<家>
兄「んあ~、最近いいことなくて、ムシャクシャすんなぁ!」
妹「カルシウム足りてないんじゃないの?」
兄「うるせえ! 胸が足りてないお前にいわれたかねえよ!」
妹「ひっどーい!」
兄「……おっと、兄妹喧嘩してもしょうがねえ」
兄「こういう時は……フードコートにいる底辺ども見下してストレス解消しようぜ!」
妹「それ面白そう! 行こう行こう!」
元スレ
兄「フードコートにいる底辺ども見下そうぜ!」妹「行こう行こう!」
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<スーパーマーケット>
兄「たしかこのスーパーにはフードコートがあったはずだ」
妹「どんな風に見下すの?」
兄「『うわっ、フードコートでメシ食ってるよ……』って聞こえるか聞こえないかぐらいの声でいうんだよ」
兄「そしたらお前は『ああはなりたくないよね~』って返せ」
兄「もし、なにかいってきたら『あんたの話なんかしてないよ』ってとぼけりゃいい」
妹「キヒヒッ、お兄ちゃんって性格悪すぎ!」
兄「そりゃあ、なんたってお前の兄だからな!」
兄「店内の地図によると、フードコートはあっちだ……行くぞ!」
<フードコート前>
妹「あれ? フードコートの前に誰か立ってるよ。初老の紳士って感じの人が」
兄「なんだありゃ、店員か? ま、関係ねえよ」スタスタ…
黒服「申し訳ありません、お客様」
兄「ん?」
黒服「ここから先は、ジャケットとネクタイ着用でないと、入るのをご遠慮いただいております」
兄妹「え!?」
兄「えええ……!? フードコートにドレスコードがあるの!?」
黒服「はい、今はドレスコードがあるフードコートが主流になっております」
兄「ウソだろ……!? 全然知らなかった……」
妹「どうするの、お兄ちゃん!」
兄「と、とにかく……出直しだ!」
妹「うんっ!」
……
……
兄「……ちゃんとスーツとネクタイを着用してきたぜ」キチッ
妹「キヒヒ……私は制服でいいよね」
黒服「お手数をおかけしました。それではフードコートにご案内いたします」
兄(ご案内いたします、っていわれてから3分ぐらい動く歩道に乗せられてるけど……)
兄「ねえ、フードコートはまだなの?」
黒服「あの扉の向こうがフードコートでございます」
兄「なんだ、あの扉……!? ルネサンスって感じの美しい絵が描かれてるけど……」
妹「高さ10メートルぐらいあるよ、お兄ちゃん!」
黒服「それでは、当フードコートをどうぞお楽しみ下さい」ギィィ…
<フードコート>
ジャン!!!
兄「ひ、広い……!」
兄「なんだこの広さ!? 東京ドーム100個分ぐらいあるぞ!」
妹「信じらんない!」
黒服「ゆるやかな気持ちでお食事を楽しんでいただくために、広めのスペースをご提供しております」ニコッ
妹「お兄ちゃん、お兄ちゃん!」
兄「なんだよ?」
妹「この床……大理石でできてる!」コンッコンッ
兄「本当だ! すげえ!」
妹「アンモニアだ! アンモニアの化石があるよ!」
兄「アンモナイトな」
兄「ん……!? ……すごいのは床だけじゃない!」
兄「このフードコートに並べられてるイスやテーブル……全部宝石でできてやがる!」
妹「ホント! このイスはダイヤモンドだし、こっちはルビー! あっちはサファイア! トルコ石!」
兄「これが今時のフードコートってやつなのか……!」
黒服「ところでお客様」
兄「な、なんだよ!」
黒服「こちらへいらっしゃったのは初めてとのことで、戸惑われているご様子ですが……」
兄「あ、いや……戸惑ってるわけじゃ……」
黒服「よろしければ、フードコート内を簡単にご案内いたしましょうか?」
兄「う、うむ……そうだな。よろしく頼む」
兄(くそっ、これじゃ俺の方が底辺みたいじゃねーか!)
黒服「当フードコートには、和洋中、古今東西の超一流レストランが集結しております」
黒服「レストランが超一流ならば、シェフもまた超一流」
黒服「十ツ星シェフが日々、お客様のために存分に腕を振るっております」
兄(十ツ星って……遊戯王カードかよ)
黒服「たとえば、あちらの寿司屋では……シーラカンスの寿司が大人気となっております」
兄「シーラカンスって……食べていいんだ……」
妹「あんまりおいしくないって聞くよね」
黒服「あちらの中華料理店では、北京原人が北京ダックを調理しており」
黒服「向こうのフレンチレストランではロマネ・コンティの飲み放題が楽しめ」
黒服「イタリアンレストランでは、クローン速水もこみちの販売も行っております」
兄「自宅でいつでもMOCO'Sキッチンを楽しめるってわけか……」
妹「オリーブオイルの匂いがプンプンするね!」
妹「ねえねえお兄ちゃん、どうするの?」ボソ…
兄「……入ったからにはなにか食べなきゃならんだろうな」ヒソヒソ…
妹「だけどどの店もものすごく高いよ! お金払えないよ!」
兄「分かってるよ!」
兄「……あのさ店員さん」
黒服「なんでしょう?」
兄「もっとフツーの店はないの? そこらへんにあるような店」
黒服「もちろんございますとも!」
兄(よかった……)ホッ…
黒服「あちらでございます」
兄妹「!!!」
『マックスドナルド』
『餃子の帝将』
『あかる寿司』
『だいすき家』
『ギャラクシーバックス』
兄妹(どこも微妙にグレードが高い……!)
兄「と、とりあえず……『マックスドナルド』を見てみるか」
妹「うん……」
ハンバーガー \50,000,000
兄妹「たけぇ!!!」
兄「なんだよ、ハンバーガー一個5000万円って! ぼったくりだろ!」
黒服「『マックスドナルド』では、生きている最高級松坂牛をお客様の目の前で解体し、調理しますので」
黒服「あのような値段になるのです」
兄「そんなサービスやってるのか……高くなるわけだ」
黒服「いかがいたしますか?」
兄「えぇ~と……う~んと……」
兄「とりあえず……水を飲みたいな。水はタダなんだよな?」
黒服「はい、もちろんでございます」
兄妹(よかった……)
黒服「では飲料水のサーバーまでご案内いたしましょう」
黒服「こちらです」
兄「ん? ……この紙コップ、普通の紙じゃないな」
黒服「はい、そちらパピルスで作ったコップでございます」
兄「パピルス!?」
妹「パピルスってなに?」
兄「古代エジプトで使われてた、最古の紙ともいわれてる紙だよ」
黒服「はい、お客様に古代エジプト人の気分を味わってもらうためにご用意いたしました」
兄「すげえ!」
兄「じゃあこの紙コップに水を入れよう」
ジョボボ…
兄「ん? これ、水じゃなくない?」
黒服「おっとこれは私としたことが失礼いたしました」
黒服「当フードコートの飲料水サーバーは原油が出るのです」
兄妹「原油!?」
兄「原油って……それじゃノドを潤せないじゃん」
黒服「ご心配なく。こちらちゃんと『飲める原油』になっておりますので」
兄「今や原油も飲める時代か……」
妹「…………」ゴクゴク
妹「あ、おいしい! これすっきりしてておいしいよ!」
兄「マジかよ!」
兄「…………」ゴクゴク
兄「あ、これすげえうまい! さわやかな味で、いくらでも飲めちゃう!」
妹「ね? すいすい飲めちゃうでしょ」
黒服「ご満足いただけてなによりです」
兄(しかし、ノドは潤せたけど……この後どうする?)
兄(俺らがなにか注文できるような店はないし、かといってこのまま帰るってのも……)
兄「ありがとう、店員さん。案内はもういいよ」
黒服「かしこまりました。どうぞごゆっくり」ペコッ…
妹「お兄ちゃん、これからどうするの?」ゴクゴク
妹「いつまでも二人で原油を飲んでるわけにはいかないでしょ」ゴクゴク
兄「そりゃそうだ」ゴクゴク
兄「……こういう時は当初の目的に立ち戻ろう」プハッ
兄「フードコートの客を見まわして……変な奴がいたら見下してやるのさ!」
妹「キヒヒ……さっすがお兄ちゃん! 諦めが悪い!」
兄(といっても、どこを見回してもお前らどこの貴族だよっていいたくなるような客ばかり……)キョロキョロ
兄「――お」
ガキA「キャッキャッ!」
ガキB「キャッキャッ!」
ガキC「キャッキャッ!」
兄「フッ、しょせんフードコートだな。公衆の場なのに騒いでるガキがいやがる」
兄「あいつら怒鳴りつけて、あいつらの親に『どういう教育してんだ!』っていうのはどうだ?」
妹「いいね、それ! 面白そう!」
兄「よぉ~し、おい! そこのガキ――」
妹「ちょっと待って、お兄ちゃん!」
兄「なんだよ?」
妹「あの子らによぉく耳を澄ませてみて……」
ガキA「3.1415926535897932384626433832795028841971693993751058209749445923078164……」キャッキャッ
ガキB「日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し……」キャッキャッ
ガキC「この世をば わが世とぞ思ふ 望月の 欠けたることも なしと思へば」キャッキャッ
兄「騒ぎ方も……超エリートっ……!」
妹「これじゃ下手に口出すと、こっちが恥かいちゃうよぉ……」
学生A「ワイワイ……」
学生B「ガヤガヤ……」
学生C「ワイワイ……」
女「ガヤガヤ……」
兄「あっちでも、学生らしい奴らが固まってるぞ」
妹「フードコートを溜まり場にしてる学生って多いよね」
学生A「相対性理論……」ワイワイ…
学生B「ドストエフスキー……」ガヤガヤ…
学生C「ゲーム理論……」ワイワイ…
女「STAP細胞……」ガヤガヤ…
兄「あ、やっぱレベルたけーわ。絡むのはやめとこう」
妹「一人パチモンが混じってるけどね」
サラリーマン「もしもし……はい……。そうです……はい……」ペコペコ
兄「あっちではサラリーマンが頭下げまくりながら電話してるぞ」
妹「フードコートって、サラリーマンの出没率わりと高いよね」
兄「下手な喫茶店より、手軽に一休みできるからだろうな」
サラリーマン「ええ、そうです。はい……いかがいたしましょう?」
サラリーマン「私のポケットマネーでマイクロソフトとアップルとアマゾンとトヨタを買収しましょうか?」
サラリーマン「え、まだ必要ない? ……そうですか。分かりました、主任!」
兄「どんな会社に勤めてるんだ……」
妹「危うく経済界の勢力図が変わる瞬間を目撃するところだったね……」
少年A「悪いな、このキャビアは三人用なんだ」
少年B「ヘイベイビ~、フードコートは楽しいね!」
警官「警察官になったのは、銃を撃ちたかったからですよ!」
女子高生「もしフードコートで事件が起きても、この推理クイーンが解決してあげるわ!」
中年男性「どうだ明るくなったろう」
兄「もうダメだ……みんな俺たちとは次元が違いすぎる……」ガタガタ…
妹「お兄ちゃん……助けてぇ……」ブルブル…
兄「……くそう!」ガンッ
兄「どいつもこいつもすごい奴らばっかじゃねえか! 全然見下せねえ!」
妹「お兄ちゃん……」
兄「なんて屈辱だ……!」ギリッ…
兄「見下すためにフードコートに来たのに、こうやって見上げることしかできないなんて……!」
兄「見上げることしか――……」
兄「!」ハッ
兄「こ、これは……!」
妹「どうしたの、お兄ちゃん!?」
兄「上だよ! いいからお前も上を見てみろ!」
妹「上を?」
妹「あーっ!!!」
妹「キレイな星空~!」
兄「ああ……都会なのに、こんな星空が見られるなんてな」
兄「あれは……北極星だな。あっちにあるのはオリオン座だ……」
妹「フードコートの上空がこんな風になってるなんて、ビックリしちゃった!」
兄「俺たち二人とも、下を見てたから気づかなかったんだな。下を……」
兄妹「!!!」ガーン
兄「そうか……そうだったのか……」
兄「俺たち兄妹に足りないものは、カルシウムでも胸囲でもなかったんだ……!」
妹「私たちに足りなかったもの、それは――」
兄妹「“上を向く気持ち”!!!」
黒服「ようやくお気づきになられましたか」パチパチパチ…
兄「店員さん! どうしてここに!?」
黒服「あなたがたを一目見た時から、私には分かっておりました」
黒服「あなたがたの所持金がどのぐらいかも、そしてフードコートにやってきた“真の目的”も」
兄「ぐっ……!」ギクッ
妹「全部お見通しだったんだ……」
兄『フードコートにいる底辺ども見下してストレス解消しようぜ!』
妹『それ面白そう! 行こう行こう!』
兄妹「ううう……」
兄「あっ、あのっ! すみませんでし――」
黒服「謝る必要はございません。あなたがたの目は、すでに透き通っておられます」
黒服「このフードコートにやってきた当初とは比べ物にならないほどにね」
黒服「その透明度たるや、かのバイカル湖にも匹敵するでしょう」
黒服「下を見るのもたまにはよいでしょう。しかし、ずっとそうしていては進歩はできません」
黒服「かといって上を見すぎるのもよくありません。首が痛くなりますから。あ、ここ笑うところですよ」
黒服「大切なのは、上も下もまんべんなく見据えられるよう、しっかりと前を見ること」
黒服「今のあなたがたなら……それができるはず」
兄妹「……はい!」
黒服「それでは、こちらに当フードコート自慢の料理をご用意いたしました」
黒服「どうぞご堪能なさって下さい」
兄「え!? だけど……俺たちあんまり金を持って――」
黒服「お代は結構です」
黒服「これは生まれ変わったあなたたちを祝しての、私からのおごりです」ニッコリ
兄「いいんですか!?」
妹「ありがとうございます!」
兄「うまい! こんなおいしい料理食べたの初めてだ!」
妹「キヒヒヒ……お兄ちゃんったら、すっごくいい顔してる!」
兄「お前こそ、いい顔と胸してるぜ……!」
妹「やだぁ、お兄ちゃんのエッチ!」
兄「ハハッ、ごめんごめん!」
黒服「――いかがでしたでしょうか?」
黒服「お客様の胃袋だけでなく、心までも豊かにする……それがフードコートなのです」
黒服「皆さまもぜひ、お近くのフードコートにお立ち寄り下さいませ……」
おわり