1 : 以下、名... - 2016/06/10 20:57:43.08 C8kHlZ71o 1/10


ある日の真夜中――

一人の老人がベッドの上で静かに息を引き取ろうとしていた。



老人「おやすみ……ワシの古時計よ……」



彼が目をつぶると同時に、彼を百年間見守ってきた古時計も動かなくなった。


元スレ
老人「おやすみ……ワシの古時計よ……」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1465559862/

2 : 以下、名... - 2016/06/10 21:00:13.24 C8kHlZ71o 2/10


翌朝――

近所に住んでいた息子たちが、老人の亡骸を発見する。



「昨晩、胸騒ぎがしたから駆けつけてみたら……親父……」

「お義父さん……」

青年「おじいちゃん……」

「おじい様……」

赤子「ばぶぅ、ばぶぅ」

3 : 以下、名... - 2016/06/10 21:02:34.22 C8kHlZ71o 3/10


「残念だけど……大往生だったよ」

「ちょうど百歳……だったかしら?」

「ああ……今日が誕生日だった。親父らしい、いい最期だ」

「同居の誘いも断って、最後までこの家で一人で暮らしてさ……立派だった」

5 : 以下、名... - 2016/06/10 21:05:13.01 C8kHlZ71o 4/10


青年「だけど、せっかく産まれたひ孫をもう少し抱かせてあげたかったな」

「そうね……」

赤子「だー、だー」

「だけど、おじい様の強い意志は、きっとこの子にも伝わってるわよ」

青年「うん……きっとそうだ!」

6 : 以下、名... - 2016/06/10 21:08:21.42 C8kHlZ71o 5/10


「ところで、あの古時計も止まってるな」

「あらホント、百年いつも動いてたらしいのに……」

青年「たしかおじいちゃんが産まれた日に買ってもらったんだっけ?」

「ああ、親父はいつもあの時計と一緒だった。嬉しい時も悲しい時も……」

「俺が子供の頃、あの時計にふざけて蹴り入れたらメチャクチャに怒ったもんさ」

青年「そりゃ怒るって」

「フフフ……」

7 : 以下、名... - 2016/06/10 21:10:30.59 C8kHlZ71o 6/10


青年「今、こうして止まっちゃったのは……きっと……」

「おじい様が亡くなられたから自分の役目も終わった、と悟ったからかも……」

「ああ、きっとそうだ」

「ロマンチックな話ねえ……」

「今頃、親父は古時計を抱えて天国に旅立って、お袋に再会してるに違いないさ……」

8 : 以下、名... - 2016/06/10 21:14:48.97 C8kHlZ71o 7/10


青年「――ん?」

青年「この古時計、よく見ると電池式なんだね」

「え、そうなのか?」

青年「単三電池四本で動くみたい」

「それだけの電池で百年動くってすごいわねえ」

青年「今、俺ちょうど電池持ってるし、入れ替えてみようか」

「……でもなんだか無粋じゃない?」

青年「なあに、おじいちゃんだってもっと時計に動いて欲しいに決まってるさ」

「親父の性格なら、そういうだろうな。動かしてみろよ」

青年「オッケー」

9 : 以下、名... - 2016/06/10 21:17:16.71 C8kHlZ71o 8/10


青年「入れ替えて、と」カチッ




ボーン…… ボーン……

チクタクチクタク




青年「お、動き始めた!」

10 : 以下、名... - 2016/06/10 21:20:01.15 C8kHlZ71o 9/10


老人「フォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!」



「親父!?」

「お義父さん!?」

青年「おじいちゃん!?」

「おじい様!?」

赤子「キャッキャッ」



老人「おおっ、みんな!!! ひっさしぶりじゃなあ!!!!!」

11 : 以下、名... - 2016/06/10 21:23:53.02 C8kHlZ71o 10/10


老人「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

老人「みなぎるッ! みなぎるぞおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

老人「天国で婆さんとも再会してきたし、まだまだ生きてやるぞおおおおおお!!!!!」




どうやらこの爺さん、あと百年は生きそうである。







― おわり ―

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