1 : 艦これオーケストラ、もうすぐですね ◆9l/Fpc6Qck - 2016/04/30 13:39:12.64 jADE6djE0 1/33





~艦隊結成三周年記念公演~

アニバーサリージュニアコンサート開催


母なる大地にオーケストラの海風が吹く

日本初、艦娘による軍楽隊ここに結成!
市民の皆様に、私達の真心をお届けいたします!

会場:○○市公民館

□月△日(日)
18:00開場 18:30開演

入場無料

プログラム……


……
…………
………………





元スレ
【艦これ】雪風「えっ!大和さんがバイオリンを持っていなくなっちゃった?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1461991152/

2 : ◆9l/Fpc6Qck - 2016/04/30 13:40:15.67 jADE6djE0 2/33





それは、演奏会よりさかのぼること一か月前……。

一度限りの軍楽隊となった皆が、鎮守府でセクション毎の練習に励んでいた時のことでした。



キンキンコンコン
パッパラパッパーッ


時津風「うーん、そうなんだよー……」

時津風「夕方からみんなで合奏の練習をするって、まだ伝えてないのになぁ」

雪風「なるほど、そうだったんですか……」

雪風「そういえば、一体どこに行ったんでしょう?」

雪風「朝の合奏が終わってから、雪風も大和さんを見ていませんっ」

時津風「う~ん、困ったねー……」ムムム





3 : ◆9l/Fpc6Qck - 2016/04/30 13:44:58.81 jADE6djE0 3/33





雪風「では、二手に分かれて大和さんを探してみましょう!」

雪風「ちょうど休憩しようと思っていたところですし……」

雪風「雪風もお手伝いします!」

時津風「ほんと?ありがたいなぁっ」ニコッ

雪風「全然、大丈夫!」フフン


雪風「きっと、まだ鎮守府のどこかにいるはず……」

雪風「それに、大和さんの“バイオリンそろ”は絶対、必要ですから!」

時津風「そうだねそうだねぇ」コクコク





4 : ◆9l/Fpc6Qck - 2016/04/30 13:47:14.77 jADE6djE0 4/33





雪風「では、またあとで!」ブンブン

時津風「あとでねー」ブンブン



……
…………
………………



山城「不幸だわ……」

山城「私のクラリネット、マウスピースだけがどこかに消えるなんて……」ガクッ


タタタッ…

雪風「山城さん!こんにちは!」

山城「あ、雪風……こんにちは……」





6 : ◆9l/Fpc6Qck - 2016/04/30 13:49:00.53 jADE6djE0 5/33





雪風「あの、大和さんをどこかで見ませんでしたか?」

山城「うぅ~ん、そういえば見ていないわね……」

雪風「そうですか……ありがとうございますっ」ペコッ

山城「ごめんね、雪風……」

雪風「いいえ、大丈夫です!」ニコッ

雪風「それでは!」


タタタッ…ガチャン


コロコロコロ


山城「あっ……ドアの裏からマウスピースが……!」

山城「これで練習ができるわ……」

山城「よかったぁ」ニコッ


……
…………
………………




8 : ありがとうございます ◆9l/Fpc6Qck - 2016/04/30 13:50:55.74 jADE6djE0 6/33





ブォォォォ…
バタラダーヴァーヴァー…


羽黒「……はぁ」


羽黒(演奏会に出るの、やめるなんて言っちゃった……)

羽黒(姉さまたち……悲しい顔してた……)

羽黒(……でも、これで良かったの)

羽黒(私なんかが演奏会なんて……)

羽黒(きっと、皆の足を引っ張っちゃうだけだから……)



羽黒(…………)





9 : ◆9l/Fpc6Qck - 2016/04/30 13:51:55.17 jADE6djE0 7/33





タタタ…ッ

雪風「羽黒さーん!」

羽黒「ひゃえっ!?」ビクッ



雪風「この辺りで大和さん、見ませんでしたか?」

羽黒「え、えっと……」オロオロ

羽黒「たしか、さっき二階で……み、見たような……」

雪風「ほんとですか!ありがとうございます!」パアァ

羽黒「いえいえっ」ニコ





10 : ◆9l/Fpc6Qck - 2016/04/30 13:53:19.05 jADE6djE0 8/33





雪風「そういえば、羽黒さんも……」

雪風「雪風と同じトランペットでしたね!」

羽黒「う、うん……」

羽黒「あ、でも……!」

羽黒「……でも……私は……」シュン


雪風「えへへ……」

雪風「夕方の合奏、お互いがんばりましょうね!」

羽黒「ゆ、雪風ちゃん……、わわ、私……」オロオロ

雪風「羽黒さんと一緒にトランペットを吹けるの……」


雪風「雪風、すっごく楽しみにしていますからっ!」ニコッ

羽黒「っ!」ドキッ





11 : ◆9l/Fpc6Qck - 2016/04/30 13:54:24.31 jADE6djE0 9/33





雪風「それでは、雪風は大和さんを探しに行きますので……」

雪風「また後でお会いしましょう!」

雪風「それではっ!」ブンブン

羽黒「う、うん……」ヒラヒラ


タタタ…ッ


羽黒「…………」ジッ…

羽黒(せっかく……)

羽黒(妙高姉さまが貸してくださったトランペット……)





12 : ◆9l/Fpc6Qck - 2016/04/30 13:55:21.25 jADE6djE0 10/33





羽黒「……」グッ



ダッ

羽黒「妙高ねえさま……っ」

羽黒「羽黒っ、やっぱり……!」



……
…………
………………



雪風「うぅ、大和さんはすでに二階をはなれてしまったみたいです……」シュン

雪風「……そうだ!今度はしれえに聞いてみましょう!」





13 : ◆9l/Fpc6Qck - 2016/04/30 13:56:40.26 jADE6djE0 11/33





グラ「アトミラール……タクトはもっとこう、“レ”の字の軌跡を描く」グイグイ

グラ「貴官は気を抜くと“U”の字になりがちだ、意識して振るといい」

提督「ぐぬぬ……難しいよぉ~」


提督「もうさぁ、グラーフが指揮者をやったほうが早いんじゃないのこれ?」

グラ「そんなことはない、皆……アトミラールを信頼して練習に励んでいる」

グラ「も、もちろん……私も……な」カァー…

提督「?」

グラ「だ、だから、貴官が指揮者を務めなくては……だめだ」

グラ「私も、練習に最後まで……付き合うから……」ドキドキ

提督「……へいへい、分かりましたよー」ハァ

グラ「……ふふっ、そうしてくれ」ニコッ



雪風(お邪魔してはいけなさそうです!)クルッ


……
…………
………………




14 : ◆9l/Fpc6Qck - 2016/04/30 13:58:02.97 jADE6djE0 12/33





ヴーーッ

島風「……」ムスッ

島風「もぉ~っ!なんで私がチューバなんか吹かなきゃいけないのーっ」ジタバタ

島風「なんかテンポもおっそいし、音も低いし!」

島風「それに……!」

島風「私だって、大和のバイオリンや雪風のトランペットみたいに……」

島風「もっとメロディの出る、目立つ楽器を演奏したかったよ……」グスッ





15 : ◆9l/Fpc6Qck - 2016/04/30 13:59:10.58 jADE6djE0 13/33





島風「……あーもうやだ!チューバの練習なんて、サボっちゃうk」


ガチャッ!

雪風「しまかぜぇ~!」

島風「オウッ!?」ビクゥ

島風「ち、ちょっと、ノックくらいしてよぉ!」オロオロ

雪風「あわわ、ごめんなさいっ」ペコッ





16 : ◆9l/Fpc6Qck - 2016/04/30 14:01:48.42 jADE6djE0 14/33





雪風「大和さんの姿、どこかで見ませんでしたか?」

島風「……」ツーン

島風「大和なんて……知らないもん」プイッ

雪風「うぅ、そうですか……」シュン

島風「……っ」

島風(ふ、ふん!雪風なんて……)

島風(……はやく“トランペット”の練習に戻っちゃえばいいんだからっ)


雪風「あっ!それと!」

島風「……それと?」





17 : ◆9l/Fpc6Qck - 2016/04/30 14:02:50.55 jADE6djE0 15/33





雪風「今朝の合奏の、お礼がまだでした!」

島風「えっ、お礼?」

雪風「はい!雪風のトランペット、まだまだ下手だから……」

雪風「島風のチューバの音がないと、途中で混乱しちゃうところでした!」

島風「ふ、ふぅーん……」フイ


雪風「そういえば大和さんもきのう、言っていました!」

雪風「“いつも島風の伴奏が、とても正確に響くから”」

雪風「“自分やみんなが、安心して演奏できる”んだって!」

島風「……ほんとに?」





18 : ◆9l/Fpc6Qck - 2016/04/30 14:03:34.18 jADE6djE0 16/33





島風「……雪風も、そう思うの?」

雪風「はいっ!」ニコッ

雪風「なんだか、かっこいいですっ」

島風「……っ」

島風「そ、そっかぁ」クスッ


雪風「では!雪風はこれで……」

島風「……待って!」


島風「大和はさっき……埠頭に向かったよ」

雪風「ほんとですか!ありがとうございますっ!」ペコッ


タタタ…ッ




19 : ◆9l/Fpc6Qck - 2016/04/30 14:04:25.07 jADE6djE0 17/33





島風「…………」

島風「……たまには縁の下の力持ちも、悪くないかも」


島風「……ふふん、仕方ないなぁ~!」

島風「私より遅い皆に、合わせてあげるっ」ニコッ

島風「さてと、れんしゅうれんしゅーっと……」クルッ


ヴーーッ
ヴヴゥーーッ


……
…………
………………




20 : ◆9l/Fpc6Qck - 2016/04/30 14:05:12.60 jADE6djE0 18/33





タタタ…ッ

ドッシーン!

雪風「きゃっ」

雪風「いたた……掲示板にあたってしまいました……」




21 : ◆9l/Fpc6Qck - 2016/04/30 14:05:48.87 jADE6djE0 19/33





ピラッ ピラッ

雪風「あぁ、貼ってあった演奏会のチラシが……!」

雪風「……戻ったら、貼り直しますっ」

雪風「チラシさん、ごめんなさい!」ダッ


タタタ…ッ


清掃員「…………」ジーッ

清/級「ククク……ッ!」バサッ


ル級「ニンゲンノ姿ニ変装シ、敵本拠地ニ潜リ込ムコト早三日……」

ル級「遂ニ、奴ラノ重要機密文書ヲ手ニ入レタゾ!」

ル級「早速深海ニ戻リ、文書ノ解読ヲ行ウ……!」

ル級「サラバダー!」ダッ


……
…………
………………





22 : ◆9l/Fpc6Qck - 2016/04/30 14:06:40.14 jADE6djE0 20/33





ザザーン…
ザザーン…


大和「……」フルフル…


キュー…ッ
キィューー……ッ


カランッ!

大和「!」


カーンカーン…

大和「……はぁ……」





23 : ◆9l/Fpc6Qck - 2016/04/30 14:07:46.06 jADE6djE0 21/33





タタタ…ッ


雪風「大和さーん!」

大和「あら……」

雪風「よかったぁ!やっぱりここにいた……」ハァハァ


雪風「ヒトナナマルマルより、本日二度目の合奏だそうです!」

大和「ふふふ、ありがとう」ニコッ

大和「それを伝えるために、私を探してくれたの?」

大和「わざわざごめんなさいね……」

雪風「えへへ……」





24 : ◆9l/Fpc6Qck - 2016/04/30 14:09:15.49 jADE6djE0 22/33





大和「そっか、合奏……か」

雪風「……?」

大和「私ね……なんだか、さっきからおかしいの」


大和「今朝の合奏……私のソロ、覚えてる?」

雪風「はいっ!とてもお上手でした!」

大和「…………」ジーッ

雪風「……うぅ」


雪風「と、途中で、弓を落としちゃったん……ですよね」

大和「……うん」





25 : ◆9l/Fpc6Qck - 2016/04/30 14:10:28.62 jADE6djE0 23/33





大和「……変なこと言わせて、ごめんね」

大和「でも、なんでだろう……」

大和「こうして一人で、ソロを想定して練習するとね」

フルフル…

大和「……どうしても震えが止まらないの」

雪風「!」


大和「それも、演奏会が近づいてくるにつれて……段々ひどくなってくる」

大和「このままじゃ、またいつ同じミスをしてしまうか」

大和「情けない話だけど……不安で不安で、仕方がないの……」





26 : ◆9l/Fpc6Qck - 2016/04/30 14:11:48.68 jADE6djE0 24/33





大和「本番になって……もしソロで失敗してしまったら」

大和「みんなの頑張りが、私一人のせいで無駄になっちゃう……」

大和「そう考えると……なおさら……」シュン

雪風「……!」


大和「ごめんね、夕方には戻るから」

大和「それまで、一人にし……」



プペーッ!ピペーッ!



大和「!?」





27 : ◆9l/Fpc6Qck - 2016/04/30 14:12:49.85 jADE6djE0 25/33





雪風「大和さん、恥ずかしいですけど……これが雪風のトランペットです……」

雪風「いくら練習しても上手くならないから……」

雪風「雪風だけ、このまま本番を迎えちゃったら……どうしようかと思っていました」


雪風「……でもなんだか、安心しましたっ」ニコッ

大和「え……」

雪風「雪風より楽器が上手な人でも、こんなに“緊張”しちゃうんだって……」

雪風「……分かったから」

大和「雪風……」





28 : ◆9l/Fpc6Qck - 2016/04/30 14:13:38.61 jADE6djE0 26/33





雪風「……あ、そうだ!」

雪風「大和さん、よかったらですけど……」

雪風「お互い緊張している人どうしで、今から練習してみませんか?」

大和「え、私と貴女が?」

雪風「はいっ!」


雪風「……あっ!でも……だめですね」

雪風「大和さんは……一人で“そろ”の練習をしないと……」シュン

大和「いいわよ」ニコッ

雪風「!」

雪風「ほ、ほんとうですか!?」

大和「うんっ」





29 : ◆9l/Fpc6Qck - 2016/04/30 14:14:53.87 jADE6djE0 27/33





大和「トランペットも昔はよく吹いていたから、あなたに教えることもできるしね」

雪風「あ、ありがとうございますっ!」

雪風「じゃあ、雪風は……」

雪風「大和さんが演奏するとき、“せれぶなお客さん”役になりますね!」

大和「……ぷっ!何なの……その役っ」クスクス

雪風「コンサートホールにいそうなお客さんです!」

大和「あはははっ」ケラケラ

雪風「むぅ、笑うなんてひどいです!」

大和「あはは……ご、ごめんなさい、つい……!」



大和「……ふふ、それじゃあ始めよっか」クスッ

雪風「……はいっ!」ニコッ





30 : ◆9l/Fpc6Qck - 2016/04/30 14:15:51.02 jADE6djE0 28/33






こうして、一生懸命練習に励んだ彼女たち。

時は流れ、ついに演奏会の本番を迎えることとなりました……。






31 : ◆9l/Fpc6Qck - 2016/04/30 14:17:14.55 jADE6djE0 29/33





ここは地元の公民館の一角、コンサート用に設けられた中規模の舞台。
暗く、厳粛な空気と化したこの場所に、みんなの姿はありました。


燕尾服に身を包み、タクトを手に持った提督が指揮台に登ります。
その後ろの舞台では黒いドレスに身を包み、真剣な面持ちの艦娘たちが、各々の楽器を持って配置についていました。

やがて、彼が満員のお客さんに向かって一礼をすると、それに合わせてみんなも一礼を。
会場内は、期待を込めたお客さんたちの拍手が響きます。

その中には、演奏会を何かの機密と勘違いをしてやってきた、変装した深海棲艦の姿も。
当時こそ困惑していた彼女が後に、深海のお友達に演奏会で覚えた感動を語ることになるのは……また別のお話。





32 : ◆9l/Fpc6Qck - 2016/04/30 14:18:12.00 jADE6djE0 30/33





そして、お客さんによる拍手が収まったとき。


訪れる静寂。


緊張の一瞬。





33 : ◆9l/Fpc6Qck - 2016/04/30 14:19:02.56 jADE6djE0 31/33





でも、大丈夫。


山城のクラリネットには、ちゃんとマウスピースもついています。

おどおどしていた羽黒だって、もう迷いはありません。

指揮台の提督も、グラーフの指導をしっかりと思い出しているところ。

島風は合奏の土台として、みんなを支えることを心に決めました。


そして、頑張って練習を積んだ雪風と大和も……。


二人の目は、自信に満ち溢れていました。





34 : ◆9l/Fpc6Qck - 2016/04/30 14:19:46.04 jADE6djE0 32/33





雪風「……」ニコッ

大和「……」ニコ



……さぁさぁ。

今宵限りの演奏会が、これからはじまるみたいですよ。



―――――――――――fin――――――――――――





35 : ◆9l/Fpc6Qck - 2016/04/30 14:20:40.79 jADE6djE0 33/33





公式ツイッターアイコンの雪風にビビッときたので書きました。


便乗して以下、関連の過去作です……

【艦これ】雪風「えっ!山城さんがぎっくり腰?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1453609936/
http://ayamevip.com/archives/46645830.html

【艦これ】グラーフ「震度3だと……この国はもうおしまいだ!」
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1452911069/
http://ayamevip.com/archives/46580044.html

【艦これ】ヲ級「ファミチキクダサイ」
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1453105658/
http://ayamevip.com/archives/46599800.html


ここまで読んでくださった方、楽しく書かせていただきありがとうございました。





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