《1つ前》
第33話<求道者達>

《最初から》

第1話<呪い>

《全話リンク》
少女勇者「エッチな事をしないとレベルがあがらない呪い…?」


532 : ◆PPpHYmcfWQaa - 2015/09/12 22:13:13.58 lBU37gR0o 2392/3213





第34話<満月の夜に>




使い魔「報告! 勇者の進撃が止まりません!」

使い魔「いまもなおこの神殿島を目指し、まっすぐ魔族領上空を飛行中の模様」

闇武将「おいおい、龍騎の一個小隊が全滅かよ…たまんねぇな」

蟲魔人「私も迎撃に出マス。お任せください」

闇武将「そうなるよなぁ」

闇武将「レヴァンが出てくれたらあのバカでけぇドラゴンで手っ取り早く片付けてくれそうなんだが、あいつが祭事を仕切ってるからな」

蟲魔人「もうレヴァン様を始末する計画はよいのデスカ?」

闇武将「やめだ。色々あいつのでかさにゃ参ったぜ」

闇武将「いまあいつを殺っちまうと、いざって時に勇者を足止めする駒もねぇからな」

533 : ◆PPpHYmcfWQaa - 2015/09/12 22:15:00.24 lBU37gR0o 2393/3213


蟲魔人「マナ様を花嫁にするというノハ?」

闇武将「…オレにゃ無理だ。もっとでかい男として生まれ変われたら、そん時は本気でアタックしてみるぜ」

蟲魔人「そうですカ。では出撃しまス」

闇武将「おう。武勲を上げろ」

蟲魔人「御意」

蟲魔人「ところでオーグ様は戦闘なさらないノデ?」

闇武将「オレ様は自分の手を汚したくねぇんだよ」

蟲魔人「それでこそ次代の王で御座いマス」

闇武将「バカ言え。んなもん魔王っての譲ってやるよ」

闇武将「そいつがどんだけやり手の支配者かはしらねーけどな」

闇武将「ま、いざとなったら白兵戦でもなんでもやってやるって…」

534 : ◆PPpHYmcfWQaa - 2015/09/12 22:16:05.28 lBU37gR0o 2394/3213



【魔女の部屋】


サキュバス「ねぇねぇ。勇者達来ちゃうわよ」

魔女「…いまの速度だと間に合わない」

サキュバス「そうなの? よくわかるわね」

魔女「お互いの距離を感じとれる…ユッカもきっとわかってる。だから少し焦ってるような気配」

サキュバス「ふーん」

魔女「あなたはユッカとつながってるんじゃないの」

サキュバス「それがさぁ、さっぱりあの子のことがわからなくなったのよね」

サキュバス「こうやって指をパッチンして、妨害してみても」パチンッ

サキュバス「なーんの反応も無し」

サキュバス「まるで…あの子生まれ変わっちゃったみたい」

サキュバス「あたしの呪い…解けちゃったのかな…?」

魔女「…そう」

535 : ◆PPpHYmcfWQaa - 2015/09/12 22:18:31.15 lBU37gR0o 2395/3213



サキュバス「ねぇほんとにやるの?」

魔女「私はそういう運命の下に生まれてきた」

魔女「血に抗うことはできない。それはあなたも同じでしょ」

魔女「あなたも、血を護るためにユッカを利用した」

サキュバス「でもおチビ、あんた死ぬのよ? 命より大切な使命なんてあるっていうの」

魔女「…」コク

魔女「私の命は魔族の未来のために捧げられる。それだけ」

サキュバス(でもあんたは、人間として育ったでしょ…)

闇剣士「ここにいたか」

サキュバス「あ、レヴァン」

闇剣士「間もなく儀式がはじまる。封印の間で闇の石を使い、マナに魔王様の魂を憑依させる」

サキュバス「復活は封印の間で行うのね?」

闇剣士「台座より闇の石を動かせないものでな」

闇剣士「その後天空広場に移り、魔王様のお言葉をもって再臨の儀とする」

闇剣士「上空の雲はぎゅる…コアドラゴンが散らしている」

サキュバス「満月の夜…」

536 : ◆PPpHYmcfWQaa - 2015/09/12 22:20:18.93 lBU37gR0o 2396/3213


闇剣士「マナ、心の準備はできているか」

魔女「…」コク

闇剣士「兄を非道だと恨むか」

魔女「別に……それが私の使命。器の巫女として生まれた意味」

闇剣士「最後にお前の願いをなんでも聞こう。言ってみろ」

魔女「……無い」

闇剣士「…」

魔女「けど、もう誰も傷つかない世界がいいな…」

闇剣士「…!」

闇剣士「安心しろ。人間は魔王様という絶対的恐怖に屈し、二度と我々を迫害することはない」

闇剣士「世界の統治は全て魔王様に任せればいい。あの方ならより良い世界を創ってくださる」

魔女「…魔王」

闇剣士「お前の魂が、安らかにあらんことを祈る……」

闇剣士「……ッ、マナ…」ガシッ

闇剣士「ぐ…ぅ…まだ、わずかな時間はある。や、やり残したことをやっておけ」フラッ

ガチャッ

537 : ◆PPpHYmcfWQaa - 2015/09/12 22:22:32.03 lBU37gR0o 2397/3213



サキュバス「頭痛いの?」

闇剣士「時々だ…マナのことを考えると途端に痛み始めることがある」

闇剣士「サキュ。お前には伝えておかねばならんことだが、私はレヴァンであるがレヴァンではない」

サキュバス「…」

闇剣士「レヴァンというのは私の魂に刻まれた真名だ」

サキュバス「あたしも似たようなもんだから知ってるわよ」

闇剣士「いまのこの肉体は、古の私の血を脈々と受け継いでいるが、それも時代と共に薄まった」

闇剣士「所詮は赤の他人。マナと腹違いの兄の物でしかない」

闇剣士「私の魂がこの肉体に完全に憑依した時…元々あった彼の魂は消失した…だが」

闇剣士「…なぜだ。私はマナに情のひとつも抱いていなかったはずなのに」

サキュバス「それ、消えたんじゃなくて」

サキュバス「2つの魂が混ざっちゃったんじゃない?」

闇剣士「! 混ざり合った…?」

サキュバス「だからいまのあんたは魔王の忠実な家臣レヴァンであると同時に」

サキュバス「ただの妹想いのお兄ちゃん。それでいいじゃない」

闇剣士「……」

538 : ◆PPpHYmcfWQaa - 2015/09/12 22:24:25.69 lBU37gR0o 2398/3213



闇剣士「…妹想い…か」

闇剣士「その兄である私が、マナの魂をこの世から消し去ろうとしているのだ」

闇剣士「我が主である魔王様と引き換えに…」

闇剣士「赦される…ことか…?」

サキュバス「……」

闇剣士「ぐ…ああっ、魔王さま…いまお側に…」よろっ

闇剣士「なんとしても…あなた様を…現世に…」

闇剣士「先に…戻る…ッ」ふらっ

サキュバス「レヴァン……あなた」



サキュバス「ああ…満月の夜が来るわ…」

サキュバス(もうあの戦いから1000年も経ったのね)

サキュバス(どちらが勝つにしても…世界は新たな節目を迎える)

サキュバス「ユッカ…あんたのことも少しは応援してあげる」

サキュバス「世界が欲しいなら、挑んできなさい」

539 : ◆PPpHYmcfWQaa - 2015/09/12 22:26:45.36 lBU37gR0o 2399/3213





【闇の神殿・封印の間】



闇剣士「私とマナだけで入る。お前たちは外で待っていろ」

サキュバス「ええ。わかったわ」

闇武将「おいおい魔王爆誕の世紀の瞬間を拝ませてくれないのかよ」

サキュバス「いいから、あんたはあたしとここにいなさい!」

サキュバス「最後くらい2人にしてあげなきゃ」

闇武将「お、おう…頼んだぜレヴァン」

闇武将(あばよオレの花嫁ちゃん…残念でたまらねぇが…)

闇剣士「サキュ。すまないな」

サキュバス「はいよダーリン。グッドラック」

サキュバス「じゃあね。おチビ……」

魔女「…」ギュ

サキュバス「おチビ?」

魔女「お兄様をよろしく」

サキュバス「…! 任せて」

闇剣士「行くぞマナ」

魔女「…」コク

540 : ◆PPpHYmcfWQaa - 2015/09/12 22:30:53.93 lBU37gR0o 2400/3213




  ・   ・   ・



闇の石「…」カタカタ


魔女「…これに触ればいいの」

闇剣士「怖いなら、一度お前を眠らせる。全てが終わり、目覚めることはない」

闇剣士「せめてお前を安らかに――」

魔女「…いい。自分の最期の瞬間くらい、どうなるかこの目で見ておきたい」

魔女「きっとあの世でのいい土産話になる」

闇剣士「お前がそんなことを言うなど、少々面食らった」

闇剣士「強いのだな…お前は…」

闇剣士「私が知らぬ間に…強くなった」

闇剣士「何がお前をそこまで強い子にした」

魔女「仲間」

闇剣士「…ッ」

魔女「ユッカ達がいたから、私は私という自我を得た」

魔女「だから…短くても…とても、素晴らしい人生だった…」

541 : ◆PPpHYmcfWQaa - 2015/09/12 22:33:03.01 lBU37gR0o 2401/3213


闇剣士「最後に教えてくれ! 私は…間違っていたか」

魔女「迷ってはダメ。あなたは私にかわってこの世界の未来を背負う義務がある」

闇剣士「…あぁ」

魔女「行ってきますお兄様」

闇剣士「…マナ。また輪廻の果てで会おう」

魔女「………」コク

魔女(1号ちゃん…逝くときは一緒だよ)ポゥ

魔女(ずっと一緒にいてくれてありがとう)

魔女(さようならおじいちゃん)

魔女(さようならヒーラ)

魔女(さようなら…ソル)

魔女「…ユッカ」

▼魔女は闇の石に触れた。

▼闇の石は輝きを放ち、マナを闇に包み込んだ。

魔女「…!」

542 : ◆PPpHYmcfWQaa - 2015/09/12 22:36:10.68 lBU37gR0o 2402/3213



  
   ・   ・   ・



 『汝、其の体、我の為に捧げよ』


魔女「ここ…は…」

魔女「暗い…真っ暗な海…」

魔女「ここは私の意識の底…?」


 『汝、其の命、我の為に捧げよ』


魔女「この声…あなたが…魔王…?」


 『汝、其の魂、我の為に捧げよ』


魔女「私は…死ぬんじゃないの? あなたに追い出されて…消えてなくなるはず…」 


 『汝、其の全てヲ――――我に――』

  ズズ……


魔女「……!!」

魔女「なに…このドロドロ…」

魔女「は、離して……!!」

魔女「こんなに黒い意識……違うッあなたは違うッ!」

魔女「あなたは世界を導かない!」

魔女『あなたは全てを壊――――

543 : ◆PPpHYmcfWQaa - 2015/09/12 22:38:11.37 lBU37gR0o 2403/3213




魔女「…!」

闇剣士「おかえりなさいませ、ご気分はいかがですか」

魔女「…魔が満ちる。今宵は満月…か」

闇剣士「…! おお、魔王様…心より貴方様の再臨をお待ちしておりました」

闇剣士「どうかその偉大なるお力で我が一族をお導きください」

闇剣士「起き上がれますか」

魔女「肉がよく馴染む」

魔女「だがこの脆弱で貧相な肉体」

▼魔王は闇の魔剣士の顔面を殴りつけた。

闇剣士「…!」

魔女「汝のその醜い仮面を拳で割ることもかなわぬ」

闇剣士「申し訳ございません」

闇剣士「しかしその少女の持つ特異性はまさに王たる器」

闇剣士「まごうこと無く貴方様の血統でございます」

魔女「魔族の血は…幾千年の時を経て薄まるか」

魔女「汝とてその仮面の下は、混じり気のある下等種でしかない」

闇剣士「…滅相もございません」

544 : ◆PPpHYmcfWQaa - 2015/09/12 22:41:07.86 lBU37gR0o 2404/3213



闇剣士「私の魂は貴方様の忠実な眷属。代を経て様変わりしても、この忠誠心だけは変わりません」

闇剣士「あちらに書室を用意してございます」

闇剣士「儀式までの束の間の時間ではございますが、なにとぞ現世の理をお修めください」

魔女「無用」

魔女「この器の集積した数多の智」

魔女「器の記憶を辿り、既に世の理は掌握している」

闇剣士「さすがでございます」

魔女「月光の下に我が眷属共を一堂に会せよ」

魔女「我が復活を存分に祝うが良い」


闇武将「出てきたぜ。魔王様!」

サキュバス「はぁーい。魔王様、1000年ぶり?」

サキュバス「……無視かい」

闇剣士「まだ再臨なされたばかりだ。控えろ」

闇剣士「こちらです魔王様」



闇武将「あれが魔王…か、格がちげぇ…」へたっ

サキュバス「…ぐすっ、ぐすっ」

闇武将「な、何泣いてやがる。いやわかるぜ、近くにいたら泣きたくなるほどの荘厳さだ」

545 : ◆PPpHYmcfWQaa - 2015/09/12 22:42:53.59 lBU37gR0o 2405/3213



<同刻>



【魔族領・上空】


勇者「…そんな…」

傭兵「どうした」

勇者「マナの意識が感じ取れなくなった」

勇者「それと…とてもぞわぞわする嫌な感じ…」

傭兵「何ッ! まさか」

僧侶「間に合わなかった……マナちゃんが…」

傭兵「マナが…魔王に…?」

勇者「急げ、急がなきゃ!!」

勇者(マナ…嘘だよね…キミが魔王なんかになるわけがない!)

勇者(お願いだよマナ…返事をして)

勇者「応えてマナ!!」

546 : ◆PPpHYmcfWQaa - 2015/09/12 22:45:10.43 lBU37gR0o 2406/3213



バサッ バサッ


蟲魔人「ククク…祈ってももう間に合わんゾ!」

傭兵「野郎。迎撃に来やがった」

勇者「突っ切る! そこを退け! 道を譲らないなら…!」

蟲魔人「一度負けた貴様らごときが勝てるとおもうなアアアア!!」

勇者「叩き落とす!」

▼勇者は光の熱線を両手から同時に放った。

▼放たれた熱線は瞬時に蟲魔人の両翼を焼ききった。

蟲魔人「なに…ッ! ぎあああああ!!」

蟲魔人「マ、魔界蟲ども、私を支えるノダ!」

僧侶「いい加減に墜ちなさい! 」

▼僧侶は水流を蟲魔人に叩きつけた。


蟲魔人「貴様ラアアアァァァァ――」

蟲魔人「だが手遅れダ! ハハ、ハハハ!!! ガフッ」

548 : ◆PPpHYmcfWQaa - 2015/09/12 22:46:30.97 lBU37gR0o 2407/3213





【闇の神殿・天空広場】




闇武将「野郎ども! 整列!」

魔人A「オオオ…遂にこの時が」

魔人B「魔王様か…? どこにいる?」


闇武将「魔王様の御出座である!」


コツ コツ

魔女「……」

魔人A「オイオイあれが魔王様の現世での器かよ。ちんちくりんだぜ」

魔人B「お前しらなかったのか?」

魔人C「ほら、聖地侵攻の少し前、一時期魔界が大騒乱になってたろ」

魔人A「器とやらをめぐって。豪族たちが血で血を洗う争いをしたってアレか」

魔人B「まさか本当にあの小娘が魔王様の器だとはな」

魔人C「危うく俺たちの手で壊しちまうところだったぜ」

549 : ◆PPpHYmcfWQaa - 2015/09/12 22:48:40.58 lBU37gR0o 2408/3213



ざわざわ…


魔女「者共…面を上げよ」

魔女「我、魔王なり」


魔人A「こ、この気迫…本物だ…」

魔人B「にわかには信じがたかったが、魔王様がこの世に再臨なされた!」

魔人達「ウオオオオオオ!!」


闇剣士「静まれ!」

闇武将「ええい静まれクソ共!」

闇武将「偉大なる魔王様の神言である。みな心して拝聴せよ」

闇剣士「お願い致します」

闇剣士「我ら魔族にお導きを。新たなる指導者として、世界を手中にお収めください」

魔女「……」

550 : ◆PPpHYmcfWQaa - 2015/09/12 22:51:13.45 lBU37gR0o 2409/3213



魔女「古の争いより、千に及ぶ時を数え、我、此処にいずる」

魔人A「…」ゴクリ

魔人B「魔王様ー! 俺たちに未来をー!」

魔人C「魔族による世界制覇だああ!」

闇武将(あの野郎ども…)

闇剣士(待てオーグ、魔王様のおとなしくお言葉を聞け)


魔女「我、太陽の勇者に敗れたり」


魔人A「次は勝てます!」

魔人B「今度の勇者はちんちくりだそうですぜ! ハハハ!」

魔人C「俺たちに力を!」


魔女「我が前世での唯一の過ち……」

魔女「其れは種による支配を目差した事」

闇剣士「…!」

551 : ◆PPpHYmcfWQaa - 2015/09/12 22:53:18.31 lBU37gR0o 2410/3213


魔人A「あらぬる種の垣根を超えて、全土を治めてくれるということですか」

魔人B「魔族も人間も…或いはあの恐ろしい番人共でさえも!?」

魔女「基より、種など不要」

闇武将「……は?」

魔女「我以外不要。我、全能なる王にして、唯一の神なり」

闇剣士「な…」

魔女「汝ら、其の命、全て我が神充の為に捧げよ」

闇剣士(何を……)

魔女「災厄:マナドレイン」

▼魔女の手のひらから暗黒の渦が現れた。

▼渦は周囲のあらゆる魔力を飲み込み奪い尽くしていく。


魔人A「うぐあああああっ!!」

魔人B「ギャアアア」


闇剣士「……!!」

552 : ◆PPpHYmcfWQaa - 2015/09/12 22:55:28.71 lBU37gR0o 2411/3213


魔人C「助け…俺の魔力が…助――ケ――」


闇剣士「何…が…」

サキュバス「レヴァンこっち!」ガシッ バサッ

闇剣士「一体なにが起きている…私は悪夢でもみているのか」

サキュバス「勇者に敗れたあいつは、もうあんたの知ってる魔王じゃないってことよ!」

サキュバス「再びこの世に現れた今、あいつはこ滅びだけを目論む破滅の使徒! 逃げるわよ!」

闇剣士「魔…王…様………」

サキュバス「魔王ですって! アレはもはや生き物ですら無いのよ! ただ生命を憎むだけの怨念!」

闇剣士「バカな…私は…一体……なんのために」

闇剣士「魔族の…未来は…」


サキュバス(魔王は、封印される間際にレヴァンの魂に深く刻みつけた)

サキュバス(何千年かかっても自分を蘇生させろって!)

サキュバス(それは決して抗えない呪怨…!)

サキュバス(なんてこと…あんな化け物にまんまと利用されてしまった!?)

553 : ◆PPpHYmcfWQaa - 2015/09/12 22:57:08.36 lBU37gR0o 2412/3213



魔女「骸と化せ。我が世界に、生命の輝きなど不要」

魔女「全て、闇へ消えよ。我に捧げよ」

闇武将「て、てめぇええ! 新世界の俺様の部下共に何しやがる!!」

闇武将「魔王とて許せねぇ!!」

闇剣士「オーグ!」

闇剣士「そんなガキのやわな肉体、一撃でぶち壊してやろうじゃねぇか!!! おらぁ!!」

▼闇武将は鋼の拳を勢い良く振りぬいた!

▼しかし魔女に拳の先が触れた瞬間、ボロボロと土塊となって肉体の崩壊が始まった。


闇武将「ウガ…ああ…ッ」

闇剣士「オーグ!」

サキュバス「だめぇ! 近づいたらあんただって只じゃすまない!」

サキュバス「う…力が入らな……嘘……この距離があってもだめ…なの」

サキュバス(満月の夜…ほんとサイテーな日だわ)

闇剣士「サキュ…!」

核竜「ギュルルル…!」

闇剣士「飛んで一度離脱する。サキュ、乗れるか」

サキュバス「なんとか…」

554 : ◆PPpHYmcfWQaa - 2015/09/12 22:58:34.77 lBU37gR0o 2413/3213




魔人G「嫌だぁ…しにたくな―――」

魔人H「助け―――」ボロッ

魔人I「レヴァン様ああああああ」ドロッ

闇武将「――」


あまりにおぞましく、凄惨な光景であった。
天空広場に集ったおよそ数千もの豪傑達は、為す術もなく闇の渦に命を吸われ土塊となってゆく。
魔人たちの阿鼻叫喚が脳裏に焼き付いた。

魔族の再興という私の悲願は、奇しくも私の最も敬愛する魔王様自身の手によって潰えた。

ものの一瞬にして、潰えたのだ。


闇剣士「私は…なんのために戦ってきた…」

闇剣士「クロノ…オーグ…魔族の皆よ…」

闇剣士「マナ…ッ」


マナは死んだ。私が殺した――

555 : ◆PPpHYmcfWQaa - 2015/09/12 23:00:50.80 lBU37gR0o 2414/3213



核竜「ギュルルルッ」

サキュバス「威嚇しちゃだめ。とにかく離れなさい!」

サキュバス(いえ…どれだけ逃げても無駄なのかもしれない)

サキュバス(覚醒した災厄は…地平の果てをも飲み込む…)

サキュバス(世界が…終わる…?)

サキュバス(どうして…あたしたちは世界を創りたかった…それだけなのに)


魔女「未だ足りぬ。我に命を捧げよ」


闇剣士「これ以上何をする気だというのです!」

闇剣士「何故魔族を…皆殺しにした」

闇剣士「彼らは次なる世代を創っていく者達…! 私達の、希望なのです」


魔女「希望…? 其れ故に…我には不要」

魔女「汎ゆる希望は、絶望へ」

魔女「汝、其の命、我に捧げよ」


闇剣士「すぐにでも捧げるおつもりでした…いえ、今までどれだけ身が滅んでもあなた様の意思を頑なに守ってきた」

闇剣士「魔族の血を絶やすこと無く、護り通してきました!」

闇剣士「その仕打ちが…! これだというのか!!」

闇剣士「貴様は!! この日の為に私に餌を用意させていたというのか!!」

闇剣士「我が妹さえも糧にして!!!」

556 : ◆PPpHYmcfWQaa - 2015/09/12 23:03:00.56 lBU37gR0o 2415/3213



闇剣士「下降しろ。奴を斬らねばならぬ!」

核竜「ギュルルル!」

サキュバス「ダメよ! 近づいたらどうなるかわかってるでしょ」


魔女「術式:ダークブラスター」

▼魔女は闇の波動を放った。


闇剣士「…!! はやい!」


核竜「ギャウウウウ!!」

闇剣士「グッ…つかまれサキュ」

サキュバス「ちょっとこの子大丈夫なの!?」

核竜「ギュルル…」

闇剣士「コアドラゴンの鋼殻に一撃でここまでのダメージを与えるとは…」

闇剣士「それにあの術式の速度……このままでは到底近づけんな」


魔女「天…」


サキュバス「まずいわよ。あいつ羽生やせるんでしょ! 追ってくるわよ!」

闇剣士「いや…」

闇剣士「奴はなにをしている…」


災厄の化身はただ手のひらを虚空に掲げていた。
そして直後、私達は驚愕の光景を目にすることとなる。

557 : ◆PPpHYmcfWQaa - 2015/09/12 23:04:28.42 lBU37gR0o 2416/3213



闇の神殿は周囲からの防衛のため、湖の島の上に建てられている。
いまこの瞬間、激しい唸りと共に湖の水面は割れ、巨大な島そのものが浮遊をはじめた。


サキュバス「うそ…神殿島が…」

闇剣士「バカな…!」

サキュバス「あ、ありえないわよ…あんなおっきい島が浮くなんて…冗談じゃないわ!」


魔女「我が城は天より、地在る輝き全てを奪い」

魔女「世界にとこしえの闇をばらまかん」



【上空】


傭兵「な、何だあれ…!」

僧侶「し…島が浮き始めてます!」

勇者「…何が起きてるの。さっきまでたくさん感じてた魔物たちの気配が一斉に消えた!」

傭兵「ッ! レヴァンの野郎…次は何をしようってんだ」

勇者「魔剣士が? いや…違うよ! これはきっと…魔王の仕業だ!」

558 : ◆PPpHYmcfWQaa - 2015/09/12 23:05:51.97 lBU37gR0o 2417/3213




東の彼方より、紅蓮に燃え盛る怪鳥が勇者達を乗せて現れた。
その背後には私のよく見知った炎髪の男も抜刀してこちらを見据えていた。


闇剣士「ソル…!」

サキュバス「…来たのね。でももうなにもかも手遅れよ…」


傭兵「レヴァン! マナを返してもらうぞ!!」

僧侶「サキュさんもいるのですか! 一体何があったのです!」

勇者「マナ! 迎えに来た! 返事をして!!」


傭兵「おい塔の上! あのちっこい銀髪頭見えるか! あれマナじゃないか!?」

僧侶「マナちゃん…よかった生きてました! ユッカ様いますぐ迎えにいきましょう!」

勇者「…………」

魔女「…」ズズッ

勇者「違う…ッ!」

魔女「……太陽の勇者よ」

勇者「…お前が…ッ…魔王か!!」

魔女「滅せよ」


▼魔女は闇の波動を放った。

▼勇者は光の熱線を放った。





第34話<満月の夜に>つづく



  

599 : ◆PPpHYmcfWQaa - 2015/09/15 22:01:36.70 fUIempbAo 2418/3213

第34話<満月の夜に>つづき




放たれた熱線と波動は正面から衝突した。

両者ゆずらずに魔力を放出し続ける。


勇者「く…」

傭兵「…互角の威力か!」

勇者「ううん…あっちは完全に力を抑えた状態だよ」

勇者「…だめっ、押し戻される! ヒーラ!」

僧侶「はい! 聖守護結界!」

熱線が弾け飛び、闇の波動が瞬く間に眼前まで迫った。
しかし直撃を確信した瞬間、それはヒーラちゃんの結界によって阻まれた。


僧侶「う…すごい威力です」

僧侶「こんな膨大な魔力…私の結界でも何秒も耐えられません!」


勇者「一度離れてから、広場におりよう」

傭兵「あぁ。遠距離戦じゃ勝ち目はなさそうだな」

600 : ◆PPpHYmcfWQaa - 2015/09/15 22:06:10.49 fUIempbAo 2419/3213



サキュバス「ちょっと…あの子たち、接近戦をするつもり!?」

闇剣士「…」

サキュバス「無茶よ! あんな広場で戦ったら全部吸い尽くされて死んでしまうわ!」

サキュバス「レヴァン止めなきゃ! …レヴァン?」

闇剣士「私の信仰は崩れ去った…」

闇剣士「私は…いまの奴を前にあまりに無力だ…」

核竜「ギュルル…」

サキュバス「…」

サキュバス(さっきの一撃で心が折れてしまったの…?)

サキュバス(それとも…マナを失ったから…?)

サキュバス(あなたは絶望に屈してしまうの…?)

601 : ◆PPpHYmcfWQaa - 2015/09/15 22:11:29.70 fUIempbAo 2420/3213


魔女「太陽の勇者。汝、忌まわしい聖者の剣を手に、我に歯向かうか」

勇者「1000年前、ボクのご先祖様はこの剣でお前を滅ぼした」

勇者「だったら今度はボクの番だ」

勇者「お前の好き勝手はやらせない」

勇者「お前を浄化して、マナを取り戻す」

魔女「すでに器の魂は虚ろにして、闇のみが我を満たす」

魔女「汝の所業は全て徒に終わる」

傭兵「そりゃやってみなきゃわかんねぇだろ」

僧侶「そうです! まだ無駄だって決まったわけじゃありません」

勇者「マナは生きてる」

勇者「感じ取れなくても、ボクは信じる」

傭兵「とりあえず全員でマナの体を押さえつけて確保する」

傭兵「そうしたらお前が浄化の炎で魔王の魂を焼きつくせ」

勇者「うん」

602 : ◆PPpHYmcfWQaa - 2015/09/15 22:16:54.42 fUIempbAo 2421/3213


魔女「無益」

魔女「我、万能にして至高の存在」

傭兵「驕るなよ闇の王」

傭兵「てめぇがいくら膨大な魔力をもっていても、体はぷにぷにのマナだ!」

傭兵「白兵戦で分があると思うな!」


俺とユッカは抜刀し、左右から同時に攻撃をしかえるため駈け出した。


傭兵(マナドレインを使われる前に一瞬で距離をつめる)

傭兵(仮にどちらかが魔法攻撃で吹き飛ばされても)

傭兵(片方残れば丸腰のお前を確保するには十分だ!)


魔女「術式:ダークブラスター」

▼魔女は闇の波動を放った。

傭兵「…速い!」

603 : ◆PPpHYmcfWQaa - 2015/09/15 22:21:46.67 fUIempbAo 2422/3213



俺は敵の魔法攻撃をガードすることが出来ない。
そのためいままでの人生、ズタボロになりながらも回避力を身につけてきた。
だが…

傭兵(これほどでかくて速い魔力波はさすがに無理だな)


覚悟をきめて突き進むと目の前に真っ暗な闇に飲み込まれた。
波動を全身に浴びた俺の体はものすごい勢いで吹き飛ばされ、周囲の壁に背中から直撃した。

傭兵「ぐあああああっ」

僧侶「ソル様!」


傭兵(ターゲットになっただけでもいい…ユッカ、マナを抑えろ)


勇者「…魔王!」

魔女「…」

604 : ◆PPpHYmcfWQaa - 2015/09/15 22:27:38.43 fUIempbAo 2423/3213


勇者(この距離なら!)

勇者「マナを返してもらう!」

勇者(ごめんねマナ、目覚めたら痛いかもしれない)

勇者(でもこいつをおとなしくさせるには攻撃をくわえるしかない!)

勇者「はぁぁ!!」

魔女「術式:ダークサイズ」

▼魔女は魔力で怨霊の大鎌を生み出した。

勇者「え…!」

魔女「愚かなり。我、万能にて汎ゆる力を簒奪せし者」

ザシュッ

勇者「あぐああっ」

勇者「まずいっ、なんで」


サキュバス「あんな魔法もってたっけ!」

闇剣士「…私の部下達、数千に及ぶ魔人達の全ての能力をあの瞬間奪いとったのだ」

闇剣士「奴はいまや…万にも及ぶ術を操る魔神となった…」

605 : ◆PPpHYmcfWQaa - 2015/09/15 22:31:16.44 fUIempbAo 2424/3213



魔女「秘術:マリオネット」

▼無数の魔法の光糸が勇者に向かって伸びた。

▼糸は強度を増し、勇者の魔力を奪いながら全身を拘束した。

勇者「う、うああっ、あが、…あ゙」


僧侶「ユッカ様! 今助けます」

傭兵(く、クソ…)

傭兵「…ユッカ、いまいくぞ」


勇者「は、放せ!」

勇者(千切れない…! なんて強さだ)

606 : ◆PPpHYmcfWQaa - 2015/09/15 22:37:33.86 fUIempbAo 2425/3213



魔女「愚かなり。敗北を認めよ」

勇者「そんなわけには行くか…むしろこのまま」

勇者「焼きつくしてやる! 浄化の炎…!」

魔女「!」


ユッカは光糸を握りしめ。魔力を込めた。
激しい炎が糸を伝い、魔王の腕に引火した。

魔女「…!」

勇者「どうだ! このまま全身を」

魔女「太陽の勇者…」

魔女「即刻闇に消えよ」


ベキッ


勇者「えっ…」

何かの折れる嫌な音とともに、拘束されたユッカの手足がひしゃげた。
さらに伸びた数本の分厚い光糸が先端を尖らせ、ユッカの腹部や肩、腕を貫き、遥か後方へと吹き飛ばした。

607 : ◆PPpHYmcfWQaa - 2015/09/15 22:42:01.54 fUIempbAo 2426/3213


勇者「う…ぁ…」

勇者「――」


僧侶「ユッカ様あああああ!!」

傭兵「ユッカのバックアップに回れ!」

傭兵「容赦なしか…」

魔女「……」

傭兵「マナ、本当に…お前の魂は残っていないのか」

傭兵「…」ミシ

傭兵「ぐ…」

先ほどのダメージで体が思うように動かない。
魔力の直撃は魔力を持たない俺には通常の何倍もの威力になってしまう。

傭兵(だがユッカがいま受けたダメージにくらべれば、我慢できないほどじゃない)

傭兵(ユッカ…生きてるんだろうな)


一瞥すると、ユッカはぼんやりとした炎にまとわれていた。
炎は次第に勢いを増し、繭のようにユッカを包み込んだ。

608 : ◆PPpHYmcfWQaa - 2015/09/15 22:46:33.52 fUIempbAo 2427/3213



傭兵「あの炎の繭は…」


それは俺が過去に狼魔人と対決し、死の間際に発動したものと同じに見えた。


傭兵(ニクスののこしてくれた不死鳥の力…?)

傭兵(本人の意思に関係なく自動で発動していたのか…)


僧侶「ユッカ様…ひどい怪我…」

僧侶「あれ…傷口が光って…る」

勇者「――」


傭兵「ユッカは放っておけば大丈夫なはずだ」

傭兵「ヒーラちゃんはそこで結界を貼ってユッカを護ってくれ」

僧侶「は、はい!」

609 : ◆PPpHYmcfWQaa - 2015/09/15 22:52:30.90 fUIempbAo 2428/3213



魔女「再生の炎……小癪な」

傭兵「俺たちはしぶといぜ。マナを返すまで、何度でもてめぇに挑んでやる」

魔女「もはや、生者ともつかぬ汝に何ができる」

傭兵「俺に魔力が宿ってねぇのが気になるか」

魔女「…」

傭兵「お得意の災厄を発動しても俺の命は獲れねーぞ」

魔女「…!」

傭兵「ようやく感情あらわしてきやがったか」

傭兵「てめぇは万能な神なんかじゃない、生き方歪んだ一匹の生物の怨霊だ」

傭兵「さっさとひきずりだして、あの世に召させてやるよ」

魔女「何故、汝…その身で立つ」

傭兵「てめぇの懐にもぐりこんで、熱い一発くれてやるためだ」

610 : ◆PPpHYmcfWQaa - 2015/09/15 22:57:58.86 fUIempbAo 2429/3213



傭兵(勝負は一瞬。マナドレインがなくても、闇の波動の軌道に乗っただけで瞬殺される)

傭兵(おそらく次は耐え切れない)

傭兵(例えどれだけ魔術や秘術を持っていても、扱う体はマナ、発動は1つ!)


傭兵「…」ミシ

傭兵「行くぞ!」

魔女「来るがよい」

魔女「汝にも絶望を与えよう」



闇剣士「…ソル。なぜ立ち向かえる」

闇剣士「貴様には、恐れという感情が無いのか」

サキュバス「それ以上に燃え上がるのが、あの子たちを守りたいという想い」

闇剣士「想い…マナ、私を許してくれ」

611 : ◆PPpHYmcfWQaa - 2015/09/15 23:03:54.18 fUIempbAo 2430/3213

 

 
傭兵「うおおお!」

傭兵「ゼロ距離、もらったぞ!」

魔女「術式:ダークサイズ」

傭兵「ぐっ」

傭兵「がっ…なんだ」グラッ

傭兵(剣を交えただけで…体が…重い)

魔女「あまねく怨霊達よ。彼奴の肉体に寄り縋れ」

傭兵(怨霊…! 俺の体を乗っ取ろうとしてるのか!)

傭兵「くそっ」

ガキンッ

魔女「脆い」

ザシュッ――

傭兵「ぐああっ」

傭兵(あの鎌…なんて厄介な)

612 : ◆PPpHYmcfWQaa - 2015/09/15 23:10:29.82 fUIempbAo 2431/3213


魔女「逃がしはせぬ」


弾き飛ばされた俺に体制を立て直す間すら与えず、魔王は黒い翼で宙を駆け突撃してきた。

魔王の拳が不気味に光っている。
錯覚だろうか、何倍もの大きさに膨らんで見えた。


傭兵「…まずい!」

回避不可能と考えとっさに剣を差し出してガードした。

闇剣士「あれはオーグの鋼拳…!」

闇剣士「ソル…! ガードを解け! 受けるな!」


重撃とともに鐘を叩いたような低い金属音が鳴り響き、
攻撃を受け止めた剣の刀身は破砕した。

そのまま鉄拳は俺の腹部につきささり、広場の硬い土の上を俺は塵屑のように転がった。

傭兵「…!」

613 : ◆PPpHYmcfWQaa - 2015/09/15 23:14:29.91 fUIempbAo 2432/3213


傭兵「……痛ぅ…」

傭兵「…がはっ、頭が痺れるぜ」

傭兵「ついに折れちまったか…グレイス、すまん」

傭兵「マナの腕力じゃなかったらあのまま突き破られて即死だったな」


サキュバス「もう無理よ!」

サキュバス「レヴァン…!」

闇剣士「私とて、奴に敵う道理は無い」

サキュバス「本当に…終わりなの?」



魔女「頑強な男」

傭兵「それしか取り柄がなくてな」

傭兵「ユッカ、借りるぜ」


側に突き刺さっていた聖剣を引き抜く。

傭兵「…よく手に馴染む」ブォン

614 : ◆PPpHYmcfWQaa - 2015/09/15 23:19:42.55 fUIempbAo 2433/3213



聖剣の中で炎がくすぶっているような気がした。
おそらくユッカが込めた魔力の残滓だろう。

傭兵「…使えるか?」

魔女「悟るが良い。汝らの所業、全て徒に帰するもの」

傭兵「まだ約束に一発をぶちこんでないんでな」

傭兵「やられっぱなしで引けるかよ!!」

傭兵「…!!」


これが最後の攻防になるとおもった。
しかし全力で駆け出したはずが、俺の体はもう限界を迎えていた。

魔女「術式:ダークブラスター」

▼魔女は闇の波動を放った。


視界が真っ暗に染まる。


傭兵(終わった…すまんユッカ…マナ)

そう感じた刹那、目の前を影が横切り、迫り来る波動を全て受け止めていた。

615 : ◆PPpHYmcfWQaa - 2015/09/15 23:25:43.89 fUIempbAo 2434/3213



爆風の中はためく銀色の長髪。

巨大な剣を真横に構え、レヴァンが一身に攻撃をうけとめていた。


傭兵「お前…」

闇剣士「渓谷での一戦。グリモワでの一戦。これで貴様とは1勝1敗」

闇剣士「まだ私達の生涯に決着はついていない」

闇剣士「ここで、貴様が討たれることは武人としての私の矜持に傷がつく!」

闇剣士「魔王やマナのことはいまは関係ない! いずれ私が貴様を…正々堂々討つ!」

サキュバス(バカ…)


闇剣士「がはっ…ッ、長くは持たん!」

闇剣士「はあぁあ一閃! 一瞬道を作る! 行け!」

傭兵「…あぁ!」

616 : ◆PPpHYmcfWQaa - 2015/09/15 23:31:48.04 fUIempbAo 2435/3213



レヴァンが作った隙。おそらく後何秒ももたない、最後のチャンス。

あれほど膨大な魔力を放出しながらでは、魔王は近接戦において鎌や鋼拳の生成は出来ない。
いまの魔王は完全な丸腰だ。


傭兵「覚悟しやがれ!」

魔女「…!」

傭兵「今度こそもらったぞ! マナ!!」

ガシッ

傭兵「いい加減、目を覚ましやがれ!」

そして驚きを隠せないマナの体を押さえつけた俺は、
少女の薄い唇に強引にくちづけた。


魔女「…ん、むぅ!」

闇剣士「…! 貴様何を」

魔女「……!?」

傭兵「お前の弱点に…一発、くれてやったぜ」




第34話<満月の夜に>つづく

   

632 : ◆PPpHYmcfWQaa - 2015/09/17 21:54:53.52 K8aQCJf4o 2436/3213

第34話<満月の夜に>つづき



魔女「弱点…?」

傭兵「……」

魔女「秘術:鋼剛拳」

傭兵(またこの拳か!)

ズンッ 

ガキン――

傭兵「…う、ぐあっ」

傭兵「そんなへなちょこパンチ…聖剣ガードなら折れねぇ…!」

魔女「忌々しき太陽の剣…」

傭兵「がはっ」

傭兵(体のダメージはとっくに限界か…ッ。あと何分戦える)

魔女「汝の思考…理解不能」

闇剣士「私が死ぬ物狂いで作った好機にソル貴様という奴は…!!」


傭兵「へ。唇かまれちまった」

傭兵「だがこれで…1つはっきりしたぜ」

闇剣士「何」

633 : ◆PPpHYmcfWQaa - 2015/09/17 21:57:17.30 K8aQCJf4o 2437/3213

 

傭兵「一瞬、ほんの一瞬だが」

傭兵「魔王…てめぇの中にマナを感じた」

魔女「…」

傭兵「何度もくちづけてきた…マナのぬくもりがあった。瞳が揺らめいた気がしたんだ」

闇剣士「何度もだと…ッ! いや、それよりも、マナの魂はまだ残っていると貴様は言うのか」

傭兵「確信はある」

サキュバス(あんた…ユッカの魔覚でも探り当てられなかったことを…なんて奴)

傭兵「レヴァン。まだ全てが手遅れなわけじゃねぇ」

傭兵「取り戻す。俺たちはそれだけのためにここへ来たんだ!」


僧侶「ソル様…」

勇者「――zzz」


魔女「汝によって、器の肉体に残る忌憶を…呼び覚まされたか」

傭兵「覚悟しやがれ」

傭兵「次は舌の根っこまで絡みつくような、濃厚なお目醒キッスでお姫様を叩き起こしてやる」

魔女「…!」

635 : ◆PPpHYmcfWQaa - 2015/09/17 22:01:56.27 K8aQCJf4o 2438/3213

 

魔女「……汝、我の脅威となりし者……即ち、太陽の系譜」

魔女「ならば」

魔女「我が器に眠る、更なる絶望を目醒めさせん」

魔女「汝らに滅びを。あまねく世界に、終焉を」

傭兵「…!?」

魔王が手を振り上げる。
それと同時に少女の体が一瞬溶けて歪んだように見えた。
足元から沸き立つ黒いざわざわとした魔力が、その小さな全身を包み、姿を隠していく。


勇者「……! ソル、そこから離れて!」

僧侶「ユッカ様、お怪我は大丈夫ですか」

傭兵「ユッカ、お前―――」


魔女「災厄:神獣変化」


勇者「早くこっちに!! 」

ユッカが起き上がり、声を発したその瞬間、
突如巻き起こったまるで爆風のような真っ黒な激しい衝撃波と共に、俺たちは弾き飛ばされて宙へと放り出された。

636 : ◆PPpHYmcfWQaa - 2015/09/17 22:04:02.57 K8aQCJf4o 2439/3213

 

傭兵「ぐああああっ」

闇剣士「これは…ッ!」

傭兵(まずいこのままじゃ全員海に真っ逆さまだ…)

闇剣士「…ッ…来い!」

核竜「ギュルルル!」

勇者「出ろぉ紅蓮鳥!」

▼勇者は紅蓮の鳥を召喚した。

勇者「ハァ…ハァッ、う、みんな…いま拾うから!」


パシッ

勇者「乗って!」

傭兵「お前大丈夫なのか…怪我は?」

勇者「痛む所はあるけど、動くくらいなら大丈夫」

637 : ◆PPpHYmcfWQaa - 2015/09/17 22:07:12.45 K8aQCJf4o 2440/3213


その後落ちていくヒーラちゃんをすぐさま拾った。
レヴァン達はコアドラゴンにまたがり、一様に塔の天辺の広場で起きる異変を伺っている。

 

僧侶「見てください! な、なんですかこれ…」

傭兵「!」

グリモワでマナが覚醒した時よりもさらに膨大な黒い魔力が、塔の広場全体を埋め尽くし、天へと昇っていく。
満月の輝く快晴の夜空に、またたく間に暗雲が立ち込め雷鳴が轟き始めた。



 『とこしえの闇へと消えよ――』



勇者「う、うあああっ」

傭兵「…!」

僧侶「あ…ぁ…」

マナの声とは似ても似つかない、地獄の底から響くような悪魔の声がどこからか聞こえた。
ただならぬ悪寒が全身をかけめぐる。
それは、魔覚が殆ど働かない今の俺でもはっきりと感じ取れる、絶望。


傭兵(あの衝撃波の前に…あいつは何て言った…?)

傭兵(確か…神獣変化…って)

 

638 : ◆PPpHYmcfWQaa - 2015/09/17 22:09:55.57 K8aQCJf4o 2441/3213




世界中の魔力を持つ生命が、この悪意の塊の誕生を肌身で感じ取っただろう。

目を凝らす。
血をながしすぎてすでに視界は霞んでいたが、
黒雲に飲み込まれた浮島の背後に蠢く巨大な黒い影を見た。



サキュバス「何…何なの…アレ」

闇剣士「わからん…」

僧侶「…天使…様」

勇者「悪魔…?」

傭兵「いや…巨大な…」

稲光が瞬き、一瞬その姿を照らし出した。

傭兵「……邪龍だ」



  ・  ・  ・



 

639 : ◆PPpHYmcfWQaa - 2015/09/17 22:13:16.63 K8aQCJf4o 2442/3213




【太陽の村】


子供「司祭さまー。城下町の郵便屋さんからお手紙きたよ」

司祭「おお、なんだいたくさん来たな」

司祭「むお! ユッカからじゃないか…!」

子供「ユッカおねえちゃん? わーい読みたいな」

司祭「どれ、村のみんなを集めておいで」

子供「はーい!」



司祭「…『拝啓おじいちゃんへ』…ははは、あいかわらず下手な字だ」

司祭「ええと。ふむ。『ボクはいまバザという商業で栄えるおっきな町に来ています』」

司祭「『バザはとても賑やかな町で、マオにゃんに毎日服をきせかえさせられて楽しいです』」

司祭「……?」

町女「なんだいそれ」

640 : ◆PPpHYmcfWQaa - 2015/09/17 22:15:39.48 K8aQCJf4o 2443/3213


 

子供達「つづきはーぜんぶよんでー」

司祭「お、おお…」

司祭「『なんとマナと再会することができました。今マナはボクの仲間として一緒に旅をしています』」

司祭「『もちろんソルとヒーラも一緒です! みんな仲良しです』」

司祭(ほぉ…そりゃ良かった)

司祭「『それと、ボクの注意不足である呪いにかかってしまって。エッチなことをしないとレベルがあが――」ブー

司祭「!?」

司祭「老眼のせいじゃ…きっと読み違えたのじゃな!」

司祭「『なので毎晩ソルとエッチなことを――」ブーーー

司祭「ごほっごほっ。何を書いとるんじゃい!」

子供「なにをするってー? えっちなことってなにー?」


司祭「あんの小僧…! こともあろうにユッカにまで手をだしよってからに!!」

司祭「こりゃ帰ってきたら説教ではすまんぞ。吊るしあげてくれる」

村女「昔ユイちゃんにつくったドレス、無駄にならなくてすむかもね」

司祭「お、おいおい…ユイならまだしも、ユッカとは何歳差じゃとおもっておるのだ」

641 : ◆PPpHYmcfWQaa - 2015/09/17 22:17:52.54 K8aQCJf4o 2444/3213


村女「いいじゃないのさ。ユッカちゃん若いんだから、産めや増やせで村が賑やかになるよ」

子供「ユッカおねえちゃん赤ちゃんうむの?」

村女「そうだねぇ。魔王っていうこわーい奴の復活を阻止して英雄になってもどってくるんだ」

村娘「立派な血を残すためにいっぱい産まなきゃね」

司祭「な、ならんぞ! ユッカにはもっとふさわしい男が…!」

村女「いるのかい」

司祭「…お、おらん…じゃがあいつ相手はのぅ」ポリポリ

子供「ねー司祭さまー。もっとお手紙よんでー」

司祭「たくさんまとめて来ておるのぉ。これはオクトピア…。ほぉ、船の上からも書いとるんだな」ペラッ

司祭「まぁ元気でやっとるようでなによりだな」


  『とこしえの闇へと消えよ――』


子供「…」ブルルッ

子供「ねー…司祭さま…いまあっちのお空の方からへんな感じした」

司祭「む……?」

村女「あらやだ、いきなり天気が怪しくなってきたわね」

642 : ◆PPpHYmcfWQaa - 2015/09/17 22:21:25.11 K8aQCJf4o 2445/3213




司祭「……ッ! こ、子どもたちを家のなかへ」

村女「なんだいこの黒い雲。どこからきたんだい、おかしな天気だねぇ」ブルルッ

司祭(雲だと…? 太陽の国にこんな分厚い黒い雲など…わしは生まれてはじめてみたぞ)

司祭「おお、この身の毛もよだつ気配…なんてことだ…」

司祭「恐れていたことがおきてしまったというのか」

司祭「ユッカ……頼む、生きて帰ってきてくれ…。わしをひとりにせんでくれ」

司祭(ユイ…。天国で見ていたら、ユッカたちを護ってやってくれ)



   ・   ・   ・



【魔族領上空】



ただでさえ巨大な浮島を包む込みようにとぐろを巻く、言葉で形容できないほど超大な魔龍。

漆黒の鱗に全身を包まれ、背には天使のような白銀の翼。
頭部には魔族と思わしき、僅かに少女の名残を残した金色の角がそびえていた。



勇者「なに……これがマナ、なの…?」

傭兵「キュウが使った術と同じだ…」

勇者「そんな…」

643 : ◆PPpHYmcfWQaa - 2015/09/17 22:24:47.09 K8aQCJf4o 2446/3213




もはや遠近感すら失ってしまうようなその桁外れの大きさにはまるで現実味などなく、
圧倒された俺たちはただ目を見開いて呆然と眺めているだけだった。


闇剣士「なんという巨躯…」

サキュバス「嘘でしょ……」

核竜「ギュルル…」ブルブル

僧侶「ありえないです…」

傭兵「……現実…なのか?」


思わず息を呑んだ。

しかしそれは夢や幻ではなく、まちがいなく生物だった。
しばらくの静観ののち、ついに邪龍は動き始め、大気の振動とともに耳をつんざくような轟音が鳴りわたる。
とっさに耳をふさいだ俺たちはそれが奴の咆哮だと理解するまでに数十秒もの時を要した。


勇者「うあっ…うぐ。何」


小さな村一つくらいなら飲み込んでしまうのではないかというほどに巨大な邪龍の口。
今ゆっくりと大きく開かれて、嵐の巻き起こる夜空に光の粒が集まっていく。

644 : ◆PPpHYmcfWQaa - 2015/09/17 22:28:53.50 K8aQCJf4o 2447/3213




僧侶「なんでしょう…あの光…魔力…? う、魔力が…ッ吸わてます」

勇者「マナドレインと同じだ…。あの口からボクたちだけじゃなくて、この地球の命を吸い上げているんだ」


魔力の吸収とともに、轟々とした暴風雨と稲光が緩やかにおさまり、辺りが静けさを取り戻した。
しかしそこに穏やかさなどなく、空気は以前にも増してピンと張り詰める。
邪龍の胸元の水晶のような紫色の珠がトクントクンと脈打つように輝いた。


そして、それは突然放たれた。

勇者「!」


視界を全て奪うほどのまばゆい光が火柱となって、真っ直ぐに闇夜を切り裂きながら東へ伸びていった。

光線は瞬く間に湖面を吹き飛ばし、霞んで見える巨大な山脈を消し飛ばして、魔族領を一直線に貫いた。
遥か彼方で起きた爆音と轟音が入り混じって、空気を伝わって耳に届いた。

645 : ◆PPpHYmcfWQaa - 2015/09/17 22:30:29.99 K8aQCJf4o 2448/3213

 
5w1xRhc


 

646 : ◆PPpHYmcfWQaa - 2015/09/17 22:32:06.32 K8aQCJf4o 2449/3213


勇者「~~~~!!!」

ユッカが耳元で声になっていないような金切り声を上げる。
頭と耳をかばうように体を縮こまらせて、大粒の涙を流していた。

ユッカはいま一瞬のうちに消えていった無数の命を魔覚で感じ取ったのかもしれない。
他人より鋭敏な魔覚が、残虐な魔力の塊に余すこと無く蹂躙されていた。

ユッカは震える手で俺の裾をきゅっと掴んだ。

傭兵「…ユッカ」


まさに空前絶後の天災とも言える悪夢を前に、心が折れてしまったのか。
俺自身、いま起きたことがいまだに頭では理解できずにいる。
だが生の本能は危険を瞬く間に察知し、全身を駆け巡る悪寒がいつまでも治まることはなかった。

647 : ◆PPpHYmcfWQaa - 2015/09/17 22:33:59.51 K8aQCJf4o 2450/3213



傭兵「ユッカ…」

僧侶「…ユッカ…様…私…もう立てません…」

ヒーラちゃんは放心して、鳥の背の上でへたり込んでいる。

勇者「もう…だめ」

ユッカは震える声を喉から絞りだすようにつぶやいた。


傭兵(そうだ。あれを見て……俺たちに何ができる)

傭兵(剣技、魔術、レベル…。そんなものに…一体何の意味がある)

傭兵(世界中の戦士が一斉に剣を構えても、勝てやしない…)



しかし、振り返ってのぞき込んだユッカの目には強い意思の炎が灯っていた。


勇者「だめだよ…」

勇者「これ以上…あんなの撃たせちゃだめだ」

勇者「ボクたちが止めなきゃ…!」

648 : ◆PPpHYmcfWQaa - 2015/09/17 22:36:17.33 K8aQCJf4o 2451/3213

 

僧侶「ユッカ様…」

勇者「ボクのこの能力は、こんな恐怖を全身で味わうため?」

勇者「…ううん違うよ…ボクの魔覚はね」

勇者「きっと暗い闇の中で苦しんでいる人を照らして見つけだすために、神様がくれた力なんだ」

傭兵「お前…」

勇者「……マナの、マナの気配がしたよ。どこからかボクたちのことを呼んでる」

傭兵「本当か!」

勇者「マナを、助けよう!」


大きな瞳から溢れる涙はとまってはいなかった。
しかし少女は絶望的な現実から目を背けることをせず、しっかりと両目を見開き災厄の元凶を見据えていた。

間違いなく、ユッカは世界でただ一人の勇者だった。




第34話<満月の夜に>おわり


 



《次話》
最終話<太陽>


記事をツイートする 記事をはてブする