関連
紅莉栖「さぁ、IQテストしましょうか?」岡部「え?」【前編】
紅莉栖「――……鳳凰院凶真、あなたにDメールは、使わせない」
岡部「おぉー!
そうかそうか俺にDメールを使わせな……ぬァにィ!?」
紅莉栖「使わせないわ」
岡部「く、紅莉栖……クリスティーナ!何故だ!?
世界線を変えたのは俺の罪だ……だから俺は、
この世界線を変える義務がある!
これは俺の罰と言ってもいい、俺は世界線を越える宣言をする!」
紅莉栖「人が世界に罰を与えるなどと……!」
岡部「私、鳳凰院凶真が世界を修正しようというのだ、クリスティーナ!」
紅莉栖「エゴだよそれは!」
岡部「世界が持たん時が来ているのだ!」
ダル「ガンバム乙!」
岡部「うるさい!
……どうしても使わせないつもりか、クリスティーナ?」
紅莉栖「……」
岡部「……理由……は?」
紅莉栖「……」
岡部「何故答えない!答えてくれ、クリスティーナ!
俺はなんとしてもDメールを使いたいんだ……」
紅莉栖「……ッ……!でも、それは……」
岡部「……どかないのなら、力づくでもどいてもらうぞ……!?」
岡部(Dメールを送って過去が変われば、
この“今も”なかったことになるはずだ……!
多少無理をしてでも押し通るくらい、覚悟を決めろ俺!)
紅莉栖「なっ!」
ダル「こ、これは!?」
ルカ子「通報しましょうか?」
紅莉栖「待って!
……鳳凰院凶真、聞きなさい。あなたにDメールは使わせない」
岡部「それはもう聞いた!
……だが俺は、無理矢理にでも使わせてもらう!
――どいてもらうぞぉぉぉおおクリスティーナァァァアア!!」
紅莉栖「え!?
ちょちょ、今説明を!こっちくんな!!」
岡部「卍( ^o^)卍うおおおお!!」
??「待ていっ!」ガラッ
岡部「!?」
紅莉栖「きゃああ……あ?」
??「無抵抗な婦女子に暴行……!
おぞましいほど不審な行動!
見過ごすわけにはいかないね、人それを悪と言う!」
岡部「な、何者だ!?」
??「貴様に名乗る名は無い!とうっ!!」
岡部「バカな!?どこに――」
??「後ろだ」
岡部「!?
――あ、いで、痛ででででっ!!」
??「大丈夫だった?
クリスおば……あ、牧瀬紅莉栖」
紅莉栖「え、ええ……ありがとう……」
岡部「痛い痛い痛い!離せぇ、離してくれ!」
??「それは出来ないな。
離したら、また牧瀬紅莉栖を襲うでしょ?
あたしの使命は、牧瀬紅莉栖を守ることだからね!」
岡部「お、襲……!?違う、俺はただDメールを」
紅莉栖「……離してあげて……」
??「いいの?」
岡部「――……うおっ!
……いつつ、なんてことをしてくれるのだ……!
腕が折れたらどうする!!」
??「何よー自業自得でしょー?それよりも、君は」
岡部「……お、お前は……!?
――鈴羽!バイト戦士じゃないか!!」
鈴羽「……?
バイト戦士って?
確かにあたしは阿万音鈴羽だけど」
岡部「お、お前は!お前は俺のことを覚えているか!?
……いや、知って……いるか?」
鈴羽「え?
……うーん君のことぉ~?
えーっと……どこかであったような……あっ!?」
岡部「そ、その反応!何か覚えているのか!?」
鈴羽「君って……もしかして!鳳凰院凶真!?」
岡部「うっ……お前もなのだな……バイト戦士よ……」
鈴羽「鳳凰院凶真、鳳凰院凶真でしょ!?
――いやぁー捜してたんだー君のこと」
岡部「何、俺を捜していた……だと?なん――」
鈴羽「サイン頂戴、サイン!」
岡部「帰れ!」
鈴羽「えぇー!?なんでよー!いいじゃん、ケチくさいなぁー!!
サインのひとつやふたつくらい……!
持って帰らないとワルキューレのみんなが……」
岡部「そんなものはやらん!
……くそっ、今だかつて、
俺が鳳凰院凶真とこんなに呼ばれたこともないのに……!
まったくもって嬉しくない……」
鈴羽「ケチ!
……じゃあ、一体なんでこんな所に鳳凰院凶真がいるのさ?」
紅莉栖「こんな所とは失礼ね!
――ここはいずれ人類全ての拠点となる場所、
その中心に鳳凰院凶真がいても不思議じゃないわ」
鈴羽「いや?
ここは今も昔も未来でもボロビルだよ」
紅莉栖「うるさい、帰れ!」
鈴羽「なんでぇー!?ひっどいなー!
……それにさーあたしだってラボメンなんだから、
いつでもここに来たっていいでしょ?
ラボメンにしてくれたのは牧瀬紅莉栖なんだし」
紅莉栖「そうだけど!
……今はちょっと話しがややこしくなるというか」
岡部「とにかくだ!俺はDメールを使わせてもらうぞ!!」
紅莉栖「ダメよ!」
岡部「なんで!?」
シュタインズ・ゲート
紅莉栖「……それは……その、それこそが運命石の扉の選択だからよ!」
岡部「なんだと!?」
紅莉栖「鳳凰院凶真、あなたには“機関”の疑いがある」
岡部「俺が、“機関”だと?」
紅莉栖「そう、もしかしたらあなたは相対性理論超越委員会と対になる、
世界の裏組織、300人委員会のスパイかもしれない!」
岡部「300人委員会だと!?そんなのは陰謀論の」
紅莉栖「果たしてそうかな?
……実はすでに、ここにもう一人スパイがいるとしたら?」
岡部「な、なんだって……?」
紅莉栖「驚くのも無理はないわね……?
そう、そのスパイこそ!
――そこにいる、橋田至よ!」
岡部「お前なのか、ダル!?」
ダル「違うお」
岡部「クリスティーナ?」
紅莉栖「――と見せかけた二重スパイよ!
彼は300人委員会に潜入させてる、
未来ガジェット研究所のエィジェントなの」
岡部「なるほど、牧瀬紅莉栖……たいしたやつだ」
紅莉栖「フッ……全ては私の計算通り」
岡部「ニヤッ」
紅莉栖「ニヤッ」
ダル「わけがわからないし、僕はエージェントでもなんでもない件について。
それより、牧瀬氏はなんでそんなに拒むん?
Dメールの実験したいーってあれだけ言ってたじゃん。
今って絶好のチャンスじゃね?」
紅莉栖「だからそれは」
シュタインズ・ゲート
岡部「運命石の扉の選択か?
……違うな、間違っているぞクリスティーナ!
世界は修正されるのを望んでいるのだ!!
それこそが真の運命石の扉の選択ぅ!」
紅莉栖「……エル・プサイ・コングルゥ!」
岡部「――エル・プサイ・コングルゥ」
岡部・紅莉栖「「フゥーハハハ!」」
ダル「楽しそうすなぁー……で、どうすんの?」
岡部「もちろん、Dメールを使う」
紅莉栖「ダメよ」
岡部「堂々巡りッ」
ダル「埒があかないお。
……ならさ、鳳凰院氏?僕とちょっと話しあわね」
岡部「だ、ダル……!
この中で一番まともなのがダルとはな、
今この壊れた世界線では、唯一お前だけが救いだよ……」
ダル「任せとけ、僕はいつだって鳳凰院氏の味方だ、お?」
岡部「ダル……!」
紅莉栖「でもそいつガチホモよ」ボソッ
岡部「そうなのか、ガチホモ……ガチ!?」
紅莉栖「ゲイとも言うわ」
ダル「違うお!そういう括りでまとめるの、止めてもらえないかなー?
……ただ僕は、ちょっと男の子に興味あるだけだお」
岡部「……つかぬことをお聞きしますが、女性に興味は?」
ダル「ない」
岡部「アーッ!」
ダル「そこはアッー!でかしこまり!
……大丈夫、別に何もせんし、
一緒に気持ちいい所に行こうぜい?」
岡部「この世界線は変えなくちゃダメだぁあぁぁああ!!」
紅莉栖「だが断る!」
岡部「あ!?
あそこに名も知れぬ“機関”の手先がッ!!」
紅莉栖「え?どこ!?」
岡部「今だっ――!」
紅莉栖「しまった!?」
岡部(急げ、送信先の時間入力!
すでにここに来る道中――何故かこうなるんじゃないかと予測して――
アドレスも本文も携帯に打ち込み済みだ。
後は送信するのみ)
岡部「よしっ!
これで後は――」
紅莉栖「ダメェェエエ!!」バッ!!
岡部「うおっ!?」
紅莉栖「ハァ、ハァ!……ハァ」
岡部「く、何を……!
クリスティーナ、お前……俺の携帯を!?」
紅莉栖「……でぃ、Dメールは送らせないわ!」ギュッ
岡部「返せ、返すんだ俺の携帯を!クリスティーナ!!」
紅莉栖「嫌!」
岡部「ならば力ずくで!」
鈴羽「……」
ルカ子「1……1……」
岡部「ぐぬぬ!」
ダル「ほら、こうしてても埒があかんし、やっぱり僕と一緒に――」
???「トゥットゥルー♪みんなーただいまぁー☆」
岡部「――!?
この声は――!!」
その時、俺は自分が振り向いたことを後悔することになる。
いつものあの聞きなれた声。
俺とずっと一緒にいた、大事な人質の声。
俺はどこかで期待していたのかもしれない。
きっと、この世界線でも変わらないモノはあるはずだって、どこかできっと。
そんなこと――あるはずないのに。
岡部「まゆ――!」
???「あれ、どうしたのーみんな?
そんな驚いた顔してー」ズンッ
ダル「……いやぁ、やっぱりまゆ氏は迫力あるな、と」
紅莉栖「私は別に驚いてるわけじゃ」
ルカ子「遅いよまゆりちゃんー!ボクずっと待ってたんだよ……?」
まゆり?「ごめんねぇるかくん。
今日はちょっと上野に用事があったんだけどね」ググッ
岡部「……ま、まゆ……」
ルカ子「えぇ!?上野から走って来たの?
言ってくれれば迎えに行ったのに……」
まゆり?「そんなぁ悪いよー。
それに、走った方が、早いのです☆」ムキッ
ルカ子「あはは、やっぱりまゆりちゃんらしいなー。
羨ましいよ、ボク、こんな貧弱だから」
まゆり?「大丈夫、るかくんは貧弱なんかじゃないよー?
まゆしぃが保障します!」
ルカ子「ありがとう、まゆりちゃん」
まゆり「うん♪」
岡部「……“コレ”が、まゆりだと……?」
体は鋼で出来ている。
血潮は鉄で、心は硝子。
幾たびの世界線を越えて不敗。
ただの一度も敗走はなく。ただの一度も理解されない。
彼の者は常に独り、ラボの床で勝利に酔う。
故に、生涯に意味は無く。
――その体はきっと“鋼のような筋肉で出来ていた”。
まゆり「んー?あれ、この人は、誰かなー?」メキメキッ
岡部「なんだよこれ……?
――なんだよこれぇ!!」
Steins;Gate――シュタインズ・ゲート――
罪と罰のセレナーデ
――こんな世界線は間違っている!
――ニャー!
――取材、させて欲しい。
――ウホッ!やらないか?
――まゆりちゃんに手を出すなら、ボクがお相手します。
――ここで会ったが百年目!
――クリスちゃんもね、ちゃんと話せばわかってくれるよ。
――あなたの主観だけで語らないで!!
――愛しているよ、紅莉栖。
これは――あったかもしれない、ラボメンたちとの物語。
Steins;Gate――シュタインズ・ゲート――
断罪のネメシス
岡部「――お前は誰だ!」
まゆり「こんにちはー♪まゆしぃです☆えっーと、この人は」
岡部「嘘を付くな!ミスターブラウンの間違いではないのか!?
いや、そうじゃない、そもそもそういう問題ではない!
女ですら疑わしいわ!!」
まゆり「え、えぇー!まゆしぃはちゃんと女の子だよぉ……」
ルカ子「そうですよ、まゆりちゃんのどこを見て疑っているんですか?
どこからどう見ても」
岡部「おかしいわ!これはなんだ、幻術か?幻術なのか!?
なんだこれは!
もはやおかし過ぎて、俺の頭がどうにかなってしまいそうだ……」
ルカ子「まゆりちゃん、この人は頭がおかしいから気にしないでいいよ?」
まゆり「な、なんだかよくわからないけど、
まゆしぃのせいならごめんなさい……?」
岡部「ふぐぅ……!?」
岡部(声と性格だけは元のまゆりと同じなのか?
……ダメだ、このまゆりは直視出来ん!
一体どうしろと言うんだ……)
まゆり「……あ、それよりも、まゆしぃはみんなにバナナを買ってきたのです!
商店街で安く売ってたのを見つけたんだ~♪ラッキーだったよー」
紅莉栖「あら、気が利くじゃないまゆり。流石我がラボのガーディアンね」
まゆり「えっへへー、そこのあなたも……バナナ食べる?」
岡部「……いや、いい……」
まゆり「……あ、プロテインもあるよ!こっちのがいいかなぁ?」
岡部「……まゆり、俺が誰だかわかるか?」
まゆり「え?
……うーんと……白衣を着てるから、科学者さんかなぁ?」
岡部「……そうか、もういい……」
まゆり「……ダルくんダルくん、どうしてこの人は元気がないのかな?」
ダル「いやぁ、なんか僕もよくわからなくなってきてる罠。
まゆ氏は鳳凰院凶真って知らんの?」
まゆり「う、うーん……?
――あっ、わかったぁ!ラボの道場破りさんだねー!?」
ダル「そうだね、プロテインだね」
鈴羽「……椎名まゆり……」
まゆり「……誰かなー?
さっきからまゆしぃに殺気をぶつけてるのは」
鈴羽「……――はぁああっ!!」ズバッ!!
まゆり「トゥッ!」ススス
鈴羽「……今のをよくかわしたね?流石は椎名まゆりだ……」
まゆり「トゥットゥルー……スズさんいきなりは危ないよぉー」
鈴羽「フフ、この時代の椎名まゆりになら勝てると思ったんだけど、
そう簡単にはいかないね?」
まゆり「やめてよスズさんー!
……ここでヤッたら、死人が出るよ?」
鈴羽「上等!
――ここで会ったが百年目!椎名まゆり覚悟ぉー!!」
ルカ子「そこまでです!
まゆりちゃんに手を出すなら、ボクがお相手します。
この五月雨に掛けて、まゆりちゃんには指一本触れさせません」
鈴羽「面白くなってきた!
やっぱりこの時代に来て正解だったよ。
――こりゃあ、あたしも本気出すしかないね!!」
まゆり「ダメだよ、るかくん。ここはまゆしぃに任せて!
――スズさんとは決着を付けなくちゃいけないから」
鈴羽「どっちからでもいいよ!
さぁ、あたしと決闘(デュエル)だぁー!!」
紅莉栖「ってやめんか!ラボが壊れちゃうでしょ!!
やるなら外でやりなさい」
まゆり・ルカ子・鈴羽「「「はーい」」」
岡部「……この世界線はいつからバトル物になったのだ?」
ダル「……鳳凰院氏も僕とバトルするかお?
主にパンツレスリング的な意味で」
岡部「……」
ダル「ウホッ!やらないか?」
岡部(帰りたい……)
紅莉栖「……では、今日のラボメン会議はここまでね?
各自解散ということで」
岡部「……っ!?
ってちょっと待て、何勝手に〆ようとしている!
クリスティーナ、俺にDメールを使わせろ!!」
紅莉栖「フンッしつこい男だ鳳凰院凶真。
私の決定に逆らうとは、
どうやら力を使って裁きを下すしかないようだな」
岡部「ち、力だと!?
……あるわけないだろそんなもの!
大体俺の何を裁くというのだ……いいから早く携帯を返せ!!」
紅莉栖「ククク、ところがあるのだよ、私には裁きを下す権利がなぁ!
……そしてそれは、このボタン一つで完了される」
岡部「ボタンだと……?
いいや、そんな脅しには乗らんぞ!そんなもんはったりに決まって」
紅莉栖「このボタンを押せば、電話レンジ(仮)は自爆する」
岡部「自爆なんぞでこの俺が止められると……自爆ッ!?」
紅莉栖「フワーハハハ!
あなたに使われるくらいなら、このボタンを押して、
電話レンジ(仮)ごとDメールも消滅させてやるわ!!」
岡部「き、気でも狂ったかクリスティーナ!そんなことを出来るわけ」
紅莉栖「出来るわ!
あなたにこの世界線を消させはしない!!
消されるくらいなら、消される可能性を消してやるだけよ。
……クク、これこそマッドサイエンティストの最後というもの……」
岡部「や、やめろ……目が血走っているぞ……?
正気かクリスティーナ!?」
紅莉栖「私はいつだって正気よ。
この世界を混沌の未来へ導くのだ、
他の世界のことなど知ったことじゃないわ……!
さぁどうする鳳凰院凶真?
このまま諦めずに、電話レンジ(仮)ごと爆破されるか、
諦めてこの世界で生きるか、選ぶがいい!!」
ダル「……爆破なんてしたら、このビルも崩壊するんじゃね?
そしたら僕らも下敷きじゃね?」
紅莉栖「そうなったらそうなったよ!
このラボごと運命を共にするのならば、
ラボメンとしても本望だろう!!」
ダル「あるあ……ねーよ!」
岡部「なんて卑劣な手を使うんだ……!
見損なったぞクリスティーナ!!」
紅莉栖「なんとでも言うがいい!
――さぁどうした?選べないのか!
選べないのなら、このボタンを押してしまうぞフゥーハハハ!!」
岡部「お、おい待て!わかった、わかったから押すんじゃない!!」
紅莉栖「いいや!限界だ押すね!」
岡部「なんで!?」
?「ニャー!」シュッ!!
紅莉栖「わっ」ポチッ
岡部「あああああ押したあああああっ!!」
?「……?
ニャー」
岡部「あああああ……あ……?爆発……せんぞ……」
紅莉栖「……どうやら不発だったか。命拾いしたな、鳳凰院凶真」
岡部「……お前、まさかこれがやりたかっただけなんじゃ」
ダル「……お?
フェイリスたん、フェイリスたんじゃマイカ!」
岡部「……フェ、フェイリスだと?
このややこしい中であいつまで来たら……!
一体どこに」
ダル「どこって、足元だお」
岡部「は、足元……?
なんで足元に」
?「ニャー」
岡部「……いや、これは……?
――猫ではないか!!」
紅莉栖「……猫よ」
ダル「猫だお」
岡部「これのどこがフェイリス――」
ダル「だから、猫のフェイリスたん」
猫(フェイリス)「ニャー!」
岡部「」
ダル「あーはいはい、三時のおやつすなぁー。
やっぱり、フェイリスたんはこのラボでも最高の癒しだお。
異論は認めない」
岡部「フェ、フェイリス……お前……」
猫(フェイリス)「……ゴロゴロ」
岡部「どうしてこんな姿に……!フェイリス・ニャンニャン……」
ダル「……なんで泣いてんの?」
紅莉栖「癒され過ぎて、心が浄化したのね……きっと」
岡部「……こ、この猫は……誰の猫だ?」
ダル「誰のってわけじゃないお。
時々ラボに入ってくる猫なんだお。
首輪が付いてるから、飼い主はいるんだろうけど……?
ほら、その首輪にフェイリスって書いてあるんだお」
紅莉栖「そ、だからその猫のことを、皆はフェイリスって呼んでるのよ」
岡部「……そうか……わかった、もうわかった。
やはり、こんな世界線は間違っている!
それがよくわかった!!」
紅莉栖「ま、間違ってるって……!
そんなことはない!!この世界のどこが間違いだと」
岡部「全部だ!何もかも全部、ぜぇーんっぶぅ!
どうして誰も気が付かないんだよ!!」
紅莉栖「な、何よそれ……」
ダル「ほ、鳳凰院氏……流石に言い過ぎのおかん」
岡部「ダル!
お前は元の世界線では、美少女好きのHENTAIエロゲーマーだった!」
ダル「お?」
岡部「紅莉栖!
お前はアメリカ帰りの天才科学者・牧瀬紅莉栖で、
ねらー訛りは酷いが決して厨二病なんかではなかった!」
紅莉栖「ね、ねらー!?
ってだから私は紅莉栖でも厨二病でもないと言っとろーが!」
岡部「ルカ子は清楚で可憐な美少女(だが男)だった!
フェイリスはメイクイーン+ニャン2の一番人気メイドだった!
鈴羽はあんな喧嘩っ早くない、戦士の目をしていた!
まゆりはあんなごつくないし、
あいつは俺の幼馴染で、大事な人質だった!
……人質……だったんだ……」
紅莉栖「……」
ダル「……」
岡部「そして俺は……!
狂気のマッドサイエンティスト、鳳凰院凶真で、
このラボを作ったのは俺で、
決して芸能人だなどという大衆面前に出るような存在では、
なかった!!」
紅莉栖「……」
岡部「俺が……俺が作ったんだ……!
なのに、この世界は全てが狂ってる!
誰も俺を覚えていない、誰もが俺を知っている!
こんなの……俺は……」
――責任はどうとるの?
岡部「俺のせいで……こんなおかしな世界線に跳んでしまったんだ。
俺は、元の世界線に帰りたい……Dメールを使わせてくれ……頼む」
紅莉栖「……おかしな世界線に見えるのは、あなたから見てでしょ……」
岡部「……え」
ダル「……というか、その元の世界線おかしくね?
僕がろくな人間じゃない件について……」
岡部「……し、しかし!
それでも俺はっ、例え誰も俺のことを鳳凰院凶真と呼んではくれなくとも、
元の世界線がいいんだ!
そしてDメールを使えばきっと俺は元の世界線に戻ることが出来る!
だから」
紅莉栖「……使わせないわ」
岡部「何故だ!
例えDメールを使ったからと言って、
この世界線がなくなるわけじゃないんだぞ!?
多世界解釈で言えば、ただ俺の意識だけが元の」
紅莉栖「本当に?
多世界解釈……アトラクタフィールド理論は、
エヴェレット・ホイーラーモデルの発展系とあなたは言った。
それは、本当に?」
岡部「……何が、言いたい……?」
紅莉栖「あなたが過去を変えれば、この世界は消えてしまうんじゃないの?
……そう、聞いているのよ」
岡部「……この世界線が、消える……だと?」
紅莉栖「あなたの意識は世界線を跳んでるんじゃなくて、
世界線に残り続けてるんじゃないの?」
岡部「……何を言っている?俺は確かに」
紅莉栖「Dメールで過去を変え、世界を変えた」
岡部「……」
紅莉栖「その瞬間に世界が再構築され、
あなたの意識だけは元の世界線からこの世界線まで残った。
そうは考えられない?」
岡部「な、何?」
紅莉栖「恐らく、
あなたは過去へ跳んでも、未来へ跳んでも、
現在を書き換えたとしても、
あなたの居場所はあなただけにしかない。
いわば世界を見据える者……孤独の観測者」
岡部「……お前は何を言ってるんだ?」
紅莉栖「その力は神の視点、選ばれし者の定め、
世界はあなたによって作られた」
ダル「……まーた始まった」
岡部「俺は真面目に言ってるのだ!もういい加減にっ」
紅莉栖「――でも神は、人を見ないわ」
岡部「はあ!?」
紅莉栖「……人から見て神が見えないように、神もまた人を見ない。
……そう、今のあなたと同じように」
岡部「俺と同じだと?
……馬鹿馬鹿しい、何が神だ!そんなことよりも俺に」
紅莉栖「あなたは、この世界線の何がおかしいと思ってるの?」
岡部「おかしいだろ!
一瞬にして人の性格、姿形さえも変えてしまったんだぞ!?
これがおかしくなくて何がおかしい!!」
紅莉栖「あなたの主観だけで語らないで!!
それは、あなたから見てでしょう?
そして私は、あなたの言う世界線なんて見たこともないわ。
おかしなこと言っているのは、この世界でただ独り、あなただけ」
岡部「っ!」
紅莉栖「それは世界を作り変えたあなたの罪よ。
そしてこれが罰、運命を受け入れなさい、鳳凰院凶真!」
岡部「……やめてくれ!
俺は、こんなつもりではなかったんだ……!
ただ少し、助手に一泡吹かせられたらと思って、
それがなんでこんなことに……?
Dメールを使えば変えられるかもしれないんだ!そしたら俺は」
紅莉栖「……今この世界の全てを破壊して、
再構成された世界を観測するんでしょうね」
岡部「は、破壊などっ、そんなことはしない!
俺だけが世界線を越えるだけだ、この世界が消えるわけでは」
紅莉栖「ないの?それは誰がどう証明してくれるの」
岡部「そ、それはっ」
紅莉栖「……出てって」
岡部「く、クリス」
紅莉栖「出てって!!」
岡部「ッ!?」
ダル「……でっていう」
岡部「そんなっ!?俺を見捨てると言うのかクリスティーナ!」
紅莉栖「あなたはこの世界の鳳凰院凶真じゃないんでしょう!?
だったら私の信じた鳳凰院凶真でもないわ!
つまり部外者、部外者は出てって、出てけー!!」
ダル「おっおっおっ、これは……鳳凰院氏まずくね?」
岡部「くっ!落ち着け紅莉栖、クリスティーナ!!」
紅莉栖「うるさーい!出てけー!!」ブンッ!!
岡部「うおッ!?ちょ、おま、物を投げるのは」
紅莉栖「出てけ出てけ!」
まゆり「トゥットゥルー♪
ただいまーいい汗かいてきたよー!
……あれぇ?」
岡部「ま、まゆり!良い所に……クリスティーナを止めてくれ!」
まゆり「ど、どうしたのクリスちゃーん?」ヒュッ!!パシッパシッ!!
紅莉栖「ま、まゆり……――その男、このラボからつまみ出しなさい」
まゆり「えぇー!?」
紅莉栖「お願い……」
まゆり「……うーん……」
岡部「な、何をバカな!このラボは俺の」
紅莉栖「私のラボよ!」
岡部「うぐっ!」
鈴羽「うぃーっす!
……あるぇ~?どうしたのこれ、修羅場?」
ルカ子「何してるんですかどいてください入れません。
……え、ラボがめちゃくちゃに」
まゆり「……ごめんね、ほーおーいん……なんとかさん?
ちょっとだけ、ラボから消えて貰うね」
岡部「消え――?」
まゆり「――トゥッ!」ガシッ!!
岡部「――---...」
鈴羽「……おぉー?」
ルカ子「……なんだったんですか、アレ?」
ダル「……牧瀬氏、これでいいの?」
紅莉栖「……いいのよ、これで……」
――――――――――――――――――
―――――――――――
―――――――
岡部「……」
まゆり「ここまでくればいいかなぁ……?」
岡部「……どうして、どうしてだクリスティーナ……俺は……」
まゆり「えーっと……ほーそーいいんさん?
ごめんなさい、クリスちゃんと何があったかはわからないけど、
手荒な真似をして……」
岡部「鳳凰院だ……いい……気にするな……」
まゆり「……」
??「……椎名さん?」
まゆり「え?
――あぁ~萌郁さんだぁ!トゥットゥルー♪」
萌郁「こんにちは、椎名さん」
岡部「……萌郁?閃光の指圧師か」
萌郁「あら、そこの貴方は……っ!?」
岡部「お前は……いや、聞くだけ無駄か……」
萌郁「鳳凰院、凶真。
……こんなところで、会えるなんて」
まゆり「え?
萌郁さん知り合いなの?」
萌郁「いえ、ただ次の記事は、
今人気の鳳凰院凶真のことを、書きたかったから。
取材、したかった」
まゆり「あ、そっかぁ!萌郁さんは記者だもんねぇ」
萌郁「そう、だから――取材、させて欲しい……です。鳳凰院さん」
岡部「……ん?
指圧師お前、紙と……ペン……だと?」
萌郁「?
……取材の、基本だけど」
岡部「携帯は……携帯はどうした?というか何故普通に」
萌郁「え?
携帯……あぁ、番号を交換、ですね?……えっと、今――」
岡部(ま、まさかこの世界線では萌郁はまともなのか……!?
普通に喋って、普通に仕事してる……?
いや、仕事は元の世界線でもしてたか)
萌郁「――どうぞ……鳳凰院さん?」
岡部「……すまない、取材はまた今度にしてくれっ!」ダッ!!
萌郁「あっ、待って……取材!
今度ガンヴァレルプロジェクトから、声優に抜擢されたそうですが、
意気込みはいかがですかー!?」
まゆり「ほーれんそーさぁーん!」
岡部「鳳凰院だぁー!!」
――――――――――――――――――
―――――――――――
―――――――
岡部「……はぁ」
岡部(……このままでは、俺は元の世界線に戻ることは……出来ない)
岡部「どうしたらいいんだ……どうしたら……」
岡部(紅莉栖は、頑なに俺がDメールを送ることを拒んだ)
――この世界は消えてしまうんじゃないの?
岡部「この世界が消える……世界線が消滅するということなのか?」
岡部(いや、タイターのいう多世界解釈で考えるならば、
この世界線は残るはずだ。
並行世界の可能性として、
俺が覚えて居続けるだけで……消えるなんて……)
岡部「……だが、その証明は出来ない。
タイターのメールでさえ、この世界線では存在しないのだからな……」
岡部(そもそもこの世界線にジョン・タイターはいるのか?
偽物でさえ……あいつらはあまり反応しなかった……)
岡部「調べるか?
……今の俺にどこで調べろというのだ。
ネットカフェに行くか?
それよりも、下手に街を歩いてるだけで騒ぎになりかねない。
となると家に?
……今駅周辺に行くのははマズイな……地下鉄を使うか?
しかしあそこで囲まれたらアウトだ……」
岡部(まったく、どうして有名人だなんて設定なんだ俺は!
どこを間違えばそうなる……)
岡部「……間違い、か。
俺のDメールが、俺を間違った方向に進ませたと言うのか……?」
――それは、あなたから見てでしょう?
岡部「――っ!」
岡部(……紅莉栖が言いたかったのは、
つまり俺が間違いだと思ったことでも、
この世界線では正しいことだと他の人は認識するということだ)
岡部「“この俺”の主観だけで語るな、か……。
この世界線の俺も、あのDメールを受け取って、
正しい方向だと信じて進んだのか……」
岡部(その結果がこれだ。俺はラボを作ることもなく――)
岡部「……待て、だがこの世界線の俺も鳳凰院凶真じゃないか!
これが意味するのは、でもまゆりは俺のことを……」
まゆり「――あ、いたぁ!捜したよー?
ほ、ほ、ほもたろうさん?」
岡部「……“ほ”しかあってないわ!」
まゆり「ご、ごめんね……まゆしぃはいつもみんなに脳筋って言われてて……」
岡部「……はぁぁ……何故俺を追ってきた?」
まゆり「え、えっと……その、まゆしぃもよくわかりません……」
岡部「わからないって、なんだそれは……」
まゆり「えっへへー?
……でも、なんだか放っておけなかったから……」
岡部「……」
まゆり「……」
岡部「……なあ、まゆり……」
まゆり「……?
何かなー」
岡部「お前はどうして、そのまっちょ……いや、
体を鍛え(抜い)てしまったのだ?」
まゆり「まゆしぃの筋肉に興味があるのー?」
岡部「きょ、興味と言うかだな……?
まるで、
見えない陰謀に巻き込めれてるとしか思えないと言うかなんというか」
まゆり「ん~っとねぇ……まゆしぃが筋肉さんを苛め抜いているのはね、
強くなるためなんだっ!」
岡部(言われずともそれはわかる)
まゆり「……昔ね、おばあちゃんが……亡くなったの」
岡部「……」
まゆり「それでね、その時まゆしぃは弱くって、
心が折れてしまいそうなほど苦しくって、
どうしようもない時があったのです……」
岡部「そうか……」
岡部(……その時、“この俺”はその場にいなかったのだな……)
まゆり「……でもね、その時に、
実はまゆしぃはその頃の記憶が曖昧なんだけど、
幼馴染の男の子が必死で頑張ってるってことを聞いたんだ。
夢を叶えたって」
岡部「っ!!そ、それは」
まゆり「……手を伸ばしても、届かなかった。
どんなに日の光がまゆしぃを指しても、
おばあちゃんは迎えにきてくれなかった。
それでも、まゆしぃはお空にまで手を伸ばしたくって、
今度は跳びながら手を伸ばしてたの」
岡部「……」
まゆり「やっぱりお空に手は届かなかったけど、
もっと高く飛ぶことが出来たら、手が届くんじゃないかなって、
まゆしぃも頑張れば、きっと夢が叶うんじゃないかなぁって、
だから体を鍛えてもっと高くジャンプすることにしたの」
岡部「な、なん……だと……?」
まゆり「そしたらね、段々元気が出てきて、
まゆしぃはどんどん強くなっていったんだ。
それで、わかったの。
まゆしぃは、弱かったから、
おばあちゃんから離れることが出来なかったんだって」
岡部「弱いだなんて、そんなことっ!」
まゆり「ううん、弱かったんだ。
それで、まゆしぃは心も体も強くなろうって思った。
それがこの体なのですっ!」
岡部「おおう……」
まゆり「なんだかねぇ、鍛えていく内にどんどん筋肉がついていって、
いつの間にかこんなになっちゃった☆」
岡部「」
岡部(……そうか、この世界線のまゆりは、
俺がいなかったから独りで立ち直ったのか……)
まゆり「どうかなどうかな?まゆしぃの筋肉気にいってくれたかなー?」
岡部「お、おう……」
まゆり「えっへへぇ良かったよ~」
岡部「……」
まゆり「……」
岡部「……まゆり、コスプレは……しないのか?」
まゆり「え?」
岡部「衣装……作って……メイドは、メイド喫茶はどうした?」
まゆり「え、え~っと……なんのことかな?」
岡部「……後悔……してないか?」
まゆり「……?」
岡部「自分が……その、そんな体になったことを」
まゆり「後悔?
……ううん、全然してないよ~?
まゆしぃは望んで強くなったから」
岡部「そうか……」
岡部(だが俺は後悔している。
……俺がまゆりの傍にずっといてやれば……!
この差が神と人の視点の違いか……)
岡部「……何が神だ……!
俺はそんなんじゃない、ただの人間だ……」
まゆり「??」
岡部「あ、いや、すまん……ちょっと考え事をだな……」
まゆり「……」
岡部「……」
まゆり「……クリスちゃんの言ったこと、気にしてる?」
岡部「え?」
まゆり「クリスちゃんもね、ちゃんと話せばわかってくれるよ。
仲直り、出来るよ」
岡部「……お前……」
まゆり「クリスちゃんはね、とっても優しい人だから、
――きっとオカリンの力になってくれるよ」
岡部「……――!?
お前今なんと言った!!」
まゆり「ひゃっ!ビックリしたぁ!?
……えっと、クリスちゃんとちゃんと話せば」
岡部「その後だその後!」ガクガク
まゆり「あぁうぅ~クリスちゃんはとっても優しい」
岡部「その次だ次!」
まゆり「えぇぇ、きききっとオカリンの力に~」
岡部「どうしてお前が、その名を知ってるんだ!?」
まゆり「な、なんでぇ?
だってオカリンは……あ、オカリンって誰だっけぇ」
岡部「……まゆり……」
まゆり「……ただ、あなたの顔を見てたら、
フッと頭に浮かんだと言うか……?
えっと、もうそういんさん?」
岡部「……なんで俺を気遣うんだ?
俺はその、いわばお前達の世界を破壊する悪役、
なのかもしれないんだぞ?」
まゆり「世界を??
……まゆしぃはバカだからよくわからないけど、
その方がほうけいいんなんとかさんらしいかなぁって思って……」
岡部「……」
まゆり「……大丈夫、クリスちゃんはきっと力になってくれるよ。
まゆしぃが保障します!」
岡部「……フッ、まさか人質に気を遣われるほど落ちぶれるとはな、
この俺もまだまだということだな」
まゆり「ん?人質……?なんのことかなぁ~」
岡部「いいんだ、お前は知らなくていい。
だが俺の知っている俺は、お前の中で生き続けている、
それがよくわかった」
まゆり「……う、うん……?」
岡部「そうだな、このままじゃ、このまま諦めるわけにはいかないよな」
まゆり「……そうだよ!
ほうていしきさんは途中で諦めるような人じゃないよ!!」
岡部「フゥーハハハ!
そう、俺は途中で諦めるほど愚かな男ではない。
世界を混沌の未来へ導く、
狂気のマッドサイエンティスト……鳳凰院凶真だっ!」
まゆり「わぁー!」パチパチパチ
岡部「……もう一度、紅莉栖と話し合ってみる。
この世界をどうするか、それから決めても遅くはあるまい」
まゆり「うんっ!頑張って、オカリン!」
岡部「ええい、俺はオカリンなどではない!
鳳凰院凶真だと何度言えば」
まゆり「え~?
でもオカリンの方が呼びやすいよ。
それに、どうしてか懐かしい気もするんだ。
でね、ほるすたいんさんはオカリンって感じがするよー!」
岡部「誰だそれはもはや人でもないぞ!
……もうオカリンでいい、とにかく俺はラボに戻る!」
まゆり「頑張って、オカリン♪
――オカリンならきっと大丈夫だよ」
岡部「俺を誰だと思っている?
……任せておけ、この俺が世界を変えてみせる!」
岡部(そしてお前のことも、繋ぎ止めてみせる)
まゆり「ふぁいとー」
岡部「それと……ありがとう、まゆり」
まゆり「あ……」
岡部「さらばだ我が偽りの人質よっ!
次に会う時は、本当の人質として扱ってやるからなぁ!
フゥーハハハ――!!」
まゆり「頑張ってねぇーオカリーン……――」
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「……紅莉栖。
……その、私と一緒に……タイムマシンを作らないか?」
「え……」
……パパに、いや、あの変な男に呼び出された私は、
遥々日本の地に降り立っていた。
後日メールで――なんで私のアドレスを知っていたのか?――
指定された場所に訪れた私を待っていたのは、
牧瀬章一、すなわち私の父親だった。
「こんなことを突然言われて混乱するのもわかる。
……だが、お前の力が、知識が必要なのだ」
「……な、なんで……?だって私、パパの論文を否定して……」
「それでもだっ!
……わかったのだよ、私は。
……もう独りでタイムマシンを作るのは無理だということに」
タイムマシン。
それはパパが長年追い続けてきた夢の結晶で、
私が打ち砕いてしまった罪の欠片。
パパのこともあって、もう二度と関わることはないと思っていた。
それが、こんな形でまた私に――
「……パパは、それを言うために……私を呼んだの?」
「……いいや、違う」
「ふぇ?」
「訂正する。
……わかったのは、過去の私が愚かだったということだ。
それを、私は気付かされたのだ……私の協力者に」
「協力者?」
パパに協力者なんていたの?
なんてことは、口が裂けても言えないけれど、
多分、あの電話に出ていた人たちがそうなのだろう。
もうそれくらい理解するほど、私は落ち着いている。
「ああ、そうだ。
……教えられてしまったよ、タイムマシンよりも、
私には叶えなければならないことがあることに」
「叶えて?……タイムマシンよりも……って……」
「そうだ、それは……お前だよ、紅莉栖」
「わ、私!?」
くぁwsでrftgyふじこlp;!
大丈夫大丈夫、これぐらいで動揺するほど、私の頭は混乱しない。
そう、まだあわあわてるじじじ時間じゃない!
「ど、どうして、急にそんな……」
「今しかないんだ!
……あの男が、あっさりとこうして会う時間を作ってくれた。
私は、紅莉栖?お前に言わなければいけないことがあるんだ……」
「……」
もう二度と、パパが私を呼ぶことはないと思っていた。
思っていたのに、これは、なんで?
あの電話の男、一体何者なの?パパに何を言ったの?
……パパは私に、何を言うの?
「パパ……私――」
「紅莉栖――!」
――貴様と言う存在は、もうすぐ消えてなくなるのだ!
「いや……」
聞きたくない。
「――私は、いや俺は、お前を傷つけてしまった!
許してくれとは言わない、だが、お前は俺の自慢の娘だ!!
俺は……お前を……傷つけたくなんて、なかったんだ……」
「……パ、パパ!?」
「すまない、紅莉栖、すまなかった……!
今更こんなことを言っても、お前は私を許すことはないだろう。
しかし、それでも、家族の絆を元に戻すために、
私と一緒にタイムマシンを作らないか!?」
「そそそそそそれなんてフラグ?」
「お前は優秀だ、私なんかよりも、ずっと。
いつか世界に名を残す科学者となるだろう。
このままアメリカで暮らせば、どんな科学者よりも成果を出すに違いない。
だがしかし、日本に戻って、
私とタイムマシン実現を目指してはくれないだろうか……」
「わた、わひゃし」
「もちろん、断ってくれてもいい。
……ただ、これが私の言いたかったことだ、紅莉栖」
ええええええええええええええええええ?
いやいやいや、またまた、御冗談を。
パパが、私に?頭を下げて、一緒にやらないか?
だって、パパは私を消すって言ってたじゃない、それがなんでホワイ?
そんなこと今更、パパの口から……でも、私は……!
「そ、それって……?日本で一緒に暮らさないかって……こと?」
「……お前さえよければ、私はそれでも構わない」
キターーーーーーーー!!
っていかんいかん危ない危ない……何テンション上げてるんだ私。
落ち着け、落ち着いて、こういう時は素数を数えるのよ……!
1、2、3、ダァーって!それはただの数字でしょう!!
いや待て、これは罠か、ドッキリでは?
カメラ何処だ!撮るんじゃない見世物じゃないぞォー!!
「で、でも私……まだ大学だってあるし……今日だって……」
「今お前の通っている大学を卒業してからでもいいんだ。
まあ、お前だったらすぐに卒業することも可能だろうが、
そんなに急がなくてもいい。
……お前のやりたいことが終わったらでいい、
その後に日本へ来てくれれば――」
「ま、待って!ちょっと待って!!……少し、考えさせて……」
「……ああ。
すまない紅莉栖、突然こんなことを言って混乱させて。
やはり私は、あの男の言うように父親失格なのかもしれんな。
……そんな私でも、これだけは言える。
――愛しているよ、紅莉栖……我が娘よ」
「あ、愛ィ!?
……ねぇパパ?
さっきからパパが口にしてる、あの男って誰なの?」
「ん?
……それはな――私の協力者で有り、ライバルでも有る、
しかし私よりも遥かに未来があるだろう科学者の卵。
名前は――」
私は、その名前を永遠に忘れることはない。
パパと私を引き合わせてくれた人。
家族の絆を取り戻してくれた協力者。
タイムマシンという人類の夢を追いかける、永遠のライバル。
そして、
いつかは私がお礼しないといけない、困っている時に手を差し伸べたい。
運命の歯車を回した、世界を混沌の未来へ導いた、
狂気のマッドサイエンティスト。
――その名は――
#################################
######Steins;Gate――シュタインズ・ゲート――##########
############♯ 断罪のネメシス#############
岡部「――……着いたぞ……」
岡部(……とにかく話し合ってみるしかない。
何故ああも拒むのか、理由があるはずだ)
岡部「……いざっ!」ガチャッ!!
紅莉栖「……」
岡部「……クリスティーナ」
紅莉栖「……やはり、来たわね……鳳凰院凶真」キィィ
岡部(……なんという余裕のある態度!
これはまさにラスボスの風格かっ!
というかまさか、
俺が来るまで椅子に座ってあの体勢でスタンバってたのか?)
岡部「……ぬるぽ」
紅莉栖「ガッ」
岡部「……」
紅莉栖「……」
岡部「……話しがある……」
紅莉栖「……私にはない。
何度も言うけど、あなたにはDメールを使わせない」
岡部「それは何故だ?
……お前だって、Dメールの実験をしたいのではないのか」
紅莉栖「確かに、私たちはDメールの実験途中だった。
過去が変わるか、知りたかった。
でもね、この世界を変えたいわけじゃないのよ」
岡部「俺だってそうだ。
だが実際変わってしまったのだ……!俺はそれを元に――」
紅莉栖「――戻したら、この世界が消えてしまう。世界線が切り替わる」
岡部「切り替わるかどうかなど、やってみなければわからないだろう?
俺がDメールを送った所で、
この世界線が消えるわけではないかもしれんではないか!」
紅莉栖「そうね、でも可能性はあるわ。
……このまま消えて、
私は何もかも忘れてなかったことになる世界へ戻る可能性が。
大体、あなたはどうなるの?
今あなたの意識はそこにあるのに、Dメールで世界を元に戻したら、
その意識は元の場所に戻るんでしょう?
じゃあ、今そこにいる鳳凰院凶真の意識はいったいどうなるの」
岡部「そ、それは……!
俺の意識が帰った後、この世界の俺の意識が戻るとか?」
紅莉栖「なにそれ、
じゃあこの世界の鳳凰院凶真としての意識は、今どこにある?
あなたは、覚えてないんでしょう?」
岡部「……ああ、俺はこの世界線の知識も記憶も……ない。
だからこんなに混乱しているわけで」
紅莉栖「……あなたは、すでにこの世界の鳳凰院凶真を消しているのよ。
自分自身の手でとは言え、一人の人間を消したの」
岡部「そんなこと……もしかしたら、
この世界線の俺は元の世界線の俺に意識が移っているかも!」
紅莉栖「バカ言わないで。
あなたは能動的にこの世界へやってきた、
その結果がこの有様なのよ?
何も知らない鳳凰院凶真が、偶然ぽんっと意識が跳んで、
ぽんっと知らない内に帰ってくる、
そんなファンタジックな奇跡はありえないわ」
岡部「俺にはリーディング・シュタ」
紅莉栖「その能力は今のあなたにしかない。
そうじゃないと、全ての世界線の鳳凰院凶真が持ってると仮定すれば、
可能性の分だけあなた自身が消えていくことになるわ。
あなたは自分が消えたことある?または、それを自覚したことは?」
岡部「……ない、が……」
紅莉栖「そう、あなたが消えることはない。
でも、あなたが世界線を変えた分だけ、
その世界にいた鳳凰院凶真が消えるのよ」
岡部「……」
紅莉栖「この世界も同じ。
あなたの言っていることが真実なら、過去を変えた分だけ、
世界から人の意識は消えていく。
そして別の意識を持った自分が存在するはず」
岡部「……それも、仮定に過ぎない……」
紅莉栖「あなた自身の存在が証明になった。
……過去を変えて、その意識が残るなら、
私達だって元の世界線の記憶があるはずなのに、それがない。
あなたが過去を変えた瞬間に、その世界の人が認識していた世界を、
あなたは消したのよ。あなた一人を除いてね」
岡部「そんなの、そんなの!」
紅莉栖「じゃあ、あなたは誰なの?
もし、元の世界線が多世界解釈として残ってるなら、
今元のあなたはどうなっているの?
知識も記憶もなくなって、廃人にでもなってる?
それとも、コピー人間みたいに普通に暮らしてるとか?」
岡部「うっ」
紅莉栖「……もしくは、あなたがコピーの方だったら?
あなたの意識を戻せば、
その世界の本当の鳳凰院凶真はまた消えるわ」
岡部「……俺が、消える……」
紅莉栖「少なくとも、今私が認識している世界で、
私の知ってる鳳凰院凶真は消えた……」
岡部「俺が……俺を消したと……」
紅莉栖「これ以上……消させはしない。
その可能性も残さない。
危険があるとわかった以上、
Dメール以下電話レンジ(仮)は凍結処分とする。
これが、結論」
岡部「……」
紅莉栖「なにか他に言いたいことは?」
岡部「……」
紅莉栖「ないのね?」
岡部「……お前は、どうしてそんなに拒むんだ?」
紅莉栖「……」
岡部「全てはやってみなければわからんではないか、どうなるかなんて」
紅莉栖「……やってからじゃ遅いのよ。
……もしも、消えてしまったら……」
岡部「何をそんなに恐れているんだ?」
紅莉栖「……」
岡部「……俺は、元の世界線に戻したい……」
紅莉栖「……」
岡部「俺のせいでめちゃくちゃになった世界線を、
ラボメンの関係を、元に戻してやりたい……」
紅莉栖「……それは……あなたから見て……でしょ」
岡部「そうだ、俺は俺の責任を持って世界線を元に戻したいのだ」
紅莉栖「……」
岡部「いつか、言われたよ。
……過去を変えたら、その責任はどう取るのかと」
紅莉栖「……」
岡部「俺は……過去を変えてしまった。
過去を変え、大事なモノさえ壊してしまった。
その責任を取るためにも、元の世界線に戻さなければならない。
何を犠牲にしようとも」
紅莉栖「……」
岡部「例えこの世界が消えようと、
俺が消してしまったラボメンの絆を元に戻すために」
紅莉栖「……そんな独善、許されると思っているの?」
岡部「フッ、独善か……良い響きだ!
何故ならば俺は、
世界を混沌に導く狂気のマッドサイエンティスト、鳳凰院凶真!」
紅莉栖「……」
岡部「消えてしまった大事なモノを守るためならば、
世界ですら敵に回してやる!フゥーハハハ!!」
紅莉栖「……」
岡部「……どぁが、お前がこの世界線を消されたくないというのならば、
理由ぐらいは話してもらおうか?
……そうしたら、考えなくもない」
紅莉栖「……え」
岡部「……訳を言え……」
紅莉栖「……逆に聞くけど、そんなに元の世界線に戻りたいの?」
岡部「愚問だな。
……確かにこっちの方が何かと良いこともあるかもしれないが、
これは俺の望んだ混沌じゃない」
紅莉栖「……」
岡部「ラボメンを失ってまで手に入れたかったモノじゃないんだ……」
紅莉栖「……ここにだってラボメンはいるわ。
……あなたが望むなら、あなたも」
岡部「それじゃ駄目なんだ!
……それに、ここには人質も助手もいない……」
紅莉栖「……助手なら……」
岡部「俺の助手はただ一人、
天才で傲慢で変態でセレブな上にゾンビでもあるねらーっ子、
自分に自信があって、自分の過去の失敗も悔やまない、
憧れすら抱くほどの科学者……牧瀬紅莉栖だけだ」
紅莉栖「……」
岡部「俺は、まだ奴に謝ってもいない……!
まだやり残したことが沢山あるんだ」
紅莉栖「……そんなの……」
岡部「ここではそれが出来ない、それが俺の帰りたい理由だ」
紅莉栖「じゃあ、この世界は消えてもいいと言うの?」
岡部「消えるかどうかなどわからん!世界線は――」
紅莉栖「世界線がどうかなんてどうでもいい!
今よ、今私が見ているこの世界を消されたくないの!!」
岡部「……お前……」
紅莉栖「だって……もしも、もしも消えてしまったら……!
パパとの想い出も消されちゃう……」
岡部「……パ、パパぁ?」
紅莉栖「鳳凰院凶真が、今の鳳凰院凶真じゃない過去に変えられたら、
あなたが芸能人でもなんでもなくなったら、
パパとの接点が消えちゃうかもしれない……!
そしたら、私は、きっと……」
岡部「……俺は、お前の父親と知り合いなのか?」
紅莉栖「あなたがっ!あなたが引き合わせてくれたの!!
何年も離れていた家族の絆を、いとも簡単に……」
岡部「なっ……俺が!?
じゃあ、お前は過去に俺に会っているのか?」
紅莉栖「……ううん、一度だけ電話越しに喋ったことがあるだけ。
あなたのことを知ったのは、
テレビやネットを見てからのことよ……」
岡部「……あー……」
紅莉栖「……見ず知らずの家族の関係に、
勝手に首突っ込んで、勝手に行動した。
でも、私はそれで救われたのよ……!!」
岡部「……」
紅莉栖「お礼をずっと言いたかった!
それなのに、こんなの……あんまりよ……」
岡部「……お前、父親と仲が悪かったのか?」
紅莉栖「悪いなんてもんじゃなかった!
口も聞いてくれないし、存在も否定されてた!!
過去に戻って、お前をなかったことにしてやるって……」
岡部「な、なん……と……」
紅莉栖「辛かった、苦しかった……!
でも私には研究があったから、
なんとか誤魔化していたけれど……でも……」
岡部「……」
紅莉栖「……元の世界線のあなたは芸能人じゃないんでしょ?
私のパパ、牧瀬章一のことも知らないはず」
岡部「……」
紅莉栖「パパとあなたが出会って無ければ、
私達の家族にかかわることもなくなる。
そして私は、
今もアメリカで研究者として過ごしているんでしょうね、違う?」
岡部「……お前は違うというのか?」
紅莉栖「私は、アメリカの大学を卒業と同時に日本に来た。
パパの計らいで留学生としてね。
それで、色々あってラボをここに作ったの……」
岡部「い、色々?」
紅莉栖「い、色々は色々よ、そこにツッコむな!
……そのうちに、まゆりに会って、用心棒として雇って、
橋田や阿万音さんに会い、
漆原さんとも知り合っていった……」
岡部「……なるほど……」
紅莉栖「それで電話レンジが偶然出来て……Dメールに気づいて……」
岡部(そこから先は、俺たちと同じか……)
紅莉栖「そしたらあなたが来て……この世界は間違いだって……!」
岡部「……」
紅莉栖「……あなたは消すの?
私達の想い出も、
パパと私の関係も、
この世界で起こったこと全部!
“なかったこと”に……しちゃうの?
そんなの……そんなの……っ」
岡部「お……俺は……」
紅莉栖「そんなの……嫌よ……嫌ぁ……」
岡部「……」
岡部(……これは……俺の罰なのか……)
岡部「……俺が……過去を変えたから……?
俺自身を変えたから……」
紅莉栖「そう……全部あなたのせい……!
でも……あなたの、おかげなの……」
岡部「こんなの……俺は……っ!」
――――――――――――――――――
―――――――――――
―――――――
紅莉栖「……」
岡部「……」
紅莉栖「……いつまで……そうしているつもり……?」
岡部「……そんなこと、俺にもわからん」
紅莉栖「……もう、タイムリミットよ……」
岡部「あ……」
紅莉栖「多分、今日はもう……Dメールは送れないわ」
岡部(そう、Dメールを送れる時間は、
電話レンジ(仮)が起動する時間は限られている)
岡部「……そんなこと言われなくてもわかっている」
紅莉栖「……あっそ……」
岡部「……」
紅莉栖「……」
岡部「……うぅー……くそっ!」
紅莉栖「……あっ!コラッ人ん家の冷蔵庫を勝手に開けてっ!?」
岡部「やはりあったか、知的飲料水!一本貰うぞ」
紅莉栖「……もう……」
岡部「……んくっんくっんくっ……プハァッ!頭を使った時はドクぺに限る」
紅莉栖「……あなたもドクぺ、好きなのね……」
岡部「当たり前だ、科学者なら当然だろう?」
紅莉栖「ええ、この怪しげな風味が醸し出す、
何とも言えない独特な甘みが脳を蝕んでいく感じが、
実に狂気を表しているわ」
岡部「ほう、流石はクリスティーナ。
世界線を越えても話しがわかるではないか」
紅莉栖「フッ、世界の境界線など関係ない。
これは世界が求める真理――」
岡部「――運命石の扉の」
紅莉栖「選択――」
岡部「エル・」
紅莉栖「プサイ・」
岡部・紅莉栖「「コングルゥ!
――フゥーハハハ!!」」
岡部「……」
紅莉栖「……」
岡部「なあ、クリスティーナ……?
――お前、恥ずかしくないのか」
紅莉栖「なっ!?
だだだ誰がはじゅかしいことなんてあるか!
言いがかりもいい加減にしろ!!」
岡部「……いや、だって……なら何故、俺の真似をする?
その言動はどう見ても」
紅莉栖「真似とかそんなことしてないし!
これはジャパニーズ文化の極みだし!
鳳凰院凶真は一切関係ないから!関係ないから!!」
岡部「……ああ、うん……お前がそう言うのならそうなのだろう……」
紅莉栖「そそそそうよ!
私はクリスティーナ……クリスティーナ・ザ・フェニックス。
狂気のマッドサイエンティストは私一人でいいの!
……フフフ、お前こそ私の狂気に触れて飲まれているのだろう?
もう一人の鳳凰院凶真」
岡部「お前の中ではな」
紅莉栖「わぁたしが、覚醒をしたのはこの日本に来てすぐのことだが!
溢れ出るこの才能が、このラボを作り上げたのだ!!
お前には真似できまい?」
岡部「笑止、溢れ出る才能でラボを作り上げたのはこの俺だ!
お前こそ、俺の真似をしたに過ぎん。
いわば劣化、劣化ラボだ!!」
紅莉栖「なんですって!?誰が劣化レプリカよ!訂正しなさい!!」
岡部「このラボはワシが育てた」
紅莉栖「ぐぎぎ!
なら、このラボにある未来ガジェットを見なさい。
見てからそういうことを言う事ね!
あんたのラボとは違うという所を見せてやる」
岡部「ほぉう、大きく出たではないくぁ~?
ならば、見せてみるがいい。
どうせ、我がラボのパクリだらけだろうがなぁ!!」
紅莉栖「なら、これはどう?
――未来ガジェット二号・タケコプカメラー!」
岡部「……なんだ、ネーミングも同じとは、ガッカリだな……」
紅莉栖「な、なんだと?
……このガジェット、あなたも作ったの?」
岡部「ああ、作ったぞ?
……どうせそれも、
カメラが支柱ごと回転してろくな映像が取れないんだろ?
所詮はガラクタだなぁ」
紅莉栖「……は?何言ってるの、そんなわけないでしょ」
岡部「ゑ?」
紅莉栖「その問題は、カメラの一部を内部に固定することで回避してるわ。
手軽に空中撮影出来るってコンセプトの未来ガジェットなんだけど――」
岡部「……そそそうかやはり我がラボと同じということか!
まったく同じだなぁ!!
まぁ、同じ物として評価してやらんでもないぞぉ」
紅莉栖「……?
――じゃあ、これは?
未来ガジェット三号・もしかしてオラオラですかーッ!?」
岡部「んんっ!それも同じだ。人体からの汗で」
紅莉栖「汗?
……まあ、汗はかくでしょうけど、まずこれを頭につけて」
岡部「次はないのくぁー!?次、次!!」
紅莉栖「……じゃあ、とばして未来ガジェット六号・サイリウムセイバー」
岡部「(それなら)フゥーハハ、血糊が中に仕込んであって、
スパークウォーズごっこが出来るのだろう?
血糊も飛んでリアルだろうと、それくらい御見通しだ!!」
紅莉栖「何言ってるの?
これは所謂防犯グッズで、ごっこ遊びなんかには使わないわよ。
このボタンを押すと電流が流れるんだけど、
電流が流れたと同時に血糊が相手に付着するようになってて、
あたかも相手に怪我をしたとビビらせる――」
岡部「でで電流!?それじゃ凶器ではないかっ!」
紅莉栖「狂気のマッドサイエンティストならぬ凶器のマッドサイエンティスト、
なんてね?
ま、二本あるから、ボタン押して電流流しながら打ち合えば、
スパークウォーズごっこも可能かもね」
岡部「」アー
紅莉栖「……なんか、大分食い違ってない?」
岡部「そぉぉんなことないぞ!?
いやぁ、あまりにも同じだからビックリしてただけというか」
紅莉栖「……それじゃあ……十号機から先まで何番のガジェットが見たい?」
岡部「じゅっ!?……一体いくつまであるのだ?」
紅莉栖「さあ?
テキトーに作ったのもあるから、
まだ名前もついてないのまで、いっぱいあるのよねぇ……」
岡部「……そ、そうかそうか、それは何より……」
紅莉栖「……」
岡部「……」
紅莉栖「……もしかして、同じじゃないの?むしろ、そっちのが劣化品なんじゃ」
岡部「ブゥアーッカモン!
我がラボの未来ガジェットは至高にして究極!!
こんなチンケなガジェットと一緒にされては困るぞ、実に困る」
紅莉栖「ふーん……?
なら、口頭で説明して貰える?
その至高だか究極だかっていうガジェット」
岡部「むん!?
……それは、言えんな……?」
紅莉栖「は?
チンケとかバカにしたんだから、
よっぽど凄いガジェットがあるんでしょ?
いいから教えなさいよ!」
岡部「いやいや、それはラボメンだけの企業秘密で」
紅莉栖「私はどっちの世界線でもラボメンでしょ?
聞く権利があるわ」
岡部「それは……!
――……あ、あ、あ、IQTマシン……」
紅莉栖「……それって、ここであなたが作ったっていう携帯ゲームでしょ?
よく知らないけど、今となってはあんなのただの玩具じゃない」
岡部「ち、違うぞぉ?脳から思考パターンを読み取って数値にだなぁ」
紅莉栖「なにそれ、ちょっと原理を説明してみて?わかりやすくね」
岡部「ぐっ!?」
岡部(そもそも全ての元凶な上、俺はどっちの性能も知らん……)
岡部「えっと……その……?」
紅莉栖「……言えない、のね?」
岡部「……そんなことは……ないあるよ?」
紅莉栖「……ククク……」
岡部「な、何を笑う……?」
紅莉栖「……墓穴を掘ったな、鳳凰院凶真」
岡部「!?」
紅莉栖「これで、どちらが優れた研究所かハッキリしただろう!?
やっぱり私の作ったラボこそが、最強!
よく覚えておきなさい、ラボレッカー!!」
岡部「ふ、ふざけるなぁ!これは罠だ!俺を陥れるための罠だ!!」
紅莉栖「もはや何を言っても遅い!真実はいつも一つなのだぁー!!」
岡部「おのれぇ!クリスティーナ……クリスティーナ・ザ・フェニックス!
その名は覚えたぞ、必ず復讐してやるからなぁ!!」
紅莉栖「フゥーハハハ!無駄無駄無駄ァ!!
貴様には何も出来んのだフワーハハハ!」
岡部「フンッ笑い方がなってないな?
背筋はこうッ!
そして手はここッ!
この体勢で――フゥーハハハ!」
紅莉栖「な、なにぃ?
――フゥーハハハ!」
岡部「フゥーハハハ!!」
紅莉栖「ハハハハハハ……ハハハ……」
岡部「ハーハハハ……ハハ……はぁ……」
紅莉栖「……」
岡部「……」
紅莉栖「……ね、ねぇ?」
岡部「……なんだ?」
紅莉栖「そっちにも……ラボ、あるのよね?」
岡部「……ああ」
紅莉栖「……どんな感じなの?」
岡部「ん?」
紅莉栖「ラボの、雰囲気っていうか……?
空気、みたいな……」
岡部「……」
紅莉栖「……私も、ラボメン……なのよね?」
岡部「……お前は、ラボメンナンバー004だった……」
紅莉栖「ふ、ふーん?……どんな、感じだったの……」
岡部「……知りたいのか?」
紅莉栖「……」
岡部「そうだな……お前は――いや、元の世界線のお前達は」
――トゥットゥルー♪ねぇねぇ、オカリンのバナナも食べていいかなぁ?
――うおおお、エロ展開ktkr!!
まゆ氏まゆ氏、今度は僕のバナナで!
――やめろHENTAI!岡部も、何を言わせてるんだ!!
――……バナナ……私も……。
――岡部さ……じゃない、凶真さん!
ボクもその、バナナ食べたい……ですぅ。
――ニャニャッ!?
これは濃厚なオカルカの匂いがするニャア……。
――オカルカ?なにそれ匂いって、食べられるの?教えて!
――バカを言ってるな!
いいから実験の準備を始めろぉ!!
変な奴ばかりだけど、俺にとっては大事な……――
――大切な仲間達だよ。
Steins;Gate――シュタインズ・ゲート――
断罪のネメシス
‐‐--―――――――――――――--‐‐
‐‐--―――――――――--‐‐
‐‐--―――――--‐‐
紅莉栖「さぁ、IQテストしましょうか?」岡部「え?」
‐‐--―――――--‐‐
‐‐--―――――――――--‐‐
‐‐--―――――――――――――--‐‐
岡部「――……というようなことがあって、俺はDメールを送ったのだ……」
紅莉栖「……何それバッカじゃないの?呆れて言葉も出んわ……」
岡部「出てるではないかっ!
仕方がないだろう、こんなことになるなんて思わなかったんだ……」
紅莉栖「だって、知能がどうとか、そんな理由で過去を変えるとか……」
岡部「そんなとはなんだ!俺にとっては重要な事だったんだ!!」
紅莉栖「……逆に言えば、そんな大した理由でもないのに、
世界の全てを変えることが出来るなんて、
Dメール……恐ろしい子」
エフェクト
岡部「……バタフライ効果、元の紅莉栖はそれを気にしていた。
正にこういうことかと実感したよ……」
紅莉栖「蝶の羽ばたきでなんとやら、ね?
……それで、元に戻すなら再びDメールを送って」
岡部「過去の俺に、あの“Dメールの内容を信じるな”!
……と言うようなのを送れば、
俺が変な行動を取ることもなくなるのではないか?っとな……」
紅莉栖「自分を変える、か。
……もっと、慎重になるべきだったのよ。
過去を変えるってことは、
その時点の自分の未来も変わる可能性があるんだから。
私達の現在が書き換わってもおかしくない、
まったく別の自分が存在している可能性だってある。
あなたは、迂闊な行動を取るべきじゃなかった」
岡部「……ついカッとなってやった、今は反省している」
紅莉栖「……はぁ、
こんな人が私の恩人だなんて……いや、違う鳳凰院だけど……」
岡部「……お、お前が悪いんだぞ!
たかがラーメン如きで俺を追い詰め、
揚句俺を奴隷にしようなどと、頭がどうかしているとしか思えん!!」
紅莉栖「妄想乙。
……頭がどうかしてるのはそっちでしょ?
大体、あなたそのリーディング・シュタイナーの効果で、
元の世界線の知識と記憶を持ち続けるんだから、
別の鳳凰院凶真になろうとしても意味ないじゃない」
岡部「ぬぅっ!?……Exactly(その通りでございます)」
紅莉栖「もっと考えて行動しなさいよ。
そんなんだから、私に論破されちゃうんでしょ?
IQテストだって、もっとよく考えれば――」
岡部「はいはい、どーもすみませんでしたっ!
……なんで世界線を越えてまで、
クリスティーナに説教されねばならんのだ……!
この粘着ねらーめ……」
紅莉栖「誰が粘着だ!謝れ、全ての世界線の私に謝れ!!
……まったく、これだからアホと会話するのは……」
岡部「なんとでも言うがいい!
……とにかく、俺が反省しなければならないのは事実だからな……」
紅莉栖「うっ……うん……。
――でも、羨ましいな……元の世界線の私……」
岡部「は、羨ましいだと?
……そんなに俺を論破するのが羨ましいのか(震え声)」
紅莉栖「ち、違う!
……だって、四六時中あなたと一緒だなんて……ワタシノユメダッタノニ」
岡部「何?聞こえんぞ」
紅莉栖「ッ!!
うるさい、うるさいっ!あなたには関係ないでしょ!
ただちょっと、そんな一緒にいるんだから、
少しは優しくしてあげればいいのにとか、
私だったらそんなことしないのにとか、
そんなこと全然考えてないんだからなっ!?」
岡部「……」
紅莉栖「な、何!?なな何見てるのよ、セクハラで訴えるぞ!
――もしくは、この右腕に宿る悪霊がお前を」
岡部「い、いや……随分こっちのお前はしおらしいのだな、と。
世界線が変われば、人間こうも変わるのだなと、
驚いているというか……」
紅莉栖「別に、私自身があなたに優しくしたいとか、慰めてあげるとか、
そんな気持ちじゃないんだから、勘違いしないでよね!?
ただ、今の私はあなたに、鳳凰院凶真に借りがあるから……」
岡部「……借りって、俺がしたことはそんなに大きいことだったのか?
お前と父親の関係がどうとか」
紅莉栖「……そうよ、私にとっては救いだった。
あなたが救世主のようにも思えた、その頃はね。
……それまでの私とパ……父親の関係は最悪だったんだもの……」
岡部(むしろ父親との関係をそんなに気にするとは、もしやこいつ重度のファザ)
紅莉栖「おい、今なんか失礼なこと考えてなかったか?
……いい?私と父親の関係はね――」
――満足か?その歳で私の論文をことごとく論破して満足なのか!?
――パ、パパ?聞いて、私……!
――黙れ!私は絶対にタイムマシンを完成させてやるぞ!
そして、過去に戻ってお前の存在もなかったことにしてやる!!
紅莉栖「――……パパの論文を論破して否定したあの時から、
私の家族の絆も壊れていった。
私のせいで、私は責任を感じて……気が付いたら海外にいた」
岡部「……」
紅莉栖「私は自分が間違ったことをしたつもりはなかったけど、
それでもやっぱりショックだった。
パパもママも、このまま家族が無くなって、
私の居場所も消えちゃうんじゃないかって」
岡部「クリスティーナ……」
紅莉栖「もちろん、ずっとそんなこと考えてたわけじゃないわよ?
海外留学した初めの頃は忙しかったし、
あの頃は目に映る物全てが珍しくて、
私は研究にやっきになってた」
岡部「……」
紅莉栖「でも、全部終わって一人になると、どうしても考えちゃってた。
どうして、もっと私は慎重に言葉を選ばなかったのか、
迂闊な行動だったんじゃないかって。
……これは、私の罰なのかな……なんて」
岡部「……」
紅莉栖「そしたら、突然変な電話が来たと思えば日本にいたでござるの巻」
岡部「っておい、なんだそれは一気に端折ったな!」
紅莉栖「も、もういいでしょ!
とにかく、その電話くれたのがあなたで、
日本に来たらパパがいて、
仲直りできましたっていう、単純な話よ!」
岡部「なんという省略、一番大事な所ではないか……」
紅莉栖「いいの!
……たったそれだけのことだけど、
私にとっては永遠に忘れることのない出来事だった。
鳳凰院凶真が、私のことを救ってくれた……かけがえのない想い出」
岡部「……それで、神とも言える俺を崇拝して、
そんな厨二染みた言動を取り出した、と?」
紅莉栖「そうそう憧れの存在になりきることで――って、
そんなわけあるか、そんなわけあるか!
大事な事だから二回言いました!!
勝手な想像しないでっ」
岡部「……うむ、大体事情はわかったぞ。
……だからそんなに、世界線というより、
この世界に拘っていたということか」
紅莉栖「最初からそう言ってる。
……あの電話がなかったら、私は今も父親と断絶したまま、
一人じゃ行動も出来ないで、アメリカでもんもんとしてたでしょうね。
それが、元の世界線だなんて……そんなの……」
岡部「う……」
紅莉栖「……」
岡部「……そ、そうだな……確かにお前は日本に居座ることはないだろう」
紅莉栖「……そうよ、
私だってそういう理由がなかったら日本になんてこなかったわ」
岡部(では元の世界線で、お前が秋葉原に来たのは……?)
岡部「……元の世界線のお前も、すぐにアメリカへ帰ると言っていた。
つまり、そういうことなんだろうなぁ……」
紅莉栖「……っ……」
岡部「……」
紅莉栖「……もしも、またパパに嫌われたら、私は耐えられない……」
岡部「……」
紅莉栖「せっかくここまで来たのに、全部なかったことになるなんて、
それに」
岡部「……」
紅莉栖「私は、忘れたくない……忘れたくないよ……」
岡部「……」
紅莉栖「……っ……っっ……」
岡部「――よし、決めたぞ!!」
紅莉栖「……?」
岡部「俺は……Dメールを……」
紅莉栖「Dメールを……?」
岡部「……送るッッッ!!」
紅莉栖「……そんな……」
岡部「――送る、送るが、
今回まだその時と場所の指定まではしていない。
そのことを、どうか助手も思い出していただきたい。
つまり、俺がその気になれば、
Dメールを送るのは10年後、20年後ということも可能だろう、
ということ!」
紅莉栖「」
シュタインズ・ゲート
岡部「これぞ運命石の扉の選択だ!」
紅莉栖「な、それって……つまり、どういうことなの?」
岡部「……世界線が変わっても、
この世界が多世界として残るかわかるまでは、
俺は――Dメールを送らない」
紅莉栖「……で、でも……いいの?」
岡部「決めたのだ!科学者に二言はない!!」
紅莉栖「……リーディング・シュタイナーは時を越える能力はないんでしょ?
時間がたてばたつほど、
あなたは元の世界線からも置いていかれるのよ。
それでも、いいの?」
岡部「そんなことを言っても、どうしようもないだろう?
……お前は、世界が消えてしまう可能性のある限り、
嫌なんだろ?」
紅莉栖「そうだけど……」
岡部「なら、今はまだ送らない!俺は送らないと決めた!!
……Dメールがこの世界を消すかどうかわかるまで、
現状維持させるしか方法はない……のだ」
紅莉栖「どうして……帰りたいんでしょ?
元の世界線の方がいいんでしょ?
なら、あなたは」
岡部「帰りたいさ!元の世界線の方がいい!!
……だが、だからと言って、
この世界線のラボメンを傷つけてまで帰りたいとは、
思わないだけだ……」
紅莉栖「あなたにとっては私達なんてっ……!」
岡部「ラボメンだ、ラボメンなんだろう?
……俺にとっては、どの世界線のラボメンかどうかなんて、
そんなことはどうでもいいことだったのだ。
それを、忘れていた。
ラボメンか、そうじゃないか、二つに一つ、俺の大切な仲間達だ」
紅莉栖「え、え、え?」
岡部「俺は、“まだ”送らない。
……時間は、いくらでもある。そうだろう?」
紅莉栖「う、うん……。
でも、でも!いいの?
この世界であなたは独りきり、それでもいいの!?」
岡部「独りではない。
……お前達はラボメンなのだろう?
なら、ここにはお前達がいる、お前がいる」
紅莉栖「!!」
岡部「ラボメンは俺の仲間だ!
それは、どんな世界線に置いても変わらない!!
いくら変な奴らがさらに変になろうと、絶対唯一の真理なのだ」
紅莉栖「……」
岡部「……安心しろ、もう泣くな。
――俺は、お前を見捨てたりはしない」
紅莉栖「っ!?」
岡部「……そうと決まれば、とりあえず、
俺はこの世界線の知識を得なくてはな……」
紅莉栖「……鳳凰院……凶真……」
岡部「ええと、俺は有名人……芸能人?
バラエティーがどうとうとか、科学者でもあるんだっけか?
芸名が鳳凰院凶真で……サインはええっと」
紅莉栖「私は……私……」
岡部「あ、そういえば……今日俺はどこに泊まれば?
今度こそ実家に帰るか……というか、俺の実家はあるよな?
そんな所まで変わってしまうわけは……」
紅莉栖「……あの、終電……」
岡部「何、終電?
――なんだと?もうこんな時間だと!?
……少し長く喋り過ぎたか……」
紅莉栖「……」
岡部「――というか、お前こそ何故まだここにいる?
家に、ホテルか?帰らないでいいのか」
紅莉栖「……帰るって……ここが私の家よ……」
岡部「あ、なぁるほど、ここが家なら帰る必要も……家ぇッ!?」
紅莉栖「……何よ、悪い?」
岡部「……よくこんな暑苦しい所に暮らせるな……」
紅莉栖「しょ、しょうがないでしょー!お金、あんまりないんだから……!
ママの反対も押し切っちゃったし、パパもそんなに……」
岡部「……ならラボに泊まるのも無理か……」
紅莉栖「え……」
岡部「くっ、こんな所でもう躓くとは……!
どこかビジネスホテル、いや、ネットカフェにでも行くか……?
もう流石に外を歩いて騒ぎにはならないだろう……」
紅莉栖「……あ……その……っ!」
岡部「どうやらこの世界線の俺、金はあるみたいだな。
まさか俺がセレブになる日がこようとは……」
紅莉栖「い、行くとこないなら……ラボ……トマッテッテモ」
岡部「ん?
何をブツブツ言っているクリスティーナ。
わかっている、すぐに出て行くから安心し――」
紅莉栖「――ラボッ!泊まっていけばいいんじゃないの!?」
岡部「……お?」
Steins;Gate――シュタインズ・ゲート――
断罪のネメシス
紅莉栖「――……ラボ……泊まっても……その……」
岡部「……いやぁお前、ラボって」
紅莉栖「うん……」
岡部「だって、ここは家なんだろ?お前の」
紅莉栖「……」
岡部「となると、俺がここに泊まるとするだろ?」
紅莉栖「……うん」
岡部「それってつまり、なんだぁその、あれだぁ」
紅莉栖「……あれって」
岡部「ふ、二人っきりに……つまり」
紅莉栖「……ッ!?
――いいい今何を想像した!!」
岡部「そそそ想像など」
紅莉栖「へ、HENTAI!やめて、来ないで近づかないで!!
乱暴する気でしょうエロ同人みたいに!?」
岡部「ばばばばばバカ者!お前こそ何を考えているこの妄想少女め!!」
紅莉栖「とと、泊まっていけばって言ったのは!
……えっと、話し……!
そう、もっと世界線のことが知りたかったからよ!?
勘違いしないでっ!」
岡部「誰が何を勘違いするというのだ!?
お前こそ勘違いをするんじゃあないっ!」
紅莉栖「うるさいっ!大きな声出さないでよ!!
今何時だと思ってる!?」
岡部「そんなのお前、
おおお前こそデカい声をだしているではないくぁー!」
紅莉栖「うっ……もういい、わかったわ。
とにかく、
もう少し話しを聞いてみたいな、って思っただけよ。
それ以上でもそれ以下でもないんで、追及はしないこと!
いいわね?」
岡部「……誰も追及するなど言ってない……。
それで、話しを聞きたいとは?何を話せばいいんだ」
紅莉栖「え!?それは、その、だから……ラボのこととか……?」
岡部「それはもう話したではないかぁ?これ以上何を話せと」
紅莉栖「も、もっと!詳しく!詳細を!!」
岡部「えぇ……?」
紅莉栖「知りたいのよ……。
元の世界線のこと、私のこと……あなたのことも……」
岡部「……あまり、俺は口が上手くないぞ?」
紅莉栖「いいから、聞かせて。
それがこのラボに泊まる、等価交換の対価よ」
岡部「そうだな……じゃあ――」
俺は、これまでのことを話す。
ラボを作ったこと、人質が現れたこと、仲間が増えたこと。
牧瀬紅莉栖を巡る、不思議な現象に遭遇したこと。
電話レンジ(仮)、Dメール、ジョン・タイター。
そして、陰謀渦巻く世界の闇へ迫ったことも……。
時間も忘れて、暗いラボに二人っきり。
俺は、これで良かったんだろうか?
いくら考えた所で、選択するのはいつも突然なのだ。
慎重に、迂闊なことを、そんな風に考えるのは結局過去の出来事だ。
ただ、今はこのクリスティーナの傷つく姿は見たくないと思った。
そこに、迷いはない。
俺の、絶対にこいつにだけは知られてはならないが!
本物の科学者で、
本物の天才で、
世界を変える発明をするような、
そんな存在……俺の憧れた牧瀬紅莉栖に、
苦しんでなど欲しくはないのだから。
今はまだ、守りたい、この笑顔を。
#################################
#################################
#################################
「――……ん、あれ?」
うおっ眩し……あれ、朝?
私、確かあの人とずっと喋ってて……どうしたんだっけ?
隣りには、とても疲れた顔をしているあの人がいる。
「……あぁ、そっか、寝ちゃったんだ……私……」
今は……うわっ、もうお昼……?
そりゃそうよね、夜中の夜中、
多分朝方まで話し合ってたかもしれないんだから。
まぁ、こんなことはアメリカでも日本でも日常茶飯事だから、
全然驚きはしないけど。
「……あなたは、まだ起きないのね?よっぽど疲れてたのかな……」
たった一日、この人にとっては昨日だけで、
もの凄く疲れる出来事が多かったのだろう。
私だって、精神疲労で言えばどっこいだ。
何せ、あの鳳凰院凶真に出会えたんだから。
「別の世界の、だけどね」
それでも彼は、私の想った通りの人だった。
変な言葉使いだけど、
本当はとても優しくて、仲間想いの、誠実な人間。
それを言ったら怒るだろうけど、
私が想い描いていた通りの鳳凰院凶真だったのだ。
最初は疑っていたけれど、彼は私の知っている彼だった。
「……そしてまた、私のことを助けようとしてくれるんだね」
どうして、と思った。
彼にとってこの世界の私は、
彼の認識している世界線の私の一人に過ぎないのに。
彼が沢山認識する“私”の中の一人、それだけなはずなのに。
「ねぇ、Dメールを送らないって言った時の顔、覚えてる?」
とても、苦虫を噛み潰したような、酷い顔してたんだよ?
帰りたいって言った時も、苦しそうな顔してた。
なのに、あなたは私のことを心配してた、してくれていた。
「自分のことで精いっぱいな癖に、無理して強がって……」
私のために、彼は思いとどまってくれた。
そんな風に考えるのは自意識過剰なのかもしれないけど、
私にとってはこれが二回目、あなたは私の恩人なの。
私がどれだけ嬉しかったか……今も昔も。
「だからね、私も決めたよ。あなたに対して出来ること」
ずっと、考えていた。
私は彼に、一体どんな恩返しが出来るのだろうと。
ずっと、考えていた。
この人が私の苦しみを取り除いてくれるなら、
私も同じことをしてあげたいと。
ずっと、考えていた!
彼が苦しんでいる時は、必ず私が力になると。
ずっと、考えていたの……。
今、苦しんでいるあなたに対して、私は今何が出来るのか。
「あなたはどの世界線も関係ない、
ラボメンはラボメン、私は私だと言ってくれていた」
それは、私にとっても変わらない。
鳳凰院凶真は鳳凰院凶真で、
どんな世界線にいようとそれは変わらない。
あなたは鳳凰院凶真、
私の知っている鳳凰院凶真、大切な人。
そのあなたが今困っているなら、私はあなたの力になる。
「答えは、私が持っている……あなたは何もしなくていい」
これは、罰なんだね。
あなたの想いを踏みにじる、私の罰。
あなたの携帯を奪った時から、こうなることは決まっていた。
シュタインズ・ゲート
運命石の扉の選択。
「さあ、最終実験を始めようっ!」
マントを翻して、私は電話レンジ(仮)と向き合う。
……大見得を切ってはいるが、まだあまり実感はない。
これで過去が変わらなかったらどうしよう?
むしろ、変わる保証なんてないに等しいから、
私の覚悟も空回りに終わる可能性のが高い。
その方が、私にとっては良いことなのかもしれないけれど、
「でも、この一通だけは……」
彼は送らないと言った。
問題が解決するまで、
苦しい思いを我慢してくれると、そう言ってくれたのだ。
そんなもの、私の望んだ世界ではない。
私が望んだ世界は……!私が彼と居たい世界は!!
「我が儘だね、仕方ないね」
だからこれは罰、私の罰。
あなたは何も気にしなくていい、何も知らないでいい。
きっとこれは、あなたの見る一夜限りの夢だったのだ。
あったかもしれない世界線の、あったかもしれない物語。
「覚えておいて。
Dメールにはこうなる可能性もあるということを、
可能性がある限り、無数の危険が渦巻いていることを」
言葉はもう届かないけど、想いはきっと届くはず。
大丈夫、信じている。
何故なら、どんな危険や陰謀がが渦巻いていようと、
あなたの傍には……!
「……私がいるから、
もしもまたあなたが苦しむことがあっても、私はあなたの力になる」
この想いは、どんな世界線でも変わらない。
あなたがあなたであるように、私も私なのだから。
世界線が変わろうと、想いは連続して重なって行く。
「相対性理論も超越した、永遠のベクトルがあなたを包むから」
それと、忘れないでね?私がここにもいたことを。
どこにいたって、あなたのことを想ってるから。
オペレーション・ネメシス
「……作戦名、『罰を司る女神』作戦――世界は再構成される!」
言いたいことはいっぱいあるけど、
それは、未来までとっておくことにするから!
「……ごめんなさい、パパ……」
最後にお別れを言いたかったけど、
これが最後だなんて思いたくはないから、
これも未来にとっておくわ。
元の世界線で、絆が繋がっていなかったとしても、
「鳳凰院凶真がいる限り、元に戻すことは可能だから」
――信じている。
##############################
###############
######
紅莉栖「――元の世界線でも、私のことをよろしくね」
岡部「……」Zzz
紅莉栖「さようなら……岡部……」
岡部「……」
紅莉栖「って、岡部って誰よ私……何言ってるんだろ……」
――バチバチバチバチバチバチバチッ!!――
<クォラッ、ジョウチャン!!ビルヲユラスナッテナンドイエバー!!
紅莉栖「オペレーション・ネメシス……これにてミッションコンプリート」
岡部「……ん……うぅ……?」
紅莉栖「さよなら、鳳凰院凶真!
私は、あなたのことが――」
岡部「……クリス……ティー……ナ……?」
紅莉栖「 」
.231082 →
/ / /
/ / /
岡部「うぅっ……おぉ……クリス……」
/ / /
/ / /
「……ん?」
岡部「ぐぅぅ……く、紅莉栖ッ!?」ドスンッ!!
「!?」
岡部「お、いててて……?なんだ、何が起こった……??」
???「……ちょっと、いきなり大声出さないでもらえる?
驚いたじゃない……」
岡部「何、大声?……というか俺は、何をして……」
???「……何?何見てるわけ」
岡部「紅莉栖……ティーナ」
紅莉栖「……」
岡部「そ、そうか……俺は確かラボに泊まって……?」
紅莉栖「なぁに寝ぼけてんのよ……顔、洗ってきたら?」
岡部「ああ、思い出したぞ。
夜中までお前に付きあわされたんだったな」
紅莉栖「ハァ?
何言ってんのか知らないけど、何かと勘違いしてない?」
岡部「勘違いって、そんなわけなかろう。お前がもっと話を聞きたいと」
紅莉栖「そんなこと言ってないし!
なんで私があんたの厨二話に付きあわんと……」
岡部「厨二話だとぉ!?それはお前のことだろう、クリスティーナ!!」
紅莉栖「なんで私のことになるのよ!?
それと、私はクリスティーナなんて名前じゃ、な・い・の・で!」
岡部「何をバカな、お前がクリスティーナと呼べと言ったのだろうが、
このザ・フェニックスが!」
紅莉栖「はぁぁ!?
っていうか、何また新しい呼び名とか考えてんの!
これ以上増やさないで!!」
岡部「いやいや、だってお前はクリスティーナ・ザ・フェニックスだろう?」
紅莉栖「それはツッコミ待ちか?ツッコミ待ちなのか??」
岡部「何をツッコむと……お前がそう……言った……のでは……?」
紅莉栖「わーたーしーはっ!
牧瀬、牧瀬紅莉栖って名前がちゃんとあ・り・ま・す!!
アンダスタンッ!?」
岡部「……え……?
お前は、クリス……ティーナ……だろう?」
紅莉栖「ティーナを付けるな!」
岡部「……」
紅莉栖「な、何よ!?」
岡部「なぁ、俺は誰だ?鳳凰院凶真だよな」
紅莉栖「いいえ、あんたは岡部倫太郎です」
岡部「お前は……クリスティーナじゃないのか?」
紅莉栖「だからそれはツッコミ待ちなのか?
そんな餌で私を釣れると」
岡部「牧瀬紅莉栖ッ!クリスティーナではないんだな!?」ガシッ
紅莉栖「ひゃっ!?あああ当たり前でしょ、ちょ、顔が近い近い」
岡部「……俺は……帰って来たのか?」
紅莉栖「……ね、寝ぼけてんのよね?」
岡部「俺は芸能人……じゃないのか!?」
紅莉栖「そんなわけないだろ鑑見ろ……」
岡部「帰って来た……元の世界線に……戻ったんだな!?」
紅莉栖「……岡部、あんた頭大丈夫?どこか打ち所が」
岡部「お前は牧瀬紅莉栖!そうなんだな!?」
紅莉栖「……ええ、そうですけど?それが何か」
岡部「……おお……おおおおおおっ!!」
紅莉栖「!?」ビクッ
岡部「やった、やったぞ!やったのか?やったんだ!!」
紅莉栖「……岡部?」
岡部「クリスティーナぁ!俺、帰って来たんだよ!!」
紅莉栖「……意味不明なんだk」
岡部「やったやったうおおおおお!」ガバッ!!
紅莉栖「ふぇっ!?!?!?くぁwせdrftgyふじこlp」
岡部「帰って……これた……元の世界線に……俺……」ギュゥ
紅莉栖「なななななんぞこれなんぞこれ!?
HENTAISEKUHARAHARAKIRI」
岡部「……どうして?俺は確か寝てただけで……」
紅莉栖「ははは離し、いややっぱ、いやいや離し……岡部ぇ」
岡部「……寝てた?……俺は……寝てたのか!?」バッ
紅莉栖「あうっ」
岡部(ままままさか……これは!?
――俗にいう……夢オチ!?)
紅莉栖「……何をするだぁー!
ちょっと、なんてことしてくれんのよ岡部、ねぇ!!」
岡部「そんなアホな……!あれが全部夢だったと?」
紅莉栖「夢夢ってこれは夢じゃないんだが!?
謝罪と賠償を請求する!!」
岡部「ええい、うるさいぞクリスティーナ!
ちょっと静かにしていてくれ」
紅莉栖「何よそれ……いきなり大声出すわ、
ティーナティーナうるさいわ、
揚句の果てに抱き……HENTAI行為に及ぶわ!
出るとこ出てもいいんだぞ!?」
岡部「夢……夢だったのか?本当に、全部……」
紅莉栖「……岡部、あんた一体どうしたの?
いつも変だが、いつも以上に今は変よ?」
岡部「いや……悪い……夢を見ていた……気がする」
紅莉栖「悪い夢……?
狂気のマッドサイエンティストなのに、
夢如きでそんな取り乱すとか……」
岡部「とても悪い夢だ……。
助手はマネージャー、俺は芸能人、
クリスティーナは厨二病、まゆりはガチムチ、
ダルはガチホモ、ルカ子が毒舌で、フェイリスは猫……!
鈴羽が暴力女になってて萌郁は普通の記者だ……」
紅莉栖「おい、今私が厨二病と聞こえたのだが」
岡部「あれが本当に夢?信じられない、俺は確かに……」
紅莉栖「おい、ねぇってば」
岡部「お前は厨二病じゃないよな?ただの助手でクリスティーナだよな?」
紅莉栖「……どうやら夢の世界に行きたいようね?
ならお望み通り、夢の世界に逝ってきなさい」ググッ
岡部「うおぅ、やめろん!それで殴ったら夢ではなく極楽浄土に」
紅莉栖「逝ってヨシ!」
岡部「わわわかった、俺が悪かった!あれは夢だった!!」
紅莉栖「……」
岡部「夢……だった。俺は……悪い夢を……」
紅莉栖「……もう、何よ……。
――あんたのせいで、言う気が失せたじゃない……」
岡部「……言う?言うって、何をだ?」
紅莉栖「……っ!
それはその、別に?……この間のことで……」
岡部「この間?」
紅莉栖「……IQテスト……」
岡部「うっ!?」
紅莉栖「も、もうしないわよ!
……ただちょっと、
あの時はやりすぎちゃったかなって、言おうと思っただけ……」
岡部「……」
紅莉栖「か、勘違いしないでよね!?
まゆりに言われて、仕方なく謝ってるんだから!
仕方なく……」
岡部「お前……」
紅莉栖「……まぁ、こんなことで嫌われるのも、寝覚めが悪いし。
一応、謝っといた方がいいのかなって、
思って……ああ、もう、論理的に説明出来ない!」
岡部「……」
紅莉栖「とにかくっ!あの時は言いすぎました!!
ごめんなさい……OK?」
岡部「……」
紅莉栖「……まだ、怒ってる?」
岡部「プッ……ククク……フゥーハハハ……!」
紅莉栖「な、人がせっかく謝ったと言うのに!何がおかしい!!」
岡部「フフフ……ハハハハ、
何、いつものクリスティーナというかなんというか」
紅莉栖「だ、だぁかぁらぁ!ティーナを付けるなと……」
岡部「……安心しろ、嫌ったりなどしない」
紅莉栖「え」
岡部「お前は俺の大切な仲間だ。
どこにいたって、俺はお前を嫌うことはない」
紅莉栖「……ふぇ?」
岡部「無理して謝らんでもいい、お前はお前のままでいてくれ……」
紅莉栖「……そそそそそんなこと言われましても……」
岡部「それと、俺も悪かったな……その、ラーメン勝手に食って……」
紅莉栖「は、はい」
岡部「……後、何か、悩み事はないか?
俺で良ければいつでも力になる。
何かあれば、遠慮なく頼るがいい」
紅莉栖「あああ、うぅ……急に……なんなの……!」
岡部「……なんとなく、言わなければいけない気がしたのだ」
紅莉栖「突然そんなこと言われたって、
聴覚による知覚が認知されるまでに、
脳内で行われる情報処理過程が、神経伝達するまでにかかる時間は、
エコロジカルアプローチしないといけないわけで?」
岡部「もう一つ、賠償と言ったな?」
紅莉栖「い、言いましたけど?」
岡部「……なら、ラーメンを奢ってやろう」
紅莉栖「と、言いますと?」
岡部「カップではない、店で出される普通のラーメンだ」
紅莉栖「つまり?」
岡部「つまり、美味いラーメンを御馳走してやる、と言っているのだ!」
紅莉栖「一週間以内に?」
岡部「ああ、あのカップラーメンは出来そこないだよ。
俺が本当に……ってそうじゃないわ!
お前が行きたいと思う店があれば、
そこのラーメンを奢ってやると言っているのだ」
紅莉栖「のだ、って……それってつまり……私と……」
岡部「?」
紅莉栖「……う、ううん、なんでもない!
――いいわ、行きましょう、今すぐ!!」
岡部「そうか、じゃあ今すぐ……今すぐぅ!?
今すぐ行くのか?」
紅莉栖「なんでよ、悪い?奢ってくれるんでしょ?私、お腹空いてるの」
岡部「それはいいが、まさか今すぐとは……」
紅莉栖「いいでしょ!?
――科学者に二言はないって……言ってなかったっけ?」
岡部「むぅ……わかった!
そうと決まれば支度しろ、クリスティーナ!我が助手よ」
紅莉栖「誰が助手だ……ってあんた!
まさかこんな時まで白衣着てくの?」
岡部「当たり前だ、
これは俺のシンボル……いや、科学者としての象徴だからな!」
紅莉栖「ムードもへったくれもない……!ラーメンにもないけどね……」
オペレーション・ネメシス
岡部「これにて『罰を司る女神』作戦は終了だ。
ご苦労だったなクリスティーナ」
紅莉栖「なんぞその作戦、また変なこと考えてたの?
まったく、こりないんだから」
岡部「案ずるな、もう迂闊な真似はしない。
約束しよう、俺は――」
――お前のことを、忘れたりなどしない。
岡部「……あ……」
紅莉栖「……何?」
岡部「いや……なんでもない、行こう」
紅莉栖「あっそ……」
夢のような出来事だった。
わずか一日だけの、パラレルワールド体験記。
あれが本当は現実だったのか、
世界線の壁の向こう側だったのか、
今となってはもうわからない。
だとしても、俺がやることは、どの世界線でも同じだ。
この仲間達と共に、俺は――
――私のことをよろしくね。
岡部「……っ!?
――……クリスティーナ……?」
紅莉栖「?
……今、何か言った?」
岡部「……」
紅莉栖「岡部?」
岡部「大丈夫、行こう――」
421 : 永遠のベクトル ◆4soo/UO.k6 - 2012/12/10 20:13:09.55 +fAkwWZqo 363/371
【登場人物設定集】
・岡部倫太郎(鳳凰院凶真)
言わずと知れた狂気のマッドサイエンティスト。
……のはずだったが、世界線が狂ったせいで、芸能人へと変貌してしまう。
その原因となったのは、まだ第二次成長期真っ最中の岡部に届いたDメール。
彼は、何かに目覚めるかのように、
自らの知能を高めるためIQテストに没頭していく。
その成果が世間に公表されるも、有名になったのは彼自身の人柄のようで、
気が付いたら色んな番組に引っ張りだこだったという。
そこで知り合ったある人物との邂逅、知ってしまった事実に対し、
若さ故の過ちを重ねていく。若いっていいよね。
この世界線を、元の岡部は1%の壁の向こうと認識していたが、
実際には-1%の壁であったことを、彼は知る由も無かった。
422 : 永遠のベクトル ◆4soo/UO.k6 - 2012/12/10 20:14:52.11 +fAkwWZqo 364/371
・牧瀬紅莉栖(クリスティーナ)
天才脳科学者の少女。
……なのは変わらないが、世界線変動は彼女の運命を狂わせる。
本当ならば、
彼女は脳科学研究所の優秀な科学者として世界に名を残すはずが、
何を思ったのか大学卒業と同時に日本へ帰国、そのまま帰ることはなかった。
新たな住処で、怪しげな研究所を設立した彼女だが、
あるきっかけで用心棒を雇うようになり、
その関係から色んな人間と繋がって行くようになる。
夢は、鳳凰院凶真の永遠の助手(彼を永遠に助けてあげたい)になること。
あわよくばそのまま……って言わせんな恥ずかしい。
その願いは、最後の最後に叶うこととなる。
彼女の想いは永遠に。
423 : 永遠のベクトル ◆4soo/UO.k6 - 2012/12/10 20:17:54.61 +fAkwWZqo 365/371
・椎名まゆり(まっちょ……まゆしぃ☆)
岡部倫太郎の幼馴染兼人質。
……と思いきや、人質なんてとんでもない!
世界線変動の影響は、彼女は鋼の肉体と共に、
ラボを守るガーディアンとして牧瀬紅莉栖に仕えるようになる。
その理由は色々とあるらしいが、
女同士の最高機密情報として封印されている。
どうやら、過去の記憶が曖昧らしく、
昔の想い出を忘れているのだとか?
スターダスト・シェイクハンド
必殺技は『星屑との握手』、相手は死ぬ。
・橋田至(ダル・ザ・スーパーハッカー)
岡部の右腕兼HENTAI紳士。
……が世界線の何を間違ったのか、男に目覚めてしまっていた。
過去に女性に対してよほどショックな出来事があったらしく、
その時に励ましてくれた男の言葉があまりにも素晴らしかったせいで、
彼は「男同士っていいんじゃね?」と深みにハマっていく(意味深)。
現在は、大学の(野獣)先輩に恋をしているようだ。
そんな彼の元に、一人の元気な少女が現れるのだが……?
424 : 永遠のベクトル ◆4soo/UO.k6 - 2012/12/10 20:19:19.33 +fAkwWZqo 366/371
・漆原るか(ルカ子)
こんなに可愛い子が女の子のはずがない!
……というのは容姿のみの話しで、世界線を越えた性格は至って冷酷。
毒舌なわけではなく、
正論に次ぐ正論で相手を追い詰めるのが趣味らしい。
まゆりの前では猫を被っているのではないか?と思うほど、
表情が柔らかくなる。
ちなみに、やはりラボに来たのはまゆり絡みの様子。
ここで問題ですが、
さてあの世界線では男の子だったのでしょうか女の子だったのでしょうか?
真実は世界線と共にアトラクタフィールドの中に……。
・阿万音鈴羽(バイト戦士)
ブラウン管工房あたしアルバイトォォォ!
……なのは、世界線が変わっても変わらない様子。
どうやら彼女には使命があるらしく、
いかなる外敵からも牧瀬紅莉栖を守ろうとしている。
まゆりと被っているようで、決着を付けねばと考えている。
実は、彼女は他にもやることがあるらしいが……?
425 : 永遠のベクトル ◆4soo/UO.k6 - 2012/12/10 20:20:39.84 +fAkwWZqo 367/371
・フェイリス・ニャンニャン(猫)
猫である。
……どうやら付けている首輪は、高級な物のようで、
飼い主は相当の金持ちだと予想される。
・桐生萌郁(閃光の指圧師)
口数の少ない記者。
……だったのに、世界線は何故か彼女を普通の記者へと変えていた。
微妙に言葉の歯切れが独特だが、
他人とのコミュニケーションには差し支えない。
どこか冷淡な気もするのは、気のせいなのか。
――――――――――――――――――
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―――――――
紅莉栖「――……完成!」
まゆり「あー……負けちゃった。
――でも、こっちも終わりなのです♪」
ダル「うし、これでいつでも使えるお」
岡部「おぉ、ついに完成したのか!」
紅莉栖「ええ、ばっちりよ!
……途中、くだらないことで脱線してたけど、
思わぬ実験結果が得られたのが良かったわ」
岡部「う」
紅莉栖「……何その顔、ふざけてるの?
……またIQテスト」
岡部「あーあー何も聞こえなーい!
それよりも、説明して貰おうか助手よぉー」
ダル「オカリンだらしねぇ……」
まゆり「あれからオカリンはテスト恐怖症なのです……」
紅莉栖「冗談よ、冗談!……はぁ、じゃあ説明するわね?」
岡部「うむ」
紅莉栖「――……つまり、
このヘッドホンで脳から記憶を抜き取って、
過去の自分へと転送させる」
――名付けて……タイムリープマシンよ。
-1.231082 → 0.572001
to be continued to 【Steins;Gate】
長々とつきあってくれた方、お疲れ様でした。そして大感謝をここに。
当初はこの半分の予定が、えらい長くなってしまいました。
軽い気持ちで読もうとした方へ、どうもすみません……!
最近はシュタゲのSSも少なくなり、また更新もほぼ止まってる作品もあり、
非常に残念です。
これから先、新しいゲームから小説、漫画まで揃ってるシュタゲなので、
もう一度想い出して、一からゲームをやってみるのもいいと思います。
それではまたどこかで!
紅莉栖「さぁ、IQテストしましょうか?」岡部「え?」