億泰「ゲッ、マジかよォ~! 『しばらくお休みします』だってぇ~?」
億泰「放課後は『トニオさんの店』で、腹ごしらえしようって決めてたってのによォ~!」
仗助「そういやあの人、近々イタリアに少し帰るっつってたしなァ……ま、しょうがねーよ」
仗助「今日のところは諦めて帰ろーぜ」
億泰「いーや、諦めきれねえ!」
億泰「だってよォー今日のテンションはもう完全に『トニオさん』だったんだぜ~!?」
億泰「今さら家でチマチマ自炊っつ~気分にゃなれねーよォー」
億泰「せめて、なんかこう……『特別なモン』食わなきゃ気が済まねえ!」
仗助「んな駄々こねたってよォ~、この辺のメシ屋はだいたい制覇しちまったし……」
ジャイアン「だったら俺に任せてくれよ!」
元スレ
億泰「『ジャイアンシチュー』を食うことになったぜッ!」
http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1467030120/
仗助(小学生……!? 一人でリュックサックなんか背負って、何やってんだこいつは……?)
億泰「なんだぁ~? おめえは?」
ジャイアン「俺、ジャイアンってんだ! 俺さ、歌と料理だけには自信あるんだ!」
ジャイアン「俺の作るジャイアンシチューはメチャクチャうまいんだぜ!」
億泰「おっ、シチューかぁ~……そういや最近食ってねえ! 悪くねーな!」
仗助「おいちょっと待て、億泰」
億泰「なによ?」
仗助「いくらなんでも情けねーと思わねーのか? こんな小学生にメシ作ってもらうなんてよぉ~」
億泰「料理に年齢は関係ねーだろォ?」
億泰「トニオさんだってイタリアの料理界じゃ若造らしーけど、あの腕前は絶対『ベテラン以上』だぜぇ~?」
仗助「そりゃーそうだけどよォ~」
仗助「それによォ~、こいつが『敵』じゃねーとは限らねーぜ? 色々と怪しすぎる」
億泰「こんな小僧が『敵』なわけねーだろォ。仮にそうだとしても、まず負けやしねーだろォ~」
仗助「いや……たとえ小学生でも、もしこいつが『スタンド使い』で、たとえば『早人』くれーの根性持ってたら……」
仗助「あなどれねー相手といえる」
億泰「こいつが『スタンド使い』かどうか……そんなのどうやって確かめんだよ?」
仗助「簡単だよ、オレらが『スタンド』を出しゃあいい」
億泰「あ、そっか!」
仗助「せっかくだから同時にいくぜ!」
仗助「『クレイジー・ダイヤモンド』!」ズオンッ
億泰「『ザ・ハンド』!」ズオンッ
ジャイアン「……?」
億泰「見えてねー! この小僧にはオレらの『スタンド』が見えてねーよ」
仗助(この反応、たしかに見えてねーようだな……心配しすぎだったか)
億泰「よし、決まりッ! ジャイアンとかいったっけな! オレんちで『シチュー』作ってくれよ!」
ジャイアン「俺、がんばるよ!」
億泰「ちなみによぉ、オレは虹村億泰、こいつは東方仗助ってんだ」
億泰「オレよォー、おめーには、なんつーかこう……『親近感』みてーなもんを感じるぜ!」
億泰「街を歩いてたら同じブランドのシャツ着てる奴を見かけた気分、っつーかよォー」
ジャイアン「俺も俺も!」
仗助(このジャイアンって小僧が、不良であるオレらに怖がらずに話しかけてきたのも……)
仗助(億泰がやけにジャイアンに優しいのも、二人の『親近感』の成せるワザっつーことか……)
仗助(なんだか妙な展開になってきやがったぜ……)
― 億泰の家 ―
億泰「そういやジャイアン、おめー材料とか買わなくて大丈夫なのか?」
ジャイアン「大丈夫! 家出する時にいっぱい持ってきたから!」
仗助「家出……?」
ジャイアン「あっ! いや、その……でへへへ……」
仗助「子供が一人でリュックサック背負ってるってのも不自然な図だったし、やっぱそういうことだったか……」
仗助「ジャイアン……おめー、どっから来たんだ?」
ジャイアン「俺、東京から来たんだ」
仗助「……そういうジョークはいらねーよ。別に今すぐチクりゃしねーからよォー、話してみなよ」
ジャイアン「ホントに東京から来たんだよ」
仗助「いやいやいや、東京からここまで子供一人で来れるわけねーだろ?」
仗助「『新幹線代』いくらかかるっつーハナシだよ。車掌の目にも止まるだろーしよォ~」
ジャイアン「俺、新幹線なんか使ってないぜ」
ジャイアン「ドラえもんを脅し……ドラえもんに頼んで、どこでもドアを借りて」
ジャイアン「どこでもいいから家出するのにちょうどいい町、ってドアを開けたらこの町に着いたんだ」
仗助「『どこでもドア』ってなんだそりゃぁ~? いい加減にしねーと……」
億泰「もういいじゃねーかよォ、仗助! ガキの頃は家出の一回や二回ぐれーするもんだぜ!」
億泰「そこまで心配することじゃあねーよ」
仗助「だけどよぉー、放ってもおけねーだろ」
仗助「じいちゃんの代わりに『この町の平和を守る』と誓った身としちゃあよォ~~~」
億泰「おめーの気持ちは痛いほど分かるッ! 分かるけど……とりあえず、シチューを先に、な」
仗助「ったく、わぁーったよ……」
仗助「ジャイアン……億泰もうるせーし、シチューを作ってやってくれ」
ジャイアン「オッケー! 台所借りるぜ!」スタスタ
仗助「包丁や火を扱う時は気をつけろよな!」
億泰「おめー、いい『パパ』になれるんじゃあねえーの」ニヒヒッ
仗助「うるせーよ」
仗助「……」
億泰「……」
仗助「やっぱ心配だな……ちょっと見てくるか」ガタッ
億泰「大丈夫だって! おめーも心配性だなぁ~、仗助!」
億泰「今時の子供なんてのはしっかりしてるし、包丁でケガしたり、火事なんて起こしゃしねーよォ」
仗助「でもよォ~」
億泰「それによ……料理してるとこ見ちまったらよォー、味の想像がついちまってつまらねーじゃあねーか」
億泰「こういうのはよォ……『直前まで見ない』っつーのが肝心なんだよ」
億泰「『クリスマスプレゼント』なんかも、事前に買ってあること分かっちまったら嬉しさ半減だろォ~?」
仗助「まー、おめーのいうことも一理あるっちゃーあるけどよ……」
仗助「う~ん、やっぱり気になるぜ……」
仗助「ちょいとばかし見てくる」ガタッ
億泰「行ってらっしゃ~い」
仗助(あのジャイアンっつー小僧、自信たっぷりだったから、問題ねーとは思うが……)
仗助(たしかに我ながら『過保護』かもしれねぇ~なぁ~……でも万が一ってこともあるし……)
ジャイアン「ふんふ~ん……」グツグツ…
ジャイアン「次はひき肉を入れて……塩辛も入れて……」ドボドボッ
ジャイアン「あとは……煮干しとたくあんを……」ボチャッ
仗助「えッ!?」
仗助「おい、億泰ッ!」
億泰「なんだよ?」
仗助「あのジャイアンっつうー小僧、とんでもねー料理作ってたぞ!」
億泰「とんでもねえ? ウヒョッ、待ち遠しいじゃあねーか」
仗助「そうじゃあねーよ! 『悪い意味』でとんでもねぇーんだ!」
仗助「あいつ、鍋に『塩辛』だとか『煮干し』とか『たくあん』入れてやがったぞッ!」
億泰「それが?」
仗助「それが、じゃあねーよ! どう考えても『シチュー』の食材じゃあねーだろッ!」
億泰「なんたって特別なシチューらしいし、そんなもんじゃあねーの?」
億泰「普通は使わない食材の一つや二つ入ってるぐれーでちょうどいいんだって」
仗助「どうしてそう楽観的なんだ、オメーはッ!」
億泰「あえていうなら……『塩辛』オレ食えるか心配だなァ~……オレ辛いもん苦手だからよォ~」
仗助「こいつ……!」
仗助「オレ、もう一度見てくる」ガタッ
億泰「おいお~い、あんま子供の『自主性』に口出すなよなァ~」
ジャイアン「よーし、煮えてきた、煮えてきた……」グツグツ…
ジャイアン「お次はジャムをたっぷり入れて……」ドバドバ
ジャイアン「大福も丸ごと入れちゃおう」ボチャンッ
仗助「ゲッ!?」
仗助「億泰ッ! やっぱあいつのシチューはグレートにヤベェーよ!」
億泰「なにが?」
仗助「あいつ、今度は『ジャム』や『大福』入れてやがったぞッ! しかも大福は『丸ごと』ときたッ!」
億泰「お、もしかしてオレが辛いの食えねーと気づいてくれたのか?」
仗助「んなワケねーだろーがよォー!」
億泰「仗助……おめーはビビりすぎなんだよ」
億泰「よくあんだろ? 甘いもの入れて味を引き締める……『隠し味』っつーの? きっとそういうのだよ」
仗助「ありゃあーどう考えても『隠し』なんて洒落たもんじゃあねーぞ……」
億泰「仮に本当にマズかったとしても、大した問題じゃあねーよ」
億泰「もしマズかったら『マズイ』ってはっきりいってやりゃあいいんだよ」
億泰「そりゃあ傷つくかもしれねえけどよ、あいつにとっちゃいい『経験』になるぜェ~!」
仗助「まあ……そうかもしれねえけどよ……」
仗助「う~ん、やっぱ心配だ……もう一度だけ覗いてくる」
億泰「はいは~い」
ジャイアン「仕上げは……やっぱこれだよな」グツグツ…
ジャイアン「セミのぬけがら!」グツグツ…
ジャイアン「せっかくだから、全部入れちゃおう!」ボチャボチャ
仗助「何ィーッ!?」
仗助「億泰ゥ―――――ッ!!!」
億泰「どうしたんだよ?」
仗助「やっぱりもうあいつの『料理』は止めるべきだッ! 止めなきゃならねぇーッ!」
億泰「どうして?」
仗助「聞いて驚くんじゃあねーぞ……あいつ『セミの抜け殻』入れてやがったぞ!」
億泰「へえ~」
仗助「へえ~、じゃあねーよ! こんなもんもうウマイマズイなんつー次元じゃあねえッ!」
仗助「完全に『ゲテモノ』の部類だろッ!」
億泰「むかし一人で『トニオさんの店』行った時にあの人に聞いたんだけどよォー」
億泰「セミの抜け殻って漢方薬でも使われてて、いわゆる『薬効』があるらしいんだよ」
億泰「トニオさんは使ったことないみたいけど、なんでも『かゆみ止め』や『解熱作用』があるとか……」
仗助「いやいやいや、あの小僧は明らかにそういうの分かってる風じゃあなかったぜ!」
億泰「と見せかけて『分かってる』っつーのが、あの『ジャイアン』っつー小僧なんだよ」
仗助「おめー……ジャイアンの何を知ってんだよ……」
億泰「ま、そう心配することじゃあねーよ! 少なくとも『毒』じゃあねーんだから」
仗助「……まあいいや」
仗助「もう仕上げだっつってたし……オレも大人しく待つことにするよ……」
ジャイアン「完成! これが俺様のジャイアンシチューだ!」
┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨
ドヨ~ン……
仗助(この見た目……匂い……やっぱ人間の食うもんじゃあねーぜ……)ウゲッ
億泰「これが『ジャイアンシチュー』か……」
億泰「変わった見た目してんなァ~ッ! 匂いもスゴイ! とても『シチュー』っつー感じじゃねーよ!」
仗助「だろ? やっぱ食うのは――」
億泰「だけど分かるッ! こういうのこそが『ウマイ』ってなッ!」
億泰「オレはもう『先入観』に惑わされたりはしねェ~、成長したもんねェーッ!」
仗助「オ、オイ……」
ジャイアン「億泰さん、仗助さん、さっそく三人で食べようぜ!」
億泰「おう!」
仗助(オイオイオイオイオイ、マジかよォ~……)
仗助(正直食いたかァねーが、『一口も食わず』っつーわけにもいかねぇ~だろうしなァ~)
仗助(どうしよう――)チラッ
ニュニュニュ……
仗助「なんだぁッ!?」
億泰「いきなりオレの家に……『ピンク色のドア』が現れやがったッ!」
ジャイアン「ゲ!?」
ガチャッ!
ジャイアン母「タケシ、何やってんだい!」ズカズカ
ジャイアン「母ちゃん! なんでここに!?」
ジャイアン母「あんたがどこ行ったか、のび太君たちに聞いたら、このドアを使ったって教えてくれたのさ!」
ジャイアン母「この不思議なドアに、あんたのいるところって頼んだら一発だったよ!」
ジャイアン「ちくしょう、のび太とドラえもんめ! 母ちゃんにいいつけやがったな!」
ジャイアン母「人のせいにすんじゃないよ!」バチンッ
ジャイアン「ぐえっ!」
ジャイアン母「家出するなんて10年早いんだよ! さ、こっち来な!」グイッ
ジャイアン「いでででっ! 許して母ちゃ~ん!」ズルズル…
バタンッ!
仗助「……」
億泰「……」
仗助「なぁ億泰……今の、なんだったんだ?」
億泰「んなこと、オレに分かるわけねーだろーよォー。オレ頭悪いんだからよォ~」
仗助「あのドア、あの強そーな母親の『スタンド』だったのか? 探してるヤツのとこに行ける、みてーな」
億泰「かもしれねえなァ~、便利な『能力』だよなァ~」
仗助「んなノンキなこといってる場合かよ……ジャイアンはどうなっちまったんだ?」
億泰「大丈夫だろ……連れてったのは『母ちゃん』なんだしよぉ~」
仗助「まあ……そりゃそーか。家出した罰で、今頃お尻ペンペン、っつーとこだろーな」
仗助(もし、ウチのおふくろがあんな『スタンド』持ってたらと思うとゾッとするぜ)
ドヨ~ン……
億泰「ジャイアンはいなくなっちまったけど、『ジャイアンシチュー』の試食会始めようぜ!」
仗助「おい億泰! マジにこれ食うのかよ! やめとけって! 腹壊すぞ!」
仗助「もうあいつはいねーんだし、食ってやる義理はねーぞ!?」
億泰「大丈夫だって! さっきもいったろォ~? こういうのが『ウマイ』んだって!」
仗助「ったく、どうなっても知らねーぞ!」
億泰「きっとよォー……見た目や匂いに反して、ヨダレずびびっ、つうー味だぜ~っ!」
億泰「いただきまァーすッ!」パクッ
仗助(うげぇーッ! 大丈夫かぁ~?)
億泰「……」
仗助「億泰?」
億泰「ゥンま……」
仗助(え、もしかして、ホントに『ウマイ』っつーオチ? オレも食ってみよっかな……)
億泰「ゥンまずうう~いっ!!!」
億泰「これはああ~~~っ! この味わあぁ~~~~~っ!」
億泰「一日メシ抜いて挑んだ『食い放題バイキング』で、嫌いなもんしか並んでねーっつうショック感ッ!」
億泰「入ってる具材が、まったく『調和』してねーっつーか、『パニック』起こしちまってるっつーか」
億泰「たとえるならよォ~、『セリエA』の名門チームが試合そっちのけで殴り合ってるっつーか」
億泰「いやッ! そんな生易しいもんじゃあ断じてねェーッ!」
億泰「こりゃもう『フーリガン』も混ざった暴動だ……オレの胃の中で『大暴動』が起こってやがるッ!」
仗助「だからいわんこっちゃねぇー! もう食うんじゃあねーぞッ!」
億泰「それがよォ~、どうやら……『たった一口』で……『致死量』だったみてーだ……」
億泰「ゲボォォォォォ―――――ッ!!!」ゲボボボォォォォォ
仗助「お、億泰ッ!?」
億泰「ジャイアンシチューの『味』がッ! 『火』を吹いたッ!」ヨロッ…
ドザァァァッ……
仗助「億泰ゥゥゥ――――――――ッ!!!」
虹村億泰…
『ザ・ハンド』
――――完全敗北…死亡
……
……
億泰「ハッ!」ガバッ
仗助「ふぅ~気ィついたかよォ~……呼吸も心臓も止まってたし、マジに手遅れかと思ったぜ……」
億泰「オレ……また変な「夢」を見たぜ」
億泰「オレ……夢の中で暗闇を歩いてるとよォ――光が見えてオレの死んだ兄貴に会ったんだ。『形兆』の兄貴さ……」
億泰「そしたら兄貴、いきなりブチ切れて『死ぬのはおめーの勝手だがもう少しマシな死に方しやがれ』って」
億泰「オレをメチャクチャにボコってよォー」
億泰「『次はもう助けねーからな』ってトドメの一発食らったら、目が醒めたんだ……」
億泰「……とても痛い夢だったよ」
仗助「おめーの兄貴もさすがに弟を『ジャイアンシチュー』で死なせたくなかったんだろーよ」
億泰「オレ……もっと成長しなきゃなぁ……これじゃ兄貴がいつまでも成仏できねーや……」
仗助「だな……これに懲りたらもう得体の知れない料理を食うんじゃあねーぞ」
億泰「おう……」
仗助「それにしても『ジャイアンシチュー』か……ブッ飛んだ料理だったな」
億泰「ああ、恐ろしい『料理』だったぜ……」
― おわり ―