1 : 以下、名... - 2012/04/09(月) 00:05:07.71 o3Od9MS50 1/16


鋭い窓ガラスの破片に貫かれながら赤沢さんが僕を責める。

でも今重要なことはそれを思い出すことじゃなかった。

目の前で血だらけになった女の子を助ける、それだけしか考えられなかった。

「赤沢さん、痛いかも知れないけど・・・ごめんっ!」

そう言って僕は彼女の返答も聞かず、彼女を貫いている破片を急いで抜き去った。
小さなうめき声をもらして赤沢さんが顔をしかめる。

急がないと・・・、またいつ爆発が起こってもおかしくない。

破片を抜き取りながらふと周りを見渡す。
そういえば見崎は・・・?


元スレ
赤沢「嘘でもいいから、覚えてるくらい言いなさいよ」
http://hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1333897507/

2 : 以下、名... - 2012/04/09(月) 00:10:55.62 o3Od9MS50 2/16

見崎が見当たらなかった。

どこに・・・?まさか死者を一人で!?

なんてことを・・・

見崎のことが気にはなったけど、赤沢さんが危ない、僕は一旦見崎のことを考えるのをやめた。

「何とかして赤沢さんを安全なところまで連れて行かなくちゃ」

彼女を打ち付けていた破片を全て抜き、背中に負ぶう。

燃え盛る館内、今にも崩れそうな設備。

赤沢さんに負担がかからないようにと細心の注意を払いながら、でも大急ぎで合宿所の外へと向かう。



5 : 以下、名... - 2012/04/09(月) 00:15:37.27 o3Od9MS50 3/16

時折小さな爆発を起こす館内を小走りで駆け抜ける。

背中の赤沢さんの吐息が聞こえる。
意識は失ってるみたいだけど、まだなんとか大丈夫そうだ。

外に出られれば千曳先生や勅使河原達もいるはず。


不意に赤沢さんが声を漏らす、

「おにぃ・・・・」

そういえば赤沢さんには、大好きだった年上の男の子の存在があったんだっけ・・・

でも、亡くなったって・・・



10 : 以下、名... - 2012/04/09(月) 00:19:13.86 o3Od9MS50 4/16

なんだ、これ・・・・なんなんだろうこの不思議な感じは・・・?

赤沢さんの「おにぃ」をいう言葉に僕の中の何かが反応した。

・・・・・・・・


「大丈夫?ほら、手」

「あ、ありがとうございます・・・」


・・・・・・・・・


「あなた、本当にここに住んだことない?」

「一年半前」


・・・・・・・・・



15 : 以下、名... - 2012/04/09(月) 00:26:17.65 o3Od9MS50 5/16


・・・一年半前?そういえば親父も同じことを言っていたはずだ

一年半ぶりの夜見山はどうだとか。

あの時は親父の記憶違いか何かかと思っていたけど



・・・・・・・・・


「僕も大切な人を亡くしたんだ」


・・・・・・・・・・


大切な人?僕にとっての大切な人って、そういえば誰だっけ?
お母さん?いや、そうなんだけど何か違う。
第一お母さんは僕を生んだ直後に死んだはずだ、じゃあ誰だ?

19 : 以下、名... - 2012/04/09(月) 00:33:36.18 o3Od9MS50 6/16

 (レーチャン、ドウシテ?レーチャン、ドウシテ?)

 (怜ちゃん・・・どうして・・・)


途端に僕の頭の中がはじけたような感覚になる。

なんで、どうして忘れてしまっていたんだ!?

あんなに大好きだった人の「死」を!

ひとり河原で落ち込んでいた僕と、悲しみを分かち合った彼女のことを・・・!!


今はただ現象という存在がにくくて仕方なかった。

必ず、僕が、決着をつける!
見崎もおそらくはその人のもとに向かっているはずだ。

そのためにも一刻も早く赤沢さん、河原の彼女を送り届けなきゃ!

21 : 以下、名... - 2012/04/09(月) 00:42:33.86 o3Od9MS50 7/16


合宿所から脱出するのとほぼ同じくして、再び大きな爆発が起きる。

振り向くとどうやらさっき僕と見崎と赤沢さんが対峙していた場所であるらしい。

間一髪、一瞬だけども現象から逃げられたみたいだ。


前を見ると千曳先生がこっちに向かって手を上げていた。

暗くてよく見えないけど、車の近くに勅使河原達もどうやらいるらしい、良かった・・・。


「大丈夫だったか?ん?君が負ぶっているのは・・・赤沢君か!?」

「はい、ひどい出血なんです!ガラスに体のあちこちを串刺しにされてて・・・」

「いかんな・・・すぐに私が送ろう」

「よろしくお願いします」


25 : 以下、名... - 2012/04/09(月) 00:47:39.37 o3Od9MS50 8/16


千曳先生に赤沢さんを預けたあと、すぐに合宿所へと引き返す。

「お、おい!サカキィ!何処に行くんだよ!?」

勅使河原の声が聞こえる、けど、悠長にここにとどまっているわけにはいかない。

「勅使河原・・・!ごめんすぐ戻ってくる!」

「サカキ・・・気をつけろよ!」

「ッ・・・!」

何も聞いてこないところが勅使河原らしかった、本当に最高の友達だよ、君は


降りしきる雨の中、泥と水を蹴って僕は走り始めた。


27 : 以下、名... - 2012/04/09(月) 00:54:30.11 o3Od9MS50 9/16

「見崎ーーーーーっ!何処にいるんだよ見崎ー!」


雨音にかき消されないようにと精一杯大きな声を上げながら見崎を探す。

度重なるトラブルと疲労、落ちてくる冷たい雨に僕の体力はもう限界といってもよかった。

と、肝心なことを思い出す。

「そうだ、携帯、携帯に連絡すれば!」

なんでこんな簡単なことすら思いつけないのか、自分に腹が立つ。

「見崎・・・見崎はっと・・・・くそッ」

震える指先のせいでボタンでさえうまく押せない。

「よし、かかった・・・見崎、頼む出てくれ・・・!」

28 : 以下、名... - 2012/04/09(月) 01:00:06.06 o3Od9MS50 10/16

「・・・くっ!つながったのは良いけど出ないのか・・・」

仕方なく携帯をポケットにしまい、再び合宿所の周りを走り始める。


丁度合宿所の裏あたりだろうか、落雷の明かりで建築材のような木が折り重なっていることに気づいた。

そしてその近くには・・・


「見崎ッ!」

「・・・来ないほうがいい」

「え?」

「榊原君は来ないほうがいいよ」

建築材を見下ろしながら見崎がそうつぶやく。

でも、見崎、ごめん、僕はもうわかってしまったんだよ。

「見崎・・・そこに死者がいるんだろ?三神先生・・・いや、怜子さんが」

29 : 以下、名... - 2012/04/09(月) 01:07:48.74 o3Od9MS50 11/16

ハッ、と見崎が僕のほうを向く。

「知ってたの?」

「いや、ただ思い出しただけさ」

「そう・・・」

一歩ずつ、重い体を引きずるようにして建築材のもとへと向かう。

「・・・・・・ッ!」

そこには下半身が建築材に埋もれ、何とか脱出を試みようとする怜子さんの姿があった。

想像はしていた、怜子さんが死者であると気づいてから、僕が決着をつけると決心してから。
怜子さんを殺す自分の姿を。

でも現実は想像よりもずっとひどい。
僕は大切な人を殺すのか?殺せるのか?


「こ、恒一くん?よかった・・・助けて、体が挟まれちゃって動けないの」

32 : 以下、名... - 2012/04/09(月) 01:12:37.80 o3Od9MS50 12/16

「榊原君?」

「わかってるよ、でも・・・」

そんなに簡単に割り切れるような感情じゃないんだ。

「恒一くん?どうしたの?はやく・・・」

目をつぶって深呼吸する、見崎が持っていたツルハシを奪い取るようにして持つ。

僕は、ツルハシを、振り下ろした。

34 : 以下、名... - 2012/04/09(月) 01:22:16.30 o3Od9MS50 13/16


・・・・・・・・・・・・・・・・

病室の中は広かった、個室ということもあって僕たちの他に誰もいない。


怜子さんを殺してから現象はピタリと止まった。

勿論僕と見崎以外に怜子さんのことを覚えてる人なんていなかった。
その僕でさえ、死者として生きている怜子さんの記憶が段々と薄くなってきている。


「泉美・・・、今日もいい天気だよ」


病院に搬送された赤沢さんはとても危険な状態だったらしい。
意識も回復するまでに随分かかった。

でも、生きていてくれた、これほどうれしいことはないよね。




38 : 以下、名... - 2012/04/09(月) 01:33:29.13 o3Od9MS50 14/16


「・・・いつから、私のことを呼び捨てにするようになったのかしら?こ・う・い・ち・くん?」


「なんだ、起きてたのか・・・赤沢さんが眠っている間にね、お医者さんから患者さんに力強く呼びかけてあげてくださいって言われてね」

「それ以来、赤沢さんが眠ってる間つい呼び捨てにしちゃうようになっちゃったんだよね、悪かったかな・・・?」


「別に、何でもいいわ、むしろうれしいかも」

自慢のツインテールはもうなくなっていた。
合宿所の火事のおかげでチリチリになってしまったため、今はショートだ。


「ほんとに、いい天気ね。私も早く外で思いっきりはしゃぎたい!」

「もうじき退院だっけ?みんな、赤沢さんのこと待ってるよ」


「えぇ、もうすぐ退院。私も早く皆に会いたいなぁ」

「というか、もう泉美って呼んで、ころころ呼び方かえるの大変でしょ?」

「本当は、ただ名前で呼ばれたいだけなんじゃない?」

「ば、ばか!」

45 : 以下、名... - 2012/04/09(月) 01:43:56.61 o3Od9MS50 15/16

「私ね、結構長いこと意識なかったじゃない?」

「うん、そうだね」

「長いこと夢を見てたのよ」

「どんな?」

「河原で空き缶を蹴って、男の子の頭にそれをぶつけちゃったのよね」

「それから転んじゃって、男の子に手を取ってもらって、立ち上がったんだよね?」

「そうそう、こんな風に」

「そうだね、こんな風に」

泉美の差し出した手をやさしく握り返す、あの日のように。


「思い出してくれたんだ」

「うん、もう嘘じゃなくて本心から言えるよ。覚えてる」


秋のやわらかくて暖かな日差しが僕らを包み込む。
赤毛のショートヘアーの女の子が日に焼けたように顔を紅くした。



46 : 以下、名... - 2012/04/09(月) 01:46:37.93 o3Od9MS50 16/16

とても短いですがこれで終わりです。
付き合っていた皆様ありがとうございます。
漫画版の終り方を変えたかっただけでこうやって書かせていただきました。




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