていないみたいです。お力になれずすいません……」

倫子「いや、いいんだ。想定の範囲内だ」

倫子「それじゃ、世話になったな。そうそう、まゆりのコスプレ押しが迷惑ならちゃんと言えよ?」

るか「え? は、はい。それでは、また」

倫子「さて、取りあえずはラボだ。そこにIBN5100があれば、ダルに頼んでクラッキングだっ」タッ

753 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/16 05:30:50.88 gd8Eaw7Mo 468/2638

裏路地


倫子「(オレたちのラボは妻恋坂交差点の手前の路地を1つ左に折れたところにある)」

倫子「(大檜山ビル2階。ブラウン管工房とかいうアナクロな店の真上を借りている)」

倫子「(オレは今年の3月から通い慣れた足でそこへ向かったはずなのだが……)」

倫子「おかしいな、道を間違えたか?」

倫子「(――いくら探しても大檜山ビルが見当たらない)」

倫子「……いや、そろそろ現実逃避はよそう。間違いなく、ここに大檜山ビルは"あった"」

倫子「(しかし、オレの記憶とは異なり、目の前には現代的な賃貸マンションが建っている)」



倫子「ラボが……消えた……」




825 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/24 01:23:09.05 BfuGClXVo 469/2638

柳林神社


るか「あれ、おか、凶真さん。戻ってらっしゃったんですか……凶真さんっ!? 大丈夫ですかっ!?」

倫子「あぅ……あぁ……」ヨロヨロ

るか「しっかりしてくださいっ! どうしちゃったんですかぁ!」ウルウル

倫子「ルカ子……お前、ラボを知らないか……」

るか「ラ、ラボ、ですか? たしか、まゆりちゃんが今日明日はバイトをお休みしてラボに居るって言ってましたけど……」

倫子「……なに? ラボは、あるのか?」

るか「は、はい。えっと……?」

倫子「どこにだぁっ!? 大檜山ビルは無かったのだぞぉ!? あのマンションの一室かぁ!?」ワナワナ

るか「え、ええっと、どういうことでしょう……」

倫子「今すぐラボまで案内してくれっ! 頼む、ルカ子っ!」ヒシッ

るか「は、はいっ! わかりましたっ!」ドキッ

826 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/24 01:24:00.65 BfuGClXVo 470/2638

都道452号線沿い


倫子「ここは……」

るか「ここ、ですよね? おか……、凶真さんのラボ」

倫子「メイクイーン+ニャン2の入っているビルの隣……」

倫子「その1階には自転車屋が入っていて、バイト戦士がBianchiのMTBを買ったであろう場所……」

倫子「立地としては、かつてのラボの真裏のビルだ。裏通りではなく、表通りに面してはいるが……」

るか「はい。自転車屋さんの2階のテナントがラボですよね。たしか、フェイリスさんが大家さんだとか」

倫子「ラボはミスターブラウンではなくフェイリスのテナントビルへと移動したのか……」

るか「それじゃ、中に入りましょう。まゆりちゃんが居るはずですよ」

倫子「お、おう……」プルプル

827 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/24 01:25:26.23 BfuGClXVo 471/2638

未来ガジェット研究所?


まゆり「あ、オカリンにるかくん! トゥットゥルー♪」

るか「まゆりちゃん、お邪魔します」

倫子「不思議だ……。初めて来た場所なのに、内装は実に馴染んだ佇まい……」

倫子「ガジェットも、ソファーも、ダルの積みゲーもそのままだ。まるで未視感<ジャメビュ>……」

まゆり「オカリン、どうしたの?」

るか「なんだか凶真さん、今日は1日ぼーっとしているみたいで……」

倫子「まゆりが居る……グスッ……」

まゆり「オ、オカリン? だいじょうぶ? どこか痛いの?」

倫子「まゆりぃ……ふぇぇ……」ヒシッ

まゆり「もう、オカリンどうしちゃったのかな? よしよし♪」ナデナデ

828 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/24 01:26:37.74 BfuGClXVo 472/2638

倫子「ご、ごほん。今のは忘れろ」

まゆり「はーい」ニコニコ

るか「はい」ウフフ

倫子「ところで、さっきまゆりはルカ子のことを『るかくん』と呼んでいたが、『るかちゃん』とは呼ばないのか?」

まゆり「んー? るかくんが女の子だったらそう呼んでたかも♪」

るか「ま、まゆりちゃん! ボクは男だよぅ」アセッ

倫子「……ダルはどうした? マシンの開発をサボって何をやっているのだ」

まゆり「ダルくん? 今はフェリスちゃんのところに行ってるんじゃないかなー」

倫子「(さっきはスルーしたが、メイクイーンが復活していたということは、そういうことなんだろうな……)」

倫子「メールでここに呼びよせるか。それで、助手は?」

まゆり「クリスちゃん? クリスちゃんならもう帰っちゃったでしょ?」

倫子「む? 帰ったって、ホテルにか?」

まゆり「違うよー。そうじゃなくて、おうちに、だよ」

倫子「おうち?」

るか「あの、凶真さん? 3日前、一緒に成田までお見送りに行きましたよね?」

倫子「成田? いや、あいつの実家は青森で……って、まさか……」




まゆり「クリスちゃんはね、アメリカに帰っちゃったんだよー」

829 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/24 01:28:27.21 BfuGClXVo 473/2638


prrrr prrrr


紅莉栖『今何時だと……』

倫子「紅莉栖っ!? 紅莉栖なのかっ!?」

紅莉栖『なんだ、夢か。私の倫子ちゃんが夜中にラブコールしてくるわけがない』

倫子「夢じゃないっ! 寝ぼけてるのかぁっ!?」ウルウル

紅莉栖『え、だって、私の名前をまともに呼んでくれるなんて……』

倫子「なあ!? どうしてアメリカへ帰ったぁ!? お前はラボメンナンバー004だろぉ!?」

紅莉栖『……岡部にそう言ってもらえて心から嬉しい。でも、私が岡部のラボに居るべき意味を見つけられなかったから、ね』

倫子「……どういう意味だ。タイムマシンの研究こそお前のアイデンティティだと言っていたではないか」

紅莉栖『確かに最初の……Dメール? 橋田のケータイへ5日前に送られてるメールには興味があった』

紅莉栖『だけどそれっきりで、研究と呼べるようなことはできなかったでしょ』

紅莉栖『倫子ちゃんと離れなきゃいけないのは寂しかったけど、元々アメリカに帰る予定だったし……』

倫子「り、倫子ちゃん言うなぁっ!」

倫子「(そう言えばこいつ、元々アメリカへ帰る予定だったのを、電話レンジ(仮)やタイムリープマシンの研究のために日本に残ってくれていたのだったな……)」

倫子「だ、だが、青森へ一緒に行くという約束はどうしたんだ!?」

紅莉栖『へ? そんな約束したっけ……』

倫子「…………」ピッ

倫子「(これは……とんでもない規模で世界線が変わっている……)」ワナワナ

830 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/24 01:29:10.85 BfuGClXVo 474/2638


倫子「電話レンジ(仮)っ! 電話レンジ(仮)はどこだぁっ!」ダッ

まゆり「開発室にあるよ? から揚げ食べる?」

倫子「から揚げ……だと? 電子レンジとしても機能しているのかっ!?」

るか「たしか、未来ガジェット8号機はケータイで電子レンジを遠くから使える、っていう未来ガジェットでしたよね」

倫子「……っ。そ、そうだ、IBN5100はラボにあるか……?」

まゆり「あいびー?」

るか「聞いたことないですね……」

倫子「……どうやらオレは、死ぬほど疲れているようだ。……少し休ませてくれ」ハァ

るか「えっ!? だ、大丈夫ですか? 今お水を……」



なるほどな……

そろそろわかってきたぞ、この世界線の仕組みが。

信じたくはない。

信じたくはないが……


831 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/24 01:30:04.12 BfuGClXVo 475/2638


キッカケは綯が送信したDメールだろう。

その内容は、2000年5月18日の天王寺裕吾に対し、妻である今宮綴を救え、と指令するもの。

これによっておそらく、天王寺裕吾が大檜山ビルのオーナーとなる因果が消滅した。

誰かのものとなったビルは集合住宅へと建て替えられてしまった。

一方、2010年3月のオレはそれでも秋葉原にラボを求めた。

なんの因果か知らんが、フェイリスがオーナーとなっているというこのビルにラボを構えたらしい。

だが、重要なのは階下の店だ。

そこにブラウン管がないということは―――


832 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/24 01:31:05.06 BfuGClXVo 476/2638


Dメールもタイムリープマシンも、偶然の産物だった。

42型ブラウン管テレビが点灯していることで未来ガジェット8号機はタイムマシンへと変貌するのだ。

それが無いということは、おそらくこの世界線では実験らしい実験は成功していない。

まゆりがから揚げを解凍ではなく逆に冷凍させてしまうこともない。

ゲルバナが生成されることも、テレポートすることもない。

過去を司る女神作戦<オペレーション・ウルド>も、タイムリープマシン実験も。

ロト6は当たっていないし、写真集は回収できていないし、ルカ子は男だし、フェイリスのパパは亡くなっているし、秋葉原は萌えの街だし……

鈴羽はどうなった? 8月9日の夜には1975年へとフライトしたのだろうか。

54歳になる鈴羽はどうしている? 海外か? 秋葉原に潜伏中か?

紅莉栖は明日の2時ごろにタイムリープしてくるのか?

ダルはどうやらタイムリープしてきていないらしい。

萌郁はラウンダーなのか? この世界線でもラボの為に死ぬのか?

フェイリスのパパはどうなった? アキバが萌え化しているということは……生死も"元に戻った"のか。

ルカ子は……だが男だ。

まゆりは……死ぬのか……?


833 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/24 01:31:57.05 BfuGClXVo 477/2638


鈴羽はIBN5100こそが世界線をαからβへと変更できるキーアイテムだと言っていた。

だが、今オレがいるこの世界線がβ世界線である、という可能性もあるんじゃないのか?

つまり、ディストピアは築かれず、紅莉栖はタイムマシンの母とならず、ワルキューレなどというレジスタンスは創設されず……

まゆりは……死なない。

それを確かめるにはあと30時間ほど待てばいい。話は簡単だ。

そこでまゆりが死ねばαのまま――

……オレは何を考えているんだ。

人は普通、死んだら生き返らない。

永遠に失われてしまう。

それが自然の摂理のはずだろ……


834 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/24 01:32:52.36 BfuGClXVo 478/2638


倫子「ごめん……まゆり……」グスッ

まゆり「突然どうしたのー? 怖い夢でも見た?」

倫子「夢……か。この世界線にとっては夢なんだよな……」


―――――

  『……また変な夢でも見たの?』

  『夢……? あ、ああ。そうか。あれは夢だったんだ……』

―――――



倫子「……なあ、まゆり? お前、『鈴羽』という名前に心当たりはあるか?」

まゆり「スズさん? うん、今日もバイトしてたよ」

倫子「バイト? ……ブラウン管工房でか?」

まゆり「ぶらうん? それじゃなくてねー、自転車屋さんで、だよー」

倫子「なんと。あいつ、ラボの真下でバイトする、というのは変わっていないのか。というか――」


  『鈴羽が1975年へと跳んでいない』


倫子「これってどういうことなんだ……? なぜあいつはIBN5100を取りに行っていない……?」

倫子「まさか本当に、"ここ"が1%の壁の向こう側なのか……?」

835 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/24 01:33:36.26 BfuGClXVo 479/2638

自転車屋


倫子「オレはここに来るのは初めてのはずだが、"この世界線のオレ"はおそらく何度か来ているのだろうな……」ウィーン

鈴羽「おっ、鳳凰院凶真じゃーん。ちーっす」

倫子「なあ、ジョン・タイター。話がある。バイトはいつ終わる?」

鈴羽「話? えっと、店長さんに言えばいつでも上がれるよ」

倫子「それはよかった。なら今すぐ――」

鈴羽「そうだっ! まだ日も高いし、あの約束、今日お願いしてもいいかな?」

倫子「っ、約束?」

鈴羽「もう準備もできてるよ! ほら、早く早くっ!」

倫子「うわっ!? お、おい!? 引っ張るなぁっ!」

836 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/24 01:34:52.44 BfuGClXVo 480/2638

晴海大橋


まゆり「きもちいいねー」チリンチリン

ダル「ふぅっ、ひいっ、なんで僕がこんなことに付き合わなきゃ、いけないんだ……」ギーコギーコ

るか「修行よりも、全然大変です……」キーコキーコ

倫子「ど、同感だ……はあ、ふう……っていうか、風強すぎ……」キーコキーコ

まゆり「ダルくんはね、メタボだからもっと運動しておくべきだと思うよー」

ダル「デブオタ上等……」

鈴羽「いい景色だなー。レジェンドたちと来れて、あたし幸せかも」

倫子「というか、だな……ふぅ……どうしてサイクリングなんかに……はぁ……」

鈴羽「えー? 鳳凰院凶真が提案してくれたんじゃん。あたしの父さんを探すついでにサイクリングをしよう、って」

倫子「は、はぁ? お前の父親はダ――」

倫子「(ま、待て待て。"この世界線のオレ"はワルキューレの話をされていないのか?)」

倫子「(それと、バレル・タイターが橋田至である、という情報は未来のSERNにバレるとマズイ。あまり口にしない方がいいか……)」

倫子「ゴホン。というか、こんなところに父親の痕跡があるのか?」

鈴羽「言ったでしょ? あたしの父さんと母さんって、"コミマ"ってところで出会ったんだって」

倫子「コ、コミマだとぉ!?」

鈴羽「告白の言葉は、『キミに一生、萌え萌え☆キュン』だったって聞いてる。この時代に来るまでは意味がわからなかったけど、情熱的な愛の言葉だったんだね」

837 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/24 01:36:02.33 BfuGClXVo 481/2638

ビッグサイト


鈴羽「ビッグサイト、生で見られて感動! 2036年にはさ、ビッグサイトってなくなっちゃってるんだよね」

倫子「鈴羽の母親は腐女子の可能性があるな。ということはコイツ、実はオタクのサラブレッド……?」

まゆり「まゆしぃはおなかが空いちゃったから、ダルくんとるかくんとファミレスに行ってるね」

ダル「もうダメでごわす……ふひぃ」

るか「気づいたらもう晩御飯の時間ですね……ふぅ」

鈴羽「わかった。あたしはもうちょっと日暮れの有明を散策してくる。鳳凰院凶真も来る?」

倫子「ああ。お前に話があると言っただろう」

鈴羽「……そうだった。それじゃ、椎名まゆり、橋田至、漆原るか、また後で!」

838 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/24 01:37:02.85 BfuGClXVo 482/2638


鈴羽「あのさ、あるテレビ記者が雪の街に取材に来て、そこで時間の連鎖に絡めとられちゃう、って映画、なかったっけ?」

倫子「『恋はデジャ・ブ』だったか。コメディ部分は好きだな」

鈴羽「あたしは微妙。だって主人公が特になにかしたわけでもないのにさ、時間の無限ループはきれいさっぱりなくなっちゃうじゃん」

倫子「本当は裏に陰謀が渦巻いている……そう言いたいのか?」

鈴羽「ううん。今のキミ、映画と同じ状況に置かれてるんじゃない?」

倫子「(なんだ、こいつ……本当にオレの知っている鈴羽なのか……?)」

倫子「……"タイムリープマシン"も無いのに、そんなわけないだろ」

鈴羽「やっぱり。キミは"別の世界線"から来た。そうでしょ?」

倫子「……だったらどうした」

鈴羽「よかった。これでようやくあたしの使命が果たされるんだね……」

倫子「なに……? お前の使命は、1975年へ行ってIBN5100を手に入れることでは無かったのか?」

鈴羽「キミの元居た世界線のあたしはそう言うと思う。でも、このあたしは違うよ」

鈴羽「あたしの使命、それは、"鳳凰院凶真が元居た世界線"へと世界線を変動させること」

倫子「元居た……?」

鈴羽「――2000年へ跳んで、Dメールを取り消すこと、だよ」

839 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/24 01:38:10.95 BfuGClXVo 483/2638


世界は大きく変わっていた。

いや、ある意味で大事な部分は何も変わっていない。

この世界線でもまゆりは死ぬ。

つまり、ここはまだα世界線だ。

鈴羽が持っていたダイバージェンスメーターによると、その値は0.00312らしい。

オレが未来で作り出したというダイバージェンスメーター。

以前確認した0.33871からはだいぶ離れてしまった。

1%の壁からは、遠のいてしまっている。

オレたち未来ガジェット研究所がタイムマシン開発にこぎつけられなかったせいだろう。

0.00312。

世界を変えようと意気込んだオレにとって数値の減少が意味するところは。

0.00312。

この無機質な数字の羅列は、オレにとって絶望だった。

840 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/24 01:40:06.65 BfuGClXVo 484/2638


倫子「……結局、ダメだったんだな。紅莉栖も、ダルも、鈴羽も、綯も伽夜乃も、揃いも揃って未来から過去を変えに来たというのに……」

倫子「24年だの、23年だの、35年、15年……タイムトラベラーどもは皆、人生を賭けたというのに……」

倫子「世界は変わらない……」

倫子「まゆりは、死ぬ……」ウルウル

鈴羽「そのためにあたしが居る。大丈夫だよ、父さんが遺した作戦を完遂できれば――」

倫子「できるのかぁっ!? それは本当に、確実な情報なのかぁっ!?」

倫子「もし作戦に穴があったらっ!! もし予測できない事故が起こったらっ!!」ブルブル

鈴羽「鳳凰院凶真! あたしを見て! 心を殺さないで!」

鈴羽「それでもキミは、諦めることなんかできないんだ! 椎名まゆりを救おうと動くしかないんだ!」

倫子「わかっているっ! そんなことは、わかっているんだ……っ」ウルウル


―――――

  『岡部にも執念を持ってもらいたいの。まゆりを救うという、絶対的な執念』

  『……わかっている。まゆりは、まゆりはオレの人質だ』

―――――


倫子「……ぐぅっ!」ポロポロ

鈴羽「落ち着いてあたしの話を聞いてほしい。それは、キミにとっても希望のはずなんだ」

841 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/24 01:44:49.94 BfuGClXVo 485/2638


鈴羽「今はあたしが2000年へ立ち寄ればいいっていう答えが出ているけど、あたしの知ってる2010年から先はその答えが出せなかった世界なんだ」

倫子「……そもそも、どうやってタイムマシンが作られたのだ」

鈴羽「7月23日に受信された、キミが送信者となっているメールがエシュロンに捕えられることで未来のSERNはキミを監視することになった」

鈴羽「実は、牧瀬紅莉栖は元からSERNに目をつけられていた。タイムマシンに関する論文を書いたらしいんだけど、どこからかそれが漏えいしたんだ」

倫子「あいつが、タイムマシンの論文を……?」

鈴羽「牧瀬紅莉栖を研究員へと迎えた未来のSERNは過去改変を行い、エシュロンメールの関係者と思われる2010年の牧瀬紅莉栖と鳳凰院凶真、橋田至の3名を当時のSERNへ連行した」

鈴羽「そこで君たちはSERNのZプログラムに従事することになった。当時からリーディングシュタイナーを持っていたキミは伝説級の活躍をしたって聞いてる」

鈴羽「"別の世界線での記憶"ってのがタイムマシン開発を後押ししたんだろうね」

倫子「……まんまと利用されたわけだ。くそぅ……」

鈴羽「そしてキミは、盗んだんだ。SERNのすべてを」

倫子「……そうか。収束の力を利用して、逆にSERNをやりこめたのかっ!」

鈴羽「鳳凰院凶真とバレル・タイターは日本でレジスタンスを創設する」

鈴羽「タイムマシン技術はSERNの独占を逃れた。これが世界の希望になったんだ」

鈴羽「タイムリープが可能となったことで時間は実質無限になった。レジェンドはこれを利用して科学技術レベルを1世紀は進めたって聞いてる」

倫子「そんなにタイムリープしたのか、未来のオレは……」

鈴羽「あたしの使命はもちろん、エシュロンに捕えられたメールデータの削除が可能なIBN5100を、1975年で確保して2010年のラボに届けること」

鈴羽「その前哨戦として、2000年の天王寺裕吾の元へ送られたDメールによる因果の取り消しが必要なんだ」

鈴羽「これを取り消さない限り、IBN5100がラボに届くことはない。だからあたしは1975年へ行く途中で一度2000年に立ち寄る必要がある」

鈴羽「これは未来のキミが導き出した答えだよ。父さんの遺書……ムービーメールでそう教わった」

倫子「未来のオレの、答え……」

842 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/24 01:46:21.68 BfuGClXVo 486/2638


倫子「だが、あの綯のDメールで、一体なにがどうなったのかがわからない……。これでは何をどうしたらいいかがわからんではないかっ!」

倫子「この世界線ではミスターブラウンが消滅しているのに、どうやって調べれば……」

鈴羽「天王寺裕吾は居なくなったわけじゃない。探せばきっと見つかる」

鈴羽「もしSERNがキミたちを拉致するまでに天王寺裕吾から話を聞けなかったら、あたしがタイムマシンで少し過去へ行って天王寺裕吾を捜索するよ」

倫子「だ、だが、お前のタイムマシンは壊れているはずだっ! 8月9日の深夜、雷雨に遭ったせいで……」

鈴羽「えっ……嘘……」

倫子「Dメールも、タイムリープも、タイムマシンも使えない状況で、どうやって2000年の因果を操作しろと言うのだっ!!」グッ

倫子「そ、そうか! 未来のオレがDメール技術を使えるようになった時点からDメールを送れば……」

鈴羽「……あたしは未来のキミがDメールを"送らなかった"世界の未来から来ているから、たぶんそれはできない」

倫子「……収束、か。いや、だが収束に逆らう方法もあるはず……」

鈴羽「あたしの知る限りでは、2036年にはメールで過去を改変する技術は存在しない。完全なリーディングシュタイナーを持った人間が居なかったからかも知れないけど」

倫子「収束に逆らうためには、たしか2010年という年に意味があると言っていたな!?」

鈴羽「そう。大分岐の年っていうイレギュラーを利用するんだ」

倫子「紅莉栖は言っていた、世界の現在をオレの主観に近似させる、とも……」

倫子「……そうだ、あいつは明日の14時には未来から跳んでくるかもしれない」

倫子「だが、それで間に合うのかっ!? 6時間でタイムマシンを修理できるのか!?」

鈴羽「……あいつって?」

倫子「牧瀬紅莉栖だっ! タイムマシンの母、牧瀬紅莉栖がお前のタイムマシンを直しに……っ!」

鈴羽「牧瀬紅莉栖……っ、そんな作戦、知らされてない……」ギリッ

倫子「頼む、もう説明するのも面倒くさい……頼むから紅莉栖を敵視しないでくれ……」ウルウル

843 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/24 01:51:40.31 BfuGClXVo 487/2638


鈴羽「でも、あたしにはわからないな。仮に牧瀬紅莉栖が父さんのタイムマシンを直せるとして、6時間の制限ってのはなんのこと?」

倫子「それは……まゆりが死ぬタイムリミットのことだ」

鈴羽「……それって、本当にタイムリミット?」

倫子「なに……?」

鈴羽「この作戦が成功すれば、キミは元居た世界線とほぼ同じ世界線に戻れる。そこならタイムリープマシンもある」

鈴羽「だったら、この世界線での椎名まゆりは諦めて、次の世界線で生き返らせれば――」



倫子「…………お前ェェェエエエエッ!!!!」ガシッ



鈴羽「うわぁっ!?」

倫子「まゆりをっ!! まゆりをなんだと思ってるっ!?」

倫子「これはゲームじゃないっ!! やり直せば生き返るとか、そういう問題じゃないんだよぉっ!!」

鈴羽「ご、ごめん。でも他に方法が――」

倫子「たとえ世界が再構成されようと、まゆりは世界にただ1人しかいないっ!!」

倫子「私の……オレの、かけがえのない幼馴染なんだよぅ……グスッ……」ウルウル

鈴羽「…………」

倫子「……もうまゆりの死ぬ場面は見たくない」

倫子「いつも脳天気に微笑んでいるまゆりの、あんな無惨な死の姿を見せられるのは、つらすぎるよ……」ポロポロ

鈴羽「レジェンド……」

844 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/24 01:56:02.18 BfuGClXVo 488/2638


まゆり「あー、いたいた~! オカリーン!」タッ タッ

倫子「まゆり……」

まゆり「もう真っ暗になっちゃったね~。そろそろ帰ろう?」

倫子「あ、ああ。そうだな。なんだかんだでもう8時前か……」

倫子「(8時、前……。い、いや、今日じゃない。今日はまだ13日じゃ……)」

まゆり「あれー? まゆしぃのカイちゅ~、止まっちゃってるー」

倫子「な、に……」



まゆり「あれ、か、あ……っ……」バタッ



鈴羽「椎名まゆりっ!?」

るか「まゆりちゃん、足早いよぉ……あ、あれ、まゆりちゃん?」

ダル「ま、まゆ氏ちょっと待って……って、あれ? まゆ氏、どしたん……?」

まゆり「…………」

倫子「あ……あ……あぁ……」

ダル「息……してない……」

るか「うそ……そんな……」




倫子「……ぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああ!!!!!!!!」


845 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/24 01:57:10.78 BfuGClXVo 489/2638


鈴羽「……椎名まゆりは死んだ」

倫子「違うっ!!! オレが、見殺しにしたんだっ!!! オレがっ!!!」

ダル「おい、まゆ氏! 起きろよ! ドッキリか!? ドッキリだろ!?」

るか「まゆりちゃんっ!! まゆりちゃぁぁぁぁぁん!!」

鈴羽「……救急車を呼ぼう。SERNがキミたちを拉致する前に対処しないと」

倫子「お前なんでそんな平然とした顔してんだよぉっ!!」

鈴羽「あたしは、戦士だから。仲間が死んでも冷静に行動するための訓練は受けている」

倫子「こいつ……っ!!」ギロッ

鈴羽「まだ椎名まゆりは助けられるっ! お願いだから冷静になって!」

ダル「た、助けられるって、どういう……」

鈴羽「とにかく、一旦ラボに戻ろう」

倫子「まゆり……っ、まゆりぃ……」ポロポロ

まゆり「…………」

846 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/24 02:02:39.55 BfuGClXVo 490/2638

未来ガジェット研究所?


倫子「(気付けばオレたちはラボに戻ってきていた。どうやって戻ってきたかはまるで覚えていない)」

ダル「ちょ、オカリン。阿万音氏……鈴羽? その話、全部マジなん?」

るか「俄かには信じられないです……あ、いえ、凶真さんを信じてない、ということではないんですけど……」

倫子「(既にダルと鈴羽の親子関係については説明した。オレが世界線を渡ってきたということも)」

倫子「(まゆりが死んだんだ。もうなりふり構ってなどいられない)」

倫子「(フェイリスがオーナーのこのビルなら、たぶん盗聴などはされていないだろう)」

鈴羽「とにかく、レジェンドは救世主なんだ。あたしたちワルキューレの希望だよ」

倫子「(さっきから鈴羽はアトラクタフィールド理論だのオペレーション・ブリュンヒルデだのを講釈しているが、オレの耳にはまったく入らなかった)」

鈴羽「だから、まずは橋田至……父さん? にタイムマシンを直してもらおうと思うんだけど……」

倫子「……待て。明日の14時、24年後から紅莉栖がタイムリープしてくる。それを待たなければなるまい」

鈴羽「まだそんなこと言ってるの? それはキミが元居た世界線での話でしょ?」

鈴羽「この世界線では椎名まゆりは8月12日に死んだのに、どうしてそれよりも前に牧瀬紅莉栖はタイムリープしてこなかったのさ」

倫子「それは、きっとなにかトラブルがあったんだ……」

鈴羽「素直に認めて。きっと牧瀬紅莉栖はタイムリープしてこない。だったら、それ以外の手段を講じるべきだって」

倫子「(……この世界線では紅莉栖が8月9日にアメリカへ帰っていた。このことが、あいつがタイムリープしてこない、という結果を生み出したのか……?)」グスッ

847 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/24 02:04:08.33 BfuGClXVo 491/2638


ダル「わかったお。その、牧瀬氏がどうのってのは置いておいても、僕がタイムマシンの修理を手伝う」

鈴羽「ありがとう……父さん。あたしだけじゃ修理に不安があったんだ」

るか「ボクも、まゆりちゃんのためなら手伝います。と言っても、ご飯の用意くらいしかできませんけど……」

鈴羽「漆原るかも、ありがとう。できればカレーがいいな」

ダル「とにかくオカリンは明日、その天王寺裕吾氏のところに行って、Dメールで何が起こったのかを確認すべきじゃね?」

倫子「天王寺裕吾、ミスターブラウンがこの世界線ではどこにいるのか、皆目見当もつかない……」

倫子「それに明日は……まゆりの通夜があるそうだ……」

るか「あっ……」

鈴羽「…………」

ダル「おぅふ……」

ガチャ

フェイリス「凶真っ!! マユシィが、マユシィがぁ~っ!!」

848 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/24 02:05:27.56 BfuGClXVo 492/2638


フェイリス「クーニャンには連絡したニャ。明日のお昼にはこっちにつけるって」

倫子「……ご苦労」

るか「でも、まゆりちゃん……今日のお昼までは元気にしていたのに……グスッ……」

倫子「……すまない」ウルッ

るか「いえ……つらいのは凶真さんですものね……ヒグッ……」

鈴羽「……もうわかった」

倫子「え……?」

鈴羽「鳳凰院凶真は何もしなくていい。全部あたしと父さんがやる」

ダル「す、鈴羽ぁ……」

鈴羽「天王寺裕吾の居場所の調査も、作戦の立案も、タイムマシンの修理も。だからキミは何もしなくていい」

鈴羽「この世界線における椎名まゆりの死を悼んでくるといいよ」

倫子「…………」

フェイリス「天王寺裕吾? それって、家電修理のおじさんのことかニャ?」

倫子「……なに?」

849 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/24 02:06:49.87 BfuGClXVo 493/2638


倫子「知っているのかフェイリスッ!?」ガシッ

フェイリス「ハニャ!? さ、触っちゃダメニャ! ///」ドキッ

フェイリス「えっと、秋葉原商店会のメンバーだニャ。頭のつるつるした筋肉むきむきのおじさん、であってるニャ?」

るか「そ、その方でしたらボクも地鎮祭の時にお会いしたことがありますっ」

倫子「そいつは今どこにっ!?」ユサユサ

フェイリス「うニャ~!? い、今黒木に調べさせるニャァ~!」

倫子「Dメールで何が変わったのかがわかれば、未来のオレたちから救いの手が差し伸べられるかもしれない……!」ワナワナ

倫子「まだ、可能性はある……っ!」ガタッ

ダル「オカリンに生気が戻ったっぽいね」

鈴羽「……それじゃ、そっちは鳳凰院凶真たちに任せるよ。父さん、今すぐラジ館に行こう」

ダル「オーキードーキー」b

850 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/24 02:08:16.13 BfuGClXVo 494/2638

2010年8月13日金曜日
新御徒町 天王寺家


倫子「ここが、ミスターブラウンの家……」

フェイリス「別に気負うことはないニャ。顔は怖いけど、フェイリスとは顔見知りだから大丈夫ニャン」

フェイリス「万が一何かあったら、凶真守護天使団団長のフェイリスが、命に代えても凶真を守るニャ!」フンス

倫子「……もしかして、この世界線にも裏マーケットはあるのか?」

フェイリス「おっじゃましまーすニャーン♪」

ピンポーン

??「はーい。あ、ねこのおねえちゃん!」

倫子「(……ん? 誰だこの小動物。綯に妹なんて居たか?)」

フェイリス「結ニャン、久しぶりだニャ。ちょっと結ニャンのパパさんとお話させてもらってもいいかニャ?」

「どうぞー。おとうさーん、おきゃくさんだよー!」

天王寺「なんだこんな朝早くから……って、ああなんだ秋葉の嬢ちゃんか。今度はなんの企画だ?」

フェイリス「今日お話があるのはフェイリスじゃなくて凶真だニャ」

天王寺「きょうま……? 誰だ、嬢ちゃん」

倫子「は、初めまして……」

851 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/24 02:10:01.14 BfuGClXVo 495/2638


天王寺「俺はここいらで家電の修理やリサイクルをしてる天王寺だ。よろしくな」

倫子「店舗を持っていたりは……」

天王寺「しねえな。自宅や貸倉庫をうまく使ってやりくりしてるぜ」

天王寺「まあ、確かに廃品回収をやってた12年くらい前は店舗を持ったりしてたけどよ」

倫子「そ、それって、もしかして『ブラウン管工房』ですか!?」

天王寺「……なんだ、知ってたのか。もうずいぶん懐かしい響きだ」

倫子「どうしてビルを手放したんです?」

天王寺「手放した? いや、オレはテナントを借りてただけさ。格安でな」

天王寺「ただ、オーナーが死んじまってな。それでビルも建て替わっちまったってわけだ」

倫子「オーナーが、死んだ……?」

852 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/24 02:10:59.81 BfuGClXVo 496/2638


「あら、かわいいお客様ですね。お茶です、どうぞ」

倫子「あ、ありがとうございます」

フェイリス「ありがとうございますニャ」

倫子「(この人が綯が蘇らせたという、綯の母上か。なるほど、綯は母親似だ)」

倫子「(綴さん。ミスターブラウンの運命の人であり、電大生としてはオレの先輩にあたる人……)」

「…………」ジーッ

「…………」ジーッ

倫子「(う……小動物たちに監視されていて飲みづらい……)」

「こっちが綯、こっちが結です。ごめんなさいね、ほら、2人ともお客様の邪魔をしちゃダメよ」

フェイリス「お話が終わったら一緒にコスプレして遊ぼうニャーン♪」

「ホント! 猫のお姉ちゃん!」

「ねこのおねえちゃん!」

天王寺「あ、こら! うちの可愛い娘たちに変な遊びを教えるんじゃねえ!」

853 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/24 02:11:46.66 BfuGClXVo 497/2638


「おねえちゃん、しゅくだいおしえて」

「いいよ。えっとね、ここがこうなって……」


倫子「……姉妹の仲が良いんですね」

「ええ。いつも2人で一緒にいるんですよ」

天王寺「俺の自慢の娘たちだ」

「産んだのは私ですよ」ウフフ

「お母さん、ここ教えてー」

「おしえてー」

倫子「ふむ。小学生の夏休みの宿題くらいならオレが見てやろう。どれどれ」

「あら、いいんですか。すいません」

天王寺「ほう、伊達に白衣を着てるわけじゃねえんだな」

「美人のお姉ちゃん、ありがとう」

「ありがとー」

倫子「(これが綯の望んだ理想の家族、なんだろうか……)」

854 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/24 02:14:04.26 BfuGClXVo 498/2638


「そのビルのオーナーさんですけどね、10年ほど前に亡くなられるまでは一緒にここで暮らしていたんですよ」

倫子「一緒に……? もしかして、橋田さん、ですか?」

天王寺「嬢ちゃん、あの人が生きている頃に秋葉原に来たことがあるのか?」

倫子「まあ……そんなところです」

天王寺「元々この家はその人のものだったんだよ。最初はお隣さんだったんだが、まあ色々あって、俺が居候することになってな?」

「私まで同居させてもらって……橋田教授には頭が上がらないですねえ」

天王寺「俺が古物営業許可を持てたのもあの人のおかげだった」

天王寺「"巡り巡って人は誰かに親身にしてもらうことになってる、だから君もいずれ誰かに親身にしてあげなさい"ってな」

「そうそう。鳳凰院さんみたいに白衣の似合う綺麗な方だったんですよ」

天王寺「元気の塊みたいな人だったが、まさか病魔に侵されていたとはなぁ……」

倫子「……そう言えば、いつかミスターブラウンがそんなようなことを言っていた」


―――――

  『俺が若い頃こっちに来てから母親のように面倒見てくれた、大切な人との思い出があってな……って、興味ねぇか』

  『どうもお前の目付きや出で立ちはあの人に似ている気がしてならねぇ……そのせいでつい口が滑っちまった』

  『ほう? ということは、その人もマッドサイエンティストだったのでしょうね』

  『マッドは余計だ。確かに白衣を着こなした大学教授だったが……』

――――――


倫子「(そうか、綯の言っていた仏壇のもう1人は、元大檜山ビルのオーナーであり、大学教授であった橋田、という人物なのか)」

倫子「(……フェイリスのパパさんの話の中でも出てきたな。橋田教授)」

倫子「(そしてその橋田教授は……たしか……)」ゾワワァ

「今日みたいに天気のいい日は、いつもサイクリングしてましたねえ」

855 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/24 02:15:00.13 BfuGClXVo 499/2638



『橋田鈴 享年44歳』


倫子「鈴羽……」

天王寺「墓の方は雑司ヶ谷にあるが、なんなら今から拝みに行ってもいいぞ」

倫子「……そこにあるのは、ダイバージェンスメーター、ですね」

天王寺「なに? それが何か知ってるのか?」

【 0.00312 】

倫子「(今この時代にダイバージェンスメーターは2台あるのか……)」

天王寺「それ、なんの数字を現してるかわかるか?」

倫子「いえ……」

倫子「……フェイリス。お前、橋田鈴さんを知っている、よな?」

フェイリス「知ってるニャ。パパの大学時代の先生で、卒業してからも仲良くしていたみたいニャ」

天王寺「鈴さんの遺品は、秋葉家の執事さんからもらったんだよ」

倫子「……そうですか」

倫子「(どういう因果かはわからない。だが、綯のDメールのせいで――)」

倫子「バタフライ、エフェクト……」

856 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/24 02:16:18.08 BfuGClXVo 500/2638


倫子「そんな……そんなことって……」ワナワナ

天王寺「お、おい。嬢ちゃん、大丈夫か?」

倫子「……天王寺さん。率直に聞きます」

倫子「あなたは……2000年5月18日におかしなメールを受け取ったはず。間違いないですね」

天王寺「…………」

天王寺「それが?」

倫子「あなたは、奥さんを守った。それは――」

倫子「"ラウンダー"と関係しているんじゃないですか」

天王寺「…………」

天王寺「……わかった。場所を変えよう。おい、綴。ちょっと車で出てくる」

「あ、はい。いってらっしゃい」

天王寺「行くぞ、ガキども。ここから先はもう戻れる保障はねえぞ」

フェイリス「……わかりました。ただ、私を怒らせたら秋葉原で生活できないということ、忘れないでくださいね」

倫子「…………」

858 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/24 02:17:52.75 BfuGClXVo 501/2638

雑司ヶ谷霊園


倫子「まさか鈴羽の墓が、まゆりのおばあちゃんの墓の近くにあっただなんてな……」

倫子「半年間毎日通い続けてたってのに、全く気付かなかったよ……」

天王寺「それで、嬢ちゃん。どこまで知っている」

倫子「……あなたはSERNの犬、ラウンダー」

倫子「その目的は、IBN5100の回収とオレたちのラボの監視……」

天王寺「……そうだ。ラウンダーはIBN5100の回収と、タイムマシン研究の独占のための部隊だ」

フェイリス「嘘は言ってないみたいニャ」

天王寺「ってことは、白衣のお前さん、岡部倫子か。話には聞いていたが、ほう、あんたが……」

倫子「……そうだ。そのうちお前たちに拉致されるんだろうな。あの時の襲撃のように……」


―――――

  『なんだと? ってことは、あんた、FBなのか?』

  『この時代の人格としてはFBでいいわ。2010年のラウンダーのみなさん、改めましてよろしくね』

  『FBっ!! 牧瀬さんが、FBっ!! 私を、見ててくれたぁ……』

  『(―――本当は私はあなたの知っているFBじゃない。でも、私はあなたの味方よ、桐生さん―――)』


―――――



倫子「(……もしかして、階下で鈴羽に殺されたという天王寺裕吾こそ、紅莉栖がなり替わったFBとかいうラウンダーたちの上司だったんじゃないか?)」

倫子「なあ、天王寺さん。あなた、"FB"か?」

天王寺「FB? なんだそりゃ。フェルディナント・ブラウンのイニシャルか何かか?」

倫子「そ、そうではなくて、ラウンダーとしてのコードネームか何かだっ!」

天王寺「俺はそんな名前を名乗ったことはねえなあ。何故なら俺は――」

天王寺「M2、だからな」

倫子「M2……」

859 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/24 02:19:19.54 BfuGClXVo 502/2638


倫子「(確か萌郁は、『私は……M4。SERNの、ラウンダー』と言っていた……)」

天王寺「正確には、だった、だけどよ」

倫子「どういうことだ?」

天王寺「勘違いしているようだが、俺はもうラウンダーじゃねえってことさ」

倫子「……なに?」

天王寺「足を洗った、とは言い難いが、少なくとも今の俺はラウンダーじゃねえ」

倫子「ほ、本当か?」

フェイリス「本当みたいだニャ」

天王寺「本来ラウンダーってのは、任務を達成したら消されるんだ」

天王寺「だけどな、オレはその功績から異例の温情をもらったのさ。普通の人間として生活させてもらう、な」

天王寺「つっても、どこかで監視されてるだろうけどな。今こうやってお前さんが俺と話をしていることもSERNには筒抜けだろうよ」


  『お前を見ているぞ』


倫子「そ、そうなのか……」

天王寺「まあ、SERNからしてみれば岡部倫子の拉致は織り込み済みってことだから、別になんの問題もねえんだけどな」

天王寺「その代わり、秋葉の嬢ちゃんは気をつけとけよ」

フェイリス「…………」

天王寺「俺は岡部倫子とも、ラウンダーとも他人なんだ。これ以上、厄介ごとを増やすんじゃねえ」

860 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/24 02:20:17.28 BfuGClXVo 503/2638


倫子「いや、待ってくれ。質問に答えてほしい」

倫子「2000年5月18日、未来から来たメールを受け取ったあなたは、どんな行動を取ったんだ」

天王寺「……別に、俺は何もしてねえ。いや、"何もしない"をした、ってのが正解だな」

フェイリス「嘘じゃないみたいニャ」

倫子「それはどういう――」

天王寺「もうお前らに話せることはねえよ。こっちは仕事があるんだ。それじゃあな」

倫子「ま、待てっ! おいっ!」

フェイリス「凶真、深追いは良くないニャ……」

倫子「……くそぅ」




鈴羽「…………」


861 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/24 02:21:53.97 BfuGClXVo 504/2638

未来ガジェット研究所?


倫子「(あれから萌郁にも連絡を取ろうとしたが、オレのケータイに『閃光の指圧師』のアドレスは登録されていなかった)」

倫子「(M2にM4……。わからないが、もしかしたらあいつは2006年に自殺してしまっているのかも知れない……)」

紅莉栖「遅くなってごめん。まさかまゆりが、あんなことになるなんて……」

倫子「聞いてくれ、紅莉栖。今から話す話は厨二病でも、まゆりの死を受け入れられずおかしくなったわけでも無い」

紅莉栖「えっと、いきなり何の話? 私の名前を普通に呼ぶなんて、普通じゃないわよね……」

倫子「……助けてくれ」ウルッ

紅莉栖「……こ、これはフラグが立った。いやいや、まゆりの前でなんて不謹慎なことを……うぅ……」ガクッ

倫子「まゆりを蘇らせるにはどうすればいいか、天才の知恵を貸してほしい……っ」

紅莉栖「……えっと……?」

862 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/24 02:22:33.56 BfuGClXVo 505/2638


・・・

紅莉栖「ふぅん……話をまとめると、IBN5100が手許に戻ってくれば勝ち、っていうことになる」

紅莉栖「IBN5100を岡部が手に入れて、SERNにあるデータを消すその瞬間が、分岐の臨界点なんだと思う」

紅莉栖「おそらくその瞬間、ダイバージェンスは1%オーバーに達するはず」

紅莉栖「そして、岡部は一度IBN5100を手に入れている」

紅莉栖「その世界線へもう一度行けることができれば、必然的に手許に戻ってくる」

紅莉栖「まゆりは、助かる」

倫子「つまり、オレたちが生じさせた世界の歪みを正していけば……、Dメールをすべて打ち消していけば……」

紅莉栖「保険はいくつかある。24年後の未来からタイムリープしてくるっていう私もその1つ」

紅莉栖「だけど、迂闊な行動を取ってもしも"詰み"になってしまったら」

紅莉栖「例えば、岡部が"死ぬ"なんてことになったら――」

紅莉栖「まゆりは、二度と助からない」

863 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/24 02:24:41.26 BfuGClXVo 506/2638


倫子「わからないのは、まゆりの死ぬタイミングがちょうど24時間、ずれたことだ」

紅莉栖「確かに気になるな。でも、それについては今は結論は出ない」

紅莉栖「とにかく慎重な行動を心がけて。私は、たとえどの世界線に居ても岡部の味方よ」

倫子「……ありがとうクリスティーナ。やはり話してよかった」ギュッ

紅莉栖「あっ……倫子ちゃんの手……///」

倫子「倫子ちゃん言うなぁっ!」

紅莉栖「い、一応言っておくけど、下心だけで動いてるわけじゃないからなっ! 本当に、私はあんたのことが心配で……」

倫子「ツンデレなのかなんなのかわからんセリフだな」ククッ

紅莉栖「うぅ……」

倫子「だが、結局ミスターブラウンから当時何があったか聞き出せなかった……」

紅莉栖「それこそ、別に何があったか、なんて端からどうでもいい可能性がある」

倫子「というと……?」

紅莉栖「阿万音さんは戦闘のプロなんでしょ? Dメールが受信されるタイミングで奇襲をかけ、メールを見られる前に削除してしまえばいい」

倫子「その発想はなかった……相変わらずとんでもないことを考えるな」

紅莉栖「考えられる選択肢を言ったまでよ。別に、冷酷無比な女だ、って罵ってもらっても構わないけど……」

倫子「ああ。クリスティーナはすぐいじける面倒臭い女だ」ダキッ

紅莉栖「ちょっ!? ふわぁっ……///」

倫子「本当にありがとう、紅莉栖……お前が居てくれて、どれだけ心強いか……」ギュッ

紅莉栖「―――――」

倫子「……助手? 大丈夫か? 聞こえてるか? 意識はあるか? おーい?」

864 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/24 02:26:04.21 BfuGClXVo 507/2638


紅莉栖「それよりも、タイムマシンを使ったDメール取り消し、っていう世界線変動についての方が問題ね」アセッ

倫子「再起動に10分もかけさせるとは……なんというポンコツハイスペックPC……」

紅莉栖「物理的タイムトラベルは微妙に世界線を変動させるのよね?」

紅莉栖「ということは、阿万音さんが過去に飛び立った瞬間、まず岡部はこの世界線からほんの少しだけずれた世界線へと移動することになる」

倫子「ふむ……そうだな。2000年において、新しく過去に事象を打ち込むのだから、多少なりとも世界は再構成される」

紅莉栖「おそらくそこはほとんどなにも変わっていない世界線。唯一違うのは、2000年にタイムマシンがラジ館の屋上に出現しているということ」

紅莉栖「そして、岡部はほぼ一瞬のうちに次の世界線移動を迎えることになる。もちろん、阿万音さんが成功した場合に限るけど」

紅莉栖「これによって岡部は元いた世界線とほぼ同じ世界線に戻ることができる……はず……」

倫子「(紅莉栖がそこまで言って、言葉を詰まらせた理由にオレも思い当たった)」

倫子「この世界線では橋田鈴は2000年に病死していた……」

倫子「元々橋田鈴は1998年に大病を患っていた。それでも一命を取り留めたのは、日本でIBN5100を守り続けた伽夜乃と、海外へ連れ出してくれたフェイリスパパのおかげだった」

倫子「もし、鈴羽の死が綯のDメール送信により発生した因果ではなかったとしたら……」

倫子「オレが元の世界線に戻っても、鈴羽は2000年5月18日に44歳で死んでいることになる……」

倫子「それだけじゃない、綯の母親、綴さんをもう一度殺すことにさえ……」プルプル

865 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/24 02:26:59.41 BfuGClXVo 508/2638


紅莉栖「問題を複雑にしない方がいい。これはIBN5100を取り戻すゲームなんだって考えた方が動きやすいわ」

倫子「……くそったれなゲームだな」

紅莉栖「そもそもまゆりの死なない世界線になれば、未来はディストピアじゃなくなる」

紅莉栖「阿万音さんはタイムトラベルのタの字も知らずに、橋田とその奥さんのもとで幸せに暮らすことになるはず」

倫子「……そうだな」

紅莉栖「綴さんは、元からそうだったと諦めるしかない。死者を蘇らせるってのは、そういうことなのよ、きっと」

倫子「……この世界線の綯は幸せそうだった」

倫子「なあ、なんとかならないか? 綯の家族を奪うことなどオレには――」


prrrr prrrr


紅莉栖「……どうやら本当に来たみたいね。ディストピアの元凶が」

倫子「……ゴクリ」

ピッ

紅莉栖「くっ……ふぅ……はぁ……」ヨロッ

倫子「……クリスティーナ?」

紅莉栖「わかってる……これからラジ館へ向かう。5時間あれば直せる」

紅莉栖「この世界線はラボにタイムリープマシンが無い。一発勝負よ……」

866 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/24 02:29:09.87 BfuGClXVo 509/2638

ラジ館8階


ダル「いや、マジで牧瀬氏が来てくれて助かったお。確かに構造は電話レンジに似てるから僕でもいじれたけど、気付かなかったところが多すぎワロタな件」

紅莉栖「仕方ないわよ。橋田が作ったって言っても、23年後の橋田が、なんだから。あ、それ取って」カチャカチャ

ダル「ほい」スッ

紅莉栖「それより、タイムリープ到着の時間を変えられなくてごめんね」

倫子「なにかトラブルでもあったのか?」

紅莉栖「ううん、むしろトラブルを回避しようとしたせい、とも言えるわ」

紅莉栖「私の記憶の中にあるこの世界線の2010年の歴史では、ラウンダーは8月12日にラボを襲撃することになってたから、私が未来で襲撃命令を8月13日に改ざんした」

倫子「なにっ!? そんなことができるなら大檜山ビルの売却を阻止できなかったのか!?」

紅莉栖「私にもできることとできないことがあるっ! というか、天王寺裕吾は元々ブラウン管工房を閉める意志があったから、どうあがいても42型は手に入らなかったわ」

紅莉栖「もし大檜山ビルが健在だったら、私の指示で2001年にSERNとの直通回線を開通させていたところだけど」

倫子「(あれは紅莉栖のおかげだったのか……いや、そうなると最初は誰が? という典型的なタイムパラドックスが発生するが……)」

紅莉栖「ともかく、襲撃の改ざんと同時に8月13日の14時過ぎを私のタイムリープ先に指定したわけだけど、これは岡部から聞いていたタイムリープマシンの完成のタイミングがココだったから」

紅莉栖「もちろんこの世界線ではラボでタイムリープマシンは作られていないけど、万が一タイムリープマシンで世界線を大幅に移動してしまった時のために保険をかけたの」

紅莉栖「つまり、タイムリープマシンが完成する前へと私がタイムリープしてしまうことで何らかの致命的な事象が発生する可能性の回避……」

紅莉栖「これが裏目に出たわ……。"次の牧瀬紅莉栖"にはちゃんとこの辺説明しておいてくれると助かる」

倫子「……っ、わかった」

867 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/24 02:32:27.71 BfuGClXVo 510/2638


倫子「そう言えば、鈴羽はどこに行っている?」

ダル「時間まで作戦を整理するって言ってたお。オカリンの別世界線の記憶を加味した上で、とかなんとか」

倫子「そうか……」

紅莉栖「なんとしても修理を8時までに間に合わせるわ……もう1回SERNで24年間研究なんて死んでも嫌……」カチャカチャ

ダル「まあ、鈴羽曰く、僕たちがさらわれた後もしばらくはこのタイムマシンは回収されたりしないらしいから、タイムトラベル自体にはタイムリミットは無いらしい」

倫子「この世界線では8月11日にラジ館に侵入してないから、未来のSERNに気付かれていないのか……」

倫子「このまま上手く行けばいいが……まだイレギュラーの心配だってある」

倫子「また綯が15年を遡ってきたら? あるいは、伽夜乃のようなタイムトラベラーによる妨害の可能性も……」

紅莉栖「綯ちゃんの可能性は取りあえず無いわ。橋田がタイムリープしてきていないのがその証拠」

倫子「ワルキューレのタイムリープマシンではここまで戻ってこれない、ということか」

紅莉栖「私が作ったSERNの完成品タイムマシンも一応簡単には使えないよう利害関係を調整してみたけど……これはどこまで通用するかわからない」



鈴羽「――ごめん、遅くなった」

868 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/24 02:34:17.69 BfuGClXVo 511/2638


紅莉栖「オーケー。なんとか直った。後はスズちゃんに任せる」

鈴羽「気安く呼ぶなよ、牧瀬紅莉栖」

紅莉栖「……ぶわっ」ピィィ

倫子「よしよし」ナデナデ

ダル「今ワンセグでニュースを確認したけど、秋葉原駅にテロ予告があったって」

倫子「鈴羽。準備は、いいか……?」

鈴羽「大丈夫だよ、鳳凰院凶真」

鈴羽「ちゃんと、準備はしてきたから……」

鈴羽「(そう。あたしはちゃんと準備をした……)」

倫子「もし、もしできることなら、綯の家族を守ったまま、綯の望みを叶えたまま、世界線を元にもどして欲しい」

鈴羽「それは……天王寺裕吾次第、だよ」

鈴羽「…………」グッ



・・・数時間前

869 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/24 02:35:56.07 BfuGClXVo 512/2638


・・・

数時間前
2010年8月13日(金)14時23分
新御徒町 天王寺家


「あら、裕吾さん。お帰りなさい」

天王寺「ああ……。ただいま~、綯~、結~」

「お父さん、お帰りなさい」

「おかえりなさーい」

「お話は終わったんですか?」

天王寺「ん? あ、ああ。まあな」



??「悪いけど、終わらせてもらっては困る」スッ



「えっ――」

天王寺「なっ!? なんだお前!? (ライダースーツの女!?)」

??「動くな。動くと娘の喉をこのナイフでかっ切る」

天王寺「っ……」

「お、お父さん? この人、誰……?」プルプル

「だれ……」プルプル

870 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/24 02:36:44.09 BfuGClXVo 513/2638


??「これは取引じゃない。命令だ」

??「2000年5月18日、お前は未来から来たメールを受け取ったはず。その後どう行動したか言え」

天王寺「……またその話かよ。だから言っただろうが。何もしてねえって」

??「そうか」グシャァァァァッ

「――――っ」バタッ

天王寺「ゆ……結……、嘘だろ……」

「結っ!?!? 結ぃぃぃっ!!!!」

??「次はこっちの娘の喉を切り裂く」スッ

「ひっ……」プルプル

天王寺「やめろぉ……っ。やめてくれぇ……なんで、なんでこんなこと……」

??「質問を変える。お前は、"橋田鈴"に何をした」

天王寺「……なんでてめえが、んなこと訊くんだ……っ」

??「それは……」スッ

鈴羽「――あたしが橋田鈴だからだよ。見覚えあるだろ、この顔に」

天王寺「なっ!? そんな……そんなことが……っ!!」

871 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/24 02:38:24.40 BfuGClXVo 514/2638


鈴羽「早く言え。綯の次は綴だ」スッ

「うぅっ……」

「やめて……お願いよ……」

天王寺「俺ぁ……俺ぁ、鈴さんを、あんたを売ったんだ……SERNに……」

天王寺「未来から指令が来てな……任務を遂行しなければ綴を殺す、そんな内容だった……」

天王寺「俺の任務はIBN5100の回収……鈴さんは、IBN5100をずっと隠し持っていたんだ……」

天王寺「だけど……だけどな、俺は最期まで鈴さんを裏切れなかった。あんなに良くしてもらったせいだ……」

天王寺「だが、あの日、鈴さんから願っても無い申し出があった……」


―――――

  橋田鈴『IBN5100?』

  天王寺『……っ!!』

  橋田鈴『君がずっとアレを探してるのは知ってた』

  橋田鈴『そして……アレを探すのがどういう連中かもあたしは知ってる』

  天王寺『…………』

  橋田鈴『もし君が君の家族を守るために必要なら―――』

  橋田鈴『IBN5100を、あげるよ』

―――――


872 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/24 02:39:53.58 BfuGClXVo 515/2638


鈴羽「そんなバカなっ……!」グッ

「ひぃっ!!」プルプル

天王寺「俺ぁ拒否できなかった……"なにもしなかった"んだ……」

天王寺「アレがなけりゃ確実にSERNは綴を殺していた……」

天王寺「その日のうちに鈴さんは病気で死んじまったが、その後秋葉幸高っていう大地主のところから鈴さんのIBN5100だの、ハッキング用PCだの、諸々が届けられた……」

天王寺「橋田鈴の痕跡は、この家以外すべてSERNに渡した。あのボロいビルも含めてな……」

天王寺「おかげでこちとら異例の大出世だ。時期が良かったのか、はは、委員会のやつら、俺なんかに序列を与えてやってもいいとまでぬかしやがった……」

天王寺「下水道育ちのネズミなんかによぉ……」

鈴羽「(2036年では、SERN治安部隊ラウンダーのトップは委員会の1人だと聞いたことがある……)」

天王寺「だが、そんなもんはいらねえ。俺は、夢にまで見た"日常"を望んだ」

天王寺「せっかく手に入れたってのに……まさか、こんな結末になるなんてな……」

鈴羽「……全部、あたしのせいだったって言いたいのか」グッ

天王寺「やめろ……っ! せめて、綯だけでも、助けてくれ……っ!」

鈴羽「違うッ!! お前は、嘘をついているッ!!」

「綯っ!! 今のうちにこっちに!!」ダキッ

「お母さんっ!!」ダキッ

鈴羽「このあたしが、SERNの犬なんかにIBN5100を渡すわけがないッ!!!」ダッ

天王寺「どうして……こんなことになっちまったんだろうなぁ……」

鈴羽「殺すッ!! お前はッ!! 父さんの作戦を台無しにしたお前はッ!! 殺すッ!!」グサァァァァァァ!!

天王寺「あぁ……すまなかった、鈴さん……すまな、かっ……た……」バタッ

「お父さんっ!!!!」

「いやぁぁぁぁぁあああああああっ!!!!!!!」


・・・



873 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/24 02:42:32.04 BfuGClXVo 516/2638


・・・


鈴羽「(……あいつは抵抗することなくあたしの凶刃に倒れた)」

鈴羽「(まるで母親に抱かれる子どものようにその巨体をナイフへと寄せて……)」ギリッ

ダル「鈴羽? 緊張、してるのか?」

鈴羽「ううん、なんでもない。そうだ、鳳凰院凶真の事件も解決してくるからね」

倫子「オ、オレの事件?」

紅莉栖「ああ、あれね。"私"と岡部の会話をスズちゃんが盗み聞きしたやつ」

鈴羽「この世界線だとフェイリス本人に頼むしかないのかな」

倫子「一体なんのことだ」

鈴羽「気にしなくていいよ」

倫子「(……オレは、この鈴羽と再会することはできるのだろうか)」

鈴羽「鳳凰院凶真、そんな悲しい顔しないで」

鈴羽「あたしは必ず君を1%の壁の向こう側へと送り届けるから」

鈴羽「だから、世界を救って」

倫子「鈴羽……」

鈴羽「それじゃ、ハッチ閉めるよ」ウィーン

ダル「鈴羽……。頑張ってな。頑張ってだなんて、そんな安っぽい言葉しか言えないけどさ……」

ダル「父さんも頑張るから。だから、鈴羽も頑張ってな……」

倫子「(……ああ、人類の夢であるはずのタイムマシンが、これじゃまるで巨大な鉄の棺桶じゃないか)」

倫子「鈴羽……すまない……」ポロポロ


From ジョン・タイター
Sub ありがと
さよなら
1%の向こう側のあた
しによろしく


キィィィィィィィィン……



倫子「……ぐっ!? こ、この目眩はリーディング―――――――――




874 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/24 02:45:17.51 BfuGClXVo 517/2638

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

2000年5月18日
六井記念病院 1階ロビー


『2年ほど前からハッキングは止まったがIBN5100に関しては全く進展がないようだな』

天王寺「ああ……」

『この件に関しては君は自身や家族のために故意にIBN5100を入手せずにいると言う者もいてね』

『任務を忘れているのではないかと……心配しているわけだよ』

天王寺「…………」

『あまり我々を落胆させないでくれ、M2』

875 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/24 02:46:04.25 BfuGClXVo 518/2638


天王寺「――ああ、それじゃ」ピッ

天王寺「……さて、鈴さんに顔を見せるか」スッ

コツ コツ コツ ……

鈴羽「……天王寺裕吾、だね」

天王寺「ん? なんだお前。どうして俺の名前を?」

鈴羽「橋田鈴……母さんから聞いた」

天王寺「なに、母さんだと? ……なるほど、確かに鈴さんそっくりだな。面影がある」

天王寺「あの人はてっきり天涯孤独だと思っていたが、まさか娘が居たとは……」

鈴羽「家庭の事情で母さんには正体を明かせないんだ、あたしのことは秘密にしてもらえると助かる」

天王寺「はぁ。それで、俺になんの用だ」

鈴羽「――母さんを、信じて欲しい」

天王寺「……?」

876 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/24 02:47:08.53 BfuGClXVo 519/2638


鈴羽「君が今、難しい立場に居ることは知ってる。もちろん、あたしはSERNの人間じゃない」

天王寺「っ!? あ、あんた一体……」

鈴羽「だけど……母さんは絶対、正しいことをしてきた。間違ってないんだ。だから、信じて欲しい」

鈴羽「君の信じる橋田鈴を、信じて」

天王寺「……深くは話せねえみたいだな」

天王寺「わかってる。俺はあの人に返しても返しきれねえ恩を受けちまった」

天王寺「恩を讐(あだ)で返すような真似はしねえよ」


prrrr prrrr


天王寺「おっと。すまない、メールを受信したみたいだ」

天王寺「病院なんだから、電源切っとかないとな、ハハ」

鈴羽「……見て。今すぐ」

天王寺「は? あ、ああ。わかった」ピッ


  『任務を遂行し ろ。でなけれ ば綴が死ぬ!』


天王寺「……なんの冗談だ、こりゃあ」


877 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/24 02:47:41.89 BfuGClXVo 520/2638


鈴羽「その内容が冗談になるかどうかは君次第だよ、天王寺裕吾」

天王寺「なんだと? おい、あんた、このメールはなんなんだ? 何か知ってるのか?」

鈴羽「知らない方がいい……。それより、お願い」

鈴羽「橋田鈴を、信じて」

天王寺「……わかった。わかったよ、信じるって」

鈴羽「……それじゃ、あたしはこれで」クルッ



鈴羽「―――ごめんね、天王寺裕吾」コツ コツ …



天王寺「なんだったんだ……?」

878 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/24 02:48:23.34 BfuGClXVo 521/2638

病室 911号室 橋田鈴様


橋田鈴「でもさ、よかったよね。綯は母親似でさ。きっと美人になるよ」

天王寺「あ、あぁ。そうだな……」ソワソワ

橋田鈴「…………」

橋田鈴「IBN5100?」

天王寺「……っ!!」

橋田鈴「君がずっとアレを探してるのは知ってた」

橋田鈴「そして……アレを探すのがどういう連中かもあたしは知ってる」

橋田鈴「アレは、IBN5100は、あたしの目的のためにどうしても必要なんだよ」

橋田鈴「あたしはこれまでそのためだけに生きてきたと言ってもいい」

天王寺「…………」

橋田鈴「それほど大事なものなんだ」

橋田鈴「でももし君が君の家族を守るために必要なら―――」



天王寺「やめてくれ」


879 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/24 02:49:40.74 BfuGClXVo 522/2638


橋田鈴「え?」

天王寺「俺も……あんたがその、なにかの目的のために長い間生きてきたことは知ってるんだ」

天王寺「これ以上あんたの世話にはなれない」

天王寺「恩を讐(あだ)で返すような真似はしたくない」

橋田鈴「…………」

橋田鈴「……そう」チラッ


【 0.00312 】


【 -.----- 】


【 0.40942 】


橋田鈴「今のでこの数字は変わったのかな……」

天王寺「……?」




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880 : ◆/CNkusgt9A - 2015/12/24 02:50:48.27 BfuGClXVo 523/2638


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    0.00312 → 0.40942
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岡部倫子「これがシュタインズ・ゲートの選択……!!」【#04】


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