1 : ◆RdXNg0uU2s - 2016/03/04 00:17:20.16 GFLJ8EHh0 1/17


これからする話は、幕間も幕間

僕自身いつ、どの物語とどの物語の間に経験したのかもわからないような、そんな怪異譚である。

この出来事が怪異ならば、そして語られない怪異が消えてしまうならば

まさにこの怪異は風前の灯火であり、頼りなげな枝垂れる柳のような曖昧で不明瞭で不確かで

語った僕自身明日にでも忘れていてしまいそうなそんな物語である。


元スレ
阿良々木「こよみ?? ? ????」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1457018239/

4 : ◆Gh4KnxEqTvCH - 2016/03/04 00:21:24.85 GFLJ8EHh0 2/17


まず、僕に深夜徘徊の趣味はない。

やむを得ず深夜に家を出ることや、深い事情により朝まで縛り付けられるようなこともあったが

基本的には「深夜にうろうろするために」深夜にうろうろしたことはない。

そんな事をして翌日学校で少しでも勉強に支障をきたしたならば羽川に怒られるし戦場ヶ原に殺される。

しかし今日に限っては何の目標もなく深夜の道を歩いてきてしまっているのである。

というより、何かの目標があったかどうかも思い出せないのだ。

どころか、どういう道を通ってここまで来たのかとか

どうして今このまさに草木も眠る丑三つ時といった時間に制服を着ているのかとか

つまり4w1h(さすがに僕が誰かはわかるが)徹頭徹尾わからないことばかりで

この、よく見知ったいつもただ通るだけだった道を歩いているのである、

というよりさっきまで歩いていたらしかった。

5 : ◆Gh4KnxEqTvCH - 2016/03/04 00:23:57.44 GFLJ8EHh0 3/17


らしかったというのも、妙な話だけれど理由ははっきりしている。

いや、理由ははっきりしたけれど理由となって今そこにいる「もの」ははっきりせず

下手な塗り絵のように輪郭も色もぼやけたままそこに居たのであった。

そのことに気付いて、初めて僕が僕自身に気が付いたのだ。

さながら我思う故に我あり言った所だろうか

いや、羽川ならもっと適した言い回しを知っているかもしれない。

6 : ◆Gh4KnxEqTvCH - 2016/03/04 00:24:54.14 GFLJ8EHh0 4/17


さて

場所を言うなら自動販売機の前のガードレール、の上にどうも腰かけているらしかった。

街灯にも照らされ、自動販売機の明かりの前に曝されているというのに

それには、影らしきものは見当たらなかった。

けれど僕はその事に何の違和感も覚えず

「ああ、そういうのものか」と納得して、その少し横に腰かけていた。

7 : ◆Gh4KnxEqTvCH - 2016/03/04 00:27:59.83 GFLJ8EHh0 5/17


「僕が見えるんですね。」

ああ、これは今までこういったシチュエーションの漫画や映画なんかで

何度も何度も聞いたセリフだった。

まさか僕自身が聞くことになろうとは思いもよらなかったけれど。

そう言えばこういったステレオタイプな幽霊を見るのは初めてだと要らぬ考えを巡らせてしまう


八九寺は僕のフィアンセだし。


しかし巷説に聞くような呪われた家の母子や、見たら一週間以内に死んでしまうようなビデオにいる白装束で髪の長い彼女らとは違う

もっとおぼろげな存在だった。

一言でいうと影が薄い、いやそもそも影すらないんだけれど

この場合で言うならば存在が薄い、といったところか。

8 : ◆Gh4KnxEqTvCH - 2016/03/04 00:30:14.78 GFLJ8EHh0 6/17


「影が薄いって言うのはよく言われましたよ。」

最初の一言と変わらず何の印象も受けないような返答である。

さっきから僕はこの存在からなんの特徴もつかめていない

けれどやはりそれもそれ以上深く考えるものではない。そんな気がしていた。

「僕はね、死んでしまったんですよ。」

見ればわかる。

「そうですよね、それで死因って言うのがどうもわからなくて。」

9 : ◆Gh4KnxEqTvCH - 2016/03/04 00:32:19.93 GFLJ8EHh0 7/17


その言葉を聞いても僕は不思議と何の感想も興味も抱かなかった。

一緒に解決しようとか、そうでなくても少しくらい相談に乗ろうとか普段の僕なら考えたはずだけれど

今日に限っては、相槌を打つ以外に何もしなくていい、何もできないと思った。

「今の言葉は正確ではなかったですね、死因はわかってるんです。」

「自殺ですよ、マンションのベランダから飛び降りました。」

「なのにどうして飛び降りたか、いやこんな理由で本当に飛び降りたのか、知りたかったんです。」

10 : ◆Gh4KnxEqTvCH - 2016/03/04 00:34:30.15 GFLJ8EHh0 8/17


それは、飛び降りてもいない僕にわかる事なのだろうか。

しかし、そんな疑問もいつの間にか消えていて、僕はただ相槌を打っていた。

僕が、僕じゃないような感覚。気持ち悪く、微睡んでいるかのような非現実感。

「その話をするなら、最初から話したほうが良いかもしれませんね。」

「と言ってもやっぱりどこが最初なのかはっきりとしないんです。物心ついてからなのか。」

「もしかしたら突発的な事なのか。」

11 : ◆Gh4KnxEqTvCH - 2016/03/04 00:35:45.88 GFLJ8EHh0 9/17


それから、少しもったいぶったように、それは続けた。

「不意に思ったことはありませんか?前を歩いている見ず知らずの人を突き飛ばしてみたらどうなるんだろうって。」

「仲良く話している友達に急に殴りかかってみたらどうなるんだろうって。」

「ここから飛び降りてみたらどうなるんだろうって。」

けれど実際にそれを実行に移す奴なんてそうそうはいない。

「そうなんです。」

「けれど」

「考えてしまった時点で0.01%でもやってしまう可能性はある訳です。」

12 : ◆Gh4KnxEqTvCH - 2016/03/04 00:37:03.97 GFLJ8EHh0 10/17


「人はやっぱり好奇心には勝てないんですよ。」

「不意に暴力に走ってみたいけど法律があるから。」

「取り返しのつかないことになるから我慢してゲームや漫画の世界でお茶を濁す。」

「飛び降りてみたいけど、たった一度しかできないからバンジージャンプなんかで疑似体験にとどめておく。」

こんなにも口数が増えてきているのにやはり熱を帯びているわけでなく

しっかりと聞いているのに、どこかただ文字を追っているような感覚を覚えた。

13 : ◆Gh4KnxEqTvCH - 2016/03/04 00:41:38.38 GFLJ8EHh0 11/17


「人ってやっぱり一度くらい、興味本位で死んでみたい、それに準ずる行為をしてみたいと思ったことがあるんだと思います。」

「それがかなり深いところでも、浅いところでも」

「そうじゃなかったら、恐怖や辛い、苦いなんていう本来生命の危険を避けるための感覚を

自ら味わいに行きたがるなんておかしいと思うんです。」

14 : ◆Gh4KnxEqTvCH - 2016/03/04 00:43:15.58 GFLJ8EHh0 12/17


「話がそれてしまいましたね」

最初から逸れていた気もするけれど、それもすぐに気にならなくなっていた。


相槌。


「きっかけは妹に言われた、『死ね』という言葉でした。」

なんだと!?それは聞き捨てならない

僕が本気で心からそれを言われたら本当に死んでしまうかもしれない!というか考えるだけでも死にたくなる!

なのに

「いや、それもきっかけと言うのには弱いかな、というよりはただの要素、いやタイミング…かもしれませんね」

そんなことを言った。

15 : ◆Gh4KnxEqTvCH - 2016/03/04 00:44:37.15 GFLJ8EHh0 13/17


死にたくなるとは言っても僕は簡単には死ぬことができないし

死んでしまったそれもきっかけではなかったらしい。

「ただ何となく、死ぬのってどういう事なんだろう。死んだあとってどうなるのかなと思った

その興味に、誘惑に勝てなかったのかもしれません。」

それだって十分な死ぬ理由になる訳じゃない。

「そうですね。」

「そのことを考えて眠れなくなったり、ぼーっとしてしまったりはしますけど」

16 : ◆Gh4KnxEqTvCH - 2016/03/04 00:45:35.53 GFLJ8EHh0 14/17


死ぬことに興味がどれだけあってもどこかでブレーキがかかるはずだ。

恋人や、恩人や、後輩や、妹の友達や、吸血鬼

「そうですね、そうなんですよ。」

「普通は死ぬか死なないかの天秤なんてほとんど釣り合うはずもないんです。」

「ただ、その時だけ僕は0.001%だけ、僕は」

「死ぬ方に傾いてしまったんです。」

「そこが室内なら良かった。屋外なら良かった。」

「けどそれも、たまたまベランダにいたタイミングだったんです。」

「あと少しでも時間があればすぐに死なないほうに傾いていたはずなんです。」

それもまた、タイミングだって言うのか。

「そう、たまたま僕は死んでしまったんです。偶然」

17 : ◆Gh4KnxEqTvCH - 2016/03/04 00:46:05.92 GFLJ8EHh0 15/17


そこまで言い切ると、それは立ち上がった。
「きっとそれが偶然であっても、そうあって然るべきなんでしょうね。

「現にこうして死んでいるわけですし。」

「僕は成仏できるのでしょうか。悔いもなければ未練もない。なのにこんな風に昇れない僕は。」

それにも僕は、ただ頷いただけだった。

18 : ◆Gh4KnxEqTvCH - 2016/03/04 00:47:11.67 GFLJ8EHh0 16/17


後日談、と言うか今回のオチ

あれから、また何の脈絡もなく家で目を覚ますことになった。

オーソドックスな怪談ならば、手首に手を握られた跡や

耳元で聞こえる声などがあっても良いものだけれど、そのような形跡は一切なかった。

オチと言うオチはつけられなかったけれど、強いて言うならば


夢オチ、と言ったところだろうか


19 : ◆Gh4KnxEqTvCH - 2016/03/04 00:48:35.35 GFLJ8EHh0 17/17

おっしまい

こんなもやもやした話で申し訳ないとは思いますがもやもやした話が書きたかったんです。
短いから許してください。
では、お休みなさい

記事をツイートする 記事をはてブする