関連
勇者「お母さんが恋しい」【1】
勇者「お母さんが恋しい」【2】

509 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/02/29 18:47:03.50 W9zzJ8cFo 396/645


勇者兄「まさか敵の本拠地で一泊することになるとは……」

魔法使い「魔気濃いわね……うっぷ」

勇者兄「俺の近くに寄れよ、光の力で結界張るから」

魔法使い「あ、ありがと」

勇者「よかった……誰も死なずに済んで……」

勇者「でも、戦いはもう始まってるんだね」

勇者父「お前の夢を叶えるチャンスだぞ?」

勇者「え?」

勇者父「仲が悪かった者同士が最も仲良くなりやすい時って、どんな時か知ってるか?」

勇者父「共通の敵ができた時だよ」


Section 17 里帰り

510 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/02/29 18:47:40.06 W9zzJ8cFo 397/645


勇者「でも……」

勇者父「相手は神様ってか、破壊衝動そのものだ。生命を持たない」

勇者父「それどころか人間を操って攻撃してくるやっかいな奴だ」

勇者父「ためらうことはないぞ」

勇者父「話し合いが通じる奴でもない。戦うしかないんだ」

勇者「……わかった。ぼくのこの魔力を活かす時が来たのかもしれない」

勇者「戦うよ、ぼく」

勇者父「よしよし」

勇者「ん……」

勇者父「一人でよくがんばったな」

勇者「……何で助けに来てくれなかったの?」

勇者「結果的にヴェルのこと思い出せたからよかったけど……」

511 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/02/29 18:48:23.58 W9zzJ8cFo 398/645


勇者父「昔、今の魔王と一緒に遊んでただろ?」

勇者「えっ知ってたの?」

勇者父「まあな」

勇者父「ガキの頃のあいつを見てすぐに正体を見破ったさ」

勇者父「あいつがお前を殺すはずがないと信じてた」

勇者「……そっか」

勇者父「何より、お前の人生はお前のもんだ」

勇者父「お前がどう生きるかはお前と周囲の奴等次第」

勇者父「赤ん坊のお前を守るために魔族の血を封印せざるを得なかったが、」

勇者父「お前はもう赤ん坊じゃない。自分の意思を持って生きてるだろ?」

勇者父「生命の危機にでも晒されようもんなら助けるが、」

勇者父「お父さんは必要以上に子供の人生に介入しない主義なんだ」

勇者兄「いやふざけんな!!!!」

勇者父「下手に乗り込んで騒ぎを起こせば戦争になりかねんだろう」

勇者父「そもそもお父さんもう肉体衰えてるし魔王に歯向かうなんて無理無理無理」

勇者兄「エミルがどんなに怖い思いをしたのか想像できねえのかよ!?」

勇者「お兄ちゃん落ち着いて」

512 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/02/29 18:49:07.29 W9zzJ8cFo 399/645


勇者兄「ああエミル!」

勇者「ふぎゃっ」

リヒトはエミルを抱きしめた。

勇者兄「どんな姿をしていてもお前は俺の妹だ!」

勇者兄「すぐに助けてやれなくてごめんな、ごめんな」

勇者「お兄ちゃん……」

勇者兄「これからは絶対守るからな」

魔法使い「…………」

魔王「今すぐ我が妹から離れろ下郎」

勇者兄「んだとぉ!?」

勇者「お願いだからケンカしないで」

513 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/02/29 18:49:38.12 W9zzJ8cFo 400/645


魔兵士1「ひっ真の勇者一行だぞ」

魔兵士2「殺される! 魔王陛下は何故避難勧告を解除されたんだ……」

法術師「こう恐れられると傷付くわね……当然のことなのだけれども」

武闘家「戦わなさすぎて旅立つ前より腕なまってる気がするんだよな」

勇者「じゃあ久しぶりに打ち合いやろうよ」

武闘家「そうするか」

魔法使い「あんた剣なんて使えたの?」

武闘家「エミル達とは流派違うけど少しはな」

勇者「……ぼくのこと、まだ友達だと思ってくれてるの?」

武闘家「そもそもお前が魔族だって知ってたし俺」

勇者「え!?」

勇者兄「は!?」

魔法使い「何ですって!?」

武闘家「俺と俺の師匠だけは気付いてた。気功のおかげでな」

勇者「じゃあ……ぼくが魔族だって知った上で友達になってくれたの……?」

武闘家「ナンパに利用できさえすればそれでいい」

勇者「…………」

勇者「……あ、ありがとう」

武闘家「そんなドレスじゃ剣振れねえだろ。さっさと着替えてこいよ」

勇者「うん」

魔王「奴は……一体エミルとどのような関係なのだ……」

執事「ただのご友人らしいですから落ち着いてください」

514 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/02/29 18:50:20.32 W9zzJ8cFo 401/645


魔貴族A「まさか真の勇者と手を組むとは……そもそも破壊神なぞ実在するのか?」

魔貴族B「どうにかして王位を剥奪したいものだが……」

魔貴族A「逆らえばヴォルケイトスに妻を寝取られてしまうからな」

魔貴族B「何人の女が奴に骨抜きにされてしまったことか……」

魔貴族A「我等に抗う術はないな。大人しくしておくとしよう」

執事「おや、賢明な判断をなさったようで」

魔貴族A「ひぃっ!」

執事「悪いことは言いません。邪な考えは捨てた方がいいですよ」

魔貴族B「だ、だが、真の勇者を城に泊めるとは危険にもほどがあるだろう」

執事「先程伝令があったと思いますが、」

執事「彼等はそちらから襲わない限り魔族に危害を加えることはありません」

執事「見張りもついています。どうかご安心を」

魔貴族A「よく人間を信用できたものだな……」

魔貴族A「……コバルト。お前は人間が憎くはないのか」

魔貴族A「お前の群れは……」

執事「あなた方には関係のないことです」

515 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/02/29 18:52:03.10 W9zzJ8cFo 402/645


魔王「これを機に和平交渉を行いたい」

勇者父「ほう」

魔王「沈黙を保つだけでは進展しないからな。ずっと機会を伺っていた」

魔王「私個人が戦うだけでは何かと不都合だ」

魔王「争いの混乱の中で人魔の争いが起こる可能性もある」

魔王「古の神話では、破壊神は人間を操った他、」

魔王「心を持たぬ人形により大地を血で染めたと言い伝えられている」

魔王「魔の気がある以上融和は困難であろうが、共同戦線を張るべきだ」

勇者父「俺も同じことを考えていた」

勇者父「各国の王様集めて会議でも開きたいもんだな」

魔王「ああ」

魔王父『我の可愛い息子に近付くなこの汚らわしい色情魔』

勇者父「……お前さん、俺を恨んでないのか?」

魔王「恨んだところで何になる。母上が悲しむだけだ」

魔王父『何故許せる!? お前の母親を我から奪ったのだぞ!!』

勇者父「そうかい。随分心の広い魔王様だな」

魔王父『死ね、死ね、体の端から少しずつゴキブリに噛み千切られて生き延びたことを後悔するがよい』

勇者父(悪寒が)

516 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/02/29 18:52:34.65 W9zzJ8cFo 403/645


魔法使い「くっ……」

魔法使い「何なのよもう!」

魔法使い「あいつ魔族だったのにそれでも妹だなんてありえないありえないありえない」

魔法使い「許せない……何で死んでなかったのよ……!」

魔法使い「もういや――――うっ」

法術師「アイオ!? どうしたの!?」

魔法使い「一瞬、頭が痛くて……」

法術師「大丈夫? 今治療を」

魔法使い「……平気よ」

517 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/02/29 18:53:08.55 W9zzJ8cFo 404/645


魔王城・食堂

勇者父「うめえ」

魔法使い「よく抵抗なく魔族のごはん食べられるわね……」

勇者「そっか……ぼく、死んだことになってるんだ」

武闘家「死んだままにしとけばお前は自由だ」

勇者「…………」

勇者「でも、お母さんに会いたい。町のみんなや、旅の途中で出会った人達とも」

武闘家「会いに行けば生存していることが確実に平和協会にバレるな」

勇者「ぼく、王様や平和協会に嫌われてるから、人間の社会に戻るのは怖いけど……」

勇者「でも、一生会わないままだなんてやだよ」

勇者兄「何かしらの交渉をして自由を確保してやりたいもんだが」

勇者父「破壊神対策に協力しますっつっとけば当分大丈夫だろ」

勇者父「卑怯な手で貶められたりしなけりゃの話だがな」

魔王「エミル……やはり、母親に会いたいか」

勇者「……うん」

518 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/02/29 18:53:51.88 W9zzJ8cFo 405/645


魔王「……私も挨拶に伺わねばと思っていた」

勇者「え!?」

勇者兄「は!?」

魔王「明日、テレポーションで全員ブレイズウォリアまで送り届けよう」

魔王「破壊神の話をするにしても、平和協会の支部よりは本部の方がいいだろう」

勇者兄「お前……マジでうち来るのかよ?」

魔王「人間に化ける術なら心得ている」

執事「ちょっと陛下。仕事はどうするんですか」

魔王「……適当に戻る」

執事「魔王だってバレたら騒ぎになりますよ」

魔王「我が魔術の腕を疑っているのか」

執事「……はあ」

519 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/02/29 18:54:29.53 W9zzJ8cFo 406/645


翌日

勇者「じゃあ行ってくるね!」

執事「はい。お気をつけて」

勇者「パルルのお世話、お願いします」

メイド長「はい! 絶対帰ってきてくださいね! ううっ」

執事「今生の別れじゃないんだから……」

執事「……テレポーション使った時点で高位の魔族だってバレませんかね?」

魔王「適当に誤魔化すまでだ」

執事(不安過ぎる……)

勇者父「こんな大人数一気に移動できるなんてすげえな。流石エリヤの息子だ」

魔王「……ふん」

勇者「元の姿に変身できてるかな」

武闘家「おっけ」

520 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/02/29 18:55:01.79 W9zzJ8cFo 407/645


――東の果ての国ブレイズウォリア

勇者兄「久々の故郷だ。変わんねえな」

勇者「……帰ってこられたんだ」

勇者「お母さーん!」

勇者母「……エミル? エミルなの!?」

勇者「ぼく帰ってきたよ!!」

勇者母「ああエミル! 夢じゃないのね?」

勇者母「よかった……よかった……」

勇者「お母さん……会いたかったよ…………」

勇者兄「ただいま、母さん」

勇者父「帰ったぞカトレアー!」

勇者母「みんな……お帰りなさい」

521 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/02/29 18:55:39.30 W9zzJ8cFo 408/645


エミル達の家

アイオとセレナ、コハクはそれぞれ自分の実家に戻っている。

勇者母「そう……大変だったのね」

勇者兄「一休みしたら国王陛下に会ってくるよ」

勇者兄「あれ父さんは」

勇者「あっちで寝てる」

勇者母「そちらの方は」

勇者「あ、えっとね、ヴェルっていうんだよ」

魔王「……私はエミルの婚約者だ」

勇者母「まあ!」

勇者兄「…………」

勇者母「こ、こ、婚約者だなんて!」

勇者母「ごめんなさいねちゃんとしたおもてなしもできなくて」

勇者母「ええと、どこの国のどんな方なのかしら」

魔王「かなり西の方の国の王族だ」

勇者(嘘ではない……)

勇者母「お、王族……」

カトレアはよろめいた。

勇者「わー! お母さんしっかり!」

522 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/02/29 18:56:26.99 W9zzJ8cFo 409/645


勇者母「そんな高貴な方が……うちの娘と……」

魔王「エミルは我が眷属だ。身分の差の問題はな」

勇者「待って! いきなり話してもややこしくなるから!」

勇者母「うう…………」

勇者「えっと……夜にまたゆっくり話そうか」




魔王「では私は城に戻る」

勇者「えっもう帰っちゃうの?」

魔王「城を長時間空けるわけにはいかないからな」

魔王「お母上には、お前から説明しておいてくれ」

勇者「うん」

魔王(上手く話せる自信がない……コバルト並みの会話力が欲しいものだ)

勇者兄(二度とくんなし)

魔王「……お前思いの良い母親のようだな」

勇者「!」

勇者「うん!」

523 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/02/29 18:57:04.47 W9zzJ8cFo 410/645


ブレイズウォリア城・謁見の間

国王「ほう。シュトラールの術で魔王城からここまで一瞬で移動したと」

勇者父「魔王の協力も得られることとなりました」

勇者父「これを機に、魔王は和平を結ぶことを望んでおります」

国王「ふむ……」

協会代表「信用できぬな……所詮魔族の言ったことだ」

協会代表「裏切られる可能性も充分にある」

勇者父「今の魔王は先代までとは違います。彼は平和を望んでいるのです」

大魔導師「騙されているとは思わぬのか」

勇者父「魔力見りゃ相手がどんな奴か大体わかるだろ?」

勇者父「大魔導師さんなら、」

勇者父「実際に魔王に会えば信用に足る奴だってわかると思うんだけどな~」

大魔導師「…………」

勇者父「というわけで、人間魔族合同会議を開きたい」

国王「……検討しておこう。全生命の危機だからな」

協会代表「……ところで」

524 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/02/29 18:57:43.31 W9zzJ8cFo 411/645


協会代表「エミル・スターマイカ。お前は光の力を失っているようだが」

勇者「ぼくは長い間、ぼくを憐れんだ魔王に『保護』されていましたが、その……」

勇者(魔族だってバレないバレない! フィルターかけまくってるもん!)

勇者父「魔王城の魔気に光の力やられちまったんだよな」

大神官「そのようなことは聞いたこともないが……」

国王「ううむ……」

勇者兄「何疑ってんだよ」

国王「ヒッ!」

協会代表(幼い子供を一人で旅立たせるなど頭がおかしいと苦情が殺到している)

協会代表(表立ってこやつを処分すれば、協会の名が落ちてしまう)

協会代表「……まあよかろう。破壊神の攻撃に備えて体を休めよ」

協会代表(しばらくは様子見だ)

525 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/02/29 18:58:31.20 W9zzJ8cFo 412/645


勇者「き、緊張した……」

勇者父「お前嘘吐くの下手っぴだもんなあ」

勇者父「明日からは忙しくなるだろう。今日はしっかり寝とけ」

勇者「うん……」

女子1「エミルあんた生きてたのね!」

女子2「キャーコハク君お帰りなさい!!」

女子3「意外と早かったじゃない!」

女子4「彼女作ったりしてないよね!?」

武闘家「うん」

女子5「エミルくぅぅぅぅぅん!!」

勇者「みんな……ただいま!」

526 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/02/29 19:00:22.06 W9zzJ8cFo 413/645




勇者母「みんなが無事に帰ってきてくれたお祝いよ」

勇者兄「こりゃまた豪華だな。ありがと母さん」

勇者母「リヒトの好物もいっぱい作ったんだから」

勇者「お母さんのごはんだあ!」

勇者「ヴェルにも食べてほしかったなあ」

勇者母「うちに泊まっていかれたらよかったのに」

勇者「あ、あはは……お兄ちゃんが許さないよそれ」

勇者兄「ったりめーだろ」

勇者父「おー久々のカトレアの料理だ」

勇者母「あんた、もうちょっと頻繁に帰ってきなさいよ」

勇者父「あ、うん、ごめん」

勇者「おいしい……おいしいよ……」

エミルは涙をこぼし始めた。

勇者「も……食べれないって……ぐすっ……思ってた……」

勇者「どんなに頑張ってもっ……お母さんとおんなじ味に作れなくてっ……」

勇者母「エミル……」

527 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/02/29 19:01:12.11 W9zzJ8cFo 414/645


――
――――――

勇者父「ぐごご……」

勇者「お母さん、一緒に寝ていい?」

勇者母「……いいわよ。おいで」

勇者「んー」

勇者母「よくがんばったわね……」

勇者「お母さん……」

勇者「あのね、お母さん」

勇者母「どうしたの?」

勇者「ぼくを、本当の子供みたいに大事に育ててくれて、ありがとう」

勇者母「い、いきなり何言い出すの!?」

勇者「旅してたらね、知っちゃったんだ、本当のお母さんのこと」

勇者母「…………」

528 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/02/29 19:02:08.35 W9zzJ8cFo 415/645


勇者「でもね、ぼくも、お母さんのことお母さんだと思ってるし、大好きだから」

勇者母「そう……」

勇者母「本当のお母さんには、会えたの?」

勇者「……何年も前に、死んじゃってた」

勇者母「…………そっか」

勇者「ヴェルがね、本当のお母さんの……その、関係者の人で」

勇者「ぼくのことほんとに大事にしてくれてるんだ」

勇者「だから、心配要らないよ」

勇者母「そう……良い人に巡り合えたのね」

勇者母「彼、悲しい目をした人だったわ。支え合って生きていくのよ」

勇者「……うん」


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537 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/02 18:02:55.28 YFKGm2p2o 416/645


『君の歌には、不思議な力があるんだね』

『この村に伝わる、神様の歌なのよ』

『枯れかけた花だって、また綺麗に咲くわ』

『聞かせて、くれるかな』

『聞きたいんだ。君の歌を』


Section 18 少女

538 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/02 18:05:07.75 YFKGm2p2o 417/645


協会職員「現在大陸中に呼びかけているのですが」

協会職員「怒りや憎しみ等の、破壊衝動の元となる感情を継続して持っていると、」

協会職員「破壊神に操られてしまうので、できる限り穏やかな精神状態を保ってください」

勇者兄「で、俺等は具体的に何やればいいんだ?」

協会職員「とある少女を追っていただいきたいのです」

勇者兄「少女?」

協会職員「破壊神に操られた者……『破壊者』のほとんどは、」

協会職員「捕獲してしばらくすれば正気を取り戻すのですが、」

協会職員「一人だけ、あまりにも力が強くて手が付けられない者がいるのです」

勇者兄「そいつは今どのあたりにいるんだ」

協会職員「それが、突然姿を消してしまうものですから、正確な位置はわかりません」

協会職員「ただ、少しずつ北に向かっているようなのです」

協会職員「現在は大陸中央部のやや北側にいるものと思われます」

協会職員「しかし、その……」

勇者兄「ん?」

539 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/02 18:06:48.23 YFKGm2p2o 418/645


協会職員「通常、破壊者は無差別に破壊と殺戮を繰り返すのですが、」

協会職員「その少女だけは平和協会の支部のみを攻撃しているのです」

勇者兄「破壊神とは無関係の、協会に恨みのある奴の犯行じゃねえのか?」

協会職員「それが、目撃者の証言によると、」

協会職員「破壊神の下僕である人形を従えていたそうなのです」

協会職員「奇妙な力を使っていたことからも、破壊者で間違いないかと」

勇者「奇妙な力?」

協会職員「魔術とも法術とも異なる、未知の力の波動です」

協会職員「また、彼女が歌うと、周囲の物が崩れ去ったり、絶望的な気分になったりするとか」

勇者「うーん……」

武闘家「気功とも違うな」

勇者兄「話はわかった」

協会職員「彼女は15歳程の美しい少女だそうです」

協会職員「なんでも、黒髪が部分的に金に輝いたりする不思議な頭髪だとか」

勇者「魔族……ではないんですか?」

協会職員「確かに人間だと報告が入っています」

協会職員「では、シュトラール様、テレポーションを習得なさっているのですよね?」

協会職員「一行を連れて大陸中央部辺りまで飛んでいただきたい」

勇者父「あ゛っ、うん」

540 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/02 18:07:43.19 YFKGm2p2o 419/645


勇者父「どうしよう。多分また魔王来るよな? エミルに会いに」

勇者「あ、ぼくごく最近テレポーション覚えたよ」

勇者「まだちょっと不安だから、自分含めて5、6人くらいが限界かな」

勇者兄「ギリギリいけるか?」

勇者「やってみる」

勇者「……瞬間転移<テレポーション>!」


――大陸中央付近

勇者「うっ……疲れた……」

勇者兄「大丈夫か!?」

勇者「力が入らない……慣れの問題だと思うけど」

勇者「すごい量の魔力消費した……」

勇者父「必要な魔力量がばかでかいからな……こんな人数運んだのなら尚更だ」

勇者兄「近くの村までちょっと距離があるな。おんぶしてやるよ」

勇者「ありがとう、お兄ちゃ」

魔法使い「っ!」

勇者「!?」

勇者「う、ううん、歩いてくから大丈夫」

勇者兄「遠慮すんなって」

勇者「あわわ」

魔法使い「…………」

法術師「嫉妬しないの!」

武闘家(リヒトさんが鈍感なのがなあ……問題なんだよな)

541 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/02 18:08:15.34 YFKGm2p2o 420/645


勇者兄「昔はよくエミルをおんぶしてやったもんだなあ」

勇者兄「転んでひざ擦り剥いたり、寝ちまったりした時とかにさ」

勇者「……そうだったね。懐かしいな」

勇者兄「でかくなっちまったもんだよなあ」

勇者兄「少し会わない間に旅に出てるわ俺以外の奴を兄と呼んでるわ恋人はできてるわで」

勇者兄「うっ……なんか……ざびじ……」

勇者「泣かないで」

勇者「……ぼくにとってのお兄ちゃんはお兄ちゃんだけだよ」

勇者「ヴェルのこと、お兄ちゃんだと感じたこと、実はあんまりないんだ」

勇者兄「えっマジか!?」

勇者「ヴェルは初恋の相手で、誰よりも大好きな恋人で……」

勇者「喜んでもらえるから『兄上』って呼んでるけど、」

勇者「ほんとは兄妹だって実感沸いてないの。ぼくのお兄ちゃんは、お兄ちゃんだけ」

勇者兄「……ぅ……ぐずっ……」

勇者父「泣き虫なところそっくりだよなお前等」

542 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/02 18:08:47.82 YFKGm2p2o 421/645


少女『ちょっと、あんた達何やってんのよ!』

ガキ1『あ?』

ガキ2『あんだよ』

ガキ3『カトレアじゃん』

いじめられっ子『うう……いたいよ……』

少女『大勢で一人に暴力振るうなんて卑怯よ! ケンカなら一対一でやれば!?』

ガキ1『お前も殴られてえのか』

ガキ2『てめえみてえなガサツな女、女じゃねえ!』

少女『あ、んた達……許さないんだからっ……ぅ……』

ガキ3『こいつ泣きやがったぞー!』

ガキ『『『なーきーむし! なーきーむし!』』』

少年『おまえらまーたいじめかよカッコ悪いぞ』

ガキ2『げっシュト何とかだ!』

少年『勇者様の名前くらい覚えろよ……』

543 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/02 18:09:22.66 YFKGm2p2o 422/645


勇者父(あいつ、負けん気が強いわりに、感情が昂るとすぐ泣くんだよなあ)

勇者「ほら鼻水拭いて。村に着いちゃうよ」

勇者兄「ふぐっ……ずずっ……」

勇者父(二人とも、あいつに育てられたんだもんなあ。そりゃ似るわ)


――村

勇者兄「黒髪と金髪が混じった、15歳くらいの女の子を見かけませんでしたか?」

村人「うーん、そんな変わった頭の子は見てないねえ」

村人「4歳くらいの、迷子の女の子なら保護してるんだがねえ」

勇者兄「ありがとうございます」

544 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/02 18:10:11.48 YFKGm2p2o 423/645


勇者兄「目撃情報は全然無かった」

武闘家「同じく」

魔法使い「何の手がかりも無しよ」

勇者父「眠い……宿行こうぜ宿」

勇者兄「……おい、その子どこの子だ」

幼女「…………」

法術師「迷子らしくて……この村にはご両親らしき人はいないそうなんです」

勇者「懐かれちゃったね」

幼女「きがついたらひとりだったの」

勇者「魔力で一応探したんだけど、見つけられなかったんだ」

勇者兄「参ったな……」

545 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/02 18:10:39.91 YFKGm2p2o 424/645


幼女「いっしょにつれてって! さみしいの!」

法術師「か、かわいぃ……」

法術師「ねえ、リヒト君……」

勇者兄「危険な旅なんだ。連れていくのは無理だぞ」

勇者父「いいんじゃねえの? こんだけ人数いるし」

勇者兄「考えが甘いんだよ!」

幼女「んぅ……おねがい」

勇者兄「うっ……」

勇者「引きはがしてもついてきそうだよ」

勇者兄「しゃーねえな……セレナ、しっかり面倒見ろよ」

法術師「うん! あなた、お名前は?」

幼女「イリス!」

法術師「あら、可愛いお名前ね」

勇者「虹かあ。綺麗な名前だね!」

幼女「えへへ~」

546 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/02 18:11:06.12 YFKGm2p2o 425/645


勇者父「あれ、お前この村に帰ってきてたのか」

少年勇者「あっ父さん!」

勇者「えっ……?」

勇者兄「は……?」

勇者父「あ、こいつ俺の息子の内の一人」

少年勇者「僕の兄さんと……弟……かな? はじめまして」

勇者「あっ、うん。妹です。エミルです」

勇者兄「……リヒトだ」

少年勇者「僕はブラット。趣味は農業です」

勇者父「暇ありゃ畑いじってるような奴だ」

勇者父「普段はセントラルの平和協会支部で訓練受けてるんだが」

少年勇者「謎の少女の襲撃により訓練どころじゃなくなったんで」

少年勇者「村に破壊者が現れないか警戒しつつ、」

少年勇者「こうして大好きな野菜を育てているんです」

少年勇者「剣を振るより鍬で土を耕す方がずっと好きですね」

547 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/02 18:11:50.67 YFKGm2p2o 426/645


勇者「この畑からすごい生命のエネルギーを感じる……」

勇者父「こいつが育てた作物はうまいぞ」

少年勇者「たまにしか帰ってこられないんで、」

少年勇者「普段は母さんや弟達が面倒をみてくれているんですけどね」

勇者兄「その弟達って……」

勇者父「いや、俺の子じゃないぞ」

少年勇者「母さんは僕を産んだ後に結婚してるんです。父親違いの兄弟ですね」

勇者兄「頭が痛い……」

勇者「あ、あはは……」

少年勇者「なんなら、今日採れた野菜を少し差し上げましょう」

勇者「え、いいの?」

少年勇者「兄弟のよしみです」

勇者「やったあ! ぼくお料理大好きなんだ。大切に調理するね!」

少年勇者「喜んでもらえてよかったです」

武闘家「複雑な関係なのに心の広い奴だな」

548 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/02 18:12:31.49 YFKGm2p2o 427/645


勇者「……お母さんは、どうしてこんな浮気者のお父さんと結婚したんだろう」

勇者「美人だし優しいししっかりしてるし絶対他に貰い手あったよね……」

勇者兄「若い頃けっこうモテてたらしいが全員振って父さんと結婚したらしい」

勇者「何でだろ……」

勇者兄「全く理解できん」



「離婚してやる!! この浮気者!!」

「だから誤解なんだって!!」

「もう許さないんだから!! うっ――――」

「――――」

「お、おい、どうした?」

「ホロベ    コノヨニ ホロビヲ」

549 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/02 18:13:36.28 YFKGm2p2o 428/645


勇者「あっちから妙な力の波動が!」

「ホロベ  ワタシハ スベテヲ     コワス」

「うわあああああ!!」

勇者兄「様子がおかしいぞ!」

「助けてくれ!!!!」

勇者(これが破壊の波動……)

勇者「クリスタルバリア!」

エミルは水晶状のバリアで破壊者と化した女性を囲んだ。

「コワセ  コワセ」

「ひぃぃぃぃ」

幼女「こわい」

勇者兄「これが破壊者か。目が逝ってるな」

勇者父「何があったんだ?」

女性はガンガンバリアを叩いている。

「た、ただちょっと痴話喧嘩をですね」

勇者父「ただの痴話喧嘩程度じゃあ破壊者化しねえよ」

勇者父「普段から不満溜めてたんじゃないのか?」

550 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/02 18:14:24.78 YFKGm2p2o 429/645


「……俺には幼馴染の女性がいるんだ」

「お互い姉弟みたいに思っていたから、恋仲にはならず別の人と結婚したんだが」

「ずっと妻が彼女に嫉妬していてね……」

「さっきも幼馴染と俺が喋っているところを見られてしまって」

勇者兄「……断じて浮気じゃないんだな?」

「そうだ! 愛しているのは妻だけだ!!」

「――――――!」

勇者「反応した?」

勇者父「よし、そのまま愛を叫べ」

「えっこんな人前で」

勇者父「そうしなきゃ、奥さんはお前さんだけじゃなく誰でも殺す殺人鬼になっちまうぞ」

「う……」

「コワ ス  コ ロ セ 」

「愛してるぞ嫁さん! この世の誰よりも!!」

「っ――――――」

「俺が愛してるのはお前だけだ! 一生お前だけを愛し続ける!!」

「――――」

「戻ってこい!!」

「……」

551 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/02 18:14:51.31 YFKGm2p2o 430/645


「あら? 私、一体……」

「ああ、よかった……」

「あなた……」

「ちょっと、悪い夢を見ていただけなんだよ」

シュトラールは魔力でペリドットの塊から小さな欠片を切り落とした。

勇者父「一応、これ持ってけ」

勇者兄「何だ? それ」

勇者父「人の心を落ち着かせる効果のある石だ」

「ありがとうございます……」

552 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/02 18:15:22.07 YFKGm2p2o 431/645


勇者父「まだ力の弱い破壊者でよかったな」

勇者父「人形も出現しなかったし、旦那に愛を叫ばせるだけで落ち着いた」

勇者父「人としての意識がまだ残ってたんだな」

勇者父「沸き上がった破壊衝動が強ければ強いほど破壊者の力も強くなり、」

勇者父「正気を取り戻させるのも困難になるらしい。最悪の場合、殺さなきゃならねえ」

勇者父「誰でも破壊者になってしまう可能性はあるが、」

勇者父「嫉妬深い奴や不満を溜めこむタイプの奴は要注意だな」

勇者兄「…………」

勇者父「ん?」

553 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/02 18:15:53.79 YFKGm2p2o 432/645


勇者兄「いや、母さんはよく父さんの浮気を許せるなと思って」

勇者父「あーまあ、幼馴染だから俺の性格よく知ってるしあいつ」

勇者兄「……ほんと、何で父さんなんかと結婚したんだ?」

勇者父「……何でだろうな? 他の男と幸せになれたはずなのに」

勇者父「何でわざわざ俺なんかを選んだんだろうな……」

勇者「その石、綺麗だね」

勇者父「だろ?」

勇者父「今、協会がそこら中にこの石を設置している最中だ」

勇者父「完全に破壊者の出現を防ぎきることはできないかもしれないが」

勇者父「ないよりマシだろ」

勇者(肖像画に描かれた母上の瞳と同じ色だ)

554 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/02 18:16:22.56 YFKGm2p2o 433/645


勇者(産んでくれた母上と、育ててくれたお母さん)

勇者(ぼくには、二人のお母さんがいる。二人とも、大事なお母さん)

勇者(死んでしまった母上の願いを叶えるため、今生きているお母さんを守るため、)

勇者(この世界を守りたい)


幼女「セレナお姉ちゃーん!」

法術師「ああんもうほんと可愛いわね!」

魔法使い「あんたは将来いいお母さんになれそうね」

法術師「アイオだって、いいお母さんになれるわよ!」

法術師「あははくすぐったーい!」

幼女「あははぁ!」


Now loading......

561 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/03 17:20:54.86 6wTOLlyuo 434/645


Section 19 美の都


勇者「住んでた村の名前、憶えてない?」

幼女「わかんない……」

勇者「うーん……」

勇者兄「平和協会に話は通しておいた」

勇者兄「親御さんの名前は幸い憶えてたんだし、すぐ見つかるだろ」

勇者「ありがと、お兄ちゃん」

勇者兄「情報魔術師のおかげで話の伝達だけは早いからなあそこ」

562 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/03 17:21:21.53 6wTOLlyuo 435/645


数日後

魔王「……」

執事「作業効率落ちてますよ」

魔王「…………」

執事「そんなにエミル様の不在が辛いんですか」

魔王「………………」

狼犬「わふぅわふぅ」

メイド長「陛下の頭に貼り付いちゃだーめ!」

執事「……この書類の束が片付いたらエミル様の元へ行っていいですよ」

魔王「!」

メイド長「あらすごいスピード」

執事「最近いつもこうなんだから」

563 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/03 17:22:09.28 6wTOLlyuo 436/645


――美の都ヴァナディース

勇者父「おっ、そうだそうだ。もう美女コンテストの時期か」

勇者兄「そんなことやってる場合なのか?」

勇者父「世界の危機だからって、なあんにも楽しいこと無かったら気が滅入るだろ」

勇者父「おー流石美の都。美人がいっぱい」

勇者兄「派手にめかし込んでるだけだろ」

勇者兄「……いや、彫りの深い天然の美女だらけだ……」

法術師「あらほんと」

魔法使い「むぅ……」

武闘家「よしエミル、ナンパしに行こうぜ」

勇者「いいよ」

勇者兄「あっこら! エミル、ナンパの意味わかってんのか!?」

勇者「お友達づくりのことでしょ?」

勇者兄「あ、あのなあ」

勇者父「夕刻にコンテスト会場前で集合な!」

564 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/03 17:22:41.39 6wTOLlyuo 437/645


勇者父「よし、俺もコンテストの席取りをしに」

勇者兄「おい」

勇者父「いやもちろん破壊者探しもするから!」

勇者兄「……はあ」

勇者兄「どいつもこいつも鼻の下伸ばしやがって……女性陣、頼んだぞ」

法術師「はーい!」

魔法使い「まあがんばるわ」

幼女「はぁい!」

565 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/03 17:24:34.48 6wTOLlyuo 438/645


幼女「このお花きれえ!」

法術師「植木も凝ってるわねー……」

魔法使い「黒と金の髪色の女の人……けっこういるわね……」

法術師「この町は髪の色を抜いたり、染めたりする技術が発達してるみたいだからね」

法術師「見た目で探すより、あの破壊の波動を探ったがよさそうね」

法術師「あ、ここのアクセサリー綺麗ね! アミュレット機能もあるみたい」

魔法使い「凝ってるわね……あっ、値段が……」

法術師「なんてお高い……」

幼女「これかわいいー!」

法術師「あら、これなら買えそうね。買ってあげちゃうわ!」

幼女「ほんと?」

法術師「ええ!」

幼女「わあ! ありがとうおねえちゃん!」

法術師「うふふ……イリスの黒い髪の毛によく似合ってるわ」

566 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/03 17:26:04.58 6wTOLlyuo 439/645


武闘家「何の手がかりも見つかんねえ」

勇者「ねー……」

美少女1「破壊者騒ぎは時々あるんだけどねぇ」

美少女2「なんせここは美の都。より美しくなろうとするが故に、」

美少女2「自分より美しい者に嫉妬する者が絶えないのよ」

勇者(より嫉妬心を煽るようなコンテストをやっちゃあ危険なんじゃ……)

美少女1「でも、そんな強い破壊者が出たなんて聞いたことないわ」

勇者「捕獲された破壊者達は、今どこにいるのかな」

美少女1「王立研究所の地下らしいわよ」

武闘家「そうか。ありがとよ。お礼にここのケーキとお茶は俺等のおごりだ」

美少女1「きゃっ、ありがと」

美少女2「うれしー!」

勇者(流石美の都……スイーツのデザインも凝ってる……)

567 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/03 17:26:49.67 6wTOLlyuo 440/645


魔王(素晴らしい景観だな……芸術的な彫刻が至る所に設置されている)

魔王(エミルがいるのはこの辺りか)

魔王(……美少女に囲まれて一体何をしているんだ……?)

魔王(ま、まさかそういう趣味が)

狼犬「?」

魔王(いや、エミルに限ってそんなことは)

魔王(しかし……元から男の装いをしていたし……)

魔王(……冷静になれ。頭を冷やそう)

――――

美女1「キャーあの人素敵じゃなーい!?」

美女2「でも大きいわね……2メートルくらいありそうよ」

――――

魔王(ん……あれは……)

魔王兄「よう」

魔王「貴様……ここで一体何をやっている……」

568 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/03 17:28:02.92 6wTOLlyuo 441/645


魔王兄「あ? 美女見に来たに決まってんだろ」

魔王兄「お前こそ頭に犬ひっつけて何やってんだ」

魔王「……」

魔王兄「この国は素晴らしいな! 乳のでかい女が山ほどいるんだぜ!」

魔王「貴様が人の姿に化ける術を扱えるとはな」

魔王「流石、夜這いに便利だからという理由だけでテレポーションを身に付けただけのことはある」

魔王兄「おうよ」

魔王「間違っても人間の女を抱くんじゃないぞ」

魔王兄「あんでだよ」

魔王「貴様、大剣で女の内臓を切り裂くつもりか?」

魔王兄「あー確かに人間の女は小柄だよなあ。脆そうだし」

魔王兄「連れ込むんなら身長高くて丈夫そうな奴じゃねえと……」

魔王「……くだらん」

569 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/03 17:28:40.31 6wTOLlyuo 442/645


魔王「わた……俺はエミルの元に行くぞ」

魔王兄「お前まだ俺が言ったこと気にしてんのかよ! がはは!!」

魔王「くっ……」

魔王兄「まあ待てって」

美女1「あの彼も素敵! 兄弟かしらね?」

美女2「声かけちゃおうかしら」

魔王兄「な? 付き合えよ」

魔王「断る!!」

魔王兄「そこのお姉さんがた~ちょっとお茶しようぜ」

魔王「ふっ触れるな! 放せ! 放さぬか!!」

美女1「あら、ぜひともお願いいたしますわ」

美女2「うっふ」

570 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/03 17:29:32.23 6wTOLlyuo 443/645


――王立研究所

研究員「一度破壊者となった者は、性格上再び破壊者となる可能性が高いのです」

研究員「よって、この牢屋に隔離し、平静を保てるようにしているのです」

元破壊者「おうち……帰りたい……」

破壊者「ウー! ウー! ウー ――」

勇者「これじゃ、まるで囚人だ……悪いのは破壊神なのに」

研究員「解放したところで、彼女達が元の生活に戻るのは困難でしょう」

研究員「操られていたとはいえ、周囲に危害を加えたことには変わりません」

研究員「人を殺してしまった者もいます」

研究員「どのように法で裁くべきか、裁判所の議論も終わっておりません」

勇者「はやく……どうにかしなきゃ……」

武闘家「しかし、すぐに再封印できるわけでもないからな」

武闘家「封印がもっと緩まないとこっちからも干渉できないんだろ」

勇者「…………くやしい」

571 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/03 17:30:03.11 6wTOLlyuo 444/645


美女1「破壊神が復活するなんて物騒よねえ」

美女2「ほんと、怖いわぁ」

魔王兄「んなもん俺が蹴散らしてやらぁ」

美女1「あら、頼もしいのね!」

魔王(戯れ言を)

魔王兄「おい、お前その仏頂面どうにかしろよ」

魔王「…………」

魔王兄「わりぃな、こいつ照れ屋でよ」

美女1「あら、可愛いのねぇ」

美女2「はあ……伝説の五つの宝珠でもあれば心強いのだけどねぇ」

魔王「! ……何だ、それは」

美女2「やっとこっちを見てくれたのね! 可愛いわ~教えてあげちゃう」

572 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/03 17:31:36.25 6wTOLlyuo 445/645


勇者兄(美男美女だらけで……なんかこう、場違い感が……)

美女A「キャー見て見て! この子シュトラール様にそっくり~!!」

美女B「なんて凛々しいお顔立ちなの~!」

美女C「勇者様なのね!!」

勇者兄「え」

勇者兄(な、なんて豊満な胸……)

美女A「ちょっとご一緒していただけないかしら?」

勇者兄「い、いやあの」

勇者兄(うわああああいい眺めだけど俺は父さんとは違う!!)

美女B「赤くなっちゃってぇ可愛いわねぇ」

勇者兄「ひぃん」

勇者兄(いやいや俺はいつか出会い結婚する嫁さんのために操を立てねば)

美女C「こ っ ち 、 行きましょ?」

勇者兄「ちょっあっ! だ、誰か助けてくれえええええええ!!」

573 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/03 17:32:32.29 6wTOLlyuo 446/645


――
――――――

司会「えー、今年も美女コンテストを開始いたします!」

勇者父(最前列ゲットできて良かったぁ~……!)

司会「厳しい予選を戦い抜いた美女達の入場です!」

勇者父「くぅ~!!」

司会「さあ、今年のミス・ヴァナディースに選ばれるのは一体誰なのでしょうか~!!」

魔王兄「後列からだと流石に遠いな……」

魔王兄「なあそこのエレクタイルディスファンクション」

魔王「何だオールウェイズエレクション」

魔王兄「…………一番抱き心地の良さそうな女はどいつだと思うか?」

魔王「俺に聞くなセクシュアルパヴェート」

魔王兄「おい何処行くんだよショートファイモシス」

魔王「……俺の心の病のことは知っているだろう」

魔王「ゲルディングにされたくなくばもう俺に近付くなスタリオン」

魔王兄「お前ほんと重症だよなあファミリーコンプレックス」

魔王「ふん……」

574 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/03 17:33:07.30 6wTOLlyuo 447/645


「待ってよにいさま~!」

「こらこら、走ったら危ないぞ」

「帰ったらチェスやろうよ!」

「ああ、いいよ」

魔王(兄を純粋に兄として慕うことができたら……楽しいのだろうな)

魔王(心の病が更にこの精神を蝕んでいく)

少年時代の自分の声が、己に語りかけてくる。

魔王『こっちから欲情すれば、父上から姦淫を受けたって苦しくないもの』

魔王(……父上はもうこの世にはいない。それなのに何故いまだに……)

魔王(ただエミルだけを愛していたい……彼女だけを……)

魔王(……私は、エミルを……愛することができているのだろうか……?)

575 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/03 17:33:51.31 6wTOLlyuo 448/645


魔王(兄妹だから、条件反射的に情を欲してしまっているだけではないのか?)

魔王『だから強姦なんてできたんだ』

魔王(そんなはずはない……そんなはずは……)

魔王『本当に愛しているなら、泣き叫んでいたあの子にあんなことできるはずないよ』

魔王『姦淫される苦痛は知っていたはずなのに』

魔王「っ…………」

狼犬「?」

魔王『ぼくは、家族を身体で縛りつけることしかできないんだ』

魔王(私は、穢れている)

狼犬「! ワンワン!」

勇者「あ、パルル! 兄上!」

576 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/03 17:34:17.64 6wTOLlyuo 449/645


魔王「……」

勇者「どしたの? 悩み事?」

魔王「いや、頭の上の犬が重くてな」

勇者「んもー、すっかり定位置になっちゃってる」

魔王「どうしても寂しがってな……連れてきてしまった」

狼犬「わふぅ」

勇者「全然会いに帰ってなかったもんね。ごめんね、寂しい思いさせちゃって」

狼犬「わふ!」

勇者「宿、動物OKだといいな」

577 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/03 17:34:47.68 6wTOLlyuo 450/645


魔王「エミル、目を見せてくれ」

勇者「?」

魔王「……綺麗な色だ」

勇者「あっ、だ、だめだよこんな人が多いところでくっついちゃ」

勇者「はしたないよ」

魔王「…………」

勇者「……?」

魔王(……エミルは特別なんだ)

魔王(私の心が壊れる前に私が恋をした、唯一の相手なのだから)

美幼女「ままー何であそこの人達男同士で抱き合ってるの」

美母「シッ! 見ちゃいけません!」

勇者(誤解だああ!!)

578 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/03 17:35:18.13 6wTOLlyuo 451/645


優勝者「みんな、ありがとぉ~!」

司会「優勝はアフロディータだー!」

ワァァァアアアアアアアアアアア

勇者父「おめでとぅぅぅ!」

準優勝者「私が二番のはずないわ……この世界で最も美しいのはこの私……!」

準優勝者「あの女……いつも私の邪魔ばかり……」

準優勝者「憎い……あの女も……あの女を選んだこの会場の連中もみんな……!」

準優勝者「全部……ぶちコワシテ ヤ リ タ イ 」

準優勝者「―――― コワス ゼンブ 」

勇者父「あ、やばい」

準優勝者の周囲に衝撃波が生じた。

579 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/03 17:35:57.10 6wTOLlyuo 452/645


会場から人が雪崩のように逃げ出している。

勇者「破壊者だ! 行かなきゃ!」

魔法使い「酷い騒ぎね」

法術師「怪我人が出てるわ!」

勇者兄「エミル! みんな!」

魔法使い「ちょ、あんた何でキスマークだらけなのよ!」

勇者兄「好きで付けられたんじゃない!!」

法術師「イリスちゃん、ここで待ってるのよ!」

幼女「うん……」

勇者兄「会場に乗り込むぞ!!」

580 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/03 17:36:42.37 6wTOLlyuo 453/645


勇者「お父さん!」

勇者父「こいつ、やべえぞ!」

勇者父「破壊の人形まで召喚しやがった!」

破壊者と化した女性の周囲を、箱がいくつか組み合わさったような形の人形が飛んでいる。

魔王兄「女の嫉妬ってこえーな! ははは!!」

勇者「あれ? 兄上の兄上だ」

人形1「カタカタ カタカタタタ」

人形2「ガタタタッ タタタタタッ」

勇者兄「来るぞ!」

勇者「クリスタルバリア!」

人形1・2「「コオォォォォ」」

バヒューン!

人形は力を溜め、光線を放った。
ピシピシと水晶状のバリアにヒビが入り、あっさり割られてしまった。

勇者「嘘でしょ……あれ破られたことなんてなかったのに」

581 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/03 17:37:40.33 6wTOLlyuo 454/645


魔賢者「過保護じゃないですか? わざわざ陛下を追いかけるだなんて」

執事「いやぁ、でも心配ですよ……陛下ですし……」

警備兵はまだかー!

はやく、はやく魔術師様を!!

魔賢者「なんだか騒がしいですね……」

幼女「ふあぁぁ……こわいよぉ……おねえちゃーん! どこー!?」

幼女「あ……――――ニク、イ」

幼女「ミギメノキズ――――」

幼女「…………」

執事「君、どうしたんだい? 迷子かな?」

幼女「ん……セレナおねえちゃんまってるの」

執事「セレナ……その人は今どこに?」

幼女「あっちいっちゃったの」

582 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/03 17:38:28.94 6wTOLlyuo 455/645


武闘家「俺怪我人運ぶわ!」

魔法使い「気高き焔の翼――我に立ちはだかる者を滅せよ!」

魔法使い「高貴なる紅焔<ノーブル・プロミネンス>!」

魔王兄「おお、なかなか綺麗な火ぃ出すじゃねえかあの姉ちゃん」

魔王「暢気に観戦なぞしおって……闇氷の障壁<ダークアイス・ウォール>!」

勇者兄「突き刺せ! 閃光の白雨<シャイン・エッジ・レイン>!」

人形1・2「「ヒキャアアァァァ」」

勇者兄「よし、人形は倒したぞ!」

勇者「でもあの人はどうすれば」

準優勝者「アァァァァァアァァ」

武闘家「衝撃波やべえ! 鋭すぎ!」

魔法使い「セレナ、あの術試すわよ!」

法術師「ええ!」

583 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/03 17:39:05.38 6wTOLlyuo 456/645


魔法使い法術師「「始祖アメトリーナの名の下に――かの者に乗り移りし意思を浄化する」」

魔法使い法術師「「――アウフェリムス アニムム マリー――」」

準優勝者「アァー ァ ア……」

準優勝者「…………う……わた、しは……」

魔法使い「成功したみたいね!」

法術師「ふう……よかったわ」

勇者兄「おまえら、今の術何だ?」

法術師「私達の祖先の術で、役立ちそうなものがないか調べた結果よ」

セレナのシトリニィ家とアイオのアメシスティ家は、共にアメトリーナという女性を始祖としている。
彼女は魔術・法術の双方に精通し、それらを大いに発展させたと言われる大賢者である。

584 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/03 17:40:26.65 6wTOLlyuo 457/645


勇者「あの人も、研究所の牢屋から出られなくなるんだ……」

法術師「死者が出なくてよかったわ」

法術師「でも、何人か治しきれなかった……あれじゃ、元通りの生活なんて……」

勇者兄「できるだけのことはやったろ」

勇者父「眠い……」

勇者兄「父さんって歳のわりに老けてるよな」

勇者父「心は若いぞ」

勇者兄「あっそ」

勇者父「それにしてもお前キスマークだらけじゃねえか! モッテモテだな!」

勇者兄「親父の弊害を受けたんだよ!! 逃げるの大変だったんだからな!!」

勇者兄「はあ、気の多い奴が身内にいると苦労するな……」

魔王(不本意だが同意せざるを得ない)

法術師「イリスちゃん? どこ?」

幼女「おねえちゃん!」

法術師「ああ、よかった……」

執事「やっぱりセレナさんを待っていたんですね、この子」

585 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/03 17:41:09.70 6wTOLlyuo 458/645


法術師「あら、コバルト」

執事「陛下が心配だったので後を追っていたところ、この子と出会いまして」

魔王(信頼されていないのだろうか……)

法術師「一人で置いてけぼりにしちゃったから、とても心配だったの……ありがとう」

幼女「あのね、イリスね、こころがどっかいっちゃいそうになってね、」

幼女「そしたらこのおにいちゃんがたすけてくれたんだよ」

法術師「心が、どこかに?」

執事「酷く不安を感じていたようです」

執事「では陛下、帰りますよ」

魔王「ああ」

幼女「ねえねえ、またあえる?」

執事「……ええ、機会があれば」

執事(笑い方が……そっくりだ、あの子に)

執事(アリア……)

586 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/03 17:43:15.49 6wTOLlyuo 459/645


メイド長「お帰りなさいませ陛下、コバルト。パルルはエミル様の元に?」

魔王「ああ」

魔王「人魔会議の日取りが決まった」

魔王「だが、その前に大魔族会議を開かねばな」

魔王「すぐに伝令を送ってくれ」

執事「はい」

魔王「かなり有益な情報を得ることができた。もしかすれば、上手くいくかもしれん」

魔王「調べ物を頼みたい」

執事「わかりました」

魔王「……頼んだぞ」


Now loading......

591 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/04 19:37:50.04 tszzSwKgo 460/645


『すごいすごーい! 風が気持ちいいわ!』

『こんなに高く飛べるのね!』

彼女は、この山が好きだった。

僕は、彼女を背に乗せて飛ぶのが好きだった。

実るはずのない想いだったけど、一緒に遊べるだけで……幸せだった。


Section 20 宝珠

592 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/04 19:39:31.30 tszzSwKgo 461/645


魔王「……推測した通りでよかった」

執事「族長達の了承を取れたなんて奇跡ですよ、ほんと」

――
――――――

美女2『やっとこっちを見てくれたのね! 可愛いわ~教えてあげちゃう』

美女2『昔、大精霊達様は、人間に守護の力を持つ五つの宝珠を授けてくださったのよ』

美女2『それぞれ、赤、青、銅、緑、金の色に輝いていたらしいわ』

美女2『激しい争いがない間は各地の神殿に納められていたらしいのだけど』

美女2『魔族に奪われて、今はもうどこにあるのかわからないって言われてるわ』

美女2『取り戻せたら、人類の大きな希望になるでしょうね』

魔王『……まさか』

魔王兄『こんな感じの珠か?』

美女2『あら、綺麗に赤く輝いてるわね。きっとこんな感じよ』


魔王『何故貴様が力の珠を持っている』

魔王兄『お袋が、これ持ってたら男がビビッて逃げてくからってよく俺に預けてくんだよ』

593 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/04 19:39:57.43 tszzSwKgo 462/645


――――――
――

勇者父「大会議の会場はセントラルか」

勇者「テレポーションを使う魔族達の負担を考えたらそうなるだろうね」

勇者兄「魔族が伝説級の術で迎えに来るなんて、王様達ビビるだろうなあ」

勇者「絶対罠だって疑うだろうね……集まってくれたらいいんだけど」

勇者父「だがテレポーションを使わないと、」

勇者父「世界中のお偉いさんとすぐに話をするなんて無理だしなあ」

エミル達は国王達を安心させるため、各国の国王を迎えに行く賢者達に各々同行した。

594 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/04 19:41:11.00 tszzSwKgo 463/645


執事「皆さんのご協力により、どうにか人間の方々をお迎えすることができました」

勇者「会議、上手くいくといいね」

執事「ええ」

執事「やあ、イリス」

幼女「ん……こんにちは」

法術師「あら、照れてるのかしら」

イリスはセレナの背に隠れている。

執事「会議が終わるまで、部屋の外で待っててね」

法術師「いい子にして待てるわよね? お姉ちゃんも一緒にいてあげるから」

幼女「うん」

勇者「パルルもね」

狼犬「……がふぅ」

勇者(無理矢理魔法で魔気抑えてるからこの頃機嫌悪いんだよなあ。ごめんね……)

幼女「……あのね、あのね、あとでね、イリスのおうたきいてほしいの」

幼女「イリスね、おうたうたうのじょうずなんだよ!」

執事「そっか。じゃあ、終わったら聞かせてもらうよ。楽しみにしてるからね」

幼女「うん!」

勇者(紳士だなあ)

595 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/04 19:41:55.88 tszzSwKgo 464/645


セントラル城・大会議室

そこら中に魔気避けが設置されている。
人間の国や平和協会の代表達、高位の魔族達が一堂に会している様は正に異様であった。

国王達を守護するため、彼等の傍には最上級の術者や勇者の血を引く者が控えている。
魔族達は皆、完全に魔気を抑え込んでいる。

国王「……私はブレイズウォリアの国王だ」

国王「急に召集を呼びかけ、魔族の迎えを送ることとなったにも関わらず、」

国王「この場に集まっていただけたことに感謝しよう」

勇者(空気が張り詰めている……)

勇者父(俺こういうお堅い雰囲気苦手なんだよなあ)

執事「こちらは、第885代魔王ヴェルディウス陛下です」

魔王「…………」

大魔導師(確かに、邪悪な者には見えぬな……魔力が澄んでいる)

596 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/04 19:43:05.80 tszzSwKgo 465/645


魔王「……破壊神の封印が更に弱まれば、いずれ人形の軍勢が攻めてくると予測される」

魔王「争いの混乱の中、人と魔族が剣を交え、無駄な血を流すようなことがあってはならぬ」

魔王「よって、我は和平を申し出る」

執事(よかった、噛まずに話せてる……)

執事(あーヒヤヒヤするなあ)

魔王「下位の魔族は魔気の制御が不得手な者が多い。そのため、融和は困難であろうが、」

魔王「新たな人魔の争いが起きぬよう、規律と秩序の確立が必要である」

魔王「協力体制を築くことができれば、破壊神による被害者の増加も抑えられるであろう」

国王α「うむ……」

国王β「魔族の口からこのような言葉が出るとは……」

勇者父「彼は平和な時代を築くため、これまで最大限尽力してきたのです」

勇者父「その上、勇者である我が娘エミルを憐れみ匿っていた」

勇者父「どうか信じていただきたい」

597 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/04 19:45:47.26 tszzSwKgo 466/645


魔王「憎んでいる種族を、ただで信用することが困難なのは当然だ」

魔王「だがもし、和平への同意を得られたならば……」

魔王「我等魔族は『伝説の五つの宝珠』を人間に明け渡そう」

国王θ「な、なんだと……!?」

国王ρ「伝説の五つの宝珠だと!?」

魔王(大精霊から人類に授けられた物であれば、)

魔王(我々魔属には光の珠と同様拒絶反応が出るはず)

魔王(だが、闇の珠と同様、人間にも魔族にも扱える物に変質した可能性は否めなかった)

魔王「大陸各地に散らばる神殿の遺跡や歴史を調査した結果、」

魔王「現在五大魔族の族長の証となっている珠が、伝説の五つの宝珠であると断定できた」

魔王「これを相応しい者が所持すれば、人間であっても強大な魔術の使用が可能となる」

魔王「ここに集っている代表者全員の署名と引き換えだ。悪い話ではないだろう」

国王Ψ「願ってもない話だ……問題は、どの国の誰が所有するかであるが……」

会場がどよめく中、突如荒々しく扉が開かれた。

魔王兄「おいファミコンいるかー?」

598 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/04 19:46:33.33 tszzSwKgo 467/645


魔王「な、何だその呼称は」

魔王兄「あ? ファミリーコンプレックスの略に決まってんだろ」

魔王「何をしにきた!? ここは貴様が来るような場所ではない!!」

魔王兄「お袋から力の珠預かりっぱなしだったから返しに来たんだよ。要るんだろ?」

魔王「…………」

力族長「あぁんらぁごめんなさいねぇ。うっかりしてたわぁ」

魔王「……………………」

魔王兄「なんか大変そうだけど頑張れよ! どもらないようにな! はは!!」

魔王「帰れ!!!!!!」

魔王兄「泣くこたないだろお前」

魔王「泣いてなどおらぬわ!!!!!!」

執事「あっちゃー……」

力族長「ごめんなさいねぇみなさん。うちの長男いっつもこんな不作法なのよぉ」

勇者(ヴェル…………)

国王δ「魔族も……意外と人間臭いのぅ……」

国王ι「あの魔王、案外同族から舐められとるのでは……」

国王γ「魔王が恥かかされて涙目になっておるぞ…………」

599 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/04 19:48:44.30 tszzSwKgo 468/645


魔王「……………………」

執事「陛下、しっかり」

執事「いやあ、場を和ませるネタをいくつか考えてたんですけど必要ありませんでしたね!」

魔王「お前も……一体何を考えて……」

執事「あんまり空気が堅くなるよりは、ゆる~くした方が親しみやすいかなって……」

魔王兄「あ、もう一つ」

魔王兄「おまえんとこのメイドのカメリアちゃんによろしく言っといてくれ! じゃあな!」

魔王「…………………………………………」

武闘家「嵐のようだったな」

執事「えー、気を取り直しまして」

執事「族長の皆さん、宝珠の提示を」

知恵族長「人間の言う、青の宝珠だ」

力族長「赤の宝珠よ。綺麗でしょぉん?」

地底族長「銅の宝珠だ。正しき心の持ち主に使っていただきたいものだな」

空族長「うむ。緑の宝珠だ」

金竜頭領「…………」

力族長「あぁ、あんた族長じゃなかったわねえ」

執事「そして、金の宝珠は……」

執事「亡くなった族長の孫である、このわたくしめが管理しております」

600 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/04 19:49:46.40 tszzSwKgo 469/645


協会北幹部「で、では、お主は……あの群れの生き残りか!?」

協会元帥「…………!」

執事「……ええ。わたくしの群れの竜は、五年前の襲撃によりほとんどが殺されました」

勇者「!?」

執事「我が祖父は、わたくしが生き延びられるよう、わたくしにこの珠を託しました」

執事「そして、珠の力無しに戦った祖父と、後継者であった我が父は……討たれました」

協会北幹部「…………」

執事「以来、我がゴールドドラゴンの族長は空席となっておりますが」

執事「金の宝珠はここにあります」

協会元帥(あの、時の……幼竜だと……いうのか……)

執事「人間が魔属に大切なものを奪われ、憎んでいるのと同様、」

執事「我々も多くのものを失っています」

執事「しかしまあ、だからといってより多くの血を流しても大地が穢れるだけです」

執事「わたくし自身争いを好まない質でしてね。是非とも和平を結んでいただきたい」

601 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/04 19:50:16.06 tszzSwKgo 470/645


国王α「信じても……よいのではないだろうか」

協会代表「魔族の少年に心を動かされるとは、な……」

大神官「我等を騙そうとしている魔力の波動は感じられませぬ」

国王λ「世界の危機だ。いつまでもいがみ合っていては、共倒れになるだけであろう」

国王「和平に意義のある者はおるか」

協会南幹部「不安ではあるが……迷っている暇はないだろう」

協会南幹部「世界崩壊の危機はすぐ目の前に迫っている」

国王「――我等人類は、魔族と和平を築くことを誓おう」

602 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/04 19:51:49.30 tszzSwKgo 471/645


勇者「よかったね! 和平を締結できたなんて歴史上はじめてだよ!」

魔王「…………」

勇者「元気出してヴェル」

魔王「………………」


協会元帥「お主、私が憎くはないのか」

元帥は兜を取った。

協会元帥「私は五年前、お主の群れと……あの村を襲い、」

協会元帥「ゴールドドラゴンの族長を討った功績により元帥の地位を手に入れた」

執事「……ええ、忘れませんよ。その右目の傷」

勇者「あ……」

執事「憎いに決まっているじゃありませんか」

執事「あなたは僕の目の前で、彼女を……アリアを殺しました」

執事「そして、家族を奪いました」

執事「復讐を願った時だってもちろんありましたよ」

603 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/04 19:53:00.09 tszzSwKgo 472/645


執事「『憎しみは新たな憎しみの連鎖を生むだけ。復讐なんて無意味だ』」

執事「そんな綺麗事で、憎しみを消せるほど心は単純にできていません」

協会元帥「…………ならば、私を」

執事「僕だってギリギリのところで抑えているんです」

執事「刺激しないでいただきたい」

協会元帥「っ……」

幼女「おにいちゃーん!」

執事「イリス」

幼女「イリスね、いいこにしてまってた……」

協会元帥「…………」

幼女「あ……」

幼女「みぎめ……」

執事「? どうしたんだい」

幼女「この人、知ってル……」

幼女「平和協会……右目ノ傷……」

白い揺らめきがイリスを包み、彼女の姿を変化させた。

執事「き、みは……」

歌唱者「見つけた……私を殺した人!」

604 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/04 19:54:16.79 tszzSwKgo 473/645


勇者「破壊の波動!?」

法術師「嘘でしょ……」

狼犬「がるるるるる……」

勇者兄「なんだこのピリピリする馬鹿でかい波動は!!」

魔王「人間をただちに避難させよ!」

イリスの姿は十五歳ほどの少女に成長しており、顔付きも変化していた。

黒髪を侵食するように、少しずつ明るい金が揺らめきを増している。

法術師「嘘……嘘よ……」

協会元帥「な……」

歌唱者「――響け 滅びの唄 純然たる破滅の意思よ」

少女の歌声が響き、石造りの壁や天井にひびが入った。ところどころが崩れ落ちている。

術者達は主人を守るため、咄嗟に防御魔術を発動した。

歌唱者「――憎き者に苦しみを」

協会元帥「ぐっ……」

少女は、細い刀を元帥の腹に突き刺した。

歌唱者「すぐには殺さないわ。殺されたみんなの痛み、竜達の痛み、味わってもらうわよ」

法術師「だめえ!!」

605 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/04 19:55:07.09 tszzSwKgo 474/645


歌唱者「邪魔をするなら、あなたも殺すわ」

法術師「きゃあっ!」

執事「ア……リ、ア……?」

執事「アリア……なのかい……?」

歌唱者「え……」

歌唱者「コバルト…………?」

歌唱者「あなた生きていたのね!」

執事「……!」

勇者兄「何が起きてるんだ」

歌唱者「私が殺された後、あなたまで殺されてしまったんじゃないかって……」

歌唱者「よかった……また会えるって信じてたわ」

歌唱者「あなたの魂をずっと探していたのよ!」

歌唱者「さあ、一緒に復讐の旅に出ましょう!」

歌唱者「憎き平和協会を……みんなの仇を討つのよ!」

執事「……アリア」

606 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/04 19:55:46.51 tszzSwKgo 475/645


協会元帥「はっ……あ……」

法術師(ち、治療を!)

執事「僕は、復讐なんて望んでいない」

執事「殺したいほどこの男は憎いさ。でも、これからは新たな時代を築かなきゃいけない」

執事「築いていきたいんだ」

歌唱者「…………」

歌唱者「どう……して……」

執事「君は、破壊神に操られているんだ!」

勇者兄「おい、今の内に例の術使えないのか」

魔法使い「無理よ、とてもセレナと連携をとれる状態じゃないわ」

魔法使い「……仮にできたとしても、あの子の力が強すぎて効かないでしょうね」

607 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/04 19:57:43.03 tszzSwKgo 476/645


歌唱者「どうしてそんなことを言うの!?」

歌唱者「……そうよ、私は破壊神のしもべ。復讐のため、死の間際に契約を交わしたわ」

執事「…………」

歌唱者「そうね、あなたは優しいもの」

歌唱者「私が一人で復讐を遂げてあげるわ。その後はずっと一緒にいてくれるよね?」

執事「待って! アリア!」

歌唱者「私は許さない。私達を殺した人間を」

歌唱者「う……もう時間が……」

歌唱者「少しの間だけ、またさよならよ……コバルト」

そう言い残すと、少女は姿を消した。

608 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/04 20:00:00.63 tszzSwKgo 477/645


勇者(何もできなかった……)

勇者(なんて鋭い、恨みの力…………)

武闘家「……おっそろしい」

誰も強大な破壊の力に手を出せなかった。

執事「は、はは。ありえない。彼女にまた会えただなんて」

勇者「コバルトさん……」

執事「…………北の大山脈に住んでいた頃、僕には好きな女の子がいました」

執事「でも、彼女は僕の目の前で人間に殺されました」

勇者「……」

執事「そりゃあもう、憎みましたよ、人間を。その男を」

勇者「でも、人間全てを憎んでるわけじゃ、ないんでしょ?」

勇者「普段のコバルトさんは、とてもそんな風には……」

執事「……その女の子も、人間だったんですよ」


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611 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/05 17:15:41.55 XOJN1vVPo 478/645


Section 21 理想郷


勇者「平和協会の人間が人間を襲った……?」

執事「今にも建物が崩れそうですね……場所を移しましょう」

魔王「……立てるか」

執事「すみません、腰が抜けてしまいました」

魔王「肩を貸そう」

法術師「そんな……イリスちゃんが……」

魔法使い「セレナ……」

勇者「すっかり気配が消えてる……魔力の探知もできないや」

勇者兄「何者なんだ、一体」

612 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/05 17:16:33.29 XOJN1vVPo 479/645


執事「……北の大山脈に、小規模ですが古くから続くハルモニアという村がありました」

執事「その村は、僕達ゴールドドラゴンを神の使いとして崇めていました」

執事「僕が属していた群れとも親交がありましてね。仲良くしてもらっていましたよ」

勇者「人間と魔族が、仲良く……」

執事「その村に、アリアという少女が住んでいました」

執事「彼女は、村に伝わる不思議な歌の力を継承していました」

執事「綺麗な歌声でしたよ……聴く者全ての心を浄化する、癒しの力がありました」

執事「僕と彼女は仲が良くて、よく彼女を僕の背に乗せて空を散歩したものでした」

執事「しかし、魔族を崇拝する村を、他の人間達がよく思うはずがなかった」

勇者「……」

執事「また、ゴールドドラゴンはいくつかの群れに分かれて生息しているのですが、」

執事「僕の群れは族長の群れ。討伐に成功すれば魔族の戦力を大きく削ることができる」

執事「五年程前、僕の群れと彼女の村は平和協会から襲撃を受けました」

613 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/05 17:18:56.89 XOJN1vVPo 480/645


執事「僕達の飛翔能力と魔力容量であれば、人間の軍隊から逃げるだけなら容易いことでした」

執事「しかし、僕達はハルモニアの村を見捨てることができなかった」

執事「僕達は彼等を守るために戦いましたが、結果はほぼ相討ちでした」

執事「両親も、兄弟も、殺されました」

執事「生き残ったのは、僕と、放浪癖のあったメルナリアの父親を含むごく数名だけです」

執事「そして、その戦いの中で……アリアも、僕の目の前で斬り殺されました」

執事「先程の平和協会の男に」

勇者「…………」

執事「仲間達から逃げるよう促された僕は、傷を負いつつもどうにか飛び続け、」

執事「魔王城に流れ着き、以来陛下の下で働いているというわけです」

勇者「そんなことが……」

執事「……本当は、彼女は復讐を望むような子ではないんです」

執事「風を愛し、生命を慈しみ、動物の死に涙を流す、とても優しい子でした」

614 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/05 17:20:13.87 XOJN1vVPo 481/645


執事「彼女が、武器を持つはずがない……!」

執事「一体どうして…………」

法術師「…………」

法術師「……イリスちゃんは、その子に……いえ、破壊神に操られているのかしら」

法術師「殺されたアリアさんの魂がイリスちゃんの中に入り、」

法術師「時折アリアさんが目覚め、破壊活動を行っていた……」

魔法使い「他の破壊者も、長時間操られることはないみたいだし、」

魔法使い「あまり長い間は戦えないのかもしれないわね」

武闘家「不安定なんだろうな」

勇者兄「北に向かってたってのは」

執事「僕等を襲った平和協会北支部に向かっていたか、」

執事「……もしかしたら、故郷に帰ろうとしていたのかもしれません」

執事「彼女を探しましょう。あまり遠くへは飛べなかったはずです」

法術師「そうね。今頃イリスちゃんの姿に戻ってまた迷子になってるかもしれないわ」

執事「…………陛下」

魔王「……破壊者の少女を探しに行け。命令だ」

執事「!」

魔王「城のことはメルナリアに任せておけばよい」

執事「ありがとうございます」

615 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/05 17:20:56.60 XOJN1vVPo 482/645


勇者「そういえば、メルナリアって何でメイド長やってるの?」

勇者「種族的にも年齢的にもしっくりきてなかったんだけど……」

魔王「ああ、あいつなら高位の役職の見習いくらいにはなれたのだが」

魔王「地位が高ければ高いほど、権力がある分責任が重くなり、自由もなくなるからな」

魔王「あいつは自ら地位を得ることを放棄した」

魔王「だから名目上メイドということにしておき、私の元で働いていたのだが、」

魔王「メルナリアは若いながら小間使い達からの人望を得ていた」

魔王「そのため、先代のメイド長がメルナリアを後任にすべく仕事を教えていたのだが、」

魔王「急に先代のメイド長が田舎に帰ることになってな」

魔王「だからあの年齢でメイドを取り仕切ることとなったのだ」

勇者「ああ、なるべくしてなったんだ」

魔王「他者を惹き付ける能力はコバルトと共通している」

魔王(……羨ましい)

616 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/05 17:21:38.28 XOJN1vVPo 483/645


勇者兄「そんなことがあったのに、よく人間嫌いにならなかったな」

執事「ヴェルディウス陛下との出会いがありましたからね」

執事「もう、五年か…………」

――
――――――

ある夜、一体の幼竜が魔王城に逃げ込んだ。

魔王『なんて酷い怪我を……』

魔王『すぐに治療師を!』

幼竜『…………』

魔王『大丈夫かい?』

体だけでなく心にも深い傷を負っているのか、酷く虚しい目をしていた。

他者からの呼びかけに応じる余裕もないようだ。

幼竜は、エネルギーの消耗の少ない人型へと姿を変え、力尽きるように気を失った

617 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/05 17:31:39.64 XOJN1vVPo 484/645


幼竜(ここは……)

魔王『……よかった、気が付いたんだね』

魔王『えっと、君、ゴールドドラゴン……だよね……』

幼竜(綺麗な女の子……。でも、男物の服……)

幼竜『…………』

魔王『何が、あったの』

幼竜『…………』

魔王『……そ、その……名前、なんて、いうの?』

魔王『ぼくは、ヴェルディウス』

幼竜『…………コバルト』

魔王『……えっと、き、きれいな名前だね?』

幼竜『……?』

魔王『コバルトブルーは、とても綺麗な色だから……』

幼竜『………………』

魔王『へ、変なこと言っちゃったかな……』

魔王『妹が、初めて会った人には、』

魔王『とりあえず名前を褒めるようにしてるって、言っていたから……』

幼竜『…………君、男?』

魔王『………………うん』

618 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/05 17:32:10.70 XOJN1vVPo 485/645


魔王『き、君は、きょうだい、いる?』

幼竜『……殺された。人間に』

魔王『あ…………』

魔王『ごめん…………』

幼竜『………………』

魔王『……人間に、襲われたの?』

幼竜『……』

魔王『そっか…………』

魔王『……黄金の一族の、族長の証、持ってるんだね』

幼竜『じいさまが、これを持って……ここまで逃げろ、って……』

魔王『そっか…………』

619 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/05 17:33:12.38 XOJN1vVPo 486/645


――――

数日後、ゴールドドラゴンの族長の群れが壊滅したとの知らせが魔王城に入った。

幼竜(じいさまも、父さんも……死んでしまったんだ)

幼竜(おかしいな……悲しいはずなのに、実感がわかない)

幼竜(北に帰ったら、みんな元通り暮らしているんじゃないだろうか)

幼竜(そんな気さえ感じる)

魔王『歩けるようになったんだね、よかった』

幼竜『……先日は王太子殿下とは露知らず、ご無礼を働いたことを』

魔王『い、いや、普通に喋ってほしいんだ』

幼竜『……そう』

魔王『えっと……』

幼竜『君に、本当に妹なんているのかい』

幼竜『ネグルオニクス陛下に姫君がいるなんて聞かなかったけど』

620 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/05 17:34:13.89 XOJN1vVPo 487/645


魔王『その……妹は、母上と、父上じゃない、別の男の人との子供で……』

魔王『すごく遠くにいて、もう二度と会えないんだ』

幼竜『……そう』

魔王『……君は、これからどうするの?』

幼竜『…………人間を、潰す』

魔王『!』

幼竜『あいつら、人間でありながら人間を……ハルモニアのみんなを襲った!』

幼竜『僕達は人間を守るために戦った』

幼竜『あの連中は……竜も人も皆殺しにしたんだ……』

魔王『に、人間を守るために戦ったって、どういうこと?』

幼竜『馬鹿にするかい?』

幼竜『五大魔族の一柱、ゴールドドラゴンの……それも族長の群れが、人間のために壊滅したなんて』

魔王『馬鹿になんてしないよ!』

魔王『君の話、聞かせてほしいんだ……』

621 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/05 17:35:06.62 XOJN1vVPo 488/645


魔王『人間の集落と親交が……そんなことが……』

幼竜『君は、人間が好きなのかい』

魔王『好きっていうか……争いをなくしたいんだ』

魔王『それが母上の願いだったし、ぼくの妹は、人間として暮らしているから』

魔王『妹が、安心して過ごせる世界を創りたいんだ』

幼竜『…………そんなこと、できるのかい』

魔王『すっごく難しいことだとは思うけど、やりたいんだ!』

幼竜『…………』

魔王『ぼくはもうじき魔王となる』

魔王『でも、王位を継いでも、ぼくだけじゃみんなの常識を変えることはできない』

魔王『仲間が欲しいんだ』

魔王『……友達になってほしい』

622 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/05 17:37:02.15 XOJN1vVPo 489/645


幼竜『…………』

幼竜『僕はもう何もかもを失った』

幼竜『これからこの世界がどうなったって知ったことじゃない』

魔王『放っておけば、同じような争いがまた起きる!』

魔王『このままじゃだめなんだ!』

幼竜『……悪いけど、お断りだね』

幼竜『あの連中がのうのうと生きている世界なんて、許せるはずがない』

魔王『…………』

幼竜『君はまだお父上も妹君も生きているじゃないか』

幼竜『大切な人の命を奪われたわけでもない君に、僕の気持ちがわかるはずがない』

幼竜(所詮、一番安全なこの城でぬくぬく育ったお坊ちゃんの夢物語)

623 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/05 18:39:56.57 XOJN1vVPo 490/645


――――

幼竜(時折、あの夜の地獄のような風景が脳裏をよぎる。その度に憎悪が沸き溢れる)

幼竜(……虚しい)

魔王『あ……怪我、もうすっかりいいの?』

幼竜『うん。……助けてもらったことには感謝するよ』

幼竜(命を救ってもらったのに、何の恩返しもしないのはな……・)

幼竜『君に協力するつもりはない、けど……友達くらいなら……』

魔王『ほんと?』

魔王『ぼく、友達なんて、できたことなくって……嬉しいな……』

幼竜『え……?』

幼竜(友達ができたことないなんて……大丈夫なのかな、この王太子)

魔王『じゃあ、これからは一緒にこの城で勉強して、一緒に修行を受けようよ!』

幼竜『同年代の話し相手くらいなら普通にいるだろう?』

魔王『……』

幼竜(とても魔王の器とは思えないな……)

624 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/05 18:40:51.57 XOJN1vVPo 491/645


――――

魔王『すごいね、頭良いんだね!』

幼竜『君ほどじゃないよ』

教官『この調子ならば、将来は優秀な魔術師となることも夢ではございませぬ』

魔王『剣の扱いも、すぐ覚えたんですよ!』

教官『ふむ……有望ですね。いずれは師団長か、それ以上か……』

幼竜『…………』


魔王『まだ、人間に復讐したいって、思ってる?』

幼竜『……』

魔王『仲が良かった人間も、いっぱいいたんでしょ?』

幼竜『…………』

魔王『一部から酷いことをされても、その種族全体を憎むのは、間違ってると思うんだ』

幼竜『……ハルモニアの村が特殊だっただけだ』

幼竜『人間の大多数は僕達魔属を敵だと思ってる』

魔王『そうじゃない人間だって、ごくわずかだけど存在してるんだ!』

魔王『ぼくの妹は、自分が魔族だって知らないけど、魔物と仲が良くて……』

幼竜『憎しみは、正論や綺麗事でどうにかできる感情じゃないんだ……!』

魔王『…………』

625 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/05 18:41:25.95 XOJN1vVPo 492/645


――――

魔王『……』

幼竜『ふっらふらじゃないか』

魔王『…………』

幼竜『あれ、首、虫にでも刺されたのかい』

魔王『あ、う、うん……』

魔王『…………うっ……』

幼竜『!? どうしたんだい、その手首……』

幼竜(何かで縛られた跡が痛々しく残っている……)

魔王『見ないで』

幼竜『君は陛下の部屋に行っていたはずだろう? 何があったんだい』

魔王『……何でもない』

幼竜『血のにおい……どこか怪我をしたんじゃ』

魔王『ぼくの血じゃない』

幼竜『待って!』

魔王『触らないで!』

幼竜『っ……』

626 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/05 18:42:16.92 XOJN1vVPo 493/645


魔王『ご、ごめん……君のこと、いやってわけじゃなくて……』

魔王『今は、駄目なんだ……』

幼竜『…………』

魔王『今は、放っておいて……お願い……』

幼竜『で、でも……』

魔王『…………』

幼竜『……傷ついてる友達を放っておけるわけないじゃないか!』

魔王『…………ぼくのこと、嫌いにならない?』

魔王『……今日も父上はぼくのことを思い出してくださらなかった。それだけだよ』

魔王『ああ、でも、今日は、いつもよりちょっと痛かったな……』

幼竜『…………?』

魔王『父上は、時々時間が巻き戻ってしまわれるんだ』

幼竜『……』

魔王『争いさえなければ、父上はあんなに大きな怪我を負うことはなかったし、』

魔王『心を壊してしまうこともなかったんだ!!』

魔王『母上だって、もっと長生きしたはずなんだ!!』

幼竜『…………!』

魔王『人間と仲が良かったら、父上と母上は幸せになれたはずなのに!』

魔王『全部全部歴史が悪いんだ! 戦争を繰り返す歴史が!!』

魔王『ちくしょう! ちくしょう! ああああああ!!』

627 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/05 18:51:16.78 XOJN1vVPo 494/645


幼竜(知らなかった。彼は彼で、苦しみを背負っていたんだ)

幼竜(決して、甘やかされて育ったお坊ちゃんの理想論では、なかったんだ)

幼竜(もし、争いのない世界が実現できたら)

幼竜(もう、アリアのような犠牲が生まれない、)

幼竜(誰もが笑顔で生きられる理想郷を実現できたとしたら……)

幼竜(来世でなら、きっと幸せになれるだろうか)


執事『第885代魔王ヴェルディウス陛下、即位おめでとう』

魔王『……ああ』

執事(味方はいない。0から始めるんだ)

金竜『コバルト、生きていたのか!』

金竜『空の一族の協力を得られた。人間共に報復するぞ』

執事『お待ちください伯父上』

執事『お話があります』


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632 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/06 14:52:42.76 1cPqm476o 495/645


Section 22 不穏


勇者兄「イリスの両親が見つかったって連絡があった」

勇者兄「大陸の南の方にある、小さな村に住んでいるらしい」

勇者兄「イリスを心配しているそうだ」

法術師「なんとかして、イリスちゃんを取り戻さなきゃ」

勇者兄「体を乗っとられていても、あの子自身には何の罪もない」

武闘家「とりあえずは探し回るしかなさそうだな……」

勇者兄「そういや、お前の師匠の人探しの秘術使えないのか?」

武闘家「よく知ってる相手じゃないと探せねえんだよあれ」

勇者父「眠い……」

633 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/06 14:53:43.05 1cPqm476o 496/645


魔賢者「こ、この度、皆さんに同行することとなった、賢者のフローライティアです」

魔賢者「皆さんとは、先日、一度美の都で顔を合わせております……」

執事「テレポーション・連絡要員として陛下が派遣してくださいました」

執事「僕もいつ魔王城に用事ができるかわかりませんし、」

執事「城とすぐ連絡を取れないと困りますからね」

魔賢者「と、得意な魔術は情報魔術です。よろしくお願いします」

勇者兄「お、俺はリヒト。よろしく頼む」

魔賢者「は、はい!」

勇者兄(可愛いな……)

魔法使い(リヒト、あんなに魔属を嫌っていたのに……)

武闘家(嫌な予感がする)

634 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/06 14:54:47.51 1cPqm476o 497/645


勇者兄「名前、長いよな」

魔賢者「ご、ごめんなさい」

勇者兄「いやいやいや責めてるわけじゃなくてさ。愛称あったら呼びやすくていいなって」

魔賢者「よく、フロルと呼ばれております」

勇者(お兄ちゃんの様子が……)

勇者父(お?)

勇者兄「そっか、フロルか。俺のことは呼び捨てで構わないからな」

魔法使い「ちょ、ちょっと! 破壊者探し真剣にやりなさいよ!」

勇者兄「新しい仲間と親しんでおくのも重要な仕事の一つだろ」

魔法使い「…………」

魔賢者「あ、あの、私のことは空気だと思ってくださって大丈夫ですから……」

635 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/06 14:55:17.55 1cPqm476o 498/645


武闘家「そもそもなあ」

法術師「うん?」

武闘家「アイオさんはリヒトさんの好みからはかけ離れている」

法術師「何でわかるの?」

武闘家「リヒトさんを見てればわかる」

武闘家「あの人の好みは『ちょっとおどおどしてるが根が頑張り屋のうぶい子』だ」

武闘家「きつめの女よりは保護欲掻き立ててくる女の子が好きなんだろうな」

法術師「うーん、確かにそんな感じはするけど……突然こんな話するなんてどうしたの」

武闘家「リヒトさんがついに……って感じがバリバリするんだよ」

法術師「そこはかとなーく感じてはいたけど……やっぱり?」

636 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/06 14:56:04.00 1cPqm476o 499/645


法術師「私としては、アイオを応援したいんだけど……」

法術師「小さい頃からずっとそうしてきたし、」

法術師「あの子がリヒト君に振り向いてほしくて頑張ってたの、よく手伝ったから……」

武闘家「見事に全部空回りしてたけどな」

法術師「うぅ……」

法術師「この頃は、旅が終わるまで恋愛は自粛しようって、普通に過ごしていたのだけど」

法術師「その隙にいきなり現れた女の子に取られたら……」

武闘家「確実に破壊者化しそうだな」

法術師「なんとかリヒト君を振り向かせなくちゃ」

武闘家「だが俺はアイオさんを応援する気はない」

法術師「えーなんでー?」

武闘家「想い人の妹に嫉妬するような女は正直好かねえ」

法術師「た、確かに焼きもちを焼いちゃう子ではあるけど……」

武闘家「ガキの頃は、他人に見えないところでエミルをいじめてたりもしたんだ」

法術師「えっ……」

武闘家「リヒトさんとはくっつかない方向で破壊者化を防ぎたい」

法術師「で、でも……私は……」

637 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/06 14:57:51.16 1cPqm476o 500/645


魔法使い「人数多いと宿代かさむわね……」

勇者兄「金なら平和協会から充分支給されてるんだから問題ないだろ」

宿主「八名様ですか……」

宿主「すみません、一部屋空いてはいるのですが、ベッドが二台足りません」

魔法使い「……どうすんの?」

勇者父「あ、じゃあ俺娘の家に行くわ。この村に住んでるんだ」

勇者兄「えっ……あ、そう……」

勇者兄(俺には一体何人きょうだいがいるのだろうか……)

勇者「ぼく城に帰るよ。パルルの魔気解放したいし、たまには帰りたいから」

勇者「長時間この姿保つのも大変なんだ」

勇者「フロル、情報交換用のパスコード教えて」

勇者「最近、簡単な遠隔会話くらいならできるようになってきたんだ」

魔賢者「は、はい」

勇者「よし、じゃあ何かあったらすぐ連絡してね」

勇者兄「お前は情報魔術使えないのか?」

魔法使い「私の専門とは系統が違いすぎるのよ。悪かったわね使えなくて」

勇者兄「別に責めてはないだろ」

勇者(アイオさんがピリピリしてて怖い……)

狼犬「くぅーん……」

639 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/06 14:59:05.29 1cPqm476o 501/645


メイド長「うっ……うぅっ……」

勇者「メルナリアどうしたの!?」

メイド長「陛下がっ……陛下がぁっ……」

勇者「兄上に何かあったの?」

メイド長「コバルト無しでもちゃんと仕事できてるんです!!」

勇者「!?」

メイド長「私っ……陛下のご成長に感動してしまってっ……」

魔王「……泣くな」

魔王「いつまでもあいつに頼りっきりではいかんからな……」

勇者(すごい。あ、ちょっと目の下に隈できてる)

魔王「メルナリア、お前に朗報があるぞ」

魔王「マリンの町とマリンドラゴンが協力体制を取ることとなった」

メイド長「!?」

魔王「つまり、接触禁止令が解かれたというわけだ」

魔王「想い人に会えるぞ」

メイド長「まあ!」

メイド長「ああ、ああ、今日はなんてすばらしい日なのでしょう!」

メイド長「ううぅぅぅぅぅぅぅ」

勇者「よかったね!」

641 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/06 15:03:33.42 1cPqm476o 502/645


魔王「エミル、今日は怪我をしなかったか。どこか悪いところはないか」

勇者「大丈夫だよ。兄上こそ疲れてるね……肩揉もうか」

魔王「すまないな。頼む」

勇者「細かいルールとかいろいろ考えなきゃいけないんでしょ?」

勇者「大変だね」

魔王「ああ……人間も魔族も納得できるようにせねばならないからな」

魔王「……これを身に着けておけ」

勇者「ペリドットの腕輪?」

木で作られた輪にペリドットがはめ込まれている。

魔王「母上の形見だ。破壊者の増加を防ぐために、現在その石が利用されているのだろう?」

魔王「お守りになるかと思ってな」

勇者「わあ、ありがとう!」

642 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/06 15:05:31.70 1cPqm476o 503/645


魔王「日に日に封印は弱まっている。戦いは険しくなっていくだろう」

魔王「私も暇があれば一行に加わる」

勇者「うん。兄上がいてくれたら心強いよ。なんたって魔王だもん」

魔王「…………」

勇者(照れてる)

魔王父『…………』

魔王父『我に足りなかった物……それは……』

メイド長「あら……今、誰かの気配がしませんでしたか?」

魔王「……わずかだが私も感じた」

勇者「幽霊かな?」

メイド長「や、やめてくださいよ! 怖いじゃありませんか!」

魔王父『……』

カタッ

勇者「誰も触ってないのにペンが動いたような……」

魔王「除霊師でも呼んだ方がいいかもしれんな」

魔王父(一瞬物体に触れることができたような……何が起こっているというのだ)

643 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/06 15:06:08.93 1cPqm476o 504/645


勇者兄「なあ、魔王族もゴールドドラゴンの血を引いてるんだろ?」

勇者兄「魔王も竜になれたりすんのか?」

執事「いいえ」

執事「他の人型魔族との間に子を成しても、子供に竜族の遺伝子は受け継がれません」

執事「ただし、ゴールドドラゴンが持つ雷の力は受け継がれます」

勇者兄「なるほど」

魔賢者「閣下、私、ちゃんと人間に擬態できているでしょうか……」

執事「大丈夫ですよ」

執事「それに、僕等は平和協会公認ですから万が一民間人にバレてもなんとかなります」

執事「あと、僕の方が年下なんですからかしこまらなくていいですよ」

魔賢者「もうこの話し方で慣れてしまいましたし……」

勇者兄「な、何歳なんだ?」

魔賢者「今年で17になりました」

勇者兄「あ、じゃあ同い年だ!」

魔法使い「…………」

644 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/06 15:07:00.13 1cPqm476o 505/645


勇者兄「……ちょっと外の空気吸ってくるわ」

魔法使い「よ、夜中に一人でうろついちゃ危険よ」

勇者兄「俺を誰だと思ってんだ? へーきへーき」


勇者兄「はー……」

勇者兄(星が綺麗だな)

勇者兄(……どうしちまったんだろうなあ、俺)

勇者兄(こんなことに現を抜かしてる場合じゃないんだけどな)

勇者兄(……いや、守りたいものが増えたってだけだ)

勇者兄(あの家、なんか騒がしいな)

女勇者「ほんといつもいつもいきなり来るんだから!」

勇者父「ごめんってぇ」

女勇者母「まあまあ、落ち着きなさい」

女勇者「母さん、こんな男泊めることないわよ!」

勇者父「あんま怒るとせっかくの綺麗な肌が荒れちゃうぞ~ライカ」

女勇者「黙りなさい!」

勇者兄(うわ……なんだか……イライラするような……複雑な心境だ)

勇者兄(父さんは母さんの気持ちを考えたことがあるのか?)

勇者兄(俺には複数の女性と関係を持つなんて無理だな)

645 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/06 15:07:30.12 1cPqm476o 506/645


魔法使い(いっそのこと、はっきり告白してしまった方がいいのかしら)

魔法使い(でも、今はあまりリヒトの精神を乱すようなことを言うのは躊躇われるわ)

魔法使い(だからといって、このまま放っておいたら、もしかしたらあの女に……)

魔賢者「……?」

魔賢者(歓迎されていないのでしょうか)

魔賢者(そりゃそうですよね、魔族ですもの……)

武闘家「なあ、寝る前に駄洒落大会しようぜ」

執事「あ、いいですね」

武闘家(シュトラールさんが置いてった石が無かったらもっと空気悪かったかもしれんな)

法術師(私は一体どうすれば……)

法術師(ああ、イリスちゃんのぬくもりが恋しい)

646 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/06 15:08:30.10 1cPqm476o 507/645


――
――――――

法術師「ふっふふっはははははは!」

武闘家「くっ……お前笑いとるの上手いな!」

執事「ははは、得意分野ですから」

魔賢者(すごい、人間とあんなに打ち解けているなんて)

魔賢者(高位貴魔族の方々を次々と説き伏せた伝説の持ち主だものね……いいなあ)

勇者兄「俺がいない間に随分と楽しそうな空気になってるじゃないか~混ぜてくれよ」

魔法使い「あら、意外と早かったわね」

勇者兄「仲間も増えたことだし、人数分飲み物買ってきたぜ」

勇者兄「当然酒じゃなくジュースだがな! ほらよ」

武闘家「おっ流石リヒトさん」

魔賢者「あ、ありがとうございます」

執事「どうも」

法術師「やったあ」

魔法使い(リヒト……どうして……)

魔法使い(破壊神がいなくなったら、どうせまた魔族と敵対するかもしれないのに)

魔法使い(魔族なんて……魔属なんて敵なのに)

648 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/06 15:10:14.02 1cPqm476o 508/645


翌日

法術師「……アイオ、やっぱりもうそろそろはっきりさせた方がいいと思うの」

魔法使い「…………」

魔法使い「リヒトが魔族なんかに惹かれるわけない」

魔法使い「この旅が終わるまで、この気持ちは封印するわ」

法術師「そう言って、いつも先延ばしにしてばかりじゃない!」

魔法使い「……」

女勇者「もう来ないでよね!!」

勇者父「えー」

魔賢者「!」

魔賢者「平和協会からメッセージを受信しました」

魔賢者「ここからすぐ北北西の町に、破壊者の少女が現れているそうです」

勇者兄「すぐに飛べるか!?」

魔賢者「はい! エミル殿下にもすぐに連絡を転送します」

勇者兄「頼む」

649 : ◆qj/KwVcV5s - 2016/03/06 15:11:10.60 1cPqm476o 509/645


歌唱者(破壊神からの力の供給が安定しつつあるわ)

歌唱者(力を消費しすぎなければ、この姿を保てるはず)

歌唱者(私、生きてさえいれば、今頃このくらいに成長していたわ)

歌唱者(復讐を遂げて、あの山でまた暮らすの)

歌唱者(そのための滅びの力――――)


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続き
勇者「お母さんが恋しい」【4】

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