女「ボクは宇宙人だ」
男「なんだそれ」
女「ふふ、驚いたかい?」
男「くだらん冗談はだな……」
女「冗談じゃないから」
男「……」
女「冗談じゃ、ない」
元スレ
女「地球生まれの宇宙人」
http://raicho.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1292083847/
やつは。
笑いながら、変な冗談を言った。
女「ボクは君をずっと観察している」
男「……」
よくわからん。
こいつが何を言ってるのか、さっぱり。
女「おや? なんだかものすごく変な顔をしているよ」
当たり前だ。
変なこと言ってるやつを目の前にして。
変な顔をしないわけがない。
女「欲情したのかな?」
するわけがないだろう。
女「ボクは宇宙人なんだよ?」
だから、してないって。
男「お前、めんどくさいぞ」
女「めんどくさい?」
男「おう」
少し思案顔をして。
女「……宇宙人だからね」
と、笑う。
男「じゃあ具体的に、どこの星からやってきたんだ?」
女「君の知らない星さ」
男「……」
女「それを知って何になるんだい?」
男「いや、とくに」
何もしないけど。
女「ボクの個人情報を知ることで、ボクを奴隷にしようとしているのかい?」
飛躍しすぎだ。
女「しかし、この星にはそんなシステムがあるのかい?」
男「知るか」
女「君はこの星の一員なのだろう? なのに知らないのは、駄目だろう」
男「……」
うわぁ。
面倒くさい。
女「君はボクのこと、どう思ってるんだい?」
男「めんどくさい」
女「じゃあ、どう想ってるんだい?」
男「……めんどくさい」
めんどくせー。
女「ふふっ、そうか」
やつは小さく息を吐いて。
女「ボクが意地悪になれば、君も意地悪になるわけだ」
男「……」
女「人間というのは、面白いね」
お前も、人間だろう。
男「やれやれ」
女「どうしたんだい?」
男「明日の宿題、まだ終わってないんだ」
女「おや、そうなのかい?」
男「……」
女「……見せて、欲しい?」
そう言って。
やつは短めのスカートの先をちょいっと摘まんで、あげて見せた。
男「お前は何をみせるつもりだ」
興味ない。
勘違いしないでくれ。
ただ、こいつのスカートの中身に興味がないと言っただけだ。
モーホーではない。
ちょっと、業界用語みたいな感じ。
どうでもいいか。
女「ふふ、宿題だけど?」
意地悪に笑う。
男「いい、自力でやる」
女「君の苦手な教科だったはずだよ」
なぜ知っている。
女「なぜ知っている、みたいな顔をしているね」
心を読めるのか?
女「君を観察しているんだから、それくらいわかるさ」
男「ふぅん」
女「それで、どうするんだい?」
ニコニコと笑いやがって。
男「いい、一人でやる」
女「一人で?」
そう言って。
やつは手を上下に振り始める。
女「一人、で?」
中学生か。
女「一人でできるなんて、利口だね」
さすが人間だ、と言う。
男「……しねぇよ」
女「じゃあ、ボクが手伝ってあげよう」
男「宿題をだよな?」
女「? 自力でやるんじゃないのかい?」
ああ、こいつは本当に。
めんどくさい。
女「ボクが手伝うのは……」
そう言って。
俺の近くにやってくる。
男「近づくな」
女「なんでだい?」
男「いいから、近づくな」
女「ボク、宇宙人だからわかんない」
そう言って、俺の言葉を無視して歩いてくる。
こんな流暢な宇宙人がいてたまるか。
男「やめい!」
立ちあがり、逃げる俺。
女「逃がさない!」
笑いながら追いかけるやつ。
くそ、部屋じゃ狭い!
女「ふふふ、追いつめたよ」
ニッコリと笑う。
なんか、怖い。
男「いいから、宿題をさせろ!」
女「君の今の発言の、『宿題を』という部分を無くすと、とても卑猥だよね」
どうでもいいわ!
女「ボクは……宇宙人だけど、エッチには興味がある」
男「無くていい!」
そんなところにかぎって興味持ってんじゃねえ。
女「そして……」
そう言って。
俺の下半身を指差して。
女「コッチにも、興味がある」
なにカッコよく言ってんだ。
ただの変態アピールじゃねえか。
男「変態!」
そう言って。
頭を容赦なく叩く。
女「おっと、女の子に手を出すなんて」
男「お前をオンナだと思ったことは少なからずない」
今の言動とかでも、な。
女「やはり、同性愛者なのかい?」
なぜ、そうなる。
男「は?」
女「おっと、変なことを言ってしまった、気にしないでくれ」
男「……」
ええ~。
なんか、歯切れ悪い。
一応、否定しておこう。
男「いや……俺、オンナめっちゃ好きだから。同性愛者じゃ、ないから」
なんか、ぎこちない。
なぜ口走ったのか理由を教えてくれ。
早急に!
女「怪しいなぁ……この星ではそういう人も少なくないみたいだけど」
男「お前、昨日本屋で見ただろ」
腐ってないくせに。
女「……ふふふ」
なんだその笑い。
男「はぁ……」
ため息をついて、俺は自分の勉強机の椅子に座った。
男「邪魔するなら帰れ。手伝うなら全力で手伝え」
女「……そんなこと言われたら」
そう言って、俺の横にやってきて。
女「手伝うしか、ないよね」
ニッコリと笑う。
男「……」
女「……」
男「いや、教えろよ」
女「わからないのかい?」
すっげえ驚いてる。
悪かったな。本当に苦手なんだ。
女「……はぁ」
男「……いや、本当に悪いな」
女「違うよ、そんなことにため息を吐いたんじゃない」
じゃあ、なんだ。
女「ボクにももうすこし胸があれば、ね」
と。
少し丘があるくらいの胸をさする。
女「教えてるときに、わおっ……な展開に」
おっさんか。
男「そういうのは俺が普通考えるもんだ」
お前が考えることじゃ、ないだろう。
女「おや? 君は大きいのが好きなのかい?」
男「大好きだね、大きいの」
『大きいの』を強調してみる。
女「ふむ、大きいの……ね」
しかし、やつはニヤリと笑い。
女「小さいのも、いいと思うけどね」
そりゃあ、負け惜しみってやつだ。
女「小さいものの感触は、とても気持ちいいと聞くよ」
どこ情報よそれ。
女「触ってみるかい?」
男「触るかよ」
集中できねぇだろ?
女「気に障ってみるかい?」
……その発言が気に障る。
女「ふふふ」
なに笑ってやがる。
男「あのなぁ……そろそろ本当に」
女「大丈夫さ、本腰を入れるから」
男「……」
まだ本腰入れてなかったのか。
女「本腰を入れる……なぜだか妙に卑猥だね」
男「腰に反応してんじゃねえ」
女「あはは」
お見通しか、と。
口の端を釣り上げて言った。
そんなこんなしていると。
とりあえず、宿題を済ませることができた。
男「ふぅ……」
女「お突かれ」
男「変な漢字を使うな」
女「お憑かれ」
男「そういえば肩が重いな……」
女「おや、大丈夫かい?」
男「お前が負荷をかけてるからだけどな」
肩に手を置くだけならまだしも、体重をかけやがって。
女「まあ、お疲れ」
男「教えてくれて、ありがとうよ」
女「ふふ、これくらいならお安い御用さ」
わかりやすくて、正直驚いた。
いつも日本語がおかしいやつだから。
女「宇宙人なら、こんな数式容易いよ」
……。
ああ、その設定まで生きてたのか。
男「ふわぁ……」
と、一つ欠伸。
女「眠いのかい?」
男「おう、ちょっと疲れた」
女「そうか」
やつは、肩に置いていた手を外し。
女「じゃあ、今日は帰るよ」
と、潔く帰る宣言をした。
女「それじゃあ、また明日」
男「おーう」
そう言って。
やつは軽く俺の頬に。
キスをした。
男「……」
女「ふふっ」
そして、部屋を後にした。
男「……なんだよ」
いきなり。
何しやがる。
男「……はぁ……」
寝よう。
なんか、疲れちまった。
突かれちまった。
……うん、疲れてるな、寝よう。
朝。
俺は目覚ましに起こされるのではなく。
妹なるものに起こされる。
妹「起きましょう!」
そう言って、布団を剥ぎ取られる。
男「さっむぅ!」
妹「下にはストーブあるから暖かいよ」
男「お前の言い方が冷たい」
妹「言葉に温度はないです」
……さっみぃ。
男「お前に優しさはないのか」
妹「学校に遅れないように毎回起してる身にもなってよ」
男「……」
妹「それを考えたら、相当優しいと思うけど?」
男「……あー」
確かに、そうかもしれない。
妹「いいかげん目覚まし使ってよねー」
男「妹よ」
妹「なに? ドラマのタイトル言っちゃって」
男「そんな古いドラマよく知ってるな」
見たことねぇよ。
男「まあ、真面目に答えろ」
妹「へいへい」
汚い言葉を使う妹だ。
男「もしもだ。付き合ってない奴にキスされたらどう思う?」
妹「殺す。後にうがいする」
男「物騒だな」
妹「だって、それがファーストキスだったら嫌じゃん」
男「いや、頬とかだったら」
妹「殺す。後に洗浄する」
男「……」
妹「そんなこと聞くってことは……ほほう」
ニヤつくな。
男「俺はどうするかを聞いたんじゃない。どう思うかだ」
妹「人に寄るでしょう。別にキスされてもいいと思う人だったら、何も言わないし」
男「……」
妹「で、誰誰?」
男「いいから、下行け」
妹「ちぇ~、まあ、十中八九、女さんだろうけど……。じゃあ、お兄ちゃんも早く下来てね」
男「おう」
妹「下、着てね」
男「着とるわ」
そして、俺の一日が始まった。
男「いただきます」
妹が調理した飯を食う。
妹「今日もバランスのとれた食事でしょ?」
男「よくわからん」
しかし、見た感じ、野菜が少ない気がするけどな。
妹「野菜も結構入れてるから、見た目以上に入ってるよ」
男「ほほう」
美味い。
妹「で、キスしたの?」
美味いなあ。
男「美味しいぞ」
妹「スルーすな」
男「今俺は飯を食ってるんだ」
妹「私もご飯食べてます」
対面で食ってるから、それはわかる。
男「食うのに集中しろ」
妹「キスぐらいでおおげさだね」
男「……なんだよ、お前」
ませたガキだ。
妹「私はしたこともされたこともないけどさ。そんなに触れられたくないわけ?」
したことないのかよ。
……まあ。
俺もしたことはないな。
男「別に、そういうわけじゃねえよ」
妹「ふぅん」
男「……」
妹「質問したくらいなんだから、結構考えてるんでしょ?」
男「……」
そうなのだろうか。
妹「じゃあ、誰としたかはもう聞かない。それで、どう思ったの?」
男「俺がか?」
こくりと頷く。
男「……別に」
妹「なにそれ」
意味分かんない、と。
味噌汁を啜った。
男「お前だったらどうなのか聞いただけだ」
妹「なるほどね」
男「ご馳走さま」
妹「お粗末様」
朝は淡々と飯を食う。
男「……ん?」
部屋に戻って、窓を見てみれば。
男「……」
やつがいる。
男「やれやれ」
俺は制服に着替え、急いで支度をする。
……まあ、たいてい置いてるから別に支度は簡単なもんだ。
男「行ってくる」
妹「いってらっしゃい」
この時に見せる妹の笑顔だけは可愛い。
がちゃりと開けて。
やつがいると思えば。
男「!」
女「おや」
奴はなぜか、上半身ブラ状態だった。
こんな寒い日に。
ちゃんとシャツやらは持ってきてはいるようだ。
男「なんだその格好」
女「ちょっと気になってね」
なにがだ。
女「ほら、ボクの胸は貧しいのかどうかをだよ」
ああ、そんなことか。
女「どう思う?」
男「貧困に飢えてるな」
どストライクに言ってやった。
女「やはり、小さいのか」
残念そうに言った。
女「まあ、仕方ないか」
意外と諦めが早かった。
ゆっくりと着始める。
女「……と。またせたね」
男「別に」
そして、俺たちは歩き始めた。
女「そういえば」
男「ん?」
なんだ。
女「胸は揉むと大きくなるそうだよ」
男「ふぅん」
女「揉まれるとさらに……ね」
男「ふぅん」
女「だから、実験だ。モミモミ、ゴー」
男「は?」
胸を張り、俺に向かい合う。
男「?」
女「さあ、揉みたまえ、揉みしだきたまえ」
男「意味がわからん」
女「胸を、揉んでくれと言ってるんだが?」
えっと。
男「悪いんだが……」
女「恥ずかしいのかい? ふふ」
男「どこに胸がある」
女「おっと」
それは盲点だった、と。
後頭部をかきながらそう言った。
女「だったら、こっちを揉むかい?」
そう言って。
俺に尻を突きだした。
……なに言ってんだこいつは
男「お前、それはバランスが悪くなるぞ」
女「ふふ、そうだね」
よくわかってる、と。
そう言って、俺の隣に戻り、また歩く。
男「やれやれ」
女「ない胸は揉めない……か」
そんなことを。
ボソッと言っていた。
学校に着いてみれば。
やつは笑わなくなる。
怖いくらいに。
冷静な顔になる。
本当にそれは。
機械みたいに。
宇宙人みたいに。
……。
まあ、宇宙人が笑わないわけじゃないよな。
ただの比喩表現。
でも、そんなあいつは。
男「おい」
女「……? なんだい」
俺が話しかければ。
また、笑う。
ほかのやつとは最低限の会話をし。
平坦な喋り方をして。
関わろうとしない。
まるで、ネジのない、ネジまき人形みたいだ。
そう考えると。
俺は、ネジの役割になるのだろうか。
女「何を考えているんだい?」
男「ん?」
女「話しかけただけ、かい?」
男「ん、ああ」
別に話すこともなかったのに。
話しかけてた。
男「ただ、話しかけただけだ」
女「そうか」
それでも嬉しい、と。
目線を本に戻しながら言った。
クラスメイトの評価は。
あまり良くない。
喋らず。
行事にも消極的。
しかし。
テストの点数は高く、成績も優秀。
オトコにも好かれている。
まあ、可愛いっちゃあ可愛い方ではある。
体つきも小さく、ちょこんとしているし。
クラスメイトの評価ってのはあながち、オンナの評価かもしれないな。
いわゆる妬みみたいなもの……か。
運動もできるから、尚更だろう。
声も綺麗。
まあ、俺にしてみれば。
性格は結構キてるし。
変な奴だと思う。
そして、そんな俺は。
「なぜお前にだけは笑顔なんだ」と。
よく妬まれる。
知らん。
そんなこと言われても。
女「……」
本を読んでいるやつは。
本当に、置物みたいだ。
男「……」
授業中。
ふと、やつを見る。
真面目に取り組んでいる。
笑顔は、無い。
女「……!」
こっちに気づいたようだ。
笑顔で、軽く手を振ってきた。
ずっとその顔でいればいいのに。
授業が終わり。
やつはすぐに本を読み始める。
……昼食時間だぞ。
まあいいや。
俺は一人で食べよう。
さーて、今日の弁当はっと……。
……ああ、もう。
男「おい」
女「?」
男「飯だぞ」
女「ああ、そうだったね」
ニッコリと笑う。
女「気づかなかったよ」
男「ちゃんと食べろよな」
女「食べるさ」
いつも俺が話しかけなかったら、食わないくせに。
女「はむっ」
相変わらず、やつはマイペースだ。
女「うん、美味しいね」
男「俺の弁当のおかずをとるな」
なに普通に取ってんだよ。
女「いいじゃないか、減るもんじゃないし」
男「減るもんだ」
女「ボクの中に残っているから、減らないよ」
男「少なくとも、俺は食えない」
女「吐こうか?」
男「やめい」
なんでそんなことを笑顔で言える。
……お、おお……。
周りの視線が怖いぞ。
頼むからこいつも、他の奴にも笑顔を振りまいてほしい。
男「お前……なんで笑わないんだよ」
女「え?」
男「俺と話をしてる時以外、お前いっつも無表情だろ?」
女「そんなところ、見てるんだ」
驚いている。
当たり前だ。
全然雰囲気変わるし。
二重人格かと思うぞ。
女「うーん……」
笑いながら、思案している。
女「逆に質問なのだけど」
そう言って、顔を近づける。
女「君以外に笑って見せて、どうなるの?」
よくわからない質問だった。
男「そりゃあ……」
女「ボクの笑顔は、本当に心のこもった笑顔だ」
らしい。
女「君以外じゃあ、愛嬌を振りまくような笑顔しかできない」
心のない笑顔さ、と。
なんだか寂しく言った。
女「だから、君にしかできない」
……。
要領の悪い奴だ。
男「……そうかい」
まあ、無理に強要するのはよくないな。
無理に強要って。
間違った使い方はよくないな。
頭痛が痛いみたいじゃねえか。
女「とりあえず、時間も無いから、早く食べたほうがいいと思うよ」
男「ん?」
本当だ。
結構時間押してるな。
妹の作ったご飯をさささっと、食べる。
美味いから味わって食いたいところだが。
今はそんなことを言っている場合じゃない。
あ、でも。
一つ気になることがあった。
男「お前、この前の告白は?」
女「え?」
男「ほら、サッカー部の超イケメンの先輩の件」
女「なんだっけ?」
男「ほら、なんか手紙に、校舎裏に~みたいな古典的なラヴレターを書いた人だよ」
女「その日は一緒に帰ったじゃないか」
男「」
そういえば、そうだ。
女「行こうか迷っていたボクを無理やり引っ張って……」
男「嘘つけ」
そんなことはない。
女「嬉しかったなぁ」
妄想が止まらないようだ。
男「そんなことしてなかったはずだ」
女「もちろん、ボクの脳内でのみだよ」
だ、駄目だこいつ。
女「乙女ビジョンをボクは実装しているんだ」
男「お前からは想像できそうもないオプションだな」
女「君にされたことを、すこーし乙女チックにするオプションです」
すこーし、ね。
内容変わってたじゃねえか。
男「大分、だな」
女「おおいた?」
男「だいぶ」
女「そうかな?」
男「あの時俺は、『行かなくていいのか?』って言ったはずだ」
女「乙女ビジョンからは『行くなよ、俺以外のオトコを見るなよ』と聞こえたよ」
ほらー。
もう内容変わってるじゃないですかー。
大分以上に。
全てじゃないですかー。
男「じゃあもしも、だ」
女「ん?」
男「俺が、『好きだ』って言ったら、どうなる?」
女「『お前の骨の髄まで吸いつくしてやる』……かな?」
猟奇的だな!
男「それキャラ変わってるじゃねえか」
女「そうだね」
まあ、そんなこと言われたら、
女「そのままだろうけどね」
と、言った。
……むぅ。
そんなもんか。
『好きだ』ってのは、乙女チックなもんなのか。
男「……」
妹に『好きだ』と冗談で言ったとき。
『そういうこと平気で言うな』
と、殴られたことがある。
妹のくせに。
ませてやがる。
女「ふふ、チャイム、鳴ってるよ」
男「あ、ああ、そうだな」
そうして、午後の授業が始まった。
午後の授業はつつがなく終わった。
あ、宿題提出できてよかった……ってぐらい。
ホームルームにて。
今回。
凄く珍しいのだが。
席替えをすることになった。
できれば後ろ窓際!
頼むぜ……てりゃあ!(紙を引いている)
>>122
訂正。
窓際→窓側
男「……」
ひゃっふぃ! 窓側ひゃっふぃ!
ラッキーすぎる!
そして。
男「……」
女「隣だね」
あー、マジかよ。
隣といっても。
すこし距離はあるんだけども。
男「そうだな」
女「ふふ……」
そして。
クラスのオトコからの視線が殺気混じりになったのは言うまでもない。
やべー。
いつか殺される。
そして。
放課後である。
男「さて……と」
女「帰ろう」
男「おう」
そんなとき。
教室のドアの前に。
イケメンがいた。
ああ、あのサッカー部の人だ。
なんかソワソワしてるぞ。
一人のオンナを捕まえて、なんか話してるみたいだ。
男「……」
そのオンナが来て。
やつに話をしている。
女「……」
俺にアイコンタクトして。
そのイケメンに寄って行った。
さて。
俺はどうしようか。
うん。
帰ろう。
迅速に。
速攻でね。
一人で帰るのは久しぶりだ。
たいてい、かくれんぼに付き合わされたりするからな……。
まあ、それは置いといて。
結構早いな。
ちょっと、商店街寄るか。
商店街食べ歩き珍道中やるかな。
金もあるし。
……ん?
妹「あ」
男「おう」
妹に遭遇。
妹「一人?」
男「なにしてんだお前」
妹「買い物」
男「庶民派妹万歳!」
妹「見づらいよ」
テンション高めできもい、と。
平坦な口調で言われた。
男「兄に向ってきもいとはなんだ」
頭を殴る。
ゴツン。
妹「妹に暴力とはこれいかに!」
テンション高めだ。
よかった。
本当にきもいとは思ってないみたいだ。
男「今日はなににするつもりだ?」
妹「ご飯? お楽しみ」
楽しみにできるやつかどうかだが……。
妹「子供舌な人にはとっても嬉しいものだと思います」
男「ふむふむ……この材料だとハンバーグだな」
妹「エコバッグ見るんじゃない!」
ポカッと。
可愛い手で叩かれた。
妹「もう……無理やり違うもの作っちゃうよ」
男「駄目だ! 俺の大好きなハンバーグがいい~!」
妹「駄々こねないの!」
男「お前にしかこねない!」
妹「コネコネ」
男「は?」
妹「酷い……」
あはは。
妹との会話が楽しいとか。
俺駄目かもな。
男「あ、そうだそうだ」
妹「ん?」
男「今日の朝の質問、忘れていいぞ」
妹「どうして?」
男「別に、たいしたことじゃない気がしてな」
妹「ふーん……それよりさ、女さんは?」
男「ああ、なんか学校で用事だとよ」
妹「……なんで待ってあげなかったの?」
男「別に」
妹「怪しい」
男「……」
勘が鋭いやつだな。
男「まあ、いろいろな」
妹「教えてよ」
男「お前にはまだ早い!」
妹「ぶーぶー」
男「ほら、早く行くぞ」
妹「わかったよ……」
別に言いたくないわけじゃない。
あいつのことを、俺がペラペラしゃべるのは違うと思う。
そうだろう?
そして。
妹と身をすりよせながら家に帰った。
……ん?
いや、俺と妹はわりと仲がいいからな。
別に変なことじゃないさ。
さて、家で何やろうかな。
男「掃除……」
めんどくさいな。
男「勉強……」
めんどくさいな。
男「妹と遊ぶ……」
やろう、即やろう。
そんなアホなことを考えていると。
男「ん……?」
着信。
男「まったく、誰だ?」
妹と楽しい時間を過ごそうと思ったのに。
男「……ん」
あいつからだ。
ピッと。
俺は通話ボタンを押した。
男「ん」
シンとしている。
男「おい?」
やつは声を出さない。
どうしたんだ?
なんか、嫌な予感。
女「あの」
消え入りそうな声。
男「お、おう」
女「今から、会えない?」
男「……」
飯時はとっくに過ぎている。
女「公園に、いるから」
男「……」
そして。
プツリと切れた。
なんだ、いきなり。
男「……」
めんどくさいなぁ。
なんで俺が行かなきゃならないんだよ。
まったく。
男「妹~」
だいたい、俺は行くも行かないも言ってないっつーのに一方的に切りやがって。
ふざけんなよな。
男「ちょっとでかけてくるな~」
妹「はーい」
……公園、だっけか。
男「ふう」
外は大分冷えていた。
着こんで正解だったぜ。
男「公園っつったら……」
もちろん、あの公園だろう。
俺とあいつが初めて会った。
あの、公園。
男「……」
ベンチに。
制服姿で。
やつはいた。
女「あ……」
こっちに気づいて、手を挙げた。
待ってました、と言わんばかりの顔だ。
女「来てくれたんだね」
男「おう」
そう言って。
やつは俺に近づく。
女「ふふ」
手を掴まれる。
女「暖かい……」
手に、やつの顔がくっつく。
男「いきなりなんだ」
女「ふふふ」
くっついていた顔は離れ、俺を見ている。
女「……」
男「……」
無言だ。
男「……ああ、そういえば今日」
俺から切りだす。
男「先に帰って悪かったな」
女「ううん」
むしろ嬉しい、と。
やつは笑った。
なぜだ?
女「さっさと帰ってしまったことは、ボクにとってとっても誇らしいことだよ」
男「意味分からんぞ」
女「気を遣ってくれたのはわかる――」
ニコッと、微笑む。
女「――でも、それ以上に」
やつはこちらに背中を向けた。
女「ボクが絶対にあの人と付き合わないって、信じてる証拠さ」
……。
そうなるのだろうか。
男「別に関係のないことだと思うけどな」
女「ううん」
やつにしては、おおげさに首を振った。
女「ボクは嬉しくて、今にも胸がはちきれそうだよ」
大きくないけどね、と。
微苦笑。
男「……」
顔が赤い。
女「冷えてきたね」
結構前からな。
男「家、帰ってないのか」
女「鋭いね」
いや、制服だしな。
男「とりあえず、呼んだ理由を説明してくれ」
女「そうだね」
そう言って。
ベンチに座った。
俺も、ベンチに座る。
近づいてくるので、横にスライドする。
女「寒いから、近くにいてよ」
陰謀めいたものを感じたが、仕方なく密着。
女「うん、暖かい」
密着だけでなく、腕を絡ませてきやがった。
男「で、なんのようだ?」
女「ああ、そうそう」
微笑んだ顔は、すこし。
真面目な顔になった。
女「ボクは宇宙人だ」
……。
まだ、引っ張るの?
女「ボクみたいな宇宙人は人間を調査することで、どのように生きていけばいいかがわかるんだ」
男「ふぅん」
まずい、電波な自分語りが始まった。
女「ボクは昔、本当に一人だった。どうしていけばいいのかもわからない、どう人と接しなければならないのかも」
この公園に来て。
君に出会うまでは、と。
とびきりの笑顔を俺に向ける。
女「今のボクはこうやって、笑顔でいられるのも」
男「……」
女「君のおかげなんだ」
男「……」
女「優しい人といると、優しくなれる」
ピトリ、と。
俺の腕に顔をつける。
女「だから、ボクは今、とっても優しいんだ」
自分で言うか、それを。
女「君が意地悪なことをすれば、ボクだって意地悪になっちゃう」
男「……」
意地が悪いのは、元からだろうけどな。
女「今、とっても面白い顔をしている」
男「そうか?」
女「なにか、考えていたね?」
男「そうだな」
女「……」
ジーッと。
ジットリと。
俺の目を見る。
女「ふふっ」
なんだよ、もう。
女「やっぱりボクには君しかいないね」
ギュッと。
してきそうになる。
男「やめい」
女「寸止めかい?」
男「いきなり何襲おうとしてんだ」
女「襲うつもりなんて……これっぽっちも思ってるよ」
男「日本語おかしいからな、それ!」
女「駄目かい?」
男「駄目だ」
女「どうして?」
男「お前な……」
いきなり俺の意思もなしとは、どういうことだ。
女「率直な質問をしよう」
男「あん?」
女「君は、ボクのことが好きかい?」
男「……」
好き。
好き。
好き……?
男「……」
女「どうなんだい?」
ニヤニヤしながら顔を近づけるな。
男「……何を言わせようとしてやがる」
女「濁すつもりかい?」
男「くだらん」
女「発情期」
男「は?」
女「顔、真っ赤だろう?」
確かに。
顔、真っ赤だな。
女「発情期というやつさ」
欲求不満だろうが。
女「ふふっ」
やっぱり簡単にはいかないね、と。
立ちあがりながら、言った。
女「そういえば、これを見てくれ」
男「ん?」
やつはソックスをあげて見せる。
女「いわゆる、絶対領域」
俺には、不可侵領域に見えた。
そりゃあもう、大層素晴らしいものだ。
綺麗な太ももが、少しだけ露出している。
しかし、これを侵せば俺は、死んでしまうんじゃないかと。
思ってしまうほどに美しかった。
……あれ?
俺、絶対領域とか好きだったのか?
女「ま、まじまじと見られると」
少し照れるよ、と。
真っ赤な顔が、さらに真っ赤になる。
男「ふん……」
そっけない感じを演出しているが、いまだに釘付け状態である。
女「……もう、我慢できない」
そう言って。
やつはソックスを下げた。
正直に言おう。
いつもニコニコしていて。
他人に恥じた見せたことのないやつが。
恥じる姿は。
可愛かった。
女「やはり、男の子というものは、みんなエッチだね」
男「知るか」
あれは、自業自得だろう。
女「人類皆エッチなのか」
男「そうかもな」
女「宇宙人のボクには理解できないなぁ」
嘘つけ。
どれだけお前は挑発的な態度を取ってきたと思ってるんだ。
女「でも、凄いね」
男「あん?」
女「まだ、ボクは君に下着を見せてない」
……。
今日、朝見たけどな、ブラ。
女「それなのに君はボクにメロメロだ」
勘違いです。
男「俺がいつメロメロになったって?」
女「ふふ」
そう言って。
スカートの端をつまむ。
女「見たくないかい?」
……。
見せたいんじゃないの? お前が。
男「夜中の公園で何を言ってるんだお前は」
場をわきまえろ。
……あれ?
だいぶ良い場所じゃないか?
女「夜中の公園だからさ」
……そうだな。
顔は赤いままだ。
男「……」
俺はこの状況から逃れたかった。
体を擦り寄せられているこの状況に。
なぜかって?
決まっているだろう。
男「お前、飯食ってないだろ? なにか食いに行かないか?」
女「いいね、行こうか?」
そう言うくせに。
なぜベンチに座った。
男「どこに行く? もう夜遅いし、あんまりゆっくりしてられねーぞ」
女「うん」
おい。
何か喋れよ。
男「おい?」
女「え、なに?」
なにボーっとしてやがる。
女「ふふ、おかしいなぁ」
男「ん?」
なにがだ。
女「体が重くて、動かない」
男「!」
どういうことだ?
男「まさか……」
この顔の赤さって……。
俺は迷わずやつの額に手を当てる。
大分熱い。
女「できれば額と額がいいなあ」
馬鹿野郎。
言ってる場合か。
女「おわっと」
とりあえず。
家に戻るのが先決だろう。
ここからなら。
俺の家の方が近い。
女「ふふふ、お姫様抱っこ、か」
初めてされたよ、と。
危機感無く、笑う。
男「いいから、喋んな」
女「ふむ、了解」
嫌われたくないからね、と。
口を手でふさぐ。
いや、そんなことで嫌わんけども。
女「……」
呼吸が荒い。
男「ほら、大丈夫か?」
コクリと頷く。
ニッコリと笑う。
男「ほら、そろそろ家だ」
女「……」
赤い顔は、変わらない。
女「君の家……」
ボソッという。
男「お前の家遠いからな」
女「……」
そうだねって顔で言っている。
わかる自分が怖い。
妹「おかえり~って、うわぁ! 凄いお土産!」
男「どこがもみあげだ!」
妹「言ってないし!」
男「まったく、失礼な奴だ。ただいま!」
妹「えっと、その抱きかかえてるのは……」
男「もみあげだ!」
見てわからんのか!
女「……」
あ、笑うのこらえてやがる。
俺はやつを抱きかかえたまま、部屋に行った。
男「妹よ、消化にいいもの頼んだ」
妹「うぇ!? りょ、了解!」
良い妹を思ったものだ。
女「くくっ……はははっ……」
男「なにがおかしい」
女「も、もみあげ……あははっ……」
ツボに入ってるようだ。
女「最高だよ、君も、妹さんも」
男「ふんっ」
女「それよりもなによりも」
男「なんだよ」
なんか言いたいこと、あるのかよ?
女「まさか部屋に連れ込まれるとは思わなかったよ」
そういえば、そうだ。
若干顔赤目の同級生(異性)を。
自分の部屋に連れ込み。
自分の部屋のベッドに寝むらせているこの状況。
男「……」
女「ふふ、でもまぁ」
作戦成功だね、と。
笑う。
どういうことだ。
男「お前……まさか、熱出してるのは……」
女「これは嘘じゃないよ」
嘘、つけるはずがないか。
女「でも、君の家に来れたのはとっても嬉しいです」
いきなり敬語!?
女「暑いね」
男「そりゃあな」
たしか、冷えピタどっかにあったような……。
女「脱いでいいかい?」
男「大丈夫なところまでな」
女「わかった」
そう言って、ブラウスを脱ごうとする。
男「ちょい待てい」
女「下着だよ」
男「ノンノン」
女「でも、今日見たじゃないか」
飾り気のないブラだったろう、と。
胸を押さえながら言った。
男「それでも駄目だ」
目のやり場に困る。
無い胸をまじまじとは見れないし。
見なきゃちょっと申し訳ないしな。
女「じゃあ……」
男「スカートもNG」
女「そうか」
ニコニコ笑っている。
女「君は想像力はある方?」
男「? わからん」
女「なら、汗まみれのボクの体、想像できるかい?」
目の前のこいつの。
汗まみれな体。
男「それが?」
どうしたというのだ。
女「ボクの見る目も変わるだろう?」
男「そうだな」
女「ふふ、いやらしいかい?」
多分、奴自身誠心誠意のセクシーポーズなのだろう。
男「なんでこんなびちょびちょなのに運んできたんだろうってな」
女「心配してくれたからだろう?」
男「……」
こいつに負けはないのか。
女「じゃあ」
毛布を大きく被る。
男「余計熱いぞ」
女「大丈夫さ」
脱水症状にならなきゃいいけど。
妹「おまたせ!」
男「おう」
妹「女さんやっほー」
女「やあ」
妹「いつもバカな兄のお世話ありがとうございます」
女「下世話だけどね」
男「変なこと言うな」
妹「ほほう、もうそんなところまで……」
女「ふふ、悪いね」
男「あーもーおかゆありがと! 出てけ!」
妹「はいは~い」
まったく、ノリのいい妹だ。
男「……お前、あいつのノリを使いやがって」
女「ちゃんとお礼を言う君が、ボクは好きだよ」
男「んなことたぁどうでもいい」
女「君が行かせるから、お礼が言えなかったじゃないか」
男「……ほら、食えよ」
女「あ~んしてくれるかい?」
男「……やだ」
女「病人は労わるものだよ」
男「できないことだったらやってやるが、できるだろう?」
女「ふむ、まあね」
男「じゃあ、食えよ」
我儘な奴だ。
そんなに甘やかしませんよ、俺は。
……いや。
早く食えよ。
女「……」
いや、黙ってないで。
布団包まってないで、さっさと飯食えよ!
男「食欲無いのか?」
それだったら、無理に食えとは言わんが。
女「いや、そうじゃない」
男「毒は入ってないから安心しろ」
女「主に母が入っているのかい?」
男「感じを分解するな」
しかも下微妙に違うし。
女「あ」
男「?」
女「凄く面白いことを考えた」
たいてい面白くないけどな。
女「ボクは君にデレデレだ」
男「……」
すんなり言うな。
女「ボクは今、病気だ」
……まさか。
女「これぞ本物のヤンデレ」
男「うまくないからな!」
女「そのおかゆ、誰が作ったの?」
男「は?」
女「私以外が作ったもの……食べないでよ!」
いきなり変な演技始まった。
女「とまあ、どうだい?」
男「いきなり過ぎてわからんし、言ってることもよくわからんかった」
女「ふふ、そうだね」
女「ボクはボクのままで、いいよね?」
男「まあ」
否定はしない。
女「ふふ」
その笑い方は、なんかむかつくな。
女「おかゆ……やっぱりあ~んして欲しい」
男「甘えるな」
女「甘えてはいけないのかい?」
男「だからと言って苦えるのも駄目だからな」
女「……なんて読むんだい?」
……何て読むんだろうな。
男「とにかく、自分で食え」
女「いいけど……怒らない?」
男「なんだ?」
どこに怒る要素がある。
女「……」
いきなり沈んだ顔するなよ。
男「怒らん、というか、そんなことは起きない」
絶対にな。
女「そうか、なら」
いただこう、と。
毛布の中から出てきたやつは。
下着姿だった。
男「お前、俺のベッドで何をしている!!?」
女「ひゃっ……いきなり怒らないでくれよ」
何楽しそうに笑ってるんだよ!
男「着替えろ!」
女「んー……どうしようかな?」
どうしようかな? じゃねえよ。
女「今、ボクは君がいつも寝ている布団を、肌で感じている」
気持ち悪いこと言うな。
女「正直、興奮するよ」
男「とっても変態な性癖をお持ちで!」
女「罵られるのは嫌いじゃないよ」
こいつに弱点はないのか。
男「あー、もう……」
お前の汗で布団濡れてんじゃねえか。
女「ふふ、そろそろ駄目かも」
男「え?」
そう言って。
やつは目を閉じた。
バカな奴だ。
脱水症状みたいだ。
まったく。
……ちょっと、まずくないか?
男「おい、バカ!」
布団を剥ぐ。
そりゃもう、モン○ンのように。
しかし、布団を剥ぐと。
下着が見える。
男「……っ!」
なんで脱いだんだお前は!
男「くそ」
見てないからな。
俺は。
見てないからな。
バッと。
力いっぱい剥ぐ。
男「とりゃあ!」
妹「……なにしてんの?」
タイミング悪すぎる。
男「いや、あの……」
妹「女の子を下着にさせて、ベッドに寝させるとか……」
ははははは。
妹「しかも汗だくだし……眠っちゃってるし……」
あれ、もしかして。
言い訳無理?
男「あ、あの、こいつ……」
妹「言い訳言って、良いわけ?」
この雰囲気でシャレを言うな。
妹「ごめん、見なかったことにするね」
男「ま、待て!」
男「それは逆に困る!」
なに「お楽しみのところごめんね」、みたいなこと言ってるんだ!
妹「ごめんなさい、大人になるのよ、妹!」
なにその自己暗示!?
男「ま、待てぃ!」
妹「まさか、妹まで貪る気!?」
貪る……変な言葉使うな!
妹「や、やめて~!」
男「いいから俺の話を聞け!」
ま、待て。
誤解するな。
俺は言い訳というか、誤解を解くだけだ。
女「……ん?」
男「おお、起きたか」
脱水症状ではないみたいだ。
女「……あっ」
やつのとった行動。
①俺と妹を確認。
②自分、下着姿を確認。
③顔を紅潮させて布団にくるまる。
そして。
俺をジッと、トロンとした蕩ける目で見ている。
誤解は。
解けそうもない。
妹「て、テクニシャン……」
そう言って、妹はそそくさと逃げた。
というか。
なんだその反応。
女「ご、ごめん……」
顔が、また真っ赤だ。
熱だよな……? 熱のせいで、赤いんだよな……。
男「お、おい……どうした?」
女「ご、ごめん……ぼ、ボクは……」
一息溜めて。
女「君以外に見られると……恥ずかしいんだ」
そう言って。
顔を背けた。
顔は、真っ赤なままだ。
飾り気のないブラを。
布団で必死に隠そうとしている。
本当に恥ずかしいのか。
全部隠せてない。
……。
なんなんだろうか、この気持ちは。
女「……」
二度目の、恥じた顔。
女「じ、ジロジロ見ないでくれ」
見ているつもりはないのだが。
自然と、微妙に隠れていない下着部分を。
凝視してしまう。
仕方ないだろう。
俺もオトコなんだ。
どうやら、やつの発達段階である体に。
性的興奮をしてしまうらしい。
女「……」
いまだに恥じらうやつ。
男「……水、持ってくる」
もしかしたら、スポーツドリンクがあるかも。
女「ありがとう」
男「その間に着替えとけよ」
女「了解した」
笑顔に戻った。
よかったよかった。
男「……ふう」
とりあえず、妹にはあとで夜這い……。
コホン。
あとで誤解を解きに行かないとな。
今は水だ。
水分をやつに与えなければ。
……なんか、ペットみたいな言い方になってるな。
お、スポルタセブン発見。
これ持っていこう。
妹「あっ」
男「おっと」
台所で鉢合わせ。
妹「……第二回戦?」
男「アホか」
そのための水分補給じゃねえよ。
妹「でも、それしか考えられないもん!」
めんどくさいぜ。
男「今すぐ俺の目の前から消えないとお前も俺のテクニックで」
手をワキワキさせてみる。
妹「バカじゃないの?」
私、妹だよ、と。
冷めたことを言われる。
んー。
なんか残念。
男「大丈夫だ、俺もそこまで頭はわいてない」
妹「割れてない?」
割れてねぇよ。
この割れ厨め。
……いや。
妹はちゃんと購入しているから、違うけどね。
男「とりあえず、邪魔だ」
妹「はいはい、ごゆっくりー」
これほどむかつくごゆっくりはないだろう。
そして、妹を通り過ぎて。
二階に移動。
そういえば、俺が着替えとけって言ったから、ノックしないとな。
いきなり入って着替えてたりしたら困るし。
男「……」
コンコンと。
わかりやすい、はっきりとしたノックをする。
女「もうすこし、待ってくれ」
男「おう」
ちゃんと着替えているようだ。
数分後。
女「うん。いいよ」
終わったようだ。
男「入るぞ」
入ってみると。
やつは俺のパジャマを着ていた。
ダボダボになっている。
男「……何狙いだお前は」
女「ふふ」
君のにおいがする、と。
笑う。
男「なに言ってんだよ」
女「ボクはね」
と。
いきなり切り出す。
男「ん?」
女「ボクにはね、においという概念が無かったんだ」
……。
また、電波的な話か。
女「君のおかげで、ボクは形成されていると言っても過言ではない」
男「そうかい」
女「これは」
真面目に聞いてほしいな、と。
凄く寂しそうに言う。
女「昨日のことを、楽しく語れるような二人になりたいんだ」
男「……」
俺は。
そんなの、当たり前だと思ってたりするんだが。
女「ぼかさないで答えてくれ」
男「ああ」
質問の内容は、わかってる。
自分のことが好きか? だろう。
お前のことは……どうだろう。
……。
恥ずかしいな。
男「俺は……」
女「付き合ってください」
男「」
正直、度肝を抜かれた。
女「ボクはいつも君のことばかり考えている」
やめろ。
女「大好きなのに、伝えられなかった」
やめろって。
女「ボクが、宇宙人だから」
そこ、引きずってんのか!
女「地球生まれの、宇宙人だから」
地球で生まれただけの。
どこにもいそうな宇宙人。
昔のこいつは。
本当に、冷たくて。
本当に、喋らなくて。
本当に、つまらなくて。
本当に、付き合いづらい奴だった。
よく、人と感性が違うというけれど。
こいつには、感性というもの自体がなかったように思える。
宇宙人とかってのは。
前から言っていた。
女『ボクだけ、笑えないんだよ』
男『面白くないだけだろ』
女『そうかな』
男『でもまあ、そういうこともある』
女『君は面白いのかい?』
男『まあな』
女『そうか……ボクだけなのかな』
自分自身を宇宙人にすることで。
感性の違い、感情の違いを抑制していたのだ。
女「どうした?」
男「っ……」
女「最近のボクはどうもおかしい」
前からだ。
女「空を見ただけで、涙が出てくる」
それは相当キてるな。
女「君のことを思いだしてね」
俺、死んでないか?
女「……真剣に、聞いてるかい?」
真剣は怖い、斬れるぞ。
女「……君は、本当に酷い」
真面目に聞いてたら。
えっと。
男「好きだ」
女「……」
度肝を抜かれたので、俺も度肝を抜いてみる。
男「好きじゃなかったら、お前のことなんか――」
とっくのとうに。
見放してた。
男「――下心ありありっぽいのでちょっと訂正する」
女「ボクはそれで構わないよ」
やつは。
大粒の涙を目に溜めている。
男「んなことで泣くなよ……」
女「嬉しくて……仕方ない」
涙がこぼれる。
ゴシゴシと、目を拭いている。
女「このパジャマ、便利だね」
男「そういう用途じゃないけどな」
女「知ってるさ」
男「やれやれ」
女「ふふ」
男「熱、大丈夫か?」
女「うん、さっきの『好きだ』で吹っ飛んだよ」
どれどれ。
女「ん……額と額でしてくれるんだね」
お前がやってほしいって言ってなかったか?
男「おい……」
熱いですよ!?
女「今の熱さはドキドキとメロメロだよ」
男「なるほど」
……納得いかねぇ。
男「寝とけ」
女「でも……」
男「家には連絡入れとく。遠慮するな」
女「ああ、それはもうした」
男「……は?」
女「『今日は帰らない』と、電話した」
男「い、いつだよ」
女「君を呼ぶ前に、ね」
こいつ……。
女「君の家には、どう転んでも行こうと思っていたから」
予言者か。
男「そうかい」
女「とりあえず、水をくれないかい?」
喉がカラカラだ、と。
微笑みながら、汗びっちょりで言った。
男「ん」
女「ありがとう」
男「はぁ……」
女「……それで?」
男「ん?」
なんだよ。
女「お付き合いは、してくれるのかい?」
男「……」
俺の口から言わせるつもりか?
女「ねえ?」
ズイっと、近づいてくる。
男「寄るな」
汗のにおいが……あれ、甘いにおい。
女「好きだけど、恋人ではない、のかい?」
男「……」
今の俺の顔はきっと。
本当に、赤ペンキで塗りたくったくらい。
真っ赤だろう。
女「可愛い」
むかつく。
カチンときた。
お前の方が可愛いくせに。
……。
すいません。
ごめんなさい。
男「よ、よろしくお願いします」
ちょっとフライングして。
惚気た。
女「良かった」
そう言って。
俺に抱きついてきた。
男「ぬおっ!」
耐えきれずに後ろに倒れる。
男「いてっ」
女「ふふふっ」
妹「……わーおっ」
お前はつくづくタイミングが悪いな。
妹「次は女さんがアタックですか」
女「ふふ、ラブラブだからね」
対応するな。
妹「盛ってますねぇ……ごゆるりと……」
ガチャっと。
ドアが閉まった。
男「お前、どうしてくれる」
女「え?」
誤解がさらに増しちまった。
女「責任……取ろうか?」
そう言って。
俺の体を優しく擦る。
男「体で取ろうとするな」
淫乱め。
ええい。
さっきまで本当に良い感じだったのに。
男「お前な……」
女「なんだい?」
涙の跡がくっきりと残っている。
ニッコリと笑っているけど。
女「ボクの顔に、なにかついてるかい?」
男「ついてない」
女「そうか」
そして。
俺にギュッと抱きつく。
苦しい。
汗の臭い。
いや。
汗の匂い。
凄く甘い匂い。
女「嬉しくないのかい?」
男「あん?」
女「ボクのこと、好きなんだろう?」
なんか。
ちょっと自意識過剰じゃないか……?
男「お前はどうなんだ?」
女「心臓の音が通常の三倍の速度で振動しているよ」
それは危ないだろ、おい。
女「……それくらい、嬉しいこと」
男「……」
恥ずかしいこと言いやがって。
男「そろそろ、クリスマスだな」
女「そうだね」
男「予定は?」
女「今のところ、ない」
男「そうか」
女「君は?」
男「俺か?」
コクリと頷く。
男「あるわけがない」
女「そうなのか」
ニコッと笑う。
女「じゃあ、二人とも予定が無いんだね」
男「そうだな」
予定、無いな。
男「まあ」
こうやって。
なんにもなく過ごせれば。
俺はそれだけでいい。
女「クリスマス、誰と一緒に過ごすんだい?」
男「さぁな」
女「ふふ、決まってないのかい?」
男「そうだな」
妹と一緒に、七面鳥。
なんてこともないだろう。
男「お前は誰と過ごすんだよ?」
女「決まってるじゃないか」
そう言って。
俺の唇に、唇を合わせる。
軽いキス。
女「君だよ」
こいつの喋り方は。
本当に、独特で。
なぜか、ドキドキさせられる。
女「ふふ……」
男「……」
女「さて、これからどうしようか?」
男「続きはしないからな」
女「ん? 続きとはなんの話だい?」
とぼけやがって。
女「まあ」
そう言って。
俺から離れた。
女「今日のボクの目標は」
ベッドに乗って。
女「一緒に寝れれば、いいかな」
男「……」
泊まる気満々。
一緒に寝る気満々。
男「はぁ……」
女「ほら」
ポンポン、と。
ベッドを叩くやつ。
男「今日だけだからな」
女「そうこなくちゃ」
もう、いいや。
考えるのはよそう。
これからこいつとの付き合いがどうなるのかなんて。
考えるだけ無駄な気がする。
きっと、俺には。
こいつしかいないし。
この。
地球で生まれただけの。
どこにもいそうな宇宙人しか。
女「ねえ」
男「ん?」
女「……おやすみ」
男「おう、おやすみ」
寝る時間にはちょっと早い時間だった。
けど、それでもいい。
こいつと一緒にいれるなら。
俺はなんでも、よかった。
そして……。
女「はい、あ~ん」
男「……」
女「どうしたんだい?」
男「冷えてる、まずい」
女「まあ、昨日のだからね」
……一体これはどういうことだ。
女「ふふ、昨日のキス……相当キタみたいだね」
男「てめえ!」
熱出してるのに、キスしちまった。
そのせいで、今は立場が逆転。
俺がベッドでやつがあ~んをしている。
しかもおかゆはやつが昨日食わなかったものだ。
男「このやろう……こほっこほっ」
女「あ、駄目だよ安静にしなきゃ」
誰の所為だ誰の……!
女「はい、あ~ん」
男「……やれやれ」
まあ、いいさ。
どうせ明日には。
楽しく語れるようになる。
お前の言う、『昨日を楽しく語りたい』ってのは。
叶えることができるぜ。
女「そうだ、口移しで食べさせてあげようか」
男「またお前に移るだろうが!」
END
436 : 以下、名... - 2010/12/18(土) 01:27:43.26 QguQhTHnP 193/193今回の目標は、エロ無しでどこまでいけるか、そして微妙にストーリー性を入れてみるかに特化してせいか、肝心なボクっ子の魅力を最大限に表すことができなかったことを反省しつつ、クリスマスの回ではどうするかで今も頭が痛いです。
ですが、今回ではっきりしました。
ストーリー性は無くていいこと。
多少グダグダぐらいが良いこと。
深く考えてはいけないこと。
などなど。
たくさんの発見がありました。
もしも、ご縁がありましたら、クリスマスに会いましょう。
では。
書いてくれてありがとうだよ。