406 : VIPに... - 2011/01/09 18:07:42.95 mNQU7a5X0 1/79

9レスほどお借りします。禁書がこんなバッドエンドになったらやだよね、という超鬱展開。
心臓の弱い方はご注意ください。

元スレ
▽ 【禁書目録】「とあるシリーズSS総合スレ」-21冊目-【超電磁砲】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1294925147/

407 : 十人十色の幸福と、―――― 1/9 - 2011/01/09 18:08:51.27 mNQU7a5X0 2/79





少年を背中越しに抱きしめる打ち止めは、心の底から嬉しそうに思える満面の笑みで笑った。
そんな彼女の笑顔をそっと眺めた一方通行が、穏やかな表情で静かに口を開いて――――――――――






「俺にはアイツらの幸せが本当に正しいものかなんて、多分一生解んねえよ……」






408 : 十人十色の幸福と、―――― 2/9 - 2011/01/09 18:09:54.67 mNQU7a5X0 3/79




「妹達が……国際的に危険視されてる……?」



学園都市を総本山とする科学サイドとイギリス清教という魔術サイドを繋ぐ友人、土御門元春の言葉に上条当麻の顔が凍りついた。


妹達。
学園都市第三位の超能力者、『超電磁砲』の異名を持つ御坂美琴のDNAマップを元に製造された体細胞クローン達。


クローンの製造事態が元来国際法に抵触している事に加え学園都市が製造していた妹達は軍用を目的とした量産能力者であり、土御門の話によればアレイスター統括理事長による政治支配が無くなった今こそ、魔術サイドの三大主教であるローマ正教、ロシア成教、イギリス清教は積極的に彼女達を危険因子として排除しようという動きに出ているらしい。


魔術サイドにとって強力な能力者達が人工的に量産されていく技術は脅威となる。
現に妹達の中には番外個体という10億ボルトの電流を発せられる大能力者相当の個体も完成しているのだ。


例え妹達自身に戦意が無いことが証明できたとしても、最終信号を用いたウイルスによる強制暴走状態に陥る可能性を言及されれば、アレイスターのいない現在の学園都市では彼女達を庇いきれない事は明白だった。



「でもっ……アイツらだって、人間なのに……」

「そう、妹達はクローンであると言っても人間だ。だからこそ神に仕える宗教家たちはそれを無下にする事は出来ない。
 しかし学園都市側や何らかの集団が1万人近くの妹達を利用しようとする可能性は否めない。そこで魔術サイドが提案したのは――――――」





―――――――上位個体、『最終信号』の拘束だ。





409 : 十人十色の幸福と、―――― 3/9 - 2011/01/09 18:10:56.58 mNQU7a5X0 4/79




上位個体、『最終信号』の拘束。
魔術サイドが提示したその要求にショックを隠せずにいた上条の下に一方通行が訪れたのは、彼が土御門から事情を聞いた日の夜の事だった。


上条当麻は今の一方通行と妹達、こと打ち止めとの関係を知っている。
そして、この状況を最も辛く感じているのが自分などではなく彼である事も。



「土御門からの紹介で来た。―――――オマエ、イギリス清教との間に太ェパイプがあるンだろ?」

「え?……ああ、『必要悪の教会』にも割と知り合いがいるしイギリス王室にも顔見知りが居るからそこに話しつけに行こうかと……」

「その必要はねェ、交渉は全部コッチでやる。オマエは俺をそのパイプの間に捻じ込ンでくれりゃそれでイイ」

「はあ!?こんな大きな問題、お前一人なんかで行かせられるか!!だったら俺も付いて……」



俺も付いて行く。そう続けようとした上条は、自分を睨み上げる一方通行の視線に言葉を呑んだ。
怒りと憎悪と焦燥と悲しみと痛みを全て織り交ぜたその表情は、皮肉にも上条が見たどの彼の貌より人間らく思えた。



410 : 十人十色の幸福と、―――― 4/9 - 2011/01/09 18:12:33.39 mNQU7a5X0 5/79




「オマエとイギリス清教との関わりがどンだけ強ェか知らねェが、事態は既に個人の訴え位ェじゃ収まらねェ所まで来ちまってる」

「なら、なおさら一方通行ひとりじゃ――――」

「馬鹿か、テメェは。俺は一方通行個人として行くンじゃねェ、学園都市第一位の超能力者として交渉に臨むンだよ」



アレイスターが企てたプランの破壊では幾人かの魔術師が協力に当たった。
つまりは魔術サイドに元統括理事長の計画全てが露見している。
責任追及に追われる統括理事会や教員たちの立場が弱い現状を考えると『学園都市第一位』のブランドは一級品とも言える。


一方通行がその名を掲げてイギリスを訪れるとなれば、それは最早観光の度を越した、学園都市代表とイギリス清教あるいはイギリス王室との会談となるだろう。



「特にイギリスはこのクローン問題を一つの宗教組織としてではなく国家として対応する姿勢を見せている。
 表社会には問題が情報として伝わっていない今が正念場なンだよ。国家間の交渉に、個人との貸し借り云々の話は邪魔にしかならねェ」

「………解っ、た。ちゃんとお前がイギリス清教の最大宗教と会えるようにこっちで話を付けておく。
 今はインデックスも向こうに行ってるから何かあった時に頼りに出来ると思うし」





―――――じゃァな。
話すだけ話して竜巻の様に去っていった一方通行の小さな呟きは、閉まるドアの音と被り上条当麻の耳に入る事は終ぞなかった。







411 : 十人十色の幸福と、―――― 5/9 - 2011/01/09 18:14:21.30 mNQU7a5X0 6/79









「ほお、ではクローンの人権を盾に学園都市は妹達の拘束を許す事は出来ないと言いけるのね?」

「あァ。クローンと言えど人間は人間、無暗に扱う事は許されねェ――――そォだろ?」



こんな台詞を自分が吐く事になるとは。何たる皮肉だろう、と一方通行は小さく口角を上げた。
一部を除いて隠蔽されたアレイスターのプランに何処で嗅ぎつけたか知らないが目を通した事のあるらしいイギリス清教最大主教ローラ=スチュアートはその言葉をブラックジョークと受け取ったのか口元に手を当てさも面白気にくつくつと笑い始める。



「学園都市の超能力者は皆がこんなにも愉快なのかしら?……確かに、クローンは人間でありわたし達が彼女らを無下に扱いはできぬのは事実。
 しかし、ミサカネットワークなるものの利用による妹達の強制暴走が人類にどれだけの危機を及ぼすかは、そちらでも理解しているだろうと思いけるのだけれど」

「――――――」



ミサカネットワーク。
そう、それが一番の問題点だ。
妹達に眠る巨大な一つの意識であり、彼女達を無理矢理支配下に治める事の出来るこれがあるからこそ彼女達は危険視されている。


イギリス清教をはじめとする魔術サイドはこれに対し、ミサカネットワークに唯一第三者が介入するツール『最終信号』を隔離・監視する事で他の下位個体には手を出さないという態度を見せた。


学園都市上層部としては一万の個体から一体を差し出すだけで事態が収拾できるというのならとの考えを見せたが、一方通行としてはそれでは堪らない。
全ての妹達を、あの幼い少女を護れなければ一方通行にとっては意味がない。


だからこそ彼は『学園都市第一位』の肩書を掲げながら、学園都市の意思に背いて此処までやってきた。
目の前の女狐がそれに気付いている事はとうに知っている。
この女は学園都市という大きな組織から離反し居場所を失くした馬鹿な小僧が何処まで出来るのか面白がっている。
それでも一方通行は凛とした姿勢を崩さない。


412 : 十人十色の幸福と、―――― 6/9 - 2011/01/09 18:15:34.22 mNQU7a5X0 7/79




「ミサカネットワークが問題と言ったな……―――――なら、こちらがネットワークを永久切断する術を用意したらどォなる?」

「?」



余裕の笑みで一方通行に応じていたローラではあるが、実のところ彼女も科学技術、特に学園都市の一般より20年も先をゆく先端技術などには精通していない。
そんな技術が本当に用意されているのか、これから用意できるのか。彼女には理解出来ない。



「……面白い。それで?ミサカネットワークを切断しました、と言われてもわたし達にはそれを判断出来かねるのだけれども」

「科学的に証明する手段も用意している。オマエ達が納得するまで何度だって説明する」

「弱い、としか言いようがなき事ね。そもそもとして学園都市側が生じた問題を『説明する』の一言で片づける訳にはいかぬというもの……。
 イギリス清教が許したとしても他が黙っていないであろうし、科学サイドと魔術サイドで結ばれた停戦条約も破棄されるかも知れぬわね」



一方通行とて『こちらで対処して後でキチンと説明するので赦して下さい』なんて言い分が通るとは思っていない。
だがミサカネットワークの切断。
それには妹達の共通意識を担う他にもう一つ、大きな意味がある。



413 : 十人十色の幸福と、―――― 7/9 - 2011/01/09 18:17:26.95 mNQU7a5X0 8/79




「――――――学園都市第一位の能力行使を永久に封じる」

「貴方の?気性の荒さで有名な第一位殿が大人しくして下さるとは思えぬのだけど……」

「……今の俺はミサカネットワークを通じて得られる妹達の余剰演算で言語・計算能力を補っている状態にある。
 ネットワークを切断すれば俺は廃人同然の状態となるが――――それでどォだ?」



ローラ=スチュアートは考える。
学園都市最強の第一位が何も出来なくなるというのは魔術サイドにとって大きい。
これから再び双方の関係が崩れ戦争に陥ったとしても、単独で軍隊と戦える以上のチカラを有する超能力者が一人減るというのは魔術サイドにとって有利に働く。


――――― 面白い。
第一位という『兵器』が全く機能しなくなったとしても、まだ交渉に欠けることを目の前の少年は気付いている。
絞り採れ。
魔術サイドという宗教組織全体に対してではない、イギリス清教のみにより大きな利益を齎すものをこの化物から少しでも多く絞り採れ。



「そうね、そこまで言うのならミサカネットワークを切断するというその如何わしき技術で他の教団を説得してあげても構わぬ事よ。
 ――――――でも、あくまで第一位の活動停止は魔術サイド全体で共有するもの。
 科学技術を信頼しない彼らに何とか話を付けてあげようと言いけるのだから、イギリス清教へとその報酬をも払わぬ事には話にならないというのが解りかねるとは申せぬでしょう?」

「………何を要求する」



ローラの口元が他人からは見えない程度に小さく歪んだ。
目下を細め、自分がこれから発する言葉に酔いしれながら熱い息を零す。






「―――――――― 学園都市第一位の、身柄を」







414 : 十人十色の幸福と、―――― 8/9 - 2011/01/09 18:19:06.65 mNQU7a5X0 9/79









上条当麻は一方通行の病室に居た。
彼を訪問する際には事前の申請と自分やインデックスの立ち合いを必要とする。



「それじゃ一方通行、また来るわね」

「次来る時は果物でも沢山持ってくるから楽しみにしてるじゃん?」



彼の保護者二人の出て行った部屋は何も話さない上条とインデックス、そして『何も話せない』一方通行だけが残され途端静寂に支配された。
そんな『いつもの』光景に上条は顔を顰めながら「行こう、インデックス……」と隣に立つ少女を促した。



インデックスが一方通行と共に日本へ帰還し一週間が経過した頃、ミサカネットワークは冥土帰しの手によって突如として切断された。
上条にはそれがどのような技術だったのか解らない。
だが、それによって一方通行が人の手を借りねば生きられない体となってしまった事はありありと理解できた。



「なんでだよ!お前は知っていたんだろう、イギリスでアイツがした交渉を!なんで黙ってたんだよ!」



一方通行に伴って予定より早く帰国したインデックスを上条は言及した。
すると、インデックスも辛かったのだろう。ぐすぐすと涙を流しながらこれしかなかったのだと切実に語ってきた。


一方通行が最終的に行った交渉は3つ。
ミサカネットワークの完全永久切断。
これに伴う学園都市第一位の活動停止。
そして、第一位の活動停止から4年後にその身柄および彼に施された学園都市の技術を彼を介してイギリス清教に提供する事。


一方通行は自身を引き渡す証明として自分の周りにイギリス清教が設置した監視カメラと監視役を置く事を許可した。
学園都市側が第一位をただでは渡さない為の措置を施そうとした場合を考えての配慮だ。
そして、監視役の一人としてインデックスが抜擢された。一方通行と少なからず関わりがある事を知りながらの抜擢だった。


415 : 十人十色の幸福と、―――― 9/9 - 2011/01/09 18:22:01.50 mNQU7a5X0 10/79




「ミサカネットワークじゃなくても彼の演算補助には様々な手段があるし、それを全て再現する自信が僕にはある。
 ―――だが、彼がそれを拒むんだよ」



ミサカネットワーク以外での一方通行の演算補助手段を冥土帰しへと尋ねれば、答えはあっさり返された。
だが、続く言葉に上条は絶望する。



「以前用意したスーパーコンピューターを用いた方法は、コンピューターを彼自身に破壊される事で破棄された。
 その他にも幾つか試したが彼自身に邪魔されてしまってね……自分を犠牲とすることを彼は望んでしまっている」



現在一方通行は打ち止めや黄泉川・芳川といった家族、そして病院内で生活する妹達らに支えられて生活している。
彼女達の言葉を耳にしながらそれすらも理解出来ずに、しかしそれでも嘗ての彼ではあり得ないほどに穏やかな笑みを浮かべて生きている。


気晴らしにと車いすに乗せた一方通行の背を押しながら打ち止めが笑った。



「最初はとっても悲しかったの。あの人がミサカ達の為に犠牲になろうとしたことも、あの人がそれを望んでしまった事も。
 ―――――でもね、今のあの人はミサカを見るといつでも笑ってくれるのよ、ってミサカはミサカは語ってみたり」



上手く動かせない右手を小刻みに震わせながら、殆ど本能的な思考の中でゆっくりと打ち止めの頭へと伸ばした一方通行が彼女の髪をゆっくりと撫でながら静かに微笑んだ。
撫でられた打ち止めは照れ臭そうに、嬉しそうに満面の笑みを浮かべる。




「ねえとうま、あくせられーたとらすとおーだーは、あれで本当に幸せなのかな?」

「俺にはアイツらの幸せが本当に正しいものかなんて、一生解んねえよ……」






―――――――― 十人十色の幸福と、その結末に伴う不幸 ――――――――(完)


417 : VIPに... - 2011/01/09 18:24:45.59 wBw7tb3l0 11/79

なんか久々に総合で心打たれるSSが来たな…超俺好みだわ
最初の一文が一方さんのものかと思ったのになんでンじゃないんだろとか思ってたら!騙された!

マジで乙乙!




433 : VIPに... - 2011/01/09 21:41:28.29 mNQU7a5X0 13/79


>>407の続き。
なんで引き取り4年後にしたのか書き忘れたので。

434 : 十人十色の幸福と、その結末に伴う不幸―――― 1/9 - 2011/01/09 21:42:58.94 mNQU7a5X0 14/79






「なあ。……アイツら、あれで本当に良かったと思うか?」




上条の問い掛けに、尋ねられた少女は首を傾げながら応えた。
少し寂しそうに。少し悲しそうに。少し申し訳なさそうに。少し嬉しそうに。





「さあ……今となっては、彼女の真意なんて解りませんよ――――――」





『アイツら』の事も解らなければ、少女の事も解らない。
結局上条当麻には、どの答えだって見つからない。





435 : 十人十色の幸福と、その結末に伴う不幸―――― 2/9 - 2011/01/09 21:44:23.40 mNQU7a5X0 15/79













第七学区に多額の謎の寄付金が送られてきたのは、ミサカネットワークが切断される一週間前。
丁度寝たきりとなった人間一人が1460日ほど入院できる金額だという。

1460日間、―――――4年間。


一方通行の資産は彼が予め手配していたらしい弁護士によって彼が残した手記の通りに振り分けられる事にいつの間にかなっていた。
黄泉川愛穂と芳川桔梗が廃人同然となった彼につぎ込むであろう金額、打ち止めにこれから掛かるであろう教育費、一人年齢設定を吊り上げて製造された番外個体の調製費用、残りの大半は均等に他の妹達へと。


そして彼の監視役となったインデックスと上条当麻の下にも迷惑料のつもりなのか、上条が毎月貰える奨学金の何倍もの金額が振り込まれていた。




今日も彼に来客が来る。
上条は彼の病室を訪れなければならない。見舞ではなく、監視の為に。







436 : 十人十色の幸福と、その結末に伴う不幸―――― 3/9 - 2011/01/09 21:45:49.27 mNQU7a5X0 16/79











「―――――有難う。……また、来るわね」



その細い髪を母親らしい優しい手つきでゆっくりと撫でられた一方通行が、心なしか気持ちよさそうに目を細めた。
言葉と共に離れようとする暖かい手をのろのろと伸ばした右手で追いかけ母親を求める本能的な思考で求めては縋り付く。


その仕草に申し訳なさそうに笑った女性は静かに彼の右手をとって両手でしっかりと握りしめた。
どうしてもと言う様に扉の前に立つ上条へと顔を向けるが、彼が首を振って否定すると悲しげに彼の顔へと首を差し出し、小さな子供に言い聞かせるように囁く。



「……ゴメンね。もう、時間が来ちゃったから帰らなくちゃいけないの。………ゴメンね」



まるで置き去りにされた捨て猫を家では飼えないからと猫へと謝る様な別れだった。
可愛くて、可哀想で、飼ってあげたくて、でも色々な事情が複雑に絡み合って飼えない。
心意気は家族のつもりでも家族になれない苦々しい感情、そんな光景だった。



「済みません美鈴さん………融通、利かせてあげる事ができなくて」

「上条君は悪くないわ。……あの子がこうしてくれているお蔭で、大事な娘達が護られてるのも理解してるつもりよ、ちゃんと」



437 : 十人十色の幸福と、その結末に伴う不幸―――― 4/9 - 2011/01/09 21:46:42.31 mNQU7a5X0 17/79




妹達の存在が『正確』に御坂夫妻へと伝えられたのは魔術サイドと科学サイドの間でクローン問題が解決された後だった。
御坂の父親は何かしら掴んでいたらしいが流石に魔術サイドとの面識がなく手が出せないでいた所で一方通行の交渉が締結したらしい。


夫妻が住んでいたのは学園都市の外であるが現在は学園都市在住の妹達、そして一方通行との面会の為に事あるごとに学園都市を訪れている。


初めは御坂共々酷く戸惑っていた。
一万の妹達をその手で殺め、残り一万の妹達を文字通り命を掛けて護った存在。
恨めばいいのか、崇めればいいのか、蔑めばいいのか、奉ればいいのか。
―――――どれを選んでも、4年後には全てを失い消える少年。





結論として、母親の美鈴は彼に小さな感謝と労いを与える事を選んだ。
「ありがとう、」
「頑張ったね、」
「大変だったでしょう、」


恐らく、彼が今まで望んでも掛けられなかった言葉の数々。
母親が子供を抱きしめながら囁くような優しい一言を与えられる度、彼はとても綺麗な瞳を輝かせて美鈴を見つめた。
彼女の言葉は届かない。しかし彼の中の奥底に眠る幼い感情が、無意識に母親を求めていた。







438 : 十人十色の幸福と、その結末に伴う不幸―――― 5/9 - 2011/01/09 21:48:05.14 mNQU7a5X0 18/79











「アンタさぁ、―――――なんでアイツが自分の引き渡しを4年後なんて指定したか、聞いてる?」



アイツというのが一方通行を指している事は直ぐに解った。
御坂は自分の母親が彼の髪を撫でる姿を、何処か遠い世界の光景の様にいつも遠目から眺めている。



「打ち止めが私と同じ年齢になるまでの間、なんだって。それくらいになったら安心できるから、って……」



初耳だった。

今打ち止めは、実年齢は兎も角世間一般には10歳を名乗っている。
4年後。14歳。
中学2年生の御坂と同じ年齢。


目線の先では件の打ち止めが一方通行の座る車椅子を押しながら病院の庭先を散策していた。
打ち止めが話しかける度に時折一方通行が口を開くが、彼の喉から意味有る言葉が発せられる事はない。


精々が言葉を覚え始めた赤ん坊が「あー」、だの「うー」だの話す程度で、しかし響きだけは優しげなその声音を聞くと打ち止めは頬を染め上げてにっこりと笑っていた。








439 : 十人十色の幸福と、その結末に伴う不幸―――― 6/9 - 2011/01/09 21:50:08.18 mNQU7a5X0 19/79








「なあ。……アイツら、あれで本当に良かったと思うか?」



上条はミサカ10032号―――御坂妹と呼ぶ個体に一度だけ聞いた事がある。
一方通行に尋ねる事は不可能だったし、打ち止め本人に聞くほどの勇気はなかった。



「さあ……今となっては彼女の真意なんて解りませんよ、とミサカは解答します」



ミサカネットワークという一つの共通意識を失った彼女達では、既に様々な個性を持ち始めた他の個体の感情を一つ一つ読み取るのは難しいという。
ましてや幼いながらも独特の考え方を形成していた彼女の心は推し量れないそうだ。



「ミサカ個人の感情と致しましても生き延びられた喜びと彼に全てを背負わせてしまった罪悪感とが入り混じった自分でも整理の付かない状況です。
 個体によってその比率は異なるでしょうし中には全く別の感情を抱く個体もいるでしょう、とミサカは推測します」



御坂妹も自分の喜びと罪悪感の比率を上条に教える事はなかった。
ただこの場を去る前に一言だけ、上条の芯を揺るがす言葉だけを残していった。


「抗うお積りならこのミサカは手を貸す意思もあります、とだけミサカはお伝えします」



彼が引き渡されるまでの4年間の中で、その現実に抗う意思。


彼の決断は間違っている、………様な気がする。
しかし上条はそう断じきれないでいる。
初めて見た一方通行の純粋な笑み、打ち止めの満面の笑顔。


何が正しいのか解らなかった。



440 : 十人十色の幸福と、その結末に伴う不幸―――― 7/9 - 2011/01/09 21:51:26.86 mNQU7a5X0 20/79










結局のところ解決には、逃げていた打ち止めと向き合うしかなかった。
一方通行と木陰で寛ぐ彼女にそっと近づくとさり気無く尋ねてみる。



「なあ、お前はこれでいいのか?大事なんだろ、一方通行が。なのに、こんな……このままじゃ……」



上条の問い掛けを黙って聞いていた打ち止めから一瞬表情が消えた。
まるで深い闇の中に立っていた彼に、真っ直ぐでいて罪も罰も償いも抗いも全て一人で背負った彼に良く似ていた。


そして酷く大人びた貌付きで口を開くと、徐にこう語った。






「ミサカの一番の幸せは、あの人の幸せだよ……――――ってミサカはミサカはただ揺るぎない一つの事実を述べてみる」





441 : 十人十色の幸福と、その結末に伴う不幸―――― 8/9 - 2011/01/09 21:52:44.74 mNQU7a5X0 21/79






上条は最初から間違っていた。
向き合うべきは目の前の現実でも打ち止めでもない、一方通行本人だった。





大きな広葉樹へ心地良さそうに寄り掛かる彼に上条は目を向ける。



「―――――なあ、本当にお前は幸せか?」



尋ねた上条の腕に一方通行の細く白い手が静かに伸びた。
言語を理解する機能を失った脳細胞が描いた表情に上条は静かに笑って―――――










―――――――やはり上条は、様々な疑問のどの解答すら得る事が出来なかった。









442 : 十人十色の幸福と、その結末に伴う不幸―――― 9/9 - 2011/01/09 21:54:13.32 mNQU7a5X0 22/79








向けられたその表情が脳裏に焼き付いて離れない。
一つの名作、絵画ともとれる光景。

理解はできる。
ただ、納得できないだけ。





全ての解答は、彼がイギリスへ飛ぶ前の夜に。









――――――― 十人十色の幸福と、その結末に伴う不幸。そして、得られたほんの僅かな幸福 ――――――(完)




443 : VIPに... - 2011/01/09 21:58:37.68 mNQU7a5X0 23/79

以上。書き忘れ書けてスッキリした。
多分本当にこれでラスト。お付き合い頂いた皆さん、有難うございました。




488 : VIPに... - 2011/01/10 12:27:44.32 Ch02CzFc0 25/79


ちょっと8レスほど頂く。
>>407と>>434(十人十色の幸福シリーズ)の派生エンドの一つ。超鬱展開です。
心臓の弱い方はご注意ください。



十人十色の幸福と、三者三様の解釈方式 ――――――― Ver. Last Order ; End type D.


489 : VIPに... - 2011/01/10 12:28:46.51 Ch02CzFc0 27/79






一方通行が介護を受ける病室には、魔術サイドが用意した監視カメラが置かれている。
そして普段の生活においてローマ正教,ロシア成教,イギリス清教から派遣された魔術師がそれぞれ監視員兼護衛として配備されている。


一方通行は現在、酷く複雑な立場にあった。


学園都市という科学サイドの総本山に第一位として君臨しながら、最終信号を人身御供とする事で全てを解決しようとしていた上層部の意向に反し魔術サイドと勝手な条約を締結させた彼。


第一位に注ぎ込まれた数多くの先端技術、そして学園都市最強が魔術サイドの武装兵器とされる事を恐れた科学サイドが彼に危害を加えぬよう、魔術サイドは心血を注いで一方通行という『最終兵器』を奪われまいとしている。


結局、一方通行は何処へ行っても『一方通行』でしかなかった。


学園都市第一位。
科学サイド最強の存在。
実験動物。
最終兵器。


何処まで行っても彼の扱いはモノでしかなく、それを俺がやっと理解したのは既に彼が動けなくなった後だった。







俺は、―――――― 上条当麻は、それをとても後悔している。







490 : 十人十色の幸福と、三者三様の解釈方式 ――――――― Ver. Last Order ; End type D. 2/8 - 2011/01/10 12:30:08.80 Ch02CzFc0 28/79







上条当麻とインデックスが一方通行の監視担当として任された任務は、彼に来客申請があった際のチェック係であった。
それが本当に彼の知り合いなのか。彼に危害を加える人間ではないか。
それを見極める係。


だが、上条とて彼の交友関係全てを網羅している訳ではない。
今回の一件で彼が土御門の紹介から尋ねてきた事で初めて友人二人の間に関係があった事を知ったし、学園都市の奥深くに居た彼には、恐らくは彼の家族でも知らない友人知人がいることだろう。


一方通行の病室に立ち入るには必ずこの面会申請が受理されなくてはならない。
正規ルート以外を使おうとすればたちまち幾人もの魔術師たちと対峙することとなる。










そんな現状の中で一人の少女が上条と接触を図ったのは、彼が全ての活動を停止して1ヶ月が過ぎた頃の事だった。








491 : 十人十色の幸福と、三者三様の解釈方式 ――――――― Ver. Last Order ; End type D. 3/8 - 2011/01/10 12:31:12.87 Ch02CzFc0 29/79












「………なあ、アンタが学園都市の遣いで来た人間だって知っててこんな事言うのも何だけどさ、―――― ちょっとだけ、待ってくれねえか」



少女は何も答えなかった。
それを良い事に上条は自分の言葉を続けていく。



「まだ引き取りには4年もあるじゃねえか!アイツに……アイツらに時間をやったって別に構わねえだろ?なあ、頼むよ……」



少女は『切片』でしかない事くらい、上条だって解る。
ここで彼女を撃破したとしてまた次から次へと同じ様な人間が集まってくるのは簡単に予想が付いた。



「―――― それで?それで本当に良い訳だ?」



初めて少女が口を開いた。
学園都市暗部組織の一つ、『アイテム』の代表を名乗った麦野沈利は上条当麻に向けてこう放つ。



「こっちだって直ぐに殺す気ならアンタに接触なんてしないわよ、そんな面倒な事。まあいずれウチに第一位の処分命令は来るだろうけど……。
 ………確認しに来たのよ。第一位をどう対処すべきか、第一位の周りにね」



今度は上条が押し黙る番だった。
麦野は続ける。



492 : 十人十色の幸福と、三者三様の解釈方式 ――――――― Ver. Last Order ; End type D. 4/8 - 2011/01/10 12:31:54.33 Ch02CzFc0 30/79




「同情ってワケじゃねえけどさ、こっちも長い事暗部でやってきたから何となく第一位の気持ちも解るのよねえ………。
 アイテムは別に学園都市の駒として動いてるワケじゃないし、どっちが良いのかなとか考えてたのよ。柄にもなく。」

「―――――『どっち』?」

「第一位を殺す、あるいは学園都市側に渡す事で今の不安定な学園都市の現状を何とか保つ方法。
 対して第一位を大人しく魔術サイドに引き渡して全てを丸く収める方法。
 ――――――― この2つのメリット・デメリットは当然理解出来てるわよね?」



麦野の言う『第一位を殺す、あるいは学園都市側に渡す事で今の不安定な学園都市の現状を何とか保つ方法』を取った場合、学園都市は「学園都市に離反した第一位が勝手に結んだ条約である為にこれは非公式のものである、認められない」といった対処を取る事となるだろう。
それでは魔術サイドの大きな反発が必ず襲ってくる。

が、演算補助装置さえ用意してやれば活動再開できる『化物』があちらの手に渡らない、あるいは戻ってくると考えれば、未来永劫可能性が否めない魔術サイドとの第四次世界大戦に備える学園都市にとって優位に働く。


しかしアレイスター統括理事長のいなくなった現在の学園都市では魔術サイドからの批判の声に耐えきれるだけのチカラがあるかも厳しい状況でもある。
そこで『大人しく魔術サイドに第一位を引き渡す』という方法があるのだが―――――






「まあ、いずれにせよ『兵器』としての処遇は変わらないでしょうけれどね。……そんなもんなのよ、レベル5なんて」



座っていた来客用のいすからスクリと立ち上がった麦野は徐に病室の監視カメラに目を向け、それが電気ジャックされている事を知りながら―――――――



「よく考えておくのね。私達は多分、近いうちにアナタに牙を向く………『学園都市の安寧』にはそれがてっとり早いもの、どうしても」



静かに寝息を立てる一方通行の髪をひと撫でし去っていった。






493 : 十人十色の幸福と、三者三様の解釈方式 ――――――― Ver. Last Order ; End type D. 5/8 - 2011/01/10 12:33:02.17 Ch02CzFc0 31/79










『よく考えておくのね。私達は多分、近いうちにアナタに牙を向く………「学園都市の安寧」にはそれがてっとり早いもの、どうしても』









その問い掛けを上条ではなく自分へのものであると監視カメラ越しに受け取った打ち止めは、幼い外見にそぐわない冷めた目でカメラをジャックした画面を見つめながら








「考えてるよ、いつだって……いつだってミサカが考えるのはあの人の幸せだけだよ、ってミサカはミサカは呟いてみる――――――」









494 : 十人十色の幸福と、三者三様の解釈方式 ――――――― Ver. Last Order ; End type D. 6/8 - 2011/01/10 12:34:52.81 Ch02CzFc0 32/79




いつも通りの光景だった。
一方通行を尋ねた打ち止めが彼の座る車椅子を押しながら病院の庭先を散策する、いつも通りの光景。


しかしその日常も一瞬で、僅か3.2秒の短い時間の中であっけなく崩れ去った。
突然起こった爆発。
そして、爆煙の中で消えた二人。



「一方通行と上位個体が消失した際、2億ボルト以上の電気的攻撃が感知されました――――― 恐らく番外個体も一枚噛んでいるのでしょう、とミサカは推測します」



これは上条当麻が御坂妹から二人が消えた日の午後に聞いた話だ。
聞かされたままに探してみれば、番外個体の行方も二人が消える直前から足取りが掴めなくなっていた。



「恐らく上位個体は学習装置で強制入力された『証拠隠滅マニュアル』に従って行動しているのでしょう。
 ………身動きの取れない一方通行を連れているのでそう大きな動きは出来ないでしょうが、だからこそ危険な一手に出かねません、とミサカは危惧します」



『証拠隠滅マニュアル』を徹底的に煮詰めれば打ち止めの逃亡は成功するかもしれない。
だがそれは魔術サイドに対してだけだ。
学園都市には暗部組織が所有する最新鋭の探索システムがそれこそ山の様にある。


故に、打ち止めが何か間違った手段を取ろうとしないか。そればかりが心配される。



「こんなときミサカネットワークが使えないというのは不便ですね、とミサカは今更ながらの発言をします」





打ち止めが起こした一方通行を連れての逃亡劇。
上条には、何か嫌な予感がしてならなかった。




495 : 十人十色の幸福と、三者三様の解釈方式 ――――――― Ver. Last Order ; End type D. 7/8 - 2011/01/10 12:36:14.23 Ch02CzFc0 33/79








「――――――― でも、よく最終信号に協力なんてしたわね。話に聞いていた姿からは想像もつかないのだけれど?」



「別に。色々と借りもあるし、ミサカはそれを放っておくのも気持ちが悪かっただけだよ―――――
 ――――――それに、ミサカにはアンタも全く同じ事が言えると思うんだけど」




高圧電流による空気爆発を起こした番外個体がテレポートで回収された先で尋ねられたのは、何故今更というようなチンケな台詞だった。
よくもまあ言う。
自分だって結末を知りながら、似たような立場から協力したというのに。




「………別に。私だって借りがあっただけよ、『凱旋』とか言って暗部から抜けるの手伝って貰ったし―――
 ―――――――まあ、アイツの幸せなんて私には想像もつかないけど」




そう言って結標淡希は用意していたコーヒーを一口含んだ。
珍しく手にとって見たブラックコーヒーは思った以上に苦く、深い味わいがした。







496 : 十人十色の幸福と、三者三様の解釈方式 ――――――― Ver. Last Order ; End type D. 8/8 - 2011/01/10 12:37:43.96 Ch02CzFc0 34/79







打ち止めと一方通行が見つかったのは、それから一週間後のことだった。
よく学園都市相手に一週間もったと思う。
学園都市の外まで逃亡を果たした二人は、しかし海辺の砂浜で二人寄り添っている所を発見された。



上条は打ち止めのポケットに残っていた携帯電話の録音機能から最後に登録されたデータを呼び出した。
もう何度目の行為になるか分からない。
この携帯電話が手元に届いてから、上条はこの行為を続ける事から抜け出せないでいる。






『――――― 大好きだよ、ってミサカはミサカは吐露してみる。
 あなたが大好き。ミサカの幸せはあなたの幸せ。

 あなたがミサカを護ってくれたのは知ってる、その代償があなたなのも知ってる。
 でもミサカはミサカが笑うとあなたが笑ってくれるのも知ってる、笑顔のあなたが幸せなのも知ってる。

 ねえ、ミサカが一番ニッコニコなのがあなたの幸せ?
 ………えへ。好きな人からニコッってされるのってこんなに恥ずかしいのね、ってミサカはミサカは頬を染めてみたり。

 ほら見て。ミサカはいっつもニッコニコ。
 あなたの隣に居られると、ミサカはずっと笑ってられるの―――――ありがとう、あなたも笑ってくれるのね。

 あなた、幸せ?………そう、なら――――――――――――――――――』







そして最大録音時間が過ぎ去り――――――――
上条当麻は、墓前に備えた花の隣へと携帯電話を戻して去っていった。




―――――――― 十人十色の幸福と、三者三様の解釈方式。 Ver. Last Order ; End type = Dead End (完)





553 : VIPに... - 2011/01/10 21:11:35.70 Ch02CzFc0 36/79

>>407と>>434(自称『十人十色の幸福シリーズ』)の派生エンドの1つ。
>>488とは別物です。こっちに比べれば鬱展開ではないかと。
心臓の弱い方はご注意ください。



十人十色の幸福と、三者三様の解釈方式 ――――――― Ver. Accelerator ; End type NⅠ

554 : 十人十色の幸福と、三者三様の解釈方式 ――――――― Ver. Accelerator ; End type NⅠ 1/14 - 2011/01/10 21:12:51.06 Ch02CzFc0 38/79










「ねえ。このまま逃げちゃおっか?、ってミサカはミサカは提案してみたり。
 ミサカもあなたも知らない世界、遠い遠い綺麗な場所へ――――――――――――――」








555 : 十人十色の幸福と、三者三様の解釈方式 ――――――― Ver. Accelerator ; End type NⅠ 2/14 - 2011/01/10 21:14:14.98 Ch02CzFc0 39/79




未だ放心状態の一方通行を連れて打ち止めが逃亡した。
同居人且つ保護者である黄泉川や芳川にも何も告げずに、しかし財布や着替えをこっそりと持った計画的な犯行だった。



「―――――― イギリス清教は何だって?」



一方通行を見失ったとの報告を本国と済ませたインデックスに上条が尋ねれば、何やら彼女は苦々しい表情で顔を顰めた。
最悪の事態である事が聞く前から解ってしまった。



「『今回の一件からも解る様に学園都市には預けておけない。発見次第早急に回収に入る』、って……」



やはりか。
恐れていた事態が起こってしまった。

一方通行の早期回収。
学園都市に置いておけば正しく自分達に回ってくるか定かではないと判断したイギリス清教が4年を待たずして彼の回収を決定したのだ。



「学園都市側だって、多分大人しく一方通行を引き渡そうとはしねえだろうし……
 学園都市に見つかっても研究所で隔離されるか最悪始末処分になるかが妥当なんだろうな――――ちくしょう!!」



今の一方通行には科学サイドにも魔術サイドにも居場所はない。
否、どちらにも『一方通行』を必要とする声はある。
しかしそれは『学園都市最強の第一位』を求めるものであり、意識ある彼自身の拠り所は失われた。



「問題は『一方通行を逃亡させる事』を打ち止めが何処まで理解しているか、だ。
 ただ単に病院以外の場所に連れてってやりたいくらいの感情で出て行ったなら大変な事になる……」



未だ、両者からも二人の発見報告はない―――――――。




556 : 十人十色の幸福と、三者三様の解釈方式 ――――――― Ver. Accelerator ; End type NⅠ 3/14 - 2011/01/10 21:15:26.37 Ch02CzFc0 40/79











「――――――― 寒くない?ってミサカはミサカは尋ねてみたり。このひざ掛けね、おねだりしてヨミカワに買って貰ったんだよ」



一方通行の足元に置かれたひざ掛けをきちんと掛け直してから、打ち止めが小さく尋ねた。
当の一方通行から返事など来ない事は理解していたが、人や自分の感情に素直になった彼の気持ちは表情で何となく解る。


こうして彼を無理やり連れ出してから、もう3日経った。
すれ違う人々が稀に彼の白髪を珍しそうに眺めてゆく、
心優しい人が兄ほどの年齢の少年を介抱しながら歩く少女を見てお菓子や飲み物を分けてくれる。


此処は、二人の全く知らない世界だった。
二人を、全く知らない世界だった。


「ミサカがトイレ行ってる間にさっきの駄菓子屋のおばあちゃんと何話してたの?ってミサカはミサカは興味津津に聞いてみる。おばあちゃんニコニコしてたね、あなたがお孫さんと同じくらいなんだって言ってたね」



カラカラ、カラカラと一方通行の座る車椅子の車輪が回る音だけが辺りに響いた。
人の喧騒も大きな事件も珍しい田舎町が当ての無い二人を暖かく包み込んだ。







557 : 十人十色の幸福と、三者三様の解釈方式 ――――――― Ver. Accelerator ; End type NⅠ 4/14 - 2011/01/10 21:17:24.89 Ch02CzFc0 41/79







定期連絡の時間だった。
こちらでの現状報告と、イギリス清教の対応を情報交換する場。



「ま、待って欲しいんだよ!!らすとおーだーにはもうこんな事しないようこっちで説得するから………」

『――――― 申し訳ありませんがインデックス、これは最終決定事項です。………最大主教の判断に、私や貴女如きが口を出せはしません』

「待って、かおり!お願い待って!!」



強制的に電話を切られたインデックスが真青になった顔に涙を浮かべながらとてとてとゆっくり近づいてきた。
インデックスがこんな表情になる様な事を告げねばならなかった神裂も思いやられる。
しかし、今はそれより―――――――



「らすとおーだーの自主的な帰還を待ったけど連絡すら一向にないから探索魔術を行使した、って―――――
 準備ができ次第回収班を向かわせて、あくせられーたを幽閉するって……―――――――とぅまぁ……」

「そんな……―――――――」



幽閉。


考えていた以上に重かった。
一方通行がイギリスに連れて行かれても、もしかしたら彼の家族を偶にとは言え合わせてあげる事くらいできるかもしれない。
そんな風に考えていた。
だが、実際は。


よくよく考えれば、イギリス清教にとっての彼は『実験動物』や『武力兵器』といったモノに過ぎないのだ。
学園都市の技術を測る為に解剖に近い事をしても赦されてしまう存在。



「何か、何かアイツらを助ける方法はねえのかよ……―――――――――っ!!」



558 : 十人十色の幸福と、三者三様の解釈方式 ――――――― Ver. Accelerator ; End type NⅠ 5/14 - 2011/01/10 21:18:32.65 Ch02CzFc0 42/79




上条の能力は右手に宿った『幻想殺し』しかない。
インデックスには10万3000冊の魔道書の知識が詰まっているが、魔力を使用する事は出来ない。



「……――――くそっ!」



壁に拳を叩きつけた。
万事休す、そんな状況の中で嘗て『上条勢力』と称された上条を支える仲間だけが自分の足で立ち上がった。



「なにボサーッとしてんのよ。私は確かにマジュツ云々は良く解らないけど、相談くらいしなさいっつーの。
 ………学園都市の外に出られた所為で厄介だったけど、こっちも漸くあの子の居場所が掴めたわ。
 ヘリの一つでもかっぱらってさっさといくわよ、この馬鹿!!」



住人の居なくなった一方通行の病室唯一の出入り口に、有名私立女子中学校の制服を纏った少女が立っていた。
上条当麻を追って単身ロシアまで出向いた御坂美琴だけが、この絶望的な状況の中で足掻く事を忘れてはいなかった――――――――。









559 : 十人十色の幸福と、三者三様の解釈方式 ――――――― Ver. Accelerator ; End type NⅠ 6/14 - 2011/01/10 21:20:02.43 Ch02CzFc0 43/79







広大な田園風景。
牛や馬といった家畜も見かけるのんびりとした田舎町では大きな事件は何も起こらない筈だった。
はず、だった。






最初に二人の下へやってきたのは、縁あって二人が泊めて貰った八百屋の女性だった。
心なしか蒼褪めた表情でそっと近づき、言いづらそうに口を開く。



「あ、あのねミサカちゃん……なんか外にお兄さんの知り合いって人達が来てて……
 おばさん、どうしてもって言われて連れて来ちゃったんだけど……ゴメンね、ゴメンね……――――」



脅されでもしたのだろう。女性は事情を話し切るなり泣き出してしまった。
女性の後ろから押し入る様にして二人の居た客間へと入ってきた男女数名は、古びた修道服のようなものを纏ったいかにも怪しげな連中だった。



「―――――イギリス清教の人?ってミサカはミサカは警戒してみる」



誰一人として答えなかった。
ただ、リーダー格なのか横一列に並ぶ一団で一人だけ前へと躍り出た男が首だけで合図すると、他の人間が一斉に一方通行の下へと向かっていった。




何処の人間とも解らぬ輩が、あの人の腕に、脚に、背中に、触ろうと――――――




理由は、それだけで十分だった。



560 : 十人十色の幸福と、三者三様の解釈方式 ――――――― Ver. Accelerator ; End type NⅠ 7/14 - 2011/01/10 21:20:58.49 Ch02CzFc0 44/79




「あの人に、触るなぁああああああああ!!!!!!!!!!!」



打ち止めから放たれた電撃が魔術師達(と、打ち止めは判断した)を襲う。
だが襲撃する相手が妹達の統率個体である時点である程度の攻撃想定はしていたのだろう。
魔術師でありながら、あろうことか軍用の絶縁装備を纏い強能力者クラスのその電撃を妨げる。



「――――――っ!!」



電撃が通じないのなら、別の方法で攻めるまで。
実戦経験はないが打ち止めも妹達の一人としてそれなりの体術知識が組み込まれている。
『実験』の中他の個体が経験した記憶もミサカネットワークが精通していた当時共有した。


勢い良く間合いを詰め、小さく細い脚に重心を注ぎ込みながら素早く繰り出す。
体重も脚力もそれほどない為蹴り自体はあまり大きなダメージにはならないだろうが、思わず膝を折った男の顔面へと今度は電撃を加える。
素肌を晒した顔面へ直接与えられた電気攻撃に男が悲鳴を上げた。


男の後ろに控えていた別の魔術師が舌打ちしながら重厚な槍を構えた。
現代においてその武器はとても合理的とは思えない。
現に魔術師はその重量ある槍を持っているのが精一杯といった風で、振りまわして戦う槍術のような戦法はとれないように感じた。


だが、相手は魔術師。
打ち止めどころか学園都市最高峰の頭脳を誇る一方通行でさえ全てを把握し切れていない魔術を行使する相手に、打ち止めは一方通行の座る車椅子を力任せに無理矢理移動させながら間合いを計る。


古ぼけ染み付いた畳の敷かれた床を移動する座席に一方通行の首が不安定にガタガタと揺れる。
そんな光景にゴメンなさい、ゴメンなさいと心中で必死に謝りながら打ち止めは狭い室内の奥へと走った。
玄関に繋がる唯一の出入り口は魔術師達が塞いでいる為使えない。
仕方なく襖続きに繋がった隣の部屋へと移動し、縁側を抜けての庭からの脱出を試みる。


しかし、イギリス清教の魔術師達もそんな打ち止めの行動に黙っていなかった。
先程槍を構えた男が左肩で槍を支えながら右手で宙に歪んだ図形を描きとる。
そしてブツブツと一般人には理解出来ない不穏な詠唱を発するとその指で槍を鷲掴み、咆哮を轟かせた。



561 : 十人十色の幸福と、三者三様の解釈方式 ――――――― Ver. Accelerator ; End type NⅠ 8/14 - 2011/01/10 21:22:00.12 Ch02CzFc0 45/79




ブチリ。
ふいに打ち止めは自分の左型が爆発したかのような錯覚を起こした。
実際、その揶揄はあながち間違っていなかった。



「……あ、あ、ああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!」



横目で患部を窺えば、自身の左肩から少なくはない血液がドクドクと外へ流れ出していた。
心臓が鼓動を打つ度破れた血管から大量の赤い液体が、命の結晶が放出していく。
認識した途端猛烈な痛みが打ち止めを襲った。灼熱を直接宛がわれた様な激しい熱が左肩に集中する。


でも、それがどうした。


あの人が極寒のロシアで自分を助けてくれた時、あの人は悲鳴の一つも上げなかった。
こんな傷とは比にならない怪我を体中に負いながら暖かい表情で自分を抱きしめてくれたじゃないか。
自分の傷など気にも留めず、ミサカ達を護ろうと天使という強大な存在に立ち向かう為に再び立ち上がってくれたじゃないか。



「――――――― 負けるわけにはいかないって、ミサカは、ミサカは……――――――っ!!!」



だが、無情にも自分の体は動いてくれない。
それどころか膝を折ってその小さな体を地に着けてしまう。


動け、動け!
どれだけ命じても致死量に近いだけの血液を流してしまった打ち止めの体は足の一歩も進めてはくれない。



562 : 十人十色の幸福と、三者三様の解釈方式 ――――――― Ver. Accelerator ; End type NⅠ 9/14 - 2011/01/10 21:23:57.29 Ch02CzFc0 46/79



崩れた体の先には、車椅子に乗った一方通行が居る。
目に移る光景から状況を把握するだけの判断力を持たない彼が、それでも倒れた打ち止めを心配する様に上手く機能しない右手を必死に差し伸べながらこちらを見つめている。


無理に体を動かした所為だろう。
重心の定まらない彼の体が車椅子の上から冷たい床へと放りだされた。
自分用にと嘘を吐いて黄泉川にねだり、芳川に選んでもらった膝掛がはらりと落ちる。


床に転がった一方通行が腕だけで地を這いながら体を進め大量の血液を流し意識を朦朧とさせた打ち止めを抱きしめた。
彼にはそこまで計算する事は出来なかったが、幸いにも『回収対象』の一方通行が彼女との距離をゼロにまで突き詰めた事で、研究が出来るほどには無事な状態で回収しろと命じられていた魔術師達は無暗に彼女を攻撃する事が出来なくなった。


「あ、あー……」


言語機能を失った一方通行が打ち止めに何かを伝えようと口を開く。
しかし今の彼には自分の感情をどう並べればメッセージを形成する事がどころか想いを単純な単語にすることさえ出来ない。


意識を朦朧とさせていた打ち止めが一方通行の声に反応した。
幼いからだがピクリと疼き、震える小さな手を何とか一方通行の背中に回す。



「―――――――― ずっと、一緒にいたいよ、って、ミサカはミサカはお願いしてみる」



一方通行は答えない。
応えられない。



「あなたと、離れたくないよ……ミサカ達の知らない色んなものを、ヨミカワやヨシカワや番外個体や他の妹達やお姉様やヒーローさんやシスターさんやカエルの先生や沢山の人と、………でも、何よりも『あなた』と、一緒に見たいよ……まだ足りないよ……あなたは色んな物を見せてくれたけど、まだ、全然足りないよぉ……」



気付けば自分の両目からはボロボロとした大粒の涙がおかしな程に零れていた。
何処までも自分の為に行動し自分の為に犠牲になってくれた彼にこんな事を願うのは傲慢と言うものだ。
解っている。
なのに、もう既に抗う事を諦めてしまったかのように自分の口からは言えなかった我が儘ばかりが溢れだした。


563 : 十人十色の幸福と、三者三様の解釈方式 ――――――― Ver. Accelerator ; End type NⅠ 10/14 - 2011/01/10 21:25:18.76 Ch02CzFc0 47/79











業を煮やした魔術師達が、打ち止めも一方通行も動けないのを良い事に彼女を抱きしめる一方通行を無理矢理引き剥がそうとした。
少年の背中に回された少女の両手を乱暴に外し、一方通行を持ちあげようとする。


キンッ……――――――――


ふいに、微かな金属音が一人の魔術師の耳に届いた。
小さな金属の破片が何か擦れて発せられた様な不自然な擬音。
そして、それを耳に捉えた一瞬ののち、絶対的な有利に立っていた魔術師達の全てが襖を貫き出口とは反対の室内奥地へと弾き飛ばされることとなる。



「私の妹に、何してくれてんのよおおおおおおお!!!!!!!!」



激しい爆音と共に年若い女の怒声が響いた。
超電磁砲が巻き上げた爆風を、紫電を纏った片手で薙ぎ払い、土足のまま縁側から屋内へと入り込む。



「次、浴びたい奴からかかってらっしゃい」



蟀谷に血管を浮かび上がらせた御坂美琴が次弾となるゲームセンターのコインを構えながら冷淡な声と共に笑みを浮かべた。



564 : 十人十色の幸福と、三者三様の解釈方式 ――――――― Ver. Accelerator ; End type NⅠ 11/14 - 2011/01/10 21:27:26.86 Ch02CzFc0 48/79




怒り心頭といった美琴に多少鳥肌を立たせながら同じ様に踏み込んだ上条とインデックスが大怪我を負った打ち止めへと駆け寄る。



「無事か、打ち止め!!」



血溜まりの中から打ち止めを抱え上げ叫ぶが、ハアハアと荒い呼吸をする彼女からは何の返事も返ってこない。
ただ大粒の涙を浮かばせた目線だけは一方通行から絶対に外さずに、彼へと必死に両手を伸ばす。


応急措置を施して急いで病院へと運び込まなければ助からない事は明白だった。
これだけの怪我を何の後遺症もなしに治すには、しかし学園都市に頼るほかない。


インデックスにはこの怪我を治すだけの魔道書の知識はあってもそれを実行するだけの魔力がない。
超能力者の電撃使いである美琴も電気信号を操作して痛みを和らげてやることが精々だろう。
上条の能力は言わずもがな、この様な場面では何の役にも立たない。


結論から言えば、学園都市からもイギリス清教からも手の届かない場所へ二人を無事に逃がしてやる事が不可能となった。


どうすべきか。
戸惑う上条の腕を、一方通行が震える手で掴み取った。
焦点の定まらない瞳でこちらを見上げながら上条の腕に収まった打ち止めの髪をゆっくりと撫でてゆく。


ゆるゆると重く塞がっていた打ち止めの瞼が開いた。
意識を辛うじて繋ぎとめながら自身の髪を梳く一方通行をそっと眺める。



「――――――― あ、なた………?」



一方通行の考えが掴めずに、打ち止めが小さく呟いた。
自分を抱える上条の手から無理矢理抜け出すと身を乗り出して一方通行に顔を近づける。


少女の小さな頭が殆どを隠す一方通行の表情の、二人だけの世界の中で行われたやりとりを上条だけが僅かに窺い見た。
そして、予め定めた行動を脳内にインプットしておかなければ電極なしには行動できない一方通行の真意を読み取り――――――――



565 : 十人十色の幸福と、三者三様の解釈方式 ――――――― Ver. Accelerator ; End type NⅠ 12/14 - 2011/01/10 21:28:38.32 Ch02CzFc0 49/79











「……… 、 、 、 、 、 、 ―――――――――――」


「――――――さよなら、なんだね。ってミサカは、ミサカは――――――――――」










566 : 十人十色の幸福と、三者三様の解釈方式 ――――――― Ver. Accelerator ; End type NⅠ 13/14 - 2011/01/10 21:30:49.62 Ch02CzFc0 50/79




少女の手が、一度大きく少年の体を握り締めて、そして離れた。
ゆっくりとその身を起こしながら真正面に立ち少年を見つめ静かに呟く。



「ミサカもだよ、って、ミサカはミサカは自分の気持ちを伝えてみる………」



決別の瞬間だった。
詳しい状況を見ていなかった美琴も、打ち止めが彼との別れを終えたのだろうと考え戦闘を停止しこちらへ駆け寄ってくる。
どちらにせよ、打ち止めが重傷を負っている今二人を逃がしてやるという選択はとれない。


大人しく彼を引き渡さなければ、彼が護ろうとしていた小さな少女の命が失われてしまうのだ。


彼がこの後どうなるのか、全てを知りながら上条と美琴、そしてインデックスの3人は一方通行と打ち止めを秤にかけた。
そして『彼の意思を継ぐ』という綺麗事を綺麗事と理解した上で掲げ、打ち止めを選びとった。


一方通行の細い体が魔術師達に抱えられ荒れた屋内を出て行く。
それを見届けると、それまで気丈に立っていた打ち止めの体が崩れ落ちた。


打ち止めに応急措置を施し、上条達は此処へ来るためにハイジャックしてきたヘリコプターへと乗り込んで急いで学園都市の病院へと向かう。
意識を失った少女を除いても、機内で言葉が交わされる事はなかった。







神裂らからの伝え話に時々一方通行の現状を聞く。
最低限人間としての扱いを受けている事にホッとしながら、『最低限』というそのラインに心が痛む。


当人達を除いて、上条だけが知っている。
二人の決別の瞬間を。
少年が自由の利かなくなる前に示していた覚悟の意思と、自分の感情を呑み込んで彼の意思を尊重した小さな少女の決心を。


上条だけが、知っていた。



567 : 十人十色の幸福と、三者三様の解釈方式 ――――――― Ver. Accelerator ; End type NⅠ 14/14 - 2011/01/10 21:32:10.87 Ch02CzFc0 51/79












「………だ、い、す、き、だ、っ、た―――――――――――」



「――――――ミサカも、だよ。」











十人十色の幸福と、三者三様の解釈方式 ――――――― Ver. Accelerator ; End type = Normal EndⅠ.(完)







639 : VIPに... - 2011/01/11 23:26:07.82 mPJ2dP160 53/79

>>407と>>434(自称『十人十色の幸福シリーズ』)の派生エンドの1つ。8レス頂きます。
>>489とは別物、>>554とは続きとなる可能性の1つの範囲。
途中そこそこ過激なグロ描写があるので心臓の弱い方はご注意ください。



十人十色の幸福と、三者三様の解釈方式 ――――――― Ver. Shelley Cromwell ; End type B

640 : 十人十色の幸福と、三者三様の解釈方式 ――――――― Ver. Shelley Cromwell ; End type B 1/8 - 2011/01/11 23:27:08.04 mPJ2dP160 55/79






イギリス清教に学園都市から一人の人間が運び込まれてきたのは第三次世界大戦から四年ほど過ぎた頃だった。
同じイギリス清教に所属する土御門元春と同年代の青年。


シェリー=クロムウェルはその青年に嘗ての友人エリスを重ね、小さく溜息を吐いた。






「私にこのガキをどうしろってんだよ……一体……」






シェリーの呟きにも青年は一切反応を示さない。
病院義を着せられ簡素なベッドに身を委ねた青年は、焦点の合わない瞳を終ぞ天井へと向けていた。








641 : 十人十色の幸福と、三者三様の解釈方式 ――――――― Ver. Shelley Cromwell ; End type B 2/8 - 2011/01/11 23:28:10.71 mPJ2dP160 56/79






シェリーが最大主教であるローラ=スチュアートから青年を任されたのは3日前の事である。
学園都市から回収してきたという車椅子に乗った青年に半ば無理矢理引き合わされ、簡単な説明と共に押し付けられる事となったのだ。



「此処にあるは学園都市最高峰の能力者、『一方通行』なる者―――――――――。
 シェリー=クロムウェル、貴女もクローン問題の件で学園都市と交わした契約については聞いたるでしょう?」

「ええ、まあ噂程度には……」



シェリーの返答にくつくつと笑ったローラは口元に細やかな指を当てながら「ならば話は早い」と続きを切り出す。
人を小馬鹿にしたようなその態度に、シェリーは気付かれない程度に顔を顰める。



「『一方通行』は学園都市で施された技術も最高峰ながら、第三次世界大戦時にはミーシャ=クロイツェフ相手に奮戦し勝利した能力者。
 しかも『天使の力』に酷似した大量のチカラを纏め上げ最終的には自身の姿さえも天使と化した稀有な存在……

 ――――― と聞けば暗号解読専門官の貴女としては興味が湧くものと思いたるのだけれども?」


「それはまあ、魔術的観点から徹底的に調べ上げれば何が浮き彫りになるのか、興味はありますが……」


「よし、ならば決定という事で。シェリー=クロムウェル、貴女を『一方通行 生態調査責任者』に任命するっ!拒否は許さざる、なのよ!」





「…………は?」




642 : 十人十色の幸福と、三者三様の解釈方式 ――――――― Ver. Shelley Cromwell ; End type B 3/8 - 2011/01/11 23:31:00.79 mPJ2dP160 57/79





当初全く行動を見せない人形同然と思われた『一方通行』は、接してみればそれなりの反応があった。
調査の為に腕や顔を手に取ってみるとその感触がこそばゆいのか小さく微笑む。
その反応がなかなかに面白くて本格的に擽ってみればしゃくりを上げながらケラケラと笑っていた。


食事や風呂の手伝いを押しつけた世話好きのオルソラ=アクィナスにはより懐いているらしく、偶に二人で居る所を見掛けると青年がシェリーに見せるものとはまた違う類の満面の笑みを浮かべていた。
料理上手なオルソラが作る食事が気に入った様で彼女が皿を持ってくる度に目を輝かせているのが窺えた。


なんとなく対抗意識が湧いて珍しく作ってみた料理を食べさせてみると心なしか神妙な顔をされた。
モグモグと咀嚼して呑み込んだ後、次を寄越せと口を開くのでとりあえず放りこんでみる事にする。
最初の反応が気になって一方通行が咀嚼している間にシェリーが自分の作った料理を口に運んでみると―――――


「うぇ、マズっ!なんじゃこりゃ」


どうやら砂糖と塩を間違えるなんていうベタな失敗をしてしまったらしい。
うぇ。と最早自分が作った料理であるにも関わらず食べる気の失せた皿を机の端に寄せると、再び青年の口が開かれた。


「……えぇ?お前、これ本気で食うのか?」


皿と青年を見比べて尋ねるが、一向に口を閉ざそうとしない一方通行の口へ仕方なしにもう一度運ぶ。
そしてモグモグと咀嚼している間気まずそうにその光景を眺めるシェリーに目を遣り、―――― 唐突に、ププッと笑った。


「て、テメェ!さては味オンチなんかじゃねえなっ!」


廃人とも言える人間に気を遣われたのだと悟ったシェリーは顔中を真っ赤に染めながら、人を騙した罰だと言わんばかりに一方通行の頭をグシャグシャと乱暴に掻き撫でた。
だがそれすらも気持ち良さそうに目を細めて撫でつける手を強請る彼を見て――――――――――――、


「………はいはい。お前には負けたよ」



シェリー=クロムウェルが一方通行に釣られて、小さく笑った。




643 : 十人十色の幸福と、三者三様の解釈方式 ――――――― Ver. Shelley Cromwell ; End type B 4/8 - 2011/01/11 23:32:05.81 mPJ2dP160 58/79




詰まる所、シェリーは一方通行という青年を気に入ってしまったのだ。
観察対象としてではなく、10歳近く年の離れた弟の様な存在として。



「ま、偶にはこんな仕事もいいか」



近所の洋菓子店で一方通行に与える菓子を購入しながら、シェリー=クロムウェルは自分らしくないと自覚しつつもそんな事を考えていた。



「おい喜べクソガキ、今日はスコーン買って来てやったぞ」



ついつい弟分を甘やかしてしまうシェリーはよく彼にこっそりとおやつを与えていた。
別に秘密裏に行うことはないのだが、他人にバレると後ろめたいというか、恥ずかしい。


実はジャパニーズである彼の為に神裂にわざわざ頼みこんで和菓子を分けて貰ったこともあるのだが、嘗て一方通行が自分の意思で行動していた頃の彼が和菓子どころか甘味や菓子を殆ど口にしていなかった事など彼女は知る由もない。



「クソガキー?」



オルソラ辺りが風呂にでも連れて行ったのだろうか?自分では動けない筈の一方通行の姿が見当たらない。
嫌な予感がした。
慌てたシェリーが『必要悪の教会』の談話室へと駆けこむと、






「ああ、シェリーさん。あなた『一方通行 生態調査責任者』から外されちまってましたよ?
 まあ良かったってもんじゃないですか。学園都市の人間、しかもその第一位なんてのに関わったってロクな事ねぇでしょうし」



644 : 十人十色の幸福と、三者三様の解釈方式 ――――――― Ver. Shelley Cromwell ; End type B 5/8 - 2011/01/11 23:33:56.15 mPJ2dP160 59/79



自分に気付いて発せられたアニェーゼ=サンクティスの言葉に、シェリーは絶句した。
一方通行の担当官を外された?何故?



「何でも餅は餅屋って事で、最先端科学によって造られた能力者『一方通行』は
 やっぱりイギリス最高峰の科学技術研究所で調査するのが妥当だろうって話になったらしくて――――」



ペラペラとアニェーゼは語り続けるが、シェリーの耳にはその半分も入ってこない。
何種もの薬物を投与し催眠術を施され電気刺激といった特殊な能力開発技巧を幾つも受けてきた『一方通行』という素材を科学的に調べようとすればどうする?


決まっている。身体の至るところを切り開いて、無理矢理その全てを暴きだすしかない――――――


シェリーの脳内におぞましい想像が走った。
想像どころかいずれ現実となってしまうであろう光景。


弟の様に可愛がっていた青年がその体を何の気遣いも温かみもなしに無機物の様に切り刻まれボロボロにされる。
友人だったエリスと同じく、科学と魔術の混在した身勝手な世界に巻き込まれ何の罪もなしにその命を削ってゆく。



「あの女ぁあああああああああ!!!!!!!!!!!!!」



最終判断を下したであろうローラ=スチャートへの怒りが一気に込み上げ蟀谷に血管が浮かび上がった。
懐に携帯していたチョークに手を据えゴーレムを形成しての襲撃すら試みる。
しかし、


常任の目には理解出来ない早さで彼女の右手にあったチョークが粉々に砕けながら弾き飛ばされた事で、彼女はその決断も阻まれた。



「――――― 彼について、少しばかり知る所があります。………付いて来て下さい」



天草式十字凄教の女教皇、聖人・神裂火織によって反逆の意さえ圧し折られたシェリーには、ただその要求に静かに頷き彼女の後を追う選択肢しか許されなかった。

645 : 十人十色の幸福と、三者三様の解釈方式 ――――――― Ver. Shelley Cromwell ; End type B 6/8 - 2011/01/11 23:35:48.20 mPJ2dP160 60/79




「あの青年………一方通行の友人に当たる人物にひとり私達の知り合いが居るんですよ。――― 上条当麻。
 私は彼から一方通行の現状を伝える様頼まれていまして、先日はシェリーさんが彼に和菓子を与えていたと話して喜ばれました」

「………気付いてやがったのか」



存外、貴女も分かりやすいお方ですからと語る神裂の真意を掴み取れないシェリーはただ黙って彼女の話に耳を傾けるしかない。
神裂もそんなシェリーの態度に余計な事をこれ以上挟まずに正直に話そうと姿勢を正す。



「一方通行は此処へ、自らの意思で赴いたそうです。………大事な家族であるクローンの少女を助ける為に」

「………か、ぞく」

「貴方が大事なご友人の為に学園都市を攻めた様に、彼もまた大事なご家族の為に此処までやってきたのです」



神裂の言いたい事は何となく解った。
これは一方通行自身の意思である。だからイギリス清教全体を敵に回す様な馬鹿な事はやめろと、そう言いたいのだろう。



「……でも、私にはそんな事関係ないね。あのガキが庇ったっていうクローンも今は安全だって保証が付いたんでしょう?だったら――――」



シェリーの台詞に、神裂が緩く首を振った。
悲痛な面持ちでシェリーを見据え、言い聞かせるようにゆっくりと言葉を吐く。



「――――― 彼の研究が第三者の介入によって成されなかった場合、イギリス清教は彼本人に条約違反の意思があると見做し彼のご家族……
 ………学園都市が製造したクローンの上位個体を、ネットワーク切断を虚偽した危険因子として学園都市へ殺傷処分の要求する予定だそうです」



目の前が真っ暗になった。
科学サイドも魔術サイドも、ここまで腐っていたというのか。


此処で彼を全ての悪から奪おうとすれば、それこそ彼が命を賭けて護った少女を見殺しにする事になってしまう。
彼本人の命と、彼が護ろうとした少女の命。
シェリー=クロムウェルはどちらを立てる事が一方通行という青年にとって一番の幸せであるかを自分なりに考え、そして――――――

646 : 十人十色の幸福と、三者三様の解釈方式 ――――――― Ver. Shelley Cromwell ; End type B 7/9 - 2011/01/11 23:37:51.98 mPJ2dP160 61/79








「…………シェリーさん、科学技術所の方からお荷物が届いているのでございますよ」

「ああ、そこ置いといて」



遠慮がちに交わされたオルソラの言葉に、シェリーがぶっきら棒に返事をする。
荷物の内容は解っていた。DVDだ。


一方通行の『科学的見地からの研究』を纏めた映像資料。


どのタイミングで彼の『天使の力』が最も高調するのか把握できていない現状では、科学的な研究を行いながらも魔術解読の専門官もその研究に同席した方が良いだろうとの判断を下したイギリス清教は、


しかし談話室でゴーレムを召喚しようとする騒ぎを見せたシェリーを素直に研究所へ立ち合わせるのではなく、DVDの映像から解析を行うよう彼女へ指示を出した。




シェリーはいつも通り箱を漁ってDVDのケースを取り出すと、古書に囲まれた図書館の様な室内には似合わない薄型テレビのスイッチを入れて再生ボタンを押す。


何てことない。これが、『日常』だった。






647 : 十人十色の幸福と、三者三様の解釈方式 ――――――― Ver. Shelley Cromwell ; End type B 8/9 - 2011/01/11 23:41:03.44 mPJ2dP160 62/79






『あ``、あ``う、あ``あ``あ``……』



少量の麻酔を投与しただけで意識を保ったまま体にメスを入れられた一方通行が声にならない呻きを上げながら誰かを求める様に手を伸ばし揺らす。
だがその両手は誰にも握り返される事無くただひたすら空を切る。



『あ``、 あ``、 あ``あ``あ``あ``あ``あ``あ``あ``あ``あ``!!!!!!!!』



脳を直接掻き回す様に弄られ、監察官として傍に控えた魔術師によって術式で心を暴かれた一方通行がもがき苦しむ。
身体を。精神を。思い出を。決心を。償いを。絶望を。人生を犯されてゆく光景、全てのトラウマを無理矢理引き摺り出され、それを勝手に人に覗かれ、身体の全てを切り刻まれた一方通行が強烈な叫びを上げた。



『あ``う!あ``、あ``、 あ``あ``あ``!!』



水流操作を施した魔術が一方通行の細い体に叩きつけられる。対天使戦の再現だとでもいうのだろうか。
心拍や体温など様々な計測機を覗きこんだ科学者達が何の変化も見せない事を確認し、より強力な魔術を術者へ促した。


無遠慮に叩きこまれた攻撃にバタつかせた腕をキーポイントとでも見做したのか、研究者はそこに再びメスを入れ、得体の知れない薬物を血管に繰り返し投与してゆく。



『あ`` あ``!! あ``あ``!!あ``あ``あ``あ``あ``あ``あ````あ``あ``あ``あ``あ``!!!!!!!!!!!』



一方通行が今日一番の叫びを上げる。
最も効果のあった深層心理へ干渉する魔術を行使され催眠効果のあるらしい薬に思考の全てを奪われた一方通行が大量の汗と涙を浮かび上がらせながら、再び誰も応えない非常な天へと向けて必死に腕を伸し――――――――。





648 : 十人十色の幸福と、三者三様の解釈方式 ――――――― Ver. Shelley Cromwell ; End type B 9/9 - 2011/01/11 23:42:00.81 mPJ2dP160 63/79







シェリー=クロムウェルは、貞操以外の全てを犯され尽した弟分を画面越しから無表情に眺めていた。
同じ様な映像は何度も見させられた。通算にして23本。
始めの頃はまともに見ていられなかった映像も、今では何の抵抗もなしに観察し続ける事が出来る。



「なあ、お前にとっては本当にこれが幸せだったんだよな――――――?」



少女の為に決断した青年の意思を尊重する道を決断した女は、彼に引き合わされた時の様にその姿に嘗ての友人を重ね、―――――――――― 弱く儚い声で、小さく呟いた。



「――――――― 何もしてやれなくて、ゴメンな………アクセラレータ」








十人十色の幸福と、三者三様の解釈方式 ――――――― Ver. Shelley Cromwell ; End type = Bad End.(完)




目を反らす事は冒涜だった。
そして、彼女は初めて名を呼ぶ。






727 : 十人十色 - 2011/01/13 00:11:48.07 y/ID8doL0 65/79


身勝手ながらも完結だけはさせようと思い投下させていただきます。13レスほど使用します。
本作が『十人十色の幸福シリーズ』最後の作品となります。当作に限って鬱・過激な描写はありません。



十人十色の幸福と、三者三様の解釈方式 ――――――― Ver. Accelerator ; End type NⅡ

728 : 十人十色の幸福と、三者三様の解釈方式 ――――――― Ver. Accelerator ; End type NⅡ1/13 - 2011/01/13 00:12:48.76 y/ID8doL0 67/79







「なあ、やっぱり納得できないんだ……今更だっつーのは理解してる。それでも、俺は……」





上条当麻は目の前で眠る少年の、同性とは思えない程に細く白い首筋に指をかけた。
かつて彼が纏っていたような漆黒のチョーカーを丁寧に巻きつけてゆく。



「ちゃんと、お前自身の言葉が聞きたい」



そして、彼が手を静かに離すと、少年の赤い瞳がゆっくりと瞼を開き―――――――







729 : 十人十色の幸福と、三者三様の解釈方式 ――――――― Ver. Accelerator ; End type NⅡ2/13 - 2011/01/13 00:14:27.73 y/ID8doL0 68/79




一方通行の引き渡しが迫っていた。
アレイスター統括理事長のいない学園都市は3年半に渡る長い歳月をかけ何とか復興の兆しが見え始めてきた頃だった。


だからこそ余計に。
政治体制に余裕が出来てきた今だからこそ余計に、学園都市は『学園都市第一位』という貴重な資産を大人しくイギリス清教へと渡してしまう事を躊躇っていた。
繊細な時期だった。


学園都市もイギリス清教も『一方通行』という存在をモノとしか認識していない。
国境で見つかった金塊をどちらの国家に利権があるかで争うような、そんな光景が彼の背後で見え隠れしていた。


上条当麻は悩んでいる。
確かに妹達、強いては打ち止めという少女をただ護る為にここまで交渉を運んだのは一方通行本人だ。


だが、これで本当に良いのだろうか。
彼が犠牲となったのは自分達の所為だと自身を責めてしまう心優しいクローン達は?
取り残されてしまう未だ幼い少女は?
これが、本当に『幸せな光景』と言えるのだろうか。



否。
そんな筈がない。
見てみろ。彼を殺す為に生まれながら彼との生活を楽しんでいたあの娘の今を。
いつもの様に悪態を吐きながら、でも何も反応しない彼を見て一人こっそり泣いていた夜を。


見てみろ。彼を一番慕っていたあの娘の瞳を。
彼に向けて微笑みながら、時折影を射す年齢にそぐわないあの悲しげな表情を。



これを『幸福』と、呼べる筈がない――――――――。



「言ってみろよ一方通行。もっとアイツらと居たいんだって、お前の言葉で。
 お前が自分で手を伸ばせば、俺達はいつだってその手を取ってやれるんだよ――――――っ!!」



そして、上条当麻の指が一方通行の細い首筋を伝わった。


730 : 十人十色の幸福と、三者三様の解釈方式 ――――――― Ver. Accelerator ; End type NⅡ3/13 - 2011/01/13 00:15:28.28 y/ID8doL0 69/79






3年前の8月31日、彼にとっての運命の夜。
あの日、脳に負った損傷から言語能力と計算能力の全てを失った彼へと、冥土帰しから託された演算補助装置を装着させる。



『ミサカネットワークじゃなくても彼の演算補助には様々な手段があるし、それを全て再現できる自信が僕にはある。
 ―――――― だが、彼がそれを拒むんだよ』



カエル顔の主治医から聞かされた言葉を思い出す。
何度装置を取り付けても、自らそれを壊しこの現状を維持させようとしたという彼。
でも、今回ばかりはそんなことはさせない。


チョーカー型の演算補助装置を一方通行へと装着させた上条は、そのまま彼の両手を自身の右手で一掴みにする。
栄養剤の入った点滴と他人の手ずから与えられる僅かな食事で食を保っていた彼の両手は驚くほど細く、常人に比べ異常なくらい骨の感触が感じられた。


両腕を力強く握られた事でゆるゆると思い瞼を開けた一方通行が、状況把握する為の理解力を手中に収めた優秀な頭脳で赤く輝く瞳の焦点を急速に合わせてゆく。



「かみ、じょォ……とォ、ま……?」



長くまともに機能していなかった所為か、掠れたアルトボイスが病室内に小さく響いた。
4年後、契約、イギリス清教―――――。



「―――――っ、離せ!!離せっつってンだよ上条当麻ァ!!!」



学園都市第一位を誇る頭脳で、視覚に映るこの男が、自分の計画通りに事が進んだのならば目の前に居る筈のない人間だと気付いた一方通行は、今にも折れそうな体を激しく揺らしながら首筋に付けられた装置を何とか壊してやろうと暴れだす。



731 : 十人十色の幸福と、三者三様の解釈方式 ――――――― Ver. Accelerator ; End type NⅡ4/13 - 2011/01/13 00:16:24.03 y/ID8doL0 70/79




「―――――― 駄目だ!!!」



半ば怒鳴りつけるように上条が叫ぶと、シン、と狭い室内を静寂が取り巻いた。
怯えた様にビクリと肩を震わせた一方通行が目を見開きながら上条を窺う。



「もう逃げるな、一方通行――――― お前はとっくに理解してんだろ?学園都市第一位なんて呼ばれる優秀な頭で。
 『自分が犠牲になれば確かに打ち止めは助かる。………でも、本当は自分もアイツと居たいんだ』って」



一方通行の動きが止まった。
暴れようとしていた体も、怯えるようにしていた肩も全てを停止し、ただその見開いた瞳で上条を見据える。



「正直になれよ、一方通行。判ってたんだろう?自分のやっている事は『ただの善意の押し付け』だって。
 一人置いて行かれる打ち止めが、身代わりになった自分を見送る妹達がどんな顔するかなんて、最初から全部知ってたんだろ………―――――――――?」



その光景は、まるで一方通行という化け物が同じく理不尽な大人の世界に振り回されていた打ち止めと出会ったあの光景に酷似していた。
『実験』について指摘され、自分の感情を勝手に推測され、自分でさえ掴み切れていなかった深層心理を包み込むように優しく撫でる言葉の数々。


上条当麻の、言う通りだった。


一方通行は全てを理解していた。
自分の行いで必ず妹達が助かる事も、同時に、その所為で一番大切に思っていた少女に一番させたくなかった顔をさせるであろう事も。
学園都市最高峰を誇る優秀な頭脳は、それらを全て理解していた。


自分の行いが烏滸がましい善意の押し付けであることを寸分違わず誰よりも正確に把握した上で、それでも、『ただ彼女が生きてさえいれば、きっと誰かが彼女を幸せにしてくれる』とそう思ってきた。
自分の気持ちを、押し殺して。



732 : 十人十色の幸福と、三者三様の解釈方式 ――――――― Ver. Accelerator ; End type NⅡ5/13 - 2011/01/13 00:18:16.38 y/ID8doL0 71/79




「っだったら、だったら何だっつーンだよ!!
 あのガキが真っ当に生きて、学校行って、ダチ作って、普通に生活出来るんならもォそれでイイじゃねェか!!!
 俺みてェな糞汚い世界じゃねェ、アイツにとびきり似合う様な光ン中で生きていければ、いずれアイツは自分から幸せに向かっていく!!


 ――――――― 俺みてェなクソッタレが、所詮アイツの笑顔なんて守れるワケ無かったンだよォ!!!」



それは一方通行の、本心からの叫びだった。
一人ぼっちでしかない『特別クラス』という名の檻、第一位として敵視しかしない周囲、暗く閉ざされた闇の中で自分からあの非道な『実験』に手を出してしまった罪悪感、肉と硝煙に塗れた血溜りの上の毎日――――。


一方通行にとって、打ち止めは何処までも『光の世界の住人』だった。
クソッタレと自負する自分の隣でいつだって笑って手を差し伸べてくれる美しい存在。
手の届かない存在。


善も悪も光も闇も関係がないのだと知った今だって、しかし心の何処かで線引きしている。
こんな自分が触ったら、あの綺麗な手が汚く黒ずんでしまうのではないか。
あの幼い体を、あの『実験』の時の様に見る影も無いほどに弾き飛ばしてしまうのではないか。


一生消える事のない経歴という一種のコンプレックスに全てを縛られた一方通行は、だがロシアでの一件を通して得た『こんな自分でも彼女を正しく救えるのではないか』という自信もこのクローン問題で全て打ち砕けてしまった。


考え抜いてやっと見つけた、打ち止めを救う為の唯一の方法。
その行動自体が彼女に涙を造る事を正確に理解出来たからこそ、彼は『自分では打ち止めを幸せには出来ないのだ』と錯覚してしまった。



「――――― 結局よォ、俺はアイツが生きていてくれさェすりゃァ、……それでイインだよ。
 成長して、普通に暮らして、オトコ作ったりなんかして、そンでソイツが最後まであのガキを笑わせてやりゃァそれで構わねェンだよ」



自嘲気味に呟いた一方通行の頬を、勢いよく何かが弾いた。
左頬に走る強烈な痛みに目を向けると自身のそれが赤く腫れ上がっている。
怪我をした患部の隣では自分のモノとは違った逞しい拳が震えていた。
彼にしては珍しく、その拳が上条当麻の物であるということを認識するのに数秒を要してしまった。



733 : 十人十色の幸福と、三者三様の解釈方式 ――――――― Ver. Accelerator ; End type NⅡ6/13 - 2011/01/13 00:20:54.53 y/ID8doL0 72/79



「―――――― だから、それを逃げだって言ってんじゃねえか!!!!
 何だよ、『打ち止めがいつか笑えればそれでいい』って!『誰かが幸せにしてくれればそれでいい』って!!
 それってつまりお前自身がどうにかする事を、お前が放棄しちまったっつー事じゃねえか!!

 これが逃げじゃなくてなんだって言うんだ!言ってみろ、一方通行!!言ってみろよ!
 『お前は本当はどうしたいのか』、言ってみろっつってんだよ!!!!!」



呆然と上条を見つめていた瞳が揺れる。
静かに俯いてしまった彼からは表情が何も窺えない。
それでも、上条には分っていた。
難しい事を考えるのを止め、本心に素直になった何の力も持たない彼が、自分の隣で打ち止めという少女が笑う事を純粋に望んでいたのを。



「――――――いてェよ、………ずっと一緒にいてェよ、俺だって!!
 でも出来ねェだろォが!現実をよく見てみろよ!俺はアイツに、こンくれェしかしてやれねェだろォがあああああ!!!!!」



上条の右手がゆっくりと一方通行の左手へと伸びた。
極力優しくその手を取って、小さな子供に言い聞かせるようにして自分などより数段優秀な筈の彼を説き伏せていく。



「言えたじゃねえか、ちゃんと。その言葉を待ってたんだよ、俺達みんな。
 お前が自分で手を伸ばせば俺達はいつだってその手を取ってやれる、学園都市だろうが魔術組織だろが何だって敵に回して、一緒にソイツらと闘ってやれる、俺達にはその覚悟がある。

 待ってたんだよ、お前の言葉を。ずっと、ずっと……――――――――――」



一方通行の瞳から、暖かな雫が音も立てずに流れ落ちた。
それを拭う手は一つじゃない。求めればいつだって体温ある手が汲み取ってくれる。



「いたい、いたいっ……―――――
 黄泉川と、芳川と、番外個体と、妹達と、………打ち止めと一緒にいたい―――――っ!!」



組んだ両手を目の上に押し当て、時折しゃくりを混ぜながら掠れた声が小さく吐き出した。
―――― お前がしたいようにすれば良いんだよ。
頭上から響いた声に、一方通行は再び滴を溢れ溢した。

734 : 十人十色の幸福と、三者三様の解釈方式 ――――――― Ver. Accelerator ; End type NⅡ7/13 - 2011/01/13 00:22:21.56 y/ID8doL0 73/79






その日は快晴だった。
極僅かな人間以外完全に秘匿された『決戦の日』は暖かな日差しと穏やかな風を伴って彼らを迎えた。



「――――――うし、行くぞ」



上条の声に、皆が静かに頷いた。
皆が皆いつも通りに振る舞いながら、小さな違和感の中だけに『作戦』を決行してゆく。


最初に動いたのは芳川桔梗だった。
一方通行への面会に何度も訪れる彼女が今日もまた彼への訪問を申し出たところで、彼を見張る監視員たちは一切疑問を抱かなかった。


来客である芳川へ監視員達が一応のボディチェックを行っている間に、冥土帰しが一方通行への急な検診を命じる。
芳川へのチェックに人員が僅かとはいえ裂かれた事で、彼への警戒が少しばかり揺らいだ。


様々な精密機材が蔓延る検査室では監視員の立ち入りが制限されている。この瞬間だけは一方通行の監視が2人だけになるのだ。
「では、いつも通りに2名までで」と看護婦から声をかけられた監視員が携帯した武器を確認してから入っていく。
そして、初めから病院で生活していた為にほぼノーチェックだった看護婦に扮した御坂妹が彼らを鮮やかな体術で音を立てぬよう昏倒させる。


魔術師たちは、一方通行と妹達の間に生まれた絆を浅く見すぎていた。
非道な『実験』における片や加害者、片や被害者である立場を見れば、確かに妹達が一方通行救出に手を貸すなどと考えられないかもしれない。
だが、言葉では説明できなくとも明らかな絆で彼らは確かに結ばれていた。


一方通行の首にナノコンピュータに繋がったチョーカー型の電極を装着させた御坂妹は手早く彼に看護師の制服と黒髪の鬘を手渡した。
見ていないといわんばかりに背を向けた御坂妹に、一方通行有難くその場で着替えさせてもらう。



「院内の地図を。この部屋の天井裏には1階男子トイレへ繋がる通気口から病院関係者の振りをして駐車場まで向かって下さい。
 黄泉川愛穂が警備員用の戦闘車を演習と称して同僚名義で手配しています。そこで彼女と合流するようにとの事です、とミサカは上条当麻の伝令を正確により判りやすく伝えました」



735 : 十人十色の幸福と、三者三様の解釈方式 ――――――― Ver. Accelerator ; End type NⅡ8/13 - 2011/01/13 00:23:26.91 y/ID8doL0 74/79




頷いた一方通行は迷うことなく通気口へと飛び込み、御坂妹に手を差し出す。
彼女もまたこの通気口から別室へ移動し、芳川を保護した他の妹達と合流する手筈になっている。


天井裏を進む途中で彼女と別れた一方通行は能力使用モードの切り分けを上手く行いながら目的地を目指していた。
これから大量に電力を消費するのだから、ここで無駄遣いは出来ない。
御坂妹の言っていた1階男子トイレへと辿り着いた一方通行はそこから指示通り駐車場に停めてあった戦闘車へと乗り込んだ。
だが、予想に反して運転席に座っていたのは見知らぬ女だった。否、少女というべきかもしれない。



「誰だ、テメェは……?」

「か、勝手に勘違いしないで下さい!私は黄泉川先生にお願いされて来たんです!……それに、私はあなたにあった事があるんですよ……?」



警戒し戦闘態勢を取ろうとした一方通行に焦った女がブンブンと手を振って否定の動きをしながら弁明する。
忘れちゃったんですか……?と甲高い声で問われた一方通行が記憶の彼方へ思考を巡らせると―――――



「オ、マエ!!あのときの『250年法』の女!!」

「だ、だから先生は立派なオトナなんですっ!七不思議とかそうゆうシリアスな存在じゃないんですう!」



運転席に座った月詠小萌はいい加減行きますよと言いながら無理矢理高さを調整したのであろうアクセルペダルを勢いよく踏み込んだ。
「『打ち止めちゃん』という子なら、黄泉川先生と一緒に飛行場へ向かってるですよ」。
小萌のその言葉に一方通行が小さく息を吐く。


どうやらここまでは上手くいっているらしい。
後部座席に普通の服が用意してありますからと言われた一方通行は助手席から後ろへと回り鬘はそのままに着替えを始めた。
病院から一歩出てしまえば、この格好は目立ちすぎる。


月詠小萌の運転で第23学区の飛行場に到着した一方通行は派手な騒ぎが起こっている場所へと駆け出した。
ここに来るまでの間に『作戦』に気付かれたのか、すでに戦闘は始まっていた。



736 : 十人十色の幸福と、三者三様の解釈方式 ――――――― Ver. Accelerator ; End type NⅡ9/13 - 2011/01/13 00:24:40.14 y/ID8doL0 75/79




一方通行は今や科学サイド魔術サイド双方が手に入れたがっている存在だ。
互いに渡すくらいならばその前に殺してしまったほうがマシだ、そう思われるほどに。


『一方通行』という最先端技術の結晶の流出を恐れた科学サイドと、『学園都市第一位』という存在が復活し自分達に牙を剥く事を魔術サイドが、彼を学園都市という檻から脱出させようと上条達がハイジャックを決行していた飛行場に結集していた。


自動操縦ヘリの電気機器の制御を最強の電撃使いである御坂美琴が行い、それを阻止しようと攻撃を仕掛ける魔術師を上条当麻とインデックスが、能力者は片手間ながらも美琴が次々と蹴散らせてゆく。


キキーッ!と轟音を鳴らしてこの場には全くそぐわない趣味の良い普通車が、銃痕や爆発の名残を残しながら駆け込んできた。
立て付きの悪くなった自動ドアを強引に手動で開けて、中から2人の女性と1人の少女が抜け出てくる。


「お姉様!こっち追ってきたヤツらは全部撃墜させといた!!」

「よくやった、流石は私の妹!!」


打ち止めと運転手の黄泉川を護りここまで奮闘を重ねてきた番外個体が自慢するように声を張り上げる。
彼女の手には所々掠り傷が見受けられたがそれすらも勲章のように誇らしくしていた。


「あの人は!?ってミサカはミサカはお姉様に尋ねてみるっ!」


疑問符を浮かべた打ち止めを取り敢えず安全になった機内に押し込めながら、アイツならすぐ来るからとだけ言って美琴は再び戦場へと駆け出した。


陳腐なゲームセンターのコインを高く放り、それを弾いて自身の異名である超電磁砲を解き放つ。
彼女が吹き飛ばした敵の中には能力者以外に魔術者も数名いたが、圧倒的な能力の前では慣れ不慣れは関係の無いようだった。


自分が倒した敵が全員ちゃんと気絶したことを確認した美琴は仲間の援護に入ろうと他で起こっている戦闘を探す。
その中で美琴は、かつてトラウマになるほど痛めつけられたチカラの残滓を見た。
ありとあらゆるのベクトルを掌握し絶対防御の壁の中で高圧的且つ暴力的な能力を奮う学園都市最強の詩存在。



「―――――――来たわね、一方通行!!!」



737 : 十人十色の幸福と、三者三様の解釈方式 ――――――― Ver. Accelerator ; End type NⅡ10/13 - 2011/01/13 00:25:48.42 y/ID8doL0 76/79



一方通行は、その圧倒的な能力で能力者・魔術師関係なく自身に攻撃を加えた人間全てを打ち倒していた。
時には最強の超能力を。時には警備員の戦闘車両から拝借したショットガンを用いて、嘗て『グループ』にいた頃にスキルアウト相手に使っていた手段を応用させ煮詰めていく。


反射の上手く通用できない魔術が彼の頬を微かに掠めた。
だが一方通行はそれを気にしない。
不自然な軌道を描いて反射される敵の攻撃すらも集団戦に挑む敵の仲間へと強制的にぶつける事で大勢の魔術師達をも彼は膝を地に着かせた。


打ち止めが乗った飛行機は一体何処だ。
一方通行の目的はただ一つ。機内で打ち止めと合流し、この学園都市を脱出する事。
手当たり次第に騒ぎの集まる場所を一掃して回っていた一方通行にここ数日で聞きなれた声がかかった。



「一方通行!!打ち止めは右から3番目のヘリに乗ってる!制御調整は御坂がしてあっから、スグにでも脱出できるはずだ!!」



上条の言葉に従い右から3番目だというヘリを見て、一方通行はギョッとした。
順番など関係ない。横にズラリと並んだヘリ全てを纏めて一掃しようと、遂に学年都市が本気を出したのだ。


――――――『六枚羽』。
この第23学区より発進する学園都市最新鋭の無人攻撃ヘリが、
搭載した摩擦弾頭と対ミサイル兵器をヘリ全体に標準を合わせ攻撃開始しようと迫る。


六枚羽の後方には超電磁砲に使うコインを構える御坂美琴が見受けられたが、美琴は明らかに能力の行使を躊躇っていた。
無理矢理それを破壊したとき、六枚羽の下にある打ち止めの乗ったヘリへとその巨大な破片や爆風の衝撃襲う事に思い至ったのだ。
だが、いち早く六枚羽を対処せねば、あちらからの攻撃で打ち止めが死にかねない。



「――――― 撃て、超電磁砲!!!!」



張り上げられた一方通行の声にピクリと反応した美琴が、半歩遅れて自身の必殺技とも言える『超電磁砲』を派手に撃ち放った。
一瞬でバラバラとなった1機250億円の化物は、爆発を上げながら各々意味を持たない大きな欠片と変わって下に並んだヘリ群を襲撃する。


爆風の煽りと六枚羽の欠片が打ち止めの乗ったヘリを襲う直前、一方通行の体がふわりと軽やかに宙を舞った。
空中を突き抜けるような速さで移動した一方通行の体がそのまま衝撃と激突し、彼を襲う敵意全てを跳ね返す。


738 : 十人十色の幸福と、三者三様の解釈方式 ――――――― Ver. Accelerator ; End type NⅡ11/13 - 2011/01/13 00:27:56.09 y/ID8doL0 77/79




超電磁砲によって破壊された六枚羽が催す全ての攻撃を反射した一方通行がするりと体を滑らせて打ち止めの居る機内へと入り込んだ。
『作戦』の打ち合わせの為にここ数日、懐かしい顔ぶれと何度も顔を合わせたが、この幼い少女とだけは彼は今日この時久々に真正面から向き合う事となった。


逃げてんじゃねえよ、という上条当麻の言葉を思い出す。
ああ、そうだ。
自分は逃げていたのだ。


自身の我儘の所為で彼女を茨の道へと伴ってしまう事を、本当に彼女が後悔していないのか。
尋ねるのが恐くて顔を合わせなかった。



「―――――お前は、本当に後悔しねえンだな。
 ………確かにアイツらは、俺達がまた帰ってこれる様に居場所は作っておくつった。黄泉川も芳川も家で待ってるつった。
 だが、全てが収まるまで無事に逃げ切れる保証も無けりゃァ終わりが何年先になるかも分からねえ。―― それでも、本当に解ってるんだな?」



最後のチャンスだった。
ヘリの外では自分達の出発を今か今かと待って激しい戦闘に臨んでいる仲間の顔が窺えたが、こればかりは譲れなかった。
彼女がやはり嫌だといえば、それを優先する意思があった。覚悟があった。だからこそ、



「馬鹿言わないで!、ってミサカはミサカは激怒してみる!!
 何言ってるの?本当に解ってるのって聞きたいのはコッチだよ!!ミサカの事、本当に解ってるの!?」



だからこそ、打ち止めが一方通行に抱いたのは『怒り』だった。



「ミサカの幸せはあなたが幸せな事だよ?
 ………陳腐な自己満足じゃなくて、心の底から笑っているあなたを『あなたの隣で』いつまでも眺める事なんだよ!!
 ミサカは言ったじゃない、あなたも言ったじゃない。もう、違うの?――――『ずっと一緒にいたかった』って言葉は、嘘じゃないよね?」



打ち止めが泣いていた。
ヒクリヒクリとしゃくりを上げながら、それでも真っ直ぐな瞳で一方通行を見抜き凛とした態度で彼と対峙する。
これは苦難への『覚悟』じゃない、一方通行という人間と共に歩みたいと言う『願い』なのだと言葉で、体で示している。


739 : 十人十色の幸福と、三者三様の解釈方式 ――――――― Ver. Accelerator ; End type NⅡ12/13 - 2011/01/13 00:29:11.17 y/ID8doL0 78/79






「――――― ゴメン、」



一方通行には、それしか言葉が見つからなかった。
勝手に無謀な選択をしてしまった事、それが原因で悲しませてしまった事、これから共に居て貰う事、それら全てを小さな声で謝り、そして、



「こうゆう時はね。『ありがとう』って言うんだよ、ってミサカはミサカはあなたに教えてあげてみたり」



涙を流しながら打ち止めが、同じ様にいつの間にか自分と同じ大粒の滴を零す一方通行の両目をハンカチで拭いながら優しく応えた。


大丈夫だよ、
そう言って一方通行の骨ばった右手に自身の小さな右手を重ねる。


あと必要なのは、ボタン一つだった。
自動操縦で発進する機体の起動ボタンへと、愛しい人の手をとった右手が静かに伸びて、




そして――――――――――









740 : 十人十色の幸福と、三者三様の解釈方式 ――――――― Ver. Accelerator ; End type NⅡ13/13 - 2011/01/13 00:31:57.85 y/ID8doL0 79/79





『――――― 続いてのニュースです。長期に及んだ学園都市とイギリス清教におけるクローン問題も、クローンの人間性を支持する各国での運動から徐々に解決の兆しが見え始め―――――――――――――――』



混雑を極めた空港から様々なチェックを終え漸く飛行機の座席に着けた少女が、ふぅ、と小さく溜息を吐いた。
まだ出発すらしていないのに既にいかにも気が滅入りましたという状態の少女に、通路を挟んで隣に座っていた人の良さそうな老婦人の妻がクスクスと笑いながら声をかける。



「今日は空港も一段と混んでましたものね。私達も学園都市まで帰るのに一苦労……―――――― お二人は?ご兄妹で観光にでも?」


尋ねられた少女は当初こそきょとん、としながらも最後の言葉には満面の笑みを浮かべ胸を張り堂々と応えた。



「はい、観光じゃないけど家族ですっ!ってミサカはミサカは良いお兄ちゃんなんだよ~なんてあの人を自慢しながら答えてみる!!」



少女の台詞に照れたのか白い顔を耳まで真っ赤にさせた兄が、妹へと軽いチョップを入れた。
そんな兄の態度にニヤニヤとしながら一瞬意地悪そうな顔をした妹が肘で兄を小突きながら、だってそうでしょ?と小首を傾げる。




「~~~~~~あァ、そォだよ家族だよ!――――――……ずっとずっと一緒のな」





彼らの乗った飛行機がゆっくりと、学園都市へと向けて飛び立っていった。








十人十色の幸福と、三者三様の解釈方式 ――――――― Ver. Accelerator ; End type = Normal EndⅡ.(完)


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