関連
電「司令官さんは・・・人じゃないのですね・・・」【前編】

444 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/06/06 11:55:08.80 2vQE1A5d0 151/289


若葉「昼飯だ」モグモグ

若葉「ささみ梅肉とはな・・・・若葉への当てつけか?」

若葉「だが許そう、若葉は寛大だ」

若葉「だからおかわりだ」

叢雲「あんたってわりかし単純よね・・・・」

中尉「しかし・・・・酒が欲しくなるな・・・・」

若葉「中尉・・・・そんなm叢雲「あるわよ」

中尉「・・・・嘘をつくな」

叢雲「・・・・」ドンッ

中尉「・・・・・どぶろくとは、貴様中々わかってるじゃないか」

叢雲「こんなんしかやる事が無いのよ・・・・ちょっと付き合いなさいよ」

中尉「ありがたく頂こう」

叢雲「あんたは?」

若葉「いただこうか・・・・」






若葉「わかばだぁ!!いたいのはきもちーのだぁ!!!」

叢雲「・・・・」

中尉「これでも頼りになる奴なんだ・・・・」

叢雲「・・・・・」ジトッ

中尉「本当さ」

若葉「むらくもぉ!きさまからではないかぁ!!!」(コップが)

若葉「さぁ!のみなさいのみなさい!!」トクトク

叢雲「・・・・はぁ・・・・・」


ウハハハ・・・・・ワカハ!ヌギマス!!


中尉「さて・・・・そろそろ聞かせてもらおうか」

叢雲「何をよ」

中尉「ここにいる意味だ、お前の提督は死んだのだぞ?誰を待つ?」

叢雲「待ってなんかないわよ」

中尉「ならばなおさら何をしている?」

叢雲「何もしてないわ」

中尉「・・・・・うん?」

叢雲「何もしていない事の何が悪いのよ」

叢雲「生きていくだけの食料も作る技術もあるわ」

叢雲「魚にヤシの実、野菜も作れて酒もある、夜に見上げれば星の海」

叢雲「離れるなんてもったいないのよ・・・・」

中尉「確かに・・・・僕もずっとここにいたいものだ」

叢雲「そう・・・・なら、いればいいじゃない」

叢雲「部屋は腐るほどあるわよ?」


445 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/06/06 11:57:22.58 2vQE1A5d0 152/289


中尉「なんだ?僕に惚れたか?」

叢雲「冗談はよして、来るならあの騒がしいのも一緒よ」

若葉「・・・・ささみじゃないぞぉ!!」ヤンヤヤンヤ

中尉「・・・・」

叢雲「妖精さんとあいつと一緒におじいさんになるまで世話してあげるわ・・・・どう?」

中尉「・・・・不老不死の艦娘か」

叢雲「今となっては呪いもいいところだわ・・・・」

中尉「呪いねぇ・・・・」グイッ

叢雲「そう・・・・解けない呪い・・・・」

中尉「嘘をつくな、解体されればそれは無くなるはずだ」

叢雲「そうね・・・・」

叢雲「でもそれはごめんだわ」

叢雲「私が反骨しても咎められないのは私が強いから」

叢雲「その力を捨てたら・・・・何されるかわからないじゃない、私美人だし」

中尉「自分で言うなよ…」

叢雲「あら?事実よ?」

中尉「否定はしない、だが肯定もしたくない」

叢雲「ふふっ・・・・・」

叢雲「数か月前まではこんな調子だったんだけどな・・・・」

中尉「・・・・」

叢雲「私が怪我してた隙に皆死んじゃった・・・・」

叢雲「あいつも初期艦残して死ぬなんて・・・・癪だわ」

中尉「初期艦?」

若葉「初めての女という意味だ」

叢雲「誤解を招くからやめて」

中尉「おぉ若葉、正気に戻ったか」

若葉「まだ少しのこtうぃくっ!!てるがな」

中尉「まず服を着てこい」

若葉「この方が涼しくて良いからこのままでいる」

中尉「乳首が透けてるぞ」

若葉「これは見せ乳首だ童貞」

中尉「はぁ・・・・勝手にやってろ・・・・」

中尉「で?コイツはほっといて続けてくれ」

叢雲「この空気で続けろって・・・・あんた童貞の上に場の空気も弁えないのね」

若葉「まったく・・・・これだから童貞は…」

中尉「お前ら殺すぞ?」

叢雲「休戦協定破るなんて最低ね童貞」

若葉「少しは落ち着け早漏」

中尉「ファイッ!!!」

446 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/06/06 11:58:16.67 2vQE1A5d0 153/289





ホーホー



若葉「」大破

叢雲「」大破

中尉「ヒュー・・・・ヒュー・・・・・」大破


叢雲「・・・・・・・・もうバカにしないから・・・・・座りましょう・・・・」ゼェゼェ

中尉「・・・・・あぁ・・・・・休戦だ」ハァハァ

若葉「・・・・ささみ出てきそう・・・・」ウェッ




450 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/06/06 12:28:35.72 2vQE1A5d0 154/289


叢雲「ゼェ・・・・ゼェ・・・・・結局・・・・理由なんてこじつけよ・・・・」

中尉「ハァハァ・・・・・・あぁ?」

叢雲「生きてるうちに・・・・何かと苦労しといて・・・・あの世であいつらに言うのよ!」

叢雲「あんたらのせいで!ロクな人生じゃなかったわってね!」

中尉「酷い八つ当たりだな・・・・」

叢雲「正当な主張よ、私なりのね」

叢雲「だからとりあえず軍紀違反してるわけよ、わかった?」

叢雲「だから私はあんたに付いていかないし、無理やり連れてこうってんなら抵抗もする」

叢雲「誰でも等しくそうする、それでもういいでしょ」

叢雲「それよりも・・・・」

中尉「・・・・もちろん反論はあるんだが・・・・若葉」

若葉「あぁ・・・・」

若葉「囲まれてるぞ・・・・」

中尉「さて叢雲」

中尉「僕は君を連れ出すために邪魔する奴等は殺してもよいと言われている」

中尉「故に奴等を迎撃する」

中尉「出来れば三つ巴というのは避けたいんだが・・・・」

叢雲「やるんなら外でやって頂戴、外なら私は手を出さないわ」

叢雲「もちろん、戦うんなら助力はしない」

叢雲「あんた達の喧嘩よ」

中尉「ありがたい」

若葉「中尉」スッ

中尉「あぁ・・・・」

ここで若葉は中尉に小銃と軍刀を手渡す
自らも小銃を持つ

中尉「一応いるか?」スッ

中尉は腰の拳銃を叢雲に差し出す

叢雲「嫌よ物騒ね」

中尉「そうか・・・・・」

若葉「中尉」

出陣を急かす若葉


451 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/06/06 12:45:04.00 2vQE1A5d0 155/289


中尉「叢雲」

叢雲「なによ」

中尉「くれぐれも奴等についていくなよ?」

叢雲「はぁ?」

中尉「君はまだ僕が口説いているんだ」

中尉「浮気な女は嫌いだ・・・・・失望させるなよ?」」

叢雲「・・・・・」

叢雲「あはっ・・・・」

叢雲「あれが口説き?あほくさっ・・・・」

中尉「そう言うな叢雲・・・・」

中尉「僕はまだ最高の口説き文句を言っていない」

叢雲「へぇ・・・・なら今聞いてあげるわ」

中尉「いいのか?僕が童貞を卒業してしまうぞ?」

叢雲「あははは!!随分な自信ね?」」

叢雲「いいわ!聞かせなさいよ、あんたの最高の口説き文句!」

中尉「いいだろう」コホン

中尉は銃を置き、叢雲に正対する
腕組みをして中尉を見つめる叢雲

その様はまさに叢雲の値踏みであった
この男は自分を理解できるのか?
全てを捧げるほどの男なのか?
中尉の本意はわからない
その口説きが艦娘としてなのか、あるいは男女の話なのか
しかし少なくともこの時点で叢雲は、本当にこの男に抱かれてもいいと思っていた
無論自らを楽しませてくれるような、気の利いた一言が言えればの話だ

それは傷心、孤独、寂しさが彼女にあったからかもしれない
どちらにせよ本当のところは当人達にしかわからないが・・・・

この時若葉は二人が纏う空気が変わるのを感じ取っていた
酒を飲んでいた時が陽気なオレンジなら、敵の存在に気付いた時が黒
そして今、二人はどことなく別れ往く戦友のような・・・・そんな空気
二人は生来の友というわけではない、つい先日の招かれざる客と家主の関係
それがこのような空気を曝け出せるというのは・・・・

きっと二人の相性がいいという事なのだろう



中尉「では行くぞ」

叢雲「えぇ、どうぞ」

若葉「・・・・」ゴクリ


中尉の口が開く



452 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/06/06 12:53:19.44 2vQE1A5d0 156/289


中尉「叢雲・・・・」

叢雲「ん?」

中尉「僕と・・・・」

叢雲「・・・・」





中尉「一緒の骨壺に入ってくれ!」

叢雲「嫌よ、狭いわ」

中尉「」

叢雲「そもそも入るなら墓でしょ?」

叢雲「なんで同じ骨壺なのよ、絶対息苦しいじゃない」

若葉「・・・・」

中尉「・・・・行くぞ若葉」

若葉「中尉・・・・」

中尉「やめろそんな目で見るな」

若葉「若葉も・・・・一緒の骨壺はさすがに嫌だぞ・・・・」

中尉「やめろぉ!」

現われた敵の迎撃の為に走りゆく二人
叢雲はそんな二人の背中を見送る

叢雲「・・・・んふっ・・・・・・・」

その表情は心配というわけでも、あほらしい告白に対する侮蔑でもなく

叢雲「・・・・骨壺はないでしょ・・・・骨壺は・・・・」


出来の悪い弟を見るような
慈愛に満ちた表情であった






若葉「いっそ海にでも散骨するのはどうだ?」

若葉「少なくとも狭くは無いぞ?広すぎて会えんがな」

若葉「僕と海に沈んでくれ!」キリッ

若葉「・・・・もっと前向きな口説き文句がいいな・・・・」

若葉「僕に沈んでくれ!」キリッ

中尉「お前の方が性格変わってるぞ・・・・」

若葉「中尉とは仲良しだからな」

若葉「どうだ?キュンときたか?」

若葉「なぁおい!聞いているのか!」

中尉「もういい・・・・」

462 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/06/06 21:59:47.80 2vQE1A5d0 157/289


若葉「ところで中尉この銃の弾は対人か?対艦娘か?」

中尉「対人だが?」

若葉「それは残念、だ!!」バッ

中尉「んなっ!!」

ザザザ

若葉が僕を押し倒す
瞬間、僕が立っていた所に矢が刺さる

中尉「この暗がりで矢だと!?」

若葉「相手は艦娘だ!月の明かりが差すところまで走るぞ!」

中尉「武器はあるか!?」

若葉「ない!」

中尉「ならばこれを使え!」

中尉は腰に差していた斧を投げ渡す

中尉「対艦武具だ!たとえ障壁を張っていても通るぞ!」

若葉「ありがたい」

明るい方へひたすら走る

中尉「ここで迎え撃つ!」

若葉「了解だ!」

そこは海岸
少し海に入ればごつごつした岩も漂着している
息を整えようと思った矢先

横から咆哮

「ヴォオオオオ!!!」

中尉「ぐっ!!」ガギィン

凄まじい勢い
紙一重で防ぐ

中尉「らぁ!!」ブンッ

「伊勢ェ!!やるクマァ!!」

「あいよぉ!!恨むなよ!!」ブン

中尉「くっ!!」ギィン

軍刀によるひと薙ぎ
間一髪の反応でまた防ぐ

伊勢「やるじゃないかぁ!!」ギリギリ

つばぜり合い
グッと押し込むも簡単に抑えられる
これが艦娘の力か・・・・
確かに常人では敵わない

だが

中尉「・・・・」シュイン

体さばきで体を左にずらす
そのまま刀も同じように引く

伊勢「んおっ!」

すると彼女は押していたものがいきなり消えたため前にのめる
ここを叩く

中尉「南無三!!」

「甘いクマァ!!」

今度は逆に間一髪で防がれる

463 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/06/06 22:19:42.21 2vQE1A5d0 158/289


伊勢「ふえぇ・・・・あぶねー、助かったぞ球磨」

球磨「油断すんなクマ、コイツ強いクマ」

中尉「・・・・」チャキ

見た所こいつら・・・・艤装はつけていないのか?
ならば!!


バチャバチャバチャ


僕は海に入った

伊勢「おいおい、海はあたしらの十八番だよ!!」バババババ

当然ついてくるだろう
艦娘なのだから
まさに水を得た魚のように得意げになるだろう

だがしかし・・・・だからこそ油断するはずだ
敵はまだ、この斧の性質を知らない

伊勢「鬼ごっこは終わりだぁ!!」ブン

中尉「ぬぐっ・・・・」ガギィ

当然すぐに追いつかれる
上段から受けた斬撃はやたらと重い
だが、ここが勝機

中尉「らぁあぁ!!」

右手でもう一つの斧を抜いて横に振る
伊勢と呼ばれた奴は防御をしなかった
奴は驕った、だからこその勝機

僕は生暖かい液体を浴びる

伊勢「えっ・・・・?うそ・・・・」

腹を押さえて後ろに二、三歩下がる
とどめを刺そうと近寄ろうとする
しかし

球磨「てめぇ何するクマァ!!」ゲシィ

中尉「がっ!!」ベギィ

もう一人の奴の蹴りをまともに受けて砂浜へ吹っ飛ぶ
左の二の腕か?
嫌な音がした、刀も手放した

ズザザザザザザ

中尉「ん・・・・・ゲホォ・・・・」

視界に誰かの足が入った
反射的に斧で切り付ける

「うぐぅ!!」

「赤城さん!?」

赤城?どこかで聞いた名だった
そんなことはどうでもいい駆け寄る奴を斧で叩き斬ろうとする
その時

タァンタァンタァン

三発の銃声が鳴り響く

中尉「うっ・・・・・あ・・・・・」

全てが僕に命中した

「私の大切な妻達に何をする、死神」

中尉「貴様ァ・・・・・飛龍の・・・・・」

そこにはかつて殴り飛ばした奴がいた


465 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/06/06 22:36:25.41 2vQE1A5d0 159/289


提督「・・・・」

中尉「うぐっ・・・・・」

提督「加賀さん、赤城さんは?」

加賀「軽傷よ」

提督「そうか・・・・武蔵、あの少女は?」

武蔵「まぁ健闘したと思うぞ?」ポイッ

僕の傍に何かが投げ飛ばされた

若葉「・・・・」グタァ

中尉「わ・・・・・かば・・・・くっ・・・・・」

僕は若葉を右手で抱いて、後ろに後ずさる
左足が上手く動かない

中尉「んぐっ・・・・ぐぅぅ・・・・・」ズリズリ

若葉「ちゅ・・・・い・・・・」

中尉「とり込み中・・・・・だ・・・・・」

若葉「わかば・・・・おいてにげろ・・・・・」

中尉「だまれ・・・・・」

中尉「だまってろ・・・・馬鹿者・・・・」

若葉「・・・・・すまん・・・・・・・」

奴等・・・・厳密に言えば三人
そいつらは芋虫のように這う僕らと距離を詰めない
だが決して遠ざからない
ただ見下ろす

そんな奴等を無視して僕はただ下がる
やがて背もたれになるような気までたどり着くと
やっとの思いで言葉が出てくる

中尉「僕を・・・・そんな目で見るな・・・・」

中尉「このクソ野郎・・・・」

提督「・・・・」

奴は何も言わない

中尉「さぁ!とどめを刺すなら刺しやがれ!!」

提督「・・・・・・死神・・・・お前は確かに強い・・・・」

中尉「あぁ?」

提督「だがそれは奇襲においてのみだ」

提督「君を調べさせた貰った、君の陸軍時代の小隊の主要戦法は主に奇襲夜襲」

提督「しかし個人戦でも君は恐ろしく強い」

提督「だから君と戦う時は必ず近接戦闘に長ける者を複数当てるようにしようと考えていた」

提督「まさか本当に戦うとは、思わなかったがね」

中尉「何が言いたい・・・・・」

提督「君の敗北だ」

中尉「はっ・・・・だからなんだという!」

僕は恐怖にとり込まれそうな心を奮い立たせる
言葉を発するたびに、若葉を抱く右手に力が入る
きっと怖いからだろう

提督「私は・・・・特に用は無い、あるのは私の上官だろう」

奴の後ろから来たのは
俺を海軍に引き入れた忌々しい奴


466 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/06/06 22:50:47.14 2vQE1A5d0 160/289


大将「・・・・・」

中尉「ごきげんよう・・・・・大将」

大将「きっさまはぁ!!!」ゲシィ

中尉「ぐっ・・・・」

奴は俺の顔を思いっきり蹴る

大将「誰だ!誰にそそのかされたぁ!!!」ゴスゴスゴス

中尉「んぐっ!げぇ!!!がっ!!」

大将「言え!貴様誰に尻尾を振っていやがる!!!」

胸ぐらを掴まれた

大将「この野郎!恩をあだで返しやがって!!」ゴスゴス

中尉「・・・・」

クソ野郎が・・・・答えたくても答えられるかよ・・・・・
意識が・・・・もう・・・・・・

中尉「」

若葉「もう・・・・いいだろう・・・・」

若葉が力なく中尉の顔を抱いて盾になる

若葉「もうい・・・・しきがないのだ・・・・・」

大将「くっ!!!邪魔だぁ!!」ゲシィ

若葉「あう!!」ゴロン

提督「大将!!このままでは死んでしまいます!!」

大将「黙れ大佐!!野良犬は痛い目を見ないとわからんのだ!!」

提督「しかし!私は彼に借りがあります!」

大将「黙れといっとろうがぁ!!」

「黙るのはあんた等でしょうが、うるさいわね」

大将「・・・・次から次へと」

提督「叢雲・・・・」

叢雲「あんた等の論調から言うと・・・・私の庭に入った野良犬は殺してもいいのかしら?」

叢雲「特に・・・・」チラッ

若葉「・・・・うぅぅぅ・・・・・・・・」

中尉「」

叢雲「人様の客に噛み付くような野良犬はさぁ」

大将「やれるものならやってみろ・・・・大佐」

提督「・・・・武蔵!球磨!加賀!瑞鶴!」




球磨「クソ・・・・赤城!伊勢を頼んだクマァ!」ダダダダダ

赤城「え、えぇ・・・・」

加賀「赤城さん」

赤城「私は大丈夫よ、行って加賀さん」

瑞鶴「行こう!加賀さん!」ダダダダダダ

加賀「えぇ・・・・」ダダダダダ



467 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/06/06 23:05:38.70 2vQE1A5d0 161/289


大将「降れ叢雲、痛い目を見たくなかったらな」

提督「数はこちらが有利だ、降参してくれ」

叢雲「・・・・・」

叢雲(たしかに、こいつらを守りながら戦うのは分が悪いわね・・・・)

叢雲(・・・・ん?」

叢雲「んふっ・・・・」

大将「なにがおかしい?」

叢雲「聞きたいんだけど・・・・あんた等これで全部かしら?」

提督「そうだ、だが十分だ」

叢雲「そう・・・・どちらにせよ私に勝機は無いわね」

大将「ならば・・・・」

叢雲「南西鎮守府の叢雲には・・・・・ね」

大将「何を言っている?」

叢雲「自慢じゃないけど、私、目がすこぶるいいの」

提督「どういう意味だ?」










その頃の四条鎮守府


大鳳「・・・・」カリカリ

「・・・・」ズズズ

大鳳「・・・・よろしいのですか?」

「?」

大鳳「貴方がしているのは造反なのでは?」

「wwww」

大鳳「笑っている場合ではないでしょうに・・・・」

「・・・・友達に会いに来たら、友達の部下が偶然友達がいるところに出撃しちゃった」

「それに私の補佐が付いて行っただけでしょ?」

「別に私は何にもしてないよ」

大鳳「そう言う問題では・・・・」

「wwww」

大鳳「・・・・まぁいいでしょう、もう出てっちゃったものは仕方ありませんし・・・・」

「あwwwえwwwwwwだwげwwwwwwめwっwけwwwwwww」

大鳳「はぁ・・・・」

「そう心配すんなって」

大鳳「ホントがさつね・・・・」

「あんたほどじゃないよ」

大鳳「なんですって!?」

「wwww」

470 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/06/06 23:20:02.68 2vQE1A5d0 162/289



「ぽいー!!!!!」

「突撃にゃりー!!」

「夕立ちゃん!!先行しすぎだよぉ!!!」

「睦月ちゃんは弱いんだから下がってよ!!」

「にゃう!吹雪ちゃん酷い!!」

「武蔵はこの長門に任せろぉ!!」

「ここは賑やかだな・・・・・」

「そうだろ?これでなかなか居心地がいいんだぜ?」




大将「奴等!何故!!」

提督「冗談だろ・・・・・武蔵!球磨!瑞鶴!迎撃しろ!!」

武蔵「奴等四条の・・・・・」

球磨「こいつの部下クマか・・・・」

瑞鶴「ちょっと!空母にどうしろってんのよ!!!」

叢雲「あはははは!!傑作ね!!どんでん返しじゃない!!」

提督「このぉ!!!」

加賀「提督!!撤退を!!」

武蔵「しんがりは我々がやる!赤城!伊勢を連れて船までに逃げろ!!」

赤城「ハイ!!!」

伊勢「いや、大丈夫だ、血は止まった」

伊勢「あたし達もやるよ!!」

赤城「・・・・無理は禁物ですよ?」

伊勢「わかってらぁ!!」




471 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/06/06 23:23:09.02 2vQE1A5d0 163/289


加賀「・・・・・どきなさい・・・・」

叢雲「ふふっ・・・・・少しは遊んでいきなさいよ?」

加賀「提督、大将、先に」

提督「頼んだぞ!」ダダダダダダ

大将「クソ・・・・」ダダダダダダ






「加賀に赤城に伊勢に球磨に武蔵・・・・」

「あはっ!横須賀のエースがそろい踏みっぽい!!!」

「素敵なぱーてぃ!始まるっぽい!!!!」ブンッ

球磨「あぁもう!面倒だクマァ!!」ドゴォ!

「うぇぇ!!重いぃぃ!!!」

「夕立ちゃん!右に避けて!!睦月ちゃんは司令官の所に!!」

夕立「ぽい!」スッ

睦月「あいあいさー!!吹雪ちゃん任せた!」テテテテテ

吹雪「たああぁぁ!!!」ブン

球磨「ジャリガキ共はすっこむクマァ!!」ズォォォ


伊勢「うらぁ!!!!」ガギィン

木曾「木曾だ!!お前に勝つ奴の名前だ!!!」ギィン

伊勢「ぬかせぇ!!」ブン


赤城「一航戦赤城!いざ参ります!!」ヒュン

「正確な矢・・・・しかし当たらなければ意味が無い」

菊月「菊月だ、借りを返させてもらおうか死神」ダァンダァン





473 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/06/06 23:29:36.13 2vQE1A5d0 164/289


武蔵「どらぁあぁぁあぁぁ!!!!」ドゴオオォォオォオッォォ

長門「うらあぁぁぁぁぁ!!!」ズガアアァァァァァァァァァ
1431698367-473


睦月「ふえぇぇぇ・・・・・人間やめてるよぉ・・・・・」

睦月「まぁいいや、提督!若葉ちゃん!しっかり!」ペシペシ

中尉「」

若葉「うぅ・・・・」

睦月「あぁ・・・・完全に伸びてる・・・・」

睦月「とりあえず森の中へ・・・・・ふぬぬぬぬぬぬ!!!!」

睦月「・・・・・」

睦月「ふぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ!!!」

睦月「あうぅ・・・・・睦月女の子だから動かせない」




瑞鶴「あ」

睦月「あ」


睦月「・・・・・」

瑞鶴「・・・・・」






睦月「ふしゃああああぁぁぁぁ!!!!」バッ!!

瑞鶴「うぇ!!なんなのさもー!!!」バッ!


加賀「瑞鶴!!」

叢雲「よそ見なんて!余裕じゃない!!」ヒュン

加賀「くっ!!!このぉぉ!!!」ブン

504 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/06/10 01:09:25.30 Y6HTxW9o0 165/289


叢雲「よっ!はっ!!」

加賀「くっ・・・・・」

まるで踊るように槍を振るう叢雲
加賀は終わる事の無い連撃を弓で何とか防ぐ

叢雲「防いでばかりじゃ!死ぬわよ!!」

叢雲を中心にして回る槍
間合いの長いそれは加賀の接近を許さない

加賀「別にあなたに勝利する必要は、ないのよ」

叢雲「逃がすと思う?」

加賀「それでも、退くの」

叢雲「小賢しいわね!」

加賀は三本の矢を叢雲に射る
叢雲がそれを避ける隙に全力で瑞鶴の下に走った

睦月「にゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃ!!!!」ぽかぽかぽかぽかぽか

瑞鶴「あっ、痛い!何すんのよ!」ゲシィ

睦月「ふべぇ!このぉ!!!」ブンッ

瑞鶴「ちょ!!いたぁ!!!鰹節痛い!!」

睦月「ふふふ・・・・・睦月の鰹節のサビとなるにゃし・・・・・」

瑞鶴「く・・・・・雑魚だと思っていたのに・・・・・」

加賀「退くわよ瑞鶴」ダダダダダダ

瑞鶴「うぇ!」

加賀は瑞鶴を肩に抱えて走った

叢雲「・・・・・逃がしたみたいね」

睦月「そうみたいにゃね・・・・・」
 
叢雲「なんで鰹節なの?」

睦月「・・・・・しゃぶろうかなって」

叢雲「そう・・・・・」



506 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/06/10 01:52:13.03 Y6HTxW9o0 166/289


夕立「ぽぽぽぽぽーい!!」

球磨「クッ!マッ!クマッ!」

ナイフと正拳の連続を繰り出す夕立
それを軽くいなす球磨

吹雪「夕立ちゃん左!」

夕立「ぽい!」

吹雪「たぁぁぁあぁ!!」

柔軟な体をめいっぱい使って攻撃を繰り出す吹雪
トンファーの遠心力を利用した殴打
そして後ろ回し蹴り
だが全ていなされる
上段蹴り
そこで吹雪の足は球磨に掴まれる

吹雪「うっ・・・・・離せぇ!!」グイグイ

球磨「おぉ~白いパンツとは・・・・スパッツぐらい履くクマよ、女の子なんだから」

吹雪「ひっ・・・・・」

夕立「吹雪ちゃんを離せぇ!!!」ブンッ

球磨「おっとっと・・・・若いクマねぇ・・・・・」

夕立「大丈夫っぽい?」

吹雪「ありがとう・・・・・」

球磨「さて・・・・・加賀も退いたし、球磨もぼちぼち退くクマよー」トコトコ

夕立「・・・・・」

吹雪「・・・・・」

球磨「うむ、誰が強いかわかるというのは、生きるためには必須クマ」

球磨「精進するクマよー」ステステ

夕立「・・・・・ぷはぁ・・・・・あいつでたらめっぽい…」

吹雪「さすが横須賀の1人艦隊・・・・・」




516 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/06/11 18:11:08.27 KXlUfX0o0 167/289


木曾「はっ!てあぁ!!」ガギン

伊勢「くっ・・・・・ちょこまかと!!」ギリギリ

木曾「ほらぁ!足がお留守だぜぇ!」ゲシィ

伊勢「ぐぅ・・・・・貴様!その剣はお飾りか!!」

伊勢の剣術はまさしく演武を実践に昇華したかのような
そんな美しさがあった
抜刀から上段、振り上げ、袈裟に至るまで何度も何度も練習を重ねた、美しい一撃の数々
そしてそれらは彼女の地力も相まって凄まじい威力となる
まさに剛の太刀

対して木曾の剣術はでたらめそのもの
上段切りが来るかと思えば蹴りが来る
距離をとったかと思えば足元の石を投げつけてくる
まるで喧嘩のような、ただ勝利だけを求める剣術
柔の太刀ならぬ獣の太刀

しかしそんな木曾の戦いぶりは伊勢には有効であった
伊勢も歴戦の強者である、決して彼女が弱い訳ではない
むしろ単純な強さだけであれば伊勢に軍配が上がる
では何故木曾が優勢なのか?

木曾「ほら!こいよっ!」クルリ

伊勢「さっきから背中ばっか見せやがって!!正々堂々と闘え!!」ダダダ

木曾「そうかよ!」ズザァ

伊勢「!!!」

伊勢「くそっ!!・・・・目が・・・・」

走り出した木曾を追いかけた伊勢
しかし木曾は瞬時に振り返り砂を蹴り上げる
蹴り上げた砂は伊勢の顔にかかる

木曾「らぁ!!」ブォン

伊勢「!!」ゴロン

木曾「ちぃっ・・・・・」

伊勢「ハァ・・・・・ハァ・・・・フゥー」

木曾の挑発やそのペースに乗ってしまった
彼女の土俵で戦ってしまった、それこそが伊勢の劣勢の原因だった

伊勢「加賀が退いたか・・・・・」

木曾「どうした!?もう終わりか?」

伊勢「・・・・そのようだな」

木曾「そうかよ」チンッ

伊勢「・・・・・なんだ?追わんのか?」

木曾「敗走兵は追わねぇ、勝負は決した」

伊勢「・・・・次は殺す」

木曾「あぁ、楽しみにしておくよ」

不吉な言葉を残し、伊勢は走り去った

木曾「ふぅ・・・・他の奴等は大丈夫かね・・・・」



517 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/06/11 19:01:59.37 KXlUfX0o0 168/289


二人は森の中で互いに互いの位置を探り合うという静かな戦闘を行っていた
赤城は三回
菊月は二回
互いが自らの獲物を使った回数だ
菊月に至っては最初に赤城の注意を引く時のみにしか使ってはいない
そこからは死のかくれんぼ
暗い暗い森の中で

赤城(加賀さんと伊勢さんが退いた・・・・ここが引き際か・・・・・)

味方が次々へと撤退する中、彼女も撤退を始めようとしていた
しかし一向に菊月が見つからない
このままでは敵に背中を見せてしまう、それは避けたい
何とかしてこの状況を打開せねば
策を練ろうとした瞬間だった

菊月「動くなよ」ゴツ

赤城「!」

後頭部に固く細いものが当てられた
間違いない、彼女の小銃だ

菊月「殺し合いの最中に考え事か?」

赤城「・・・・あなたから何とか逃げようと必死なんですよ」

菊月「なるほど・・・・安心しろ、逃がしてやる」

赤城「え?」

菊月「振り向くな、そのまま海岸まで進め・・・・」

赤城「・・・・・何故・・・・・ですか?」

菊月「横須賀には職場斡旋の件について借りがある、だからお前は殺さない」

赤城「ならばなおさら・・・・何故私たちにそれを向けるのですか?」

菊月「死神にも借りがある、それだけだ」

赤城「・・・・奴は味方に手をあげるような奴ですよ?そいつの借りの方が大きいというのですか…」

菊月「善悪はどうでもいい、問題は筋だ」

菊月「死神の借りの延長線上にお前らへの借りがある」

菊月「そいつらが争えば、先に借りていた奴を助けるというのが道理じゃないか?」

菊月「覚えておけ、お前が今日生き延びたのは死神の挺身ゆえであるという事を・・・・・」

菊月「ギリギリで奴は私を救った・・・・ともすれば私は、憎しみでお前を殺していたかもしれないのだからな」

赤城「にく・・・・しみ?」

菊月「まともな司令官の下で幸せか?」

赤城「・・戦争中にそんなこと・・・・」

菊月「だが事実だ、薬指のそれはまさに象徴じゃないか」

菊月「さぁ早く行け、私の気が変わる前に」

赤城「・・・・・」

まだ何か言いたげな顔で赤城は去る

菊月「・・・・・」スッ

菊月「さて死神よ・・・・あと何度助ければ、この借りは返せる?」

菊月「いっそこのまま連れ去ってくれれば・・・・」

菊月「手間が省けるのだがな・・・・」


524 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/06/13 14:57:03.90 fKbUNvC/0 169/289


長門「・・・・」

武蔵「・・・・」

他の艦娘が懸命に闘っている中、この二人はただ向かい合って立っていただけだった
腕を組み、じっと相手を睨み付ける

長門「お仲間が続々と撤退しているようだが?」

武蔵「そうだな、では私も去るとしよう・・・・と言いたいところだが」

長門「勘繰りはよせ、無粋な真似は嫌いなのだ」

武蔵「ふふ・・・・・武人だな」

長門「かくありたいと常々願っているよ」

そう言って自嘲気味に笑う長門

武蔵「上手くいってはいないようだな?」

長門「わかるか?愛と武は両立しないのだ、こればかりは時代が私に追いついていないというべきか・・・・」

長門「片方を極めんとすれば片方が遠のくのだ・・・・」

武蔵「何を言う、両立してこそ真の武人であろう?」

長門「言うではないか、では貴様に問おう」

長門「真の武人とはなんたるや?」

武蔵「決まっている、この武蔵こそが武人で武人とは武蔵である」

武蔵「故に武人を目指すというのであればこの武蔵を手本とすればよい」

長門「ほぅ・・・・つまり貴様は愛と武を両立していると?」

武蔵「否、私であれば両立はたやすいという事だ、故に武蔵を手本とすればいずれ両立できるだろう」

長門「この長門が貴様に劣ると?」

武蔵「然り、貴様は先ほどから愛だ武だと・・・・小さい!小さい!」

そう言ってたかだたと笑う武蔵

武蔵「すなわち、武人とは!」

武蔵「自らが武人であるという事を信じて疑わぬ者こそが武人なのだ!」

武蔵「愛も武も極めることが不可能だと思う貴様に、この武蔵が劣るわけがなかろう?」

武蔵「相反すると判断した二つでさえも受け止め、極めんとする度量を持て・・・・」

武蔵「さすれば、道は自然と開かれるだろうよ」

長門「・・・・」

長門「私もまだまだ未熟者だな・・・・」

長門「この長門は無意識のうちに限界を作っていたという事か」

武蔵「精々精進しろ」

そう告げて去る武蔵

長門「あぁ・・・・だが次は・・・・」

長門「この長門が笑う番だ」

武蔵「・・・・ぬかせ」






525 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/06/13 15:15:05.34 fKbUNvC/0 170/289



そこは燃え盛る一つの家屋
非凡な医者の平凡な家庭

昨日までは


「父さん!母さん!」

「チッ・・・・即死だ・・・・」

「そう言えば――・・・・・は?」

「――!!」

「――どこだ!返事をしてくれ」

「――」

「――!!諦めるな!大丈夫!」

「――」

「――――!!」

「おい・・・・何を!!・・・・・おい!!!」

526 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/06/13 15:31:18.02 fKbUNvC/0 171/289


中尉「・・・・」

まただ、またこの夢だ
最近このような夢ばかりを見る・・・・
これは暗に僕の後悔を形にしているのだろうか?

起き上がると前と同じ痛み
そうだ・・・・僕は撃たれたのだ
横を見ると寝息を立てる少女・・・・
僕を看病していてくれたのだろうか?
なんにしてもありがたいことだ



安価直下

長門、木曾、吹雪、睦月、夕立、菊月、叢雲

いずれか一人を選んで
誰かを選んだからってエンドが変わるとかじゃないから軽い気持ちでお好きな艦娘を

529 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/06/13 16:42:28.18 fKbUNvC/0 172/289


菊月「・・・・」

俗にいう女の子座りで眠る彼女
とても静かな寝息
というかコイツ息しているのか?
いやそういう事じゃない、何故こいつがここにいる?
コイツはもう平和な鎮守府に行ったはずじゃ?

ふと彼女の髪を撫でる
さらさらと柔らかい手触り
白く滑らかなそれはまるでシルクのような・・・・

菊月「・・・・何時まで触っているつもりだ?」

中尉「なんだ起きていたのか」

菊月「あれだけワシャワシャと撫でられれば犬も起きるぞ」

中尉「そうか、それはすまなかったな」

菊月「いや・・・・別に気にはしていない」

少しの間が空く
菊月も気恥ずかしかったのだろう
顔を背け明後日を見ている
そんな空気を打破するために僕は自ら話し始める

中尉「何故ここに?」

菊月「貴方の鎮守府を訪問したら南西に向かっていることを知った」

菊月「私とあなたの下にいた飛龍は今、とある場所の密偵をしている」

菊月「そのことから今回のいさかいを想像した私は、貴方の部下に同行してここに来た」

菊月「それが今回の経緯だ」

中尉「そうか・・・・世話をかけたな」

菊月「気にするな・・・・あなたには返しきれないほどの借りがある」

彼女の借りというのは、以前彼女を助けた時のものであろう

中尉「あれは仕事だ」

菊月「あなたが私を助けたことは事実だ」

中尉「それは過程であって目的ではない」

菊月「それでも私は感謝している」

菊月「恩を感じているんだ・・・・深く・・・・深くな・・・・」

そんな事を言いながら四つん這いで近寄り
彼女は布団に寝て居た僕の太ももの上に乗った
僕の肩を掴んで、顔を近付ける

中尉「よせ・・・・」

そう言って右腕で彼女を拒否しようとする
しかしそれは叶わぬ事であった
片腕には力が入らず、足も動かない
対して彼女に目立った外傷はない
僕は彼女に簡単に押し倒される
優しく、柔らかくだ
右手は彼女の左手に簡単に制圧され頭の上に置かれる
そして指も絡ませられた
垂れ下がる彼女の長い銀髪が、顔付近の情事を隠す
それほどに僕と彼女の距離は近づいていた

菊月「望むなら・・・・全て受け入れよう」



530 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/06/13 16:43:55.69 fKbUNvC/0 173/289


そう言って僕の瞳を見つめながら、左手で僕の胸を撫でる彼女
僕が首を縦に振るまで手は出さない
誠実な彼女らしい
だがしかしその息はどことなく荒い
心なしか頬も赤い

そう言えば聞いたことがある
人間は命の危機に陥ると子孫を残すために発情するらしい
僕がそんなことを考えていると、彼女は耐えきれなかったのか
あろうことか僕の首筋に舌を這わせる

中尉「おい!」

抗議をせんとする僕
しかし僕の言葉は彼女の言葉で制される
彼女は僕の耳元で

―沈黙は肯定だ中尉殿―

ゾクリとした感覚が体を走る
あぁそうだ・・・・
僕は対男との戦闘にはめっぽう自信があるが
体女は経験が無いのだ
こと情事に至っては・・・・
あぁ対男というのは決して男色ではない、殺し合いの事だ
そんな無駄な事を考えている暇など無い
この隙にも彼女は僕を着実に昂らせているのだから

再度抗議を・・・・とも思ったのだが
もはや発する口はそれと同類のものに塞がれ
体感したことも味わったことも無い異物が口の中を這った
不思議と違和感はない
というよりも感じない

もはや今の僕には余裕が無かった
故に今一番大きな欲に流された

そうか・・・・これが脱童貞の電撃戦
僕は見事に陥落させられたというわけだ・・・・

いや訳がわからん

永遠にも思われたこの時間
終わらせたのはやはりあいつであった







545 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/06/14 18:22:37.00 2N3wE8dm0 174/289


若葉「貴様何をしている?」

菊月「・・・・んぅ・・・・・・・・邪魔が入ったな」

若葉「それは失礼、さぁ・・・・中尉から降りろ発情猫め」

中尉「・・・・」クタァ

菊月「別に良いだろ?別段嫌がってもいまい?」

若葉「不快だ」

菊月「ならば出て行け、ついでに耳も塞いでおけ」

菊月「私も声は抑えられんかもしれんのでな」ニタァ

若葉「あぁ?」

菊月「ふん」

中尉「・・・・」クタァ



この後叢雲が助けに来るまで二人は睨み合っていた




546 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/06/14 19:32:25.96 2N3wE8dm0 175/289


叢雲「はぁ・・・・まったく」

若葉「」

菊月「」

中尉「すまん助かった」

叢雲「あんたも抵抗しなさいよね?男でしょ」

中尉「男だから逆らえないものもある」

叢雲「はぁ・・・・呆れた・・・・」

中尉「他の奴等は?」

叢雲「早々に帰っちゃったわ、鎮守府が心配だってね」

中尉「そうか・・・・」

中尉「そう言えば・・・・まどろんだ意識の中で君の声が聞こえた」

中尉「もしかして・・・・助けてくれたのか?」

叢雲「きっと気のせいよ」

叢雲「言ったじゃない、助力しないって」

中尉「そうか・・・・」

中尉「そうだ叢雲、リンゴでも剥いてくれないか?」

叢雲「はぁ?ないわよそんなもん」

叢雲「あぁバナナならあるわよ」

中尉「ならそれを剥いてくれないか?」

叢雲「バナナ位一人で剥きなさいよ」

中尉「なんとなく誰かに甘えたい気分でな」

叢雲「・・・・仕方ないわね」

若葉「若葉も食べたい」

中尉叢雲「!」



こんな調子で、中尉と若葉はその傷が癒えるまで叢雲に甘えた
余談だが菊月と若葉が中尉が動けない事を良い事に
毎晩のように夜這いに来たため、叢雲が幾度も鉄拳を振るったのだがそれは別のお話

549 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/06/14 21:26:53.95 2N3wE8dm0 176/289


中尉「今日で最後か・・・・」モグモグ

若葉「あぁ、この飯が食えなくなるのは嫌だな」モグモグ

叢雲「これで解放されるわ・・・・」

中尉「・・・・菊月は?」

若葉「あいつならもう帰ったぞ」

中尉「そうか」




中尉「さて・・・・飯も食ったところでもう行くか」

若葉「若葉は先に行ってるぞ、達者でな」

叢雲「えぇ、幸運を祈るわ」



叢雲「さぁ・・・・松葉杖は急増だから内地で病院行きなさいよ」

中尉「ありがとう」

中尉「・・・・」

中尉「・・・・叢雲、本当に共に来る気は無いか?」

叢雲「愚問よ、私を支配下に置きたいならもっとマシな口説き文句を用意することね」

中尉「なら最後にひとついいか?とっておきのがあるんだ」

叢雲「聞こうじゃないの」

中尉「僕に沈んでくれ」キリッ

叢雲「失格」

中尉「やっぱりか・・・・」

叢雲「生きてればチャンスは何度もあるわ」

叢雲「それまで死ぬんじゃないわよ?」

中尉「あぁ・・・・また来るよ叢雲、元気でな」

叢雲「さよなら中尉、武運を祈るわ」






叢雲「・・・・久しぶりに気持ちのいい連中だったわね・・・・」

叢雲「あいつらは今回で諦めるのかしら?」

叢雲「それならそれで結構」

叢雲「でも・・・・また来たなら」

叢雲「その時は・・・・」



こうして中尉は南西鎮守府を後にした

叢雲は連れて帰れず、横須賀にも手ひどくやられた中尉

しかし当の叢雲とは友好関係を築く事が出来た

彼女にまた会うその時には

もしかすると

行動を共にするかもしれない



叢雲コンマ 直下 40以上

557 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/06/16 19:34:54.26 TYoQ/9Qq0 177/289


南西鎮守府から帰還して二日
僕は自分の部屋のベッドに横たわっていた
先の戦闘で受けた傷は入院するほどではないが、すぐに治るものというわけでもない
鎮守府運営は大鳳に任せて今は療養というところだ

そんな僕の下に一通の手紙が届いた
あの呉の大将からである
内容は


拝啓四条鎮守府少佐殿

先の私の要請で、手酷い傷を負ったという連絡を受けた。
是非とも見舞って直接話したいと思っていたのだが予想以上に業務が忙しい。
故に失礼ながら手紙で伝えさせてもらおうと思う。
本題だが、君の言っていた深海棲艦を艦娘に戻せるか、あるいは変質させられるかという問い。
それを達成させるための過程を説明する。
まず人はいかに艦娘に昇華されるかという点、これについては、深海棲艦ともども簡潔に説明できる。
三者の違いは血液の類別だけなのだ。といってもA型B型というものではない、それらは完全に別物だ。
人ならA、艦娘ならB、ただ深海棲艦は厳密に言えばB′というように艦娘と非常に酷似した血液タイプなのだが。
まぁそれはいいか。
人は妖精の加護を受けるとその血液タイプがAからBに変質する、理由は日夜研究中だ。
そして艦娘は侵食ウィルスと呼ばれる艦娘だけに感染するウィルスによってB′に変化する。
この侵食ウィルスはガンのようなものでね、艦娘はこれに対する抗体を持っていないし我々も作れていない。
これが血液変質の仮定の仮説だ。

そこで我々はその変質について明らかにするために、それらを混ぜ合わせてみた。
結果A+Bはどのような比率でも等しくBに変化した。
B+B′も同様にB′に変化した。
しかしA+B′だけは違った。
5:5ではB’8:2でもB′、ただ唯一7:3にするとどちらでもないものに変化した。それはCと仮定しよう。

そのCはいわばハーフというべきか。
AがB′を駆逐しながらも共生するように互いの細胞は残った。
互いに駆逐せずにだ。
そしてそのCをB′に5:5で混ぜると、なんとAになったのだ。
まとめると
7A+3B′=C
5C+5B′=A

つまり理論上

人間の血と深海棲艦の血を正しい比率で混ぜたものは。
同様に正しい比率で深海棲艦の血と混ぜると。
深海棲艦の血を人間のものに変質させることができるものになるという事だ。

しかしここで問題が起こった。
Cは冷蔵、常温、密封、如何なる環境にも適応しないのだ。
つまり大量生産ができないのだ、少しづつCを混ぜてもCの中のAがB′に駆逐されてしまう。
唯一残った方法は人体。

そこで我々は禁忌ともいえる実験方法を考えた。
以下に記す。

1、人間と深海棲艦を用意する。
2、人間の血を3割抜いて深海棲艦のそれを3割入れて、Cを体内で生成する。
3、そうしてできたCを5割抜いて深海棲艦に入れる。

これを我々は猿で実験した。
結果8割は2の段階で拒絶反応を起こして即死。
1.8割は3の段階で失血死。
残りはCを作れたものの、深海棲艦のような容姿に変化し、狂暴化した

次に深海棲艦の方に人間の血を入れてみた。
理論上は生成できるはずだからな。
だが再び取り出したモノはCなどでは無かった。

結論
侵食ウィルスのワクチンに成り得るCは人体を用いることで生成が可能。
しかし生成の確率は2%、その被験者の生存もほぼ絶望的で。
生存後も元の生活に戻ることは困難。
採算が取れず人権も軽視したこのワクチンを普及することは困難。

これが君の問いに対する答えになれば幸いだ。
伝えたいことは以上だ、早く職務に復帰できるように祈っているよ。

敬具


呉大将

568 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/06/17 16:12:48.67 uQIsfdA20 178/289


中尉「・・・・」

不可能ではない、それがわかっただけでも十分だ
それよりもまずはお礼の手紙を書かなければな
任務に失敗し本来罰せられるはずなのに、奴は僕に借りを作らせた
いずれ返さねば・・・・

中尉「大鳳!済まないが便箋とペンをとってくれないか?」

中尉「・・・・」

中尉「大鳳?」

呼んでも返事が無い、さては手洗いか?
しかし予想は外れて思いもしない人物がドアから入ってくる

「よう少佐殿、二階級特進とは・・・・まさかお前は幽霊なのか?」

中尉「貴様は・・・・どこから入った中佐殿?」

「今は大佐だよ・・・・よいしょ」

そいつは陸軍時代の同期であり、俺の幼馴染の友

「具合はどうだ?貴様が俺との約束をすっぽかすから俺が来てやったぞ」

中尉「すまなかったな、この通り今は俺の方が治療が必要なんだ」

「その通りだな、で?診察はするのか?」

中尉「・・・・そうだな、少し質問しようか」

中尉「仕事の方では支障はないか?」

「おう、昇進もしたし、妻が祝ってくれたよ」

中尉「そうか・・・・彼女はどうだ?元気か?」

「あの火事の後遺症は酷くてな・・・・今もよくうなされているよ」

中尉「普段の生活でも支障は?」

「いや、特に無いな」

中尉「ならいい、これで質問は終了だ」

「ならば帰るぞ、お前も元気そうだしな」

中尉「あぁ・・・・」

「そうだ、今度俺の昇進祝いのダンスパーティーをやるんだ」

「お前もよかったら来てくれよ、踊れなくてもかまわないからよ」

中尉「いやs友「俺は何も気にしないからよ!」

中尉「・・・・わかった」

「じゃあな!」

中尉「あぁ」

そういって出ていく彼
入れ違いに雷が部屋に入ってくる

「失礼するわ、やっぱり通して大丈夫だったみたいね」

中尉「君が通したのか」

「陸軍大佐を門前払って司令官がにらまれたら困るもの!」

中尉「そうか、気を聞かせてくれてありがとうな」ワシャワシャ

「えへへ・・・・司令官の為だもの!」

頭を撫でてやると嬉しそうに目を細める


569 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/06/17 16:35:18.51 uQIsfdA20 179/289


「そう言えばあの陸軍さんは結婚してるのね、中尉は・・・・その・・・・」モニョモニョ

中尉「・・・・そうだな、彼は・・・・結婚していた」

「・・・・していた?」

中尉「あぁ・・・・彼の妻は、もういないんだ」

「なら・・・・陸軍さんが言っていたことは嘘なの?」

中尉「いや、嘘ではないんだ」

中尉「彼は病気なんだ、深い深い愛情が原因で・・・・彼の妻は死してなお彼の前に現れるのだ」

「・・・・お化け?」

中尉「いいや・・・・僕にも君にも見えない、彼にしか見えないんだ」

「愛する人が死んでも・・・・見える病気・・・・」

「・・・・でもそれって、とっても幸せなことだわ」

中尉「幸せ?」

雷は両手で中尉の手を包み込むように掴む
そしてそれをぎゅっと抱きしめた

「例えば・・・・司令官が死んじゃったら、私は悲しいわ」

「体の中の涙が・・・・きっと全部出ちゃうと思うの」

「それでね?雷は司令官が大好きだからきっとその病気にかかると思う」

「どんなに辛くても苦しくても・・・・死んじゃいたいほど悲しいことがあっても」

「司令官が私の前に現れてくれるなら、私は絶対に前に進めるの!」

「だから幸せなの!絶対よ?」

中尉「雷・・・・」

「きっと陸軍さんもその病気にかかって幸せだと思うの・・・・だから・・・・」

「だから・・・・泣かないで・・・・」

中尉「何を?僕は泣いてなんかいないが」

「私にはわかるわ・・・・少ない時間だけど、ずっと司令官を見ていたもの」

「今の司令官は・・・・泣いてるのよ、でも・・・・泣けない」

中尉「・・・・まぁそういう事にしておこう」

「えぇ・・・・でも死ぬなら私も一緒よ?」

中尉「バカを言うんじゃない・・・・ところで雷、一つ聞きたいことがあるんだが?」

「なに?」

中尉「実はデートの約束なんだが・・・・行先は動物園でよかったかな?」

「まぁ!覚えていてくれたのね!嬉しいわ!」

「私は動物園に行きたいって言ったじゃない!」

中尉「そうか・・・・よかったよ、あぁ・・・・すまないが水を持ってきてくれないか?」

「わかったわ!少し待っててね!」タタタタタ

中尉「・・・・」

570 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/06/17 16:47:54.52 uQIsfdA20 180/289


コンコン

中尉「どうぞ」

夕立「失礼するっぽい!」

ノックの後に入ってきたのは、おぼんを持つ夕立

中尉「どうした?水なんか持って」

夕立「廊下で雷に頼まれたっぽい!」

中尉「そうか・・・・ところで夕立」

夕立「ぽい?」

中尉「今日の第六駆逐隊の予定はわかるか?」

夕立「んー?夕立と睦月ちゃん以外は沖で演習ちゅ・・・・ぽい?」

中尉「化かされたな夕立、そのコップの水には絶対に手を付けるなよ」

中尉「ここに置いていけ」

夕立「え?あの雷ちゃんは誰っぽい?」

中尉「雷っぽい何かだろうな」













「ふふふ・・・・・ふふふふふふふ・・・・」

「・・・・おい海の死神、奴は殺すなよ」

「大丈夫です、陸さんの死神さんはあの程度では死にません・・・・」

「きっと気付いてましたよ?ふふふ・・・・」

「それはそうだ・・・・奴は基本的に人を信用しないからな」

「そもそも人を愛するという感情は奴には無い」

「あれば・・・・」




「奴は俺の妻を殺していない」


571 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/06/17 17:10:25.32 uQIsfdA20 181/289


呉大将「彼に手紙を書いた理由ですか?」

「えぇ・・・・何を書きましたか?」

呉大将「・・・・あなたに言う必要はありませんね・・・・」

「まぁいいでしょう・・・・では先の件について」

「横須賀の大将を殺せなかったのは、貴方にも失態があるのでは?」

呉大将「研究者にこれ以上どうしろと・・・・」

「責任は取ってもらいましょうか・・・・」

「その指を一本いただきましょう」

「若葉さん」

若葉「・・・・」ガシッ

呉大将「貴様!何を!!ムグッ!!!んぐううううううううぅぅぅうぅぅぅぅ!!!!」ベキッ

呉大将「!!!???!」

「・・・・ご家族を同じような目に合わせたくなければ、賢く振る舞う事をおすすめします」

呉大将「ぐぐっ・・・・外道め・・・・・」

「外道で結構、では失礼します」

「行きましょう若葉さん」

若葉「・・・・」スタスタ





「さぁ行きましょう・・・・雪風ちゃんと友さんが待っています」

若葉「・・・・」

若葉「もう一度聞くぞ?」

「わかっていますとも・・・・どのような事態になろうとも彼は死なせません」

「しかし・・・・何故そこまで彼にこだわりを?」

若葉「詮索するな、若葉とて貴様の目的を知れど動機は詮索していない」

「私は言ってもいいんですが・・・・まぁいいでしょう」

「お約束します、彼は生かします」

「例えどんな結末を迎えようと・・・・







「この大鳳の名にかけて」







581 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/06/19 00:04:51.15 jtYzbuVv0 182/289


偽雷の持ってきた水
それを明石に調べさせた結果、ヒ素が混入されていた
気付かすに飲んでいたらと思うと、体が震える

そんなことも今は昔、もう二か月も前だ
僕は今、暁を伴い友の出世祝いの席に赴いていた
友は二人きりで話したいのか、妻がいると言って暁をテラスに移動させる
暁には説明していない、しかしまぁ子供がうろついていたらどこかの淑女が声をかけてくれるだろう
連れ去られるという事は考えにくかった
観察すればいたるところに警備がいる
友が裏で手を回しているなどが無ければ誘拐などは無理だろう
なんてことを考えていると、友がワインを片手に向かいに座る

「さて・・・・どこから話せば良いか・・・・」

中尉「離しにくいなら結論から頼む、聞きたいことを僕が質問しよう」

「そうか、助かるよ」

グラスに口を付けてワインを飲み込む

「実は・・・・大陸に進出していた陸軍が、戻ってくる」

中尉「陸軍が?何故?」

「資源確保の為に、東南アジアを本格的に独立させようという腹だ」

中尉「・・・・そうか」

中尉「・・・・聞きたいことは山ほどあるが、我が国と陸軍について過去と現状を確認しようか」

「うむ、意見の相違があるかもしれんしな」

1941年、米から日本へ対する中国大陸、仏印からの全面撤退と、日独伊三国同盟の解消などを条件としたハル・ノートが提示された
それを良しとしなかった時の内閣は、御前会議において開戦を決定した
そしてマレー作戦を皮切りに米英との大東亜戦争が始まった
真珠湾攻撃、マレー沖海戦で大勝利を収めた我が軍は
マレー半島、フィリピン、シンガポールで米英に対し圧倒的な優性で戦局を進めた

しかし1942年珊瑚海海戦の事だ
そこで奇妙なことが起こった
日米両軍の空母機動部隊が互いに第三者に攻撃を受けたのだ
その時の両軍は、勿論敵にやられたと錯覚した
それからだ、両軍の部隊がたびたび謎の攻撃を受けるようになったのは

しかしそれも特に問題にはならず、時は過ぎた
しかし時が過ぎるほどに我が国は劣勢を強いられた
国力の差ともいうべきか・・・・
ミッドウェー、ガダルカナル、ソロモン、アッツ、ニューギニアで大敗したことにより、戦局は一気に米英に傾いた
さらにインパール作戦、マリアナ沖海戦、レイテ沖海戦で敗北し、いよいよ我が国は追い詰められた

しかし、ここで奴等が現れたのだ
そう・・・・深海棲艦だ
奴等は太平洋に展開する米の海軍を次々と攻撃した

人くらいの大きさで軍艦並みの攻撃力を持つ奴等に、為す術が無かった米軍はすぐさま撤退を開始した
戦力の差というよりも、兵が怯えきって戦えなかったのだ
当然だろう、奴等は人くらいの大きさのくせに駆逐艦を沈めた
そして漂流した水平を・・・・食うんだ

そして1945年
米と日本の間で一時的な日米休戦協定が結ばれた

これが25年前に起きた大東亜戦争の始終だ




582 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/06/19 00:05:37.66 jtYzbuVv0 183/289


次に陸軍について
深海棲艦の登場で東南アジアに展開していた陸軍兵は撤退を始める
補給もままならないのでは餓死するだけであったからだ
大陸に進出していた陸軍は度重なる敗走と深海棲艦の出現を機に満州まで一気に後退
満州を取り返さんとする中国に対し徹底抗戦を図っていた

日米の休戦により、大陸に裂ける戦力が大きくなった我が国は
満州の国力をあげようと移民を送り込む
そして今現在も両国との戦争は続いている

中尉「このようなところか・・・・」

「うむ、相違ない」

中尉「でだ、満州国は一つの国としても機能できるほどの国力があるはず」

中尉「それが今になって何故東南アジアなんだ?」

「・・・・」




585 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/06/19 01:15:33.57 jtYzbuVv0 184/289


「・・・・陸軍は欲張りなのさ」

中尉「良く張り?」

「上層部はいまだに先の戦争の敗因は海軍にあると言っている」

「バカな奴等だよ・・・・だがそれは建前だ」

「欲しいのさ、艦娘が」

「艦娘を自分たちの指揮下に置いて、シーレーンを確保した上で・・・・東南アジアに進出するつもりだ」

中尉「バカを言うな、深海棲艦との戦争は現在も続いているんだぞ?」

「慢心という奴だ、奴等自分たちなら何とかできると本気で信じてるのさ」

「具体的な策など無い・・・・まさに老害という奴だ」

「無駄に歳食って根拠のない自信だけは大きいんだ」

中尉「なら・・・・搦め手か・・・・あるいはもっと直接的な」

「最悪内戦だな・・・・」

中尉「国を潰す気か?」

「かもな」

中尉「・・・・おい」

「冗談だ、そんな顔をするな」

中尉「はぁ・・・・で?何故それを僕に伝えた?」

「そりゃ海軍とのパイプが欲しいからさ」

中尉「僕は少佐だぞ?」

「だが曲がりなりにも鎮守府の提督だ、そいつとパイプがあって言うのは中々武器になるんだ」

「机の上ではよりな」

「それにお前の名前は陸軍でも有名だ、そいつが味方であると・・・・」

「すまん、士気下がるわ」

中尉「・・・・」

「まぁ、本音を言えばつまんない事で死ぬなよっていう友人からの忠告だ」

中尉「・・・・そういう事ならありがたく頂戴しておこう」

中尉「・・・・」チラッ

中尉「そろそろお暇するよ」

「あぁ・・・・おい」

中尉「ん?」

「死ぬんじゃねぇぞ」

中尉「・・・・死ぬものか」


アカツキー


「・・・・」

586 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/06/19 01:21:42.33 jtYzbuVv0 185/289



「・・・・」シュボ プハー

「こっちは手筈通りよ」

「あぁ・・・・ご苦労」

「貴方の台本通りに話して、ブローチも渡したわ」

「そうか」

「あいつに陸軍の事話してヨカッタの?」

「あいつは馬鹿じゃない、いずれ気付く」

「早いか遅いかの話だったから俺から伝えたのさ」

「少しぐらいは信用してほしいからな」

「ふーん・・・・まぁ貴方の思惑なんてどうでもいいんだけど」

「私は私の目的が果たせればイイカラ」

「・・・・ショートの黒髪も似合うじゃないか」

「そう」

「ご苦労さん奥さん、今日はもういいぞ」

「・・・・二度とワタシを奥さんなんて呼ぶな」

「演技は我慢してやる、けれど・・・・」

「私の妻と呼んでいいのは・・・・」









「ヴァルハラにいるあの人だけデス」




593 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/06/20 01:35:45.67 A1h/j8fa0 186/289


中尉「・・・・・・・・」ズズズ

うむ、やはりコーヒーは良い
心が落ち着き、頭もすっきりするからな

友のから聞いた話し、陸軍が内地に帰ってくるという話
確かに実現すれば大問題であるが今は気にすることは無い
それよりも問題なのは

侵食ウィルスに対する抗体をいかにして作り出そうとするかだ
人体実験ともなれば僕の体でいい、しかし死にたくはない
故にどうにかして高すぎる致死率を下げる必要がある
しかし実験をするにしても一人では心もとない
この鎮守府にはいわゆる脳みそ筋肉な奴等しか揃っていないからな
大鳳に手伝ってもらうという手もあるが、彼には鎮守府運営を任せている
これに加えて手伝えというのはあまりに酷であろう

そこで僕はある一人の人間・・・・いや今は艦娘か
そいつを呼んだ
いつか言ったと思うが、本来鎮守府間の異動というのは原則認められていない
今回は・・・・・まぁ、個人的な
酷く個人的な手を使ったのだが・・・・


プリンツ「コーヒーの味はどう?お兄ちゃん?」

中尉「あぁ、とてもおいしい・・・・」

プリンツ「よかったぁ!んふふふふ~」

中尉「その・・・・プリンツ、お兄ちゃんというのは・・・・」

プリンツ「なんでですか?お兄ちゃんはお兄ちゃんじゃないですか?」

中尉「まぁそうなんだが、そうなんだがな・・・・」

大鳳「・・・・お邪魔でしたら私室に戻りましょうか」シラー

中尉「違うんだ大鳳、これは決して僕の趣味ではない、本当だ」

大鳳「では失礼します」

中尉「あぁ!大鳳!待つんだ!せめて誤解を!!」

プリンツ「・・・・もしかして、私は邪魔ですか?」ジワッ

中尉「いやっ!そうでもなくて・・・・はぁ・・・・」

若干後悔をしている・・・・・

596 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/06/20 02:07:50.45 A1h/j8fa0 187/289


プリンツ・オイゲンもちろん本名ではない
彼女はドイツのアドミラル・ヒッパー級の艦娘だ
生粋のドイツ人である彼女は、一時帰国をした時に艦娘になるための訓練を受け
日本の鎮守府に国家間艦娘交流の先駆けとして配属された

ではいかにして彼女を呼びよせたか
それを語るには彼女との関係を説明した方が早いだろう

彼女はいわゆる許嫁という奴だ
僕の父親と彼の父親は友人であり
僕と彼女の父は医師として師弟関係にあった
父が亡くなった後、僕はドイツに渡り彼の下で医学を学んでいた
その時、看護師見習いとして共に学んでいたのが彼女だった
彼は僕を大変可愛がり、将来は娘を是非嫁にと言われたのが発端だ
僕は彼女の意志を尊重したうえならと、一応了承した
ここが誤算であった

彼女は乗り気であったのだ
即答だ、あの時は五回ぐらい聞き返した記憶がある
つまり僕たちは、将来婚姻関係を結ぶ誓いを立てた相手であると言える
下衆かもしれないが、僕はその関係性を利用した

艦娘取扱規定にはこのような記述がある

『提督と艦娘が人間時に婚姻、あるいは許嫁として両人が認知・合意していた場合に限り
 正当な手続きを踏めば艦娘は夫または夫になるものの鎮守府に異動することができる。
 しかし婚姻の際には戸籍、許嫁の際には艦娘側への親の確認を必要とする』

これを使い、彼女を呼びよせたというわけだ
お兄ちゃんという呼び方は、ドイツにいた頃の名残である
あるが、僕たち以外はそれを知らない

中尉「・・・・そのな?みんなには僕たちの関係は言ってないだろ?」

プリンツ「だからお兄ちゃんはお兄ちゃんでいいじゃないですかー!」

プリンツ「もー!意味わかんないよ!」

中尉「違うんだ、そうなんだがそうじゃないんだ・・・・」

中尉「こうな?僕が君にお兄ちゃんと呼ばせてるのではと皆が邪推するのだ」

プリンツ「じゃー・すい?」

中尉「・・・・君に無理矢理お兄ちゃんと呼ばせているのではと思われるのだ」

プリンツ「私は私の意志でお兄ちゃんて呼んでるんだよ?」

中尉「・・・・もういいや」

プリンツ「どうしたんですか?天気もいいんですから元気だしましょー!!」

中尉「はぁ・・・・」

彼女は頭脳明晰・眉目秀麗と文句の付けどころのない
大変すばらしい女性なのだが
その・・・・
若干アホの娘というか、確かにそういうところも彼女の魅力だ
魅力なのだが・・・・


605 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/06/21 20:47:25.31 wPQBRzAm0 188/289


中尉「はぁ・・・・」

プリンツ「?」

こうなってしまっては話が進まない
そうだよな・・・・・許嫁というのも真実、彼女の兄代わりであったことも真実
彼女が艦娘取扱規定の異動の項による特例を使ってこの鎮守府に来たというのを、他の人間には隠せ
それならば彼女は僕を兄と呼ぶことを選んだ、それすらもまた強引に変えさせるというのは

中尉「・・・・」チラッ

プリンツ「???」クビカシゲッ
↑そこまで深く考えてはいない

流石にやり過ぎか・・・・」

中尉「呼び方についてはもういい・・・・今回呼んだのはこれについてだ」

僕は呉大将から届いた手紙を彼女に渡す

プリンツ「・・・・・へぇ」

中尉「僕はその抗体を作りたいんだが、何か手は無いだろうか?」

プリンツ「ふむふむ」

ひとしきり読み終えたのか、手紙を机に置いて彼女は腕を組む
首を横に傾げ右下を見つめる
この格好は彼女が真面目に物事を考えるときに取る恰好だ

プリンツ「・・・・A+B′は 唯一7:3にするとどちらでもないものに変化した」

プリンツ「なら9.9:0.1とか・・・・そう言うのはどうですか?」

プリンツ「ほら、少量の毒から慣れて行けばいずれ体に抗体ができるっていうじゃないですか?」

中尉「しかし手紙にはその比率が、唯一Cに変化する道であると書いてあるが?」

プリンツ「めー、確かめてみないとわかりませんよ」

プリンツ「1ℓの血の中にたった一滴でも深海棲艦の血が勝つんでしょうか?」

プリンツ「そもそもこのウィルスの感染経路というのはどこからですか?」

中尉「話では・・・・研究中だと」

プリンツ「なるほど、でもそれはお兄ちゃんが実験をやらない理由にはなりません」

プリンツ「はっぽーさいなのはわかります」

プリンツ「でも少なくとも人には何かをトリガーにして抗体を作る事が出来る」

プリンツ「それは十分に実験の動機に成り得ます」

プリンツ「さぁ!そうと決まればまずは深海棲艦を捕まえましょう!!腕がなりますよー!!」

中尉「・・・・」ファイヤーファイター

押しが強いな、思い返してみれば彼女の行動を阻止で来たことは一度も無かったな・・・・

中尉「深海棲艦の血ならすぐに手に入るだろう」

プリンツ「え?鹵獲してあるんですか?」

中尉「まぁな」





606 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/06/21 21:28:12.91 wPQBRzAm0 189/289


「最近暇ね・・・・暁以外」パチッ

「良い事じゃないか、平和という事だ・・・・・暁は訓練に明け暮れているが」パチッ

「訓練ばかりじゃ萎えるのです・・・はいリーチ」パチン

春雨「チッ」

「・・・・」ニヤッ

春雨(ここは流れに身を任せる・・・・)パチ

(腕を上げたわね・・・・)パチン

(まだだ・・・・まだ振り込まない・・・・)パチン

「ツモ!チンイツトイトイサンアンコウサンカンツアカイチリンシャンカイホウ!!」パチーン

「ブッ!!!」

「は?」

春雨「うそだ!!!」

「はい私の勝ちー♪全部貰って行くわねー」ガサガサ

「」

「えっ?マジ?」

ガラッ ハイルゾ

春雨「くそっ・・・・これが横須賀の雀鬼・・・・」

「これで司令官に美味しいお肉買おっと♪」

春雨「お願い!それをとられたらもうお金が無いの!!見逃してください!!」

「麻雀は余興や遊びじゃないのよ・・・・」

春雨「なんでも・・・・しますからぁ・・・・」

春雨「体でもなんでも売りますからぁ・・・・」

中尉「なるほど、なら俺が買おうか」ヒャイ

春雨「くぅ・・・・初めてなのに・・・・」

「・・・・ん?」

「あら?」

春雨「ふぇ?」

中尉「じゃ」




「いやああぁぁぁぁダメなのですぅぅぅぅぅ!!」ドンドンドン

「あれ?開かないわ!しれーかん!愛人は二人までだからね!!聞こえてるの!!」

「」



春雨「・・・・あの・・・・」

中尉「悪いようにはしない」

中尉「ちょっと血を抜くだけだ」

春雨「」

春雨「いやぁぁ!!やめろぉぉぉ!!死にたくなーい!!!!!」







607 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/06/21 21:39:04.76 wPQBRzAm0 190/289


中尉「連れて来たぞ」ドサッ

春雨「グエッ」

プリンツ「じゃあベルトで椅子に固定してください」

中尉「あいよ」カチャカチャ

春雨「ななな・・・・」

プリンツ「はーい♪すぐ終わるからねー」

春雨「あわわわわわわ・・・・・」ガクガクブルブル

プリンツ「大丈夫よ・・・・我がドイツの医学薬学は世界一だからー」

プリンツ「そして私は・・・・・世界一の看護師なんです!!」チュウシャビシィィ

中尉「春雨・・・・」

春雨「お願い・・・・やめて…」

中尉「人間の偉大さは、恐怖に耐える誇り高き姿にあるのだ」

春雨「」

プリンツ「あ、墜ちた」

プリンツ「こーつごーこーつごー♪」チクッ チュウウウウゥゥゥウゥゥ







中尉「深海棲艦の血は青いのだな」

プリンツ「それに冷たいんですね・・・・」

春雨「」

617 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/06/22 18:14:14.65 7Dcj2nvm0 191/289


中尉が春雨を拉致して、プリンツと実験を続け
雷電姉妹が提督の不貞を許すまじと走っていた頃


居酒屋鳳翔 横須賀店

大鳳「・・・・おかわり」

龍驤「もうその辺にしとき・・・・鳳翔さん、水一杯頼むわ」

鳳翔「えぇ・・・・」

大鳳「おかわりぃ!」

龍驤「あかん!しまいや!あほんだら!!」

大鳳「うぅ・・・・」

龍驤「昼間っから呼び出して、何かと思えば酒なぞかっ食らってからに・・・・」

龍驤「なんや?なんかあったんと違うか?」

大鳳「うぅぅ・・・・うーうーうー!!!!」ブンブンブンブン

大鳳「ううぅうぅうっぅーーーーーーーーーー!!!!!」ブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンブンドゴブンブンブンブン

龍驤「ちょ!!あかん!!あかんて!!」

龍驤「あかーん!!!」バチーン

大鳳「きゃっ!!」ステン

鳳翔「まぁ!」

龍驤「駄々子みたいに暴れるなあほぉ!!たく・・・・また一人で溜めこんで・・・・」

龍驤「まぁわからんでもない、女性初の海軍士官・・・・おまけに悪名高い陸軍の提督とくらぁ」

龍驤「こりゃストレス溜まるでぇホンマァ」

大鳳「提督・・・・ていとくぅ・・・・・」ポロポロ

大鳳「うっ・・・・ふぎゅ・・・・」

龍驤「あぁもう!!とりあえず鼻かみーや。ほらちーんて」

大鳳「・・・・・ちーんぅ」

龍驤「ドあほ!口で言ってどないすんねん!!」

大鳳「・・・・・」チーン

龍驤「よし・・・・ほら話してみいや、何があったんや?」

大鳳「誰にも言わない?」

龍驤「うちと鳳翔さんはお前の姉代わりみたいなもんや!ぜぇぇったい誰にも言わへん!」

鳳翔「えぇ・・・・どのような話でも・・・・です」

大鳳「ホント?」

龍驤「約束や!ウチが約束やぶったことあったかいな!」

大鳳「・・・・」フルフル

龍驤「そら・・・・いってみぃ」

大鳳「うん・・・・あのね・・・・」


618 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/06/22 18:54:38.69 7Dcj2nvm0 192/289


龍驤「・・・・」

鳳翔「・・・・これはまた」

大鳳「・・・・」プルプル

龍驤「大鳳・・・・なんでウチらに一言いわへんかった?」

大鳳「お・・・・怒って」

龍驤「怒っとる、当然や」

鳳翔「当然です」

大鳳「ぅぅ・・・・」

龍驤「だけど・・・・少し嬉しいわ、お前も立派になったなぁ」ワシワシ

大鳳「ぐすっ・・・・」

鳳翔「陸軍の友さん・・・・どうにも信用できません」

龍驤「まぁ、大鳳はまんまとそいつの口車に乗せられたというところやな」

鳳翔「一度話をまとめましょうか・・・・」

龍驤「そうやな」


四条鎮守府に着任して間もなく、大鳳さんに手紙が届いた
話しがしたいという内容
そして自分ならあなたを大将の位置まで登らせることができると
これに興味を持った大鳳さんは向かった先で友さんと雪風に出会った
そこでこれからの海軍は腐敗の一方で陸軍にいずれ掌握されるかもしれないという話を聞いた
そこで大鳳さんは彼等と協力体制を結んだ
深海棲艦化した春雨ちゃんが四条鎮守府に住み着いた後またしても手紙が届いた
内容は春雨の治療には呉鎮守府の助けが必要だという事
そして四條の提督は呉へ、そして南西へ向かった
大鳳さんは提督さんが療養している隙に呉へ向かい
呉の大将に若葉さんを使って脅しをかけた・・・・


鳳翔「こんなところでしょうか・・・・」

大鳳「はい・・・・」

龍驤「わからんなぁ・・・・自分なんで横須賀の大将に牙を剥くんや?あんなに慕っとったのに」

大鳳「・・・・皆さんも知っていると思いますが・・・・」

大鳳「全国の各鎮守府ではたびたび規律が乱れることがあります、被害者は全て艦娘です」

鳳翔「・・・・提督への全権委譲による悪行ですね」

大鳳「えぇ・・・・私はそれが許せなかった、黙殺される悪が・・・・」

大鳳「・・・・いつか私がのしあがって解決しようと、そう思っていた」

大鳳「でも・・・・事態はそんな悠長なことを言ってはいられなかった」

大鳳「被害者は・・・・雪風ちゃんは壊れていた・・・・春雨ちゃんは手遅れだった・・・・」

鳳翔「・・・・」

大鳳「だから私はあの男の口車に乗った、利用してやろうと思った」

大鳳「提督が南西に行った後、私は飛龍さんに聞いたんです」

大鳳「横須賀の大将は・・・・あの人に汚れ仕事を押し付けていた・・・・」

大鳳「自らの管轄の自らの不手際を他の人間にやらせていた・・・・」

大鳳「こんなの・・・・許されるはずはない・・・・ならば!!」

大鳳「なら!私が正しい方向へ!!持っていく!!他の誰でもない私が!!!」

大鳳「多少強引な手を使ってでも!!多くの業を背負ってでも!!私が!!!」

龍驤「・・・・」




619 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/06/22 19:12:31.93 7Dcj2nvm0 193/289


龍驤「大鳳・・・・つまるところ自分の目指す世界は真っ白な世界っちゅー事か?」

大鳳「そうです。誰もが笑って過ごせる世界です」

龍驤「そらえぇな・・・・ホンマにえぇ世界やと思う・・・・でもな?」

龍驤「仮に・・・・仮にやそんな世界ができたとする」

龍驤「でもどっか狂って悪人が現れた・・・・そいつはどうするんや?お前が殺すと思うか?」

大鳳「当然です、それが私の責務です」

龍驤「ちゃうなぁ、そいつはウチが殺すで」

龍驤「必ず殺す・・・・だってなぁ」

龍驤「うちは自分のそないな悲しそうな顔見たくないもん」

大鳳「!」

龍驤「ええか?お前が幸せを願う人間の数だけ、お前の幸せを願う人間てのはおるんや」

龍驤「多分、その提督さんもその一人やろ、うちがやらんでもそいつがやるで」

鳳翔「なんなら私もやっちゃいます!」

大鳳「鳳翔さん・・・・」

龍驤「なぁ大鳳、誰もが笑って過ごせる世界・・・・その誰もに」

龍驤「君は入っちゃいかんのか?」

大鳳「・・・・私の手は・・・・・」

龍驤「洗えばええやん」

大鳳「でも!私はもう・・・・・」

龍驤「まだや、踏みとどまれる」

龍驤「本当に友君の口車に乗って利用してやろう思たら、自己犠牲はあかんで」

龍驤「うちの為に、うち等の為に働くんや!!」

龍驤「そういう気でいな・・・・視野がせもうなるで?」

大鳳「・・・・・」

龍驤「真っすぐ・・・・どこまでも真っすぐてええやん、美徳やでホンマ」

龍驤「お前のいう事は何一つ間違っちゃない」

龍驤「でも・・・・だからこそ一人で突っ走ったらあかん、善人は利用されるんや」

龍驤「やからな?少しは頼らんとあかんで?」

龍驤「これからはうちらを頼ったらええ、お前が高みを目指すっちゅうなら手ぇ貸したる」

龍驤「もう一人で悩まんでええ・・・・だから」






龍驤「もう泣くなや・・・・可愛い顔が台無しやで・・・・」





620 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/06/22 19:22:38.21 7Dcj2nvm0 194/289



大鳳「・・・・・」スゥスゥ

龍驤「まったく・・・・まだまだうちが付いてなあかんな」

鳳翔「龍驤さん・・・・敵の狙い、どう思われますか?」

龍驤「・・・・まだ何とも言えへんな、情報が足りん」

龍驤「大鳳が協力してから呉大将を脅迫するまでの期間・・・・全てを偶然とするには流石に出来すぎや・・・・」

龍驤「どこか・・・・怪しい所があるはずや・・・・」

鳳翔「・・・・」



1、四条鎮守府に着任して間もなく、大鳳さんに手紙が届いた

2、話しがしたいという内容

3、そして自分ならあなたを大将の位置まで登らせることができると

4、これに興味を持った大鳳さんは向かった先で友さんと雪風に出会った

5、そこでこれからの海軍は腐敗の一方で陸軍にいずれ掌握されるかもしれないという話を聞いた

6、そこで大鳳さんは彼等と協力体制を結んだ

7、深海棲艦化した春雨ちゃんが四条鎮守府に住み着いた後またしても手紙が届いた

8、内容は春雨の治療には呉鎮守府の助けが必要だという事

9、そして四條の提督は呉へ、そして南西へ向かった

10、大鳳さんは提督さんが療養している隙に呉へ向かい

11、呉の大将に若葉さんを使って脅しをかけた・・・・



安価下三つ
怪しい所はどこか

621 : 以下、名... - 2015/06/22 19:24:22.74 pVYVvQOFo 195/289

5

623 : 以下、名... - 2015/06/22 19:33:33.16 BsMHKDHZo 196/289

8

624 : 以下、名... - 2015/06/22 19:36:56.03 UVk/SzuAO 197/289


630 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/06/23 18:22:57.15 enFBl9xE0 198/289


鳳翔「海軍の腐敗とはなんでしょうか…」

龍驤「そりゃあれやろ、不貞をやらかす提督とそれを見過ごす大本営の事を指してるんとちゃうか?」

鳳翔「そうでしょうが・・・・それで陸軍が海軍に勝てるとは思えません」

龍驤「そやなぁ・・・・陸さんも虎視眈々と狙っとる、けども現状の戦力を覆せるわけあらへん」

龍驤「搦め手なら話は別やけどな」

鳳翔「つまりハッタリ・・・・」

龍驤「心理的に揺さぶりをかけた・・・・とちゃうか?」


鳳翔「春雨の治療には呉鎮守府の助けが必要だ・・・・何故呉鎮守府を名指しで?」

龍驤「食の舞鶴開発佐世保、研究呉に武横須賀・・・・ちゅうことやろな」

龍驤「艦娘全般の研究をやっとる呉や、当然敵の研究もやっとるやろうからな」

龍驤「選択肢としては妥当やと思うで」

鳳翔「・・・・もしくは他に呉でなければならない理由があった・・・・」

龍驤「あるかもなぁ」


鳳翔「待ってください・・・・友さんは何故春雨さんが四条にいることを知っていたんでしょうか?」

鳳翔「深海棲艦をかくまったとなれば大問題です、関係者は隠すはず・・・・」

鳳翔「なのに友は春雨ちゃんありきで手紙を送ってきた・・・・」

鳳翔「ということは・・・・」

龍驤「・・・・裏切り者がおる・・・・・」

鳳翔「かもしれません、そしてその可能性が一番高いのは?」

龍驤「死神か?」

鳳翔「えぇ・・・・彼も元陸軍、もしかすると・・・・」

龍驤「次点で電か・・・・いっちゃん最初の発見者や・・・・」

鳳翔「疑えばキリがありませんね・・・・」

龍驤「逆に考えようや、友はそもそも春雨の存在を知っていた・・・・どうや?」

鳳翔「知ったうえで送り込んだ、となれば春雨ちゃんはグル?」

龍驤「もしくは何も知らされていない捨て駒か」

鳳翔「友は・・・・南西に横須賀が向かうのを知ったうえであえて四条に春雨さんを送り込み、死神に呉に行くように誘導した」

鳳翔「情報提供を理由に南西で死神に横須賀を消させる」

鳳翔「空いたポストへ大鳳さんを・・・・どうでしょう?」

龍驤「だとすれば友と呉大将はグル?ならなんで大鳳は呉大将を脅したんや?」

鳳翔「・・・・大鳳さんは初めから蚊帳の外?何かの陽動でしょうか?」

龍驤「そもそもそうだとしたら春雨をどう手懐けたんや?腐っても深海棲艦やろ?」

鳳翔「・・・・」

龍驤「敵さんの目的はもっと単純なのかもなぁ・・・・」

鳳翔「単純ですか、例えば?」

龍驤「そやなぁ・・・・例えば・・・・」

龍驤「嫌がらせ、もしくは本当の目的を隠すための」

龍驤「大がかりな群集劇を大鳳にお膳立てさせたのかもなぁ」

龍驤「主役はまだ暗幕の裏だったりしてなぁ・・・・」

631 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/06/23 18:46:11.27 enFBl9xE0 199/289


「そう言えば先日忍び込んだ艦娘はどうしたんですか?」

「ふふふ・・・・うふふふふふふふふふ」

「話も通じないとは・・・・まぁいい目標数まであと数週間」ガチャ

「・・・・・私です、生産を急がせなさい」

「材料が足りない?なら特別艦娘も充てなさい、構いません」

「これは全て正義です、正義の名の下の行いに罰などありません」








「コレであなたもワタシとイッショデース」

「No problem.....すぐにラクになりますヨ」

「トモダチが増えて・・・・とってもウレシイデース・・・・」

「そんな目をしないデ・・・・カナシイーデス」プスッ


(あぁ・・・・冷たい・・・・)

(ここまでかぁ・・・・ねぇ、傷だらけの死神さん・・・・)

(信じてるよ・・・・救ってくれるって・・・・)

(貴方の手で・・・・もう一度)







コイツラヲナグッテクレルッテ







636 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/06/24 19:17:12.82 yYbG2zjd0 200/289


プリンツ「それじゃあお兄ちゃん、私は部屋に戻るね♪」

中尉「あぁ、今日はありがとうな」

プリンツ「いいですいいです♪」ガチャバタン

プリンツと実験を行ってわかったことがある
彼女の言うとおり極端な比率であれば、人間の血は侵食ウィルスに侵されないという事だ
ゆっくり、ゆっくりではあるが人間の血は徐々に抗体をつくることが可能であるという事だろう
まさか本当にプリンツの言う通りになるとは、やはり優秀だ
これで長い目で見て、春雨の件は解決だな・・・・

コンコン

中尉「どうぞ」

「失礼するのです」

中尉「電か、どうした?」

「これはどういう事なのです?」

彼女はある人物を背負っていた

春雨「」コワレチャウコワレチャウ

中尉「あぁ、彼女は実に役立ってくれた」

「まさか・・・・ここまでするとは思いませんでした・・・・」

「春雨ちゃんは部屋に帰ってくるなり倒れて・・・・うわごとのように壊れるって・・・・」

「司令官さんは・・・人じゃないのですね・・・」

中尉「・・・・さすがに抜き(血液的な意味で)すぎたか?」

「ぬきっ!!(抑えられない性への好奇心的な意味で)」

「変態!獣!えっちなのです!!!」

中尉「意味が分からんな・・・・」

「御飯よー」ガチャ

中尉「あぁ、ご苦労」スクッ

「今日はステーキよ!!」スタスタ

中尉「む?奮発したな?」スタスタ

「あっ!待つのです!話はまだ終わってないのです!!」テコテコ

春雨「」ズルッ

「あぁ・・・・ごめんなのです・・・・」




中尉「あれ?暁はどうした?」

睦月「まだ訓練をしてますよ?」ムグムグ

中尉「何故止めない?」

吹雪「止めましたが、あれは何を言っても聞き入れませんよ・・・・」

「何を焦っているんだろうね、司令官は何か心当たりがあるかい?」

中尉「そう言うのは直接聞くのがいいだろう」ガタッ

「私も行っていいかい?」

中尉「構わん」

「ありがとう」ゴソッ


中尉「何を持っているんだ?」

「みかん」

637 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/06/24 20:02:28.41 yYbG2zjd0 201/289


暗い海面の上、跳ねるように動く者がいた
その者は紫紺の髪を揺らし、胸に白いブローチを付け、手に持つ砲で的を打ち壊す
今だ拙い動き、しかしその目は決して自身の無いもののそれではない

中尉「あかつきー!!」

僕が呼び掛けると彼女は僕に気付き、近づいてくる

「ごきげんよう司令官、どうしたの?」

「もうご飯の時間だよ」

「え?」

中尉「気付かなかったのか?こんなに暗いのに」

「お腹が空いてると思って持ってきた、食べなよ」

「あ、ありがと」

中尉「ならばそのみかんを食べてから行こうか」

「うん!」

中尉(ん?)

中尉はここで気が付く、彼女の胸に輝くカミツレのブローチに
だが彼は特段取り乱すことも、突然追求することも無かった

「んー♪甘酸っぱくておいしいわ!!」

「そうか、それは良かった」

中尉「・・・・なぁ暁、ひとつ聞いてもいいかい?」

中尉は優しく、そして静かな声で聴く
それはまるで幼い子供に道を尋ねるような
敵意も無く、期待も無く、意図があるわけでもなく
ただただ戯れを目的とした、大人の意地悪
彼は彼女が取り乱すことをわかって尋ねる

「ふぇ!!あの!!これは・・・・その・・・・」

中尉「ははっ」

「慌てすぎ」

「うぅ・・・・司令官」

中尉「わかっている、友の奥さんと名乗る人にもらったのだろう?」

「知ってたの?なら・・・・あの夜何があったのかも?」

中尉「僕は神様じゃないからね、詳細なことはわからないよ」

中尉「でも、友が僕に何かしらの揺さぶりをかけていることは知っている」

中尉「生来の付き合いだ・・・・雰囲気でわかるし心当たりもある」

「じゃ・・・・じゃあ過去に置き忘れた思い出っていうのは?」

中尉「それも自称奥さんから?」

「・・・・うん」

中尉「聞きたいのか?」

「ヤー」

中尉「・・・・何故君が返事をする?」

「私たちはあまり貴方の事を知らない、知りたい」

中尉「気持ちのいい話ではないさ・・・・僕が15の時の話だ・・・・・」


638 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/06/24 20:58:49.38 yYbG2zjd0 202/289


僕には二人の友がいた
暁があった友、そしてその恋人の女だ
二人は婚約をしていてね、よく僕に仲人だ赤ん坊を取り上げろだと言ってきていた
それもそうだろう、僕は医者なのだから
彼等との出会いは同じ地区であったというだけであった
勿論他にも子供は大勢いた、でも、この二人といるのが一番楽しかったのだ

しかしいつまでも楽しい時間は続かない
友は軍人としての英才教育を受ける為、僕らと遊ぶことが少なくなった
そんな折に作ったのが・・・・カミツレのブローチだった
彼女はつながりを形に残したかったのだと思う
軍人としての友、医者としての僕
歳をとるたびに会うのは難しくなるだろうからね
まぁ・・・・それも今は叶わないのだがな

あくる日の事だ
女は僕の別荘にとある用事でやってきた
あぁ・・・・あそこだよ、あのお墓があったところだ
彼女の用事も一通り終わり、僕は少し町まで出かけた後だった
放火にあったんだ
からっとした天気で別荘が木造だったこともあって火はすぐに燃え広がった
加えて周りは森だ、一面火の海に囲まれていた
僕は火を抜け、必死に家を目指した
目にしたのは倒壊した一部の家屋に巻き込まれて死んだ両親
そして・・・・身動きの取れない彼女
僕は必死になって彼女を助けようとしたが・・・・僕だけではとても手に負えなかった

心当たりがあると言ったね?
僕はね、彼女を殺したんだ
ほかならぬ僕の手で

僕はじわじわと足が焼け、悲鳴をあげる彼女を見ていられなかった
そして、とっさに持っていた小刀で彼女の胸を・・・・突き刺したんだ

彼は酷く悲しみ・・・・そして壊れた
一時期は本当に幻覚と幻聴に苛まれ、本当にどうしてよいかわからなかった

でもまぁ・・・・彼も今ではだいぶ立ち直ってな・・・・

えっ?なんで小刀を持ち歩いていたかって?
それはね・・・・

「いい加減にしないと冷めちゃうわよー!!」

「あっ!今行くわー!!」

中尉「まぁこんなところか・・・・」

「一つ聞いてもいいかい?」

中尉「ん?」

「話を聞く限り友は司令官を恨んでいる・・・・何故手をうたないのだ?」

中尉「・・・・僕は何があっても彼を受け止めるつもりだし、彼にも僕を恨む理由がある」

中尉「それに・・・・彼は僕のかけがえのない友人だ」

「・・・・わからない、彼は間違っていると思う」

中尉「例え間違っていても、味方でいるのが友人というものだ」

中尉「それがたとえ三文芝居であっても、付き合ってやるのが友情だ」

「じゃあ・・・・例えばその三文芝居で、関係のない人が巻き込まれて死んだらどうする」

「それでも司令官は同じ事が言えるのかい?」

中尉「目の届くところにいたら守ってやれるが、それ以外では自己責任だ」

「それは無責任というのではないのかい?」

中尉「とるべきものが責任、負うべきでないのが責任感、君のは後者だ」

中尉「僕はただの人だ、限度がある」


「いい加減にしないとご飯下げるわよー!!」

中尉「さぁ行こう、冷えてきた」



639 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/06/24 21:00:21.34 yYbG2zjd0 203/289


そう言って彼は去る



「限度がある・・・・か」

「限度があるから、巻き込みたくないから司令官はいつも一人で出かけるのかい?」

「あの深夜、司令官は二輪に跨りどこに行っていたんだい?」

「なぜ、そんなにも怪我が多いんだい?」

「私たちは艦娘、司令官を守るのも仕事だ」

「それなの・・・・何故守らせてくれない?選んでくれない?」

「非常に、非常に不愉快だ・・・・」

「私たちは・・・・守られるだけの人形ではない・・・・」


誇り高き不死鳥の独白は
夜の闇に静かに消えた

647 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/06/25 23:54:20.31 HzbPkcA10 204/289


短編 狂気の果て




雪風「くすんくすん」

「…」

雪風「くすんくすん」

「…どうしたんだい?」

雪風「雪風は泣いているんです」

「どうして泣いているんだい?」

雪風「どうして泣いているのかわからないんです」

「それは困ったね、何か心当たりはあるかい?」

雪風「無いんです」

「事情を知る友達はいるかい?」

雪風「それもわからないんです」

「そうかい…こまったなぁ…」

雪風「くすんくすん」


648 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/06/25 23:55:40.43 HzbPkcA10 205/289


赤城「あら、雪風ちゃん?どうしましたか?」

雪風「雪風が泣いている理由を知りませんか?」

赤城「ん?何か悲しいことでもあったの?」

雪風「それもわからないんです…」

赤城「そっか…きっと不安なのね…」

赤城「みんなーちょっと来てー!」

加賀「どうしたのかしら赤城さん」

飛龍「はーい」

蒼龍「何か御用ですか?」

赤城「雪風ちゃんが不安がってるの」

加賀「そう…心配することは無いわ」

加賀「この戦いは勝利しかないわ、なぜなら私たちがいるからよ」

飛龍「そうだよ!この飛龍様がもついているからね!」

蒼龍「こら!慢心はダメよ!!」

雪風「…」

蒼龍「まだ不安なら…えい!!」ギュッ

雪風「わふ!」

蒼龍「これで怖いことなんて何もないよ!」

蒼龍「ん~雪風ちゃんあったかーい!」

飛龍「あっ!ずるいよ蒼龍!!」

蒼龍「早い者勝ち―!」

加賀「まったく、騒がしいわ…」

赤城「ふふふ…」

赤城「さて…そろそろ戦闘用意です」

蒼龍「うぅ…名残惜しいなぁ」

飛龍「鎮守府に帰ればまた抱きしめられるよ!」

加賀「さぁ…持ち場に戻って」

赤城「第一攻撃隊!発艦はじめ!!」

649 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/06/25 23:56:39.33 HzbPkcA10 206/289


比叡「えへへ…情けない姿になっちゃっいましたね…」

雪風「比叡さん?」

比叡「悪いんですが…二つだけ頼みごとがあるんです、いいですか?」

雪風「あっ、はい」

比叡「金剛お姉さま…榛名に霧島…みんなに愛していると伝えてほしいです」

比叡「そして…どうか最後は味方の手で沈みたい…」

雪風「わかっ・・・」ビービービー

雪風「退避命令?」

比叡「あちゃー無粋だなぁ」

雪風「すみません比叡さん、また戻ってきます」

比叡「はい、待ってますよ」

雪風「…すぐ戻ってきますから」

比叡「大丈夫です!雪風ちゃんが戻るまでは沈みません!」







比叡「まだ…まだ……動ける…」

比叡「お願い…連れて行って…」

比叡「私を……」

比叡「一人にしないで…」

比叡「お姉さま…」

650 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/06/25 23:57:28.60 HzbPkcA10 207/289


時津風「雪風…」

雪風「時津風ちゃん?その怪我…」

時津風「いやぁ…とちったぁとちった…もう動けないわー」

雪風「そんな…一緒に…」

時津風「ゆきかぜーいきのこれーいきのこるのだー」

時津風「いきのこってみんなをまもるのだー」

時津風「時津風のぶんまでいきるのだー」

時津風「なくなよー、ないたらばけてでるからなー」

時津風「だから…もうバイバイ…」







天津風「いいこと雪風、よく聞いて」

雪風「天津風ちゃん…時津風ちゃんが」

天津風「知ってるわ、だから聞いて」

天津風「夜寝る前には必ず歯を磨くこと、夜更かしも駄目よ」

天津風「汗をかいたらお風呂に入って、ご飯もちゃんと食べるのよ?」

雪風「なんで…そんなこと」

天津風「嫌な予感がするのよ…まぁあたらなければいいんだけど…」

天津風「ほら、そんな顔しないの、大丈夫だから…ね?」

雪風「…本当?」

天津風「本当よ?嘘なんてつかないわ」





雪風「…」

雪風「…嘘つき」

651 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/06/25 23:58:27.53 HzbPkcA10 208/289


浦風「なんじゃ雪風?そがいに暗い顔見せんな!」

浦風「だいじょーぶじゃ!うちらは沈まんきん!なぁ浜風!」

浜風「そもそも死神など気にするほどではありません」

浜風「そのような戯言を気にするようでは、貴方が先に沈んでしまいますよ?」

浦風「こりゃ!浜風!おんどれはお高くとまりよってからに!」

浜風「事実よ、彼女は沈まない」

浜風「誰であろうと私が必ず守り抜きます」

浦風「じゃけんな雪風?」

浦風「そがぁ悲しそうな顔すなや…」

磯風「うん?どうした?新入りか?」

浜風「磯風も何か言ってあげて、元気がないの」

磯風「ふむ…雪風」

雪風「…」

磯風「流言を気にするな…というのは難しい」

磯風「故にこの言葉だけ覚えておけ」

磯風「生きることは恥ではない、生き残ることもまた立派な戦いなのだ」

浦風「ん?谷風はどこじゃ?」

磯風「やつめはトイレだ」

浜風「逃げるわよ雪風」

浦風「賛成じゃ」

磯風「おい待て!もう昼飯が出来ているんだぞ!!」

雪風「…ふふ」

浜風「やっと笑ったわね」

浦風「めんこい笑顔じゃねぇ」


652 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/06/25 23:59:47.38 HzbPkcA10 209/289



雪風「…」

雪風「…」



雪風「…思い出しました……」

「ん?そうか…」

雪風「雪風は…悲しくて、辛くて泣いていた」

雪風「駆逐艦として多くの人を守りました…でも…」

雪風「それ以上に多くの味方を守れなかった…」

雪風「それが…辛かった」

「それは仕方がないことだ、君は神ではない」

雪風「なんで…なんで…」

「深海棲艦は強い、そのような状態も起こり得るだろうな」

「理由がわかったところで聞こう…」

「…ここで君はどうする?」

雪風「どうって…」

「ただここで膝を屈して泣き続けるかい?なるほど、それもいいだろう」

「雪風に適応した者は、皆同様にここを去って行った」

「その背負うものに耐え切れずに…だ」

「逃げるか、戦うかは自由…」

「しかし君が見てきた者たちはどうだろうか?」

「膝を屈していたか?死を望んだか?」

「違うな、皆一様に戦った、戦って死んだ」

雪風「死ぬのは…怖いです」

「死が怖いのならここにとどまり膝を抱えるのもいい」

「しかし…それは決して生きているとは言えない」

「生きることもまた戦いだ」

「戦うことも抗うことも放棄した君は決して死なない」

「だが生きない」


653 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/06/26 00:01:51.19 Ti1n7qiB0 210/289


「さぁ決断の時だ」

雪風「雪風は弱いです…」

「ならば強くなればいい」

雪風「もう誰も死なせたくないです…」

「ならば守りぬけ」

雪風「戦えば雪風と同じ思いをする人がいるかも…」

「ならば死ぬな」

「思い出して欲しい…君の足跡を…」

「君はもうそのすべてを持っている」

雪風「…」



「さぁ…決意が出来たらこの手をとってくれ…」

雪風「…雪風は…戦えるでしょうか?」

「それは君の手で確かめるといい…」

雪風「…」

「守り抜け、友を」

「幸運を手繰り寄せろ」

「地べたを這っても、明日が見えずとも、噛り付いてでも」

「願うなら叶えられる…」

「奇跡艦だからでも、不死身だからでもない」

「雪風だから、叶えられるのだ」

「ようこそ、国内初の雪風」

「南西鎮守府の少将だ」

「秘書官の叢雲よ!ほら!駆けつけ一杯!」

「バカ、彼女は未成年だ」

「いいじゃない、今日はお祝いよ!」

「まったく…すまんな雪風」

「いえ…楽しそう…です」

「あら?なかなかわかるじゃない」

「まったく…」




654 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/06/26 00:06:12.26 Ti1n7qiB0 211/289


雪風「…」パチ

雪風「しれぇ…また同じ夢です…」ギュウ

「…」

雪風「しれぇと雪風が初めて会った時の夢です…」

「…」

雪風「みんな…元気かな?」

雪風「でももうすぐ会えますよしれぇ…皆さんはいま陸軍にいるんです」

「…」

雪風「しれぇじゃない司令官がお仕事が終わったらまた会えるって…」

雪風「だから雪風は負けません、戦います」

雪風「決してお膝を曲げません」

雪風「だからしれぇ…みんなが帰ってきたらまた…」

雪風「雪風とお話してくれますか?」




駆逐艦雪風
遠き日を想う

彼女の夢は現実か、あるいは虚構か
そもそも彼女が認識しているのは現実なのか幻想なのか
誰にも理解はできない

ただそれは甘い甘い毒であり
彼女をただ蝕み続ける


彼女は夢から覚めず、今日も夢を見る


腕に抱く人形

本物のそれに抱かれる日まで


663 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/07/06 13:40:34.65 wPEZGzCB0 212/289


夕食を終え、執務室でいっぱいひっかけていた時
彼が帰宅した
その様相はなんというか・・・・とても酷かった
千鳥足で備え付けのソファに飛び込むと、うつぶせのまま変な笑い声をあげて足をバタバタさせる
少しすると黙り込んだ

そうして一言

大鳳「私は・・・・最低な女です・・・・」

中尉「バカを言うな、君は男だろう」

大鳳「れっきとした女の子です・・・・」

中尉「まぁいい・・・・随分とヤケ酒のようだな」

大鳳「・・・・」

大鳳「私は最低なんです・・・・」

中尉「そうか・・・・なにが最低なんだ?」

大鳳「・・・・言いたくないです・・・・・・」

中尉「それにしては随分と聞いてほしそうだが?」

大鳳「聞いてほしいけど、言いたくは無いんです」

中尉「それはつまり…当てて見せろという事か?」

大鳳「正解でも不正解にします」

中尉「なるほど・・・・つまりなんだ、大鳳、君は構って欲しいのか?」

大鳳「・・・・はい」

中尉「・・・・これはあくまで推察だが…」

中尉「誠実な君の事だ、その最低な気持ちというのは近しい人間との問題で自覚したものだろう・・・・」

中尉「恥ずかしがることは無いよ、人の悩みの大体は人間関係と金だからね」

大鳳「知りません」

中尉「相手にとっては・・・・とても矮小な事ではあるが君が気にしすぎているか、もしくは悪事を働いてしまったか・・・・」

中尉「僕としてはそこらへんだと思うが、どうだろうか?」

大鳳「不正解です」

中尉「君はどうにも面倒な性分だな・・・・悩むのであれば行動は控えればいいだろうに・・・・」

大鳳「私がやらなきゃダメなんです・・・・」

中尉「不正解なのでは?」

大鳳「どうせ正解なんてわかりはしないですもん」


665 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/07/06 13:43:39.34 wPEZGzCB0 213/289

中尉「・・・・悪は善の事を知っているが、善は悪の事を知らない」

大鳳「なんですかそれ?」

中尉「カフカの言葉さ・・・・つまりだ」

中尉「君が何を悩んでいるのかはわからないが・・・・確かなことは君が善人であるという事」

中尉「そして僕は悪人であるという事だ」

大鳳「なにそれ、私のやる事なんて透けて見えるという事ですか・・・・」

中尉「すべて見えるわけじゃない、だが君が抱えそうな悩みはある程度絞り込めるという事さ」

大鳳「なら・・・・予想して私に助言をください・・・・」

中尉「そうだな・・・・」

中尉「なんでもやり通せばいいというものではない」

中尉「時には勝負を捨てることも、より大きな勝利の為には必要だ」

大鳳「・・・・そんなの・・・・無様です」

中尉「無様かどうかは自分で決めるといい、なんにせよ僕には君の問題を解決できない」

大鳳「・・・・」

中尉「さぁもう寝ると言い、明日も早いのだから…」

そう促すと、素直に起き上がる彼女
うるんだ目でじっとこちらを見つめる
特に何も言わない、言いたいことがあるなら彼女が言うはずだ

大鳳「もしも…身内に敵がいる、そんな疑いを持ったら」

大鳳「あなたはどうしますか?」

なるほど・・・何が発端かは知らないが疑心暗鬼になっていると見える

中尉「それは僕に人徳がなかった、それだけだ」

大鳳「…処分はしないんですか」

中尉「明らかになれば何らかの処分はするさ」

中尉「ただ…裏切りにはそれ相応の理由があるだろう」

中尉「僕個人としては、それを責める気にはなれないな」

大鳳「おやすみなさい…」

中尉「あぁ、お休み」

その日隣の部屋からすすり泣く声が聞こえた
翌日、彼女は目を赤くして僕の前に現れたが僕は特に言及はしなかった
言及しても無駄だからだ
・・・おっと
“彼は”だ

684 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/07/27 00:54:51.17 0FuduAfa0 214/289


中尉「さて…」スッ

僕は机の引き出しを開け、二つのイヤホンを出す
そのうちの一つを耳に当てた
聞こえてくるのは、少年のころから親しみのあった声
最も信頼し、もっとも疑ったただ一人の親友の声

中尉「…まったく、僕は最低だな」

中尉「何時からこうなってしまったんだろうな…」

そんな愚痴を一人で吐きながら
素早くメモを取っていく

ここで僕は奇妙な事に気が付いた
きっと酔っているからだろう、そんな言い訳もできないほどに奇妙な事だ

そう、僕は今
間違いなく玉砕覚悟の作戦を立てている
まったく酔狂な事だ、そのことに僕は今、たったいま気が付いた
眼前のメモがそれをゆるぎない現実であるという事を告げている

中尉「ははは…まったく、笑い話にもなりやしない」

いや、結局のところ妥当な判断ではないのだろうか?
カフカではないが、僕はいつも死にたがっていた
しかし、着任した当初はここは僕の死に場所ではないと思っていた
故に醜くも生き恥を晒し続けた

だが、今はどうだ?
僕を生に執着させ続けたものは今は無い
何が無いのだ?
違う、あるのだ

それは形あるものではないが、形ある何よりも固いもの
それは饅頭よりも甘く、春の木漏れ日より美しいもの
僕の中で咲き誇り続けるあのカミツレの花に似た感情
僕は確信してしまったのだ
僕が彼女達を心底愛しているという事に

この鎮守府の者達は
間違いなく僕の死を悲しんでくれるという事に

やり方は汚かった
彼女達を傷つけたこともあったろう
そんな回り道を続け、つづけ
僕はやっと確信したのだ


僕が彼女達を慕っているように
彼女達もまた、僕を慕ってくれている



685 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/07/27 01:05:47.73 0FuduAfa0 215/289



よくよく考えればわかりきったことだ
彼女達は南西の鎮守府まで僕を助けに来た

それだけじゃない

僕の力になろうと訓練に励む者
己の無力さをかみしめる者
ドアを破ってまで僕の傍に来ようとするもの

そして…
反目してまで、己が道を突き進む者


はやくに気付けたはずなのに、どうも僕の頭は凝り固まっていたようだ

自覚すると嬉しいものだな
窓に映った顔が酷く気持ち悪いものになっている

686 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/07/27 01:17:09.51 0FuduAfa0 216/289


僕は再度、引き出しを引いてイヤホンとカセットテープを取り出した
プラグを接続して、録音された声を聞いた

「みんなで幸せになれる道が!きっとあるのです!!」
「絶対あるのです!!」
「だから…だから!!!」
「沈んだ敵も!!助けるのです!!!今行くのです!!」


中尉「まったく…甘い奴だ」


「確かに電は貴方の気持ちなんてわからんのです!!」
「でも!泣きたいときに傍にいてあげるくらいの事は出来るのです!」
「悲しいことを分かち合うことはできるのです!!」
「うぅ・・・・でもぉ・・・・・」
「そんなにも怖いですか?また攻撃されるのが?」
「うっ・・・・・なんでそれを・・・・・」
「ケガを見ればわかるのです・・・・」
「そんなにも傷つくのが怖いなら、電の後ろに隠れるのです!」
「電が壁になるのです」
「とにかく生きるのです!」
「・・・・・」グジュ
「生きていれば何かが変わります!でも死んだら終わりです!!」
「答えるのです!生きるのか!本当に死ぬのか!!」
「二つに一つなのです!!」
「・・・・・」
「・・・・私は・・・・・生きたい・・・・・です・・・・」
「・・・・勇気が出るまで、私を守ってください」
「その言葉が聞きたかったのです」


中尉「だが…強く、優しい」


引き出しの中の類似した機器をすべて取り出し
それに酒をかける

中尉「さて…後は」

僕は彼女の部屋の戸を開ける

大鳳「すー…すー…」

深い眠りについたのだろう
彼女は少しも気づかない


中尉「…」

僕はそっと彼女の髪を撫でた

大鳳「ん…」

そして、小さな声で話した

中尉「僕はね、意地悪をしていたんだよ」

中尉「君はあまりにも彼女に似ているから…ついね」

大鳳は答えない
静かに眠っている

中尉「君を責めないのは、知っていたから」

中尉「全部、知っていたからなんだ」

中尉「汚いだろう?許しは請わない」

中尉「よく頑張ったね?辛かっただろう?」

中尉「でももういいんだ、ここから先は僕がやる」

中尉「おやすみ大鳳、せめてものご褒美にこれを置いていくよ」


そうして僕は、彼女の小さな手を開いて贈り物を握らせた


中尉「さよなら大鳳」



その言葉と共に、僕は扉を閉めた

687 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/07/27 01:22:27.82 0FuduAfa0 217/289


執務室にある武器を全て持ち、研究室へ向かう

そして僕は、もう一つのカセットテープを再生する


「あwwwえwwwwwwだwげwwwwwwめwっwけwwwwwww」


中尉「ふっ…」

それはうっとおしくも、嫌でなく
二度とは聞けない奴の声

中尉「待っていろ飛龍…すぐに開放してやる」


僕は最低限の医療キットを手に
鎮守府を出た


693 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/07/27 17:17:37.54 0FuduAfa0 218/289


矛盾に気づいた


その日隣の部屋からすすり泣く声が聞こえた
翌日、彼女は目を赤くして僕の前に現れたが僕は特に言及はしなかった
言及しても無駄だからだ
・・・おっと
“彼は”だ


これは見なかったことにしてくれ
そうすれば合点がいくはず

694 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/07/27 17:44:34.82 0FuduAfa0 219/289


鎮守府を出て少しの所、木々に囲まれた一本道の真ん中
複数の人間が立っているのが見えた
それは懐かしくも憎らしい面々

中尉「これはこれは…」

赤城「…」

加賀「…」

伊勢「…」

武蔵「…」

蒼龍「…」

中尉「なんだ…蒼龍もいるのか、久しぶりじゃないか?」

蒼龍「…死神」

そうつぶやき僕を睨み付ける彼女
その瞳の色を僕はよく知っている
あれは…戦死した部下の家族との顔合わせでよく見た

提督「蒼龍」

蒼龍「…」

彼女を手で制し僕を見据える

提督「こんな夜中にどこへ行かれるのですか?」

中尉「…さぁ」

提督「失礼ながら南西鎮守府の件より、貴方を監視していました」

提督「何故監視されるのか、心当たりは?」

中尉「さぁね」

提督「…最近の事です。陸軍に不穏な動きが見られます」

提督「呉鎮守府周辺に友大佐の中隊が駐屯しているそうです」

提督「彼とは友人だそうで?何か知っているのでは?」

中尉「それも、さぁね」

提督「…どうしても答えないという事ですか」

中尉「そういう事だ、そこを通してもらうよ」

提督「そう言うわけにはいきません」

彼が手をあげると同時に前面の空母たちが小銃を構える
伊勢が刀を抜き放ち、武蔵が拳を作りながら前に出る
それと同時の事
背面に球磨

提督「数で勝ち、相手は艦娘です…痛い目を見たくなければご同行願います」

中尉「そいつはごめんだな…」

提督「正気ですか?勝ち目があるとでも?」

中尉「…南西でのことだ……あんたは言ったな」

中尉「俺の先方は奇襲夜襲だと、それは正解だ」

中尉「では何故俺が死神と呼ばれているか…考えたことはあるか?」

提督「それは貴方が味方殺しを行っているからでしょう」

中尉「ちがう…違うんだよ坊ちゃん」

中尉「一度も考えたことは無かったのか?」

695 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/07/27 18:21:52.71 0FuduAfa0 220/289


中尉「俺が嘘を言っている可能性について」

提督「なに?」

その瞬間、中尉の周りから白煙が上がる
そして鎮守府に向かって中尉は走り抜ける

提督「しまった!!追え!!」






中尉(くそ…奴等にも盗聴器を仕掛けるべきだった)

中尉「だが…構わない、仮定が正しければ…」

中尉「成功するはず」



工廠


中尉「艦種適正の際に…自らが何になるか」

中尉「それは妖精の加護を受けた様々な艤装を装備するという」

中尉「適性が合わなければ艤装は装備できない」

中尉「深海棲艦の血はそもそもが艦娘の血とほぼ同じ」

中尉「人が艦娘になる際に傍にあるのは妖精の加護」

中尉「艦娘が深海棲艦になる際には妖精の加護はすでに受けている」

中尉「人が艦娘に成れるのであれば何故人は深海棲艦に成れない!?」

中尉「過程だ、必要な過程と条件を満たしていなかった」

中尉「深海棲艦化を強引な妖精の加護の剥離と考えればどうだ」

中尉「つまり艦娘と深海棲艦の違いは妖精の加護があるかないか」

中尉「妖精の加護と深海棲艦の毒…それらが同じであれば…」

中尉「足りないのは艤装」

中尉「艤装の定義は妖精の加護とそれらが存在していたか」

中尉「ならば・・・・頼むぞ明石丸!!」


中尉は工廠に置いてある明石丸に乗り込み、首筋に注射器をあてる
そして

中尉「南無三!!」


中の液体を体内に入れる

701 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/08/05 00:50:09.99 amg6zjhd0 221/289


あの時の彼の姿は、そこにいた者は皆忘れられないだろう…

我々が追っていたのは四条鎮守府の少佐のはずであった

だが…我々が次に目にした彼は

人間でも深海棲艦でもない・・・

化物だったんだ






我々は工廠へと向かう中尉を追っていた
先行する球磨と武蔵
それに続く形で赤城、加賀、蒼龍、伊勢、私

提督「武蔵!球磨!殺すんじゃないぞ!!」

武蔵「わかっている!!」

その言葉と共に工廠の扉を吹っ飛ばす武蔵
球磨と共に工廠へ突入

球磨「観念する…く…ま?」

提督「どう…」

赤城「…なんですか…あれは」

ほの暗い工廠の電燈
色あせたそれは照らす景色を橙色に染める
それが一層、目の前の光景を受け入れがたいものへと変えた

中尉「……」

カーキ色の軍服
…間違いないはずなのに、決定的に間違っている

金の瞳に腰に携えるは日本刀ほどの長さの鉈
黒い髪の毛は白く染まり、片腕が欠損していた

提督「ちゅ・・・中尉…なのか?」

そう問うた刹那
全身を柔らかい感触に包まれる

加賀「いけない!!!」

突然、押し倒される
次に耳に入ったのは鈍重な金属音

伊勢「んぐっ!!!」

武蔵「なんだこいつのスピードは!!」

球磨「赤城ぃ!!!」

赤城「ひっ…」

めまぐるしく変わる状況の中
彼女の肩越しに見た景色は
彼が鉈を振りかぶるその姿であった

そこから先の記憶は無い

702 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/08/05 01:15:37.60 amg6zjhd0 222/289


蒼龍「はぁ…はぁ…」

蒼龍(やばいやばいやばいやばい!!)

みんな…みんなやられた!
なんであんな巨大な鉈を持ちながらあんなスピード出せるのよ
あんなの人間じゃない

蒼龍「勝てない!!!勝てるわけがない!!武蔵も球磨もやられて!!」

蒼龍「逃げなきゃ・・・・ひっ!!」

中尉「…」

蒼龍「いやっ…」

廻り込まれた!?
何時の間に?どこから!?

中尉「…」ザッザッザッ

蒼龍「いや…死にたくない・・・・」コテン

中尉「か…ヤク…」

蒼龍「へ…」

中尉「カガ…やけル…アカツきの…すいへイセン・・・・」

中尉「そのサキ・・・・に…ミルケシキがだいしょうを必要と…するならば…」

中尉「ワレ…こそが…その先駆けとならん」

中尉「無力ナタミが安寧をキョウじゅし、コウフくを謳歌するならば」

中尉「殉ずる命に意味ハ問わず」

中尉「その意志こそが後世への教示にナランコトヲ」

蒼龍「な…なにを?」

中尉「ネガワクバ吾が身が・・・・・貴様の矢で射ぬかれんことを」

中尉「…」ザッザッザッ


蒼龍「・・・・はぁ…はぁ…」

蒼龍「なによ…なんなのよあれ…」

707 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/08/06 12:20:20.01 EGPX2vfa0 223/289


中尉「…」

注射を打った後、僕の意識はしばらくはっきりとしなかった
今認識しているものは現実なのか、幻なのか


明晰夢と言えばいいのか、はたまた他の誰かに乗り移ったのかは定かではない
僕は夢の中では一人の海兵で、たくさんの戦闘機が僕の乗る船を取り囲み
戦友であろう奴等があ次々と戦死し、無力さをかみしめる中
僕の船が沈む夢

そして次に見たのは、たくさんの爆撃機に向かい対空砲を放つ船の姿
僕はそれを俯瞰的に眺めていた・・・まるでこの世界の神であるかのように

夢みる方や奴等とも戦っていた
こちらがきっと現実なのだろう

この時の僕はまるで壊れた傀儡のように、自らの体を自らの意志で操る事が出来なかった
人知を超えた速さに肌が切れても止まらず
筋肉が千切れる感覚に陥っても大きなな鉈を振り続けた

だがこんな私でも、ただ一つの想いだけは最後まで貫く事が出来た
決して誰も殺さない

事実奴等を殺すようなことは無かった


いま僕はようやく戻りつつある自らの肉体の疲労と高揚感を抑えつつ
呉に向かっている

さぁ、決着をつけようか……我が最愛の友よ
そして…金剛

708 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/08/06 12:34:42.89 EGPX2vfa0 224/289


工廠に面した海上を高速で移動する中尉
そしてそれを追う一人の少女


「くそ…速すぎる」

「司令……君は病んでいる」

「巻き込まれた人間にも家族がいる…何故それを考える事が出来ない」

「私たちに向けるその目は、間違いなく情愛であったはずなのに!」

「間違いなんてさせない・・・その道は間違っているんだ!」



そうかそうか…みんなありがとう


「…あの笑顔を嘘だとは言わせない・・・・・・」

「二人で帰るんだ……あの場所へ」


「不死鳥の名は伊達じゃないんだ!」


銀の髪を携えし少女は
妖精のように海上を舞う


720 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/08/25 21:59:00.78 iPultLq90 225/289


中尉の前方およそ3キロ先
そこに彼女はいた

ヲ級「…」

それはかつて彼と笑いあった艦娘
名を飛龍
背筋をピンと張りつめ、遥か先からの来訪者を待つ
その様はまるで出征した恋人を待つ、凛とした少女
しかしその目は鋭く冷たい

右手に携えし杖を天高く突き上げ、言葉を紡ぐ
そこにかつての快活な彼女の面影はない
抑揚のない無い号令
しかしその声は確かに彼女のものであった

ヲ級「ダイイチジコウゲキタイ…ハッ…ハ・・・・」

ヲ級「ハッ・・・・ハ・・・・」

ハッ
それより先の言葉が出ない
彼女は深海棲艦としてはまだ赤ん坊のようなもの
もしかすると発声器官の未発達があったのかもしれない
ただその口元は歪み、発することを耐えているようにも見える
彼女の気持ちを知るものは無く、理解できる者は来訪者の遥か後方

仮に彼女がもがき、必死に海面へと手を伸ばしていたのだとしても

ヲ級「ハッ・・・・シン…」

慈悲は無い

彼女の頭上にある機関の口が開き、艦載機たちは飛び立つ
もう戻らない、いや艦載機は戻るだろう
訂正しよう

ヲ級「・・・・」

彼女はもう元には戻らない
そんな事実を知らず、艦載機は敵へと向かう
数えきれないほどの夜鷹が、暗い空へと飛び立った


722 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/08/25 22:18:45.35 iPultLq90 226/289


それから2分後、時間にしてマルヒトヒトマル

中尉「!」

敵影目視

彼はその場で停止中腰になり、鉈を小銃のように持つ

中尉「マルヒトヒトヒト、迎撃を開始する」

静かにそう宣言すると、持っている鉈をまるで小銃のように持ちなおす
すると鉈は静かにその形を変える
機械的ではなく生物的
変形でなく変態
とにかくその変容はまるで意志を持った何かの様
やがて鉈は一丁のライフルような形状になる

中尉はそれを空へと向ける
明かりも何もない闇の中、彼は何の躊躇もなく引き金を引く
途端に響く轟音
彼のモデルとなった明石丸に積まれていた兵装の一つ
九七式自動砲のそれとはまったく次元が違う

中尉「…」ガチャコン

まるでシングルアクションの銃を扱うように薬莢を排出し、次弾を装填する
撃って排出して装填、撃って排出して装填
ただただその操作を、何度も何度も繰り返した

中尉「状況終了」

その掛け声とともにライフルは鉈へと戻り、彼は再び前進を再開する
彼にとっては蚊を払うような行為、しかしこの何でもない行動が

彼女への助け舟へとなった




「見つけだぞ、中尉!」



723 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/08/25 22:36:58.47 iPultLq90 227/289


ヲ級「・・・・」

今までは雲に隠れてていたのだろうか
綺麗な満月が姿を現した

それをただ見上げるヲ級
全ての艦載機との通信が途絶え、もはやなすすべがない
迫りくる来訪者を狩る武器も身を守る盾も無い

彼女に待つのはまず間違いのない敗北
それを本当にわかっているのだろうか
彼女の顔はどこか柔らかい
徐々に近づく来訪者

彼女は顔を降ろし、彼を見据える
その体には力みは無くただ待っている

自らに降りかかる運命の中に光るそれをただ見据える
ふと彼女の口が開く


来訪者はもう目前まで来ている


ヲ級「・・・・ァァ・・・・」
両手を広げヲ級は笑った


彼は鉈を一気に振り上げる











ヲ級「すき・・・・」



ヲ級の頭部は勢いよく千切れた

724 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/08/25 22:39:43.01 iPultLq90 228/289


彼女には目もくれず、彼は突き進む
目に映るのはかつて訪れたあの場所

中尉「・・・・」

呉の鎮守府

728 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/08/30 23:23:48.94 Eyku/b460 229/289


「とんでもない速さで接近する敵だ!迎撃用意!」

平和であるはずの近海に突如現れた敵
その存在に呉鎮守府は騒然としていた

その指揮を執っているのは鎮守府の警備隊長
時期が悪かった、呉の主力艦隊は今遠洋に出ていたのだ

「しかし…深海棲艦など私たちでは…」

「いいからやるんだ!!」



呉の鎮守府が慌てている頃、彼は一人の艦娘に道をふさがれていた


「いつか…いつか来ると思っていました…」

中尉「…随分と懐かしい顔だな」

「覚えていらしたんですか?嬉しくは無いです…」

中尉「…」

「あの日…あの日から金剛姉さまはおかしくなってしまった…」

「怪しげな陸軍と手を組み・・・・お姉さまはお姉さまでなくなってしまった…」

「すべては…すべてはきっとあなたのせい…」

中尉「それは逆恨みというのだ」

「それでもあなたを恨まずにはいられない」

中尉「勝手にしろ」

「…呉へは何の用ですか?」

中尉「けじめをつけにだ」

「金剛姉さまを殺すのですか?」

中尉「当然だ」

「で…あれば…」





「まずはこの榛名お相手いたします!!覚悟!!!」










729 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/08/31 00:34:27.22 lsfmOyFz0 230/289


榛名「やああぁぁぁ!!!」

夜だというのに…随分と目の利く戦艦があったもんだ…
彼女は的確に僕を狙い撃ってくる
しかし…今の僕は尋常でない、手に握る鉈ですべての弾を防ぐ

中尉「戦艦と言えどもこんなものか…」

榛名「くっ…防御が堅い…」

夜も明けないうちに力を手にした中尉
彼も今はまだ人間の心を持っている、そこには確かな慢心があった
”この程度なら楽に勝てる”と

しかしそんな慢心は彼が培ってきた感覚が許さなかった


ママー


中尉「!!!子供の声!!」

それは後ろから聞こえたものであった

中尉(なぜ!このタイミングで船が!!!)

榛名「近づけばやられる…砲撃で何とか!!」


奴は気づいていないようだ
如何に艦娘、いかに砲撃がうまくとも本来戦艦の砲撃の命中率は低い
このままあの船が近づけば…危険

だがしかし…




この時
中尉の目に呉の鎮守府が映る
暴走する親友の殺害、飛龍の仇
それらを捨ててまであの船を守る理由がどこにある?

中尉は迷った、ただ一瞬の出来事
しかし運命はそれを許さない

榛名「てぁ!!!・・・・・目測が・・・・」

中尉「!!!!!」


大きく外れた砲弾
間違いなく外れた

中尉「僕からは!!!」

730 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/08/31 00:49:53.49 lsfmOyFz0 231/289



全速力で砲弾を追撃する
しかし運命はまたも彼に牙を剥く

中尉「何故だ!!速度が上がらない!!」

艦娘であれば当然のこと
すなわち燃料切れ
彼の燃料の容量は駆逐艦以下
そもそも長い戦闘の継続は困難だったのだ

「ままーぴかぴかひかってるよ!!」

「砲撃の音?伏せて!!!」

近付くにつれ聞こえてくる母子の声

榛名「逃がしません!!!!!」

追撃してくる艦娘


振り返り艦娘を攻撃することもできたであろう
しかし…彼はそれをしなかった

出来なかった

中尉(今度こそ・・・・今度こそ!!!!)

彼の脳内に刻まれた過去の記憶
親友との禍根の原因

あの時の彼女と、子供を庇い抱きしめる母親が重なった
今の中尉には軍の事、金剛の事飛龍の事、自分の目的
全てが眼中になかった


中尉「くそ!!くそおおおおおおぉぉぉ!!!!!!!!!」

ここで榛名、前方の船に気付く

榛名「そんな!?この時間帯に船が通るなんて!!!」


着弾まで僅か
中尉は身を挺して砲弾の前に飛び込んだ



731 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/08/31 01:02:48.41 lsfmOyFz0 232/289



報告書

マルフタフタマル
戦艦榛名、接敵
榛名は遠方からの砲撃で敵を攻撃するも効果なし
戦闘から数分後、突如敵は後退
動機は不明
敵は流れ弾に自ら向かい撃沈、沈没

数分後、四条鎮守府所属の駆逐艦響が現れる

駆逐艦響の証言と
横須賀鎮守府の報告における四条少佐の変貌後の外見と極めて酷似することから
四条少佐と判明
以後人口深海棲艦甲級と呼称する

甲級の捜索は困難を極め
見つけること適わず

以上

なお、密入国船は戦艦金剛により撃沈、沈没を確認


呉鎮守府

提督代行
友大佐

733 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/08/31 01:20:49.94 lsfmOyFz0 233/289


「…」カリカリ カリカリ

金剛「…」ズズズ

金剛「まさかこんな幕ギレなんてネー…しらけちゃったヨ」

「奴は生きている…間違いなく」

金剛「それならいいけどネー」

「…」

金剛「結局、何がしたかったノ?」

「…」

金剛「だんまり…カ」

「…」



「奴は…生きている」

金剛「ハイハイ」

「奴は俺が殺すのだ…死なれては困る」

金剛「ヘーヘー」

(そうだ…困るのだ…」


(中尉!)

734 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/08/31 01:24:56.43 lsfmOyFz0 234/289


大鳳「…」

若葉「…そろそろしっかりしないか」

大鳳「えぇ…」

若葉「あいつらはもう立ち直っているぞ」

若葉「探しに行くんだろ?中尉を」

大鳳「…」

大鳳「そうね…」

大鳳「いったいどこへ行ってしまったのかしら…」

大鳳「そしてこれ…白い花…」

大鳳「…中尉」





735 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/08/31 01:34:06.77 lsfmOyFz0 235/289


(中尉…あなたがいなくなってからみんなすごく変わっちゃったわ…)

「今度も!暁が一番なんだから!!」

「負けられない・・・私は力が欲しい!!!もっとだ!!!!」

長門「ほう…ならば来い!!次は殺す気で行くぞ!!」

木曾「力を求めてどうなる…なんて柄じゃねえか」



吹雪「げほっ・・・・」

睦月「吹雪ちゃん大丈夫?」

吹雪「あれ…化物だよ…」



夕立「ああああはははっははっはあっははっはっはっはあh!!!!!!!!」

「あああああああああぁぁぁぁぁああああああぁぁ!!!!!」

春雨「やあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁあぁあ!!!!!」



「…」

「水族館にもまだ行ってないのに…」

「うそつき…」

736 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/08/31 01:44:19.66 lsfmOyFz0 236/289


提督「…」

赤城「…敵が減ったのは良い事では!?」

伊勢「あぁそうだぞ!強かったもんな!」

球磨「クマー」

加賀「…」

瑞鶴「一概に良いとは言えないでしょう…」

瑞鶴「あいつのが野に放たれれば海軍の闇が一部漏えいする危険もあるのよ」

瑞鶴「提督が私たちに真実を離した意味を真剣にズイイイイイいい!!!」

加賀「うるさいわよ」

武蔵「壁にめり込んだぞ…」

加賀「提督、あの子を呼びましょう…」

提督「誰の事だ?」

加賀「青葉です、彼女なら人探しは得意かと」

提督「それもそうか…」

提督「良きに計らえ」

加賀「はい」



737 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/08/31 01:57:25.28 lsfmOyFz0 237/289


プリンツ「…浮気かな?」

ユウビンデース

プリンツ「はいはーい…」

プリンツ「あれ?」

プリンツ「注射器…紫の液体・・・・」

738 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/08/31 02:07:12.54 lsfmOyFz0 238/289



1年後



叢雲「アンタほんとにこ・の!雪風を見たのよね!?」

「へへ…俺が嘘つくように見えるかい?」

叢雲「昔のあんたなら疑わなかったけどね…変わり過ぎでしょ…」

「あんまり褒めるなよ、うきうきしちゃうぜ?」

叢雲「褒めてないわよ!!」

叢雲「まったく…ちょっと飛龍!あんたなんてもん拾ってきてんのよ!!」

飛龍「ん?なんか打ち上げられてたのよ?」

叢雲「こいつ…誰よ?」

「重巡青葉、昔四条で見たことがあるぜ」

叢雲「また変なのが増えた…」

「おいおい、それじゃあまるで俺たちが変なのみたいじゃないか?」

叢雲「むしろ変じゃないと思ってたのが不思議よ…」

「だってー」

飛龍「私たちおんなのこだもーん」

?・飛龍「ねー♪」

叢雲「グギガガコココ!!!」

「ははは…さて飛龍」

飛龍「なにさ中尉?」

中尉「ハネムーンはどこがいい?」

飛龍「そりゃあもちろん…」


叢雲「呉の鎮守府よ!!」




青葉「はっ!!」

青葉「ここは…」キョロキョロ






第一部 艦これ

740 : 以下、名... - 2015/08/31 02:19:20.08 2nH6cthj0 239/289

さっさと2部を書くのだ

748 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/09/01 19:21:17.62 2dHU2T2M0 240/289

ここから特に意味は無いギャグ

749 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/09/01 19:25:56.66 2dHU2T2M0 241/289


暁ちゃんとコーラ



ゴクゴクゴク…ハイパー!!!

スッゲー!!プランキー!!!!

ンン・・・ジーザス!!


「・・・・」

提督「zzz...」


「コーラかい?冷蔵庫にあるよ」

「飲み過ぎないようにね?」

「うん!」


レイゾウコガパッ

「…」

ペプシー

「…」ドキドキ

「んぅ…」ゴキュゴキュゴキュ

「…」

「…」





「げふっ」

750 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/09/01 19:31:33.23 2dHU2T2M0 242/289


暁ちゃんと三式弾


サンシキダン!!サンシキダン!!

「…」

「…」オモソウ

「!」ピコーン

がちゃがちゃのカプセル

小豆詰める

うわーこれはよけられないぞー

こんな命中率は初めてだ、さすがレディ!


「…」ワクワク


鳳翔「え?小豆?」

「!」コクコク



鳳翔「はいどうぞ」オシルココトッ

「!!」パァー

「!!」ニコニコ

「!!」ハフハフ






「^^」ハフハフ

751 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/09/01 19:37:18.20 2dHU2T2M0 243/289

暁ちゃんとアカギ

アカギ「まだだ、まだまだ終わらせない・・・」

アカギ「地獄の淵が、見えるまで…」


「…」


「…」テテテ

「チラッ」




赤城「まだだ、まだまだ終わらない」

赤城「倍ライスだ」


「やせ~…」


ろーちゃんだよ!!






「…ろ~?」



赤城「…」ダッ


「ヒィ」

752 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/09/01 20:01:35.23 2dHU2T2M0 244/289


暁ちゃんはぷにえちゃん

スゴイクライ


提督「ん?」

「ガクガクブルブル」

提督(はは、暗いのを怖がってるぞ…」)





提督「わっ!!!」

「やああああぁぁぁぁぁ」ジョバアアアァァ

提督「」

「うっ…ふぐっぅ・・・・・」

「びゃああああああぁぁぁぁっぁぁ・・・・・」

提督「おぅ・・・・・」





提督「Sugoi cry...]

753 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/09/01 20:02:41.05 2dHU2T2M0 245/289

最期だけミスった
いっか、ねよう

760 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/09/11 22:47:48.86 YOBbqlpx0 246/289


「君たちは…毛利元就の三本の矢という話を知っていますか?」

「簡単な話です…」

「矢は一本なら容易く折れるが、三本束ねれば簡単には折れない…」

「皆で力を合わせろという事ですね…」

「あの日から半年…貴方達は様々な任務に就き、時には人前で言えないようなものさえも…」

「しかしその代償に大きな力を得ました、それは経験、知恵、知識…」

「それらは貴方達の自信であり、誇りです」

「どうかこの先もそのことを忘れないでください」

「第六駆逐隊及び春雨、若葉」

「横須賀鎮守府管轄、四条鎮守府が提督、大日本帝国海軍准将の大鳳がここに命じます」

「先週南西鎮守府の叢雲が、何者かと共に北上しているのを遠征中だった佐世保鎮守府所属の艦娘が目撃している」

「足の速い貴方達は先遣隊として、私たちに先んじてその調査…場合によっては討伐を行ってもらいます」

「以上、作戦開始は明けのヒトマルマルマルです」

「長期間の任務ですので、潤沢な予算が大本営から支給されますが、無駄遣いはしないように」

「では解散」


電たちにその指令が出されたのは寒い冬の事でした
その日の夜は睦月さんや吹雪さんたちが、私たちの旅立ちを豪華に祝ってくれました
司令官さんが人口深海棲艦甲級と呼称されるようになってから半年
皆さんはそのショックから立ち直り、日々を過ごしている様に見えます
そんな折のこの指令、皆さんは張り切っているようでした
司令官さんは生きている…と

電だって嬉しいはず…嬉しいはずなのに
なんだかすごくイライラします
勝手に一人で出撃して
勝手に背負って
勝手に死にかけるなんて
なんなのですか…
1人でヒーロー気取りなのですか?

気に入らないのです

春雨ちゃんが銃撃されたとき…あの時に電が闇雲に殴りかかったのを覚えていますか
木曾さんに止められましたよね

電は確信していますよ?
今なら貴方のハラワタを抉りだせるという事を

もう…司令官さんは・・・人じゃないのですね・・・

それはつまり

手加減はいらないという事ですよね?



中尉

761 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/09/11 23:45:16.11 YOBbqlpx0 247/289


四条鎮守府で宴が行われている頃


榛名「死神が生きているというのは本当ですか!?」

戦艦榛名
中尉を撃沈したその本人である

金剛「Oh...榛名」

「…」

榛名「そんなはずはありません!!確かに!奴に砲撃は当たっていました!!」

比叡「榛名?とりあえず落ち着こうよ」

榛名「比叡姉さま…」

霧島「…どうしますか?この情報が真実であれば…姉さま」

金剛「今はそれどころじゃないネー」

「その通りだ」

霧島「何かあったんですか?」

「呉提督と雪風が失踪した…」

霧島「…今となっては用済みでは?」

「馬鹿者、実験部隊の旗艦は雪風、奴等は旗艦の命令しか聞かない」

「つまりアンコントロールだ」

榛名「実験部隊?」

比叡「?」

「こちら工廠!!間もなく隔壁を破られます!!」

「了解、全員直ちに避難せよ」

「金剛、艦隊を率いて奴等の追撃を行え」

金剛「ハー…面倒ネー…」

霧島「お待ちください!!実験部隊には姫級に匹敵する奴等もいるんですよ!?」

霧島「ろくな準備もせずに行くなんて無茶です!!」

「腰抜け共め…」

金剛「…」

「構わん、追撃しろ」

「奴等の総数は数十の連合艦隊に昇る」

「多くの実験体を撃沈しろ、砲撃でも雷撃でも爆撃でも構わん」

「確実に始末しろ」

「我々に背いたことを後悔させてやれ」

金剛「了解ネー♪」スタコラ

榛名「あっ!榛名もお供します!!」

比叡「私も行きます!!」

霧島「あぁ…もう!!」

バタン


「…」


762 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/09/11 23:50:29.65 YOBbqlpx0 248/289

何故か下げてた





「因果応報か…」

「踏んだり蹴ったりだな」

ガチャ...プルルルルル....

「こちら横須賀鎮守府です」

「呉の客員提督、友大佐だ」

「我が呉鎮守府近海に多数の深海棲艦を確認、奴等の狙いは鎮守府ではないようだ」

「ただ沖に向かっている」

「近くの部隊を援軍に回してくれ、挟撃する」

「了解です」

「よろしくどうぞ」

ガチャ


「なぁ死神・・・・」

「…貴様は今、どこにいるんだ?」

763 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/09/12 00:21:22.38 pEV7/xzj0 249/289


金剛達が出撃したころ


叢雲「……もうすぐで沖縄よ」

中尉「沖縄の俺はなんだ?」

叢雲「・・・・・・は?」

飛龍「なにが有名かってことでしょ?中尉それじゃあわかりにくいですよ」

中尉「周知かとな」

中尉飛龍「「HAHAHAHA!!」」

叢雲「しばくぞ…」ボソッ

青葉「沖縄だと…ソーキソバが有名ですよ!!」

飛龍「さすが記者さんですね!!」

中尉「汽車さん?」

飛龍「せーの!!」

中尉飛龍「せーんろはつづくーよー」

中尉飛龍「どーこまでーもー」

青葉「へーいへーい!」


叢雲「あんたら頭おかしいんじゃないの!!!」

叢雲「夜よ!よ・る!!潜水艦に気付かれたらどうするのよ!!」

中尉「まかせろ叢雲」ブクブクブク

飛龍「おー…潜った…」

叢雲「そう言えば半分深海棲艦だったわね…」



叢雲「はやく雪風見つけて帰りたい…」




叢雲「はぁ…」



764 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/09/12 00:29:56.83 pEV7/xzj0 250/289



中尉「叢雲!!めっちゃウニいた!!ウニ!!」

叢雲「うるせぇ!!!」

飛龍「www」

青葉「はい!はい!青葉砂浜でお米炊いてうに丼食べたいです!!」

中尉「よっしゃ!!もう一回獲ってくる!!」

叢雲「だから!!中尉「食べないの?」

叢雲「ぁ・・・・うぅぅ・・・・」

叢雲「・・・・・」






叢雲「食べる…」

中尉「おっしゃ!」






第二部 雪風「ここで全部返してもらいます!!」



770 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/09/13 00:00:45.31 wNgaUqOw0 251/289


四条鎮守府の面々が明日に備えて眠りについた頃
呉の金剛姉妹が深海棲艦の駆逐に当たっている頃

中尉達はというと


中尉「ひりゅー米炊けたー?」

飛龍「なかぱっぱですよ」

青葉「うにーうにーうにうにー」

飛龍「ウに好きなんですか?」

青葉「なんとなく歌ってみただけです」

飛龍「あっそ」

青葉「え」


飛龍に声をかけた中尉
その目線の先に皆と距離をとっている叢雲を見つけ歩み寄る


叢雲「…」

中尉「賑やかなのは嫌いか?」

叢雲「戸惑ってるだけよ、久々の仲間って奴とあんたにね」

中尉「俺か?」

叢雲「当たり前じゃない…何よその意味不明なテンション…」

叢雲「はっきり言ってムカつくわ」

中尉「話しただろうに…」

叢雲「だから尚更よ…」

中尉「…」

叢雲「別に責めてるわけじゃないのよ…」

中尉「…人それぞれに命の使い方があるのだ」

中尉「私は今、好きでこの命を使っている」

中尉「気負うことは無い」

中尉「さぁ、食べに行こうじゃないか」

中尉「新鮮なうに丼を」



叢雲「一つだけ覚えておきなさい」

中尉「?」

叢雲「アンタは今の行為を自分が好きでやっている…」

叢雲「だからそれは肯定されてしかるべきだ…そんな免罪符を得ているつもりなんでしょうけどね…」

叢雲「そんなのに付き合わされるこっちはたまったもんじゃないのよ」

叢雲「覚えておきなさい」

中尉「付き合わせてるのはそっちじゃないか」

叢雲「うるさい、行くわよ」

中尉「…気難しいお姫様だ…」







774 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/09/13 10:52:31.45 wNgaUqOw0 252/289


叢雲「…」モグモグ

青葉「叢雲ちゃん、むすっとした顔で食べてもおいしくないですよ?」パクパク

叢雲「うるさい」

青葉「あら手厳しいですね」

中尉「青葉ちゃん随分馴染んだな」ガツガツ

青葉「飛龍さん軽いんで青葉も軽いノリで行けば輪に入れるかなと」

飛龍「テヘペロ♪」

中尉「さて…腹も膨れたところで確認しなきゃいけないことがある」

中尉「俺たちは俺と飛龍の傷が癒え次第ここに来た」

中尉「主に情報収集の為にな」

青葉「もー!青葉が教えるって言ったじゃないですか!!」

叢雲飛龍「うさんくさい」

青葉「えへ☆」

中尉「というわけだったから…俺たちは互いに目的の周知をしていなかった」

飛龍「あぁ…そう言えば」

中尉「という事ではい、青葉ちゃんから」

青葉「青葉は横須賀の提督から四条の少佐を探す様に命じられています!」

叢雲「…」チラッ

飛龍「…」チラッ

中尉「…そっか」

青葉「?」

中尉「叢雲は雪風の捜索、飛龍は蒼龍との再会」

叢雲「…」コクッ

飛龍「まぁ…最初はね?」

中尉「そして俺は…叢雲の手伝いしたら旅する」

飛龍「旅?どこに」




中尉「ベーリング海だ」

叢雲「ベーリング海ですって?」


776 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/09/17 22:38:20.82 XCAV+u4h0 253/289


「…」

静かな四条鎮守府
そこで海を静かに眺める者が一人いた
駆逐艦電

死神亡き後、まるで自らを鼓舞するかのように常に最前線に立ち続けた彼女
駆逐艦でありながら数多くのル級を一人で沈め
あのレ級に対し勝るとも劣らない戦闘を繰り広げた彼女
彼女の戦闘スタイルは単純明快
近付いて白兵戦に持ち込む
ただそれだけ

その名は海軍全体に広がり
突いたあだ名が”乱麻”

戦局が詰まればとりあえず彼女を送ればいい
そのような上層部を皮肉ったようにも聞こえる
しかし彼女のあだ名はもう一つあった
それは”笛吹き”
かの童話からとったものだ

それは彼女のスタイルにあこがれ、散る艦娘が後を絶たないからだ
いつか大鳳が心配したそれは、奇しくも彼女の鎮守府の艦娘が切っ掛けとなってしまった

そんな彼女が見つめる先
月に照らされたニ人の艦娘
あの日からずっとだ
皆が寝た後にずっとニ人で練習を重ねている


「…」

彼女はただそれを見つめている

「響ちゃん…暁ちゃんは優しすぎるのです…」

「司令官さんは私たちを信じずに死んだバカです」

「…」


そんな彼女の独白を二人は知らない



777 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/09/17 22:48:24.55 XCAV+u4h0 254/289


「暁!まだだ!遅いぞ!!」

「うるさいわね!わかってるわよ!!!」

「このままじゃ電の足を引っ張ってしまう!!」

「だから言ってるじゃない!!その考えがおかしいのよ!!」

「電ははっきり言っておかしいのよ!夕立さんと同じよ!」

「しかし!!」

「でも吹雪さんと睦月さんはついていけてる!それを考えなさいよ!!」

「役割分担よ!!暁たちには電より優れてるものがあるじゃない!」

「響は総合的に上だし暁は索敵ができるわ!!」

「司令官さんを探したいのはわかるけどもう少し冷静になりなさいよ!!」

「あ…う…」

「…」

「すまない…」

「ふんっ」

(司令官……)

「くそっ!!」


彼女が不死鳥と呼ばれるのはまだ先の話である

「…」ポリポリ

彼女がレディ扱いされるのはもっと先の話である

784 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/09/19 09:38:54.60 tWFFg+vN0 255/289


榛名「ふぅ…あらかた片付いたというか…」

霧島「どちらかと言えば逃げたって感じかしら?」

榛名「霧島…」

金剛率いる呉艦隊
彼女達は呉の軍港から逃げ出した実験部隊の追撃を行っていた
その様相は金剛達の圧倒的勝利
敵はただ逃げ、反撃の一つも見せなかった

比叡「ねぇ…あれって深海棲艦・・・・だよね?」

榛名「…霧島は何か知ってるの?」

霧島「私の口からは何も…」

霧島「…金剛姉さまに聞いてみましょう」

榛名「その姉さまは?」

比叡「あれっ?」キョロキョロ

霧島「…お戻りになられたのでは?」



前線から離れた呉鎮守府
その執務室に二人はいた
金剛と新しい呉の提督
友大佐だ

金剛はとある新聞を何とも気味悪そうに読み
友提督は冷めたコーヒーを口に含んだ


金剛「なんですカこのマッカなペーパーハ?」

「アカの新聞だ…」

金剛「アナタ…アカなんですカ?」

「それは奴の金庫から見つかったものだ…」

そう言い指を指すのは
扉の空いた金庫

金剛「ヘェ…つまりどういうコト?」

「俺たちは私怨に我を忘れ、奴の隠れ蓑にされたという事だ」

金剛「…」

「奴の艦娘深海棲艦化論…その実現の為に俺たちは手を貸した」

「実験部隊の管理などの裏の仕事は俺たちがやり、あいつは表で無害な人間を演じていた」

「そもそもそれが間違っていたのだ」

「奴は機を窺っていた・・・我々を出し抜く機を」

「怪しまれぬように飼い犬を俺に付けてな…」

金剛「雪風…」

「そして機は熟した、実験部隊旗艦雪風は完成した」

「クソッたれめ…」

金剛「……やることは決まっタ?」

「あぁ…」

「我々は死神を見つける前にやる事が出来たようだ…」


785 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/09/19 10:07:18.74 tWFFg+vN0 256/289


「これからは奴等の動向に目を向ける必要があるな」

「実験部隊については呉の艦娘達こう伝えろ」

「奴等は我々の母港に住み着いていたシロアリである」

「見つけた場合には何よりも優先して撃沈せよ」

「手段は問わない…と」

金剛「…」

「どうした?早く行け」

金剛「ハァイ」

バタン


金剛「なんだかタノシソウ…」

金剛「ハァ…面倒ネー」

786 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/09/19 10:25:24.16 tWFFg+vN0 257/289


叢雲「ベーリング海まで何しに行くのよ?」

中尉「何って…味方を増やすんだよ」

飛龍「北方に私たちの味方がいるの?」

中尉「いるぞ?とびっきりの女がな」

叢雲「…北方棲姫とか言わないわよね?」

中尉「ビンゴ」

叢雲「アンタ何考えてんのよ!!」

飛龍「そうですよ!!自殺行為です!!」

中尉「まぁ聞けって」

そう言って二人の首に手を回し小声で話す

中尉「いいか、雪風は今友と共に呉にいる…らしい」

叢雲「そうらしいわね…」

中尉「呉の提督は俺に深海棲艦になるためにヒントを与えてくれた」

飛龍「あっ…」

中尉「理解できたか?雪風を取り戻すとなればあいつ等との戦闘を想定しなきゃいけない」

中尉「そしてあいつらの戦力には深海棲艦もいる事を考慮しなきゃならん」

叢雲「いないかもしれないじゃない…」

中尉「全て未知数だ…」

叢雲「交渉材料はあるの?」

中尉「あるさ…」

飛龍「ホントですか?」

中尉「あぁ…美人に悪い奴はいない…」

叢雲「なにそれバカみたい、失敗したらどうするのさ?」

中尉「失敗したら…」







中尉「笑ってごまかすさぁ!」

飛龍「ヒュー!!」

叢雲「」

青葉「ハフッハフッ…」

787 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/09/19 10:30:05.70 tWFFg+vN0 258/289


ベーリング海



レ級「シャー!!」

ほっぽ「キャー!シッポ!!シッポ!!」

港湾「…」ニコニコ

イ級「イッイー!!」

港湾「ハァ…」



港湾「クルナト…イッテイルノニ…」

792 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/10/01 22:31:15.38 dXImYKRL0 259/289


中尉一行、四条鎮守府、呉鎮守府それぞれの夜が明けた半日後の報告であった
呉鎮守府海域に出没した深海棲艦の援軍に向かい、これを撃退
呉鎮守府で補給を終えて帰港していった佐世保の艦隊が行方不明になったというのは

以下は呉提督から大本営宛に提出された、呉の近海に出現した深海棲艦と艦娘との戦闘記録である


突如として呉の近海に出現した深海棲艦
彼等は複数の縦列でただただ沖合に向かって針路を進めていた
しかしその数は膨大にして強大、とても呉の残存部隊だけで対応できるモノでなかった
ただ弱点はあった、観測部隊がそれを突き止めた
実験部隊は姫級を中心に外に広がるほど個々の能力の弱い艦が配置されていた

これに対し主に高速艦で構成された金剛率いる呉の追撃部隊は、隊を四つに分けて攻撃した

背後から攻める金剛艦隊
右翼から攻める榛名艦隊
左翼から攻める霧島艦隊
そして前方から来るはずの援軍との合流を急ぐ比叡艦隊である

それに対し実験部隊
統率者のいない烏合の衆がそれぞれの艦隊を襲った
無論戦術など無いそれらは脅威でなかった
だが倒せど倒せど湧いてくる敵たち
数のなせる業、慈悲無き戦法”人海戦術”
命の概念を覆す実験部隊のその戦法に、金剛達は徐々に追撃の速度を落として行った

しかし彼女等はその程度では音をあげない
雷撃、砲撃、白兵などを用いて確実に敵を始末していった

その後、佐世保からの援軍と合流
佐世保の援軍は呉で補給を済ませ当鎮守府を出港した

以上が昨日の戦闘記録である
なお、戦闘時には呉近海において原因不明の電波障害が発生
それにより音声記録は残っていない

呉鎮守府 友提督


793 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/10/01 22:45:14.68 dXImYKRL0 260/289


”佐世保鎮守府の遠征艦隊行方不明”
”呉近海の警戒度最大か!?”

比叡「…」

比叡「……金剛姉さま…」

比叡「本当にこれは正義なのですか?」

比叡「私は馬鹿だからわからないです…」

比叡「金剛姉さま…」




―――――
―――


半日と少し前



金剛「Hey,Sister's.現状の報告をよろしくネー」

霧島『こちら霧島、実験部隊の足は予想以上に早く…襲ってくる敵が邪魔で殲滅は出来ませんでした』

榛名『榛名です、霧島に同じく湧いてくる敵に阻まれて…』

金剛「ドンッマイネーみんなよくやったヨ」

金剛「…」

金剛「比叡チャン?比叡チャン?」

比叡『……こちら比叡、援軍らしきものを視認』

金剛「モー!ちゃんと返事しなきゃダメデショ!!」

比叡『ごめなさい……』

霧島『比叡姉さま?どうされたのですか?』

比叡『報告します……』


その報告に金剛達は震撼する


比叡『援軍の艦隊……全滅です…』

榛名『ウソ…』

霧島『チッ……』

金剛(マズイ…近海に突然一艦隊を蹴散らすほどの深海棲艦が現れタ…)

金剛(そんな不可思議なことが起これば、当然呉の鎮守府も監査が入るネ…)

金剛(呉の地位を下げたい奴等からすれば…これは好機…)

金剛(ただでさえ前の提督が失踪してるってのニ…)

金剛(今アイツに失脚されたりでもしたら…)

金剛「比叡チャン?落ち着くネー」

比叡『姉さま…』

金剛「大丈夫…全部ワタシに任せるネ!」

比叡『…ありがとうございます……』



794 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/10/01 22:55:28.75 dXImYKRL0 261/289


比叡の返答を聞くと金剛は姉妹専用の回線を艦隊全体の回線に切り替えた

金剛「アー…こちら金剛……戦いの中で不吉なモノも見たデショウガ…」

金剛「このことについては箝口令デス、秘書艦権限で最高機密に指定しまス」

金剛「万一喋った子は…お仕置きデス」

金剛「大丈夫、全部ワタシに任せるデス…」

金剛「鎮守府に帰ったラ他の子が不安にならないようにあえて反撃は無かったと報告してくだサイ」

金剛「以上デス…サァ、帰りマショウ」




―――
―――――


比叡「…」

榛名「比叡姉さま…」

比叡「榛名…」

榛名「金剛お姉さまを信じましょう…今は…」

比叡「今は?」

榛名「金剛姉さまは…あの陸軍中尉と関わってからどこかおかしい」

榛名「でも…それでも私たちのお姉さまです…だから信じましょう?ね?」

比叡「…でも」

榛名「大丈夫です…大丈夫ですから…」サスサス

榛名「勝手は榛名が許しませんから…」

榛名「例え…相手がお姉さまであろうと…」

比叡「…ありがとう…なんかこれじゃあ榛名がお姉ちゃんみたいだね」

榛名「比叡姉さまは今は妹でもいいんですよ?」

比叡「ふふっ…」

榛名「えへへ…」







霧島「・・・・」

霧島「…」クルッ スタスタスタ







795 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/10/01 23:02:01.10 dXImYKRL0 262/289


呉鎮守府 執務室


友提督「…これはどういう事だ金剛?」

金剛「…」

友提督「貴様、昨日は反撃は無かったと言ったな?援軍は補給を済ませすぐに帰ったと言ったな?」

友提督「誤報はまだいい…だがなんだこれは?何故大本営に私の名で勝手に報告書を送った!!」

金剛「…」

友提督「弁解があるなら述べてみろ…」


金剛「箝口令も、その後の対応も全てワタシの判断デス」

金剛「イッタデショウ?役割分担デスヨ?」

金剛「表はアナタ裏はワタシッテ」

友提督「…チッ」

友提督「とにもかくにも、勝手な真似は止めろ…あの男に復習したいと今も思ってるのなら名…」

金剛「当然ネー…ソウジャナケリャ…」

金剛「オマエナンカニシタガワナイヨ?」


バタン


友提督「…化物め」


796 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/10/01 23:09:00.18 dXImYKRL0 263/289


金剛「まったく…肝のスモールな男ネー…」

霧島「金剛姉さま」

金剛「霧島?どうしたの?」

霧島「少し問題が…」





金剛「フーン…比叡と榛名がネー…」

霧島「二人は純粋ですから…こうなるのも仕方がないかと…どうしましょうか?」

金剛「どうするっテ?」

霧島「消s金剛「Hey,霧島」

霧島「なんでし――」

霧島の言葉を遮り、言葉も言い終わらぬうちに金剛は彼女を睨んだ


金剛「ワタシ…仲良くしない子は嫌いネ…」

霧島「…」

金剛「言っていること…ワカル?」


霧島は自分の体が一気に冷や汗に包まれた気がした
殺気というものはきっとこういうのを言うんだろう…
目の前の敬愛する人からは、まさしくそれがひしひしと感じられた


霧島「…失言でした」

金剛「それでイイネ…これからは皆で行動スルネー…」

霧島「…はい」

797 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/10/01 23:24:29.98 dXImYKRL0 264/289


ハァ…ハァ…誰か・・・・助けて

助けて…助けて…








助けて





820 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/11/08 00:12:55.15 UnS2aFmJ0 265/289


中尉「…」

飛龍「ねぇ…この子…」

青葉「虫の息って奴ね…」

秋月「…」

中尉「だがまだ間に合う、飛龍、青葉と共に横須賀にこの子を連れて帰れ」

飛龍「そんな!私も…」

中尉「事態は急を要する、足手まといだ」

飛龍「…わかった」

中尉「青葉もいいな」

青葉「あっはい」

叢雲「私たちはどうするのよ?」

中尉「言ったはずだ…ベーリング海に向かう」

叢雲「雪風は!私の目的はそれだけよ!」

中尉「いいから黙って俺について来いって言ってんだよ!!!」

叢雲「!」

飛龍「え?」

中尉「すまん…」

叢雲「…悪かったわ、任せるわよ」

中尉「…すまん」


俺たちは飛龍を横須賀に届けるために、進路を通っていた。
しかし呉の鎮守府が管轄の海域で所属不明の艦を発見。
直感であるが、きっと奴等だ。
深海棲艦の勘だが、きっと間違っていないだろう。

821 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/11/08 00:24:30.72 UnS2aFmJ0 266/289


中尉「のんびり世直しといきたかったが…どうやら時代はそれを許してくれないみたいだな…」

叢雲「何呑気な事を言ってんのよ」

中尉「さて、ここからは猛スピードで行くぞ」

叢雲「はっ?」

中尉「俺は速いんだ」

叢雲「なにいっ…」


俺は叢雲を担ぎ上げフルスロットルで北に向かった。


飛龍「…はっや……」

青葉「私たちも早く行かないと!秋月さんが」

飛龍「えぇ…」

飛龍(待っててね中尉…すぐに助けを呼ぶからね!)






「風が…泣いている…」

「戦争の支度をするのです」

春雨「彼方にこそ敵アリ…」

若葉「生娘どもは邪魔だ、私の射線に立つな」


(あいつ等頭うったのかしら?)

「中尉…」



大鳳「…戦が…始まる……」


823 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/11/08 00:36:53.44 UnS2aFmJ0 267/289


ベーリング海

イ級「ホウコク!スサマジイスピードノヤツラガ!」

港湾「カンムスカ!」

ホッポ「レップウカ!」

レ級「シャーシャ!」

イ級「シンカイセイカンデス!!」


ィィィィィィィィィィィィィィィィ

いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい


中尉「カチコミジャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアイイイイイイイ!!!」

港湾「!!!!!!!??!?!?!?!!??!?!!」

ホッポ「イッツアゼロォ!」

レ級「チガウダロ」

ホッポ「カンムスィル?」

叢雲「」

イ級「し…死んでる…」

レ級「ナンノヨウダ、テイウカオマエダレダ」

中尉「コブラダ」

レ級「ツマリダレダヨ」

港湾「闘いに来たようではないようね…」

中尉「俺たちに戦う気はない、情報が欲しい」

中尉「昨今、深海棲艦と称し無茶苦茶に暴れまわる奴がいる…そいつらについてだ」

港湾「ほぅ…奴等には我々も迷惑している」

ホッポ「フツーニハナシテル」

レ級「コウワントコウワ?」

ホッポ「www」

イ級「ハイハイアッチニサバガアリマスヨ」スタコラ

「「ワーイ」」

港湾「貴様らが奴等を葬るというのなら願っても無い、我々も迷惑していた所だ」

港湾「で?何が聞きたい?弱点か?居場所か?」

中尉「貴方の心の弱点を」

港湾「ならば花束の一つでも持って来い」

中尉「わかった、約束だ」

港湾「…」

中尉「…」

港湾「奴等は今横須賀に向かっているぞ」

中尉「ありがとう」ビュン



港湾「…」

港湾「ツイニワタシモヨメイリカ///」







825 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/11/08 00:47:23.24 UnS2aFmJ0 268/289


中尉「さて叢雲…」

叢雲「なによぅ…オェェ…」

中尉「横須賀に向かっているそうだ」

叢雲「…そうね・・・・・・」

中尉「覚悟はいいな?本土を戦場にするわけにはいかない」

叢雲「えぇ…」

中尉「相手は実力も数も未知数だ。死ぬかもしれない」

叢雲「今さら追い返そうったって無駄よ」

中尉「ならば行くか…」

叢雲「作戦は?」

中尉「強いて言うなら…」


中尉「奴等の横っ腹に突撃するのが作戦だ、後は野となれ山となれってな」

叢雲「私は雪風の捜索に力を入れるからね」

中尉「わかっている」

837 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/12/07 13:56:13.63 eqUszVva0 269/289


七つの海を渡る風よりも彼は速かった。

突然だが艦娘については謎が多い、その最たるものは彼女等の速度であった。

彼女等の速度は基本的に戦中の艦種の速度に比類している。

だがそれは現代科学の観点から見ればおかしいのだ。

真空中でもなければ、同等の質量で異なる体積のものが同じ高さから落ちれば空気抵抗がより小さいものの方が早く下につく。

その理論から言えば、比類するはずが無いのだ真に赤城であると自称するのであれば。

航空母艦赤城よりも艦娘赤城の方が速く無くてはならないのだ。

是非はともかく、これも彼女等の艤装とやらの力なのだろうか?

とにもかくにも艦娘には謎が多い。


彼は今、横須賀より数百海里の場所にいる。

836 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/12/07 13:52:44.71 eqUszVva0 270/289


中尉「…さぁ来るぞ、準備はいいか」

叢雲「えぇ…」

二人が見つめる先に、浮上する群体が見えた。
数百メートルも先である。
その群体から近づく人影があった。
その姿は雪風によく似ている。

「…そこをどいてください叢雲さん」


そう言って近づいてきた一体の深海棲艦。
その服は雪風のものであろうと推察できる、しかしその姿は見るに堪えない。


中尉「叢雲…彼女は…」

叢雲「いいのよ、いいのよ…もう…」

叢雲「あの子はあたしに任せて、あんたは後ろの奴等を蹴散らしてきなさいよ。邪魔しないから」

中尉「…わかった」


中尉はそう答えると、雪風を横切り群体へと突撃した。


叢雲「雪風、やっと見つけた」

雪風「雪カゼは…あイウツらをユリシママせん、だからコワします」

叢雲「そう…」

雪風「…どコにも…どこニモ司令官さンはいなカッタ!いなかった!」

叢雲「うん…」

雪風「だかラ…だから壊します!ユキカゼが悪いコになっちゃったのはあいつらのせいナンダ!」

叢雲「…」

叢雲「ねぇ…覚えてる?あたしたちが初めて会った時のことを?」

雪風「…は?」

叢雲「あたしは覚えてるわ、鮮明にね」

叢雲「だからこそ、もう一度いうわ…あいつの言葉を」



守り抜け、友を

幸運を手繰り寄せろ

地べたを這っても、明日が見えずとも、噛り付いてでも

願うなら叶えられる…

奇跡艦だからでも、不死身だからでもない

雪風だから、叶えられるのだ


叢雲「お帰り雪風、今全てから解放してあげる」

叢雲「ごめんね…愛していたわ」

雪風「!」


雪風が動く前に、叢雲の槍はその小さな頭を貫いた。
膝から崩れ落ちると、彼女は暗い深海へと沈む。

叢雲「さよなら雪風、愛しているわ」







838 : ◆DpM/5nZU1E - 2015/12/07 14:12:33.17 eqUszVva0 271/289

おそらく群体は何らかの形で燃料を共有していたのだろう、中尉が攻撃をしたところでほとんど抵抗は無かった。
ただただ己が身を守るために、じっとしていた。
それ故に殲滅も容易であった。

あらかた壊し尽くした後に中尉は叢雲の下へと向かう。


中尉「…終わったようだな」

叢雲「えぇ…なんとなくすっきりしたわ」

中尉「すっきり?」

叢雲「アンタだって昔死んだ大事な友達が化物になってたら…悲しいけど殺すでしょ」

叢雲「だってあんたは死神なんだものね?移っちゃたのかしら…」


そう言って自嘲気味に話す彼女。


中尉「…行動の理由を他人に求めるのは感心しないな」

叢雲「これからどうするの?どうせ行くところも無いんだから南西に来なさいよ」


アンタの話など聞きたくはない、そんな感じで叢雲は提案をする。


中尉「…やることがある」

叢雲「そう…どうせなら最後まで付き合ってあげる」

中尉「そうか…」


中尉「ならば…まずは奴等を何とかしなけりゃな…よう、久しぶりだな」


中尉「金剛」


金剛「…」






845 : ◆DpM/5nZU1E - 2016/01/18 14:43:57.99 RkUw8W4R0 272/289


金剛「アッアアァ!」

耳をつんざくような雄叫びと共に、金剛は中尉めがけて一直線に進んだ。
遠くから砲撃を浴びせた方が楽という考えは最早金剛の中には無かった、一刻も早く奴を殺したい、その一心であったからだ。
中尉も大鉈を振り上げ、迎撃の準備をする。
二人が始めた逢った時のように、間に入る者はいない。

中尉「遅い!」

中尉は金剛が自分の攻撃範囲に入ったのと同時に大鉈を振り下ろす。
ここまではあの日と同じ風景、しかし。

金剛「ッッ!」

金剛はほぼ直角に右に避ける。
彼女はことのほか冷静であった、初めからこれが狙いだったのかもしれない。
砲塔からは煙が吹いている。

金剛「ソコォ!」

金剛の第二射、中尉の横っ腹はがら空きであった。
砲弾は鈍い音を上げて着弾、したはずだった

中尉「…」

金剛「ウソ・・・」

呆気にとられているその瞬間を中尉は見逃さない。
お返しとばかりに彼女の腹を蹴り飛ばす。

金剛「ウゲゥ!」

くの字に曲がる金剛、その頭を中尉は思い切り殴りつけた。
強制的に海に叩きつけられた彼女、追い討ちをかけるように大鉈で打ちのめす。
金剛の体は少しづつ沈みゆく、このまま続ければ確実に轟沈できる。
しかし中尉はとどめを刺さなかった。

中尉「お前じゃ今の俺には勝てない、もう帰れ、妹達が心配するぞ?」

どこか自分と似た境遇の者に対する、彼なりの温情だったのかもしれない。
やり方は違えど、彼がこれから行おうとしているのもある意味金剛と同じであったからだ。
どちらも、因縁を断ち切ろうとしているのだから。
だが。

金剛「寒い…ジョークネ・・・」

ふらふらと金剛は身を起こす」

金剛「ワタシは・・・あの人への想いを捨てられなかっタ・・・」

金剛「裏の顔がドンナにdirtyであろうと、あの人はワタシに優しかったカラ・・・」

金剛「ダカラ・・・お前が憎かった、殺すためにイロイロなものを巻き込んダ」

金剛「…デモ妹達はそれでもワタシを信じてくれた」

金剛「そのせいで…妹達は疑心暗鬼に陥っタ」

中尉「自業自得だな」

金剛「ニクイ・・・お前がニクイ・・・」

金剛「オマエガ提督を殺さなけれバ・・・」

中尉「言いたいことはそれだけか?そろそろ黙れ」

中尉は大鉈を振り上げる。

金剛(あぁ…ごめんね…)

金剛「ダメなお姉ちゃんデ・・・ゴメンネ」

無情にも大鉈は振り下ろされる。


847 : ◆DpM/5nZU1E - 2016/01/18 15:20:21.20 RkUw8W4R0 273/289



中尉「…」

金剛「…」




鈍い音、滴る血液。

大鉈は彼女の命を奪う事は出来なかった、誰でもない彼女自身によってそれを阻まれた。

金剛「ギギ・・・グゥ・・・」

彼女は両手で大鉈を握り止めていた、まさに間一髪。
しかしその様相は凄惨たるものであり、何本かの指は切断されてしまっていた。

中尉「…」

金剛「ダメナ・・・お姉ちゃんだけド・・・」

金剛「マダ・・・」

金剛「死にたくないヨ・・・」

金剛「霧島・・・榛名・・・比叡チャン・・・」

金剛「提督ぅ…」

鼻声でつぶやく彼女、だが中尉は容赦が無かった。

中尉「それは通らないな、過ちは正さねばならない・・・」

金剛「ゥァッ・・・」

中尉は乱暴に大鉈から金剛の手を引きはがすと、かろうじてつながっていた指はその勢いで千切れてしまう。

金剛「ヤダ・・・死にたくなイ・・・」

中尉「さらばだ…」

中尉は再び大鉈を振り上げる。













「この一撃は!通すのです!」


その叫びと共に中尉の右腕が宙に飛ばされた。
右腕は弧を描いて海面に音を立てて落ちた。
しかし右腕は瞬時に再生される。

「なるほど…本当だったのですね…」

「司令官さんは・・・人じゃないのですね…」

「なら手加減も必要ないのです…」

「電は嬉しいです…やっと・・・やっと・・・」




「貴方に追いつきましたよ、司令官さん」

中尉「進むべき道を見つけたか…電」


中尉は、穏やかに笑った。

851 : ◆DpM/5nZU1E - 2016/01/19 13:39:02.67 Txaiq5/e0 274/289


金剛と中尉の間に割って入った電、彼女の手には二本の斧が握られていた。
それはかつて中尉が明石に頼んで作らせた対深海棲艦用の斧である。
深海棲艦としての限界まで昇華し、金剛の砲撃をも防いだ体も深海棲艦に特化した武器には勝てなかったという事である。

「殺し合う前に、ひとつ聞きたいのです」

中尉「…言ってみろ」

以前得物を降ろさず、多少の警戒心と少しのためらいを含んだ言葉を彼女は中尉に投げかけた。
対して中尉は構えすらせずに、彼女の話に耳を傾ける。

「何故・・・深海棲艦に?」

中尉「目的に対する手段を講じた結果だ」

「…貴方の目的はなんなのですか?何を成そうとしているのです」

中尉「俺の根底はあの時と変わっていないよ電」

中尉「かつて君はこう尋ねたな、もしも電が絶対正しいと思った道が…俺にとっては絶対に間違った道だったら…」

中尉「どうするんですか?と」

中尉「俺はこう答えたな、俺を殺してでも君の言う正しい道を貫きたまえと」

「覚えているのです、酷く昔のような気がするのです」

中尉「救うために殺す僕と守るために力をふるう君、いずれぶつかるであろう互いの信念」

中尉「時は来た、行くぞ電」

中尉「目に見えるすべての者を助けるなどという痛ましい夢から覚まさせてやる」

「電のセリフなのです…司令官さん」

電は一呼吸置いて、挑みかかるように中尉に叫んだ。

「電達はもう、あなたに守られるだけの子供じゃないのです!」

そして彼女は真横に駆けだした。

中尉「!?」

不可思議な行動を目で追った矢先、耳には空気を切り裂く音が聞こえた。
中尉は上を見上げる。

12.7cm連装砲の射程は、約30キロであった。


中尉「なるほど…電達は、か」

砲撃は正確に着弾した。


853 : ◆DpM/5nZU1E - 2016/01/20 14:00:25.63 JkJGpDJp0 275/289


電の後方8キロの地点に彼女達はいた。

春雨「着弾です!」

春雨からもたらされた吉報に、四条鎮守府から派遣された第六駆逐隊の面々からは歓喜の声が湧く。
暁と春雨は両手をあげて喜び、雷はどこか口惜しそうな表情を浮かべていた。

「やったわ!あとは電が拘束するだけね!」

春雨「はい!まさかこうも上手くいくとは思いませんでした」

喜ぶ春雨に目むくれず、響と若葉はどこか訝しげに着弾点を見つめていた。
すると若葉の目にこちらに一直線に向かってくる物体が映った。
それはかつて南西鎮守府で共に戦った艦娘、叢雲だった。
恐ろしい速度で向かってくるそれは、15キロの距離をドンドンと詰めている。

若葉「戦闘用意!」

「敵影確認、沈めるよ」

ほぼ同時の号令、その声と共に二人は魚雷を放ち砲弾を撃つ。
それに続いたのは雷だった、彼女もまた魚雷を放つ。
いまだ状況を確認しきれていない暁に春雨、この間約6秒。
やっと事態を理解した暁と春雨が攻撃を始めようとした時、叢雲は肉眼ではっきりと見えるほどに近づいていた。


855 : ◆DpM/5nZU1E - 2016/01/21 17:11:18.23 KdwHcq7b0 276/289


この戦いに心理的、物理的な益が存在すると仮定しよう。
中尉からしてみれば電達は最早娘のような存在であり、この戦いにおいて彼女たちの成長を目の当たりにするという益がある。
対して電達からしてみれば人類に仇名す可能性のある彼を沈めに来たのか、もしかすれば彼を捕えに来たのかもしれない。
どちらにせよ能動的に彼の下まで来たというならば、そこには確かな目的があると考えられる。
目的の遂行、直接的か否かは置いておいてそれ自体は益とみなす事が出来る。

では、それでは叢雲に関してはどうだろうか。
彼女の目的は雪風と共に帰るという事であり、それ自体が彼女の存在意義と同義であったはずだ。
彼女は南西の鎮守府で仲間たちの帰還を待ち続けたのだから。
だがその目的は雪風をその手で葬ったことで幻と成り果てた。
その叢雲が何故まだ戦うのか、この戦場ででその真意を知る者は叢雲を除いて存在しない。
だがしかし、ここに一つだけ確かなことがある。

第六駆逐隊が彼女に勝つ見込みは無い。



856 : ◆DpM/5nZU1E - 2016/01/21 17:38:58.68 KdwHcq7b0 277/289


第六駆逐隊は叢雲に対して丁字戦法の横棒の形になっていた。
すなわち、叢雲は艦隊の横っ腹に直線的突っ込んできたのだ。
本来この陣形は戦闘において有利である、それが普通の艦娘及び深海棲艦であるのならばだが。

叢雲「ごあいにくさま!リンチにはなれてんのよ!」

叢雲は綺麗に並んだ陣形の間を素早くすり抜ける。

叢雲「はぁっ!」

春雨「ふぇ!」

そして一番早く慌てた春雨に向かって、魚雷を投げつけた。
魚雷は春雨に当たると爆発し周囲を多量の煙が覆った。

叢雲「まだよ!」

そして叢雲は煙の中で手当たり次第に砲撃を放つ。
これに慌てたのは雷であった。

「春雨!今助けるわ!」

「やめるんだ雷!」

煙の中で春雨の下まで進む雷、その耳に響の声は届かなかった。

「あがっ!」

春雨「雷ちゃん!」

でたらめな砲撃の中で、一発が雷の背中に直撃した。

若葉「くっ・・・一旦引くぞ!この煙の中では不利だ!」

若葉の声と共に第六駆逐隊は一時撤退を余儀なくされた。
煙の中から最後に出てきたのは春雨とそれに支えられた雷であった。
助けに行った側が助けられるとは皮肉なものである、雷の損傷は中破と言ったところだ。
艦隊は雷とそれを支える春雨を中心に、輪形陣を獲った。

「春雨に投げた魚雷、何かおかしいわ」

若葉「あぁ、おそらく煙幕弾。本命は雷に当てた一発だけだったのかもしれないな」

「つまり叢雲は最初から一人だけ潰すつもりで?」

若葉「煙幕を張ってからどうやって雷に当てたのはわからないがな」

煙が晴れると、叢雲は彼女等に対し50mほどの距離の所に立っていた。
ここから先には通さないと言うかのように。



875 : ◆DpM/5nZU1E - 2016/03/25 04:09:11.96 JKnX9ZtU0 278/289

俺・・・私?それとも僕?
どうやらこの身は、深海棲艦の身は素晴らしい戦闘能力と引き換えに記憶を摩耗させるらしい。
なるほど、深海棲艦が轟沈した艦娘だという説、確かにその通りかもしれないな。
連戦で私はこの身を酷使し過ぎたようだ、もはや自分の事を何と呼んでいたのかもよく思い出せない。
毎秒、毎秒私は私でなくなっていく感覚をピリピリと脳裏に感じている。
だが・・・たしかにひとつわかることがある。

「はぁっ!」

俺はこの目の前の少女と決着をつけなければいけない、確か僕はそう思っていたはずだ。

「この!わからずや!なのです!」

「さっさと降参するのです!」

これは間違いなく殺し合いなのだろう、だというのに何故だ。

「一緒に帰るのです!」

「引きずってでも・・・連れて行くのです!」

何故この子は泣いている?
そんな疑問を抱いたと同時に、私の頭が・・・
僕の頭は澄み渡る空に浮かぶ太陽のように、鮮明な記憶を蘇らせていた。

そして少女

いや…電は


その一瞬の隙を見逃さなかった。






「もらったのです!!」


電の一撃が、ついに僕を捕えた。

876 : ◆DpM/5nZU1E - 2016/03/25 04:24:22.14 JKnX9ZtU0 279/289


叢雲「…」

春雨「くっ…せめて響ちゃんたちだけでも!電ちゃんの下へ!」

若葉「あぁ!わかっている!」

私は・・・何をしているんだろうか?
今の私は自らの欲に駆られ、あの日の私と同じ思いをさせようとしているんじゃないかしら?

「二人とも・・・」

「でも…」

「すまないっ!行くぞ!強行突破だ!」

もしも・・・仮にもしもそうなのだとしたら…
あの日の私の悲しい思いを、この子たちにもさせる可能性があるのだとしたら…
私がとるべき行動は・・・







若葉「おまえ・・・」

春雨「…叢雲さん」

叢雲「私達は艦娘、兵器よ」

叢雲「そんな兵器にもね、たしかにあったのよ…心は」











邪魔をしない事・・・

間違ってないよね?雪風・・・


提督…

878 : ◆DpM/5nZU1E - 2016/03/25 04:41:55.22 JKnX9ZtU0 280/289

尉の体から青い血が流れ出る。

「はぁ…はぁ…」

中尉「げほっ・・・ふふっ」

中尉「長く過ごせば慣れが出てくる、慣れは隙を生む…自分で言っておいてこのざまか…」

「さぁ…決着はついたのです、電達と一緒に帰るのです…」

手を差出す電、中尉は背筋を伸ばしその姿をじっと見つめていた。
そのうちに暁、響、雷が電達の下へやってきた。

中尉「…ふふふっ」

中尉が笑みをこぼす、彼女等はそれを訝しげに見つめている。

中尉「随分と・・・いつのまにか随分と大人になっていたようだ・・・」


中尉は優しく彼女等に微笑む。

中尉「訂正しよう・・・響。僕は君を頼るべきだった」

中尉「暁、妹を思いやる君は立派なレディーだ

中尉「雷、約束を守れなくてすまない…次があったなら必ず守るよ…」

「な・・・なんだい急に・・・まるで別れ・・・」

中尉「電」

中尉は響の言葉を遮り、ひたすらに言葉を紡いだ。
どこか焦燥感に溢れた早口で、しかし笑みは崩さず。
その目は四人を目に焼き付けるように、瞬きすら躊躇う様に真っすぐに彼女達に向けられていた。

中尉「君の背中は・・・僕なんかよりもずっと大きい」

中尉「僕がこれまで、守れずに、救えずに・・・」

中尉「ただただ無能を晒しながら捨ててしまってきたものすら・・・君なら守れるだろう」

「し、しれ」

中尉「電・・・」



中尉「望む方を向いて、望むように向かって行くといい…」

中尉は目を閉じた。

中尉「あぁ…本当に・・・」

そこで中尉の口は言葉に詰まった。
そして糸の切れた人形のように崩れ落ちる。




力なく、無念なく、後悔なく崩れ落ちたのだ。

その体を支える手は少し小さい。

880 : ◆DpM/5nZU1E - 2016/03/25 04:56:52.98 JKnX9ZtU0 281/289

白い軍服が太陽に反射して眩しく見え、高級将校の出入りが多い場所
そんな施設に私は赴いていた
周りの視線が痛いのは私が女だからだろうか

そんな視線を避けるように目的地へと急ぐ
横須賀、呉、舞鶴、佐世保に続く大規模鎮守府になった四条鎮守府の司令官として、私に指名がかかったからだ。
理由はおそらく、先の人口深海棲艦討伐作戦の功績という事だろう。
階級は大将となった。
案内窓口らしきところで案内を受け、私は会議室に急ぐ。


そこには新顔が私をいれて三人、古株が三人の計六人が集まっていた。
新顔には呉の友提督、横須賀の提督、そして四条の私だ。

なぜ陸軍の友提督が海軍の重要ポストになれたかは・・・まぁ陸軍のお偉いさんに聞けばわかるのだろう。
今回の議題は人口深海棲艦事件の尻ぬぐいについてだった。

舞鶴と佐世保の司令官はあの人をやり玉に挙げて事態の収拾を図ることを提案した。
しかし横須賀、呉、そして私の三人はあの人に責任能力が無いことを理由に、極秘事項としたうえで箝口令を引くことを提案した。
つまりもみ消そうというわけだ。
以前の私ならば絶対にそんなことはしなかったのだろうが、あの人に毒されてしまったという事だろう。

最終的な判断は元帥閣下がなされるのだが、あの調子なら事件は世間には深海棲艦の新兵器という事になって広まる事だろう。

私は車に乗り、鎮守府への帰路についた。


881 : ◆DpM/5nZU1E - 2016/03/25 05:08:53.63 JKnX9ZtU0 282/289

元帥閣下があのような判断を下したのには、彼の隠れた功績もあっただろう。
彼のおかげで深海棲艦についての研究もだいぶ進み、春雨のように深海棲艦に完全に堕ちる前に助けることもできるようになった。

それに加えて彼は私達の管理下にあり、今はもうただの人間に戻っているのだから危険も無い。
彼はもう、依然と同じ人間である。
記憶が無いという事を除けばだが。

882 : ◆DpM/5nZU1E - 2016/03/25 05:13:08.47 JKnX9ZtU0 283/289

彼の場合は記憶の喪失では無く、記憶が消えている可能性が高いのだという。
それも自分のことについての一切を、だ。
彼は食事も作れるしトイレにも行ける、街に出れば会計もできるし法も守る。

しかし、自分が医者であったこと、陸軍にいたこと私達との思い出などの記憶については全くないのだ。

それを聞いて私は酷く落ち込んだ、他の鎮守府のメンバーも同様であった。
しかし彼女達は違った。






883 : ◆DpM/5nZU1E - 2016/03/25 05:16:40.97 JKnX9ZtU0 284/289


「そんなことは些細な事じゃないか、中尉は生きている。それだけで十分さ」

「思いでなんてまた作ればいいじゃない!いっぱい、いーっぱいね!」

「暁たちはそんなのへっちゃらよ!だって立派なレディーですもの!」

「そうと決まったら、さっそく思い出を作りに行くのです!」


「「「「おー!!」」」」

884 : ◆DpM/5nZU1E - 2016/03/25 05:20:19.51 JKnX9ZtU0 285/289


大鳳「本当に・・・強い子たちね…」

きっとあの人と彼女達は今日も共にいるのだろう…

885 : ◆DpM/5nZU1E - 2016/03/25 05:43:33.32 JKnX9ZtU0 286/289

昼下がりの公園
はしゃぐ三人の少女と木陰で休む一人の少女、そして一人の青年。
青年は楽しげに三人を見つめ、少女は青年を見つめていた。

青年はその視線に気づくと、少女の頭を軽く撫でた。
少女は自然と青年に質問をしていた。
同じ答えなどかえって来ないとわかっているのに、それでも少女は青年に問い始めた。

「あの…」

青年「ん?どうした電?」

「電には・・・戦う力があります…」

青年「前に見せてくれたね…

「電は・・・電の力は…誰かを守るためだけに…使います…」

「それってダメな事でしょうか…?」

青年「いや、それはきっと良い事なんじゃないか?」

青年「君は強いからな」

少女は軽くはにかむ裏側で、少し落胆した。
あぁ…やっぱりか、と。
それが身勝手な感情であることは承知の上であったが、やはり悲しい。
表情がばれないように、少女は俯く。
そんな少女を余所に青年は話を続けた。

青年「けどもしも、もしも君がくじけそうになった時は」

青年「必ず僕が導く」

青年「子供の成長を助けるのは大人の仕事だ」

少女は彼の言葉にはっとした、そして藁にもすがる思いであの日の問答を再現した。

「じゃ!じゃあもし!」

「もしも電が絶対正しいと思った道が…司令官さんにとっては絶対に間違ってるとおもう道だったら…」

「司令官さんは…どうするんですか?」

青年「そうだなぁ…その時は…」









886 : ◆DpM/5nZU1E - 2016/03/25 05:48:29.87 JKnX9ZtU0 287/289




青年「以前君がしたように」

「へ?」

青年「僕を倒してでも…君の言う正しい道を貫きたまえ」

「!」

「…あ」

青年「…君はもう大人なのだ」

青年「望む方を向いて、望むように向かって行くといい…」

青年「…本当に・・・大きくなったな」


電は声をあげて泣いた。
嬉しくて、嬉しくて、嬉しくて泣いた。
その声に気付いた三人が慌てて駆け寄り、彼女達もまた青年の言葉に泣いた。

青年「ただいま・・・と言いたいところだがまずは君たちの事を教えてもらえるかな?」

青年「僕がいない間の君たちをたくさん僕に教えてくれないか?」

青年「許されるならば・・・」

中尉「僕はまた君たちと一緒に居たいから。



青年の頬を涙が伝い、それは止まらない。

今まで堪えてきた涙を全て清算するために。
そして

新たな一歩を踏み出すために。

青年もまた、声をあげて泣いたのだ。

887 : ◆DpM/5nZU1E - 2016/03/25 05:59:39.95 JKnX9ZtU0 288/289


木漏れ日の中で五人は寄り添いあう

青年はつぶやいた

もうお前らと離れたくはない、と

少女は嬉しそうに笑い肯定した

そして青年にしがみつく三人を見て

青年に告げた

司令官さんは・・・人じゃないのですね…

電達みんなにとって

司令官さんはもう…

大切な・・・大好きな人なのです…

青年は笑うと、目を閉じる

少女もまたそれに倣う






救いの手を掴み

死神は消えた

季節外れのカミツレが

そっと風に揺れた




~Fin~

888 : ◆DpM/5nZU1E - 2016/03/25 06:03:30.39 JKnX9ZtU0 289/289

行き当たりばったりだったから矛盾点とか未回収の伏線とかは勘弁な
まぁ終わらせる事が出来て良かった

読んでくれた人や保守してくれた人ありがとな


記事をツイートする 記事をはてブする